(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-22
(54)【発明の名称】Fe基アモルファスナノ結晶合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 45/02 20060101AFI20230815BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20230815BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C22C45/02 A
C21D6/00 C
C22C38/00 303S
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572665
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(85)【翻訳文提出日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 CN2022076488
(87)【国際公開番号】W WO2022183909
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】202110224190.5
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520206025
【氏名又は名称】チンタオ・ユンル・アドバンスト・マテリアルズ・テクノロジー・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シューハイ
(72)【発明者】
【氏名】ブー,ジエンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ドン
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ,ウェンカン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ホンユ
(57)【要約】
本明細書は、磁性材料の技術分野に関し、詳細には、Fe基アモルファスナノ結晶合金及びその製造方法に関する。Fe基アモルファスナノ結晶合金は、原子パーセントが式Fe
(100-a-b-c-d-e-f)B
aSi
bP
cC
dCu
eNb
fで示される元素を含み、式中、8≦a≦12、0.2≦b≦6、2.0≦c≦6.0、0.5≦d≦4、0.6≦e≦1.3、0.6≦f≦0.9、及び1≦e/f≦1.4である。Fe基アモルファスナノ結晶合金は、良好な磁気特性、非常に優れた熱特性、及び広い結晶化温度ゾーンを有し、したがって、工業的製造に適している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe基アモルファスナノ結晶合金であって、原子パーセントが式(1)で示される元素を含み、
Fe
(100-a-b-c-d-e-f)B
aSi
bP
cC
dCu
eNb
f (1)
式中、8≦a≦12、0.2≦b≦6、2.0≦c≦6.0、0.5≦d≦4、0.6≦e≦1.3、0.6≦f≦0.9、及び1≦e/f≦1.4である、Fe基アモルファスナノ結晶合金。
【請求項2】
連続薄条片形状であり、前記薄条片の条片厚さは、30μm以上である、請求項1に記載のFe基アモルファスナノ結晶合金。
【請求項3】
前記Fe基アモルファスナノ結晶合金の第二の結晶化開始温度と第一の結晶化開始温度との間の温度差が、120℃超である、請求項1に記載のFe基アモルファスナノ結晶合金。
【請求項4】
前記温度差の第一の発熱量に対する比が、1.38以上であり、前記第一の発熱量は、第一の結晶化の過程で前記Fe基アモルファスナノ結晶合金から放出された発熱量であり、前記温度差の単位は、摂氏であり、前記第一の発熱量の単位は、J/gである、請求項3に記載のFe基アモルファスナノ結晶合金。
【請求項5】
前記Fe基アモルファスナノ結晶合金の飽和磁気誘導が、1.75T以上であり、50Hz-1.5Tの励磁条件下での前記Fe基アモルファスナノ結晶合金の単位重量あたりの鉄損が、0.30W/kg未満であり、前記Fe基アモルファスナノ結晶合金中のナノ結晶粒のサイズが、20乃至30nmである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のFe基アモルファスナノ結晶合金。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のFe基アモルファスナノ結晶合金の製造方法であって、以下の工程、
(a)式(1)に示される元素の原子パーセントに従ってブレンドし、次いで製錬して溶融鋼を得ること、
(b)前記溶融鋼に対して単ロール急冷を行って初期条片を得ること、
(c)前記初期条片を、前記初期条片の第一の結晶化開始温度よりも20乃至30℃高い第一の事前設定温度まで加熱すること、
(d)前記温度を30乃至40分間保持すること、及び
(e)前記初期条片を冷却して、前記Fe基アモルファスナノ結晶合金を得ること、
を含み、
Fe
(100-a-b-c-d-e-f)B
aSi
bP
cC
dCu
eNb
f (1)
式中、8≦a≦12、0.2≦b≦6、2.0≦c≦6.0、0.5≦d≦4、0.6≦e≦1.3、0.6≦f≦0.9、及び1≦e/f≦1.4である、製造方法。
【請求項7】
前記初期条片を第一の事前設定温度まで加熱することが、
前記初期条片を、前記第一の事前設定温度よりも低い第二の事前設定温度まで加熱し、事前設定時間にわたって前記温度で保持すること、及び
