IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-535695コロナウイルス感染症の治療及び予防のための方法及び組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-21
(54)【発明の名称】コロナウイルス感染症の治療及び予防のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230814BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230814BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230814BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230814BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20230814BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230814BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20230814BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230814BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230814BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230814BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230814BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230814BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230814BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C07K19/00
C07K16/00
C12N15/85 Z
C12N5/10
C12N7/02
C12N15/12
C07K14/705
A61K39/395 V
A61K38/02
A61K9/12
A61K9/72
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504023
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(85)【翻訳文提出日】2023-02-06
(86)【国際出願番号】 US2021042372
(87)【国際公開番号】W WO2022020353
(87)【国際公開日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】63/053,817
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/150,686
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399052796
【氏名又は名称】デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】トールチア, ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】フリーマン, ゴードン ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB16
4C076BB25
4C076BB31
4C076CC07
4C076CC35
4C076FF70
4C084AA02
4C084BA41
4C084DC23
4C084MA13
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB33
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085DD33
4C085DD62
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG04
4C085GG08
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、部分的には、コロナウイルス感染症を治療又は予防するための組成物及び方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ACE2細胞外ドメインポリペプチド又はその断片、ヒンジポリペプチド、及び断片結晶化可能(Fc)ドメイン又はその断片を含むACE2-Fc融合ポリペプチドであって、前記ACE2細胞外ドメインが、酵素的に不活性であり、前記Fcドメイン又はその断片が、Fcγ受容体に対して減弱した結合親和性を有する、ACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記ACE2細胞外ドメインポリペプチドが、配列番号1~4のうちのいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記ACE2細胞外ドメインポリペプチドが、H374、H378、R273、H345、H345、H505、H505、R169、W271、及びK481からなる群から選択される残基位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1又は2に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項4】
前記ACE2細胞外ドメインポリペプチドが、野生型ACE2ポリペプチドに対して、H374N、H378N、R273Q、H345A、H345L、H505A、H505L、R169Q、W271Q、及びK481Qからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、野生型ACE2ポリペプチドに対するH374N又はH378N置換である、3又は4に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、野生型ACE2ポリペプチドに対するH374N及びH378N置換である、3又は4に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項7】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、R273Q、H345A、H345L、H505A、H505Lアミノ酸置換である、請求項3又は4に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項8】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、R169Q、W271Q、及びK481Qアミノ酸置換である、請求項3又は4に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項9】
前記ACE2細胞外ドメインが、コロナウイルスに対する親和性を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項10】
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2からなる群から選択される、請求項9に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項11】
前記Fcドメインが、前記FcドメインのFc受容体への結合を低減又は排除する、野生型Fcドメインに対する少なくとも1つのアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項12】
前記Fc受容体が、FcγIIa受容体である、請求項11に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項13】
前記Fcドメインが、表5のアミノ酸配列を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項14】
前記Fcドメインが、IgG4抗体に由来する、請求項11に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項15】
前記Fcドメインが、L235及びP329からなる群から選択される残基位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項11に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項16】
前記ACE2-Fc融合ポリペプチドが、S228P又はL235Eアミノ酸置換を含む、請求項14に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項17】
前記ACE2-Fc融合ポリペプチドが、S228P及びL235Eアミノ酸置換を含む、請求項14に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項18】
前記Fcドメインが、配列番号33~36のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項14に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項19】
前記Fcドメインが、IgG1抗体に由来する、請求項11に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項20】
前記Fcドメインが、L234A、L235A、N297A、N297D、及びP329Gからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項19に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項21】
前記Fcドメインが、配列番号37~42又は配列番号55のうちのいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項19に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項22】
前記Fcドメインが、IgG2抗体に由来する、請求項11に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項23】
前記Fcドメインが、配列番号44のアミノ酸配列を含む、請求項22に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項24】
ヒンジ領域が、表2、3、又は4のアミノ酸配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項25】
前記ヒンジ領域が、プロリン又はシステイン-プロリンジペプチドからなる、請求項1~23のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項26】
配列番号48、49、56、又は57と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、ACE2-Fc融合ポリペプチド。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする、核酸分子。
【請求項28】
配列番号50、51、58、又は59と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、核酸。
【請求項29】
請求項27又は28に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項30】
前記ベクターが、発現ベクターである、請求項29に記載のベクター。
【請求項31】
請求項29又は30に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項32】
前記細胞が、哺乳類細胞である、請求項31に記載の細胞。
【請求項33】
コロナウイルスを隔離する方法であって、コロナウイルスを含む流体を、請求項1~26のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドと接触させることを含み、前記ACE2-Fc融合ポリペプチドが、前記コロナウイルスに結合し、それによって、前記コロナウイルスを隔離する、方法。
【請求項34】
前記隔離されたコロナウイルスが、完全長ACE2ポリペプチドに結合することができない、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
コロナウイルスが細胞によって発現される内因性ACE2ポリペプチドに結合するのを阻害する方法であって、前記細胞と連通している流体を、請求項1~26のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドと接触させることを含み、前記ACE2-Fc融合ポリペプチドが、前記コロナウイルスに結合し、それによって、前記コロナウイルスが内因性に発現されるACE2ポリペプチドに結合するのを阻害する、方法。
【請求項36】
前記流体が、間質液、血液、血漿、血清、粘液、脳脊髄液、又はリンパ液である、請求項33~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
コロナウイルス感染症を有する対象又はそれを有する疑いのある対象を治療するための方法であって、前記対象に、治療有効量の請求項1~26のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドを含む薬学的組成物を投与することを含む、方法。
【請求項38】
感染のリスクがある対象におけるコロナウイルス感染症を予防する方法であって、前記対象に、有効量の請求項1~26のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドを含む薬学的組成物を投与することを含む、方法。
【請求項39】
対象におけるコロナウイルス感染症の抗体依存性感染増強を治療又は予防する方法であって、前記対象に、治療有効量の請求項1~26のいずれか一項に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドを含む薬学的組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項40】
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2からなる群から選択される、請求項33~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞が、哺乳類細胞である、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記哺乳類細胞が、ヒト細胞である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記対象が、哺乳動物である、請求項37~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記対象が、ヒトである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記投与が、皮下、静脈内、非経口、腹腔内、髄腔内、経口、吸入、噴霧、及び経皮からなる群から選択される、請求項37~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
a.前記コロナウイルスが、他のコロナウイルスを中和することができるモノクローナル抗体による中和に耐性があり、
b.前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2を中和することができるモノクローナル抗体による中和に耐性があるSARS-CoV-2のバリアントであり、
c.前記コロナウイルスが、コロナウイルスワクチンによって付与された免疫に耐性があり、
d.前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2ワクチンによって付与された免疫に耐性があるSARS-CoV-2のバリアントであり、
e.前記コロナウイルスが、以前のコロナウイルス感染症によって付与された自然免疫に耐性があり、
f.前記コロナウイルスが、以前のSARS-CoV-2感染症によって付与された自然免疫に耐性があるSARS-CoV-2のバリアントであり、
g.前記コロナウイルスが、Sタンパク質におけるE484置換を保有し、
h.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるN501置換を保有し、
i.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるK417置換を保有し、
j.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるE484及びN501置換を保有し、
k.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるE484K置換を保有し、
l.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるE484Q置換を保有し、
m.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるN501Y置換を保有し、
n.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるK417N置換を保有し、
o.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるE484K及びN501Y置換を保有し、
p.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるE484、N501、及びK417置換を保有し、
q.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるE484K、N501Y、及びK417N置換を保有し、
r.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるL452置換を保有し、
s.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるL452R置換を保有し、
t.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるT478置換を保有し、
u.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるT478K置換を保有し、
v.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるL452及びT478置換を保有し、
w.前記コロナウイルスが、前記Sタンパク質におけるL452R及びT478K置換を保有し、
x.前記コロナウイルスが、20I/501Y.V1、「イギリスバリアント」、又はアルファバリアントとしても知られるB.1.1.7系統に由来し、
y.前記コロナウイルスが、20I/501Y.V1、「イギリスバリアント」、又はアルファバリアントとしても知られる前記B.1.1.7系統であり、
z.前記コロナウイルスが、20H/501Y.V2、「南アフリカCOVID-19バリアント」、又はベータバリアントとしても知られるB.1.351系統(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K、N501Y、及びK417N置換を保有する)に由来し、
aa.前記コロナウイルスが、20H/501Y.V2、「南アフリカCOVID-19バリアント」、又はベータバリアントとしても知られる前記B.1.351系統(前記Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K、N501Y、及びK417N置換を保有する)であり、
bb.前記コロナウイルスが、「ブラジルCOVID-19バリアント」、系統P.1、又はガンマバリアントとしても知られるB.1.1.248系統(前記Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K及びN501Y置換を保有する)に由来し、
cc.前記コロナウイルスが、「ブラジルCOVID-19バリアント」、系統P.1、又はガンマバリアントとしても知られる前記B.1.1.248系統(前記Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K及びN501Y置換を保有する)であり、
dd.前記コロナウイルスが、B.1.617系統に由来し、
ee.前記コロナウイルスが、B.1.617.1系統(E484Q置換を保有する)に由来し、
ff.前記コロナウイルスが、前記B.1.617.1系統(E484Q置換を保有する)であり、
gg.前記コロナウイルスが、デルタバリアントとしても知られるB.1.617.2系統(他のSタンパク質変異に加えて、L452R及びT478K置換を保有する)に由来し、
hh.前記コロナウイルスが、デルタバリアントとしても知られる前記B.1.617.2系統(他のSタンパク質変異に加えて、L452R及びT478K置換を保有する)であり、
ii.前記コロナウイルスが、B.1.617.3系統(E484Q置換を保有する)に由来し、かつ/又は
jj.前記コロナウイルスが、前記B.1.617.3系統(E484Q置換を保有する)である、請求項33~39のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月20日に出願された米国仮特許出願第63/053,817号、及び2021年2月18日に出願された米国仮特許出願第63/150,686号の利益を主張し、各出願の全容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされた新型コロナウイルス(COVID-19)は、世界的なパンデミックの際に、何十万人もの人々が病気になり、又は死亡した。ワクチンは開発されているが、臨床翻訳には少なくとも18ヶ月かかり、大規模な臨床研究で安全性及び有効性の両方を実証するという課題に直面している。ワクチンの有効性及び利用可能性に応じて、感染及び死亡がその後しばらく継続する可能性がある。
【0003】
既存の抗ウイルス小分子及び疾患修飾免疫調節物質の臨床試験が進行中であるが、それらの安全性、有効性、及び任意の潜在的な有効性の大きさは依然として不明である。中和抗体も開発されており、大規模に提供され得る受動免疫療法の可能性を提供している。中和抗体は有望なアプローチであるが、その有効性は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質上の別個のエピトープに結合し、スパイクタンパク質がその細胞表面受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合するのを防ぐそれらの能力に依存する。別個のスパイクタンパク質エピトープへの抗体の結合の依存は、ACE2結合を保持しながら抗体の結合を阻害するスパイクタンパク質配列の変化が、ウイルスが中和を回避することを可能にする可能性があることを意味する。したがって、中和抗体は、SARS-CoV-2の変異体バリアントに対して有効ではない可能性があり、これは特に、中和抗体による広範囲の治療がウイルスに進化的圧力を及ぼす場合、感染した個人の大規模な集団で生じ得る。同様に、中和抗体は、遺伝的浮動を受けた将来のACE2指向性新規コロナウイルスに対して有効ではない可能性がある。
【0004】
更に、肺合併症は、COVID-19の罹患率及び死亡率の主な要因である。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む肺合併症の病因は、複雑で多因子性であるが、抗体依存性感染増強(antibody-dependent enhancement、ADE)として知られる免疫病理学的現象が、ARDSを有するCOVID-19患者における寄与メカニズムとして仮定されている。ADEは、中和抗体が実際に、Fcγ受容体を発現する免疫細胞のウイルス感染又は過剰刺激を促進することによって、感染及び炎症を悪化させ得るいくつかのウイルス症候群で見られる現象である(Iwasaki et al.(2020)Nat.Rev.Immunol.20:339-42;Taylor et al.(2015)Immunol.Rev.268:340-364)。
したがって、COVID-19の治療及び予防のためのSARS-CoV2の薬理学的阻害剤に対する高い必要性が、依然としてある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Iwasaki et al.(2020)Nat.Rev.Immunol.20:339-42
【非特許文献2】Taylor et al.(2015)Immunol.Rev.268:340-364
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、不活性な可溶性ACE2タンパク質が、少なくとも部分的に、SARS-CoV-2ウイルスが内因性ACE2に結合するのを競合的に阻害し、それによって、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐという発見に基づいている。
【0007】
本発明の一態様は、ACE2-Fc融合ポリペプチドを提供し、ACE2細胞外ドメインポリペプチド又はその断片、ヒンジポリペプチド、及び断片結晶化可能(Fc)ドメイン又はその断片を含む。ACE2細胞外ドメインは、酵素的に不活性であり、Fcドメイン又はその断片は、Fcγ受容体に対して減弱した結合親和性を有する。
【0008】
多数の実施形態が更に提供され、これらは、本発明のいずれかの態様に適用され得、かつ/又は本明細書に記載の任意の他の実施形態と組み合わされ得る。例えば、一実施形態では、ACE2細胞外ドメインポリペプチドは、配列番号1~4のうちのいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、ACE2細胞外ドメインポリペプチドは、H374、H378、R273、H345、H345、H505、H505、R169、W271、及びK481からなる群から選択される残基位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。更に別の実施形態では、ACE2細胞外ドメインポリペプチドは、野生型ACE2ポリペプチドに対して、H374N、H378N、R273Q、H345A、H345L、H505A、H505L、R169Q、W271Q、及びK481Qからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。更に別の実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換は、野生型ACE2ポリペプチドに対するH374N又はH378N置換である。別の実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換は、野生型ACE2ポリペプチドに対するH374N及びH378N置換である。更に別の実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換は、R273Q、H345A、H345L、H505A、H505Lアミノ酸置換である。更に別の実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換は、R169Q、W271Q、及びK481Qアミノ酸置換である。別の実施形態では、ACE2細胞外ドメインは、コロナウイルスに対する親和性を有する。更に別の実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2からなる群から選択される。別の実施形態では、Fcドメインは、FcドメインのFc受容体への結合を低減又は排除する、野生型Fcドメインに対する少なくとも1つのアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含む。更に別の実施形態では、Fc受容体は、FcγIIa受容体である。別の実施形態では、Fcドメインは、表5のアミノ酸配列を含む。なお、実施形態では、Fcドメインは、IgG4抗体に由来する。更に別の実施形態では、Fcドメインは、L235及びP329からなる群から選択される残基位置に、少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。別の実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、S228P又はL235Eアミノ酸置換を含む。更に別の実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、S228P及びL235Eアミノ酸置換を含む。更に別の実施形態では、Fcドメインは、配列番号33~36のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、Fcドメインは、IgG1抗体に由来する。更に別の実施形態では、Fcドメインは、L234A、L235A、N297A、N297D、及びP329Gからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。更に別の実施形態では、Fcドメインは、配列番号37~42又は配列番号55のうちのいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、Fcドメインは、IgG2抗体に由来する。更に別の実施形態では、Fcドメインは、配列番号42のアミノ酸配列を含む。更に別の実施形態では、ヒンジ領域は、表2、3、又は4のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、ヒンジ領域は、プロリン又はシステイン-プロリンジペプチドからなる。
【0009】
本発明の別の態様は、配列番号48、49、56、又は57と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、ACE2-Fc融合ポリペプチドを提供する。
【0010】
本発明の更に別の態様は、上記の態様のいずれかのACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。
【0011】
別の態様では、配列番号50、51、58、又は59と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子が提供される。多数の実施形態が更に提供され、これらは、本発明のいずれかの態様に適用され得、かつ/又は本明細書に記載の任意の他の実施形態と組み合わされ得る。例えば、一実施形態は、直前の態様のいずれかの核酸分子を含むベクターを提供する。別の実施形態では、ベクターは、発現ベクターである。更に別の実施形態では、直前の実施形態のいずれかのベクターを含む細胞が提供される。別の実施形態は、直前の実施形態のいずれかのベクターを含む細胞を提供する。更に別の実施形態では、細胞は、哺乳類細胞である。
【0012】
本発明の別の態様は、コロナウイルスを隔離する方法を提供し、コロナウイルスを含む流体を、上記の態様のいずれか1つに記載のACE2-Fc融合ポリペプチドと接触させることを含み、ACE2-Fc融合ポリペプチドが、コロナウイルスに結合し、それによって、コロナウイルスを隔離する。
【0013】
多数の実施形態が更に提供され、これらは、本発明のいずれかの態様に適用され得、かつ/又は本明細書に記載の任意の他の実施形態と組み合わされ得る。例えば、一実施形態では、隔離されたコロナウイルスは、完全長のACE2ポリペプチドに結合することができない。一実施形態では、流体は、間質液、血液、血漿、血清、粘液、脳脊髄液、又はリンパ液である。本明細書に記載の方法の別の実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2からなる群から選択される。
【0014】
本発明の更に別の態様は、コロナウイルスが細胞によって発現される内因性ACE2ポリペプチドに結合するのを阻害する方法を提供し、本方法は、細胞と連通している流体を、上記態様のいずれか1つに記載のACE2-Fc融合ポリペプチドと接触させることを含み、ACE2-Fc融合ポリペプチドが、コロナウイルスに結合し、それによって、コロナウイルスが内因性に発現されるACE2ポリペプチドに結合するのを阻害する。一実施形態では、流体は、間質液、血液、血漿、血清、粘液、脳脊髄液、又はリンパ液である。別の実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2からなる群から選択される。別の実施形態では、細胞は、哺乳類細胞である。更に別の実施形態では、哺乳類細胞は、ヒト細胞である。
【0015】
別の態様は、コロナウイルス感染症を有する対象又はそれを有する疑いのある対象を治療するための方法を提供し、対象に、上記態様のいずれか1つに記載のACE2-Fc融合ポリペプチドを含む治療有効量の薬学的組成物を投与することを含む。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2からなる群から選択される。別の実施形態では、対象は、哺乳動物である。別の実施形態では、対象は、ヒトである。更に別の実施形態では、投与は、皮下、静脈内、非経口、腹腔内、髄腔内、経口、吸入、噴霧、及び経皮からなる群から選択される。
【0016】
更に別の態様では、感染のリスクがある対象におけるコロナウイルス感染症を予防するための方法が提供され、本方法は、対象に、有効量の上記態様のいずれか1つに記載のACE2-Fc融合ポリペプチドを含む薬学的組成物を投与することを含む。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2からなる群から選択される。別の実施形態では、対象は、哺乳動物である。別の実施形態では、対象は、ヒトである。更に別の実施形態では、投与は、皮下、静脈内、非経口、腹腔内、髄腔内、経口、吸入、噴霧、及び経皮からなる群から選択される。
【0017】
本発明の別の態様は、対象におけるコロナウイルス感染症の抗体依存性感染増強を治療又は予防する方法を提供し、本方法は、対象に治療有効量の上記態様のいずれか1つに記載のACE2-Fc融合ポリペプチドを含む薬学的組成物を投与することを含む。
【0018】
多数の実施形態が更に提供され、これらは、本発明のいずれかの態様に適用され得、かつ/又は本明細書に記載の任意の他の実施形態と組み合わされ得る。例えば、一実施形態では、コロナウイルス感染症は、SARS-CoV-1感染症及びSARS-CoV-2感染症からなる群から選択される。一実施形態では、対象は、哺乳動物である。別の実施形態では、対象は、ヒトである。更に別の実施形態では、投与は、皮下、静脈内、非経口、腹腔内、髄腔内、経口、吸入、噴霧、及び経皮からなる群から選択される。
【0019】
多数の追加の実施形態が提供され、これらは、本発明のいずれかの態様に適用され得、かつ/又は本明細書に記載の任意の他の実施形態と組み合わされ得る。例えば、一実施形態では、コロナウイルスは、他のコロナウイルスを中和することができるモノクローナル抗体による中和に耐性があり、SARS-CoV-2を中和することができるモノクローナル抗体による中和に耐性があるSARS-CoV-2のバリアントであり、コロナウイルスワクチンによって付与される免疫に耐性があり、SARS-CoV-2のワクチンによって付与される免疫に耐性があるSARS-CoV-2のバリアントであり、以前のコロナウイルス感染症によって付与された自然免疫に耐性があり、以前のSARS-CoV-2感染症によって付与された自然免疫に耐性があるSARS-CoV-2のバリアントであり、Sタンパク質にE484置換を保有し、Sタンパク質にN501置換を保有し、Sタンパク質にK417置換を保有し、Sタンパク質にE484及びN501置換を保有し、Sタンパク質にE484K置換を保有し、Sタンパク質にE484Q置換を保有し、Sタンパク質にN501Y置換を保有し、Sタンパク質にK417N置換を保有し、Sタンパク質にE484K及びN501Y置換を保有し、Sタンパク質にE484、N501、及びK417置換を保有し、Sタンパク質にE484K、N501Y、及びK417N置換を保有し、Sタンパク質にL452置換を保有し、Sタンパク質にL452R置換を保有し、Sタンパク質にT478置換を保有し、Sタンパク質にT478K置換を保有し、Sタンパク質にL452及びT478置換を保有し、Sタンパク質にL452R及びT478K置換を保有し、B.1.1.7系統(20I/501Y.V1、「イギリスバリアント」、若しくはアルファバリアントとしても知られる)に由来し、B.1.1.7系統(20I/501Y.V1、「イギリスバリアント」、若しくはアルファバリアントとしても知られる)であり、B.1.351系統(20H/501Y.V2、「南アフリカCOVID-19バリアント」、若しくはベータバリアント(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K、N501Y、及びK417N置換を保有する)としても知られる)に由来し、B.1.351系統(20H/501Y.V2、「南アフリカCOVID-19バリアント」、若しくはベータバリアント(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K、N501Y、及びK417N置換を保有する)としても知られる)であり、B.1.1.248系統(「ブラジルCOVID-19バリアント」、系統P.1、若しくはガンマバリアント(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K及びN501Y置換を保有する)としても知られる)に由来し、B.1.1.248系統(「ブラジルCOVID-19バリアント」、系統P.1、若しくはガンマバリアント(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K及びN501Y置換を保有する)としても知られる)であり、B.1.617系統に由来し、B.1.617.1系統(E484Q置換を保有する)に由来し、B.1.617.1系統(E484Qを保有する)であり、B.1.617.2系統(デルタバリアント(他のSタンパク質変異に加えて、L452R及びT478K置換を保有する)としても知られる)に由来し、B.1.617.2系統(デルタバリアント(他のSタンパク質変異に加えて、L452R及びT478K置換を保有する)としても知られる)であり、B.1.617.3系統(E484Q置換を保有する)に由来し、かつ/又はB.1.617.3系統(E484Q置換を保有する)である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ACE2-Fc融合ポリペプチドの三次元図である。
図2A】SARS-CoV-2に結合する2つのACE2-Fc融合ポリペプチドの能力を特徴付ける。図2Aは、DF-COV-01及びDF-COV-02がSARS-CoV-2に強く結合することを示す結合曲線である。DF-COV-01及びDF-COV-02の濃度は、μg/mlで測定される。図2Bは、図2Aに示される結合曲線と同じであるが、DF-COV-01及びDF-COV-02の濃度は、モル濃度で測定される。
図2B】同上。
図3】2つのACE2-Fc融合ポリペプチドが偽型SARS-CoV-2ウイルス粒子を中和する能力を特徴付けるグラフを含む。DF-COV-01及びDF-COV-02は、ACE2を発現する293T細胞へのウイルス侵入を阻害する。
図4A】固定化された組換えヒトFcγRIIaに対する2つのACE2-Fc融合ポリペプチドの親和性と、固定化された組換えヒトFcγRIIaに対する精製されたポリクローナルヒトIgGの親和性とを比較する。図4Aは、DF-COV-01及びDF-COV-02が、ヒトIgGと比較して著しく減弱したFcγRIIa結合を示す結合曲線である。DF-COV-01及びDF-COV-02の濃度は、μg/mlで測定される。図4Bは、図4Aに示される結合曲線と同じであるが、DF-COV-01及びDF-COV-02の濃度は、モル濃度で測定される。
図4B】同上。
図5】DF-COV-01及びDF-COV-02のACE2酵素活性を、野生型ACE2細胞外ドメインを含む2つのACE2-Fc融合体のACE2酵素活性と比較する。DF-COV-01及びDF-COV-02は酵素活性を示さないが、一致した野生型ACE2-Fc融合体は酵素活性を示す。
図6A】ルシフェラーゼ及びGFPレポーター遺伝子の両方を含む偽型SARS-CoV-2ウイルス粒子を中和するDF-COV-01及びDF-COV-02の能力を特徴付ける。ACE2を発現する293T細胞を、標的として使用した。図6Aでは、ルシフェラーゼ発現を検出する発光アッセイによって感染を測定した。図6Bでは、GFPの発現を検出する蛍光顕微鏡によって、293T細胞の感染を可視化した。DF-COV-01とDF-COV-02の両方がACE2発現293T細胞へのウイルス侵入を阻害し、DF-COV-01は、DF-COV-02よりも強力に中和する。
図6B】同上。
図7】野生型SARS-CoV-2ウイルスを中和し、ヒト誘導多能性幹細胞に由来するヒト2型肺胞細胞(iAT2)の感染を防止するDF-COV-01及びDF-COV-02の能力を特徴付ける。SARS-CoV-2によるiAT2細胞の感染は、SARS-CoV-02N-タンパク質に対する蛍光標識抗体によって検出され、フローサイトメトリーによって測定された。DF-COV-01及びDF-COV-02はいずれも感染を阻害したが、陰性対照のFc融合体(PD-L1-Fc)は阻害しなかった。
図8】腹腔内注射を介して投与した場合のハムスターにおけるDF-COV-01及びDF-COV-02の薬物動態(PK)曲線を示すグラフである。DF-COV-01の血清中半減期(t1/2)は、DF-COV-02の半減期よりも長い。DF-COV-02の分布容積(V)は、DF-COV-01の分布容積よりも大きい。DF-COV-02は、DF-COV-01よりも高度に末梢組織に浸透すると考えられている。
