(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ミクロスフェア薬物でコーティングされた医療デバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
A61L 29/16 20060101AFI20230809BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20230809BHJP
A61K 31/55 20060101ALN20230809BHJP
A61K 31/337 20060101ALN20230809BHJP
A61K 31/436 20060101ALN20230809BHJP
A61K 31/7068 20060101ALN20230809BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20230809BHJP
【FI】
A61L29/16
A61L29/12 100
A61K31/55
A61K31/337
A61K31/436
A61K31/7068
C12N5/078 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569127
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(85)【翻訳文提出日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2021071150
(87)【国際公開番号】W WO2022023416
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512238276
【氏名又は名称】バイオトロニック アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベッツ、ロナルド、イー.
(72)【発明者】
【氏名】ナグイ、アナ、ジェリンヌ、ピー.
(72)【発明者】
【氏名】グエン、ジョン、ダン
(72)【発明者】
【氏名】クアック、デイヴィッド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065BB13
4C081AA14
4C081AC08
4C081CA23
4C081CD17
4C081CE02
4C081DA03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086CB11
4C086CB22
4C086EA17
4C086MA67
4C086NA20
(57)【要約】
本出願は、一般に、ミクロスフェアでコーティングされた薬物送達技術を製造するための、単一又は複数の溶媒、賦形剤、及びポリマーを含まない薬物コーティング製剤を含む材料及び製造方法の分野に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの薬物を含むミクロスフェア組成物の製造方法であって、(1)少なくとも1つの薬物を少なくとも1つの溶媒に溶解して疎水性混合物を形成するステップ、(2)溶解した疎水性混合物を基材上に堆積させるステップ、及び(3)堆積し、溶解した疎水性混合物を基材から蒸発させてミクロスフェア組成物を得るステップを含む、上記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの溶媒が乾燥しており、特に7%未満の水を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基材を有機溶媒で洗浄するステップ(1a)をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(2)の前に、水溶性材料を基材に適用し、水溶性材料を乾燥させるステップ(1b)をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(1b)又は(2)の前に、プラズマ処理による洗浄ステップをさらに含む、請求項1~4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
複数の薬物ミクロスフェアを含む又はからなるコーティング層を有する医療デバイス。
【請求項7】
医療デバイスがバルーンを有するバルーンカテーテルである、請求項6に記載の医療デバイス。
【請求項8】
ミクロスフェアが1~20μmの平均直径を有する、請求項6又は7に記載の医療デバイス。
【請求項9】
コーティング層が複数の薬物ミクロスフェアからなる、請求項6~8のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項10】
薬物ミクロスフェアが、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、ノボリムス、ミオリムス、テムシロリムス及び/又はラパマイシン誘導体、これらは任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む、並びに以下の構造を有する大環状トリエン免疫抑制化合物、これは任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む、の少なくとも1つを含む又はからなる、請求項6~9のいずれか一項に記載の医療デバイス:
【化1】
ここで、RはC(O)‐(CH
2)
n‐Xであり、nは0、1又は2であり、Xは炭素数3~8の環状炭化水素であり、任意選択で1つ又は複数の不飽和結合を含む。
【請求項11】
水溶性材料を含むプライマー層を含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項12】
水溶性材料が、50~200kDの分子量を有するタンパク質である、請求項11に記載の医療デバイス。
【請求項13】
バルーンカテーテルのバルーンがポリアミド材料でできている、請求項7~12のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項14】
コーティング層がバルーンの表面に適用され、薬物ミクロスフェアからなり、コーティング層がバルーン上の唯一の層である、請求項7~10のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項15】
医療デバイスがバルーンを有するバルーンカテーテルであり、プライマー層がバルーン上に適用され、薬物ミクロスフェアからなるコーティング層がプライマー層上に適用され、バルーンは追加の層を含まない、請求項11~13のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に、ミクロスフェアでコーティングされた薬物送達技術を製造するための、無水の単一溶媒又は多溶媒、賦形剤及びポリマーを含まない薬物コーティング製剤を含む材料及び製造方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
