(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-15
(54)【発明の名称】自己増幅SARS-COV-2RNAワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/215 20060101AFI20230807BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20230807BHJP
C12N 15/40 20060101ALI20230807BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230807BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230807BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230807BHJP
C07K 14/165 20060101ALN20230807BHJP
C07K 14/18 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
A61K39/215
C12N15/50 ZNA
C12N15/40
A61K31/7105
A61P31/14
A61K48/00
C07K14/165
C07K14/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022577630
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2021066679
(87)【国際公開番号】W WO2021255270
(87)【国際公開日】2021-12-23
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522488845
【氏名又は名称】ジフィウス ヴァクシーンス
【氏名又は名称原語表記】ZIPHIUS VACCINES
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】イティシュリ サフー
(72)【発明者】
【氏名】アシクル ハック エイ ケイ エム
(72)【発明者】
【氏名】シーン マク キャファティ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアーン カルドン
(72)【発明者】
【氏名】ニック サンダース
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
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4H045AA10
4H045AA30
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、非構造タンパク質をコードしている配列と、SARS-CoV-52のタンパク質抗原をコードしている配列とを含む自己複製RNA分子に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列とを含む組み合わせであって、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列が、1つまたは複数の自己複製RNA分子に含まれ、前記1つまたは複数の自己複製RNA分子がさらに非構造アルファウイルスタンパク質をコードしている配列を含む、組み合わせ。
【請求項2】
前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列が、同一の自己複製RNA分子に含まれるか、または前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列が、異なる自己複製RNA分子に含まれる、請求項1の組み合わせ。
【請求項3】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、例えば、TC-83株、またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%の配列同一性を有する株である、請求項1または2に記載の組み合わせ。
【請求項4】
前記1つまたは複数の自己複製RNA分子が、5’UTRにおけるA3G変異および/または非構造タンパク質2(nsP2)におけるQ739L変異を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組み合わせ。
【請求項5】
前記スパイクタンパク質抗原が、受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組み合わせ。
【請求項6】
前記RBDが、SEQ ID NO:1またはそれに対して少なくとも95%の同一性、好ましくは少なくとも97%の配列同一性、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に相当する、請求項5に記載の組み合わせ。
【請求項7】
前記1つまたは複数の自己複製RNA分子が、VEEV株TC-83の非構造タンパク質と、5’UTRにおけるA3G変異と、nsP2におけるQ739L変異とを含む、請求項1~6のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項8】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている前記配列が、5’キャップを含み、次いで、非構造アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしている配列とサブゲノムプロモータを含み、次いで、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原または前記受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型を含み、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原または切断型の下流でポリAテールを含む、請求項1~7のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項9】
SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)抗原をコードしている前記配列が、5’キャップを含み、次いで、非構造アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしている配列とサブゲノムプロモータを含み、次いで、SARS-CoV-2 Nタンパク質抗原をコードしている配列を含み、前記SARS-CoV-2 Nタンパク質抗原の下流でポリAテールを含む、請求項1~8のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組み合わせと、薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容されるビヒクルとを含む、医薬組成物。
【請求項11】
少なくとも1つのアジュバントをさらに含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、またはカチオン性ナノエマルジョンをさらに含む、請求項10または11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記1つまたは複数の自己複製RNA分子が、カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョン、ならびにそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている、請求項10~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記RNA分子が、カチオン性脂質、脂質ナノ粒子、リポソーム、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョン、ならびにそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている、請求項1~13のいずれかに記載の組み合わせを含むワクチンであって、前記ワクチンにおける前記RNAの有効用量が0.1~100μgである、ワクチン。
【請求項15】
医薬として使用するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の組み合わせ、または請求項10から13のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項14に記載のワクチン。
【請求項16】
感染症の予防および/または治療に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組み合わせ、または請求項10~13のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項14に記載のワクチン。
【請求項17】
対象における免疫応答の誘導での使用のための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組み合わせ、または実施形態10~13のいずれか一項に記載の医薬組成物、または実施形態14に記載の使用のためのワクチン。
【請求項18】
SARS-CoV、SARS-CoV-2、またはMERS-CoVなどのコロナウイルス疾患に対する対象のワクチン接種での使用のための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組み合わせ、または請求項10~13のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項14に記載のワクチン。
【請求項19】
前記RNAの有効用量が0.1~100μgである、実施形態15~18のいずれかに記載の組み合わせ、医薬組成物または使用のためのワクチン。
【請求項20】
筋肉内、皮内、または皮下に投与される、実施形態15~19のいずれかに記載の使用のための組み合わせ、医薬組成物、またはワクチン。
【請求項21】
単回投与として、または予め規定された期間内に投与される、2回以上の投与の連続を必要とする多回投与として投与される、実施形態15~20のいずれかに記載の使用のための組み合わせ、医薬組成物、またはワクチン。
【請求項22】
毎年または隔年など、定期的に投与される、実施形態15~21のいずれかに記載の組み合わせ、医薬組成物、または使用のためのワクチン。
【請求項23】
前記ワクチンの用量が0.05~1mLである、実施形態1~22のいずれかに記載の組み合わせ、医薬組成物、または使用のためのワクチン。
【請求項24】
自己複製RNA分子を含むコロナウイルスワクチンであって、前記各自己複製RNA分子は、非構造アルファウイルスタンパク質をコードしている配列と、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列とを含み、前記RNA分子はカチオン性脂質、脂質ナノ粒子、リポソーム、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョンならびにそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている、コロナウイルスワクチン。
【請求項25】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、例えば、株TC-83またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%の配列同一性を有する株である、実施形態24に記載のワクチン。
【請求項26】
5’UTRにおけるA3G変異および/または非構造タンパク質2(nsP2)におけるQ739L変異を含む、実施態様24または25に記載のワクチン。
【請求項27】
前記スパイクタンパク質抗原が、受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型であり、前記RBDはSEQ ID NO:1またはそれに対して少なくとも95%の同一性、好ましくは少なくとも97%の配列同一性、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する、実施形態24~26のいずれか一項に記載のワクチン。
【請求項28】
前記スパイクタンパク質が、C3d-p28などの免疫刺激タンパク質に融合している、実施形態24から27のいずれか一項に記載のワクチン。
【請求項29】
SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原および/またはSARS-Cov-2膜タンパク質抗原をコードしている配列をさらに含む、実施形態24~28のいずれか一項に記載のワクチン。
【請求項30】
VEEV株TC-83の非構造タンパク質と、5’UTRにおけるA3G変異およびnsP2におけるQ739L変異と、前記RBDを含むSARS-CoV-2スパイクタンパク質の切断型をコードしている25配列とを含む、実施形態24~29のいずれか一項に記載のワクチン。
【請求項31】
前記各自己増幅RNA分子が、5’キャップを含み、次いで、非構造アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしている配列とサブゲノムプロモータを含み、次いで、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原または受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型を含み、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原または切断型の下流でポリAテールを含む、実施形態1~30のいずれかに記載のワクチン。
【請求項32】
前記ワクチンが、対象、好ましくはヒト対象に投与された場合、前記対象においてSARS-COV-2および/またはその変異型に対する免疫応答を誘発または誘導することができる、実施形態24~31のいずれかに記載のワクチン。
【請求項33】
前記ワクチンの1用量が0.1μg~100μgのRNAを含むように製剤化される、実施形態24~32のいずれかに記載のワクチン。
【請求項34】
前記ワクチンの用量が、0.05~1mLである、実施形態24~33のいずれかに記載のワクチン。
【請求項35】
アジュバントをさらに含む、実施形態1~34のいずれかに記載のワクチン。
【請求項36】
コロナウイルス感染症、好ましくはSARS-CoV-2の治療または予防方法であって、実施形態1~9のいずれかによる組み合わせ、実施形態10~13または14~35のいずれかに記載の医薬組成物またはワクチンを、対象、好ましくはヒト対象に投与することを含む、方法。
【請求項37】
コロナウイルス感染、好ましくはSARS-CoV-2に対する対象の免疫応答を誘導する方法であって、実施形態1~9のいずれかに記載の組み合わせ、実施形態10
~13または14~35のいずれかによる医薬組成物またはワクチンを、対象、好ましくはヒト対象に投与することを含む、方法。
【請求項38】
前記組み合わせ、医薬組成物またはワクチンが、皮下、筋肉内または皮内注射によって前記対象に投与される、実施形態36または37に記載の方法。
【請求項39】
投与用量が0.1~100μgのRNAを含む、実施形態1~38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記組み合わせ、医薬組成物またはワクチンが、単回投与として、または予め規定された期間内に投与される、2回以上の投与の連続を必要とする多回投与として投与される、実施形態1~39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記組み合わせ、組成物またはワクチンが、毎年または隔年など、定期的に投与される、実施形態1~40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
-SARS-CoV-2の抗原をコードしており、プロモータ配列、好ましくはアルファウイルス由来のサブゲノムプロモータ(SGP)の下流にある抗原配列と;
-前記抗原配列の下流にあるポリ(A)配列と;
-ベネズエラウマ脳炎ウイルスの非構造タンパク質nsP1~4をコードしている配列とを含む、ベクター。
【請求項43】
前記抗原配列が、SARS-CoV-2スパイクタンパク質もしくはその切断型をコードしている、または前記抗原配列が、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)抗原をコードしている、実施形態42に記載のベクター。
【請求項44】
前記スパイクタンパク質の切断型が受容体結合ドメイン(RBD)を含む、実施形態42および43に記載のベクター。
【請求項45】
nsP2の配列が、前記ベクターの5’UTRにQ739L変異および/またはA3G変異を有するnsP2タンパク質をコードしている、実施形態1~44に記載のベクター。
【請求項46】
前記ベクターがプラスミドまたは線状化DNAである、実施形態1~45に記載のベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非構造アルファウイルスタンパク質をコードしている配列とSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列とを含む自己複製RNA分子に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス(CoV)は、コロナウイルス科に属するポジティブセンス一本鎖RNAウイルスである(Ahmed et al., 2020)。新たに出現したSARS-CoV-2はベータコロナウイルスに属し、さらに4つの系統(すなわちA-D)に分けられる。SARS-CoVとSARS-CoV-2を含むB系統は約200のウイルス配列が公表されているが、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)を含むC系統は500超のウイルス配列を有する(Letko et al., 2020)。SARS-CoV-2は、他のコロナウイルスと同様に、複数の構造および非構造タンパク質をコードしている、~30キロベースのゲノムサイズを有している。構造タンパク質には、スパイク(S)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、膜(M)タンパク質、およびヌクレオカプシド(N)タンパク質が含まれる。SARS-CoV-2はごく最近発見されたため、現在、このウイルスについての利用可能な情報は不足している。予備的研究では、SARS-CoV-2は、全長ゲノムの系統解析、および推定的に類似した細胞侵入機構とヒト細胞受容体の使用に基づいて、SARS-CoVと非常に類似していることが示唆されている(Ahmed et al, 2020)。
【0003】
SARS-CoV-2はRNAウイルスであるため、世界のさまざまな地域で継続的に発生している変異によって急速に進化している。したがって、感染率または病気を引き起こす能力といった重要なウイルスの特性を変えることができる変異は、注意深く監視する必要がある。最近、ある種の突然変異がこれらの重要なウイルスパラメーターの変化を引き起こし、現在世界的に広がっている3つの懸念される変異型につながった(Volz et al., 2021)。懸念される第1の変異型、B1.1.7は英国で生まれたもので、スパイクタンパク質をコードしている遺伝子に3つの重要な変異:N501Y、P681H、H69-V70を含んでいる。この変異型は、病気の重症度および感染力がより高いグレードになることと関連している(Davies et al., 2021)。懸念される第2の変異型、B.1.351は南アフリカで最初に特定され、スパイクタンパク質をコードしている領域に3つの重要な置換変異:N501Y、K417N、E484Kを含んでいる。この変異型のデータから、このウイルスは、これらの変異によって感染率が上昇し、および/または、免疫応答を回避しやすくなっていることが示唆されている(Tegally et al., 2021)。現在懸念されている最後の変異型、P.1は、ブラジルで生まれたもので、南アフリカの変異型と同様にスパイクタンパク質をコードしている遺伝子に重要な変異を含んでいる。そのため、この変異型も野生型ウイルスと比較して高い感染率を引き起こす(Moore & Offit, 2021)。このウイルスは常に進化しているため、今後も新たなSARS-CoV-2変異型が出現する可能性が高い。
【0004】
すべてのCoVは表面糖タンパク質であるスパイクをコードしており、これが宿主細胞の受容体に結合してウイルスの侵入を媒介する。ベータコロナウイルスの場合、受容体結合ドメイン(RBD)と呼ばれるスパイクタンパク質の1つの領域が、宿主細胞の受容体との相互作用を仲介している。受容体と結合した後、近傍の宿主プロテアーゼがスパイクを切断し、スパイク融合ペプチドを遊離してウイルスの侵入を促進させる。既知のベータコロナウイルスの宿主受容体としては、SARS-CoVのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)、MERS-CoVのジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)が挙げられる(Letko et al, 2020)。SARS-CoV-2のスパイクは、SARS-CoVよりも高い親和性でACE2と結合することが研究で示されている(Zhou et al., 2020)。さらに、ヌクレオカプシドは、タンパク質のオリゴマー化によってウイルスゲノムをパッケージングするための重要なサブユニットでもある(Zhou et al., 2020)。タンパク質配列のアラインメント解析により、SARS-CoV-2はSARS-CoVに対し進化的に最も保存されていることが示された。具体的には、SARS-CoV-2のエンベロープとヌクレオカプシドのタンパク質が、SARS-CoVと比較してそれぞれ96%および89.6%の配列同一性を有する、進化的に保存された2つの領域である。しかし、スパイクタンパク質はSARS-CoV-2とSARS-CoVの間で最も低い配列保存性(配列同一性77%)を示した。一方、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質は、MERS-CoVと比較して31.9%の配列同一性しかない(Zhou et al., 2020)。
【0005】
近年、DNA(pDNA)ワクチン接種が注目されている。より慣習的なワクチン接種法と比較して、DNAワクチンの主な利点の1つは、ワクチン抗原が宿主細胞によって新規に産生されることである。DNAワクチンは、動物において、様々な抗原に対して強力なT細胞およびB細胞免疫応答を誘導することができた。これは、動物用のプラスミドDNAベースのワクチンの開発と商業化につながった(Davis et al., 2001; Garver et al., 2005; Kurath et al., 2006; Grosenbaugh et al., 2011)。しかし、ヒト用のDNAワクチンの開発は、これまでのところ、同様の成功を収めていない。いくつかの臨床試験で、DNAワクチンがヒトの細胞性T細胞およびB細胞応答を誘導する原理的な能力があることが実証されているが、これらの免疫応答の強さは、より従来的なアプローチで達成されたものよりもむしろ低かった。さらに、DNAワクチンには、例えば、非分裂細胞または低分裂細胞における有効性の低さ、DNA構成物のエピジェネティックなサイレンシング、抗生物質耐性遺伝子の存在、および長期間の非制御発現などのいくつかの欠点があり、これらは必ずしも良い免疫応答と必ず相関するとは限らないだけでなく、意図した免疫効果に有害で、T細胞の消耗を招く可能性すらある(Wherry et al., 2003; Shin & Wherry, 2007; Han et al., 2010)。ヒトにおけるDNAワクチンの「性能不足」に対する別の説明は、これらのワクチンの免疫賦活作用が推定よりも弱いことである可能性がある。DNA依存性免疫応答の誘導における細胞質DNAセンサの重要性は、近年ますます認識されている(Aoshi et al., 2011; Marichal et al., 2011; Desmet & Ishii, 2012)。高度な送達方法の助けがなければ、十分なDNAが細胞質に到達しない可能性、またはDNAによる刺激に対するこれらのセンサの感度に種差が存在する可能性があると考えられる(Kallen & Theβ, 2014)。
