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特表2023-535466慢性閉塞性肺疾患の治療における上皮成長因子枯渇剤の使用
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  • 特表-慢性閉塞性肺疾患の治療における上皮成長因子枯渇剤の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(54)【発明の名称】慢性閉塞性肺疾患の治療における上皮成長因子枯渇剤の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20230809BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20230809BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230809BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61P11/00
A61K39/39
A61K38/18
A61P37/04
A61K9/08
A61K47/64
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505798
(86)(22)【出願日】2021-07-19
(85)【翻訳文提出日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 CU2021050006
(87)【国際公開番号】W WO2022022756
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】CU-2020-0034
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500185689
【氏名又は名称】セントロ ド インムノロジア モレキュラー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マシアス アブラハム、アムパロ エミリア
(72)【発明者】
【氏名】クロムベット ラモス、タニア
(72)【発明者】
【氏名】レオン モンソン、カレット
(72)【発明者】
【氏名】サーヴェドラ エルナンデス、ダネイ
(72)【発明者】
【氏名】サントス モラレス、オレステス
(72)【発明者】
【氏名】ネニンガー ヴィナヘラス、エリア
(72)【発明者】
【氏名】ピノ アルフォンソ、ペドロ パブロ
(72)【発明者】
【氏名】エルナンデス、レイエス、イェニスベル デ ラ カリダッド
(72)【発明者】
【氏名】レイド、メアリー
(72)【発明者】
【氏名】リー、ケルヴィン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA94
4C076AA95
4C076BB15
4C076CC07
4C076CC15
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF34
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA42
4C084BA44
4C084DB53
4C084MA01
4C084MA16
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB09
4C085AA03
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF03
4C085FF11
4C085FF13
4C085FF18
4C085GG03
(57)【要約】
本発明は、バイオテクノロジー及び医学の分野に関する。具体的には、慢性閉塞性肺疾患の治療に影響を及ぼす、血清上皮成長因子レベルの低下及び/又は枯渇に寄与する上皮成長因子(EGF)枯渇剤の使用について記載している。これらの薬剤は、有効成分として組換えヒトEGFと担体タンパク質との間のコンジュゲートを含むワクチン組成物であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性閉塞性肺疾患の治療における上皮成長因子(EGF)枯渇免疫療法剤の使用。
【請求項2】
前記免疫療法剤が、前記EGFに対する特異的抗体の産生を誘導するワクチン組成物である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ワクチン組成物が、有効成分として、組換えヒトEGFと担体タンパク質との間のコンジュゲートを含む、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記担体タンパク質が、
-コレラ毒素Bサブユニット
-破傷風トキソイド、
-KLH及び
-ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)由来のP64k
を含む群から選択される、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記ワクチン組成物が、
-不完全フロイントアジュバント、
-スクアレン系アジュバント、
-合成起源のアジュバント、
-鉱物起源のアジュバント、
-植物起源のアジュバント、
-動物起源のアジュバント、
-粒子タンパク質アジュバント、及び
-リポソーム
を含む群から選択されるアジュバントをさらに有する、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
治療を必要とする対象を治療する方法であって、20~70μL/kgの投与量範囲での筋肉内経路による請求項2~5のいずれかに記載のワクチン組成物の投与を含み、最初の4回の投与は14日ごとに投与され、残りの投与は28日ごとに最小期間6ヶ月間にわたって投与される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー及び医学の分野に関する。本発明は、詳細には、上皮成長因子(EGF)枯渇剤、具体的には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療における有効成分としての上皮成長因子(EGF)及び担体タンパク質を含むワクチン組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
