(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(54)【発明の名称】薄膜の化学的堆積によりポリマー系基材を機能化するための方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/30 20060101AFI20230809BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C23C16/30
C23C16/455
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504396
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 EP2021070300
(87)【国際公開番号】W WO2022018100
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509265302
【氏名又は名称】アンスティテュ・ポリテクニック・ドゥ・グルノーブル
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】516065504
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ グルノーブル アルプ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エルワン・ジクエル
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク・メルシエ
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・ボイショ
(72)【発明者】
【氏名】エリザベート・ブランケ
(72)【発明者】
【氏名】エヴリン・モレ
(72)【発明者】
【氏名】ロマン・ルブー
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・ブラ
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA11
4K030BA01
4K030BA02
4K030BA13
4K030BA17
4K030BA18
4K030BA29
4K030BA38
4K030BA42
4K030CA01
4K030CA08
4K030CA17
4K030HA01
4K030JA10
(57)【要約】
本発明は、ガス状の前駆体を用いて、少なくとも一つの薄膜(3)の化学的堆積によりセルロース系基材(2)を機能化するための方法に関する。本方法は、表面粗さが0.1μm以上である、第一の面(200a)及び第二の面(200b)を有する少なくとも一枚のシート(200)を含む基材を準備する工程を含む。第一の面(200a)は、第一の面(200a)又は第二の面(200b)に属する別の区画(200c)と重なり合った区画(200c)を有する。上記区画(200c)(複数)間の間隔(201)は、少なくとも局所的に配置されて、ガス状の前駆体の拡散を可能にしている。その後、上記方法は、ガス状の前駆体の拡散等により提供される、基材(2)上への少なくとも一つの薄膜(3)の化学気相堆積工程であって、少なくとも間隔(201)(複数)のそれぞれに上記ガス状の前駆体を拡散させる工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状の前駆体からの少なくとも一つの薄膜の化学的堆積によってセルロース系基材(2)を機能化する方法(1)であって、
- セルロース系基材(2)の準備工程(10)であって、
セルロース系基材(2)は、第一の面(200a)及び第一の面の反対側の第二の面(200b)を有する少なくとも一枚のシート(200)を含み、少なくとも一つの面(200a、200b)の表面粗さが0.1μm以上であり、
第一の面(200a)は、少なくとも一枚のシート(200)の第一の面(200a)又は第二の面(200b)に属する別の区画(200c)と重なり合っている区画(200c)を有し、前記区画(200c)(複数)は重なり合っており、
前記区画(200c)(複数)間の間隔(201)が少なくとも局所的に確保されて、ガス状の前駆体が拡散できるように構成されている、準備工程(10)、及びその後の、
- 基材(2)上への少なくとも一つの薄膜(3)の、ガス状物質を用いた(例えば、ガス状の前駆体の拡散等により提供される)化学的堆積工程(11)であって、
少なくとも各間隔(201)に、ガス状の前駆体を拡散させる、堆積工程(11)
を含む、方法(1)。
【請求項2】
少なくとも一つの薄膜の化学的堆積工程の間、基材が層間コンパウンドを有していない、請求項1に記載の方法(1)。
【請求項3】
各間隔が、少なくとも一枚のシートの形状(例えば、巻き状、積層体状又は折りたたみ状の形状)、及び/又は基材の表面粗さによってのみ規定される、請求項1又は2に記載の方法(1)。
【請求項4】
少なくとも一つの薄膜(3)の厚さをe
3とすると、各間隔(201)が2e
3+L
d(式中、距離L
dは50nm超である)よりも広い、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項5】
各間隔(201)が5mm未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項6】
少なくとも一つの薄膜(3)の堆積工程(11)の温度が200℃未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項7】
少なくとも一つの堆積した薄膜(3)の厚さe
3が、少なくとも一つの堆積した薄膜(3)の少なくとも80%にわたって100nm未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項8】
少なくとも一つの薄膜(3)の堆積工程(11)が、少なくとも一つのガス状の前駆体を注入して、1秒から1時間の間、基材(2)をガス状の前駆体に暴露(110)する工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項9】
少なくとも一つの薄膜(3)の堆積工程(11)が、原子層堆積法により実施される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項10】
基材(2)が、巻き状又は折りたたみ状の形状の単一のシート(200)を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項11】
前記区画(200c)(複数)が、シート(200)の一つの同一の面(200a、200b)に属し、シート(200)は、その区画(200c)(複数)が二つずつ互いに対向するように折りたたまれている、請求項10に記載の方法(1)。
【請求項12】
前記区画(200c)(複数)が、シート(200)の二つの反対関係にある面(200a、200b)に属し、シート(200)は、その区画(200c)(複数)が二つずつ互いに対向するように巻かれている、請求項10に記載の方法(1)。
【請求項13】
基材が、別個であり且つ少なくとも部分的に重なり合った複数のシート(200)を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項14】
前記区画(200c)(複数)が、別のシート(200)(例えば、積層した又は重なり合った別のシート(200))に属し、その区画(200c)(複数)が二つずつ互いに対向している、請求項13に記載の方法(1)。
【請求項15】
基材(2)の表面粗さが0.1μm~200μmである、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項16】
基材(2)が開孔した気孔を有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項17】
基材(2)が閉孔した基材である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項18】
積層体(20)の各シート(200)の厚さe
200が5mm未満、好ましくは1mm未満である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項19】
基材が、セルロース繊維及びセルロースナノファイバーのうちの一つをベースとする基材である、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
基材(2)の準備工程(10)の前に、基材(2)がそれから構成されるセルロース系素材を成形して積層体(20)を形成させる工程(13)を更に含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項21】
少なくとも一つの堆積した薄膜(3)が、酸化物、窒化物及び酸化窒化物の中から選択される素材をベースとする層である、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法(1)。
【請求項22】
