(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-18
(54)【発明の名称】原子プローブ断層撮影のための再構築方法明細書
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230810BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230810BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20230810BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20230810BHJP
G01Q 30/02 20100101ALI20230810BHJP
【FI】
G01N27/62 D ZNM
H01J49/00 040
H01J49/04 630
H01J49/40
G01Q30/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505684
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2021069197
(87)【国際公開番号】W WO2022022993
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510214573
【氏名又は名称】ユニフェルシテイト アントウェルペン
【氏名又は名称原語表記】Universiteit Antwerpen
【住所又は居所原語表記】Prinsstraat 13,Antwerpen,BELGIUM
(71)【出願人】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】セイベルス,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】デ ベーンハウウェル,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ユ-ティン
(72)【発明者】
【氏名】ファンデルフォルスト,ウィルフリート
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA03
2G041FA03
2G041GA06
2G041LA20
(57)【要約】
原子プローブ断層撮影のための再構築方法。原子プローブ断層撮影プロセス中に、先端を有する試料(201)の三次元原子分布を決定するための方法(100)。この方法は、蒸発プロセス全体を通して、先端が軸対称ではなく、かつ半球状の頂点を持たないことを説明する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子プローブ断層撮影プロセス中に、先端を有する試料(201)の三次元原子分布を決定するための方法(100)であって、
(i)前記試料(201)から原子を蒸発させること(101)と、前記原子が検出される検出器(205)上に前記原子を投影することと、を含む蒸発プロセスを実施するステップであって、前記検出された原子が基準原子及び標的原子を含む、実施するステップと、
(ii)前記検出器(205)上の各検出された原子の衝突位置と、各検出された原子の飛行時間と、を含む、前記蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップ(300)を記録するステップ(102)と、
(iii)前記ヒットマップ(300)を複数のゾーンに分割するステップと、
(iv)前記ヒットマップ(300)のゾーン内の前記検出された原子を選択するステップ(103)と、
(v)前記基準原子の前記記録された飛行時間に基づいて、前記基準原子の前記記録された飛行時間の比較によって、前記標的原子の質量電荷比を特定するステップ(104)と、
(vi)質量電荷スペクトル(500)を構築するために、前記ヒットマップの全てのゾーンについてステップ(iv)及び(v)を繰り返すステップと、
(vii)前記質量電荷スペクトルのピークにおける任意の元素の選択された原子の飛行距離を導出するステップ(105)と、
(viii)前記選択された原子の発射角度(α)を導出するステップ(106)と、
(ix)前記選択された原子の前記導出された発射角度に基づいて、前記試料の第1の視野領域における前記先端の近似表面幾何学構造を推定するステップ(107)と、
(x)前記試料の前記先端の実際の表面幾何学構造を測定するステップ(108)と、
(xi)前記近似表面幾何学構造を前記実際の表面幾何学構造に一致させるステップ(109)と、
(xii)前記実際の表面幾何学構造と一致した前記近似表面幾何学構造に基づいて、前記検出された原子の第1の視野領域のサイズ及び位置を導出するステップ(110)と、
(xiii)前記蒸発プロセスの別の所定の段階に属するヒットマップを記録し、ステップ(iii)~(xi)を繰り返し、かつ前記実際の表面幾何学構造と一致した前記近似表面幾何学構造に基づいて、前記検出された原子の第2の視野領域のサイズ及び位置を導出するステップ(110)と、
(xiv)再構築体積を定義するために、前記第1の視野領域及び前記第2の視野領域によって囲まれた体積を決定するステップ(111)と、
(xv)前記試料の前記再構築体積中の検出された原子の前記三次元原子分布を再構築するステップ(112)と、を含む、方法(100)。
【請求項2】
前記蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップ(300)を記録するステップ(102)が、前記蒸発プロセスの完全なヒットマップを記録することと、前記完全なヒットマップから、前記蒸発プロセスの前記所定の段階のみに属する縮小したヒットマップ(300)を抽出することと、を含む、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
検出された原子の前記三次元原子分布を再構築するステップ(112)が、原子を前記先端の表面に戻すことと、前記表面幾何学構造及び上に前記原子を配置しなければならない発達する表面の高さを決定するために完成度のパーセンテージを使用することと、再構築される前記原子の空間位置を決定するために前記検出器上の場所と前記先端表面との間の1対1の相関を使用することと、を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項4】
前記検出器上の場所と前記先端表面との間の1対1の相関を使用することが、発射角度を導出する間の近似軌道に基づいている、請求項3に記載の方法(100)。
【請求項5】
前記ヒットマップを複数のゾーンに分割するステップが、前記ヒットマップを好適な形状で、ピクセルで分割することを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項6】
前記選択された原子の前記飛行距離を導出するステップ(105)が、ゾーン内で検出された前記原子が前記試料上の同じ点から飛び出し、かつ同じ飛行経路を有することを想定することを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項7】
前記飛行距離及び前記発射角度を導出するステップ(105及び106)が、前記試料から所定の距離(d
field)までの、前記原子の実飛行経路に沿った接線方向が著しく変化する高磁場勾配領域における第1の飛行投影と、前記所定の距離を超えて前記検出器(205)までの、前記飛行経路が直線飛行と想定される低磁場勾配領域における第2の飛行投影と、を想定することによって行われる、先行請求項のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項8】
前記試料の視野領域における前記先端の前記近似表面幾何学構造を推定するステップ(107)が、任意の球体の表面と前記球体の原点から前記検出された位置までの直線との交点におけるいくつかの基準位置を事前定義することと、それらの基準位置を、前記視野領域を形成する新しい位置に最適化することと、を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項9】
前記基準位置を最適化することが、前記導出された発射角度を保持することによって、前記球体の表面距離又は半径のいずれかを変更することを含む、請求項8に記載の方法(100)。
【請求項10】
前記試料の前記先端の前記実際の表面幾何学構造を測定するステップ(108)が、走査プローブ顕微鏡法、透過電子顕微鏡法、又はタイコグラフィのいずれかを使用することによって行われる、先行請求項のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項11】
前記近似表面幾何学構造を前記実際の表面幾何学構造に一致させるステップ(109)が、前記近似表面幾何学構造が前記実際の表面幾何学構造に事前整列され、前記表面幾何学構造のサイズをスケーリングするための重み付け関数が追加される、反復最接近点(ICP)法を使用することを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項12】
前記近似表面幾何学構造を前記実際の表面幾何学構造に前記一致させるステップ(109)が、
-表面メッシュを作成すること(1001)と、
-整列のための位置の初期推測を提供するために前記近似表面幾何学構造と前記実際の表面幾何学構造との粗い一致(1002)と、
