(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-21
(54)【発明の名称】細胞培養器用の多位置支持体
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505390
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 US2021041539
(87)【国際公開番号】W WO2022026180
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】クルーティエ,トーマス アルバート
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,グレゴリー ロジャー
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
(57)【要約】
多層細胞培養器用の多位置支持体は、直立構成において支持部材に支持される主基底部を有している。直立構成において主基底部から鉛直方向に、支持面がオフセットされている。支持面は、支持面上に配置された多層細胞培養器を支持する。主基底部と支持面との間には、中間面が延在している。中間面は、主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において主基底部に接している。多位置支持体は、直立構成において支持面が支持面上に多層細胞培養器を支持するよりも支持面が支持部材に近づくように、多位置支持体が接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層細胞培養器用の多位置支持体であって、
直立構成において支持部材に支持される主基底部と、
前記直立構成において前記主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面であって、該支持面上に配置された前記多層細胞培養器を支持する、支持面と、
前記主基底部と前記支持面との間に延在する中間面であって、前記主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において前記主基底部に接している、中間面と
を有しており、
前記多位置支持体は、前記直立構成において前記支持面が該支持面上に前記多層細胞培養器を支持するよりも前記支持面が前記支持部材に近づくように、前記多位置支持体が前記接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している、
多位置支持体。
【請求項2】
前記直立構成において前記支持部材に支持される副基底部をさらに有している、請求項1記載の多位置支持体。
【請求項3】
前記支持面は第1の支持面であり、前記多位置支持体は、前記主基底部と前記副基底部との間に配置された第2の支持面をさらに有しており、該第2の支持面は、該第2の支持面上に配置された前記多層細胞培養器を支持する、請求項2記載の多位置支持体。
【請求項4】
前記第1の支持面と前記第2の支持面とは、前記主基底部に対して傾斜した実質的に同一の平面に位置している、請求項3記載の多位置支持体。
【請求項5】
前記副基底部から外向きに延在しており、前記多層細胞培養器の充填側に係合して該多層細胞培養器を前記第1の支持面および前記第2の支持面に拘束する支持フランジを含む把持部をさらに有している、請求項4記載の多位置支持体。
【請求項6】
前記充填側とは反対側の前記多層細胞培養器の後ろ側に係合する前記第1の支持面から外向きに延在する別の支持フランジをさらに有している、請求項5記載の多位置支持体。
【請求項7】
前記第2の支持面は、前記支持部材から離間されている、請求項4記載の多位置支持体。
【請求項8】
前記支持面は、前記主基底部の側部に対して斜角を成す別の接続部において前記中間面に接している、請求項1記載の多位置支持体。
【請求項9】
前記主基底部の前記側部に対する両方の前記接続部の前記斜角はほぼ同じである、請求項8記載の多位置支持体。
【請求項10】
細胞培養室の複数の層をそれぞれ含んでおり、流体マニホールドおよび空気マニホールドを介して互いに流体接続された複数の細胞培養モジュールを含む細胞培養器の充填角度を変化させる方法であって、
多位置支持体であって、
直立構成において支持部材に支持される主基底部と、
前記直立構成において前記主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面であって、該支持面上に配置された前記多層細胞培養器を支持する、支持面と、
前記主基底部と前記支持面との間に延在する中間面であって、前記主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において前記主基底部に接している、中間面と
を有しており、
前記多位置支持体は、前記直立構成において前記支持面が該支持面上に前記多層細胞培養器を支持するよりも前記支持面が前記支持部材に近づくように、前記多位置支持体が前記接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している、
多位置支持体に、前記細胞培養器を結合するステップと、
