(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(54)【発明の名称】良好な煤処理性能を示す芳香族グリシジルエーテルで後処理されたスクシンイミド分散剤
(51)【国際特許分類】
C10M 159/12 20060101AFI20230809BHJP
C10M 133/16 20060101ALI20230809BHJP
C10M 133/56 20060101ALI20230809BHJP
C10M 129/18 20060101ALN20230809BHJP
C10M 159/16 20060101ALN20230809BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20230809BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20230809BHJP
【FI】
C10M159/12
C10M133/16
C10M133/56
C10M129/18
C10M159/16
C10N30:04
C10N40:25
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504373
(86)(22)【出願日】2021-07-22
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 IB2021056636
(87)【国際公開番号】W WO2022018681
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リューエ ジュニア、ウィリアム レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】ホッセイニ、セイエデ マフブーベフ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB09R
4H104BE11C
4H104BE11R
4H104BF03C
4H104BF03R
4H104CA04A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104DB03R
4H104LA02
4H104PA41
(57)【要約】
潤滑油組成物について記載される。本組成物は、基油、構造式(I):
【化I】
(式中、R
1は、4~20の炭素原子を有するアリール基またはアルカリル基であり、R
2及びR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基である)を有する芳香族グリシジルエーテル及びヒドロカルビルスクシンイミドの反応生成物を含む第1のスクシンイミド分散剤組成物、ならびに第2のスクシンイミド分散剤、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物であって、
基油、
構造I:
【化I】
(式中、R
1は、4~20の炭素原子を有するアリール基またはアルカリル基であり、R
2及びR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基である)を有する芳香族グリシジルエーテル及びヒドロカルビルスクシンイミドの反応生成物を含む第1のスクシンイミド分散剤組成物、ならびに
第2のスクシンイミド分散剤
を含む、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
前記ヒドロカルビルスクシンイミドが、モノスクシンイミド、ビススクシンイミド、トリスクシンイミド、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の潤滑油。
【請求項3】
前記ヒドロカルビルスクシンイミドが、少なくとも1つのスクシンイミド無水物及びポリアミンの反応生成物である、請求項1に記載の潤滑油。
【請求項4】
前記ポリアミンが、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、またはポリアルキレンアミンである、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記反応生成物が、さらに、有機酸化物、反応性ホウ素化合物、または有機カルボナートで後処理される、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記第2のスクシンイミドが、有機カルボナート、グリシドール、構造Iとは異なるグリシジルエーテル、有機酸化物、または反応性ホウ素化合物で後処理されている、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
R
2及びR
3の少なくとも1つが、水素原子である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
さらに、マンニッヒ反応で調製される分散剤を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記第1のスクシンイミド分散剤が、前記潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.1~8wt%で存在する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
前記第2のスクシンイミド分散剤が、前記潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.1~8wt%で存在する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
エンジン内の、煤が引き起こす粘度増加を低減する方法であって、前記方法が、
分散剤組成物を前記エンジンに導入すること、を含み、前記分散剤組成物が、
構造I:
【化I】
(式中、R
1は、4~20の炭素原子を有するアリール基またはアルカリル基であり、R
2及びR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基である)を有する芳香族グリシジルエーテル及びヒドロカルビルスクシンイミドの反応生成物を含む第1のスクシンイミド分散剤を含み、さらに、前記方法が、
前記エンジンを作動すること、
を含む、前記方法。
【請求項12】