前記初期条片を、前記第二の事前設定温度から前記第一の事前設定温度まで、第一の事前設定加熱速度で加熱すること、
を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第二の事前設定温度が、280℃であり、前記事前設定時間が、2時間であり、
前記第一の事前設定加熱速度が、30℃/分である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(e)において、前記初期条片が、50℃/秒の冷却速度で冷却される、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のFe基アモルファスナノ結晶合金から構成される磁気コンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容が参照により本明細書に援用される「Fe-based Amorphous Nanocrystalline Alloy and Preparation Method thereof」と題し、国家知識産権局に2021年3月1日に出願された中国特許出願第202110224190.5号の優先権を主張するものである。
【0002】
本明細書は、磁性材料の技術分野に関し、詳細には、Fe基アモルファスナノ結晶合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、変圧器、モーター又は発電機、電流センサー、磁気センサー、及びパルスパワー磁気コンポーネント(pulse power magnetic components)に用いられる軟磁性材料としては、ケイ素鋼、フェライト、Co基アモルファス合金、及びナノ結晶合金が挙げられる。これらの軟磁性材料の中でも、ケイ素鋼は、安価であり、磁束密度及び機械加工性が高いが、高周波下において高い損失を起こし易い。フェライトは、飽和磁束密度が低いことに起因して、高出力高飽和磁気誘導のシナリオにおける用途は限られてきた。Co基アモルファス合金は、高価であるだけでなく、飽和磁束密度も低いため、高出力デバイスとして用いられた場合、Co基アモルファス合金は、熱力学的に不安定であり、使用時に高い損失を起こし易い。
【0004】
Fe基アモルファス合金は、高飽和磁束密度及び高出力下での低い損失という利点を有することから、理想的な磁性材料である。現在、Fe基アモルファス/ナノ結晶合金は、Finemet(Fe73.5Si13.5B9Cu1Nb3)合金、Nanoperm(Fe-M-B、M=Zr、Hf、Nbなど)合金、及びHITPERM(Fe-Co-M-B、M=Zr、Hf、Nbなど)合金という主要な3つの系へと開発されてきた。これらの中でも、Finemet合金は、その良好な軟磁気特性及び低いコストのために、多くの分野で広く用いられてきた。しかし、Finemet合金の飽和磁気誘導は低い(僅かに約1.25T)。飽和磁気誘導の高いケイ素鋼と比較すると、Finemet合金の適用には、同じ条件下においてより大きい体積が必要であり、このことによって、Finemet合金の用途が極めて限定される。加えて、ケイ素鋼と比較して、Finemet合金は、希少金属であるNbの存在に起因してコストが高く、社会の発展に寄与するものではない。
【発明の概要】
【0005】
本明細書の実施形態は、Fe基アモルファスナノ結晶合金及びその製造方法を提供する。Fe基アモルファスナノ結晶合金は、非常に優れた軟磁気特性を有し、工業的製造に適している。
【0006】
第一の態様では、本明細書の実施形態は、式(1)で示される原子パーセントの元素を含むFe基アモルファスナノ結晶合金を提供し、
Fe(100-a-b-c-d-e-f)BaSibPcCdCueNbf (1)
式中、8≦a≦12、0.2≦b≦6、2.0≦c≦6.0、0.5≦d≦4、0.6≦e≦1.3、0.6≦f≦0.9、及び1≦e/f≦1.4である。
【0007】
いくつかの実施形態では、Fe基アモルファスナノ結晶合金は、連続薄条片形状であり、薄条片の条片厚さは、30μm以上である。
いくつかの実施形態では、Fe基アモルファスナノ結晶合金の第二の結晶化開始温度と第一の結晶化開始温度との間の温度差は、120℃超である。
【0008】
いくつかの実施形態では、温度差の第一の発熱量に対する比は、1.38以上であり、第一の発熱量とは、第一の結晶化の過程でFe基アモルファスナノ結晶合金から放出された発熱量であり、温度差の単位は、摂氏であり、第一の発熱量の単位は、J/gである。
【0009】
いくつかの実施形態では、Fe基アモルファスナノ結晶合金の飽和磁気誘導は、1.75T以上であり、50Hz-1.5Tの励磁条件下でのFe基アモルファスナノ結晶合金の単位重量あたりの鉄損は、0.30W/kg未満であり、Fe基アモルファスナノ結晶合金中のナノ結晶粒のサイズは、20~30nmである。
【0010】
第二の態様では、第一の態様で述べたFe基アモルファスナノ結晶合金の製造方法は、以下の工程、
(a)式(1)に示される元素の原子パーセントに従ってブレンドし、次いで製錬して溶融鋼を得ること、
(b)溶融鋼に対して単ロール急冷を行って初期条片を得ること、
(c)初期条片を、初期条片の第一の結晶化開始温度よりも20~30℃高い第一の事前設定温度まで加熱すること、
(d)この温度を30~40分間保持すること、及び
(e)初期条片を冷却して、Fe基アモルファスナノ結晶合金を得ること、
を含み、
Fe(100-a-b-c-d-e-f)BaSibPcCdCueNbf (1)
であり、式中、8≦a≦12、0.2≦b≦6、2.0≦c≦6.0、0.5≦d≦4、0.6≦e≦1.3、0.6≦f≦0.9、及び1≦e/f≦1.4である。
