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特表2023-535561表面の付着物が低減されたバイオプロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-18
(54)【発明の名称】表面の付着物が低減されたバイオプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/34 20060101AFI20230810BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C07K1/34
C07K1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502976
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(85)【翻訳文提出日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 US2021041508
(87)【国際公開番号】W WO2022015779
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】63/052,048
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】323008992
【氏名又は名称】ニュートリション・アンド・バイオサイエンシーズ・ユーエスエー・ワン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ジョシュア・エス・カッツ
(72)【発明者】
【氏名】スーザン・エル・ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】ハディ・ファレス
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・イェザー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA10
4H045GA23
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、(a)タンパク質及び式I:
【化1】

(式中、R-C(=O)は、脂肪酸アシル基であり、Rは、H又は置換若しくは無置換のヒドロカルビル基であり、Xは、O又はNHであり、Xは、O又はNHであり、nは、0又は1~5の整数であり、Rは、式II及びIIIの重合した単位を含む高分子基である)のポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤を含む水溶液を提供することと、
(b)この水溶液をバイオプロセスに付すことと、
を含むプロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)タンパク質及び式I:
【化1】

(式中、R-C(=O)は、脂肪酸アシル基であり、Rは、H又は置換若しくは無置換のヒドロカルビル基であり、Xは、O又はNHであり、Xは、O又はNHであり、nは、0又は1~5の整数であり、Rは、式II及びIII:
【化2】

の重合した単位を含む高分子基である)のポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤を含む水溶液を提供することと、
(b)前記水溶液をバイオプロセスに付すことと、
を含むプロセス。
【請求項2】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、12FM1000、FM1000、16FM1000、18FM1000及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、FM1000である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ(b)は、前記水溶液を濾過することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、FM1000、16FM1000、18FM1000及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
フィルターは、PVDFフィルター、PESフィルター、ポリプロピレンフィルター、セルロースフィルター、ナイロンフィルター及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項7】
前記フィルターは、PVDFフィルター又はPESフィルターである、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の組成は、前記フィルターを通過しても実質的に同じままである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項9】
ステップ(b)は、前記水溶液をクロマトグラフィーカラムを通過させることを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
クロマトグラフィー樹脂は、スルホプロピル修飾架橋アガロース、Protein A、4級アンモニウム修飾架橋アガロース、疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記クロマトグラフィー樹脂は、スルホプロピル修飾架橋アガロース、Protein A又は4級アンモニウム修飾架橋アガロースである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の組成は、前記クロマトグラフィーカラムを通過しても実質的に同じままである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項13】
ステップ(b)は、前記水溶液を輸送することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、12FM1000、FM1000及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、FM1000である、請求項14に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオプロセスにおいて表面の付着物を低減するためにポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物製剤、タンパク質から誘導された医薬品又は他の生物学的に誘導された高分子は、従来の低分子薬と比較して選択性が向上しており、且つ副作用が低減されていることから、医薬品の重要な種類として急速に発展している。タンパク質材料は比較的破壊されやすい性質を有しており、そのため、治療に有益であると同時に、加工、流通及び投与に耐えるのに十分な安定性を有する生物活性物質を開発することは依然として大きな難題である。界面活性剤を使用することによって、タンパク質が界面に吸着することを防ぐか又は溶液中で保護構造を形成することにより、溶液中のタンパク質を安定化及び保護することができる。ところが界面活性剤は、生物製剤の製造プロセスの多くの工程に適さないことが多く、そのため、プロセスのかなり終盤(例えば、最終製剤化)まで添加されない。例えば界面活性剤は表面に不可逆的に吸着され、その結果として表面の付着物となり、細孔/膜/フィルターが目詰まりし、溶液中の界面活性剤濃度が低下し、溶液中又は更に下流側で界面活性剤がタンパク質を保護する能力が制限されることで、バイオプロセスを妨げる可能性がある。更に、付着物及び目詰まりによって清掃のための中断時間が長くなり、プロセスの処理量及び生産性が低下する可能性もある。生物製剤を、界面活性剤によって遮蔽されていない表面(例えば、クロマトグラフィーカラム又はフィルター)に到達させ、及び/又はその表面と相互作用させることが必要となる状況もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は:(a)タンパク質及び式I:
【化1】

(式中、R-C(=O)は、脂肪酸アシル基であり、Rは、H又は置換若しくは無置換のヒドロカルビル基であり、Xは、O又はNHであり、Xは、O又はNHであり、nは、0又は1~5の整数であり、Rは、式II及びIII:
【化2】

の重合した単位を含む高分子基である)のポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤を含む水溶液を提供することと、
(b)この水溶液をバイオプロセスに付すことと、
を含むプロセスを提供する。
【0004】
本明細書に示す概念の理解を促すために添付の図面において実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】尾部長の異なる界面活性剤を用いて、生理食塩水中界面活性剤を0.03mg/mL及び界面活性剤を0.05mg/mLとして、室温下で24時間振盪を行った後にDLSで測定したIgG(20mg/mL)の凝集率を示すものである。
図2】尾部長の異なる界面活性剤を用いて、生理食塩水中界面活性剤を0.03mg/mL及び界面活性剤を0.05mg/mLとして、振盪を行う前にDLSで測定したIgG(20mg/mL)の凝集率を示すグラフである。
図3A】試験に供した6種のFM1000誘導体及びIgGの代表的なDSTのグラフを示すものである。
図3B】全体の表面張力の低下に対する、最初の減衰に由来する表面張力低下の割合を示すものである。
図3C】最初の減衰時の表面張力低下を、最初の減衰の特性時間で規格化したものである。
図3D】2回目の減衰に起因する表面張力低下を示すものである。
図3E】2回目の減衰の特性時間を示すものである。
図4-1】QCM-Dデータを示すものである。図4Aは、界面活性剤のみ又はIgGのみの相対吸着質量を示すものである。図4Bは、界面活性剤のみ又はIgGのみで洗い流された割合を示すものである。図4Cは、まずIgG及び界面活性剤の吸着質量と、界面活性剤のみの吸着質量との差を求め、次いでこれを、IgGのみの試料の吸着質量で規格化した、吸着したIgGの相対量(100任意単位)を示すものである。図4Dは、洗い流すことができるIgG及び界面活性剤の合計質量の割合を示すものである。
図4-2】図4-1の続き。
図5-1】尾部長の増加に伴うIgG及び界面活性剤の吸着過程を図示したものである。各図解の組において、左側は、短い尾部長を有する界面活性剤及びIgGを示し、中央は中間の尾部長を有する界面活性剤及びIgGを示し、右側は長い尾部長を有する界面活性剤及びIgGを示している。図5Aは、DSTによって明らかになった界面活性剤の初期吸着(最初の減衰)を図示したものである。図5Bは、QCM-Dによって明らかになった競合吸着を図示したものである。図5Cは、DSTによって明らかになった平衡時の吸着(2回目の減衰)を図示したものである。図5Dは、QCM-Dによって明らかになった可逆的吸着を図示したものである。
図5-2】図5-1の続き。
図6】PVDFフィルターを通過した界面活性剤の回収を示すものである。図6A及び図6Bは、濾過の異なる時点で採取した試料のFM1000及びPM80のクロマトグラムの例を示すものである。グラフの右側のmg単位の重量は濾液の累積重量を表し、濾液の累積重量が約2000mgになるまで分取した分のクロマトグラムを表している。
図7】PESフィルターを通過した界面活性剤の回収を示すものである。図7A及び図7Bは、濾過の異なる時点で採取した試料のFM1000及びPS80のクロマトグラムの例を示すものである。グラフの右側のmg単位の重量は濾液の累積重量を表し、濾液の累積重量が約2000mgになるまで分取した分のクロマトグラムを表している。
図8】スルホプロピル修飾架橋アガロース(SP HP)カラムを通過した界面活性剤の回収を示すものである。図8A及び図8Bは、溶出の異なる時点で採取した試料のFM1000及びPS80のクロマトグラムの例を示すものである。グラフの右側のmg単位の重量は溶出液の累積重量を表し、溶出液の累積重量が約3000mgになるまで分取した分のクロマトグラムを表している。
