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特表2023-534968遺伝的に多様なHIV-1単離株に対するCRISPR/CAS9ガイドRNAの効率及び特異性のための方法及び組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-15
(54)【発明の名称】遺伝的に多様なHIV-1単離株に対するCRISPR/CAS9ガイドRNAの効率及び特異性のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230807BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230807BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230807BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230807BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230807BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/09 110
C12N15/55
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N15/867 Z
A61K31/7105
A61K48/00
A61K35/76
A61P31/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503084
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(85)【翻訳文提出日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 US2021041385
(87)【国際公開番号】W WO2022015702
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】63/051,212
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】523015714
【氏名又は名称】ハウエル アレクサンドラ エル
(71)【出願人】
【識別番号】523015725
【氏名又は名称】エスターハス スーザン ケイ
(71)【出願人】
【識別番号】523015736
【氏名又は名称】ヘイデン マシュー エス
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ハウエル アレクサンドラ エル
(72)【発明者】
【氏名】エスターハス スーザン ケイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイデン マシュー エス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB33
(57)【要約】
TTGGATGGTGCTTCAAGTTA(配列番号1)を含む5’LTRヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)配列に特異的に結合するガイドRNA(gRNA)が開示される。CTACAAGGGACTTTCCGCTG(配列番号2)を含む5’LTR HIV-1配列に特異的に結合するgRNAが開示される。TCTACAAGGGACTTTCCGCT(配列番号3)を含む5’LTR HIV-1配列に特異的に結合するgRNAが開示される。1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含む核酸配列であって、上記1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、核酸配列が開示される。1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含むベクターであって、1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、ベクターが開示される。細胞内の標的HIV-1 DNA配列の機能を阻害するため、又は細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去するための方法であって、細胞ゲノムを含み、細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(cas)タンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、1つ以上のgRNAが、標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、標的HIV-1 DNA配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択され、それによって、標的HIV-1 DNA配列の機能又は存在を阻害する、方法が開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TTGGATGGTGCTTCAAGTTA(配列番号1)を含む5’LTRヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)配列に特異的に結合する、ガイドRNA(gRNA)。
【請求項2】
CTACAAGGGACTTTCCGCTG(配列番号2)を含む5’LTR HIV-1配列に特異的に結合する、gRNA。
【請求項3】
TCTACAAGGGACTTTCCGCT(配列番号3)を含む5’LTR HIV-1配列に特異的に結合する、gRNA。
【請求項4】
Casタンパク質に結合する核酸配列を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のgRNA。
【請求項5】
1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含む核酸配列であって、前記1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、前記標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、核酸配列。
【請求項6】
casタンパク質をコードする核酸配列を更に含む、請求項5に記載の核酸配列。
【請求項7】
1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含むベクターであって、前記1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、前記標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、ベクター。
【請求項8】
前記ベクターが発現ベクターである、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
前記発現ベクターがウイルスベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
前記ウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
前記ベクターが、casタンパク質をコードする核酸配列を更に含む、請求項7~10のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項12】
細胞内の標的HIV-1 DNA配列の機能を阻害するための方法であって、細胞ゲノムを含み、前記細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、
1つ以上のgRNA、又は前記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及び
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(cas)タンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、
前記1つ以上のgRNAが、前記標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、前記標的HIV-1 DNA配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択され、
それによって、前記標的HIV-1 DNA配列の機能又は存在を阻害する、方法。
【請求項13】
細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去するための方法であって、細胞ゲノムを含み、前記細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、
1つ以上のgRNA、又は前記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及び
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(cas)タンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、
前記1つ以上のgRNAが、前記標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、前記標的HIV-1 DNA配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択され、
それによって、前記細胞ゲノムから前記標的HIV-1 DNA配列を除去する、方法。
【請求項14】
前記1つ以上のgRNAが、前記細胞ゲノムに結合しない、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ以上のgRNAが、2つ以上のHIVクレードのLTR領域を標的とすることができる、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記1つ以上のgRNAが、2つ以上のHIVクレードの前記LTR領域内の標的HIV-1 DNA配列にハイブリダイズする、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記標的HIV-1 DNA配列が配列番号1であり、前記1つ以上のガイドRNA、又は前記1つ以上のガイドRNAをコードする核酸が、配列番号1の配列又はその相補体を含む、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記標的HIV-1 DNA配列が配列番号2であり、前記1つ以上のガイドRNA、又は前記1つ以上のガイドRNAをコードする核酸が、配列番号2の配列又はその相補体を含む、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記標的HIV-1 DNA配列が配列番号3であり、前記1つ以上のガイドRNA、又は前記1つ以上のガイドRNAをコードする核酸が、配列番号3の配列又はその相補体を含む、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上のガイドRNA及び前記casタンパク質が、前記細胞内で複合体を形成し、前記複合体が、前記HIV-1 DNA配列を切断し、それによって前記標的HIV-1 DNA配列の前記機能又は存在を阻害する、請求項12~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記複合体が、5’LTR及び3’LTRで前記HIV-1 DNA配列を切断し、それによって前記標的HIV-1 DNA配列の前記機能又は存在を阻害する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記casタンパク質がcas9である、請求項12~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記casタンパク質が、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項12~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記casタンパク質が、核局在化配列を更に含む、請求項12~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記1つ以上のガイドRNAをコードする前記核酸、及び前記casタンパク質をコードする前記核酸が、発現ベクターに含まれる、請求項12~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記発現ベクターが、ウイルスベクターである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
接触させることは、前記細胞を、前記1つ以上のガイドRNAをコードする前記核酸及び前記casタンパク質をコードする前記核酸を含む1つ以上の発現ベクターと接触させることを含む、請求項12~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記接触ステップが、インビトロで行われる、請求項12~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
接触ステップが、インビボで行われる、請求項12~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
キットであって、
1つ以上のガイドRNA、又は前記1つ以上のガイドRNAをコードする核酸であって、前記ガイドRNAが標的HIV-1 DNA配列とハイブリダイズする、1つ以上のガイドRNA又は核酸と、
casタンパク質、又は前記casタンパク質をコードする核酸と、を含む、キット。
【請求項31】
ベクターのセットであって、
1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含むベクターであって、前記1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、前記標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、ベクターと、
casタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターと、を含む、ベクターのセット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
真核細胞内のゲノムDNAの標的切除のためのCRISPR/Cas9を含むRNA誘導エンドヌクレアーゼ(RGEN)の開発は、組み込まれたウイルス病原体の永続的な根絶のための潜在的なアプローチを提供した。CRISPR/Cas9遺伝子破壊は、Casエンドヌクレアーゼとともに、約20塩基対の標的DNA配列に相補的なガイドRNA配列を使用して、標的DNA領域に結合し、次いで切断する。Streptococcus pyogenesのCas9(SpCas9)が二本鎖DNAを効率的に切断するためには、ガイドRNAが結合する標的配列が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と称される「N-G-G」ヌクレオチド配列に対して5’に位置しなければならない。Cas9によって切断されると、内因性細胞のDNA修復機構である、最も顕著な非相同末端結合(NHEJ)が二本鎖切断(DSB)に作用し、エラーが起こりやすい修復機構を介して、小さな置換、挿入、又は欠失(インデル)を導入することができる。大きな欠失又は反転も、2つ以上の二本鎖切断を導入することによって達成することができる。ウイルス病原体に対するガイドRNA配列の設計において、ガイドRNAが正常な細胞遺伝子、特に細胞増殖、生存能及び代謝にとって重要な遺伝子に対する相補性を欠いていることを確認することが極めて重要である。CRISPRベースの治療薬は、HIVの場合のように宿主細胞ゲノムに組み込まれるか、又はB型肝炎ウイルスの共有結合的に閉じた環状DNA(cccDNA)のように染色体外体に存在するかのいずれかである、ウイルス遺伝子配列を標的とすることができる。抗ウイルスCRISPR治療戦略には、ウイルス感染に対する免疫若しくは耐性を改善するための宿主ゲノムの操作、又はウイルス遺伝子転写の干渉につながるウイルスゲノムの重要な成分の一部若しくは全てを切除するための組み込みウイルスの直接標的化が含まれる。HIV-1の場合、複数の群がHIV-1耐性を高めるための戦略を模索しており、最も顕著なのは、ケモカイン共受容体CCR5又はCXCR4をコードする遺伝子を破壊すること、及びHIV-1プロウイルスを不活性化又は欠失させるアプローチを使用することによるものである。
【0002】
優勢なHIV-1主要(M)群は、複数のクレードを含み、これは、長末端リピート(LTR)、並びにenv(エンベロープ)及びgag(群抗原)遺伝子を含むHIV-1ゲノムのいくつかの領域内の配列が異なる遺伝的サブタイプである。現在、14個のM群クレード(A1、A2、A3、A4、A6、B、C、D、F1、F2、G、H、J、及びK)が存在し、97個の循環組換え型(CRF)が報告されている(hiv.lanl.gov/content/sequence/HIV/CRFs/CRFs.html)。個々のサブタイプは、異なる地理的領域内で優勢であり得、普遍的な臨床適用性を有するウイルス特異的なCRISPRベースの治療法の設計を困難にしている。例えば、HIV-1Aは東アフリカで一般的であり、HIV-1Bはヨーロッパ及びアメリカで優勢な型である。アジアでは、HIV-1Aがロシアで優勢であり、HIV-1Cがインドで優勢であり、大陸全体、特に中国で多数のCRFが見られる。したがって、臨床的治療遺伝子編集アプローチの開発を検討する場合、ゲノムの保存領域内の複数のクレードに対してガイドRNAを試験することが重要である。
【発明の概要】
【0003】
本明細書に記載されるガイドRNAのうちの1つ以上が開示される。
【0004】
TTGGATGGTGCTTCAAGTTA(配列番号1)を含む5’LTRヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)配列に特異的に結合するガイドRNA(gRNA)が開示される。
【0005】
CTACAAGGGACTTTCCGCTG(配列番号2)を含む5’LTR HIV-1配列に特異的に結合するgRNAが開示される。
【0006】
TCTACAAGGGACTTTCCGCT(配列番号3)を含む5’LTR HIV-1配列に特異的に結合するgRNAが開示される。
【0007】
本明細書に記載される核酸配列のうちの1つ以上が開示される。
【0008】
