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特表2023-535993新型コロナ肺炎による肺障害の修復薬の製造における間葉系幹細胞の応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-22
(54)【発明の名称】新型コロナ肺炎による肺障害の修復薬の製造における間葉系幹細胞の応用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20230815BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P11/00
A61P31/12
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507295
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 CN2021109807
(87)【国際公開番号】W WO2022022707
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】202010747824.0
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523033567
【氏名又は名称】中国人民解放▲軍▼▲總▼医院第五医学中心
(71)【出願人】
【識別番号】523033578
【氏名又は名称】中源▲協▼和▲細▼胞基因工程股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】王 福生
(72)【発明者】
【氏名】石 磊
(72)【発明者】
【氏名】徐 若男
(72)【発明者】
【氏名】苑 ▲シン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 宇
(72)【発明者】
【氏名】姚 惟▲チ▼
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087BB64
4C087MA23
4C087MA66
4C087NA14
(57)【要約】
本願は、新型コロナ肺炎による肺障害の修復薬の製造における間葉系幹細胞の応用を提供する。本願では、間葉系幹細胞がウイルス性肺炎、特に新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染による重症肺炎対象の肺損傷の修復に優れた効果を示し、対象の固形肺病変の体積を著しく減少させて肺組織を修復することを臨床試験により初めて証明し、6分間歩行テストにより被験者の心肺機能、有酸素能力を著しく修復することを証明し、被験者の心肺機能や有酸素運動能力を著しく向上させることが確認されており、抗ウイルス剤治療後の後遺症を効果的に軽減し、被験者の健康や普段の生活を改善することができる。また、間葉系幹細胞は安全性が高く、明らかな副作用は発見されていない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺障害の修復薬の製造における間葉系幹細胞の応用であって、前記肺障害は肺機能障害及び/又は肺組織障害を含む、応用。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞は、対象の呼吸器感染症による肺障害に応用される、請求項1に記載の応用。
【請求項3】
前記肺障害は、肺線維症を含む、請求項1に記載の応用。
【請求項4】
前記呼吸器感染症は、ウイルス性肺炎、細菌性肺炎または真菌性感染症を含む、請求項3に記載の応用。
【請求項5】
前記ウイルス性肺炎は、コロナウイルスSARS-CoV-2、SARS-CovまたはMERS-Covのいずれか1つ以上の感染によって引き起こされる重態又は重篤な肺炎である、請求項4に記載の応用。
【請求項6】
前記間葉系幹細胞は、骨髄組織、脂肪組織、筋肉組織、生育組織、皮膚組織、骨組織、及び歯組織のいずれか1つ以上の人体組織から得られ、又は人の細胞が分離または誘導されることにより製造され、生育組織は、経血、羊膜、羊水、または臍帯組織を含む、請求項1または請求項5に記載の応用。
【請求項7】
前記間葉系幹細胞は、均質な組成物または間葉系幹細胞を含む混合細胞集団である、請求項1に記載の応用。
【請求項8】
前記肺障害の修復薬は、95質量%より多い、好ましくは約98質量%より多い間葉系幹細胞を含有する、請求項1に記載の応用。