-前記初期推測に基づいて、前記近似表面幾何学構造のデータをシフト及びスケーリングすること(1003)と、
-前記近似表面幾何学構造の前記データの前記実際の表面幾何学構造のデータへの細かい一致(1004)と、を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
原子プローブ断層撮影プロセス中の試料の視野領域の三次元原子分布を決定するためのシステムであって、
-試料から原子を蒸発させ、前記原子を検出器に投影するための手段と、
-各原子の衝突場所及び飛行時間を含むヒットマップを記録するための検出器と、
-先行請求項のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されたコントローラと、を備える、システム。
【請求項14】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコントローラによって実行されるときに、前記コントローラに、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラムを記憶したコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子プローブ断層撮影の分野に関する。特に、本発明は、器具の視野内の試料の三次元原子分布を決定することに関する。
【背景技術】
【0002】
原子プローブ断層撮影(APT又は3D原子プローブ)は、三次元原子スケールのイメージングを可能にするナノスコピック材料分析技術であり、原子スケール及びサブナノメートルの空間分解能で材料の化学組成を決定する。この技術では、試料は、50nm未満の端部半径を有する半球形状に鋭利化される。鋭利化された試料は、真空チャンバに配置され、イオン検出器の中心に整列される一方、先端と検出器との間に高電圧バイアスが印加される。それによって、頂点の表面の原子がイオン化され、蒸発の閾値に近づくように、先端の頂点で高い電界(>10V/nm)が誘導される。多くの場合、頂点の原子が蒸発のエネルギー障壁を克服できるように、追加の熱エネルギーを供給することによって、レーザパルスが追加されて蒸発プロセスをトリガする。蒸発したイオンは、先端表面から分離され、先端と検出器との間の電界分布に従って検出器に向かって加速される。検出器への衝撃位置及び飛行時間(TOF)が測定される。TOFは、(検出器上の)到着時間と、蒸発プロセスをトリガする電圧パルス又はレーザパルスの開始との間の時間差として測定される。原子の飛行時間を分析することによって、試料の質量電荷比を決定することができる。イオンが検出器に衝突した位置と蒸発シーケンス番号とに基づいて、生データを試料の三次元原子分布に変換する再構築アルゴリズムを設計することができる。そのような再構築のための様々なアプローチが存在し、そのうちのいくつかは商業的に実施されている。多くの場合、先端が軸対称であり、かつその飛行軌道に直線的に近似した半球状の頂点を有する、と仮定することによって、重要な(単純化する)仮定がなされる。異種試料及び/又はレーザベースの蒸発の場合、先端形状は、そのような理想化された形状(変化する曲率、非対称形状)とは実質的に異なり得、不正確な再構築につながる。明らかに、改善された精度は、詳細な先端形状を組み込んだアルゴリズムを採用することによってのみ達成することができる。再構築の最も困難な部分は、蒸発中に発達する先端形状を高精度かつ正確に定量的に描写する方法を取り決めることである。
【0003】
2019年のD. Beinke及びG. Schmitzによる出版物「Atom Probe Reconstruction With a Locally Varying Emitter Shape」、Microscopy and Microanalysis、volume 25、special issue 2、ページ280~287は、原子プローブ断層撮影のための改善された方法を開示している。この方法は、先端の表面曲率の変動を可能にするが、非対称先端の問題を解決しない。2020年のD. Beinke他による出版物「Extracting the shape of nanometric field emitters」、Nanoscale、Volume 12、issue 4、ページ2820~2832は、非対称先端形状を導出するための解決策を提案している。この方法は、シミュレーションによって、蒸発した先端形状を推定することができることが実証されているが、実際の先端表面では検討されていない。また、この方法は、先端表面(すなわち、FOVの外側)上の検出されていない領域の曲率の外挿を必要とし、これは、推定中に誤差を増加させる可能性がある。
【0004】
欧州特許出願第3537161A1号は、走査プローブ顕微鏡法を使用して先端形状を画像化する方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子プローブ断層撮影プロセス中の試料の三次元原子分布を決定するための良好な方法を提供することが、本発明の実施形態の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、本発明に従う方法及びデバイスによって達成される。
【0007】
第1の態様では、本発明は、原子プローブ断層撮影プロセス中に、先端形状の試料、したがって先端を有する試料の三次元原子分布を決定するための方法を提供する。方法は、
(i)試料から原子を蒸発させることと、原子が検出される検出器上に原子を投影することと、を含む蒸発プロセスを実施するステップであって、検出された原子が基準原子及び標的原子を含む、実施するステップと、
(ii)検出器上の各検出された原子の衝突位置と、各検出された原子の飛行時間と、を含む、蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップを記録するステップと、
(iii)ヒットマップを複数のゾーンに分割するステップと、
(iv)ヒットマップのゾーン内の検出された原子を選択するステップと、
(v)基準原子の記録された飛行時間に基づいて、基準原子の記録された飛行時間の比較によって、標的原子の質量電荷比を特定するステップと、
(vi)質量電荷スペクトルを構築するために、ヒットマップの全てのゾーンについてステップ(iv)及び(v)を繰り返すステップと、
(vii)質量電荷スペクトルのピークにおける任意の元素の選択された原子の飛行距離を導出するステップと、
(viii)選択された原子の発射角度を導出するステップと、
(ix)選択された原子の導出された発射角度に基づいて、試料の第1の視野領域における先端の近似表面幾何学構造を推定するステップと、
(x)試料の先端の実際の表面幾何学構造を測定するステップと、
(xi)近似表面幾何学構造を実際の表面幾何学構造に一致させるステップと、
(xii)実際の表面幾何学構造と一致した近似表面幾何学構造に基づいて、検出された原子の第1の視野領域のサイズ及び位置を導出するステップと、
(xiii)蒸発プロセスの別の所定の段階に属するヒットマップを記録し、ステップ(iii)~(xi)を繰り返し、かつ実際の表面幾何学構造と一致した近似表面幾何学構造に基づいて、検出された原子の第2の視野領域のサイズ及び位置を導出するステップと、
(xiv)再構築体積を定義するために、第1の視野領域及び第2の視野領域によって囲まれた体積を決定するステップと、
(xv)試料の再構築体積中の検出された原子の三次元原子分布を再構築するステップと、を含む。
【0008】
本発明の実施形態による方法の利点は、再構築プロセスが非常に正確であることである。先端が軸対称であり、かつ半球状の頂点を有するという単純化された仮定を行う必要はない。
【0009】
本発明の実施形態に従う方法では、蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップを記録するステップは、蒸発プロセスの実質的完全又は完全なヒットマップを記録すること、例えば、蒸発プロセス中に蒸発し、検出器に衝突する全ての原子の衝突を含むヒットマップを記録することと、完全なヒットマップから、蒸発プロセスの所定の段階のみに属する縮小したヒットマップを抽出することと、を含み得る。
【0010】
本発明の実施形態に従う方法では、検出された原子の三次元原子分布を再構築するステップは、原子を先端の表面に戻すことと、表面幾何学構造及び上に原子を配置しなければならない発達する表面の高さを決定するために完成度のパーセンテージを使用することと、再構築される原子の空間位置を決定するために検出器上の場所と先端表面との間の1対1の相関を使用することと、を含み得る。検出器上の場所と先端表面との間の1対1の相関を使用することは、発射角度を導出する間の近似軌道に基づき得る。
【0011】
本発明の実施形態に従う方法では、ヒットマップを複数のゾーンに分割するステップは、好適な形状、例えば、限定されないが、長方形又は正方形の形状を有するピクセルでヒットマップを分割することを含み得る。
【0012】
本発明の実施形態に従う方法では、選択された原子の飛行距離を導出するステップは、ゾーン内で検出された原子が、試料上の同じ点から飛び出し、かつ同じ飛行経路を有することを想定することを含み得る。
【0013】
本発明の実施形態に従う方法では、飛行距離及び発射角度を導出するステップは、試料から所定の距離までの、原子の実際の飛行経路に沿った接線方向が著しく変化する高磁場勾配領域における第1の飛行投影と、所定の距離を超えて検出器までの、飛行経路が直線飛行と想定される低磁場勾配領域における第2の飛行投影と、を想定することによって行われ得る。
【0014】