1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含む核酸配列であって、上記1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、核酸配列が開示される。
【0009】
本明細書に記載されるベクターのうちの1つ以上が開示される。
【0010】
1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含むベクターであって、1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、ベクターが開示される。
【0011】
細胞内の標的HIV-1 DNA配列の機能を阻害するための方法であって、細胞ゲノムを含み、細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(cas)タンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、1つ以上のgRNAが、標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、標的HIV-1 DNA配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択され、それによって、標的HIV-1 DNA配列の機能又は存在を阻害する、方法が開示される。
【0012】
細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去するための方法であって、細胞ゲノムを含み、細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、
1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(cas)タンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、1つ以上のgRNAが、標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、標的HIV-1 DNA配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択され、それによって、細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去する、方法が開示される。
【0013】
開示される方法及び組成物の更なる利点は、以下の説明の一部に記載され、部分的に該説明から理解されるか、又は開示される方法及び組成物の実践によって学習され得る。開示される方法及び組成物の利点は、添付の特許請求の範囲で特に指摘される要素及び組み合わせによって実現され、達成される。前述の概要及び以下の発明を実施するための形態の両方は、単に例示的及び説明的であり、特許請求される発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0014】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、開示される方法及び組成物のいくつかの実施形態を例示し、説明と一緒に、開示される方法及び組成物の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】5’LTR配列のU3領域の一例を示す。ガイドRNAの4つの異なる標的領域の配列保存は、全てのクレードからの1242個の完全なHIV配列を利用して、hiv.lanl.govによるウェブ上でのアライメントによって得た。各標的領域のロゴは、特定の位置における各ヌクレオチドの確率を示す。PAM配列はボックスで囲まれており、灰色のボックスは、アライメントが失われたが、下流に再確立される複数のクレードにおける配列挿入及び欠失の部位を示す。分析した1,242個のHIV-1配列からのコンセンサス配列(太字フォントで示される)を、図2で用いられるプラスミド中のLTRの供給源であるNL4-3の配列(GenBank AF324493.2)と整列させた。4つのガイドの標的領域には下線が引かれ、PAM配列は赤いフォントである。括弧内の数字は、HIV-1 HBX2配列を参照した座標である。
図2A-2B】インビトロ切断アッセイで使用した2つのプラスミドのマップを示す。(図2A)緑色蛍光タンパク質遺伝子(緑色のeGFP)に隣接する5′及び3′LTR(NL4-3由来のHIV-1 LTR、青色の矢印として示される)を用いたプラスミドpNL-GFPの概略図。プラスミドを3つの断片に切断するXmn I及びKpn Iの制限酵素部位が記され、予想される断片サイズが示される。LTRガイドの標的部位は、PAMに最も近いヌクレオチドを表す数値によって記される。(図2B)プラスミドpBlue3’LTR-luc-Bの概略図。このプラスミドは、青い矢印として示される、pBluescript KS(+)に由来するLAI HIV-1の3’LTRを含有する。このプラスミドを各クレードの骨格として使用し、3’LTRを適切に対応するように置き換える。プラスミドを2つの断片に切断するXmn I及びEcoRIの制限酵素部位、並びにLTRg RNA 127及びgRNA 363の標的部位が記される。
図3A-3B】単一又は二重LTRガイドRNAで切断された断片化pNL-GFPのインビトロ分析が示される。左パネル:5’及び3’LTRに誘導された(図A)単一LTRガイド又は(図B)二重LTRガイドによって切断された断片化pNL-GFPのゲル画像。右パネル:試験した各ガイドの切断効率を、5’及び3’LTRについて独立して決定した。データは、3つの実験からの平均±SEMであり、対応のない両側T検定を用いて分析される;*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。結果は、5’及び3’LTRで1つのLTRガイド(右パネル、図3A)及び2つのLTRガイド(右パネル、図3B)によって切断されたpNL-GFPの切断を示す。
図4A-4D】複数のHIV-1クレードからの3’LTRの個々のgRNAによる切断を示す。(A)pBlue 3’LTR-luc-A~Gからの3’LTRのgRNA 127(図4A、上部パネル)及びgRNA 363(図4A、下部パネル)切断のゲル画像。(図4B)gRNA 127(図4B、上パネル)又はgRNA 363(図4B、下パネル)に対する各クレードの切断効率を定量した。データは、3つの実験からの平均±SEMであり、統計解析は、TukeyのHSD事後検定を用いた一元配置ANOVAを使用して決定された。全ての平均を互いに比較した。ガイド363で切断されたクレードについてのp値が表に見られる:*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。gRNA127で切断されたクレード間で顕著な差は見られなかった。(図4C)HIV-1参照配列HXB2(標的配列)に対するgRNA127(上)及びgRNA363(下)の標的配列間のDNA配列差(赤色で示される)。(図4D)切断周波数決定(CFD)は、パッケージpickle、re、及びnumpyを含むPythonバージョン2.7を使用して計算された。元のコードは、Doenchらから得た。
図5A-5D】1つ以上のLTRガイドRNAを有するTZM-bl細胞における5’LTRのCRISPR/Cas9切断を示す。遺伝子改変を、T7EIアッセイを用いて分析した。(図5A)ガイドRNA 363及び127によって、並びに組み合わせにおいて、増幅された5’LTR及びHPRT遺伝子への陽性遺伝子改変を示したT7E1アッセイによって得られたゲル画像の例。(図5B)T7E1消化後のPCR産物の予想される断片サイズ。(図5C)各ガイドRNA処理の遺伝子改変パーセントを、式:100×((1-(1-切断された断片))1/2)を用いて決定した。6つの実験からの平均データ±SEM。(図5D)3連からのルシフェラーゼレポーターアッセイの平均データ±SEM。統計解析は、TukeyのHSD事後検定を用いた一元配置ANOVAを使用して、パネルC及びDの両方について決定した。全ての平均を互いに比較した。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。
図6A】CIRCLE-Seqを用いたオン及びオフターゲット切断事象の評価を示す。CIRCLE-Seqは、TZM-bl細胞由来のDNAと、組換えSpCas9、並びに転写sgRNA 363(図6A)及びsgRNA 127(図6B)で形成されたRNPとを用いて行った。得られた配列決定データの分析により、示されるリードカウント数を有する示される切断事象を同定した。(図6C)CIRCLE-Seqによって同定された切断事象の注釈。タンパク質コード遺伝子のエクソン内では、オフターゲット事象は同定されなかった。示されるように、オフターゲット切断事象は、遺伝子間領域及びイントロン領域の両方内で生じた。
図6B】同上
図6C-1】同上
図6C-2】同上
図7A-7B】LTR配列のアライメントを示す。(図7A)HXB2 5’LTR(参照配列)及びpNL-GFP 5’LTR配列のアライメント。(図7B)HXB2 5’LTR(参照配列)及びpNL-GFP 3’LTR配列のアライメント。ガイド標的領域及びPAM領域は、それぞれ青色及び灰色のボックスで示される。ミスマッチは赤いフォントで示される。アライメントはSerial Cloner 2.6.1によって作製した。
図8A-8B】pNL-GFPのHIV-1 3’LTRに対するLTRガイド127の切断効率の決定を示す。(図8A)緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)に隣接する5’及び3’LTR(NL4-3由来のHIV-1 LTR、青い矢印として示される)を用いたプラスミドpNL-GFPの概略図。プラスミドを切断する制限酵素(Xmn I及びXho I)が示され、予想される断片サイズ及びガイドの標的部位が示される。(図8B)断片化されたpNL-GFPが5’及び3’LTRでLTR gRNA127によって切断されることを示すアガロースゲル。3’LTRについて、ガイド127の切断効率を決定した。切断効率データを図3Aに示す。
図9A-9B】gRNA 363及びgRNA 127の両方で切断されたTZM-bl細胞のDNAからICEソフトウェアによって生成された出力を示す。改変HIV-1の5’LTRを、T7E1アッセイの方法に記載されるようにPCRを使用して増幅した。PCR産物を、Monarch核酸精製キット(NEB、Ipswich,MA)を使用してクリーンアップし、逆方向プライマー(ACAGGCCAGGATTAACTGCGを使用して、Studio Seq Genetic Analyzer(ThermoFisher Scientific、Waltham,Ma)上で配列決定した。BigDye(商標)Terminator v3を用いた配列決定のために試料を調製した。1サイクルの配列決定を行い、BigDye XTerminator(商標)精製キット(ThermoFisher Scientific、Waltham,Ma)を使用して製造業者のプロトコルに従ってクリーンアップした。分析のために、AbファイルをICEソフトウェア(Synthego、Redwod City,CA)に保管した。(図9A)gRNA 363及びgRNA 127の切断部位にまたがる、未処理(対照)及び標的(遺伝子編集)試料の追跡ファイルセグメント。ガイド配列には下線が引かれ、PAM配列は赤い点線で示される。縦の破線は各RNPの切断部位を示す。(図9B)gRNA 363及び127によって標的化される試料内のICEによって計算されたインデル及びその相対有病率。
図10】インビトロ切断効率に関するガイドRNAと標的DNA領域との間のヌクレオチドミスマッチを示す。5’LTR(5’)又は3’LTR(3’)のいずれかに対する単一gRNAを用いたインビトロ切断効率を、ガイドRNAと標的DNA配列との間の対応する数(番号)のミスマッチに対してプロットした。予想通り、ミスマッチの数が増加するにつれて、切断効率が低下した。
図11】HIV-1クレードにわたるガイドRNA標的領域の保存を示す。濾過したウェブアライメント(http://www.hiv.lanl.gov)によって得られたクレードA、B、C、D、F、及びGからの標的領域を、gRNA 127、gRNA 363、gRNA 361、及びgRNA 278と整列させた。各ガイドについて、各位置における所望のヌクレオチド出現パーセントが報告されている。クレード内の全ての単離株が特定の位置に関する欠損ヌクレオチド情報を含む場合、「ギャップ」という用語が注目される。PAM領域は、gRNA 127及びgRNA 278の最初の3つのヌクレオチドである。PAM領域は、gRNA 363及びgRNA 361の最後の3つのヌクレオチドである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
開示される方法及び組成物は、特定の実施形態の以下の詳細な説明及びその中に含まれる実施例、並びに図及びそれらの前後の説明を参照することにより、より容易に理解され得る。
【0017】
開示される方法及び組成物は、別途指定されない限り、特定の合成方法、特定の分析技術、又は特定の試薬に限定されず、したがって、変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0018】
開示される方法及び組成物のために使用され得る、併用され得る、調製に使用され得る、又は生成物である材料、組成物、及び成分が開示される。これら及び他の材料が本明細書に開示され、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、群等が開示される場合、これらの化合物のそれぞれの様々な個々の及び集合的な組み合わせ及び順列に関する具体的な言及は明示的に開示されない場合があるが、それぞれが本明細書で具体的に企図され、記載されることを理解されたい。したがって、分子A、B、及びCのクラス、並びに分子D、E、及びFのクラス、並びに組み合わせ分子の一例であるA-Dが開示される場合、それぞれが個別に列挙されていなくても、それぞれが個別に及び集合的に企図される。したがって、この例では、A-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E、及びC-Fの組み合わせのそれぞれが具体的に企図され、A、B、及びC;D、E、及びF、並びに組み合わせA-Dの開示から開示されるとみなされるべきである。同様に、これらの任意のサブセット又は組み合わせも具体的に企図され、開示される。したがって、例えば、A-E、B-F、及びC-Eのサブグループは、具体的に企図され、A、B、及びC、D、E、及びF、並びに例示的な組み合わせA-Dの開示から開示されるとみなされるべきである。この概念は、開示される組成物の作製及び使用方法のステップを含むがこれらに限定されない、本出願の全ての態様に適用される。したがって、実行することができる様々な追加のステップが存在する場合、これらの追加のステップのそれぞれは、開示される方法の任意の特定の実施形態又は実施形態の組み合わせで実行することができ、そのような組み合わせは、具体的に企図され、開示されるとみなされるべきであることが理解される。
【0019】
A.定義
開示される方法及び組成物は、これらが変化し得るため、記載される特定の方法論、プロトコル、及び試薬に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0020】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうではないと示さない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「核酸配列」への言及は、複数のそのような核酸配列を含み、「ガイドRNA」への言及は、当業者に既知の1つ以上のガイドRNA及びその等価物への言及である等である。
【0021】
本明細書で互換的に使用される「ポリヌクレオチド」及び「核酸配列」という用語は、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのいずれかの、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。したがって、この用語には、限定されないが、一本鎖、二本鎖、又は多本鎖の、DNA若しくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、あるいはプリン及びピリミジン塩基、又は他の天然、化学的若しくは生化学的に修飾された、非天然、又は誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれる。「オリゴヌクレオチド」は、一般に、一本鎖又は二本鎖DNAの約5~約100ヌクレオチドのポリヌクレオチドを指す。しかしながら、本開示の目的のために、オリゴヌクレオチドの長さに上限は存在しない。オリゴヌクレオチドは、「オリゴマー」又は「オリゴ」としても知られており、遺伝子から単離されてもよいか、又は当該技術分野で既知の方法によって化学的に合成されてもよい。「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、記載されている実施形態に適用可能な場合、一本鎖(センス又はアンチセンス等)及び二本鎖ポリヌクレオチドを含むと理解されるべきである。
【0022】
本明細書で使用される場合、「ガイドRNA」、「gRNA」、及び「ガイド」という用語は、互換的に使用される。一実施形態において、gRNAはまた、gRNAをコードするDNAの形態で提供され得る。
【0023】
本明細書で使用される場合、「Casタンパク質」は、野生型タンパク質(すなわち、自然界に存在するもの)、修飾Casタンパク質(すなわち、Casタンパク質変異体)、又は野生型若しくは修飾Casタンパク質の断片であり得る。また、Casタンパク質は、野生型又は修飾Casタンパク質の触媒活性に関して、活性変異体又は断片であり得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、「選択的に結合する」とは、ガイドRNA又は組成物が、その標的(例えば、HIV-1のLTR)を認識し物理的に相互作用し、他の標的を顕著に認識し相互作用しないことを意味する。いくつかの態様において、全体を通して使用される「特異的に結合する」は、「選択的に結合する」又は「特異的に標的とする」と互換的に使用することができる。
【0025】
「治療する」とは、疾患の影響の悪化を予防若しくは遅延させるため、又は疾患の影響を部分的若しくは完全に逆転させるために、HIVに感染しているか、若しくはAIDSを発症する感受性が高い、又はHIVに感染しているか、若しくはAIDSにかかっているヒト若しくは他の哺乳動物(例えば、動物モデル)等の対象に、本発明の核酸配列、ベクター、又は組成物を投与することを意味する。
【0026】