【請求項9】
前記肺障害の修復薬は、注射用製剤である、請求項1に記載の応用。
【請求項10】
前記肺障害の修復薬は前記間葉系幹細胞の生理食塩水懸濁液であり、前記懸濁液中の細胞の濃度は、0.5~5.0×10個/mLである、請求項9に記載の応用。
【請求項11】
肺障害を修復するための治療方法であって、前記治療方法は間葉系幹細胞を肺障害の対象へ投与することを含む、治療方法。
【請求項12】
前記対象は、肺機能障害及び/又は肺組織障害を有する哺乳類である、請求項11に記載の治療方法。
【請求項13】
前記肺機能障害及び/又は肺組織障害は、呼吸器感染症による肺障害を含む、請求項12に記載の治療方法。
【請求項14】
前記肺障害は、肺線維症を含む、請求項12に記載の治療方法。
【請求項15】
前記呼吸器感染症は、ウイルス性肺炎、細菌性肺炎または真菌性感染症を含む、請求項13に記載の治療方法。
【請求項16】
前記ウイルス性肺炎は、コロナウイルスSARS-CoV-2、SARS-CovまたはMERS-Covのいずれか1つ以上の感染によって引き起こされる重態又は重篤な肺炎である、請求項15に記載の治療方法。
【請求項17】
前記間葉系幹細胞は、骨髄組織、脂肪組織、筋肉組織、生育組織、皮膚組織、骨組織、及び歯組織のいずれか1つ以上の人体組織から得られ、又は人の細胞が分離または誘導されることにより製造され、生育組織は、経血、羊膜、羊水、または臍帯組織を含む、請求項11に記載の治療方法。
【請求項18】
前記間葉系幹細胞は、均質な組成物または間葉系幹細胞を含む混合細胞集団である、請求項17に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物医学の技術分野に属し、間葉系幹細胞の応用、特に肺障害の修復薬の製造における間葉系幹細胞の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症COVID-19(Corona Virus Disease 2019)の主な症状は、呼吸困難と肺障害になる。COVID-19は、サイトカインと免疫介在性の過剰炎症が持続し、重度な呼吸器疾患を引き起こすことが特徴で、死亡率が2~5%に達す。COVID-19の重症患者は、複数の炎症細胞が放出されることにより、炎症性サイトカインが引き起こされやすく、肺の微小血管透過性の上昇と肺水腫が引き起こされ、その結果、急性肺障害が引き起こされる。同時に、COVID-19の重症患者はSARS-CoV-2ウイルス感染により、滲出性肺病変が引き起こされ、肺線維症に発展する。
【0003】
人の間葉系幹細胞は、骨髄、臍帯、脂肪などの哺乳類組織に存在する異種幹細胞であり、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞など様々な多能性幹細胞に分化することができる。間葉系幹細胞は、ケモカインとサイトカイン受容体を大量に表現し、局所組織の炎症に対抗できることが知られている。ケモカインとサイトカインは、炎症過程で放出され、炎症反応を開始させる。これらの同じシグナル伝達分子は、MSCがMSCの表面にあるCXCR4受容体によって、炎症部位を探すことを促進することができる。さらに、MSCは、シグナル伝達により樹状細胞を抗炎症性T細胞反応にターゲティングすることで、あるいはナチュラルキラー細胞の機能を阻害することで、自然免疫反応を制御することができる。また、MSCは、活性化されたCD4+T細胞と直接相互作用して適応免疫反応に影響を与えることにより免疫調節作用を発揮する。そのため、間葉系幹細胞は、抗炎症または免疫療法に使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウイルス性肺炎の重症例に対し、対症療法により炎症因子を抑制しても、肺機能低下や間質性肺病変などの症状が長く続き、普段の生活に重大な影響を与える。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は肺障害の修復薬の製造における間葉系幹細胞の応用を提供しており、該肺障害は肺機能障害及び/又は肺組織障害を含む。
【0006】
本願は肺機能障害を修復するための治療方法を提供しており、該治療方法は間葉系幹細胞を対象へ投与することを含む。
【0007】
本願はさらに肺線維症を治療または修復する方法を提供しており、該方法は間葉系幹細胞を対象へ投与することを含む。
