(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-22
(54)【発明の名称】コロナウイルスに対する免疫力を高める為の方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/215 20060101AFI20230815BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230815BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230815BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230815BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230815BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20230815BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20230815BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20230815BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230815BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A61K39/215
A61P31/14
A61P37/04
A61K48/00
A61K38/02
A61K47/62
A61K47/69
A61K9/51
A61K35/76
A61K39/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503475
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(85)【翻訳文提出日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 NL2021050461
(87)【国際公開番号】W WO2022019758
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523009159
【氏名又は名称】ライデン ラボラトリーズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリオ,ドメニコ
(72)【発明者】
【氏名】ゴードスミット,ヤープ
(72)【発明者】
【氏名】フェルリンデン,ステファン フレデリック フランシスクス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076BB25
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4C076CC07
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4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
本開示は、コロナウイルス、特に高病原性コロナウイルス、に対する免疫力を高める為の方法及び組成物を提供する。HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含むペプチドを含む組成物、並びにHCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部をコードする核酸分子を含む組成物が提供される。本明細書に記載された組成物は特に、高病原性コロナウイルス、例えばSARS-CoV-1、MERS-CoV及び/又はSARS-CoV-2、並びに典型的には非ヒトコロナウイルスの種間感染に対するワクチンとして有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの異なるコロナウイルスに対するヒト個体における免疫力を高める際に使用する為の医薬組成物であって、好ましくは、該コロナウイルスのうちの少なくとも1つがSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択され、前記組成物が、ペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子を含み、ここで、該ペプチドが、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含み、前記組成物が経鼻的に投与される、前記医薬組成物。
【請求項2】
高病原性コロナウイルスに対するヒト個体における免疫力を高める為の医薬組成物であって、前記組成物が、ペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子を含み、ここで、該ペプチドが、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1、好ましくはHCoV-NL63、から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含む、前記医薬組成物。
【請求項3】
第2のペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子、ここで、該ペプチドが、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含む、及び/又はペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子、ここで、該ペプチドが、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルス由来の又は動物コロナウイルス由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含む、を更に含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ペプチドが、Sタンパク質の融合ペプチド、HR1ヘプタッドリピート又はHR2ヘプタッドリピートを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ペプチドが免疫刺激剤にコンジュゲートされており、好ましくは、該免疫刺激剤が、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、ロコ貝ヘモシアニン(CCH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、又はオバルブミン(OVA)から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子が、ナノ粒子内に提供されるか、又はナノ粒子に付着される、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記核酸分子が、ベクター、好ましくはウイルスベクター、中に含まれている、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物がアジュバントを含み、好ましくは、該アジュバントが、TLR3又はTLR4アゴニスト、ムラブチド、ベータグリカン、及び/又はコレラ毒素から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が鼻腔内送達の為に処方されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、少なくとも2つの異なるコロナウイルスに対する免疫を高め、好ましくは、前記コロナウイルスのうちの少なくとも1つが、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
1以上の高病原性コロナウイルスに対する、ヒト個体における免疫を高める際に使用する為の、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物が経鼻的に投与されるものである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ヒトがCOVID-19重症化の危険性がないと考えられる、請求項11又は12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記個体が保護免疫を維持する為にブースター用量を投与されるものである、請求項11~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
