(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-21
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデンポリマーの精製方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/02 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
C08J7/02 CEW
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504148
(86)(22)【出願日】2021-07-22
(85)【翻訳文提出日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2021070612
(87)【国際公開番号】W WO2022018232
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルーセル, ブリス
(72)【発明者】
【氏名】アラール ブルトン, ベアトリス
【テーマコード(参考)】
4F073
【Fターム(参考)】
4F073AA23
4F073BA15
4F073DA09
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の不純物を含むフッ化ビニリデンポリマーを精製するための精製方法であって、下記のステップを含む方法に関する:フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体の流れで洗浄し;そして該フッ化ビニリデンポリマーからの残留超臨界流体を抽出する。本発明はまた、フッ化ビニリデンポリマー、該ポリマーを含む又は該ポリマーから成る流体運搬用部品;並びに該流体運搬用部品の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の不純物を含むフッ化ビニリデンポリマーを精製するための精製方法であって、下記のステップを含む方法:
-該フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体の流れで洗浄する;
-該フッ化ビニリデンポリマーからの残留超臨界流体を抽出する、ここで前記残留超臨界流体の抽出は、該フッ化ビニリデンポリマーを、洗浄後、不活性ガス流と接触させるか、そして/又は該フッ化ビニリデンポリマーを洗浄後、減圧下に置くことにより実施する。
【請求項2】
前記フッ化ビニリデンポリマーが、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー、又はフッ化ビニリデンから誘導された単位と少なくとも1種の第2のコモノマーから誘導された単位とを含むコポリマーである、請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
前記超臨界流体が超臨界二酸化炭素を含む、請求項1又は2記載の精製方法。
【請求項4】
前記フッ化ビニリデンポリマーの超臨界流体の流れを用いた洗浄が、反応器、好ましくはオートクレーブ中で実施される、請求項1ないし3のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項5】
前記フッ化ビニリデンポリマーの超臨界流体の流れを用いた洗浄が、10~100MPa、好ましくは20~60MPaの圧力で;そして/又は20~200℃、好ましくは50~170℃の温度で実施される、請求項1ないし4のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項6】
前記フッ化ビニリデンポリマーの洗浄に使用される超臨界流体の量が、フッ化ビニリデンポリマー1kg且つ1時間当たり1~30kg、好ましくはフッ化ビニリデンポリマー1kg且つ1時間当たり3~15kgにのぼる、請求項1ないし5のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項7】
前記超臨界流体が極性共溶媒、好ましくは水及び/又はエタノールから選ばれる極性共溶媒を含む、請求項1ないし6のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項8】
前記不活性ガスが空気、二窒素、ヘリウム、アルゴン及びそれらの混合物から選ばれる、請求項1ないし7のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項9】
前記不活性ガス流が、20~140℃、好ましくは70~120℃の温度であるか;又は前記減圧下に置くことが10~100℃、好ましくは20~80℃の温度にて実施される、請求項1ないし8のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項10】
