(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-21
(54)【発明の名称】SIRPα媒介性シグナル伝達を調節するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230814BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230814BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230814BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20230814BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230814BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230814BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230814BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20230814BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20230814BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230814BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230814BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230814BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230814BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
C07K14/705
C12N15/12
C12N15/13
C12N5/10
C12N5/078
C12N5/0784
A61K39/00 H
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504550
(86)(22)【出願日】2021-07-22
(85)【翻訳文提出日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 US2021042767
(87)【国際公開番号】W WO2022020583
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ケナン クリストファー ガーシア
(72)【発明者】
【氏名】リカルド エー.フェルナンデス
(72)【発明者】
【氏名】チュンミン レン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA02
4C085AA03
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB22
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は概して、膜ホスファターゼを、cis位で、シグナル調節タンパク質α(SIRPα)分子の空間的近位に特異的に動員することによって、細胞表面受容体シグナル伝達を調節する組成物及び方法に関する。より具体的には、本開示は、SIRPαと特異的に結合し、そして、SIRPαの細胞内ドメインを脱リン酸するホスファターゼ活性の動員によってSIRPα媒介性シグナル伝達と拮抗する、新規多価タンパク質結合分子を提供する。斯かる分子を製造するのに有用な組成物及び方法、樹状細胞の成熟化を促進する方法及びワクチンを製造する方法、並びにSIRPα及び/又はCD47によって媒介されるシグナル伝達の阻害に関連する健康状態を予防及び/又は治療する方法、もまた提供する。
【選択図】
図1-2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シグナル調節タンパク質α(SIRPα)に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む第一のアミノ酸配列;及び
R1/R6サブファミリーの1若しくは複数の受容体タンパク質-チロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第二のポリペプチドモジュールを含む第二のアミノ酸配列、を含む多価ポリペプチド。
【請求項2】
前記1若しくは複数のRPTPが、CD45又はその機能的変異体を含む、請求項1に記載の多価ポリペプチド。
【請求項3】
前記第一と第二のポリペプチドモジュールのうちの少なくとも1つが、タンパク質結合リガンド又は抗原結合部分のアミノ酸配列を含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項4】
前記抗原結合部分が、一本鎖可変断片(scFv)、抗原結合性断片(Fab)、ナノボディ、V
Hドメイン、V
Lドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、V
NARドメイン、及びV
HHドメイン、ダイアボディ、又はそのいずれかの機能的断片から成る群より選択され得る、請求項3に記載の多価ポリペプチド。
【請求項5】
前記タンパク質結合リガンドが、細胞表面受容体の細胞外ドメイン(ECD)、RPTPのECD、又はそれらのいずれかの機能的変異体を含む、請求項3に記載の多価ポリペプチド。
【請求項6】
前記タンパク質結合リガンドが、CD47のECD又はその機能的変異体を含む、請求項5に記載の多価ポリペプチド。
【請求項7】
前記第一のポリペプチドモジュールが、ポリペプチドリンカー配列を介して第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結される、請求項1~6のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリペプチドリンカー配列が、グリシン-セリン(GS)リンカー又は3Cリンカーを含む、請求項7に記載の多価ポリペプチド。
【請求項9】
以下の:
(a) (i) CD47 ECD、(ii) ポリペプチドリンカー、及び(iii) CD45 scFv;
(b) (i) SIRPα scFv、(ii) ポリペプチドリンカー、及び(iii) CD45 scFv;又は
(c) (i) CD45 V
HH、(ii) ポリペプチドリンカー、及び(iii) SIRPα scFv、
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項10】
N末端からC末端への方向で、以下の:
(a) (i) CD47 ECD、(ii) GSリンカー、及び(iii) CD45 scFv;又は
(b) (i) CD47 ECD、(ii) C3リンカー、及び(iii) CD45 scFv、
を含む、請求項9に記載の多価ポリペプチド。
【請求項11】
N末端からC末端への方向で、以下の:
(a) (i) SIRPα scFv、(ii) GSリンカー、及び(iii) CD45 scFv;又は
(b) (i) SIRPα scFv、(ii) C3リンカー、及び(iii) CD45 scFv、
を含む、請求項9に記載の多価ポリペプチド。
【請求項12】
N末端からC末端への方向で、以下の:
(a) (i) CD45 V
HH、(ii) GSリンカー、及び(iii) SIRPα scFv;又は
(b) (i) CD45 V
HH、(ii) C3リンカー、及び(iii) SIRPα scFv、
を含む、請求項9に記載の多価ポリペプチド。
【請求項13】
前記多価ポリペプチドが、配列番号1~6から成る群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子組み換え核酸分子。
【請求項15】
前記核酸分子が、配列番号1~6から成る群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項14に記載の遺伝子組み換え核酸分子。
【請求項16】
以下の:
(a) 請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド、及び/又は
(b) 請求項14~15いずれか一項に記載の遺伝子組み換え核酸分子、
を含む組み換え細胞。
【請求項17】
前記組み換え細胞が、食細胞である、請求項16に記載の組み換え細胞。
【請求項18】
前記食細胞が、樹状細胞である、請求項17に記載の組み換え細胞。
【請求項19】
インビトロにおいて未成熟樹状細胞(DC)の成熟化を促進する方法であって、以下の:
(a) 未成熟DCを抗原に晒し;そして
(b) 請求項1~13いずれか一項に記載の多価ポリペプチドの存在下で未成熟DCを培養して、未成熟DCの成熟DCへの成熟化を誘発すること、
を含む方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法によって調製した成熟樹状細胞。
【請求項21】
ワクチンを製造する方法であって、以下の:
(a) インビトロにおいて未成熟DCを抗原に晒して、十分な数の抗原提示未成熟DCを生じさせ;そして
(b) 請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチドの存在下で抗原提示未成熟DCの成熟化を促進して、成熟抗原提示DCを生じさせること、
を含む方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法によって製造したワクチン。
【請求項23】
希釈剤、賦形剤、補助アジュバント、細菌性アジュバント、及び/又は全身的アジュバント、をさらに含む、請求項22に記載のワクチン。
【請求項24】
医薬的に許容される賦形剤と、以下の:
(a) 請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド;
(b) 請求項14~15のいずれか一項に記載の遺伝子組み換え核酸分子;及び/又は
(c) 請求項16~17のいずれか一項に記載の組み換え細胞;
(d) 請求項20に記載の成熟樹状細胞;及び/又は
(e) 請求項22~23のいずれか一項に記載のワクチン、
とを含む医薬組成物。
【請求項25】
対象におけるCD47及び/又はSIRPαによって媒介される細胞シグナル伝達を調節する方法であって、該対象に、以下の:
(a) 請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド;
(b) 請求項14~15のいずれか一項に記載の遺伝子組み換え核酸分子;
(c) 請求項16~17のいずれか一項に記載の組み換え細胞;
(d) 請求項20に記載の成熟樹状細胞;
(e) 請求項22~23のいずれか一項に記載のワクチン;及び/又は
(f) 請求項24に記載の医薬組成物、
を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項26】
それを必要としている対象の健康状態を予防又は治療する方法であって、該対象に、以下の:
(a) 請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド;
(b) 請求項14~15のいずれか一項に記載の遺伝子組み換え核酸分子;
(c) 請求項16~17のいずれか一項に記載の組み換え細胞;
(d) 請求項20に記載の成熟樹状細胞;
(e) 請求項22~23のいずれか一項に記載のワクチン;及び/又は
(f) 請求項24に記載の医薬組成物、
を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項27】
前記投与される組成物が、SIRPαの空間的近位にRPTP活性を動員し、SIRPαの脱リン酸化を増強し、SIRPα媒介性シグナル伝達を低減し、樹状細胞の成熟を促進し、及び/又はマクロファージ食作用を促進する、請求項25~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記投与される組成物が、マクロファージ媒介性食作用の増強をもたらす、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記対象が、CD47及び/又はSIRPαに関連する健康状態を患っているか又は患っていることが疑われる、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記健康状態が、癌又は慢性感染症である、請求項25~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
それを必要としている対象の癌を予防又は治療する方法であって、以下の:
未成熟DCを癌関連抗原又は感染症関連抗原と共に培養して、抗原提示未成熟DCを生じさせ;
請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチドの存在下で抗原提示未成熟DCの成熟化を促進して、成熟抗原提示DCを生じさせ;そして
該対象に、生じた成熟抗原提示DCを投与すること、
を含む方法。
【請求項32】
寄生生物、ウイルス、微小真菌、又は細菌に感染しているか、又は感染が疑われる対象を予防又は治療する方法であって、以下の:
寄生生物、ウイルス、微小真菌、又は細菌由来の抗原と共に未成熟DCを培養して、抗原提示樹状細胞を生じさせ;
請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチドの存在下で樹状細胞の成熟化を促進させて、成熟抗原提示DCを生じさせ;そして、
該対象に、生じた成熟抗原提示DCを投与すること、
を含む方法。
【請求項33】
前記対象が、哺乳類対象である、請求項25~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳類対象が、ヒトである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物が、個別に又は第二の治療法と組み合わせた第一の治療法として対象に投与される、請求項26~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記第二の治療法が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素治療法、又は外科手術から成る群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
対象の細胞シグナル伝達を調節するか、或いはそれを必要としている対象の健康状態を予防又は治療するキットであって、その取扱説明書、並びに以下の:
(a) 請求項1~13のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド;
(b) 請求項14~15のいずれか一項に記載の遺伝子組み換え核酸分子;
(c) 請求項16~17のいずれか一項に記載の組み換え細胞;
(d) 請求項20に記載の成熟樹状細胞;
(e) 請求項22~23のいずれか一項に記載のワクチン;及び
(f) 請求項24に記載の医薬組成物、
のうちの1若しくは複数を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府によって支援された研究開発に関する声明
本願発明は、米国国立衛生研究所によって与えられた契約CA177684の下で政府支援を受けてなされた。政府は本発明に関して一定の権利を有する。
関連出願への相互参照
【0002】
本願は、2020年7月24日付で出願された米国仮特許出願第63/056,156号に対する優先権を主張するものであり、その開示を、あらゆる図面も含めた全体として参照により本明細書に援用する。
配列表の組み込み
【0003】
本出願は、配列表を含有するものであり、それを全体として参照により本明細書に援用する。「Sequence Listing_078430-523001WO_ST25.txt」という名称の、添付の配列表テキストファイルは、2021年7月19日に作成され、40KBである。
分野
【0004】
本開示は概して、免疫治療薬の分野に関し、特にシグナル調節タンパク質α(SIRPα)分子に特異的に結合し、かつ、ホスファターゼ活性化の動員を通してSIRPα媒介性シグナル伝達と拮抗するように設計された多価タンパク質結合分子に関する。本開示はまた、斯かる多価ポリペプチドを製造するのに有用な組成物と方法、樹状細胞の成熟化を促進する方法及びワクチンの製造のための方法も提供する。SIRPα及び/又はCD47によって媒介されるシグナル伝達の阻害に関連する健康状態の予防及び治療に有用な組成物と方法もまた提供する。
【背景技術】
【0005】
背景
シグナル調節タンパク質α(SIRPα)は主として、単球、マクロファージ、樹状細胞(DC)、及び好中球を含めた骨髄細胞上で主に発現された免疫のチェックポイント受容体である。SIRPαは、そのリガンド、CD47との相互作用により自然免疫を抑制する。CD47は、正常組織で幅広く発現され、マクロファージ認識とプログラムされた細胞除去を免れるためにほとんどすべてのヒト腫瘍によって上方制御される。このSIRPα/CD47相互作用が宿主細胞食作用などの自然免疫細胞のエフェクター機能を負に制御すると報告された。特に、SIRPαを通してCD47によって送達される阻害シグナルでは、マクロファージ及び好中球媒介性抗体依存性細胞食作用(ADCP)と細胞毒性(ADCC)を含めたFcγR-依存性抗体エフェクター機能を減少させ、抗体依存性自然免疫の誘導を制限し、かつ、抗腫瘍性抗体療法に対する抵抗性を促進する。
【0006】
近年、CD47-SIRPα経路を標的化することで、自然及び適応免疫応答の両方を促進することによって抗癌免疫を高める新しい治療的アプローチが示された。遍在的に発現されるCD47と異なって、SIRPα発現は骨髄細胞に主に制限される。そのため、CD47標的療法と比較して、SIRPαを標的化することは、特異的安全性及び有効性プロファイルをもたらし、そして、低用量と改善された薬物動態及び薬力学を潜在的に可能にする。
【0007】
現在、SIRPαの特定活性の拮抗作用に関して、最も普及しているストラテジーは、例えば、SIRPαの細胞外ドメイン(ECD)に向けられた拮抗薬抗体の使用を通してSIRPαのECD間へのリガンド結合を遮断することによるものである。このシナリオでは、遮断分子(例えば拮抗薬抗体)は、SIRPαのECDへの結合のための天然リガンドと競争することにより機能を果たす。しかしながら、有効なSIRPα拮抗薬抗体の開発は、困難であることが報告されており、さまざまの患者集団における治療的介入のための反応性抗SIRPα抗体の汎対立遺伝子を必要とする、SIRPαのCD47結合ドメイン内の多型性によって制限された。加えて、それらの遮断抗体は、多数の患者で効果が無く、リン酸化機構を通したシグナル伝達するSIRPαの基本的な細胞内シグナル伝達活性(静止細胞内シグナル伝達活性とも称される)を除去することはできないと報告されている。このような基本的シグナル伝達活性を排除できないことで、しばしばECDリガンド遮断戦略の有効性が制限される。よって、静止シグナル伝達とリガンド活性化シグナル伝達の両方を減少させる又は除去するであろう、ECDリガンド遮断機構とは異なる代替的機構により、SIRPαの細胞内シグナル伝達を直接低減する又は除去する新規方法が必要とされている。
【0008】
従って、癌及び他の免疫疾患の免疫療法のための既存の標準治療を補完する、抗体又は他の剤による直接的なSIRPα-リガンド遮断以外の代替的アプローチに対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
概要
本開示は、例えば種々の健康状態、例えば、着目の細胞表面受容体により媒介される細胞シグナル伝達の阻害と関連する疾患を治療するのに用いられる、多価ポリペプチド、多価抗体などの免疫治療薬、及びそれを含む医薬組成物に関する。特に、下記により詳細に記載するように、本開示のいくつかの実施形態は、例えば、多価タンパク質結合剤を使った直接連結を通してSIRPαの空間的近位に膜ホスファターゼを特異的に動員することにより、SIRPα/CD47経路を媒介した細胞シグナル伝達を調節するための組成物と方法を提供する。より具体的には、本開示は、SIRPに特異的に結合し、それによりホスファターゼ活性の動員を通してSIRPαシグナル伝達を完全に若しくは部分的に拮抗作用する、新規多価タンパク質結合分子を提供する。このアプローチは、「ホスファターゼ動員による受容体阻害」(RIPR)と呼ばれ、例えば、WO2019/222547A1に以前に記載されていた。いくつかの特定の実施形態において、開示の多価タンパク質結合分子は多価抗体である。いくつかの実施形態において、該多価ポリペプチドは多価抗体である。本開示はまた、斯かる多価ポリペプチドを製造するのに有用な組成物と方法、並びに樹状細胞の成熟化を促進する方法とワクチンの製造のための方法も提供する。SIRPα/CD47経路によって媒介されるシグナル伝達の阻害に関連する健康状態の予防及び/又は治療のための組成物と方法もまた提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様において、(a) シグナル調節タンパク質α(SIRPα)に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む第一のアミノ酸配列;及び(b) R1/R6サブファミリーの1若しくは複数の受容体タンパク質-チロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第二のポリペプチドモジュールを含む第二のアミノ酸配列、を含む多価ポリペプチドが、本明細書で提供される。
【0011】
本開示の多価ポリペプチドの非限定的な例の実施形態は、次の特徴のうちの1若しくは複数を含み得る。いくつかの実施形態において、1若しくは複数のRPTPは、CD45又はその機能的変異体を含む。いくつかの実施形態において、第一と第二のポリペプチドモジュールのうちの少なくとも1つが、タンパク質結合リガンド又は抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、抗原結合部分は、一本鎖可変断片(scFv)、抗原結合性断片(Fab)、ナノボディ、VHドメイン、VLドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、及びVHHドメイン、ダイアボディ、又はそのいずれかの機能的断片から成る群より選択され得る。いくつかの実施形態において、タンパク質結合リガンドとしては、細胞表面受容体の細胞外ドメイン(ECD)、RPTPのECD、又はそれらのいずれかの機能的変異体が挙げられる。いくつかの実施形態において、タンパク質結合リガンドとしては、CD47のECD又はその機能的変異体が挙げられる。いくつかの実施形態において、第一のポリペプチドモジュールは、ポリペプチドリンカー配列を介して第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、ポリペプチドリンカー配列は、グリシン-セリン(GS)リンカー又は3Cリンカーを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド、以下の:(a) (i) CD47 ECD、(ii) ポリペプチドリンカー、及び(iii) CD45 scFv;(b) (i) SIRPα scFv、(ii) ポリペプチドリンカー、及び(iii) CD45 scFv;又は(c) (i) CD45 VHH、(ii) ポリペプチドリンカー、及び(iii) SIRPα scFv、を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) (i) CD47 ECD、(ii) GSリンカー、及び(iii) CD45 scFv;又は(b) (i) CD47 ECD、(ii) C3リンカー、及び(iii) CD45 scFv、を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) (i) SIRPα scFv、(ii) GSリンカー、及び(iii) CD45 scFv;又は(b) (i) SIRPα scFv、(ii) C3リンカー、及び(iii) CD45 scFv、を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) (i) CD45 VHH、(ii) GSリンカー、及び(iii) SIRPα scFv;又は(b) (i) CD45 VHH、(ii) C3リンカー、及び(iii) SIRPα scFv、を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列番号1~6から成る群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列をさらに含む。
【0014】
一態様において、本開示の多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子組み換え核酸分子が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号1~6から成る群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0015】
別の態様において、本明細書で開示されるいくつかの実施形態は、本明細書で開示される核酸分子及び/又は本明細書で開示される多価ポリペプチド、を含む組み換え細胞に関する。いくつかの実施形態において、組み換え細胞は、食細胞である。いくつかの実施形態において、食細胞は、骨髄由来マクロファージ(BMDM)である。いくつかの実施形態において、食細胞は、樹状細胞である。いくつかの実施形態において、樹状細胞は、骨髄由来樹状細胞(BMDC)である。
【0016】
別の態様において、インビトロにおける未成熟樹状細胞(DC)の成熟化を促進する方法であって、以下の:(a) 未成熟DCを抗原に晒し;そして、(b) 本開示の多価ポリペプチドの存在下で未成熟DCを培養して、未成熟DCの成熟DCへの成熟化を誘発すること、を含む方法が本明細書で提供される。関連する態様において、本開示の方法によって調製される成熟DCもまた本明細書で提供される。
【0017】
別の態様において、ワクチンを製造する方法であって、以下の:(a) インビトロにおいて未成熟DCを抗原に晒して、十分な数の抗原提示未成熟DCを生じさせ;そして、(b) 本開示の多価ポリペプチドの存在下で抗原提示未成熟DCの成熟化を促進して、成熟抗原提示DCを製造すること、を含む方法が提供される。従って、本明細書で開示される方法によって製造されるワクチンもまた本開示の範囲内にある。いくつかの実施形態において、本開示のワクチンは、以下の:希釈剤、賦形剤、補助アジュバント、細菌性アジュバント、及び/又は全身的アジュバント、のうちの1若しくは複数をさらに含む。
【0018】
別の態様において、本開示のいくつかの実施形態は、医薬的な許容される賦形剤と、以下の:(a) 本開示の多価ポリペプチド;(b) 本開示の遺伝子組み換え核酸分子;(c) 本開示の組み換え細胞;(d) 本開示の成熟DC;及び(e) 本開示のワクチン、のうちの1若しくは複数を含む、医薬組成物に関する。
【0019】
別の態様において、対象におけるCD47及び/又はSIRPαによって媒介される細胞シグナル伝達を調節する方法の実施形態であって、該対象に、以下の:(a) 本開示の多価ポリペプチド;(b) 本開示の遺伝子組み換え核酸分子;(c) 本開示の組み換え細胞;(d) 本開示の医薬組成物;(e) 本開示の成熟DC;及び(f) 本開示のワクチン、のうちの1若しくは複数を含む組成物を投与することを含む方法の実施形態が、本明細書で開示される。
【0020】
更に別の態様において、それを必要としている対象の健康状態を予防又は治療する方法であって、該対象に、以下の:(a) 本開示の多価ポリペプチド;(b) 本開示の遺伝子組み換え核酸分子;(c) 本開示の組み換え細胞;(d) 本開示の医薬組成物;(e) 本開示の成熟DC;及び(f) 本開示のワクチン、のうちの1若しくは複数を含む組成物を投与することを含む方法が、本明細書で提供される。
【0021】
本開示の方法の実施形態の非限定的な例示的な実施形態は、以下の特徴のうちの1若しくは複数を含み得る。いくつかの実施形態において、投与される組成物は、SIRPαの空間的近位にRPTP活性を動員し、SIRPαの脱リン酸化を増強し、SIRPα媒介性シグナル伝達を低減し、マクロファージ食作用を促進し、及び/又は樹状細胞の成熟を促進する。いくつかの実施形態において、投与される組成物は、マクロファージ媒介性食作用の増強をもたらす。いくつかの実施形態において、対象は、哺乳類である。いくつかの実施形態において、対象は、CD47及び/又はSIRPαに関連する健康状態を患っているか又は患っていることが疑われる。いくつかの実施形態において、健康状態とは、癌又は慢性感染症である。
【0022】
別の態様において、それを必要としている対象の癌を予防又は治療する方法であって、以下の:(i) 未成熟DCを癌関連抗原又は感染症関連抗原と共に培養して、インビトロにおいて抗原提示未成熟DCを生じさせ;(ii) 本明細書で記載した多価ポリペプチドの存在下で抗原提示未成熟DCの成熟化を促進させて、成熟抗原提示DCを生じさせ;そして、(iii) 該対象に、生じた成熟抗原提示DCを投与すること、を含む方法が、本明細書で提供される。
【0023】
別の態様において、寄生生物、ウイルス、微小真菌、又は細菌に感染しているか、又は感染が疑われる対象を予防又は治療する方法であって、以下の:(i) 寄生生物、ウイルス、微小真菌、又は細菌由来の抗原と共に未成熟DCを培養して、抗原提示樹状細胞を生じさせ;(ii) 本明細書で記載した多価ポリペプチドの存在下で樹状細胞の成熟化を促進させて、成熟抗原提示DCを生じさせ;そして、(iii) 該対象に、生じた成熟抗原提示DCを投与すること、を含む方法が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、対象は、哺乳類対象である。いくつかの実施形態において、哺乳類対象は、ヒトである。
【0024】
いくつかの実施形態において、組成物は、対象に、個別に(例えば、単独療法)又は第二の治療法と組み合わせた第一の治療法(例えば、併用療法)として投与される。いくつかの実施形態において、第二の治療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素治療法、又は外科手術から成る群から選択される。
【0025】
別の態様において、本開示のいくつかの実施形態は、対象の細胞シグナル伝達を調節する及び/又はそれを必要としている対象の健康状態を治療するキットであって、ここで、その取扱説明書、並びに以下の:(a) 本開示の多価ポリペプチド;(b) 本開示の遺伝子組み換え核酸分子;(c) 本開示の組み換え細胞;(d) 本開示の医薬組成物;(e) 本開示の成熟DC;及び(f) 本開示のワクチン、のうちの1若しくは複数を含むキットに関する。
【0026】
上記要約は例示的のみであり、いかなる形でも限定されることを意図しない。本明細書中に記載の例示的実施形態と特徴に加えて、本開示の更なる態様、実施形態、目的及び特徴は、図面並びに詳細な説明と特許請求の範囲から十分に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A~1Bは、本開示のいくつかの実施形態によるcisホスファターゼ動員によって細胞SIRPα媒介性シグナル伝達の調節の非限定的な例の図示的な例示を示す。標的細胞のマクロファージ食作用は、SIRPαのON状態(「don’t eat me」)対OFF状態(「eat me」)によって媒介される。
【0028】
【
図1-1】
図1Aは、SIRPα受容体によるリガンド非依存性(トニック)及びリガンド誘発シグナル伝達の概略描写である。CD47とのSIRPα相互作用の抗体遮断は、リガンド誘発シグナル伝達を軽減するが、リガンド非依存性シグナル伝達を軽減しないと予想される。これにより、抗SIRPα又は抗CD47 Absは、標的のマクロファージ食作用を増強するが、SIRPαの細胞内ドメイン(ICD)の残留活性により、最大限までは増強しない。
【0029】
【
図1-2】
図1Bは、SIRPαシグナル伝達のRIPR介在性阻害の基本メカニズムの概要描写である。SIRPα-RIPRによるCD45とSIRPαの結合は、マクロファージ上のSIRPαへのCD45ホスファターゼの動員をもたらす。
【0030】
図2A~2Cは、「Velcro」SIRPα-RIPRデザイン及びストラテジーの非限定的な例を図式的に例示する。
【0031】
【
図2-1】
図2Aは、「Velcro」CD47 ECD(Velcro)によって構成されるSIRPα-RIPR分子の略図を示す。
【0032】
【
図2-2】
図2Bは、グリシン-セリン(GS)リンカー(GGGGTGGS;配列番号9)を伴った「Velcro」SIRPα-RIPRのアミノ酸配列を示し、及び3Cリンカー(LEVLFQGP;配列番号11)を伴った「Velcro」SIRPα-RIPRが示される。
