IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ストリーム バイオメディカル インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-535931脳卒中患者において死の危険を減らすためのパールカンおよびそのフラグメントの使用
<>
  • 特表-脳卒中患者において死の危険を減らすためのパールカンおよびそのフラグメントの使用 図1
  • 特表-脳卒中患者において死の危険を減らすためのパールカンおよびそのフラグメントの使用 図2
  • 特表-脳卒中患者において死の危険を減らすためのパールカンおよびそのフラグメントの使用 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-22
(54)【発明の名称】脳卒中患者において死の危険を減らすためのパールカンおよびそのフラグメントの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20230815BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230815BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P25/00
A61P9/10
A61P9/00
C07K14/47 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504736
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 US2021070948
(87)【国際公開番号】W WO2022020862
(87)【国際公開日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】63/061,308
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/056,059
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523025230
【氏名又は名称】ストリーム バイオメディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アドキッソン ザ フォース ヒューストン デイビス
(72)【発明者】
【氏名】クロッセン ブライアン ロイド
(72)【発明者】
【氏名】ゲイジ ゲイリー ビー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA34
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA361
4C084ZA362
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、神経学的損傷、例えば大血管閉塞を含む脳卒中、および外傷性脳損傷に起因する対象の死の危険を減らすためのパールカン組成物の使用に関する。本開示はまた、tPAで処置された脳卒中患者の死を減らすためのパールカン組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経学的損傷を患っているまたは神経学的損傷の危険がある対象において死の危険を減らす方法であって、パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントを含む組成物を対象に投与する工程を含み、状態が神経変性疾患ではない、方法。
【請求項2】
機能的フラグメントがLG3である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対象が、例えば脳震盪性の爆風または鈍的衝撃による外傷により引き起こされる外傷性脳損傷を患っている、請求項1~2のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
対象が脳卒中を患っている、請求項1~2のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
対象が、例えば過去に脳卒中を患ったこと、心房細動を有すること、糖尿病を有すること、高血圧を有すること、癌を有すること、またはウイルス感染、例えばSARS-Cov-2もしくはその変種を有することが原因で、脳卒中の危険がある、請求項1~2のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
脳卒中が、虚血性脳卒中、例えば大血管閉塞である、請求項4~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
大血管閉塞が前大脳血管系に位置する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
脳卒中が出血性脳卒中である、請求項4~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
投与が、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、骨内投与、筋内投与、皮下投与、または経口(口腔内)投与を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
対象が、血栓溶解療法、例えば組織プラスミノーゲン活性化因子を受けたことがあるまたは受けている、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、2回以上、例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10回投与される、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、1日に2回、1日に1回、2日に1回、3日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1か月に2回、または1か月に1回投与される、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
第2の抗脳卒中療法を施す工程をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
パールカンドメインVが投与される、請求項1または3~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
LG3が投与される、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
脳卒中を患い、かつ血栓溶解療法または塞栓溶解療法を受けている対象において死の危険を減らす方法であって、パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントを対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項17】
機能的フラグメントがLG3である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
脳卒中が虚血性脳卒中である、請求項16~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
虚血性脳卒中が大血管閉塞である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
大血管閉塞が前大脳血管系に位置する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
脳卒中が出血性脳卒中である、請求項16~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
投与が、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、骨内投与、筋内投与、皮下投与、または経口(口腔内)投与を含む、請求項16~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
血栓溶解療法が組織プラスミノーゲン活性化因子である、請求項16~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、2回以上、例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10回投与される、請求項16~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が、1日に2回、1日に1回、2日に1回、3日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1か月に2回、または1か月に1回投与される、請求項16~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
さらなる抗脳卒中療法を施す工程をさらに含む、請求項16~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
パールカンドメインVが投与される、請求項16および18~26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
