(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(54)【発明の名称】軟骨細胞シート並びにそれらの製造及び使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20230809BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230809BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230809BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20230809BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20230809BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20230809BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230809BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20230809BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230809BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N1/00 B
A61L27/38 112
A61L27/36 120
A61L27/38 300
A61L27/36 100
A61L27/44
A61L27/24
A61L27/22
A61L27/34
A61L27/16
A61L27/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502655
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(85)【翻訳文提出日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 US2021041942
(87)【国際公開番号】W WO2022016041
(87)【国際公開日】2022-01-20
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】399047002
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】517317749
【氏名又は名称】一般社団法人細胞シート再生医療推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江上 美芽
(72)【発明者】
【氏名】グレインガー,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】キム,キュンソク
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】マーク,トラヴィス
(72)【発明者】
【氏名】岡野 光夫
(72)【発明者】
【氏名】坂井 秀昭
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB12
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB25
4B065BC06
4B065BD09
4B065CA44
4C081AB04
4C081BA16
4C081CA102
4C081CD112
4C081CD122
4C081CD172
4C081CD34
4C081DA02
4C081DC03
(57)【要約】
本開示は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の1つ以上の層を含む軟骨細胞シートを提供する。対象において軟骨組織を生成する方法も提供する。本開示はまた、細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマー上で培養液中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を培養するステップであって、温度応答性ポリマーは、0~80℃の水中でより低い臨界溶液温度を有するステップ;培養液の温度をより低い臨界溶液温度以下に調整し、基質表面を親水性にし、細胞シートの表面への接着を弱めるステップ;並びに培養支持体から細胞シートを脱離させるステップを含む、軟骨細胞の細胞シートの生成方法を提供する。
【選択図】
図1のA
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨組織修復のための細胞シートであって、細胞シートは軟骨組織に由来する培養細胞から形成され、培養細胞は、軟骨細胞、及び軟骨細胞への分化を促進する転写因子を発現する細胞を含む、細胞シート。
【請求項2】
培養細胞が、軟骨細胞への分化を促進する細胞外マトリックスに関連する遺伝子及びサイトカインを含有する細胞をさらに含む、請求項1に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項3】
少なくとも1%の培養細胞が軟骨細胞への分化を促進する転写因子を発現する、請求項1又は2に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項4】
細胞シートが、II型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色に対して陽性である、請求項1に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項5】
細胞シートが、複数の細胞層を自発的に示す、請求項1に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項6】
細胞シートが手動で操作される、請求項1又は5に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項7】
軟骨組織が動物の多指軟骨組織に由来する、請求項1に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項8】
動物種が、ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、サル、チンパンジー、ラット、マウス、ヤギ及びヒツジからなる群から選択される、請求項7に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項9】
細胞シートが、軟骨部分欠損、軟骨損傷、及び骨軟骨損傷からなる群から選択される疾患を処置するために使用される、請求項1に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項10】
疾患の処置が同種(allogeneic)又は自家(autologous)の移植によるものである、請求項1又は9に記載の軟骨組織修復のための細胞シート。
【請求項11】
軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法であって、
(1)X線画像上で黒く見える軟骨組織の一部から、クリーンな環境下でメスにより軟骨組織を収集するステップであって、組織が軟骨細胞に分化させる転写因子を含有する細胞を含む、ステップと、
(2)収集した軟骨組織をメスで小片に切断するステップと、
(3)軟骨組織の小片を酵素処理して細胞を収集するステップと、
(4)収集した細胞を特定の材料表面上で初代培養するステップと、
(5)その後、温度応答性細胞培養材料上で、初代培養した細胞を培養するステップであって、細胞培養材料の表面が、ポリマーが弱い水和力を示す温度領域において、0℃~80℃の温度範囲内でその水和力が変化する温度応答性ポリマーでコーティングされている、ステップと、
(6)培養培地の温度をポリマーがより強い水和力を示す温度に下げることにより、温度応答性細胞培養材料の表面温度を調整することによって、培養細胞を細胞シートの形態として脱離させるステップ
とを含む、方法。
【請求項12】
軟骨組織が動物の多指組織に由来する、請求項11に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項13】
特定の材料表面が、I型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、及びマトリゲル(登録商標)からなる群から選択されるタンパク質のうちのいずれか1つのタイプ又は2つ以上のタイプの組合せによってコーティングされている、請求項11に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項14】
温度応答性材料の表面が、温度応答性ポリマー及び疎水性ポリマーを含むブロックコポリマーをコーティング/固定化されている、請求項11に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項15】
温度応答性材料の表面にコーティング/固定化されたブロックコポリマー中の温度応答性ポリマーの量が、0.3~6.0μg/cm
2の範囲内である、請求項14に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項16】
温度応答性ポリマーがポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である、請求項14又は15に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項17】
細胞シートを培養表面から脱離する方法が、培養プロセスの終わりに、細胞シート上に担体を密接に接触させて配置し、担体とともに無傷の細胞シートを脱離することである、請求項11に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項18】
細胞シートがトランスジェニック細胞を含む、請求項11に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項19】
細胞シートが自律的に多層化され、細胞シートを構成する細胞が増殖する、請求項11に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項20】
細胞シートが、別の細胞シート上に人工的に積層(stack)されるか、又は別の細胞シート上に繰り返し積層(layer)される、請求項11及び19に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項21】
細胞シートを脱離する方法が、プロテイナーゼによる処理なしに進行される、請求項11に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項22】
培養培地が血清を含まない、請求項11に記載の軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法。
【請求項23】
軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の1つ以上の層を含む軟骨細胞シートであって、細胞シートは、対象の軟骨組織から得られた細胞の混合物から調製され、軟骨組織から得られた細胞の混合物は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含む、軟骨細胞シート。
【請求項24】
軟骨細胞シートが、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、ACVR2B、ADAMTS12、BBS2、BMPR1B、COL2A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、COL12A1、ETS2、EXTL1、FBN2、FGFR3、HAS2、HMGA2、HOXA11、HOXA13、HOXD9、HOXD10、HOXD12、HOXD13、MEX3C、MMP13、MSX1、NAB2、NOG、RARA、RUNX2、RUNX3、SATB2、SIGLEC15、SIX1、SIX4、SOX6、SOX11、TGF-β1、TGF-β2、TIPARP、TRIM45、WNT5B、WNT7B、WNT11及びZFAND5からなる群から選択される1種以上の遺伝子の増加した発現を示す、請求項23に記載の軟骨細胞シート。
【請求項25】
対象がヒトである、請求項23又は24に記載の軟骨細胞シート。
【請求項26】
対象が10歳未満である、請求項25に記載の軟骨細胞シート。
【請求項27】
対象が1.5~6歳である、請求項25に記載の軟骨細胞シート。
【請求項28】
対象が、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、サル、チンパンジー、ラット、マウス、ヤギ及びヒツジからなる群から選択される、請求項23又は24に記載の軟骨細胞シート。
【請求項29】
対象の軟骨組織が多指軟骨組織である、請求項23から28のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項30】
軟骨組織から得られる細胞の混合物中の細胞の少なくとも1%が軟骨前駆細胞である、請求項23から29のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項31】
細胞シート中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞が、I型コラーゲン及びII型コラーゲンを発現する、請求項23から31のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項32】
細胞シート中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞が、軟骨のための転写因子(TFC)を発現する、請求項23から31のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項33】