【0033】
【
図2-3】
図2Cは、SIRPαに対する「Velcro」デザインと野生型(WT)CD47 ECDの結合親和力をまとめる(PCT公開公報第WO2016179399A1号から採用)。
【0034】
【
図3】
図3A~3Bは、SIRPα-RIPRデザインがSIRPαチロシンリン酸化を確実に低減することを実証するために実施した実験の結果を図式的にまとめる。これらの実験では、HEK293細胞が、標的受容体のヒトHA-SIRPα、Lck、及びヒトCD45で一過性に形質移入される。形質移入の24時間後に、細胞を、未処理のままにするか(レーン4)、或いはSIRPα-RIPR(GS)(レーン1、2、及び3)又はSIRPα-RIPR(3C)(レーン5、6、及び7)と共に37℃にて20分間インキュベートして、SIRPαの細胞内ドメインへのCD45細胞内ドメインのcis動員を誘発した。CD45ホスファターゼ欠乏群は、対照目的のために含まれた(CD45不活化(dead);C853S)。溶解後に、キメラ受容体を、磁性ビーズに直接結合させた抗HA抗体を用いて免疫沈降させた。サンプルを、ウエスタンブロット法によってホスホチロシン(pTyr)とSIRPαに関して調査した。データは、3つの独立した生物学的反復を代表するものである。
【0035】
【
図4】
図4A~4Cは、食作用と抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCP)に対するSIRPα-RIPR機能を試験するために設計された非限定的な食作用アッセイを図示的に例示する。
図4Aは、マクロファージにおけるCD47-SIRPα「don’t eat me」というシグナル軸の概要描写である。基底状態では、マクロファージ上のSIRPαによる腫瘍細胞へのCD47の動員は、SHP1及び2の動員、そして食作用の活性化及び阻害をもたらす。
図4Bは、SIRPα-RIPRの効果を試験するための食作用アッセイの概要描写である。膜貫通ホスファターゼ活性化CD45の動員によりSIRPαシグナル伝達をサイレンシングするSIRPα-RIPRは、その結果、食作用を脱阻害する。
図4Cは、SIRPα-RIPRの効果を試験するための抗体依存性細胞食作用(ADCP)アッセイの概要描写である。一方、SIRPα-RIPRデザインは、CD45を動員することによってSIRPαシグナル伝達をサイレンスされ得る。
【0036】
【
図5】
図5A~5Cは、ヒトSIRPα-RIPRリガンドがRituximab媒介性ADCPを促進することを実証するために実施した実験の結果を図式的にまとめる。
図5Aは、本開示の様々なSIRPα-RIPRポリペプチドを試験するために実施した食作用アッセイの結果をまとめる。これらの実験では、5×10
4個のヒトマクロファージを「Velcro」ヒトSIRPα-RIPR(GS)又は「Velcro」ヒトSIRPα-RIPR(3C)を用いて37℃にて30分間前処理し、そのマクロファージを1×10
5個のRaji細胞(CFSE標識)と共に37℃にて2時間共培養した。抗CD47が、陽性対照のために含まれた。
図5Bは、本開示の多くのSIRPα-RIPRポリペプチドを試験するのに使用したADCPアッセイの結果をまとめる。5×10
4個のヒトマクロファージを「Velcro」、ヒトSIRPα-RIPR(GS)又はSIRPα-RIPR(3C)を用いて37℃にて30分間前処理し、1×10
5個のRaji細胞を5μg/mLの抗CD20抗体(リツキシマブ)を用いて又はそれなしに37℃にて30分間前処理し、そのマクロファージをRaji細胞と共に37℃にて2時間共培養した。細胞を採取し、CD11bで4℃にて20分間染色した。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1つの代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである。
図5Cは、PBMCマクロファージ食作用の結果をまとめる。ヒトマクロファージを、ヒトSIRPα-RIPRを用いて又はそれなしに37℃にて30分間前処理した。Raji細胞をさまざまなRituximab濃度(0~5μg/mL)を用いて37℃にて30分間前処理した。そのマクロファージをRaji細胞と共に37℃にて2時間共培養した。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1つの代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである。
【0037】
図6A~6Bは、本開示のいくつかの実施形態による二重特異性抗体SIRPα-RIPRデザインの非限定的な例を図式的に例示する。
【0038】
【
図6-1】
図6Aは、ヒトSIRPα及びさまざまなマウス系統由来のマウスSIRPαとSIRPα抗体AB21の結合親和力をまとめる(PCT公開公報第WO2018057669A1号から採用)。
【0039】
【
図6-2】
図6Bは、AB21、GSリンカーを伴ったSIRPα-RIPR(GGGGTGGS;配列番号9)、3Cリンカーを伴ったSIRPα-RIPR(LEVLFQGP;配列番号11)のアミノ酸配列、並びにAB21 scFv及びAB21ベースのヒトSIRPα- RIPR分子の略図を示す。
【0040】
【
図7】
図7A~7Cは、上記
図6A~6Bに記載のAB21ベースのSIRPα-RIPR二重特異性抗体がヒトSIRPαの脱リン酸化を増強し得ることを実証するために実施した実験の結果を図式的にまとめる。
図7Aは、SIRPα-RIPR機構の概要描写である。
図7Bは、CD45とSIRPαに関して結合親和力を有する二重特異性ダイアボディの概要描写である。
図7Cでは、HEK293細胞に、ヒトHA-SIRPα、Lck、及びヒトCD45で一過性に形質移入し、形質移入の24時間後に、細胞を、未処理のままにするか(レーン1)、或いはAb21(レーン2及び3)SIRPα-RIPR(GS)(レーン4、5)と共に37℃にて20分間インキュベートして、SIRPαの細胞内ドメインへのCD45ホスファターゼのcis動員を誘発した。CD45不活化群は、対照目的のために含まれた。溶解後に、キメラ受容体を、磁性ビーズに直接結合させた抗HA抗体を用いて免疫沈降させた。サンプルを、ウエスタンブロット法によってpTyrとSIRPαに関して調査した。データは、3つの独立した生物学的反復を代表するものである。
【0041】
【
図8】
図8A~8Cは、AB21 SIRPα-RIPRがSIRPαトニックシグナル伝達を低減し、そして、ヒトマクロファージのADCPを促進することを実証するために実施した実験の結果を図式的にまとめる。
図8Aは、休止型THP1マクロファージから免疫沈降反応後にSIRPαリン酸化を検出するために実施した実験の結果をまとめる。THP1マクロファージを、SIRPαIPに先立って、500nM AB21、又はSIRPα-RIPRと共に37℃にて30分間インキュベートした。
図8Bは、ヒトPBMCから単離し、そして、示した濃度にてRituximabで前処理したRaji細胞と共にインキュベートしたマクロファージを使用したインビトロ抗体依存性細胞食作用(ADCP)アッセイを例示するグラフである。マクロファージ細胞を標的細胞と共に37℃にて2時間インキュベートした。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1人の代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである。
図8Cは、ヒトPBMCから単離し、そして、1μg/mLのRituximabで前処理したRaji細胞と共にインキュベートしたマクロファージを使用したインビトロ抗体依存性細胞食作用(ADCP)アッセイを例示するグラフである。マクロファージ細胞を標的細胞と共に37℃にて2時間インキュベートした。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1人の代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである。
【0042】
図9A~9Bは、本開示のいくつかの実施形態による二重特異性抗体SIRPα-RIPRデザインの別の非限定的な例を図式的に例示する。
【0043】
【
図9-1】
図9Aは、AB21、GSリンカーを伴ったSIRPα-RIPR(GGGGTGGS;配列番号9)、3Cリンカーを伴ったSIRPα-RIPR(LEVLFQGP;配列番号11)のアミノ酸配列、並びにAB21 scFv及びAB21ベースのマウスSIRPα- RIPR分子の略図を示す。
【0044】
【
図9-2】
図9Bは、サイズ排除クロマトグラフィーによるタンパク質分析を例示する。AB21とSIRPα-RIPRがHi5細胞で発現される。
【0045】
【
図10】
図10A~10Cは、先の
図9A~9Bに記載の二重特異性抗体SIRPα-RIPRがSIRPαトニックシグナル伝達を低減し、そして、マウスマクロファージのADCPを増強することを実証するために実施した実験の結果を図式的にまとめる。
図10Aは、SIRPαの細胞内ドメインへのCD45細胞内ドメインのcis動員により例示する。HEK293細胞に、マウスHA-SIRPα、Lck、及びマウスCD45で一過性に形質移入し、形質移入の24時間後に、細胞を、未処理のままにするか(レーン1)、或いはAb21(レーン2及び3)SIRPα-RIPR(GS)(レーン4、5)と共に37℃にて30分間インキュベートして、SIRPαの細胞内ドメインへのCD45細胞内ドメインのcis動員を誘発した。CD45不活化群は、対照目的のために含まれた。溶解後に、キメラ受容体を、磁性ビーズに直接結合させた抗HA抗体を用いて免疫沈降させた。サンプルを、ウエスタンブロット法によってpTyrとSIRPαに関して調査した。データは、3つの独立した生物学的反復を代表するものである。
図10Bは、休止型J774マクロファージからの免疫沈降反応後のSIRPαリン酸化検出を例示する。J774マクロファージを、SIRPαIPに先立って、AB21、又はマウスSIRPα-RIPRと共に37℃にて30分間インキュベートした。
図10Cは、食作用を例示するグラフである。マウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)細胞を、2μg/mLの抗TRP-1 mAb(TA99)を用いて又はそれなしに37℃にて2時間前処理したB16F10(CFSE標識)と共にインキュベートした。マウスCD47ナノボディA4は、対照目的のために含まれた。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1つの代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである。
【0046】
【
図11】
図11A~11Bは、先の
図9A~9Bに記載の例示的な二重特異性抗体SIRPαRIPRがマウス骨髄樹状細胞(BMDC)の成熟化を促進することを実証するために実施した実験の結果を図式的にまとめる。
図11Aは、AB21とマウスSIRPα-RIPRの略図を示す。
図11Bは、CD11c
+集団におけるCD86の分析を例示するグラフである。BMDC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて37℃にて24時間刺激した。CD86を、CD11c
+集団においてフローサイトメトリーによって分析した。リポポリサッカライド(LPS、1μg/mL)で処置した対照群もまた、対照目的のために含まれた。
【0047】
図12A~12Dは、マウスSIRPα-RIPRがマウス骨髄樹状細胞(BMDC)の成熟化を促進することを実証するために実施した実験の結果を図式的にまとめる。
【0048】
【0049】
【
図12-2】
図12B~12Dは、CD11c+集団における共刺激分子(CD83、CD86)、MHC分子(MHC-I、MHC-II)、ケモカイン受容体CCR-7及びPD-L1の表面発現の分析を示す。BMDC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて37℃にて24時間刺激した。共刺激分子(CD83、CD86)、MHC分子(MHC-I、MHC-II)、ケモカイン受容体CCR-7及びPD-L1の表面発現を、フローサイトメトリーによってCD11c+集団において分析した。
【0050】
【
図12-3】
図12B~12Dは、CD11c+集団における共刺激分子(CD83、CD86)、MHC分子(MHC-I、MHC-II)、ケモカイン受容体CCR-7及びPD-L1の表面発現の分析を示す。BMDC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて37℃にて24時間刺激した。共刺激分子(CD83、CD86)、MHC分子(MHC-I、MHC-II)、ケモカイン受容体CCR-7及びPD-L1の表面発現を、フローサイトメトリーによってCD11c+集団において分析した。
【0051】
【
図13-1】
図13Aは、従来の樹状細胞(cDC2)及びC57BL/6脾臓中の赤脾髄マクロファージ(RPM)においてSIRPα-RIPRを試験する例示的なワークフローを図式的に例示する。これらの実験では、cDC1及びRPMが、cDC2を試験するための対照としての役割を果たす。cDC2及びRPMが、cDC1に比べて多くのより高いレベルのSIRPαを発現することが観察された。
【0052】
【
図13-2】
図13Bは、cDC1及びcDC2におけるCCR-7の表面発現を例示する。C57BL/6マウスを、200μgのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて6時間処理した。脾細胞を単離した。CCR-7の表面発現を、cDC1、cDC2又はRPMにおいてフローサイトメトリーによって分析した。
【0053】
【
図13-3】
図13Cは、cDC1、cDC2、及びRPMにおけるCD80、CD86、MHC-I、MHC-II、PD-L1、及びPD-L2の表面発現を例示する。C57BL/6マウスを、200μgのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて6時間処理した。脾細胞を単離した。CD80、CD86、MHC-I、MHC-II、PD-L1、及びPD-L2の表面発現を、cDC1、cDC2又はRPMにおいてフローサイトメトリーによって分析した。
【0054】
【
図14】
図14は、そのSIRPα-RIPRがBMDCにおける炎症誘発性サイトカインの産生を増強することを例示する。100,000個のBMDC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて37℃にて24時間刺激した。上清中のIL-12及びIFNγをELISAによって定量化した。
【0055】
図15A~15Cは、SIRPα-RIPRがDCの交差提示を増強することを図式的にまとめる。
【0056】
【
図15-1】
図15Aは、オボアルブミンペプチド257~264(SIINFEKL;配列番号32)の交差提示の概要描写である。
【0057】
【
図15-2】
図15Bは、OT-I細胞増殖に対するOVA257~264ペプチドの用量応答効果を図示的に例示する。OT-I細胞を、OT-Iマウスのリンパ節から単離し、CD8 MACSキットによって精製した。BMDC細胞を、10pMのOVA257~264ペプチドを用いて37℃にて3時間パルス処理した。50,000個のAPC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRの存在下で、Cell Trace Violet OT(CTV)+I細胞と共に1:1で5日間共培養した。OT-I細胞増殖に対するOVA257~264ペプチドの用量応答効果はFACSによって定量化した。
【0058】
【
図15-3】
図15Cは、CD3
+CD8
+集団に対するフローサイトメトリー及びゲートコントロールによって分析されるOT-I細胞におけるCTVの希釈を図示的に例示する。
【0059】
図16A~16Cは、SIRPα-RIPRがOT-II細胞増殖を誘発するBMDCの能力を増強することを図式的にまとめる。
【0060】
【
図16-1】
図16Aは、オボアルブミンペプチド323~339(ISQAVHAAHAEINEAGR;配列番号33)の抗原提示の概要描写である。
【0061】
【
図16-2】
図16Bは、OT-II細胞増殖に対するOVA323~339ペプチドの用量応答効果を図示的に例示する。OT-II細胞を、OT-IIマウスのリンパ節から単離した。BMDC細胞を、1nM又は100nMのオボアルブミン(323~339)ペプチドを用いて37℃にて4時間パルス処理した。50,000個のAPC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRの存在下で、CTV+OT-II細胞と共に1:1で5日間共培養した。OT-II細胞を、FACSによってカウントした。
【0062】
【
図16-3】
図16Cは、CD3
+CD4
+集団に対するフローサイトメトリー及びゲートコントロールによって分析されるOT-II細胞におけるCTVの希釈を図示的に例示する。
【0063】
図17A~17Cは、SIRPα-RIPRが同種T細胞の増殖を誘発するBMDCの能力を増強することを図式的にまとめる。
【0064】
【
図17-1】
図17Aは、混合リンパ球反応(MLR)の概要描写である。
【0065】
【
図17-2】
図17Bは、MLRの結果を図示的に例示する。BALB/cマウス由来のBMDCを、500nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRの存在下でさまざまな比の50,000個のC57BL/6由来同種脾臓T細胞と共にインキュベートした。CD8
+T細胞を、FACSによってカウントした。
【0066】
【
図17-3】
図17Cは、CD3
+CD8
+集団に対するフローサイトメトリー及びゲートコントロールによって分析されるCD8
+T細胞におけるCTVの希釈を例示するグラフである。
【0067】
【
図18】
図18は、SIRPα-RIPRがKP1肺癌における抗腫瘍応答を増強することを例示する。F1マウスに、1×10
6個のKP1細胞を移植し、次に、9日目から開始して、一日おきに200μgのAB21 scFv(n=5)、SIRPα-RIPR(5)又は抗CD47(n=5)で処置した。腫瘍の大きさを、8日目から計測開始した。
【0068】
【
図19】
図19A~19Bは、SIRPα-RIPRがKP1腫瘍において腫瘍関連マクロファージの浸潤を増強することを図式的にまとめる。
図19Aは、フィコールによって単離し、そして、汎マクロファージマーカーF4/80とCD11bについて染色した腫瘍浸潤リンパ球を図示的に例示する(n=10)。
図19Bは、FACSによるCD206
+腫瘍関連マクロファージの定量化を図示的に例示する(n=10)。
【0069】
【
図20】
図20A~20Bは、SIRPα-RIPRがKP1腫瘍においてDC成熟化を促進することを図式的にまとめる。
図20Aは、DCマーカーCD11cについて染色した腫瘍浸潤リンパ球を例示するグラフである(n=10)。
図20Bは、FACSによるCD86
+DCの定量化を図示的に例示する(n=10)。
【発明を実施するための形態】
【0070】
本開示の詳細な説明
本開示は概して、とりわけ、阻害受容体SIRPα(CD172a、SHPS-1、又はBITとしても知られている)の空間的近位に膜ホスファターゼ活性を特異的に動員することにより、細胞表面受容体シグナル伝達を調節する組成物及び方法に関する。SIRPα受容体シグナル伝達を阻害するこの方法は、ECDリガンド遮断に対する代替アプローチを表す。より具体的には、本開示は、SIRPα受容体に特異的に結合し、かつ、ホスファターゼ活性、例えば、膜貫通ホスファターゼ、の動員を通して受容体のシグナル伝達に完全に又は部分的に拮抗作用する、新規多価タンパク質結合分子を提供する。「ホスファターゼ動員による受容体阻害」(RIPR)と呼ばれるこのアプローチは、以前に、例えば、WO2019/222547A1に記載された。特に、本明細書で提示される実験データは、抗SIRα抗体又はSIRPαを標的化するRIPR構築物(「RIPR-SIRPα」)のいずれかによるSIRPαシグナル伝達の妨害がシグナル阻害、そして、マクロファージ食作用の促進をもたらすことを実証している。
【0071】
以下でより詳細に記載されるとおり、SIRPαを標的化することができる多くのRIPR分子が設計され、構築され、それに続いてインビトロにおいてマクロファージ活性を促進するそれらの能力について評価された。CD47とのSIRPα相互作用の遮断は、抗体依存性食作用(ADCP)及び抗体依存性細胞毒性(ADCC)を増強することが示された。
【0072】
いくつかの実施形態において、SIRPαに結合できる例示的なRIPR分子を組み立てるために、Velcro(Ho C.C. et al., J. Biol. Chem. 290, 12650-12663, 2015)と称される、以前に遺伝子操作された高親和性CD47エクトドメインを、抗CD45 scFvに融合された(例えば、
図2A~2B及び実施例2を参照のこと)。ヒトマクロファージ、Raji B細胞、及びRituximab(抗CD20抗体)を用いて実投与されるインビトロ共培養アッセイでは、本開示のいくつかのRIPR-SIRPα分子が、Velcroのみを含有する対照サンプルによって達成されるものに比べてより高いレベルまでADCPを促進することが観察された。加えて、3Cを用いた処置がRIPR効果を排除することがわかった。
【0073】
以下で記載したいくつかの実験では、RIPR-SIRPα分子の第二の例示的なデザインを、作り出し、そして、ADCPを促進することが示された抗SIRPα遮断scFvで構成されていた(クローンAB21;
図6A~6B)。この例示的なRIPR-SIRPα分子は、SIRPα、Lck、及びCD45を用いて一過性に形質移入されたHEK293細胞における再構成アッセイにおいてSIRPαリン酸化を低減できた(
図7Cを参照のこと)。
図7Cに示されているように、「休止型」マクロファージにおいて、RIPR-SIRPα(AB21ではない)もまたSIRPαリン酸化を低減した。さらに、(免疫系B細胞の表面で主に見られる)CD20に対するキメラモノクローナル抗体であるRituximabを伴った、マクロファージとRaji B細胞との共インキュベーション後に、RIPR-SIRPαが、AB21に比べてより強力に食作用を促進することが観察された。RIPR-SIRPαは、幅広いRituximab及びAB21濃度に関してより高度な食作用を誘発した(例えば、
図8A~8Cを参照のこと)。総合すれば、これらの結果は、同じ細胞に存在する(すなわち、cis位)SIRPα分子へのホスファターゼCD45の動員が着目のもう一つの標的の受容体シグナル伝達を低減するのに使用できることを示す。
【0074】
いくつかの実施形態において、ホスファターゼの動員は物理的結合(ライゲーション)によって達成される。本開示のいくつかの実施形態において、多価タンパク質結合分子は、受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第一のポリペプチド断片と、リン酸化機構を通してシグナル伝達するSIRPα受容体に結合することができる第二のポリペプチド断片とを含む、多価ポリペプチド(例えば二価又は三価)である。本開示は、斯かる多価タンパク質結合分子を生産するのに有用な組成物と方法、並びに、SIRPαにより媒介されるシグナル伝達の阻害と関連がある健康状態の治療方法にも関する。
【0075】
下記により詳細に記載するとおり、本開示は、特に、各々が少なくとも2つの細胞のターゲット:RPTP及びSIRPα分子、に対して結合親和性を示す、遺伝子操作された多価ポリペプチドを提供する。任意の特定の理論に縛られるものではないが、本明細書で開示される多価ポリペプチドは、SIRPα分子の空間的近位に、RPTPによりコードされるホスファターゼ活性を動員し、続いてそのリン酸化を減少させることができると考えられる。また、その多価分子は、SIRPα受容体の細胞内ドメインとホスファターゼとが十分に密接した近位になるように、その結果ホスファターゼがSIRPαの細胞内ドメイン(又は会合したリン酸化された分子)を脱リン酸化し、それによってSIRPα分子の活性を減少させるように、SIRPαの細胞外ドメインと膜貫通ホスファターゼの細胞外ドメインに結合することによりSIRPα分子の活性調節を促進すると考えられる。RPTPがCD45である場合、SIRPα分子の細胞外ドメインに結合するモジュールを、受容体プロテインチロシンホスファターゼCD45の細胞外ドメインに結合するモジュールに連結させることが、SIRPαの脱リン酸化をもたらし、SIRPαトニックシグナル伝達を低減し、そして、マクロファージのADCPを促進する。いずれかの特定の理論に縛られるものではないが、SIRPαの活性を減少させることがマクロファージのADCPを高めると期待され、癌や慢性感染症といった広範囲の疾患の治療法として有用であると考えられる。この新規アプローチは、リガンド遮断によって細胞受容体機能を調節する現在の伝統的な方策を回避し、そして、(単数若しくは複数の)受容体細胞内ドメインの脱リン酸化によって細胞の受容体機能を調節する。
【0076】
下記により詳細に記載するとおり、細胞表面受容体を活性調節するための現在の臨床的オプションでは、受容体-リガンド相互作用が細胞の表面で起こるのを遮断するECD遮断抗体に限定されることは認識されている。例えば、SIRPαの場合、高親和性抗体との細胞外SIRPα/CD47相互作用を遮断することは、現在まで、SIRPαシグナル伝達を減少させるための唯一利用可能な手段であった。しかしながら、抗体による遮断は、SIRPαリン酸化に直接作用せず、そして重要なことには、PD-1の基底、トニック、リン酸化を逆転させないで、かつ、CD47との過去の相互作用からのSIRPαを維持した(例えば、
図1Aを参照のこと)。下記により詳細に記載するとおり、CD47とのSIRPα相互作用の抗体遮断は、リガンド非依存性シグナル伝達ではなく、リガンド誘発を低減すると予想される。これにより、抗SIRPα又は抗CD47抗体は、標的の増強マクロファージ食作用を増強するが、SIRPα細胞内ドメイン(ICD)の残留活性のため、最大限ではない。特定の理論に縛られるものではないが、現存の遮断抗体は、完全なT細胞活性を回復させるためにSIRPα基底シグナル伝達を完全に排除することはできないと思われる。本開示のいくつかの実施形態において記載されるように、新たに遺伝子操作された多価抗体は、ホスファターゼを直接動員してSIRPαを脱リン酸化することにより、この課題に対処する。例えば、本開示は、CD45動員が、CD47の存在下又は非存在下に関係なく、SIRPαにより誘導される酷使された表現型を排除することができることを示す。従って、目的の受容体へのホスファターゼ(特にCD45)の動員は、着目の細胞表面受容体の活性を調節する新規方法を表す。
【0077】
本明細書で開示される方法は、(CD47の受容体である)細胞表面受容体SIRPαを標的化するための、以前に開示したRIPR技術を実装した。CD47/SIRPα軸の拮抗薬は、癌及び他の疾患に関する臨床試験中である。現在、SIRPα及びCD47の両方に対する抗体が臨床的に評価されている。SIRPαを標的化する1つの可能性のある利点は、それがマクロファージだけで発現され、それに対して、CD47がほとんどの組織で発現されるという点である。
【0078】
SIRPα拮抗が「don’t eat me」シグナルを効率的に遮断すると同時に、先に説明した理由により、それらのリガンドに結合しなかったときでさえ、SIRPα及び他のITAM/ITIM/ITSMはある程度のレベルの残留受容体シグナルを有する。この現象は、トニックシグナル伝達と呼ばれる。リガンド又は受容体遮断抗体は、このトニックシグナル伝達を妨害しない。
【0079】
以下で記載するように、SIRPαとCD45の両方に結合することができる二重特異性分子を使用してSIRPαに対するCD45活性をつなぎ留めるために、RIPRアプローチを利用した。これらの新たに設計したSIRPα-RIPR分子が、SIRPαトニックシグナル伝達を阻害することがわかった。特に、マクロファージ食作用アッセイでは、SIRPα-RIPRが、約10~20%の向上を示す、SIRPα遮断抗体を上回る標的細胞の増強されたマクロファージ食作用を示したことが観察された。よって、本明細書で提示したデータは、これらのSIRPα-RIPR分子が臨床適用に使用できる「don’t eat me」シグナルの増強された阻害剤であることを実証した。
定義
【0080】
異なって定義されない限り、本明細書中で使用する全ての技術用語、表記法及び他の技術用語又は用語法は、本開示が属する当業者により一般に解釈される意味を有することを目的としている。いくつかの場合、一般に解釈される意味をもつ用語は、明確性及び/又は即時参照のために本明細書中で定義され、本明細書中への斯かる定義の包含は、必ずしも当業界で一般に理解されるものを超える実質的な相違を表すと見なされるべきではない。本明細書中に記載され参照される技術や手順の多くは、当業者による常用の方法論を用いて十分に理解され一般的に使用される。
【0081】
単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかに異なって示さない限り、複数形も包含する。例えば、「細胞(a cell)」は、その混合物を含む1つ又は複数の細胞を含む。「A及び/又はB」は、本明細書中では次の選択肢:「A」、「B」、「A又はB」、及び「A及びB」の全てを含むように用いられる。
【0082】
本明細書では、特定の範囲は、「約」という用語を前に付した数字で示される。本明細書で用いる「約」という用語は、それを先に付した正確な数字、並びにそれを先に付した数字に近い又はそのおおよその数字に対して文字どおりの裏付けを提供する。数字が具体的に引用した数字に近いか又はそのおおよその数字であるか判断する際に、記載していない近い又はそのおおよその数字は、それが示された文脈において、具体的に言及された数字の実質的等価物をもたらす数字であり得る。本明細書中で用いる時の用語「約」は、およその通常の意味を有し得る。概算の程度が文脈から明らかでない場合、「約」は、例えば、与えられた数値の±10%内であるか、又は全ての場合与えられた数値を包含して、最も近い有効数字にまるめられるかのいずれかを意味し得る。範囲が与えられる場合、それらは境界の値を含む。
【0083】
本明細書中で用いる場合、用語「投与」及び「投与する」とは、限定されないが、経口、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、筋肉内及び局所投与又はそれらの組み合わせを含む投与経路による、生物活性組成物又は製剤の送達を指す。この用語は、医療専門家により及び自己投与により投与することを包含するが、それに限定されない。
【0084】
「癌」という用語は、癌を引き起こす細胞に典型的ないくつかの特徴、例えば制御不能な増殖、不死化、転移能力、迅速な増殖及び繁殖率、並びにいくつかの特徴的な形態学的特徴を指す。癌細胞は、腫瘍などの塊に凝集し得るか、又は対象の中に単独で存在し得る。腫瘍は、固形腫瘍、軟組織腫瘍、又は転移性病巣である。本明細書で使用される場合、「癌」という用語はまた、他のタイプの非腫瘍癌も網羅する。非限定的な例としては、白血病などの血液の癌又は血液学的癌が挙げられる。癌には、前癌状態、並びに悪性癌も含まれ得る。
【0085】
「細胞」、「細胞培養」、及び「細胞株」という用語は、特定の対象細胞、細胞培養、又は細胞株に言及するだけではなく、培養中の移動又は継代の数に関係なく、斯かる細胞、細胞培養、又は細胞株の子孫又は潜在的子孫にも言及する。すべての子孫が親細胞と完全に同一であるわけではないことは、理解されなければならない。なぜなら、実際には、子孫が、親細胞と同一でなくてもよいが、その子孫が原細胞、細胞培養、又は細胞株のそれと同じ機能を保有する限り、本明細書で使用される用語の範囲内に含まれるので、特定の修飾が、突然変異(例えば、意図的な又は想定外の突然変異)又は環境的影響(例えば、メチル化又は他の後成的修飾)のいずれかに起因して後世で起こり得る。
【0086】
本明細書で使用される場合、「多価ポリペプチド」という用語は、互いに作動可能に連結された2以上のタンパク質結合モジュールを含むポリペプチドを指す。例えば、本開示の「二価」ポリペプチドは、2つのタンパク質結合モジュールを含み、それに対して、本開示の「三価」ポリペプチドは、3つタンパク質結合モジュールを含む。ポリペプチドモジュールのアミノ酸配列は、多価ポリペプチド中に一緒に組み込まれた別個のタンパク質中に存在してよく、又はそれらは通常同じタンパク質中に存在するか、又はそれらは多価ポリペプチド中に新規配置で置かれてよい、多価ポリペプチドは、例えば、ペプチド領域が所望の関係でコードされるポリヌクレオチドを化学合成により、又はそれを創製しそして翻訳することにより、構築することができる。
【0087】