前記直立構成または前記傾斜構成の前記多位置支持体により支持されている間に、前記細胞培養器に充填するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記充填するステップは、前記直立構成の前記多位置支持体により支持されている間に、前記細胞培養器に充填するステップを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記多位置支持体を、前記接続部を中心として回動させることにより、前記多位置支持体を用いて前記細胞培養器を傾けるステップをさらに含む、請求項10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、米国特許法第119条のもと、2020年7月27日に出願された米国仮特許出願第63/056,913号明細書の優先権の利益を主張し、その内容が依拠され、その内容全体を参照により本明細書に援用するものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、細胞培養器用の多位置支持体、特に、直立構成および傾斜構成の両方を有する多位置支持体に関する。
【背景技術】
【0003】
多種の細胞培養品が、細胞を培養するために積層されたまたは積層可能なユニットを提供するように構成されている。例えばTフラスコは、典型的にはTフラスコの積層を可能にする平らな上面および下面を有するように製造され、スペースの節約をもたらす。いくつかの変更されたTフラスコは、充填・除去に関連する時間と労力とを軽減するために、フラスコ内に複数の平行な培養面を有している。別の培養器は、複数の平行なまたは積層された培養面を有するマルチコンポーネントアセンブリである。このように積層された培養アセンブリのほとんどで、各培養層は、下側の培養層への静水圧を下げるために分離されている。積層される層の数が増えると、静水圧の潜在的な影響が増大する。
【0004】
1つの例示的な細胞培養品が、コーニング社のHYPERStack(商標)システムである。「HYPERStack」システムは、チューブコネクタに接続する可撓性チューブにより相互接続され得る個々のスタック層から形成された複数のモジュールを含む。モジュールは、「HYPERStack」システムの充填・除去のために相互接続される。「HYPERStack」システムへの流体の流入および「HYPERStack」システムからの流体の流出を制御するためには、弁および他の装置を使用することができる。これらの弁および他の装置の使用は、扱いにくい場合があり、潜在的な漏れ箇所をもたらすことがある。
【0005】
「HYPERStack」システムの目下の充填プロセスと除去プロセスとは首尾一貫していない。なぜならば、充填プロトコルおよび除去プロトコルには、より良好な結果を得るために様々な段階で「HYPERStack」システムを傾けることが含まれているからである。このプロトコルを駆動するための付属品がない場合、ユーザは、チューブクランプ、チューブラック、ドアストップ等の、ラボに用意されているものを使用することに頼ってきた。必要とされているのは、細胞培養器を扱い、充填・除去処理中に細胞培養器を複数の傾斜角度に確実に配置するために使用することができる多位置支持体である。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様では、多層細胞培養器用の多位置支持体は、直立構成において支持部材に支持される主基底部と、直立構成において主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面であって、支持面上に配置された多層細胞培養器を支持する、支持面と、主基底部と支持面との間に延在する中間面であって、主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において主基底部に接している、中間面とを有しており、多位置支持体は、直立構成において支持面が支持面上に多層細胞培養器を支持するよりも支持面が支持部材に近づくように、多位置支持体が接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している。
【0007】
第2の態様によれば、直立構成において支持部材に支持される副基底部をさらに有している、第1の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0008】
第3の態様によれば、支持面は第1の支持面であり、多位置支持体は、主基底部と副基底部との間に配置された第2の支持面をさらに有しており、第2の支持面は、第2の支持面上に配置された多層細胞培養器を支持する、第2の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0009】
第4の態様によれば、第1の支持面と第2の支持面とは、主基底部に対して傾斜した実質的に同一の平面に位置している、第3の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0010】
第5の態様によれば、副基底部から外向きに延在しており、多層細胞培養器の充填側に係合して多層細胞培養器を第1の支持面および第2の支持面に拘束する支持フランジを含む把持部をさらに有している、第4の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0011】