図9】Protein Aカラムを通過した界面活性剤の回収を示すものである。図9A及び図9Bは、溶出の異なる時点で採取した試料のFM1000及びPS80のクロマトグラムの例を示すものである。グラフの右側のmg単位の重量は溶出液の累積重量を表し、溶出液の累積重量が約3000mgになるまで分取した分のクロマトグラムを表している。
図10】4級アンモニウム修飾架橋アガロース(Q HP)カラムを通過した界面活性剤の回収を示すものである。図10A及び図10Bは、溶出の異なる時点で採取した試料のFM1000及びPS80のクロマトグラムの例を示すものである。グラフの右側のmg単位の重量は溶出液の累積重量を表し、溶出液の累積重量が約3000mgになるまで分取した分のクロマトグラムを表している。
【発明を実施するための形態】
【0006】
前述の概要及び以下の詳細な説明は例示及び説明に過ぎず、添付の特許請求の範囲において定義する本発明を限定するものではない。任意の1つ又は複数の実施形態の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【0007】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」又はこれらの任意の他の変形は、非排他的な包含も網羅することを意図している。例えば、構成要素のリストを含むプロセス、方法、物品又は装置は、必ずしもこれらの構成要素のみに限定されず、明示的に列挙されていないか又はこのようなプロセス、方法、物品若しくは装置に本来備わっている他の構成要素を含んでいてもよい。更に、そうでないことが明示的に述べられていない限り、「又は」は、包括的な又はを意味し、排他的な又はを意味しない。例えば、条件A又はBは、以下のいずれか1つによって満たされる:Aが真であり(又は存在し)且つBが偽である(又は存在しない)、Aが偽であり(又は存在せず)且つBが真である(又は存在する)並びにA及びBが両方とも真である(又は存在する)。
【0008】
また、「a」又は「an」の使用は、本明細書に記載される要素及び成分を記載するために用いられる。これは、便宜上及び本発明の範囲の一般的な意味を与えるために行われるに過ぎない。この記載は、1つ又は少なくとも1つを包含すると解釈すべきであり、単数はまた、それが別の意味を有することが明らかでない限り複数も含む。
【0009】
他に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。矛盾がある場合は、定義を含め、本明細書が優先される。本明細書に記載するものと類似の又は均等な方法及び材料を本発明の実施形態の実施又は試験において使用することができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。更に、材料、方法及び実施例は例示に過ぎず、限定を意図していない。
【0010】
量、濃度又は他の値若しくはパラメータが、範囲、好ましい範囲又は好ましい上限値及び/若しくは好ましい下限値のリストのいずれかとして与えられている場合、これは、範囲が別個に開示されているかどうかに関わらず、範囲の任意の上限又は好ましい値と、範囲の任意の下限又は好ましい値との任意の対から形成されるあらゆる範囲を具体的に開示していると理解すべきである。本明細書においてある数値の範囲が記載されている場合、特に明記しない限り、その範囲は、その終点並びにその範囲内の全ての整数及び分数を含むことを意図する。例えば、「1~10」という範囲が記載されている場合、この記載されている範囲は、「1~8」、「3~10」、「2~7」、「1.5~6」、「3.4~7.8」、「1~2及び7~10」、「2~4及び6~9」、「1~3.6及び7.2~8.9」、「1~5及び10」、「2及び8~10」、「1.5~4及び8」の範囲及び同種の範囲を包含すると解釈すべきである。
【0011】
本明細書において例示的に説明する本開示は、本明細書に具体的に開示されていない任意の1又は複数の構成要素、1又は複数の制限の非存在下に好適に実施することができる。本明細書においては、組成物及び方法を、様々な成分又はステップを「含む(comprising)」という用語で記載するが、特に明記しない限り、この組成物及び方法は、該様々な成分又はステップ「から本質的になる(consist essentially of)」又は「からなる(consist of)」こともできる。
【0012】
後述の実施形態の詳細を扱う前に、幾つかの用語を定義又は明確化する。
【0013】
「表面」及び「界面」という用語は、本明細書においては互換的に使用される。
【0014】
数平均分子量は、試料の総重量を試料に含まれる分子の個数で除したものと定義される。
【0015】
本明細書において使用される「界面活性剤/タンパク質濃度比」という用語は、水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の濃度対タンパク質の濃度の比を意味する。本開示においては、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の濃度及びタンパク質の濃度を重量/体積比(例えば、mg/ml)で表す。
【0016】
ポリアルコキシ化合物は、構造-(-A-O)-(式中、mは3以上であり、Aは無置換アルキル基である)を有する1つ又は複数の基を含む化合物である。A基は、直鎖状、分岐状、環状又はこれらの組合せであってもよい。様々な-(-A-O)-基中の各種A基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
脂肪酸化合物は、1つ又は複数の脂肪酸基を含む化合物である。脂肪酸基は、8個以上の炭素原子を含み、そのそれぞれが該基の1個又は複数個の他の炭素原子に結合している基である。ポリアルコキシ脂肪酸化合物は、ポリアルコキシ化合物と脂肪酸化合物の両方である化合物である。
【0018】
ヒドロカルビル基は、水素原子及び炭素原子を含む基である。無置換ヒドロカルビル基は、水素原子及び炭素原子のみを含む。置換ヒドロカルビル基は、水素及び炭素以外の1個又は複数個の原子を含む1つ又は複数の置換基を含む。
【0019】
タンパク質は、その重合単位がアミノ酸の重合単位である、重合体である。アミノ酸は、ペプチド結合によって互いに結合されている。タンパク質は、1種又は複数種のアミノ酸残基の重合単位を20個以上含む。タンパク質という用語は、直鎖状ポリペプチド鎖だけでなく、ポリペプチド鎖を含むより複雑な構造も包含する。
【0020】
タンパク質の分子が、連続液体媒体全体に溶解した個々の分子の形態で分布している場合、タンパク質は、該液体媒体中の溶液である(又は、同義として、液体媒体中に溶解されている)とみなされる。連続液体媒体が、連続液体媒体の重量を基準として60重量%以上の量の水を含有する場合、タンパク質は水中に溶解しているとみなされる。
【0021】
化学基は、4.5~8.5のpH値が存在し、そのpH値の水と接触すると、存在するこの化学基の50モル%以上がイオン性形態をとる場合、この化学基はイオン性基である。
【0022】
緩衝剤は、(i)プロトンを受け取ってその化合物の共役酸を形成する能力を有し、その化合物の共役酸のpKaが10未満である化合物、又は(ii)プロトンを放出する能力を有し、その化合物のpKaが4を超える化合物のどちらかである。
【0023】
本明細書において使用される「FM1000」という用語は、式I(式中、RはCH-(CH11-CH-であり、nは1であり、X及びXはどちらもNHであり、Rは、-CH(C)であり、Rは、おおよその数平均分子量が1000となり、且つPO対EOの比が約3:19となる、CHで末端封止されたPO及びEO単位の共重合体である)のポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤を意味する。FM1000は、炭素数14の長さの疎水性尾部(CH-(CH11-CH-C(=O))を有する。
【0024】
本明細書において使用される「8FM1000」という用語は、炭素数が8である疎水性尾部を有するFM1000誘導体を意味する。即ち、8FM1000は、RがCH-(CH-CH-であることを除いて、化学式がFM1000と同一である。同様に、本明細書において使用される「10FM1000」という用語は、炭素数が10である疎水性尾部を有するFM1000誘導体を意味する、即ち、10FM1000は、RがCH-(CH-CH-であることを除いて、化学式がFM1000と同一であり;本明細書において使用される「12FM1000」という用語は、炭素数が12である疎水性尾部を有するFM1000誘導体を意味する、即ち、12FM1000は、RがCH-(CH-CH-であることを除いて、化学式がFM1000と同一であり;本明細書において使用される「16FM1000」という用語は、炭素数が16である疎水性尾部を有するFM1000誘導体を意味する、即ち、16FM1000は、RがCH-(CH13-CH-であることを除いて、化学式がFM1000と同一であり;本明細書において使用される「18FM1000」という用語は、炭素数が18である疎水性尾部を有するFM1000誘導体を意味する、即ち、18FM1000は、RがCH-(CH15-CH-であることを除いて、化学式がFM1000と同一である。
【0025】
「FM1000」及び「14FM1000」という用語は本明細書においては互換的に使用される。
【0026】
本開示は(a)タンパク質及び式I:
【化3】

(式中、R-C(=O)は、脂肪酸アシル基であり、Rは、H又は置換若しくは無置換のヒドロカルビル基であり、Xは、O又はNHであり、Xは、O又はNHであり、nは、0又は1~5の整数であり、Rは、式II及びIII:
【化4】

の重合した単位を含む高分子基である)のポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤を含む水溶液を提供することと、
(b)この水溶液をバイオプロセスに付すことと、
を含むプロセスを提供する。
【0027】
本明細書において使用される「バイオプロセス」という用語は、アップストリーム(例えば、生化学的生産又は合成)からのタンパク質を、純度及び品質要件に適合させるために処理する、タンパク質バイオプロセスのダウンストリーム部分を意味する。バイオプロセスは、保管、輸送及び精製を含む。
【0028】
幾つかの実施形態において、バイオプロセスは、輸送、濾過、クロマトグラフィー及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0029】
ステップ(a)において提供される水溶液は、その中に溶解している(例えば、水中に溶解している)タンパク質及び式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤を含む。幾つかの実施形態では、ステップ(a)における水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の濃度は、水溶液の総体積を基準として0.001mg/ml~1mg/ml又は0.01mg/ml~0.1mg/ml又は0.01mg/ml~0.05mg/mlである。幾つかの実施形態では、ステップ(a)における水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の濃度は、水溶液の総体積を基準として1mg/ml以下又は0.5mg/ml以下又は0.2mg/ml以下又は0.1mg/ml以下又は0.08mg/ml以下又は0.06mg/ml以下又は0.05mg/ml以下である。幾つかの実施形態では、ステップ(a)における水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の濃度は、水溶液の総体積を基準として少なくとも0.001mg/ml又は少なくとも0.002mg/ml又は少なくとも0.005mg/ml又は少なくとも0.01mg/ml又は少なくとも0.02mg/ml又は少なくとも0.03mg/mlである。
【0030】