前記ヒドロカルビルスクシンイミドが、モノスクシンイミド、ビススクシンイミド、トリススクシンイミド、またはそれらの混合物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒドロカルビルスクシンイミドが、少なくとも1つのスクシンイミド無水物及びポリアミンの反応生成物である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリアミンが、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサミン、またはポリアルキレンアミンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応生成物が、さらに、有機酸化物、反応性ホウ素化合物、または有機カルボナートで後処理される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記分散剤組成物が、さらに、第2のスクシンイミド分散剤を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記第2のスクシンイミドが、有機カルボナート、グリシドール、構造Iとは異なるグリシジルエーテル、有機酸化物、または反応性ホウ素化合物で後処理されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のスクシンイミドが、モノスクシンイミド、ビススクシンイミド、トリススクシンイミド、またはそれらの混合物である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
R
2及びR
3の少なくとも1つが、水素原子である、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記分散剤組成物が、さらに、マンニッヒ反応で調製される分散剤を含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、潤滑油組成物に関する。より具体的には、本開示は、潤滑油添加剤組成物及びその組成物を使用するための方法について記載する。
【背景技術】
【0002】
背景
重要なエンジン部品を清潔に保ち、寿命を延ばし、適切な排出量を維持し、良好な燃費を達成するために、潤滑油に分散剤を添加することができる。
【0003】
おそらく、最も広く使用される分散剤は、スクシンイミドである。スクシンイミド分散剤は、通常、極性ヘッド及び長い炭化水素尾部を有する。極性頭部は、不溶性物質、例えば、煤、スラッジ、及び他の不純物に付着し得るが、長い炭化水素尾部は、分散剤を油に懸濁した状態を保つ。いくつかの分散剤極性頭部は、固体粒子に付着すると、もはや、他の不純物と結合して大きな粒子を形成することができなくなる。これは、エンジンの表面に堆積し得るが、油が交換される時にさらにエンジンから除去される。
【0004】
逆に、適切な分散性を有さないと、スラッジの凝集、不溶性物質の沈殿、煤粒子の凝集、堆積物の形成、フィルターの目詰まり、油の増粘、摩耗などが引き起こされ得る。
【0005】
潤滑剤業界には、分散性を改善することを目的とした多くの継続的な取り組みがある。
【発明の概要】
【0006】
要約
一態様では、以下を含む潤滑油組成物が提供される:
基油;構造:
【化I】
(式中、R
1は、4~20の炭素原子を有するアリール基またはアルカリル基であり、R
2及びR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基である)を有する芳香族グリシジルエーテル及びヒドロカルビルスクシンイミドの反応生成物を含む第1のスクシンイミド分散剤組成物;ならびに、第2のスクシンイミド分散剤。
【0007】
別の態様では、エンジン内の煤が引き起こす粘度増加を低減する方法が提供され、この方法は、以下を含む:分散剤組成物をエンジンに導入すること(分散剤組成物は、構造:
【化I】
(式中、R
1は、4~20の炭素原子を有するアリール基またはアルカリル基であり、R
2及びR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基である)を有する芳香族グリシジルエーテル及びヒドロカルビルスクシンイミドの反応生成物を含む第1のスクシンイミド分散剤を含む
)、ならびに、エンジンを作動させること。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な記述
定義
本明細書に伴って使用される以下の用語は、そのように定義される。
【0009】
「スクシンイミド」という用語は、当該技術分野では、コハク酸無水物とアミンとの反応で形成され得るアミド、イミド、及びアミジン種の多くを含むと理解される。しかし、主な生成物は、スクシンイミドであり、この用語は、一般に、アルケニルまたはアルキル置換コハク酸または無水物とアミンとの反応の生成物を意味するものとして受け入れられている。アルケニルまたはアルキルスクシンイミドは、多数の参考文献に開示され、当該技術分野で周知である。「スクシンイミド」という専門用語に包含されるスクシンイミド及び関連物質の特定の基本的なタイプは、米国特許第2,992,708号;同第3,018,291号;同第3,024,237号;同第3,100,673号;同第3,219,666号;同第3,172,892号;及び同第3,272,746号に教示される。
【0010】
「後処理剤」という用語は、スクシンイミドを官能化可能な試薬を指す。
【0011】
「ヒドロカルビル」という用語は、飽和及び不飽和炭化水素を含む炭化水素に由来する化学基または部分を指す。ヒドロカルビル基の例としては、アルケニル、アルキル、ポリアルケニル、ポリアルキル、フェニルなどが挙げられる。
【0012】
「PIBSA」という用語は、ポリイソブテニルまたはポリイソブチルコハク酸無水物の略語である。
【0013】
本明細書で使用される『油溶性』または『油分散性』という用語は、化合物または添加剤が、あらゆる割合で、油に可溶性、溶解性、混和性、または懸濁可能であることを必ずしも示すものではない。しかし、これらは、例えば、油が用いられる環境で意図された効果を発揮するのに十分な程度まで、油に溶解性または安定的に分散性があることを意味する。さらに、必要に応じて、他の添加剤をさらに組み込むことにより、より高いレベルの特定の添加剤の組み込みも可能になり得る。
【0014】