第6の態様によれば、充填側とは反対側の多層細胞培養器の後ろ側に係合する第1の支持面から外向きに延在する別の支持フランジをさらに有している、第5の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0012】
第7の態様によれば、第2の支持面は、支持部材から離間されている、第4から第6までの態様のいずれか1つに記載の多位置支持体が提供される。
【0013】
第8の態様によれば、支持面は、主基底部の側部に対して斜角を成す別の接続部において中間面に接している、第1から第7までの態様のいずれか1つに記載の多位置支持体が提供される。
【0014】
第9の態様によれば、主基底部の側部に対する両方の接続部の斜角はほぼ同じである、第8の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0015】
第10の態様によれば、多層細胞培養器用の多位置支持体であって、直立構成において支持部材に支持される主基底部と、直立構成において主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面であって、支持面上に配置された多層細胞培養器を支持する、支持面と、主基底部と支持面との間に延在する中間面であって、主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において主基底部に接している、中間面とを有しており、多位置支持体は、細胞培養器が水平面に対して合成角にもたらされるように多位置支持体が接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している。
【0016】
第11の態様によれば、多位置支持体は、直立構成において支持面が支持面上に多層細胞培養器を支持するよりも第1の支持面が支持部材に近づくように、多位置支持体が接続部を中心として回転させられた傾斜構成を有している、第10の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0017】
第12の態様によれば、第1の支持面は、主基底部の側部に対して斜角を成す別の接続部において中間面に接している、第10または第11の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0018】
第13の態様によれば、主基底部の側部に対する両方の接続部の斜角はほぼ同じである、第12の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0019】
第14の態様によれば、直立構成において支持部材に支持される副基底部をさらに有している、第10から第13までの態様のいずれか1つに記載の多位置支持体が提供される。
【0020】
第15の態様によれば、第1の支持面と第2の支持面とは、主基底部に対して傾斜した実質的に同一の平面に位置している、第14の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0021】
第16の態様によれば、副基底部から外向きに延在しており、多層細胞培養器の充填側に係合して多層細胞培養器を第1の支持面および第2の支持面に拘束する支持フランジを含む把持部をさらに有している、第15の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0022】
第17の態様によれば、充填側とは反対側の多層細胞培養器の後ろ側に係合する第1の支持面から外向きに延在する別の支持フランジをさらに有している、第16の態様に記載の多位置支持体が提供される。
【0023】
第18の態様によれば、第2の支持面は、支持部材から離間されている、第10から第17までの態様のいずれか1つに記載の多位置支持体が提供される。
【0024】
第19の態様によれば、細胞培養室の複数の層をそれぞれ含んでおり、流体マニホールドおよび空気マニホールドを介して互いに流体接続された複数の細胞培養モジュールを含む細胞培養器の充填角度を変化させる方法であって、多位置支持体であって、直立構成において支持部材に支持される主基底部と、直立構成において主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面であって、支持面上に配置された多層細胞培養器を支持する、支持面と、主基底部と支持面との間に延在する中間面であって、主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において主基底部に接している、中間面とを有しており、多位置支持体は、直立構成において支持面が支持面上に多層細胞培養器を支持するよりも支持面が支持部材に近づくように、多位置支持体が接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している、多位置支持体に、細胞培養器を結合するステップと、直立構成または傾斜構成の多位置支持体により支持されている間に、細胞培養器に充填するステップとを含む。
【0025】
第20の態様によれば、充填するステップは、直立構成の多位置支持体により支持されている間に、細胞培養器に充填するステップを含む、第19の態様に記載の方法が提供される。
【0026】
第21の態様によれば、多位置支持体を、接続部を中心として回動させることにより、多位置支持体を用いて細胞培養器を傾けるステップをさらに含む、第20の態様に記載の方法が提供される。