幾つかの実施形態では、ステップ(a)における水溶液中のタンパク質の濃度は、水溶液の総体積を基準として0.0001mg/ml~300mg/ml又は0.0001mg/ml~200mg/ml又は0.0001mg/ml~150mg/ml又は0.001mg/ml~100mg/ml又は0.01mg/ml~100mg/ml又は0.1mg/ml~50mg/ml又は0.1mg/ml~30mg/ml又は0.1mg/ml~10mg/ml又は10mg/ml~30mg/mlである。幾つかの実施形態では、ステップ(a)における水溶液中のタンパク質の濃度は、水溶液の総体積を基準として300mg/ml以下又は250mg/ml以下又は200mg/ml以下又は150mg/ml以下又は100mg/ml以下又は80mg/ml以下又は50mg/ml以下又は40mg/ml以下又は30mg/ml以下又は20mg/ml以下又は10mg/ml以下である。幾つかの実施形態では、ステップ(a)における水溶液中のタンパク質の濃度は、水溶液の総体積を基準として少なくとも0.0001mg/ml又は少なくとも0.001mg/ml又は少なくとも0.002mg/ml又は少なくとも0.005mg/ml又は少なくとも0.01mg/ml又は少なくとも0.02mg/ml又は少なくとも0.05mg/ml又は少なくとも0.1mg/ml又は少なくとも0.2mg/ml又は少なくとも0.5mg/ml又は少なくとも1mg/ml又は少なくとも2mg/ml又は少なくとも5mg/ml又は少なくとも10mg/mlである。本開示においては、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の濃度及びタンパク質の濃度を重量/体積比(例えば、mg/ml)で表す。
【0031】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤のRは、好ましくは、置換若しくは無置換の脂肪族基である。置換脂肪族基の中でも、好ましい置換基はヒドロキシルである。より好ましくは、Rは、無置換脂肪族基であり;より好ましくは、Rは、無置換アルキル基である。好ましくは、Rは、9~22個の炭素原子又は9~18個の炭素原子又は9~16個の炭素原子又は10~17個の炭素原子又は11~17個の炭素原子又は11~15個の炭素原子又は10~14個の炭素原子又は11~13個の炭素原子を有する直鎖アルキル基である。幾つかの実施形態では、Rは、CH-(CH11-CH-又はCH-(CH-CH-である。幾つかの実施形態では、Rは、CH-(CH11-CH-である。
【0032】
幾つかの実施形態では、(nが0ではない場合)、XはNHである。幾つかの実施形態では、XはNHである。
【0033】
幾つかの実施形態では、nは、0又は1、2、3、4若しくは5である。幾つかの実施形態では、nは、0又は1である。幾つかの実施形態では、nは1である。幾つかの実施形態では、nは0である。
【0034】
幾つかの実施形態では、nは0ではなく、Rは、20個以下の原子;好ましくは15個以下の原子を有する。好ましくは、Rが水素ではない場合、Rは、1個又は複数個の炭素原子を含む。好ましくは、Rは、水素又は無置換の炭化水素基であり;より好ましくは、Rは、水素、無置換アルキル基又はその唯一の置換基が無置換の芳香族炭化水素基であるアルキル基である。無置換アルキル基の中ではメチルが好ましい。その唯一の置換基が無置換芳香族炭化水素基であるアルキル基の中では、-CH-(C)が好ましく、ここで-(C)はベンゼン環である。好ましくは、Rは、天然に存在するアミノ酸の側鎖を表す。
【0035】
幾つかの実施形態では、Rの数平均分子量は、600~5000ダルトン、好ましくは800~3000ダルトンである。好ましくは、R基は、(II)及び(III)の統計的共重合体又は(II)及び(III)のブロック共重合体であり;より好ましくは、R基は、(II)及び(III)の統計的共重合体である。好ましくは、-Rは、構造-R-CHを有し、ここでRは、構造(II)及び構造(III)の重合単位を含む高分子基である。好ましくは、Rは、構造(II)及び構造(III)以外の他の重合単位を含まない。
【0036】
構造(II)の単位対構造(III)の単位のモル比(本明細書においては「PO/EO比」)を特徴付けることは有用である。好ましくは、PO/EO比は、0.01:1~2:1、より好ましくは0.05:1~1:1、特に0.1:1~0.5:1である。本明細書において使用される「PO」という用語は構造(II)の単位を意味し、「EO」という用語は構造(III)の単位を意味する。
【0037】
幾つかの実施形態では、Rは、CH-(CH11-CH-であり、nは0であり、Xは、NHであり、Rは、おおよその数平均分子量が約1000ダルトンであり、PO対EOの比が約3:19である、CHで末端封止されたPO及びEO単位の共重合体である。
【0038】
幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、イオン性基を有しない。
【0039】
幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、12FM1000、FM1000、16FM1000、18FM1000及びこれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、12FM1000、FM1000、16FM1000及びこれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、12FM1000、FM1000及びこれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、FM1000、16FM1000及びこれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、FM1000である。
【0040】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、国際公開第2017/044366号パンフレットに開示されている方法により製造することができ、当該明細書全体をあらゆる目的で参照により本明細書の一部を構成するものとして援用する。
【0041】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、任意の好適な方法により製造することができる。好ましい方法は、構造NH-Rを有する化合物を、構造V:
【化5】

の化合物及び構造VI:
【化6】

(式中、Xは、O、S又はNHである)の化合物から選択される化合物と反応させることである。好ましいR、X、R、R及びnは、先に記載したものと同義である。好ましくは、XはOである。
【0042】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の幾つかの実施形態のより好ましい製造方法は以下の通りである。第1段階において、次に示すように、塩化アシルをアミノ酸と反応させることにより、カルボキシル基を有する脂肪酸アミドが生成する。
【化7】
【0043】
次いで、第2段階において、以下に示すように、カルボキシル基を有する脂肪酸アミドをアミン末端ポリアルコキシ化合物と反応させる:
【化8】

(式中、POは構造(II)であり、EOは構造(III)である)。
【0044】
本開示に含まれる好ましいタンパク質は、モノクローナル抗体、成長因子、インスリン、免疫グロブリン、ポリクローナル抗体、抗体薬物複合体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、ホルモン、酵素、ポリペプチド、ペプチドの融合体、グリコシル化タンパク質、抗原、抗原サブユニット及びこれらの組合せからなる群から選択される。好ましいタンパク質は、疾患若しくは病状を治療するか又ワクチンとして機能する治療有効性を有する。治療用タンパク質の例は、免疫グロブリン-G(IgG)、アダリムマブ、インターフェロンα、ベバシズマブ、ヒト成長ホルモン、リツキシマブ、ヒト血清アルブミン、インスリン、エリスロポエチンα、ペムブロリズマブ、エタネルセプト、フィルグラスチム、ニボルマブ、トラスツズマブ、デュルバルマブ、インターロイキン-2、インフリキシマブ、絨毛性ゴナドトロピン、アベルマブ、デノスマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、トレメリムマブ、第VIII因子、インターフェロンβ、イピリムマブ、アテゾリズマブ、アバタセプト、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ペグフィルグラスチム、セクキヌマブ、ストレプトキナーゼ、セツキシマブ、オマリズマブ、ラムシルマブ、ウロキナーゼ、セルトリズマブペゴル、デュピルマブ、ゴリムマブ、アルデスロイキン、モルグラモスチム、ペグインターフェロンα-2b、チスレリズマブ、フォリトロピンα、ゲボキズマブ、ゴリムマブ、スパルタリズマブ、カナキヌマブ、フォラルマブ、バルリルマブ、ニモツズマブ、エリスロポエチンβ、エボロクマブ、ペガルギミナーゼ(pegargiminase)、ベルメキマブ、カロツキシマブ、ダラツムマブ、エクリズマブ、オンツキシズマブ、アダリムマブ、カムレリズマブ、エノブリツズマブ、インターロイキン-12、リリルマブ、パニツムマブ、ガチポツズマブ、レラトリマブ、アンデカリキシマブ、ベリムマブ、カビラリズマブ、イサシツズマブゴビテカン(isactuzumab govitecan)、モナリズマブ、パンクレアチン、ペルツズマブ、トリパリマブ、イネビリズマブ、オファツムマブ、ペピネマブ、シンチリマブ、アリロクマブ、ミラツズマブ、ニダニリマブ(nidanilimab)、ソタテルセプト、ベドリズマブ、ベルツズマブ、ベバシズマブβ、イサツキシマブ、オルロタマブ(orlotamab)、チソツマブベドチン、ベンラリズマブ、コシベリマブ、エマクツズマブ、ガニツマブ、ナルソプリマブ、ピディリズマブ、サリルマブ、トラスツズマブエムタンシン、アネツマブラブタンシン、ベルチリムマブ、ブリナツモマブ、グセルクマブ、イキセキズマブ、メポリズマブ、オビヌツズマブ、ウブリツキシマブ、アレムツズマブ、エミベツズマブ、フィクラツズマブ、イファボツズマブ、ミリキズマブ、ナタリズマブ、ラコツモマブ、シルツキシマブ、チミグツズマブ(timigutuzumab)、トラスツズマブデルクステカン、ビメキズマブ、ブロダルマブ、セトレリマブ、ファルレツズマブ、オピネルセプト、リロナセプト、トムゾツキシマブ、ウレルマブ、アスクリンバクマブ、ブロルシズマブ、クラザキズマブ、クサツズマブ、ダロツズマブ、イナルマブ、イトリズマブ及びマルゲツキシマブである。医療用診断薬として使用することができる、又は食品組成物に有益な作用を有する、又はクリーニング(cleaning)組成物若しくはコーティング配合物に組み込むことができるタンパク質もまた、企図される。幾つかの実施形態では、タンパク質は、免疫グロブリンである。幾つかの実施形態では、タンパク質は、免疫グロブリンG(IgG)である。幾つかの実施形態では、タンパク質は、ウシ免疫グロブリンGである。
【0045】
本明細書において使用される「水溶液」という用語は、溶媒が、水を、溶媒の総重量を基準として少なくとも90重量%含む溶液を意味する。幾つかの実施形態では、溶媒は、アセトン、エタノール、DMSO(ジメチルスルホキシド)及び2-ブタノンなどの有機溶媒を更に含む。幾つかの実施形態では、溶媒は、水及び有機溶媒を含むか、これらから本質的になるか、又はこれらからなる。幾つかの実施形態では、溶媒は、溶媒の総重量を基準として、水を少なくとも92重量%又は少なくとも94重量%又は少なくとも96重量%又は少なくとも98重量%又は少なくとも99重量%含む。幾つかの実施形態では、溶媒は、水から本質的になるか又は水からなる。幾つかの実施形態では、溶媒は、水である。幾つかの実施形態では、水溶液は、有機溶媒を実質的に含まない。幾つかの実施形態では、水溶液の液体媒体は、水から本質的になるか又は水からなる。
【0046】
水溶液は、任意選択的に、1種又は複数の追加の成分を含む。追加の成分は、水、タンパク質及び式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤以外の化合物である。好ましい追加の成分は、糖、糖アルコール、塩、緩衝剤、アミノ酸若しくはアミノ酸の塩又はこれらの混合物である。この種の追加の成分が存在する場合、好ましくは、全ての追加の成分の総量は、水溶液の総体積を基準として300mg/ml以下又は250mg/ml以下又は200mg/ml以下又は150mg/ml以下又は100mg/ml以下又は80mg/ml以下又は60mg/ml以下又は40mg/ml以下又は30mg/ml以下又は20mg/ml以下又は10mg/ml以下である。