LG3が投与される、請求項16~26のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
血栓溶解療法が、脳卒中の発生から3時間以内に施される、請求項16~28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
血栓溶解療法が、脳卒中の発生から3時間より後に施される、請求項16~28のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
脳卒中を患っている対象において死の危険を減らす方法であって、(a)パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントおよび(b)血栓除去術または塞栓除去術で対象を処置する工程を含む、方法。
【請求項32】
機能的フラグメントがLG3である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
脳卒中が虚血性脳卒中である、請求項31~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
虚血性脳卒中が大血管閉塞である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
大血管閉塞が前大脳血管系に位置する、請求項34記載の方法。
【請求項36】
脳卒中が出血性脳卒中である、請求項31~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントの投与が、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、骨内投与、筋内投与、皮下投与、または経口(口腔内)投与を含む、請求項31~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
(b)が血栓除去術である、請求項31~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
(b)が塞栓除去術である、請求項31~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントが、2回以上、例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10回投与される、請求項31~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
パールカンドメインVまたは機能的フラグメントが、1日に2回、1日に1回、2日に1回、3日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1か月に2回、または1か月に1回投与される、請求項31~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
血栓除去術/塞栓除去術以外のさらなる抗脳卒中療法を施す工程をさらに含む、請求項36~41のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
パールカンドメインVが投与される、請求項31および33~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
LG3が投与される、請求項31~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
工程(b)が、脳卒中の発生から3時間以内に行われる、請求項31~44のいずれか一項記載の方法。
【請求項46】
工程(b)が、脳卒中の発生から3時間より後に行われる、請求項31~44のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
移植材を処置する、保存する、または安定化させる方法であって、移植材を(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインに浸漬する、移植材を(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインと共にインキュベートする、移植材に(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインを注入する、移植材に(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインを注射する、またはそれ以外の方法で移植材と(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインとを接触させる工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は、2020年7月24日に出願された米国仮出願第63/056,059号および2020年8月5日に出願された同第63/061,308号からの優先権の恩典を主張し、両出願の全内容を参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
37 C.F.R. 1.821(c)にしたがい、本願と共に、配列表が、「STRMP0003WO_ST25.txt」と名付けられた2021年7月26日に作成された約39キロバイトのサイズを有するASCII準拠テキストファイルとして提出される。当該ファイルの内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
1. 本開示の分野
本開示は、概して、医学、血管疾患、および神経生物学の分野に関する。より具体的に、本開示は、脳卒中を患っている患者、特に前大脳血管系の大血管閉塞により特徴づけられる虚血性脳卒中を患っている患者において死の危険を減らすためのパールカンおよびそのフラグメントの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
2. 背景
毎年、米国において795,000名を超える人々が脳卒中を患い、これらの対象のうちの約140,000名が死亡しており、これは毎年、死亡例20例ごとに1例に相当する。実際、40秒ごとに米国内の誰かが脳卒中を患い、4分ごとに誰かが脳卒中で死亡している。脳卒中は、健康保険サービス、脳卒中を処置するための医薬、および仕事ができなかった日の費用を含めて、毎年推定340億ドルを米国に負担させている。脳卒中はまた、重度の長期的な身体障害の一番の原因であり、65歳以上の脳卒中生存者の半数以上において運動能力を低下させている。
【0005】
脳卒中全体の約87%は、脳への血流が遮断される虚血性脳卒中である。これに対して、出血性脳卒中は、出血により引き起こされる。脳卒中に対する処置の選択肢は限られており、最も広く使用されている処置のいくつか - アスピリンおよび組織プラスミノーゲン活性化因子 - は、この事象の早期に使用される必要があり、そうでない場合それらはさらなるダメージを与え得る。したがって、脳卒中を処置するためおよび脳卒中、特に介入に関する「早期」というウィンドウを外れた脳卒中が示す大きな死の危険を減らすための改善された方法が、切に求められている。
【発明の概要】
【0006】
要旨
したがって、本開示にしたがい、神経学的損傷を患っているまたは神経学的損傷の危険がある対象において死の危険を減らす方法であって、パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントを含む組成物を対象に投与する工程を含み、その状態が神経変性疾患ではない、方法が提供される。機能的フラグメントはLG3であり得る。対象は、脳卒中を患っている可能性がある、または例えば過去に脳卒中を患ったこと、心房細動を有すること、糖尿病を有すること、高血圧を有すること、癌を有すること、またはウイルス感染、例えばSARS-Cov-2もしくはその変種を有することが原因で、脳卒中の危険がある者である。脳卒中は、例えば大血管閉塞に起因する、虚血性脳卒中であり得る。大血管閉塞は、前大脳血管系に位置し得る。脳卒中は、出血性脳卒中であり得る。あるいは、対象は、例えば脳震盪性の爆風または鈍的衝撃による外傷により引き起こされる外傷性脳損傷を患っている者であり得る。
【0007】
投与は、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、骨内投与、筋内投与、皮下投与、または経口(口腔内)投与を含み得る。対象は、血栓溶解療法、例えば組織プラスミノーゲン活性化因子を受けたことがある者または受けている者であり得る。組成物は、2回以上、例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10回投与され得る。組成物は、1日に2回(例えば、12時間ごとに)、1日に1回、2日に1回、3日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1か月に2回、または1か月に1回投与され得る。この方法はさらに、例えば血栓溶解療法以外の、第2の抗脳卒中療法を施す工程を含み得る。
【0008】
脳卒中を患い、かつ血栓溶解療法または塞栓溶解療法を受けている対象において、死の危険を減らす方法であって、パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントを対象に投与する工程を含む方法も提供される。機能的フラグメントはLG3であり得る。脳卒中は、例えば大血管閉塞に起因する、虚血性脳卒中であり得る。大血管閉塞は、前大脳血管系に位置し得る。脳卒中は、出血性脳卒中であり得る。
