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特表2023-535464パワーステアリングシステムにおける摩擦を補償する方法
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  • 特表-パワーステアリングシステムにおける摩擦を補償する方法 図1
  • 特表-パワーステアリングシステムにおける摩擦を補償する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(54)【発明の名称】パワーステアリングシステムにおける摩擦を補償する方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230809BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230809BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230809BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20230809BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D117:00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505796
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(85)【翻訳文提出日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 FR2021051366
(87)【国際公開番号】W WO2022023649
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】2008133
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボドワン ニコラ
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232DA09
3D232DA15
3D232DA63
3D232DC03
3D232DD02
3D232DD05
3D232DD07
3D232DD08
3D232EB11
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB21
(57)【要約】
少なくとも2つのパーツ(5,6,7)間の摩擦を補償する方法(100)は、測定(101)された又は測定値から算出(101’)された、少なくとも2つのパーツ(5,6,7)のうちの少なくとも1つのパーツ(5)と少なくとも1つの他のパーツ(6)との間の速度(v)を入力データとする摩擦モデル(M)であって、時間微分
が内部状態、前記速度(v)、及び第1ゲイン(σ)の関数である摩擦の内部状態(z)に基づく摩擦モデル(M)に基づいており、本方法は、速度(v)の絶対値|v|が、速度、第1ゲイン、及び第2ゲインの関数である飽和値よりも低いままになるように、摩擦モデルに入力される速度(v)を飽和させるステップ(102)を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定(101)された及び測定値から算出(101’)された、少なくとも2つのパーツ(5,6,7)のうちの少なくとも1つのパーツ(5)と少なくとも1つの他のパーツ(6)との間の速度(v)を入力データとする摩擦モデル(M)であって、時間微分
が内部状態、前記速度(v)、及び第1ゲイン(σ)の関数である摩擦の内部状態(z)に基づく摩擦モデル(M)に基づく、少なくとも2つのパーツ(5,6,7)の間の摩擦を補償する方法であって、
前記速度(v)の絶対値|v|が、飽和値よりも低いままになるように、前記摩擦モデルに入力される前記速度(v)を飽和させるステップ(102)を含み、
前記飽和値は、前記速度、前記第1ゲイン、及び第2ゲインの関数であり、
前記少なくとも2つのパーツは、自動車(2)のパワーステアリングシステム(1)のパーツであり、
前記モデルに入力される前記速度(v)は、第1速度(v1)及び第2速度(v2)の和として定義される、ステアリングホイールの速度であり、
前記第1速度(v1)は、速度センサ(24)で測定(101)される、前記パワーステアリングシステム(1)の電動モータ(12)の回転速度であり、
前記第2速度(v2)は、トルクセンサ(14)により測定される、前記パワーステアリングシステム(1)のステアリングホイール(3)とラック(6)との間のステアリングホイール/運転者トルク(T3)から算出(101’)されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法(100)において、
前記第2速度(v2)は、
前記パワーステアリングシステム(1)の前記ステアリングホイール(3)と前記ラック(6)との間のトルク(T3)を測定するように構成された前記トルクセンサ(14)を介して、前記ステアリングホイール/運転者トルク(T3)を測定し(S1)、