前記フッ化ビニリデンポリマーの超臨界流体の流れを用いた洗浄が、1~12時間、好ましくは3~10時間の期間行われ;そして/又は残留超臨界流体の抽出が、1~40時間、好ましくは5~30時間の期間行われる、請求項1ないし9のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種の不純物が、アニオン、特にフッ素アニオン及び/又は炭酸アニオン、有機化合物、例えばアルコール、カルボン酸及び/又はエステル、およびそれらの混合物から成る群から選ばれる、請求項1ないし10のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項12】
前記超臨界流体の流れで洗浄されたフッ化ビニリデンポリマーが、粒状物、粉末又は成形部品、好ましくは粒状物、の形態にある、請求項1ないし11のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項13】
フッ化ビニリデンポリマーであって、有機化合物が該ポリマー1m
2当たり1500μg又はそれ未満、そしてフッ素アニオンの含量が該ポリマー1m
2当たり500μg又はそれ未満の含量を有する、フッ化ビニリデンポリマー。
【請求項14】
請求項1ないし12のいずれか1項記載の方法により得られる、請求項13記載のフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項15】
粒状物の形態にある、請求項13又は14記載のポリマー。
【請求項16】
請求項13又は14記載のポリマーを含む又は該ポリマーから成る、又は請求項15記載の粒状物から形成された、流体運搬用部品。
【請求項17】
電子部品の清浄化のための超高純度水を運ぶための、請求項16記載の部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデンポリマーを精製するための精製方法、及び低含量の不純物を有するフッ化ビニリデンポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクスの分野では、セミコンダクター型のような電子部品は超高純度水できれいにされる。この超高純度水は通常、フッ化ビニリデンポリマーから作られるチューブ、バルブ及び曲がり管を含む分配システムにより運ばれる。
【0003】
これらの用途には、使用するポリマーの純度に関して非常に重要な必要条件がある。何故なら、ポリマーに存在する不純物は超高純度の水に放出され得るからである。
【0004】
しかしながら、該ポリマーの製造中にイオン、金属又は低分子量有機分子のような不純物が該ポリマー中に捕捉されているのが見出される。
【0005】
超臨界流体を使用するフルオロポリマーのポリマー精製方法は知られている。
【0006】
例えば、特許文献1は結晶性フッ素化樹脂の精製法を記載し、ここで該フッ素化樹脂は超臨界二酸化炭素(CO2)を用いた洗浄に、特に高分子量フッ素化不純物を抽出する(抜き出す)ために付される。
【0007】
特許文献2は、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンのコポリマーの製造法を記載し、ここで、調製されたポリマーをアミド化した後、超臨界流体と接触させて、このポリマーから分子量202から903の成分を抽出する。
【0008】
しかしながら、上記の方法はフッ化ビニリデンポリマーに存在する不純物を十分除去することはできず、超臨界CO2を用いた処理によりもたらされる該ポリマー中の泡の存在により、該ポリマーの機械的性質の劣化を導き得る。
【0009】
従って、さらに不純物、特に低分子量不純物、例えばイオン又は揮発性有機化合物(VOCs)、のより効率的な除去を確実にする手段を提供し、そしてポリマーの良好な機械的性質および色を維持する(或いは向上さえさせる)ことを可能にする、フッ化ビニリデンポリマーの精製方法に対する真の必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-089524号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0338114号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、まず第1に、少なくとも1種の不純物を含むフッ化ビニリデンポリマーを精製するための精製方法に関し、該方法は下記のステップを含む:
-該フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体の流れで洗浄する;
-該フッ化ビニリデンポリマーからの残留超臨界流体を抽出する。
【0012】
ある態様によると、上記フッ化ビニリデンポリマーはポリフッ化ビニリデンホモポリマー、又はフッ化ビニリデンから誘導された単位と少なくとも1種の第2のコモノマーから誘導された単位とを含むコポリマーである。
【0013】
ある態様によると、上記超臨界流体は超臨界二酸化炭素を含む。
【0014】
