(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-15
(54)【発明の名称】MUC1-C/細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に対する抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20230807BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230807BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230807BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230807BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230807BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230807BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230807BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230807BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230807BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230807BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230807BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230807BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230807BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230807BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230807BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230807BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
C07K16/30
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K19/00
C07K14/47
C12N5/10
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P43/00 121
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K45/00
A61K47/68
A61K39/00 G
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502897
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(85)【翻訳文提出日】2023-03-01
(86)【国際出願番号】 US2021070881
(87)【国際公開番号】W WO2022016190
(87)【国際公開日】2022-01-20
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】399052796
【氏名又は名称】デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】511095713
【氏名又は名称】ジーナス オンコロジー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カルバンダ スレンダー
(72)【発明者】
【氏名】キーフ ドナルド ダブリュ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZC751
4C085AA03
4C085AA13
4C085AA16
4C085AA25
4C085AA26
4C085AA27
4C085BB36
4C085BB41
4C085CC05
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085EE06
4C085FF24
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA50
4H045BA71
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、MUC1-C/細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に結合する抗体と、そのような抗体を用いて、MUC1抗原を発現するがんを処置する方法とに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する抗体またはそのフラグメントであって、
該抗体が、それぞれ、SEQ ID NO: 3、4、および5、または6、7、および8のCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変重鎖、ならびにSEQ ID NO: 9、10、および11、または12、13、および14を含むCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変軽鎖を含む、
前記抗体またはそのフラグメント。
【請求項2】
それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、または19に対して80%以上の相同性を有する可変重鎖、およびSEQ ID NO: 16、18、または20/25/26に対して80%以上の相同性を有する可変軽鎖を含む、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項3】
それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、または27に対して70%以上の相同性を有する核酸によってコードされる可変重鎖、およびSEQ ID NO: 22、24、または28/29/30に対して70%以上の相同性を有する核酸によってコードされる可変軽鎖を含む、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項4】
前記抗体が、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、二重特異性抗体、またはキメラ抗体である、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項5】
前記抗体フラグメントがFabフラグメントである、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項6】
前記抗体が、MUC1-C/ECDおよび個別のがん細胞表面抗原に対する特異性を有する組換え抗体である、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項7】
前記抗体がマウス抗体である、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項8】
前記マウス抗体がIgGである、請求項7記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項9】
抗体がヒト化抗体である、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項10】
前記ヒト化抗体がIgGである、請求項9記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項11】
標識をさらに含む、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項12】
前記標識が、ペプチドタグ、酵素、磁性粒子、発色団、蛍光分子、化学発光分子、または色素である、請求項11記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項13】
前記抗体が、それに連結された抗腫瘍薬物をさらに含む、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項14】
前記抗腫瘍薬物が、光解離性リンカーを介して前記抗体またはそのフラグメントに連結されている、請求項13記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項15】
前記抗腫瘍薬物が、酵素的に切断されるリンカーを介して前記抗体またはそのフラグメントに連結されている、請求項13記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項16】
前記抗腫瘍薬物が、毒素、ラジオアイソトープ、サイトカイン、または酵素である、請求項13記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項17】
前記重鎖および軽鎖が、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、または19、およびSEQ ID NO: 16、18、または20/25/26に対して85%、90%、95%、または99%の相同性を有する、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項18】
前記重鎖および軽鎖が、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、または27、およびSEQ ID NO: 22、24、または28/29/30に対して85%、90%、95%、または99%の相同性を有する核酸によってコードされる、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項19】
ナノ粒子またはリポソームにコンジュゲートされている、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項20】
細胞死の誘導が、抗体依存性細胞性細胞傷害または補体介在性細胞傷害を含む、請求項1記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項21】
対象におけるMUC1陽性がん細胞と、請求項1~20のいずれか一項記載の抗体またはそのフラグメントとを接触させる工程を含む、がんを処置する方法。
【請求項22】
前記MUC1陽性がん細胞が固形腫瘍細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記固形腫瘍細胞が、肺がん細胞、脳腫瘍細胞、頭頸部がん細胞、乳がん細胞、皮膚がん細胞、肝臓がん細胞(肝細胞がんなど)、膵臓がん細胞、胃がん細胞、結腸がん細胞、直腸がん細胞、子宮がん細胞、子宮頸がん細胞、卵巣がん細胞、精巣がん細胞、皮膚がん細胞、または食道がん細胞である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記MUC1陽性がん細胞が、急性骨髄性白血病細胞、慢性骨髄性白血病細胞、または多発性骨髄腫細胞などの、白血病細胞または骨髄腫細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項25】
前記がん細胞が、ヒトパピローマウイルスによって引き起こされる子宮頸がん細胞、またはH.ピロリ(H. pylori)によって引き起こされる胃がん細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項26】
前記MUC1陽性がん細胞と、第二の抗がん剤または処置とを接触させる工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項27】
前記第二の抗がん剤または処置が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記第二の抗がん剤または処置が、細胞内MUC1機能を阻害する、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記第二の抗がん剤または処置が、前記第一の物質と同時に与えられる、請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記第二の抗がん剤または処置が、前記第一の物質の前および/または後に与えられる、請求項26記載の方法。
【請求項31】
前記MUC1陽性がん細胞が、転移性がん細胞、多剤(multiply drug)耐性がん細胞、または再発がん細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項32】
前記抗体が単鎖抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項33】
前記抗体が単一ドメイン抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項34】
前記抗体がキメラ抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項35】
前記抗体フラグメントがFabフラグメントである、請求項21記載の方法。
【請求項36】
前記抗体が、MUC1-C/ECDおよび個別のがん細胞表面抗原に対する特異性を有する組換え抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項37】
対象または対象由来の細胞含有サンプルと、請求項1~20のいずれか一項記載の抗体またはそのフラグメントとを接触させる工程を含む、対象におけるMUC1陽性がんを診断する方法。
【請求項38】
前記MUC1陽性がんが固形腫瘍がんである、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記固形腫瘍がんが、肺がん、脳腫瘍、頭頸部がん、乳がん、皮膚がん、肝臓がん、膵臓がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、子宮がん、子宮頸がん、卵巣がん、精巣がん、皮膚がん、または食道がんである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記MUC1陽性がんが、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、または多発性骨髄腫などの、白血病または骨髄腫である、請求項37記載の方法。
【請求項41】
前記MUC1陽性がんが、肝細胞がん、またはヒトパピローマウイルスによって引き起こされる子宮頸がんである、請求項37記載の方法。
【請求項42】
前記対象に抗がん剤または処置を投与する工程をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項43】
前記抗がん剤または処置が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法である、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記MUC1陽性がん細胞が、転移性がん、多剤耐性がん、または再発がんである、請求項37記載の方法。
【請求項45】
前記細胞含有サンプルが、生検などの固形組織サンプルである、請求項37記載の方法。
【請求項46】
前記細胞含有サンプルが、尿、精液、喀痰、唾液、乳頭吸引液、または血液などの、体液サンプルである、請求項37記載の方法。
【請求項47】
請求項1~20のいずれか一項記載の抗体またはそのフラグメント、および薬学的に許容される担体、緩衝剤、または希釈剤を含む、薬学的製剤。
【請求項48】
任意でアジュバントをさらに含む、がんワクチン製剤である、請求項47記載の薬学的製剤。
【請求項49】
免疫組織化学試薬または放射線イメージング剤である、請求項47記載の薬学的製剤。
【請求項50】
追加の治療剤をさらに含む、請求項47~49のいずれか一項記載の薬学的製剤。
【請求項51】
(i)SEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C/細胞外ドメイン(ECD)に選択的に結合する第一の単鎖抗体であって、該抗体が、それぞれ、SEQ ID NO: 3、4、および5、または6、7、および8のCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変重鎖、ならびにSEQ ID NO: 9、10、および11、または12、13、および14を含むCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変軽鎖を含む、第一の単鎖抗体;ならびに
(ii)TまたはB細胞に結合する、第二の単鎖抗体
を含む、融合タンパク質。
【請求項52】
前記第二の単鎖抗体が、CD3、CD16、PD1、PD-L1、CD33、Her-2、EGFR、CTLA-4、OX40、FcγRI(CD64)、FcγRIIIa(CD16A)、FcαRI(CD89)、CD163、CD68、CD89 Mabに結合する、請求項51記載の融合タンパク質。
【請求項53】
標識または治療用部分をさらに含む、請求項51記載の融合タンパク質。
【請求項54】
前記重鎖および軽鎖が、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、または19、およびSEQ ID NO: 16、18、または20/25/26に対して85%、90%、95%、または99%の相同性を有する、請求項51記載の融合タンパク質。
【請求項55】
前記重鎖および軽鎖が、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、または27、およびSEQ ID NO: 22、24、または28/29/30に対して85%、90%、95%、または99%の相同性を有する核酸によってコードされる、請求項51記載の融合タンパク質。
【請求項56】
(i)SEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C/細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する単鎖抗体可変領域を含むエクトドメインであって、該抗体が、それぞれ、SEQ ID NO: 3、4、および5、または6、7、および8のCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変重鎖、ならびにSEQ ID NO: 9、10、および11、または12、13、および14を含むCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変軽鎖を含み、該単鎖抗体可変領域のC末端に付着した可動性ヒンジを伴う、エクトドメイン;
(ii)膜貫通ドメイン;ならびに
(iii)エンドドメイン
を含む、キメラ抗原受容体であって、
該エンドドメインが、該単鎖抗体可変領域がMUC1と係合した場合のシグナル伝達機能を含む、
前記キメラ抗原受容体。
【請求項57】
前記膜貫通およびエンドドメインが、同じ分子に由来する、請求項56記載の受容体。
【請求項58】
前記エンドドメインが、CD3-ζドメインまたは高アフィニティーFcεRIを含む、請求項56記載の受容体。
【請求項59】
前記可動性ヒンジが、CD8αまたはIg由来である、請求項56記載の受容体。
【請求項60】
前記重鎖および軽鎖が、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、または19、およびSEQ ID NO: 16、18、または20/25/26に対して85%、90%、95%、または99%の相同性を有する、請求項56記載の受容体。
【請求項61】
前記重鎖および軽鎖が、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、または27、およびSEQ ID NO: 22、24、または28/29/30に対して85%、90%、95%、または99%の相同性を有する核酸によってコードされる、請求項56記載の受容体。
【請求項62】
請求項56、60、または61のいずれか一項記載のキメラ抗原受容体を発現する、細胞。
【請求項63】
前記膜貫通およびエンドドメインが、同じ分子に由来する、請求項62記載の細胞。
【請求項64】
前記エンドドメインが、CD3-ζドメインまたは高アフィニティーFcεRIを含む、請求項62記載の細胞。
【請求項65】
前記可動性ヒンジが、CD8αまたはIg由来である、請求項62記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年7月16日に申請された米国仮出願第63/052,599号に対する優先権の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書によって組み入れられる。
【0002】
39KB(Microsoft Windows(登録商標)で測定されたもの)であるGENUP0047WO_ST25.txtと名付けられたファイルに含有され、かつ2021年7月6日に作成された配列表は、電子提出によって本明細書とともに申請され、かつ参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
1.分野
本開示は、概して、医学、腫瘍学、および免疫療法学の分野に関係する。特に、MUC1陽性がんの検出および処置における使用のための免疫試薬の開発に関する。
【背景技術】
【0004】
2.背景
ムチンは、主として上皮細胞によって発現される広範囲にわたってO-グリコシル化されたタンパク質である。分泌型および膜結合型のムチンは、毒素、微生物、および外部環境との界面で生じる他の形態のストレスによって誘導されるダメージから上皮細胞の頂端境界を保護する物理的バリアを形成する。膜貫通型ムチン1(MUC1)は、また、その細胞質ドメインを介して細胞の内部にシグナルを送達し得る。MUC1は、ウニ精子タンパク質-エンテロキナーゼ-アグリン(SEA)ドメインの存在を除いて、他の膜結合型ムチンと配列類似性を有しない(Duraisamy et al., 2006)。それに関して、MUC1は単一ポリペプチドとして翻訳され、次いでSEAドメインにおいて自己切断を受ける(Macao et al., 2006)。
【0005】
MUC1は、がんにおけるその役割のために、本発明者らおよび他者によって広範囲にわたって研究されている。上述のように、ヒトMUC1は、小胞体において単一ポリペプチドとして翻訳されかつN末端およびC末端のサブユニット(MUC1-NおよびMUC1-C)に切断される、ヘテロ二量体糖タンパク質である(Ligtenberg et al., 1992;Macao et al., 2006;Levitin et al., 2005)。大部分のヒト癌腫において見出されるMUC1の異常な過剰発現(Kufe et al., 1984)は、足場非依存的成長および腫瘍形成能を付与する(Li et al., 2003a;Huang et al., 2003;Schroeder et al., 2004;Huang et al., 2005)。他の研究により、MUC1の過剰発現は、酸化ストレスおよび遺伝毒性抗がん剤によって誘導されるアポトーシスに対する耐性を付与することが実証されている(Yin and Kufe, 2003;Ren et al., 2004;Raina et al., 2004;Yin et al., 2004;Raina et al., 2006;Yin et al., 2007)。
【0006】
拘束型および分泌型のムチンのファミリーは、上皮細胞表面の保護バリアを提供することに機能を果たす。上皮層へのダメージとともに、細胞はヘレグリン誘導性修復プログラムを開始させるため、近隣細胞との間の密着接合が分断されかつ極性が失われる(Vermeer et al., 2003)。MUC1-Nは細胞表面からのシェディングを受け(Abe and Kufe, 1989)、MUC1-Cを細胞の内部への環境ストレスシグナルの変換因子として機能させる。これに関して、MUC1-CはErbB受容体ファミリーのメンバーと細胞表面複合体を形成し、かつMUC1-Cは、ヘレグリン刺激に応答して核を標的とする(Li et al., 2001;Li et al., 2003c)。MUC1-Cは、MUC1細胞質ドメイン(CD)とカテニンファミリーのメンバーとの間の直接相互作用を介して、ErbB受容体およびWntシグナル伝達経路を統合することにおいても機能を果たす(Huang et al., 2005;Li et al., 2003c;Yamamoto et al., 1997;Li et al., 1998;Li et al., 2001;Li and Kufe, 2001)。他の研究により、MUC1-CDは、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β、c-Src、プロテインキナーゼCδ、およびc-Ab1によってリン酸化されることが実証されている(Raina et al., 2006;Li et al., 1998;Li et al., 2001;Ren et al., 2002)。前述の相互作用のいずれかを阻害することは、MUC1関連がんに対する治療的介入の潜在的地点となる。
【発明の概要】
【0007】
概要
ゆえに、本開示に従って、SEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する抗体またはフラグメントが提供され、該抗体は、それぞれ、SEQ ID NO: 3、4、および5、または6、7、および8のCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変重鎖、ならびにSEQ ID NO: 9、10、および11、または12、13、および14を含むCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変軽鎖を含む。抗体またはそのフラグメントは、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、もしくは19に対して80%以上の相同性を有する可変重鎖、およびSEQ ID NO: 16、18、もしくは20/25/26に対して80%以上の相同性を有する可変軽鎖を含み得るか、または、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、もしくは27に対して70%以上の相同性を有する核酸によってコードされる可変重鎖、およびSEQ ID NO: 22、24、もしくは28/29/30に対して70%以上の相同性を有する核酸によってコードされる可変軽鎖を含み得る。
【0008】
抗体は、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、二重特異性抗体、またはキメラ抗体であり得る。抗体フラグメントは、Fabフラグメントであり得る。抗体またはそのフラグメントは、MUC1-C/ECDおよび個別のがん細胞表面抗原に対する特異性を有する組換え抗体またはそのフラグメントであり得る。抗体は、マウス抗体、IgG、ヒト化抗体、またはヒト化IgG抗体であり得る。抗体またはそのフラグメントは、標識をさらに含み得る。標識は、ペプチドタグ、酵素、磁性粒子、発色団、蛍光分子、化学発光分子、または色素であり得る。抗体またはそのフラグメントは、抗腫瘍薬物が、光解離性リンカーを介して該抗体またはそのフラグメントに連結される場合、または、該抗腫瘍薬物が、酵素的に切断されるリンカーを介して該抗体またはそのフラグメントに連結される場合など、それに連結された抗腫瘍薬物をさらに含み得る。抗腫瘍薬物は、毒素、ラジオアイソトープ、サイトカイン、または酵素であり得る。
【0009】
重鎖および軽鎖は、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、もしくは19、およびSEQ ID NO: 16、18、もしくは20/25/26に対して85%、90%、95%、もしくは99%の相同性を有し得るか、または、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、もしくは27、およびSEQ ID NO: 22、24、もしくは28/29/30に対して85%、90%、95%、もしくは99%の相同性を有する核酸によってコードされ得る。抗体またはそのフラグメントは、ナノ粒子またはリポソームにコンジュゲートされ得る。抗体またはそのフラグメントは、抗体依存性細胞性細胞傷害または補体介在性細胞傷害を含む細胞死を誘導し得る。
【0010】
また、対象におけるMUC1陽性がん細胞と、SEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する抗体またはそのフラグメントとを接触させる工程を含む、がんを処置する方法が提供され、該抗体は、それぞれ、SEQ ID NO: 3、4、および5、または6、7、および8のCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変重鎖、ならびにSEQ ID NO: 9、10、および11、または12、13、および14を含むCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変軽鎖を含む。抗体またはそのフラグメントは、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、もしくは19に対して80%以上の相同性を有する可変重鎖、およびSEQ ID NO: 16、18、もしくは20/25/26に対して80%以上の相同性を有する可変軽鎖を含み得るか、または、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、もしくは27に対して70%以上の相同性を有する核酸によってコードされる可変重鎖、およびSEQ ID NO: 22、24、もしくは28/29/30に対して70%以上相同性を有する核酸によってコードされる可変軽鎖を含み得る。
【0011】
抗体は、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、二重特異性抗体、またはキメラ抗体であり得る。抗体フラグメントは、Fabフラグメントであり得る。抗体またはそのフラグメントは、MUC1-C/ECDおよび個別のがん細胞表面抗原に対する特異性を有する組換え抗体またはそのフラグメントであり得る。抗体は、マウス抗体、IgG、ヒト化抗体、またはヒト化IgG抗体であり得る。抗体またはそのフラグメントは、標識をさらに含み得る。標識は、ペプチドタグ、酵素、磁性粒子、発色団、蛍光分子、化学発光分子、または色素であり得る。抗体またはそのフラグメントは、抗腫瘍薬物が、光解離性リンカーを介して該抗体またはそのフラグメントに連結される場合、または、該抗腫瘍薬物が、酵素的に切断されるリンカーを介して該抗体またはそのフラグメントに連結される場合など、それに連結された抗腫瘍薬物をさらに含み得る。抗腫瘍薬物は、毒素、ラジオアイソトープ、サイトカイン、または酵素であり得る。
【0012】
重鎖および軽鎖は、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、もしくは19、およびSEQ ID NO: 16、18、もしくは20/25/26に対して85%、90%、95%、もしくは99%の相同性を有し得るか、または、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、もしくは27、およびSEQ ID NO: 22、24、もしくは28/29/30に対して85%、90%、95%、もしくは99%の相同性を有する核酸によってコードされ得る。抗体またはそのフラグメントは、ナノ粒子またはリポソームにコンジュゲートされ得る。抗体またはそのフラグメントは、抗体依存性細胞性細胞傷害または補体介在性細胞傷害を含む細胞死を誘導し得る。
【0013】
MUC1陽性がん細胞は、肺がん細胞、脳腫瘍細胞、頭頸部がん細胞、乳がん細胞、皮膚がん細胞、肝臓がん細胞(肝細胞がんなど)、膵臓がん細胞、胃がん細胞、結腸がん細胞、直腸がん細胞、子宮がん細胞、子宮頸がん細胞、卵巣がん細胞、精巣がん細胞、皮膚がん細胞、または食道がん細胞などの、固形腫瘍細胞であり得る。MUC1陽性がん細胞は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、または多発性骨髄腫などの、白血病または骨髄腫であり得る。MUC1陽性がん細胞は、転移性がん細胞、多剤(multiply drug)耐性がん細胞、または再発がん細胞であり得る。
【0014】
方法は、前記MUC1陽性がん細胞と、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法などの、第二の抗がん剤または処置とを接触させる工程をさらに含み得る。第二の抗がん剤または処置は、細胞内MUC1機能を阻害し得る。第二の抗がん剤または処置は、第一の物質と同時に与えられ得るか、または第一の物質の前および/もしくは後に与えられ得る。
【0015】
さらなる態様において、本明細書に規定されるようなSEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する抗体またはそのフラグメントを対象に投与する工程を含む、子宮頸がんなどのヒトパピローマウイルスを伴うがん、または胃がんなどのH.ピロリ(H. pylori)を伴うがんを処置する方法が提供される。
【0016】
さらなる態様において、本明細書に規定されるようなSEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する抗体またはそのフラグメントを対象に投与する工程を含む、炎症状態を処置する方法が提供される。そのような炎症状態には、大腸炎、IBD、およびIPFなどの、急性および慢性炎症状態が含まれる。炎症状態にはまた、SARS-Cov-2、ヒトパピローマウイルス、およびH.ピロリなどの、細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫の感染症も含まれるであろう。
【0017】
また、対象または対象由来の細胞含有サンプルと、本明細書に規定されるようなSEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する抗体またはそのフラグメントとを接触させる工程を含む、対象におけるMUC1陽性がんを診断する方法も提供される。MUC1陽性がんは、肺がん、脳腫瘍、頭頸部がん、乳がん、皮膚がん、肝臓がん、膵臓がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、子宮がん、子宮頸がん、卵巣がん、精巣がん、皮膚がん、または食道がんなどの固形腫瘍がんであり得る。MUC1陽性がんは、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、または多発性骨髄腫などの、白血病または骨髄腫であり得る。MUC1陽性がんは、肝細胞がん、またはヒトパピローマウイルスによって引き起こされる子宮頸がんであり得る。
【0018】
方法は、前記対象に、本明細書に規定されるようなSEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する抗体またはそのフラグメントを含む、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法などの、抗がん剤または処置を投与する工程をさらに含み得る。MUC1陽性がんは、転移性がん、多剤耐性がん、または再発がんであり得る。細胞含有サンプルは、生検などの固形組織サンプル、または、尿、精液、喀痰、唾液、乳頭吸引液、もしくは血液などの、体液サンプルであり得る。
【0019】
さらなる態様は、(a)本明細書に規定されるようなSEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する抗体またはそのフラグメント、および薬学的に許容される担体、緩衝剤、または希釈剤を含む、薬学的製剤を含んでいた。薬学的製剤は、任意でアジュバントをさらに含む、ワクチン製剤、または、免疫組織化学試薬もしくは放射線イメージング剤としてさらに規定され得る。製剤は、追加の治療剤をさらに含み得る。
【0020】
別の態様において、(i)SEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C/細胞外ドメイン(ECD)に選択的に結合する第一の単鎖抗体であって、該抗体が、それぞれ、SEQ ID NO: 3、4、および5、または6、7、および8のCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変重鎖、ならびにSEQ ID NO: 9、10、および11、または12、13、および14を含むCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変軽鎖を含む、第一の単鎖抗体;ならびに(ii)TまたはB細胞に結合する、第二の単鎖抗体を含む、融合タンパク質が提供される。第二の単鎖抗体は、CD3、CD16、PD1、PD-L1、CD33、Her-2、EGFR、CTLA-4、OX40、FcγRI(CD64)、FcγRIIIa(CD16A)、FcαRI(CD89)、CD163、CD68、CD89 Mabに結合し得る。融合タンパク質は、標識または治療用部分をさらに含み得る。重鎖および軽鎖は、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、もしくは19、およびSEQ ID NO: 16、18、もしくは20/25/26に対して85%、90%、95%、もしくは99%の相同性を有し得るか、または、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、もしくは27、およびSEQ ID NO: 22、24、もしくは28/29/30に対して85%、90%、95%、もしくは99%の相同性を有する核酸によってコードされる。
【0021】
さらに別の態様において、(i)SEQ ID NO: 1によって規定されるMUC1-C/細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する単鎖抗体可変領域を含むエクトドメインであって、該抗体が、それぞれ、SEQ ID NO: 3、4、および5、または6、7、および8のCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変重鎖、ならびにSEQ ID NO: 9、10、および11、または12、13、および14を含むCDR1、CDR2、およびCDR3領域を含む可変軽鎖を含み、該単鎖抗体可変領域のC末端に付着した可動性ヒンジを伴う、エクトドメイン;(ii)膜貫通ドメイン;ならびに(iii)エンドドメインを含む、キメラ抗原受容体が提供され、該エンドドメインは、該単鎖抗体可変領域がMUC1と係合した場合のシグナル伝達機能を含む。膜貫通およびエンドドメインは、同じ分子に由来し得る。エンドドメインは、CD3-ζドメインまたは高アフィニティーFcεRIを含み得る。可動性ヒンジは、CD8αまたはIg由来であり得る。重鎖および軽鎖は、それぞれ、SEQ ID NO: 15、17、もしくは19、およびSEQ ID NO: 16、18、もしくは20/25/26に対して85%、90%、95%、もしくは99%の相同性を有し得るか、または、それぞれ、SEQ ID NO: 21、23、もしくは27、およびSEQ ID NO: 22、24、もしくは28/29/30に対して85%、90%、95%、もしくは99%の相同性を有し得る。
【0022】
追加的に、上記のようなキメラ抗原受容体を発現する細胞が提供される。膜貫通およびエンドドメインは、同じ分子に由来し得る。エンドドメインは、CD3-ζドメインまたは高アフィニティーFcεRIを含み得る。可動性ヒンジは、CD8αまたはIg由来であり得る。
【0023】