本発明の実施形態に従う方法では、試料の視野領域における先端の近似表面幾何学構造を推定するステップは、任意の球体の表面と球体の原点から検出された位置までの直線との交点におけるいくつかの基準位置を事前定義することと、それらの基準位置を、視野領域を形成する新しい位置に最適化することと、を含み得る。基準位置を最適化することは、導出された発射角度を保持することによって、球体の表面距離又は半径のいずれかを変更することを含み得る。
【0015】
本発明の実施形態に従う方法では、試料の先端の実際の表面幾何学構造を測定するステップは、走査プローブ顕微鏡法、透過電子顕微鏡法、又はタイコグラフィのいずれかを使用することによって行われ得る。
【0016】
本発明の実施形態に従う方法では、近似表面幾何学構造を実際の表面幾何学構造に一致させるステップは、近似表面幾何学構造が実際の表面幾何学構造に事前整列され、表面幾何学構造のサイズをスケーリングするための重み付け関数が追加される、反復最接近点(iterative closest point)法を使用することを含み得る。
【0017】
本発明の実施形態に従う方法では、近似表面幾何学構造を実際の表面幾何学構造に一致させることは、
-表面メッシュを作成することと、
-整列のための位置の初期推測を提供するために近似表面幾何学構造と実際の表面幾何学構造との粗い一致と、
-初期推測に基づいて、近似表面幾何学構造のデータをシフト及びスケーリングすることと、
-近似表面幾何学構造のデータの実際の表面幾何学構造のデータへの細かい一致と、を含み得る。
【0018】
第2の態様では、本発明は、原子プローブ断層撮影プロセス中の試料の視野領域の三次元原子分布を決定するためのシステムを提供する。システムは、
-試料から原子を蒸発させ、原子を検出器に投影するための手段と、
-各原子の衝突場所及び飛行時間を含むヒットマップを記録するための検出器と、
第1の態様の実施形態のいずれかの方法を実行するように構成されたコントローラと、を含む。
【0019】
第3の態様では、本発明は、コンピュータプログラムであって、プログラムがコントローラによって実行されるときに、コントローラに、第1の態様の実施形態のいずれかの方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラムを提供する。今日では、そのようなコンピュータプログラムは、しばしばダウンロードのためにインターネット又は会社のイントラネット上で提供され、したがって、本発明は、ローカル又はワイドエリアネットワーク及び/又は第3の態様の実施形態のコンピュータプログラムを搬送するデータキャリア信号を介して本発明の実施形態によるコンピュータプログラムを送信することを含む。コントローラは、例えば、マイクロプロセッサ及びFPGAのうちの1つを含む、汎用又は特殊目的プロセッサであってもよく、デバイス内、例えば、原子プローブ断層撮影プロセス中の試料の視野領域の三次元原子分布を決定するためのシステム内に含めるためのものであってもよい。
【0020】
本発明の実施形態はまた、ハードディスクなどの磁気記憶デバイス、メモリキー若しくはディスケット、又はCD-ROMなどの光学記憶デバイスなどの、コンピュータ可読記憶媒体であって、第3の態様の実施形態のコンピュータプログラムを機械可読形式で記憶したコンピュータ可読記憶媒体を更に提供する。
【0021】
本発明の特定の及び好ましい態様は、添付の独立請求項及び従属請求項に記載される。従属請求項からの特徴は、単に請求項に明示的に記載されているものだけではなく、必要に応じて、独立請求項の特徴及び他の従属請求項の特徴と組み合わせてもよい。
【0022】
本発明及び従来技術に対して達成された利点を要約する目的のために、本発明の特定の目的及び利点を上記に説明した。言うまでもなく、必ずしも全てのそのような目的又は利点が本発明の任意の特定の実施形態に従って達成され得るとは限らないことを理解されたい。したがって、例えば、当業者は、本明細書で教示又は示唆され得る他の目的又は利点を必ずしも達成することなく、本明細書で教示される1つの利点又は一群の利点を達成又は最適化する方法で本発明が具体化又は実行され得ることを認識するであろう。
【0023】
本発明の上記及び他の態様は、以下に記載の実施形態を参照して明らかになり、解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明を、例として、添付の図面を参照して更に説明する。
【0025】
【
図1】本発明の実施形態による、試料中の三次元原子分布を決定するための例示的な方法のフローチャートを概略的に示す。
【
図2】本発明の実施形態による、原子プローブ断層撮影プロセスの例を概略的に示す。
【
図3】本発明の実施形態で使用される際のヒットマップの例を示す。
【
図4】本発明の実施形態で使用される際の、ヒットマップの選択されたゾーンにおける異なるタイプの原子の飛行時間に対する異なるタイプの原子の数の例を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施形態で使用される際の、異なるタイプの原子の質量電荷比に対する異なるタイプの原子の数の例を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態で使用される際の、基準原子タイプの部分ヒットマップの例を示す。
【
図7】本発明の実施形態による、原子の発射角度を導出することを概略的に示す。
【
図8】本発明の実施形態による、近似表面幾何学構造を推定することを概略的に示す。
【
図9】本発明の実施形態で使用される際の、実際の表面幾何学構造を測定することの例を示す。
【
図10】本発明の実施形態による、近似表面幾何学構造と実際の表面幾何学構造との表面一致のステップを概略的に示す。
【
図11】本発明の実施形態による、視野における三次元原子分布の再構築の例を概略的に示す。
【0026】
図面は概略図であり、非限定的である。図面では、いくつかの要素のサイズは、例解目的のために誇張され、縮尺通りに描画されない場合がある。寸法及び相対寸法は、必ずしも本発明の実施に対する実際の縮小に対応するとは限らない。特許請求の範囲内のいずれの参照符号も、その範囲を限定するものと解釈されるべきではない。異なる図面では、同じ参照符号は、同じ又は類似の要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、特定の実施形態に関して、かつある特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0028】
本説明及び特許請求の範囲における第1、第2などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも一時的、空間的、順位付け又は任意の他の方法のいずれかで順序を説明するために使用されるとは限らない。そのように使用されるそれらの用語が適切な状況下で交換可能であり、かつ本明細書に記載される本発明の実施形態が本明細書に記載又は例証される以外の順序で動作可能であることを理解されたい。
【0029】
更に、本説明及び特許請求の範囲における上、下、前、後、先頭、末尾、下方、上方などの方向的な用語は、説明される図面の向きを参照して説明する目的で使用され、必ずしも相対位置を説明するために使用されるとは限らない。本発明の実施形態の構成要素は、いくつかの異なる向きに配置することができるため、方向的な用語は、例示の目的のためにのみ使用され、別段の指示がない限り、決して限定することを意図するものではない。したがって、そのように使用されるそれらの用語が適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態が本明細書に記載又は例証される以外の方向で動作可能であることを理解されたい。
【0030】
特許請求の範囲で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に限定されるものと解釈されるべきではなく、他の要素又はステップを除外しないことに留意されたい。したがって、これは、言及された特徴、整数、ステップ、又は構成要素の存在を特定するものとして解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ若しくは構成要素、又はその群の存在、又は追加を除外するものではない。したがって、「手段A及びBを含むデバイス」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなるデバイスに限定されるべきではない。これは、本発明に関して、デバイスの唯一の関連する構成要素がA及びBであることを意味する。
【0031】
本明細書を通して「一実施形態」又は「ある実施形態」への言及は、その実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通して様々な場所での「一実施形態では」又は「ある実施形態では」という語句の出現は、必ずしも全て同じ実施形態を指すとは限らないが、そうである場合もある。更に、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の実施形態において、本開示から当業者に明らかであろうように、任意の好適な様式で組み合わされてもよい。