【0027】
本明細書に記載の多位置支持体は、その上に細胞培養器を支持し、細胞培養器が水平面に対してそれぞれ異なる角度方向に配置される直立構成および傾斜構成の両方を有している。細胞培養器を異なる角度方向で提供することにより、充填・除去結果の向上を、より確実に首尾一貫して達成することができる。さらに、傾斜構成では、細胞培養装置の充填側(前部)が、空気マニホールドが上下方向と前後方向とにおいて高くされる合成上昇角にもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本明細書に図示して説明する1つ以上の実施形態による、マニホールドを有する細胞培養器の斜視図である。
【
図2】本明細書に図示して説明する1つ以上の実施形態による、
図1に示した細胞培養器と共に使用するための複数のスタック層を示す図である。
【
図3】本明細書に図示して説明する1つ以上の実施形態による、
図1に示した細胞培養器を直立構成で支持する多位置支持体の側面図である。
【
図4】本明細書に図示して説明する1つ以上の実施形態による、
図3に示した多位置支持体の斜視図である。
【
図5】本明細書に図示して説明する1つ以上の実施形態による、
図4に示した多位置支持体の平面図である。
【
図6】本明細書に図示して説明する1つ以上の実施形態による、
図3に示した多位置支持体を傾斜構成で示す側面図である。
【
図7】本明細書に図示して説明する1つ以上の実施形態による、
図6に示した傾斜構成の多位置支持体の端面図である。
【
図8】本明細書に図示して説明する1つ以上の実施形態による、一方が他方の上部に積み重ねられた複数の多位置支持体の側面図である。
【0029】
図面は、必ずしも縮尺通りではない。図面に使用された同様の符号は、同様のコンポーネント、ステップ等を指す。しかしながら、所与の図面におけるコンポーネントを指すために符号を使用することは、同じ番号が付された別の図面におけるコンポーネントを限定することを意図してはいないことが理解されるであろう。さらに、コンポーネントを指すために異なる番号を使用することは、異なる番号を付されたコンポーネントが同一または類似のものではあり得ないことを示すことを意図してはいない。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を形成し、装置、システムおよび方法のいくつかの特定の実施形態を図示する添付の図面を参照する。別の実施形態が想定され、本開示の範囲または思想から逸脱することなしに実施され得るということを理解されたい。したがって以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0031】
本明細書において使用されるすべての科学用語および技術用語は、特に明記しない限り、当技術分野において一般に使用される意味を有する。本明細書において提供される定義は、本明細書において多用される特定の用語の理解を容易にするためのものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【0032】
本明細書および添付の請求項において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、特に明記しない限り、複数の指示対象を有する実施形態を含む。本明細書および添付の請求項において使用される場合、「または」という用語は、特に明記しない限り、通常はその意味に「および/または」を含んで使用される。
【0033】
本明細書において使用される場合、「を有する(have)」、「を有する(having)」、「を含む(include)」、「を含む(including)」、「を含む(comprise)」、「を含む(comprising)」等は、それらの意味を制約されずに使用され、通常、「~を含むが、~に限定されない」ことを意味する。
【0034】
本開示は、多層細胞培養器用の多位置支持体を説明する。多位置支持体は、直立構成において支持部材に支持される主基底部を含むようにプレートを曲げることによって形成され得る。直立構成において主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面が設けられており、支持面に対して所定の角度で、または水平面に対して所定の角度で多層細胞培養器を支持する。多位置支持体はさらに、主基底部と支持面との間に延在する中間面を有している。中間面は、主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において主基底部に接している。多位置支持体は、直立構成において支持面がその上に多層細胞培養器を支持するよりも支持面が支持部材に近づくように、多位置支持体が支持面上の接続部を中心として回動させられる傾斜構成を有している。
【0035】
多層細胞培養器は、複数の細胞培養モジュールを含んでおり、これらの細胞培養モジュールは、マニホールドを介して互いに結合されて細胞培養装置を形成する細胞培養室内に複数の成長面または培養面を有している。細胞培養モジュールを、マニホールドを介して追加的な細胞培養モジュールにさらに結合して、積層された細胞培養装置を形成することができる。複数の培養面は、多層構成で積層することができる。マニホールドは、マニホールドの一体部品として形成された一体型のコラム構造を有している。コラム構造は、入口ポートを有しており、入口ポートからの流体流路の少なくとも一部を提供しており、流体流路は、細胞培養モジュール内の個々の細胞培養室に流体接続している。マニホールドおよび関連するコラム構造は、細胞培養器の使用中に細胞培養室を環境から分離するためにコラム構造が可撓性チューブに接続され得る閉鎖系を提供することができる。