【0009】
投与は、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、骨内投与、筋内投与、皮下投与、または経口(口腔内)投与を含み得る。血栓溶解療法は、組織プラスミノーゲン活性化因子であり得る。組成物は、2回以上、例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10回投与され得る。組成物は、1日に2回(例えば、12時間ごとに)、1日に1回、2日に1回、3日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1か月に2回、または1か月に1回投与され得る。この方法はさらに、血栓溶解療法/塞栓溶解療法以外の第2の抗脳卒中療法を施す工程を含み得る。血栓溶解療法/塞栓溶解療法は、脳卒中の発生から3時間以内に施され得るまたは脳卒中の発生から3時間より後に施され得る。これは、脳卒中療法における血栓溶解/塞栓溶解の使用のためのウィンドウを拡大するよう効果的に機能する。
【0010】
別の態様において、脳卒中を患っている対象において死の危険を減らす方法であって、(a)パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントおよび(b)血栓除去術または塞栓除去術で対象を処置する工程を含む方法が提供される。機能的フラグメントはLG3であり得る。脳卒中は、例えば大血管閉塞に起因する、虚血性脳卒中であり得る。大血管閉塞は、前大脳血管系に位置し得る。脳卒中は、出血性脳卒中であり得る。投与は、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、骨内投与、筋内投与、皮下投与、または経口(口腔内)投与を含み得る。
【0011】
パールカンドメインVまたはその機能的フラグメントは、2回以上、例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10回投与され得る。パールカンドメインVまたは機能的フラグメントは、1日に2回(例えば、12時間ごとに)、1日に1回、2日に1回、3日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1か月に2回、または1か月に1回投与され得る。この方法はさらに、例えば血栓除去術/塞栓除去術以外の、さらなる抗脳卒中療法を施す工程を含み得る。血栓除去術/塞栓除去術は、脳卒中の発生から3時間以内に行われ得る。血栓除去術/塞栓除去術は、脳卒中の発生から3時間より後に行われ得る。これは、脳卒中療法における血栓除去術/塞栓除去術の使用のためのウィンドウを拡大するよう効果的に機能する。
【0012】
移植材を処置する、保存するまたは安定化させる方法であって、移植材を(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインに浸漬する、移植材を(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインと共にインキュベートする、移植材に(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインを注入する、移植材に(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインを注射する、またはそれ以外の方法で移植材と(a)パールカンドメインVもしくはその機能的ドメインとを接触させる工程を含む方法もまた提供される。
【0013】
特許請求の範囲および/または明細書中で「含む(comprising)」という用語と共に使用される場合の「1つの(a)」または「1つの(an)」という語の使用は、「1つ」を意味し得るが、それはまた、「1または複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは2つ以上」の意味でも用いられる。「約」という語は、言及されている値のプラスまたはマイナス5%を意味する。
【0014】
本明細書に記載される任意の方法または組成物が、本明細書に記載される任意の他の方法または組成物に関して実施され得ることが想定される。本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかし、詳細な説明および具体的実施例は、本開示の具体的態様を示すものであるが、例として示されているにすぎず、本開示の精神および範囲内での様々な変更および改変がこの詳細な説明から当業者に明らかになるであろうことを理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
以下の図面は、本明細書の一部をなし、本開示の特定の局面をさらに示すために含まれている。本開示は、本明細書に示される具体的態様の詳細な説明と共にこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、より理解され得る。
【0016】
図1図1A~D:tPAにより誘導される脳卒中後出血からのLG3保護。脳卒中後(post-stroke day; PSD)第3日における1/10 LG3/tPA共投与研究の肉眼的部検は、頭蓋から漏出し脳および頭蓋骨においてならびにそれらの付近で凝固しているMCAからの多量の出血(hemorrhage)/出血(bleed)を明らかにした。TTCは、脳が、この出血および脳卒中からの損傷から保護され、罹患サイズが、60分間CCA-MCA閉塞を行うLG3処置マウスについての予想値内で測定されたことを明らかにした。6 mg/kgで投与。
図2】tMCAO後の体格の変化。腔内フィラメントを通じた60分間MCA閉塞後の7日間、体重を毎日記録した。LG3処置は、ビヒクル処置対照と比較して有意に少ない体重減少をもたらし、脳卒中後の急性的体重回復を加速させた。6 mg/kgで投与。
図3】死亡率評価のためのカプラン・マイヤープロット。図2に記載される実験において生存率データを記録した。分析は、LG3処置が、ビヒクル処置対照と比較して有意に改善された生存率をもたらすことを明らかにした。6 mg/kgで投与。
【発明を実施するための形態】
【0017】
例示的な態様の説明
上で議論されているように、脳卒中は、米国における大きな死亡原因であり、このことは概ね世界全体についても言える。さらに、それは、支持療法の必要性を考えると医療提供者および病院に大きな負担をかけている。急性期および回復期の両方の脳卒中犠牲者を処置するための費用は、驚くほどである。
【0018】
ここで、本発明者らは、以前から知られているパールカンドメインV(PDV)およびそのフラグメントであるLG3の神経保護効果に加えて、これらの薬剤がまた、それがなければ死にいたる可能性がある脳卒中に関連する破滅的現象から患者を保護することができることを決定した。この新しい知見は、適切な患者におけるPDVおよびLG3の適用が、単に脳卒中の期間中およびその後の脳組織へのダメージを制限するだけでなく、大規模な虚血性および/または出血性現象による死の危険を実質的に減らし得ることを示唆している。
【0019】
ヒト組み換えDVは疾患の動物モデルにおいて十分に許容され非毒性であることおよび病因組織に特異的に向かうことがすでに示されていることに留意されたい(Bix et al., J. Natl. Cancer Inst. 98.22 (2006): 1634-46)。これらの結果は、DVが、血液およびCSFプロテオームにおいて容易に見出される天然に存在するタンパク質のフラグメントであるという事実により説明することができる(Bix & Iozzo, Microsc. Res. Tech. 71.5 (2008): 339-48)。以前の実験はまた、DVおよびLG3が血液脳関門を通過することができることを示している。
【0020】
本開示のこれらおよび他の局面は、以下で詳述される。
【0021】
I. 神経学的損傷
A. 脳卒中および関連する脳損傷
脳卒中は、脳への乏しい血流が細胞死を引き起こす医学的状態である。脳卒中には、血流の欠如に起因する虚血性、および出血に起因する出血性の2つの主なタイプがある。どちらも、脳の一部が適切に機能するのを停止させる原因となる。脳卒中の兆候および症状は、身体の片側での運動もしくは知覚の不能、理解もしくは会話の問題、めまい、または片側への視力の喪失を含み得る。兆候および症状は、多くの場合、脳卒中が発生した直後に現れる。症状が1または2時間未満続く場合、その脳卒中は、一過性虚血性発作(TIA)であり、これは軽度脳卒中(mini-stroke)とも呼ばれる。出血性脳卒中はまた、重度の頭痛をともない得る。脳卒中の症状は、恒久的であり得る。長期的合併症は、肺炎および膀胱の制御の喪失を含み得る。
【0022】
脳卒中の主な危険因子は、高血圧である。他の危険因子は、喫煙、肥満、高血中コレステロール、糖尿病、過去のTIA、末期段階の腎臓病、および心房細動を含む。虚血性脳卒中は典型的に、血管の遮断により引き起こされるが、より一般的でない原因もある。出血性脳卒中は、脳への直接的な出血または脳の膜間の空間への出血のいずれかにより引き起こされる。出血は、脳動脈瘤の破裂により起こり得る。診断は典型的に、診察に基づき、医療画像化、例えばCTスキャンまたはMRIスキャンにより支援される。CTスキャンは、出血を排除できるが、虚血を排除するとは限らず、これは早期段階では典型的にCTスキャンにおいて示されない。他の検査、例えば心電図(ECG)および血液検査も危険因子を決定するためおよび他の可能性のある原因を排除するために実施される。低血糖も同様の症状を引き起こし得る。
