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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-22
(54)【発明の名称】ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20230815BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230815BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230815BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230815BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/12
C12N5/10
A61P13/12
A61P37/06
A61K35/76
A61K35/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523681
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 GB2021051668
(87)【国際公開番号】W WO2022003357
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】2010009.5
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】518147817
【氏名又は名称】シンコナ インヴェストメント マネージメント リミティッド
(71)【出願人】
【識別番号】300002942
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ブリストル
(71)【出願人】
【識別番号】523001049
【氏名又は名称】ピュアスプリング セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリフィス,アラン ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】スタンチュク,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】クズムク,ヴァレリア
(72)【発明者】
【氏名】ホロウウッド,クリス
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】サレーム-ウッディン,モイン アーソン
(72)【発明者】
【氏名】ウェルシュ,ギャビン イアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZB08
(57)【要約】
本発明は、補体タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むウイルスベクターであって、該ヌクレオチド配列が足細胞特異的プロモーターに機能しうる形で連結されており、かつ/または該ウイルスベクターが足細胞に特異的に形質導入する能力を有する、該ウイルスベクターを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補体系の阻害因子をコードするヌクレオチド配列を含むウイルスベクターであって、該ヌクレオチド配列が足細胞特異的プロモーターに機能しうる形で連結されている、該ウイルスベクター。
【請求項2】
前記ウイルスベクターが足細胞に特異的に形質導入する能力を有する、請求項1記載のウイルスベクター。
【請求項3】
補体系の阻害因子をコードするヌクレオチド配列を含むウイルスベクターであって、該ウイルスベクターが足細胞に特異的に形質導入する能力を有し、場合によっては該ヌクレオチド配列が足細胞特異的プロモーターに機能しうる形で連結されている、該ウイルスベクター。
【請求項4】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはレンチウイルスベクターである、請求項1~3のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項5】
前記ウイルスベクターがAAVベクターである、請求項1~4のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項6】
前記ウイルスベクターがAAVベクター粒子である、請求項1~5のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項7】
前記AAVベクター粒子がAAV3Bキャプシドタンパク質、LK03キャプシドタンパク質、またはAAV9キャプシドタンパク質を含む、請求項6記載のウイルスベクター。
【請求項8】
前記AAVベクター粒子がAAV3Bキャプシドタンパク質を含む、請求項6または請求項7記載のウイルスベクター。
【請求項9】
前記AAVベクター粒子が、配列番号1~3のうちの1つ以上、またはその断片もしくは誘導体に対して少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも96%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性、または100%の配列同一性を示すキャプシドタンパク質を含む、請求項6~8のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項10】
前記AAVベクター粒子が、配列番号1、またはその断片もしくは誘導体に対して少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも96%の配列同一性、少なくとも97%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性、または100%の配列同一性を示すキャプシドタンパク質を含む、請求項6~9のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項11】
前記AAVベクター粒子が、配列番号1、またはその断片もしくは誘導体を含むかあるいは配列番号1、またはその断片もしくは誘導体から構成されるキャプシドタンパク質を含む、請求項6~10のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項12】
前記足細胞特異的プロモーターが、NPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、FOXC2プロモーター、ABCA9プロモーター、ACPPプロモーター、ACTN4プロモーター、ADMプロモーター、ANGPTL2プロモーター、ANXA1プロモーター、ASB15プロモーター、ATP8B1プロモーター、B3GALT2プロモーター、BB014433プロモーター、BMP7プロモーター、C1QTNF1プロモーター、CAR13プロモーター、CD2APプロモーター、CD55プロモーター、CD59Aプロモーター、CD59Bプロモーター、CDC14Aプロモーター、CDH3プロモーター、CDKN1Bプロモーター、CDKN1Cプロモーター、CEP85Lプロモーター、CLIC3プロモーター、CLIC5プロモーター、COL4A1プロモーター、COL4A2プロモーター、COL4A3プロモーター、COL4A4プロモーター、COL4A5プロモーター、COLEC12プロモーター、CRIM1プロモーター、CST12プロモーター、DEGS1プロモーター、DOCK4プロモーター、DOCK5プロモーター、EGFプロモーター、ENPEPプロモーター、EPHX1プロモーター、FAM81Aプロモーター、FAT1プロモーター、FGFBP1プロモーター、FOXD1プロモーター、FRYLプロモーター、GABRB1プロモーター、GALCプロモーター、GM10554プロモーター、H2-D1プロモーター、H2-Q7プロモーター、H2BC4プロモーター、H3C15プロモーター、HS3ST3A1プロモーター、HTRA1プロモーター、IFNGR1プロモーター、IL18プロモーター、ILDR2プロモーター、ITGB5プロモーター、ITGB8プロモーター、KIRRELプロモーター、LAMA1プロモーター、LAMA5プロモーター、LAMB1プロモーター、LAMB2プロモーター、LMX1Bプロモーター、MAFBプロモーター、