(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-15
(54)【発明の名称】スキサメトニウム組成物およびその予め充填された注射器
(51)【国際特許分類】
A61K 31/225 20060101AFI20230807BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230807BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230807BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230807BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230807BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
A61K31/225
A61P21/00
A61P25/02
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504364
(86)(22)【出願日】2021-07-22
(85)【翻訳文提出日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2021070470
(87)【国際公開番号】W WO2022018177
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508221420
【氏名又は名称】ラボラトワール・アゲッタン
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRE AGUETTANT
【住所又は居所原語表記】1 rue Alexander Fleming,69007 LYON,FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トナー,ジェフ
(72)【発明者】
【氏名】ベルジェ ラクール,サンドリーヌ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC01
4C076CC09
4C076DD22Z
4C076DD23
4C076DD30Z
4C076DD42
4C206AA01
4C206FA42
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA75
4C206MA86
4C206NA10
4C206ZA20
4C206ZA94
(57)【要約】
本発明はコハク酸緩衝剤を含むスキサメトニウム医薬組成物に関する。本発明はその予め充填された注射器にも関する。本発明の組成物および予め充填された注射器は、特に緊急状態においてすぐに使える製剤として有用であり、室温であっても長い貯蔵寿命を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・8mg/ml~12mg/mlの範囲の濃度の塩化スキサメトニウム、および
・5mM~20mMの範囲の濃度のコハク酸
を含み、かつ
3.0~4.5の範囲のpHを有する、
非経口投与のための水性医薬組成物。
【請求項2】
前記組成物中の塩化スキサメトニウムの濃度は10mg/mLの無水塩化スキサメトニウムに相当する、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項3】
コハク酸は6mMの濃度で存在する、請求項1または請求項2に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
前記pHは3.4~3.8の範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物は、250mOsm/kg~350mOsm/kgの範囲のオスモル濃度、好ましくは約300mOsm/kgのオスモル濃度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項6】
好ましくは約7mg/mlの濃度で、塩化ナトリウムをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項7】
好ましくは塩酸、水酸化ナトリウムおよびそれらの混合物から選択される、pH調整剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項8】
前記水性組成物を形成するために使用される水は注射用水グレードである、請求項1~7のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項9】
無菌であり、この無菌性は好ましくは加熱滅菌により得られる、請求項1~8のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の水性医薬組成物を含む、スキサメトニウムが予め充填された注射器。
【請求項11】
前記注射器はプラスチック注射器であり、好ましくはポリプロピレン、環状オレフィンコポリマーおよび/または環状オレフィンポリマーで作られた注射器である、請求項10に記載のスキサメトニウムが予め充填された注射器。
【請求項12】
前記注射器は5ml、10ml、20mlおよび50mlから選択される総容積を有する、請求項10または請求項11に記載のスキサメトニウムが予め充填された注射器。
【請求項13】
最終加熱滅菌により滅菌されている、請求項10~12のいずれか1項に記載のスキサメトニウムが予め充填された注射器。
【請求項14】
・請求項10~13のいずれか1項に記載のスキサメトニウムが予め充填された注射器を用意する工程、
・前記スキサメトニウムが予め充填された注射器を118℃~125℃の範囲の温度で、8~30の範囲のF0で蒸気滅菌に供する工程
を含む、スキサメトニウムが予め充填された注射器を滅菌するためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急状態において特に有用なすぐに使えるスキサメトニウム医薬組成物およびその予め充填された注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