【0023】
予防は、危険因子の削減、問題となる頸動脈狭窄を有する者においては脳への動脈の開通のための手術、および心房細動を有する人々においてはワルファリンを含む。アスピリンまたはスタチンが、予防のために医師により推奨されることがある。脳卒中またはTIAは多くの場合、救急治療を必要とする。虚血性脳卒中は、3~4.5時間以内に発見された場合、凝血塊を破壊することができる医薬により処置可能であり得る。一部の出血性脳卒中は、手術からの利益を享受する。失われた機能の回復を試みる処置は、脳卒中リハビリテーションと呼ばれ、理想的には脳卒中専門施設で行われるが、これらは世界の大部分で利用可能でない。
【0024】
2013年に、およそ690万人が虚血性脳卒中を、340万人が出血性脳卒中を患った。2015年において、過去に脳卒中を患ったことがあり、それでもなお生存していた人々は、約4240万人であった。1990年~2010年の間に、毎年発生する脳卒中の数は、先進国ではおよそ10%減少し、途上国では10%増加した。脳卒中は、2015年において、冠動脈疾患後の死亡の2番目に多い原因であり、630万件の死に相当した(全体の11%)。約300万件の死が虚血性脳卒中に起因し、約330万件の死が出血性脳卒中に起因するものであった。脳卒中を患った人々の約半分は、1年未満生存する。全体として、脳卒中の3分の2は、65歳以上の者で発生した。
【0025】
脳卒中は、虚血性および出血性という2つの大カテゴリーに分類することができる。虚血性脳卒中は、脳への血液供給の中断により引き起こされ、出血性脳卒中は、血管の破裂または異常な血管構造に起因する。脳卒中の約87%が虚血性であり、残りが出血性である。出血が虚血領域内で生じることがあり、これは「出血性変化(hemorrhagic transformation)」と呼ばれる状態である。どのくらいの数の出血性脳卒中が実際には虚血性脳卒中として始まっているのかは分かっていない。
【0026】
虚血性脳卒中においては、脳の一部への血液供給が減少し、これがその領域の脳組織の機能障害を引き起こす。これが発生し得る理由は、
血栓(局所的に形成される凝血塊による血管の閉塞)
塞栓(身体の他所からの塞栓物に起因する閉塞)
全身性低灌流(例えばショック時の、血液供給の全体的減少)
脳静脈洞血栓
の4つである。明確な説明ができない脳卒中は、原因不明(未知の原因)と称され、これは全虚血性脳卒中の30~40%を占める。
【0027】
急性虚血性脳卒中に関する分類体系は様々ある。オックスフォードコミュニティ脳卒中プロジェクト分類(Oxford Community Stroke Project classification)(OCSP、バンフォードまたはオックスフォード分類としても公知である)は、主にその初期症状を根拠とし、症状の程度に基づいて、脳卒中エピソードを全前方循環系梗塞(TACI)、部分前方循環系梗塞(PACI)、ラクナ梗塞(LACI)または後方循環系梗塞(POCI)に分類する。これらの4つの分類名は、脳卒中の程度、影響を受ける脳の領域、根底にある原因、および予後を予測する。TOAST(急性脳卒中治療に関するOrg 10172試験(Trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment))分類は、臨床症状およびさらなる調査の結果に基づき、この基準により、脳卒中は、(1)大動脈のアテローム性動脈硬化に起因する血栓または塞栓、(2)心臓を起源とする塞栓、(3)小血管の完全な遮断、(4)他の決定された原因、(5)決定されない原因(可能性のある原因が2つある、原因が特定されない、または調査が不完全)に起因するものと分類される。覚せい剤、例えばコカインおよびメタンフェタミンの使用者は、虚血性脳卒中の危険が高い。
【0028】
出血性脳卒中には2つの主なタイプがある。第1は、脳内出血であり、これは基本的に、実質内出血(脳組織内での出血)または脳室内出血(脳の室系内での出血)のいずれかに起因する、(脳内の動脈が破裂し、周囲組織に血液が流出した際の)脳自体の中での出血である。第2は、くも膜下出血であり、これは基本的に、脳組織の外側であるが頭蓋骨の内側である、正確にはくも膜と軟膜(脳を包囲する髄膜の3つの層のうちのデリケートな最内層)の間で起こる出血である。
【0029】
これらの2つの主なタイプの出血性脳卒中は、頭蓋冠(cranial vault)内のいずれかの場所での血液の蓄積である頭蓋内出血の2つの異なる形態でもあるが、頭蓋内出血の他の形態、例えば、硬膜外血腫(頭蓋骨と、脳を包囲する髄膜の厚い最外層である硬膜の間での出血)および硬膜下血種(硬膜下空間における出血)は、「出血性脳卒中」とみなされない。出血性脳卒中は、実質内またはくも膜下出血を引き起こし得る脳内の血管の変化、例えば、脳アミロイドアンギオパチー、脳動静脈奇形および頭蓋内動脈瘤、を背景として起こり得る。
【0030】
神経学的障害に加えて、出血性脳卒中は通常、特定の症状を引き起こす(例えば、くも膜下出血は古典的に、雷鳴頭痛として公知の重い頭痛を引き起こす)または過去の頭部損傷の証拠を明らかにする。脳卒中の症状は典型的に突然始まり、数秒から数分間続き、そしてほとんどの例でそれ以上進行しない。この症状は、影響を受ける脳の領域に依存する。影響を受ける脳の領域が広いほど、より多くの機能が失われる可能性がある。いくつかの形態の脳卒中は、さらなる症状を引き起こし得る。例えば、頭蓋内出血において、影響を受ける領域は、他の構造を圧迫し得る。くも膜下出血および脳静脈血栓およびときに脳内出血を除いて、ほとんどの形態の脳卒中は、頭痛をともなわない。
【0031】
脳卒中の症状は典型的に突然始まり、数秒から数分間続き、そしてほとんどの例でそれ以上進行しない。この症状は、影響を受ける脳の領域に依存する。影響を受ける脳の領域が広いほど、より多くの機能が失われる可能性がある。いくつかの形態の脳卒中は、さらなる症状を引き起こし得る。例えば、頭蓋内出血において、影響を受ける領域は、他の構造を圧迫し得る。くも膜下出血および脳静脈血栓およびときに脳内出血を除いて、ほとんどの形態の脳卒中は、頭痛をともなわない。
【0032】
虚血性脳卒中に関して、アスピリンは、再発の総合的危険度を13%減らし、これは早期であるほど利益が大きい。最初の数時間以内での決定的な治療は、凝血塊を破壊することにより(血栓溶解術)またはそれを機械的に取り除くことにより(血栓除去術)、遮蔽物を取り除くことを目的とする。最初の数時間における厳しい血糖管理は、結果を改善せず、危害を与えることもある。高血圧もまた、助けになることが見出されていないため、典型的には下げられない。多くのアジアおよびヨーロッパ諸国において急性虚血性脳卒中を処置するために使用されるブタ脳組織の混合物であるセレブロリシンは、結果を改善せず、重度の有害現象の危険を高めることもある。
【0033】
急性虚血性脳卒中における、例えば組み換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA、tPA)を用いた、血栓溶解術は、症状の発生から3時間以内に与えられる場合、身体障害のない生活に関して10%の総合的利益を提供する。しかしそれは、生存の可能性を向上させない。利益は、より早期に使用されるほど大きい。3~4.5時間の間に、その効果はより不明確になる。AHA/ASAは、特定の人々に対し、この時間枠での血栓溶解術を推奨している。4.5時間より後では、血栓溶解術は結果を悪化させる。これらの利益または利益の欠如は、処置される人の年齢に関係なく生じる。処置後に誰が頭蓋内出血を起こし誰が起こさないかを決定する信頼できる方法はない。4.5時間~9時間の間の医学的画像化で救済可能な組織が発見された者または脳卒中があったが覚醒した者において、アルテプラーゼ(tPA)は一定の利益を提供する。tPAは、米国心臓協会(American Heart Association)、米国救急医学会(American College of Emergency Physicians)、および米国神経学会(American Academy of Neurology)により、他の禁忌(例えば、異常な検査値、高血圧、または最近の手術)がない限り、症状の発生から3時間以内の急性脳卒中に対する推奨される処置として認められている。脳に入る動脈にカテーテルが通され、血栓の部位へと医薬が注射される動脈内繊維素溶解術は、急性虚血性脳卒中を有する人々において結果を改善することが見出されている。
【0034】
機械的血栓除去術と呼ばれる、虚血性脳卒中を引き起こす凝血塊の機械的除去は、大動脈、例えば中大脳動脈の閉塞に対する可能性のある処置である。2015年に、1つの調査により、症状の発生から12時間以内に行われた場合のこの手技の安全性および有効性が実証された。それは死の危険を変えなかったが、機械的血栓除去術に関して評価された人々において一般的に使用される静脈内血栓溶解術の使用と比較して、身体障害を減少させた。特定の症例は、症状の発生から24時間以内の血栓除去術から利益を享受し得る。
【0035】
脳の大部分に影響を与える虚血性脳卒中は、周囲組織における二次的な脳損傷をともなう重大な脳膨張を引き起こし得る。この現象は主に、血液供給を中大脳動脈に依存している脳組織に影響する脳卒中で起こり、それが予後不良をもたらすことから、「悪性脳梗塞」とも呼ばれる。医薬を用いて圧の解消が試みられ得るが、一部は、頭の片側における頭蓋骨の一時的な外科的除去である半頭蓋骨切除術(hemicraniectomy)を必要とする。これは死の危険を減らすが、そうしなければ死亡していた一部の人々は身体障害を抱えて生存する。
