(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-15
(54)【発明の名称】多価ベータコロナウイルスワクチン、それらの設計及び使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/215 20060101AFI20230807BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230807BHJP
C07K 14/165 20060101ALN20230807BHJP
C12N 15/50 20060101ALN20230807BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20230807BHJP
C12N 15/861 20060101ALN20230807BHJP
C12N 15/863 20060101ALN20230807BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20230807BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
A61K39/215
A61P31/14
C07K14/165
C12N15/50
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
C12N15/863 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504205
(86)(22)【出願日】2021-07-22
(85)【翻訳文提出日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 US2021042795
(87)【国際公開番号】W WO2022020604
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522382691
【氏名又は名称】グレフェックス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シュテルツ, ウーベ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】カル, ジャネイ ウィーラー
(72)【発明者】
【氏名】プレストン, ダニエル エフ.
(72)【発明者】
【氏名】チー, ヤン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA71
4C085CC03
4C085CC05
4C085CC07
4C085EE03
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG08
4C085GG10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
CoV感染症を予防するための多価ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含む。CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、タンパク質抗原、RNAコード遺伝子情報、DNAコード遺伝子情報、又は遺伝子ベクター内の遺伝子情報である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含む、CoV感染症を予防するための多価ワクチン。
【請求項2】
CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、タンパク質抗原、RNAコード遺伝子情報、DNAコード遺伝子情報、遺伝子ベクター内の遺伝子情報、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項3】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、CoV粒子上に、又はCoV粒子によって発現されるタンパク質である、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項4】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、CoVに感染した細胞上に、又はCoVに感染した細胞によって発現されるタンパク質である、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項5】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、タンパク質を産生するためにCoV遺伝子情報でトランスフェクトされた産生細胞から得られるタンパク質である、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項6】
産生細胞が真核細胞である、請求項5に記載の多価ワクチン。
【請求項7】
産生細胞が細菌である、請求項5に記載の多価ワクチン。
【請求項8】
産生細胞が真菌である、請求項5に記載の多価ワクチン。
【請求項9】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つの発現をコードするRNAコード遺伝子情報である、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項10】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つの発現をコードするDNAコード遺伝子情報である、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項11】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、遺伝子ベクター内の遺伝子情報である、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項12】
遺伝子ベクターがウイルス遺伝子ベクターである、請求項11に記載の多価ワクチン。
【請求項13】
ウイルス遺伝子ベクターが、アデノウイルス関連ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアベクター、ポリオーマウイルス、アルファ-ウイルスベクター、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の多価ワクチン。
【請求項14】
ウイルス遺伝子ベクターが細菌である、請求項12に記載の多価ワクチン。
【請求項15】
遺伝子ベクターが細菌遺伝子ベクターである、請求項11に記載の多価ワクチン。
【請求項16】
CoVがβ-CoVである、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項17】
β-CoVが、SARSrウイルス、MERSウイルス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の多価ワクチン。
【請求項18】
β-CoVがSARSrウイルスである、請求項17に記載の多価ワクチン。
【請求項19】