本明細書に記載される任意の方法または組成物を、本明細書に記載される他の任意の方法または組成物に対して実行できることが企図される。
【0024】
特許請求の範囲および/または本明細書において、「a」または「an」という単語の使用は、「含む(comprising)」という用語と合わせて用いられる場合に、「1つ」を意味し得るが、それはまた、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは1つよりも多く」という意味とも矛盾しない。「約」という単語は、明記された数のプラスまたはマイナス5%を意味する。
【0025】
本開示の他の目的、特質、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、この詳細な説明から、本開示の精神および範囲の内での様々な変化および改変が当業者に明らかになるであろうため、詳細な説明および具体的な例は、本開示の具体的な態様を示すと同時に、単なる例証として与えられることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本開示のある特定の局面をさらに実証するために含まれる。本開示は、本明細書において提示される具体的な態様についての詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの1つまたは複数を参照することにより、よりよく理解され得る。
【0027】
【
図2】キメラ抗体およびヒト化抗体のアフィニティー測定を示す。リアルタイムレスポンスを、曲線で示した。Biacore実験データの1:1相互作用モデルへのフィッティングを、黒色で示した。上のパネルに用いた抗原濃度は、それぞれ、3.125 nM、6.25 nM、12.5 nM、25 nM、50 nMであった。下のパネルに用いた抗原濃度は、それぞれ、1.875 nM、3.75 nM、7.5 nM、15 nM、30 nM、60 nMであった。
【
図3】非還元条件下での選択された抗体のSDS-PAGEの結果を示す。還元条件:レーンM(マーカー);レーン1(VH1+VL3);レーン3(VH1+VL4);レーン5(VH2+VL3);レーン7(VH5+VL1);レーン9(VH5+VL2);レーン11(VH5+VL3);レーン13(VH5+VH4)。非還元条件:レーン2(VH1+VL3);レーン4(VH1+VL4);レーン6(VH2+VL3);レーン8(VH5+VL1);レーン10(VH5+VL2);レーン12(VH5+VL3);レーン14(VH5+VH4);レーン15(マウスIgG)。
【
図4】キメラIgGおよびヒト化IgGのアフィニティー測定を示す。リアルタイムレスポンスを、色付きの曲線で示した。Biacore実験データの1:1相互作用モデルへのフィッティングを、黒色で示した。抗原濃度は、それぞれ、1.875 nM、3.75 nM、7.5 nM、15 nM、30 nM、60 nMであった。
【
図5】フローサイトメトリーによるキメラIgGおよびヒト化IgGのアフィニティーの比較を示す。抗体を、HCT116/MUC1細胞とインキュベートし、その後、二次抗体とインキュベートした。結合を、フローサイトメトリーによって解析した。
【
図6】HCT116/MUC1に対するmAbの濃度依存的な結合を示す。GO-702mおよびヒトIgG1由来のFcを含有するGO-702m/hFcキメラの両方の野生型および脱フコシル化(afucosylated)(AF)型を、(上記に示されるような)様々な濃度で細胞とインキュベートし、その後、二次試薬としての抗hIgG-ビオチン+ストレプトアビジン-PEまたは抗マウスIgGk-FITCとインキュベートした。結合効率を、濃度依存的な様式で平均蛍光強度(MFI)として示した。
【
図7】
図6についての陰性対照として用いた染色していない細胞を示す。
【
図8A】
図8A~Bは、GO-702mがα-4ヘリックスを標的とすることを示す。(
図8A)58-aaのヒトMUC1-C(SEQ ID NO: 2)、カニクイザル(SEQ ID NO: 38)、およびマウス(SEQ ID NO: 39)Muc1-C細胞外ドメインのaa配列。α3およびα4ヘリックスが強調されている。p62/p58ヘテロ二量体のNMR分光法によって示される、mAb GO-702mエピトープのα4ヘリックスへの局在化を示す(Macao et al., 2006)。(
図8B)示された濃度のmAb GO-702mを、HCT116/ベクターまたはHCT116/MUC1細胞とインキュベートした。平均蛍光強度(MFI)を、フローサイトメトリーによって決定した。WT p58/p62ヘテロ二量体、およびα-4ヘリックスについてのS33A、R34G、Y35A、N36A変異体タンパク質、またはα-3ヘリックスについてのD19E/V20A/T22A変異体タンパク質に対する、ELISAによるmAb GO-702m(各カラムセットにおける中央のバー)の結合を示す。mAb CD1(各カラムセットにおける右のバー)を、対照として用いた。mAb 3D1(各カラムセットにおける左のバー)を、α-3陽性結合の対照として用いた。結果を、WTタンパク質で得られたもの(>3.0 OD単位)と比較した、対照結合パーセンテージとして表す。
【
図9】HCT116/MUC1に対するGO-702mFcキメラmAbの結合を示す。ヒトIgG1由来のFcを含有する野生型キメラ(GO-702m/hFc)およびその脱フコシル化型を、細胞とインキュベートし、その後、二次試薬としての抗hIgG-ビオチン+ストレプトアビジン-PEまたは抗マウスIgGk-FITCとインキュベートした。結合効率を、平均蛍光強度(MFI)として示した。
【
図10A】
図10A~Bは、マウスFc受容体(FcRIV)に対するGO-702hの濃度依存的な結合を示す。(
図10A)GO-702hの野生型および脱フコシル化(AF)型を、(上記に示されるような)様々な濃度で細胞とインキュベートし、その後、二次試薬としての抗ヒトIgG-FITCとインキュベートした。結合効率を、濃度依存的な様式で平均蛍光強度(MFI)として示した。(
図10B)GO-702hの野生型(ひし形)および脱フコシル化(AF)型(正方形)を、様々な濃度で細胞とインキュベートし、その後、二次試薬としての抗ヒトIgG-FITCとインキュベートした。結合効率を、濃度依存的な様式で平均蛍光強度(MFI)として示した。右;結合のグラフ表示。
【
図11】MAb(GO-702m-AF)で処置したMUC1.Tgマウスの血液化学分析を示す。MC-38/MUC1腫瘍を有するMUC1.Tgマウスに、5 mg/kgのMAbである脱フコシル化GO-702mをi.p.注射した。完全な血液化学を行って、脱フコシル化GO-702m抗体の任意の毒性を評価した。
【
図12】MAb(GO-702m-AF)で処置したMUCT1-Tgマウスの血液学分析を示す。MC-38/MUC1腫瘍を有するMUC1.Tgマウスに、5 mg/kgのMAbである脱フコシル化GO-702mをi.p.注射した。完全な血液学分析を行って、脱フコシル化GO-702m抗体の任意の毒性を評価した。
【
図13】GO-702m、GO-702h、およびGO-701m抗体のHCT116-MUC1細胞に対する結合を示す。ヒトMUC1を過剰発現させたHCT116細胞に対する抗体結合を、フローサイトメトリーによって解析した。5μgの示された抗MUC1抗体またはアイソタイプ対照を、氷上で60分間、細胞とインキュベートした。(一次抗体に応じて)FITCコンジュゲートヤギF(ab')
2抗マウスまたは抗ヒト免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、FACS Canto IIを用いて解析した。
【
図14】野生型および脱フコシル化GO-702hのHCT116/MUC1細胞との結合を示す。ヒトMUC1を過剰発現させたHCT116細胞に対する抗体結合を、フローサイトメトリーによって解析した。GO-702h野生型、GO-702h脱フコシル化、または陰性対照としてCD1抗MUC1抗体を、氷上で60分間、細胞とインキュベートした。FITCコンジュゲートヤギF(ab')2抗ヒト免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、FACS Canto IIを用いて解析した。
【
図15】HCT116±MUC-1を用いたGO-702mのフローサイトメトリーを示す。MUC1がないHCT116細胞(黒色)およびヒトMUC1を過剰発現させたHCT116細胞(灰色)に対する抗体結合を、フローサイトメトリーによって解析した。GO-702m抗MUC1抗体を、氷上で60分間、細胞とインキュベートした。FITCコンジュゲートヤギF(ab')
2抗マウス免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、FACS Canto IIを用いて解析した。
【
図16】ZR-75-1細胞におけるGO-702mのフローサイトメトリーを示す。ZR-75-1乳がん細胞株に対する抗体結合を示す。GO-702m抗MUC1抗体(灰色)または陰性対照としてのMUC1 CD1抗体(黒色)を、氷上で60分間、細胞とインキュベートした。FITCコンジュゲートヤギF(ab')
2抗マウス免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、FACS Canto IIを用いて解析した。
【
図17】MCF-7/CshRNA対MCF-7/MUC1shRNAにおけるGO-702mのフローサイトメトリーを示す。MCF-7/MUC1shRNA(黒色)またはMCF-7/CshRNA(灰色)細胞に対する抗体結合を、フローサイトメトリーによって解析した。GO-702m抗MUC1抗体を、氷上で60分間、細胞とインキュベートした。FITCコンジュゲートヤギF(ab')
2抗マウス免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、FACS Canto IIを用いて解析した。
【
図18】H-1975 NSCLC細胞におけるGO-702mのフローサイトメトリーを示す。H-1975 NSCLC細胞株に対する抗体結合を示す。GO-702m抗MUC1抗体(灰色)または陰性対照としてのIgG(黒色)を、氷上で60分間、細胞とインキュベートした。FITCコンジュゲートヤギF(ab')
2抗マウス免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、FACS Canto IIを用いて解析した。
【
図19】MDA-MB-468 CshRNA/MUC1shRNAにおけるGO-702mのフローサイトメトリーを示す。MDA-MB-468/MUCshRNA細胞(右側の灰色ピーク)またはMDA-MB-468/CshRNA細胞(左側の灰色ピーク)に対する抗体結合を、フローサイトメトリーによって解析した。IgGを陰性対照として用いた(左側の黒色ピーク)。GO-702m抗MUC1抗体を、氷上で60分間、細胞とインキュベートした。FITCコンジュゲートヤギF(ab')
2抗マウス免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、FACS Canto IIを用いて解析した。
【
図20】GO-702m(丸)およびGO-702m-AF(HCT-MUC1;正方形)のADCC活性を示す。96ウェルプレート中のHCT116/MUC1細胞を、エフェクター細胞としてのJurkat細胞(FcRIVに対する抗体結合が、NFAT介在性ルシフェラーゼ発現に連結されている)と、20:1のE:T比で6時間、1μg/mlから始まる3倍連続希釈の示された抗体の存在下でインキュベートした。ルシフェラーゼ活性を、基質としてルシフェリンを用いて測定し、Microsoft Excelを用いて濃度に対してプロットした。
【
図21】BT549に対するGO-702m-IgG2aのADCC活性を示す。96ウェルプレート中のBT549細胞を、エフェクター細胞としてのJurkat細胞(FcRIVに対する抗体結合が、NFAT介在性ルシフェラーゼ発現に連結されている)と、20:1のE:T比で6時間、1μg/mlから始まる3倍連続希釈の示された抗体の存在下でインキュベートした。ルシフェラーゼ活性を、基質としてルシフェリンを用いて測定し、Microsoft Excelを用いて濃度に対してプロットした。正方形=脱フコシル化GO-702m抗体;三角形-wt GO-702m抗体。
【
図22】MC-38/MUC1腫瘍を有するMUC1.Tgマウスにおける脱フコシル化GO-702mの効力を示す。MUC1を過剰発現するMC-38細胞を、MUC1.Tgマウス中に注射した。10~12日後に、マウスを、2つの異なる群に無作為に分けた。群1:ビヒクル対照;群2:脱フコシル化GO-702m抗体5 mg/kgを週1回×3週間IP。腫瘍の測定を、1日おきに行った。ひし形:ビヒクル対照群(曲線は群の平均腫瘍として示される)および丸:脱フコシル化GO-702m(曲線は個々のマウスについて示される)。体重には、いかなる有意な変化もなかった。効力を、84日まで示す。
【
図23】HCT116/MUC1結腸がん細胞におけるhGO-702と比較したhGO702-AF抗体によるADCCインビトロ研究を示す。96ウェルプレート中のHCT116/MUC1細胞を、エフェクター細胞としてのJurkat細胞(FcRIVに対する抗体結合が、NFAT介在性ルシフェラーゼ発現に連結されている)と、20:1のE:T比で6時間、1μg/mlから始まる3倍連続希釈の示された抗体の存在下でインキュベートした。ルシフェラーゼ活性を、基質としてルシフェリンを用いて測定し、濃度に対してプロットした。
【
図24】hGO-702と比較したhGO702-AF抗体によるADCCインビボ研究を示す。6~8週齢のC57BL/6マウスに、100μlのDMEM培養培地中のヒトMUC1を発現するマウス結腸がん細胞(MC38/MUC1)である5×10
5個のMC38/MUC1を、脇腹に皮下注射した。マウスを、2つの処置群(hGO-702-WT群の6匹のマウス、およびhGO-702脱フコシル化(AF)群の7匹のマウス)に無作為に分けた。平均腫瘍体積が70~130 mm
3に達した時に、マウスを、5 mg/kgの脱フコシル化ヒト化GO-702(hGO-702-AF)または野生型ヒト化GO-702(hGO-702-WT)で週1回、3週間IP処置した。腫瘍測定値および体重を、1日おきに記録した。腫瘍が、以下の式によって計算されるように>2,000 mm
3に達した時に、マウスを屠殺した:(幅)
2×長さ/2。結果を、処置の日数に対する腫瘍体積(平均±SEM)として表す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
例証的な態様の説明
本発明者らは、MUC1-Cタンパク質の外部ドメインの58アミノ酸のシェディングを受けない部分に対する抗体を生成した。これらの抗体は、MUC1-Cのこの部分に選択的に結合し、かつそのようなものとして、N末端領域の切断後のMUC1の活性を遮断する機会を提示することが実証されている。N末端MUC1ドメインの切断後でさえ、それらを用いて、MUC1発現がん細胞に治療用搭載物を送達することもできる。本開示のこれらのおよび他の局面は、下記でより詳細に説明される。
【0029】
I.MUC1
A.構造
MUC1は、正常な分泌上皮細胞の頂端境界に発現されるムチン型糖タンパク質である(Kufe et al., 1984)。MUC1は、単一ポリペプチドとしての合成および小胞体における2つのサブユニットへの前駆体の切断の後、ヘテロ二量体を形成する(Ligtenberg et al., 1992)。切断は、自己触媒過程によって媒介され得る(Levitan et al., 2005)。>250 kDaのMUC1 N末端(MUC1 N-ter、MUC1-N)サブユニットは、高度に保存された変動を有して不完全であり、かつO-結合型グリカンによって修飾される、可変数の20アミノ酸タンデムリピートを含有する(Gendler et al., 1988;Siddiqui et al., 1988)。MUC1-Nは、72アミノ酸の細胞質ドメイン(MUC1-C/CD)、28アミノ酸の膜貫通ドメイン(MUC1-C/TMD)、一緒に二量体化してSEAドメインを形成する62アミノ酸の領域が続く58アミノ酸の細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)を含む、約23kDaのC末端サブユニット(MUC1 C-ter、MUC1-C)との二量体化によって、細胞表面に拘束される(Merlo et al., 1989)。本開示の抗体に対する結合において主要な役割を果たすのは、MUC1-C/ECDの58アミノ酸部分(斜体)である。ヒトMUC1-C配列を下記に示す。
太字の配列はCDを示し、下線の部分はオリゴマー阻害ペプチドである。正常な上皮の癌腫への形質転換とともに、MUC1は、サイトゾルにおいておよび細胞膜全体にわたって異常に過剰発現される(Kufe et al., 1984;Perey et al., 1992)。細胞膜に結合したMUC1は、クラスリン介在性エンドサイトーシスによってエンドソームを標的とする(Kinlough et al., 2004)。加えて、MUC1-Cは、核(Baldus et al., 2004;Huang et al., 2003;Li et al., 2003a;Li et al., 2003b;Li et al., 2003c;Wei et al., 2005;Wen et al., 2003)およびミトコンドリア(Ren et al., 2004)を標的とするが、MUC1-Nはそうではない。
【0030】
B.機能
MUC1-Cは、ErbB受容体ファミリーのメンバー(Li et al., 2001b;Li et al., 2003c;Schroeder et al., 2001)、およびWntエフェクター、β-カテニン(Yamamoto et al., 1997)と相互作用する。上皮成長因子受容体およびc-Srcは、Y-46上でMUC1細胞質ドメイン(MUC1-CD)をリン酸化し、それによってMUC1とβ-カテニンとの結合を増加させる(Li et al., 2001a;Li et al., 2001b)。MUC1とβ-カテニンとの結合はまた、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3βおよびプロテインキナーゼCδによっても調節される(Li et al., 1998;Ren et al., 2002)。MUC1は、核においてβ-カテニンと共局在し(Baldus et al., 2004;Li et al., 2003a;Li et al., 2003c;Wen et al., 2003)、かつWnt標的遺伝子の転写を共活性化する(Huang et al., 2003)。他の研究により、MUC1はまた、p53に直接結合し、かつp53標的遺伝子の転写を調節することが示されている(Wei et al., 2005)。留意すべきことに、MUC1-Cの過剰発現は、足場非依存的成長および腫瘍形成能を誘導するのに十分である(Huang et al., 2003;Li et al., 2003b;Ren et al., 2002;Schroeder et al., 2004)。
【0031】
II.モノクローナル抗体の産生
本明細書において用いられる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る天然に存在する可能性のある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、非常に特異的であり、単一の抗原部位を対象とする。さらに、異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。モノクローナル抗体は、それらの特異性に加えて、他の抗体によって汚染されずに合成され得るという点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本開示において有用なモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495 (1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって調製され得るか、または、細菌細胞、真核動物または植物細胞における組換えDNA法を用いて(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)、感染もしくは免疫化に応答する抗原特異的B細胞、抗原特異的形質芽球の単一細胞選別後、またはバルク選別された抗原特異的コレクション中の単一細胞からの連結された重鎖もしくは軽鎖の捕捉後に作製され得る。「モノクローナル抗体」はまた、例えば、Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載されている技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離され得る。
【0032】
「単離された抗体」とは、その天然環境の成分から分離および/または回収されているものである。その天然環境の汚染成分は、抗体の診断的使用または治療的使用を妨げる材料であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質を含み得る。特定の態様において、抗体は、(1)ローリー法によって決定した場合に、抗体の95重量%超、最も具体的には99重量%超まで;(2)スピニングカップシークエネーターの使用によってN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで;または(3)クマシーブルーもしくは銀染色を用いた還元条件もしくは非還元条件下でのSDS-PAGEによって均一であるまで、精製される。単離された抗体は、抗体の天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイチューの抗体を含む。しかし、通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0033】
基本の4本鎖抗体単位は、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖から構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である。IgM抗体は、J鎖と呼ばれる追加のポリペプチドとともに5つの基本のヘテロ四量体単位からなり、したがって10個の抗原結合部位を含有するが、分泌されたIgA抗体は、重合して、J鎖とともに2~5つの基本の4鎖単位を含む多価集合体を形成することができる。IgGの場合、4鎖単位は、一般的に約150,000ダルトンである。各L鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によってH鎖に連結され、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つまたは複数のジスルフィド結合によって互いに連結される。各H鎖およびL鎖はまた、規則的に間隔を置いて配置された鎖内ジスルフィド架橋を有する。各H鎖は、N末端に、可変領域(VH)を有し、その後に、α鎖およびγ鎖の各々については3つの定常ドメイン(CH)が続き、μおよびアイソタイプについては4つのCHドメインが続く。各L鎖は、N末端に、可変領域(VL)を有し、その後に、その他端に定常ドメイン(CL)が続く。VLは、VHと整列し、CLは、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)と整列する。特定のアミノ酸残基が、軽鎖可変領域と重鎖可変領域との間に界面を形成すると考えられている。VHとVLとの対合は、単一の抗原結合部位を一緒に形成する。様々なクラスの抗体の構造および特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology, 8th edition, Daniel P. Stites, Abba I. Terr and Tristram G. Parslow (eds.), Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1994の71ページおよび6章を参照されたい。
【0034】
任意の脊椎動物種由来のL鎖は、それらの定常ドメイン(CL)のアミノ酸配列に基づいて、κおよびλと呼ばれる2つの明確に異なるタイプのうちの1つに割り当てられ得る。免疫グロブリンは、それらの重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てられ得る。免疫グロブリンには、5つのクラス:それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと称される重鎖を有する、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがある。それらのγクラスおよびαクラスは、CHの配列および機能の比較的わずかな差に基づいて、サブクラスにさらに分けられ、ヒトは、以下のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2を発現する。
【0035】
「可変」という用語は、Vドメインのある特定のセグメントの配列が、抗体間で大幅に異なるという事実を指す。Vドメインは、抗原結合を媒介し、特定の抗体のその特定の抗原に対する特異性を規定する。しかし、可変性は、可変領域の110アミノ酸スパンにわたって均一に分布しているわけではない。代わりに、V領域は、各々9~12アミノ酸長である「超可変領域」と呼ばれる、より短い極端な可変性の領域によって分離された、15~30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的不変の伸長部からなる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域は各々、3つの超可変領域によって接続された、βシート構造を主に採用する4つのFRを含み、3つの超可変領域は、βシート構造を接続し、場合によってはβシート構造の一部を形成するループを形成する。各鎖における超可変領域は、FRによって近接して一緒に保持され、他方の鎖由来の超可変領域とともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に直接関与しないが、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性好中球食作用(ADNP)、および抗体依存性補体沈着(ADCD)における抗体の関与などの、様々なエフェクター機能を示す。
【0036】
本明細書において用いられる場合、「超可変領域」という用語は、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般的に、「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基(例えば、Kabatナンバリングシステム;Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)に従ってナンバリングした場合の、VLにおける約残基24~34(L1)、50~56(L2)、および89~97(L3)あたり、ならびにVHにおける約31~35(H1)、50~65(H2)、および95~102(H3)あたり);および/または「超可変ループ」由来の残基(例えば、Chothiaナンバリングシステム;Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)に従ってナンバリングした場合の、VLにおける残基24~34(L1)、50~56(L2)、および89~97(L3)、ならびにVHにおける26~32(H1)、52~56(H2)、および95~101(H3));および/または「超可変ループ」/CDR由来の残基(例えば、IMGTナンバリングシステム;Lefranc, M. P. et al. Nucl. Acids Res. 27:209-212 (1999)、Ruiz, M. et al. Nucl. Acids Res. 28:219-221 (2000)に従ってナンバリングした場合の、VLにおける残基27~38(L1)、56~65(L2)、および105~120(L3)、ならびにVHにおける27~38(H1)、56~65(H2)、および105~120(H3))を含む。任意で、抗体は、AHo;Honneger, A. and Plunkthun, A. J. Mol. Biol. 309:657-670 (2001)に従ってナンバリングした場合の、以下の点:VLにおける28、36(L1)、63、74~75(L2)、および123(L3)、ならびにVsubHにおける28、36(H1)、63、74~75(H2)、および123(H3)のうちの1つまたは複数に、対称的な挿入を有する。
【0037】
「生殖細胞系核酸残基」とは、定常領域または可変領域をコードする生殖細胞系遺伝子に天然に存在する核酸残基を意味する。「生殖細胞系遺伝子」とは、生殖細胞(すなわち、卵または精子になるように定められた細胞)に見出されるDNAである。「生殖細胞系変異」とは、単一細胞段階で生殖細胞または接合子に生じた、特定のDNAにおける遺伝性変化を指し、子孫に伝達されると、そのような変異は、体のあらゆる細胞に組み込まれる。生殖細胞系変異は、単一の体細胞において獲得される体細胞変異とは対照的である。場合によっては、可変領域をコードする生殖細胞系DNA配列中のヌクレオチドが、変異し(すなわち、体細胞変異)、異なるヌクレオチドで置き換えられる。
【0038】
A.一般的な方法
MUC1-C/ECDに対する抗体は、当技術分野において周知である標準的な方法によって産生され得る(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988;米国特許第4,196,265号を参照されたい)。モノクローナル抗体(MAb)を作製するための方法は、一般的に、ポリクローナル抗体を調製するためのものと同じ方針に沿って始まる。これら両方の方法に対する第一の工程は、適当な宿主の免疫付与、または先行する自然感染が理由で免疫がある対象の同定である。当技術分野において周知であるように、免疫付与のための所与の組成物は、その免疫原性の点で変動し得る。したがって、ペプチドまたはポリペプチド免疫原をキャリアに共役させることによって達成され得る、宿主免疫系をブーストすることがしばしば必要である。例示的なかつ好ましいキャリアは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミン、またはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンも、キャリアとして用いられ得る。ポリペプチドをキャリアタンパク質にコンジュゲートするための手段は当技術分野において周知であり、かつグルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、およびビス-ジアゾ化(biazotized)ベンジジンを含む。また当技術分野において周知であるように、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる、免疫応答の非特異的刺激因子の使用によって増強され得る。例示的なかつ好ましいアジュバントには、完全フロイントアジュバント(殺傷された結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含有する、免疫応答の非特異的刺激因子)、不完全フロイントアジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが含まれる。
【0039】
ポリクローナル抗体の産生において用いられる免疫原組成物の量は、免疫原の性質ならびに免疫付与に用いられる動物によって変動する。多様な経路を用いて、免疫原を投与することができる(皮下、筋肉内、皮内、静脈内、および腹腔内)。ポリクローナル抗体の産生は、免疫付与後の様々な時点において、免疫付与された動物の血液をサンプリングすることによってモニターされ得る。第二のブースター注入も与えられ得る。適切な力価が達成されるまで、ブーストおよび力価測定の過程を繰り返す。所望のレベルの免疫原性が得られた時点で、免疫付与された動物を採血し得、そして単離されかつ保管された血清および/または該動物を用いて、MAbを作製することができる。
【0040】
免疫付与の後、MAb作製プロトコールにおける使用のために、抗体、具体的にはBリンパ球(B細胞)を産生する潜在力を有する体細胞を選択する。これらの細胞は、生検された脾臓もしくはリンパ節から、または循環血から獲得され得る。次いで、免疫付与された動物由来の抗体産生Bリンパ球と、不死の骨髄腫細胞の細胞、一般的には免疫付与された動物と同じ種のもの、またはヒト細胞もしくはヒト/マウスキメラ細胞とを融合させる。ハイブリドーマ産生融合手順における使用に適した骨髄腫細胞株は、好ましくは抗体非産生性であり、高い融合効率を有し、かつ所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの成長を支持するある特定の選択培地中でその後成長し得ない状態にする酵素欠陥を有する。
【0041】
当業者に公知であるように、多数の骨髄腫細胞のうちのいずれか1種が用いられ得る(Goding, pp.65-66, 1986;Campbell, pp.75-83, 1984)。例えば、免疫付与された動物がマウスである場合、P3-X63/Ag8、X63-Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG 1.7、およびS194/5XX0 Bu1を用い得;ラットに関しては、R210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3、IR983F、および4B210を用い得;そしてU-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、およびUC729-6はすべて、ヒト細胞融合に関して有用である。1つの特定のマウス骨髄腫細胞はNS-1骨髄腫細胞株(P3-NS-1-Ag4-1とも称される)であり、それは、細胞株レポジトリー番号GM3573を依頼することによって、NIGMSヒト遺伝子変異体細胞レポジトリー(Human Genetic Mutant Cell Repository)から容易に入手可能である。用いられ得る別のマウス骨髄腫細胞株は、8-アザグアニン耐性マウス骨髄腫SP2/0非産生細胞株である。より最近では、KR12(ATCC CRL-8658);K6H6/B5(ATCC CRL-1823);SHM-D33(ATCC CRL-1668);およびHMMA2.5(Posner et al., 1987)を含めた、ヒトB細胞との使用のためのさらなる融合パートナー株が記載されている。本開示における抗体は、SP2/0株のIL-6分泌性誘導体であるSP2/0/mIL-6細胞株を用いて作製された。
【0042】
抗体産生性の脾臓またはリンパ節の細胞と骨髄腫細胞とのハイブリッドを作製するための方法は、通常、体細胞と骨髄腫細胞とを2:1の比率で混合する工程を含むが、とはいえ該比率は、細胞膜の融合を促進する1種または複数種の作用物質(化学的または電気的)の存在下で、それぞれ約20:1~約1:1に変動し得る。センダイウイルスを用いた融合法がKohler and Milstein(1975;1976)によって記載されており、かつ37%(v/v)PEGなどのポリエチレングリコール(PEG)を用いたものがGefter et al.(1977)によって記載されている。電気的に誘導される融合法の使用も適当である(Goding, pp.71-74, 1986)。
【0043】
融合手順は、通常、約1×10-6~1×10-8という低い頻度で、生存能力があるハイブリッドを産生する。しかしながら、生存能力がある融合ハイブリッドは、選択培地中で培養することによって親の非融合(infused)細胞(特に、通常無限に分割し続ける非融合骨髄腫細胞)と区別されるため、これは問題を引き起こさない。選択培地は、一般的に、組織培養培地中でヌクレオチドのデノボ合成を遮断する作用物質を含有するものである。例示的なかつ好ましい作用物質は、アミノプテリン、メトトレキサート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキサートは、プリンおよびピリミジンの両方のデノボ合成を遮断し、一方でアザセリンは、プリン合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキサートが用いられる場合、ヌクレオチドの供給源として、培地にヒポキサンチンおよびチミジンを補充する(HAT培地)。アザセリンが用いられる場合、培地にヒポキサンチンを補充する。B細胞供給源が、エプスタイン・バールウイルス(EBV)を形質転換されたヒトB細胞株である場合、ウアバインを添加して、骨髄腫に融合していないEBV形質転換株を除去する。
【0044】
好ましい選択培地は、HATまたはウアバインを含むHATである。ヌクレオチドサルベージ経路を作動させ得る細胞のみが、HAT培地中で生存することができる。骨髄腫細胞は、サルベージ経路の主要な酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)に欠陥があり、かつそれらは生存することができない。B細胞はこの経路を作動させ得るが、それらは培養下で限定された寿命を有し、かつ一般的に約2週間以内で死滅する。したがって、選択培地中で生存し得る細胞のみが、骨髄腫およびB細胞から形成されるそれらのハイブリッドである。本明細書にあるように、融合に用いられるB細胞の供給源がEBV形質転換B細胞の株である場合、EBV形質転換B細胞は薬物殺傷に感受性である一方で、用いられる骨髄腫パートナーはウアバイン耐性であるように選出されるため、ウアバインもハイブリッドの薬物選択に用いられる。
【0045】
培養することにより、特異的ハイブリドーマが選択される由来のハイブリドーマの集団が提供される。典型的に、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレートにおいて単一クローン希釈によって細胞を培養し、それに続いて(約2~3週間後に)個々のクローン上清を所望の反応性について試験することによって実施される。アッセイは、放射免疫アッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞傷害アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなど、高感度で簡易でかつ迅速であるべきである。
【0046】
次いで、選択されたハイブリドーマを連続希釈しまたはフローサイトメトリー選別によって単一細胞選別し、かつ個々の抗体産生細胞株にクローン化し、次いでクローンを無限に繁殖させて、mAbを提供することができる。MAb産生のために、細胞株は2つの基本的な方式で活用され得る。ハイブリドーマのサンプルを動物(例えば、マウス)(しばしば、腹膜腔内)に注入し得る。任意で、注入前に、動物を炭水化物、とりわけプリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの油でプライムする。この方式においてヒトハイブリドーマが用いられる場合、SCIDマウスなどの免疫不全マウスに注入して、腫瘍拒絶を阻止することが最適である。注入された動物は、融合した細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生させる。次いで、血清または腹水など、動物の体液を採集して、高濃度のMAbを提供することができる。個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、そこではMAbは培養培地中に天然に分泌され、そこからそれらは高濃度で容易に獲得され得る。あるいは、ヒトハイブリドーマ細胞株をインビトロで用いて、細胞上清中に免疫グロブリンを産生することができる。細胞株を血清不含培地中での成長に順応させて、高純度のヒトモノクローナル免疫グロブリンを回収し得る能力を最適化することができる。
【0047】