【0036】
図1を参照すると、細胞培養器10は3つの細胞培養モジュール12,14および16を有しており、これらはそれぞれ、細胞培養室18の複数の層を有しており、一方が他方の上部に積層されて、多層細胞培養器10を形成している。各細胞培養モジュール12,14および16は、2つのマニホールド20および22を使用する。第1のマニホールド20を介して、液体が細胞培養モジュール12,14および16に流入しかつ流出することができる。したがって、第1のマニホールド20は、流体マニホールドと呼ばれてもよい。第2のマニホールド22を介して、空気が細胞培養モジュール12,14および16に流入しかつ流出することができる。したがって、第2のマニホールド22は、空気マニホールドと呼ばれてもよい。
【0037】
細胞培養モジュール12,14および16はそれぞれ、複数のスタック層24を含んでいてよく、これらのスタック層24が互いに積層されると、
図2に示すように、互いの間に導管スペース(空気スペース)25を有する複数の細胞培養室18を形成する。
図2は、積層された細胞培養室18と、気体透過性で液体不透過性のフィルム28を有する細胞培養面26とを形成するために互いに積層された複数のスタック層24の概略図であり、例えばスタック層24は、細胞培養室18と細胞培養器10の外部との間での気体の移動を可能にする導管スペース25を含んでいる。再び
図1を参照すると、細胞培養モジュール12,14および16は、スペーサ31,33および35によって互いに隔離され得る。スペーサ31,33および35は、個々の細胞培養モジュール12,14および16のための構造的な支持手段を提供することができる。いくつかの実施形態では、細胞培養室18の総数をより多くするために、スペーサ31および/または33は追加的なスタック層24に置き換えられてよい。さらに、細胞培養室18内に存在する空気ではなく残留空気を捕捉するために、細胞培養モジュール12の上方にライザ容積が設けられてよい。
【0038】
本明細書で説明するような細胞培養モジュールまたはその部分は、任意の適切な材料から形成され得る。好適には、細胞または培地に接触することを意図した材料は、細胞および培地と適合する。典型的には、細胞培養モジュールは、ポリマー材料から形成される。適切なポリマー材料の例には、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリスチレンコポリマー、フルオロポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレンブタジエンコポリマー、完全水素化スチレンポリマー、ポリカーボネートPDMSコポリマー、およびポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリプロピレンコポリマーおよび環状オレフィンコポリマー等のポリオレフィン等が含まれる。
【0039】
いくつかの実施形態では、培養モジュールは、気体透過性で液体不透過性のフィルム28を有しており、これにより、細胞培養室18と、最終的には細胞培養アセンブリの外部との間で気体を移動させることができる。このような培養モジュールは、積層されたユニット間での空気の流動を可能にするために、室の外部でフィルムに隣接して配置されたスペーサまたはスペーサ層を有していてよい。このように積層された気体透過性の培養ユニットを含む細胞培養器の1つの市販例が、コーニング社の「HYPERStack」細胞培養器である。フィルムを形成するために有用な、適切な気体透過性のポリマー材料の例には、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、エチレンビニルアセテート、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、または相溶性フルオロポリマー、シリコーンゴムまたはコポリマー、ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)、またはこれらの材料の組合せが含まれる。製造および細胞を増殖させるための適合性が許す限り、様々なポリマー材料が利用され得る。好適には、フィルムは、フィルムにわたり気体の効率的な移動を可能にする厚さである。例えば、ポリスチレンフィルムは、約0.003インチ(約75μm)の厚さであってよいが、様々な厚さでも、細胞の増殖が可能である。このように、フィルムは任意の、好適には約25~250μm、または約25~125μmの厚さであってよい。フィルムは、アセンブリの室と外部環境との間で気体の自由な交換を可能にし、任意のサイズまたは形状をとることができる。好適には、フィルムは製造、取扱いおよび機器の操作に対して耐久性を有している。
【0040】