SARSrが、SARS-1ウイルス、SARS-2ウイルス、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の多価ワクチン。
【請求項20】
SARSrウイルスがSARS-2ウイルスである、請求項19に記載の多価ワクチン。
【請求項21】
β-CoVがMERSウイルスである、請求項17に記載の多価ワクチン。
【請求項22】
CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する少なくとも3つの異なるタンパク質抗原を含む、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項23】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、CoVスパイク(S)タンパク質、CoV膜(M)タンパク質、CoVヌクレオカプシド(N)タンパク質、CoVエンベロープ(E)タンパク質、レプリカーゼ1a/1bタンパク質、及びORF4、9、10及び13コードタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項24】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つがCoV Sタンパク質に由来する、請求項23に記載の多価ワクチン。
【請求項25】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つがCoV Mタンパク質に由来する、請求項23に記載の多価ワクチン。
【請求項26】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つがCoV Nタンパク質に由来する、請求項23に記載の多価ワクチン。
【請求項27】
ワクチンが、CoV Sタンパク質に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原と、CoV Mタンパク質、CoV Nタンパク質及びCoV Eタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原とを含む、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項28】
対象における免疫応答を刺激する方法であって、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含む有効量の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項29】
CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、タンパク質抗原、RNAコード遺伝子情報、DNAコード遺伝子情報、遺伝子ベクター内の遺伝子情報、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、CoV粒子上に、又はCoV粒子によって発現されるタンパク質である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、CoVに感染した細胞上に、又はCoVに感染した細胞によって発現されるタンパク質である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、タンパク質を産生するためにCoV遺伝子情報でトランスフェクトされた産生細胞から得られるタンパク質である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
産生細胞が真核細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
産生細胞が細菌である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
産生細胞が真菌である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つの発現をコードするRNAコード遺伝子情報である、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つの発現をコードするDNAコード遺伝子情報である、請求項28に記載の方法。
【請求項38】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、遺伝子ベクター内の遺伝子情報である、請求項28に記載の方法。
【請求項39】
遺伝子ベクターがウイルス遺伝子ベクターである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
ウイルス遺伝子ベクターが、アデノウイルス関連ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアベクター、ポリーマウイルス、アルファ-ウイルスベクター、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
ウイルス遺伝子ベクターが細菌である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
遺伝子ベクターが細菌遺伝子ベクターである、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
CoVがβ-CoVである、請求項28に記載の方法。
【請求項44】
β-CoVが、SARSrウイルス、MERSウイルス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
β-CoVがSARSrウイルスである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
SARSrが、SARS-1ウイルス、SARS-2ウイルス、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
SARSrウイルスがSARS-2ウイルスである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
β-CoVがMERSウイルスである、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
組成物が、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する少なくとも3つの異なるタンパク質抗原を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項50】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つが、CoVスパイク(S)タンパク質、CoV膜(M)タンパク質、CoVヌクレオカプシド(N)タンパク質、CoVエンベロープ(E)タンパク質、レプリカーゼ1a/1bタンパク質、及びORF4、9、10及び13コードタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する、請求項28に記載の方法。
