(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-16
(54)【発明の名称】小容量UHVイオントラップパッケージ及び形成方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/20 20220101AFI20230808BHJP
【FI】
G06N10/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501355
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 US2021041143
(87)【国際公開番号】W WO2022011290
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】523007133
【氏名又は名称】コールドクアンタ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュンサン
(72)【発明者】
【氏名】フレイセン ヘルト
(72)【発明者】
【氏名】インレック イスマイル
(72)【発明者】
【氏名】ノエル トム
(72)【発明者】
【氏名】アイヴォリー メーガン
(72)【発明者】
【氏名】カト アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ スティーヴ
(57)【要約】
本開示の態様は、極低温を上回る温度で動作できるコンパクトなUHVイオントラップシステムを可能にするシステム、方法及び構造について説明する。本開示によるイオントラップシステムは、UHV環境内に保持された状態で表面処理されて密封され、異種の部品が、溶接接合部、圧縮性金属フランジ及びUHV適合はんだ接合部などのUHVシールを介して接合される。この結果、極低温ポンプが不要になることによって、極めて小容量のシステムが可能になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントラップシステムであって、
チップキャリア上に配置されたイオントラップと、
前記イオントラップを第1のチャンバに封入するエンクロージャと、
を備え、前記エンクロージャは、前記チップキャリアとハウジングとを含む複数のピースパーツを含み、前記複数のピースパーツの前記ピースパーツは、UHVシールから成る複数のシールで接合され、
前記第1のチャンバは、10
-10Torr以下の圧力を有し、
前記第1のチャンバは、10cm
3以下の内部容積を有し、
前記イオントラップシステムは、-50℃以上の動作温度を有する、
ことを特徴とするイオントラップシステム。
【請求項2】
アブレーションオーブンをさらに備える、
請求項1に記載のイオントラップシステム。
【請求項3】
前記複数のピースパーツは第1の窓を含む、
請求項2に記載のイオントラップシステム。
【請求項4】
前記第1の窓は、前記窓を通じた低分子ガスの拡散を抑制する単結晶材料を含む、
請求項3に記載のイオントラップシステム。
【請求項5】
前記複数のシールのうちの少なくとも1つのシールは、溶接接合部、圧縮性金属フランジ及びUHV適合はんだ接合部のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1に記載のイオントラップシステム。
【請求項6】
前記エンクロージャは、ガス分子を吸着するように活性化される第1の表面を含む、
請求項1に記載のイオントラップシステム。
【請求項7】
(1)ゲッター材料及び(2)イオンポンプの少なくとも一方をさらに備える、
請求項1に記載のイオントラップシステム。
【請求項8】
イオントラップシステムであって、
チップキャリア上に配置されたイオントラップと、
前記イオントラップを第1のチャンバに封入する、前記チップキャリアとハウジングとを含む複数のピースパーツを含むエンクロージャと、
前記複数のピースパーツの前記ピースパーツを接合する、UHVシールから成る複数のシールと、
第1のUHVシールを介して前記エンクロージャに接合されたイオンポンプと、
を備え、
前記第1のチャンバは、10
-10Torr以下の圧力を有し、
前記イオントラップシステムはクライオ吸着ポンプを使用せず、
前記イオントラップシステムは、-50℃以上の動作温度を可能にするように構成される、
ことを特徴とするイオントラップシステム。
【請求項9】
前記第1のチャンバは、10cm
3以下の内部容積を有する、請求項8に記載のイオントラップシステム。
【請求項10】
前記複数のシールのうち少なくとも1つのシールは、溶接接合部、圧縮性金属フランジ、及びUHV適合はんだ接合部のうちの少なくとも1つを含む、
請求項8に記載のイオントラップシステム。
【請求項11】
アブレーションオーブンをさらに備える、
請求項8に記載のイオントラップシステム。
【請求項12】
前記エンクロージャは、第2のUHVシールにおいて前記エンクロージャに接合される第1の窓をさらに含む、
請求項11に記載のイオントラップシステム。
【請求項13】
前記窓は、該窓を通じた低分子ガスの拡散を抑制する単結晶材料を含む、
請求項12に記載のイオントラップシステム。
【請求項14】
前記エンクロージャは、ガス分子を吸着するように活性化される第1の表面を含む、
請求項8に記載のイオントラップシステム。
