(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-16
(54)【発明の名称】2,3,5-置換されたチオフェン化合物の胃腸管間質腫瘍の予防、改善または治療用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4535 20060101AFI20230808BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230808BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K31/4535
A61P1/04
A61P43/00 105
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504835
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 KR2021009987
(87)【国際公開番号】W WO2022025709
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0095987
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520470431
【氏名又は名称】ファロス・アイバイオ・カンパニー・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テ・ボ・シム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ヘ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ハン・ナ・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ナム・キュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウ・ヨン・ホ
(72)【発明者】
【氏名】チ・マン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】キィ・ヨブ・ナム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ヒョク・ユン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086GA04
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB21
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、2,3,5-置換されたチオフェン化合物の胃腸管間質腫瘍の予防、改善または治療用途に関し、胃腸管間質腫瘍の増殖抑制率に優れているので、胃腸管間質腫瘍の予防、改善または治療に有用に活用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む胃腸管間質腫瘍の予防または治療用薬学的組成物:
【化1】
。
【請求項2】
前記胃腸管間質腫瘍は、c-kitタンパク質を構成する816番目のアミノ酸であるアスパラギン酸(Aspartic acid)がバリン(Valine)に置換されて発生するものである、請求項1に記載の胃腸管間質腫瘍の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項3】
下記化学式1で表される化合物またはその許容可能な塩を含む胃腸管間質腫瘍の予防または改善用食品組成物:
【化2】
。
【請求項4】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む薬学的組成物を胃腸管間質腫瘍患者に投与するステップを含む胃腸管間質腫瘍の治療方法:
【化3】
。
【請求項5】
胃腸管間質腫瘍を予防または治療するための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途:
【化4】
。
【請求項6】
胃腸管間質腫瘍を予防または治療するための薬学的組成物製造のための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途:
【化5】
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,5-置換されたチオフェン化合物の胃腸管間質腫瘍の予防、改善または治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
胃腸管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor、GIST)は、胃腸管、腸間膜または網状膜で発生する肉腫の中で最も多く、全肉腫の5%を占める。一般的に、完全切除によってのみ胃腸管間質腫瘍の完治が達成できるが、手術後にも肝や腹膜への再発が多く、切除が不可能であったり再発した場合、姑息な細胞毒性抗癌治療および放射線治療に反応しないので、その予後が極めて不良であった。胃腸管間質腫瘍の発生に関連する特定細胞のシグナル伝達体系が究明され、これを遮断できる、いわゆる標的抗癌剤であるイマチニブ(imatinib、Glivec、Novartis)を用いて驚くべき効果を達成することができた。グリベックは、前の細胞毒性抗癌剤に比べて非常に軽微な副作用を示すので、生存期間の延長のみならず、生活の質においても優れた効果を示しており、このような結果に基づいて転移性腫瘍の1次治療としての使用を越えて、手術前の先行治療、手術後の補助治療として、グリベックの効果に関する研究が進められている。
