(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-16
(54)【発明の名称】軟磁性鉄系粉末およびその製造方法、軟磁性部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230808BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20230808BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230808BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20230808BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20230808BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20230808BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230808BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20230808BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C22C38/00 303T
B22F1/052
B22F1/00 W
B22F1/14 650
B22F1/16 100
B22F9/08 A
H01F1/147 166
H01F1/24
H01F1/33
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504802
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(85)【翻訳文提出日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 KR2021000620
(87)【国際公開番号】W WO2022030709
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0099230
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョンジン
(72)【発明者】
【氏名】イ,セイル
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ゼスク
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB07
4K017BB13
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4K018BA13
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4K018BC28
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4K018KA43
5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
5E041BD12
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5E041HB17
5E041NN01
5E041NN05
5E041NN06
5E041NN13
(57)【要約】
【課題】1000Hz以下の周波数領域で低い鉄損を有する軟磁性鉄系粉末およびその製造方法、軟磁性部品を提供する。
【解決手段】重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物からなり、[Si]/[Al]>2を満たし、D10およびD90における[Si]+[Al]+[Mn]の差が10重量%未満であることを特徴とする。前記[Si]、[Al]、[Mn]は、各元素の重量%を意味する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層を含み、
重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物からなり、
[Si]/[Al]>2を満たすことを特徴とする軟磁性鉄系粉末。
(前記[Si]、[Al]は各元素の重量%を意味する)
【請求項2】
D
10およびD
90での[Si]+[Al]+[Mn]の差が10重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性鉄系粉末。
(前記[Si]、[Al]、[Mn]は各元素の重量%を意味する)
【請求項3】
平均粒度が150~400μmであることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性鉄系粉末。
【請求項4】
D
95が500μm未満であり、D
50が150~300μmであることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性鉄系粉末。