【0036】
出血性脳卒中に関して、脳内出血を有する人々は、必要に応じて血圧管理を含む、支持療法を必要とする。人々は、意識レベルの変化についてモニタリングされ、彼らの血糖および酸素供給が最適なレベルで維持される。抗凝固薬および抗血栓薬は、出血を悪化させる可能性があり、通常中断される(可能であれば、解禁される)。一部は、血液を除去し、根底にある原因を処置する神経外科的介入から利益を享受し得るが、これは、出血の場所およびサイズならびに患者に関連する要因に依存し、脳内出血を有する人々の誰が利益を享受し得るかに関する疑問に対して現在も研究が行われている。
【0037】
くも膜下出血において、根底にある脳動脈瘤に対する早期の処置は、さらなる出血の危険を減らし得る。動脈瘤の部位に依存して、これは、頭蓋骨を開く手術によりまたは(血管を通じて)血管内的に行われ得る。
【0038】
B. 外傷性脳損傷
外傷性脳損傷は通常、頭部または体部への激しい殴打または衝撃により引き起こされる。TBIはまた、最終的に脳細胞死にいたらしめる脳組織を貫く物体、例えば銃弾または頭蓋骨の破片により引き起こされ得る。TBIを引き起こす一般的な現象は、落下、車両に関連する衝突、暴力、スポーツでの負傷、爆風またはその他の戦闘での負傷を含む。TBIは、打撲傷、組織裂傷、出血および他の脳への物理的ダメージを引き起こし得、これらは長期的合併症または死をもたらし得る。症状は、意識喪失、反復的嘔吐、てんかん発作、協調運動の喪失、深い錯乱、不明瞭言語を含み得る。調査研究は、反復的または重度のTBIが、アルツハイマー病/ADおよびパーキンソン病/PDを含む神経変性疾患の危険を高め得ることを示唆している。
【0039】
II. 大血管閉塞
上述のように、虚血性脳卒中は、全脳卒中の80%超を占めている。特定のカテゴリーの虚血性脳卒中は、大血管の閉塞に起因し、したがって「大血管閉塞」またはLVOと称され、小血管関連脳卒中よりも有意に高い罹患率および死亡率を有する。さらに、処置は、凝血塊の大きさが理由で、LVOを示す患者において効果が低い傾向がある。凝血塊を取り除く特別な血管内療法がLVOで使用されているが、それは高難易度であり、時間を要し、そして危険なしに行えないものであり得る。したがって、LVOは、本明細書に開示される組成物および方法にとって特に重要な用途である。
【0040】
急性LVOのメカニズムは4つ同定されている。第1は、頭蓋内動脈のアテローム性プラーク破裂によるインサイチュー閉塞である。第2は、狭窄、プラーク破裂による潰瘍形成、または解剖による影響を受けた頭蓋外動脈から塞栓性フラグメントが生じる動脈間塞栓である。第3は、多くの場合心房細動により引き起こされる、心臓を起源とする塞栓である。そして第4として、不顕性発作性心房細動から生じると考えられる未知の原因(「原因不明」)のLVOがある。これらの4つのメカニズムからのLVOの発病率は様々である。
【0041】
1つのタイプのLVOは、前大脳動脈(ACA)からの血液供給が制限され、その血管により補給される脳の一部:前頭葉および頭頂葉の中央側、大脳基底核、前大脳円蓋および前脳梁の機能が低下する状態である、前大脳動脈症候群である。閉塞の領域および重篤度に依存して、兆候および症状は、ACA症候群に罹患している集団内で様々であり得る。この血管の近位(A1)セグメントの遮断は、前交通動脈を通じた反対側の半球からの側副血行路のために、わずかな障害しか発生させない。このセグメントから遠位での閉塞は、より重度のACA症候群の病状をもたらす。下肢の対側片麻痺および片側感覚消失は、ACA症候群に関連する最も一般的な症状である。LVO/ACAは、本明細書に開示される組成物および方法にとって別の重要な用途である。
【0042】
III. パールカンおよびドメインV(DV)
ヒトパールカンタンパク質のアミノ酸配列には、Swiss-Protアクセッション番号P98160(SEQ ID NO:1)が割り当てられている。残基3658~4391のアミノ酸配列がドメインV(DV)を構成する。P98160に関して、4331位でのSからNへのアミノ酸変化を含む、様々な天然に存在する変種が、Swiss-Protデータベースに列挙されている。本発明者らは、天然の全長DVでは見出されない3780、3836および4068位におけるNからQへの置換が、治療的可能性を有することを示した。したがって、DVおよびLG3の脱グリコシル化変異体も開示される。DVは、以下の領域に分割される:残基3663~3843(181アミノ酸)ラミニンG様ドメイン1(LG1);残基3844~3881(38アミノ酸)EGF様ドメイン1;残基3884~3922(39残基)EGF様ドメイン2;残基3928~4103(176アミノ酸)ラミニンG様ドメイン2(LG2);残基4104~4141(38アミノ酸)EGF様ドメイン3;残基4143~4176(34アミノ酸)EGF様ドメイン4;残基4197~4391(189アミノ酸)ラミニンG様ドメイン3(LG3)。残基4196と4197の間に天然のBMP-1切断部位があり、これが残基4197~4391のペプチド、すなわちLG3ドメインを生成する。これらのドメイン間の線引きは、Swiss-ProtデータベースにおけるP98160についてのアノテーションに基づいている。ヒト配列の様々な種変種が知られている。例えば、マウス、ショウジョウバエおよびニワトリパールカンには、それぞれ、Swiss Protアクセッション番号Q05793、Q8MPN3およびQ6 KD71-Chikが割り当てられ;マカカ・ムラタ(Macaca mulatta)(アカゲザル)、エクース・カバルス(Equus caballus)(ウマ)、ボス・タウルス(Bos taurus)(ウシ)、およびダニオ・レリオ(Danio rerio)(ゼブラフィッシュ)のパールカン配列も同定されている。
【0043】
本開示は、DV内から、より具体的にはDVのラミニンG様ドメイン3領域(LG3)内からの連続する残基のセグメントを含むパールカンのフラグメントを含むまたはそれからなる薬剤を提供する。いくつかのそのような薬剤は、DV内の少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、50、100、150、193、200、300、400、500、600、700もしくは728個の連続する残基のセグメント、および/または場合によりLG3内の193残基の連続するフラグメントもしくはセグメントを含む。いくつかの薬剤は、DVまたはLG3の700、600、500、400、300、または200個以下または以上の連続する残基を含む。例えば、いくつかの薬剤は、DVまたはLG3からの、特に全体または一部がLG3内にある、5~728、5~500、または5~193個の連続するアミノ酸を有する。いくつかの薬剤は、DVからの、特に全体または一部がLG3内にある、193~728、193~500、193~200、10~100または約193個の連続するアミノ酸を有する。
【0044】
いくつかの例示的な薬剤は、以下のアミノ酸座標のいずれかにより定義されるパールカンペプチドを含むまたはそれからなる薬剤を含む:4197~4389、4197~4390、4197~4391、4198~4389、4198~4390、4198~4391、4199~4389、4199~4390、4199~4391、4200~4389、4200~4390、4200~4391、4201~4389、4201~4390、4201~4391、4202~4389、4202~4390、4202~4391。ペプチド4197~4391への言及は、例えば、残基4197から始まり残基4391で終わり、DVのLG3のすべての残基を含むペプチドを意味する。そのようなペプチドを含む薬剤は、DV由来の追加の連続する隣接する残基を含み得る。他のペプチドも同様に定義される。本開示はまた、最大5、10、15、20、25または50個のアミノ酸の欠失、付加または置換により上記ペプチドのいずれかと相違するペプチドを提供する。そのような欠失、付加、または置換は、内部的なものまたはCもしくはN末端におけるものであり得る。置換は、保存的または非保存的であり得る。付加は、DVまたはLG3由来の追加の連続する残基を含み得る。いくつかの薬剤は、上記ペプチドのいずれかのフラグメントを含むまたはそれからなる。いくつかのそのような薬剤は、示されたペプチド内の少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、50、100、150アミノ酸のセグメントを含む。いくつかのそのような薬剤は、示されたペプチド内の150、100、50、または20以下の連続する残基を含む。例えば、いくつかの薬剤は、示されたペプチド内の5~189、5~100または5~50個の連続するアミノ酸を有する。いくつかの薬剤は、示されたペプチド由来の10~100または10~50個の連続するアミノ酸を有する。いくつかの薬剤は、示されたペプチド由来の20~100または20~50個の連続するアミノ酸を有する。
【0045】
