(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-18
(54)【発明の名称】撥水剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20230810BHJP
B27K 3/02 20060101ALI20230810BHJP
B27K 3/32 20060101ALI20230810BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20230810BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230810BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230810BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C09K3/18 101
B27K3/02 D
B27K3/32
C09D1/00
B05D7/24 303B
B05D7/24 301E
B05D5/00 Z
B05D7/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506196
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2021070897
(87)【国際公開番号】W WO2022023288
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523031057
【氏名又は名称】エナジェニックス ヨーロッパ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】シュ,インチェン
(72)【発明者】
【氏名】アットフィールド,マイク
(72)【発明者】
【氏名】チョードリー,リアズ
【テーマコード(参考)】
2B230
4D075
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
木材等の有機多孔質基板の撥水性を高める方法が提供される。当該方法は、液体キャリアにおける無機ナノ粒子の分散系を基板の表面に塗布するステップを含む。液体キャリアは、室温で実質的に完全に蒸発するように選択される。例えば、液体キャリアの少なくとも95%が室温で、好ましくは基板表面への塗布後24時間以内に蒸発することになるように、液体キャリアを選択することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機多孔質基板の撥水性を高める方法であって、液体キャリアにおける無機ナノ粒子の分散系を前記基板の表面に塗布するステップを含み、前記液体キャリアは、前記基板の表面に塗布された後、室温で実質的に完全に蒸発するように選択される、方法。
【請求項2】
前記無機ナノ粒子は酸化セリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記無機ナノ粒子は酸化セリウムのみを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体キャリアは水性キャリアである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分散系のpHが、1から10、好ましくは2から9、より好ましくは2.5から8、最も好ましくは3から7である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、1~500nm、好ましくは1~100nm、より好ましくは1~50nm、最も好ましくは2~30nmの範囲のサイズを有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記分散系における前記ナノ粒子の固形分が、0.1から20重量%、好ましくは0.2から10重量%、最も好ましくは0.4から5重量%である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ナノ粒子の乾燥塗布重量が、0.1g/sqmから20g/sqm、好ましくは0.3g/sqmから10g/sqm、最も好ましくは0.5g/sqmから5g/sqmである、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記有機多孔質基板は、木材、加工木材、木質材料、木材由来材料、又はリグニンベースの材料のうち1つ以上を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
当該方法は、前記無機ナノ粒子の分散系を直接前記基板の表面に塗布するステップを含み、前記塗布するステップには、ブラシがけ、噴霧、浸漬、及び/又は、カーテン/ローラーコーティングによる処理が含まれる、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記分散系は、無機ナノ粒子及び前記液体キャリアのみを含有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記分散系は、無機ナノ粒子、殺生物剤及び/又は殺菌剤、並びに前記液体キャリアのみを含有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記液体キャリアの蒸発後、無機ナノ粒子、並びに、任意的に殺生物剤及び/又は殺菌剤のみが前記基板上に残る、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
有機多孔質基板の撥水性を高めるための、液体キャリアにおける無機ナノ粒子の分散系であって、前記液体キャリアは、前記基板の表面に当該分散系を塗布した後、室温で実質的に完全に蒸発する性質を有する、分散系。
【請求項15】
前記無機ナノ粒子は酸化セリウムを含む、請求項14に記載の分散系。
【請求項16】
前記無機ナノ粒子は酸化セリウムのみを含む、請求項14又は15に記載の分散系。
【請求項17】
前記液体キャリアは水性キャリアである、請求項14乃至16のいずれか一項に記載の分散系。
【請求項18】