スクシニルコリンともいうスキサメトニウムは、短時間作用性の脱分極性神経筋遮断薬である。スキサメトニウムは全身麻酔中または緊急状態において、気管内挿管および機械換気を容易にするために臨床的に使用される。スキサメトニウムは非経口経路、好ましくは静脈内注射により患者に投与される。
【0003】
これまで入手可能な市販のスキサメトニウム組成物は、20mg/mlまたは50mg/mlの塩化スキサメトニウム濃度を有する水溶液である。市場で最も広まっている製品の1つは100mg/2ml表現である。しかし実際には、専門家は10mg/mlの濃度を達成するために希釈溶液を使用することが多い。従って彼らは市販の溶液を希釈する必要があり、これは医療過誤のリスク、汚染の懸念およびそのような希釈溶液の貯蔵寿命と関連している。
【0004】
従って、より希釈された濃度、すなわち約10mg/mlのスキサメトニウムを含むすぐに使えるスキサメトニウム組成物が必要とされている。
【0005】
所与の組成物の希釈がそれらの構成成分の安定性に悪影響を与える場合があるということがしばしば観察されている。その上、スキサメトニウムはかなり不安定な分子であることが知られている。スキサメトニウムの分解はエステル結合の加水分解により進行する。加水分解によりスクシニルモノコリン、コリンおよびコハク酸が生じる。従って当該組成物の初期のpHは、経時的な化学的安定性を保証するために慎重に制御しなければならない。例えば本出願人は、その分解がpH3.5の場合よりもpH5.0の場合に速いことを証明した。さらにスキサメトニウム水溶液において、スキサメトニウムの分解時のコハク酸の形成によりpHの低下が生じ、次いでこれはスキサメトニウムの分解速度を加速させる。
【0006】
従って、スキサメトニウムの既存の濃縮された水溶液の単純な希釈は、2~8℃および室温の両方において10mg/mlのスキサメトニウム組成物の経時的な安定性を保証して十分な貯蔵寿命を得るのに十分でないことが分かった。従って10mg/mlのスキサメトニウム組成物の製剤を最適化することが必要であった。
【0007】
本出願人は、5mM~20mMの範囲の濃度のコハク酸を用いて10mg/mlのスキサメトニウム組成物を3.0~4.5の範囲のpHに緩衝化することにより、2~8℃および室温の両方において経時的なその安定性を保証するのを可能にするということを証明した。本組成物は、貯蔵寿命中の期待される安定性を達成するために、十分であるが多過ぎないコハク酸を含んでいなければならないことが証明されたため、この範囲の濃度のコハク酸の選択は必須であった。より高いコハク酸含有量はスキサメトニウムの分解速度を上昇させる。より低いコハク酸含有量は本組成物の緩衝化およびスキサメトニウムの分解に悪影響を与える。
【0008】
スキサメトニウムの注射のために現在市販されている溶液は、無菌プロセスおよび最終無菌濾過により製造されている。しかしそれにも関わらず、医薬品規制調和国際会議(ICH)および欧州医薬品庁(EMA)のガイドラインによれば、患者に対する高い安全性および最終製剤の無菌性の保証を確実にするために、最終加熱滅菌をほかより重視しなければならない。
【0009】
しかしスキサメトニウムは温度条件に対して敏感であり、かつ熱に曝露された場合に分解することが知られている。Schmutzらは、特に蒸気滅菌に対する塩化スキサメトニウム組成物の安定性について調べた(Schmutzら,Am.J.Hosp.Pharm.,1991,48(3),501-506)。この水性組成物は、10mg/mLの無水塩化スキサメトニウムの等価物、等張化剤としての塩化ナトリウム、防腐剤としての4-ヒドロキシ安息香酸メチルからなっており、緩衝剤を全く使用せずに4.2のpHを有するか塩酸によりpHが3.0に調整されていた。Schmutzらは、オートクレーブにおける121℃での標準的な蒸気滅菌方法はそれらの分解を増加させるので、試験したスキサメトニウム組成物に適していないと述べている。代わりに彼らは、スキサメトニウム分解を制限するためにたった100℃で30分間の蒸気滅菌を推奨した。しかし、そのような滅菌条件はほとんど有効性がない。実際に、121℃で1分間は100℃で126分間と同じF0値に相当すると推定される。従って、Schmutzらによって提案されている100℃で30分間の滅菌は0.25のF0に相当しており、一方でそのような無菌注射製剤のための規格は、良好な無菌保証を確実にするために15超のF0を推奨している。これは、試験される組成物が抗菌防腐剤(4-ヒドロキシ安息香酸メチル)を含む理由を説明することができる。
【0010】
スキサメトニウム組成物の加熱滅菌に関するこのマイナスの誘因にも関わらず、最大の患者安全性を確実にするために、本出願人は本明細書において本発明のスキサメトニウム組成物の121℃での蒸気滅菌のプロセスを提供する。滅菌中のスキサメトニウムの分解を補償するために、組成物の製造中に過剰量のスキサメトニウムを使用する。滅菌中に形成される分解生成物は通常の貯蔵中の分解中に形成されるものとまったく同じであり、スキサメトニウムの天然の代謝産物(インビボでの分解時)と一致している。安全性評価により、(書誌データに基づき)滅菌中に達成可能な最大濃度での分解生成物は有意な薬理学的またはは毒物学的影響を与えないことが分かっている。それらは安全であり、これらの濃度で投与するのに危険を伴わない。
【0011】
すぐに使える10mg/mlのスキサメトニウム組成物を提供するために、本出願人は、緊急医療専門家が彼らの患者を治療するための時間を節約し、取り扱いの数を減らし、従って微生物汚染のリスクを減らすことができるようにするために、本発明の組成物を含む予め充填された注射器も開発した。
【0012】
スキサメトニウム組成物を含む予め充填されたガラス注射器は、国際公開第2019/177725号に記載されている。例示されている組成物は20mg/mlの塩化スキサメトニウム、等張化剤としての塩化ナトリウムを含み、緩衝剤を全く使用せずにHClまたはNaOHにより約3.6に調整されたpHを有する。それにも関わらず、国際公開第2019/177725号において言及されているように、ガラス注射器は壊れやすいという欠点を示す。