【請求項51】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つがCoV Sタンパク質に由来する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つがCoV Mタンパク質に由来する、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つがCoV Nタンパク質に由来する、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
組成物が、CoV Sタンパク質に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原と、CoV Mタンパク質、CoV Nタンパク質及びCoV Eタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原とを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項55】
対象が哺乳動物対象である、請求項28に記載の方法。
【請求項56】
対象がヒト対象である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
投与することが筋肉内、皮内又は皮下注射によるものである、請求項28に記載の方法。
【請求項58】
投与することが経口投与又は鼻腔内投与によるものである、請求項28に記載の方法。
【請求項59】
CoV感染症を予防するための多価ワクチンであって、(i)第1のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原、(ii)第1のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードするRNAコード遺伝子情報、(iii)第1のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードするDNAコード遺伝子情報、(iv)第1のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードする遺伝子ベクター内の遺伝子情報のうちの2つ以上を含む、多価ワクチン。
【請求項60】
第1のCoVゲノムが、SARSrゲノム及びMERSゲノムからなる群から選択される、請求項59に記載の多価ワクチン。
【請求項61】
(i)第2のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原、(ii)第2のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードするRNAコード遺伝子情報、(iii)第2のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードするDNAコード遺伝子情報、(iv)第2のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードする遺伝子ベクター内の遺伝子情報のうちの2つ以上をさらに含む、請求項59に記載の多価ワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2020年7月22日に出願された仮出願第63,055,139号の優先権を主張し、非仮出願である。
【0002】
本開示は、β-コロナウイルスのワクチンに関し、より詳細には、β-コロナウイルス感染症に対する免疫応答を誘導するための特異的抗原の設計及び組立てに関する。
【背景技術】
【0003】
コロナウイルス(CoV)は、アルファ-、ベータ-、ガンマ-及びデルタ-コロナウイルスの4つの属に分類される。β-CoVは、哺乳動物、一般にコウモリ及びげっ歯類に感染することができるエンベロープ型のプラス鎖RNA(30kb)ウイルスであるが、多くのβ-CoVはヒトにも感染することが知られている。ウイルスは、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を介して宿主細胞に入る。それらの4つの主要な構造タンパク質のうち、Sタンパク質は細胞受容体結合を媒介する。これは、フラン切断部位によって分離されたSI鎖及びS2鎖に分けられる。SARS受容体結合ドメイン(RBD)はSIに位置し、膜融合セクションはS2に位置する。他の主要なタンパク質としては、M、N及びエンベロープ(E)タンパク質が挙げられる。
【0004】
ヒト及び動物におけるCoVによる感染症は、一般に、短期間の軽度から中等度の上気道疾病を引き起こす。例外は、重度でしばしば致死的な症状を特徴とする重症急性呼吸器症候群(SARS-1)、中東呼吸器症候群(MERS)、及び武漢起源SARS-CoV-2(SARS-2)(COVID-19とも呼ばれる)である。MERSの最初の症例は、2012年9月にサウジアラビアで報告され、2014年及び2015年に爆発的流行があり、続いて小規模の季節的流行が発生した。
MERSと確認された2,494例がこれまでに観察され、858人の患者が死亡した(34.3%の致死率;WHO)。SARS-2感染症の最初の症例は2019年12月に見られた。2020年4月16日現在、米国だけで、疾病対策予防センター(CDC)によって報告された推定632,000例の症例及び推定31,000例の死亡があり、4.9%の致死率をもたらした。SARS-2はヒトに対して感染性が非常に高く、R0は約3と推定される(Liu 2020)。世界保健機関(WHO)は、2020年1月30日に、SARS-2の世界的大流行を世界保健緊急事態と宣言した。
【0005】
米国では、SARS-2は、50州すべて、ワシントンD.C.及び少なくとも4つの準州で報告されている。長期ケア施設及びホームレスシェルターにおける流行は、集合環境における曝露及び感染のリスクを強調している。直接的又は飛沫を介した人から人への伝染が、SARS-2の主な伝染手段であると思われる。
【0006】
SARS-2は一般に軽度の疾病として現れ、最も一般的な症状は、発熱、咳又は胸部圧迫感、及び呼吸困難であるが、この疾患は、より高齢で多疾患の患者にとって最も致命的である。重度の合併症としては、肺炎、凝固亢進、多臓器機能障害(心筋傷害及び腎臓を含む)及び最終的には死が挙げられる。小児において、多系統炎症性症候群(MIS-C)は、心臓、血管、腎臓、消化器系、脳、皮膚又は眼などのいくつかの身体部分が炎症を起こす重篤な状態である。
【0007】
SARS-2のための具体的な処置は整っていないが、調査中である。現在推奨されているのは、無症候性又は軽度の疾病を有する患者を観察することである。疾患のさらなる伝播を防止するための最良の手法は、特定のワクチンの開発である。不活化ウイルスワクチンに加えて、RNAベースのウイルスベクター化ワクチン及び遺伝子ワクチンに重点を置いて、異なる手法の操作されたワクチンが調査されている。これらのワクチンのほとんどは、主要抗原としてSARS-2スパイク(S)タンパク質を使用する。動物試験並びに早期臨床治験からのデータが公開されている。プライム/ブースト免疫化プロトコールが、強い中和抗体応答を誘導するために必要であった。しかしながら、多くの患者は、複数回投与又はブースターを必要とするレジメンよりも単回投与レジメンを好むであろう。単一抗原を超える操作されたワクチンが、単回投与後に免疫保護をさらに増強するかどうかを調査する必要がある。