当該分散系のpHが、1から10、好ましくは2から9、より好ましくは2.5から8、最も好ましくは3から7である、請求項17に記載の分散系。
【請求項19】
前記有機多孔質基板は、木材、加工木材、木質材料、木材由来材料、又はリグニンベースの材料のうち1つ以上を含む、請求項14乃至18のいずれか一項に記載の分散系。
【請求項20】
前記無機ナノ粒子は、実質的に前記基板に吸収される、請求項14乃至19のいずれか一項に記載の分散系。
【請求項21】
前記基板の表面に塗布した後、前記無機ナノ粒子は、少なくとも4%の400nmから500nmの範囲の光の平均全吸収を引き起こす、請求項14乃至20のいずれか一項に記載の分散系。
【請求項22】
実質的に完全に蒸発するとは、前記基板に塗布した後、前記液体キャリアの少なくとも95%が蒸発することを含む、請求項1乃至21のいずれか一項に記載の方法又は分散系。
【請求項23】
実質的に完全に蒸発するとは、前記基板に塗布した後24時間以内に、前記液体キャリアの少なくとも95%が蒸発することを含む、請求項1乃至22のいずれか一項に記載の方法又は分散系。
【請求項24】
疎水性処理を受けた多孔質有機基板であって、前記処理は酸化セリウムのナノ粒子を含む、多孔質有機基板。
【請求項25】
前記処理は、酸化セリウムのナノ粒子のみから成る、請求項24に記載の基板。
【請求項26】
木材、加工木材、木質材料、木材由来材料、又はリグニンベースの材料のうち1つ以上を含む、請求項24又は25に記載の基板。
【請求項27】
前記酸化セリウムのナノ粒子は、当該基板の表面領域に吸収される、請求項24乃至26のいずれか一項に記載の基板。
【請求項28】
前記処理は、少なくとも4%の400nmから500nmの範囲の光の平均全吸収も引き起こす、請求項24乃至27のいずれか一項に記載の基板。
【請求項29】
さらなる基礎をなす結合剤を有することなく、酸化セリウムのナノ粒子を組み込んだ木材。
【請求項30】
請求項14乃至21のいずれか一項に記載の分散系で処理した木材。
【請求項31】
請求項1乃至13、又は22乃至23のいずれか一項に記載の方法を使用して処理した木材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機多孔質基板の撥水性を高める方法に関する。特に、本発明は、木材の撥水性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、持続可能であり、且つ、強度、耐久性、及び魅力的な外観等を含む多くの有用な性質を有しているため、広く使用されている材料である。残念ながら、木材は、その吸水力を含むいくつかの欠点も有している。これは、木材の膨張(寸法安定性の減少)、並びに、例えば微生物、藻類、及び菌類等の増殖等、生物活性の促進等の有害な影響を及ぼす恐れがある。この生物活性は、特に、木材が建物、建築構造物(例えば、ドア、窓枠、桟橋、及び歩道等)、デッキ、及びフェンス等の外部用途で使用される場合に、木材の外観を損なう恐れがある。
【0003】
木材による水の吸収を減らすために、その表面を、撥水性又は疎水性にすることが多くある。木材は、以下の方法のうち1つを使用して撥水性にすることができるが、その全てが以下に概説されるように欠点を有している:
(a)木材の表面を疎水性にするための化学処理。このアプローチは、環境に有機物を放出し、それによって地球温暖化の一因となる化学物質(例えばアルキルシラン等)又は腐食性化学物質(例えば、無水酢酸若しくは塩化アセチル等)の使用に依存することが多い。
(b)木材の表面への疎水性オイル/ワックスの塗布。このアプローチは、オイル/ワックスが分解され(例えば浸出によって)容易に環境に失われるため、限られた耐用年数を有している。
(c)木材の表面への塗料の塗布。このアプローチは、木材の自然な外観を不明瞭にし、それによって木材の自然な美しさを隠す。
(d)木材の表面への透明なニスの塗布。ある期間にわたって、ニスは、分解され且つ木材の表面から剥がれやすくなり、木材とニスの間に水が集まるのを可能にし、結果としてあぶくを形成する。これらのあぶくは、生物活性に対する自然環境となるため、結果として木材の魅力的な外観が失われる。
【0004】
従って、木材を撥水性にするが、上述の欠点に悩まされない組成物を提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】David B Braun & Meyer R Rosen “Rheology Modifiers Handbook - Practical Use & Application”, 2000, William Andrew Publishing (NY, USA) (see:https://books.google.co.uk/books/about/Rheology_Modifiers_Handbook.html?id=eMdy8qfpbhQC&printsec=frontcover&source=kp_read_button&redir_esc=y#v=onepage&q&f=false)
【非特許文献2】M R Porter “Handbook of surfactants”, 1991, Springer Science + Business Media (NY, USA) (see:https://books.google.co.uk/books/about/Handbook_of_Surfactants.html?id=UX3SBwAAQBAJ&printsec=frontcover&source=kp_read_button&redir_esc=y#v=onepage&q&f=false)
【非特許文献3】Stan T Lebow in “Wood Handbook: Chapter 15: Wood Preservation”, 2010, US department of Agriculture (Washington DC, USA)
【発明の概要】
【0007】
一態様において、有機多孔質基板の撥水性を高める方法が提供される。当該方法は、液体キャリアにおける無機ナノ粒子の分散系を基板の表面に塗布するステップを含む。液体キャリアは、基板の表面に塗布された後、室温で実質的に完全に蒸発するように選択される。
【0008】
液体キャリアは、この液体キャリアの少なくとも95%が、好ましくは基板への塗布後24時間以内に蒸発するように選択されることが好ましい。