【0006】
そこで研究者らは、RNA(mRNA)ワクチンの応用に目を向けている。トランスフェクトされた細胞の機構は、薬理学的に活性な産物である対応するタンパク質へのメッセージのin vivo翻訳に利用される。IVT mRNAの薬理活性の主要なコンパートメントは、細胞質である。核内で産生され核外輸送により細胞質に入る天然mRNAとは対照的に、IVT mRNAは細胞外空間から細胞質に入る必要がある。IVT mRNAがいったん細胞質に入ると、その薬理作用は、天然mRNAの安定性と翻訳を制御するのと同じ複雑な細胞機構によって支配される。IVT mRNAから翻訳されたタンパク質産物は翻訳後修飾を受け、このタンパク質が生理活性化合物となる。IVTmRNAのテンプレートとタンパク質産物の両者の半減期は、mRNAベースの治療薬の薬物動態の重要な決定要因になる。免疫療法的なアプローチの場合、コード化されたタンパク質のプロセシング経路は、その薬物動態を決定する上で重要である。内因的に生成されたタンパク質と同様に、mRNAにコードされた生成物はプロテアソームによって分解され、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI分子上でCD8+T細胞へ提示される。一般に、細胞内タンパク質はMHCクラスIIプロセッシング経路に到達してヘルパーT細胞の応答を誘導することはない。しかし、抗原コード配列に分泌シグナルを導入することで、分泌シグナルがタンパク質抗原を細胞外空間に誘導するため、ヘルパーT細胞応答を達成することができる(Sahin et al., 2014)。
【0007】
1990年代には、IVT mRNAの前臨床調査が、がんおよび感染症に対するタンパク質代替およびワクチン接種アプローチなど、多様な用途を目的に開始された。その結果、蓄積された知識は、半減期の短さおよび好ましくない免疫原性など、mRNAに関連する障害のいくつかを克服するための近年の科学技術の進歩を実現させた(Sahin et al., 2014)。
【0008】
宿主細胞のサイトゾル内に合成mRNAが送達された後、未修飾の合成mRNAは異物として認識され、パターン認識受容体(PRR)によって検出され、自然免疫応答が引き起こされる(Tam & Jacques, 2014)。また、合成mRNAは、サイトゾルRIG-IおよびMDA5の引き金を引くことによって自然免疫系を活性化することができる(Schlee et al, 2009; Goubau et al, 2014; Reikine et al, 2014)。さらに、合成mRNA分子はNLRによっても認識され、カスパーゼ-1を介したピロトーシスによる細胞死を引き起こすという指摘もある(Bergsbaken et al., 2009; Andries et al., 2013)。したがって、未修飾の合成mRNAに基づいた遺伝子ワクチンは、mRNAワクチン接種後の細胞性および液性応答を促進する様々なサイトカインの発現を活性化することにより、優れた自己アジュバントとして機能することが可能である。しかしながら、未修飾mRNAのキャリア媒介送達後の自然免疫応答は、mRNAの翻訳の阻害、さらにはmRNAの分解につながるほど活発であり得る(Kormann et al., 2011; Katalin Kariko et al., 2012; Wu & Brewer, 2012; Zangi et al., 2013; Zhong et al., 2018)。さらに、最近の報告では、非修飾/非HPLC精製合成mRNAの免疫刺激特性に起因する誘発性I型IFNが、CD8+T細胞刺激に負の影響を及ぼす可能性が示された(De Beuckelaer et al., 2017)。I型インターフェロンは血栓性微小血管症(Kavanagh et al., 2016)、貧血(Libregts et al., 2011)、および自己免疫疾患(Di Domizio & Cao, 2013)と関連しているため、合成mRNAの固有の生来の免疫原性は、安全性に関する懸念も潜在的に持っている。したがって、mRNAの翻訳と自然免疫応答の完璧なバランスを追求することが重要である。そこで、IVT-mRNAにプソイドウリジン、2-チオウリジン、5-メチルウリジン、5-メチルシチジンまたはN6-メチルアデノシンなどの天然由来の修飾ヌクレオシドを組み込むと、免疫刺激が大幅に減少し、RNase切断に対して分子が安定化することが示されている(Katalin Kariko et al., 2005, 2012; B. R. Anderson et al., 2011; Kormann et al., 2011)。ウリジン欠乏は、免疫原性を低下させ、翻訳活性を増加させるための配列操作の最新の形態である(拙稿参照:10.1016/j.omtn.2018.06.010)。さらに、修飾mRNAの免疫刺激は、例えば逆相クロマトグラフィーを用いた精製によってさらに低減することができる(Kariko et al., 2005; Bart R. Anderson et al.,2010; Andries, Mc Cafferty, et al.,2015)。IVT-mRNAの異なる構造配列を改変して細胞内安定性と翻訳効率を系統的に改善することにより、IVT-mRNAからのタンパク質発現を数桁超増加させることができる(K Kariko et al., 1999; Holtkamp et al., 2006; Kallen & Theβ, 2014)。
【0009】
ワクチン接種の場合、IVT mRNAの強い免疫刺激効果と内在性アジュバント活性により、強力な抗原特異的な細胞性および体液性の免疫応答が得られる(Sahin et al., 2014)。ワクチン接種にmRNAを使用する主な利点は、同じ分子が適応免疫に抗原源を提供するだけでなく、同時にパターン認識受容体に結合して自然免疫を刺激することができることである。タンパク質抗原に対する体液性および細胞性の免疫応答は、核酸またはDNA/RNAワクチン接種によって効率的に刺激することができる。核酸ベースのワクチン接種では、免疫原性タンパク質が正しい翻訳後修飾、コンフォメーションまたはオリゴマー化で発現し;これにより中和抗体(B細胞)応答を刺激するエピトープの完全性が確保される。
【0010】
しかし、IVT mRNAベースのアプローチとDNAワクチンなどの他の核酸ベースの技術との間には、概念的にいくつかの重要な違いがある。IVT mRNAは機能するために核に入る必要がなく;いったん細胞質に到達すると、mRNAは即座に翻訳される。対照的に、DNAはRNAに転写されるために核にアクセスする必要があり、その機能性は細胞分裂時の核膜の破壊に依存する(Sahin et al., 2014)。さらに、mRNAはDNAプラスミドのように核に入る必要がないため、非分裂細胞にも送達することができる(Sergeeva et al., 2016)。さらに、IVT mRNAベースの治療薬は、プラスミドDNAおよびウイルスベクターとは異なり、ゲノムに組み込まれないため、挿入変異原性のリスクも提起しない。また、IVT mRNAは一過性の活性しかなく、生理的な代謝経路を経て完全に分解されることも有利である(Sahin et al., 2014)。RNA免疫化は、一過性のin vivoトランスフェクション後に発現した細胞内または細胞外タンパク質抗原から、(ウイルスタンパク質による干渉なしに)抗原性ペプチドが(内因性または外因性の)プロセシング経路で効率的に生成されるため、T細胞応答を刺激する上で例外的に強力である。この2つの特徴とも、真核生物または原核生物の発現系で製造された組換えサブユニットワクチンでは達成困難である(Reimann & Schirmbeck, 2000)。天然の感染病原体から製造されるサブユニットワクチンは依然として重要な役割を担っているが、免疫原の製造と精製にかかるコストは非常に高い可能性がある。所望のタンパク質を作るために患者の体内に依存することで、IVT mRNA薬は、発酵タンクでの高価なタンパク質の製造の必要性を回避し、治療タンパク質の安定かつ調整可能な生産が可能なアプローチを提供する(Sahin et al., 2014)。
【0011】
さらに、およそ10年前、Pascolo (2004)は、mRNAを大規模に製造するコストは、DNAを製造するコストよりも低くなると指摘した(Pascolo, 2004)。mRNAに基づくヌクレオチドワクチンは、非常に短い時間で事実上あらゆるタンパク質を抗原としてコードする柔軟性を備えているが、同じ製造設備で同じ製造プロセスを用いて製造することが可能である。したがって、新規ワクチンを限られた財政投資で非常に短時間で作ることができ、これは感染症のパンデミックシナリオにとって非常に重要である(Kallen & Theβ, 2014)。IVT mRNAを薬として用いるコンセプトは、特定の疾患状態を予防または変更するという最終目的のために患者の細胞内に定められた遺伝メッセージを伝達することである(Sahin et al., 2014)原則として、2つのアプローチのIVT mRNAの使用が追求されている。1つは、それを患者の細胞にex vivoで導入することであり;これらのトランスフェクトされた細胞は、その後、養子的に患者に戻される。第2のアプローチは、様々な経路を利用してIVT mRNAをin vivoで直接送達することである。
【0012】
自己増幅型(self-amplifying、sa)ウイルスmRNAレプリコンはRDRP遺伝子を持ち、プラス鎖RNAウイルスの特徴的な複製特徴を模倣している(Echinson & Ehrenfeld, 1981; Mizutani & Colonno, 1985; van der Werf et al,1986; C. M. Rice et al., 1987; Liljestrom & Garoff, 1991; Rolls et al., 1994; Khromykh & Westaway, 1997; Perri et al., 2003)。レプリコンRNAは、cDNA鋳型から、in vitroで転写することにより容易に製造することができる。RNAウイルスの構造遺伝子は、目的の異種遺伝子に置き換えられ、それらはサブゲノムプロモータによって制御される(Xiong et al., 1989; Zhou et al., 1994; Ying et al., 1999; Hewson, 2000; Lundstrom, 2009)。
【0013】
近年、sa-mRNA(RNAレプリコン)ワクチン接種は、ナノテクノロジーをベースとした革新的なワクチン戦略として認識されている(Andries, Kitada, et al., 2015)。前述のように、ウイルスレプリコン粒子(すなわち、ウイルスカプシドタンパク質に包まれたRNA)とは異なり、RNAレプリコンはin vitro転写によってのみ製造することができる。したがって、製造プロセス全体が完全に無細胞であり、その結果、組成が正確に定義された治療薬が得られる。RNAレプリコンワクチンは、非複製対応物と比較して発現期間(約2カ月)および発現の大きさが伸びるなど、いくつかの魅力的な特徴を有する(Kowalski et al., 2019)。さらに、sa-mRNAの細胞内複製は一過性であり、複製中に二本鎖RNA(dsRNA)中間体を生成し、パターン認識受容体を誘発することによってインターフェロンを介した宿主防御機構を誘発することができる。この結果、挿入された標的分子に対する強力な抗原特異的免疫応答が引き起こされる。したがって、sa-mRNAベクター系は、高い一過性の導入遺伝子発現と固有のアジュバント効果を提供するため、ワクチン開発に理想的に適している(Sahin et al., 2014)。
【0014】
一般的な分類によると、標的細胞に遺伝物質を導入するために、2種類のベクターが使用され得る。一方は、前駆体ウイルスの挙動を模倣したウイルスベクターが使用される。レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスなど、さまざまな種類のベクターが採用されたことがあり、ヨーロッパでは臨床使用までもが承認されている。一方、非ウイルス性ベクターも存在し、これはその組成によって説明することができる。最もよく言及されるのは、リポプレックス(脂質+DNAまたはRNA)とポリプレックス(ポリマー+DNAまたはRNA)である(Perez Ruiz de Garibay, 2016)。
【0015】
不活性化または非複製ウイルスベクターを用いた遺伝子導入の実行は、臨床試験の約3分の2を構成し(Ginn et al., 2018)、任意の特定のウイルスベクターの選択は、治療標的に依存する。例えば、頻繁に採用されているアデノウイルス血清型5(Ad5)ベクターは、分裂しているまたは非分裂の細胞のいずれかを標的とすることができる。Ad5ウイルスは安定で遺伝子的に操作することが容易であるが、その免疫原性が臨床への応用の妨げとなっている(Salameh et al., 2019)。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、最も活発に研究されている遺伝子治療媒体の1つであり、一般に他のウイルスよりも免疫原性が低いことが示されている。しかし、AAVに対する既存の免疫、特に循環中和抗体の存在は、AAVの臨床効果に劇的な影響を与える可能性がある。現在までのところ、これは全身投与されたAAVの使用に対する最大の治療上の課題の1つであり、初期の臨床失敗の要因の1つであると考えられている(Naso et al., 2017)。レトロウイルスおよびレンチウイルスは、そのゲノムを宿主細胞に統合し、長期的な導入遺伝子の発現をもたらすことができる。しかし、レトロウイルスは活発に分裂している細胞にしかトランスフェクトできず、したがって非分裂細胞(例えば、脳組織内)を標的にすることはできない。さらに、レトロウイルスおよびレンチウイルスベクターは製造コストが高く、Ad5よりも組換えベクターとしての安定性が低いため、遺伝子導入の再現性が阻害される。さらに、ウイルスベクターによって誘導される自然および適応免疫応答も、その有効性を制限する。そこで、ポリ(エチレングリコール)(PEG)およびポリ-N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドポリ(HPMA)などの合成ポリマーを共有結合させて免疫原性をマスキングすることに多くの取り組みがなされている。このようなポリマー-ウイルスのハイブリッドは、安定的で持続的な遺伝子発現を生み、非分裂細胞をトランスフェクトすることができる(Ramsey et al., 2010)。残念ながら、副作用の低減は、トランスフェクション効率の望ましくないほど大きな低下と一致する(Salameh et al., 2019)。
【0016】
一方、ポリマー、リポソーム、または他のナノスケール構造から調製される非ウイルスベクターは、ウイルスベクターの欠点を克服する方法を提供する。非ウイルス性ベクターは安全なプラットフォームであり、その製造はウイルスベクターよりも単純で安価、かつ再現性がより高い。さらに、送達できるDNAまたはRNAのカーゴに制限がない。非ウイルスベクターのトランスフェクションの有効性が、いくつかの戦略によって改善され、その結果、臨床試験に入る製品の数が増加しているとは言うものの、その主な制限である(delpozo-Rodriguez et al, 2016; Molla & Levkin, 2016; Perez Ruiz de Garibay, 2016)。
【0017】
タンパク質およびRNA(例えば、スモールRNA)などの遺伝子産物をコードしている核酸は、所望の脊椎動物の対象に直接送達することができ、または対象から得られたもしくはそれに由来する細胞にex vivoで送達し、その細胞を対象に再移植することができる。このような核酸を脊椎動物の対象に送達することは、多くの目的、例えば、遺伝子治療のため、コード化されたポリペプチドに対する免疫応答を誘導するため、または内因性遺伝子の発現を調節するために望ましいことである。このアプローチの使用は、遊離DNAが細胞によって容易に取り込まれず、遊離RNAがin vivoで急速に分解されるために妨げられてきた。そこで、核酸送達系を用いて、核酸送達の効率を向上させることが行われてきた。
【0018】
核酸送達系は、組換えウイルス系と非ウイルス系の2つの大きなカテゴリに分けられる。ウイルスベクターとしてのウイルスは、細胞に感染するために進化してきた高効率の送達系である。一部のウイルスは、改変して感染性はないものの外来遺伝子産物をコードしている核酸を宿主細胞に効率よく送達できるウイルスベクターになっている。しかし、組換えウイルスなど、ある種のウイルスベクターには、安全性および有効性に関する潜在的な懸念が残っている。例えば、ベクターがパッケージングを含んだ方法を用いて製造される場合、ベクター成分間の組換え事象によって感染性ウイルスが生成されることがあり、ウイルスタンパク質は望ましくない免疫応答を誘発することがあり、これにより導入遺伝子発現の時間が短縮され、組換えウイルスの反復使用が妨げられることさえあり得る。例えば、Seung et al., Gene Therapy 10:706-711(2003), Tsai et al., Clin. Cancer. Res. 10:7199-7206(2004)を参照のこと。
【0019】
さらに、組換えウイルスを用いて送達できる核酸のサイズには制限があり、大きな核酸または複数の核酸を送達することができない場合がある。一般に検討されている非ウイルス送達系には、DNAまたはRNAなどの遊離核酸の送達と、核酸および脂質(例えば、リポソーム)、ポリカチオン、または遺伝子導入の速度を高めることを意図した他の薬剤を含む製剤の送達が含まれる。例えば、Montana et al., Bioconjugate Chem.18:302-308(2007), Ouahabi et al., FEBS Letters, 380:108-112(1996)を参照のこと。しかしながら、これらのタイプの送達系は、一般に、組換えウイルスよりも効率が低い。
【0020】
核酸ワクチンによって誘導される免疫応答には、核酸によってコードされた抗原に対し反応性があり、病原体特異的な免疫力を与える。抗原の投与期間、用量、および免疫系への抗原提示の種類は、免疫応答の種類と大きさに関係する重要な要因である。核酸ワクチン接種の効果は、核酸の細胞への取り込みが非効率的であることにより、しばしば制限される。一般に、注射部位の筋肉または皮膚細胞のうち、目的の遺伝子を発現しているのは1%未満である。この低い効率は、遺伝子ワクチンが標的組織に存在する細胞の特定のサブセットに入ることが望ましい場合に、特に問題となる。例えば、Restifo et al., Gene Therapy 7:89-92(2000)を参照のこと。
【0021】
自己複製RNA分子は、宿主細胞内で複製され、所望の遺伝子産物をコードしているRNAの量の増幅をもたらし、RNA送達の効率とコードされた遺伝子産物の発現を高めることが可能である。例えば、Johanning, F.W., et al, Nucleic Acids Res., 23(9): 1495-1501(1995); Khromykh, A. A., Current Opinion in Molecular Therapeutics, 2(5):556-570(2000); Smerdou et al., Current Opinion in Molecular Therapeutics, 1(2):244-251(1999)を参照のこと。自己複製RNAは、ウイルス粒子として、および遊離RNA分子として産生されてきた。しかしながら、遊離RNA分子はin vivoで急速に分解され、試験されたほとんどのRNAベースのワクチンは、強力で耐久性のある免疫応答を生じさせるのに必要な用量および期間で抗原を提供する能力が限られていた。例えば、Probst et al., Genetic Vaccines and Therapy, 4:4; doi:10.1186/1479-0556-4-4(2006)を参照のこと。
【0022】
COVID-19、SARS-CoV-2による感染症は世界的な大流行となった。現在、188の国と地域で1億7500万人超の症例が報告され、約3,700,00人の死者が出ており、緊急治療室の収容可能人数を超えている。また、世界経済への脅威も証明され、人類史上最もコストのかかる災害となった。世界各国の政府が抜本的な対策を講じ、いくつかのワクチンは緊急時の手続きを経て承認されたが、様々なSARS-CoV-2変異型に対して持続的な防御力を発揮することのできる有効なSARS-CoV-2ワクチンを得ることは、依然として絶対的に緊急かつ必要である。いくつかの報告はSARS-CoV-2感染者における抗体反応の持続性を問題とし、同族体の再感染が確認されていることから、これらのウイルスに対するワクチン開発は困難な作業であることが証明されている。さらに、患者は、症状が軽い患者であっても、非常に長い期間症状が続くことがあり、これはウイルスの持続性を示している。さらに、ウイルスが急速に進化し、感染率および発病能力などのウイルス特性を変化させたSARS-CoV-2変異型が出現することが懸念されている。最後に、検出可能なSARS-CoV-2がない回復した患者も、後の時間枠では陽性となることが示されており、持続性または再発性の感染の発生が確認されている。したがって、SARS-CoV-2感染および重篤な疾患の可能性を著しく減少させるのに十分な免疫応答を生じさせ、好ましくは長期間の有効性をもってそれを行い、同時に既知および将来のSARS-CoV-2変異型から強力に保護することを可能にする有効なSARS-CoV-2ワクチンの必要性が存在する。
【0023】
Sheahan et al. (2011)は、SARS-CoVのSタンパク質を抗原として含むベネズエラウマ脳炎ウイルスレプリコン粒子ワクチンでマウスを免疫化することを記載している。しかし、この技術はヒト用に最適化されておらず、また、SARS-CoV-2に対する効果も開示されていない。
【0024】
一方、SARS-CoV-2用の2つのRNAワクチンが、緊急時に特化した条件付き販売承認手続きによりEMAとFDAから承認されているが、これらのワクチンには多用量のmRNAを必要とする。これらのワクチンの製造は高価であり、時間もかかる。さらに、高濃度のRNAは、投与された患者に副作用を引き起こす可能性がある。したがって、本明細書に挙げた問題の1つまたは複数を解決する、より効率的でより強力なRNAワクチンが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明者らは、この度、驚くべきことに、特許請求の範囲に詳述するように、上記のニーズを満たすSARS-CoV-2抗原を含む自己複製RNA分子を特定した。特に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列とSARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗原をコードしている配列の組み合わせが、強い結合抗体反応、in vivoでのSARS-CoV-2の効率的な中和、ならびにCD4+およびCD8+T細胞免疫の両方の誘発をもたらし、種々のSARS-CoV-2変異型に対する強固な保護を提供することを見出した。
【0026】
第1の態様では、本発明は、SARS-CoV-2抗原をコードしている配列を含む自己複製RNA分子を提供する。いくつかの実施形態では、自己複製RNA分子は、アルファウイルス/ベネズエラウマ脳炎ウイルスのRNAゲノムを基にしている。好ましくは、自己複製RNA分子は、標的タンパク質(例えば、抗原)またはRNA(例えば、スモールRNA)/少なくとも1つのSARS-CoV-2抗原などの遺伝子産物をコードしている異種配列を含む。特定の実施形態では、自己複製RNA分子は、変異、好ましくは5’UTRにおけるA3G置換とnsP2 Q739L変異の両方を含む。
【0027】
特定の実施形態では、SARS-CoV-2抗原は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原である。さらなる実施形態では、スパイクタンパク質抗原は、受容体結合ドメイン(Receptor-Binding Domain、RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型である。さらなる実施形態では、スパイクタンパク質は、C3d-p28などの免疫刺激タンパク質に融合している。
【0028】
