(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-18
(54)【発明の名称】CaO-SiO2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグ
(51)【国際特許分類】
C21C 7/076 20060101AFI20230810BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C21C7/076 A
C21C7/00 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504765
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 CN2021109204
(87)【国際公開番号】W WO2022022629
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】202010752034.1
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523025469
【氏名又は名称】中天鋼鉄集団有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523025296
【氏名又は名称】常州中天特鋼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100207561
【氏名又は名称】柳元 八大
(72)【発明者】
【氏名】王 昆鵬
(72)【発明者】
【氏名】徐 建飛
(72)【発明者】
【氏名】▲ホウ▼ 磊
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲エイ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲マク▼ ▲ビン▼干
(72)【発明者】
【氏名】林 俊
(72)【発明者】
【氏名】万 文華
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013AA09
4K013BA14
4K013CA02
4K013CC02
4K013CD02
4K013DA10
4K013EA01
4K013EA03
4K013EA04
4K013FA05
(57)【要約】
本発明によれば、コード鋼の精錬に用いられ、鉄鋼冶金産業の二次精錬技術分野に属する鉄鋼CaO-SiO
2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグが提供され、その特徴は、合理的に設計される精錬スラグの成分にあり、精錬スラグの各組成の質量百分率は、MgO=15~25%、Al
2O
3<3%であり、残りはCaOとSiO
2であり、CaOとSiO
2との質量比は、0.7~1.0である。産業的な適用では、本発明で設計される精錬スラグは低融点CaO-SiO
2-MgO系介在物を得ることができると示されている。このような介在物は、熱間圧延プロセスにおいて変形が均一で十分であり、最終的に線材中の介在物の幅を2ミクロン以下に制御することができる。同時に、取鍋の耐火材に対する精錬スラグの浸食を低減させ、寿命を2倍以上に向上させることができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO-SiO
2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグであって、
前記精錬スラグ中の各組成の質量百分率は、MgO=15~25%、Al
2O
3<3%であり、残りがCaOとSiO
2である、
ことを特徴とするCaO-SiO
2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグ。
【請求項2】
前記精錬スラグ中のCaOとSiO
2との質量比は、0.7~1.0である、
ことを特徴とする請求項1に記載のCaO-SiO
2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグ。
【請求項3】
LF精錬工程における精錬スラグの適用は、
LF精錬工程において、電極が加熱されて昇温し、出鋼プロセスにおいて精錬スラグを添加してスラグを作り、LF処理プロセス全体で取鍋に対してアルゴンガスを底吹きして撹拌し、溶鋼成分が完成品の要求を満たすように溶鋼成分を微調整し、LF総処理時間≧45min、アルゴンガスソフトブロー時間≧25minでCaO-SiO