前記トルク(T3)の測定値を時間微分し(S2)、
前記トルクの測定値の時間微分に適用される決定された剛性の関数として、トルク速度と呼ばれる前記第2速度(v2)を計算する(S3)、
というサブステップにより、前記パワーステアリングシステム(1)の前記ステアリングホイール(3)と前記ラック(6)との間のステアリングホイール/運転者トルク(T3)から算出(101’)されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法(100)において、
前記方法はデジタル的に処理され、
前記モデルに入力される速度(v)は、サンプリング周期(Te)に応じて経時的にサンプリングされ、
前記飽和値は、サンプリング周期(Te)の関数であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法(100)において、
前記飽和値は、以下の数式により定義され、


kは前記第2ゲインであり、g(v)はvの関数であって、
で定義される定常状態の摩擦を表すことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法(100)において、
前記内部状態zの時間微分
は、以下の数式を満たす、


ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法(100)において、
前記関数g(v)は、ストライベック関数であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の方法(100)において、
前記摩擦モデルの他の入力は、摩擦の補償レベルであり、
前記補償レベルは、摩擦の算出値(FRI)と予め設定された摩擦の目標値(FRC)との差によって定義されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリングシステムの分野に関し、特に、摩擦を補償する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦を少なくとも部分的に補償して運転者の感覚に及ぼす摩擦の影響を軽減するために、パワーステアリングシステムにおいて摩擦モデルを使用することが知られている。それにも関わらず、このモデルの実施が、不安定性を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、これらの問題の全て又は一部に対する解決策を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的のために、本発明は、少なくとも2つのパーツ間の摩擦を補償する方法に関し、該方法は、測定された及び測定値から算出された、少なくとも2つのパーツのうちの少なくとも1つのパーツと少なくとも1つの他のパーツとの間の速度vを入力データとする摩擦モデルに基づいており、モデルは、時間微分
が内部状態、速度v、及び第1ゲインσの関数である摩擦の内部状態zに基づいている。
【0005】
方法は、速度vの絶対値|v|が、飽和値よりも低いままになるように、速度vを飽和させるステップを含み、飽和値は、速度、第1ゲイン、及び第2ゲインの関数である。
【0006】
これらの規定によれば、摩擦に対する補償の不安定性が低減されるか、又は解消されることさえある。
【0007】
一実施形態によれば、本発明は、以下の特徴のうち1つ又は複数を、単独で又は技術的に許容される組み合わせで含む。
【0008】
一実施形態によれば、方法はデジタル的に処理され、モデルに入力される速度(v)は、サンプリング周期(Te)に応じて経時的にサンプリングされ、飽和値はサンプリング周期(Te)の関数である。
【0009】
一実施形態によれば、前記飽和値は、次の数式により定義される。


ここで、kは第2ゲインであり、g(v)はvの関数であって、定常状態の摩擦を表し、定常状態は
で定義される。
【0010】
一実施形態によれば、第2ゲインは、0と4との間であり、具体的には1と3との間であり、特に2に等しい。
【0011】
一実施形態によれば、内部状態zの時間微分
は、次の数式を満たす、


一実施形態によれば、関数g(v)はストライベック関数(fonction de Stribeck)である。
【0012】
一実施形態によれば、モデルはルグレモデル(modelede Lugre)である。
【0013】
これらの規定によれば、特に、関数g(v)が低い値をとる場合、つまり所望の補償レベルがゼロに近くてもいいような値をとる場合における、デジタル的な処理に関する摩擦の補償の不安定性が、低減されるか、又は解消されることさえある。
【0014】
一実施形態によれば、少なくとも2つのパーツは、自動車のパワーステアリングシステムのパーツであり、モデルに入力される速度vは、第1速度と第2速度との和として定義されるステアリングホイール速度であり、第1速度は、速度センサにより測定される、パワーステアリングシステムの電動モータの回転速度であり、第2速度は、パワーステアリングシステムのステアリングホイールとラックとの間のステアリングホイール/運転者トルクから算出され、ステアリングホイール/運転者トルクは、トルクセンサにより測定される。