少なくとも一つの薄膜(3)の化学的堆積工程(11)の後に、基材(2)の分解温度と少なくとも一つの薄膜(3)の分解温度との間の温度に基材(2)を加熱する、基材(2)の焼成工程(14)を更に含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス状の前駆体からの薄膜の化学的堆積によりポリマー系基材を機能化するための方法の分野に関する。より具体的には、本発明はガス状の前駆体からの薄膜の化学的堆積によるバイオ由来基材の機能化に関する。本発明は、断熱材分野及び食品包装分野における用途に特に有利である。
【背景技術】
【0002】
数多くの用途分野において、使用される素材の特性の改良及びそれらの製造コストを抑える試みが常に行われている。例えば、断熱分野において、それらの使用環境において良好な機械的特性を更に有する効率の良い断熱材を得る試みが行われている。もう一つの例によれば、包装分野において、良好な酸素バリア特性及び水バリア特性、並びにそれらの成形に適した機械的特性を有する素材を得るための試みが行われている。
【0003】
これらの用途分野において、それらの環境インパクトを抑制するために、使用される素材のバイオ由来成分の比率を高める試みが更に行われている。そのため、バイオ由来ポリマー系基材は有望な候補である。しかし、これらのポリマーは、特にそれらの機械的特性、並びにそれらの酸素バリア性及び水バリア性を考慮すると、一般的に従来の石油化学基材よりも効率が悪いと考えられる。更に、これらの基材は、多孔質であること、及び/又は高い表面粗さを有する等、複雑な形状を有することが多い。
【0004】
一般的に、基材の特性を変更及び/又は達成するために、工業規模で基材上に薄膜を堆積することを目的とした、いくつかの解決手段が存在する。
【0005】
物理蒸着法の実施方法は公知である。しかし、物理蒸着法は、基材の性質により依然制限される。特に、この技法は、複雑な形状を有する基材上に均一な厚さの連続的な薄膜を得るためのものである。
【0006】
更に、ガス状の前駆体から化学的堆積を実施する方法であって、堆積速度が工業規模での基材の機能化に適している方法も存在する。これらの化学的堆積の中でも、空間的原子層堆積(SALD)が公知である。原子層堆積において、従来は、基材を前駆体に対して暴露させた後にそれらを排出する工程を含む、いくつかのサイクルの一連の流れが使用されている。SALDにおいて、この一連の流れは代替アプローチで置き換えられ、代替アプローチにおいては、種々の前駆体が、連続的に供給され、且つ不活性ガスバリアにより互いに空間的に分断される。このように、機能化される基材は、種々の前駆体ゾーンの間で移動する。
【0007】
SALDは、堆積前及び堆積後に、複数のシートを含む積層体の形態、例えば巻き形態で存在する基材を機能化するために実施することができる。より具体的には、巻きは、種々の機能化の間に前駆体の注入ゾーン間を移動させるために、巻きを解いた後、機能化された基材を再び巻いて再度巻きを形成してもよい。
【0008】
例えば、基材の巻きが解かれ、ドラムの周りに沿って移動する、近接SALD法が存在する。この周りに沿って、種々の前駆体が提供され、不活性ガスバリアにより互いに空間的に分断される。
【0009】
もう一つの例によれば、いわゆる「ロール・ツー・ロール(roll-to-roll)」SALD法が存在し、この方法では、基材の巻きが解かれ、堆積チャンバー内の種々のロール間で移動する。種々の前駆体は、堆積チャンバーの種々のゾーンに供給される。
【0010】
これらの方法はしかし、実施するには依然煩雑である。特に、それらは高額且つ複雑な装置を要し、それらの使用における耐久性を制限してしまう。更に、利益を生むことができる製造速度が可能である堆積速度を得るため、これらの方法において基材を速く移動させなければならない。これは複雑な形状を有する基材上での連続的な薄膜の堆積及び均一な厚さでの堆積を制限する。
【0011】
文献US2012/0171376A1は、非セラミックの多孔質基材に適した原子層堆積(ALD)による堆積方法であって、多孔質基材の3箇所がスペーサーにより間隔を空けたままとすることができる、方法を開示している。
【0012】
文献US2011/0048327A1は、ロール回転間の間隔を保つように構成されたカセット上のロールに配置したPETフィルムを機能化するための方法を開示している。
【0013】
文献US2016/0152518A1及びUS2005/0186338A1は、ロール状にされたポリマーフィルムを機能化するための方法を開示している。上記フィルムは、中心体周りに巻かれているか、又はそれ自体が巻かれており、スペーサーによりその巻きの間に間隔が設けられている。
【0014】
実際のところ、これらの方法は、実施するには依然煩雑であり、工業規模でのポリマー基材の機能化には全く適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US2012/0171376A1
【特許文献2】US2011/0048327A1
【特許文献3】US2016/0152518A1
【特許文献4】US2005/0186338A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、工業規模での基材の機能化に適する改良された化学蒸着法を提供することである。本発明の目的は特に限定されないが、工業規模でのバイオ由来基材、特にセルロース系基材の機能化に適する改良された化学蒸着法を更に提供し得るものでもある。
【0017】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、下記記載及び添付の図面の審査の際に明らかとなる。他の利点も組み込むことができることも理解される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的を達成するため、発明の態様によれば、
ガス状の前駆体から少なくとも一つの薄膜の化学的堆積によりセルロース系基材を機能化する方法であって、
- セルロース系基材の準備工程であって、
上記セルロース系基材は、第一の面及び第一の面の反対側の第二の面を有する少なくとも一枚のシートを含み、少なくとも一つの面の表面粗さが0.1μm以上であり、
上記第一の面は、少なくとも一枚のシートの上記第一の面又は上記第二の面に属する別の区画と重なり合っている区画を有し、上記区画(複数)は重なり合っており、
上記区画(複数)間の間隔が少なくとも局所的に確保されて、ガス状の前駆体が拡散できるように構成されている、工程、及びその後の、
- 基材上での少なくとも一つの薄膜の、ガス状物質を用いた(例えば、ガス状の前駆体の拡散等により提供される)化学的堆積工程であって、
少なくとも各間隔において、上記ガス状の前駆体を拡散させる、工程
を含む方法を提供する。
【0019】
もう一つの態様によれば、ガス状の前駆体からの少なくとも一つの薄膜の化学的堆積によりポリマー系基材を機能化する方法であって、
- 二枚ずつ少なくとも部分的に重なり合うことで積層体を形成する複数のシートを含む基材の準備工程であって、各シートは、第一の面及び第一の面の反対側の第二の面を有し、積層体中の別のシートの面の区画と重なり合っているシートの面の各区画は、他のシートの面の区画との間に少なくとも局所的に間隔を有し、上記間隔は、ガス状の前駆体の拡散を可能とするように構成されている、工程
その後、
- 基材上での少なくとも一つの薄膜の、ガス状物質を用いた(例えば、ガス状の前駆体の拡散等により提供される)化学的堆積工程であって、少なくとも各間隔に、上記ガス状の前駆体を拡散させる、工程
を含む方法を提供する。
【0020】
上記態様のいずれかによる方法では、上記少なくとも一つの薄膜が積層体中の各シートの各面上に堆積されるように、上記積層体はシート間に間隔を有する。こうして上記基材は機能化される。上記方法は、基材を展開すること又は巻きを解くことを要することなく、積層体の各シート上への少なくとも一つの薄膜の堆積を可能とする。上記積層体のシートの面は同時に機能化される。上記方法は広範囲の表面を簡素化された方法で機能化することを可能とし、したがって工業規模での利用が可能である。
【0021】
基材を展開する又は巻きを解くために多くの移動性部材に頼ることが必要ではないため、上記方法に関連する装置も簡素化される。結果的に、関連する装置の耐久性が改良され、それに伴い使用可能期間が改良される。
【0022】
上記方法及びそれに関連する装置が簡素化されると、得られる機能化された基材のコストを現在の解決手段よりも更に低減することが可能となる。
【0023】
積層体内でのガス状の前駆体の拡散のおかげで、上記方法は更に、複雑な形状を有する、例えば多孔質基材及び/又は高い表面粗さを有する基材を機能化することを可能とする。
【0024】
これは、面の粗さが0.1μm以上であるセルロース系基材に特に有利である。このようにして、複雑な形状を有する、例えば多孔質基材及び/又は高い表面粗さを有するバイオ由来ポリマー系基材を機能化することが可能である。ガス状の前駆体から化学的堆積が実施されると、上記方法は特定の基材、そして特にバイオ由来基材を損傷するおそれのある液相中での基材の含浸を更に回避する。基材がセルロース系であることにより、上記方法は、生分解性であり、再生可能且つ再利用可能な素材から機能化された基材を得ることを可能にする。セルロース系基材が通常、水等の液体を吸収し、湿潤媒体中で劣化する特性を有するため、上記方法は基材に保護層を堆積することを可能とする。