病原性コロナウイルスに対する前記個体の免疫力をその後試験することを更に含む、請求項11~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コロナウイルス、特に高病原性コロナウイルス、に対する免疫力を高める為の方法及び組成物を提供する。HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HcoV:human coronaviruses)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含むペプチドを含む組成物、並びにHCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部をコードする核酸分子を含む組成物が提供される。本明細書に記載された組成物は特に、高病原性コロナウイルス、例えばSARS-CoV-1、MERS-CoV及び/又はSARS-CoV-2、並びに典型的には非ヒトコロナウイルスの種間感染に対するワクチンとして有用である。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは、哺乳類及び鳥類に感染することができるエンベロープ型RNAウイルスである。アルファコロナウイルスとベータコロナウイルスは哺乳類に感染し(例えば、ウシコロナウイルス(BCoV:bovine coronavirus)、イヌコロナウイルス(CCoV:canine coronavirus)、ネココロナウイルス(FCoV:feline coronavirus)及びヒトコロナウイルス(HCoV:human coronavirus))、一方、ガンマコロナウイルス及びデルタコロナウイルスは通常鳥類に感染する。ほとんどのコロナウイルスは、1つの宿主種にのみ感染する。しかしながら、種間感染がまた生じる可能性があり、ヒトにおける疾病出現の重要な原因である(すなわち、ズーノーシス(zoonosis))。
【0003】
コロナウイルスは、多くのウイルスタンパク質、例えば、スパイクタンパク質、膜タンパク質、エンベロープタンパク質、及びヌクレオカプシドタンパク質を包含する上記のウイルスタンパク質、をコードする。該スパイクタンパク質(Sタンパク質)は、大きなI型膜貫通型クラスI融合タンパク質である。該Sタンパク質のエクトドメインは、S1ドメインとS2ドメインを含む。N末端のS1ドメインは、受容体結合ドメイン(RBD:receptor binding domains)を含み、並びに受容体結合を担っている。該S1ドメイン、特にS1 RBD、は、特定のコロナウイルスに対して開発された多くの抗体及びワクチンの標的部位となっている。C末端のS2エクトドメインは融合を担い、並びにUHドメイン(上流ヘリックス)、融合ペプチド、2つのヘプタッドリピート(heptad repeat)(HR1及びHR2)、中央ヘリックス、及びベータヘアピンを含む。これらの領域及びそのような領域の例示的な配列は当技術分野において知られており、並びにコロナウイルスの配列アラインメントは以前に報告されている(例えば、Walls et al.Nature 2016 531:114~117、特に、Extended Dataの
図9を参照)。
【0004】
コロナウイルスの7つの株がヒトに感染することが知られている。ヒトコロナウイルスのうちの4種類(「一般的なコロナウイルス」)による感染、すなわちHCoVs-229E、OC43、NL63及びHKU1感染、は典型的に、軽度から重度の上気道疾病及び下気道疾病を結果として生じる。これらのウイルスは、一般的な風邪の約15%を占めている。ヒト型コロナウイルスのうち、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV:Middle East respiratory syndrome-related coronavirus)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV:Severe acute respiratory syndrome coronavirus)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2:Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)の3つによる感染は、重い症状だけでなく死をもたらす可能性もある。ヒトはヒトコブラクダからMERS-Cを、及びコウモリからSARS-CoVを取得した可能性が高く、コウモリはまた、SARS-CoV-2の為のリザーバーホスト(reservoir host)であったかもしれない。
【0005】
ウイルス受容体との結合及びウイルスとの融合が、ウイルスが宿主細胞内に侵入する為に不可欠である。コロナウイルスのスパイクタンパク質は、異なるターゲットに結合して感染性を媒介する。SARS-CoV-2、SARS-CoV-1及びNL63はACE2に結合し、OC43及びHKU1は9-O-アセチル化されたシアル酸に結合し、MERS-CoVはDPP4とシアル酸とに結合し、並びに229EはAPNに結合する。これらのウイルスの更なる差別化要因は、ウイルスのスパイクタンパク質S中にヒトフリン切断部位(human furin cleavage site)が存在するか又は存在しないかである。これはSARS-CoV-2、OC43、HKU1及びMERS-CoVのSタンパク質中に存在するが、NL43、229E及びSARS-CoVのSタンパク質に存在しない。
【0006】
SARS-CoV-2は、COVID-19ウイルス(すなわち、コロナウイルス疾病2019の原因である新規なコロナウイルス)としてまた言及される。Covid-19パンデミックは、この感染を予防し、改善し、又は治癒する為に新規の解決策が緊急に必要とされる巨大な健康危機を結果としてもたらした。本開示に関する1つの目的は、SARS-CoV-2、並びに他の病原性コロナウイルスに対する免疫力を高める為の方法及び組成物を提供することである。
【0007】
オランダ等の国では、入院を伴う重症のCOVID-19の主要な危険なグループは70歳から80歳でピークを迎え、COVID-19による死亡率は80歳から90歳でピークを迎える。このグループは合併症の数が増えており、その大部分は非伝染性疾患である。従って、COVID-19は、肺炎球菌性肺炎、重症インフルエンザ、帯状疱疹及び百日咳のような、高齢者の新興の疾患である(Santesmasses D et al. COVID-19 is an emergent disease of the aging,MedRxiv 2020)。本開示に関する1つの目的は、(年齢等の理由で)ワクチン接種に十分に反応しない個体を保護する為に、一般集団において集団免疫を生成する為の方法及び組成物を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、複数のコロナウイルスに対する免疫応答を高める為のペプチド及び核酸ベースのワクチンを提供する。本開示は、以下の好ましい実施態様を提供する。しかしながら、本発明は、これらの実施態様に限定されない。
【0009】
1つの観点において、本開示は、少なくとも2つの異なるコロナウイルスに対するヒト個体における免疫力を高める際に使用する為の医薬組成物であって、好ましくは、該コロナウイルスのうちの少なくとも1つがSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択され、前記組成物が、ペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子を含み、ここで、該ペプチドは、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含み、前記組成物は経鼻的に投与される、上記医薬組成物を提供する。
【0010】
1つの観点において、本開示は、高病原性コロナウイルスに対するヒト個体における免疫力を高める為の医薬組成物であって、前記組成物が、ペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子を含み、ここで、該ペプチドが、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1、好ましくはHCoV-NL63、から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部を含む、上記医薬組成物を提供する。
【0011】
幾つかの実施態様において、該組成物は更に、第2のペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子、ここで、該ペプチドが、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含む、及び/又はペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子、ここで、該ペプチドが、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルス由来の又は動物コロナウイルス由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含む、を更に含む。
【0012】
好ましくは、前記ペプチドは、Sタンパク質の融合ペプチド、HR1ヘプタッドリピート又はHR2ヘプタッドリピートを含む。
【0013】
好ましくは、前記ペプチドは免疫刺激剤にコンジュゲートされており、好ましくは、該免疫刺激剤が、スカシ貝ヘモシアニン(KLH:Keyhole Limpet Hemocyanin)、ロコ貝ヘモシアニン(CCH:Concholepas Concholepas Hemocyanin)、ウシ血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Albumin)、又はオバルブミン(OVA)から選択される。