【0013】
本出願において、予め充填された注射器は有利にはプラスチック注射器(好ましくはポリプロピレン製)である。ポリプロピレンの使用により粒子汚染を減らし(ガラス容器と比較して)、壊れやすいものではなくなる。
【発明の概要】
【0014】
従って本発明は、
・8mg/ml~12mg/mlの範囲の濃度の塩化スキサメトニウム、および
・5mM~20mMの範囲の濃度のコハク酸
を含み、かつ
3.0~4.5の範囲のpHを有する、
非経口投与のための水性医薬組成物に関する。
【0015】
一実施形態では、本組成物中の塩化スキサメトニウムの濃度は10mg/mLの無水塩化スキサメトニウムに相当する。一実施形態では、コハク酸は6mMの濃度で存在する。一実施形態では、そのpHは3.4~3.8の範囲である。一実施形態では、本組成物は250mOsm/kg~350mOsm/kgの範囲のオスモル濃度、好ましくは約300mOsm/kgのオスモル濃度を有する。一実施形態では、本水性組成物を形成するために使用される水は注射用水グレードである。
【0016】
一実施形態では、本組成物は好ましくは約7mg/mlの濃度の塩化ナトリウムをさらに含む。一実施形態では、本組成物は好ましくは塩酸、水酸化ナトリウムおよびそれらの混合物から選択されるpH調整剤をさらに含む。
【0017】
一実施形態では、本組成物は無菌であり、この無菌性は好ましくは加熱滅菌により得られる。
【0018】
本発明は、本発明に係る水性医薬組成物を含むスキサメトニウムが予め充填された注射器も提供する。
【0019】
一実施形態では、本注射器はプラスチック注射器であり、好ましくはポリプロピレン、環状オレフィンコポリマーおよび/または環状オレフィンポリマーで作られた注射器である。一実施形態では、本注射器は5ml、10ml、20mlおよび50mlから選択される総容積を有する。
【0020】
一実施形態では、スキサメトニウムが予め充填された注射器は最終加熱滅菌により滅菌されている。
【0021】
本発明はさらに、
・本発明に係るスキサメトニウムが予め充填された注射器を用意する工程、
・スキサメトニウムが予め充填された注射器を118℃~125℃の範囲の温度および8~30の範囲のF0で蒸気滅菌に供する工程
を含む、スキサメトニウムが予め充填された注射器を滅菌するためのプロセスに関する。
【0022】
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
【0023】
「スキサメトニウム」は、化学名2,2’-[(1,4-ジオキソブタン-1,4-ジイル)ビス(オキシ)]ビス(N,N,N-トリメチルエタンアミニウム)のスクシニルコリンを指す。スキサメトニウムは、好ましくは薬学的に許容される塩、例えば塩化物、臭素またはヨウ化物などの塩、好ましくは塩化物の塩の形態であってもよい。
【0024】
「医薬組成物」は、その構成成分が互いに適合可能であり、かつそれが投与される対象に有害でない組成物を指す。
【0025】
「非経口投与」は、注射、注入および埋め込みまたは消化管以外のいくつかの他の経路による薬物投与を指す。非経口投与としては静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮下(SC)および皮内(ID)投与が挙げられる。
【0026】
「pH調整剤」は組成物のpHを調整することができる物質を指す。pH調整剤は酸性化またはアルカリ化剤であってもよい。塩酸などの酸性化剤はpHを下げるために使用され、水酸化ナトリウムなどのアルカリ化剤はpHを上げるために使用される。
【0027】
「注射用水グレード」は、欧州もしくは米国薬局方によって定められているような深刻な汚染を伴わない非常に高品質の水を指す。注射用水は一般に蒸留または逆浸透によって得られる。
【0028】
溶液の「オスモル濃度」は、その溶液中の浸透圧的に活性な分子の濃度を指し、1キログラムの溶媒当たりの溶質の分子の数として表される。
【0029】
「予め充填された注射器」はすぐに使える再利用不可能な製品を指す。この種の注射器は所望の液体で充填され、かつ製薬研究室によって工業的に滅菌されている。容器/内容物組立体の無菌性は、その部品が予め滅菌されている注射器を無菌条件下で充填すること、または最後に容器/内容物組立体を蒸気滅菌することのいずれかによって達成される。
【0030】
「無菌組成物」は、細菌または他の微生物を含まず、かつ無菌性に対する通常の薬局方要件を満たす組成物を指す。
【0031】
「滅菌」は、特に微生物(細菌および胞子形成体を含む)に関して、全ての生命体を破壊し、かつウイルスを不活性化させる、あらゆる物理的もしくは化学的プロセスを指す。
【0032】
「最終滅菌」は、滅菌される製品が少なくともその一次包装に充填された後に行われる滅菌プロセスを指す。最終滅菌は、ヒトの介入により当該製品に異物が混入されるさらなる機会を回避するという利点を与える。
【0033】
「加熱滅菌」は、滅菌される製品を熱に曝露することにより達成される滅菌プロセスを指し、「蒸気滅菌」は、滅菌される製品を飽和蒸気に曝露することにより達成される滅菌プロセスを指す。
【0034】
「すぐに使える組成物」は、希釈をせず、好ましくはどんな他の取り扱いもすることのない患者への投与に適した組成物を指す。好ましくは、すぐに使える組成物は予め充填された注射器の中に存在し、本組成物を患者に投与することができるようにするために本組成物を貯蔵容器から取り出す必要がない。
【0035】
数字の前の「約」は前記数字の値の±10%を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
スキサメトニウム組成物
従って本発明は、スキサメトニウム組成物、特にスキサメトニウムを含む医薬組成物に関する。
【0037】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物は水性組成物、すなわち水性溶媒、好ましくは水の中にスキサメトニウムを含む組成物である。
【0038】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物は非経口投与に適している。一実施形態では、非経口投与に適している組成物は、米国食品医薬品局(FDA)および/または欧州医薬品庁(EMA)によって定められているこの送達経路に関連する要件に準拠している。