バルーン血管形成術は、さまざまな動脈疾患の治療法として確立されている。しかし、ステントと薬物放出ステントの出現により、バルーン血管形成術は背景に追いやられた。最近、薬物でコーティングされた血管形成バルーン(DCB)が、薬物でコーティングされていないバルーン「POBA」(プレーンオールドバルーン血管形成術)の実行可能な代替手段として登場した。この出現は当初、ステント内再狭窄を治療するための賦形剤を組み込んだ抗増殖性パクリタキセルでコーティングされた血管形成バルーンの使用を支持する臨床データによって促進された(Chow et al.,Interv Cardiol 7(2):169‐180(2015))。
【0003】
さまざまなパクリタキセルの薬物形態、賦形剤、バルーン、及びコーティング方法が、ヒトの臨床試験での治療に使用されてきたが、結果は非常にまちまちである(Picard et al.,Archives of Cardiovascular Disease 110:259‐272(2017))。最近では、DCBの使用にシロリムスが提案されている。パクリタキセルとシロリムスはどちらも再狭窄の予防に効果的であるが、生化学的メカニズムが異なる。研究によると、パクリタキセルは潜在的に毒性が高く、治療範囲がより狭いことが示されている(Pires et al.,Heart 93:722‐727(2007))。この理解は、血管ステントと薬物でコーティングされたバルーンの両方でのシロリムスの使用を評価する大きな関心と多くの調査をもたらした。
【0004】
現在、シロリムス(sirolimus)及びシロリムス誘導体(「リムス」)化合物が、コーティングされた血管ステントでの使用に好ましい薬物であることが一般に認められている。しかし、リムスでコーティングされたバルーンの開発に対する業界の要望は、より困難なものであった。これらの化合物で最適な結果を得るには、薬物が約1ヶ月以上治療レベルで疾患組織に留まる必要があることが現在理解されている。この要件に対応する試みとして、さまざまなポリマーや賦形剤がこれらの薬物やさまざまな成分の物理的形態とともに利用されてきた。これらはすべて、挿入中のバルーンからの薬物の損失を回避又は遅らせ、薬物の移動と保持を必要な部位で可能にし、薬物のウォッシュアウトを最小限に抑え、及び/又は治療量の薬物と組織への時間を提供しようと試みるものである。
【0005】
これらの要件は、複雑なリムスDCBコーティング組成物と製造方法につながっている(Arpit et al.,Trends Biomat Artif Organs 22(2):87‐92(2008))。また、微粒子状及び/又はミクロスフェア状の形態の成分を含むDCBコーティングが、治療部位での薬物保持及び時限放出を助けることができることも現在さらに認識されている。これらの製品要件により、多種多様な薬物の形態と組成が開示されている。
【0006】
以下の表1には、いくつかのリムスでコーティングされたバルーンデザインと、それらに含まれる必要なコーティング添加剤がリストされている。
【表1】
【0007】
薬物ミクロスフェアのインシチュ(その場で)のバルーン形成は、以前に報告されている。例えば、米国特許第9,295,663号は、従来のバルーンミクロスフェアコーティング配合物に勝るインシチュのバルーンミクロスフェア形成のいくつかの利点を開示する。しかし、開示された材料と方法、必要な組成物、及び必要なプロセスは非常に複雑である。これらの材料と方法では、特定の化学物質とその化学的及び物理的特性のバランスを取り、2つの異なる溶媒を使用する必要がある。その後、望ましい結果を得るために特定の乾燥要件を利用する。
【0008】
このような当技術分野の教示は、従来の薬物コーティング製剤の最適化では、ミクロスフェアがインシチュで形成されるコーティングを生成できないことを必要とする。さらに、関連技術では、薬物ミクロスフェアを適切に形成するために、製剤は水を第2溶媒の30%の比率で第1溶媒として使用する必要がある。さらに重要なことは、コーティング製剤の蒸発が速すぎると、薬物のミクロスフェアが形成されないことである。
【0009】
ポリマー、外来添加物、及び賦形剤を利用して、臨床要件を満たす最適な物理的及び化学的医薬品の構成を実現することは困難であることがわかる。さまざまな製品添加物は、製造の複雑さとコストを大幅に増加させる可能性があり、必要なパッケージングと製品の安定性(貯蔵寿命)に悪影響を与える可能性もある。また、製品成分が追加されると、患者の血管及び/又は全身毒性のリスクが高まり、すべてが患者の転帰と総治療費に影響を与える。改善されたリムスDCB組成物及び製造プロセスが当技術分野で明らかに必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、基材表面をコーティングして、少なくとも1つの薬物を含むミクロスフェア層を形成する方法を提供し、この方法は、(1)少なくとも1つの疎水性材料を提供し、少なくとも1つの溶媒を提供し、(1)からの少なくとも1つの疎水性材料を(1)からの少なくとも1つの溶媒に溶解すること、及び(2)基材表面上に溶解生成物を形成すること、及び(3)基材表面から溶解生成物を蒸発させてミクロスフェア層を生成することを含む。あるいは、少なくとも1つの疎水性材料は、少なくとも1つの薬物を含む。好ましくは、少なくとも1つの溶媒はアルコールである。より好ましくは、溶解した疎水性混合物は、ピペット又はスプレーによって基材上に堆積される。最も好ましくは、この方法は、上で定義したどのステップにおいても合成ポリマーの使用を含まない。任意選択で、基材表面は、バルーン、医療デバイス、及びステントからなる群から選択される。
【0011】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの薬物を含むミクロスフェア組成物を製造するプロセスを提供し、このプロセスは以下のステップを含む:疎水性混合物を提供するステップであって、少なくとも1つの薬物が疎水性混合物と共に含まれるステップ、疎水性混合物を少なくとも1つの溶媒に溶解させるステップ、溶解した疎水性混合物を基材上に堆積させ、堆積した溶解した疎水性混合物を基材から蒸発させてミクロスフェア組成物を得るステップ。好ましくは、少なくとも1つの溶媒はアルコールである。より好ましくは、溶解した疎水性混合物は、ピペット又はスプレーによって基材上に堆積される。最も好ましくは、このプロセスは、どのステップにおいても合成ポリマーの使用を含まない。任意選択で、基材は、バルーン、医療デバイス、及びステントからなる群から選択される。
【0012】
したがって、本発明の一態様は、本明細書に記載及び定義される複数の薬物ミクロスフェアを含む又はからなるコーティング層を有する医療デバイスを対象とする。
【0013】
前の態様に関連して、本発明は、医療デバイス、好ましくは、本明細書に記載及び定義される複数の薬物ミクロスフェアを含む又はからなるコーティング層を有するバルーンを有するバルーンカテーテルを対象とする。上記の医療デバイスの1つの好ましい実施態様は、水溶性材料を含むプライマーコーティング層と、本明細書に記載及び定義される複数の薬物ミクロスフェアを含む又はからなる第2の層とを有するバルーンを有するバルーンカテーテルを対象とする。本明細書で使用されるプライマー層は、基材の表面に適用されることになっている。例えば、バルーンカテーテルのプライマー層はバルーン表面に適用(塗布)される。
【0014】