【請求項5】
重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物からなる溶鋼を1500℃から1000℃まで10分以内で冷却して固相化する段階と、
1000℃から900℃以下に100分以内で冷却する段階と、
加熱して液相化する段階と、
アトマイズして粉末化する段階と、を含み、
前記固相化する段階で、固相化した溶鋼の体積に対する表面積の比が4cm
-1以下であることを特徴とする軟磁性鉄系粉末の製造方法。
【請求項6】
重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物からなり、[Si]/[Al]>2を満たす軟磁性鉄系粉末と、
前記軟磁性鉄系粉末間の界面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層と、を含み、
1T、1000Hzで140W/kg以下であることを特徴とする軟磁性部品。
【請求項7】
前記絶縁層の厚さが、10~50nmであることを特徴とする請求項6に記載の軟磁性部品。
【請求項8】
G
10およびG
90での[Si]+[Al]+[Mn]の差が10重量%未満であることを特徴とする請求項6に記載の軟磁性部品。
(前記[Si]、[Al]、[Mn]は各元素の重量%を意味する)
【請求項9】
短軸に対する長軸の長さの比が1~2である前記軟磁性鉄系粉末の面積率が50%以上であることを特徴とする請求項6に記載の軟磁性部品。
【請求項10】
前記軟磁性鉄系粉末の平均サイズが150~500μmであることを特徴とする請求項6に記載の軟磁性部品。
【請求項11】
G
95が500μm未満であり、G
50が150~300μmであることを特徴とする請求項6に記載の軟磁性部品。
【請求項12】
1T、400Hzで40W/kg以下であることを特徴とする請求項6に記載の軟磁性部品。
【請求項13】
50Hz、10000A/mでの磁束密度(B
100)が1.1Tを超過することを特徴とする請求項6に記載の軟磁性部品。
【請求項14】
比抵抗が40μΩ・cmを超過することを特徴とする請求項6に記載の軟磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性鉄系粉末およびその製造方法、軟磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料は、電気機器のインダクターや回転駆動のためのモーターおよび発電機などのステーター部品やローター部品、アクチュエータ、センサー、変圧器コアなどに用いられる。軟磁性材料は、電気鋼板を積層して製造することができ、軟磁性材料のうち軟磁性コンポジット(Soft Magnetic Composite;SMC)は、軟磁性鉄系粉末を絶縁物質でコートし、潤滑剤またはバインダーなどと共に高温で圧縮焼結することによって製造される。SMCは、電気鋼板を積層する二次元的方式とは異なって、三次元的電磁場の設計が可能であり、また、デザインの自由性が高くて、複雑性を大きく増加させることができるという長所がある。
しかしながら、SMCは、通常、10kHz以上の高周波では電気鋼板を積層した材料に比べて鉄損が少なく、磁気的特性に優れているが、1000Hz以下のモーターの主駆動領域では電気鋼板を積層した材料に比べて鉄損が高い。したがって、SMCをモーターなどの素材に適用するためには、1000Hz以下の周波数領域で鉄損を減少させることが重要である。
【0003】
鉄損は、大きく、ヒステリシス損失(hysteresis loss)と渦電流損失(eddy current loss)に分類される。ヒステリシス損失は、磁性材料が交流電気によって発生する電磁場の変化に応じて磁化するときに発生する損失であり、渦電流損失は、交流の電気によって発生する電磁場の変化に応じて誘導電流が発生するときに発生する損失である。通常、低い周波数ではヒステリシス損失が重要であるが、高い周波数では渦電流損失が全鉄損の大部分を占める。SMCは、薄板に比べて渦電流損失特性に優れているので、10kHz以上で鉄損が低いが、ヒステリシス特性に劣るため、1000Hz以下での使用に制限があった。
ヒステリシス損失は、金属内で結晶粒径をGsとするとき、1/(√Gs)に比例し、渦電流損失は、(√Gs)に比例する。したがって、鉄損を低減するためには、最適な結晶粒径のサイズ範囲を適切に調節する必要がある。最適な結晶粒径サイズは、材料の比抵抗によっても影響を受け、比抵抗が大きいほど、さらに大きい結晶粒で最小の鉄損を有することとなる。これは、比抵抗の大きい材料が渦電流損が減少することと関連している。すなわち、抵抗が高いほど鉄損が減少することとなる。
【0004】
抵抗を増加させる方法として、SMCでは、鉄系粉末粒子に絶縁コーティングをする方法が知られている。例えば、特許文献1、2、3は、無機物質を用いて絶縁コーティングを形成する技術を提示している。有機物質のコーティングは、例えば、特許文献4に公知となっている。無機材料および有機材料の両方を含むコーティングは、例えば、特許文献5、6、7に公知となっている。このような文献によれば、鉄系粉末粒子は、鉄ホスフェート層と熱可塑性材料によってコートされる。