別の特定の実施形態では、SARS-CoV-2抗原は、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原である。さらに別の特定の実施形態では、SARS-CoV-2抗原は、SARS-CoV-2膜タンパク質抗原である。好ましい実施形態では、自己複製RNA分子は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列を含み、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原および/またはSARS-Cov-2膜タンパク質抗原をコードしている配列をさらに含んでいる。一実施形態では、本発明は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列を含み、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列をさらに含む自己複製RNA分子を提供する。他の1つの実施形態において、本発明は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列を含み、SARS-CoV-2膜タンパク質抗原をコードしている配列をさらに含む自己複製RNA分子を提供する。
【0029】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の自己複製RNA分子と、薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容されるビヒクルとを含む医薬組成物(例えば、免疫原性組成物およびワクチン)に関する。医薬組成物は、少なくとも1つのアジュバントおよび/または核酸送達系をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、組成物は、カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクリエート(cochleate)、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム(emulsome)、またはポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョンまたはそれらの組み合わせをさらに含む。
【0030】
特定の実施形態では、自己複製RNA分子は、カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクリエート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョンエマルジョン、またはそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている。
【0031】
別の態様では、本発明は、感染症、特にコロナウイルス疾患などの疾患を治療または予防するための医学的使用を含む、本明細書に記載の自己複製RNA分子および医薬組成物を使用する方法に関する。特定の実施形態では、本発明は、SARS-コロナウイルスによって引き起こされる疾患、特にSARS-CoV-2、より詳細にはCOVID-19によって引き起こされる疾患の予防および/または治療のために、本明細書に記載の自己複製RNA分子および組成物を提供する。したがって、本発明は、SARS-CoV-2に対するワクチン接種のための本明細書に記載の自己複製RNA分子および組成物も提供する。このような方法は、有効量の本明細書に記載の自己複製RNA分子または組成物を、それを必要とする対象に投与することを含んでいる。例えば、本発明は、対象において免疫応答を誘導するための抗原をコードしている、本発明の自己複製RNA分子の使用を提供する。
【0032】
本発明はまた、有効量の本発明の自己複製RNA分子または組成物を前記対象に投与することを含む、対象におけるSARS-CoV-2抗原の産生を誘導する方法に関する。本発明はまた、対象における免疫応答を誘導する方法であって、本明細書に記載の有効量の医薬組成物を対象に投与することを含む方法に関する。さらなる実施形態において、本発明はまた、対象における抗SARS-CoV-2抗体の産生を誘導するための方法であって、有効量の本発明の自己複製RNA分子または組成物を前記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0033】
本発明はまた、対象にワクチン接種する方法であって、本明細書に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法に関する。
【0034】
本発明はまた、SARS-CoV-2および抗原を産生するように哺乳動物細胞を誘導する方法であって、細胞による自己複製RNA分子の取り込みに適した条件下で、細胞を本明細書に記載の医薬組成物と接触させるステップを含む方法に関する。
【0035】
本発明はまた、本明細書に記載の医薬組成物に投与することを含む、遺伝子導入方法に関する。
【0036】
特に、本発明は、以下の実施形態で定義されるが、これらは本発明を限定するものではない。
【0037】
1.SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列とを含む組み合わせであって、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列が、1つまたは複数の自己複製RNA分子に含まれ、前記1つまたは複数の自己複製RNA分子がさらに非構造アルファウイルスタンパク質をコードしている配列を含む、組み合わせ。
【0038】
2.前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列が、同一の自己複製RNA分子に含まれるか、または前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列が、異なる自己複製RNA分子に含まれる、実施形態1の組み合わせ。
【0039】
3.前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、例えば、TC-83株、またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%の配列同一性を有する株である、実施形態1または2に記載の組み合わせ。
【0040】
4.前記1つまたは複数の自己複製RNA分子が、5’UTRにおけるA3G変異および/または非構造タンパク質2(nsP2)におけるQ739L変異を含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の組み合わせ。
【0041】
5.前記スパイクタンパク質抗原が、受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の組み合わせ。
【0042】
6.前記RBDが、SEQ ID NO:1またはそれに対して少なくとも95%の同一性、好ましくは少なくとも97%の配列同一性、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に相当する、実施形態5に記載の組み合わせ。
【0043】
7.前記1つまたは複数の自己複製RNA分子が、VEEV株TC-83の非構造タンパク質と、5’UTRにおけるA3G変異と、nsP2におけるQ739L変異とを含む、実施形態1~6のいずれかに記載の組み合わせ。
【0044】
8.前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列が、5’キャップを含み、次いで、非構造アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしている配列とサブゲノムプロモータを含み、次いで、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原または受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型を含み、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原または切断型の下流でポリAテールを含む、実施形態1~7のいずれかに記載の組み合わせ。
【0045】
9.前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)抗原をコードしている配列が、5’キャップを含み、次いで、非構造アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしている配列とサブゲノムプロモータを含み、次いで、SARS-CoV-2 Nタンパク質抗原をコードしている配列を含み、前記SARS-CoV-2 Nタンパク質抗原の下流でポリAテールを含む、実施形態1~8のいずれかに記載の組み合わせ。
【0046】
10.実施形態1~9のいずれか1つに記載の組み合わせと、薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容されるビヒクルとを含む、医薬組成物。
【0047】
11.少なくとも1つのアジュバントをさらに含む、実施形態10に記載の医薬組成物。
【0048】
12.カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、またはカチオン性ナノエマルジョンをさらに含む、実施形態10または11に記載の医薬組成物。
【0049】
13.前記1つまたは複数の自己複製RNA分子が、カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョン、ならびにそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている、実施形態10~12のいずれか1つに記載の薬学的組成物。
【0050】
14.前記RNA分子が、カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョン、ならびにそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている、実施形態1~13のいずれかに記載の組み合わせを含むワクチンであって、前記ワクチンにおける前記RNAの有効用量が0.1~100μgである、ワクチン。
【0051】
15.医薬として使用するための、実施形態1から9のいずれか1つに記載の組み合わせ、または実施形態10から13のいずれか1つに記載の医薬組成物、または実施形態14に記載のワクチン。
【0052】
16.感染症の予防および/または治療に使用するための、実施形態1~9のいずれか1つに記載の組み合わせ、または実施形態10~13のいずれか1つに記載の医薬組成物、または実施形態14に記載のワクチン。
【0053】
17.対象における免疫応答の誘導での使用のための、実施形態1~9のいずれか1つに記載の組み合わせ、または実施形態10~13のいずれか1つに記載の医薬組成物、または実施形態14に記載の使用のためのワクチン。
【0054】
18.SARS-CoV、SARS-CoV-2、またはMERS-CoVなどのコロナウイルス疾患に対する対象のワクチン接種での使用のための、実施形態1~9のいずれか1つに記載の組み合わせ、または実施形態10~13のいずれか1つに記載の医薬組成物、または実施形態14に記載のワクチン。
【0055】
19.前記RNAの有効用量が0.1~100μgである、実施形態15~18のいずれかに記載の組み合わせ、医薬組成物または使用のためのワクチン。
【0056】
20.筋肉内、皮内、または皮下に投与される、実施形態15~19のいずれかに記載の使用のための組み合わせ、医薬組成物、またはワクチン。
【0057】
21.単回投与として、または予め規定された期間内に投与される、2回以上の投与の連続を必要とする多回投与として投与される、実施形態15~20のいずれかに記載の使用のための組み合わせ、医薬組成物、またはワクチン。
【0058】
22.毎年または隔年など、定期的に投与される、実施形態15~21のいずれかに記載の組み合わせ、医薬組成物、または使用のためのワクチン。
【0059】
23.前記ワクチンの用量が0.05~1mLである、実施形態1~22のいずれかに記載の組み合わせ、医薬組成物、または使用のためのワクチン。
【0060】
24.自己複製RNA分子を含むコロナウイルスワクチンであって、前記各自己複製RNA分子は、非構造アルファウイルスタンパク質をコードしている配列と、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列とを含み、前記RNA分子はカチオン性脂質、脂質ナノ粒子、リポソーム、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョンならびにそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている、コロナウイルスワクチン。
【0061】
25.前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、例えば、株TC-83またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%の配列同一性を有する株である、実施形態24に記載のワクチン。
【0062】
26.5’UTRにおけるA3G変異および/または非構造タンパク質2(nsP2)におけるQ739L変異を含む、実施態様24または25に記載のワクチン。
【0063】
27.前記スパイクタンパク質抗原が、受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型であり、前記RBDはSEQ ID NO:1またはそれに対して少なくとも95%の同一性、好ましくは少なくとも97%の配列同一性、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する、実施形態24~26のいずれか1つに記載のワクチン。
【0064】
28.前記スパイクタンパク質が、C3d-p28などの免疫刺激タンパク質に融合している、実施形態24から27のいずれか1つに記載のワクチン。
【0065】
29.SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原および/またはSARS-Cov-2膜タンパク質抗原をコードしている配列をさらに含む、実施形態24~28のいずれか1つに記載のワクチン。
【0066】
30.VEEV株TC-83の非構造タンパク質と、5’UTRにおけるA3G変異およびnsP2におけるQ739L変異と、前記RBDを含むSARS-CoV-2スパイクタンパク質の切断型をコードしている25配列とを含む、実施形態24~29のいずれか1つに記載のワクチン。
【0067】
31.前記各自己増幅RNA分子が、5’キャップを含み、次いで、非構造アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしている配列とサブゲノムプロモータを含み、次いで、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原または受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型を含み、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原または切断型の下流でポリAテールを含む、実施形態1~30のいずれかに記載のワクチン。。
【0068】
32.前記ワクチンが、対象、好ましくはヒト対象に投与された場合、前記対象においてSARS-COV-2および/またはその変異型に対する免疫応答を誘発または誘導することができる、実施形態24~31のいずれかに記載のワクチン。
【0069】
33.前記ワクチンの1用量が0.1μg~100μgのRNAを含むように製剤化される、実施形態24~32のいずれかに記載のワクチン。
【0070】
34.前記ワクチンの用量が、0.05~1mLである、実施形態24~33のいずれかに記載のワクチン。
【0071】
35.アジュバントをさらに含む、実施形態1~34のいずれかに記載のワクチン。
【0072】
36.コロナウイルス感染症、好ましくはSARS-CoV-2の治療または予防方法であって、実施形態1~9のいずれかによる組み合わせ、実施形態10~13または14~35のいずれかに記載の医薬組成物またはワクチンを、対象、好ましくはヒト対象に投与することを含む、方法。
【0073】
37.コロナウイルス感染、好ましくはSARS-CoV-2に対する対象の免疫応答を誘導する方法であって、実施形態1~9のいずれかに記載の組み合わせ、実施形態10
~13または14~35のいずれかによる医薬組成物またはワクチンを、対象、好ましくはヒト対象に投与することを含む、方法。
【0074】
38.前記組み合わせ、医薬組成物またはワクチンが、皮下、筋肉内または皮内注射によって前記対象に投与される、実施形態36または37に記載の方法。
【0075】
39.投与用量が0.1~100μgのRNAを含む、実施形態1~38のいずれかに記載の方法。
【0076】
40.前記組み合わせ、医薬組成物またはワクチンが、単回投与として、または予め規定された期間内に投与される、2回以上の投与の連続を必要とする多回投与として投与される、実施形態1~39のいずれかに記載の方法。
【0077】
41.前記組み合わせ、組成物またはワクチンが、毎年または隔年など、定期的に投与される、実施形態1~40のいずれかに記載の方法。
【0078】
42.-SARS-CoV-2の抗原をコードしており、プロモータ配列、好ましくはアルファウイルス由来のサブゲノムプロモータ(SGP)の下流にある抗原配列と;
-前記抗原配列の下流にあるポリ(A)配列と;
-ベネズエラウマ脳炎ウイルスの非構造タンパク質nsP1~4をコードしている配列とを含む、ベクター。
【0079】
43.前記抗原配列が、SARS-CoV-2スパイクタンパク質もしくはその切断型をコードしている、または前記抗原配列が、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)抗原をコードしている、実施形態42に記載のベクター。
【0080】
44.前記スパイクタンパク質の切断型が受容体結合ドメイン(RBD)を含む、実施形態42および43に記載のベクター。
【0081】
45.nsP2の配列が、前記ベクターの5’UTRにQ739L変異および/またはA3G変異を有するnsP2タンパク質をコードしている、実施形態1~44に記載のベクター。
【0082】
46.前記ベクターがプラスミドまたは線状化DNAである、実施形態1~45に記載のベクター。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】saRNAのS1-RBDタンパク質発現の発現能を示すウェスタンブロットの図である。
【
図2】saRNAのNタンパク質発現の発現能を示すウェスタンブロットの図である。
【
図3】皮内注射+エレクトロポレーション後のsaRNA-S1 RBDの免疫原性を示す図である。
【
図4】saRNA-S1 RBD筋肉内注射の免疫原性を示す図である
【
図5】モックワクチン(ルシフェラーゼ)をin vivoで投与した後のスイスマウスにおける抗原発現を示す図である。
【
図6】スイスマウスのin vivoでのS-RBDおよびS-RBD+Nプライムワクチン接種後のSARS-CoV-2 S特異的結合抗体反応の誘導を示す図である。データは、平均±SDで個々の値(群あたりn=6マウス)として示される;ns=非有意、*p<0.05、**p>0.01、**p>0.001、***p<0.0001。
【
図7】スイスマウスのin vivoでのNおよびS-RBD+Nプライムワクチン接種後のSARS-CoV-2 N特異的結合抗体反応の誘導を示す図である。データは、平均±SDで個々の値(群あたりn=6マウス)として示される;ns=非有意、*p<0.05、**p>0.01、**p>0.001、***p<0.0001。
【
図8】スイスマウスのin vivoでのS-RBDおよびS-RBD+Nプライム接種後のSARS-CoV-2 S特異的結合抗体反応の誘導と、これが追加免疫により増強されることを示す図である。データは、平均±SDで個々の値(群あたりn=6マウス)として示される;ns=非有意、*p<0.05、**p>0.01、**p>0.001、***p<0.0001。
【
図9】スイスマウスのin vivoでのNおよびS-RBD+Nプライムワクチン接種後のSARS-CoV-2 N特異的結合抗体反応の誘導と、これが追加免疫によって増強されることを示す図である。データは、平均±SDで個々の値(群あたりn=6マウス)として示される;ns=非有意、*p<0.05、**p>0.01、**p>0.001、***p<0.0001。
【
図10】sa-RNA-S-RBDおよびsa-RNA-S-RBD+sa-RNA-Nの組み合わせを用いたワクチン接種が、マウスの野生型SARS-Co-2(武漢)に対する中和抗体を誘導することを示す図である。
【
図11】野生型SARS-Co-2(武漢)の感染日から犠牲となった日までのハムスターの体重変化を示す図である。
【
図12】ハムスターの肺組織1mgあたりのSARS-CoV-2 RNAゲノムコピー量を示す図である。
【
図13】ハムスターの血清を接種した細胞の50%に細胞障害活性をもたらすのに必要なウイルス量(TCID50)を示す図である。
【
図14】LNP S-RBD+N saRNAを用いた免疫化により、ハムスターに中和抗体(武漢SARS-CoV株)が誘導されることを示す図である。
【
図15】低用量のZIP-LNP S-RBD+N saRNA(ZIP1642)免疫により、ワクチン接種したハムスターの肺組織におけるIL-6サイトカインのmRNA発現が減少することを示す図である。
【
図16】ZIP-LNP S-RBD+N saRNA(ZIP1642)免疫により、ワクチン接種したハムスターの肺組織におけるIP-10ケモカインのmRNA発現が低下することを示す図である。
【
図17】1および5μgの投与量でのZIP-LNP S-RBD+N saRNA(ZIP1642)免疫により、SARS-CoV-2感染ハムスターの肺の病理組織学的特徴が減少することを示す図である。
【
図18】1および5μgの投与量でのZIP-LNP S-RBD+N saRNA(ZIP1642)免疫により、ハムスターに強固なSARS-CoV-2特異的結合抗体反応が誘導されることを示す図である。
【
図19】本明細書に記載のワクチンのRNA成分として使用できるS-RBD+N saRNA構築物の一例を示す図である。
【
図20】スイスマウスのin vivoでのS-RBDおよびS-RBD+Nプライムワクチン接種後のTh2、Th1およびCTL細胞のS特異的T細胞応答を示す図である。データは、平均±SDで個々の値(群あたりn=6マウス)として示される;ns=非有意、*p<0.05、**p>0.01、**p>0.001、***p<0.0001である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本発明は、自己複製RNA分子と、自己複製RNAを治療目的、例えば免疫化または遺伝子治療のために使用する方法に関する。特に、本発明は、SARS-CoV-2ウイルスに引き起こされるCOVID-19を予防するための積極的な免疫化のための方法を提供する。
【0085】
近年、sa-mRNA(RNAレプリコン)ワクチン接種が、ナノテクノロジーをベースとした革新的なワクチン戦略として認識されている(Andries, Kitada, et al., 2015)。ウイルスレプリコン粒子(すなわち、ウイルスカプシドタンパク質にカプセル化されたRNA)とは異なり、RNAレプリコンはin vitro転写のみによって作製することができる。したがって、製造プロセス全体が完全に無細胞であり、その結果、組成が正確に定義された治療薬がもたらされる。RNAレプリコンワクチンは、非複製ワクチンと比較して発現期間(約2カ月)および発現の大きさが延長されるなど、いくつかの魅力的な特徴を有する(Kowalski et al., 2019)。さらに、sa-mRNAの細胞内複製は一過性であり、二本鎖RNA(dsRNA)はパターン認識受容体を誘発することによりインターフェロンを介した宿主防御機構を誘発する。その結果、挿入された標的分子に対する強力な抗原特異的免疫応答が生じる。このように、sa-mRNAベクター系は、高い一過性の導入遺伝子発現と固有のアジュバント効果を提供するため、ワクチン開発に理想的に適している(Sahin et al., 2014)。
【0086】