【0009】
好ましくは、液体キャリアは、基板への分散系の塗布後24時間以内に実質的に完全に蒸発するように選択されてもよい。
【0010】
無機ナノ粒子は酸化セリウムを含んでもよい。
【0011】
無機ナノ粒子は酸化セリウムのみを含んでもよい。
【0012】
液体キャリアは水性キャリアであってもよい。液体キャリアは過酸化水素を含有してもよい。分散系のpHは、1から10、好ましくは2から9、より好ましくは2.5から8、最も好ましくは3から7であってもよい。
【0013】
ナノ粒子のサイズは:1~500nm、好ましくは1~100nm、より好ましくは1~50nm、最も好ましくは2~30nmを含み得る。
【0014】
分散系のナノ粒子含有量は:0.1から20重量%、好ましくは0.2から10重量%、最も好ましくは0.4から5重量%であってもよい。
【0015】
ナノ粒子の乾燥塗布重量(dried application weight)は:0.1g/sqmから20g/sqm、好ましくは0.3g/sqmから10g/sqm、最も好ましくは0.5g/sqmから5g/sqmであってもよい。
【0016】
多孔質有機基板は:木材、加工木材、木質材料、木材由来材料、又はリグニンベースの材料のうち1つ以上を含み得る。
【0017】
当該方法は、無機ナノ粒子の分散系を直接基板の表面に塗布するステップを含んでもよい。塗布するステップには、ブラシがけ、塗装、噴霧、浸漬、及び、カーテン/ローラーコーティングによる処理が含まれ得る。
【0018】
分散系は、無機ナノ粒子及び液体キャリアのみを含有してもよい。液体キャリアは水性キャリアであり得る。液体キャリアは過酸化水素を含有してもよい。分散系は、実質的に1から10、好ましくは2から9、より好ましくは2.5から8、最も好ましくは3から7のpHを有し得る。
【0019】
分散系は、無機ナノ粒子、殺生物剤及び/又は殺菌剤、並びに液体キャリアのみを含有してもよい。分散系は、無機ナノ粒子、殺生物剤及び/又は殺菌剤及び/又は過酸化水素、並びに液体キャリアのみを含有してもよい。
【0020】
液体キャリアの蒸発後、無機ナノ粒子、並びに、任意的に殺生物剤及び/又は殺菌剤のみが基板上に残ってもよい。
【0021】
別の態様において、有機多孔質基板の疎水性/撥水性を高めるための、液体キャリアにおける無機ナノ粒子の分散系が提供される。液体キャリアは、上記の基板の表面に分散系を塗布した後、室温で実質的に完全に蒸発する性質を有する。
【0022】
好ましくは、液体キャリアは、液体キャリアの少なくとも95%が室温で、好ましくは上記の基板の表面への分散系の塗布後24時間以内に蒸発する性質を有する。
【0023】
好ましくは、液体キャリアは、基板への分散系の塗布後24時間以内に実質的に完全に蒸発することができる。
【0024】
無機ナノ粒子は酸化セリウムを含んでもよい。
【0025】
無機ナノ粒子は酸化セリウムのみを含んでもよい。
【0026】
液体キャリアは水性キャリアであってもよい。液体キャリアは過酸化水素を含有し得る。分散系は、実質的に1から10、好ましくは実質的に2から9、より好ましくは実質的に2.5から8、最も好ましくは実質的に3から7のpHを有してもよい。
【0027】
有機多孔質基板は:木材、加工木材、木質材料、木材由来材料、又はリグニンベースの材料のうち1つ以上を含み得る。
【0028】
無機ナノ粒子は、実質的に上記の基板に吸収されてもよい。
【0029】
上記の基板の表面に塗布した後、無機ナノ粒子は、少なくとも4%の400nmから500nmの範囲の光の平均全吸収を引き起こすことができる。
【0030】
さらに別の態様において、疎水性/撥水性処理を受けた多孔質有機基板が提供され、この処理は酸化セリウムのナノ粒子を含む。
【0031】
この処理は、酸化セリウムのナノ粒子のみから成ってもよい。
【0032】
基板は:木材、加工木材、木質材料、木材由来材料、リグニンベースの材料のうち1つ以上を含み得る。
【0033】
酸化セリウムのナノ粒子は、基板の表面領域に吸収されてもよい。
【0034】
この処理は、少なくとも4%の400nmから500nmの範囲の光の平均全吸収も引き起こすことがある。
【0035】
さらに別の態様において、さらなる基礎をなす結合剤を有することなく、酸化セリウムのナノ粒子を組み込んだ木材が提供される。
【0036】
さらに別の態様において、上記の態様の分散系で処理した木材が提供される。
【0037】
さらに別の態様において、上記の態様の方法を使用して処理した木材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】ナノ酸化セリウム分散系及び修飾されたナノ酸化セリウム分散系の選択によるUV光及びHEV(高エネルギー可視)光吸収のグラフを例示した図である。
【
図2】未処理(
図2a)及び処理済み(
図2c)の風化した松材パネルの画像、並びに、そのデジタル化されたバージョン(それぞれ
図2b及び2d)を例示した図である。
【
図3】
図3a(左から右)は、それぞれ未処理/風化していない、未処理/風化した、処理済み/風化していない、及び処理済み/風化した細粒のウエスタンレッドシダー(WRC)木材パネルの画像を例示した図であり、
図3bはそのデジタル化されたバージョンを例示した図である。
【
図4】
図4a(左から右)は、それぞれ未処理/風化していない、未処理/風化した、処理済み/風化していない、及び処理済み/風化した粗粒のウエスタンレッドシダー(WRC)木材パネルの画像を例示した図であり、
図4bはそのデジタル化されたバージョンを例示した図である。
【
図5】有機多孔質基板の撥水性を高める方法を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
木材等の有機多孔質基板の撥水性を高める方法が、
図1から5を参照して、本明細書において記載される。当該方法は、液体キャリアにおける無機ナノ粒子の分散系又は懸濁液を基板の表面に塗布するステップを含む。液体キャリアは、基板表面への塗布後、室温で実質的に完全に蒸発するように選択される。好ましくは、上記の液体キャリアの少なくとも95%が室温で、任意的に24時間にわたって蒸発することになる。また、有機多孔質基板の疎水性/撥水性を高める、液体キャリアにおける無機ナノ粒子の分散系も記載される。さらに、任意的に酸化セリウムの無機ナノ粒子を含む疎水性/撥水性処理を受けた多孔質有機基板が記載される。
