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特表2023-535816癌治療のための標的化アントラサイクリン送達システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-21
(54)【発明の名称】癌治療のための標的化アントラサイクリン送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/704 20060101AFI20230814BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230814BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230814BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230814BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230814BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230814BHJP
【FI】
A61K31/704
A61P35/00
A61K9/16
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506152
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 EP2021071321
(87)【国際公開番号】W WO2022023492
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】2011870.9
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523030588
【氏名又は名称】トクスインヴェント オサイヒング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】チューブリック オルガ
(72)【発明者】
【氏名】タサ アンドルス
(72)【発明者】
【氏名】ウースタレ アイン
(72)【発明者】
【氏名】オギバロフ イワン
(72)【発明者】
【氏名】テーサル タンベット
(72)【発明者】
【氏名】グラシア ロレーナ シモン
(72)【発明者】
【氏名】シドレンコ ヴァレリア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076CC27
4C076EE23
4C076EE24
4C076EE26
4C076EE41
4C076EE48
4C076FF34
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA41
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明はポリマーナノベシクル中に封入された薬物を少なくとも含む薬物送達システムに関し、薬物成分が、式Iに記載のアントラサイクリン誘導体であり、R1はH、F、-OMeまたは-OEtからなる群から選択され;R2はH、-OMe、メチル又はエチルからなる群から選択され;R3はH、メチル又はエチルからなる群から選択され、かつR4はHまたは保護基であり;ポリマーソームはPEG、PLA、PCL、PTMCもしくはPTMBビルディングブロックまたはこれらの組み合わせを含むポリマーによって形成されてなり、ここで、ポリマーソームポリマーは、少なくとも部分的に、リンカー基Lを介して標的化部位を化学的に結合させることによって官能化されており、標的化部位は抗体、ペプチド、アプタマーまたはこれらの混合物からなる群から選択される。さらに、本発明は、アントラサイクリン誘導体を充填した標的化ポリマーソーム薬物送達システムの製造方法、前記薬物送達システムを含む医薬組成物、および癌の治療のための前記医薬組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーナノベシクル中に封入された薬物を少なくとも含む薬物送達システムであって、薬物成分が、式Iに記載のアントラサイクリン誘導体であり、
【化1】
R1がH、F、-OMeまたは-OEtからなる群から選択され;
R2がH、-OMe、メチル又はエチルからなる群から選択され;
R3がH、メチル又はエチルからなる群から選択され、かつ
R4がHまたは保護基であり;
ポリマーソームはPEG、PLA、PCL、PTMCもしくはPTMBビルディングブロックまたはこれらの組み合わせを含むポリマーによって形成されてなり、ここで、ポリマーソームポリマーは、少なくとも部分的に、リンカー基Lを介して標的化部位を化学的に結合させることによって官能化されており、標的化部位は抗体、ペプチド、アプタマーまたはこれらの混合物からなる群から選択される、ことを特徴とする、薬物送達システム。
【請求項2】
標的化部位がペプチドであり、ペプチドがCendRペプチド、iRGD(CRGDKGPDC)、LyP-1(CGNKRTRGC)、RPAR(RPARPAR)、TT1(CKRGARSTC)、LinTT1(AKRGARSTA)、iNGR(CRNGRGPDC)、tLyp-1(CGNKRTR)またはこれらの前駆体からなる群より選択される腫瘍透過性ペプチドである、請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項3】
ポリマーソームがジブロックPEG-コポリマーを含み、第2のブロックがPLA、PCL、PTMC、PTMBPからなる群から選択される、請求項1または2に記載の薬物送達システム。
【請求項4】
ポリマーソームがPEG-PCLジブロックコポリマーからなり、PEG-部分の重量をPCL-部分の重量で除したものとして計算される、異なるポリマーブロックの重量比が、0.1以上かつ5以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬物送達システム。
【請求項5】
式Iにおいて、R1がHであり、R2、R3がHであり、かつR4が保護基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬物送達システム。
【請求項6】
R4がアセチルオキシメチルカルバメートである、請求項1~5のいずれか一項に記載の薬物送達システム。
【請求項7】
基Lがマレイミドである、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬物送達システム。
【請求項8】
ペプチド修飾ポリマー鎖の数をポリマー鎖の総数で除したものとして計算される、ポリマーソーム中のポリマー鎖の総数に対するペプチド修飾ポリマー鎖のモル比が、0.01以上かつ0.4以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬物送達システム。
【請求項9】
ペプチド修飾ポリマー鎖の数をポリマー鎖の総数で除したものとして計算される、ポリマーソーム中のポリマー鎖の総数に対するペプチド修飾ポリマー鎖のモル比が、0.05以上かつ0.1以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の薬物送達システム。
【請求項10】
ポリマーナノベシクル中の薬物の濃度が、20μM以上かつ500μM以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬物送達システム。