2-MgO系低融点介在物を得ることである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のCaO-SiO
2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグ。
【請求項4】
LF電極の加熱温度は、1565~1585℃に制御される、
ことを特徴とする請求項3に記載のCaO-SiO
2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼冶金産業の二次精錬技術分野に属し、特にCaO-SiO2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグに関する。
【背景技術】
【0002】
コード鋼は、直径0.15~0.38mmの鋼線であり、主にタイヤ子午線を作るのに用いられる。コード鋼線は、線径が非常に細く、かつ製造プロセスにおいて力受けが複雑であるため、鋼に寸法が大きく変形しない介在物が存在すると、鋼線は引き抜き又は撚線プロセスにおいて断線することになり、生産効率に悪影響を及ぼし、ひいては製品の格下げや廃棄につながることさえある。研究では、低融点塑性介在物に鋼中の介在物を制御することで、コード鋼の断線率を低下させることができると示されている。
【0003】
低融点塑性介在物を得るために、現在、業界では、低アルカリ度酸性CaO-SiO2スラグ系(CaO/)SiO2=0.8~1.2、Al2O3<10%、MgO<10%)を利用して精錬し、スラグ鋼の反応を制御することにより、CaO-SiO2-Al2O3-MgO低融点領域に介在物を制御する一般的な制御手段が用いられている。現在の精錬工程では、低融点塑性介在物が得られるが、低アルカリ度酸性CaO-SiO2スラグは、取鍋のスラグラインに対する浸食が非常に深刻である。低アルカリ度スラグを用いてコード鋼を製錬する取鍋の寿命は、通常の精錬スラグを用いた寿命の3分の1に過ぎず、さらにより低い。したがって、低アルカリ度酸性スラグによる精錬は、現在、コード鋼の生産プロセスにおいて取鍋の耐火材のコストが高い原因となっている。また、CaO-SiO2-Al2O3-MgO系低融点介在物は、冷却凝固や長時間に亘る加熱プロセスにおいて二次結晶しやすく、硬質Al2O3-MgO系スピネル介在物を生成し、このような介在物は変形しない介在物であり、コード鋼の加工プロセスにおける断線を引き起こす可能性が非常に高い。CaO-SiO2-MgOスラグ系の適用に関するいくつかの手段もある。「CN201610585085.3ばね鋼の精錬方法」などでは、CaO-SiO2-MgOスラグ系が提案されているが、精錬後の介在物の成分構成や形態が研究されておらず、かつ、この組成の精錬スラグの融点が高く、精錬構成がスラグに溶融しにくいため、CaF2をフラックスとして別途添加する必要があり、CaF2の添加は、精錬スラグの融点を低下させる役割を果たすことができるが、CaF2は、取鍋に対する浸食が非常に深刻であり、同様に取鍋の寿命の低下につながる。また、CaF2は、環境に優しくないスラグに属し、含まれているF元素は、環境を汚染することになり、多くの先進国では、CaF2は、製鋼スラグにおける使用が明示的に禁止されている。
【0004】
したがって、環境にやさしい前提で、CaF2をフラックスとして含まず、取鍋の寿命を向上させると同時に変形性能が優れている低融点介在物を得る新しいタイプの精錬スラグを如何に設計するかは、本発明が解決すべき技術的問題である。
【発明の概要】
【0005】
本発明によれば、上記の技術的問題を解決するために、CaO-SiO2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグが提供される。
【0006】
上記目的を実現するために、本発明で採用される技術的手段は以下のとおりである。
【0007】
CaO-SiO2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグにおいて、前記精錬スラグ中の各組成の質量百分率は、MgO=15~25%、Al2O3<3%であり、残りはCaOとSiO2であり、CaOとSiO2との質量比は、0.7~1.0である。
【0008】