図9A】インビボでのSARS-CoV-2ウイルスに対するDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の活性を特徴付ける。シリアハムスターを、SARS-CoV-2で鼻腔内負荷し、1日1回の40mg/kgのDF-COV-01、又は1日2回の20mg/kgのDF-COV-02、DF-COV-03、DF-COV-04、若しくはビヒクル対照(PBS)のいずれかで合計3日間処置した。図9Aは、3日目の中咽頭のウイルス力価を比較し、図9Bは、3日目の鼻甲介のウイルス力価を比較し、図9Cは、3日目の肺の力価を比較し、図9Dは、3日目の各群におけるハムスターの体重を(0日目の各個体の体重に対して)ビヒクル対照(PBS)で処置したハムスターと比較し、図9Eは、DF-COV-01で処置したハムスターの経時的な体重をビヒクル対照(PBS)で処置したハムスターと比較する。DF-COV-01は、ビヒクル対照(PBS)と比較して、中咽頭力価、鼻甲介力価、及び肺力価を低下させた。体重減少は、ハムスターにおけるSARS-CoV-2感染症の兆候である。DF-COV-01で処置したハムスターは、ビヒクル対照(PBS)で処置したハムスターと比較して、3日目でより高い平均体重を有した。DF-COV-01で処置した数匹のハムスターは、全てのハムスターが屠殺された3日目までに、減少した体重が回復し始めた。
図9B】同上。
図9C】同上。
図9D】同上。
図9E】同上。
図10A】DF-COV-01及びDF-COV-02の概略図及び三次元図を含む。図10Aは、DF-COV-01を示し、これは、サイレントIgG4-SPLE Fcドメインに融合された酵素的に不活性な完全長ACE2細胞外ドメインであるACE2-NN(18-740)とのACE2-Fc融合体である。図10Bは、DF-COV-02を示し、これは、サイレントIgG4-SPLE Fcドメインに融合された酵素的に不活性なACE2メタロペプチダーゼドメインACE2-NN(18-612)とのACE2-Fc融合体である。ACE2細胞外ドメインの膜近位ストークは、DF-COV-01の柔可撓性を増強し得ることが理解され得る。DF-COV-02がより小さく、その末梢組織浸透は、このより小さい分子量及びより小さい流体力学的半径によって増強され得ることも理解され得る。
図10B】同上。
図11】DF-COV-03の概略図を含み、これは、サイレントIgG1-LALA Fcドメインに融合された酵素的に不活性なACE2メタロプロテアーゼドメインACE2-NN(18-615)とのACE2-Fc融合体である。IgG1 Fcドメインのヒンジ領域は、IgG4 Fcドメインのヒンジ領域よりも可撓性であり、可撓性G4AG4人工リンカー配列もまた含まれる。
図12A】SARS-CoV-2 S-タンパク質に結合する2つのACE2メタロプロテアーゼドメインのアミノ末端とカルボキシ末端との間の距離を比較する三次元図、並びにこの比較に基づいて設計されたACE2-Fc融合体の概略図を含む。図12Aでは、SARS-CoV-2 S-タンパク質RBDに結合するACE2メタロプロテアーゼドメインの2つの結晶構造のRBD(PDB:6M0J)を、完全長SARS-CoV-2 S-タンパク質構造(PDB:6X2B)の「アップ(up)」立体構造における2つのRBDと重ね合わせた。ACE2メタロプロテアーゼドメインのアミノ末端間の距離は40Åと測定され、ACE2メタロプロテアーゼドメインのカルボキシ末端間の距離は93Åと測定された。図12Bは、DF-COV-04の概略図であり、これは、サイレントIgG1-LALA Fcドメインに融合された酵素的に不活性なACE2メタロプロテアーゼドメインACE2-NN(18-615)とのACE2-Fc融合体である。このポリペプチドのACE2及びFcドメインの配向は逆であり、FcドメインはACE2ドメインに対してアミノ末端である。DF-COV-04の2つのACE2メタロプロテアーゼドメインが、同じウイルスSタンパク質上の2つのRBDに同時に結合する場合、リンカーは、よりエネルギー的に有利であるより短い距離にまたがることが必要であり得る。したがって、ACE2-Fcと、Fcドメインのカルボキシ末端に位置するACE2メタロプロテアーゼドメインとの融合体は、ウイルス中和の効力を改善することができる。
図12B】同上。
図13A】偽型SARS-CoV-2ウイルス粒子を中和するDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の能力を特徴付ける。ACE2を発現する293T細胞を標的として使用し、ルシフェラーゼレポーターの発現を検出する発光アッセイによって、感染を測定する。図13Aは、μg/mLの濃度での中和曲線を含む。図13Bは、ナノモル濃度単位の濃度での中和曲線を含む。DF-COV-01が最も強力にウイルスを中和し(IC50 1.8nM)、DF-COV-04も強力にウイルスを中和した(IC50 4.4nM)。DF-COV-02及びDF-COV-03は、ウイルスをあまり中和しなかった(IC50がそれぞれ10nM及び15nM)。
図13B】同上。
図14A】DF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04がSARS-CoV-2 S-タンパク質に結合する能力を特徴付ける。図14Aは、μg/mLの濃度での結合曲線を含み、図14Bは、ナノモル単位の濃度での結合曲線を含む。DF-COV-01及びDF-COV-02は、Sタンパク質に、同等に結合する。DF-COV-03は、DF-COV-01及びDF-COV-02よりもSタンパク質に対するアビディティがわずかに高い。驚くべきことに、DF-COV-04は、このアッセイによって測定した場合、DF-COV-02及びDF-COV-03よりも強力なバイアル中和を示したにもかかわらず、S-タンパク質に対して低いアビディティを有する。
図14B】同上。
図15A】SARS-CoV-2 S-タンパク質に対するDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の結合親和性を測定する。親和性は、固定化されたDF-COV化合物及び溶液中のSARS-CoV-2 S-タンパク質を用いたバイオレイヤー干渉法(Octet)によって決定した。DF-COV-01及びDF-COV-02は、DF-COV-03及びDF-COV-04よりもSARS-CoV-2 Sタンパク質に対して高い親和性を有した。
図15B】同上。
図16A】噴霧後のDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の安定性を特徴付ける。各化合物を振動式メッシュネブライザー(vibrating mesh nebulizer)で噴霧し、次いで、マイクロ遠心チューブに回収した。固定化されたSARS-CoV-2 S-タンパク質への噴霧化合物の結合を、噴霧前に採取した試料の結合と比較した(ベースライン)。結合は、抗ヒトIgG-HRP二次抗体を介して検出された。4つ全てのDF-COV化合物について、噴霧試料と非噴霧試料との間のSタンパク質結合アビディティに有意差はなかった(ベースライン)。
図16B】同上。
図16C】同上。
図16D】同上。
図17】シリアハムスターにおけるDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の血清中半減期を比較する。8mg/kgの各DF-COV化合物を、時間ゼロで別々の群の3匹のハムスターに腹腔内注射することによって投与した。静脈採血は、4、8、24、48、及び72時間で実施し、各試料について、DF-COV化合物の血清中濃度を、ELISAによって決定した。DF-COV-01の血清中半減期が最も長く、52時間であった。他の3つのACE2-Fc設計置換は、およそ16時間、13時間、及び7時間というはるかに短い半減期を有した。
図18】SARS-CoV-2を鼻腔内負荷し、DF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、DF-COV-04、又はビヒクル対照(PBS)のいずれかで処置したシリアハムスターの毎日の体重傾向を比較する。
図19A】SARS-CoV-2感染症の治療モデルにおいてハムスターを治療するDF-COV-01の能力を示す。ハムスターは、1×10PFUのSARS-CoV-2で負荷され、12時間後に処置される。図19Aは、治療の概略図を提供し、図19Bは、結果を提供する。
図19B】同上。
図20A】DF-COV化合物のSARS-CoV-2バリアントへの結合特性を示す。図20Aは、数値データを提供し、図20Bは、滴定曲線を提供する。
図20B-1】同上。
図20B-2】同上。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、不活性な可溶性ACE2タンパク質が、少なくとも部分的に、SARS-CoV-2ウイルスが内因性ACE2に結合するのを競合的に阻害し、それによって、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐという発見に基づいている。本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、SARS-CoV及びSARS-CoV-2を強力に阻害し、好ましい薬物動態を有する。
【0022】
表面受容体細胞外ドメインをFcドメインに融合することは、表面受容体の半減期を延長させ、それらを薬物として使用することを可能にする一般的な方法である。受容体Fc融合体の例としては、とりわけ、エタネルセプト、アバタセプト、ベラタセプト、アレフェセプト、及びリロナセプトが挙げられる。これらの薬物の半減期は、3~15日である。Fcドメインへの融合は、Fcドメインが二量体を形成するため、その結合パートナーへの受容体のアビディティを増加させる追加の利点を有し、したがって、2つの受容体ドメインが薬物の各分子上に存在し、その結合アビディティを増加させる。Fc融合体は、新生児型Fc受容体(Fc neonatal receptor)によって内皮細胞を横切ってシャペロンされ、したがって、一般に、より高い末梢組織濃度を示すため、血管構造を横切って容易に移動する。
【0023】
ACE2は、1回貫通(single-pass)膜タンパク質であり、その細胞外ドメインをIgGのFcドメインに融合して、Fc融合を作製することができる。ACE2-Fc融合タンパク質を利用して、コロナウイルスによる細胞の感染を阻害するという概念は、以前に実証されていた。2004年、Harvard Medical SchoolのMooreらは、ACE2-Fc融合体が、インビトロで、およそ2nMのIC50で、SARS-CoV偽ウイルスによる標的細胞の感染を強力に阻害することができることを示した((2004)J.Virol.,78(19):10628-35)。より最近では、2020年2月、中国のSecond Military Medical UniversityのLeiらは、これらの所見を確認し、ACE2-Fc融合体が、0.1μg/mL未満又は0.5nM未満のIC50で、SARS-CoV-2を更に強力に阻害することを示した((2020)Nat.Commun.11(1):2070)。これらの前臨床研究は、可溶性ACE2-Fcが細胞表面ACE2とうまく競合して標的細胞の感染を防ぐことができることを示している。低ナノモル濃度から亜ナノモル濃度の範囲のこのIC50は、ACE2とSARS-CoV-2のスパイクタンパク質との間の非常に強い相互作用を意味する。ACE2-FcのIC50は、中和モノクローナル抗体のIC50と同様である。例えば、Wangらは、最近、約0.5nMの同様のIC50を有するSARS-CoV-2中和抗体を報告した(Wang et al.(2020)Nat.Commun.11:225)。本発明によって包含される融合タンパク質は、Fcγ受容体に対する親和性が低下したFcドメイン断片に融合された酵素的に死んだACE2細胞外ドメインを使用することによって更に進む。
【0024】
本明細書に更に記載されるように、本発明によって包含されるACE2-Fc融合タンパク質は、いくつかの利点を有し、これには、1)薬物動態が有効な投与(例えば、皮下投薬)を可能にするための外来治療及び予防の許容、2)不活性ACE2がRAAS経路の阻害からの低血圧を回避するための血行動態的副作用の回避、3)サイレントFcドメインが自然免疫細胞の感染及び天然に見られるADEの妨害のリスクを低減するための抗体依存性感染増強(ADE)リスクの緩和、及び4)定義されたエピトープが中和抗体及びワクチンとは異なり依存されないためのACE2指向性新型コロナウイルスの有効な標的化、が含まれる。
【0025】
I.定義
「a」及び「an」という冠詞は、冠詞の文法的目的語の1つ又は1つを超える(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書で使用される。例として、「要素」とは、1つの要素又は1つを超える要素を意味する。
【0026】
「投与する」という用語は、薬剤が意図された機能を実行することを可能にする投与経路を含むように意図されている。使用可能な身体の治療のための投与経路の例としては、注射(皮下、静脈内、非経口、腹腔内、髄腔内など)、経口、吸入、噴霧、及び経皮経路が挙げられる。注射は、ボーラス注射であり得るか、又は持続注入であり得る。投与経路に応じて、薬剤は、意図された機能を実行する能力に有害な影響を及ぼす可能性のある自然な条件から薬剤を保護するために、選択された材料でコーティングされ得るか、又は選択された材料で配置され得る。薬剤は、単独で、又は薬学的に許容される担体と併せて投与され得る。薬剤は、インビボで活性形態に変換されるプロドラッグとして投与することもできる。
【0027】
本明細書で別途特定されない限り、「抗体(antibody)」及び「抗体(antibodies)」という用語は、抗体の天然に存在する形態(例えばIgG、IgA、IgM、IgE)及び組換え抗体(例えば、一本鎖抗体、キメラ抗体及びヒト化抗体、並びに多重特異性抗体、並びに前述の全ての断片及び誘導体(これらの断片及び誘導体は、少なくとも抗原結合部位を有する)を広範に包含する。抗体誘導体は、抗体にコンジュゲートされたタンパク質又は化学的部分を含み得る。
【0028】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、抗体の「抗原結合部分」(又は単に「抗体部分」)も含む。本明細書で使用される「抗原結合部分」という用語は、抗原(例えば、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチド)に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の抗原結合機能が全長抗体の断片によって果たされ得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語の範囲内に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片、VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、及びCH1ドメインからなる一価断片、(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片、(iii)VHドメイン及びCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546)、並びに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。更に、Fv断片の2つのドメインVL及びVHが別個の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を使用して、それらがVL領域及びVH領域が対合して一価ポリペプチドを形成する単一タンパク質鎖として作製されることを可能にする合成リンカーによって連結され得る(一本鎖Fv(scFv)として知られている、例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426、及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883、及びOsbourn et al.1998,Nature Biotechnology 16:778を参照のこと)。かかる一本鎖抗体は、抗体の「抗原結合部分」という用語の範囲内に包含されるようにも意図されている。特異的scFvの任意のVH配列及びVL配列は、完全IgGポリペプチド又は他のアイソタイプをコードする発現ベクターを生成するために、ヒト免疫グロブリン定常領域cDNA又はゲノム配列に連結され得る。VH及びVLは、タンパク質化学又は組換えDNA技術のいずれかを使用した免疫グロブリンのFab断片、Fv断片、又は他の断片の生成にも使用され得る。ダイアボディ等の一本鎖抗体の他の形態も包含される。ダイアボディは、VHドメイン及びVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現されるが、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用して発現され、それにより、これらのドメインを別の鎖の相補性ドメインと対合させ、2つの抗原結合部位を作製する、二価の二重特異性抗体である(例えば、Holliger et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6444-6448、Poljak et al.(1994)Structure 2:1121-1123)を参照のこと)。
【0029】
なお更に、抗体又はその抗原結合部分は、抗体又は抗体部分と1つ以上の他のタンパク質又はペプチドとの共有結合的又は非共有結合的会合によって形成されるより大きい免疫接着ポリペプチドの一部であり得る。かかる免疫接着ポリペプチドの例としては、四量体scFvポリペプチドを作製するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov et al.(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)、並びに二価のビオチン化scFvポリペプチドを作製するためのシステイン残基、タンパク質サブユニットペプチド、及びC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov et al.(1994)Mol.Immunol.31:1047-1058)が挙げられる。Fc断片などの抗体部分は、それぞれ、全抗体のパパイン消化又はペプシン消化などの従来の技法を使用して、全抗体から調製され得る。更に、抗体、抗体部分、及び免疫接着ポリペプチドは、本明細書に記載の標準の組換えDNA技法を使用して得られ得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、「抗体依存性感染増強(antibody dependent enhancement、ADE)」という用語は、抗体補助ウイルスの細胞への侵入によって引き起こされる疾患又は状態(すなわち、コロナウイルス感染症)の悪化を指す。例えば、SARS-CoV-2抗原に特異的に結合する中和抗体のFcドメインは、Fcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)によって認識され得る。Fcγ受容体がFcドメインに結合すると、受容体は、抗体及び結合したウイルスの細胞内への侵入を媒介する。次いで、ウイルスが細胞内で破壊される代わりに、ウイルスの侵入は、細胞の感染及び炎症の増加をもたらす。典型的には、ADEは、FcγIIa受容体によって媒介される。
【0031】
本明細書で使用される場合、「アイソタイプ」という用語は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgM、IgG1、IgG2Cなど)を指す。
【0032】
「予防する」、「予防すること」、「予防」、「予防的治療」等の用語は、疾患、障害、又は状態を有しないが、それを発症するリスクがあるか、又はそれに罹患しやすい対象における疾患、障害、又は状態を発症する可能性を低下させることを指す。
【0033】
「コード領域」という用語は、アミノ酸残基に翻訳されるコドンを含むヌクレオチド配列の領域を指し、「非コード領域」という用語は、アミノ酸に翻訳されないヌクレオチド配列の領域(例えば、5’及び3’非翻訳領域)を指す。
【0034】
「相補的」という用語は、2つの核酸鎖の領域間又は同じ核酸鎖の2つの領域間の相補的な配列の広範な概念を指す。第1の核酸領域のアデニン残基は、残基がチミン又はウラシルである場合に第1の領域に逆平行の第2の核酸領域の残基と特異的水素結合(「塩基対合」)を形成することができることが知られている。同様に、第1の核酸鎖のシトシン残基は、残基がグアニンである場合に第1の鎖に逆平行の第2の核酸鎖の残基と塩基対合することができることが知られている。核酸の第1の領域は、2つの領域が逆平行様式で配置されたときに、第1の領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基が第2の領域の残基と塩基対合することができる場合、同じ又は異なる核酸の第2の領域に相補的である。いくつかの実施形態では、第1の領域が第1の部分を含み、第2の領域が第2の部分を含み、それによって、第1の部分及び第2の部分が逆平行様式で配置された場合、第1の部分のヌクレオチド残基の少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%が、第2の部分のヌクレオチド残基と塩基対合することができる。いくつかの実施形態では、第1の部分の全てのヌクレオチド残基が、第2の部分のヌクレオチド残基と塩基対合することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「阻害すること」という用語及びその文法的等価物は、特定の作用、機能、又は相互作用の低減、制限、及び/又は遮断を指す。所与の出力又はパラメータのレベルの減少は、出力又はパラメータの絶対不在を意味し得るが、意味する必要はない。本発明は、出力又はパラメータを完全に排除する方法を必要とせず、それに限定されない。所与の出力又はパラメータは、本明細書及び実施例で考察される免疫組織化学的アッセイ、分子生物学的アッセイ、細胞生物学的アッセイ、臨床的アッセイ、及び生化学的アッセイを含むが、これらに限定されない当該技術分野で周知の方法を使用して決定され得る。「促進すること」、「増加させること」という反意用語、及びそれらの文法的等価物は、阻害又は低減について記載されたものと反対である所与の出力又はパラメータのレベルの増加を指す。
【0036】
本明細書で使用される場合、「相互作用する」又は「相互作用」という用語は、2つの分子(例えば、タンパク質、核酸)又はその断片が、2つの相互作用する分子又はその断片を互いに物理的に近接させるように、互いに十分な物理的親和性を示すことを意味する。相互作用の極端な場合は、2つのエンティティの継続的かつ安定的な近接をもたらす化学結合の形成である。物理的な親和性のみに基づいた相互作用は、通常、化学的に結合した相互作用よりも動的であるが、2つの分子を共局在化するのに同等に効果的であり得る。物理的親和性及び化学結合の例としては、電荷差、疎水性、水素結合、ファンデルワールス力、イオン力、共有結合、及びそれらの組み合わせに起因する力が挙げられるが、これらに限定されない。相互作用のドメイン、断片、タンパク質、又はエンティティ間の近接状態は、一過的、永続的、可逆的、又は不可逆的であり得る。いずれにしても、それは、2つのエンティティの自然なランダムな動きに起因する接触とは対照的であり、識別可能である。典型的には、必ずしもそうではないが、「相互作用」は、相互作用のドメイン、断片、タンパク質、又はエンティティ間の結合によって示される。相互作用の例としては、抗原と抗体、リガンドと受容体、酵素と基質との間の特異的相互作用などが挙げられる。
【0037】
一般に、かかる相互作用は、当該分子の一方又は両方の活性をもたらす(それにより、生物学的効果がもたらされる)。活性は、それらの分子の一方又は両方の直接活性(例えば、シグナル伝達)であり得る。代替的に、相互作用における一方又は両方の分子は、それらのリガンドへの結合を阻止される場合があり、それ故に、リガンド結合活性(例えば、そのリガンドに結合し、免疫応答を誘発又は阻害する)に関して不活性で保持される。かかる相互作用を阻害することにより、相互作用に関与する1つ以上の分子の活性の破壊がもたらされる。かかる相互作用を増強することは、当該物理的接触を延長するか、又はその可能性を高めることであり、当該活性の可能性を延長するか、又はその可能性を高めることである。
【0038】
2つの分子又はその断片間の「相互作用」は、いくつかの方法によって決定することができる。例えば、相互作用は、機能アッセイによって決定することができる(ツーハイブリッドシステムなど)。タンパク質-タンパク質相互作用はまた、2つの相互作用パートナー間の親和性結合に基づいて、様々な生物物理学的及び生化学的アプローチによって決定され得る。当該技術分野で一般に知られているかかる生化学的方法には、タンパク質親和性クロマトグラフィー、親和性ブロッティング、免疫沈降などが含まれるが、これらに限定されない。相互作用の強度又は質を反映する2つの相互作用タンパク質の結合定数は、当該技術分野で既知の方法を使用して決定することもできる。Phizicky and Fields,(1995)Microbiol.Rev.,59:94-123を参照されたい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「キット」とは、本発明によって包含されるヒト又はヒト化ACE2-Fc融合ポリペプチドの発現を特異的に検出又は調節するための少なくとも1つの試薬(例えば、プローブ)を含む任意の製造物(例えば、パッケージ又は容器)である。本キットは、本発明によって包含される方法を行うためのユニットとして販売促進、流通、又は販売され得る。
【0040】
本明細書で使用される場合、「調節する」という用語は、上方制御及び下方制御、例えば、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドの発現及び/又は活性の増強又は阻害を含む。
【0041】
「単離されたタンパク質」とは、他のタンパク質、細胞物質、分離培地、及び培養培地(細胞から単離される場合又は組換えDNA技法によって産生される場合)、又は化学的前駆体若しくは他の化学物質(化学的に合成される場合)を実質的に含まないタンパク質を指す。「単離された」又は「精製された」タンパク質又はその生物学的に活性な部分は、抗体、ポリペプチド、ペプチド、若しくは融合タンパク質が由来する細胞若しくは組織源由来の細胞物質若しくは他の夾雑タンパク質を実質的に含まず、又は化学的前駆体若しくは他の化学物質(化学的に合成される場合)を実質的に含まない。「細胞物質を実質的に含まない」という言語は、タンパク質が、それが単離される又は組換え的に産生される細胞の細胞成分から分離される、ポリペプチド又はその断片の調製物を含む。一実施形態では、「細胞物質を実質的に含まない」という言語は、約30%未満(乾燥重量で)の非ACE2-Fc融合タンパク質(本明細書で「夾雑タンパク質」とも称される)、約20%未満、約10%未満、又は5%未満を有するACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片の調製物を含む。融合タンパク質又はその断片(例えば、その生物学的に活性な断片)が組換え産生される場合、これは、培養培地を実質的に含まず、すなわち、培養培地が、タンパク質調製物の体積の約20%未満、約10%未満、又は約5%未満に相当する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「核酸分子」という用語は、DNA分子及びRNA分子を含むように意図されている。核酸分子は、一本鎖又は二本鎖DNAであり得る。本明細書で使用される場合、「単離された核酸分子」という用語は、ヌクレオチド配列が、他のヌクレオチド配列(ヒトゲノムDNAの核酸に天然に隣接し得る他の配列)を含まない核酸分子を指すように意図されている。
【0043】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれた場合、「作動可能に連結される」。例えば、プロモーター又はエンハンサーは、コード配列の転写に影響を及ぼした場合、その配列に作動可能に連結される。転写制御配列に関して、作動可能に連結されるとは、連結されているDNA配列が隣接しており、必要に応じて、2つのタンパク質コード領域を連結するために、隣接してリーディングフレーム内にあることを意味する。スイッチ配列の場合、作動可能に連結されるとは、それらの配列がスイッチ組換えをもたらすことができることを示す。
【0044】
核酸について、「実質的相同性」という用語は、2つの核酸又はそれらの指定された配列が、適切なヌクレオチド挿入又は欠失を伴って、最適にアライメント及び比較された場合、ヌクレオチドの少なくとも約80%、通常、ヌクレオチドの少なくとも約81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上同一であることを示す。代替的に、実質的相同性は、セグメントが選択的ハイブリダイゼーション条件下でその鎖の相補体にハイブリダイズする場合に存在する。
【0045】
2つの配列間の同一性パーセントは、それらの2つの配列の最適アライメントのために導入される必要のあるギャップの数及び各ギャップの長さを考慮して、それらの配列によって共有された同一の位置の数の関数(すなわち、同一性(%)=同一の位置の数/位置の総数×100)である。2つの配列間の配列の比較及び同一性パーセントの決定は、以下の非限定的な例に記載されるように、数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。
【0046】
2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、NWSgapdnaを使用してGCGソフトウェアパッケージ(GCG社ウェブサイトのワールドワイドウェブ上で利用可能なもの)内のGAPプログラムを使用して決定され得る。CMPマトリックス、及びギャップ重み40、50、60、70、又は80、及び長さ重み1、2、3、4、5、又は6である。2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列間の同一性パーセントは、PAM120重み残基表、ギャップ長ペナルティ12、及びギャップペナルティ4を使用して、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE.Meyers and W.Miller(CABIOS、4:11 17(1989))のアルゴリズムを使用して決定される場合もある。加えて、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、Blosum62マトリックス又はPAM250マトリックスのいずれか、及びギャップ重み16、14、12、10、8、6、又は4、及び長さ重み1、2、3、4、5、又は6を使用して、GCGソフトウェアパッケージ(GCG社ウェブサイトのワールドワイドウェブ上で利用可能なもの)内のGAPプログラムに組み込まれたNeedleman and Wunsch(J.Mol.Biol.(48):444 453(1970))のアルゴリズムを使用して決定され得る。
【0047】
本発明によって包含される核酸配列及びタンパク質配列は、例えば、関連配列を特定するために、公開データベースに対して検索を行うための「クエリ配列」として更に使用され得る。かかる検索は、Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403 10のNBLASTプログラム及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)を使用して行われ得る。BLASTヌクレオチド検索は、本発明によって包含される核酸分子と相同のヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いて行われ得る。BLASTタンパク質検索は、本発明によって包含されるタンパク質分子と相同のアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて行われ得る。比較のためのギャップ付きアライメントを得るために、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389 3402に記載のGapped BLASTが利用され得る。BLASTプログラム及びギャップ付きBLASTプログラムを利用する際に、それぞれのプログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータが使用され得る(NCBIウェブサイトのワールドワイドウェブ上で利用可能である)。
【0048】
核酸は、全細胞中に、細胞溶解物中に、又は部分的に精製された形態若しくは実質的に純粋な形態で存在し得る。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、及び当該技術分野で周知の他の技法(F.Ausubel,et al.,ed.Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New York(1987)を参照のこと)を含む標準技法によって、他の細胞成分又は他の夾雑物、例えば、他の細胞核酸又はタンパク質から精製されたときに、「単離される」又は「実質的に純粋にされる」。
【0049】
「転写されたポリヌクレオチド」又は「ヌクレオチド転写物」は、ACE2-Fc融合核酸の転写、及びRNA転写物(存在する場合)の正常な翻訳後プロセシング(例えば、スプライシング)、及びRNA転写物の逆転写によって作製される成熟mRNAの全て又は一部分と相補的又は相同であるポリヌクレオチド(例えば、mRNA、hnRNA、cDNA、又はかかるRNA若しくはcDNAの類似体)である。
【0050】
「小分子」という用語は、当該技術分野の用語であり、約1000分子量未満又は約500分子量未満の分子を含む。一実施形態では、小分子は、ペプチド結合を排他的に含まない。別の実施形態では、小分子は、オリゴマーではない。活性についてスクリーニングされ得る例示的な小分子化合物としては、限定されないが、ペプチド、ペプチド模倣薬、核酸、炭水化物、有機小分子(例えば、ポリケチド)(Cane et al.(1998)Science 282:63)、及び天然産物抽出物ライブラリが挙げられる。別の実施形態では、これらの化合物は、非ペプチド性有機小分子化合物である。更なる実施形態では、小分子は、生合成のものではない。
【0051】
「特異的結合」という用語は、所定の抗原に対する抗体の結合を指す。典型的には、抗体は、分析物としての目的の抗原とリガンドとしての抗体を使用して、BIACORE(登録商標)アッセイ装置において表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって決定される場合、およそ10-7M未満、例えば、およそ10-8M、10-9M若しくは10-10M未満、又はそれよりも低い親和性(K)で結合し、所定の抗原若しくは密接に関連する抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対するその親和性よりも少なくとも1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍、4.5倍、5.0倍、6.0倍、7.0倍、8.0倍、9.0倍、又は10.0倍以上である親和性で、所定の抗原に結合する。「抗原を認識する抗体」及び「抗原に特異的な抗体」という語句は、本明細書で「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と同義に使用され得る。選択的結合は、別の抗原を上回る、ある抗原の結合を識別する抗体の能力を指す相対的な用語である。
【0052】
本明細書で使用される場合、「ドメイン」という用語は、タンパク質又はポリペプチドの機能的な部分、セグメント、又は領域を意味する。「相互作用ドメイン」は、別のタンパク質、タンパク質断片、又は単離されたドメインに対するそのタンパク質、タンパク質断片、又は単離されたドメインの物理的親和性に関与するタンパク質、ポリペプチド、又はタンパク質断片の一部分、セグメント、又は領域を具体的に指す。
【0053】
特に明記されていない場合、本明細書で使用される「化合物」という用語には、ペプチド、核酸、炭水化物、天然物抽出物ライブラリ、有機分子(例えば、小さな有機分子)、無機分子(例えば、限定されないが、化学物質、金属、及び有機金属分子を含む)が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書で使用される「誘導体」、「類似体」、又は「バリアント」という用語には、限定されないが、ACE2ポリペプチドと実質的に相同である領域を含むポリペプチドが含まれ、様々な実施形態では、同一のサイズのアミノ酸配列にわたって、又はアラインメントが当該技術分野で既知のコンピュータホモロジープログラムによって行われるアラインメント配列と比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、若しくは99%の同一性であるか、あるいはそのコード核酸が、ストリンジェント、中程度にストリンジェント、若しくは非ストリンジェントな条件下で、成分タンパク質をコードする配列にハイブリダイズすることができる。それぞれ、アミノ酸の置換、欠失、及び付加による、天然に存在するタンパク質の修飾の結果であり、誘導体が(必ずしも同程度ではないが)天然に存在するタンパク質の生物学的機能を依然として示す、タンパク質を意味する。かかるタンパク質の生物学的機能は、例えば、本発明に提供されるように、好適で利用可能なインビトロアッセイによって調べることができる。
【0055】
本明細書で使用される「機能的に活性な」という用語は、このポリペプチド(すなわち、断片又は誘導体)が関連する実施形態によれば、タンパク質の構造的、調節的、又は生化学的機能を有するポリペプチド(すなわち、断片又は誘導体)を指す。
【0056】
「機能保存的バリアント」とは、タンパク質又は酵素中の所与のアミノ酸残基が、あるアミノ酸と同様の特性(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、疎水性、芳香族など)を有するアミノ酸との置換を含むが、これに限定されない、ポリペプチドの全体的な立体配座及び機能を改変することなく変化したものである。保存されたものとして示されるもの以外のアミノ酸は、同様の機能を有する任意の2つのタンパク質間のタンパク質又はアミノ酸配列類似性パーセントが変化し得るように、タンパク質中で異なり得、例えば、類似性がMEGALIGNアルゴリズムに基づくクラスター法等のアライメントスキームに従って決定される、70%~99%であり得る。「機能保存的バリアント」は、BLAST又はFASTAアルゴリズムによって決定される場合、少なくとも60%、若しくは少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%、更には少なくとも95%のアミノ酸同一性を有し、かつそれが比較される天然又は親タンパク質と同じ若しくは実質的に同様の特性又は機能を有するポリペプチドも含む。
【0057】
「ポリペプチド断片」又は「断片」という用語は、参照ポリペプチドに関して使用される場合、アミノ酸残基が参照ポリペプチド自体と比較して欠失しているが、残りのアミノ酸配列が、通常、参照ポリペプチドにおける対応する位置と同一であるポリペプチドを指す。かかる欠失は、参照ポリペプチドのアミノ末端で内部的に、若しくはそのカルボキシル末端で、又は代替的に両方で生じ得る。断片は、典型的には、少なくとも5、6、8、若しくは10アミノ酸長、少なくとも14アミノ酸長、少なくとも20、30、40、若しくは50アミノ酸長、少なくとも75アミノ酸長、又は少なくとも100、150、200、300、500以上のアミノ酸長である。それらは、例えば、それらが全長ポリペプチドの長さ未満である限り、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、560、580、600、620、640、660、680、700、720、740、760、780、800、820、840、860、880、900、920、940、960、980、1000、1020、1040、1060、1080、1100、1120、1140、1160、1180、1200、1220、1240、1260、1280、1300、1320、1340以上の長さであり得、及び/又はそれを含み得る。代替的に、それらは、それらが全長ポリペプチドの長さ未満である限り、かかる範囲を超えず、かつ/又はかかる範囲を除外し得る。
【0058】
本明細書で使用される「相同」とは、同じ核酸鎖の2つの領域間又は2つの異なる核酸鎖の領域間のヌクレオチド配列類似性を指す。両領域におけるヌクレオチド残基位置が同じヌクレオチド残基によって占有されている場合、それらの領域は、その位置で相同である。第1の領域は、各領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基位置が同じ残基によって占有されている場合、第2の領域と相同である。2つの領域間の相同性は、同じヌクレオチド残基によって占有されている2つの領域のヌクレオチド残基位置の割合で表される。一例として、ヌクレオチド配列5’-ATTGCC-3’を有する領域及びヌクレオチド配列5’-TATGGC-3’を有する領域は、50%の相同性を共有する。いくつかの実施形態では、第1の領域が第1の部分を含み、第2の領域が第2の部分を含み、それによって、それらの部分の各々のヌクレオチド残基位置の少なくとも約50%、いくつかの実施形態では、少なくとも約75%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%が、同じヌクレオチド残基によって占有される。いくつかの実施形態では、それらの部分の各々の全てのヌクレオチド残基位置が、同じヌクレオチド残基によって占有される。
【0059】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、本発明によって包含される組換え発現ベクターなどの本発明によって包含される核酸が導入された細胞を指すことが意図されている。「宿主細胞」及び「組換え宿主細胞」という用語は、本明細書で同義に使用される。かかる用語が特定の対象細胞のみならず、かかる細胞の子孫又は潜在的子孫も指すことを理解されたい。変異又は環境影響のいずれかによりある特定の修飾が後世で生じ得るため、かかる子孫は実際には親細胞と同一ではない場合があるが、依然として本明細書で使用される本用語の範囲内に含まれる。