【0032】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明では、本開示を簡素化し、かつ様々な発明態様のうちの1つ以上の理解を支援するために、本発明の様々な特徴が、単一の実施形態、図、又はそれらの説明にまとめられることもあることを理解されたい。しかしながら、本開示の方法は、特許請求される発明が各々の請求項に明示的に列挙されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映するものと解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明態様は、単一の前述の開示される実施形態の全ての特徴に満たない。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、ここで、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別個の実施形態として独立している。
【0033】
更に、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが、他の特徴は含まれない一方で、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、当業者によって理解されるように、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のいずれも、任意の組み合わせで使用することができる。
【0034】
本発明のある特定の特徴又は態様を記載するときの特定の用語の使用が、その用語が関連付けられる本発明の特徴又は態様の任意の特定の特性を含むように制限されるように、その用語が本明細書で再定義されていることを暗示すると解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0035】
本明細書に提供される説明では、数多くの具体的な詳細が記載される。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの特定の詳細なしに実施され得ることが理解される。他の事例では、周知の方法、構造、及び技術は、この説明の理解を不明瞭にしないために詳細に示されていない。
【0036】
第1の態様では、本発明の実施形態は、原子プローブ断層撮影(atom probe tomography、APT)プロセス中に、先端を有する試料の視野領域内の三次元原子分布を決定するための方法に関する。本方法は、試料から原子を蒸発させ、それらが検出される検出器上にそれらを投影することを含む、蒸発プロセスを実施することを含む。
【0037】
本方法は、蒸発プロセスの第1の所定の段階に属するヒットマップを記録することを更に含む。ヒットマップは、検出器上の各検出された原子の衝突場所と、各検出された原子の飛行時間と、を含み、各原子の飛行時間は、試料中の原子の初期位置と原子が検出器に衝突する最終位置との間の移動時間として特定される。試料は、本明細書では基準原子と称される少なくとも1つの既知の原子の種類又は材料を含み、本明細書では標的原子と称される1つ又は2つ以上の未知の原子のタイプ又は材料を含むべきである。試料が主に例えばシリコンなどの第1の材料で作られており、第1の材料中の第2の材料の分布、例えばシリコンマトリックス中のドーパントの分布を知ることが望ましい場合、基準原子はシリコン原子であり、標的原子はドーパント原子である。
【0038】
本発明の実施形態では、蒸発プロセスの第1の所定の段階に属するヒットマップを記録することは、完全な蒸発プロセス中に完全なヒットマップを記録し、完全なヒットマップから、蒸発プロセスの第1の所定の段階中にのみ検出器に衝突した検出された原子を含む縮小したヒットマップを抽出することによって行われ得る。本発明の代替の実施形態では、蒸発プロセスの第1の所定の段階に属するヒットマップを記録することは、第1の所定の段階の外側の検出器上の全ての衝突を破棄し、蒸発プロセスの第1の所定の段階に関連するデータ(検出された原子の衝突場所及び飛行時間)のみを記憶することによって行われ得る。所定の段階は、先端の表面の時間の変化を分析するのに十分な検出された原子を含むべき蒸発プロセスの任意の連続期間とすることができる。
【0039】
本発明の実施形態による方法は、蒸発プロセスの第1の所定の段階のヒットマップを複数のゾーンで分割することを更に含む。
【0040】
所定の段階に属するヒットマップの各ゾーンについて、検出された原子が選択される。これらの検出された原子のうち、基準原子が既知であるため、基準原子の質量電荷比も既知である(基準質量電荷比)。標的原子の記録された飛行時間に基づいて、その質量電荷比は、基準質量電荷比を有する試料中の基準原子の記録された飛行時間の比較によって特定される。ヒットマップのゾーンの検出された原子の選択及び標的原子の質量電荷比の特定は、蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップの全てのゾーンについて繰り返される。質量電荷スペクトルは、特定された質量電荷比から構築され、特定された質量電荷比ごとに、蒸発プロセスの所定の段階中に検出された検出器上の原子の数を列挙する。質量電荷スペクトルは、ピークを有するグラフとして表され得る。ピークにおける最高カウントを有する質量電荷値は、このピークからの全ての原子の質量電荷値を表す。ピークにおける質量電荷値の偏差は、ピークによって表現される原子の飛行距離の変動を示す。
【0041】
本発明の実施形態による方法は、質量電荷スペクトルのピークにおける任意の要素の選択された原子の飛行距離を導出することを更に含み、各原子の飛行距離は、初期位置と最終位置との間の長さとして特定される。本方法は、選択された原子の発射角度を導出することを更に含み、各原子の発射角度は、検出器に垂直な頂点軸の直線と、先端表面に垂直であると仮定される原子の初期位置の点からの発射方向の延長線との間の角度として特定される。
【0042】
本方法は、選択された原子の導出された発射角度に基づいて、試料の第1の視野領域における先端の近似表面幾何学構造を推定することを更に含む。本方法は、試料の先端の実際の表面幾何学構造を測定することと、近似表面幾何学構造を実際の表面幾何学構造と一致させることと、を更に含む。本方法は、実際の表面幾何学構造と一致した近似表面幾何学構造に基づいて、検出された原子の第1の視野領域のサイズ及び位置を導出することを更に含む。
【0043】
次いで、本方法は、蒸発プロセスの第2の所定の段階に属するヒットマップを記録することを更に含む。蒸発プロセスの第1の所定の段階に属するヒットマップの記録と同様に、蒸発プロセスの第2の所定の段階に属するヒットマップの記録は、完全な蒸発プロセス中に完全なヒットマップを記録すること(蒸発プロセスの第1の所定の段階に属するヒットマップの記録に使用されたのと同じ完全なヒットマップ)と、完全なヒットマップから、蒸発プロセスの第2の所定の段階中にのみ検出器に衝突した検出された原子を含む縮小したヒットマップを抽出することと、含み得る。本発明の代替の実施形態では、蒸発プロセスの第2の所定の段階に属するヒットマップを記録することは、第2の所定の段階の外側の検出器上の全ての衝突を破棄し、蒸発プロセスの第2の所定の段階に関連するデータ(検出された原子の衝突場所及び飛行時間)のみを記憶することによって行われ得る。第2の所定の段階は、先端の表面の時間の変化を分析するのに十分な検出された原子を含む蒸発プロセスの任意の連続期間とすることができる。
【0044】
以下では、データの第1の所定の段階に対して実行される同様のステップが、データの第2の所定の段階に対して実施される。これらのステップは、第2の所定の段階のそれらの検出された原子の質量電荷比を特定することと、較正された質量電荷比スペクトル内の選択されたピークの飛行距離並びに発射角度を導出することと、を含む。
【0045】
検出された原子の第2の視野領域のサイズ及び位置は、実際の表面幾何学構造と一致した近似表面幾何学構造に基づいて導出され得る。
【0046】
本方法は、したがって、再構築体積を定義するために、第1の視野領域及び第2の視野領域によって囲まれた体積を決定することを更に含む。最後に、本方法は、再構築体積中の試料の三次元原子分布を再構築することを含む。
【0047】
例示として、それに限定されない実施形態、本発明による例示的な実施形態の更なる標準及び任意選択の特徴が、図面を参照して説明される。
【0048】
図1には、本発明の実施形態による試料の三次元原子分布を決定するための方法100が示されている。方法100は、試料から原子を蒸発させ、それらが検出される検出器205上にそれらを投影すること101を含む、蒸発プロセスを実施することを含む。蒸発プロセス200の一例が、
図2に示されている(縮尺通りではない)。蒸発プロセス200は、試料ホルダ202に取り付けられた試料201を取得することと、試料201をチャンバ、例えば真空チャンバ203内に配置することと、を含む。試料201は、それが十分に鋭利である先端204を有するように、例えば、その先端は、50nm未満の半径を有するように鋭利化される。先端204は、頂点の上面位置に点C1を有する。先端204は、蒸発プロセスの前、蒸発プロセス中、又は蒸発プロセスの後の任意の時点で、対称又は非対称であり得る。
【0049】
真空チャンバ203は、センサ表面上の二次元の衝突粒子の位置を測定することができる、位置感知検出器205、例えば、イオン検出器を更に含む。イオン検出器205は、その中心位置に中心点C2を有する幾何学的形状を有する。イオン検出器205は、例えば、円形状、矩形状、又は任意の他の好適な幾何学的形状を有し得る。イオン検出器205は、少なくとも50%、例えば50%~70%の検出効率を有し、これは、検出器に到達するイオンの50%~70%のみが記録されることを意味する。試料201は、頂点C1と中心点C2が距離Dだけ離れるように、真空チャンバ203内に位置付けられる。頂点C1及び中心点C2は、いずれも先端204に実質的に直交する頂点C1を通過し、かつ検出器205に実質的に直交する中心点C2を通過する直線上に位置するように整列される。理想的な条件では、C1及びC2の位置の偏差は、非常に小さく、例えば、数マイクロメートル未満、好ましくは10分の数マイクロメートル未満でなければならない。しかしながら、実際のケースでは、数ミリメートルの偏差が可能である。