いくつかの薬剤は、DVもしくはLG3および/または上で列挙された任意の他のペプチドの変種であるアミノ酸配列を有するペプチドを含むまたはそれからなる。そのような薬剤は、典型的に、(ギャップまたはギャップとアラインメントされる残基を含まない)比較される両方の配列に存在する10、25、50、100、200、300、400、500、600、700または728アミノ酸の比較ウィンドウ内でDVもしくはLG3(または上で列挙された他のペプチド)に対して少なくとも85、90、95または99%の配列同一性を有するペプチドであり得る。比較ウィンドウは、好ましくはDVおよび/またはLG3内である。そのようなペプチドは、好ましくは800、700、600、500、400、300、200、100、50、20または10以下のアミノ酸の全長を有する。いくつかの薬剤は、合計で20~728、20~500、20~189、20~100または20~50アミノ酸を有する。変種は、DVまたはLG3の、種、対立遺伝子、または誘導変種であり得る。誘導変種は、DVまたはLG3と相違する位置に非天然または天然アミノ酸を含み得る。アミノ酸置換は、保存的または非保存的であり得る。
【0046】
保存された構造および/または機能を有する可能性がある配列変種は、従来の方法により同定され得る。例えば、PFamおよび他のドメイン同定ツールが、タンパク質ドメイン、例えばラミニンG様(LG)ドメインまたはEGF様ドメインの適切なフォールディングに必要されるアミノ酸を同定するために使用され得る。同じ構造を有するが機能が相違するタンパク質ドメインにおいて見出される、保存されたまたは保存的に置換された疎水性残基は、多くの場合、二次および三次構造の決定に関与する。多配列アラインメントツールは、関連する機能を有するタンパク質ドメインにおいて保存されたアミノ酸を同定するために使用され得る。機能的に関連するドメインにおいて、保存されているがそのドメインの適切なフォールディングにとって必須であると同定されていないアミノ酸残基は、そのタンパク質ドメインの機能に関連する可能性が高い。構造予測ツール、例えばCABS、ESyPred3D、HHpred、ROBETTA、およびWHAT IFは、タンパク質ドメインの構造をモデル化し、タンパク質ドメインの表面に位置するアミノ酸を同定するために使用され得る。タンパク質ドメインの表面に位置する保存されたアミノ酸は、多くの場合、タンパク質・タンパク質相互作用に関与する。一般に、構造的にも機能的にも保存されていない位置でのアミノ酸のバリエーションは、典型的に、機能的変種をもたらし、構造的および/または機能的に保存されている位置でのアミノ酸のバリエーションは、より制限されるが、それでもときに許容される(例えば、保存的置換、および特定の非保存的置換が許容され得る)。パールカンDVのLG3ドメインは、ラマニン_G1(Lamanin_G1)ファミリー(PFam名 PF00054)のメンバーであり、α2β1インテグリンに対する結合モチーフを形成する2つのDGR配列を含む。任意でいくつかまたはすべての介在するアミノ酸と共に、および追加の隣接するパールカン配列と共にまたはそれなしで、2つのDGR配列を含むパールカンペプチドが提供され、そのようなペプチドを含むまたはそれからなる薬剤も提供される。異なる生物(例えば、ヒト、マウス、アカゲザル、ウマ、ウシ、ニワトリ、および/またはゼブラフィッシュ)由来のDVの配列が、構造的および機能的に保存された残基を明らかにするためにアラインメントされ得る。さらに、LG3ドメインは、例えばペントラキシンの構造を用いて、構造的にモデル化され得る(Beckmann et al. (1998), J. Mol. Biol. 275:725-730を参照のこと)。パールカンDVのEGF様ドメインは、PFam EGFクランCL0001のメンバーであり、既知のEGF様ドメイン構造に基づき構造的にモデル化され得る。Hohenester & Engel (2002), Matrix Biol. 21:115-128を参照のこと。したがって、本願に開示される保存的配列分析ツールおよびスクリーニング方法を用いて、保存された構造および機能を有するDVおよび特にLG3配列変種が同定され得、機能について試験され得る。
【0047】
ペプチドのいずれも、天然ペプチドであり得る、またはそのC末端もしくはN末端もしくは側鎖において修飾に供され得る。
【0048】
いくつかの薬剤は、DVもしくはLG3のペプチドセグメントまたはそのペプチドの全長にわたって高い程度(例えば、Swiss-Protアクセッション番号P98160(SEQ ID NO:1)に対して少なくとも85、90、95または99%)の配列同一性を有するペプチドのみを含む。他の薬剤は、ペプチドまたは非ペプチドであり得る補助分子を含む。そのような補助分子は、同定の目的でタグとして、または薬物動態を改善するようもしくは血液脳関門の通過を改善するよう機能し得る。血液脳関門の通過を促進するペプチドの例は、HIV由来のtat(Vives et al., 1997, J. Biol. Chem. 272:16010; Nagahara et al., 1998, Nat. Med. 4:1449)(例えば、
)、ショウジョウバエ由来のアンテナペディア(Dcrossi et al., 1994, J. Biol. Chem. 261:10444)、単純ヘルペスウイルス由来のVP22(Elliot and D'Hare, 1997, Cell 88:223-233)、抗DNA抗体の相補性決定領域(CDR)2および3(Avrameas et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 95:5601-5606)、70 kDa熱ショックタンパク質(Fujihara, 1999, EMBO J. 18:411-419)ならびにトランスポータン(Pooga et al., 1998, FASEB J. 12:67-77)を含む。
【0049】
いくつかの薬剤は、Swiss-Protアクセッション番号P98160の残基3464~3707を含むペプチドセグメントを欠いている。いくつかの薬剤は、Swiss-Protアクセッション番号P98160の残基3464~3707の5、10、20または50個の連続する残基の任意のセグメントを欠いている。いくつかの薬剤は、DV外の少なくとも5、10、20または50残基の任意の連続するセグメントを欠いている。いくつかの薬剤は、LG3外の少なくとも5、10、20または50残基の任意の連続するセグメントを欠いている。
【0050】
本開示の薬剤は特に、通常α2インテグリンがβ1インテグリンと複合体化しているときに、α2インテグリンに特異的に結合する。本開示の薬剤は特に、α2インテグリンに対する結合に関してDVおよび/またはLG3と競合し、この場合も通常β1インテグリンと複合体化しているときに試験される。
【0051】
IV. 薬学的製剤および投与方法
A. 薬学的製剤
本開示のいくつかの態様において、薬剤は薬学的製剤に含まれる。例えば、臨床用途が想定される場合、意図されている用途に適した形態で薬学的組成物を調製することが必要とされ得る。一般に、これは、発熱物質およびヒトまたは動物に有害であり得る他の不純物を本質的に含まない組成物を調製することを意味し得る。
【0052】
本開示の活性組成物は、古典的な薬学的調製物を含み得る。一般に、薬剤に安定性を付与し、標的細胞による取り込みを可能にする適切な塩および緩衝剤を用いることが望まれ得る。本開示の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解または分散された有効量の薬剤を含む。そのような組成物は、イノキュラ(inocula)とも称される。「薬学的または薬理学的に許容される」というフレーズは、動物またはヒトに投与された際に、有害な、アレルギー性の、またはその他の不都合な反応を生じない分子体および組成物を表す。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、任意かつすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張剤、ならびに吸収遅延剤等を含む。例は、タンパク質担体を含むまたは含まないリン酸緩衝生理食塩水および乳酸ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムの緩衝化溶液を含む。薬学的に活性な物質に対するそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野で周知である。従来の媒体または薬剤が本開示に適合しない場合を除いて、治療組成物におけるその使用が想定される。補助的活性成分もまた、組成物に組み込まれ得る。
【0053】
本開示の薬剤は、多くの場合、活性治療剤および様々な他の薬学的に許容される成分を含む組成物として投与される。Remington's Pharmaceutical Science(15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1980)を参照のこと。用いられる具体的な製剤は、意図されている投与様式および治療用途に依存する。組成物はまた、望まれる製剤に依存して、動物またはヒトへの投与のための薬学的組成物を製剤化するために一般に使用されるビヒクルと定義される、薬学的に許容される非毒性の担体または希釈剤を含み得る。希釈剤は、その組み合わせの生物学的活性に負の影響を与えないよう選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理学的リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、およびハンクス溶液を含むがこれらに限定されない。加えて、薬学的組成物または製剤はまた、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療性、非免疫原性安定化剤等を含み得る。
