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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(54)【発明の名称】導電率が増加した組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20230809BHJP
   H01M 8/0226 20160101ALI20230809BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20230809BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230809BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20230809BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C08F290/06
H01M8/0226
H01M8/0221
H01M4/66 A
H01B1/24 Z
C08F2/44 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502695
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(85)【翻訳文提出日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 US2021040509
(87)【国際公開番号】W WO2022015535
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】63/053,425
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520484209
【氏名又は名称】ライオンデルバセル アドヴァンスド ポリマーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ストロー、ジョン イー.
(72)【発明者】
【氏名】リドル、ジョディ ディー.
【テーマコード(参考)】
4J011
4J127
5G301
5H017
5H126
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011AB04
4J011FB05
4J011FB08
4J011GB03
4J011GB04
4J011PA03
4J011PA34
4J011PA86
4J011PB27
4J011PC02
4J011PC08
4J127AA03
4J127AA04
4J127BB032
4J127BB041
4J127BB081
4J127BB112
4J127BB221
4J127BB222
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4J127BC031
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4J127BC131
4J127BD182
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4J127BG052
4J127BG05Y
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4J127BG102
4J127BG10Y
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4J127BG172
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4J127CB242
4J127CC031
4J127CC032
4J127DA02
4J127DA19
4J127DA45
4J127DA61
4J127DA68
4J127FA37
5G301DA19
5G301DA42
5G301DA53
5G301DD10
5G301DE01
5H017AA10
5H017EE06
5H017EE07
5H126AA12
5H126BB06
5H126GG06
5H126GG18
5H126JJ01
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ06
5H126JJ09
(57)【要約】

燃料電池用の双極板などの導電性部材を製造するのに有用な熱硬化性バルク成形化合物(BMC)が記載される。熱硬化性バルク成形化合物は、グラフェンナノプレートレットが組み込まれており、グラフェンナノプレートレットを含まないBMCと比較して、スループレーン電気伝導率が少なくとも20%増加する。さらに、これらの組成物は、収縮率が低く、軽量部品の密度が低く、加工が容易である。この組成物は、100℃未満の温度で動作する、燃料電池及び化学蓄電池用の双極板を含むさまざまな導電性部材の製造に使用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ビニルエステル樹脂系と、
b)硬化剤パッケージと、
c)添加剤パッケージと、
d)BMC組成物の総重量に基づいて、含有量が0超~約2重量%あるグラフェンナノプレートレットと、を含む、バルク成形化合物(BMC)組成物。
【請求項2】
前記BMC組成物のスループレーン電気伝導率は、前記グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物よりも少なくとも20%高い、請求項1に記載のBMC組成物。
【請求項3】
前記BMC組成物のスループレーン電気伝導率は、前記グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物よりも約100%高い、請求項1に記載のBMC組成物。
【請求項4】
前記ビニルエステル樹脂系は、少なくとも2つのビニルエステル樹脂と、収縮制御添加剤と、少なくとも2つの前記ビニルエステル樹脂及び前記収縮制御添加剤を希釈するための少なくとも1つの反応性希釈剤モノマーと、少なくとも1つの追加の反応性モノマーとを含む、請求項1に記載のBMC組成物。
【請求項5】
前記硬化剤パッケージは、少なくとも1つの開始剤及び少なくとも1つの阻害剤を含む、請求項1に記載のBMC組成物。
【請求項6】
前記添加剤パッケージは、1つ以上の導電性充填材、1つ以上の導電性繊維、及び内部離型剤及び増粘剤を含む、請求項1に記載のBMC組成物。
【請求項7】
前記1つ以上の導電性充填材は、30~60ミクロンの小粒径及び120ミクロン超の大粒径を有するグラファイト粒子の混合物である、請求項6に記載のBMC組成物。
【請求項8】
請求項1のBMC組成物から形成される、部材。
【請求項9】
前記成分は、電気化学セルの一部である、請求項8に記載の部材。
【請求項10】
前記電気化学セルは、水素燃料電池又は化学蓄電池である、請求項9に記載の部材。
【請求項11】
a)ビニルエステル樹脂系であって、
i)少なくとも2つのビニルエステル樹脂と、
ii)収縮制御添加剤と、
iii)前記少なくとも2つのビニルエステル樹脂及び前記収縮制御添加剤を希釈するための少なくとも1つの反応性希釈剤モノマーと、を含む、
ビニルエステル樹脂系と、
b)少なくとも1つの開始剤を含む硬化剤パッケージと、
c)少なくとも1つの導電性充填材、少なくとも1つの導電性繊維、内部離型剤及び増粘剤を含む添加剤パッケージと、
d)BMC組成物の総重量に基づいて、含有量が0超~約2重量%あるグラフェンナノプレートレットと、を含む、バルク成形化合物(BMC)組成物。
【請求項12】
前記少なくとも2つのビニルエステル樹脂は、ビスフェノールAエポキシ系ビニルエステル樹脂であり、前記収縮制御添加剤はポリ酢酸ビニルである、請求項11に記載のBMC組成物。
【請求項13】
前記ビニルエステル樹脂系は、さらに、スチレン、p-エチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート及びエチレングリコールジアクリレートからなる群から選択される少なくとも1つの追加の反応性モノマーを含む、請求項11に記載のBMC組成物。
【請求項14】
前記開始剤は、高い性化温度を有する、請求項11に記載のBMC組成物。
【請求項15】
前記導電性充填材は、大粒径と小粒径の混合物を有するグラファイト粉末であり、前記導電性繊維は、粉砕された炭素繊維及びチョップド炭素繊維の混合物であり、前記内部離型剤は、ステアリン酸カルシウムであり、前記増粘剤は、メチレンジフェニルジイソシアネートである、請求項11に記載のBMC組成物。
【請求項16】
前記グラフェンナノプレートレットは、約1~約25ミクロンの平均プレートレットサイズを有する、請求項11に記載のBMC組成物。
【請求項17】
内部に埋め込まれたグラフェンナノプレートを有するビニルエステル系バルク成形化合物(BMC)熱硬化性組成物から成形された導電性板を含み、前記電気伝導率が約96~約110S/cmである、電気化学セルに用いられる双極板。
【請求項18】
前記グラフェンナノプレートレットの含有量は、前記ビニルエステル系バルク成形化合物(BMC)熱硬化性組成物の重量に基づいて、0超~約2重量%である、請求項17に記載の双極板。
【請求項19】
前記グラフェンナノプレートレットは、約1~約25ミクロンの平均プレートレットサイズを有する、請求項17に記載の双極板。
【請求項20】
少なくとも34mPaの曲げ強、及び約0.00025~約0.00085in/inの成形収縮率を有する、請求項17に記載の双極板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
「関連出願の相互参照」
本願は、特許協力条約に基づいて提出され、2020年7月17日に出願された米国仮出願第63/053,425号の優先権を主張し、その全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
「連邦政府が後援する研究報告書」
該当なし。
「マイクロフィッシュ付録参照」
該当なし。