要素の組み合わせ、サブセット、グループなど(例えば、組成物中の構成成分の組み合わせ、または方法中のステップの組み合わせ)が開示される場合、これらの要素の様々な個々の及び集合的な組み合わせ及び順列のそれぞれの特定の参照が、明示的に開示されていないことがあるが、それぞれが具体的に企図され、本明細書に記載されると理解される。
【0015】
本発明は、新規な分散剤添加剤組成物を含有する潤滑油組成物について記載する。1つ以上の実施形態によれば、本発明は、少なくとも2つの異なるスクシンイミド分散剤を含有する潤滑油組成物を提供する。第1の分散剤(または1次分散剤)は、以下の構造Iに示される芳香族グリシジルエーテルで後処理されているスクシンイミドである。第2の分散剤(または2次分散剤)は、後処理を伴うまたは伴わないスクシンイミドである。いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、第3の分散剤を含み、第3の分散剤は、マンニッヒ分散剤である。
【0016】
本発明は、エンジン内の、煤が引き起こす粘度増加を低減する方法についても記載し、方法では、優れた煤分散能力を提供するために、潤滑油がエンジンに導入される。潤滑油は、第1のスクシンイミド分散剤と、任意に、第2のスクシンイミド分散剤を含有し、第1及び第2のスクシンイミド分散剤は異なる。第1の分散剤は、以下の構造Iに示される芳香族グリシジルエーテルで後処理されているスクシンイミドである。第2の分散剤は、後処理を伴うまたは伴わないスクシンイミドである。いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、第3の分散剤を含み、第3の分散剤は、マンニッヒ分散剤である。
【0017】
いくつかの実施形態では、第1の分散剤が以下の構造Iに示される芳香族グリシジルエーテルで後処理されているが、第2の分散剤が後処理されていないか、または2次後処理剤で後処理されているという点で、第1及び第2の分散剤は異なっていてもよい。一般に、2次後処理剤は、1次スクシンイミド分散剤を後処理するために使用される芳香族グリシジルエーテル(構造I)とは異なるであろう。2次後処理剤の好適例としては、反応性ホウ素化合物、有機カルボナート(例えば、エチレンカルボナート)、有機酸化物(例えば、アルキレンオキシド)、グリシドール、グリシジルエーテル、または専門文献で既知の他の後処理試薬が挙げられる。
【0018】
ホウ素源として使用することができる好適なホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステルなどが挙げられる。ホウ酸の代表例としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、パラホウ酸などが挙げられる。ホウ酸塩の代表例としては、ホウ酸アンモニウム、例えば、メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウムなどが挙げられる。ホウ酸エステルの代表例としては、モノメチルボラート、ジメチルボラート、トリメチルボラート、モノエチルボラート、ジエチルボラート、トリエチルボラート、モノプロピルボラート、ジプロピルボラート、トリプロピルボラート、モノブチルボラート、ジブチルボラート、トリブチルボラートなどが挙げられる。
【0019】
好適な有機カルボナートとしては、例えば、環状カルボナート、例えば、1,3-ジオキソラン-2-オン(エチレンカルボナート);4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン(プロピレンカルボナート);4-エチル-1,3-ジオキソラン-2-オン(ブチレンカルボナート);4-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4-エチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4-メチル-5-エチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジエチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4-ジエチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;1,3-ジオキサン-2-オン;4,4-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オン;5,5-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オン;5,5-ジヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン-2-オン;5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン;4-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン;5-ヒドロキシ-1,3-ジオキサン-2-オン;5-ヒドロキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン;5,5-ジエチル-1,3-ジオキサン-2-オン;5-メチル-5-プロピル-1,3-ジオキサン-2-オン;4,6-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オン;4,4,6-トリメチル-1,3-ジオキサン-2-オン、及びスピロ[1,3-オキサ-2-シクロヘキサノン-5,5’-1’,3’-オキサ-2’-シクロヘキサノン]が挙げられる。他の好適な環状カルボナートは、糖類、例えば、ソルビトール、グルコース、フルクトース、ガラクトースなどから、及び、当該技術分野で既知の方法でC1~C30オレフィンから調製されたビシナルジオールから調製され得る。
【0020】
好適な有機酸化物としては、ヒドロカルビルオキシド(例えば、アルキレンオキシド)、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシドなどが挙げられる。有機酸化物についてのより詳細な説明は、米国特許第3,373,111号及び第3,367,943号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0021】
グリシドールは、次の式の市販の試薬である。
【化G】
【0022】