【0039】
一実施形態では、スキサメトニウムは欧州および米国薬局方モノグラフに記載されているスキサメトニウムの塩である塩化スキサメトニウム塩として本発明の組成物中に存在する。
【0040】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物はスキサメトニウムおよびコハク酸を含む。一実施形態では、本発明の水性医薬組成物は塩化スキサメトニウムおよびコハク酸を含む。
【0041】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物は好ましくは3.0~4.5の範囲のpHを有する。一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物は塩化スキサメトニウムおよびコハク酸を含む水性組成物であり、3.0~4.5の範囲のpHを有する。
【0042】
一実施形態では、本発明は、
・8mg/ml~12mg/mlの範囲の濃度の塩化スキサメトニウム、および
・5mM~20mMの範囲の濃度のコハク酸
を含み、かつ
3.0~4.5の範囲のpHを有する、
非経口投与のための水性医薬組成物を提供する。
【0043】
一実施形態では、本発明の水性組成物は、無水塩化スキサメトニウムまたは塩化スキサメトニウム二水和物を用いて製造することができる。塩化スキサメトニウム二水和物(API)は欧州薬局方に記載されており、無水塩化スキサメトニウム(API)は米国薬局方に記載されている。最初の水和数に関わらず、溶液中に入れると水和物は同一となるため、本発明の組成物を製造するために使用される塩化スキサメトニウムの水和数は得られる水性組成物に影響を与えない。
【0044】
一実施形態では、本発明の水性組成物は8mg/ml~12mg/ml、好ましくは9mg/ml~11mg/mlの範囲、より好ましくは約10mg/mlの濃度の塩化スキサメトニウムを含む。一実施形態では、本発明の水性組成物は、8.0mg/ml、8.5mg/ml、9.0mg/ml、9.5mg/ml、10.0mg/ml、10.5mg/ml、11.0mg/ml、11.5mg/mlまたは12.0mg/mlの濃度の塩化スキサメトニウムを含む。一実施形態では、本発明の組成物は、約11mg/mlの塩化スキサメトニウム二水和物に相当する約10mg/mlの濃度で存在する無水塩化スキサメトニウムを含む。別の実施形態では、本発明の組成物は、約9.1mg/mlの無水塩化スキサメトニウムに相当する約10mg/mlの濃度で存在する塩化スキサメトニウム二水和物を含む。
【0045】
そのような濃度の塩化スキサメトニウムを用いた場合、本発明の組成物は投与前に本組成物を再構成または希釈することを必要とすることなく、患者への投与のために直接使用する準備が整った状態となる。
【0046】
一実施形態では、本発明の水性組成物はコハク酸を含む。コハク酸は、認可されており、かつ広く受け入れられている医薬品添加剤であり、緩衝剤として本発明の組成物に使用される。コハク酸は塩化スキサメトニウムの分解生成物および代謝産物の1つでもある。有利には本発明の組成物に使用される濃度範囲でのコハク酸の存在は、スキサメトニウム組成物の貯蔵寿命中のpH調整を回避し、かつ安定性を保証する。以下の実験部分で証明されているように、本組成物は期待される安定性を達成するために十分であるが多過ぎないコハク酸を含んでいなければならない。一実施形態では、本組成物は、5mM~20mM、好ましくは5mM~15mM、5mM~10mM、5mM~7mMの範囲、より好ましくは約6mMの濃度のコハク酸を含む。一実施形態では、本組成物は5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM、19mMまたは20mMの濃度のコハク酸を含む。
【0047】
一実施形態では、本発明の水性組成物は3.0~5.0、好ましくは3.0~4.5、より好ましくは3.0~4.0、3.1~3.9、3.4~3.8、3.5~3.7の範囲のpHを有する。一実施形態では、本発明の水性組成物は3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4または4.5に等しいpHを有する。本発明の組成物のために使用されるpHの範囲は静脈内経路による注射に適合可能であり、有利にはその貯蔵寿命中に本スキサメトニウム組成物の良好な安定性を保証する。一実施形態では本組成物の製造プロセス中、すなわち本組成物の成分を水に溶解した後に、本水性組成物のpHを3.5~3.7に調整する。一実施形態では、本発明の組成物は加熱滅菌、好ましくは蒸気滅菌より滅菌されており、そのような場合、滅菌後のpHは好ましくは3.4~3.8の範囲である。本組成物のpHはその貯蔵寿命中に変化し、好ましくは3.0~4.5の範囲内のままである。一実施形態では、その使用期限時の本組成物のpHは3.0~4.5の範囲である。
【0048】
一実施形態では、本発明の水性組成物は、好ましくは塩酸、水酸化ナトリウムおよびそれらの混合物から選択されるpH調整剤をさらに含む。
【0049】
一実施形態では、本発明の水性組成物は250mOsm/kg~350mOsm/kgの範囲のオスモル濃度、好ましくは約300mOsm/kgのオスモル濃度を有する。好ましくは、このオスモル濃度は塩化ナトリウムなどの等張化剤を本組成物に添加することにより得られる。一実施形態では、本発明の水性組成物は、等張化剤、好ましくは塩化ナトリウム、好ましくは約7mg/mlの濃度の塩化ナトリウムを含む。一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物をすぐに使える予め充填された注射器に調整する場合、等張性組成物を得るためにオスモル濃度を約300mOsm/kgに調整する。
【0050】
一実施形態では、本発明の水性組成物に使用される水は「注射用水」グレード水、蒸留水、精製水、milliQ水および逆浸透精製水から選択される。一実施形態では、本発明の水性組成物に使用される水は「注射用水」グレードのものである。