【0014】
好ましくは、前記ペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子が、ナノ粒子内に提供されるか、又はナノ粒子に付着される。
【0015】
好ましくは、前記核酸分子が、ベクター、好ましくはウイルスベクター、中に含まれている。
【0016】
好ましくは、該組成物がアジュバントを含み、好ましくは、該アジュバントが、TLR3又はTLR4アゴニスト、ムラブチド、ベータグリカン、及び/又はコレラ毒素から選択される。
【0017】
好ましくは、該組成物が鼻腔内送達の為に処方されている。
【0018】
好ましくは、該組成物が、少なくとも2つの異なるコロナウイルスに対する免疫を高め、好ましくは、前記コロナウイルスのうちの少なくとも1つが、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される
【0019】
1つの観点において、本開示はまた、1以上の高病原性コロナウイルスに対するヒト個体における免疫力を高める為の治療方法、及び以上の高病原性コロナウイルスに対するヒト個体における免疫力を高める為の医薬組成物の使用方法を提供する。
【0020】
好ましくは、該組成物は、経鼻的に投与される。
【0021】
好ましくは、前記ヒトは、COVID-19重症化の危険性がないと考えられる。
【0022】
好ましくは、前記個体は、保護免疫を維持する為にブースター用量を投与されるものである。
【0023】
好ましくは、治療の前記方法及び使用方法は、病原性コロナウイルスに対する前記個体の免疫力をその後試験することを更に含む。
【発明を実施するための形態】
【0024】
典型的なワクチン開発は、病気を引き起こすウイルスを使用し、そして、「弱毒生ワクチン」として使用する為に該ウイルスを減衰させるか、又はウイルスを不活性化させるかのいずれかに依存する。本明細書に記載されたアプローチによって提供される解決策は、ワクチンを開発する為に病気を引き起こすウイルスを使用することに依存しない。理論に拘束されることを望まないが、本明細書において、第1の「一般的な」コロナウイルスからのS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部を含むペプチドによるワクチン接種が、第2のコロナウイルス、特に高病原性コロナウイルス、に対して交差反応性免疫応答を誘発することが提案される。結果として生じた交差反応性免疫応答は、他のコロナウイルスに対して個体における免疫力を高める。本開示は更に、第1の「一般的な」コロナウイルス由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部をコードする核酸を含む核酸ベースワクチンの使用を企図する。
【0025】
SARS-CoV-2パンデミックへの対応として、感染を予防する為にSARS-CoV-2特異的ワクチンを開発する為の様々な努力がなされてきている。理論に拘束されることを望まないが、SARS-CoV-2特異的配列に基づいて開発されたワクチンは、進化するSARS-CoV-2株、他の病原性コロナウイルス、又は種間感染しやすい動物コロナウイルスを標的とするには効果が低いということが本明細書において提案されている。MERS-CoV、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2の発生(outbreaks)で示されたように、コロナウイルスの種間感染は疾病出現をもたらす。特定のHCoV株に対して高度に特異的な応答を誘導するワクチンは、そのような新しく出現したHCoVに対して有意な保護を提供することは、例えあるとしても、その可能性は低い。
【0026】
本開示は、コロナウイルスの複数の株に対して個体をワクチン接種する為の方法及び組成物を提供する。特に、該方法及び該組成物は、コロナウイルスの複数の株に対する個体における免疫力を高める為のものである。本明細書において使用される場合、ペプチド又は核酸分子(ベクターを含む)を含む医薬組成物はまた、ワクチンとして言及されうる。
【0027】
語「免疫力を高める」は、特定の抗原(例えば、コロナウイルス)に対する個体の免疫応答を高めることを云う。高められた免疫力は、感染に対する高められた抵抗力をもたらすことができ、又は感染と闘う個体の能力を向上させうる(例えば、症状が生じる前に感染が治まりうる、又は経験した症状が軽くなる)。高められた免疫力は完全な免疫力を必要とせず、部分的な免疫力をまた含む。当業者には明らかであろう通り、本明細書に開示された方法及び組成物は、コロナウイルス感染を予防又は低減するため、及び/又はコロナウイルス感染の重症度を低減するために使用することができる。上記方法及び組成物はまた、コロナウイルス感染に関連付けられた症状の重症度を予防又は低減する為に使用されうる。
【0028】
高められた免疫力は、自然免疫及び/又は適応免疫における向上を含むことができる。当業者に知られているように、自然免疫応答は即時的(一般的に、0~96時間)であり、非自己病原体に対する「防御の第一線」と考えられている。該自然免疫応答は一般的に、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、マスト細胞、好塩基球、及び好酸球によって媒介される。ナチュラルキラー細胞は、例えば、感染した細胞を標的にし、そして破壊することができる。パターン認識受容体(Toll様受容体、及びヌクレオチド結合性オリゴマー化ドメイン様受容体、及びレチノイン酸誘導性遺伝子I様受容体)は、インターフェロン及び他の炎症性サイトカインを誘発する為に、特異的ウイルス成分、例えば、ウイルスRNA又はDNA、を検出することができる。インターフェロンI型及びIII型は、抗ウイルス免疫応答の主要なエフェクターであり、並びに「インターフェロン刺激遺伝子」を活性化すると考えられている。レチノイン酸誘導性遺伝子I様受容体は感染細胞の細胞質でウイルスRNAを認識でき、並びにToll様受容体(例えば、TLR3、TLR7、TLR8及びTLR9)は免疫細胞内のエンドソームコンパートメント及び細胞表面(例えば、TLR4)においてウイルスRNA又はDNAを検出することができる。ウイルス感染に対する自然免疫におけるToll様受容体の機能の概観については、例えば、Uematsu and Akira JBC 2007 282:15319~15232を参照されたい。TLR3は、例えば、二本鎖RNAによって活性化され、そして、活性化することに応じて、転写因子:すなわち、アクチベータープロテイン1(AP-1:activator protein 1)、活性化されたB細胞の核因子κ-ライトチェーンエンハンサー(NF-κB:nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)及びインターフェロン調節因子3及び7(IRF3:interferon regulator factor 3及びIRF7:interferon regulator factor 7)を誘発する。
【0029】
一方、適応免疫応答(すなわち、獲得免疫)は即効性がないが長く続き、並びに一般的に、T細胞及びB細胞によって媒介される。細胞性免疫は、T細胞によって媒介され、並びに一般的に、感染した細胞に向けられる。体液性免疫は、病原体特異的抗原に対する抗体を産生するB細胞に依存し、並びに一般的に、自由に循環する病原体又は感染細胞外の病原体に向けられる。適応免疫反応は、特定の病原体に特異的である。しかしながら、場合によってはエラーが生じる場合があり、適応免疫反応が自己抗原を付着させ、それにより、自己免疫疾患の発症につながる場合がある。
【0030】
好ましい実施態様において、高められた免疫力は、自然免疫力における増加を云う。自然免疫力における増加を確認する為の方法は当技術分野において知られており、例えば、免疫学的染色手順及びフローサイトメトリーを用いて、循環中の白血球の総数及び白血球のサブクラス(例えば、好中球、単球、リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、CD4+細胞、CD8+細胞、ナチュラルキラー細胞)の総数を求めることを含む。
【0031】
幾つかの実施態様において、高められた免疫力は、T細胞で媒介された免疫力における増加を云う。個体におけるT細胞免疫応答の誘発及び/又は増強は、当技術分野において知られている方法を用いて検出されることができる。例えば、コロナウイルス特異的T細胞の増加された数が測定されることができる。ウイルス特異的CD4+T細胞及びCD8+T細胞の特徴付けの為の方法及び技術は、当技術分野において知られている。典型的には、応答性T細胞は、例えば細胞内サイトカイン染色アッセイを使用して、検出されうることができるウイルス抗原への曝露時に、1以上の特異的サイトカインを分泌する。
【0032】