また、本発明は、(1)少なくとも1つの薬物を少なくとも1つの溶媒に溶解して疎水性混合物を形成するステップ、(2)溶解した疎水性混合物を基材上に堆積させるステップ、及び(3)堆積し、溶解した疎水性混合物を基質から蒸発させて、薬物ミクロスフェアを得るステップを含む、少なくとも1つの薬物を含む薬物ミクロスフェアを製造する方法を提供する。上記の方法は、ステップ(1)の前に適用される中間ステップ(1b)を含むことが好ましく、ステップ(1b)は、水溶性材料を基材に適用し、水溶性材料を乾燥させることを含む。ステップ(1b)の適用は、基材上に水溶性材料のプライマー層を形成する。したがって、次のステップ(2)が実施され、溶解した疎水性混合物が、プライマー層を有する基材上に堆積される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本明細書に含まれる開示された主題は、添付の図面と併せて最もよく説明される。
【
図1】
図1は、各コーティングされたバルーンのSEM画像を示す。(A)無水メタノール中の3.1mg/mL CRC‐015をバルーンにコーティング、(B)無水メタノール中の6.3mg/mL CRC‐015をバルーンにコーティング、(C)無水メタノール中の12.5mg/mL CRC‐015をバルーンにコーティング、及び(D)無水メタノール中の25.0mg/mL CRC‐015をバルーンにコーティング。
【
図2】
図2は、バルーンにコーティングされたパクリタキセル球体を示す。(A)25mg/mLのメタノール中のパクリタキセル製剤でコーティングされたバルーンの画像、(B)薬物ミクロスフェアのSEM画像。
【
図3】
図3は、バルーンにコーティングされたCRC‐015、パクリタキセル、及びゲムシタビンの球体を示す。(A)CRC‐015、パクリタキセル、及びゲムシタビンをメタノールに溶解してコーティングしたバルーンの画像、(B)薬物製剤ミクロスフェアのSEM画像。
【
図4】
図4は、メタノール(37.5mg/mL)及び5%水でCRC‐015を使用して生成されたミクロスフェアを示す。
【
図5】
図5は、メタノール(25mg/mL)と7%の水でラパマイシンを使用して生成されたミクロスフェアを示す。
【
図6】
図6は、メタノール(10mg/mL)及び4%水でパクリタキセルを使用して生成されたミクロスフェアを示す。
【
図7】
図7は、エタノール(45mg/mL)と1%の水でエベロリムスを使用して生成されたミクロスフェアを示す。
【
図8】
図8は、34.2%メタノール(v/v)及び56.8%アセトン(v/v)中のエベロリムス及びアリセルチブを含む製剤で生成されたミクロスフェアを示す。
【
図9】
図9は、HSAの上にコーティングされたメタノール中のCRC‐015 の製剤で生成されたミクロスフェアを示す。
【
図10】
図10は、PVAの上にコーティングされたメタノール中のCRC‐015の製剤で製造されたミクロスフェアを示す。
【
図11】
図11は、CRC‐015DCB対シロリムスDCB対MagicTouchシロリムスDCBの動脈血管薬物保持比較を支持するインビボデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書で使用される場合、用語「大環状トリエン免疫抑制化合物」には、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、ノボリムス、ミオリムス、テムシロリムス、及び本開示に記載のラパマイシン誘導体が含まれる。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「ミクロスフェア」又は「ミクロスフィア状」は、ナノメートルからマイクロメートルの範囲の直径を有する小さく、大部分が球形の粒子を含む。「ミクロスフェア」又は「ミクロスフェア状」という用語は、中空のミセル構造と、内部に特定の中空空間を持たずにコアまで材料で満たされたボール構造の両方を含む。この用語は、「粒子」という用語を直接指しており、部分的に中空又は完全に充填されているという意味も持つことができる。
【0018】
本発明は、特定の疾患又は状態の治療に使用するための薬物ミクロスフェアの新規製造のための材料及び方法を提供する。
【0019】
本発明の一態様は、(1)少なくとも1つの薬物を少なくとも1つの溶媒に溶解して疎水性混合物を形成するステップ、(2)溶解した疎水性混合物を基材上に堆積させるステップ、及び(3)堆積し、溶解した疎水性混合物を基材から蒸発させて、薬物ミクロスフェアを生成するステップを含む、少なくとも1つの薬物を含む薬物ミクロスフェアを製造する方法を提供する。上述の方法は、ステップ(2)の前に適用される中間ステップ(1b)を含むことができ、ステップ(1b)は、水溶性材料を基材に適用し、水溶性材料を乾燥させることを含む。このステップの水溶性材料は、本明細書で水溶性材料として定義される任意の材料であり得る。基材は、バルーンカテーテル又はステントなどの医療デバイスであることが好ましいが、ペースメーカー、埋め込み型除細動器、又は埋め込み型神経刺激装置であってもよい。また、本明細書に記載の方法は、ステップ(1)又はステップ(1b)(存在する場合)に先立って適用されるステップ(1a)を含んでもよい。ステップ(1a)は、基材、好ましくはバルーンカテーテルのバルーンを、本明細書に記載の有機溶媒で洗浄及び湿潤することを提供する。好ましくは、ステップ(1a)は、アセトン、ペンタン、ヘキサン、エタノール、ジエチルエーテル又は酢酸エチルを用いて行われる。ステップ(1a)を実施することは、水溶性材料又は薬物ミクロスフェアのいずれかが基材への改善された接着を示すという利点を有する。また、溶解した疎水性混合物を基材上に堆積させる前に、基材をプラズマ処理によって洗浄することができる。好ましくは、プラズマ処理ステップは、洗浄後、ステップ(1b)を適用する前に実施される。プラズマ処理は、水溶性材料の溶解をサポートし、それによって少なくとも1つの薬物のより速い移動を促進することができる。
【0020】
本発明の好ましい実施態様の特定の利点には、ミリグラムスケールでの薬物収量の増加(親油性薬物化合物を使用する場合でも)、ミクロスフェア形成に関連する複雑さの軽減(スタッフのトレーニング及び高価な機器の削減を含む)、処理時間の劇的な短縮(その結果、薬物分解の可能性が減少し、手続き費用が削減される)、製造段階からの高価な材料(揮発性化合物や高価な合成ポリマーなど)の除去が含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明は、少なくとも1つの溶媒又は様々な溶媒中に少なくとも1つの薬物又は薬物組成物(又は複数の薬物組成物)を可溶化した後に薬物ミクロスフェアの形成を提供する方法及び処理ステップに関する。この可溶化又は溶解ステップに続いて、得られた混合物を基材上に分注する。
図1は、混合物が特定の基材上に分注される方法の一実施態様を示す。好ましくは、注射器を利用して、溶解した薬物混合物を基材上に分注する。あるいは、ピペット又は針又はカニューレを同様の方法で使用することができる。
【0022】
上述のように、本出願には様々な溶媒を使用することができる。好ましい溶媒は、使用前に乾燥された有機溶媒である。好ましくは、可溶化又は溶解ステップには1つの溶媒だけが使用されるが、さまざまな溶媒も使用されるため、溶媒混合物を使用することができる。溶媒は乾燥している必要がある。乾燥溶媒は、そこから水を除去するための手段が適用されていることを理解する必要がある。除去の程度は、通常、溶媒の単純な蒸留から、蒸留後又は蒸留中に溶媒をナトリウム、カリウム、NaAlH4などの乾燥剤で処理及び保存することまでの範囲であり得る。好ましくは、溶媒は、7%未満の水、より好ましくは3%未満の水、さらにより好ましくは1%未満の水、最も好ましくは0.01%未満の水を含有する。その点で、水が最大約7%までの量で溶媒中に存在する場合が好ましい。その好ましい実施態様では、薬物ミクロスフェアを迅速に形成する単一溶媒又は多溶媒を含有する水分を含まない製剤を利用する当技術分野における解決策に対する満たされていない必要性が満たされ、水が約7%までの量で存在する場合、ミクロスフェア形成は、周囲温度でも急速に進行する。