【請求項15】
イオントラップシステムを形成する方法であって、該方法は、
10
-9Torr以下の第1の圧力を有する第1の環境内にイオントラップを配置することであって、前記イオントラップは、UHVシールから成る複数のシールで接合された複数のピースパーツを含むエンクロージャのチャンバ内に配置され、前記チャンバは前記第1の環境に開放されている、ことと、
前記イオントラップ及び前記エンクロージャが前記第1の環境内に位置している間に第1のUHVシールを形成して前記チャンバを前記第1の環境から遮断することと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記チャンバ内に10
-10Torr以下の第2の圧力を提供することをさらに含む、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の圧力は10
-10Torr以下になるように提供される、
請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のUHVシールは溶接接合部である、
請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記第1のUHVシールは、圧縮性金属フランジ及びUHV適合性はんだ接合部の少なくとも一方を含む、
請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記エンクロージャを、低分子ガスの拡散を抑制する単結晶材料を含む窓を含むように提供することをさらに含む、
請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記エンクロージャ及び前記イオントラップが前記第1の環境内に位置している間に前記エンクロージャの少なくとも1つの表面を表面処理することをさらに含む、
請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔連邦政府が支援する研究に関する記述〕
本発明は、米国陸軍研究所によって授与された連邦認可番号W911NF16-1-0082に基づき政府の支援を受けて行われたものである。政府は、本発明における一定の権利を有する。
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2017年7月18日に出願された米国仮出願シリアル番号第62/533,927号(代理人整理番号:DU5308PROV)の利益を主張する2018年3月26日に出願された米国本特許出願シリアル番号第15/935,312号(代理人整理番号:525-015US1)(現米国特許第10,755,913号)の分割出願である2020年6月26日に出願された同時係属中の米国本特許出願シリアル番号第16/913,932号(代理人整理番号:525-015US2)の一部継続出願であり、これらの各文献は引用により本明細書に詳細に記載されているかのように組み入れられる。
【0002】
また、本出願は、2020年7月9日に出願された米国仮特許出願シリアル番号第63/049,842号(代理人整理番号:DU7191PROV)の利益も主張するものであり、この文献は引用により本明細書に詳細に記載されているかのように組み入れられる。
【0003】
本開示は、一般に量子コンピューティングに関し、具体的には、超高真空環境をサポートできるイオントラップ用ハウジングに関する。
【背景技術】
【0004】
原子イオンを用いたシステムは、その長いコヒーレンス時間、量子ビット間の完全な接続性、及び忠実度の高いゲート操作を理由に、実用的な量子コンピュータのための主要な物理的プラットフォームのうちの1つである。しかしながら、固体素子に基づく量子ビットとは異なり、捕捉イオンシステムを拡張するための統合的アプローチは明らかでない。実用的な捕捉イオン量子コンピューティングシステムを構築するために、複雑な捕捉イオンシステムを設計する多くの新規着想が概説されてきた。
【0005】
捕捉イオン実験は、より良好な量子ビット分離を提供して信頼できる高忠実度ゲートを実行するために、従来の線形的なポールトラップを使用するか、それとも微細加工された表面トラップを使用するかにかかわらず、最終的に背景ガス分子との衝突事象が存在しないことに依拠する。批判的に言えば、超高真空(UHV)領域(<1*10-11Torr)内の圧力は、背景ガス衝突率を、イオン鎖並び替え事象(ion-chain reordering events)及びトラップからのイオンの損失を最小化できるほど低く保つ必要がある。また、量子計算には忠実度の高いゲートが必要であり、必然的にスケーラブルな捕捉イオン量子コンピュータの優れた光学機械的堅牢性及び安定性を伴う。これらの遷移を量子ビット操作及び読み出しに正しく利用するには、近共鳴プロセス(near-resonant processes)を駆動するレーザーの光周波数を1010範囲内の部分に安定化すべきである。多くの場合、量子論理ゲートは、正確な周波数差を有する2つの遠離調光非前方励起ビーム(far-detuned non-co-propagating beams)がイオンの位置で交差するラマン遷移を利用して駆動される。これらのラマンビームのビーム路程及びビームポインティングが変動すると、イオンにおける光位相及び光強度が変動してゲートが不完全になる。これらの問題を回避するには、捕捉イオンシステム、及びレーザービームの送出に使用される光学素子が、温度変動、気流及び機械的振動などの環境ノイズに対して安定している必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術では、真空品質を維持しながら極低温度を利用してUHV動作領域の容量を抑えた極低温システムを採用することによって、スケーラブルな捕捉イオン量子コンピュータの要件に対応してきた。しかしながら、極低温システムは大型かつ高価である。また、密閉サイクルのクライオスタットによって好ましくない振動が発生する。