【請求項11】
薬物充填ポリマーナノベシクルの多分散指数が、0.01以上かつ0.25以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の薬物送達システム。
【請求項12】
式Iによる薬物が、薄膜水和工程によってポリマーナノベシクル中に封入されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のアントラサイクリン誘導体充填標的化ポリマーソーム薬物送達システムの製造方法。
【請求項13】
薬物充填ポリマーナノベシクルが、さらなる工程においてサイズ排除クロマトグラフィー工程に供される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
薬学的に許容される溶媒中に請求項1~11のいずれか一項に記載の薬物送達システムを含む、医薬組成物。
【請求項15】
癌の治療のための、請求項14に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーナノベシクル(ポリマーソーム)中に封入された薬物を少なくとも含む薬物送達システムに関し、薬物成分は式Iによるアントラサイクリン誘導体である。
【0002】
【化1】
【0003】
R1はH、F、-OMeまたは-OEtからなる群から選択され;R2はH、-OMe、メチルまたはエチルからなる群から選択され;R3はH、メチルまたはエチルからなる群から選択され、かつ、R4はHまたは保護基であり;ポリマーソームは、PEG、PLA、PCL、PTMCもしくはPTMBビルディングブロックまたはこれらの組合せを含むポリマーによって形成され;ポリマーソームポリマーは、少なくとも部分的に、リンカー基Lを介して標的化部位を化学的に結合させることによって官能化されており、標的化部位は抗体、ペプチド、アプタマーまたはこれらの混合物からなる群から選択される。さらに、本発明は、アントラサイクリン誘導体を充填した、標的化ポリマーソーム薬物送達システムの製造方法、前記薬物送達システムを含む医薬組成物、および癌の治療のための前記医薬組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
ドキソルビシン、ダウノルビシン等のアントラサイクリンは、歴史的に癌治療に最も広く使用され、かつ有効な抗癌剤であり、30年以上にわたって癌治療に使用されてきた。その作用機序は、DNA合成および修復ならびにRNA産生における干渉を引き起こすDNAインターカレーションに基づいており、これは、細胞複製阻害に続いて細胞死をもたらす。
【0005】
構造的には、アントラサイクリンはグリコシド結合を介して糖に結合したアントラキノン骨格を有する四環式分子である。四環構造はDNAの間にインターカレートし、糖は副溝の隣接塩基対と相互作用する。DNAへのインターカレーションは、アントラサイクリン、DNA、およびトポイソメラーゼIIの間で安定な複合体を形成し、したがって、トポイソメラーゼIIの作用を阻害し、DNAの修復を妨げる。アントラサイクリンの作用機序には、キノン部分によって生成される毒性活性酸素種の形成も含まれる。
【0006】
アントラサイクリンはいくつかの癌種に対して有効であるが、その使用は心毒性によって制限される。高い治療指数を有する合成アントラサイクリンおよびその副作用を低減させる送達システムを開発するために、広範な研究が行われてきた。PEG化リポソームドキソルビシン(Caelyx)は、乳癌および卵巣癌、多発性骨髄腫、ならびにカポジ肉腫の治療に使用され、ドキソルビシンの抗癌効果を損なうことなく心安全性が改善されていることを示している。遊離薬物と比較してリポソームアントラサイクリンの心毒性が減少しているにもかかわらず、転移性乳癌等のいくつかの癌タイプでは、抗癌効果は有意に高くはない。さらに、皮膚毒性や粘膜炎は、中でも、リポソーム封入ドキソルビシンの一般的な副作用である。
【0007】
したがって、薬物投与の副作用を低減させることができる、より強力な化学療法剤および腫瘍特異的送達システムを開発する緊急の必要性が存在する。あるアプローチは、リポソーム等の薬物ナノ担体の使用を含み、腫瘍において増加する蓄積は、主に血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果の増強に基づく。残念ながら、EPR効果は非常に不均一であり、癌腫および病期に依存する。
【0008】
薬物送達のトピックは、特許文献においても言及されている。
【0009】
例えば、US 2008 181 939 A1は、細胞傷害性の抗癌治療活性剤を細胞に送達するための加水分解誘発性の制御放出ポリマーソームナノ送達システムを開示しており、このシステムは以下を含む;親水性PEOと組み合わせた場合に、PEO体積分率(fEO)および化学鎖が、コポリマーベシクルからの封入剤放出動態およびポリマーソーム担体の膜不安定化を制御するように、膜においてポリエステル鎖の加水分解を制御する、少なくとも1の加水分解的に分解可能な疎水性コポリマー;抗癌治療封入剤を放出するための所望の制御放出速度を有し、半透過性の、薄肉の、両親媒性の、高分子量ポリエチレンオキシド(PEO)ベースのブロックコポリマー封入膜を有する、安定な、純合成の、放出された、PEOベースのポリマーソームベシクル;水溶液中で調製すると、少なくとも1の親水性PEOブロックコポリマーと少なくとも1の不活性な疎水性PEG-ブロックコポリマーは、その中に含まれる少なくとも1の抗癌活性剤封入剤、およびその中に封入された細胞傷害性抗癌治療活性剤の所望の制御放出速度を有する両親媒性高分子量PEOベースポリマーソームを形成する。
【0010】
さらに、US 2011 027 347 A1には、1以上の生物学的活性剤を含むポリマーソームが記載されており、ポリマーソームは式XY2を含む特定のポリマーに由来し、式中、Xは親水性基を含み、Yは疎水性基を含む。
【0011】
加えて、US 2017 002 7868 A1は、標的化PEG化リポソームを含む癌の治療のためのリポソーム組成物を開示し、標的化PEG化リポソームは、25~100の範囲のP15分子によって標的化され、P15分子はH-Cys-Gly-Gly-Gly-Pro-Pro-Leu-Ser-Gln-Glu-Thr-Phe-Ser-Asp-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-OHの配列を有するP15ペプチドであり、標的化PEG化リポソームにはドキソルビシンが充填されている。
【0012】
それにもかかわらず、標的化薬物送達システムの分野における既存の解決策に加えて、関心のある組織への強力な薬物の効率的な標的化送達を提供することができるさらなる解決策が依然として必要とされている。
【0013】
したがって、本発明の課題は、少なくとも部分的に、最新技術の欠点を克服することである。特に、本発明の課題は、薬物の細胞毒性が改善され、望ましくない全身性副作用が最小限に抑えられ、かつ癌細胞における高い薬物レベルが達成される、強力な薬物送達システムを提供することである。
【0014】