「予防する」とは、対象がHIVに感染する又はAIDSを発症する高い感受性を有する可能性を最小限に抑えることを意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「投与すること」及び「投与」という用語は、開示されるポリペプチド、核酸配列、ベクター、組成物、又は医薬調製物を対象に提供する任意の方法を指す。そのような方法は、当業者に周知であり、経口投与、経皮投与、吸入による投与、経鼻投与、局所投与、膣内投与、眼内投与、耳内投与、脳内投与、直腸投与、舌下投与、口腔投与、及び非経口投与(静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、及び皮下投与等の注射剤を含む)を含むが、これらに限定されない。投与は、連続的又は間欠的であり得る。様々な態様において、調製物は、治療的に投与することができる、すなわち、既存の疾患又は状態を治療するために投与される。更なる様々な態様において、調製物は、予防的に投与され得る、すなわち、疾患又は状態の予防のために投与される。ある態様において、当業者は、対象を治療するため又はアポトーシスを誘発するために、開示される組成物又は開示されるコンジュゲートの有効な用量、有効なスケジュール、又は有効な投与経路を決定することができる。ある態様において、当業者は、開示されるポリペプチド、核酸配列、ベクター、組成物、又は医薬製剤の有効性を向上させるために、投与ステップの態様を変更又は改変することもできる。
【0028】
本明細書で提供される核酸配列、ベクター、又は組成物の「有効量」とは、所望の効果をもたらすのに十分な量の核酸配列、ベクター、又は組成物を意味する。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、及び一般的な状態、治療されている疾患(又は根底にある遺伝的欠陥)の重症度、使用される特定の組成物、その投与様式等に応じて、対象ごとに異なるであろう。したがって、正確な「有効量」を指定することは不可能である。しかしながら、適切な「有効量」は、日常的な実験のみを使用して当業者によって決定され得る。「治療有効量」という用語は、疾患、障害、及び/又は状態(例えば、AIDS)に罹患している若しくは感受性のある対象に投与されたときに、AIDS疾患、障害、及び/又は状態を治療する、緩和する、回復させる、症状を軽減する、予防する、発症を遅延させる、進行を阻害する、重症度を低減する、かつ/又は発生率を減少させるのに十分である治療薬、予防薬、及び/又は診断薬の量を意味する。
【0029】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、投与の標的、例えば、ヒトを指す。したがって、開示される方法の対象は、脊椎動物、例えば、哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類、又は両生類であり得る。「対象」という用語はまた、飼い慣らされた動物(例えば、ネコ、イヌ等)、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等)、及び実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ショウジョウバエ等)を含む。一態様において、対象は、哺乳類である。別の態様において、対象は、ヒトである。この用語は、特定の年齢又は性別を示すものではない。したがって、成人、小児、青年及び新生児、並びに胎児(男性又は女性にかかわらず)が包含されることが意図される。
【0030】
「ハイブリダイズ可能な」又は「ハイブリダイズする」又は「相補的」又は「実質的に相補的」とは、核酸(例えばRNA)が、適切な温度及び溶液イオン強度のインビトロ及び/又はインビボ条件下で、配列特異的な、アンチパラレルな様式で別の核酸に非共有結合する、すなわち、ワトソン・クリック塩基対及び/又はG/U塩基対を形成する、「アニールする」又は「ハイブリダイズする」ことを可能にするヌクレオチドの配列を含む(すなわち、核酸が相補的核酸に特異的に結合する)ことを意味する。当該技術分野で既知であるように、標準的なワトソン・クリック塩基対は、アデニン(A)とチミジン(T)との対合、アデニン(A)とウラシル(U)との対合、及びグアニン(G)とシトシン(C)との対合[DNA、RNA]を含む。加えて、2つのRNA分子(例えば、dsRNA)間のハイブリダイゼーションのために、グアニン(G)がウラシル(U)と塩基対合することも、当該技術分野で既知である。例えば、G/U塩基対は、mRNA中のコドンとtRNAアンチコドンとの塩基対合に関連して、遺伝暗号の縮重(すなわち、冗長性)に部分的に関与する。本開示に関連して、主題のDNA標的化RNA分子のタンパク質結合セグメント(dsRNA二重鎖)のグアニン(G)は、ウラシル(U)に対して相補的であると考えられ、逆もまた同様である。したがって、主題のDNA標的化RNA分子のタンパク質結合セグメント(dsRNA二重鎖)の所与のヌクレオチド位置でG/U塩基対が作製され得る場合、その位置は非相補的であるとはみなされず、代わりに相補的であるとみなされる。
【0031】
ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は周知であり、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(1989)、特にその第11章及び表11.1;並びにSambrook,J.and Russell,W.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(2001)に例示されている。温度及びイオン強度の条件は、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。
【0032】
ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補的な配列を含むことを必要とするが、塩基間のミスマッチは可能である。2つの核酸間のハイブリダイゼーションに適した条件は、当該技術分野で周知の変数である、核酸の長さ及び相補性の程度に依存する。2つのヌクレオチド配列間の相補性の程度が大きいほど、それらの配列を有する核酸のハイブリッドに対する融解温度(Tm)の値が大きくなる。短い相補性の区間(例えば、35以下、30以下、25以下、22以下、20以下、又は18以下のヌクレオチドにわたる相補性)を有する核酸間のハイブリダイゼーションの場合、ミスマッチの位置が重要になる(Sambrook et al.、上記、11.7~11.8を参照)。典型的には、ハイブリダイズ可能な核酸の長さは、少なくとも約10ヌクレオチドである。ハイブリダイズ可能な核酸の例示的な最小の長さは、少なくとも約15ヌクレオチド、少なくとも約20ヌクレオチド、少なくとも約22ヌクレオチド、少なくとも約25ヌクレオチド、及び少なくとも約30ヌクレオチドである。更に、当業者は、温度及び洗浄液の塩濃度が、相補領域の長さ及び相補性の程度等の要因に従って、必要に応じて調整され得ることを認識するであろう。
【0033】
ポリヌクレオチドの配列が、特異的にハイブリッド可能又はハイブリッド可能であるために、その標的核酸の配列と100%相補的である必要はないことは、当該技術分野で理解されている。更に、ポリヌクレオチドは、介在セグメント又は隣接セグメントがハイブリダイゼーション事象(例えば、ループ構造又はヘアピン構造)に関与しないように、1つ以上のセグメントにわたってハイブリダイズし得る。ポリヌクレオチドは、標的とする標的核酸配列内の標的領域に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%の配列相補性を含むことができる。例えば、アンチセンス化合物の20ヌクレオチドのうち18が標的領域に相補的であり、したがって、特異的にハイブリダイズするであろうアンチセンス核酸は、90パーセントの相補性を表す。この例では、残りの非相補的ヌクレオチドは、クラスター化されるか、又は相補的ヌクレオチドとともに散在してもよく、互いに又は相補的ヌクレオチドに隣接している必要はない。核酸内の核酸配列の特定の区間の間の相補性パーセントは、当該技術分野で既知のBLASTプログラム(基本的な局所アライメント検索ツール)及びPowerBLASTプログラム(Altschul et al.,J.Mol.Biol.,1990,215,403-410;Zhang and Madden,Genome Res.,1997,7,649-656)を使用して、又はGapプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix,Genetics Computer Group,University Research Park,Madison Wis.)を使用して、Smith and Waterman(Adv.Appl.Math.,1981,2,482-489)のアルゴリズムを用いるデフォルト設定を使用して、日常的に決定することができる。
【0034】
「任意選択的」又は「任意選択的に」とは、その後に記載される事象、状況、又は材料が発生又は存在してもしなくてもよく、その記載が、事象、状況、又は材料が発生又は存在する場合と、それが発生又は存在しない場合とを含むことを意味する。
【0035】
範囲は、本明細書では、「約」ある特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表され得る。そのような範囲が表現される場合、文脈が具体的にそうではないと示さない限り、ある特定の値から及び/又は他の特定の値までの範囲も具体的に企図され、開示されると考えられる。同様に、先行詞「約」の使用によって、値が近似値として表現される場合、特定の値は、文脈が具体的にそうではないと示さない限り、開示されているとみなされるべきである別の具体的に企図される実施形態を形成することが理解されるであろう。範囲の各々の終点は、文脈が具体的にそうではないと示さない限り、他の終点との関連において、及び他のエンドポイントとは独立して、顕著であることが更に理解されるであろう。最後に、文脈が具体的にそうではないと示さない限り、明示的に開示された範囲内に含まれる個々の値及び値の部分範囲の全てもまた具体的に企図され、開示されているとみなされるべきであることが理解されるべきである。上記は、特定の場合において、これらの実施形態の一部又は全てが明示的に開示されているかどうかにかかわらず、適用される。
【0036】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、開示される方法及び組成物が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様又は同等の任意の方法及び材料を、本方法及び組成物の実施又は試験に使用することができるが、特に有用な方法、デバイス、及び材料は、記載されている通りである。本明細書に引用される刊行物及びそれらが引用される資料は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。本明細書におけるいかなるものも、本発明が、先行発明のためにそのような開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。いかなる参考文献も先行技術を構成することを認めない。参考文献の議論は、著者が主張することを述べ、出願人は引用された文書の正確性及び妥当性に異議を申し立てる権利を留保する。いくつかの刊行物が本明細書で言及されているが、そのような言及は、これらの文書のいずれかが当該技術分野における共通の一般的知識の一部を形成することを認めるものではないことを明確に理解されたい。
【0037】
本明細書の説明及び特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」という単語及び該単語の変形例、例えば「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」は、「含むがこれらに限定されない」ことを意味し、例えば、他の添加剤、成分、整数又はステップを除外することを意図するものではない。特に、1つ以上のステップ又は動作を含むと記載される方法では、各ステップが(そのステップが「からなる」等の限定用語を含む場合を除き)列挙されるものを含むことが具体的に企図され、各ステップが、例えば、該ステップに列挙されていない他の添加剤、成分、整数、又はステップを除外することを意図するものではないことを意味する。
【0038】
B.核酸配列
本明細書に開示されるのは、ガイドRNA(gRNA)配列である。開示されるgRNA配列は、1つ以上の所望の標的配列に特異的であり得る。いくつかの態様において、gRNA配列は標的配列に特異的であり得、標的配列はHIV-1配列である。いくつかの態様において、HIV-1配列はHIV-1のLTR配列であり得る。例えば、標的配列は、配列番号1、2、又は3のうちの1つ以上であり得る。いくつかの態様において、gRNA配列は、細胞のゲノム内の標的配列とハイブリダイズする。いくつかの態様において、細胞は哺乳動物細胞であり得る。
【0039】
ガイド配列又は単一ガイド配列(例えば、gRNA又はsgRNA)は、標的配列とハイブリダイズして、CRISPR-Cas系又はCRISPR複合体の標的配列への配列特異的結合を誘導するのに十分な標的配列(ポリヌクレオチド配列)との相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列であり得る。いくつかの態様において、ガイド配列(例えば、gRNA)とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又はそれより大きい。いくつかの態様において、ガイド配列は、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50以上のヌクレオチドの長さ又はその間の任意の数である。gRNA及びsgRNAは、互換的に使用することができる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「標的配列」という用語は、ガイド配列(例えば、gRNA/sgRNA)が相補性を有するように設計される配列を指し、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性が存在する限り、完全な相補性が必ずしも必要ではない。標的配列は、DNA又はRNAポリヌクレオチド等の任意のポリヌクレオチドを含むことができる。いくつかの態様において、標的配列は、細胞の核又は細胞質に位置し得る。いくつかの態様において、標的配列は、真核細胞の小器官(例えば、ミトコンドリア)内に存在し得る。標的配列を含む標的遺伝子座への組換えに使用され得る配列又はテンプレートは、「編集用テンプレート」又は「編集ポリヌクレオチド」又は「編集配列」と称される。ある態様において、標的配列は、細胞増殖経路内の遺伝子をコードする核酸配列のうちの1つ以上から選択され得る。ある態様において、標的配列は、配列に関連する活性の阻害又は調節が対象にとって有益である任意の配列であり得る。例えば、本明細書に記載されるように、標的配列は、HIV-1配列、特にHIV-1のLTR配列であり得る。いくつかの態様において、「標的配列」及び「目的の遺伝子」という用語は、互換的に使用され得る。いくつかの態様において、標的配列は、標的HIV-1 DNA配列であり、この配列の阻害又は調節は、細胞中のHIV-1の機能又は存在の阻害をもたらす。
【0041】
TTGGATGGTGCTTCAAGTTA(配列番号1)を含む5’LTRヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)配列に特異的に結合するgRNAが開示される。
【0042】
CTACAAGGGACTTTCCGCTG(配列番号2)を含む5’LTR HIV-1配列に特異的に結合するgRNAが開示される。
【0043】
TCTACAAGGGACTTTCCGCT(配列番号3)を含む5’LTR HIV-1配列に特異的に結合するgRNAが開示される。
【0044】
本明細書に記載される核酸配列のうちの1つ以上が開示される。
【0045】
1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含む核酸配列であって、上記1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、核酸配列が開示される。
【0046】
いくつかの態様において、1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含む核酸配列であって、上記1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、核酸配列が開示される。
【0047】
本明細書に開示されるのはgRNAであり、gRNAは、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、標的配列は配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される。
【0048】
本明細書に開示されるのは、TTGGATGGTGCTTCAAGTTA(配列番号1)を含む5’LTRヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)配列とハイブリダイズするgRNAである。
【0049】
本明細書に開示されるのは、CTACAAGGGACTTTCCGCTG(配列番号2)を含む5’LTR HIV-1配列とハイブリダイズするgRNAである。
【0050】
本明細書に開示されるのは、TCTACAAGGGACTTTCCGCT(配列番号3)を含む5’LTR HIV-1配列とハイブリダイズするgRNAである。
【0051】
配列番号1、2又は3の配列を含む標的配列が開示される。CRISPR複合体の標的配列は、真核細胞に内因性又は外因性の任意のポリヌクレオチド配列であり得る。例えば、標的ポリヌクレオチドは、真核細胞の核内に存在するポリヌクレオチドであってもよい。標的配列は、遺伝子産物(例えば、タンパク質)又は非コード配列(例えば、調節ポリヌクレオチド又はジャンクDNA)をコードする配列であり得る。いくつかの態様において、標的配列は、細胞に感染したHIV-1等のウイルス由来の配列であり得る。標的配列は、PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)、すなわち、CRISPR複合体によって認識される短い配列に関連付けられるべきであると考えられる。PAMの正確な配列及び長さ要件は、使用されるCRISPR酵素によって異なるが、PAMは、典型的には、プロトスペーサーに隣接する2~5塩基対配列(すなわち、標的配列)である。当業者は、所与のCRISPR酵素とともに使用するための更なるPAM配列を同定することができるであろう。ある態様において、PAMは、NGG(式中、Nは、任意のヌクレオチド、(G)グアニン、(G)グアニンである)を含む。
【0052】
いくつかの態様において、本明細書に開示されるgRNAは、Casタンパク質に結合する核酸配列を更に含むことができる。
【0053】