上述のように、細胞培養モジュール12,14および16は、マニホールド20および22を用いて互いに接続され得る。マニホールド20は、側壁基部構造30と、一体的なマニホールド20を提供する側壁基部構造30の一体部品として形成されたコラム構造32とを有している。コラム構造32は突起構造34を有しており、細胞培養モジュール12,14および16内の個々の細胞培養室18と流体接続している突起構造34からの流体流路の少なくとも一部を提供している。マニホールド20は、細胞培養室18の充填および除去を可能にするように構成され得る。
【0041】
マニホールド22も、側壁基部構造30’と、一体的なマニホールド22を提供する側壁基部構造30’の一体部品として形成されたコラム構造32’とを有している。コラム構造32’は、突起部構造34’を有しており、細胞培養モジュール12,14および16内の個々の細胞培養室18から突起構造34’への流体流路の少なくとも一部を提供している。マニホールド22は、細胞培養器10に対する空気の流出入を可能にすることにより、細胞培養室18の充填および除去を可能にするように構成され得る。いくつかの実施形態では、コラム構造32’への媒体の流入を制御するために、コラム構造32’は、図示の位置からオフセットされていてよい。
【0042】
図3を参照すると、細胞培養器10は、
図3に示すように細胞培養器の側面40を下にして傾けて置くことで、充填・除去され得る。細胞培養器10は側面40において、多位置支持体50を用いて支持部材42または水平面に対して相対的に、予め規定された傾斜角度θ
1(例えば約10度~約12度)で確実に位置決めされ得る。流体マニホールド20に最も近い側面40は、流体マニホールド20が空気マニホールド22より低くなるように、多位置支持体50上に配置されている。以下でより詳細に説明するように、多位置支持体50は、(
図3に示すような)直立構成と、細胞培養器10を水平面に対して相対的に異なる角度に位置決めするための傾斜構成との間で傾けられてよい。
【0043】
図4および
図5を参照すると、多位置支持体50が単独で示されており、底部52と、上部54と、対向する端部56および58と、対向する側部60および62とを有する一体の曲げプレートとして形成されている。側部62において多位置支持体50は、位置決めタブ64および66を有しており、位置決めタブ64および66は、細胞培養器10の下縁部68(
図3)を、多位置支持体50に直立した立位の位置で係合させ、多位置支持体50上の所定の位置に細胞培養器10を保持することを助ける。いくつかの実施形態では、細胞培養器10の下縁部68に、位置決めタブ64および66を受容するように寸法決めされかつ配置された凹設部71および73が設けられていてよい。位置決めタブ64および66は、下縁部68を把持して細胞培養器10が多位置支持体50から側方に移動することを阻止するために使用され得る曲げ部75を有していてよい。
【0044】
多位置支持体50は、主基底部70を有しており、主基底部70は、図示のような直立構成の多位置支持体50では、支持部材(例えばテーブル)に支持される。直立構成において主基底部70から鉛直方向にオフセットされておりかつ細胞培養器10を支持する主支持面72が設けられている。多位置支持体50はさらに、主基底部70と主支持面72との間に延在する中間面74を有している。中間面74は、多位置支持体50の側部60および62に対して斜角で延びる曲げ部として形成された接続部76において主基底部70に接している。中間面74は、側部60および62に対して斜角で延在する曲げ部として形成された接続部77において主支持面72にも接している。いくつかの実施形態では、接続部76および77の斜角は、側部60および62に対してほぼ同じ(例えば5度以内)であるか、またはそれぞれ異なっていてもよい。
【0045】
多位置支持体50はさらに、直立構成の多位置支持体50では支持部材に支持される副基底部79を有している。直立構成において副基底部79から鉛直方向にオフセットされておりかつ細胞培養器10を支持する副支持面78が設けられている。副支持面78と主支持面72とは、水平面に対して所定の角度を成しかつ主基底部70および副基底部79に対して傾斜してもいる同一平面に位置している。多位置支持体50はさらに、副基底部79と副支持面78との間に延在する別の中間面80を有している。中間面80は、多位置支持体50の側部60および62に対して垂直に延在する曲げ部として形成された接続部82において、副基底部79に接している。さらに別の中間面84が、主基底部70と副支持面78との間に延びている。中間面84は、側部60および62に対してやはり垂直に延在する曲げ部として形成された接続部86において主基底部70に接している。端部56には把持部88が設けられている。把持部88は、直立構成において副基底部79から鉛直方向にオフセットされておりかつ細胞培養器10を支持する支持フランジ90を有していてもよい。端部58には、主支持面72から鉛直方向外向きに延びかつ細胞培養器10を主支持面72上に保持するために使用される支持フランジ94が設けられている。
【0046】
図3に示す多位置支持体50は、直立構成において細胞培養器10を支持している。直立構成において、細胞培養器10は、水平面に対して角度θ
1(10度~12度)で前部102よりも高くされた後部100を有している。ただし、上部から下部にかけて、角度は水平面に対して平行(ゼロ度)である。この直立構成は、細胞培養器10の充填を開始する初期充填位置に細胞培養器10を配置することができ、初期充填位置では、前部102が後部100よりも低くなっており、これにより、より緩やかな充填角度が提供され、流体中の発泡を低減すると共に、空気マニホールドとそれに接続されたフィルタとを介した空気排出を促進することができる。