上述の課題は、独立請求項1に記載の特徴を含む薬物送達システムによって解決される。さらに、この課題は、それぞれ独立請求項の特徴に従った、アントラサイクリン誘導体を充填した標的化薬物送達システム、前記送達システムを含む医薬組成物および癌の治療における送達システムの本発明の使用の製造ための方法によってさらに解決される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態はまた、明細書および図面に開示される特徴によって、従属請求項の特徴によって定義され、明確に除外されない限り、分離された部分の特徴の集合は本発明の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の薬物送達システムの考えられる作用機序を示す。
図2図2は、透過型電子顕微鏡によるFAM標識RPAR-PS(RPAR-FAM-PS)の観察結果を示す。
図3図3は、PPC-1細胞またはM21へのPSの取り込みを示す。
図4図4は、PPC-1細胞におけるRPAR-UTO-PS、UTO-PS、PS、フリーのUTO、またはフリーのDOXの細胞傷害性を示す。
図5図5は、M21細胞におけるRPAR-UTO-PS、UTO-PS、PS、フリーのUTO、またはフリーのDOXの細胞傷害性を示す。
図6図6は、LinTT1-DiR-PS、RPAR-DiR-PS、またはDiR-PSをTNBCマウスに静脈内注射し、ライブイメージングを行った結果を示す。
図7図7は、LinTT1-DiR-PS、RPAR-DiR-PS、またはDiR-PSをTNBCマウスに静脈内注射した後24時間の曲線下面積(AUC)を示す。
図8図8は、UTU合成のスキームを示す。
図9図9は、保護された薬物のin vivoでの考えられる脱保護機序を示す。
図10図10は、動的光散乱法(DLS)によって測定されたDOX-PSおよびUTO-PSの流体力学的径を示す。
図11図11は、ポリマーソームからのUTOおよびDOXの累積放出挙動を示す。
【発明の概要】
【0017】
上記課題は、ポリマーナノベシクル(ポリマーソーム、PS)に封入された薬物を少なくとも含む薬物送達システムによって解決され、薬物成分は式Iによるアントラサイクリン誘導体である。
【0018】
【化2】
【0019】
R1はH、F、-OMeまたは-OEtからなる群から選択され;R2はH、-OMe、メチルまたはエチルからなる群から選択され;R3はH、メチルまたはエチルからなる群から選択され、かつ、R4はHまたは保護基であり;ポリマーソームは、PEG、PLA、PCL、PTMCもしくはPTMBビルディングブロックまたはこれらの組合せを含むポリマーにより形成されてなり、ポリマーソームのポリマーは、少なくとも部分的に、リンカー基Lを介して標的化部位を化学的に結合させることによって官能化されており、標的化部位は抗体、ペプチド、アプタマーまたはこれらの混合物からなる群より選択される。
【0020】
驚くべきことに、式Iによるアントラサイクリンは、上記の標的化ポリマーソーム(PS)送達システムとの組み合わせにおいて、いくつかの相乗的利点を含むことが見出された。特定のアントラサイクリンは、ドキソルビシンと比較して、前立腺癌およびメラノーマ細胞に対してより高い抗癌効果を示す。さらに、封入は、生体適合性かつ生分解性のポリマーソームをもたらし、封入は、高い封入速度で達成される。送達システムは、例えば、腫瘍透過性ペプチド(TPP)等の標的化部分、または他のクラスの親和性標的化リガンドの選択によって標的細胞に対して適合させることができ、システムの有効性は、例えば、PS上の腫瘍透過性ペプチド密度の変更によって、柔軟に適合させることができる。ホーミングシステムは一般に、「正しい」レセプターを発現する細胞における薬物毒性を増加させることができ、したがって、抗癌効果が増加し、全身性薬物副作用が減少する。特に、標的送達は、アントラサイクリンの心毒性等の望ましくない副作用を回避して、in vivoでの心臓における望ましくない薬物の蓄積を防止することができる。さらに、ホーミング官能化送達システムは、非常に速い腫瘍浸透を示し、腫瘍の検出およびイメージングにおける適用を示唆した。in vivo、in vitroでの有効性は、薬物化学と送達システムとの間の複雑な相互作用に依存するため、そのような相乗的利点は驚くべきことである。高充填量での薬物封入ならびに貯蔵中およびin vivo環境での充填送達システムの結果的な安定性は、予測するのが困難である。さらに、送達中のわずかな薬物放出、迅速かつ特異的な標的化、標的細胞における完全なインターナリゼーション、および標的における迅速な分解のみを保証するために、送達システムの安定性および標的化性能を調整しなければならない。したがって、送達中のいくつかの段階で、周囲の化学のわずかではあるが有意な変化が、薬物とPSとの間の安定性平衡を乱すことができなければならず、その結果、薬物の所望の作用が生じる。
【0021】
薬物送達システムは、ポリマーナノベシクル中に封入された薬物を少なくとも含む。開示されたシステムは、少なくとも2の異なる種類の分子を含む。一方は、薬物、すなわち、使用された時にヒトまたは動物の生物の生理または心理における変化をもたらす物質であり、他方は、薬物を取り囲むかまたは封入するベシクルである。これは、薬物がベシクルの内部に埋め込まれるか、またはベシクル二重層の一部を形成し、二重層壁がポリマーによって形成されることを意味する。ベシクルの大きさはサブミクロンの範囲であり、例えば、ベシクルは、球状の形状であり得、50nm以上かつ500nm以下の範囲の直径を有してもよい。
【0022】
送達システムの薬物成分は、式Iによるアントラサイクリン誘導体である。
【0023】
【化3】
【0024】
R1はH、F、-OMeまたは-OEtからなる群から選択され;R2はH、-OMe、メチルまたはエチルからなる群から選択され;R3はH、メチルまたはエチルからなる群から選択され、かつ、R4はHまたは保護基である。この新規な9-アミノアントラサイクリン誘導体は、ダウノサミン部分のC-3'、C4'にC13位のヒドロキシ基およびオキサゾリジン環を含む。これらの9-アミノアントラサイクリンは、他のアントラサイクリンと比較して心毒性が低く、アントラサイクリンの細胞毒性効果は、ダウノサミンの1,2-アミノアルコール部分のアミノ基およびヒドロキシ基(それぞれの窒素原子と酸素原子との間)にメチレン基またはエーテル基を結合させることによってさらに増加する。5員環は標的細胞中のDNAに共有結合し、薬物-DNA付加体を形成する。水性媒体中のオキサゾリジン環の安定性は、5員環の窒素原子に保護基を結合させることによって調整することができる。使用可能な保護基は、カルバメート結合によって連結され得る。適切な保護基は、アセチルオキシアルキルカルバメートまたは類似の保護基であり得る。特定の生理学的条件下で、例えば、pHのシフトまたは誘導されるエステラーゼによって、保護基は加水分解され、反応性オキサゾリジン環の曝露をもたらす。オキサゾリジン環は、DNAと反応してアントラサイクリン-DNA付加物を形成することができる。
【0025】
アントラサイクリンは、最も有効な抗癌治療薬の一つで、広範囲の癌種に対して有効である;しかし、心毒性はそれらの投薬を制限し、患者を心血管の発生および死の可能性に晒す。腫瘍細胞に対するより高い傷害性かつより少ない副作用を有する薬物および送達システムの開発は、現在の癌治療の治療指数を増加させるために必要である。アムルビシン等の9-アミノアントラサイクリンは、他のアントラサイクリンよりも心毒性が低い。大部分のアントラサイクリンの代謝において、C-13カルボニル基のヒドロキシル基への酵素的還元が生じる。アムルビシンの場合、対応する代謝物であるアムルビシノールは、親薬物よりも5~50倍強力である。アントラサイクリンの細胞内還元はまた、ホルムアルデヒドを産生する細胞中の他の分子を酸化することができるフリーラジカルを形成し、これは次に、アントラサイクリン中に存在するアミノ基と反応し、薬物-DNA付加体を形成する。付加体生成のために、ホルムアルデヒドは、アントラサイクリン中のダウノサミンの3'-アミノと最初に反応して活性化シッフ塩基を形成し、次いでこれはグアニン残基の環外アミノ基とアミナール(N-C-N)リンケージを形成することができる。この細胞毒性の機序は、オキサゾリジン環の形成によって促進することができる。提案されるアントラサイクリン誘導体のデザインは以下に基づく:
1)9-アミノアントラサイクリンの心毒性の減少;
2)C-13カルボニル基をヒドロキシ基に還元することによる効力の増加;および
3)オキサゾリジン環を形成することによる細胞傷害性の増加。
【0026】
アントラサイクリン誘導体が細胞に浸透すると、保護基は、サイトゾル中のエステラーゼによって加水分解され、反応性のオキサゾリジン環を露出させる。アントラサイクリン誘導体の4環構造は、DNAにインターカレートすることができ、オキサゾリジン環はメチレン炭素を介してグアニンに共有結合し、これにより、DNAの分子プロセスをブロックする。カルボキシルエステラーゼのようなエステラーゼは、いくつかの癌種において過剰発現し、選択されたアントラサイクリン誘導体を、DOX等の他のアントラサイクリンと比較して、より良好な腫瘍選択性薬物とする。
【0027】
PSは、PEG、PLA、PCL、PTMCもしくはPTMBビルディングブロックまたはこれらの組み合わせを含むポリマーによって形成される。上述のポリマーブロックから形成されるか、またはそれを含むPSは、薬物充填能力、安定性、および薬物放出の動態に関して好ましい特性を示すことが見出された。ブロックの親水性/疎水性の寄与は、本発明で使用されるアントラサイクリン誘導体の官能基または環構造と相互作用するために適切な範囲にあると仮定される。ブロックは、上述のモノマーのうちの2以上を含むブロックであり得る。略語の意味は当業者に知られており、例えば、PEGはポリエチレングリコールを意味し、PLAはポリ乳酸またはポリラクチド、PCLはポリカプロラクトン;PTMCはポリトリメチレンカーボネートである。PEG-ブロックは例えば、2000~10000の繰り返し単位を含んでいてもよく、他のブロックは例えば、5000~40000の繰り返し単位を含んでいてもよく、好ましくは、PEG-ブロックは4000~7000の繰り返し単位を含んでいてもよく、他のブロックは好ましくは8000~20000の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0028】
ポリマーソームポリマーは、少なくとも部分的に、リンカー基Lを介して標的化部位を化学的に結合させることによって官能化され、標的化部位は、抗体、ペプチド、アプタマーまたはこれらの混合物からなる群から選択される。ホーミングまたは標的化されたPSを生成するために、ポリマーの全部または一部は化学部位を含み、化学部位は、リンカー基LによってPSを構築するポリマーに共有結合される。該部位は、一般に、例えば標的細胞に結合することによって、または標的細胞へのインターナリゼーションを誘発することによって、該部位が標的細胞と生物学的に相互作用するという意味において、生物学的に活性である。したがって、化学部位は、薬物送達システムと標的細胞のタイプとの間の好ましい相互作用を誘導する。可能な部位は、上記のリストから選択することができ、ここで、正しい部位のタイプは、標的の機能として選択することができる。混合物は、同じポリマーソーム上に2以上の異なる標的化部位を含み得る。アプタマーは、例えば、特定の標的分子または細胞に結合するオリゴヌクレオチドまたはペプチドの分子である。標的分子は、例えば細胞表面受容体であり得る。抗体はタンパク質であり、タンパク質の構造は標的構造へのタンパク質の特異的結合をも可能にする。適切なペプチドは、例えばTPPであり得る。ターゲティング部位は、標的化部位の適切な官能基によってポリマーに結合することができる。特定の官能基は、当業者に公知である。ポリマー官能化の適切な程度は、標的化部位のサイズおよび全体的なPSの安定性の関数である。非官能化ポリマーに対する官能化ポリマーの可能な比は、1%以上、100%以下であり得る。
【0029】
薬物送達システムの好ましい態様において、ポリマーソームポリマーは、少なくとも部分的に、リンカー基Lを介して、CendRペプチド、iRGD(CRGDKGPDC)、LyP-1(CGNKRTRGC)、RPAR(RPARPAR)、TT1(CKRGARSTC)、LinTT1(AKRGARSTA)、iNGR(CRNGRGPDC)、tLyp-1(CGNKRTR)またはこれらの前駆体からなる群から選択される腫瘍透過性ペプチドを化学的に結合させることによって官能化される。ホーミングまたは標的PSを生成するために、ポリマーの全部または一部はペプチド基を含み、ペプチド基は、リンカー基Lによって、PSを構築するポリマーに共有結合される。例えば、CendRペプチドは、膜貫通糖タンパク質であるニューロピリン-1(NRP-1)との結合を介して、腫瘍血管および腫瘍組織の透過性を増強する。CendRペプチドは配列(R/KXXR/K)を含み、iRGDペプチドは、腫瘍線維芽細胞または腫瘍細胞を標的とし、CRGDKGPDC配列を含む。LyP-1 ペプチドは、腫瘍内皮細胞、マクロファージ、腫瘍リンパ組織、腫瘍細胞を標的とし、CGNKRTRGCの配列を含む。RPARペプチドは、NRP-1発現細胞(腫瘍内皮細胞、マクロファージ、腫瘍リンパ管、腫瘍細胞)を標的とし、RPARPARの配列を含む。TT1ペプチドは、腫瘍内皮細胞、マクロファージ、腫瘍リンパ組織、腫瘍細胞を標的とし、CKRGARSTCの配列を含む。LinTT1ペプチドは、腫瘍内皮細胞、マクロファージ、腫瘍リンパ組織、腫瘍細胞を標的とし、AKRGARSTA配列を含む。iNGRペプチドは、腫瘍内皮細胞または腫瘍中の他の細胞を標的とし、CRNGRGPDC配列を含む。tLyp-1ペプチドは、腫瘍内皮細胞または腫瘍中の他のNRP陽性細胞を標的とし、CGNKRTR配列を含む。所与の配列に加えて、ペプチドはペプチド前駆体の形成でPSに結合することが可能であり、前駆体はさらなる官能基または非官能基を含んでいてもよく、基は標的細胞への結合の前に、ペプチド断片からin vivoで除去してもよい。
【0030】
薬物送達システムの好ましい実施形態において、ポリマーソームはジブロックPEG-コポリマーを含んでいてもよく、第2のブロックはPLA、PCL、PTMC、PTMBPからなる群から選択される。PS安定性、薬物充填能力および高められたin vivo半減期のために、少なくともPEG-ブロックを含むジブロックコポリマーからPSを構築することが有用であることが見出されている。他のブロックは上記の基から選択することができ、ジブロックコポリマーは、in vivo条件下での本発明のアントラサイクリンと組み合わせて増大した安定性および腫瘍細胞において加速された分解性を含む、生分解性ポリマーであり得る。
【0031】
