(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ウイルス性呼吸器感染症の治療のための光増感剤の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20230809BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230809BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230809BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230809BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20230809BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230809BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230809BHJP
A61N 5/06 20060101ALI20230809BHJP
A61N 5/067 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
A61K41/00
A61P31/12
A61P11/00
A61P31/14
A61K31/5415
A61K9/08
A61K9/12
A61N5/06 Z
A61N5/067
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504752
(86)(22)【出願日】2021-07-22
(85)【翻訳文提出日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2021070514
(87)【国際公開番号】W WO2022018198
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523025377
【氏名又は名称】アレンツ、ヨッヘン
(71)【出願人】
【識別番号】523025388
【氏名又は名称】アルブレヒト、ハンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレンツ、ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】アルブレヒト、ハンス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C082
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA25
4C076BB21
4C076CC15
4C076CC35
4C076FF70
4C082PA02
4C082PC10
4C082PE05
4C082PE10
4C082RC09
4C084AA11
4C084MA13
4C084MA17
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4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC89
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4C086MA13
4C086MA17
4C086MA56
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、光増感剤を用いたウイルス感染症の治療に関する。より詳細には、本発明は、被験体、特にヒトの気道に感染するウイルスによる感染症の治療を提供する。また、本発明は、治療対象者の鼻咽頭管に光増感剤を投与するために、噴霧器と組み合わせて適切な光増感剤を適用するための手段を含む医薬装置に関する。さらに、本発明は、本発明の装置と適切な光源とを含む、本発明の治療で使用するためのキットに関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス性呼吸器感染症の治療において使用するための光増感剤。
【請求項2】
前記光増感剤が、鼻腔内および/または口腔内および/または咽頭に適用される、請求項1に記載の使用のための光増感剤。
【請求項3】
前記治療が、前記光増感剤を活性状態に移行させる波長を含むまたは有する光を、被験体の外部から前記被験体の気道の少なくとも一部に照射する工程を含む、請求項1または2に記載の使用のための光増感剤。
【請求項4】
前記光が発光ダイオード(LED)装置、好ましくは手持ち式LED装置によって放射される、請求項3に記載の使用のための光増感剤。
【請求項5】
前記LED装置が、レーザーLED装置、好ましくは手持ち式レーザーLED装置、または非コヒーレント発光LED装置、好ましくは広帯域LED装置である、請求項4に記載の使用のための光増感剤。
【請求項6】
前記気道の少なくとも一部に、2~20分、好ましくは2~10分、より好ましくは3~8分の時間、1回以上照射する、請求項4または5に記載の使用のための光増感剤。
【請求項7】
前記気道の少なくとも一部が、50~150J/cm
2、好ましくは80~120J/cm
2、より好ましくは90~110J/cm
2、最も好ましくは100J/cm
2のエネルギー密度で前記被験体の外部から照射される、請求項6に記載の使用のための光増感剤。
【請求項8】
前記光増感剤が、光活性化可能なフェノチアジン誘導体、好ましくは光活性化可能なフェノチアジン色素、より好ましくは下記式(I)の構造を有するフェノチアジン誘導体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための光増感剤。
【化1】
式中、
DおよびD’はそれぞれ電子供与基であり、フェノチアジン環系のC-1、C-2、C-4、C-6、C-8および/またはC-9位は、置換または非置換の低級アルキル、好ましくはC
1-3-アルキル、特に好ましいメチル、あるいは低級アルケニル、好ましくはC
2-3-アルケニル、アミノ、ハロおよびシアノから好ましく選ばれる置換基によって置換されてもよく、好ましくは、DおよびD’はそれぞれ独立してNRR’基であり、RおよびR’は好ましくは独立して、H、置換または非置換の低級アルキル、好ましくはC
1-3-アルキル、特に好ましくはメチル、および低級アルケニル、好ましくはC
2-3-アルケニルから選択される。
【請求項9】
前記フェノチアジン色素が、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、トルイジンブルーおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の使用のための光増感剤。
【請求項10】
前記光活性化可能なフェノチアジン誘導体が、前記光活性化可能なフェノチアジン誘導体を0.00001(v/v)~0.1%(v/v)、好ましくは0.0001%(v/v)~0.001%(v/v)含む組成物として適用される、請求項8または9に記載の使用のための光増感剤。
【請求項11】