【0007】
低温動作を必要としない実用的でコンパクトな捕捉イオンシステムが最先端技術を進化させると思われる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、超高真空内で非極低温で動作できるとともに10立方センチメートル(cc)以下のシステム容量を有することができる極めてコンパクトなイオントラップシステムを可能にする。
【0009】
イオントラップシステムのイオントラップエンクロージャが超高真空(UHV)環境内に保持されている間にイオントラップエンクロージャの原位置表面処理及び真空密封を実行することにより、先行技術からの進化を図る。この結果、エンクロージャを構成するピースパーツが、溶接接合部、真空フランジ及びUHV対応はんだシールなどのUHVシールのみを使用して接合されるようになる。さらに、本開示による実施形態は、先行技術のイオントラップエンクロージャで一般的に使用されている、大型であり又は時間と共に信頼性が低くなることが知られている真空バルブ又はピンチオフチューブ(pinch-off tubes)を含まない。さらに、イオントラップをエンクロージャ内に封入する前にUHV環境を確立することによって、大型で複雑な極低温真空システムの必要性が回避される結果、非常に低容量のイオントラップシステムが可能になる。
【0010】
本開示による例示的な実施形態は、約2cm3の体積を有する高真空チャンバ内にイオントラップを封入するエンクロージャを含むイオントラップシステムである。エンクロージャは、イオントラップが取り付けられるチップキャリアと、ハウジングと、蓋とを含む複数のピースパーツを含み、エンクロージャのピースパーツ間の全ての接合は、10-9Torr以下の圧力を有する環境内に配置された状態で、UHV蒸着システムでの使用に適するUHVシールを使用して行われる。エンクロージャが超高真空状態で密封されてベースライン圧力を確立するので、このイオントラップシステムは極低温冷却システムを必要としない。この結果、チャンバ及びシステム全体が非常に小さな体積を有することができ、イオントラップが極低温を上回る温度で動作することができる。いくつかの実施形態では、真空ポンプがチャンバ内の圧力を10-10Torrよりもはるかに低く抑えることができるように、エンクロージャが、UHV環境内に密閉される前に真空ポンプに流体的に結合される。
【0011】
いくつかの実施形態では、エンクロージャが1又は2以上の窓を含み、これらの窓は、ビューポートと、イオントラップにイオンをロードする光イオン化レーザー信号の光アクセスと、チャンバ内で原子流束を生成するために材料をアブレーションするレーザー信号の光アクセスとを提供し、捕捉イオン量子ビットの初期化、操作及び読み出しのために使用される1又は2以上のレーザー信号を供給し、及び/又はイメージング及び量子ビット状態検出のために捕捉イオン量子ビットから散乱光子を収集する。
【0012】
本開示による実施形態は、イオントラップシステムであって、チップキャリア上に配置されたイオントラップと、イオントラップを第1のチャンバに封入するエンクロージャとを備え、エンクロージャが、チップキャリアとハウジングとを含む複数のピースパーツを含み、複数のピースパーツのピースパーツが、UHVシールから成る複数のシールで接合され、第1のチャンバが、10-10Torr以下の圧力を有し、第1のチャンバが、10cm3以下の内部容積を有し、イオントラップシステムが-50℃以上の動作温度を有する、イオントラップシステムである。
【0013】
本開示による別の実施形態は、イオントラップシステムであって、チップキャリア上に配置されたイオントラップと、イオントラップを第1のチャンバに封入する、チップキャリアとハウジングとを含む複数のピースパーツを含むエンクロージャと、複数のピースパーツのピースパーツを接合する、UHVシールから成る複数のシールと、第1のUHVシールを介してエンクロージャに接合されたイオンポンプとを備え、第1のチャンバが、10-10Torr以下の圧力を有し、イオントラップシステムがクライオ吸着ポンプを使用せず、イオントラップシステムが、-50℃以上の動作温度を可能にするように構成された、イオントラップシステムである。
【0014】
本開示によるさらに別の実施形態は、イオントラップシステムを形成する方法であって、10-9Torr以下の第1の圧力を有する第1の環境内にイオントラップを配置し、イオントラップが、UHVシールから成る複数のシールで接合された複数のピースパーツを含むエンクロージャのチャンバ内に配置され、チャンバが第1の環境に開放されている、ことと、イオントラップ及びエンクロージャが第1の環境内に位置している間に第1のUHVシールを形成してチャンバを第1の環境から遮断することと、を含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示による例示的なイオントラップシステムのブロック図である。