COPDは、気道、実質及び肺動脈のリモデリングをもたらす異常かつ慢性の炎症反応に関連する慢性かつ不可逆的な気流閉塞の存在を特徴とし、全身にも作用する(Fletcher C.ら、(1977)Br Med J.1(6077):1645-1648)。COPDの有病率及びCOPDによる死亡率は世界中で著しく増加しており、この疾患は現在、死亡の第4の世界的原因である(NIH公開番号2701A、2001年3月、www.goldcopd.comで入手可能)。閉環境におけるタバコの煙及びバイオマス燃焼生成物への継続的な曝露は、Perez-Padilla R.ら(1996)Am J Respir Crit Care Med.154:701-706;Orozco-Levi M.ら Eur Respir J.(2006);27(3):542-546)。ホモ接合型アルファ1アンチトリプシン欠損症は、喫煙者の早期気腫に関連し、COPDの発症につながる(Alpha-1-Antitrypsin Deficiency Registry Study Group.(1998)Am J Respir Crit Care Med.158(1):49-59)。
【0003】
COPDは、喫煙者の肺がんの最大のリスク因子であり、このタイプのがんに罹患するリスクが4.5倍高い集団である。また、この疾患は肺がん患者の50~90%に見られる。肺がんは、COPD患者の病的状態及び死亡の主な原因でもある(Anthonisen N.R.ら、(2005)Ann Intern Med.;142:233-239)。
【0004】
COPDの病因におけるEGF及びその受容体(EGFR)の関与が言われてきた。気道の上皮細胞におけるそのEGF及びTGFαリガンドの添加によって達成されるEGFRの正の調節は、気道における粘液の産生を担うMUC5AC及びMUC2遺伝子の発現を誘導することが分かっている。EGF/EGFR系のほとんどの受容体及びリガンドの発現は、無傷の上皮よりも損傷した上皮において高い。EGF/EGFR及び/又はそのファミリーの他のリガンドの過剰発現は、化生又は上皮過形成などの正常な気道上皮の変化をもたらし得る(WillemI.ら Am J Clin Pathol.(2006)125:184-192)。ヒト好酸球は、EGFR活性化を介して気道上皮細胞によるムチン産生を誘導する(Burgel P.R.ら(2001)J Immunol.167:5948-5954)。
【0005】
現在、COPDの治療は基本的に緩和的であり、すなわち、主に疾患の臨床症状の制御に向けられている。臨床現場では、この疾患の病因を目的とした薬物の使用が臨床調査中である。
【0006】
BIBW2948と呼ばれるチロシンキナーゼ活性の阻害剤の使用がCOPDにおいて研究されたが、使用された治療レジメンは、患者の粘液産生を減少させなかっただけでなく、トランスアミナーゼ酵素の増加などの重篤な有害作用の出現ももたらした。より高いインビボ用量は粘液産生の減少に対する効果を示したが、臨床試験で報告された有害作用は用量漸増を可能にした(Woodruff W.ら(2010)Am J Respir Crit Care Med 181:438-445)。
【0007】
米国特許出願公開第2011/0192396号には、COPDの治療に適した医薬ビヒクルであるEGF及び緩衝液又は生理食塩水を含有する医薬組成物の使用が記載されている。肺気腫モデルにおける粘液過剰分泌、肺胞細胞の保護及び病理学的組織症状の改善に対するEGFの効果は、インビトロ及びインビボ前臨床研究において実証されている。
【0008】
本発明以前の技術的解決策又は科学的刊行物には、能動免疫による血清中のEGFの枯渇を引き起こす免疫療法剤の使用が記載されていないことを強調することが適切である。本発明の新規性は、EGFに対する特異的抗体の産生を誘導するワクチン組成物の使用からなる、毒性の低いEGF遮断治療代替物によるCOPDの治療を提供することにある。癌治療におけるこれらのワクチン組成物によって実証された安全性は、長期治療におけるそれらの使用を可能にし、これらの治療の有効性の増加をもたらす。本発明において、本発明者らは、上述のワクチン組成物をこの疾患に罹患している患者に投与することによって、COPDの臨床症状の改善を達成した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態では、本発明の目的は、慢性閉塞性肺疾患を処置するためのEGF枯渇免疫療法剤の使用である。具体的には、上記免疫療法剤は、EGFに対する特異的抗体の産生を誘導するワクチン組成物を指す。これらのワクチン組成物は、有効成分として、組換えヒトEGFと、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風トキソイド、KLH、及びナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)由来のP64kであり得る担体タンパク質との間のコンジュゲートを含む。さらに、本ワクチン組成物は、不完全フロイントアジュバント、スクアレン系アジュバント、合成起源アジュバント、鉱物起源アジュバント、植物起源アジュバント、動物起源アジュバント、粒子タンパク質アジュバント及びリポソームからなる群から選択されるアジュバントを有する。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の治療方法であって、好ましくは20~70μL/kgの投与量範囲での筋肉内経路による前述のワクチン組成物の投与を含み、最初の4回の投与は14日ごとに投与され、残りの投与は28日ごとに最小期間6ヶ月間にわたって投与される、治療方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ワクチン組成物