【0002】
本開示は、バルク成形化合物に関し、特に、導電性部材に使用されるバルク成形化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
導電性材料は、電子工学、光電子工学、センサ、及び電気化学装置において様々な用途がある。部材又は装置のための製造材料を選択する際に、最終製品が期待とおりに機能し、且つ、高い生産コスト効率を保証するためには、伝導率を含む電気的特性だけでなく、物理的特性及び処理特性を考慮することが重要である。
【0004】
燃料電池スタックの双極板を例として、電気的特性と、物理的特性及び処理特性とのバランスを取ることの重要性を説明する。燃料電池は、通常、加圧容器に格納されている水素燃料と、空気からの酸素とを結合して、電気、熱、水を生成する。燃料電池は、燃料がある限り電気化学反応が起きるという点で電池と似ている。燃焼しないため、有害な排出物はなく、副生成物は純水である。このように、燃料電池システムは、様々な用途で電源として使用されることが多くなっている。これらのシステムは、建物や住宅内の定置型発電プラント、バックアップ又は非常用電源システム、環境に優しいエネルギーシステム,輸送用途及び携帯用電源として使用されることが見出された。
【0005】
プロトン交換膜(PEM)燃料電池は単純性、高効率性、軽量化、燃料柔軟性、低い作動温度及び長い寿命のおかげで、注目を集めている。これにより、携帯用途及び固定用途の両方、特に輸送と環境に優しいエネルギーの両方における幅広い適用性が可能になる。
【0006】
単一のPEM燃料電池は、1ボルト未満の電気を生成する。有用な電流及び電圧を生成するために、個々のPEM燃料電池を直列に接続して、セル‐スタックを形成する。スタック内の隣接するセルは、1つの燃料電池のアノード及び隣接セルのカソードとして機能する双極板によって分離される
【0007】
双極板は、燃料電池スタックのコアであり、燃料電池システムの性能、耐久性、及びコストに著しく影響を及ぼすことが知られている。双極板は、機械的/構造的なサポートを提供することに加え、集電体として機能し、板の両側のガス間の不透過性障壁としても機能するべきである。実際、米国エネルギー部(DOE)は、2020年まで、双極板の電気伝導率を100S/cmより大きくする目的を設定した。したがって、双極板は、燃料電池スタックの性能と耐久性を向上させるために、高い電気伝導率、燃料又は酸化剤流体に対する低い浸透性、良好な耐食性、及び良好な構造的完全性を有するべきである。これらの要件のため、コスト面で、双極板は依然としてPEM燃料電池スタック及びその他の電気化学セルにとって最も問題となる部材である。
【0008】
双極板に関連するコストを削減すると同時に、より薄くより軽いスタックによるより良い性能と高い伝導率の要件を満たすために、すでに多くの改善が行われた。しかしながら、高レベルの伝導率及び所望の物理的特性及び処理特性を得ることは困難であることが証明された。
【0009】
ステンレス鋼などの金属で製造された双極板で、DOEの電気伝導率の目的を達成できる。しかしながら、金属ハードウェアは、高密度(セル当たりの重量がより大きい)、形成、機械加工及び組み立てのコストが高く、高価なコーティングを必要とし、燃料電池環境における腐食の可能性に苦しみ、これは、薄くて軽い双極板の費用効果の高い製造を妨げる。
【0010】
機械加工されたグラファイト板は、金属の重量及び腐食の問題を解決したが、高い機械加工コストを必要とする高価な材料である。グラファイトの脆性は、薄い部材を使用してスタックのサイズ及び重量を低減することを妨げ、これは輸送用途にとって特に重要である。さらに、グラファイトは、面内方向のみで、DOEの電気伝導率目的を満たすことを示す。燃料電池などの装置では、電子がアノード側の双極板によって収集されてから双極板を介してカソード側に輸送されるため、スループレーン伝導率がより重要である。グラファイトのスループレーン電気伝導率は約20S/cmである。したがって、機械加工されたグラファイト板はDOEの電気伝導率目的を達成することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
導電性ポリマー系複合材料は、金属及びグラファイト材料の代替材料として開発された。主に、グラファイト粒子や繊維などの導電性添加剤を充填したポリマーマトリックス(熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂)の圧縮成形によって、さまざまな複合双極板が製造されてきた。これらのポリマー系複合材料は、耐食性及び軽量化の点で金属材料よりも優れ、低コストで、薄い部材に成形することができる。しかし、ほとんどのポリマーは、依然としてスループレーン電気伝導率が非常に低く、最大50S/cm程度であり、DOEの電気伝導率目的を達成できない。過剰な量の導電性添加剤を樹脂に組み込むことができるが、これにより、充填されたポリマー又は液体樹脂の粘度が非常に高くなり、処理が非常に困難になる。
【0012】
ポリマー系複合材料は、所望の強度及びサイズを有する費用効果の高い部材を製造するために、多くの利点を有するが、処理可能性に影響を与えることなく電気伝導率を高めるために、ポリマー系複合材料のさらなる改良が依然として必要である。理想的には、ポリマー系複合材料は、DOEの目的を満たすスループレーン電気伝導率を有し、燃料電池やケミカルフロー電池などの電気化学装置に使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書には、増加したスループレーン電気伝導率を有するビニルエステル系バルク成形化合物(BMC)が記載されている。特に、本明細書に開示される新規組成物は、グラフェンナノプレートレットを導電性ビニルエステルベースBMC熱硬化性複合材料に組み込んで、グラフェンナノプレートレットを含まない同様のBMCと比較して、スループレーン電気伝導率が少なくとも20%増加する。
【0014】
これらの新規BMCは、機械的に安定し、耐久性があり、酸化及び腐食に耐性があり、低い成形収縮率を有する。いくつかの実施形態において、これらの新規組成物は、増加したスループレーン電気伝導率を有し、且つ、既知の導電性ビニルエステルベースBMC熱硬化性組成物のCLTE、低収縮率、寸法安定性、熱伝導率及び/又は強度のうちの1つ以上の特性を維持または改善する。当該新規BMC組成物は、減少したスクラップ、減少した欠陥及び減少した後処理に加え、改善された圧縮成形性能及びより薄い部材を成形する能力をさらに有する。
【0015】
本明細書に開示されるBMC組成物のいくつかの実施形態では、非金属材料のためのニーズを満たすために、スループレーン電気伝導率を100%増加させて約100S/cmにし、前記非金属材料は、低収縮率を有する薄くて、平坦で、軽量の双極板に成形されるため、板の燃料電池スタック内での密閉が維持される。さらに、これらの高導電性BMCは、双極板に使用される他のポリマー材料よりも処理やすい。これらの新規組成物は、低減した脆さを有し、網状板への成形、製造や機械加工が容易である。したがって、この組成物は、DOEの目的と同等の導電率を示しながら、既知のBMCの薄さ、重量、収縮率、耐久性、強度、及び成形性を維持する電気化学装置の構成要素に成形できる。
【0016】
双極板及び他の電気化学装置の構成要素を含む、現在開示されているBMCで部材を成形する方法も記載されている。
【0017】
いくつかの実施形態において、新規BMC組成物から形成される部材は、電気化学装置用途を含む作動温度が100°C未満の用途に使用される。
【0018】
本開示は、以下の実施形態の任意の1つ以上の組み合わせを含む。
【0019】
ビニルエステル樹脂系、硬化剤パッケージ、添加剤パッケージ及びグラフェンナノプレートレットを有するバルク成形化合物(BMC)組成物であって、当該グラフェンナノプレートレットの含有量は、BMC組成物の総重量に基づいて、0超~約2重量%である。このBMC組成物は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物より少なくとも20%高いスループレーン電気伝導率を有する。選択的に、このBMC組成物のスループレーン電気伝導率は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物より約100%大きい。
【0020】
ビニルエステル樹脂系、硬化剤パッケージ、添加剤パッケージ及びグラフェンナノプレートレットを有するバルク成形化合物(BMC)組成物であって、当該BMC組成物は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物よりも少なくとも20%高いスループレーン電気伝導率を有する。選択的に、前記BMC組成物のスループレーン電気伝導率は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物よりも約100%高い。
【0021】
ビニルエステル樹脂系、硬化剤パッケージ、添加剤パッケージ及びグラフェンナノプレートレットを有するバルク成形化合物(BMC)組成物であって、ここで、当該BMC組成物は、成形される際に、約96~約110S/cmのスループレーン電気伝導率を有する。
【0022】
約10~約30重量%含有量のビニルエステル樹脂系、約0.05~約1.7重量%含有量の硬化剤パッケージ、約50~90未満重量%含有量の添加剤パッケージ、及び0重量%超~約5重量%含有量のグラフェンナノプレートレットを有するバルク成形化合物(BMC)組成物であって、ここで、当該BMC組成物は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物より少なくとも20%高いスループレーン電気伝導率を有する。選択的に、当該BMC組成物のスループレーン電気伝導率は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物より約100%高い。
【0023】
上記のBMC組成物のいずれかであって、ここで、前記ビニルエステル樹脂系は、少なくとも2つのビニルエステル樹脂、収縮制御添加剤、少なくとも2つのビニルエステル樹脂及び収縮制御添加剤を希釈するための少なくとも1つの反応性希釈剤モノマー、及び、任意の少なくとも1つの追加の反応性モノマーを含む。