【0040】
以下の記載は、さらなる基礎をなす結合剤を有することなく酸化セリウムのナノ粒子を組み込んだ木材、並びに、酸化セリウムのナノ粒子及び水を含有する分散系で処理した木材等の基板の性質についての考察も含む。分散系は、過酸化水素も含有し得る。この処理は、木材の撥水性を改善し、任意的に少なくとも4%の平均全吸収で、400~500nmの範囲の紫外線も吸収する。
【0041】
本明細書において使用される場合「酸化セリウム」という用語は、実質的には酸化セリウム(IV)(CeO2)を指すが、少量の酸化セリウム(III)(Ce2O3)及び/又は他の不純物を含むこともある。
【0042】
特許文献1において記載されているように、酸化セリウムのナノ粒子(以下、ナノ酸化セリウムと呼ばれる)を、酸化鉄等の別の金属酸化物で修飾することによって、350nmから400nmの範囲のUV光、及び一般的に400nmから500nmの波長範囲内の可視光として定義されるいわゆる高エネルギー可視光(HEV)の両方の吸光度が増加することがわかっている。UV光及びHEV光の両方が、経時的に木材の表面にダメージを与えることが知られている。
【0043】
別の金属酸化物で「修飾」されたナノ酸化セリウムは、添加、被覆、及び混合、又はそれらの組み合わせのいずれかを含んでもよい。添加は、酸化セリウム結晶格子内に別の金属酸化物を組み込むこと(格子間置換又は直接置換)である。被覆は、ナノ酸化セリウム粒子が、別の金属酸化物の少なくとも部分的な表面被覆を受けることを含んでもよい。混合とは、別々のナノ酸化セリウム粒子と別々の金属酸化物粒子との混合物を意味する。
【0044】
特許文献1はさらに、別の金属酸化物(例えば、酸化鉄、酸化銅、酸化マンガン、又は酸化コバルト等)で修飾されたナノ酸化セリウムを含む添加剤を含む、塗料又はニス等のコーティング組成を、UV光及びHEV光の両方が吸収されるように最適化することができる方法を記載している。これは、他の金属酸化物の比、ナノ粒子の濃度、及び/又は塗布時のコーティング組成物の厚さを最適化することによって達成することができる。
【0045】
図1は、ナノ酸化セリウム及び修飾されたナノ酸化セリウムの分散系の選択によるUV光及びHEV光の吸収を例示している。分散系は、ナノ酸化セリウムのみ、並びに、それぞれ酸化鉄、酸化ユウロピウム、及び酸化ジルコニウムで修飾されたナノ酸化セリウムを含む。分散系のそれぞれに対する400nmから500nmの範囲(すなわちHEV範囲)における平均全吸収(%)が、以下の表1において示されている。
【0046】
【表1】
上記の表1において示されているように、酸化鉄と組み合わされたナノ酸化セリウムによって、400nmから500nmの波長帯における電磁放射の少なくとも10%の全吸収が提供され、ここで、厚さ50μmのドライコーティングは、2重量%でナノ酸化セリウムを修飾させている。
図1において示されているFe-CeO
2サンプルはCe
0.8Fe
0.2O
2である。
【0047】
しかし、本発明者等は現在、ナノ酸化セリウム粒子の(例えば)水性分散系として調製された場合のナノ酸化セリウムのさらなる予想外の性質を発見している。そのような分散系は、例えば水溶性セリウム塩の沈殿によって又は水熱手段によって等、いくつかの経路によって調製することができる。
【0048】
本明細書において記載されるように、ナノ酸化セリウム粒子の水性分散系は、塗料又はニス等のコーティング組成物における添加剤としてではなく、ナノ酸化セリウム粒子のみの水における(すなわち、必ずしも金属酸化物によって修飾されない)分散系に関する。しかし、水性分散系に代わるものとして、脂肪族炭化水素等の他の適したキャリアを使用することができるということが正しく理解されることになる。追加的又は代替的に、分散系は、修飾されたナノ酸化セリウム粒子(すなわち、上記のような他の金属酸化物で修飾されたナノ酸化セリウム)を含んでもよい。
【0049】
例証的なナノ粒子のサイズは:1~500nm、好ましくは1~100nm、より好ましくは1~50nm、最も好ましくは2~30nmを含む。例証的な分散系におけるナノ粒子の固形分は:0.1から20重量%、好ましくは0.2から10重量%、最も好ましくは0.4から5重量%を含む。
【0050】
以下に記載される水性のナノ酸化セリウム分散系は、特に明記されない限り、実質的に1から10、好ましくは2から9、より好ましくは2.5から8、最も好ましくは3から7のpHを有し得る。
【0051】
ナノ酸化セリウムの水性分散系が固体の非多孔質基板の表面に塗布されると、液体キャリア(例えば、水又は上記の他の適したキャリア等)は実質的に完全に蒸発し、分離したナノ酸化セリウム粒子を基板表面上に残す。固体の非多孔質基板の表面が主に不浸透性である(例えば、ガラス又は金属である)場合、ナノ酸化セリウム粒子は、分離した粒子として、又は分離した粒子の集合体として、又は分離した粒子の単層若しくは分離した粒子の多層として置かれる。処理された固体の非多孔質基板の表面に水滴が塗布されると、予想通り、水滴は変形して基板表面にわたって広がる。これは、基板表面が主に親水性であるため、撥水性がないことを示している。
【0052】
ナノ酸化セリウムの水性分散系がリグニンベースの多孔質固体基板、木質の多孔質固体基板、又は木材由来の多孔質固体基板(例えば、ボール紙、木材、紙等)又は他の多孔質有機基板(例えば、布地、革、膜等)に塗布されると、ナノ酸化セリウム粒子は、処理された基板の細孔内側の深部、少なくともその表面領域内、並びに基板表面に置かれる(すなわち吸収される)。例証的なナノ粒子の乾燥塗布重量(すなわち、キャリアが蒸発した後の単位面積あたりの正味重量の増加)は:0.1g/sqm(すなわちg/m2)から20g/sqm、好ましくは0.3g/sqmから10g/sqm、最も好ましくは0.5g/sqmから5g/sqmを含む。ここでも、液体キャリアは、典型的には室温で、実質的に完全に蒸発するが、当然ながら蒸発はより高い及び/又は低い温度でも発生することがある。「実質的に完全に蒸発する」とは、一般的に、液体キャリアの少なくとも95%が室温(又は周囲温度)で24時間以内に蒸発することを意味する。実際には、液体キャリアの一部が多孔質基板内に残ってもよい。或いは、液体キャリアの100%が蒸発してもよい。