【0011】
いくつかの実施形態では、初期条片を第一の事前設定温度まで加熱することは、
初期条片を、第一の事前設定温度よりも低い第二の事前設定温度まで加熱し、事前設定時間にわたってその温度で保持すること、及び
初期条片を、第二の事前設定温度から第一の事前設定温度まで、第一の事前設定加熱速度で加熱すること、を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、第二の事前設定温度は、280℃であり、事前設定時間は、2時間であり、第一の事前設定加熱速度は、30℃/分である。
いくつかの実施形態では、工程(e)において、初期条片は、50℃/秒の冷却速度で冷却される。
【0013】
第四の態様では、第一の態様で述べたFe基アモルファスナノ結晶合金から構成される磁気コンポーネントが提供される。
本明細書の実施形態によって提供されるFe基アモルファスナノ結晶合金は、良好な磁気特性、非常に優れた熱特性、及び広い結晶化温度ゾーンを有し、したがって、工業的製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本明細書の実施形態によって提供されるFe基アモルファスナノ結晶合金のプロセスフローを示す。
【
図2】
図2は、実施形態1、2、及び3のXRDパターンを示し、1が実施形態1を表し、2が実施形態2を表し、3が実施形態3を表す。
【
図3】
図3は、実施形態6、7、及び8のXRDパターンを示し、6が実施形態6を表し、7が実施形態7を表し、8が実施形態8を表す。
【
図4】
図4は、実施形態12、13、及び14のXRDパターンを示し、12が実施形態12を表し、13が実施形態13を表し、14が実施形態14を表す。
【
図5】
図5は、実施形態1、3、及び6のDSCパターンを示し、1が実施形態1を表し、3が実施形態3を表し、6が実施形態6を表す。
【
図6】
図6は、実施形態2、8、12、及び14のDSCパターンを示し、2が実施形態2を表し、8が実施形態8を表し、12が実施形態12を表し、14が実施形態14を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態における技術的スキームについて、添付の図面を参照しながら以下に記載する。記載される実施形態は、単なる例示的な実施形態であり、本明細書の可能なすべての実施形態というわけではないことは明らかである。
【0016】
1つのスキームは、Fe基アモルファス合金FeaBbSicPxCyCuzを提供し、79≦a≦86原子%、5≦b≦13原子%、0<c≦8原子%、1≦x≦8原子%、0≦y≦5原子%、0.4≦z≦1.4原子%、及び0.08≦z/x≦0.8である。Fe基アモルファス合金を初期成分として用いることで、高飽和磁気誘導及び高透磁率の両方を備えたFe基ナノ結晶合金を得ることができる。Fe基アモルファス合金を結晶化させ、精錬してナノスケールとするためには、Fe基アモルファス合金は、100℃/分の高い加熱速度で加熱される必要があり、加熱後に得られる温度は、30~40℃の狭い温度範囲内で維持されなければならない。したがって、工業的分野においてFe基アモルファス合金に基づくナノ結晶合金を製造することは極めて困難である。加えて、設定温度付近では、結晶化に起因して大量の熱が直ちに発生し、これが、大きいコンポーネントの温度の急な上昇をもたらし、結果として、連続的な温度の上昇及び溶融さえも発生させる。
【0017】
本明細書の実施形態によると、Fe基アモルファス合金の第二の結晶化開始温度(Tx2)と第一の結晶化開始温度(Tx1)との間の差の範囲が、組成の制御によって広げられ、結晶化の熱処理プロセスのウィンドウが拡大し、及び第一の結晶化の過程での合金からの過剰な放出熱量Q1に起因して条片の熱処理温度が第二の結晶化温度を超え、その結果として連続的な温度上昇によって条片が燃焼するという問題が解決される。
【0018】
本明細書の実施形態は、熱処理特性評価パラメータκを、以下のように設定する。
【0019】
【0020】
κと合金組成との間の関係を用いて、より良好な合金組成を探究することができ、合金結晶化の熱処理プロセスの制御を、κ値を制御することによって行うことができる。
上記探究を通して、本明細書の実施形態は、Fe基アモルファス合金Fe(100-a-b-c-d-e-f)BaSibPcCdCueNbfを提供し、a、b、c、d、及びeは、それぞれ、対応する成分の原子パーセントを表し、8≦a≦12、0.2≦b≦6、2.0≦c≦6.0、0.5≦d≦4、0.6≦e≦1.3、0.6≦f≦0.9、及び1≦e/f≦1.4である。
【0021】
必須元素として、Feは、飽和磁気誘導を向上させ、材料コストを低減することができる。Feの含有量が78原子%よりも低い場合、所望される飽和磁気誘導を得ることができない。Feの含有量が86原子%よりも高い場合、アモルファス相を形成することが困難であり、急冷法によって粗いα-Fe結晶粒が形成されることになる。その結果、均一なナノ結晶構造を得ることができず、軟磁気特性の低下に繋がる。
【0022】
必須元素として、Bは、アモルファス形成能力を向上させることができる。Bの含有量が5原子%よりも低い場合、急冷法によってアモルファス相を形成することが困難である。Bの含有量が12原子%よりも高い場合、Tx2とTx1との間の差(ΔT=Tx2-Tx1)が減少し、このことは、均一なナノ結晶構造の形成に寄与せず、その結果として軟磁気特性が低下する。
【0023】