ある態様によると、上記フッ化ビニリデンポリマーの超臨界流体の流れを用いた上記洗浄は、反応器、好ましくはオートクレーブ中で実施される。
【0015】
ある態様によると、上記フッ化ビニリデンポリマーの超臨界流体の流れを用いた上記洗浄は、10~100MPa、好ましくは20~60MPaの圧力で;および/または20~200℃、好ましくは50~170℃の温度で実施される。
【0016】
ある態様によると、上記フッ化ビニリデンポリマーの上記洗浄に使用される超臨界流体の量は、フッ化ビニリデンポリマー1kg且つ1時間当たり1~30kg、好ましくはフッ化ビニリデンポリマー1kg且つ1時間当たり3~15kgにのぼる。
【0017】
ある態様によると、上記超臨界流体は極性共溶媒、好ましくは水及び/又はエタノールから選ばれる極性共溶媒を含む。
【0018】
ある態様によると、残留する超臨界流体の抽出は、上記フッ化ビニリデンポリマーを、洗浄後、不活性ガス流と接触させるか、および/又は上記フッ化ビニリデンポリマーを洗浄後、減圧下に置くことにより実施される。
【0019】
ある態様によると、上記不活性ガスは空気、二窒素、ヘリウム、アルゴン及びそれらの混合物から選ばれる。
【0020】
ある態様によると、上記不活性ガス流は、20~140℃、好ましくは70~120℃の温度であるか;又は減圧下に置くことは10~100℃、好ましくは20~80℃にて実施される。
【0021】
ある態様によると、上記フッ化ビニリデンポリマーの超臨界流体の流れを用いた上記洗浄は、1~12時間、好ましくは3~10時間の期間行われ;そして/又は残留する超臨界流体の上記抽出は、1~40時間、好ましくは5~30時間の期間行われる。
【0022】
ある態様によると、上記少なくとも1種の不純物は、アニオン、特にフッ素アニオン及び/又は炭酸アニオン、有機化合物、例えばアルコール、カルボン酸及び/又はエステル、およびそれらの混合物から成る群から選ばれる。
【0023】
ある態様によると、超臨界流体流で洗浄した上記フッ化ビニリデンポリマーは、粒状、粉末又は成形された部品、好ましくは粒状、の形態にある。
【0024】
本発明はまた、フッ化ビニリデンポリマーであって、有機化合物がポリマー1m2当たり1500μg又はそれ未満、そしてフッ素アニオンの含量がポリマー1m2当たり500μg又はそれ未満のフッ化ビニリデンポリマーに関する。
【0025】
ある態様によると、上記フッ化ビニリデンポリマーは前に詳述した方法により得られる。
【0026】
ある態様によると、上記ポリマーは粒状の形態にある。
【0027】
本発明はまた、前に示したポリマーを含む又は該ポリマーから成る流体運搬パーツ(部品)又は前に示した粒状物から形成された流体運搬用パーツに関する。
【0028】
本発明はまた、電子部品の清浄化のための超高純度水を運ぶための上記パーツの使用に関する。
【0029】
本発明は前に確認した必要条件を満たすことを可能にする。本発明は更に特に、フッ化ビニリデンポリマーに含まれる不純物、そして特に低分子量不純物、例えばイオン又はVOCs又はその他の低分子量有機化合物、をより効率的に除去することにより、優れた純度を示すフッ化ビニリデンポリマーを得ることを可能にする、改良された精製方法を提供する。更に、本発明による精製方法は精製されたポリマーの化学構造を変更せず、そしてまたその機械的性質又は色の劣化を生じない。
【0030】
これは、フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体で洗浄するステップと、洗浄ステップ後、該ポリマーから残留する超臨界流体を抽出するステップとの組み合わせにより達成される。該ポリマーの超臨界流体での処理は該ポリマーに存在する不純物の一部分を確実に除去するのに役立ち、その後の超臨界流体の抽出ステップは該ポリマー内に捕捉されて残った超臨界流体を脱着しそして除くのを可能にする。更に、抽出ステップの間に脱着された超臨界流体はそれと一緒に有機不純物およびイオンを運び去り、それは該ポリマーの純度を更に改良することを可能にする。
【0031】
ある態様によると、特に超臨界流体が超臨界二酸化炭素である場合は、本発明は環境に優しい精製方法から成り、それは環境に有害な溶媒の使用を必要としない。
【0032】
更に、本発明は不純物、特に有機化合物並びにフッ素アニオン、の含量が低減されたポリマーを、該ポリマーの機械的性質を劣化させる事なく、そして該ポリマーの色に影響を及ぼす事なく得ることを可能にする。これは、良好な機械的性質を示しそして高レベルの純度を有する良質のポリマーを得る結果となり、これによりこの製品のその後の使用中(例えば、本発明によるポリマーから作られたチューブ又はパイプを超高純度水の輸送に使用中)にこれらの不純物の放出を制限することを可能にする。用語「超高純度水」とは、SEMI F40規格に従って、金属およびアニオン不純物の最大含量が重量で10億分の0.1(ppb)、全有機炭素(TOC)含量が重量で10ppb又はそれ未満、非揮発性残留物が重量で百万分の0.1(ppm)又はそれ未満、抵抗率が25℃で18MΩ.cm又はそれ以上、反応性シリカ不純物の含量レベルが1ppb未満、を云うと理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明をより詳細にそして非制限的方法で以下の記載に記述する。