本明細書で使用される場合、そして、別段の定めがない限り、剤の「治療的有効量」又は「治療的有効数」は、疾患、例えば、癌、の治療又は管理において治療効果を提供するのに、或いは該疾患に関連する1若しくは複数の症状を遅らせるか又は最小化するのに十分な量又は数である。治療的有効量又は数の化合物は、単独での又は他の治療剤と組み合わせた治療薬の量又は数を意味し、そしてそれは、疾患の治療又は管理において治療効果を提供する。「治療的有効量」という用語は、疾患の総合的な治療法を改善するか、疾患の症状又は原因を低減するか又は回避するか、或いは別の治療薬の治療効率を増強する量又は数を網羅し得る。「有効量」の一例は、健康状態の1つ以上の症状の治療、予防又は軽減に寄与するのに十分な量であり、それは「治療上有効量」とも称することができる。症状の「軽減」とは、その症状の重症度若しくは頻度を減少させること、又はその症状の排除を意味する。「治療上有効量」を含む組成物の正確な量は、治療の目的に依存し、そして既知の技術を使って当業者により確定することができるであろう(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3, 2010); Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (2016); Pickar, Dosage Calculations (2012);及びRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 22nd Edition, 2012, Gennaro, Ed., Lippincott, Williams & Wilkinsを参照のこと)。
【0088】
本明細書中で用いる場合、「対象」又は「個体」とは、ヒト(例えば、ヒト対象)及び非ヒト動物などの動物を包含する。いくつかの実施形態において、「対象」又は「個体」は、医師のケアを受けている患者である。よって、対象は、着目の健康状態(例えば、癌)及び/又は健康状態の1つ以上の症状を有するか、有するリスクがある、又は有する疑いのあるヒト患者又は対象であることができる。対象は、診断の時点で又はそれ以降に、着目の状態のリスクを有すると診断される対象であることもできる。「非ヒト動物」という用語には、全ての脊椎動物、例えば哺乳類、例えばげっ歯類、例えばマウス、非ヒト霊長類、及び他の哺乳類、例えばヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリなど、並びに非哺乳類、例えば両生類、爬虫類などが含まれる。
【0089】
値の範囲を示す場合、別段明確に指示しない限り、範囲の下限の単位の10分の1までの、その範囲の上限と下限の間の、及びあらゆる他の記載した値若しくはその記載した範囲の間の値が本開示の範囲内に含まれると理解される。これらのより小さな範囲の上限と下限は、独立してより小さい範囲内のあらゆる具体的に排除した制限を受ける。記載した範囲が上限及び下限の一方又は両方を含む場合、それらを含む限界のいずれか又は両方を排除する範囲も本開示に含まれる。
【0090】
(明瞭さのために、別々の実施形態の中で記載された)本開示の特定の特徴はまた、一つの実施形態に組み合わせて提供されてもよいことは理解される。逆に、(明瞭さのために、1つの実施形態に記載された)本開示の様々な特徴はまた、別々に又はあらゆる好適な部分的組み合わせで提供されてもよい。本開示に関係する実施形態のすべての組み合わせが、本開示によって具体的に包含され、かつ、どの組み合わせも個別、かつ、明確に開示されたのと同様に、本明細書で開示される。加えて、様々な実施形態とその構成要素のすべての部分組み合わせもまた、本開示によって具体的に包含され、かつ、斯かる部分組み合わせのどれもが個別、かつ、明確に本明細書で開示されたのと同様に、本明細書で開示される。
CD45とRPTPのR1/R6サブタイプ
【0091】
可逆性のタンパク質チロシンリン酸化は、代謝、増殖、接着、分化、遊走、通信及び結合をはじめとする基本的な細胞事象に影響を及ぼす細胞シグナル伝達を調節する主要な機序である。例えば、タンパク質のチロシンリン酸化は、タンパク質間相互作用、コンホメーション、安定性、酵素活性、細胞内局在化などのタンパク質機能を決める。この重要な調節機序の崩壊は、癌、糖尿病、自己免疫健康状態など、様々なヒトの病気の一因である。正味タンパク質チロシンリン酸化は、プロテインチロシンキナーゼ(PTK)活性とプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)活性の動的バランスによって決定される。PTKとPTPの間の微妙なバランスの調節の異常が、癌、糖尿病、自己免疫健康状態などの多くのヒトの病気の病因に関与している。
【0092】
PTPは、それらの全体的構造に基づいて、膜貫通型受容体様PTP(RPTP)及び非膜貫通型PTPに更に細分することができる。これらのうち、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)は、細胞内PTP活性を有し、細胞接着分子(CAM)に対する配列相同性を有する細胞外ドメイン(ECD)を有する組み込みSIRPαタンパク質の1ファミリーである。ほとんどのRPTPの細胞内ドメイン(ICD)は、D1及びD2と呼ばれる2つのタンデム(直列)のPTPドメインを含む。一般に、膜近位PTPドメイン(D1)は触媒活性の大部分を所有するが、膜遠位PTPドメイン(D2)は、あるとしても微弱な触媒活性を有する。RPTPのECDは、CAM様モチーフと、フィブロネクチンIII型(FN3)、メプリン、A5、PTPμ(MAM)、免疫グロブリン(Ig)、及び炭酸脱水酵素(CA)に相同である配列との組み合わせを含んでいる。まとめると、RPTPの分子構造は、細胞外接着により媒介される事象を、細胞内シグナル伝達経路の調節へ直接連結できるようにする。
【0093】
それらのECD構造に基づいて、RPTPファミリーは、8つのサブファミリーに分類することができる:R1/R6、R2A、R2B、R3、R4、R5、R7及びR8。これらのサブファミリーの代表的なメンバーには、それぞれCD45、LAR、RPTP-κ、DEP1、RPTP-α、RPTP-ζ、PTPRR、及びIA2が含まれる。それらのサブファミリーの各々を規定する構造的特徴、それらの分子/生化学的構造、調節様式、基質特異性及び生物学的機能に関する更なる情報は、十分に文書化されており、例えばXu Y.ら(J. Cell Commun. Signal. 6:125, 138, 2012)中に見つけることができる。いずれかの特定の理論に縛られるものではないが、細胞外領域(RPTP)を有するリンパ球に存在する任意のホスファターゼが、予想されるさまざまな程度の効率で、RIPR技術に使用され得る。
【0094】
白血球共通抗原(LCA)とも呼ばれる受容体型プロテインチロシンホスファターゼCD45は、RPTPのR1/R6サブファミリーのメンバーである。CD45はI型膜貫通タンパク質であり、赤血球と形質細胞を除くすべての分化した造血細胞上に様々な形態で提示され、それらの細胞の活性化を助ける(共刺激の一形態)。CD45は、リンパ腫、B細胞慢性リンパ性白血病、有毛細胞白血病、及び急性非リンパ球性白血病において発現される。遺伝子PTPRCによってコードされるヒトCD45は、血小板と赤血球を除き、造血細胞を含むリンパ系起源の全ての細胞によって発現される細胞膜チロシンホスファターゼであり、T細胞とB細胞のシグナル伝達の重要な調節因子として機能する。CD45は、細胞外領域、短い膜貫通セグメント、及び細胞質領域のタンデム(直列)のPTPドメインから構成される。CD45では、該分子の細胞外ドメイン中のエクソンの複雑な選択的スプライシングによって多数のアイソフォームが生成される。これらのアイソフォームは、細胞の分化と活性化状態に応じて細胞型に特有の方法で発現される。CD45アイソフォームの非限定的な例としては、CD45RA、CD45RB、CD45RC、CD45RAB、CD45RAC、CD45RBC、CD45R0、CD45R(ABC)が挙げられる。CD45RAはナイーブT細胞上にあり、CD45R0は記憶T細胞上に存在する。CD45Rは最長のタンパク質であり、T細胞から分離されると200 kDaの分子量の位置で移動する。B細胞もまた、分子量を220 kDaにするより高度の(重い)グリコシル化を有するCD45Rを発現するため、220 kDaのB細胞アイソフォームであるB220と命名された。B220の発現はB細胞に限定されず、活性型T細胞、樹状細胞のサブセット、及び他の抗原提示細胞上でも発現されうる。ナイーブTリンパ球は大型CD45アイソフォームを発現し、通常はCD45RA陽性である。活性型の記憶Tリンパ球は、RA、RB及びRCエクソンを欠いている最短形のCD45アイソフォームであるCD45R0を発現する。この最短形アイソフォームはT細胞活性化を促進すると考えられる。原則として、先に考察されたCD45アイソフォームのすべてが、本明細書で開示される方法及び組成物に好適であり得る。いずれかの特定の理論に縛られるものではないが、細胞内CD45ホスファターゼが異なったアイソフォームによって影響を受けず、そのため細胞内の観点から、すべてのCD45アイソフォームが実質的に同じである、と考えられる。
【0095】
CD45は、免疫系の発達及び機能において重要な役割を果たし、抗原特異的リンパ球の刺激及び増殖に必要とされる。CD45は、TCR活性化閾値を制御し、サイトカイン応答を調節し、リンパ球の生存を調節することにより、免疫応答を調節する。これらのプロセスはすべて、自己免疫疾患や感染症の病因に不可欠である。
【0096】
CD45は、SIRPαなどの細胞表面受容体に動員されるのに適したRPTP標的である。その理由は、それが基質と互いに空間的近位に置かれると、例えば2つのRPTP結合モジュールとSIRPα結合モジュールとがSIRPα分子の細胞内ドメインの脱リン酸化を達成するのに十分なほど近位に置かれると、広範囲の基質に作用するからである。CD45は、LynやLckなどのPTKのSrcファミリー(SFK)のチロシンリン酸化を調節することにより、T細胞及びB細胞の受容体機能を媒介する。CD45はLynとLck中の阻害性C末端リン酸化部位を脱リン酸する。CD45により媒介される他のチロシンの脱リン酸化によるSFK活性の減弱も報告されている。CD45ノックアウトマウスにおける研究は、CD45媒介のFynとLckの活性化が、胸腺細胞の発達に重要であることを示している。TCRライゲーション時に、活性化されたFyn及びLckは、TCR-ζ(ゼータ)やCD3-ε(イプシロン)などのTCR複合体の成分をリン酸化する。これらのチロシンリン酸化タンパク質は、Src-相同体2(SH2)ドメインを含むタンパク質が下流シグナルを伝達するためのドッキング部位を提供する。CD45ヌル胸腺細胞では、TCRのライゲーションが、LynやLckの活性化、又はその後のTCR複合体のチロシンリン酸化を引き起こさない。従って、下流シグナル伝達事象は全く起こらず;このことは TCR活性化におけるCD45の重要な役割を示唆する。CD45は、CD3-ζ(ゼータ)及びCD3-ε(イプシロン)ITAM、Janusキナーゼ(JAK)を脱リン酸化し、そしてサイトカイン受容体活性化を負に調節するPTPとしても同定されている。
シグナル調節タンパク質α(SIRPα)とCD47
【0097】
SIRPα(CD172a、SHPS-1、又はBITとしても知られている)は、主にマクロファージによって発現されるSIRPファミリーに属する調節膜糖タンパク質である。SIRPαは阻害受容体として機能し、幅広く発現された膜貫通タンパク質CD47と相互作用して、(「don’t eat me」シグナルとも呼ばれる)死細胞と生細胞を区別する抗食作用シグナルを発する。この相互作用は、宿主細胞食作用などの自然免疫細胞のエフェクター機能を負に制御する。SIRPαとCD47との相互作用は、エンドサイトーシス、SIRPα受容体の切断、又は界面活性タンパク質A及びDとの相互作用によって修飾され得る。CD47と同じSIRPαの領域に結合し、そのため結合を競合的に遮断できる、界面活性タンパク質A及びDは、可溶性リガンドであり、肺で高度に発現される。SIRPαは、マクロファージ膜上に横方向に拡散し、食作用性シナプスに蓄積してCD47と結合し、かつ、「self」シグナルを発し、そしてそれが、マクロファージによる食作用の細胞骨格増強プロセスを阻害する。
【0098】
SIRPαの細胞質領域は、ラット、マウス及びヒトの間で高度に保存されている。細胞質領域は、多くのチロシン残基を含み、そしてそれは、恐らくITIMとして機能する。CD47結合により、SIRPαはリン酸化され、そして、SHP1やSHP2のようなホスファターゼを動員する。細胞外領域は、3つの免疫グロブリンスーパーファミリードメイン-1つのV-セットと2つのC1-セットIgSFドメイン、を含む。SIRPβとSIRPγは、類似の細胞外構造を有するが、異なった細胞質領域を有し、そして、対照的なタイプのシグナルをもたらす。SIRPα多型性は、リガンド結合性IgSF V-セットドメインに見られるが、それはリガンド結合性に影響しない。
【0099】
SIRPα媒介性シグナル伝達では、SIRPαの細胞外ドメインは、CD47に結合し、その細胞質領域(例えば、細胞内ドメイン)を通して細胞内シグナルを伝達する。CD47結合は、SIRPαのNH2-末端のV様ドメインを通して媒介される。その細胞質領域は、リガンドの結合後にリン酸化されるようになる4つのITIMを含む。リン酸化は、チロシンキナーゼSHP2の活性化を媒介する。SIRPαはまた、ホスファターゼSHP1、アダプタータンパク質SCAP2及びFYN結合タンパク質とも結合することが示された。膜へのSHPホスファターゼの動員は、細胞表面におけるミオシン蓄積の阻害につながり、食作用の阻害をもたらす。SIRPαとCD47の両方を通して双方向のシグナル伝達に至ることができるので、SIRPα/CD47相互作用は独特である。CD47によるSIRPαの関与は、宿主細胞の食作用を阻害する、シグナルの下方制御を提供し、そのため、CD47は、免疫系のマクロファージへの「don’t eat me」シグナルとして機能し、そしてそのことが、CD47をいくつかの癌における、最近では、肺線維症の治療のための潜在的治療標的にしている。CD47は、アポトーシス、増殖、接着、及び遊走を含めた、さまざまな細胞プロセスに関与する。さらに、それは免疫た血管由来応答において重要な役割を果たす。CD47はヒト細胞において遍在的に発現され、多くのさまざまな腫瘍細胞で過剰発現されるのがわかった。ウマ皮膚腫瘍における発現もまた報告された。
【0100】
加えて、SIRPαはまた、樹状細胞の生存と活性化におけるシグナル調節の阻害機能を担っている。ヒト肝癌患者からの腫瘍では、浸潤性DCは高レベルのSIRPαを発現し、そしてそれは、腫瘍の中で免疫寛容の誘導に関連する。SIRPαのサイレンシングは、流入領域リンパ節における抗原-パルスDCの寿命の有意な延長をもたらした。さらに、SIRPαはDCの活性化と排出量を制御する。DC-発現SIRPαのサイレンシングは、IL-12と副刺激分子を突発的に誘発し、かつ、産生を増大し、そして、以前に確立した固形腫瘍の根絶を含めたより強力な細胞傷害Tリンパ球応答をもたらした。SIRPαは、PI3Kのp85サブユニットの結合と隔離を介して、少なくとも一部において、斯かる効果を発揮した。よって、SIRPαは、DCの寿命と活性の重要な調節物質であると広く考えられ、そして、その阻害が、DCベースの腫瘍ワクチンの臨床的有効性を改善するのに使用できる。このことに関するより詳しい情報は、例えば、Liu et al., Oncoimmunology, 2016に見られる。
本開示の組成物
【0101】
以下により詳細に記載されるとおり、本開示の1つの態様は、SIRPα受容体と特異的に結合し、そして、RPTP活性、例えば、膜貫通ホスファターゼCD45、の動員を通した受容体のシグナル伝達に拮抗する、多価タンパク質結合分子に関する。(i) 斯かる多価タンパク質結合分子をコードする遺伝子組み換え核酸、(ii) 本明細書で開示する多価タンパク質結合分子を発現するように遺伝子操作した組み換え細胞、もまた提供される。
多価ポリペプチドと多価抗体
【0102】
一態様において、本明細書中に開示されるいくつかの実施形態は、多価ポリペプチドモジュール、例えば各々が1若しくは複数の標的タンパク質に結合することができるモジュラータンパク質結合部分を含む、新規キメラポリペプチドに関する。いくつかの実施形態において、本開示のキメラポリペプチドは、(i) SIRPα分子に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む第一のアミノ酸配列、及び(ii) R1/R6サブファミリーの1若しくは複数のRPTPに結合することができる第二のポリペプチドモジュールを含む第二のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、第一のポリペプチドモジュールは第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、本開示のキメラポリペプチドは、多価ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、多価ポリペプチドは、多価抗体である。第一のポリペプチドモジュール及び第二のポリペプチドモジュールとそのそれぞれの標的との結合は、標的の天然リガンドと競合的又は非競合的様式のいずれかでありうる。従って、本開示のいくつかの実施形態において、第一のポリペプチドモジュール及び/又は第二のポリペプチドモジュールとそのそれぞれの標的との結合は、リガンド遮断(遮断)であり得る。いくつかの他の実施形態において、第一のポリペプチドモジュール及び/又は第二のポリペプチドモジュールとそのそれぞれの標的との結合は、天然リガンドの結合を遮断しない。
【0103】
多価ポリペプチドのアミノ酸配列の設計、例えば、「第一の」アミノ酸配列としてSIRPα分子に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む多価ポリペプチド、及び「第二の」アミノ酸配列としてRPTPに結合することができるポリペプチドモジュールを含む多価ポリペプチドのアミノ酸配列の設計は、多価ポリペプチド内での「第一」と「第二」のアミノ酸配列のいずれか特定の構造的配置を意味するものではない。非限定的な例として、本開示のいくつかの実施形態において、多価ポリペプチド又は多価抗体は、SIRPα分子に結合することができるN末端ポリペプチドモジュールと、RPTPに結合することができるポリペプチドを含むC末端ポリペプチドモジュールとを含むことができる。別の実施形態において、多価ポリペプチド又は多価抗体は、RPTPに結合することができるN末端ポリペプチドモジュールと、SIRPα分子に結合することができるC末端ポリペプチドモジュールとを含むことができる。それに加えて又は代わりに、多価ポリペプチド又は多価抗体は、SIRPαに結合することができる2つ以上のポリペプチドモジュール、及び/又はRPTPに結合することができる2つ以上のポリペプチドモジュールを含むことができる。従って、いくつかの実施形態において、多価ポリペプチド又は多価抗体の第一のアミノ酸配列が、各々SIRPαに結合することができる少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のポリペプチドモジュールを含む。いくつかの実施形態において、第一のアミノ酸配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のポリペプチドモジュールが各々同じRPTPに結合することができる。いくつかの実施形態において、第一のアミノ酸配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のポリペプチドモジュールが各々異なるRPTPに結合することができる。
【0104】
それに加えて又はその代わりに、上記に示唆したとおり、本開示の多価ポリペプチドと抗体は、それぞれの標的タンパク質に対する多価ポリペプチド又は多価抗体の結合親和性に影響を及ぼす、天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方を含むことができる。斯かるものとして、その各々の標的(例えばRPTP又はSIRPα)に対するポリペプチドモジュールの結合親和性は、所望の標的細胞特異性を達成するように調整することができる。例えば、CD45は広く発現されるので、SIRPα結合モジュールは高親和性結合モジュールを形成するように構成でき、一方でCD45結合モジュールはより低い結合親和性を持つように構成することができる。例えば、いくつかの実施形態において、SIRPα結合モジュールは、RPTPに対するRPTP結合モジュールの結合親和性と比較した場合、SIRPαに対してより高い親和性(より低いKd)を有する。いくつかの実施形態において、親和性の差は、大きさで少なくとも一桁、又は少なくとも二桁である(例えばRPTPに対するRPTP結合モジュールの相互作用のKdと、SIRPαに対するSIRPα結合モジュールの相互作用のKdとの比が、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、又は少なくとも100である)。当業者は、RPTP又はその標的受容体(例えば、SIRPα)に対して高親和性を有し、かつ他のものに対しては低親和性を有するという多価ポリペプチド又は多価抗体のこの概念が、標的細胞特異性に合わせてRIPR活性を微調整する重要な部分でありうることを認識するだろう。従って、いくつかの実施形態において、RPTP結合ポリペプチドモジュールの結合親和性は、SIRPα結合ポリペプチドモジュールの結合親和性とは異なり得る。例えば、いくつかの実施形態において、RPTP結合ポリペプチドモジュールはその標的(例えば、RPTP)に対して高い親和性を有し、SIRPα結合ポリペプチドモジュールはその標的に対して低い親和性を有する。いくつかの実施形態において、RPTP結合ポリペプチドモジュールは、その標的に対して低い親和性を有し、そしてSIRPα結合ポリペプチドモジュールはその標的(例えば、SIRPα)に対して高い親和性を有する。いくつかの実施形態において、RPTP結合モジュールとSIRPα結合モジュールは、そのそれぞれの標的タンパク質に対して同じ親和性を有する。
【0105】
いくつかの実施形態において、各々の標的の細胞外ドメインに対して親和性を有するSIRPα結合モジュールとRPTP結合モジュールの結合親和性は、独立に、Kd=10-5~10-12 M、例えば、約10-5~約10-11 MのKd、或いは約10-5 ~約10-10 MのKd、或いは約10-6 ~約10-12 MのKd、或いは約10-7 ~約10-12 MのKd、或いは約10-8 ~約10-12 MのKd、或いは約10-9 ~約10-12 MのKd、或いは約10-10~約10-12 MのKd、或いは約10-11~約10-12 MのKd、或いは約10-5~約10-11 MのKd、或いは約10-5 ~約10-10 MのKd、或いは約10-5~約10-9 MのKd、或いは約10-5 ~約10-10 MのKd、或いは約10-5 ~約10-9 MのKd、或いは約10-5 ~約10-8 MのKd、或いは約10-5~約10-9 MのKd、約10-5 ~約10-8 MのKd、或いは約10-5 ~約10-7 MのKd、或いは約10-5 ~約10-6 MのKdである。
【0106】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、約1000 nM、約800 nM、約700 nM、約600 nM、約500 nM、約400 nM、約200 nM、約100 nM、約10 nM、約5 nM、又は約1 nMのKdでRPTP(例えばCD45)に対する結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、RPTPに対して低い結合親和性を有し、例えば約10-5M超のKd、例えば約10-4 M超のKd、例えば約10-3 M超のKd、例えば約10-4 M超のKd、例えば約10-3 M超のKd、例えば約10-2 M超のKd、又は例えば約10-1 M超のKdを有する。いくつかの実施形態において、RPTP(例えばCD45)に対する結合親和性(Kd)は、約700 nMであり得る。いくつかの実施形態において、CD45に対する多価ポリペプチド又は多価抗体の結合親和性は、約300 nMであり得る。
【0107】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、1,000 nM、約800 nM、約700 nM、約600 nM、約500 nM、約400 nM、約200 nM、約150 nM、約100 nM、約80 nM、約60 nM、約40 nM、約20 nM、約10 nM、約5 nM、又は約1 nMのKdで、SIRPα分子に対する結合親和性を有することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、例えば約10-8 M未満、約10-9 M未満、約10-10 M未満、約10-11 M未満、又は約10-12 M未満のKdで、SIRPα分子に対する高い結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、SIRPα分子に対する本明細書で開示される多価ポリペプチド又は多価抗体の結合親和力は、約7nMのKdを有する。いくつかの実施形態において、SIRPα分子に対する本明細書で開示される多価ポリペプチド又は多価抗体の結合親和力は、約6nMのKdを有する。いくつかの実施形態において、SIRPα分子に対する結合親和力は約5nMであり得る。
【0108】
いくつかの実施形態において、多価ポリペプチド又は多価抗体の第一のアミノ酸配列が第二のアミノ酸配列に直接連結されている。いくつかの実施形態において、第一のアミノ酸配列は、少なくとも1つの共有結合によって第二のアミノ酸配列に直接連結されている。いくつかの実施形態において、第一のアミノ酸配列は、少なくとも1つのペプチド結合によって第二のアミノ酸配列に直接連結されている。いくつかの実施形態において、第一のアミノ酸配列のC末端アミノ酸は、第二のポリペプチドモジュールのN末端アミノ酸に作動可能に連結され得る。或いは、第一のポリペプチドモジュールのN末端アミノ酸が第二のポリペプチドモジュールのC末端アミノ酸に作動可能に連結され得る。
【0109】
いくつかの実施形態において、多価ポリペプチド又は多価抗体の第一のアミノ酸配列がリンカーを介して第二のアミノ酸配列に作動可能に連結される。本明細書中に記載の多価ポリペプチドに使用することができるリンカーに関しては何も特別な制限はない。いくつかの実施形態において、リンカーは、例えば、化学架橋剤などの合成化合物リンカーである。市販されている適当な架橋剤の非限定的な例としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ-EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸エステル(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸エステル(スルホ-DST)、ビス〔2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)及びビス〔2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル〕スルホン(スルホ-BSOCOES)。本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体に適した代替的な構造や結合の他の例としては、Spiess et al., Mol. Immunol. 67:95-106, 2015中に記載のものが挙げられる。
【0110】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体の第一のアミノ酸配列は、リンカーポリペプチド配列(ペプチド結合)を介して第二のアミノ酸配列に作動可能に連結される。理論上、リンカーポリペプチド配列の長さ及び/又はアミノ酸組成に何ら特別な制限はない。いくつかの実施形態において、約1から約100アミノ酸残基(2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15 、16、17、18、19、20などのアミノ酸残基)を含む任意の一本鎖ポリペプチドが、ポリペプチドリンカーとして使用できる。いくつかの実施形態において、リンカーペプチド配列は、約5~50、約10~60、約20~70、約30~80、約40~90、約50~100、約60~80、約70~100、約30~60、約20~80、約30~90アミノ酸残基を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列は、約1~10、約5~15、約10~20、約15~25、約20~40、約30~50、約40~60、約50~70アミノ酸残基を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列は約40~70、約50~80、約60~80、約70~90.又は約80~100アミノ酸残基を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列は約1~10、約5~15、約10~20、約15~25アミノ酸残基を含む。
【0111】
いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列の長さとアミノ酸組成は、第一及び第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性及び/又は近位性を変化させて望ましい活性の多価ポリペプチドを達成するように最適化することができる。いくつかの実施形態において、第一及び第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性及び/又は近位性は、多価ポリペプチドのRPTP活性を増強又は低減するであろうチューニング作用(同調作用)を果たすための「チューニング」手段として様々に変更することができる。いくつかの実施形態において、第一及び第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性及び/又は近位性を最適化して、二重特異性ポリペプチドの部分拮抗薬から完全拮抗薬まで種々の変形を作製することができる。いくつかの実施形態において、リンガーはグリシン及び/又はセリン残基のみを含む(例えばグリシン-セリンリンカー)。斯かるポリペプチドリンカーの例としては、Gly、Ser;Gly Ser;Gly Gly Ser;Ser Gly Gly;Gly Gly Gly Ser (配列番号12);Ser Gly Gly Gly (配列番号13);Gly Gly Gly Gly Ser (配列番号14);Ser Gly Gly Gly Gly (配列番号15);Gly Gly Gly Gly Gly Ser (配列番号16);Ser Gly Gly Gly Gly Gly (配列番号17);Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser (配列番号18);Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly (配列番号19);(Gly Gly Gly Gly Ser)n (配列番号20) (ここで、n は1以上の整数である);及び(Ser Gly Gly Gly Gly)n (配列番号21) (ここで、nは1以上の整数である)が挙げられる。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドは、アミノ酸配列Gly Ser Gly (GSG)(典型的なGly/Serリンカーポリペプチド反復配列の接合の箇所に存在する)が存在しないように改変される。例えば、いくつかの実施形態において、ポリペプチドリンカーは、(GGGXX)nGGGGS (配列番号22)及びGGGGS(XGGGS)n (配列番号23) (ここで、Xは、配列中に挿入することができる任意アミノ酸であるが、配列GSGを含むポリペプチドを生じないアミノ酸であり、nは0~4である)から成る群より選択されたアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドの配列は(GGGX1X2)nGGGGS (配列番号24)であり、X1はPでありそしてX2 はSであり、nは0~4である。 いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドの配列は (GGGX1X2)nGGGGS (配列番号25)であり、X1 はG でありそしてX2 はQ であり、n は0 ~ 4である。いくつかの別の実施形態において、リンカーポリペプチドの配列は(GGGX1X2)nGGGGS (配列番号26)であり、X1はGでありそしてX2はAであり、n は0 ~4である。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドの配列はGGGGS(XGGGS)n (配列番号27)であり、X はPであり、そしてn は0~4である。いくつかの実施形態において、本開示のリンカーポリペプチドは、アミノ酸配列(GGGGA)2GGGGS (配列番号28)を含むか又はそれから成る。いくつかの実施形態において、本開示のリンカーポリペプチドはアミノ酸配列 (GGGGQ)2GGGGS (配列番号29)を含むか又はそれから成る。いくつかの実施形態において、本開示のリンカーポリペプチドはアミノ酸配列 (GGGPS)2GGGGS (配列番号30)を含むか又はそれから成る。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドはアミノ酸配列GGGGS(PGGGS)2 (配列番号31)を含むか又はそれから成る。