本明細書に記載の自己複製RNA分子(例えば、ネイキッドRNAの形態で送達される場合)は、それ自体を増幅し、宿主細胞における異種遺伝子産物の発現と過剰発現を開始させることができる。本発明の自己複製RNA分子は、mRNAとは異なり、それ自身のコード化されたウイルスポリメラーゼを使用して自己を増幅する。アルファウイルスに基づくものなど、本発明の自己複製RNA分子は、大量のサブゲノムmRNAを生成し、そこから大量のタンパク質(またはスモールRNA)を発現させることができる。自己複製RNA分子は、本明細書では「レプリコン」ともいう。
【0087】
定義
「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドまたはデオキシヌクレオシドと、少なくとも1つのリン酸を含む分子を指す技術用語である。ヌクレオシドまたはデオキシヌクレオシドは、置換ピリミジン(例えば、シトシン(C)、チミン(T)またはウラシル(U))または置換プリン(例えば、アデニン(A)もしくはグアニン(G))のいずれかである窒素塩基に連結した単一の5炭素糖部分(例えば、リボースまたはデオキシリボース)を含有する。本明細書で使用する場合、「ヌクレオチドアナログ」または「修飾ヌクレオチド」は、ヌクレオシド(例えば、シトシン(C)、チミン(T)もしくはウラシル(U))、アデニン(A)またはグアニン(G))の窒素塩基中または上に1つまたは複数の化学修飾(例えば、置換)を含むヌクレオチドのことを言う。ヌクレオチドアナログは、ヌクレオシドの糖部分(例えば、リボース、デオキシリボース、修飾リボース、修飾デオキシリボース、6員糖アナログ、または開鎖糖アナログ)、またはリン酸中または上にさらなる化学修飾を含むことができる。RNA配列は、その「DNA等価」配列を使用して本明細書に提示されることがある。周知のように、DNA等価配列は、チミン(T)をウラシル(U)に置き換えることによって、それが表すRNA配列に容易に変換することができる。
【0088】
「配列の同一性」。2つのアミノ酸配列の、または2つの核酸配列の同一性パーセントは、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して最大の配列同一性パーセントを達成した後の、配列同一性の一部として保存的置換を考慮しない、ポリペプチドまたは核酸配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基またはヌクレオチドのパーセントと定義される。アミノ酸または核酸配列の同一性パーセントを決定することを目的としたアライメントは、様々な従来の方法で達成することができ、例えば、GCGプログラムパッケージ(Devereux et al., Nucleic Acids Research 12(1):387, 1984)、BLASTP、BLASTN、およびFASTA(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990)を用いる。BLAST Xプログラムは、NCBIおよび他のソースから公的に入手可能である(BLAST Manual Altschul et al. NCBI NLM NIH Bethesda, Md. 20894; Altschul et al. J. Mol.Biol. 215:403-410, 1990)。熟練した技術者は、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを求めることができる。同一性および類似性を求める方法は、一般に利用可能なコンピュータプログラムにおいて体系化されている。
【0089】
自己複製RNAの「有効量」とは、検出可能な量のSARS-CoV-2抗原の発現を誘発するのに十分な量、特にSARS-CoV-2抗原特異的応答を誘発するのに十分な量、好ましくは所望の治療または予防効果をもたらすのに適した量のことをいう。
【0090】
本明細書で使用する「ネイキッド」という用語は、脂質、ポリマー、およびタンパク質などの他の高分子を実質的に含まない核酸を指す。自己複製RNAのような「ネイキッド」核酸は、細胞への取り込みを改善するために他の高分子と配合されることはない。したがって、ネイキッド核酸は、リポソーム、マイクロ粒子またはナノ粒子、カチオン性エマルジョンなどにカプセル化されたり、それに吸着されたり、結合されたりはしていない。
【0091】
本明細書で使用される用語「治療する」、「治療すること」または「治療」は、疾患もしくは状態の症状の緩和、軽減または改善、追加の症状の予防、症状の根本的な代謝原因の改善または予防、疾患もしくは状態の抑制、例えば、疾患もしくは状態の発生の阻止、疾患もしくは状態の緩和、疾患もしくは状態の退行の発生、疾患もしくは状態により引き起こされる状態の緩和、または疾患もしくは状態の症状の停止を含む。用語「治療する」、「治療すること」または「治療」は、予防的および/または治療的な治療を含むが、これらに限定されない。
【0092】
本明細書で使用する場合、用語「コロナウイルス疾患」は、コロナウイルスへの感染に関連する疾患、特にコロナウイルスへの感染に起因する疾患を指す。
【0093】
本明細書で使用する場合、用語「コロナウイルス」には、サブファミリーのレトロウイルス亜科およびオルトコロナウイルス亜科を含むがこれらに限定されないコロナウイルス科の任意のメンバーが含まれる。したがって、それらは、アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、ガンマコロナウイルス属、およびデルタコロナウイルス属を含む。本発明の文脈において好ましいコロナウイルスは、ベータコロナウイルス、特に重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARS-CoV-1およびSARS-CoV-2を含む)である。SARS-CoV-2は、変異型と呼ばれる様々な既知の変異を有し、それによって変異型は、類似の特徴的変異の集積に関連し得る(系統と呼ばれる)。最初の変異型であるB1.1.7は英国で発生し、スパイクタンパク質をコードする遺伝子に3つの重要な変異:N501Y、P681H、H69-V70を含んでいる。第二の変異型、B.1.351は南アフリカで最初に確認され、スパイクタンパク質をコードする領域に3つの重要な置換変異:N501Y、K417N、E484Kを含んでいる。。第3の変異型、P.1はブラジルで生まれたもので、南アフリカの変異型と同様にスパイクタンパク質をコードする遺伝子に重要な変異を含んでいる。第4の変異型、B.1.617はインドで最初に確認され、スパイクタンパク質をコードする領域に3つの重要な置換変異:E484q、L452r、P681rを含んでいる。本明細書で使用するSARS-CoV-2という用語は、変異型が具体的に言及されていない限り、現在までに知られているすべての変異型を包含している。
【0094】
本明細書で使用する場合、用語「免疫応答」とは、抗原(=異物)によって引き起こされ、その結果、原因物質を殺す、または抑制することで病気と闘うことのできる抗体が作られる反応に関連する。
【0095】
本明細書で使用する場合、用語「アルファウイルス」は、ほぼ全世界で発生するエンベロープ型で一本鎖の、ポジティブセンスRNAウイルスのトガウイルス科の属(アルファウイルス)を含む。アルファウイルスは、主に、蚊を媒介物として齧歯類、霊長類、鳥類内で維持される動物由来感染症の病原体であるが、魚類やアザラシに感染するものもあり、節足動物を媒介しない場合もある。ヒト疾患は、ヒトが風土病感染地に侵入して感染した蚊に刺されるか、または、アルファウイルスが出現して家畜流行病もしくは流行病を引き起こしたりした場合に起こる。
【0096】
本明細書で用いる場合、サブゲノムプロモータという用語は、サブゲノムRNA種の産生に必要な機能的要素を構成する配列を意味する。サブゲノムプロモータは、RNAを鋳型として用いて遺伝子の発現を駆動するために必要であり;サブゲノムプロモータは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(ウイルスRNAレプリカーゼであってもよい)により認識される。プロモータ自体は、天然由来または合成の2つ以上のソースに由来するセグメントの複合体であってもよい。サブゲノムプロモータは、サブゲノムRNA種またはそれが転写を開始する特定の遺伝子に関連して位置し、それが適切な(-)極性のRNA分子内に含まれるとき、RNA依存性RNAポリメラーゼ(またはウイルスRNAレプリカーゼ)により機能的に認識されることに留意されたい。サブゲノムプロモータの機能コピーを含む(-)センスRNA分子は、コアプロモータと活性化ドメインの機能単位を含み、(+)センスRNA分子を鋳型としてRNA依存性RNAポリメラーゼによって合成されるか、または(細胞性)RNAポリメラーゼIIによってpolIIプロモータが開始する転写物として合成された可能性がある。
【0097】
本発明によれば、ワクチンは少なくとも1つの5’末端キャップを有していてもよく、脂質ナノ粒子内で製剤化される。ポリヌクレオチドの5’-キャッピングは、製造業者のプロトコルに従って5’-グアノシンキャップ構造を生成するために以下の化学RNAキャップアナログを用いてin vitro-転写反応中に同時に完了させてもよい:3’-O-Me-m7G(5’)ppp(5’)G[ARCAキャップ]; G(5’)ppp(5’)A; G(5’)ppp(5’)G; m7G(5’)ppp(5’)A; m7G(5’)ppp(5’)G(New England BioLabs)。修飾RNAの5’-キャッピングは、ワクチンウイルスキャッピング酵素を用いて転写後に完了させて、「キャップ0」構造:m7G(5’)ppp(5’)G(New England BioLabscap)を生成することができる。キャップ1構造は、ワクシニアウイルスキャッピング酵素および2’-Oメチルトランスフェラーゼの両方を使用して生成されて、m7G(5’)ppp(5’)G-2’-Oメチルを生成することができる。キャップ2構造は、キャップ1構造に続き、2’-Oメチルトランスフェラーゼを使用して5’末端から3番目のヌクレオチドを2’-Oメチル化することにより生成することができる。キャップ3構造は、キャップ2構造に続き、2’-Oメチルトランスフェラーゼを使用して5’末端から4番目のヌクレオチドを2’-Oメチル化することにより背性することができる。酵素は、組換え起源に由来してもよい。あるいは、ポリヌクレオチドの5’-キャッピングは、m2 7,3’-OGpppGまたはm2 7,2’-OGpppG ARCA(CellScript Inc)、CleanCap(TriLink Biotechnologies LLC)、5’-ホスホロチオレートキャップアナログ(Univ. Warszawski)、または代替キャップアナログの使用による共転写キャッピングによって達成されてもよい。
【0098】
本明細書で使用する場合、用語「3’-ポリ(A)テール」または「ポリ(A)テール」は、典型的には、転写されたmRNAの3’末端に付加される一続きのアデニンヌクレオチドである。ある場合には、150ヌクレオチドと短く、または約500アデニンヌクレオチドまでを含むこともある。ある場合には、3’-ポリ(A)テールの長さは、個々のmRNAの安定性に関して必須の要素である場合がある。前記長さは、最大約400アデニンヌクレオチド、例えば約20~約400、好ましくは約50~約400、より好ましくは約50~約300、さらに好ましくは約50~約250、最も好ましくは約60~約250アデニンヌクレオチドであり得る。ポリ(A)配列は、典型的には、mRNAの3’末端に位置する。本発明の文脈において、ポリ(A)配列は、mRNAまたは任意の他の核酸分子内、例えば、ベクター内、例えば、ベクターの転写によるRNA、好ましくはmRNAの生成のための鋳型として機能するベクター内に位置してもよい。
【0099】
本明細書で使用する場合、5’-キャップは、一般に成熟mRNAの5’末端を「キャップ」する実体、典型的には修飾ヌクレオチドの実体である。5’-キャップは、典型的には、修飾ヌクレオチド、特にグアニンヌクレオチドの誘導体によって形成され得る。好ましくは、5’-キャップは、5’-5’-三リン酸結合を介して5’末端に連結される。5’-キャップはメチル化されていてもよく、例えばm7GpppN(式中、Nは、5’-キャップを有する核酸の5’末端のヌクレオチド、典型的にはRNAの5’末端である)。5’-キャップ構造のさらなる例としては、グリセリル、逆位デオキシ脱塩基性残基(部分)、4’、5’メチレンヌクレオチド、l-(β-D-エリスロフラノシル)ヌクレオチド、4’-チオヌクレオチド。炭素環ヌクレオチド、1,5-アンヒドロヘキシトールヌクレオチド、L-ヌクレオチド、α-ヌクレオチド、修飾塩基ヌクレオチド、スレオペントフラノシルヌクレオチド、非環状3’、4’-セコナクレオチド、非環状3,4-ジヒドロキシブチルヌクレオチド、非環状3,5-ジヒドロキシペンチルヌクレオチド、3’-3’-逆位ヌクレオチド部分、3’-3’-逆位脱塩基性部位、3’-2’-逆位ヌクレオチド部分、3’-2’-逆位脱塩基性部分、1,4-ブタンジオールホスフェート、3’-ホスホロアミデート、ヘキシルホスフェート、アミノヘキシルホスフェート、3’-ホスフェート、3’ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、または架橋もしくは非架橋メチルホスホネート部分が挙げられる。本発明の文脈において使用され得るさらに修飾された5’-キャップ構造は、キャップ1(m7GpppNの隣接ヌクレオチドのリボースのメチル化)、キャップ2(m7GpppNの下流の第2ヌクレオチドのリボースのメチル化)、キャップ3(m7GpppN下流の第3ヌクレオチドのリボースのメチル化)、キャップ4(m7GpppN下流の第4ヌクレオチドのリボースのメチル化)、ARCA(抗逆キャップアナログ、修飾ARCA(例えば、ホスホチオエート修飾ARCA)、イノシン、N1-メチル-グアノシン、2’-フルオログアノシン、7-デアザ-グアノシン、8-オキソ-グアノシン、2-アミノ-グアノシン、LNA-グアノシン、および2-アジド-グアノシンである。特に好ましい5’-キャップは、TriLink社から提供されているCleanCap構造である。
【0100】
本明細書で使用する場合、用語「5’-UTR」は、通常、メッセンジャーRNA(mRNA)の特定のセクションを指す。それは、mRNAのオープンリーディングフレームの5’に位置する。典型的には、5’-UTRは、転写開始部位から始まり、オープンリーディングフレームの開始コドンの1ヌクレオチド前で終わる。5’-UTRは、遺伝子発現を制御するためのエレメント(調節エレメントとも呼ばれる)を含んでいてもよい。このような調節エレメントは、例えば、リボソーム結合部位または5’末端オリゴピリミジン領域であってもよい。5’-UTRは、例えば、5’-キャップの付加によって転写後に修飾されてもよい。本発明の文脈では、5’-UTRは、5’-キャップと開始コドンの間に位置する成熟mRNAの配列に対応する。好ましくは、5’-UTRは、5’-キャップに対して3’側に位置するヌクレオチド、好ましくは5’-キャップの3’側直ぐに位置するヌクレオチドから、タンパク質コード領域の開始コドンの5’側に位置するヌクレオチド、好ましくはタンパク質コード領域の開始コドンの5’側直ぐに位置するヌクレオチドまで伸びる配列に相当する。成熟mRNAの5’-キャップの3’側直ぐに位置するヌクレオチドは、典型的には、転写開始部位に相当する。用語「対応する」は、5’-UTR配列が、5’-UTR配列を定義するために使用されるmRNA配列等のRNA配列であってもよく、かかるRNA配列に対応するDNA配列であってもよいことを意味する。本発明の文脈において、用語「遺伝子の5’-UTR」、例えば「TOP遺伝子の5’-UTR」は、この遺伝子に由来する成熟mRNA、すなわち遺伝子の転写および成熟前のmRNAの成熟によって得られるmRNAの5’-UTRに相当する配列である。用語「遺伝子の5’-UTR」は、5’-UTRのDNA配列およびRNA配列を包含する。好ましくは、本発明に従って使用される5’-UTRは、mRNA配列のコーディング領域と異種である。天然に存在する遺伝子に由来する5’-UTRが好ましいとしても、本発明の文脈では、合成的に操作されたUTRもまた使用され得る。
【0101】
本発明の文脈では、3’-UTRは、典型的には、タンパク質コード領域(すなわち、オープンリーディングフレーム)とmRNAの3’末端の間に位置するmRNAの一部である。mRNAの3’-UTRは、アミノ酸配列には翻訳されない。3’-UTR配列は、一般に、遺伝子によってコードされ、これは、遺伝子発現プロセス中にそれぞれのmRNAに転写される。本発明の文脈において、3’-UTRは、タンパク質コード領域の停止コドンの3’側、好ましくはタンパク質コード領域の停止コドンの3’側直ぐに位置し、mRNAの3’末端またはポリ(A)配列の5’側まで、好ましくはポリ(A)配列の5’側直ぐのヌクレオチドまで伸長している、成熟mRNAの配列に対応する。用語「対応する」は、3’-UTR配列が、3’-UTR配列を定義するために使用されるmRNA配列等におけるRNA配列であってもよいし、かかるRNA配列に対応するDNA配列であってよいことを意味する。本発明の文脈において、用語「遺伝子の3’-UTR」、例えば「アルブミン遺伝子の3’-UTR」は、この遺伝子に由来する成熟mRNA、すなわち遺伝子の転写および前熟mRNAの成熟によって得られるmRNAの3’-UTRに相当する配列である。用語「遺伝子の3’-UTR」は、3’-UTRのDNA配列およびRNA配列を包含する。好ましくは、本発明に従って使用される3’-UTRは、mRNA配列のコーディング領域とは異種である。天然に存在する遺伝子に由来する3’-UTRが好ましいとしても、本発明の文脈では、合成的に操作されたUTRもまた使用され得る。
【0102】
本発明の文脈におけるオープンリーディングフレーム(ORF)は、典型的には、ペプチドまたはタンパク質に翻訳され得る、いくつかのヌクレオチド三連の配列であってよい。オープンリーディングフレームは、好ましくは、開始コドン、即ち、その5’末端において通常アミノ酸メチオニンをコードしている3つの連続するヌクレオチドの組み合わせ(ATG)と、それに続く、通常3の倍数である長さのヌクレオチドを有する領域とを含む。ORFは、好ましくはストップコドン(例えば、TAA、TAG、TGA)によって終わる。典型的には、これは、オープンリーディングフレームの唯一のストップコドンである。したがって、本発明の文脈におけるオープンリーディングフレームは、好ましくは、開始コドン(例えばATG)で始まり、好ましくはストップコドン(例えばTAA、TGA、またはTAG)で終わる、3で割り切れる数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列である。オープンリーディングフレームは、単離されていてもよいし、例えばベクターまたはmRNAなどのより長い核酸配列に組み込まれていてもよい。オープンリーディングフレームは、「タンパク質コード領域」とも呼ばれることもある。
【0103】
本発明の文脈における複製起点(ORI)は、典型的には、染色体、プラスミドまたはウイルス上で複製が開始されるDNAの配列であり得る。細菌のプラスミドや小さなウイルスなどの小さなDNAの場合、起点は1つで十分である。より大きなDNAは多くの起点を持つことができ、DNA複製はそれらのすべてで開始される。複製起点はベクターコピー数により決められ、これは、典型的には、発現ベクターが低コピー数のプラスミドに由来する場合は25-50コピー/細胞の範囲、高コピー数のプラスミドに由来する場合は150~200コピー/細胞の範囲となる。コピー数はプラスミドの安定性、すなわち細胞分裂の際に細胞内でプラスミドが維持されるかに影響する。コピー数が多いことの+効果は、細胞分裂時にランダムな分割が行われる際に、プラスミドがより安定に維持されることであり得る。一方、プラスミドが多いと増殖速度が低下するため、プラスミドが少ない細胞は増殖速度が速いことから培養を支配できる可能性がある。複製起点はまた、プラスミドの互換性:同じ細菌細胞内で別のプラスミドと組み合わせて複製する能力を決定することもある。同じ複製系を利用するプラスミドは、同じ細菌細胞内で共存することはできない。これらは同じ互換性グループに属すると言われている。同じ互換性グループから2番目のプラスミドという形で新しい起源を導入すると、常在しているプラスミドの複製結果を模倣する。したがって、2つのプラスミドが異なる細胞に分離されて複製前の正しいコピー数が作られるまでは、さらなる複製は阻止される。
【0104】
自己複製RNA分子
近年、sa-mRNA(RNAレプリコン)ワクチン接種は、ナノテクノロジーに基づく革新的なワクチン戦略として認識されている(Andries, Kitada, et al., 2015)。前述のように、ウイルスレプリコン粒子(すなわち、ウイルスカプシドタンパク質にカプセル化されたRNA)とは異なり、RNAレプリコンはin vitro転写のみで作製することが可能である。したがって、製造プロセス全体が完全に無細胞であり、その結果、組成が正確に定義された治療薬が得られる。RNAレプリコンワクチンは、非複製対応物と比較して発現期間(約2カ月)および発現の大きさが延長されるなど、いくつかの魅力的な特徴を有する(Kowalski et al., 2019)。さらに、sa-mRNAの細胞内複製は一過性であり、二本鎖RNA(dsRNA)はパターン認識受容体を誘発することによりインターフェロンを介した宿主防御機構を誘発する。その結果、挿入された標的分子に対する強力な抗原特異的免疫応答が生じる。このように、sa-mRNAベクター系は、高い一過性の導入遺伝子発現と固有のアジュバント効果を提供するため、ワクチン開発に理想的に適している(Sahin et al., 2014)。
【0105】
本発明の自己複製RNA分子は、RNAウイルスのゲノムRNAを基にしているが、1つまたは複数の構造タンパク質をコードする遺伝子を欠いている。自己複製RNA分子は、翻訳されてRNAウイルスの非構造タンパク質および自己複製RNAによってコードされる異種タンパク質を産生することが可能である。
【0106】
本発明の自己複製RNA分子は、自己複製RNA分子が感染性ウイルス粒子の産生を誘導できないように設計することができる。これは、例えば、自己複製RNAにおいてウイルス粒子の産生に必要な構造タンパク質をコードする1つまたは複数のウイルス遺伝子を省くことによって達成することができる。例えば、自己複製RNA分子がシンドビスウイルス(SIN)、セムリキ森林ウイルスおよびベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)などのアルファウイルスに基づく場合、カプシドおよび/またはエンベロープ糖タンパク質などのウイルス構造タンパク質をコードする1つまたは複数の遺伝子を省くことが可能である。所望であれば、本発明の自己複製RNA分子は、減弱性または毒性の感染性ウイルス粒子の産生を誘導するように、またはその後の1ラウンドの感染が可能なウイルス粒子を産生するように設計することができる。
【0107】
自己複製を達成するための適切な系の1つは、アルファウイルスに基づくRNAレプリコンを使用することである。これらの+鎖レプリコンは、細胞に送達された後翻訳されて、レプリカーゼ(またはレプリカーゼ-転写酵素)を提供する。このレプリカーゼはポリタンパク質として翻訳され、自動的に切断されて複製複合体となり、送達された+鎖RNAのゲノム-鎖コピーを作り出す。これらの-鎖の転写物は、それ自体が転写されて、+鎖の親RNAのさらなるコピーを提供し、また所望の遺伝子産物をコードするサブゲノム転写物を提供することができる。このようにして、サブゲノム転写物の翻訳が、感染細胞による所望の遺伝子産物のin situ発現につながる。適切なアルファウイルスレプリコンは、シンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス等からのレプリカーゼを使用することができる。
【0108】
好ましい自己複製RNA分子は、したがって、(i)自己複製RNA分子からRNAを転写することができるRNA依存性RNAポリメラーゼ、および(ii)本明細書に記載のSARS-CoV-2抗原をコードしている。ポリメラーゼは、アルファウイルスレプリカーゼ、例えばアルファウイルスタンパク質nsP4を含むものであり得る。
【0109】