【0034】
精製方法
本発明は、フッ化ビニリデンポリマーを精製するための精製方法に関する。
【0035】
用語「フッ化ビニリデンポリマー」とは、フッ化ビニリデン(VDF)から誘導された単位を含むあらゆるポリマーを云うと理解されたい。該ポリマーはホモポリマー又はコポリマー、例えばバイポリマー(即ち、2種のモノマーの重合から誘導されたポリマー)、ターポリマー(即ち、3種のモノマーの重合から誘導されたポリマー)、又はクオーターポリマー(即ち、4種のモノマーから誘導されたポリマー)、であり得る。用語「コポリマー」とは、少なくとも2種のモノマーの共重合から誘導されたポリマーを云うと理解されたい。
【0036】
フッ化ビニリデンポリマーは、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(PVDF)であり得る。
【0037】
或いは該ポリマーは、フッ化ビニリデンから誘導された単位と、少なくとも1種の第2のコモノマーから誘導された単位とを含むコポリマー(共重合体)であってもよい。該第2のコモノマーは、ヘキサフルオロプロピレン、フルオロエチレン又はフッ化ビニル、クロロフルオロエチレン(1-クロロ-1-フルオロエチレン及び1-クロロ-2-フルオロエチレン)、トリフルオロエチレン、クロロジフルオロエチレン(特に1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレン)、1-ブロモ-2,2-ジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロプロペン(特に3,3,3-トリフルオロプロペン)、テトラフルオロプロペン(特に2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)、クロロトリフルオロプロペン(特に2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)、ペンタフルオロプロペン(特に、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン)、一般式:Rf-O-CF-CF2(ここで、Rfはアルキル基、好ましくはC1~C4アルキル基)を有するペルフルオロアルキルビニルエーテル、そして特にPPVE(ペルフルオロプロピルビニルエーテル)及びPMVE(ペルフルオロメチルビニルエーテル)、およびこれらの組み合わせから成る群から選び得る。
【0038】
上記フッ化ビニリデンコポリマーはまた、或いは、非フッ素化モノマー、例えばエチレン又はアクリルおよびメタアクリル酸及びポリ酸のようなアクリル性モノマー、から誘導された単位を含んでもよい。
【0039】
上記コポリマーはフッ化ビニリデンから誘導された単位及び前に記載したような少なくとも1種の第2のコモノマーから誘導された単位を含み得る。
【0040】
上記フッ化ビニリデンポリマーは、前に述べたポリマーの2種又はそれ以上のあらゆる混合物であり得る。
【0041】
精製されるべきフッ化ビニリデンポリマーは少なくとも1種の不純物を含む。該少なくとも1種の不純物は媒体からおよびポリマーの製造中に該ポリマーの重合条件から生じたものでもよい。実施態様において、1種又はそれ以上の不純物は有機化合物、例えばアルコール、アルデヒド、カルボン酸および/又はエステル、および/又はイオン、特にアニオン、好ましくはフッ素アニオン(F-)、および/又は炭酸塩であり得る。好ましくは該有機化合物は400g/モル未満、更に好ましくは200g/モル未満のモル質量を有する。
【0042】
有機化合物不純物の量は、「全有機炭素」(又はTOC)の測定を実施して決定し得る。従って、有機化合物の量並びにフッ素アニオンの量は下記の規格を用いて決定される。サンプルの作成はSEMI F40-0699規格に従って実施される(超純水を用いて約10洗浄サイクルの後に、ポリマー50gを超純水250mLを収容した瓶に入れ、そして次に85℃のオーブンに7日間置く)。洗浄水中に存在する有機化合物およびフッ素アニオンを次に、フッ素アニオンの測定には規格試験法ASTM D4327に従って、そして有機化合物の測定にはASTM D4779およびD5904に従って分析する。いかなるポリマーも含まない対照サンプルを較正用に使用する。得られた値を次にSEMI C69-1015規格に従ってμg/m2の等量に変換する。該測定は好ましくは粒状の形態のポリマーに対して実施するが、粉末の形態のポリマーに対して実施してもよい。該ポリマーが部品(特に成形された部品)の形体にある場合は、測定を行う前に1つ又はそれ以上の部品を破片に切断することが可能である。
【0043】