前記治療が、500nm~820nmの電磁スペクトルから選択される波長を含むまたは有する光を、被験体の外部から前記被験体の気道の少なくとも一部に照射する工程を含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の使用のための光増感剤。
【請求項12】
前記光が550nm~630nm、好ましくは570~610nm、より好ましくは585nm~595nmの範囲の波長を有し、最も好ましい光は590nmの波長を有する、請求項11に記載の使用のための光増感剤。
【請求項13】
前記光が780nm~820nm、好ましくは800~820nmの範囲の波長を有し、最も好ましい光は810nmの波長を有する、請求項11に記載の使用のための光増感剤。
【請求項14】
前記ウイルス性呼吸器感染症がコロナウイルスによって引き起こされる、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための光増感剤。
【請求項15】
前記コロナウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV 2、HCoV-HKU1、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-229Eおよびウシコロナウイルス(bCoV)からなる群より選択される、請求項14に記載の使用のための光増感剤。
【請求項16】
前記コロナウイルスがSARS-CoV2である、請求項15に記載の使用のための光増感剤。
【請求項17】
噴霧器と、少なくとも1つの光増感剤を、任意ではあるが、少なくとも1つの医薬的に許容可能な賦形剤および/または希釈剤と組み合わせて含む容器とを含む医薬装置。
【請求項18】
前記光増感剤が、請求項8または9に定義されるものである、請求項17に記載の医薬装置。
【請求項19】
前記光増感剤が滅菌水または滅菌水溶液中に存在する、請求項17または18に記載の医薬装置。
【請求項20】
前記容器が0.00001(v/v)~0.1%(v/v)、好ましくは0.0001%(v/v)~0.001%(v/v)の濃度の光活性化可能なフェノチアジン誘導体を含む、請求項18または19に記載の医薬装置。
【請求項21】
請求項17~20のいずれか一項に記載の医薬装置と、光増感剤を活性状態に移行させる波長を含むまたは有する光を放射する光源とを含む医療キット。
【請求項22】
前記光源が手持ち式光源である、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記光源がLED装置である、請求項21または22に記載のキット。
【請求項24】
前記光源が広帯域LED装置であり、好ましくは白色光を放射する、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記LED装置がレーザーLED装置である、請求項23に記載のキット。
【請求項26】
前記レーザーLED装置が、550nm~630nm、好ましくは570nm~610nm、より好ましくは585nm~595nmの範囲の波長を有する光を発し、最も好ましい光は590nmの波長を有する、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記レーザーLED装置が、780nm~820nm、好ましくは800nm~820nmの範囲の波長を有する光を発し、最も好ましい光は810nmの波長を有する、請求項25に記載のキット。
【請求項28】
前記LED装置が、550nm~630nm、好ましくは570nm~610nm、より好ましくは585nm~595nmの範囲の波長を有するin-コヒーレント単色光を発し、最も好ましい光は590nmの波長を有する、請求項23に記載のキット。
【請求項29】
前記LED装置が、780nm~820nm、好ましくは800nm~820nmの範囲の波長を有するin-コヒーレント単色光を発し、最も好ましい光は810nmの波長を有する、請求項23に記載のキット。
【請求項30】
手持ち式のトーチ型広帯域LED装置を含み、放射光が前記LED装置から出るトーチ型LED装置端部に取り外し可能に固定可能な導光部品をさらに含み、および/または、放射光が前記LED装置から出るトーチ型LED装置端部に取り外し可能に固定可能な位置決め部品をさらに含むことを特徴とする、請求項21に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増感剤を用いたウイルス感染症の治療に関する。より詳細には、本発明は、被験体、特にヒトの気道に感染するウイルスによる感染症の治療を提供する。また、本発明は、治療対象者の気道の少なくとも一部に光増感剤を投与するために、噴霧器と組み合わせて適切な光増感剤を適用するための手段を含む医薬装置にも関する。さらに、本発明は、本発明の装置と適切な光源とを含む、本発明の治療で使用するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
光増感剤は、細菌や真菌による感染症や、がんや腫瘍の光線力学療法(PDT)に使用されてきた。光増感剤は、一般に可視光波長域の光を吸収することでエネルギー的に高い状態に移行する色素の総称である。光活性化状態において、光増感剤はドナーとして、エネルギーの少なくとも一部をアクセプター分子に移動させることができる。PDTに応用する場合、エネルギー移動の少なくとも一部は、スーパーオキシドラジカルなどの活性酸素種(ROS)を導き、これが酸化還元反応によって標的細胞(例、腫瘍細胞、細菌、真菌細胞)の様々な細胞成分、特に細胞膜に損傷を与えることになる。PDTは、主に、色素と一般的には単色光源やコヒーレント光源から放射される光とを局所的に適用することによって実施される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の基礎となる技術的課題は、気道のウイルス感染症の改良型治療法、ならびに、その治療を実施するための新規な治療装置およびキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
特に、本発明の第1の観点は、ウイルス性呼吸器感染症の治療における少なくとも1つの光増感剤の使用を提供する。
【0005】
光増感剤を標的ウイルスの部位に必要な量および濃度で供給するために、光増感剤を鼻腔内および/または口腔内および/または咽頭内に適用することが好ましい。
【0006】
前述したように、治療対象者の気道に感染するウイルスに少なくともダメージを与え、任意ではあるが、ウイルスを除去する機能を発揮するためには、光増感剤を活性化する必要がある。これは、本発明治療を必要とする被験体の部位または領域であって光増感剤が塗布された部位または領域に光を照射することによって達成される。典型的には、光照射は、被験体の気道またはその少なくとも一部に向けられる。気道の少なくとも一部を照射するための光は、ある波長を有するか、または少なくともある波長を含み、典型的には、ある強度、好ましくは、エネルギー密度に換算したもの、すなわち表面積当たりの適用エネルギーも有する。これにより、光増感剤が上記で解説した様に活性状態に移行する。
【0007】
図は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1に係る実験結果を示す表である。