【0060】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸を指す。1つのタイプのベクターは、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループを指す「プラスミド」である。別のタイプのベクターは、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲートされ得るウイルスベクターである。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自己複製することができる(例えば、細菌性複製起源を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。更に、ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結される遺伝子の発現を指示することができる。かかるベクターは、本明細書で「組換え発現ベクター」又は単に「発現ベクター」と称される。一般に、組換えDNA技法で有用な発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態にある。本明細書では、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドがベクターの最も一般に使用されている形態であるため、同義に使用され得る。しかしながら、本発明は、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)等の同等の機能を果たす発現ベクターの他の形態を含むよう意図されている。
【0061】
「化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」という用語は、タンパク質がタンパク質の合成に関与する化学的前駆体又は他の化学物質から分離される、抗体、ポリペプチド、ペプチド、又は融合タンパク質の調製を含む。一実施形態では、「化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」という言語は、約30%未満、約20%未満、約10%未満、又は約5%未満の(乾燥重量で)化学的前駆体又は非抗体、ポリペプチド、ペプチド、若しくは融合タンパク質化学物質を有する抗体、ポリペプチド、ペプチド、又は融合タンパク質の調製物を含む。
【0062】
「活性」という用語は、タンパク質に関連して使用される場合、これらに限定されないが、生物学的プロセス及び細胞機能、別の分子若しくはその部分と相互作用する又はそれに結合する能力、特定の分子への結合親和性又は特異性、インビトロ又はインビボの安定性(例えば、タンパク質分解速度)、抗原性及び免疫原性、酵素活性などで示される活性を含む、特定のタンパク質によって示される若しくはそれと関連する任意の生理学的又は生化学的活性を意味する。かかる活性は、当業者には明らかであろうが、様々な好適な方法のいずれかによって検出又はアッセイされ得る。
【0063】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、適用可能な場合、本明細書で互換的に使用される。それらは、化学的に修飾され(例えば、翻訳後修飾され)得る。例えば、それらは、グリコシル化され得るか、又は修飾アミノ酸残基を含み得る。これらはまた、ポリペプチドがかかる配列を天然に含まない細胞からの分泌を促進するためのシグナル配列の付加によって修飾され得る。これらは、タグでタグ付けされている場合がある。本発明で使用するためのポリペプチド/タンパク質は、実質的に単離された形態であり得る。ポリペプチド/タンパク質は、担体又は希釈剤と混合することができ、これらは、ポリペプチドの意図された目的を妨げず、かつ依然として実質的に単離されたものとみなされることが理解されるであろう。本発明で使用するためのポリペプチド/タンパク質は、実質的に精製された形態であってもよく、その場合、調製物中にそのポリペプチドを概して含み、調製物中に50重量%超(例えば、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%)のポリペプチドが本発明のポリペプチドである。
【0064】
「ハイブリッドタンパク質」、「ハイブリッドポリペプチド」、「ハイブリッドペプチド」、「融合タンパク質」、「融合ポリペプチド」、及び「融合ペプチド」という用語は、本明細書では互換的に使用され、指定されたポリペプチドに天然には結合されていない1つ以上のポリペプチド分子に共有結合した特定のポリペプチド分子を有する天然には存在しないタンパク質を意味する。したがって、「ハイブリッドタンパク質」は、共有結合によって一緒に結合された2つの天然に存在するタンパク質又はその断片であり得る。「ハイブリッドタンパク質」はまた、2つの人工ポリペプチドを一緒に共有結合させることによって形成されるタンパク質であり得る。必ずというわけではないが、典型的には、2つ以上のポリペプチド分子が、ペプチド結合によって一緒に結合又は融合され、単一の非分岐ポリペプチド鎖を形成する。
【0065】
本明細書で使用される「タグ」という用語は、その最も広い意味で理解されることを意味し、これらに限定されないが、任意の好適な酵素標識、蛍光標識、又は放射性標識、及び好適なエピトープを含まれ、HAタグ、Mycタグ、T7、Hisタグ、FLAGタグ、カルモジュリン結合タンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、strepタグ、KT3エピトープ、EEFエピトープ、緑色蛍光タンパク質、及びそれらのバリアントが含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
「アンジオテンシンI変換酵素2」としても知られる「ACE2」という用語は、アンジオテンシンI変換酵素と有意な相同性を有するジペプチジルカロキシジペチダーゼを指す。そのタンパク質は、アンジオテンシンIをアンジオテンシン1~9に、アンジオテンシンIIをアンジオテンシン1~7に変換する(Donoghue et al.(2000)Circ Res.,87(5):E1-9、Tipnis et al.(2000)J Biol Chem.,275(43):33238-43、Vickers et al.(2002)J Biol Chem.,277(17):14838-43)。ACE2タンパク質はまた、高効率でアペリン13及びダイノルフィン13を加水分解する(Vickers et al.(2002))。ACE2は、重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすウイルス(SARS CoV-1)(Li et al.(2003)Nature 426:450-454)及びCOVID-19を引き起こすSARS CoV-2(Hoffman et al.(2020)Cell,Apr 16;181(2):271-280.e8)を含む、コロナウイルスのスパイク(S)タンパク質に効率的に結合する。
【0067】
「完全長ACE2ポリペプチド」又は「野生型ACE2ポリペプチド」という用語は、以下と少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを指す。
【化1】
【0068】
「ACE2」という用語は、その断片、バリアント(例えば、アレルバリアント)、及び誘導体を含むことが意図されている。代表的なヒトACE2 cDNA及びヒトACE2タンパク質配列は、当該技術分野で周知であり、National Center for Biotechnology Information(NCBI)から公的に入手可能である。ヒトACE2アイソフォームには、転写物NM_001371415.1によってコードされるタンパク質NP_001358344.1、転写物NM_021804.3によってコードされるタンパク質NP_068576.1、及び転写物AY358714.1によってコードされるプロテインAAQ89076.1が含まれる。ヒト以外の生物中のACE2オルソログの核酸配列及びポリペプチド配列は周知であり、例えば、チンパンジー(XM_016942979.1-XP_016798468.1;及びXM_016942980.1-XP_016798469.1)、アカゲザル(NM_001135696.1-NP_001129168.1;XM_028841825.1-XP_028697658.1;及びXM_015126958.2-XP_014982444.2)、イヌ(NM_001165260.1-NP_001158732.1;XM_014111329.2-XP_013966804.1;XM_022415506.1-XP_022271214.1;及びXM_005640992.2-XP_005641049.1)、ウシ(NM_001024502.4-NP_001019673.2;XM_005228428.4-XP_005228485.1;XM_015461785.2-XP_015317271.1;XM_005228429.4-XP_005228486.1;及びXM_024987850.1-XP_024843618.1)、マウス(NM_001130513.1-NP_001123985.1;及びNM_027286.4-NP_081562.2)、ラット(NM_001012006.1-NP_001012006.1)、ニワトリ(XM_416822.5-XP_416822.2)、カエル(XM_002938247.4-XP_002938293.2)、ゼブラフィッシュ(NM_001007297.1-NP_001007298.1;XM_005169359.4-XP_005169416.1;及びXM_005169360.4-XP_005169417.13.2)、及びC.elegans(NM_001029282.6-NP_001024453.1)が含まれる。
【0069】
「断片結晶化可能ドメイン(fragment crystallizable domain)」又は「Fcドメイン」という用語は、IgG抗体の断片結晶化可能領域を指す。このドメインは、Fcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)に結合し、抗体の細胞内在化を可能にする。
【0070】
本明細書で使用される場合、「ACE-2指向性コロナウイルス」という用語は、ACE2タンパク質を使用して細胞に侵入するコロナウイルスのサブセットを指す。世界的に重要な3つのウイルスを含む少なくとも7つのコロナウイルスが、ACE2を利用することが知られている:NL63、SARS-CoV、2004年の重症急性呼吸器症候群の発生に関与するウイルス、及びCOVID-19パンデミックに関与するウイルスSARS-CoV-2(Li et al.(2003)Nature,426(6965):450-54、Hoffman et al.(2020)Cell,181(2):271-80 e8)。
【0071】
「コロナウイルス感染症の診断」という用語は、個体におけるコロナウイルス若しくはそのサブタイプ、コロナウイルスポリペプチド若しくは当該コロナウイルスポリペプチドをコードする核酸分子、又はコロナウイルス抗原に特異的に結合する抗体の存在又は不在を決定するための、本発明の方法、システム、及びコードの使用を含む。この用語はまた、個体における疾患活動性のレベルを評価するための方法、システム、及びコードを含む。
【0072】
特定のタンパク質のアミノ酸配列と、遺伝子コード(以下に示される)によって定義されるタンパク質をコードし得るヌクレオチド配列との間に既知の明確な対応関係が存在する。同様に、特定の核酸のヌクレオチド配列と、遺伝子コードによって定義される核酸によってコードされるアミノ酸配列との間に既知の明確な対応関係が存在する。
【表1】
【0073】
遺伝子コードの重要な周知の特徴は、その冗長性であり、それにより、タンパク質を作製するために使用されるアミノ酸の大半には、1つより多くのコーディングヌクレオチドトリプレットが用いられ得る(上で例証される)。したがって、いくつかの異なるヌクレオチド配列が所与のアミノ酸配列をコードし得る。かかるヌクレオチド配列は、全ての生物における同じアミノ酸配列の産生をもたらすため(ある特定の生物はいくつかの配列を他の配列よりも効率的に翻訳し得るが)、機能的に同等であるとみなされる。更に、時折、プリン又はピリミジンのメチル化バリアントが所与のヌクレオチド配列に見られ得る。かかるメチル化は、トリヌクレオチドコドンと対応するアミノ酸との間のコーディング関係に影響を及ぼさない。
【0074】
前述を考慮して、ACE2-Fc融合ポリペプチドの核酸(又はその任意の部分)をコードするDNA又はRNAのヌクレオチド配列は、DNA又はRNAをアミノ酸配列に翻訳するための遺伝コードを使用して、ACE2-Fc融合ポリペプチドのアミノ酸配列を駆動するために使用され得る。同様に、ポリペプチドアミノ酸配列について、ポリペプチドをコードすることができる対応するヌクレオチド配列が遺伝子コードから推定され得る(その冗長性のため、任意の所与のアミノ酸配列に対して複数の核酸配列がもたらされる)。したがって、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の本明細書における説明及び/又は開示は、ヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列の説明及び/又は開示も含むとみなされるべきである。同様に、本明細書におけるポリペプチドアミノ酸配列の説明及び/又は開示は、アミノ酸配列をコードすることができる全ての可能なヌクレオチド配列の説明及び/又は開示も含むとみなされるべきである。
【0075】
最後に、本発明によって包含されるACE2融合ポリペプチド及びその断片の核酸及びアミノ酸の配列情報は、当該技術分野で既知であり、米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)などの公的に利用可能なデータベースで容易に入手可能である。表1~8に、例示的な核酸及びアミノ酸配列が提供される。

表1
配列番号1:H374N H378N置換を有するACE2細胞外ドメインのアミノ酸配列(残基18~740)
【化2】
配列番号2:H374N H378N置換を有するACE2細胞外ドメインのサブセット(残基18~708)
【化3】
配列番号3:H374N H378N置換を有するACE2細胞外ドメインのサブセット(残基18~615)
【化4】
配列番号4:H374N H374N置換を有するACE2細胞外ドメインのサブセット(残基18~612)
【化5】

表2:S228P置換及び他のリンカーを有するIgG4に由来するヒンジ
配列番号5
VESKYGPPCPPCP
配列番号6
ESKYGPPCPPCP
配列番号7
SKYGPPCPPCP
配列番号8
【化6】
配列番号9
YGPPCPPCP
配列番号10
GPPCPPCP
配列番号11
PPCPPCP
配列番号12
PCPPCP
配列番号13
CPPCP
配列番号14
PPCP
配列番号15
PCP
配列番号52(第1の残基がGであることを除いて、配列番号5と同様)
GESKYGPPCPPCP
配列番号53(G4AG4リンカー)
GGGGAGGGG
配列番号54(G4AG4AG4リンカー)
GGGGAGGGGAGGGG

表3:IgG1に由来するヒンジ
配列番号16
EPKSCDKTHTCP
配列番号17
PKSCDKTHTCP
配列番号18
KSCDKTHTCP
配列番号19
SCDKTHTCP
配列番号20
CDKTHTCP
配列番号21
DKTHTCP
配列番号22
KTHTCP
配列番号23
THTCP
配列番号24
HTCP
配列番号25
TCP

表4:IgG2に由来するヒンジ
配列番号26
ERKCCVECPPCP
配列番号27
RKCCVECPPCP
配列番号28
KCCVECPPCP
配列番号29
CCVECPPCP
配列番号30
CVECPPCP
配列番号31
VECPPCP
配列番号32
ECPPCP

表5:Fcドメイン
配列番号33:L235E置換を有するIgG4 Fcドメイン
【化7】
配列番号34:L235E及びP329G置換を有するIgG4 Fcドメイン
【化8】
配列番号35:IgG1 P329G置換を有するIgG4 Fcドメイン
【化9】
配列番号36:IgG1 P329A置換を有するIgG4 Fcドメイン
【化10】
配列番号37:L234A及びL235A置換を有するIgG1
【化11】
配列番号38:L234A、L235A、及びP329G置換を有するIgG1
【化12】
配列番号39:N297A置換を有するIgG1
【化13】
配列番号40:N297D置換を有するIgG1
【化14】
配列番号41:P329G置換を有するIgG1
【化15】
配列番号42:P329A置換を有するIgG1
【化16】
配列番号55:L234A及びL235A置換を有するIgG1(「EEM」の代わりに「DEL」を有することを除いて、配列番号37と同様)
【化17】

表6:参照IgG Fc及び定常ドメイン
配列番号43:IgG4 Fcドメイン
APEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK
配列番号44:IgG2 Fcドメイン
APPVAGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVQFNWYVDGMEVHNAKTKPREEQFNSTFRVVSVLTVVHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPAPIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPMLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
配列番号45:ヒトIgG1定常領域(Eu番号付け)
【化18】
配列番号46:ヒトIgG2定常領域(Eu番号付け)
【化19】
配列番号47:ヒトIgG4定常領域(Eu番号付け)
【化20】
||=これらのIgG4ヒンジ残基(Y及びG)はEu番号を持たない

表7
配列番号48:DF-COV-01アミノ酸配列
【化21】
*配列番号60:ACE2アミノ酸配列
【化22】
*ACE2の代表的な配列は、配列番号60として提供されているアミノ酸末端リーダーを斜字体で示し、ACE2ペプチダーゼドメイン(PD)(アミノ酸18~615)を太字で示す。アミノ酸615に対するACE2カルボキシ末端の部分(616~768)は、コレクトリン様ドメイン(CLD)と称されている(Yan et al.(2020)Science 367:1444-1448)。この用語は、ACE2の膜近傍ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞質ドメインを含むこの領域が、腎臓の膜貫通タンパク質であるコレクトリンと類似性を共有するという事実に関する(Hamming et al.(2007)J.Pathol.212:1-11)。特に、配列アラインメントは、ACE2のアミノ酸614~カルボキシ末端が、コレクトリンのアミノ酸21~241と47.8%同一性を共有することを実証する(Zhang et al.(2001)J.Biol.Chem.276:17132-17139)。代表的な配列番号60では、コレクトリン様ドメイン(CLD)は太字で示されていない。CLDの膜近傍(細胞外)部分であるアミノ酸616~740には下線が引かれており、CLDの膜貫通部分及び細胞質部分には下線が引かれていない。
配列番号49:DF-COV-02アミノ酸配列
【化23】
配列番号56:DF-COV-03アミノ酸配列([ACE2(18~615)-NN]-[G4AG4]-[IgG1ヒンジ]-[hIgG1(LALA)Fc])[IgG1ヒンジが太字かつ斜字体で示されている]
【化24】
配列番号57:DF-COV-04アミノ酸配列([IgG1ヒンジ]-[hIgG1(LALA)Fc]-[G4AG4AG4]-[ACE2(18~612)-NN])[IgG1ヒンジが太字かつ斜字体で示されている]
【化25】

表8:DF-COV核酸配列
配列番号50:完全DF-COV-01ヌクレオチド配列
ATGGAATGGAGCTGGGTCTTTCTCTTCTTCCTGTCAGTAACGACTGGTGTCCACTCCCAGTCAACAATCGAGGAGCAGGCAAAGACCTTCCTGGACAAGTTTAACCACGAAGCGGAGGACCTGTTCTACCAGAGCAGCCTGGCGAGCTGGAATTACAACACCAACATCACCGAGGAGAACGTGCAGAACATGAATAACGCTGGCGACAAGTGGAGCGCCTTCTTGAAGGAGCAATCCACCCTGGCCCAGATGTACCCGCTGCAAGAGATACAGAACCTGACTGTGAAGCTGCAACTGCAGGCCCTGCAGCAGAACGGCTCCAGCGTGCTGAGCGAAGACAAGAGCAAAAGGCTGAATACCATATTGAACACGATGAGCACCATCTACAGCACCGGCAAAGTATGCAACCCCGACAACCCCCAAGAGTGTCTGTTGTTGGAACCCGGCCTGAACGAGATTATGGCGAACTCCCTGGACTACAACGAACGCCTGTGGGCATGGGAGTCTTGGAGGTCAGAGGTTGGCAAGCAACTGAGGCCGTTGTACGAAGAGTACGTGGTGCTGAAGAACGAAATGGCACGGGCCAATCATTATGAGGACTACGGTGATTATTGGAGGGGCGACTACGAGGTGAACGGCGTGGACGGCTACGACTATAGCAGGGGCCAACTTATAGAGGACGTAGAGCACACTTTTGAGGAAATCAAACCCCTGTACGAGCACTTGCATGCCTACGTACGCGCCAAACTGATGAATGCGTACCCCAGCTACATCAGCCCCATCGGCTGCCTGCCCGCACACCTGCTCGGCGACATGTGGGGCCGATTCTGGACCAATCTGTATAGCCTCACCGTGCCCTTTGGCCAGAAGCCGAACATAGATGTGACGGATGCTATGGTAGACCAGGCGTGGGATGCACAGCGCATCTTCAAGGAGGCCGAGAAGTTCTTCGTGAGCGTCGGCTTGCCCAACATGACCCAGGGTTTCTGGGAGAACTCAATGCTGACTGACCCCGGCAACGTACAGAAAGCCGTATGCCACCCAACTGCTTGGGACCTGGGTAAGGGAGACTTCCGGATCCTCATGTGTACCAAGGTGACCATGGATGACTTTCTCACCGCCCACAATGAAATGGGCAACATCCAGTACGATATGGCCTACGCAGCGCAGCCATTCCTTCTGAGGAACGGTGCCAACGAGGGCTTCCATGAGGCAGTCGGAGAGATCATGAGCCTGTCAGCGGCGACCCCTAAACATCTGAAGAGCATCGGGCTGCTGTCTCCGGACTTTCAAGAGGACAATGAGACTGAGATCAACTTCCTCCTGAAACAGGCGCTGACCATTGTAGGCACCTTGCCCTTCACCTACATGCTGGAGAAGTGGCGATGGATGGTGTTTAAGGGCGAGATCCCGAAGGACCAGTGGATGAAAAAGTGGTGGGAGATGAAGAGGGAGATCGTCGGCGTAGTTGAGCCGGTCCCCCACGACGAAACCTACTGCGATCCTGCCAGCCTGTTCCACGTGAGCAACGATTACAGTTTTATCAGGTACTACACCAGGACCCTTTACCAATTTCAGTTCCAGGAGGCACTGTGCCAGGCCGCCAAGCACGAAGGCCCCCTGCACAAGTGCGACATCAGCAACAGCACCGAGGCGGGTCAAAAGCTGTTTAACATGCTGAGGCTGGGCAAGAGCGAGCCGTGGACCCTGGCCCTGGAAAACGTTGTGGGCGCAAAAAACATGAACGTGAGGCCCCTGCTGAACTACTTCGAGCCCCTGTTCACCTGGCTGAAGGACCAGAACAAGAACAGTTTCGTGGGCTGGAGTACCGATTGGAGTCCCTATGCCGACCAGAGCATCAAGGTGAGGATTAGCCTCAAGAGCGCCCTGGGCGACAAGGCCTATGAATGGAACGACAACGAGATGTACCTGTTCAGGTCAAGCGTGGCCTACGCCATGAGGCAGTACTTCCTGAAAGTGAAGAACCAGATGATACTGTTCGGCGAGGAGGACGTGAGGGTGGCCAACCTGAAGCCCAGGATATCATTCAATTTCTTCGTGACCGCTCCCAAGAACGTGAGCGACATCATCCCCAGGACCGAGGTGGAGAAGGCCATCAGGATGAGCCGCAGCAGGATTAACGACGCCTTCAGGCTGAACGATAACAGCCTGGAGTTCCTTGGCATCCAGCCAACCCTGGGACCACCCAACCAGCCTCCCGTTAGCGGACCCCCCTGTCCTCCTTGCCCTGCTCCTGAATTTGAGGGAGGCCCCTCCGTCTTCCTGTTTCCCCCCAAGCCCAAGGACACCCTGATGATCTCCCGGACACCCGAAGTCACCTGCGTCGTGGTGGATGTCAGCCAGGAAGATCCCGAGGTGCAGTTCAACTGGTACGTGGACGGAGTGGAGGTGCATAACGCCAAAACCAAGCCCAGGGAAGAGCAGTTCAACAGCACCTATCGGGTCGTGTCCGTGCTCACCGTCCTGCATCAGGATTGGCTCAACGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTGTCCAACAAGGGCCTGCCCTCCTCCATCGAGAAGACCATCTCCAAGGCTAAGGGCCAACCTCGGGAGCCCCAAGTGTATACCCTCCCTCCCAGCCAGGAGGAGATGACCAAGAATCAAGTGAGCCTGACCTGCCTCGTGAAGGGATTTTACCCCTCCGACATCGCTGTGGAATGGGAAAGCAATGGCCAACCTGAGAACAACTACAAGACCACACCCCCCGTGCTGGACTCCGATGGCTCCTTCTTCCTGTACAGCAGGCTGACCGTGGACAAATCCCGGTGGCAAGAGGGAAACGTGTTCAGCTGCTCCGTGATGCACGAGGCTCTCCACAACCACTACACCCAGAAGAGCCTCTCCCTGAGCCTCGGCAAGTAA
配列番号51:完全DF-COV-02ヌクレオチド配列
ATGGAATGGAGCTGGGTCTTTCTCTTCTTCCTGTCAGTAACGACTGGTGTCCACTCCCAGTCAACAATCGAGGAGCAGGCAAAGACCTTCCTGGACAAGTTTAACCACGAAGCGGAGGACCTGTTCTACCAGAGCAGCCTGGCGAGCTGGAATTACAACACCAACATCACCGAGGAGAACGTGCAGAACATGAATAACGCTGGCGACAAGTGGAGCGCCTTCTTGAAGGAGCAATCCACCCTGGCCCAGATGTACCCGCTGCAAGAGATACAGAACCTGACTGTGAAGCTGCAACTGCAGGCCCTGCAGCAGAACGGCTCCAGCGTGCTGAGCGAAGACAAGAGCAAAAGGCTGAATACCATATTGAACACGATGAGCACCATCTACAGCACCGGCAAAGTATGCAACCCCGACAACCCCCAAGAGTGTCTGTTGTTGGAACCCGGCCTGAACGAGATTATGGCGAACTCCCTGGACTACAACGAACGCCTGTGGGCATGGGAGTCTTGGAGGTCAGAGGTTGGCAAGCAACTGAGGCCGTTGTACGAAGAGTACGTGGTGCTGAAGAACGAAATGGCACGGGCCAATCATTATGAGGACTACGGTGATTATTGGAGGGGCGACTACGAGGTGAACGGCGTGGACGGCTACGACTATAGCAGGGGCCAACTTATAGAGGACGTAGAGCACACTTTTGAGGAAATCAAACCCCTGTACGAGCACTTGCATGCCTACGTACGCGCCAAACTGATGAATGCGTACCCCAGCTACATCAGCCCCATCGGCTGCCTGCCCGCACACCTGCTCGGCGACATGTGGGGCCGATTCTGGACCAATCTGTATAGCCTCACCGTGCCCTTTGGCCAGAAGCCGAACATAGATGTGACGGATGCTATGGTAGACCAGGCGTGGGATGCACAGCGCATCTTCAAGGAGGCCGAGAAGTTCTTCGTGAGCGTCGGCTTGCCCAACATGACCCAGGGTTTCTGGGAGAACTCAATGCTGACTGACCCCGGCAACGTACAGAAAGCCGTATGCCACCCAACTGCTTGGGACCTGGGTAAGGGAGACTTCCGGATCCTCATGTGTACCAAGGTGACCATGGATGACTTTCTCACCGCCCACAATGAAATGGGCAACATCCAGTACGATATGGCCTACGCAGCGCAGCCATTCCTTCTGAGGAACGGTGCCAACGAGGGCTTCCATGAGGCAGTCGGAGAGATCATGAGCCTGTCAGCGGCGACCCCTAAACATCTGAAGAGCATCGGGCTGCTGTCTCCGGACTTTCAAGAGGACAATGAGACTGAGATCAACTTCCTCCTGAAACAGGCGCTGACCATTGTAGGCACCTTGCCCTTCACCTACATGCTGGAGAAGTGGCGATGGATGGTGTTTAAGGGCGAGATCCCGAAGGACCAGTGGATGAAAAAGTGGTGGGAGATGAAGAGGGAGATCGTCGGCGTAGTTGAGCCGGTCCCCCACGACGAAACCTACTGCGATCCTGCCAGCCTGTTCCACGTGAGCAACGATTACAGTTTTATCAGGTACTACACCAGGACCCTTTACCAATTTCAGTTCCAGGAGGCACTGTGCCAGGCCGCCAAGCACGAAGGCCCCCTGCACAAGTGCGACATCAGCAACAGCACCGAGGCGGGTCAAAAGCTGTTTAACATGCTGAGGCTGGGCAAGAGCGAGCCGTGGACCCTGGCCCTGGAAAACGTTGTGGGCGCAAAAAACATGAACGTGAGGCCCCTGCTGAACTACTTCGAGCCCCTGTTCACCTGGCTGAAGGACCAGAACAAGAACAGTTTCGTGGGCTGGAGTACCGATTGGAGTCCCGGTGAATCCAAGTATGGACCCCCCTGTCCTCCTTGCCCTGCTCCTGAATTTGAGGGAGGCCCCTCCGTCTTCCTGTTTCCCCCCAAGCCCAAGGACACCCTGATGATCTCCCGGACACCCGAAGTCACCTGCGTCGTGGTGGATGTCAGCCAGGAAGATCCCGAGGTGCAGTTCAACTGGTACGTGGACGGAGTGGAGGTGCATAACGCCAAAACCAAGCCCAGGGAAGAGCAGTTCAACAGCACCTATCGGGTCGTGTCCGTGCTCACCGTCCTGCATCAGGATTGGCTCAACGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTGTCCAACAAGGGCCTGCCCTCCTCCATCGAGAAGACCATCTCCAAGGCTAAGGGCCAACCTCGGGAGCCCCAAGTGTATACCCTCCCTCCCAGCCAGGAGGAGATGACCAAGAATCAAGTGAGCCTGACCTGCCTCGTGAAGGGATTTTACCCCTCCGACATCGCTGTGGAATGGGAAAGCAATGGCCAACCTGAGAACAACTACAAGACCACACCCCCCGTGCTGGACTCCGATGGCTCCTTCTTCCTGTACAGCAGGCTGACCGTGGACAAATCCCGGTGGCAAGAGGGAAACGTGTTCAGCTGCTCCGTGATGCACGAGGCTCTCCACAACCACTACACCCAGAAGAGCCTCTCCCTGAGCCTCGGCAAGTAA
配列番号58:完全DF-COV-03ヌクレオチド配列
ATGGAATGGAGCTGGGTCTTTCTCTTCTTCCTGTCAGTAACGACTGGTGTCCACTCCCAGTCAACAATCGAGGAGCAGGCAAAGACCTTCCTGGACAAGTTTAACCACGAAGCGGAGGACCTGTTCTACCAGAGCAGCCTGGCGAGCTGGAATTACAACACCAACATCACCGAGGAGAACGTGCAGAACATGAATAACGCTGGCGACAAGTGGAGCGCCTTCTTGAAGGAGCAATCCACCCTGGCCCAGATGTACCCGCTGCAAGAGATACAGAACCTGACTGTGAAGCTGCAACTGCAGGCCCTGCAGCAGAACGGCTCCAGCGTGCTGAGCGAAGACAAGAGCAAAAGGCTGAATACCATATTGAACACGATGAGCACCATCTACAGCACCGGCAAAGTATGCAACCCCGACAACCCCCAAGAGTGTCTGTTGTTGGAACCCGGCCTGAACGAGATTATGGCGAACTCCCTGGACTACAACGAACGCCTGTGGGCATGGGAGTCTTGGAGGTCAGAGGTTGGCAAGCAACTGAGGCCGTTGTACGAAGAGTACGTGGTGCTGAAGAACGAAATGGCACGGGCCAATCATTATGAGGACTACGGTGATTATTGGAGGGGCGACTACGAGGTGAACGGCGTGGACGGCTACGACTATAGCAGGGGCCAACTTATAGAGGACGTAGAGCACACTTTTGAGGAAATCAAACCCCTGTACGAGCACTTGCATGCCTACGTACGCGCCAAACTGATGAATGCGTACCCCAGCTACATCAGCCCCATCGGCTGCCTGCCCGCACACCTGCTCGGCGACATGTGGGGCCGATTCTGGACCAATCTGTATAGCCTCACCGTGCCCTTTGGCCAGAAGCCGAACATAGATGTGACGGATGCTATGGTAGACCAGGCGTGGGATGCACAGCGCATCTTCAAGGAGGCCGAGAAGTTCTTCGTGAGCGTCGGCTTGCCCAACATGACCCAGGGTTTCTGGGAGAACTCAATGCTGACTGACCCCGGCAACGTACAGAAAGCCGTATGCCACCCAACTGCTTGGGACCTGGGTAAGGGAGACTTCCGGATCCTCATGTGTACCAAGGTGACCATGGATGACTTTCTCACCGCCCACAATGAAATGGGCAACATCCAGTACGATATGGCCTACGCAGCGCAGCCATTCCTTCTGAGGAACGGTGCCAACGAGGGCTTCCATGAGGCAGTCGGAGAGATCATGAGCCTGTCAGCGGCGACCCCTAAACATCTGAAGAGCATCGGGCTGCTGTCTCCGGACTTTCAAGAGGACAATGAGACTGAGATCAACTTCCTCCTGAAACAGGCGCTGACCATTGTAGGCACCTTGCCCTTCACCTACATGCTGGAGAAGTGGCGATGGATGGTGTTTAAGGGCGAGATCCCGAAGGACCAGTGGATGAAAAAGTGGTGGGAGATGAAGAGGGAGATCGTCGGCGTAGTTGAGCCGGTCCCCCACGACGAAACCTACTGCGATCCTGCCAGCCTGTTCCACGTGAGCAACGATTACAGTTTTATCAGGTACTACACCAGGACCCTTTACCAATTTCAGTTCCAGGAGGCACTGTGCCAGGCCGCCAAGCACGAAGGCCCCCTGCACAAGTGCGACATCAGCAACAGCACCGAGGCGGGTCAAAAGCTGTTTAACATGCTGAGGCTGGGCAAGAGCGAGCCGTGGACCCTGGCCCTGGAAAACGTTGTGGGCGCAAAAAACATGAACGTGAGGCCCCTGCTGAACTACTTCGAGCCCCTGTTCACCTGGCTGAAGGACCAGAACAAGAACAGTTTCGTGGGCTGGAGTACCGATTGGAGTCCCTATGCCGACGGCGGAGGTGGTGCAGGAGGCGGTGGAGACAAAACTCACACATGCCCACCGTGCCCAGCACCTGAAGCCGCAGGGGGACCGTCAGTCTTCCTCTTCCCCCCAAAACCCAAGGACACCCTCATGATCTCCCGGACCCCTGAGGTCACATGCGTGGTGGTGGACGTGAGCCACGAAGACCCTGAGGTCAAGTTCAACTGGTACGTGGACGGCGTGGAGGTGCATAATGCCAAGACAAAGCCGCGGGAGGAGCAGTACAACAGCACGTACCGTGTGGTCAGCGTCCTCACCGTCCTGCACCAGGACTGGCTGAATGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAAGCCCTCCCAGCCCCCATCGAGAAAACCATCTCCAAAGCCAAAGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCATCCCGGGATGAGCTGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTCCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTACAGCAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGGTGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGTCTCCGGGTAAATGA
配列番号59:完全DF-COV-04ヌクレオチド配列
ATGGAATGGAGCTGGGTCTTTCTCTTCTTCCTGTCAGTAACGACTGGTGTCCACTCCGACAAAACTCACACATGCCCACCGTGCCCAGCACCTGAAGCCGCAGGGGGACCGTCAGTCTTCCTCTTCCCCCCAAAACCCAAGGACACCCTCATGATCTCCCGGACCCCTGAGGTCACATGCGTGGTGGTGGACGTGAGCCACGAAGACCCTGAGGTCAAGTTCAACTGGTACGTGGACGGCGTGGAGGTGCATAATGCCAAGACAAAGCCGCGGGAGGAGCAGTACAACAGCACGTACCGTGTGGTCAGCGTCCTCACCGTCCTGCACCAGGACTGGCTGAATGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAAGCCCTCCCAGCCCCCATCGAGAAAACCATCTCCAAAGCCAAAGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCATCCCGGGATGAGCTGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTCCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTACAGCAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGGTGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGTCTCCGGGTAAAGGCGGAGGTGGTGCAGGAGGCGGTGGAGCCGGTGGCGGAGGACAGTCAACAATCGAGGAGCAGGCAAAGACCTTCCTGGACAAGTTTAACCACGAAGCGGAGGACCTGTTCTACCAGAGCAGCCTGGCGAGCTGGAATTACAACACCAACATCACCGAGGAGAACGTGCAGAACATGAATAACGCTGGCGACAAGTGGAGCGCCTTCTTGAAGGAGCAATCCACCCTGGCCCAGATGTACCCGCTGCAAGAGATACAGAACCTGACTGTGAAGCTGCAACTGCAGGCCCTGCAGCAGAACGGCTCCAGCGTGCTGAGCGAAGACAAGAGCAAAAGGCTGAATACCATATTGAACACGATGAGCACCATCTACAGCACCGGCAAAGTATGCAACCCCGACAACCCCCAAGAGTGTCTGTTGTTGGAACCCGGCCTGAACGAGATTATGGCGAACTCCCTGGACTACAACGAACGCCTGTGGGCATGGGAGTCTTGGAGGTCAGAGGTTGGCAAGCAACTGAGGCCGTTGTACGAAGAGTACGTGGTGCTGAAGAACGAAATGGCACGGGCCAATCATTATGAGGACTACGGTGATTATTGGAGGGGCGACTACGAGGTGAACGGCGTGGACGGCTACGACTATAGCAGGGGCCAACTTATAGAGGACGTAGAGCACACTTTTGAGGAAATCAAACCCCTGTACGAGCACTTGCATGCCTACGTACGCGCCAAACTGATGAATGCGTACCCCAGCTACATCAGCCCCATCGGCTGCCTGCCCGCACACCTGCTCGGCGACATGTGGGGCCGATTCTGGACCAATCTGTATAGCCTCACCGTGCCCTTTGGCCAGAAGCCGAACATAGATGTGACGGATGCTATGGTAGACCAGGCGTGGGATGCACAGCGCATCTTCAAGGAGGCCGAGAAGTTCTTCGTGAGCGTCGGCTTGCCCAACATGACCCAGGGTTTCTGGGAGAACTCAATGCTGACTGACCCCGGCAACGTACAGAAAGCCGTATGCCACCCAACTGCTTGGGACCTGGGTAAGGGAGACTTCCGGATCCTCATGTGTACCAAGGTGACCATGGATGACTTTCTCACCGCCCACAATGAAATGGGCAACATCCAGTACGATATGGCCTACGCAGCGCAGCCATTCCTTCTGAGGAACGGTGCCAACGAGGGCTTCCATGAGGCAGTCGGAGAGATCATGAGCCTGTCAGCGGCGACCCCTAAACATCTGAAGAGCATCGGGCTGCTGTCTCCGGACTTTCAAGAGGACAATGAGACTGAGATCAACTTCCTCCTGAAACAGGCGCTGACCATTGTAGGCACCTTGCCCTTCACCTACATGCTGGAGAAGTGGCGATGGATGGTGTTTAAGGGCGAGATCCCGAAGGACCAGTGGATGAAAAAGTGGTGGGAGATGAAGAGGGAGATCGTCGGCGTAGTTGAGCCGGTCCCCCACGACGAAACCTACTGCGATCCTGCCAGCCTGTTCCACGTGAGCAACGATTACAGTTTTATCAGGTACTACACCAGGACCCTTTACCAATTTCAGTTCCAGGAGGCACTGTGCCAGGCCGCCAAGCACGAAGGCCCCCTGCACAAGTGCGACATCAGCAACAGCACCGAGGCGGGTCAAAAGCTGTTTAACATGCTGAGGCTGGGCAAGAGCGAGCCGTGGACCCTGGCCCTGGAAAACGTTGTGGGCGCAAAAAACATGAACGTGAGGCCCCTGCTGAACTACTTCGAGCCCCTGTTCACCTGGCTGAAGGACCAGAACAAGAACAGTTTCGTGGGCTGGAGTACCGATTGGAGTCCCTGA