【0047】
水溶液に含有させるのに好ましい糖は、スクロース、グルコース、マンノース、トレハロース、マルトース、ブドウ糖、デキストラン又はこれらの混合物である。水溶液に含有させるのに好ましい糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール又はキシリトールである。
【0048】
水溶液に含有させるのに好ましい塩は、水素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはアンモニウム又はこれらの混合物から選択される陽イオンを有する。好ましい塩は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、リン酸、カルボン酸、酢酸、クエン酸若しくは硫酸又はこれらの混合物から選択される陰イオンを有する。好ましい緩衝剤は、水素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはアンモニウム又はこれらの混合物から選択される陽イオンを有する。
【0049】
水溶液に含有させるのに好ましいアミノ酸及びその塩は、リジン、グリシン、プロリン、アルギニン、ヒスチジン及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0050】
幾つかの実施形態では、水溶液は、他の界面活性剤を実質的に含まない。本明細書において使用される「他の界面活性剤」という用語は、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤とは異なる界面活性剤を意味する。幾つかの実施形態では、他の界面活性剤は、ポリソルベート、ポロキサマー及びこれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、水溶液は、ポリソルベート界面活性剤を実質的に含まない。幾つかの実施形態では、水溶液は、ポロキサマー界面活性剤を実質的に含まない。幾つかの実施形態では、水溶液中の他の界面活性剤の濃度は、水溶液の総体積を基準として0.01mg/ml以下又は0.005mg/ml以下又は0.002mg/ml以下又は0.001mg/ml以下又は0.0005mg/ml以下又は0.0002mg/ml以下又は0.0001mg/ml以下である。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、水溶液中に存在する唯一の界面活性剤である。
【0051】
幾つかの実施形態では、ステップ(b)におけるバイオプロセスは、濾過である、即ち、ステップ(a)で提供された水溶液がステップ(b)において濾過されることにより、濾液の水溶液が生成する。この種のステップ又はプロセスにおいては、水溶液を、夾雑タンパク質(例えば、宿主タンパク質、核酸、タンパク質凝集物など)の少なくとも一部を除去するためにフィルターを通過させる。水溶液中のタンパク質及び式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、フィルターを一緒に通過して濾液を生成し、一方、夾雑タンパク質はフィルターに保持される。
【0052】
幾つかの実施形態では、フィルターは、PVDFフィルター、PESフィルター、ポリプロピレンフィルター、セルロースフィルター、ナイロンフィルター及びこれらの組合せからなる群から選択される。幾つかの実施形態では、フィルターはPVDFフィルターである。幾つかの実施形態では、フィルターはPESフィルターである。通常、フィルターは、分離膜を備える。本明細書において使用される「分離膜」という用語は、水溶液中の成分をその分子量又はサイズに基づき分離するための濾過処理に使用される多孔質膜を意味する。本明細書において使用される「PVDFフィルター」という用語は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から作製された分離膜を有するフィルターを意味する。本明細書において使用される「PESフィルター」という用語は、ポリエーテルスルホン(PES)から作製された分離膜を有するフィルターを意味する。本明細書において使用される「ポリプロピレンフィルター」という用語は、ポリプロピレンから作製された分離膜を有するフィルターを意味する。本明細書において使用される「セルロースフィルター」という用語は、セルロースから作製された分離膜を有するフィルターを意味する。本明細書において使用される「ナイロンフィルター」という用語は、ナイロンから作製された分離膜を有するフィルターを意味する。
【0053】
幾つかの実施形態では、フィルター又はその中の分離膜の細孔径は、約0.1μm~約1μm又は約0.1μm~約0.5μmである。幾つかの実施形態では、フィルター又はその中の分離膜の細孔径は、約0.2μmである。幾つかの実施形態では、濾過プロセスは、室温下に実施される。幾つかの実施形態では、濾過プロセスは、限外濾過及び/又は透析濾過を除くものである。
【0054】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、分離膜によるタンパク質の吸収又は損失を効果的に防止できることが見出された。更に、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の分離膜による吸収又は損失も少量であるか又は最小限である。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、濾過に付すためにフィルターに供給された水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の総重量を基準として、少なくとも60%又は少なくとも70%又は少なくとも75%又は少なくとも80%又は少なくとも85%又は少なくとも90%又は少なくとも92%又は少なくとも95%又は少なくとも98%又は少なくとも99%がフィルターを通過する。
【0055】
幾つかの実施形態では、タンパク質は、濾過に付すためにフィルターに供給されたタンパク質の総重量を基準として、少なくとも60%又は少なくとも70%又は少なくとも75%又は少なくとも80%又は少なくとも85%又は少なくとも90%又は少なくとも92%又は少なくとも95%又は少なくとも98%又は少なくとも99%がフィルターを通過する。
【0056】
幾つかの実施形態では、ステップ(a)において提供された水溶液中の界面活性剤/タンパク質の濃度比は、濾液の水溶液中の界面活性剤/タンパク質の濃度比と実質的に等しい、即ち、水溶液中の界面活性剤/タンパク質の濃度比は、フィルターを通過しても実質的に変わらない。幾つかの実施形態では、濾液の水溶液中の界面活性剤/タンパク質の濃度比は、ステップ(a)において提供された水溶液中の界面活性剤/タンパク質の濃度比の±5%又は±10%又は±15%又は±20%の範囲内にある。
【0057】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、分子量の異なるポリマー成分の混合物である。通常、ステップ(a)において提供される水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の組成(混合物中のポリマー成分及びそれらのそれぞれの濃度)は、濾液の水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の組成と実質的に同じである、即ち、水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の組成は、フィルターを通過しても実質的に同じままである。
【0058】
幾つかの実施形態では、ステップ(b)におけるバイオプロセスはクロマトグラフィーである、即ち、ステップ(a)において提供された水溶液は、ステップ(b)において、夾雑タンパク質(例えば、宿主細胞タンパク質、核酸、タンパク質凝集物など)の少なくとも一部をタンパク質から分離することができるように、クロマトグラフィーカラムに収容されているクロマトグラフィー樹脂(固定相)を通過する。幾つかの実施形態では、タンパク質はクロマトグラフィーカラムに保持され、一方、夾雑タンパク質はクロマトグラフィーカラムを通過する。この種の実施形態において、クロマトグラフィーの後に、保持されているタンパク質をクロマトグラフィーカラムから回収又は除去するために、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤を含む回収用水溶液を使用することができる。幾つかの実施形態では、回収用水溶液は、緩衝液である。
【0059】
幾つかの実施形態では、夾雑タンパク質はクロマトグラフィーカラムに保持され、一方、水溶液中のタンパク質及び式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤はクロマトグラフィーカラムを通過する。幾つかの実施形態では、クロマトグラフィープロセスは室温下に実施される。
【0060】
クロマトグラフィープロセスを行う間、水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤はクロマトグラフィーカラムを通過する。クロマトグラフィー樹脂によって吸収されるか又は損失する式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は少量であるか又は最小限である。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、クロマトグラフィーカラムに供給された水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の総重量を基準として、少なくとも60%又は少なくとも70%又は少なくとも75%又は少なくとも80%又は少なくとも85%又は少なくとも90%又は少なくとも92%又は少なくとも95%又は少なくとも98%又は少なくとも99%がクロマトグラフィーカラムを通過する。
【0061】
通常、ステップ(a)において提供される水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の組成は、クロマトグラフィーカラムを通過した水溶液(即ち、溶出液)中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の組成と実質的に同じである、即ち、水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の組成は、クロマトグラフィーカラムを通過しても実質的に同じままである。
【0062】
クロマトグラフィーカラムの中にはクロマトグラフィー樹脂(固定相)が収容されている。幾つかの実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、スルホプロピル修飾架橋アガロース、Protein A、4級アンモニウム修飾架橋アガロース、疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂及びこれらの組合せからなる群から選択される。Protein Aは、元々は細菌であるスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)の細胞壁で見付かった49kDaの表面タンパク質であることを当業者は理解している。疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂の例としては、ブチル置換基を有するアガロースが挙げられる。幾つかの実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、スルホプロピル修飾架橋アガロースである。幾つかの実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、Protein Aである。幾つかの実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、4級アンモニウム修飾架橋アガロースである。