天然のアルファウイルスゲノムが、非構造レプリカーゼポリタンパク質に加えて構造ビリオンタンパク質をコードしているのに対し、本発明のアルファウイルスベースの自己複製RNA分子は、アルファウイルス構造タンパク質をコードしていないのが好ましい。したがって、自己複製RNAは、細胞内でそれ自身のゲノムRNAコピーの産生を導くことはできるが、RNA含有アルファウイルスビリオンの産生には至らない。このようにビリオンを作れないということは、野生型のアルファウイルスとは異なり、自己複製RNA分子は感染性の形態で自身を永続させることができないことを意味する。野生型ウイルスにおける永続化に必要なアルファウイルス構造タンパク質は、本発明の自己複製RNAには存在せず、その代わりに所望の遺伝子産物をコードしている遺伝子が存在するため、サブゲノム転写物は、アルファウイルスビリオン構造タンパク質ではなく、所望の遺伝子産物をコードすることになる。したがって、特定の実施形態において、本発明の自己複製RNA分子は、非構造アルファウイルスタンパク質をコードしている配列と、SARS-CoV-2抗原をコードしている配列とを含む。より詳細には、本発明の自己複製RNA分子は、4つの非構造性アルファウイルスタンパク質をコードしている配列と、SARS-CoV-2抗原をコードしている配列とを含む。好ましくは、自己複製RNA分子は、少なくとも1つの構造アルファウイルスタンパク質を産生する能力を欠くように操作されたアルファウイルスに由来する。より好ましくは、自己複製RNA分子は、少なくとも2つの、より好ましくはすべての、構造アルファウイルスタンパク質を産生する能力を欠くように操作されたアルファウイルスに由来する。特定の実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、5’から3’の順に、(i)非構造タンパク質媒介増幅に必要な5’配列と、(ii)アルファウイルス、特にベネズエラウマ脳炎ウイルスの非構造タンパク質nsP1、nsP2、nsP3、およびnsP4をコードしているヌクレオチド配列と、(iii)SARS-CoV-2抗原をコードしている異種核酸配列に作動可能に連結されたプロモータであって、異種核酸配列がアルファウイルス構造タンパク質遺伝子の一つまたは全てを置換する、プロモータと、(iv)非構造タンパク質媒介増幅に必要な3’配列と、(v)ポリアデニル酸トラクトとを含む。
【0110】
従って、本発明で有用な自己複製RNA分子は、2つのオープンリーディングフレームを有することができる。第1(5’)オープンリーディングフレームは、レプリカーゼ、特にアルファウイルスの非構造タンパク質をコードし; 第2(3’)オープンリーディングフレームは、少なくとも1つのSARS-CoV-2抗原をコードしている。
【0111】
ある態様では、自己複製RNA分子はアルファウイルスに由来するか、またはアルファウイルスに基づくものである。他の態様では、自己複製RNA分子はアルファウイルス以外のウイルス、好ましくは、プラス鎖RNAウイルス、より好ましくは、ピコルナウイルス、フラビウイルス、ルビウイルス、ペスティウイルス、ヘパシウイルス、またはカリシウイルスから得られるかまたはそれらに基づく。適切な野生型アルファウイルス配列は周知であり、配列保管所、例えばAmerican Type Culture Collection, Rockville, Md.から入手可能である。好適なアルファウイルスの代表例としては、アウラ(ATCC VR-368)、ベバルウイルス(ATCC VR-600、ATCC VR-1240)、カバス(ATCC VR-922)、チクングニアウイルス(ATCC VR-64、ATCC VR-1241)、東部馬脳脊髄炎ウイルス(ATCC VR-65,ATCC VR-1242)、フォートモーガン(ATCC VR-924)、ゲタウイルス(ATCC VR-369、ATCC VR-1243)、キジラガク(ATCC VR-927)、マヤロ(ATCC VR-66)、マヤロウイルス(ATCC VR-1277)、ミドルバーグ(ATCC VR-370)、ムカンボウイルス(ATCC VR-580、ATCC VR-1244)、ヌヅム(ATCC VR-371),ピクスナウイルス(ATCC VR-372、ATCC VR-1245)、ロスリバーウイルス(ATCC VR-373、ATCC VR-1246)、セムリキ森林(ATCC VR-67、ATCC VR-1247)、シンドビスウイルス(ATCC VR-68、ATCC VR-1248)、トナテ(ATCC VR-925)、トリニティ(ATCC VR-469)、ユナ(ATCC VR-374)、ベネズエラ馬脳脊髄炎(ATCC VR-69、ATCC VR-923、ATCC VR-1250 ATCC VR-1249、ATCC VR-532)、西洋馬脳脊髄炎(ATCC VR-70、ATCC VR-1251、ATCC VR-622、ATCC VR-1252)、ホワタロア(ATCC VR-926)およびY-62-33(ATCC VR-375)がある。特定の実施形態では、アルファウイルスは、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)である。より特定の実施形態では、アルファウイルスは、株TC-83または少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する株などの生きた減衰ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)である。株TC-83は公的に入手可能であり、そのゲノムはGenbankにアクセッション番号L01443.1で存在する。
【0112】
自己複製RNA分子生成およびワクチン接種のための使用を改善するアルファウイルスの様々な遺伝子改変変異型が生成されており、例えば、米国特許出願公開第2015299728号明細書、国際公開第1999018226号および米国特許第7332322号明細書(これらは全て参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているようなものである。特に、レプリコンの5’UTRの第3ヌクレオチドとしてグアニンを有すること、および/または非構造タンパク質2(nsP2)においてQ739L変異を有することが有益であることが見出されている。したがって、本発明の特定の実施形態では、自己複製RNA分子は、5’UTRにおいてA3G変異を含む。別の特定の実施形態では、自己複製RNA分子は、非構造タンパク質2(nsP2)においてQ739L変異を含む。好ましい実施形態では、自己複製RNA分子は、アルファウイルス、特にVEEV、より詳細にはVEEV TC-83の非構造タンパク質をコードしている配列を含み、自己複製RNA分子は、5’UTRにおけるA3G変異およびnsP2におけるQ739L変異を含んでいる。さらにより好ましい実施形態では、自己複製RNA分子は、VEEV TC-83の非構造タンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしており、好ましくはQ739L変異がnsP2中に存在する。一実施形態では、自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、もしくはSEQ ID NO:14からなる群から選択される配列を含むタンパク質、または各例において少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より一層好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するタンパク質をコードしている。さらなる実施形態では、自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、およびSEQ ID NO:14の配列を含むタンパク質、または各例において少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、よりさらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するタンパク質をコードしている。さらなる実施形態では、自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:13、およびSEQ ID NO:14の配列を含むタンパク質、または各例において少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するタンパク質をコードしている。NsP3とNsP4の間には、稀にリードスルーを伴うストップコドンが存在する可能性がある。これにより、非構造タンパク質の様々な前駆体が形成され、nsP1-3またはnsP1-4のいずれかになる可能性がある。したがって、SEQ ID NO:18を構成するタンパク質(nsP1-4前駆体に存在するnsP3)は、本発明のいくつかの実施形態において、SEQ ID NO:13(稀にリードスルーを有するストップコドンにより、nsP1-3前駆体に存在するnsP3)を包含している。
【0113】
特定の実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:10のRNA等価物、またはそれに対し少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含み、任意に1つまたは複数の追加の配列で中断されている。さらなる実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:10のRNA等価物、またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含み、前記配列は、好ましくは前記配列のヌクレオチド7567付近で、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:8、およびSEQ ID NO:9のいずれか1つなどの、SARS-CoV-2抗原をコードする1つまたは複数の配列で中断されている。
【0114】
本明細書の開示内容から明らかなように、好ましくは、少なくとも1つのSARS-CoV-2抗原は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原である。したがって、特定の実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:10のRNA等価物、またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含み、前記配列は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列で中断されている。好ましい実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:7のRNA等価物、またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含み、前記配列は任意に1つまたは複数の追加の配列で中断されている。そのような追加の配列は、異なるSARS-CoV-2抗原、例えばヌクレオカプシドタンパク質抗原および/または膜タンパク質抗原をコードしていてもよい。特に、そのような追加の配列は、SEQ ID NO:8またはSEQ ID NO:9の配列を含むタンパク質をコードしていてもよい。別の実施形態では、そのような追加の配列は、SEQ ID NO:5またはSEQ ID NO:6のRNA等価物を含んでいてもよい。
【0115】
ある特定の実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:7のRNA等価物、またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含み、前記配列は、SEQ ID NO:8の配列またはその抗原性断片を含むタンパク質をコードしている配列など、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列で中断されている。別の特定の実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、SEQ ID NO:7のRNA等価物、またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含み、前記配列は、SEQ ID NO:9の配列またはその抗原性断片を含むタンパク質をコードしている配列など、SARS-CoV-2膜タンパク質抗原をコードしている配列で中断されている。
【0116】
本明細書に記載の自己複製RNA分子は、2つ以上のオープンリーディングフレームから、複数のヌクレオチド配列を発現するように操作され得、それによって、サイトカインまたは他の免疫調節物質とともに2つ以上の抗原などのタンパク質を共発現することができ、免疫応答の生成を高めることができる。このような自己複製RNA分子は、例えば、二価もしくは多価ワクチンとして、様々な遺伝子産物(例えば、タンパク質)を同時に生産する場合、または遺伝子治療への応用において特に有用である可能性がある。
【0117】
SARS-CoV-2抗原
本発明での使用のために、任意のSARS-CoV-2タンパク質抗原を使用することができ、これは、自己複製RNA分子がSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列を含むことを意味する。特に興味深いのは、スパイクタンパク質(Sタンパク質とも呼ばれる)、膜タンパク質(Mタンパク質とも呼ばれる)、またはヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質とも呼ばれる)のSARS-CoV-2タンパク質抗原である。用語「抗原」は、抗原性断片を包含する。例えば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、全長スパイクタンパク質の他、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)等の抗原性断片およびそのような抗原性断片を含む融合分子を包含する。
【0118】
本明細書の開示内容から理解されるように、自己複製RNA分子は、好ましくはSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を含む。さらなる実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、スパイクタンパク質の切断型である。ある特定の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、SEQ ID NO:16の少なくとも15、特に少なくとも20、より特に少なくとも25の連続したアミノ酸を含む。さらなる特定の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、SEQ ID NO:16またはSEQ ID NO:16に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、SEQ ID NO:17のRNA等価物、またはSEQ ID NO:17のRNA等価物に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0119】
別の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、受容体結合ドメイン(RBD)を含む。さらに別の特定の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、RBDを含むスパイクタンパク質の切断型である。さらなる実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、任意に別のペプチドに融合したRBDから本質的になる。したがって、特定の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:1に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、任意に別のペプチドに融合したSEQ ID NO:1、またはSEQ ID NO:1に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列から本質的になる。別の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、SEQ ID NO:1の配列、またはSEQ ID NO:1に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードしている。別の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、任意に別のペプチドに融合したSEQ ID NO:1から本質的になるアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:1に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードしている。さらなる実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、SEQ ID NO:3のRNA等価物、またはSEQ ID NO:3のRNA等価物と少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。本発明によれば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、リーダーペプチド、例えば、限定するわけではないが、ヒト組織プラスミノーゲンアクチベーターリーダーペプチド(SEQ ID NO:19と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列)およびIgGカッパ軽鎖リーダー配列などが先行してもよい。
【0120】
さらなる実施形態では、スパイクタンパク質は、任意にリンカー配列を介して、免疫刺激タンパク質に融合している。本発明の適用には、異なる免疫刺激性タンパク質を使用することができる。本発明で使用するための好ましい免疫刺激タンパク質は、Zhang et al. (Vaccine 2011,29:629-635)に記載されているような、C3d-p28、特にC3d-p28.6である。したがって、特定の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、C3d-p28に融合した受容体結合ドメイン(RBD)を含む。さらに別の特定の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、C3d-p28に融合したRBDを含むスパイクタンパク質の切断型である。さらなる実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、C3d-p28に融合し、任意に別のペプチドに融合したRBDから本質的になる。したがって、特定の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、任意に別のペプチドに融合したSEQ ID NO:2、またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列から本質的になる。別の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、SEQ ID NO:2の配列、またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードしている。別の実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、任意に別のペプチドに融合したSEQ ID NO:2から本質的になるアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードしている。さらなる実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、SEQ ID NO:4のRNA等価物、またはSEQ ID NO:4のRNA等価物に対し少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0121】
好ましくは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、別のSARS-CoV-2抗原と組み合わされる。これにより、ワクチン接種の効果をより高めることができることが分かっている。SARS-CoV-2抗原は、例えば、本明細書に記載されるような異なる自己複製RNA分子中で提供することによって、または異なる抗原をコードしている本明細書に記載されるような単一の自己複製RNA分子を提供することによって、組み合わせることができる。
【0122】
したがって、本発明の一態様では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と、さらなるSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列とを含む組み合わせが提供される。好ましくは、さらなるSARS-CoV-2抗原は、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原である。
【0123】
本発明による組み合わせの一実施形態によれば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列およびさらなるSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列は、同じ自己複製RNA分子に含まれる。1つの特定の実施形態において、本発明の自己複製RNA分子は、2つのSARS-CoV-2抗原、好ましくは(a)SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原と、(b)SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原および/またはSARS-CoV-2膜タンパク質抗原をコードしている。1つの特定の実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、(a)SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原と、(b)SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている。別の特定の実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、(a)SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原と(b)SARS-CoV-2膜タンパク質抗原をコードしている。
【0124】
本発明による組み合わせの別の実施形態によれば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列およびさらなるSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列は、別々の自己複製RNA分子中に含まれる。ある特定の実施形態では、組み合わせは、それぞれが1つのSARS-CoV-2抗原、好ましくは(a)SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原と、(b)SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原および/またはSARS-CoV-2膜タンパク質抗原をコードしている2つの異なる自己複製RNA分子を含む。ある特定の実施形態では、組み合わせは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている1つの自己複製RNA分子と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている第2の自己複製RNA分子を含む。別の特定の実施形態では、組み合わせは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている1つの自己複製RNA分子と、SARS-CoV-2膜タンパク質抗原をコードしている第2の自己複製RNA分子を含む。
【0125】
自己複製RNA分子の送達
一般的な分類では、標的細胞に遺伝物質を導入するために2種類のベクターが使用される。一方は、前駆体ウイルスの挙動を模倣したウイルスベクターが使用される。レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなど、さまざまな種類のベクターが採用されており、ヨーロッパでは臨床使用も認可されているほどである。もう一方で、その組成によって説明できる非ウイルス性ベクターがある。最も引用されているのは、リポプレックス(脂質+DNAまたはRNA)およびポリプレックス(ポリマー+DNAまたはRNA)である(Perez Ruiz de Garibay, 2016)。また、エレクトロポレーションによって遺伝子を挿入することも可能である。細胞から異物を導入するこのプロセスは、細胞膜の透過性を高めるために、細胞に電界をかけることで機能する。このプロジェクトでは、非ウイルス性の送達系の研究に焦点を当てることとする。