【0025】
驚くべきことに、粗さが0.1μm以上であると、少なくとも局所的に間隔を創出することが可能となり、ガス状の前駆体の拡散が可能となることが、本発明の開発において判明した。続いて、間隔が確保されるように構成される層間コンパウンド(intercalation compound)を使用することは必須ではない。したがって、基材の機能化は簡素化される。更に、層間コンパウンドが存在していても、この粗さは、層間コンパウンドと基材との間の接触ゾーンにおける前駆体の拡散を容易化する。
【0026】
ある例によれば、前記重なり合った区画は互いに対向し、好ましくは互いに直接的に対向する。
【0027】
ある例によれば、互いに対向するか又は重なり合った第一及び第二の区画の間に、シートは存在しない。
【0028】
上記基材は、堆積チャンバー内に設置することができ、薄膜の化学的堆積の間、少なくとも堆積チャンバーに対して基材を並進させるようには移動させられない。したがって、上記方法に関連する装置は、基材の移動のための部材に頼る必要がないため、更に簡素化される。
【0029】
もう一つの本発明の態様は、本発明の第一の態様による機能化方法により得られる基材に関する。
【0030】
本発明の目的、狙い、並びに特徴及び利点は、下記添付の図面により図示されている以下の実施形態の詳細な記載に基づき発揮され得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の種々の実施形態による基材を機能化するための方法の工程を簡潔に図示する図である。
【
図2A】種々の実施形態による複数のシートの積層体からなる基材を概略的に示す図である。
【
図2B】種々の実施形態による複数のシートの積層体からなる基材を概略的に示す図である。
【
図2C】種々の実施形態による複数のシートの積層体からなる基材を概略的に示す図である。
【
図2D】種々の実施形態による複数のシートの積層体からなる基材を概略的に示す図である。
【
図2E】種々の実施形態による複数のシートの積層体からなる基材を概略的に示す図である。
【
図3A】積層体のシート間に層間コンパウンドを有する
図2Aに図示された基材を概略的に示す図である。
【
図3B】積層体のシート間に層間コンパウンドを有する
図2Bに図示された基材を概略的に示す図である。
【
図3C】積層体のシート間に層間コンパウンドを有する
図2Cに図示された基材を概略的に示す図である。
【
図3D】積層体のシート間に層間コンパウンドを有する
図2Dに図示された基材を概略的に示す図である。
【
図3E】積層体のシート間に層間コンパウンドを有する
図2Eに図示された基材を概略的に示す図である。
【
図4A】本発明の第一の態様による機能化方法の実施形態による薄膜の堆積後の、
図2Aにおいて図示された基材を概略的に示す図である。
【
図4B】本発明の第一の態様による機能化方法の実施形態による薄膜の堆積後の、
図2Bにおいて図示された基材を概略的に示す図である。
【
図4C】本発明の第一の態様による機能化方法の実施形態による薄膜の堆積後の、
図2Dにおいて図示された基材を概略的に示す図である。
【
図4D】本発明の第一の態様による機能化方法の実施形態による薄膜の堆積後の、
図2Eにおいて図示された基材を概略的に示す図である。
【
図5】本発明の第一の態様による機能化方法で実装された原子層堆積リアクターを概略的に示す図である。
【
図6A】本発明の第一の態様による機能化方法の二つの実施形態により機能化された基材の断面図を概略的に示す図である。
【
図6B】本発明の第一の態様による機能化方法の二つの実施形態により機能化された基材の断面図を概略的に示す図である。
【0032】
図面は、例として供されており、本発明を限定しない。それらは本発明の理解を容易にするための基本的な概略例を構成しており、必ずしも実用的な利用規模ではない。特に、堆積層、間隔及び基材の相対的な厚さは実際を代表するものではなく、また、図面の間のそれらのあり得る変更は実際を代表するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態の詳細な検討を始める前に、任意の特徴を以下に言及するが、それらは任意に組み合わせて又は代替的に使用できる。
- 上記基材は堆積チャンバー内に設置することができ、薄膜の化学的堆積の間、少なくとも堆積チャンバーに対して並進させるように基材が移動されない。上記基材は、薄膜の化学的堆積の間、堆積チャンバーに対して並進及び回転されるように移動されない。
- 上記基材は、基材を支持するためのいかなる部材も追加することなく、より具体的には、少なくとも一枚のシートの区画間の間隔を確保するために構成されたいかなる支持部材もなしで堆積チャンバーの壁に配置してもよい。
- 少なくとも一つの薄膜の化学的堆積の間、上記基材は、少なくとも一枚のシートの区画間のスペーサーを形成する層間コンパウンド、又はいかなる同様の要素も有することがない。このように、上記方法は、実施がより容易である。更に、基材の機能化は、層間コンパウンドにより堆積されたゾーンが機能化されないことのリスクが制限されることによって改良される。積層体のコンパクト性が向上すると、結果的に基材の機能化効率が上昇する。
- 少なくとも一つの薄膜の化学的堆積工程は、基材上で直接的に実施される。少なくとも一つの薄膜の化学的堆積工程は、少なくとも一つの薄膜の堆積前に接着層を堆積することなく実施することができる。
- 少なくとも一つの薄膜は、e3の厚さを有し、各間隔は、2e3+Ld(式中、距離Ldは50nm超である)よりも広い。したがって、この間隔は、積層体のシート間の各間隔が埋まるリスクを制限することによって積層体中の前駆体の拡散を可能とする。
- 各間隔は、5mm未満、更には1mm未満、更には0.5mm未満、更には20μm未満である。
- 各間隔は、例えば巻き状、積層体状若しくは蛇腹等の折りたたみ状の、少なくとも一枚のシートの形状、及び/又は基材の表面粗さによってのみ規定することができる。
- 上記基材の、積層体のシートの主拡張面における長さ及び/又は幅は、数センチメートルから数メートルの間、例えば1cmから3mの間であってもよい。これらの大きさは通常、工業規模で製造される(例えば、巻き状の)紙及び/又はティッシュペーパー基材(tissue substrate)に対応する。
- 上記少なくとも一つの薄膜の堆積は、原子層堆積法により実施される。上記原子層堆積法は、更に積層体のシート間が埋まるリスクを抑えることにより、薄膜の堆積を容易にする。
- 少なくとも一つの薄膜の堆積温度は200℃未満である。
- ある例によれば、少なくとも一つの薄膜の堆積温度は室温から200℃の間、例えば20℃から200℃の間、更には60℃から150℃の間である。
- 上記少なくとも一つの堆積した薄膜、更には堆積した薄膜により形成された構造体の厚さe3は、少なくとも一つの堆積した薄膜の少なくとも80%、更には少なくとも90%、更には少なくとも99%にわたって100nm未満であり、そして好ましくは1オングストロームから100nmの間、更には10nmから60nmの間、更には10から40nmの間の厚さである。上記少なくとも一つの薄膜の堆積は、少なくとも一つの堆積した薄膜の厚さが、少なくとも一つの堆積した薄膜の少なくとも80%、更には少なくとも90%、更には少なくとも99%にわたって100nm未満であり、好ましくは1オングストロームから100nmの間、更には10nmから60nmの間、更には10から40nmの間の厚さとなるように構成することができる。
- 少なくとも一つの薄膜の堆積は、1秒から1時間の間、更には1秒から10分の間、好ましくは1秒から30秒の間の時間、少なくとも一つのガス状の前駆体を注入して、基材をガス状の前駆体に対して暴露させる工程を含む。
- 少なくとも一つの薄膜の化学的堆積工程の間、ガス状の前駆体を含む反応性雰囲気の圧力は0.1mbarから1000mbarの間である。
- 積層体のシート(複数)は互いに一体となっており、例えば折りたたみ又はそれ自体が巻かれている連続的な基材、すなわちモノリシックな基材を形成する。上記基材は巻き状又は折りたたみ状であってもよい。より具体的な例によれば、積層体は、巻き、又は、モノリシックなシートを折りたたんで得られるシートの重ね合わせである。
- 前記区画(複数)はシートの一つの同一の面に属し、上記シート(複数)は、区画が二つずつ互いに対向するように折りたたまれている。
- 前記区画(複数)はシートの二つの反対関係にある面に属し、上記シート(複数)は区画が二つずつ互いに対向するように巻かれている。
- 積層体のシートは、別個又は非一体型であり、それらは例えば不連続な基材を形成する。ある例によれば、上記シートは少なくとも部分的に重なり合ったものである。より具体的な例によれば、上記積層体は紙の連等の非一体型シートの重ね合わせである。
- 上記区画は、別個のシート、例えば区画が二つずつ互いに対向するように積層した又は重なり合った別個のシートに属する。
- 上記基材の少なくとも一つの面上、好ましくは各面上の表面粗さは実質的に0.1μm超である。
- 上記基材の少なくとも一つの面上、好ましくは各面上の表面粗さは0.1μmから200μmの間、好ましくは100μm、より好ましくは20μmである。
- 上記基材の少なくとも一つの面上、好ましくは各面上の表面粗さは実質的に200μm未満、好ましくは100μm、より好ましくは20μmである。