【0003】
胃腸管間質腫瘍は、Cajal基質細胞あるいはその前駆細胞を起源とし、KIT突然変異(D816、N822K)によって誘導される胃腸管の間葉組織起源(mesenchymal)の腫瘍である。大部分の場合(90-95%)、c-kitタンパク陽性であり、特徴的な紡錘形、上皮様あるいは混合型の組織学的所見を有する(Corless CL,Fletcher JA,Heinrich MC.Biology of gastro-intestinal stromal tumors.J Clin Oncol2004;22:3813-3825.)。胃腸管間質腫瘍の85-90%でKITまたはPDGFRα遺伝子の突然変異が発見されるが、このうち、KIT遺伝子の突然変異が75-80%の頻度で最も多い。特に、KIT遺伝子の突然変異のうち、エクソン11の突然変異は約70%を占め、エクソン9は約15%、エクソン13と17の突然変異は5%未満と稀である。PDGFRα遺伝子の突然変異は、KIT突然変異がない胃腸管間質腫瘍の約1/3(7%前後)で観察される(Yarden Y,Kuang WJ,Yang-Feng T,et al.Human proto-oncogene c-kit:a new cell surface receptor tyrosine kinase for an unidentified ligand.EMBO J1987;6:3341-3351.)。胃腸管間質腫瘍では、KIT遺伝子の突然変異(D816、N822K)によってリガンドの刺激がない場合にも、KIT受容体タンパクが自ら活性化され、引き続き細胞分裂が促進されて腫瘍が発生する。
【0004】
胃腸管間質腫瘍は、世界的に人種に関係なく発生頻度が類似していることが知られている。胃腸管間質腫瘍は、比較的稀な腫瘍で、年間人口100万人あたり10-20人が発生し、全体胃腸管間質腫瘍の約20-30%が臨床的に悪性の経過を示すことが知られている(Miettinen M,Lasota J.Gastrointestinal stromal tumors:definition,clinical,histological,immunohistochemical,and molecular genetic features and differential diagnosis.Virchows Arch2001;438:1-12.)。韓国の人口が約5,000万人であることを考慮すれば、年間500-1,000人の胃腸管間質腫瘍患者が新たに発生し、悪性の経過を有する患者は年間約100-300人になると推算される。女性より男性の方でより多く発生し、55-65歳で最も多く発生するが、20-30代および小児年齢でも発生している。
【0005】
そこで、本発明者らは、胃腸管間質腫瘍の治療に使用できる新規物質を開発するための研究を行って、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの目的は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む胃腸管間質腫瘍の予防または治療用薬学的組成物を提供することである:
【0007】
【0008】
本発明の他の目的は、下記化学式1で表される化合物またはその許容可能な塩を含む胃腸管間質腫瘍の予防または改善用食品組成物を提供することである:
【0009】
【0010】
本発明の他の目的は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む薬学的組成物を胃腸管間質腫瘍患者に投与するステップを含む胃腸管間質腫瘍の治療方法を提供することである:
【0011】
【0012】
本発明の他の目的は、胃腸管間質腫瘍を予防または治療するための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである:
【0013】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む胃腸管間質腫瘍の予防または治療用薬学的組成物を提供する:
【0015】
【0016】
本発明の一具体例として、前記胃腸管間質腫瘍は、c-kitタンパク質を構成する816番目のアミノ酸であるアスパラギン酸(Aspartic acid)がバリン(Valine)に置換されて発生するものであってもよい。
【0017】
本発明の他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその許容可能な塩を含む胃腸管間質腫瘍の予防または改善用食品組成物を提供する:
【0018】
【0019】
本発明の他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む薬学的組成物を胃腸管間質腫瘍患者に投与するステップを含む胃腸管間質腫瘍の治療方法を提供する:
【0020】
【0021】
本発明の他の態様は、胃腸管間質腫瘍を予防または治療するための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供する:
【0022】
【0023】
本発明の他の態様は、胃腸管間質腫瘍を予防または治療するための薬学的組成物製造のための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供する:
【0024】
【発明の効果】
【0025】