しかしながら、このような方法は、別途の絶縁物質をコートしたり、バインダーなどを添加しなければならないという点から、製品製作および費用の観点から短所が存在する。特に別途の絶縁物質を活用してコーティングをする場合、各粉末粒子のコーティング層の厚さを一定とすることが困難であり、粉末と絶縁物質間の物理的/化学的反応を考慮して適切な絶縁物質の選定が難しい。また、粉末上に絶縁物質が占める厚さ分だけ、材料内鉄の比重が軽くなるので、単位体積当たりのエネルギー密度が低くなり、飽和磁束が小さくなるという問題点が存在する。
【0005】
従来の鉄系粉末およびそれから製造される部品において1000Hz以下の周波数領域でも低い鉄損を有する軟磁性鉄系粉末およびその製造方法、軟磁性部品の開発が求められている。
また、従来、抵抗を増加させるために鉄系粉末をコーティングする絶縁物質を用いることなく、より効率的に鉄系粉末の抵抗を高めることができる方案が要求されるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,309,748号明細書
【特許文献2】米国特許第6,348,265号明細書
【特許文献3】米国特許第6,562,458号明細書
【特許文献4】米国特許第5,595,609号明細書
【特許文献5】米国特許第6,372,348号明細書
【特許文献6】米国特許第5,063,011号明細書
【特許文献7】西独国特許第3,439,397号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したような問題点を解決するために、本発明は、1000Hz以下の周波数領域で低い鉄損を有する軟磁性鉄系粉末およびその製造方法、軟磁性部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための手段として、本発明の一例による軟磁性鉄系粉末は、外表面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層を含み、重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物からなり、[Si]/[Al]>2を満たすことができることを特徴とする。前記[Si]、[Al]は、各元素の重量%を意味する。
【0009】
また、本発明の各軟磁性鉄系粉末は、D10およびD90での[Si]+[Al]+[Mn]の差が10重量%未満であってもよい。前記[Si]、[Al]、[Mn]は、各元素の重量%を意味する。
また、本発明の各軟磁性鉄系粉末は、平均粒度が150~400μmであってもよい。
また、本発明の各軟磁性鉄系粉末は、D95が500μm未満であり、D50が150~300μmであってもよい。
【0010】
また、上記目的を達成するための他の手段として、本発明の一例による軟磁性鉄系粉末の製造方法は、重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物からなる溶鋼を1500℃から1000℃まで10分以内で冷却して固相化する段階と、1000℃から900℃以下に100分以内で冷却する段階と、加熱して液相化する段階と、アトマイズして粉末化する段階と、を含み、前記固相化する段階で、固相化した溶鋼の体積に対する比表面積の比が4cm-1以下であることを特徴とする。
【0011】
また、上記目的を達成するための他の手段として、本発明の一例による軟磁性部品は、重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物からなり、[Si]/[Al]>2を満たす軟磁性鉄系粉末と、前記軟磁性鉄系粉末間の界面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層と、を含み、1T、1000Hzで140W/kg以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の各軟磁性部品は、前記絶縁層の厚さが10~50nmであってもよい。
また、本発明の各軟磁性部品は、G10およびG90での[Si]+[Al]+[Mn]の差が10重量%未満であってもよい。前記[Si]、[Al]、[Mn]は、各元素の重量%を意味する。
また、本発明の各軟磁性部品は、短軸に対する長軸の長さの比が1~2である前記軟磁性鉄系粉末の面積率が50%以上であってもよい。
また、本発明の各軟磁性部品は、前記軟磁性鉄系粉末の平均サイズが150~500μmであってもよい。
【0013】
また、本発明の各軟磁性部品は、G95が500μm未満であり、G50が150~300μmであってもよい。
また、本発明の各軟磁性部品は、1T、400Hzで40W/kg以下であってもよい。
また、本発明の各軟磁性部品は、50Hz、10000A/mでの磁束密度(B100)が1.1Tを超過してもよい。
また、本発明の各軟磁性部品は、比抵抗が40μΩ・cmを超過してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、1000Hz以下の周波数領域で低い鉄損を有する軟磁性鉄系粉末およびその製造方法、軟磁性部品を提供することができる。