【0053】
処理された多孔質基板の表面に水滴を塗布すると、水滴は主に球形のままであることがわかり、基板表面は事実上疎水性、すなわち撥水性であることが示された。
【0054】
置かれたナノ酸化セリウム粒子は親水性であることが予想されたため、この観察は驚くべきことである。さらに驚くべきことに、処理された多孔質基板に水滴が吸収されるのに必要な時間は、未処理の多孔質基板上の水滴よりもかなり長いことが発見された。
【0055】
以下の説明に束縛されることはないが、発明者等は、ナノ酸化セリウム粒子は、例えば、多孔質基板の構成物における極性基(例えばヒドロキシル基等)に(化学的手段又は帯電手段によって)結合することができると信じている。木材、加工木材、木質材料、又は木材由来材料におけるそのような構成物には、リグニン、セルロース、及び木材抽出物が含まれ得る。極性基と結合することによって、ナノ酸化セリウム粒子は木材の親水性の性質を低下させ、それによって、木材を疎水性及び撥水性にしている。
【0056】
ナノ酸化セリウム粒子の分散系で処理した木材等の多孔質基板の表面のこの予想外の撥水性については、以下の例においてさらに記載される。ナノ酸化セリウム分散系は、処理されることになる基板(例えば、リグニンベースの有機多孔質基板、加工木材の有機多孔質基板、木質の有機多孔質基板、木材由来の有機多孔質基板、又は、布地等の他の有機多孔質基板等)の表面上に、ブラシかけ、噴霧、浸漬、ローラー若しくはカーテンコーティングされてもよく又は他の方法で直接塗布されてもよい。
【0057】
例1:比較
使用される材料:
ニュージーランドラジアータパイン(松材)の木材パネル、ナノ酸化セリウム分散系(すなわち、ナノ酸化セリウム含有量が約2.5%wtでpHが約3.5のナノ酸化セリウム粒子の水性分散系、ナノ粒子は、20nmのz平均粒径を有する)。当技術分野において知られているように、本明細書において言及される分散系を調製する方法はいくつかあり、これらのうちいずれかを、以下の例に対して利用することができるということが正しく理解されることになる。
【0058】
塗布方法:
室温でナノ酸化セリウム分散系をパネルにブラシかけで塗布し、一晩室温で乾燥させた。未処理の対照木材パネルを供給された状態で使用した。
【0059】
分散系の被覆度:
ナノ酸化セリウム分散系の被覆度を、処理の前及び直後に木材パネルの重量を測定し、重量の違いに注目することによって決定した。平均処理被覆度及びナノ酸化セリウム塗布重量が、以下の表2において示されている。
【0060】
【表2】
撥水性の決定:
ナノ酸化セリウム分散系で処理した木材パネルを、撥水性の決定を行う前に少なくとも24時間室温で乾燥させた。
【0061】
ナノ酸化セリウムで処理した木材パネル及び未処理(対照)の木材パネルの両方を、イソプロピルアルコール(IPA)を含有するティッシュペーパーで優しく拭いて、表面を洗浄した。洗浄したパネルを、少なくとも30分間、平らなテーブルの上に置いて、パネル上のいかなるIPAも蒸発したことを確実にした。蒸留水の液滴(最小3滴、各約0.05ml)をパネルの表面に優しくピペットで移し、水滴が木材パネルに吸収されるのにかかる時間を測定した。水滴の吸収のエンドポイントを、水平面から約20~30°の斜角で観察したときに、輝く水のメニスカス表面が消えることによって決定した。
【0062】
撥水性の比率(WRR)を、ナノ酸化セリウムで処理した木材パネルによって水滴が吸収されるのにかかる時間を測定し、それを、未処理の木材パネルによって水滴が吸収されるのにかかる時間で割ることによって決定した。1よりも大きいWRRの値は、ナノ酸化セリウムで処理した木材パネルの表面が未処理の木材パネルの表面よりも撥水性が高いことを意味する。
【0063】
撥水性に対する結果が、以下の表3において示されている。これらの結果から、松材パネルへのナノ酸化セリウム粒子の分散系の塗布によって、パネルの撥水性が大幅に改善することが明らかである。
【0064】
【表3】
自然風化試験の結果:
ナノ酸化セリウム分散系で処理したパネルの5つのセット及び未処理のパネルの5つのセットを、南向きの物置小屋の屋根(22°のピッチ角)の上に置いた。同じくナノ酸化セリウムで処理したパネル及び未処理のパネルの別のセットを、風化していない対照として実験室内の暗い所において保管した。風化のためのパネルは、2020年1月から2020年4月の間に、英国のWest Midlands地域で12週間にわたって、自然の風化条件に物置小屋の上で曝露させた。
【0065】
風化期間の後、ナノ酸化セリウムで処理した風化したパネル及び未処理の風化したパネルを調査し、以下の方法を使用して、曝露された表面での黒カビの増殖の程度を決定した。
【0066】
ナノ酸化セリウムで処理した風化したパネル及び未処理の風化したパネルのカラー写真を撮影した。これらの写真を、IMAGEJソフトウェア(National Institute of Health, USA及びUniversity of Wisconsin, USAによって開発されたオープンソースソフトウェア)を使用して分析した。しかし、この分析には、類似の機能を有する代替のソフトウェアが使用されてもよいということが正しく理解されることになる。上記の分析は、第一に写真を8ビットネガティブ白黒デジタル画像に変換することを含み、いかなる黒カビの領域も主に白い点として現れる。これらの白い点を、次に、ソフトウェアによって分析して、木材パネル上の白い点の被覆領域の割合を含む様々な統計を提供した。
【0067】
黒カビの被覆度を確立するために使用された方法論は、
図2a~2dにおいて例示されている写真に要約されている。
図2a及び2cはそれぞれ、上記のように、未処理の風化した松パネル、及びナノ酸化セリウム分散系で事前に処理した風化した松パネルを例示している。
図2bは、
図2aにおけるカラー写真から得られたデジタル化又は変換された白黒写真を例示し、
図2dは、
図2cにおけるカラー写真から得られたデジタル化又は変換された白黒写真を例示している。
【0068】
以下の表4は、ナノ酸化セリウムで処理した風化した木材パネル及び未処理の風化した木材パネルにおいて測定された黒カビの量を示している。平均すると、ナノ酸化セリウム分散系での処理は、未処理の松材パネルと比較して、松材パネル上での黒カビの増殖を約13分の1に減少させたことが明らかである。