幾つかの実施態様において、高められた免疫力は、抗体で媒介された免疫(すなわち、体液性免疫応答)における増大を云う。体液性免疫応答の誘発及び/又は増強は、B細胞の活性を含みうる。これは、コロナウイルス抗原との遭遇に応じて、抗体分泌形質細胞への分化が可能な末梢血Bリンパ球の増加された頻度により反映されうる。抗体で媒介された応答はまた、コロナウイルス抗体(例えば、IgA及びIgG)の産生を結果として生じうる。1以上の粘膜部位での分泌性IgA免疫応答は、これが粘膜を通じた侵入に応じてコロナウイルスの中和を支援することができる故に、特に有利でありうる。B細胞及びコロナウイルスに結合する抗体を検出する為の方法は、当業者に知られており、フローサイトメトリー及び免疫組織化学を含む。
【0033】
幾つかの実施態様において、高められた免疫力は、殺菌免疫(sterilizing immunity)を提供することを云う。感染を許容するが、感染を除去するのに有効な免疫とは対照的に、殺菌免疫は、有効なウイルス感染を防止する。幾つかの実施態様において、本明細書に開示されている組成物は、殺菌免疫を提供する。
【0034】
好ましい実施態様において、高められた免疫力は、既存の免疫を増加させる(又はブーストする)ことを云う。ほとんどの個体は、以前に1以上の一般的なヒトコロナウイルスに感染したことがある。理論に拘束されることを望まないが、そのような個体は、ヒトコロナウイルスを認識する抗体をコードするメモリB細胞を有する可能性が高く、幾つかの事例において、そのような抗体は、多数の異なるコロナウイルス株に対して交差反応性でありうる。幾つかの実施態様において、本明細書において提供される組成物は、そのようなB細胞を刺激し、交差反応性コロナウイルス抗体の産生を結果として生じる。
【0035】
本開示は、ヒトにおけるコロナウイルスに対する免疫を高める為の方法及び組成物を提供する。該組成物は、2以上の異なるコロナウイルスに対して交差保護的(すなわち、免疫力を増加させる)である。好ましくは、本明細書に開示されているペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子は、2以上の異なるコロナウイルスに対して交差保護的である(すなわち、免疫力を増加させる)。好ましくは、コロナウイルスのうちの少なくとも1つ又は少なくとも2つは、高病原性ウイルス、又はむしろ、感染した患者に重篤な症状をもたらすことができるウイルスである。幾つかの実施態様において、本明細書において使用される高病原性ウイルスは、1%以上の致死率を有するウイルスを云う。例示的な高病原性コロナウイルスは、MERS-CoV(致死率は約34%)、SARS-CoV-1(致死率は約9.5%)、及びSARS-CoV-2(致死率は約2%)(Petrosillo et al.Clinical Microbiology and Infection Volume 26,Issue 6,June 2020,Pages 729-734)。病原性はまた、症状の重症度に基づいて定義されることができる。例えば、幾つかの実施態様において、本明細書において使用される高病原性コロナウイルスは、感染した個体の少なくとも10%において急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome)を引き起こすウイルスを云い、これは、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、及びMERS-CoV(Petrosillo et al.2020)を包含する。好ましい実施態様において、該コロナウイルスは、アルファー又はベータ-コロナウイルスである。
【0036】
本開示は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部を含むペプチド、又は前記ペプチドをコードする核酸分子を含む医薬組成物を提供する。コロナウイルスの供給源は、臨床分離株、例えば、ヒト患者の鼻腔又は咽頭スワブから得られたもの、であってもよい。該ウイルスは、細胞株、例えば哺乳類細胞株、例えばCalu-3、ベロ(Vero)細胞、メイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞(MDCK:MadinDarby canine kidney)細胞、及びPERC6細胞上で増殖されうる。
【0037】
「一般的」なHCoVの配列は当技術分野において既知であり、上記ウイルスによりコードされるウイルスタンパク質の配列についても同様である。コロナウイルス(coronoavirus)の供給源は、例えば、ヒト患者の鼻又は咽頭スワブから得られた、臨床分離株でありうる。該ウイルスは、細胞株、例えば哺乳類動物細胞株、例えばベロ細胞、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞、及びPERC6細胞、において繁殖させうる。例示的なHCoV-NL63配列は国際公開第2005017133号パンフレットにおいて記載されている。幾つかの臨床分離株のゲノム配列がまた公開されており;例えば、ヒトコロナウイルスNL63分離株Amsterdam496のゲノム配列は、アクセッション番号DQ445912(VRL 21-NOV-2006)を有してPyrc et al.(J.Mol.Biol.364(5),964-973(2006)において記載されており;ヒトコロナウイルスNL63分離株Amsterdam057のゲノム配列は、アクセッション番号DQ445911(VRL 21-NOV-2006)を有してPyrc et al.(J.Mol.Biol.364(5),964-973(2006)において記載されており;ヒトコロナウイルスNL63分離株ChinaGD01のゲノム配列は、アクセッション番号MK334046(28-FEB-2020)を有してZhang et al.(Microbiol Resour Announc 9(8),e01597-19(2020))において記載されており;ヒトコロナウイルスNL63分離株ChinaGD05のゲノム配列は、アクセッション番号MK334045(VRL 28-FEB-2020)を有してZhang et al.(Microbiol Resour Announc 9(8),e01597-19(2020))において記載されており;ヒトコロナウイルスNL63分離株NL63/human/USA/891-4/1989のゲノム配列はアクセッション番号KF530114(VRL 26-SEP-2014)を有し;ヒトコロナウイルスNL63分離株NL63/human/USA/838-9/1983のゲノム配列はアクセッション番号KF530110(VRL 26-SEP-2014)を有する。上記に列記される6つの分離株のBLAST分析は、それらは、98%より高い配列同一性を共有することを指し示す。
【0038】
HCoV-229Eの幾つかの臨床分離株のゲノム配列が公開されており;例えば、ヒトコロナウイルス229E分離株0349のゲノム配列は、アクセッション番号JX503060(VRL 04-APR-2013)を有してFarsani et al.(Virus Genes 45(3),433-439(2012))において記載されており;ヒトコロナウイルス229E分離株J0304のゲノム配列は、アクセッション番号JX503061(VRL 04-APR-2013)を有してFarsani et al.(Virus Genes 45(3),433-439(2012))において記載されており;ヒトコロナウイルス229E/Seattle/USA/SC9724/2018のゲノム配列はアクセッション番号MN369046(VRL 21-FEB-2020)を有し;ヒトコロナウイルス229E/human/USA/933-40/1993のゲノム配列はアクセッション番号KF514433(VRL 26-SEP-2014)を有し;ヒトコロナウイルス229E/BN1/GER/2015のゲノム配列はアクセッション番号KU291448 VRL(04-SEP-2016)を有し;ヒトコロナウイルス229E/Seattle/USA/SC1212/2016のゲノム配列はアクセッション番号KY369911(VRL 21-feb-2020)を有する。上記に列記される該6つの分離株のBLAST分析は、それらは、99%より高い配列同一性を共有することを指し示す。追加的に、該ウイルスはまた、ヒトコロナウイルス229EとしてATCCから公的に入手可能である(ATCC VR-740;Hamre D,Procknow JJ.A new virus isolated from the human respiratory tract.Proc.Soc.Exp.Biol.Med.121:190-193,1966)。
【0039】
HCoV-HKU1の幾つかの臨床分離株のゲノム配列が公開されており;例えば、ヒトコロナウイルスHKU1分離株Caen1のゲノム配列はアクセッション番号HM034837(VRL 08-OCT-2010)を有し;ヒトコロナウイルスHKU1分離株遺伝子型Aのゲノム配列はアクセッション番号AY597011(VRL 27-JAN-2006)を有し;ヒトコロナウイルスHKU1/human/USA/HKU1-15/2009のゲノム配列は、アクセッション番号KF686344(VRL 26-SEP-2014)を有してDominguez et al.(J.Gen.Virol.95(PT 4),836-848(2014))において記載されており;ヒトコロナウイルスHKU1/human/USA/HKU1-5/2009のゲノム配列はアクセッション番号KF686340(VRL 26-SEP-2014)を有し;ヒトコロナウイルスHKU1/human/USA/HKU1-11/2009のゲノム配列はアクセッション番号KF430201(VRL 26-SEP-2014)を有する。上記に列記される該6つの分離株のBLAST分析は、それらは、99%より高い配列同一性を共有することを指し示す。