また、本発明によれば、別途の絶縁物質を用いることなく、外表面上に絶縁層を含有する鉄系粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一例による軟磁性鉄系粉末は、外表面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層を含み、重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物を含み、[Si]/[Al]>2を満たすことができる。前記[Si]、[Al]は、各元素の重量%を意味する。
【0016】
以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかしながら、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形されてもよく、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
本出願において使用する用語は、単に特定の例示を説明するために使用されるものである。したがって、単数の表現は、文脈上明らかに単数でなければならないものでない限り、複数の表現を含む。また、本出願において使用される「含む」または「具備する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、機能、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを明確に指すために使用されるものであり、他の特徴や段階、機能、構成要素またはこれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除するために使用されるものでないことに留意しなければならない。
【0017】
なお、別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有すると見なされるべきである。したがって、本明細書において明確に定義しない限り、特定の用語が過度に理想的または形式的な意味で解釈されるべきではない。例えば、本明細書において単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造および物質許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味で使用され、本発明の理解を助けるために正確であるか、または、絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0018】
また、本明細書において「Dx」は、鉄系粉末粒子の粒度累積分布上で累積した粒度がx%に該当する鉄系粉末粒子を意味し、xは、0超過100未満の有理数である。xが例えば10であれば、鉄系粉末の粒度測定結果で下位10%の値を示す鉄系粉末を意味する。
本明細書において「Gy」は、部品内鉄系粉末粒子の粒度累積分布上で累積した粒度がy%に該当する部品内鉄系粉末粒子を意味し、yは、0超過100未満の有理数である。yが例えば10であれば、部品内鉄系粉末の粒度測定結果で下位10%の値を示す鉄系粉末を意味する。
【0019】
軟磁性鉄系粉末は、軟磁性部品を製作するための最も重要な材料である。本発明による軟磁性鉄系粉末は、外表面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層を含む。本発明の絶縁層は、従来のように、別途の有機/無機物質の絶縁物質を用いた鉄系粉末にコートして形成されるものではなく、粉末の製造時に溶湯の上部にある酸化物層が粉末と混ざった状態でゆっくり冷やしながら形成される。これを考慮すると、本発明は、従来に行ってきた別途の絶縁コーティングを行うことなく、鉄系粉末の外表面上に絶縁層を形成できるという長所を有する。
【0020】
一例によれば、絶縁層の厚さは、10~50nmであってもよい。絶縁層の厚さが10nm未満の場合には、絶縁性が不十分で、渦電流損失が増加して、鉄損が増加する恐れがある。絶縁層の厚さが50nmを超過する場合には、鋼中酸素量が大きく増加して、磁性に不利になる恐れがある。
【0021】
また、軟磁性特性をさらに改善するという観点から、粒度と成分の管理は重要である。一例による軟磁性鉄系粉末は、平均粒度が150~400μmであってもよい。平均粒度が150μm未満である場合、ヒステリシス損失を十分に低減することができず、1000Hz以下の低周波数領域帯で鉄損を十分に減少させない恐れがある。それに対し、平均粒度が400μmを超過する場合には、渦電流損失が大きくなり、高温、高圧などの条件で成形時に各粒子間の間隔を十分に狭めることができず、製作される部品の密度が低くなる問題がある。平均粒度は、より好ましくは、200μmを超過してもよく、当該条件でヒステリシス損失を十分に低減し、各粒子で発生する渦電流損失が大きくない。また、平均粒度は、より好ましくは、300μm未満であり、当該条件で各粉末粒子の高温および高圧条件で部品に成形時に部品内に集中する局所ストレスを緩和させることができる。
【0022】