- 上記基材は開孔した気孔を有する。基材が開孔した気孔を有する場合、ガス状の前駆体は、シート間の各間隔中及びシートの積層方向にシートを通して拡散する。このため、与えられた時間で、ガス状の前駆体と接触する基材の表面は、現行の解決手段よりも最大化する。このように、上記方法は、現行の解決手段よりも短縮された時間で薄膜によって機能化された多孔質の基材を得ることを可能とする。更に、上記薄膜はこうして各シートの内部キャビティ上に堆積される。ある例によれば、開孔した気孔を有する基材は発泡体、キセロゲル、エアロゲル、クリオゲル及び紙の中から選択される。
- 上記基材は、ガス状の前駆体が少なくとも一枚のシートの面を通り抜けることのないように構成されていてもよい。上記基材は、非多孔質であるか又は閉孔されていてもよい。
- 積層体の各シートの厚さe200は5mm未満、好ましくは1mm未満、好ましくは0.5mm未満である。
- 上記基材は、特に厚さe200が5mm未満、好ましくは1mm、好ましくは0.5mm未満であり得る紙及びティッシュペーパーのうちの少なくとも一つの中から選択されるシートを含む。ある例によれば、各シートは紙又はティッシュペーパーである。
- 積層体の各シートの厚さe200は1mm超であり、各シートは、好ましくは発泡体、キセロゲル、クリオゲル又はエアロゲルである。
- 上記基材はバイオ由来ポリマー系、好ましくは、上記基材はセルロース系及び/又はデンプン系である。より具体的には、上記基材は、セルロース繊維及びセルロースナノファイバーのうちの一つをベースとしていてよい。
- 上記方法は、基材の準備工程前に、基材が形成される元となる、更には基材が構成されるポリマー系素材を成形して上記積層体を形成させる工程を更に含む。
- 上記素材の成形工程は、上記素材のシート間、好ましくは上記積層体において二つずつ重なり合ったシートの各組の間に層間コンパウンドを配合する工程を含むことができる。上記層間コンパウンドはシート間の間隔を調節することを可能とする。ある例によれば、上記層間コンパウンドは多孔質である。したがって、ガス状の前駆体は層間コンパウンドを通じて拡散することができる。
- 上記少なくとも一つの堆積した薄膜は、酸化物、窒化物及び酸化窒化物の中から選択される素材をベースとする層である。
- 上記方法は、少なくとも一つの薄膜の化学的堆積工程の後に、基材の焼成工程を更に含んでいてもよい。この焼成工程の間に、上記基材を、基材の分解温度から少なくとも一つの薄膜の分解温度の間の温度に加熱してもよい。
【0034】
本発明の範囲において、用語「重なり合った(superposed)」、「上に(on)」、「載せる(surmounts)」、「被覆する(covers)」、「下層の(underlying)」、「反対方向にある(opposite)」及びそれらの同義語は、必ずしも「と接触している(in contact with)」を意味しないと定義される。したがって、例えば、第二の層上への第一の層の堆積は、特に言及されていない限り、二つの層が互いに直接的に接触していることを必ず意味するのではなく、第一の層と第二の層との直接的な接触、又は少なくとも一つの他の層又は少なくとも一つの他の要素による分離によるいずれかによって、第一の層が第二の層を少なくとも部分的に被覆していることを意味する。
【0035】
層は更に、一つの同一の素材又は異なる素材で作製されるいくつかの副層から構成されていてもよい。
【0036】
【0037】
素材Aを「ベースとする」コンパウンド又は素材は、この素材A及び任意の他の素材を含む、コンパウンド又は素材を意味する。
【0038】
単語「バイオ由来(bio-sourced)」は、天然由来素材、例えば再生可能な資源に由来するもの、そしてより具体的には動物、藻類又は植物由来のバイオマス由来の素材を意味する。
【0039】
用語「紙」とは一般に植物繊維又はセルロース繊維、マイクロファイバー若しくはナノファイバー等のそれらの誘導体を用いて製造される素材を意味する。紙を得るためには、これらの繊維は通常、木からファイバーペースト又はパルプを取得可能なケミカル法、メカニカル法、サーモメカニカル法又はケミサーモメカニカル法等の様々な方法によって抽出される。それらは通常、その後水中で懸濁され、純化、精製、希釈液、運搬、保存、素材の形成等における排出等の特定の数の工程を経てもよい。濡れた繊維状のマットを、通常、その後プレスし、乾燥することで紙のシートが得られる。これらのシートをそれらの製造中又は製造後に積層し、含浸し、又は変形させてもよい。用語「紙」は特に、その坪量が250g/m2未満であるシートにも該当し得る。
【0040】
セルロースナノファイバーは、ナノセルロースとも呼ばれるが、セルロース繊維から、特にヤニのある木又は落葉木のウッドペーストに由来するセルロース繊維から形成されることが知られている。ナノセルロースは、マイクロメートル単位の大きさの要素、セルロース繊維分、及び少なくとも数で50%のナノ物質(すなわち少なくとも一つの大きさが1から100ナノメートルnmの間である物質)で構成される不均一性ナノ素材である。これらのセルロース系ナノ物質は、より具体的には、マイクロファイバー又はマイクロフィブリル、CMF(セルロースマイクロフィブリル)、又は更にはナノファイバー又はナノフィブリル、CNF(セルロースナノフィブリル)である。通常、セルロースのマイクロフィブリル又はナノフィブリルの径は5から100nmの間であり、長さは0.2から5μmの間である。ここで留意すべきは、本発明の範囲において、用語「ナノフィブリル化されたセルロース」又は「セルロースナノファイバー」は、ナノフィブリル化されたセルロース、又はセルロースナノファイバー(CNF)、及びマイクロフィブリル化されたセルロース、又はセルロースマイクロファイバー(CMF)と同じものを指すために使用される。
【0041】
用語「ティッシュペーパー(tissue)」は、繊維の織り合わせ又はテキスタイル糸の織り合わせから形成される基材を意味する。通常、「織布の」ティッシュペーパーは少なくとも第一の方向に広がるワープスレッドアセンブリ、及び第一のものとは別の第二の方向に広がるウェフトスレッドアセンブリを有する。用語「不織布の」は、ランダムに配置されたテキスタイル繊維集合体で形成されたティッシュペーパーを意味する。繊維は、特に熱可塑性繊維の場合には、通常一度溶融したものであってもよく、又は、デンプン、糊、カゼイン、ゴム、ラテックス、セルロース系誘導体又は合成樹脂等の接着剤により接合されたものであってもよい。
【0042】
与えられた値「と実質的に同等である/より大きい/より小さい」パラメータは、このパラメータが与えられた値、その値のプラス又はマイナス10%、更にはプラス又はマイナス5%と、同等である/より大きい/より小さいことを意味する。
【0043】
基材の気孔率又は層の気孔率は、基材又は層の見掛け体積に対し、それを構成する素材により占有されていない容積を意味する。この容積の割合は、真空、気体又は液体、例えば、水により占有され得る。この割合は複数のキャビティによって区切られている。
【0044】
「キャビティ(cavity)」とは、素材により占有されていないが、素材中に形成される容積を意味する。ある例によれば、素材の気孔率は均一であり、すなわち体積単位あたりの気孔率は、測定された寸法が一つの同一の素材のいかなる箇所においても実質的に同一である。
【0045】
「開孔した(open)」気孔は、基材又は層の周囲と通じている基材又は層の気孔を意味する。開孔した気孔において、上記キャビティの大きさは10nm超であってもよい。
【0046】
本発明の範囲において、いわゆる「開孔した」素材、例えば、ティッシュペーパー又は紙は、基材の周囲と少なくとも部分的に通じている気孔を有する素材を意味する。したがって、気体は開孔した素材を通り抜けることができる。この気体は、より具体的には、薄膜の堆積のガス状の前駆体を含んでいてもよい。素材の気孔率は、特に、素材の見掛け体積の5%、更には30%、更には40%、更には50%を超えていてもよい。
【0047】
逆に、いわゆる「閉孔した」素材、例えば、ティッシュペーパー又は紙は、気体が素材を通り抜けることができない気孔を有する素材を意味する。この気体は、より具体的には、薄膜の堆積のガス状の前駆体を含んでいてもよい。上記閉孔した素材は、素材の見掛け体積が通常5%未満である低気孔率を有していてもよい。例えば、閉孔した紙は少なくとも部分的に、更には全体的に、その気孔率を埋める素材の含浸紙である。ある例によれば、閉孔した紙は精製紙、例えばトレーシングペーパーであってもよい。
【0048】
上記方法について、
図1を参照して以下に説明する。
図1において、方法2の任意の工程は点線で示されており、方法の別形が分岐した矢印により示されている。
【0049】
上記方法1は、好ましくはセルロース系の、又はセルロースで作製される、ポリマー系基材2の準備工程10を含む。後で詳細に説明するが、基材2は、特に、薄膜を堆積するためにリアクター5に供給され得る。供給される基材2はマルチシート基材2である。この基材2は第一の面200a及び第一の面200aの反対側に第二の面200bを有する少なくとも一枚のシート200を含む。上記基材は、シートが互いに重なり合った区画200cを有するように構成されている。このように、上記基材は、シート200の複数の区画200cの積層体20を含むことが理解される。シート200の区画200cは、二つずつ少なくとも部分的に重なり合い、積層体20を形成する。以下でより詳細に説明するが、二つずつ重なり合ったシート200の区画200cは、更に少なくとも局所的にゼロではない間隔201によって分断されている。