【0051】
一実施形態では、本発明の水性組成物は、
・塩化スキサメトニウム、
・コハク酸、
・任意に、塩化ナトリウムなどの等張化剤、
・任意に、好ましくは塩酸、水酸化ナトリウムおよびそれらの混合物から選択される1種以上のpH調整剤、および
・水
からなる。
【0052】
一実施形態では、本発明の水性組成物は、
・8mg/ml~12mg/mlの範囲の濃度の塩化スキサメトニウム、
・5mM~20mMの範囲の濃度のコハク酸、
・任意に、塩化ナトリウムなどの等張化剤、
・任意に、好ましくは塩酸、水酸化ナトリウムおよびそれらの混合物から選択される1種以上のpH調整剤、および
・水
からなる。
【0053】
一実施形態では、本発明の水性組成物は、
・8mg/ml~12mg/mlの範囲の濃度の塩化スキサメトニウム、
・5mM~20mMの範囲の濃度のコハク酸、
・好ましくは約7mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、
・任意に、好ましくは塩酸、水酸化ナトリウムおよびそれらの混合物から選択される1種以上のpH調整剤、および
・水
からなり、かつ
3.0~4.5の範囲のpHを有する。
【0054】
一実施形態では、本発明の水性組成物は無菌である。有利には無菌性は加熱滅菌、より好ましくは最終加熱滅菌により得られる。実際にはICHおよびEMAガイドラインに従って、患者に対する高い安全性および最終製剤の無菌性の保証を確実にするために最終加熱滅菌をほかより重視しなければならない。一実施形態では、加熱滅菌は蒸気滅菌、好ましくは飽和蒸気滅菌により行う。好ましくは蒸気滅菌の温度は118℃~125℃の範囲であり、より好ましくは蒸気滅菌の温度は121℃である。好ましくは蒸気滅菌は8~30の範囲、好ましくは10~30、より好ましくは15~30、17~26のF0で行う。一実施形態では、蒸気滅菌は8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30のF0で行う。蒸気滅菌プロセスのF0値は、理論上のZ値(Z値はD値を10分の1で変化させるために必要な温度の変化である)が10である微生物を参照して、プロセスによってその容器内の充填物に対してもたらされる、121℃の温度での等価の曝露時間(単位:分)に換算して表されるその致死率であり、すなわちF0は、10に等しい破壊温度係数を有する理想的な微生物について計算される、可変温度での実際の曝露時間の121℃での等価の曝露時間(単位:分)である。
【0055】
スキサメトニウムは温度に敏感であることが知られている。従って本組成物を加熱滅菌により滅菌した場合、本組成物中に元々存在していたスキサメトニウムの少しの部分がこのプロセス中に分解される。分解率は本組成物中のスキサメトニウムの元の量の3%~5%の範囲であることが証明された。滅菌によるこの分解を補償するために、過剰量のスキサメトニウムを滅菌後の目標濃度に達するために滅菌前に本組成物に導入することができる。
【0056】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物は経時的に安定なままである。本出願において「安定なままである」とは、本組成物中のスキサメトニウムの濃度が経時的に本組成物中に存在するスキサメトニウムの初期濃度の少なくとも90%のままであることを意味する。「初期濃度」とは、市販の形態でのその放出の際の本組成物中のスキサメトニウムの濃度を指す。特に本組成物が加熱滅菌、好ましくは蒸気滅菌により滅菌されている場合、スキサメトニウムの「初期濃度」は加熱滅菌後の本組成物中のスキサメトニウムの濃度を指す。その安定性は、スキサメトニウムならびにスクシニルモノコリンおよびコリンを含むその分解生成物の濃度の変化を測定することにより監視することができる。その濃度はHPLC(高速液体クロマトグラフィ)により測定することができる。一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物は、塩化スキサメトニウムの総重量(%w/wsuxa HCl)に対して8重量%未満のスクシニルモノコリンを含む。一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物は、8%w/wsuxa HCl未満のコリンを含む。本発明の組成物は加熱滅菌により滅菌されている場合、本組成物の貯蔵寿命の初期時間(すなわち滅菌後)にスキサメトニウムの制御された量の分解生成物が存在する。そのような場合一実施形態では、本組成物中のスクシニルモノコリンの初期量は塩化スキサメトニウムの総重量に対して2%~5重量%、好ましくは2%w/wsuxa HCl~3%w/wsuxa HClの範囲であり、コリンの初期量は塩化スキサメトニウムの総重量に対して1重量%~5重量%、好ましくは1%w/wsuxa HCl~2%w/wsuxa HClの範囲である。一実施形態では、2~8℃の温度で24ヶ月の貯蔵後に、塩化スキサメトニウムの分解率は、滅菌後の本組成物中に存在する塩化スキサメトニウムの初期量の5%~10%の範囲であり、好ましくは5%~8%の範囲である。一実施形態では、2~8℃の温度で24ヶ月の貯蔵後に、本組成物中に形成されるスクシニルコリンの割合は滅菌後の本組成物中に存在するスクシニルコリンの初期量の5%~8%の範囲であり、好ましくは5%~7%の範囲である。一実施形態では、2~8℃の温度で24ヶ月の貯蔵後に、本組成物中に形成されるコリンの割合は滅菌後の本組成物中に存在するコリンの初期量の4%~8%の範囲であり、好ましくは4%~6%の範囲である。
【0057】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物は2℃~30℃、好ましくは2℃~25℃の範囲の温度で貯蔵することができる。好ましくは、本組成物は2℃~8℃の範囲の温度で貯蔵される。貯蔵温度に応じて貯蔵時間は変化してもよい。一実施形態では、本発明の組成物が2℃~8℃の範囲の温度で貯蔵される場合、それは少なくとも1年間、好ましくは少なくとも2年間安定なままである。一実施形態では、本発明の組成物が室温すなわち25℃の温度で貯蔵される場合、それは少なくとも1ヶ月間、好ましくは少なくとも3ヶ月間安定なままである。一実施形態では、本発明の組成物は2℃~8℃の範囲の温度で24ヶ月間貯蔵された後に室温すなわち約25℃の温度で貯蔵される場合、少なくとも1ヶ月間安定なままである。