【0024】
バルク成形化合物(BMC)組成物は、(a)少なくとも2つのビニルエステル樹脂、収縮制御添加剤、少なくとも2つのビニルエステル樹脂及び収縮制御添加剤を希釈するための少なくとも1つの反応性希釈剤モノマー、及び任意の少なくとも1つの追加の反応性モノマーを含むビニルエステル樹脂系と、(b)少なくとも1つの開始剤を含む硬化剤パッケージと、(c)少なくとも1つの導電性充填材、少なくとも1つの導電性繊維、内部離型剤及び増粘剤を含む添加剤パッケージと、(d)BMC組成物の総重量に基づいて、0超~約2重量%まで含有量のグラフェンナノプレートレットと、を有する。当該BMC組成物は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物より少なくとも20%高いスループレーン電気伝導率を有する。いくつかの実施形態において、当該組成物は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物より100%高いスループレーン電気伝導率を有する。選択的に、この組成物は、成形時に少なくとも96S/cmのスループレーン電気伝導率を有することができる。
【0025】
バルク成形化合物(BMC)組成物は、(a)少なくとも2つのビニルエステル樹脂、収縮制御添加剤、少なくとも2つのビニルエステル樹脂及び収縮制御添加剤を希釈するための少なくとも1つの反応性希釈剤モノマー、及び任意の少なくとも1つの追加の反応性モノマーを含むビニルエステル樹脂系と、(b)少なくとも1つの開始剤を含む硬化剤パッケージと、(c)少なくとも1つの導電性充填材、少なくとも1つの導電性繊維、内部離型剤及び増粘剤を含む添加剤パッケージと、(d)BMC組成物の総重量に基づいて、0超~約2重量%まで含有量のグラフェンナノプレートレットと、を有する。いくつかの実施形態において、当該組成物は、グラフェンナノプレートレットを含まない同一のBMC組成物より100%高いスループレーン電気伝導率を有する。選択的に、この組成物は、成形時に少なくとも96S/cmのスループレーン電気伝導率を有することができる。
【0026】
ビニルエステル樹脂系における少なくとも1つの追加の反応性モノマーは任意選択的なものではない上記BMC組成物のいずれかである。
【0027】
前記少なくとも1つの追加の反応性モノマーは、ビニルエステル樹脂系に存在し、且つ、スチレン、p-エチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート及びエチレングリコールジアクリレートからなる群から選択される上記BMC組成物のいずれかである。
【0028】
少なくとも1つの反応性希釈剤モノマーは、スチレン、p-エチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート及びエチレングリコールジアクリレートからなる群から選択される上記BMC組成物のいずれかである。
【0029】
少なくとも1つの反応性希釈剤モノマーと少なくとも1つの追加の反応性モノマーとは同じモノマーである上記BMC組成物のいずれかである。
【0030】
少なくとも1つの反応性希釈剤モノマーと少なくとも1つの追加の反応性モノマーとは異なるモノマーである上記BMC組成物のいずれかである。
【0031】
少なくとも1つの追加の反応性モノマーはジビニルベンゼンであり、少なくとも1つの反応性希釈剤モノマーはスチレンである上記BMC組成物のいずれかである上記BMC組成物のいずれかである。
【0032】
少なくとも2つのビニルエステル樹脂はビスフェノールAエポキシ系ビニルエステル樹脂であり、収縮制御添加剤はポリ酢酸ビニルである上記BMC組成物のいずれかである。
【0033】
ビニルエステル樹脂系は、少なくとも1つの高粘度ビニルエステル樹脂及び少なくとも1つの低粘度ビニルエステル樹脂を含む上記BMC組成物のいずれかである。
【0034】
ビニルエステル樹脂系中の前記ビニルエステル樹脂は高い粘度を有する上記BMC組成物のいずれかである。
【0035】
ビニルエステル樹脂系中の前記ビニルエステル樹脂は低い粘度を有する上記BMC組成物のいずれかである。
【0036】
硬化剤パッケージは少なくとも1つの開始剤及び任意の阻害剤を含む上記BMC組成物のいずれかである。いくつかの実施形態において、当該阻害剤はパラベンゾキノンである。選択的に、当該硬化剤パッケージは、少なくとも1つの開始剤及び少なくとも1つの阻害剤を含む。
【0037】
開始剤は高い活性化温度を有する上記BMC組成物のいずれかである。
【0038】
添加剤パッケージは、1つ以上の導電性充填材、1つ以上の導電性繊維、内部離型剤及び任意の増粘剤を含む上記BMC組成物のいずれかである。いくつかの実施形態において、増粘剤は、任意選択的なものではなく、存在するものである。
【0039】
1つ以上の導電性充填材は、様々な形状及び粒径を有するグラファイト粉末である上記BMC組成物のいずれかである。
【0040】
1つ以上の導電性充填材は30~60ミクロンの小粒径及び120ミクロン以上の大粒径を有するグラファイト粒子の混合物である上記BMC組成物のいずれかである。
【0041】
添加剤パッケージ中の導電性繊維は、少なくとも1つの粉砕された炭素繊維及び少なくとも1つのチョップド炭素繊維を含む上記BMC組成物のいずれかである。
【0042】
添加剤パッケージは、大粒径と小粒径の混合物を有するグラファイト粉末である導電性充填材と、粉砕された炭素繊維とチョップド炭素繊維の混合物である導電性繊維と、ステアリン酸カルシウムである内部離型剤と、メチレンジフェニルジイソシアネートである増粘剤とを有する上記BMC組成物のいずれかである。
【0043】
グラフェンナノプレートレットの含有量が、BMC組成物の総重量に基づいて、0超~約2重量%である上記BMC組成物のいずれかである。
【0044】
グラフェンナノプレートレットは、約1~約25ミクロンの平均プレートレットサイズを有し、且つその含有量がBMC組成物の総重量に基づいて、0超~約2重量%である上記BMC組成物のいずれかである。
【0045】
本開示は、さらに、上記の新規グラフェンナノプレートレットで強化されたビニルエステル系BMC組成物のいずれかから形成される部材、及びその製造方法を含む。いくつかの実施形態において、当該部材は、自動車及び化学フローバッテリを含む、固定用途又は携帯用途に使用され得る燃料電池のための部品として使用できる。
【0046】
上記BMC組成物のいずれかから製造される部材は、水素燃料電池、化学フローバッテリ、又は化学蓄電池などの電気化学セルの部品である。
【0047】
電気化学セル用の双極板は、上記BMC組成物のいずれから成形された導電性板を含み、ここで、グラフェンナノプレートレットの量は、前記双極板に約96~約110S/cmの電気伝導率を提供するのに有効な量である。
【0048】
グラフェンナノプレートレットの含有量が、上記のBMC組成物の重量に基づいて、0超~約2重量%である上記の部材又は双極板のいずれかである。
【0049】
グラフェンナノプレートレットの平均プレートレットサイズが約1~約25ミクロンである上記の部材又は双極板のいずれかである。
【0050】
少なくとも34mPaの曲げ強度、及び約0.00025~約0.00085in/inの成形収縮率を有する上記の部材又は双極板のいずれかである。
【0051】
100℃未満の作動温度の環境で使用される上記の部材又は双極板のいずれかである。
【0052】
作動温度が100℃未満の燃料電池に組み込まれられる上記の部材又は双極板のいずれかである。
【0053】
上記のBMC組成物のいずれかから上記の部材又は双極板のいずれかを製造する方法は、ビニルエステル樹脂系とグラフェンナノプレートレットとを高せん断力で混合して、グラフェンナノプレートレットを樹脂系に分散させるステップ(a)と、硬化剤パッケージ及び添加剤パッケージを(a)からの混合物に添加して、BMC組成物のための剪断力下で混合するステップ(b)と、少なくとも150°Cの温度で、上記の混合物を部材又は双極板に圧縮成形するステップ(c)とを含む。
【0054】
上記の組成物及び方法は、PEM燃料電池用の双極板の製造に使用されていると記載されているが、導電性材料を必要とする他の用途に広く適用できる。上記の組成物及び方法は、他の水素燃料電池、化学フローバッテリ又は化学蓄電池のような、高導電性成分を必要とする電気化学装置用の部材を形成するために使用できる。選択的に、本明細書に記載の組成物及び方法から形成される部材は、建物及び住宅内の定置型発電プラント、バックアップ又は非常用電源システム、環境に優しいエネルギーシステム、輸送用途及び携帯用電源に使用できる。
【0055】
この概要は、以下の詳細な説明でさらに説明されるいくつかの概念を紹介するために提供される。この概要は、請求項の主題の主要な特徴や本質的な特徴を特定することを意図するものではなく、請求項の主題の範囲を限定するための補助として使用されることを意図するものでもない。
【発明を実施するための形態】
【0056】
定義
「モノマー」という用語は、重合性部分を有する任意の化合物をいう。ポリマーは1つ以上のモノマーを含むもの(例えばプロピレン及びエチレンを含むポリマー)として説明されている場合、上記のポリマーは、モノマー自体(例えばCH=CH)ではなく、モノマーに由来する繰り返し単位(例えば-CH-CH-)を含む。
【0057】
本明細書に使用されるように、「ポリマー」という用語は、同じ又は異なるタイプのモノマーを重合することによって調製された高分子化合物を言う。「ポリマー」という用語には、ホモポリマー、共重合体(ブロック及びランダムを含む)、ターポリマー、インターポリマーなどが含まれる。
【0058】
本明細書に使用されるように、「ポリマー組成物」とは、少なくとも1つのポリマーから製造される組成物及び/又は少なくとも1つのポリマーを含む組成物を言う。
【0059】
本明細書に使用される「樹脂」という用語は、一般に、ポリマー、ポリマー前駆体材料及び/又は様々な添加剤又は化学反応性成分との混合物又は配合物を言う。
【0060】