【0050】
そして、方法1は、ガス状の前駆体からの少なくとも一つの薄膜3の化学的堆積工程11を含む。一つの同一の素材又は異なる素材で作製される複数の薄膜3を堆積することができる。以下、基材2上に所定の素材で作製される薄膜3を堆積するための例を参照するが、これらに限定されない。堆積工程11は、例えば化学蒸着(CVD)により、又は好ましくは原子層堆積(ALD)により実施される。薄膜3の堆積工程11は、基材2上に予め堆積された接着層上に実施することができる。例えば、そのような接着層はポリマー系であってもよい。好ましくは、薄膜3は、中間接着層を設けずに基材2上に直接的に堆積11される。
【0051】
堆積工程11は準備工程10などの基材2上に実施される。より具体的には、基材2の準備工程10と堆積工程11との間、更には堆積工程11の終わりにおいて、基材2の配置、特にシート200の区画200c間の間隔201は実質的に一定であり続ける。ある例によれば、基材2はリアクター5の堆積チャンバー50内に置かれ、薄膜3の堆積工程11の間、堆積チャンバー50に対して移動されない。ある例によれば、基材2は、いかなる追加の支持部材もなしで、リアクター5の堆積チャンバー50の壁に定置される。特に、層3の堆積の間、間隔201を保つように構成されたリアクター5の要素は全くない。そのため上記方法は簡素化されており、そのコストは抑えられる一方で、間隔内のガス状の前駆体の拡散を可能にする。
【0052】
積層体20において互いに直接的に重なり合った二枚のシート200間の間隔201は、積層体20内へのガス状の前駆体の拡散を可能にするように構成されている。したがって、基材2のシート200の表面は前駆体と接触可能である。好ましくは、シート200の表面全てが前駆体と接触可能である。上記ガス状の前駆体はこの接触可能な表面上に堆積されるように拡散することができ、その場で薄膜3を形成する。従って、積層体20の各シート200の表面は、並行して機能化される。堆積工程11は、好ましくは前駆体が積層体20全体に拡散するように構成される。上記堆積物、特に、薄膜3は、積層体20のシート200の表面の少なくとも90%、更には95%、更には99%を超えて堆積されるように構成されていてもよい。シート200の表面は、ガス状の前駆体と接触可能な表面を意味する。このために、前駆体に対する上記基材の暴露時間110、前駆体を含有する反応性雰囲気の圧力、堆積温度、及び特に基材2が加熱される温度等の堆積のパラメータを調節することができる。更に、下記のいかなる層間コンパウンド4の不存在又は間隔201を保つように構成されたリアクター5の要素の不存在は、層3による機能化のために接触可能な表面を拡大することを可能にする。
【0053】
この間隔のおかげで、堆積工程11は、前駆体に対してそのシートの片面又は両面を暴露させることを意図して基材2を展開する又は巻きを解くことを回避することを可能にする。続いて、堆積リアクター5が基材2の展開のための又は巻きを解くための多くの移動性部材を含むことが必須ではない。より具体的には、堆積チャンバー50は基材2を展開する又は巻きを解くように構成された移動性部材を有さなくてもよい。更に、展開された基材2、例えばそれ自体で重ね合わさっていないか又は他のシートと重ね合わさっていない一枚のシートのみからなる基材2は、よりコンパクトに作製される。このため、堆積工程11の各瞬間に上記ガス状の前駆体と接触している基材2の表面は、現行の解決手段よりも最大化される。したがって、上記方法は、現行の解決手段よりも短縮された時間で薄膜により大きな基材表面を機能化することを可能にする。広範囲の表面を有する基材2は、堆積チャンバー50の体積を限定することによって更に機能化され得る。従って、上記方法に関連する装置は簡素化される。結果的に、関連する装置の耐久性及び使用可能期間が改良される。このように、上記方法1は広範囲の表面を有する基材2を簡素化された方法で機能化することを可能にし、したがって工業規模での堆積を可能にすることが理解される。
【0054】
積層体内のガス状の前駆体の拡散のおかげで、上記堆積は積層体20のシート200の表面上への前駆体の浸潤を可能にする。そのため、ガス状の前駆体からの化学的堆積工程11は、複雑な形状、例えば多孔質基材及び/又は高い表面粗さを有するポリマー系基材2を機能化することを可能にする。ガス状の前駆体からの化学的堆積工程11を実施することによって、上記方法は更に、特定の基材、特にセルロースやポリ乳酸などの上記バイオ由来ポリマー系基材を損傷するおそれのある液相中での基材2の含浸工程を回避する。
【0055】
上記方法は、積層体20を含む基材2を得るために、基材20の準備工程の前に、少なくとも一つの素材の成形工程を更に含んでいてもよい。このために、少なくとも一つのポリマー系素材、好ましくはセルロースを準備12することができる。上記素材を、その後、成形13し、例えば折りたたみ、巻き、切断、及び/又は、組立てて、積層体20を得てもよい。上記素材の成形工程13は、以下でより詳細に説明される、層間コンパウンド4の配置を更に含んでいてもよい。層間コンパウンド4は、特に、積層体20のシート200間の間隔201を創出し、精密に制御するように構成される。別の例によれば、層3の堆積工程11の間、基材2は、例えば、層間コンパウンドである。
【0056】
上記方法1は堆積工程11の後、基材2の少なくとも部分的な、更には全体的な、焼成工程14を更に含んでいてもよい。より具体的には、基材2は、一方では基材2の分解温度より高い温度に、もう一方では薄膜3の分解温度よりも低い温度に加熱してもよい。基材2は、実質的に基材2の全てが焼成されるまで加熱されてもよい。したがって基材2は薄膜3の堆積のための型板の役割を果たす。したがって、基材2の空間的な構成に従って、構築した薄膜3を保ちながら基材2を形成する素材を焼成することができる。このように、薄膜3の少なくとも90%、更には少なくとも99%で構成される構造が得られる。ある例によれば、基材2はセルロース系であり、基材2は200℃超、更には200℃から1500℃の間の温度に加熱することができる。基材2がセルロース系である場合、基材2を500℃から1500℃の間、更には600℃から1500℃の間の温度に加熱してもよい。600℃からは、セルロースの全体焼成が優位になり、更に焼成が確実となる。
【0057】
方法1は、特にその運搬又はその特定の用途の観点において、堆積11の後、機能化された基材2の成形工程15を更に含んでもよい。この成形工程15の間、機能化された基材2を、例えば、展開し、巻きを解き、折りたたみ、切断し、解体し又は構造体とし、或いはこれらの動作を組み合わせてもよい。特に、層間コンパウンド4は、必要であれば、機能化された基材2から除去してもよい。ここで、上記基材の成形工程15は上記基材2の焼成工程14の前又は後で実施することができることに留意されたい。例えば、層間コンパウンド4は焼成工程14前に除去してもよく、それは、層間コンパウンドの分解温度が薄膜3の分解温度よりも大きい場合に特に興味深い。
【0058】
積層体20について、
図2Aから
図2Eを参照して以下に詳述する。上述のとおり、基材2は、二つずつ少なくとも部分的に重なり合って積層体20を形成する複数のシート200を含む。上記積層体は、少なくとも2枚のシート200、更には少なくとも5枚のシート200、更には少なくとも10枚のシート200を含む。
図2A及び
図2Bで図示されているとおり、各シート200は実質的に主拡張面(x、y)に拡張することができ、平面(x、y)に対して実質的に垂直であるz方向のもう一枚のシートに少なくとも部分的に並置されたシートである。各シート200は第一の面200a及び第一の面の反対側に第二の面200bを有する。積層体20において、シート200の面200aの区画200cは、もう一枚のシート200の面200bの区画200cと重ね合わせることができる。これらの区画200cは少なくとも局所的に間隔201を共有し得る。好ましくは、z方向に少なくとも二つの近接したシート200、更には積層体20のz方向に近接したシート200の各組のシートは、互いに対向するそれらの面200a、面200bの表面の少なくとも50%を超えて、更には少なくとも70%を超えて、更には少なくとも90%を超えて、更には少なくとも95%を超えて互いに重なり合っている。
【0059】
間隔201は、積層体20において、互いに対向するシート200の面200a、面200bの区画200c全ての平均値であるとみなすことができる。したがって、間隔201は平均するとゼロではない。それでもこれはシート200a間の局所的な接触点を排除するものではない。シート200間の間隔201の存在により、
図2A及び
図2Bにおいて図示されている例に従いz方向を含む切断面に沿って、又は
図2C及び
図2Dにおいて図示されている例に従いz軸に対して垂直である切断面に沿って、基材2は不連続であると観測され得る。
図2A及び
図2Bにおいて図示されている例に従いz方向を含む切断面に沿って、又は
図2C及び
図2Dにおいて図示されている例に従いz軸に対して垂直である切断面に沿って、上記基材はシート200の厚さe