【0023】
溶媒が1%未満の含水量を有する場合、さらに好ましい。適切な溶媒は、アルコール、特にC1~C3脂肪族アルコール、アセトン、エーテル、特にジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、ヘキサン及びペンタンなどの有機溶媒である。特に好ましいのは、C1~C3アルコール、例えばメタノール又はエタノールである。
【0024】
溶媒と薬物の混合物を基材上に堆積させた後、混合物を蒸発させると、基材表面に薬物ミクロスフェアが形成される。生産条件の最適化は、最終製品に特定の改善をもたらす可能性がある。たとえば、球サイズの制御や処理ステップの自動化などである。少なくとも1つの溶媒を蒸発させるステップは、蒸発を促進するための手段なしで、例えばわずかな風又は空気の流れによって行うことが好ましい。蒸発がゆっくりと起こる場合、狭い粒子サイズ分布が観察される。より強力なガス流、少なくとも1つの溶媒の沸点近く又は沸点を超えて溶媒を加熱するような蒸発を加速するための強力な手段が適用される場合、ミクロスフェア状の疎水性材料の形成は観察されない。ガス流に関しては、ガスが溶液の表面上を0.2m/秒より遅く移動している場合が好ましい。
【0025】
少なくとも1つの溶媒中の疎水性薬物組成物の濃度は、0.1~200mg/mlの範囲であると考えられる。好ましい実施態様では、濃度は10~100mg/mlの範囲である。前述の範囲では、狭い粒子サイズ分布が観察される。また、上で定義したように薬物濃度がより高い場合、基材上でのミクロスフェア状の疎水性材料のより良好な接着を観察することができた。以下の理論に拘束されるものではないが、濃度が増加するとミクロスフェア状粒子は直径が大きくなる傾向があり、直径が増加すると粒子と表面との間の接着に寄与する表面積も増加すると考えられる。
【0026】
好ましくは、本発明で使用される少なくとも1つの薬物は、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、ノボリムス、ミオリムス、テムシロリムス及びラパマイシン誘導体からなる群から選択される大環状トリエン免疫抑制化合物であり、これは任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む。より好ましくは、任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む大環状トリエン免疫抑制化合物は、以下の構造を有する:
【化1】
ここで、RはC(O)‐(CH
2)
n‐Xであり、nは0、1又は2であり、Xは炭素数3~8の環状炭化水素であり、任意選択で1つ又は複数の不飽和結合を含む。最も好ましい実施態様において、C(O)‐(CH
2)
n‐Xは、以下の構造の1つを有する:
【化2】
【0027】
一実施態様では、薬物ミクロスフェアは、上で定義したように、任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む大環状トリエン免疫抑制化合物からなる。別の実施態様では、薬物ミクロスフェアは、上で定義したように、任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む大環状トリエン免疫抑制化合物を含む。1つの特に好ましい実施態様は、上で定義したように、任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む大環状トリエン免疫抑制化合物及びアリセルチブから形成される薬物ミクロスフェアを含む。2つの化合物の比率は、重量で5:95から重量で95:5まで変化する。好ましい実施態様では、薬物ミクロスフェアは、50重量%未満であるアリセルチブの含有量を有する。
【0028】
さらに好ましい実施態様は、本明細書で定義されるラパマイシン又はその誘導体及びパクリタキセルを含む又はからなる薬物ミクロスフェアを対象とする。特定の実施態様では、薬物ミクロスフェアは、パクリタキセル及び大環状トリエン免疫抑制化合物、これは任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む、からなり、該大環状トリエン免疫抑制化合物は以下の構造を有する:
【化3】
ここで、RはC(O)‐(CH
2)
n‐Xであり、nは0、1又は2であり、Xは炭素数3~8の環状炭化水素であり、任意選択で1つ又は複数の不飽和結合を含む。最も好ましい実施態様において、C(O)‐(CH
2)
n‐Xは、以下の構造の1つを有する:
【化4】
【0029】
本発明の1つのさらなる態様は、本明細書に記載及び定義される複数の薬物ミクロスフェアを含む又はからなるコーティング層を有する医療デバイス、好ましくはバルーンカテーテルを対象とする。上記の医療デバイスの1つの好ましい実施態様は、水溶性材料を含むプライマーコーティング層と、本明細書に記載及び定義される複数の薬物ミクロスフェアを含む又はからなる第2の層とを有するバルーンを有するバルーンカテーテルを対象とする。本明細書で使用されるプライマー層は、基材の表面に適用されることになっている。例えば、バルーンカテーテルのプライマー層はバルーン表面に適用される。
【0030】
医療デバイスから患者の組織への薬物移動を促進するために、本明細書に記載のミクロスフェアを外層として有する医療デバイスを提供することは、本発明の意味の範囲内である。一態様では、ミクロスフェアの層は、デバイスの表面に直接適用することができる。さらに好ましい態様では、追加の層、しかし好ましくは1つの層であるプライマー層が、医療デバイスの表面とミクロスフェアの層との間に導入されてもよい。
【0031】
好ましくは、プライマーコーティング層は、水溶性材料を含む又はからなり、バルーンカテーテルの表面上に第1のコーティング層を形成する。このプライマーコーティング層は、好ましくは浸漬コーティングによって適用され、バルーンカテーテルは、バルーンカテーテルの表面に適用される水溶性材料を含む溶液中に置かれる。糸、針、カニューレ、スポンジ又は布片による溶液の噴霧又は適用などの他の適切な方法をコーティング手順に使用することができる。このプライマーコーティング層の適用に続いて、バルーンカテーテルを溶液又は塗布装置から取り出し、例えば周囲室温で24時間未満の時間、乾燥させる。
【0032】
プライマーコーティング層の大部分を構成する(comprise)ことを意味する水溶性材料は、約50~200kDの分子量を有するポリマー又はタンパク質である。一実施態様では、水溶性材料は、水溶性ヒト血清タンパク質又は水溶性血液タンパク質から好ましくは選択されるタンパク質であり、好ましくはおよそ50~200kDの分子量を有する。一実施態様では、水溶性材料は、約65~70kDの分子量を有するポリマー又はタンパク質、好ましくは約65~70kDの分子量を有する球状血清タンパク質である。さらなる実施態様では、水溶性材料は、約160kDまでの分子量を有するグロブリン及び/又はフィブリノーゲンなどの血液タンパク質から選択される。より好ましくは、水溶性材料はヒトフィブリノーゲン又は免疫グロブリンである。最も好ましくは、水溶性材料は、以下の配列に対して少なくとも90%の同一性を有するヒト血清タンパク質である:
【化5】
【0033】
本発明の最も好ましい実施態様では、水溶性材料はヒト血清アルブミンである。ヒト血清アルブミンの使用は、化合物がヒト起源であるため、本明細書に記載のバルーンカテーテルで治療される患者に不必要な薬物又は化合物負荷を与えないという点で好ましい。これにより、ヒト血清アルブミンの使用により、患者の不必要な汚染が減少する。ヒト血清アルブミンは、プライマー層として使用及び適用される場合、不純物の範囲で少量の安定化化合物を含む場合がある。プライマー層がヒト血清アルブミン又は任意の他の適切なタンパク質からなると考えられる実施態様において、それらの少量が「からなる」という文言によってカバーされると考えられることは、本発明及び本明細書に提示される実施態様の意味の範囲内である。
【0034】
上述のように、薬物ミクロスフェアは、ナノメートルからマイクロメートルの範囲の直径を有する小さく、大部分が球形の粒子である。一実施態様では、薬物ミクロスフェアはマイクロメートルの範囲にあり、平均直径が1~20μmである。好ましい実施態様では、薬物ミクロスフェアは、3~10μmの平均直径を有する。このような範囲では、バルーンカテーテル上で使用した場合に、ミクロスフェアが基材への強力な接着を示し、同時に組織への薬物溶出が非常に効果的であったという点で相乗効果が観察された。この理論に束縛されるものではないが、明らかにナノスコープの外にある直径は、粒子と表面との間の接着に寄与する比較的高い表面積を有する一方で、効果的な薬物移動に必要な全体的に大きな表面積を依然として有すると考えられている。
【0035】
また、上記のように、患者への外来化合物の負荷は、好ましくは薬物ミクロスフェア層又はさらにヒト血清アルブミンの層以外の層を使用しないことによって最小限に保たれる。特にこれらの実施態様では、効果的な薬物溶出/移動を伴う効率的な移植手順を提供するために、APIに加えて結合剤、賦形剤又は界面活性剤が通常適用される他の層の組み合わせよりも高い薬物用量を適用することができる。例えば、バルーンカテーテルの通常の薬物負荷は、0.3~1.2mg/mm2に保たれる。本明細書に記載の実施態様による汚染は低いので、1.5から3.0mg/mm2の間のより高い薬物負荷を適用することができる。
【0036】
医療デバイスがバルーンカテーテルである実施態様では、バルーンがポリアミド材料でできている場合、特に薬物ミクロスフェアが本明細書でCRC‐15種(下の表1を参照)として記載されている少なくとも1つの化合物を含む場合に、粒子の接着が改善されることが観察された。良好な接着性を示すバルーン材料は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド、Pebax(登録商標)の商標で販売されているセグメント化されたポリアミド‐ポリエーテル‐ポリエステルを含むブロックコポリマー、又はナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12を有するブロックコポリマーであるナイロンエラストマーが含まれる。ポリアミドベースのバルーン材料と、CRC‐15種を含む又はからなる薬物ミクロスフェアとの組み合わせは、ミクロスフェア粒子が良好な接着性を示すのに対し、ポリアミド材料は、例えばポリカーボネートと比較して改善された柔軟性を有するので有利である。この場合、ポリアミドベースの材料から作られたバルーンを有し、本明細書に記載のミクロスフィアコーティング、特に本明細書に記載の少なくとも1つのCRC‐15種を含む又はからなるミクロスフィア薬物コーティングを有するバルーンカテーテルは、冠状血管などの小さく曲がりくねった血管に使用されることについて改善されたプロファイルを有する。これは、材料の柔軟性によりこれらの血管への通過が可能になり、優れた接着性によりこれらの到達が困難な場所への材料の損失が最小限に抑えられるためである。また、プライマー層が存在しない実施態様では、バルーンカテーテルは、非常に小さい場所への通路を支持する非常に小さい直径を示す。
【0037】
したがって、特定の一実施態様では、本発明は、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、ノボリムス、ミオリムス、テムシロリムス及び/又はラパマイシン誘導体(任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む)、並びに大環状トリエン免疫抑制化合物(任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む)を含む又はからなるバルーン表面に適用されたコーティング層を有する、本明細書に定義されるポリアミド材料から作られるバルーンを有するバルーンカテーテルに関し、該大環状トリエン免疫抑制化合物は以下の構造を有する:
【化6】
ここで、RはC(O)‐(CH
2)
n‐Xであり、nは0、1又は2であり、Xは炭素数3~8の環状炭化水素であり、任意選択で1つ又は複数の不飽和結合を含む。最も好ましい実施態様において、C(O)‐(CH
2)
n‐Xは、以下の構造の1つを有する:
【化7】
【0038】
最も好ましくは、この実施態様において、薬物は、すぐ上で定義したように、任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに任意の立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含む大環状トリエン免疫抑制化合物を含む又はからなる。
【0039】
一実施態様では、本発明は、バルーン表面に適用されたコーティング層を有するバルーンカテーテルを対象とし、コーティング層は薬物ミクロスフェアからなり、薬物ミクロスフェアは、大環状トリエン免疫抑制化合物からなり、これは任意の薬学的に許容される塩及び水和物、並びに立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含み、該大環状トリエン免疫抑制化合物は以下の構造を有する:
【化8】
ここで、RはC(O)‐(CH
2)
n‐Xであり、nは0、1又は2であり、Xは炭素数3~8の環状炭化水素であり、任意選択で1つ又は複数の不飽和結合を含む。最も好ましい実施態様において、C(O)‐(CH
2)
n‐Xは、以下の構造の1つを有する:
【化9】
【0040】
バルーンカテーテルのこの特定の実施態様は、すぐ上記で定義したように、ミクロスフェアからなるバルーン表面上にただ1つの単層を有する。この実施態様は、本明細書で定義されるように、バルーンの材料、粒子サイズ、及びバルーン上の薬物負荷に関してさらに制限を有する可能性がある。
【0041】
好ましい実施態様は、プライマー層と薬物ミクロスフェアからなるコーティング層とを有するバルーンカテーテルに関する。コーティング層は、プライマー層の上に適用される。プライマー層は、バルーンカテーテルのバルーンの表面に適用される。プライマー層は、水溶性材料、好ましくは分子量が50~200kDのタンパク質、最も好ましくはヒト血清アルブミンからなる。薬物ミクロスフェアは、大環状トリエン免疫抑制化合物からなり、これは薬学的に許容される塩及び水和物、並びに立体異性体、立体異性体及びラセミ体の混合物を含み、該大環状トリエン免疫抑制化合物は以下の構造を有する:
【化10】
ここで、RはC(O)‐(CH
2)
n‐Xであり、nは0、1又は2であり、Xは炭素数3~8の環状炭化水素であり、任意選択で1つ又は複数の不飽和結合を含む。最も好ましい実施態様において、C(O)‐(CH
2)
n‐Xは、以下の構造の1つを有する:
【化11】
【0042】
この特定の実施態様は、すぐ上で定義された2つの層のみを有すると考えられる。これ以上の層はバルーンに適用されない。この実施態様は、本明細書で定義されるように、バルーンの材料、粒子サイズ、及びバルーン上の薬物負荷に関してさらに制限を有する可能性がある。
【0043】
さらなる実施態様
1.少なくとも1つの薬物を含むミクロスフェア層を形成するために基材表面をコーティングする方法であって、以下を含む方法:(a)少なくとも1つの疎水性材料を提供すること;(b)少なくとも1つの溶媒を提供すること;(c)(a)からの少なくとも1つの疎水性材料を(b)からの少なくとも1つの溶媒に溶解して、基材表面上に溶解生成物を形成すること;及び(d)溶解した生成物を基材表面から蒸発させてミクロスフェア層を生成すること。
【0044】
2.少なくとも1つの疎水性材料が少なくとも1つの薬物を含む、実施態様1の方法。
【0045】
3.少なくとも1つの溶媒がアルコールである、実施態様1又は2の方法。
【0046】
4.いずれのステップにおいても賦形剤又は合成ポリマーの使用を含まない、前述の実施態様の1つの方法。
【0047】
5.基材表面が、バルーン、医療デバイス、及びステントからなる群から選択される、前述の実施態様の1つの方法。
【0048】
6.少なくとも1つの薬物を含むミクロスフェア組成物を製造するプロセスであって、少なくとも1つの薬物が疎水性混合物に含まれており、疎水性混合物を少なくとも1つの溶媒に溶解し、溶解した疎水性混合物を基材上に堆積させ、堆積し、溶解した疎水性混合物を基材から蒸発させてミクロスフェア組成物を生成する、上記プロセス。
【0049】
7.少なくとも1種の溶媒がアルコールである、実施態様6のプロセス。
【0050】
8.プロセスがいずれのステップにおいても合成ポリマー又は賦形剤の使用を含まない、実施態様6又は7のプロセス。
【0051】
9.基材が、バルーン、医療デバイス、及びステントからなる群から選択される、実施態様6~8の1つのプロセス。
【0052】
10.水溶性材料を含むプライマーコーティング層と、複数の薬物ミクロスフェアを含む第2の層とを含む医療デバイス。
【0053】
11.プライマーコーティング層が医療デバイスの表面上に第1のコーティング層を形成する、実施態様10の医療デバイス。
【0054】
12.医療デバイスがバルーンカテーテルである、実施態様10又は11の医療デバイス。
【0055】
13.プライマーコーティング層が、浸漬コーティング、スプレーコーティング、糸、針、カニューレ、スポンジ、及び布片からなる群から選択される1つを介して適用される、実施態様10~12の1つの医療デバイス。
【0056】
14.水溶性材料がプライマーコーティング層の大部分を構成する、実施態様10~13の1つの医療デバイス。
【0057】
15.水溶性材料が、50~200kDの分子量を有するポリマー又はタンパク質である、実施態様10~14の1つの医療デバイス。
【実施例】
【0058】
薬物製剤の例:
本発明の大環状トリエン免疫抑制化合物は、2つ以上の実施態様を有し、表1からの以下の種の少なくとも1つを含むものと記載され得る:
【表2】
【0059】
本明細書で言及される場合、CRC‐015は、属を包含することを意味する用語であり、表1からの以下の種のそれぞれを言及するために使用される:CRC‐015a、CRC‐015b、CRC‐015c、CRC‐015d、CRC‐015e、CRC‐015f、CRC‐015g、及びCRC‐015h。
【0060】
I.CRC‐015球体でコーティングされたバルーン
25.0、12.5、6.3及び3.1mg/mLの無水CRC‐015製剤を、本発明の方法によって球体を生成する能力、並びに薬物濃度対球体サイズの役割について調査した。
【0061】
材料:無水メタノール;Sigma 900641‐4x2ML 密封ガラスアンプル、ロットSHBH9540(0.001%水、Karl Fischer CERT)。4mLガラスバイアル;140℃で一晩熱処理してから、プラスチックPTFEで裏打ちされたキャップでふたをする。ステンレス製のスパチュラと1mLガラスピペット;ガラスバイアルと同様に熱処理。CRC‐015;水分0.47%(Karl Fischer)。5.0x40mmPasseo35バルーンカテーテル(Biotronik Inc.)。
【0062】
製剤方法:ステンレススチールのスパチュラを使用して、風袋を測定したバイアルに必要な薬物量を加えることにより、CRC‐015の無水製剤を調製した。必要量の無水メタノールをガラス製計量ピペットを使用して添加し、バイアルにすぐに蓋をした。バイアルを短時間ボルテックスして薬物を溶解した。
【0063】
バルーンコーティング材料:コーティング装置;Adept Engineering Limited、P/N768‐01、シリンジポンプ;Sono‐tekシリンジポンプ Ti P/N 12‐05‐00144、分注カニューレ;ステンレススチール55mmLx1.5mmOD、0.9mmIDx0.7mmDサイドホール。
【0064】
バルーンコーティング法:CRC‐015の各無水製剤を、それぞれの膨張した5.0×40mm Passeo35バルーン上にコーティングした。分注カニューレは、近位端又は遠位端のいずれかでバルーンと直接接触し、バルーンがその軸を中心に回転するときに、膨張したバルーンを横切って水平に50μLの製剤溶液を分注しながら、端から端までバルーンに沿ってサーフ(surf)する。これらの例では、次のプロセスパラメータが使用された:溶液流量=0.2mL/分、分注時間=15秒で、バルーン表面が湿る、回転速度=120/分、回転時間=240秒で、溶媒が蒸発し、薬物ミクロスフェアが形成される。球体でコーティングされたバルーンは、画像解析の前に周囲温度に保たれた。Hitachi TM‐1000卓上型走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、コーティングされたバルーンを画像化した。薬物でコーティングされたバルーンは、遠位、中間、及び近位の3つの等しいセグメントに分割された。各セクションを試料ステージに置き、次いで金でスパッタコーティングした。次に、試料ステージを分析のためにSEMのサンプルチャンバー内に配置した。バルーンの遠位部、中間部、及び近位部セクションのSEMに存在するCRC‐015球体のサイズを測定した。各コーティングされたバルーンの代表的なSEM画像を
図1に示す。CRC‐015球体サイズの測定値を表2に示す。薬物製剤の濃度を3.1mg/mLから6.3mg/mLに、12.5mg/mLに増やしても、CRC‐015球体のサイズに明らかな変化は観察されなかった。ただし、CRC‐015の濃度が25mg/mLに増加すると、CRC‐015球体のサイズに統計的に有意な差(95%信頼区間でP<0.0001)が観察された。
【表3】
【0065】
II.