Siは、結晶化したナノ結晶構造中のFe及びB化合物の析出を阻害することができ、したがって、ナノ結晶構造を安定化させる。Siの含有量が8原子%超である場合、飽和磁気誘導及びアモルファス形成能力が低下し、その結果として軟磁気特性が低下する。特に、Siの含有量が0.8原子%超である場合、アモルファス形成能力が向上し、薄条片を安定に及び連続的に製造することができる。加えて、ΔTの増加によって、均一なナノ結晶構造を得ることができる。
【0024】
必須元素として、Pは、アモルファス形成能力を向上させることができる。Pの含有量が1原子%未満である場合、急冷法によってアモルファス相を形成することが困難である。Pの含有量が8原子%超である場合、飽和磁気誘導及び軟磁気特性が低下することになる。特に、Pの含有量が2~5原子%である場合、アモルファス形成能力を向上させることができる。
【0025】
Cは、アモルファス形成能力を高めることができ、Cの添加は、メタロイドの含有量を低下させて、材料コストを低減することができる。Cの含有量が5原子%を超えると、脆化が引き起こされることになり、その結果として軟磁気特性が低下する。特に、Cの含有量が3原子%未満である場合、Cの揮発化によって引き起こされる偏析を抑制することができる。
【0026】
Cuは、急冷プロセスにおいて、数多くのfcc-Cuクラスター及びbcc-(Fe)結晶核の形成に寄与し、また熱処理プロセスにおけるbcc-(Fe)結晶核の析出も促進し、それによって、飽和磁気誘導が向上される。Cuの含有量が0.6原子%未満である場合、それは、ナノ結晶化にとって不利である。Cuの含有量が1.4原子%超である場合、アモルファス相が不均一となり、このことは、均一なナノ結晶構造の形成に寄与せず、その結果として軟磁気特性が低下する。ナノ結晶合金の脆性が考慮される場合、Cuの含有量は1.3原子%未満に制御されるべきであることには留意されたい。加えて、合金に、より広い結晶化温度ゾーン(すなわち、Tx2~Tx1の温度範囲)で小さい結晶粒サイズ及び均一な分布を有するナノ結晶構造を形成させるためには、ある特定の大きい原子を添加して結晶粒の異常な成長を阻害することが必要である。Cu原子のNb原子に対する比、すなわちe/fの値は、λとして示され得る。本発明の発明者は、数多くの実験を通して、1≦λ≦1.4の場合、広い熱処理範囲(κ≧1.38)によるナノ結晶合金及び安定な結晶サイズを得ることができることを確認した。
【0027】
大きい原子として、Nbは、合金のアモルファス形成能力を向上し、アモルファス前駆体中における主結晶相の析出を阻害し、並びに熱処理の過程において原子の過剰な成長を阻害すると共に結晶粒サイズを制御することができる。Nbの添加は、アモルファス相の熱安定性を向上し、したがって、主結晶相α-Feの核形成活性化エネルギー及び成長活性化エネルギーを増加させる。Nbの原子含有量は、0.6~0.9原子%に制御される。
【0028】
図1を参照すると、本明細書の実施形態によって提供されるスキームは、以下の工程を含み得る。
1.ブレンド
ブレンドは、Fe
(100-a-b-c-d-e-f)B
aSi
bP
cC
dCu
eNb
fに示される組成に従って行われてよい。必要とされる工業的原材料は、純Fe、純Cu、元素状Si、純C、並びにFe-B及びFe-P合金であり、原材料の純度は、表1に示す。
【0029】
【0030】
2.製錬
原材料は、質量比に従って秤量されて、その後、溶融のために加熱炉(具体的には、中周波誘導加熱炉)に投入されてよい。溶融プロセスの過程で、不活性ガス(アルゴンなど)が保護ガスとして導入され、溶融後、溶融鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一となるように、材料を30分間静置する。
【0031】
3.条片製造のための単ロール急冷
アモルファス合金薄条片は、銅ロール急冷法によって製造することができ、すなわち、溶融鋼が、1400~1500℃で注がれ、銅ロール急冷法によってアモルファスナノ結晶条片が得られ、製造されたアモルファスナノ結晶条片は、巻き取られてループとされる。例として、ループの内径は、65mmであってよく、外径は、70mmであってよい。本明細書の実施形態において、薄条片は、条片と称される場合もある。
【0032】
4.熱処理
上記で製造されたアモルファス合金薄条片は、熱処理に掛けられ得る。熱処理は、結晶化アニーリング処理と称される場合もあり、これは、アモルファスナノ結晶合金が製造されるように、アモルファス合金がナノスケール結晶粒を生成するよう促進するためのものである。具体的には、熱処理又は結晶化アニーリング中、アモルファス合金の第一の結晶化開始温度よりも20~30℃高い温度が、加熱目標温度として設定される。例えば、加熱目標温度は、420℃であり得る。例として、均一な温度上昇を確保する目的で、アモルファス合金の熱処理プロセスは、2つのステージに分割される。第一のステージでは、アモルファス合金薄条片の温度は、280℃まで上昇され、この温度が2時間保持される。第二のステージでは、アモルファス合金薄条片の温度は、30℃/分の速度で加熱目標温度まで上昇され、この温度が30~40分間保持される。最後に、温度が50℃/秒の速度で低下され、室温まで冷却後、アモルファスナノ結晶合金薄条片を得ることができる。熱処理中の酸化を防止するために、上記熱処理プロセスは、不活性ガス(アルゴンなど)雰囲気中で行われる。
【0033】
5.性能試験、具体的には、得られたアモルファスナノ結晶合金薄条片の性能評価及び分析