また、グリシドールは、アルコール中の水酸化カリウムの作用により、グリセロール-1-モノクロロヒドリンから調製され得る。例えば、Rider et al., JACS, 52, 1521 (1930)(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0023】
潤滑油に一緒に配合される場合、第1の分散剤及び第2の分散剤が相乗的に作用して、潤滑油に分散性の向上がもたらされる。
【0024】
1次分散剤
本発明の1次分散剤は、芳香族グリシジルエーテルで後処理されているスクシンイミドである。より具体的には、1次分散剤は、(i)ヒドロカルビルスクシンイミド及び(ii)以下の構造を有する芳香族グリシジルエーテルの反応生成物である:
【化I】
(式中、R
1は、約4~約20の炭素原子を有するアリール基またはアルカリル基である)。R
2及びR
3は、独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基である。いくつかの実施形態では、R
2及びR
3の少なくとも1つは、水素原子である。
【0025】
好適なアリール基またはアルカリル基としては、ナフタレン、トルエン、インデン、アントラセン、ビフェニル、フェナントレン、またはそれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
スクシンイミド及び芳香族グリシジルエーテル間の反応は、様々な条件下で進行し得る。この反応の詳細な議論は、米国特許第4,617,137号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0027】
一般に、スクシンイミド及び芳香族グリシジルエーテル間の反応は、芳香族グリシジルエーテルのスクシンイミドとの反応を引き起こすのに十分な温度で行われる。1つの方法によれば、反応温度は、約0℃~約250℃の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、反応温度は、約50℃~約200℃の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、反応温度は、約100℃~約200℃の範囲であり得る。
【0028】
スクシンイミド及び芳香族グリシジルエーテル間の反応は、触媒、例えば、酸性、塩基性、またはルイス酸触媒の存在下で進行し得る。触媒の具体例としては、例えば、三フッ化ホウ素、アルカンスルホン酸、アルカリ、またはアルカリ性炭酸塩が挙げられる。
【0029】
あるいは、スクシンイミド及び芳香族グリシジルエーテル間の反応は、希釈剤中で行われ得、反応物は、溶媒、例えば、トルエン、キシレン、基油などの中で混合される。反応が完了すると、揮発性構成成分が取り除かれ得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、1次スクシンイミド分散剤は、追加の機能性を付加するために、さらに、任意の後処理剤で後処理され得る。任意の後処理剤の例としては、有機酸化物、反応性ホウ素化合物、有機カルボナートなどが挙げられる。
【0031】
ヒドロカルビルスクシンイミド
ヒドロカルビルスクシンイミドを、例えば、米国特許公開第20180034635号及び米国特許第7,091,306号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるような任意の既知の方法で調製することができる。
【0032】
ヒドロカルビルスクシンイミドを、アルキル置換コハク酸無水物のポリアミンとの反応生成物として得ることができる。潤滑油用途では、コハク酸無水物は、通常、ポリイソブチレン(PIBSA)またはPIBSAタイプの部分などのアルキル鎖で、アルファ位で置換されている。しかし、本発明に適合する任意のアルキル基が、企図され得る。
【0033】
潤滑油用途では、ポリアルキレンポリアミンが、一般に、ポリアミンとして使用される。しかし、本発明に適合する任意のポリアミンが、企図され得る。
【0034】
ポリアミンは、アルキル置換コハク酸無水物と反応して、モル比に応じて、モノスクシンイミド、ビススクシンイミド、トリススクシンイミド、またはそれらの混合物を生じ得る。
【0035】
一実施形態では、構造II
【化II】
(式中、Rは、約500~約3000の数平均分子量を有するポリアルケン基に由来するヒドロカリル置換基である)のヒドロカルビル置換コハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることにより、ヒドロカルビルビス-スクシンイミドを得ることができる。
【0036】
一実施形態では、Rは、約1000~約2500の数平均分子量を有するポリアルケン基に由来するヒドロカルビル置換基である。一実施形態では、Rは、約500~約3000の数平均分子量を有するポリイソブテンに由来するポリイソブテニル置換基である。別の実施形態では、Rは、約1000~約2500の数平均分子量を有するポリイソブテンに由来するポリイソブテニル置換基である。
【0037】
好適なポリアミンは、直鎖または分枝鎖構造を有し得、環状、非環状、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、ポリアルキレンポリアミンは、ビススクシンイミド分散剤を調製するために使用され得る。そのようなポリアルキレンポリアミンは、通常、約2~約12の窒素原子及び約2~24の炭素原子を含有する。特に好適なポリアルキレンポリアミンとしては、式:H2N-(R’NH)x-H(式中、R’は、2または3つの炭素原子を有する直鎖または分枝鎖のアルキレン基であり、xは、1~9である)を有するものが挙げられる。好適なポリアルキレンポリアミンの代表例としては、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、及びより重いポリアルキレンアミン(HPA)が挙げられる。
【0039】
いくつかの実施形態では、ポリアミンは、環状基を含有してもよい。具体例としては、以下が挙げられる:N,N’-ビス-(2-アミノエチル)ピペラジン(Bis AEP)、N-[(2-アミノエチル)2-アミノエチル]ピペラジン(PEEDA)、1-(2-アミノエチル)-4-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-ピペラジン)(AEPEEDA)、及び1-[2-[[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン(PEDETA)。