【0008】
本願によれば、前記肺組織障害は、あらゆる原因による肺の画像での固形病変またはすりガラス病変を含む。
【0009】
本願によれば、前記肺機能障害は、呼吸困難(RR≧30回/分)、安静な状態で指酸素飽和度≦93%、動脈血酸素分圧(PaO)/酸素摂取濃度(FiO)≦300mmHgの少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願の発明者は、間葉系幹細胞が、特に肺機能障害や肺組織障害などの、ウイルス感染によって引き起こされる肺障害の修復に応用できることを見出した。本願では、間葉系幹細胞がウイルス性肺炎、特に新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染による重症肺炎の被験者の肺損傷の修復に優れた効果を示し、被験者の固形肺病変の体積を著しく減少させて肺組織を修復することを臨床試験により初めて証明し、6分間歩行の実験により被験者の心肺機能、有酸素能力を著しく修復することを証明し、被験者の心肺機能や有酸素運動能力を著しく向上させることが確認されており、抗ウイルス剤治療後の後遺症を効果的に軽減し、被験者の健康や普段の生活を改善することができる。また、間葉系幹細胞は安全性が高く、明らかな副作用は発見されていない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下では、図面を参照して本願の具体的な実施形態に対して説明することで、本願の技術的方案及び他の有益な効果が明らかになる。
図1】被験者の6分間歩行距離に関するデータの分布ヒストグラムである。
図2】被験者の6分間歩行距離に関するデータの分布の箱ひげ図、縦軸単位:メートルである。
図3】被験者の全肺容積に占める全病巣容積の比率の相対的変化値に関するデータの分布ヒストグラムである。
図4】被験者の全肺容積に占める全病巣容積の比率の相対的変化値に関するデータの分布の箱ひげ図である。
図5】全肺容積に占める固形病変の総容積の比率の相対的変化値に関するデータの分布ヒストグラムである。
図6】全肺容積に占める固形病変の総容積の比率の相対的変化値に関するデータの分布の箱ひげ図である。
図7】全肺容積に占めるすりガラス病変の総容積の比率の相対的変化値に関するデータの分布ヒストグラムである。
図8】全肺容積に占めるすりガラス病変の総容積の比率の相対的変化値に関するデータの分布の箱ひげ図である。
図9】人の臍帯の間葉系幹細胞(UC-MSCs)のCOVID-19の重症患者に対する修復効果を示すための図である。aはベースラインから28日目までの全肺容積に占める総病巣の容積比率(%)と全肺容積に占める固形病変の容積比率(%)の変化の群間での中央値差を示すものとし、bはベースラインから28日目までの全肺容積に占める総病巣の容積比率(%)と全肺容積に占める固形病変の容積比率(%)の変化に関する箱ひげ図であり、Q1は第1の四分位数、Q3は第3の四分位数、Iバーが最小値と最大値、cはベースラインから28日目までの全肺容積に占める総病巣の容積比率(%)と全肺容積に占める固形病変の容積比率(%)の平均絶対変化、Iバーが標準誤差を示すものとする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願の実施例における図面を参照して、本願の実施例における技術的方案をより明確で完全に説明する。明らかなことは、説明された実施例はすべでの実施例ではなく、ただ本願の一部の実施例に過ぎない。当業者が創造的な努力をしない前提下で、本願の実施例により得られた他のすべての実施例は共に本願の保護範囲に属する。
【0013】
本願によれば、前記間葉系幹細胞は、特に被験者の呼吸器感染症による肺障害に応用される。前記呼吸器感染症は、ウイルス性肺炎、細菌性肺炎または真菌性感染症を含む。一実施形態において、前記ウイルス性肺炎は、コロナウイルスSARS-CoV-2、SARS-CovまたはMERS-Covのいずれか1つ以上の感染によって引き起こされる重態又は重篤な肺炎である。好ましい実施形態において、前記間葉系幹細胞は、特にコロナウイルスSARS-CoV-2感染による肺障害を修復するのに有効である。
【0014】