【0112】
加えて、又はその代わりに、いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、1若しくは複数のSIRPα結合モジュールに化学的に結合した1若しくは複数のRPTP結合モジュールを含み得る。いくつかの実施形態は、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、(i) 1若しくは複数の受容体結合モジュールに化学的に結合した1若しくは複数のRPTP結合モジュール;及び(ii) ペプチド結合を介して1若しくは複数のSIRPα結合モジュールに結合した1若しくは複数のRPTP結合モジュールを含む。
【0113】
本明細書に開示されるいくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体の第一及び第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンド又は抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、第一及び第二のポリペプチドモジュールのうちの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンドのアミノ酸配列を含む。一般に、任意の適切なタンパク質結合リガンドを本開示の組成物と方法に使用することができ、例えば、標的抗体又は標的タンパク質に対して特異的結合親和性を有する任意の組み換えポリペプチド又は天然ポリペプチド(例えば、RPTP又はSIRPα分子の組み換え又は天然型リガンド)であることができる(Verdoliva et al., J. Immuno. Methods, 2002; Naik et al., J. Chromatography, 2011も参照のこと)。例えば、ホスファターゼCD45のための適当なリガンドの非限定例としては、例えば、レクチンCD22(Hermiston ML et al., Annu. Rev. Immunol. 2003)及びガラクチン-1(Walzel H. et al., J. Immunol. Lett. 1999及びNguyen JT et al. J Immunol. 2001)などの天然リガンドが挙げられる。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体の第一及び第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、SIRPαの又はRPTPの1若しくは複数の細胞外ドメイン(ECD)のアミノ酸配列を含む。従って、いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドの第一のポリペプチドモジュールは、多価ポリペプチドの第二のモジュールに作動可能に連結されたSIRPαの1若しくは複数のECDを含む。従って、いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドの第一のポリペプチドモジュールは、多価ポリペプチドの第二のモジュールに作動可能に連結されたCD47の1若しくは複数のECDを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドの第二のポリペプチドモジュールは、該多価ポリペプチドの第一のモジュールに作動可能に連結されたRPTPの1若しくは複数のECDを含む。
【0114】
上記のように、本開示の組成物と方法に適したタンパク質結合リガンドの非限定的な例としては、SIRPαの天然リガンドが挙げられる。例えば、SIRPαの好適な天然リガンドとしては、CD47、並びに界面活性剤タンパク質ファミリーのメンバーである、界面活性タンパク質Aや界面活性プロテインD又はそのいずれかの断片が挙げられる。
【0115】
それに加えて又はその代わりに、タンパク質結合リガンドは、標的の天然リガンドのアゴニスト又は拮抗薬バージョンであり得る。よって、いくつかの実施形態において、タンパク質結合リガンドは、RPTP又はSIRPαのアゴニストリガンドである。いくつかの別の実施形態において、タンパク質結合リガンドは、RPTP又はSIRPαの拮抗薬リガンドである。いくつかの実施形態において、タンパク質結合リガンドは、例えば、ペプチドや小分子などの合成分子であることができる。
【0116】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体の第一及び第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、標的タンパク質、例えばRPTP又はSIRPαに結合する抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、抗原結合部分は、抗体又はその抗原結合断片の1若しくは複数の抗原結合決定基を含む。遮断抗体と非遮断抗体のどちらも適当である。本明細書で用いる場合、「遮断」抗体又は「拮抗薬」抗体という用語は、それが結合する抗原の生物学的又は機能的活性を防止する、阻害する、遮断する、又は減少させる抗体を指す。遮断抗体又は拮抗薬抗体は、実質的に又は完全に、抗原の生物学的活性を防止、阻害、遮断又は減少させることができる。例えば、遮断抗SIRPα抗体は、SIRPαと界面活性タンパク質Aとの間の結合相互作用を防止、阻害、遮断又は減少させることができ、それによってSIRPα/ CD47相互作用に関連した免疫抑制機能を防止、阻害、遮断又は減少させることができる。「非遮断」抗体という用語は、それが結合する抗原の生物学的又は機能的活性を妨害、阻害、遮断又は減少させない抗体を指す。
【0117】
本明細書で使用される「抗原結合断片」という用語は、例えば、ダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、一本鎖抗体分子(scFv)、scFv二量体(例えば二価ダイアボディ-bi-scFv又は二価ダイアボディ-di-scFv)、又は抗体の1若しくは複数の相補性決定領域(CDR)を含む抗体の一部分から形成された多重特異性抗体などの抗体断片を指す。抗原結合部分は、天然由来のポリペプチド、非ヒト動物の免疫化によって産生される抗体、又は他の供給源、例えば、ラクダから得られた抗原結合部分を含むことができる(例えば、Bannas et al. Front. Immunol., 22 November 2017; McMahon C. et al., Nat Struct Mol Biol. 25(3): 289-296, 2018を参照のこと)。抗原結合部分は、所望の及び/又は改善された性質を提供するように操作し、合成し、設計し、ヒト化し(例えば、Vincke et al., J. Biol. Chem. 30;284(5):3273-84, 2009を参照のこと)、又は改変することができる。
【0118】
従って、いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体の第一及び第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、抗原結合断片(Fab)、一本鎖可変断片(scFv)、ナノボディ、VHドメイン、VLドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、及びVHHドメイン、ダイアボディ、又は前述のいずれか1つの機能性断片から成る群より選択された抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、抗原結合部分は一本鎖可変断片(scFv)を含む。いくつかの実施形態において、抗原結合部分はダイアボディを含む。いくつかの実施形態において、抗原結合部分は、2つのscFv分子が互いに作動可能に連結されているbi-scFv又はdi-scFvを含む。いくつかの実施形態において、bi-scFv又はdi-scFvは、タンデムscFvを形成する2つのVH領域と2つのVL領域を有する単一ペプチド鎖を含む。いくつかの実施形態において、抗原結合部分はナノボディを含む。いくつかの実施形態において、抗原結合部分は重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含む。
【0119】
いくつかの実施形態において、抗原結合部分の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間に配置された1若しくは複数の介在アミノ酸残基を介して互いに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、1若しくは複数の介在アミノ酸残基は、リンカーポリペプチド配列を含む。原則的には、リンカーポリペプチド配列の長さ及び/又はアミノ酸組成に何ら特定の制限はない。いくつかの実施形態において、約1~100アミノ酸残基(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個などのアミノ酸残基)を含む任意の一本鎖ポリペプチドをポリペプチドリンカーとして使用することができる。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列は、例えば約5~50、約10~60、約20~70、約30~80、約40~90、約50~100、約60~80、約70~100、約30~60、約20~80、約30~90アミノ酸残基を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列は、約1~10、約5~15、約10~20、約15~25、約20~40、約30~50、約40~60、約50~70アミノ酸残基を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列は約40~70、約50~80、約60~80、約70~90、又は約80~100アミノ酸残基を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列は約1~10、約5~15、約10~20、約15~25アミノ酸残基を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列の長さとアミノ酸組成は、第一及び第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性及び/又は近位性を変化させて多価ポリペプチドの所望の活性を達成するように最適化することができる。いくつかの実施形態において、第一及び第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性及び/又は近位性は、多価ポリペプチドのRPTP活性を増強又は低減するであろうチューニング作用(同調作用)を果たすための「チューニング」手段として様々に変更することができる。いくつかの実施形態において、第一及び第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性及び/又は近位性を最適化して、多価ポリペプチドの部分拮抗薬から全長拮抗薬まで作出することができる。
【0120】
特定の実施形態において、リンカーはグリシン及び/又はセリン残基のみを含む(例えばグリシン-セリンリンカー)。斯かるポリペプチドリンカーの例としては、Gly、Ser;Gly Ser;Gly Gly Ser;Ser Gly Gly;Gly Gly Gly Ser (配列番号12);Ser Gly Gly Gly (配列番号13);Gly Gly Gly Gly Ser (配列番号14);Ser Gly Gly Gly Gly (配列番号15);Gly Gly Gly Gly Gly Ser (配列番号16);Ser Gly Gly Gly Gly Gly (配列番号17);Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser (配列番号18);Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly (配列番号19);(Gly Gly Gly Gly Ser)n (配列番号20) (ここで、n は1以上の整数である);及び(Ser Gly Gly Gly Gly)n (配列番号21) (ここで、nは1以上の整数である)が挙げられる。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドは、アミノ酸配列GSG(典型的なGly/Serリンカーポリペプチド反復配列の接合の箇所に存在する)が存在しないように改変される。例えば、いくつかの実施形態において、ポリペプチドリンカーは、(GGGXX)nGGGGS (配列番号22) 及びGGGGS(XGGGS)n (配列番号23) (ここで、Xは、配列中に挿入することができる任意アミノ酸であるが、配列GSGを含むポリペプチドを生じないアミノ酸であり、nは0~4である)から成る群より選択されたアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドの配列は(GGGX1X2)nGGGGS (配列番号24)であり、X1はPでありそしてX2 はSであり、nは0~4である。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドの配列は (GGGX1X2)nGGGGS (配列番号25) であり、X1 はG でありそしてX2 はQであり、n は0~4である。いくつかの別の実施形態において、リンカーポリペプチドの配列は(GGGX1X2)nGGGGS (配列番号26) であり、X1はGでありそしてX2はAであり、n は0~4である。さらにいくつか別の実施形態において、リンカーポリペプチドの配列はGGGGS(XGGGS)n (配列番号27)であり、X はPであり、そしてn は0~4である。いくつかの実施形態において、本開示のリンカーポリペプチドは、アミノ酸配列(GGGGA)2GGGGS (配列番号28)を含むか又はそれから成る。いくつかの実施形態において、本開示のリンカーポリペプチドはアミノ酸配列 (GGGGQ)2GGGGS (配列番号29)を含むか又はそれから成る。いくつかの実施形態において、本開示のリンカーポリペプチドはアミノ酸配列 (GGGPS)2GGGGS (配列番号30)を含むか又はそれから成る。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドはアミノ酸配列GGGGS(PGGGS)2 (配列番号31)を含むか又はそれから成る。いくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドは、3Cプロテアーゼ切断部位を含む。本開示のSIRPα-RIPR分子内の3C切断部位の取り込みは、SIRPα-RIPR分子がその2つの成分、例えば、抗SIRP結合モジュールと抗CD45結合モジュールに分割され得る、実投与されるべき様々な切断実験を可能にする。3Cによって切断したSIRPα-RIPR分子は、SIRPにCD45を架橋せず、それにより、RIPR概念を試験する可能性を示す。さらにいくつかの実施形態において、リンカーポリペプチドは、配列表中の配列番号9~11に記載のアミノ酸配列を含むか又はそれから成る。
【0121】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体の第一のポリペプチドモジュールは、1若しくは複数の標的RPTPを結合することができる抗原結合部分を含む。好適なRPTPの非限定的な例には、サブファミリーR1/R6のメンバーが含まれる。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体の第二のポリペプチドモジュールは、CD45ホスファターゼ又はその機能的変異体(例えばその相同体)を結合することができる抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態において、CD45ホスファターゼはヒトCD45ホスファターゼである。一般に、CD45の任意のアイソフォームを使用できる。いくつかの実施形態において、RPTPは、CD45RA、CD45RB、 CD45RC、CD45RAB、CD45RAC、CD45RBC、CD45R0、CD45Rから成る群より選択されたCD45アイソフォームを含む。本開示の組成物と方法に適当なCD45結合部分の例としては、限定されないが、米国特許第7,825,222 号及び同第9,701,756号明細書に記載されたものが挙げられる。
【0122】
本開示の多価ポリペプチドの非限定的な例の実施形態は、次の特徴のうちの1若しくは複数を含み得る。いくつかの実施形態において、1若しくは複数のRPTPは、CD45又はその機能的変異体を含む。いくつかの実施形態において、第一と第二のポリペプチドモジュールのうちの少なくとも1つが、タンパク質結合リガンド又は抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、抗原結合部分は、一本鎖可変断片(scFv)、抗原結合性断片(Fab)、ナノボディ、VHドメイン、VLドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、及びVHHドメイン、ダイアボディ、又はそのいずれかの機能的断片から成る群より選択され得る。いくつかの実施形態において、タンパク質結合リガンドとしては、SIRPα分子の細胞外ドメイン(ECD)、RPTPのECD、又はそれらのいずれかの機能的変異体が挙げられる。いくつかの実施形態において、タンパク質結合リガンドとしては、CD47のECD又はその機能的変異体が挙げられる。いくつかの実施形態において、タンパク質結合リガンドとしては、「Velcro」、高親和性CD47又はその機能的変異体が挙げられる。Velcroは、Ho C.C. et al.、前掲、2015の中で以前に記載された。いくつかの実施形態において、第一のポリペプチドモジュールは、ポリペプチドリンカー配列を介して第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、ポリペプチドリンカー配列は、グリシン-セリン(GS)リンカー又は3Cリンカーを含む。いくつかの実施形態において、GSリンカーは、配列番号9を含むか又はそれから成る。いくつかの実施形態において、ポリペプチドリンカー配列は、3Cリンカーを含む。いくつかの実施形態において、3Cリンカーは、配列番号11を含むか又はそれから成る
【0123】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、以下の:(a) CD47 ECD、(b) ポリペプチドリンカー、及び(c) CD45 scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) CD47 ECD、(b) ポリペプチドリンカー、及び(c) CD45 scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) CD45 scFv、(b) ポリペプチドリンカー、及び(c) CD47 ECDを含む。
【0124】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、以下の:(a) SIRPα scFv、(b) ポリペプチドリンカー;及び(c) CD45 scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) SIRPα scFv、(b) ポリペプチドリンカー;及び(c) CD45 scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) CD45 scFv、(b) ポリペプチドリンカー;及び(c) SIRPα scFvを含む。
【0125】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、以下の:(a) CD45 VHH、(b) ポリペプチドリンカー、及び(c) SIRPα scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) CD45 VHH、(b) ポリペプチドリンカー、及び(c) SIRPα scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(a) SIRPα scFv、(b) ポリペプチドリンカー、及び(c) CD45 VHHを含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(i) CD47 ECD、(ii) GSリンカー、及び(iii) CD45 scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(i) CD47 ECD、(ii) C3リンカー、及び(iii) CD45 scFvを含む。
【0127】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(i) SIRPα scFv、(ii) GSリンカー、及び(iii) CD45 scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(i) SIRPα scFv、(ii) C3リンカー、及び(iii) CD45 scFvを含む。
【0128】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(i) CD45 VHH、(ii) GSリンカー、及び(iii) SIRPα scFvを含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、N末端からC末端への方向で、以下の:(i) CD45 VHH、(ii) C3リンカー、及び(iii) SIRPα scFvを含む。
【0129】
いくつかの実施形態において、CD47 ECDは、高親和性CD47又はその機能的変異体である。いくつかの実施形態において、CD47 ECDは「Velcro」である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドリンカーは、Gly-Ser(GS)リンカーを含む。いくつかの実施形態において、GSリンカーは、配列番号9の配列を含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドリンカーは、3Cリンカー(LEVLFQGP;配列番号11)を含む。
【0130】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列が配列番号1~6から成る群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列が配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列が配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列が配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列が配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列が配列番号5のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列が配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0131】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列番号1~6から成る群から選択されるアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0132】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドは、各々が標的タンパク質に対して特異的結合性を有する少なくとも2つの抗原結合部分を含む多価抗体(例えば二価抗体又は三価抗体)であることができる。いくつかの実施形態において、少なくとも2つの抗原結合部分は、同じ標的タンパク質に対して特異的結合性を有する。斯かる抗体は多価の単一特異性抗体である。いくつかの実施形態において、少なくとも2つの抗原結合部分は少なくとも2つの異なる標的タンパク質に対して特異的結合性を有する。斯かる抗体は多価の多重特異性抗体(例えば二重特異性、三重特異性など)である。従って、本明細書中に開示のいくつかの抗体は、多価抗体又はその機能的断片に関し、それは(i) 1若しくは複数のRPTPに特異的な第一のポリペプチドモジュール、及び(ii) 1若しくは複数のSIRPαに特異的な第二のポリペプチドモジュールを含み、ここで、第一のポリペプチドモジュールは第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている。従って、いくつかの実施形態において、本開示の多価抗体は二価の単一特異性抗体であることができる。いくつかの実施形態では、本開示の多価抗体は三価の単一特異性抗体であることができる。いくつかの実施形態において、本開示の多価抗体は二価の二重特異性抗体であることができる。いくつかの実施形態において、本開示の多価抗体は三価の三重特異性抗体であることができる。
【0133】
当業者は、完全アミノ酸配列を使用して逆翻訳された遺伝子を作製できることを理解するだろう。例えば、特定のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNAオリゴマーを合成することができる。例えば、所望のポリペプチドの一部分をコードする数個の小オリゴヌクレオチドを合成し、次いで連結することができる。個々のオリゴヌクレオチドは典型的には相補的な会合(アセンブリ)のための5′又は3′突出端を含む。
【0134】
組み換え分子生物学技術により変更されている核酸分子の発現を介して変異体ポリペプチドを作製することに加えて、本開示にかかる主題の多価ポリペプチド又は多価抗体は、化学的に合成することができる。化学的に合成されたポリペプチドは、当業者により日常的に作製される。
【0135】
会合されたことにより(合成により、部位特異的突然変異誘発により、又は他の方法により)、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするDNA配列は、発現ベクター中に挿入し、所望の形質転換宿主における多価ポリペプチド又は多価抗体の発現に適当な発現調節配列に作動可能に連結されるだろう。適正な会合(アセンブリ)は、ヌクレオチドシーケンシング、制限マッピング、及び適切な宿主における生物学的活性ポリペプチドの発現により確認することができる。当技術分野で知られているように、宿主中でのトランスフェクトされた遺伝子の高発現レベルを得るためには、該遺伝子を、選択された発現宿主において機能的である転写及び翻訳発現調節配列に作動可能に連結しなければならない。
【0136】
本開示の多価ポリペプチドと多価抗体の結合活性は、当技術分野で既知の任意の適切な方法によってアッセイすることができる。例えば、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体の結合活性は、例えば、スキャッチャード(Scatchard)分析(Munsen, et al. 1980 Analyt. Biochem. 107:220-239)によって決定することができる。特異的結合は、競合ELISA、BIACORE(登録商標)アッセイ及び/又はKINEXA(登録商標)アッセイを含むがこれらに限定されない、当技術分野で既知の技術を使用して評価することができる。標的タンパク質又は標的エピトープに「優先的に結合する」又は「特異的に結合する」(本明細書で互換的に用いられる)抗体又はポリペプチドは、当技術分野でよく理解されている用語であり、斯かる特異的又は優先的結合を測定する方法も当技術分野で知られている。抗体又はポリペプチドは、代替タンパク質又はエピトープとで反応又は会合するよりも頻繁に、より迅速に、より長い持続時間で、及び/又はより大きな親和性で、特定のタンパク質若しくはエピトープと反応又は会合するならば、「特異的結合」又は「優先的結合」を示すと言われる。抗体又はポリペプチドは、それが他の物質に結合するよりも高い親和性、結合力、より容易に、及び/又はより長い持続時間で結合するならば、標的に「特異的に結合する」又は「優先的に結合する」。また、抗体又はポリペプチドは、サンプル中に存在する別の物質に結合するよりも、サンプル中のその標的に対してより高い親和性、結合力、より容易に、及び/又はより長い持続時間で結合するならば、その標的に「特異的に結合する」又は「優先的に結合する」。例えば、SIRPαエピトープに特異的に又は優先的に結合する抗体又はポリペプチドは、それが別のSIRPαエピトープ又は非SIRPαエピトープに結合するよりも大きい親和性、結合力で、容易に、及び/又はより長い持続期間で、このエピトープを結合する抗体又はポリペプチドである。この定義を読むことによって、例えば、第一の標的に特異的に又は優先的に結合する抗体又はポリペプチド(又は部分若しくはエピトープ)が、第二の標的に対しては特異的に若しくは優先的に結合してもしなくてもよいことも理解される。斯かるものとして、「特異的結合」又は「優先的結合」は、必ずしも排他的結合を必要としない(それを包含することはできるが)。
【0137】
様々なアッセイ形式を使用して、目的の分子に特異的に結合する抗体又はポリペプチドを選択することができるMunsen, et al. 1980 Analyt. Biochem. 107:220-239、例えば、固相ELISAイムノアッセイ、免疫沈降、Biacore(商標)(GE Healthcare, Piscataway, NJ)、KinExA、蛍光活性化細胞選別法(FACS)、Octet(商標)(ForteBio, Inc., Menlo Park, CA)及びウエスタンブロット分析は、多数のアッセイの中でも、同族リガンド又は結合相手と特異的に結合する抗原若しくは受容体、又はそのリガンド結合部分と特異的に反応する抗体を同定するために使用することができる。一般に、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも2倍、より典型的にはバックグラウンドの10倍超、さらにより典型的には、バックグラウンドの50倍超、より典型的にはバックグラウンドの100倍超、更により典型的には、バックグラウンドの500倍超、さらに一般的にはバックグラウンドの1000倍超、さらにより典型的にはバックグラウンドの10,000倍超であるだろう。また、平衡解離定数(KD)が7 nM未満である場合、抗体は抗原に「特異的に結合」すると言われる。
【0138】
本明細書中では、「結合親和性」という用語は、二つの分子間、例えば抗体又はその部分と抗原との間の非共有結合的相互作用の強さの尺度として使用される。「結合親和性」という用語は、一価の相互作用(内在性活性)を記載するために用いられる。2分子間の結合親和性は、解離定数(KD)の決定によって定量化することができる。次いで、複合体形成と解離の速度論の測定によって、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)法(Biacore)を使ってKDを求めることができる。一価複合体の会合と解離に相当する速度定数は、会合速度定数ka(又はkon)及び解離速度定数kd(又はkoff)とそれぞれ呼称される。KDは、式、KD=kd /ka からkaとkdに関係がある。解離定数の値は、周知の方法により直接求めることができ、そしてCaceciら(1984, Byte 9: 340-362)に記載のものなどの方法により、複合体混合物についてもコンピュータ計算することができる。例えば、KDは、Wong & Lohman(1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5428- 5432)により開示されたものなどの二重フィルターニトロセルロースフィルター結合アッセイを使って確立することができる。標的抗原に対する本開示の抗体又はポリペプチドの結合力を評価するための他の標準アッセイは、当業界で周知であり、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、RIA、及びフローサイトメトリー分析並びに本明細書中の他の箇所に例示される他のアッセイが挙げられる。抗体の結合反応速度と結合親和性は、当業界で既知の標準アッセイにより、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)、例えばBiacore(商標)系又はKinExAを使うことによって評価することもできる。