200において第一の密度を有していてもよい。この密度はシート200において実質的に均一であり得る。上記切断面に沿って、基材2は、シート200間の界面において第一の密度よりも低く、更には実質的にゼロである第二の密度を有していてもよい。シート間の界面は、z方向に沿った長さが間隔201に等しいことが好ましい。
【0060】
薄膜3が厚さe3を有する場合、少なくとも一つの間隔201、及び好ましくは各間隔201は、2e3+Ld(式中、距離Ldは50nm超である)よりも広くてもよい。厚さe3は見掛けの厚さであってもよい。各間隔201は5mm未満、更には1mm未満、更には0.5mm未満、好ましくは200μm未満、更には20μm未満であってもよい。上記間隔はシート200の表面の粗さに実質的に等しくてもよい。
【0061】
積層体20の構成の種々の例について、
図2Aから
図2Eを参照して以下に説明する。
【0062】
図2Aで図示されているとおり、積層体20のシート200は互いに異なるものであってもよい。ある例によれば、積層体のシートは紙の連等の非モノリシックな(nono-monolithic)基材2を形成する。
【0063】
図2Bから
図2Dで図示されているとおり、積層体20のシート200は互いに一体となっていてもよく、例えばそれらはモノリシックな基材2を形成する。すなわち、基材2は単一のシート200で形成されていると考えることができる。上記シートは、例えば織りにより、又は接合により互いに構築されるものであってもよい。基材2は、更にシート200間に不連続性がなくてもよい。
【0064】
図2Bにおいて図示されているより具体的な例によれば、積層体20は、モノリシックなシートを折りたたんで得られるシート200の区画200cの重ね合わせであってもよい。このようにシート200の区画200cは、基材2の端と実質的にこの端と平行である基材2の折り目との間、又は二つの基材2の連続的な折り目間で区切られ得る。基材2のシート200の区画200cはそれぞれ平面に拡張させることができ、シート200の異なる区画200cの平面は互いに実質的に平行である。
【0065】
もう一つの例によれば、積層体20は、
図2C及び
図2Dにより図示されるように、巻きであってもよい。この例によれば、基材2は、それ自体が巻かれることで、それ自体が巻かれたシート200を形成していてもよい。この巻きは、z方向に回旋軸Aを有していてもよい。シート200の区画200cは、
図2Dで図示されているとおり、軸Aと垂直である積層方向Tに重ね合わせてもよい。したがって、シート200の区画200cは、
図2Dにより図示されているとおり、軸Aを中心として巻きを形成する曲面が連続的に拡張されている。或いは、シート200は、それぞれが円柱を形成するように巻かれていてもよく、このようにして形成された円筒体は、同心円状に配置された積層体20を形成している。
【0066】
シート200は更に三次元形状、特に複雑な形状を有していてもよい。複雑な形状は、シート200は非平面であることを意味する。シート200は例えば、主拡張面(x、y)に、そしてz方向に拡張する。
図2Dにより図示されている例としては、複雑な形状を有するいくつかのシート200は積層されていてもよい。「鶏卵箱」形状が
図2Eにおいて非限定的な方法により図示されている。シート200の積層体と適合するいかなる他の形状、例えば波形の刻み目を有する形状が提供され得る。非限定的な例として、上記基材はカプセル、例えばコーヒーカプセル、ボトル、缶、パネット、皿、ストロー、グラス又は更にコップの形状であってもよい。
【0067】
基材2は、ポリマー系素材、より具体的にはセルロース系素材から形成、更には構成され、或いはセルロースで作製される。従って、基材2はそれを構成する素材の特性を有し得る。基材がセルロース系である場合、上記素材は、少なくとも部分的に、好ましくは全体的に生分解性であり、再生可能であり、再利用可能であるという利点を有する。この素材の少なくとも一つの面上の表面粗さは、実質的に5nmから20μmの間、更には0.1μmから200μmの間、好ましくは0.1から100μmの間、好ましくは0.1μmから20μmの間、更には100nmから1000nmの間であってもよい。好ましくは、上記粗さは実質的に0.1μm以上である。したがって、間隔201は、シート200の表面粗さによって局所的に導入することができ、シート200は局所的に接触点を有する。本発明の開発において、実質的に0.1μm以上である粗さが、ガス状の前駆体の拡散を可能とするのに十分な間隔を確保することを可能にすることが判明している。好ましくは、上記粗さは実質的に200μm以下、好ましくは100μmである。
【0068】
セルロース系素材の表面の粗さの測定は、光学式粗さ計により実施することができる。表面トポグラフィーの観測は、数μm2から数mm2に及ぶ範囲にわたって実施することができる。共焦点法及び/又は干渉顕微鏡法は、セルロース系素材の予測される粗さに従って使用することができる。これらの二つの方法は、ナノメートル単位及びサブナノメートル単位のそれぞれの分解能を達成することを可能にする。両者の場合において、抽出されたトポグラフィーは、算術平均(Ra)の差、及び二乗平均平方根(Rq、RMSとも呼ばれる)の差として従来使用されている平均振幅パラメータに対して増加していてよい。
【0069】
【0070】
式中、
【0071】
【0072】
であり、Lは各x点で走査した長さである。このようにして、分解能及び同様の観測ゾーンを有するいかなる他の方法を使用してRa及びRqを求めることもできる。
【0073】
或いは、又は組み合わせて、基材2は開孔した気孔を有していてもよい。したがって、上記ガス状の前駆体は、シート200間の間隔201内、そして
図2A及び
図2Bにおいて図示されている例に従い、z方向にシート200を通して、又は
図2C及び
図2Dにおいて図示されている例に従い、z軸に対して垂直であるいかなる平面にも拡散する。基材2が開孔した気孔を有する場合、各シート200の面200a、面200bは、それが有するキャビティにより少なくとも部分的に形成されていてもよい。従って、多孔質基材の表面粗さは上記範囲内、例えば0.1μm超であってもよいことが理解される。上記方法1は、シート200のキャビティ内で薄膜3を堆積することを可能にする。前駆体の浸潤により、上記堆積した薄膜3はシート200の体積において実質的に一定の厚さを有するものであってもよい。積層体20中の前駆体の拡散が容易となる。上記基材が多孔質である場合、堆積工程11の各瞬間に上記ガス状の前駆体と接触する基材2の表面は更に最大化する。このように、上記方法は、更に短縮された時間で広い基材表面を薄膜により機能化することを可能にする。
【0074】
気孔率(φ)の測定は、多孔質である基材2の密度(ρporous)を測定し、セルロースの既知の理論密度(ρcellulose)から求めることにより実施することができる。空孔中に含有される流体が空気である場合、下記方程式を使用することができる。
【0075】
【0076】
ρporous及びρcelluloseの単位(通常、kg/m3である)は同一である。このように、φは理想的にはセルロースバルク素材の場合にはゼロに等しく、空気のみを含有する素材の場合には1に等しいとされる。ρporousの値は、方程式:
【0077】
【0078】
に従い、多孔質のサンプルの質量の測定値(mporous)及び体積の測定値(Vporous)から算出することができる。上記測定は例えば、積層されていないシート(φsheet)、又はシート積層体(φstack)のセットシートのいずれかの多孔質のサンプルで実施してもよい。
【0079】
シート200間の間隔201は、基材が形成される元となる上記素材の成形工程13の間に調節してもよい。積層体20は多かれ少なかれ圧縮されていてもよい。例えば、巻きは多かれ少なかれ間隔が狭くなるように巻かれていてもよい。間隔201は更に層間コンパウンド4により確実に設けられていてもよい。
図3Aから
図3Eにより図示されているとおり、層間コンパウンド4は、積層体において、積層体20のシート200間、好ましくは互いに重なり合ったシートのそれぞれの組の間に位置するように上記素材上に堆積されていてもよい。
【0080】
例えば、基材2が形成される元となる素材の成形工程13の間に、この配置130を達成することができる。このため、層間コンパウンド4を、上記素材のこの面の表面の少なくとも50%、更には70%、更には少なくとも90%、更には少なくとも100%にわたって素材の少なくとも一つの面上に重ね合わせることができる。上記素材及び層間コンパウンド4から形成される構造体はその後、成形13して、例えば折りたたみ、巻き、切断し及び/又は構造体にして、基材2の積層体20を得てもよい。
【0081】
層間コンパウンド4は多孔質であってもよい。したがって、上記ガス状の前駆体は層間コンパウンド4を通じて拡散され得る。代替的に又は補完的に、層間コンパウンド4の表面粗さは5nmから1000nmの間であってよく、したがって層間コンパウンド4と積層体20におけるシート200との間の界面でのガス状の前駆体の拡散が可能である。上記層間コンパウンドは、モノリシック又は不連続なものであってもよい。
【0082】
ある例によれば、層間コンパウンド4は開孔した紙である。好ましくは、上記開孔した紙は、ガス状の前駆体の拡散を容易にするために、高められた気孔率及び/又は既に示された範囲の粗さを有する。もう一つの例によれば、層間コンパウンド14はグリッドである。