【0040】
本発明で使用するのに適したポリアミンの多くが市販されており、他のものは、当該技術分野で周知の方法で調製され得る。例えば、アミンを調製するための方法及びそれらの反応は、Sidgewick's “The Organic Chemistry of Nitrogen”, Clarendon Press, Oxford, 1966; Noller's “Chemistry of Organic Compounds”, Saunders, Philadelphia, 2nd Ed., 1957; and Kirk-Othmer's “Encyclopedia of Chemical Technology”, 2nd Ed., especially Volume 2, pp. 99 116に詳述される。
【0041】
一般に、約130℃~220℃(例えば、140℃~200℃、145℃~175℃など)の温度で、ヒドロカルビル置換コハク酸無水物をポリアミンと反応させる。窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下で、反応を実施することができる。一般に、ポリアルケニル置換コハク酸無水物に対するポリアミンの好適なモル電荷は、約0.35:1~約1:1(例えば、0.4:1~0.75:1)である。本明細書で使用される場合、「ポリアルケニル置換コハク酸無水物に対するポリアミンのモル電荷」は、コハク酸無水物反応物中のコハク酸基の数に対するポリアミンのモル数の比を意味する。
【0042】
好適なヒドロカルビルスクシンイミドの1つの部類は、以下の構造で表され得る:
【化III】
(式中、R及びR’は、上記の本明細書に記載の通りであり、yは、1~11である)。
【0043】
芳香族グリシジルエーテル
芳香族グリシジルエーテルは、例えば、米国特許第7,265,232号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるような任意の既知の方法で調製されてもよい。
【0044】
1つの方法によれば、芳香族グリシジルエーテルは、アリールまたはアルカリルアルコールをエピハロヒドリンと反応させることにより得られ得る。反応は、水性溶媒及び非水性溶媒の両方を含む多層溶媒系で行ってもよい。反応は、水酸化アルカリなどの水性塩基も含んでもよい。さらに、反応は、4級アンモニウム塩の存在により促進され得る。反応温度は、約0℃~約50℃の範囲であってよい。
【0045】
2次分散剤
本発明の2次分散剤は、本発明の1次分散剤とは異なるスクシンイミド分散剤である。一実施形態によれば、2次スクシンイミド分散剤は、構造IIIに示されるようなヒドロカルビルスクシンイミドであってよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、2次分散剤は、後処理されていない。他の実施形態では、2次分散剤は、2次後処理剤で後処理されている。一般に、2次後処理剤は、上記の1つ以上の薬剤を含む、本発明と適合性のある任意の後処理剤を含む。しかし、2次後処理剤は、構造Iに記載のグリシジルエーテルとは異なる。
【0047】
マンニッヒ分散剤
本発明の潤滑油組成物は、マンニッヒ反応の生成物である分散剤を含んでもよい。マンニッヒ分散剤は、潤滑油組成物の総重量に基づいて約1.5wt%~約20wt%で存在し得る。
【0048】
特に有用なマンニッヒ分散剤は、米国特許第9,528,074号に記載され、これは、参照により本明細書に組み込まれる。ポリイソブチル置換ヒドロキシ芳香族化合物の縮合により、本マンニッヒ分散剤を調製することができ、ポリイソブチル基は、少なくとも約70wt%のメチルビニリデン異性体を含有するポリイソブテンに由来し、約400~約2500の範囲の数平均分子量、アルデヒド、アミノ酸、またはそのエステル誘導体、及びアルカリ金属塩基を有する。
【0049】
一実施形態では、マンニッヒ縮合生成物は、式IVの構造で表すことができる:
【化IV】
(式中、各Rは、独立して、-CHR’-であり、R’は、1つの炭素原子~約10の炭素原子を有する分枝状または直鎖アルキル、約3つの炭素原子~約10の炭素原子を有するシクロアルキル、約6つの炭素原子~約10の炭素原子を有するアリール、約7つの炭素原子~約20の炭素原子を有するアルカリル、または約7つの炭素原子~約20の炭素原子を有するアラルキルであり、R1は、少なくとも約70wt%のメチルビニリデン異性体を含有するポリイソブテンに由来し且つ約400~約2,500の範囲の数平均分子量を有するポリイソブチル基であり;Xは、水素、アルカリ金属イオン、または1~約6つの炭素原子を有するアルキルであり;Wは、-[CHR”]-m(式中、各R”は、独立して、H、1つの炭素原子~約15の炭素原子を有するアルキル、または1つの炭素原子~約10の炭素原子及びアミノ、アミド、ベンジル、カルボキシル、ヒドロキシル、ヒドロキシフェニル、イミダゾリル、イミノ、フェニル、スルフィド、またはチオールからなる群より選択される1つ以上の置換基を有する置換アルキルであり;mは、1~4の整数である)であり;Yは、水素、1つの炭素原子~約10の炭素原子を有するアルキル、-CHR’OH(式中、R’は、上で定義された通りである)、または
【化Y】
(式中、Y’は、-CHR’OH(式中、R’は、上で定義された通りであり;R、X、及びWは、上で定義された通りである)であり;Zは、ヒドロキシル、以下の式のヒドロキシフェニル基であり:
【化Z】
(式中、R、R1、Y’、X、及びWは、上で定義された通りである)、nは、0~20の整数であり、但し、n=0である場合、Zは、以下でなければならない:
【化Z0】
(式中、R、R1、Y’、X、及びWは、上で定義された通りである)。
【0050】
潤滑油
本発明の潤滑油組成物は、基油;1次スクシンイミド分散剤;及び2次スクシンイミド分散剤を含む。いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、マンニッヒ分散剤を含む。
【0051】
本開示のスクシンイミド分散剤は、潤滑油中の分散剤添加剤として有用であり得る。このように用いられる場合、添加剤は、通常、潤滑油組成物中に0.001~20wt%(限定されないが、0.01~5wt%、0.2~4wt%、0.5~3wt%、1~2wt%などを含む)(潤滑油組成物の総重量に基づく)の範囲の濃度で存在する。他の分散剤が潤滑油組成物中に存在する場合、より少ない量の添加剤が使用され得る。
【0052】