【
図2】
図2は、実施例3に係る実験の結果を示す表である(VC:ウイルスコントロール、MV:平均値、SD:標準偏差、RF:減少率、n.a:適用不可、n.d:未実施)。表の最後の2行に係る実験結果は、実験プレートを直ちにアルミホイルで包み、暗所で保存した後(凍結前)に得られたものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のある実施形態では、治療は、光増感剤を活性状態に移行させる波長を含むまたは有する光を、被験体の外部から被験体の気道の少なくとも一部に照射する工程を含む。気道の1つ以上の異なる部分を、十分な光エネルギーを提供するのに有効な時間で1回または複数回照射可能であると考える。その結果、光増感剤、特に気道またはその1つ以上の部分に投与される有効量のものを、少なくとも気道の照射された部分、領域、または全体において活性状態に移行させるような本発明を実効化する。被験体の身体の外側から簡便に照射され得る気道の部位としては、例えば、治療対象者の鼻、口(好ましくは、被験体の口は、開いた状態または少なくとも部分的に開いた状態で照射され得る)、頬(片側または両側、好ましくは左右の頬を同時にまたは連続して)、首、喉、胸および/または背中が挙げられる。「被験体の身体の外側から」という用語は、照射がそれぞれの領域で被験体の皮膚に向けられることを意味し、以下では「経皮照射」とも表記するが、口と鼻という2つの例外があることを理解されたい。前に概説したように、被験体の口は開放状態で照射することができ、照射光は、治療対象者の気道の口腔咽頭部にも(主に)照射される。また、患者の鼻孔中に光を照射して、その光が被験体の気道の鼻部分にも(主に)到達するように、被験体の鼻を治療する場合もある。しかし、いずれにせよ、被験体の身体の外側から照射することは、発光装置が気道のどの部分にも導入されないことを意味する。
【0010】
本発明の他の好ましい実施形態では、本発明の治療を必要とする被験体の気道の少なくとも一部が、被験体の体内で、好ましくは感染したまたは少なくとも感染した疑いのある被験体に導入される光源を用いることにより、照射される。その実施形態において、光源は、特にその直径および長さに関して、被験体の気道に鼻腔内および/または口腔内を通して導入され、光が放射または照射される所望の部位にそれぞれ押し付けられるように寸法決めされた光ファイバー部品、例えば導波管を備える。被験体の体内からの照射は、好ましくは適切な光ファイバーを介して、鼻腔内照射、口腔内照射、鼻咽頭照射、咽頭照射、気管内照射など、気道の内側の一つまたは複数の所望の部位に向けることができる。本発明で使用するのに適した光ファイバーは、当技術分野で一般的に知られており、例えばCeramOptec GmbH、Bonn、ドイツから市販されている。
【0011】
本発明のある好ましい実施形態では、鼻腔内照射(すなわち、患者の体内で照射を行う)を用いて鼻孔粘膜、好ましくは両鼻孔の照射を行い、同時に、または好ましくは順次、患者の体外から口および/または喉の粘膜の照射を行う、複合照射治療が行われる。
【0012】
本発明による照射に用いられる光源は、本発明によれば、対応する装置の発光素子または装置そのものを指す場合があるが、発光ダイオード(LED)を含んでなる装置であることが好ましい。使用の便宜上、LED装置は、特に被験体の体外から使用する場合、手持ち式の発光装置であり、より好ましくは、それぞれ、トーチまたは懐中電灯の形態を有し、その一般的部品を含む装置などの手持ち式のLED装置である。本発明の実施形態では、光源はコヒーレント光を発し、この場合、光源は特定の波長の光を発するレーザー装置である。レーザー装置は、LEDレーザー装置である場合があり、ある実施形態では、上記で概説したように、手持ち式のレーザーLED装置とすることができる。他の好ましい実施形態では、光源または発光装置は、それぞれ、非コヒーレント光を発する光源または装置、好ましくはLED装置、より好ましくは手持ち式のLED装置とすることができる。広帯域光源、より好ましくは広帯域LED装置、より好ましくは広帯域手持ち式LED装置、好ましくは白色光、最も好ましい温白色光を発するものを使用することが、実質的で強いウイルス抑制を達成するために十分であることは、本発明に係る驚くべき知見である。広帯域LED装置の好ましい実施形態では、LED光源にCerを付与し、放射光のうち潜在的に主要な青色部分(短波長)をより長波長にシフトさせることができる。他の好ましい実施形態では、LED装置は、好ましくは以下にさらに説明するような波長を有する非コヒーレント単色光を放射するものでもよい。
【0013】
本発明のある好ましい実施形態では、同じ光源を用いながら、患者の体内照射用とヒト体外照射用の異なる付加部品を用いて、患者の体内照射と体外照射の複合照射を達成することが可能である。このタイプの好ましい例示的な一実施形態では、手持ち式発光装置、好ましくはLED装置、より好ましくは手持ち式広帯域LED装置、最も好ましくはトーチ型広帯域LED装置が、取り外し可能に固定可能な導光部品を、内部照射、好ましくは鼻内照射用に備えることが可能である。好ましくは、導光部品は、手持ち式LED装置の領域内、好ましくはLED装置の端部に、部品を取り外し可能に固定するための部分を有する。そこは放出された光が発光装置から出る場所、トーチ型装置の場合はその上端または(トーチ型装置をその近位部で保持するユーザから見て)遠位端、例えばLED装置の発光部、好ましくは最上部または遠位部の直径に合う大きさの円周リングまたは部分的に円周部を形成する部品または部材、およびその部分である。すなわち、導光部であって、固定部から延びる円錐形状を有し、好ましくは鼻腔内ポンプスプレー装置の円錐体頂部の形状を有し、従って、導光部が被験体の体内、好ましくは被験体の鼻孔に導入され得るような導光部を有する。被験体の体外からの照射のために、発光装置は、患者の体外からの照射が行われる患者の体の所望の位置に装置を位置決めするための着脱自在な固定可能部品を備える場合がある。好ましくは、位置決め部品は、固定部、より好ましくは内部照射部品について説明したような固定部と、発光装置を患者の身体の所望の部位に、好ましくは緩やかに取り付けるための取付部とから構成される。好ましい実施形態では、取付部は、それぞれ、治療対象者の口および/または喉に照射する場合に、上唇などの被験体の身体の一部に対して配置される大きさの部品を含むかまたはそれから構成される。好ましい実施形態において、(好ましくは取り外し可能な)固定可能部品は、単一または複数の使用のために使い捨て材料で作られるなど、単一または複数の使用のために工夫される。他の実施形態では、取り外し可能な固定可能部品は、2回、3回または4回などの1回以上の使用後に滅菌されてもよい。本発明の好ましい実施形態では、発光装置、好ましくは手持ち式装置、より好ましくは広帯域LED装置と、内部照射用および/または外部照射用の着脱可能な固定可能部品、好ましくは上記のような部品とは、好ましくは、光増感剤、好ましくはその溶液を含む容器とともに、キット、例えば、非常に好ましい実施形態では、鼻腔スプレー装置に含めることができる。
【0014】
本発明で使用するための好ましい光増感剤は、光活性化可能なフェノチアジン誘導体であり、より好ましくは光活性化可能なフェノチアジン色素である。本発明で用いるフェノチアジン光増感剤は、典型的には、下記一般式(I)に記載される構造を有する。