本願によれば、前記間葉系幹細胞は、多能性幹細胞(即ち、亜細胞型に分化可能な細胞)であり、様々な細胞型に分化することが可能な細胞である。前記間葉系幹細胞は、骨髄組織、脂肪組織、筋肉組織、生育組織(経血、羊膜、羊水、臍帯組織等)、皮膚組織、骨組織、歯組織などの人体組織を含む種々な組織から得られるが、これらに制限されない。また、前記間葉系幹細胞は、生殖細胞、胚細胞、成体細胞などの様々な他の種類の人の細胞が分離または誘導されることにより得られることも可能である。前記間葉系幹細胞は、当技術分野で公知の技術である間葉系幹細胞の分離、精製及び培養拡大の技術を用いて得ることができる。前記間葉系幹細胞は、自己同源、同種異体または異種源などから得られてもよい。
【0015】
本願によれば、前記間葉系幹細胞は、均質な組成物であってもよいし、MSC(Mesenchymal Stem Cells, MSC)を含むまたは富む混合細胞集団であってもよい。適切なMSCは、臍帯組織から得ることができる。いくつかの実施形態において、間葉系幹細胞の組成物は、臍帯ウォートンゼリーを適切な培地の中で壁に貼って培養することによって得られる。MSCは、特定の細胞表面のマーカーによって識別される。
【0016】
本願によれば、前記肺障害の修復薬は注射剤であり、様々な投与方法で対象に投与することが可能である。いくつかの実施形態において、間葉系幹細胞は全身投与、例えば静脈内、動脈内、局所などによって投与する。
【0017】
投与する間葉系幹細胞の量は、対象の年齢、体重と性別、肺障害の重症度など、さまざまな要因に左右される。当該分野の資格のある医者は、対象の状況に応じて治療上の有効な量を決定することができ、例えば、1×10細胞/kg体重~1×10細胞/kg体重の量で投与する。
【0018】
本願によれば、前記肺障害の修復薬は、間葉系幹細胞と薬学的に許容される薬物担体を含む。例えば、前記間葉系幹細胞は、静脈内注射または局所投与可能な液体分散剤またはゲルに分散された細胞懸濁液の形態である。一実施形態において、前記液体分散剤は生理食塩水であり、前記肺障害の修復薬は、間葉系幹細胞の生理食塩水懸濁液である。前記間葉系幹細胞の前記生理食塩水懸濁液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び/又は人の血清アルブミンなどの他の許容される成分を含んでいてもよい。
【0019】
一実施形態において、前記間葉系幹細胞の生理食塩水懸濁液中の細胞の濃度は、0.5~5.0×10個/mL、好ましくは4×10個/mLである。
【0020】
本願によれば、前記肺障害の修復薬は、95質量%より多い、好ましくは約98質量%より多い間葉系幹細胞を含有する。
【0021】
本願に言及される「対象」、「被験者」、「患者」とは、いずれも本願の明細書に記載の薬物組成物の投与によって治療できる障害を患っている、または発症する傾向がある生体のことであり、非限定的な例としては、人、非人の霊長類、または他の哺乳類などが挙げられる。例えば、本願の対象としては、成人および乳幼児、小児などが挙げられ、その他の温血哺乳動物としては、チンパンジー、他の類人猿またはサル、及び他の動物園の動物、家畜哺乳動物または実験室動物、例えば猫、豚、犬、牛、羊、マウス、ラット、モルモットなどの非人の霊長類が挙げられ、これらに制限されない。好ましくは、本願の「対象」は人である。
【0022】
本願に言及される「修復」とは、組織または臓器の機能障害が生じ、その状態が正常者の平均値以下である場合に、対象に対して行われる医学的処置により、その障害の悪化を防止または停止し、その障害の程度をできる限り軽減または緩和して、生じた障害を健康状態に転換させることである。一実施形態において、肺障害の修復は、肺病変組織の減少及び/又は心肺機能の改善を含み、安静時及び/又は運動時の呼吸困難の緩和、酸素化指数の増加、肺の固形病変の容積の減少、及び有酸素運動能力の向上などが挙げられ、これらに制限されない。本願の実施形態において、主に肺の画像で得られた肺の固形病変の体積により肺組織の修復の有効性を評価し、6分間歩行距離により肺の呼吸機能の改善効果を評価する。
【0023】