COPDの治療においてEGF枯渇剤として使用される本発明で提供されるワクチン組成物はすべて、血清EGFレベルの低下及び/又は枯渇に寄与するEGFに対する抗体の産生を誘導するものである。
【0012】
上記ワクチン組成物の例は、有効成分として組換えヒトEGF(rhEGF)と担体タンパク質との間のコンジュゲートを含む全てのものである。上記担体タンパク質は、限定するものではないが、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風トキソイド、KLH、及びナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)由来のP64kからなる群から選択される。さらに、上述のワクチン組成物は、不完全フロイントアジュバント、スクアレン系アジュバント、合成起源アジュバント、鉱物起源アジュバント、植物起源アジュバント、動物起源アジュバント、粒子タンパク質アジュバント及びリポソームからなる群から選択されるアジュバントを含む。
【0013】
治療方法
本発明の別の実施形態は、上述のワクチン組成物で治療する方法を提供する。GOLD基準(Global Initiative Guidelines for Chronic Obstructive Pulmonary Disease)(NHLBI/WHOワークショップレポート、NIH公開番号2701A、2001年3月、www goldcopd comで入手可能)に従ってCOPDと診断された患者は、この治療を受ける資格がある。
【0014】
これらの基準によれば、COPDは、異常な炎症反応に関連する慢性で可逆性の低い気流閉塞の存在を特徴とする。その主な臨床症状は、咳、痰の生成及び呼吸困難又は歩行時若しくは活動レベルの上昇時の窒息感であり、これは長年にわたって徐々に悪化する。気流閉塞は、肺活量測定によって、気管支拡張薬試験後の最初の1秒目の努力呼気量(FEV1)/努力性肺活量(FVC)の比が0.7未満(又は60歳を超える対象では正常の下限未満)である場合に診断される。
【0015】
本発明では、本発明に記載されるワクチン組成物で免疫されたCOPD患者は臨床的利益を示す。本発明の文脈における臨床的利益という用語は、そのような薬剤による治療が、患者が呈する呼吸器臨床症状の少なくとも1つを改善及び/又は安定化するという事実を指す。
【0016】
本発明の文脈において、治療効果という用語は、一般に治療の有益な又は望ましい影響、例えば、疾患の症状の改善又は寛解を指す。
【0017】
有効成分としてEGFを含むワクチン組成物の投与は、好ましくは筋肉内経路によって行われ、最初の4回の投与は14日ごとに投与され、残りの投与は28日ごとに投与され、許容される遅延時間範囲は3日間である。上記組成物が投与される投与量範囲は、体重1キログラム当たり20~70μL/kgの間、又は体重1キログラム当たり20~70μgの総タンパク質、又は最大5mg、より好ましくは30~60μg/kgの総タンパク質である。治療の最小期間は6ヶ月である。この治療スケジュールは、得られた結果に従って頻度及び投与量を変えることができ、生成された抗体力価並びに臨床症状の改善及び/又は安定化を考慮して最適化することができる。
【0018】
本発明を、以下の例及び図面を用いてさらに詳述する。ただし、これらの例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】未処置及び化学療法ステージIII/IVの非小細胞肺癌(NSCLC)患者で処置した場合と比較した、グレードIII/IVのCOPD(GOLD基準による重度及び非常に重度の段階)患者におけるベースライン血清EGFレベル。
図2】CIMAvax-EGFで治療したグレードIIIのCOPD患者において経時的に達成された血清EGFレベル及び抗EGF抗体価の免疫抑制。
図3】抗EGF抗体によるリン酸化の阻害率。
【0020】

例1.COPD患者とNSCLC患者の両方が高いベースライン血清EGFレベルを有する。
グレードIII/IVのCOPDを有する患者及びNSCLC患者の群の試料のベースライン血清EGFレベルをELISAによって決定した(Gonzalez,E Cetら、J Immunoassay Immunochem.(2016)16:1-12)。同様のレベルの血清EGFがCOPD患者及びNSCLC患者において見出された(図1)。
【0021】
例2.CIMAvax-EGFによる治療は、抗EGF抗体を誘導する一方で、免疫抑制血清EGFを誘導し、COPDの臨床症状を改善する。
重度のCOPD(GOLD基準によるグレードIII)を有する患者を、治療ワクチンCIMAvax-EGFの活性成分2.4mgで免疫し、合計5回の投与を筋肉内投与した。抗EGF抗体力価をELISAによって定量した(Gonzalez G.A.らAnn Oncol(1998);9:431-435)。治療中の血清EGFレベルをELISAによって調べた(Gonzalez,ECら、J Immunoassay Immunochem.(2016)16:1-12)。
【0022】
図2は、患者における抗EGF抗体価の増加に関連する血清EGFレベルの免疫抑制が治療中に達成されたことを示す。
【0023】
さらに、肺活量測定を、ワクチンによる治療を開始する前及び治療を終了した後に行った。表1は、気流閉塞の重症度の最良の指標であるFEV1の結果を示す。
【表1】
【0024】
表1に示す結果から分かるように、CIMAvax-EGFによる治療は、治療された患者の臨床呼吸器症状を改善し、GOLD基準による重症度を低下させた。
【0025】
例3.CIMAvax-EGFによる治療は、EGF受容体リン酸化を阻害する能力を有する抗EGF抗体を誘導する。
重症COPD(GOLD分類によるグレードIII)を有する患者を、治療ワクチンCIMAvax-EGFの活性成分2.4mgで免疫し、合計8回の投与を筋肉内投与した。第1の免疫化及び第5の免疫化の前に得られた血清の阻害能を、ウエスタンブロット法によって評価し、EGF受容体を発現する腫瘍細胞と1時間インキュベートした。AG1478抗体を阻害対照として使用した。図3は、ワクチン接種で生成された抗体がEGFの存在下でEGF受容体リン酸化を阻害する(36%阻害)ことを示す。
図1
図2
図3
【国際調査報告】