特に、精製すべきフッ化ビニリデンポリマーは、有機化合物を20,000μg/m2又はそれ以上、好ましくは30,000μg/m2又はそれ以上の含量で含んでもよい。
【0044】
特に、精製すべきフッ化ビニリデンポリマーは、フッ素イオンを1500μg/m2又はそれ以上、好ましくは5000μg/m2又はそれ以上の含量で含んでもよい。
【0045】
第1ステップによると、上記フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体で洗浄するために、上記フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体に接触させる。
【0046】
上記フッ化ビニリデンポリマーは、第1ステップでは固体の形態であるのが好ましい。該フッ化ビニリデンポリマーはあらゆる適切な形態、例えば粒状又は粉末状、又は成形部品の形態、例えばその最終形態、および特にチューブ又はパイプ、の形態であってもよい。好ましくは、該ポリマーは粒状の形態であり、その形態は第1ステップの実施を容易にする。
【0047】
上記ポリマーは超臨界流体の流れに付される。言い換えると、該ポリマーを超臨界流体で掃除する。超臨界流体の流れは該ポリマーから不純物の少なくとも一部の抽出を可能にする。従って、超臨界流体を該ポリマーに接触させた後は、不純物を積んだ超臨界流体の流れを回収する。好ましくは、該ポリマーを超臨界流体と接触させる第1ステップ中、超臨界流体の流れを連続的方法で該ポリマーに供給し、そして該ポリマーと接触させた後に、不純物を積んだ超臨界流体の流れを連続的な方法で取り出す。
【0048】
有利な方法では、該ポリマーを超臨界流体と接触させるステップは反応器内で実施される。好ましくは、該反応器はオートクレーブである。特に好ましい態様では、該ポリマー、好ましくは粒状の形態の該ポリマー、を反応器に入れる。該反応器は好ましくは超臨界流体の流れ用の入口、及び不純物を積んだ超臨界流体の流れ用の出口を含み、該超臨界流体の流れは該入口から該出口に循環し、そして該超臨界流体の流れ用の入口と出口とは、フッ化ビニリデンポリマー床により分離されている。
【0049】
上記超臨界流体は不活性ガスから誘導された超臨界流体を含む。特に好ましい態様では、該超臨界流体は超臨界二酸化炭素を含む。或いは、又はそれに加えて、該超臨界流体は超臨界二窒素および/又は超臨界アルゴンを含み得る。
【0050】
有利な態様では、該超臨界流体は少なくとも80重量%の二酸化炭素、好ましくは少なくとも85重量%、更に好ましくは少なくとも90重量%、特に少なくとも95重量%、又は少なくとも98重量%の二酸化炭素を含む。いくつかの態様では、該超臨界流体は超臨界二酸化炭素から成る。
【0051】
上記超臨界流体は少なくとも1種の極性共溶媒を含み得る。該極性共溶媒は、水、アルコール族の有機溶媒、例えばエタノール、プロパノール等、およびそれらの混合物から成る群から選び得る。好ましくは、該極性共溶媒は該超臨界流体中に20重量%又はそれ未満、好ましくは15重量%又はそれ未満、例えば5~15重量%、好ましくは8~12重量%の量で含まれる。該超臨界流体中の該極性共溶媒の存在は、超臨界流体により抽出される不純物のスペクトルを高めることにより、精製の改良を可能にし得る。
【0052】
このステップで、超臨界流体の量は、有利にはフッ化ビニリデンポリマー1kg且つ1時間当たり1~30kg、好ましくは3~15kgにわたる。特に、超臨界流体の量は1~3kg、又は3~5kg、又は5~8kg、又は8~10kg、又は10~12kg、又は12~15kg、又は15~18kg、又は18~20kg、又は20~22kg、又は22~25kg、又は25~28kg、又は28~30kgの範囲であり得る。
【0053】
好ましくは、フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体と接触させるステップは、10~100MPa、好ましくは20~60MPa、更に好ましくは20~50MPaの圧力で実施される。いくつかの態様では、フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体と接触させるステップの圧力は:10~20MPa、20~30MPa、30~40MPa、又は40~50MPa、又は50~60MPa、又は60MPa、又は60~70MPa、又は70~80MPa、又は80~90MPa、又は90~100MPaである。
【0054】
好ましくは、フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体と接触させるステップは、20~200℃、好ましくは50~170℃で実施される。いくつかの態様では、フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体と接触させるステップの温度は、20~30℃、又は30~40℃、又は40~50℃、又は50~60℃、又は60~70℃、又は70~80℃、又は80~90℃、又は90~100℃、又は100~110℃、又は110~120℃、又は120~130℃、又は130~140℃、又は140~150℃、又は150~160℃、又は160~170℃、又は170~180℃、又は180~190℃、又は190~200℃である。