本発明の一具体例による2,3,5-置換されたチオフェン化合物を含む組成物は、胃腸管間質腫瘍の増殖抑制率に優れているので、胃腸管間質腫瘍の予防、改善または治療に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】c-kitタンパク質のアミノ酸配列のうち816番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)からバリン(V)に置換された突然変異を示す図である。
【
図2】(A)本発明の一具体例によるPHI-101、(B)スニチニブ(Sunitinib)、および(C)ダサチニブ(Dasatinib)の処理濃度によるc-kit D816V Ba/F3細胞株内のシグナル伝達阻害能を示す写真である。
【
図3】(A)陰性対照群であるDMSO(dimethyl sulfoxid)、(B)(C)スニチニブ、および(D)(E)(F)本発明の一具体例によるPHI-101の処理濃度によるc-kit D816V Ba/F3細胞株のAnnexin V-PI FACS分析の結果を示すグラフである。
【
図4】(A)陰性対照群であるDMSO(dimethyl sulfoxid)、(B)スニチニブ、および(C)本発明の一具体例によるPHI-101の処理によるc-kit D816V Ba/F3細胞株のcell cycle FACS分析の結果を示すグラフである。
【
図5】(A)陰性対照群であるDMSO(dimethyl sulfoxid)、(B)スニチニブ、および(C)本発明の一具体例によるPHI-101の処理によるc-kit D816V Ba/F3細胞株の各細胞周期別populationを示すグラフである。
【
図6】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブ(Imatinib)およびスニチニブの処理濃度によるGIST-T1細胞株内のシグナル伝達阻害能を示す写真である。
【
図7】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの処理濃度によるGIST-T1細胞株の細胞死滅効果をウェスタンブロット分析方法で確認した結果を示す写真である。
【
図8】c-kit D816V Ba/F3細胞株の異種移植マウスモデルにおいて、本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの経口投与による生存期間延長効果を示すグラフおよび表である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む胃腸管間質腫瘍の予防または治療用薬学的組成物を提供する:
【0028】
【0029】
本発明の薬学的組成物に有効成分として含まれる、化学式1で表される化合物は、(S)-5-((3-フルオロフェニル)エチニル)-N-(ピペリジン-3-イル)-3-ウレイドチオフェン-2-カルボキサミド((S)-5-((3-fluorophenyl)ethynyl)-N-(piperidin-3-yl)-3-ureido thiophene-2-carboxamide)である。
【0030】
本発明の化学式1で表される化合物であるPHI-101は、ヒトGIST細胞株であるGIST-T1の増殖を抑制する。PHI-101は、GIST-T1細胞で36nMのIC50値を示すので、優れた胃腸管間質腫瘍抑制活性を示すことができる。
【0031】
本発明の一具体例による薬学的組成物は、1つ以上の抗癌剤とともに投与される。
【0032】
本発明の一具体例による薬学的組成物は、胃腸管間質腫瘍の治療のために、単独で、または手術、ホルモン治療、薬物治療、放射線治療および/または生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用できる。
【0033】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含むことができる。本発明の薬学的組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、薬剤の製造に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬学的組成物は、前記成分のほか、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などを追加的に含むことができる。適した薬学的に許容される担体および製剤は、Remington:the science and practice of pharmacy 22nd edition(2013)に詳しく記載されている。
【0034】
本発明の薬学的組成物は、その剤形の製剤化に必要で適切な各種基剤および/または添加物を含むことができ、その効果を低下させない範囲内で非イオン界面活性剤、シリコーンポリマー、体質顔料、香料、防腐剤、殺菌剤、酸化安定化剤、有機溶媒、イオン性または非イオン性増粘剤、柔軟化剤、酸化防止剤、自由ラジカル破壊剤、不透明化剤、安定化剤、エモリエント(emollient)、シリコーン、α-ヒドロキシ酸、消泡剤、保湿剤、ビタミン、昆虫忌避剤、香料、保存剤、界面活性剤、消炎剤、物質P拮抗剤、充填剤、重合体、推進剤、塩基性化または酸性化剤、または着色剤など公知の化合物をさらに含んで製造される。
【0035】
本発明の薬学的組成物の適した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様に処方可能である。本発明の薬学的組成物の投与量は、成人基準で0.001~1000mg/kgであってもよい。