所望の場合、いずれかの手段によって産生されたMAbは、濾過、遠心分離、およびFPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーなどの様々なクロマトグラフィー法を用いてさらに精製され得る。本開示のモノクローナル抗体のフラグメントは、ペプシンもしくはパパインなどの酵素による消化、および/または化学的還元によるジスルフィド結合の切断によるものを含めた方法によって、精製モノクローナル抗体から獲得され得る。あるいは、本開示によって包含されるモノクローナル抗体フラグメントは、自動ペプチド合成機を用いて合成され得る。
【0048】
分子クローニング手法を用いて、モノクローンを作製し得ることも企図される。これに関しては、RNAをハイブリドーマ株から単離し得、そして抗体遺伝子をRT-PCRによって獲得し得かつ免疫グロブリン発現ベクター内にクローニングし得る。あるいは、組み合わせ免疫グロブリンファージミドライブラリーを、細胞株から単離されたRNAから調製し、かつ適当な抗体を発現するファージミドを、ウイルス抗原を用いてふるい分けすることによって選択する。従来のハイブリドーマ技法を上回るこの手法の利点は、およそ104倍もの多くの抗体が単一ラウンドで産生され得かつスクリーニングされ得ること、ならびに適当な抗体を見出す好機をさらに増加させるH鎖およびL鎖の組み合わせによって、新たな特異性が生み出されることである。
【0049】
本開示において有用な抗体の産生を教示する、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる他の米国特許には、組み合わせ手法を用いたキメラ抗体の産生を記載している米国特許第5,565,332号;組換え免疫グロブリン調製を記載している米国特許第4,816,567号;および抗体-治療剤コンジュゲートを記載している米国特許第4,867,973号が含まれる。
【0050】
B.本開示の抗体
本開示による抗体は、第1の例では、それらの結合特異性、すなわち、抗体が結合するエピトープによって定義され得る。「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、連続アミノ酸、またはタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続アミノ酸の両方から形成され得る。連続アミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒への曝露時に保持されるが、三次フォールディングによって形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒での処理時に失われる。エピトープは、典型的には、固有の空間的立体配座における少なくとも3個の、およびより一般的には、少なくとも5個または少なくとも8~10個のアミノ酸を含む。
【0051】
p58/p62ヘテロ二量体由来のこの場合では、エピトープの主要な部分は、MUC1-C/ECDに、特に、
に見出される。当業者は、当業者に周知の技術を用いて所与の抗体の結合特異性/アフィニティーを評価することによって、そのような抗体が本特許請求の範囲内に入るかどうかを決定することができる。
【0052】
修飾支援プロファイリング(MAP)は、抗原構造に基づく抗体プロファイリング(ASAP)としても知られており、化学的または酵素的に修飾された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性に従って、同じ抗原を対象とする多数のモノクローナル抗体(mAb)をカテゴリー化する方法である(その全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる、US 2004/0101920を参照されたい)。各カテゴリーは、別のカテゴリーによって表されるエピトープとは明確に異なるか、またはそのようなエピトープと部分的に重複する固有のエピトープを反映し得る。この技術は、特徴決定が、遺伝学的に異なる抗体に焦点を合わせることができるように、遺伝学的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にする。ハイブリドーマスクリーニングに適用される場合、MAPは、所望の特徴を有するmAbを産生する希少なハイブリドーマクローンの特定を容易にし得る。MAPは、本開示の抗体を、異なるエピトープに結合する抗体の群に選別するために用いられ得る。
【0053】
本開示は、同じエピトープ、またはエピトープの一部分に結合し得る抗体を含む。同様に、本開示はまた、標的またはそのフラグメントへの結合について、本明細書に記載される具体的な例示的抗体のいずれかと競合する抗体も含む。抗体が、参照抗体と同じエピトープに結合するか、または結合について参照抗体と競合するかどうかは、当技術分野において公知の常用的な方法を用いることによって、容易に判定することができる。例えば、試験抗体が参照と同じエピトープに結合するかどうかを判定するために、参照抗体を、飽和条件下で標的に結合させる。次に、標的分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が、参照抗体との飽和結合後に標的分子に結合することができる場合には、試験抗体は、参照抗体とは異なるエピトープに結合すると結論を下すことができる。他方、試験抗体が、参照抗体との飽和結合後に標的分子に結合することができない場合には、試験抗体は、参照抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合し得る。
【0054】
抗体が、結合について参照抗MUC1抗体と競合するかどうかを判定するために、上記の結合方法を、2つの方向で行う:第1の方向では、参照抗体を、飽和条件下でMUC1抗原に結合させ、その後、MUC1分子に対する試験抗体の結合を評価する。第2の方向では、試験抗体を、飽和条件下でMUC1抗原分子に結合させ、その後、MUC1分子に対する参照抗体の結合を評価する。両方向で、第1の(飽和)抗体のみがMUC1に結合することができる場合には、試験抗体および参照抗体は、MUC1に対する結合について競合すると結論が下される。当業者に理解されるように、結合について参照抗体と競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープに結合するわけではないが、重複するかまたは隣接するエピトープに結合することによって、参照抗体の結合を立体的に遮断し得る。
【0055】
2つの抗体は、各々が抗原に対する他方の結合を競合的に阻害する(遮断する)場合には、同じかまたは重複するエピトープに結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍、または100倍過剰の一方の抗体は、競合結合アッセイにおいて測定した場合に、他方の結合を少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%、またはさらには99%阻害する(例えば、Junghans et al., Cancer Res. 1990 50:1495-1502を参照されたい)。あるいは、2つの抗体は、一方の抗体の結合を低下させるかまたは排除する抗原中の本質的にすべてのアミノ酸変異が、他方の結合を低下させるかまたは排除する場合には、同じエピトープを有する。2つの抗体は、一方の抗体の結合を低下させるかまたは排除するいくつかのアミノ酸変異が、他方の結合を低下させるかまたは排除する場合には、重複するエピトープを有する。
【0056】
次いで、試験抗体の結合の観察された欠如が、実際に参照抗体と同じエピトープに対する結合によるものであるかどうか、または立体遮断(もしくは別の現象)が、観察された結合の欠如の原因であるかどうかを確認するために、追加の常用的な実験(例えば、ペプチド変異および結合解析)を実施することができる。この種類の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当技術分野において利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを用いて行うことができる。EMまたは結晶学での構造研究もまた、結合について競合する2つの抗体が同じエピトープを認識するか否かを実証することができる。
【0057】
一態様において、抗体は、免疫グロブリンG(IgG)抗体アイソタイプである。ヒトにおける血清免疫グロブリンのおよそ75%に相当するため、IgGは循環中に見出される最も豊富な抗体アイソタイプである。IgG分子は、形質B細胞によって合成されかつ分泌される。ヒトには、血清中でのそれらの豊富さの順序で名付けられた4つのIgGサブクラス(IgG1、2、3、および4)が存在する(IgG1が最も豊富である)。Fc受容体に対する高いアフィニティーを有するからアフィニティーなしまでの範囲。
【0058】
IgGは、血中および細胞外液中で見出される主要な抗体アイソタイプであり、それが身体組織の感染を制御するのを可能にする。ウイルス、細菌、および真菌に相当する、多くの種類の病原体に結合することによって、IgGは感染から身体を保護する。それは、いくつかの免疫メカニズムを介してこれを行う:IgG介在性の病原体の結合は、凝集を介してそれらの固定化およびまとまった結合を引き起こす;病原体表面のIgGコーティング(オプソニン化として知られる)により、食作用を有する免疫細胞によるそれらの認識および摂取が可能となる;IgGは、病原体除去をもたらす免疫タンパク質産生のカスケードである、補体系の古典的経路を活性化する;IgGは、毒素にも結合しかつ中和する。IgGは、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)および細胞内抗体介在性タンパク質分解においても重要な役割を果たし、それはTRIM21(ヒトにおける、IgGに対する最大のアフィニティーを有する受容体)に結合して、印付けられたビリオンをサイトゾル内のプロテアソームへ向かわせる。IgGは、II型およびIII型過敏症とも関連している。IgG抗体は、クラススイッチおよび抗体応答の成熟の後に作られ、ゆえに主として二次免疫応答に参加する。IgGはサイズが小さい単量体として分泌され、それが組織に簡単に浸み込むのを可能にする。それは、ヒト胎盤を通じた通過を容易にする受容体を有する唯一のアイソタイプである。母乳中に分泌されるIgAとともに、胎盤を通じて吸収された残りのIgGは、新生児に、それ自身の免疫系が発達する前に液性免疫を提供する。初乳、とりわけウシ初乳は、高いパーセンテージのIgGを含有する。病原体に対する先行免疫を有する個体において、IgGは、抗原刺激の約24~48時間後に出現する。
【0059】
別の局面において、抗体は、それらの結合特異性を決定するそれらの可変配列によって規定され得る。例が下記で提供される。
【0060】
【0061】
さらに、抗体配列は、下記でより詳細に記述される方法を任意で用いて、上記で提供される配列から変動し得る。例えば、(a)可変領域は、軽鎖の定常ドメインから隔離され得る、(b)アミノ酸は上記で示されるものから変動し得るが、それによって残基の化学的特性に劇的に影響を及ぼすわけではない(いわゆる保存的置換)、(c)アミノ酸は、上記で示されるものから所与のパーセンテージ変動し得る、例えば80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%相同である、という点において、アミノ配列は、上記で示されるものから変動し得る。あるいは、抗体をコードする核酸は、(a)軽鎖の定常ドメインから隔離され得る、(b)上記で示されるものから変動し得るが、それによって、コードされる残基を変化させるわけではない、(c)上記で示されるものから所与のパーセンテージ変動し得る、例えば70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%相同である、または(d)約50℃~約70℃の温度において約0.02M~約0.15M NaClによって提供されるものなど、低塩および/もしくは高温の条件によって例示される高いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズし得る能力によって、上記で示されるものから変動し得る。
【0062】
アミノ酸配列において保存的変化を作製する際、アミノ酸の疎水性(hydropathic)指標が考慮され得る。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を付与することにおける疎水性アミノ酸指標の重要性は、当技術分野において一般的に理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的な疎水性特徴は、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、それが今度は、タンパク質と他の分子、例えば酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を規定することが認められている。
【0063】
類似したアミノ酸の置換は、親水性に基づいて効果的に作製され得ることも当技術分野において理解されている。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号は、その近接アミノ酸の親水性によって支配される、タンパク質の最大の局部的平均親水性が、該タンパク質の生物学的特性と相関することを明記している。米国特許第4,554,101号において詳述されているように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:塩基性アミノ酸:アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、およびヒスチジン(-0.5);酸性アミノ酸:アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、アスパラギン(+0.2)、およびグルタミン(+0.2);親水性非イオン性アミノ酸:セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、およびスレオニン(-0.4);含硫アミノ酸:システイン(-1.0)およびメチオニン(-1.3);疎水性非芳香族アミノ酸:バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、およびグリシン(0);疎水性芳香族アミノ酸:トリプトファン(-3.4)、フェニルアラニン(-2.5)、およびチロシン(-2.3)。
【0064】
アミノ酸は、同程度の親水性を有する別のものに置換され得、かつ生物学的にまたは免疫学的に改変されたタンパク質を産生し得ると理解されている。そのような変化において、その親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるものは特に好ましく、かつ±0.5以内のものはさらにより特に好ましい。
【0065】
上記で概説されるように、アミノ酸置換は、一般的にアミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えばそれらの疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づく。前述の様々な特徴を考慮に入れる例示的な置換は、当業者に周知であり、かつアルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。
【0066】
比較のための配列の最適なアライメントは、デフォルトパラメータを用いて、バイオインフォマティクスソフトウェアのLasergeneスイート(DNASTAR, Inc., Madison, Wis.)中のMegalignプログラムを用いて実施され得る。このプログラムは、以下の参考文献に記載されているいくつかのアライメントスキームを具体化する:Dayhoff, M. O. (1978) A model of evolutionary change in proteins--Matrices for detecting distant relationships. In Dayhoff, M. O. (ed.) Atlas of Protein Sequence and Structure, National Biomedical Research Foundation, Washington D.C. Vol. 5, Suppl. 3, pp. 345-358;Hein J. (1990) Unified Approach to Alignment and Phylogeny pp. 626-645 Methods in Enzymology vol. 183, Academic Press, Inc., San Diego, Calif.;Higgins, D. G. and Sharp, P. M. (1989) CABIOS 5:151-153;Myers, E. W. and Muller W. (1988) CABIOS 4:11-17;Robinson, E. D. (1971) Comb. Theor 11:105;Santou, N. Nes, M. (1987) Mol. Biol. Evol. 4:406-425;Sneath, P. H. A. and Sokal, R. R. (1973) Numerical Taxonomy--the Principles and Practice of Numerical Taxonomy, Freeman Press, San Francisco, Calif.;Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. (1983) Proc. Natl. Acad., Sci. USA 80:726-730。
【0067】
あるいは、比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman (1981) Add. APL. Math 2:482の局所同一性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443の同一性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, Wis.におけるGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、およびTFASTA)によって、または検査によって実施され得る。
【0068】
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの特定の一例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれ、Altschul et al. (1977) Nucl. Acids Res. 25:3389-3402およびAltschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0は、例えば、本明細書に記載されるパラメータとともに用いて、本開示のポリヌクレオチドおよびポリペプチドのパーセント配列同一性を決定することができる。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、米国国立バイオテクノロジー情報センターを通じて公的に入手可能である。抗体配列の再編成される性質、および各遺伝子の可変の長さにより、単一の抗体配列について複数回のBLAST検索が必要になる。また、異なる遺伝子の手作業によるアセンブリは困難であり、間違いが起こりやすい。配列解析ツールIgBLAST(ワールドワイドウェブ、ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)は、生殖細胞系V、D、およびJ遺伝子に対する一致、再編成接合部における詳細、Ig Vドメインフレームワーク領域および相補性決定領域の描写を特定する。IgBLASTは、ヌクレオチド配列またはタンパク質配列を解析することができ、配列をバッチで処理することができ、生殖細胞系遺伝子データベースおよび他の配列データベースに対する検索を同時に可能にして、最も良く一致する生殖細胞系V遺伝子を場合により欠失する可能性を最小限に抑える。
【0069】
例示としての一例において、ヌクレオチド配列の場合、パラメータM(一対の一致残基の報酬スコア;常に>0)およびN(不一致残基のペナルティスコア;常に<0)を用いて、累積スコアを計算することができる。累積アライメントスコアがその最大達成値から量Xだけ減少した場合、1つもしくは複数の負のスコアの残基アライメントの蓄積のために累積スコアがゼロ以下になった場合、またはいずれかの配列の末端に到達した場合、各方向における文字列ヒットの延長が停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、およびXは、アライメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、11の文字列長さ(W)、および10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915を参照されたい)アライメント、50の(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較をデフォルトとして用いる。
【0070】
アミノ酸配列の場合、スコアリングマトリックスを用いて、累積スコアを計算することができる。累積アライメントスコアがその最大達成値から量Xだけ減少した場合、1つもしくは複数の負のスコアの残基アライメントの蓄積のために累積スコアがゼロ以下になった場合、またはいずれかの配列の末端に到達した場合、各方向における文字列ヒットの延長が停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、およびXは、アライメントの感度および速度を決定する。
【0071】
1つの手法では、「配列同一性のパーセンテージ」は、少なくとも20の位置の比較ウィンドウにわたって最適にアライメントさせた2つの配列を比較することによって決定され、比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の一部分は、2つの配列の最適なアライメントのために、(付加または欠失を含まない)参照配列と比較して、20パーセント以下、通常5~15パーセント、または10~12パーセントの付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列に存在する位置の数を決定して、一致した位置の数を得て、一致した位置の数を参照配列中の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けて、配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。
【0072】
抗体を定義するさらに別の方法は、下記の抗体およびそれらの抗原結合フラグメントのいずれかの「誘導体」としてである。用語「誘導体」は、抗原に免疫特異的に結合するが、「親」(または野生型)分子と比較して1、2、3、4、5、またはそれ以上のアミノ酸の置換、付加、欠失、または修飾を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを指す。そのようなアミノ酸の置換または付加は、天然に存在する(すなわち、DNAにコードされた)アミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基を導入し得る。用語「誘導体」は、例えば、増強されたかまたは損なわれたエフェクター特性または結合特性を示すバリアントFc領域を有する、例えば抗体などを形成するように変化したCH1、ヒンジ、CH2、CH3、またはCH4領域を有するバリアントを包含する。用語「誘導体」は、非アミノ酸修飾、例えば、グリコシル化され得る(例えば、マンノース、2-N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコース、グルコース、シアル酸、5-N-アセチルノイラミン酸、5-グリコールノイラミン酸などの含有量が変化している)、アセチル化され得る、ペグ化され得る、リン酸化され得る、アミド化され得る、公知の保護/ブロッキング基、タンパク質分解切断によって誘導体化され得る、細胞リガンドまたは他のタンパク質に連結され得るアミノ酸などをさらに包含する。いくつかの態様において、炭水化物修飾の変化は、抗体の可溶化、抗体の細胞内輸送および分泌の促進、抗体集合の促進、立体配座の完全性、ならびに抗体介在性エフェクター機能のうちの1つまたは複数を調節する。具体的な態様において、炭水化物修飾の変化は、炭水化物修飾を欠く抗体と比較して抗体介在性エフェクター機能を増強する。抗体介在性エフェクター機能の変化をもたらす炭水化物修飾は、当技術分野において周知である(例えば、Shields, R. L. et al. (2002), J. Biol. Chem. 277(30):26733-26740;Davies J. et al. (2001), Biotechnology & Bioengineering 74(4):288-294を参照されたい)。炭水化物含有量を変化させる方法は、当業者に公知であり、例えば、Wallick, S. C. et al. (1988), J. Exp. Med. 168(3): 1099-1109;Tao, M. H. et al. (1989), J. Immunol. 143(8): 2595-2601;Routledge, E. G. et al. (1995), Transplantation 60(8):847-53;Elliott, S. et al. (2003), Nature Biotechnol. 21:414-21;Shields, R. L. et al. (2002), J. Biol. Chem. 277(30): 26733-26740を参照されたい。
【0073】
操作された配列またはグリコシル化状態を有する誘導体抗体または抗体フラグメントが、ビーズベースもしくは細胞ベースのアッセイ、または動物モデルにおけるインビボ試験によって測定した場合に、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性好中球食作用(ADNP)、または抗体依存性補体沈着(ADCD)の機能に好ましいレベルの活性を付与するために、生成され得る。
【0074】
誘導体抗体または抗体フラグメントは、特異的な化学的切断、アセチル化、製剤化、ツニカマイシンの代謝合成などを含むがそれらに限定されない、当業者に公知の技術を用いた化学修飾によって修飾され得る。一態様において、抗体誘導体は、親抗体と同様または同一の機能を有する。別の態様において、抗体誘導体は、親抗体と比較して変化した活性を示す。例えば、誘導体抗体(またはそのフラグメント)は、親抗体よりも強くそのエピトープに結合し得るか、またはタンパク質分解に対して親抗体よりも耐性であり得る。
【0075】
C.抗体配列の操作
様々な態様において、発現の改善、交差反応性の改善、オフターゲット結合の軽減、または補体の活性化もしくは免疫細胞(例えば、T細胞)の動員などの1つもしくは複数の天然エフェクター機能の無効化などの多様な理由で、同定された抗体の配列を操作することを選び得る。特に、IgM抗体をIgG抗体に転向し得る。以下は、抗体操作のための関連技法についての一般的記述である。
【0076】
ハイブリドーマを培養し得、次いで細胞を溶解し得、かつ全RNAを抽出し得る。RTとともにランダムヘキサマーを用いて、RNAのcDNA複製物を作製し得、次いで、すべてのヒト可変遺伝子配列を増幅することが予想されるPCRプライマーの多重混合物を用いてPCRを実施し得る。PCR産物をpGEM-T Easyベクター内にクローニングし得、次いで標準的なベクター用プライマーを用いた自動DNAシーケンシングによってシーケンスし得る。結合および中和のアッセイを、ハイブリドーマ上清から収集された抗体を用いて実施し得、かつプロテインGカラムを用いたFPLCによって精製し得る。重鎖および軽鎖Fv DNAをクローニングベクターからLonza pConIgG1またはpConK2プラスミドベクター内にサブクローニングすることによって、組換え全長IgG抗体を作製し得、293 Freestyle細胞またはLonza CHO細胞にトランスフェクトし得、そしてCHO細胞上清から収集しかつ精製し得る。
【0077】
最終的なcGMP製造過程と同じ宿主細胞および細胞培養の過程で産生される抗体の迅速な入手可能性は、過程開発プログラムの継続期間を短縮する可能性を有する。Lonzaは、CHO細胞における少量(最高50g)の抗体の迅速な産生のための、CDACF培地中で成長したプールされたトランスフェクタントを用いた包括的方法を開発している。実際の一過性システムよりもわずかに遅いものの、利点には、より高い産物濃度、ならびに産生細胞株と同じ宿主および過程の使用が含まれる。使い捨てバイオリアクター内でモデル抗体を発現させる、GS-CHOプールの成長および産生力の例:流加培養様式で作動される使い捨てバッグバイオリアクター培養(5Lの運転容量)において、トランスフェクションの9週間以内に、2g/Lの収穫抗体濃度が達成された。
【0078】
pConベクター(商標)は、抗体全体を再発現させるための簡単な方式である。定常領域ベクターは、pEEベクター内にクローニングされた広範な免疫グロブリン定常領域ベクターを与えるベクターのセットである。これらのベクターは、ヒト定常領域を有する全長抗体の簡単な構築およびGS System(商標)の利便性を与える。
【0079】
抗体分子には、例えばmAbのタンパク質分解による切断によって産生されるフラグメント(F(ab')、F(ab')2など)、または例えば組換え手段により産生可能な単鎖免疫グロブリンが含まれるであろう。そのような抗体誘導体は一価である。一態様において、そのようなフラグメントを互いに、または他の抗体フラグメントもしくは受容体リガンドと組み合わせて、「キメラ」結合分子を形成することができる。重要なことに、そのようなキメラ分子は、同じ分子の異なるエピトープに結合する能力を有する置換基を含有し得る。
【0080】
ヒト療法において用いられる場合にいかなる免疫反応をも減衰させるために、非ヒト宿主において産生された抗体を「ヒト化する」ことが望ましくあり得る。そのようなヒト化抗体は、インビトロまたはインビボの状況で研究され得る。ヒト化抗体は、例えば抗体の免疫原性部分を、対応するが非免疫原性の部分で置き換えることによって産生され得る(すなわち、キメラ抗体)。PCT出願第PCT/US86/02269号;EP出願第184,187号;EP出願第171,496号;EP出願第173,494号;PCT出願第WO 86/01533号;EP出願第125,023号;Sun et al. (1987);Wood et al. (1985);およびShaw et al. (1988)、その参考文献のすべては参照により本明細書に組み入れられる。「ヒト化」キメラ抗体の一般的な概説はMorrison (1985)によって提供されており、それも参照により本明細書に組み入れられる。あるいは、「ヒト化」抗体は、CDRまたはCEA置換によって産生され得る。Jones et al. (1986);Verhoeyen et al. (1988);Beidler et al. (1988)、そのすべては参照により本明細書に組み入れられる。
【0081】
関連した態様において、抗体は、開示される抗体の誘導体、例えば開示される抗体におけるものと同一のCDR配列を含む抗体(例えば、キメラ、ヒト化、またはCDRグラフト化抗体)である。さらにさらなる態様において、抗体は完全ヒト組換え抗体である。
【0082】
Fc改変
本開示はまた、アイソタイプ改変も企図する。異なるアイソタイプを有するようにFc領域を改変することによって、異なる機能性が達成され得る。例えば、IgG1への変化は、抗体依存性細胞性細胞傷害を増加させることができ、クラスAへの切替えは、組織分布を改善することができ、クラスMへの切替えは、結合価を改善することができる。
【0083】
代替的にまたは追加的に、アミノ酸修飾を、IL-23p19結合分子のFc領域のC1q結合および/または補体依存性細胞傷害(CDC)機能を変化させる1つまたは複数のさらなるアミノ酸修飾と組み合わせることが、有用であり得る。特定の関心対象の結合ポリペプチドは、C1qに結合し、補体依存性細胞傷害を示すものであり得る。既存のC1q結合活性を有し、任意でCDCを媒介する能力をさらに有するポリペプチドは、これらの活性の一方または両方が増強されるように修飾され得る。C1qを変化させる、および/またはその補体依存性細胞傷害機能を改変するアミノ酸修飾は、例えば、参照により本明細書に組み入れられるWO/0042072に記載されている。
【0084】
例えば、C1q結合および/またはFcγR結合を改変し、それによって、CDC活性および/またはADCC活性を変化させることによって、エフェクター機能が変化した抗体のFc領域を設計することができる。「エフェクター機能」は、(例えば、対象における)生物学的活性を活性化することまたは減らすことを担う。エフェクター機能の例には、C1q結合;補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)の下方制御などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。そのようなエフェクター機能は、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とする場合があり、様々なアッセイ(例えば、Fc結合アッセイ、ADCCアッセイ、CDCアッセイなど)を用いて評価することができる。
【0085】
例えば、改善されたC1q結合および改善されたFcγRIII結合を有する(例えば、改善されたADCC活性および改善されたCDC活性の両方を有する)、抗体のバリアントFc領域を生成することができる。あるいは、エフェクター機能が低下するかまたは除去されることが望まれる場合には、低下したCDC活性および/または低下したADCC活性を有するバリアントFc領域を、操作することができる。他の態様において、これらの活性の一方のみを増加させてもよく、任意で、また他方の活性を低下させてもよい(例えば、改善されたADCC活性を有するが、低下したCDC活性を有するFc領域バリアントを生成するため、およびその逆)。
【0086】
FcRn結合
Fc変異はまた、新生児型Fc受容体(FcRn)との相互作用を変化させ、それらの薬物動態特性を改善するために、導入および操作することもできる。FcRnに対する結合が改善されたヒトFcバリアントのコレクションが記載されている(Shields et al., (2001). High resolution mapping of the binding site on human IgG1 for FcγRI, FcγRII, FcγRIII, and FcRn and design of IgG1 variants with improved binding to the FcγR, (J. Biol. Chem. 276:6591-6604))。アラニン走査変異誘発、ランダム変異誘発、ならびに新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合および/またはインビボ挙動を評価するためのスクリーニングを含む技術を通じて生成され得るアミノ酸修飾を含む、半減期の延長を結果としてもたらし得るいくつかの方法が、公知である(Kuo and Aveson, (2011))。変異誘発がその後に続く計算戦略もまた、変異させるアミノ酸変異のうちの1つを選択するために用いられ得る。
【0087】
したがって、本開示は、FcRnに対する結合が最適化された抗原結合タンパク質のバリアントを提供する。特定の態様において、抗原結合タンパク質の前記バリアントは、該抗原結合タンパク質のFc領域に少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、該修飾は、親ポリペプチドと比較してFc領域の226、227、228、230、231、233、234、239、241、243、246、250、252、256、259、264、265、267、269、270、276、284、285、288、289、290、291、292、294、297、298、299、301、302、303、305、307、308、309、311、315、317、320、322、325、327、330、332、334、335、338、340、342、343、345、347、350、352、354、355、356、359、360、361、362、369、370、371、375、378、380、382、384、385、386、387、389、390、392、393、394、395、396、397、398、399、400、401 403、404、408、411、412、414、415、416、418、419、420、421、422、424、426、428、433、434、438、439、440、443、444、445、446、および447からなる群より選択され、Fc領域におけるアミノ酸のナンバリングは、KabatのEUインデックスのナンバリングである。本開示のさらなる局面において、修飾は、M252Y/S254T/T256Eである。
【0088】
追加的に、様々な刊行物は、FcRn結合ポリペプチドを分子中に導入することによって、または分子を、FcRn結合アフィニティーは保存されているが他のFc受容体に対するアフィニティーは大幅に低下している抗体と融合すること、もしくは抗体のFcRn結合ドメインと融合することによって、半減期が改変された生理学的に活性な分子を得るための方法を記載しており、例えば、Kontermann (2009)を参照されたい。
【0089】
誘導体化抗体が、哺乳動物、特にヒトにおける親抗体の半減期(例えば、血清半減期)を変化させるために用いられ得る。そのような変化は、15日を超える、好ましくは20日を超える、25日を超える、30日を超える、35日を超える、40日を超える、45日を超える、2ヶ月を超える、3ヶ月を超える、4ヶ月を超える、または5ヶ月を超える半減期を結果としてもたらし得る。哺乳動物、好ましくはヒトにおける本開示の抗体またはそのフラグメントの半減期の増加は、哺乳動物における該抗体または抗体フラグメントのより高い血清力価を結果としてもたらし、ひいては、該抗体または抗体フラグメントの投与頻度を低下させ、かつ/または投与される該抗体または抗体フラグメントの濃度を低下させる。インビボ半減期が増加した抗体またはそのフラグメントは、当業者に公知の技術によって生成され得る。例えば、インビボ半減期が増加した抗体またはそのフラグメントは、FcドメインとFcRn受容体との間の相互作用に関与すると特定されたアミノ酸残基を修飾する(例えば、置換するか、欠失させるか、または付加する)ことによって生成され得る。
【0090】
Beltramello et al. (2010)は、以前に、デングウイルス感染を増強するその傾向により、中和mAbの、CH2ドメインの1.3位および1.2位のロイシン残基(Cドメインに関するIMGT固有のナンバリングに従う)がアラニン残基で置換されたものを生成することによる修飾を報告した。「LALA」変異としても知られているこの修飾は、Hessell et al. (2007)によって記載されているように、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIaに対する抗体結合を消失させる。バリアントおよび未修飾の組換えmAbを、4つのデングウイルス血清型による感染を中和および増強するその能力について比較した。LALAバリアントは、未修飾mAbと同じ中和活性を保持したが、増強活性を完全に欠いていた。したがって、この性質のLALA変異は、本開示の抗体の状況において企図される。
【0091】
グリコシル化の変化
本開示の特定の態様は、シアル酸、ガラクトース、またはフコースを含まない実質的に均一なグリカンを含有する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントである。モノクローナル抗体は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、これらは両方とも、それぞれ重鎖定常領域または軽鎖定常領域に付着していてもよい。上述の実質的に均一なグリカンは、重鎖定常領域に共有結合で付着していてもよい。
【0092】