【0055】
フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体と接触させるステップは、好ましくは1~12時間、より好ましくは3~10時間の持続時間にわたって起こる;即ち、フッ化ビニリデンポリマーをこの期間にわたって超臨界流体の流れで掃除する。いくつかの態様では、このステップの持続時間は1~2時間、又は2~3時間、又は3~4時間、又は4~5時間、又は5~6時間、又は6~7時間、又は7~8時間、又は8~9時間、又は9~10時間、又は10~11時間、又は11~12時間である。
【0056】
フッ化ビニリデンポリマーと接触させた後に集められた、不純物を積んだ超臨界流体の流れは、該超臨界流体から不純物を分離するために、精製された超臨界流体を得るようなやりかたで処理に付すことができる。かかる処理は、活性化炭素又は分子篩上での精製、水中での泡立て、次いで乾燥、分解、次いで気体/液体分離又はこれらの複数の方法の組み合わせであり得る。精製された超臨界流体を少なくとも一部、好ましくは全体を、フッ化ビニリデンポリマーと接触させるための超臨界流体の流れとして再循環し得る。フッ化ビニリデンポリマーに供給される超臨界流体の流れは、全体が又は一部が精製された(再循環された)超臨界流体であり得る(精製された超臨界流体は例えば非再循環超臨界流体(この明細書では「新たな超臨界流体」とも云う)と混合し得る)。従って、該ポリマーへの超臨界流体の流れの供給は、開いたループで行うか(即ち、新たな超臨界流体の流れが該ポリマーに供給される)又は閉じたループで行う(即ち、不純物を積んだ超臨界流体の流れが少なくとも一部精製されそして少なくとも一部再循環されて該ポリマーに再び供給される)ことができる。
【0057】
フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体の流れと接触させるこのステップの後に、不純物が激減されたフッ化ビニリデンポリマーを回収する。
【0058】
洗浄し、従って不純物が激減したフッ化ビニリデンポリマーを、第2のステップの「揮発分除去(devolatilisation)」又は言い換えると洗浄後のフッ化ビニリデンポリマーから残留超臨界流体を抽出するステップに付す。
【0059】
ある態様によると、抽出ステップはフッ化ビニリデンポリマーを洗浄後、不活性ガスの流れと接触させることにより実施し得る。このガスは、空気、二窒素、ヘリウム、アルゴン、並びにそれらの混合物から選び得る。好ましくは、空気は70~120℃の温度、更に好ましくは80~100℃、例えば70~80℃、又は80~90℃、又は90~100℃、又は100~110℃、又は110~120℃、の温度である。
【0060】
ある態様によると、不活性ガスの流れは20~140℃、好ましくは70~120℃であり得る。この温度は、例えば20~30℃;又は30~40℃;又は40~50℃;又は50~60℃;又は60~70℃;又は70~80℃;又は80~90℃;又は90~100℃;又は100~110℃;又は110~120℃;又は120~130℃;又は130~140℃であり得る。
【0061】
フッ化ビニリデンポリマーを洗浄後、不活性ガスの流れと接触させることにより実施した抽出ステップの場合、このステップは絶対圧1~2バール(1 to 2 bars absolute) 、さらに好ましくは絶対圧1~1.5バールの圧力で実施し得る。
【0062】
或いは、この抽出ステップは、フッ化ビニリデンポリマーを洗浄後、減圧下に置くことにより実施し得る。この場合、減圧下に置くことは、10~100℃、好ましくは20~80℃の温度で実施し得る。この減圧下に置くことは、例えば周囲温度で実施し得る。
【0063】
フッ化ビニリデンポリマーを洗浄後、減圧下に置くことにより実施した抽出ステップの場合、このステップは相対圧-0.9~-0.01バール(-0.9 to -0.01 relative bar)の圧力で実施し得る。
【0064】
洗浄したフッ化ビニリデンポリマーからの残留超臨界流体の抽出ステップは、1~40時間、好ましくは5~30時間の時間に亘って行い得る。
【0065】
ある態様によると、このステップは最初のステップで使用したものと同じ反応器(例えば同じオートクレーブ)内で実施し得る。
【0066】
他の態様によると、このステップは最初のステップで使用した反応器とは異なる反応器内で実施し得る。
【0067】
このステップの終わりに、更に低減した量の不純物を有するフッ化ビニリデンポリマーが回収される。前に詳述したように、この不純物は、アニオン、特にフッ素アニオンおよび/又は炭酸アニオン、有機化合物、例えばアルコール、カルボン酸および/又はエステル、およびそれらの混合物から成る群から選び得る。
【0068】