【0050】
蒸発プロセスを実施することは、試料と検出器205との間に、原子結合を破壊する閾値に近い電圧バイアスを印加することを含み、任意選択で、重ね合わされたレーザパルス列が試料に衝突する。
図2に示された一例では、電圧バイアス206は、試料ホルダ202と検出器205との間に印加される。試料ホルダ202は、例えば、導電性ホルダに取り付けられたタングステンワイヤで作られており、その導電性ホルダは、支持されたタングステンワイヤ及び先端よりも低い電気抵抗を有する。印加される電圧バイアス206は、例えば、2~10kVであり得る。電圧バイアスは、例えば10V/nm以上の強さで、試料と検出器との間に電界を生成する。試料201の先端204に衝突するレーザパルス列207は、試料201の頂点の原子が蒸発のエネルギー障壁を克服するのを助ける熱エネルギーの補足として導入され得る。レーザパルス列207のレーザパルスは、例えば、1~300kHz以上のパルス周波数を有し得る。レーザ光源によって生成されたレーザパルス列207のレーザパルスの波長は、例えば、IRレーザの場合は1030nm、緑色レーザの場合は515nm、UVレーザ又は異なる波長の他のレーザ光源の場合は343nmなど、300nm~12000nmであり得る。電圧バイアス206によって引き起こされる電界の強さは、試料201中の原子の原子結合を破壊する閾値に十分に近くなければならない。したがって、電圧バイアス206に十分に高い強さのレーザパルス列207でのレーザパルスが重ね合わされると、試料201内の原子の原子結合が破壊され、試料201からの原子が蒸発する。
【0051】
試料201から原子を蒸発させる間に、原子はイオン化されてイオン化原子となり、先端204から分離され、先端204と検出器205との間の電界分布に従って検出器205に向かって加速される。例えば、電圧バイアス206を印加する間、レーザパルス列207の1つのレーザパルスが、試料201内の1つの原子を蒸発させ得、又はレーザパルス列207の1つのレーザパルスが、試料201内の複数の原子を蒸発させ得、又はレーザパルス列207内の複数のレーザパルスが、試料201内の1つの原子を蒸発させ得る。同じパルスで検出器205に同時に衝突する2つの信号を回避し、実験にあまりにも多くの時間を費やすことを回避するために、蒸発フラックスは、複数のレーザパルスが1つの単一原子を蒸発させる条件に調整されることが好ましい。
【0052】
電圧バイアス206の印加がない場合、レーザパルス列207のレーザパルスだけでは、試料201内の原子を蒸発させることはない。レーザパルス列207のレーザパルスがない場合、電圧バイアス206の単独の印加では、試料201内の原子の蒸発に至らない。
【0053】
分析される試料201は、既知の基準原子タイプの原子、及び1つ以上の未知の標的原子タイプの原子を含む。APTユーザは、通常、測定された試料の主要な要素についての事前の知識を有し、したがって、基準原子タイプである。基準原子タイプ210は、試料201内に第1の原子数を有する。標的原子タイプ211は、試料201内に第2の原子数を有する。
【0054】
蒸発した原子は、イオン検出器205に衝突し得、例えば、蒸発した原子は、イオン検出器205上にその衝突点、例えば、第1の衝突点208を有し得る。蒸発した原子の衝突点がイオン検出器205上、例えば第1の衝突点208上にある場合、原子は視野内にあると言える。あるいは、蒸発した原子は、イオン検出器205に衝突しなくてもよく、例えば、蒸発した原子は、イオン検出器205から外れたその衝突点、例えば、第2の衝突点209を有してもよい。蒸発した原子の衝突点がイオン検出器205、例えば第2の衝突点209から外れている場合、原子は視野外にあると言える。
【0055】
方法100は、蒸発プロセスの第1の所定の段階に属するヒットマップ、例えば、蒸発プロセスの最後の所定の秒数、例えば、最後の180秒に属するヒットマップ、又は検出器205によって検出されている最後の所定の原子数、例えば、最後の100,000個の原子に属するヒットマップを記録すること102を更に含む。ヒットマップは、検出器205上の各検出された原子の衝突場所と、検出された原子の各々の関連する飛行時間と、を含む。各蒸発した原子の飛行時間は、例えば、レーザパルス列207のパルスに起因して、イオン化原子が先端204から分離されたとき(先端上の原子の初期位置)とイオン化原子がイオン検出器205に衝突したとき(検出器上の最終位置)との間の移動時間として特定される。蒸発プロセスの連続期間は、
図3の300で示されているヒットマップに図示されているように、分析のために十分に検出された原子103の範囲内の所定の段階として定義される。
【0056】
本発明の実施形態では、蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップ300を記録することは、蒸発プロセス中に検出器上の各検出された原子の衝突場所と、検出された原子の各々についての関連する飛行時間とを含む、蒸発プロセスの完全なヒットマップを記録することと、検出器に衝突したかつ蒸発プロセスの所定の段階に属する原子の衝突場所及び関連する飛行時間のみを含む、縮小したヒットマップを完全なヒットマップから抽出することと、を含み得る。
【0057】
本方法は、蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップ300を複数のゾーンで分割することを更に含む。ヒットマップ300は、例えば、ゾーン301、302の規則的なアレイに、所定の寸法、例えば、それぞれ0.2cm×0.2cm~0.5cm×0.5cmの寸法を有する矩形ゾーンに分割され得る。しかしながら、これは本発明を限定するものではない。ヒットマップ300は、ゾーン301の規則的又は不規則なアレイに分割され得る。ゾーン301は、全てが同じ寸法を有していても、有していなくてもよい。ゾーンは、長方形又は正方形の形状を有し得るか、又は任意の他の好適な幾何学構造であり得る。ヒットマップ300をゾーン301に分割した後、各ゾーンは、他のゾーンとは別個に分析される。
【0058】
蒸発した原子は、検出器205上で順次検出され、特定のゾーン301内の検出器に衝突した蒸発プロセスの所定の段階に属する原子は、選択された原子に対応する表面幾何学構造を導出するために選択される103。単なる例として、本発明はそれに限定されないが、最後の100,000個の検出された原子は、第1の所定の段階に属する第1の視野領域の表面、例えば、蒸発プロセス後の表面を導出するために選択され得る103。
【0059】
飛行時間は、ヒットマップ300に、蒸発プロセスの所定の段階の検出された原子ごとに記録されるため、同じ飛行時間又は所定の誤差範囲内の同じ飛行時間を有するゾーン302で検出された原子の数をカウントすることができる。ヒットマップ300の第1のゾーン302で検出された原子の異なる飛行時間の例示的なグラフ400を
図4に示す。飛行時間は横軸(ナノ秒で表される)上に描画され、それに対する衝突点の数が縦軸(対数スケール)上に描画されている。統計結果は、飛行時間ビンのいくつかのピークを示している。全ての飛行時間ビンは、検出される特定のタイプの原子に対応する。異なるタイプの原子の衝突点の数は、試料201内の異なるタイプの原子のいくつかの原子の存在に対応する。典型的には、試料は、標的原子タイプの原子の数よりも実質的に高い原子の数を有する基準原子タイプを有する。したがって、例えば、飛行時間が約450nsで示される例では、最も高いピーク403が、試料201内の基準原子タイプ210に属すると推定することが可能である。他のピーク、例えば、例えば、飛行時間が320ns前後で示される例では、第2の最も高いピーク404は、試料201内の標的原子タイプ211に属する。
【0060】
方法100は、原子の記録された飛行時間に基づいて、記録された飛行時間と基準原子
【数1】
の記録された飛行時間との比較によって、標的原子の質量電荷比を特定すること104を更に含む。特に、試料201内
【数2】
の標的原子タイプの原子の質量電荷比に注目する。特定は、試料201内の標的原子タイプ211の原子の飛行時間tof
2(したがって、2番目に高いピーク404の例で示される)と、基準質量電荷比を有する、試料201内の基準原子タイプ210の原子の飛行時間tof
1(したがって、最も高いピーク403の例で示される)とを比較することによって行われる
【数3】
。
標的原子タイプ211は、例えば、二重電荷シリコン28
2+、又は例えば、ホウ素のようなドーパント原子であり得る。基準原子タイプ210は、例えば、単一荷電シリコン28
+であり得る。
【0061】
試料201内の標的原子型211の標的飛行時間tof
2と、試料201内の基準原子型210の基準飛行時間tof
1とは、第1の式及び第2の式により、以下のように記述される。
【数4】
式中、L
2は、試料201内の標的原子タイプ211に対応する標的飛行時間であり、L
1は、試料201内の基準原子タイプ210に対応する基準飛行時間であり、eは、元素電荷であり、V
2は、試料201内の標的原子タイプ211の原子を蒸発させるために印加される電圧バイアス206であり、V