いくつかの態様において、本明細書に開示されるgRNA配列、及びCasタンパク質をコードする配列のうちの1つ以上を含む核酸配列が開示される。いくつかの態様において、gRNAは、Casエンドヌクレアーゼに結合し、リボ核タンパク質複合体(RNP)を形成し、標的核酸(例えば、標的配列)内の特定の位置に複合体を標的とする、核酸分子である。ある場合には、gRNAがRNA塩基に加えてDNA塩基を含むように、ハイブリッドDNA/RNAを作製することができるが、「gRNA」という用語は依然として、本明細書でそのような分子を包含するために使用されることを理解されたい。
【0054】
本明細書に記載される場合、gRNAは、標的化セグメント(CRISPR RNA(crRNA))及びタンパク質結合セグメント(トランス活性化crRNA(tracrRNA))の2つのセグメントを含むことができる。gRNAの標的化セグメントは、標的核酸(例えば、ウイルスゲノム)内の特異的配列(標的配列)に相補的である(したがって、それとハイブリダイズする)ヌクレオチド配列(ガイド配列)を含む。タンパク質結合セグメント(又は「タンパク質結合配列」)は、Cas12d又はCas12eエンドヌクレアーゼと相互作用する(結合する)。gRNAのタンパク質結合セグメントは、互いにハイブリダイズして二本鎖RNA二重鎖(dsRNA二重鎖)、又はステムループを形成する、2つの相補的なヌクレオチドの区間を含む。標的核酸(例えば、ウイルスDNA)の部位特異的結合及び/又は切断は、gRNA(gRNAのガイド配列)と標的核酸の標的配列との間の塩基対相補性によって決定される位置(例えば、標的遺伝子座の標的配列)で生じ得る。
【0055】
gRNA及びCasエンドヌクレアーゼは、複合体を形成する(例えば、非共有結合相互作用を介して結合する)。gRNAは、ガイド配列(標的核酸の標的配列に相補的なヌクレオチド配列)を含む標的化セグメントを含むことによって、複合体に対する標的特異性を提供する。複合体のCasエンドヌクレアーゼは、部位特異的活性(例えば、Casエンドヌクレアーゼによって提供される切断活性)を提供する。換言すれば、Casエンドヌクレアーゼは、gRNAとの会合により、標的核酸配列(例えば、標的配列)に誘導される。
【0056】
いくつかの態様において、gRNAは、crRNA及びtracrRNAの両方を含む単一ガイドRNA(sgRNA)であり得る。いくつかの態様において、gRNAは、crRNA及びtracrRNAがハイブリダイズした後に形成され得(例えば、それらは相補的セグメントを有する)、したがって、crRNAの標的化配列が標的配列に結合することを可能にする一方で、tracrRNAのタンパク質結合セグメントは、エンドヌクレアーゼをもたらし、次いで標的配列を切断することができる。
【0057】
gRNAの標的化セグメントは、標的核酸中の配列(標的配列、例えば、配列番号1、配列番号2、又は配列番号3)に相補的なヌクレオチド配列であるガイド配列(すなわち、標的化配列)を含む。換言すれば、gRNAの標的化セグメントは、ハイブリダイゼーション(すなわち、塩基対合)を介して、配列特異的な様式で、標的核酸(例えば、ウイルスゲノム)と相互作用することができる。gRNAのガイド配列は、標的核酸(例えば、ウイルスゲノム)内で(例えば、PAMを考慮しながら、例えば、dsDNA標的を標的とする場合に)任意の所望の標的配列にハイブリダイズするように修飾(例えば、遺伝子工学によって)/設計することができる。
【0058】
一部の実施形態では、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、60%以上(例えば、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、80%以上(例えば、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、90%以上(例えば、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは100%である。
【0059】
ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、19個以上(例えば、20個以上、21個以上、22個以上)の連続したヌクレオチドにわたって、60%以上(例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、19個以上(例えば、20個以上、21個以上、22個以上)の連続したヌクレオチドにわたって、80%以上(例えば、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、19個以上(例えば、20個以上、21個以上、22個以上)の連続したヌクレオチドにわたって、90%以上(例えば、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、19個以上(例えば、20個以上、21個以上、22個以上)の連続したヌクレオチドにわたって100%である。
【0060】
ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、19~25個の連続したヌクレオチドにわたって、60%以上(例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、19~25個の連続したヌクレオチドに対して、80%以上(例えば、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、19~25個の連続したヌクレオチドに対して、90%以上(例えば、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%)である。ある場合には、ガイド配列と標的核酸の標的配列との間の相補性パーセントは、19~25個の連続したヌクレオチドにわたって100%である。
【0061】
ある場合には、ガイド配列は、19~30ヌクレオチド(nt)(例えば、19~25、19~22、19~20、20~30、20~25、又は20~22nt)の範囲の長さを有する。ある場合には、ガイド配列は、19~25ヌクレオチド(nt)(例えば、19~22、19~20、20~25、20~25、又は20~22nt)の範囲の長さを有する。ある場合には、ガイド配列は、19以上のnt(例えば、20以上、21以上、又は22以上のnt;19nt、20nt、21nt、22nt、23nt、24nt、25nt等)の長さを有する。ある場合には、ガイド配列は、19ntの長さを有する。ある場合には、ガイド配列は、20ntの長さを有する。ある場合には、ガイド配列は、21ntの長さを有する。ある場合には、ガイド配列は、22ntの長さを有する。ある場合には、ガイド配列は、23ntの長さを有する。
【0062】
C.ベクトル
本明細書に記載されるベクターのうちの1つ以上が開示される。例えば、gRNAを含む核酸配列を含むベクターが開示される。
【0063】
1つ以上のgRNAをコードする核酸配列を含むベクターであって、1つ以上のgRNAが、HIV-1内の標的配列とハイブリダイズし、標的配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される、ベクターが開示される。
【0064】
gRNAを含む核酸配列を含み、少なくとも1つのマーカー遺伝子を更に含むベクターが開示される。
【0065】
gRNAを含む核酸配列と、Casタンパク質をコードする核酸配列とを含むベクターが開示される。
【0066】
Casタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターが開示される。
【0067】
いくつかの態様において、開示されるベクターは発現ベクターである。いくつかの態様において、発現ベクターは、レンチウイルスベクター等のウイルスベクターであり得る。いくつかの態様において、ベクターは、本明細書に記載されるベクターのうちのいずれかであってもよい。
【0068】
本明細書に開示されるベクターは、ウイルス若しくは非ウイルスベクター、又は任意のタイプの発現ベクターであり得る。発現ベクターは、遺伝子若しくは遺伝子断片を細胞(例えば、プラスミド)に送達するために、又は遺伝子若しくは遺伝子断片を送達するための一般的な戦略の一部として、例えば、組換えレトロウイルス若しくはアデノウイルスの一部として使用される任意のヌクレオチド構築物であり得る(Ram et al.Cancer Res.53:83-88,(1993))。例えば、本明細書に開示されるのは、Casタンパク質をコードすることができる核酸配列を含む発現ベクターである。いくつかの態様において、ベクターはまた、gRNAを送達することができる。
【0069】
インビトロ又はインビボのいずれかで、ガイドRNA等の核酸を細胞に送達するために使用され得るいくつかの組成物及び方法が存在する。これらの方法及び組成物は、ウイルスベースの送達系及び非ウイルスベースの送達系の2つのクラスに大別することができる。例えば、核酸は、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミド等のいくつかの直接的な送達系によって、又は細胞若しくはカチオン性リポソーム等の担体中の遺伝物質の移動によって送達され得る。ウイルスベクター、化学的トランスフェクタント、又はDNAエレクトロポレーション及び直接拡散等の物理的機械的方法を含む、トランスフェクションのための適切な手段は、例えば、Wolff,J.A.,et al.,Science,247,1465-1468,(1990)、及びWolff,J.A.Nature,352,815-818,(1991)によって記載されている。そのような方法は、当該技術分野で周知であり、本明細書に記載される組成物及び方法とともに使用するために容易に適合可能である。ある特定の場合では、方法は、大分子DNAで特異的に機能するよう改変されるであろう。更に、これらの方法を使用して、担体の標的化特性を使用することによって、ある特定の疾患及び細胞集団を標的とすることができる。
【0070】
発現ベクターは、遺伝子若しくは遺伝子断片を細胞(例えば、プラスミド)に送達するために、又は遺伝子若しくは遺伝子断片を送達するための一般的な戦略の一部として、例えば、組換えレトロウイルス若しくはアデノウイルスの一部として使用される任意のヌクレオチド構築物であり得る(Ram et al.Cancer Res.53:83-88,(1993))。例えば、本明細書に開示されるのは、制御要素に作動可能に連結された開示される突然変異Cas9タンパク質のうちの1つ以上をコードすることができる核酸配列を含む発現ベクターである。
【0071】
発現ベクターに存在する「制御要素」は、ベクターの非翻訳領域(エンハンサー、プロモーター、5’及び3’非翻訳領域)であり、これらは、転写及び翻訳を実行するために宿主細胞タンパク質と相互作用する。そのような要素は、その強度及び特異性において異なり得る。利用されるベクター系及び宿主に応じて、構成的及び誘導性プロモーターを含む任意の数の好適な転写及び翻訳要素が使用され得る。例えば、細菌系でクローニングする場合、pBLUESCRIPTファージミド(Stratagene、La Jolla,Calif.)又はpSPORT1プラスミド(Gibco BRL、Gaithersburg,Md.)等のハイブリッドlacZプロモーター等の誘導性プロモーターを使用してもよい。哺乳動物細胞系においては、哺乳動物遺伝子由来又は哺乳動物ウイルス由来のプロモーターが一般的に好ましい。ポリペプチドをコードする配列の複数のコピーを含む細胞株を生成する必要がある場合、SV40又はEBVに基づくベクターを、適切な選択マーカーとともに有利に使用してもよい。
【0072】
哺乳動物宿主細胞内のベクターからの転写を制御する好ましいプロモーターは、様々な供給源、例えば、ポリオーマ、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及び最も好ましくはサイトメガロウイルス等のウイルスのゲノムから、又は異種の哺乳動物プロモーター(例えば、ベータアクチンプロモーター)から入手され得る。SV40ウイルスの初期及び後期のプロモーターは、SV40ウイルスの複製起点も含むSV40制限断片として都合よく得られる(Fiers et al.,Nature,273:113(1978))。ヒトサイトメガロウイルスの初期プロモーターは、HindIII E制限断片として都合よく得られる(Greenway,P.J.et al.,Gene 18:355-360(1982))。加えて、宿主細胞又は関連種由来のプロモーターも使用することができる。
【0073】
エンハンサーは一般に、転写開始部位から固定されていない距離で機能し、転写単位の5’(Laimins,L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.78:993(1981))又は3’(Lusky,M.L.,et al.,Mol.Cell Bio.3:1108(1983))のいずれかであり得るDNAの配列を指す。更に、エンハンサーは、イントロン内(Banerji,J.L.et al.,Cell 33:729(1983))、及びコード配列自体内(Osborne,T.F.,et al.,Mol.Cell Bio.4:1293(1984))内であり得る。これらは、通常、10~300bpの長さで、シスで機能する。エンハンサーは、近くのプロモーターからの転写を増加させるように機能する。エンハンサーはまた、しばしば、転写の調節を媒介する応答要素を含有する。プロモーターは、転写の調節を媒介する応答要素も含有し得る。エンハンサーは、しばしば、遺伝子の発現の調節を決定する。哺乳動物遺伝子に由来する多くのエンハンサー配列が現在知られているが(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、αフェトプロテイン、及びインスリン)、典型的には、一般的な発現のために真核細胞ウイルス由来のエンハンサーを使用する。好ましい例は、複製起点の後期側のSV40エンハンサー(100~270bp)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターのエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマのエンハンサー、及びアデノウイルスのエンハンサーである。
【0074】
プロモーター又はエンハンサーは、光又はそれらの機能を誘発する特定の化学的事象のいずれかによって特異的に活性化され得る。系は、テトラサイクリン及びデキサメタゾン等の試薬によって、調節することができる。また、ガンマ線照射等の照射への曝露、又はアルキル化の化学療法薬によって、ウイルスベクターの遺伝子発現を増強する方法も存在する。
【0075】
任意選択的に、プロモーター又はエンハンサー領域は、本発明のポリヌクレオチドの発現を最大化するための構成的プロモーター又はエンハンサーとして機能することができる。ある特定の構築物において、プロモーター又はエンハンサー領域は、特定の時間に特定の種類の細胞でのみ発現する場合でも、全ての真核細胞の種類において活性である。この種類の好ましいプロモーターは、CMVプロモーター(650塩基)である。他の好ましいプロモーターは、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(全長プロモーター)、及びレトロウイルスベクターのLTRである。
【0076】
また、真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は有核細胞)で使用される発現ベクターは、mRNAの発現に影響を及ぼし得る転写の終結に必要な配列を含有してもよい。これらの領域は、組織因子タンパク質をコードするmRNAの非翻訳部分において、ポリアデニル化セグメントとして転写される。3’非翻訳領域は、転写終結部位も含む。転写単位は、ポリアデニル化領域も含有することが好ましい。この領域の利点の1つは、転写単位が、mRNAのようにプロセシング及び輸送される可能性を増加させることである。発現構築物におけるポリアデニル化シグナルの同定及び使用は、十分に確立されている。相同的なポリアデニル化シグナルが、導入遺伝子構築物に使用されることが好ましい。ある特定の転写単位において、ポリアデニル化領域は、SV40初期ポリアデニル化シグナルに由来し、約400塩基からなる。
【0077】
発現ベクターは、マーカー産物をコードする核酸配列を含むことができる。このマーカー産物を使用して、遺伝子が細胞に送達され、送達されると発現されているかどうかを決定する。好ましいマーカー遺伝子は、β-ガラクトシダーゼをコードするE.coliのlacZ遺伝子、及び緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子である。
【0078】
一部の実施形態では、マーカーは、選択可能なマーカーであってもよい。哺乳動物細胞に好適な選択可能なマーカーの例は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ、ネオマイシン、ネオマイシン類似体G418、ヒドロマイシン、及びピューロマイシンである。このような選択可能なマーカーが哺乳動物宿主細胞に成功裏に移行されると、形質転換された哺乳動物宿主細胞は、選択圧下に置かれた場合、生存することができる。選択的レジームには、広く使用される2つの異なるカテゴリが存在する。第1のカテゴリは、細胞の代謝と、補充培地とは無関係に増殖する能力を欠いた変異細胞株の使用に基づく。2つの例は、CHO DHFR細胞及びマウスLTK細胞である。これらの細胞は、チミジン又はヒポキサンチン等の栄養素を添加せずに成長する能力を欠いている。これらの細胞は、完全なヌクレオチド合成経路に必要なある特定の遺伝子を欠いているため、欠損したヌクレオチドが補充培地に提供されない限り、生存することはできない。培地を補充する代替手段は、それぞれの遺伝子を欠く細胞に、無傷のDHFR又はTK遺伝子を導入することで、それらの成長要件を変化させることである。DHFR又はTK遺伝子で形質転換されなかった個々の細胞は、非補充培地において生存することができないであろう。
【0079】
第2のカテゴリは、任意の細胞型で使用される選択スキームを指し、変異細胞株の使用を必要としない優性選択である。これらのスキームは、典型的には、宿主細胞の成長を停止するために薬物を使用する。新規遺伝子を有するそれらの細胞は、薬剤耐性を伝達するタンパク質を発現し、選択で生き残るであろう。そのような優勢選択の例は、薬物ネオマイシン(Southern P.and Berg,P.,J.Molec.Appl.Genet.1:327(1982))、ミコフェノール酸(Mulligan,R.C.and Berg,P.Science 209:1422(1980))、又はハイグロマイシン、(Sugden,B.et al.,Mol.Cell.Biol.5:410-413(1985))を使用する。3つの実施例は、真核生物の制御下の細菌遺伝子を用いて、それぞれ適切な薬物G418又はネオマイシン(ジェネティシン)、xgpt(ミコフェノール酸)又はハイグロマイシン、への耐性を伝達する。他には、ネオマイシン類似体G418及びピュラマイシンが含まれる。