【0008】
CoVは体液性及び細胞性免疫応答の両方を誘導する。動物及び臨床研究は、SARS-1及びMERS感染症がSタンパク質に対する強力な中和抗体応答を引き起こすことを実証している。さらに、SARS-2体液性応答は、同様にSタンパク質を標的とし、他の抗体はMタンパク質に結合した。Mタンパク質は、CD8+T細胞応答の中心としても機能する。抗SARS-2 CD4+T細胞は、主にN抗原及びS抗原の両方を見る。不活化ウイルスワクチンは本質的に多価である。それらは、単一Sタンパク質ワクチンよりも強いSARS-2応答を提供し得る。動物研究は、不活化ウイルスワクチンがTh2型のおそらく抗N疾患増強免疫応答を誘導しやすいことを示唆している。Sベース成分ワクチンでも疾患増強が観察されたが、ウイルスベクター化抗Sワクチンでは明らかではなかった。FDAは、強力な中和抗体とともにTh1型T細胞の極性化を示すSARS-2ワクチンを好む。
【0009】
SARS関連(SARSr)ウイルスの全体的な変異率は、0.1変異/世代で計算されている。動物SARSrウイルスのS受容体結合ドメインのわずかな変化は、ヒトACE2への結合を増強し、したがってヒト集団への跳躍を促進し得る。Sタンパク質配列のアラインメントは、S2領域内に有意な安定領域を有する遺伝子全体の有意な分岐を明らかにするが、SARSrウイルスのM及びNは全体的に有意に低い変異率を示す。したがって、多価ワクチンは、SARS-2バリアントに対するより良好な保護を提供するであろう。
【0010】
Adベクターとして操作された現在のワクチンは、他のワクチン系と比較してより高い及びより多くの持続免疫原性を繰り返し実証している。最小限に改変された初期世代(eg)Adベクターは、多数の内因性Ad遺伝子を有し、これに対して活発な体液性及び細胞性免疫応答が誘導される。したがって、egadワクチンを用いたプライム/ブーストワクチン接種レジメンは、2回目の投与について異なる設計のワクチンを見込んでいた。しかし、最近の臨床治験では、動物由来のeg Adワクチンは、ブースト注射後に免疫応答の増加が見られた。抗Ad応答は、すべての内因性Ad遺伝子が完全に欠失した(fd)Adベクターによって最も効率的に最小化されている。そのようなfdAdベクターは、導入遺伝子発現の増強、in vivoでの長期維持、及び免疫原性の改善が見られた。fdAdゲノムの包装情報は、もとは、第2のウイルスコンストラクト、ハイブリッドバキュロウイルス-アデノウイルス又はヘルパーウイルスとともに送達され、複製能のあるAd(RCA)又はヘルパーウイルスによる汚染がもたらされた。
【0011】
これらの問題を回避するために、ヘルパーウイルスに依存しない技術が開発されている。ヘルパーウイルス非依存性ワクチンは、すべての内因性遺伝子の完全欠失及びヒトAd6などの希少なステレオタイプのカプシドへの包装によって、既存の及び誘導された干渉性抗Ad応答を最小限に抑える。現在のヘルパーウイルス非依存性技術は、2つの独立して改変可能な成分、(i)ITR及び包装シグナルを有する最大33kbの導入遺伝子コンストラクトを受け入れることができるベースベクターモジュール、及び(ii)Ad2、Ad5、Ad6及びAd35ステレオタイプに基づく異なる環状包装プラスミド(pPaC2/5/6及びpPaB35)に基づいて構築される。ベースベクターモジュールは、すべてのAd遺伝子を除去し、ヒトハウスキーピング遺伝子5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ遺伝子(ATIC)の断片に由来するサイズ補償スタッファーに置き換えた。環状包装プラスミドでは、左ITR、包装シグナル、並びにE1、E3及びタンパク質IX遺伝子が欠失している。ベクターモジュールを、HEK-293由来のHTP7/Q7包装細胞を使用する最適化された1週間同時トランスフェクションプロトコールによってカプセル化する。この同じ技術を使用して、強力な免疫原性を有し、広範囲のCoVに対する保護を提供するために単回投与を必要とするCoVワクチンを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0012】
一実施形態では、本開示は多価ワクチンを提供する。本開示の実施形態によれば、CoV感染症を予防するための多価ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含む。
【0013】
別の実施形態では、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、タンパク質抗原、RNAコード遺伝子情報、DNAコード遺伝子情報、遺伝子ベクター内の遺伝子情報、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoV粒子上に、又はCoV粒子によって発現されるタンパク質である。なおさらなる実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoVに感染した細胞上に、又はCoVに感染した細胞によって発現されるタンパク質である。
【0014】
なおさらなる実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、タンパク質を産生するためにCoV遺伝子情報をトランスフェクトされた産生細胞から得られるタンパク質である。一実施形態では、産生細胞は真核細胞である。別の実施形態では、産生細胞は細菌である。別の実施形態では、産生細胞は真菌である。
【0015】
一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つの発現をコードするRNAコード遺伝子情報である。別の実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つの発現をコードするDNAコード遺伝子情報である。
【0016】
一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、遺伝子ベクター内の遺伝子情報である。別の実施形態では、遺伝子ベクターはウイルス遺伝子ベクターである。さらに別の実施形態では、ウイルス遺伝子ベクターは、アデノウイルス関連ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアベクター、ポリオーマウイルス、アルファ-ウイルスベクター、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、ウイルス遺伝子ベクターは細菌である。さらに別の実施形態では、遺伝子ベクターは細菌遺伝子ベクターである。
【0017】
一実施形態では、CoVはβ-CoVである。さらなる実施形態では、β-CoVは、SARSrウイルス、MERSウイルス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。なおさらなる実施形態では、β-CoVはSARSrウイルスである。別の実施形態では、SARSrは、SARS-1ウイルス、SARS-2ウイルス、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、SARSrウイルスはSARS-2ウイルスである。なおさらなる実施形態では、β-CoVはMERSウイルスである。