【0083】
或いは、基材2は、基材2に対して層間コンパウンド、すなわちいかなる追加の要素も有することなく、間隔201を保つことが可能である。間隔201は、好ましくは基材2の形状及び/又はその表面粗さによってのみ規定され得る。例えば、
図2B及び
図2Dにおいて図示されているとおり、例えば、折りたたみ状又は巻き状のシート200は、シートの折り目又は尖がりにより間隔を創出する。例えば、
図2B及び
図2Dにおいて図示されているとおり、例えば、複雑な形状を有する三次元形状のシート200は、シートの折り目又は尖がりにより間隔を創出する。このように、特に層間コンパウンドを実装するための基材の追加の操作が回避されることにより、上記方法は簡素化される。更に、基材2のゾーンが機能化されないリスクが、層間コンパウンドにより被覆されているために回避される。
【0084】
基材2が形成される元となる素材は、その成形を可能とする粗さを有する素材であってもよい。より具体的には、素材のヤング率は0.01MPaから100MPaの間であってもよい。
【0085】
少なくともいくつかのシート200、更には積層体20の各シート200の厚さe200は、5mm未満、好ましくは1mm未満、好ましくは0.5mm未満であってもよい。代替的に又は補完的に、各シートは好ましくは紙又はティッシュペーパーである。
【0086】
前段落に代えて、少なくともいくつかのシート200、更には積層体20の各シート200の厚さe200は、5mm超であってもよい。代替的に又は補完的に、各シートは好ましくは、発泡体、又はキセロゲル、クリオゲル及びエアロゲル等の脱水ゲルである。
【0087】
本発明の好ましい実施形態によれば、基材20が形成される元となる素材は、バイオ由来ポリマー、より具体的には、セルロースをベースとし、更にはそれらで構成されている素材である。このように、得られる機能化された基材は主にバイオ由来である。ある例によれば、基材2はデンプン系、例えばポリ乳酸(PLA)系又はその誘導体をベースとしている。
【0088】
もう一つの例によれば、上記基材はセルロース系である。上記基材は、セルロース及びリグニンを含むリグノセルロース素材をベースとし、又はそれらで作製され得る。セルロースのモノマー単位の分子量は実質的に162g/molに等しくてもよい。セルロースの密度は1.54g.cm-3に実質的に等しくてもよい。セルロースのヤング率は3から4GPaの間であってもよい。
【0089】
上記素材は開孔したものであっても閉孔したものであってもよい。基材20は複数の素材から形成することができる。ある例によれば、この複数の素材は少なくとも一つの開孔した素材及び少なくとも一つの閉孔した素材を含む。したがって、基材20は、例えば、開孔した素材をベースとしたシート200及び閉孔した素材をベースとしたシート200が互い違いであるシート200の積層体20を含むことができる。例えば、基材20は開孔した素材と閉孔した素材との重ね合わせを巻いて又は折りたたんで得られるものであってもよい。この例によれば、上記開孔した素材は層間コンパウンド4を形成し得る。
【0090】
素材は特に、セルロース繊維系及び/又はセルロースナノファイバー系であってもよい。ある例によれば、上記素材はティッシュペーパーである。ここで、ティッシュペーパーは開孔したものであっても閉孔したものであってもよいことに留意されたい。このように、上記素材の積層体を含む基材、ティッシュペーパーを簡素化された方法で及び並行して、機能化することが可能である。ある例によれば、素材は木である。もう一つの例によれば、上記素材は硫黄紙、トレーシングペーパー又はシリコーン紙等の閉孔した紙である。
【0091】
別の例によれば、上記基材は、開孔した紙、発泡体、エアロゲル、キセロゲル及びクリオゲル等の脱水ゲルであってもよい。開孔した紙は、例えば、吸い取り紙である。紙タイプのセルロース系素材は、従来の製紙業技術、並びに、脱水ゲル法、すなわち、例えばゾルゲル合成し、その後、例えばフリーズドライ法により自由水分の蒸発によって自由水分が除去されたゲルを得る技術によって得られるものであってもよい。ある例によれば、上記素材は特定の紙であり、例えば段ボールである。ある例によれば、上記素材は、成形セルロースをベースとして作製され、あるいは成形セルロースで作製される。成形セルロースは、紙、特に再生紙、及び水から主として作製される素材である。成形セルロースは、例えば、包装用途に使用される。成形セルロースをベースとする基材2は、
図2Eで図示されているとおり、特に、三次元形状であり得る。成形セルロース包装は、通常はプラスチックコーティングで堆積されており、通常、手塗り又は浸漬により塗布される。上記方法は、簡素化された方法で、工業規模での用途に適する方法で、成形セルロースをベースとし、又は成形セルロースで作製される基材を機能化することを可能にする。
【0092】
ある例として、脱水ゲルはゲルの脱水により得ることができる。脱水ゲルは脱水ゲルの合計質量に対して10%未満、更には5%未満、更には1%未満の割合の水を含んでいてもよい。
【0093】
キセロゲルは自由大気乾燥により得ることができる。乾燥中、水は蒸発し、そしてそれらを通常90%超の比率で収縮させる効果を有するポリマー鎖上で高い毛細管引力を発揮する。通常、気孔率が40%未満である低気孔率ゲルが形成される。
【0094】
液相によって水を置き換えた後、例えば超臨界乾燥により気体状態に移行させることによって、ゲルを脱水してエアロゲルを得ることができる。超臨界乾燥は、その微細構造を劣化させ得るゲル内の溶媒の相転移を回避することを可能とする。超臨界乾燥は、収縮率を通常である15%未満としながら、ゲルの気孔率、並びにポリマー鎖の空間的な配置を保持することを可能にする。エアロゲルの気孔率は通常、98%超である。
【0095】
ゲルを、更にフリーズドライ法により処理することによって、クリオゲルを得ることができる。このため、例えばモールドの形状に凍結するための液体窒素バス中にゲルを含浸してもよい。その後、例えば0℃未満での低温昇華により、上記クリオゲルが得られる。クリオゲルの気孔率は通常、98%超である。
【0096】
以降、エアロゲルは、全ての脱水ゲルを意味するため、それがキセロゲル、クリオゲル又はエアロゲルであるかどうかは問題とはならない。
【0097】
薄膜3の化学蒸着11の後に得られる基材2を、
図4Aから
図4Dによる例として図示する。ここで、
図4Dにおいて、間隔201は、薄膜3の例を有する図が
図2E及び
図3Eのそれよりも見やすいため、より大きく見えることに留意すべきである。堆積温度11、より具体的には、基材2が加熱される温度は200℃未満、更には室温から200℃の間、更には20℃から200℃の間、好ましくは60℃から150℃の間であってもよい。したがって、上記方法のエネルギーコストは最小化される。セルロースの分解温度は実質的に200℃であるため、これらの温度は更に、堆積工程の間の基材2の劣化を最小限にし、更には回避することを可能にする。
【0098】
堆積11は、特に、少なくとも一つの堆積した薄膜3の少なくとも80%、更に少なくとも90%、更に少なくとも99%にわたって、堆積した薄膜3の厚さが100nm未満であるように構成されてもよい。好ましくは、薄膜3の厚さは通常、原子単層に対応する1オングストロームから100nmの間、更には10nmから60nmの間、更には10から40nmの間である。薄膜の厚さを限定することにより、上記方法のコスト及び機能化された基材のコストは低減される。10から60nmの間であると、基材20の処理工程の間の薄膜3が割れるリスクが制限される。更に基材2がバイオ由来ポリマー系である場合、且つ厚さが記載された範囲であることにより、得られる機能化された基材は、その合計の質量に対して少なくとも95質量%がバイオ由来であってもよい。更に、これらの薄膜3の厚さ範囲は、外観の変化、そして特に基材2の色の変化を制限し、更には回避する。例えば、仮に基材2が形成される元となる素材が透明である場合、上記方法1により得られる素材も透明である。ある例によれば、薄膜3の厚さは、少なくとも一つの堆積した薄膜3の少なくとも50%、更には少なくとも80%、更には少なくとも90%、更には少なくとも99%にわたって実質的に一定である。
【0099】
薄膜3の化学的堆積工程の間、上記ガス状の前駆体を含む反応性雰囲気の圧力は、0.1mbarから1000mbarの間、更には0.1mbarから100mbarの間であってもよい。反応性雰囲気の圧力は実質的に一定であってもよい。或いは、薄膜3の化学的堆積工程の間、上記ガス状の前駆体を含む反応性雰囲気の圧力は、0.1から1000mbarの間、更には0.1から100mbarの間の範囲内で変動し得る。
【0100】
ある例によれば、堆積工程11の間、基材20を同時に種々のガス状の前駆体に対して暴露させてもよい。ある例によれば、堆積した薄膜3はポリマー系であってもよい。上記堆積は、例えば、開始剤支援化学蒸着法(iCVD)と通称される、その場で開始される重合によって運用され得る化学蒸着法であってもよい。
【0101】
好ましい実施形態によれば、堆積工程11の間、基材20は、種々のガス状の前駆体に対して続けて暴露させてもよい。この例によれば、薄膜3の堆積工程11は原子層堆積法(ALD)により実施される。ALD堆積は化学蒸着法(CVD)に対するいくつかの利点を有する。これらの利点を以下に詳述する。