パクリタキセル球体でコーティングされたバルーン
パクリタキセル(LC Laboratories P‐3600、ロット ASM‐121)をメタノール(EMD MXO488P‐1、ロット59129)25mg/mLで処方し、この溶液を使用して、実施例Iと同様の方法でバルーンをコーティングした。得られたバルーンを画像化し(
図2(A))、生成された薬物ミクロスフェアを示す結果のSEM分析を
図2(B)に示す。
【0066】
III.シロリムス球体でコーティングされたバルーン
シロリムス(ラパマイシン)(LC Laboratories R‐5000、ロットASW‐134)を実施例Iに記載のように処方し、この製剤を利用してバルーン表面上に薬物球体を生成した。
【0067】
IV.エベロリムス球体でコーティングされたバルーン
エベロリムス(LC Laboratories E4040、ロットBDE‐115)を実施例Iに記載のように処方し、この製剤を利用してバルーン表面上に薬物球体を生成した。
【0068】
V.バイオリムス球体でコーティングされたバルーン
バイオリムスを実施例Iに記載のように処方し、この製剤を利用してバルーン表面上に薬物球体を生成した。
【0069】
VI.ゾタロリムス球体でコーティングされたバルーン
ゾタロリムス(Molcan、ロット10081)を実施例Iに記載のように処方し、この製剤を利用してバルーン表面上に薬物球体を生成した。
【0070】
VII.CRC‐015球体でコーティングされたバルーン
CRC‐015は、溶媒として100%エタノール(Sigma 459844、ロットSHBJ8382)を使用したことを除いて、実施例Iに記載のように処方した。この製剤を利用してバルーン表面に薬物球体を生成した。
【0071】
VIII.
CRC‐015、パクリタキセル、及びゲムシタビン球体でコーティングされたバルーン
CRC‐015、パクリタキセル、及びゲムシタビン遊離塩基(LC Laboratories G4199、ロットGMB‐103)を、それぞれ次の濃度でメタノールに一緒に溶解した:20mg/ml、17mg/ml、5.2mg/mL。この溶液を使用して、実施例Iの方法によりバルーンをコーティングした。得られたバルーンを画像化し(
図3(A))、得られた薬物球体を
図3(B)に示す。
【0072】
以下の製剤は、水を含むコーティングの例である。
【0073】
IX.
CRC‐015
CRC‐015をメタノールに溶解して37.5mg/mLの濃度にした。HPLCグレードの水を添加して、約5体積%の濃度で水を含むコーティング溶液を調製した。このコーティング溶液を5×120mmのバルーンカテーテルの表面にピペットで取り、周囲条件で30秒間乾燥させた。バルーン表面をSEMで検査し、生成された薬物球体を示すSEM画像を得た(
図4)。
【0074】
X.
ラパマイシン
ラパマイシンをメタノールに溶解して濃度を25mg/mLにした。HPLCグレードの水を添加して、約7体積%の濃度で水を含むコーティング溶液を調製した。実施例Iと同様にバルーンコーティング及び検査を行った。生成された薬物球体を示す得られたSEM画像を示す(
図5)。
【0075】
XI.パクリタキセル
パクリタキセルをメタノールに溶解して濃度を10mg/mLにした。HPLCグレードの水を添加して、水を約4体積%の濃度で含むコーティング溶液を調製した。実施例Iと同様にバルーンコーティング及び検査を行った。生成された薬物球体を示す得られたSEM画像を示す(
図6)。
【0076】
XII.
エベロリムス
エベロリムスを100%エタノールに溶解して45mg/mLの濃度にした。HPLCグレードの水を添加して、約1体積%の濃度で水を含むコーティング溶液を調製した。バルーンコーティングは、溶媒乾燥が45秒であり、続いてSEM分析が行われたことを除いて、実施例1と同様に行った。生成された薬物球体を示す得られたSEM画像を示す(
図7)。
【0077】
ミクロスフェア製剤のこれらの例は、薬物ミクロスフェアは無水溶媒系を使用して迅速に生成されるにもかかわらず、さまざまな少量の水の存在がミクロスフェア形成プロセスを阻害しないことを示す。
【0078】
以下の実施例は、ミクロスフェア製造のための多溶媒及び多化合物の混合物を含有するコーティング製剤を実証する。
【0079】
XIII.
多溶媒、多化合物混合物
エベロリムスとアリセルチブ(MLN 8237)Adooq Bioscience 1028486‐01‐2、ロットLI0004B007を一緒に34.2%メタノールと65.8%アセトン、v/v(EMD)の溶液に溶解し、それぞれ4.5mg/mLと2.5mg/mLの濃度にした。膨張したバルーンの表面に溶液をピペットで移し、SEM分析の前に30秒間乾燥させた。SEMで得られたミクロスフェアを
図8に示す。
【0080】
以下の実施例は、下層を利用して形成された薬物ミクロスフェアを示す。
【0081】
XIV.