【0018】
一実施形態では、多価ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する少なくとも3つの異なるタンパク質抗原を含む。
【0019】
一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoVスパイク(S)タンパク質、CoV膜(M)タンパク質、CoVヌクレオカプシド(N)タンパク質、CoVエンベロープ(E)タンパク質、レプリカーゼ1a/1bタンパク質、及びORF4、9、10及び13コードタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する。一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoV Sタンパク質に由来する。別の実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoV Mタンパク質に由来する。さらなる実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoV Nタンパク質に由来する。
【0020】
一実施形態では、ワクチンは、CoV Sタンパク質に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原と、CoV Mタンパク質、CoV Nタンパク質及びCoV Eタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原とを含む。
【0021】
一実施形態では、本開示は、対象において免疫応答を刺激する方法を提供する。本開示の実施形態によれば、対象における免疫応答を刺激する方法は、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含む有効量の組成物を対象に投与することを含む。
【0022】
一実施形態では、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、タンパク質抗原、RNAコード遺伝子情報、DNAコード遺伝子情報、遺伝子ベクター内の遺伝子情報、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。別の実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoV粒子上に、又はCoV粒子によって発現されるタンパク質である。さらに別の実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoVに感染した細胞上に、又はCoVに感染した細胞によって発現されるタンパク質である。
【0023】
一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、タンパク質を産生するためにCoV遺伝子情報をトランスフェクトされた産生細胞から得られるタンパク質である。さらなる実施形態では、産生細胞は真核細胞である。別の実施形態では、産生細胞は細菌である。なおさらなる実施形態では、産生細胞は真菌である。
【0024】
一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つの発現をコードするRNAコード遺伝子情報である。一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つの発現をコードするDNAコード遺伝子情報である。
【0025】
一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、遺伝子ベクター内の遺伝子情報である。一実施形態では、遺伝子ベクターはウイルス遺伝子ベクターである。別の実施形態では、ウイルス遺伝子ベクターは、アデノウイルス関連ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアベクター、ポリーマウイルス、アルファ-ウイルスベクター、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに別の実施形態では、ウイルス遺伝子ベクターは細菌である。さらなる実施形態では、遺伝子ベクターは細菌遺伝子ベクターである。
【0026】
一実施形態では、CoVはβ-CoVである。さらなる実施形態では、β-CoVは、SARSrウイルス、MERSウイルス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。なおさらなる実施形態では、β-CoVはSARSrウイルスである。さらに別の実施形態では、SARSrは、SARS-1ウイルス、SARS-2ウイルス、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、SARSrウイルスはSARS-2ウイルスである。なおさらなる実施形態では、β-CoVはMERSウイルスである。
【0027】
一実施形態では、組成物は、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する少なくとも3つの異なるタンパク質抗原を含む。
【0028】
一実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoVスパイク(S)タンパク質、CoV膜(M)タンパク質、CoVヌクレオカプシド(N)タンパク質、CoVエンベロープ(E)タンパク質、レプリカーゼ1a/1bタンパク質、及びORF4、9、10及び13コードタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する。別の実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoV Sタンパク質に由来する。さらに別の実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoV Mタンパク質に由来する。さらなる実施形態では、2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、CoV Nタンパク質に由来する。一実施形態では、組成物は、CoV Sタンパク質に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原と、CoV Mタンパク質、CoV Nタンパク質及びCoV Eタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原とを含む。
【0029】
一実施形態では、対象は哺乳動物対象である。別の実施形態では、対象はヒト対象である。
【0030】
一実施形態では、投与することは、筋肉内、皮内又は皮下注射によるものである。さらなる実施形態では、投与することは、経口投与又は鼻腔内投与によるものである。
【0031】
