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特表2023-535895単一ナノ粒子の高次元フィンガープリント及び多重化デジタルアッセイにおけるその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-22
(54)【発明の名称】単一ナノ粒子の高次元フィンガープリント及び多重化デジタルアッセイにおけるその使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230815BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230815BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20230815BHJP
   C09K 11/85 20060101ALI20230815BHJP
   C09K 11/78 20060101ALI20230815BHJP
   G01N 33/532 20060101ALI20230815BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALN20230815BHJP
【FI】
G01N21/64 B
C09K11/08 G ZNM
C09K11/61
C09K11/85
C09K11/78
G01N33/532 B
B82Y20/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502915
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(85)【翻訳文提出日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 AU2021050849
(87)【国際公開番号】W WO2022027097
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】2020902731
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512089667
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・テクノロジー・シドニー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF TECHNOLOGY SYDNEY
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ダヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ジアジア
(72)【発明者】
【氏名】リャオ,ジアヤン
【テーマコード(参考)】
2G043
4H001
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA02
2G043FA03
2G043KA08
2G043KA09
2G043LA03
2G043NA01
4H001XA03
4H001XA08
4H001XA09
4H001XA11
4H001XA16
4H001XA19
4H001XA20
4H001XA25
4H001XA39
4H001XA64
4H001XA71
4H001YA21
4H001YA39
4H001YA57
4H001YA58
4H001YA59
4H001YA60
4H001YA61
4H001YA62
4H001YA63
4H001YA64
4H001YA65
4H001YA66
4H001YA67
4H001YA68
4H001YA69
4H001YA70
4H001YA71
(57)【要約】
本開示は、概して、ナノスケールでのコーディング能力を高めるために、いくつかの異なる技術を使用して、単一アップコンバージョンナノ粒子の時間領域発光プロファイルを調整するための方法に関する。本開示は、ナノ粒子のフィンガープリントをデコードするための時間分解広視野イメージング及びディープラーニング技術にも関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アップコンバージョンナノ粒子の時間領域発光プロファイルを調整するための方法であって、励起状態集団の立ち上がり、減衰及び/又はピークモーメントを操作するステップを含む方法。
【請求項2】
前記励起状態集団の前記立ち上がり、減衰及び/又はピークモーメントの操作は、前記ナノ粒子における界面エネルギー移行(IEM)を変更することによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
IEMは、前記ナノ粒子を、異なる励起波長にさらすことによって変更される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子は、UCNPである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記UCNPは、ネオジム、イッテルビウム、ツリウム、エルビウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ルテチウム、スカンジウム及びイットリウムの1つ又は複数を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記UCNPは、ネオジム、イッテルビウム、ツリウム及び/又はエルビウムを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記UCNPは、フッ化アルカリ、酸化物又はオキシ硫化物から選択されるホスト材料を含有する、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フッ化アルカリは、NaGdF、CaF、NaYF、LiYF、NaLuF、LiLuF又はKMnFであり、及び前記酸化物は、Yである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記UCNPは、コア-マルチシェルUCNPである、請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記コア-マルチシェルUCNPは、コア、移行層及び増感層を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記移行層は、Yb3+を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記増感層は、Yb3+及びNd3+を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記コアは、Yb3+、Er3+及び/又はTm3+を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記コアは、Yb3+及びEr3+又はYb3+及びTm3+を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記UCNPは、コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Tm3+UCNP及びコア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Er3+UCNPから選択される、請求項4~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記UCNPは、約15%未満、又は約10%未満、又は約5%未満の変動係数(CV)値を有する、請求項4~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
多重アッセイにおける発光プローブを特定するための多重アッセイ方法であって、前記発光プローブを刺激して発光を生じさせることと、前記発光の立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を測定することとを含む方法。
【請求項18】
前記多重アッセイは、サスペンションアレイである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
複数の発光プローブを刺激して発光を生じさせることと、前記発光の前記立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を測定することと、前記立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間の違いに基づいて1つ又は複数のプローブを特定することとをさらに含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記発光の前記立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間は、1つ又は複数のコードを提供する、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記発光プローブは、ナノタグ、球、粒子又はキャリアである、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記発光プローブは、1つ又は複数のナノ粒子を含む、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記発光プローブは、第1の態様に関連して上記された1つ又は複数のナノ粒子を含む、請求項17~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