【
図2A】例示的な実施形態によるイオントラップパッケージの上面ビューの概略図である。
【
図2B】例示的な実施形態によるイオントラップパッケージの断面ビューの概略図である。
【
図3】例示的な実施形態による、イオントラップパッケージを形成するのに適した方法の動作を示す図である。
【
図4】本開示によるUHV組立システムのブロック図である。
【
図5】本開示による、イオントラップシステム内の圧力をモニタする方法の動作を示す図である。
【
図6A】本開示による二重井戸ポテンシャルのシミュレーションを示す図である。
【
図6B】本開示による、二重井戸ポテンシャルのウェル間の捕捉イオンの位置を時間の関数としてプロットした図である。
【
図7】本開示による、イオントラップシステム内の圧力をモニタする別の方法の動作を示す図である。
【
図8A】方法700の6イオン鎖の衝突エネルギーを推定するために使用される第1の鎖配置及び第2の鎖配置を示す図である。
【
図8B】イオン並び替え事象間の時間間隔のヒストグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下は、本開示の原理を説明するものにすぎない。従って、当業者であれば、本明細書では明示的に説明又は図示していないが、本開示の原理を具現化する、本開示の趣旨及び範囲内に含まれる様々な構成を考案することができると理解されるであろう。
【0017】
さらに、本明細書に記載する全ての実施例及び条件付き表現は、主に本開示の原理、及び本技術を推進するために(単複の)発明者によってもたらされる概念を読者が理解するのを支援する教育目的であることのみを明示的に意図されており、このような具体的に記載する実施例及び条件に限定されるものではないものと解釈されたい。
【0018】
さらに、本開示の原理、態様及び実施形態、並びにその具体例を記載する本明細書の全ての記述は、その構造的同等物及び機能的同等物の両方を含むように意図される。また、このような同等物は、現在知られている同等物及び将来開発される同等物の両方、すなわち構造とは無関係に同じ機能を実行するいずれかの開発された要素を含むことが意図される。
【0019】
従って、例えば、当業者であれば、本明細書におけるいずれかのブロック図は、本開示の原理を具現化する例示的な回路の概念的なビューを表すものであると理解するであろう。同様に、いずれかのフローチャート、フロー図、状態遷移図及び疑似コードなどは、コンピュータ可読媒体において実質的に表現できる、従ってコンピュータ又はプロセッサが明示的に示されているか否かにかかわらず、このようなコンピュータ又はプロセッサによって実行できる様々なプロセスを表すものであると理解されるであろう。
【0020】
図面に示す、「プロセッサ」として表記できるいずれかの機能ブロックを含む様々な要素の機能は、専用ハードウェア、及び適切なソフトウェアに関連してソフトウェアを実行できるハードウェアの使用を通じて提供することができる。これらの機能は、プロセッサによって提供される場合、単一の専用プロセッサ、単一の共有プロセッサ又は複数の個々のプロセッサによって提供することができ、これらのいくつかは共有することもできる。さらに、「プロセッサ」又は「コントローラ」という用語を明示的に使用している場合でも、もっぱらソフトウェアを実行できるハードウェアを意味するものと解釈すべきではなく、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)ハードウェア、ネットワークプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ソフトウェアを記憶するリードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び不揮発性ストレージを非明示的に含むことができる。従来の及び/又は特注の他のハードウェアを含めることもできる。
【0021】
本明細書では、ソフトウェアであることが暗示されるソフトウェアモジュール又は単純にモジュールを、プロセスステップ及び/又はテキスト記述の実行を示すフローチャート要素又はその他の要素のいずれかの組み合わせとして表すことができる。このようなモジュールは、明示的又は非明示的に示されるハードウェアによって実行することができる。
【0022】
本明細書において明示的に指定していない限り、図面を含む図は縮尺通りではない。
【0023】
添付の特許請求の範囲を含む本明細書で使用するために、以下の用語を定義する。
・「UHVシール」は、実質的に水素及びヘリウムなどの低分子ガス不透過性のシールとして定義される。本開示によるUHVシールは、UHVシールのみを使用して密閉されたチャンバ内のUHV環境などの、UHVシールが位置するバリアにわたって少なくとも10-10Torrの圧力差を維持することができる。本開示による使用に適したUHVシールの例としては、圧縮性金属フランジ、UHV適合はんだ(例えば、インジウム、金-スズなど)及び溶接接合部などが挙げられる。なお、本明細書に示すUHVシールの定義は、先行技術のイオントラップシステムで使用されるような、チャンバを真空排気するために使用され、チャンバ内に真空圧が確立された後にチューブを機械的にクランピングし及び/又ははんだで密封することによって密封されたチューブである真空「ピンチオフチューブ」を明示的に除外する。