従って、本発明による方法(更に特定的には、フッ化ビニリデンポリマーを超臨界流体の流れで洗浄するステップと、洗浄したフッ化ビニリデンポリマーから残留超臨界流体を抽出するステップとの組み合わせ)は、精製したポリマー中の不純物含量を減少させることを可能にする。更に特定的には、本発明による方法は、有機化合物の含量を90%又はそれ以上、好ましくは95%又はそれ以上、低減することができる。例えば、この含量は90~92%;又は92~94%;又は94~96%;又は96~98%;又は98%を越える値だけ減少され得る。
【0069】
更に、本発明による方法は、フッ素アニオンの含量を50~95%(精製前のポリマーと比べて)、そして好ましくは65~90%だけ減少させることができる。例えば、該含量減少は50~55%;又は55~60%;又は60~65%;又は65~70%;又は70~75%;又は75~80%;又は80~85%;又は85~90%;又は90~95%であり得る。
【0070】
有機化合物並びにフッ素アニオンの含量レベルは前に詳述したようにして評価される。
【0071】
精製されたフッ化ビニリデンポリマー
明細書に前に記載したように、前に詳述した方法により得られたポリマーは、精製前のポリマーと比較して低含量の不純物を有する。
【0072】
更に詳しくは、本発明によるフッ化ビニリデンポリマーは、ポリマー1m2当たり1500μg又はそれ未満の有機化合物の含量を有する。例えば、この含量はポリマー1m2当たり1500μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり1400μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり1300μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり1200μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり1100μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり1000μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり900μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり800μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり700μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり600μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり500μg又はそれ未満であり得る。
【0073】
ある態様においては、上記ポリマーは、ポリマー1m2当たり10μgから1500μg、特にポリマー1m2当たり100μgから1200μg、例えばポリマー1m2当たり200μgから1000μgの有機化合物含量を有する。
【0074】
更に、本発明によるフッ化ビニリデンポリマーはフッ素アニオン含量が、ポリマー1m2当たり500μg又はそれ未満である。例えば、この含量はポリマー1m2当たり500μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり450μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり400μg又はそれ未満、ポリマー1m2当たり350μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり300μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり250μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり200μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり150μg又はそれ未満、又はポリマー1m2当たり100μg又はそれ未満であり得る。
【0075】
ある態様では、上記ポリマーはフッ素アニオン含量がポリマー1m2当たり10μg~500μg、特にポリマー1m2当たり20μg~200μg、例えばポリマー1m2当たり30μg~100μgである。
【0076】
有機化合物およびフッ素アニオンの含量レベルは、前に記載した方法を用いて測定する。
【0077】
従って、本発明によるポリマーは、(ポリマーの機械的性質を劣化させることなく)低減された含量の不純物を有するので、その後、即ち製品の使用時に、不純物の放出を制限することが可能となる。機械的性質には、例えば、熱劣化の温度、溶解温度、結晶温度、高温(例えば270℃)での重量損失、結晶化指数度、引張強度、破断点伸びおよび降伏点伸びが含まれる。
【0078】