軟骨細胞シートが、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、1種以上のサイトカインの増加した発現を示す、請求項23から32のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項34】
サイトカインが、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGF-β1)及びトランスフォーミング増殖因子ベータ2(TGF-β2)からなる群から選択される、請求項33に記載の軟骨細胞シート。
【請求項35】
細胞シートが、本質的に軟骨細胞及び軟骨前駆細胞からなる、請求項23から34のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項36】
細胞シートが、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む、請求項23から35のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項37】
細胞シートが、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の3つ以上の層を含む、請求項23から35のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項38】
細胞シート中の少なくとも50%の細胞が軟骨細胞である、請求項23から37のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート。
【請求項39】
請求項23から38のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート、及び細胞シートから取り外し可能なポリマーコーティング培養支持体を含む組成物。
【請求項40】
請求項23から39のいずれか一項に記載の軟骨細胞シートのうちの少なくとも2つを含む組成物。
【請求項41】
少なくとも2つの軟骨細胞シートが互いの上に積層されている、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の1つ以上の層を含む軟骨細胞シートを生成する方法であって、
a)細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマー上、培養液中で軟骨細胞及び軟骨前駆細胞の混合物を培養するステップであって、温度応答性ポリマーは、0~80℃の水中でより低い臨界溶液温度を有する、ステップと;
b)培養液の温度をより低い臨界溶液温度以下に調整し、基質表面を親水性にし、細胞シートの表面への接着を弱めるステップと;
c)細胞培養支持体から細胞シートを脱離させるステップ
とを含み、
それによって軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む軟骨細胞シートが生成される、方法。
【請求項43】
d)軟骨組織が軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含む、滅菌条件下でメスにより軟骨組織を収集するステップと;
e)収集した軟骨組織をメスで小片に切断するステップと;
f)軟骨組織の小片の酵素処理を通して軟骨組織から細胞を収集するステップ
とをさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
調整ステップ(b)が、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞がコンフルエントである場合に行われる、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項45】
培養ステップ(a)が、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を、少なくとも1×10
5細胞/cm
2の初期細胞密度で、培養液に添加することを含む、請求項42から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
軟骨細胞及び軟骨前駆細胞が、調整ステップ(b)の前の少なくとも2日間、温度応答性ポリマー上、培養液中で培養される、請求項42から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
軟骨組織が多指軟骨組織に由来する、請求項42から46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
細胞培養支持体の基質表面が、I型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ニドゲン及びヘパラン硫酸プロテオグリカンからなる群から選択される1種以上のタンパク質でコーティングされている、請求項42から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
細胞培養支持体の基質表面が、温度応答性ポリマー及び疎水性ポリマーを含むブロックコポリマーでコーティングされている、請求項42から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
温度応答性ポリマーが、0.3~6.0μg/cm
2の範囲内の濃度で基質表面上にコーティングされている、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
温度応答性ポリマーがポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である、請求項49又は50に記載の方法。
【請求項52】
脱離ステップc)が、担体を細胞シートと接触させて配置し、担体とともに無傷の細胞シートを脱離することを含む、請求項42から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
脱離ステップc)がプロテイナーゼによる処理を含まない、請求項42から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
培養液が血清を含まない、請求項42から53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
細胞シートがトランスジェニック細胞を含む、請求項42から54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
軟骨細胞シートが、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む、請求項42から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
軟骨細胞シートが、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の3つ以上の層を含む、請求項42から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
少なくとも2つの細胞シートを互いの上に積層するステップをさらに含む、請求項42から57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
請求項42から58のいずれか一項に記載の方法によって生成された細胞シート。
【請求項60】
対象において軟骨組織を生成する方法であって、請求項23から38のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート、又は請求項39から41のいずれか一項に記載の組成物を対象の軟骨組織に適用するステップを含む、方法。
【請求項61】
対象における障害を処置する方法であって、請求項23から38のいずれか一項に記載の軟骨細胞シート、又は請求項39から41のいずれか一項に記載の組成物を対象の軟骨組織に適用するステップを含む、方法。
【請求項62】
障害が、軟骨部分欠損、軟骨損傷、及び骨軟骨損傷からなる群から選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
軟骨細胞シートが、細胞シートが対象の軟骨組織に適用された場合、硝子軟骨組織を再生する、請求項60から63のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年7月16日に出願された米国特許仮出願第63/052,496号の優先権を主張し、その内容は全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
適格な保健医療サービスへのアクセスの改善により、先進国では平均寿命が大幅に延長し、米国では男性76.0歳、女性81.0歳、日本では男性81.1歳、女性87.1歳となっている。(2018年WHO報告書により公開された2016年平均寿命データ)。高齢化社会における人々のトータルクオリティ・オブ・ライフを最適化し、医療費及びメディケイドサービスの高騰による負担を軽減するために、いわゆる「ロコモティブシンドローム」疾患は、移動器官、例えば、膝軟骨の障害により、外傷性と慢性の両方の状態で患者の日常生活の可動性を低下させ、補助ケアを必要とする、世界的な保健政策の深刻な目標となっている。変形性膝関節症と変形性腰椎症の現在の患者数は、日本では2,500万人と3,800万人、米国では変形性関節症の患者は約3,200万人である。「ロコモティブシンドローム」の分野における患者の総数は、日本では既に4,700万人に達している。標準処置、例えば、ステロイド注射、微小骨折、又は人工関節置換の医学的転帰は、膝軟骨を再生するための長期予後、すなわち、運動機能を治癒し、変形性関節症及び他の膝軟骨移動性疾患患者の生活の質を回復するために、特に加齢患者の場合、非常に限られている。
【0003】
無血管性(avascularity)が理由で自己治癒組織ではない膝軟骨を再生するために、前臨床及び臨床研究では、種々の方法、例えば、間葉系幹細胞の注入、自己及び同種軟骨組織から培養及び操作された成体軟骨細胞若しくは細胞単位の移植、又はフィブリンゲルによる死体膝軟骨組織の移植が評価された。Genzyme社による移植用の培養した自家軟骨細胞生成物である「Carticell」は、患者自身の軟骨細胞を欠損部位に移植するための、FDAにより初めて承認された細胞治療生成物である。しかしながら、注入された細胞はしばしば部位から漏れ出したり、又は重力によって不均一に分布することがあり、接着した細胞は、硝子構造が生成される前に、しばしば基質生成能力を失う。これらのアプローチは、標的欠損部位における患者自身の硝子軟骨組織の十分な再生をもたらさず、硝子軟骨は、ヒトの体重を担い、生活の質を維持するための移動機能を維持するための軟骨の主成分である。
【0004】
日本のTeruo Okanoら(東京女子医科大学)は、患者自身の組織から標的細胞を単離し、熱応答性培養表面を用いてシート状の細胞単位として培養し、次に細胞シートを採取し、接着性の無傷な膜タンパク質、細胞-細胞接合及び細胞外マトリックス(ECM)を損傷することなく、標的部位にシートを移植する「細胞シート工学」の概念を生み出した。このグループは、角膜上皮、心臓、食道上皮、歯周靭帯、及び膝軟骨を処置するための培養細胞シートのヒトの臨床応用に成功した。
【0005】
上記で検討した細胞シート工学アプローチの一部として、日本のMasato Sato教授ら(東海大学、米国特許出願公開第2008/0226692号)は、非負荷部位から成人患者自身の膝軟骨組織の生検を収集し、軟骨細胞を単離し、細胞シートを培養して、膝軟骨の欠損部位に移植することにより、自家「細胞シート工学」を適用して膝軟骨を再生させた。細胞シートは、II型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色に対して陽性であり、I型コラーゲンに対して陰性であった。患者からの生検によって得られた細胞は良好な生体適合性を示したが、成体細胞は直ちに長期間培養できなかった。結果として、細胞の体積は非常に限られており、患者は細胞の培養期間のために直ちに処置することができなかった。十分な生体適合性を有する同種細胞源から生成された細胞シートは、非常に期待される。
【0006】
Masato Satoら(米国特許出願公開第2018/0243476号)は、摘出された指/足指は通常手術直後に処分されるため、同種軟骨細胞源としての多指由来乳児軟骨組織の可能性を調べた。細胞シートはII型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色で陰性であり、I型コラーゲンに対して陽性であった。彼らは、患者の膝軟骨の欠損表面を再生するために、摘出された指及び足指から軟骨細胞を単離し、同種細胞シートを作製するヒト研究を行った。しかしながら、それらの乳児多指由来軟骨細胞は高度に未分化であり、未成熟である。したがって、それらの生成された細胞シートは容易に又は一定の品質で生成されず、移植後に再生し、軟骨表面を形成するための限定された非効率的な機能しか示さなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、軟骨を再生する改善された方法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願人は、日本と比較してより高い年齢層の患者を手術処置する米国における多指症患者の通常の処置実践中に、多指症由来の切除手指及び足指から単離された軟骨組織の可能性を調査した。本出願人は、多指由来軟骨組織から単離された軟骨細胞が、成熟軟骨細胞だけでなく、軟骨細胞への分化を促進する転写因子を含有し、II型コラーゲンに対する抗体を用いて免疫染色に対して陽性である軟骨前駆細胞(例えば、軟骨細胞前駆細胞又は軟骨芽細胞)からも構成されることを同定した。これらの軟骨前駆細胞は、活発な増殖を示し、硝子軟骨構造を生成することにより、細胞シートを形成し、膝軟骨表面を処置する能力を示す。これらの細胞シートは、機能的及び経済的に競争力のある医療生成物であると期待されている。したがって、本出願人は、細胞シートを調製するために改善された軟骨組織細胞源を同定した。本開示は、この特定のタイプの軟骨組織由来の細胞から生成される軟骨細胞シートの調製及び特性、並びに対象において軟骨組織を生成するためのそれらの使用を記載する。軟骨細胞及び軟骨前駆細胞の混合物を用いて、温度応答性ポリマーでコーティングした温度応答性細胞培養ディッシュ(TRCD)中、in vitroで細胞シートを調製した。コンフルエントな細胞シートを、培養物を室温に冷却することによりTRCDから脱離させた。