一実施形態では、本開示は、CoV感染症を予防するための多価ワクチンを提供する。本開示の実施形態によれば、CoV感染症を予防するための多価ワクチンは、(i)第1のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原、(ii)第1のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードするRNAコード遺伝子情報、(iii)第1のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードするDNAコード遺伝子情報、(iv)第1のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードする遺伝子ベクター内の遺伝子情報のうちの2つ以上を含む。
【0032】
一実施形態では、第1のCoVゲノムは、SARSrゲノム及びMERSゲノムからなる群から選択される。一実施形態では、ワクチンは、(i)第2のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原、(ii)第2のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードするRNAコード遺伝子情報、(iii)第2のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードするDNAコード遺伝子情報、(iv)第2のCoVゲノム内でコードされた抗原に由来するタンパク質抗原の発現をコードする遺伝子ベクター内の遺伝子情報のうちの2つ以上をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0033】
なし
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示の任意の実施形態を詳細に説明する前に、本開示は、その適用において、以下の説明に記載されるか又は図面に示される構成要素の構成及び配置の詳細に限定されないことを理解されたい。本開示は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で実施又は実行することができる。また、本明細書で使用される表現及び用語は、説明のためのものであり、限定するものと見なされるべきではないことが理解される。本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」又は「有する(having)」及びそれらの変形の使用は、その後に列挙される項目及びその均等物並びに追加の項目を包含することを意味する。本明細書における「本質的に含む(including essentially)」及び「本質的にからなる(consisting essentially of)」及びその変形の使用は、その後に列挙される項目、並びに等価物及び追加の項目を、そのような等価物及び追加の項目が全体の特性、使用又は製造を本質的に変更しない限りにおいて、包含することを意味する。本明細書における「からなる(consisting of)」及びその変形の使用は、その後に列挙される項目及びそれらの項目のみを含むことを意味する。
【0035】
図面を参照するとき、全体を通して、同様の番号は同様の要素を指す。第1、第2などの用語は、様々な要素、構成要素、領域、及び/又はセクションを説明するために本明細書で使用され得るが、これらの要素、構成要素、領域、及び/又はセクションは、これらの用語によって限定されるべきではないことが理解されよう。これらの用語は、1つの要素、構成要素、領域及び/又はセクションを別の要素、構成要素、領域及び/又はセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、第1の要素、構成要素、領域又はセクションは、本開示から逸脱することなく、第2の要素、構成要素、領域又はセクションと呼ぶことができる。
【0036】
本開示における数値範囲は近似値であり、別途指示がない限り範囲外の値を含んでもよい。数値範囲は、任意のより低い値と任意のより高い値との間に少なくとも2つの一位数の分離があるという条件で、(特に明記しない限り)一位数の増分において、より低い値及びより高い値からの、及びこれらを含むすべての値を含む。一例として、例えば重量による成分の量などの組成的、物理的又は他の特性が10~100である場合、10、11、12などのすべての個々の値、及び10~44、55~70、97~100などの部分範囲が明示的に列挙されることが意図される。明示的な値を含む範囲(例えば、1、又は2、又は3から5、又は6、又は7の範囲)の場合、任意の2つの明示的な値の間の任意の部分範囲が含まれる(例えば、上記の範囲1~7は部分範囲1~2;2~6;5~7;3~7;5~6などを含む)。1未満の値を含む範囲又は1より大きい分数を含む範囲(例えば、1.1、1.5など)については、一位数は、適切には0.0001、0.001、0.01又は0.1であると考えられる。10未満の一桁の数を含む範囲(例えば、1~5)については、一位数は通常0.1であると見なされる。これらは、具体的に意図されるものの例にすぎず、列挙された最低値と最高値との間の数値のすべての可能な組み合わせは、本開示において明示的に述べられていると見なされるべきである。
【0037】
「下(beneath)」、「下方(below)」、「下部(lower)」、「上方(above)」、「上部(upper)」などの空間的用語は、本明細書では、図に示すように、1つの要素又は特徴と別の要素又は特徴との関係を記載するための説明を容易にするために使用され得る。空間的に相対的な用語は、使用又は例示における向きに応じて異なる向きを包含することを意図していることが理解されよう。例えば、図中の装置をひっくり返した場合、他の要素又は特徴の「下方(below)」又は「下(beneath)」にあると記載された要素は、他の要素又は特徴の「上方(above)」にある。したがって、例示的な「下方(below)」という用語は、上方及び下方の両方の向きを包含することができる。装置は、他の方向に向けられ(90°又は他の向きに回転され)てもよく、本明細書で使用される空間的に相対的な記述子はそれに応じて解釈される。
【0038】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のありとあらゆる組み合わせを含む。例えば、「A及び/又はB」などの語句で使用される場合、「及び/又は」という語句は、A及びBの両方;A又はB;A(単独);及びB(単独)を含むことが意図される。同様に、「A、B及び/又はC」などの語句で使用される「及び/又は」という用語は、以下の実施形態「A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);及びC(単独)のそれぞれを包含することが意図される。
【0039】
一実施形態では、本開示は、CoV感染症に対する多価ワクチンを提供し、多価ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含む。
【0040】
一実施形態では、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原は、ワクチン中のタンパク質として送達され、ワクチン中のRNAコード遺伝子情報として送達され、ワクチン中のDNAコード遺伝子情報として送達され、及び/又はワクチン中の遺伝子ベクター内の遺伝子情報として送達される。
【0041】
タンパク質抗原