【0069】
さらに、表3及び4の検査から、ナノ酸化セリウムで処理した松材の撥水性の増加は、結果として自然風化試験において黒カビの増殖を減少させたことが明らかである。
【0070】
【表4】
例2:性能に対するナノ酸化セリウム濃度の影響
上記の例1において記載した方法を使用して、(上記の例1において使用し、濃度を変化させるために蒸留水で希釈した)様々な濃度の水性ナノ酸化セリウム分散系を、それぞれ12mm×32mm×200mmを測定する木片に塗布した。この木材は、Wickes(英国に拠点を置くホームセンター小売業者)から入手し、Whitewood Door Stopの木材として販売されていた。ナノ酸化セリウム分散系を塗布した後、処理した木材を放置して水平に乾燥させた。ナノ酸化セリウム分散系処理が完全に乾燥したとき(少なくとも4時間後)に、ナノ酸化セリウムで処理した木片の半分を、Rustins Ltd, UKによって製造され、「Rustins Quick Dry Outdoor Clear Varnish」として販売されている屋外用サテンクリアニスで被覆した。ニスを塗ったナノ酸化セリウムで処理した木片を、24時間周囲条件下で乾燥させた。ナノ酸化セリウムで処理した木片の残りの半分は、ニスを塗らずに放置した。
【0071】
得られた木片のうち2つを対照として使用し;いずれもナノ酸化セリウム分散系で処理せず;一方はニスを塗り、もう一方はニスを塗らずに放置した。対照に、蒸留水のみでブラシかけをした。
【0072】
ナノ酸化セリウム分散系で処理した木片及び(ニスの有無にかかわらず)未処理の木片の全てに、上記の例1において概説したのと類似の様式で自然風化を受けさせた。12週間の風化の後、木片を調査し、その結果が、以下の表5において提供されている。
【0073】
【表5】
表5において、異常は、例えば表面から突き出ている木材繊維等、肉眼で見え且つ風化後に現れる任意の特徴として定義される。
【0074】
表5において示されている結果から、0.1%wtのナノ酸化セリウム濃度の分散系を使用しても、処理されたニスを塗っていない木片上での黒カビの増殖は、対照の木片と比較した場合に減少したことが明らかである。さらに、ニスを塗った木片の耐候性は、ナノ酸化セリウム分散系で処理した場合にかなり高められている。
【0075】
例3:炭化水素溶媒媒介性のナノ酸化セリウム組成物
上記の例2において記載した方法及び木材基板を使用し、炭化水素溶媒ベースのナノ酸化セリウム組成物(すなわち、脂肪族炭化水素液体キャリア(この例では、ExxonMobil Chemicalsから入手可能なExxsol D80という商標名の液体キャリア)において粒径が約20nmのナノ酸化セリウムを2.5重量%含有するナノ酸化セリウム分散系)を、木片を処理するために使用した。得られた撥水性及び自然風化の結果が、以下の表6において示されている。
【0076】
【表6】
表6は、溶媒ベースのナノ酸化セリウム組成物が、ニスを塗った処理済みの木材及びニスを塗っていない処理済みの木材の両方について、12週間の自然風化後に、ナノ酸化セリウムで処理した木片の撥水性を改善し、カビ/表面異常の量を減少させたことを示している。ニスを塗った非酸化セリウム処理木材(すなわち、ナノ酸化セリウムで処理していないニスを塗った木材)では、黒カビの増殖がニスのあぶくの下で主に見つかったことは注目すべきに値する。
【0077】
例4:アセチル化された木材への塗布
上記の例1において概説した方法を使用して、アセチル化されたラジアータパインの木材パネル(加工木材の一例)の5つのセットを、2.5重量%のナノ酸化セリウムを含有する水性ナノ酸化セリウム分散系で処理した。同一のパネルの5つのセットを、対照として未処理のまま放置した。ナノ酸化セリウムで処理したパネル及び未処理のパネルに、12週間の自然風化を受けさせ、得られた結果が、以下の表7において示されている。
【0078】
【表7】
上記の結果によって、ナノ酸化セリウム分散系での処理は、アセチル化された木材上での黒カビの増殖を減らすことができるということが示されている。
【0079】
例5:ウエスタンレッドシダーの木材(WRC)への塗布
上記の例1において記載した方法を使用して、ウエスタンレッドシダー(WRC)木材パネルを、2.5重量%のナノ酸化セリウムを含有するナノ酸化セリウム分散系で処理した。細粒及び粗粒のWRC木材パネルの両方を試験した。塗布したナノ酸化セリウム分散系の塗布重量が、以下の表8において示されている。
【0080】
【表8】
驚くべきことに、WRCにナノ酸化セリウム分散系を塗布すると、木材の色をより深い茶色にし、未処理のWRC木材パネルと比較して、木材をより魅力的にし、より撥水性にすることがわかった。撥水性の結果が、以下の表9において示されている。
【0081】
【表9】
ナノ酸化セリウムで処理したWRC木材パネル及び未処理のWRC木材パネルに、自然風化試験を受けさせ、退色及び黒カビ増殖の結果を記録した。
【0082】
自然風化の結果:退色(12週間後)
12週間の風化後、未処理(対照)のWRCパネルは色がかなり薄くなったが、処理したパネルはかなり少ない退色を示した。
【0083】
以下の手順を使用して、未処理のWRC木材パネル及び処理したWRC木材パネルの退色の程度を評価した:
- 並べられた風化していないWRCパネル及び風化したWRCパネルを同時に撮影する(撮影が行われるときに、同じ背景光条件が確実にされる);
- IMAGEJ又は類似のソフトウェアを使用して、写真を8ビットのグレースケール画像に変換する;
- IMAGEJ又は類似のソフトウェアを使用して、各パネルの表面に対して平均グレー値を計算する;
- 計算された平均グレー値が、木材パネルの表面の明るさ/暗さの程度を表していると仮定する(0の値は純粋な黒であり、255の値は純粋な白である)。
- 風化していないパネルと風化したパネルとのグレー値の差(デルタ)が、退色の程度の尺度であると仮定する。
【0084】
細粒WRC木材パネルの退色の程度の決定に対する結果が、
図3a及び3bにおいて例示されている。
【0085】
図3aは、左から右に、風化していない未処理の木材パネル;風化した未処理の木材パネル;風化していないナノ酸化セリウム分散系で処理した木材パネル;及び、風化したナノ酸化セリウム分散系で処理した木材パネル;を例示している。対照(未処理)のパネルは、風化後にその原色をほぼ全て失っていることがわかる。対照的に、ナノ酸化セリウムで処理したパネルは(処理後に、より深く豊かな色を発生し)、風化後もその原色の大部分を保っている。