【0040】
HCoV-OC43の幾つかの臨床分離株のゲノム配列が公開されており;例えば、ヒトコロナウイルスOC43分離株MDS16のゲノム配列はアクセッション番号MK303625(VRL 30-MAR-2019)を有し;ヒトコロナウイルスOC43分離株MDS12のゲノム配列はアクセッション番号MK303623(VRL 30-MAR-2019)を有し;ヒトコロナウイルスOC43/Seattle/USA/SC9428/2018のゲノム配列はアクセッション番号MN310476(VRL 21-FEB-2020)を有し;ヒトコロナウイルスOC43/Seattle/USA/SC9430/2018のゲノム配列はアクセッション番号MN306053(VRL 21-FEB-2020)を有し;ヒトコロナウイルスOC43/human/USA/9211-43/1992のゲノム配列はアクセッション番号KF530097(VRL 26-SEP-2014)を有し;ヒトコロナウイルスOC43/human/USA/873-6/1987のゲノム配列はアクセッション番号KF530087(VRL 26-SEP-2014)を有する。上記に列記される該6つの分離株のBLAST分析は、それらは、98%より高い配列同一性を共有することを指し示す。
【0041】
一般的なヒトコロナウイルスのスパイクタンパク質が記載されており、並びにS2エクトドメインタンパク質がまた知られている。HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1由来のS2エクトドメインの少なくとも一部を含むペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子が提供される。幾つかの実施態様において、HCoV-NL63由来のS2エクトドメインの一部に対応するペプチドが好ましい。幾つかの実施態様において、HCoV-OC43由来のS2エクトドメインの一部に対応するペプチドが、好ましい。幾つかの実施態様において、HCoV-229E由来のS2エクトドメインの一部に対応するペプチドが、好ましい。幾つかの実施態様において、HCoV-HKU1からのS2エクトドメインの一部に対応するペプチドが、好ましい。
【0042】
本明細書において使用する場合、語「ペプチド」は、語「ポリペプチド」及び「タンパク質」と交換可能である。語「ペプチド」は、短鎖分子、例えば、オリゴペプチド又はオリゴマー、又は長鎖分子、例えばタンパク質、を云う。ペプチドはまた、修飾されたアミノ酸を含んでいてもよい。従って、本明細書に開示されているペプチドはまた、天然プロセス、例えば転写後修飾、によって、又は化学プロセスによって修飾されることができる。従って、ペプチドの免疫原性を排除する効果を有しないところのペプチドの任意の修飾が本開示の範囲内に包含される。好ましくは、S2エクトドメインの5~50個、より好ましくは12~20個、のアミノ酸を含むペプチドが提供される。
【0043】
HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質S2エクトドメインの少なくとも1部を含むペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子に加えて、該組成物はまた、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-22から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルス由来の又は動物(すなわち、非ヒト)コロナウイルス由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部を含む
1以上のペプチド、又は該1以上のペプチドをコードする核酸分子を含んでいてもよい。当業者に知られている例示的な非ヒトコロナウイルスには、例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ラクダ、ネコ、イヌ、齧歯動物、鳥、コウモリ、ウサギ、フェレット、又はミンクのコロナウイルスを包含する。
【0044】
複数のペプチド、又は該複数のペプチドをコードする核酸分子は、該組成物中に一緒に含まれていてもよい。例えば、HCoVのS2ドメイン由来の複数の重なり合うペプチドが含まれうる。幾つかの実施態様において、該組成物は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、又は少なくとも10の異なるペプチドを含む。該ペプチドは、同じ又は異なる共通のコロナウイルスからの配列を含んでいてもよい。幾つかのペプチドはまた、一緒に連結されていてもよい。例えば、複数のペプチド配列が「ビーズ・オン・ア・ストリング」(beads-on-a-string)として、該ペプチド配列が直接的に連結されるように、又はリンカー配列を通じて連結されるように配置されうる。該ペプチドに隣接する、又は該ペプチドを連結するアミノ酸配列は、タンパク質分解切断部位を含んでいてもよい。様々な抗原提示システム、例えば(Cel Sci)からのLigand Epitope Antigen Presentation System(L.E.A.P.S)等、が使用されてもよい。
【0045】
本明細書に開示されているペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子は、S2エクトドメインの少なくとも一部を含む。好ましくは、該ペプチドは、UHドメイン(上流ヘリックス)、融合ペプチド、2つのヘプタッドリピート(HR1及びHR2)、中央ヘリックス、及びベータヘアピンの少なくとも一部を含むか、又はそれらからなる。より好ましくは、該ペプチドは、Sタンパク質の融合ペプチド、HR1ヘプタッドリピート、又はHR2ヘプタッドリピートを含む。
【0046】
好ましくは、本明細書に開示されているペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子は、免疫応答を誘発する、又はむしろ免疫原性である。好ましくは、該ペプチドは、抗体又はT細胞受容体に結合する。
【0047】
本開示のペプチドは、例えば、保存的アミノ酸置換(conservative amino acid substitutions)を含む、S2エクトドメイン配列と比較してマイナーな配列変異を含んでいてもよい。保存的置換は、当技術分野において周知であり、1以上のアミノ酸を類似のアミノ酸で置換することを云う。例えば、保存的置換は、アミノ酸を、同じ一般的なクラス(例えば、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、又は中性アミノ酸)内の別のアミノ酸へ置換することである可能性がある。
【0048】
幾つかの実施態様において、該組成物は更に、免疫刺激剤を含む。好ましくは、該ペプチドは、免疫刺激剤にコンジュゲートされている。例示的な免疫刺激剤としては、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、ロコ貝ヘモシアニン(CCH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、又はオバルブミン(OVA)を包含する。
【0049】
幾つかの実施態様において、該ペプチドは合成ペプチドである。相対的に短いペプチドの使用は、これらがイン・ビトロ(in vitro)で効率的に合成されることができるので、医療目的の為に好ましい。ペプチドの化学合成は日常的に行われており、様々な好適な方法が当業者に知られている。
【0050】
該ペプチドはまた、例えば、核酸を発現ベクター内に挿入し、該発現ベクターを宿主細胞内に導入し、そして、該ペプチドを発現させることによって、分子遺伝学的技術を用いて作られることができる。好ましくは、そのようなペプチドは、他のポリペプチド、細胞成分、又は不純物から単離される、又は、寧ろ、実質的に単離される。該ペプチドは、例えば、固相タンパク質合成の結果として、他の(ポリ)ペプチドから単離されることができる。代替的には、該ペプチドは、組み換え生産からの細胞溶解後に、他のタンパク質から実質的に単離されることができる(例えば、HPLCを使用して)。
【0051】
本開示は更に、本明細書に開示されているペプチドをコードする核酸分子を提供する。遺伝コードに基づいて、当業者は、本明細書に開示されている(ポリ)ペプチドをコード化するところの核酸配列を決定することができる。該遺伝コードの縮退に基づき、64個のコドンが、20個のアミノ酸及び翻訳終結シグナルをコードする為に使用されうる。
【0052】
好ましい実施態様において、該核酸分子はコドン最適化されている。当業者に知られているように、異なる生物におけるコドン使用方法の偏りは、遺伝子発現レベルに影響を与える可能性がある。所望の核酸が発現されるであろう生物に依存してコドンの使用を最適化する為に、様々な計算ツールが当業者に利用可能である。好ましくは、該核酸分子は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞、における発現の為に最適化される。