LF精錬工程において、電極が加熱されて昇温し、出鋼プロセスにおいて精錬スラグを添加してスラグを作り、LF処理プロセス全体で取鍋に対してアルゴンガスを底吹きして撹拌し、溶鋼成分が完成品の要求を満たすように溶鋼成分を微調整し、LF総処理時間≧45min、アルゴンガスソフトブロー時間≧25minである。
【0009】
さらに、LFアルゴンガスソフトブローが完了した後、溶鋼中の酸融解アルミニウムAlsを≦8ppmに、溶存酸素[O]を15~25ppmに制御する。
【0010】
好ましくは、LF総処理時間は、50minであり、ここで、アルゴンガスソフトブロー時間は、35minであることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、アルカリ度(CaO/SiO2)を0.7~1.0範囲にし、MgO含有量を15~25%に共同して制御し、共同で限定された精錬スラグの1565~1585℃の精錬温度における精錬時間≧45minであることが要求されることで、最終的には取鍋の浸食を低下させると同時に変形がより十分な低融点介在物を得ることができ、スラグを溶融して融点を低下させるためにその他のフラックス(CaF2など)を添加する必要はなく、コストを削減し、環境にやさしいだけではなく、取鍋に対するフラックスの浸食が回避される。
【0012】
本発明の精錬スラグ中のAl2O3含有量は、2%以内であり、かつ、コード鋼には、一般に低チタン低アルミニウムケイ素鉄と金属マンガン製錬が用いられており、これらの合金のAl含有量が非常に低いため、介在物中のAl2O3含有量は非常に低く、無視することができ、連続鋳造時に結晶して変形しない硬質MgO-Al2O3スピネル系介在物を生成することが回避される。本発明で生成されるのは、いずれもコード鋼の断線率を顕著に低下させる十分に変形可能な低融点介在物である。
【0013】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は、本発明で提案されるCaO-SiO2-MgO系低融点介在物を得る精錬スラグを精錬した後にCaO-SiO2-MgO系低融点介在物を得ると同時にマグネシウム炭素質スラグラインに対する精錬スラグの浸食を効果的に低下させ、従来の工程と比較して、コード鋼の取鍋の寿命を2倍以上に向上させることができ、線材中の酸化物介在物は、圧延方向に沿って変形が十分で均一であり、幅が2ミクロン未満であるため、コード鋼の断線率をさらに低下させる役割が果たされ、コード鋼の取鍋のコストが大幅に低下する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で得られた線材中のCaO-SiO
2-MgO介在物の圧延方向に沿った形態である。
【
図2】実施例2で得られた線材中のCaO-SiO
2-MgO介在物の圧延方向に沿った形態である。
【
図3】実施例3で得られた線材中のCaO-SiO
2-MgO介在物の圧延方向に沿った形態である。
【
図4】実施例4で得られた線材中のCaO-SiO
2-MgO介在物の圧延方向に沿った形態である。
【
図5】実施例1~4に係る介在物の横方向の幅寸法分布である。
【
図6】実施例1~4で得られた線材中の介在物の成分の投影である。
【
図7】比較例1で得られた介在物の成分及び形態である。
【
図8】比較例2で得られた介在物の成分及び形態である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面及び具体的な実施例を参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
以下の実施例において、試験鋼種はLX82Aであり、その化学成分は表1に示され、試験プロセスは、本分野で一般的に用いられるコード鋼の生産工程、すなわち「転炉製鋼」-LF精錬-連続鋳造-線材圧延」を採用することができ、以下の実施例で採用される試験プロセスは、具体的には以下のとおりである(その他の未公開条件は、いずれもLX82Aの通常の製錬条件である)。
【0017】
(1)転炉工程において、転炉終点はハイキャッチカーボン工程を採用し、転炉出鋼プロセスにおいて金属マンガン、低チタン低アルミニウムケイ素鉄及び加炭剤を添加する。出鋼が完了した後に金属マンガン、低チタン低アルミニウムケイ素鉄及び本発明で設計される精錬スラグを添加し、金属マンガンと低チタン低アルミニウムケイ素鉄の添加量は、鋼中のMn及びSi含有量が完成品の要求に達し、又は近接することを原則とし、精錬スラグの添加量は、8~10kg/トン鋼である。
【0018】