MAGI2プロモーター、MELAプロモーター、MERTKプロモーター、MGAT4Aプロモーター、MYO1Dプロモーター、MYO1Eプロモーター、MYOM2プロモーター、MYZAPプロモーター、NEBLプロモーター、NESプロモーター、NOD1プロモーター、NPR3プロモーター、NR2F2プロモーター、NUPR1プロモーター、OPTNプロモーター、P3H2プロモーター、PAK1プロモーター、PARD3Bプロモーター、PDPNプロモーター、PLATプロモーター、PLCE1プロモーター、PLSCR2プロモーター、PODXLプロモーター、PROS1プロモーター、PTPROプロモーター、RAB3Bプロモーター、RDH1プロモーター、RDH9プロモーター、SDC4プロモーター、SEMA3Eプロモーター、SERPINB6Bプロモーター、SH3BGRL2プロモーター、SLC41A2プロモーター、SLCO2A1プロモーター、ST3GAL6プロモーター、SYNPOプロモーター、TDRD5プロモーター、THSD7Aプロモーター、TIMP3プロモーター、TJP1プロモーター、TLR7プロモーター、TM4SF1プロモーター、TMEM108プロモーター、TMEM54プロモーター、TMTC1プロモーター、TOP1MTプロモーター、TRAV10プロモーター、TRAV10Nプロモーター、TRAV5-4プロモーター、TSHBプロモーター、UACAプロモーター、UBA1Yプロモーター、UPRTプロモーター、VEGFAプロモーター、VTCN1プロモーター、ZBTB20プロモーター、および5730407I07RIKプロモーター、またはその断片もしくは誘導体から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項13】
前記足細胞特異的プロモーターが、NPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、FOXC2プロモーター、ACTN4プロモーター、BMP7プロモーター、CD2APプロモーター、CDH3プロモーター、CDKN1Bプロモーター、CDKN1Cプロモーター、COL4A1プロモーター、COL4A2プロモーター、COL4A3プロモーター、COL4A4プロモーター、COL4A5プロモーター、CRIM1プロモーター、FAT1プロモーター、FOXD1プロモーター、KIRRELプロモーター、LAMA1プロモーター、LAMA5プロモーター、LAMB1プロモーター、LAMB2プロモーター、LMX1Bプロモーター、MAFBプロモーター、NESプロモーター、NR2F2プロモーター、PODXLプロモーター、PTPROプロモーター、SYNPOプロモーター、TJP1プロモーター、およびVEGFAプロモーター、またはその断片もしくは誘導体から選択される、請求項1~12のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項14】
前記足細胞特異的プロモーターがNPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、もしくはFOXC2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である、請求項1~13のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項15】
前記足細胞特異的プロモーターがNPHS1もしくはNPHS2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である、請求項1~14のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項16】
前記足細胞特異的プロモーターが最小NPHS1プロモーターもしくは最小NPHS2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である、請求項1~15のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項17】
前記足細胞特異的プロモーターが、配列番号4または配列番号5と少なくとも70%の配列同一性、少なくとも80%の配列同一性、少なくとも85%の配列同一性、少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性、または100%の配列同一性を有する、請求項1~16のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項18】
前記足細胞特異的プロモーターが配列番号27のヌクレオチド配列から構成される、請求項1~16のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項19】
前記補体系の前記阻害因子が、CFI、CFH、FHL-1、C1INH、C4BP、CD55、CD35、CD46、CD59、ビトロネクチン、およびクラステリン、またはその断片もしくは誘導体からなるリストより選択される、請求項1~18のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項20】
前記補体系の前記阻害因子がCFI、CFH、もしくはFHL-1、またはその断片もしくは誘導体である、請求項1~19のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項21】
前記補体系の前記阻害因子が、配列番号11、配列番号13、または配列番号15と少なくとも70%の配列同一性、少なくとも80%の配列同一性、少なくとも85%の配列同一性、少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性、または100%の配列同一性を有する、請求項1~20のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項22】
前記補体系の前記阻害因子が、配列番号11、配列番号13、または配列番号15のポリペプチドを含むかまたは該ポリペプチドから構成される、請求項1~21のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項23】
前記補体系の阻害因子をコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号12、配列番号14、または配列番号16と少なくとも70%の配列同一性、少なくとも80%の配列同一性、少なくとも85%の配列同一性、少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、少なくとも99%の配列同一性、または100%の配列同一性を有する、請求項1~22のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項24】
前記補体系の阻害因子をコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号12、配列番号14、または配列番号16のヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される、請求項1~23のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項25】
前記補体系の阻害因子をコードする前記ヌクレオチド配列がウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)に機能しうる形で連結されている、請求項1~24のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項26】
前記補体系の阻害因子をコードする前記ヌクレオチド配列がポリアデニル化シグナルに機能しうる形で連結されている、請求項1~25のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項27】
前記補体系の阻害因子をコードする前記ヌクレオチド配列がコザック配列に機能しうる形で連結されている、請求項1~26のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか1項に記載のウイルスベクターを含む、単離された細胞。
【請求項29】
請求項1~27のいずれか1項に記載のウイルスベクターまたは請求項28記載の単離された細胞を、製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項30】