*表1~7には、タンパク質のオルソログ、並びに、表1又は表5~7に列挙されている任意の配列番号のアミノ酸配列又はその一部分とそれらの全長にわたって少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、又はそれ超の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド分子が含まれている。かかるポリペプチドは、本明細書に更に記載される全長ポリペプチドの機能を有し得る。
*RNA核酸分子(例えば、チミンがウリジンで置き換えられたもの)、コードされたタンパク質のオルソログをコードする核酸分子、並びに表8に列記されるいずれかの配列番号の核酸配列又はその一部分と全長にわたって少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、又はそれ超の同一性を有する核酸配列を含むDNA又はRNA核酸配列が表8に含まれる。かかる核酸分子は、本明細書に更に記載される全長核酸の機能を有し得る。
*表6には、「Eu」番号付けシステム(これは本明細書に記載のFcドメイン置換にも使用される)を使用して番号付けされた完全長IgG1、IgG2、及びIgG4配列である配列番号45~47が含まれている。番号付けは、IgG1、IgG2、及びIgG4のCH1ドメインについて同じである。しかし、ヒンジ領域は異なる長さであるため、ヒンジ、CH2、及びCH3ドメイン内の番号付けは、IgG1、IgG2、及びIgG4において異なる。EU番号付けシステムは、IMGT及びKabatシステムの代わりに使用することができる(www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.html and Edelman et al.(1969)Proc.Natl.Acad.USA,63:78-85を参照されたい)。
【0076】
II.薬剤及び組成物
a.核酸
本発明によって包含される一態様は、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)に結合するACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする核酸分子に関する。一実施形態では、本発明の核酸は、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)に結合するACE2-Fc融合ポリペプチドをコードし、それによって、ウイルスが細胞表面上に発現する内因性ACE2に結合するのを競合的に阻害し、当該ポリペプチドが、1)ACE2細胞外ドメインと少なくとも70%、80%、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列又はその断片、配列番号1~4のうちのいずれか1つのアミノ酸配列、2)Fcドメイン又はその断片、Fcドメインと少なくとも70%、80%、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド又はその断片、配列番号33~42若しくは55のうちのいずれか1つのアミノ酸配列、及び3)ACE2細胞外ドメイン又はその断片と、Fcドメイン又はその断片との間の介在ヒンジポペプチドを含み、ヒンジポペプチドは、配列番号5~32若しくは52のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を有する。
【0077】
本明細書で使用される場合、「核酸分子」という用語は、DNA分子(すなわち、cDNA又はゲノムDNA)及びRNA分子(すなわち、mRNA)、並びにヌクレオチドアナログを使用して生成されるDNA又はRNAのアナログを含むことが意図されている。核酸分子は、一本鎖又は二本鎖DNAであり得る。
【0078】
本発明によって包含される核酸分子は、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドをコードし、ACE2-Fc融合ポリペプチドが、ACE2細胞外ドメイン又はその断片、ヒンジポリペプチド、及びFcドメイン又はその断片を含む。核酸によってコードされるACE2細胞外ドメイン若しくはその断片は、表1に示されるアミノ酸配列、あるいは表1に示されるアミノ酸配列と少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、若しくは少なくとも約95%以上(例えば、約98%)相同であるアミノ酸配列又はその一部分(すなわち、100、200、300、400、450、500、若しくはそれ超のアミノ酸残基)を有し、核酸が、核酸分子によってコードされるポリペプチドが、H374N及びH378Nに対応する位置でのアミノ酸置換を更に含む。いくつかの実施形態では、核酸は、核酸分子によってコードされるポリペプチドが、R273Q、H345A、H345L、H505A、及びH505Lに対応する位置に1つ以上のアミノ酸置換を更に含む。いくつかの実施形態では、核酸分子は、R169Q、W271Q、及びK481Qに対応する位置にアミノ酸置換を更に含む。上記のアミノ酸置換は、完全長ACE2ポリペプチドに対するものである。いくつかの実施形態では、核酸は、完全長ACE2ポリペプチドのアミノ酸18~600、18~615、18~708、又は18~740を含むACE2細胞外ドメインをコードする。
【0079】
本発明によって包含される核酸分子によってコードされるFcドメイン又はその断片は、表5に示されるアミノ酸配列、あるいは表5に示されるアミノ酸配列と少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、若しくは少なくとも約95%以上(例えば、約98%)相同であるアミノ酸配列又はその一部分(すなわち、100、200、300、400、450、500、若しくはそれ超のアミノ酸残基)を有する。Fcドメイン又はその断片は、その核酸配列に、Fc受容体(すなわち、FcγIIaR)結合が減弱したFcポリペプチドをもたらすバリアントを含み得る。例えば、S228P及び/又はL235E点置換を含むヒトIgG4 Fcドメイン又はその断片は、FcγR(例えば、FcγIIa受容体)へのFc結合を減弱させ得る。一実施形態では、Fcドメイン断片は、S228又はL235Eアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、S228P及びL235Eアミノ酸置換を含む。FcγR(例えば、FcγIIa受容体)に結合するFcドメイン又はその断片を減弱又は排除することができる他の置換には、IgG1 Fcドメイン又はその断片におけるL234A、L235A、N297X、及び/又はP329G変異体が含まれる。したがって、いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、L234A及びL235Aアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、L234A、L235A、N297A、N297D、及び/又はP329Gアミノ酸置換を含む。更に他の実施形態では、Fcドメイン断片は、L234A及びN297A又はN297Dアミノ酸置換を含む。更に他の実施形態では、Fcドメイン断片は、L235A及びN297A又はN297Dアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、L234A、L235A、及びP329Gアミノ酸置換を含む。アミノ酸置換は、完全長IgG Fcドメインに対するものである。いくつかの実施形態では、ヒンジポリペプチドは、Fabアーム交換を減弱させる変異を含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、ヒンジ領域は、表2のアミノ酸配列を含み、その各々が、S228P置換を含む。一般に、S228P置換は、IgG4抗体において自然に生じるFabアーム交換を阻害し、S228Pは、Fcγ受容体結合に対して影響を及ぼさない。IgG4 Fcドメインは、IgG1よりもFcγ受容体に対する親和性が低く、L235E置換はこの親和性を更に低下させる。Fcドメイン又はその断片は、Fc受容体に結合するFcドメイン又はその断片を減弱又は排除するための追加の置換(例えば、L235E置換)を更に含むことができる。
【0080】
他のACE2-Fc融合ポリペプチドをコードし、したがって、表1~7に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列とは異なる核酸配列を有する核酸分子又はその断片が本発明に含まれる。更に、異なる種(例えば、ヒト類)由来のACE2-Fc融合ポリペプチドをコードし、したがって、表1-7に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列とは異なるヌクレオチド配列を有する核酸分子も、本発明によって包含される範囲内であることが意図される。例えば、ACE2-Fc融合ポリペプチドをコードするチンパンジー核酸配列は、ヒトACE2-Fc融合ポリペプチドのヌクレオチド配列に基づいて特定され得る。
【0081】
一実施形態では、本発明の核酸分子は、表1及び表5~7に示されるアミノ酸配列と十分に相同なアミノ酸配列を含むタンパク質又はその一部分をコードし、そのため、融合タンパク質又はその一部分がコロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)に結合することができ、Fc受容体(例えば、FcγIIa受容体)に対する結合親和性が低下しているか又は全くない。各々のかかる生物学的特性を測定するための方法及びアッセイは、当該技術分野で周知であり、代表的で非限定的な実施形態が、以下の実施例及び上記の定義に記載されている。
【0082】
本明細書で使用される場合、「十分に相同な」という言語は、タンパク質又はその一部分(すなわち、ACE2細胞外ドメイン又はその断片)がコロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)に結合するように、表1~7に示されるアミノ酸配列又はその断片と同一若しくは同等の最小数のアミノ酸残基(例えば、表1~7に示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基と同様の側鎖を有するアミノ酸残基)を含むアミノ酸配列を有するタンパク質又はその一部分を指す。
【0083】
別の実施形態では、タンパク質は、表1~7に示されるアミノ酸配列のアミノ酸配列全体又はその断片と少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上相同である。
【0084】
いくつかの実施形態では、本発明によって包含されるACE2-Fc融合核酸分子によってコードされるタンパク質の部分は、ACE2-Fc融合ポリペプチドの生物学的に活性な部分である。本明細書で使用される場合、「ACE2-Fc融合ポリペプチドの生物学的に活性な部分」という用語は、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV2ウイルス)に結合するACE2-Fc融合ポリペプチドの一部分(すなわち、ACE2細胞外ドメイン又はその断片)を含むことが意図されている。いくつかの実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、完全長ACE2ポリペプチドの他の活性を有しない。
【0085】
標準的な結合アッセイ、例えば、本明細書に記載される免疫沈降及び酵母ツーハイブリッドアッセイ、又は機能アッセイ(例えば、RNAi又は過剰発現実験)を実施して、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその生物学的に活性な断片が完全長ACE2ポリペプチドのコロナウイルス結合活性を維持する能力を決定することができる。
【0086】
本発明は、遺伝子コードの縮重のために(したがって、同じポリペプチド又はその断片をコードするために)、表1~7に示されるアミノ酸配列又はその断片をコードするヌクレオチド配列とは異なる核酸分子を更に包含する。別の実施形態では、本発明の核酸分子は、表1~7に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質若しくはその断片、又は表1~7に示されるアミノ酸配列と少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上相同であるアミノ酸配列を有するタンパク質若しくはその断片、又は表1~7に示されるアミノ酸配列と少なくとも1、2、3、5、若しくは10個のアミノ酸、ただし、30、20、15個以下のアミノ酸が異なるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する。別の実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする核酸は、195、190、185、180、175、170、165、160、155、150、145、140、135、130、125、120、115、110、105、100、95、90、85、80、75、又は70アミノ酸長よりも短い、目的の完全長ACE2-Fc融合ポリペプチドの一部分をコードする核酸配列からなる。
【0087】
当業者は、表1~7に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列又はその断片への変異によって導入され、それによって、改変ポリペプチドの機能的能力を変更することなく、コードされるACE2-Fc融合ポリペプチドのアミノ酸配列の変化をもたらし得ることを理解するであろう。例えば、「非必須」アミノ酸残基でのアミノ酸置換につながるヌクレオチド置換は、配列において行われ得る。「非必須」アミノ酸残基は、ACE2-Fc融合ポリペプチドの活性を著しく変更することなく、ACE2-Fc融合ポリペプチドの配列(例えば、表1~7に示される配列又はその断片)から変更され得る残基であり、一方、「必須」アミノ酸残基は、ACE2-Fc融合ポリペプチド活性(すなわち、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)への結合)に必要とされる。しかしながら、他のアミノ酸残基(例えば、マウスとヒトとの間で保存されていないか、又は半保存されたアミノ酸残基)は、活性に必須ではなくてもよく、したがって、ACE2-Fc融合ポリペプチドの活性を変更することなく改変しやすい可能性が高い。
【0088】
したがって、本発明によって包含される別の態様は、ACE2-Fc融合ポリペプチドの活性に必須ではないアミノ酸残基の変化を含むACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする核酸分子に関する。かかるACE2-Fc融合ポリペプチドは、表1~7に示されるアミノ酸配列又はその断片とはアミノ酸配列が異なるが、本明細書に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドのコロナウイルス結合活性を保持する。一実施形態では、核酸分子は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、タンパク質が、1つ以上の修飾ACE2-Fc融合ポリペプチドドメインを欠いている(例えば、ヒンジ又はFcドメインは欠けていてもよいが、ACE2細胞外ドメインは、コロナウイルスへの結合を担うため、必然的に存在する)。定義セクションで記載されるように、ACE2-Fc融合ポリペプチドの構造-機能関係は既知であり、そのため、当業者であれば、ACE2ドメインのコロナウイルス結合活性を保持しながら、変異され得る又はその他変更され得る領域を容易に理解する。
【0089】
「配列同一性又は相同性」とは、本明細書で使用される場合、2つのポリペプチド分子間又は2つの核酸分子間の配列類似性を指す。2つの比較される配列の両方における位置が、同じ塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子の各々における位置が、アデニンによって占められている場合、それらの分子は、その位置で相同であるか、又は配列同一である。2つの配列間の相同性又は配列同一性のパーセントは、この2つの配列によって共有される一致するか又は相同性の同一の位置の数を、比較した位置の数で割り、100倍した関数である。例えば、2つの配列における位置の10のうちの6が同じである場合、その2つの配列は、60%相同性であるか、又は60%の配列同一性を有する。一例として、DNA配列ATTGCCとTATGGCは、50%の相同性又は配列同一性を共有する。一般に、2つの配列が最大の相同性を与えるようにアラインメントするときに比較が行われる。特に指定されない限り、「ループアウト領域」(例えば、配列のうちの1つにおける欠失又は挿入から生じるもの)は、例えば、ミスマッチとしてカウントされる。
【0090】
2つの配列間の配列の比較及び相同性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。アラインメントは、Clustal法を使用して実行することができる。複数のアラインメントパラメータは、GAP Penalty=10、Gap Length Penalty=10を含む。DNAアラインメントの場合、ペアワイズアラインメントパラメータは、Htuple=2、Gap penalty=5、Window=4、及びDiagonal saved=4であってもよい。タンパク質アライメントの場合、ペアワイズアラインメントパラメータは、Ktuple=1、Gap penalty=3、Window=5、及びDiagonals Saved=5であってもよい。
【0091】
一実施形態では、2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、Blossom62マトリックス又はPAM250マトリックス、並びにギャップ重み付け16、14、12、10、8、6、又は4及び長さ重み付け1、2、3、4、5、又は6のいずれかを使用して、GCGソフトウェアパッケージ(オンラインで入手可能)中のGAPプログラムに組み込まれたNeedleman及びWunsch(J.Mol.Biol.(48):444-453(1970))アルゴリズムを使用して決定される。更に別の実施形態では、2つのヌクレオチド配列間のパーセント同一性は、NWSgapdna.CMPマトリックス及びギャップ重み付け40、50、60、70、又は80及び長さ重み付け1、2、3、4、5、又は6を使用して、GCGソフトウェアパッケージ(オンラインで入手可能)中のGAPプログラムを使用して決定される。別の実施形態では、2つのアミノ酸又はヌクレオチド配列間のパーセント同一性は、PAM120重み付け残基表、ギャップ長さペナルティ12及びギャップペナルティ4を使用して、ALIGNプログラム(バージョン2.0)(オンラインで入手可能)に組み込まれたE.Meyers及びW.Miller(CABIOS,4:11-17(1989))のアルゴリズムを使用して決定される。
【0092】
表1~7に示されるタンパク質ドメインに相同なドメインを含むACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする核酸分子又はその断片は、1つ以上のアミノ酸置換、付加、又は欠失がコードされたタンパク質に導入されるように、1つ以上のヌクレオチド置換、付加、又は欠失を、ポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列若しくはその断片又は相同ヌクレオチド配列に導入することによって作製することができる。変異は、部位特異的変異誘発及びPCR媒介性変異誘発などの標準技法によって、表1~7に示されるポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列若しくはその断片又は相同性ヌクレオチド配列に導入され得る。いくつかの実施形態では、保存的アミノ酸置換は、1つ以上の予測される非必須アミノ酸残基で行われる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられたものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非帯電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、分岐状側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、ACE2-Fc融合ポリペプチドの非必須アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基で置換される。代替的に、別の実施形態では、変異は、例えば、飽和変異誘発によって、ACE2-Fc融合ポリペプチドのコード配列の全て又は一部に沿ってランダムに導入することができ、得られた変異体を、本明細書に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドの活性についてスクリーニングして、ACE2-Fc融合ポリペプチドの活性を保持する変異体を特定することができる。表1~7に示される1つ以上のポリペプチドドメイン又はその断片をコードするヌクレオチド配列の変異誘発後、コードされたタンパク質は、(本明細書に記載のように)組換え発現されてもよく、タンパク質の活性は、例えば、本明細書に記載のアッセイを使用して決定することができる。
【0093】
ACE2-Fc融合ポリペプチドのレベルは、転写された分子又はタンパク質の発現を検出するための多種多様な周知の方法のうちのいずれかによって評価することができる。かかる方法の非限定的な例には、タンパク質を検出するための免疫学的方法、タンパク質精製法、タンパク質機能又は活性アッセイ、核酸ハイブリダイゼーション法、核酸逆転写法、及び核酸増幅法が挙げられる。
【0094】
いくつかの実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドのレベルは、遺伝子転写物(例えば、mRNA)を測定することによって、翻訳されたタンパク質の量を測定することによって、又は遺伝子産物の活性を測定することによって確認される。発現レベルは、mRNAレベル、タンパク質レベル、又はタンパク質活性(これらはいずれも標準技法を使用して測定され得る)を検出することを含む様々な方式で監視され得る。検出は、遺伝子発現(例えば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、タンパク質、又は酵素活性)レベルの定量化を含むか、又は代替的に、具体的には対照レベルと比較した遺伝子発現レベルの質的評価であり得る。検出されるレベルのタイプは、文脈から明らかであろう。
【0095】
特定の実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドのmRNA発現レベルは、当該技術分野で既知の方法を使用して、生体試料中のインサイチュ及びインビトロ形式の両方によって決定され得る。「生体試料」という用語は、対象から単離された組織、細胞、生体液及びそれらの単離物、並びに対象内に存在する組織、細胞及び流体を含むように意図されている。多くの発現検出方法は、単離されたRNAを使用する。インビトロ方法については、mRNAの単離に対して選択されない任意のRNA単離技法を、細胞からのRNAの精製に利用することができる(例えば、Ausubel et al.,ed.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York 1987-1999を参照)。加えて、大量の組織試料は、例えば、Chomczynski(1989、米国特許第4,843,155号)のシングルステップRNA単離プロセスなどの当業者に周知の技術を使用して容易に処理され得る。
【0096】
単離されたmRNAは、サザン又はノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析及びプローブアレイを含むが、これらに限定されないハイブリダイゼーション又は増幅アッセイで使用され得る。
【0097】
1つの形式では、mRNAは、固体表面に固定され、例えば、単離されたmRNAをアガロースゲル上で試行し、mRNAをゲルからニトロセルロースなどの膜に移すことによって、プローブと接触させる。代替の形式では、プローブは、固体表面上に固定され、mRNAは、例えば、遺伝子チップアレイ、例えば、Affymetrix(商標)遺伝子チップアレイにおいて、プローブと接触する。当業者は、ACE2-Fc融合物のmRNAの発現レベルを検出する際に使用するために、既知のmRNA検出方法を容易に適応させることができる。
【0098】
試料中のACE2-Fc融合物のmRNA発現レベルを決定するための代替の方法は、例えば、rtPCR(Mullis,1987,米国特許第4,683,202号に示される実験実施形態)、リガーゼ連鎖反応(Barany,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:189-193)、自家持続配列複製(Guatelli et al.,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874-1878)、転写増幅システム(Kwoh et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173-1177)、Qβレプリカーゼ(Lizardi et al.,1988,Bio/Technology 6:1197)、ローリングサークル複製(Lizardi et al.,米国特許第5,854,033号)、又は任意の他の核酸増幅法、その後の当業者に周知の技術を使用した増幅された分子の検出による、核酸増幅のプロセスを伴う。これらの検出スキームは、核酸分子が非常に少ない数で存在する場合の核酸分子の検出に特に有用である。本明細書で使用される場合、増幅プライマーは、遺伝子の5’又は3’領域(それぞれ、プラス鎖及びマイナス鎖、又はその逆)をアニーリングすることができ、その間に短い領域を含有し得る核酸分子の対であると定義される。一般に、増幅プライマーは、約10~30ヌクレオチド長であり、約50~200ヌクレオチド長の領域に隣接する。適切な条件下で、かつ適切な試薬を用い、かかるプライマーは、プライマーによって隣接されるヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅を可能にする。
【0099】
インサイチュ法については、検出の前にmRNAを細胞から単離する必要はない。かかる方法において、細胞又は組織試料は、既知の組織学的方法を使用して調製/処理される。次いで、試料を支持体、典型的にはスライドガラス上に固定し、次いで、ACE2-Fc融合ポリペプチドのmRNAにハイブリダイズすることができるプローブと接触させる。
【0100】
ACE2-Fc融合ポリペプチドの絶対的な発現レベルに基づいて決定を行う代替として、決定は、ACE2-Fc融合ポリペプチドの正規化された発現レベルに基づいてもよい。発現レベルは、その発現を、ACE2-Fc融合ポリペプチド遺伝子(例えば、構成的に発現されるハウスキーピング遺伝子)の発現と比較することによって、ACE2-Fc融合ポリペプチドの絶対的な発現レベルを補正することによって正規化される。正規化に好適な遺伝子としては、アクチン遺伝子などのハウスキーピング遺伝子、又は上皮細胞特異的遺伝子が挙げられる。この正規化により、ある試料、例えば対象試料中の発現レベルを、別の試料、例えば、正常試料、又は異なる供給源からの試料間で比較することが可能になる。
【0101】
ACE2-Fc融合ポリペプチドのレベル又は活性はまた、発現されたポリペプチドを検出又は定量化することによって、検出及び/又は定量化され得る。ACE2-Fc融合ポリペプチドは、当業者に周知のいくつかの手段のうちのいずれかによって、検出及び定量化され得る。これらには、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、超拡散クロマトグラフィーなどの分析的生化学的方法、又は流体若しくはゲル沈降反応、免疫拡散(単一若しくは二重)、免疫電気泳動、放射性免疫アッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイ、ウエスタンブロッティングなどの様々な免疫学的方法が含まれ得る。当業者は、細胞がACE2-Fc融合ポリペプチドを発現するかどうかを決定する際に使用するための既知のタンパク質/抗体検出方法を容易に適合させることができる。
【0102】
b.組換え発現ベクター及び宿主細胞
本発明の別の態様は、ACE2-Fc融合ポリペプチド(又はその一部分)をコードする核酸を含むベクター(例えば、発現ベクター)の使用に関する。本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。1つのタイプのベクターは、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループを指す「プラスミド」である。別のタイプのベクターは、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲートされ得るウイルスベクターである。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自己複製することができる(例えば、細菌性複製起源を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。更に、ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結される遺伝子の発現を指示することができる。かかるベクターは、本明細書で「発現ベクター」と称される。一般に、組換えDNA技法で有用な発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態にある。本明細書では、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドがベクターの最も一般に使用されている形態であるため、互換的に使用され得る。しかしながら、本発明は、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)等の同等の機能を果たす発現ベクターの他の形態を含むように意図されている。一実施形態では、ACE2-Fc融合核酸分子を含むアデノウイルスベクターが使用される。
【0103】
本発明によって包含される組換え発現ベクターは、宿主細胞での核酸の発現に好適な形態で本発明の核酸を含み、これは、組換え発現ベクターが、発現される核酸配列に作動可能に連結されている、発現に使用される宿主細胞に基づいて選択される1つ以上の制御配列を含むことを意味する。組換え発現ベクターにおいて、「作動可能に連結される」とは、目的とするヌクレオチド配列が、(例えば、インビトロ転写/翻訳系での、又はベクターが宿主細胞に導入される場合は宿主細胞での)ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で制御配列に連結されることを意味するよう意図されている。「制御配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー、及び他の発現対照要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むよう意図されている。かかる制御配列は、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)に記載されている。制御配列には、多くのタイプの宿主細胞でのヌクレオチド配列の構成的発現を指示するもの及びある特定の宿主細胞のみでのヌクレオチド配列の発現を指示するもの(例えば、組織特異的制御配列)が含まれる。当業者であれば、発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの因子に依存し得ることを理解するであろう。本発明の発現ベクターが宿主細胞に導入され、それによって、本明細書に記載される核酸によってコードされた融合タンパク質又はペプチドを含むタンパク質又はペプチドを産生することができる。
【0104】
本発明の組換え発現ベクターは、原核細胞又は真核細胞でのACE2-Fc融合ポリペプチドの発現のために設計することができる。例えば、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、細菌細胞(例えば、E.coli)、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用)、酵母細胞、又は哺乳類細胞で発現され得る。好適な宿主細胞は、Goeddel,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)に更に考察されている。代替的に、組換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター制御配列及びT7ポリメラーゼを使用して、インビトロで転写及び翻訳され得る。
【0105】
原核生物でのタンパク質の発現は、多くの場合、融合タンパク質又は非融合タンパク質のいずれかの発現を指示する構成的又は誘導性プロモーターを含むベクターを用いてE.coliで行われる。融合ベクターは、いくつかのアミノ酸をそれにコードされるタンパク質に、通常、組換えタンパク質のアミノ末端に付加する。かかる融合ベクターは、典型的には、1)組換えタンパク質の発現を増加させる、2)組換えタンパク質の溶解度を増加させる、及び3)親和性精製においてリガンドとして作用することによって組換えタンパク質の精製を助けるという3つの目的を果たす。多くの場合、融合発現ベクターにおいて、タンパク質分解的切断部位が融合部分と組換えタンパク質との接合部に導入されて、融合タンパク質の精製後に融合部分からの組換えタンパク質の分離を可能にする。かかる酵素、及びそれらの同族認識配列には、第Xa因子、トロンビン、及びエンテロキナーゼが含まれる。典型的な融合発現ベクターとしては、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;Smith,D.B.and Johnson,K.S.(1988)Gene 67:31-40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,MA)、及びpRIT5(Pharmacia,Piscataway,NJ)が挙げられ、これらは、それぞれ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、又はプロテインAを標的組換えタンパク質に融合させる。一実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドのコード配列を、pGEX発現ベクターにクローニングして、N末端からC末端へ、GST-トロンビン切断部位-ACE2-Fc融合ポリペプチドを含む融合タンパク質をコードするベクターを作製する。融合タンパク質は、グルタチオンアガロース樹脂を使用する親和性クロマトグラフィーによって精製することができる。GSTに融合されていない組換えACE2-Fc融合ポリペプチドは、トロンビンによる融合タンパク質の切断によって回収することができる。
【0106】
好適な誘導性非融合E.coli発現ベクターの例としては、pTrc(Amann et al.,(1988)Gene 69:301-315)及びpET11d(Studier et al.,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,California(1990)60-89)が挙げられる。pTrcベクターからの標的遺伝子の発現は、ハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存する。pET11dベクターからの標的遺伝子の発現は、共発現されたウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)によって媒介されるT7 gn10-lac融合プロモーターからの転写に依存する。このウイルスポリメラーゼは、lacUV5プロモーターの転写制御下でT7 gn1遺伝子を保有する常在性λプロファージ由来の宿主株BL21(DE3)又はHMS174(DE3)によって供給される。
【0107】
E.coliでの組換えタンパク質発現を最大化するための1つの戦略は、組換えタンパク質をタンパク質分解的に切断する能力が損なわれた宿主細菌でタンパク質を発現することである(Gottesman,S.,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press San Diego,California(1990)119-128)。別の戦略は、各アミノ酸の個々のコドンが、例えば、E.coliで利用されるものであるように、発現ベクターに挿入される核酸の核酸配列を変更することである(Wada et al.(1992)Nucleic Acids Res.20:2111-2118)。本発明の核酸配列のかかる変更は、標準的なDNA合成技術によって行われ得る。
【0108】
別の実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドの発現ベクターは、酵母発現ベクターである。酵母S.cerivisaeでの発現のためのベクターの例としては、pYepSec1(Baldari,et al.,(1987)EMBO J.6:229-234)、pMFa(Kurjan and Herskowitz,(1982)Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultz et al.,(1987)Gene 54:113-123)、及びpYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,CA)が挙げられる。
【0109】
代替的に、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、バキュロウイルス発現ベクターを使用して昆虫細胞で発現させることができる。昆虫培養細胞(例えば、Sf9細胞)でのタンパク質の発現に利用可能なバキュロウイルスベクターには、pAc系列(Smith et al.(1983)Mol.Cell Biol.3:2156-2165)及びpVL系列(Lucklow and Summers(1989)Virology 170:31-39)が含まれる。
【0110】
更に別の実施形態では、本発明の核酸は、哺乳類発現ベクターを使用して哺乳類細胞で発現される。哺乳類発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed,B.(1987)Nature 329:840)及びpMT2PC(Kaufman et al.(1987)EMBO J.6:187-195)が挙げられる。哺乳類細胞で使用される場合、発現ベクターの制御機能は、多くの場合、ウイルス制御要素によって提供される。例えば、一般に使用されているプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、及びシミアンウイルス40に由来する。原核細胞及び真核細胞の両方に好適な他の発現系については、Sambrook,J.,Fritsh,E.F.,and Maniatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989の第16章及び第17章を参照されたい。
【0111】
別の実施形態では、組換え哺乳類発現ベクターは、特定の細胞型で核酸の発現を指示することができる(例えば、組織特異的制御要素を使用して核酸を発現させる)。組織特異的制御要素は、当該技術分野で既知である。好適な組織特異的プロモーターの非限定的な例としては、アルブミンプロモーター(肝臓特異的、Pinkert et al.(1987)Genes Dev.1:268-277)、リンパ系特異的プロモーター(Calame and Eaton(1988)Adv.Immunol.43:235-275)、特に、T細胞受容体プロモーター(Winoto and Baltimore,1989,EMBO J.8:729-733)及び免疫グロブリンプロモーター(Banerji et al.,1983,Cell 33:729-740、Queen and Baltimore,1983,Cell 33:741-748)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター、Byrne and Ruddle,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlund et al.,1985,Science 230:912-916)、並びに乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター、米国特許第4,873,316号及び欧州出願公開第264,166号)が挙げられる。発生的に制御されたプロモーター、例えば、マウスhoxプロモーター(Kessel and Gruss(1990)Science 249:374-379)及びαフェトプロテインプロモーター(Campes and Tilghman(1989)Genes Dev.3:537-546)も包含される。
【0112】
本発明によって包含される別の態様は、本発明によって包含される組換え発現ベクター又は核酸が導入された宿主細胞に関する。「宿主細胞」及び「組換え宿主細胞」という用語は、本明細書で同義に使用される。かかる用語が特定の対象細胞のみならず、かかる細胞の子孫又は潜在的な子孫も指すことが理解される。変異又は環境影響のいずれかによりある特定の修飾が後世で生じ得るため、かかる子孫は実際には親細胞と同一ではない場合があるが、依然として本明細書で使用される本用語の範囲内に含まれる。
【0113】
宿主細胞は、任意の原核細胞又は真核細胞であり得る。例えば、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、細菌細胞(例えば、E.coli)、昆虫細胞、酵母細胞若しくは哺乳類細胞(例えば、Fao肝細胞、原発性肝細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、又はCOS細胞)において発現することができる。他の好適な宿主細胞が当業者に既知である。
【0114】