多重アッセイを実施するための方法であって、前記多重アッセイは、プローブとして、異なる立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を有する発光プロファイルを有する複数のナノ粒子を使用することを含み、前記プローブは、その異なる立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間に基づいて互いに区別される、方法。
【請求項25】
前記発光プローブは、第1の態様に関連して上記された1つ又は複数のナノ粒子を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
スペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリーを作製するための方法であって、
(a)複数の異なる種類のナノ粒子を提供することであって、それぞれの異なる種類のナノ粒子は、別個の立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を有する発光プロファイルを有する、提供すること、
(b)スペクトル的に別個のナノ粒子の前記ライブラリーを提供するために、各種類内の前記ナノ粒子の以下のパラメータ:
前記ナノ粒子のコアサイズ;
コア中のエミッタイオン及び増感剤イオンの濃度;
増感層の厚さ;
前記増感層中の増感剤イオンの濃度;並びに
パッシベーション層の存在又は不存在
の1つ又は複数を変化させること
を含む方法。
【請求項27】
少なくとも3つの異なる種類のナノ粒子が作製され、及び各種類は、少なくとも10の異なるタイプのナノ粒子を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ナノ粒子は、UCNPである、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記異なる種類のUCNPは、活性化剤及び/又は増感剤の異なる組合せを有する種類のUCNPである、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記UCNPは、ネオジム、イッテルビウム、ツリウム、エルビウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ルテチウム、スカンジウム及びイットリウムの1つ又は複数を含む、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記UCNPは、ネオジム、イッテルビウム、ツリウム及び/又はエルビウムを含む、請求項28~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記UCNPは、フッ化アルカリ、酸化物又はオキシ硫化物から選択されるホスト材料を含有する、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記フッ化アルカリは、NaGdF、CaF、NaYF、LiYF、NaLuF又はLiLuF、KMnFであり、及び前記酸化物は、Yである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記複数の異なる種類のUCNPは、コア-マルチシェルUCNPを有する少なくとも1つの種類を含む、請求項26~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記コア-マルチシェルUCNPは、コア、移行層及び増感層を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記移行層は、Yb3+を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記増感層は、Yb3+及びNd3+を含む、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項38】
前記コアは、Yb3+、Er3+及び/又はTm3+を含む、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記コアは、Yb3+及びEr3+又はYb3+及びTm3+を含む、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記複数の異なる種類のUCNPは、以下:コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Tm3+UCNP、コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Er3+UCNP及びβ-NaYF:Yb3+,Tm3+UCNPを含む、請求項26~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記UCNPは、約15%未満、又は約10%未満、又は約5%未満の変動係数(CV)値を有する、請求項26~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記パラメータの全ては、変化される、請求項26~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
請求項26~42のいずれか一項に記載の方法によって得られるときのスペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリー。
【請求項44】
請求項43に記載のスペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリーの、多重アッセイにおける使用であって、前記ナノ粒子は、プローブとして使用される、使用。
【請求項45】
前記プローブは、少なくともその発光プロファイルの異なる立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間に基づいて互いに区別される、請求項44に記載の使用。
【請求項46】
前記プローブは、広視野時間分解顕微鏡法又はディープラーニングを使用してデコードされる、請求項44又は45に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
[0001] 本開示は、概して、ナノスケールでのコーディング能力を高めるために、いくつかの異なる技術を使用して、単一アップコンバージョンナノ粒子の時間領域発光プロファイルを調整するための方法に関する。本開示は、ナノ粒子のフィンガープリントをデコードするための時間分解広視野イメージング及びディープラーニング技術にも関する。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
[0002] 本明細書全体にわたる従来技術のいずれの議論も、このような従来技術が広く知られていること又はこの分野における共通の一般知識の一部を形成することの承認として決して考えられてはならない。
【0003】
[0003] ナノテクノロジーの最終的な目標は、前例のない精度で構造を操作し、単一ナノ粒子レベルで必要とされるパラメータに正確に一致するようにその機能を調整することである。容量が増大した光多重化は、大容量データストレージ、偽造防止、大量情報通信から、単一検査における複数の単一分子分析物のハイスループットスクリーニング及び複数の細胞コンパートメントの超解像度イメージングにわたる次世代の実現技術の現行の開発を促進することになる。
【0004】
[0004] スーパー容量光多重化では、直交次元において多重化コード(例えば、強度、色、偏光及び減衰時間)を構築し、それらを顕微鏡レベル及びナノスケールのキャリアに割り当て、直交光次元において十分な精度で、それらをハイスループットでデコードできることが要求される。光学バーコードを保有する材料のサイズは、望ましくは、顕微鏡レベルの範囲からナノスコピック範囲に引き下げることができるが、それは、放出光子の全体量(輝度)を犠牲にし、したがって検出可能なコードの数、例えば通常3~4色チャネル又は輝度レベルが制限される。ナノスケールの物体から放出されるシグナルの量は、指数関数的に減少する可能性があり、その大きさは、光回折限界を下回ることが多い。これにより、従来のフィルタ光学及び検出プロセスでは、十分なスペクトル-空間解像度でそれらをデコードすることができない。
【0005】
[0005] この満たされていない必要性は、均一なナノスコピックキャリアの作製において製造戦略及び正確な制御を追求するという材料科学にとって大きい課題をもたらし、さらに、フォトニクスコミュニティは、放出光子の数を最大にし、発光色(スペクトル)、寿命、偏光及び角運動量など、複数の直交次元で生成され得る光情報の多様性を探求することが要求される。
【0006】
[0006] ランタニドをドープしたアップコンバージョンナノ粒子(UCNP)は、低エネルギーの近赤外光子を吸収して、可視及びUV領域の高エネルギー発光を放出する。単一UCNPは、均一であり、何時間にもわたって光安定性であり、生細胞での単一ナノ粒子追跡実験を可能にする。最近、各単一UCNPのコア-シェル-シェル設計は、8W/cmの低照射量下で毎秒約200の光子を放出することが報告されており、強度均一UCNPにより単一分子(デジタル)イムノアッセイが可能にされた。UCNPの色ベースの多重化は、ドーパント、コア-シェル構造又は励起パルス持続時間を調整することによって実現され得るが、全ての色ベースのアプローチは、スペクトル領域におけるクロストークによって本質的に制限される。ミクロスフェアアレイのアンサンブル寿命測定、深部組織腫瘍イメージングのための時間領域造影剤及び高セキュリティレベル偽造防止の用途では、大きい進歩が遂げられている。単一ナノ粒子の感受性による寿命多重化が可能であったが、比較的低い輝度及び点走査型共焦点顕微鏡法では、読出しスループットが制限されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の概要