薬物送達システムの好ましい態様では、ポリマーソームはPEG-PCLジブロックコポリマーからなるものであってよく、PEG-部分の重量をPCL-部分の重量で除したものとして計算される、異なるポリマーブロックの重量比は、0.1以上かつ5以下である。上述のPSにおけるアントラサイクリン誘導体の封入は、腫瘍細胞に対するin vivoおよびin vitroの試験において非常に有効であることが証明されている。理論に束縛されるものではないが、薬物とジブロック鎖との相互作用は改善された安定性をもたらし、標的細胞に侵入する前の薬物放出のリスクを低減すると考えられる。さらに、改善された安定性に加えて、好ましい薬物-ポリマー相互作用に基づいて、高い薬物充填をベシクルにとり入れることもできる。PS安定性を低下させ得るため、より低い割合は不利であり得、PSが疎水性になり、それゆえに、PS柔軟性およびin vivo媒体中での溶解度/安定性を低下させ得るので、より高い割合は不利であり得る。
【0032】
式Iの薬物送達システムの好ましい態様において、R1はHであり、R2、R3はHであり、かつR4は保護基であり得る。アントラサイクリンのこの置換パターンは、改善された細胞傷害性および改善されたPS封入安定性を示すことが見出された。後者はポリマーPSブロックへのメチル基の好ましい相互作用に基づくものであり得るが、生理学的効果はオキサゾリジン環を含む置換および全体的な環構造に起因し得るものであり、後者は標的細胞のDNA構造とのより良好な相互作用を示す。
【0033】
薬物送達システムのさらに好ましい特徴においては、R4はアセチルオキシメチルカルバメートであり得る。カルバメート保護オキサゾリジン環を含むアントラサイクリンをPSに組み込むことが有用であることが見出された。保護は、オキサゾリジン環自体の安定性を変化させるだけでなく、ポリマーブロックとの相互作用の増加を形成することによって、送達システムとの好ましい相互作用も含むとみられる。R4は一般式RR'N-CO-O-CHR''-O-CO-R'''を含んでいてもよく、式中、R''はHまたはMeであってよく、COR'''はアシルであってよい。保護基の置換パターンに基づいて、加水分解速度も周囲の腫瘍細胞において調整され得る。
【0034】
他方では、薬物送達システムの好ましい実施形態では、基Lはマレイミドであり得る。PSへのペプチドまたはペプチド前駆体の機能的結合を達成するために、マレイミドは有益であることが見出されている。結合は非常に選択的に行うことができ、全体的なPS構造、薬物充填能力および完全性は妨げられない。ペプチドのマレイミドへの結合は、好ましくはマレイミドとペプチドのシステインアミノ酸との間のチオエーテル結合を介してもたらされる。
【0035】
薬物送達システムの好ましい実施形態では、ペプチド修飾ポリマー鎖の数をポリマー鎖の総数で除したものとして計算される、ポリマーソーム中のポリマー鎖の総数に対するペプチド修飾ポリマー鎖のモル比が、0.01以上かつ0.4以下であり得る。PSの安定性および腫瘍標的細胞へのPSのインターナリゼーションの効率を高めるためには、上述のモル比が好ましいことが見出された。ブロックポリマーの構造によって与えられる、全体的なPSの溶解性および安定性は、その範囲において有意に変化しない。さらに、より低い比率は、腫瘍細胞の表面受容体との標的化された相互作用が不十分となるため、不利であり得る。比は、蛍光色素標識ペプチドの蛍光測定によって評価することができる。
【0036】
薬物送達システムの好ましい態様では、ペプチド修飾ポリマー鎖の数をポリマー鎖の総数で除したものとして計算される、ポリマーソーム中のポリマー鎖の総数に対するペプチド修飾ポリマー鎖のモル比は、0.05以上かつ0.1以下である。標的PSの所望の溶解および薬物放出の挙動も維持しながら、アントラサイクリン充填PSの基本的な安定性、密度およびサイズの特性を維持するために、上記の比が有用であることが見出されている。PSは、範囲外の比を含むPSと比較して、改善された細胞結合、インターナリゼーション効率およびサイズを示す。
【0037】
薬物送達システムのさらに好ましい実施形態において、ポリマーベシクル中の薬物の濃度は、20μM以上かつ500μM以下であり得る。アントラサイクリンとPSとの組み合わせは、他の封入システムと比較して、より高い薬物量の封入を可能にする。特に上述のブロックコポリマーを含むPSの安定性は、標的細胞におけるPSのインターナリゼーションの前に、少量の放出を伴うか、または伴わずに、そのような大量の封入を可能にする。薬物充填がPS壁のポリマー充填およびポリマー相互作用にも影響を及ぼすため、このような安定性は普通ではない。
【0038】
薬物送達システムの別の好ましい特性において、薬物充填ポリマーナノベシクルの平均流体力学的径は、80nm以上かつ125nm以下であり得る。PS体積/薬物充填の間の最も優れたバランスを見出すために、in vivo条件下での安定性および上述のPSサイズの範囲のインターナリゼーション効率が有益であることが見出された。より大きいサイズは、PS中の薬物のインターナリゼーション効率および全体的な安定性を低下させ得、より小さいPSサイズは、PS中の可能な薬物量に負の影響を及ぼし得る。流体力学的径は、実施例に記載されるように動的光散乱法によって得られる。
【0039】
薬物送達システムのさらに好ましい実施形態では、薬物充填ポリマーナノベシクルの多分散指数が、0.01以上かつ0.25以下であり得る。上記の多分散性を有するPSを使用することは、薬物充填PSのインターナリゼーション効率および安定性にとって有益であることが見出されている。均一かつ狭いPSサイズ分布に基づいて、全身性薬物放出を減少させることができる。
【0040】
加えて、式Iによる薬物が薄膜水和工程によってポリマーナノベシクル中に封入されることを特徴とする、先行するクレームのいずれかに記載のアントラサイクリン誘導体充填標的化ポリマーソーム薬物送達システムの製造方法を開示することは、本発明の範囲内である。特に、薄膜水和は、特定のアントラサイクリン薬物および特定のポリマー選択を含む本発明のシステムを構築するのに有用であることが見出されている。低レベルの多分散性のみを含む「正しい」ポリマーサイズ範囲のポリマーサイズ分布を達成することが可能である。加えて、特に、有意な量の「緩く」取り込まれたかまたは結合しただけの薬物分子を含まず、アントラサイクリン誘導体はPSに安定に取り込まれるようである。
【0041】
本方法の好ましい態様において、薬物充填ポリマーナノベシクルは、さらなる工程において、サイズ排除クロマトグラフィー工程に供され得る。非常に狭いサイズ分布を達成し、かつ、非常に適切に組み込まれていない薬物が低いレベルであることを確実にするために、サイズ排除工程が非常に有用であることが見出されている。非常に安定で狭いサイズ分布が達成され、ここで、薬物は、化学物質の周囲の変化の際に、非常に均一な溶出プロファイルを含む。
【0042】
薬学的に許容される溶媒中に本発明の薬物送達システムを含む医薬組成物を開示することは、本発明の範囲内である。本発明の薬物送達システムはいくつかの薬学的に許容される溶媒に容易に溶解することができ、したがって安定な懸濁液を形成する。医薬組成物の利点については、本発明の薬物送達システムの利点に明示的に言及される。許容される適切な溶媒は、例えば、PBS、生理食塩水またはそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0043】
さらに、癌の治療のための本発明の医薬組成物の使用を開示することは、本発明の範囲内である。本発明のアントラサイクリン薬物を含む本発明の薬物送達システムを含む本発明の医薬組成物は、in vitroおよびin vivoの実験における優れた抗腫瘍効力を含む。より良好な効果は、少なくとも部分的には、最新技術のアントラサイクリンと比較した薬物のより高い毒性に基づく。薬物および送達システムの相乗的組み合わせに基づいて、最新の送達システムと比較して、より良好な生体適合性およびより少ない副作用を提供することが可能である。したがって、安全かつ非常に効果的な標的化抗腫瘍ビヒクルが本発明によって提供される。