【0058】
一実施形態では、本発明の組成物は抗酸化添加剤を必要としない。実際にスキサメトニウムは酸化性条件には敏感ではないことが証明された。
【0059】
一実施形態では、本発明の組成物は防腐剤を含んでいない。実際に本組成物は加熱滅菌により無菌状態にすることができる。本出願において「防腐剤」は、微生物の成長を遅らせ、かつ/または防止するために組成物に添加される物質を指す。一実施形態では、本発明の組成物は4-ヒドロキシ安息香酸メチルを含んでいない。
【0060】
一実施形態では、本発明の組成物は密閉容器内に配置される。好ましくは、密閉容器は5ml、10ml、20mlおよび50mlから選択される容積、好ましくは10mlの容積を有する。一実施形態では、密閉容器は注射装置の一部であり、好ましくは注射器または注射筒である。
【0061】
スキサメトニウムが予め充填された注射器
本発明は、本発明のスキサメトニウム組成物、好ましくはスキサメトニウム水性医薬組成物を含む注射器にも関する。一実施形態では、本発明は本発明の組成物を含むスキサメトニウムが予め充填された注射器(PFS)に関する。
【0062】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウムが予め充填された注射器のために使用される注射器はプラスチック注射器、好ましくはポリプロピレン(PP)、環状オレフィンコポリマー(COC)および/または環状オレフィンポリマー(COP)から作られた注射器である。プラスチック注射器は壊れやすくなく、かつより良好なルアーロック接続を可能にするため、ガラス注射器よりも特に有利である。
【0063】
一実施形態では、本注射器は5ml、10ml、20mlおよび50mlから選択される総容積、好ましくは10mlの容積を有する。
【0064】
一実施形態では、本発明の予め充填された注射器は本注射器の端部にルアーロック雄型コネクタを有し、無針投与または再構成のために、あらゆる針、トランスファーセット、カテーテルまたはあらゆる他の適合可能な雌型ポートとの確実な接続を可能にする。
【0065】
一実施形態では、本発明の予め充填された注射器を製造するために使用される注射器は、欧州特許第1919537号または欧州特許第1973592号に記載されている注射器であり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
一実施形態では、本発明の予め充填された注射器を形成するために使用される注射器は欧州特許第1973592号に記載されている注射器である。一実施形態では、この予め充填された注射器はその端部において、注射筒と共に射出成形された脆い閉鎖具によって密閉されている(欧州特許第1973592号の
図2および
図3を参照)。一実施形態では、脆い閉鎖具は保護キャップによって覆われている(欧州特許第1973592号の
図5および
図6)。有利には、この保護キャップはルアーロックを汚染から保護すること、およびその回転により脆い閉鎖具を破壊することの両方を可能にする。一実施形態では、保護キャップの単純な回転により脆い閉鎖具を破壊し、かつ本注射器の先端を開口する(欧州特許第1973592号の
図8および
図9)。保護キャップを開口および除去した後、本注射器の端部にあるルアーロック雄型コネクタは、無針投与または再構成のためにあらゆるトランスファーセット、カテーテルまたはあらゆる他の適合可能な雌型ポートとの確実な接続を可能にする。
【0067】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウムが予め充填された注射器を単回用量投与に適合させる。
【0068】
一実施形態では、本発明の予め充填された注射器は無菌である。好ましくは、無菌性は加熱滅菌、より好ましくは最終加熱滅菌により得られる。一実施形態では、加熱滅菌は蒸気滅菌により行う。好ましくは蒸気滅菌の温度は118℃~125℃の範囲であり、より好ましくは121℃である。好ましくは蒸気滅菌は8~30、好ましくは10~30、より好ましくは15~30、17~26の範囲のF0で行う。
【0069】
規制上の要件を満たす(重大な初期汚染の場合であっても無菌性を保証する)ための蒸気滅菌の場合、それをいわゆる「湿った」熱の中で少なくとも121℃の温度で行わなければならず、これは滅菌を必要とするこの予め充填された注射器の全ての部分を蒸気と接触させなければならないことを意味する。この予め充填された注射器がブリスターパックに包装されている場合、その蒸気はパッケージの紙シールを通過した後にオートクレーブチャンバーから届き、かつ注射器の蒸発した内容物からもやってくる。
【0070】
製造プロセス
本発明は、本発明のスキサメトニウム組成物およびスキサメトニウムが予め充填された注射器を製造するためのプロセスも提供する。
【0071】
一実施形態では、本発明のスキサメトニウム組成物を製造するためのプロセスは、
a)本組成物の構成成分を水に溶解する工程、
b)必要であれば、工程a)で得られた溶液のpHをpH調整剤により調整する工程、および
c)工程b)で得られた溶液を濾過して本発明のスキサメトニウム組成物を得る工程
を含む。
【0072】
一実施形態では、本組成物の構成成分は塩化スキサメトニウム、コハク酸および任意に塩化ナトリウムである。塩化スキサメトニウムは無水塩化スキサメトニウムまたは塩化スキサメトニウム二水和物の形態であってもよい。無水塩化スキサメトニウムまたは塩化スキサメトニウム二水和物の量は、本組成物中の塩化スキサメトニウムの目標量に応じて適合させる。
【0073】
上に記載されているスキサメトニウム組成物に関連する実施形態は本組成物の製造プロセスに当てはまる。
【0074】
一実施形態では、スキサメトニウム組成物を製造するための本プロセスは、その後の滅菌工程、好ましくは加熱滅菌を含む。一実施形態では、加熱滅菌工程は好ましくは118℃~125℃の範囲、より好ましくは121℃の温度および好ましくは8~30、好ましくは10~30、より好ましくは15~30、17~26の範囲のF0で蒸気滅菌により行う。