[0007] 第1の態様では、本開示は、アップコンバージョンナノ粒子の時間領域発光プロファイルを調整するための方法を提供し、本方法は、励起状態集団の立ち上がり、減衰及び/又はピークモーメントを操作するステップを含む。
【0008】
[0008] 励起状態集団の立ち上がり、減衰及び/又はピークモーメントの操作は、ナノ粒子における界面エネルギー移行を変更することによって達成され得る。
【0009】
[0009] 界面エネルギー移行は、ナノ粒子を異なる励起波長にさらすことによって変更され得る。
【0010】
[0010] ナノ粒子は、UCNPであり得る。
【0011】
[0011] UCNPは、ネオジム、イッテルビウム、ツリウム、エルビウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ルテチウム、スカンジウム及びイットリウムの1つ又は複数を含み得る。
【0012】
[0012] UCNPは、ネオジム、イッテルビウム、ツリウム及び/又はエルビウムを含み得る。
【0013】
[0013] UCNPは、フッ化アルカリ、酸化物又はオキシ硫化物から選択されるホスト材料を含有し得る。
【0014】
[0014] フッ化アルカリは、NaGdF、CaF、NaYF、LiYF、NaLuF又はLiLuF、KMnFであり得、及び酸化物は、Yであり得る。これらの材料の混合物も企図される。一実施形態では、ホスト材料は、NaYFである。
【0015】
[0015] UCNPが結晶性である場合、NaYFは、六方相又は任意の他の結晶相であり得る。
【0016】
[0016] UCNPは、コア-マルチシェルUCNPであり得る。
【0017】
[0017] コア-マルチシェルUCNPは、コア、移行層及び増感層を含み得る。
【0018】
[0018] 移行層は、Yb3+を含み得る。
【0019】
[0019] 増感層は、Yb3+及びNd3+を含み得る。
【0020】
[0020] コアは、Yb3+、Er3+及び/又はTm3+を含み得る。
【0021】
[0021] コアは、Yb3+及びEr3+又はYb3+及びTm3+を含み得る。
【0022】
[0022] UCNPは、コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Tm3+UCNP及びコア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Er3+UCNPから選択され得る。
【0023】
[0023] UCNPは、約15%未満、又は約10%未満、又は約5%未満の変動係数(CV)値を有し得る。
【0024】
[0024] 第2の態様では、本発明は、多重アッセイにおける発光プローブを特定するための多重アッセイ方法を提供し、本方法は、発光プローブを刺激して発光を生じさせることと、発光の立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を測定することとを含む。
【0025】
[0025] 多重アレイは、サスペンションアレイであり得る。
【0026】
[0026] 本方法は、複数の発光プローブを刺激して発光を生じさせることと、発光の立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を測定することと、立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間の違いに基づいて1つ又は複数のプローブを特定することとをさらに含み得る。
【0027】
[0027] 発光の立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間は、1つ又は複数のコードを提供し得る。
【0028】
[0028] 発光プローブは、ナノタグ、球、粒子又はキャリアであり得る。
【0029】
[0029] 発光プローブは、1つ又は複数のナノ粒子を含み得る。
【0030】
[0030] 発光プローブは、第1の態様に関連して上記された1つ又は複数のナノ粒子を含み得る。
【0031】
[0031] 第3の態様では、本発明は、多重アッセイを実施するための方法を提供し、多重アッセイは、プローブとして、異なる立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を有する発光プロファイルを有する複数のナノ粒子を使用することを含み、プローブは、その異なる立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間に基づいて互いに区別される。
【0032】
[0032] 発光プローブは、第1の態様に関連して上記された1つ又は複数のナノ粒子を含み得る。
【0033】
[0033] 第4の態様では、本発明は、スペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリーを作製するための方法であって、
(a)複数の異なる種類のナノ粒子を提供することであって、それぞれの異なる種類のナノ粒子は、別個の立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を有する発光プロファイルを有する、提供すること、
(b)スペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリーを提供するために、各種類内のナノ粒子の以下のパラメータ:
ナノ粒子のコアサイズ;
コア中のエミッタイオン及び増感剤イオンの濃度;
増感層の厚さ;
増感層中の増感剤イオンの濃度;並びに
パッシベーション層の存在又は不存在
の1つ又は複数を変化させること
を含む方法を提供する。
【0034】
[0034] 一実施形態では、少なくとも3つの異なる種類のナノ粒子が作製され、及び各種類は、少なくとも10の異なるタイプのナノ粒子を含む。
【0035】
[0035] ナノ粒子は、UCNPであり得る。
【0036】
[0036] 異なる種類のUCNPは、活性化剤及び/又は増感剤の異なる組合せを有する種類のUCNPであり得る。
【0037】
[0037] UCNPは、ネオジム、イッテルビウム、ツリウム、エルビウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ルテチウム、スカンジウム及びイットリウムの1つ又は複数を含み得る。
【0038】
[0038] UCNPは、ネオジム、イッテルビウム、ツリウム及び/又はエルビウムを含み得る。
【0039】
[0039] UCNPは、フッ化アルカリ、酸化物又はオキシ硫化物から選択されるホスト材料を含有し得る。
【0040】
[0040] フッ化アルカリは、NaGdF、CaF、NaYF、LiYF、NaLuF又はLiLuF、KMnFであり得、及び酸化物は、Yであり得る。これらの材料の混合物も企図される。一実施形態では、ホスト材料は、NaYFである。
【0041】
[0041] UCNPが結晶性である場合、NaYFは、六方相又は任意の他の結晶相であり得る。
【0042】
[0042] 一実施形態では、複数の異なる種類のUCNPは、コア-マルチシェルUCNPを有する少なくとも1つの種類を含む。
【0043】
[0043] コア-マルチシェルUCNPは、コア、移行層及び増感層を含み得る。
【0044】
[0044] 移行層は、Yb3+を含み得る。
【0045】
[0045] 増感層は、Yb3+及びNd3+を含み得る。
【0046】
[0046] コアは、Yb3+、Er3+及び/又はTm3+を含み得る。
【0047】
[0047] コアは、Yb3+及びEr3+又はYb3+及びTm3+を含み得る。
【0048】
[0048] 一実施形態では、複数の異なる種類のUCNPは、以下:コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Tm3+UCNP、コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Er3+UCNP及びβ-NaYF:Yb3+,Tm3+UCNPを含む。
【0049】
[0049] UCNPは、約15%未満、又は約10%未満、又は約5%未満の変動係数(CV)値を有し得る。
【0050】
[0050] 一実施形態では、パラメータの全ては、変化される。
【0051】
[0051] 第5の態様では、本発明は、第4の態様の方法によって得られるときのスペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリーを提供する。
【0052】
[0052] 第6の態様では、本発明は、第5の態様のスペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリーの、多重アッセイにおける使用を提供し、ナノ粒子は、プローブとして使用される。
【0053】
[0053] プローブは、少なくともその発光プロファイルの異なる立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間に基づいて互いに区別され得る。
【0054】
[0054] プローブは、広視野時間分解顕微鏡法又はディープラーニングを使用してデコードされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図面の簡単な説明
図1】[0055]直交次元において光情報を有する単分散UCNPの作成であり、(a)典型的な形態均一コア-シェルナノ粒子の一種のβ-NaYF:Yb3+,Tm3+のTEM画像である。(b及びc)976nmの励起下における、Yb3+、Tm3+をドープしたUCNPのアンサンブルアップコンバージョン発光スペクトル(b)及び寿命プロファイル(c)である。(d)HADFF-STEM観察であり、異なる層にNd3+、Yb3+、Er3+がドープされたナノ粒子のコア-マルチシェル構造を示す。(e)コア-マルチシェルナノ粒子のエネルギーレベル図であり、カスケード光子エネルギーの増感、移動及び変換プロセス:808nmにおけるNd3+増感、976nmにおけるYb3+媒介性の界面エネルギー移行(IEM)及び典型的なYb3+-Er3+系におけるより高エネルギーの可視発光への近赤外光子のアップコンバージョンを示す。(f及びg)808nm及び976nmの励起下における、Nd3+、Yb3+、Er3+をドープしたUCNPのアンサンブルアップコンバージョン発光スペクトル(f)及び寿命曲線(g)である。