本開示の別の態様は、新規Fcグリコシル化パターンを有するmAbを含む。単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、GNGNまたはG1/G2グリコフォームによって表される実質的に均一な組成で存在する。Fcグリコシル化は、治療用mAbの抗ウイルス特性および抗がん特性において重要な役割を果たす。本開示は、フコースを含まない抗HIV mAbの抗レンチウイルス細胞媒介性ウイルス阻害の増加をインビトロで示す近年の研究と合致している。コアフコースを欠く均一なグリカンを有する本開示のこの態様は、2倍を超える、特定のウイルスに対する防御の増加を示した。コアフコースの排除は、ナチュラルキラー(NK)細胞によって媒介されるmAbのADCC活性を劇的に改善するが、多形核細胞(PMN)のADCC活性に対しては反対の効果を有するようである。
【0093】
GNGNまたはG1/G2グリコフォームによって表される実質的に均一な組成を含む、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、実質的に均一なGNGNグリコフォームを有せず、G0、G1F、G2F、GNF、GNGNF、またはGNGNFXを含有するグリコフォームを有する同じ抗体と比較して、FcγRIおよびFcγRIIIに対して増加した結合アフィニティーを示す。本開示の一態様において、抗体は、1×10-8 M以下のKdでFcγRIから、および1×10-7 M以下のKdでFcγRIIIから解離する。
【0094】
Fc領域のグリコシル化は、典型的には、N-結合型またはO-結合型のいずれかである。N-結合型とは、アスパラギン残基の側鎖に対する炭水化物部分の付着を指す。O-結合型グリコシル化とは、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはスレオニンに対する糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1つの付着を指すが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンもまた用いられ得る。アスパラギン側鎖ペプチド配列に対する炭水化物部分の酵素的付着のための認識配列は、アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-スレオニンであり、ここで、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である。したがって、ポリペプチドにおけるこれらのペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。
【0095】
グリコシル化パターンは、例えば、ポリペプチドに見出される1つもしくは複数のグリコシル化部位を欠失させること、および/またはポリペプチド中に存在しない1つもしくは複数のグリコシル化部位を付加することによって変化させてもよい。抗体のFc領域に対するグリコシル化部位の付加は、(N-結合型グリコシル化部位については)上記のトリペプチド配列のうちの1つまたは複数を含有するようにアミノ酸配列を変化させることによって、都合よく達成される。例示的なグリコシル化バリアントは、重鎖の残基Asn297のアミノ酸置換を有する。変化はまた、(O-結合型グリコシル化部位については)元のポリペプチドの配列に対する、1つもしくは複数のセリン残基もしくはスレオニン残基の付加、またはそれによる置換によって行われ得る。追加的に、Asn297のAlaへの変化は、グリコシル化部位のうちの1つを除去することができる。
【0096】
ある特定の態様において、抗体は、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT III)がGlcNAcをIL-23p19抗体に付加するように、GnT IIIを発現する細胞において発現される。そのような様式で抗体を産生するための方法は、WO/9954342、WO/03011878、特許公開20030003097A1、およびUmana et al., Nature Biotechnology, 17:176-180, February 1999に提供されている。細胞株は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)などのゲノム編集技術を用いて、グリコシル化などのある特定の翻訳後修飾を増強するか、または低下させるか、または排除するように変化させることができる。例えば、CRISPR技術を用いて、組換えモノクローナル抗体を発現するために用いられる293細胞またはCHO細胞においてグリコシル化酵素をコードする遺伝子を排除することができる。
【0097】
モノクローナル抗体タンパク質配列易障害性(protein sequence liabilities)の排除
ヒトB細胞から得られた抗体可変遺伝子配列を操作して、それらの製造可能性および安全性を増強することが可能である。潜在的なタンパク質配列易障害性は、以下を含有する部位に関連する配列モチーフを検索することによって、特定することができる:
1)不対合Cys残基、
2)N-結合型グリコシル化、
3)Asn脱アミド化、
4)Asp異性化、
5)SYE切断、
6)Met酸化、
7)Trp酸化、
8)N末端グルタメート、
9)インテグリン結合、
10)CD11c/CD18結合、または
11)フラグメント化。
そのようなモチーフは、組換え抗体をコードするcDNAについて合成遺伝子を変化させることによって、排除することができる。
【0098】
治療用抗体の開発の分野におけるタンパク質工学の取り組みにより、ある特定の配列または残基が溶解度の差に関連することが、明確に明らかになっている(Fernandez-Escamilla et al., Nature Biotech., 22 (10), 1302-1306, 2004;Chennamsetty et al., PNAS, 106 (29), 11937-11942, 2009;Voynov et al., Biocon. Chem., 21 (2), 385-392, 2010)。文献における溶解度を変化させる変異からの証拠により、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびセリンなどのいくつかの親水性残基は、アスパラギン、グルタミン、スレオニン、リジン、およびアルギニンなどの他の親水性残基よりも顕著に有利に、タンパク質溶解度に寄与することが示される。
【0099】
安定性
抗体は、生物物理学的特性の増強のために操作され得る。平均見かけ融解温度を用いて、抗体をアンフォールディングして相対的安定性を決定するために、上昇した温度を用いることができる。示差走査熱量測定(DSC)は、分子の熱容量Cp(それを温めるのに必要とされる熱、1度当たり)を温度の関数として測定する。DSCを用いて、抗体の熱安定性を研究することができる。mAbのDSCデータは、mAb構造内の個々のドメインのアンフォールディングを分解し、サーモグラムに最大で3つのピーク(Fabドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインのアンフォールディング由来)を生じることがあるため、特に興味深い。典型的には、Fabドメインのアンフォールディングが、最も強いピークを生じる。DSCプロファイルおよびFc部分の相対的安定性は、ヒトのIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4サブクラスについて特徴的な差を示す(Garber and Demarest, Biochem. Biophys. Res. Commun. 355, 751-757, 2007)。CD分光計で行われる円二色性(CD)を用いて、平均見かけ融解温度を決定することもできる。Far-UV CDスペクトルを、抗体について200~260 nmの範囲で0.5 nm刻みで測定する。最終スペクトルは、20回の累積の平均として決定することができる。残基楕円率値は、バックグラウンド減算後に計算することができる。抗体(0.1 mg/mL)の熱アンフォールディングは、25~95℃、および1℃/分の加熱速度から235 nmでモニターすることができる。動的光散乱(DLS)を用いて、凝集の傾向を評価することができる。DLSは、タンパク質を含む様々な粒子のサイズを特徴決定するために用いられる。系のサイズが分散していない場合には、粒子の平均有効径を決定することができる。この測定は、粒子コアのサイズ、表面構造のサイズ、および粒子濃度に依存する。DLSは、粒子による散乱光強度の変動を本質的に測定するため、粒子の拡散係数を決定することができる。市販のDLA機器におけるDLSソフトウェアは、様々な直径の粒子集団を示す。安定性試験は、DLSを用いて都合よく行うことができる。サンプルのDLS測定は、粒子の流体力学的半径が増加するかどうかを決定することによって、粒子が経時的にまたは温度変動とともに凝集するかどうかを示すことができる。粒子が凝集する場合には、より大きな半径を有する粒子のより大きな集団を見ることができる。温度に依存する安定性は、インサイチューで温度を制御することによって解析することができる。キャピラリー電気泳動(CE)技術には、抗体安定性の特徴を決定するための証明された方法が含まれる。iCE手法を用いて、脱アミド化、C末端リジン、シアリル化、酸化、グリコシル化、およびタンパク質のpIの変化を結果としてもたらし得る、タンパク質に対する任意の他の変化による、抗体タンパク質電荷バリアントを分解することができる。発現された抗体タンパク質の各々は、Protein Simple Maurice機器を用いて、キャピラリーカラム(cIEF)におけるハイスループットフリー溶液等電点電気泳動(IEF)によって評価することができる。等電点(pI)に集束する分子のリアルタイムモニタリングのために、カラム全体のUV吸収検出を30秒ごとに行うことができる。この手法は、動員工程の必要性を排除しながら、伝統的なゲルIEFの高分解能と、カラムベースの分離に見出される定量および自動化の利点とを組み合わせる。この技術は、発現された抗体について同一性、純度、および不均一性プロファイルの再現性のある定量的分析をもたらす。結果により、吸光度および天然蛍光検出モードの両方で、ならびに最低0.7μg/mLの検出感度で、抗体の電荷不均一性および分子サイジングが特定される。
【0100】
溶解度
抗体配列の固有溶解度スコアを決定することができる。固有溶解度スコアは、CamSol Intrinsic(Sormanni et al., J Mol Biol 427, 478-490, 2015)を用いて計算することができる。scFvなどの各抗体フラグメントのHCDR3中の残基95~102(Kabatナンバリング)のアミノ酸配列を、オンラインプログラムを介して評価して、溶解度スコアを計算することができる。実験室技術を用いて溶解度を決定することもできる。溶液が飽和し、溶解限度に達するまでの、溶液に対する凍結乾燥タンパク質の添加、または適した分子量カットオフを有するマイクロコンセントレーターにおける限外濾過による濃縮を含む、様々な技術が存在する。最も直接的な方法は、非結晶沈殿の誘導であり、これは、硫酸アンモニウムを用いたタンパク質沈殿を含む方法を用いて、タンパク質溶解度を測定する(Trevino et al., J Mol Biol, 366: 449-460, 2007)。硫酸アンモニウム沈殿は、相対的溶解度値に関する迅速かつ正確な情報をもたらす。硫酸アンモニウム沈殿は、明確に規定された水相および固相を有する沈殿溶液を生じ、比較的少量のタンパク質を必要とする。硫酸アンモニウムによる非結晶沈殿の誘導を用いて行われる溶解度測定はまた、様々なpH値で容易に行うことができる。タンパク質溶解度は、高度にpH依存性であり、pHは、溶解度に影響を及ぼす最も重要な外因性因子と考えられている。
【0101】
自己反応性
一般的に、自己反応性クローンは、個体発生中に陰性選択によって排除されるはずであると考えられているが、自己反応性特性を有する多くのヒト天然抗体が、成体成熟レパートリーに存続し、かつ自己反応性が、病原体に対する多くの抗体の抗ウイルス機能を増強し得ることが明らかになっている。初期B細胞発生中の抗体におけるHCDR3ループは、多くの場合、正電荷に富み、自己反応性パターンを示すことが注目されている(Wardemann et al., Science 301, 1374-1377, 2003)。顕微鏡法(接着性HeLaまたはHEp-2上皮細胞を使用)およびフローサイトメトリー細胞表面染色(浮遊Jurkat T細胞および293Sヒト胎児腎細胞を使用)においてヒト起源細胞に対する結合のレベルを評価することによって、自己反応性について所与の抗体を試験することができる。自己反応性はまた、組織アレイにおける組織に対する結合の評価を用いて、調査することもできる。
【0102】
好ましい残基(「ヒト類似性」)
血液ドナー由来のヒトB細胞のB細胞レパートリーのディープシーケンシングが、多くの近年の研究において広い規模で行われている。ヒト抗体レパートリーの重要な部分に関する配列情報は、健康なヒトにおいて一般的な抗体配列特徴の統計的評価を容易にする。ヒト組換え抗体可変遺伝子参照データベースにおける抗体配列特徴に関する知識を用いて、抗体配列の「ヒト類似性」(HL)の位置特異的な程度を推定することができる。HLは、治療用抗体、またはワクチンとしての抗体のように、臨床用途での抗体の開発に有用であることが示されている。目標は、抗体のヒト類似性を増加させて、抗体薬物の効力の有意な減少をもたらすか、または重篤な健康上の意味を誘導し得る、潜在的な有害作用および抗抗体免疫応答を低下させることである。合計約4億の配列の健康なヒト血液ドナー3例の組み合わされた抗体レパートリーの抗体特性を評価することができ、抗体の超可変領域に焦点を合わせる新規の「相対的ヒト類似性」(rHL)スコアを作り出した。rHLスコアは、ヒト配列(正のスコア)と非ヒト配列(負のスコア)とを容易に区別することを可能にする。抗体は、ヒトレパートリーにおいて一般的ではない残基を排除するように操作され得る。
【0103】
改変抗体は、標準的な分子生物学的技法による発現またはポリペプチドの化学的合成を含めた、当業者に公知の任意の技法によって作製され得る。組換え発現のための方法が、本文書における他の箇所で対処されている。
【0104】
D.発現
本開示に従った核酸は、任意で他のタンパク質配列に連結された抗体をコードする。本出願において使用するとき、「MUC1-C抗体をコードする核酸」という用語は、全細胞核酸から遊離した単離されている核酸分子を指す。ある特定の態様において、本開示は、本明細書において明示される配列のいずれかによってコードされる抗体に関する。
【0105】
【0106】
本開示のDNAセグメントには、上記で記載される配列の生物学的機能等価のタンパク質およびペプチドをコードするものが含まれる。そのような配列は、核酸配列内、ゆえにコードされるタンパク質内に天然に存在することが知られるコドン冗長性およびアミノ酸機能等価性の結果として生じ得る。あるいは、機能等価のタンパク質またはペプチドは、組換えDNA技術の適用により創出され得、そこでのタンパク質構造の変化は、交換されているアミノ酸の特性についての考慮に基づいて操作され得る。人間によって設計される変化は、部位指向性突然変異誘発技法の適用により導入され得る、または下記で記載されるように、無作為に導入され得かつ後に所望の機能についてスクリーニングされ得る。
【0107】
ある特定の態様内において、発現ベクターを採用してMUC1-Cリガンド捕捉体を発現させて、それから発現されるポリペプチドを産生しかつ単離する。他の態様において、発現ベクターを遺伝子療法において用いる。発現は、ベクター内で適当なシグナルが提供されることを要し、それには、宿主細胞において関心対象の遺伝子の発現を推進する、ウイルスおよび哺乳類供給源の両方由来のエンハンサー/プロモーターなど、様々な調節エレメントが含まれる。宿主細胞においてメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適化するように設計されるエレメントも規定される。薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現に関連付けるエレメントであるように、産物を発現する永久的な安定した細胞クローンを確立するためのいくつかの優性薬物選択マーカーの使用のための条件も提供される。
【0108】
本出願を通して、「発現構築物」という用語は、配列をコードする核酸の一部またはすべてが転写され得る遺伝子産物をコードする核酸を含有する任意のタイプの遺伝子構築物を含むことを意味する。転写産物はタンパク質に翻訳され得るが、それは必要であるわけではない。ある特定の態様において、発現には、遺伝子の転写および遺伝子産物へのmRNAの翻訳の両方が含まれる。他の態様において、発現には、関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写のみが含まれる。
【0109】
「ベクター」という用語は、それが複製され得る細胞内への導入のために、その中に核酸配列を挿入し得るキャリア核酸分子を指すために用いられる。核酸配列は「外因性」であり得、それは、ベクターが導入されている細胞にとってそれが外来物であること、または配列が、細胞内におけるしかしながら該配列が普通見出されない宿主細胞核酸内の箇所における配列と相同であることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、および人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者であれば、両方とも参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989)およびAusubel et al. (1994)に記載されている、標準的な組換え技法によりベクターを構築する能力を十分に備えているであろう。
【0110】
「発現ベクター」という用語は、転写され得る遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含有するベクターを指す。ある場合には、RNA分子は、次いでタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳される。他の場合、例えばアンチセンス分子またはリボザイムの産生において、これらの配列は翻訳されない。発現ベクターは、特定の宿主生物における機能的に連結されたコード配列の転写およびおそらく翻訳に必要な核酸配列を指す、多様な「制御配列」を含有し得る。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、同様に他の機能を果たしかつ下記で記載される核酸配列を含有し得る。
【0111】
1.調節エレメント
「プロモーター」とは、そこで転写の開始および割合が制御される核酸配列の領域である制御配列である。それは、そこで調節タンパク質および分子がRNAポリメラーゼおよび他の転写因子などに結合し得る遺伝子エレメントを含有し得る。「機能的に位置付けされた」、「機能的に連結した」、「制御下にある」、および「転写制御下にある」という語句は、プロモーターが、核酸配列に関して正しい機能的な位置および/または配向にあって、その配列の転写開始および/または発現を制御することを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性に関与するシス作用性調節配列を指す「エンハンサー」と合わせて用いられ得るまたは用いられ得ない。
【0112】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって獲得され得る、遺伝子または配列に天然に伴うものであり得る。そのようなプロモーターは、「内因性」と呼ばれ得る。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流のいずれかに位置する、核酸配列に天然に伴うものであり得る。あるいは、その天然環境において核酸配列に通常伴わないプロモーターを指す組換えのまたは異種のプロモーターの制御下にコード核酸セグメントを位置付けすることによって、ある特定の利点が得られる。
【0113】
組換えのまたは異種のエンハンサーとは、その天然環境において核酸配列に通常伴わないエンハンサーも指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任意の原核細胞、ウイルス細胞、または真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しない、すなわち異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を変更する変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーが含まれ得る。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により産生することに加えて、配列は、本明細書において開示される組成物と合わせて、PCR(商標)を含めた組換えクローニングおよび/または核酸増幅技術を用いて産生され得る(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,202号、米国特許第5,928,906号を参照されたい)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体などの非核細胞小器官内の配列の転写および/または発現を指揮する制御配列が同様に採用され得ることが企図される。
【0114】
当然、発現のために選出された細胞タイプ、細胞小器官、および生物におけるDNAセグメントの発現を有効に指揮するプロモーターおよび/またはエンハンサーを採用することが重要であろう。分子生物学の技術分野における当業者であれば、一般的に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、および細胞タイプの組み合わせの使用を知っており、例えば参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989)を参照されたい。採用されるプロモーターは、構成的であり得、組織特異的であり得、誘導性であり得、かつ/または、組換えタンパク質および/またはペプチドの大規模な産生において有利であるなど、導入されたDNAセグメントの高レベルの発現を指揮する適当な条件下で有用であり得る。プロモーターは、異種または内因性であり得る。
【0115】
表3は、本開示の状況において、遺伝子の発現を調節するために採用され得るいくつかのエレメント/プロモーターを列挙している。このリストは、発現の促進に関与する考え得るすべてのエレメントについて網羅的であることを意図されるわけではないが、単なるそれらの例示である。表4は、特異的刺激に応答して活性化され得る、核酸配列の領域である誘導性エレメントの例を提供している。
【0116】
【0117】
【0118】
組織特異的プロモーターまたはエンハンサーの同定、ならびにそれらの活性を特徴付けするアッセイは、当業者に周知である。そのような領域の例には、ヒトLIMK2遺伝子(Nomoto et al. 1999)、ソマトスタチン受容体2遺伝子(Kraus et al., 1998)、マウス精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et al., 1999)、ヒトCD4(Zhao-Emonet et al., 1998)、マウスα2(XI)コラーゲン(Tsumaki, et al., 1998)、D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee, et al., 1997)、インスリン様成長因子II(Wu et al., 1997)、ヒト血小板内皮細胞接着分子-1(Almendro et al., 1996)が含まれる。腫瘍特異的プロモーターも、本開示における用途を見出すであろう。いくつかのそのようなプロモーターが、表5に明示されている。
【0119】
(表5)がん遺伝子療法のための組織特異的プロモーター候補
【0120】
コード配列の効率的な翻訳には、特異的な開始シグナルも要され得る。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは近接配列が含まれる。ATG開始コドンを含めた外因性の翻訳制御シグナルが提供される必要があり得る。当業者であれば、容易にこれを決定することができかつ必要なシグナルを提供することができるであろう。インサート全体の翻訳を確実にするために、開始コドンは、所望のコード配列のリーディングフレームと「インフレーム」でなければならないことは周知である。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然または合成のいずれかであり得る。発現の効率は、適当な転写エンハンサーエレメントの包含によって増強され得る。
【0121】
2.IRES
本開示のある特定の態様において、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントを用いて、多重遺伝子、つまりポリシストロン性のメッセージを創出する。IRESエレメントは、5'メチル化キャップ依存的翻訳のリボソームスキャンモデルを迂回し得、かつ内部部位での翻訳を始動し得る(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルスファミリーの2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメント(Pelletier and Sonenberg, 1988)、同様に哺乳類メッセージ由来のIRES(Macejak and Sarnow, 1991)が記載されている。IRESエレメントは、異種のオープンリーディングフレームに連結され得る。それぞれがIRESによって分離された多数のオープンリーディングフレームが一緒に転写され得、ポリシストロン性のメッセージが創出される。効率的な翻訳のために、IRESエレメントのおかげで、各オープンリーディングフレームはリボソームに接近可能である。単一メッセージを転写する単一プロモーター/エンハンサーを用いて、多数の遺伝子を効率的に発現させ得る(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,925,565号および第5,935,819号を参照されたい)。
【0122】
3.多目的クローニングサイト
ベクターは、多数の制限酵素部位を含有する核酸領域であるマルチクローニングサイト(MCS)を含み得、そのうちのいずれかを標準的な組換え技術と合せて用いて、ベクターを消化し得る。参照により本明細書に組み入れられるCarbonelli et al., 1999、Levenson et al., 1998、およびCocea, 1997を参照されたい。「制限酵素消化」とは、核酸分子内の特異的位置でのみ機能する酵素による核酸分子の触媒的切断を指す。これらの制限酵素の多くが市販されている。そのような酵素の使用は、当業者によって広く理解されている。頻繁に、MCS内で切る制限酵素を用いてベクターを線状化またはフラグメント化して、外因性配列がベクターにライゲーションされるのを可能にする。「ライゲーション」とは、互いに連続的であっても連続的でなくてもよい2つの核酸フラグメント間でホスホジエステル結合を形成する過程を指す。制限酵素およびライゲーション反応を伴う技法は、組換え技術の技術分野における当業者に周知である。
【0123】
4.スプライシング部位
大部分の転写された真核生物RNA分子は、一次転写産物からイントロンを取り除くRNAスプライシングを受ける。真核生物ゲノム配列を含有するベクターは、タンパク質発現のために、転写産物の適正なプロセシングを確実にする、ドナーおよび/またはアクセプターのスプライシング部位を要し得る(参照により本明細書に組み入れられるChandler et al., 1997を参照されたい)。
【0124】
5.終結シグナル
本開示のベクターまたは構築物は、概して、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写産物の特異的終結に関与するDNA配列から構成される。ゆえに、ある特定の態様において、RNA転写産物の産生を終わらせる終結シグナルが企図される。望ましいメッセージレベルを達成するために、インビボにおいてターミネーターが必要であり得る。
【0125】
真核生物システムにおいて、ターミネーター領域は、ポリアデニル化部位を曝露するために、新たな転写産物の部位特異的切断を可能にする特異的DNA配列も含み得る。これは、転写産物の3'末端に約200個のA残基(ポリA)の伸長を付加するように、特化した内因性ポリメラーゼにシグナルを送達する。このポリAテールを修飾されたRNA分子は、より安定でありかつより効率的に翻訳されるように見える。ゆえに、真核生物を伴う他の態様において、ターミネーターは、RNAの切断のためのシグナルを含むことが好ましく、かつターミネーターシグナルは、メッセージのポリアデニル化を促進することがより好ましい。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位エレメントは、メッセージレベルを増強し、かつ/またはカセットから他の配列までの読み通しを最小限にする働きをし得る。
【0126】
本開示における使用のために企図されるターミネーターには、例えばウシ成長ホルモンターミネーターなどの遺伝子の終結配列、または例えばSV40ターミネーターなどのウイルス終結配列を例えば含むがそれらに限定されない、本明細書において記載されるまたは当業者に公知である任意の公知の転写のターミネーターが含まれる。ある特定の態様において、終結シグナルは、配列の切り取りなどによる、転写可能なまたは翻訳可能な配列の欠如であり得る。
【0127】
6.ポリアデニル化シグナル
発現、特に真核生物の発現においては、典型的に、転写産物の適正なポリアデニル化をもたらすポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化シグナルの性質は、本開示の実践の成功に決定的ではないと思われ、かつ/または任意のそのような配列が採用され得る。好ましい態様は、好都合でありかつ/または様々な標的細胞において上手く機能することが知られる、SV40ポリアデニル化シグナルおよび/またはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化は、転写産物の安定性を増加させ得る、または細胞質輸送を促し得る。
【0128】
7.複製の起点
宿主細胞においてベクターを繁殖させるために、それは、そこで複製が開始される特異的核酸配列である、複製部位の1つまたは複数の起点(しばしば、「ori」と称される)を含有し得る。あるいは、宿主細胞が酵母である場合、自律複製配列(ARS)が採用され得る。
【0129】
8.選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
本開示のある特定の態様において、本開示の核酸構築物を含有する細胞は、発現ベクター内にマーカーを含めることによって、インビトロまたはインビボで同定され得る。そのようなマーカーは、発現ベクターを含有する細胞の簡単な同定を可能にする、細胞に同定可能な変化を付与する。一般的に、選択可能なマーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。陽性選択可能なマーカーは、マーカーの存在によりその選択が可能となるものであり、一方で陰性選択可能なマーカーは、その存在によりその選択が阻止されるものである。陽性選択可能なマーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0130】
通常、薬物選択マーカーの包含は、形質転換体のクローニングおよび同定に役立ち、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子は、有用な選択可能なマーカーである。条件の実行に基づいて形質転換体の判別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、その根拠が比色分析であるGFPなどのスクリーニング可能なマーカーを含めた他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのスクリーニング可能な酵素も利用され得る。当業者であれば、おそらくFACS解析と合わせて、どのように免疫学的マーカーを採用するのかも知っているであろう。用いられるマーカーは、それが、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現され得る限り、重要ではないと思われる。選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
【0131】
9.ウイルスベクター
ある特定のウイルスベクターが、効率的に細胞に感染しまたは侵入し、宿主細胞ゲノム内に組み込まれ、かつウイルス遺伝子を安定して発現する能力は、多数の異なるウイルスベクターシステムの開発および適用につながっている(Robbins et al., 1998)。エクスビボおよびインビボにおける遺伝子移入のためのベクターとしての使用のために、ウイルスシステムが現在開発されつつある。例えば、がん、嚢胞性線維症、ゴーシェ病、腎疾患、および関節炎などの疾患の処置のために、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、およびアデノ随伴ウイルスベクターが現在評価されつつある(Robbins and Ghivizzani, 1998;Imai et al., 1998;米国特許第5,670,488号)。下記で記載される様々なウイルスベクターは、特定の遺伝子療法適用に応じて、特異的な利点および不利な点を提示する。
【0132】
アデノウイルスベクター
特定の態様において、発現構築物の送達のために、アデノウイルス発現ベクターが企図される。「アデノウイルス発現ベクター」とは、(a)構築物のパッケージングを支持し、かつ(b)その中にクローニングされている組織特異的または細胞特異的な構築物を最終的に発現するのに十分なアデノウイルス配列を含有するそうした構築物を含むことを意味する。
【0133】
アデノウイルスは、サイズが30~35kbに及ぶゲノムを有する、線状二本鎖DNAを含む(Reddy et al., 1998;Morrison et al., 1997;Chillon et al., 1999)。本開示に従ったアデノウイルス発現ベクターは、アデノウイルスの遺伝子操作された形態を含む。アデノウイルス遺伝子移入の利点には、非分裂細胞を含めた多種多様な細胞タイプに感染し得る能力、中型サイズのゲノム、操縦の容易さ、高い感染力、および高い力価に成長し得る能力が含まれる(Wilson, 1996)。さらに、アデノウイルスDNAは、他のウイルスベクターに伴う潜在的な遺伝毒性を有することなくエピソーム様式で複製し得るため、宿主細胞のアデノウイルス感染は、染色体への組み込みをもたらさない。また、アデノウイルスは構造的に安定しており(Marienfeld et al., 1999)、かつ広範囲にわたる増幅後にゲノム再編成は検出されていない(Parks et al., 1997;Bett et al., 1993)。
【0134】
アデノウイルスゲノムの際立った特質は、初期領域(E1、E2、E3、およびE4遺伝子)、中間領域(pIX遺伝子、Iva2遺伝子)、後期領域(L1、L2、L3、L4、およびL5遺伝子)、主要後期プロモーター(MLP)、逆向き末端反復(ITR)、およびΨ配列(Zheng, et al., 1999;Robbins et al., 1998;Graham and Prevec, 1995)である。初期遺伝子E1、E2、E3、およびE4は、感染後にウイルスから発現され、かつウイルス遺伝子発現、細胞遺伝子発現、ウイルス複製、および細胞アポトーシスの阻害を調節するポリペプチドをコードする。さらに、ウイルス感染の間にMLPが活性化され、アデノウイルスのカプシド形成に要されるポリペプチドをコードする後期(L)遺伝子の発現がもたらされる。中間領域は、アデノウイルスカプシドの構成要素をコードする。アデノウイルス逆向き末端反復(ITR;長さが100~200bp)はシスエレメントであり、かつ複製の起点として機能し、かつウイルスDNA複製に必要である。Ψ配列は、アデノウイルスゲノムのパッケージングに要される。
【0135】
遺伝子移入ベクターとしての使用のためのアデノウイルスを作製するためのよく見られる手法は、E2、E3、およびE4プロモーターの誘導に関与するE1遺伝子の欠失(E1-)である(Graham and Prevec, 1995)。その後、E1遺伝子の代わりに1つまたは複数の治療用遺伝子を組換えにより挿入することができ、該治療用遺伝子の発現は、E1プロモーターまたは異種プロモーターによって推進される。次いで、E1ポリペプチドをトランスに提供する「ヘルパー」細胞株(例えば、ヒト胎児腎臓細胞株293)において、E1-複製欠陥ウイルスを増幅する。ゆえに、本開示において、E1コード配列が取り除かれている箇所に形質転換構築物を導入することが好都合であり得る。しかしながら、アデノウイルス配列内での構築物の挿入の箇所は、本開示にとって決定的ではない。あるいは、E3領域、E4領域の一部分、またはその両方を欠失させ得、遺伝子移入における使用のために、真核細胞において作動可能なプロモーターの制御下にある異種核酸配列を、アデノウイルスゲノム内に挿入する(それぞれ参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,670,488号;米国特許第5,932,210号)。
【0136】
アデノウイルスに基づくベクターは、他のベクターシステムを上回るいくつかの固有の利点を与えるものの、それらは、ベクターの免疫原性、組換え遺伝子の挿入のためのサイズ制約、および低レベルの複製によってしばしば制限される。全長ジストロフィン遺伝子および複製に要される末端反復を含み、すべてのオープンリーディングフレームを欠失した組換えアデノウイルスベクターの調製(Haecker et al., 1996)は、上記で言及されるアデノウイルスの欠点に、いくつかの潜在的に有望な利点を与える。該ベクターは、293細胞においてヘルパーウイルスとともに高力価まで成長し、かつmdxマウスにおいて、インビトロでの筋管において、およびインビボでの筋線維においてジストロフィンを効率的に形質導入し得た。ヘルパー依存型ウイルスベクターが下記で記述される。
【0137】
アデノウイルスベクターを用いることにおける大きな懸案事項は、パッケージング細胞株におけるベクター産生の間または個体の遺伝子療法による処置の間の、複製能を有するウイルスの生成である。複製能を有するウイルスの生成は、意図しないウイルス感染の深刻な脅威、および患者に対する病理学的因果関係をもたらし得る。Armentanoら(1990)は、複製能を有するアデノウイルスの不注意な生成の可能性を除去すると主張した、複製欠損アデノウイルスベクターの調製を記載している(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,824,544号)。複製欠損アデノウイルス法は、欠失されたE1領域および再配置されたタンパク質IX遺伝子を含み、ベクターは異種の哺乳類遺伝子を発現する。
【0138】
アデノウイルスベクターが複製欠損であるまたは少なくとも条件付きで欠損であるという要件以外、アデノウイルスベクターの性質は、本開示の実践の成功に決定的ではないと思われる。アデノウイルスは、42種の異なる公知の血清型および/またはサブグループA~Fのいずれかのものであり得る。サブグループCのアデノウイルス5型は、本開示における使用のための条件付き複製欠損アデノウイルスベクターを獲得するための好ましい開始材料である。これは、アデノウイルス5型が、それについての大量の生化学的および遺伝学的な情報が公知であるヒトアデノウイルスであり、かつそれは、ベクターとしてアデノウイルスを採用する大部分の構築に歴史的に用いられてきたためである。
【0139】