【0075】
一実施形態では、本発明は、
i)上記プロセスに従って本発明のスキサメトニウム組成物を製造する工程、
ii)注射器に工程i)で得られた組成物を充填する工程、および
iii)工程ii)で得られた充填された注射器に栓をして本発明のスキサメトニウムが予め充填された注射器を得る工程
を含む、スキサメトニウムが予め充填された注射器を製造するためのプロセスも提供する。
【0076】
上に記載されている予め充填された注射器に関連する実施形態は、予め充填された注射器の製造プロセスに当てはまる。
【0077】
一実施形態では、スキサメトニウムが予め充填された注射器を製造するためのプロセスは、予め充填された注射器の個々のブリスターへのその後の包装工程を含む。好ましくはブリスターパックは、剥がされる紙シールによって閉鎖されている熱成形プラスチック部品を含む。この紙は水蒸気に対して透過性であるが、大部分は微生物に対して不透過性である性質を有する。
【0078】
一実施形態では、スキサメトニウムが予め充填された注射器を製造するためのプロセスはその後の最終滅菌工程、好ましくは最終加熱滅菌を含む。好ましくは滅菌工程は、予め充填された注射器を個々のブリスターに包装した後に行う。一実施形態では、加熱滅菌工程は好ましくは118℃~125℃の範囲、より好ましくは121℃の温度および好ましくは8~30、好ましくは10~30、より好ましくは15~30、17~26の範囲のF0で蒸気滅菌により行う。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、実施例1の組成物を2~8℃で最長24ヶ月間貯蔵した際のスキサメトニウム(
図1A)およびスクシニルモノコリン(
図1B)の濃度の経時的な漸進的変化を表すグラフである。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、実施例1の組成物を25℃で最長6ヶ月間貯蔵した際のスキサメトニウム(
図2A)およびスクシニルモノコリン(
図2B)の濃度の経時的な漸進的変化を表すグラフである。
【実施例】
【0080】
以下の実施例によって本発明をさらに例示する。
略語:
g:グラム
L:リットル
mg:ミリグラム
ml:ミリリットル
mM:ミリモル
PFS:予め充填された注射器
Qs:適量
RH:相対湿度
【0081】
実施例1:スキサメトニウム組成物および予め充填された注射器(PFS)
目的:滅菌後に目標濃度の10mg/mLの無水塩化スキサメトニウムを含むスキサメトニウム組成物を製造すること。滅菌工程中の塩化スキサメトニウムの分解を補償するために、5%過剰量の塩化スキサメトニウムを含む組成物を最初に調製する。
【0082】
方法:塩化スキサメトニウム二水和物、塩化ナトリウムおよびコハク酸を水に溶解して表1に列挙されている構成成分を含む溶液を調製した。
【表1】
【0083】
従って本組成物中の無水塩化スキサメトニウムの元の濃度は10.5mg/mlであり、これは5%の過剰量に相当している。本組成物中のコハク酸の濃度は6mMである。
【0084】
溶解後に、この溶液のpHをNaOHおよび/またはHClを用いて3.6に調整した。この溶液を濾過し、10mlポリプロピレン注射器に充填した。注射器に栓をした後に、PFSを高圧蒸気滅菌した(121℃、F0≧15)。滅菌したPFSの組成をHPLCにより分析した。
【0085】
HPLC条件:HPLC分析は、HPLCシステムのWaters Alliance(カラム加熱器およびDAD2998検出器を備える)を用いて行った。クロマトグラフ条件が以下に記載されている。
【表2】
【0086】
結果:滅菌された予め充填された注射器中の塩化スキサメトニウムの濃度を滅菌直後に測定し、無水塩化スキサメトニウムの目標用量、すなわち10mg/mlに相当していることが分かった。
【0087】
実施例2:本スキサメトニウム組成物の安定性
目的:実施例1で得られた滅菌されたPFS中に存在する本組成物の経時的な安定性を決定すること。
【0088】
方法:実施例1に記載されているようにして得られた滅菌されたPFSを5℃または25℃で貯蔵した。スキサメトニウムならびにその分解生成物であるスクシニルモノコリンおよびコリンの濃度を最長24ヶ月間の貯蔵中の異なる時点でHPLCにより測定した。
【表3】
【表4】
【0089】
時間T=0は滅菌直後の組成物に対応している。
【0090】
HPLC分析条件および機器は実施例1のものと同一である。
【0091】
結果:2~8℃または25℃での貯蔵時のスキサメトニウム、スクシニルモノコリンおよびコリンの濃度の漸進的変化が表2および表3にそれぞれ報告されている。最長24ヶ月間における2~8℃での本組成物の貯蔵時のスキサメトニウムおよびスクシニルモノコリンの濃度の漸進的変化が
図1Aおよび
図1Bにそれぞれ報告されている。最長6ヶ月間における25℃での本組成物の貯蔵時のスキサメトニウムおよびスクシニルモノコリンの濃度の漸進的変化が
図2Aおよび
図2Bにそれぞれ報告されている。
【表5】
【表6】
【0092】
考察:2~8℃でのT24ヶ月の安定性データは、
・スキサメトニウム含有量:スキサメトニウムの初期含有量の93.5%、および
・スクシニルモノコリン含有量:4.9%w/w
を示している。
【0093】
これは、少なくとも90%のスキサメトニウム含有量および多くとも8%のスクシニルモノコリンの最大規格内に十分に含まれている。従って試験した組成物はこの製剤を用いた場合に2~8℃において、最適化された安定性および目標の少なくとも24ヶ月の貯蔵寿命を示す。
【0094】
25℃でのT3ヶ月の安定性データは、
・スキサメトニウム含有量:スキサメトニウムの初期含有量の94.2%、および
・スクシニルモノコリン含有量:6.4%w/w
を示す。
【0095】
これもスキサメトニウムおよびスクシニルモノコリンの最大規格内に十分に含まれている。従って試験した組成物はこの製剤を用いた場合に25℃において、最適化された安定性および少なくとも3ヶ月の目標貯蔵寿命を示す。
【0096】
実施例3:滅菌中の分解および対応する必要とされる過剰量