ベクターDNAは、従来の形質転換又はトランスフェクション技法によって原核又は真核細胞に導入され得る。本明細書で使用される場合、「形質転換」及び「トランスフェクション」という用語は、リン酸カルシウム若しくは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション、リポフェクション、又は電気穿孔を含む、外来核酸(例えば、DNA)を宿主細胞に導入するための様々な当該技術分野で認識されている技術を指すよう意図されている。宿主細胞の形質転換又はトランスフェクトすることに好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989)及び他の研究室マニュアルに見出すことができる。
【0115】
細胞培養物は、宿主細胞、培地、及び他の副産物を含む。細胞培養に好適な培地は、当該技術分野で周知である。ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片が分泌され、細胞とそのポリペプチドを含む培地との混合物から単離され得る。代替的に、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片は、細胞質的に保持され、細胞が採取され、溶解され、融合タンパク質が単離され得る。ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、限外濾過、電気泳動、及びACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片の特定のエピトープに特異的な抗体による免疫親和性精製を含むタンパク質を精製するための当該技術分野で既知の技術を使用して、細胞培養培地、宿主細胞、又はその両方から単離され得る。
【0116】
いくつかの実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその生物学的に活性な断片は、異種ポリペプチドに融合され得る。ある特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、対応する非融合ACE2ポリペプチドよりも長い半減期を有する。他の実施形態では、異種タグは、当該技術分野で既知の標準的な方法に従って、精製目的(例えば、エピトープタグ)のために使用され得る。
【0117】
したがって、ACE2-Fc融合ポリペプチドの全て又は選択された部分をコードするヌクレオチド配列を使用して、微生物又は真核生物の細胞プロセスを介してタンパク質の組換え形態を産生することができる。発現ベクターなどのポリヌクレオチド構築物に配列をライゲートし、真核生物(酵母、鳥類、昆虫、若しくは哺乳類)又は原核生物(細菌細胞)のいずれかの宿主に形質転換又はトランスフェクトすることは、標準的な手順である。本発明による微生物手段又は組織培養技術によって、組換えACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片を調製するために、同様の手順、又はその修飾を用いることができる。
【0118】
別の変形形態では、タンパク質産生は、インビトロ翻訳システムを使用して達成され得る。インビトロ翻訳システムは、一般に、RNA分子のタンパク質への翻訳に必要な少なくとも最小要素を含む無細胞抽出物である翻訳システムである。インビトロ翻訳システムは、典型的には、少なくともリボソーム、tRNA、開始剤メチオニルtRNAMet、翻訳に関与するタンパク質又は複合体(例えば、eIF2、eIF3、キャップ結合(CB)複合体(キャップ結合タンパク質(CBP)及び真核生物開始因子4F(eIF4F)を含む)を含む。様々なインビトロ翻訳システムは、当該技術分野で周知であり、市販のキットが含まれる。インビトロ翻訳システムの例としては、ウサギ網状赤血球溶解物、ウサギ卵母細胞溶解物、ヒト細胞溶解物、昆虫細胞溶解物、及びコムギ胚芽抽出物などの真核生物溶解物が挙げられる。溶解物は、Promega Corp.,Madison,Wis.、Stratagene,La Jolla,Calif.、Amersham,Arlington Heights,Ill.、及びGIBCO/BRL,Grand Island,N.Y.などの製造元から市販されている。インビトロ翻訳システムは、典型的には、酵素、翻訳因子、開始因子、及び伸長因子、化学試薬、及びリボソームなどの巨大分子を含む。加えて、インビトロ転写システムが使用され得る。かかるシステムは、典型的には、少なくともRNAポリメラーゼホロ酵素、リボヌクレオチド、及び任意の必要な転写開始因子、伸長因子、及び終結因子を含む。インビトロの転写及び翻訳は、ワンポット反応(one-pot reaction)で共役され、1つ以上の単離されたDNAからタンパク質を産生することができる。
【0119】
ある特定の実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片は、化学的に、無細胞システムでリボソーム的に、又は細胞内でリボソーム的に合成され得る。化学合成は、様々な当該技術分野で認識されている方法を使用して行うことができ、段階的固相合成、ペプチド断片のコンフォメーション補助再ライゲーションによる半合成、クローニング又は合成ペプチドセグメントの酵素的ライゲーション、及び化学ライゲーションが含まれる。ネイティブ化学ライゲーションは、2つの非保護ペプチドセグメントの化学選択的反応を用いて、一過性のチオエステル結合中間体を産生する。次いで、一過性のチオエステル結合中間体は、ライゲーション部位に天然のペプチド結合を有する完全長のライゲーション産物を提供するための再配列を自発的に行う。完全長のライゲーション産物は、無細胞合成によって産生されるタンパク質と化学的に同一である。完全長のライゲーション産物は、許される限り、リフォールディング及び/又は酸化されて、天然のジスルフィド含有タンパク質分子を形成することができる(例えば、米国特許第6,184,344号及び同第6,174,530号、並びにT.W.Muir et al.,(1993)Curr.Opin.Biotech.,vol.4,p 420、M.Miller,et al.,(1989)Science:vol.246,p 1149、A.Wlodawer,et al.,(1989)Science:vol.245,p 616、L.H.Huang,et al.,(1991)Biochemistry:vol.30,p 7402、M.Sclmolzer,et al.,(1992)Int.J.Pept.Prot.Res.:vol.40,p 180-193、K.Rajarathnam,et al.,(1994)Science:vol.264,p 90、R.E.Offord,“Chemical Approaches to Protein Engineering”,in Protein Design and the Development of New therapeutics and Vaccines,J.B.Hook,G.Poste,Eds.,(Plenum Press,New York,1990)pp.253-282、C.J.A.Wallace,et al.,(1992)J.Biol.Chem.:vol.267,p 3852、L.Abrahmsen,et al.,(1991)Biochemistry:vol.30,p 4151、T.K.Chang,et al.,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:12544-12548、M.Schnlzer,et al.,(1992)Science:vol.,3256,p 221、及びK.Akaji,et al.,(1985)Chem.Pharm.Bull.(Tokyo)33:184を参照されたい)。
【0120】
哺乳類細胞の安定したトランスフェクションのために、使用される発現ベクター及びトランスフェクション技法に応じて、わずかな細胞のみが外来DNAをそれらのゲノムに組み込むことができることが既知である。これらの組み込み体を特定及び選択するために、一般に、選択可能なマーカー(例えば、抗生物質に対する抵抗性)をコードする遺伝子が目的とする遺伝子と共に宿主細胞に導入される。選択可能なマーカーには、G418、ハイグロマイシン、及びメトトレキサートなどの薬物に対する抵抗性を付与するものが含まれるが、これらに限定されない。選択可能なマーカーをコードする核酸は、宿主細胞に、ACE2-Fc融合ポリペプチドをコードするものと同じベクター上で導入され得るか、又は別個のベクター上で導入され得る。導入された核酸で安定してトランスフェクトされた細胞は、薬物選択によって特定され得る(例えば、選択可能なマーカー遺伝子を組み込んだ細胞が生存する一方で、他の細胞は死ぬ)。
【0121】
本発明によって包含される宿主細胞、例えば、培養物中の原核宿主細胞又は真核宿主細胞を使用して、ACE2-Fc融合ポリペプチドを産生(すなわち、発現)することができる。したがって、本発明は、本発明の宿主細胞を使用して、ACE2-Fc融合ポリペプチドを産生するための方法を更に提供する。一実施形態では、本方法は、本発明の宿主細胞(ACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする組換え発現ベクターが導入されている)を、ACE2-Fc融合ポリペプチドが産生されるまで、好適な培地で培養することを含む。別の実施形態では、本方法は、ACE2-Fc融合ポリペプチドを培地又は宿主細胞から単離することを更に含む。
【0122】
c.ACE2-Fc融合ポリペプチド
本発明はまた、コロナウイルス(例えば、COVID-19の原因病原体であるSARS-CoV-2及びSARSの原因病原体であるSARS-CoV-1)に結合し、ウイルスが細胞表面上で内因的に発現するACE2に結合するのを競合的に阻害する、可溶性、精製及び/又は単離された形態のACE2-Fc融合ポリペプチドを提供する。ACE2-Fc融合タンパク質は、ACE2ポリペプチドの細胞外ドメイン又はその一部分、並びに免疫グロブリンポリペプチド(例えば、IgG1、IgG2、又はIgG4ポリペプチド)のFcドメイン又はその断片を含むことができる。ACE2細胞外ドメイン又はその断片、及びFcドメインは、ヒンジポリペプチドによって分離されている。いくつかの実施形態では、ACE2細胞外ドメイン又はその断片、及びFcドメインは、単一のプロリン、又はシステイン-プロリンジペプチドによって分離されている。いくつかの実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする核酸は、ヒトACE2細胞外ドメインと少なくとも70%、80%、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列又はその断片、配列番号1~4のうちのいずれか1つのアミノ酸配列、配列番号5~32又は52のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含むヒンジのアミノ酸配列、及びFcドメインと少なくとも70%、80%、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列又はその断片、配列番号33~42又は55のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む。ACE2-Fc融合ポリペプチドは、本明細書に記載の方法に従って使用するためのものであり得る。
【0123】
一態様では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、野生型ACE2ポリペプチドにおけるH374N及びH378Nアミノ酸置換に類似するアミノ酸置換を含む、配列番号1~4のうちのいずれか1つのアミノ酸置換を有する、ヒトACE2細胞外ドメイン又はその断片を含むか、又は1~約20個の追加の保存的アミノ酸置換を有し、H374N及びH378Nアミノ酸置換を含む、配列番号1~4のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を有する、ヒトACE2細胞外ドメイン又はその断片を含む。いくつかの実施形態では、ACE2細胞外ドメインは、H374N及びH378Nに対応する位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、ACE2細胞外ドメインは、R273Q、H345A、H345L、H505A、及びH505Lに対応する位置に1つ以上のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、ACE2細胞外ドメインは、R169Q、W271Q、及びK481Qに対応する位置にアミノ酸置換を含む。上記のアミノ酸置換は、完全長ACE2ポリペプチドに対するものである。いくつかの実施形態では、核酸は、完全長ACE2ポリペプチドのアミノ酸18~600、18~615、18~708、又は18~740を含むACE2細胞外ドメインをコードする。
【0124】
ACE2細胞外ドメインの酵素活性を低下させる点置換が本明細書で企図される。いくつかの実施形態では、ポイント置換は、ACE2活性のより大きな減少をもたらし、一方、他の実施形態では、SARS-CoV-2又はSARS-CoVスパイクタンパク質(Sタンパク質)に対するACE2の結合アビディティを低下させる。Sタンパク質への強い結合の保持が必要である。
【0125】
明確にするために、配列番号1~4は、アミノ酸残基位置357及び361にアスパラギン残基を含む。これらの残基は、コロナウイルスへの結合を阻害することなく、ACE2ポリペプチドの酵素活性を低減又は排除する。本明細書に記載のいずれかのACE2細胞外ドメイン又はその断片であるポリペプチドのアミノ酸配列はまた、ヒトACE2細胞外ドメイン又はその断片、アミノ酸配列又はその断片と少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は99.5%同一であり得る。
【0126】
本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドもまた、Fcドメイン断片を含む。インタクトなIgG抗体のFcドメインは、そのFcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)への結合によって、抗体依存性細胞傷害及び抗体依存性細胞貪食などの抗体エフェクター機能を担う(Kand and Jung(2019)Exp.&Mol.Med.,51:138-46;Moi et al.(2010)J.Gen.Virol.,91:103-11;Jiang et al.(2011)Nat.Reviews Drug Discovery,10:101-10)。組換えFcドメインは、FcドメインがFcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)に結合しないか、又は少なくとも減弱したFcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)結合活性を有するように操作することができる(Saunders(2019)Frontiers Immunology,10:Art.1296;Shotlothauer et al.(2016)Prot.Eng.,Design&Selection,29(10):457-66)。加えて、Fcドメイン又はその断片は、治療用ポリペプチド(すなわち、ACE2-Fc融合ポリペプチド)に組み込まれた場合、循環における寿命の延長などの追加の利益を提供するが、これらに限定されない(Saunders(2019))。
【0127】
いくつかの実施形態では、Fcドメインは、配列番号33~42又は55のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、IgG1、IgG2、又はIgG4 Fcドメインに由来する。いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、Fcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)に対する結合親和性が減少している。Fcドメインにおけるアミノ酸置換は、Fcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)に対する結合親和性を低下させ得る。したがって、いくつかの実施形態では、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D、P329G、又はそれらの組み合わせを有するIgG1 Fcドメインに由来するFcドメイン断片を含む。いくつかの実施形態では、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、L234A、L235A、及びP329Gアミノ酸置換を有するIgG1 Fcドメインに由来するFcドメイン断片を含む。一実施形態では、Fcドメイン断片は、IgG4 Fcドメインに由来し、L235E及びP329Gアミノ酸置換を有する。一実施形態では、Fcドメイン断片は、IgG1 Fcドメインに由来し、P329Gアミノ酸置換を有する。一実施形態では、Fcドメイン断片は、IgG4 Fcドメインに由来し、L235Eアミノ酸置換を有する。いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、IgG1 Fcドメインに由来し、L234A及びL235Aアミノ酸置換を有する。一実施形態では、Fcドメイン断片は、野生型IgG4 Fcドメインに由来する。一実施形態では、Fcドメイン断片は、IgG1 Fcドメインに由来し、N297Dアミノ酸置換を有する。一実施形態では、Fcドメイン断片は、IgG1 Fcドメインに由来し、N297Aアミノ酸置換を有する。いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、IgG1 Fcドメインに由来し、N297Qアミノ酸置換を有する。一実施形態では、Fcドメイン断片は、野生型IgG2 Fcドメインに由来する。全体を通して、アミノ酸残基の番号付けは、完全長タンパク質又はドメイン(すなわち、完全長ACE2ポリペプチド又は完全長IgG Fcドメイン)に対するものである。本明細書に記載のいずれかのFcドメイン断片ポリペプチドのアミノ酸配列はまた、ヒトFcドメインアミノ酸配列又はその断片と少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は99.5%同一であり得る。
【0128】
本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドのACE2細胞外ドメイン及びFcドメイン断片は、細胞外ドメイン及びFcドメインを分離する追加のポリペプチドに融合され得る。「ヒンジ」又は「ヒンジ領域」又は「ヒンジポリペプチド」という用語は、かかる介在ポリペプチドを指すように互換的に使用される。いくつかの実施形態では、使用されるFcドメインのアイソタイプに対応するヒンジ領域。例えば、IgG4ヒンジ配列を使用する場合、S228P置換は、Fabアーム交換を最小化することができる。いくつかの実施形態では、ヒンジ領域は、表2~4のうちのいずれかの配列番号のアミノ酸配列を含むことができる。いくつかの実施形態では、ヒンジ領域は、Fcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)に対するFc断片の結合親和性を低減するFcドメインにおけるアミノ酸置換に類似するアミノ酸残基を含むであろう。例えば、いくつかの実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、減少したFabアーム交換と関連するIgG4 FcドメインにおけるS228Pアミノ酸置換に類似するアミノ酸を含むヒンジ領域を含む。いくつかの実施形態では、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、S228Pアミノ酸置換を含むヒンジ領域と、L235Eアミノ酸置換を含むFc断片と、を含み、ポリペプチドが、IgG4-SPLE Fcドメインを有すると言われる。いくつかの実施形態では、L235E置換は、Fcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)に対するIgG4 Fcドメインの減少した親和性を付与する。
【0129】
一実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、H374N及びH378N置換を含む配列番号1のアミノ酸配列を有するACE2細胞外ドメインと、配列番号10のアミノ酸配列を含むヒンジ領域と、配列番号33のアミノ酸配列を有するFcドメイン断片と、を含む。別の実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、H374N及びH378N置換を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するACE2細胞外ドメインと、配列番号6のアミノ酸配列を含むヒンジ領域と、配列番号33のアミノ酸配列を有するFcドメイン断片と、を含む。いくつかの実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、配列番号48、49、56、又は57のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、配列番号48、49、56、又は57のアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、若しくは90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、配列番号50、51、58、又は59のヌクレオチド配列と少なくとも70%、80%、若しくは90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされる。
【0130】
本明細書に記載の任意のACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片は、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2など)に対する結合親和性を有し、ACE2酵素活性が低減又は排除され、Fc受容体(例えば、FcγIIa受容体)へのFcドメイン又はその断片の結合が低減又は排除される。モノクローナル抗体は、関連するウイルス間の交差反応性を示すことがあるが、それらは、典型的には、それらが産生されたウイルスに対してより高いアビディティを示し、多くの場合、再操作及び最適化されない限り、新規の関連するウイルスに対して部分的にしか中和することができない。対照的に、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、ACE2依存性コロナウイルスが結合する実際の受容体の最適化された可溶性形態であり、したがって、細胞表面受容体としてACE2を利用する任意の将来の新規のコロナウイルスの競合阻害剤として機能するはずである。
【0131】
ある特定の実施形態では、ACE2酵素活性の低減又は排除、並びにFc受容体へのFcドメイン又はその断片の結合の低減は、完全長ACE2ポリペプチド又は野生型Fcドメイン又はその断片に対して、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2.0倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3.0倍、少なくとも3.1倍、少なくとも3.2倍、少なくとも3.3倍、少なくとも3.4倍、少なくとも3.5倍、少なくとも3.6倍、少なくとも3.7倍、少なくとも3.8倍、少なくとも3.9倍、少なくとも4.0倍、少なくとも4.1倍、少なくとも4.2倍、少なくとも4.3倍、少なくとも4.4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも4.6倍、少なくとも4.7倍、少なくとも4.8倍、少なくとも4.9倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも11倍、少なくとも12倍、少なくとも13倍、少なくとも14倍、少なくとも15倍、少なくとも16倍、少なくとも17倍、少なくとも18倍、少なくとも19倍、少なくとも20倍、少なくとも21倍、少なくとも22倍、少なくとも23倍、少なくとも24倍、少なくとも25倍、少なくとも26倍、少なくとも27倍、少なくとも28倍、少なくとも29倍、少なくとも30倍、少なくとも31倍、少なくとも32倍、少なくとも33倍、少なくとも34倍、少なくとも35倍、少なくとも36倍、少なくとも37倍、少なくとも38倍、少なくとも39倍、少なくとも40倍、少なくとも41倍、少なくとも42倍、少なくとも43倍、少なくとも44倍、少なくとも45倍、少なくとも46倍、少なくとも47倍、少なくとも48倍、少なくとも49倍、少なくとも50倍、少なくとも51倍、少なくとも52倍、少なくとも53倍、少なくとも54倍、少なくとも55倍、少なくとも56倍、少なくとも57倍、少なくとも58倍、少なくとも59倍、少なくとも60倍、少なくとも61倍、少なくとも62倍、少なくとも63倍、少なくとも64倍、少なくとも65倍、少なくとも66倍、少なくとも67倍、少なくとも68倍、少なくとも69倍、少なくとも70倍、少なくとも71倍、少なくとも72倍、少なくとも73倍、少なくとも74倍、少なくとも75倍、少なくとも76倍、少なくとも77倍、少なくとも78倍、少なくとも79倍、少なくとも80倍、少なくとも81倍、少なくとも82倍、少なくとも83倍、少なくとも84倍、少なくとも85倍、少なくとも86倍、少なくとも87倍、少なくとも88倍、少なくとも89倍、少なくとも90倍、少なくとも91倍、少なくとも92倍、少なくとも93倍、少なくとも94倍、少なくとも95倍、少なくとも96倍、少なくとも97倍、少なくとも98倍、少なくとも99倍、少なくとも100倍、又は任意の包括的範囲で(例えば、5倍~20倍)低減される。
【0132】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドと、約25%未満、又は代替的に15%未満、又は代替的に5%未満の夾雑生体高分子又はポリペプチドと、を含む組成物を企図する。
【0133】
本発明は、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその断片の産生、検出、又は特徴付けに関連する組成物(例えば、核酸、ベクター、宿主細胞など)を更に提供する。かかる組成物は、ACE2-Fc融合ポリペプチドの発現及び/又は活性を調節する化合物として機能し得る。
【0134】
本発明のACE2-Fc融合ポリペプチドは、Fcドメイン又はその断片を含む融合タンパク質であり、これは、その溶解度及び生物学的利用能を増加させ、かつ/又はその精製、同定、検出、及び/若しくは構造的特徴付けを容易にする。いくつかの実施形態では、融合パートナーが血漿中の融合タンパク質の安定性を増強し、かつ/又は全身的な生物学的利用能を増強する、ACE2-Fc融合ポリペプチドを発現することが有用であり得る。本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドに組み込まれ得る例示的な追加のドメインとしては、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン結合ペプチド、チオレドキシン、マルトース結合タンパク質、HA、myc、ポリアルギニン、ポリHis、ポリHis-Asp、又はFLAG融合タンパク質及びタグが挙げられる。追加の例示的なドメインとしては、シグナルペプチド、2I型分泌系標的化ペプチド、トランスサイトーシスドメイン、核局在化シグナルなどの、インビボでのタンパク質局在化を変化させるドメインが挙げられる。様々な実施形態では、本発明のACE2-Fc融合ポリペプチドは、1つ以上の異種融合体を含み得る。ポリペプチドは、複数コピーの同じ融合ドメインを含んでもよく、又は2つ以上の異なるドメインへの融合を含んでもよい。融合は、ポリペプチドのN末端、ポリペプチドのC末端、又はポリペプチドのN末端及びC末端の両方で生じ得る。融合タンパク質の構築を容易にするために、又は融合タンパク質のタンパク質発現又は構造的制約を最適化するために、本発明のポリペプチドと融合ドメインとの間のリンカー配列を含むことも本発明の範囲内である。別の実施形態では、ポリペプチドは、タンパク質発現後又はその後にタグを除去するために、本発明の融合ポリペプチドとポリペプチドとの間のプロテアーゼ切断部位を含むように構築され得る。好適なエンドプロテアーゼの例としては、例えば、第Xa因子及びTEVプロテアーゼが挙げられる。
【0135】
更に別の実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、蛍光標識で標識されて、それらの検出、精製、又は構造的特徴付けが容易になり得る。例示的な実施形態では、本発明のACE2-Fc融合ポリペプチドは、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化型緑色蛍光タンパク質(EGFP)、Renilla Reniformis緑色蛍光タンパク質、GFPmut2、GFPuv4、強化型黄色蛍光タンパク質(EYFP)、強化型シアン蛍光タンパク質(ECFP)、強化型青色蛍光タンパク質(EBFP)、シトリン、及びイソギンチャクモドキ由来赤色蛍光タンパク質(dsRED)を含む、検出可能な蛍光シグナルを生成する異種ポリペプチド配列に融合され得る。
【0136】
いくつかの実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその一部分は、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその一部分が、酵素的に死んでいるか又は酵素活性が低下しているが、コロナウイルス及びFcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)によって認識されないFc断片に結合することができるように、表1、表5、又は表7に示されるアミノ酸配列と十分に相同なアミノ酸配列を含む。一実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその一部分は、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその一部分が、酵素的に死んでいるか又は酵素活性が低下しているが、コロナウイルスに結合することができるように、表1に示されるアミノ酸配列と十分に相同なアミノ酸配列を含む。一実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその一部分は、ACE2-Fc融合ポリペプチド又はその一部分が、Fcポリペプチドの野生型配列に対して増加した安定性を有し、かつ/又はFcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)に結合しないように、表5に示されるアミノ酸配列と十分に相同なアミノ酸配列を含む。一実施形態では、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、表1に示されるアミノ酸配列又はその断片を含み、その各々が、野生型ACE2ポリペプチドにおけるH374N及びH378Nアミノ酸置換に類似するアミノ酸置換を含むか、あるいは表1に示されるアミノ酸配列と少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上相同であるアミノ酸配列又はその断片を含み、その各々が、H374N及びH378Nアミノ酸置換を含む。明確にするために、表1に示されるアミノ酸配列は、アミノ酸残基位置357及び361にアスパルガニン残基を含む。これらの残基は、ACE2酵素活性を低減又は排除するが、コロナウイルスのACE2結合を阻害しない。ACE2-Fc融合ポリペプチドはまた、Fcドメイン若しくはその断片、表5に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド若しくはその断片、又は表1に示されるアミノ酸配列と少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上相同であるアミノ酸配列若しくはその断片を含む。ACE2-Fc融合ポリペプチドのACE2ドメイン及びFcドメイン、又はその断片は、ヒンジ領域によって分離され得る。いくつかの実施形態では、ヒンジ領域は、表2、3、又は4に示されるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、Fcドメイン又はその断片、ポリペプチドは、その断片がFc受容体(例えば、FcγIIa受容体)に結合する能力を減弱させる少なくとも1つのアミノ酸置換を含むであろう。いくつかの実施形態では、ヒンジ領域は、その断片がFc受容体(例えば、FcγIIa受容体)に結合する能力を減弱させる少なくとも1つのアミノ酸置換を含むであろう。
【0137】
本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、コロナウイルス感染症の抗体依存性感染増強(ADE)を低減又は排除するように設計され得る。例えば、Fcドメイン又はその断片が、ACE2-Fc融合タンパク質に結合し、Fcドメインのアミノ酸配列又はその断片を、Fc受容体(例えば、FcγIIa受容体)へのその断片の結合を低減するように最適化することができる。ヒンジ領域は、Fcドメイン又はその断片がFc受容体に結合する能力を減弱させるアミノ酸配列を含むことができる。例えば、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、そのヒンジにFabアーム交換を低減するアミノ酸置換(例えば、S228P)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ACE2-Fc受容体は、ヒンジ領域又はFcドメイン若しくはその断片におけるアミノ酸置換(例えば、L235E)を含み、これは、Fcドメイン若しくはその断片がFc受容体に結合する能力を低減又は排除する。
【0138】
本発明のACE2-Fc融合ポリペプチドは、標準的な組換えDNA技術によって産生され得る。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNA断片が、従来の技術に従って、例えば、ライゲーションのための平滑末端又は付着末端、適切な末端を提供するための制限酵素消化、必要に応じて、粘着末端のフィルイン(filling-in)、望ましくない連結を回避するためのアルカリ性ホスファターゼ処理、及び酵素的ライゲーションを用いることによって、インフレームで一緒にライゲートされる。別の実施形態では、融合遺伝子は、自動DNA合成機を含む従来の技法によって合成され得る。代替的に、遺伝子断片のPCR増幅は、2つの連続した遺伝子断片間の相補的オーバーハングをもたらすアンカープライマーを使用して行われ得、その後、これがアニール及び再増幅されて、キメラ遺伝子配列を生成することができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology,eds.Ausubel et al.John Wiley&Sons:1992を参照のこと)。更に、融合部分(例えば、GSTポリペプチド)をすでにコードする多くの発現ベクターが市販されている。ACE2-Fc融合ポリペプチドをコードする核酸は、融合部分がインフレームで連結されるように、かかる発現ベクターにクローニングされ得る。
【0139】
本発明は、ACE2細胞外ドメイン及びFcドメインのアミノ酸配列ホモログを含む融合タンパク質にも関する。ヒトACE2細胞外ドメイン及びFcドメインのホモログは、変異誘発(例えば、それぞれヒトACE2細胞外ドメイン及びFcドメインの別個の点変異又は切断)によって生成され得る。本明細書で使用される場合、「ホモログ」という用語は、ヒトACE2細胞外ドメイン及び/又はFcドメインポリペプチドのバリアント形態を指す。一実施形態では、天然に存在する形態のタンパク質の生物学的活性のサブセットを有するホモログによる対象の治療は、天然に存在する形態のACE2細胞外ドメイン及び/又はFcドメイン若しくはその断片による治療に対して、対象におけるより少ない副作用を有し得る。
【0140】
代替的な実施形態では、ヒトACE2細胞外ドメイン又はFcドメイン若しくはその断片のホモログは、ACE2細胞外ドメイン又はFcドメイン若しくはその断片の変異体(例えば、切断変異体)のコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることによって特定され得る。一実施形態では、ACE2細胞外ドメイン又はFcドメインバリアントの多様化ライブラリが、核酸レベルでのコンビナトリアル変異誘発によって生成され、多様化遺伝子ライブラリによってコードされる。修飾ACE2細胞外ドメイン又はFcドメインバリアントの多様化ライブラリは、潜在的なACE2細胞外ドメイン又はFcドメイン配列の縮重セットが個々のポリペプチドとして、又は代替的にACE2細胞外ドメイン又はFcドメインのセット又はその断片、その中の配列を含むより大きい融合タンパク質のセット(例えば、ファージディスプレイ用)として発現可能であるように、例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を遺伝子配列に酵素的にライゲートすることによって産生され得る。様々な方法が存在し、これを使用して、縮重オリゴヌクレオチド配列から潜在的なACE2細胞外ドメイン又はFcドメイン若しくはその断片、ホモログのライブラリを産生することができる。縮重遺伝子配列の化学的合成が自動DNA合成機で行われ、その後、合成遺伝子が適切な発現ベクターにライゲートされ得る。遺伝子の縮重セットの使用により、ある混合物では、潜在的なACE2細胞外ドメイン又はFcドメイン若しくはその断片、配列の所望のセットをコードする配列の全ての提供が可能になる。縮重オリゴヌクレオチドを合成するための方法は、当該技術分野で既知である(例えば、Narang,S.A.(1983)Tetrahedron 39:3、Itakura et al.(1984)Annu.Rev.Biochem.53:323;Itakura et al.(1984)Science 198:1056、Ike et al.(1983)Nucleic Acid Res.11:477)を参照されたい)。
【0141】
III.薬学的組成物
別の態様では、本発明は、表1に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、表5に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、を含むACE2-Fc融合ポリペプチドを含み、1つ以上の薬学的に許容される担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に製剤化された、薬学的に許容される組成物を提供する。一実施形態では、薬学的に許容される組成物は、表7に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むACE2-Fc融合ポリペプチドを含む。
【0142】
以下で詳細に説明されるように、本発明によって包含される薬学的組成物は、以下のために適合されたものを含め、固体又は液体形態での投与のために特別に製剤化されてもよい。(1)経口投与、例えば、ドレンチ(水性若しくは非水性の溶液若しくは懸濁液)、錠剤、ボーラス、粉末、顆粒、ペースト、(2)非経口投与、例えば、滅菌溶液若しくは懸濁液としての皮下、筋肉内、又は静脈内注射によるもの、(3)局所投与、例えば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏、若しくはスプレーとしてのもの、(4)膣内若しくは直腸内、例えば、ペッサリー、クリーム、又はフォームとしてのもの、あるいは(5)エアロゾル、例えば、化合物を含有する水性エアロゾル、リポソーム調製物、又は固体粒子。
【0143】
「治療効果」という用語は、薬理学的に活性な物質によって引き起こされる動物、具体的には哺乳動物、より具体的にはヒトにおける局所又は全身効果を指す。したがって、この用語は、動物若しくはヒトにおける疾患の診断、治癒、緩和、治療、若しくは予防、又は望ましい身体若しくは精神発達及び状態の増強における使用を目的とした任意の物質を意味する。「治療有効量」という語句は、いずれの治療にも適用可能な合理的なベネフィット/リスク比でいくらかの所望の局所又は全身効果をもたらすかかる物質の量を意味する。ある特定の実施形態では、化合物の治療有効量は、その治療指数、溶解度等に依存するであろう。例えば、本発明の方法によって見出されたある特定の化合物が、かかる治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスク比をもたらすのに十分な量で投与され得る。
【0144】
本明細書で使用される「治療有効量」という語句は、合理的なベネフィット/リスク比で、治療効果、例えば、コロナウイルス感染症の症状(例えば、発熱、咳、のどの痛み、疲労、息切れ、呼吸困難、頻呼吸、低酸素症など)の減少又は緩和をもたらすのに有効なACE2-Fc融合ポリペプチドの量を意味する。
【0145】
本明細書において、「薬学的に許容される」という語句は、理にかなった医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症がなく、合理的なベネフィット/リスク比に見合った、ヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに好適なそれらの薬剤、材料、組成物、及び/又は剤形を指すために用いられる。
【0146】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という語句は、ある臓器又は身体の一部分から別の臓器又は身体の一部分へと、対象の化学物質を運ぶか、又は輸送することに関与する薬学的に許容される材料、組成物又はビヒクル、例えば、液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒又はカプセル化材料を意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、対象に有害ではないという意味で「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体として機能することができる材料の例には、(1)糖類、例えばラクトース、グルコース及びスクロース、(2)デンプン類、例えばコーンスターチ及びジャガイモデンプン、(3)セルロース、及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース、(4)トラガカント末(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)賦形剤、例えばカカオバター及び坐剤ワックス、(9)油類、例えば落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、大豆油、(10)グリコール類、例えばプロピレングリコール、(11)ポリオール類、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール、(12)エステル類、例えばオレイン酸エチル及びラウリン酸エチル、(13)寒天、(14)緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム(15)アルギン酸、(16)発熱物質を含まない水、(17)等張食塩水、(18)リンゲル液、(19)エチルアルコール、(20)リン酸緩衝液、及び(21)薬学的製剤に使用される他の非毒性適合物質、が挙げられる。