核酸分子
【0139】
一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体をコードする組み換え核酸分子、宿主細胞中で又はエクスビボ無細胞発現系で該多価ポリペプチド又は多価抗体の発現を可能にする調節配列に作動可能に連結されたそれらの核酸分子を含む発現カセット及び発現ベクターに関する。
【0140】
用語「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド」は、本明細書中では互換的に用いられ、
cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、及び核酸類似体を含むDNA若しくはRNA分子をはじめとする核酸分子を含む、RNA分子とDNA分子の両方を指す。核酸分子は、二本鎖又は一本鎖(例えば、センス鎖又はアンチセンス鎖)であり得る。核酸分子は、非従来型の又は修飾されたヌクレオチドを含み得る。本明細書で使用される「ポリヌクレオチド配列」及び「核酸配列」という用語は、ポリヌクレオチド分子の配列を互換的に指す。米国特許法37CFR§1.822に明記されているヌクレオチド塩基の命名法が本明細書で使用される。
【0141】
本開示の核酸分子は、概して約0.5Kb~約20Kb、例えば、約0.5Kb~約20Kb、約1Kb~約15Kb、約2Kb~約10Kb、又は約5Kb~約25Kb、例えば、約10Kb~15Kb、約15Kb~約20Kb、約5Kb~約20Kb、約5Kb~約10Kb、又は約10Kb~約25Kbの核酸分子を含めた、任意の長さの核酸分子である。
【0142】
本明細書に開示されるいくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、これは、(i) RPTPに結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む第一のアミノ酸配列、及び(ii) リン酸化機序を介してシグナル伝達する1若しくは複数のSIRPα分子に結合することができる第二のポリペプチドモジュールを含む第二のアミノ酸配列を含み、ここで、第一のポリペプチドモジュールは第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、(i) 1若しくは複数のRPTPに特異的な第一のポリペプチドモジュール、及び(ii) リン酸化機序を介してシグナル伝達する1若しくは複数のSIRPα分子に特異的な第二のポリペプチドモジュールを含む多価抗体をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0143】
本明細書に開示のいくつかの実施形態において、核酸分子は、(i) 本明細書に開示の多価ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくはその機能的断片、又は(ii) 本明細書に開示の多価抗体に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくはその機能的断片を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。核酸分子は、(i) 本明細書に開示の多価ポリペプチド又はその機能的断片のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列;又は(ii) 本明細書に開示の多価抗体又はその機能的断片に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0144】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号1~6から成る群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又はその機能的断片を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号1に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又はその機能的断片を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又はその機能的断片を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号3に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又はその機能的断片を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号4に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又はその機能的断片を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号5に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又はその機能的断片を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号6に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又はその機能的断片を含む。
【0145】
いくつかの実施形態において、本明細書で開示される遺伝子組み換え核酸分子は、発現カセット又は発現ベクター内に組み込まれ得る。従って、本明細書に開示されるいくつかの実施形態は、本明細書に開示の組み換え核酸分子を含むベクター又は発現カセットに関する。「発現カセット」という用語が、受容細胞中で、インビボ及び/又はエクスビボでのコード配列の適正な転写及び/又は翻訳を指令するのに十分な調節情報とコード配列とを含む、遺伝物質の構成物を一般的に含むことは理解される。概して、発現カセットは、所望の宿主細胞及び/又は個体を標的化するためにベクター内に挿入され得る。このように、いくつかの実施形態において、本開示の発現カセットは、(プロモーターなどの、発現制御因子に作動可能に連結された)本明細書で開示される多価ポリペプチドのコード配列、及び任意選択で、該コード配列の転写又は翻訳に影響するいずれか別の核酸配列、又はその組み合わせ物を含む。
【0146】
いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、発現ベクター内に組み込まれ得る。「ベクター」という用語が、概して、宿主細胞間の伝播のために設計された遺伝子組み換えポリヌクレオチド構築物を指し、そして、形質転換の目的、例えば、宿主細胞内への異種DNAの導入、に使用されてもよいことは、当業者によって理解される。このように、いくつかの実施形態において、ベクターは、(別のDNA切片が、挿入セグメントの複製を誘発するようにその中に挿入得る)プラスミド、ファージ、又はコスミドなどのレプリコンであり得る。いくつかの実施形態において、発現ベクターは、組み込みベクターであり得る。従って、本明細書に開示される多価ポリペプチドと多価抗体のいずれかをコードする1若しくは複数の核酸分子を含むベクター、プラスミド又はウイルスも本明細書に提供される。上記の核酸分子は、例えば、ベクターを用いて形質導入した細胞中でそれらの発現を指令することができるベクターの中に含めることができる。真核生物や原核生物の細胞で使用するのに適したベクターは当技術分野で知られており、市販されているか、又は当業者によって容易に調製される。追加のベクターは、例えば、Ausubel, F. M., et al., Current Protocols in Molecular Biology, (Current Protocol, 1994)及びSambrook et al., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual,” 2nd ED. (1989)に見出すことができる。
【0147】
全てのベクター及び発現調節配列が、本明細書に記載のDMA配列を発現するのに等しくうまく機能するわけではないことを理解されたい。また、全ての宿主が同じ発現系で同等にうまく機能するわけではない。しかしながら、当業者は、過度の実験なしに、これらのベクター、発現調節配列及び宿主の中から選択を行うことが可能である。例えば、ベクターを選択する際には、ベクターは宿主の中で複製しなければならないため、宿主を考慮する必要がある。ベクターのコピー数、そのコピー数を制御する能力、抗生物質マーカーなどのベクターによってコードされる他の任意タンパク質の発現も考慮に入れるべきである。例えば、使用することができるベクターとしては、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体をコードするDNAをコピー数に関して増幅できるようにするベクターが挙げられる。斯かる増幅可能なベクターは当技術分野で知られている。それらの例としては、DHFR増幅(例えば、Kaufman、米国特許第4,470,461号明細書を参照のこと)又はグルタミンシンテターゼ(「GS」)増幅(例えば、米国特許第5,122,464号及び欧州特許出願公開EP338,841公報を参照のこと)により増幅可能であるベクターが挙げられる。
【0148】
従って、いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、ベクター、通常は発現ベクターから発現させることができる。ベクターは、宿主細胞中での自律複製に有用であるか、又は宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと共に複製されてもよい(例えば、非エピソームの哺乳動物ベクター)。発現ベクターは、それらが作動可能に連結されているコード配列の発現を指令することができる。一般に、組み換えDNA技術における有用な発現ベクターは、しばしば、プラスミド(ベクター)の形である。しかしながら、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)のような他の形態の発現ベクターも含まれる。
【0149】
例示的な組み換え発現ベクターは、発現に使用する予定の宿主細胞に基づいて選択され、発現させるべき核酸配列に作動可能に連結された1若しくは複数の調節配列を含むことができる。
【0150】
DNAベクターは、従来の形質転換又はトランスフェクション技術によって原核生物又は真核生物の細胞に導入することができる。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainview, N.Y.)及び他の標準的分子生物学研究マニュアルに見出すことができる。
【0151】
本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体をコードする核酸配列は、目的の宿主細胞中での発現のために最適化することができる。例えば、配列のGC含有量は、宿主細胞中で発現される既知遺伝子を参照することによって計算されるとおり、所定の細胞宿主の平均レベルに調整することができる。コドン最適化の方法は当技術分野で知られている。本明細書に開示の多価ポリペプチドと多価抗体のコード配列内のコドン使用頻度は、宿主細胞中での発現を増強するように最適化することができ、その結果、コード配列内のコドンの約1%、約5%、約10%、約25%、約50%、約75%、又は最大100%が、特定の宿主細胞での発現のために最適化されている。
【0152】
使用に適するベクターとしては、細菌で用いられるT7ベースのベクター、哺乳動物細胞で用いられるpMSXND発現ベクター、及び昆虫細胞で用いられるバキュロウイルス由来ベクターが含まれる。いくつかの実施形態において、斯かるベクター中で主題の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする核酸挿入断片を、プロモーターに作動可能に連結することができ、該プロモーターは例えば、発現を得ようとする細胞型に基づいて選択される。
【0153】
発現調節配列を選択する際には、様々な要因も考慮すべきである。これらの要因としては、例えば、配列の相対強度、その制御可能性、及び特に潜在的な二次構造に関しては、主題の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする実際のDNA配列との適合性が挙げられる。宿主は、選択されるベクターとの適合性、本開示のDNA配列によってコードされる生成物の毒性、それらの分泌特性、それらのポリペプチドを正しく折りたたむ能力、それらの発酵又は培養要件、並びにDNA配列によりコードされる生成物の精製の容易さを考慮して選択されるべきである。
【0154】
これらのパラメーターの中で、当業者は、例えば、CHO細胞又はCOS7細胞を使って、発酵又は大規模な動物培養において所望のDNA配列を発現するであろう、様々なベクター/発現調節配列/宿主の組み合わせを選択することが可能である。
【0155】
いくつかの実施形態において、発現調節配列及び発現ベクターの選択は、宿主の選択に依存するであろう。多種多様な発現宿主/ベクターの組み合わせを使用することができる。真核生物宿主のための有用な発現ベクターの非限定的な例としては、例えば、SV40、ウシパピローマウイルス、アデノウイルス及びサイトメガロウイルスからの発現調節配列を有するベクターが含まれる。細菌宿主用の有用な発現ベクターの非限定的な例としては、col El、pCRI、pER32z、pMB9及びそれらの誘導体をはじめとするE.コリ(E. coli)由来のプラスミドなどの既知細菌プラスミド、RP4などの更に広い宿主域のプラスミド、ファージDNA、例えば、ファージλの多数の誘導体、例えば、NM989、並びに他のDNAファージ、例えばM13及び糸状一本鎖DNAファージなどが挙げられる。酵母細胞に有用な発現ベクターの非限定的な例としては、2μプラスミド及びその誘導体が含まれる。昆虫細胞に有用なベクターの非限定的な例としては、pVL 941及びpFastBac(商標)1が挙げられる。
【0156】
さらに、多種多様な発現調節配列のいずれもこれらのベクターで使用することができる。斯かる有用な発現調節配列には、前述の発現ベクターの構造遺伝子に関連する発現調節配列が含まれる。有用な発現調節配列の例としては、例えば、SV40又はアデノウイルスの初期及び後期プロモーター、lac系、trp系、TAC又はTRC系、ファージλの主要オペレーター及びプロモーター領域、例えばPL、fdコートタンパク質の制御領域、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ又は他の糖分解酵素のプロモーター、酸性ホスファターゼのプロモーター、例えば、PhoA、酵母a-交配型のプロモーター、バキュロウイルスの多面体プロモーター、及び原核細胞若しくは真核細胞又はそれらのウイルスの遺伝子、並びにそれらの様々な組み合わせの発現を制御することが知られている他の配列が挙げられる。
【0157】
T7プロモーターは細菌で使用することができ、多面体プロモーターは昆虫細胞で使用することができ、サイトメガロウイルス又はメタロチオネインプロモーターは哺乳動物細胞で使用することができる。また、高等真核生物の場合、組織特異的及び細胞型特異的プロモーターが広く利用可能である。これらのプロモーターの名称は、体内の特定の組織又は細胞型中での核酸分子の発現を指令するその能力に由来する。当業者は、核酸の発現を指令するために使用することができる多数のプロモーター及び他の調節要素を容易に理解するだろう。
【0158】
挿入された核酸分子の転写を促進する配列に加えて、ベクターは、複製開始点と、選択可能なマーカーをコードする他の遺伝子とを含むことができる。例えば、ネオマイシン耐性(neoR)遺伝子は、それが発現される細胞にG418耐性を付与するため、トランスフェクトされた細胞の表現型選択を可能にする。当業者は、一定の調節要素又は選択可能マーカーが特定の実験状況での使用に適当であるかどうかを容易に決定することができる。
【0159】
本開示で使用することができるウイルスベクターには、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ベクター、ヘルペスウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、及びウシ乳頭腫ウイルスベクターが含まれる(例えば、Gluzman (Ed.), Eukaryotic Viral Vectors, CSH Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照のこと)。
【0160】
発現系を選択する際に、成分が互いに適合できることを確保するために注意しなければならない。例えば、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体は、細菌のE.コリなどの原核生物宿主、又は昆虫細胞(例えばSf21細胞)などの真核生物宿主、又は哺乳動物細胞(例えばCOS細胞、NIH 3T3細胞、又はHeLa細胞)で産生させることができる。それらの細胞は多数の供給源から入手可能であり、例えばアメリカン・タイプ・カルチチャー・コレクション(ATCC)(Manassas, Va.)から入手可能である。発現系を選択する際には、その構成要素が互いに適合性であることのみが重要である。技術者又は当業者は斯かる決定を下すことができる。更に、発現系を選択する際に指導書(手引き)が必要な場合、当業者はAusubelら(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York, N.Y., 1993)及びPouwelsら(Cloning Vectors: A Laboratory Manual, 1985 Suppl. 1987)を参考にすることができる。
【0161】
発現された多価ポリペプチド又は多価抗体は、日常的な生化学手順を使用して発現系から精製することができ、本明細書に記載されるように、例えば、治療薬として使用することができる。
【0162】
いくつかの実施形態において、得られた多価ポリペプチド又は多価抗体は、その多価ポリペプチド又は多価抗体を産生するために用いられる宿主生物に応じてグリコシル化されているか又はグリコシル化されていない。宿主として細菌が選択される場合、産生される多価ポリペプチド又は多価抗体はグリコシル化されない(非グリコシル化形)。他方、真核細胞は、多価ポリペプチド又は多価抗体をグリコシル化するが、おそらく生来のポリペプチドがグリコシル化されるのと同じ方法ではないだろう。形質転換された宿主によって産生される多価ポリペプチド又は多価抗体は、当業界で既知の任意の適当な方法に従って精製することができる。産生された多価ポリペプチド又は多価抗体は、E.コリなどの細菌中で生成された封入体から、又は陽イオン交換、ゲル濾過、及び/又は逆相液体クロマトグラフィーを使用して、所定の多価ポリペプチド又は多価抗体を産生する哺乳動物又は酵母培養物の馴化培地から単離することができる。
【0163】
さらに又は或いは、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするDNA配列を構築する別の例示的な方法は、化学合成によるものである。これには、記載された特性を示す多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするタンパク質配列の、化学的手段によるペプチドの直接合成が含まれる。この方法は、多価ポリペプチド又は多価抗体と標的タンパク質との結合親和力に影響を与える位置に、天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方を組み込むことができる。或いは、所望の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする遺伝子を、オリゴヌクレオチド合成装置を使用した化学的手段によって合成することができる。かかるオリゴヌクレオチドは、所望の多価ポリペプチド又は多価抗体のアミノ酸配列に基づいて設計され、そして通常は組み換え多価ポリペプチド又は多価抗体が生産される宿主細胞において好都合なコドンを選択して設計される。この点に関して、遺伝暗号が縮重していること、すなわちアミノ酸が複数のコドンによってコードされ得ることは当技術分野で十分認識されている。例えば、Phe(F)はTIC又はTTTの2つのコドンによりコードされ、Tyr(Y)はTAC又はTATによりコードされ、His(H)はCAC又はCATによりコードされる。Trp(W)は、単一のコドンTGGによりコードされる。従って、当業者には、特定の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする所定のDNA配列について、その多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするであろう多数のDNA縮重配列が存在することは理解されるだろう。例えば、配列表に提供される多価ポリペプチド又は多価抗体のDNA配列に加えて、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする多くの縮重DNA配列が存在することは理解されるだろう。これらの縮重DNA配列は、本開示の範囲内であると見なされる。従って、本開示の文脈における「その縮重変異体」とは、特定の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードし、それによってそれらの発現を可能にする全てのDNA配列のことを意味する。
【0164】
主題の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするDNA配列は、部位特異的突然変異誘発、化学合成又は他の方法により調製されるかどうかに関わらず、シグナル配列をコードするDNA配列も含み得る。斯かるシグナル配列は、存在する場合、多価ポリペプチド又は多価抗体の発現用に選択された細胞により認識されるものでなければならない。それは、原核生物、真核生物、又はその2つの組み合わせであることができる。一般に、シグナル配列の包含は、それが作製される組み換え細胞から、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体を分泌させることを所望するかどうかに依存する。選択した細胞が原核生物である場合、DNA配列は通常シグナル配列をコードしない。選択した細胞が真核生物である場合、通常シグナル配列が含まれる。
【0165】
提供される核酸分子は、天然に存在する配列、又は天然に存在するものとは異なる配列を含むことができるが、遺伝暗号の縮重のため、同じポリペプチドをコードする。これらの核酸分子は、RNA若しくはDNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、又はホスホルアミダイト法ベースの合成によって製造されるものなどの合成DNA)、又はこれらの核酸タイプ内のヌクレオチドの組み合わせ若しくは修飾から成ることができる。その上、核酸分子は二本鎖又は一本鎖(例えば、センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれか)であることができる。
【0166】
核酸分子は、ポリペプチドをコードする配列に限定されない。コード配列(例えば、本開示のSIRPα又はRIPR-SIRPα分子のコード配列)の上流又は下流にある非コード配列の一部又は全部を含めることもできる。分子生物学の技術分野の当業者は、核酸分子を単離するための日常的手順に精通している。それらの核酸分子は、例えば、ゲノムDNAを制限エンドヌクレアーゼで処理することにより、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の実施により生成することができる。核酸分子がリボ核酸(RNA)である場合、該分子は例えばインビトロ転写によって生成することができる。
【0167】
本開示の例示的な核酸分子は、天然状態ではそれ自体で見い出されない断片を含み得る。従って、本開示は、核酸配列(例えば、変異体IL-2をコードする配列)がベクター(例えばプラスミド又はウイルスベクター)又は異種細胞のゲノム(又は天然の染色体位置以外の位置にある同種細胞のゲノム)中に組み込まれているものを包含する。
組み換え細胞と細胞培養
【0168】
本開示の多価ポリペプチドと遺伝子組み換え核酸は、組み換え細胞、例えば、遺伝子操作細胞を製造するための、例えば、ヒト食細胞などの細胞内に導入され得る。いくつかの実施形態において、細胞は、インビボにおけるものである。いくつかの実施形態において、細胞は、エクスビボにおけるものである。いくつかの実施形態において、細胞は、インビトロにおけるものである。いくつかの実施形態において、組み換え細胞は、真核細胞である。いくつかの実施形態において、組み換え細胞は、動物細胞である。いくつかの実施形態において、動物細胞は、哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、動物細胞は、ヒト細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、非ヒト霊長類細胞である。
【0169】
例えば、本明細書で開示される多価ポリペプチド及び/又は遺伝子組み換え核酸は、細菌E.コリなどの原核生物宿主、又は昆虫細胞(例えば、Sf21細胞)若しくは哺乳動物細胞などの真核宿主(例えば、COS細胞、NIH3T3細胞、又はHeLa細胞)で産生され得る。いくつかの実施形態において、組み換え細胞は、食細胞、例えば、貪食細胞である。プロフェッショナル貪食細胞と非プロフェッショナル貪食細胞の両方が好適である。いくつかの実施形態において、食細胞は、プロフェッショナル貪食細胞である。いくつかの実施形態において、食細胞は、非プロフェッショナル貪食細胞である。いくつかの実施形態において、食細胞は、マクロファージ、樹状細胞、マスト細胞、単球、好中球、小膠細胞、及び星状細胞から成る群から選択される。いくつかの実施形態において、食細胞は、樹状細胞である。いくつかの実施形態において、食細胞は、骨髄由来マクロファージ(BMDM)又は骨髄由来樹状細胞(BMDC)である。これらの細胞は、アメリカン・タイプ・カルチチャー・コレクション(Manassas, Va.)を含めた多くの供給源から入手可能である。
【0170】
従って、本開示のいくつかの実施形態は、組み換え細胞を作製する方法であって、以下の:(a) タンパク質発現ができる宿主細胞を準備し、そして、準備した宿主細胞に本開示の遺伝子組み換え核酸分子を形質導入して、組み換え細胞を製造すること、を含む方法に関する。細胞内への本開示の核酸分子の導入は、例えば、ウイルス感染、形質移入、結合体形成、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介形質移入、DEAE-デキストラン媒介形質移入、リポソーム媒介形質移入、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、ナノ粒子媒介核酸送達などの当業者に知られている方法によって達成され得る。
【0171】
従って、いくつかの実施形態において、核酸分子は、当該技術分野で知られているウイルス又は非ウイルス送達ビヒクルによって宿主細胞内に導入されて、組み換え細胞が製造され得る。例えば、核酸性分子は、組み換え細胞のゲノム内に安定に組み込まれ得るか、又はエピソマーにより複製され得るか、又は一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして組み換え細胞内に存在する。従って、いくつかの実施形態において、核酸分子は、エピソマーユニットとしての遺伝子組み換え宿主細胞内に維持され、そして、複製される。いくつかの実施形態において、核酸分子は、一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして組み換え細胞内に存在する。いくつかの実施形態において、核酸分子は、組み換え細胞のゲノム内に安定して組み込まれる。安定した組み込みは、古典的なランダムゲノム組み換え技術を使用して、或いはガイドRNA指示CRISPR/Cas9ゲノム編集、又はNgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute)を用いたDNA先導型エンドヌクレアーゼゲノム編集、又はTALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)ゲノム編集などのより正確な技術を用いて達成される。
【0172】
核酸分子は、ウイルスカプシド又は脂質ナノ粒子内にカプセル化するか、或いはウイルス若しくは非ウイルス送達手段又はエレクトロポレーションなどの当該技術分野で知られている方法によって送達され得る。例えば、細胞内への核酸の導入は、ウイルス形質導入によって達成されてもよい。非限定的な例では、キュロウイルスウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)が、ウイルス形質導入を介して標的細胞に核酸を送達するために遺伝子操作され得る。いくつかのAAV血清型を記載されており、そして、既知の血清型のすべてが複数のさまざまな組織タイプ由来の細胞に感染し得る。AAVは、毒性の痕跡なしにインビボにおいてさまざまな種及び組織に形質導入することができ、そして、それは比較的軽い自然及び適応免疫応答を生じる。
【0173】
レンチウイルス由来ベクター系もまた、ウイルス形質導入を介した核酸送達と遺伝子治療に有用である。レンチウイルスベクターは、以下の:(i) 宿主ゲノム内への安定したベクター組み込みによる持続的な遺伝子送達;(ii) 分裂細胞と非分裂細胞の両方を感染させる能力;(iii) 重要な遺伝子及び細胞治療標的細胞タイプを含めた幅広い組織親和性;(iv) ベクター形質導入後にウイルスタンパク質の発現がない;(v) ポリシストロン又はイントロン含有配列などの複合遺伝要素を送達する能力;(vi) 潜在的により安全な組み込み部位プロファイル;及び(vii) ベクター操作と製造の比較的簡単なシステムを含めた、遺伝子送達ビヒクルとしてのいくつかの魅力的な特性を提供する。
【0174】
いくつかの実施形態において、宿主細胞は、例えば、ウイルスベクター又は宿主細胞のゲノムの一部に対して相同の核酸配列を含む相同組換のためのベクター、であり得るか、或いは着目のポリペプチドの発現のための発現ベクターであり得る、例えば、本開示のベクター構築物を用いて遺伝子操作され得る(例えば、形質導入されるか、形質転換されるか、又は形質移入される)核酸配列である。宿主細胞は、非形質転換細胞、又は少なくとも1つの核酸分子で既に形質移入された細胞のいずれかであり得る。
【0175】
別の態様において、少なくとも1つの、本明細書で開示される組み換え細胞及び培養培地を含む細胞培養物が、本明細書で提供される。概して、培養培地は、本明細書で記載される細胞を培養するのに好適な培養培地のいずれかであり得る。先に考察したとおり、上記のさまざまな細胞及び種を形質転換するための技術は、当該技術分野で知られており、そして、技術的及び科学的文献に記載されている。従って、少なくとも1つの、本明細書で開示される組み換え細胞を含む細胞培養物もまた、本出願の範囲内にある。細胞培養物を製造し、維持するのに好適な方法及びシステムは、当該技術分野で知られている。
未成熟樹状細胞(DC)の成熟化を促進する方法
【0176】
以下でさらに詳細に考察されるように、本開示のいくつかの実施形態は、インビトロにおいて未成熟樹状細胞(DC)の成熟化を促進する方法に関する。DCは、未感作又は休止型T細胞に抗原を提示するために特化している。その結果、DCはインビボにおいて免疫を調節する際に中心的役割を果たす。選択される抗原を負荷したDCを使用する免疫化は、病原体又は腫瘍に対する免疫を誘発する強力な方法を表す。適切な状態下では、DCはまた、T細胞を寛容化し、これにより、特定の抗原に対する免疫応答を抑制する。
【0177】
免疫応答を誘発するDCの能力は抗原取り込みを必要とし、そしてそれは、主にリンパ系において起こり、非リンパ系臓器におけるT細胞の抗原提示と活性化がそれに続いた。これらの別々の機能的役割は、それぞれ、未成熟DCと成熟DCによって担われる。
【0178】
DCは、CD8+細胞毒性T細胞(CTL)とCD4+Tヘルパー(Th1)応答の両方を準備するための最も強力な抗原提示細胞の中にある。それらは、抗原を捕捉し、加工し、局部リンパ節に遊走して、CD8+T細胞応答を誘発することができる。それらは、細胞表面上に存在するMHCクラスI分子との関連において外因性抗原を交差提示する能力を有する。これらの特徴は、総合すれば、樹状細胞がCD8+及びCD4+T細胞応答の両方を準備できる様式で抗原を提示することを可能にし、そして、細胞ワクチンとしてのDCの使用に関する理論的根拠を提供する。
【0179】
別の態様において、インビトロにおける未成熟樹状細胞(DC)の成熟化を促進する方法であって、以下の:(a) 未成熟DCを抗原に晒し;そして、(b) 本開示の多価ポリペプチドの存在下で未成熟DCを培養して、未成熟DCの成熟DCへの成熟化を誘発すること、を含む方法が本明細書で提供される。