(2)LF精錬工程において、電極が加熱されて昇温し、加熱温度を1565~1585℃(好ましくは1570℃)に制御し、出鋼プロセスにおいて添加された精錬スラグ(1#-7#のいずれか)に対してスラグを作り、LF処理プロセス全体で取鍋に対してアルゴンガスを底吹きして撹拌し、溶鋼成分が完成品の要求を満たすように溶鋼成分を微調整し、LF総処理時間≧45min(好ましくは50min)、アルゴンガスソフトブロー時間≧25min(好ましくは35min)である。LFアルゴンガスソフトブローが完了した後、溶鋼中の酸融解アルミニウムAlsを≦8ppmに、溶存酸素[O]を15~25ppmに制御する。
【0019】
(3)連続鋳造及び線材圧延工程において、連続鋳造により160mm×160mmの小ビレットが得られ、小ビレットを1050-1100℃に加熱し、2時間保温し、直径5.5mmのコード鋼線材に圧延する。
(実施例1)
【0020】
本実施例で取鍋に添加した精錬スラグは、表2に示す1#精錬スラグである。
(実施例2)
【0021】
本実施例で取鍋に添加した精錬スラグは、表2に示す2#精錬スラグである。
(実施例3)
【0022】
本実施例で取鍋に添加した精錬スラグは、表2に示す3#精錬スラグである。
(実施例4)
【0023】
本実施例で取鍋に添加した精錬スラグは、表2に示す4#精錬スラグである。
(比較例1)
【0024】
本実施例で取鍋に添加した精錬スラグは、表3に示す5#精錬スラグである。
【0025】
精錬スラグのアルカリ度は、1.0よりも高く、
図7から分かるように、生産用線材中の介在物にはマグネシウムアルミニウムスピネルが析出し、介在物は、変形が不十分であり、塊状をなし、断線のリスクが高まる。
(比較例2)
【0026】
本実施例で取鍋に添加した精錬スラグは、表3に示す6#精錬スラグである。
【0027】
介在物中のAl
2O
3含有量は、3%よりも高く、
図8から分かるように、線材中の介在物にはマグネシウムアルミニウムスピネルが析出し、介在物は、変形が不十分であり、塊状をなし、断線のリスクが高まる。
(比較例3)
【0028】
本実施例で取鍋に添加した精錬スラグは、表3に示す7#精錬スラグであり、取鍋の寿命が終了するまで製錬し、取鍋の寿命を統計する。
【0029】
MgO含有量は、15%未満であり、耐火材中のMgOが精錬スラグに多量に溶解することになり、耐火材の浸食が非常に深刻であり、寿命が低下する。
【0030】
上記実施例で得られた線材をそれぞれ取り、走査型電子顕微鏡を用いて酸化物介在物の圧延方向に沿った形態を検査する。
図1~
図4は、それぞれ実施例1~4で得られた線材中の酸化物介在物の圧延方向に沿った形態であり、本発明の精錬スラグを用いて得られた線材中の酸化物は、圧延方向に沿って変形が十分で均一であり、横方向の幅が2ミクロン以下であり、ほとんどの介在物の寸法幅は、
図5に示すように1.2ミクロン以下である。
【0031】
図6は、実施例1-4に係る介在物の成分の投影であり、介在物の成分は、CaO-SiO
2-MgOであり、CaO-SiO
2-MgO系低融点領域にある。
【0032】
図7及び
図8は、それぞれ比較例1及び比較例2で得られた介在物の成分及び形態であり、介在物にはマグネシウムアルミニウムスピネルが析出し、介在物は、変形が不十分であり、塊状をなす。
【0033】
また、長期に亘る生産実践では、比較例3に用いられる精錬スラグ(現在コード鋼の通常の精錬スラグを代表する)を採用する取鍋の寿命範囲は23~29炉(平均25炉)でまちまちであり、本発明の精錬スラグを採用して長期に生産した後に寿命を71~83炉(平均76炉)に向上させることができると示されている。
【0034】
表1 試験鋼種LX82Aの成分、質量百分率
【表1】
【0035】
上記実施例における1#、2#、3#、4#精錬スラグは、それぞれ表2に示す原料の比率に従って調製され、均一に混合される。
【0036】
表2 実施例に用いられる精錬スラグの成分、質量百分率
【表2】
【0037】
表3 比較例に用いられる精錬スラグの成分、質量百分率
【表3】
【0038】
最後に、上記の具体的な実施形態は、本発明の技術的手段を説明するためのものに過ぎず、それを制限するものではないことを説明すべきである。実施例を参照しながら本発明について詳細に説明したが当業者は、本発明の技術的手段の精神と範囲から逸脱することなく、本発明の技術的手段を修正又は同等に置換することができることを理解する必要があり、それらは、いずれも本発明の特許請求の範囲に含まれるべきである。
【国際調査報告】