【0009】
特定の実施形態では、本開示は、軟骨組織修復のための細胞シートであって、細胞シートは軟骨組織に由来する培養細胞から形成され、培養細胞は、軟骨細胞、及び軟骨細胞への分化を促進する転写因子を発現する細胞を含む、細胞シートに関する。特定の実施形態では、培養細胞は、さらに、軟骨細胞への分化を促進する細胞外マトリックスに関連する遺伝子及びサイトカインを含有する細胞を含む。特定の実施形態では、培養細胞の少なくとも1%は、軟骨細胞への分化を促進する転写因子を発現する。特定の実施形態では、細胞シートは、II型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色に対して陽性である。特定の実施形態では、細胞シートは、複数の細胞層を自発的に示す。特定の実施形態では、細胞シートは、手動で操作される。特定の実施形態では、軟骨組織は、動物の多指軟骨組織に由来する。特定の実施形態では、動物種は、ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、サル、チンパンジー、ラット、マウス、ヤギ及びヒツジからなる群から選択される。特定の実施形態では、細胞シートは、軟骨部分欠損、軟骨損傷及び骨軟骨損傷からなる群から選択される疾患を処置するために使用される。特定の実施形態では、疾患の処置は、同種(allogeneic)又は自家(autologous)の移植によるものである。
【0010】
特定の実施形態では、本開示は、軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法であって、
(1)X線画像上で黒く見える軟骨組織の一部から、クリーンな環境下でメスにより軟骨組織を収集するステップであって、組織が軟骨細胞に分化させる転写因子を含有する細胞を含む、ステップと、
(2)収集した軟骨組織をメスで小片に切断するステップと、
(3)軟骨組織の小片を酵素処理して細胞を収集するステップと、
(4)収集した細胞を特定の材料表面上で初代培養するステップと、
(5)その後、温度応答性細胞培養材料上で、初代培養した細胞を培養するステップであって、細胞培養材料の表面が、ポリマーが弱い水和力を示す温度領域において、0℃~80℃の温度範囲内でその水和力が変化する温度応答性ポリマーでコーティングされている、ステップと、
(6)培養培地の温度をポリマーがより強い水和力を示す温度に下げることにより、温度応答性細胞培養材料の表面温度を調整することによって、培養細胞を細胞シートの形態として脱離させるステップ
とを含む、方法に関する。
【0011】
特定の実施形態では、軟骨組織は、動物の多指組織に由来する。特定の実施形態では、特定の材料表面は、I型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン及びマトリゲル(登録商標)からなる群から選択されるタンパク質の任意の1つのタイプ又は2つ以上のタイプの組合せによってコーティングされている。特定の実施形態では、温度応答性材料の表面は、温度応答性ポリマーと疎水性ポリマーを含むブロックコポリマーをコーティング/固定化されている。特定の実施形態では、温度応答性物質の表面上にコーティング/固定化されたブロックコポリマー中の温度応答性ポリマーの量は、0.3~6.0μg/cm2の範囲内である。特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。特定の実施形態では、培養表面から細胞シートを脱離させる方法は、培養プロセスの終わりに、細胞シート上に担体を密接に接触させて配置し、担体とともに無傷の細胞シートを単離する方法である。特定の実施形態では、細胞シートは、トランスジェニック細胞を含む。特定の実施形態では、細胞シートは、自律的に多層化され、一方、細胞シートを構成する細胞は増殖する。特定の実施形態では、細胞シートは、別の細胞シート上に人工的に積層(stack)されるか、又は別の細胞シート上に繰り返し積層(layer)される。特定の実施形態では、細胞シートを脱離させる方法は、プロテイナーゼによる処理なしに進行される。特定の実施形態では、培養培地は血清を含まない。
【0012】
特定の実施形態では、本開示は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の1つ以上の層を含む軟骨細胞シートであって、細胞シートは、対象の軟骨組織から得られた細胞の混合物から調製され、軟骨組織から得られた細胞の混合物は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含む、細胞シートに関する。特定の実施形態では、軟骨細胞シートは、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、ACVR2B、ADAMTS12、BBS2、BMPR1B、COL2A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、COL12A1、ETS2、EXTL1、FBN2、FGFR3、HAS2、HMGA2、HOXA11、HOXA13、HOXD9、HOXD10、HOXD12、HOXD13、MEX3C、MMP13、MSX1、NAB2、NOG、RARA、RUNX2、RUNX3、SATB2、SIGLEC15、SIX1、SIX4、SOX6、SOX11、TGF-β1、TGF-β2、TIPARP、TRIM45、WNT5B、WNT7B、WNT11及びZFAND5からなる群から選択される1種以上の遺伝子の増加した発現を示す。
【0013】
特定の実施形態では、対象はヒトである。特定の実施形態では、対象は10歳未満である。特定の実施形態では、対象は1.5~6歳である。特定の実施形態では、対象は、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、サル、チンパンジー、ラット、マウス、ヤギ及びヒツジからなる群から選択される。特定の実施形態では、対象の軟骨組織は、多指軟骨組織である。特定の実施形態では、軟骨組織から得られる細胞の混合物中の細胞の少なくとも1%は、軟骨前駆細胞である。特定の実施形態では、細胞シート中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、I型コラーゲン及びII型コラーゲンを発現する。特定の実施形態では、細胞シート中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、軟骨のための転写因子(TFC)を発現する。特定の実施形態では、軟骨細胞シートは、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、1種以上のサイトカインの増加した発現を示す。特定の実施形態では、サイトカインは、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGF-β1)及びトランスフォーミング増殖因子ベータ2(TGF-β2)からなる群から選択される。特定の実施形態では、細胞シートは、本質的に軟骨細胞及び軟骨前駆細胞からなる。特定の実施形態では、細胞シートは、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む。特定の実施形態では、細胞シートは、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の3つ以上の層を含む。特定の実施形態では、細胞シート中の少なくとも50%の細胞は軟骨細胞である。
【0014】
特定の態様では、本開示は、本明細書に記載される軟骨細胞シート、及び細胞シートから取り外し可能なポリマーコーティング培養支持体を含む組成物に関する。特定の実施形態では、本開示は、本明細書に記載される軟骨細胞シートの少なくとも2つを含む組成物に関する。特定の実施形態では、少なくとも2つの軟骨細胞シートは、互いの上に積層される。
【0015】
特定の態様では、本開示は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の1つ以上の層を含む軟骨細胞シートを生成する方法であって、
a)細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマー上、培養液中で軟骨細胞及び軟骨前駆細胞の混合物を培養するステップであって、温度応答性ポリマーは、0~80℃の水中でより低い臨界溶液温度を有するステップと;
b)培養液の温度をより低い臨界溶液温度以下に調整し、基質表面を親水性にし、細胞シートの表面への接着を弱めるステップと;
c)細胞培養支持体から細胞シートを脱離させるステップ
とを含み、それによって軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む軟骨細胞シートが生成される、方法に関する。
【0016】
特定の実施形態では、本方法は、さらに、
d)軟骨組織が軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含む、滅菌条件下でメスにより軟骨組織を収集するステップ;
e)収集した軟骨組織をメスで小片に切断するステップ;
f)軟骨組織の小片の酵素処理を通して軟骨組織から細胞を収集するステップ
を含む。
【0017】
特定の実施形態では、調整ステップ(b)は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞がコンフルエントである場合に行われる。特定の実施形態では、培養ステップ(a)は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を、少なくとも1×105細胞/cm2の初期細胞密度で、培養液に添加することを含む。特定の実施形態では、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、調整ステップ(b)の前の少なくとも2日間、温度応答性ポリマー上、培養液中で培養される。特定の実施形態では、軟骨組織は、多指軟骨組織に由来する。特定の実施形態では、細胞培養支持体の基質表面は、I型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ニドゲン及びヘパラン硫酸プロテオグリカンからなる群から選択される1種以上のタンパク質でコーティングされている。特定の実施形態では、細胞培養支持体の基質表面は、温度応答性ポリマー及び疎水性ポリマーを含むブロックコポリマーでコーティングされている。特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、0.3~6.0μg/cm2の範囲内の濃度で基質表面上にコーティングされている。特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。特定の実施形態では、脱離ステップc)は、担体を細胞シートと接触させて配置し、担体とともに無傷の細胞シートを脱離することを含む。特定の実施形態では、脱離ステップc)は、プロテイナーゼによる処理を含まない。特定の実施形態では、培養液は、血清を含まない。特定の実施形態では、細胞シートは、トランスジェニック細胞を含む。特定の実施形態では、軟骨細胞シートは、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む。特定の実施形態では、軟骨細胞シートは、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の3つ以上の層を含む。特定の実施形態では、本方法は、少なくとも2つの細胞シートを互いの上に積層するステップをさらに含む。特定の実施形態では、本開示は、本明細書に記載される方法によって生成される細胞シートに関する。
【0018】
特定の態様では、本開示は、対象において軟骨組織を生成する方法であって、本明細書に記載される軟骨細胞シート、又は本明細書に記載される組成物を、対象の軟骨組織に適用するステップを含む、方法に関する。特定の実施形態では、本開示は、対象における障害を処置する方法であって、本明細書に記載される軟骨細胞シート、又は本明細書に記載される組成物を、対象の軟骨組織に適用するステップを含む、方法に関する。特定の実施形態では、障害は、軟骨部分欠損、軟骨損傷、及び骨軟骨損傷からなる群から選択される。特定の実施形態では、軟骨細胞シートは、細胞シートが対象の軟骨組織に適用された場合、硝子軟骨組織を再生する。
【0019】
特定の態様では、本開示は、軟骨組織修復のための細胞シートであって、細胞シートは軟骨組織に由来する培養細胞群の調製物から形成され、培養細胞群は、軟骨細胞、及び軟骨細胞に分化するための転写因子を有する/含有する細胞を含む、細胞シートに関する。特定の実施形態では、培養細胞群の一部は、因子/(サイトカイン、並びに細胞外マトリックスに関連する遺伝子など)を有する/含有する細胞によって構成され、軟骨細胞への分化を助ける。特定の実施形態では、培養細胞群は、その少なくとも1%が、軟骨細胞に分化するための転写因子を有する/含有する細胞によって構成される。特定の実施形態では、細胞シートは、II型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色に対して陽性である。特定の実施形態では、細胞シートは、自然に/自律的に多層化される。特定の実施形態では、細胞シートは、人工的に積層/多層化される。特定の実施形態では、軟骨組織は、動物の多指軟骨組織に由来する。特定の実施形態では、動物種は、ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、サル、チンパンジー、ラット、マウス、ヤギ及びヒツジからなる群から選択される。
【0020】
特定の実施形態では、細胞シートは、軟骨部分欠損、軟骨損傷及び骨軟骨損傷からなる疾患群から選択される疾患を処置するために使用される。特定の実施形態では、疾患の処置は、同種又は自家の移植によるものである。
【0021】
特定の実施形態では、本開示は、軟骨組織修復のための細胞シートを生成する方法であって、以下の特徴的なステップ、
(1)X線画像上で黒く見える軟骨組織の一部から、クリーンな環境下でメスにより軟骨組織を収集するステップであって、組織が軟骨細胞に分化させる転写因子を含有する細胞を含む、ステップと、
(2)収集した軟骨組織をメスで小片に切断するステップと、