【0047】
細胞培養器10が、直立構成の多位置支持体50を用いて充填される場合、細胞培養器10内の流体レベルは、空気マニホールド22に向かって、かつ空気マニホールドに接続されたフィルタに向かって上昇する。フィルタが濡れると、細胞培養器10から出る空気流量を減少させることがあり、これにより内部が加圧され、細胞培養器10内に望ましくない環境をもたらす恐れがある。流体がフィルタに到達する可能性を低減するためには、多位置支持体50に、多位置支持体50または細胞培養器10を持ち上げることなく多位置支持体50が細胞培養器10と共に回動させられる傾斜構成が設けられている。細胞培養器10の後部角隅部110に力Fを加えるだけで、多位置支持体50は細胞培養器10と共に傾けられ、これにより、多位置支持体50と細胞培養器10とは接続部76を中心として回動させられる。接続部76は、多位置支持体50の側部60および62に対して斜角に延びているので、この傾斜により、前部から後部にかけての角度および上部から下部にかけての角度の両方が変化し、これにより、フィルタが接続された空気マニホールドの上部の上昇量が増大する。
【0048】
特に
図6を参照すると、多位置支持体50と細胞培養器10とが傾斜構成で示されており、この場合、前部102がより一層、後部100よりも高くされ、水平面に対して角度θ
2(11度~13度)をもたらしている。看取され得るように、傾斜構成では、細胞培養器10の側面40と後部100との間の角隅部112が、支持部材に支持されている。
図7を参照すると、上部116は、水平面に対して角度θ
3(7度~9度)で、下部114よりも高くされている。これにより、傾斜構成は、多位置支持体50および細胞培養器10に、θ
2(前部から後部)とθ
3(上部から下部)との双方の合成角を提供し、これを端部充填位置と呼ぶことができる。細胞培養器10が充填されると、細胞培養器10が直立した立位の位置に位置するまで、細胞培養器10の上部116に最も近い多位置支持体50の側部60が上方に回動させられてよい。したがって、細胞培養器10は、細胞培養器10を多位置支持体50から持ち上げる必要なしに、充填プロセス全体を通して多位置支持体50だけを用いて操作され得る。細胞培養器10からの除去は、逆の順序で行われてよい。
【0049】
上述した多位置支持体は、充填または除去動作中に細胞培養器を多位置支持体とは別個に取り扱う必要なしに、細胞培養器を操作するために使用することができる。これにより多位置支持体は、処理効率を高めることができると共に、より高い充填・除去速度ならびに簡単で迅速な角度変更手順に基づき、ユーザの時間を節約することができる。多位置支持体はさらに、エラーを低減し、製品の故障および/または損傷の可能性を低減し、多位置支持体を用いた支持法および固定された傾斜角度に起因する角度変化を低減することができる、明確かつ簡潔な制御プロトコルをもたらすことができる。合成傾斜角を有する多位置支持体を提供することにより、空気マニホールドに取り付けられたフィルタの浸潤変化が低減される。いくつかの実施形態では、多位置装置は、耐久性の向上をもたらすことができかつ適正製造基準(GMP)を満たすことができるステンレス鋼から形成することができる。
図8を簡単に参照すると、多位置支持体は、非使用時のラボスペースを最小限に抑えるために積層され、積層体200を形成することができる。多位置装置は、製造コストを低減するために、メタルブレーキにおいてシート材料から形成することができる。変更は、再工具製作に大きなコストをかけることなしに実施することができる。
【0050】
このように、細胞培養器用の多位置支持体の実施形態を開示した。当業者は、本明細書で説明した細胞培養器および方法が、開示したもの以外の実施形態で実施され得るということを認識するであろう。開示した実施形態は、限定の目的ではなく例示を目的として提示されている。
【0051】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0052】
実施形態1
多層細胞培養器用の多位置支持体であって、
直立構成において支持部材に支持される主基底部と、
前記直立構成において前記主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面であって、該支持面上に配置された前記多層細胞培養器を支持する、支持面と、
前記主基底部と前記支持面との間に延在する中間面であって、前記主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において前記主基底部に接している、中間面と
を有しており、
前記多位置支持体は、前記直立構成において前記支持面が該支持面上に前記多層細胞培養器を支持するよりも前記支持面が前記支持部材に近づくように、前記多位置支持体が前記接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している、
多位置支持体。
【0053】
実施形態2
前記直立構成において前記支持部材に支持される副基底部をさらに有している、実施形態1記載の多位置支持体。
【0054】
実施形態3