図2】[0056]アップコンバージョンエネルギー移動スキーム及び材料エンジニアリングによる時間領域τプロファイルの制御であり、(a)τプロファイルの調整のために使用される5つの戦略、すなわちコアサイズ、コア中の増感剤及びエミッタの濃度、増感層の厚さ、増感層中の増感剤の濃度並びにパッシベーション層の説明である。(b~d)NIR励起下における、3つのシリーズのサンプル、すなわちYb-Tmシリーズ(b)、Nd-Yb-Tmシリーズ(c)及びNd-Yb-Erシリーズ(d)のτプロファイルの調整である。点線は、1/eの正規化強度(I1/e)を示す。(e~g)Yb-Tmシリーズ(e)、Nd-Yb-Tmシリーズ(f)及びNd-Yb-Erシリーズ(g)について、パネル(b~d)の曲線に従って計算される立ち上がり時間
【数1】
、ピークモーメント
【数2】
及び減衰時間
【数3】
である。(h~j)Yb-Tmシリーズ(h)、Nd-Yb-Tmシリーズ(i)及びNd-Yb-Erシリーズ(j)における代表的なUCNPの写真であり、NIR励起下におけるそのアップコンバージョン色を示す。
図3】[0057]τ-ドットの共焦点及び広視野キャラクタリゼーションである。(a~d)共焦点顕微鏡による単一ナノ粒子イメージング(a)、輝度分布(b)、5.5×10W/cmで808nmのCW励起における単一ドットの長期光安定性(c)及び(5.46kW/cmでCWレーザーを変調することにより)808nmのパルス励起下における(e)の単一ドット1~6の対応する寿命曲線(d)である。(e)広視野顕微鏡法のために時間分解sCMOSカメラを用いた、過渡的蛍光シグナル検出原理の概略図である。(f及びg)直径28μmのビーム領域内における、τ-ドット着色マイクロポリスチレンビーズ(f)及び単一τ-ドット(g)の時間分解された6番目、16番目、28番目及び48番目のフレームの比較である。(h)(f)の点線の正方形で示される単一τ-ドット着色ビーズの寿命曲線である。(i)(g)の黄色及び濃オレンジ色の点線の正方形で示される、単一及びアンサンブルのτ-ドットの寿命曲線である。データは、全てランダムバッチのτ-ドット(τ-13)に関連する。
図4】[0058]14個のバッチのτ-ドットからの時間領域光フィンガープリントであり、(a)単一τ-ドットからの寿命曲線統計値である。斜線部は、各タイプのτ-ドットからの20を超える単一ドットの寿命曲線をカバーする。色付きの実線は、各タイプのτ-ドットの平均寿命曲線を表す。(b及びe)Yb-Tmシリーズ(9個)のτ-ドット及びNd-Yb-Erシリーズ(5個)のτ-ドットの平均単一ナノ粒子寿命フィンガープリントの強度正規化表示である。(c及びf)9つのバッチのYb-Tmサンプルτ-1~τ-9(c)及び4つのバッチのNd-Yb-Erサンプルτ-10~τ-14(f)の単一粒子減衰指標(τ)分布分析のヒストグラムである。(d及びg)サンプルτ-1~τ-9(d)及びτ-10~τ-14(g)の減衰及び立ち上がり指標(τ及びτ)の散布図である。いずれの指標(τ及びτ)も、最大強度の1/eにおける時間モーメントであると定義される。
図5】[0059]ディープラーニングを用いた単一τ-ドットのフィンガープリントのデコーディングであり、(a)分類タスクに使用されるニューラルネットワークの説明である。(b及びc)Yb-Tmシリーズτ-1~τ-9ドット(b)及びNd-Yb-Erシリーズτ-10~τ-14ドット(c)の分類結果である(可視化のために、各タイプの単一ドットを表すために擬似色が使用される)。(d及びe)各タイプのドットについて、6つの訓練セット及び1つの検証セットのデータベースとの相互検証により得られた平均分類精度である。
図6】[0060]単一τ-ドットの光フィンガープリントのライブラリーを様々な応用で使用する可能性の実証であり、(a)異なる立ち上がり-減衰フィンガープリントを有する3つのタイプのτ-ドットセキュリティインクの使用による時間領域偽造防止である。(b)5つの標的病原体の一本鎖DNA(HBV、HCV、HIV、HPV-16及びEV)を定量するために5つのタイプのτ-ドットプローブを用いる多重化単一分子デジタルアッセイである。96ウェルプレート上でのプローブ-DNAコンジュゲーション手順を示す概略図である。(c)アップコンバージョン構造照明顕微鏡法(U-SIM)により解像された3つのタイプのτ-ドットである。
図7】[0061]マイクロビーズのSEM画像である。τ-13ナノ粒子でタグ化される前(a)及びタグ化された後(b)の5μmのポリスチレンビーズのSEM写真である。スケールバー:1μm。
図8】[0062]単一粒子性を確認する、τ-13ドットの広視野光学画像及びSEM画像の相関である。(a)808nmレーザー下での広視野光学画像、(b)同じ領域の対応するSEM画像。
図9】[0063]共焦点顕微鏡法の概略図である(SMF、シングルモードファイバー;MMF、マルチモードファイバー;L1、コリメーションレンズ;L2、集光レンズ;HWP、半波長板;PBS、偏光ビームスプリッタ;FM、可動鏡;DM、ダイクロイックミラー;Obj、対物レンズ;SPF、ショートパスフィルタ;SPAD、単一光子アバランシェダイオード;CCD、電荷結合素子)。
図10】[0064]広視野蛍光イメージングセットアップの概略図である(SMF、シングルモードファイバー;MMF、マルチモードファイバー;L1及びL6:コリメーションレンズ;L2及びL3並びにL7及びL8:ビーム拡大用レンズ;L4及びL9:チューブレンズ;DM1及びDM2:ダイクロイックミラー;Obj:対物レンズ;L5:集光レンズ;SPF:ショートパスフィルタ;FM、可動鏡)。
図11】[0065]サブ回折イメージングのための時間分解構造化照明顕微鏡法である。SMF、シングルモードファイバー;L1:コリメーションレンズ;L2及びL3:ビーム拡大用レンズ;M:銀鏡;DMD:デジタルマイクロミラーデバイス;L4~L6:リレーレンズ;DM:ダイクロイックミラー;Obj:対物レンズ;L7:集光レンズ;SPF:ショートパスフィルタ)。
図12】[0066]Yb-Nd-Tmシリーズサンプル(15~26)のTEM写真及びサイズヒストグラムである。スケールバー:100nm。
図13】[0067]Yb-Nd-Erシリーズサンプル(27~42)のTEM写真及びサイズヒストグラムである。スケールバー:200nm。
図14】[0068]Yb-Tmシリーズサンプル(1~14)のTEM写真及びサイズヒストグラムである。スケールバー:200nm。
図15】[0069]Nd-Yb-Erのτ-ドットの共焦点顕微鏡画像及び統計的強度である。5.5×10W/cmのパワー密度で808nmの励起下における、Nd-Yb-Erのτ-ドットの全スペクトルのルミネセンス発光の共焦点顕微鏡による定量的測定である。スケールバー:1μm。
図16】[0070]808nmの励起下において、τ-10についてSPADにより収集された単一ナノ粒子の輝度のパワー依存性曲線である。2本の点線は、5.5×10W/cm(広視野イメージングの場合)及び7.6×10W/cm(共焦点イメージングの場合)のパワー密度における発光強度を示す。
図17】[0071]広視野顕微鏡法においてシミュレートされた励起場である。パターンは、2次元ガウス形状であり、発光マップパターンのフィッティングから測定されるスポットサイズは、xが29.89μmであり、yが28.44μmである。
図18】[0072]Nd-Yb-Erのτ-ドットの励起パワー依存性である。広視野顕微鏡法におけるNd-Yb-Erのτ-ドットサンプルの全スペクトル領域のアップコンバートされた発光のレーザーパワー依存性である。
図19】[0073]τ-ドットの減衰時間ヒストグラムである。各ヒストグラムのそばの数字は、広視野顕微鏡法における平均減衰時間±減衰時間CVである。寿命イメージングシーケンスは、0~200μsの808nm励起パルスレーザー下において取得された。
図20】[0074]異なるサンプルのτプロファイルの類似性である。(a)τ-1及びτ-2の寿命曲線、並びに(b)τ-11及びτ-12の寿命曲線であり、寿命のフィンガープリントが互いに非常に重なっていることを示す。
図21】[0075](a)50回のランダム相互検証後の7つのバッチのYb-Nd-Erのτ-ドットサンプルの平均分類精度である。(b)上記の7つのτ-ドットの同じイメージング条件での広視野顕微鏡法における単一ナノ粒子の強度である。平均輝度は、100個を超えるナノ粒子のカウントに基づいて達成された。(c)サンプル40の20個を超える単一ナノ粒子からの寿命曲線統計値である。比較的弱い発光強度を有するサンプル40を添加することにより、7つのバッチのUCNPを訓練すると、これらの7つのサンプルの分類精度は、約90%である。一方で、サンプル40の分類精度は、最低である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
詳細な説明
[0076] 本明細書に関連して、「約」という用語は、当業者が、同じ機能又は結果を達成するという観点から、記載された値と均等であると考え得る数の範囲を指すと理解される。
【0057】
[0077] 本明細書に関連して、「1つの(a)」及び「1つの(an)」という用語は、1つ又は2つ以上(すなわち少なくとも1つ)の、冠詞の文法上の目的語を指すために本明細書で使用される。例として、「要素」は、1つの要素又は2つ以上の要素を意味する。