1は、試料201内の基準原子タイプ210の原子を蒸発させるために印加される電圧バイアス206である。試料201内の標的原子タイプ211の標的質量電荷比
【数5】
の第1の式及び第2の式を解くために、仮定がなされる。その仮定では、試料201の先端204は、標的飛行距離及び基準飛行距離よりも少なくとも5桁小さいサイズであるため、ゾーン内の検出された原子は同じ点から飛び出すものとする。更に、例示的なグラフ400の基準原子タイプ210の原子及び標的原子タイプ211の原子は全て、同じゾーン、例えば、第1のゾーン302に対応する。したがって、標的飛行時間及び基準飛行時間の同じゾーンへの偏差は無視することができ、したがって、L
1及びL
2は等しいものとする。上記の仮定に基づいて、試料201内の標的原子タイプ211
【数6】
の標的質量電荷比の第1の式及び第2の式を解くと、以下の第3の式が得られる。
【数7】
【0062】
第3の式は、試料201内の標的原子タイプ211
【数8】
の標的質量電荷比である未知の1つのみを含む。したがって、標的質量電荷比を計算する
【数9】
ことができる。
【0063】
同じ式を適用して、ヒットマップ300の選択された第1のゾーン302から飛行時間グラフ400の他のピークの原子の質量電荷比を取得してもよい。
【0064】
同じアルゴリズムが、全てのゾーンが分析されるまで、ヒットマップ300の他のゾーンに継続的に適用される。蒸発プロセスの第1の所定の段階に属する選択された全ての原子、例えば、最後の100,00個の検出された原子の較正された質量電荷比は、
図5のように、ヒットマップ300の全てのゾーンについて、縦軸(対数スケール)を試料201内の異なるタイプの原子の各々の原子の数の関数として、較正された質量電荷スペクトルグラフ500の横軸にプロットされ得る。
図5において、最も高いピーク503は、
図4の最も高いピーク403に対応し、これは、基準原子タイプ210に対応し、第2の最も高いピーク504は、
図4の2番目に高いピーク404に対応し、これは、標的原子タイプ211に対応する。
【0065】
方法100は、質量電荷スペクトル500のピークにおける任意の要素の選択された原子の飛行距離を導出すること105を更に含む。較正された質量スペクトルでは、
図5において、ピークにおける最高カウントを有するm/n比は、このピークからの全ての原子の質量電荷比を表す。ピークにおけるm/n比の偏差は、飛行時間の変動を示す。したがって、ユーザは、ピークのうちのいずれか1つを範囲とし、次の式(第2の式に対応する)を使用して、このピークにおける原子の飛行時間を計算することができる。
m/n=2eV.(tof/L)
2
式中、eは、元素電荷を表し、Vは、印加電圧を表し、Lは、飛び出し位置から検出器上の衝突場所までの飛行距離を表し、tofは、対応する飛行時間を表す。例えば、代表的なm/n値が28.1であるピーク503を選択し、ピークにおける各原子の飛行距離を算出してもよい。
【0066】
更に、ヒットマップ300と組み合わせて、
図5の較正された質量電荷間グラフ500を使用して、試料201内の任意のタイプの原子の部分的ヒットマップ、すなわち、質量電荷スペクトルグラフ500内の1つのピークの原子の部分的ヒットマップ、例えば、基準原子タイプ211の最高ピーク503の
図6の部分的ヒットマップ600を抽出することができる。
【0067】
方法100は、選択された原子の発射角度を導出すること106を更に含む。APTの先端のサイズは、前述のように飛行距離よりも少なくとも5桁小さいため、全ての蒸発した原子は、同じ点から飛び出すと仮定することができる。
図7は、発射角度θの原点aから飛び出し、衝突場所bの検出器に到達する原子の実際の飛行経路701を示している。導出された飛行距離Lは、原子の実際の軌道を正確に描写するには不十分であり、これは正しい発射角度θを導出することが困難であることを意味する。
【0068】
したがって、本発明の実施形態の目的は、試料201から蒸発した原子の推定飛行経路702(破線)の推定発射角度αを導出することである。前述したように、蒸発した原子の初期位置は、先端204上の点aであり、原子の最終位置は、検出器205上の点bであるとする。理想的な条件では、点aは、検出器205の中心点C2を通過する直線上にあり、実質的に検出器表面に直交しているか、又は直交している。この例の実際のケースでは、頂点の表面上の原子が検出器にまっすぐ飛ぶという仮定に基づいて、点aは、部分的ヒットマップ600に示されるように、検出器205上の、最短飛行距離を有する位置C3を通過する直線上に画定される。点C3と比較したときの理想的な点C2の位置の偏差は、非常に小さく、例えば、数ミリメートル未満である。
【0069】
静電シミュレーションから電界を計算すると、電界が先端204の頂点付近で激しく変化し、所定の距離の後、電界の変動が減少することが明らかになる。飛行距離及び発射角度を導出すること106は、試料から所定の距離dfieldまでの、原子の実際の飛行経路に沿った接線方向が著しく変化する高磁場勾配領域における第1の飛行投影と、所定の距離を超えて検出器(205)までの、飛行経路が直線飛行と想定される低磁場勾配領域における第2の飛行投影と、を想定することによって行われ得る。
【0070】
このことは、
図7に示されている。実際の飛行経路701に沿った接線方向は、画定された所定の距離d
field内の高磁場勾配領域における第1の飛行投影において著しく変化するものとし、それを超える経路は、検出器に向かって直線飛行するものとする。この仮定により、実際の軌道701は、推定飛行経路702を形成する2つの直線703、705によって単純に適合され得、遷移点Pは、飛び出し位置aからのd
fieldの距離上にあり、ここで、2つの直線の合計距離は、原子について以前に導き出された実際の飛行距離に等しい。次いで、頂点軸と遷移点への方向との間の結果として生じる角度αは、実際の発射角度θの近似として使用することができる。距離d
fieldは一定値であり、全ての原子の発射角度を導出するために適用される。
【0071】
方法100は、選択された原子の導出された発射角度に基づいて、
図8に示されるように、試料201の第1の視野領域における先端204の近似表面幾何学構造を推定すること107を更に含む。推定すること107について、検出された全ての原子の先端表面上の理想的な飛び出し位置を見出す必要がある。
【0072】
初めに、頂点軸は、先端の頂点位置で点C1を通過し、先端表面に実質的に直交する、又は好ましくは直交する直線が、検出器205上の最短飛行距離を有する点C3を通過し、検出器表面に実質的に直交する、又は好ましくは直交するように整列される。
図8は、実際の飛行経路701と実際の発射角度θとを有する、先端204の表面上の実際の点APから飛び出す原子を示している。原子の初期方向は先端表面に対して鉛直であり、原子は衝突場所208で検出器205上に着陸する。先端204は、実際の半径AR及び実際の原点AOを有する実際の球体801(例えば、実線によって示される)によって近似することができ、実際の球体801は、先端204の頂点C1を通過する。実際の発射角度θは、先端204に直交し、かつ実際の点AP及び実際の原点AOを通過する直線と、頂点C1を通過して先端204に実質的に直交し、かつ最短飛行距離を有してイオン検出器205に実質的に直交する点C3を通過する直線との間にある。
【0073】
推定すること107は、第1の基準半径FR及び頂点軸上にある第1の基準原点FOを有する第1の基準球体802(例えば、
図8の破線によって示される)を仮定することから始まり、第1の基準球体802は、先端204の頂点C1を通過する。第1の基準原点FOの場所は、最短飛行距離及び第1の基準半径FRの合計に等しい距離を有する頂点軸上で画定される。第1の基準点FPは、第1の基準球体802と、第1の基準原点FOから検出器205上の衝突点208までの直線との間の交差点に、その直線と頂点軸との間の直線角度γを有して配置される。
【0074】
実際の発射角度θは、飛行距離から導出される角度αによって近似されるため、飛行距離から導出される発射角度αが直線角度γよりも大きい場合、第1の基準球体802の第1の基準半径FRは、先端204の頂点C1を更に通過し、かつ先端軸上に第2の基準原点SOを有する第2の基準球体804の第2の基準半径SR(例えば、点線によって示される)へのスケーリングプロセスでスケーリングされる。第2の基準点SPは、直線飛行経路803の線と第2の基準球体との間の交差点として定義される。第2の基準点SPから衝突点208までの湾曲飛行経路805を想定する。スケーリング中、球体の端部は、先端軸に沿って原点FOをSOにシフトさせ、基準点FPをSPに移動させることによって点C1に整列したままであり、γからγ’への発射角度の増加を引き起こす。スケーリングプロセスは、発射角度γ’が以前に導出された発射角度αと一致するまで継続される。
【0075】
スケーリングプロセスが継続しており、かつスケーリングプロセスの終わりに1つ以上の更なる基準点につながった場合、基準点、例えば、第1の基準点FP又は第2の基準点SP又は更なる基準点の位置は、先端表面上の原子の可能な飛び出し位置と見なされる。推定107プロセス及びスケーリングプロセスは、蒸発した全ての原子に対して実行される。最後に、基準点の分布は、近似表面幾何学構造を形成する。
【0076】
方法100は、試料201の先端204の実際の表面幾何学構造を測定すること108を更に含む。測定は、例えば、原子間力顕微鏡法(AFM)、走査プローブ顕微鏡法、透過電子顕微鏡法(TEM)、タイコグラフィ、又は任意の他の好適な測定技術によって行われ得る。AFMを使用して測定された先端の三次元表面の例を