前記支持面は第1の支持面であり、前記多位置支持体は、前記主基底部と前記副基底部との間に配置された第2の支持面をさらに有しており、該第2の支持面は、該第2の支持面上に配置された前記多層細胞培養器を支持する、実施形態2記載の多位置支持体。
【0055】
実施形態4
前記第1の支持面と前記第2の支持面とは、前記主基底部に対して傾斜した実質的に同一の平面に位置している、実施形態3記載の多位置支持体。
【0056】
実施形態5
前記副基底部から外向きに延在しており、前記多層細胞培養器の充填側に係合して該多層細胞培養器を前記第1の支持面および前記第2の支持面に拘束する支持フランジを含む把持部をさらに有している、実施形態4記載の多位置支持体。
【0057】
実施形態6
前記充填側とは反対側の前記多層細胞培養器の後ろ側に係合する前記第1の支持面から外向きに延在する別の支持フランジをさらに有している、実施形態5記載の多位置支持体。
【0058】
実施形態7
前記第2の支持面は、前記支持部材から離間されている、実施形態4記載の多位置支持体。
【0059】
実施形態8
前記支持面は、前記主基底部の側部に対して斜角を成す別の接続部において前記中間面に接している、実施形態1記載の多位置支持体。
【0060】
実施形態9
前記主基底部の前記側部に対する両方の前記接続部の前記斜角はほぼ同じである、実施形態8記載の多位置支持体。
【0061】
実施形態10
多層細胞培養器用の多位置支持体であって、
直立構成において支持部材に支持される主基底部と、
前記直立構成において前記主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面であって、該支持面上に配置された前記多層細胞培養器を支持する、支持面と、
前記主基底部と前記支持面との間に延在する中間面であって、前記主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において前記主基底部に接している、中間面と
を有しており、
前記多位置支持体は、前記細胞培養器が水平面に対して合成角にもたらされるように前記多位置支持体が前記接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している、
多位置支持体。
【0062】
実施形態11
前記多位置支持体は、前記直立構成において前記支持面が該支持面上に前記多層細胞培養器を支持するよりも第1の前記支持面が前記支持部材に近づくように、前記多位置支持体が前記接続部を中心として回転させられた傾斜構成を有している、実施形態10記載の多位置支持体。
【0063】
実施形態12
前記支持面は、前記主基底部の側部に対して斜角を成す別の接続部において前記中間面に接している、実施形態10記載の多位置支持体。
【0064】
実施形態13
前記主基底部の前記側部に対する両方の前記接続部の前記斜角はほぼ同じである、実施形態12記載の多位置支持体。
【0065】
実施形態14
前記直立構成において前記支持部材に支持される副基底部をさらに有している、実施形態10記載の多位置支持体。
【0066】
実施形態15
第1の支持面と第2の支持面とは、前記主基底部に対して傾斜した実質的に同一の平面に位置している、実施形態14記載の多位置支持体。
【0067】
実施形態16
前記副基底部から外向きに延在しており、前記多層細胞培養器の充填側に係合して該多層細胞培養器を前記第1の支持面および前記第2の支持面に拘束する支持フランジを含む把持部をさらに有している、実施形態15記載の多位置支持体。
【0068】
実施形態17
前記充填側とは反対側の前記多層細胞培養器の後ろ側に係合する前記第1の支持面から外向きに延在する別の支持フランジをさらに有している、実施形態16記載の多位置支持体。
【0069】
実施形態18
第2の支持面は、前記支持部材から離間されている、実施形態10記載の多位置支持体。
【0070】
実施形態19
細胞培養室の複数の層をそれぞれ含んでおり、流体マニホールドおよび空気マニホールドを介して互いに流体接続された複数の細胞培養モジュールを含む細胞培養器の充填角度を変化させる方法であって、
多位置支持体であって、
直立構成において支持部材に支持される主基底部と、
前記直立構成において前記主基底部から鉛直方向にオフセットされた支持面であって、該支持面上に配置された前記多層細胞培養器を支持する、支持面と、
前記主基底部と前記支持面との間に延在する中間面であって、前記主基底部の側部に対して斜角で延在する接続部において前記主基底部に接している、中間面と
を有しており、
前記多位置支持体は、前記直立構成において前記支持面が該支持面上に前記多層細胞培養器を支持するよりも前記支持面が前記支持部材に近づくように、前記多位置支持体が前記接続部を中心として回動させられた傾斜構成を有している、
多位置支持体に、前記細胞培養器を結合するステップと、
前記直立構成または前記傾斜構成の前記多位置支持体により支持されている間に、前記細胞培養器に充填するステップと
を含む、方法。
【0071】
実施形態20
前記充填するステップは、前記直立構成の前記多位置支持体により支持されている間に、前記細胞培養器に充填するステップを含む、実施形態19記載の方法。
【0072】
実施形態21
前記多位置支持体を、前記接続部を中心として回動させることにより、前記多位置支持体を用いて前記細胞培養器を傾けるステップをさらに含む、実施形態20記載の方法。
【国際調査報告】