(3)軟骨組織の小片/部分を酵素処理して細胞を収集するステップと、
(4)収集した細胞を特定の材料表面上で初代培養するステップと、
(5)その後、温度応答性細胞培養材料上で、初代培養した細胞を培養するステップであって、その表面が、ポリマーが弱い水和力を示す温度領域において、0℃~80℃の温度範囲内でその水和力が変化する温度応答性ポリマーでコーティングされている、ステップと、
(6)培養培地の温度をポリマーがより強い水和力を示す温度に下げることにより、温度応答性細胞培養材料の表面温度を調整することによって、培養細胞を細胞シートの形態として脱離させるステップ
とを含む、方法に関する。
【0022】
特定の実施形態では、軟骨組織は、動物の多指組織に由来する。
【0023】
特定の実施形態では、特定の材料表面は、I型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン及びマトリゲル(登録商標)からなる群から選択される分泌タンパク質のうちの任意の1つのタイプ又は2つ以上のタイプの組合せによってコーティングされている。特定の実施形態では、温度応答性材料の表面は、温度応答性ポリマーと疎水性ポリマーを含むブロックコポリマーでコーティング/固定化されている。特定の実施形態では、温度応答性物質の表面上にコーティング/固定化されたブロックコポリマー中の温度応答性ポリマーの量は、0.3~6.0μg/cm2範囲内である。特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。
【0024】
特定の実施形態では、培養表面から細胞シートを脱離する方法は、培養プロセスの終わりに、細胞シート全体に担体を密接に接触させて配置し、担体とともに無傷の細胞シートを脱離することである。特定の実施形態では、細胞シートは、トランスジェニック細胞を含む。特定の実施形態では、細胞シートは、自律的に多層化され、一方、細胞シートを構成する細胞は増殖する。特定の実施形態では、細胞シートは、別の細胞シート上に人工的に積層されるか、又は別の細胞シート上に繰り返し積層される。特定の実施形態では、細胞シートを脱離する方法は、プロテイナーゼによる処理なしに進行される。特定の実施形態では、培養培地はヒト血清を伴わない。
【0025】
特定の態様では、本開示は、対象の軟骨組織から得られた細胞の混合物から調製された1つ以上の層のコンフルエントな軟骨細胞を含む軟骨細胞シートであって、軟骨組織から得られた細胞は、軟骨細胞及び軟骨細胞に分化する細胞を含む、細胞シートに関する。特定の実施形態では、対象はヒトである。特定の実施形態では、対象は1.5~6歳である。特定の実施形態では、軟骨組織は、多指軟骨組織である。特定の実施形態では、細胞シート中の軟骨細胞は、II型コラーゲンを生成する。特定の実施形態では、細胞シート中の軟骨細胞は、軟骨のための転写因子(TFC)を発現する。特定の実施形態では、軟骨細胞はサイトカインを発現する。特定の実施形態では、細胞シートは本質的に軟骨細胞からなる。特定の実施形態では、細胞シートは、1を超える軟骨細胞層を含む。特定の実施形態では、細胞シート中の少なくとも50%の細胞は軟骨細胞である。特定の実施形態では、対象は、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、サル、チンパンジー、ラット、マウス、ヤギ及びヒツジからなる群から選択される。
【0026】
特定の実施形態では、本開示は、本明細書に記載される細胞シート、及び細胞シートから取り外し可能なポリマーコーティング培養支持体を含む組成物に関する。特定の実施形態では、本開示は、本明細書に記載される細胞シートの少なくとも2つを含む組成物に関する。特定の実施形態では、少なくとも2つの細胞シートは、互いの上に積層されている。
【0027】
特定の実施形態では、本開示は、コンフルエントな軟骨細胞の1つ以上の層を含む軟骨細胞シートを生成する方法であって、
a)細胞培養支持体の基質表面上にコーティングされた温度応答性ポリマー上、培養液中で軟骨細胞を培養するステップであって、温度応答性ポリマーは、0~80℃の水中でより低い臨界溶液温度を有するステップと;
b)培養液の温度を加減臨界溶液温度以下に調整し、それによって、基質表面を親水性にし、細胞シートの表面への接着を弱めるステップと;
c)培養支持体から細胞シートを脱離するステップ
とを含む、方法に関する。
【0028】
特定の実施形態では、本方法は、さらに
d)軟骨組織を滅菌条件下でメスにより収集するステップであって、軟骨組織は、軟骨細胞に分化するための転写因子を含有する細胞を含むステップと;
e)収集した軟骨組織をメスで小片に切断するステップと;
f)軟骨組織の小片の酵素処理を通して軟骨組織から細胞を収集するステップ
とを含む。
【0029】
特定の実施形態では、調整ステップ(b)は、軟骨細胞がコンフルエントである場合に行われる。特定の実施形態では、培養ステップ(a)は、少なくとも1×105細胞/cm2の初期細胞密度で、軟骨細胞を培養液に添加することを含む。特定の実施形態では、軟骨細胞は、調整ステップ(b)の少なくとも8日前に、温度応答性ポリマー上、培養液中で培養される。特定の実施形態では、軟骨組織は、多指軟骨組織に由来する。特定の実施形態では、細胞培養支持体の基質表面は、I型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ニドゲン及びヘパラン硫酸プロテオグリカンからなる群から選択されるタンパク質でコーティングされている。特定の実施形態では、細胞培養支持体の基質表面は、温度応答性ポリマーと疎水性ポリマーを含むブロックコポリマーでコーティングされている。
【0030】
特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、0.3~6.0μg/cm2の範囲内の濃度で基質表面上にコーティングされている。特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。特定の実施形態では、脱離ステップc)は、担体を細胞シートと接触させて配置し、担体とともに無傷の細胞シートを脱離することを含む。特定の実施形態では、脱離ステップc)は、プロテイナーゼによる処理を含まない。特定の実施形態では、培養液は、ヒト血清を含まない。特定の実施形態では、細胞シートは、トランスジェニック細胞をさらに含む。
【0031】
特定の実施形態では、軟骨細胞シートは、コンフルエントな軟骨細胞の1を超える層を含む。特定の実施形態では、本方法は、少なくとも2つの細胞シートを互いの上に積層するステップをさらに含む。ある態様では、本開示は、本明細書に記載される方法によって生成される細胞シートに関する。
【0032】
特定の実施形態では、本開示は、対象において軟骨組織を生成する方法であって、本明細書に記載される細胞シート又は本明細書に記載される組成物を、対象の軟骨組織に適用するステップを含む、方法に関する。
【0033】
特定の実施形態では、本開示は、対象における障害を処置する方法であって、本明細書に記載される細胞シート又は本明細書に記載される組成物を、対象の軟骨組織に適用するステップを含む、方法に関する。特定の実施形態では、障害は、軟骨部分欠損、軟骨損傷、及び骨軟骨損傷からなる群から選択される。特定の実施形態では、軟骨細胞は、対象に対して自家である。特定の実施形態では、軟骨細胞は、対象に対して同種である。特定の実施形態では、対象はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1A、1B及び1Cは、多指由来軟骨細胞(PDC)の安定した増殖を示す。多指由来軟骨細胞(PDC):n=10;正常成体軟骨細胞(NAC):n=6。
【
図2】
図2A及び
図2Bは、軟骨細胞シートのサフラニンO染色を示す。正常成体由来細胞(NACS)と比較して、多指由来細胞(PDCS)でより厚い細胞シートが得られた。全ての細胞シートを同じ培養条件で継代2(P2)で作製した。バー:50μm。
【
図3】
図3は、多指由来細胞から調製された細胞シート(PDCS)が、正常成体由来細胞から調製された細胞シート(NACS)よりも多くの細胞を含むことを示す。プロットは、個々のドナーからの1枚の細胞シートにおける総細胞数を表す。データは平均及びSDとして示される。
【
図4】
図4は、2型コラーゲンの免疫組織化学を示す。2型コラーゲンはマウスモノクローナル抗体(クローン2B1.5)を用いて検出したが、アイソタイプ対照は発色を示さなかった。カウンター染色としてヘマトキシリンを使用した。
【
図5】
図5は、多指由来細胞(PDCS)対正常成体由来細胞(NACS)における遺伝子オントロジー用語の濃縮を示す。n=7(PDCS)及びn=5(NACS)のRNAseqデータ。RNA Miniキット(Qiagen)を用いて細胞シートからRNAを抽出した(PDCS; n=7,NACS; n=5)。1μgのRNAを逆転写し、cDNA試料を、Illumina次世代シークエンサーHiSeqを用いた対末端シークエンシングに使用した。定量化データを標準化し、遺伝子オントロジー(GO)濃縮をGOseqソフトウェアで分析した。統計的に最も重要なGOを
図5に列挙する。
【
図6】
図6は、目的の有意に異なる遺伝子オントロジーの上方制御された遺伝子のリストを示す。
【
図7】
図7は、ラット局所欠損モデルにおける多指由来細胞(PDCS)による硝子軟骨再生を示す。
【
図8】
図8は、多指由来細胞(PDCS)移植による荷重分布比の迅速な回復を示す。それぞれ2、3、4、5、及び6週目での試料番号=13、12、12、8、及び8週目(欠損のみ群);=16、15、15、9、及び9週目(欠損+CS群)。データは平均及びSEMとして示される。
**p<0.01、
*p<0.05(Welchのt検定)。
【
図9A-C】
図9A~
図9Eは、幼若軟骨外科用廃棄物からの軟骨細胞の単離、及び幼若軟骨細胞のin vitro拡大を示す。
図9Aは、実体顕微鏡下での幼若ドナー由来軟骨組織を示す。スケールバー:5mm。
図9Bは、軟骨組織のサフラニンO染色を示す。スケールバー:500μm。
図9Cは、培養軟骨細胞の位相差画像を示す。スケールバー:200μm。
【
図9D-E】
図9Dは、in vitro細胞拡大の平均倍変化を示す。データは平均及びSDとして示される(n=13の個々のドナー)。
図9Eは、JCCペレットのin vitro分化を示す。写真は、P2 JCC(上段)及びP9 JCC(下段)のサフラニン-O染色を示す。バー:500 10μm。右のグラフはペレットサイズ直径の測定値(n=2)を示す。誤差バーはSDを示す。
**スチューデントt検定により
**p<0.01。
【
図10A-B】
図10A~
図10Fは、操作されたJCCシートの特徴を示す。(A)継代2の14日目のコンフルエントな軟骨細胞の位相差画像。スケールバー:200μm。(B)操作されたJCCシートの巨視的画像。スケールバー:5mm。
【
図10C】(C)1枚の細胞シートにおける総細胞数(n=13の個々のドナー)。
【
図10D】(D)JCCシートのヘマトキシリンエオシン染色、サフラニン-O染色、トルイジンブルー染色、アグリカン、I型コラーゲン、及びII型コラーゲン免疫組織化学。バー:50μm。
【
図10E】(E)P2 JCCシートからのin vitroで分化させたペレットのサフラニン-O染色。バー:500μm。
【
図10F】(F)各継代での培養 JCCからおそらく調製された理論上の細胞シート数。データは平均及びSDとして示される(n=11の個々のドナー)。
【
図11A】
図11A~
図11Cは、腫瘍形成性アッセイ、集団倍加時間、及び細胞表面マーカーを示す。(A)(a)軟寒天培養条件におけるin vitro腫瘍形成アッセイの顕微鏡画像。左のカラムの画像は、2週間の培養細胞シートからの播種細胞を示す。中央のカラムの画像は、3.5週間の培養細胞シートからの播種細胞を示す。右のカラムの画像は、陽性対照として播種されたHepG2細胞を示す。上段は、幼若軟骨細胞シートの前臨床安全性と有効性であり、0日目の画像を示し、下段は8日目の画像を示す。鉄筋:200μm。(b)0日目と8日目の軟寒天培養におけるDNA 結合蛍光による細胞数の半定量化。データは平均及びSDとして示される(n=4の個々のドナー)。スチューデントt検定による
**p<0.01、
*p<0.05、N.S.(有意ではない)。スチューデントのt検定により0.05、N.S(有意ではない)。
【
図11B-1】(B)細胞純度及び表面マーカーの特徴についてのフローサイトメトリー分析。(a)CD45、系列カクテル(CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56の混合)、CD31、HLA-ABC並びにHLA-DR、-DP、-DQ、CD44、CD90、CD81、及びCD106の代表的なヒストグラム。カラムカラーは、蛍光体(青:パシフィックブルー、緑:FITC又はAlx488、赤:PE、マゼンタ:APC又はAlx647)。(b)CD45、系列カクテル(CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56の混合)、CD31、HLA-ABC並びにHLA-DR、-DP、-DQ、CD44、CD90、CD81、及びCD106の平均パーセンテージ。n=4~6の個々のドナー。
【
図11C】(C)P13までの軟骨細胞培養培地での長期継代培養における集団倍加時間。データは平均及びSDとして示される(n=13の個々のドナー)。
【
図12A】
図12A及び12Bは、ヌードラットにおける局所骨軟骨欠損処置の中長期in vivo有効性を示す。(A)外科的に作製された局所欠損(各群の左画像)と処置から4、8、12、及び24週後(各時間点の右画像)の巨視的画像。上段は非処置群を示す。下段は欠損及び細胞シート群を示す。
【
図12B】(B)各条件のサフラニン-O染色。4週間(n=14)、8週間(n=3)、12週間(n=3)、24週間(n=3)の試料の代表的な画像を示す。バー:上段3列:500μm、2列目と下段:100μm。
【
図13】
図13は、移植されたヒトJCCシート由来の組織による軟骨特異的マーカー発現を示す。アグリカン染色(左)、II型コラーゲン染色(中央)、I型コラーゲン染色(右)を示す。示されている試料は全て、移植の4週間後のものである。バー:各群の左列:500μm、各群の右列100μm。
【
図14】