図9に示す。
【0077】
本方法は、試料201の先端204の実際の表面幾何学構造に近似表面幾何学構造を一致させること109を更に含む。一致させることは、
図10に示される一連のステップにおいて、粗面一致プロセス、続いて非標準反復最接近点(iterative closest point、ICP)法によって行われ得る。ICP法は、任意の他の好適な方法によって置き換えることができる。本ケースでは、一致させることは、推定ステップ107におけるAPTデータから導出される近似表面幾何学構造を表す第1の散乱点グループ、及び例えばAFMによって測定される、ステップ108からの実際の表面幾何学構造を表す第2の点グループについて行われる。一致させること109は、1001個の表面メッシュを作成することから始まる。その後、粗い表面一致1002は、第1の散乱点グループ及び第2の散乱点グループの作成され1001平滑化され、かつメッシュ化された表面と一致させる。一致させること1002は、第1の点グループが第2の点グループの実際の表面と一致するように、第1の点グループをすなわち初期整列にシフトすべき位置の初期推測と、第1の点グループが第2の点グループの実際の表面と一致するように、スケーリングされるべきサイズと、を提供する。一致させること109は、1002における初期推測に基づいて、第1の点グループをシフト及びスケーリングすること1003を更に含む。スケーリングは、重み付け機能を使用して行われる。第1の点グループのシフトされかつスケーリングされたデータは、第1の重心を有し、第2の点グループは、第2の重心を有する。ICPは、第1の重心を第2の重心に、又は第2の重心を第1の重心に、反復して整列させることを含む。更に、ICPは、2つの点グループ間の最小距離が見出されるまで、反復での2つの点グループの細かい一致1004、例えば、近似表面幾何学構造のデータの実際の表面幾何学構造のデータへの細かい一致を含む。一般的に、又はICPでは、全ての方向にデータ点を回転させることが許されている。しかしながら、本発明の実施形態に従えば、導出された先端形状及びSPM測定された先端の頂点軸は、レーザが来る方向と同様に整列されるため、回転は無効にされ得る。表面幾何学構造のサイズをスケーリングするための重み付け関数が追加される。更新された第1の点グループ及び第2の点グループは、各反復の後に記録され、第2の点グループの点のうち、第1の点グループ内の各点への最も近い点、又は反対の点が特定される。ICP法では、第1の点グループ及び第2の点グループの両方にあるレベルの精度が要求される。ここでは、第1の点グループが第2の点グループに一致するとするが、逆もまた可能である。2つのデータグループの一致した領域は、蒸発プロセスの第1の所定の段階に属する第1の視野領域、例えば、最後の100,000個の検出された原子を画定する110。
【0078】
再構築される体積を決定する111ために、蒸発プロセスの第2の所定の段階に属するヒットマップが必要とされ102、例えば、そのように記録されるか、又は蒸発プロセスの第1の所定の段階に属するヒットマップを記録することについて上述したように、完全なヒットマップから抽出される。したがって、他の検出された原子は、第2のFOV領域を画定するために、蒸発プロセスの第2の所定の段階に属して選択される103。単なる一例として、本発明は、これに限定されず、第1のFOV領域の表面は、蒸発プロセスの終わりの表面であってもよく、第2のFOV領域の表面は、蒸発プロセスの開始時の表面であってもよい。第2のFOV領域の表面を画定するために、検出された原子の別のグループ、例えば、最初の100,000個の検出された原子が選択され102、方法100のステップ103~110が繰り返される。更なる詳細な説明はここにて省略され、第1の視野領域を決定することに関する上記の説明を参照されたい。
【0079】
続いて、2つの決定されたFOV領域によって、例えば第1の視野領域及び第2の視野領域によって囲まれた領域は、再構築される体積、更には再構築体積と呼ばれる体積を決定する111。第2のFOV領域の表面に対応する検出された原子の数、及び第1のFOV領域の表面に対応する検出された原子の数は、同じであっても、同じでなくてもよい。
【0080】
方法100は、試料201の先端204の視野の三次元原子分布を再構築すること112を更に含む。再構築すること112は、再構築体積にわたって行われ、再構築体積は、理想的には、111におけるFOV表面の囲まれた領域とまったく同じ形状及び体積を有するべきである。再構築すること112は、検出器205上で検出された原子を、試料201の先端204上のそれらの初期位置に戻すことを含み得る。これは、完了のパーセンテージを使用して、原子を配置しなければならない発達する表面の表面幾何学構造及び再構築高さを決定し、検出器上の場所と先端表面との間の1対1の相関を使用して、再構築される各原子の空間位置、例えば、各検出された原子の先端表面上の発射位置を決定することで行われる。完了のパーセンテージは、再構築された体積の視野の全体積に対するパーセンテージであり、クエリされた原子が配置される先端表面の再構築高さを画定するために時間内に利用される再構築の完了を評価するために導入される。中間表面の発達する表面幾何学構造は、第1のFOV領域と第2のFOV領域との間で直線的に補間することができ、又は代替的に、蒸発プロセスの異なる段階について、方法ステップ102~110を繰り返すことができる。軌道とも呼ばれる推定飛行経路によれば、発射角度を導出する間の検出器表面をいくつかのゾーンに分割することができ、検出器上の各ゾーンを先端表面上の対応する表面に登録することができる。軌道は原子質量と原子の電荷状態とは無関係であるため、この1対1の相関は、検出された原子の全ての異なる要素について持続する。したがって、発射位置の空間位置も画定することができる。
【0081】
再構築された体積1100の例を
図11に示す。再構築された体積1100は、第1の視野領域1101及び第2の視野領域1102によって囲まれる。第1の視野領域1101は、例えば、0パーセントの再構築の完了のパーセンテージに対応する、APTプロセスが終了する第1の時点における視野領域であり得る。第2の視野領域1102は、100パーセントの再構築の完了のパーセンテージに対応する、APTプロセスが開始する第2の時点における視野領域である。蒸発プロセスの最終段階は、蒸発1103の順序を反転させることによって最終FOVの表面から再構築が開始されるため、すなわち、最後に検出された原子が最初に再構築されるため、再構築の完了は0パーセンテージに設定される。再構築された総体積は、検出された原子及び欠落した原子の体積を含み、これは、検出器205の検出効率に依存する。レーザの検出効率及びパルス周波数は既知のパラメータであるため、検出された原子間の必要なパルスに従って、パルス間の再構築された体積を計算することができる。これにより、各原子を再構築しながら、時間内の完了のパーセンテージを計算することが可能となる。したがって、各原子が検出されたときの対応するパルスにおける再構築高さ及び発達する表面幾何学構造を導出することができる。例えば、原子が位置1105から飛び出し、検出器上の位置1106に到達した再構築高さ及び中間表面1104が導出される。抽出された表面1104の原子の軌道1107に基づいて、検出器表面は複数のゾーンに分割され、各ゾーン、例えば、検出器上のゾーン1108は、先端表面上のゾーン1109に登録することができる。したがって、位置1106における検出された原子の飛び出し位置1105を再構築することができる。
【0082】
更なる態様では、本発明は、上述の方法の実施形態の異なる方法ステップを実行するために適合された処理システムにも関係する。それらの異なるステップは、処理システム内でハードウェア又はソフトウェアとして実装され得る。そのような処理システムは、少なくとも1つの形態のメモリ、例えば、RAM、ROMなどを含むメモリサブシステムに結合された少なくとも1つのプログラム可能なプロセッサを含み得る。少なくとも1つのディスクドライブ及び/又はCD-ROMドライブ及び/又はDVDドライブを有するストレージサブシステムが含まれ得る。いくつかの実装形態では、ディスプレイシステム、キーボード、及びポインティングデバイスが、ユーザインターフェースサブシステムの一部として含まれて、ユーザが手動で情報を入力することを提供し得る。データを入力及び出力するためのポートも含まれてもよい。ネットワーク接続、様々なデバイスへのインターフェースなどのより多くの要素が含まれてもよい。処理システムの様々な要素は、バスサブシステムを介することを含む、様々な方法で結合され得る。メモリサブシステムのメモリは、処理システム上で実行されたときに本発明の方法の実施形態のステップを実装する命令のセットの一部又は全部をある時点で保持し得る。したがって、処理システム自体は従来技術であるが、本発明の態様を実装するための命令を含むシステムは、従来技術ではない。
【0083】
本発明の特定の実施形態は、原子プローブ断層撮影プロセス200中の試料201の視野領域の三次元原子分布を決定するためのシステムに関し、試料201から原子を蒸発させ、それらを検出器205上に投影するための手段206、207であって、検出器205が、各原子の衝突場所及び飛行時間を含むヒットマップを記録するように適合されてある、手段206、207と、本発明の第1の態様の実施形態の方法を実施するように構成されたコントローラと、を含む。システムは、方法のステップを自動的に実行するように構成されている。かかる自動タスクは、例えば、グラフィカルに表示されたボタンをクリックすることによって、ユーザがシステムにそうするように命令した後に実行され得る。