【0015】
【0016】
ここで、DおよびD’はそれぞれ電子供与基であり、フェノチアジン環系のC-1、C-2、C-4、C-6、C-8および/またはC-9位は、置換または非置換の低級アルキル、好ましくはC1-3-アルキル、特に好ましくはメチル、あるいは低級アルケニル、好ましくはC2-3-アルケニル、アミノ、ハロおよびシアノから好ましく選ばれる置換基によって置換されてもよい。好ましくは、DおよびD’はそれぞれ独立してNRR’基であり、RおよびR’は好ましくは独立して、H、置換または非置換の低級アルキル、好ましくはC1-3-アルキル、特に好ましくはメチル、および低級アルケニル、好ましくはC2-3-アルケニルから選択される。
【0017】
本発明で使用するために特に好ましいフェノチアジン誘導体は、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、トルイジンブルー、およびそれらの混合物である。
【0018】
本発明で使用するための光増感剤、好ましくは上記のようなフェノチアジン誘導体は、典型的には、少なくとも1つの賦形剤および/または希釈剤、好ましくは少なくとも1つの医薬的に許容可能な賦形剤および/または希釈剤と組み合わせて光活性化可能なフェノチアジンなどの少なくとも1つの光増感剤を含む組成物の形態で適用される。本発明で使用するための好ましい希釈剤/賦形剤は、典型的には水、好ましくは滅菌水、より好ましくは滅菌蒸留水、または水性溶液(例、生理食塩水、PBSなどの緩衝食塩水)である。そして、かかる希釈剤および/または賦形剤は好ましくは滅菌されると理解される。
【0019】
意外な知見であったのは、本発明によれば、本明細書に教示される光増感剤、好ましくは上記式(I)のフェノチアジン誘導体、特に好ましくはメチレンブルー、ニューメチレンブルー、トルイジンブルーまたはそれらの混合物は、呼吸器症状を引き起こすウイルスと有効に闘うために比較的非常に低い濃度で適用可能なことである。好ましい実施形態では、組成物は、本発明で使用するための光増感剤、特に好ましくは本明細書に定義されるフェノチアジン誘導体を、約0.00001%(w/v)~約0.1%(w/v)、好ましくは約0.0001%(w/v)~約0.001%(w/v)の濃度で含む。
【0020】
好ましくは上記のような組成物に含まれる光増感剤を、好ましくは鼻腔および/または口腔への適用を通じて被験体の気道に投与する。例えば、上記で概説した光増感剤、特に少なくとも1つの光増感剤(すなわち、そのような光増感剤の1つ以上)を含む組成物は、ピペットまたは同様のデバイスを介して投与可能である。気道の深部への投与には、近位部にシリンジリザーバーを備えた当技術分野で周知のチューブシステムを使用することができる。好ましい実施形態では、治療対象者の気道の上部および下部に到達することを可能にするために、光増感剤(複数可)は、スプレー状または噴霧化形態の光増感剤(複数可)、好ましくは光増感剤(複数可)を含む組成物を投与するように構成されたデバイスを使用して好ましくは投与される。典型的には、このようなデバイスは、噴霧器部品と、上記のような1つ以上の光増感剤を含む組成物を含む容器とから構成される。
【0021】
また、本発明は、光増感剤をそれぞれスプレー状または噴霧化形態で投与するためのこのような医療機器も対象にしている。特に、本発明は、噴霧器と、任意ではあるが少なくとも1つの医薬的に許容可能な賦形剤および/または希釈剤と組み合わせて、少なくとも1つの光増感剤を含む容器とを含む医薬装置を提供し、その言及される好ましい実施形態は、本明細書で既に詳細に上記されている。
【0022】
既に述べたように、光源から放射される光の波長または波長スペクトルは、特定の光増感剤に依存する。本発明で使用する好ましいフェノチアジン光増感剤は、典型的には、電磁波スペクトルの可視光から近赤外光までの光を吸収する。例えば、可視光スペクトルでは、メチレンブルーは約530nmから約700nmの波長領域の光を吸収し、ニューメチレンは約500nmから約700nmの波長領域の光を吸収し、トルイジンブルーは約520nmから約700nmの領域の光を吸収する。好ましい実施形態において、光増感剤は、典型的には、それぞれ約500nmから約820nmの範囲の波長(複数可)を有する光の照射によって活性化される。既に上で示したように、本発明で使用するための光源または発光装置はそれぞれ、典型的にはこの波長領域内の光を発し、それによって光源は、上で示した可視~近赤外スペクトルの、好ましくは約500nm~約820nmの広帯域領域の光を発することができる。特に好ましいのは、光増感剤、好ましくは上述のフェノチアジンの1種以上、好ましくはメチレンブルーおよび/またはニューメチレンブルーおよび/またはトルイジンブルー、最も好ましくはメチレンブルーを活性化するために用いられる波長が、約550nm~約630nm、好ましくは約570~約610nm、より好ましくは約585nm~約595nm、最も好ましくは590nmなどの590nmまたはそれ付近の波長であることである。好ましくは、そのような光は、本発明の特定の好ましい実施形態において、非コヒーレント光を発することができるLED装置、好ましくは手持ち式装置によって放射される。
【0023】
本発明の他の好ましい実施形態では、本発明は、近赤外領域において、本明細書で概説するフェノチアジン光増感剤の光吸収を利用する。このタイプの特定の実施形態では、光増感剤活性化光は、好ましくは約780nm~約820nm、より好ましくは約800nm~約820nmなどの810nm付近、最も好ましくは810nmの電磁スペクトル近赤外領域にある。近赤外光は、身体構成要素による吸収が少ないため、上記で定義した照射領域のより深部まで到達することができるという利点がある。光散乱の波長依存性が長波長ほど高いという事実も、この効果に寄与する。また、810nm付近の波長では、吸収係数よりも散乱係数が高く、さらに散乱が前方散乱であることが浸透深度をさらに高めることに寄与している。このような光は、好ましくは約5~10cmの浸透深度を持つため、特に体外からの照射に適している。
【0024】
好ましくは約780nm~約820nm、より好ましくは約800nm~約820nmなどの810nm付近、最も好ましくは約810nmの電磁スペクトル近赤外領域にある照射の文脈で以下説明する。本発明はまた、特に気道のウイルス感染症の治療のための、より好ましくは上記のようなウイルス感染症の治療および/または予防のための、光線力学的治療を提供するものである。より好ましくはメチレンブルー、ニューメチレンブルーおよびトルイジンブルーから選択される、上に概説したような定義によるフェノチアジン光増感剤などの光増感剤を、所望の領域、特に治療対象者、好ましくはヒトの気道領域(例、上に述べたようなもの)に適用し、前記領域に経皮照射する。本発明のこの観点のいくつかの実施形態では、領域の治療は、上顎洞の一方または両方、好ましくは両方、および/または副鼻腔の一方または両方、好ましくは両方、および/または前鼻腔の一方または両方、好ましくは両方への光増感剤の適用と経皮照射とをも含む。本明細書中上記に概説したウイルス感染の他に、このような治療は、副鼻腔、好ましくは上記の副鼻腔の、細菌および/またはウイルスおよび/または真菌などの任意の感染にも適用可能である。