【0180】
未成熟DCは、樹状細胞が抗原の捕捉及び加工を誘発するのに十分な時間にわたり抗原に晒され得る。いくつかの実施形態において、成熟DCは、本開示の多価ポリペプチドの不存在下で培養した基準成熟DCと比較して、CD86発現レベルを高めた。いくつかの実施形態において、未成熟DCは、マウス、ヒト、又は非ヒト霊長目動物などの哺乳類から単離した末梢血単核細胞から培養される。いくつかの実施形態において、未成熟DCの抗原への曝露は、抗原提示未成熟DCを生じさせる。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドの存在下で生じた抗原提示未成熟DCを培養することで、抗原提示未成熟DCの成熟化を促進して、成熟抗原提示DCを生じさせる。
【0181】
抗原は、概して、任意の抗原、例えば、癌抗原、例えば、腫瘍関連抗原であり得る。或いは、抗原は、ヒト寄生虫、ウイルス又は微生物由来の抗原であり得る。従って、いくつかの実施形態において、方法は、未成熟DCを抗原に晒すことを含み、ここで、該抗原は、ヒト寄生虫抗原、動物寄生虫抗原、ヒトウイルス抗原、動物ウイルス抗原、ヒト微生物抗原、及び微生物抗原から成る群から選択される。いくつかの実施形態において、抗原は、癌関連抗原である。いくつかの実施形態において、抗原は、癌特異的抗原である。従って、本開示の方法によって調製される成熟DCもまたこの開示の範囲内にある。
【0182】
別の態様において、ワクチンを製造する方法であって、以下の:(a) インビトロにおいて未成熟DCを抗原に晒して、十分な数の抗原提示未成熟DCを生じさせ;そして、(b) 本開示の多価ポリペプチドの存在下で抗原提示未成熟DCの成熟化を促進して、成熟抗原提示DCを生じさせること、を含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、抗原は、ヒト寄生虫抗原、動物寄生虫抗原、ヒトウイルス抗原、動物ウイルス抗原、ヒト微生物抗原、及び動物微生物抗原から成る群から選択される。いくつかの実施形態において、抗原は、癌関連抗原である。いくつかの実施形態において、抗原は、癌特異的抗原である。本明細書で記載したように製造した成熟抗原提示DCは、ワクチンでの使用に好適である。例えば、健康状態、例えば癌、と診断された対象における細胞免疫応答を刺激するためのワクチンが製造できる。ワクチンを製造する例示的な方法では、未成熟DCを対象の腫瘍関連抗原に晒して、腫瘍抗原提示未成熟DCを製造する。次に、抗原提示樹状細胞を、本明細書で記載した方法による多価ポリペプチドの存在下で成熟させ、その後、ワクチンの形態で医薬製剤内に含まれる。次に、ワクチンは対象に注入され、するとすぐに、成熟DCが対象の局部リンパ節に移行して、CTL(細胞傷害性CD8+T細胞性リンパ球)応答を誘発すると予想される。
【0183】
従って、本明細書で開示されるワクチンを製造する方法に従って製造されるワクチンもまた、本開示の範囲内にある。いくつかの実施形態において、ワクチンは、増殖性疾患(例えば、癌)などの健康状態を患っているか、或いは微生物感染(例えば、ウイルス、微小真菌、若しくは細菌)又は寄生虫感染と診断された対象を予防又は治療する方法における使用のためのものであり得る。いくつかの実施形態において、本開示のワクチンは、1若しくは複数の好適な希釈剤、賦形剤又は補助剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、本開示のワクチンは、1若しくは複数の好適な細菌性アジュバント、及び全身的アジュバントをさらに含む。いくつかの実施形態において、本開示のワクチンは、次の:希釈剤、賦形剤、補助アジュバント、細菌性アジュバント、及び全身的アジュバント、のうちの1若しくは複数をさらに含む。
組成物と医薬組成物
【0184】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチンが、医薬組成物を含めた組成物内に組み込まれ得る。斯かる組成物は、概して、1若しくは複数の、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチンを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、医薬組成物である。いくつかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、医薬的に許容される賦形剤と1若しくは複数の、次の:本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチン、を含む。
【0185】
注射用途に適した医薬組成物には、無菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び無菌の注射液剤又は分散液の即時調製のための無菌粉末が含まれる。静脈内投与の場合、適切な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)( BASF, Parsippany, N.J.)又はリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合において、組成物は無菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度まで流動性でなければならない。製造及び保管の条件下で安定している必要があり、細菌や真菌などの微生物の汚染作用から保護する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの適切な混合物を含む、溶剤又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒径の維持により、及び界面活性剤、例えばドデシル硫酸ナトリウムの使用により、維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、通常は等張化剤、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムなどの多価アルコールを組成物に含めることになる。注射可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に含めることによってもたらすことができる。
【0186】
無菌の注射可能な溶液は、必要に応じて、上に列挙した成分の1つ又は組み合わせと共に適切な溶媒中に必要量の活性化合物を組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を無菌ビヒクルに組み込むことによって調製され、これは、基礎的な分散媒と、上に列挙されたものからの必要な他の成分とを含む。無菌の注射可能溶液を調製するための無菌粉末の場合、一般的な調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥であり、この方法により有効成分の粉末に加えて、既に滅菌濾過された溶液から任意の追加の所望の成分が得られる。
【0187】
経口組成物は、使用される場合、一般に、不活性希釈剤又は可食性担体を含む。経口治療投与の目的上、活性化合物(例えば、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸分子、及び/又はワクチン)は、賦形剤と共に組み込まれ、錠剤、トローチ、又はカプセル、例えばゼラチンカプセルの形で使用することができる。経口組成物は、洗口液(マウスウオッシュ)として使用される液体担体を使っても調製することができる。医薬上混合可能な結合剤、及び/又はアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、以下の成分:微結晶性セルロース、トラガカントガム又はゼラチンなどの結合剤;デンプン又はラクトースなどの賦形剤;アルギン酸、Primogel(商標)又はコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムやSterotes(商標)などの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖又はサッカリンなどの甘味剤;又は、ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジフレーバーなどの着香剤、のいずれか、又は類似の性質の化合物を含むことができる。
【0188】
吸入による投与の場合、本開示の主題の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチンは、適切な噴射剤、例えば二酸化炭素などのガスを含む加圧容器又はディスペンサーからのエアロゾルスプレーの形態、又はネブライザー(噴霧器)の形で送達される。斯かる方法は、米国特許第6,468,798号に記載されたものを含む。
【0189】
本開示の主題の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチンの全身投与は、経粘膜又は経皮手段によることもできる。経粘膜又は経皮投与の場合、浸透させるべきバリアに適した浸透剤が製剤に使用される。斯かる浸透剤は、当技術分野で一般に知られており、例えば、経粘膜投与用には、界面活性剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、点鼻薬又は坐薬の使用を通して果たすことができる。経皮投与の場合、活性化合物は、当技術分野で一般に知られているように、軟膏、軟膏(salve)、ゲル、又はクリームに処方される。
【0190】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチンは、坐剤(例えば、カカオバターや他のグリセリドなどの常用の坐剤基材を用いて)又は直腸送達のための停留浣腸の形で調製することもできる。
【0191】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチンはまた、当業界で既知の方法、例えば限定されないがMcCaffreyら(Nature 418:6893, 2002)、Xiaら(Nature Biotechnol. 20: 1006-1010, 2002)、又はPutnam(Am. J. Health Syst. Pharm. 53: 151-160, 1996、Am. J. Health Syst. Pharm. 53:325, 1996にて訂正)に記載の方法を使ったトランスフェクション又は感染により、投与することもできる。
【0192】
いくつかの実施形態において、本開示の主題の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチンは、その多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、成熟DC、及びワクチンを体内からの迅速な排除に対して保護する担体、例えば制御放出製剤(徐放性製剤)、例えばインプラント及びマイクロカプセル化送達システムを用いて調節される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。このような製剤は、標準技術を使用して調製することができるこれらの材料は、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals, Inc.から商業的に入手することも可能である。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞にターゲットするリポソームを含む)も、製薬上許容される担体として使用できる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号明細書に記載されているように、当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0193】
下記により詳細に説明するとおり、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体はまた、PEG化(ペグ化)、アシル化、Fc融合、アルブミンのような分子への結合、などによる作用の持続期間の延長を達成するように変更されてもよい。いくつかの実施形態において、多価ポリペプチド又は多価抗体は、インビボ及び/又はエクスビボでのそれらの半減期を延長するように更に改変することができる。多価ポリペプチドを改変するのに適した既知の戦略と方法の非限定的な例として、(1)本明細書中に記載の多価ポリペプチド又は多価抗体がプロテアーゼと接触するのを防ぐポリエチレングリコール(「PEG」)のような高溶解性高分子による、該多価ポリペプチド又は多価抗体の化学修飾;及び(2)本明細書に記載の多価ポリペプチド又は多価抗体を、例えばアルブミンなどの安定タンパク質と共有結合又は接合させることが挙げられる。従って、いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体を、アルブミンなどの安定タンパク質に融合させることができる。例えば、ヒトアルブミンは、それに融合させたポリペプチドの安定性を高めるのに最も効果的なタンパク質の1つとして知られており、斯かる融合タンパク質が数多く報告されている。
【0194】
いくつかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、1若しくは複数のペグ化試薬を含む。本明細書で使用される場合、「ペグ化(PEG化)」という用語は、ポリエチレングリコール(PEG)をタンパク質に共有結合させることによってタンパク質を修飾することを指し、「ペグ化」は、PEGが結合されているタンパク質を指す。様々な化学物質を使用して、約10,000ダルトンから約40,000ダルトンまでの任意の範囲を有するPEG、又はPEG誘導体のサイズ範囲を、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体に付着させることができる。いくつかの実施形態において、ペグ化試薬は、メトキシポリエチレングリコール-スクシンイミジルプロピオネート(mPEG-SPA)、mPEG-スクシンイミジルブチレート(mPEG-SBA)、mPEG-スクシンイミジルスクシネート(mPEG-SS)、mPEG-スクシンイミジルカーボネート(mPEG-SC)、mPEG-スクシンイミジルグルタレート(mPEG-SG)、mPEG-N-ヒドロキシルスクシンイミド(mPEG-NHS)、mPEG-トシレート及びmPEG-アルデヒドから選択される。いくつかの実施形態において、ペグ化試薬はポリエチレングリコールである。例えば、前記ペグ化試薬は、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体のN末端メチオニン残基に共有結合した平均分子量20,000ダルトンのポリエチレングリコールである。
【0195】
従って、いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、1若しくは複数のポリエチレングリコール部分、例えば、ペグ化により化学的に修飾され、又は同様の修飾、例えばPAS化により化学的に修飾される。いくつかの実施形態において、PEG分子又はPAS分子は、多価ポリペプチド又は多価抗体の1若しくは複数のアミノ酸側鎖に接合されている。いくつかの実施形態において、PEG化又はPAS化された多価ポリペプチド又は多価抗体は、1つのアミノ酸のみにPEG又はPAS部分を含む。他の実施形態において、PEG化又はPAS化された多価ポリペプチド又は多価抗体は、2つ以上のアミノ酸上に、例えば、2以上、5以上、10以上、15以上、又は20以上の異なるアミノ酸残基に結合した、PEG又はPAS部分を含む。いくつかの実施形態において、PEG又はPAS鎖は、2000、2000超、5000、5000超、10,000、10,000超、20,000、20,000超、及び30,000 Da(ダルトン)である。PAS化された多価ポリペプチド又は多価抗体は、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して、PEG又はPASに直接結合され得る(例えば連結基なしで)。いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、平均分子量が20,000ダルトンのポリエチレングリコールに共有結合されている。
【0196】
いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、インビボ及び/又はエクスビボでのそれらの半減期を延長するようにさらに改変することができる。本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体を改変するのに適した既知の戦略と方法論の非限定的な例は、(1)多価ポリペプチド又は多価抗体がプロテアーゼと接触するのを防ぐポリエチレングリコール(「PEG」)などの超可溶性高分子による、本明細書に記載の多価ポリペプチド又は多価抗体の化学修飾;及び(2)本明細書に記載の多価ポリペプチド又は多価抗体を、例えばアルブミンなどの安定タンパク質と共有結合又は接合させることを含む。従って、いくつかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体を、アルブミンなどの安定タンパク質に融合させることができる。例えば、ヒトアルブミンは、それに融合したポリペプチドの安定性を高めるための最も効果的なタンパク質の1つとして知られており、斯かる融合タンパク質が数多く報告されている。
本開示の方法
【0197】
本明細書に記載の治療組成物、例えば、多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組み換え細胞、細胞培養物、ワクチン、及び医薬組成物のいずれか1つの投与は、増殖性疾患(例えば、癌)、自己免疫疾患、微生物感染(例えば、細菌感染又はウイルス感染)などに関連する健康状態の予防又は治療に使用することができる。いくつかの実施形態において、感染症は、慢性感染である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組み換え細胞、細胞培養物、ワクチン、及び/又は医薬組成物は、CD47及び/又はSIRPαによって媒介される細胞シグナル伝達に関連する1若しくは複数の健康状態又は疾患を患っているか、患う疑いがあるか、又は発症するリスクが高い個体を治療する方法に使用される治療薬の中に組み入れることができる。例示的な健康状態又は疾患には、これだけに限定されるものではないが、癌と慢性感染症が含まれ得る。いくつかの実施形態において、個人とは、医師にかかっている患者である。
【0198】
従って、一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、CD47及び/又はSIRPαによって媒介される細胞シグナル伝達を調節する方法であって、対象に、以下の:(i) 本開示の多価ポリペプチド、(ii) 本開示の多価抗体、(iii) 本開示の遺伝子組み換え核酸分子、(iv) 本開示の組み換え細胞、(v) 本開示の成熟DC;及び(vi) 本開示のワクチン、のうちの1若しくは複数を含む組成物を投与することを含む方法に関する。別の態様において、本開示のいくつかの実施形態は、それを必要としている対象の健康状態の予防又は治療のための方法であって、該対象に、以下の:(i) 本開示の多価ポリペプチド、(ii) 本開示の多価抗体、(iii) 本開示の遺伝子組み換え核酸分子、(iv) 本開示の組み換え細胞、(v) 本開示の成熟DC;及び(vi) 本開示のワクチン、のうちの1若しくは複数を含む組成物を投与することを含む方法に関する。いくつかの実施形態において、方法は、以下の:(i) 本開示の多価ポリペプチド、(ii) 本開示の多価抗体、(iii) 本開示の遺伝子組み換え核酸分子、(iv) 本開示の組み換え細胞、(v) 本開示の成熟DC;及び(vi) 本開示のワクチン、の治療的有効量を投与することを含む。
【0199】
本明細書で記載した健康状態を予防又は治療する方法の非限定的な例示的な実施形態は、以下の特徴の1若しくは複数を含み得る。いくつかの実施形態において、健康状態は、増殖性疾患又は感染症である。例示的な増殖性疾患としては、これだけに限定されるものではないが、血管由来疾患、転移性疾患、発癌性疾患、新生物疾患、及び癌を挙げることができる。いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、癌である。いくつかの実施形態において、癌は、小児癌である。いくつかの実施形態において、癌は、膵臓癌、結腸癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、中皮腫、乳癌、尿路上皮性癌、肝臓癌、頭頚部癌、肉腫、子宮頚癌、胃癌(a stomach cancer)、胃体癌(a gastric cancer)、黒色腫、ブドウ膜黒色腫、胆管癌、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、及び神経膠芽腫である。
【0200】
いくつかの実施形態において、癌は、多剤抵抗性癌又は再発癌である。本明細書で開示される組成物及び方法が非転移癌と転移癌の両方に好適であることが、企図される。従って、いくつかの実施形態において、癌は、非転移癌である。ある他の実施形態において、癌は、転移癌である。いくつかの実施形態において、対象に投与される組成物は、対象における癌の転移を阻害する。いくつかの実施形態において、投与される組成物は、対象における腫瘍増殖を阻害する。
【0201】
例示的な増殖性疾患としては、これだけに限定されるものではないが、血管由来疾患、転移性疾患、発癌性疾患、新生物疾患、及び癌を挙げることができる。いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、癌である。「癌」という用語は、概して、異常な細胞の急激かつ無制御な増殖を特徴とする疾患を指す。異常な細胞は、固形腫瘍を形成し得るか、又は血液学的な悪性腫瘍を構成し得る。癌細胞は、局所的に又は血流とリンパ系を通して身体の他の部分に拡散する。本開示の組成物及び方法によって治療される癌に関して具体的な制限は存在しない。好適な癌の非限定的な例としては、卵巣癌、腎臓癌、乳癌、前立腺癌、肝臓癌、脳腫瘍、リンパ腫、白血病、子宮頚部癌、皮膚癌、膵臓癌、結腸直腸癌、肺癌などが挙げられる。いくつかの実施形態において、癌は、肺癌である。いくつかの実施形態において、肺癌は、小細胞肺癌(SCLC)である。いくつかの実施形態において、SCLCは、KP1小細胞肺癌である。いくつかの実施形態において、SCLCは、KP2小細胞肺癌である。
【0202】
本開示の組成物及び方法を用いた治療に好適であり得る他の癌としては、これだけに限定されるものではないが、急性骨髄芽球性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、副腎皮質癌、肛門癌、再生不良性貧血、胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨転移、脳腫瘍、中枢神経系(CNS)癌、末梢神経系(PNS)癌、乳癌、子宮頸癌、結腸及び直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(例えばユーイング肉腫)、眼癌、移行細胞癌腫、腟癌、骨髄増殖性疾患、鼻腔及び副鼻腔癌、上咽頭癌、神経芽細胞腫、口腔及び中咽頭癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、陰茎癌、脳下垂体腫瘍、前立腺癌、網膜芽細胞腫、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、小児非ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、腎臓癌、喉頭及び下咽頭癌、肝臓癌、肺癌、肺カルチノイド腫瘍、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫、黒色腫皮膚癌、非黒色腫皮膚癌、胃癌、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、子宮癌(例えば子宮肉腫)、移行上皮癌、膣癌、外陰癌、中皮腫、扁平細胞及び類表皮癌、気管支腺腫、絨毛癌、頭部及び頸部癌、奇形腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、が挙げられる。
【0203】
特に好適な癌としては、これだけに限定されるものではないが、乳癌、卵巣癌、肺癌、膵臓癌、中皮腫、白血病、リンパ腫、脳腫瘍、前立腺癌、多発性骨髄腫、黒色腫、膀胱癌、骨肉腫、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、腎腫瘍、神経芽細胞腫、及び癌腫が挙げられる。
【0204】
いくつかの実施形態において、癌は、多剤抵抗性癌又は再発癌である。本明細書で開示される組成物及び方法が非転移癌と転移癌の両方に好適であることが、企図される。従って、いくつかの実施形態において、癌は、非転移癌である。ある他の実施形態において、癌は、転移癌である。いくつかの実施形態において、対象に投与される組成物は、対象における癌の転移を阻害する。例えば、いくつかの実施形態において、対象に投与される組成物は、対象における転移性小結節を低減し得る。いくつかの実施形態において、投与される組成物は、対象における腫瘍増殖を阻害する。
【0205】
いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、自己免疫疾患である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患は、関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、溶血性貧血、リウマチ熱、甲状腺炎、クローン病、重症筋無力症、糸球体腎炎、自己免疫性肝炎、多発性硬化症、円形脱毛症、乾癬、白斑、栄養障害性表皮水疱症、全身性エリテマトーデス、中程度から重度の尋常性乾癬、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎、移植片対宿主疾患、及び糖尿病性足部潰瘍から成る群から選択される。
【0206】
いくつかの実施形態において、投与される組成物は、標的癌細胞の増殖を阻害する、及び/又は対象における癌の腫瘍増殖を阻害する。例えば、標的細胞は、その増殖が低減される場合、その病理又は病原性挙動が低減される場合、それが破壊又はそれが殺滅される場合などに阻害され得る。阻害は、計測された病理又は病原性挙動の少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、又は約95%の低減を含む。
【0207】
いくつかの実施形態において、開示した治療用組成物は、その意図された投与経路と適合性があるように処方される。本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、及びワクチンは、経口又は吸入によって投与され得るが、それらは非経口経路を介して投与される可能性が高い。非経口投与経路の例には、例えば、静脈内、皮内、皮下、経皮(局所)、経粘膜、及び直腸投与が含まれる。非経口適用に使用される溶液又は懸濁液には、以下の成分:注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート化剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩などの緩衝剤;及び塩化ナトリウム又はデキストロース(ブドウ糖)などの等張性を調整するための薬剤、が含まれ得る。pHは、一塩基性及び/又は二塩基性リン酸ナトリウム、塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基を用いて(例えば、約7.2~7.8、例えば7.5のpHに)調整することができる。非経口製剤は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器又は複数回投与用バイアルに収容することができる。
【0208】
本開示の斯かる主題の多価ポリペプチド及び多価抗体の投与量、毒性及び治療効果は、例えば、LD50(母集団の50%に致死的な用量)及びED50(母集団の50%に治療上有効な用量)を決定するための、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手法によって決定することができる。毒性効果と治療効果の用量比が治療指数であり、それはLD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が一般的に適している。毒性副作用を示す化合物を使用することも可能であるが、未感染細胞への潜在的な損傷を最小限に抑え、それにより副作用を減らすために、作用を受ける組織の部位に斯かる化合物を標的指向する送達システムを設計するように留意しなければならない。
【0209】
例えば、細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、ヒトで使用するためのある範囲の投薬量を処方する際に使用することができる。このような化合物の投与量は、一般に、ほとんど又は全く毒性を持たないED50を含む、一定範囲の血中濃度の中に存在する。投与量は、使用する剤形や用いる投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。本開示の方法で使用される任意の化合物について、治療上有効な用量は、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。細胞培養で決定された場合、IC50(例えば症状の50%最大阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿中濃度範囲を達成するように、用量を動物モデルにおいて策定することができる。このような情報は、ヒトへの有用な用量をより正確に決定するために利用することができる。血漿中レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0210】
本明細書に記載の治療用組成物、例えば、多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組み換え細胞、細胞培養物、ワクチン、及び医薬組成物は、1日1回若しくは数回から一週間に1回ま若しくは複数回まで(1日おきに1回を含む)投与することができる。当業者は、疾患の重症度、前の治療、対象の一般的健康状態及び/又は年齢、並びに存在する他の疾患を含むがこれらに限定されないある種の要因が、対象を効果的に処置するのに必要とされる投与量とタイミングに影響を及ぼし得ることは理解するだろう。さらに、本開示の主題の多価ポリペプチドと多価抗体の治療上有効量による対象の治療は、単回処置を含むことができ、又は一連の処置を含むことができる。いくつかの実施形態において、組成物は、5日間に渡り8時間毎の投与に続き、2~14日間、例えば9日間の休止期間、それに続き追加の5日間に渡り8時間毎に投与される。多価ポリペプチド又は多価抗体に関しては、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体の治療有効量(例えば有効量)は、選択される多価ポリペプチド又は多価抗体に依存する。例えば、約0.001~0.1 mg/kg患者体重の範囲の単回投与量(1回量)を投与することができ、いくつかの実施形態において、約0.005、0.01、0.05 mg/kgを投与することができる。
【0211】
先に述べたように、本開示のいくつかの実施形態は、CD47及び/又はSIRPαによって媒介される細胞シグナル伝達を調節する方法に関する。その方法は、対象に、以下の:(i) 本開示の多価ポリペプチド、(ii) 本開示の多価抗体、(iii)本開示の遺伝子組み換え核酸分子、及び(iv) 本開示の組み換え細胞、のうちの1若しくは複数を含む組成物を投与することによって実投与される。別の態様において、本開示のいくつかの実施形態は、それを必要としている対象の健康状態の治療のための方法に関する。その方法は、対象に、以下の:(i) 本開示の多価ポリペプチド、(ii)本開示の多価抗体、(iii)本開示の遺伝子組み換え核酸分子、及び(iv) 本開示の組み換え細胞、のうちの1若しくは複数を含む組成物を投与することによって実投与される。いくつかの実施形態において、その方法は、対象に、本明細書で開示される治療用組成物の有効量を投与することによって実投与される。
【0212】
上記に論じたように、治療上有効量は、対象、例えば疾患を有する者、疾患を有する疑いのある者、又は健康状態、例えば、疾患のリスクがある者に投与された時に特定の効果を促進するのに十分である、治療組成物の量を含む。いくつかの実施形態において、有効量は、疾患の症状の発生を防止若しくは遅らせるか、疾患の症状の過程を変更する(例えば限定されないが、疾患の症状の進行を遅くする)か、又は疾患の症状を逆転させるのに十分な量を含む。いずれか特定の事例では、適当な有効量は、日常的実験を用いて当業者により決定することができると理解されよう。
【0213】