図14A及び14Bは、II型コラーゲン沈着を伴う移植されたヒト軟骨細胞移植を示す。(A)(a)JCCシート処置された試料のヒト抗原特異的ビメンチン染色。赤い矢印は再生軟骨を示す。青い矢印は宿主軟骨を示す。バー:500μm。(b)ヒト抗原特異的ビメンチン染色による再生軟骨の拡大領域。バー:200μm。(B)ヒトビメンチン(赤)とII型コラーゲン(緑)の二重染色。DAPI+Ph:核(白色の辺を伴う青色)を示すDAPI+位相差画像。右側のパネルは、ヒトビメンチン、II型コラーゲン、及びDAPIがマージされた画像を示す。バー:200μm。4週の組織学的試料を示す。
【
図15】
図15は、多指由来軟骨細胞シートの移植から24週間後のラット膝のヒトビメンチン特異的染色を示す。濃い部分はヒトのビメンチンを示す。
【
図16】
図16は、細胞シート移植の24週間後の膝試料の免疫組織化学を示す。示されているタンパク質は、I型コラーゲン(COL1)、II型コラーゲン(COL2)及びアグリカン(ACAN)である。濃い部分は各タンパク質の正の領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本出願人は、同種軟骨細胞源として、日本と比較してより高い年齢層の患者を手術処置する米国における多指症患者の通常の処置実践中に、多指症由来の切除手指及び足指から単離された軟骨組織の可能性を調査した。本出願人は、II型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色に対して陽性であり、I型コラーゲンに対して陽性である細胞シートは、細胞シートが直ちに多数生成され、一定の品質を維持するため、米国特許出願公開第2008/0226692号及び米国特許出願公開第US2018/0243476号に記載された上記2つの技術とは全く異なることを示した。多指由来軟骨組織から単離された細胞は、成熟軟骨細胞だけでなく、軟骨細胞への分化を促進する転写因子(例えば、HOXA11、RUNX3、SOX6、RUNX2、HOXD9、HOXD10、及びHOXD3のうちの1種以上)を含有する軟骨前駆細胞でも構成されるようである。これらの細胞は、活発な増殖を示し、細胞シートを均一に、密に、直ちに多数形成し、硝子構造を生成することによって膝軟骨表面を処置するのに有効な機能を示す。細胞シートは、II型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色に対して陽性であり、I型コラーゲンに対して陽性であった。これらの凝集した細胞から生成された細胞シートは、機能的だけでなく、経済的にも競争力のある医療生成物であることが期待され、細胞源の体積制限の問題及び時間ギャップを解決することによって、時宜を得た方法で最も効果的であり、十分な処置を提供し、患者の生活の質を維持する。
【0036】
本開示は、生体内の特定の軟骨組織中の細胞から生成される軟骨細胞シートの調製及び特性、並びに対象において軟骨組織を生成するためのそれらの使用を記載する。軟骨細胞を用いて、温度応答性ポリマーでコーティングした温度応答性細胞培養ディッシュ(TRCD)中、in vitroで細胞シートを調製した。コンフルエントな細胞シートを、培養物を室温に冷却することによりTRCDから脱離した。加えて、ラット局所欠損モデルにおける軟骨細胞シート中の軟骨への適用は、硝子軟骨再生を示した。
【0037】
定義
用語「軟骨細胞シート」とは、本明細書で使用される場合、in vitroで細胞培養支持体上で軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を増殖させることによって得られる細胞シートを指す。
【0038】
用語「軟骨前駆細胞」とは、本明細書で使用される場合、軟骨細胞に分化することができる幹細胞/前駆細胞の集団を指す。軟骨前駆細胞には、限定されないが、軟骨細胞前駆細胞、軟骨芽細胞、軟骨の前駆細胞、及び骨髄間葉系幹細胞が含まれる。軟骨前駆細胞は、フィブロネクチンに対する高い親和性、高いコロニー形成効率、及びNotch1遺伝子の発現を含む成熟軟骨細胞とは異なる特徴を示す。参照によりその全体が本明細書に組み込まれるJayasuriyaら, 2016, Connect Tissue Res. 56(4):265-271を参照されたい。
【0039】
I.軟骨細胞シートの調製に用いる軟骨細胞及び軟骨前駆細胞
本開示は、軟骨組織修復に使用される培養軟骨細胞シートを提供する。この開示では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含む。特定の実施形態では、軟骨前駆細胞は、HOXA11、RUNX3、SOX6、RUNX2、HOXD9、HOXD10、及びHOXD3からなる群から選択される1種以上の転写因子を含む。一部の実施形態では、培養軟骨細胞を生成するための細胞源として使用される軟骨組織は、機械的負荷下で機能する軟骨組織である。一部の実施形態では、細胞シートを調製するための細胞源は、多指症の処置における指又は足指の切除からの過剰な軟骨組織である。指切除後の多指症の余分な軟骨組織から単離された細胞は、正常な成体軟骨組織から単離された細胞よりも増殖性である。結果として、一個体の多指軟骨から多くの軟骨細胞シートを得ることができる。多指組織から単離された細胞は、成熟軟骨細胞及び軟骨前駆細胞の両方を含む。軟骨前駆細胞は、軟骨細胞への分化を促進する転写因子(例えば、HOXA11、RUNX3、SOX6、RUNX2、HOXD9、HOXD10、及びHOXD3の1種以上)を含む。本出願人は、軟骨細胞と軟骨前駆細胞の混合物から調製された軟骨細胞シートが移植部位に良好に接着し、軟骨組織再生効果を示すことを実証した。
【0040】
一部の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%は軟骨前駆細胞である。特定の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞の少なくとも1%の適切な軟骨前駆細胞には、限定されないが、軟骨芽細胞、軟骨の前駆細胞、軟骨細胞前駆細胞、骨髄間葉系幹細胞、及びそれらの混合物が含まれる。一部の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%は軟骨細胞である。
【0041】
本明細書に記載される軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞以外の細胞を含み得、限定されないが、上皮細胞、上皮幹細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞、又はそれらの任意の組合せが含まれる。また、これらの細胞のそれぞれの含有率に対して特に限定されるものではない。
【0042】
上記されるように、一部の実施形態では、本明細書に記載される軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、軟骨細胞への分化を促進する転写因子(例えば、HOXA11、RUNX3、SOX6、RUNX2、HOXD9、HOXD10、及びHOXD3の1種以上)を含む軟骨前駆細胞を含む。これらの軟骨前駆細胞はまた、軟骨再生を助ける1種以上の因子を含有することができ、限定されないが、BMP-骨形成タンパク質、IGF-インスリン様増殖因子、TGF-β-トランスフォーミング増殖因子-ベータ、軟骨由来マトリックスタンパク質-1、SOX-sry-関連HMGボックス5、6、9、PTH(副甲状腺ホルモン)、及びその関連タンパク質、並びにヘッジホッグファミリータンパク質、例えば、ソニックヘッジホッグ(SHH);インディアンヘッジホッグ(IHH);及びデザートヘッジホッグ(DHH)が含まれる。
【0043】
一部の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される軟骨細胞及び/又は軟骨前駆細胞は、II型コラーゲンを含有する。例えば、一部の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、II型コラーゲンに対する抗体で染色された場合に陽性である。
【0044】
一部の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、生きている組織、例えば、軟骨組織から直接単離される。一部の実施形態では、細胞は、生きている組織、例えば、軟骨組織から収集され、次に、軟骨細胞シートを調製する前にin vitroで培養される。一部の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、哺乳動物から単離される。一部の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ラット、マウス、ヤギ、サル、及びチンパンジーからなる群から選択される対象から単離される。特定の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、ヒトから単離される。特定の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、チンパンジーから単離される。例えば、ヒト、ブタ、又はサルの処置に軟骨細胞シートを用いる場合、チンパンジーから単離された細胞を用いることができる。一部の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、免疫不全対象から単離される。一部の実施形態では、対象(例えば、ヒト対象)は多指である。一部の実施形態では、軟骨細胞は、多指軟骨組織(例えば、ヒト多指軟骨組織)から得られる。
【0045】
特定の実施形態では、軟骨細胞シートを調製するために使用される細胞は、ヒトから単離される。一部の実施形態では、ヒトは、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、7、8、9又は10歳である。一部の実施形態では、ヒトは、少なくとも1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、7、8、9又は10歳である。一部の実施形態では、ヒトは、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、7、8、9又は10歳未満である。これらの値のいずれも、軟骨細胞が単離される対象の年齢を定義するために使用され得る。例えば、一部の実施形態では、対象は、10歳未満、1.5~6歳、又は2~5歳である。特定の実施形態では、対象は1.5~6歳である。
【0046】
任意の適切な方法を使用して、軟骨組織、例えば、多指軟骨組織から細胞を単離することができる。軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、軟骨組織(例えば、X線画像上で黒く見える軟骨組織)から、滅菌条件下でメスにより軟骨組織を収集し、収集された軟骨組織をメスで小片に切断し、軟骨組織片の酵素処理により軟骨組織から細胞を単離することによって単離することができる。また、軟骨組織層を培養基材上に配置することによって、外植片培養方法を使用することもできる。例えば、外植培養法では、軟骨を小片(例えば、直径約1mm以下の小片)に切断し、少量の培養培地で培養表面に配置ことにより、細胞の増殖を容易にする。細胞が培養表面上のコンフルエンス又はサブコンフルエンスに達した場合に、細胞は収集される。これらの方法を組み合わせることもできる。
【0047】
任意の適切な培養培地を用いて、軟骨細胞シートを調製するための細胞を培養することができる。適切な培地には、限定されないが、F-12培地、DMEM培地、又はそれらの混合物が含まれる。一部の実施形態では、血清(例えば、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)又はウシ胎児血清(FCS))を培養培地に添加することができる。例えば、本出願人は、培養培地にヒト血清を添加することによって、細胞がより大きな物理的強度を得、結果として、培養されたヒト軟骨細胞シートが、改善された柔軟性を達成することを実証した。一部の実施形態では、培養培地は、血清、例えば、ヒト血清、胎児ウシ血清(FBS)又は胎児ウシ血清(FCS)を含まない。
【0048】
一部の実施形態では、培地中の血清(例えば、ヒト血清)の濃度は、細胞を培養するために、0.5%~35%、1%~30%、5%~25%、又は10%~20%の範囲である。特定の実施形態では、培地中の血清の濃度は20%である。
【0049】
II.軟骨細胞及び軟骨前駆細胞から生成される軟骨細胞シート
特定の実施形態では、本開示は、コンフルエントな軟骨細胞の1つ以上の層を含む軟骨細胞シートに関する。用語「軟骨細胞シート」は、本明細書で使用される場合、in vitroで細胞培養支持体上で軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を増殖させることによって得られる細胞シートを指す。本明細書に記載される軟骨細胞シートは、酵素処理なしで、温度応答性培養ディッシュ(TRCD)を用いて、温度シフトを有する単一シートとして収集される。したがって、特定の態様では、本開示は、本明細書に記載される軟骨細胞シートと、細胞シートから取り外し可能なポリマーコーティング培養支持体(例えば、培養ディッシュ)とを含む組成物に関する。
【0050】
特定の態様では、本開示は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む軟骨細胞シートであって、細胞シートは、対象の軟骨組織から得られた細胞の混合物から調製され、軟骨組織から得られた細胞の混合物は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含む、細胞シートに関する。
【0051】