【0063】
幾つかの実施形態では、バイオプロセスは輸送である、即ち、バイオプロセスは、容器内で又は導管を通じて水溶液を輸送することを含む。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、12FM1000、FM1000及びこれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、FM1000である。幾つかの実施形態では、水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の濃度は、水溶液の総体積を基準として約0.01mg/ml~約0.1mg/ml又は約0.02mg/ml~約0.08mg/ml又は約0.02mg/ml~約0.06mg/ml又は約0.03mg/ml~約0.05mg/mlである。幾つかの実施形態では、水溶液中の式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤の濃度は、水溶液の総体積を基準として約0.03mg/mlである。
【0064】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、輸送時の水溶液中のタンパク質の凝集を効果的に低減できることが見出された。幾つかの実施形態では、輸送終了時の水溶液は、水溶液中のタンパク質の総重量を基準として、単量体タンパク質を少なくとも80重量%又は単量体タンパク質を少なくとも85重量%又は単量体タンパク質を少なくとも90重量%又は単量体タンパク質を少なくとも92重量%又は単量体タンパク質を少なくとも94重量%又は単量体タンパク質を少なくとも96重量%又は単量体タンパク質を少なくとも98重量%又は単量体タンパク質を少なくとも99重量%含む。
【0065】
多くの態様及び実施形態を上に説明してきたが、これらは例示に過ぎず、限定するものではない。本明細書を読んだ後、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく他の態様及び実施形態が可能であることを理解する。
【実施例
【0066】
本明細書に記載する概念を以下の実施例において更に説明するが、実施例は、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではない。
【0067】
タンパク質は、水と、空気、油及び固体表面との間の界面に吸着することが知られており、これが凝集及び変性に繋がることが多い。更に、輸送中によく発生する激しい揺れが、この有害な作用を悪化させる可能性がある。これらの治療用タンパク質を安定化させるための幾つかの方法として、糖、塩、アミノ酸、界面活性剤などの医薬品添加物を使用することが挙げられる。界面活性剤は、溶液中のタンパク質を安定化及び保護するのに特に有用であり、これは次の2つのメカニズムを介する:(1)タンパク質が変性及び凝集し得る表面上の空間を得るためにタンパク質との競合に打ち勝つ、競合吸着として知られるもの、並びに(2)界面活性剤が、タンパク質と直接相互作用することによってタンパク質の構造を安定化させるか、又は凝集を引き起こし得るタンパク質-タンパク質相互作用を防ぐ、選択的会合(preferential association)。
【0068】
特定の理論に束縛されることを望むものではないが、これらのメカニズムはどちらも安定化において何らかの役割を果たすが、一般には、第1のメカニズムが主要であると考えられている。タンパク質の安定化に使用されているポリソルベート20及び80などの上市されている現行の界面活性剤は、この種の界面活性剤を含まない製剤と比較してタンパク質の凝集を低下させる。タンパク質及び界面活性剤の溶液を65℃で等温保持した場合に、14FM1000は、ポリソルベート20及び80よりも、免疫グロブリンG(IgG)凝集体の成長速度を低下させる。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、14FM1000による成果は、動的表面張力(DST)測定で示されるように、水-空気界面や水-油界面などの様々な界面に速やかに移動して吸着される能力に由来するらしいと考えられている。
【0069】
界面活性剤のタンパク質安定化能力を理解するため及びタンパク質安定化効果を変化させる界面活性剤の構造特性を判別するために、炭素数が8~18の範囲にある疎水性尾部長を有する6種のFM1000誘導体を合成し、試験を行った。実験を通して、モデルタンパク質治療薬であるIgGを安定化させる界面活性剤の能力に疎水性尾部長が大きく影響することが見出された。疎水性尾部長は界面活性剤が吸着する速度及び吸着の可逆性に影響を及ぼす。炭素数14の疎水性尾部などの中程度の長さの疎水性尾部(即ち、14FM1000)は、表面張力を最も速く且つ大きく低下させ、且つ吸着の可逆性が最も高い。このような高速動力学は、界面活性剤のIgGを安定化させる能力と相関しており、14FM1000は、凝集を最小限に抑える作用が最大である。本開示は、界面活性剤の疎水性尾部長とタンパク質安定化との間にある構造及び機能の関係性を解明するものである。
【0070】
材料
塩化ミリストイル、水素型の強酸性イオン交換樹脂であるAmberlite IR-120及びカルボニルジイミダゾールはSigma Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。カチオン型(OH-)イオン交換樹脂であるAmberlite IRN-78はThermo Fisher Scientific(Waltham、MA)から購入した。N-ヒドロキシコハク酸イミドはAcros Organics(Fair Lawn、NJ)から購入した。L-フェニルアラニンは、TCI chemicals(Portland、OR)から購入した。Jeffamine M1000は、Huntsman(The Woodlands、TX)から入手した。ポリソルベート80及びポリソルベート20はSigmaから購入した。全ての化学物質は、受け取った状態のまま、更に精製することなく使用した。
【0071】
シリコーン板(Dow Corning C6-150)はDuPontより供給されているものを用いた。点滴袋は、Baxter Healthcare Corp.より入手し、切り開いて中に入っている生理食塩水を空にし、MilliQ水で洗浄し、乾燥させた。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリエチレン(PE)の板は全て、Goodfellow Corp.から、厚さ0.5mm、寸法150×150mm~300×300mmの範囲にあるものを入手した。3.5×1cmの小片に切断してから、全ての表面を様々な溶液に浸漬した。
【0072】
PVDFフィルターはFisher Scientific(Fisherbrand、直径33mm、0.2μm)から入手し、PESフィルターはMillipore Sigma(Millex-GP、直径33mm、0.22μm)から入手した。スルホプロピル修飾架橋アガロースカラム及びProtein Aカラム(GE Healthcare)などのクロマトグラフィーカラムはCytivaから入手し、全て容量1mLのものを用いた。
【0073】
水はMilliQグレードとした。工業グレードのウシIgG(免疫グロブリンG)をMP Biomedicals(Santa Ana、CA)から購入した。ウシIgGを0.9wt%生理食塩水に40mg/mLで溶解し、0.2μmのPVDFフィルターで濾過し、対応する濃度に希釈した。
【0074】
炭素数14の疎水性尾部を有するFM1000誘導体(FM1000又は14FM1000)の合成:
ステップ1:スターラーバーを備えた500mLの丸底フラスコに、L-フェニルアラニン(0.0500mol、8.26g)、DI(脱イオン)水(250mL)中水酸化ナトリウム(0.0500mol、2.00g)及びトリエチルアミン(0.0540mol、7.56mL)を加えた。これを溶解するまでRT(室温)で1分間撹拌した。次いで、塩化ミリストイル(0.0500mol、13.6mL)をゆっくりと加えた。反応混合物をRTで1時間撹拌した。次いで濃HCl 5mLをゆっくりと加えた。酸を添加することにより生成したオフホワイト色の析出物を吸引濾過により回収し、水500mLで洗浄し、一晩乾燥させた。次いで、生成物を沸騰している酢酸エチル1500mLに溶解し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾去し、酢酸エチルをロータリーエバポレーターで除去した。次いで、生成物を沸騰しているヘキサンに溶解し、冷凍室でゆっくりと冷却した。その間に形成された白色の析出物を吸引濾過により回収した。NMRから不純物であるミリスチン酸が確認されたため、生成物を再び沸騰しているヘキサンに溶解し、冷凍室でゆっくりと冷却した。その間に形成された白色の析出物を吸引濾過により回収した。得られた白色粉末を真空デシケーターで一晩乾燥させた(7.9741g、43%)。
【0075】
ステップ2:スターラーバーを備えた25mLの丸底フラスコに、n-ミリストイルフェニルアラニン(ステップ1の生成物)(0.00100mol、0.375g)及びDCM(ジクロロメタン、10mL)を加えた。丸底フラスコにセプタムで栓をし、Nでパージした。次いでCDI(1,1’-カルボニルジイミダゾール、0.00120mol、0.194g)を反応混合物に加え、再びセプタムで栓をし、混合物を再びNでパージした。次いで、反応混合物をRTで4時間撹拌した。次いで、Jeffamine M1000(0.00120mol、1.17g)を溶融し、シリンジで反応混合物に加えた。反応混合物をRTで68時間撹拌した。次いで、DCMをロータリーエバポレーターで蒸発させ、メタノール150mLを、メタノールで前洗浄したイオン交換樹脂であるAmberlite IRN-78カチオン型(OH-)イオン交換樹脂及びAmberlite IR-120水素型強酸性イオン交換樹脂と一緒に加えた。この混合物をRTで2時間撹拌した。フリットを使用して真空濾過を行うことにより樹脂を除去した。真空濾過により得られた溶液からメタノールを留去した。次いで、生成物を400mLの10%メタノール/DCMに溶解し、SiOプラグを通過させた。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮することにより白色のロウ状物を得、これを60℃の真空オーブンで一晩乾燥させた(1.6g、49%)。
【0076】
振盪試験
試料は全て0.9wt%生理食塩水(MilliQ水1000mL中NaCl9g)中で調製し、IgGを20mg/mL含むものとした。界面活性剤を含まない対照試料を調製した。尾部長の異なる界面活性剤を0.03又は0.05mg/mL含む他の試料も振盪試験用に調製した。界面活性剤は、8FM1000、10FM1000、12FM1000、14FM1000、16FM1000及び18FM1000とした。8、10、12、14、16及び18は、それぞれ界面活性剤の尾部長(炭素原子数)を意味する。本明細書において使用される「尾部長」という用語は、Rの長さを意味する。例えば14FM1000は、炭素数14の疎水性尾部長を有する(CH-(CH11-CH-C(=O))。
【0077】
撹拌によりIgGタンパク質の凝集を誘発した。試料を4連として、Thermo往復振盪機上で188往復/分で室温下に24時間振盪した。約1mL容の8×43mmのガラスバイアル(Kimble、品番60831D-843)に試験用試料をそれぞれ0.7mL入れ、Piercable TPE Lyo Capcluster-96(Micronic、Aston、PA)栓で施栓した。バイアルは特注の(custom)アルミニウムホルダーに96ウェル配置で配列した。振盪後の試料をWyatt DynaPro II装置(Wyatt Technology、Santa Barbara、CA)を用いて動的光散乱(DLS)によって分析することにより、界面活性剤が撹拌により誘発される凝集を防止する効果を確認した。これに加えて、振盪前の同じ試料を「無振盪」対照(即ち、「0時間振盪」)としてDLSで分析した。各ウェルを5回ずつ走査し、取得時間は5秒/回とした。正則化を用いたフィッティングを行うことにより、IgGの集団のサイズ及び流体力学的半径を求めた。10nmを超える集団をIgG凝集体と見なし、これに従い、レイリー球(Rayleigh sphere)を仮定して、強度百分率を質量百分率に換算することにより、質量パーセントで定量化した。