(1)飽和磁気誘導及び保磁力の測定.アモルファスナノ結晶合金薄条片の飽和磁化強度Bsは、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定される。アモルファスナノ結晶合金薄条片の保磁力は、軟磁気DCテスターによって測定される。電磁誘導の原理に基づいて、VSMでは、試料の磁気モーメントと外部磁場との間の曲線関係が得られ、試験磁場の範囲は、-12500~12500Oeである。試験の前に、用意したNi標準で装置を較正し、次に試験するべき磁気試料を粉砕し、続いて試料の約0.032gを取り、スズ箔でしっかり包み、測定用の銅モールド中に入れる。
【0034】
(2)損失電力(loss power)及び励磁電力(excitation power)の測定.測定には、B-Hテスターが用いられる。試料パラメータ(有効磁気回路長さ、有効断面積、巻数など)及び試験条件(試験周波数、磁場強度、最大磁束密度、最大誘導電圧など)を設定することによって、B-H曲線が出力され、様々な磁気特性パラメータが試験される。損失電力(Ps)及び励磁電力(Ss)は、すべてのパラメータの中で最も重要である。
【0035】
6.XRD/DSC分析、具体的には熱処理前のアモルファス合金薄条片の検出及び分析
(1)X線回折(XRD)を用いて、製造したアモルファス合金薄条片が完全なアモルファス構造であるかどうかを検証する。合金条片が完全なアモルファス構造であることを確認するために、すべての試料のXRDパターンは、合金条片の遊離面(銅ロール面とは反対側)から得る。関連する試験条件及びパラメータとしては、フィルタリングにはX線波長によるグラファイトモノクロメータが用いられ、管電圧は40kVであり、管電流は30mAであり、試験範囲は20~90°であり、ステップ長は0.02°であり、スキャン速度は8°/分である。本出願におけるアモルファス合金条片は、XRDパターンで特定することができる。特徴的なスペクトルがブロードな回折ピークを示す場合(「蒸しパンピーク(steamed bread peak)」とも称される)、条片は完全なアモルファス構造であると結論付けることができる。
【0036】
(2)アモルファス合金薄条片の熱分析は、合金薄条片の結晶化挙動及び熱安定性を試験するために、示差走査熱量測定(DSC)によって行われる。試験前に、薄条片は、1mm×1mm未満の面積の小片に切断され、そして約20mgの薄条片の小片が得られ、試料は、アルミナ坩堝中の試料テーブルに置かれ、N2の保護下、室温から300~800℃まで、好ましくは800℃まで、20℃/分の加熱速度で加熱される。試料のDSC曲線を分析することによって、加熱時の各試料の相転移を得ることができ、合金条片のキュリー温度Tc、ガラス転移温度Tg、及び結晶化開始温度Txなどの熱特性温度パラメータを得ることができる。合金条片のDSC曲線の特性温度値に応じて、合金条片の熱安定性を反映させることができ、それによって、アモルファス条片の熱処理プロセスを決定するための基準が得られる。およそのアニーリング温度範囲が決定される。合金条片の第一ステージの初期結晶化温度は、Tx1(すなわち、α-Fe(Si)が析出し始める温度点)として表され、第二ステージの初期結晶化温度は、Tx2(すなわち、Fe-(B,P)化合物が析出し始める温度点)として表され、これら2つの初期結晶化温度間の差は、ΔTx(ΔTx=Tx2-Tx1)として表される。
【0037】
次に、本明細書で提供されるスキームを、具体的な実施形態と共に明示する。
I.Cuの役割及び制御範囲の検証
異なる実施形態において、合金中のCu含有量を制御するために、異なる量のCuを添加して、Cuの効果、並びに熱処理特性パラメータκ及びTmaxに対するその影響を検証した。各実施形態及び比較例の合金組成(各成分の含有量は原子パーセントで表される)を表2に示す。
【0038】
アモルファス合金条片は、以下の工程を含む
図1に示されるスキームに従って、製造し、熱処理に掛けることができる。
11.ブレンド
ブレンドは、表2に示される各実施形態及び比較例の組成に従って行った。必要とした工業的原材料は、純Fe、純Cu、元素状Si、純C、並びにFe-B及びFe-P合金であり、原材料の純度は、表1に示す。
【0039】
12.製錬
原材料は、質量比に従って秤量し、その後、溶融のために加熱炉(具体的には、中周波誘導加熱炉)に投入した。溶融プロセスの過程で、不活性ガス(アルゴンなど)を保護ガスとして導入し、溶融後、溶融鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一となるように、材料を30分間静置した。1つの例では、原材料の総質量は、200kgであった。
【0040】
13.条片製造のための単ロール急冷
アモルファス合金薄条片を、銅ロール急冷法によって製造し、すなわち、溶融鋼を、1400~1500℃で注ぎ、銅ロール急冷法によってアモルファスナノ結晶条片が得られ、製造されたアモルファスナノ結晶条片を、巻き取ってループとした。例として、ループの内径は、65mmであってよく、外径は、70mmであってよい。本明細書の実施形態において、薄条片は、条片と称される場合もある。
【0041】
14.熱処理
上記で製造されたアモルファス合金薄条片を、熱処理に掛けた。熱処理は、結晶化アニーリング処理と称される場合もあり、これは、アモルファスナノ結晶合金が製造されるように、アモルファス合金がナノスケール結晶粒を生成するよう促進するためのものである。具体的には、熱処理又は結晶化アニーリング中、アモルファス合金の第一の結晶化開始温度よりも20~30℃高い温度を、加熱目標温度として設定した。例えば、加熱目標温度は、420℃であり得る。例として、均一な温度上昇を確保する目的で、アモルファス合金の熱処理プロセスを、2つのステージに分割した。第一のステージでは、アモルファス合金薄条片の温度を、280℃まで上昇させ、この温度を2時間保持した。第二のステージでは、アモルファス合金薄条片の温度を、30℃/分の速度で加熱目標温度まで上昇させ、この温度を30~40分間保持した。最後に、温度を50℃/秒の速度で低下させ、室温まで冷却後、アモルファスナノ結晶合金薄条片を得ることができる。熱処理中の酸化を防止するために、上記熱処理プロセスは、不活性ガス(アルゴンなど)雰囲気中で行った。