【0147】
湿潤剤、乳化剤及びラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、並びに着色剤、放出剤(release agent)、コーティング剤、甘味料、香味料及び芳香剤、保存剤及び抗酸化剤もまた、組成物中に存在し得る。
【0148】
薬学的に許容される抗酸化剤の例には、(1)水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、塩酸システイン、硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等、(2)油溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロール等、及び(3)金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等が挙げられる。
【0149】
本発明によって包含される方法に有用な製剤には、経口、鼻、局所(頬及び舌下を含む)、直腸、膣、エアロゾル及び/又は非経口投与に好適な製剤が挙げられる。製剤は、単位剤形で簡便に提供されてもよく、薬学の分野で周知の任意の方法によって調製されてもよい。単回剤形を製造するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、治療される宿主、特定の投与態様に応じて変化する。単回剤形を製造するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に、治療効果をもたらす化合物の量である。一般に、100パーセントのうち、この量は、約1パーセント~約99パーセント(例えば、約5パーセント~約70パーセント、又は約10パーセント~約30パーセント)の有効成分の範囲であろう。
【0150】
これらの製剤又は組成物を調製する方法は、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドを、担体及び任意選択的に1つ以上の副成分と会合させるステップを含む。一般に、製剤は、呼吸脱共役剤を、液体担体、又は微粉化した固体担体、又はその両方と均一かつ密接に会合させ、次いで、必要に応じて、製品を成形することによって調製される。
【0151】
経口投与に好適な製剤は、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ(フレーバーベース、通常、スクロース及びアカシア若しくはトラガカントを使用する)、粉末、顆粒の形態で、又は水性若しくは非水性液体の溶液若しくは懸濁液として、又は水中油型若しくは油中水型液体乳剤として、又はエリキシル剤若しくはシロップ剤として、又はトローチ剤(pastille)(不活性基剤、例えば、ゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアカシアを使用する)として、及び/又は口腔洗浄剤等としてのものであってもよく、各々が有効成分として所定量の呼吸脱共役剤を含む。化合物は、ボーラス、舐剤又はペーストとして投与することもできる。
【0152】
経口投与用の固体剤形(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、粉末、顆粒など)において、有効成分を、1つ以上の薬学的に許容される担体、例えば、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、及び/又は以下のいずれか、(1)充填剤又は増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及び/又はケイ酸、(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/又はアカシア、(3)保湿剤、例えばグリセロール、(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム、(5)溶解遅延剤、例えば、パラフィン、(6)吸収促進剤、例えば、四級アンモニウム化合物、(7)湿潤剤、例えば、アセチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロール、(8)吸着剤、例えば、カオリン及びベントナイトクレイ、(9)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物、並びに(10)着色剤と混合する。カプセル、錠剤、及び丸剤の場合、薬学的組成物は、緩衝剤も含み得る。類似のタイプの固体組成物はまた、ラクトース又は乳糖のような賦形剤、並びに高分子量ポリエチレングリコールなどを使用して、軟及び硬充填ゼラチンカプセルの充填剤としても使用され得る。
【0153】
錠剤は、任意選択的に1つ以上の副成分と共に、圧縮又は成形することにより作製することができる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、表面活性剤又は分散剤を使用して調製され得る。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末状ペプチド又はペプチド模倣薬の混合物を好適な機械で成形することにより作製することができる。
【0154】
錠剤、及び他の固体剤形、例えば、糖衣錠、カプセル、丸剤及び顆粒は、任意選択的に、刻み目が付けられているか、又は腸溶性コーティング及び薬学的製剤の分野で知られている他のコーティング等のコーティング及びシェルを伴って調製することができる。それらはまた、例えば、所望の放出プロファイルを提供するための様々な割合のヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又はミクロスフェアを使用して、その中の有効成分の徐放又は制御放出を提供するように製剤化することもできる。それらは、例えば、細菌保持フィルターを通す濾過によって、又は使用直前に滅菌水若しくはいくつかの他の滅菌注射媒体に溶解することができる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって、滅菌されてもよい。これらの組成物はまた、任意選択的に不透明化剤(opacifying agent)を含んでもよく、有効成分のみを放出する組成物、又は、任意選択的に遅延様式で、胃腸管の特定の部分で放出する組成物であってもよい。使用可能な包埋組成物の例としては、ポリマー物質及びワックスが挙げられる。有効成分は、適切な場合、上記の賦形剤の1つ以上を含むマイクロカプセル化形態であってもよい。
【0155】
経口投与のための液体剤形は、薬学的に許容される乳濁液、微乳濁液、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルを含む。有効成分に加えて、液体剤形は、当該技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤、例えば、水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油類(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにそれらの混合物を含有し得る。
【0156】
不活性希釈剤に加えて、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、甘味料、香味料、着色料、芳香剤及び保存剤などのアジュバントも含むことができる。
【0157】
懸濁液は、活性薬剤に加えて、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天及びトラガカント、及びそれらの混合物等の懸濁化剤を含有し得る。
【0158】
直腸又は膣投与のための製剤は、坐剤として提示されてもよく、坐剤は、1つ以上の呼吸脱共役剤(respiration uncoupling agent)と、例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、坐剤ワックス、若しくはサリチル酸塩を含む1つ以上の好適な非刺激性賦形剤若しくは担体(これらは、室温では固体であるが、体温では液体であり、したがって、直腸又は膣腔で融解して活性薬剤を放出する)とを混合することによって調製されてもよい。
【0159】
膣投与に好適な製剤には、好適であることが当該技術分野で知られているような担体を含有するペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム又はスプレー製剤も挙げられる。
【0160】
本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドの局所投与、噴霧投与、又は経皮投与のための剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ、及び吸入剤が含まれる。活性成分は、無菌条件下で、薬学的に許容される担体、及び必要とされる可能性のある保存料、緩衝剤、又は噴射剤と混合することができる。
【0161】
軟膏、ペースト、クリーム、及びゲルは、呼吸脱共役剤に加えて、賦形剤、例えば、動物性及び植物性脂肪、油類、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、及び酸化亜鉛、又はそれらの混合物を含むことができる。
【0162】
粉末及びスプレーは、ACE2-Fc融合ポリペプチドに加えて、賦形剤(例えば、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、及びポリアミド粉末、又はこれらの物質の混合物)を含むことができる。スプレーは、クロロフルオロ炭化水素などの通常の噴射剤、並びにブタン及びプロパンなどの揮発性非置換炭化水素を追加で含むことができる。
【0163】
代替的に、ACE2-Fc融合ポリペプチドを、エアロゾルによって投与することができる。これは、化合物を含有する水性エアロゾル、リポソーム調製物、又は固体粒子を調製することによって達成される。非水性(例えば、フルオロカーボン噴射剤)懸濁液を使用することができる。超音波ネブライザーは、薬剤が、化合物の分解を引き起こし得る剪断にさらされることを最小化する。
【0164】
通常、水性エアロゾルは、薬剤の水溶液又は懸濁液を、従来の薬学的に許容される担体及び安定剤と共に製剤化することによって作製される。担体及び安定剤は、特定の化合物の要求によって異なるが、典型的には、非イオン性界面活性剤(Tween(登録商標)s、Pluronic(登録商標)s、又はポリエチレングリコール)、血清アルブミン、ソルビタンエステル、オレイン酸、レシチン等の無害なタンパク質、グリシン等のアミノ酸、緩衝液、塩、糖又は糖アルコールを含む。エアロゾルは、一般に、等張性溶液から調製される。
【0165】
経皮パッチは、身体への呼吸脱共役剤の制御された送達を提供するという追加の利点を有する。かかる剤形は、治療薬を適切な媒体に溶解又は分配することによって作製することができる。吸収促進剤を使用して、皮膚を通るペプチド模倣薬の流れを増大させることもできる。かかる流れの速度は、速度を制御する膜を提供するか、又はペプチド模倣薬をポリマーマトリックス若しくはゲルに分散させることのいずれかによって制御することができる。
【0166】
眼科製剤、眼軟膏、粉末、溶液なども、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0167】
非経口投与に好適な本発明の薬学的組成物は、1つ以上の呼吸脱共役剤を、1つ以上の薬学的に許容される滅菌等張性水性若しくは非水性溶液、分散液、懸濁液若しくは乳剤、又は使用直前に滅菌注射用溶液又は分散液に再構成可能な滅菌粉末と組み合わせて含み、これらは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を対象レシピエントの血液と等張性にする溶質、又は懸濁化剤又は増ちょう剤を含有していてもよい。
【0168】
本発明の薬学的組成物に用いられ得る好適切な水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物、オリーブ油などの植物油、並びにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルなどが含まれる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用、分散液の場合は必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用により維持され得る。
【0169】
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などのアジュバントを含んでもよい。微生物の活動の予防は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの様々な抗菌剤及び抗真菌剤を含めることによって確実にされ得る。糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望ましい場合がある。加えて、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン等の吸収を遅らせる薬剤を含めることにより、注射可能な薬剤形態の長期吸収がもたらされ得る。
【0170】
場合によっては、薬物の効果を延長するために、皮下注射又は筋肉内注射からの薬物の吸収を遅らせることが望ましい。これは、難水溶性である結晶性又は非晶質の液体懸濁液を使用することにより達成され得る。その場合、薬物の吸収速度は溶解速度に依存し、次に溶解速度は結晶サイズと結晶形態に依存する可能性がある。代替的に、非経口投与された薬物形態の遅延吸収は、薬物を油性ビヒクルに溶解又は懸濁することにより達成される。
【0171】
注射用デポー形態は、ポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中でACE2-Fc融合ポリペプチドのマイクロカプセルマトリックスを形成することによって作製される。薬物とポリマーの比率、及び使用する特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)が挙げられる。デポー注射用製剤は、生体組織に適合するリポソーム又はマイクロ乳剤中に薬物を取り込むことによっても調製される。
【0172】
本発明によって包含される呼吸脱共役剤を医薬品としてヒト及び動物に投与する場合、それらは、例えば、0.1~99.5%(例えば、0.5~90%)の有効成分を、そのまま又は薬学的に許容される担体と組み合わせて含む、薬学的組成物として投与され得る。
【0173】
本発明の薬学的組成物中の有効成分の実際の投与量レベルは、対象に対して毒性であることなく、特定の対象、組成物、及び投与態様にとって所望な治療応答を達成するのに有効である有効成分の量を得るように、本発明によって包含される方法によって決定され得る。
【0174】
本発明の核酸分子は、ベクターに挿入され、遺伝子療法ベクターとして使用され得る。遺伝子療法ベクターは、例えば、静脈内注射、局所投与(米国特許第5,328,470号を参照)、又は定位注射(例えば、Chen et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3054-3057を参照)によって対象に送達され得る。遺伝子療法ベクターの薬学的調製物は、許容される希釈剤中の遺伝子療法ベクターを含み得るか、又は遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれる徐放性マトリックスを含み得る。代替的に、完全な遺伝子送達ベクターが組換え細胞からインタクトで産生され得る場合、例えば、レトロウイルスベクターの場合、薬学的調製物は、遺伝子送達系を産生する1つ以上の細胞を含み得る。
【0175】
本発明は、以下の実施例によって更に例証され、これらは、限定するものと解釈されるべきではない。本明細書を通じて引用される全ての参考文献、特許、及び公開された特許出願の内容、並びに図面は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0176】
IV.本発明の更なる使用及び方法
本明細書に記載の組成物は、様々な診断用途、予後用途、及び治療用途で使用することができる。診断方法、予後方法、治療方法、又はそれらの組み合わせなどの本明細書に記載の任意の方法では、本方法の全てのステップは、単一の作用物質によって、又は代替的に、複数の作用物質によって実施され得る。例えば、診断は、治療処置を提供する作用物質によって直接実施され得る。代替的に、治療剤を提供する人は、診断アッセイが実施されるように要求することができる。診断医及び/又は治療介入者は、診断アッセイ結果を解釈して、治療戦略を決定することができる。同様に、かかる代替プロセスは、予後アッセイなどの他のアッセイに適用することができる。
【0177】
a.スクリーニング法
本発明の一態様は、細胞及び非細胞ベースのアッセイを含むスクリーニングアッセイに関する。一実施形態では、これらのアッセイは、非細胞アッセイを使用して、コロナウイルスに対するACE2-Fc融合ポリペプチドの結合親和性を決定すること、又は細胞培養アッセイを使用して、感染及び/若しくはADEに対してACE2-Fc融合ポリペプチドが有する禁止効果を決定することによって、コロナウイルスがACE2-Fc融合ポリペプチドによる治療に単独で又は他のウイルス療法と組み合わせて応答する可能性があるかどうかを特定するための方法を提供する。
【0178】
例えば、直接結合アッセイでは、結合が複合体中の標識タンパク質又は分子を検出することによって決定され得るように、ACE2融合ポリペプチド(又はそれらのそれぞれの標的ポリペプチド又は標的分子)が放射性同位体又は酵素標識にカップリングされ得る。例えば、標的は、直接的又は間接的のいずれかで、125I、35S、14C、又はHで標識され得、放射性同位体が放射線放出の直接計数又はシンチレーション計数によって検出され得る。代替的に、標的は、例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、又はルシフェラーゼで酵素的に標識され得、酵素標識が適切な基質の産物への変換の決定によって検出され得る。バイオマーカーと基質との間の相互作用の決定が標準の結合又は酵素分析アッセイを使用して達成される場合もある。上述のアッセイ方法の1つ以上の実施形態では、ポリペプチド又は分子を固定化して、タンパク質又は分子の一方又は両方の複合体形成されていない形態からの複合体形成された形態の分離を促進し、かつアッセイの自動化を適応させることが望ましくあり得る。
【0179】
ACE2-Fcの標的への結合は、反応物を収容するのに好適な任意の容器内で達成され得る。かかる容器の非限定的な例には、マイクロタイタープレート、試験管、及び微小遠心管が挙げられる。本明細書に記載の抗体の固定化された形態は、多孔性、微孔性(約1ミクロン未満の平均細孔径を有する)又はマクロ多孔性(約10ミクロン超の平均細孔径を有する)材料、例えば、膜、セルロース、ニトロセルロース、又はガラス繊維;ビーズ、例えば、アガロース若しくはポリアクリルアミド若しくはラテックス製のもの;又は皿、プレート、若しくはウェルの表面、例えば、ポリスチレン製のもの等の固相に結合した抗体も含み得る。
【0180】
代替の実施形態では、コロナウイルスと完全長ACE2ポリペプチドとの間の相互作用を調節する薬剤の能力を決定することは、本発明によって包含されるACE2融合ポリペプチドがコロナウイルスの感染性を調節する能力を決定することによって達成され得る。
【0181】
本発明は、上記のスクリーニングアッセイによって特定されたACE2-Fcに更に関する。したがって、本明細書に記載されるように特定されたACE2-Fc融合ポリペプチドを適切な動物モデルなどで更に使用することは本発明の範囲内である。例えば、本明細書に記載されるように特定された薬剤が動物モデルに使用されて、かかる薬剤での治療の有効性、毒性、又は副作用を決定することができる。代替的に、本明細書に記載されるように特定された抗体が動物モデルに使用されて、かかる薬剤の作用機構を決定することができる。
【0182】
b.予測医療
本発明は、診断アッセイ、予後アッセイ、及び臨床試験の監視が予後(予測)目的で使用され、それによって個体を予防的に治療する、予測医学の分野にも関する。したがって、本発明の一態様は、生体試料(例えば、血液、血清、細胞、又は組織)との関連でコロナウイルスの量及び/又は活性レベルを決定し、それによって、ウイルスに感染した個体が、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドでの治療に応答する可能性が高いかどうかを決定するための診断アッセイに関する。かかるアッセイは、予後目的若しくは予測目的のみに使用されてもよく、又は治療介入と組み合わせて使用されてもよく、それによって、コロナウイルス感染症と関連する症状の発症前又は発症後の個体を予防的に治療することができる。当業者であれば、任意の方法が、表、図、実施例、及びその他本明細書に記載のものなどの、本明細書に記載のACE2-Fc融合ポリペプチドのうちの1つ以上(例えば、組み合わせ)を使用することができることを理解するであろう。
【0183】
本発明の別の態様は、本明細書に記載のバイオマーカーの発現又は活性に対する薬剤(すなわち、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチド)の影響を監視することに関する。これら及び他の薬剤については、以下のセクションに更に詳細に記載されている。
【0184】
当業者は、ある特定の実施形態では、本発明の方法が、コンピュータプログラム及びコンピュータシステムを実装することも理解するであろう。例えば、コンピュータプログラムを使用して、本明細書に記載のアルゴリズムを実行することができる。コンピュータシステムはまた、本発明の方法を実装する際にコンピュータシステムによって使用することができる複数のバイオマーカーシグナルの変化/プロファイルを含む本発明によって包含される方法によって生成されるデータを記憶し、操作することができる。ある特定の実施形態では、コンピュータシステムは、バイオマーカー発現データを受信し、(ii)データを記憶し、(iii)本明細書に記載の任意の数の様式でデータを比較し(例えば、適切な対照と比較した分析)、がん性又は前がん性組織からの有益なバイオマーカーの状態を決定する。他の実施形態では、コンピュータシステムは、(i)決定された発現バイオマーカーレベルを閾値と比較し、(ii)上述のバイオマーカーレベルが閾値を有意に調節されるか(例えば、閾値を上回るか、又は下回るか)、又は上述の適応症に基づく表現型の指標を出力する。
【0185】
ある特定の実施形態では、かかるコンピュータシステムも本発明の部分とみなされる。多数のタイプのコンピュータシステムを使用して、バイオインフォマティクス及び/又はコンピュータ技術分野の当業者によって所持される知識に従って、本発明の分析方法を実装することができる。かかるコンピュータシステムの動作中に、いくつかのソフトウェアコンポーネントをメモリにロードすることができる。ソフトウェアコンポーネントは、当該技術分野で標準であるソフトウェアコンポーネントと、本発明に特有のコンポーネント(例えば、Lin et al.(2004)Bioinformatics 20,1233-1240に記載されるdCHIPソフトウェア、当該技術分野で既知の放射基底関数に基づく機械学習アルゴリズム(RBM))の両方を含んでいてもよい。
【0186】
本発明の方法はまた、使用される特定のアルゴリズムを含め、方程式の記号入力及び処理の高レベル仕様を可能にする数学的ソフトウェアパッケージでプログラム化又はモデル化されてもよく、それによって、個々の方程式及びアルゴリズムを手順的にプログラミングする必要性からユーザを解放する。かかるパッケージには、例えば、Mathworks(ネイティック、マサチューセッツ)製のMatlab、Wolfram Research(シャンペーン、イリノイ)製のMathematica、又はMathSoft(シアトル、ワシントン)製のS-Plusが挙げられる。
【0187】
ある特定の実施形態では、コンピュータは、バイオマーカーデータを保存するためのデータベースを含む。かかる記憶されたプロファイルは、後の時間点で目的の比較を実行するために、アクセスされ使用され得る。例えば、対象の非感染組織に由来する試料のバイオマーカー発現プロファイル、及び/又は同じ種の関連する集団における目的の情報遺伝子座の集団に基づく分布から生成されるプロファイルが保存され、その後、その対象のがん性組織又はその対象のがん性であると疑われる組織に由来する試料のプロファイルと比較することができる。
【0188】
本明細書に記載される例示的なプログラム構造及びコンピュータシステムに加えて、当業者には、他の代替的なプログラム構造及びコンピュータシステムが容易に明らかになるであろう。したがって、上述のコンピュータシステム及びプログラム構造から趣旨的又は範囲的のいずれかに逸脱しないかかる代替システムは、添付の特許請求の範囲内であると理解されることが意図されている。
【0189】
c.診断アッセイ
本発明は、部分的には、生体試料が、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドのうちの1つ以上による治療に応答する可能性が高いコロナウイルスに感染しているかどうかを正確に分類するための方法、システム、及びコードを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、統計アルゴリズム及び/又は経験的データ(例えば、表、図、実施例、及びその他本明細書に記載のものなどの本明細書に記載のバイオマーカーの量又は活性)を使用して、本明細書によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドによる治療に応答するか又は応答しないであろうコロナウイルス感染症と関連する又はそのリスクがあるとして試料(例えば、対象由来の)を分類するのに有用である。
【0190】
本明細書に記載のコロナウイルスの量又は活性を検出し、したがって、ある試料が、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドによる治療に応答する可能性が高いか又は応答する可能性が低いかどうかを分類するのに有用な例示的な方法は、試験対象から生体試料を得ることと、生体試料を薬剤(例えば、生体試料中のバイオマーカーの量若しくは活性を検出することができる、抗体若しくはその抗原結合断片のようなタンパク質結合剤、又はオリゴヌクレオチドのような核酸結合剤)と接触させることと、を伴う。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抗体又はその抗原結合断片が使用され、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ超のかかる抗体又は抗体断片が組み合わせで(例えば、サンドイッチELISAで)又は順次に使用され得る。ある特定の例では、統計的アルゴリズムは、単一の学習統計的分類子システムである。例えば、単一の学習統計的分類子システムを使用して、予測値又は確率値、及びバイオマーカーの存在又はレベルに基づくものとして試料を分類することができる。単一の学習統計的分類子システムの使用により、典型的には、試料を、例えば、少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の感受性、特異性、陽性予測値、陰性予測値、及び/又は全体的な精度を有する免疫療法レスポンダー又はプログレッサー試料である可能性が高いと分類する。
【0191】
他の好適な統計的アルゴリズムが当業者に周知である。例えば、学習統計的分類子システムは、複雑なデータセット(例えば、目的とするマーカーのパネル)に適合し、かかるデータセットに基づいて決定することができる機械学習アルゴリズム技法を含む。いくつかの実施形態では、分類ツリー(例えば、ランダムフォレスト)等の単一の学習統計的分類子システムが使用される。他の実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、又はそれ以上の学習統計的分類子システムの組み合わせが、好ましくは直列で使用される。学習統計的分類子システムの例としては、帰納的学習(例えば、ランダムフォレスト、分類及び回帰ツリー(C&RT)、ブーストツリー等の決定/分類ツリー)、確率的に近似的に正しい(PAC)学習、コネクショニスト学習(例えば、ニューラルネットワーク(NN)、人工ニューラルネットワーク(ANN)、ニューロファジーネットワーク(NFN)、ネットワーク構造、多層パーセプトロン等のパーセプトロン、多層フィードフォワードネットワーク、ニューラルネットワークの適用、信念ネットワークにおけるベイズ学習等)、強化学習(例えば、ナイーブ学習、適応動的学習、及び時間差学習等の既知の環境における受動的学習、未知の環境における受動的学習、未知の環境における能動的学習、学習行動値関数、強化学習の適用等)、並びに遺伝的アルゴリズム及び進化的プログラミングを使用したものが挙げられるが、これらに限定されない。他の学習統計的分類子システムは、サポートベクトルマシン(例えば、カーネル法)、多変量適応型回帰スプライン(MARS)、レーベンバーグ・マーカートアルゴリズム、ガウス・ニュートンアルゴリズム、ガウスの混合(mixtures of Gaussians)、勾配降下アルゴリズム、及び学習ベクトル量子化(LVQ)を含む。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、試料の分類結果を臨床医(例えば、腫瘍学者)に送信することを更に含む。
【0192】
別の実施形態では、対象の診断に続いて、診断に基づいて、個体に、治療有効量のACE2-Fc融合ポリペプチドを投与する。
【0193】
一実施形態では、本方法は、対照生体試料(例えば、コロナウイルス感染症を有しない対象又はその感染がACE2-Fc融合ポリペプチドによるウイルス隔離を受けやすい対象由来の生体試料、処置前の期間中の対象由来の生体試料、又は処置中若しくは処置後の対象由来の生体試料)を得ることを更に伴う。
【0194】
d.予後アッセイ
本明細書に記載の診断法は、ACE2-Fc融合ポリペプチドに応答する可能性が高い又は応答する可能性が低いコロナウイルス感染症を有する又はそのリスクがある対象を特定するために更に利用され得る。前述の診断アッセイ又は以下のアッセイなどの本明細書に記載のアッセイを利用して、コロナウイルスに感染している対象又は感染するリスクがある対象を特定するために利用することができる。代替的に、予後アッセイを利用して、肺炎などのコロナウイルス感染症と関連する障害を有する対象又はそれを発症するリスクがある対象を特定することができる。更に、本明細書に記載の予後アッセイを使用して、対象にACE2-Fc融合ポリペプチドを投与して、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドと関連する疾患又は障害を治療することができるかどうかを決定することができる。
【0195】
e.処理方法
本発明は、COVID-19の原因病原体であるSARS-CoV-2感染症を含む、コロナウイルス感染症のリスクがある(又はそれに罹患しやすい)対象を治療する、予防方法及び治療方法の両方を提供する。いくつかの実施形態では、本発明によって包含されるACE2-Fc融合タンパク質は、コロナウイルスに感染した対象又はそれに感染するリスクがある対象に投与される。投与されるACE2-Fc融合タンパク質は、SARS-CoV-2コロナウイルスの細胞表面受容体であるACE2の薬理学的に最適化された可溶性形態であり、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に結合することによって、ウイルス感染の競合阻害剤として機能し、細胞表面ACE2への付着を防ぐ。ACE2-Fc融合タンパク質は、COVID-19患者における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こすか又はその重症度を悪化させ得る、抗体依存性感染増強(ADE)を妨げるFc断片を含む。
【0196】
SARS-CoV-2に対する酵素的に活性なACE2の治療用途の欠点は、Fc融合形式であるかどうかにかかわらず、血行動態的な副作用及び電解質異常の可能性である。野生型ACE2は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)経路の成分であるアンジオテンシンIIを分解する外酵素であり、したがって、体内の血圧、体液、及び電解質バランス(主にナトリウム)を調節する天然のRAAS阻害剤である。野生型ACE2を利用する治療薬は、特により高い用量で、RAAS阻害の生理学的効果を反映する副作用を引き起こすことが予想されるか、又は相対量の枯渇状態にある急性の病気であるか、又は腎血管性狭窄若しくは心不全などのRAAS依存症をもたらす慢性状態を有する患者において予想される。RAAS阻害による副作用には、低血圧、血液量減少症、腎損傷、血圧低下が含まれ、低ナトリウム血症又は電解質変化をもたらす可能性がある。したがって、重症化し得る集団であるCOVID-19患者のACE2治療は、用量制限の副作用をもたらす可能性があり、これは、治療及び予防の両方の場面での活性ACE2の使用に対する懸念を引き起こす。
【0197】
酵素的に活性な組換えACE2細胞外ドメイン(Fc融合形式ではない)は、病理学的RAAS活性化による高血圧の治療のために開発されている。健常なボランティアの第I相無作為化用量漸増試験では、それは血圧又は心拍数に対して影響を及ぼさず、試験した用量では十分に耐容性であった(Haschke et al.(2013)Clin Pharmacokinet.,52(9):783-92)。しかし、多くが重症であるCOVID-19患者におけるその生理学的効果は、健常なボランティアにおけるその効果を反映していない可能性がある。更に、ウイルスの競合阻害に必要な用量は、前述のRAAS媒介性高血圧症の第I相試験で検討された用量よりも多い可能性があるため、重症ではないCOVID-19患者であっても、有害な血行動態作用や低ナトリウム血症を経験する可能性があることが懸念される。
【0198】
酵素的に活性なACE2薬剤の副作用は、RAASシステムが活性である場合に最も顕著であろう。これは、次の2つの場面で起こり得る:1)脱水又は敗血症などの血管内容量減少(intravascular volume depletion)の状態;又は2)腎動脈狭窄、心不全、又は肝硬変(肝不全)などのRAAS活性化の慢性状態(Atlas,S.A.,(2007)J.Manag.Care Pharm.,13(8 Suppl B):9-20、Hricik et al.(1983)N.Engl.J.Med.,308(7):373-6、Brown et al.(1998)Circulation,97(14):1411-20、Arroyo et al.(2011)Nat Rev Nephrol.,7(9):517-261)。これらの慢性的な状態は、重篤なCOVID-19を発症する可能性がより高い退役軍人を含めた高齢者に一般的である(Krishnamurthi et al.(2018)PLoS One,13(3):e0193996、Eibner et al.(2016)Rand Health Q.,5(4):13)。これらの併存状態は、臨床的には無症状であることが多いため、活性ACE2に曝露される前に、個体がこれらの素因的状態のうちの1つを有することは明らかではない場合があり、薬物が、低血圧又は高カリウム血症などの危険な電解質異常を引き起こす可能性がある。したがって、これらの懸念は、治療及び予防の両方の場面での活性ACE2の使用に関連する。
【0199】
実際、酵素的に活性な組換えACE2細胞外ドメイン(Fc融合形式ではない)は、RAASの病理学的過剰活性化による高血圧の治療として開発されている(Haschke et al.(2013)Clin Pharmacokinet.,52(9):783-92)。しかし、前述のように、RAAS阻害の生理学的効果は、制御された環境での健常なボランティアではなく、RAASシステムが活性である場合に最も明らかであろう。更に、ウイルスの競合阻害に必要な用量は、本治験で検討されたものよりも多い可能性がある。したがって、この治験は、COVID-19の治療又は予防のための酵素的に活性なACE2の安全性に関する懸念を軽減するものではない。
【0200】
IgG Fcドメインによって付与される延長された半減期は、皮下投与を可能にする。注射ごとに数百ミリグラムが、SARS-CoV-2を阻害するための十分な投薬により投与され得る。最高濃度到達時間は、静脈内投薬と比較した場合、皮下投与される生物製剤の方が長いが、これは、より大きな初期負荷用量、続いて、より少ない維持用量を投与することによって一般的に説明される。反復投薬が必要な場合は、典型的には半減期で行われるため、注射は3日ごとよりも頻繁である必要ではないであろう。製品の展開に関して、FDAに承認された皮下注射用のFc融合タンパク質は、多くの場合、注射の準備ができたプレフィルドシリンジ(pre-filled syringe)で入手可能である。タンパク質薬物の皮下注射のためのプレフィルドシリンジは、典型的には、冷蔵で12~24ヶ月間安定であり、輸送のための冷蔵を必要としない。
【0201】
本発明は、酵素的に不活性なACE2細胞外ドメインを含む。ACE2に2つの点変異(H374N&H378N)を含めることにより、その酵素活性が顕著に低下することが知られている(Imai et al.(2005)Nature,436(7047):112-6)。重要なことに、これらの点変異は、SARS-CoV又はSARS-CoV-2スパイクタンパク質への結合に影響を及ぼさない。これらの点変異を含むACE2-NN-Fc融合タンパク質は、依然として、SARS-CoV及びSARS-CoV-2偽ウイルスによる標的細胞の感染を強力に阻害する(Imai et al.,Lei et al.(2020)Nat.Commun.11(1):2070)。SARS-CoV-2に対するiACE2-FcのIC50は、0.1μg/mL未満、又は0.5ナノモル濃度未満であった。
【0202】
本発明によって包含されるACE2-Fc融合体を投与することによって、コロナウイルス感染症の治療又は予防と関連するいくつかの利点がある。本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、RAAS阻害剤ではない酵素的に不活性なACE2ドメインを用いるため、これらの副作用を誘発しない。したがって、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、病院内の急性疾患患者にも、監視されていないコミュニティ環境での慢性状態の個体にも安全に投与される。これにより、治療剤に加えて、予防剤としての使用が可能になる。副作用のリスクが低いため、酵素的に不活性なACE2を使用すると、より高い最高血清中濃度が許容されるようになる。より高用量のACE2-Fc融合ポリペプチドは、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)感染症の競合的阻害及びACE2の競合的阻害を改善し、同時に、より少ない頻度の投薬も可能にし(すなわち、投薬間の間隔を増加させる)、したがって、非病院環境における展開の実用性を向上させる。
【0203】
加えて、ヒトに感染することが知られている7つのコロナウイルス(OC43、HKU1、229E、NL63、MERS-CoV、SARS-CoV、及びSARS-CoV-2)のうち、世界的に重要な2つのウイルスを含む3つのコロナウイルス(SARS-CoV、SARS-CoV-2、及びNL63)がACE2を利用することが知られている:SARS-CoV、2004年の重症急性呼吸器症候群の発生に関与するウイルス、及びCOVID-19パンデミックに関与するウイルスSARS-CoV-2(Li et al.(2003)Nature,426(6965):450-54、Hoffman et al.(2020)Cell,181(2):271-80 e8)。したがって、ACE2が一次表面受容体(それを介してSARS-CoV-2が細胞に感染する)であるため、本発明によって包含されるACE2-Fc融合タンパク質は、ACE2を受容体として利用する任意のコロナウイルスに結合し、将来の新型コロナウイルスを含む。対照的に、中和モノクローナル抗体、並びにSARS-CoV-2に対するワクチンは、特に、広範囲にわたる治療及びワクチン接種がウイルスに進化的圧力を及ぼす場合、集団において生じる将来の新型コロナウイルス又はSARS-CoV-2の変異体バリアントに対して有効ではない可能性がある。これは、治療用中和抗体及びワクチン接種によって誘導される抗体が、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)上の規定のエピトープに結合するため、ACE2結合を保持しながら抗体結合を回避するように変異し得るためである。ACE2-Fc融合タンパク質は、それを必要とする対象に投与され、薬理学的に最適化された形態のACE2自体であるため、ACE2-Fc融合タンパク質への低減した結合を示す変異したRBDを有するウイルスもまた、標的細胞への結合の低減及び感染性の減少を示すであろう。
【0204】
ACE2-Fc融合タンパク質の不活性ACE2細胞外ドメインは、肺内の内因性ACE2の活性を妨げるか又はそれに影響を及ぼさないことを強調することが重要である。可溶性ACE2-Fc融合タンパク質は、ARDSに対してACE2が保護し得るARDSの重症度に影響を及ぼさない(Imai et al.(2005))。
【0205】