【0058】
[0078] 本明細書を通して、文脈が他に必要としない限り、「含む(comprise)」という語又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる」などの変化形は、記載された要素、整数若しくはステップ又は要素、整数若しくはステップの群の包含を意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ又は要素、整数若しくはステップの群の排除を意味しないことが理解されるであろう。したがって、本明細書に関連して、「含む」という用語は、「主に含むが、必ずしも単独で含むわけではない」を意味する。
【0059】
[0079] 本発明者らは、界面エネルギー移行、濃度依存性、エネルギー移動及び表面クエンチャーの単離を含むアップコンバージョンスキームにより、励起状態集団の立ち上がり、減衰及びピークモーメントを含む、単一アップコンバージョンナノ粒子からの時間領域発光プロファイル(τプロファイル)が任意に調整され得ることを発見した。これにより、ナノスケールでのコーディング能力の著しい増大が可能になる。励起波長、発光色及びτプロファイルを含む少なくとも3つの直交次元がナノスケール誘導体τ-ドットに構築され得ることも見出された。これらの高次元光シグニチャは、単一粒子ナノタグの膨大なライブラリーを構築するために予め選択することができる。これらの高次元光フィンガープリントは、サブ回折限界データストレージ、セキュリティインクから、ハイスループット単一分子デジタルアッセイ及び超解像度イメージングにわたる応用のための新しい領域を提供する。
【0060】
寿命エンジニアリングにおけるτプロファイルの制御及び界面エネルギー移行の役割
[0080] 本出願人は、活性コア@不活性シェルUCNP及び活性コア@エネルギー移行シェル@増感シェル@不活性シェルUCNPの両方の形態が高度に制御され得ることと、単一UCNPが広視野顕微鏡法において十分に明るくなると、時間領域においてその特徴的な光シグニチャを示すこととを実証した。驚くべきことに、各バッチのUCNPの減衰時間だけでなく、単一ナノ粒子からの励起状態集団の立ち上がり時間、減衰時間及びピークモーメントも調整可能である。本発明者らは、多界面エネルギー移動プロセス及び直交励起波長により、立ち上がり時間、減衰時間及びピークモーメントがさらに操作され得ることを見出した。したがって、一態様では、本発明は、アップコンバージョンナノ粒子の時間領域発光プロファイルを調整するための方法を提供し、本方法は、励起状態集団の立ち上がり、減衰及び/又はピークモーメントを操作することを含む。一実施形態では、励起状態集団の立ち上がり、減衰及び/又はピークモーメントの操作は、ナノ粒子における界面エネルギー移行(IEM)を変更することによって達成され得る。一実施形態では、IEMは、ナノ粒子を異なる励起波長にさらすことによって達成され得る。
【0061】
[0081] 励起集団の立ち上がり、減衰及び/又はピークモーメントの操作におけるIEMの役割を実証するために、形態均一性(CV<5%)を有する一連のコア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Tm3+UCNP(図12)及びβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Er3+UCNP(図1d及び図13)を作製した。コア-マルチシェルUCNPの複雑な設計により、図1eに示されるように、単一ナノ粒子内のエネルギー移動プロセスにおける任意の制御が可能になる:Nd3+及びYb3+イオンが共ドープされたシェルは、808nmの励起を増感させ、わずかな割合のYb3+イオンを含有するエネルギー移行シェルは、緑色及び赤色バンドでアップコンバートされた発光を放出する従来のYb3+、Er3+共ドープコアに対して吸収エネルギーを伝えることに関与し(図1fを参照されたい)、不活性シェルは、表面クエンチャーへのエネルギー移行を防止し、及び単一ナノ粒子の光学的均一性を改善するために使用される。複数のシェルは、808nmの励起下において、一次増感剤Nd3+から二次増感剤Yb3+への界面エネルギー移行(IEM)プロセスを大幅に遅らせることができる。IEMは、アップコンバージョン発光の時間遅延上昇曲線で表示される、励起状態集団のゆっくりした蓄積において重要な役割を果たす。このIEM効果を検証するために、976nm及び808nmレーザーをそれぞれ用いて、Yb3+及びNd3+イオンを選択的に励起させ、同じ発光スペクトルを観察した(図1f)。しかしながら、τプロファイルにおいて有意差が観察された(図1g)。これに関して、IEMプロセスが関与する場合、Er3+励起状態集団がプラトーに達するまでの立ち上がり時間は、200μsから950μsまで延長される。
【0062】
[0082] 立ち上がり時間、減衰時間及びピークモーメントを調整できることは、この次元を多重化アッセイで使用する可能性を開く。したがって、別の態様では、本発明は、多重アッセイにおける発光プローブを特定するための多重アッセイ方法を提供し、本方法は、発光プローブを刺激して発光を生じさせることと、発光の立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を測定することとを含む。さらなる態様では、本発明は、多重アッセイを実施するための方法を提供し、多重アッセイは、プローブとして、異なる立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を有する発光プロファイルを有する複数のナノ粒子を使用することを含み、プローブは、その異なる立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間に基づいて互いに区別される。
【0063】
直交光フィンガープリントのコード化
[0083] UCNPのτプロファイルを調整できることを利用することにより、本出願人は、一連の時間領域光フィンガープリントを作成し、UCNPに存在するエミッタの励起状態集団を作るための5つの戦略を実行することにより、異なるバッチのτ-ドットのライブラリーを構築した。したがって、さらなる態様では、本発明は、スペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリーを作製するための方法であって、
(a)複数の異なる種類のナノ粒子を提供することであって、それぞれの異なる種類のナノ粒子は、別個の立ち上がり時間、ピークモーメント及び/又は減衰時間を有する発光プロファイルを有する、提供すること、
(b)スペクトル的に別個のナノ粒子のライブラリーを提供するために、各種類内のナノ粒子の以下のパラメータ:
ナノ粒子のコアサイズ;
コア中のエミッタイオン及び増感剤イオンの濃度;
増感層の厚さ;
増感層中の増感剤イオンの濃度;並びに
パッシベーション層の存在又は不存在
の1つ又は複数を変化させること
を含む方法を提供する。
【0064】
[0084] 例示的なライブラリーは、光フィンガープリントの3つの直交次元(励起波長、発光波長及び寿命)を表示する、表1に記載されるような3つのシリーズのUCNPに基づく。Yb-Tmシリーズ(図1a~1c)は、976nmで励起させることができ、Nd-Yb-Erシリーズ(図1d~1g)及びNd-Yb-Tmは、976nm及び808nmレーザー励起の両方が可能である。図1a及び図14のTEM画像は、均一な球形β-NaYF:Yb3+,Tm3+コア@不活性シェルナノ粒子(変動係数(CV)<5%)を示す。976nmの励起では、ナノ粒子は、青色、赤色及び近赤外(NIR)スペクトルバンドで発光し、これは、Tm3+の多様な遷移に割り当てられる(図1b)。これらの励起状態()は、全てマイクロ秒の時間スケールでプロファイルの立ち上がり成分及び減衰成分の両方を示す(図1c)。このプロファイルにより、それぞれの異なるバッチのナノ粒子は、かなり複雑な多成分寿命挙動を特徴とする独特な光フィンガープリントになる。
【0065】
【表1】
【0066】
[0085] 図2aに示されるように、戦略は、コアサイズ、コア中のエミッタ及び増感剤Yb3+のドーピング濃度、コア/増感層の厚さ及び増感層中のYb3+のドーピング濃度の調整並びにパッシベーション不活性層の付加を含む。
【0067】
[0086] ライブラリーの作製において、これらの戦略の1つ又は複数が採用され得ることが認識されるであろう。いくつかの実施形態では、5つの戦略の全てが採用される。5つの戦略の全てを用いて(表1を参照されたい)、976nm又は808nmのNIR励起下において微細に調整可能なτプロファイルを示す、14個(図2bの1→14)、12個(図2cの15→26)及び16個(図2dの27→42)のバッチの3つのシリーズのτ-ドットを合成した。同じドーピングシリーズからのサンプルは、非常に類似した発光色、すなわちYb-Tmシリーズでは青色(図2h)、Nd-Yb-Tmシリーズでは紫がかった青色(図2i)、Nd-Yb-Erシリーズでは黄色がかった緑色(図2j)を示すが、その寿命プロファイルは、時間領域で非常に異なって表示される。図2e~2gの値は、各バッチのτ-ドットサンプルを特定する際、立ち上がり時間、ピークモーメント及び減衰時間分布の広いダイナミックレンジをさらに定量的にマッピングする。
【0068】