【0042】
このようにして、表2の各実施形態又は比較例の条片を製造した。
上述したXRD分析を用いて、製造したアモルファス合金条片が完全なアモルファス構造であるかどうかを検証した。検証の結果を
図2に示し、この図から、唯一のブロードな散漫散乱ピークが約45°に出現したことが分かり、これは、合金試料が完全なアモルファス構造であったことを示している。
【0043】
DSC分析の結果を表2に示す。試料のDSC曲線に2つの明らかな発熱ピークが現れており、第一の発熱ピークの開始温度及び第二の発熱ピークの開始温度が、それぞれTx1及びTx2であり、これらに基づいて、ΔTxを得た。第一の発熱ピークの面積を計算することができ、それによって、第一の結晶化の過程での合金の放出熱量Q1を計算することができ、続いて熱処理特性パラメータκを得ることができる。
【0044】
【0045】
異なる含有量のCuによるΔTxに対する影響を、表2から知ることができる。0.6~1.3原子%の範囲では、Cu含有量の増加と共にΔTxは次第に増加し(120℃から142℃まで)、すなわち、熱処理ウィンドウが明白に増加した。第一の結晶化ピークから放出された熱量Q1に基づいて、熱処理特性パラメータκを計算し、κの最小値は、1.38であった。10枚の条片を重ね合わせた後、各実施形態の第一の結晶化の連続温度上昇後の最高温度Tmaxを測定した。各実施形態のTmaxは、第二の結晶化温度Tx2を超えなかったことが分かる。第一の結晶化の連続温度上昇後の最高温度Tmaxは、第一の結晶化の過程で放出される熱(すなわち、Q1)の作用下での合金の最高温度を意味する。
【0046】
実施形態4及び5は、異なる含有量のB、Si、P、及びCによるアモルファス合金の熱特性に対する影響を示す。表2に示されるように、B、Si、P、及びCの含有量は、熱特性に対してほとんど影響を有さず、アモルファス合金の熱特性は、主としてCuの含有量によって影響される。
【0047】
比較例から、Cuの含有量が0.6原子%未満又は1.3原子%超であった場合、λの値は、それぞれ0.5、1.87、及び1.25であったことが分かる。この場合、ΔTxの最大値は、102℃であり、熱処理特性パラメータκは、1.11以下であった。比較例のTmaxは、すべて第二の結晶化開始温度を超えており、なぜなら、第一の結晶化が大量の熱を放出し、放出された熱が第二の結晶化ピークを引き起こし、このことが、試料を燃焼させるまでの連続的な温度上昇に繋がったからである。
【0048】
アモルファス合金条片を熱処理及び性能試験に掛け、具体的なプロセスについては、上記で紹介した内容を参考として用いることができる。性能試験の結果を表3に示す。熱処理後、飽和磁気誘導及び保磁力を測定し、続いてループの磁気特性(1.5T/50Hzの励磁条件下)を、B-Hテスターで測定した。単位重量あたりの鉄損をPs、単位励磁電力をSsとする。結晶粒サイズは、XRD分析ソフトウェアを用いて計算した。
【0049】
【0050】
表3から、実施形態1~5の飽和磁気誘導Bsが、1.75T以上であったことが分かる。Cuの含有量が0.6~1.3原子%の範囲内であった場合、熱処理後における実施形態の単位重量あたりの鉄損Psは、比較例よりも明らかに低く、実施形態の単位励磁電力Ssも、比較例より低かった。
【0051】
XRD分析から、合金の結晶粒サイズは、Cuの含有量が0.6~1.3原子%であった場合、23~27nmであったことが示された。比較例から、Cuの含有量がこの範囲を超えていた場合、大きい原子が比較的少なくなることから、結晶粒の異常な成長を抑制することができないことが分かり、結晶粒サイズは35nm超であり、結晶粒の異常な成長も、材料の磁気特性に影響を与える因子である。
【0052】
κ及びλなどの熱特性、並びにPs、Ssなどの磁気特性、並びに結晶粒サイズと合わせて考えると、Cuの含有量の好ましい範囲は、0.6~1.3原子%であった。
II.Nbの役割及び制御範囲の検証
各実施形態及び比較例の合金組成を、表4に示す。合金成分の中で、各元素の含有量は、原子パーセントである。
【0053】
表4の各実施形態及び比較例のアモルファス合金条片は、以下の工程を含む
図1に示されるスキームに従って、製造し、熱処理に掛けることができる。
21.ブレンド
ブレンドは、表2に示される各実施形態及び比較例の組成に従って行った。必要とした工業的原材料は、純Fe、純Cu、元素状Si、純C、並びにFe-B及びFe-P合金であり、原材料の純度は、表1に示す。
【0054】
22.製錬
原材料は、質量比に従って秤量し、その後、溶融のために加熱炉(具体的には、中周波誘導加熱炉)に投入した。溶融プロセスの過程で、不活性ガス(アルゴンなど)を保護ガスとして導入し、溶融後、溶融鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一となるように、材料を30分間静置した。1つの例では、原材料の総質量は、200kgであった。
【0055】
23.条片製造のための単ロール急冷
アモルファス合金薄条片を、銅ロール急冷法によって製造し、すなわち、溶融鋼を、1400~1500℃で注ぎ、銅ロール急冷法によってアモルファスナノ結晶条片が得られ、製造されたアモルファスナノ結晶条片を、巻き取ってループとした。例として、ループの内径は、65mmであってよく、外径は、70mmであってよい。本明細書の実施形態において、薄条片は、条片と称される場合もある。