本明細書に使用されるように、「熱可塑性ポリマー」という用語は、熱にさらされると軟化し、室温に冷却されると元の状態に戻るポリマーをいう。
【0061】
本明細書に使用されるように、「熱硬化性ポリマー」という用語は、軟質固体、粘性液体プレポリマー又は樹脂からの硬化によって不可逆的に硬化するポリマーをいう。「熱硬化性樹脂」は、熱硬化性ポリマーに硬化することができる。
【0062】
「ビニルエステル樹脂」又は「ビニルエステル」という用語は、本明細書では互換的に使用され、エポキシ樹脂とモノカルボン酸とのエステル化合成によって製造される組成物を言う。「ビニル」基は、重合しやすいエステル置換基を言う。ビニルエステルの価格及び機械的特性の両方がポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との間にあるため、ビニルエステル樹脂はポリエステルとエポキシ樹脂との間のものであるが、ビニルエステルは、靭性(伸び)と耐食性の点で、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂の両方より優れている。ビニルエステルは、その用途に応じて、貯蔵期間又は成形処理の前に、スチレンなどの反応性希釈剤に溶解されることができる。
【0063】
本明細書に使用されるように、樹脂又は組成物に関する「ビニルエステル系」という用語は、樹脂又は組成物が少なくとも1つのビニルエステルを有することをいう。
【0064】
本明細書に使用されるように、「反応性モノマー」という用語は、樹脂に添加される物質をいい、その後の共重合による硬化中に、成形化合物の一部になる。「反応性希釈剤」は、反応性モノマーであり、加工用樹脂の粘度を希釈又は低減する役割も果たす。
【0065】
本明細書に使用されるように、「バルク成形化合物」という用語は、様々な不活性充填材、繊維強化剤、触媒、安定剤、及び成形用粘性化合物を形成する任意の添加剤及び着色剤の熱硬化性樹脂ブレンドを指す。
【0066】
本明細書に使用されるように、「収縮制御添加剤」とは、収縮制御添加剤を含まない対応する化合物から成形される部品と比較して、成形又は硬化処理中に部品の表面平滑性及び他の特性を制御、さらには除去、収縮及び/又は改善する添加剤を指す。現在開示されているBMCでは、収縮制御添加剤は非反応性熱可塑性ポリマーである。
【0067】
本明細書に使用されるように、「双極板」という用語は、燃料ガス、空気、及び冷却剤を均一に分配し、電流を伝導し、活性領域から熱を除去し、ガス及び冷却剤の漏れを防止するために、燃料電池に使用される板を指す。
【0068】
「部品」、「物品」及び「部材」という用語は、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、センサ及び電気化学装置に使用される成形又は半成形の導電性部材を言い、本明細書では交換可能に使用される。
【0069】
本明細書に使用されるように、「電気化学装置」という用語は、化学反応から電気エネルギーを発生させることができる装置、又は電気エネルギーを利用して化学反応を起こすことができる装置を言う。これには、水素燃料と酸素又は別の酸化剤との電気化学反応を通じて燃料からの化学エネルギーを電気に変換する燃料電池や化学蓄電池が含まれる。
【0070】
本明細書に使用されるように、「室温」という用語は、摂氏23度前後の温度を言う(ただし、ASTMに異なる定義がない限り、「室温」は、当該特定のテスト/手順/方法についてASTMに定義される温度を指す)。
【0071】
本明細書に使用されるように、「重量パーセント」又は「重量%」という用語は、特に説明がない限り、予備成形及び予備硬化された最終BMC組成物の総重量に基づいていうことである。
【0072】
特許請求の範囲又は明細書において、「一(a)」又は「1つ(an)」という単語を「含む」という用語と組み合わせて使用する場合、文脈上別段の示しがない限り、1つ以上を意味する。
【0073】
「約」という用語は、表示値に測定の誤差限界を加えた値又は引いた値、又は、10%を加えた値又は引いた値を指す。
【0074】
請求項における「又は」という用語は、代替案のみを参照すること又は代替案が相互に排他的であることを明示しない限り、「及び/又は」を意味する。
【0075】
「備える」、「有する」、「含む」及び「含有する」という用語(並びにそれらの変形)は、オープン型連結動詞であり、請求項で使用される場合、他の要素の追加が可能である。
【0076】
「からなる」というフレーズは閉じ型であり、追加要素はすべて除外される。
【0077】
「本質的に……からなる」というフレーズは、追加の材料要素を除外するが、本発明の本質を実質的に変更しない非材料要素を含むことを可能にする。
【0078】
本明細書では、以下の略語が使用される。
【0079】
【表1】
テスト方法
【0080】
以下のテスト方法の1つ以上を使用して、本明細書に開示される組成物の成分、組成物自体、及び得られた成形品に対してテスト及び分析を行う。
【0081】
密度であって、g/cmで与えられ、「変位によるプラスチックの密度と比重(相対密度)の標準テスト方法」と題されたASTM D792-19で測定される。本明細書で使用される「ASTM D792」という用語は、2019年に発表されたテスト方法を指し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0082】
曲げ弾性率(又は「屈曲率」)及び曲げ強度(又は「屈曲強度」)であって、1平方インチ当たりのポンド力(PSI)で与えられ、且つ強化及び非強化のプラスチック及び電気絶縁材料の曲げ特性に関する標準テスト方法」と題するASTMD790-17で測定される。本明細書で使用される「ASTM D790」という用語は、2017年に発表されたテスト方法を指し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
圧縮強度であって、1平方インチ当たりのポンド力(PSI)で与えられ、「剛性プラスチックの圧縮特性の標準テスト方法」と題するASTM D695-15で測定される。本明細書で使用される「ASTM D695」という用語は、2015年に発表されたテスト方法を指し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0084】
引張強度、引張弾性率及び引張伸び(又は歪み)であって、1平方インチ当たりのポンド力(PSI)で与えられ、「プラスチックの引張特性の標準テスト方法」と題するASTM D638-14で測定される。本明細書で使用される「ASTM D638」という用語は、2014年に発表されたテスト方法を指し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
圧縮強度と引張強度とは異なる特性である。圧縮強度は、サイズを縮小する傾向がある負荷に耐える材料の能力である。引張強度は、試料を引き延ばしたり引き離したりする傾向のある負荷に耐える材料の能力である。
【0086】
ノッチ付きアイゾット衝撃強度であって、材料の耐衝撃性を測定し、且つft*lb/inで与えられる。ノッチ付きアイゾット衝撃強度の標準テスト方法は、「プラスチックのイゾッド振り子耐衝撃性を測定する標準テスト方法」と題するASTM D256-10である。本明細書に使用される「ASTM D256」という用語は、2018年に第10版として発行されたテスト方法を指す。
【0087】
成形収縮率であって、室温の金型部品と室温の金型との間の差(RT金型部品/RT金型)を測定するものであり、且つリニア・インチ当たりのインチ(in/in)で与えられる。収縮率の標準テスト方法は、「熱可塑性プラスチックの成形寸法による収縮測定の標準テスト方法」と題するASTM D955-08である。本明細書で使用される「ASTM D955」という用語は、2014年に発表されたテスト方法を指し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる
【0088】
線状熱膨張係数(CLTE)であって、温度上昇の影響を受けて材料が膨張する能力を測定するものである。本願において、CLTEは、圧縮成形されたプラークから切断したアニールされた試験片の熱機械分析(TMA)によって測定されるものである。-30℃~150℃の温度範囲におけるCLTEの平均割線値(代表的温度は35℃)は、(10E-5mm/mm/℃)で与えられる。各データポイントは、「熱機械分析による固体材料の線形熱膨張の標準テスト方法」と題するASTME831-19で測定される。本明細書で使用される「ASTM E831」という用語は、2019年に発表されたテスト方法を指し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0089】
熱伝導率であって、材料が熱を伝導する能力を測定し、W/m-Kで与えられる。熱伝導率の標準テスト方法は、「フラッシュ法による熱拡散率の標準テスト方法」と題するASTM E1461-13である。本明細書に使用される「ASTM E1461」という用語は、2013年に発行されたテスト方法を指す。
【0090】
特に断りのない限り、本明細書に記載の材料の電気伝導率の尺度は、スループレーン(z方向)の電気伝導率である。スループレーン電気伝導率は、センチメートルあたりのシーメンス(S/cm)で与えられ、且つ2004年1月13日の、文献番号05-160の「複合材料のスループレーン電気伝導率テストプロトコル」と題する米国燃料電池委員会のプロトコルで測定される。「USFCC」という用語は、テスト方法を指す。
【0091】
上記のASTM標準については、ASTMWebサイト(www.astm.org)にアクセスするか、ASTMカスタマーサービス(service@astm.org)にお問い合わせください。
開示の実施形態の説明
【0092】