[0087] 好ましくは、ステップ(a)のナノ粒子は、コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Tm3+UCNP、コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Er3+UCNP及びコア-シェルβ-NaYF:Yb3+,Tm3+UCNPから選択される。いくつかの実施形態では、ステップ(a)のナノ粒子は、コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Tm3+UCNP、コア-マルチシェルβ-NaYF:Nd3+,Yb3+,Er3+UCNP及びコア-シェルβ-NaYF:Yb3+,Tm3+UCNPであり、したがって、ライブラリーは、表1に示されるように3つのUCNPタイプに基づく。しかしながら、当業者は、その光学的均一性及び光フィンガープリントの調整可能性(例えば、スペクトルにおいて)が、本明細書で議論される要件を満たす限り、ライブラリーが他のUCNP、実際にはより一般的にナノ粒子に基づき得ることを認識するであろう。
【0069】
単一τ-ドットの光学的均一性
[0088] 本出願人は、異なるバッチのτ-ドットにおいてコード化することができる寿命プロファイルのダイナミックレンジが広いにもかかわらず、コード化された各光フィンガープリント間の違いがアンサンブルレベルで隠され得ることを見出した。したがって、単一ナノ粒子分光法を採用して、単一τ-ドットの光学的均一性を検証するべきである。ここでは、Yb-Tmシリーズ(τ2-1~τ2-9)及びNd-Yb-Erシリーズ(τ2-10~τ2-14)の14個のバッチのτ-ドット(すなわち表1のτ2-1~τ2-14)を選択して、単一ナノ粒子レベルでのデコーディング実験を実施した。共焦点顕微鏡法セットアップ(図9)を用いて、単一ナノ粒子の光学的キャラクタリゼーション結果(図3a及び3b)は、高度の輝度(例えば、τ-13では毎秒81,520光子カウント)、光学的均一性(CV8.1%)(図15の他の4個のバッチのNd-Yb-Erのτ-ドットを参照されたい)及び単一τ-ドットの安定性(図3c)を示し、長期のイメージング及び光フィンガープリントのデコーディングに理想的である。図3dに示されるように、独特の検出可能なフィンガープリントは、全ての単一τ-ドットに問題なく割り当てられている。より印象的なことに、単一ドットの特徴的な寿命フィンガープリントは、同じ合成バッチからのものである限り、一貫して均一である。
【0070】
広視野時間分解顕微鏡法
[0089] 共焦点走査顕微鏡法により、最大で106W/cmの照明パワーは、各ピクセルを走査して全ての単一ナノ粒子を励起させることができるが、その走査モードは、デコーディングプロセスのスループットを著しく制限する。したがって、広視野顕微鏡は、時間分解イメージングのためにインテンシファイア結合CMOSカメラと共に開発された(図10)。広視野顕微鏡法において、中程度の連続波励起パワー密度(5.46kW/cm)は、各τ-ドットの輝度をほぼ2桁犠牲にする(図16)が、広視野顕微鏡法は、点走査共焦点セットアップと比較してデコーディングスループットをはるかに高める。図3eに示されるように、時間分解イメージングのシーケンスは、75のフレーム(n=75)からなり、それぞれ50μsの時間ゲートウィンドウ期間(Δt)を記録する。
【0071】
単一τ2-ドットのナノスケール光多重化
[0090] 従来のミクロンサイズのビーズと比較して、ナノスコピックサイズのτ-ドットにおいて作成される光コードは、コーディング情報の容量を著しく増大させることができ、これにより、スーパー容量光多重化は、光回折限界よりも小さい領域に取り込まれる。この機会及び課題を説明するために、5μmのポリスチレンビーズをτ-13ドットで着色し(図7)、その時間分解アップコンバージョン画像を広視野顕微鏡下で収集した。直径28μmの照明領域内において、典型的な画像は、ミクロンサイズのビーズを10未満のみ含むが(図3f)、対照的に、数百個の単一τ-13ドットが同じ領域内に存在する(図3g)。それぞれの単一ミクロンビーズは、滑らかなτプロファイルを示す(図3h)が、単一τドットからの曲線(図3i)は、各50μs時間ゲートウィンドウ内の検出可能なシグナルの量が限られているために、いくらかの有意レベルのノイズを有する。
【0072】
高次元フィンガープリントの抽出
[0091] 広視野時間分解顕微鏡を用いて、各バッチからの20を超える単一τ-ドットの寿命曲線を測定した。その寿命プロファイルは、図4aに示される。照度分布(図17)及びパワー依存性強度(図18)に起因して、ドットごとに寿命曲線のいくらかの検出可能な変動があるが、各τ-ドットの顕著な特徴及び広いダイナミックレンジにわたるその寿命の調整可能性が明白である(図4b及び4e)。分布統計値(図4c及び4f)を通して、τ-ドットの大部分は、そのτ値が均一に分散しており、CVが小さく(<10%、図19)、各集団間の重複の度合いが小さく、デコーディングプロセスに有利であることが分かった。τ-2対τ-3、τ-4対τ-5、τ-8対τ-9及びτ-13対τ-14を含む4対のτ-ドット集団は、著しい重複を示す。際立ったことに、寿命フィンガープリントプロファイルから抽出された1つ又は複数の指標、すなわちτを付加することにより、2対の集団(τ-4対τ-5、τ-8対τ-9)は、十分に区別され得る(図4d)。
【0073】
ディープラーニングアプローチ
[0092] ディープラーニングは、高度に非線形のデータセットを分類する高い能力を示す、新たに出現した技術である。ここでは、高度に光学的に均一な単一ナノ粒子の制御された成長と、その後の画像解析との両方により、単一ドットの寿命フィンガープリントを得るための機会が提供され、これによりディープラーニングで機械を訓練するための大きい高品質データセットが生成され得る。時間依存性の画像フレームのシーケンスを収集することにより、0~3750μsの75の時点において、訓練のための入力のデータソースとして正規化τプロファイルの値を抽出した。ここで、単一ナノ粒子からのイメージングデータのみを選択することにより、収集したままの画像を最初に前処理した。図5aに示されるように、各バッチのτ-ドットの特徴被覆度(分類境界)を定義するために、畳み込みネットワークと、2つの層(FC1及びFC2)を有する全結合ネットワークとを使用した。
【0074】
[0093] 独立して2つのシリーズによる14個のバッチのτ-ドット(τ-1~9及びτ-10~14)のデータベースによって機械を訓練し、確立されたニューラルネットワークに、全ての単一τ-ドットを認識することを要求する。これを行うために、最初に、各タイプのτ-ドットサンプルから7つのセットの時間分解画像シーケンスを収集し、各画像データは、単一τ-ドットのデータ事前選択後、50~200個の単一ナノ粒子の寿命フィンガープリントを含む。各タイプのτ-ドットからの任意の6つのセットのイメージングデータを使用して、最初にニューラルネットワークを確立するために機械を訓練し、検証分析物として最後のデータセットを使用する。各τ-ドットサンプルの可視化された典型的な結果セットは、図5b及び5cに示される。少量のまだらなドット(例えば、τ-2及びτ-11の画像)は、エラー認識を表し、これは、主に同様の寿命曲線特徴を有するサンプルによって引き起こされる(図20)。次に、訓練及び検証の実験をさらに50回実行し、毎回ランダムに、検証標的として1つのデータセットを、及びニューラルネットワークを訓練するために他の6つのセットを選択し、その結果、図5d及び5eに示される分類精度の統計的分布がエラーバーと共に得られた。各τ-ドットサンプルについて平均分類精度が達成され、値は、全て1に近づいた。ナノスケール多重化の容量は、単一ナノ粒子の輝度及びノイズ背景によって有意に決定することができ、これは、比較的低輝度のτ-ドットサンプルバッチに対して比較的広いτプロファイルの分布を説明し、したがって機械知能により達成可能な認識結果の精度が低くなる(図21)。それにもかかわらず、この実験は、各τ-ドットの寿命プロファイルが、ディープラーニングによって支援されるナノスケールのスーパー容量光多重化に使用される大きい可能性を確認する。
【0075】
τ-ドットの潜在的な応用
[0094] ナノスケールのスーパー容量光多重化は、多数の応用のための新しい領域を開く。時間領域τ-プロファイルを使用すると、図6aに示されるように、同じ色を放出する異なるバッチの材料を用いて新世代の動的偽造防止セキュリティインクを開発することができる。別の比類なき可能性は、ナノスケールのスーパー容量多重化をハイスループットの単一分子アッセイのために使用することであり、これは、ミクロスフェアに基づく従来のサスペンションアレイアッセイよりも優れている。原理実験の証明の結果として、図6bでは、5種の病原性DNA配列(表2を参照されたい) - B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス16型(HPV-16)及びエボラウイルス(EV)を同時に検出するために、5種類のτ-ドットを設計及び機能化した。広視野顕微鏡を通して及び対照群と比較して、各τ-ドットは、非常に特異的であると結論付けられた。さらに、図5cに示されるように、異なる寿命プロファイルを有するτ-ドットの広視野画像は、185.5nmの解像度を有するアップコンバージョン構造-照明顕微鏡法(U-SIM)(図11)についての本発明者らの最新の開発を使用して超解像され得ることが実証される。
【0076】
【表2】
【0077】
材料及び方法
UCNPの合成
[0095] NaYFコアナノ粒子は、共沈法を用いて合成した。典型的な手順では、6mLのオレイン酸及び15mLの1-オクタデセンと共に、異なるドープ率を有する1mmolのRECl(RE=Y、Yb、Nd、Er、Tm)を激しく攪拌しながら50mlの3つ口丸底フラスコに添加した。得られた混合物を150℃で40分間加熱して、ランタニドオレイン酸錯体を形成した。溶液を50℃に冷却し、30分間激しく攪拌しながら、2.5mmolのNaOH及び4mmolのNHFを含有する6mLのメタノール溶液を添加した。次に、アルゴン流下で混合物をゆっくり150℃まで加熱して30分間保持し、メタノール及び残留水を除去した。次に、溶液をアルゴン流下において300℃で1.5時間急速加熱した後、室温まで冷却した。得られたコアナノ粒子を収集し、シクロヘキサン/エタノール/メタノールで数回洗浄した後、5mg/mLの濃度でシクロヘキサン中に再分散させた。上記と同じ方法を用いて、異なるドーピング濃度を有する3つのシリーズのコアナノ粒子を合成した(NaYF:Yb,Tm;NaYF:Yb,Nd,Tm;NaYF:Yb,Er)。