【0080】
本明細書で使用される場合、プラスミド又はウイルスベクターは、ガイドRNA等の開示される核酸を分解することなく細胞内に輸送する物質であり、それが送達される細胞で遺伝子の発現をもたらすプロモーターを含む。一部の実施形態では、本明細書に開示される核酸配列は、ウイルス又はレトロウイルスのいずれかに由来する。ウイルスベクターは、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、AIDSウイルス、神経栄養ウイルス、シンドビス、及び他のRNAウイルス(HIV骨格を有するこれらのウイルスを含む)である。また、これらのウイルスをベクターとしての使用に好適にするこれらのウイルスの特性を共有する任意のウイルスファミリーも好ましい。レトロウイルスとしては、マウスマロニー白血病ウイルス、MMLV、及びMMLVのベクターとしての望ましい特性を発現するレトロウイルスが挙げられる。レトロウイルスベクターは、他のウイルスベクターよりも大きな遺伝子ペイロード、すなわち、導入遺伝子又はマーカー遺伝子を運ぶことができ、この理由のために、一般的に使用されるベクターである。しかしながら、それらは非増殖細胞においてはそれほど有用ではない。アデノウイルスベクターは、比較的安定であり、操作が容易であり、力価が高く、エアロゾル製剤で送達することができ、非分裂細胞をトランスフェクトすることができる。ポックスウイルスベクターは、大きく、遺伝子を挿入するためのいくつかの部位を有し、これらは熱安定性であり、室温で貯蔵することができる。好ましい実施形態は、ウイルス抗原によって誘発される、宿主生物の免疫応答を抑制するように操作されたウイルスベクターである。このタイプの好ましいベクターは、インターロイキン8又は10のコード領域を有する。
【0081】
ウイルスベクターは、遺伝子を細胞に導入する化学的又は物理的方法よりも高いトランザクション能力(すなわち、遺伝子を導入する能力)を有することができる。典型的には、ウイルスベクターは、非構造的な初期遺伝子、構造的な後期遺伝子、RNAポリメラーゼIII転写物、複製及びカプシド形成に必要な逆向き末端リピート、並びにウイルスゲノムの転写及び複製を制御するためのプロモーターを含む。ベクターとして操作される場合、ウイルスは典型的には、初期遺伝子のうちの1つ以上が除去され、遺伝子又は遺伝子/プロモーターカセットが、除去されたウイルスDNAの代わりにウイルスゲノムに挿入される。このタイプの構築物は、最大約8kbの外来遺伝物質を運ぶことができる。除去された初期遺伝子の必要な機能は、典型的には、初期遺伝子の遺伝子産物をトランスで発現するように操作された細胞株によって供給される。
【0082】
レトロウイルスベクターは、一般に、Verma,I.M.,Retroviral vectors for gene transfer.In Microbiology,Amer.Soc.for Microbiology,pp.229-232,Washington,(1985)によって記載され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。遺伝子治療にレトロウイルスベクターを使用するための方法の例は、米国特許第4,868,116号及び第4,980,286号、PCT出願第WO90/02806号及び第WO89/07136号、並びにMulligan(Science 260:926-932(1993))に記載されており、その教示は、遺伝子治療にレトロウイルスベクターを使用する方法の教示に関して、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0083】
レトロウイルスは、本質的に、核酸カーゴに詰め込まれたパッケージである。核酸カーゴは、パッケージングシグナルを有し、これは、複製された娘分子がパッケージコート内に効率的にパッケージングされることを確実にする。パッケージシグナルに加えて、複製のためのシス位での、及び複製されたウイルスのパッケージングのための、必要とされるいくつかの分子が存在する。典型的には、レトロウイルスゲノムは、タンパク質コートの作製に関与するgag、pol、及びenv遺伝子を含有する。標的細胞に導入されるのは、典型的には、外来DNAによって置き換えられたgag、pol、及びenv遺伝子である。レトロウイルスベクターは、典型的には、パッケージコートに組み込むためのパッケージシグナル、gag転写単位の開始をシグナル伝達する配列、逆転写のtRNAプライマーに結合するためのプライマー結合部位を含む逆転写に必要な要素、DNA合成中にRNA鎖のスイッチを誘導する末端リピート配列、DNA合成の第2鎖の合成のためのプライミング部位として機能する3’LTRに対して5’側のプリンリッチ配列、及びDNA状態のレトロウイルスの宿主ゲノム内への挿入を可能にするLTRの末端付近の特定の配列を含む。この量の核酸は、各転写物のサイズに応じて、1個~多数個の遺伝子を送達するのに十分である。インサート中に、他の遺伝子とともに陽性又は陰性のいずれかの選択可能マーカーを含めることが好ましい。
【0084】
レトロウイルスベクターにおけるほとんどの複製機構及びパッケージングタンパク質は除去されているため(gag、pol、及びenv)、ベクターは典型的には、それらをパッケージング細胞株に配置することによって生成される。パッケージング細胞株は、複製及びパッケージング機構を含むが、あらゆるパッケージングシグナルを欠くレトロウイルスでトランスフェクト又は形質転換された細胞株である。選択したDNAを担持するベクターがこれらの細胞株にトランスフェクトされると、ヘルパー細胞によってシスで提供される機構によって、目的の遺伝子を含有するベクターが複製され、新しいレトロウイルス粒子にパッケージングされる。機構のゲノムは、必要なシグナルを欠いているため、パッケージングされない。
【0085】
複製欠損アデノウイルスの構築が記載されている(Berkner et al.,J.Virology 61:1213-1220(1987);Massie et al.,Mol.Cell.Biol.6:2872-2883(1986);Haj-Ahmad et al.,J.Virology 57:267-274(1986);Davidson et al.,J.Virology 61:1226-1239(1987);Zhang“Generation and identification of recombinant adenovirus by liposome-mediated transfection and PCR analysis”BioTechniques 15:868-872(1993))。これらのウイルスをベクターとして使用することの利点は、これらは最初に感染した細胞内で複製することはできるが、新しい感染性ウイルス粒子を形成することができないため、それらが他の細胞型に広がり得る範囲が限られていることである。組換えアデノウイルスは、気道上皮、肝細胞、血管内皮、CNS実質及び他の多くの組織部位への直接的インビボ送達後に高効率の遺伝子移入を達成することが示されており(Morsy,J.Clin.Invest.92:1580-1586(1993);Kirshenbaum,J.Clin.Invest.92:381-387(1993);Roessler,J.Clin.Invest.92:1085-1092(1993);Moullier,Nature Genetics 4:154-159(1993);La Salle,Science 259:988-990(1993);Gomez-Foix,J.Biol.Chem.267:25129-25134(1992);Rich,Human Gene Therapy 4:461-476(1993);Zabner,Nature Genetics 6:75-83(1994);Guzman,Circulation Research 73:1201-1207(1993);Bout,Human Gene Therapy 5:3-10(1994);Zabner,Cell 75:207-216(1993);Caillaud,Eur.J.Neuroscience 5:1287-1291(1993);及びRagot,J.Gen.Virology 74:501-507(1993))、その教示は、遺伝子治療にレトロウイルスベクターを使用する方法の教示に関して、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。組換えアデノウイルスは、特定の細胞表面受容体に結合することによって遺伝子導入を達成し、その後、ウイルスは、野生型又は複製欠損アデノウイルスと同じ様式で、受容体媒介性エンドサイトーシスによって内在化される(Chardonnet and Dales,Virology 40:462-477(1970);Brown and Burlingham,J.Virology 12:386-396(1973);Svensson and Persson,J.Virology 55:442-449(1985);Seth,et al.,J.Virol.51:650-655(1984);Seth,et al.,Mol.Cell.Biol.,4:1528-1533(1984);Varga et al.,J.Virology 65:6061-6070(1991);Wickham et al.,Cell 73:309-319(1993))。
【0086】
ウイルスベクターは、E1遺伝子が除去されたアデノウイルスに基づくものとすることができ、これらのバイロン(viron)は、ヒト293細胞株等の細胞株において生成される。任意選択的に、E1及びE3遺伝子の両方が、アデノウイルスゲノムから除去される。
【0087】
本発明のポリヌクレオチドを細胞に導入するために使用することができる別の種類のウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく。この欠陥のあるパルボウイルスは、多くの細胞型に感染でき、ヒトに対して非病原性であるため、好ましいベクターである。AAV型ベクターは約4~5kbを輸送することができ、野生型AAVは19番染色体に安定に挿入することが知られている。この部位特異的な組み込み特性を含むベクトルが好ましい。このタイプのベクターの特に好ましい実施形態は、Avigen,San Francisco,CAによって製造されるP4.1 Cベクターであり、これは、単純疱疹ウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子HSV-tk、又は、緑色蛍光タンパク質GFPをコードする遺伝子等のマーカー遺伝子を含有し得る。
【0088】
別の種類のAAVウイルスでは、AAVは、異種遺伝子に作用可能に連結された細胞特異的発現を誘導するプロモーターを有する少なくとも1つのカセットに隣接する、一対の逆向き末端リピート(ITR)を有する。この文脈において異種とは、AAV又はB19パルボウイルスに対して天然ではない任意のヌクレオチド配列又は遺伝子を指す。典型的には、AAV及びB19コード領域が欠失することにより、安全な細胞非毒性ベクターが得られる。AAV ITR、又はその改変は、感染性及び部位特異的組み込み能を付与するが、細胞毒性は付与せず、プロモーターは細胞特異的な発現を誘導する。米国特許第6,261,834号は、AAVベクターに関連する材料に関して、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0089】
ウイルス及びレトロウイルスベクターに挿入された遺伝子は、通常、所望の遺伝子産物の発現を制御するのを助けるために、プロモーター又はエンハンサーを含む。プロモーターは、一般に、転写開始部位に関して相対的に固定された位置にあるときに機能するDNAの配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼ及び転写因子の基本的な相互作用に必要なコア要素を含有し、上流要素及び応答要素を含有し得る。
【0090】
他の有用な系としては、例えば、複製及び宿主制限非複製ワクシニアウイルスベクターが挙げられる。更に、開示される核酸配列は、非核酸ベースの系で標的細胞に送達され得る。例えば、開示されるポリヌクレオチドは、エレクトロポレーションによって、又はリポフェクションによって、又はリン酸カルシウム沈殿によって送達することができる。選択される送達機構は、標的とされる細胞のタイプ、及び送達が、例えばインビボ又はインビトロで行われるかどうかに一部依存する。
【0091】
したがって、組成物は、開示される発現ベクターに加えて、リポソーム等の脂質、例えば、カチオン性リポソーム(例えば、DOTMA、DOPE、DC-コレステロール)又はアニオン性リポソームを含むことができる。リポソームは、所望される場合、特定の細胞の標的化を容易にするために、タンパク質を更に含むことができる。ペプチド及びカチオン性リポソームを含む組成物の投与は、血液、標的器官に投与され得るか、又は気道の標的細胞まで気道内に吸入され得る。例えば、本明細書に記載されるペプチド又は核酸配列と、カチオン性リポソームとを含む組成物は、対象の肺細胞に投与することができる。リポソームに関しては、例えば、Brigham et al.Am.J.Resp.Cell.Mol.Biol.1:95 100(1989);Felgner et al.Proc.Natl.Acad.Sci USA 84:7413 7417(1987);米国特許第4,897,355号を参照されたい。更に、化合物は、マクロファージ等の特定の細胞型を標的とすることができるか、又は化合物の拡散若しくはマイクロカプセルからの化合物の送達が、特定の速度若しくは投与量のために設計される、マイクロカプセルの成分として投与することができる。
【0092】
他の有用な系としては、例えば、複製及び宿主制限非複製ワクシニアウイルスベクターが挙げられる。更に、開示される核酸配列は、非核酸ベースの系で標的細胞に送達され得る。例えば、開示される核酸配列及び構築物は、エレクトロポレーションによって、又はリポフェクションによって、又はリン酸カルシウム沈殿によって送達することができる。選択される送達機構は、標的とされる細胞のタイプ、及び送達が、例えばインビボ又はインビトロで行われるかどうかに一部依存する。
【0093】
したがって、組成物は、開示される発現ベクターに加えて、リポソーム等の脂質、例えば、カチオン性リポソーム(例えば、DOTMA、DOPE、DC-コレステロール)又はアニオン性リポソームを含むことができる。リポソームは、所望される場合、特定の細胞の標的化を容易にするために、タンパク質を更に含むことができる。ペプチド及びカチオン性リポソームを含む組成物の投与は、血液、標的器官に投与され得るか、又は気道の標的細胞まで気道内に吸入され得る。例えば、本明細書に記載されるペプチド又は核酸配列と、カチオン性リポソームとを含む組成物は、対象の肺細胞に投与することができる。リポソームに関しては、例えば、Brigham et al.Am.J.Resp.Cell.Mol.Biol.1:95-100(1989);Felgner et al.Proc.Natl.Acad.Sci USA 84:7413-7417(1987);米国特許第4,897,355号を参照されたい。更に、化合物は、マクロファージ等の特定の細胞型を標的とすることができるか、又は化合物の拡散若しくはマイクロカプセルからの化合物の送達が、特定の速度若しくは投与量のために設計される、マイクロカプセルの成分として投与することができる。
【0094】
インビトロ又はインビボのいずれかで、核酸を細胞に送達するために使用され得るいくつかの組成物及び方法が存在する。これらの方法及び組成物は、ウイルスベースの送達系と非ウイルスベースの送達系の2つのクラスに大別することができる。例えば、核酸は、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミド等のいくつかの直接的な送達系によって、又は細胞若しくはカチオン性リポソーム等の担体中の遺伝物質の移動によって送達され得る。ウイルスベクター、化学的トランスフェクタント、又はDNAエレクトロポレーション及び直接拡散等の物理的機械的方法を含む、トランスフェクションのための適切な手段は、例えば、Wolff,J.A.,et al.,Science,247,1465-1468,(1990)、及びWolff,J.A.Nature,352,815-818,(1991)によって記載されている。そのような方法は、当該技術分野で周知であり、本明細書に記載される組成物及び方法とともに使用するために容易に適合可能である。ある特定の場合では、方法は、大分子DNAで特異的に機能するよう改変されるであろう。更に、これらの方法を使用して、担体の標的化特性を使用することによって、ある特定の疾患及び細胞集団を標的とすることができる。
【0095】
D.組成物
本明細書に記載される標的配列、核酸配列(例えば、ガイドRNA又はガイドRNA配列をコードすることができる配列)、又はベクターを含む組成物が開示される。例えば、ベクターを含む組成物が開示され、ベクターは、本明細書に開示される核酸配列のうちのいずれかを含む。
【0096】
1.薬学的組成物
いくつかの態様において、開示される組成物は、薬学的に許容される担体を更に含む。
【0097】
例えば、本明細書に記載される組成物は、薬学的に許容される担体を含むことができる。「薬学的に許容される」とは、当業者に周知のように、活性成分の任意の分解を最小限に抑え、対象における任意の有害な副作用を最小限に抑えるために選択される材料又は担体を意味する。担体の例としては、ジミリストイルホスファチジル(DMPC)、リン酸緩衝食塩水、又は多胞性リポソームが挙げられる。例えば、PG:PC:コレステロール:ペプチド又はPC:ペプチドが、本発明における担体として使用され得る。他の好適な薬学的に許容される担体及びそれらの製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(19th ed.)ed.A.R.Gennaro,Mack Publishing Company,Easton,PA 1995に記載されている。典型的には、製剤を等張にするために、製剤中に適切な量の薬学的に許容される塩が使用される。薬学的に許容される担体の他の例としては、生理食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液が挙げられるが、これらに限定されない。溶液のpHは、約5~約8、又は約7~約7.5であり得る。更なる担体としては、組成物を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックス等の持続放出製剤が挙げられ、マトリックスは、成形物の形態、例えば、フィルム、ステント(血管形成術の間に血管に移植される)、リポソーム又は微粒子である。ある特定の担体が、例えば、投与経路及び投与される組成物の濃度に応じて、より好ましくてもよいことは、当業者には明らかであろう。これらは、最も典型的には、生理的pHの滅菌水、生理食塩水、及び緩衝液等の溶液を含む、ヒトへの薬物投与のための標準的な担体である。