【0126】
本発明の自己複製RNAは、ネイキッドRNAの送達、または細胞への侵入を容易にする脂質、ポリマーもしくは他の化合物との組み合わせを含む様々な様式での送達に適している。本発明の自己複製RNA分子は、任意の適切な技術、例えば、直接注入、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、バイオリスティックなどによって、標的細胞または対象に導入することができる。
【0127】
自己複製RNAは、ネイキッドRNAとして(例えば、単にRNAの水溶液として)送達することができるが、細胞への侵入およびその後の細胞間効果を高めるために、自己複製RNAは、リポソームまたはナノ粒子などの送達系と組み合わせて投与されることが好ましい。
【0128】
リポソームを作成するために、様々な両親媒性脂質に水性環境下で二重層を形成させて、RNAを含む水性コアをカプセル化することが可能である。これらの脂質は、アニオン性、カチオン性または双性イオン性の親水性頭部基を持つことができる。一部のリン脂質は陰イオン性であるが、他のリン脂質は双性イオン性である。
【0129】
リポソームは、単一の脂質から、または脂質の混合物から形成することができる。混合物は、(i)アニオン性脂質の混合物、(ii)カチオン性脂質の混合物、(iii)双性イオン性脂質の混合物、(iv)アニオン性脂質とカチオン性脂質の混合物、(v)アニオン性脂質と双性イオン性脂質の混合物、(vi)双性イオン性脂質とカチオン性脂質の混合物、または(vii)アニオン性脂質、カチオン性脂質および双性イオン性脂質の混合物を含み得る。同様に、混合物は、飽和脂質と不飽和脂質の両方を含んでもよい。例えば、混合物は、DSPC(双性イオン性、飽和)、DlinDMA(カチオン性、不飽和)、および/またはDMPG(アニオン性、飽和)を含んでもよい。脂質の混合物が使用される場合、混合物中のすべての成分脂質が両親媒性である必要はなく、例えば、1つまたは複数の両親媒性脂質がコレステロールと混合されることも可能である。RNAは好ましくはリポソーム内にカプセル化され、従ってリポソームは水性RNA含有コアの周りに外層を形成する。
【0130】
mRNAをナノ粒子に配合した効率的な送達系は、細胞への取り込みを増加させ、mRNAをRNaseから保護することができます。後者は、mRNAが血液または粘液のような生体流体に接触する経路で投与される場合に特に重要である。脂質ベースの担体、ポリマーベースの担体、ならびにカーボンナノチューブ(CNT)またはデンドリプレックス(デンドリマー+DNA/RNA)などのハイブリッドおよび他のナノ製剤がin vivoで評価された(Perez Ruiz de Garibay, 2016)。使用されるmRNAの脂質製剤のほとんどは、むしろ単純であり、脂質とmRNAの通常の混合を伴う。さらに、得られたmRNA-リポソーム複合体は、生理的pHで正に帯電していることが多く、それゆえ、生体液中に存在する負に帯電した(マクロ)分子と相互作用しやすい。さらに、そのような帯電したmRNA-複合体は、免疫細胞によって急速に捕捉される(Zhong et al., 2018)。
【0131】
脂質ナノ粒子(LNP)は、mRNAのためのより高度な脂質製剤として導入され(Moss et al., 2007; Islam et al., 2015; Kauffman et al., 2016; Granot &peer, 2017; Hajj & Whitehead, 2017; B. Li et al., 2019)、mRNA治療薬のin vivo送達のための理想的候補として考えられている。LNPの特徴は、生理的pHでは準中性であるが、酸性pHでは陽性となるナノ粒子にmRNAをカプセル化することである。このため、アルブミンなどの生体液中の荷電(マクロ)分子がLNPに大量に結合することを防ぐことができる。一方、酸性エンドソームでは、pH応答性脂質がプロトン化することにより、mRNAのエンドソームからの脱出が促進される。LNPのpH応答性は、適切なpKaを持つイオン化可能な脂質の存在に起因する。すなわち、脂質は低いpHでは正に帯電し、生理的pH付近では中性である。このようなpH応答性脂質と専用の混合手順により、mRNAを効率的にカプセル化することができる。
【0132】
LNP-cmRNAをベースとする系は、嚢胞性線維症および他の一遺伝子性疾患の矯正のための強力なプラットフォーム技術になる可能性がある。肺へのLNP-cmRNAの投与は、非侵襲的なツールとして、エアロゾル吸入/ネブライゼーションによって行うことができる。Johler et al., (2015)は、タンパク質の持続時間にもカチオン性複合体の毒性にも影響しないカチオン性IVT mRNA複合体のエアロゾル化が、嚢胞性線維症などの遺伝子疾患のタンパク質置換を目的とした肺の細胞をトランスフェクトする潜在的に強力な手段を構成し、トランスフェクト剤としてのpDNAと比較してIVT mRNAの利点も伴っていることを示した(Johler et al., 2015)。Robinson et al., (2018)は、野生型嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子(CFTR)をコードしているmRNA-LNPの鼻腔内投与が、CFTRノックアウトマウスの誘導気道におけるCFTR媒介塩化物分泌を回復することを立証した(Robinson et al., 2018b)。また、特定の用途では、特定の細胞型または組織を標的にする必要がある。例えば、最近では、希少な細胞型であるFoxi1+肺イオノサイトが、マウス(Cftr)とヒト(CFTR)の両方において嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子の転写物の主要な供給源として特定された(Montoro et al., 2018)。mRNA治療薬の標的送達がmRNA送達分野のホットトピックになると予想されるため、この新しい細胞型はmRNA治療薬の理想的な標的となり、イノベーションの大きな機会を提供する可能性がある。
【0133】
さらに、脂質ベースのマイクロ/ナノ粒子は、生体適合性があり、粘膜の生理的障壁を克服でき、上皮のAg横断およびAPCによる取り込みを促進し、関連ペイロードを保護し、アジュバントを組み込むのに適切であり、粘着特性を示す場合があるので、ワクチン接種用の興味深い抗原(Ag)-送達系の望ましい特徴のいくつかを有し得る(Corthesy & Bioley, 2018)。Geall et al. (2012)は、脂質ナノ粒子カプセル化sa-mRNAワクチンが、HIVおよび呼吸器合胞体ウイルスの抗原に対する機能的免疫応答を誘発することを示した(Geall et al., 2012)。
【0134】
本開示の脂質ナノ粒子は、当技術分野で一般に知られているような成分、組成物、および方法を用いて生成することができ、例えば、PCT/US2016/052352号; PCT/US2016/068300号; PCT/US2017/037551号; PCT/US2015/027400号; PCT/US2016/047406号; PCT/US6000129号; PCT/US2016/014280号; PCT/US2016/014280号; PCT/US2017/038426号; PCT/US2014/027077号; PCT/US2014/055394号; PCT/US2016/52117号; PCT/US2012/069610号; PCT/US2017/027492号; PCT/US2016/059575号およびPCT/US2016/069491号を参照されたい(これらは全て参照により全体としてここに組み込まれるものとする)。
【0135】
特に好ましい実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、脂質ナノ粒子にカプセル化されている。
【0136】
自己複製RNA分子の送達について上述したすべての実施形態は、上述したように、いくつかの異なる自己複製RNA分子の組み合わせの送達にも等しく適用される。特に、別々の自己複製RNA分子に含まれる複数のSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列が送達される場合、これらは、1つの単一のリポソームで送達することもできるし、別々のリポソームで送達することもできる。任意に、製剤のさらなる取り扱いを容易にするために、別々のリポソームを送達の前に混合することができる。前記別々のリポソームは、異なる自己複製RNA分子を効率的にカプセル化、結合または吸着するように、同じ組成または異なる組成を有し得る。
【0137】
したがって、本発明の1つの特定の実施形態は、上述の組み合わせに関連するものであり、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列およびさらなるSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列が異なる自己複製RNA分子に含まれ、両方の自己複製RNA分子は1つの単一のリポソームにカプセル化され、結合され、または吸着されている。本発明において2つ以上の異なる自己複製RNA分子が使用される場合、異なる自己複製RNA分子をカプセル化するリポソームは、同じ組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。したがって、特定の実施形態において、本発明は、第1のSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列を含む第1の自己複製RNA分子と、第2のSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列を含む第2の自己複製RNA分子を提供し、前記第1の自己複製RNA分子は、第1のリポソームにカプセル化され、結合され、または吸着され、前記第2の自己複製RNA分子は、第2のリポソームにカプセル化され、結合され、または吸着されていkる。第1および第2のリポソームは、同じ組成を有していても異なる組成を有していてもよく、特に、それらは同じ脂質を含んでいても異なる脂質を含んでいてもよい。好ましい実施形態では、第1の自己複製RNA分子は、第1のLNPにカプセル化され、第2の自己複製RNA分子は、第2のLNPにカプセル化される。ある特定の実施形態では、第1のLNPの組成は、第2のLNPの組成と異なる。これは、例えば、第1の自己複製RNA分子を第1のLNPカプセル化混合物中にカプセル化し、第2の自己複製RNA分子を第2のLNPカプセル化混合物中にカプセル化することによって得ることができる。その後、第1および第2のカプセル化された自己複製RNA分子を異なる組成物で提供してもよいし、それらを組み合わせて、両方のカプセル化された自己複製RNA分子を含む組成物を得てもよい。
【0138】
本発明の別の特定の実施態様では、上記のようなものに関し、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列およびさらなるSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列が、異なる自己複製RNA分子に含まれ、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列を含むsa-RNA分子およびさらなるSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列を含むsa-RNA分子は、別々のリポソームにカプセル化、結合または吸着されている。別々のリポソームは、2つの別々の組成物において送達され得る。任意に、別々のリポソームはまた、送達前に1つの単一組成物中で結合させることもできる。
【0139】
医薬組成物
本発明は、S、NもしくはMタンパク質コード化自己複製RNA配列、または2つもしくは3つのタンパク質コード化自己複製RNA配列の組み合わせを含む医薬組成物に関する。したがって、特定の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の自己複製RNA分子と1つまたは複数の薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。薬学的に許容される担体およびリポソームなどの好適な送達系またはビヒクルが、典型的には含まれる。しかしながら、mRNAはまた、エレクトロポレーションで、またはエレクトロポレーションなしで、ネイキッド状態でも送達され得る。少なくとも1つのアジュバントを医薬組成物に含めることができ、所望により他のアジュバントまたは賦形剤のような他の医薬成分を含めることができる。これらの成分は、抗ウイルスワクチンとして使用することができる。SARS-CoV-2抗原が異なる自己複製RNA分子で提供される場合、これらの分子は、同じ組成物中に存在してもよいし、異なる組成物中に存在してもよい。
【0140】
薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物、ならびに組成物を投与するために使用される特定の方法によって部分的に決定される。続いて、本発明の医薬組成物の好適な製剤は多種多様である。自己複製RNA分子は、カチオン性脂質、脂質ナノ粒子、リポソーム、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョンまたはそれらの組み合わせにカプセル化、結合、または吸着させることができる。
【0141】
医薬組成物は、好ましくは無菌であり、従来の滅菌技術によって滅菌することができる。
【0142】
組成物は、生理学的条件に近づけるために、薬学的に許容される補助物質、例えばpH調整および/または緩衝剤ならびに浸透圧調整剤、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および乳酸ナトリウムなどを含んでもよい。
【0143】
医薬組成物のpHは、好ましくは5.0~9.5、例えば、6.0~8.0とする。
【0144】
本発明の医薬組成物の浸透圧は、ナトリウム塩、例えば、塩化ナトリウムで調整する必要がある場合がある。非経口投与のための医薬組成物の浸透圧は、典型的には0.9%または9mg/NaCl mLである。
【0145】
本発明の医薬組成物は、200mOsm/kg~400mOsm/kg以下、例えば240~360mOsm/kgまたは290~310mOsm/kgの浸透圧を有していてもよい。
【0146】
保存剤を含まないワクチンが好ましい。しかしながら、所望により、本発明の医薬組成物は、フェノールおよび2-フェノキシエタノールなどの1つまたは複数の保存剤を含んでもよい。水銀を含有する保存剤であるチオメルサルは、水銀を含有しない組成物が好ましいことから避けるべきである。
【0147】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非発熱性であり、例えば、1用量当たり<1EU(エンドトキシン単位、標準尺度)、好ましくは1用量当たり<0.1EUを含む。本発明の医薬組成物は、好ましくはグルテンフリーである。
【0148】
医薬組成物中の自己複製RNAの濃度は変化し得、特定の投与様式に従って、液量、粘性、体重および他の考慮事項に基づいて選択されるであろう。医薬組成物中の自己複製RNAの濃度は、単回投与または一連の投与の一部として、予防に有効であることが証明されているであろう。その量は、治療される個体(例えば、非ヒト霊長類、霊長類など)の健康、身体状態、年齢および分類群、抗原コード化タンパク質またはペプチドに反応する個体の免疫系の能力、治療される状態および他の関連要因によって変化する。本発明の組成物の自己複製RNA含量は、一般に、1用量あたりのRNA量で表されるであろう。好ましい用量は、0.1~100μgの自己複製RNA、好ましくは0.5~90μgの自己複製RNA、好ましくは0.1~75μgの自己複製RNA、好ましくは0.1~50μgの自己複製RNA、好ましくは0.5~50μgの自己複製RNA、好ましくは0.5~25μgの自己複製RNA、より好ましくは0.5~10μgの自己複製RNA、より好ましくは1~10μg、さらに好ましくは1~5μgの自己複製RNA、およびはるかに低いレベル(例えば、0.05μg自己複製RNA/in vitroで使用中の用量)である。
【0149】
適切な投与経路としては、経腸、非経口、および局所投与が挙げられる。
【0150】
非経口投与には、関節内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮内または皮下注射が含まれる。筋肉内、皮内または皮下投与が好ましい。非経口投与に適した製剤には、水性および非水性の等張性無菌注射液が含まれ、これらには、製剤を意図されたレシピエントの血液と等張にする抗酸化剤、緩衝剤、保存剤および溶質が含まれ得る。
【0151】
限定するわけではないが、関節内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮内または皮下注射などの非経口投与に適した製剤には、水性および非水性の等張性無菌注射液または懸濁液があり、これらには製剤を意図されたレシピエントの血液と等張にする抗酸化剤、緩衝剤、静菌、および溶質が含まれ得る。
【0152】
自己複製RNA分子の製剤は、アンプルおよびバイアルなどの単位用量または複数回投与用の密閉容器で提示することができる。注射液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒、錠剤から調製することができる。また、自己複製RNA分子によってトランスフェクトされた細胞を、静脈内または非経口的に投与することができる。
【0153】
前記製剤またはワクチンは、単回投与として、または予め定められた期間内に投与される2回以上の連続投与を必要とする複数回投与として投与することができる。このような期間は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間から最大1年までであってよい。
【0154】
実施形態では、製剤またはワクチンは、毎年または隔年など、定期的に投与される。
【0155】
適量は、0.05~1mL、より好ましくは0.25~0.75mL、例えば0.5mLとすることができる。
【0156】
医薬製剤がエマルジョンからなる場合、自己複製RNA分子とエマルジョンは単純な振盪によって混ぜることができる。他の技術、例えば、エマルジョンと溶液または懸濁液の混合物を、小さな開口部(皮下注射針など)を通して自己複製RNA分子と迅速に合わせ、医薬製剤を混ぜることも可能である。
【0157】
経口投与に適した製剤は、(a)液体溶液、(b)液体、固体、顆粒またはゼラチンとして所与の量の活性成分をそれぞれ含むカプセル、サシェまたは錠剤、(c)適切な液体中の懸濁液、および(d)適切なエマルションからなることが可能である。液体溶液は、水、生理食塩水またはPEG400などの希釈剤に懸濁した有効量のパッケージングされた核酸からなる。錠剤の形態は、乳糖、スクロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ポテトスターチ、トラガカント、微結晶性セルロース、アカシア、ゼラチン、コロイド性二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、着香剤、色素、崩壊剤ならびに薬学的に適合する担体の1つまたはそれ以上を含み得る。薬用キャンディー形態は、活性成分を通常ショ糖とアカシアまたはトラガカントなどのフレーバーで含むことができ、ゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのエマルジョン、ゲルなどの不活性基剤に活性成分を含み、活性成分に加えて当技術分野で既知の担体も含むトローチと同様である。経口投与された自己複製RNA分子を保護するために、分子は、酸性および酵素的加水分解に対して耐性となるように組成物と複合化されるか、または自己複製RNA分子をリポソームなどの適切に耐性のある担体にパッケージングすることによって、保護される。さらに、医薬組成物は、例えばリポソーム中に、または活性成分の徐放をもたらす製剤中にカプセル化することができる。
【0158】
吸入により投与されるエアロゾル製剤を含む局所用組成物も同様に調製することができる。好適な組成物は、単独の自己複製RNA分子から、または他の好適な成分との組み合わせからなる。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタンおよびプロパン窒素などの加圧された許容可能な噴霧剤に入れることができる。
【0159】
好適な座薬製剤は、自己複製RNA分子および座薬基剤からなる。好適な坐剤基剤には、天然または合成のトリグリセリドまたはパラフィン炭化水素が含まれる。また、自己複製RNAと適切な基剤、例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、およびパラフィン炭化水素との組み合わせで充填したゼラチン直腸カプセルを使用することも可能である。
【0160】
自己複製RNA分子を含む医薬組成物について上述したすべての実施形態は、上述したように、いくつかの異なる自己複製RNA分子の組み合わせを含む医薬組成物にも同様に適用される。特に、複数のSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列が別々の自己複製RNA分子に含まれている場合、これらは1つの単一製剤中に存在することも、別々の製剤中に存在することもできる。好ましくは、別々の自己複製RNA分子に含まれる複数のSARS-CoV-2タンパク質抗原をコードしている配列が別々の製剤中に存在する場合、さらなる取り扱いを容易にするために、これらの別々の製剤は送達前に混ぜることができる。前記別々の製剤は、同じ薬学的に許容される担体を含んでもよい。あるいは、別々の製剤は、異なる薬学的に許容される担体を含むこともできる。
【0161】
上記のような別々の製剤は、同じ投与経路を用いて投与することも、異なる投与経路を用いて投与することもできる。好ましくは、両方の製剤は、同じ投与経路を用いて投与される。
【0162】
治療方法および医療用途
本発明の自己複製RNA分子は、治療的または予防的な免疫応答を誘導するためなど、様々な治療または予防目的のために哺乳類(ヒトを含む)などの脊椎動物に送達することができる。本発明はまた、免疫応答を誘導するため、内因性遺伝子の発現を調節するため、または治療上の利益を提供するために十分な量のコードされた外因性遺伝子産物を生成するために十分な量など、所望の治療効果を得るために有効な量の、本明細書に記載の1つまたは複数の自己複製RNA分子を対象に投与することを含む対象における免疫応答を刺激する、または対象を治療する方法を対象とする。対象は、好ましくは動物、哺乳類、魚類、鳥類、より好ましくはヒトである。好適な動物対象としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、シカ、ヒツジ、ヤギ、バイソン、ウサギ、ネコ、イヌ、ニワトリ、アヒル、および七面鳥等が挙げられる。
【0163】
本発明はまた、本明細書に記載の1つまたは複数の自己複製RNA分子を、免疫応答を誘発するのに有効な量で動物に投与することを含む、宿主動物において免疫応答を誘発する方法を対象とする。好ましくは、前記免疫応答は、コロナウイルス感染、好ましくはSARS-CoV-2に対する対象において誘発される。好ましくは、自己複製RNA分子は、病原体抗原をコードする。宿主動物は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。好ましい投与経路は上述したとおりである。本方法は、追加免疫応答を生じさせるために使用することができる。本明細書に記載の自己複製RNA分子および組成物は、他の予防的または治療的化合物とともに投与することができる。非限定的な例として、予防または治療的化合物は、アジュバントまたはブースターであってもよい。本明細書で使用する場合、ワクチンなどの予防組成物に言及する際の用語「ブースター」は、予防(ワクチン)組成物の追加投与を意味する。ブースター(またはブースターワクチン)は、予防組成物の先の投与の後に与えてもよい。上述したように、RNAレプリコンワクチンの魅力的な特徴の1つは、ワクチンが投与された宿主動物における免疫応答の持続時間が延長されることである。したがって、予防組成物の初回投与とブースターの間の投与時間は、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月または1年であってよいが、これらに限定されるものではない。好ましくは、予防組成物の初回投与とブースターの間の投与期間は、2ヶ月または3ヶ月である。本発明は、対象をSARS-CoV-2に対して免疫化する方法に関し、SARS-CoV-2抗原をコードしている1つまたは複数の自己複製RNA分子を、防御免疫応答を誘導するのに有効な量で対象に投与することを含む。宿主動物は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0164】