所望のグレードのエンジン油、例えば、0W、0W-8、0W-16、0W-20、0W-30、0W-40、0W-50、0W-60、5W、5W-20、5W-30、5W-40、5W-50、5W-60、10W、10W-20、10W-30、10W-40、10W-50、15W、15W-20、15W-30、または15W-40のSociety of Automotive Engineers(SAE)粘度グレードの潤滑油組成物を得るために、基油として使用される油を、所望の最終用途及び最終油中の添加剤に応じて選択またはブレンドするであろう。
【0053】
潤滑粘度の油(「ベースストック」または「基油」と呼ばれる場合がある)は、潤滑剤の主要な液体成分であり、例えば、最終的な潤滑剤(または潤滑剤組成物)を得るために、添加剤と、場合により、他の油がブレンドされる。濃縮物の作製及びそれからの潤滑油組成物の作製に有用な基油は、天然(植物、動物、または鉱物)及び合成潤滑油ならびにそれらの混合物から選択され得る。
【0054】
本開示におけるベースストック及び基油の定義は、American Petroleum Institute (API) Publication 1509 Annex E (“API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils,” December 2016)に見出されるものと同じである。グループIベースストックは、90%未満の飽和物及び/または0.03%を超える硫黄を含有し、80以上且つ120未満の粘度指数(表E-1に指定された試験方法を使用)を有する。グループIIベースストックは、90%以上の飽和分及び0.03%以下の硫黄を含有し、80以上且つ120未満の粘度指数(表E-1で指定された試験方法を使用)を有する。グループIIIベースストックは、90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含有し、120以上の粘度指数(表E-1に指定された試験方法を使用)を有する。グループIVベースストックは、ポリアルファオレフィン(PAO)である。グループVベースストックは、グループI、II、III、またはIVに含まれない他の全てのベースストックを含む。
【0055】
天然油は、動物油、植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、ならびに鉱油を含む。好ましい熱酸化安定性を有する動物油及び植物油を使用することができる。天然油のうち、鉱油が好ましい。鉱油は、その原油源、例えば、パラフィン系、ナフテン系、または混合されたパラフィン系-ナフテン系であるかどうかに関して大きく異なる。石炭またはシェールに由来する油も有用である。天然油は、製造及び精製に使用される方法、例えば、蒸留範囲及び直留もしくは分解、水素化精製、または溶媒抽出されるかどうかによっても異なる。
【0056】
合成油は、炭化水素油を含む。炭化水素油は、油、例えば、重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー、エチレン-オレフィンコポリマー、及びエチレン-アルファオレフィンコポリマー)を含む。ポリアルファオレフィン(PAO)油ベースストックは、一般に使用される合成炭化水素油である。例として、C8~C14オレフィン、例えば、C8、C10、C12、C14オレフィンまたはそれらの混合物に由来するPAOが利用され得る。
【0057】
基油として使用される他の有用な流体としては、高性能特性を提供するように処理されており、好ましくは、触媒的に処理されているか、または合成されている非従来型または非在来型のベースストックが挙げられる。
【0058】
非従来型または非在来型のベースストック/基油は、1つ以上のガス・トゥー・リキッド(GTL)材料に由来するベースストック(複数可)の混合物、ならびに、天然ワックスまたはワックス原料に由来するイソメラート/イソデワキサートベースストック(複数可)、鉱油及び/または非鉱油ワックスフィードストック、例えば、スラックワックス、天然ワックス、ならびにワックスストック、例えば、軽油、ワックス燃料水素化分解装置ボトム、ワックスラフィネート、水素化分解生成物、熱分解生成物、または他の鉱物、鉱油、あるいは非石油由来のワックス物質、例えば、石炭液化またはシェール油から得られたワックス物質、ならびに、そのようなベースストックの混合物のうちの1つ以上を含む。
【0059】
本開示の潤滑油組成物で使用される基油は、優れた揮発性、安定性、粘度、及び清浄度の特徴により、APIグループI、グループII、グループIII、グループIV、及びグループVの油、ならびにそれらの混合物、好ましくは、APIグループII、グループIII、グループIV、及びグループVの油、ならびにそれらの混合物、より好ましくは、グループIII~グループVの基油に相当する様々な油のいずれかである。
【0060】
通常は、基油は、100℃(ASTM D445)で2.5~20mm2/秒(例えば、3~12mm2/秒、4~10mm2/秒、または4.5~8mm2/秒)の範囲の動粘度を有する。
【0061】
本潤滑油組成物は、これらの添加剤が分散または溶解した、完成した潤滑油組成物を得るために、補助機能を付与するための従来の潤滑油添加剤も含有してもよい。例えば、酸化防止剤、無灰分散剤、耐摩耗剤、金属界面活性剤などの界面活性剤、防錆剤、曇り除去剤(dehazing agents)、解乳化剤、摩擦調整剤、金属不活化剤、流動点降下剤、粘度調整剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、染料、極圧添加剤など、及びそれらの混合物と、潤滑油組成物をブレンドすることができる。様々な添加剤が知られており、市販されている。通常のブレンド手順により、本発明の潤滑油組成物の調製に、これらの添加剤またはそれらの類似化合物を用いることができる。
【0062】
上述の添加剤のそれぞれは、使用される場合、機能的に有効な量で使用され、潤滑剤に所望の特性を付与する。従って、例えば、添加剤が無灰分散剤である場合、この無灰分散剤の機能的に有効な量は、潤滑剤に所望の分散特性を付与するのに十分な量であろう。一般に、これらの添加剤のそれぞれの濃度は、使用される場合、別途明記のない限り、約0.001~約20wt%、例えば、約0.01~約10wt%、の範囲であってよい。
例
【0063】
以下の例は、例示のみを目的としており、決して、本開示の範囲を限定しない。
【0064】