一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、成体由来の非多指軟骨から単離した細胞から調製された細胞シートと比較して、ACVR2B、ADAMTS12、BBS2、BMPR1B、COL2A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、COL12A1、ETS2、EXTL1、FBN2、FGFR3、HAS2、HMGA2、HOXA11、HOXA13、HOXD9、HOXD10、HOXD12、HOXD13、MEX3C、MMP13、MSX1、NAB2、NOG、RARA、RUNX2、RUNX3、SATB2、SIGLEC15、SIX1、SIX4、SOX6、SOX11、TGFB1、TGFB2、TIPARP、TRIM45、WNT5B、WNT7B、WNT11及びZFAND5からなる群から選択される1種以上の遺伝子の増加した発現を示す。一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、HOXA11、RUNX3、SOX6、RUNX2、HOXD9、HOXD10、及びHOXD3からなる群から選択される1種以上の転写因子の増加した発現を示す。一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、ACVR2B、ADAMTS12、BBS2、BMPR1B、COL2A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、COL12A1、ETS2、EXTL1、FBN2、FGFR3、HAS2、HMGA2、HOXA11、HOXA13、HOXD9、HOXD10、HOXD12、HOXD13、MEX3C、MMP13、MSX1、NAB2、NOG、RARA、RUNX2、RUNX3、SATB2、SIGLEC15、SIX1、SIX4、SOX6、SOX11、TGFB1、TGFB2、TIPARP、TRIM45、WNT5B、WNT7B、WNT11及びZFAND5からなる群から選択される1種以上の遺伝子の発現において50%、100%、150%、200%、250%、300%、400%又は500%の増加を示す。一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、HOXA11、RUNX3、SOX6、RUNX2、HOXD9、HOXD10、及びHOXD3からなる群から選択される1種以上の遺伝子の発現において50%、100%、150%、200%、250%、300%、400%又は500%の増加を示す。一部の実施形態では、TGFB1の発現は、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、軟骨細胞シートにおいて少なくとも150%増加する。一部の実施形態では、TGFB2の発現は、成体由来の非多指軟骨から単離された細胞から調製された細胞シートと比較して、軟骨細胞シートにおいて少なくとも250%増加する。
【0052】
一部の実施形態では、軟骨細胞シート中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、II型コラーゲンを生成する。例えば、一部の実施形態では、軟骨細胞シート内の細胞は、II型コラーゲンに対する抗体で染色した場合に陽性である。一部の実施形態では、軟骨細胞シート中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、I型コラーゲンを生成する。一部の実施形態では、軟骨細胞シート中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、I型コラーゲンとII型コラーゲンを生成する。一部の実施形態では、軟骨細胞シート中の軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、軟骨のための転写因子(TFC)を発現する。一部の実施形態では、軟骨細胞シート中の軟骨前駆細胞は、HOXA11、RUNX3、SOX6、RUNX2、HOXD9、HOXD10、及びHOXD3からなる群から選択される1種以上の転写因子を発現する。一部の実施形態では、軟骨細胞シート中の軟骨前駆細胞は、軟骨再生を助ける1種以上の因子を含み、限定されないが、BMP-骨形成タンパク質、IGF-インスリン様増殖因子、TGF-β-トランスフォーミング増殖因子-ベータ、軟骨由来マトリックスタンパク質-1、SOX-sry-関連HMGボックス5、6、9、PTH(副甲状腺ホルモン)、及びその関連タンパク質、並びにヘッジホッグファミリータンパク質、例えば、ソニックヘッジホッグ(SHH);インディアンヘッジホッグ(IHH);及びデザートヘッジホッグ(DHH)が含まれる。
【0053】
一部の実施形態では、軟骨細胞シート中の細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%は軟骨細胞である。一部の実施形態では、細胞シートは、軟骨細胞からなるか、又は本質的に軟骨細胞からなる。一部の実施形態では、軟骨細胞シート中の細胞の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%は軟骨前駆細胞である。特定の実施形態では、軟骨細胞シート中の細胞の少なくとも1%は、軟骨前駆細胞である。
【0054】
III. in vitroで軟骨細胞シートを生成する方法
特定の態様では、本開示は、コンフルエントな軟骨細胞の1つ以上の層を含む軟骨細胞シートを生成する方法であって、
(1)X線画像上で黒く見える軟骨組織の一部から、クリーンな環境下でメスにより軟骨組織を収集するステップであって、組織が軟骨細胞に分化させる転写因子を含有する細胞を含む、ステップと、
(2)収集した軟骨組織をメスで小片に切断するステップと、
(3)軟骨組織の小片を酵素処理して細胞を収集するステップと、
(4)収集した細胞を特定の材料表面上で初代培養するステップと、
(5)その後、温度応答性細胞培養材料上で、初代培養した細胞を培養するステップであって、その表面が、ポリマーが弱い水和力を示す温度領域において、0℃~80℃の温度範囲内でその水和力が変化する温度応答性ポリマーでコーティングされている、ステップと、
(6)培養培地の温度をポリマーがより強い水和力を示す温度に下げることにより、温度応答性細胞培養材料の表面温度を調整することによって、培養細胞を細胞シートの形態として脱離させるステップ
とを含む、方法に関する。
【0055】
特定の態様では、本開示は、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む軟骨細胞シートを生成する方法であって、
a)細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマー上、培養液中で軟骨細胞及び軟骨前駆細胞の混合物を培養するステップであって、温度応答性ポリマーは、0~80℃の水中でより低い臨界溶液温度を有するステップと;
b)培養液の温度をより低い臨界溶液温度以下に調整し、基質表面を親水性にし、細胞シートの表面への接着を弱めるステップと;
c)細胞培養支持体から細胞シートを脱離させるステップ
とを含み、それによって軟骨細胞及び軟骨前駆細胞を含むコンフルエントな細胞の2つ以上の層を含む軟骨細胞シートが生成される、方法に関する。
【0056】
一部の実施形態では、培養液の温度を調整して、培養支持体から細胞シートを放出するステップは、軟骨細胞及び軟骨前駆細胞がコンフルエントである場合に行われる。
【0057】
一部の実施形態では、脱離ステップ(6)は、担体を細胞シートと接触させて配置し、担体とともに無傷の細胞シートを脱離することを含む。一部の実施形態では、脱離ステップ(6)は、プロテイナーゼによる処理を含まない。一部の実施形態では、細胞シートは、トランスジェニック細胞をさらに含む。
【0058】
細胞シートを調製するための一般的な方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、米国特許第8,642,338号;第8,889,417号;第9,981,064号;及び第9,114,192号に記載され、各々はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
細胞培養支持体の基質をコーティングするために使用される温度応答性ポリマーは、水溶液中でより高いか又はより低い臨界溶液温度を有し、それは一般的に0℃から80℃、例えば、10℃から50℃、15℃から40℃、又は20℃から35℃の範囲内にある。
【0060】
温度応答性ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーであり得る。例示的なポリマーは、例えば、特開211865/1990号に記載される。具体的には、それらは、モノマー、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物((メタ)アクリルアミド)とは、アクリルアミドとメタクリルアミドの両方を指す)、N-(又はN,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、及びビニルエーテル誘導体のホモ重合又は共重合によって得ることができる。コポリマーの場合には、任意の2種以上のモノマー、例えば、上記されるモノマーを採用することができる。さらに、これらのモノマーは、他のモノマーと共重合することができ、1つのポリマーを別のモノマーにグラフトすることができ、2種のポリマーを共重合することができ、又はポリマーとコポリマーの混合物を採用することができる。所望であれば、ポリマーは、それらの固有の特性を損なわない程度まで架橋され得る。
【0061】
一部の実施形態では、細胞培養支持体の表面は、温度応答性ポリマー及び疎水性ポリマーを含むブロックポリマーでコーティングされている。一部の実施形態では、温度応答性ポリマーは、0.3~6.0μg/cm2の範囲内の濃度で基質表面上にコーティングされている。ポリマーでコーティングされた細胞培養支持体の表面は、任意のタイプのものであり得、細胞培養において一般的に使用されるもの、例えば、ガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリ(メタクリル酸メチル)、及びセラミックが挙げられる。
【0062】
支持体を温度応答性ポリマーでコーティングする方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、特開211865/1990号に記載される。具体的には、このようなコーティングは、基質及び上述したモノマー又はポリマーを、例えば、電子ビーム(EB)露光、γ線照射、UV線照射、プラズマ処理、コロナ処理、又は有機重合反応に供することによって達成することができる。他の技術、例えば、コーティング塗布及び混練によって達成される物理吸着もまた使用することができる。温度応答性ポリマーのコーティング率は、0.3~6.0μg/cm2、例えば、0.7~3.5μg/cm2、又は0.9~2.5μg/cm2の範囲であり得る。細胞培養支持体の形態は、例えば、ディッシュ、マルチプレート、フラスコ、又は細胞インサートであり得る。
【0063】
培養された細胞は、支持体材料の温度を、支持体基質上のポリマーが水和すると、細胞が脱離され得る温度に調整することによって、細胞培養支持体から脱離され得る。細胞シートと支持体の間のギャップに水流を適用することにより、滑らかな脱離を実現することができる。細胞シートの脱離は、細胞が培養された培養液内、又は他の等張流体内のいずれか適切なもの内で影響され得る。
【0064】
特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は、水中のより低い臨界溶液温度が31℃である。遊離状態の場合、31℃を超える温度にて水中で脱水和を受け、ポリマー鎖が凝集して混濁する。逆に、31℃以下の温度では、ポリマー鎖は水和し、水に溶解するようになり、それによって、ポリマーから細胞シートの放出を引き起こす。特定の実施形態では、このポリマーは、基質、例えば、ペトリディッシュの表面を覆い、その上に固定される。したがって、31℃を超える温度では、基質表面上のポリマーはまた脱水和するが、ポリマー鎖が基質表面を覆い、基質表面上に固定化されているため、基質表面は疎水性になる。逆に、31℃以下の温度では、基質表面上のポリマーは水和するが、ポリマー鎖は基質表面を覆い、基質表面上に固定化されているため、基質表面は親水性になる。疎水性表面は、細胞の接着及び増殖に適した表面であるが、親水性表面は、細胞の接着を阻害し、細胞は、単に、培養液を冷却することによって脱離される。
【0065】
一部の実施形態では、細胞培養支持体の基質表面は、I型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ニドゲン、マトリゲル、及びヘパラン硫酸プロテオグリカンからなる群から選択されるタンパク質でコーティングされている。
【0066】
軟骨細胞及び軟骨前駆細胞は、細胞シートの形成又はその特徴を最適化するために、種々の細胞密度で、細胞培養支持体中の温度応答性ポリマー上の培養液に添加され得る。例えば、一部の実施形態では、細胞シートの調製に使用される細胞培養支持体における軟骨細胞の初期細胞密度は、1×103/cm2~5×106/cm2である。一部の実施形態では、細胞培養支持体中の軟骨細胞の初期細胞密度は、少なくとも1×103、1×104、1×105、1.5×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、1×106、1.5×106、2×106、3×106、4×106、又は5×106細胞/cm2である。これらの値のいずれも、細胞培養支持体中の軟骨細胞の初期細胞密度の範囲を定義するために使用され得る。例えば、一部の実施形態では、細胞培養支持体における初期細胞密度は、1×103~5×106細胞/cm2、1×104~5×106細胞/cm2、又は1×105~5×106細胞/cm2からである。
【0067】
軟骨細胞を培養支持体上で少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25日間培養した後、培養液の温度をより低い臨界溶液温度を下回るように調整し(調整ステップb)、細胞シートを培養支持体から脱離する(脱離ステップc)ことができる。特定の実施形態では、軟骨細胞を13~25日間培養した後、培養液の温度を調整し、培養支持体から細胞シートを脱離する。一部の実施形態では、調整ステップは、軟骨細胞がコンフルエントである場合に行われる。
【0068】