本開示は、改善された導電性熱硬化性バルク成形化合物(BMC)組成物を提供する。特に、本発明のBMC組成物はグラフェンナノプレートレットが組み込まれ、グラフェンナノプレートレットを含まない類似のBMCと比較して、スループレーン電気伝導率が少なくとも20%増加するとともに、BMCに類似する機械的安定性、耐久性、酸化及び腐食に対する耐性、及び加工性を維持又は改善する。さらに、本明細書に開示されるBMCは、成形時、少なくとも34mPaの曲げ強度、及び約0.00025~約0.00085in/inの低成形収縮率を有する。したがって、グラフェンナノプレートレットの組み込みにより、その後の成形品の性能を向上させるだけでなく、材料の用途も増やせる。
【0093】
より詳細には、本明細書に開示される熱硬化性組成物は、典型的な導電性BMC組成物のスループレーン電気伝導率を少なくとも20%を増加させるために、グラファイトナノプレートレットが組み込まれた導電性ビニルエステルベースBMCである。グラファイトナノプレートレットが表面積の大きい小さなプレートレットであり、ベースのポリマー樹脂によく分散するため、グラファイトナノプレートレットの添加は、電気伝導率を高めると考えられている。これにより、BMC組成物中の導電性ネットワーク及びそれから成形された物品を強化することができる。いくつかの実施形態において、双極板及び電気化学装置の他の成分に使用されるBMCは、グラフェンナノプレートレットの組み込みによって、スループレーン電気伝導率が100%増加した。スループレーン電気伝導率が高いほど、強度、低収縮率、加工性などの他の特性を犠牲にすることなく、これらのBMCの適用性が向上した。
【0094】
本明細書に記載のBMC熱硬化性組成物は、(1)ビニルエステル樹脂系、(2)硬化剤パッケージ、(3)添加剤パッケージ及び(4)含有量が、BMC熱硬化性組成物の総重量に基づいて0超~約2重量%であるグラフェンナノプレートレットを含む。BMC熱硬化性組成物は、薄くて複雑な部材を含む様々な形状及びサイズの高導電性部材に圧縮成形されることができる。本明細書に開示されるBMCは、成形時、高伝導率、低成形収縮率、良好な機械的特性及び強度特性を有するとともに、軽量であり、それにより、これらの組成物が電気化学セル産業に適するものになる。本開示のいくつかの態様では、組成物は、燃料電池製造業者に受け入れられる物理的及び機械的特性(低収縮率、密度、引張強度、曲げ弾性率)並びにスループレーン電気伝導率を有する双極板に成形されることができる。
【0095】
本開示の一態様では、
(a)ビニルエステル樹脂系であって、
(i)少なくとも2つのビニルエステルと、
(ii)収縮制御添加剤と、
(iii)1つ以上のビニルエステル及び収縮制御添加剤を希釈するための1つ以上の反応性モノマーと、を含む、
ビニルエステル樹脂系と、
(b)少なくとも1つの開始剤及び任意の阻害剤を含む硬化剤パッケージと、
(c)1つ以上の導電性添加剤及び1つ以上の非導電性添加剤を含む添加剤パッケージと、
(d)約1~約25ミクロンの間の平均プレートレットサイズを有するグラフェンナノプレートレットと、を含むBMC組成物を提供する。
【0096】
本開示の別の態様では、
(a)ビニルエステル樹脂系であって、
(i) 少なくとも2つのビニルエステルと、
(ii)収縮制御添加剤と、
(iii)1つ以上のビニルエステル及び収縮制御添加剤を希釈するための2つ以上の反応性モノマーと、を含む、
ビニルエステル樹脂系と、
(b)少なくとも1つの開始剤及び任意の阻害剤を含む硬化剤パッケージと、
(c)グラファイト粉末、炭素繊維、増粘剤及び内部離型剤を含む添加剤パッケージと、
(d)約1~約25ミクロンの間の平均プレートレットサイズを有するグラフェンナノプレートレットと、を含むBMC組成物を提供する。
【0097】
本開示の別の態様では、100℃未満の温度で動作する電気化学装置に用いられる部材に成形され得るBMC組成物を提供する。これらの電気化学装置には、水素燃料電池及び化学蓄電池が含まれる。
【0098】
本開示のさらに別の態様では、(1)ビニルエステル樹脂系、(2)硬化剤パッケージ、(3)添加剤パッケージ、及び(4)含有量が、BMC組成物の総重量に基づいて0超~約2重量%であるグラフェンナノプレートレットを含むBMC組成物から成形された部材を提供する。これらの部材は、電気化学セルに使用できる。
【0099】
本開示の別の態様では、水素燃料電池及び化学蓄電池などの、100℃未満の温度で動作する電気化学装置に用いられる双極板に成形され得るBMC組成物を提供する。
【0100】
本開示の別の態様では、燃料電池用の双極板などの成形品を製造する方法であって、当該方法は、
ビニルエステル樹脂系とグラフェンナノプレートレットとを高せん断力で混合して、グラフェンナノプレートレットを樹脂系に分散させるステップ(a)と、
硬化剤パッケージ及び添加剤パッケージを(a)からの混合物に添加し、BMC組成物のためのせん断力で混合するステップ(b)と、
少なくとも150℃の温度で混合物を圧縮成形するステップ(c)と、を含む。
【0101】
本開示の又の態様では、以下の特性のうち2つ以上の特性を有するBMC組成物、又はそれから成形された部材を提供する。
【0102】
スループレーン電気伝導率であって、USFCC文献No.05-160(2004年1月13日)に従って測定され、グラフェンナノプレートレットを含まない類似のBMCより少なくとも20%高い。
【0103】
スループレーン電気伝導率であって、USFCC文献No.05-160(2004年1月13日)に従って測定され、約96~約110S/cm以上である。
【0104】
密度であって、ASTM D792によって測定され、約1.80から1.90g/cmである。
【0105】
線熱膨張率(CLTE)であって、温度上昇の影響下で材料が膨張する能力を測定するものである。上記BMC組成物、又はそれから成形された部材は、ASTM E831によって測定され、zとx-yとの平面におけるCLTEは約5~約15ppmである。
【0106】
成形収縮率であって、室温の金型部品と室温の金型との差(RT金型部品/RT金型)を測定するものである。BMC組成物、又はそれから成形された部材は、ASTM D955によって測定され、約0.00025~約0.00085インチ/インチの成形収縮率を有することができる。
【0107】
熱伝導率であって、材料が熱を伝導する能力を測定するものである。BMC組成物、又はそれから成形された部材は、ASTM E1461によって測定され、平均スループレーン熱伝導率が約10から約25W/m・Kである。
【0108】
引張特性であって、制御された張力により引張される際の材料の挙動を測定するものである。引張強度とは、試験片を引き伸ばしたり、引き離したりする傾向がある荷重に耐える材料の能力であり、引張弾性率は材料剛性の尺度であり、引張伸びは、材料の延性の尺度である。BMC組成物又はそれから成形された部材は、いずれもASTM D638によって測定され、平均引張強度が4000~4500psi(~27~31MPa)で、平均引張弾性率が2.2x10~2.6x10psi(~15,168~17927MPa)で、平均引張伸びが約0.004~約0.006in(~0.1~0.16mm)であり得る。
【0109】
曲げ特性であって、曲げられるとき、又は湾曲されたときの材料の挙動を測定するものである。曲げ強度は、負荷下での変形に耐える材料の能力であり、曲げ弾性率は、湾曲に対する材料の抵抗の尺度である。BMC組成物、又はそれから成形された部材は、ASTM D790で測定され、少なくとも、平均曲げ強度が4900psi(~34Mpa)であり、平均曲げ弾性率が1.9x10~2.3x10psi(~13100~15858MPa)であり得る。
【0110】
圧縮強度であって、サイズを縮小する傾向のある荷重に耐える材料の能力である。BMC組成物、又はそれから成形された部材は、ASTM D695によって測定され、少なくとも、平均圧縮強度が7000psi(~48MPa)であり得る。
【0111】
ノッチ付きアイゾット衝撃強度であって、材料の耐衝撃性を測定したものである。BMC組成物、又はそれから成形された部材は、ASTM D295によって測定され、少なくとも、平均ノッチ付きアイゾット衝撃は0.3ft*lb/inであり得る。
【0112】
別の態様では、本明細書に開示される1つ以上のBMC組成物を含む製造された導電性部材を提供する。いくつかの実施形態において、導電性部材は、燃料電池又は化学蓄電池の一部である。いくつかの実施形態において、導電性部材は、燃料電池スタック内の双極板である。いくつかの実施形態において、このような成形品は、燃料電池産業で、自動車用の重量のより低い燃料電池を製造することを追求するのを支援するために使用されることができ、それにより、燃料電池が燃焼エンジンよりも高い効率で動作するときの燃料効率を改善し、排出物を低減することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される成形された双極板は、約100S/cm以上のスループレーン電気伝導率を有する以外に、現在のBMC組成物の属性プロファイル、例えば、現在の非金属双極板ために使用されるものを示す。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるBMC組成物は、既存のツールと互換性があるため、再加工費用を一切必要としないか、又は限られた費用しか必要としない。
I.ビニルエステル樹脂系
【0113】
ビニルエステル樹脂系は、少なくとも2つのビニルエステル、収縮制御添加剤、少なくとも2つのビニルエステル及び/又は収縮制御添加剤の希釈剤として作用する少なくとも1つの反応性モノマー、及び、任意の1つ以上の追加の反応性モノマーを含む。
【0114】
本発明の組成物に、任意の熱硬化性ビニルエステルを使用することができる。いくつかの実施形態において、高粘度ビニルエステル樹脂を低粘度ビニルエステル樹脂と結合して、得られた複合材料の機械的強度を改善する。選択的に、ビニルエステル樹脂系は、全ての高粘度ビニルエステル樹脂であってもよいし、全ての低粘度ビニルエステル樹脂であってもよい。
【0115】