薬剤としての使用のための、請求項1~27のいずれか1項に記載のウイルスベクター、請求項28記載の単離された細胞、または請求項29記載の医薬組成物。
【請求項31】
薬剤の製造のための、請求項1~27のいずれか1項に記載のウイルスベクター、請求項28記載の単離された細胞、または請求項29記載の医薬組成物の使用。
【請求項32】
請求項1~27のいずれか1項に記載のウイルスベクター、請求項28記載の単離された細胞、または請求項29記載の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項33】
補体介在性腎疾患の予防または処置における使用のための、請求項1~27のいずれか1項に記載のウイルスベクター、請求項28記載の単離された細胞、または請求項29記載の医薬組成物。
【請求項34】
補体介在性腎疾患を予防または処置するための薬剤の製造のための、請求項1~27のいずれか1項に記載のウイルスベクター、請求項28記載の単離された細胞、または請求項29記載の医薬組成物の使用。
【請求項35】
請求項1~27のいずれか1項に記載のウイルスベクター、請求項28記載の単離された細胞、または請求項29記載の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、補体介在性腎疾患を予防または処置する方法。
【請求項36】
前記補体介在性腎疾患がIgA腎症、C3腎症、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、stx関連HUS、ループス腎炎、クリオグロブリン血症、抗GBM病、ANCA関連血管炎、細菌性心内膜炎、感染後糸球体腎炎、腎移植の抗体関連型拒絶反応、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎I型、または膜性増殖性糸球体腎炎III型である、請求項33記載の使用のためのウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物、請求項34記載のウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物の使用、または請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記補体介在性腎疾患がIgA腎症またはC3腎症であり、好ましくは該C3腎症がデンスデポジット病またはC3腎炎である、請求項33もしくは請求項36記載の使用のためのウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物、請求項34もしくは請求項36記載のウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物の使用、または請求項35もしくは請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記ウイルスベクター、前記の単離された細胞、または前記医薬組成物をヒト対象に投与する、請求項33、36、37のいずれか1項に記載の使用のためのウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物、請求項34、36、37のいずれか1項に記載のウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物の使用、または請求項35~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記ウイルスベクター、前記の単離された細胞、または前記医薬組成物を全身的に、および/または静脈内注射により投与する、請求項33、36~38のいずれか1項に記載の使用のためのウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物、請求項34、36~38のいずれか1項に記載のウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物の使用、または請求項35~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記ウイルスベクター、前記の単離された細胞、または前記医薬組成物を腎動脈への注射により、または尿管注入もしくは被膜下注射により投与する、請求項33、36~39のいずれか1項に記載の使用のためのウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物、請求項34、36~39のいずれか1項に記載のウイルスベクター、単離された細胞、もしくは医薬組成物の使用、または請求項35~39のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体介在性腎疾患の処置における使用のためのベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、補体カスケードの慢性的で制御不能、かつ過剰な活性化による損傷を特に受けやすい。この感受性の理由は完全には解明されていないが、補体活性化因子に非細胞性(acellular)内皮下組織を絶えず曝露する窓の存在、補体調節因子のより低いベースライン発現、および/またはグリコカリックスの組成における差異に関連している可能性がある。
【0003】
C3Gは希少な補体介在性腎疾患であり、2つの重複する病態、デンスデポジット病(DDD)とC3腎炎(C3 glomerulonephritis)を含む。C3Gは初診時には他の糸球体腎炎と臨床的に区別できず、非可視的な血尿、タンパク尿、高血圧、ネフローゼ症候群および腎機能障害を呈する。従って診断は、糸球体への単独または優位なC3沈着に関する、腎生検での組織病理学的なものである。発病年齢の中央値は23歳であり、患者の50%は診断から10年後までに末期腎疾患を発症し、また腎移植での再発リスクは高い(Willows, J.,ら、2020. Clinical Medicine, 20(2), p.156)。
【0004】
補体の調節異常はIgA腎症(IgAN)とも関係がある。IgANは世界で最も多くみられる原発性糸球体腎炎である。IgANの診断は6~10年という平均余命の平均的短縮を伴い、また診断時に30歳を超えていたIgAN患者のおよそ40%が20年かけて末期腎疾患(ESRD)を発症する。
【0005】
しかしながら、補体阻害薬の開発は、循環中の補体タンパク質の濃度の高さ、および疾患状態における異常な補体が病状への応答なのか病状の駆動因子なのかという不確実性のために困難である。その上、全身性補体阻害薬の主な潜在的副作用は、封入された生物による感染であり、生命に関わる髄膜炎菌感染症の1,000倍の増加が認められた(Willows, J.,ら、2020. Clinical Medicine, 20(2), p.156)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Willows, J.,ら、2020. Clinical Medicine, 20(2), p.156
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、足細胞が補体介在性腎疾患において重要な役割を果たす場合があることを示した。例えば、本発明者らは、分泌された足細胞補体阻害因子(例えばCFH)が局所的な補体調節に寄与しうることを示した。本発明者らはまた、補体阻害因子が足細胞駆動型補体介在性疾患(例えばstx誘発性HUS)のマウスモデルにおいて疾患表現型を救済することを示した。
【0008】
従って、本発明者らは、足細胞を標的とする、C3腎症(C3 glomerulopathy)およびIgA腎症などの補体介在性腎疾患の処置における使用のためのウイルスベクターを開発した。
【0009】
本発明者らは、足細胞に特異的に形質導入する能力を有する足細胞特異的プロモーターおよび/またはウイルスベクターの使用を、足細胞に補体タンパク質の発現を標的化するために利用しうることを示した。例えば、本発明者らは、AAV-LK03ベクターがヒト足細胞において100%近くの高い形質導入を達成可能であり、かつ特異的に足細胞に形質導入するために使用可能であることを示した。
【0010】
ある態様では、本発明は、補体タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むウイルスベクターであって、該ヌクレオチド配列が足細胞特異的プロモーターに操作しうる形で連結されており、かつ/または該ウイルスベクターが足細胞に特異的に形質導入する能力を有する、該ウイルスベクターを提供する。