上記で明記されるように、本開示に従った典型的ベクターは、複製欠損でありかつアデノウイルスE1領域を有しない。アデノウイルスの成長および操縦は当業者に公知であり、かつインビトロおよびインビボで幅広い宿主範囲を呈する(米国特許第5,670,488号;米国特許第5,932,210号;米国特許第5,824,544号)。このグループのウイルスは、高い力価で、例えば1mlあたり109~1011プラーク形成単位で獲得され得、かつそれらは高度に感染性である。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞ゲノム内への組み込みを要しない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソーム性であり、したがって宿主細胞に対する低い遺伝毒性を有する。多くの実験、革新、前臨床研究、および臨床試験が、現在、遺伝子送達ベクターとしてのアデノウイルスの使用のための検討下にある。例えば、肝疾患(Han et al., 1999)、精神疾患(Lesch, 1999)、神経疾患(Smith, 1998;Hermens and Verhaagen, 1998)、冠動脈疾患(Feldman et al., 1996)、筋疾患(Petrof, 1998)、胃腸疾患(Wu, 1998)、ならびに結腸直腸(Fujiwara and Tanaka, 1998;Dorai et al., 1999)、膵臓、膀胱(Irie et al., 1999)、頭頸部(Blackwell et al., 1999)、乳房(Stewart et al., 1999)、肺(Batra et al., 1999)、および卵巣(Vanderkwaak et al., 1999)などの様々ながんに対して、アデノウイルス遺伝子送達に基づく遺伝子療法が開発されつつある。
【0140】
レトロウイルスベクター
本開示のある特定の態様において、遺伝子送達のためのレトロウイルスの使用が企図される。レトロウイルスは、RNAゲノムを含むRNAウイルスである。宿主細胞がレトロウイルスによって感染した場合、ゲノムRNAはDNA中間体に逆転写され、それが感染細胞の染色体DNA内に組み込まれる。この組み込まれたDNA中間体は、プロウイルスと呼ばれる。レトロウイルスの特定の利点は、それらが、免疫原性のウイルスタンパク質を発現することなく、宿主DNA内に組み込まれることによって、関心対象の遺伝子(例えば、治療用遺伝子)を分裂細胞に安定して感染させ得ることである。理論上、組み込まれたレトロウイルスは、感染した宿主細胞の寿命の間維持され、関心対象の遺伝子が発現される。
【0141】
レトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2つの長い末端反復(LTR)配列によって隣接された3つの遺伝子:gag、pol、およびenvを有する。gag遺伝子は、内部構造(マトリックス、カプシド、およびヌクレオカプシド)タンパク質をコードし;pol遺伝子は、RNA指向性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードし;かつenv遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5'および3' LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化を促進する働きをする。LTRは、ウイルス複製に必要な他のすべてのシス作用性配列を含有する。
【0142】
本開示の組換えレトロウイルスは、天然ウイルスの構造的な感染性遺伝子の一部が取り除かれかつその代わりに標的細胞に送達される対象となる核酸配列と置き換えられているような方式で遺伝子改変され得る(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,858,744号;米国特許第5,739,018号)。ウイルスによる細胞の感染後、ウイルスはその核酸を該細胞内に注入し、かつレトロウイルス遺伝物質は宿主細胞ゲノム内に組み込まれ得る。移入したレトロウイルス遺伝物質は、次いで、宿主細胞内で転写されかつタンパク質に翻訳される。他のウイルスベクターシステムと同様に、ベクター産生の間または療法の間の、複製能を有するレトロウイルスの生成は大きな懸案事項である。本開示における使用に適したレトロウイルスベクターは、概して、標的細胞に感染し得、それらのRNAゲノムを逆転写し得、かつ逆転写されたDNAを標的細胞ゲノム内に組み込み得るが、標的細胞内で複製して感染性レトロウイルスベクター粒子を産生し得ない欠損レトロウイルスベクターである(例えば、標的細胞内に移入したレトロウイルスゲノムは、ビリオン構造タンパク質をコードする遺伝子であるgag、および/または逆転写酵素をコードする遺伝子であるpolを欠損している)。ゆえに、プロウイルスの転写および感染性ウイルスへの会合は、適当なヘルパーウイルスの存在下において、または混入ヘルパーウイルスの同時産生なしでカプシド形成を可能にする適当な配列を含有する細胞株において生じる。
【0143】
レトロウイルスの成長および維持は、当技術分野において公知である(それぞれが参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,955,331号;米国特許第5,888,502号)。Nolanらは、異種遺伝子を含む、安定した高力価でヘルパー不含のレトロウイルスの産生を記載している(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,830,725号)。両性(amphoteric)または同種指向性(ecotrophic)の宿主範囲を有する、ヘルパー不含組換えレトロウイルスの作製に有用なパッケージング細胞株を構築するための方法、ならびに組換えレトロウイルスを用いて、インビボおよびインビトロにおいて真核細胞内に関心対象の遺伝子を導入する方法が、本開示において企図される(米国特許第5,955,331号)。
【0144】
現在、ベクター介在性遺伝子送達に関するすべての臨床試験の大多数は、マウス白血病ウイルス(MLV)に基づくレトロウイルスベクター遺伝子送達を用いている(Robbins et al., 1998;Miller et al., 1993)。レトロウイルス遺伝子送達の不利な点には、安定した感染のために進行中の細胞分裂を要すること、および大型遺伝子の送達を妨げるコーディング許容量が含まれる。しかしながら、ある特定の非分裂細胞に感染し得るレンチウイルス(例えば、HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、およびウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)など、近年のベクターの開発により、遺伝子療法適用のためのレトロウイルスベクターのインビボ使用が潜在的に可能となっている(Amado and Chen, 1999;Klimatcheva et al., 1999;White et al., 1999;Case et al., 1999)。例えば、ニューロン(Miyatake et al., 1999)、膵島(Leibowitz et al., 1999)、および筋細胞(Johnston et al., 1999)などの非分裂細胞に感染するために、HIVに基づくベクターが用いられている。レトロウイルスを介した遺伝子の治療用送達が、現在、炎症性疾患(Moldawer et al., 1999)、AIDS(Amado and Chen, 1999;Engel and Kohn, 1999)、がん(Clay et al., 1999)、脳血管疾患(Weihl et al., 1999)、および血友病(Kay, 1998)などの様々な障害の処置に対して査定されつつある。
【0145】
ヘルペスウイルスベクター
単純ヘルペスウイルス(HSV)I型およびII型は、70~80種の遺伝子をコードする、およそ150kbの二本鎖線状DNAゲノムを含有する。野生型HSVは、細胞に溶解的に(lytically)感染し得、かつある特定の細胞タイプ(例えば、ニューロン)において潜伏を確立し得る。アデノウイルスと同様に、HSVも、筋肉(Yeung et al., 1999)、耳(Derby et al., 1999)、目(Kaufman et al., 1999)、腫瘍(Yoon et al., 1999;Howard et al., 1999)、肺(Kohut et al., 1998)、神経(Garrido et al., 1999;Lachmann and Efstathiou, 1999)、肝臓(Miytake et al., 1999;Kooby et al., 1999)、および膵島(Rabinovitch et al., 1999)を含めた多様な細胞タイプに感染し得る。
【0146】
HSVウイルス遺伝子は、細胞RNAポリメラーゼIIによって転写されかつ一時的に調節され、大体3つの識別可能な相または動力学的クラスにある、転写およびその後の遺伝子産物の合成をもたらす。遺伝子のこれらの相は、前初期(IE)またはα遺伝子、初期(E)またはβ遺伝子、および後期(L)またはγ遺伝子と呼ばれる。新たに感染した細胞の核内へのウイルスのゲノムの到着直後に、IE遺伝子が転写される。これらの遺伝子の効率的な発現は、先行するウイルスタンパク質合成を要しない。IE遺伝子の産物は、転写を活性化しかつウイルスゲノムの残りを調節するのに要される。
【0147】
治療用遺伝子送達における使用のために、HSVは複製欠損にされなければならない。複製欠損HSVヘルパーウイルス不含細胞株を作製するためのプロトコールが記載されている(それぞれが参照によりその全体として本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,879,934号;米国特許第5,851,826号)。α4またはVmw175としても知られる1種のIEタンパク質ICP4は、ウイルス感染性およびIEから後期転写への移行の両方に絶対的に要される。ゆえに、その複雑な多機能の性質およびHSV遺伝子発現の調節における中心的役割のために、ICP4は、典型的にHSV遺伝学的研究の標的とされている。
【0148】
ICP4を欠失したHSVウイルスについての表現型研究により、そのようなウイルスは、遺伝子移入目的に潜在的に有用であろうことが示されている(Krisky et al., 1998a)。それらを遺伝子移入にとって望ましいものにする、ICP4を欠失したウイルスの1つの特性は、それらが、ウイルスDNA合成を指揮するタンパク質ならびにウイルスの構造タンパク質をコードするウイルス遺伝子の発現なしに、他の5種のIE遺伝子:ICP0、ICP6、ICP27、ICP22、およびICP47のみを発現することである(DeLuca et al., 1985)。この特性は、宿主細胞代謝に対する考え得る有害な影響、または遺伝子移入後の免疫応答を最小限に抑えるのに望ましい。さらに、ICP4に加えて、IE遺伝子のICP22およびICP27の欠失は、HSV細胞傷害性の低下を実質的に向上させ、かつ初期および後期ウイルス遺伝子発現を阻止した(Krisky et al., 1998b)。
【0149】
遺伝子移入におけるHSVの治療的潜在性は、パーキンソン病(Yamada et al., 1999)、網膜芽細胞腫(Hayashi et al., 1999)、脳内腫瘍および皮内腫瘍(Moriuchi et al., 1998)、B細胞悪性腫瘍(Suzuki et al., 1998)、卵巣がん(Wang et al., 1998)、ならびにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Huard et al., 1997)などの疾患に対する、様々なインビトロモデルシステムおよびインビボで実証されている。
【0150】
アデノ随伴ウイルスベクター
パルボウイルスファミリーのメンバーであるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子送達治療法にますます用いられつつあるヒトウイルスである。AAVは、他のウイルスシステムには見出されないいくつかの有利な特質を有する。第一に、AAVは、非分裂細胞を含めた広範な宿主細胞に感染し得る。第二に、AAVは、種々の種由来の細胞に感染し得る。第三に、AAVは、いかなるヒトまたは動物の疾患とも関連しておらず、かつ組み込みがあっても、宿主細胞の生物学的特性を変更しないように見える。例えば、ヒト集団の80~85%がAAVに曝露されていると推定される。最後に、AAVは、広範な物理的および化学的な条件において安定であり、それ自身を産生、保管、および運搬の要件に添える。
【0151】
AAVゲノムは、4681個のヌクレオチドを含有する線状一本鎖DNA分子である。AAVゲノムは、一般的に、長さがおよそ145bpの逆向き末端反復(ITR)によって各末端で隣接された内部非反復ゲノムを含む。ITRは、DNA複製の起点およびウイルスゲノムに対するパッケージングシグナルとしてを含めた多数の機能を有する。ゲノムの内部非反復部分は、AAVの複製(rep)およびカプシド(cap)遺伝子として知られる、2つの大きなオープンリーディングフレームを含む。repおよびcap遺伝子は、ウイルスが複製しかつウイルスゲノムをビリオン内にパッケージするのを可能にするウイルスタンパク質をコードする。少なくとも4種のウイルスタンパク質のファミリーは、それらの見かけの分子量に従って名付けられた、AAV rep領域のRep78、Rep68、Rep52、およびRep40から発現される。AAV cap領域は、少なくとも3種のタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードする。
【0152】
AAVは、AAVビリオンを形成するために、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはワクシニア)との共感染を要するヘルパー依存型ウイルスである。ヘルパーウイルスとの共感染の非存在下において、AAVは、ウイルスゲノムが宿主細胞染色体内に挿入された潜伏状態を確立するが、感染性ビリオンは産生されない。ヘルパーウイルスによる後続感染は、組み込まれたゲノムを「レスキュー」し、それが複製しかつそのゲノムを感染性AAVビリオン内にパッケージするのを可能にする。AAVは種々の種由来の細胞に感染し得るものの、ヘルパーウイルスは、宿主細胞と同じ種のものでなければならない(例えば、ヒトAAVは、イヌアデノウイルスを共感染させたイヌ細胞において複製する)。
【0153】
AAVは、AAVゲノムの内部非反復部分を欠失させ、かつITR間に異種遺伝子を挿入することによって、関心対象の遺伝子を送達するように操作されている。異種遺伝子は、標的細胞において遺伝子発現を推進し得る異種プロモーター(構成的、細胞特異的、または誘導性)に機能的に連結され得る。異種遺伝子を含有する感染性組換えAAV(rAAV)を産生するために、適切な産生細胞株に、異種遺伝子を含有するrAAVベクターをトランスフェクトする。AAV repおよびcap遺伝子を、それらそれぞれの内因性プロモーターまたは異種プロモーターの制御下に持つ第二のプラスミドを、産生細胞に同時にトランスフェクトする。最後に、産生細胞にヘルパーウイルスを感染させる。
【0154】
いったんこれらの因子が集合すると、あたかもそれが野生型AAVゲノムであるかのように、異種遺伝子は複製されかつパッケージされる。結果として生じるrAAVビリオンを標的細胞に感染させた場合、異種遺伝子は標的細胞に侵入しかつそこで発現される。標的細胞は、repおよびcap遺伝子ならびにアデノウイルスヘルパー遺伝子を欠いているため、rAAVはさらに複製する、パッケージする、または野生型AAVを形成することができない。
【0155】
しかしながら、ヘルパーウイルスの使用は、いくつかの問題を提示する。第一に、rAAV産生システムにおけるアデノウイルスの使用は、宿主細胞にrAAVおよび感染性アデノウイルスの両方を産生させる。混入する感染性アデノウイルスは、熱処理(56℃1時間)によって不活性化し得る。しかしながら、熱処理は、機能的rAAVビリオンの力価のおよそ50%降下をもたらす。第二に、これらの調製物中には、変動する量のアデノウイルスタンパク質が存在している。例えば、そのようなrAAVビリオン調製物において獲得される全タンパク質のおよそ50%またはそれを上回る割合は、遊離アデノウイルス線維タンパク質である。完全に取り除かれない場合、これらのアデノウイルスタンパク質は、患者から免疫応答を引き出す可能性を有する。第三に、ヘルパーウイルスを採用するAAVベクター産生法は、多量の高力価感染性ヘルパーウイルスの使用および操縦を要し、それは、特にヘルペスウイルスの使用に関して、いくつかの健康上および安全上の懸案事項を提示する。第四に、rAAVビリオン産生細胞におけるヘルパーウイルス粒子の付随産生は、多量の宿主細胞資源をrAAVビリオン産生からそらし、より低いrAAVビリオン収量を潜在的にもたらす。
【0156】
レンチウイルスベクター
レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenvに加えて、調節的または構造的な機能を有する他の遺伝子を含有する複合レトロウイルスである。潜伏感染の経過において見られるように、より高い複雑性は、ウイルスがその生活環を変調させるのを可能にする。レンチウイルスの一部の例には、ヒト免疫不全ウイルス:HIV-1、HIV-2、およびサル免疫不全ウイルス:SIVが含まれる。レンチウイルスベクターは、HIV毒性(virulence)遺伝子を多重減衰させることによって作製されており、例えばenv、vif、vpr、vpu、およびnef遺伝子を欠失させ、ベクターを生物学的に安全にする。
【0157】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染し得、かつインビボおよびエクスビボの両方における遺伝子移入ならびに核酸配列の発現に用いられ得る。レンチウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2つの長い末端反復(LTR)配列によって隣接された、レトロウイルスに見出される3種の遺伝子:gag、pol、およびenvを有する。gag遺伝子は、内部構造(マトリックス、カプシド、およびヌクレオカプシド)タンパク質をコードし;pol遺伝子は、RNA指向性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、プロテアーゼ、およびインテグラーゼをコードし;かつenv遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5'および3' LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化を促進する働きをする。LTRは、ウイルス複製に必要な他のすべてのシス作用性配列を含有する。レンチウイルスは、vif、vpr、tat、rev、vpu、nef、およびvpxを含めた付加的な遺伝子を有する。
【0158】
ゲノムの逆転写に(tRNAプライマー結合部位)および粒子内へのウイルスRNAの効率的なカプシド形成に(Psi部位)必要な配列が、5' LTRに近接している。カプシド形成(または感染性ビリオン内へのレトロウイルスRNAのパッケージング)に必要な配列がウイルスゲノムから失われている場合、シス欠損はゲノムRNAのカプシド形成を妨げる。しかしながら、結果として生じる変異体は、依然としてすべてのビリオンタンパク質の合成を指揮し得る。
【0159】
レンチウイルスベクターは当技術分野において公知であり、Naldini et al., (1996);Zufferey et al., (1997);米国特許第6,013,516号;および第5,994,136号を参照されたい。一般的に、ベクターは、プラスミドに基づくまたはウイルスに基づくものであり、かつ外来核酸を組み入れるための、選択のための、および宿主細胞内への核酸の移入のための必須の配列を運ぶように構成される。関心対象のベクターのgag、pol、およびenv遺伝子も、当技術分野において公知である。ゆえに、選択されたベクター内に関連遺伝子をクローニングし、次いでそれを用いて、関心対象の標的細胞を形質転換する。
【0160】
適切な宿主細胞に、パッケージング機能を持する2種またはそれを上回る種類のベクター、つまりgag、pol、およびenv、ならびにrevおよびtatをトランスフェクトする、非分裂細胞に感染し得る組換えレンチウイルスが、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,136号に記載されている。これは、パッケージング細胞を産出するための、ウイルスgagおよびpol遺伝子をコードする核酸を提供し得る第一のベクター、ならびにウイルスenvをコードする核酸を提供し得る別のベクターを記載している。本開示におけるSTAT-1α遺伝子などの異種遺伝子を提供するベクターをそのパッケージング細胞内に導入することにより、関心対象の外来遺伝子を持する感染性ウイルス粒子を放出する産生細胞が産出される。envは、好ましくは、ヒトおよび他の種の細胞の形質導入を可能にする両種指向性(amphotropic)エンベロープタンパク質である。
【0161】
エンベロープタンパク質とターゲティングのための抗体または特定のリガンドとの連結によって、組換えウイルスに特定の細胞タイプの受容体を標的とさせ得る。関心対象の配列(調節領域を含む)を、例えば、特異的標的細胞上の受容体に対するリガンドをコードする別の遺伝子とともにウイルスベクター内に挿入することによって、ベクターは標的特異的となる。
【0162】
ウイルスenv核酸配列を提供するベクターを、調節配列、例えばプロモーターまたはエンハンサーと機能的に関連付けする。調節配列は、例えばモロニーマウス白血病ウイルスプロモーター-エンハンサーエレメント、ヒトサイトメガロウイルスエンハンサー、またはワクシニアP7.5プロモーターを含めた、任意の真核生物プロモーターまたはエンハンサーであり得る。ある場合には、モロニーマウス白血病ウイルスプロモーター-エンハンサーエレメントなど、プロモーター-エンハンサーエレメントは、LTR配列の中または近接に位置する。
【0163】
本明細書におけるSTAT-1αをコードするポリヌクレオチド配列など、異種または外来の核酸配列を調節核酸配列に機能的に連結する。好ましくは、異種配列をプロモーターに連結し、キメラ遺伝子をもたらす。異種核酸配列は、また、ウイルスLTRプロモーター-エンハンサーシグナルまたは内部プロモーターのいずれかの制御下にあり得、かつレトロウイルスLTR内の保持されたシグナルは、移入遺伝子の効率的な発現をなおも引き起こし得る。マーカー遺伝子を利用して、ベクターの存在についてアッセイし得、ゆえに感染および組み込みを確認し得る。マーカー遺伝子の存在は、インサートを発現するそうした宿主細胞のみの選択および成長を保証する。典型的な選択遺伝子は、抗生物質および他の毒性物質、例えばヒスチジノール、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、メトトレキサートなどに対する耐性を付与するタンパク質、および細胞表面マーカーをコードする。
【0164】
トランスフェクションまたは感染により、ベクターをパッケージング細胞株内に導入する。パッケージング細胞株は、ベクターゲノムを含有するウイルス粒子を産生する。トランスフェクションまたは感染のための方法は、当業者によって周知である。パッケージング細胞株へのパッケージングベクターおよび移入ベクターの共トランスフェクションの後、組換えウイルスを培養培地から回収し、かつ当業者によって用いられる標準的方法によって力価測定する。ゆえに、パッケージング構築物は、一般的にneo、DHFR、Gln合成酵素、またはADAなどの優性選択可能なマーカーと一緒に、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポレーションによってヒト細胞株内に導入され得、その後に、適当な薬物の存在下における選択およびクローンの単離が続く。選択可能なマーカー遺伝子は、構築物内のパッケージング遺伝子に物理的に連結され得る。
【0165】
Naldiniら(1996)のレンチウイルス移入ベクターは、インビトロで成長を停止させたヒト細胞に感染させるために、および成体ラットの脳内への直接注入後にニューロンに形質導入するために用いられている。ベクターは、インビボでマーカー遺伝子をニューロン内に移入するのに効率的であり、かつ検出可能な病変なしで長期発現が達成された。ベクターの単回注入の10ヶ月後に解析された動物は、移入遺伝子発現の平均レベルの減少を示さず、かつ組織病変または免疫反応の兆候を示さなかった(Blomer et al., 1997)。ゆえに、本開示において、エクスビボにおいて組換えレンチウイルスを感染させた細胞をグラフトし得るもしくは移植し得る、またはインビボにおいて細胞に感染させ得る。
【0166】
他のウイルスベクター
遺伝子送達のためのウイルスベクターの開発および実用性は、絶えず改善しかつ進化しつつある。ポックスウイルス;例えばワクシニアウイルス(Gnant et al., 1999;Gnant et al., 1999)、アルファウイルス;例えばシンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルス(Lundstrom, 1999)、レオウイルス(Coffey et al., 1998)、およびインフルエンザAウイルス(Neumann et al., 1999)などの他のウイルスベクターが、本開示における使用のために企図され、かつ標的システムの不可欠な特性に従って選択され得る。
【0167】
ある特定の態様において、ワクシニアウイルスベクターが、本開示における使用のために企図される。ワクシニアウイルスは、異種遺伝子を発現するための特に有用な真核生物ウイルスベクターシステムである。例えば、組換えワクシニアウイルスが適正に操作された場合、タンパク質が合成され、プロセシングされ、かつ原形質膜に輸送される。遺伝子送達ベクターとしてのワクシニアウイルスは、ヒト腫瘍細胞に遺伝子、例えばEMAP-II(Gnant et al., 1999)を、内耳に(Derby et al., 1999)、神経膠腫細胞に例えばp53(Timiryasova et al., 1999)を、および様々な哺乳類細胞に例えばP450(米国特許第5,506,138号)を移入することが近年実証されている。ワクシニアウイルスの調製、成長、および操縦は、米国特許第5,849,304号および米国特許第5,506,138号(それぞれ参照により本明細書に具体的に組み入れられる)に記載されている。
【0168】
他の態様において、シンドビスウイルスベクターが、遺伝子送達における使用のために企図される。シンドビスウイルスは、ベネズエラの西部および東部ウマ脳炎ウイルス(Sawai et al., 1999;Mastrangelo et al., 1999)などの重要な病原体を含む、アルファウイルス属の種である(Garoff and Li, 1998)。インビトロにおいて、シンドビスウイルスは、多様なトリ細胞、哺乳類細胞、爬虫類細胞、および両生類細胞に感染する。シンドビスウイルスのゲノムは、長さが11,703ヌクレオチドの一本鎖RNAの単一分子からなる。ゲノムRNAは感染性であり、5'末端でキャッピングされ、かつ3'末端でポリアデニル化され、そしてmRNAとして働く。ワクシニアウイルス26S mRNAの翻訳は、ウイルスプロテアーゼとおそらく宿主によってコードされるプロテアーゼとの組み合わせによって、同時翻訳的におよび翻訳後に切断されるポリタンパク質を産生して、3種のウイルス構造タンパク質、カプシドタンパク質(C)および2種のエンベロープ糖タンパク質(E1およびPE2、ビリオンE2の前駆体)を与える。
【0169】
シンドビスウイルスの3つの特質により、それが、異種遺伝子の発現のための有用なベクターであろうことが示唆される。第一に、天然および実験室の両方におけるその広い宿主範囲。第二に、遺伝子発現は宿主細胞の細胞質で生じ、そして迅速かつ効率的である。第三に、RNA合成において温度感受性変異が入手可能であり、それを用いて、感染後の様々な時間において培養物を非許容温度に単に移すことによって、異種コード配列の発現を変調し得る。シンドビスウイルスの成長および維持は、当技術分野において公知である(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,217,879号)。
【0170】
キメラウイルスベクター
キメラまたはハイブリッドウイルスベクターが、治療用遺伝子送達における使用のために開発されつつあり、かつ本開示における使用のために企図される。キメラポックスウイルス/レトロウイルスベクター(Holzer et al., 1999)、アデノウイルス/レトロウイルスベクター(Feng et al., 1997;Bilbao et al., 1997;Caplen et al., 1999)、およびアデノウイルス/アデノ随伴ウイルスベクター(Fisher et al., 1996;米国特許第5,871,982号)が記載されている。
【0171】
これらの「キメラ」ウイルス遺伝子移入システムは、2種またはそれを上回る種類の親ウイルス種の好ましい特質を活用し得る。例えば、Wilsonらは、下記で記載される、アデノウイルスの一部分、AAV 5'および3' ITR配列、ならびに選択された移入遺伝子を含むキメラベクター構築物を提供している(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,871,983号)。
【0172】
アデノウイルス/AAVキメラウイルスは、アデノウイルス核酸配列をシャトルとして用いて、組換えAAV/移入遺伝子ゲノムを標的細胞に送達する。ハイブリッドベクターにおいて採用されるアデノウイルス核酸配列は、ハイブリッドウイルス粒子を産生するためにヘルパーウイルスの使用を要する最小限の配列量から、欠失した遺伝子産物が、選択されたパッケージング細胞によるハイブリッドウイルス産生過程で供給され得る、アデノウイルス遺伝子の選択された欠失のみに及び得る。最低でも、pAdAシャトルベクターにおいて採用されるアデノウイルス核酸配列は、そこから全ウイルス遺伝子が欠失され、かつあらかじめ形成されたカプシド頭部内にアデノウイルスゲノムDNAをパッケージするために要されるそうしたアデノウイルス配列のみを含有する、アデノウイルスゲノム配列である。より具体的には、採用されるアデノウイルス配列は、アデノウイルスのシス作用性5'および3'逆向き末端反復(ITR)配列(複製の起点として機能する)、ならびに天然5'パッケージング/エンハンサードメインであり、それは、線状Adゲノムをパッケージするために必要な配列およびE1プロモーターに対するエンハンサーエレメントを含有する。所望の機能が除去されない限り、アデノウイルス配列は、所望の欠失、置換、または変異を含有するように改変され得る。
【0173】
上記のキメラベクターにおいて有用なAAV配列は、そこからrepおよびcapポリペプチドコード配列が欠失しているウイルス配列である。より具体的には、採用されるAAV配列は、シス作用性5'および3'逆向き末端反復(ITR)配列である。これらのキメラは、宿主細胞への高力価の移入遺伝子送達、および宿主細胞染色体内に移入遺伝子を安定して組み込み得る能力を特徴とする(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,871,983号)。ハイブリッドベクター構築物において、AAV配列は、上記で記述される選択されたアデノウイルス配列によって隣接される。5'および3' AAV ITR配列自体は、下記で記載される、選択された移入遺伝子配列および関連付けされた調節エレメントに隣接する。ゆえに、移入遺伝子ならびに隣接5'および3' AAV配列によって形成される配列は、ベクターのアデノウイルス配列における任意の欠失部位に挿入され得る。例えば、AAV配列は、望ましくは、アデノウイルスの欠失したE1a/E1b遺伝子の部位に挿入される。あるいは、AAV配列は、E3欠失、E2a欠失などに挿入され得る。アデノウイルス5' ITR/パッケージング配列および3' ITR配列のみがハイブリッドウイルスにおいて用いられる場合、AAV配列はその間に挿入される。
【0174】
ベクターの移入遺伝子配列および組換えウイルスは、アデノウイルス配列にとって異種の遺伝子、核酸配列、またはその逆転写産物であり、それは、関心対象のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドフラグメントをコードする。移入遺伝子は、移入遺伝子転写を可能にする様式で調節性構成要素に機能的に連結される。移入遺伝子配列の組成は、結果として生じるハイブリッドベクターを処するであろう用途に依存する。例えば、1つのタイプの移入遺伝子配列には、宿主細胞において所望の遺伝子産物を発現する治療用遺伝子が含まれる。これらの治療用遺伝子または核酸配列は、典型的に、遺伝性もしくは非遺伝性の遺伝子欠損を置き換えるもしくは補正するための、または後成的な障害もしくは疾患を処置するための、インビボまたはエクスビボでの患者における投与および発現のための産物をコードする。
【0175】
10.非ウイルス性形質転換
本開示との使用のための細胞小器官、細胞、組織、または生物の形質転換のための核酸送達のための適切な方法は、本明細書において記載されるまたは当業者に公知であろう、それによって核酸(例えば、DNA)が細胞小器官、細胞、組織、または生物内に導入され得る事実上任意の方法を含むと思われる。そのような方法には、マイクロインジェクション(参照により本明細書に組み入れられるHarland and Weintraub, 1985;米国特許第5,789,215号)を含めた注入によって(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号、および第5,580,859号);エレクトロポレーションによって(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号);リン酸カルシウム沈殿によって(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990);DEAE-デキストラン、それに続いてポリエチレングリコールを用いることによって(Gopal, 1985);直接超音波負荷によって(Fechheimer et al., 1987);リポソーム介在性トランスフェクションによって(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979;Nicolau et al., 1987;Wong et al., 1980;Kaneda et al., 1989;Kato et al., 1991);微弾丸衝撃によって(microprojectile bombardment)(それぞれが参照により本明細書に組み入れられるPCT出願第WO 94/09699号および第95/06128号;米国特許第5,610,042号、第5,322,783号、第5,563,055号、第5,550,318号、第5,538,877号、および第5,538,880号);炭化ケイ素繊維による撹拌によって(それぞれが参照により本明細書に組み入れられるKaeppler et al., 1990;米国特許第5,302,523号および第5,464,765号);またはプロトプラストのPEG介在性形質転換によって(それぞれが参照により本明細書に組み入れられるOmirulleh et al., 1993;米国特許第4,684,611号および第4,952,500号);乾燥/阻害(desiccation/inhibition)によるDNA取り込みによって(Potrykus et al., 1985)などのDNAの直接送達が含まれるが、それらに限定されるわけではない。これらなどの技法の適用を通じて、細胞小器官、細胞、組織、または生物は、安定してまたは一過性に形質転換され得る。
【0176】
注入
ある特定の態様において、核酸は、例えば皮下へ、皮内へ、筋肉内へ、静脈内へ(intervenously)、または腹腔内へのいずれかなど、1回または複数回の注入(すなわち、針による注入)を介して、細胞小器官、細胞、組織、または生物に送達され得る。ワクチンの注入の方法は、当業者に周知である(例えば、生理食塩液を含む組成物の注入)。本開示のさらなる態様は、直接マイクロインジェクションによる核酸の導入を含む。直接マイクロインジェクションは、アフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞内に核酸構築物を導入するために用いられている(Harland and Weintraub, 1985)。
【0177】
エレクトロポレーション
本開示のある特定の態様において、核酸は、エレクトロポレーションを介して、細胞小器官、細胞、組織、または生物内に導入される。エレクトロポレーションは、細胞とDNAとの懸濁物の高電圧放電への曝露を伴う。この方法のいくつかの変種において、ペクチン分解酵素などのある特定の細胞壁分解酵素を採用して、標的レシピエント細胞を、未処理細胞よりも、エレクトロポレーションによる形質転換に対してより感受性にする(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号)。あるいは、レシピエント細胞を、機械的創傷によって、形質転換に対してより感受性にし得る。
【0178】
エレクトロポレーションを用いた真核細胞のトランスフェクションは、かなり成功している。この様式で、マウス前Bリンパ球にヒトκ-免疫グロブリン遺伝子がトランスフェクトされており(Potter et al., 1984)、そしてラット肝細胞にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子がトランスフェクトされている(Tur-Kaspa et al., 1986)。
【0179】
例えば植物細胞などの細胞においてエレクトロポレーションによる形質転換を達成するために、細胞もしくは胚発生カルスの懸濁培養物など、いずれか砕けやすい組織を採用し得る、あるいは、未成熟胚もしくは他の組織化された組織を直接形質転換し得る。この技法において、選出された細胞の細胞壁は、それらをペクチン分解酵素(ペクトリアーゼ)または機械的創傷に制御された様式で曝露することによって、部分的に分解されると考えられる。無傷細胞のエレクトロポレーションによって形質転換されているいくつかの種の例には、トウモロコシ(米国特許第5,384,253号;Rhodes et al., 1995;D'Halluin et al., 1992)、小麦(Zhou et al., 1993)、トマト(Hou and Lin, 1996)、大豆(Christou et al., 1987)、およびタバコ(Lee et al., 1989)が含まれる。
【0180】
植物細胞のエレクトロポレーションによる形質転換には、プロトプラストも採用し得る(Bates, 1994;Lazzeri, 1995)。例えば、子葉由来プロトプラストのエレクトロポレーションによるトランスジェニック大豆植物の作製が、参照により本明細書に組み入れられる国際特許出願第WO 92/17598号においてDhirおよびWidholmによって記載されている。プロトプラスト形質転換が記載されている種の他の例には、大麦(Lazerri, 1995)、モロコシ(Battraw et al., 1991)、トウモロコシ(Bhattacharjee et al., 1997)、小麦(He et al., 1994)、およびトマト(Tsukada, 1989)が含まれる。
【0181】
リン酸カルシウム
本開示の他の態様において、核酸は、リン酸カルシウム沈殿を用いて細胞に導入される。この技法を用いて、ヒトKB細胞にアデノウイルス5 DNAがトランスフェクトされている(Graham and Van Der Eb, 1973)。またこの様式で、マウスL(A9)、マウスC127、CHO、CV-1、BHK、NIH3T3、およびHeLa細胞にネオマイシンマーカー遺伝子がトランスフェクトされ(Chen and Okayama, 1987)、そしてラット肝細胞に多様なマーカー遺伝子がトランスフェクトされた(Rippe et al., 1990)。
【0182】
DEAE-デキストラン
別の態様において、核酸は、DEAE-デキストラン、それに続いてポリエチレングリコールを用いて細胞内に送達される。この様式で、レポータープラスミドが、マウス骨髄腫および赤白血病細胞内に導入された(Gopal, 1985)。
【0183】
超音波処理負荷
本開示の付加的な態様は、直接超音波負荷による核酸の導入を含む。LTK-線維芽細胞に、超音波処理負荷によってチミジンキナーゼ遺伝子がトランスフェクトされている(Fechheimer et al., 1987)。
【0184】
リポソーム介在性トランスフェクション