疾患の処置のための開示の治療用組成物を含む治療法の効果は、熟練した臨床医により決定することができる。しかしながら、疾患の兆候又は症状の少なくとも1つ若しくは全てが改善又は軽減されるならば、治療は効果的と見なされる。有効性は、入院又は医学的介入の必要性によって評価されるように、個体の状態が悪化しないこと(例えば病態の進行が停止するか、少なくとも遅くなる)によって測定することもできる。それらの指標(インジケーター)を測定する方法は、当業者に知られており、そして/又は本明細書に記載されている。治療は、個体又は動物の疾患(いくつかの非限定的な例ではヒトや哺乳動物が含まれる)の任意治療を含み、以下を含む:(1) 疾患を抑制すること、例えば症状の進行を停止又は遅くすること;又は(2) 病気を緩和すること、例えば症状の退縮を引き起こすこと;及び(3) 症状の発症の可能性を予防又は低減すること。
【0214】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、投与される組成物、例えば、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体、或いはそれらをコードする核酸は、細胞の表面に存在するSIRPα分子の空間的近位にRPTP活性を動員し、SIRPα分子のリン酸化レベルを減少させるホスファターゼ活性を惹起する。いくつかの実施形態において、投与される多価ポリペプチドは、RPTPと同じ細胞表面に存在するSIRPα分子の空間的近位にRPTPを動員し、例えば、cis位でのRPTPの細胞内ドメインとSIRPα分子の細胞内ドメインとの間の距離(例えば、RPTPとSIRPα分子は同じ細胞に存在する)は、約500オングストローム未満であり、例えば約5オングストロームから約500オングストロームの距離である。いくつかの実施形態において、空間的近位が約5オングストローム未満、約20オングストローム未満、約50オングストローム未満、約75オングストローム未満、約100オングストローム未満、約150オングストローム未満、約250オングストローム未満、約300オングストローム未満、約350オングストローム未満、約400オングストローム未満、約450オングストローム未満、又は約500オングストローム未満に等しい。いくつかの実施形態において、空間的近位は、約100オングストローム未満である。いくつかの実施形態において、空間的近位は、約50オングストローム未満になる。いくつかの実施形態において、空間的近位は、約20オングストローム未満になる。いくつかの実施形態では、空間的近位は、約10オングストローム未満になる。いくつかの実施形態において、空間的近位は、約10~100オングストローム、約50~150オングストローム、約100~200オングストローム、約150~250オングストローム、約200~300オングストローム、約250~350オングストローム、約300~400オングストローム、約350~450オングストローム、又は約400~500 オングストロームの範囲である。いくつかの実施形態において、投与される多価ポリペプチド又は多価抗体は、RPTPがSIRPα分子から約10~100オングストロームであるように、RITPを空間的近位に動員する。いくつかの実施形態において、空間的近位は、約100オングストローム未満になる。いくつかの実施形態において、cis位でのRPTPの細胞内ドメインとSIRPα分子の細胞内ドメインとの間の距離は、約250オングストローム未満、或いは約200オングストローム未満、或いは約150オングストローム未満、或いは約120オングストローム未満、或いは約100オングストローム未満、或いは約80オングストローム未満、或いは約70オングストローム未満、或いは約50オングストローム未満である。
【0215】
CD47及び/又はSIRPによって媒介される細胞シグナル伝達経路との関連において、「調節」という用語は、細胞シグナル伝達経路における変化を指す。調節とは、細胞シグナル伝達経路の増大(例えば、促進、増強、誘発、刺激)及び減少(例えば、低減、阻害、抑制) の両方、又は他のかたちでの影響を含む。本開示の方法のいくつかの実施形態において、投与される組成物(例えば、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体、或いはそれらをコードする核酸)は、SIRPαの空間的近位にRPTP活性を動員し、SIRPαの脱リン酸化を増強し、SIRPα媒介性シグナル伝達を低減し、マクロファージ食作用を促進し、及び/又は樹状細胞成熟を促進する。
【0216】
いくつかの実施形態において、RITP分子とSIRPα分子は、互いに関して空間的近位に置かれ、そして同様な条件下での未処置の対象におけるSIRPα分子のリン酸化レベルに比較して、SIRPα分子のリン酸化レベルを少なくとも又は少なくとも約10%、15 %、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%減少させることができ、又は前記数値のいずれか2つの範囲、例えば約20%~約60%(それらの百分率の間の数値も包含する)減少させることができる。
【0217】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物(例えば、多価ポリペプチド、多価抗体、又はそれらをコードする核酸)の投与は、対象においてSIRPα媒介性シグナル伝達の活性の低下をもたらす。SIRPα媒介性シグナル伝達の活性の低下は、同様な条件下での未処置の対象におけるSIRPα媒介性シグナル伝達の活性に比較して、少なくとも又は少なくとも約、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%、又は前記数値のいずれか2つの範囲、例えば約20%~約60% (それらの百分率の間の値も包含する)減少させることができる。
【0218】
開示された方法のいくつかの実施形態において、多価ポリペプチド又は多価抗体の投与は、対象においてマクロファージ活性の増強を付与する。マクロファージ活性は、同様の条件下での未治療の対象におけるマクロファージ活性と比較して、少なくとも又は少なくとも約、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、 65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%、又は前記値のいずれか2つの範囲、例えば約20%~約60%(それらの百分率の間にある数値を含む)だけ増強することができる。
【0219】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、哺乳動物はヒトである。いくつかの実施形態において、対象は、CD47及び/又はSIRPαによって媒介される細胞シグナル伝達の阻害に関連する健康状態を患っているか、又は患う疑いがある。本開示の組成物及び方法によって治療するのに適した健康状態としては、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、感染症が挙げられるがそれらに限定されない。いくつかの実施形態において、疾患は癌又は慢性感染症である。
【0220】
本開示のより一層更なる態様によると、対象において健康状態、例えば、癌、を予防又は治療する方法であって、以下のステップ:(i) 腫瘍抗原提示樹状細胞が生じるように、未成熟DCを癌関連抗原と共に培養し;(ii) 実質的に先に記載したプロセスに従って該樹状細胞を成熟させて、成熟DCを生じさせ;そして(iii) 該対象に、その成熟抗原提示樹状細胞を投与すること、を含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、樹状細胞は、骨髄由来樹状細胞(BMDC)である。
【0221】
本開示のより一層更なる態様によると、対象において寄生生物、ウイルス、微小真菌、細菌による感染症を予防又は治療する方法であって、以下のステップ:(i) 抗原提示樹状細胞が生じるように、未成熟DCを寄生生物-、ウイルス-、微小真菌-、細菌-関連抗原と共に培養し;(ii) 実質的に先に記載したプロセスに従って該樹状細胞を成熟させて、成熟DCを生じさせ;そして(iii) 該対象に、その成熟抗原提示樹状細胞を投与すること、を含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、樹状細胞は、骨髄由来樹状細胞(BMDC)である。
追加療法
【0222】
上記に記載のとおり、本明細書で記載した組成物、例えば、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組み換え細胞、細胞培養、及び/又は医薬組成物、のうちのいずれか一つが、単独の治療法(例えば、単独療法)としてそれを必要としている対象に投与される。加えて又はその代わりに、いくつかの実施形態において、本明細書で記載した多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組み換え細胞、細胞培養、及び/又は医薬組成物は、1若しくは複数の追加療法、例えば、少なくとも1、2、3、4、又は5つの追加療法と組み合わせて、対象に投与され得る。本開示の組成物と組み合わせて投与されるのに好適な治療法としては、これだけに限定されるものではないが、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、標的療法、及び外科手術が挙げられる。他の好適な治療法としては、化学療法剤、抗癌剤、抗癌療法などの治療薬が挙げられる。
【0223】
1若しくは複数の追加の治療法と「併用」投与することは、任意の順序での同時(simultaneous )(並行(concurrent))及び連続投与を含む。いくつかの実施形態において、1若しくは複数の追加療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法及び外科手術からなる群より選択される。化学療法という用語は、本明細書中で使用される場合、抗癌剤を包含する。様々なクラスの抗癌剤が、本明細書で開示される方法のために好適に使用できる。抗癌剤の非限定的な例としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体(例えばモノクローナル又はポリクローナル)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えばメシル酸イマチニブ(Gleevec(登録商標)又はGlivec(登録商標))、ホルモン治療薬、可溶性受容体及び他の抗腫瘍薬が挙げられる。
【0224】
トポイソメラーゼ阻害剤もまた、本明細書で使用することができる別のクラスの抗癌剤である。トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持する必須の酵素である。I型又はII型トポイソメラーゼの阻害は、適当なDNAスーパーコイルを混乱させることにより、DNAの転写と複製の両方を妨害する。いくつかのI型トポイソメラーゼ阻害剤には、カンプトテシン、例えば、イリノテカン及びトポテカンなど、が含まれる。タイプII阻害剤の例には、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、及びテニポシドが含まれ、これらはエピポドフィロトキシンの半合成誘導体であり、アメリカのミヤオソウ(Podophyllum peltatum)の根の中に天然に存在するアルカロイドである。
【0225】
抗腫瘍剤には、免疫抑制剤であるダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イホスファミドが含まれる。抗腫瘍性化合物は一般に、細胞のDNAを化学修飾することによって機能する。
【0226】
アルキル化剤は、細胞内に存在する条件下で多数の求核性官能基をアルキル化することができる。シスプラチンとカルボプラチン、及びオキサリプラチンはアルキル化剤である。それらは、生物学的に重要な分子中のアミノ、カルボキシル、スルフヒドリル、及びリン酸基と共に共有結合を形成することによって細胞機能を害する。
【0227】
ビンカアルカロイドは、チューブリン上の特定の部位に結合し、チューブリンの微小管への集合を阻害する(細胞周期のM期)。ビンカアルカロイドには、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、及びビンデシンが含まれる。
【0228】
代謝拮抗物質は、プリン類(アザチオプリン、メルカプトプリン)又はピリミジン類に類似しており、これらの物質が細胞周期の「S」期中にDNAに組み込まれるのを防止し、正常な発達と分裂を停止させる。代謝拮抗物質はRNA合成にも影響を与える。
【0229】
植物アルカロイド及びテルペノイドは、植物から得られ、微小管機能を防止することによって細胞分裂を阻止する。微小管は細胞分裂に不可欠であるため、微小管なしでは細胞分裂は起こることができない。主な例は、ビンカアルカロイドとタキサンである。
【0230】
ポドフィロトキシンは植物由来の化合物であり、消化を助けるだけでなく、他の2つの細胞増殖抑制剤、エトポシドとテニポシドの生成にも使用されることが報告されている。それらは、細胞がG1期(DNA複製の開始期)及びDNAの複製(S期)に入るのを防止する。
【0231】
グループとしてのタキサンは、パクリタキセルとドセタキセルを含む。パクリタキセルは天然物で、もともとはタキソールとして知られ、最初はタイヘイヨウイチイの木の樹皮から誘導された。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成類似体である。タキサンは微小管の安定性を高め、減数分裂後期の染色体の分離を防ぐ。
【0232】
いくつかの実施形態において、抗癌剤は、レミケード、ドセタキセル、セレコキシブ、メルファラン、デキサメタゾン(Decadron (登録商標))、ステロイド、ゲムシタビン、シス白金、テモゾロミド、エトポシド、シクロホスファミド、テモダール、カルボプラチン、プロカルバジン、グリアデル、タモキシフェン、トポテカン、メトトレキサート、ゲフィチニブ(Iressa (登録商標))、タキソール、タキソテール、フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、キセロダ、CPT-11、インターフェロンα、ペグ化インターフェロンα(例えばPEG INTRON-A)、カペシタビン、シスプラチン、チオテパ、フルダラビン、カルボプラチン、リポソームダウノルビシン、シタラビン、ドセタキソール(ドセタキセル)、パクリタキセル、ビンブラスチン、インターロイキンー2(IL-2)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ダカルバジン、ビノレルビン、ゾレドロン酸、パルミトロネート、ビアキシン、ブスルファン、プレドニゾン、ボルテゾミブ(Velcade(登録商標))、ビスホスホネート、三酸化ヒ素、ビンクリスチン、ドキソルビシン(Doxil(登録商標))、パクリタキセル、ガンシクロビル、アドリアマイシン、エストラムスチンリン酸ナトリウム(Emcyt(登録商標))、スリンダック、エトポシド、及びそれらのいずれかの組み合わせから選択することができる。
【0233】
他の実施形態において、抗癌剤は、ボルテゾミブ、シクロホスファミド、デキサメタゾン、ドキソルビシン、インターフェロンα、レナリドミド、メルファラン、ペグ化インターフェロンα、プレドニゾン、サリドマイド又はビンクリスチンから選択することができる。
【0234】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療方法は、免疫療法をさらに含む。いくつかの実施形態において、免疫療法は、1若しくは複数のチェックポイント阻害剤の投与を含む。従って、本明細書に記載の治療方法のいくつかの実施形態は、1若しくは複数の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物の投与を更に含む。免疫チェックポイント分子の非限定的な例としては、CTLA4、PD-1、PD-L1、A2AR、B7-H3、B7-H4、TIM3、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、1若しくは複数の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物は、拮抗薬抗体を含む。本明細書で開示される組成物及び方法のために好適な抗体の非限定的な拮抗薬の例としては、これだけに限定されるものではないが、イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、トレメリムマブ、又はアベルマブが挙げられる。
【0235】
いくつかの態様において、1若しくは複数の抗癌療法は放射線療法である。いくつかの実施形態において、放射線療法は、癌細胞を死滅させるための放射線の投与を含み得る。放射線は、DNAなどの細胞内の分子と相互作用して細胞死を誘発する。放射線は、細胞膜や核膜、その他の細胞小器官に損傷を与えることができる。放射線の種類に応じて、DNA損傷の機構は、相対的な生物学的有効性とまさに同様に異なる場合がある。例えば、重い粒子(すなわち陽子、中性子)はDNAに直接損傷を与え、重い粒子ほど相対的な生物学的有効性が大きくなる。電磁放射線は、主に細胞の水分のイオン化によって生成される短命のヒドロキシルフリーラジカル(遊離基)を介して作用する、間接イオン化をもたらす。放射線の臨床用途は、外照射(外部源からの)と近接照射療法(患者に埋め込まれた又は挿入された放射線源を使用)から構成される。外照射はX線及び/又はγ線から成り、一方で近接照射療法は、崩壊してα粒子又はγ線とともにβ粒子を放出する放射性核種を使用する。本明細書で企図される放射線は、例えば、癌細胞への放射性同位体の直接送達を含む。マイクロ波やUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も本明細書で考慮される。
【0236】
放射線は、単回線量で、又は線量分割スケジュールで一連の少量で付与することができる。本明細書で企図される放射線の量は、約1~100 Gy、例えば、約5~約80 Gy、約10~約50 Gy、又は約10 Gyの範囲である。総線量は、分割レジメン適用することができる。例えば、レジメンには2 Gyの分割された個別線量が含まれ得る。放射性同位体の線量範囲は広範囲に異なり、同位体の半減期及び放出される放射線の強度と種類に依存する。放射線が放射性同位体の使用を含む場合、同位体は、放射性ヌクレオチドを標的組織(例えば腫瘍組織)に運搬する治療用抗体などの標的指向剤に結合させることができる。
【0237】
本明細書に記載の外科手術は、癌性組織の全部又は一部が物理的に除去され、切除されそして/又は破壊される切除術を含む。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。腫瘍切除に加えて、手術による治療には、レーザー手術、凍結手術、電気外科手術、及び顕微鏡下手術(モース手術)が含まれる。前癌又は正常組織の除去も本明細書で考慮される。
【0238】
従って、いくつかの実施形態において、本開示の方法は、単独の治療法(例えば、単独療法)として、個別に対象への本明細書で開示される組成物の投与を含む。いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、第一の治療法として第二の治療法と組み合わせて、対象に投与される。いくつかの実施形態において、第二の治療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素治療法、及び外科手術から成る群から選択される。いくつかの実施形態において、第一の治療法と第二の治療法が同時に投与される。いくつかの実施形態において、第一の治療法は、第二の治療法と同時に投与される。いくつかの実施形態において、第一の治療法及び第二の治療法は連続して投与される。いくつかの実施形態において、第一の治療法は、第二の治療法の前に投与される。いくつかの実施形態において、第一の治療法は、第二の治療法の後に投与される。いくつかの実施形態において、第一の治療法は、第二の治療法の前及び/又は後に投与される。いくつかの実施形態において、第一の治療法と第二の治療法は、交互に投与される。いくつかの実施形態において、第一の治療法及び第二の治療法は、単一の製剤で一緒に投与される。
キット
【0239】
本明細書で記載した方法の実施のためのキットもまた、本明細書で提供される。キットは、その取扱説明書、並びに本明細書で記載及び提供したとおり本明細書で開示された多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組み換え細胞、及び医薬組成物のうちの1若しくは複数を含み得る。例えば、いくつかの実施形態において、本開示の1若しくは複数の多価ポリペプチド及び/又は多価抗体、並びにその取扱説明書を含むキットが本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、本開示の1若しくは複数の核酸、組み換え細胞、及び/又は医薬組成物;並びにその取扱説明書を含むキットが本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、本開示のキットは、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組み換え細胞、及び医薬組成物の調製と、それらの使用に関する書面での説明書をさらに含む。
【0240】
いくつかの実施形態において、本開示のキットは、それを必要としている対象に、提供された免疫細胞、核酸、及び医薬組成物のいずれか1つを投与するのに使用される1若しくは複数のシリンジ(プレフィルド・シリンジを含む)及び/又はカテーテル(プレフィルド・シリンジを含む)をさらに含む。いくつかの実施形態において、キットは、所望の目的のための、例えば、CD47及び/又はSIRPαによって媒介される細胞シグナル伝達を調節するか、又はそれを必要としている対象の健康状態を予防若しくは治療するための、他のキット構成要素と同時又は連続して投与できる1若しくは複数の追加の治療薬を有する。
【0241】
例えば、任意の先に記載したキットは、1若しくは複数の追加試薬をさらに含むことができ、そこでは、斯かる追加試薬は、以下の:希釈バッファー;再構成溶液、洗浄バッファー、対照試薬、対照発現ベクター、陰性対照T細胞集団、陽性対照T細胞集団、T細胞集団のエクスビボ製造のための試薬、から選択され得る。
【0242】
いくつかの実施形態において、キットの構成要素は、別々のコンテナ内に存在し得る。ある他の実施形態において、キットの構成要素は、1つのコンテナ内に組み合わせられ得る。例えば、本開示のいくつかの実施形態において、キットは、一方のコンテナ内の(例えば、滅菌ガラス又はプラスチックバイアル内の)1若しくは複数の、本明細書で開示される多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組み換え細胞、及び医薬組成物、並びに別のコンテナ内の(例えば、滅菌ガラス又はプラスチックバイアル内の)更なる治療薬を含む。
【0243】
いくつかの実施形態において、キットは、本明細書で記載した方法を実施するためのキットの構成要素の取扱説明書を更に含み得る。例えば、キットは、そのキット内の医薬組成物及び剤形に関する情報を含む添付文書を含み得る。概して、斯かる情報は、同封の医薬組成物及び剤形を効果的かつ安全に使用する際に患者や医師にとって助けとなる。例えば、本開示の組み合わせ物に関する以下の情報:薬物動力学、薬力学、臨床試験、有効性パラメーター、適応症と用法、禁忌、警告、注意、有害反応、過剰投与量、適切な用法と用量、供給方法、適切な貯蔵条件、参考文献、製造業者/販売代理店情報、及び知的所有権情報、が添付文書で提供され得る。
【0244】
いくつかの実施形態において、キットは、方法を実施するためのキットの構成要素の取扱説明書をさらに含む。方法を実施するための説明書は概して、好適な記録媒体に記録される。例えば、説明書は、紙又はプラスチックなどの実体上に印刷され得る。説明書は、キット又はその構成要素の(例えば、包装又は分包に関連する)コンテナなどの標識で、添付文書としてのキット内に存在する。説明書は、好適なコンピュータ可読記憶媒体、例えば、CD-ROM、ディスケット、フラッシュドライブなど、に存在する電子記憶データファイルとして存在し得る。場合によっては、実効命令はキット内には存在しないが、(例えば、インターネットを介して)遠隔の供給元から説明書を得る手段が提供され得る。この実施形態に関する例は、説明書を見ることができる、及び/又はそこから説明書をダウンロードできるウェブアドレスを含むキットである。説明書と同様に、説明書を得るこの手段が好適な実体に記録され得る。
【0245】
本開示で言及される全ての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願が参照により組み込まれることが具体的にかつ個別に示されたかのように同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0246】
本明細書で引用されたいかなる参考文献も先行技術を構成するとは認められない。参考文献の議論は、その著者が何を主張しているかを述べており、出願人は、引用された文書の正確性と適切性に異議を唱える権利を保有する。科学雑誌の文献、特許文書、教科書をはじめとする多くの情報源が本明細書で参照されることは、明確に理解されるだろう。この参照は、それらの文書のいずれかが当技術分野の一般的な知識の一部を形成しているという承認を成すものではない。
【0247】
本明細書で与えられる一般的方法の議論は、例示目的のみを意図している。他の代替的方法及び代替物は、本開示を再考察すれば当業者に明らかであり、本出願の精神及び範囲内に含まれるべきである。
【実施例】
【0248】
本発明の実施は、別段の指示がない限り、当業者にとって周知の、分子生物学、微生物学、細胞生理学、生化学、核酸化学、及び免疫学の従来技術を用いる。斯かる技術は、以下の文献:Sambrook, J., & Russell, D. W. (2012). Molecular Cloning: A Laboratory Manual (4th ed.). Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory and Sambrook, J., & Russel, D. W. (2001). Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.). Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory (本明細書では一緒に「Sambrook」と呼ばれる); Ausubel, F. M. (1987). Current Protocols in Molecular Biology. New York, NY: Wiley (2014年を通じた付録を含む); Bollag, D. M. et al. (1996). Protein Methods. New York, NY: Wiley-Liss; Huang, L. et al. (2005). Nonviral Vectors for Gene Therapy. San Diego: Academic Press; Kaplitt, M. G. et al. (1995). Viral Vectors: Gene Therapy and Neuroscience Applications. San Diego, CA: Academic Press; Lefkovits, I. (1997). The Immunology Methods Manual: The Comprehensive Sourcebook of Techniques. San Diego, CA: Academic Press; Doyle, A. et al. (1998). Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology. New York, NY: Wiley; Mullis, K. B., Ferre, F. & Gibbs, R. (1994). PCR: The Polymerase Chain Reaction. Boston: Birkhauser Publisher; Greenfield, E. A. (2014). Antibodies: A Laboratory Manual (2nd ed.). New York, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press; Beaucage, S. L. et al. (2000). Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry. New York, NY: Wiley, (2014年を通じた付録を含む); 及びMakrides, S. C. (2003). Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells. Amsterdam, NL: Elsevier Sciences B.V. などで完全に説明されており、それらの開示を参照により本明細書に援用する。
【0249】
追加の実施態様は、下記の実施例に更に詳細に開示されるが、それは例示目的のみで与えられ、いかなる形でも本開示及び特許請求の範囲の範囲を限定するものではない。
実施例1. 一般的な実験手順
細胞株
【0250】
細胞株は、別段規定されない限り、5%のCO2を伴い37℃にて加湿インキュベータ内で維持された。HEK293T(LentiX)細胞(女性由来腎臓細胞株)を、10%のFBS、2mMのL-グルタミン、及び50U/mlのペニシリン及びストレプトマイシンを補充したDMEM完全培地(Thermo Fisher)中で培養した。MC38を、Kerafastから購入し、10%のFBS、2mMのL-グルタミン、0.1mMのNEAA、1mMのNaPyr、10mMのHEPES、50U/mlのP/S、50μg/mlの硫酸ゲンタマイシンを含有するDMEM完全培地中で培養した。
動物
【0251】
すべての動物を、Administrative Panel on Lab Animal Care(APLAC)によって承認されたプロトコール及びガイドラインに従って、スタンフォード大学にて飼育した。C57BL/6JマウスをJackson Labs(Cat 000664)から購入した。B6.Cg-Foxp3tm2Tch/J(B6.FoxP3GFP、Cat #006772)及びB6.Cg-Thy1a/Cy Tg(TcraTcrb) 8Rest/J(pmel-1 TCR tgマウス、Cat #005023)を、Jackson Labsから購入し、社内で繁殖させた。
タンパク質発現
【0252】
昆虫Tni細胞(Expression Systems, cat. #94-002S)を、終濃度10mg/Lの硫酸ゲンタマイシン(Thermo Fisher)を含んだInsect X-press培地(Lonza)又はESF921培地(Expression Systems)中、27℃及び大気CO2にて培養した。SF9細胞(Thermo Fisher Scientific)を、10%のFBS、終濃度10mg/Lの硫酸ゲンタマイシン及び2mMのGlutamaxを含んだSF900-III又は-II無血清培地(Thermo Fisher)中で27℃及び大気CO2にて培養した。P1又はP2ウイルスを、~2×106細胞/mlにて体積1~3LのHi5細胞を感染させるのに使用した。新しいP1又はP2調製物を新鮮なP0バッチから日常的作製した。上清を、感染2~3日後に採取し、8000rpmにて15分間遠心分離した。発現タンパク質を含有する上清を、100mMのTris pH8.0、2mMのNiCl2、及び10mMのCaCl2に対して処理して、混入物を沈殿させた。上清と沈降物の混合物を、4℃にて8000rpmで20分間遠心して、沈降物を取り除いた。上清を、Ni-NTA樹脂(QIAGEN)と共に室温にて>3時間インキュベートした。NTA-Niビーズを回収し、ブフナー漏斗内で1×HBS pH7.2中の20mMのイミダゾールで洗浄し、1×HBS pH7.2中の200mMのイミダゾールで溶出した。タンパク質を、~1mLまで又は10mg/mlまで10kDaフィルター(Millipore, UFC903024)により濃縮した。適切な時点で、タンパク質を、BirAリガーゼ、100μMのビオチン、40mMのビシンpH8.3、10mMのATP、及び10mMの酢酸マグネシウムを用いて4℃にて一晩ビオチン化した。すべてのタンパク質を、必要に応じて、Superdex Increase S200又はS75(GE Healthcare)を使用したサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した。インビボ研究のためのすべてのタンパク質は、エンドトキシンを除去した。最終的なエンドトキシンレベルを、色素エンドトキシン定量化キット(Thermo Fisher)を使用して測定し、そして、1エンドトキシン単位/mg超の精製タンパク質は絶対になかった。RIPRタンパク質を、最長2週間にわたり4℃にて維持して、凍結/融解サイクルを予防した。