潤滑油ベースライン配合物A
以下の構成成分を一緒にブレンドして、SAE 10W-30粘度グレード配合物を得ることにより、最初のベースライン潤滑油組成物を調製した:
(a)1級及び2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の混合物、
(b)ビス-スクシンイミド分散剤、
(c)スルホン酸マグネシウム界面活性剤、
(d)カルシウムフェナート及びスルホン酸カルシウム、
(e)アルキル化ジフェニルアミン及びヒンダードフェノール酸化防止剤、
(f)モリブデンスクシンイミド酸化防止剤、
(g)流動点降下剤、粘度指数向上剤、及び泡抑制剤、ならびに
(h)グループII基油の混合物。
【0065】
比較例1
2.875wt%の後処理されていないスクシンイミド分散剤をベースライン配合物Aに添加することにより、比較例1を配合した。
【0066】
比較例2
2.875wt%のグリシドールで後処理されたスクシンイミド分散剤をベースライン配合物Aに添加することにより、比較例2を配合した。グリシドールで後処理されたスクシンイミド分散剤の調製を以下に記載する。
【0067】
撹拌させた250mLの3口丸底フラスコに、122.24gのビス-スクシンイミドを入れた。これは、2300MWの熱PIBSA及びHPA(1.24wt%の窒素)の反応生成物である。次に、窒素パージ下でマントルを加熱することにより、ビススクシンイミドを35℃に加熱した。注射器を用いて、2.45gのグリシドール(分子量=74.08g/モル、グリシドール:HPA CMR=2)をビススクシンイミドに30分間かけて滴下した。混合物の温度を35℃で16.5時間維持した。最終製品の希釈油分は、33.8wt%であった。
【0068】
比較例3
2.875wt%のグリシドールで後処理されたスクシンイミド分散剤をベースライン配合物Aに添加することにより、比較例3を配合した。グリシドールで後処理されたスクシンイミドの調製を以下に記載する。
【0069】
撹拌させた250mLの3口丸底フラスコに、122gのビス-スクシンイミドを入れた。これは、2300MWの熱PIBSA及びHPA(1.24wt%の窒素)の反応生成物である。次に、窒素パージ下でマントルを加熱することにより、ビススクシンイミドを35℃に加熱した。滴下漏斗を用いて、4.88gのグリシドール(分子量=74.08g/モル、グリシドール:HPA CMR=4)をビススクシンイミドに2時間かけて滴下した。混合物の温度を35℃で16.5時間維持した。最終製品の希釈油分は、33.1wt%であった。
【0070】
比較例3は、使用される仕込みモル比で比較例2とは異なる。
【0071】
例1
2.875%のナフチルグリシジルエーテルで後処理されたスクシンイミド分散剤をベースライン配合物Aに添加することにより、本発明の例1を配合した。ナフチルグリシジルエーテルで後処理されたスクシンイミド分散剤の調製を以下に記載する。
【0072】
撹拌させた10ガロンの反応器に、2300MWの熱PIBSA及びHPA(1.26wt%の窒素)に基づく19996.3gのビススクシンイミドを入れ、反応器を窒素雰囲気下で90℃に加熱した。1084.5gのナフチルグリシジルエーテルを、ビススクシンイミド(分子量=200.08g/モル、ナフチルグリシジルエーテル:HPA CMR=2)に35分間かけて投入した。混合物を90℃で約4時間維持した。次に、反応温度を130℃に増加させ、その温度で2時間保持した。生成物は、以下の特性を有していた:TBN=26.7mg KOH/g、窒素=1.18wt%、希釈油分=31.7wt%。
【0073】
潤滑油ベースライン配合物B
以下の構成成分を一緒にブレンドして、SAE 10W-30粘度グレードの配合物を得ることにより、第2の潤滑油ベースライン配合物を調製した:
(a)2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、
(b)スルホン酸マグネシウム界面活性剤、
(c)カルシウムフェナート及びスルホン酸カルシウム、
(d)ホウ酸化カルシウムスルホナート;
(e)アルキル化ジフェニルアミン及びヒンダードフェノール酸化防止剤、
(f)モリブデンスクシンイミド酸化防止剤、
(g)流動点降下剤、粘度指数向上剤、及び泡抑制剤、ならびに
(h)グループII基油の混合物。
【0074】
比較例5
5.5wt%のエチレンカルボナートで後処理されたスクシンイミド分散剤を、ベースライン配合物Bに添加することにより、比較例5を配合した。
【0075】
比較例6
5.5wt%のナフチルグリシジルエーテルで後処理された分散剤(例1)をベースライン配合物Bに添加することにより、比較例6を配合した。
【0076】
例2
2.75wt%のエチレンカルボナートで後処理されたスクシンイミド分散剤及び2.75wt%のナフチルグリシジルエーテルで後処理された分散剤(例1)をベースライン配合物Bに添加することにより、本発明の例2を配合した。
【0077】
比較例7
5.5wt%の後処理されていないビススクシンイミド分散剤をベースライン配合物Bに添加することにより、比較例7を配合した。
【0078】
比較例8
5.5wt%のナフチルグリシジルエーテルで後処理された分散剤(例1)をベースライン配合物Bに添加することにより、比較例8を配合した。
【0079】
例3
2.75wt%の後処理なしのスクシンイミド分散剤、及び2.75wt%のナフチルグリシジルエーテルで後処理されたスクシンイミド分散剤(例1)をベースライン配合物Bに添加することにより、本発明の例3を配合した。
【0080】
潤滑油ベースライン配合物C
以下の構成成分を一緒にブレンドして、SAE 10W-30粘度グレードの配合物を得ることにより、第3の潤滑油ベースライン配合物を調製した:
(a)1級及び2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の混合物、
(b)スルホン酸マグネシウム界面活性剤、
(c)カルシウムフェナート及びスルホン酸カルシウム、
(d)アルキル化ジフェニルアミン及びヒンダードフェノール酸化防止剤、
(e)モリブデンスクシンイミド酸化防止剤、
(f)流動点降下剤、粘度指数向上剤、及び泡抑制剤、ならびに
(g)グループII基油の混合物。
【0081】
比較例9
2.8wt%のナフチルグリシジルエーテルで後処理された分散剤(例1)をベースライン配合物Cに添加することにより、比較例9を配合した。
【0082】
例5