本願に記載された重態又は重篤な肺炎は、当技術分野で既知の肺炎の分類基準によって決定される。いくつかの実施形態において、成人の患者は、以下の基準のいずれかに該当する場合、重症患者として分類される:(1)息切れが出現し、RR≧30回/分であること;(2)安静な状態で指酸素飽和度≦93%であること;(3)動脈血酸素分圧(PaO)/酸素摂取濃度(FiO)≦300mmHgであること;(4)肺の画像で24~48時間の中に病変発展>50%が表現されること。乳幼児または小児の患者は、以下の基準のいずれかに該当する場合、重症患者として分類される:(1)発熱と泣きの影響を除く、息切れが出現すること(<2ヵ月の場合に、RR≧60回/分;2~12ヵ月の場合に、RR≧55回/分;1~5オの場合に、RR≧40回/分;>5オの場合に、RR≧30回/分);(2)安静な状態で酸素飽和度≦92%であること;(3)呼吸補助(うめき声、鼻鳴らし、吸気性呼吸困難)、チアノーゼ、間欠的無呼吸であること;(4)眠気、けいれんが出現すること;(5)脱水症状を伴う摂食拒否または摂食障害が出現すること。いくつかの実施形態において、以下のいずれかに該当する場合、重篤な患者として分類される:(1)呼吸不全が出現し、また機械での呼吸補助を必要とすること;(2)ショックが出現すること;(3)ICUでの状態管理を必要とする他の臓器不全の併発であること。
【0024】
以下、具体的な実施例に基づいて本願についてさらに説明するが、本願は以下の実施例に制限されない。後述の方法は特に説明がない場合に、通常の方法である。後述の材料は特に説明がない場合に、公開手段で得られる。
【0025】
実験方案:
本実験は、検証を重ね、倫理審査、規制当局への登録(NCT04288102)を経て実施されたものである。退院後の対象を訪問することを行う。本実験は、プラセボ対照群を含むランダム化二重盲検臨床試験である。本実験は、被験者または被験者の法的代理人から書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0026】
被験者: 新型コロナウイルス感染症COVID-19の重態又は重篤な患者であり、肺画像で肺線維症の程度が評価される。
【0027】
被験者は、鼻咽頭スワブRT-PCRによりCOVID-19ウイルスの核酸を検出し、血清特異的IgM抗体、IgG抗体の検出、および肺画像CTの検出と組み合わせて診断された。
【0028】
被験者の症状および生理学的指標は、次のいずれかの条件を満たす: 1)呼吸困難であること(RR≧30回/分);2)安静な状態で指酸素飽和度≦93%であること;3)動脈血酸素分圧(PaO)/酸素摂取濃度(FiO)≦300mmHgであること;4)肺の画像で24~48時間の中に病変発展>50%が表現され、且つ胸部X線断層撮影画像で肺炎と間質性肺障害が確認されたこと。
【0029】
実験群と対照群の対象の基本情報と基線特徴を表1に示す。
【表1】
【0030】
間葉系幹細胞の提供元: Zhongyuan Union Cell&gene Engineering Corp.,Ltd.。MSCは、保護者の同意を得て満期産の新生児の臍帯から採取されたもの(UC-MSC)である。臍帯を75%のエタノールに10秒間浸した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄して血管を除去し、PBSに5分間浸すことを3回繰り返す。UC-MSCの分離と培養は、無菌条件下の層流フードの中で行う。臍帯を1~2cmの塊状に切り、臍帯組織を露出させる。次に、ウォートンゼリー (WJ)組織を臍帯組織から2mmの片状に切り、組織培養フラスコ(75フラスコ cm)に逆さまに置き、当該培養フラスコを4mLのDMEM/F12培地で培養し、ウシ胎児血清(10%FBS,BI,イスラエル)を加えて37°C、5%COの条件下で4時間放置する。そして、フラスコを逆さまにして正しい向きに戻し、10mLの培地を加える。60~80%のコンフルエンシーが達成されるまで、4~5日ごとに培地を徹底的に更新することを行う。培養した8~10日後に、組織外の植体を取り出す。接着した細胞を1×TrypLE(GIBCO,USA)で剥がし、さらに増殖させるために1cmあたり6~8×10個細胞の密度で再設置する。コア細胞バンクと作業細胞バンクを最高レベルに設定し、本研究のすべての実験において、これらの培養細胞の均一な集団を5世代(P5)で使用する。収穫された細胞は、ISCT13によって推奨される最小基準に従って特徴付けられ、膜形成の能力を備えた線維芽細胞様の形態を示し、CD19、CD34、CD11b、CD45、CD73、CD105、CD90、HLA-DRなどの細胞表面マーカーは、従来の研究に基づいてフローサイトメトリー(BD,FACS Calibur,USA)で分析される。
【0031】
UC-MSC製品はほぼ無色の懸濁液であり、1袋あたり4.0×10個のMSCを含み、100mL/袋の容量である。プラセボはパッケージの外観が同じである。
【0032】
薬投与方案:
実験群の薬投与量は治療量が4.0×10(1袋)/回とし、無作為割付後、0日目、3日目、6日目に各被験者に3回ずつ投与する。対照群には、同じ用量のプラセボを投与する。各被験者のUC-MSCまたはプラセボの注入総量は100mLであり、注入は孔径170μmの標準的な血液フィルターチューブから開始される。心電図の監視下で、薬物は重力の作用下で静脈注射され、総注射時間は60分以上である。
【0033】
被験者は、入群した後の10日目と28日目に胸部CT検査を受ける。
【0034】
6分間歩行テスト(6MWT)は、主に中等度、重度の心肺疾患患者の治療介入の有効性を評価し、患者の機能状態を測定するために使用され、臨床試験における重要な観察指標の1つとして使用でき、患者の生存の予測因子の1つである。本研究では、治療群と対照群との間に心機能の有意差は認められなかったため、本研究では6MWTは両群間の肺機能の差を評価する指標として適用される。
【0035】
全肺容積に占める病巣容積の比率は肺組織の修復を評価するために適用される。全病巣容積は固形病変とすりガラス病変を含み、その定量は肺の画像検査によって決定される。本実施例では、肺CTによって肺病変の画像データを取り、肺撮影ソフトウェアと放射線科医師の分析による集中画像解析を通じて定量し、画像データはソフトウェアでのサポートによる肺活量測定と光学密度測定法から得られる。
【0036】
実施例1
本願の実施例1では、表1の被験者からランダムに選択された臍帯の間葉系幹細胞(UC-MSC)グループ(実験群)の30名とプラセボグループ(対照群)の15名が含まれ、それらの基線特徴は表1の範囲内にあり、2つのグループの被験者は基線特徴についてバランスが取れており、比較可能である。
【0037】
主な結果分析である基線(10日目)から28日目まで、全肺容積における病変の割合(%)の変化は、正常性の仮定が満たされる場合に、UC-MSCとプラセボグループとの間の差はt検定でテストする。それ以外の場合に、Mann-Whitneyでテストする。
【0038】
1. 正規分布検定と分散均一性検定
実験結果に対して正規分布検定と分散均一性検定を行い、結果をそれぞれ表2と表3に示す。
【0039】
表2と表3によると、実験群の6分間歩行距離のデータは正規分布に従わなく(p<0.05)、対照群の全肺容積に占める固形病変の総容積の比率の相対的変化値に関するデータの分布は正規分布に従わない(p<0.05)ため、6分間歩行距離及び全肺容積に占める固形病変の総容積の比率の相対的変化値の群間差を比較する場合に、Wilcoxonの順位和検定を用いた。全肺容積に占める全病巣容積の比率の相対変化値及び全肺容積に占めるすりガラス病変の総容積の比率の相対変化値の群間差を比較する場合には、t検定を用いた。
【表2】
【表3】
【0040】
2. 実験群と対照群のマッチング分析
年齢、最高体温、発症から入院までの日数、性別、心疾患の既往歴、高血圧の既往歴、糖尿病の既往歴、慢性閉塞性肺疾患の既往歴、及び発熱、疲労、から咳などの症状については、実験群と対照群との間の違いに統計的に有意差がなく(p>0.05)、2つのグループの被験者は基線特徴についてバランスが取れており、比較可能である(表1を参照)。
【0041】
6分間歩行距離と全病巣容積などの重要な指標に関する実験群と対照群の比較を表4に示す。
【表4】
【0042】
表4と図3~4を合わせると、全肺容積に占める全病巣容積の比率の相対的変化値について、実験群の回復度が対照群の回復度より優れ、且つ、結果は統計的に有意である(-33.14 vs 1.72,p=<0.004<0.05)。図5図6によると、全肺容積に占める固形病変の総容積の比率の相対的変化値について、実験群の回復度が対照群の回復度より優れ、且つ、結果は統計的に有意である(-76.59 vs 29.30,p<0.001)。図7図8は、実験群と対照群における患者のすりガラス病変の変化状況を示す。基線の10日目から28日目まで、プラセボ(ITT)と比較すると、UC-MSCsを投与された被験者の肺病変の比率(%)の変化は、プラセボを投与された被験者と比較して数値的に改善される。図3図8によると、本実験では、UC-MSCは基線から28日目までの間質性肺病変を有する重症患者集団において全肺容積に占める固形病変の比率(%)の変化を著しく改善することが明らかになる。間質性肺障害(肺線維症)は、数百種類の非腫瘍性肺疾患から構成されており、その臨床症状、形態、傾向は様々で、間質性肺障害はCOVID-19の重度患者によく見られる症状であり、重度のCOVID-19による間質性肺障害は対象の回復後の生活の質に重大な影響を与える。MSCs群の残存病変はプラセボ群の残存病変より著しく低く、これはMSCsの潜在的な肺線維化効果を反映したものであり、間質性肺障害を有効に修復することができる。実験群と対照群は、6分間歩行距離(単位:メートル)について統計的に有意差はないが、図1図2によると、実験群における対象は6分間歩行距離が対照群より著しく優れ、彼らの肺機能の回復は良好である。