目的:スキサメトニウムはかなり不安定な分子であり、かつ熱に曝露された場合に分解することが知られている。しかし患者に対する高い安全性および最終製剤の無菌性の保証を確実にするために、薬物の最終加熱滅菌をほかより重視しなければならない。従って分解を補償するために滅菌前に必要とされる本組成物の過剰量を決定するために、加熱滅菌下でのスキサメトニウムの分解を調べた。
【0097】
方法:いくつかのバッチの目標組成物(すなわち10mg/mLの無水塩化スキサメトニウムを含む)を製造し、試験用オートクレーブ(Autoclave Lequeux)または産業用機器(Autoclave SBM 58EQ002、モデルSDR-10.09.50)を用いて121.3℃で蒸気滅菌に供した。
【0098】
スキサメトニウムの減少ならびに分解生成物スクシニルモノコリンおよびコリンの形成をT0、すなわち滅菌工程の直後に、HPLCにより測定した。HPLC分析条件および機器は実施例1のものと同一である。
【0099】
【0100】
試験的な規模での平均分解は約3.4%である。産業用サイクルによる分解は同じオーダーの大きさである。試験用オートクレーブサイクルは最も厳しい条件を保証するために上限で行った。産業用機器上での温度の増減は熱慣性により僅かによりゆっくりである。実施されるサイクルは標準的な(平均)条件で行った。このサイクルを上限で行った場合、分解は僅かにより高くなる。
【0101】
考察:スキサメトニウムの分解生成物は十分に同定され、活性物質分解の量はHPLCおよびイオンクロマトグラフィ分析時に現れる分解生成物の量と同等である(スクシニルモノコリン、コリンおよびコハク酸の合計は正確な物質収支を提供する)。これらの結果は、熱への曝露時のスキサメトニウムの分解を記述している科学文献に従うものである。スキサメトニウムの分解生成物がその天然の代謝産物(インビボでの分解時)であることを言及する必要がある。さらに安全性評価により、達成可能な最大濃度での分解生成物が有意な薬理学もしくは毒物学的影響を示さないことが(書誌データに基づいて)分かった。それらは安全であり、これらの濃度で投与するのに危険を伴わない
【0102】
バッチリリース時に正しいスキサメトニウム投与量を保証するために、本組成物中のスキサメトニウム過剰量を製造中に5%に固定することができる。この過剰量は、滅菌工程中の分解だけでなく、約25℃の温度で行われる製造中に累積される保持時間中に生じる全体的分解も考慮に入れる。この過剰量により、各状況について最悪な条件で2~8℃で貯蔵されている本組成物の24ヶ月間の貯蔵寿命中、輸送中および室温で4週間の期間にわたる使用前の可能な最終貯蔵中に生じ得る分解は、90%スキサメトニウム含有量の最小規格を超えない。
【0103】
実施例4:本組成物の安定性に対するコハク酸の量の効果
目的:その経時的な安定性に対する本組成物中に存在するコハク酸の量の効果を決定すること。
【0104】
方法および結果:
【0105】
1)pH緩衝剤の必要性:
20mMのコハク酸緩衝剤を含む場合と含まない場合の10mg/mlの塩化スキサメトニウムの2種類の製剤を調製し、pH4.5に調整した。蒸気滅菌後に、試料を25℃で2週間貯蔵した。非緩衝溶液は、コハク酸で緩衝化された組成物とは対照的に、2週間未満で有意なpHの低下を示す(表5の結果)。従ってこれにより、貯蔵寿命に達する前に規格pH外に至る。従って、全貯蔵寿命中に目標pHを維持するためにpH緩衝剤が必要とされる。
【表8】
【0106】
2)3つの異なるpH値における20mMもしくは50mMのコハク酸を含む組成物の比較:
20mMもしくは50mMのコハク酸を含む10mg/mlの塩化スキサメトニウムの製剤を調製し、pH3.0、3.5または4.5に調整した。蒸気滅菌後に、試料を25℃で1週間貯蔵し、スキサメトニウム含有量をHPLCにより測定した(表6の結果)。
【表9】
【0107】
25℃で1週間の貯蔵後に、スキサメトニウムの安定性はpH3.0および3.5において同様であり、安定性はpH4.5で低下する。これらの条件では化学的安定性は、20mMのコハク酸を含む場合と含まない場合で同様である。但し上で証明されているように、コハク酸は25℃で1週間を超える貯蔵においてpH安定性を維持することが求められる。50mMのコハク酸はより速い分解率をもたらす。従ってコハク酸の量を20mMの最大量に調整した。コハク酸含有量は最小限に抑えることができ、製品の貯蔵寿命全体を通してpH値の適切な制御を可能にするものでなければならない。
【0108】
3)4mMもしくは6mMのコハク酸を含む組成物の比較:
4mMもしくは6mMのコハク酸を含む10mg/mlの塩化スキサメトニウムの製剤を調製し、pH3.6に調整した。蒸気滅菌後に、試料を25℃で最長4ヶ月間貯蔵し、そのpHを監視した(表7)。
【表10】
【0109】
上記データは、4mMのコハク酸を用いた場合のpHの低下は6mMのコハク酸を用いた場合よりも速いことを実証している。従って4mMのコハク酸の濃度はそのpH低下を制御するのに十分ではない(特に初期pHが当該規格の下限である場合)。
【0110】
考察:塩化スキサメトニウムの分解はエステル結合の加水分解により進行する。加水分解によりスクシニルモノコリン、コリンおよびコハク酸が生じる。加水分解時のコハク酸の形成によりpHの低下が生じる。本出願人は、本組成物を緩衝化することにより、貯蔵寿命時に規格pH外になること、およびpH低下時の分解の加速を回避するのを可能にする。
【0111】
本発明の組成物のために選択される緩衝剤はコハク酸である。それは少なくとも以下の理由のために選択された。
・コハク酸は認可され、かつ広く受け入れられている医薬品賦形剤である。
・コハク酸はpH3.6の目標pH値前後で高い緩衝能力を有する。
・コハク酸は塩化スキサメトニウムの分解生成物および代謝産物のうちの1つでもある。
【0112】
上記結果から、コハク酸の濃度を慎重に選択しなければならないことが分かる。すなわち本組成物は貯蔵寿命中に期待される安定性を達成するために十分であるが多過ぎないコハク酸を含んでいなければならない。5mM~20mMの範囲は期待される効果を提供することが分かった。より高いコハク酸含有量はスキサメトニウムの分解速度を高める。より低いコハク酸含有量は本組成物の緩衝化およびスキサメトニウムの分解に悪影響を与える。
【国際調査報告】