好ましくは、SARS-CoV-2抗原をコードしている本発明の自己複製RNA分子は、対象に投与されると、防御免疫または免疫応答を誘導する。
【0165】
好ましい投与経路としては、筋肉内、腹腔内、皮内、皮下、静脈内、動脈内、および卵巣内注射などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。経口および経皮投与、ならびに吸入または坐剤による投与もまた企図される。特に好ましい投与経路は、筋肉内、皮内、および皮下注射である。特に好ましいのは、筋肉内注射である。本発明のいくつかの実施形態によれば、自己複製RNA分子は、よく知られ広く利用可能なニードルレス注射装置を用いて宿主動物に投与される。本発明の自己複製RNA分子はまた、個々の患者から摘出した細胞(例えば、リンパ球、骨髄吸引物、組織生検)または普遍的ドナー造血幹細胞など、ex vivoで細胞に送達し、その後、通常は自己複製RNA分子でトランスフェクトした細胞を選択した後、その細胞を患者に再移植することが可能である。患者に送達する適切な細胞数は、患者の状態および所望の効果によって異なるが、これは当業者が決定し得る。
【0166】
自己複製RNA分子、例えば病原体抗原をコードし、したがって免疫応答を誘導するための使用に適しているものは、筋肉のような組織に直接導入することができる。本発明による哺乳動物の細胞への自己複製RNAの導入には、「生物学的」または粒子媒介形質転換のような他の方法も適している。これらの方法は、哺乳動物へのRNAのin vivo導入だけでなく、哺乳動物に再導入するための細胞のex vivo修飾にも有用である。
【0167】
本発明の自己複製RNA分子は、全細胞またはウイルス免疫原性組成物とともに、精製抗原、免疫原またはタンパク質サブユニットまたはペプチド免疫原性組成物と組み合わせて使用できることが企図される。標的細胞型を標的とする自己複製RNAワクチンを採用することが有利な場合がある。
【0168】
自己複製RNAの有効量は、本明細書に記載の方法に従って、単回投与または一連の投与の一部として、対象に投与される。本明細書に記載されるように、この量は、治療される個人の健康および身体状態、治療される状態、ならびに他の関連する要因により異なる。この量は、本明細書で議論される要因、および他の関連要因に基づいて熟練した臨床医が決定することができる比較的広い範囲に収まることが予想される。
【0169】
ポリペプチドを発現する本発明の自己複製RNA分子ワクチンは、パック、ディスペンサー装置、およびキットにパッケージングすることができる。例えば、1単位またはそれ以上の投与形態を含むパックまたはディスペンサー装置が提供される。典型的には、自己複製RNA分子が示された状態の治療に適していることを示すラベル上の適切な表示とともに、投与のための説明書がパッケージングとともに提供されよう。例えば、ラベルには、パッケージング内の自己複製RNA分子が、特定の感染症、自己免疫疾患、腫瘍の治療に有用であること、または哺乳類の免疫応答によって媒介されるか、もしくはその影響を受けやすい他の疾患もしくは状態を予防もしくは治療するために有用であることが記載される場合がある。
【0170】
ベクターとRNA構築物
本発明のベクターは、抗原を含んでいてもよく、前記抗原配列は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその切断型をコードしているか、または前記抗原配列は、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)抗原をコードしており、前記抗原はプロモータ配列、好ましくはアルファウイルス由来のサブゲノムプロモータ(SGP)の下流にある。
【0171】
ベクターは、抗原配列の下流にキャップ、5’UTR、3’UTR、および可変長のポリ(A)テールを含む基本エレメントを含んでいてもよい。ベクターは、さらに、複製起点、およびT7またはSP6プロモータのようなプロモータ配列、ならびに発現系でベクターを生成する目的で、例えば抗生物質をコードする選択遺伝子を含んでいてもよい。
【0172】
一実施形態において、ベクターは、自己増幅RNA発現を駆動するためのレプリコンバックボーンとして用いられるTC-83株ゲノムを有するベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)を含んでいてもよい。自己増幅RNA(saRNA)は、4つの非構造タンパク質(nsP1~4)およびサブゲノムプロモータ配列をコードし得る。nsP1~4は、非複製mRNAよりも低い投与量を可能にする、saRNAの増幅に関与するレプリカーゼをコードする。
【0173】
前記ベクターは、5’キャップ(例えば、7mG(5’)ppp(5’)NlmpNp)をさらに含んでいてもよい。本発明による非構造タンパク質は、好ましくは、非構造タンパク質2(nsP2)の5’UTRにA3G変異および/またはQ739L変異を含む。
【0174】
スパイクタンパク質抗原をコードしている配列は、SGPプロモータの後にクローニングされてもよく、それによってスパイクタンパク質抗原は、受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型であってもよい。あるいは、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列は、SGPプロモータの後にクローニングされてもよい。優先的に、細胞質への送達後、saRNAの翻訳により、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RDRP)を形成する非構造タンパク質1-4(nsP1-4)が生成され得る。RDRPは、saRNAの複製を担い、saRNAのコピーを生成する。したがって、もともと送達されていた各saRNAから、サブゲノムRNAの複数のコピーが生成される。これは、非増幅RNAと比較して、より多くの抗原のコピーの翻訳をもたらす。本発明によるベクターは、プラスミドDNAまたは直鎖化DNAであってもよい。そのために、プラスミドは、該プラスミドの直鎖化を可能にする制限酵素(RE)部位を含んでいてもよい。
【0175】
実施形態において、抗原配列は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその切断型であって、前記スパイクタンパク質またはその切断型が受容体結合ドメイン(RBD)を含んでいるものをコードしているか、またはSARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)抗原をコードしている。
【0176】
本発明の好ましい自己複製RNA分子は、自己複製RNA分子と本明細書に記載のSARS-CoV-2抗原からRNAを転写することができるRNA依存性RNAポリメラーゼをコードしている。ポリメラーゼは、アルファウイルスレプリカーゼ例えばアルファウイルスタンパク質nsP4を含むものであり得る。
【0177】
一実施形態において、本発明の自己複製RNA分子は、非構造アルファウイルスタンパク質をコードしている配列と、SARS-CoV-2抗原をコードしている配列とを含む。より詳細には、本発明の自己複製RNA分子は、4つの非構造性アルファウイルスタンパク質をコードしている配列と、SARS-CoV-2抗原をコードしている配列とを含む。前記SARS-CoV-2抗原は、好ましくは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質、受容体結合ドメイン(RBD)を含むSARS-CoV-2スパイクタンパク質の切断型、C3d-p28.6に融合したSARS-CoV-2スパイクタンパク質受容体結合ドメイン、SARS-CoV-2膜タンパク質(M)またはSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(N)から選択される。
【0178】
好ましくは、自己複製RNA分子は、少なくとも1つの構造的アルファウイルスタンパク質を産生する能力を欠くように操作されたアルファウイルスに由来する。より好ましくは、自己複製RNA分子は、少なくとも2つの、より好ましくはすべての、構造的アルファウイルスタンパク質を産生する能力を欠くように操作されたアルファウイルスに由来する。特定の実施形態では、本発明の自己複製RNA分子は、アルファウイルス、特にベネズエラウマ脳炎ウイルスの非構造タンパク質nsP1、nsP2、nsP3、およびnsP4をコードしているヌクレオチド配列を含み、優先的には5’UTRのA3G変異および/または非構造タンパク質2(nsP2)のQ739L変異を含んでいる。
【0179】
本発明で使用するための好ましい配列であり、実施例で実際に使用した配列:
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
[配列7‐1]
[配列7‐2]
[配列7‐3]
[配列7‐4]
[配列7‐5]
【0187】
【0188】
【0189】
[配列10-1]
[配列10-2]
[配列10-3]
[配列10-4]
[配列10-5]
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
[配列17-1]
[配列17-2]
[配列17-3]
【0197】
【0198】
【実施例】
【0199】
実施例1-sa-RNAによるワクチン抗原の発現:
SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(S-RBD、SEQ ID NO:3)およびヌクレオカプシド(N、SEQ ID NO:5)を、5’UTRにおけるA3G置換およびnsP2 Q739L変異の両方を含むベネズエラウマ脳炎ウイルスのTC-83ワクチン株に由来する自己増幅RNA(saRNA)分子にクローニングした。saRNA-S-RBDとsaRNA-Nをベビーハムスター腎臓21(BHK-21)細胞にトランスフェクトした。SARS-CoV-2 S-RBDまたはN抗原を発現するsaRNAまたは非トランスフェクト対照細胞のいずれかでトランスフェクトしたBHK細胞から総タンパク質を単離し、ウェスタンブロットを行うために使用した。
図1:1μgのsaRNA-S1RBDをトランスフェクトしたベビーハムスター腎臓(BHK)-21細胞(50,000)において、商業的に利用可能な特異的ポリクローナル抗体(RayBiotech、コード:130-10759)を用いて、細胞内のSARS-COV-2-S1 RBDタンパク質(~35kDa)の発現をウェスタンブロット(バンドで表示)により検出した。また、対照として非トランスフェトBHK細胞もテストしたが、ここでは特異的なバンドは確認されなかった。この結果は、saRNA-SRBDによるコード化タンパク質の発現の特異性を示している。
【0200】
図2:1μgのsaRNA-Nタンパク質をトランスフェクトした際のベビーハムスター腎臓(BHK)-21細胞(50,000)において、細胞内のSARS-COV-2-Nタンパク質(~55kDa)の発現を、商業的に利用可能な特異的ポリクローナル抗体(RayBiotech、コード:130-10760)を用いてウェスタンブロット(バンドで表示)により検出した。また、対照として非トランスフェクトBHK細胞もテストしたが、ここでは特異的なバンドは確認されなかった。この結果は、saRNA-Nによるコード化タンパク質の発現の特異性を示している。
【0201】
例2-ワクチン特異的な適応免疫応答:
saRNA-S-RBDをスイスマウスに筋肉内注射(IM)または皮内エレクトロポレーション(ID)により送達した。ルシフェラーゼを発現するsaRNAも同様の方法で送達し、対照として用いた。ワクチン接種したマウスとモック対照マウス(n=3)の両方の脾臓を注射後7日目に単離した。脾細胞をSARS CoV-2 Sペプチドカクテルで刺激し、細胞傷害性T細胞(CD3+CD8+)およびヘルパーT細胞(CD3+CD4+)の応答を評価した。saRNA-S-RBD治療マウス(IM、IDとも)の細胞障害性T細胞とヘルパーT細胞の両方で、高い割合(モック対照の3倍)でIL-4+(液性応答、Th2/Tc2)細胞が観察された。INF+(Th1/Tc1、細胞性免疫)細胞レベルもsaRNA-ルシフェラーゼ群に比べ治療マウス群で上昇した(
図3、
図4)。
【0202】
皮内注射
スイス非近交系マウスに、1μgのsaRNA-S1 RBDを皮内注射し、その後0日目にエレクトロポレーションを行った。脾細胞を7日目に単離し、フローサイトメトリーを用いてT細胞特異的細胞傷害性応答(CD8+)および液性応答(CD4+)をチェックした。全てのサンプルを、SARS-CoV-2 Sタンパク質コーディングペプチドカクテルで刺激した。Luc-saRNAを注入したマウスを比較のための対照として使用した。IL-4とIFN-g CD4+細胞の上昇、およびCD8+細胞の上昇の両方が、ヘルパーおよび細胞傷害性適応T細胞媒介応答の誘導を示す。結果を
図3に示す。
【0203】
筋肉内注射
スイス非近交系マウスに、1μgのsaRNA-S1 RBDを0日目に筋肉内注射した。脾細胞を7日目に単離し、フローサイトメトリーを用いてT細胞特異的細胞傷害性応答(CD8+)および液性応答(CD4+)をチェックした。全てのサンプルを、SARS-CoV-2 Sタンパク質コーディングペプチドカクテルで刺激した。Luc-saRNAを注入したマウスを比較のための対照として使用した。IL-4およびIFN-g CD4+細胞の上昇、およびCD8+細胞の上昇は、両方とも、ヘルパーおよび細胞傷害性適応T細胞媒介応答の誘導を示す。結果を
図4に示す。
【0204】
実施例3-LNP製剤化sa-RNAのワクチン抗原発現
安定性と細胞内送達を高めるため、SARS-CoV-2抗原saRNA構築物を脂質ナノ粒子(LNP)に製剤化した。
【0205】
簡単に説明すると、カプセル化されたsaRNAを含むLNPをIgniteTMSystem(Precision Nanosytems,PNI)で調製した。脂質溶液(複合化脂質C12-200、コレステロール、DOPE、DMG-PEG 2000)は、脂質を100%エタノールに溶解することで調製した。LNPは、クエン酸緩衝液中で3:1の比率でin vitro転写されたsaRNA構築物と組み合わせて、脂質溶液をIgniteTM装置にロードすることによって調製した。合計1μgのsaRNAを使用して、PBSで40μLの総容量に希釈されたLNP製剤を調製した。混合ワクチンの場合、S-RBD saRNAを含むLNP製剤を、N saRNAを含むLNP製剤と1:1の割合で混合した(saRNA-S-RBD0.5μg+saRNA-N0.5μg)。また、ルシフェラーゼをコードしているsaRNA(モック)LNP製剤も同条件で調製した。
【0206】
saRNA LNP製剤のin vivoでの発現
ルシフェラーゼをコードしているsaRNA(モック)LNP製剤を上記のように調製し、スイスマウスにおけるsaRNAプラットフォームのin vivo発現を評価するために使用した。メスのスイスマウス(6~8週齢)をJanvier(フランス)から入手し、餌と水に自由にアクセスできる個別換気式ケージで飼育した。マウスにイソフルランを使用して麻酔した。ルシフェラーゼをコードしているsaRNA(モック)LNP製剤1マイクログラムを、6匹のマウスの腓腹筋に注射した。マウスは、21日間隔のプライムブーストワクチン接種体制に従って免疫した。ルシフェラーゼ誘発生物発光の全光束を、ワクチン接種体制のいくつかの時点において、D-ルシフェリン皮下注の12分後に、非侵襲的in vivoイメージング系(IVIS)Lumia IIIスキャンによって求めた。この評価結果を
図5に示す。
【0207】
モックワクチンの初回投与後(0日目、ベースライン)、生物発光シグナルは急速に増加し(約2.0x104p/sから1x108p/sへ)、高い状態が続いたが、注入後10日目に徐々に減少した。2回目の投与でも同様に、生物発光シグナルの急激な上昇が検出された(ブースと)。対照的に、同様の実験条件を用いて、Pardi et al., 2015は、本明細書で報告されたものの10分の1(約2.0×106p/s)の接種後7日目の生物発光信号の誘導を観察した。同様に、de Alwis et al., 2020は、Arcturusプラットフォームを使用して、本明細書で報告されたものと同様の生物発光シグナルを得るためには2μgのsaRNAが必要であったと報告した。
【0208】
これらのデータから、今回開発したsaRNAプラットフォームは、スイスマウスに投与した場合、抗原発現の延長をもたらすことができることが確認された。
【0209】
実施例4-プライムワクチン接種後のマウスにおける結合抗体反応
1μgのsaRNA LNP製剤のプライム注射による筋肉内免疫後のSARS-CoV-2特異的体液性反応を、ELISAを用いてメスのスイスマウスから21日目に採取した血清で特徴づけた(n=6)。
【0210】
In vivoでの抗原発現は、上記実施例3に記載したように行った。プライム注入前(0日目)、ブースト注入前(21日目)、および犠牲時(35日目)に尾静脈から血液試料を採取した。マウスを頸椎脱臼により安楽死させ、気管支肺胞洗浄液(BAL)および脾臓を収集した。血清は血液凝固後に遠心分離で採取し、さらに使用するまでは-80℃で保存するために分注した。
【0211】
マウス血清中の抗原特異的総IgG価を、1μg/mLの組換えSARS-CoV-2 S1サブユニットタンパク質RBD(S-RBD)、組換えSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(N)でコーティングしたCorning
TM Costar
TM酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)プレートを用いて評価した。総IgG価のためにELISAプレートをブロックし、あらかじめ希釈した血清サンプルでインキュベートし、HRP結合検出抗体を加えた。プレートを洗浄し、TMB基質溶液を用いて現像し、450nm(バックグラウンド570nm)の分光光度計で読み取った。この評価結果を
図6および
図7に示す。
【0212】
LNP製剤化S-RBD抗原(saRNA-S-RBD)とN抗原(saRNA-N)を別々のワクチンとして用いる免疫化は、プライムワクチン接種から3週間後に100%の抗体陽転を誘導し、モックワクチン接種と比較してS抗原結合IgG抗体反応(6.29×10
4,p<0.0001,
図6)とN抗原結合IgG抗体反応(2.97×10
4,p<0.05)も有意に強固になった(
図7)。さらに、混合ワクチン(saRNA-S-RBD+saRNA-N)でも、
図6および
図7に示すように、プライム免疫化の3週間後にSおよびN抗原特異的結合IgG価レベルの上昇(それぞれ1.56×10
4,p<0.0001および2.85×10
4,p<0.0001,)が誘導された。
【0213】
これらのデータから、LNP製剤化saRNA-S-RBDおよびsaRNA-Nを用いたプライムワクチン接種は、個別接種および混合ワクチン接種体制のいずれでも、スイスマウスにおいて強固な結合抗体反応を誘導することが示された。
【0214】
実施例5-ブーストワクチン接種後のマウスにおける結合抗体反応
saRNA LNP製剤1μgのブースト注射による筋肉内免疫後のSARS-CoV-2特異的液性応答を、ブーストワクチン接種の2週間後(すなわち、プライムワクチン接種後の5週間目、最初の免疫から35日目)に採取したスイスマウスの血清によりELISAを用いて特徴づけた。実験方法は、実施例4について上述したのと同様であった。これらの評価の結果を
図8および
図9に示す。
【0215】
図8に示すように、saRNA-S-RBDワクチン接種マウスおよびsaRNA-S-RBDとsaRNA-Nの組み合わせをワクチン接種したマウスからプライム注射後21日目に採取したサンプルの平均S特異的IgG価は、同様に上昇したままだった(それぞれ6.55×10
4および3.13×10
4)。同様の結果が、
図9に示すように、saRNA-S-RBDとsaRNA-Nの組み合わせをワクチン接種したマウスの平均N特異的IgG価(3.42×10
4)についても得られた。
【0216】
プライム注射後35日目(すなわちブーストワクチン接種の2週間後)に採取したサンプルでは、saRNA-S-RBDとsaRNA-Nの組み合わせをワクチン接種した群では、S特異的およびN特異的IgG価ともに統計的有意性は失われた。これは、プライムワクチン注射後35日目に採取した多くのサンプルに、通常のサンプル希釈を用いては測定できないほど高いIgG価(IgG価>2×105)が含まれていたためである。
【0217】
これらの実験は、個々の、および組み合わせたsaRNA LNP製剤を用いたプライムワクチン接種が重要なSARS-CoV-2結合抗体反応を誘導し、これはブースト免疫後に増強できることを実証している。本明細書に記載のsaRNAプラットフォームを使用して得られたS特異的IgG価は、他のSARS-CoVワクチン開発者による公表データと比較して、期待を上回るものであおる。実際、Vogel et al. 2020によれば、1μgの従来のmRNAワクチンを用いたBALB/cマウスのプライムのみのワクチン接種は、<102のS特異的結合IgG価に終わった。非ヒト霊長類(NHP)に同じワクチンを30μgプライムブーストワクチン接種しても、S特異的結合IgG価は約1.5×104までしか誘導できなかった。一方、Corbett et al., 2020に記載されたmRNAワクチン1μgを3種類のマウス系統にプライムブーストワクチン接種すると、より高いS特異的IgG価を誘導でき、105~106のレベルに到達した。本明細書に記載のものとは異なるsaRNAプラットフォームを使用して、de Alwis et al., 2020は、そのsaRNA構築物2μgを使用したBALB/cおよびC57BL/6マウスのプライムワクチン接種後30日目に、約106のS特異的IgGレベルを報告している。同様に、2つの異なるグループが、1μgの代替saRNA構築物を用いたBALB/cマウスのプライムブーストワクチン接種後のS特異的IgG価を、約106(Mckay et al. 2020)および<103(Erasmus et al. 2020)であると報告している。最後に、あるグループは、BALB/cマウスのプライムのみのワクチン接種の12週間後まで、1.3×105という高いS特異的IgG価を誘導することができたが、そのような結果を得るためには10μgのsaRNAが必要であった。
【0218】
実施例6-LNP製剤化sa-RNA-S-RBDを用いた免疫化で、マウスの野生型SARS-CoV-2感染をin vitroで中和
ブースト免疫化により作製された特異的SARS-CoV-2抗体の、野生型SARS-CoV-2ウイルス感染に対する中和能を評価するため、野生型ウイルス中和試験(wtVNT)を行った(武漢SARS-CoV-2株を用いた)。
【0219】
培地中の血清希釈液を3×TCID100のSARS-CoV-2とインキュベートし、試料-ウイルス混合物をVero細胞96ウェルプレートを含む細胞懸濁液に加えた。5日間のインキュベーション時間後、各ウェルの細胞障害活性(CPE)を評価し、ウイルス増殖について陰性または陽性と顕微鏡的にスコア化した。感染細胞数を50%(NT50)または90%(NT90)減少させる中和価(NT)を算出するために、Reed-Muench法を用いた。
【0220】
LNP製剤sa-RNA-N単独ワクチン接種マウスでは中和抗体が観察されたが、これらの群では対照マウスと同程度のNT
50価(>50)にしか達しなかった。一方、LNP製剤化sa-RNA-S-RBDおよびsa-RNA-S-RBD+sa-RNA-Nの組み合わせをワクチン接種したマウスでは、非常に効率的なウイルス中和が観察され、平均NT
50価がそれぞれ4.8×10
3および4.9×10
3に到達した。平均NT
90価は、各ワクチン接種群でそれぞれ3.5×10
3および2.4×10
3の値に達していた。この評価結果を
図10に示す.