【0025】
特定の光増感剤によっては、光増感剤の吸収極大または少なくともその近傍の波長または波長領域をそれぞれ選択することが効率的なエネルギー移動のために望ましい場合がある。本発明の文脈における「吸収極大付近」とは、典型的には、吸収極大の約-50nm~約+50nm、好ましくは約-20nm~約+20nm、より好ましくは約-10nm~約+10nmの吸収極大付近の範囲を意味する。光増感剤、好ましくは本明細書に記載のフェノチアジン誘導体の吸収極大を含む吸収特性は、典型的には光スペクトルの可視から近赤外の範囲にあるが、生体条件に依存する。つまり、光増感剤が存在する場所と、被験体を体外から照射するか体内から照射するかという条件である。そして、吸収特性は、適用するための光増感剤(複数可)が存在する組成物の成分に依存し、従ってそれにより調整可能となる。
【0026】
本発明の他の実施形態では、光増感剤を活性化するために使用される波長は、それぞれの光増感剤の吸収極大からより離れた、典型的には可視の吸収スペクトルの領域から選択される。本発明のこの文脈では、本発明で使用する光増感剤の「吸収極大から離れた」という用語は、波長を意味する。
【0027】
本発明による治療対象者の気道の少なくとも一部への照射時間および回数は、特定の光増感剤、光の波長または波長領域、治療対象者の体外または体内からの気道(またはその一部)への照射の有無により異なる。典型的には、照射は、例えば、被験体の体外から照射する場合、1回の治療日の1回以上の診察で、一または複数回、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上実施される。治療は2日以上繰り返すことができ、ここで、治療の日数は、中断されないか、または、治療が行われない1日以上によって中断されてもよい。好ましくは、1回の照射事象(すなわち、上記のように1回以上)あたりの照射時間は、約1分~約20分、より好ましくは約2分~約20分、特に好ましくは約3分~約8分である。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、気道の少なくとも一部は、例えば、照射が被験体の外部から行われる場合、50~150J/cm2、好ましくは80~120J/cm2、より好ましくは90~110J/cm2、最も好ましくは100J/cm2のエネルギー密度で照射される。特に非コヒーレント光による照射の場合、好ましくはLED装置、より好ましくは手持ち式LED装置の場合、例えば広帯域LED装置または約590nm付近(上記の概要の通り)で発光するLED装置による好ましい発光強度は、約6000ルクス~約90000ルクス、好ましくは約10000ルクス~約70000ルクス、最も好ましくは約40000ルクス~約60000ルクス、例えば、特に好ましくは約50000ルクスの範囲である。
【0029】
一般に、本発明の治療は、呼吸器感染症を引き起こすあらゆるウイルスを対象としている。本発明治療の標的となる好ましいウイルスはコロナウイルスであり、より好ましくは重篤な呼吸器症状を引き起こすコロナウイルスである。好ましくは、本発明治療は、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV2、HCoV-HKU1、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-229Eおよび/またはウシコロナウイルス(bCoV)を対象とし、COVID-19病を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2が最も好ましい標的である。
【0030】
特に、上記のようなコロナウイルス、特にSARS-CoV-2に関しては、感染の初期に本発明治療を行うことが好ましい。そのような好ましい実施形態において、用語「感染の初期」は、感染ウイルスが、気道、特に気道の上部、例えば、口、鼻および/または咽頭部に侵入したが、気道の下部、特に気管支にそれぞれ達していないまたはかなりの程度達していないように、被験体、好ましくはヒト被験体に感染したことを意味する。この文脈では、特にSARS-Co-V、MERS、特に好ましくはSARS-CoV-2などのコロナウイルスに関して、ウイルス感染は、ウイルス性肺炎を生じていない。したがって、本発明の治療は、コロナウイルスによる感染、好ましくはSARS-CoV、MERS、またはSARS-CoV-2による感染が原因のウイルス性肺炎を予防するために使用されることが好ましい。また、本発明の他の実施形態では、呼吸器感染症や病状の原因となるウイルスに感染していることが疑われる被験体に対して、それぞれ本発明の治療法を適用することにより、ウイルス性呼吸器感染症の予防および/または治療に、本発明の治療が使用可能である。例えば、特に、SARS-CoV、MERS、および本発明の文脈で特に好ましいSARS-CoV-2のような、気管支炎および/または肺炎等の重度の呼吸器症状を引き起こすウイルスの症例では、SARS-CoV、MERS、および/または特に好ましくはSARS-CoV-2による感染などのウイルス性呼吸器感染症を有する対象者と約3m以下、好ましくは約2m以下、より好ましくは約1.5m以下の距離内での接触であって、典型的には少なくとも約30秒、好ましくは少なくとも約1分、より好ましくは少なくとも約2分などの十分な時間の接触などの密接な接触をしたという接触情報を得た、および/または認識した、および/または意識させられたとする被験体は、約15分、約30分、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間または約24時間などの後の時点、好ましくはそのすぐ後で治療可能である。
【0031】
本発明はまた、本明細書に記載され定義される医薬装置と、光増感剤を活性状態に移行させる波長を含むまたは有する光を放射する光源とを含む医療キットも対象としている。このような光源の好ましい実施形態は、上記で詳しく説明したとおりである。
【0032】
本発明はまた、好ましくは本明細書中で既に概説したようなコロナウイルス等によるウイルス性呼吸器感染症の予防および/または治療のための方法であって、(i)少なくとも1つの光増感剤を被験体の気道の少なくとも一部に投与する工程と、(ii)光増感剤を活性化状態に移行させる波長を有する光で被験体の前記気道の少なくとも一部を照射する工程とを含む、方法も対象としている。
【0033】
本発明治療方法に使用する光増感剤およびそれを含む組成物、投与レジメン、光源および発光装置、波長、照射時間および回数の好ましい実施形態は、既に本明細書において上述したとおりである。
【0034】
本発明のさらに好ましい詳細および実施形態、特に治療条件ならびに装置、光増感剤、光源などは、本明細書に既に記載されており、さらに実施例において例示されることになる。
【0035】
以下の非限定的な実施例で、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0036】
実施例
実施例1:感染細胞におけるウシコロナウイルスのin vitroでの不活性化
材料
レーザー装置
出願人のPhotolase810 Diode Laser:(最大レーザー出力:7ワット;レーザー波長:810nm/7ワット)