【0011】
前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはレンチウイルスベクターであってもよい。
【0012】
好ましくは、前記ウイルスベクターはAAVベクターである。該AAVベクターは、AAVベクター粒子であってもよい。幾つかの実施形態では、該AAVベクター粒子は、AAV3Bキャプシドタンパク質、LK03キャプシドタンパク質、またはAAV9キャプシドタンパク質を含む。好ましくは、該AAVベクター粒子はAAV3Bキャプシドタンパク質を含む。
【0013】
前記足細胞特異的プロモーターは、NPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、FOXC2プロモーター、ABCA9プロモーター、ACPPプロモーター、ACTN4プロモーター、ADMプロモーター、ANGPTL2プロモーター、ANXA1プロモーター、ASB15プロモーター、ATP8B1プロモーター、B3GALT2プロモーター、BB014433プロモーター、BMP7プロモーター、C1QTNF1プロモーター、CAR13プロモーター、CD2APプロモーター、CD55プロモーター、CD59Aプロモーター、CD59Bプロモーター、CDC14Aプロモーター、CDH3プロモーター、CDKN1Bプロモーター、CDKN1Cプロモーター、CEP85Lプロモーター、CLIC3プロモーター、CLIC5プロモーター、COL4A1プロモーター、COL4A2プロモーター、COL4A3プロモーター、COL4A4プロモーター、COL4A5プロモーター、COLEC12プロモーター、CRIM1プロモーター、CST12プロモーター、DEGS1プロモーター、DOCK4プロモーター、DOCK5プロモーター、EGFプロモーター、ENPEPプロモーター、EPHX1プロモーター、FAM81Aプロモーター、FAT1プロモーター、FGFBP1プロモーター、FOXD1プロモーター、FRYLプロモーター、GABRB1プロモーター、GALCプロモーター、GM10554プロモーター、H2-D1プロモーター、H2-Q7プロモーター、H2BC4プロモーター、H3C15プロモーター、HS3ST3A1プロモーター、HTRA1プロモーター、IFNGR1プロモーター、IL18プロモーター、ILDR2プロモーター、ITGB5プロモーター、ITGB8プロモーター、KIRRELプロモーター、LAMA1プロモーター、LAMA5プロモーター、LAMB1プロモーター、LAMB2プロモーター、LMX1Bプロモーター、MAFBプロモーター、MAGI2プロモーター、MELAプロモーター、MERTKプロモーター、MGAT4Aプロモーター、MYO1Dプロモーター、MYO1Eプロモーター、MYOM2プロモーター、MYZAPプロモーター、NEBLプロモーター、NESプロモーター、NOD1プロモーター、NPR3プロモーター、NR2F2プロモーター、NUPR1プロモーター、OPTNプロモーター、P3H2プロモーター、PAK1プロモーター、PARD3Bプロモーター、PDPNプロモーター、PLATプロモーター、PLCE1プロモーター、PLSCR2プロモーター、PODXLプロモーター、PROS1プロモーター、PTPROプロモーター、RAB3Bプロモーター、RDH1プロモーター、RDH9プロモーター、SDC4プロモーター、SEMA3Eプロモーター、SERPINB6Bプロモーター、SH3BGRL2プロモーター、SLC41A2プロモーター、SLCO2A1プロモーター、ST3GAL6プロモーター、SYNPOプロモーター、TDRD5プロモーター、THSD7Aプロモーター、TIMP3プロモーター、TJP1プロモーター、TLR7プロモーター、TM4SF1プロモーター、TMEM108プロモーター、TMEM54プロモーター、TMTC1プロモーター、TOP1MTプロモーター、TRAV10プロモーター、TRAV10Nプロモーター、TRAV5-4プロモーター、TSHBプロモーター、UACAプロモーター、UBA1Yプロモーター、UPRTプロモーター、VEGFAプロモーター、VTCN1プロモーター、ZBTB20プロモーター、および5730407I07RIKプロモーター、またはその断片もしくは誘導体から選択されるプロモーターであってもよい。好ましくは、該足細胞特異的プロモーターは、NPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、FOXC2プロモーター、ACTN4プロモーター、BMP7プロモーター、CD2APプロモーター、CDH3プロモーター、CDKN1Bプロモーター、CDKN1Cプロモーター、COL4A1プロモーター、COL4A2プロモーター、COL4A3プロモーター、COL4A4プロモーター、COL4A5プロモーター、CRIM1プロモーター、FAT1プロモーター、FOXD1プロモーター、KIRRELプロモーター、LAMA1プロモーター、LAMA5プロモーター、LAMB1プロモーター、LAMB2プロモーター、LMX1Bプロモーター、MAFBプロモーター、NESプロモーター、NR2F2プロモーター、PODXLプロモーター、PTPROプロモーター、SYNPOプロモーター、TJP1プロモーター、およびVEGFAプロモーター、またはその断片もしくは誘導体から選択される。より好ましくは、該足細胞特異的プロモーターは、NPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、もしくはFOXC2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である。最も好ましくは、該足細胞特異的プロモーターはNPHS1もしくはNPHS2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体、例えば最小NPHS1プロモーターもしくは最小NPHS2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である。
【0014】
前記補体タンパク質は、CFI、CFH、FHL-1、C1INH、C4BP、MASP2、C3、C5aR1、C5、C5a、CD55、CD35、CD46、CD59、ビトロネクチン、およびクラステリン、またはその断片もしくは誘導体からなるリストより選択してもよい。好ましくは、該補体タンパク質は補体系の阻害因子(インヒビター)である。該補体系の該阻害因子は、CFI、CFH、FHL-1、C1INH、C4BP、CD55、CD35、CD46、CD59、ビトロネクチン、およびクラステリン、またはその断片もしくは誘導体からなるリストより選択してもよい。好ましくは、該補体系の該阻害因子は、CFI、CFH、もしくはFHL-1、またはその断片もしくは誘導体である。
【0015】
前記の補体タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Woodchuck hepatitis post-transcriptional regulatory element)(WPRE)、ポリアデニル化シグナル、および/またはコザック配列に操作しうる形で連結されていてもよい。
【0016】
別の態様では、本発明は、本発明のウイルスベクターを含む単離された細胞を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、本発明のウイルスベクターまたは単離された細胞を、製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、薬剤としての使用のための、本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物を提供する。
【0019】
関連のある態様では、本発明は、薬剤の製造のための、本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物の使用を提供する。
【0020】
関連のある態様では、本発明は、本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0021】
別の態様では、本発明は、補体介在性腎疾患の予防または処置における使用のための、本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物を提供する。
【0022】