【0036】
本発明の薬学的組成物は、経口または非経口投与することができる。
【0037】
本発明の薬学的組成物は、経口投与時に多様な剤形で投与されるが、錠剤、丸剤、硬質/軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、顆粒剤、エリキシル剤、トローチ剤などの形態で投与可能であり、様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などをさらに含むことができる。具体的には、本発明の組成物を経口投与剤形に剤形化する場合、その製造に通常使用する適切な担体、賦形剤および希釈剤をさらに含むことができる。前記担体、賦形剤および希釈剤としては、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよび/または鉱物油が使用できるが、これに限定されない。また、製剤化に一般的に使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を含んで調製されてもよいし、前記賦形剤のほか、マグネシウムステアレートまたはタルクのような潤滑剤をさらに含むことができる。
【0038】
本発明の薬学的組成物は、非経口投与可能であり、例えば、皮下注射、静脈注射または筋肉内注射などの方法により投与されるものであってもよいが、これに限定されない。
【0039】
非経口投与用剤形への製剤化は、例えば、本発明の薬学的組成物を安定剤または緩衝剤とともに水に混合して溶液または懸濁液に製造し、これをアンプルまたはバイアル単位投与型で製造するものであってもよい。また、前記組成物は滅菌され、防腐剤、安定化剤、水和剤または乳化促進剤、浸透圧調節のための塩および緩衝剤などの補助剤、およびその他治療的に有用な物質を追加的に含むことができ、通常の方法によって製剤化可能である。
【0040】
本発明の一具体例によれば、前記胃腸管間質腫瘍は、c-kitタンパク質を構成する816番目のアミノ酸であるアスパラギン酸(Aspartic acid)がバリン(Valine)に置換されて発生したものであってもよい。
【0041】
85~90%の胃腸管間質腫瘍は、KITまたはPDGFRα遺伝子の突然変異によるもので、このうち、KIT遺伝子の突然変異が75~80%の頻度で最も多い。化学式1で表される化合物は、c-kitタンパク質を構成する816番目のアミノ酸であるアスパラギン酸の突然変異、具体的には、アスパラギン酸がバリンに置換された突然変異を有する胃腸管間質腫瘍の抑制活性に優れているので、このような突然変異を有する胃腸管間質腫瘍の予防または治療に有用に活用できる。
【0042】
本発明の他の態様は、化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む組成物を胃腸管間質腫瘍患者に投与するステップを含む胃腸管間質腫瘍の治療方法を提供する。
【0043】
本発明の一具体例による薬学的組成物は、化学式1で表される化合物を有効成分として含み、特に、c-kitタンパク質を構成する816番目のアミノ酸であるアスパラギン酸の突然変異を有する胃腸管間質腫瘍に優れた抗癌効果を示す。したがって、本発明の薬学的組成物を投与する前、化学式1で表される化合物に効果を示す患者群を選別するコンパニオン診断(Companion Diagnosis)ステップをさらに含むことができ、これは当業界にて公知の胃腸管間質腫瘍の診断方法によって行われる。
【0044】
本発明で使われる用語、「コンパニオン診断」は、患者の特定薬物治療に対する反応性を予め予測するための診断をいう。
【0045】
本発明のさらに他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその許容可能な塩を含む胃腸管間質腫瘍の予防または改善用食品組成物を提供する:
【0046】
【0047】
本発明の食品組成物は、当業界にて通常添加する原料および成分を添加して製造することができ、有効成分である化学式1で表される化合物を含有するほか、通常の食品組成物のように様々な香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有することができる。
【0048】
本発明の一具体例によれば、天然炭水化物は、モノサッカライド(例えば、ブドウ糖、果糖など)、ジサッカライド(例えば、マルトース、スクロースなど)、およびポリサッカライド(例えば、デキストリン、シクロデキストリンなど)のような通常の糖、およびキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールであってもよい。前記香味剤は、天然香味剤(タウマチン)、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリチルリチンなど)および/または合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を含むことができる。
【0049】
本発明の食品組成物は、上述した有効成分のほか、追加的に食品学的に許容可能または薬学的に許容可能な担体を1種以上含んで食品組成物に製剤化される。前記食品組成物の製剤形態は、錠剤、カプセル剤、粉末、顆粒、液状、丸、液剤、シロップ、汁、懸濁剤、乳剤、または点滴剤などであってもよい。例えば、錠剤またはカプセル剤の形態への製剤化のために、有効成分は、エタノール、グリセロール、水などのような経口、無毒性の薬剤学的に許容可能な不活性担体と結合可能である。
【0050】