本発明によって包含される融合タンパク質は、中和抗体を、それを必要とする対象に投与することを含む治療と関連する合併症を回避する。例えば、抗体依存性感染増強(ADE)は、中和抗体がウイルス症候群における感染症及び炎症を逆説的に悪化させる現象である。ADEは、デング熱において最もよく特徴付けられ、最初の感染で生じた内因性中和抗体は、典型的には、第2の感染が抗体により部分的に中和される異なる血清型のウイルスによる場合、第2の感染でウイルス症候群が悪化する(Tirado et al.(2003)Viral Immunol.,16(1):69-86、Takada et al.(2003)Rev Med Virol.,13(6):387-98、Khandia et al.(2018)Front Immunol.,9:597)。この現象は、Fcγ受容体依存性である。抗体は、まず、ウイルスに結合し、次いで、免疫細胞上のFcγ受容体に結合し、ウイルス侵入を媒介し、免疫細胞を活性化する(Wan et al.(2020)J.Virol.,94(5))。これにより、免疫細胞におけるウイルス複製と、TNF-α及びIL-6などの炎症性サイトカインの放出との両方がもたらされる(Boonnak et al.(2008)J.Virol.,82(8):3939-51)。これらのサイトカインは、組織損傷、ショック、肺病理、及びARDSとも関連している。
【0206】
HIV及びエボラウイルス、並びにコロナウイルスには、ADEに関する証拠が存在する(Wan et al.(2020)、Beck et al.(2008)Vaccine,26(24):3078-85、Takada et al.(2001)J.Virol.,75(5):2324-30、Takada et al.(2003)J.Virol.,77(13):7539-44、Corapi et al.(1992)J.Virol.,66(11):6695-705、Hohdatsu et al.(1998)J.Vet.Med.Sci.,60(1):49-55、Vennema et al.(1990)J.Virol.,64(3):1407-9、Wang et al.(2014)Biochem Biophys Res Commun.,451(2):208-14、Kam et al.(2007)Vaccine,25(4):729-40、Jaume et al.(2011)J.Virol.,85(20):10582-97)。スパイクタンパク質のRBDに結合するコロナウイルス中和抗体は、Fcγ受容体の結合を介してADEを媒介し、膜融合及び感染を促進するスパイクタンパク質の立体構造変化を誘発し得る(Corapi et al.(1992)、Hohdatsu et al.(1998)、Vennema et al.(1990)、Wang et al.(2014)、Kam et al.(2007)、Jaume et al.(2011)、Wan et al.,(2020)J.Virol.,94(5):e02015-19)、Walls et al.(2019)Cell,176(5):1026-39 e15)。
【0207】
相関する臨床データは、重症急性呼吸器症候群(SARS)及びCOVID-19の両方を悪化させるADEの役割を支持する(Jaume et al.(2011)、Cao(2020)Nat.Rev.Immunol.,20(5):269-70、Tetro(2020)Microbes Infect.,22(2):72-73、Yuan et al.(2005)Tissue Antigens,66(4):291-96、Bicheng Zhang et al.(2020)medRxiv、Zhao et al.(2020)Clin.Infect.Dis.,doi:10.1093/cid/ciaa344)、Yuan et al.(2005)。IgG2に同等に結合する(H131)ため、内因性IgG2によって部分的に遮断され得るFcγRIIaアレルは、保護的であった。IgG1は、ウイルス感染によって誘発される主なIgGアイソタイプである。別の言い方をすれば、R131 FcγRIIaアレルに対してホモ接合性の患者、したがって、抗ウイルスIgG抗体に結合する可能性がより高い患者は、最悪の転帰を有した。これと、FcγRI又はFcγRIIIa受容体ではなくFcγRIIa受容体が、インビトロでのSARS-CoVのADEに十分であるという知見とは、IgG1抗体が、ADEを介して感受性の患者におけるSARSの経過を悪化させたことを示す(Juame et al.(2011)。
【0208】
最近、武漢大学の200人を超えるCOVID-19患者を対象とした研究では、SARS-CoV-2反応性IgGレベルがより高い患者は、IgGレベルが低い患者よりも重篤な疾患を経験する可能性がより高いことがわかった(Bicheng Zhang et al.(2020)。逆に、この研究では、SARS-CoV-2反応性IgMレベルが高い患者は、IgMレベルが低い患者よりも重篤ではない疾患を有する可能性がより高かった。IgGは、Fcγ受容体に結合することができるが、IgMは結合することができない。この研究はまた、好中球対リンパ球比が高いことが、特に高IgGレベルの患者において、重篤な疾患と相関することも見出した。好中球は、高レベルのFcγRIIaを発現することが知られている。より高いSARS-CoV-2のIgGレベルとより重篤な疾患との関連性は、170人を超える患者を含む第2の研究によって確認された(Zhao et al.(2020))。これらの所見を要約すると、Fcγ受容体を活性化することができるより高いレベルのSARS-CoV-2抗体を有することは、より重篤なCOVID-19疾患と相関し、逆に、Fcγ受容体を活性化することができないより高いレベルのSARS-CoV-2抗体を有することは、あまり重篤ではないCOVID-19と相関する。FcγRIIaを発現する好中球の割合がより高いことは、特に、高レベルのSARS-CoV-2抗体及びより高い割合の好中球の両方を有する患者において、より悪いCOVID-19とも相関する。合わせて、これらの臨床的な相関関係は、ADEがCOVID-19の重症度に寄与している可能性を示唆し、COVID-19は、常に肺炎症、及び多くの場合ARDSを特徴とする。
【0209】
ACE2-Fc融合ポリペプチドは、ADEのリスクを軽減するために、顕著に減弱されたFcγ受容体結合を有するFcドメインを利用する。いくつかの実施形態では、最小量のFcγ受容体結合を示すことが知られている2つの操作されたFcドメインは、IgG1 L234A L235A置換(IgG1-LALA)及びIgG4 S228P L235E置換(IgG4-SPLE)を含む。例えば、IgG4-SPLEは、FcγRIIaへの結合をほとんど示さないが、IgG1-LALAは、高濃度で最小限のFcγRIIa結合を示す(Schlothauer et al.(2016)Protein Eng.Des.Sel.,29(10):457-66)。いくつかの実施形態では、Fcドメイン断片は、FcγRIIa結合を最小化するために、IgG4-SPLE置換を含む。なぜなら、上述のように、これは、ADEと最も関連しているFcγ受容体であるからである。いくつかの実施形態では、FcγR結合が顕著に減弱された操作されたIgG Fcドメインが使用される。例えば、S228P及びL235E点置換を有するヒトIgG4 Fcドメインを使用することができ、L235E置換は、FcγR結合を減弱させる。FcγRI結合は数桁減少し、FcγRIIa、FcγRIIb、及びFcγRIIIへの結合は無視できるほどである。新生児型Fc受容体への結合が維持され、薬物動態に好ましい。したがって、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、Fcγ受容体に対する親和性が低く、ADEのリスクを減少させる。
【0210】
いくつかの実施形態では、IgG4-SPLEの使用は、ACE2-Fc融合ポリペプチド自体からのADEのリスクを軽減するだけでなく、ACE2-Fc融合ポリペプチドが、内因性免疫病理学的IgG抗体によって媒介される進行中のADEを中断することを可能にする。いくつかの実施形態では、IgG1 Fcドメインは、L234A、L235A、及びP329G置換を有するIgG1 Fcドメイン断片、P329G置換を有するIgG1 Fcドメイン断片、L234A及びL235A置換を有するIgG1 Fcドメイン断片、N297D置換を有するIgG1 Fcドメイン断片、N297A置換を有するIgG1 Fcドメイン断片、並びにN297Q置換を有するIgG1 Fcドメイン断片から選択され得る。IgG1 Fcドメインを使用して、ADEのリスクを軽減し、ACE2-Fc融合ポリペプチドが、内因性免疫病理学的IgG抗体によって媒介される進行中のADEを中断させることを可能にすることができる。ACE2-Fc融合ポリペプチドは、十分な末梢組織濃度で、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBDに結合するこれらの内因性抗体とうまく競合し、遮断する。これにより、Fcγ受容体に結合することによってADEを促進させ得る抗体に結合するビリオンの数が減少する。
【0211】
本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、ADEの病態生理学的メカニズムを中断し、ウイルス感染の直接的な競合的阻害によって肺におけるビリオンの数を減少させることを通して、COVID-19患者におけるARDSを予防し、その重症度を低減し、及び/又はそれを治療する。
【0212】
本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドは、様々なカップリング剤を使用して異種薬剤とコンジュゲートすることができ、これらに限定されないが、N-スクシンイミジル(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、アジプイミド酸ジメチルHCL)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン2,6ジイソシアネート)、及びビス-活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を含む、様々な二官能性タンパク質カップリング剤を使用される。例えば、炭素標識1-イソチオシアナトベンジルメチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチドの抗体へのコンジュゲーションのための例示的なキレート剤である(WO94/11026)。
【0213】
別の態様では、本発明は、抗ウイルス薬などの治療的部分にコンジュゲートされたACE2-Fc融合ポリペプチドを特色とする。コンジュゲートされたACE2-Fc融合ポリペプチドは、治療有用性に加えて、診断的又は予後的に、臨床検査手順の一部として組織におけるポリペプチドレベルを監視して、例えば、所与の治療レジメンの有効性を決定するのに有用であり得る。検出は、ACE2-Fc融合ポリペプチドを検出可能な物質にカップリング(すなわち、物理的に結合)することによって促進され得る。検出可能な物質の例としては、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、及び放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例としては、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼが挙げられ、好適な補欠分子族複合体の例としては、FLAGタグ、mycタグ、ヘマグルチニン(HA)タグ、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ、好適な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、又はフィコエリトリン(PE)が挙げられ、発光物質の例としては、ルミノールが挙げられ、生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが挙げられ、好適な放射性物質の例としては、125I、131I、35S、又はHが挙げられる。本明細書で使用される場合、ACE2-Fc融合ポリペプチドに関して「標識される」という用語は、検出可能な物質、例えば、放射性薬剤又はフルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)又はフィコエリトリン(PE)又はインドシアニン(Cy5))をACE2-Fc融合ポリペプチドにカップリングすることによって、ACE2-Fc融合ポリペプチドの直接標識、並びに検出可能な物質との反応性によるACE2-Fc融合ポリペプチドの間接的標識を包含するように意図されている。
【0214】
本発明のACE2-Fc融合ポリペプチドコンジュゲートを使用して、所与の生物学的応答を修飾することができる。治療的部分が古典的な化学的治療剤に限定されると解釈されるべきではない。例えば、薬物部分は、所望の生物学的活性を有するタンパク質又はポリペプチドであり得る。かかるタンパク質には、例えば、酵素的に活性な毒素、又はその活性断片(例えば、アブリン、リシンA、Pseudomonas外毒素、又はジフテリア毒素)、タンパク質(例えば、腫瘍壊死因子又はインターフェロン-γ)、又は生物学的応答調整因子(例えば、リンホカイン、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)、又は他のサイトカイン若しくは成長因子)が含まれ得る。
【0215】
1.予防的方法
一態様では、本発明は、対象に、コロナウイルスに結合するACE2-Fc融合タンパク質を投与し、それによって、ウイルスがACE2に結合し、細胞に侵入するのを阻害することによって、対象におけるコロナウイルス感染症を予防するための方法を提供する。予防剤の投与は、コロナウイルス感染症の特徴的な症状の兆候の前に起こり得、そのため、感染が予防されるか、又は代替的に、感染の症状が低減又は排除される。Fc断片を含む融合タンパク質の半減期が延長されるため、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、外来環境での皮下注射によって投与することができる。これにより、COVID-19に感染している軍人、退役軍人、又は民間人の現場又はコミュニティの環境での治療が可能になり、感染拡大の速度が低下し、入院が減少し、曝露された又はリスクのある個人の予防が可能になる。
【0216】
加えて、ACE2-Fc融合ポリペプチドの投与は、予防的に投与を受ける対象がコロナウイルスに曝露され、コロナウイルスに対する適応免疫応答を発現する場合、抗体依存性感染増強(ADE)を低減又は排除することができる。
【0217】
2.治療方法
本発明の別の態様は、本発明によって包含されるACE2-Fc融合ポリペプチドを投与することによって、コロナウイルスに感染した対象を治療する方法に関する。融合ポリペプチドは、コロナウイルスの内因性ACE2への結合を競合的に阻害し、それによって、ウイルスによる細胞の更なる感染を防止する。
【0218】
本明細書で使用される場合、「薬剤」及び「治療剤」という用語は、対象に投与され得るか、又はコロナウイルスの内因性ACE2ポリペプチドへの結合を阻害し、かつ/又はコロナウイルス感染症の抗体依存性感染増強を低減若しくは排除するために細胞培養物に適用され得るACE2-Fc融合ポリペプチドを含む任意の化合物又は組成物として広く定義される。
【0219】
本発明の治療方法は、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)を、表1に示されるアミノ酸配列を有するACE2細胞外ドメインと、表2、3、若しくは4に示されるアミノ酸配列を有するヒンジポリペプチド又はシステイン-プロリン若しくはプロリンアミノ酸ヒンジと、表5に示されるアミノ酸を有するFcドメイン断片と、を含む本発明のACE2-Fc融合ポリペプチドと接触させることを含む。
【0220】
本発明のACE2-Fc融合ポリペプチドは、コロナウイルスの内因性ACE2への結合を競合的に阻害し、ACE2-Fc融合ポリペプチドが細胞内へのウイルス侵入量を調節するという事実によって、細胞内におけるコロナウイルス活性の総量も調節する(すなわち、ウイルス複製)。加えて、治療濃度でACE2-Fc融合ポリペプチドを使用すると、ウイルスへの結合について内因的に発現された抗コロナウイルス抗体を打ち負かし、それによって、対象におけるADEを低減又は排除する。
【0221】
一実施形態では、薬剤は、コロナウイルスと内因性ACE2又は他の結合パートナーとの相互作用を阻害又は増強する。別の実施形態では、薬剤は、コロナウイルスを隔離し、それによって、内因性抗体がウイルスに結合するのを防ぐ。内因性抗体がコロナウイルスに結合するのを低減又は排除することによって、感染の抗体依存性感染増強が低減又は排除される。
【0222】
いくつかの実施形態では、DF-COV化合物は、抗体及び/又はワクチンに耐性であるコロナウイルスバリアントの治療として使用される。かかるバリアントが、現在出現しつつある。公的に入手可能なデータでは、「南アフリカバリアント」は、ワクチンに対する幾分の耐性、並びにEli Lillyのバムラニビマブに対する完全な耐性を含む、いくつかの臨床的に関連するモノクローナル抗体に対する顕著な耐性を示す。追加のデータは、これが、「ブラジルバリアント」にも存在するウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインにおけるE484K置換に起因することを示唆する。
【0223】
これらの方法は、インビトロで(例えば、細胞培養物を薬剤と接触させることによって、細胞培養物が、コロナウイルスに接触した時点でコロナウイルスに感染しているか、若しくはコロナウイルスに曝露されるであろう)、又は代替的に、インビボで体液を薬剤と接触させることによって(例えば、薬剤を対象に投与することによって)実施され得る。したがって、本発明は、コロナウイルスに感染している個体、又は細胞へのウイルス侵入を阻害する薬剤から恩恵を受けるであろうコロナウイルスに感染するリスクがある個体を治療する方法を提供する。一実施形態では、本方法は、コロナウイルス感染症の抗体依存性感染増強を阻害又は低減するACE2-Fc融合ポリペプチドを投与することを含む。
【0224】
コロナウイルス感染症を治療するための任意の特定の治療剤の有効性は、治療を受けている対象から得られた2つ以上の試料を比較することによって監視することができる。一般に、第1の試料は、療法を開始する前に対象から得られ、1つ以上の試料は治療中に得られる。かかる使用では、療法の前にコロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)を有する対象由来の細胞のベースライン発現が決定され、次いで、コロナウイルス感染症を有する対象由来の細胞のベースライン状態の変化が、療法の過程中監視される。代替的に、治療中に得られた2つ以上の連続した試料は、治療前のベースライン試料を必要とせずに使用することができる。かかる使用では、対象から得られた第1の試料をベースラインとして使用して、ウイルス量が対象において増加又は減少しているかどうかを決定する。
【0225】
加えて、ACE2-Fc融合ポリペプチドは、例えば、抗ウイルス剤、抗マラリア剤、抗炎症剤、鎮痛剤(例えば、アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)、及び小分子治療薬(レムデシビルを含むが、これに限定されない)と組み合わせて投与され得る。
【0226】
V.キット
本発明は、コロナウイルス感染症を治療するためのキットも包含する。本発明によって包含されるキットは、本明細書に提供されるように、開示される本発明の方法において開示される本発明のキット又はACE2-Fc融合ポリペプチドの使用を、開示又は記載する教材も含み得る。キットは、キットが設計される特定の用途を容易にするための追加の成分を含み得る。例えば、キットは、ACE2-Fc融合ポリペプチド(例えば、シリンジ、滅菌済みバイアル、及び/又は滅菌試薬)を投与する手段を追加で含んでもよい。キットは、開示される本発明の方法での使用が認められている緩衝液及び他の試薬を追加で含み得る。非限定的な例としては、担体タンパク質又は洗剤等の非特異的結合を減少させる薬剤が挙げられる。
【実施例
【0227】
実施例1:材料及び方法
DF-COVコンストラクトの設計及び産生
DF-COV-01及びDF-COV-02は、以下のように設計された。ヒトアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)のアミノ酸配列は、ユニバーサルタンパク質データベース(UniProt)から入手した。DF-COV-01については、完全なACE2細胞外ドメイン(アミノ酸18~730)を使用した。DF-COV-02については、ACE2細胞外ドメインのサブセット(アミノ酸18~615)を使用した。DF-COV-01及びDF-COV-02の両方について、触媒ヒスチジン374及び378を変異させて(H374N及びH378N)、ACE2細胞外ドメインを酵素的に不活性にした。これらのACE2細胞外ドメインの配列を、UniProtから得られたヒトIgG4ヒンジ領域及びFcドメインのアミノ酸配列のアミノ末端に付加した。DF-COV-01及びDF-COV-02の両方において、IgG4ヒンジ領域及びFcドメインは、FAB-アーム交換、Fcγ受容体結合、及びC1q結合を減少させることが知られている点置換:S228P及びL234E(以下、IgG4-SPLEと称する)を含む。DF-COV-01及びDF-COV-02に使用される正確なヒンジ領域及びFcドメイン配列を、以下に別々に列挙する。DF-COV-01を構築するために、以下に列挙される適切なACE2細胞外ドメインを、以下に列挙される適切なヒンジ領域のアミノ末端に直接付加した。DF-COV-02を構築するために、以下に列挙される適切なACE2細胞外ドメインを、以下に列挙される適切なヒンジ領域のアミノ末端に付加し、単一のグリシン残基を、ACE2細胞外ドメインとヒンジ領域との間に挿入した。DF-COV-01及びDF-COV-02をコードするヌクレオチド配列を、コンピュータによる逆転写及びコドン最適化によって得た。シグナルペプチドMEWSWVFLFFLSVTTGVHSをコードするヌクレオチド配列を、重鎖ヌクレオチド配列及び軽鎖ヌクレオチド配列の両方のすぐ5’に付加した。
【0228】
ヌクレオチド配列を合成し、pLEV123発現ベクター(LakePharma,Inc)にクローニングし、配列をPCR増幅、続いてSanger配列決定によって確認した。次いで、ベクターをPCRによって増幅し、増幅したDNAを、品質評価のためにアガロースゲル上に流し、その配列を、トランスフェクションに進める前に、Sanger配列決定によって再び確認した。タンパク質の生成及び精製は、LakePharmaの標準操作手順によって行った。簡潔に述べると、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、振とうフラスコ内の懸濁液中に播種し、無血清の化学的に定義された培地を使用して拡大した。トランスフェクションの日に、拡大した細胞を、新鮮な培地を有する新しいフラスコ内に播種した。発現ベクターを、CHO細胞内に一過性にトランスフェクトした。細胞を、フェドバッチ(batch-fed)培養として14日間維持した。一時的な産生からの馴化培地を回収し、遠心分離及び濾過によって清澄化した。上清を、結合緩衝液で予め平衡化したプロテインAカラム上に充填した。OD280値(NanoDrop、Thermo Scientific)をゼロに測定するまで、洗浄緩衝液をカラムに通した。標的タンパク質を低pH緩衝液で溶出し、画分を収集し、各画分のOD280値を記録した。標的タンパク質を含有する画分をプールし、0.2μmの膜フィルターを通して濾過した。タンパク質濃度は、OD280値及び計算された吸光係数から計算した。標的タンパク質のキャピラリー電気泳動(CE-SDS)分析は、LabChip GXII(Perkin Elmer)を使用して行った。低エンドトキシンレベルを確認するために、発色性Limulus Amebocyte Lysate法(Endosafe-MCS、Charles River Laboratories)を使用して、精製生成物の複製試料を定量化した。
【0229】
SARS-CoV-02スパイクタンパク質結合アッセイ
DF-COV-01及びDF-COV-02のSARS-CoV-2スパイクタンパク質(S-タンパク質)への結合を、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって評価した。Corning Costar 96ウェルELISAプレートを、pH9.5の炭酸緩衝液(15mM NaCO及び35mM NaHCO)中の5μg/mLの組換え三量体化安定化、融合前安定化、SARS-CoV-2 S-タンパク質(LakePharma,参照番号46328)で、4℃で一晩コーティングした。プレートを、BioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用して、PBS-Tween(Gibcoから購入し、Sigmaから購入した0.05%のTween20を補充したリン酸緩衝生理食塩水 pH7.4)中で3回洗浄した。次いで、プレートを、PBS中の5%(重量/体積)のミルク中でのインキュベーションによってブロッキングした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。PBS-BSA(0.5%のウシ血清アルブミンを含むPBS)中のDF-COV-01又はDF-COV-02の段階2倍希釈液を、ELISAプレートの適切なウェルに3連で添加し、室温で30分間インキュベートした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。PBS-BSA中で1:5000希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ヒトIgG二次抗体(Southern Biotech,2014-05)を、全てのウェルに添加し、室温で15分間インキュベートした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。ペルオキシダーゼ基質を添加し(TMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質システム,KPL Inc.)、続いて50体積%の1M リン酸の停止溶液を添加した。SARS-CoV-2 Sタンパク質へのDF-COV結合の程度を表す450nmでの光学密度を、Molecular Devices SpectraMax M3プレートリーダーを使用して、各ウェルについて決定した。
【0230】
FcγRIIa結合アッセイ
組換えヒトFcγRIIaへのDF-COV-01及びDF-COV-02の結合を、ELISAによって評価した。Corning Costar 96ウェルELISAプレートを、pH9.5の炭酸緩衝液中の1μg/mLの組換えヒトFcγRIIA/CD32a(H167)タンパク質(R&D Systems,9595-CD-050)で、4℃で一晩コーティングした。プレートを、BioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用して、PBS-Tweenで3回洗浄した。次に、プレートを、PBS中の5%(重量/体積)のミルク中でのインキュベーションによってブロッキングした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。PBS-BSA中のDF-COV-01、DF-COV-02、又はヒトACE2-IgG1 Fc(LakePharma,参照番号46672及び番号46673)の段階2倍希釈液を、ELISAプレートの適切なウェルに3連で添加し、室温で30分間インキュベートした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。セイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ヒトIgG F(ab’)2二次抗体(Southern Biotech,2042-05)を、PBS-BSA中で1:5000希釈し、全てのウェルに添加し、室温で15分間インキュベートした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。ペルオキシダーゼ基質を添加し(TMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質システム,KPL Inc.)、続いて50体積%の1M リン酸の停止溶液を添加した。FcγRIIaへの結合の程度を表す450nmでの光学密度を、Molecular Devices SpectraMax M3プレートリーダーを使用して、各ウェルについて決定した。
【0231】
ACE2酵素活性アッセイ
蛍光測定酵素活性アッセイによって、ACE2酵素活性の評価を行った。DF-COV-01、DF-COV-02、又はヒトACE2-IgG1 Fc(LakePharma,参照番号46672&番号46673)の2倍段階希釈液を、96ウェルCorning Costarプレート中の0.1% BSA、1M NaCl、75mM Tris、0.5mM ZnCl、pH7.5を含む100μLの反応緩衝液中で希釈した。Mca-YVADAPK(Dnp)-OH蛍光発生ペプチド基質(R&D Systems,ES007)を、50μMの濃度で添加した。反応の進行を、37℃で維持されたMolecular Devices SpectraMax M3プレートリーダーを使用して、蛍光(励起322nm、発光381nm)によって監視した。蛍光の変化を使用して、反応速度を計算した。反応速度を使用して、DF-COV-01及びDF-COV-02のACE2酵素活性を、野生型ACE2-IgG1 Fcのものと比較した。
【0232】
偽型ウイルス中和試験
HIVエンベロープ糖タンパク質の発現を防止するための変異と、標的細胞におけるルシフェラーゼの発現を指示するためのルシフェラーゼ遺伝子と、を含む複製欠陥HIV-1骨格を使用して、偽型SARS-CoV及びSARS-CoV-2を生成した。HEK293-T細胞を、2つのプラスミドで共トランスフェクトした:1つは、SARS-CoV又はSARS-CoV-2スパイクタンパク質のいずれかの発現ベクターであり、もう1つは、Env欠損HIV-1ゲノムを保有する。トランスフェクションの48時間後にウイルス粒子を含む上清を採取し、Centricon 70濃縮器を使用して濃縮し、-80℃で凍結保存した。ヒトACE2発現ベクター(pcDNA-hACE2)で293T細胞を一過性にトランスフェクトすることによって、標的細胞を生成した。ACE2でトランスフェクトされた293T細胞を、トランスフェクションの24時間後に標的細胞として使用した。ヒトACE2受容体で一過性にトランスフェクトされた293T細胞に対して偽ウイルスの滴定を行い、感染アッセイにおいて1秒当たり50,000カウント(cps)を生成するのに必要なウイルスの量を決定した。適切な量の偽ウイルスを、DF-COV-01、DF-COV-02、又は無関係なFc融合体の段階希釈液と室温で1時間プレインキュベートした後、ヒトACE2を発現する293T細胞に添加した。偽ウイルスを含む培地を、24時間後に新鮮な完全培地に交換した。更に24時間後、BrightGloルシフェラーゼアッセイ(Promega)によるルシフェラーゼの検出によって感染を定量化し、Victor3プレートリーダー(Perkin Elmer)で読み取った。
【0233】
薬物動態試験
シリアハムスターを計量し、次いで、8mg/kgのDF-COV-01又はDF-COV-02を皮下注射した。続いて、注射後4時間、8時間、24時間、48時間、及び72時間で、伏在静脈から50μL~100μLの静脈血を得た。これらの伏在血液試料からの血清は、後の分析のために凍結した。血清試料中のDF-COV-01及びDF-COV-02の濃度を、ELISAによって決定した。Corning Costar96ウェルELISAプレートを、pH9.5の炭酸緩衝液中の5μg/mLの組換え三量体化安定化、注入前安定化、SARS-CoV-2 S-タンパク質(LakePharma、参照番号46328)で、4℃で一晩コーティングした。プレートを、BioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用して、PBS-Tweenで3回洗浄した。次に、プレートを、PBS中の5%(重量/体積)のミルク中でのインキュベーションによってブロッキングした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。PBS-BSA(0.5%のウシ血清アルブミンを含むPBS)中の血清試料の段階2倍希釈液を、ELISAプレートの適切なウェルに3回添加し、室温で30分間インキュベートした。これを、既知の濃度のDF-COV-01又はDF-COV-02の試料と並行して行って、標準曲線を定義した。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。PBS-BSA中で1:5000希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ヒトIgG二次抗体(Southern Biotech,2014-05)を、全てのウェルに添加し、室温で15分間インキュベートした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。ペルオキシダーゼ基質を添加し(TMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質システム、KPL Inc.)、続いて50体積%の1M リン酸の停止溶液を添加した。SARS-CoV-2 Sタンパク質へのDF-COV結合の程度を表す450nmでの光学密度を、各ウェルについて、Molecular Devices SpectraMax M3プレートリーダーを使用して決定した。標準曲線の線形範囲内にある血清希釈液のOD405を利用して、適切な希釈係数を考慮した上で、各時点でのDF-COV-01又はDF-COV-02の血清中濃度を計算した。
【0234】
抗体依存性感染増強アッセイ
FcγRIIaを発現するがACE2を発現しない標的細胞の感染を促進する試薬の能力は、抗体依存性感染増強(ADE)を促進するそれらの能力のモデルとして使用することができる。複製欠陥HIV-1ベクターが、レポーターとしてのルシフェラーゼではなく、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を含んでいたことを除いて、偽型SARS-CoV-2ウイルスを産生し、上記のように精製した。ADEを促進する試薬の能力を評価するために、偽型ウイルスを、適切な試薬:SARS-CoV-02受容体結合ドメイン(RBD)特異的中和抗体(Sino Biological,#40592-MM57、若しくはGenscript,A02038)、無関係なアイソタイプ対照抗体、DF-COV-01、DF-COV-02、又は無関係なFc融合体の段階希釈液と、室温で1時間インキュベートする。次いで、これを、ヒトFcγRIIaを発現するように形質転換され、かつフローサイトメトリーによってACE2(Promega)を発現しないことが実証されたJurkat細胞の培養物に添加した。5% COの雰囲気下、37℃で24時間インキュベーションした後、偽ウイルスを含む培地を、新鮮な完全な培地と交換する。同じ条件下で更に24時間インキュベーションした後、Celigoイメージングサイトメーターを使用して、定量的免疫蛍光顕微鏡法を使用してGFP発現を決定することによって、感染を定量化する。感染は、GFP発現によって測定されるように、抗体依存性感染増強(抗ウイルス抗体によって媒介される、Fc受容体を発現する標的細胞へのウイルス侵入)を示す。
【0235】
SARS-CoV-2 RBD特異的抗体によって促進されるADEを阻害するDF-COV-01及びDF-COV-02の能力を評価するために、上記のように偽型ウイルスを産生及び精製し、SARS-CoV-02 RBD特異的抗体とDF-COV-01、DF-COV-02、又は無関係なFc融合体のいずれかとの様々なモル比で、室温で1時間インキュベートした。上記のように、これは、ヒトFcγRIIaを発現するように形質転換され、かつフローサイトメトリーによってACE2を発現しないことが実証されたJurkat細胞の培養物に添加した。5% COの雰囲気下、37℃で24時間インキュベーションした後、偽ウイルスを含む培地を、新鮮な完全な培地と交換する。同じ条件下で更に24時間インキュベーションした後、Celigoイメージングサイトメーターを使用して、定量的免疫蛍光顕微鏡法を使用してGFP発現を決定することによって、感染を定量化する。GFP発現によって測定される感染は、ADEを示し、無関係なFc融合体を含む条件と比較した場合、DF-COV-01又はDF-COV-02を含む条件における感染の減少の程度は、ADE阻害の測定基準として機能する。
【0236】
ADEの測定基準としてウイルス侵入を評価することに加えて、SARS-CoV-02 RBD特異的抗体、アイソタイプ対照抗体、DF-COV-01、DF-COV-02、又は無関係なFc融合タンパク質のいずれかとオプソニン化された偽型SARS-CoV-2の免疫複合体によるFcγRIIa活性化を評価することができる。DF-COV-01及びDF-COV-02は、偽型ウイルスのSARS-CoV-02 RBD特異的抗体のオプソニン化を遮断し、FcγRIIa活性化を媒介するそれらの能力について評価することもできる。GFPレポーターを発現するSARS-CoV-2偽ウイルスを上記のように作製し、SARS-CoV-02 RBD特異的抗体、アイソタイプ対照抗体、DF-COV-01、DF-COV-02、又は無関係なFc融合タンパク質の段階希釈液と、室温で1時間インキュベートする。DF-COV-01又はDF-COV-02がウイルスのオプソニン化及び得られたFcγRIIaの活性化を遮断する能力を評価する実験の場合、偽ウイルスを、SARS-CoV-02 RBD特異的抗体と、DF-COV-01、DF-COV-02、又は無関係なFc融合体のいずれかとの様々なモル比で、室温で1時間インキュベートする。これらの実験条件の各々におけるFcγRIIa活性化は、キットの推奨プロトコルに従って実施されるPromega FcγRIIa-H ADCPバイオアッセイ(G9901)を使用して評価される。発光は、FcγRIIa活性化の測定基準として機能し、Molecular Devices SpectraMax M3プレートリーダーを使用して、各ウェルについて決定される。
【0237】
インビボでの有効性研究
6~8週齢の雄及び雌のハムスターを、ケタミン-キシラジン麻酔下での鼻腔内滴下によって、100μLの条件培地(USA-WA01-2020株、BEIResourcesの3継代のVero)中の1ミリリットル当たり103~105のプラーク形成単位(pfu/mL)のSARS-CoV-2で感染させた。同日、ハムスターを計量し、8mg/kgのDF-COV-01、DF-COV-02、又はビヒクル対照として等量のPBSを皮下注射した。負荷の直前に始めて3日間続く中咽頭スワブを、ウイルス輸送培地に1日1回採取した。安楽死及び剖検は、それぞれ半数の動物に対して、ウイルス力価が最も高い日及び最も重篤な肺病理を有する日である負荷後3日目及び7日目に実施した。これらの時点で、ウイルス滴定及び組織病理学のために、肺を含む複数の組織が採取される。ウイルス力価を、Vero細胞単層プラークアッセイによって決定した。6ウェルのCostar組織培養処理プレート中で10%ウシ胎仔血清を補充した1mLのEagleMEM培地中で、Vero細胞単層を80%コンフルエンシーまで増殖させた。ウイルス輸送培地中の試料の一連の10倍希釈液を、96ウェルプレートで調製し、100μLの各試料を、Vero細胞単層を含む別個の適切なウェルに添加した。各プレートを揺動させて接種物を均等に分配し、次いで、これらの培養物を、5% COの雰囲気下、37℃で60~90分間インキュベートした。次いで、接種物を含む培地を除去し、単層をPBSで洗浄した。等量の10%のウシ胎仔血清を補充したEagleのMEM媒介物と、沸騰させ42℃まで予冷した1% アガロース溶液とを含むアガロースオーバーレイを、洗浄した各Vero単層上に添加し、15分間冷却し、次いで、5% COの雰囲気下、37℃で4日間インキュベートした。次いで、プレートを、同様に調製した完全なMEM培地/アガロースオーバーレイ中のニュートラルレッドの1:10,000希釈液で染色した。37℃、5% COの雰囲気下、一晩インキュベートした後、プラークをカウントした。接種物の希釈液を使用して、プラークカウントを、最初の接種試料の1ミリリットル当たりのプラーク形成単位(pfu/mL)に変換した。
【0238】
実施例2:インビトロにおける、SARS-CoV-2へのACE2-Fc融合ポリペプチドの結合の評価
組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質(LakePharmaによる産生)に結合するACE2-Fc融合ポリペプチドの能力を、インビトロで評価した。簡潔には、組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質へのDF-COV-01及びDF-COV-02の結合は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって検出した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を、96ウェルプレートに固定化した。次いで、プレートをミルクタンパク質でブロッキングし、洗浄し、DF-COV-01又はDF-COV-02の段階2倍希釈液を適切なウェルに添加した。プレートを再度洗浄し、DF-COV-01又はDF-COV-02の結合をペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG二次抗体によって検出した。比色ペルオキシダーゼ基質を添加した後、光学密度プレートリーダーを使用して結合を測定した。結合(光学密度)を、DF-COV-01又はDF-COV-02の濃度の関数としてプロットし、結合曲線を生成した(図2A及び図2B)。結合は、以前に生成された野生型ACE2-Fc融合体のものと比較することができる。非特異的Fc融合体(ヒトPD-L1-Fc)は、陰性対照として機能し得る。
【0239】
実施例3:インビトロでのACE2-Fc融合ポリペプチドの酵素活性を評価する
DF-COV-01及びDF-COV-02のACE2酵素活性の評価は、市販の蛍光発生ACE2基質(Mca-YVADAPK(Dnp)-OH)を利用した蛍光測定酵素活性アッセイによって行われる。このアッセイは、以前に記載されているように行われる(Imai et al.(2005)Nature,436(7047):112-6)。簡潔には、反応は、37℃で0.1%のBSA、1MのNaCl、75mMのTris、0.5mMのZnClを含むACE2酵素活性に有利なpH7.5緩衝液中で行われる。蛍光の変化は、酵素活性を示し、蛍光プレートリーダーを使用して監視される。DF-COV-01及びDF-COV-02のACE2酵素活性は、以前に産生された野生型の酵素的に活性なACE2-Fc融合体のものと比較される。非特異的Fc融合体は、陰性対照として機能する。
【0240】
酵素活性について、反応速度(蛍光変化の導関数)を、様々な濃度のDF-COV-01又はDF-COV-02、又は対照について比較する。
【0241】