【0053】
本開示の更なる観点は、本明細書に開示されている核酸分子を含むベクター及び発現ベクターを提供する。好ましいベクターは、発現ベクターである。本明細書に開示されている阻害剤を発現させる為の適切な発現ベクターを調製することは、当業者の権限の範囲内である。「発現ベクター」は、一般的に、DNA要素であり、多くの場合、環状構造であり、所望の宿主細胞において自律的に複製する為の能力、又は宿主細胞ゲノム内に統合する為の能力を有し、並びに、或る周知の特徴、例えば、適切な部位で及び適切な方向でベクター配列内に挿入されたコーディングDNAの発現を可能にする上記の或る周知の特徴、を保有する。そのような特徴は、コード化DNAの転写開始を指示する1以上のプロモーター配列、及び全て当技術分野において周知である他のDNA要素、例えば、エンハンサー、ポリアデニル化部位等、を包含することができるが、これらに限定されない。適切な調節配列、例えば、エンハンサー、プロモーター、翻訳開始シグナル及びポリアデニル化シグナルを包含する上記の調節配列、が含まれていてもよい。加えて、選択された宿主細胞及び使用されるベクターに依存して、他の配列、例えば、複製の起点、追加のDNA制限部位、エンハンサー、及び転写の誘導性を与える配列、が、発現ベクター内に組み込まれてもよい。該発現ベクターはまた、形質転換された又はトランスフェクションされた宿主細胞の選択を容易にするところの選択可能なマーカー遺伝子を含んでいてもよい。選択可能なマーカー遺伝子の例は、或る薬剤に対する耐性を与えるタンパク質、例えばG418及びハイグロマイシン;ベータ-ガラクトシダーゼ;クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、及びホタルルシフェラーゼ、をコードする遺伝子である。該発現ベクターは、例えば、植物細胞、真菌細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞又は他の真核細胞における遺伝子の発現の為に適した1以上のプロモーターを含んでいてもよい。
【0054】
幾つかの実施態様において、該組成物は、本明細書に開示されたペプチドをコードする核酸分子(すなわち、核酸ベースのワクチン)を含む。DNA分子及びRNA分子の両方が使用されてもよい。幾つかの実施態様において、該組成物は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つのヒトコロナウイルス(HCoV)由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも1部をコードするヌクレオシド修飾メッセンジャーRNA(mRNA)を含む。mRNAワクチンの概観については、Zhang et al.Front.Immunol.,27 March 2019を参照されたい。
【0055】
本開示は更に、本明細書に開示されている核酸分子を含むベクターを提供する。「ベクター」は、組み換え核酸構築物、例えば、プラスミド、相ゲノム、ウイルスゲノム、コスミド、又は人工染色体、であり、これに別の核酸セグメントが付着されてもよい。語「ベクター」は、核酸をイン・ビトロ(in vitro)、エクス・ビボ(ex vivo)又はイン・ビボ(in vivo)の細胞内に導入する為のウイルス及び非ウイルス手段の双方を含む。本開示は、DNAベクター及びRNAベクターの両方を企図する。ベクター、例えば、プラスミドベクター、真核ウイルスベクター及び発現ベクターを包含する上記のベクターは、当業者に知られている。ベクターは、当業者の好み及び判断に依存して、真核細胞において組み換え遺伝子構築物を発現させる為に使用されうる(例えば、Sambrook等、第16章を参照)。多くのウイルスベクター、例えば、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、及びアデノウイルスを包含する上記のウイルスベクターが当技術分野において知られている。複製欠損ウイルス粒子を製造する為の方法、及びウイルスゲノムを操作する為の方法は周知である。幾つかの実施態様において、該ワクチンは、本明細書に開示されている核酸を含む減弱された又は不活性化されたウイルスベクターを含む。
【0056】
幾つかの実施態様において、ペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子は、ナノ粒子内に提供されるか、又はナノ粒子に付着される。ナノ粒子ベースのワクチンは、当業者に知られており、Al-Halifa et al.Front.Immunol.,24 January 2019にまた記載されている。ナノ粒子は、例えば、リガンドを固定化すること、保護すること、及び提示することの為に使用されることができる、1~典型的には100ナノメートル(nm)の大きさの粒子である。従って、該ペプチドは、ナノ粒子にカプセル化されることができ、又は該ナノ粒子の表面に付着され且つ露出されうる。リンカーは、本明細書に開示されたペプチドの1以上をナノ粒子に連結する為に使用されうる。該リンカーは例えば、硫黄含有基、アミノ含有基、リン酸含有基、又は酸素含有基を含んでいてもよい。適切なリンカー及びカプセル化方法は、当技術分野において知られている。
【0057】
無機ナノ粒子は、カーボン、シリカ、及び金属ベースの粒子を包含する。好適なナノ粒子は、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラックナノ粒子、ポリスチレンナノ粒子、二酸化チタン(TiO2)ナノ粒子、二酸化ケイ素(SiO2)ナノ粒子、及びオキシ水酸化アルミニウムナノ粒子を包含する。好ましい無機ナノ粒子は、金ナノ粒子(AuNP)である。
【0058】
幾つかの実施態様において、該ナノ粒子は、ポリマー性ナノ粒子、例えば、ポリ(d,l-ラクチド-コ-グリコリド)(PLG)、ポリ(d,l-ラクチド-コグリコール酸)(PLGA)、ポリ(g-グルタミン酸)(g-PGA)mポリ(エチレングリコール)(PEG)、又はポリスチレン、である。該ポリマーナノ粒子は、1以上の天然ポリマー、例えば、プルラン、アルギン酸、イヌリン、又はキトサン、を含んでいてもよい。
【0059】
幾つかの実施態様において、該ナノ粒子は、リポソームである。リポソームは典型的には、生分解性で、無毒のリン脂質から形成され、ならびに水性コアを有する自己組織化リン脂質二重層シェルを含んでいてもよい。
【0060】
幾つかの実施態様において、該ナノ粒子は、自己組織化ペプチドナノ粒子である(概観については、Negahdaripour et al.Biotechnology Advances 2017 35:575-596を参照)。該ナノ粒子は、自己組織化タンパク質であってもよく、例えば、フェリチンを含む。
【0061】
幾つかの実施態様において、該ナノ粒子は、免疫刺激性複合体(ISCOMs:Immunostimulatory complexes)である。「古典的な」ISCOMは、サポニン、コレステロール、リン脂質及び両親媒性タンパク質を用いて調製される。ISCOMマトリックスが同様の構造を有するが、両親媒性タンパク質を欠く。どちらも免疫賦活作用があり、それ故に、ワクチンアジュバントとして機能する。概要については、Bengtsson et al.(2011) ISCOM technology-based Matrix M商標 adjuvant: success in future vaccines relies on formulation,Expert Review of Vaccines,10:4,401-403を参照されたい。
【0062】
幾つかの実施態様において、該ナノ粒子は、ウイルス様粒子(VLP:virus-like particles)である。非複製VLPは、構造及び形態において感染性ウイルス粒子に類似し、並びに免疫学的に関連するウイルス構造タンパク質を含む。
【0063】
好ましくは、本明細書に開示されている組成物は、医薬的に許容される添加剤を含む。該組成物は、生理学的条件を近似させる為に必要な医薬的に許容される補助物質、例えば、pH調整剤及び緩衝剤、強酸性調整剤、湿潤剤等を含んでいてもよい。
【0064】
好ましくは、該組成物は更に、アジュバントを含む。当業者に知られているように、アジュバントは、抗原性を高める為に使用される。アジュバントは、抗原が吸着された鉱物(例えば、ミョウバン、水酸化アルミニウム、又はリン酸塩)の懸濁物;又は、例えば、抗原溶液が鉱物油中で乳化された油中水型エマルジョン(フロイント不完全アジュバント)、を包含することができる。他の好適なアジュバントは、ムラブチド、コレラ毒素、及びベータグリカンを包含することができる。
【0065】