【0084】
本発明はまた、コンピューティングデバイス上で実行されるときに、本発明による方法の実施形態のいずれかの機能性を提供するコンピュータプログラム製品を含む。更に、本発明の実施形態は、コンピュータ製品を機械可読形式で記憶し、コンピューティングデバイス上で実行されるときに本発明の方法の少なくとも1つを実行する、例えば、光学記憶媒体若しくはソリッドステート媒体、CD-ROM、DVD-ROM、又はディスケットなどのデータキャリアを含む。今日では、そのようなソフトウェアは、しばしばインターネット又は会社のイントラネット上でダウンロードのために提供され、したがって、本発明は、ローカル又はワイドエリアネットワークを介して本発明に従うコンピュータ製品を送信することを含む。
【0085】
本発明が図面及び上記の説明において詳細に図示及び説明されてきたが、そのような図示及び説明は、限定的ではなく説明的又は例示的と見なされるものである。前述の説明は、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明している。しかしながら、前述がどんなに詳細に記載されても、本発明は、多くの方法で実践され得ることが理解されよう。本発明は、開示される実施形態に限定されない。本開示の実施形態に対する他の変形例は、図面、本開示、及び添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求された発明を実施する当業者によって理解され、実施され得る。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子プローブ断層撮影プロセス中に、先端を有する試料(201)の三次元原子分布を決定するための方法(100)であって、
(i)前記試料(201)から原子を蒸発させること(101)と、前記原子が検出される検出器(205)上に前記原子を投影することと、を含む蒸発プロセスを実施するステップであって、前記検出された原子が基準原子及び標的原子を含む、実施するステップと、
(ii)前記検出器(205)上の各検出された原子の衝突位置と、各検出された原子の飛行時間と、を含む、前記蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップ(300)を記録するステップ(102)と、
(iii)前記ヒットマップ(300)を複数のゾーンに分割するステップと、
(iv)前記ヒットマップ(300)のゾーン内の前記検出された原子を選択するステップ(103)と、
(v)前記基準原子の前記記録された飛行時間に基づいて、前記基準原子の前記記録された飛行時間の比較によって、前記標的原子の質量電荷比を特定するステップ(104)と、
(vi)質量電荷スペクトル(500)を構築するために、前記ヒットマップの全てのゾーンについてステップ(iv)及び(v)を繰り返すステップと、
(vii)前記質量電荷スペクトルのピークにおける任意の元素の選択された原子の飛行距離を導出するステップ(105)と、
(viii)前記選択された原子の発射角度(α)を導出するステップ(106)と、
(ix)前記選択された原子の前記導出された発射角度に基づいて、前記試料の第1の視野領域における前記先端の近似表面幾何学構造を推定するステップ(107)と、
(x)前記試料の前記先端の実際の表面幾何学構造を測定するステップ(108)と、
(xi)前記近似表面幾何学構造を前記実際の表面幾何学構造に一致させるステップ(109)と、
(xii)前記実際の表面幾何学構造と一致した前記近似表面幾何学構造に基づいて、前記検出された原子の第1の視野領域のサイズ及び位置を導出するステップ(110)と、
(xiii)前記蒸発プロセスの別の所定の段階に属するヒットマップを記録し、ステップ(iii)~(xi)を繰り返し、かつ前記実際の表面幾何学構造と一致した前記近似表面幾何学構造に基づいて、前記検出された原子の第2の視野領域のサイズ及び位置を導出するステップ(110)と、
(xiv)再構築体積を定義するために、前記第1の視野領域及び前記第2の視野領域によって囲まれた体積を決定するステップ(111)と、
(xv)前記試料の前記再構築体積中の検出された原子の前記三次元原子分布を再構築するステップ(112)と、を含む、方法(100)。
【請求項2】
前記蒸発プロセスの所定の段階に属するヒットマップ(300)を記録するステップ(102)が、前記蒸発プロセスの完全なヒットマップを記録することと、前記完全なヒットマップから、前記蒸発プロセスの前記所定の段階のみに属する縮小したヒットマップ(300)を抽出することと、を含む、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
検出された原子の前記三次元原子分布を再構築するステップ(112)が、原子を前記先端の表面に戻すことと、前記表面幾何学構造及び上に前記原子を配置しなければならない発達する表面の高さを決定するために完成度のパーセンテージを使用することと、再構築される前記原子の空間位置を決定するために前記検出器上の場所と前記先端表面との間の1対1の相関を使用することと、を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項4】
前記検出器上の場所と前記先端表面との間の1対1の相関を使用することが、発射角度を導出する間の近似軌道に基づいている、請求項3に記載の方法(100)。
【請求項5】
前記ヒットマップを複数のゾーンに分割するステップが、前記ヒットマップを好適な形状で、ピクセルで分割することを含む、請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項6】
前記選択された原子の前記飛行距離を導出するステップ(105)が、ゾーン内で検出された前記原子が前記試料上の同じ点から飛び出し、かつ同じ飛行経路を有することを想定することを含む、請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項7】
前記飛行距離及び前記発射角度を導出するステップ(105及び106)が、前記試料から所定の距離(d
field)までの、前記原子の実飛行経路に沿った接線方向が著しく変化する高磁場勾配領域における第1の飛行投影と、前記所定の距離を超えて前記検出器(205)までの、前記飛行経路が直線飛行と想定される低磁場勾配領域における第2の飛行投影と、を想定することによって行われる、請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項8】
前記試料の視野領域における前記先端の前記近似表面幾何学構造を推定するステップ(107)が、任意の球体の表面と前記球体の原点から前記検出された位置までの直線との交点におけるいくつかの基準位置を事前定義することと、それらの基準位置を、前記視野領域を形成する新しい位置に最適化することと、を含む、請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項9】
前記基準位置を最適化することが、前記導出された発射角度を保持することによって、前記球体の表面距離又は半径のいずれかを変更することを含む、請求項8に記載の方法(100)。
【請求項10】
前記試料の前記先端の前記実際の表面幾何学構造を測定するステップ(108)が、走査プローブ顕微鏡法、透過電子顕微鏡法、又はタイコグラフィのいずれかを使用することによって行われる、請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項11】
前記近似表面幾何学構造を前記実際の表面幾何学構造に一致させるステップ(109)が、前記近似表面幾何学構造が前記実際の表面幾何学構造に事前整列され、前記表面幾何学構造のサイズをスケーリングするための重み付け関数が追加される、反復最接近点(ICP)法を使用することを含む、請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項12】
前記近似表面幾何学構造を前記実際の表面幾何学構造に前記一致させるステップ(109)が、
-表面メッシュを作成すること(1001)と、
-整列のための位置の初期推測を提供するために前記近似表面幾何学構造と前記実際の表面幾何学構造との粗い一致(1002)と、
-前記初期推測に基づいて、前記近似表面幾何学構造のデータをシフト及びスケーリングすること(1003)と、
-前記近似表面幾何学構造の前記データの前記実際の表面幾何学構造のデータへの細かい一致(1004)と、を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
原子プローブ断層撮影プロセス中の試料の視野領域の三次元原子分布を決定するためのシステムであって、
-試料から原子を蒸発させ、前記原子を検出器に投影するための手段と、
-各原子の衝突場所及び飛行時間を含むヒットマップを記録するための検出器と、
-先行請求項のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されたコントローラと、を備える、システム。
【請求項14】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコントローラによって実行されるときに、前記コントローラに、請求項1に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラムを記憶したコンピュータ可読記憶媒体。
【国際調査報告】