レーザー装置には、直径約1cmの錐体型光レーザーで最大105cmの距離で性能を損なうことなく照射できるハンドピースが含まれている。一部の実験では、すべての試験で同じ条件を確保するために、レーザーを30cmの距離で三脚に固定した。
【0037】
照射条件
電力密度:0.3ワット
照射強度:100ジュール/cm2
増感剤量/48ウェルプレートのウェル:0.1%
0.01%
0.001%
0.0001%
試験温度(照射):20℃±2℃
インキュベーション温度(力価測定):37℃±1℃
【0038】
光増感剤
Photolase Blueviolett Sensitizer 810:1.07%(w/v)のメチレンブルー含有メチレンブルー原液
【0039】
細胞とウイルス
BCoV株L9は、Dr.G.Zimmer,Institute of Virology at Tierarztliche Hochschule Hannover,ドイツから入手した。
【0040】
U373細胞(継体数:14)は、Dr.G.Zimmer,Institute of Virology at Tierarztliche Hochschule Hannover,ドイツから入手した。
【0041】
培地および補助試薬
イーグル最小必須培地は、Earle’s BSS(EMEM,Biozym Scientific GmbH;カタログ番号880121)を含む
ウシ胎仔血清(FCS、Sigma-Aldrich、品番F7524)
Aqua bidest(SG超純水システム、ウルトラクリア型、製造番号86996-1)
PBS(Invitrogen、品番:18912-014)
トリプシン-EDTA溶液
ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich、品番:P-0781)
トリプシン原液[2.5mg/ml]
【0042】
方法
ウシコロナウイルスの不活性化に対する本発明の光活性化処理の有効性を分析するために、U373細胞を48ウェルプレートで培養し、照射処理の前にBCoVに感染させた。以下の全体工程で実施した:
(1)48ウェルプレートでのU373細胞の(継体)培養
(2)150μl細胞懸濁液+500μl培地(EMEM10%FKS)
(3)200μlのウイルス-培地-混合液でのU373細胞の感染
(4)BCoV感染細胞の前処理と照射
【0043】
試験用ウイルス懸濁液の調製
試験用ウイルス懸濁液の調製には、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、10%ウシ胎児血清を添加したEMEMを用いてU373細胞を175cm2フラスコで培養した。ウイルス感染前に、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、FCS不含EMEMで3時間インキュベートした後、トリプシンを添加したEMEMで細胞を1回洗浄した。ウイルス産生には、調製した単層にBCoV株L9を添加した。24~48時間のインキュベーション期間後(細胞は一定の細胞毒性を示した)、急速凍結/融解サイクルにより細胞を溶解させた。
【0044】
細胞残渣は低速遠心分離で除去した。上清を分取した後、試験用ウイルス懸濁液を-80℃で保存した。
【0045】
照射処理用U373細胞の作製
175cm2の細胞培養フラスコのU373細胞をトリプシン-EDTA溶液で酵素的に剥離し、10%ウシ胎児血清を含むEMEM培地計60mlに取り込んだ。この細胞懸濁液各150μlを48ウェルプレートの6ウェルに移し、500μlのEMEM/10%FCSを加えて最終容量を650μlとした。
【0046】
複数の48ウェルプレートを選択した。1ウェルの直径がレーザーコーンの直径に相当する(錐体型光レーザー:直径約1cm;48ウェルプレートのウェル:直径1.04cm)。これは、照射中に細胞がウェル全体に均等に処理されることを保証する。
【0047】
37℃、5%CO2で3日間培養した後、細胞をFCS不含EMEMで2回洗浄し(各ウェル2×200μl)、さらに37℃、5%CO2で3時間培養した。ウイルス感染のため、個々のウェルから培地を除去し、200μlのウイルス-培地-混合液(500μlのBCoVウイルス懸濁液を、FCS不含有/ペニシリン/ストレプトマイシンおよびトリプシン入り30mlのEMEMと混合したもの)に交換した。20~24時間のインキュベーション期間後、BCoV感染細胞を照射処理に使用した。
【0048】
光増感剤の調製
メチレンブルー光増感剤「Photolase(登録商標)Blueviolett Sensitizer 810」は,増感剤原液中のメチレンブルー含有量を1.07%(w/v)として、次の濃度で使用した。
(a)0.1%(w/v)(200μl/ウェル中の終濃度)
(b)0.01%(w/v)(200μl/ウェル中の終濃度)
(c)0.001%(w/v)(200μl/ウェル中の終濃度)
(d)0.0001%(w/v)(200μl/ウェル中の終濃度)
【0049】
照射手順
ウシコロナウイルス(BCoV)の光力学的不活性化のために、まず、原液または適切に希釈した(上記参照)光増感剤溶液(18.69μl/ウェル)を、BCoV感染細胞に1分間添加した。その後、上記レーザー装置による照射を、0.3ワット/cm2の定電力、ラボ用人工照明の下で100ジュール/cm2の強度で5.46分間実施した。
【0050】
処理後のプレートは順次、-80℃で保存した。
【0051】
以下の表1に、本実施例1で用いた照射条件を示す。
【0052】
【0053】
残存ウイルスの回収と感染性の判定
感染細胞や処理細胞から残存ウイルスを回収するため、プレートを急速凍結/融解処理した。この後、各ウェルの細胞懸濁液をピペットで10回上下に攪拌し、ウイルスを再懸濁させた。次に、この懸濁液を氷冷した維持培地で10倍に連続希釈したものをそれぞれ調製した。最後に、各希釈液100μlを、あらかじめU373単層を形成させた滅菌ポリスチレン平底プレートの8ウェルに入れた。それぞれの希釈液を加える前に、細胞をEMEMで2回洗浄し、トリプシンを添加した100μlのEMEMで3時間インキュベートした。細胞を、CO2雰囲気中(CO2含有量5.0%)で37℃にて培養した。6日間培養した後、培養物を観察し、細胞毒性作用を調べた。感染量(TCID50)は、Spearman(1908)Brit.J.Psychol.2,227-242、およびKarber(1931)Arch.Exp.Path.Pharmak.;162,480-487に準拠して計算した。
【0054】
コントロール対照
(i)ウイルスコントロール(VC)
3.5で述べたように、非処理の感染U373-細胞からウイルスを回収した。減少率の算出には、ウイルス力価の平均を基準にした。
【0055】
(ii)光増感剤を使用しない照射
また、Photolase増感剤を用いずに感染・照射したU373細胞からウイルスを回収した。
【0056】
(iii)光増感剤を使用した処理(放射線照射なし)
別のウイルス回収は、3.5で述べたように、人工的な実験室照明のみ(放射線なし)でPhotolase増感剤を使用して10分間処理した感染U373細胞で実施した。色素添加直後(放射線や光照射なし)の一つのプレートをアルミホイルで包み、残留ウイルスの力価測定まで暗所で保存・冷凍した。