PBMC刺激
【0253】
PBMCをStanford Blood Bankから入手した。健康な血小板ドナーからの非特定化白血球低減チャンバー内の細胞を、できるだけ早く、かつ、血小板フェレーシス後18時間以内に加工した。PBMCを、プレート結合OKT3及びCD28(先に記載)又はPepMix(商標) Peptide Poolシリーズ(JPT Peptide Technologies GmbH、Germany)からの20μMのCEFX Ultra SuperStim Poolを用いて刺激した。ペプチド活性刺激のために、細胞を、第一のインキュベーションの24時間後に、第二の用量の20μMのCEFX Ultra SuperStim Poolで処理した。この時点で、細胞を、抗体、RIPR、CD45ダイアボディ又は適切な対照と共にインキュベートした。細胞と上清を、抗体、RIPR又は適切な分子とのインキュベーション後24、48及び72時間で回収した。
実施例2. RIPR-SIRPαデザインと発現
【0254】
2種類のRIPR-SIRPα分子を開発した。第一世代RIPR-SIRPαは、「Velcro」、高親和性CD47変異分子に融合させた、抗CD45 scFv(クローン#4、WO2005/026210で以前に記載)から構成された(例えば、
図2A~2Cを参照のこと)。高親和性変異体Velcro-CD47は、野生型CD47に対して大きく増強された親和性で2つの最も有名なヒトSIRPα対立遺伝子に結合し、そして、ヒトマクロファージ上のSIRPαに結合するCD47と強力に拮抗することが報告された(Ho C.C. et al., 2015)。これらの構築物では、Gly-Serリンカー配列又は3C切断部位をコードするGGSLEVLFQGPGSGS (配列番号10)が、抗CD45 scFv配列とVelcroとの間に挿入された。
【0255】
第二世代RIPR-SIRPαは、抗SIRPα scFvに融合させた同じ抗CD45 scFvから構成され、そしてそれは、Sim J. et al. MAbs, 2019, Vol. No. 6, pp. 1036-1052に記載のクローンAB21である。
図2Bに示たように、3C切断部位を、抗CD45と抗SIRPαアームとを接続するリンカー領域内に挿入した。RIPR-SIRPαタンパク質を、WO2019222547A1において先に記載されたとおりTni細胞において生産した。Velcroを、先に記載のとおり生産した(Ho C.C. et al.、前掲、2015)。AB21Fabに対応する配列を、gblocksとして指示され、Expi293細胞におけるタンパク質発現に適切なプラスミド内にクローン化した。
【0256】
すべてのタンパク質を、Ni-NTAを使用して精製し、そして、SEC後の単分散ピークに対応する画分を貯留し、濃縮した。タンパク質完全性を、還元及び非還元SDS-PAGE電気泳動とその後のクマシーブルー染色によってさらに確認した。タンパク質を、即座の使用のために4℃にて維持するか、又は-80℃にて冷凍保存した。
実施例3. SIRPαリン酸化と食作用アッセイ
【0257】
SIRPαリン酸化を再構成するために、約4×106個のHEK293細胞を、最適化した比にて、完全長ヒトLck、CD45、CD45Dead又はSIRPαをコードするプラスミドを用いて一過性に形質移入した。細胞を、形質移入の24時間後に、RIPR-SIRPαを用いて37℃にて30分間処理した。対照として、RIPR-SIRPαを、3C酵素(100μg/mL)を用いて4℃にて14時間処理した。切断を、SDS-PAGE電気泳動後のクマシーブルー染色によって分析した。切断されたRIPR-SIRPαを、37℃にて30分間にわたり細胞に追加した。処理後に、細胞を採取し、そして、細胞溶解物を、免疫沈降反応のために抗HA磁性ビーズ(Pierce, Thermo Fisher Scientific)と共にインキュベートした。細胞溶解物を、HA、SIRPα、及びホスホチロシンについてウエスタンブロットによって分析した。内因性SIRPαリン酸化レベルを定量化するために、約1×107個のTHP-1マクロファージを、100nMのAB21Fab又はRIPR-SIRPαと共に37℃にて30分間インキュベートし、その後、細胞を採取し、そして、細胞溶解物を、5μgの抗SIRPα抗体と共に4℃にて1時間インキュベートし、30μLのProtein A/G磁性ビーズ(Pierce, Thermo Fisher Scientific)と共に一晩インキュベートした。すべての細胞を、2×Phosphatase Inhibitor Cocktail(Abcam and Promega)、Protease Inhibitor Cocktail Tablet(Roche)、Orthovanadate(NEB)、2mMのEDTA、及び1%(w/v)のn-Dodecylβ-D-マルトシド(Anatrace)を補充したPierce IP Lysis Buffer(Pierce Thermo Fisher Scientific, #87787)で溶解した。免疫沈降反応後に、SIRPαリン酸化を、ウエスタンブロットによって分析した。食作用アッセイのために、約5×104個のヒトPBMCマクロファージを、ヒトRIPR-SIRPα、Velcro又は抗SIRPαFab、クローンAB21を用いて又はそれなしに37℃にて30分間前処理し、及び~1×105個のヒト腫瘍Raji B細胞を、さまざまなRituximab(0~5μg/mL)を用いて37℃にて30分間前処理した。インキュベーション後に、マクロファージ細胞を、1×104個のCFSE標識Raji B細胞と共に37℃にて2時間共培養した。細胞を採取し、マクロファージマーカーCD11bを用いて4℃にて20分間染色し、そして、CytoFLEX Flow Cytometerによって分析した。
実施例4. 「Vecro」SIRPα-RIPRは、SIRPαチロシンリン酸化を確実に低減し得る
【0258】
この実施例は、本開示のいくつかの実施形態に従って設計した「Vecro」SIRPα-RIPR多価ポリペプチドがSIRPαチロシンリン酸化を確実に低減することを実証するために実施した実験の結果を記載する。
図3Bに示されるとおり、これらの実験では、HEK293細胞が、標的受容体のヒトHA-SIRPα、Lck、及びヒトCD45で一過性に形質移入される。形質移入の24時間後に、細胞を、未処理のままにするか(レーン4)、或いはSIRPα-RIPR(GS)(レーン1、2、及び3)又はSIRPα-RIPR(3C)(レーン5、6、及び7)と共に37℃にて20分間インキュベートして、SIRPαの細胞内ドメインへのCD45細胞内ドメインのcis動員を誘発した(例えば、RPTP及びSIRPα分子は同じ細胞内に存在する)。CD45ホスファターゼ欠乏群は、対照目的のために含まれた(CD45不活化(dead);C853S)。溶解後に、キメラ受容体を、磁性ビーズに直接結合させた抗HA抗体を用いて免疫沈降させた。サンプルを、ウエスタンブロット法によってホスホチロシン(pTyr)とSIRPαに関して調査した。データは、3つの独立した生物学的反復を代表するものである。
実施例5. ヒトSIRPα-RIPRリガンドは、Rituximab媒介性ADCPを増強する
【0259】
この実施例は、本開示のいくつかの実施形態に従って設計したSIRPα-RIPR多価ポリペプチドが抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCP)であり得ることを実証するために実施した実験を記載する。非限定的な食作用アッセイを、食作用と抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCP)に対するSIRPα-RIPR機能を試験するために設計した(
図4A~4C)。
図4Aは、マクロファージにおけるCD47-SIRPα「don’t eat me」というシグナル軸の概要描写を示す。基底状態では、マクロファージ上のSIRPαによる腫瘍細胞へのCD47の動員は、SHP1及び2の動員、そして食作用の活性化及び阻害をもたらす。
図4Bは、SIRPα-RIPRの効果を試験するための食作用アッセイの図解を示す。CD45の動員によりSIRPシグナル伝達をサイレンシングするSIRPα-RIPRは、その結果、食作用を脱阻害する。
図4Cは、SIRPα-RIPRの効果を試験するための抗体依存性細胞食作用アッセイの図解を示す。SIRPα-RIPRは、CD45を動員することによってSIRPαシグナル伝達をサイレンシングする。
【0260】
ヒトSIRPα-RIPRリガンドがRituximab媒介性ADCPを促進することを実証するために実施した実験の結果を、
図5A~5Cに示す。ヒトSIRPα-RIPRリガンドは、Rituximab媒介性ADCPを増強する。SIRPα-RIPRを試験するための食作用アッセイ。5×10
4個のヒトマクロファージを「Velcro」ヒトSIRPα-RIPR(GS)又は「Velcro」ヒトSIRPα-RIPR(3C)を用いて37℃にて30分間前処理し、そのマクロファージを1×10
5個のRaji細胞(CFSE標識)と共に37℃にて2時間共培養した。抗CD47が、陽性対照のために含まれた(
図5A)。SIRPα-RIPRを試験するためのADCPアッセイを
図5Bに示す。5×10
4個のヒトマクロファージを「Velcro」、ヒトSIRPα-RIPR(GS)又はSIRPα-RIPR(3C)を用いて37℃にて30分間前処理し、1×10
5個のRaji細胞を5μg/mLの抗CD20抗体(リツキシマブ)を用いて又はそれなしに37℃にて30分間前処理し、そのマクロファージをRaji細胞と共に37℃にて2時間共培養した。細胞を採取し、CD11bで4℃にて20分間染色した。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1つの代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである。
図5Cでは、ヒトマクロファージを、ヒトSIRPα-RIPRを用いて又はそれなしに37℃にて30分間前処理した。Raji細胞をさまざまなRituximab(0~5μg/mL)を用いて37℃にて30分間前処理した。そのマクロファージをRaji細胞と共に37℃にて2時間共培養した。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1つの代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである。
実施例6. SIRPα-RIPR二重特異性抗体は、ヒトSIRPαの脱リン酸化を増強する
【0261】
この実施例は、本開示のいくつかの実施形態による例示的なSIRPα-RIPR二重特異性抗体がヒトSIRPαの脱リン酸化を増強できることを実証するために実施した実験を記載する。
【0262】
本開示のいくつかの実施形態による二重特異性抗体SIRPα-RIPRデザインの非限定的な例を、
図6Bに示す。
図6Bはまた、AB21 scFv及びAB21ベースのヒトSIRPα- RIPR分子の略図、並びにAB21、GSリンカーを伴ったSIRPα-RIPR(例えば、GGGGTGGS;配列番号9)、3Cリンカーを伴ったSIRPα-RIPR(LEVLFQGP;配列番号11)のアミノ酸配列も示す。ヒトSIRPα及びさまざまなマウス系統由来のマウスSIRPαと抗体AB21の親和性結合(PCT公開公報第WO2018057669A1号)を
図6Aに示す。
【0263】
AB21 SIRPα-RIPRがヒトSIRPαの脱リン酸化を増強することを実証するために実施した実験の結果である。AB21 SIRPα-RIPRがヒトSIRPαの脱リン酸化を増強することを、
図7A~7Cに示す。SIRPα-RIPR機構の概要描写を、
図7Aに示す。CD45及びSIRPαに対する二重特異性ダイアボディの概要描写を、
図7Bに示す。HEK293細胞に、ヒトHA-SIRPα、Lck、及びヒトCD45で一過性に形質移入し、形質移入の24時間後に、細胞を、未処理のままにするか(レーン1)、或いはAb21(レーン2及び3)SIRPα-RIPR(GS)(レーン4、5)と共に37℃にて20分間インキュベートして、SIRPαの細胞内ドメインへのCD45ホスファターゼのcis動員を誘発した。CD45不活化群は、対照目的のために含まれた。溶解後に、キメラ受容体を、磁性ビーズに直接結合させた抗HA抗体を用いて免疫沈降させた。サンプルを、ウエスタンブロット法によってpTyrとSIRPαに関して調査した(
図7C)。データは、3つの独立した生物学的反復を代表するものである。
実施例7. SIRPα-RIPRはSIRPαトニックシグナル伝達を低減し、かつ、ヒトマクロファージのADCPを促進する
【0264】
この実施例は、SIRPα-RIPRがSIRPαシグナル伝達を低減し、そして、ヒトマクロファージのADCPを促進することを実証するために実施した実験の結果を記載する。休止型THP1マクロファージからの免疫沈降反応後のSIRPαリン酸化を検出した(
図8A)。THP1マクロファージを、SIRPαIPに先立って、500nM AB21、又はSIRPα-RIPRと共に37℃にて30分間インキュベートした。インビトロ抗体依存性細胞食作用(ADCP)アッセイを、ヒトPBMCから単離し、そして、示した濃度にて(
図8B)又は1μg/mL(
図8C)にてRituximabで前処理したRaji細胞と共にインキュベートしたマクロファージを使用して実施した。マクロファージ細胞を標的細胞と共に37℃にて2時間インキュベートした。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1人の代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである。
実施例8. SIRPα-RIPRはSIRPαトニックシグナル伝達を低減し、かつ、マウスマクロファージのADCPを促進する。
【0265】
この実施例は、SIRPα-RIPRがSIRPαトニックシグナル伝達を低減し、そして、マウスマクロファージのADCPを促進することを実証するために実施した実験の結果を記載する。本開示のいくつかの実施形態による二重特異性抗体SIRPα-RIPRデザインの別の非限定的な例を、
図9A~9Bに例示する。AB21 scFv及びAB21ベースのマウスSIRPα- RIPR分子の略図、並びにAB21、GSリンカーを伴ったSIRPα-RIPR、3Cリンカーを伴ったSIRPα-RIPR(LEVLFQGP;配列番号11)のアミノ酸配列を、
図9Aに示す。AB21とSIRPα-RIPRがHi5細胞で発現される。タンパク質を、サイズ排除クロマトグラフィーによって分析した(
図9B)。
【0266】
先の
図9A~9Bに記載の二重特異性抗体SIRPα-RIPRがSIRPαトニックシグナル伝達を低減し、そして、マウスマクロファージのADCPを増強することを実証するために実施した実験の結果を、
図10A~10Cにまとめる。
図10A~10Cに示すように、SIRPα-RIPRはSIRPαシグナル伝達を低減し、かつ、マウスマクロファージのADCPを促進した。HEK293細胞に、マウスHA-SIRPα、Lck、及びマウスCD45で一過性に形質移入し、形質移入の24時間後に、細胞を、未処理のままにするか(レーン1)、或いはAb21(レーン2及び3)SIRPα-RIPR(GS)(レーン4、5)と共に37℃にて30分間インキュベートして、SIRPαの細胞内ドメインへのCD45細胞内ドメインのcis動員を誘発した。CD45不活化群は、対照目的のために含まれた。溶解後に、キメラ受容体を、磁性ビーズに直接結合させた抗HA抗体を用いて免疫沈降させた。サンプルを、ウエスタンブロット法によってpTyrとSIRPαに関して調査した。データは、3つの独立した生物学的反復を代表するものである(
図10A)。休止型J774マクロファージからの免疫沈降反応後のSIRPαリン酸化を検出した。J774マクロファージを、SIRPαIPに先立って、AB21、又はマウスSIRPα-RIPRと共に37℃にて30分間インキュベートした(
図10B)。マウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)細胞を、2μg/mLの抗TRP-1 mAb(TA99)を用いて又はそれなしに37℃にて2時間前処理したB16F10(CFSE標識)と共にインキュベートした。マウスCD47ナノボディA4は、対照目的のために含まれた。食作用をフローサイトメトリーによって定量化した。データは、2つの独立した実験のうちの1つの代表からのn=2の生物学的反復からの平均±SDである(
図10C)。
実施例9. SIRPα-RIPRは骨髄由来樹状細胞(BMDC)の成熟化を促進する
【0267】
この実施例は、SIRPα-RIPRが骨髄樹状細胞(BMDC)の成熟化を促進することを実証するために実施した実験の結果を記載する。これらの実験では、マウスBMDCを20ng/mLのGM-CSFを補充したRPMI1640完全培地中で培養した。培地を、3日目に半分交換し、6日目に完全に交換した。細胞を採取し、そして、7日目にSIRPα-RIPRリガンドを用いて処理した。これらの実験では、実施例8及び
図9A~9Bに記載の二重特異性抗体SIRPα-RIPRを使用した。
図11Bに示すように、BMDC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて37℃にて24時間刺激した。CD86を、CD11c+集団においてフローサイトメトリーによって分析した。リポポリサッカライド(LPS、1μg/mL)で処置した対照群もまた、対照目的のために含まれた。
【0268】
CD86は、LPSに晒されたBMDCにおいて上方制御されることが知られている。CD86は、T細胞中に存在するCD28と相互作用し、T細胞応答を増強する。BMDCの効果的な成熟化は、高められたT細胞の細胞溶解活性と関連する。CD86上方制御は、BMDC成熟過程の一部であり、BMDC「プライミング」と呼ばれることも多い。これらの実験では、CD86もまたSIRPα-RIPRで処理したBMDCにおいて高度に上方制御されることが観察され、SIRPα-RIPRが処理したBMDCの成熟化を促進することが示された。
実施例10. SIRPα-RIPRはマウス骨髄樹状細胞(BMDC)の成熟化を促進する
【0269】
この実施例は、マウスSIRPα-RIPRがマウス骨髄樹状細胞(BMDC)の成熟化を促進することを実証するために実施した実験の結果を記載する。樹状細胞(DC)は、その一次的役割が抗原を加工し、Tリンパ球に提示することである適応免疫を誘発することであるプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)である。DCは異種である。ヒトDCサブタイプとしては、従来のDC(cDC)、形質細胞様DC(pDC)、単球由来DC(moDC)が挙げられ、そしてそれらは、すべて別々の造血前駆細胞から生じる。概して、BMDC及びmoDCは、炎症状態においてDCを調査するのに使用された。pDC、cDC1、及びcDC2は、ヒト及びマウスの両方において定常型DC集団の3つの小集団である。
【0270】
図12Aは、BMDC分化の概要描写を示す。CD11c+集団における共刺激分子(CD83、CD86)、MHC分子(MHC-I、MHC-II)、ケモカイン受容体CCR-7及びPD-L1の表面発現の分析を、
図12B~12Dに示す。これらの実験では、BMDC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて37℃にて24時間刺激した。概して、マウスBMDCを20ng/mLのGM-CSFを補充したRPMI1640完全培地中で培養した。培地を、3日目に半分交換し、6日目に完全に交換した。細胞を採取し、そして、7日目にSIRPα-RIPRリガンドを用いて処理した。
【0271】
共刺激分子(CD83、CD86)、MHC分子(MHC-I、MHC-II)、ケモカイン受容体CCR-7及びPD-L1の表面発現を、フローサイトメトリーによってCD11c+集団において分析した。概して、BMDC細胞を、CD83、CD86、MHC-I、MHC-II、CCR-7、及びPD-L1に対する抗体で染色し、FACSによって計測し、結果をFlowJoによって分析した。
実施例11. SIRPα-RIPRはcDC2細胞の成熟化を増強する
【0272】
この実施例は、SIRPα-RIPRがcDC2細胞の成熟化を増強することを実証するために実施した実験の結果を記載する。従来の樹状細胞及びC57BL/6脾臓の赤脾髄マクロファージ(RPM)においてSIRPα-RIPRを試験する一般的なワークフローを、
図13Aに示す。cDC2及びRPMが、cDC1に比べて多くのより高いレベルのSIRPαを発現したことが観察された。これらの実験では、cDC1、及びRPMがcDC2を試験するための対照としての役割を果たした。C57BL/6マウスを、6時間にわたり200μgのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて腹腔内で処理した。脾細胞を単離した。CD80、CD86、MHC-I、MHC-II、CCR-7、PD-L1、及びPD-L2の表面発現を、フローサイトメトリーによってcDC1、cDC2又はRPMにおいて分析し、そして、結果を
図13B~13Bに示す。概して、単離した脾細胞を、CD83、CD86、MHC-I、MHC-II、CCR-7、PD-L1、CD11b、CD11c、及び/又はXCR-1に対する抗体を用いて染色した。CDC1細胞を、CD11c+、CD11b+ XCR1+としてゲートコントロールした。CDC2細胞を、CD11c+、CD11b+ XCR1-としてゲートコントロールした。FACSによる計測後に、結果をFlowJoによって分析した。
実施例12. SIRPα-RIPRはBMDCにおける炎症誘発性サイトカインの産生を増強する
【0273】
この実施例は、SIRPα-RIPRがBMDCにおける炎症誘発性サイトカインの産生を増強することを実証するために実施した実験の結果を記載する。
図14に示したとおり、100,000個のBMDC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて37℃にて24時間刺激した。上清中のIL-12及びIFNγをELISAによって定量化した。上清中のIL-12及びIFNγを、ELISAによって定量化した。概して、マウスBMDCを、20ng/mLのGM-CSFを補充したRPMI1640完全培地中で培養した。培地を、3日目で半分交換し、そして、6日目で完全に交換した。培養細胞を採取し、そして、7日目にSIRPα-RIPRリガンドを用いて処理した。約100,000個のBMDC細胞を、96ウェルプレートに播種し、そして、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRを用いて37℃にて24時間刺激した。1600rpmにて4分間の遠心分離後に、上清を回収した。上清サンプル中のIL-12及びIFNγのレベルを、製造業者の取扱説明書(ELISAキット、BioLegend)に従って、IL-12及びIFNγ ELISAによって測定した。結果を、SpectraMax i3xプレートリーダで計測し、そして、Graphpad Prismにプロットした。
【0274】
この実施例に記載の実験結果は、IL-12がTh1細胞の誘導のために重要である炎症誘発性サイトカインであることを示す。IFNγの産生もまた、DC細胞の活性化を反映する。特に、この試験では、SIRPα-RIPRがAB21に比べて3~4倍高いIL-12又はIFNγの産生を誘発することを観察した。SIRPα-RIPR媒介性SIRPサイレンシングは、DC活性化をもたらす。
実施例13. SIRPα-RIPRはDCの交差提示を増強する
【0275】
この実施例は、SIRPα-RIPRがDCの交差提示を増強することを実証するために実施した実験の結果を記載する。オボアルブミンペプチド257~264(SIINFEKL;配列番号32)の交差提示の概要描写を、
図15Aに示す。OT-I細胞増殖に対するOVA257~264ペプチドの用量応答効果を調査した。OT-I細胞を、OT-Iマウスのリンパ節から単離し、CD8 MACSキットによって精製した。BMDC細胞を、10pMのOVA257~264ペプチドを用いて37℃にて3時間パルス処理した。50,000個のAPC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRの存在下で、CTV+I細胞と共に1:1で5日間共培養した。OT-I細胞増殖に対するOVA257~264ペプチドの用量応答効果をFACSによって定量化した(
図15B)。OT-I細胞におけるCell Trace Violet(CTV)の希釈を、CD3
+CD8
+集団に対するフローサイトメトリー及びゲートコントロールによって分析した(
図15C)。
【0276】
IL-12は、ウイルス又は細菌病原菌による感染症に対応してDC細胞によって産生され、DC成熟化と細胞毒性T細胞応答を橋渡しする。高レベルのIL-12は、SIRPα-RIPR処理DCにおいて検出され、そしてそれは、SIRPα-RIPRが抗原特異的細胞傷害Tリンパ球(CTL)応答を促進するであろうことを示唆する。そのため、この実施例に記載の実験を、インビトロにおけるCFSE標識することによるオボアルブミン(OVA)パルス処理DCに応答したOT-CD8+I T細胞分裂を評価するために実施した。予想したように、AB21及びSIRPα-RIPRの両方が、CD8+T細胞の増殖を促進することがわかった。驚いたことに、SIRPα-RIPRは、AB21と比較して、CD8+T細胞を2~3倍高く誘発する。いずれかの特定の理論に縛られるものではないが、これらの結果は、SIRPα-RIPR媒介性SIRPサイレンシングがCTL応答を促進する際に強力であり、そしてそれは、抗腫瘍応答を誘発する効果的な手段であり得ることを示唆する。
実施例14. SIRPα-RIPRは、OT-II細胞増殖を誘発するBMDCの能力を増強する
【0277】
この実施例は、SIRPα-RIPRがOT-II細胞増殖を誘発するBMDCの能力を増強すること実証するために実施した実験の結果を記載する。オボアルブミンペプチド323~339(ISQAVHAAHAEINEAGR;配列番号33)の抗原提示の概要描写を、
図16Aに示す。OT-II細胞増殖に対するOVA323~339ペプチドの用量応答効果を調査した。OT-II細胞を、OT-IIマウスのリンパ節から単離した。BMDC細胞を、1nM又は100nMのオボアルブミン(323~339)ペプチドを用いて37℃にて4時間パルス処理した。50,000個のAPC細胞を、200nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRの存在下で、CTV+OT-II細胞と共に1:1で5日間共培養した。OT-II細胞を、FACSによってカウントした(
図16B)。
OT-II細胞におけるCTVの希釈を、CD3
+CD4
+集団に対するフローサイトメトリー及びゲートコントロールによって分析した(
図16C)。
【0278】
cDC2がCD4T細胞のプライミングに関与することを報告した。そのため、SIRPα-RIPRによるcDC2の活性化増強が、SIRPα-RIPRがOT-II T細胞活性化を促進するであろうという仮説につながった。そのため、この実施例に記載の実験を、SIRPα-RIPR又はAb対照処理BMDC細胞との共培養による抗原特異的CD4+OT-II増殖を評価するために実施した。SIRPα-RIPRがAB21と比較してより高いレベルのOT-II増殖を誘発することを観察した。この結果は、陰性にするSIRPシグナル伝達が、DCにおけるCD4T細胞プライミング活性を負に調整したことを示唆する。従って、SIRPα-RIPRによるSIRPシグナル伝達の低減は、CD4T細胞プライミングを増強し得る。
実施例15. SIRPα-RIPRは、同種T細胞の増殖を誘発するBMDCの能力を増強する
【0279】
この実施例は、SIRPα-RIPRが同種T細胞の増殖を誘発するBMDCの能力を増強することを実証するために実施した実験の結果を記載する。これらの実験では、Tリンパ球の機能と増殖能を評価することによって、BMDCにおけるSIRPα-RIPRによるSIRPシグナル伝達のサイレンシングがTリンパ球との相互作用に影響するかどうか評価するために、同種混合リンパ球反応(MLR)を実施した。T細胞は、CTVを用いたMLR培養物中の細胞の標識によって識別し得る。T細胞増殖を分析することによって、より多くのT細胞増殖が、AB21に比べてSIRPα-RIPR処理において観察された。
【0280】
混合リンパ球反応(MLR)の概要描写を、
図17Aで例示した。BALB/cマウス由来のBMDCを、500nMのAB21 scFv又はSIRPα-RIPRの存在下でさまざまな比の50,000個のC57BL/6由来同種脾臓T細胞と共にインキュベートした。CD8
+T細胞を、FACSによってカウントした。MLRの結果を、
図17Bに示す。CD8
+T細胞におけるCTVの希釈を、CD3
+CD8
+集団に対するフローサイトメトリー及びゲートコントロールによって分析した(
図17C)。
実施例16. SIRPα-RIPRは、抗腫瘍応答を増強する
【0281】
この実施例は、SIRPα-RIPRがKP1肺癌における抗腫瘍応答を増強することを実証するために実施した実験の結果を記載する。F1マウスに、1×10
6個のKP1細胞を移植し、次に、9日目から開始して、一日おきに200μgのAB21 scFv(n=5)、SIRPα-RIPR(5)又は抗CD47(n=5)で処置した。腫瘍の大きさを、8日目から計測開始した。
図18に示したとおり、SIRPα-RIPRは、KP1肺癌における抗腫瘍応答を増強した。
実施例17. SIRPα-RIPRは、腫瘍関連マクロファージの浸潤を促進する
【0282】
この実施例は、SIRPα-RIPRがKP1腫瘍において腫瘍関連マクロファージの浸潤を増強することを実証するために実施した実験の結果を記載する。腫瘍浸潤リンパ球を、フィコールによって単離し、そして、汎マクロファージマーカーF4/80とCD11bについて染色した(n=10) (
図19A)。CD206
+腫瘍関連マクロファージを、FACSによって定量化した(n=10) (
図19B)。これらの実験では、腫瘍が、SIRPα-RIPR処理5日目において
図18に記載されている。マウス腫瘍に関して、最初に、マウスをスタンフォード大学で承認されたプロトコールに従って安楽死させ、そして、腫瘍部分に70%のエタノールをスプレーした。腫瘍を、滅菌ハサミと鉗子を使用して切除した。マウス腫瘍を、切除し、そして、切り刻んだ。細胞懸濁液を、細胞濾過器に通した。30mlの細胞懸濁液を、20mlのFicoll-Paque培地と混合し、そして、ゆっくりと加速し、かつ、ブレーキを切って、20℃にて1025×gで20分間遠心分離した。単核細胞の層を、滅菌チューブに移した。次に、細胞を、洗浄し、CD45、CD11b、CD206、CD86、CD11c、F4/80、CD19、NK1.1、CD3、CD19、及び活性/不活性に対する抗体を用いて染色した。FACSによる計測後に、結果をFlowJoによって分析した。
図19A~19Bに記載の実験結果は、KP1腫瘍において、SIRPα-RIPRが腫瘍関連マクロファージの浸潤を促進することを一緒に例示する。
実施例18. SIRPα-RIPRは、DCの成熟化を促進する
【0283】
この実施例は、SIRPα-RIPRがKP1腫瘍においてDC成熟化を促進することを実証するために実施した実験の結果を記載する。腫瘍浸潤リンパ球を、DCマーカーCD11cについて染色した(n=10) (
図20A)。CD86
+DCを、FACSによって定量化した(n=10) (
図20B)。
【0284】
これらの実験では、腫瘍が、SIRPα-RIPR処理5日目において
図18に記載されている。マウス腫瘍に関して、最初に、マウスをスタンフォード大学で承認されたプロトコールに従って安楽死させ、そして、腫瘍部分に70%のエタノールをスプレーした。腫瘍を、滅菌ハサミと鉗子を使用して切除した。マウス腫瘍を、切除し、そして、切り刻んだ。細胞懸濁液を、細胞濾過器に通した。30mlの細胞懸濁液を、20mlのFicoll-Paque培地と混合し、そして、ゆっくりと加速し、かつ、ブレーキを切って、20℃にて1025×gで20分間遠心分離した。単核細胞の層を、滅菌チューブに移した。次に、細胞を、洗浄し、CD45、CD11b、CD206、CD86、CD11c、F4/80、CD19、NK1.1、CD3、CD19、及び活性/不活性に対する抗体を用いて染色した。FACSによる計測後に、結果をFlowJoによって分析した。
図20A~20Bに記載の実験結果は、KP1腫瘍において、SIRPα-RIPRがDCの成熟化を促進することを一緒に例示する。
【0285】
本開示の特定の代替例を開示してきたが、添付の特許請求の範囲の真の精神と範囲内で様々な変更及び組み合わせが可能であり、考慮されることが理解されるべきである。従って、本明細書に提示された正確な要約及び開示に対する制限の意図は全くない。
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