【0221】
上記の結果の解釈には注意が必要である。実際、間違った解釈は、NT
50およびNT
90価がS-RBAとS-RBD+Nワクチングループとの間で有意な差がないことから、(LNP製剤化sa-RNA-S-RBDに加えて)ワクチン製剤へLNP製剤化sa-RNA-Nを添加することは、SARS-CoV-2からの保護という点で利益を提供しないことが示唆され得る。実際には、この観察は,witl型VNTアッセイの実験デザインの限界に起因するものである。かかるアッセイでは、ワクチン接種したマウスからの血清希釈液をSARS-CoV-2とある時間インキュベートした後、この混合物を細胞を播種した96ウェルプレートに加え、5日間インキュベートする。その後、感染ウェル数を50%(NT
50)または90%(NT
90)減少させることができた試料希釈率を算出する。血清サンプルには、ELISA法で観察されたS特異的結合抗体とN特異的結合抗体の両方が含まれている(
図6~
図9参照)。しかし、S-抗原はウイルス粒子の表面に存在し、N-抗原は内部のヌクレオカプシドに隠されているため、S-特異的抗体のみがSARS-CoV-2に結合(したがって中和)することが可能である。したがって、S-RBD+N saRNAワクチン対S-RBD saRNAワクチンで、より高いNT
50/NT
90レベルに到達することは事実上不可能である。
【0222】
さらに、2つのsaRNA構築物を細胞内に取り込むと、レプリカーゼ複合体の優先的な複製により、一方の構築物が他方を上回るため、複製競争につながる可能性が示唆されている(Wroblewska et al., 2015)。これは、両方の抗原のうち一方が発現しにくくなるため、抗原の個々の免疫学的効果を妨害または阻害する可能性がある。したがって、S-RBD+N saRNAワクチン候補が、S-RBD saRNAワクチンと同様に高い(相反性の有意差がないため、低くならない)中和抗体反応を誘導することができるという事実は、非常に有望である(
図10)。
【0223】
対照的に、従来のRNAまたはsaRNA製造業者のいずれの発表データも、混合ワクチン候補について本明細書で開示したものほど高いNT50価(4.9×103)に到達することはできていなかった。具体的には、Vogel et al., 2020に記載されたワクチン1μgをBALB/cマウスにプライムワクチン接種のみ行うと、102より低いNT50特異的力価が誘導された。同様に、NHPに30μgの同ワクチンをプライムブーストワクチン接種しても,NT50価は約9.62×102までしか誘導できなかった.一方、Corbett et al., 2020に記載されたmRNA構築物1μgは,3種類のマウス系統にプライムブーストワクチン接種を行った後、NT50レベルを89から1119まで誘導した。
【0224】
同様の結果は、他の様々なsa-RNAワクチン候補でも得られている。De Alwis et al., 2020は、2μgのsaRNA(wtVNT)を用いたプライムワクチン接種について、320のNT50価を報告した。一方、Gritstone Oncologyは、10μgのsaRNAを用いたプライムワクチン接種で1910のNT50価を報告した(https://ir.gritstoneoncology.com/static-files/6a7c26ca-06a6-4295-bf76-83948a341397を参照)。また、1μgのsa-RNAを用いたプライムブーストワクチン接種では,McKay et al., 2020 と Erasmus et al., 2020は、それぞれ2560と320のNT50価を報告した。
【0225】
実施例7-LNP製剤化sa-RNA-S-RBDとsa-RNA-Nとの併用免疫化により、ハムスターのin vivo野生型SARS-CoV-2感染からの保護を誘発
SARS-CoV-2に対するsa-RNA-S-RBD+sa-RNA-N混合ワクチンのin vivo有効性をSGハムスター鼻腔内チャレンジ実験により評価した。
【0226】
実験は、Sanchez-Felipe et al., 2021に記載されているように行った。簡潔には、6~8週齢のメスのSGハムスター(体重90~120g)を耳標し、個別に換気したケージに収容しながら、異なる治療群に無作為に割り付けた。0日目に、抗原特異的結合抗体価(IIFA; 総IgG)および中和抗体価(疑似型ウイルス血清中和試験-psVNT)を測定するため、ハムスターを採血した。各動物はまた、3つの異なる用量(0.1μg、1μgおよび5μg)のLNP製剤化sa-RNA-S-RBD+sa-RNA-N(上記の通り)を含む混合ワクチンの筋肉(大腿筋)内(各脚に100μL)注射を受けた。対照群には、同量のルシフェラーゼ-saRNAまたは偽PBS/LNP希釈液を注射した。各実験条件に対して6匹の動物を治療し、合計30匹の動物を治療した。
【0227】
21日目に再び採血し(ブースト前)、ハムスターに3種類の用量の混合ワクチン、またはルシフェラーゼsaRNA、または偽薬/PBS/LNP希釈液で2度目のIM(大腿筋)注射(ブースター)を行った(条件ごとにn=6)。
【0228】
35日目に採血し、ハムスターにSARS-CoV-2(武漢SARS-CoV-2株、継代数3、10E4 TCID50/VeroE6増殖BetaCoV/Belgium/GHB-03021/2020(mL))を経鼻的に感染させた。簡単に言えば、ハムスターに、キシラジン、ケタミン、およびアトロピン溶液の腹腔内注射によって麻酔した。各ハムスターは、両鼻孔に50μLのウイルスストックの液滴を加えることにより、鼻腔内に接種された。実際には、&150cm2 Vero細胞培養フラスコに、以前の低継代数SARS-CoV-2ストック[BetaCoV/Belgium/GHB-03021/2020]を1/1000最終希釈率で感染させた。3日目、CPE時に感染後、ウイルス含有上清を収集し、アリコートして-80℃で保存した。感染性ウイルス量は、プラークアッセイによって決定した。
【0229】
また、35日目のチャレンジ前では、1μgおよび5μgのS-RBD+N saRNをワクチン接種したハムスターで効率的な疑似ウイルス中和(武漢SARS-CoV-2株)が観察され、平均NT50中和価はそれぞれ5.4×10
2および9.2×10
2、到達した。その結果を
図14に示す。
【0230】
チャレンジ後、ハムスターの体重を毎日測定し、病気の兆候(嗜眠、激しい呼吸、または毛並みの乱れ)、運動性、自己メンテナンス、人道的エンドポイント(後肢麻痺、猫背、目の酸欠)について毎日モニターした。
【0231】
チャレンジから4日後の39日目に、動物を500μLのDolethal(200mg/ペントバルビタールナトリウム(mL))の腹腔内投与により安楽死させて、血清と肺を採取した。肺は、(i)リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)によるウイルス量の定量、(ii)ろ過による感染性ウイルス量の定量、(iii)組織学的検査、および(iv)肺のサイトカイン分析(IL-6、IP-10)のために採した。血液を採取し、血清はさらなる解析のために保存した。
【0232】
治療のプライム投与開始から5週間後(すなわちブーストから2週間後)に、ハムスターに野生型SARS-CoV-2(武漢株)を経皮的に感染させた。チャレンジ後、ハムスターは犠牲になるまで毎日体重を測定した。ワクチン接種後のハムスターの体重は、偽薬治療動物またはビヒクル治療動物に比べ、高い値を維持した(
図11)。
【0233】
感染性ウイルス量は、肺組織1mgあたりのSARS-CoV-2 RNAゲノムコピー数として定量化し、報告した(
図12)。さらに、感染性ウイルス力価の指標として50%組織培養感染用量(TCID50)を求めた。このエンドポイント希釈アッセイは、ハムスターの血清を接種した細胞の50%で細胞毒性効果をもたらすのに必要なウイルス量を定量化するものである(
図13)。いずれのアッセイにおいても、0.1μgのS-RBD+N saRNAの混合ワクチン接種後のウイルス量の低下が観察され、1μgおよび5μgのS-RBD+N saRNA混合ワクチン接種後のウイルスの有意な減少が観察された。
【0234】
犠牲後(チャレンジ後)の肺組織におけるサイトカインおよびケモカインのmRNA発現をRT-qPCRにより解析した。1μgおよび5μgのS-RBD+Nをワクチン接種したハムスターの肺組織では、IL-6およびIP-10(CXCL10)のmRNA発現レベルが、IL-6については0.1および1μg投与条件、IL-10については1および5ug投与条件で、モックワクチン接種対照群と比較して減少した(
図15および16を参照)。COVID-19患者ではマクロファージによるIL-6サイトカイン産生が上昇し、炎症性反応が誘導されるため、これは非常に重要なことである。同様に、ケモカインIP10もまた、COVID-19感染者における有害なサイトカインストームと関連している。
【0235】
犠牲後(チャレンジ後),肺組織を取り出し,肺疾患の重症度に対するワクチン接種の影響を評価するために病理組織学的分析を行った(
図17)。肺病理組織学総スコアは、肺胞損傷(浮腫および出血)、気管支壁におけるアポトーシス体の存在および壊死性気管支炎、血管周囲の浮腫および炎症、気管支周囲の炎症、内皮炎、気管支肺炎および肺の%に基づいて算出した。チャレンジ後、ワクチン未接種およびモック(ならびに0.1μg)ワクチン接種ハムスターは、肺病理が悪化していた。これは、1および5μgのプライムブースト用量レジメンのsa-RNA-S-RBD+sa-RNA-N(ZIP1642)ワクチン接種により防止された。
【0236】
ZIP1642を用いたプライム&ブースト接種後の液性免疫の誘導を評価するため、血清ELISA法により総結合IgG抗体反応を測定した。1μgおよび5μgのS-RBD+N saRNAを用いたプライムブースト免疫化のいずれも、SARS-CoV-2特異的結合抗体を有意に誘導した(
図18)。
【0237】
実施例8-LNP製剤化sa-RNA-S-RBDとsa-RNA-Nの併用免疫化により、マウスでT細胞およびサイトカイン応答を誘発
SARS-CoV-2に対する液性免疫応答は、SARS-CoV-2特異的T細胞免疫によって影響を受け、動員されたT細胞の性質によって、COVID-19患者の回復期に保護的または損害的な効果を誘発することができる。活性化CD4+T細胞は、B細胞活性化および抗体産生に重要であり、サイトカイン産生に基づいて機能的サブセットに分別されることが可能である。最近の研究では、Th1 CD4+T細胞応答がSARS-CoV-2感染の効果的な解決に関連することが明らかになったが、一方でCD4+Th2細胞の誘導は免疫病理学に関連している。さらに、Th2応答がない状態でCD4+Th1応答が起こると、ワクチン関連強化呼吸器疾患(VAERD)は一般に観察されないことが実証されている。したがって、ワクチン接種戦略は、SARS-CoV-2に対するTh1偏向CD4+T細胞免疫を誘発するはずである。
【0238】
ブーストワクチン接種後、S-RBD+N saRNA(ZIP1642)の混合抗原の免疫では、S-RBD抗原単独に対する免疫と比較して、優れたCD4+Th1偏向S特異的T細胞応答を誘導することが可能である。さらに、CD8+CTL応答の誘導が期待されます。このようなCD8+CTL応答は、最近、軽症のCOVID-19疾患において保護的な役割を果たすことが示唆されている。どちらのCMI反応も、長期的なサイトカイン発現がない状態で起こることが予想される。
【0239】
CD8+CTL毒性アッセイを行う。フローサイトメトリー実験により、細胞数に基づいて、CD8+CTL反応の誘導を実証する。T細胞機能性アッセイはこれらのCD8+細胞の潜在的な細胞傷害性(したがって有効性)を実証する。S特異的T細胞応答は、
図20に示されている。
【0240】
結論から言うと、フローサイトメトリーおよび機能性アッセイにより、SARS-CoV-2感染に対して機能的なCD8+CTL応答が示された。
【0241】
サイトカイン応答は、非特異的自然免疫の誘導の指標となる。ワクチン接種後、サイトカイン反応が高くなると、発熱および筋肉痛などの副作用の原因となる。好ましくは、これらは制限されるべきものである。予備的なデータ(非開示)では、ワクチン接種後、サイトカインレベルが低下することが示唆されている。
【0242】
最後に、IgG2/IgG1比はワクチン接種マウスでより大きく、Th1偏向反応が優先していることを示す。IL-4はB細胞を制御してIgG1抗体を分泌させるが、インターフェロン-γはIgG2a抗体の発現を刺激するため、いずれのアイソタイプもマウスにおけるTh2(IL-4)またはTh1(IFNγ)応答の基礎となる指標となる。
【0243】
結論として、ワクチン接種したマウスでの結果は、効率的な反応を示し、SARS-CoV-2感染からの長期的な保護を示唆するものであった。
【0244】
実施例9 VEEVベースのsaRNAプラットフォーム
図19は、本発明の文脈で使用されるベクターの可能な実施形態と、特定のRNAワクチンの製造に使用できる2つの自己増幅RNA鎖の組み合わせを示している。TC-83株ゲノムを有するC3d-p28.6に融合したSARS-CoV-2受容体結合ドメインをレプリコンバックボーンとして使用して、自己増幅RNA発現を駆動させる(
図19)。従来のmRNAも自己増幅型mRNAも、キャップ、5’UTR、3’UTR、および可変長のポリ(A)テールなどの基本エレメントを共有している。自己増幅RNA(saRNA)はまた、4つの非構造タンパク質(nsP1-4)およびアルファウイルスのゲノムに由来するサブゲノムプロモータ(SGP)もコードしている。nsP1-4は、非複製mRNAよりも低い用量を可能にするsaRNAの増幅を担うレプリカーゼをコードしている。前記バックボーンは、5’キャップ(例えば、7mG(5’)ppp(5’)NlmpNp)をさらに含んでいてもよい。本発明によるバックボーンは、好ましくは、5’UTRにおけるA3G変異および/または非構造タンパク質2(nsP2)におけるQ739L変異を含む。スパイクタンパク質抗原をコードしている配列がSGPプロモータの後にクローニングされ、それによってスパイクタンパク質抗原は、受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型となる。あるいは、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列がSGPプロモータの後にクローニングされる。細胞質への送達後、saRNAの翻訳により、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RDRP)を形成する非構造タンパク質1-4(nsP1-4)が産生される。RDRPは、saRNAの複製を担い、saRNAのコピーを生成する。RDRPは、saRNAの複製を担当し、saRNAのコピーを生成する。したがって、もともと送達されていた各saRNAから、サブゲノムRNAの複数のコピーが生成される。これは、非増幅RNAと比較して、より多くの抗原のコピーの翻訳につながる。RNAを産生するために使用されるベクターは、
図19に等しく示される。前記ベクターは好ましくは抗原を含み、前記抗原配列はSARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその切断型をコードし、または前記抗原配列はSARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)抗原をコードし、前記抗原はプロモータ配列、好ましくはアルファウイルス由来のサブゲノムプロモータ(SGP)の下流にある。
【0245】
前記ベクターは、前記抗原配列の下流にあるポリ(A)配列と;ベネズエラウマ脳炎ウイルスの非構造タンパク質nsP1~4をコードしている配列とをさらに含む。好ましくは、nsP2の配列は、5’UTRにおけるA3G変異および/またはQ739L変異を有するnsP2タンパク質をコードしているような配列である。
【0246】
前記ベクターは、複製起点と、T7またはSP6プロモータのようなプロモータ配列とをさらに含んでもよい。前記ベクターは、発現系で該ベクターを生産することを目的として、例えば抗生物質をコードするような選択遺伝子を含んでいてもよい。
【0247】
ベクターは、プラスミドDNAであってもよいし、直鎖化DNAであってもよい。そのために、プラスミドは、該プラスミドの直鎖化を可能にする制限酵素(RE)部位を含んでいてもよい。
【0248】
実施例10-本発明の実施形態によるベクターおよび構築物
図19は、本発明の文脈において使用されるベクターの可能な実施形態、ならびに特定のRNA SARS-CoV-2ワクチンの製造に使用できる自己増幅RNA鎖を概略的に示す図である。このワクチンは、複数の同定された変異型に関連する、いくつかのSARS-CoV-2抗原による免疫化を可能にする。そのため、疾患に対するより効率的で優れた保護が得られる。
【0249】
RNA鎖は、プラスミドなどのDNAベクターによって製造することができる。前記ベクターは、例えば原核生物系における複製を可能にするための複製起点のような従来の制御領域を備えることができる。ベクターは、例えば耐性遺伝子をコードしている配列のような、選択を可能にするタンパク質をコードしているヌクレオチド配列をさらに備えることができる。ベクターは、クローニングの目的のため、およびベクターの線形化を可能にするために、制限酵素部位をさらに備えてもよい。T7(またはSP6、図示せず)のようなプロモータ領域は、in vitroRNA転写を可能にするために存在し得る。
【0250】
図19に与えられた例では、T7プロモータの下流に、ベクターは、5’から3’の順に、(i)5’UTR配列と、(ii)ベネズエラウマ脳炎ウイルスの非構造タンパク質nsP1、nsP2、nsP3、およびnsP4をコードしている核酸配列と、(iii)SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列、またはRBD領域を含む(切断型)SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている核酸配列に作動可能に連結しているSGPプロモータ領域と、(iv)3’UTRと、(v)ポリアデニル酸トラクトとを含む。
【0251】
図19に示すようなベクターは、mRNA鎖のin vitro転写に使用される。前記mRNA鎖は、その5’UTRでキャップされ、さらに(5’から3’の順で)以下を含む:
-5’UTR;
-ベネズエラウマ脳炎ウイルスの非構造タンパク質nsP1、nsP2、nsP3、およびnsP4をコードしている配列;
-サブゲノムプロモータ領域;
-SARS-CoV-2抗原をコードしている配列;
-3’UTR
-ポリアデニル酸トラクト。
【0252】
これらのmRNA鎖の複数をワクチンとして製剤化し、従来の経路で対象に投与することができる。前記対象に投与されると、in situ翻訳に続いて、nsP1-4タンパク質は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)複合体を形成し、その結果、mRNA中のSGP領域からmRNA転写物の増幅が開始される。後者では、もともと送達されていた各saRNAからサブゲノムRNAが複数コピーされる。
【0253】
サブゲノムRNA転写物(5)は、その5’領域で、レプリカーゼに存在するキャッピング活性によってキャップされることになる。転写物中に存在するNタンパク質またはSタンパク質のコード配列が翻訳され、細胞内にNまたはS抗原が産生される。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-09-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-受容体結合ドメイン(RBD)を含むSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列およびSARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗原をコードしている配列(ここで、前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列およびSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列は、有効量の1つまたは複数の自己複製RNA分子に含まれている)と;
-薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容されるビヒクルとを含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列が、同一の自己複製RNA分子に含まれるか、または前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と前記SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質抗原をコードしている配列が、異なる自己複製RNA分子に含まれる、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
前記自己複製RNA分子がアルファウイルスをベースとし、非構造アルファウイルスタンパク質をコードしている配列を含む、請求項1~2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、例えば株TC-83、またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%の配列同一性を有する株である、請求項
3に記載の
医薬組成物。
【請求項5】
前記1つまたは複数の自己複製RNA分子が、5’UTRにおけるA3G変異
を有する5’UTRおよび/またはQ739L変異を
有する非構造タンパク質2(nsP2)を含む、請求項
3または4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記スパイクタンパク質抗原が、
スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)を含むスパイクタンパク質の切断型である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
前記RBDが、SEQ ID NO:1またはそれに対して少なくとも95%の同一性、好ましくは少なくとも97%の配列同一性、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に相当する、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列が
:
-5’キャップを含み、次いで
-非構造アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしている配列と
、
-サブゲノムプロモータ
とを含み、次いで
-前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原をコードしている配列と;
-前記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の下流でポリAテール
とを含む、請求項1~7のいずれかに記載の
医薬組成物。
【請求項9】
SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)抗原をコードしている前記配列が:
-5’キャップを含み、次いで
-非構造アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4をコードしている配列と;
サブゲノムプロモータと、
その後に続く前記SARS-CoV-2 Nタンパク質抗原をコードしている配列
と;
-前記SARS-CoV-2 Nタンパク質抗原の下流にあるポリAテール
とを含む、請求項1~8のいずれかに記載の
医薬組成物。
【請求項10】
少なくとも1つのアジュバントをさらに含む、請求項
1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、またはカチオン性ナノエマルジョンをさらに含む、
請求項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記1つまたは複数の自己複製RNA分子が、カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョン、ならびにそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている、請求項
1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記RNA分子が、カチオン性脂質、リポソーム、脂質ナノ粒子、コクレアート、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、微粒子、ナノ粒子、単層ベシクル、多重層ベシクル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、エマルソーム、およびポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルジョン、ならびにそれらの組み合わせにカプセル化され、結合され、または吸着されている、請求項1~
12の何れかに記載の
医薬組成物であって、前記ワクチンにおける前記RNAの有効用量が0.1~100μgである、
医薬組成物。
【請求項14】
対象における免疫応答の誘導での使用のための、
請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
SARS-CoV-2に対する対象のワクチン接種での使用のための、
請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記RNAの有効量が0.1~100μgである、請求項
14または15に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項17】
筋肉内、皮内または皮下に投与される、請求項
14~16のいずれかに記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項18】
単回投与として、または予め規定された期間内に投与される、2回以上の投与の連続を必要とする多回投与として投与される、請求項
14~17のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
毎年または隔年など、定期的に投与される、前記請求項
14~18のいずれかに記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項20】
前記
医薬組成物の用量が0.05~1mLである、請求項
14~19のいずれかに記載の使用のための
医薬組成物。
【国際調査報告】