本発明の一例によれば、D95が500μm未満であり、D50が150~300μmであってもよい。D95が500μm以上の場合、高温、高圧で成形時に周囲の小さい粒子と均等な圧力を受けることができず、密度が低下して磁性が劣化する恐れがある。D50が150μm未満であれば、1000Hz以下の鉄損を最小化するための粒度サイズを均一にできない恐れがある。D50が300μmを超過すると、磁性に最適な粒度よりも大きい粒子の数が全粒子の多数となるので、磁性が劣化する恐れがある。
【0023】
本発明の一例による軟磁性鉄系粉末は、重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物を含んでもよい。各合金元素の成分範囲を限定した理由を以下に記述する。
【0024】
Siの含有量は、2重量%を超過してもよい。
Siは、鉄系粉末の比抵抗を増加させるために必須元素である。本発明によれば、Si含有量が2重量%を超過するので、高温成形時にもフェライト相に維持することができ、粉末の粒度と高温および/または高圧で成形された部品内粉末の粒度がほぼ一致することができる。Si含有量が2重量%未満の場合には、粉末と高温および/または高圧で成形された部品内粉末の粒度が大きく異なっていて、粉末自体の適正サイズの粒度を確保し難い。
【0025】
Alの含有量は、0.02重量%を超過してもよい。
Alは、鉄系粉末の比抵抗を増加させるのにSiと同様の役割を行う。また、Alは、鉄系粉末の磁性が向上することができるように、その他不純物の量を適切に制御する元素として積極的に添加する。このような観点から、本発明によれば、Alは、0.02重量%を超過して添加されることが好ましい。O、Sなど不純物の制御の観点から、Alは、0.3重量%を超過して添加することがより好ましい。
【0026】
Mnの含有量は、0.05重量%を超過してもよい。
Mnは、鉄系粉末の比抵抗を増加させるのにSiと同様の役割を行う。また、Mnは、鉄系粉末の磁性を向上させることができるように、酸化物および硫化物などを形成しながら鉄系粉末内に不純物が結晶粒のサイズを微細化しないように制御する元素として積極的に添加する。このような観点から、本発明によれば、Mnは、0.05重量%を超過して添加されることが好ましい。鋼中酸素、硫黄を酸化物または硫化物で溶出化するために、Mnは、0.2重量%を超過して添加されることが好ましい。
【0027】
Oの含有量は、0重量%超過、0.1重量%未満であってもよい。
Oは、鉄系粉末の製造時、高温工程を経ると、持続的に増加する成分に該当する。高温および/または高圧で成形された最終部品内でO含有量が少ないほど磁性に有利である。本発明によれば、Oの上限は、0.1重量%に制限される。
ただし、適量のOは、鉄系粉末の表面でSi、Al、Mnなどと結合して、電気的に絶縁性を示す酸化物層を形成する。本発明によれば、表面にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層を含む鉄系粉末を用いて部品を製造すると、鉄損を減少させた軟磁性部品の製造が可能である。これを考慮して、本発明によれば、Oの含有量は、0重量%を超過する。
【0028】
本発明によれば、前述した合金組成の範囲に加えて、選択的に次の各合金成分の相関関係を満たすことができる。
[Si]/[Al]>2
【0029】
ここで、[Si]、[Al]は、各元素の重量%を意味する。Alは、比抵抗を増加させ、Sの含有量を低減することができるが、Alは、高温でOと結合が容易で、鉄系粉末を製造する過程中にO含有量が過剰になる問題がある。この際、Al含有量に対してSiの含有量が高いほどAlによるO含有量の増加が容易に抑制される。また、鉄系粉末の表面上のSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層においてAl含有量が高くなると、鉄損が高くなる問題がある。前述のような問題点を解決するために、本発明の一例によれば、Al含有量に対してSi含有量を2倍を超過するように成分を制御することができる。
【0030】
一例によれば、D10およびD90での[Si]+[Al]+[Mn]の差が10重量%未満であってもよい。ここで、[Si]、[Al]、[Mn]は、各元素の重量%を意味する。比抵抗を大きく増加させる元素であるSi、Al、Mnの場合、合金の増加に応じて比抵抗を増加するのに非常に効果的である。しかしながら、粉末の粒度によって濃度が大幅に変化すると、複雑な形状の軟磁性部品を製造するとき、磁気的特性が均一でなく、一部の部分で通常の材料に比べて劣る磁性特性を示す恐れがある。
【0031】
本発明の残部成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書において言及してはいない。
【0032】
以下では、不純物元素およびその含有量の範囲に対する技術的意義を記述する。しかしながら、以下で説明する不純物元素およびその含有量の範囲は、本発明が目的とする軟磁性鉄系粉末や、軟磁性部品を確保するために必須の構成ではなく、単に本発明の理解を助けるために説明されるものであり、本発明の技術思想を特に限定するものではないことに留意すべきである。
【0033】
Cの含有量は、0.01重量%未満であってもよい。