【0056】
24.熱処理
上記で製造されたアモルファス合金薄条片を、熱処理に掛けた。熱処理は、結晶化アニーリング処理と称される場合もあり、これは、アモルファスナノ結晶合金が製造されるように、アモルファス合金がナノスケール結晶粒を生成するよう促進するためのものである。具体的には、熱処理又は結晶化アニーリング中、アモルファス合金の第一の結晶化開始温度よりも20~30℃高い温度を、加熱目標温度として設定した。例えば、加熱目標温度は、420℃であり得る。例として、均一な温度上昇を確保する目的で、アモルファス合金の熱処理プロセスを、2つのステージに分割した。第一のステージでは、アモルファス合金薄条片の温度を、280℃まで上昇させ、この温度を2時間保持した。第二のステージでは、アモルファス合金薄条片の温度を、30℃/分の速度で加熱目標温度まで上昇させ、この温度を30~40分間保持した。最後に、温度を50℃/秒の速度で低下させ、室温まで冷却後、アモルファスナノ結晶合金薄条片を得ることができる。熱処理中の酸化を防止するために、上記熱処理プロセスは、不活性ガス(アルゴンなど)雰囲気中で行った。
【0057】
このようにして、表4の各実施形態又は比較例の条片を製造した。
上述したXRD分析を用いて、製造したアモルファス合金条片が完全なアモルファス構造であるかどうかを検証した。検証の結果を
図3に示し、この図から、唯一のブロードな散漫散乱ピークが約45°に出現したことが分かり、これは、合金試料が完全なアモルファス構造であったことを示している。
【0058】
DSC分析の結果を表4に示す。試料のDSC曲線に2つの明らかな発熱ピークが現れており、第一の発熱ピークの開始温度及び第二の発熱ピークの開始温度が、それぞれTx1及びTx2であり、これらに基づいて、ΔTxを得た。第一の発熱ピークの面積を計算することができ、それによって、第一の結晶化の過程での合金の放出熱量Q1を計算することができ、続いて熱処理特性パラメータκを得ることができる。
【0059】
【0060】
表4は、異なる含有量のNbによるΔTxに対する影響を示している。0.6~0.9原子%の範囲内でのNbの増加では、ΔTxは、明白な直線関係を示さず、ΔTxは、120℃超であった。Nbの含有量が0.6原子%未満又は0.9原子%超であった場合は、熱処理ウィンドウΔTxは、明らかに小さくなった。第一の結晶化ピークから放出された熱量Q1に基づいて、熱処理特性パラメータκを計算し、κの最小値は、1.39であった。10枚の条片を重ね合わせた後、各実施形態の第一の結晶化の連続温度上昇後の最高温度Tmaxを測定した。各実施形態のTmaxは、第二の結晶化温度Tx2を超えなかったことが分かる。
【0061】
比較例から、Nbの含有量が0.6原子%未満又は0.9原子%超であった場合、λの値は、それぞれ3.33、0.83、及び0.75であったことが分かる。この場合、ΔTxの最大値は、105℃であり、熱処理特性パラメータκは、1.07以下であった。Tmaxは、すべて第二の結晶化開始温度を超えており、なぜなら、第一の結晶化が大量の熱を放出し、放出された熱が第二の結晶化ピークを引き起こし、このことが、試料を燃焼させるまでの連続的な温度上昇に繋がったからである。
【0062】
アモルファス合金条片を熱処理及び性能試験に掛け、具体的なプロセスについては、上記で紹介した内容を参考として用いることができる。性能試験の結果を表5に示す。熱処理後、飽和磁気誘導及び保磁力を測定し、続いてループの磁気特性(1.5T/50Hzの励磁条件下)を、B-Hテスターで測定した。単位重量あたりの鉄損をPs、単位励磁電力をSsとする。結晶粒サイズは、XRD分析ソフトウェアを用いて計算した。
【0063】
【0064】
表5から、各実施形態の飽和磁気誘導Bsが、1.75T以上であったことが分かる。Nbの含有量が0.6~0.9原子%の範囲内であった場合、各実施形態の単位重量あたりの鉄損Psは、比較例よりも低く、各実施形態の単位励磁電力Ssも、比較例より低かった。
【0065】
XRD分析から、Nbの含有量が0.6~0.9原子%の範囲内であった場合、結晶粒サイズは23~30nmであったことが示された。Nbの添加によって、アモルファス相の熱安定性が向上された。合金中のNbの含有量が0.6~0.9原子%を超えた場合、合金の熱処理の過程で、結晶粒が異常に成長した。
【0066】
κ及びλなどの熱特性、並びにPs、Ssなどの磁気特性、並びに結晶粒サイズと合わせて考えると、Nbの含有量の好ましい範囲は、0.6~0.9原子%であった。
III.CuのNbに対する比の影響及び制御範囲の検証
各実施形態及び比較例の合金組成を、表6に示す。合金成分の中で、各元素の含有量は、原子パーセントである。
【0067】
アモルファス合金条片の製造及び熱処理は、ここでは繰り返さないが、上述のようにして行うことができる。
上述したXRD分析を用いて、製造したアモルファス合金条片が完全なアモルファス構造であるかどうかを検証した。検証の結果を
図4に示し、この図から、唯一のブロードな散漫散乱ピークが約45°に出現したことが分かり、これは、合金試料が完全なアモルファス構造であったことを示している。
【0068】
DSC分析の結果を表6に示す。試料のDSC曲線に2つの明らかな発熱ピークが現れており、第一の発熱ピークの開始温度及び第二の発熱ピークの開始温度が、それぞれTx1及びTx2であり、これらに基づいて、ΔTxを得た。第一の発熱ピークの面積を計算することができ、それによって、第一の結晶化の過程での合金の放出熱量Q1を計算することができ、続いて熱処理特性パラメータκを得ることができる。
【0069】
【0070】