幾つかの実施態様において、該アジュバントは、TLR3及び/又はTLR4アゴニストである。該アゴニストは、例えば、TLRリガンド、TLR模倣物、又は低分子であってもよい。TLR3アゴニストは、活性なtoll様受容体3に結合する。適切なTLR3アゴニストは当業者に知られており、二本鎖RNA(dsRNA)複合体、例えば、ポリリボシン酸:ポリリボシチジン酸(ポリI:C)、特にAmpligen poly(I):poly(C12U)(Hemispherx Biopharma);ポリリボシニック-ポリリボシチジン酸(polyribosinic:polyribocytidic acid)(poly A:U);リナトリモド(rintatolimod)(polyI:polyCU,Ampligen商標);及びポリ-L-リジン及びカルボキシメチルセルロースで安定化したポリイオニシン-ポリシチジル酸(Poly-ICLC)等である。更に好適なTLR3アゴニストは、RGC100(Naumann et al.,Clin.Dev.Immunol.283649,2013)、IPH-3102(Basith et al.,Exp.Opin.Ther.Pat.21:927-944,2011)、CQ-07001(Clincest)、IPH-31XX(Innate Pharma)及びMCT-465-dsRNA(MultiCell Technologies)を包含する。
【0066】
適切なTLR4アゴニストは当業者に知られており、並びに細菌性リポ多糖(LPS)又はその変種;モノホスホリル脂質A(MPL、MPLA、GLA、GLA-SE);AS15又はAS02b(Brichard et al.,Vaccine 25(Suppl.2):B61-B71,2007; Kruit et al.,J.Clin.Oncol.26(Suppl):Abstract 9065,2008);アミノアルキルグルコサミニド4-ホスフェート(例えば、RC-529、E6020)又はその変異体(Baldridge et al.,J.EndotoxinRes.8:453-458,2002;Morefield et al.,Clin.Vaccine Immunol.14:1499-1504,2007);ピシバニール(OK-432)(Hazim et al.,Med.J.Malaysia 71(6):328-330,2016);スピルリナ複合多糖体(Kwanishi et al.,Microbiol.Immunol.57:63-73,2013);イシトヘキサオース(ischitohexaose)又はその変種(Panda et al.,8:e1002717,2012;Barmanet al.,Cell Death Dis.7:e2224,2016);E5564(Eritoran) Eisai);又はCRX-675若しくはCRX-527(GSK)を包含する。追加のTLR4アゴニストは、米国特許出願公開第US20150197527号明細書に記載されている。
【0067】
本開示の1つの観点は更に、高病原性ウイルスに対する免疫を高める組成物を同定する方法を提供する。特に、本方法は、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、の異なるコロナウイルスに対する交差反応性保護を提供する組成物を同定する。該方法は、HCoVs-229E、OC43、NL63、HKU1、MERS-CoV、SARS-CoV-1、及びSARS-CoV-2のS2配列のアライメントを調製すること、並びに、配列類似性の領域を特定することを含む。配列類似性の高い領域から229E、OC43、NL63、HKU1からのオーバーラップするペプチド(10~15アミノ酸)が生成される。個々のペプチド及びペプチドの組み合わせがネズミに経鼻投与され、免疫応答を誘発するペプチド及びペプチドの組み合わせを同定する。該ペプチドはまた、様々な免疫賦活剤とコンジュゲートされ及び/又は様々なナノ粒子系において提供されうる。
【0068】
該誘発された免疫応答は、抗原特異的応答を検出する為の血清学的アッセイによって決定されうる。理論に拘束されることを望まないが、該ペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸分子によるワクチン接種は、夫々のS2配列に結合するところの抗体の産生を誘導すると考えられている。ウェスタンブロット分析、ELISA、又は他の任意の既知の免疫測定法が使用されうる。例えば、ペプチドは、固体表面、例えば、ペプチドマイクロアレイ(すなわち、ペプチドチップ)、に連結されうる。幾つかの実施態様において、例えば、S2ドメインにまたがるオーバラプスル15マーの線状ペプチドが免疫グロブリン結合についてスクリーニングされる、Pepscan分析が行われうる(例えば、Kramer et al.The Human Antibody Repertoire Specific for Rabies Virus Glycoprotein as Selected From Immune Libraries.Eur J Immunol.2005 Jul;35(7):2131-45を参照されたい)。
【0069】
イン・ビトロ機能アッセイはまた、関連付けられた免疫応答を検出する為に使用されうる。例えば、ワクチン接種した動物からの血漿は、ウイルス融合、感染及び/又は複製を測定するアッセイにおいて使用されうる。ウイルス融合アッセイ、感染アッセイ、及び複製アッセイは、当業者に周知であり、並びにそのような方法を実行する為の例示的な方法が、本明細書の実施例において記載されている。例えば、様々なHCoVのSタンパク質によって媒介される複数の細胞-細胞融合アッセイが開発されてきている(Xia S,Yan L,Xu W,et al.A pan-coronavirus fusion inhibitor targeting the HR1 domain of human coronavirus spike.Sci Adv.2019;5(4))。擬似型ウイルス感染アッセイ、例えば、Lu等(Nat.Commun.5,3067(2014))に記載されているようなアッセイ、がまた使用されうる。HCoV複製を測定する為のアッセイがまた記載されている(例えば、Brison,et al.J.Virol.88,1548-1563(2014)を参照)。当業者には明らかであろう通り、完全な阻害は必要とされず、当業者は、ワクチン接種に応じて、ウイルスの融合、感染、又は複製を有意に阻害するペプチドを同定することができる。
【0070】
幾つかの実施態様において、上記のようなアッセイが、コロナウイルスのパネルに対する応答についてスクリーニングする為に実行される。本開示の例示的な実施態様において、血漿(すなわち、血漿中に存在する抗体)は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-HKU1、SARS-CoV-1、MERS-CoV、SARS-CoV-2、及び少なくとも1つの動物コロナウイルスとの融合、感染又は複製に対する影響を決定する為にスクリーニングされる。好ましいペプチドは、試験した血漿が、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-HKU1、SARS-CoV-1、MERS-CoV、SARS-CoV-2、及び少なくとも1つの動物コロナウイルスの融合、感染、及び/又は複製を抑制するように免疫応答を結果として生じる。しかしながら、当業者は、コロナウイルスのサブセットのみに対する応答を誘発するペプチドがまた有用であることを理解するであろう。
【0071】
免疫反応を誘発するペプチド及びペプチドの組み合わせは、イン・ビボのチャレンジ実験において更に試験であろう。SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2感染のイン・ビボモデルが知られている。SARS-CoV-2感染の好適なイン・ビボモデルは、例えば、Sia,S.F.,Yan,L.,Chin,A.W.H.et al.Pathogenesis and transmission of SARS-CoV-2 in golden hamsters.Nature(2020)に記載されている。MERS-CoV感染の好適なイン・ビボモデルは、例えば、Kim J et al.Middle East Respiratory Syndrome-Coronavirus Infection Into Established hDPP4-Transgenic Mice Accelerates Lung Damage Via Activation of the Pro-Inflammatory Response and Pulmonary Fibrosis.J Microbiol Biotechnol.2020 Mar 28;30(3):427-438に記載されている。SARS-CoV-1感染の好適なイン・ビボモデルは、例えば、Roberts et al.Virus Research 2008 133:20-32に記載されている。
【0072】
イン・ビボにおける感染の予防又は低減は、感染に対する高められた抵抗及び感染と闘う為の向上された能力(例えば、症状が生じる前に感染が除去される、又は経験した症状がより軽快する)を包含する。死亡率、体重減少、及び肺病理は、イン・ビボでの感染を予防又は低減する為の能力の指標として使用されうる。候補ワクチンは試験動物に投与され、そして、引き続き、SARS-CoV-1、MERS-CoV又はSARS-CoV-2でチャレンジされるであろう。
【0073】