【0043】
実施例2
肺線維症修復治療における間葉系幹細胞の有効性をさらに実証するため、本実施例では、modified-ITT(modified intention-to treat, mITT)分析集団に対して統計解析を行う。mITTは、実験群の65名、対照群の35名とし、そのうち、実際にper protocol解析(PP)を満たす対象集団となったのは実験群の49名、対照群の25名である。
【0044】
すべては前述のような治療方案を採用する。本臨床実験の主な終点と副次終点の違いを評価するため、放射線科医師の評価と肺撮影スマートソフトウェアに基づき、高解像度CT画像の変化を分析および評価して病変状況を測定する。Hodges-Lehmann Estimationにより、全肺容積に占める全病巣容積の総比率と全肺容積に占める固形病変の総容積の総比率を推定し、その結果を図9と表5に示す。
【表5】
28日目のVCmax(L)は、実験群の53例と対照群の31例から取得される。
28日目のDLco(L)は、実験群の53例と対照群の27例から取得される。
酸素療法の実施期間におけるデータは、実験群の29例と対照群の11例から取得される。
28日間の安静時に指の脈拍の酸素飽和度のデータは、実験群の61例と対照群の35例から取得される。
mMRC呼吸困難の評価は、実験群の61例と対照群の35例から取得される。
【0045】
表5と図9の結果によると、基線から28日目まで、実験群における全肺容積に占める病巣容積の総比率の偏差の中央値が-19.40%であり(95%CI,-53.40%,-2.62%)、対照群は-7.30%(95%CI,-46.59%,19.12%)であるため、2群間の偏差は-13.31%(95%CI,-29.14%,2.13%,P=0.080)である。一方、全肺容積に占める固形病変の容積の総比率を対象として、実験群の中央値が-57.70%であり(95%CI,-74.95%,-36.56%)、対照群は-44.45%(95%CI,-62.24%,-8.82%)であるため、2群間の偏差は-15.45%(95%CI,-30.82%,-0.39%,P=0.043)である。また、実験群でのすりガラス病変が減少することがさらに見られた。それによって、実験群では肺障害と病変容積が著しく減少し、対照群より優れた効果を有する。実験群の28日目の6分間歩行距離は対照群より長いため、実験群は対照群より肺機能の回復が優れる。
【0046】
なお、実験期間中の有害事象の発生率は、実験群で55.38%、対照群で60%、大体一致である。実験群でよく発生する有害事象は乳酸脱水素酵素の増加を含み、その発生率は、実験群で13.85%、対照群で20%;血清アラニンアミノトランスフェラーゼの増加の発生率は、実験群で10.77%、対照群で11.43%;低カリウム血症の増加の発生率は、実験群で9.23%、対照群で2.86%;アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの増加の発生率は、実験群で7.69%、対照群で11.43%;高尿酸血症の発生率は、実験群で7.69%、対照群で8.75%である。実験群で3レベルの有害事象(気胸)が発生したのは1例のみで、保存的療法で回復した。観察期間中の有害事象は、間葉系幹細胞の投与に関連するものではない。本実験では死亡した患者なし。そのため、本願により提供された間葉系幹細胞を用いた肺障害修復の方案は良好な安全性を有する。
【0047】
上記のとおり、本願は間葉系幹細胞を用いて肺障害を修復する応用を提供する。本願によれば、新型コロナウイルスによって引き起こされた肺障害を著しく修復することができ、良好な安全性を有する。
【0048】
以上、本願の実施形態について詳細に説明したが、本願は上記の実施形態に限られない。本願の思想と原則下でなされた修正、均等な代替、改良などはいずれも本願の保護範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】