関連のある態様では、本発明は、補体介在性腎疾患を予防または処置するための薬剤の製造のための、本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物の使用を提供する。
【0023】
関連のある態様では、本発明は、本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、補体介在性腎疾患を予防または処置する方法を提供する。
【0024】
前記補体介在性腎疾患は、IgA腎症、C3腎症、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、stx関連HUS、ループス腎炎、クリオグロブリン血症、抗GBM病、ANCA関連血管炎、細菌性心内膜炎、感染後糸球体腎炎、腎移植の抗体関連型拒絶反応、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎I型、または膜性増殖性糸球体腎炎III型であってもよい。好ましくは、該補体介在性腎疾患はIgA腎症またはC3腎症であり、好ましくはここでC3腎症はデンスデポジット病またはC3腎炎である。
【0025】
本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物は、ヒト対象に投与してもよい。本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物は全身的に、および/または静脈内注射により投与してもよい。本発明のウイルスベクター、単離された細胞、または医薬組成物は、腎動脈への注射により、または尿管注入もしくは被膜下注射により投与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A-B】図1は、尾静脈注射により投与されたAAV2/9が、腎臓に形質導入しかつ足細胞においてHAタグ付きポドシンを発現することを示す図である。A)は、マウスまたはヒトポドシンまたはGFPを発現させるために使用したAAVベクターを示す図である。全てのベクターは、プロモーターと導入遺伝子の間のコザック配列、ならびにWPRE(ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント)およびウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルを含有していた。B)ベクターまたは生理食塩水を、8週齢のiPod NPHS2fl/flマウスに尾静脈経由で注射し、さらにドキシサイクリンによる誘導を10~14日後に開始した。
図1C図1は、尾静脈注射により投与されたAAV2/9が、腎臓に形質導入しかつ足細胞においてHAタグ付きポドシンを発現することを示す図である。C)は、前記ウイルスベクターを注射したマウスのマウス腎皮質におけるAAV ITRの存在を示すqPCRを示す図である。
図1D図1は、尾静脈注射により投与されたAAV2/9が、腎臓に形質導入しかつ足細胞においてHAタグ付きポドシンを発現することを示す図である。D)は、AAV2/9を注射したiPod NPHS2fl/flマウスにおけるHAタグ付きポドシンの発現を足細胞特異的タンパク質であるネフリンおよびポドシンと併せて示す代表的な免疫蛍光検査画像である。対照(生理食塩水)の画像は完全なiPod NPHS2fl/fl遺伝子型を注射していないマウスのものであり、そのためタンパク尿または糸球体病変を発症しなかったが、糸球体病変を呈するマウスは足細胞マーカーの欠損を示した。
図2A-B】図2は、足細胞特異的プロモーター下で野生型ポドシンを発現するAAV2/9尾静脈注射が、条件付きポドシンノックアウトマウスモデル(iPod NPHS2fl/fl)においてタンパク尿を改善することを示す図である。A)は、AAV2/9 mNPHS1.mpodとAAV2/9 hNPHS1.mpodと生理食塩水を注射したマウスの尿中アルブミン:クレアチニン比(各群n=9、**p<0.01 ***p<0.001)を示す図である。B)は、各実験群から得た1匹のマウスにおけるアルブミン尿の程度の代表的な画像を示すクマシー染色を示す図である。生理食塩水群は14日目以降にタンパク尿を示し、かつ多量のアルブミンを示したが、ベクター処理群はアルブミン尿のより遅い発症とより軽度のアルブミン尿を示した。
図2C-D】図2は、足細胞特異的プロモーター下で野生型ポドシンを発現するAAV2/9尾静脈注射が、条件付きポドシンノックアウトマウスモデル(iPod NPHS2fl/fl)においてタンパク尿を改善することを示す図である。C)は、AAV2/9 hNPHS1.mpodまたはAAV2/9 mNPHS1.mpodのいずれかを注射したマウスにおける、改善された生存を示す生存曲線(Log-rank(Mantel-Cox)検定 p=0.049、各ウイルス群はn=3であり、生理食塩水群はn=4である)を示す図である。D)50 ngの全DNA当たりのウイルスDNAのコピー数は、42日目に尿中アルブミン:クレアチニン比と逆相関を示す(Spearmanのr=-0.4596、p=0.0477)。
図2E図2は、足細胞特異的プロモーター下で野生型ポドシンを発現するAAV2/9尾静脈注射が、条件付きポドシンノックアウトマウスモデル(iPod NPHS2fl/fl)においてタンパク尿を改善することを示す図である。E)は、ドキシサイクリン後6週間の時点でのコレステロール、アルブミン、尿素、およびクレアチニンを含む血液結果(各群はn=最低3匹のマウス、ただしコレステロールは各群n=最低2匹とした)を示す図である。
図2F-G】図2は、足細胞特異的プロモーター下で野生型ポドシンを発現するAAV2/9尾静脈注射が、条件付きポドシンノックアウトマウスモデル(iPod NPHS2fl/fl)においてタンパク尿を改善することを示す図である。F)は、光学顕微鏡で各群から得た代表的な画像を示す組織像である。生理食塩水注射群は、FSGSと一致する、糸球体肥大、コラーゲン沈着の増加および分節性硬化、ならびに尿細管拡張を示した。マウスポドシンを発現するAAV2/9を注射したものは、死亡時点でそれらの尿中アルブミン:クレアチニン比と大まかな相関を示す様々な組織学的所見を呈した。一部のマウスは健常な糸球体を有していたが、他のマウスはAAV2/9 mNPHS1.mpodHAを注射したマウスに認められる偽半月体形成(矢印)のような疾患の軽度の証拠を示した。G)生理食塩水を注射したiPod NPHS2fl/flマウスはポドシンの欠損を示したが、ネフリン発現は主として膜様の染色からびまん性パターンへの変化を示した。
図3A-B】図3は、AAV LK03が最小ヒトネフリンプロモーターを用いるとin vitroでヒト足細胞の効率的な形質導入を示すことを示す図である。A, C, E)は、最小ネフリンプロモーターAAV LK03 hNPHS1 GFPを使用した場合に足細胞においてGFPの単独発現を示すAAV LK03 CMV GFPによるヒト足細胞(Pod)、糸球体内皮細胞(GEnC)および近位尿細管上皮細胞(PTEC)の形質導入を示す免疫蛍光検査を示す図である。B)は、AAV LK03を使用し最小ヒトネフリンプロモーターを使用した場合にのみ足細胞におけるGFP発現を示すウェスタンブロットを示す図である。
図3C-D】図3は、AAV LK03が最小ヒトネフリンプロモーターを用いるとin vitroでヒト足細胞の効率的な形質導入を示すことを示す図である。A, C, E)は、最小ネフリンプロモーターAAV LK03 hNPHS1 GFPを使用した場合に足細胞においてGFPの単独発現を示すAAV LK03 CMV GFPによるヒト足細胞(Pod)、糸球体内皮細胞(GEnC)および近位尿細管上皮細胞(PTEC)の形質導入を示す免疫蛍光検査を示す図である。D)は、AAV LK03 CMV GFPを使用した足細胞の極めて効率的な形質導入を示し、かつ該最小ネフリンプロモーターを使用したGFP発現が足細胞でのみ認められることを裏付けるフローサイトメトリーを示す図である。比較すると、AAV2/9 CMV GFPは足細胞において低い形質導入効率を示した(n=3)。
図3E図3は、AAV LK03が最小ヒトネフリンプロモーターを用いるとin vitroでヒト足細胞の効率的な形質導入を示すことを示す図である。A, C, E)は、最小ネフリンプロモーターAAV LK03 hNPHS1 GFPを使用した場合に足細胞においてGFPの単独発現を示すAAV LK03 CMV GFPによるヒト足細胞(Pod)、糸球体内皮細胞(GEnC)および近位尿細管上皮細胞(PTEC)の形質導入を示す免疫蛍光検査を示す図である。