【0086】
図3bは、IMAGEJ(又は類似の)ソフトウェアを使用して8ビットのグレースケール画像に変換した後の
図3aの写真を例示している(ここで、0の値=純粋な黒、255=純粋な白である)。ここでも、左から右に、画像は:風化していない+未処理;風化した+未処理;風化していない+ナノ酸化セリウムで処理済み;風化した+ナノ酸化セリウムで処理済み;である。
【0087】
上記の手順によって計算した、各細粒WRCパネルに対する平均グレー値が、以下の表10において示されている。
【0088】
【表10】
退色における%相対変化は、次のように定めることができる:
100×(未処理の対照パネルに対するデルタグレー値-ナノ酸化セリウムで処理したパネルに対するデルタグレー値)/(未処理の対照パネルに対するデルタグレー値)。
【0089】
上記の式を使用すると、細粒WRCパネルに対しては、ナノ酸化セリウムで処理したパネルと未処理のパネルとの間の退色における%相対変化は:
100×(15-11)/15=27%
である。
【0090】
従って、細粒WRCにナノ酸化セリウム分散系を塗布すると、相対的な退色の程度が約27%減少する。
【0091】
粗粒WRC木材パネルの退色の程度の決定に対する結果が、
図4a及び4bにおいて例示されている。
【0092】
図3aと同様に、
図4aは、左から右に、風化していない未処理の木材パネル;風化した未処理の木材パネル;風化していないナノ酸化セリウム分散系で処理した木材パネル;及び、風化したナノ酸化セリウム分散系で処理した木材パネル;を例示している。対照(未処理)のパネルは、風化後にその原色をほぼ全て失っていることがわかる。対照的に、ナノ酸化セリウムで処理したパネルは(処理後に、より深く豊かな色を発生し)、風化後もその原色の大部分を保っている。
【0093】
図4bは、IMAGEJ(又は類似の)ソフトウェアを使用して8ビットのグレースケール画像に変換した後の
図4aの写真を例示している(ここで、0の値=純粋な黒、255=純粋な白である)。ここでも、左から右に、画像は:風化していない+未処理;風化した+未処理;風化していない+ナノ酸化セリウムで処理済み;風化した+ナノ酸化セリウムで処理済み;である。
【0094】
上記の手順によって計算した、各粗粒WRCパネルに対する平均グレー値が、以下の表11において示されている。
【0095】
【表11】
粗粒WRCパネルの場合、退色における%相対変化は、上記の式を使用して、以下のように決定することができる:
100×(39-30)/39=23%。
【0096】
従って、粗粒WRCにナノ酸化セリウム分散系を塗布すると、相対的な退色の程度が約23%減少する。
【0097】
従って、平均すると、ナノ酸化セリウム分散系でのWRCパネルの処理は、未処理のWRCパネルと比較して、相対的な退色の程度を(27+23)/2=25%減少させる。
【0098】
自然風化の結果:黒カビの増殖(22週間後)
WRCの固有の性質により、12週間の風化後、ナノ酸化セリウムで処理したパネル又は未処理のパネルのいずれにおいても明白な黒カビの増殖はなく、従って、風化試験を22週間に延長した。5つの未処理のパネル及び5つの処理済みのパネルにわたって観察された黒カビ増殖に対する結果が、表12において要約されている。
【0099】
【表12】
表10、11、及び12の検査によって、ナノ酸化セリウム分散系で処理したWRC木材は、未処理のWRC木材と比較した場合に、自然風化試験において、減少した退色及び黒カビ増殖を示すことが明確に実証されている。さらに、表9及び12の検査から、ナノ酸化セリウムで処理したWRCの撥水性の増加は、結果として自然風化試験において黒カビの増殖を減少させることが明らかである。
【0100】
例6:浸漬処理したオーバーラップフェンスへの塗布
浸漬処理したオーバーラップガーデンフェンスパネル(例えばオータムゴールド色のWickesから入手可能な6フィート×6フィートのもの)の半分を、ブラシかけで、例1において記載したナノ酸化セリウム分散系で被覆した。パネルを、2020年9月から2021年6月まで、英国のWest Midlands地域で南方向に面して自然要素に曝露させた。9か月の自然風化の後、ナノ酸化セリウムで処理した領域、すなわち半分は、色の変化及び黒カビ増殖に関してほとんど変化がなかったが、酸化セリウム処理無しの領域は、色の変化(退色)を示し、黒カビ増殖の兆候を示し始めた。この例によって、ナノ酸化セリウム粒子は、従来の木材処理によって事前に処理された木材に、改善された自然風化保護を与えることができるということが実証されている。
【0101】
例7:比較例(溶液vs粒状のセリウム)
硝酸セリウム6H2O(6.2g)を脱イオン水(93.8g)において溶解して、セリウム溶液イオンを含有する透明な溶液を得た。この溶液を、例1において記載した様式で、(例えばWickesから入手可能な)むき出しのwhitewood doorstop木材にブラシで塗布した。比較のために、(例1において記載した)ナノ酸化セリウム分散系を、むき出しのwhitewood doorstop木材の別の部分にもブラシで塗布した。2日後、例1において記載したように撥水性の比率を決定し、その結果が、表13において示されている。この結果によって、ナノ酸化セリウム粒子は溶液イオンの形のセリウムよりもはるかに高い撥水性を与えるということが示されている。
【0102】
【表13】
例8:過酸化水素の影響
過酸化水素(強度30%、0.81g)を、例1において記載したナノ酸化セリウム分散系に撹拌しながら添加した(50g)。結果として生じる混合物を、2時間撹拌した後、例1において記載した方法を使用して、(例えばWickesから入手可能な)むき出しのwhitewood doorstop木材に塗布した。比較のために、過酸化水素を含まないナノ酸化セリウム分散系(すなわち、過酸化水素無しのナノ酸化セリウム分散系)を、同じ方法で塗布した。2日後、撥水性の比率を、例1において記載したように決定した。結果が、表14において示されている。表14において示されているように、過酸化水素を含めることによって、撥水性の比率が高くなる。言い換えると、過酸化水素を含むナノ酸化セリウム分散系で処理した木材の撥水性が高くなった。この効果は、他の木材基板、木質基板、木材由来基板、リグニンベース基板、及び加工木材基板にも及ぶことができる。