【0054】
薬学的組成物はまた、大型のゆるやかに代謝される高分子、例えばタンパク質、多糖、例えばキトサン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コポリマー(例えば、ラテックス官能化セファロース(登録商標)ビーズ、アガロース、セルロース等)、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、および脂質凝集体(例えば、油滴またはリポソーム)を含み得る。
【0055】
非経口投与の場合、本開示の薬剤は、滅菌性の液体、例えば水、油、生理食塩水、グリセロール、またはエタノールであり得る薬学的担体を含む生理学的に許容される希釈剤中の注射可能な用量の当該物質の溶液または懸濁物として投与され得る。ヒトへの投与のための非経口組成物は、滅菌性であり、実質的に等張性であり、そしてGMP条件下で製造される。さらに、補助物質、例えば湿潤または乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質等が組成物中に存在し得る。薬学的組成物の他の成分は、石油、動物、植物、または合成起源のそれら、例えばピーナツ油、ダイズ油、および鉱油である。一般に、グリコール、例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールが、特に注射可能な溶液における、好ましい液体担体である。抗体は、活性成分の持続放出を可能にする様式で製剤化され得るデポ注射物またはインプラント調製物の形態で投与され得る。例示的な組成物は、HClで適切なpHに調節された、50 mM L-ヒスチジン(任意)、150 mM NaClを含む水性緩衝液中で製剤化された5 mg/mLのモノクローナル抗体を含む。
【0056】
典型的に、組成物は、液体溶液または懸濁物のいずれかとしての、注射可能物として調製され;注射前の液体ビヒクルへの溶解または懸濁に適した固体形態も調製され得る。調製物はまた、上述のように、アジュバント効果の強化のためにリポソームまたはマイクロ粒子、例えばポリラクチド、ポリグリコリド、またはコポリマー中に乳化またはカプセル化され得る(Langer, Science, 249:1527 33 (1990)およびHanes et al., Advanced Drug Delivery Reviews, 28:97-119 (1997)を参照のこと)。本明細書に記載される薬剤は、活性成分の持続またはパルス放出を可能にする様式で製剤化され得るデポ注射物またはインプラント調製物の形態で投与され得る。
【0057】
他の投与様式に適したさらなる製剤は、経口、鼻内、および肺製剤、坐剤、および経皮適用物を含む。鼻内送達は、脳へのペプチドの送達に特に有用である。ペプチドは、例えば、鼻スプレーとして、滅菌水で製剤化され得る。坐剤の場合、結合剤および担体は、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含み、そのような坐剤は、約0.5%~約10%、または約1%~約2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成され得る。経口製剤は、賦形剤、例えば医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム塩、セルロース、および炭酸マグネシウムを含み得る。これらの組成物は、典型的に、溶液、懸濁物、錠剤、ピル、カプセル、持続放出製剤または粉末の形態をとり、約10%~約95%、または約25%~約70%の活性成分を含む。
【0058】
「単位用量」という用語は、投与、すなわち適切な経路および処置レジメンに関連して上記のような所望の応答を生じるよう計算された既定量の治療組成物を各単位が含む、対象において使用するのに適した物理的に独立した単位を表す。処置の数および単位用量の数の両方にしたがう、投与される量は、処置される対象、対象の状態および望まれる保護に依存する。治療組成物の正確な量はまた、医師の判断に依存し、各個体に特有である。本開示の薬剤は、動物に直接的に投与され得る、あるいは、後に動物に投与される細胞に投与され得る。
【0059】
B. 投与方法
予防用途において、薬学的組成物または医薬は、神経学的損傷を受け易いまたはそれ以外の理由で神経学的損傷の危険がある患者に、少なくともその危険を減らす、重篤度を下げる、または損傷の生化学的、組織学的および/もしくは挙動的症状、その合併症ならびに損傷の進展中に現れる中間の病理学的表現型を含む、損傷の発生を遅らせるのに十分なレジーム(すなわち、用量、頻度、送達経路)で投与される。
【0060】
経路は、静脈内、動脈内、頭蓋内、腹腔内、骨内、髄腔内、皮下、口腔内(例えば、フィルム)、経口、鼻内(スプレー)、エアゾール吸入を含み、これらのいずれかが、徐放製剤、例えば多孔性および再吸収性ナノ構造を用いるそれらと組み合わされ得る。
【0061】
治療適用において、組成物または医薬は、そのような損傷の疑いがある、またはそのような損傷をすでに患っている患者に、その合併症および中間の病理学的症状を含む、疾患の(生化学的、組織学的、および/または挙動的な)症状を減少させる、または少なくともその悪化を鈍化させるのに十分なレジーム(用量、頻度、経路)で投与される。
【0062】
治療的または予防的処置を達成するのに十分な量は、治療または予防有効用量と定義される。治療レジームにおいて、薬剤は通常、疾患の症状が消えるまたは有意に減少するまで、間隔を置いて投与される。任意で、再発を防ぐために投与が継続され得る。予防レジームにおいてもまた、薬剤は通常、いくつかの例においては患者の生涯の残りの期間、間隔を置いて投与される。処置は、投与された薬剤のレベルをアッセイすることにより、または患者の応答をモニタリングすることにより、モニタリングされ得る。
【0063】
上記の状態の処置における本開示の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトか動物か、投与される他の医薬、および処置が予防的か治療的かを含む多くの異なる要因に依存して様々である。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳類を含む非ヒト哺乳類もまた処置され得る。処置用量は、典型的に、安全性および有効性を最適化するよう滴定される。
【0064】
用量範囲は、約0.0001~約100 mg/kgホスト体重、より通常は約0.01~約20 mg/kgであり得る。例えば、用量は、約1 mg/kg体重もしくは約20 mg/kg体重または約1~約10 mg/kgもしくは1~5 mg/kgの範囲内であり得る。例示的な処置レジームは、1日2回(例えば、12時間ごと)、1日に1回、1週間に1回、2週間に1回もしくは1か月に1回または3~6か月に1回の投与を行うものである。
【0065】
本開示の薬剤は、予防的および/または治療的処置のために非経口、局所、静脈内、経口、口腔内(フィルム)、皮下、髄腔内、頭蓋内、動脈内、頭蓋内、腹腔内、骨内、鼻内、または筋内手段により投与され得る。いくつかの方法において、薬剤は、特定組織に直接的に注射され、そこに堆積物が蓄積される、例えば頭蓋内注射である。いくつかの方法において、抗体の投与のために筋内注射または静脈内注入が用いられる。いくつかの方法において、特定の治療剤は、頭蓋に直接的に注射される。いくつかの方法において、薬剤は、持続放出組成物またはデバイスとして投与される。
【0066】
臓器/組織全体の移植の場合、対象への本開示の薬剤の投与に加えて、移植前、移植時、または移植後のいずれかに、薬剤が、移植材自体を処置する、保存する、安定化させる、またはそれ以外の様式で移植材自体に利益を与えるために使用され得ることも想定される。これは、その薬剤を用いた組織の浸漬もしくはインキュベートの形態で、例えば「組織/臓器槽」中の溶液中で行われ得る、またはそれは組織/臓器に存在する血管系を通じた、もしくは組織/臓器自体への注射による、組織もしくは臓器への薬剤の注入を用い得る。投与様式に依存して、予想される臓器の生存期間、およびレシピエントの緊急性、インキュベート/処置時間は異なり得る。そのような組織/臓器処置はまた、対象への本開示の薬剤の投与ならびに他の標準的な移植前および/または移植後処置と組み合わせて使用され得る。
【0067】
(表1)投与経路ごとの、提案される組み換えパールカンLG3の提案される治療用量*+
* - 治療剤は、好ましい安全性プロフィールに基づき上記の用量の>10倍まで安全に投与され得る。
+ - 可能性のある獣医学的用途は、種に依存してヒト用量を2、3、または6分の1に減らすことにより行われ得る。
【0068】
V. 併用療法
2つまたはそれ以上の治療様式を組み合わせることは医学分野において極めて一般的である。以下は、本開示の治療法と組み合わせて使用され得る治療法の一般的議論である。
【0069】
本開示の方法および組成物を用いて損傷または状態を処置するために、本明細書に開示される薬剤および少なくとも1つの他の治療法を対象に接触させ得る。これらの治療法は、1つまたは複数の疾患パラメータの減少を達成するのに効果的な併用量で提供され得る。このプロセスは、両方の薬剤/治療法を、例えば両方の薬剤を含む単一の組成物もしくは薬学的製剤を用いて、または一方の組成物が本明細書に開示される薬剤を含み、他方が他の薬剤を含む2つの別個の組成物もしくは製剤を同時に対象に接触させることにより、同時に対象に接触させることを含み得る。