本開示のさらなる態様において、核酸は、例えばリポソームなどの脂質複合体内に封入され得る。リポソームとは、リン脂質二重層膜および内部の水性媒体を特徴とする小胞性構造物である。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離した多数の脂質層を有する。それらは、リン脂質が過度の水溶液中に懸濁された場合に自然発生的に形成される。脂質構成要素は、閉ざされた構造物の形成前に自己再編成を受け、かつ脂質二重層の間に水および溶解した溶質を封入する(Ghosh and Bachhawat, 1991)。Lipofectamine(Gibco BRL)またはSuperfect(Qiagen)と複合した核酸も企図される。
【0185】
インビトロにおける外来DNAのリポソーム介在性核酸送達および発現は、非常に成功している(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979;Nicolau et al., 1987)。培養されたニワトリ胚、HeLa、および肝細胞がん細胞における、外来DNAのリポソーム介在性送達および発現についての実現可能性も実証されている(Wong et al., 1980)。
【0186】
本開示のある特定の態様において、リポソームを血球凝集ウイルス(HVJ)と複合させ得る。これは、細胞膜との融合を促し、かつリポソームに封入されたDNAの細胞侵入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様において、リポソームを、核非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合させ得るまたはそれと合わせて採用し得る(Kato et al., 1991)。さらにさらなる態様において、リポソームを、HVJおよびHMG-1の両方と複合させ得るまたはそれとともに採用し得る。他の態様において、送達ビヒクルは、リガンドおよびリポソームを含み得る。
【0187】
受容体介在性トランスフェクション
なおさらに、核酸は、受容体介在性送達ビヒクルを介して、標的細胞に送達され得る。これらは、標的細胞において生じているであろう受容体介在性エンドサイトーシスによる巨大分子の選択的取り込みの利点を生かす。様々な受容体の細胞タイプ特異的分布を考慮すると、この送達法は、本開示に別の程度の特異性を付加する。
【0188】
ある特定の受容体介在性遺伝子ターゲティングビヒクルは、細胞受容体特異的リガンドおよび核酸結合剤を含む。他のものは、送達される対象となる核酸が機能的に付着している細胞受容体特異的リガンドを含む。いくつかのリガンドが受容体介在性遺伝子移入に用いられており(Wu and Wu, 1987;Wagner et al., 1990;Perales et al., 1994;Myers、EPO 0273085)、それは該技法の操作性を確立している。別の哺乳類細胞タイプの状況における特異的送達が記載されている(参照により本明細書に組み入れられるWu and Wu, 1993)。本開示のある特定の局面において、リガンドは、標的細胞集団上で特異的に発現される受容体に対応するように選出される。
【0189】
他の態様において、細胞特異的核酸標的ビヒクルの核酸送達ビヒクル構成要素は、リポソームと組み合わせた特異的結合リガンドを含み得る。送達される対象となる核酸はリポソーム内に収容され、かつ特異的結合リガンドはリポソーム膜に機能的に組み入れられる。ゆえに、リポソームは、標的細胞の受容体に特異的に結合しかつ内容物を細胞に送達する。そのようなシステムは、例えばEGF受容体の上方調節を呈する細胞への核酸の受容体介在性送達において上皮成長因子(EGF)が用いられるシステムを用いて、機能的であることが示されている。
【0190】
なおさらなる態様において、標的指向型送達ビヒクルの核酸送達ビヒクル構成要素は、細胞特異的結合を指揮する1種または複数種の脂質または糖タンパク質を好ましくは含むリポソームそれ自体であり得る。例えば、ガラクトース末端アシアロガングリオシド(asialganglioside)であるラクトシル-セラミドがリポソームに組み入れられ、かつ肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加が観察されている(Nicolau et al., 1987)。本開示の組織特異的形質転換構築物は、同様の様式で標的細胞内に特異的に送達され得ることが企図される。
【0191】
11.発現システム
上記で記述される組成物の少なくとも一部またはすべてを含む数々の発現システムが存在する。本開示との使用のために、原核生物および/または真核生物に基づくシステムを採用して、核酸配列、またはそれらの同族ポリペプチド、タンパク質、およびペプチドを産生することができる。多くのそのようなシステムは、商業的にかつ広く入手可能である。
【0192】
両方とも参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,871,986号および第4,879,236号に記載されているもの、ならびに例えばInvitrogen(登録商標)からMaxBac(登録商標)2.0という名でおよびClontech(登録商標)からBacPack(商標)Baculovirus Expression Systemという名で購入され得るものなど、昆虫細胞/バキュロウイルスシステムは、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現をもたらし得る。
【0193】
発現システムの他の例には、合成エクジソン誘導性受容体を伴うStratagene(登録商標)のComplete Control(商標)Inducible Mammalian Expression System、または大腸菌(E. coli)発現システムであるそのpET Expression Systemが含まれる。誘導性発現システムの別の例がInvitrogen(登録商標)から入手可能であり、それは、全長CMVプロモーターを用いる誘導性哺乳類発現システムである、T-Rex(商標)(テトラサイクリンにより調節される発現)システムを持する。Invitrogen(登録商標)は、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)Expression Systemと称される酵母発現システムも提供しており、それは、メチロトローフ酵母ピキア・メタノリカにおける組換えタンパク質の高レベルの産生のために設計されている。当業者であれば、核酸配列、またはその同族ポリペプチド、タンパク質、もしくはペプチドを産生する、発現構築物などのベクターをどのように発現させるかを知っているであろう。
【0194】
初代哺乳類細胞培養物は、様々な方式で調製され得る。インビトロにある間および発現構築物と接触させている間に細胞を生きた状態に保つために、該細胞は、正しい比率の酸素および二酸化炭素ならびに栄養素との接触を維持し、しかしながら微生物混入から保護されることを確実にすることが必要である。細胞培養技法は、十分に文書化されている。
【0195】
前述のうちの一態様は、タンパク質の産生のための細胞を不死化するために、遺伝子移入の使用を伴う。関心対象のタンパク質に対する遺伝子を、上記で記載されるように適当な宿主細胞内に移入し得、その後に適当な条件下での細胞の培養が続く。事実上任意のポリペプチドに対する遺伝子は、この様式で採用され得る。組換え発現ベクターの作製およびそこに含まれるエレメントは、上記で記述されている。あるいは、産生される対象となるタンパク質は、問題の細胞によって通常合成される内因性タンパク質であり得る。
【0196】
有用な哺乳類宿主細胞株の例は、VeroおよびHeLa細胞、ならびにチャイニーズハムスター卵巣、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、NIH3T3、RIN、およびMDCK細胞の細胞株である。加えて、挿入された配列の発現を変調する、または所望の様式で遺伝子産物を修飾しかつプロセシングする宿主細胞系統が選出され得る。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセシング(例えば、切断)は、該タンパク質の機能に重要であり得る。種々の宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセシングおよび修飾に関して、特徴的かつ特異的なメカニズムを有する。適当な細胞株または宿主システムは、発現した外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングを保証するように選出され得る。
【0197】
それぞれtk-、hgprt-、またはaprt-細胞におけるHSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むがそれらに限定されない、いくつかの選択システムを用い得る。また、耐性を付与するdhfr;ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt;アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo;およびハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroの選択の根拠として、代謝拮抗物質耐性を用いることができる。
【0198】
E.精製
ある特定の態様において、本開示の抗体を精製し得る。本明細書において用いられる「精製された」という用語は、他の構成要素から単離可能な組成物を指すことを意図され、タンパク質はその天然に獲得可能な状態と比べて任意の程度精製されている。したがって、精製されたタンパク質とは、それが天然に存在し得る環境から遊離したタンパク質も指す。「実質的に精製された」という用語が用いられる場合、この名称は、タンパク質またはペプチドが、組成物中のタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれを上回る割合をなすなど、組成物の主要な構成要素を形成している組成物を指す。
【0199】
タンパク質精製技法は、当業者に周知である。これらの技法は、あるレベルにおける、ポリペプチド性および非ポリペプチド性画分に対する、細胞環境の粗分画を伴う。他のタンパク質からポリペプチドを分離した場合、クロマトグラフィーおよび電気泳動による技法を用いて関心対象のポリペプチドをさらに精製して、部分的なまたは完全な精製(または均一性までの精製)を達成し得る。純粋なペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;等電点集束(isoelectric focusing)である。タンパク質精製のための他の方法には、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた沈殿、または熱変性それに続く遠心分離によるもの;ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティーによるクロマトグラフィー;ならびにそのようなものと他の技法との組み合わせが含まれる。
【0200】
本開示の抗体を精製することにおいて、原核生物または真核生物発現システムでポリペプチドを発現させ、かつ変性条件を用いてタンパク質を抽出することが望ましくあり得る。ポリペプチドは、該ポリペプチドのタグ化部分に結合するアフィニティーカラムを用いて、他の細胞構成要素から精製され得る。当技術分野において一般的に知られるように、様々な精製工程を行う順序は変化し得る、またはある特定の工程は省略され得、かつ実質的に精製されたタンパク質もしくはペプチドの調製にとって適切な方法をなおももたらし得ると思われる。
【0201】
一般に、完全抗体は、該抗体のFc部分に結合する物質(すなわち、プロテインA)を利用して分画される。あるいは、抗原を用いて、適当な抗体を同時に精製しかつ選択し得る。そのような方法は、カラム、フィルター、またはビーズなどの支持体に結合した選択物質をしばしば利用する。抗体を支持体に結合させ、混入物を取り除き(例えば、洗い流し)、かつ条件(塩、熱など)を適用することによって抗体は放出される。
【0202】
本開示に照らして、タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量化するための様々な方法は、当業者に公知であろう。これらには、例えば活性画分の特異的活性を判定すること、またはSDS/PAGE解析によって画分内のポリペプチドの量を査定することが含まれる。画分の純度を査定するための別の方法は、画分の特異的活性を算出し、それを初回抽出物の特異的活性と比較し、かつゆえに純度の程度を算出することである。活性の量を表すために用いられる実際の単位は、当然、精製に続くために選出された特定のアッセイ技法、および発現したタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を呈するか否かに依存する。
【0203】
ポリペプチドの移動は、SDS/PAGEの種々の条件によって、ときには大幅に変動し得る(Capaldi et al., 1977)。したがって、異なる電気泳動条件の下で、精製されたまたは部分的に精製された発現産物の見かけの分子量は変動し得ると解されるであろう。
【0204】
F.単鎖/単一ドメイン抗体
単鎖可変フラグメント(scFv)とは、短い(通常、セリン、グリシン)リンカーと一緒に連結された、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域の融合体である。単一ドメイン抗体としても知られるこのキメラ分子は、定常領域の取り除きおよびリンカーペプチドの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。この改変は、通常、特異性を変更させる。これらの分子は、抗原結合ドメインを単一ペプチドとして発現させることが非常に好都合であるファージディスプレイを容易にするために歴史的に創出された。あるいは、scFvは、ハイブリドーマに由来するサブクローニングされた重鎖および軽鎖から直接創出され得る。単一ドメインまたは単鎖可変フラグメントは、完全抗体分子に見出される定常Fc領域、ゆえに抗体を精製するために用いられる共通結合部位(例えば、プロテインA/G)を欠いている(単鎖抗体はFc領域を含む)。プロテインLはκ軽鎖の可変領域と相互作用するため、これらのフラグメントは、しばしばプロテインLを用いて精製/固定化され得る。
【0205】
可動性リンカーは、一般的に、アラニン、セリン、およびグリシンなどのヘリックスおよびターン促進性アミノ酸残基から構成される。しかしながら、他の残基が同様に機能し得る。Tangら(1996)は、タンパク質リンカーライブラリーから単鎖抗体(scFv)のための調整されたリンカーを迅速に選択する手段として、ファージディスプレイを用いた。重鎖および軽鎖可変ドメインに対する遺伝子が、可変組成の18アミノ酸ポリペプチドをコードするセグメントによって連結された、ランダムリンカーが構築された。scFvレパートリー(およそ5×106個の異なるメンバー)が繊維状ファージ上に提示され、かつハプテンによるアフィニティー選択に供された。選択された変種の集団は、結合活性の有意な増加を呈したが、相当な配列多様性を保持した。その後、1054個の個々の変種をスクリーニングすることにより、可溶性形態で効率的に産生される触媒活性を有するscFvが産出された。配列解析により、VH C末端の2残基後のリンカーにおける保存されたプロリン、ならびに選択された拘束体の唯一の共通の特質としての他の箇所におけるアルギニンおよびプロリンの豊富さが明らかとなった。
【0206】
本開示の組換え抗体は、受容体の二量体化または多量体化を可能にする配列または成分も伴い得る。そのような配列にはIgAに由来するものが含まれ、それはJ鎖と連動して多量体の形成を可能にする。別の多量体化ドメインは、Gal4二量体化ドメインである。他の態様において、鎖は、2種の抗体の組み合わせを可能にするビオチン/アビジンなどの作用物質で修飾され得る。
【0207】
別個の態様において、非ペプチド性リンカーまたは化学的単位を用いて受容体軽鎖および重鎖をつなぐことによって、単鎖抗体を創出することができる。一般的に、軽鎖および重鎖は、個別の細胞において産生され、精製され、かつその後適当な形式で一緒に連結される(すなわち、重鎖のN末端は、適当な化学的ブリッジを介して、軽鎖のC末端に付着する)。
【0208】
架橋試薬を用いて、2種の異なる分子、例えば安定剤および凝固剤の官能基を結ぶ分子ブリッジを形成する。しかしながら、同じ類似体の二量体もしくは多量体、または異なる類似体から構成されるヘテロ複合体を創出し得ることが企図される。2種の異なる化合物を段階的様式で連結するために、不要なホモポリマー形成を除去するヘテロ二官能性架橋剤が用いられ得る。
【0209】
例示的なヘテロ二官能性架橋剤は、2種の反応基を含有する:一方は第一級アミン基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)と反応し、かつ他方はチオール基(例えば、ピリジルジスルフィド、マレイミド、ハロゲンなど)と反応する。第一級アミン反応基を介して、架橋剤は、一方のタンパク質(例えば、選択された抗体またはフラグメント)のリジン残基と反応し得、かつチオール反応基を介して、すでに第一のタンパク質に結ばれた架橋剤は、他方のタンパク質(例えば、選択物質)のシステイン残基(遊離スルフヒドリル基)と反応する。
【0210】
血中で適度な安定性を有する架橋剤が採用されることが好ましい。ターゲティング剤と治療/予防剤とをコンジュゲートするために上手く採用され得る数々のタイプのジスルフィド結合含有リンカーが公知である。立体障害を受ける(sterically hindered)ジスルフィド結合を含有するリンカーは、インビボでより大きな安定性を与えることが判明し得、作用の部位に到達する前のターゲティングペプチドの放出が阻止される。ゆえに、これらのリンカーは、連結剤の1つの群である。
【0211】
別の架橋試薬はSMPTであり、それは、近接したベンゼン環およびメチル基によって立体障害を受けるジスルフィド結合を含有する二官能性架橋剤である。ジスルフィド結合の立体障害は、組織中および血中に存在し得るグルタチオンなどのチオレート陰イオンによる攻撃から該結合を保護する機能を果たし、それによって、付着した作用物質の標的部位への送達前のコンジュゲートの切り離しを阻止するのに役立つと思われる。
【0212】
SMPT架橋試薬は、他の多くの公知の架橋試薬と同様に、システインのSHまたは第一級アミンなどの官能基(例えば、リジンのεアミノ基)を架橋し得る能力を添える。別の考え得るタイプの架橋剤には、スルホスクシンイミジル-2-(p-アジドサリチルアミド)エチル-1,3'-ジチオプロピオネートなど、切断可能なジスルフィド結合を含有するヘテロ二官能性光反応性フェニルアジドが含まれる。N-ヒドロキシスクシンイミジル基は第一級アミノ基と反応し、かつフェニルアジドは(光分解があると)任意のアミノ酸残基と非選択的に反応する。
【0213】
障害を受ける架橋剤に加えて、障害を受けないリンカーも本明細書に従って採用され得る。保護されたジスルフィドを含有しないまたは作らないと見なされる他の有用な架橋剤には、SATA、SPDP、および2-イミノチオランが含まれる(Wawrzynczak & Thorpe, 1987)。そのような架橋剤の使用は、当技術分野において十分に理解されている。別の態様は、可動性リンカーの使用を伴う。
【0214】
米国特許第4,680,338号は、アミン含有ポリマーおよび/またはタンパク質とリガンドとのコンジュゲートを産生するために、とりわけキレート剤、薬物、酵素、検出可能な標識などとの抗体コンジュゲートを形成するために有用な二官能性リンカーを記載している。米国特許第5,141,648号および第5,563,250号は、多様な穏やかな条件下で切断可能である不安定結合を含有する切断可能なコンジュゲートを開示している。このリンカーは、関心対象の作用物質をリンカーに直接結合し得、切断とともに活性作用物質の放出をもたらすという点において特に有用である。特定の使用法には、遊離アミノ基または遊離スルフヒドリル基を、抗体などのタンパク質、または薬物に付加することが含まれる。
【0215】
米国特許第5,856,456号は、ポリペプチド構成物質を接続して、融合タンパク質、例えば単鎖抗体を作製することにおける使用のためのペプチドリンカーを提供している。リンカーは、長さが最高約50個のアミノ酸であり、プロリンが後に続く荷電アミノ酸(好ましくは、アルギニンまたはリジン)の少なくとも1個の発生率を含有し、かつより大きな安定性および凝集の低下を特徴とする。米国特許第5,880,270号は、多様な免疫診断技法および分離技法において有用なアミノオキシ含有リンカーを開示している。
【0216】
G.改変抗体
1.CAR
人工T細胞受容体(キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、キメラ抗原受容体(CAR)としても知られる)は、任意の特異性を免疫エフェクター細胞にグラフトする、操作された受容体である。典型的には、これらの受容体を用いて、レトロウイルスベクターによって促されるそれらのコード配列の移入とともに、モノクローナル抗体の特異性をT細胞にグラフトする。このようにして、多数のがん特異的T細胞を、養子細胞移入のために作製することができる。この手法の第I相臨床試験は、有効性を示している。
【0217】
これらの分子の最もよく見られる形態は、CD3-ζ膜貫通およびエンドドメインに融合された、モノクローナル抗体に由来する単鎖可変フラグメント(scFv)の融合体である。そのような分子は、その標的のscFvによる認識に応答して、ζシグナルの送信をもたらす。そのような構築物の例は、(ジシアロガングリオシドGD2を認識する)ハイブリドーマ14g2aに由来するscFvの融合体である14g2a-ζである。T細胞がこの分子を発現する場合(通常、オンコレトロウイルスベクターの形質導入によって達成される)、それらは、GD2を発現する標的細胞(例えば、神経芽細胞腫細胞)を認識しかつ殺傷する。悪性B細胞を標的とするために、研究者らは、B系統分子CD19に特異的なキメラ免疫受容体を用いてT細胞の特異性を変えている。
【0218】
免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変部分を可動性リンカーによって融合させて、scFvを形成する。新生タンパク質を小胞体およびその後の表面発現(これが切断される)に向かわせるシグナルペプチドが、このscFvに先行する。可動性スペーサーにより、scFvが種々の方向に向くことが可能となり、抗原結合を可能にする。膜貫通ドメインは、細胞内に突き出しかつ所望のシグナルを送信するシグナル伝達エンドドメインの元の分子に通常由来する典型的な疎水性αヘリックスである。
【0219】
I型タンパク質とは、実際には、その間で膜貫通αヘリックスによって連結された2つのタンパク質である。膜貫通ドメインが貫通する細胞膜脂質二重層は、外部部分(エクトドメイン)から内側部分(エンドドメイン)を隔てる作用をする。一方のタンパク質由来のエクトドメインをもう一方のタンパク質のエンドドメインに付着させることにより、前者の認識を後者のシグナルに結び付ける分子がもたらされることは、それほど驚きではない。
【0220】
エクトドメイン
シグナルペプチドは、新生タンパク質を小胞体に向かわせる。これは、受容体がグリコシル化されかつ細胞膜に固定されるべきである場合には必須である。任意の真核細胞シグナルペプチド配列が、通常見事に働く。一般的に、大部分のアミノ末端構成要素に天然に付着したシグナルペプチドが用いられる(例えば、軽鎖-リンカー-重鎖という配向を有するscFvでは、軽鎖の天然シグナルが用いられる)。
【0221】
抗原認識ドメインは、通常scFvである。しかしながら、多くの代替物が存在する。天然T細胞受容体(TCR)αおよびβ単鎖由来の抗原認識ドメインは、単純なエクトドメイン(例えば、HIV感染細胞を認識するCD4エクトドメイン)、および(サイトカイン受容体を所持する細胞の認識につながる)連結されたサイトカインなどのより外的な認識構成要素を有するものとして記載されている。実際には、所与の標的に高アフィニティーで結合するほぼ何もかもを、抗原認識領域として用いることができる。
【0222】
スペーサー領域は、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインに連結させる。それは、抗原結合ドメインが種々の方向に向いて抗原認識を促すのを可能にするのに十分可動性であるべきである。最も単純な形態は、IgG1由来のヒンジ領域である。代替物には、免疫グロブリンのCH2CH3領域およびCD3の一部分が含まれる。scFvに基づく大部分の構築物に関して、IgG1ヒンジで十分である。しかしながら、最良のスペーサーは、しばしば、経験的に決定される必要がある。
【0223】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、膜にわたる疎水性αヘリックスである。一般的に、エンドドメインの最も膜近位の構成要素由来の膜貫通ドメインが用いられる。興味深いことに、CD3-ζ膜貫通ドメインを用いることにより、天然CD3-ζ膜貫通の荷電アスパラギン酸残基の存在に依存している因子である、天然TCR内への人工TCRの組み入れがもたらされ得る。種々の膜貫通ドメインは、種々の受容体安定性をもたらす。CD28膜貫通ドメインは、元気に発現した安定な受容体をもたらす。
【0224】
エンドドメイン
これは、受容体の「仕事を果たす先端(business end)」である。抗原認識の後、受容体はクラスター化し、かつシグナルが細胞に送信される。最もよく用いられるエンドドメイン構成要素は、3つのITAMを含有するCD3-ζである。これは、抗原が結合した後、活性化シグナルをT細胞に送信する。CD3-ζは、十分に能力がある活性化シグナルを提供し得るわけではなく、付加的な共刺激シグナル伝達が必要とされる。例えば、キメラCD28およびOX40をCD3-ζとともに用いて、増殖/生存シグナルを送信することができる、または3つすべてを一緒に用いることができる。
【0225】
「第一世代」CARは、典型的に、内因性TCRからのシグナルの一次送信因子である、CD3ζ鎖由来の細胞内ドメインを有した。「第二世代」CARは、様々な共刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、41BB、ICOS)由来の細胞内シグナル伝達ドメインを、CARの細胞質テールに付加して、T細胞に付加的なシグナルを提供する。前臨床研究により、第二世代のCAR設計は、T細胞の抗腫瘍活性を向上させることが示されている。より最近では、「第三世代」CARは、CD3z-CD28-41BBまたはCD3z-CD28-OX40などの多重シグナル伝達ドメインを組み合わせて、有効性をさらに増大させる。
【0226】
CAR修飾されたT細胞は、事実上任意の腫瘍関連抗原を標的とするように操作され得るため、キメラ抗原受容体を発現するT細胞の養子移入は、有望な抗がん治療法である。この手法には、患者特異的ながん療法を多大に改善する大きな可能性がある。患者のT細胞の収集後、細胞は、該患者の腫瘍細胞上の抗原に特異的に向けられたCARを発現するように遺伝子操作され、次いで該患者に注入して戻される。CAR修飾されたT細胞の養子移入は、固有のかつ有望ながん療法であるものの、重大な安全上の懸案事項が存在する。この療法の臨床試験により、健常組織が腫瘍細胞と同じ標的抗原を発現する場合、これらCARの潜在的な毒性作用が明らかとなっており、移植片対宿主病(GVHD)と同程度の結果につながる。この問題に対する潜在的解決策は、修飾されたT細胞内に自殺遺伝子を操作することである。このようにして、GVHDの間に自殺遺伝子を活性化するように設計されたプロドラッグの投与は、自殺遺伝子が活性化されたCAR T細胞におけるアポトーシスを誘発する。この方法は、造血幹細胞移植(HSCT)において安全にかつ有効に用いられている。CAR修飾されたT細胞の養子細胞移入の臨床応用のための自殺遺伝子療法の採択は、全体的な抗腫瘍効力を向上させると同時に、GVHDを緩和する可能性を有する。
【0227】
2.ADC
抗体薬物コンジュゲート、つまりADCは、がんを有する人々の処置のための標的療法として設計された、新たなクラスの非常に強力な生物薬学的薬物である。ADCは、不安定結合を有する安定した化学的リンカーを介して、生物学的に活性な細胞傷害性(抗がん)の搭載物または薬物に連結された抗体(mAb全体、または単鎖可変フラグメント、つまりscFvなどの抗体フラグメント)から構成される複合分子である。抗体薬物コンジュゲートは、生物コンジュゲート(bioconjugate)および免疫コンジュゲートの例である。
【0228】
モノクローナル抗体の一意的なターゲティング能と細胞傷害性薬物のがん殺傷能力とを組み合わせることによって、抗体-薬物コンジュゲートは、健常組織と罹患組織との間の高感度な判別を可能にする。これは、伝統的な化学療法剤とは対照的に、抗体-薬物コンジュゲートは、健常細胞が重度に影響を受けにくいように、がん細胞を標的としかつ攻撃することを意味する。
【0229】
ADCに基づく抗腫瘍療法の開発において、抗がん薬物(例えば、細胞毒または細胞毒素)を、ある特定の腫瘍マーカー(例えば、理想的には腫瘍細胞の中または上にのみ見出され得るタンパク質;この場合にはMUC1)を特異的に標的とする抗体に共役させる。抗体は、身体内でこれらのタンパク質を追跡して捕らえ、かつそれら自身をがん細胞の表面に付着させる。抗体と標的タンパク質(抗原)との間の生化学的反応は、腫瘍細胞においてシグナルを誘発し、それは次いで、細胞毒素と一緒に該抗体を吸収するまたは内在化する。ADCが内在化した後、細胞傷害性薬物は放出されかつがんを殺傷する。このターゲティングにより、理想的には、薬物はより低い副作用を有し、かつ他の化学療法剤よりも広い治療域を与える。
【0230】
抗体と細胞傷害性(抗がん)物質との間の安定した連結は、ADCの決定的な局面である。リンカーは、ジスルフィド、ヒドラゾンもしくはペプチド(切断可能)、またはチオエーテル(切断不能)を含めた化学的モチーフに基づき、かつ標的細胞への細胞傷害性物質の分布および送達を制御する。切断可能および切断不能なタイプのリンカーは、前臨床および臨床試験において安全であることが証明されている。ブレンツキシマブ・ベドチンは、合成抗新生物物質である、強力かつ非常に有害な抗微小管物質のモノメチルアウリスタチンE、つまりMMAEをヒト特異的CD30陽性悪性腫瘍細胞に送達する、酵素感受性切断可能リンカーを含む。その高い毒性が理由で、チューブリンの重合を遮断することによって細胞分裂を阻害するMMAEは、単剤化学療法薬物としては用いられ得ない。しかしながら、抗CD30モノクローナル抗体(cAC10、腫瘍壊死因子つまりTNF受容体の細胞膜タンパク質)に連結されたMMAEの組み合わせは、細胞外液中で安定であり、カテプシンによって切断可能であり、かつ療法にとって安全であることが判明した。他の認可されたADCであるトラスツズマブ・エムタンシンは、安定した切断不能なリンカーによって付着された、メイタンシンの誘導体である微小管形成阻害剤メルタンシン(DM-1)とトラスツズマブ抗体(ハーセプチン(登録商標)/Genentech/Roche)との組み合わせである。
【0231】
より優れたかつより安定したリンカーの利用可能性は、化学結合の機能を変化させている。切断可能または切断不能なリンカーのタイプは、細胞傷害性(抗がん)薬物に特異的特性を添える。例えば、切断不能なリンカーは、薬物を細胞内に保つ。結果として、抗体全体、リンカー、および細胞傷害性(抗がん)物質は標的がん細胞に入り、そこで抗体はアミノ酸のレベルまで分解される。結果として生じる複合体であるアミノ酸、リンカー、および細胞傷害性物質は、ここで、活性を有する薬物になる。対照的に、切断可能なリンカーはがん細胞内の酵素によって触媒され、そこでそれは細胞傷害性物質を放出する。相違点は、切断可能なリンカーを介して送達される細胞傷害性搭載物は、標的細胞から脱出し得、かつ「バイスタンダー殺傷」と称される過程において近隣がん細胞を攻撃し得ることである。
【0232】
現在開発中の別のタイプの切断可能なリンカーは、細胞傷害性薬物と切断部位との間に余分な分子を付加する。このリンカー技術は、研究者らが、切断動力学を変化させることを心配することなく、より高い柔軟性を有するADCを創出することを可能にする。研究者らは、ペプチドにおけるアミノ酸をシーケンシングする方法であるエドマン分解に基づき、ペプチド切断の新たな方法も開発しつつある。ADCの開発におけるさらなる方向には、安定性指数および治療指数をさらに向上させる部位特異的コンジュゲート(TDC)、ならびにα放散性免疫コンジュゲートおよび抗体コンジュゲート型ナノ粒子の開発も含まれる。
【0233】
3.BitES
二重特異性T細胞エンゲージャー(engager)(BiTE)は、抗がん薬物としての使用について検討されている人工二重特異性モノクローナル抗体のクラスである。それらは、がん細胞に対する宿主の免疫系、より具体的にはT細胞の細胞傷害活性を指揮する。BiTEは、Micromet AGの登録商標である。
【0234】
BiTEは、約55キロダルトンの単一ペプチド鎖上にある、種々の抗体の2つの単鎖可変フラグメント(scFv)、または4種の異なる遺伝子由来のアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。scFvの一方は、CD3受容体を介してT細胞に結合し、かつ他方は、腫瘍特異的分子、この場合にはMUC1を介して腫瘍細胞に結合する。
【0235】
他の二重特異性抗体と同様に、かつ普通のモノクローナル抗体とは異なり、BiTEは、T細胞と腫瘍細胞との間に連結を形成する。これは、MHC Iまたは共刺激分子の存在とは関係なく、パーフォリンおよびグランザイムのようなタンパク質を産生することによって、T細胞に腫瘍細胞に対する細胞傷害活性を発揮させる。これらのタンパク質は、腫瘍細胞に入りかつ該細胞のアポトーシスを開始させる。この作用は、腫瘍細胞に対するT細胞攻撃の間に観察される生理学的過程を模倣している。
【0236】
2010年7月の時点で臨床試験にあったBiTEには、B細胞上に発現される表面分子であるCD19に向けられた、非ホジキンリンパ腫および急性リンパ芽急性白血病の処置のためのブリナツモマブ(MT103);ならびにEpCAM抗原に向けられた、消化管がんおよび肺がんの処置のためのMT110が含まれる。
【0237】
同じ技術を利用すると、黒色腫(MCSP特異的BiTEを用いて)および急性骨髄性白血病(CD33特異的BiTEを用いて)を標的とすることができる。この分野における研究は、現在進行中である。新規な抗がん療法への別の道は、トラスツズマブ(HER2/neuを標的とする)、セツキシマブおよびパニツムマブ(両方ともEGF受容体を標的とする)のような現在用いられている従来的抗体のいくつかを、BiTE手法を用いて再操作することである。CD66eおよびEphA2に対するBiTEが、同様に開発されつつある。
【0238】
4.ADCC
治療用抗体は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の誘導などの様々な方法で、悪性腫瘍の処置に用いられている。抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)は、免疫系のエフェクター細胞が、特異的な抗体がその膜表面抗原に結合した標的細胞を能動的に溶解する、細胞媒介性免疫防御のメカニズムである。
【0239】
過去数十年にわたって、ADCCは、治療用抗がん抗体の臨床効力の根底にある重大なメカニズムの1つとして特定されてきた。ADCCは、がん細胞上の細胞表面抗原に向けられた治療用抗体がその臨床効果を発揮する、鍵となるエフェクターメカニズムである。過程は、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、マクロファージ、および好酸球を含む、免疫系のエフェクター細胞上のFc受容体に対するIgGの結合を通じて媒介される。IgGのFcは、FCRI、FcRII、および主にFcRIIIaに結合する。
【0240】
IgGのFc領域は、CH2ドメインの各々においてAsn-297に保存されたグリコシル化部位を有する。この部位に発現されるN-結合型オリゴ糖は、IgGのエフェクター機能に対して有意な効果を有する。糖が操作された(glycoengineered)抗体の臨床応用に関して、IgG-FcのN-グリカンからのコアフコース残基の除去は、FcR受容体IIIa(FcRIIIa)に対するIgG結合の改善を通じて、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)の劇的な増強(>50倍)を結果としてもたらす(Yamane-Ohnuki et al., 2004;Iida et al., 2009)。いくつかの研究により、フコース残基の存在は、ADCC効率の著しい低下をもたらし得ることが実証された。いくつかの学術グループおよび製薬会社は、現在、無フコシル化(defucosylated)mAbを産生することができる新しい細胞株、例えば、酵素a-1,6-フコシルトランスフェラーゼをコードするFUT8遺伝子が欠失したCHO細胞株、またはバイセクトおよび非フコシル化オリゴ糖に富む抗体をもたらす組換えb-1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIを過剰発現するCHO細胞株の開発に焦点を合わせている。
【0241】
III.疾患の薬学的製剤および処置
A.がん
がんは、組織由来の細胞のクローン集団の増生により生じる。発がんと呼ばれるがんの発生は、いくつかの方式でモデル化され得かつ特徴付けされ得る。がんの発生と炎症との間の関連は長い間認識されてきた。炎症応答は、微生物感染に対する宿主防御に関与し、かつまた組織の修復および再生を推進する。相当な証拠により、炎症と、がんを発生させるリスクとの間のつながりが指摘されており、すなわち慢性炎症は異形成につながり得る。
【0242】
本開示の方法を適用し得るがん細胞には、MUC1を発現する、より特にMUC1を過剰発現する、概して任意の細胞が含まれる。適当ながん細胞は、乳がん、肺がん、結腸がん、膵臓がん、腎臓がん、胃がん、肝臓がん、骨がん、血液がん(例えば、白血病またはリンパ腫)、神経組織がん、黒色腫、卵巣がん、精巣がん、前立腺がん、子宮頸がん、膣がん、または膀胱がんの細胞であり得る。加えて、本開示の方法を、広範な種、例えばヒト、非ヒト霊長類(例えば、猿、ヒヒ、またはチンパンジー)、馬、牛、ブタ、ヒツジ、ヤギ、犬、猫、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスに適用することができる。がんは、再発性、転移性、かつ/または多剤耐性でもあり得、そして本開示の方法を特にそのようながんに適用して、それらを切除可能な状態にし得、寛解を長引かせ得もしくは再誘導し得、血管新生を阻害し得、転移を阻止し得もしくは限定し得、かつ/または多剤耐性がんを処置し得る。細胞レベルにおいて、これは、がん細胞を殺傷すること、がん細胞成長を阻害すること、またはそうでなければ腫瘍細胞の悪性表現型を逆転させるもしくは低下させることになり得る。
【0243】
B.炎症性疾患状態および病態
がん以外の疾患状態におけるMUC1の役割が、十分に確立されている。最近、Kufe et al. (2020)は、大腸炎および大腸がんへの進行におけるMUC1の役割について報告し(JCI Insight, 5(12):137112)、Alimova et al. (2020) は、SARS-CoV-2感染症および肺損傷におけるMUC1の役割について報告した(doi: 10.1101/2020.06.30.180380)。以下は、本明細書に記載される抗体およびそのフラグメントが使用され得る、炎症性潜在的疾患状態および障害の一般的な議論である。
【0244】
1.敗血症
敗血症は、感染によって引き起こされる全身の炎症状態を特徴とする、重篤な医学的状態である。伝統的に、敗血症(sepsis)という用語は、敗血症(septicaemia)および敗血症(septicemia)(「血液中毒」)と互換的に用いられてきた。しかし、これらの用語は、もはや同義とは考えられておらず、敗血症(septicemia)は、敗血症(sepsis)のサブセットと考えられている。
【0245】
敗血症の症状は、多くの場合、根底にある感染性過程に関連している。感染症が敗血症に移行した場合、結果として生じる症状は、全身性炎症反応症候群(SIRS)の症状:全身炎症、発熱、白血球数の増加(白血球増加症)、ならびに心拍数の上昇(頻脈)および呼吸数の上昇(頻呼吸)である。上記に次いで、症状にはまた、悪寒などの流感も含まれる。