本発明の食品組成物は、ビタミンAアセテート、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビオチン、ニコチン酸アミド、葉酸、パントテン酸カルシウムからなるビタミン混合物、および硫酸第1鉄、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、第1リン酸カリウム、第2リン酸カリウム、クエン酸カリウム、炭酸カルシウムおよび塩化マグネシウムなど当業界にて通常添加可能な1つ以上の無機質を含むことができる。
【0051】
必要な場合、適した結合剤、潤滑剤、崩壊剤および発色剤も混合物に含まれる。適した結合剤は、デンプン、ゼラチン、グルコースまたはベータ-ラクトースのような天然糖、トウモロコシ甘味剤、アカシア、トラガカントまたはソジウムオレートのような天然および合成ガム、ソジウムステアレート、マグネシウムステアレート、ソジウムベンゾエート、ソジウムアセテート、ソジウムクロライドなどを含むことができる。崩壊剤は、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどを含むことができる。
【0052】
このような成分は、独立してまたは組み合わせて使用可能であり、このような添加剤の比率は、本発明の食品組成物100重量部あたり0~約20重量部の範囲から選択可能であるが、これに限定されるものではない。
【0053】
一方、本発明の食品組成物に通常の技術者に知られている多様な剤形の製造方法を適用して多様な食品を製造することができる。例えば、本発明の食品組成物は、飲料や丸、粉末などのような通常の健康機能食品剤形に製造されるが、これに限定されるものではない。
【0054】
本発明の食品組成物は、胃腸管間質腫瘍細胞株の増殖抑制能力に特に優れているので、胃腸管間質腫瘍の予防または改善に有用に活用できる。
【0055】
本発明の他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む薬学的組成物を胃腸管間質腫瘍患者に投与するステップを含む胃腸管間質腫瘍の治療方法を提供する:
【0056】
【0057】
本発明の他の態様は、胃腸管間質腫瘍を予防または治療するための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供する:
【0058】
【0059】
本発明の他の態様は、胃腸管間質腫瘍を予防または治療するための薬学的組成物製造のための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供する:
【0060】
【実施例】
【0061】
以下、本発明を一つ以上の実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1.c-kit突然変異細胞株に対するPHI-101の抑制活性の確認
1-1.c-kit突然変異細胞株の成長阻害能の確認
化学式1で表される化合物(以下、「PHI-101」という)のc-kit突然変異細胞株に対する抑制活性を測定した。
【0063】
【0064】
具体的には、c-kit D816V突然変異(
図1)Ba/F3細胞株を10,000cells/100μlに合わせて、96ウェルプレートに100μlずつ入れた。4時間後、Ba/F3細胞株100μlに、10point、1/3ずつ連続希釈(serial dilution)した対照化合物およびPHI-101をそれぞれ0.5μlずつ処理して、最終濃度が最高50μMとなるように処理し、5%CO
2の37℃条件で72時間培養した。対照化合物としては、c-kit抑制剤であるイマチニブ(Imatinib)およびスニチニブ(Sunitinib)を使用した。培養後、Celltiter glo assayキット(Promega)を用いて細胞数を測定して、対照化合物およびPHI-101の50%成長抑制値(GI
50、μM)を測定した。
【0065】
その結果、PHI-101は、対照化合物に比べてc-kit D816V Ba/F3突然変異細胞株に対する高い阻害能を示すことが確認され、parental Ba/F3細胞株に比べてより高い選択性を示すことが確認された(表1)。
【0066】
【0067】
1-2.c-kitリン酸化および下位シグナル伝達阻害能の確認
c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株において、対照化合物およびPHI-101のc-kitリン酸化および下位シグナル伝達阻害能(p-STAT3、p-ERK1/2)を測定し、対照化合物としてはスニチニブおよびダサチニブを使用した。
【0068】
具体的には、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株を1×106cells/mlの濃度で分注し、対照化合物およびPHI-101をそれぞれ0.1、1および10μMの濃度で処理した後、2時間培養した。その後、溶解バッファー(50mM Tris-HCl pH7.5、1%NP40、1mM EDTA、150mM NaCl、5mM、Na3VO4および2.5mM NaF、およびプロテアーゼ阻害剤混合物(protease inhibitor cocktail))を用いて細胞溶解物を得た。同量の細胞溶解物を8%SDS-PAGE gelを用いて100Vで1時間30分間電気泳動し、分離されたタンパク質をニトロセルロースメンブレンに電気的に移動させた。メンブレンを5%脱脂乳で室温で30分間ブロッキングした後、一次抗体p-c-kit Tyrosine719(Y719)、p-STAT3 Tyrosine705(Y705)およびp-ERK1/2 Threonine202/Tyrosine204(T202/Y204)を1:5000で希釈して、メンブレンと4℃で16~20時間反応させた。発現の程度を比較するための対照群として、抗-βアクチン(actin)を1:10000の比率で希釈して一次抗体として使用した。以後、メンブレンをTBST(Tris-buffered saline、0.1%Tween20)で5分間3回ずつ洗浄した後、HRP-結合抗-rabbitを二次抗体として1:10000の比率で希釈して室温で1時間培養した後、TBSTで5分間3回ずつ洗浄し、化学発光基質試薬を処理し、暗室でフィルムで発光(luminescence)を検出してタンパク質の発現程度を確認した。