ビニルエステルの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約10~約30重量%である。いくつかの実施形態において、ビニルエステルの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約10~約15重量%であり、選択的に、ビニルエステルの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約20~約30重量%であり、選択的に、ビニルエステルの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約12~約18重量%であり、選択的に、ビニルエステルの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約12~約15重量%であり、選択的に、ビニルエステルの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約10~約20重量%である。
【0116】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのビニルエステル樹脂は、ビスフェノール-A(BPA)エポキシとメタクリル酸とを反応させることによって調製されるビスフェノールAエポキシビニルエステルである。選択的に、ビニルエステル樹脂系として、ビスフェノールAエポキシビニルエステル及びノボラックエポキシビニルエステルを使用することができる。他の実施形態では、ビニルエステルは、AOC、Ineos、及びPolyntから購入できる。
【0117】
ビニルエステル樹脂系は、収縮制御添加剤(SCA)をさらに含む。収縮制御添加剤は、広く入手可能であり、成形及び硬化プロセス中の収縮を防ぐためにBMCに使用される。本発明の組成物中の収縮制御添加剤は、ビニルエステル樹脂及び反応性モノマーに可溶なものでなければならず、ポリ(ビニルトルエン)(PVT)、ポリ(酢酸ビニル)(PVAc)などの熱可塑性ポリビニル誘導体であってもよい。選択的に、ポリスチレン(PS)を収縮制御添加剤として使用することができる。いくつかの実施形態において、収縮制御添加剤はポリ酢酸ビニルである。
【0118】
ビニルエステル樹脂系に存在する収縮制御添加剤の量は、ビニルエステル樹脂及び希釈反応性モノマーによって決定される。収縮制御添加剤の含有量は、BMC化合物の0超~約7.5重量%である。いくつかの実施形態において、収縮制御添加剤の含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて、0超~約5重量%であり、選択的に、収縮制御添加剤の含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約4~約7.5重量%の量であり、選択的に、収縮制御添加剤の含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約3.5~約5重量%である。
【0119】
ビニルエステル樹脂系は、さらに、希釈反応性モノマーとしてビニルエステル樹脂及び収縮制御添加剤中に存在する、及び/又は、希釈反応性モノマー以外に別途に添加できる1つ以上の反応性モノマーも含む。
【0120】
ビニルエステル樹脂系中の少なくとも1つの反応性モノマーは、樹脂の粘度を下げるための、ビニルエステル樹脂及び/又は収縮制御添加剤に存在する希釈反応性モノマーである。希釈反応性モノマーには、スチレン、p-エチルスチレン、α-メチルスチレン、他のスチレン誘導体、ビニルトルエン(VT)、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、及びエチレングリコールジアクリレートが含まれるが、これらに限定されない。希釈反応性モノマーは、ビニルエステル樹脂の重量の約25~35重量%を占めることができ、選択的に、希釈反応性モノマーは、ビニルエステル樹脂の重量の約25~約32重量%を占めることができ、選択的に、希釈反応性モノマーは、ビニルエステル樹脂の重量の約28~約35重量%を占めることができ、選択的に、希釈反応性モノマーは、ビニルエステル樹脂の重量の約30重量%を占めることができる。
【0121】
収縮制御添加剤中の希釈反応性モノマーの濃度は、ビニルエステル樹脂より高く、収縮制御添加剤の重量の約40~70重量%を占めることができ、選択的に、希釈反応性モノマーは収縮制御添加剤の重量の約40~約55重量%を占めることができ、選択的に、希釈反応性モノマーは収縮制御添加剤の重量の約50~約70重量%を占めることができ、選択的に、希釈反応性モノマーは収縮制御添加剤の重量の約60重量%を占めることができる。
【0122】
いくつかの実施形態において、希釈反応性モノマーはスチレンであり、選択的に、スチレン及びジビニルベンゼンの両方が希釈反応性モノマーとして樹脂及び/又は収縮制御添加剤に存在してもよい。他の実施形態では、2つ以上のビニルエステル樹脂及び収縮制御添加剤は、同じ又は異なる希釈反応性モノマーを有することができる。他の実施形態において、ビニルエステル樹脂系は、高粘度ビニルエステル樹脂及びスチレン希釈反応性モノマーを有する収縮制御添加剤を、スチレン及びジビニルベンゼン希釈反応性モノマーの両方を有する低粘度ビニルエステル樹脂と結合することができる。
【0123】
希釈反応性モノマーに加えて、ビニルエステル樹脂系は、任意の追加の反応性モノマーをさらにふくんでもよい。スチレン、スチレン誘導体、ジビニルベンゼン、及びビニルトルエンを含むBMCに使用される任意の既知の反応性モノマーは、本発明の組成物に使用されることができる。ジビニルベンゼンは、硬化プロセス中に、反応性と架橋性を高めるために別々に添加される場合が多い。
【0124】
ビニルエステル樹脂系中の希釈反応性モノマーと追加の反応性モノマーの合計量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約1~約15重量%である。いくつかの実施形態において、反応性モノマーの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約1~約8重量%であり、選択的に、反応性モノマーの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約8~約15であり、選択的に、反応性モノマーの含有量の含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約5~約10重量%であり、選択的に、反応性モノマーの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約7~約11重量%であり、選択的に、反応性モノマーの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約7~約15重量%である。
【0125】
いくつかの実施形態において、ビニルエステル樹脂系は、希釈反応性モノマーとしての約30%のスチレンを有する高粘度ビニルエステル樹脂と、合計量が約30%のスチレン及びジビニルベンゼン希釈反応性モノマーの両方を有する低粘度ビニルエステル樹脂と、希釈反応性モノマーとしてのスチレン中の40%PVAcである収縮制御添加剤とを結合する。選択的に、ビニルエステル樹脂系は、希釈反応性モノマーとしての約30%のスチレンを有する高粘度ビニルエステル樹脂と、合計量が約30%のスチレン及びジビニルベンゼン希釈反応性モノマーの両方を有する低粘度ビニルエステル樹脂と、希釈反応性モノマーとしての60%スチレンの40%PVAcである収縮制御添加剤と、追加の反応性モノマーとしてのそれぞれ約0.3~約1%であるスチレン及びジビニルベンゼンとを結合する。
II.硬化剤パッケージ
【0126】
これまで説明したBMC組成物は熱硬化性であるため、成形品を形成するためには不可逆的に硬化させる必要があることを意味する。硬化工程を制御するために、現在記載されているBMC組成物は、ビニルエステル樹脂系の硬化を容易にするための開始剤を有する硬化剤パッケージと、早期硬化を防止するための任意の阻害剤とを含む。
【0127】
硬化剤パッケージの合計量の範囲は、BMC化合物の約0.05~約2.7重量%であり、選択的に、硬化剤パッケージの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約0.05~約1.7重量%であり、選択的に、硬化剤パッケージの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約1.5~約2.7重量%であり、選択的に、硬化剤パッケージの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて約0.1~約0.5重量%である。
【0128】
より詳細には、ビニルエステル樹脂は、成形プロセス中にフリーラジカル架橋によって硬化される。このように、硬化充填物は、硬化を開始するフリーラジカルを生成するために、触媒とも呼ばれる少なくとも1つの開始剤を含む。本発明に開示されている組成物のこれらの開始剤は、tert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、クメンヒドロペルオキシド(CHP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、tert-ブチルペルオキシ安息香酸塩、tert-ブチルペルオキシ安息香酸塩などの有機過酸化物であり得る。選択的に、ペルオキシ酸エステル、ペルオキシケタール及びペルオキシジカーボネート等の他のペルオキシ型化合物、有機ペリア酸、及びアゾニトリル化合物などの非過酸化物フリーラジカル源も使用できる。いくつかの実施形態において、開始剤は、高い活性化温度を有し、且つ、高温と組み合わせて使用されて、硬化速度を高め、硬化時間を短縮する。
【0129】
硬化剤パッケージ中の開始剤は、通常の量で使用され、含有量は、BMC化合物の0.05~約2.5重量%であり、選択的に、開始剤の含有量は、BMC化合物の0.05~約2重量%であり、選択的に、開始剤の含有量は、BMC化合物の1~2.5重量%であり、選択的に、開始剤の含有量は、BMC化合物の0.3~約1.3重量%である。
【0130】