・「非UHVシール」は、UHV蒸着システムでの使用に適していないシール、及び/又は実質的に水素又はヘリウムなどの低分子ガス不透過性ではないシールとして定義される。非UHVシールの例としては、ピンチオフチューブ、非金属材料製の圧縮性ガスケット、及び非UHV適合はんだシールなどが挙げられる。
【0024】
図1は、本開示による例示的なイオントラップシステムのブロック図である。イオントラップシステム100は、イオントラップパッケージ102、イオンポンプ104、アブレーションレーザー106、及びイオン化レーザー108を含む。
【0025】
イオンポンプ104は、イオントラップパッケージ102に流体的に結合されたコンパクトな従来のイオンポンプである。
【0026】
アブレーションレーザー106は、原子流束(atomic flux)を生成するためにイオントラップパッケージ102内の材料にアブレーション信号114を供給するのに適したパルスレーザー源である。後述するように、アブレーションされる材料に対するアブレーション信号114の光アクセスは、イオントラップパッケージ102に窓を含めることによって可能になる。図示の例では、アブレーションレーザー106が、0.3mJパルスエネルギーを有する8ns幅パルスを供給する1064nmの波長を有するQスイッチNd:YAGパルスレーザーであるが、アブレーションレーザー106では他のレーザー源を使用することもできる。
【0027】
レーザーモジュール108は、イオントラップパッケージ102内の中性原子のイオン化、ドップラー冷却及び検出、並びに光再ポンピング(optical re-pumping)に適した波長を含むレーザー信号116を提供する従来のレーザー光源を含む。図示の例では、レーザーモジュール108が、355nm、391nm、399nm、370nm、638nm及び935nmの波長を有する連続波(CW)レーザーを含む。
【0028】
RFポート110及びDCポート112は、イオントラップ202の電極に対するRF及びDC電気信号の外部電気接続を可能にする従来の電気フィードスルーである。
【0029】
図2A~
図2Bは、それぞれ例示的な実施形態によるイオントラップパッケージの上面ビュー及び断面ビューの概略図である。
図2Bに示す断面ビューは、
図2Aに示す線a-aを通じて切り取ったものである。
【0030】
イオントラップパッケージ102は、イオントラップ202と、超高真空(UHV)環境内でイオントラップを取り囲むエンクロージャ204とを含む。
【0031】
図3は、例示的な実施形態による、イオントラップパッケージを形成するのに適した方法の動作を示す図である。方法300について、
図1及び
図2A~
図2Bを引き続き参照するとともに
図4も参照しながら説明する。方法300は、イオントラップ202を従来のチップキャリア206に取り付けてワイヤボンディングする動作301から開始する。
【0032】
イオントラップ202は、従来の微細加工された表面イオントラップである。本開示の教示による使用に適した表面イオントラップの例としては、サンディア国立研究所(Sandia National Laboratories)のHOA 2.0イオントラップなどが挙げられる。当業者であれば理解するであろうが、微細加工された表面イオントラップは、基板の表面上に2つの一次元アレイ状に配置されて線形アレイ間に線形トラップ領域TRを定めるようにされた複数の電極を含む。トラップ領域TRの長手方向軸はトラップ軸TAを定める。
【0033】
イオントラップ202の電極は、イオントラップにおけるRF及びDC電気信号の所望の配置を可能にするように、(
図2A~
図2Bには示していない)RFポート110及びDCポート112にワイヤボンディングされたボンドパッドに電気的に結合される。
【0034】
エンクロージャ204は、チップキャリア206と、側壁208A及び蓋208Bを含むハウジング208とを含む複数のピースパーツを含む。いくつかの実施形態では、ハウジング208が、側壁208A及び蓋208Bを定める連続部分を含む単一構造(unitary structure)である。例えば、いくつかの実施形態では、ハウジング208が固体材料ブロックから機械加工されることによって、側壁208A及び蓋208Bを含む単一の連続要素が形成される。
【0035】
図示の例では、エンクロージャ204が、側壁208Bに取り付けられた窓214-1~214-3、及び蓋208Bに取り付けられた窓214-4も含む。窓214-1~214-4は、それぞれUHVシール210-1~210-4を介してハウジング208内に取り付けられて、窓及びUHVシールは実質的に水素、ヘリウムなどの低分子ガス不透過性であるようにされる。窓214-1~214-4は、低分子ガスの拡散も緩和する単結晶材料で形成されることが好ましい。
【0036】
図示の例では、各窓が、最初に窓にろう付け接合部を形成した後にろう付け接合部をハウジングに電子ビーム溶接することによって形成されたUHVシールを介してハウジング208に密封される。
【0037】