【0078】
[0096] NaOH/NHF溶液を添加した後、反応溶液をゆっくり150℃まで加熱して30分間保持するステップまで、上記の手順を用いて前駆体を作製した。さらに300℃まで加熱してナノ結晶成長を誘発する代わりに、溶液を室温まで冷却してシェル前駆体を得た。
【0079】
[0097] レイヤーバイレイヤーエピタキシャル成長法により、コア-シェル及びコア-マルチシェルナノ粒子を作製した。予め合成したNaYFコアナノ粒子をシェル修飾のためのシードとして使用した。3mlのOA及び8mlのODEを含む50mlのフラスコに、0.2mmolの作製したままのコアナノ結晶を添加した。混合物をアルゴン下で30分間、150℃まで加熱してから、さらに300℃まで加熱した。次に、一定量の作製したままのシェル前駆体を反応混合物に注入し、300℃で2分間熟成させた後、同じ注入及び熟成サイクルを数回行い、異なるシェル厚さを得た。最後に、スラリーを室温まで冷却し、形成されたコア-シェルナノ結晶を、コアナノ結晶のために使用した同じ手順に従って精製した。上記のエピタキシャル成長法によってコア-マルチシェルナノ粒子も作製し、コア-シェルナノ粒子をシードとして使用した。
【0080】
τ-ドット(τ-13)タグ付きマイクロビーズの作製
[0098] ブタノール中8%(v/v)のクロロホルム溶液137μlで5μl(10%w/v)のPSビーズを膨潤させることにより、ポリスチレン(PS)マイクロビーズ(d=5μm;Sigma-Aldrich)溶液を処理した。40μl(8mg/ml)のシクロヘキサン中のτ-13ドットを上記のPS懸濁液に添加した。τ2-ドットを添加した後、溶液をボルテックスした。25℃で3時間インキュベートした後、ビーズをエタノールとシクロヘキセンで交互に4回洗浄した。洗浄した後、τ-ドット埋め込みビーズをエタノール中に分散させてから、光学的測定のためのカバースリップの表面で1滴のビーズを空気乾燥させた。
【0081】
材料のキャラクタリゼーション
[0099] ナノ粒子の形態キャラクタリゼーションは、120kVの加速電圧のJEOL TEM-1400及び200kV電圧のJEOL TEM-2200FSの透過型電子顕微鏡により実施した。炭素コートした銅グリッド上に滴下させることにより、シクロヘキサン分散UCNPを画像化した。PSビーズの表面形態キャラクタリゼーション(図7を参照されたい)及び光-電子顕微鏡相関実験(図8を参照されたい)は、20.00kVで動作されるZeiss Supra 55VP走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて実施した。
【0082】
サンプルスライドの作製
[00100] 単一ナノ粒子測定のためのサンプルスライドを作製するために、超音波処理によりカバースリップを純粋なエタノールで洗浄した後、空気乾燥させた。20μlのシクロヘキサン中のτ2-ドット(0.01mg/ml)をカバースリップの表面に滴下した。空気乾燥させた後、カバースリップを清浄なガラススライド上に置き、測定前に穏やかな力で気泡を押し出した。
【0083】
共焦点イメージング及び寿命測定
[00101] 図9に示されるように、単一τ2-ドットの強度及び寿命測定のためにステージ走査共焦点顕微鏡を構築した。808nmのシングルモード偏光レーザーの励起源は、100×対物レンズ(UPLanSApo100X、油浸、NA=1.40、Olympus Inc., JPN)を通してサンプルに焦点を合わせた。サンプルからの発光を同じ対物レンズにより集め、システムの最初のエアリーディスクと一致するコアサイズを有する光ファイバーに再度焦点を合わせた。ショートパスダイクロイックミラー(DM、ZT785spxxr-UF1、Chroma Inc., USA)及びショートパスフィルタ(SPF、ET750sp-2p8、Chroma Inc., USA)により、蛍光シグナルをレーザーからフィルタリングした。単一光子計数アバランシェフォトダイオード(APD、SPCM-AQR-14-FC、Excelitas Inc., USA)をマルチモードファイバー(MMF、M42L02、Thorlabs Inc., USA)に接続して、発光強度を検出した。3Dピエゾステージを移動させることにより、走査を達成した。全ての単一ナノ粒子は、共焦点走査顕微鏡画像においてガウススポットを示した。各ガウススポットの最大輝度値(光子カウント)を使用して、その単一ナノ粒子の輝度を表した。20を超える単一ナノ粒子を評価して、平均輝度を計算した。
【0084】
[00102] 寿命測定のために、ダイオードレーザーを変調して、200μsの励起パルスを生成した。光子計測SPADを連続的にオンにして、長寿命の発光を捕捉した。各時点について、ゲート幅は、5μsであり、蓄積回数は、10000回である。多機能データ取得デバイス(USB-6343、National Instruments)及び専用LabVIEWプログラムを用いて、パルス励起、時間ゲートデータ収集及び共焦点走査を制御及び同期させた。
【0085】
広視野スペクトル及び寿命測定
[00103] 図10に示されるように、τ-ドットの蛍光寿命画像シーケンスを取得するために、広視野蛍光顕微鏡を構築した。シングルモードダイオード励起固体レーザー(LU0808M250、Lumics Inc., GER、808nm、励起パワー密度5.46kW/cm)を使用し、レーザービームを3倍に拡大した後、τ-ドットを励起させた。τ-ドットの発光を高NA対物レンズ(UPLanSApo100X、油浸、NA=1.40、Olympus Inc., JPN)により収集し、ショートパスダイクロイックミラー(DM1、ZT785spxxr-UF1、Chroma Inc., USA)及びショートパスフィルタ(SPF、ET750sp-2p8、Chroma Inc., USA)によりレーザー反射から分離し、次にチューブレンズにより時間分解sCMOSカメラ(iStar sCMOS、Andor Inc., UK)に焦点を合わせた。カメラは、BNCケーブルを介して励起レーザービームのパルス変調器としても機能する。カメラのキネティクスモード及び250HzのIntegrate-On-Chip(IOC)を適用することにより、0~200μsのレーザー励起パルス下において、0μsから3750μsまで50μsの時間ゲートで75フレームの寿命画像シーケンスを取得した。IOCモードにより、シグナル対ノイズ比が大幅に改善された蛍光シグナルの蓄積が可能となった。976nmの励起下でτ-ドットの蛍光寿命画像シーケンスを測定するために、シングルモード976nmレーザー(BL976-PAG900、Thorlabs Inc., USA、励起パワー密度8.7kW/cm)を励起光としてセットアップに追加した。コリメーション後、励起ビームを2.5倍に拡大し、次にショートパスダイクロイックミラー(DM2、T875spxrxt-UF1、Chroma Inc., USA)によって反射させ、対物レンズを通してサンプルスライドに焦点を合わせた。蛍光シグナルは、フリップミラーを切り換えることによってマルチモードファイバー(MMF、M24L02、Thorlabs Inc., USA)に結合させ、アップコンバージョン発光スペクトルを測定するために小型モノクロメーター(iHR550、Horiba Inc., JPN)によって検出することもできる。スペクトル領域は、400~750nmの範囲であった。
【0086】
ディープラーニングのためのデータ処理及びネットワーク
[00104] 単一ナノ粒子に基づく機械学習を実施するために、データ処理を実施して、収集された画像内の単一ナノ粒子を選択した。75フレームの画像から最も明るいフレーム(最大平均輝度)を選択した。次に、各輝点のピークピクセルを見出した。各ピークについて、ピークを中心に40ピクセル×40ピクセルの関心領域(ROI)を切り取った。各ROIにおいて、画像をOTSU閾値で分割し、バイナリーマスクを得た。2つの隣接するピークがバイナリーマスクにおいて接続され得ることを考慮して、バイナリーマスクで流域セグメンテーションを使用して各ピークの境界を得た。最後に、スポットの全てをそのピーク強度によりソートし、全てのスポットをそのピーク強度に従って4つのグループ(Q1~Q4)に分けた。Q1~Q4は、グループを分類するための4つの強度閾値を表す。ピーク強度が単一粒子の強度の統計的範囲内にある場合、スポットを単一ナノ粒子としてカウントした(例えば、τ-13について、8000±1000、Q2グループに等しい)。凝集スポットを全て除去した後、単一ナノ粒子のみを含む画像を得た。その後、画像シーケンスを複数の単一ナノ粒子シーケンスに変換した。例えば、画像シーケンス内で100個の粒子が単一ナノ粒子として特定された場合、この画像シーケンスを100個の粒子シーケンスに分解した。
【0087】
[00105] PyTorchパッケージ(https://pytorch.org/)を用いて、人工ニューラルネットワーク(ANN)をパイソンで実行した。ディープラーニングの入力として、単一ナノ粒子の正規化された時間領域蛍光強度シーケンスを抽出した。14のτ2-ドットの全てに対して上述のデータ処理を実施した。各τ2-ドットについて、約500の単一ナノ粒子を訓練セットとしてランダムに選択した。ここで、その寿命の特徴及びタイプは、既知であった。約100個の単一ナノ粒子を検証セットとして使用した。ネットワークアーキテクチャを決定する際、5つの重要な態様が存在した:1)畳み込みネットワークにおける層の数;2)各1D畳み込み層におけるフィルタの数;3)活性化関数を使用するかどうか;4)各全結合(FC)層におけるニューロンの数;5)ドロップアウト正則化スキームの保持確率。10個のフィルタを有する1つの畳み込み層と、それぞれについて10個のニューロンを有する2つの全結合層とのネットワーク構造から始めた。