Cは、鉄系粉末の製造時に不可避に添加される元素である。Cは、多量添加時には析出物を形成し、磁区の移動を妨害して、磁性に悪影響を与える元素である。したがって、C含有量を0.01重量%未満に制限することが好ましい。より好ましくは、C含有量が0.004重量%未満であれば、鉄損に優れ、300℃以下の低い温度で焼鈍時にも鉄損が劣化しないので好ましい。
【0034】
Nの含有量は、0.01重量%未満であってもよい。
Nは、鉄系粉末の製造時に不可避に添加される元素である。Nは、多量添加時には析出物を形成し、磁区の移動を妨害して、磁性に悪影響を与える元素である。特に、Nは、高温でガス状態で存在し、鋼にガス噴出口を形成する問題があるので、その添加量を0.01重量%未満に制限することが好ましい。より好ましくは、N含有量が0.004重量%未満であれば、鉄損に優れ、300℃以下の低い温度で焼鈍時にも鉄損が劣化しないので好ましい。
【0035】
Sの含有量は、0.05重量%未満であってもよい。
Sは、鉄系粉末の製造時に不可避に添加される元素である。Sは、多量添加時には高温でFeSに液化して製造難易度を高め、MnおよびCuなどと析出物を形成して磁区の移動を妨害することによって、磁性に悪影響を与える元素である。したがって、S含有量を0.05重量%未満に制限することが好ましい。特に、Sは、多量添加時には界面に偏析し、界面安定性を阻害するので、より好ましくは、0.01重量%未満に制限することができる。Sは、より好ましくは、鉄損を減少させるために、0.003重量%未満に制限することができる。
【0036】
Tiの含有量は、0.01重量%未満であってもよい。
Tiは、鉄系粉末の製造時に不可避に添加される元素である。Tiは、多量添加時には溶鋼が高温で液相に存在するとき、酸素と結合して溶鋼中に粗大な酸化物を形成し、その後、部品を製造した後にも、磁性を劣化させる炭化物および窒化物を形成する元素である。したがって、Ti含有量を0.01重量%未満に制限することが好ましい。
【0037】
Mgの含有量は、0.05重量%未満であってもよい。
Mgは、鉄系粉末の製造時に不可避に添加される元素である。Mgは、多量添加時には溶鋼が高温で液相に存在するとき、硫黄または酸素と結合して溶鋼中に介在物を形成し、その後、介在物が成長して部品を製造した後にも磁性を劣化させる酸化物および硫化物を形成する元素である。したがって、Mg含有量を0.05重量%未満に制限することが好ましい。
【0038】
以下では、本発明による軟磁性鉄系粉末の製造方法について詳細に記述する。本発明の鉄系粉末の製造方法は、高温の液相を冷却して固化させる方法が用いられ得る。一般的に、固体の金属化合物が液相に変化すると、液相内で成分変化が大きくないと予想されるが、実際にはそうではない。液相内成分の組成は、液相に溶融した状態のSi、Al、Mn、C、N、S、Ti、Mgなどの熱力学的相互関係によって決定される。例えば、Si含有量が高い場合、Siによって各元素間の引力および/または斥力が大きく変化して、液相化した溶鋼の局所的な範囲の成分の変化が大きい。一例として、液相化した溶鋼を冷却させながら固化させると、Si、Al、Mnなどによって表面から内部に成長するデンドライトを形成することができる。デンドライトが形成された鉄系粉末は、デンドライトのサイズおよび/または形状によってデンドライトの界面と内部間の成分差が大きく発生する恐れがある。
【0039】
本発明による軟磁性鉄系粉末の製造方法は、鉄系粉末の成分変化を最小化することができる。一例による軟磁性鉄系粉末の製造方法は、重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物を含む溶鋼を1500℃から1000℃まで10分以内で冷却して固相化する段階と、1000℃から900℃以下に100分以内で冷却する段階と、加熱して液相化する段階と、アトマイズして粉末化する段階と、を含んでもよい。冷却する段階後、変形したり、物理的に切断、破砕するなどの工程をさらに含んでもよい。
【0040】
本発明の一例によれば、固相化する段階で固相化した溶鋼の体積(V)に対する表面積(S)の比が4cm-1以下であってもよい。S/Vの比の値が4cm-1を超過すると、大気中の酸素と高温で反応して厚い酸化層を形成する表面積が過度に広くなる。その結果、形成された酸化層は、結晶粒界に沿って内部に転写され、これによって、鋼中の酸素濃度が大きく増加し、成分偏差が発生する恐れがある。このような観点から、S/Vの比の値は、より好ましくは、0.3cm-1以下、より好ましくは、0.11cm-1以下である。しかしながら、固相化した溶鋼をさらに加熱して液化させるので、液相化時間を考慮すると、S/Vの比は、0.08cm-1以上であることが好ましい。
【0041】
本発明による軟磁性部品は、軟磁性鉄系粉末を高温および/または高圧で圧縮成形して製造することができる。一例による軟磁性部品は、重量%で、Si:2%超過、Al:0.02%超過、Mn:0.05%超過、O:0%超過、0.1%未満、残部としてのFeおよび不可避的不純物を含み、[Si]/[Al]>2を満たす軟磁性鉄系粉末と、前記軟磁性鉄系粉末間の界面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層と、を含んでもよい。鉄系粉末合金組成の限定理由は、上述した通りであるので、便宜上省略する。