【0057】
(iv)細胞培養コントロール
さらに、細胞コントロール(培地添加のみ)を含めた。
【0058】
実効性の算出
本発明処理の殺ウイルス実効性は、処理・照射した培養物の力価の減少を、処理していない培養物の対照力価測定(VC)と比較して算出することにより評価した。その差は減少率(RF)とした。
【0059】
EN14476に基づき、本発明の光線力学療法システムは、照射処理後に力価が少なくとも4log10桁減少していれば、殺ウイルス効力を有するとした(EN14476:2013+A2:2019:化学消毒剤および防腐剤-ヒト医療試験における化学消毒剤および防腐剤の殺ウイルス活性評価のための定量的懸濁試験-試験方法および要件(フェーズ2、工程1))。これは99.99%の不活性化に相当する。
【0060】
結果
本発明による感染細胞の処理の実効性は、48ウェルプレートのBCoV感染U373細胞培養物(3ウェルに相当)をそれぞれ照射処理した後、測定した。試験結果を以下の表2に示す。
【0061】
【0062】
BCoV感染細胞の培養物に光増感剤を添加し、0.3ワット/cm2の一定電力密度の下100ジュール/cm2のエネルギー密度にて810nmで照射した後では、0.1%(w/v)から0.001%(w/v)の光増感剤を使用すると残存ウイルスは発見されなかった。減少率(RF)は3.08(0.1%の色素使用時)、4.08(0.01%)、5.08(0.001%)と変化した。0.0001%の光増感剤を使用した場合、1つのサンプルで最小限の残留ウイルスが検出されただけであった。しかし、これらのサンプルでは細胞毒性(CT)が観察されなかったため、平均減少率はそれぞれ6.00log10桁であった。これは、99.999%のウイルス不活性化に相当する。
【0063】
一方、BCoV感染細胞を0.01%の光増感剤で処理し(放射線照射なし)、増感剤添加後直ちにアルミホイルに包み、残存ウイルスの力価測定まで暗所で保存・冷凍した試験では、相当量の残存ウイルスが検出され実効性はなかった(RF=0.38±0.64)(
図1)。
【0064】
また、事前に増感剤で処理せず、照射のみを行った試験サンプルも実効性は見られなかった(RF=0.08±0.64)(
図2)。
【0065】
本実施例では、高用量のウシコロナウイルスに感染した細胞を本発明処理することにより、0.0001%(w/v)という低濃度の光増感剤を含む組成物を用いて効果的にウイルス抑制をもたらすことが示された。
【0066】
実施例2:感染細胞におけるウシコロナウイルスのin vitroでの非コヒーレントLED光を使用した不活性化
別のセットの実験では、U737細胞を、590nmの単色LED装置または広帯域LED装置(いずれの場合も非コヒーレント光)のいずれかでの照射を用いて、
図1の表に示すような条件で処理した。光量はいずれの場合も10000ルクスであった。
【0067】
広帯域のLED光を光増感剤の活性化に適用して、2分間の照射で残存ウイルスを3log10桁減少させることに成功したのは意外であった。
【0068】
実施例3:感染細胞におけるSARS-CoV-2のin vitroでの不活性化
ウイルスと細胞
SARS-CoV-2/Germany株は、患者から分離された株に由来したものであった。
VeroE6細胞はBern大学(スイス)から入手した。
細胞は、形態学的変化とマイコプラズマによる汚染について定期的に検査された。細胞の形態的な変化やマイコプラズマによる汚染は検出されなかった。
【0069】
光源と照射条件
光源
Ledlenser P6(Ledlenser GmbH&Co.KG,Solingen,ドイツ)
【0070】
照射条件
照度:20,000ルクス、50,000ルクスまたは100,000ルクス
増感剤濃度/24ウェルプレートのウェル:0.001%(w/v)または0.0001%(w/v)
試験温度(照射):20℃±2℃
インキュベーション時間(複数可)1分、2分または3分
インキュベーション温度(力価測定):37℃±1℃
【0071】
他の材料
培養液・試薬
-ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Thermo Fisher、カタログ番号11965092)
-ウシ胎仔血清(FBS、サーモフィッシャー社、品番:10270106)
-ペニシリン-ストレプトマイシン(P/S、Thermo Fisher、カタログ番号15140122)
-非必須アミノ酸溶液(100X)(NEAAs、Thermo Fisher、カタログ番号11140035)
-L-グルタミン(200mM)(L-Glut、Thermo Fisher、カタログ番号25030024)
-トリプシン-EDTA(0.5%)、フェノールレッドなし(Thermo Fishe、カタログ番号15400054)
-BSA(Sigma-Aldrich-Chemie GmbH、品番CA-2153)
-羊の赤血球(Fiebig Nahrstofftechnik)
-クリスタルバイオレット(Sigma-Aldrich-Chemie GmbH、品番C0775)
【0072】
装置、ガラス器具、小物類
-CO2インキュベーター
-攪拌機(Vortex Genie Mixer)
-倒立顕微鏡
-遠心分離機、ウォーターバス
-容量調節可能なピペットと固定容量ピペット
-24ウェルプレートおよび96ウェルマイクロタイタープレート
-細胞培養用フラスコおよび密閉式反応試験管
【0073】
方法
光増感剤の活性化によるヒト型コロナウイルスの不活性化の効力を解析するため、24ウェルプレートでVeroE6細胞を培養し、SARS-CoV-2を感染させて、その後、照射処理した。以下の簡単なフローチャートは、その過程の概要を提供する。
【0074】
24ウェルプレートでのVero細胞の(継体)培養:
1×105細胞/ウェル-1ml培地/ウェル-1ウェル/プレート
(1日目)
Vero細胞にSARS-CoV-2を感染させる(MOI:3):
500μLウイルス懸濁液/ウェル、1時間-PBS(1×)で洗浄-1ml培地/ウェルを添加
(2日日)
SARS-CoV-2感染細胞の前処理と照射:
0.001%または0.0001%の増感剤で前処理し、1、2、3分間照射(処理直後:プレートをアルミ箔で包んだ)、回収:上清を除去し、PBSで1回洗浄後、500μLのPBSを加え、凍結
(3日日)
ウイルス回収(3×凍結/融解処理)およびウイルス力価測定
【0075】
試験用ウイルス懸濁液の調製
ウイルス産生のために、2×106VeroE6細胞を、1%L-Glut、NEAAs、P/S、および10%FBSを添加したDMEM中、75cm2フラスコで培養した。播種から1日後、培地をSARSCoV-2/Germanyウイルス懸濁液100μlを接種した10mlの新鮮なDMEMに交換した。37℃で3日後、1,500rpm、5分間の遠心分離により細胞破片を除去し、上清を回収した。上清を分注し、-80℃で保存した。ウイルス力価はプラークアッセイと終点希釈法で測定した。
【0076】
照射処理用Vero細胞の調製