本開示の更なる観点は、本明細書に開示されている組成物を用いて個体をワクチン接種する方法を提供する。1つの実施態様において、1以上の高病原性コロナウイルスに対する免疫を高める方法が提供され、該方法は、本明細書に記載されている組成物を、それを必要としているヒト個体に投与することを含む。1つの実施態様において、高病原性コロナウイルスからの感染を処置又は予防する方法が提供され、該方法は、それを必要とするヒト個体に本明細書に記載されている組成物を投与することを含む。
【0074】
一般的なコロナウイルスのうちの幾つかに対するワクチンは、以前に記載されている(例えば、国際公開第WO2005017133号パンフレットを参照)。本組成物は、少なくとも2つのコロナウイルスに対する交差反応性保護を提供する為に有用である。幾つかの実施態様において、ワクチン接種された個体は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される1以上の共通ウイルスに以前に感染されていた。幾つかの実施態様において、該組成物は、HCoV-NL63由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部を含むペプチドを含み、並びに該個体は、HCoV-NL63に以前に感染されていた。幾つかの実施態様において、該組成物は、HCoV-OC43由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部を含むペプチドを含み、並びに該個体は、HCoV-OC43に以前に感染されていた。幾つかの実施態様において、該組成物は、HCoV-229E由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部を含むペプチドを含み、並びに該個体は、HCoV-229Eに以前に感染されていた。幾つかの実施態様において、該組成物は、HCoV-HKU1由来のS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも一部を含むペプチドを含み、並びに該個体は、HCoV-HKU1に以前に感染していた。
【0075】
本明細書において使用される場合、語「処置」(treatment)、「処置する」(treat)、及び「処置している」(treating)は、本明細書に記載されている疾病若しくは障害、又はその1以上の症状を逆転させるか、軽減するか、その開始を遅延させるか、又はその進行を阻害することを云う。幾つかの実施態様において、処置は、1以上の症状が発現した後に投与されうる。他の実施態様において、処置は、症状の非存在下で投与されうる。例えば、処置は、症状の開始の前に(例えば、症状の既往歴に照らして、及び/又は遺伝的若しくは他の感受性因子に照らして)感受性の個体に投与されうる。処置はまた、症状が解消した後に、例えばそれらの再発を予防するか又は遅延させる為に、継続されうる。当業者には明らかであろう通り、感染を予防することは、感染の絶対的な予防を必要とせず、感染の重症度及び/又はコロナウイルス感染に関連付けられた症状の重症度の軽減を含む。
【0076】
好ましくは、該組成物は、局所的に投与され、又は寧ろ、全身的に投与されない。局所投与は、皮膚、眼、及び粘膜への投与を包含する。
【0077】
好ましい実施態様において、該組成物は、粘膜、例えば、気管支、食道、鼻、及び口腔粘膜、並びに舌、に施与される。好ましくは、該組成物は、経鼻的に投与される。該組成物は、在りうる慣用的な様式において鼻のリンパ組織に施与されうる。しかしながら、液流又は液滴として鼻腔の壁に施与することが好ましい。鼻腔内組成物は、液体形態、例えば、点鼻薬、スプレー、又は吸入に適した液体形態、において、粉末として、クリームとして、又はエマルジョンとして処方されることができる。幾つかの実施態様において、該組成物は、吸入を介して投与されるべきエアロゾル製剤(例えば、それらは「ネブライズ」(nebulized)されうる)として提供される。エアロゾル製剤は、加圧された許容可能な高圧ガス(pressurized acceptable propellants)、例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等、内に入れられることができる。
【0078】
本明細書において使用される場合に、対象者の処置又は予防の文脈において「投与」又は「投与すること」は好ましくは「治療上有効な量」であり、これは個体に利益を示すのに十分な量である。処置の処方、例えば投与量における決定等、は、一般開業医及び他の医師の責任の範囲内であり、典型的には、個々の患者の状態、送達部位、投与方法及び開業医に知られている他の因子を考慮する。
【0079】
好ましくは、該組成物は、免疫を維持する為に繰り返し投与されるか、又はブースター投与(booster dose)として投与される。ブーストワクチン接種(boost vaccination)は例えば、1つの例示的なワクチン接種レジメンが0ヶ月、0.5~2ヶ月及び4~8ヶ月での投与を含むように、最初のワクチン接種から約1ヶ月、約2ヶ月、約4ヶ月、約6ヶ月、又は約12ヶ月後に投与されうる。幾つかの実施態様において、該組成物は、高病原性コロナウイルスとの潜在的な遭遇の前に「必要に応じて」投与されうる。
【0080】
幾つかの実施態様において、引き続き、処置された該個体は、コロナウイルスに対する免疫が誘発されているかを判定する為に試験される。ワクチン接種の効力は、多くの方法において決定されうる。例えば、特定のHCoVに対する免疫反応性は、例えば、ワクチン接種された個体から得られた血漿試料から決定されうる。HCoVに対する免疫反応性をアッセイする方法は、当技術分野において知られている。例えば、Chan KH et al. Serological Responses in Patients With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus Infection and Cross-Reactivity With Human Coronaviruses 229E,OC43,and NL63.Clin Diagn Lab Immunol.2005 Nov;12(11):1317-21;Kramer AR et al. The Human Antibody Repertoire Specific for Rabies Virus Glycoprotein as Selected From Immune Libraries.Eur J Immunol.2005 Jul;35(7):2131-45;and Pohl-Koppe 1995 Journal of Virological Methods 55:175-183を参照されたい。そのような方法は、例えば、ウェスタンブロット分析、ELISA、又は任意の他の既知の免疫測定法を用いて血漿試料中に存在する免疫グロブリンを検出する為に、ウイルスタンパク質、又はそのフラグメントを用いることを含む。好ましくは、該方法は、HCoVに結合する免疫グロブリンの存在を(定性的に又は定量的に)決定することを含む。当業者には明らかであろう通り、HCoVに結合する免疫反応性又は抗体は、該ウイルスによってコードされるタンパク質への免疫反応性又は抗体結合を含む。好ましくは、該方法は、1以上のHCoVに対する血漿サンプルの免疫反応性を決定することを含む。好ましくは、サンプルは、免疫が高病原性コロナウイルスに対して誘発されたかを決定する為に試験される。加えて、ワクチン接種後の個体由来のT細胞を刺激することによって、IL-17レベル(特にIL-17A)をアッセイしうる。増加されたIL-17レベルは、ワクチン接種前の同じ対象者のIL-17レベルと比較することができる。IL-17(例えば、IL-17A)レベルは、該組成物に対する応答を示すであろう。
【0081】
当業者には明らかであろう通り、ワクチン接種は、全てのワクチン接種された個体において検出可能な高められた免疫力を結果としてもたらさない場合がありうる。これは、特に高齢者においてそうである可能性がある。しかしながら、人口のかなりの割合をワクチン接種することによって、集団免疫が発達する可能性が高い。
【0082】
本明細書において使用される場合、「含む」(to comprise)及びその活用形は、その非限定的な意味において使用され、該語に先行する項目が含まれるが、特に言及されない項目は除外されないことを意味する。追加的に、動詞「からなる」(to consist)は、本明細書において定義されている化合物又は補助化合物が、特に同定されるもの以外の、本発明の固有の特徴を変更しない1以上の追加の成分を含みうることを意味する「から本質的になる」(to consist essentially of)により置き換えられうる。
【0083】
冠詞「1つ(a)」及び「1つ(an)」は、該冠詞の文法的な目的語の1つ又は1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)を云う為に本明細書において使用される。例として、「要素」(an element)は、1つの要素又は1つより多くの要素を意味する。
【0084】
語「おおよそ」又は「約」は、数値との関連において使用される場合(おおよそ10、約10)、好ましくは、該値が、10の該所与の値に該値の1%を足すか又は引いたものでありうることを意味する。
【0085】
本開示において参照される全ての特許及び参照文献は、参照によってそれらの全体が本明細書内に組み込まれる。
【国際調査報告】