【0070】
あるいは、本明細書に開示される薬剤は、数分から数週間の範囲の間隔をあけて他の処置より先行し得るまたは他の処置に後続し得る。通常、それらの治療が対象に対して依然として有意な併用効果を発揮することができるよう、各送達時の間で相当な時間が経過しないようにすることが確実にされ得る。そのような例において、両方の様式を、互いから約12~24時間以内に、互いから6~12時間以内に、または約12時間のみの遅延時間で、細胞に接触させることが想定される。いくつかの状況において、処置のための期間を有意に延長することが望ましい場合があるが、各投与間は、数日(2、3、4、5、6または7日)~数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)の合間である。
【0071】
併用療法として想定される可能性のある薬剤は、IL-6、CCL5R、CD3、CD6、toll様受容体を標的とする免疫調節性モノクローナル抗体、または受容体アンタゴニスト、例えば、ATN-161およびIL1RA、またはNSAID、例えばN-アセチルシステイン、アセチルサリチル酸、一酸化窒素シンターゼ阻害物質、COX-1、-2、および/もしくは-3阻害物質、またはキサンチンオキシダーゼ阻害物質を含む。
【0072】
ペプチドまたは他の治療法のいずれかの2回以上の投与が望ましい場合があることも想定される。以下に例示されるように、本開示の薬剤を「A」、他の治療法を「B」とする、様々な組み合わせが用いられ得る。
他の組み合わせも想定される。第I節で上述された任意の治療法もまた、本開示にしたがう薬剤との併用療法において用いられ得る。
【実施例
【0073】
VI. 実施例
以下の実施例は、好ましい態様を示すために含まれている。以下の実施例で開示される技術は態様の実施にあたって十分に機能することが本発明者により見出された技術であり、したがってその実施における好ましい様式を構成するとみなすことができることが当業者に理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本開示の精神および範囲から逸脱することなく開示されている具体的態様の中で多くの変更を行うことができ、それでもなお同様または類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【0074】
実施例1
本発明者らは、LG3および組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPAまたはtPA)とLG3の共投与の効果を決定するための実験を設計した。tPAは、脳卒中の処置に関して現時点で承認されている唯一の薬品である。その機能は、血栓溶解性の「クロットバスター」であるが、単独ではいかなる神経保護または神経修復効果も有さない。重要なことに、tPAは、出血性の危険および死の可能性を回避する上で、脳卒中後に狭い治療ウィンドウしか提供しない。これは、tPAが内因性の凝固活性を減少させ、脳の血管および脳・血液関門を弱体化させ得るためである。
【0075】
タンデムCCA-MCA60分間閉塞を行い、再灌流時にtPA(10 mg/kg、IV)およびLG3(6 mg/kg、IP)を共投与した10匹のマウスのうちの1匹が、手術終了および創傷封止後のある時点で大規模な脳出血を経験したことがPSD3に観察された(図1A~D)。この観察は、Streamのスクリーニング研究においてCCA-MCA脳卒中に供された約200匹のマウス(このN=10研究より前にtPAが投与されたものはいない)の中では見られなかった。人道的安楽死および死後断頭の後、研究者は、相当量の凝固した血液に気付き、矢状縫合上の皮膚に沿う切開の形成を開始した。凝固した血液の体積を測定する試みはなされなかったが、推定1~3 mm厚の凝固した血液が、頭蓋骨全体にわたって、およびマウスの耳の下の皮膚/頭蓋境界に相当量で存在した(図1A)。頭蓋骨を洗浄し、開頭すると、凝固した血液が、脳の正中線右側に沿って卵形の様式で観察された(図1C)。出血の発生源は、MCAの閉塞点にぴたりと一致した。切片化しTTCで染色すると、小さな面積の破壊された組織の周囲にごくわずかな梗塞のみ(矢印)が存在した(図1D)。
【0076】
対象は、安楽死前に損傷の苦痛の兆候を示さなかった。手術前の重量は29gであり、安楽死時のPSD3でも29gと測定された。対象は活動的であり、手で触れられるのを避け、ナイーブマウスの活力で行動し/争いをした。脳および脳周囲の血液の量および存在は、致命的なまたは衰弱させる損傷を示唆していたが、切片は、脳の大部分が損傷を免れたことを示している。今回観察された損傷の程度は、60分CCA-MCAおよび閉塞後の6 mg/kg LG3処置に関する既知の値と一致していることに注目されたい(図2~3)。それは、脳が、出血およびそのような現象から引き起こされ得る脳卒中前損傷の悪化を免れたことを暗示している。したがって、tPAは動物に出血を引き起こしたが、LG3処置は動物の脳をダメージから保護したと考えられる。これは、PDVおよびLG3がまた血液・脳関門の接合を緊密にすることを示す未公開データと符合する。
【0077】
急性ELVOの状況下でのその潜在的な救命効果に加えて、rhPDVおよびそのフラグメントは、動脈瘤出血を患っているまたは開頭およびMIS脳手術中に出血が発生した個体に、死からの保護を与え得る。このタンパク質療法は、脳腫瘍の外科的摘出を目的とする長時間の神経外科術中にIV点滴を通じて、またはMRIもしくはPETスキャンで確認された急性脳出血の処置のために髄腔内注射を通じて急性的に、投与され得る。
【0078】
実施例2
腔内フィラメントを通じた60分間MCA閉塞を行ったマウスにおいて脳卒中後治療的神経保護剤としてのLG3を調査する有効性研究を行った。このモデルは、脳卒中研究において広く使用され十分に受け入れられており、臨床集団のLVOを反映する広範囲の脳ダメージを生じることが認められている。有意な死および機能障害がこのモデルに関して報告されている。試験薬は、IP注射(6 mg/kg)を通じて、再灌流/脳卒中終了の直後に1回、その後の再灌流後48時間および96時間に再度3回投与した。研究を通じて動物のバイオメトリクスおよび活動をモニタリングし、体重を毎日記録し、機能的評価を脳卒中後(PSD)1、3、7日に行った。PSD7に梗塞体積/脳卒中罹患サイズを定量した。
【0079】
LG3は、脳卒中後の回復に対して強力な効果を発揮することが観察された。LG3処置対象は、ビヒクル処置対応動物よりも有意に少ない体重を失い、>60%減少した梗塞体積を示した。体重データの分析は、LG3処置対象における体重減少の性質の顕著な変化を明らかにし、これらの対象はPSD2~3に体重が増加し始めたのに対して、ビヒクル処置対照はPSD5~6で初めて体重増加を示した(図2)。驚くべきことに、この観察は、機能の顕著な改善および脳卒中損傷に関連する死の完全な消滅(図3)と相関関係があった。ビヒクル処置対照は、>33%の死を経験したのに対して、LG3処置コホートにおいては死が観察されなかった(0%)。データ分析は、この差が、本発明者らのコホートサイズに基づき統計的に有意である(p=.0052)ことを明らかにした。この観察は、LG3が、脳卒中および他の致命的な神経外傷において強力な救命効果を発揮し得ることを示している。
【0080】
実施例3
さらなる研究は、LG3の潜在的な救命効果が性別、年齢、および種を超えたものであることを示した。再灌流前にtPAで処置された加齢(12か月)オスおよびメスラットにおける、一過的フィラメントMCAO脳卒中を用いる研究を行った。MCAOフィラメント虚血性脳卒中モデルの外科的手術は、外科的MCAフィラメント閉塞部位において出血を引き起こし得る。動物を再灌流時にLG3またはビヒクル(PBS)溶液で処置し、PSD2およびPSD4に再度処置した。基準PSD1、3、7に機能的結果を測定し、PSD7にすべての対象を屠殺し、獣医学神経病理科学者が脳を試験した。出血/安全性およびすべての他の機能的分析のために、閉塞部位の出血(処置の人為的結果)をともなわない動物のみを含めた。
【0081】
組織学により、LG3処置(再灌流時に6 mg/kgの動脈内投与)を、手術に関連しない出血の発生を排除するためにリン酸緩衝生理食塩水処置対応動物との比較で、観察した。PBSビヒクル処置対象の29.6%と比較して、LG3で処置されたいずれのオスまたはメス対象においても(外科的閉塞部位以外の)出血は観察されなかった(p=0.048)。この観察は、急性出血および脳外傷が起こり得る状態においてLG3が有意な治療(救命)的利益を発揮し得るという見解をさらに支持している。
【0082】
本願で開示され特許請求される組成物および方法はすべて、本開示に照らして過度の実験を行うことなく製造および実施することができる。本開示の組成物および方法は好ましい態様の観点で記載されているが、本開示の技術思想、精神および範囲から逸脱することなく本明細書に記載される組成物および方法に対してならびに方法の工程または工程の順番においてバリエーションが適用され得ることが当業者に明らかであろう。より具体的には、本明細書に記載される薬剤が、同一または同様の結果を達成しながら、化学的および生理学的の両面で関連する特定の薬剤で置き換えられ得ることが明らかであろう。当業者に明らかなすべてのそのような同様の置換および改変は、添付の特許請求の範囲により定義される本開示の精神、範囲および技術思想の範囲内であるとみなされる。
図1
図2
図3
【配列表】
2023535931000001.app
【国際調査報告】