細胞培養フラスコのVeroE6細胞をトリプシン-EDTA溶液で酵素的に剥離した。1×105個の細胞を24ウェルプレートの1ウェル(B3)に移し、最終容量1,000μlの細胞培養液とした。37℃、5%CO2で1日培養した後、個々のウェルから培地を除去し、細胞にSARS-CoV-2(500μLウイルス懸濁液/ウェル;2×200μl/ウェル;MOI:3)を感染させた。37℃で1時間培養後、接種物を除去し、細胞をPBSで1回洗浄し、1mlの培養液でさらに20~24時間、37℃、5%CO2で培養した。その後、SARS-CoV-2感染細胞を照射処理に使用した。
【0077】
増感剤の調製
1.07%(w/v)を含む原液を用いて、以下のメチレンブルー溶液を調製した。
(a)0.001%(w/v)(1,000μl/ウェル中の終濃度)
(b)0.0001%(w/v)(1,000μl/ウェル中の終濃度)
【0078】
0.001%(w/v)メチレンブルー濃度では、1ウェルあたり1000μlの培地に1μlの増感剤の原液を加えた(プレートを揺動させた)。さらに0.0001%(w/v)の濃度では、光増感剤をAqua dest.で1:10に希釈し、希釈液1μlを1000μlの培地に添加した。
【0079】
様々なフォトダイナミックシステムを用いた手動照射の手順
ヒトコロナウイルス(SARS-CoV-2)の光線力学的不活性化については、まず、適切に希釈したメチレンブルー溶液(1μl/ウェル)をSARS-CoV-2感染細胞に添加した。その直後にLedlenserP6を用いて光量20,000lx、50,000lx、100,000lxでそれぞれ照射を行った。各プレートの各単一ウェルは別々に処理された。
【0080】
【0081】
処理後、直ちにプレート全体をアルミホイルで最大1分間包んだ。その後上清を除去し、細胞を1,000μlのPBSで1回洗浄し、500μLのPBSをその上に注ぎ、-80℃で保存した。
【0082】
残存ウイルスの回収と感染性の判定
感染細胞や処理細胞から残存ウイルスを回収するため、プレートを急速凍結/融解処理した。この後、各ウェルの細胞懸濁液をピペットで15回上下に攪拌し、ウイルスを再懸濁させた。その後、1行目のVeroE6細胞(試験前日に96ウェルプレートに1×104個/ウェルで播種)にウイルス消毒液22μlを直ちに添加し、その後、終点連続希釈力価測定を行った。3日間、37℃のCO2雰囲気(CO2含有量5.0%)で培養した後、クリスタルバイオレット染色による細胞障害作用に関して培養物を観察した。感染量(log10 TCID50/ml)は、Spearman(1)およびKarber(2)に準拠して計算した。
【0083】
コントロール対照
(a)ウイルスコントロール(VC)
非処理のSARS-CoV-2感染VeroE6細胞(増感剤なし、放射線照射なし)から、上記と同様にウイルス回収を実施した。減少率(RF)の算出には、ウイルス力価の平均を基準にした。
【0084】
(b)メチレンブルー水溶液による処理(非照射)
また、感染したVeroE6細胞を指定のメチレンブルー溶液を用い暗所で3分間処理し、ウイルス回収を実施した。処理後、培養プレートをアルミで包み(光に暴露しない)、暗所で最大1分間保存した後、上記と同様に回収(上清を除去、PBSで洗浄(1×)、500μLのPBS添加、ウイルス回収と残存ウイルスの力価測定まで凍結)を実施した。
【0085】
c)細胞培養コントロール
さらに、細胞コントロール(培地添加のみ)を含めた。
【0086】
実効性の算出
メチレンブルー処理による殺ウイルス実効性と環境光による光力学的不活性化特性は、無処理の方法によるコントロール力価測定(VC)と比較して、処理および放射線照射した培養物の力価の減少を算出することで評価した。その差は減少率(RF)とした。
【0087】
結果
SARS-CoV-2感染VeroE6細胞を照射処理した後、光線力学システムの実効性を3回実験して測定した(増感剤の濃度および照射条件ごとに24ウェルプレートの1ウェルのみ)。実験検証の結果を
図2に示す。
【0088】
0.001%または0.0001%の光増感剤を添加し、その後わずか1分間、20,000lxという低い照射強度で照射したところ、平均初期ウイルス力価は6.92log10TCID50/mlとなり、残留ウイルスは確認されなかった。平均減少率(RF)は、いずれの光増感剤濃度(それぞれ0.001または0.0001)でも4.67以上であり、これはSARS-CoV-2の99.99%が不活性化されたことに相当する。
【0089】
結論
0.001%(w/v)の増感剤を用い、広帯域光を照射すると、わずか1分のインキュベーション時間で、驚くほど高いウイルス力価の減少が得られた。
【0090】
実施例4:COVID-19に罹患したヒト被験体の治療
患者:白人男性58歳
治療前の患者の状態:PCRによりSARS-CoV-2陽性、サイクル閾値(CT)=19;乾いた咳、頭痛、体温38.2℃、全身状態は中程度。
【0091】
治療:3日間、6時間おきに実施:鼻腔用スプレー装置を用いて各鼻孔および口/喉への投与により、両鼻孔および喉の治療あたり3μgのメチレンブルー(水溶液中0.00107(w/v))を投与した(装置の各ポンプスプレー動作により、0.1mlの容量で1μgのメチレンブルーを投与;温白色光(1200lm)を発するOsramP9LEDを採用した広帯域LED手持ち式装置(中国、深セン市Shenzhen Shengqi Lighting Technology Co.,Ltd.から得たWUBEN(登録商標)L50)を用いて照射。光増感剤を適用した直後、約6000ルクスで各鼻孔に2分、喉に2分間照射した。
【0092】
治療数日後の状態:咳なし、頭痛なし、体温正常、全身状態正常、PCRによるSARS-CoV-2検出はCT=35
【0093】
本実施例では、SARS-CoV-2感染の初期から中期の症状を呈し、55歳以上であることを考慮すると一般的にCOVID-19の症状がより重症化する恐れがある患者に対して、光増感剤の適用と広帯域LED装置による6時間ごとの照射を3日間だけ継続する治療を実施することで、大幅に回復することを示す。さらに、この治療の3日後のPCRのCTが35という結果は、例えば(3)に示すように、この患者がSARS-CoV-2を拡散する可能性は比較的低いことを示す。
【0094】
参考文献
(1)Spearman, C.:The method of `right or wrong cases' (constant stimuli) without Gauss’s formulae.Brit J Psychol; 2, 1908, 227-242
(2)Karber, G.:Beitrag zur kollektiven Behandlung pharmakologischer Reihenversuche.Arch Exp Path Pharmak; 162, 1931, 480-487
(3)Singanayagam, A, et al.: Duration of infectiousness and correlation with RT-PCR cycle threshold values in cases of COVID-19, England, January to May 2020.Euro Surveill. 2020; 25 (32):pii=2001483,https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2020.25.32.2001483
【国際調査報告】