ある態様によると、精製されたポリマーの色は本発明の精製方法により影響されない。これは、精製されたポリマーの「黄色度」が精製すべきポリマーの黄色度よりも低いことに反映され、或いは改良さえされている。好ましい態様によると、精製されたポリマーの黄色度は、精製すべきポリマーの黄色度よりも少なくとも1だけ低い。この黄色度は2019年7月のNF ENISO/CIEに特定された方法を用いて測定される。
【0079】
本発明によるポリマーは特に、(半導体化合物のような)電子部品を洗浄するための非常に高純度の水を運ぶための部品、特にチューブ、バルブ又は曲がり管、の製造に使用し得る。
【0080】
或いは、上記ポリマーは、本発明の方法を実施する前のかかる部品の形態であり得る。本発明の方法はかかる部品を精製することを可能にする。
【実施例】
【0081】
下記の実施例は本発明を限定することなく例示する。
【0082】
実施例1
まず最初に、本発明の方法と、残留超臨界流体の抽出ステップを持たない方法との比較を行う。
【0083】
これを行うために、オートクレーブのようなタイプの反応器内に、粒状の形態のフッ化ビニリデンホモポリマーを、超臨界二酸化炭素の流れを用いて500バールの圧力、140℃の温度で、時間当たりのポリマーの量に対するCO2の量が15の割合で洗浄した。精製すべきポリマーは有機化合物を22,536μg/m2の含量で有する。このステップの後、洗浄した後の該ポリマー中の有機化合物の含量は、明細書に記載したように4341μg/m2であることが測定された。有機化合物の含量は81%だけ減少した。その後、洗浄後に得られたポリマーに、残留二酸化炭素の抽出のステップを、濾過した空気を95℃で20時間吹き込むことにより行った。このステップの後、洗浄後のポリマー中の有機化合物の含量は、明細書に記載したように980μg/m2であることが測定される。有機化合物の含量は96%だけ低減されたことが見いだされる。その結果、本発明の方法、そしてより特定的にはフッ化ビニリデンポリマーを二酸化炭素で洗浄するステップと、該洗浄ステップの後の該ポリマーから残留二酸化炭素を抽出するステップとの組み合わせは、抽出ステップを持たない方法と比べて有機化合物の含量をかなり減少させることができる。
【0084】
実施例2
この実施例で、3種のポリマーサンプル(A,B,C)を本発明の方法に従って精製した。これらの3種のサンプルは、同じ処方から得そして有機化合物を種々のレベルで有する、異なる製造バッチからのものである。各サンプルについて有機化合物及びフッ素アニオンの含量を測定した。
【0085】
これを行うために、オートクレーブ反応器中で、粒状物の形態のフッ化ビニリデンホモポリマーを超臨界二酸化炭素の流れで圧力300バール、温度130℃で、ポリマー/時の量に対するCO2の量の割合が15で洗浄した。
【0086】
残留CO2を抽出するために、上記粒状物を熱い空気(90℃)の流れにより大気圧にて21時間掃除した。
【0087】
有機化合物及びフッ素アニオンの含量レベルを明細書に詳述したように測定し、その結果を下記の表に示す。
【0088】
【0089】
処理後の3種のポリマーサンプルは有機化合物含量がポリマー1m2当たり1500μg未満、そしてフッ素アニオン含量がポリマー1m2当たり500μg未満であることが記され、これは本発明の方法に従って精製されたポリマーは高純度のレベルを有し、そしてその後の不純物の放出の危険性なしで使用し得るという結論を支持する。
【0090】
実施例3
この実施例で、これらの3種のサンプル(A,B,C)の黄色度を、本発明の方法に従って精製する前と精製した後に測定した。黄色度の測定に使用した方法は、2019年7月、NF EN ISO/CIE11664-4の方法である。対応する結果を以下の表に示す。
【0091】
【0092】
本発明によるポリマーの精製は得られたポリマーの色に悪影響を及ぼさないことが観察される。更に特定的には、精製後、精製されたポリマーは精製前のポリマーと比べて減少した黄色度を示すことが観察され、従って精製されたポリマーの色は改良されるという結果を支持する。
【0093】
実施例4
この実施例では、粒状物の形態のポリマーサンプルの機械的性質を、実施例2に記載した本発明の方法に従う精製前と精製後(サンプルD-精製前、そしてサンプルE-精製後)とで比較した。
【0094】
下記の機械的性質を研究した:
規格ISO 11358-1に従ってTGA(熱重量分析)により測定された熱安定性:
【0095】
【0096】
規格ISO 11357-3に従ってDSC(示差走査熱量測定)により測定した非等温結晶化度:
【0097】
【0098】
規格ISO 11357-3に従ってDSC(示差走査熱量測定)により測定した結晶化動力学:
【0099】
【0100】
上記表に基づき、ポリマーの機械的性質は、本発明の精製方法により否定的な影響を及ぼされないことが注目され得る。従って、本発明の方法は、精製されたポリマーを、該ポリマーの良好な機械的性質を維持しながら得ることを可能にする。
【国際調査報告】