【実施例
【0044】
本発明の薬物送達システムの考えられる作用機序を図1に概略的に示す。
【0045】
全ての実験について、以下のアントラサイクリン誘導体(UTO)を使用した:
【0046】
【化4】
【0047】
アントラサイクリン誘導体は式Iに関して、以下の置換パターンを含む:R1=H;R2=CH3;R3=HおよびR4=保護基(すなわち、アセチルオキシメチルカルバメート)。
【0048】
1.薬物合成
UTO合成は図8に示すようなスキームに従って実施される。図9には、保護された薬物のin vivoでの考えられ得る脱保護機序が示されている。
【0049】
トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネートの存在下、1,4-ジ-O-アセチル-N-トリフルオロアセチル-Β-L-ダウノサミン(2)で、アムルビシノン(Amrubicinone)(1)をグリコシル化した。反応をクエンチした後、生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液ジエチルエーテル/酢酸エチル)で精製した。化合物3のカルボニル基を、エタノール中で2.1当量のトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元し、粗生成物をジエチルエーテル中で抽出し、シリカゲル上でカラムクロマトグラフィー(溶離液ジクロロメタン/メタノール)により精製した。化合物4はN-トリフルオロアセチル基を脱保護したものであり、L-ダウノサミン部分からのO-アセチル基を、テトラヒドロフラン/メタノール/水混合物中で水酸化リチウム(10当量)を用いて開裂させた。反応混合物をPH 8.2に中和し、粗生成物を抽出により分離した。クロロホルム/メタノール/アンモニア水混合物の下相およびクロロホルム溶離剤として使用するカラムクロマトグラフィーによって、粗生成物をさらに精製した。乾燥クロロホルム中で、精製化合物5を1.9当量のパラホルムアルデヒドと3日間反応させた。未反応化合物5を0.45μMポアフィルターで濾過して分離し、得られた溶液を濃縮し、ジエチルエーテルでトリチュレートして化合物6を得た。生成物を核磁気共鳴(NMR)によって特徴付けた。
【0050】
化合物8の合成:100 mgの化合物6(0.19 mmol)を6 mLの乾燥ジメチルホルムアミドに溶解し、49mg(1当量、0.19 mmol)の4-ニトロフェニル-(アセチルオキシ)-メチルカーボネートを添加した。混合物をアルゴン雰囲気下、室温で26時間撹拌した。この後、減圧下、室温で反応混合物を部分的に濃縮し(1 mL以下に)、アセトニトリル:水(1:1)中で6 mLの酢酸(1%)溶液と混合し、2時間撹拌して、未反応のオキサゾリジン環を加水分解した。得られた混合物を分取HPLC(Column Luna C18(2)Axia 27.2x250 mm、溶離系 水/アセトニトリル)で精製した。合計22 mgのコンジュゲート8を分離した。生成物の構造は、NMRおよび高分解能質量分析(HRMS、計算値MW 627.2185、実測値MW 627.2182)によって確認した。
【0051】
2.薬物送達システムの合成
ポリエチレングリコール-ポリカプロラクトン(PEG5,000-PCL10,000;それぞれMW5,000および1,0000)(PEG-PCL)、フルオレセイン-PEG-PCL(FAM-PEG-PCL)、およびマレイミド-PEG5,000-PCL10,000(MAL-PEG-PCL)を混合し、0.5 mLのアセトンに溶解した(ポリマーの総量は5 mgであった)。異なるパーセンテージのMAL-PEG-PCLを使用し(0;2;5;10;および20%)、すべてのポリマーソーム(PS)サンプルは5%のFAM-PEG-PCLポリマーを含有した。アセトンを窒素流で蒸発させて、ガラスバイアル(Sigma-Aldrich、独)の壁上に薄いポリマーフィルムを形成した。次に、予め窒素流でパージした0.4 mLのPBS PH 7.4でフィルムを水和し、65℃の水浴中で30秒間加熱し、30秒間超音波処理した。PSが形成され、ポリマー凝集体が懸濁液中に観察されなくなるまで、加熱および超音波処理工程を繰り返した。その後、MAL-PEG-PCLに対して4当量のCys-RPARペプチドを0.1 mLのPBSに溶解し、PS懸濁液に添加した。サンプルをさらに10分間超音波処理し、室温で3時間、撹拌機中で混合し、4℃で一晩維持した。PS試料の最終容積は0.5 mLであり、総ポリマー濃度は10 mg/mLであった。
【0052】
PS内への薬物の封入のために、50 nmolの薬物を100μLのアセトンに溶解し、アセトンに溶解したポリマーに添加した(ポリマーの総量は5 mgであった)。アセトンを蒸発させて、ポリマー/薬物フィルムを形成し、PSを上述のように形成した。
【0053】
PSをサイズ排除クロマトグラフィーにより精製した。直径45~165μMのアガロースビーズ(Sephadex 4Bゲル)を固定相として使用した。カラム中のSephadexゲルの高さは8 cm(体積25.13 mL)であった。PSサンプルをPH 7.4のPBSで溶出した。
【0054】
Zetasizer Nano ZSP(Malvern, 米)を用いて、PSの平均流体力学的径を動的光散乱法(DLS)で測定した。PSサンプルをPH 7.4のPBS で1 mg/mLに希釈した。サンプルを173°で10秒間スキャンした。結果は10回の実行の平均を表す。測定を3回繰り返し、平均した。ゼータ電位を、Zetasizer Nano ZSP(Malvern, 米)を用いて、NaCl 10 mM中ポリマー0.2 mg/mLにて測定し、サンプル当たり50回実施した。透過型電子顕微鏡(TEM)のために、PSサンプルをmQ水(0.5 mg/mL)で希釈し、銅グリッド上に1分間移し、0.75%リンタングステン酸(PH 7)で20秒間染色し、風乾し、Tecnai 10 TEM(Philips, 蘭)を用いて可視化した。
【0055】
Nanodrop 2000c UV-VIS分光光度計(Thermo Scientific, 米)を用いて、封入された薬物の量を定量した。薬物定量のために、1:1のMeOH:水中に薬物の連続希釈を調製し、490 nMの吸光度を測定した。収集されたデータを用いて、MS Excelプログラムにて線形傾向線を作成し、その式を用いてPS内部の薬物濃度をさらに評価した。
【0056】
蛍光測定によって、PSサンプル中のFAM-PEG-PCLのパーセンテージを定量した。まず、1:1のMeOH:PBSにおいて、FAM-Cysの検量線を作成し、Victor X5 Multilabel Microplate Reader(Perkin Elmer, 米)を用いて、480 nm/535 nmでの蛍光を測定した。PSサンプル(25μL)を25μLのMeOHと混合し、蛍光を測定してPS組成物中のFAM-PEG-PCLのパーセンテージを計算した。PS組成物中のFAM-PEG-PCLパーセンテージは4.9±0.3であった。
【0057】