図3F図3は、AAV LK03が最小ヒトネフリンプロモーターを用いるとin vitroでヒト足細胞の効率的な形質導入を示すことを示す図である。F)は、AAV LK03で形質導入した足細胞における蛍光強度の中央値を示す棒グラフ、ならびにAAV LK03 CMV GFPで形質導入した足細胞(右側のピーク)、AAV LK03 hNPHS1 GFPで形質導入した足細胞(中央のピーク)および非形質導入細胞(左側のピーク)における緑色蛍光の程度を示すヒストグラムを示す図である。
図4A-B】図4は、野生型ヒトポドシンを発現するAAV LK03が変異型ポドシンR138Q足細胞細胞系において機能的救済を示す図である。A)は、AAV LK03.CMV.hpodocinHAおよびAAV LK03.hNPHS1.hpodocinHAがR138Q足細胞に形質導入しかつHAタグ付きポドシンを発現することを示すウェスタンブロットを示す図である。B)は、変異型ポドシンR138Q足細胞におけるHAタグ付き野生型ポドシンの発現を示す免疫蛍光検査を示す図である。
図4C-E】図4は、野生型ヒトポドシンを発現するAAV LK03が変異型ポドシンR138Q足細胞細胞系において機能的救済を示す図である。C)は、変異型ポドシンR138Q足細胞における接着の低下を、AAV LK03.hNPHS1.hpodHA.WPRE.bGHで処理したR138Q足細胞における接着の救済と共に示す接着アッセイを示す図である。D)は、HAタグ付きポドシンが小胞体マーカーであるカルネキシンと共局在しないことを示す共焦点顕微鏡検査を示す図である。E)は、形質膜の100 nm内のHAタグ付きポドシンの発現を、脂質ラフトマーカーであるカベオリンとの若干の共局在と共に示すTIRF顕微鏡検査を示す図である。
図4F図4は、野生型ヒトポドシンを発現するAAV LK03が変異型ポドシンR138Q足細胞細胞系において機能的救済を示す図である。F)は、フローサイトメトリーにより測定した、in vitroでのヒト足細胞におけるGFP発現を示す図である。アッセイした構築物には以下、すなわち、ssAAV2/9 CMV.GFP.WPRE.bGH、ssAAV LK03 CMV.GFP.WPRE.bGH、ssAAV LK03 hNPHS1.GFP.WPRE.bGH、およびssAAV.LK03 hNPHS1.GFP.bGHが含まれていた。
図5図5は、AAV LK03で形質導入したヒト足細胞を示す図である。最小ヒトネフリンプロモーターを有するAAV LK03を使用してHAVDR(A)またはHASmad7(B)のいずれかを形質導入したヒト足細胞が示されている。
図6A-B】図6は、補体タンパク質C3およびCFHが非刺激ヒト足細胞(HPC)により発現および分泌されることを示す図である。(A)は、従来の逆転写酵素PCRにおける、-RT対照(-RT=RTを添加しないcDNAの対照、bp=塩基対)と比較したC3(320 bp)およびCFH(783 bp)に関するPCR産物の検出を示す図である。(B)C3およびCFHに関するタンパク質発現を、無血清培地(SFM)中24時間後の全細胞足細胞溶解物(HPC)および細胞培養上清からウェスタンブロットにより測定した。正常ヒト血清(NHS、1:1000)および組換えCFHまたはC3を陽性対照として使用し(rC3/rCFH、1:1000)、SFMを陰性対照として使用した。該CFH遺伝子は2つのタンパク質産物、すなわち、CFHおよびH因子様タンパク質1(FHL-1)を有する。いずれも本ウェスタンブロットにおいて、足細胞の細胞溶解物中、NHS中、またわずかながら細胞培養上清中で検出される(代表的なウェスタンブロット、n=4)。
図6C-E】図6は、補体タンパク質C3およびCFHが非刺激ヒト足細胞(HPC)により発現および分泌されることを示す図である。(C)C3のタンパク質発現および(D)CFHのタンパク質発現を、非透過処理培養足細胞の表面上での免疫蛍光検査でアイソタイプ陰性対照(Neg-Ctrl)(E)と比較して確認した(n=3、C3およびCFH=緑色、核=青色、スケールバー50μm、40x)。
図6F-G】図6は、補体タンパク質C3およびCFHが非刺激ヒト足細胞(HPC)により発現および分泌されることを示す図である。(F)~(J)は、従来の逆転写酵素PCRにおいて-RT対照(-RT=RTを添加しないcDNAの対照、bp=塩基対)と比較した、(F)C1q、C1r、C1s、(G)C2およびC4、(H)C5、(I)B因子、D因子、プロペルジン、ならびに(J)CD55、CD59、CD46のPCR産物の検出を示す図である。
図6H-J】図6は、補体タンパク質C3およびCFHが非刺激ヒト足細胞(HPC)により発現および分泌されることを示す図である。(F)~(J)は、従来の逆転写酵素PCRにおいて-RT対照(-RT=RTを添加しないcDNAの対照、bp=塩基対)と比較した、(F)C1q、C1r、C1s、(G)C2およびC4、(H)C5、(I)B因子、D因子、プロペルジン、ならびに(J)CD55、CD59、CD46のPCR産物の検出を示す図である。
図7A-B】図7は、C3およびCFHの産生および分泌が能動的(active)かつ誘導可能なプロセスであることを示す図である。(A)CFHを培養足細胞の表面から低用量のトリプシン(10μg/mL、3分)を使用して除去し、該細胞を次にSFM中で24時間インキュベートしてから、該細胞表面上のCFHの発現を免疫蛍光染色で測定した。画像は、トリプシンで処理する前(左)、処理の直後(中央)およびSFMでの24時間の回復後(右)の、CFHの検出(赤色)を示している(n=3、DAPI=青色、60x、スケールバー25μm)。(B~E)C3およびCFHの発現および分泌は、インターフェロンγ(IFNg)により増強された。(B)は、SFM(白いバー)、IFNg 1 ng/mL(グレーのバー)およびIFNg 10 ng/mL(黒いバー)と共に6時間インキュベートしたヒト足細胞におけるC3およびCFHのmRNA発現(SFMでの発現と比較した場合、p<0.05、**p<0.001)を示す図である。(B)、(D)および(E)では、Mann WhitneyのU検定、n=5回の独立した実験を行った。
図7C-E】図7は、C3およびCFHの産生および分泌が能動的(active)かつ誘導可能なプロセスであることを示す図である。(B~E)C3およびCFHの発現および分泌は、インターフェロンγ(IFNg)により増強された。(C)は、SFM、IFNg 1 ng/mLまたはIFNg 10 ng/mL中0~36時間インキュベートした足細胞から得た上清のC3(上)およびCFH(下)に対するウェスタンブロットを示す図である。SFM、IFNg 1および10 ng/mL中0(白いバー)、12(ライトグレーのバー)、24(ダークグレー)および36(黒いバー)時間インキュベートした足細胞からのC3(D)およびCFH(E)の分泌に対するウェスタンブロットの定量分析(SFM使用時の分泌と比較した場合p<0.05および***p<0.001、IFNg 1 ng/mL使用時のインキュベーションと比較した場合p<0.05および##p<0.01)を示す図である。データは平均値およびSDで示す。(B)、(D)および(E)では、Mann WhitneyのU検定、n=5回の独立した実験を行った。
図8-1】図8は、補体因子C3およびCFHの発現が培養足細胞と糸球体内皮細胞とで異なることを示す図である。条件的不死化ヒト足細胞(HPC)およびヒト糸球体内皮細胞(CiGenC)を、それらのmRNAレベルおよびタンパク質レベルでのC3およびCFHの発現ならびに両タンパク質の分泌について比較した。(A)はHPC(白いバー)およびCiGenC(黒いバー)におけるC3/18SのmRNA発現を示す図であり、また(B)はHPC(白いバー)およびCiGenC(黒いバー)におけるCFH/18SのmRNA発現を示す図である(n=12)。データ(相対的発現)は、(A+B)、(D+E)および(G+H)において平均値およびSD、**p<0.01、***p<0.001、Mann WhitneyのU検定で示す。
図8-2】図8は、補体因子C3およびCFHの発現が培養足細胞と糸球体内皮細胞とで異なることを示す図である。条件的不死化ヒト足細胞(HPC)およびヒト糸球体内皮細胞(CiGenC)を、それらのmRNAレベルおよびタンパク質レベルでのC3およびCFHの発現ならびに両タンパク質の分泌について比較した。C3およびCFHのタンパク質発現を全細胞溶解物のウェスタンブロット(C)で解析した。細胞培養上清へのC3およびCFHの分泌を同様の数の播種細胞において試験し、さらにウェスタンブロット(F)で解析した。組換えC3およびCFHを(C)および(F)における陽性対照(Pos-Ctrl)として使用した。