表6から、CuのNbに対する比がλ及びΔTxに影響を与えたことが分かり、λは、Cu原子数のNb原子数に対する比を表す。1≦λ≦1.4の範囲内でのNbの増加では、ΔTxは、明白な直線関係を示さず、ΔTxは、すべての場合で120℃超であった。λが1未満又は1.4超であった場合、ΔTxは、明白に減少した。第一の結晶化の熱放出量Q1に応じて、熱処理特性パラメータκを計算し、κの最小値は、1.40であった。
【0071】
10枚の条片を重ね合わせた後、各実施形態の第一の結晶化の連続温度上昇後の最高温度Tmaxを測定した。各実施形態のTmaxは、第二の結晶化温度Tx2を超えなかったことが分かる。
【0072】
比較例から、λの値が、それぞれ0.67、0.67、及び1.73であった場合、ΔTxの最大値は、105℃であり、熱処理特性パラメータκは、1.09以下であった。Tmaxは、すべて第二の結晶化開始温度を超えており、なぜなら、第一の結晶化が大量の熱を放出し、放出された熱が第二の結晶化ピークを引き起こし、このことが、試料を燃焼させるまでの連続的な温度上昇に繋がったからである。
【0073】
アモルファス合金条片を熱処理及び性能試験に掛け、具体的なプロセスについては、上記で紹介した内容を参考として用いることができる。性能試験の結果を表7に示す。熱処理後、飽和磁気誘導及び保磁力を測定し、続いてループの磁気特性(1.5T/50Hzの励磁条件下)を、B-Hテスターで測定した。単位重量あたりの鉄損をPs、単位励磁電力をSsとする。結晶粒サイズは、XRD分析ソフトウェアを用いて計算した。
【0074】
【0075】
表7から、各実施形態の飽和磁気誘導Bsが、1.75T以上であったことが分かる。λが1~1.4の範囲内であった場合、各実施形態の単位重量あたりの鉄損Psは、比較例よりも低く、各実施形態の単位励磁電力Ssも、比較例より低かった。
【0076】
XRD分析から、λが1~1.4の範囲内であった場合、各実施形態の結晶粒サイズは22~29nmであったことが示された。λが1~1.4の範囲内でなかった場合は、結晶粒サイズはより大きかった。
【0077】
合金の熱特性及び磁気特性と合わせて考えると、λの好ましい範囲は、1~1.4であった。
IV.異なる種類の合金組成のアモルファス形成能力の観察
条片の厚さを用いて、条片の対応する合金組成のアモルファス形成能力の特性評価を行った。表8は、異なる種類の合金組成のアモルファス形成能力を示す。
【0078】
【0079】
図8に示されるように、各実施形態のアモルファス形成能力は、比較例よりも明白に良好であり、最大厚さは33μmに達しており、このことは、κ及びλを限定した合金組成に従って製造した条片のアモルファス形成能力が、他の種類の組成のものよりも明白に良好であったことを示している。
【0080】
上記実験において、異なる含有量のCuに基づいた検証を通して、Cuの含有量の増加と共に、ΔTxの範囲が次第に増加し、熱処理ウィンドウの幅が広がったことが分かり、これによって連続的な温度上昇を防止することができる。Cuの含有量を0.6~1.3原子%に制御することによって、ΔTxが120℃よりも高いことを保証することができる。Cuの含有量がこの範囲なかった場合、ΔTxは明白に低下した。
【0081】
熱処理特性パラメータκが1.38以上であった場合、熱処理ウィンドウは明白に広がっており、Tmax≦Tx2であることを保証することができる。Nbは大きい原子であり、アモルファス前駆体中における主結晶相の析出を阻害することができ、並びに熱処理の過程において原子の過剰な成長を阻害すると共に結晶粒サイズを制御することができる。Nbの添加によって、アモルファス相の熱安定性が向上される。Nbの含有量を制御することによって、Pを含有する合金系中のNbの原子分率が0.6~0.9原子%の範囲内である場合、ΔTxは、110℃超であり、これは、熱処理の要件を満たすことができるということが確認される。加えて、Cu原子のNb原子に対する異なる比の構成とすることによって、120℃を超える広い熱処理ウィンドウΔTxを確保するためには、Cu原子のNb原子に対する比が1~1.4であるべきであることが確認される。Cu原子のNb原子に対する比が1~1.4であった場合、熱処理間隔(すなわち、ΔTx)が広がっており、このことは、工業的熱処理にとって有益である。言い換えると、より広い結晶化温度ゾーン(すなわち、ΔTx)で、小結晶粒サイズ及び均一な分布を有するナノ結晶構造を合金に形成させる目的で、大きい原子であるNbの他の元素に対する異なる比の構成としたところ、Cu原子のNb原子に対する比が1≦λ≦1.4であった場合に、最小結晶粒サイズが23nmであったことが確認される。
【0082】
加えて、上述した各実施形態の飽和磁気誘導Bsは、1.75T超であった。Cu及びNbなどの主要元素の含有量を制御することによって、熱処理後の結晶粒サイズを制御することができ、結晶粒サイズは、20~30nmであった。
【0083】
まとめると、本明細書の実施形態において、元素の組成を限定し、合金の組成範囲を、熱処理特性パラメータκ≧1.38及び1≦λ≦1.4によって決定した。製造した条片の最大アモルファス形成能力は、33μmであり、熱処理ウィンドウは、120℃以上であり、熱処理後条片のBsは、1.75T以上であり、ナノ結晶の結晶粒サイズは、20~30nmに制御された。加えて、Fe基アモルファス合金の鉄損は、50Hz及び1.5Tの条件下で、0.30W/kg未満であった。
【0084】
本明細書の実施形態に含まれる様々な数字記号は、単に記述の利便性のためのものであり、本明細書の実施形態の範囲を限定するために用いられるものではないことは理解することができる。
【国際調査報告】