最適なペプチド密度を有するPS上のペプチド量を評価するために、20%のMAL-PEG-PCLおよび80%のPEG-PCLを使用してPSを形成し、FAM-Cys-RPARペプチドを上述のようにPSにコンジュゲートさせた。PBSにおいてFAM-Cys-RPARの標準曲線を作成し、480 nm/535 nmでの蛍光測定によって蛍光を測定した。FAM-Cys-RPARペプチド(25μL)で官能化されたPSを25μLのMeOHと混合し、蛍光を測定して、PS組成物中のFAM-RPAR-PEG-PCLのパーセンテージを計算した。総ポリマー量に対するFAM-ペプチド-PEG-PCLパーセンテージは6%であった。
【0058】
3.薬物送達システムの特性分析
3.1 ペプチド密度
全体的なペプチド密度の効果を試験するために、表面上に様々なRPAR密度を含むポリマーソームを調製した。密度は、合成に使用されるコポリマーの全量に対して様々な割合のマレイミド-PEG-PCL(0;2;5;10および20%)を使用することによって変化させた。ペプチドコンジュゲーションは、ペプチドのシステインチオール基とコポリマーのマレイミド基との間のチオエーテル結合の形成を介して生じるため、マレイミド基の量は達成可能な最大のペプチド密度を決定する。全てのPSは、上述の方法によって調製した。PSは、Cys-RPARペプチドで官能化され、蛍光標識として5%のFAM-PEG-PCLを含有した。
【0059】
動的光散乱法によって、異なるPSサンプルの流体力学的径を測定した。平均PS直径は105±12 nmであり、多分散指数(PDI)は0.19±0.02であった。透過型電子顕微鏡は、全てのFAM標識RPAR-PS(RPAR-FAM-PS)サンプルが球状ベシクルを含む均一のものであることを示した(図2)。
【0060】
さらに、PPC-1腫瘍細胞およびM21腫瘍細胞を用いた最良の腫瘍細胞標的化について、PS表面上のRPAR密度効果を評価した。ヒト初代前立腺癌細胞に由来する細胞であるPPC-1細胞は、正常な細胞と比較して、NRP-1受容体の上昇した発現を含む。反対に、ヒトメラノーマ細胞に由来するM21細胞は、NRP-1を欠いている。これらの細胞株は、NRP-1発現細胞へのRPAR標的化PSの特異的結合およびインターナリゼーションを研究するための有用なツールを提供する。
【0061】
異なるRPAR-FAM-PSサンプルと共に両細胞株を1時間インキュベートし、フローサイトメトリーを用いて細胞結合およびインターナリゼーションを測定した。PPC-1細胞へのRPAR-FAM-PSの特異的結合があり、PS表面上のペプチドの増加は、PPC-1細胞において、より高いインターナリゼーションをもたらした(図3)。20%マレイミド-PEG-PCLで形成されたPSは、PPC-1細胞による最も高い取り込みを示し、標識細胞の約100%であった。対照的に、M21細胞へのRPAR-FAM-PSの結合は非常に低く、ペプチド密度とは無関係であり、ペプチド受容体相互作用に対する細胞結合およびインターナリゼーションの依存性が確認された。
【0062】
さらに、PPC-1およびM21細胞によるRPAR-FAM-PS取り込みを、蛍光共焦点顕微鏡で試験した。1時間のインキュベーション後、RPAR-FAM-PSを表すシグナルはPPC-1細胞においてのみ検出されたが、M21細胞はPSの取り込みを示さなかった。フローサイトメトリーの結果より、20%マレイミド-PEG-PCLを用いて形成されたPSと共にインキュベートしたPPC-1細胞において、有意に高いRPAR-FAM-PSシグナルが検出されることが確認された。特に、20%のマレイミド-PEG-PCLを有するPSと共にPPC-1細胞をインキュベートした場合、対応する蛍光シグナルが細胞内に見られ、RPAR-FAM-PSの細胞浸透の成功が示された。これらの知見に基づいて、20%のマレイミド-PEG-PCLを用いてさらなるPSを合成した。
【0063】
3.2.封入効率
UTO封入効率の評価のために、上記のアントラサイクリン誘導体を、薄膜水和法を用いてPS中に封入した。封入後、サンプルをサイズ排除クロマトグラフィーにより精製して、非封入薬物を除去した。充填されたRPAR官能化PS(RPAR-UTO-PS)、UTO充填非標的化PS(UTO-PS)、および「空」のPS(PS)の形態および流体力学的径は、すべてのサンプルについて同様であり、100+12 nmの範囲および0.15+0.06のPDIであり、非常に均一なPS直径を示した。UTO-PSサンプル中のUTO濃度は約50μMであり、封入効率(EE)は80%であった。PS膜におけるUTOの保持は、おそらくその調和する疎水性に基づいて、ドキソルビシンHClの封入効率(1% EE)と比較して、より高いEEをもたらした。
【0064】
3.3.細胞傷害性
UTO細胞傷害性の評価のために、所定の範囲の薬物濃度にわたる30分間の処理後の培養PPC-1細胞(図4)およびM21細胞(図5)において、RPAR-UTO-PS、UTO-PS、PS、フリーのUTO、およびフリーのDOXの細胞傷害性を試験した。PPC-1細胞において、フリーのUTOは、2.5μM(それぞれ細胞生存率68%対87%)および25μM(それぞれ14%対56%)の濃度で、フリーのDOXと比較して、有意に傷害性が高かった。M21細胞においても、フリーのUTOは、25μMの濃度で、DOXと比較してより高い傷害性を示した(15%対58%)。NRP-1陽性PPC-1細胞において、RPAR-UTO-PSは、2.5μMのUTOの濃度で、UTO-PSよりも有意に傷害性が高かった(細胞生存率41%対70%)。NRP-1陰性M21細胞は、25μMの濃度のフリーのUTOで処理した場合、有意に低い生存率を示し、したがって、TPP-PS浸透、および腫瘍細胞における傷害性が、NRP-1へのペプチド結合に依存することが確認された。さらに、PPC-1細胞において、RPAR-UTO-PSは、2.5μMの薬物濃度で、フリーのUTOと比較してより高い傷害性を示し、CendRペプチドによって誘発されるインターナリゼーションは、その濃度でのフリーの薬物のインターナリゼーションと比較してより効率的であることが実証された。
【0065】
3.4.in vivo試験-ホーミング能力
in vivoでの腫瘍への特異的な薬物送達のためのTPPで標的化されたPSの能力を評価するために、同所性TNBCモデルにおける色素DiRで標識されたPSの腫瘍蓄積を使用した。DiRは近赤外(NIR)吸収および発光スペクトルを有する疎水性分子であり、全身イメージングのための有用なツールを提供する。NIR光は、その領域において最小のバックグラウンド干渉を有しながら、組織に浸透することができる。
【0066】
LinTT1-、RPAR標的化、および非標的化の、DiRを封入するPS(LinTT1-DiR-PS、RPAR-DiR-PS、およびDiR-PS)を調製した。PSは以前のPS製剤と同様の平均流体力学的径を有する球状であり(平均サイズ:116±8 nm、PDI 0.15以下)、PSの膜中の色素の存在がナノベシクルの構造に影響を及ぼさないことを実証した。
【0067】
腫瘍インターナリゼーションを評価するために、侵襲性ヒト由来TNBC細胞株であるMCF10CA1a癌細胞を使用した。これらの細胞は、表面p32およびNRP-1タンパク質を過剰発現し、したがって、それらをLinTT1およびRPAR CendRペプチドの良好な標的とすることが知られる。LinTT1ペプチドは乳房腫瘍の早期検出および治療のためにすでに使用されているため、TNBCモデルをin vivoで使用した。
【0068】