【0078】
この振盪試験は、界面活性剤がタンパク質を安定化させる能力を理解するために用いるものであり、振盪によって疎水性表面を常時揺動させることにより不安定化が加速するようにした。また、撹拌は、IgGの凝集を増加させる輸送条件に似ている。図1及び2において、左端のバーは、界面活性剤を含まない対照試料を表す。図1は、24時間振盪後のIgGの凝集を示すものであり、図2は、振盪前のIgGの凝集を示すものである。図2に示すように、無振盪の対照では、試験を行った全ての界面活性剤の2種類の濃度において、IgGの凝集は基本的に0%である。図1から、水溶液の総体積を基準として0.03mg/ml及び0.05mg/mlの濃度の14FM1000が、IgGタンパク質の凝集を効果的に防止できることが示された。更に図1から、水溶液の総体積を基準として0.05mg/mlの濃度の12FM1000も、IgGタンパク質の凝集を効果的に防止できることが示された。
【0079】
概して、中程度の尾部長はIgGの凝集を防止する作用が最も高く、それよりも短い又は長い尾部長では、IgGの凝集が増加することが分かった。IgGの凝集を0.03mg/mL及び0.05mg/mLの界面活性剤濃度間で比較すると、より高い界面活性剤濃度(0.05mg/mL)においては、12FM1000でも凝集はほぼ0%であったが、より低い濃度である0.03mg/mLでは、若干の凝集(1~2%)が観察されたことが分かった。8FM1000及び10FM1000界面活性剤を用いた試料は、0.03mg/mLでは多量(4~7%)に凝集した。より高い濃度である0.05mg/mLにおいては、8FM1000では、より低い濃度での凝集とほぼ同量の凝集が見られたが、10FM1000では凝集が減少(2~3%)した。この、IgGの凝集が10FM1000濃度の増加に伴い低下することは、12FM1000濃度を同じように増加した場合に見られる傾向と類似している。16FM1000及び18FM1000は、どちらも凝集が約2~3%であり、試験を行った2種類の濃度間では大きく変化しなかった。
【0080】
動的表面張力測定
試料は全て0.9wt%生理食塩水(MilliQ水1000mL中NaCl9g)中で調製した。界面活性剤は、それぞれ、8FM1000、10FM1000、12FM1000、14FM1000、16FM1000及び18FM1000とし、タンパク質はIgGとした。7種類の試料を調製し、1種は0.9%生理食塩水中にIgGを10mg/mL含み、他の6種の試料はそれぞれ0.9%生理食塩水中に各種界面活性剤を0.05mg/mLの濃度で含むものとした。
【0081】
表面張力測定は、Teclis Trackerペンダントドロップ式界面張力計(Teclis Scientific,Civrieux d’Azergues、France)を用いてRTで実施した。25ml容のキュベットに試料を満たした。18ゲージのJ字ニードルを用いて気泡を形成した。装置のフィードバック制御を用いて小滴の面積が一定になるようにした。気泡の輪郭をLaplaceの式にフィッティングさせることにより表面張力を求めた。試料の表面張力を3連で3000秒間(12FM1000、14FM1000、16FM1000、18FM1000及びIgG)又は6000秒間(8FM1000及び10FM1000)モニタリングした。最初は0.1秒毎に測定を行った。10秒後以降は1秒毎に測定を行った。
【0082】
動的表面張力(DST)測定は、物質が界面に吸着して再配列する速度論を理解するのに有用である。空気/水界面のDSTを、0.05mg/mLの各界面活性剤及び10mg/mLのIgGについて測定した(図3A参照)。界面への吸着及び再配列の動力学を定性的に表すように、各DST曲線を二重指数関数的減衰関数にフィッティングした(式1)。σ(t)は、時間tにおける表面張力であり、σeqは、平衡状態又は無限時間後の表面張力である。更に、τは、より速い方の減衰の特性時間であり、θは、この最初の減衰に起因する表面張力の低下である。τ及びθは、より遅い方の減衰のそれに相当する。
【数1】
【0083】
式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、親水性の頭部(-R)及び疎水性の尾部(-R)が再配列して表面に吸着されると考えられている。式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤は、初期の吸着と、おそらくその親水性の高分子頭部(-R)に起因する何らかの形の立体配置調整(conformational adjustment)と、による2種類の表面張力減衰をもたらすと仮定すると、最初の減衰は、界面活性剤の表面への初期吸着に対応し(τ、θ)、2回目の減衰は、界面活性剤分子がそれらの立体配置を平衡時の配向へと変化させることに対応する(τ、θ)と考えられる。高分子の親水性頭部及び炭化水素の疎水性尾部(-R)が立体配置を調整している可能性がある。
【0084】
14FM1000は、最初の減衰における表面張力低下率が最大であることが判明した(図3B)。14FM1000と比較して、尾部長が長く又は短くなると、最初の減衰に由来する表面張力低下率は小さくなる。これは、14FM1000の尾部長に起因して、初期吸着が、他の界面活性剤と比較して最大になることを示している。更に、初期の低下をその低下の時定数で規格化すると、図3Cから分かるように、14FM1000は表面張力を最短の時間で最も大きく低下させる。つまり14FM1000は、表面への最初の到達が他と比較してはるかに速い。
【0085】
興味深いことに、2回目の減衰に由来する表面張力の低下量を見ると、逆の傾向がある:尾部がより短い及びより長い(14FM1000と比較して)ものは、いずれも、2回目の減衰における表面張力の低下が最も大きかった(図3D参照)。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、この傾向は、より長い及びより短い尾部では、平衡に達するまでに立体配置をより大きく変化させることが必要となることに由来する可能性がある。尾部がより長い場合、疎水性尾部は、平衡時の配向で吸着されることができるように、その大部分を再配列させなければならない。試験に供した全ての界面活性剤において、親水性頭部は、PEO(ポリエチレンオキシド)、PPO(ポリプロピレンオキシド)又はフェニルアラニン領域のいずれかを介して吸着され、それによって表面張力を大きく低下させている可能性がある。この親水性頭部の吸着は、尾部が短い方が、尾部自体の疎水性がそれほど高くないため、より顕著になる可能性がある。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、14FM1000が速やかに吸着するのは、疎水性尾部が、大きく再配列する必要がないほど十分に短いことに由来する可能性があり、その一方で、平衡時にPEO、PPO又はフェニルアラニンを強く(significantly)吸着させないほど十分な疎水性も有する。そのため、再配列による表面張力低下が非常に小さい。2回目の減衰の特性時間(τ)は、疎水性尾部長が増加するに従い短くなる(図3E参照)。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、これは、より疎水性の高い尾部は、再配列して、その(より高い)エネルギーを最小化しようとする熱力学的駆動力がより強いためである。2回目の減衰の特性時間に関するこの傾向には、高分子親水性頭部の再配列も影響を与えている可能性があり、これは、尾部の疎水性が低く(短く)なるほど重要になると思われる。高分子親水性頭部は分子量が大きいため、尾部と比較すると、立体配置を変化させるのにかなり長い時間を要し、この再配列に要する時間がτの傾向に影響を与えている可能性がある。図3から、14FM1000が、表面張力を速やか且つ大幅に初期低下させる理想的な疎水性尾部長を有することが実証された。
【0086】
14FM1000が吸着する量及び速度により、表面に吸着しようとするIgGとの競合に打ち勝つ能力が高まり、最終的にIgGの凝集を阻止すると考えられる。更に、DSTデータ及び凝集データを合わせると、より長い及びより短い(14FM1000と比較して)尾部は、表面への吸着がより遅いために、IgGが疎水性表面に吸着して凝集する時間ができ、より多くのIgGが凝集することを示している。14FM1000が、タンパク質凝集を阻止する性能に関し、ポリソルベート20及び80よりも優れている理由は、このように高速吸着する動力学(quick adsorption dynamics)にあるとも考えられる。更に、もし式Iのポリアルコキシ脂肪酸アシル界面活性剤がIgGと入れ替わることができるとすれば、そうなるように表面により速く到達することができる界面活性剤は、より多くのタンパク質と入れ替わり、それによって更なる凝集を防ぐと考えられる。興味深いことに、8FM1000は、約5秒後以降の全ての測定時においてIgGよりも表面張力値が高くなる唯一の界面活性剤である(図3A参照)。これは、8FM1000が表面を覆う速さがIgGよりも遅いか又はIgGと同程度であることを示唆しており、このことがおそらく、試験を行ったどちらの濃度でも8FM1000がIgGの凝集を十分に防げない理由を表している。
【0087】
散逸測定を組み合わせた水晶振動子マイクロバランス
試料は全て0.9wt%生理食塩水(MilliQ水1000mL中NaCl9g)中で調製した。界面活性剤は、それぞれ、8FM1000、10FM1000、12FM1000、14FM1000、16FM1000及び18FM1000とし、タンパク質はIgGとした。試料溶液は、生理食塩水中に界面活性剤のみを0.05mg/mLで含むか、又は生理食塩水中にIgGのみを1mg/mLで含むか、又は生理食塩水中に界面活性剤0.05mg/mL及びIgG1mg/mLの組合せを含むように調製した。
【0088】
エネルギー散逸測定機能を付与した水晶振動子マイクロバランス(Quartz crystal microbalance with dissipation)(QCM-D)による測定を、QSense Analyzer(Biolin Scientific、Gothenberg、Sweden)にて、SiOでコーティングされた水晶振動子(型番QSX 303)を用いて実施した。試料溶液を水晶振動子上に150μL/分の速度で平衡に達するまで流し、吸着された物質の量を求めた。次いで、0.9wt%生理食塩水溶液を水晶振動子上に150μL/分の速度で平衡に達するまで流すことにより、振動子上に吸着した後に洗い流すことができた界面活性剤及び/又はタンパク質の量を求めた。3次高調波の変化をモニタリングし、吸着質量が振動数の変化に比例すると仮定したSauerbrey式に従い、相対的な吸着質量を求めた。界面活性剤のみ又は界面活性剤及びIgGの溶液については、開始後の最初の10~40分間の平均をとることにより、相対吸着質量を決定した。生理食塩水による洗浄を行う前の相対吸着質量を求め、生理食塩水で40分間洗浄した後の平均吸着質量の変化と比較することにより、洗浄率を求めた。更に、10~40分間の吸着質量の平均値と、IgGを含まない各界面活性剤に関する値との差を求めることにより、IgGの吸着率を算出した(図4C)。全てのデータを、IgGのみの試料を用いた場合の平均吸着質量で規格化した(100任意単位)。
【0089】
QCM-Dを用いて、シリコーンでコーティングされた水晶振動子の共振周波数の変化をモニタリングすることにより、疎水性の固体表面に吸着しているIgG及び界面活性剤の質量を明らかにする。更に、洗浄試験を利用することにより、吸着が可逆性なのか又は不可逆性なのかを理解し、界面活性剤及びIgGが表面とどのように相互作用するかを解明する。界面活性剤0.05mg/mLのみの試料溶液を振動子表面上に流し、共振振動数の経時変化を測定した。概して、界面活性剤の尾部長が長くなるほど、吸着される界面活性剤の量は増加する(図4A参照)。