開始剤と温度の適切な組み合わせにより、非常に迅速な硬化時間を達成できるが、触媒作用ビニルエステル樹脂の保存寿命は数時間と非常に短い場合がある。キノン及びクレゾール等のフリーラジカル消去阻害剤の使用は、より長い貯蔵寿命(約60日)及び急速硬化を達成し得る。BMCの混合と硬化プロセスとの間に遅延がある場合、開始剤とともに阻害剤をBMCに添加することができる。室温で、阻害剤は、開始剤の漸次分解によって生成されるフリーラジカルと結合することにより、樹脂系中の成分の架橋を防止する。加工温度が上昇すると、フリーラジカル生成の増加により、いずれの残りの阻害剤を迅速に消費し、硬化が発生する。本発明の組成物に使用される実施例的な阻害剤には、p-ベンゾキノン(PBQ)、ヒドロキノン、トルヒドロキノン、クロラニル、又はモノ-tert-ブチルヒドロキノンが含まれる。いくつかの実施形態において、阻害剤は、23℃未満の温度で、未成形組成物の保存期間を少なくとも60日間増加させる。
【0131】
阻害剤は任意の成分であり、BMC化合物中に存在しなくてもよいか、あるいは、その含有量は、BMC化合物の0超~約0.2重量%であってもよく、あるいは、阻害剤の含有量は、BMC化合物の0超~約0.1重量%の量であってもよく、あるいは、阻害剤の含有量は、BMC化合物の0.05~約0.2重量%であってもよく、あるいは、阻害剤の含有量は、BMC化合物の0.02~約0.08重量%であってもよい。
III.添加剤パッケージ
【0132】
添加剤パッケージは、ビニルエステル樹脂系の物理的及び機械的特性を改善し、及び/又は、電気伝導性を付与する1つ以上の材料を含む。添加剤パッケージは、BMC組成物に導電性を付与する導電性添加剤、及び/又は、充填材、強化剤、離型剤、中和剤/酸捕捉剤、酸化防止剤、潤滑剤、界面活性剤、湿潤剤、増粘剤、熱安定剤、消泡剤、及びカップリング剤のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態において、添加剤パッケージは、非導電性添加剤に加えて、2つ以上の導電性添加剤を含む。いくつかの実施形態において、添加剤パッケージは、少なくとも内部離型剤、増粘剤、導電性充填材及び導電性強化繊維を含む。
【0133】
添加剤パッケージ内の添加剤は、通常の量で使用することができる。いくつかの実施形態において、添加剤パッケージの合計量の範囲は、得られた成形品の用途に応じて、BMC化合物の約50~90重量%未満である。
【0134】
いくつかの実施形態において、添加剤パッケージは、離型剤又は潤滑剤を含む。ワックスやステアリン酸塩などの離型剤を樹脂に添加すると、硬化した部品を金型から容易に除去することができる。これらのいわゆる「内部」離型剤は、各部品を成形する前に金型表面に「外部」離型剤を時間と労力をかけて塗布することを避けながら、部品が金型に付着するのを防ぐことができる。内部離型剤を組み込むと、完成部品に滑らかな表面層が形成されるが、複合体の伝導率に悪影響を及ぼすことはない。本発明のBMC熱硬化性組成物と共に、任意の内部離型剤を使用することができる。いくつかの実施形態において、内部離型剤は、ステアリン酸カルシウムなどのステアリン酸塩である。
【0135】
内部離型剤の含有量は、BMC化合物の約0.25~1.0重量%あり、選択的に、内部離型剤の含有量は、BMC化合物の0.25~約0.65重量%であり、選択的に、内部離型剤の含有量は、BMC化合物の0.40~約1重量%であり、選択的に、内部離型剤の含有量は、BMC化合物の0.30~約0.65重量%である。
【0136】
添加剤パッケージには、充填材及び/又は繊維などの1つ以上の導電性添加剤がさらに含まれる。一般的に使用される導電性添加剤には、グラファイト粉末、カーボンブラック、及び炭素繊維が含まれ、これらは、BMCを通じて接続網を形成して、導電性材料を生成する。炭素繊維などのこれらの添加物の一部は、強度及び/又は柔軟性などの他の特性をBMCに付与する強化剤として機能することができる。導電性添加剤の含有量は50~85重量%である。
【0137】
いくつかの実施形態において、グラファイト粉末は、その低コスト、低重量、容易な入手可能性、及び電気化学的用途のための化学的安定性から、導電性添加剤として選択される。現在開示されている組成物において、グラファイト粉末は、30から600ミクロンの間の範囲の粒子サイズを有する。他の実施形態では、粒径の範囲が30~300ミクロンのグラファイト粉末を使用し、選択的に、粒径の範囲が250~600ミクロンのグラファイト粉末を使用し、選択的に、粒径の範囲が100~350ミクロンのグラファイト粉末を使用し、選択的に、粒径の範囲が250~400ミクロンのグラファイト粉末を使用する。本発明の組成物には、球状、細長い、又はフレーク状の粒子の任意の形状を使用することができる。
【0138】
本発明の組成物に、粒径及び粒子形状の異なるグラファイト粉末を結合することができる。粒径が大きいほど、電気伝導率は高くなるが、流動に対する抵抗は大きくなる。圧縮金型内の材料の流れが悪いと、成形品の欠陥が増加し、スクラップ率が増加する。これに対して、粒子が小さいほど、電気伝導率は小さくなるが、金型内の流動性は高くなる。したがって、小さ粒径と大粒径との組み合わせで電気伝導性を高めながらも、許容可能な流れを維持して欠陥を最小限に抑えることができる。
【0139】
グラファイト粉末の量の上限は、成形品の完全性を維持するために十分なビニルエステル樹脂系を提供する必要性によって決定される。いくつかの実施形態において、グラファイトのこの上限はBMC組成物の約85重量%である。高い伝導率を必要とする双極板などの部材については、グラファイト粉末の装填量が約60~80重量%であってもよく、ビニルエステル樹脂系がBMC組成物の8~15重量%であってもよい。他の燃料電池設計又は他の電気化学装置のための部材については、グラファイト粉末の装填量は約25~約85重量%であってもよく、ビニルエステル樹脂系はBMC組成物の5~約20重量%であってもよい。他の実施形態では、グラファイト粉末の量は、BMC組成の約25~約85重量%であり、選択的に、グラファイト粉末の量は、BMC組成の約60~約80重量%であり、選択的に、グラファイト粉末の量は、BMC組成の約60~約75重量%であり、選択的に、グラファイト粉末の量は、BMC組成の約65~約75重量%である。
【0140】
本発明の組成物は、グラファイト粉末に加えて、任意の導電性繊維を含んでもよい。いくつかの実施形態において、導電性繊維は、短い炭素「マイクロファイバー」(<12mm)であり、補強繊維として作用しながら良好に充填するとともに比較的均質な構造を提供する。さらに、導電性繊維は、粉砕又は細断することができる。炭素繊維は、剛性が高く、引張強度が高く、重量が低く、耐薬品性が高く、耐高温性が高く、熱膨張性が低いため、いくつかの実施形態で使用することができる。
【0141】
導電性繊維の量は、導電性添加剤の総量に依存するが、存在する場合、約0重量%より多く約10重量%までの量である。選択的に、導電性繊維の量は、BMC組成物の0超~約6重量%であり、選択的に、導電性繊維の量は、BMC組成物の約3~約10重量%であり、選択的に、導電性繊維の量は、BMC組成物の約1~約3重量%である。
【0142】
いくつかの実施形態において、添加剤パッケージは、増粘剤をさらに含む。高分子組成物を圧縮成形により成形する場合、高分子組成物を厚くしなければならない。ビニルエステルは分子内に末端カルボキシル基を有していないので、増粘剤は、ビニルエステル上のアルコール基(R-OH)と反応して共有結合を形成できる金属酸化物、金属水酸化物、又はイソシアネート材料であり得る。イソシアネート材料は、モノイソシアネート又はポリイソシアネートであり得る。いくつかの実施形態において、イソシアネート材料は、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)などのジイソシアネートである。他の実施形態では、選択されたジイソシアン酸エステルは、ビニルエステル樹脂及び/又はスチレンなどの収縮制御添加剤と同じ希釈反応性モノマーで希釈される。
【0143】
増粘剤は任意の成分であるが、利用される場合、その含有量は、BMC化合物の約0.0超~約4.0重量%であり、選択的に、増粘剤の含有量は、BMC化合物の0.0超~約3.25重量%であり、選択的に、増粘剤の含有量は、BMC化合物の2~約4重量%であり、選択的に、増粘剤の含有量は、BMC化合物の1.5~約3重量%である。
【0144】
いくつかの実施形態において、添加剤パッケージ中の添加剤は、添加剤が組成物全体にほぼ均一に分布するように組成物をブレンドしながら、BMC組成物に個別に(又は組み合わせて)直接添加される。いくつかの実施形態において、添加剤パッケージは、パッケージを硬化させる前に、パッケージを硬化させた後に、又はパッケージを硬化させると共に、組成物に添加される。
IV.グラファイトナノプレートレット
【0145】
本開示のBMC熱硬化性組成物は、また、グラフェンナノプレートレットを組み込んで、電気伝導率を、導電性添加剤によって付与される電気伝導率よりも高くなるように高める。
【0146】
グラフェンナノプレートレットの含有量は、上記のBMC組成物の重量に基づいて、0超~約5重量%である。いくつかの実施形態において、グラフェンナノプレートレットの含有量は、0超~約2.5重量%であり、選択的に、グラフェンナノプレートレットの含有量は、約0.5~約2重量%であり、選択的に、グラフェンナノプレートレットの含有量は、約0.75~約1.5重量%であり、選択的に、グラフェンナノプレートレットの含有量は、約1.0~約1.25重量%である。
【0147】
BMC組成中の他の粒子の範囲は、30ミクロン~約600ミクロンであが、それに使用されるグラフェンナノプレートの平均プレートレットサイズサイズは約1ミクロン~約25ミクロンである。いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットの平均プレートレットサイズは、約1~約12ミクロンであり、選択的に、グラフェンナノプレートレットの平均プレートレットサイズは、約10~約25ミクロンであり、選択的に、グラフェンナノプレートレットの平均プレートレットサイズは、約5~約10ミクロンである。他の実施形態では、グラフェンナノプレートレットの平均プレートレットサイズは、約1、5、10、15、20又は25ミクロンである。
【0148】