動作302において、側壁208AをUHVシール210-5及び210-6においてそれぞれ蓋208B及びイオンポンプ104に接合する。UHVシール210-5及び210-6の各々も、実質的に水素、ヘリウムなどの低分子ガス不透過性である。図示の例では、UHVシール210-5及び210-6の各々が溶接接合部である。
【0038】
動作303において、チップキャリア206と、ハウジング208及びイオンポンプ104を含む部分的に組み立てられたエンクロージャとをUHV組立システム400に装填する。
【0039】
図4は、本開示によるUHV組立システムのブロック図である。UHV組立システム400は、別個のコンポーネントを位置合わせして、これらをUHV条件下にある間に接合することができる位置合わせ/接合システムである。UHV組立システム400は、UHVチャンバ402、ポンプ404、位置合わせシステム406、接合システム408、及びロードロック410を含む。
【0040】
UHVチャンバ402は、10-9Torr以下の圧力を維持することができる環境チャンバである。
【0041】
チップキャリア、ハウジング及びイオンポンプは、UHV環境の著しい劣化を伴わずにピースパーツをUHVチャンバ402内に装填できる従来のポータルであるロードロック404を介してUHVチャンバ402内に配置される。
【0042】
ポンプ406は、UHVチャンバを10-9Torr以下の圧力まで真空排気するように構成された従来のUHVポンプである。
【0043】
位置合わせシステム408は、複数のピースパーツ間の高精度位置合わせを達成して維持することができる6自由度の位置合わせシステムである。
【0044】
動作304において、チャンバ212内の少なくとも1つの表面にイオンスパッタリングなどの表面処理を適用する。図示の例では、アルゴンイオンビーム処理、プラズマ処理及び熱処理を含む複数の表面処理が実行される。
【0045】
動作305において、蓋208B上にゲッター表面220を形成する。いくつかの実施形態では、チャンバ212内に非蒸発性ゲッター(NEG)などの従来のゲッターが配置される。
【0046】
動作306において、チップキャリア206及びハウジング208を位置合わせする。
【0047】
図示の例では、チップキャリア206及びハウジング208が、トラップ軸TRがイオンポンプ方向に沿って配向されてトラップ軸TAがアブレーション信号114の伝搬方向に対して角度θで配向されるように位置合わせされ接合される。図示の例では、アブレーション信号が対角線においてトラップ領域TRに交わるように、θが約45°に等しい。
【0048】
アブレーション信号114の光アクセスは、アブレーション信号が材料をアブレーションして原子流束を発生させるためにるつぼ216内の材料218にアクセスすることを可能にする窓214-1によって可能になる。図示の例では、材料218がイッテルビウム(Yb)である。
【0049】
同様に、イオントラップ202に対するレーザー信号116の光アクセスは窓214-2によって可能になる。
【0050】
図示の例では、UHVシール210-1~210-6の各々がレーザー溶接接合部である。いくつかの実施形態では、UHVシール210-1~210-6のうちの少なくとも1つが、圧縮性金属フランジ(例えば、銅フランジなど)、ろう付け接合部、或いは限定するわけではないがインジウム及び金すずなどのUHVシステムでの使用に適した材料を含むUHV適合はんだリングなどの異なるUHVシールである。
【0051】
動作307において、UHVシール210-7を介してチップキャリア206及びハウジング208を接合する。図示の例では、UHVシール210-7が、インジウムを含むはんだシールである。UHVシール210-7の形成によってエンクロージャ204が完成することにより、UHVチャンバ402内と同等の内部UHV環境を有するチャンバ212内にイオントラップ202が密封される。換言すれば、チャンバ212は、動作304の完了時に圧力が10-9以下の環境を含む。
【0052】
図示の例では、エンクロージャ204が、完全に組み立てられた時点で約130mm×100mm×70mmの全体的寸法を有する。しかしながら、当業者には本明細書を読んだ後に明らかになるように、これらの寸法は例示にすぎず、エンクロージャ204は、本開示の範囲から逸脱することなくいずれかの実用的な物理的寸法を有することができる。
【0053】
図示の例では、接合システム410が、UHV環境で動作するように構成されたインジウム密封システムであり、UHVシール210-7がインジウムはんだリングである。しかしながら、UHV条件下でピースパーツを接合するには、本開示の範囲から逸脱することなくレーザー溶接システム以外の接合システムを使用することもできる。いくつかの実施形態では、例えば、接合システム410が、レーザー溶接システム、はんだ付けシステム、及び/又は分子線エピタキシー(MBE)システム及び原子層エピタキシー(ALE)システムなどのUHV蒸着システムで使用されるものに類似する圧縮性金属フランジ圧縮システムを含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、接合されるエンクロージャ204のピースパーツが、圧縮性金属フランジ及び/又はUHV適合性はんだを介して溶接又は接合された時に信頼できるシールを確実にするように噛み合う溝付きリング(groove rings)及びフレームを含む。
【0055】