【0042】
本発明による軟磁性部品は、軟磁性鉄系粉末間の界面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層を含む。軟磁性部品内絶縁層は、前述した別途の絶縁コーティングを行うことなく、外表面上に絶縁層を形成した鉄系粉末を高温および/または高圧で圧縮成形して確保する。
一例によれば、絶縁層の厚さは、10~50nmであってもよい。絶縁層の厚さが10nm未満の場合には、絶縁性が不十分で、渦電流損失が増加して、鉄損が増加する恐れがある。絶縁層の厚さが50nmを超過する場合には、鋼中の酸素量が大きく増加して、磁性に不利になる恐れがある。
本発明の一例による軟磁性部品内軟磁性鉄系粉末の平均サイズは、150~500μmであってもよい。平均サイズが150μm未満である場合、ヒステリシス損失を十分に低減することができず、1000Hz以下の低周波数領域帯で鉄損を十分に減少させない恐れがある。それに対し、平均サイズが500μmを超過する場合には、部品の密度が低くなって、磁性が劣化する恐れがある。
【0043】
本発明の一例によれば、G95が500μm未満であり、G50が150~300μmであってもよい。G95が500μm以上の場合、部品の密度が低くなって、磁性が劣化する恐れがある。G50が150μm未満であれば、1000Hz以下の鉄損を最小化するための部品内鉄系粉末の粒度を均一に有さない恐れがある。G50が300μmを超過すると、磁性に最適なサイズよりも大きい鉄系粉末の数が全鉄系粉末の多数になるので、磁性が劣化する恐れがある。
【0044】
一例によれば、G10およびG90での[Si]+[Al]+[Mn]の差が10重量%未満であってもよい。ここで、[Si]、[Al]、[Mn]は、各元素の重量%を意味する。比抵抗を大きく増加させる元素であるSi、Al、Mnの場合、合金の増加によって比抵抗を増加するのに非常に効果的である。しかしながら、粉末の粒度によって濃度が大幅に変化すると、複雑な形状の軟磁性部品を製造するとき、磁気的特性が均一でなく、一部の部分で通常の材料に比べて劣る磁性特性を示す恐れがある。
本発明の一例による軟磁性部品は、短軸に対する長軸の長さの比が1~2である軟磁性鉄系粉末の面積率が50%以上であってもよい。短軸に対する長軸の長さの比が2を超過する場合、粒子の形状が球形から大きく外れて、粉末の形成時に局所的な成分の偏差が発生して、磁性が劣化する恐れがある。
【0045】
本発明による軟磁性部品は、1000Hz以下の周波数領域で鉄損を十分に減少させることができる。一例によれば、1T、400Hzで40W/kg以下であってもよい。他の一例によれば、1T、1000Hzで140W/kg以下であってもよい。
本発明による軟磁性部品は、磁性特性に優れ、一例によれば、50Hz、10000A/mでの磁束密度(B100)が1.1Tを超過してもよい。
本発明による軟磁性部品は、比抵抗が高く、一例によれば、比抵抗が40μΩ・cmを超過してもよい。
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意すべきである。本発明の権利範囲は、特許請求範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
【0047】
{実施例}
下記表1の組成を有する鋼を通常用いる転炉を用いて液体状態の溶鋼に製造する。その後、液相の溶鋼を体積(V)に対する表面積(S)の比が4cm-1以下となるように1500℃から1000℃まで10分以内で冷却し、固相化して、鋳造した。鋳造した半製品は、形態または厚さによってスラブ(slab)、バー(bar)またはホットコイル(hot coil)と称することができる。その後、1000℃から900℃以下に100分以内で冷却した。次に、冷却した半製品をそのまま用いたり、または変形したり、または物理的に切断、破砕するなどの工程をさらに行った。その後、1500℃以上に加熱して液相化し、通常の方法によってアトマイズして粉末化して、鉄系粉末に製造した。表1で[Si]、[Al]は、各元素の重量%を意味する。
【0048】
【0049】
各実施例の粉末粒子化した鉄系粉末粒子の平均粒度、D95、D50、D90、D10の粒度をそれぞれ測定して、表2に示した。また、各実施例のD90、D10の粒子における成分組成を表3に示した。表3の[Si]+[Al]+[Mn]は、各元素の重量%を意味する。
【0050】
【0051】
【0052】
本発明が限定する合金組成および粒度を満たす各実施例の鉄系粉末は、外表面上にSi、Al、Mn、Oを含有する絶縁層を含み、鉄損が1T、400~1000Hzで75W/kg~110W/kgであり、50Hz、10000A/mでの磁束密度(B100)が1.0~1.5Tであった。
【0053】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、本明細書に記載する請求範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、モーターのコアなど多様な産業分野に適用できる軟磁性鉄系粉末およびその製造方法、軟磁性部品を提供することができる。
【国際調査報告】