これらのナノプレートレットは、サブマイクロメートルから100マイクロメートルの範囲の直径を有する厚さ1~15ナノメートルのグラフェンの小さなスタックとして製造される。したがって、それらは、高い剪断力を使用して混合中に破壊又は分散されなければならない。いくつかの実施形態において、グラフェンナノシートは、高剪断力下で、それぞれのビニルエステル樹脂と結合又は混合されるか、又は、全体としてビニルエステル樹脂系と結合又は混合される。その後、硬化及び添加剤パッケージが添加され混合されるにつれて、せん断力は減少する。
V.混合/成形
【0149】
現在記載されているBMC組成物中の各成分は、成形及び硬化プロセスの前に混合される。いくつかの実施形態において、まず、硬化剤パッケージ及び任意の液体添加剤(離型剤など)をグラフェンナノプレート分散ビニルエステル樹脂系と組み合わせて十分に混合することにより、液体成分が調製される。次に、予めブレンドされた固体(グラファイト粉末、炭素繊維、カーボンブラック)を、調合された液体樹脂に混合し、次いで増粘剤と混合して、ペースト状の稠度を有する均質な化合物を形成する。その後、この均質な化合物を成形して硬化させる。
【0150】
選択的に、まず、グラフェンナノプレートをビニルエステル樹脂系に添加し、高いせん断力で混合することにより、ナノプレートレットを適切に分散させることができる。その後、硬化剤パッケージと任意の液体添加剤をビニルエステル系に添加し、より小さなせん断力で完全に混合することができる。予めブレンドされた固体(グラファイト粉末、炭素繊維、カーボンブラック))を、調合された液体樹脂に混合して、成形及び硬化される均質な化合物を形成する。
【0151】
本開示の組成物は、既知の方法を使用して圧縮成形及び硬化することができる。金型に、流路などの設計機能を組み込んでもよく、又は、これらの機能は、後で、成形品に機械加工されることもできる。いくつかの実施形態において、組成物を圧縮成形し、約150℃以上の高温で硬化させて、ラジカル形成を増加させ、続いて硬化速度を増加させる。
【0152】
グラフェンナノプレートレットは、グラフェンナノプレートレットを含まず、同じ方法で成形された類似の組成物と比較して、成形品のスループレーン電気伝導率を少なくとも20%増加させる。スループレーン電気伝導率のこの増加により、電気化学装置を含む成形品を、導電性材料を必要とする幅広い用途に使用することを可能にする。いくつかの実施形態において、成形組成物は、約100S/cmのスループレーン電気伝導率を有し、燃料電池及び化学フローバッテリ用の薄くて軽量な双極板に成形することができる。アプリケーション用の他の成分も可能です。
実施例
【0153】
上述の組成物を使用する添付の特許請求の範囲の実施形態を説明するために、以下の実施例を含む。この実施例は、実施例を目的としており、添付の特許請求の範囲を不当に制限することを意図していない。当業者は、開示された特定の実施形態において、多くの変更を行うことができ、これらは、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、同様の又は類似の結果を得ることを理解すべきである。以下の実施例は、決して、添付の特許請求の範囲を制限又は定義するものと解釈されるべきではない。
【0154】
この実施例は、BMC熱硬化性樹脂にグラフェンナノ板を追加することによって発生するスループレーン電気伝導率の増加を説明する。組成物とその比較(グラフェンナノプレートなし)組成物の配合を表1に示し、各組成物の総重量を使用して重量パーセンテージを計算する。
【0155】
材料
比較組成物1用のBMC化合物配合には、(1)2つのビニルエステル樹脂(樹脂A及び樹脂B)、(2)2つの反応性モノマー、(3)導電性添加剤を有する添加剤パッケージ、及び(4)硬化剤パッケージが含まれる。組成物1は、グラフェンAが残りの成分の前に2つのビニルエステル樹脂に添加されたことを除いて、比較組成物1と同じ基本配合を有する。
【0156】
樹脂Aは、ビスフェノールAエポキシ系ビニルエステル樹脂であり、反応性モノマーの一つであるスチレンに溶解したものである。特に、樹脂Aは、27%のスチレン含量及び1.1の比重を有する。この樹脂は、優れた機械的特性、耐薬品性及び耐熱性が要求される用途に使用される。
【0157】
樹脂Bは、エポキシ系ビニルエステル樹脂であり、2つの反応性希釈剤モノマーであるスチレン及びジビニルベンゼンに溶解されたものである。特に、樹脂Bは、反応性希釈剤モノマーの含有量が30%であり、比重が1.1である。樹脂Aと同様に、この樹脂は、優れた機械的特性、耐薬品性及び耐熱性が要求される用途に使用される。
【0158】
樹脂Aは、樹脂Bよりも粘度が高く、成形前に増粘剤と反応して乾燥しており、粘着性がなく、取り扱い可能な材料を形成することができる。樹脂Bは、複合材料の機械的強度を向上させるために選択される。
【0159】
樹脂A及びBの両方が、燃料電池用の双極板の製造に使用される。組成物1の場合、これらの樹脂にはグラフェンAも含まれ、グラフェンAは、平均厚さが15nmで、平均粒径が15ミクロンのナノプレートレットである。ナノプレートレットは、基本製剤に他の成分を添加する前に、グラフェンAと各ビニルエステル樹脂との高せん断混合によってスタックの形態で製造される。
【0160】
比較組成物1及び組成物1の両方のための収縮制御添加剤は、スチレンの40%のポリ酢酸ビニルである。
【0161】
表1の組成物は、スチレンとジビニルベンゼンの2つの追加の反応性モノマーも含む。2種の追加の反応性モノマーの量は、樹脂A及びBに反応性希釈剤モノマーとして使用される量及び収縮制御剤の量を除いた量である。
【0162】
以下の組成物において、添加剤パッケージは、樹脂Aと反応するジイソシアネート増粘剤と、内部離型剤とを含む。添加剤パッケージには、さらに、2つの異なるタイプの炭素繊維と、電気伝導率を付与する3つのグラファイト粉末の混合物が含まれる。グラファイト粉末Aは、大粒径(約150ミクロン)及び細長い形状を有する合成グラファイトであり、より高い電気伝導率と金型内の流動抵抗を提供する。グラファイト粉末Bは、フレーク状の形状のより細かい粒子(約50ミクロン)であり、導電率は低下するが、金型内の流動は増加する。グラファイト粉末Cは、金型内の流動性を高めるための小さい粒径(約40ミクロン)の合成グラファイトである。炭素繊維Aは、粉砕された繊維補強材であり、炭素繊維Bは、0.125インチ(3.175mm)チョップ長さのチョップド繊維補強材である。
【0163】
硬化剤パッケージは、阻害剤(スチレン及びアセトン中の5%のPBQ)及び高い活性化温度を有する開始剤を含む。
【0164】
【表2】
【0165】
各組成物について、表1の材料をBMCミキサーで8~16分間混合した。次に、BMC組成物を150~200℃で12インチ×12インチ×0.125インチ(約30.48cm×30.48cm×0.3175cm)の平らなプラークに圧縮成形し、その後、硬化された平らなプラークを切断し、テスト棒に機械加工した。
【0166】
BMC組成物特性評価
表1の組成物の物理的と機械的特性、及びそれから製造された成形試料は、「テスト方法」と題するセクションで説明したテスト方法を使用して決定する。表2~3は、これらの測定の結果を示す。
【0167】
表2は、2つの組成物の物理的特性を示す。両組成物の密度及び収縮は非常に類似している。しかしながら、組成物1の熱膨張及びスループレーン電気伝導率は、比較組成物1よりも大きかった。1.02重量%のグラフェンAを添加すると、組成物1は、ほぼ比較組成物1の2倍のスループレーン電気伝導率を有し、且つ、その熱伝導率はほぼ3W/m-K増加した。組成物1は、熱膨張に対する耐性も低く、特にZ軸(27.72ppm対11.28ppm)での熱膨張に対する耐性も低かった。
【0168】
【表3】
【0169】
組成物1のスループレーン電気伝導率は、双極板に対するDOEの目的を達成するのに十分に高いため、組成物1は燃料電池や化学フロー電池などの電気化学装置にとって理想的な複合体である。DOEの電気伝導率に対するDOEの目的を達成するのに加え、組成物1を使用して製造された双極板の寸法が比較組成物1を使用して製造された板よりも良好に保持され、より低い収縮で説明される。バイポーラプレートは燃料電池スタックの平坦性と密閉性を維持する必要があるため、これは重要である。
【0170】
【表4】
【0171】
組成物1が、比較用組成物1と有意に異ならない引張強度、引張弾性率、引張伸び、曲げ強度、及びノッチ付きアイゾッド衝撃を達成したことは驚くべきことであったが、曲げ弾性率及び圧縮強度は有意に異なると考えられた。グラフェンナノプレートレットの添加は、圧縮強度を低下させながら、曲げ弾性率を増加させるとはまったく期待されていなかった。グラフェンナノシートのこの予測不可能な効果のために、組成物1は、比較組成物1から形成された試料よりも低い圧縮強度を有する、より硬い成形複合体を得る。
【0172】
要約すると、1.02重量%のグラフェンナノプレートレットの添加は、比較組成物1と比較して、組成物1の機械的特性を有意に変化させなかった。しかし、組成物1のスループレーン電気伝導率は、比較組成物1と比較して、ほぼ100%増加した。さらに、組成物1は、より低い収縮率を有し、これにより、成形品がその寸法をより良好に維持することを可能にし、これは、反応物の分離を維持することが必要な電気化学装置において特に重要である。
【0173】
以上の実施例は、グラフェンナノプレートレットを組み込むことにより、BMCのスループレーン電気伝導率を高めることができることを示した。特に、この実施例は、グラフェンナノプレートレットを利用した非金属、ビニルエステルベースBMCの熱硬化性組成物により、既知のBMCの重量、収縮、強度、及び成形性を維持しながら、金属ベースの電気伝導率を模倣する材料が可能になることを示す。これにより、耐久性、構造的強度、及び電気化学装置性能が向上した、軽量又は薄い成分の製造が可能になる。
【0174】
以下の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【0175】
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【国際調査報告】