なお、エンクロージャ204は、UHVチャンバ402に入れられる前に(シール210-6を除いて)イオンポンプ104と共に組み立てられて接合されるが、いくつかの実施形態では、エンクロージャアセンブリのより多くの部分がUHVチャンバ自体の内部で完成する(例えば、窓214-1~214-3のうちの少なくとも1つ及び/又は蓋が側壁208Aに接合される、及び/又は側壁208Aがチップキャリア206に接合される、など)。さらに、いくつかの実施形態では、完全に又は部分的に組み立てられたエンクロージャ204及びイオンポンプ104が、UHVチャンバ内に存在している間に接合される。
【0056】
本開示の態様では、UHVシールのみを使用してエンクロージャのピースパーツを接合し、内部チャンバが10-9Torr以下の圧力を有している間にエンクロージャを密封することで、先行技術のイオントラップシステムを凌ぐ以下のような著しい利点を実施形態にもたらす。
・信頼性の低いピンチオフチューブの排除、又は、
・極低温(例えば、-50℃以上)を上回る温度での動作が可能なこと、又は、
・大幅に小さなイオントラップシステム全体の容積、又は、
・極低温ポンプを使用しないイオントラップシステムが可能なこと、又は、
・i、ii、iii及びivのいずれかの組み合わせ。
【0057】
例えば、例示的な実施形態では、チャンバ212が約2cm3の体積しか有していない。いくつかの実施形態では、チャンバ212の体積が2cm3以外であるが、10cm3未満であることが好ましい。
【0058】
任意の動作308において、チャンバ212内の圧力を10-10Torr以下に低減する。図示の例では、イオンポンプ104が、チャンバ104内の圧力を2×10-11Torr以下に低下させる。
【0059】
当業者には明らかなように、捕捉イオンシステム内の真空品質はイオン鎖の寿命を決定付ける。残留する背景ガス分子と捕捉イオンとの間の十分な運動エネルギー伝達を伴う衝突は捕捉イオン鎖を著しく破壊する可能性があるため、これらの間の弾性衝突率は、捕捉イオンベースの量子コンピュータの非常に重要なパラメータである。量子計算に必要な期間にわたってイオン鎖を確実に維持するには、真空度が(好ましくは約10-11Torr以上の)超高真空領域内でなければならない。
【0060】
本開示の別の態様は、1又は2以上の捕捉イオンの挙動をモニタすることによってチャンバ212内の圧力を測定(又は推定)できることである。
【0061】
図5は、本開示による、イオントラップシステム内の圧力をモニタする方法の動作を示す図である。方法500は、イオントラップ202内に二重井戸ポテンシャルを形成する動作501から開始する。
【0062】
図6Aに、本開示による二重井戸ポテンシャルのシミュレーションを示す。
【0063】
プロット600には、ウェルW1及びW2間のポテンシャル障壁の高さが衝突事象からの平均エネルギー伝達(すなわち、衝突エネルギー)よりも著しく低い最小値を有する条件での軸方向位置の関数としてのイオンポテンシャルを示す。
【0064】
動作502において、2つのウェル間のポテンシャル障壁を制御する。図示の例では、ポテンシャル障壁の高さBHが、次式によって与えられる平均衝突エネルギー<Ei>
θよりも約40倍低い50μeVになるように制御され、
(1)
ここでは、mi及びmmはトラップ内のイオン及び背景ガス分子の質量であり、vはイオン及び背景ガス分子の相対的速度であり、θは散乱角であり、Emは背景ガス分子の初期運動エネルギーである。この例では、イオンが
174Yb
+であり、背景ガス分子がH
2であり、従って式(1)により、平均衝突エネルギー<Ei>
θは約2meVであると推定される。この条件下では、全ての衝突事象がイオン位置を無作為化すると予想される。
【0065】
動作503において、単一の捕捉イオンの位置をウェルW1及びW2間でモニタする。図示の例では、捕捉イオンの位置が、電子増倍CCD(EMCCD)カメラでイオン位置を撮像して2つのウェルのうちのどちらがイオンを含むかを判定することによって決定される。
【0066】
図6Bは、本開示による、二重井戸ポテンシャルのウェル間の捕捉イオンの位置を時間の関数としてプロットした図である。
【0067】
プロット602は、2つのポテンシャルウェルの最小値が位置する(領域1及び領域2として指定する)領域内の画素の総EMCCD信号カウントのサンプルトレースを示すことによって、イオンの位置を時間の関数(すなわち、転移率)として示す。
【0068】
動作504において、ウェルW1及びW2間でイオンが遷移する比率を決定する。この遷移率はプロット602から抽出される。図示の例では、遷移率が32分毎に1事象である。イオンは、衝突後には最終的にいずれかのウェル内にドップラー冷却されるので、実際の衝突率は、測定された遷移率のおよそ2倍であると予想される。
【0069】
動作505において、抽出された衝突率に基づいてチャンバ212内の圧力を推定する。衝突率γとチャンバ212内の圧力との関係は次式によって与えられ、
(2)
ここでは、Pはチャンバ212内の圧力であり、Qは捕捉イオンの正味電荷であり、Tは温度であり、αは背景分子の分極率であり、ε
0は真空誘電率である。
【0070】
図示の例では、γ=1/(16分)であり、μ≒mH2=3.32×10-32kgであり、αH2=8*10-31m3であり、T=300Kである。この結果、イオン位置における圧力Pは2.2×10-11Torrに等しくなる。