【0069】
その結果、PHI-101は、対照化合物に比べてp-c-kit(Y719)リン酸化に対する高い阻害能を示し、対照化合物と類似の下位シグナル伝達(p-STAT3、p-ERK1/2)阻害能を示すことが確認された(
図2)。
【0070】
1-3.細胞死滅効果の確認
c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株にPHI-101を処理した後、細胞死滅(apoptosis)効果を分析した。
【0071】
具体的には、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株を1×106/mlの濃度で分け、PHI-101を0.1、1、10μMの濃度で、対照化合物としてはスニチニブを1、10μMの濃度で24時間処理した。その後、培地を除去し、1mlのPBSで1回洗浄した。1000rpmで5分間遠心分離してPBSを除去した。Ca2+、Mg2+を含んでいるPBS100μlで細胞を溶かし、5μl Annexin Vを入れて20分間反応させた。反応が終わると、400μlのCa2+、Mg2+を含んでいるPBSを追加し、5μl PI(Propodium iodide)を入れた後、フローサイトメーター(FACS-C6、BD)を用いてFACS(fluorescence activated cell sorter)分析法で細胞死(apoptotic cell death)の程度を調べた。
【0072】
その結果、PHI-101は、0.1μMの濃度でも細胞死滅を強く誘導し、濃度依存的に細胞死が増加することが確認された(
図3)。
【0073】
1-4.細胞周期進行抑制効果の確認
c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株にPHI-101 1μMを処理した後、cell cycle FACS分析によりSubG1/GO-1 populationを分析した。
【0074】
具体的には、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株1×106/mlの濃度で分け、PHI-101および対照化合物であるスニチニブを1μMの濃度で24時間処理した。その後、培地を除去し、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株を70%エタノールに入れて、4℃で24時間固定した後、40μg/ml PI(propidium iodide)および100μg/mlのRNaseが混合されたPBS緩衝溶液で30分間反応させて、total DNAをすべて染色した。染色された細胞の細胞周期の分析はフローサイトメーター(FACS-C6、BD)を用いて行われた。G0/G1期、S期、およびG2/M期にある細胞の比率(proportion)を測定し、これに基づいて、SubG1/GO-1 populationを確認した。
【0075】
その結果、PHI-101の処理によってSubG1/GO-1 populationが増加して、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株の細胞周期の進行が抑制されることが確認された(
図4および
図5)。
【0076】
実施例2.胃腸管間質腫瘍細胞株に対するPHI-101の抑制活性の確認
2-1.胃腸管間質腫瘍細胞株の成長阻害能の測定
胃腸管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor、GIST)細胞株に対するPHI-101の抑制活性を測定した。
【0077】
具体的には、GIST-T1細胞株を5,000cells/100μlに合わせて、96ウェルプレートに100μlずつ入れた。24時間安定化後、GIST-T1細胞株100μlに、10point、1/3ずつ連続希釈(serial dilution)した対照化合物およびPHI-101をそれぞれ0.5μlずつ処理して最終濃度が最高50μMとなるように処理し、5%CO2の37℃条件で72時間培養した。対照化合物としてはc-kit抑制剤であるイマチニブ、ダサチニブ(Dasatinib)、スニチニブおよびポナチニブ(Ponatinib)を使用した。培養後、Celltiter glo assayキット(Promega)を用いて細胞数を測定して、対照化合物およびPHI-101の50%成長抑制値(GI50、μM)を測定した。
【0078】
その結果、PHI-101は、対照化合物と類似する水準のGIST-T1細胞株阻害能を示すことが確認された(表2)。
【0079】
【0080】
2-2.c-kitリン酸化および下位シグナル伝達阻害能の確認
胃腸管間質腫瘍細胞株において、対照化合物およびPHI-101のc-kitリン酸化および下位シグナル伝達阻害能(p-AKT、p-ERK1/2、p-S6)を測定し、対照化合物としてはイマチニブおよびスニチニブを使用した。