LinTT1-DiR-PS、RPAR-DiR-PS、およびDiR-PSをTNBCマウスに静脈内注射し、注射後1;3;6;24;および48時間にライブイメージングを行った(図6)。LinTT1およびRPARペプチドによる標的化は、DiR-PSの腫瘍ホーミングを増加させた。LinTT1-およびRPAR-DiR-PSは投与3時間後に腫瘍中に検出されたが、標的化されていないDiR-PSは注射24時間後から可視化され始めただけであった。最も高い腫瘍ホーミングは、LinTT1-DiR-PSの注射の24および48時間後に観察された。24時間後の腫瘍における、曲線下面積(AUC、図7)によって評価される積分強度は、DiR-PSと比較して約42%高い。RPAR-DiR-PSのAUCもまた、DiR-PSと比較して有意に高かった(約25%高かった)。24時間後および48時間後、LinTT1-、RPAR-、および非標的化のDiR-PSも、肝臓および脾臓において観察された。これは、薬物およびNPの全身クリアランスにおけるこれらの器官の重要な役割によって説明され得る。LinTT1-DiR-PS注射の48時間後、乳房腫瘍および心臓を切除し、PSの微視的局在を蛍光共焦点顕微鏡によって分析した。腫瘍実質内の深部にLinTT1-DiR-PSの蓄積が見られた。心毒性はアントラサイクリンの欠点の1つであるため、TNBCマウスの心臓におけるLinTT1-DiR-PSの蓄積も評価した。腫瘍細胞と比較して、心組織において有意に低いPSシグナルレベルが観察された。LinTT1受容体、p32はまた、活性化マクロファージにおいて過剰発現され、これは、腫瘍進行において重要な役割を果たす。
【0069】
加えて、腫瘍形成促進性M2マクロファージにおいて発現されるCD206受容体とのLinTT1-DiR-PSの共局在も測定した。LinTT1-DiR-PSが腫瘍中のM2マクロファージを標的とすることが観察された。
【0070】
3.5.in vivoテスト-腫瘍における薬物蓄積
LinTT1標的化PS蓄積効果の増強によって促進される、同所性MCF10CA1a腫瘍担持マウスにおけるLinTT1-UTO-PS、UTO-PS、およびフリーのDOXの静脈内投与後の薬物蓄積を研究した。サンプルを注射し、24時間循環させ、腫瘍を採取し、共焦点免疫分析によって分析した。
【0071】
LinTT1-UTO-PSを注射したマウスでは、他のサンプルと比較して有意に高いUTO腫瘍蓄積が認められた。血管との低い共局在(CD31染色)が観察されたUTO蛍光は、LinTT1-PSに充填されたUTOが血管外漏出し腫瘍組織に浸透したことを示唆した。この結果は、LinTT1-PSにおけるUTOの封入が薬物の腫瘍蓄積および浸透を増強し、効率的なTNBC治療のための本発明者らの製剤の潜在的な適用を示すことを実証する。
【0072】
4.PS-UTOとPS-DOXの比較
PS封入システムにおけるDOXとUTOの差を定量的に評価するために、直接比較を行った。フィルム水和法を用いて、UTOおよびDOXの両方をPEG-PCL-PSに封入した。この試験のための封入およびPS形成を、以下に記載されるように行った:
【0073】
4.1 PS形成
5 mgのPEG-PCLを0.3 mLのアセトンに溶解することによって、ポリマーソームを調製した。アセトンを窒素流で蒸発させて、ガラスバイアルの壁上に薄いポリマーフィルムを形成した。予め窒素流でパージした0.5 mLのpH 7.4のPBSでフィルムを水和し、65℃の水浴中で30秒間加熱し、30秒間超音波処理した。PSが形成され、ポリマー凝集体が懸濁液中に観察されなくなるまで、加熱および超音波処理工程を繰り返した。PSサンプルの最終容積は0.5 mLであり、総ポリマー濃度は10 mg/mLであった。
【0074】
4.2 薬物封入
UTOのPS封入のために、50 nMのUTOを100μLのアセトンに溶解し(0.5 mM濃度)、アセトンに溶解したポリマーに添加した(ポリマーの総量5 mg、UTO濃度0.125 mM)。アセトンを蒸発させてポリマー/薬物フィルムを形成し、PSを上述のように形成した。
【0075】
DOX封入のために、pH 7.4のPBS中の2 mM DOX溶液でポリマーフィルムを水和し、PSを上述のように形成した。UTOと比較してDOX封入効率が約20倍低いため、より高いDOX濃度が必要とされる。用いられた差は、PS中のUTOおよびDOXの同等の濃度をもたらす。
【0076】
4.3 精製
サイズ排除クロマトグラフィーを用いて、UTO-PSおよびDOX-PSのサンプルを精製した。固定相として、アガロースビーズを45~165μmの直径で使用した(Sephadex 4Bゲル)。カラム中のSephadexゲルの高さは8 cmであり(体積25.13 mL)、デッドボリュームは2.5 mL以下であった。PS分画(0.5 mL)を、PSの存在を示すような溶液の濁りが観察されなくなるまで回収した。
【0077】
4.3 封入効率(EE)
UV-VIS分光法(Thermo Scientific, 米)を用いて、UTOおよびDOXのPS封入量を定量した。UTO定量のために、1:1のMeOH:水中でUTOの連続希釈を調製し、485 nmの吸光度をキャリブレーションとして用いた。DOX定量のために、PBS中でDOXの連続希釈を調製し、485 nmの吸光度も測定した。データの線形当てはめをさらに使用して、UTOおよびDOXの濃度を評価した。
【0078】
定量結果は、精製後において、UTO充填PSの封入効率(EE)は、85%であり、ドキソルビシン・HCl(DOX)について達成可能な2.3%と比較して劇的に高いことを明らかにした。これは、異なる薬物の類似の化学構造からすると、非常に驚くべきことである。したがって、DOXの代わりにUTOを使用することによって、はるかに高い薬物充填を達成することができる。
【0079】
図10は、動的光散乱法(DLS)によって測定されたDOX-PSおよびUTO-PSの流体力学的径を示す。非常に類似したPSサイズは、DOXまたはUTOを使用して達成可能である。平均粒子径は、DOX-PSについては92 nm(+33)であり、UTO-PSについては87 nm(+37)である。
【0080】
4.3 薬物放出
ポリマーソームからのUTOおよびDOXの累積放出挙動をさらに評価するために、PBS(0.25 mL)中、37℃で、様々な期間(0;1;4;24;および48 h)UTOおよびDOXの充填PSをインキュベートした。Amicon Ultra遠心フィルター(MWCO 100 kDa)を用いて、室温、6,000 gで20分間、サンプルを遠心分離した。Victor X5 Multilabel Microplate Reader (Perkin Elmer, 米)を用いて、濾液の蛍光を485 nm/535 nm(0.1s)で測定して、放出された薬物量を定量した。
【0081】
薬物放出の結果を図11に示す。48時間後、3%未満のUTOがPSから放出されたことが示されている。UTOと比較して、約10%のDOXがPSから放出された。この発見は、UTOが、驚くべきことにPS封入システムにおける「より良好な」薬物であるというさらなる指標である。薬物はより多い量で封入され、薬物はDOXと比較してPS中により良好に保持される。UTOとDOXの構造的類似性を考慮すると、このような挙動は非常に驚くべきものである。それにもかかわらず、より良好なin vivoの有効性も、少なくとも部分的に、DOXと比較してより良好な封入およびより高い貯蔵安定性に基づき得る。
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図10
図11
【配列表】
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【国際調査報告】