【0090】
次いで、0.9wt%生理食塩水溶液を振動子表面上に流すことにより、洗い流すことが可能な、可逆的に脱着できる界面活性剤の量を測定した。14FM1000よりも尾部が長くなるほど、洗い流すことができる界面活性剤は少なくなることが分かった(図4B参照)。8FM1000から14FM1000までは、尾部が長いほど、洗い流すことができる界面活性剤の割合は高くなる(図4B参照)。より短い及びより長い尾部(14FM1000と比較して)を有する界面活性剤は、表面上で界面活性剤が再配列することにより、不可逆的に吸着される量が高くなると考えられる。これは、DST測定の結果と一致している。IgGは可逆的に吸着する量が最も少ないことも分かった。図4A及び4Bは、界面活性剤のみの試料及びIgGのみの試料に関するQCM-D測定結果である。
【0091】
IgG及び界面活性剤の両方を含む試料溶液を振動子表面上に流した。界面活性剤のみの試料を流した場合と比較して、IgGが吸着されるため、吸着される質量は増加すると考えられる。図4Cに示すように、概して、界面活性剤の尾部が長くなるほど吸着されるIgGは少なかったが、16FM1000及び18FM1000の場合は、吸着されるIgGがやや増加した。これはおそらく、これらに関するDSTで観測されたように、吸着速度がより遅く、時間が早いうちはIgGが16FM1000及び18FM1000との競合に打ち勝つことができたためである。図4Cは、まず、界面活性剤のみの試料の吸着質量を、界面活性剤及びIgGの両方を含む対応する試料の吸着質量から差し引き、次いでこの差し引いた結果を、IgGのみの試料の吸着質量で除することにより、IgGの相対的な吸着量を求めたものである(即ち、差し引いた結果をIgGのみの試料の吸着質量で規格化した(100任意単位))。このデータは、14FM1000が、速やかに吸着されることによってIgGの吸着を阻止し、及び/又は既に吸着されているIgGが不可逆的に吸着される前に入れ換わるのに最適な尾部長を有しているという、DSTから得られた結論と一致している。更に、IgG及び界面活性剤を一緒に洗い流した場合、本発明者らは、ここでもまた、より長い尾部長を有する界面活性剤又はIgG(より短い尾部長を有する界面活性剤を使用した場合)が不可逆的に吸着するため、14FM1000界面活性剤の可逆的吸着が、尾部長がより長い又は短いものと比較して最大であることを確認した(図4D参照)。
【0092】
振盪試験並びにDST及びQCM-D実験から、IgGの吸着及びその後の凝集を防止する能力に影響を与えると考えられている各界面活性剤の疎水性尾部長が、界面活性剤が吸着する速度、量及び可逆性に影響を与えることが実証された(図5参照)。界面活性剤の初期吸着に関しては、8FM1000などの短い尾部は、表面に向かう力が最小であり、したがってほとんど吸着しない。更に、18FM1000などのより長い尾部は、最初の減衰時における吸着が遅いため、IgGも吸着される。14FM1000又は他の中間の長さの尾部を有する界面活性剤は、初期の吸着が高速且つ強力である(図5A参照)。中間の長さの尾部を有する界面活性剤14FM1000は速やかに吸着できるため、表面への吸着においてIgGとの競合に打ち勝つことができ、再配列することなく表面張力を大きく低下させる。より短い尾部を有する界面活性剤(例えば、8FM1000)は、おそらく表面張力を低下させるために立体配置を再配列する必要があるため、それほど強力に吸着されない。したがってIgGは、これらとの競合に打ち勝つことができ、表面上で凝集を開始する。それとは対照的に、18FM1000及び他のより長い尾部は表面に向かう力が強く、IgGとの競合に打ち勝つが、十分な18FM1000が到達できる前に一部のIgGが既に凝集している(図5B参照)。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、8FM1000の疎水性尾部は疎水性が十分ではなく、そのため、おそらくフェニルアラニン、PPO又はPEO単位などの界面活性剤の他の部分も吸着されると考えられる。また、18FM1000の疎水性尾部は立体配置を変化させる可能性があるので、長い尾部は表面上で効果的に集合することになる。これが、表面での可逆性に影響を与える平衡時の吸着を招く(図5C参照)。最後に、QCM-Dにおける生理食塩水による洗浄で示されたように、14FM1000の吸着はより可逆性が高い(図5D参照)。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、これは、2回目の減衰時における表面張力の低下が小さいことと関連していると考えられ、14FM1000をより強力に(more)表面に張り付け得る立体配置の変化がより小さいことを示唆している。他方、8FM1000や18FM1000などの界面活性剤並びにIgGは、安定化しようとして、より不可逆的に吸着する。また、生理食塩水による洗浄は、輸送時などにおける任意の動き又は振盪による表面積の変化を模擬しており、14FM1000は、新たに形成された表面上にIgGを凝集させないように保護すること、及びそれ以外の過渡的な表面に張り付かないことに関し最も優れたものとなることを示唆している。
【0093】
14FM1000は、表面にかなり速やかに吸着することができ、それにより、IgGの吸着、したがって凝集を防ぐことが見出された。14FM1000は、試験に供した他の界面活性剤と比較して、初期吸着速度が最も速い。尾部の短い界面活性剤は吸着が遅く、また、表面にかなり吸着する訳ではないので、IgGの吸着が可能になってしまう。一方、尾部の長い界面活性剤も同様に吸着が遅く、IgGの吸着及び凝集を可能にしてしまい、その平衡時の吸着は強力である。更に、14FM1000は吸着の可逆性が最も高い界面活性剤であり、そのため、おそらく、過渡的な表面に速やかに脱着及び吸着する能力が高く、したがって、それぞれの新しい疎水性表面上でIgGを保護し、凝集を防ぐ。界面活性剤及びタンパク質安定化に関わる構造及び活性の関係を理解することは、タンパク質治療薬の安定性及び有用性を向上させる界面活性剤の設計に役立つ。
【0094】
接触角測定
10FM1000、14FM1000(FM1000)及び18FM1000のタンパク質付着防止活性を調査するために、様々なポリマー表面上で接触角測定を実施し、ポリソルベート80(PS80)及びポリソルベート20(PS20)と比較した。バイオプロセスにおいて、生物製剤は多くのポリマー表面(管、フィルター、保管容器など)に曝され、生物製剤はそこに吸着される可能性がある。それにより、高価な材料が損失し、生物製剤が凝集するリスクが高まるのみならず、治療薬の構造が乱れ、その機能が乱れる可能性もある。界面活性剤は、界面における高速動力学を介して、表面への付着を防ぐことができる。(Wang W.Protein aggregation and its inhibition in biopharmaceutics,Int J Pharm 2005 Jan.31;289(1-2):1-30)。
【0095】
接触角測定において、表面の親水性を、水滴とその下にある表面が成す角度を測定することにより評価した。角度が高いほど表面の疎水性が高いことを表し、角度がより低いことは、親水性表面と水との親和性を表す。様々なバイオプロセス用素材を代表するように選択した異なる表面を、免疫グロブリンG(IgG)を含む生理食塩水溶液、生理食塩水又は生理食塩水中の界面活性剤及びIgGの混合物に浸した。本明細書において使用する生理食塩水は、0.9wt%生理食塩水溶液(MilliQ水1000mL中NaCl 9g)である。表面は、対照である生理食塩水では、その本来の挙動に近くなり、接触角はより高くなる傾向にあるが、これをIgGのみ(生理食塩水中)に浸すと、親水性の被覆が形成され、接触角測定値は低くなる。異なる濃度の界面活性剤(0.001~0.1mg/mL)を含む生理食塩水溶液に関し得られた接触角の値は、生理食塩水対照の値及びIgG対照の値の間にある。生理食塩水対照により近い値は、界面活性剤がタンパク質の付着を防止する能力を有することを表し、IgG対照により近い値は、表面へのタンパク質の吸着を防げなかったことを示す。中間の界面活性剤濃度では、部分的なタンパク質の付着が観測された。14FM1000の活性を、より短い又はより長い疎水性尾部を有する誘導体(10FM1000及び18FM1000)及びポリソルベートと比較した。
【0096】
界面活性剤溶液は全て生理食塩水中で調製した。界面活性剤20~40mgを生理食塩水10~20mLに溶解することにより、2mg/mLのストック溶液を調製した。これらを全て、界面活性剤が完全に溶解するまで60℃で撹拌した。次いで、溶液を更に使用する前に室温に戻した。IgGストック溶液も同様に、生理食塩水中で、通常は40mg/mL(生理食塩水150~225mL中6~9g)で調製し、タンパク質が溶解するように激しく撹拌した。IgG溶液は全て0.2μmのポリエーテルスルホンフィルター(PES、ThermoFisher)で濾過した後、希釈して最終配合物とした。
【0097】
IgG対照、生理食塩水対照並びにIgG(20mg/mL)及び界面活性剤を含む生理食塩水溶液(界面活性剤濃度範囲0.001~0.1mg/mL)を、バイアル中で総体積が15mLとなるように調製した。最終溶液は全て生理食塩水中で調製した。異なる表面を有する小片を溶液中に室温で24時間浸漬した後、窒素中で乾燥させた。Ossila装置のカメラと明視野との間に配置した表面の上に水滴(3μL×4~6滴)を滴下することにより接触角測定を実施した。静止した滴の画像をOssilaソフトウェア(v.1.1.02)で取り込んだ。平均接触角を抽出するための解析もOssilaソフトウェア(v.3.0.6)を用いて実施した。各表面毎に、4~6滴の平均値をJMPソフトウェア(v.15)を用いて求めた。結果を表1~4に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
表1~4の注釈:(1)生理食塩水対照を除く全ての溶液は、IgGを20mg/mLで含むものとした。(2)生理食塩水対照は、IgGも界面活性剤も含まない0.9%生理食塩水とした。(3)IgG対照は、界面活性剤を含まず、0.9%生理食塩水中にIgGを20mg/mLで含むものとした。(4)PVCはポリ塩化ビニルである。(5)PES、PE、PVDF、PVC、シリコーン及びPTFEは、表面の高分子素材を意味する。
【0103】
フィルター及びクロマトグラフィーカラム表面での損失の測定
ダウンストリーム処理において、生物学的治療薬は、多様な精製ステップに付される。これは多くのクロマトグラフィーカラム及びフィルターから構成され、ここで相互作用が増えることがタンパク質の吸着又は凝集に繋がる可能性がある(Li et al.,Protein Instability at Interfaces During Drug Product Development-Fundamental Understanding,Evaluation,and Mitigation.AAPS series,Springer 2021.ISSN 2210-7371)。ポリソルベートなどの界面活性剤はこれらのタンパク質の安定化を助けることができるが、通常は表面に吸着されてしまうため、製剤の後処理で添加される(Zhou et al.,Non-specific binding and saturation of Polysorbate-20 with aseptic filter membranes for drug substance and drug product during mAb production.Journal of Membrane Science 2008,325(2),735-741;Mahler et al.,Adsorption Behavior of a Surfactant and a Monoclonal Antibody to Sterilizing-Grade Filters.Journal of Pharmaceutical Sciences 2010,99(6),2620-2627)。この問題に対し、予め濾過膜を界面活性剤で飽和させておくことから構成される解決策が提案されている。しかしながら、フィルター内に保持されている量の緩衝剤がタンパク質製品を希釈することに繋がりかねないため、これは必ずしも実現可能ではない。したがって、この予防策では、界面活性剤及び製品の両方を含有する溶液を、後者が希釈されて(Mahler et al.,Adsorption Behavior of a Surfactant and a Monoclonal Antibody to Sterilizing-Grade Filters.Journal of Pharmaceutical Sciences 2010,99(6),2620-2627)、高価な製品の損失及び収率低下を招くことがないように、勢いよく流す(flush)ことが必要となる可能性がある。