【0081】
具体的には、GIST-T1細胞株に1μMの濃度の対照化合物および0.01、0.1、1μMの濃度のPHI-101を処理し、一次抗体としてp-c-kit Tyrosine703(Y703)、p-AKT Threonine308(T308)、p-AKT Serine473(S473)、Tyrosine705(Y705)、p-ERK1/2およびp-S6 Serine235/Serine236(S235/S236)を1:3000で希釈して使用したことを除けば、実施例1-2と同様の方法でc-kitリン酸化と下位シグナル伝達阻害能を確認した。
【0082】
その結果、PHI-101は、濃度依存的にc-kitおよび下位シグナルのリン酸化を減少させ、対照化合物と類似の下位シグナル阻害能を示すことが確認された(
図6)。
【0083】
2-3.細胞死滅効果の確認
胃腸管間質腫瘍細胞株にPHI-101を処理して、細胞死滅マーカーであるcleaved PARPの水準を分析し、対照化合物としてはイマチニブおよびスニチニブを使用した。
【0084】
具体的には、GIST-T1細胞株に1μMの濃度の対照化合物および0.01、0.1、1μMの濃度のPHI-101を24時間処理し、一次抗体としてcleaved PARPを1:3000で希釈して使用したことを除けば、実施例1-2と同様の方法で分析して、GIST-T1細胞株に対するPHI-101の細胞死滅効果を分析した。
【0085】
その結果、GIST-T1細胞株においてcleaved PARPの水準がPHI-101の濃度依存的に増加することが確認されて、胃腸管間質腫瘍細胞株に対するPHI-101の細胞死滅効果を確認した(
図7)。
【0086】
実施例3.c-kit D816V Ba/F3細胞株の異種移植マウスモデルにおけるPHI-101の生存期間延長効能の確認
3-1.c-kit D816V Ba/F3細胞株の異種移植マウスモデルの確立
マウスは6~8週齢のNOD SCID雌マウス(18~22g)(GemPharmatech Co.,Ltd)で用意した。マウスを実験に用いる前の7日間順化させており、健康に異常のあるマウスは実験から除いた。40%~70%の相対湿度に維持される22±3℃の飼育場(300×180×150mm)で12時間の明暗周期でマウスを飼育した。プロトコルで明示された期間を除いた全体実験期間の間、滅菌された乾燥顆粒食品(Beijing Keaoxieli Feed Co.,Ltd.、Beijing、China)および水をマウスが自由に摂取できるようにした。
【0087】
75Tフラスコで浮遊形態で培養されたc-kit D816V突然変異Ba/F3細胞50mlを円錐管(cornical tube)に入れて800rpmで2分間遠心分離し、DPBS(Dulbecco’s Phosphate-Buffered Saline、welgene)で800rpmで2分間遠心分離して洗浄した後、抗生剤およびFBS(fetal bovine serum)のないRPMI1640(welgene)に懸濁させた。その後、トリパンブルー(Tryphan blue)で染色し、血球計算板(hematocytometer)で細胞数を測定した。生存細胞の数が1×107cells/mlとなるように細胞濃度を調節して100μlずつインスリン注射器(insulin syringe)に分注し、restrainerを用いてマウスを補正した後、尾静脈投与してc-kit D816V Ba/F3細胞株の異種移植マウスモデルを作製した。
【0088】
c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株を移植して3日後、マウスを各グループ別に6匹ずつ割り当て、マウスが死亡するまでの間、毎日イマチニブ90mg/kg、スニチニブ20、40mg/kg、PHI-1017、20、40、80mg/kgの用量をそれぞれマウスに経口投与した。経口投与時、各化合物は5%1-メチル-2-ピロリドンに溶かした後、15%Kolliphor、30%PEG E400 HS15および50%0.05Mクエン酸に完全に混合して使用した。
【0089】
3-2.マウスの生存期間延長の確認
c-kit D816V Ba/F3細胞株の異種移植マウスモデルにおいて、PHI-101の投与によってマウスの生存期間が延長されるかを確認した。
【0090】
具体的には、毎日、実施例3-1のマウスモデルの皮膚状態、出血および便の状態などを確認して異常の有無をモニタリングしながら、薬物の経口投与開始後3日間隔でマウスの体重を測定して体重の変化の有無を確認した。また、毎日経口投与を進行させながらマウスの状態を確認して死亡個体を記録した。各データに対してはOne-way ANOVAを用いて各群の有意性テストを進行させ、マウスの生存期間(life-span)に対してKaplan Meier survival analysisを用いてグラフを導出し、平均生存期間(median survival time)を求めた。
【0091】
その結果、生存期間延長効果のない対照化合物とは異なり、PHI-101は、7mg/kgの低用量でもビヒクル(vehicle)投与群に比べて3日の生存期間延長効果があり、80mg/kg投与群では、ビヒクル投与群に比べて生存期間が2倍延長されたことが確認された(
図8)。
【0092】
これまで本発明についてその実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれていると解釈されなければならない。
【国際調査報告】