【0098】
薬学的組成物はまた、本発明のポリペプチド、ペプチド、核酸、ベクターの意図される活性が損なわれない限り、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝液、防腐剤等を含むことができる。薬学的組成物はまた、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔剤等の1つ以上の活性成分を(本発明の組成物に加えて)含んでもよい。本医薬組成物は、局所治療又は全身治療が所望されるかどうか、及び治療される領域に応じて、ある数の方法で投与され得る。
【0099】
2.組成物の送達
本明細書に記載される方法では、対象又は細胞への組成物の送達(又は投与)は、様々な機序を介して行うことができる。上記に定義されるように、本明細書に記載されるガイドRNA又はベクターのうちの任意の1つ以上を使用して、薬学的に許容される担体等の担体を含むこともできる組成物を生成することができる。例えば、本明細書に開示されるガイドRNA、及び薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物が開示される。
【0100】
非経口投与の調製物としては、滅菌された水溶液又は非水溶液、懸濁液、及びエマルジョンが挙げられる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルである。水性担体には、生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョン、又は懸濁液が含まれる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル、又は不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、流体及び栄養素補充剤、電解質補充剤(リンガーデキストロースに基づくもの等)等が挙げられる。保存剤及び他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガス等も存在し得る。
【0101】
光学投与のための製剤は、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴剤、坐剤、スプレー、液体及び粉末を含み得る。従来の医薬担体、水性、粉末、又は油性の基剤、増粘剤等が必要であるか又は望ましくてもよい。
【0102】
経口投与のための組成物には、粉剤又は顆粒剤、水又は非水媒体中の懸濁液又は溶液、カプセル剤、サシェ剤、又は錠剤が含まれる。増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤、又は結合剤が望ましい場合がある。組成物の一部は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸及びリン酸と、有機酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸及びフマル酸との反応によって、又は無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムと、有機塩基、例えば、モノ-、ジ-、トリアルキル及びアリールアミン及び置換エタノールアミンとの反応によって形成される、薬学的に許容される酸付加塩又は塩基付加塩として、潜在的に投与され得る。
【0103】
開示される送達技術は、開示された組成物だけでなく、開示される核酸構築物及びベクターにも使用することができる。
【0104】
E.方法
細胞における標的HIV-1 DNA配列の機能を改変、修飾、又は阻害するための方法が開示される。
【0105】
細胞内の標的HIV-1 DNA配列の機能を阻害するための方法であって、細胞ゲノムを含み、細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びcasタンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、1つ以上のgRNAが、標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、標的HIV-1 DNA配列が、本明細書に記載されるもののうちのいずれか1つ以上であり、それによって、標的HIV-1 DNA配列の機能又は存在を阻害する、方法が開示される。
【0106】
細胞内の標的HIV-1 DNA配列の機能を阻害するための方法であって、細胞ゲノムを含み、細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(cas)タンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、1つ以上のgRNAが、標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、標的HIV-1 DNA配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択され、それによって、標的HIV-1 DNA配列の機能又は存在を阻害する、方法が開示される。
【0107】
細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去するための方法が開示される。
【0108】
細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去するための方法であって、細胞ゲノムを含み、細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(cas)タンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、1つ以上のgRNAが、標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、標的HIV-1 DNA配列が、本明細書に記載されるもののうちのいずれか1つ以上であり、それによって、細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去する、方法が開示される。
【0109】
細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去するための方法であって、細胞ゲノムを含み、細胞ゲノムに組み込まれた標的HIV-1 DNA配列を含むHIV-1ゲノムを保有する細胞を、1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(cas)タンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列と接触させることを含み、1つ以上のgRNAが、標的HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、標的HIV-1 DNA配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択され、それによって、細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去する、方法が開示される。
【0110】
HIV-1に感染した対象を治療するための方法が開示される。
HIV-1に感染した対象を治療するための方法であって、1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びcasタンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列を対象に投与することを含み、対象が、ゲノムに組み込まれたHIV-1 DNA配列を有し、1つ以上のgRNAが、HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、それによってゲノムからHIV-1 DNA配列を除去することを含む、方法が開示される。
【0111】
HIV-1に感染した対象を治療するための方法が開示される。
HIV-1に感染した対象を治療するための方法であって、1つ以上のgRNA、又は上記1つ以上のgRNAをコードする核酸、及びcasタンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸配列を対象に投与することを含み、対象が、ゲノムに組み込まれたHIV-1 DNA配列を有し、1つ以上のgRNAが、HIV-1 DNA配列と独自にハイブリダイズし、標的HIV-1 DNA配列が、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択され、それによって細胞ゲノムから標的HIV-1 DNA配列を除去することを含む、方法が開示される。
【0112】
いくつかの態様において、1つ以上のgRNAは、細胞ゲノムに結合又はハイブリダイズしない。したがって、いくつかの態様において、gRNAは、HIV-1配列、例えば、HIV-1 LTR配列のみに結合又はハイブリダイズする。
【0113】
いくつかの態様において、本明細書に開示されるgRNAは、2つ以上のHIVクレードのLTR領域を標的とすることができる。いくつかの態様において、本明細書に開示されるgRNAは、2つ以上のHIVクレードのLTR領域内の標的HIV-1 DNA配列にハイブリダイズする。例えば、HIVクレードは、既知のクレードのいずれかのうちの2つ以上であり得る。例えば、いくつかの態様において、HIVクレードA~Gは、開示されるgRNAによって標的とされ得る。したがって、本明細書に記載されるgRNA及び標的配列を使用して2つ以上のHIV-1クレードを標的とする方法が開示される。
【0114】
いくつかの態様において、標的HIV-1 DNA配列は、配列番号1であり、1つ以上のガイドRNA、又は1つ以上のガイドRNAをコードする核酸は、配列番号1の配列又はその相補体を含む。
【0115】
いくつかの態様において、標的HIV-1 DNA配列は、配列番号2であり、1つ以上のガイドRNA、又は1つ以上のガイドRNAをコードする核酸は、配列番号2の配列又はその相補体を含む。
【0116】
いくつかの態様において、標的HIV-1 DNA配列は、配列番号3であり、1つ以上のガイドRNA、又は1つ以上のガイドRNAをコードする核酸は、配列番号3の配列又はその相補体を含む。
【0117】
いくつかの態様において、1つ以上のガイドRNA及びcasタンパク質が、細胞内で複合体を形成し、複合体が、HIV-1 DNA配列を切断し、それによって標的HIV-1 DNA配列の機能又は存在を阻害する。いくつかの態様において、複合体が、5’LTR及び3’LTRでHIV- 1 DNA配列を切断し、それによって、標的HIV-1 DNA配列の機能又は存在を阻害する。5’及び3’LTRは、HIV-1ゲノムのいずれかの末端のリピートであるため、LTRでHIV-1を切断することは、HIV-1ゲノムの大部分を宿主配列から切断する結果となり得る。
【0118】
いくつかの態様において、方法は、対象に、casタンパク質をコードする核酸配列を投与すること、casタンパク質を投与すること、又はcasタンパク質をコードするベクターを投与することを含む。いくつかの態様において、方法は、細胞を、casタンパク質をコードする核酸配列、casタンパク質、又はcasタンパク質をコードするベクターと接触させることを含む。いくつかの態様において、casタンパク質は、cas9であり得る。いくつかの態様において、開示されるcasタンパク質のいずれかを、開示される方法に使用することができる。いくつかの態様において、casタンパク質は、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている。いくつかの態様において、casタンパク質は、核局在化配列を更に含む。
【0119】
いくつかの態様において、1つ以上のガイドRNAをコードする核酸、及びcasタンパク質をコードする核酸は、発現ベクターに含まれる。いくつかの態様において、発現ベクターはウイルスベクターである。
【0120】
いくつかの態様において、接触させることは、細胞を、1つ以上のガイドRNAをコードする核酸及びcasタンパク質をコードする核酸を含む1つ以上の発現ベクターと接触させることを含む。いくつかの態様において、接触ステップは、インビトロで行われる。いくつかの態様において、接触ステップは、インビボで行われる。したがって、発現ベクターと接触させるとき、いくつかの態様において、細胞は培養物中又は対象中に存在し得る。
【0121】
いくつかの態様において、2つのgRNAが開示される方法に使用され得る。第1のgRNAは、ウイルスゲノム内の第1の標的配列に相補的であり得、第2のgRNAは、第2の標的配列に相補的であり得る。いくつかの態様において、ウイルスゲノムがリピート配列を有する場合、単一gRNAは、ウイルスゲノム内の第1の標的配列及び第2の標的配列に相補的であり得る。例えば、これは、本明細書に記載されるHIV-1等の、ウイルスゲノムの各末端(5’及び3’)に長末端リピート(LTR)を有し、該LTRが、ウイルスゲノムの5’末端とウイルスゲノムの3’末端とで同じである、レトロウイルスで起こり得る。したがって、gRNAは、ウイルスゲノムの5’末端及びウイルスゲノムの3’末端の両方に存在する単一の配列に相補的であり得る。例えば、第1の標的配列及び第2の標的配列は、LTR内の単一の配列であり得る。第1の標的配列は、5’LTRに存在することができ、第2の標的配列は、3’LTRに存在することができる。
【0122】
いくつかの態様において、Casタンパク質及びgRNAは、異なるベクター/構築物から発現される。したがって、いくつかの態様において、少なくとも2つの異なる構築物を使用することができる。いくつかの態様において、Casタンパク質及びgRNAは、同じ構築物から発現される。例えば、構築物は、核酸配列を含むことができ、核酸配列は、少なくとも2つの要素を含み、第1の要素は、Cas9をコードする核酸配列を含み、第2の要素は、gRNAを発現する核酸配列を含む。
【0123】
本明細書で使用される場合、「Casタンパク質」は、野生型タンパク質(すなわち、天然に存在するもの)、修飾Casタンパク質(すなわち、Casタンパク質変異体)、又は野生型若しくは修飾Casタンパク質の断片であり得る。また、Casタンパク質は、野生型又は修飾Casタンパク質の触媒活性に関して、活性変異体又は断片であり得る。
【0124】
いくつかの態様において、Casタンパク質は、Cas9タンパク質であってもよい。いくつかの態様において、Cas9は、Streptococcus pyogenesのCas9(SpCas9)であり得る。Streptococcus pyogenesのCas9。様々なCas9ガイドRNAの例は、当該技術分野に見出され得、ある場合には、Cas9ガイドRNAに導入されたものと同様の変異体が、本開示のCas12d又はCas12e gRNAにも導入され得る。例えば、Jinek et al.,Science.2012 Aug.17;337(6096):816-21;Chylinski et al.,RNA Biol.2013 May;10(5):726-37;Ma et al.,Biomed Res Int.2013;2013:270805;Hou et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2013 Sep.24;110(39):15644-9;Jinek et al.,Elife.2013;2:e00471;Pattanayak et al.,Nat Biotechnol.2013 September;31(9):839-43;Qi et al,Cell.2013 Feb.28;152(5):1173-83;Wang et al.,Cell.2013 May 9;153(4):910-8;Auer et.al.,Genome Res.2013 Oct.31;Chen et.al.,Nucleic Acids Res.2013 Nov.1;41(20):e19;Cheng et.al.,Cell Res.2013 October;23(10):1163-71;Cho et.al.,Genetics.2013 November;195(3):1177-80;DiCarlo et al.,Nucleic Acids Res.2013 April;41(7):4336-43;Dickinson et.al.,Nat Methods.2013 October;10(10):1028-34;Ebina et.al.,Sci Rep.2013;3:2510;Fujii et.al,Nucleic Acids Res.2013 Nov.1;41(20):e187;Hu et.al.,Cell Res.2013 November;23(11):1322-5;Jiang et.al.,Nucleic Acids Res.2013 Nov.1;41(20):e188;Larson et.al.,Nat Protoc.2013 November;8(11):2180-96;Mali et.at.,Nat Methods.2013 October;10(10):957-63;Nakayama et.al.,Genesis.2013 December;51(12):835-43;Ran et.al.,Nat Protoc.2013 November;8(11):2281-308;Ran et.al.,Cell.2013 Sep.12;154(6):1380-9;Upadhyay et.al.,G3(Bethesda).2013 Dec.9;3(12):2233-8;Walsh et.al.,Proc Natl Acad Sci USA.2013 Sep.24;110(39):15514-5;Xie et.al.,Mol Plant.2013 Oct.9;Yang et.al.,Cell.2013 Sep.12;154(6):1370-9;Briner et al.,Mol Cell.2014 Oct.23;56(2):333-9;並びに米国特許及び特許出願:米国特許第8,906,616号、第8,895,308号、第8,889,418号、第8,889,356号、第8,871,445号、第8,865,406号、第8,795,965号、第8,771,945号、第8,697,359号、第2014/0068797号、第2014/0170753号、第2014/0179006号、第2014/0179770号、第2014/0186843号、第2014/0186919号、第2014/0186958号、第2014/0189896号、第2014/0227787号、第2014/0234972号、第2014/0242664号、第2014/0242699号、第2014/0242700号、第2014/0242702号、第2014/0248702号、第2014/0256046号、第2014/0273037号、第2014/0273226号、第2014/0273230号、第2014/0273231号、第2014/0273232号、第2014/0273233号、第2014/0273234号、第2014/0273235号、第2014/0287938号、第2014/0295556号、第2014/0295557号、第2014/0298547号、第2014/0304853号、第2014/0309487号、第2014/0310828号、第2014/0310830号、第2014/0315985号、第2014/0335063号、第2014/0335620号、第2014/0342456号、第2014/0342457号、第2014/0342458号、第2014/0349400号、第2014/0349405号、第2014/0356867号、第2014/0356956号、第2014/0356958号、第2014/0356959号、第2014/0357523号、第2014/0357530号、第2014/0364333号、及び第2014/0377868号(これらは全て、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0125】