2.8wt%のナフチルグリシジルエーテルで後処理された分散剤(例1)及び4wt%のホウ酸化スクシンイミド分散剤をベースライン配合物Cに添加することにより、本発明の例5を配合した。
【0083】
煤増粘ベンチテスト
煤分散性について本発明の例1及び比較例1~4を評価した。煤代用物であるカーボンブラックの添加から生じた粘度増加を分散及び制御する配合物の能力を測定するベンチテストを実施した。本試験では、各新しい油の試料をVULCAN(登録商標)XC72Rカーボンブラック(Cabot Corporation)で処理し、ミキサーを使用して4分間ホモジナイズして、カーボンブラックを完全に分散させた。次に、ASTM D445に従ってPMT TV4000温度浴(Tamson Instruments)内でZeitfuchs逆流クロスアーム粘度計(Cannon Instrument Company)を使用して、各潤滑油試料のKV100を100℃で測定した。カーボンブラックを含有しない参照油試料と比較した粘度増加が報告される。小さい粘度増加は、煤分散性能の向上を示すが、試料の高い粘度増加またはゲル化は、分散性の不十分さを示す。煤増粘ベンチテストの結果を以下の表1にまとめる。
【表1】
【0084】
表1に見られるように、本発明の例1(実施例1)は、比較例(比較実施例)と比較して低い粘度増加を示した。これは、例1の芳香族後処理剤が優れた煤分散能力をもたらすことを示す。
【0085】
フッ素ゴムシールの適合性の評価
150℃に168時間加熱された油系溶液中でフルオロカーボン試験片を吊るすことにより、ダイムラー・クライスラーAK-6シール試験において、フルオロカーボンエラストマーシールとの適合性について、本発明の例2ならびに比較例5及び6を試験した。各試料のパーセント体積変化、点硬度変化(PH)、パーセント引張強さ変化(TS)、及びパーセント伸び変化(EL)の変動を測定した。合格限界を以下の表2に示す。
【表2】
【0086】
シール適合性試験の試験結果を以下の表3にまとめる。
【表3】
【0087】
MTV5040ガラス器具堆積試験
MTV5040ガラス器具堆積試験を使用して、堆積低減性能について、本発明の例3ならびに比較例7及び8を試験した。潤滑油試料を80℃に加熱し、空気を試料に20L/分で通過させて、油に急速な発泡を引き起こし、細かい液滴として高温の油を310℃に加熱されたガラス管に吹き付ける。180分後、ガラス管を24時間排水させ、その後、表面に形成された堆積物の量を測定するために重量を量る。少ない堆積量は、潤滑油の良好な堆積低減性能を示す。
【0088】
MTV5040堆積試験の試験結果を以下の表4にまとめる。
【表4】
【0089】
高温腐食ベンチテスト(HTCBT)
原油は、様々な硫黄化合物を含有し、そのほとんどが精製時に除去される。しかし、石油製品に残留する硫黄化合物は、様々な金属を腐食させ得る。腐食効果が残留硫黄化合物の正確な化学的性質に依存するので、この腐食性は、必ずしも総硫黄含有量に直接関係しているわけではない。
【0090】
ASTM D6594 HTCBTを使用して、銅ストリップ試料の腐食を試験及び観察した。銅または銅合金は、多くの場合、カムフォロア及び/またはベアリングに使用される。
【0091】
銅ストリップを潤滑エンジン油試料に浸漬した(比較例9及び例4)。油を高温(170℃)にし、長時間(168時間)空気(5l/時)を吹き付けた。腐食及び腐食生成物について、銅ストリップ及び得られた応力を加えられた油を試験した。
【0092】
加熱期間の終わりに、銅ストリップを取り出して洗浄した。以下の表5にまとめられたASTM銅ストリップ腐食基準(ASTM D130-04)に対して、色及び変色レベルを評価した。
【表5】
【0093】
HTCBT試験は、油中の銅のレベルを測定し、試料を視覚的に評価した。試験の結果を以下の表6にまとめる。APIの重質カテゴリーの合格と見なされるために、銅の濃度が20ppmを超えてはならない。
【表6】
【0094】
本明細書に記載の全ての文書は、参照により本明細書に組み込まれ、これは、本文と矛盾しない限り、任意の優先権文書及び/または試験手順を含む。上述の一般的な記載及び特定の実施形態から明らかなように、本開示の形態が図示及び記載されているが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な修正を行うことができる。従って、本開示がそれにより限定されることは意図されていない。
【0095】
同様に、「含む」という用語は、「含むこと」という用語と同義であると考えられる。同様に、構成物、要素、または要素の群に移行句「含むこと」が先行する場合はいつでも、本発明者らは、移行句「から本質的になる」、「からなる」、「からなる群より選択される」、または「である」が構成物、要素(複数可)の詳説に先行する同じ構成物、または要素の群も企図することが理解され、その逆も同様である。
【0096】
本明細書で使用される用語「a」及び「the」は、単数だけでなく複数形も包含すると理解される。
【0097】
様々な用語が上で定義されている。請求項で使用される用語が上で定義されていない範囲で、少なくとも1つの出版物または発行された特許に反映されるように、当業者らがその用語を与えたことを最も広く定義するべきである。さらに、本出願で引用された全ての特許、試験手順、及び他の文書は、そのような開示が本出願と矛盾しない限り、且つ、そのような組み込みが許可されている全ての管轄に対し、参照により完全に組み込まれる。
【0098】
本開示の上述の記載は、本開示について例示及び記載する。さらに、本開示は、好ましい実施形態のみを示し、記載するが、上述のように、本開示が、他の様々な組み合わせ、修正、及び環境で使用可能であり、本明細書で表現される概念の範囲内で変更または修正可能であり、上記の教示及び/または関連技術分野のスキルもしくは知識に見合うと理解すべきである。上述は本開示の実施形態に関するが、本開示の他の及びさらなる実施形態は、その基本的範囲から逸脱することなく考案され得、その範囲は、以下の特許請求の範囲で決定される。
【0099】
上の本明細書に記載の実施形態は、さらに、それを実施する既知の最良の様式を説明し、そのような実施形態または他の実施形態で、及び、特定の用途または使用により必要とされる様々な修正を伴って、当業者らが本開示を利用することができることが意図される。従って、この記載は、本明細書に開示の形態に限定することが意図されない。また、添付の特許請求の範囲は、代替実施形態を含むと解釈されることが意図される。
【国際調査報告】