【0071】
いくつかの実施形態では、UHVチャンバ内の圧力が、イオントラップ内に保持されたイオン鎖におけるイオンの並び替え率に基づいて推定される。
【0072】
図7は、本開示による、イオントラップシステム内の圧力をモニタする別の方法の動作を示す図である。方法700は、互いに異なる少なくとも1つの特性を有するイオンの同位体をイオントラップ202内で捕捉されるイオン鎖に含まれるように選択する動作701から開始する。異なる特性を有するイオンを選択することで、イオン鎖内のイオンの順序を決定できるようになる。図示の例では、同位体が
174Yb
+及び
172Yb
+のイオンとして選択されており、これらはイオントラップシステム100内でそれぞれ明るいイオン及び暗いイオンとして現れるようになる。いくつかの実施形態では、複数の同位体について選択される異なる特性が明るさとは異なる。本開示に従って同位体を区別するために選択できる他の特性の例としては、限定するわけではないがイオン種、イオン同位体などが挙げられる。
【0073】
動作702において、イオン鎖における観測可能な並び替え事象を引き起こすのに必要な衝突エネルギーを推定する。
【0074】
動作703において、選択されたイオンの鎖をイオントラップ202内で捕捉する。図示の例では、イオン鎖が、4つの174Yb+のイオン及び2つの172Yb+のイオンを含む。なお、同位体の質量のわずかな差分は、予想される2.2meVのエネルギー障壁を大幅に変化させることはないため、通常は無視することができる。
【0075】
イオン鎖には複数の同位体が含まれるが、ドップラー冷却レーザー(図示の例では370nm)と共鳴関係にあるのは1つのみであり、従ってこの同位体のみがEMCCDカメラによって検出される。図示の例では、174Yb+のイオンが明るいイオンとして選択されており、2つの172Yb+のイオンは暗いままである。
【0076】
この衝突エネルギーを推定するために、(1)イオンがその典型的な配置でトラップ軸に沿って整列している第1の鎖配置と、(2)イオンのうちの2つが横軸のうちの1つに押し込まれた第2の鎖配置との間のエネルギー差。
【0077】
図8Aに、方法700の6イオン鎖の衝突エネルギーを推定するために使用される第1及び第2の鎖配置を示す。
【0078】
トラップ内で同一のイオンが静止している場合、鎖の総エネルギーは次式によって与えられ、
ここでは、mはイオンの質量であり、ω
x、y、zはそれぞれx、y、z方向のトラップ周波数であり、R
i=(X
i、Y
i、Z
i)はトラップ内のi番目のイオンの平衡位置であり、Qはイオンの電荷である。
【0079】
図示の例では、ωx、yが2.7MHzに等しく、ωzが0.32MHzに等しい。この結果、第1及び第2の鎖配置間のエネルギー差は約2.2meVとして決定することができる。
【0080】
この結果、イオン鎖が衝突事象によって約2.2meVを上回るエネルギーを獲得した時に並び替え事象が発生すると予想することができる。この値は、上記の方程式(1)によって与えられる、単一の衝突事象における推定平均エネルギー交換に近い。従って、背景分子のおよそ半分が2.2meVを上回るエネルギーを有するようになるので、2回の衝突事象のうちの1回が並び替え事象を引き起こすと予想することができる。
【0081】
動作704において、EMCCDカメラを介してイオン鎖内のイオンの順序をモニタする。
【0082】
動作705において、イオン並び替え事象間の時間間隔を決定する。
【0083】
図8Bに、イオン並び替え事象間の時間間隔のヒストグラムを示す。プロット800は、15時間にわたって記録したイオン鎖並び替え事象の2分の時間ビンにおける並び替え間隔時間を示す。
【0084】
プロット800に示すように54回の並び替え事象が記録され、平均並び替え率は15.8分毎に約1事象である。なお、いくつかの隣接するイオンペアは同一の同位体であるため、並び替え事象の約2/3しか検出されていないと推定される。この結果、記録されたデータに補正係数を適用すると、「真の」並び替え率は約10.5分毎に1事象である。
【0085】
なお、遷移をもたらした全てのイオン-分子衝突が並び替え事象を引き起こしたと仮定すれば、6イオン鎖を考慮して2イオン鎖の衝突率を3倍する単純な乗算に基づいて5.3分毎に1事象の並び替え率が予想される。並び替え衝突事象に必要なエネルギーが衝突事象中の推定平均エネルギー交換と同様の約2.2meVであることを考慮すると、衝突率のおよそ半分の並び替え率が測定されることが妥当である。
【0086】
動作706において、イオン鎖の並び替え率に基づいてチャンバ212内の圧力を推定する。
【0087】
本開示は、本開示による実施形態のほんのいくつかの例を教示するものにすぎず、当業者であれば、本開示を読んだ後に本発明の多くの変形例を容易に考案することができ、また本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によって決定されるべきであると理解されたい。
【符号の説明】
【0088】
100 イオントラップシステム
102 イオントラップパッケージ
104 イオンポンプ
106 アブレーションレーザー
108 レーザーモジュール
110 RFポート
112 DCポート
114 アブレーション信号
116 レーザー信号
【国際調査報告】