いくつかの態様において、開示される方法は、CRISPR又はCRISPR-Cas系を使用する。本明細書で使用される場合、「CRISPR系」及び「CRISPR-Cas系」は、Cas遺伝子をコードする配列、ガイド配列(内因性CRISPR系の文脈では「スペーサー」とも称される;例えば、ガイドRNA又はgRNA)、又はCRISPR遺伝子座からの他の配列及び転写物を含む、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現又は活性の誘導に関与する転写物及び他の要素を指す。いくつかの態様において、CRISPR系の1つ以上の要素は、I型、II型、又はIII型CRISPR系に由来する。いくつかの態様において、CRISPR系の1つ以上の要素は、Streptococcus pyogenes等の内因性CRISPR系を含む特定の生物に由来する。一般に、CRISPR系は、標的配列の部位におけるCRISPR複合体の形成を促進する要素(内因性CRISPR系の関連においてプロトスペーサーとも称される)によって特徴づけられる。
【0126】
いくつかの態様において、gRNAは標的配列を標的としてハイブリダイズし、RNA誘導ヌクレアーゼをDNA遺伝子座に誘導する。いくつかの態様において、本明細書に開示されるCRISPR-Cas系及びベクターは、1つ以上のgRNA配列を含む。いくつかの態様において、本明細書に開示されるCRISPR-Cas系及びベクターは、2、3、4個以上のgRNA配列を含む。いくつかの態様において、本明細書に記載されるCRISPR-Cas系及び/又はベクターは、単一の系に4つのgRNA配列を含む。いくつかの態様において、本明細書に開示されるgRNA配列を使用して、HIV-1感染又は複製を調節することができる。
【0127】
本明細書に記載される組成物は、RNA誘導ヌクレアーゼをコードする核酸を含むことができる。RNA誘導ヌクレアーゼは、CRISPR関連エンドヌクレアーゼであり得る。いくつかの態様において、RNA誘導ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼ又はタンパク質である。いくつかの態様において、Cas9ヌクレアーゼ又はタンパク質は、野生型Streptococcus pyrogenesの配列と同一の配列を有することができる。いくつかの態様において、Cas9ヌクレアーゼ又はタンパク質は、例えば、thermophilus等の他のStreptococcus種、Psuedomona aeruginosa、Escherichia coli、若しくは他の配列決定された細菌ゲノム及び古細菌、又は他の原核微生物を含む他の種の配列であり得る。いくつかの態様において、野生型Streptococcus pyrogenesの配列を修飾することができる。いくつかの態様において、核酸配列は、真核細胞における効率的な発現のためにコドンを最適化することができる。
【0128】
本明細書に開示されるのは、CRISPRi(CRISPR干渉)と称される、Cas9のヌクレアーゼ不活性型(dCas9)を利用するCRISPR-Cas系である。いくつかの態様において、dCas9を使用して、1つ以上の標的配列(例えば、腫瘍壊死因子受容体(例えば、TNFR2)、インターロイキン1受容体(例えば、IL1R2、IL6R)、Aキナーゼアンカータンパク質5(例えば、AKAP5、糖タンパク質(例えば、gp130)、及び一過性受容体電位カチオンチャネルサブファミリーVメンバー1(TRPV1))の発現を抑制することができる。切断を誘発する代わりに、dCas9は、DNA配列に緊密に結合したままであり、能動的に転写された遺伝子内で標的とされると、例えば、立体障害機構を介したpol II進行の阻害が、効率的な転写抑制につながる可能性がある。いくつかの態様において、dCas9を使用して、1つ以上の標的配列(例えば、PTEN、MYC)の発現を誘発することができる。
【0129】
いくつかの態様において、核が不活性化されたCRISPR系を使用することができる。更に、KRAB、VPR又はp300コアを結合することができる。いくつかの態様において、KRABは、細胞内の1つ以上の遺伝子を下方制御するために結合される。いくつかの態様において、p300コア又はVPRは、細胞内の1つ以上の遺伝子を上方制御するために結合され得る。
【0130】
F.キット
上記の材料及び他の材料は、開示される方法を実行するのに有用であるか、又は実行を補助するのに有用なキットとして、任意の好適な組み合わせで一緒にパッケージングすることができる。所与のキット内のキット構成要素が、開示される方法において一緒に使用されるように設計及び適合されると有用である。例えば、開示される核酸配列を含むベクターを生成するためのキットが開示される。
【0131】
開示されるキットはまた、開示される核酸配列(例えば、ガイドRNA)のうちの1つ以上を含むことができる。
【0132】
1つ以上のガイドRNA、又は1つ以上のガイドRNAをコードする核酸(ガイドRNAは標的HIV-1 DNA配列とハイブリダイズする)と、casタンパク質、又はcasタンパク質をコードする核酸と、を含むキットが開示される。いくつかの態様において、ガイドRNA又はcasタンパク質は、本明細書に開示されるもののいずれかであり得る。
【実施例
【0133】
1.序論
本明細書では、プロウイルスLTR領域を標的とするSpCas9ガイドRNAのパネルのインビトロ及びインビボ切断有効性を比較し、HIV-1の異なるクレードからLTR領域を切断するためのこのガイドパネルの広範な適用性を評価した。オンターゲット及びオフターゲットの両方の切断効率を定義するために、組み込まれたHIV-1プロウイルスを含有するゲノムDNAを、特異的及びオフターゲットゲノム切断事象を定量及び同定する方法として、CIRCLE-Seq分析に供した。CIRCLE-Seqは、CRISPR/Casによる遺伝子編集後のDNA切断を定量するためにバイオインフォマティクスを用いる、非常に感度の高いアプローチである。いくつかの単一ガイドRNAを用いた高度な遺伝子切断は、ある場合には、2つのガイドを一緒に使用したときに増加した。更に、設計された特定のガイドは、複数のHIV-1クレードから5’HIV-1 LTR領域を切断することができた。CIRCLE-Seq分析により、予測されたオフターゲット事象が非常に少ないことが明らかになった。これらの知見は、遺伝的に異なるHIV-1源の間で広く保存された領域を特定し、非標的領域におけるオフターゲット事象の欠如を確認するために、遺伝的に異なる標的に対してガイドRNAを試験することの重要性を強調している。最後に、gRNAが標的DNA領域の位置に基づいて命名される研究室間でのガイドRNAの命名を標準化するために、抗HIV-1ガイド命名法が提案された。
【0134】
2.材料及び方法
i.HIV-1プロウイルスに対するガイドRNA配列の同定
HIV-1切除のためのgRNA候補を開発するために、インシリコアプローチを用いて、SpCas9標的として機能し得る領域を同定した。2つの方法を使用して、候補ガイドRNA(gRNA)標的配列を同定した。第1の方法は、Gene Construction Kitソフトウェア(Textco Biosoftware,Raleigh,NC)を使用してCas9 PAM(NGG)をスキャンし、次いで、National Center for Biotechnology InformationのウェブサイトからBlastを使用して、ヒトゲノムDNAに対する意図しない相同性について、隣接する20塩基対(bp)配列のそれぞれを試験することによって、pNL4-3 HIV 5’LTR内の可能性のある標的領域を検索した。このプロセスを使用して、U3B gRNA(SpCas9-278+ HXB2)を同定し、続いてGibson法(New England Biolabs,Ipswich,MA,catalog 番号E2611S)により、ヒトU6プロモーター下にガイドRNA足場を含有するベクター(gRNA Cloning Vector,Addgene plasmid 番号41824;RRID:Addgene 41824)内にクローニングした。第2の方法は、Integrated DNA Technologies(IDT)のカスタムgRNA設計リンクを使用してgRNA標的配列を同定した。HXB2 5’LTR領域の配列をIDT部位にアップロードし、この方法により、SpCas9-127+ HXB2、SpCas9-361- HXB2、及びSpCas9-363- HXB2として知られるgRNAを同定した。これらのgRNAの標的領域を図1及び図2に示す。Cas-OFFinderを使用して、可能な数のオフターゲット事象を決定した(表1)。HIV-1単離株間のこれらの標的領域の保存を、Los Alamos National Laboratory HIV Sequence Database(hiv.lanl.gov/content/index)からのウェブアライメントを使用して決定した。全てのクレードが、使用した1,242のHIV配列で表された(2017年に入手可能なデータ)。その特定の塩基対位置における各ヌクレオチドの確率のロゴによる図解表現を作製した(図1)。
【表1】

【0135】
gRNA命名法の標準化。本研究で利用したSpCas9 gRNAについて、ガイドRNA命名法を開発した。Cas酵素の種起源が最初に記述され、続いてCas特異的PAMに隣接するヌクレオチド位置が記述される。ガイドRNAが結合する相補鎖の配向は、プラス(+)鎖(5’→3’)又はマイナス(-)鎖(3’→5’)のいずれかとして上付き文字で示される。ここで報告されるgRNAの場合、gRNAの数値表示は、HBX2-HIV参照ゲノム(登録番号K03455.1)におけるヌクレオチド位置を指す。使用される参照ゲノムは、下付き文字として示される。
【0136】
ii.インビトロDNA切断アッセイ
いくつかのガイドRNAを、HIV-1 LTRに特異性を有するように設計し(図1は標的配列を示し、図2はpNL-GFP中の部位を示す)、単一gRNA又は2つのgRNAの組み合わせのいずれかを用いて切断効率を試験した。標的プラスミドであるpNL-GFP(図2)は、NsiI及びXhoIで消化してHIV及びルシフェラーゼ配列の大部分を除去することによってpNL4-3 Luc(Addgene 番号3418)から得た。次いで、PCRを用いて核局在化及びスプライスアクセプター部位を再導入し、XhoI部位とKpnI部位との間のClontechプラスミド(pEGFP-N1)からのPCRによるeGFP配列を添加した。加えて、HIV-1クレードA~G(NIH AIDSリポジトリ、カタログ番号4787~4793)から種々のHIV-1 3’LTRを発現するpBluescript KS(+)LTR-lucプラスミドに対して、2つの異なるgRNAを試験した。
【0137】
HIV-1 DNAの切断を試験するために、pNL-GFPプラスミドを最初にKpn1及びXmn1制限酵素、又はXho1及びXmn1制限酵素(NEB、Ipswich,MA)のいずれかの組み合わせで消化して、3つの断片を得た(図2及び図8)。異なるHIV-1クレード(A~G)を発現するpBluescript KS(+)プラスミドを、それぞれ、Xmn1及びEcoR1制限酵素の組み合わせで消化して、6kB及び0.4kBの2つの断片を作製した。インビトロ切断アッセイは、最初にgRNA及びtracrRNAの二重鎖を形成し、続いて組換えSpCas9を添加してリボ核タンパク質複合体(RNP)を形成することによって実行した。簡潔に述べると、300pmoleのgRNAを、300pmoleのtracrRNA(Alt-R(登録商標)CRISPR-Cas9 tracrRNA、IDTdna Coralville,IA)とともに95℃で5分間インキュベートすることにより、gRNA:tracrRNA二重鎖を形成した。次いで、この二重鎖を、ヌクレアーゼを含まない二重鎖緩衝液(IDT DNA)で1:100に希釈して、3μMの最終濃度とした。30μlのRNPアセンブリの場合、1μl(3pmole)のgRNA:tracrRNA二重鎖を、3μlの10×Cas9ヌクレアーゼ反応緩衝液(IDT)とともに、3pmoleのCas9(Alt-R(登録商標)S.p.Cas9ヌクレアーゼV3、IDTdna)に、添加した。複合体を室温で15分間インキュベートし、次いで、消化されたプラスミドDNA300ngに添加し、37℃で更に15分間インキュベートした。1μlのプロテアーゼK(800単位/ml、NEB)の添加により反応を停止させ、室温で10分間インキュベートした。切断効率を評価するために、DNA断片を0.9%アガロースゲル上で分離し、Image Labソフトウェア(Hercules,CA)を使用して、Biorad Versa Docイメージングシステム上でGelRed(Biotium、Fremont,CA)により視覚化した。
【0138】
iii.HIV-1 LTRのインビボ切断
TZM-bl細胞は、ルシフェラーゼ又はベータ-ガラクトシダーゼ遺伝子のいずれかを発現する修飾HIV-1プロウイルスの2つのコピーを含有するため、CRISPR/Cas9遺伝子切断のインビボ評価のためのモデルとして使用した。これらの細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mMグルタミン、及び1×ペニシリン-ストレプトマイシン(GIBCO、Grand Island,NY)を補充したDMEM中、37℃及び5%CO2で維持した。LTRのU3領域に対する1つ又は2つの異なるgRNA(gRNA 363及びgRNA127)のいずれかを含有するRNPの混合物を、CRISPRmax(CMAX0001、ThermoFisher、Waltham,MA)を使用してTZM-bl細胞にトランスフェクトした。HPRT(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ)(IDT、Coralville,IA)に対するgRNAを使用して対照RNPを調製した。簡潔に述べると、TZM-bl細胞のRNPは、40pmoleのgRNA:tracrRNA二重鎖、40pmoleのCas9、及び3.4μlのCas9-plus試薬(総体積=83μl)を混合し、室温で5分間インキュベートすることによって調製した。次いで、このRNPを4μlのCRISPRMax及び79μlのOPTI Mem(Gibco)と混合し、更に20分間インキュベートした。次いで、RNPを24ウェルプレートのウェルに添加し、最終体積0.5mlの1%FBSを補充したDMEM中に8×104個のTZM-bl細胞を添加した。細胞を、遺伝子切断の分析の前に60時間インキュベートした。
【0139】
HIV-1 LTRのインビボ切断後のTZM-bl細胞における機能的活性の喪失を、ルシフェラーゼレポーターアッセイにより評価した。簡潔に述べると、RNP(上記)でトランスフェクションしたTZM-bl細胞を、60時間のインキュベーション後にトリプシンを用いて除去し、計数し、各トランスフェクション条件から1×104個の細胞を、96ウェルプレートのウェルに3連で播種した。細胞をプラスチックウェルに一晩結合させ、次いで10ng/mlのTNF-αで4時間刺激し、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、25μlのルシフェラーゼ細胞培養溶解試薬(Promega)で溶解した。細胞を含有するプレートを-80℃で一晩置いて溶解を促進させ、次いで暗所にて室温で解凍した。次いで、20μlの各溶解物を1.5mlのマイクロリットルチューブに移し、続いて100μlのルシフェラーゼアッセイ基質(Promega)を添加した。ルシフェラーゼ活性を輝度計(Turner Systems 20/20)で記録した。
【0140】
iv.T7E1アッセイ
RNPのインビボトランスフェクション後、QIAmp Micro DNAキット(Qiagen、Waltham,MA)を使用して、TZM-bl細胞からDNAを単離した。CRISPR/Cas9 RNP複合体を介したゲノム編集を、製造業者の指示に従ってEnGen変異検出キット(NEB)によって定量した。簡潔に述べると、Phusion Hi-Fidelity DNAポリメラーゼ(NEB)プライマー対(順方向:GGAAGGGCTAATTCACTCCCAA、逆方向:ACAGGCCAGGATTAACTGCG)を使用して、5’LTR標的部位に隣接するゲノムDNAに対するPCRを35サイクル(98℃、30秒;66℃、20秒;72℃、30秒)行って、500nMの最終濃度、及び50~100ngのゲノムDNAとした。HPRT遺伝子の1.083kb部分を、Q5 Hot Start High Fidelity 2X Master Mix(NEB)、及びAlt-R(登録商標)Human HPRT PCR Primer Mix(IDT)を使用して増幅した。このPCRを35サイクル(98℃、15秒;67℃、20秒;72℃、30秒)行った。アッセイを完了するために、PCR産物を、5μlのPCR産物、2μlの10×NEB緩衝液2を使用して、19μlの最終体積で(95℃~85℃、2℃/秒;85℃~25℃、0.1℃/秒)再アニールし、次いで1μlのEnGen T7E1で15分間、37℃で消化した。1μlのプロテアーゼK(NEB)を37℃で5分間インキュベートすることにより反応を停止させ、PCR産物を1.5%アガロースゲル上で分離させた。DNAバンドをGelRedで可視化し、バンド密度を上記のように決定した。遺伝子改変の定量は、相対的なバンド強度に基づいており、式:%遺伝子改変=100×(1-切断された断片)1/2によって決定した。
【0141】
v.CIRCLE-Seq
単一ガイド(sg)RNAの合成。CIRCLE-Seqインビトロ切断反応に使用したガイドRNAは、標的特異的gRNA及びtracrRNAの両方を含有する単一ガイドRNA(sgRNA)であった。Engen sgRNA合成キット(NEB、カタログ番号E3322S)を使用して、dsDNAテンプレートからT7プロモーターでこれらを転写し、Monarch RNA Cleanupキット(NEB、カタログ番号T2040L)を使用して精製した。dsDNAテンプレートの合成に必要なT7プロモーター及び標的特異的配列を含有するDNAオリゴを、ThermoFisher(カタログ番号10336022)から購入した。