【0088】
[00106] まず、10~1000の範囲で各全結合層においてニューロンの数を決定した。10個のフィルタを有する1つの畳み込み層を仮定すると、各FC層のニューロンの数が約500である場合、ネットワークは、満足できる結果を得た。上記の2つのFC層を仮定して、畳み込み層の数及び各層のフィルタの数の決定を開始した。第1の層に50個のフィルタ及び第2の層に20個のフィルタを有する2つの畳み込み層を使用すると、ネットワークは、満足できる結果を得た。次に、上記の畳み込み層を仮定して、各FC層のニューロンの数をさらに調整し、各層において100~200個のニューロンで満足できる結果が得られることを見出した。上記の誘導により、ネットワーク構造は、第1の層に50個のフィルタ及び第2の層に20個のフィルタを有する2つの畳み込み層、それに続く各層に100個のニューロンを有する2つのFC層として一時的に決定された。このネットワーク構造を用いて、活性化関数又は/及びドロップアウトスキームを導入した場合のネットワーク性能を検証した。この手順において、ReLU、ReLU6及びRReLUの3つの活性化関数が検証された。ドロップアウトスキームの保持確率は、0.5~0.9の範囲で決定された。上記のネットワーク調整後、FC層のニューロンの数の調整に戻り、以下のような最終ネットワークアーキテクチャが得られた。
【0089】
[00107] フィンガープリント検索ネットワークは、2つの畳み込みネットワーク及び2つの全結合ネットワークを含んでいた。2つの1D畳み込み層は、要素ごとの関数ReLU6(x)=min(max(0,x),6)を使用した。第1の1D畳み込み層には、サイズ3のカーネルを使用する50個のフィルタが存在し、ストライドサイズが2であった。第2の1D畳み込み層は、サイズ2のカーネルを有する20個のフィルタを有し、ストライドサイズが1であった。2つの全結合ネットワークは、第1の層に150(FC1)ニューロン及び第2の層に100(FC1)ニューロンを有する2つの層を含み、各層について、要素ごとの関数も使用した。全結合部分に対して80%の保持確率を有するドロップアウト正則化スキームを適用した。訓練中、入力の2進数に対応する指標を有する出力層ニューロンは、「1」に設定され、他のニューロン活性化は、「0」に保持された。確率的勾配降下(SGD)アルゴリズムの変形(「Adam」)を適用し、サイズ200のランダムにシャッフルされたバッチを通してネットワークのパラメータを訓練した。カテゴリークロスエントロピー損失、学習率0.005を使用し、ネットワークを50エポックにわたって訓練した。
【0090】
[00108] 畳み込みニューラルネットワークの分類有効性は、ランダムにサンプリングされた50回の実験の分類精度の平均及び偏差によって評価した。各サンプルの7つのセットの画像シーケンスを有し、訓練及び試験の50回の実験を実行して、平均誤差及び偏差を算出する。各実験において、試験粒子に対して1つのセットの画像シーケンスをランダムに選択した。14個のバッチのナノ粒子の場合、14の画像シーケンスを選択した。残りの画像シーケンス内の単一ナノ粒子のデータは、訓練アルゴリズムセクションにおいて訓練セットとして使用した。ここで、それらの寿命特徴は、利用可能であるが、モデル誤差を算出するまでラベルが不明であった。1回の訓練及び試験プロセス後、14の画像シーケンスの試験誤差が得られた。誤差の平均及び偏差は、50のランダムな選択を通して算出された。
【0091】
偽造防止実験
[00109] 3つのタイプのτ-ドットの使用による時間領域偽造防止は、サンプル平面上の励起パターンの空間変調に基づいた。デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を空間光変調器として広視野光学系に追加して、ABCアルファベットの励起パターンを生成した。レーザービームは、ビームのコリメーション及び拡大後にDMDを照射した。次に、照射されたアルファベットパターンがサンプル平面上に画像化された。
【0092】
DNAアッセイ実験
[00110] DNAオリゴヌクレオチドとのバイオコンジュゲーション前に、合成後の表面修飾を用いて、τ-ドットを親水性及び生体適合性に変えた。親水性ブロックポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレートホスフェートメタクリレート(POEGMA-b-PMAEP)で構成されるブロックコポリマーとの配位子交換によって表面修飾を実施した。典型的な手順において、500μlのOAコートされたτ-ドット(20mg/mL)をテトラヒドロフラン(THF)中に分散させた。次に、THF中のOAキャップされたτ-ドットを2mLのTHF中の5mgのコポリマー(末端がカルボキシル基である)と混合した。上記の混合物を1分間超音波処理した後、室温で一晩、振とう器内でインキュベートした。ポリマーでコートされたτ-ドットを14860rpmで20分間の水による洗浄/遠心分離により4回精製して、カルボキシル基修飾τ-ドットを得た。上清を除去し、DNAとのさらなるコンジュゲーションのためにナノ粒子を水中に分散させた。
【0093】
[00111] 短い24塩基の長さの5対の病原体関連遺伝子配列(HBV、HCV、HIV、HPV-16、EV)を選択した。カルボジイミド化学のプロトコルを用いて、ポリマーのカルボキシル基をプローブDNA分子のアミン基とコンジュゲートさせた。5つのグループのカルボキシル-τ2-ドットは、室温で30分間わずかに振とうさせながら、HEPES緩衝液(0.2mM、pH7.2)中のEDC(カルボキシル-τ2-ドットに対して100倍のモル比)によって再活性化させた。5つのグループのNH-DNA(100uM)を、それぞれ3時間の反応のために600rpmで振とうさせながら上記の溶液に添加した。活性化カルボキシル-τ2-ドットを14680rpmサイクルで2回洗浄/遠心分離してEDCを除去し、HEPES緩衝液中に再懸濁させて、プローブDNA-ポリマー-τ2-ドットを得た。
【0094】
[00112] 200μLのPBS緩衝液中の約0.5μg/mLの濃度のストレプトアビジンを5対の96ウェルプレート上にコートし、室温で4時間インキュベートした。その後、上清を除去し、200μLのPBS中の200pmolのビオチン化捕捉DNAをウェルに添加し、さらなる固定化のために4℃で一晩インキュベートした。反応後にプレートをPBS緩衝液で3回洗浄し、次に200μLの1%カゼインを含むブロッキング緩衝液を各ウェルに添加して、室温で1時間インキュベートした。実験ウェルの5つに200uLのTris緩衝液中の標的DNAを添加し、室温で2時間インキュベートしたが、5つの対応する対照ウェルには、標的DNAを含まないTris緩衝液を添加した。Tris緩衝液により3回洗浄した後、Tris中に0.1%のカゼイン及び5mMのNaFを含有する反応緩衝液中の100μLの相補的DNA機能化τ-ドットを添加して、1時間反応させた。次に、ウェルを3回洗浄し、ウェルを最終的に100μlのTris-5mMのNaF中に溶解させた後、画像を検出した。
【0095】
SIMイメージング実験
[00113] 広視野超解像度技術としての構造化照明顕微鏡法(SIM)は、サンプル平面上の励起パターンの空間変調に基づいた。この研究では、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD、DLP 4100、Texas Instruments Inc., USA)を空間光変調器として使用し、励起パターンを生成した。DMDは、チップ上の1024×768のマイクロミラーのアレイを含んでいた。各マイクロミラーのサイズは、13.68×13.68μmであった。マイクロミラーのそれぞれについて、物理的サイズは、91%の充填率のために13.68μmよりもわずかに小さかった。各マイクロミラーは、その対角線に沿って2つの位置:傾き±12°に傾けて、入射光ビームを光路からそらすことができる。これらのマイクロミラーを独立して制御し、入射光の振幅を変調して任意の照明パターンを生成することができる。
【0096】
[00114] 図11に示されるように、時間分解SIMの光学系は、適切に変更された従来の広視野蛍光顕微鏡(図10)に基づいて構築された。超解像度画像シリーズの再構築において、3つの異なる角度方向(θ1=0°、θ2=60°及びθ3=120°)及び3つの異なる位相シフト(φ1=0°、φ2=120°及びφ3=240°)に対応する9つの照明パターンで9つの生画像シリーズを取得した。次に、これらのシリーズの各フレームについて、これらの生画像に高速フーリエ変換アルゴリズムを適用することにより、9つの全ての周波数スペクトルを得た。スペクトルの分離後、9つの全ての周波数成分をその真の位置にシフトして、最終的なSIM画像を再構築した。データは、全てフリーオープンソースのSIM画像再構築プラグインfairSIMと共にImageJ/Fijiを用いて再構築した。
【0097】
参考文献
1.Liu, E. et al. Three-dimensional controlled growth of monodisperse sub-50 nm heterogeneous nanocrystals. Nat. Commun. 7, 10254 (2016).
2.Duong, H.T.T. et al. Systematic investigation of functional ligands for colloidal stable upconversion nanoparticles. RSC Adv. 8, 4842-4849 (2018).
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【国際調査報告】