軟骨細胞シートは、用途に応じて様々なサイズの範囲で調製することができる。一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15又は20cmの直径を有する。これらの値のいずれも、軟骨細胞シートのサイズの範囲を定義するために使用することができる。例えば、一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、1~20cm、1~10cm又は2~10cmの直径を有する。一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250又は300cm2の面積を有する。これらの値のいずれも、軟骨細胞シートのサイズの範囲を定義するために使用することができる。例えば、一部の実施形態では、軟骨細胞層は、1~100cm2、3~70cm2、又は1~300cm2の領域を有する。本明細書に記載される方法は、細胞シートの表面積がその厚さよりもはるかに大きい軟骨細胞シートをもたらす。例えば、一部の実施形態では、軟骨細胞シートの表面積とその厚さの比は、少なくとも10:1、100:1、1000:1又は10,000:1である。本明細書に記載される軟骨細胞シートは、コンフルエントな軟骨細胞の1つ以上の層、例えば、軟骨細胞の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10層を含む。一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、軟骨細胞の2、3、4、5、6、7、8、9又は10層未満を含む。一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、軟骨細胞の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10層を含む。
【0069】
一部の実施形態では、本開示はまた、本明細書に記載される方法のいずれかによって生成される軟骨細胞シートに関する。
【0070】
IV.処置方法
本明細書に記載される軟骨細胞シートは、細胞シートを対象の組織(例えば、軟骨組織)に適用することによって対象に移植することができる。例えば、以下の実施例に開示されるように、軟骨細胞シートを本明細書に記載される方法によって調製し、対象に移植した場合、硝子軟骨組織再生が観察された。
【0071】
したがって、一部の態様では、本開示は、本明細書に記載される軟骨細胞シートを対象の組織に適用することを含む、対象に軟骨細胞シートを移植する方法に関する。特定の実施形態では、対象はヒトである。支持膜を用いて、軟骨細胞シートを対象の組織に移すことができる。支持膜は、例えば、ポリ(ビニリデンジフルオリド)(PVDF)、セルロースアセテート、及びセルロースエステルであり得る。軟骨細胞シートは標的組織に容易に接着し、短期間、標的組織に直接配置された後、縫合せずに自己安定化する。例えば、一部の実施形態では、軟骨細胞シートは、組織との接触後5、10、15、20、25、又は30分以内に標的組織に接着する。軟骨細胞シートが標的組織に付着すると、支持膜を切除することができる。一部の実施形態では、細胞シート中の軟骨細胞は、対象に対して自家であり、すなわち、細胞シートが適用されるのと同じ対象から単離される。特定の実施形態では、細胞シート中の軟骨細胞は、対象に対して同種であり、すなわち、対象と同じ種の異なる個体から単離され、その結果、1つ以上の遺伝子座における遺伝子は同一ではない。
【0072】
特定の実施形態では、本開示は、対象において軟骨組織を生成する方法であって、対象の軟骨組織に、本明細書に記載される1つ以上の細胞シートを適用するステップを含む、方法に関する。1つ以上の軟骨細胞シートを軟骨組織に適用すると、新たな軟骨組織、例えば、硝子軟骨組織が再生され得る。
【0073】
特定の態様では、本開示は、対象における障害を処置する方法であって、本明細書に記載される1つ以上の細胞シートを対象の軟骨組織に適用するステップを含む、方法に関する。一部の実施形態では、障害は、軟骨部分欠損、軟骨損傷、及び骨軟骨損傷からなる群から選択される。
【0074】
一部の実施形態では、細胞シート中の軟骨細胞は、対象に対して自家である。一部の実施形態では、細胞シート中の軟骨細胞は、対象に対して同種である。
【0075】
一部の実施形態では、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の軟骨細胞シートが、対象の軟骨組織に適用される。特定の実施形態では、2つの軟骨細胞シートが対象の軟骨に適用される。上記で検討したように、2つ以上の細胞シートを互いに積み重ね(stack)、1日以上培養して、対象への移植前にさらなる細胞シートの分化を可能にすることができる。
【0076】
上記方法の特定の実施形態では、軟骨細胞シートが適用される対象はヒトである。
【0077】
[実施例]
[実施例1]
幼若軟骨由来軟骨細胞のin vitro特徴付け及び軟骨細胞シートの調製
方法
幼若ヒト多指ドナーからの軟骨サンプリング
12人の幼若患者(7~48か月齢)から切断した多指指及び足指の指節骨及び中手骨からの軟骨を、メスを用いて迅速に解剖し、採取直後に生理食塩水中に維持した。
【0078】
軟骨細胞の単離
幼若ドナー組織から採取した軟骨を生理食塩水に移し、メスにより1mm2未満の小片に切断し、次に5mg/mLの1型コラゲナーゼとともに37℃で1.5~3.0時間インキュベートした(LS004197、Worthington Biochemical、Lakewood、USA)。得られた細胞を、100μmの細胞ストレーナーを通して濾過し、生理食塩水で洗浄し、次に1%抗生物質-抗真菌剤(15240062、ThermoFisher)及び20%ウシ胎児血清(FBS)(16000044, ThermoFisher)を含有する軟骨細胞培養培地(DMEM-F12、11320082、ThermoFisher Scientific、Waltham、USA)に再懸濁した。
【0079】
細胞培養
単離した軟骨細胞を、軟骨細胞培養培地(上述)中で5,000~10,000細胞/cm2のポリスチレンディッシュ(CELLTREAT、Pepperell、USA)上に播種した。培地を、100μg/mLのL-アスコルビン酸リン酸マグネシウム塩n水和物(013-19641、Fujifilm Wako Pure Chemical、Osaka、Japan)を補充した軟骨細胞培地に、4日目に最初の培地交換で置き換えた。その後、細胞をこの培地で継代し、細胞培養を通して位相差顕微鏡により毎日観察した。TrypLE Select(12563011、ThermoFisher)解離によってサブコンフルエントな細胞を収集し、計数した。拡大した細胞は、P0の終わりにSTEM-CELLBANKER GMP等級(Zenoaq、Fukushima、Japan)で凍結保存した。解凍した細胞を用いて、3~5日ごとに継代した初期の細胞密度10,000個/cm2で連続継代培養を行った。
【0080】
幼若軟骨細胞シート標本
解凍した凍結保存細胞から得た継代1の細胞から細胞シートを調製した。サブコンフルエントなP1細胞を、1×TrypLE Selectで5分間収集し、次に温度応答性細胞培養インサート上で10,000細胞/cm2の密度で播種した(CellSeed、Tokyo、Japan)。軟骨細胞培養培地を3~4日ごとに交換した。培養2週間後、細胞シートを、室温でインキュベートした後、ピンセットを用いて手動で採取した。
【0081】
細胞生存率及び軟骨細胞シートの総細胞数
作製したJCCシートからの単一細胞を、TrypLE Selectと共に15分間、0.25mg/mLコラゲナーゼP(11 213 857 001、Roche、Basel、Switzerland) と共に30分間インキュベーションして単離した。細胞を血球計を介して計数し、トリパンブルー(T8154、MilliporeSigma)色素排除を介して細胞生存性を実証した。
【0082】
軟骨形成分化培養
P2及びP9の培養終了時に採取したJCC、又はJCCシートから単離した細胞を、ペレット培養用の15mLコニカルチューブ中の2.5×105の12細胞で軟骨細胞培養培地中に分注した。チューブを500×gで10分間回転させた。キャップを緩め、細胞を37℃、5%CO2で3日間インキュベートして、ペレット生成を促進した。3日間のインキュベーションステップの後、軟骨形成試料を軟骨形成培地で誘導し、対照試料を新しい軟骨細胞培養培地に置換し、全ての試料を低酸素インキュベーター(37℃、5%CO2、5%O2)に移した。軟骨形成培地は、10ng/mLトランスフォーミング増殖因子ベータ-3(TGFβ3)(ThermoFisher)、200ng/mL骨形成タンパク質-6(BMP6)(PeproTech)、1%インスリン-トランスフェリン-セレニウム(ITS-G)(ThermoFisher)、1%PS(Life Technologies)、1%非必須アミノ酸(NEAA)(ThermoFisher)、100nMデキサメタゾン(MP Biomedicals、Irvine、USA)、1.25mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)(MilliporeSigma)、50μg/mL L-アスコルビン酸2-リン酸(MilliporeSigma)、40μg/mL-プロリン(MilliporeSigma)、及び5.35μg/mLリノール酸(MilliporeSigma)を補充したHG-DMEMを含有した。週2回、3週間、培地を交換した。
【0083】
in vitro細胞形質転換アッセイ
in vitro細胞形質転換を連続継代培養及び軟寒天アッセイにより評価した。幼若軟骨細胞を、播種密度10,000細胞/cm2で13継代まで継代した(全体で57~67日間)。細胞を毎日観察し、細胞増殖速度を倍加時間として計算した。細胞形質転換は、足場なしの増殖を検出することによって評価した。通常培養期間(2週間)及び長期培養期間(3.5週間)のP2軟骨細胞シートから単離した培養細胞を、CytoSelect細胞形質転換アッセイ(CBA-9 140、Cell Biolabs、San Diego、USA)を用いて、1ウェルあたり5,000細胞の密度でアスコルビン酸塩を含む軟骨細胞培養培地を用いた軟寒天ゲル中に播種した。細胞数を表す蛍光シグナルは、製造業者のプロトコールに従って、0日目及び8日目に分光蛍光光度計(Cytation 3イメージリーダー、BioTek、Winooski、USA)を用いて測定した。10%FBS及び1%抗生物質-抗真菌剤を含有するDMEM中のHepG2細胞(HB-8065、ATCC)を、足場なしの細胞増殖のための陽性対照として使用した。二連又は三連アッセイからの相対蛍光単位の平均を示す。
【0084】
フローサイトメトリー
軟骨細胞シートからの単離された細胞懸濁液を分注し、1μg/mLのFcブロック溶液(564220、BD、Franklin Lakes、USA)中でインキュベートし、10%FBS含有PBS中に5~10分間、再懸濁し、次に蛍光結合抗体(補足表1)で15分間、短いボルテックスステップで標識した。細胞を10%FBS含有PBSで洗浄し、遠心分離し、10%FBS含有PBS中の1:1000ヨウ化プロピジウム(PI)(556463、BD)で再懸濁した。試料を細胞分析器(Canto、BD)で分析した。FSC-WとSSC-Wゲーティングで二重子を除外し、次にPI陰性集団を分析した。
【0085】
組織学
作製した細胞シートを4%パラホルムアルデヒドで30分間固定した。収集したラット膝組織を4%パラホルムアルデヒド中で4日間固定し、RapidCal Immuno(BBC Biochemical、Mount Verno、USA)中で1日間脱灰した。試料をパラフィンブロックに包埋し、次にミクロトームで5μmの横断切片に切断した。スライドを、65℃にてオーブン中で焼成することにより脱パラフィン化し、次にキシレン及びエタノールで洗浄した。蒸留水で徐々にエタノールを置換して切片を水和した。硫酸化グリコサミノグリカンの異染性染色にサフラニン-Oを用いた。試料を、Wiegertの鉄ヘマトキシリン(MilliporeSigma)で5分間、0.5g/LファストグリーンFCF(MilliporeSigma)で5分間、及び0.1%サフラニン-O(MilliporeSigma)で5分間染色した。画像はBX41顕微鏡(Olympus、Tokyo、Japan)とAmScope Software(USA)で撮影した。
【0086】
免疫組織化学
組織学的試料の切片を水和し、次に抗原回収を行った。回収方法は、染色最適化後、膝試料及び細胞シート試料の組織完全性を維持するために選択した:COL2のためのプロテアーゼK(S3020、Agilent Technologies、Santa Clara、USA)及び膝試料のビメンチン染色;細胞シート試料のCOL2染色のためのクエン酸緩衝液(pH 6.0)(C9999、MilliporeSigma、Burlington、米国)における熱抗原回収。過酸化水素ブロッキング試薬(ab64218、Abcam、Cambridge、UK)を用いてペルオキシダーゼブロッキングを行った。5%ロバ血清及び0.1%Triton-X/PBSで1時間ブロッキングした後。次に、試料を一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。ポリクローナルヤギ抗I型コラーゲン(1:200、SouthernBiotech、Birmingham、米国)、モノクローナルマウス抗II型コラーゲン(1:200、2B1.5、ThermoFisher)、ポリクローナルヤギ抗アグリカン(1:100、AF1220、R&D Systems、Minneapolis、USA)、及びモノクローナルウサギ抗ヒトビメンチン(1:200、SP20、Abcam)を一次抗体として用いた。正常マウスIgG2a(X0943、Agilent)、正常ヤギIgG(NI02、MilliporeSigma)、又は正常ウサギIgG(X0903、Agilent)を、一次抗体と同じ濃度でアイソタイプ対照として使用した。ワサビペルオキシダーゼ(HRP)をコンジュゲートしたヤギ抗マウス抗体(1:1,000、115-035-166、Jackson ImmunoResearch、West Grove、US)をII型コラーゲンのために使用した。HRPをコンジュゲートしたロバ抗ヤギ抗体(1:1,000、705-035-147、Jackson)をI型コラーゲン及びアグリカン染色のために使用した。HRPをコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ抗体(1:1000、111-035-144、Jackson)をヒトビメンチン染色のために使用した。ImmPACT DABペルオキシダーゼ(HRP)基質(SK-4105、Vector Laboratories、Burlingame、US)を色素原として使用した。BX41顕微鏡とAmScope Softwareを用いて明視野画像を撮影した。蛍光画像はAxio Vert.A1顕微鏡とZeissソフトウェア(Zeiss、10 Oberkochen、Germany)で撮影した。