【0015】
一実施形態によれば、第2速度は、以下のサブステップに応じて、パワーステアリングシステムのステアリングホイールと前記ラックとの間のステアリングホイール/運転者トルクから決定される。
【0016】
-パワーステアリングシステムのステアリングホイールとラックとの間のトルクを測定するように構成されたトルクセンサを介して、ステアリングホイール/運転者トルクを測定する、
-トルクの測定値を時間微分する、
-トルクの測定値の時間微分に適用される決定された剛性の関数として、トルク速度と呼ばれる第2速度を計算する。
【0017】
一実施形態によれば、摩擦モデルの他の入力は、摩擦の補償レベルであり、補償レベルは、摩擦の算出値と予め設定された摩擦の目標値との差によって定義される。
【0018】
これらの規定によれば、特に相対速度が高いとき、及び所望の補償レベルがゼロに近いときの少なくとも一方であり、かつ方法がデジタル的に処理されるときの、摩擦の補償の不安定性が、低減されるか、又は解消されることさえある。
【0019】
適切な理解のために、本発明の実施形態及び/又は実施は、非限定的な例として、本発明に係る装置及び/又は方法のそれぞれの実施形態又は実施を表す、添付の図面を参照して説明される。図面中の同じ参照符合は、同様の要素又は機能が同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の1つの実施に係る摩擦を補償する方法のステップの概略図である。
図2図2は、本発明に係る方法が適用されるステアリング装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2には、本発明に係る補償方法を実施することができるパワーステアリングシステムを備えるステアリング装置1が図示されている。よく知られているように、そして図2に見られるように、パワーステアリング装置1は、「ステアリングホイールトルク」T3と呼ばれる力をステアリングホイール3に加えることによって、運転者がパワーステアリング装置1を操作することを可能にするステアリングホイール3を備える。ステアリングホイール3は、好ましくは、ステアリングコラム4に取り付けられ、車両2上で回転するように案内され、ステアリングピニオン5によって、ステアリングラック6と噛み合い、ステアリングラック6自体は、車両2に固定されたステアリングケーシング7内で平行移動するように案内される。
【0022】
好ましくは、ラック6の平行移動による長手方向の変位により、操舵輪の操舵角(ヨー角)を変えることができるように、ステアリングラック6の端部は、操舵輪10,11(左操舵輪10及び右操舵輪11)の車軸に接続されたステアリングタイロッド8,9にそれぞれ連結されている。さらに、操舵輪10,11は、好ましくは駆動輪であってもよい。
【0023】
パワーステアリング装置1はまた、パワーステアリング装置1の操作を補助するように構成されたモータ12を備える。モータ12は、好ましくは双方向に作動する電動モータであり、好ましくはブラシレスタイプ又はブラシレスの回転電動モータである。
【0024】
パワーステアリング装置1は、ステアリングホイールトルクT3を測定するために、特にパワーステアリング装置1内、例えばステアリングコラム4に設置されたステアリングホイールトルクセンサ14を更に備え、ステアリングホイールトルクセンサ14は、ステアリングホイールトルクセンサ14で使用される測定技術に関わらず、ステアリングホイールトルクT3の測定値を提供するという主な、場合によっては排他的な目的を有する。さらに、パワーステアリング装置1は、モータ12の回転速度を測定するためのモータ速度センサを備える。
【0025】
最後に、パワーステアリング装置1はまた、センサ14,24からのデータに基づいて補償方法を実行するように構成された計算及び制御ユニット20を備える。
【0026】
ここで、本発明に係る方法100を、非限定的な例として、前述したパワーステアリングシステムの用途文脈を参照して説明する。当業者は、本発明に係る方法を他の用途で実施されてもよいことを理解するであろう。
【0027】
本発明に係る方法100は特に、互いに対して動作可能な少なくとも2つのパーツ5,6の間の摩擦モデルMであって、少なくとも1つのパーツ5と少なくとも1つの他のパーツ6との間の、算出101’された又は測定101された速度vに関する摩擦モデルMを実施する技術的な問題の解決策として適用可能である。速度vは前記モデルの入力データであり、前記モデルは、その時間微分
が、内部状態、速度v、及びパラメータ化可能なゲインσの関数である摩擦の内部状態zを含み、ゲインσは予め設定された値であってもよい。
【0028】
一実施形態によれば、速度vは、2つのパーツ(5,6)の速度に関する。好ましい実施では、速度vは、パワーステアリングシステム1の異なる部分において測定101された又は算出101’された、少なくとも2つの速度v1,v2の関数として算出された速度であり、前記異なる部分は、例えば、後述するような、パワーステアリングシステムのモータ12及びパワーステアリングシステム1のステアリングホイール3である。速度v,v1,v2は、例えば、パーツが互いに対して回転可能であるときの回転速度、パーツが互いに対して平行移動するときの移動速度、又は両方の組み合わせであってもよい。