【0246】
敗血症を引き起こす免疫学的反応は、炎症および凝固経路の広範な活性化を引き起こす、全身性炎症反応である。これが、循環系の機能不全に進行する場合があり、最適な処置下であっても、多臓器機能不全症候群、および最終的には死を結果としてもたらす場合がある。
【0247】
感染が高度に疑われるかまたは証明され、かつ以下の全身性炎症反応症候群(SIRS)基準のうちの2つ以上が満たされる場合には、敗血症が存在するとみなされる。
心拍数>90回/分
体温<36℃(96.8°F)または>38℃(100.4°F)
呼吸亢進(高い呼吸数)>20呼吸/分、または血液ガスについてPaCO2が32 mm Hg未満
白血球数<4000細胞/mm3または>12000細胞/mm3(<4×109細胞/Lまたは>12×109細胞/L)、または10%よりも多いバンドフォーム(未熟白血球)。
しかし、コンセンサスの定義は進化し続けており、最新のものは、ベッドサイドでの臨床経験を反映するように敗血症の徴候および症状のリストを拡大している。
【0248】
敗血症のより重大なサブセットは、重症敗血症(急性臓器機能不全を伴う敗血症)および敗血症性ショック(不応性動脈性低血圧を伴う敗血症)である。あるいは、全身性炎症反応症候群基準のうちの2つ以上が、感染の証拠を伴わずに満たされている場合、患者は単に「SIRS」と診断され得る。SIRSおよび急性臓器機能不全を有する患者は、「重症SIRS」と呼ばれ得る。
【0249】
患者は、敗血症に加えて、全身性低灌流の徴候;末端臓器機能不全または4 mmol/dLよりも多い血清乳酸のいずれかを有する場合には、「重症敗血症」を有すると定義される。患者は、敗血症に加えて、適切な輸液ボーラス(典型的には、20 ml/kgのクリスタロイド)後に低血圧を有する場合には、敗血症性ショックを有すると定義される。成人を敗血症と診断するための基準は、1ヶ月齢未満の乳児には適用されない。乳児においては、感染に加えて、感染に対する全身反応と矛盾しない徴候および症状の「一群」の存在のみが、診断に必要とされる。
【0250】
敗血症の治療は、抗生物質、感染した体液貯留の外科的ドレナージ、体液補充、および臓器機能不全に対する適切な支持に基づく。これには、腎不全における血液透析、肺機能不全における機械的換気、血液製剤の輸注、ならびに循環不全に対する薬物療法および輸液療法が含まれ得る。必要であれば非経口栄養法によって、妥当な栄養を確保することが、長引く疾病中に重要である。
【0251】
敗血症患者の妥当な管理における問題は、敗血症が認識された後の治療施与の遅れである。発表された研究により、適切な抗生物質治療の施与が1時間遅れるごとに、関連した死亡率の7%の上昇があることが実証されている。敗血症について人々を教育するため、および敗血症の患者転帰を改善するために、「敗血症生存キャンペーン(Surviving Sepsis Campaign)」と題する、大規模な国際協力が確立された。キャンペーンは、その後数年で完全なガイドラインのセットを公開することを目標として、重症敗血症のための管理戦略の証拠に基づく総説を公開している。
【0252】
炎症過程自体にねらいを定めたほとんどの治療は、転帰を改善することができなかったが、ドロトレコギンアルファ(凝固因子の一つである活性化プロテインC)は、重症敗血症において死亡率を約31%から約25%に減少させることが示されている。ドロトレコギンアルファに適格であるためには、患者は、25以上のAPACHE IIスコアおよび低い出血のリスクを伴う、重症敗血症または敗血症性ショックを有しなければならない。低用量ヒドロコルチゾン処置は、ACTH刺激試験によって定義されるような相対的副腎不全を有する敗血症性ショック患者について、有望性を示している。
【0253】
敗血症が疑われる乳児の標準的な処置は、支持療法、静脈内輸液での体液状態の維持、およびβ-ラクタム抗生物質(アンピシリンなど)とゲンタマイシンなどのアミノグリコシドとの併用からなる。
【0254】
2.外傷
身体的外傷とは、手足の切除などの、重篤なかつ身体を変化させる身体的傷害である。鈍器外傷は、鈍い物体からまたは鈍い物体で印加される衝撃または他の力によって引き起こされる身体的外傷のタイプであるのに対して、貫通性外傷は、皮膚または組織が物体によって突き刺される身体的外傷のタイプである。外傷はまた、事故などの計画されていないもの、または手術の場合の計画されたものの両方として説明することもできる。両方とも、軽度から重度の組織損傷、失血、および/またはショックを特徴とすることができ、両方とも、敗血症を含むその後の感染症をもたらし得る。本発明は、前処置(医学的手順の場合)および起こった場合の外傷傷害後の処置の両方を含む、外傷の処置を提供する。
【0255】
手術
手術は、疾患もしくは傷害などの病的状態を調査および/もしくは処置するため、身体機能または外観の改善を助けるため、または時にはいくつかの他の理由のために、患者に対して手術の手動のおよび器具による技法を用いる。本発明は、以下にさらに定義されるように、手術に起因する外傷に対処することができる。
【0256】
一般通則として、手順は、患者の組織の切断または以前に負った傷の閉鎖を伴う場合、手術とみなされる。血管形成術または内視鏡検査などの、この項目に必ずしも入らない他の手順は、無菌環境、麻酔、消毒条件、典型的な手術器具、および縫合またはステープリングの使用などの、一般的な外科的手順また設定を伴う場合には、手術とみなされ得る。すべての形態の手術は、侵襲的手順とみなされ;いわゆる非侵襲的手術は、通常、対処される構造を貫通しない切除(例えば、角膜のレーザーアブレーション)、または放射線外科的手順(例えば、腫瘍の放射線照射)を指す。手術は、数分から数時間続くことがある。
【0257】
外科的手順は、一般的に、緊急性、手順のタイプ、関与する身体系、侵襲性の程度、および特殊な器具によって分類される。選択的手術は、命に別状がない状態を補正するために行われ、外科医および手術施設が利用可能であることを条件として、患者の要望で行われる。緊急手術は、生命、手足、または機能的能力を救うために、迅速に行わなければならない手術である。探索的手術は、診断を助けるかまたは確認するために行われる。治療的手術は、以前に診断された状態を処置する。
【0258】
切断は、身体の一部、通常は手足または指を切り離すことを伴う。再移植は、切り離された身体の一部を再び取り付けることを伴う。再建手術は、負傷した、切断された、または変形した身体の一部の再構築を伴う。美容手術は、他の点では正常な構造物の外観を改善するために行われる。切除は、患者から臓器、組織、または他の身体の一部を切り取ることである。移植手術とは、臓器または身体の一部を、異なる人間(または動物)由来のべつのものを患者中に挿入することによる、置き換えである。移植における使用のために、生きているヒトまたは動物から臓器または身体の一部を取り出すこともまた、手術のタイプである。
【0259】
手術が1つの臓器系または構造に対して行われる場合、それは、関与する臓器、臓器系、または組織によって分類され得る。例には、心臓手術(心臓に対して行われる)、消化器手術(消化管およびその付属器官内で行われる)、ならびに整形外科手術(骨および/または筋肉に対して行われる)が含まれる。
【0260】
最小侵襲手術は、腹腔鏡手術または血管形成術におけるように、体腔または構造内に小型化した器具を挿入するための、より小さい外側切開を伴う。対照的に、開腹手術の手順は、関心対象の区域にアクセスするための大きな切開を必要とする。レーザー手術は、組織を切るために、メスまたは同様の手術器具の代わりにレーザーの使用を伴う。顕微手術は、外科医が小さな構造を見るための手術用顕微鏡の使用を伴う。ロボット手術は、Da VinciまたはZeus手術システムなどの手術用ロボットを使用して、外科医の指示の下で器具使用を制御する。
【0261】
外傷性出血
外傷性出血は、傷害の広い範囲にわたる国際的な影響の多くを占めており、死亡の大部分を引き起こし、負傷者において高い罹患率をもたらす。入院前ケアの違いにもかかわらず、外傷性出血の急性管理は、世界中で類似しており、広く受け入れられている公開されたガイドラインに従う。重傷患者のケアは、4つの、多くの場合に重なり合う区分:蘇生段階、手術段階、および集中治療段階として行われる。出血の診断および制御は、外傷ケアの段階のすべて中に最優先されるべきであり、特に、出血性ショック状態にある患者において重要である。出血制御の初期の試みには、重度の出血の目に見える源の直接圧迫、圧迫包帯、または止血帯での直接管理;長骨および骨盤骨折の安定化;および患者の保温が含まれる。蘇生段階中には、温めた静脈内輸液、出血の外科的制御の前の低血圧蘇生、ならびに血液および血液製剤の適切な輸注が提供される。手術段階においては、出血および任意の他の傷害の外科的制御、および追加の輸注が提供される。最後に、集中治療段階は、術後の支援および組織灌流を提供する。
【0262】
3.急性膵炎
急性膵炎は、急速に発症する膵臓の炎症である。それは、その重症度に応じて、処置にもかかわらず重度の合併症および高い死亡率を有し得る。軽度の症例は、多くの場合、保存的手段または腹腔鏡検査で処置に成功するが、重度の症例は、疾患過程を封じ込めるために侵襲的手術(多くの場合、1回よりも多い介入)を必要とする。
【0263】
4.急性呼吸窮迫症候群
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、呼吸窮迫症候群(RDS)または成人呼吸窮迫症候群(IRDSと対照的)としても知られており、肺への様々な形態の傷害に対する重篤な反応である。これは、透過性肺水腫の増加を結果としてもたらす、最も重要な障害である。
【0264】
ARDSは、様々な直接的および間接的な傷害によって引き起こされる、重症肺疾患である。それは、炎症を引き起こす炎症性メディエーターの付随する全身放出を伴うガス交換の障害、低酸素血症をもたらし、かつしばしば多臓器不全を結果としてもたらす、肺実質の炎症を特徴とする。この状態は、命を脅かし、多くの場合に致死的であり、通常、機械的換気および集中治療室への入院を必要とする。より重症でない形態は、急性肺損傷(ALI)と呼ばれる。
【0265】
ARDSは、傷害または急性疾病の発作の24~48時間以内に起こり得る。そのような症例において、患者は通常、息切れ、頻呼吸、および根底にある原因に関連した症状、すなわちショックを示す。マラリアなどの長期の疾病もまた、それを誘発することがある。そのうえ、ARDSは、時には、感染症の特に急性症例の発症後に起こり得る。
【0266】
動脈血ガス分析および胸部X線撮影により、前述の基準を用いた推論による正式な診断が可能である。重症低酸素血症が一般的には含まれるが、異常なPaO2を定義する適切な閾値は、体系的に研究されたことがない。肺水腫のいかなる心原性の原因も、除外されるべきである。これは、肺動脈楔入圧を測定するために肺動脈カテーテルを配置することによって、行うことができる。しかし、肺動脈カテーテルの使用は、ARDSを含む重大な疾病において患者転帰の改善をもたらさないことを実証する多くの証拠が出現したため、これは必要ではなく、今はめったに行われない。単純胸部X線撮影が、大部分の症例において両側の肺胞浸潤物を記録するのに十分である。CTスキャンは、ARDSにおける肺実質のより正確な画像をもたらすが、ARDSを有する患者の臨床管理にはほとんど有用性を有せず、主に研究用ツールのままである。
【0267】
急性呼吸窮迫症候群は通常、集中治療室における機械的換気で処置される。換気は通常、経口気管内挿管、または長期の換気(≧2週間)が避けられないと考えられる場合には、気管切開術を介して送達される。非侵襲的換気の可能性は、疾患の非常に初期に限定されるか、またはより良好には、疾患の発症のリスクがある個体(非定型肺炎、肺挫傷、大きな手術の患者)における予防に限定される。根底にある原因の処置は、それがARDSの病像を維持する傾向があるため、肝要である。微生物学的培養の結果が入手でき次第、適切な抗生物質療法を施与しなければならない。局所の微生物学的監視が効率的である場合には、経験的治療が適切であり得る。60%よりも多くのARDS患者が、肺傷害の発症の前または後のいずれかに(院内)肺感染症を経験している。感染源は、外科的に処置可能な場合は、手術しなければならない。敗血症と診断された場合は、適切な局所プロトコルが制定されるべきである。
【0268】
5.虚血再灌流傷害
再灌流傷害とは、虚血の期間後に、血液供給が組織に戻った時に引き起こされる組織に対する損傷を指す。血液からの酸素および栄養の不在は、循環の回復が、正常な機能の回復ではなく、酸化ストレスの誘導を介した炎症および酸化損傷を結果としてもたらす状態を作り出す。
【0269】
再灌流傷害の損傷は、一部、損傷した組織の炎症反応による。新たに戻った血液によってその区域に運ばれた白血球は、組織の損傷に応答して、インターロイキンなどの多数の炎症性因子およびフリーラジカルを放出する。回復した血流は、細胞内に酸素を再導入し、これが、細胞のタンパク質、DNA、および原形質膜を損傷する。細胞の膜に対する損傷は、次に、より多くのフリーラジカルの放出を引き起こす可能性がある。そのような反応種はまた、酸化還元シグナル伝達において間接的に作用して、アポトーシスをオンにする可能性もある。白血球がまた、小さな毛細血管に蓄積し、それらを閉塞して、より多くの虚血をもたらす可能性もある。
【0270】
再灌流傷害は、脳の虚血カスケードの一端を担い、これは、脳卒中および脳外傷に関与する。虚血および再灌流傷害の反復発作はまた、褥瘡および糖尿病性足潰瘍などの慢性創傷の形成および治癒の失敗をもたらす要因であると考えられる。継続的な圧力は、血液供給を制限して虚血を引き起こし、再灌流中に炎症が生じる。この過程が繰り返されるため、最終的に、創傷を引き起こすほど組織を損傷する。
【0271】
長期の虚血(60分以上)においては、ヒポキサンチンが、ATP代謝の分解産物として形成される。酵素キサンチンデヒドロゲナーゼは、より高い酸素の利用可能性の結果として、キサンチンオキシダーゼに変換される。この酸化により、酸素分子の、高い反応性のスーパーオキシドおよびヒドロキシルラジカルへの変換が、結果としてもたらされる。キサンチンオキシダーゼはまた、尿酸を産生し、これは、酸化促進剤、およびペルオキシナイトライトなどの反応種のスカベンジャーの両方として作用する可能性がある。再灌流中に産生される過剰な一酸化窒素は、スーパーオキシドと反応して、強力な反応種であるペルオキシナイトライトを産生する。そのようなラジカルおよび活性酸素種は、細胞膜の脂質、タンパク質、およびグリコサミノグリカンを攻撃し、さらなる損傷を引き起こす。それらはまた、酸化還元シグナル伝達によって、特定の生物学的過程を開始する可能性もある。
【0272】
6.心血管疾患
心血管疾患とは、心臓または血管(動脈および静脈)を巻き込む疾患のクラスを指す。用語は、技術的には、心血管系に影響を及ぼす任意の疾患を指すが、通常、アテローム性動脈硬化症 (動脈疾患) に関連する疾患を指すように用いられる。これらの状態は、類似した原因、メカニズム、および処置を有する。心血管疾患の処置は、各患者における疾患の具体的な形態に依存するが、有効な処置には常に、上記で議論される予防的なライフスタイルの変更が含まれる。血圧降下薬、アスピリン、およびスタチンコレステロール低下薬などの薬物療法が、助けになる可能性がある。いくつかの状況では、損傷した血管を再開するか、修復するか、または置換するために、手術または血管形成術が正当化される可能性がある。
【0273】
ほとんどの西洋諸国は、心血管疾患の高い、かつ増加する割合に直面している。毎年、心臓病は、がんよりも多くのアメリカ人を死亡させている。心臓の疾患単独は、全死亡の30%を引き起こし、心血管系の他の疾患は、実質的にさらなる死亡および身体障害を引き起こす。2005年まで、それは、米国およびほとんどの欧州諸国において死亡および身体障害の1番の原因であった。大規模な組織学的研究(PDAY)により、血管傷害は、青年期から蓄積し、一次予防努力を小児期から必要とすることが示された。
【0274】
いくつかのバイオマーカーは、心血管疾患のより詳細なリスクを提供すると考えられている。しかし、これらのバイオマーカーの臨床的価値は、疑問の余地がある。現在、心血管疾患のより高いリスクを反映し得るバイオマーカーには、以下が含まれる。
より高いフィブリノーゲンおよびPAI-1の血中濃度
ホモシステインの上昇、またはさらに正常値の上半分
非対称ジメチルアルギニンの血中レベルの上昇
C反応性タンパク質によって測定される高い炎症
B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の血中レベルの上昇
心血管疾患の様々な形態には、動脈瘤、狭心症、不整脈、アテローム性動脈硬化症、心筋症、脳血管疾患、先天性心疾患、うっ血性心不全、心筋炎、弁疾患、冠動脈疾患、拡張型心筋症、拡張機能障害、心内膜炎、高血圧(高血圧症)、肥大型心筋症、僧帽弁逸脱症、心筋梗塞、および静脈血栓塞栓症が含まれる。
【0275】
7.自己免疫疾患/炎症性疾患
本発明は、脊椎関節症、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、腸疾患性関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸疾患、炎症性腸疾患、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、家族性地中海熱、筋萎縮性側索硬化症、シェーグレン症候群、早期関節炎、ウイルス性関節炎、多発性硬化症、特発性肺線維症、または乾癬などの、様々な自己免疫疾患および/または炎症性疾患の状態の処置を企図する。これらの疾患の診断および処置は、文献に十分に記録されている。
【0276】
8.化学療法、放射線療法、およびサイトカイン療法の毒性
化学療法、放射線、およびサイトカインを含む様々な形態のがん療法は、がん患者において、時には重症の、毒性に関連している。毒性が、少なくとも一部、ヒストンの細胞外作用によって引き起こされる限り、本発明は、本発明の薬学的組成物を用いてこの毒性を低下させ、それによって、患者の側の不快感を低下させるかまたは緩和すること、およびより高い用量の治療を許容することを追求する。
【0277】
9.熱傷
医学において、熱傷とは、熱、冷気、電気、化学物質、摩擦、または放射線によって引き起こされる傷害であり得る。第1度熱傷は、通常、傷害の部位での発赤(紅斑)、白い斑、および軽症の痛みに限定されている。これらの熱傷は、通常、表皮中にのみ及ぶ。第2度熱傷は、追加的に、透明な液体で満たされ、皮膚の表在性水疱形成を有し、神経関与のレベルに応じて、より強いかまたはより弱い痛みを伴い得る。第2度熱傷は、表層(乳頭)真皮を巻き込み、かつまた深層(網状)真皮層も巻き込み得る。第3度熱傷は、追加的に、皮膚の炭化を有し、硬い革のような焼痂を生じる。焼痂とは、身体の影響を受けていない部分から分離された痂皮である。頻繁に、紫色の液体もある。これらのタイプの熱傷は、熱傷を負った区域において神経終末が破壊されているため、多くの場合に痛みがない。重篤な熱傷は、特に身体の広い区域にわたる場合には、死をもたらすことがあり;肺に対する熱傷のいずれかの兆候(例えば、煙の吸入を介した)は、医療的緊急事態である。
【0278】
筋肉または骨などの、皮膚の下にある組織を傷つける熱傷は、時には、第4度熱傷として分類される。これらの熱傷は、3つの追加的な程度に分けられ:第4度熱傷の結果、皮膚が回復不能に失われ、第5度熱傷の結果、筋肉が回復不能に失われ、第6度熱傷の結果、骨が炭化される。
【0279】
「表層(Superficial Thickness)」、「部分層(Partial Thickness)」(表層および深層カテゴリーに分類される)、ならびに「全層(Full Thickness)」というより新しい分類は、より正確に皮膚の表皮、真皮、および皮下層に関連しており、処置を手引きし、転帰を予測するために用いられる。
【0280】
化学熱傷は、通常、水酸化ナトリウム(アルカリ液)、硝酸銀、およびより深刻な化合物(例えば、硫酸)などの化学化合物によって引き起こされる。中等度から重度の化学熱傷を引き起こし得るほとんどの化学物質(すべてではない)は、強酸または強塩基である。酸化剤としての硝酸は、おそらく最悪の熱傷を引き起こす化学物質の1つである。フッ化水素酸は、骨まで侵食することがあり、その熱傷は多くの場合、すぐに明らかではない。中等度から重度の化学熱傷を引き起こし得るほとんどの化学物質は、苛性と呼ばれる。
【0281】
電気熱傷は、一般的に、電気ショック、雷に打たれたこと、導電性ゲルなしで除細動処置または電気除細動処置を受けたことなどの症状である。見られる「熱傷」は、電流の入口および出口の創傷のみであるため、負った内部傷害は、そのサイズに不釣り合いである可能性がある。
【0282】
熱傷は、部分層熱傷または全層熱傷によって影響を受けたパーセンテージである、全身表面積(TBSA)に換算して評価される(表層熱傷は集計されない)。九の法則が、患部TBSAを推定する迅速かつ有用な方法として用いられる。熱傷を有する人を管理する最初の工程は、燃焼過程を停止することである。乾燥粉末熱傷では、最初に粉末を払い落とすべきである。他の熱傷では、異物を除去し、燃焼過程を停止する手助けをするために、患部区域を、大量のきれいな水ですすぐべきである。冷水は、熱傷犠牲者の体温状態を重度に損なう可能性があるため、広範囲に熱傷を有する人には、決して適用するべきではない。管理のこの段階で、気道状態を評価することも重大である。患者が火災に巻き込まれた場合には、そうでないことが証明されるまで、吸入傷害を負ったと想定されなければならず、処置は、それに応じて管理されるべきである。
【0283】
燃焼過程が停止され、気道状態が確保されたら、患者を、パークランドの公式に従って体積蘇生させるべきである。この公式は、傷害後の最初の24時間に送達する乳酸リンゲル液の量が以下であると規定する:
液体=4cc×% TBSA×体重(kg)
% TBSAはいかなる第1度熱傷も除く。
この液体の半分を、傷害後の最初の8時間に与え、残りを、その後の16時間に与えるべきである。公式はガイドのみであり、輸液は、尿排出量および中心静脈圧に合わせて調整されなければならない。不適当な輸液蘇生は、腎不全および死を引き起こす。全層熱傷における重症浮腫は、焼痂切開術によって処置され得る。
【0284】
C.感染性疾患
炎症性疾患の別のカテゴリーは、ウイルス、細菌、真菌、および病原体を含む感染症のものである。MUC1が役割を果たすことが示されている具体的な感染性疾患は、SARS-CoV-2、ヒトパピローマウイルス、およびH.ピロリ感染症である。
【0285】
D.製剤および投与
本開示は、抗MUC1-C抗体を含む薬学的組成物を提供する。具体的な態様において、「薬学的に許容される」という用語は、動物における、より特にヒトにおける使用に関して、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって認可された、または米国薬局方もしくは他の一般的に認められている薬局方に列挙されたことを意味する。「キャリア」という用語は、それとともに治療法が施される希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的キャリアは、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油など、石油、動物性、植物性、または合成の起源のものを含めた、水および油などの滅菌した液体であり得る。他の適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、生理食塩水、ブドウ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが含まれる。
【0286】
組成物は、中性または塩の形態として製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなど、陰イオンで形成されたもの、および水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなど、陽イオンで形成されるものが含まれる。
【0287】
本開示の抗体は、古典的な薬学的調製物を含み得る。本開示に従ったこれらの組成物の投与は、標的組織がその経路を介して利用可能である限り、任意の一般的経路を介するものである。これには、経口、経鼻、口腔、直腸、膣内、または局所が含まれる。あるいは、投与は、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内注入によるものであり得る。そのような組成物は、通常、上記で記載される薬学的に許容される組成物として投与される。特に関心対象なのは、直接腫瘍内投与、腫瘍の灌流、あるいは例えば局部的もしくは領域的な血管系もしくはリンパ系における、または切除された腫瘍床における腫瘍への局部的もしくは領域的な投与である。
【0288】
活性化合物は、非経口的にまたは腹腔内にも投与され得る。遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製され得る。分散体は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中で、ならびに油中でも調製され得る。保管および使用についての普通の条件下で、これらの調製物は、微生物の成長を阻止する保存剤を含有する。
【0289】
E.組み合わせがん療法
本開示の状況において、本明細書において記載される抗MUC1-C抗体は、化学療法もしくは放射線療法による介入または他の処置と合わせて、同様に用いられ得ることも企図される。特に、抗MUC1-C/ECD抗体と、MUC1細胞質ドメインを標的とするペプチドおよび小分子など、MUC1機能の異なる局面を標的とする他の療法とを組み合わせることも有効であると判明し得る。
【0290】
本開示の方法および組成物を用いて、細胞を殺傷する、細胞成長を阻害する、転移を阻害する、血管新生を阻害する、またはそうでなければ腫瘍細胞の悪性表現型を逆転させるもしくは低下させるために、一般的に、「標的」細胞と、本開示に従った抗MUC1-C抗体および少なくとも1種の他の作用物質とを接触させる。これらの組成物は、細胞を殺傷するまたは細胞の増殖を阻害するのに有効な合わせた量で提供される。この過程は、細胞と、本開示に従った抗MUC1-C抗体および他の作用物質または因子とを同時に接触させる工程を伴い得る。これは、細胞と、両方の作用物質を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤とを接触させることによって、または細胞と、一方の組成物は本開示に従った抗MUC1-C抗体を含みかつ他方は他の作用物質を含む、2つの個別の組成物もしくは製剤とを同時に接触させることによって達成され得る。
【0291】
あるいは、抗MUC1-C抗体療法は、数分間から数週間に及ぶ間隔で、他の作用物質による処置に先行し得るまたはその後に続き得る。他の作用物質および抗MUC1-C抗体を細胞に別個に適用する態様において、一般的に、作用物質および発現構築物が、依然として細胞に対して有利に組み合わせた効果を発揮し得るであろうように、それぞれの送達の時間の間で大幅な期間が期限切れとならなかったことが保証される。そのような場合には、細胞と両方の様態とを互いの約12~24時間以内に、より好ましくは互いの約6~12時間以内に接触させ、約12時間のみの遅延時間が最も好ましいことが企図される。しかしながら、ある状況では、処置のための期間を大幅に延ばすことが望ましくあり得、それぞれの投与の間に数日間(2、3、4、5、6、または7)から数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8)が経過する。
【0292】
抗MUC1抗体または他の作用物質のいずれかの1回を上回る回数の投与が望まれるであろうことも考えられる。下記で例示されるように、本開示に従った抗MUC1-C抗体が「A」でありかつ他の療法が「B」である、様々な組み合わせが採用され得る。
【0293】
他の組み合わせが企図される。再度、細胞殺傷を達成するために、両方の作用物質は、細胞を殺傷するのに有効な合わせた量で細胞に送達される。
【0294】
がん療法に適した作用物質または因子には、細胞に適用した場合にDNA損傷を誘導する任意の化学的化合物または処置方法が含まれる。そのような作用物質および因子には、照射、マイクロ波、電子放散など、DNA損傷を誘導する放射線および波動が含まれる。「化学療法剤」または「遺伝毒性物質」としても記載されている多様な化学的化合物が用いられ得る。これは、局在した腫瘍部位を照射することによって達成され得る;あるいは、対象に治療上有効量の薬学的組成物を投与することによって、腫瘍細胞を作用物質と接触させ得る。
【0295】
様々なクラスの化学療法剤が、本開示との使用のために企図される。例えば、タモキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン(アフィモキシフェン(Afimoxfene))、フェソロデックス(Falsodex)、ラロキシフェン、バゼドキシフェン、クロミフェン、フェマレル(Femarelle)、ラソフォキシフェン、オルメロキシフェン、およびトレミフェンなどの選択的エストロゲン受容体アンタゴニスト(「SERM」)。
【0296】
有用であると企図される化学療法剤には、例えばカンプトテシン、アクチノマイシン-D、マイトマイシン-Cが含まれる。本開示は、シスプラチンとのX線の使用またはエトポシドとのシスプラチンの使用など、放射線に基づくものまたは実際の化合物にかかわらず、1種または複数種のDNA損傷作用物質の組み合わせの使用も包含する。作用物質は、それと上記で記載されるMUC1ペプチドとを組み合わせることによって、組み合わせた治療用組成物としてまたはキットとして調製され得かつ用いられ得る。
【0297】
ヒートショックタンパク質90は、多くの真核細胞に見出される調節タンパク質である。HSP90阻害剤は、がんの処置において有用であることが示されている。そのような阻害剤には、ゲルダナマイシン、17-(アリルアミノ)-17-デメトキシゲルダナマイシン、PU-H71、およびリファブチンが含まれる。
【0298】
DNAを直接架橋するまたは付加物を形成する作用物質も想定される。シスプラチンなどの作用物質、および他のDNAアルキル化剤が用いられ得る。シスプラチンは、合計3コースの間、3週間ごとに5日間20mg/m2という、臨床応用において用いられる有効用量で、がんを処置するために広く用いられている。シスプラチンは経口吸収されず、したがって静脈内への、皮下への、腫瘍内への、または腹腔内への注入を介して送達されなければならない。
【0299】
DNAに損傷を与える作用物質には、DNA複製、有糸分裂、および染色体分離を妨害する化合物も含まれる。そのような化学療法化合物には、ドキソルビシンとしても知られるアドリアマイシン、エトポシド、ベラパミル、ポドフィロトキシンなどが含まれる。新生物の処置のための臨床設定において広く用いられる場合、これらの化合物は、ドキソルビシンに関して21日間隔で25~75mg/m2から、エトポシドに関する静脈内への35~50mg/m2に及ぶ用量で静脈内へのボーラス注入により、または静脈内用量の2倍で経口的に投与される。タキサンなどの微小管阻害剤も企図される。これらの分子は、イチイ(Taxus)属の植物によって産生されるジテルペンであり、かつそれらには、パクリタキセルおよびドセタキセルが含まれる。
【0300】
イレッサなどの上皮成長因子受容体阻害剤、FK506結合タンパク質12-ラパマイシン関連タンパク質1(FRAP1)としても知られる、ラパマイシンの哺乳類標的であるmTORは、細胞成長、細胞増殖、細胞運動性、細胞生存、タンパク質合成、および転写を調節するセリン/スレオニンタンパク質キナーゼである。したがって、ラパマイシンおよびその類似体(「ラパログ(rapalog)」)が、本開示に従ったがん療法における使用のために企図される。
【0301】
別の考え得る療法は、全身性炎症に関与するサイトカインであり、かつ急性期反応を刺激するサイトカインのグループのメンバーであるTNF-α(腫瘍壊死因子-α)である。TNFの主要な役割は、免疫細胞の調節にある。TNFは、また、アポトーシス細胞死を誘導し得、炎症を誘導し得、かつ腫瘍形成およびウイルス複製を阻害し得る。
【0302】
核酸の前駆体およびサブユニットの合成および忠実度を混乱させる作用物質も、DNA損傷につながる。そのようなものとして、いくつかの核酸前駆体が開発されている。特に有用なのは、広範囲にわたる試験を受けておりかつ容易に入手可能である作用物質である。そのようなものとして、5-フルオロウラシル(5-FU)などの作用物質は、新生組織によって優先的に用いられ、新生細胞へのターゲティングにとってこの作用物質を特に有用にしている。かなり有害であるものの、5-FUは、局所性のものを含めた広範なキャリアに適用可能であるが、しかしながら3~15mg/kg/日に及ぶ用量での静脈内投与がよく用いられている。
【0303】
DNA損傷を引き起こしかつ広範囲にわたって用いられている他の因子には、γ線、x線として一般に知られているもの、および/または腫瘍細胞へのラジオアイソトープの指向性送達が含まれる。マイクロ波およびUV照射など、他の形態のDNA損傷因子も企図される。これらの因子のすべては、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の会合および維持に対して広範な損傷DNAをもたらす可能性が最も高い。x線に関する投与量範囲は、長期的期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単回線量に及ぶ。ラジオアイソトープに関する投与量範囲は幅広く変動し、かつ同位体の半減期、放散される放射線の強度およびタイプ、ならびに新生細胞による取り込みに依存する。
【0304】
加えて、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、および外科手術が用いられ得ることも企図される。特に、アバスチン、アービタックス、グリベック、ハーセプチン、およびリツキサンなどの標的療法を採用し得る。
【0305】
組み合わせ療法への特に有利な一手法は、MUC1を標的とする第二の作用物質を選択することである。本発明者らによって申請された同時係属中の出願において、少なくとも4個の連続したMUC1残基かつ多くて20個の連続したMUC1残基でありかつCQC配列を含むMUC1ペプチドであって、CQCのアミノ末端システインはそのNH
2末端上で、天然MUC-1膜貫通配列に対応する必要はない少なくとも1個のアミノ酸残基によって覆われているMUC1ペプチドを対象に投与する工程を含む、対象におけるMUC1陽性腫瘍細胞を阻害する方法が開示されている。該ペプチドは、少なくとも5個の連続したMUC1残基、少なくとも6個の連続したMUC1残基、少なくとも7個の連続したMUC1残基、少なくとも8個の連続したMUC1残基を含み得、かつ該配列は、より具体的には、
を含み得る。該ペプチドは、MUC1の多くて10個の連続した残基、11個の連続した残基、12個の連続した残基、13個の連続した残基、14個の連続した残基、15個の連続した残基、16個の連続した残基、17個の連続した残基、18個の連続した残基、または19個の連続した残基を含有し得る。該ペプチドは、ポリ-D-R、ポリ-D-P、またはポリ-D-Kなどの細胞送達ドメインに融合され得る。該ペプチドは、すべてのLアミノ酸、すべてのDアミノ酸、またはLおよびDアミノ酸の混合を含み得る。米国特許第8,524,669号を参照されたい。
【0306】
この技術に関するバリエーションが、米国特許出願第13/026,858号に記載されている。その出願では、少なくとも4個の連続したMUC1残基かつ多くて20個の連続したMUC1残基でありかつCQC配列を含むMUC1ペプチドであって、(i)CQCのアミノ末端システインはそのNH2末端上で、天然MUC1膜貫通配列に対応する必要はない少なくとも1個のアミノ酸残基によって覆われており;かつ(ii)該ペプチドは、天然MUC1残基に対応するそれらの正に帯電したアミノ酸残基に加えて、3~5個の連続した正に帯電したアミノ酸残基を含む、MUC1ペプチドと細胞とを接触させる工程を含む、MUC1陽性がん細胞を阻害する方法が開示されている。MUC1陽性細胞は、肺がん細胞、脳腫瘍細胞、頭頸部がん細胞、乳がん細胞、皮膚がん細胞、肝臓がん細胞、膵臓がん細胞、胃がん細胞、結腸がん細胞、直腸がん細胞、子宮がん細胞、子宮頸がん細胞、卵巣がん細胞、精巣がん細胞、皮膚がん細胞、または食道がん細胞などの固形腫瘍細胞であり得る。MUC1陽性細胞は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、または多発性骨髄腫などの白血病または骨髄腫の細胞であり得る。該ペプチドは、ステープルドペプチド、環化ペプチド、ペプチド模倣体、またはペプトイドであり得る。該方法は、第二の抗がん剤を該ペプチドの前に、該ペプチドの後に、または該ペプチドと同時に接触させるなど、細胞と第二の抗がん剤とを接触させる工程をさらに含み得る。阻害することには、がん細胞成長、がん細胞増殖を阻害すること、またはアポトーシスなどによってがん細胞死を誘導することが含まれ得る。
【0307】
本発明者らによって進歩した別の技術(米国特許出願第13/045,033号を参照されたい)は、細胞と
の構造を有するフラボンまたはその塩とを接触させる工程を含む、細胞における炎症性シグナル伝達を阻害する方法を伴い、式中、
R
1およびR
3は両方とも=Oではあり得ないという条件付きで、
R
1は、H、-OH、=O、置換されているまたは置換されていないアルキル(C
1~8)、アルコキシ(C
1~8)、ハロアルキル(C
1~8)、置換されているフェニルまたは置換されていないフェニルであり、R
1が=Oである場合、C
7-C
8は二重結合であり;
R
2は、H、-OH、アルキル(C
1~8)、置換されているフェニル、置換されていないフェニル、フェニル、フェニルチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、またはフランであり;
R
3は、H、-OH、=O、ハロゲン、ハロアルキル(C
1~8)、置換されているまたは置換されていないアルキル(C
1~8)、置換されているフェニルまたは置換されていないフェニルであり、R
3が=Oである場合、C
8-C
9は二重結合であり;
R
4は、Hまたは-OHであり;
R
5は、H、-OH、置換されているもしくは置換されていないアルキル(C
1~8)もしくはアルコキシ(C
1~8)、またはR
8がアルキル(C
1~8)、エステル、もしくはアミドであるOR
8であり;
R
6は、H、-OH、置換されているもしくは置換されていないアルキル(C
1~8)もしくはアルコキシ(C
1~8)、またはR
8がアルキル(C
1~8)、エステル、もしくはアミドであるOR
8であり;かつ
R
7は、H、-OH、または置換されているもしくは置換されていないアルキル(C
1~8)である。
【0308】
R1は、=Oであり得る。R3は、=Oであり得る。フラボンは、モリン、アピゲニン、ケンフェロール、フィセチン、PD98059、7-(ベンジルオキシ)-4-(トリフルオロメチル)-2H-クロメン-2-オン、もしくは7-[(3-オキソブタン-2-イル)オキシ]-4-フェニル-2H-クロメン-2-オン、または前述のもののいずれかの塩である。
【0309】
当業者であれば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第15編、第33章、特に624~652ページに方向づけられる。投与量のいくらかの変動は、処置されている対象の条件に応じて必然的に生じるであろう。いかなる場合でも、投与に対して責任がある人が、個々の対象に対する適当な用量を決定する。さらに、ヒト投与に関しては、調製物は、FDA生物製剤部(Office of Biologics)の規準によって要求される、無菌性、発熱原性、全般的安全性、および純度の規準を満たすべきである。
【0310】
IV.抗体コンジュゲート
抗体を少なくとも1種の作用物質に連結して、抗体コンジュゲートを形成し得る。診断剤または治療剤としての抗体分子の有効性を増加させるために、少なくとも1種の所望の分子または成分を連結させるまたは共有結合させるまたは複合させることが従来的である。そのような分子または成分は、少なくとも1種のエフェクターまたはレポーター分子であり得るが、それらに限定されるわけではない。エフェクター分子は、所望の活性、例えば免疫抑制/抗炎症を有する分子を含む。そのような分子の非限定的な例は、上記で示されている。そのような分子は、任意で、該分子が標的部位においてまたはその付近で放出されるのを可能にするように設計された切断可能なリンカーを介して付着される。