実施例4:DF-COV-01及びDF-COV-02は、インビトロで天然SARS-CoV-2ウイルス及びSARS-CoV-2偽ウイルスによるiPSC(iAT2細胞)に由来するヒト肺胞2型細胞の感染を阻害する。
天然SARS-CoV-2ウイルスモデルによるヒト2型肺胞細胞感染のモデルは、誘導多能性幹細胞(iPSC)から分化した2型肺胞細胞(AT2)であるiAT2細胞を利用する。これらの細胞及び気液界面2D培養物は、以前に記載されているように調製される(Kristine et al.(2020)bioRxiv,biorxiv.org/content/10.1101/2020.06.03.132639v1)。
【0242】
実施例5:SARS-CoV-2感染iAT2細胞のインビトロ予防及び治療処置。
以下の2つの研究が行われる:(1)予防試験(DF-COV-01又はDF-COV-02が、SARS-CoV-2感染と同時に投与され、その後もiAT2培養物で維持される)、及び(2)治療試験(DF-COV-01又はDF-COV-02が、SARS-CoV-2感染の1日後にiAT2培養物に投与され、その後もiAT2培養物で維持される)。両方の実験について、ウイルス力価は、感染後4日目の定量的RT-PCRによって定量化される。ウイルス力価は、処置なしで、1日目~4日目まで測定可能に増加する。これらの2つの研究の各々における処置は、DF-COV-01若しくはDF-COV-02又は陰性対照として利用される非特異的Fc融合体のいずれかの2倍段階希釈を含む。
【0243】
培養物中のウイルス力価を定量的RT-PCRによって測定し、iAT2肺細胞の感染を、ウイルスNタンパク質の定量的免疫蛍光顕微鏡法によって評価する。ウイルス力価データに基づいて2つの別個の中和曲線を生成し、Nタンパク質の発現を免疫蛍光によって定量化する。これらの曲線の各々から計算される主要なデータは、(1)本システムにおけるDF-COVウイルス中和のIC50、及び(2)DF-COVがウイルスを完全に又はほぼ完全に中和する濃度である。
【0244】
実施例6:ACE2を形質導入した293細胞のSARS-CoV-2偽ウイルス感染のDF-COV媒介性阻害
以下に詳述するように、標準的な偽ウイルス中和試験を実施して、不活性なACE2ドメインとFcγ受容体(例えば、FcγIIa受容体)に結合しないFcドメイン断片とを含むACE2-Fc融合ポリペプチドと、RBD抗体及びPDL-1 Fcポリペプチドとの間のウイルス中和を比較した。
【0245】
SARS-CoV-2の完全長スパイクタンパク質を発現する偽ウイルスを使用して、バイオセイフティレベル(BSL)-2条件下でのDF-COV-01又はDF-COV-02による中和を評価する。ホタルルシフェラーゼを発現する複製欠陥HIV-1骨格を使用して、偽ウイルスを生成した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を欠くウイルスを対照として生成した。偽ウイルスを使用して、ヒトACE2(293A/ACE2)でトランスフェクトされたHEK293A細胞に感染させた。偽ウイルスの2倍段階希釈を、様々な濃度のDF-COV-01若しくはDF-COV-02又は対照としての非特異的Fc融合とインキュベートした。感染後、細胞をインキュベートし、回収した細胞の溶解物に対してルシフェラーゼアッセイを行って、ウイルス感染を定量化した。
【0246】
偽ウイルス感染の代理としての発光を、DF-COV-01若しくはDF-COV-02又は関連する対照の濃度の関数としてプロットし、ウイルス中和曲線を生成した(図3)。本システムにおけるDF-COV-01又はDF-COV-02ウイルス中和のIC50、及びDF-COV-01又はDF-COV-02ウイルスが完全に又はほぼ完全に中和された濃度を、この曲線を使用して計算した。
【0247】
実施例7:DF-COVのFcγRIIaへの結合と、ACE2-FcのIgG1 Fcへの結合との比較
ACE2-Fc融合ポリペプチドのFcγRIIa結合を、以前に記載されているように、表面プラズモン共鳴を使用して、ヒトIgG1 Fcドメインを有する以前に作製されたACE2-Fcの結合と比較する(Schlothauer et al.(2016)Protein Eng.Des.Sel.,29(10):457-66)。簡潔には、市販の組換えHis標識FcγRIIa細胞外ドメイン(R&D Systems)を、確立されたキットプロトコルを使用して、抗His捕捉抗体で予めコーティングされたCM5 Biacoreチップ上に固定する。Biacore分析中、100nMの濃度のHis標識FcγRIIaをHBS-P+泳動用緩衝液に適用する。続いて、DF-COV-01又はDF-COV-02又はIgG1 Fcを有するACE2-Fcを100nMの濃度で股関節に適用する。会合相及び解離相は、標準プロトコルによって監視され、結合定数は、Biacore評価ソフトウェアによって計算され、それを利用して、DF-COVに対するFcγRIIa結合及びACE2-FcとIgG Fcドメインとの相対親和性を比較する。このプロトコルは、表面プラズモン共鳴の代わりにELISA分析を使用するように変更され得る。
【0248】
実施例8:FcγRIIaへのDF-COV結合と、ポリクローナルヒトIgGへのACE2-Fc結合との比較
ELISAによって、ACE2-Fc融合ポリペプチドのFcγRIIa結合を、ポリクローナルヒトIgGと比較した。簡潔には、組換えヒトFcγRIIa(R&D Systems)を、ELISAプレート上に固定した。ELSIAプレートをブロッキングし、BioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tweenで3回洗浄した後、PBS-BSA中のDF-COV-01、DF-COV-02、又はポリクローナルヒトIgG(BioXCell)の段階希釈液を、3連で適切なウェルに適用し、室温で30分間インキュベートした。BioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS中でELISAプレートを3回洗浄した後、全てのウェルを、PBS-BSA中で1:5000希釈されたセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ヒトIgG F(ab’)2二次抗体(Southern Biotech)で、室温で15分間インキュベートした。次いで、プレートをBioTek 405TSマイクロプレート洗浄機を使用してPBS-Tween中で3回洗浄した。ペルオキシダーゼ基質を添加し(TMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質システム、KPL Inc.)、続いて50体積%の1M リン酸の停止溶液を添加した。FcγRIIaへのDF-COV又はヒトIgG結合の程度を表す450nmの光学密度を、Molecular Devices SpectraMax M3プレートリーダーを使用して、各ウェルについて決定した(図4A及び図4B)。
【0249】
実施例9:DF-COV-01及びDF-COV-02は、インビトロでADEを遮断する。
DF-COV-01及びDF-COV-02がADEを遮断する能力を評価するために、インビトロでMERS-CoV中和抗体によって誘導されるADEを実証した、以前に記載されているものと同様のモデルシステムが用いられる(Wan et al.(2020))。まず、SARS-CoV-2 RBDに対する中和抗体が、インビトロでADEを促進することができるかどうかを決定する。これを達成するために、FcγRIIa(Promega)を発現する市販のJurkat細胞を、標的細胞として使用する。Jurkatは、ヒトタンパク質アトラス(www.proteinatlas.org/ENSG00000130234-ACE2/tissue/T-cells)を使用したT細胞RNAseqデータの検索に基づいてACE2を発現せず、したがって、これらの細胞は、ADEによって感染が媒介されない限り、SARS-CoV-2偽ウイルスによる感染の影響を受けにくいはずである。これらの細胞を、緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターを含むSARS-CoV-2偽ウイルスの存在下で培養する。Jurkat細胞におけるGFP発現は、ウイルス侵入を示す。これらの共培養物に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBDへの結合が知られている様々な濃度のSARS-CoV-2中和抗体を添加する。いくつかのSARS-CoV-2 RBD特異的中和抗体が、現在市販されており(www.genscript.com/antibody/A02038-SARS_CoV_2_Spike_S1_Antibody_HC2001_Human_Chimeric.html;www.sinobiological.com/antibodies/cov-spike-40592-mm57)、ヒトIgG1 Fcドメインを有するものが含まれる。これらの抗体がFcγRIIa媒介性ウイルス侵入を介してADEを誘導する能力を、フローサイトメトリーを使用して、Jurkat標的細胞におけるGFPの蛍光を測定することによって評価する。このシステムでは、様々な市販の抗体をアッセイすることができる。FcγRIIa Jurkat細胞単独、又は抗体ではなく偽ウイルスとインキュベートしたFcγRIIa Jurkat細胞を、対照試料と比較する。
【0250】
これらの市販のFcγRIIa Jurkat細胞の使用は、FcγRIIa活性化のレポーターとして機能するように操作されているため、追加の利点を有する。免疫複合体によるFcγRIIaクラスタリングは、これらの細胞におけるルシフェラーゼレポーターの発現を誘発する。したがって、GFP発現を測定することによってウイルス侵入を評価することに加えて、SARS-CoV-2偽ウイルスと中和抗体との免疫複合体によるFcγRIIa活性化も測定することができる。FcγRIIa Jurkat細胞単独、又は抗体ではなく偽ウイルスとインキュベートしたFcγRIIa Jurkat細胞を、対照試料と比較することができる。FcγRIIa依存性ウイルス侵入、免疫複合体によるFcγRIIa活性化、又はその両方を確実に測定することができる。このシステムを使用して、DF-COV-01及びDF-COV-02による処置は、IgG1 Fcドメインを有する同様の既製ACE2-Fcよりも少ないADE(ウイルス侵入及び/又はFcγRIIa活性化によって測定される)をもたらすことができ、SARS-CoV-2スパイクタンパク質RBDに特異的な中和抗体によって誘導されるADEを遮断することができることを示す。
【0251】
偽ウイルス侵入は、フローサイトメトリーを使用して、標的細胞におけるGFP発現によって測定される。FcγRIIaの活性化は、プレートリーダーを使用して、FcγRIIaレポーターとして操作されるこれらの標的細胞の発光によって測定される。
【0252】
実施例10:SARS-CoV-2感染症のインビボモデルにおけるウイルス力価の減少、並びに肺病理の改善におけるDF-COV-01及びDF-COV-02の有効性の決定
SARS-CoV-2ウイルス感染症を減少させるDF-COV-01及びDF-COV-02の能力は、ヒト疾患の多くの特徴を示すハムスター感染負荷モデルで評価される。このモデルを検証するために、BSL-3動物施設で、約50匹のハムスターに、SARS-CoV-2を鼻腔内負荷した。臨床疾患は、一過性の発熱と無気力を伴い、軽度であるが、重篤な症状はない。口腔スワブは、負荷後3日目に一貫して感染性ウイルスを含み、ウイルス排出を定量化する手段を提供する。ウイルスの臓器負荷は、3日目には呼吸器で高くなるが、負荷後7日目又は21日目には検出されない。表9は、負荷後3日目の10匹のハムスターからの組織及び中咽頭スワブにおける力価を提供する。
【表2】
【0253】
組織病理学的評価により、負荷後3日目に中等度の重度の急性気管支間質性肺炎が発現し、感染性ウイルスが欠如しているにもかかわらず、7日目に重症化したことが明らかになった。これらの病変は非常に一貫しており、肺病変(例えば、肺線維症)の解消をより良く特徴付けるための実験が進行中である。
【0254】
6~8週齢の雄及び雌のハムスターは、ケタミン-キシラジン麻酔下での鼻腔内滴下により、100μlの量の10~10pfuのウイルスのSARS-CoV-2(USA-WA01-2020株の3継代のVero)に感染する。ウイルス負荷の前日から動物を臨床的に注意深く監視し、体重を毎日記録し、皮下に埋め込まれたLife Chip(Destron-Fearing)から体温を毎日2回記録し、臨床評価及びスコアリング(4ポイントスケール)を毎日2回記録する。この監視及び生理学的データは、毒性を評価するために使用される。SARS-CoV-2感染症は、ハムスターにおいて無症状性であり、したがって、臨床評価及び感染からのスコアリングのみにおいて、正常からの逸脱は予想されない。
【0255】
研究結果のデータを収集するために、中咽頭スワブを、負荷の直前に始めて3日間続く中咽頭スワブを毎日1回、ウイルス輸送培地に採取する。安楽死及び剖検は、それぞれ、ウイルス力価が最も高い日及び肺病理が最も重度の日である負荷後の3日目及び7日目に、別々の実験で実施される。これらの時点で、ウイルス滴定及び組織病理学のために、肺を含む複数の組織が採取される。
【0256】
DF-COV-01又はDF-COV-02は、ウイルス負荷と同時に皮下投与され、各処置群においてDF-COV-01又はDF-COV-02の用量を漸増させて3つの処置群において投与される。投与量は、他の受容体Fc融合体及び抗体に合わせて、60%の血管外及び40%の血管内分布を仮定して、動物の細胞外液中の特定の濃度の薬物を達成するように計算される。治療群を標的とする特定の濃度は、(1)インビトロでの偽ウイルス中和のためのDF-COV-01及びDF-COV-02のIC50に相当する濃度、(2)インビトロでの偽ウイルスの完全又はほぼ完全な中和を達成するために必要な濃度に相当する濃度、及び(3)インビトロでの偽ウイルスの完全又はほぼ完全な中和を達成するために必要な濃度の数倍(例えば、2倍~10倍)の濃度である。各処置群は、6匹の動物からなる。生理食塩水で処理した6匹の動物の対照群が、各実験でビヒクル対照として含まれる。実験は、3日目及び7日目のエンドポイントで繰り返される。3日目のエンドポイント実験を使用して、ウイルス力価に対するDF-COV-01及びDF-COV-02の効果を評価する。7日目のエンドポイント実験は、肺病理に対するDF-COV-01及びDF-COV-02の効果を評価する。3日目の処置群と対照群との間で、鼻甲介、中咽頭、及び肺のウイルス力価を比較する。処置群及び対照群における3日目及び7日目の肺組織病理は、委員会認定の獣医病理学者によって評価される。
【0257】
データは、変動を制御するためにlog10変換に供される。各実験について、6匹の動物を、上で詳述したように各処置群に無作為に割り当て(4つの群:低DF-COV-01又はDF-COV-02用量、中DF-COV-01又はDF-COV-02用量、高DF-COV-01又はDF-COV-02用量、及びビヒクル対照)、各群で等分散を仮定する。一元配置分散分析(ANOVA)を行い、0.10の両側有意水準で検査を行い、Dunnettのアプローチを使用して、活性薬剤の各々をビヒクル対照と比較し、検査の多重性についてp値を効率的に調整する。この試験は、対照とは異なる少なくとも1つの治療群を特定するのに90%を超える検出力(power)を有する。
【0258】
1日2回の臨床評価スコアは、毒性を評価することができる。スコアは、閾値化を介してバイナリ変数に変換される。1群当たり6匹のマウスでは、対照の12%と比較して、88%の処置動物で生じる毒性を検出するための83%の検出力がある。このような比較は、0.10の両側有意水準で実施されたFisher正確検定に基づいている。
【0259】
実施例11:非ヒト霊長類におけるDF-COV-01及びDF-COV-02の毒性の評価
表10に概説されるように、標準的な14日間の毒性試験設計で、血液サンプリングを用いて循環薬物レベルを測定した。臨床試験において、皮下投与アームに加えて静脈内投与アームを含むオプションを維持するための安全性データを提供するために、皮下及び静脈内投与経路の両方が別々の群で利用される。
【表3】
【0260】
実施例12:DF-COV-02は、DF-COV-01よりも優れた組織曝露を有する
DF-COV-01及びDF-COV-02の酵素活性を、野生型ACE2細胞外ドメインを含む対応するACE2-Fc融合体の酵素活性と比較した。結果は、一致した野生型ACE2-Fc融合体が酵素活性を示すが、DF-COV-01及びDF-COV-02は、ACE2酵素活性を示さないことを示した(図5)。
【0261】
偽型SARS-CoV-2ウイルス粒子を中和するDF-COV-01及びDF-COV-02の能力は、ルシフェラーゼ及びGFPのレポーター遺伝子の両方を含むウイルス粒子を使用して、ACE2を発現する293T細胞を標的として特徴付けた。ルシフェラーゼ発現(図6A)及びGFP発現(図6B)の両方の結果は、DF-COV-01及びDF-COV-02の両方が、ACE2を発現する293T細胞へのウイルス侵入を阻害し、DF-COV-01は、DF-COV-02よりも強力に中和することを示した。
【0262】
上記のように、DF-COV-01は、インビトロで、DF-COV-02よりも優れたウイルス中和活性を有するが、驚くべきことに、DF-COV-02は、特定の実験において、インビボで、DF-COV-01よりも優れたSARS-CoV-2に対する活性を有する(図7)。これは、図8の薬物動態曲線から計算したより大きな分布容積によって証明されるように、DF-COV-02のより良い末梢組織浸透に起因すると考えられる。したがって、DF-COV-01などの完全なACE2細胞外ドメインを利用する大きなACE2-Fc融合体は、いくつかの実験では、末梢組織浸透がより良好であるため、ウイルス中和が必要な組織においてより良好な薬物曝露を有する、より小さいACE2-Fc融合体よりも劣っている。かかる組織浸透は、状況によっては、有用であり得る。
【0263】
SARS-CoV-2ウイルスに対するDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の活性を、インビボで更に特徴付けた。これに関連して、図9Aは、中咽頭ウイルス力価を比較し、図9Bは、鼻甲介ウイルス力価を比較し、図9Cは、肺力価を比較し、図9Dは、特定の日における体重を比較し、図9Eは、経時的な体重を比較する。DF-COV-01は、中咽頭力価、鼻甲介力価、及び肺力価を減少させ、また、ハムスターにおけるSARS-CoV-2感染症の症状である体重減少から保護した。これらの実験結果と一致して、いくつかの実施形態では、DF-COV-01が、好ましい構築物である。
【0264】
実施例13:追加の構築物、DF-COV-03及びDF-COV-04、並びにそれらの特性
追加の構築物として、DF-COV-03及びDF-COV-04を設計し、発現させた。表7に、それらの配列が提供される。様々な構築物の例示的な描写として、図10A図12Bが提供され、ここで、図10Aは、DF-COV-01を示し、図10Bは、DF-COV-02を示し、図11は、DF-COV-03を示し、図12Aは、SARS-CoV-2 S-タンパク質RBDに結合するACE2メタロプロテアーゼドメインを有し、完全長SARS-CoV-2 S-タンパク質構造のオーバーレイを示し、図12Bは、DF-COV-04を示す。
【0265】
驚くべきことに、その結果は、DF-COV-04のように、ACE2及びFcドメインの配向を逆転させることによって、中和が改善されることを示した(図13)。また、驚くべきことに、その結果は、図13(及び図6)におけるインビトロでのウイルス中和の相対的効力が、ウイルスSタンパク質への結合親和性と相関しないことを示した(図14)。DF-COV-01及びDF-COV-02はいずれも、ウイルスSタンパク質に対して同一のアビディティを有するが、DF-COV-01は、インビトロで、DF-COV-02よりも強力に中和する。DF-COV-03は、DF-COV-01よりもウイルスSタンパク質に対する結合アビディティが高いが、中和効力が低い。逆に、DF-COV-04は、DF-COV-02及びDF-COV-03よりも強力に中和するが、より低い結合親和性を有する。
【0266】
実施例14:構築物の結合親和性、安定性、及び機能
SARS-CoV-2 S-タンパク質に対するDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の結合親和性を、DF-COV化合物を固定化し、溶液中のSARS-CoV-2 S-タンパク質を用いたバイオレイヤー干渉法(Octet)によって決定した。DF-COV-01及びDF-COV-02は、DF-COV-03及びDF-COV-04よりもSARS-CoV-2 Sタンパク質に対して高い親和性を有した(図15A及び図15B)。
【0267】
これらの結果に基づいて、いくつかの実施形態では、DF-COV-01は、好ましい化合物であり、少なくとも、それは、(1)(図15A及び図15Bで測定されるように)化合物2及び3よりもウイルスS-タンパク質に対して高いアビディティを有すること、(2)他の化合物よりも疑ウイルス中和試験においてIC50が低いこと、(3)他の化合物よりもハムスターにおける血清中半減期が長いこと、及び(4)ハムスターモデルでは、他の化合物よりも、中咽頭、中咽頭、及び肺のウイルス力価を低下させ、他の化合物よりも多くの体重減少から保護するという予想外の発見に起因する。
【0268】
加えて、DF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の各々を、振動式メッシュネブライザーで噴霧し、次いで、マイクロ遠心チューブに回収した。固定化されたSARS-CoV-2 S-タンパク質への噴霧化合物の結合を、噴霧前に採取した試料の結合と比較した。結合は、抗ヒトIgG-HRP二次抗体を介して検出された。4つ全てのDF-COV化合物について、噴霧試料と非噴霧試料との間のSタンパク質結合アビディティに有意差はなかった(図16A図16D)。
【0269】
その結果に基づいて、いくつかの実施形態では、投与経路は、IV又は吸入(噴霧)のいずれかである。図16A図16Dは、化合物が噴霧されたときに安定であることを示す(噴霧後のウイルスSタンパク質に対するアビディティの減少はない)。その化合物は、噴霧された後に偽ウイルスを中和することができるとも考えられている。
【0270】
図17は、ACE2のペプチダーゼドメイン(PD)及びコレクトリン様ドメイン(CLD)の両方を含むACE2-Fc融合体であるDF-COV-01が、CLDが省略され、その他は同一のACE2-Fc融合体であるDF-COV-02よりも、長い半減期を有するという予想外の発見を示す。CLDの代わりにACE2 PDをFcドメインから分離する人工可撓性リンカーを含むDF-COV-03もまた、CLD含有DF-COV-01よりも短い半減期を有する。ACE2 PDがFcドメインのC末端に付加され、人工可撓性リンカーによって分離されている(ACE2 CLDを含まない)DF-COV-04もまた、短い半減期を有した。
【0271】
DF-COV-01は、ACE2 CLD(ACE2のアミノ酸616~740)の膜近傍(細胞外)部分を含むACE2-Fc融合体である。予想外に、DF-COV-01は、DF-COV-02(CLDが省略され、その他は同一のACE2-Fc融合体である)よりもはるかに長い血清中半減期を有することが決定された。DF-COV-01はまた、DF-COV-03(CLDの代わりに人工可撓性リンカーが置換されたACE2-Fc融合体である)及びDF-COV-04(ACE2及びFcドメインの配向が逆転し、CLDも省略されたACE2-Fc融合体である)よりもはるかに長い血清中半減期を有した(以下の実施例を参照)。加えて、DF-COV-01、-02、-03、及び-04の直接比較(head-to-head comparison)では、DF-COV-01は、肺ウイルス力価を低下させ、感染による体重減少を緩和することによって、SARS-CoV-2感染症に対する有効性をインビボで実証した唯一のACE2-Fc融合体であった。
【0272】
上述のように、DF-COV化合物間の血清中半減期の差は予想外であった。理論に縛られることなく、CLDの存在は、DF-COV-01における2つのACE2ドメインの二量体化を促進し、ACE2ドメインの相互の会合は、それらをFcドメインから遠ざけ、それによって、それによって、新生児型Fc受容体(FcRn)への結合の立体障害を低減すると考えられている。FcRnは、ピノサイトーシスされたタンパク質が加水分解される、体内の内皮細胞及び他の細胞のリソソームに結合してシャペロンすることにより、分子を含むFcドメインの半減期を延長させる。このシャペロン活性は、内皮及び上皮細胞層にわたるFcRn含有化合物の効率的なトランスサイトーシスを可能にするとも考えられている。
【0273】
低温電子顕微鏡法によって得られた完全長ACE2の公開された構造(例えば、PDB構造6M18及び6M1D)は、完全長ACE2が二量体として存在することを示す(Yan et al.(2020)Science 367:1444-1448)。対照的に、ACE2ペプチダーゼドメイン(PD)単独の以前の構造は、二量体化が検出されなかった(例えば、Towler et al.(2004)J.Biol.Chem.279:17996-18007のCLDを各々欠くPDB構造1R42、1R4L、及び2AJF)。完全長ACE2の二量体化は、その研究で「頸部」ドメイン(アミノ酸616~726)と称された膜近傍CLDの一部分によって媒介されることが見出された。分子種のサブセットでは、PDの一部分も直接二量体化を媒介することが見出されたが、精製されたACE2 PDを用いた研究で二量体化が存在しないことは、CLDの存在が二量体化に必要であることを示すであろう。
【0274】
完全長ACE2のこの構造は、可撓性アームと考えることができるDF-COV-01の2つのACE2ドメインが、互いにある程度会合して「二量体」を形成し、そのため、DF-COV-01の2つのACE2ドメインの相互の会合が、DF-COV-01 Fcドメインへの近接を制限し、したがって、それらの立体障害を制限し得ると考えられることを示す。この立体障害の不在は、FcRnの結合を促進すると考えられる。
【0275】
CLDを欠き、その他は同一のACE2-FcであるDF-COV-02は、一貫して、DF-COV-01よりもはるかに短い血清中半減期を有することが見出された。DF-COV-02のACE2ドメインはCLDを欠いているため、それらは互いに会合することは予想されず、自由にDF-COV-02のFcドメインの近傍で弱く会合するか、又は空間を占有し、FcRn結合を立体的に妨げると考えられる。
【0276】
更に、DF-COV-03は、DF-COV-01よりもはるかに短い血清中半減期を有していた。DF-COV-02と同様に、DF-COV-03ではCLDが省略されている。しかしながら、DF-COV-02とは異なり、人工可撓性リンカーが、ACE2 PDとFcドメインのヒンジドメインとの間の位置に挿入されている。より可撓性のIgG1ヒンジドメインも、DF-COV-03で利用される。合わせて、これにより、ACE2 PDをFcドメインから分離する長く柔軟なアミノ酸配列が得られる。PDをFcドメインから分離する長く柔軟な配列が、この位置にCLDを含むDF-COV-01によって示されるより長い半減期を付与するのに不十分であるという事実は、CLDの配列同一性が、ACE2-Fcの血清中半減期を支配する上で重要であることを強調し、これは、CLD含有ACE2ドメインが互いに会合する傾向があり、それらのFcドメインへの近接性及び立体障害を制限することに起因すると考えられる。DF-COV-03のACE2ドメインは、Fcドメインに対して柔軟に配向できるようになるが、それらは依然として、自由にFcドメインの近傍で弱く会合するか、又は空間を占有し、したがって、FcRn結合を立体的に妨げる。
【0277】
ACE2 PDがFcドメインのC末端に付加され、人工可撓性リンカーによって分離されている(ACE2 CLDを含まない)DF-COV-04もまた、短い半減期を有した。
【0278】
図18は、DF-COV-01が、疾患重症度のメトリックである体重減少を制限した唯一の化合物であることを実証し、これは、日々の体重傾向によって実証されるように、ビヒクル対照群とは異なり、体重の回復を実証した。Geisser-Greenhouse補正を用いた混合効果モデル及びPrism v9ソフトウェアパッケージにおけるSidakの多重比較検定を利用した。図9に提示され、上記の少なくとも実施例12で考察された実験からのデータのこの追加の分析は、ACE2のCLDを含むACE2-Fc融合体であるDF-COV-01が、SARS-CoV-2処置ハムスターで疾患重症度を緩和することができる唯一のACE2-Fc融合体であったことを更に実証する。CLDが省略され、その他は同一のACE2-Fc融合体であるDF-COV-02は、疾患の重症度を減弱させることができなかった。CLDの代わりにACE2ペプチダーゼドメイン(PD)をFcドメインから分離する人工可撓性リンカーを含むDF-COV-03もまた、疾患重症度を減弱させることができなかった。ACE2 PDがFcドメインのC末端に付加され、人工可撓性リンカーによって分離された(ACE2 CLDを含まない)DF-COV-04は、してSARS-CoV-2 S-タンパク質三量体に対してDF-COV-01と同等の結合親和性を有するにもかかわらず、疾患の重症度を減弱させることもできなかった(図15Aを参照)。このデータは、DF-COV-01が全身投与された場合、他のDF-COV化合物と比較して優れた抗ウイルス活性を有することを示唆している。他のDF-COV化合物は、異なる経路によって(例えば、吸入を介して)又はより高い用量で全身投与された場合、抗ウイルス活性を示し得る。
【0279】
図19A及び図19Bは、SARS-CoV-2感染症の治療モデルのハムスターを治療するDF-COV-01の能力を示し、ここでは、1×10PFUのSARS-CoV-2を負荷して12時間後にハムスターが処置される。半数のハムスター(20)が、腹腔内注射によって投与される単回用量の150mg/kgのDF-COV-01で処置され、他の半数(20)が、プラセボ(PBS)の腹腔内注射で処置された。毎日、体重を記録した。DF-COV-01による処置は、プラセボと比較して、統計的に非常に有意な体重減少の低減をもたらし、疾患の重症度を緩和することを示した。Geisser-Greenhouse補正を用いた混合効果モデル及びSidakの多重比較検定(Prism v9ソフトウェアパッケージ)を利用した。したがって、DF-COV-01は、感染に対する予防を提供するのではなく、疾患を治療することが実証される。DF-COV-01は、SARS-CoV-2感染症による体重減少を低減し、疾患の重症度を緩和したことを示す。
【0280】
実験では、別個の群のハムスターに、3日間毎日、同等の用量のDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、又はDF-COV-04が投与され、DF-COV-01が、SARS-COV-2に対するインビボ活性を実証した唯一の化合物であった。DF-COV-04が、わずかに高いIC50を有するが、DF-COV-01と同様にSARS-CoV-2 S-タンパク質に対して高い結合親和性を有するにもかかわらず、このモデルにおいて活性を示さなかったという事実は、他のDF-COV化合物に対するDF-COV-01の優位性が、その高い結合親和性と中和効力だけ、おそらくより高い半減期又は他の要因からの薬物曝露以外の要因によるものであると考えられていることを示唆する。
【0281】
実施例15:ウイルスバリアントへの結合の評価
HIVエンベロープ糖タンパク質の発現を防止するための変異と、標的細胞におけるルシフェラーゼの発現を指示するためのルシフェラーゼ遺伝子と、を含む複製欠陥HIV-1骨格を使用して、偽ウイルスを生成する。HEK293-T細胞を2つのプラスミドで共トランスフェクトする:1つは、(ウイルスバリアントからの)偽ウイルスススパイクタンパク質の発現ベクターであり、もう1つは、Env欠損HIV-1ゲノムを保有する。トランスフェクションの48時間後にウイルス粒子を含む上清を採取し、Centricon 70濃縮器を使用して濃縮し、-80℃で凍結保存する。ヒトACE2発現ベクター(pcDNA-hACE2)で293T細胞を一過性にトランスフェクトすることによって、標的細胞を生成する。ACE2でトランスフェクトされた293T細胞を、トランスフェクションの24時間後に標的細胞として使用する。ヒトACE2受容体で一過性にトランスフェクトされた293T細胞に対して偽ウイルスの滴定を行い、感染アッセイにおいて1秒当たり50,000カウント(cps)を生成するのに必要なウイルスの量を決定する。適切な量の偽ウイルスを、DF-COV-01、DF-COV-02、又は無関係なFc融合体の段階希釈液と室温で1時間プレインキュベートした後、ヒトACE2を発現する293T細胞に添加する。偽ウイルスを含む培地を、24時間後に新鮮な完全培地に交換する。更に24時間後、BrightGloルシフェラーゼアッセイ(Promega)によるルシフェラーゼの検出によって感染を定量化し、Victor3プレートリーダー(Perkin Elmer)で読み取る。
【0282】
本明細書で実施及び記載される結合実験の場合、SARS-CoV-02バリアントからの組換えS1タンパク質への結合を、Octet(登録商標)RED384バイオレイヤー干渉法システムを使用して評価した。DF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、又はDF-COV-04を、製造元が推奨するプロトコルに従って、抗ヒトIgG Fc捕捉(AHC)バイオセンサー(Sartorius)に固定化した。S1タンパク質(Sino Biological)を、泳動用緩衝液(PBS、0.02% Tween20、2mg/ml BSA)を使用して、1.23~100nMに希釈し、96ウェルプレートに移した。DF-COV ACE2-Fc化合物が固定化されたセンサーを、希釈されたS1タンパク質を含むウェルに5分間浸漬して会合を測定し、次いで、泳動用緩衝液に10分間浸漬して解離を測定した。S1タンパク質又は泳動用緩衝液に浸漬されたDF-COV化合物を含まないセンサーからのシグナルを、参照として使用した。動態分析は、Octet(登録商標)データ分析HTバージョン12.0ソフトウェアを使用して行い、曲線を、1:1結合モードを使用して適合させた。
【0283】
ワクチン接種された患者からのモノクローナル抗体及び血清による中和からのSARS-CoV-02バリアントの回避が、受容体結合ドメイン(RBD)内の変異の結果として、ウイルスのRBDへのこれらの抗体の結合の減少又は喪失に起因することが実証されている(Planas et al.(2021)Nature doi.org/10.1038/s41586-021-03777-9)。したがって、個々のSARS-CoV-2バリアントにおけるS-タンパク質内のRBD変異及び他の変異を含む、組換えS1タンパク質への結合の評価を使用して、DF-COV化合物が結合するかどうか、及びそのSARS-CoV-2バリアントを中和すると予測されるかどうかを決定することができる。かかるアプローチを使用して、アルファ(B.1.1.7)及びベータ(B.1.351)コロナウイルス由来の組換えS1タンパク質を使用することを含めて、代表的なウイルスバリアントについて結合を評価した。同様の結合評価は、様々な他のウイルスバリアントに適用することができ、例えば、他のコロナウイルスを中和することができるモノクローナル抗体による中和に耐性のあるもの、SARS-CoV-2を中和することができるモノクローナル抗体による中和に耐性のあるSARS-CoV-2のバリアント、コロナウイルスワクチンによって付与される免疫に耐性のあるもの、SARS-CoV-2ワクチンによって付与される免疫に耐性のあるSARS-CoV-2のバリアント、以前のコロナウイルス感染症によって付与される自然免疫に耐性のあるもの、以前のSARS-CoV-2感染症によって付与される自然免疫に耐性のあるSARS-CoV-2のバリアント、S-タンパク質にE484置換を保有するもの、S-タンパク質にN501置換を保有し、Sタンパク質にK417置換を保有するもの、Sタンパク質にE484及びN501置換を保有するもの、Sタンパク質にE484K置換を保有するもの、Sタンパク質にE484Q置換を保有するもの、Sタンパク質にN501Y置換を保有するもの、Sタンパク質にK417N置換を保有するコロナウイルス、Sタンパク質にE484K及びN501Y置換を保有するもの、Sタンパク質にE484、N501、及びK417置換を保有するもの、Sタンパク質にE484K、N501Y、及びK417N置換を保有するもの、Sタンパク質にL452置換を保有するもの、Sタンパク質にL452R置換を保有するもの、Sタンパク質にT478置換を保有するもの、Sタンパク質にT478K置換を保有するもの、Sタンパク質にL452及びT478置換を保有するもの、Sタンパク質にL452R及びT478K置換を保有するもの、20I/501Y.V1、「イギリスバリアント」、若しくはアルファバリアントとしても知られるB.1.1.7系統の子孫、20I/501Y.V1、若しくは「イギリスバリアント」、若しくはアルファバリアントとしても知られるB.1.1.7系統であるもの、20H/501Y.V2、「南アフリカCOVID-19バリアント」、若しくはベータバリアントとしても知られる(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K、N501Y、及びK417N置換を保有する)B.1.351系統の子孫、20H/501Y.V2、「南アフリカCOVID-19バリアント」、若しくはベータバリアントとしても知られる(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K、N501Y、及びK417N置換を保有する)B.1.351系統であるもの、系統P.1、「ブラジルCOVID-19バリアント」、若しくはガンマバリアントとしても知られる(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K及びN501Y置換を保有する)B.1.1.248系統の子孫、系統P.1、「ブラジルCOVID-19バリアント」、若しくはガンマバリアントとしても知られる(Sタンパク質受容体結合ドメイン以外の他の置換に加えて、E484K及びN501Y置換を保有する)B.1.1.248系統であるもの、B.1.617系統の子孫、B.1.617.1系統の子孫(E484Q置換を保有する)、B.1.617.1系統であるもの(E484Q置換を保有する)、デルタバリアント(受容体結合ドメイン内外の他のSタンパク質変異に加えて、L452R及びT478K置換を保有する)としても知られるB.1.617.2系統の子孫、デルタバリアント(受容体結合ドメイン内外の他のSタンパク質変異に加えて、L452R及びT478K置換を保有する)としても知られるB.1.617.2系統であるもの、B.1.617.3系統の子孫(E484Q置換を保有する)、及び/又はB.1.617.3系統であるもの(E484Q置換を保有する)が含まれるが、これらに限定されない。
【0284】
図20A及び図20Bは、DF-COV化合物のSARS-CoV-2バリアントへの結合特性を示す。固定化されたDF-COV-01、DF-COV-02、DF-COV-03、及びDF-COV-04の、B.1.1.7(アルファ)、B.1.351(ベータ)、及び親B.1系統(D614G)由来の可溶性組換えS1タンパク質への結合を、バイオレイヤー干渉法(BLI)を介して評価した。B.1.351系統は、E484K置換を含み、これは、公開された研究では、バムラニビマブ(Ly-CoV555)を含む、いくつかの治療用モノクローナル抗体の結合を阻害することが知られており、このバリアントをインビトロで中和することができない。同様に、REGN-COV2カクテルにおける2つの抗体のうちの1つであるREGN10933は、公開された研究では、B.1.351に対する中和効力の顕著な低下を示すことが知られている。B.1.351系統は、ワクチン耐性を示すことも知られている。4つ全てのDF-COV化合物は、B.1.1.7及びB.1.351の両方の系統由来のS1タンパク質に強く結合した。実際、DF-COV化合物の各々について、バリアントS1タンパク質に対する結合親和性は、親B.1S1タンパク質に対するものよりも高かった。これらの結果は、ベータバリアント(B.1.351)が、いくつかのモノクローナル抗体に耐性であり、いくつかのワクチンに耐性を有することが知られている(これは、ウイルスS-タンパク質の受容体結合ドメインにおけるE484位及びK417位のアミノ酸置換によって駆動されることが知られている)ことから、重要である(Wang et al.(2021)Nature 593:130-135 describing B.1.351はモノクローナル抗体耐性を記載し、Zhou et al.(2021)Cell 184:2348-2361はワクチン耐性を記載する)。ワクチン接種を受けた患者由来のモノクローナル抗体及び血清に対する耐性を示す他の懸念されるバリアント(例えば、P.1バリアント)も、これらの位置にアミノ酸置換を有する(Wang et al.(2021)Cell Host Microbe 29:747-751)。
【0285】
参照による組み込み
本明細書で言及される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各個々の刊行物、特許、又は特許出願が参照により組み込まれると具体的かつ個別に示されるかのように、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。矛盾する場合には、本明細書のいずれの定義も含む本出願が支配する。
【0286】
The Institute for Genomic Research(TIGR)のワールドワイドウェブtigr.org及び/又はNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のワールドワイドウェブncbi.nlm.nih.govによって管理されているもの等の公開データベースのエントリと相関する受入番号を参照する任意のポリヌクレオチド及びポリペプチド配列も参照によりそれらの全体が組み込まれる。
【0287】
等価物
当業者であれば、通常範囲を超えない実験を使用して、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、又は確定することができるであろう。かかる等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるよう意図されている。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図16D
図17
図18
図19A
図19B
図20A
図20B-1】
図20B-2】
【配列表】
2023535695000001.app
【国際調査報告】