【0103】
【表14】
上記の例によって示されているように、塗料又はニス等のコーティング組成物にナノ酸化セリウム分散系を添加剤として含める必要はない。実際、ニス又は他のコーティング組成物にナノ酸化セリウム粒子を含めると、上記の疎水性(すなわち撥水性)効果が減少又は妨げられることがある。これは、伝統的にニス等が木材等の有機基板を水によるダメージから保護するために使用されるため、やや反直感的である。
【0104】
加えて、上記の疎水効果を提供するための金属酸化物でのナノ酸化セリウムの修飾又は添加は必要ない。1つの例証的な非限定的な実施形態において、基板に直接塗布されることになる分散系は、ナノ酸化セリウム(CeO2)、水を含有し、他には何も含まない。この例では、非常に少量の必要な分散剤及び/又はレオロジー剤(以下に考察される)を水に含めることができる。
【0105】
レオロジー剤は、ナノ酸化セリウム分散系の粘度挙動を変更し、多孔質基板に塗布しやすくする。そのようなレオロジー剤は、当業者にはよく知られており、その例は:非特許文献1において見つけることができる。
【0106】
分散安定剤及び界面活性剤は、分散系の調製及び多孔質基板へのナノ酸化セリウム分散系の塗布にも寄与する化学物質である。これらの材料は、帯電及び/又は立体安定化機構によってナノ酸化セリウム粒子が分散系において凝結するのを防ぐのに役立ち得る。そのような分散安定剤及び界面活性剤は、当業者にはよく知られており、いくつかの非限定的な例は:非特許文献2において見つけることができる。
【0107】
上記のナノ酸化セリウム分散系を基板の表面に直接塗布すると、増加した撥水性(すなわち、増加した疎水性)が、処理された基板に提供され、従って、黒カビの増殖、又は他の微生物活性が減少する。カビ増殖の減少は、直射日光の当たらない基板の領域において特に注目すべきことである。
【0108】
特許文献1に関して上述したように、さらに、上記の表1において示されているように、上記の疎水性効果に加えて、ナノ酸化セリウム分散系は、UV光による基板へのダメージ(例えば退色)に対する保護も提供する。このUVに対する保護は、金属酸化物(特に酸化鉄)で修飾されたナノ酸化セリウムよりも、潜在的には程度が低いかもしれない。ニス、塗料、ワックス、又は他の保護コーティング若しくはコーティング組成物における添加剤としてナノ酸化セリウム分散系を使用する必要がないため、1つのシンプルで直接的な処理によって、撥水性及びある程度のUV保護の両方を提供することができる。
【0109】
当然ながら、ナノ酸化セリウム分散系は、従来の木材復元、並びに殺生物剤及び殺菌剤等の保存処理と組み合わせることができる。これらは当業者にはよく知られており、例として、クロム化ヒ酸銅、やや難溶の銅化合物、酸化銅/水酸化銅、クレオソート、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート及びペルメトリン(3-フェノキシベンジル-(1R,S)-シス、トランス-2,2-ジメチル3-(2,2-ジクロロビニル)シクロプロアンカルボキシラート)が挙げられる。(非特許文献3を参照されたい)。
【0110】
図5には、有機多孔質基板の撥水性(疎水性)を高める方法が例示されている。当該方法は:
S1:有機多孔質基板の表面に塗布した後、液体キャリアが室温で実質的に完全に蒸発することになるように、液体キャリアを選択するステップ;
S2:液体キャリアにおいて無機ナノ粒子の分散系を提供するステップ;
S3:液体キャリアにおける無機ナノ粒子の分散系を有機多孔質基板の表面に塗布するステップ;
を含む。
【0111】
上述のように、S2において提供され且つS3において塗布される水性分散系のpHは、実質的に1から10、好ましくは2から9、より好ましくは2.5から8、最も好ましくは3から7であってもよい。
【0112】
本明細書において記載される場合、「木材」又は「木質」又は「木材由来」又は「加工木材」という用語は、マツ、エゾマツ、レッドシダー、オーク、米マツ、セコイア、イロコ、イディグボ、サペリ、ユティレ、グランディス、イトスギ、イペ、マホガニー、バーティカルダグラスファー、ブラックウォルナット、カラマツ、及びメランチ等の外部用途に使用される木材、並びに、アセチル化された木材、ベニヤ板等の処理された木材を含む、任意のタイプの木材を限定されることなく含んでもよい。この用語は、さらに、MDF、ボール紙、紙、又は、木材繊維から形成された任意の他の材料等、他の木質材料を限定されることなく包含してもよい。処理されることになる基板は、そのような材料の組み合わせを含んでもよい。この用語は、自然要素への曝露を介して風化され、その後、機械的手段を介して、及び/又は高圧水により、及び/又は化学物質(例えばシュウ酸等)により木材の表面を洗浄することによって復元された木材をさらに含み得る。多孔質ではない一部の木質基板、例えば、ポリマー成分が主要な連続的なマトリクスを形成するポリマー/木材複合材等は、そのような材料が本質的に疎水性であり且つ多孔質ではないため除外される。「リグニンベース」という用語は、リグニンポリマーを含む任意の材料を含んでもよい。「加工木材」という用語は、木材の断面を通して非殺生物的木材処理によって強化された性質を与えられた木材を含んでもよい。加工木材のいくつかの例を、https://www.designingbuildings.co.uk/wiki/Modified_woodにおいて見つけることができる。
【0113】
上記の説明は、当業者が様々な態様及び例を作製して使用するのを可能にするために提示されている。具体的な材料、技術、及び用途の説明は、例としてのみ提供されている。本明細書において記載される例に対する様々な修正及び例の組み合わせが、当業者には容易に明らかであり、本明細書において定められている一般的な原理は、本発明の範囲から逸脱することなく、他の例及び用途に適用することができる。従って、発明概念は、記載され示された例に限定されることを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲と一致する範囲が与えられるものである。
【国際調査報告】