【0029】
したがって、例えば、摩擦モデルMは、特に内部状態zの時間微分
が、以下の数式を満たすようなルグレモデルであってもよい。


ここで、g(v)はvの関数であって、定常状態の摩擦を表し、定常状態は
で定義される。
【0030】
関数g(v)は、特に、摩擦に対する所望の補償レベルを表すことができるストライベック関数であり得る。
【0031】
有利には、ルグレモデルは不連続性の問題がない。ルグレモデルは積分原理を使用し、摩擦サイクルを表す特性を持ちながら、中間の摩擦において一定の連続性を持たせることができる。
【0032】
一実施形態によれば、前記方法は、前記モデルに入力される速度vが、サンプリング周期Teに応じて経時的にサンプリングされるという意味で、デジタル的に処理される。
【0033】
したがって、この実施例では、前述の数式の
の項が非常に大きくなる場合、特にg(v)の値、すなわち摩擦に対する所望の補償レベルがゼロに近づくような値になる場合に、振動不安定性が出現する可能性がある。
【0034】
この不安定性を回避するために、本方法は、速度vの絶対値|v|が、飽和値よりも低いままになるように、摩擦モデルに入力される速度(v)を飽和させるステップ102を含む。飽和値は、速度、ゲイン、及び第2ゲインkの関数である。
【0035】
したがって、特に本方法のデジタル的に処理される場合において、飽和値は、以下の数式によって定義され得る。


一実施形態によれば、第2ゲインは、0と4との間であり、好ましくは1と3との間であり、より好ましくは、第2ゲインは2に等しい。
【0036】
これらの規定によると、本方法のデジタル的な処理と関連する、特に関数g(v)が低い値を取るとき、つまり所望の補償レベルが0に近づくときの、摩擦に対する補償の不安定性は、低減され、又は解消されることさえある。
【0037】
本発明の特定の実施において、図1により詳細に示すように、前記摩擦モデルに入力される速度vは、第1速度v1と第2速度v2との和として定義されるステアリングホイール速度である。
【0038】
例えば、第1速度は、速度センサ24により測定101される、パワーステアリングシステム1の電動モータ12の速度であり、第2速度は、ステアリングホイールトルクセンサ14により測定される、パワーステアリングシステム1のステアリングホイール3とラック6との間のステアリングホイール/運転者トルクT3から決定101’される。
【0039】
例えば以下で特定される算出方法101’に従って、ステアリングホイール/運転者トルクT3に対応する第2速度を決定101’することで、ステアリングホイール3での運転者の非常に小さな負荷を考慮することが可能である。実際に、運転者の非常に小さな負荷では、パワーステアリングシステムの種々のパーツ及び機械的噛み合わせに関連する、ステアリングホイール3と電動モータ12との間に存在する摩擦は、電動モータ12への負荷を妨げる。従って、第1速度がゼロになる。
【0040】
したがって、第2速度を決定することで、ステアリングホイール3での運転者の低い負荷を考慮することができ、ステアリングホイール3での運転者の低い負荷に対するパワーステアリングシステム1の摩擦に対して効果的に補償することができる。
【0041】
第1速度と第2速度との和により、第2速度を介して、ステアリングホイール3での運転者の低い負荷を考慮することができるとともに、第1速度を介して、走行面から上昇してラック6を直接付勢する低負荷を考慮することができる。
【0042】
第2速度は、例えば、以下のサブステップに応じて決定101’されてもよい、
(S1)パワーステアリングシステム1のステアリングホイール3とラック6との間のトルクT3を測定するように構成されたトルクセンサ14を介して、ステアリングホイール/運転者トルクT3を測定する、
(S2)トルクT3の測定値を時間微分する、
(S3)トルクの測定値の時間微分に適用される決定された剛性の関数として、トルク速度と呼ばれる第2速度v2を計算する。決定された剛性をトルクの測定値の時間微分に適用することは、トルクの測定値の時間微分によって決定される剛性の積を計算することを含む。
【0043】
一実施形態によれば、摩擦モデルの第2入力データは、摩擦に対する所望の補償レベルであってもよく、該補償レベルは、摩擦の算出値FRIと予め設定された摩擦の目標値FRCとの差によって定義される。摩擦の大きさを算出する方法は周知である。
【0044】
これは、モデルにおいて数値上の不安定性の出現の可能性がかなり高く、このため、相対速度の飽和ステップに基づく、本発明に係る対策を展開する必要がある。考慮される相対速度は、第1速度v1と第2速度v2との和として定義される複合ステアリングホイール速度である。
【0045】
しかしながら、本発明に係る方法は、摩擦モデルが数値上の不安定性が存在する如何なる状況に対して適用可能である。
図1
図2
【国際調査報告】