【0087】
結果
幼若軟骨由来軟骨細胞のin vitroでの特徴付け
幼若軟骨由来軟骨細胞(JCC)シートの安全性を実証するために、培養中の幼若軟骨組織とJCCを特徴付けた。12名の幼若ヒトドナーから外科的に廃棄された多指軟骨試料を採取し(
図9A)、サフラニン-O染色を用いて硝子軟骨を含むことを確認した(
図9B)。単離された軟骨細胞の形態は、最初の付着後及びその後の培養中に観察された。軟骨細胞は表面付着後に星形(stellate shape)を示し、次に1継代後に広がった(
図1A及び9C)。これらの細胞は、10回以上の継代に対して一定の増殖速度を示す(
図1B及び9D)。培養細胞から調製可能なPDCシートの理論数は、1枚の細胞シートを調製するのに42,000個(10,000個/cm
2)の細胞が必要であることに基づいて計算した。所定の継代での培養細胞から調製したPDCシートの理論数を
図1Cに示す。いずれの継代においても、PDC試料は、NACと比較してより多数の細胞シートを生成することができる。継代2(P2)とP9の終わりに収集したJCCはともに、3週間の分化培養後に完全に分化した硝子軟骨ペレットを形成したが、P9ペレットのサイズはP2ペレットと比較してわずかに小さかった(
図9E)。これは、増殖の可能性が低下したことを示唆するが、P9で分化能を維持した。
【0088】
幼若軟骨由来軟骨細胞シートのin vitroでの特徴付け
温度応答性細胞培養インサート上で2週間培養した継代2(P2)PDCはコンフルエントであり、細胞シートとして採取することができた。PDCシートの組織学的試料は、垂直方向に少なくとも3つの細胞を含む多層構造を示したが、NACシートはシート中に単一又は2層の細胞を示した(
図2B)。PDCシートは、正常な成体軟骨由来の細胞シートと比較して、各シートに約2倍の細胞数を含有する(
図3)。PDC細胞シートはII型コラーゲンに対して陽性であった(
図4)。正常マウス免疫グロブリンを染色アイソタイプ対照として使用した。
【0089】
温度応答性細胞培養インサート上で2週間培養したP2 JCCはコンフルエントであり(
図10A)、細胞シートとして採取することができた(
図10B)。JCCシートは、各シート構築物中に高い細胞生存率(98.0±1.3%)及び豊富な細胞数(1シートあたり1.90±0.48×10
6細胞)を維持する(
図10C)。脱離後、JCCシートは自発的な内因性収縮を起こし、折り畳みを伴わない多細胞の厚いシート構造を生じる(
図10D)。細胞シートはサフラニン-O及びトルイジンブルー(核のみ)に対しては陰性に染色されるが、免疫組織化学的にはアグリカン及びI型コラーゲンに対して陽性に染色される(
図10D)。II型コラーゲンの発現は細胞シートでは明らかでなかった。これらのin vitro特性を、継代9で調製した細胞シート中に維持した。重要なことに、JCCシートから単離された細胞は、ペレット培養物において頑強な軟骨形成能を示す(
図10E)。所定の継代における単一の多指ドナーから調製されたJCCシートの理論数を
図10Fに示す。
【0090】
幼若軟骨由来軟骨細胞シートのin vitroでの安全性評価
4つの個々のドナーから調製されたシートから単離されたJCCは、10,000の播種細胞(<0.01%)において、固定非依存性コロニー増殖を示さなかった(
図11A(a))。通常の期間(2週間)の培養細胞シートと延長された(3.5~23週間)培養JCCシートの両方からの細胞は、8日間の軟寒天培養後にシグナルの増加を示さず、固定非依存性細胞増殖がないことを示唆したが、HepG2細胞(陽性対照)は8日後に有意な細胞増殖を示した(
図11A(b))。白血球(CD45及び系統カクテル)及び血管内皮細胞(CD31)の細胞表面マーカーはごくわずかであり(
図11B)、単離及び培養プロセスに汚染物質がないことを示している。MHC-I分子、HLA-ABCは100%発現したが、MHC II分子、HLA-DR、-DP、-DQはJCCシートから単離された細胞では検出されず(
図11B)、長期移植片保持における同種免疫原性が低いことが示唆された。間葉細胞マーカーであるCD44、CD90及びCD81の発現は100%であり、培養軟骨細胞の純粋な集団を示唆した。対照的に、ドナー間のCD106発現のばらつきが観察され(5.6±4.6%)、CD106は純度マーカーとして使用できないことを示した。表現型の安定性を確立するために、JCCを連続継代し、各継代における形態学及び集団倍加時間を評価した。細胞増殖の倍加時間は、P13までの連続継代培養において安定であった(
図11C)。これは、シート中の軟骨細胞が、さらなるスケール化された生成プロセスにおいて、無限増殖性細胞に形質転換する可能性が非常に低いことを強く示唆する。
【0091】
トランスクリプトーム分析
PDC及びNAC細胞シートにおける包括的遺伝子発現をRNAseqで分析した。PDCシートとNACシートを比較する遺伝子オントロジー(GO)は、複数のプロ軟骨形成性(pro-chondrogenic)GO期を示す(
図5、ゲート化)。
図5に示されるように、PDC細胞シートでは、軟骨の発生、骨格系の発し、及び結合組織の発生に関与する遺伝子など、いくつかのクラスにおける複数の遺伝子が、NAC細胞シートに関連して差次的に調節されていた(「n」は、各クラスで差次的に調節された遺伝子の数を示す;バーは、各クラスにおける差次的に発現された遺伝子数/総遺伝子数の比に基づいて計算された統計的有意性を示す)。各遺伝子型及びGO期における差次的に発現される遺伝子の例を
図6に示す。これらの差次的に発現される遺伝子は、PDCシートの潜在的な治療的代理マーカーである。
【0092】
[実施例2]
in vivoにおけるPDC細胞シートの安全性及び有効性の評価
方法
外科的及び移植手法
動物研究計画は、施設内動物管理使用委員会(IACUC)(割り当てID: 17-09011)によって評価され、承認された。6週齢のSprague Dawley(SD)ラット及びヌードラット(雌雄)を、マサチューセッツ州ウィルミントンのCharles River Laboratoriesから購入した。動物施設で1週間馴化させた後、イソフルラン及びO2ガスを用いて動物を麻酔した。膝関節を露出させるために内側傍膝蓋切開を行った;膝蓋骨は外側に脱臼し、軟骨下骨を損傷することなく電気研削器と生検パンチを用いて大腿骨の膝蓋溝に局所軟骨欠損(直径2mm;深さ200~350μm)を作製した。欠損の深さは、針先(25G、BD)で反復深さ測定を行う外科用立体ズーム顕微鏡(Olympus、Japan)下での手順によって制御した。6ウェルプレート中の温度応答性細胞培養基質中で調製した軟骨細胞シートを生理食塩水で洗浄し、その後、半分に切断し、欠損創出後に膝上に移植した。動物はIACUCプロトコールに従って鎮痛薬、ブプレノルフィンを2日間、カルプロフェンを3日間投与された。組織学的評価のため、4週間後に動物を屠殺した。
【0093】
荷重負荷分布
荷重負荷を、ラットを座らせ、ラットの荷重負荷を測定する2つの別々のボードを備えた装置であるIncapacitance Tester(Linton)で試験した。全ての動物を手術前後に1~2回馴化した。筋肉の外傷及び鎮痛薬の影響を避けるため、手術後2週間の時点まで測定しなかった。荷重分布は次式により計算した。
荷重分布(%)=(処置側の荷重)/(処置側の荷重+無傷側の荷重)×100
それぞれ2、3、4、5、及び6週目での試料番号=13、12、12、8、及び8週目(欠損のみ群);=16、15、15、9、及び9週目(欠損+CS群)。データは平均及びSEMとして示される。**p<0.01、*p<0.05(Welchのt検定)。
【0094】
結果
in vivoでの安全性と有効性の両方を実証するために、PDCシートをラットの外科的局所骨軟骨欠損創出時に移植した。2つの実験群(PDCシート処置群と欠損のみの陰性対照群)を立体顕微鏡下で観察し、移植後の組織学的検査と比較した。免疫不全無胸腺ラットモデルを選択し、シート誘導新生軟骨形成を評価した。7週齢ヌードラットに滑車溝の局所骨軟骨欠損(直径2mm、深さ200~350μm)を施した。いずれの時点(4、8、12、24週)においても、膝表面の低下及び軟骨組織の自然再生不全を示す線維性パンヌスが観察された(
図7)。興味深いことに、欠損のみの群とは対照的に、全時点でPDCシート処置群の欠損部に完全充填白色軟骨再生が認められた(
図7)。組織学的分析では、欠損のみの群の試料はサフラニン-O陰性であったが、PDCシート処置群は、組織学的分析で確認された宿主組織との安定した統合界面を有する、サフラニン-O陽性、厚い硝子新生軟骨を全ての時点(4、8、12、24週)で示したことが示された(
図7)。さらに、全ての時点でラクナ構造の形成が観察され、移植後4週間までに欠損領域で成熟軟骨が形成され、自然組織構造が維持されたことが示唆された。加えて、再生軟骨はラットの天然軟骨よりも実質的に厚かったが、全てのラットで腫瘍形成性組織形成は観察されず、24週間の研究期間を通して、移植されたPDCシートの安全性を示唆した。ヒト細胞とラット細胞を区別するために、ヒト特異的ビメンチン染色(
図15)を用いて、再生組織の起源を決定した。
【0095】
また、本発明者らは、ラット後肢荷重を測定することにより、ラット局所骨軟骨欠損モデルにおいてPDCシート移植によって誘導された機能回復を評価した。細胞シート移植群では、3週間後に各脚に等しい荷重分布に達する速やかな回復を示したが、欠損のみの群では6週間以上損傷脚に低い荷重分布を示し(
図8)、再生軟骨組織が局所欠損による疼痛を緩和することが示された。
【0096】
2つの実験群(JCCシート処置群及び欠損のみの陰性対照群)を立体顕微鏡下で観察し、移植後に組織学的に検査し、比較した。免疫能力のあるSprague Dawley(SD)ラットを用いた予備的JCCシート移植研究では軟骨再生ができなかった。したがって、シート誘導新生軟骨形成を評価するために、免疫不全無胸腺ラットモデルを選択した。7週齢ヌードラットは滑車溝に局所骨軟骨欠損(直径2mm、深さ200~350μm)を受けた。全ての時間点(4、8、12、24週)において、膝表面の低下及び軟骨組織の自然再生不全を示す線維性パンヌスが観察された(
図12B)。これは、以前に報告されたラット膝軟骨の重大なサイズ欠損(直径>1.4mm)と一致する。興味深いことに、欠損のみの群とは対照的に、全ての時間点でJCCシート処置群の欠損部位に完全に埋められた再生した白い軟骨が生じた(
図12A)。組織学的分析は、欠損のみの群の試料がサフラニン-O陰性であったが、JCCシート処置群は、全ての時間点(4、8、12、及び24週)でサフラニン-O陽性である厚い硝子新生軟骨を示し、組織学的分析で確認された宿主組織との安定した統合界面を有した(
図12B)。加えて、全ての時間点でラクナ構造の形成が観察され、移植後4週間までに欠損領域において成熟軟骨が形成され、自然組織構造が維持されたことが示唆された。興味深いことに、ラクナの大きさは宿主の自然軟骨よりも小さく、組織は元の宿主軟骨の残りではないことを示した。さらに、再生軟骨はラットの天然軟骨よりも実質的に厚かったが、全てのラットにおいて腫瘍形成は観察されず、研究の24週間を通して移植されたJCCシートの安全性が示唆された。
【0097】
アグリカン(ACAN)及び2型コラーゲン(COL2)、硝子軟骨特異的マトリックスタンパク質、及び損傷又は関節炎軟骨マーカーである1型コラーゲン(COL1)の存在を、免疫組織化学(IHC)によって、採取した膝試料において評価した。欠損のみの群におけるパンヌス組織は、ACANもCOL2の発現も示さなかったが、強いCOL1発現を示した(
図13A)。JCCシート処置群における再生された新生軟骨は、新生軟骨表面に局在するCOL1の限定的発現を伴うACAN及びCOL2の発現を示した(
図13B)。再生組織の起源を、ヒト特異的ビメンチン染色を用いて決定した。ヒト特異的抗ビメンチンの特異性は、ヒト軟骨とラット軟骨の両方に交差反応する「汎」ビメンチン抗体と比較することにより、非処置群の線維組織の表在軟骨で確認された。ヒト-ビメンチン特異的抗体は、欠損のみの試料と反応せず(
図14A)、一方、JCCシート処置試料上の新生軟骨組織領域と反応した(
図14B)。興味深いことに、COL2はヒト-ビメンチン陽性細胞及び隣接する間質マトリックスの末梢で観察された(
図14B)。これらのデータは、移植されたヒトJCCシートが新生軟骨マトリックスタンパク質の沈着及び新生軟骨生成に関与することを強く示唆する。
【0098】
ラット後肢荷重を測定することにより、ラット局在骨軟骨欠損モデルにおいてJCCシート移植によって誘導された機能回復を評価した。細胞シート移植群は、3週間後に各脚に等しい荷重分布に達する速やかな回復を示したが、欠損のみの群は6週間以上、損傷脚に低い荷重分布を示し(
図8)、再生軟骨組織が局所欠損による疼痛を緩和することが示された。JCCシート移植は全体重に影響しなかった。
【0099】
軟骨細胞シートは、移植後24週間、ラット膝上に保持され、ヒトビメンチン(
図15)及びI型コラーゲン(COL1)、II型コラーゲン(COL2)及びアグリカン(ACAN)の発現を維持した(
図16)。
【0100】
結論
膝軟骨は損傷後に自然に再生することはなく、ゴールドスタンダードの再生処置アルゴリズムは確立されていない。本研究は、熱応答性培養器を用いて、日常的な外科的廃棄から生成された足場なしのヒト幼若軟骨由来軟骨細胞(PDC)シートの前臨床安全性及び有効性を実証する。PDCは、継代数10を超えるin vitroで安定した高い増殖性を示し、商業化のための大量生成にスケールアップする可能性を支持する。PDCシートは、高度に生存可能であり、高密度に充填された細胞を含有し、固定非依存性細胞増殖を示さず、間葉表面マーカーを発現し、MHC II発現を欠いている。ヌードラットの局所骨軟骨欠損モデルでは、自発軟骨修復を示さない非処置群とは対照的に、24週間にわたる異常な組織増殖を伴わないPDCシート移植により、4週間で安定した新生軟骨形成が観察された。再生軟骨はサフラニン-O陽性であり、II型コラーゲン、アグリカン及びヒトビメンチンを含み、I型コラーゲンを欠いており、形成された硝子様新生軟骨は宿主由来細胞というよりはむしろ移植PDCシートに由来することを示した。本研究では、持続可能な組織供給を利用して、PDCシートの安全性、及び操作されたPDCシートを用いた安定した硝子軟骨形成を実証した。
【国際調査報告】