【0142】
vi.CIRCLE-Seqライブラリーの調製
Gentra Puregene Tissue Kit(Qiagen、カタログ番号158667;入力:1-2×107細胞)を使用してTZM-bl細胞からゲノムDNAを精製し、Covaris S220音響ソニケータ(Woburn,MA)を使用して、製造業者のプロトコルに従って平均長さ300bpに剪断した。CIRCLE-Seqプロトコルは、主に以前に報告された通りに実行された。簡潔に述べると、剪断されたゲノムDNAを、Ampure XPビーズベースの二重サイズ選択(Beckman Coulter、Jersey City,NJ;カタログ番号NC9959336、サイズ範囲:200~700bp)を用いて固相可逆的固定化ビーズ(SPRI)に曝露し、Aテールを付加し、ヘアピンアダプター(oSQT1288;5’-P-CGGTGGACCGATGATCUATCGGTCCACCG*T-3’、*はホスホロチオエート結合を示す)にライゲートした(KAPA Biosystems、Wilmington,MA、カタログ番号KK8235)。ライゲートされたヘアピンDNA断片を、ラムダエキソヌクレアーゼとE.coliエクソヌルセアーゼ(Exonulcease)I(NEBカタログ番号M0262L、M0293L)との混合物で処理して、遊離端を有するDNAを除去した。次に、アダプターをライゲートしたDNAをユーザ酵素(NEB、カタログ番号M5505L)及びT4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB、カタログ番号M0201L)で処理し、相補的な3’オーバーハングを生成して、DNA断片の自己ライゲーション及び環状化を促進した。得られたDNA(500ng)をT4 DNAリガーゼ(NEB、カタログ番号M0202L)で一晩環状化し、次いでPlasmid-Safe ATP-dependent DNase(Epicentre、Madison,WI、カタログ番号E3101K)で処理して、gRNA/SpCas9ヌクレアーゼ(NEB、カタログ番号M0386S)によるインビトロ消化前に非円形DNA断片を除去した。Cas9処理DNAにAテールを付加し、Illumina用のNEBNextアダプター(NEBカタログ番号E7601A)にライゲートし、USER酵素処理し、KAPA Hifiポリメラーゼ(KAPA Biosystems、KK2601)及びIllumina(登録商標)用のNEBNext(登録商標)Multiplex Oligos(カタログ番号E7600S)を用いてPCRにより増幅した。増幅したDNAを、別のラウンドのAmpure XPビーズベースの両側サイズ選択に供した。
【0143】
完成したDNAライブラリーを、KAPA Library Quant Kit(KAPA Biosystems、カタログ番号07960140001)、Qubit dsDNA定量、及びAgilentフラグメントアナライザでのサイジングを使用してqPCRによって定量し、その後、Dartmouth-Hitchcock Medical Center Core Facility(Lebanon,NH)のGenomics and Molecular Biology Shared ResourceにおいてIllumina NextSeq500機器で配列決定した。
【0144】
vii.CIRCLE-Seqデータ解析
完成したDNAライブラリーを正規化し、変性させ、フローセル上にロードし、試料当たり約500万個の配列リード対を用いて、Illumina NextSeq500機器で150塩基対の対合末端リードにより配列決定した。修正されたCIRCLE-Seqのパイプラインを、12コアのiMac Proでローカルに実装した。簡潔に述べると、脱多重化、トリミング、マージした対合末端リードを、別個の染色体としてヒト参照ゲノムGRCh37及びHIV-1 HXB2からなるカスタムゲノムアセンブリにマッピングした。マッチした部位及びマッチしない部位を、以前に公開されたデフォルト設定を使用して同定した。要するに、標的(ガイド)+PAM配列に対する6ヌクレオチドミスマッチ(欠失及び挿入を含む)以下のリード配列をオフターゲット部位として同定し、6ヌクレオチドミスマッチを超えるものをマッチしないと分類した。
【0145】
3.結果
i.HIV-1プロウイルスLTR配列のインビトロ切断
pNL-GFPプラスミド中に存在するHIV-1 LTR配列を標的とする様々なgRNAの特異性及び切断活性を試験するために、インビトロ切断アッセイを行った。個々のgRNAをSpCas9 tracrRNAと複合体化し、組換えSpCas9と組み合わせてRNPを形成した。次いで、RNPを制限酵素で消化したpNL-GFPとともにインキュベートした。アガロースゲル電気泳動によって視覚化した予想された切断産物の生成及び強度を監視することにより切断効率を評価した。図8及び図3A(左パネル)は、標的DNA切断のアガロースゲル画像を示す。切断された標的領域の百分率が棒グラフ形式(図3A、中央及び右パネル)で示され、gRNAs SpCas9-363-HXB2(363)及びSpCas9-361-HXB2(361)が、5’LTR及び3’LTRの両方の切断において最も効果的であったことを示しているのに対し、SpCas9-278+HXB2(278)及びSpCas9-127+HXB2(127)は、5’及び3’LTR領域の異なる切断効率を示した。5’LTRと3’LTRとの間の切断効率の差は、我々の標的のこれらの領域における遺伝子配列の差に起因する可能性がある(図7図10)が、様々なgRNA含有RNPが本質的に標的DNAの切断においてより効率的であることを排除することはできない。
【0146】
HIV-1 LTRの異なる領域を標的とするCRISPR/Cas9 RNPは、単一のRNPと比較して、組み合わせて使用された場合に遺伝子切断においてより効率的であった。図3Bに示すように、gRNAの組み合わせの使用は、個々のgRNAと比較して同様の又はより高い切断効率を示した。例えば、gRNA 278+gRNA 361(93.4±0.6%切断)、及びgRNA 278+gRNA 363(94.3±0.8%切断)の組み合わせは、我々が試験した他の組み合わせと比較して、5’LTRで顕著に高い標的領域切断を示した。対照的に、gRNAの組み合わせによる3’LTRでの切断を定量したとき、全てのgRNAの組み合わせが、単一gRNAと比較して切断効率の増加を示した。2つの最良のガイドの組み合わせであるgRNA 278+361(96.8±3.2%)、及びgRNA 278+363(95.6±3.4%)は、5’LTRと比較して、3’LTRにおける切断効率をわずかに増加させた。5’及び3’LTRに対するこの差異的切断のパターンは、個々のgRNA及び同時に使用される2つの異なるgRNAの組み合わせの両方で一貫していた(切断効率は80%~100%の範囲であった)。
【0147】
ii.HIV-1 LTRに対するガイドRNAは、様々な効率でHIV-1クレードを標的とする
単一のHIV-1クレードに対する各ガイドRNAの活性は、機能的活性のある程度の指標となるが、様々なLTR配列を標的とする能力も評価されるべきである。したがって、HIV-1クレードA~Gの3’LTRの異なる部分を含有するプラスミドを、上記で行われたものと同様のインビトロアッセイで使用した。gRNA 127は、このgRNAが全ての様々なクレードの中で標的領域に対する最大の相同性を有していたために試験し、またgRNA 363は、様々なクレードの3’LTRの全てにわたって最小の相同性を有していたために試験した。
【0148】
インビトロ切断における試験を行ったとき、これらのgRNAの切断効率は、様々なHIVクレードA~G間の標的配列とガイドRNAとの間の相同性と相関していた(図4、パネルA~C)。標的切断をアガロースゲル電気泳動により評価し(図4A)、切断効率パーセントを計算して図4Bに示す。図4Cは、gRNAと標的DNAとの間のヌクレオチドミスマッチを示し、これは、ある場合には、非連続的であり、PAMの近位及び遠位の両方に位置していた。切断効率に対するミスマッチの影響を予測するために、各代表的なクレード配列との対比較を用いて、各ガイドについて切断頻度決定(CFD)スコアを計算した(図4D)。この分析は、ガイドRNAと標的DNAとの間のミスマッチの数、ミスマッチの位置、PAM、及び特定のヌクレオチドミスマッチを考慮する。ガイドRNA 127の切断効率は、76±4%~83±0.5%の範囲であり、クレード間で同様であった(図4B)。対照的に、gRNA 363を有するRNPは、3’LTRとのヌクレオチドミスマッチの程度が大きかったが、標的遺伝子切断の減少を示した(図4B)。gRNA 363と標的配列(クレードB及びD)との間のマッチングは、最も高い切断効率をもたらした(それぞれ89±1.3%及び89±2.3%)(図4B)。gRNA 363によって標的とされた配列は、HIV-1クレードA及びGにおける対応する配列との4つのヌクレオチドミスマッチを含有し、これらのミスマッチは、PAMの近位にクラスター化していた(図4C)。ミスマッチの程度は、クレードA(4.2±0.6%)及びクレードG(16±6.1%)の切断効率の低下に対応していた(図4B)。gRNA 363とクレードCの3’LTRとの間に6個の塩基対ミスマッチがあり、その結果、この標的の切断レベルが非常に低かった(5.4±0.3%)(図4B及び図4C)。gRNA 363とクレードEとの間に10個の塩基対ミスマッチがあり、これは標的切断の完全な欠如をもたらした(図4B)。このパターンとは対照的に、gRNA 363は、クレードFの3’LTRと4つのヌクレオチドミスマッチを有していたが、高いレベルの標的切断(84±3%)を示した(図4B)。これらの結果は、抗HIV-1 gRNAの潜在的な治療上の有用性に対する配列多様性の影響を示し、また、標的とgRNAとの間の不完全な相補性が、HIV-1配列にわたる所与のgRNAの広範な使用を妨げないことを示す。
【0149】
iii.TZM-bl細胞におけるHIV-1プロウイルス5’LTRのインビボ切断
細胞への送達後の抗HIV-1 gRNAの有効性を評価するために、HIV-1プロウイルスの2つの修飾形態の組み込まれたコピーを含有するTZM-bl細胞においてインビボアッセイを行った。RNPによるトランスフェクションの4日後、ゲノムDNAを細胞から単離し、5’LTRの切断から生じる遺伝子改変の百分率を、PCR、続いてT7E1アッセイを用いて決定した。ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子を標的とする最適化対照gRNAを、陽性対照として使用した。HPRT遺伝子を標的とするRNPのトランスフェクション後の遺伝子改変パーセントは、41±4.0%であった(図5A及び図5C)。各ガイドによる切断後の予想される断片サイズを図5Bに示す。gRNA 363又はgRNA 127を発現するRNPを用いたトランスフェクションにより、HPRTガイドRNAを用いたものと比較して、同様の頻度の5’LTRの改変がもたらされた。gRNA 363及びgRNA 127を含有するRNPのコトランスフェクションは、最も高いレベルの遺伝子改変(52±5.2%)を示し、いずれのgRNA単独のトランスフェクションよりも有意に高かった(gRNA 363による31±2.2%の遺伝子改変、及びgRNA 127による25±3.9%の遺伝子改変)(図5C)。更に、2つの異なるガイドRNAの使用により、231個の塩基対欠失事象が引き起こされた(図9)。T7E1アッセイによって欠失事象が定量されないことを考慮すると、gRNA 363及びgRNA 127の両方のトランスフェクションによる5’LTRの標的化が、測定したものよりも高かった可能性がある。ルシフェラーゼレポーターアッセイを行って、上述のRNPによるトランスフェクション後のLTRの機能的活性を調べた。LTRガイドRNPで処理した細胞は、HPRT RNPで処理した細胞よりも顕著に少ないルシフェラーゼ発現を示した。ガイドRNA 363及び127は、単独又は組み合わせのいずれかで、LTRの機能的損傷を媒介し、転写能力を損なう。
【0150】
iv.オンターゲット及びオフターゲット切断事象のCIRCLE-Seq分析
CIRCLE-Seqを実行して、いくつかの異なるgRNAの使用に起因するオフターゲット切断事象を評価した。CIRCLE-Seqを行うために、TZM-bl細胞株からの環状化ゲノムDNAを、SpCas9、tracrRNA、及びgRNA 127又はgRNA 363のいずれかからなるRNPを用いたインビトロ切断のための標的として使用した。アダプターライゲーション及びライブラリー調製後、CRISPR/Cas9切断によって誘発されるオフターゲット事象を次世代配列決定によって評価した。これらのgRNAの最も一般的なオフターゲット切断事象は、オンターゲット切断事象の頻度の約5%で生じた(図6A及び図6B)。これは、CIRCLE-Seqによって試験された他の公開されているガイドと比較して比較的高い程度の標的特異性であった[14]。また、分析を行って、最も近い注釈付き遺伝子を同定し、標的遺伝子に対する予測されるオフターゲット切断部位の位置を画定した(図6C)。いくつかの内因性切断事象が検出されたが、既知のタンパク質コード配列内では、いずれのオフターゲット事象も検出されなかった。これらのデータは、同定されたgRNAの前臨床開発中に、標的化、捕捉、又はアンプリコンベースの再配列決定によって評価され得る潜在的なオフターゲット事象のリストを提供する。総合すると、これらのデータは、複数のクレードのHIV-1のLTRを効果的かつ特異的に標的とすることができるgRNAの設計及び実装を示し、gRNA候補の開発及び徹底的な評価のための枠組みを提供する。
【0151】
4.考察
組み込まれたHIV-1プロウイルスを切断し、新しいウイルス産生を防ぐためのCRISPR/Cas遺伝子編集の開発は、革新的な治療アプローチの開発に新しい機会を提供する。この方法は、標的DNA配列内の小さな領域に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼによる二本鎖DNA切断事象を指示するガイドRNA分子の設計を必要とする。1,200超のHIV-1 LTR配列を、500を超える潜在的なガイドRNA部位と整列させたとき、最も保存された標的領域は、全ての主要なM群サブタイプを含む試験した配列の70%に見出された。別の分析では、TARコード領域内又はその近位を標的とするガイドは、クレードB配列の100%、及び各共通サブタイプからの独自の配列の96.1%を切断すると予測された。
【0152】
CRISPR/Casによる単回編集は、最終的にウイルス回避につながる可能性があり、したがって、LTRに対するgRNAを用いたウイルスゲノムの完全な切除は、ウイルス回避の可能性を回避するであろう。加えて、最も保存された領域がウイルスの完全性に不可欠であり、突然変異に対して耐性が低いため、ゲノム内の高度に保存された領域を標的とすることが、ウイルス回避の可能性を減少させることも見出された。代替として、ウイルスゲノム内の2つの異なる領域を同時に標的とするための1つより多くのgRNAの使用(多重化)が、遺伝子編集後のウイルス回避を顕著に減少させることも見出されている。
【0153】
本明細書に示されるように、gRNA/Cas9対は、4つのミスマッチを有する配列に対して顕著な切断活性を示した。CIRCLE-seq分析では、DNA又はRNAバルジを有する部位での切断事象も検出された。単一のRNA又はDNAバルジ及び4つのミスアライメント塩基を可能にすることにより、Cas-OFFinder等のインシリコツールを使用して、3000を超えるオフターゲット部位の同定をもたらす。最近、インシリコ予測の代替又は補足として、Cas切断部位のインビトロ同定のための方法が浮上している。これらの方法は、ゲノムDNA及びgRNA/Cas9エンドヌクレアーゼとのインビトロ切断反応を使用して、好ましい切断部位の領域を同定する。これらの方法のうちの2つであるCIRCLE-Seq及びSITE-Seqは、細胞内のCas9媒介性オンターゲット及びオフターゲット切断事象の詳細な調査を可能にするために、アンプリコンベースの配列決定と関連付けられている。
【0154】
HIV-1プロウイルスの5’及び3’長末端リピート(LTR)領域を標的とするいくつかのガイドRNAの設計及び試験が本明細書に記載される。gRNA/tracrRNA及びSpCas9を含有するリボ核タンパク質(RNP)を調製し、これらの複合体を使用して、標的DNAのインビトロ改変及びインビボ送達を達成して、核細胞におけるガイドRNAの切断効率を評価した。標的DNAの顕著な切断効率がインビトロで観察された。インビボ切断効率は50%に達し、TZM-bl細胞株におけるルシフェラーゼ活性の低下によるLTRへの機能的損傷と相関していた。他の方法は、インビボでの遺伝子切断を定量するために使用されるT7エンドヌクレアーゼ1変異検出(T7E1)アッセイに加えて、切断編集の干渉(ICE)、及び分解によるインデルの追跡(TIDE)を含む。これらの研究に続いて、標的配列に対するgRNAのオンターゲット及びオフターゲット効率の詳細な分析を行った。これらの知見は、設計されたガイドRNAが、個別に使用されたときに高いレベルの切断効率を有し、ある場合には、2つのガイドの使用が、単一のガイド上の標的切断の割合を増加させたことを示す。gRNA 127がHIV-1クレードA~Gの異なるLTR配列の高レベルの切断を示したことも判明し、ガイドRNAと標的との間の相同性が完全ではなくても効率的な遺伝子切断が起こり得ることを示した。これらの結果は、インビトロでのオフターゲット切断事象の以前の分析と一致する。3’LTRにおける異なるHIV-1クレード配列にわたるガイドRNA標的領域の保存を評価するために、4つの異なるgRNAの各々を、8つのクレードの各々におけるそれらの標的配列に整列させた。次いで、ガイドRNAが各クレードと一致する頻度を、各クレード内のHIVの複数の単離株と比較することによって評価した。これらの分析は、クレードにわたって、かつ各クレードからの異なる単離株の高い百分率内で、標的領域の保存を示した(図11)。
【0155】
これらの試験は、HIV-1を含むウイルス標的を排除するためのCRISPR/Cas9の使用におけるいくつかの考慮事項を強調している。
【0156】
当業者は、単なる日常的な実験を用いて、本明細書に記載される方法及び組成物の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、又は確認することができるであろう。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
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図1
図2A-2B】
図3A-3B】
図4A-4D】
図5A-5D】
図6A
図6B
図6C-1】
図6C-2】
図7A-7B】
図8A-8B】
図9A-9B】
図10
図11
【配列表】
2023534968000001.app
【国際調査報告】