【0102】
ALD堆積は、特にセルロースなどのバイオ由来ポリマーで作製されかつ/あるいは複雑な形状を有するポリマー系基材を機能化するのに、特に好適である。
【0103】
ALD堆積は更に多様な微細構造を有する薄膜3の堆積を可能にする。ALDにより堆積した薄膜3はアモルファス、単結晶又は多結晶性であってもよい。薄膜3は好ましい結晶性配向を有し得る。
【0104】
ALD堆積により、層方向の変化にもかかわらず、薄膜3は製作公差に適合し、すなわち、薄膜3は一つの同一の厚さを有する。ALD堆積のおかげで、薄膜3の厚さを精密に制御することができる。堆積が適合しており、且つ制御された厚さを有することで、ALD堆積は、積層体20のシート200間の間隔201が埋まるリスクを抑えることにより薄膜3の堆積11を容易にすることが理解される。
【0105】
本発明の開発において、バイオ由来ポリマー系基材2、特にセルロース系基材上の厚さ100nm未満の薄膜3のALD堆積11は、基材2の機械的特性、並びに/又は特に酸素分子及び二酸化炭素のガスバリア特性、及び水バリア特性を改良するのに十分であることが判明している。
【0106】
ALD堆積工程11は、
図1の工程110の点線矢印が図示するように、ガス状の前駆体に対する基材2の暴露110を含む複数のサイクルを繰り返す一連の流れを含む。サイクルにおいて、暴露110の後は不活性ガス、例えば窒素分子の排出が続いてもよい。一連の流れにおけるサイクル数は、堆積された厚さを調節することを可能にする。サイクルの間、上記基材を、1秒から1時間の間、更には1秒から10分の間、好ましくは1秒から30秒の間の時間にわたって、ガス状の前駆体に対して暴露110させてもよい。上記排出は1秒から1時間の間、更には1秒から30秒の間、継続させることが可能である。
【0107】
ある例として、ALD堆積リアクター5について
図5を参照して以下に説明する。リアクター5は温度により調節してもよいし、しなくてもよい。基材2を、堆積チャンバー50内に準備する。槽52は前駆体を含有し、各槽は堆積チャンバー50と接続されており、流速調節システムを有していてもよい。ここで、槽51において、上記前駆体は固体、液体又は気体の状態であってよいことに留意すべきである。上記前駆体を、気体状態に移行させて、例えば槽51内のバブリングシステムを介して堆積チャンバー50内に送り込む。上記リアクターは、例えば堆積チャンバー50に接続されたポンプシステム53を更に含む。上記リアクターは更に、所望のモードによるリアクターの機能化を可能にするバルブ52を含む。
【0108】
ある例によれば、リアクター5は、ガス状の前駆体が間隔201の少なくとも一つの主な拡張方向に平行に注入されるように基材20に対して構成される。例えば、
図2A、
図2B、
図3A及び
図3Bに図示されている上記基材に関し、ガス状の前駆体は方向xに注入してもよい。
図2C及び
図3Cに図示されている上記基材に関し、上記ガス状の前駆体はz方向に注入してもよい。
【0109】
上記堆積した薄膜3は、その堆積温度が基材2の安定化温度に適合する素材をベースとし、更にはその素材で構成されるものであってもよい。より具体的には、この素材は酸化物、窒化物及び酸化窒化物の中から選択されるものであってもよい。これらの素材は例えば、化学式が
- 酸化物:Al2O3、TiO2、SiO2、AgO;ZnO
- 窒化物:AlN、TiN、TaN、NbN、
- 酸化窒化物:AlON、NbON、TaON
であってもよい。
【0110】
薄膜3の素材に関連する前駆体は当業者にとって公知である。例えば、Al2O3の薄膜3を堆積するための前駆体はトリメチルアルミニウム及び水であってもよい。TiO2の薄膜3を堆積するための前駆体はチタンテトライソプロポキシド及び水であってもよい。
【0111】
本発明の開発において、ポリマー系基材、特にバイオ由来の基材上での上記厚さの範囲における薄い酸化物、窒化物又は酸化窒化物の層3の堆積は、その水バリア特性及び酸素バリア特性及び難燃性を顕著に改良し得ることが判明した。更に、基材2の機械的特性はこの堆積により低下しない。得られる基材2は、特に、乾燥した環境において機能化されていない基材2と同様の剛性を有する。更に、機能化された基材2の機械的特性は、濡れた環境において、機能化されていない基材2に対して改良され得る。
【0112】
基材20の焼成工程後、薄い酸化物、窒化物又は酸化窒化物の層3によって少なくとも90%、更には99%形成された構造は通常、1800℃に達する高温に対する耐性を有することも更に観測されている。上記構造は断熱に有利な熱流バリア特性を更に有する。
【0113】
方法1により機能化されたセルロースナノファイバーフィルム等の閉孔した紙は、例えば食品保存用の包装又は有機発光ダイオード(OLED)用の基材としての用途に特に好適である。
【0114】
機能化されたエアロゲルの気孔率は98%超、更には99%、密度は50kg.m-3未満、例えば10kg.m-3から50kg.m-3の間であってもよい。上記機能化されたエアロゲルは例えば1600℃超の非常に高い温度までの短いパスの間にその構造的な完全性(integrity)を保持し、実質的に20℃及び実質的に1気圧(国際単位系で1013hPaと同等)で、例えば0.026W.m-1.K-1未満の低熱伝導率を有する。機能化されたエアロゲルは断熱に特に好適である。
【0115】
開孔した紙はメンブレンの形成に特に好適である。
【0116】
上記方法により得られる素材の例及びそれらの特性を以下に説明する。ここで、上記方法により得られる素材は、上記方法の実施により享受される、いかなる特徴も有することができることに留意すべきである。
【0117】
機能化された閉孔した紙が
図6Aにより図示されており、これはセルロース繊維又はナノファイバー2000を含む。薄膜3はシート200の面200a及び面200b上に堆積される。面200a、面200bに対して垂直である側端は薄膜3により機能化されたものであってよく、又は堆積11の後にシート200の切断15を実施する等により、なくしてもよい。機能化していない閉孔セルロースナノファイバー(CNF)紙と、機能化された閉孔セルロースナノファイバー(CNF)紙であって、40nmのAl
2O
3の堆積により機能化されたCNF紙との酸素分子による浸透(cm
3.m
-2.day
-1で)を、50μmポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと比較して、周囲の相対湿度(%RH)に従って下記表に要約する。
【0118】
【0119】
開孔した紙及び機能化されたエアロゲルは
図6Bにより図示され得る。この例によれば、薄膜3がセルロース繊維又はナノファイバー2000上に堆積され、上記シートの概略輪郭が点線で表されている。
【0120】
本発明の開発において、例えば5g.m-3の坪量の、40nmAl2O3層のALDにより被覆されたセルロース繊維紙のヤング率は、機能化されていない紙のヤング率よりも15%大きいことが示された。更にこの紙の内部凝集は、機能化されていない紙の内部凝集よりも60%大きい。この紙は水接触角が120°である疎水性であってもよい。この紙は、更に難燃性で且つ耐水性であってもよい。特に、少なくとも15分の水中での撹拌を伴う含浸の後に劣化しないものであってもよい。
【0121】
更に、40nmAl2O3層のALDにより被覆されたセルロースナノファイバーエアロゲルのヤング率は、機能化されていないエアロゲルのヤング率よりも25%大きいことが示された。上記方法から得られる素材のヤング率E及び密度dは、延伸PETのそれらと同様であってもよく、すなわち実質的にE=2MPa及びd=13kg.m-3であってもよい。機能化されたエアロゲルの熱伝導率は大気圧で実質的に30mW.m-1.K-1であってもよい。
【0122】
このエアロゲルは、焼成工程14の後、非常に良好な断熱特性を有し得る。1600℃の熱源と接触している面上に配置された機能化されたエアロゲルは、熱源と接触している面の反対側の面上の温度を30℃とすることができ、ここで二つの面の間の間隔は2cm空いている。
【0123】
以上の点から、本発明は工業規模での用途に適合している基材の機能化に適した、改良された化学蒸着法を提供するものであることが明らかである。上記方法は特に、工業規模での用途に適した、薄膜の化学的堆積によるバイオ由来基材の機能化を可能とする。
【0124】
本発明は上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲により包含される全ての実施形態に及ぶ。
【符号の説明】
【0125】
1 方法
10 基材の準備工程
11 少なくとも一つの薄膜の化学的堆積工程
110 基材のガス状の前駆体に対する暴露
12 ポリマー系素材の準備工程
13 素材の成形工程
130 素材のシート間への層間コンパウンドの配置
14 機能化された基材の焼成工程
15 機能化された基材の成形工程
2 基材
20 積層体
200 シート
200a 第一の面
200b 第二の面
200c 面の区画
2000 セルロース繊維/ナノファイバー
201 間隔
3 薄膜
4 層間コンパウンド
5 原子層堆積リアクター
50 堆積チャンバー
51 前駆体槽
52 バルブ
53 ポンプシステム
【国際調査報告】