一実施形態では、ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のCoVタンパク質抗原を含む。一実施形態では、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原は、(i)CoV上に、若しくはCoVによって発現される抗原、(ii)CoVに感染した細胞上に、若しくはCoVに感染した細胞によって発現される抗原、及び/又は(iii)タンパク質抗原を産生するように操作された産生細胞上に、若しくはタンパク質抗原を産生するように操作された産生細胞によって発現される抗原である。
【0042】
本明細書で使用される場合、「2つ以上」という用語は、少なくとも2つの異なる成分、例えばCoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つの異なるタンパク質抗原を指すために使用される。一実施形態では、「2つ以上」とは、少なくとも2つ、3つ以上、少なくとも3つ、4つ以上、少なくとも4つ、5つ以上、少なくとも5つ、6つ以上などであり得る。特定の実施形態では、ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上、又は少なくとも2つ、又は3つ以上、又は少なくとも3つ、又は4つ以上、又は少なくとも4つ、又は5つ以上、又は少なくとも5つ~6つ以上の異なるタンパク質抗原を含む。
【0043】
CoVは、β-CoV、SARSrウイルス、より具体的にはSARS-2ウイルスを含む任意のCoVであり得る。一実施形態では、ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のCoVタンパク質抗原を含み、2つ以上のCoVタンパク質抗原はそれぞれ同じCoV株に由来する。特定の実施形態では、各CoVタンパク質抗原は、SARSrゲノム及びaMERSゲノム、又はより具体的にはSARS-1ゲノム、SARS-2ゲノム及びMERSゲノムからなる群から選択されるCoVゲノム内でコードされた抗原に由来する。別の実施形態では、ワクチンは、第1のCoVゲノムに由来する2つ以上のCoVタンパク質抗原及び第2のCoVゲノムに由来する2つ以上のCoVタンパク質抗原を含む。例えば、一実施形態では、ワクチンは、SARS-1ゲノム、SARS-2ゲノム及びMERSゲノムからなる群から選択される第1のCoVゲノムに由来する2つ以上のCoVタンパク質抗原と、SARS-1ゲノム、SARS-2ゲノム及びMERSゲノムからなる群から選択される第2のCoVゲノムに由来する2つ以上のCoVタンパク質抗原とを含み、第1及び第2のCoVゲノムは同じではない。
【0044】
別の実施形態では、ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含み、第1のタンパク質抗原は第1のCoVゲノムに由来し、第2のタンパク質抗原は第2のCoVゲノムに由来し、第1及び第2のCoVゲノムは異なり、それぞれがSARS-1ゲノム、SARS-2ゲノム及びMERSゲノムからなる群から選択される。
【0045】
一実施形態では、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原は、SARSrウイルスゲノム内でコードされた抗原に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原、又はSARS-2ウイルスゲノム内でコードされた抗原に由来する少なくとも1つのタンパク質抗原を含む。別の実施形態では、ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ、又は3つ、又は4つ以上のタンパク質抗原を含み、タンパク質抗原の1つ、一部又は全部は、SARSrウイルスゲノム又はSARS-2ウイルスゲノム内でコードされた抗原に由来する。
【0046】
一実施形態では、タンパク質抗原は、CoV膜(M)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、レプリカーゼ1a/1bタンパク質、並びにORF4、9、10及び13コードタンパク質に由来する。
【0047】
ワクチン
CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原の少なくとも1つは、ワクチン中のタンパク質として送達され、ワクチン中のRNAコード遺伝子情報として送達され、ワクチン中のDNAコード遺伝子情報として送達され、及び/又はワクチン中の遺伝子ベクター内の遺伝子情報として送達される。
【0048】
一実施形態では、タンパク質抗原は、ワクチン中のタンパク質として送達される。タンパク質抗原は、CoV上に、又はCoVによって発現されるタンパク質であり得る。一実施形態では、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のCoVタンパク質抗原の1つ、一部又は全部は、CoV上に、又はCoVによって発現される。
【0049】
別の実施形態では、タンパク質抗原は、CoVに感染した細胞によって発現される。一実施形態では、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のCoVタンパク質抗原の1つ、一部又は全部は、CoVに感染した細胞によって発現される。
【0050】
一実施形態では、タンパク質抗原は、CoVゲノム内でコードされた遺伝子情報を使用して産生細胞内でタンパク質抗原を産生するように産生系を操作することによって作製される。産生細胞は、動物細胞及び植物細胞を含むがこれらに限定されない細菌又は真核細胞であり得る。動物細胞は、ヒト細胞、昆虫細胞、並びにヒト及び昆虫以外の動物の細胞から選択され得る。植物細胞には、生きている植物の細胞が含まれる。一実施形態では、産生細胞は、真核細胞、細菌細胞、真菌細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。一実施形態では、CoVタンパク質抗原の1つ、一部又は全部は、CoVゲノム内でコードされた遺伝子情報を使用して産生細胞内でタンパク質抗原を産生するように産生系を操作することによって作製される。
【0051】
ワクチンでの使用のためにCoV上に、又はCoVによって発現される1つ以上のCoVタンパク質抗原を得るために、精製CoV、又は精製SARSrウイルス、又は精製SARS-2ウイルスからタンパク質抗原を抽出する。一実施形態では、タンパク質抗原は、抽出後にさらに精製されることなく混合物として使用される。別の実施形態では、抽出されたタンパク質抗原は精製され、精製混合物として使用される。なおさらなる実施形態では、タンパク質抗原は、精製及び分離されてカスタム混合物を形成するか、又は個別に使用され得る。
【0052】
CoVに感染した細胞によって発現される1つ以上のCoVタンパク質抗原を得るために、CoV感染細胞、又はSARSr感染細胞、又はSARS-2感染細胞からタンパク質抗原を抽出する。一実施形態では、CoV感染細胞は抽出前に精製される。一実施形態では、タンパク質抗原は、抽出後にさらに精製されることなく混合物として使用される。別の実施形態では、抽出されたタンパク質抗原は精製され、精製混合物として使用される。なおさらなる実施形態では、タンパク質抗原は、精製及び分離されてカスタム混合物を形成するか、又は個別に使用され得る。
【0053】