【0311】
対照的に、レポーター分子は、アッセイを用いて検出され得る任意の成分として定義される。抗体にコンジュゲートされているレポーター分子の非限定的な例には、ビオチンなど、酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、リン光性分子、化学発光分子、発色団、光親和性分子、着色粒子、またはリガンドが含まれる。
【0312】
抗体コンジュゲートは、一般的に診断剤としての使用に好ましい。抗体診断法は、一般的に、多様な免疫アッセイにおいてなど、インビトロ診断における使用のためのもの、および「抗体指向性イメージング」として一般的に知られる、インビボ診断プロトコールにおける使用のためのもの、という2つのクラスに分けられる。抗体へのそれらの付着のための方法がそうであるように、多くの適当なイメージング剤が当技術分野において公知である(例えば、米国特許第5,021,236号、第4,938,948号、および第4,472,509号を参照されたい)。用いられるイメージング用成分は、常磁性イオン、放射性同位体、蛍光色素、NMRにより検出可能な物質、およびX線イメージング剤であり得る。
【0313】
常磁性イオンの場合、例として、クロミウム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、および/またはエルビウム(III)などのイオンを挙げ得、ガドリニウムが特に好ましい。X線イメージングなど、他の状況において有用であるイオンには、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、およびとりわけビスマス(III)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0314】
治療的および/または診断的適用のための放射性同位体の場合、アスタチン211、14炭素、51クロミウム、36塩素、57コバルト、58コバルト、銅67、152Eu、ガリウム67、3水素、ヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム111、59鉄、32リン、レニウム186、レニウム188、75セレン、35硫黄、テクネチウム(technicium)99m、および/またはイットリウム90を挙げ得る。125Iは、ある特定の態様における使用にしばしば好ましく、かつテクネチウム99mおよび/またはインジウム111も、それらの低いエネルギーおよび長期にわたる検出に対する適切性が理由でしばしば好ましい。放射活性により標識されたモノクローナル抗体は、当技術分野において周知の方法に従って産生され得る。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムおよび/もしくはヨウ化カリウム、ならびに次亜塩素酸ナトリウムなどの化学的酸化剤またはラクトペルオキシダーゼなどの酵素的酸化剤との接触によってヨウ素化され得る。モノクローナル抗体は、配位子交換過程によって、例えばパーテクネテート(pertechnate)をスズ溶液で還元し、還元されたテクネチウムをSephadexカラムにキレートし、かつこのカラムに抗体を適用することによって、テクネチウム99mで標識され得る。あるいは、例えばパーテクネテート、SNCl2などの還元剤、フタル酸ナトリウム-カリウム溶液などのバッファー溶液、および抗体をインキュベートすることによる、直接標識技法が用いられ得る。中間官能基は、抗体にラジオアイソトープを結合させるためにしばしば用いられ、かつ金属イオンとして存在し、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(diaminetetracetic acid)(EDTA)である。
【0315】
コンジュゲートとしての使用のために企図される蛍光標識の中には、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、Cascade Blue、Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、Oregon Green 488、Oregon Green 500、Oregon Green 514、Pacific Blue、REG、Rhodamine Green、Rhodamine Red、レノグラフィン(Renographin)、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはTexas Redが含まれる。
【0316】
企図される別のタイプの抗体コンジュゲートは、抗体が二次的結合リガンドに、および/または発色性基質との接触があると着色産物を生成すると考えられる酵素(酵素タグ)に連結されている、主としてインビトロでの使用を意図されるものである。適切な酵素の例には、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(ホースラディッシュ)ペルオキシダーゼ(hydrogen peroxidase)、またはグルコースオキシダーゼが含まれる。好ましい二次的結合リガンドは、ビオチンおよびアビジンおよびストレプトアビジン化合物である。そのような標識の使用は当業者に周知であり、かつ例えば米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号、第3,996,345号、第4,277,437号、第4,275,149号、および第4,366,241号に記載されている。
【0317】
抗体への分子の部位特異的付着についてのさらに別の公知の方法は、抗体と、ハプテンに基づくアフィニティー標識との反応を含む。本質的に、ハプテンに基づくアフィニティー標識は、抗原結合部位におけるアミノ酸と反応し、それによってこの部位を破壊し、かつ特異的抗原反応を遮断する。しかしながら、それは、抗体コンジュゲートによる抗原結合の喪失をもたらすため、これは有利であり得るわけではない。
【0318】
アジド基を含有する分子を用いても、低強度の紫外線光によって生成される反応性ナイトレン中間体を介した、タンパク質への共有結合を形成し得る(Potter and Haley, 1983)。特に、プリンヌクレオチドの2-および8-アジド類似体は、粗細胞抽出物中のヌクレオチド結合タンパク質を同定するための部位指向性光プローブとして用いられている(Owens & Haley, 1987;Atherton et al., 1985)。2-および8-アジドヌクレオチドは、精製されたタンパク質のヌクレオチド結合ドメインをマッピングするためにも用いられており(Khatoon et al., 1989;King et al., 1989;Dholakia et al., 1989)、かつ抗体結合剤として用いられ得る。
【0319】
抗体のそのコンジュゲート成分への付着またはコンジュゲートのためのいくつかの方法が、当技術分野において公知である。一部の付着法は、抗体に付着した、例えばジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA);エチレントリアミン四酢酸;N-クロロ-p-トルエンスルホンアミド;および/またはテトラクロロ-3α-6α-ジフェニルグリコウリル(diphenylglycouril)-3などの有機キレート剤を採用した金属キレート複合体の使用を伴う(米国特許第4,472,509号および第4,938,948号)。モノクローナル抗体は、グルタルアルデヒドまたはペリオデートなどの共役剤の存在下で、酵素とも反応し得る。フルオレセインマーカーとのコンジュゲートは、これらの共役剤の存在下でまたはイソチオシアネートとの反応によって調製される。米国特許第4,938,948号において、乳房腫瘍のイメージングはモノクローナル抗体を用いて達成されており、かつ検出可能なイメージング用成分は、メチル-p-ヒドロキシベンズイミデートまたはN-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのリンカーを用いて抗体に結合されている。
【0320】
他の態様において、抗体結合(combining)部位を変更しない反応条件を用いて、免疫グロブリンのFc領域においてスルフヒドリル基を選択的に導入することによる、免疫グロブリンの誘導体化が企図される。この方法論に従って産生された抗体コンジュゲートは、向上した寿命、特異性、および感度を呈することが開示されている(参照により本明細書において組み入れられる米国特許第5,196,066号)。レポーターまたはエフェクター分子が、Fc領域における炭水化物残基にコンジュゲートされている、エフェクターまたはレポーター分子の部位特異的付着も文献において開示されている(O'Shannessy et al., 1987)。この手法は、診断上および治療上有望な抗体を産生することが報告されており、それは、現在臨床評価中である。
【0321】
V.免疫検出法
なおさらなる態様において、MUC1およびその関連抗原に結合する、それらを精製する、取り出す、定量化する、およびそうでなければ一般的に検出するための免疫検出法が存在する。一部の免疫検出法には、少し挙げるだけでも、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射免疫アッセイ(RIA)、免疫放射定量アッセイ、蛍光免疫アッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイ、およびウェスタンブロットが含まれる。特に、MUC1-C抗体の検出および定量のための競合アッセイも提供される。様々な有用な免疫検出法の工程は、例えばDoolittle and Ben-Zeev (1999)、Gulbis and Galand (1993)、De Jager et al. (1993)、およびNakamura et al. (1987)などの科学的文献に記載されている。一般的に、免疫結合法は、サンプルを獲得する工程、およびサンプルと本明細書において記述される態様に従った第一の抗体とを、場合によっては免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で、接触させる工程を含む。
【0322】
免疫複合体(一次免疫複合体)の形成を可能にするのに有効な条件下でかつ十分な期間、選出された生物学的サンプルと抗体とを接触させるとは、一般的に、抗体組成物をサンプルに単に添加し、かつ抗体が、存在しているMUC1と免疫複合体を形成するのに、すなわち存在しているMUC1に結合するのに十分長い期間、混合物をインキュベートするということである。この時間の後、一般的に、組織切片、ELISAプレート、ドットブロット、またはウェスタンブロットなどのサンプル-抗体組成物を洗浄して、任意の非特異的に結合した抗体種を取り除き、一次免疫複合体内に特異的に結合しているそうした抗体のみが検出されるのを可能にする。
【0323】
一般的に、免疫複合体形成の検出は当技術分野において周知であり、かつ数々の手法の適用を通じて達成され得る。これらの方法は、一般的に、それらの放射性タグ、蛍光性タグ、生物学的タグ、および酵素的タグのうちのいずれかなど、標識またはマーカーの検出に基づく。そのような標識の使用に関する特許には、米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号、第3,996,345号、第4,277,437号、第4,275,149号、および第4,366,241号が含まれる。当然、当技術分野において公知であるように、第二の抗体および/またはビオチン/アビジンリガンド結合編成など、二次的結合リガンドの使用を通じてさらなる利点を見出し得る。
【0324】
検出において採用される抗体それ自体を、検出可能な標識に連結し得、次いでこの標識を単に検出し、それによって組成物中の一次免疫複合体の量が判定されるのを可能にする。あるいは、一次免疫複合体内に結合されることになる第一の抗体は、該抗体に対する結合アフィニティーを有する第二の結合リガンドによって検出され得る。これらの場合、第二の結合リガンドは、検出可能な標識に連結され得る。第二の結合リガンドそれ自体がしばしば抗体であり、ゆえにそれは「二次」抗体と称され得る。二次免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下でかつ十分な期間、一次免疫複合体と、標識された二次的結合リガンドとを接触させる。一般的に、次いで二次免疫複合体を洗浄して、任意の非特異的に結合した標識された二次抗体またはリガンドを取り除き、次いで、二次免疫複合体における残りの標識を検出する。
【0325】
さらなる方法には、2工程手法による一次免疫複合体の検出が含まれる。抗体に対する結合アフィニティーを有する抗体など、第二の結合リガンドを用いて、上記で記載されるように二次免疫複合体を形成する。洗浄後、再度免疫複合体(三次免疫複合体)の形成を可能にするのに有効な条件下でかつ十分な期間、二次免疫複合体と、第二の抗体に対する結合アフィニティーを有する第三の結合リガンドまたは抗体とを接触させる。第三のリガンドまたは抗体は検出可能な標識に連結されており、ゆえに、形成された三次免疫複合体の検出が可能となる。このシステムは、これが所望される場合にはシグナル増幅を提供し得る。
【0326】
免疫検出の一方法は、2種の異なる抗体を用いる。第一のビオチン化抗体を用いて、標的抗原を検出し、次いで第二の抗体を用いて、複合したビオチンに付着したビオチンを検出する。その方法では、まず、試験される対象となるサンプルを、第一工程の抗体を含有する溶液中でインキュベートする。標的抗原が存在している場合、抗体の一部は抗原に結合して、ビオチン化抗体/抗原複合体を形成する。次いで、各工程が抗体/抗原複合体にさらなるビオチン部位を付加する、ストレプトアビジン(またはアビジン)、ビオチン化DNA、および/または相補的ビオチン化DNAの一連の溶液中におけるインキュベーションによって、抗体/抗原複合体を増幅する。適切なレベルの増幅が達成されるまで増幅工程を繰り返し、その時点で、ビオチンに対する第二工程の抗体を含有する溶液中でサンプルをインキュベートする。例えば、発色性基質を用いた組織酵素学によって抗体/抗原複合体の存在を検出するために用いられ得る酵素と同様に、この第二工程の抗体を標識する。適切な増幅とともに、肉眼で見えるコンジュゲートが産生され得る。
【0327】
免疫検出の別の公知の方法は、免疫PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)方法論の利点を生かす。PCR法は、ビオチン化DNAとのインキュベーションに至るまでCantor法と同様であり、しかしながら、多数回のストレプトアビジンおよびビオチン化DNAのインキュベーションを用いる代わりに、DNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体を、該抗体を放出する低pHまたは高塩のバッファーで洗い流す。次いで、結果として生じる洗浄液を用いて、適当な対照とともに、適切なプライマーを用いたPCR反応を行う。少なくとも理論上は、PCRの膨大な増幅能および特異性を利用して、単一抗原分子を検出することができる。
【0328】
A.ELISA
免疫アッセイとは、それらの最も単純な意味において、結合アッセイである。ある特定の好ましい免疫アッセイは、当技術分野において公知の、様々なタイプの酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および放射免疫アッセイ(RIA)である。組織切片を用いた免疫組織化学的検出も特に有用である。しかしながら、検出はそのような技法に限定されるわけではなく、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング、FACS解析なども用いられ得ることが容易に解されるであろう。
【0329】
1つの例示的なELISAでは、本開示の抗体を、ポリスチレン製マイクロタイタープレート中のウェルなど、タンパク質アフィニティーを呈する選択された表面上に固定化する。次いで、MUC1を含有することが疑われる試験組成物をウェルに添加する。結合させかつ洗浄して、非特異的に結合した免疫複合体を取り除いた後、結合している抗原が検出され得る。検出は、検出可能な標識に連結されている別の抗MUC1-C抗体の添加によって達成され得る。このタイプのELISAは、単純な「サンドイッチELISA」である。検出は、第二の抗MUC1-C抗体の添加、それに続く、該第二の抗体に対する結合アフィニティーを有する第三の抗体の添加によっても達成され得、該第三の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0330】
別の例示的なELISAでは、MUC1抗原を含有することが疑われるサンプルをウェル表面に固定化し、次いで抗MUC1-C抗体と接触させる。結合させかつ洗浄して、非特異的に結合した免疫複合体を取り除いた後、結合している抗MUC1-C抗体が検出される。当初の抗MUC1-C抗体が検出可能な標識に連結されている場合、免疫複合体は直接検出され得る。再度、免疫複合体は、第一の抗MUC1-C抗体に対する結合アフィニティーを有する第二の抗体を用いて検出され得、該第二の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0331】
採用される形式に関係なく、ELISAは、コーティング、インキュベーションおよび結合、非特異的に結合した種を取り除く洗浄、ならびに結合している免疫複合体の検出など、ある特定の特質を共通して有する。これらは下記で記載される。
【0332】
プレートに抗原または抗体のいずれかをコーティングすることにおいて、一般的に、プレートのウェルを、抗原または抗体の溶液とともに一晩または指定の時間インキュベートする。次いで、プレートのウェルを洗浄して、不完全に吸着した材料を取り除く。次いで、任意の残りの利用可能なウェルの表面を、試験抗血清に関して抗原的に中性である非特異的なタンパク質で「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、または粉ミルクの溶液が含まれる。コーティングは、固定化表面上の非特異的吸着部位のブロッキングを可能にし、ゆえに該表面への抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドを低下させる。
【0333】
ELISAでは、直接的な手順よりもむしろ、二次的または三次的な検出手段を用いることがおそらくより慣習的である。ゆえに、ウェルへのタンパク質または抗体の結合後、非反応性材料でコーティングしてバックグラウンドを低下させ、かつ洗浄して結合していない材料を取り除き、免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下で、固定化表面と試験される対象となる生物学的サンプルとを接触させる。次いで、免疫複合体の検出は、標識された二次的結合リガンドまたは抗体、および標識された三次抗体または第三の結合リガンドと併用した二次的結合リガンドまたは抗体を要する。
【0334】
「免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下」とは、該条件が、好ましくは、抗原および/または抗体を、BSA、ウシγグロブリン(BGG)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenなどの溶液で希釈する工程を含むことを意味する。これらの添加された作用物質も、非特異的バックグラウンドの低下を助ける傾向がある。
【0335】
「適切な」条件は、インキュベーションが、有効な結合を可能にするのに十分な温度におけるまたは十分な期間のものであることも意味する。インキュベーション工程は、典型的に、好ましくは25℃~27℃のオーダーにある温度で約1~2時間から4時間ほどである、または約4℃ほどで一晩であり得る。
【0336】
ELISAにおけるすべてのインキュベーション工程の後、接触させた表面を洗浄して、複合していない材料を取り除く。好ましい洗浄手順には、PBS/Tweenまたはホウ酸塩バッファーなどの溶液を用いた洗浄が含まれる。試験サンプルと、もともと結合している材料との間の特異的免疫複合体の形成、およびそれに続く洗浄の後、たとえ微量の免疫複合体の発生率でさえ判定され得る。
【0337】
検出手段を提供するために、第二または第三の抗体は、検出を可能にする関連付けされた標識を有する。好ましくは、これは、適当な発色性基質とインキュベートすると色の発生をもたらすと考えられる酵素である。ゆえに、例えば、さらなる免疫複合体形成の発生を支援する期間かつ条件下で(例えば、PBS-TweenなどのPBS含有溶液中にて室温で2時間のインキュベーション)、第一および第二の免疫複合体と、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはペルオキシダーゼコンジュゲート型抗体とを接触させるまたはインキュベートすることが望まれるであろう。
【0338】
標識された抗体とのインキュベーションの後、かつ結合していない材料を取り除く洗浄の後で、標識の量は、例えば尿素、またはブロモクレゾールパープル、または2,2'-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンゾチアゾリン(benzthiazoline)-6-スルホン酸(ABTS)、または酵素標識としてペルオキシダーゼの場合にはH2O2など、発色性基質とのインキュベーションによって定量化される。次いで、定量化は、例えば可視スペクトル分光光度計を用いて、生成された色の程度を測定することによって達成される。
【0339】
B.ウェスタンブロット
ウェスタンブロット(あるいは、タンパク質免疫ブロット)とは、組織のホモジネートまたは抽出物の所与のサンプルにおける特異的タンパク質を検出するために用いられる分析技法である。それは、ゲル電気泳動を用いて、ポリペプチドの長さによって(変性条件)、またはタンパク質の3-D構造によって(天然/非変性条件)、天然のまたは変性したタンパク質を分離する。次いで、タンパク質を膜(典型的には、ニトロセルロースまたはPVDF)に転写し、そこでそれらを、標的タンパク質に特異的な抗体を用いてプローブする(検出する)。
【0340】
サンプルは、組織全体からまたは細胞培養物から採取され得る。ほとんどの場合、固形組織は、まず、ミキサーを用いて(より大きなサンプル体積に対して)、ホモジナイザーを用いて(より小さな体積)、または超音波処理によって機械的に砕かれる。細胞も、上記の機械的方法のうちの1つによって破砕され得る。しかしながら、細菌、ウイルス、または環境サンプルはタンパク質の供給源であり得、ゆえにウェスタンブロッティングは、細胞研究のみに限られるわけではないことに留意すべきである。いろいろな界面活性剤、塩、およびバッファーを採用して、細胞の溶解を助長し得かつタンパク質を可溶化し得る。プロテーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤をしばしば添加して、それ自身の酵素によるサンプルの消化を阻止する。組織の調製をしばしば低温で行って、タンパク質が変性するのを回避する。
【0341】
サンプルのタンパク質は、ゲル電気泳動を用いて分離される。タンパク質の分離は、等電点(pI)、分子量、電荷、またはこれらの因子の組み合わせによるものであり得る。分離の性質は、サンプルの処理およびゲルの性質に依存する。これは、タンパク質を判定する非常に有用な方式である。単一サンプル由来のタンパク質を二次元に広げる二次元(2-D)ゲルを用いることも可能である。タンパク質は、第一の次元で等電点(それらが中性の正味電荷を有するpH)に従って、かつ第二の次元でそれらの分子量に従って分離される。
【0342】
タンパク質を抗体検出に利用しやすくするために、それらを、ゲル内から、ニトロセルロースまたはポリビニリデンジフルオリド(PVDF)から作製された膜へ移す。この膜をゲルの上面に置き、かつ積み重ねたろ紙をその上面に置く。積み重ねたもの全体をバッファー溶液中に置き、それは毛細管作用によって紙を上り、タンパク質をそれと一緒にする。タンパク質を転写するための別の方法はエレクトロブロッティングと称され、電流を用いて、ゲルからPVDFまたはニトロセルロース膜へタンパク質を引き抜く。タンパク質は、それらがゲル内で有した組織を維持しつつ、ゲル内から膜上へ動く。このブロッティング過程の結果として、タンパク質は、検出のための薄い表層上でむき出しになる(下記を参照されたい)。それらの非特異的タンパク質結合特性のために(すなわち、すべてのタンパク質に同様に等しく結合する)、両方の品種の膜が選出される。タンパク質結合は、疎水性相互作用、ならびに膜とタンパク質との間の電荷相互作用に基づく。ニトロセルロース膜はPVDFよりも安いが、はるかによりもろく、繰り返しのプローブに十分に耐えるわけではない。ゲルから膜へのタンパク質の転写の均一性および全体的有効性は、膜をクマシーブリリアントブルーまたはポンソーS色素で染色することによってチェックされ得る。いったん転写されると、標識一次抗体、または一次抗体のFc領域に結合する標識プロテインAもしくは標識二次抗体を用いた間接的検出が後に続く非標識一次抗体を用いて、タンパク質を検出する。
【0343】
C.免疫組織化学
抗体は、また、免疫組織化学(IHC)による調査のために調製される、新鮮凍結した組織ブロックおよび/またはホルマリン固定しパラフィン包埋した組織ブロックの両方と合わせて用いられ得る。これらの微粒子標本から組織ブロックを調製する方法は、様々な予後因子についての以前のIHC調査において上手く用いられており、かつ当業者に周知である(Brown et al., 1990;Abbondanzo et al., 1990;Allred et al., 1990)。
【0344】
簡潔には、50ngの凍結した「粉砕」組織を、小さなプラスチックカプセル中でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中にて室温で再水和し;粒子を遠心分離によってペレット形成し;粘性のある包埋溶剤(OCT)中にそれらを再懸濁し;カプセルを反転させかつ/もしくは遠心分離によって再度ペレット形成し;-70℃のイソペンタン中で瞬間凍結し;プラスチックカプセルをカットしかつ/もしくは凍結した組織の円柱を取り出し;クリオスタットミクロトームチャック上に組織円柱を取り付け;そして/またはカプセルから25~50枚の連続切片をカットすることによって、凍結切片を調製し得る。あるいは、凍結組織サンプル全体が、連続切片カットに用いられ得る。
【0345】
プラスチック製微量遠心チューブ中での50mgのサンプルの再水和;ペレット形成;10%ホルマリン中に4時間再懸濁して固定;洗浄/ペレット形成;温かい2.5%寒天中に再懸濁;ペレット形成;氷水中で冷却して寒天を硬化する;組織/寒天ブロックをチューブから取り出す;パラフィン中にブロックを浸潤させかつ/もしくは包埋する;そして/または最高50枚の連続永久切片をカットすることを伴う同様の方法によって、永久切片を調製し得る。再度、組織サンプル全体が代用され得る。
【0346】
D.免疫検出キット
なおさらなる態様において、上記で記載される免疫検出法との使用のための免疫検出キットが存在する。ゆえに、免疫検出キットは、適切な容器手段中に、MUC1抗原に結合する第一の抗体、および任意で、免疫検出試薬を含む。
【0347】
ある特定の態様において、MUC1-C抗体は、カラムマトリックスおよび/またはマイクロタイタープレートのウェルなど、固体支持体にあらかじめ結合され得る。キットの免疫検出試薬は、所定の抗体と関連付けされたまたは連結したそうした検出可能な標識を含めた、多様な形態のうちのいずれか1つを取り得る。二次的結合リガンドと関連付けされたまたはそれに付着した検出可能な標識も企図される。例示的な二次的リガンドは、第一の抗体に対する結合アフィニティーを有するそうした二次抗体である。
【0348】
本キットにおける使用のためのさらなる適切な免疫検出試薬には、第一の抗体に対する結合アフィニティーを有する二次抗体、それとともに、第二の抗体に対する結合アフィニティーを有する第三の抗体を含む2構成要素試薬が含まれ、該第三の抗体は検出可能な標識に連結されている。上記で述べられるように、多数の例示的な標識が当技術分野において公知であり、かつそのようなすべての標識は、本明細書において記述される態様に関連して採用され得る。
【0349】
キットは、検出アッセイのための標準曲線を準備するために用いられ得る、標識されているまたは標識されていないにかかわらない、MUC1抗原の適切に等分された組成物をさらに含み得る。キットは、完全にコンジュゲートした形態の、中間体の形態の、またはキットのユーザーによってコンジュゲートされる対象となる別個の成分としてのいずれかの抗体-標識コンジュゲートを含有し得る。キットの構成要素は、水性媒体状または凍結乾燥形態のいずれかでパッケージされ得る。
【0350】
キットの容器手段には、一般的に、その中に抗体が置かれ得る、または好ましくは適切に等分され得る、少なくとも1種のバイアル、試験管、フラスコ、瓶、シリンジ、または他の容器手段が含まれる。キットは、商業的販売のために密に閉じ込めた状態で抗体、抗原、および他の任意の試薬容器を含有するための手段も含む。そのような容器には、その中に所望のバイアルが保持される、射出成形またはブロー成形されたプラスチック容器が含まれ得る。
【実施例】
【0351】
VI.実施例
以下の実施例は、好ましい態様を実証するために含まれる。後に続く実施例において開示される技法は、態様の実践において上手く機能することが本発明者らによって発見された技法に相当し、ゆえにその実践のための好ましい様態をなすと見なされ得ることが、当業者によって解されるべきである。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変化が、開示されている具体的な態様においてもたらされ得、かつ依然として類似したまたは同様の結果を獲得し得ることを解するべきである。
【0352】
実施例1-方法
シーケンシング法
TRIzol(登録商標)試薬の技術マニュアルに従って、全RNAをハイブリドーマ細胞から単離した。次いで、PrimeScript(商標) 1st Strand cDNA Synthesis Kitの技術マニュアルに従って、アイソタイプ特異的アンチセンスプライマーまたはユニバーサルプライマーのいずれかを用いて、全RNAを逆転写させて、cDNAにした。重鎖および軽鎖の抗体フラグメントを、GenScriptのrapid amplification of cDNA ends(RACE)の標準操作手順(SOP)に従って増幅させた。増幅された抗体フラグメントを、別々に、標準的なクローニングベクター中にクローニングした。コロニーPCRを行って、正しいサイズのインサートを有するクローンをスクリーニングした。コンセンサス配列は提供された。
【0353】
ヒト化の材料および装置
pTT5発現ベクターおよびHEK293-6E細胞(GenScriptによって調製);37℃ CO2インキュベーター(Thermo Scientific、モデル3951);生物安全キャビネット(Thermo Scientific、モデル1384);オービタルシェーカー(Thermo Scientific、モデル416);ポリエチレンイミン(Polysciences、カタログ番号23966);FreeStyle 293培地(lifetechnologies、カタログ番号12338-018);TN1(Organotechnie、カタログ番号19553);125-ml振盪フラスコ(Corning、カタログ番号430421);500-ml振盪フラスコ(Corning、カタログ番号421145);Protein-Aレジン(GenScript、カタログ番号L00210);結合バッファー:0.15 M NaCl、20 mM Na2HPO4、pH 7.0;溶出バッファー:0.1 Mグリシン-HCl、pH 3.2;中和バッファー:1 Mトリス-HCl、pH 9.0;Biacore T200(GE Healthcare);Series S Sensor Chip CM5(GE Healthcare、カタログ番号BR-1005-30);HBS-EP:10 mM HEPES、150 mM NaCl、3 mM EDTA、0.005% Tween 20、pH 7.4;捕捉抗体:抗ヒトFcγ特異的抗体(Jackson ImmunoResearch、カタログ番号109- 005;NHS:H2O中100 mM N-ヒドロキシスクシンイミド;EDC:H2O中400 mM 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド;エタノールアミン:1 M エタノールアミン塩酸塩、NaOHでpH 8.5に調整;10 mM酢酸ナトリウム、pH 4.5;50 mM HCl;コーティングバッファー:0.05 M NaHCO3、pH 9.6;ブロッキングバッファー:5%スキムミルクを含むPBS;テトラメチルベンジジン(TMB、GenScript);1M HCl(GenScript);HCT116/MUC1細胞株(U0920DE100-A);サンプル:精製抗体(300 nMから希釈、3倍希釈、10希釈);アイソタイプ対照:ヒトIgG(300 nMから希釈、3倍希釈、10希釈);二次抗体:ヤギ抗ヒトIgG(H+L) iFluor 647(3μg/ml)。
【0354】
CDR移植による抗体のヒト化:アクセプターフレームワークの選択
親抗体の可変ドメイン配列を、NCBI Ig-Blast を用いて、ヒト生殖細胞系のデータベースにおいて検索した。各重鎖および軽鎖について、5種類の多様なヒトアクセプター(すなわち、親抗体に対して高い相同性を有するヒト可変ドメイン)を選択した。ヒトアクセプターのCDRを、マウス対応物で置き換え、ヒト化可変ドメイン配列を結果としてもたらした。軽鎖のヒト化可変ドメインを、VL1、VL2、VL3、VL4、およびVL5と名付けた。同様に、重鎖のヒト化可変ドメインを、VH1、VH2、VH3、VH4、およびVH5と名付けた。ヒト化軽鎖の配列を、付録Iに示す。
【0355】
キメラ抗体の結合確認
Ag MUC1-ECDに結合する抗体のアフィニティーを、表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーであるBiacore T200(GE Healthcare)を用いて決定した。抗体を、Fc捕捉法を介してセンサーチップ上に固定化した。抗原MUC1-ECDを、アナライトとして用いた。解離速度定数(kd)および会合速度定数(ka)のデータを、Biacore T200評価ソフトウェアを用いて取得した。見かけの平衡解離定数(KD)を、kaと比較したkdの比から計算した。
【0356】
ヒト化抗体の構築および産生
ヒト化IgG重鎖および軽鎖をコードするDNA配列を合成し、pTT5ベクター中に挿入して、全長IgGの発現プラスミドを構築した。25種類のヒト化抗体を、HEK 293細胞培養において発現させ、精製した。結合確認およびアフィニティーランク付けを、Biacore T200を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)によって試験した。
【0357】
ヒト化抗体のアフィニティーランク付け
抗ヒトFcγ特異的抗体を、アミンカップリング法を用いてセンサーチップ上に固定化した。培養培地に分泌された25種類のヒト化抗体に加えて親抗体を、個々に注入し、Fcを介して抗ヒトFc抗体によって捕捉させた(捕捉相)。平衡化後に、Ag MUC1-ECDを200秒間注入し(会合相)、その後、ランニングバッファーを600秒間注入した(解離相)。参照フローセル(フローセル1)のレスポンスを、各サイクル中のヒト化抗体フローセルのレスポンスから差し引いた。他のヒト化抗体の注入前に、表面を再生させた。すべての抗体を解析するまで、過程を繰り返した。ヒト化抗体のオフレートを、Biacore T200評価ソフトウェアを用いて、1:1相互作用モデルに実験データを局所的にフィットさせることにより取得した。抗体を、その解離速度定数(オフレート、kd)によってランク付けした。親抗体に類似したアフィニティーでAg MUC1-ECDと相互作用する結合物を、選択した。
【0358】
選択された抗体の産生およびアフィニティー測定
上位7種類の結合物を選択して、HEK293細胞培養において発現させた。培地に分泌された組換えIgGを、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。MUC1-ECDに結合する精製抗体のアフィニティーを、表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーであるBiacore T200を用いて決定した。抗体を、アミンカップリング法を介してセンサーチップ上に固定化した。抗原MUC1-ECDを、アナライトとして用いた。解離速度定数(kd)および会合速度定数(ka)を、Biacore T200評価ソフトウェアを用いて取得した。平衡定数(KD)は、kdまたはkaの比から計算した。
【0359】
ヒト化抗体のFACS滴定
HCT116/MUC1細胞(MUC1を発現するように操作されたヒト結腸がん細胞株)に対するヒト化抗体のアフィニティーランク付けのために、精製抗体をFACs滴定に供した。簡潔に述べると、HCT116/MUC1細胞を培養し、遠心分離によって回収した。1ウェル当たり約2.5×105細胞を、PBSで2回洗浄し、200μlの抗体の連続希釈液中で30分間、4℃でインキュベートした。PBSで洗浄した後、二次抗体(3μgのヤギ抗ヒトIgG(H+L) I Fluor 647)を細胞に加えて、30分間、4℃でインキュベートした。PBSで洗浄した後、FACS Calibur(BD Bioscience, San Jose, CA)およびFlowjoソフトウェアを用いることによって、細胞を、結合(EC50)について解析した。
【0360】
実施例2-結果
選択された抗体の産生およびアフィニティー測定。7種類の選択されたヒト化抗体を、発現させて精製した。従来の条件下では、少量のタンパク質沈殿がある。SDS-PAGEから評価すると、ヒト化IgGの純度はすべて、90%を上回る。7種類の精製IgGの収量を、表6に列記する。
【0361】
各抗体の結合データを処理し、Biacore T200評価ソフトウェアを用いて1:1相互作用モデルにフィッティングさせた。すべての実験データは、モデルに良好にフィッティングさせることができた(
図4)。表7に列記するように、7種類のヒト化抗体は、親キメラ抗体に匹敵する抗原結合アフィニティーを保持する。
【0362】
ヒト化抗体のFACS滴定
7種類の抗体の各々を、様々な濃度でHCT116/MUC1細胞に対するその結合能力について滴定し、結果を、表8に、および
図5にグラフ表示とともに述べる。
【0363】
結論
このプロジェクトにおいて、親抗体のヒト化に成功した。5種類のヒト化重鎖および5種類のヒト化軽鎖を設計し、合成して、発現ベクター中に挿入した。ヒト化抗体を発現させ、次いで、アフィニティーランク付け試験に用いた。最終的に、キメラ抗体に類似した結合アフィニティーを有する3種類のヒト化抗体を、送達のために精製した。
【0364】
【0365】
(表7)キメラ抗体およびヒト化抗体のアフィニティー測定
【0366】
(表8)キメラ抗体およびヒト化抗体のFACS滴定結合試験
【0367】
本明細書において開示されかつ主張される組成物および方法のすべては、本開示に照らして、過度の実験なしになされ得かつ遂行され得る。本開示の組成物および方法は、好ましい態様の観点から記載されているものの、本開示の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記載される組成物および方法に、ならびに方法の工程または工程の配列において、変動が適用され得ることは当業者に明らかであろう。より具体的には、両方とも化学的かつ生理学的に関連しているある特定の作用物質を、本明細書において記載される作用物質の代わりに置換し得ると同時に、同じまたは同様の結果が達成されるであろうことは明らかであろう。当業者に明らかであるそのようなすべての同様の代用物および改変は、添付の特許請求の範囲によって規定される、本開示の精神、範囲、および概念の内にあると見なされる。
【0368】
VII.参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書において示されるものに対して補足的である例示的な手順の詳細または他の詳細を提供する程度まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】