下層が存在する薬物ミクロスフェアの形成
膨張した5.0x40mmのPasseo35バルーンを、アセトンで湿らせたキムワイプでバルーンの表面を拭くことによって洗浄した。バルーンは任意選択でプラズマ(アルゴンガスを含む)で前処理された。乾燥したバルーンは、5%ヒト血清アルブミン(HSA)の溶液(Albumedix P/N 200‐010、ロット2107、HPLC水で5%に希釈)を含有するチューブに、バルーンの遠位端を最初に挿入することにより、ヒト血清アルブミン(HSA)でディップコーティングした。ディップコーティングされたバルーンをチューブから取り外し、次にバルーンの遠位端が上を向くようにひっくり返した。バルーンの近位端に流れ落ちる余分なHSAをキムワイプで除去した。HSAでコーティングされたバルーンを周囲条件で14~38時間乾燥させた。CRC‐015を処方し、実施例Iに記載のようにHSAでコーティングされたバルーン上にコーティングした。バルーン表面をSEMによって検査し、生成された薬物球体を示すSEM画像を
図9に示す。
【0082】
別の実施態様では、膨張した5.0×40mmのPasseo35バルーンを、ステンレス製のスパチュラを使用して風袋を測定したバイアルにPVAを加えることによって調製された0.25%ポリビニルアルコール(PVA;EMD P/N 1.41350.1000、ロットK50570650、85~89%加水分解、3.4~4.6mPa*s粘度)の溶液でディップコーティングした。ガラス製計量ピペットを使用して、必要量のHPLCグレードの水をバイアルに加えた。バイアルに攪拌棒を加え、バイアルに蓋をした。溶液を80℃の水浴中で3~4時間撹拌することにより、PVAを溶解した。PVAを周囲温度に冷却した後、実施例XIVに記載のようにバルーンをディップコーティングした。実施例Iに記載のように、CRC‐015を処方し、PVAでコーティングされたバルーン上にコーティングした。バルーン表面をSEMによって検査し、生成された薬物球体を示すSEM画像を
図10に示す。
【0083】
XV.CRC‐015ミクロスフェアでコーティングされたバルーンを裏付けるインビボデータ
ユカタンミニブタの左右深部(深部大腿動脈)及び浅大腿動脈(SFA)をCRC‐015 DCB(実施例XIV)で処置して、動脈血管への薬物コーティングのインビボ移動を評価した。この豚のモデルは、ヒト性能の一般的な予測因子であることが認められている。CRC‐015 DCBによる治療の前に、まず標的血管を、コーティングされていないバルーンで事前に拡張し、ヒトの臨床環境で一般的に行われる外科的処置を模倣した。動物の頸動脈を外科的に露出させ、麻酔の投与後に結紮した。8Fイントロデューサーシースを挿入して固定した。18000ガイドワイヤーと8Fガイディングカテーテルをイントロデューサーシースを通して挿入し、標的血管まで進めた。造影剤を使用して血管の血管造影画像を取得し、キャリブレーションマーカーを使用して血管サイズを測定した。
【0084】
蛍光透視下で、コーティングされていない滅菌済みの5.0x40mmの拡張前バルーンカテーテルをガイドカテーテルを通してガイドワイヤ上に挿入し、標的部位まで進め、30秒間膨張させた。拡張前のバルーンを収縮させ、引き抜いた。次いで、5.0×40mmの薬物でコーティングされたバルーンカテーテルを、拡張血管セグメントまで前進させ、120秒間膨張させた。薬物でコーティングされたバルーンを収縮させ、引き抜いた。バルーンを膨張させるたびに造影剤を用いて処理された血管の血管造影図を得た。
【0085】
合計6匹の動物がCRC‐015 DCBで処置された。3匹の動物(試験群当たり6本の大腿動脈)を14日目に安楽死させ、3匹の動物(試験群当たり6本の大腿動脈)を28日目に安楽死させた。処理した血管を剖検で回収し、HPLC定量により薬物含有量を分析した。14日目と28日目のCRC‐015の組織薬物保持は、バルーン上のng薬物/mg組織/μg/mm
2薬物用量の関数として正規化され、ng/mg/(μg/mm
2)として報告された。CRC‐015DCBの動脈血管薬物保持は、MagicTouchシロリムスDCB(Concept Medical、Cardiovascular Innovation Pipeline(心臓血管イノベーションパイプライン)@EuroPCR、2010年5月26日)及びSelutionシロリムスDCB(Zeller,et al.MAC、Dec 07‐09,2017)について報告された結果と
図11に示すように比較した。
【0086】
これらの結果は、参照されたより化学的に複雑で複合化されたな製品と比較して、本発明の製品の改善されたインビボ性能を示す。
【0087】
本発明のさらなる態様において、球体形成組成物のコーティングは、基材への溶液の噴霧、ローリング、ブラッシング、ディップコーティング、直接流体又はインクジェット適用によって達成することができる。本発明はまた、様々な疾患状態を治療するために、医療デバイス上に2つ以上の薬物を一緒に含有する薬物球体の製造を可能にする。
【0088】
本明細書に例示的に記載された発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素(単数又は複数)、限定(単数又は複数)がなくても適切に実施することができる。したがって、例えば、「含む」(“comprising,”)、「含む」(“including,”)、「含有する」(“containing,”)などの用語は、制限なしに広範に読まれるものとする。さらに、本明細書で使用される用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語及び表現の使用において、示され、説明された将来の均等物又はその一部を除外する意図はない。特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。したがって、本発明は好ましい実施態様及び任意選択の特徴によって具体的に開示されてきたが、当業者は、本明細書に開示された発明の修正及び変形を行うことができ、そのような修正及び変形は、本明細書に開示された発明の範囲内とみなされると理解されるべきである。本発明は、本明細書において広範かつ一般的に説明されてきた。一般的な開示の範囲内に入るより狭い種(スピーシーズ)及び亜属(サブジェネリック)のグループのそれぞれもまた、これらの発明の一部を形成する。これには、各発明の一般的な説明が含まれるが、除外された材料がその中に具体的に存在するかどうかに関係なく、属(ジーナス)から主題を削除する但し書き又は否定的な制限がある。
【0089】
さらに、発明の特徴又は態様がマーカッシュグループの観点から説明されている場合、当業者は、発明がそれにより、マーカッシュグループの任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループの観点からも説明されていることを認識するであろう。上記の説明は、例示を意図したものであり、限定を意図したものではないことも理解されたい。上記の説明を検討すれば、多くの実施態様が当業者には明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、上記の説明を参照して決定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲を参照して決定されるべきであり、そのような請求項が権利を有する均等物の全範囲とともに決定されるべきである。特許公報を含むすべての論文及び参考文献の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0090】
上記の教示に照らして、記載された実施例及び実施態様の多数の修正及び変形が可能であることは、当業者には明らかであろう。開示された実施例及び実施態様は、本明細書に開示された特徴の一部又はすべてを含むことができる。したがって、本発明の真の範囲内に入るすべてのそのような修正及び代替実施態様を網羅することが意図されている。
【配列表】
【国際調査報告】