CoVゲノム内でコードされた遺伝子情報を使用して産生細胞内でタンパク質抗原を産生するように産生系を操作することによって作製された1つ以上のCoVタンパク質抗原を得るために、産生細胞に、2つ以上のCoVタンパク質抗原の少なくとも1つをコードする遺伝子発現ベクターをトランスフェクトする。次いで、タンパク質抗原を産生細胞から抽出する。一実施形態では、タンパク質抗原は、抽出後にさらに精製されることなく混合物として使用される。別の実施形態では、抽出されたタンパク質抗原は精製され、精製混合物として使用される。なおさらなる実施形態では、タンパク質抗原は、精製及び分離されてカスタム混合物を形成するか、又は個別に使用され得る。
【0054】
一実施形態では、ワクチンは、タンパク質抗原の発現をコードする遺伝子コンストラクトを操作するためにCoVゲノム内でコードされた遺伝子情報を含む。そのような遺伝子コンストラクトには、限定されないが、RNA及びDNAコンストラクトが含まれる。一実施形態では、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原の1つ、一部又は全部は、RNAコード遺伝子情報、DNAコード遺伝子情報、及びそれらの組み合わせとしてワクチンによって送達される。
【0055】
遺伝子コンストラクトの作製は公知であり、本ワクチンに有用な遺伝子コンストラクトは、当技術分野で公知の同様の手段で得ることができる。
【0056】
ワクチンが、タンパク質抗原の発現をコードする遺伝子コンストラクトを操作するためにCoVゲノム内でコードされた遺伝子情報を含む実施形態では、タンパク質抗原は、遺伝子コンストラクトによるワクチンを受けたことに応答してワクチンレシピエントによって作製される。
【0057】
一実施形態では、ワクチンは、タンパク質抗原の発現をコードする導入遺伝子発現カセットを有する発現ベクターを操作するためにCoVゲノム内でコードされた遺伝子情報を含む。そのような発現ベクターは、プラスミド型ベクター及びウイルスベクター、例えば、限定されないが、アデノウイルス関連ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、SV40由来ベクター、VSV型ベクター、ワクシニア由来ベクター及び細菌ベクターである。特定の実施形態では、ワクチンは遺伝子ベクター中に遺伝子情報を含む。さらなる実施形態では、遺伝子ベクターは、ウイルス遺伝子ベクター、細菌遺伝子ベクター、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。一実施形態では、ウイルス遺伝子ベクターは、アデノウイルス関連ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアベクター、ポリオーマウイルス、アルファ-ウイルスベクター、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるウイルスベクターである。
【0058】
例示的なベクターは、PCT/US2021/28187及びPCT/US2021/31974に記載されており、いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
ワクチンが、タンパク質抗原の発現をコードする導入遺伝子発現カセットを有する発現ベクターを操作するためにCoVゲノム内でコードされた遺伝子情報を含む実施形態では、タンパク質抗原は、発現ベクターによるワクチンを受けたことに応答してワクチンレシピエントによって作製される。
【0060】
前述のように、ワクチンは、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含む。一実施形態では、少なくとも1つのタンパク質抗原は、CoVスパイク(S)タンパク質、CoV膜(M)タンパク質、CoVヌクレオカプシド(N)タンパク質、CoVエンベロープ(E)タンパク質、レプリカーゼ1a/1bタンパク質、及びORF4、9、10及び13コードタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に由来する。特定の実施形態では、ワクチンは、CoV Sタンパク質、CoV Mタンパク質、及びCoV Nタンパク質に由来するタンパク質抗原を含む。さらなる実施形態では、ワクチンは、CoV Sタンパク質に由来するタンパク質抗原と、CoV Mタンパク質、CoV Nタンパク質、及びCoV Eタンパク質に由来する少なくとも1つの他のタンパク質抗原とを含む。
【0061】
免疫応答を刺激する方法
一実施形態では、本開示は、対象において免疫応答を刺激する方法を提供する。本方法は、CoVゲノム内でコードされた抗原に由来する2つ以上のタンパク質抗原を含む有効量の組成物を対象に投与することを含む。一実施形態では、本組成物は、本明細書に記載の任意の実施形態又は実施形態の組み合わせによるワクチン組成物である。
【0062】
ワクチンは、特定の状況によって決定される定義された用量及び定義された投与回数(すなわち、「有効量」)で、哺乳動物対象又はより具体的にはヒト対象などの動物対象に送達され得る。
【0063】
ワクチンは、限定されないが、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、経口投与及び鼻腔内投与などの様々な経路によって投与され得る。
【実施例】
【0064】
二価CoVワクチンは、SARS-2 S抗原のための導入遺伝子発現カセットと、SARS-2 M抗原のための導入遺伝子発現カセットとを含む。このワクチンは、強力な体液性(抗S及び抗M)及び細胞性(CD4+T細胞:抗S;CD8+T細胞:抗M)免疫応答を誘導することが予想される。アデノウイルスでベクター化されたワクチンとしての二価ワクチンは、その後のSARS-2感染時に疾患過程の増強をもたらすことなく、Th1型T細胞の極性化を示すであろう。ワクチン中のベクターゲノムは、ヒトコドン最適化S抗原及びM抗原の発現を誘導する導入遺伝子発現カセットを有する。発現カセットは、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター/エンハンサーから駆動され、ヒト成長ホルモン(HGH)遺伝子に由来するポリアデニル化部位によって終結される。2つの導入遺伝子は、ヒト脳脊髄炎ウイルス内部リボソーム進入部位(IRES)によって分離されている。
【0065】
第3の抗原(SARS-2 N抗原)を含めると、二価ワクチンと比較してワクチンの有効性がさらに増強されることが企図される。
【0066】
ワクチンの複数の実施形態が本明細書に詳細に記載されているが、それらの改変及び変形が可能であり、それらのすべてが本発明の真の精神及び範囲内に入ることは明らかである。特に、ワクチンはβ-CoV、より具体的にはSARSrウイルス及びSARS-2ウイルスに関して詳細に記載されているが、ワクチンは、他のクラスのコロナウイルス、例えば、a-CoV、g-CoV、及び5-CoVなどに適用するために当業者に従って改変され得ることが理解されよう。さらに、多数の改変及び変更が当業者には容易に思い浮かぶので、本発明を図示及び説明された正確な構成及び動作に限定することは望ましくなく、したがって、すべての適切な改変及び等価物が本開示の範囲内にあり、再分類され得る。
【国際調査報告】