【0104】
したがって、バイオプロセスにおいて界面活性剤をうまく機能させるためには、フィルター及びカラム材料に付着しにくい分子を探し出すことが望ましい。他の重要な要素は、界面活性剤が精製用の表面にぶつかった後もその活性を確実に保持する完全性を調べることである。ここで、界面活性剤溶液を広く使用されているフィルター(PVDF、PES)及びカラム(スルホプロピル修飾架橋アガロース、Protein A及び4級アンモニウム修飾架橋アガロース)に勢いよく流し、濾液及び溶出液を液体クロマトグラフィーで分析した。14FM1000並びにより短い及びより長い尾部を有するその誘導体の溶出をポリソルベート80(PS80)の溶出と比較した。ポリソルベート80のクロマトグラムを分析すると、最初に一部が回収され、その後の完全な回収に関しては一貫性が見られないことが判明した。
【0105】
表面損失試験において、水中で1mg/mLの界面活性剤ストック溶液を調製し、これをmilliQ水で希釈することにより、0.03mg/mL(30ppm)の溶液を調製した。シリンジ(Becton Dickinson、BD Luer-LokTM 3mL又は10mL)を使用して、フィルター又はクロマトグラフィーカラムに溶液を通過させた。シリンジ表面に界面活性剤が保持される可能性が認められたので、これらを全てシリンジの3倍の体積の0.03mg/mL界面活性剤溶液で予備洗浄した。洗浄後のシリンジを未使用の界面活性剤溶液で満たし、溶液約100~200mgを低容量インサート(Thermo Scientific)を収容したバイアル(12×32mm、Thermo Scientific)に送り込んだ。最初の試料は常に、その後に得られる濾液との比較用対照とするため、フィルター又はカラムを通過させることなくシリンジから直接回収した。フィルター試験においては、シリンジにニードル(BD 21G、0.8mm×50mm)を取り付け、溶液をインサートの底に送り込みやすくした。対照を回収した後、ニードル内を空気で置換して残っている溶液を空にし、フィルターの出口に取り付けた。更に濾液を約100~200mgの間隔を空けてバイアルに回収し、溶液の重量を正確に求めるためにその前後でバイアルの重量を測定した。カラム実験においては、カラムを約15カラム体積の水で予備洗浄することにより保存溶液を除去し、状態調整した。次いでここに、予備洗浄した(フィルターと同様に界面活性剤溶液で濯ぐ)、界面活性剤溶液0.03mg/mLを含むシリンジを取り付け、溶液を推奨速度1mL/分で送液するように設定された垂直配置のシリンジポンプ(Kd Scientific)を使用して溶出を実施した。フィルター試験と同様の間隔で試料を回収し、溶液の重量を正確に求めた。
【0106】
界面活性剤の定量を、Chromeleonソフトウェア(v 7.3、Thermo Scientific)で制御される荷電化粒子検出器(CAD)を取り付けた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Vanquish、Thermo Scientific)にて実施した。全ての試料を20℃に設定したオートサンプラーのチャンバーに充填した。AcclaimTM Surfactant Column(Thermo Scientific、3×150mm、粒径3μm)を使用し、pH5に固定した10mMの水中酢酸アンモニウム(LC-MSグレード、Sigma Aldrich)及びアセトニトリル(J.T.Baker)を含む移動相を用いて分離を行った。溶出を0.6mL/分に設定し、水性移動相90%から開始した後、アセトニトリルを95%まで増加させ、この2種の溶液の移行を2分間かけて行った。界面活性剤は、非常に有機性の高い移動相の存在下で溶出した。界面活性剤の濃度が0.06mg/mL~0.0005mg/mLの範囲にあるストック溶液も同じ方法で測定することにより検量線を作成し、これを使用して濾液の分取液から界面活性剤を定量した。全ての試料のクロマトグラムからMilliQ水のシグナルを差し引いた。全ての解析をChromeleonソフトウェアで行い、その後、Excel及びJMP v.15で計算した。結果を図6~9に示す。
【0107】
図6は、PVDFフィルターを通過させた場合の界面活性剤の損失を示すものである。FM1000のピークは大きく変化せず、PS80は4つのピークとして現れ、そのうち右側の2つはフィルターを通過した直後から存在したが、左側の2つは濾過により様々に変化した(図6B参照)。これは、PS80組成物の一部の成分(右側の2つのピークで表されるもの)はPVDFフィルターに吸着されないが、PS80組成物の他の成分(左側の2つのピークで表されるもの)は、PVDFフィルターに吸着されて失われることを示している。したがって、PS80の組成及び特性は濾過中に変化する。これと比較すると、FM1000はPVDFフィルターを均一なピークで通過した(図6A参照)。これは、FM1000の組成及び特性が濾過によって変化しないことを示している。
【0108】
図7は、PESフィルターを通過させた場合の界面活性剤の損失を示すものである。FM1000のピークは大きく変化せず、PS80は4つのピークとして現れ、そのうち右側の2つはフィルターを通過した直後から存在したが、左側の2つは濾過により様々に変化した(図7B参照)。これは、PS80組成物の一部の成分(右側の2つのピークで表されるもの)はPESフィルターに吸着されないが、PS80組成物の他の成分(左側の2つのピークで表されるもの)は、PESフィルターに吸着されて失われることを示している。したがって、PS80の組成及び特性は濾過中に変化する。これと比較すると、FM1000はPESフィルターを均一なピークで通過した(図7A参照)。これは、FM1000の組成及び特性が濾過によって変化しないことを示している。
【0109】
図8は、スルホプロピルで修飾した架橋アガロース(SP HP)クロマトグラフィーカラムを通過させた場合の界面活性剤の損失を示すものである。FM1000のピークは大きく変化せず、PS80は4つのピークとして現れ、そのうち右側の2つは、カラムを通過した後、左側の2つよりもはるかに早い時点から存在していた(図8B参照)。これは、PS80組成物の一部の成分(右側の2つのピークで表されるもの)はスルホプロピル修飾架橋アガロースカラムに吸着されないが、PS80組成物の他の成分(左側の2つのピークで表されるもの)は、スルホプロピル修飾架橋アガロースカラムに吸着されて失われることを示している。したがって、PS80の組成及び特性はクロマトグラフィー中に変化する。これと比較すると、FM1000はスルホプロピル修飾架橋アガロースカラムを均一なピークで通過した(図8A参照)。これは、FM1000の組成及び特性がクロマトグラフィー中に変化しないことを示している。
【0110】
図9は、Protein Aクロマトグラフィーカラムを通過させた場合の界面活性剤の損失を示すものである。FM1000のピークは大きく変化せず、PS80は4つのピークとして現れ、そのうち右側の2つは、カラムを通過した後、左側の2つよりもはるかに早い時点から存在していた(図9B参照)。これは、PS80組成物の一部の成分(右側の2つのピークで表されるもの)はProtein Aカラムに吸着されないが、PS80組成物の他の成分(左側の2つのピークで表されるもの)は、Protein Aカラムに吸着されて失われることを示している。したがって、PS80の組成及び特性はクロマトグラフィー中に変化する。これと比較すると、FM1000はProtein Aカラムを均一なピークで通過した(図9A参照)。これは、FM1000の組成及び特性がクロマトグラフィー中に変化しないことを示している。
【0111】
図10は、4級アンモニウム修飾架橋アガロース(Q HP)クロマトグラフィーカラムを通過させた場合の界面活性剤の損失を示すものである。FM1000のピークは大きく変化せず、PS80は4つのピークとして現れ、そのうち右側の2つは、カラムを通過した後、左側の2つよりもはるかに早い時点から存在していた(図10B参照)。これは、PS80組成物の一部の成分(右側の2つのピークで表されるもの)は4級アンモニウム修飾架橋アガロースカラムに吸着されないが、PS80組成物の他の成分(左側の2つのピークで表されるもの)は、4級アンモニウム修飾架橋アガロースカラムに吸着されて失われることを示している。したがって、PS80の組成及び特性はクロマトグラフィー中に変化する。これと比較すると、FM1000は4級アンモニウム修飾架橋アガロースカラムを均一なピークで通過した(図10A参照)。これは、FM1000の組成及び特性がクロマトグラフィー中に変化しないことを示している。
【0112】
界面活性剤の量を90wt%に到達させるために必要な界面活性剤溶液の体積を見極めるために分析を行った。つまり、濾液/溶出液中に含まれている界面活性剤の累積量を分析し、どの時点(濾液/溶出液の体積)で、界面活性剤(界面活性剤溶液に含まれるもの)の累積量が、フィルター/カラムに供給した界面活性剤(界面活性剤溶液に含まれていたもの)の総量の90wt%に到達するかを見定めた。結果を表5にまとめる。
【0113】
表5の最上段は界面活性剤の種類を示し、左の列はフィルター又はクロマトグラフィーカラムの種類を示す。表中の量は、濾液/溶出液中から回収された界面活性剤が90±1wt%に到達するまでに必要な濾液/溶出液の体積(mL単位)を表す。体積が多いほど、濾液/溶出液から界面活性剤を回収するまでに長い時間を要する。表5の体積値は、濾液/溶出液の分取液中の各成分のHPLC-CADピークを積算した後、濾過しなかった又はカラムを通過させなかった試料中の量を100%として、その値で除することにより求めた。体積値は、各運転の閾値である90wt%に到達した最初の分取液を記録した。
【0114】
【表5】
【0115】
概要又は実施例において上に記載された行為の全てが必要であるわけではないこと、特定の行為の一部が必要とされない場合があること及び1つ以上の更なる行為が、記載されているものに加えて行われ得ることに留意されたい。更にまた、行為が列挙される順番は、必ずしも行為が行われる順番ではない。
【0116】
上述の本明細書では、概念を特定の実施形態に関連して説明してきた。しかしながら、当業者であれば、様々な修正形態及び変更形態が、以下の特許請求の範囲に示した本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解するであろう。したがって、本明細書は、限定的意味ではなく例示的なものと見なすべきであり、こうした改変は全て、本発明の範囲内に包含されることが意図されている。
【0117】
利益、他の利点及び問題の解決策について、特定の実施形態に関し上に説明してきた。しかしながら、利益、利点、問題の解決策及び任意の利益、利点又は解決策を生じさせ得る又はより顕著にならせ得る任意の特徴は、特許請求の範囲のいずれか又は全ての決定的に重要な、必要な又は不可欠な特徴として解釈されるべきではない。
【0118】
明確にするために、別個の実施形態に関連させて本明細書に記載された特定の特徴は、組み合わせて単一の実施形態で提供され得ることも理解すべきである。反対に、簡潔にするために、単一の実施形態に関連させて記載した様々な特徴は、別々に又は任意の部分的な組合せでも提供され得る。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】