図8-3】図8は、補体因子C3およびCFHの発現が培養足細胞と糸球体内皮細胞とで異なることを示す図である。条件的不死化ヒト足細胞(HPC)およびヒト糸球体内皮細胞(CiGenC)を、それらのmRNAレベルおよびタンパク質レベルでのC3およびCFHの発現ならびに両タンパク質の分泌について比較した。β(b)-アクチンの発現に対して正規化した、HPC(白いバー)およびCiGenC(黒いバー)におけるC3(D)およびCFH(E)のデンシトメトリー(n=6)が示されている。HPC-上清(白いバー)およびCiGenC-上清(黒いバー)からのC3(G)およびCFH(H)のウェスタンブロットデンシトメトリー(n=6)が示されている。データ(相対的発現)は、(A+B)、(D+E)および(G+H)において平均値およびSD、**p<0.01、***p<0.001、Mann WhitneyのU検定で示す。
図9図9は、足細胞から分泌されたCFHが機能的に活性であることを示す図である。(A)は、正常ヒト足細胞(Ctrl)およびaHUS患者の足細胞上のC5b-9に対するウェスタンブロットを示す図である。(B)補体活性化後、aHUS足細胞(黒いバー)は対照細胞(白いバー)と比較してC5b-9沈着物の増加を示した(アクチンと関連付けたC5b-9の相対的沈着、***p<0.001、Mann WhitneyのU検定、n=4回の独立した実験)。
図10図10は、Gb3合成酵素KOマウスは志賀毒素(10 ng/g)を注射した場合にHUS表現型を発症しないことを示す図である。(A)は、10 ng/gの志賀毒素を注射したマウスの生存率を示す図である。点線=WTマウス、実線=Gb3合成酵素KOマウスである。(B)は、10 ng/gの志賀毒素を注射したマウスから得た組織学的試料を示す図である。WTマウスは、尿細管浮腫(oedematous tubules)および空胞形成を伴う急性尿細管壊死の明らかな証拠を示した。Gb3合成酵素KOマウス(A4GALT KOマウス)は尿細管または糸球体の形態に変化を示さなかった。
図11図11は、Gb3合成酵素KOマウスは志賀毒素(100 ng/g)を注射した場合にHUS表現型を発症しないことを示す図である。(A)は、100 ng/gの志賀毒素を注射したマウスの生存率を示す図である。実線=Gb3合成酵素KOマウスである。(B)は、100 ng/gの志賀毒素を注射したマウスから得た組織学的試料を示す図である。Gb3合成酵素KOマウス(A4GALT KOマウス)は尿細管または糸球体の形態に変化を示さなかった。
図12図12は、STEC-HUSのマウスモデルおよび補体阻害因子による救済を示す図である。Gb3 KOマウスを、足細胞Gb3発現マウス(Pod rtTA TetOGb3合成酵素マウス)と交配させることにより、Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウス(Pod rtTA TetOGb3 Gb3nullマウス)を作製した。次に、これらのマウスに志賀毒素(Stx)を注射した。HUS症状(例えば、糸球体血栓性微小血管症(glomerular thrombic microangiopathy))の発現後、マウスにBB5.1(C5阻害因子)を注射したところ、HUS表現型を救済した。
図13A-C】図13は、Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスは志賀毒素をIP投与した場合にHUS表現型を発現することを示す図である。Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスに志賀毒素(10 ng/g)を注射し、HUS表現型、すなわち、(A)血小板数(10日目)、(B)ヘモグロビンレベル(10日目)、(C)血漿尿素濃度(12~16日にプール)、(D)血液塗抹標本の解析(10日目、x40)、(E)フィブリノーゲンレベル(N=3、30個の糸球体/マウス)を測定した。
図13D図13は、Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスは志賀毒素をIP投与した場合にHUS表現型を発現することを示す図である。Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスに志賀毒素(10 ng/g)を注射し、HUS表現型、すなわち、(A)血小板数(10日目)、(B)ヘモグロビンレベル(10日目)、(C)血漿尿素濃度(12~16日にプール)、(D)血液塗抹標本の解析(10日目、x40)、(E)フィブリノーゲンレベル(N=3、30個の糸球体/マウス)を測定した。
図13E図13は、Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスは志賀毒素をIP投与した場合にHUS表現型を発現することを示す図である。Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスに志賀毒素(10 ng/g)を注射し、HUS表現型、すなわち、(A)血小板数(10日目)、(B)ヘモグロビンレベル(10日目)、(C)血漿尿素濃度(12~16日にプール)、(D)血液塗抹標本の解析(10日目、x40)、(E)フィブリノーゲンレベル(N=3、30個の糸球体/マウス)を測定した。
図14-1】図14は、HUS表現型の補体阻害因子による救済を示す図である。Gb3ヌルバックグラウンド足細胞Gb3発現マウスに志賀毒素(10 ng/g)を注射した。(A)は、足細胞におけるC3b(緑色)およびネフリン(赤色)の蛍光オーバーレイを示す図である。
図14-2】図14は、HUS表現型の補体阻害因子による救済を示す図である。Gb3ヌルバックグラウンド足細胞Gb3発現マウスに志賀毒素(10 ng/g)を注射した。(B)は、C3bの蛍光(N=3、30個の糸球体/マウス)を示す図である。
図14-3】図14は、HUS表現型の補体阻害因子による救済を示す図である。Gb3ヌルバックグラウンド足細胞Gb3発現マウスに志賀毒素(10 ng/g)を注射した。その後、Pod rtTA TetOGb3 Gb3nullマウスに志賀毒素を0日目に注射し、さらに7日目に該マウスに生理食塩水、またはBB5.1(C5阻害因子)を注射して、HUS表現型、すなわち(C)血小板数、(D)ヘモグロビンレベルを測定した。
図15図15は、補体阻害因子をコードする例示的な足細胞標的化AAVを示す図である。足細胞に形質導入しかつ該足細胞からの補体阻害因子の発現および分泌を誘導する能力を有する例示的AAV構築物が示されている。該AAV構築物は、足細胞に効果的に形質導入するために、AAV3B、LK03、またはAAV9血清型を用いてパッケージングされていてもよい。
図16A図16は、ベクターの作製を示す図である。(A)は、265 bp最小ネフリンプロモーター(hNPHS1)の制御下でCFHをコードする例示的プラスミドを示す図である。
図16B図16は、ベクターの作製を示す図である。(B)は、全長(FL、1249bp)最小ネフリンプロモーター(hNPHS1)の制御下でCFIをコードする例示的プラスミドを示す図である。
図16C図16は、ベクターの作製を示す図である。(C)は、全長(FL、1249bp)最小ネフリンプロモーター(hNPHS1)の制御下でFHL-1をコードする例示的プラスミドを示す図である。
図16D図16は、ベクターの作製を示す図である。(D)は、無傷のウイルスが超遠心分離後に同定されたことを示すアルカリゲル電気泳動を示す図である。
図17図17は、HEK細胞におけるCFH、CFIおよびCFHL1の発現を示す図である。293Tヒト胎児腎臓細胞におけるウェスタンブロットによるタンパク質発現解析が示されている。細胞はpAAV-265-CFH、pAAV-FL-CFIまたはpAAV-FL-CFHL1でトランスフェクトした。NT(非トランスフェクト293T HEK細胞)。前記導入遺伝子の各々の発現を、タンパク質特異的抗体または抗FLAGタグ抗体または抗MYCタグ抗体を使用して細胞溶解物および/または培地において実証した。
図18A-B】図18は、AAV2/9 265-CFHまたはCFHをコードするプラスミドによるH因子変異足細胞(「ヒト病早期(ED)足細胞」)の形質導入を示す図である。(A)ELISAアッセイを使用したヒトH因子濃度の解析。CFH導入遺伝子を含有するAAV2/9ウイルスを用いて形質導入した足細胞は、培養培地において非形質導入対照より高い濃度のヒトH因子を示した。(B)は、(A)から得た平均ヒトH因子濃度を示す図である。
図18C図18は、AAV2/9 265-CFHまたはCFHをコードするプラスミドによるH因子変異足細胞(「ヒト病早期(ED)足細胞」)の形質導入を示す図である。(C)は、ELISAアッセイを使用したヒトH因子濃度の解析を示す図である。265 bp最小ネフリンプロモーターの制御下でCFH導入遺伝子を発現するプラスミドを用いてトランスフェクトした足細胞は、非トランスフェクト対照より高い濃度のヒトH因子を示した。
図19図19は、ヒトCFHを用いた糸球体内皮細胞に対する補体阻害アッセイを示す図である。細胞ELISA法を利用したヒト糸球体内皮細胞(GEnC)上のC5b9の検出が示されている。補体第二経路の特異的活性化を可能にするために、細胞を10%ヒトH因子枯渇血清、ザイモサンおよびMg/EGTAと共にインキュベートした。正常ヒト血清から精製した様々な濃度(0.1 ug/mL~100 ug/mL)のH因子をこの細胞培養物に添加することで、GEnCの表面の補体経路を阻害した。陰性対照はヒト血清不含対照であり、かつ陽性対照はこの反応のH因子以外の全成分を有する。
図20図20は、293T HEK細胞における補体活性化アッセイの阻害を示す図である。(A)293T HEK非トランスフェクト(NT)対照細胞およびCMVプロモーターの制御下でCFHを発現するプラスミドでトランスフェクトした細胞から得た培地を、ELISAを利用して可溶性CFHの存在について解析した。トランスフェクト細胞から得た培地は、非トランスフェクト対照から得た培地と比較してH因子の濃度の増加を示した。(B)293T HEK非トランスフェクト(NT)対照細胞から得た培地とCFH発現細胞から得た培地を、GEnC細胞ELISA法により、第二補体経路を阻害するその能力について試験した。該CFH発現細胞から採取した培地は、5 ug/mLの精製H因子と同程度まで補体活性化アッセイを阻害することが可能であった。該非トランスフェクト対照細胞から得た培地は、該補体活性化アッセイの阻害を示さなかった。エラーバーは、±s.d.を意味する。スチューデントt検定を利用した統計解析、p<0.05である。
図21A-C】図21は、WTマウスの腎臓におけるCFHの発現を示す図である。生理食塩水対照を注射したマウスと比較した、pAAV.NPHS1(265).hCFH.WPRE.bGHを注射した野生型マウスにおける(A)ウイルスITR、(B)ヒトCFH cDNA、および(C)ウイルス粒子の増加を示す遺伝子発現プロフィールが示されている。
図21D図21は、WTマウスの腎臓におけるCFHの発現を示す図である。(D)は、生理食塩水対照(m1)またはAAV遺伝子治療製品(pAAV.NPHS1(265).hCFH.WPRE.bGH、n=3)(m2/m3/m4)を注射した野生型C57BL6マウスから得た腎臓切片の免疫蛍光イメージングを示す図である。ネフリン=赤色、CFH=緑色である。矢印はマウス糸球体へのネフリンおよびCFHの共局在化を示している。ズーム=20xである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
本発明の種々の好適な特徴および実施形態を、非限定的な例として以下に記載する。
【0028】
本明細書中および添付の特許請求の範囲内で使用する場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈において別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意すべきである。
【0029】
本明細書中で使用する用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「構成される(comprised of)」は、場合、「含む(including)」、「含む(includes)」または「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、また包括的または非限定的(open-ended)であって、追加の、記載されていないメンバー、要素または方法ステップを除外するものではない。該用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「構成される(comprised of)」には、「からなる/から構成される(consisting of)」という用語も含まれる。
【0030】
本明細書中で考察した刊行物は、本願の出願日に先立つその開示のためだけに提供される。本明細書中のいずれも、かかる刊行物が本明細書に添付した特許請求の範囲に対する先行技術を構成することの承認と解釈すべきではない。
【0031】
本開示は本明細書中に開示した例示的な方法および材料により制限されるものではなく、また本明細書中に記載したそれらのものと類似または等価の方法および材料はいずれも、本開示の実施形態の実践または検討に使用することができる。数値範囲は、該範囲を定義する数値を含む。他に指示しない限り、それぞれ、全ての核酸配列は左から右へ5'から3'方向に記載し、アミノ酸配列は左から右へアミノ末端からカルボキシ末端方向に記載する。
【0032】
糸球体および足細胞の遺伝子治療
糸球体は腎臓の濾過ユニットである。およそ180リットルの血漿が毎日濾過され、また健常な糸球体濾過障壁は、アルブミンを含む巨大タンパク質の約99.9%を我々の生涯にわたり閉塞することなく保持する、驚くべき能力を有する。輸入細動脈は糸球体毛細血管床に入り込み、そこで濾過が生じ、血液は輸出細動脈経由で糸球体を出る。該糸球体濾過障壁(GFB)は3つの主要な層、すなわち、糸球体内皮細胞、糸球体基底膜(GBM)および足細胞を含む。
【0033】
前記GFBの第三層である前記足細胞は、該GFBの維持において重要な役割を果たす。該足細胞は非常に特殊化した細胞であり、細胞体、一次突起、二次突起および足突起(隣接する足細胞の足突起と嵌合してスリット膜を形成する)で構成される。足細胞は効果的かつ動的なふるいを形成しており、これは主に該スリット膜の統合性によるものと考えられる。
【0034】
糸球体を標的とする遺伝子治療は困難である。例えば、レンチウイルスは尿細管に形質導入するには有用であるかもしれないが、これまで糸球体のin vivo形質導入は一切示されていない。その上、腎動脈または尿管経由の逆行性送達のいずれかを経てアデノウイルスを送達するための初期の試みは大概、尿細管または間質の形質導入となるようであった。AAV2を利用した齧歯動物の腎臓に関する初期研究は、大抵は尿細管の形質導入と糸球体の無発現を示した。
【0035】
ベクター
ある態様では、本発明は、足細胞に標的化され、かつ補体介在性腎疾患、例えばC3腎症およびIgA腎症の処置における使用に適したベクターを提供する。
【0036】
好ましくは、本発明のベクターはウイルスベクターである。本発明のベクターは好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであるが、他のウイルスベクターを使用しうると考えられる。
【0037】
本発明のベクターは、ウイルスベクター粒子の形態であってもよい。好ましくは、本発明のウイルスベクターは、AAVベクター粒子の形態である。
【0038】
ウイルスベクターおよびウイルスベクター粒子、例えばAAVに由来するものを調製および改変する方法は、当分野で周知である。適切な方法は、Ayuso, E.,ら、2010. Current gene therapy, 10(6), pp.423-436, Merten, O.W.,ら、2016. Molecular Therapy-Methods & Clinical Development, 3, p.16017、ならびにNadeau, I.およびKamen, A., 2003. Biotechnology advances, 20(7-8), pp.475-489に記載されている。
【0039】
本発明のベクターは、好ましくは足細胞に形質導入する能力を有する。好ましくは、本発明のベクターは、足細胞に特異的に形質導入する能力を有する。
【0040】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
本発明のベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであってもよい。本発明のベクターは、AAVベクター粒子の形態であってもよい。
【0041】
AAVゲノム
前記AAVベクターまたはAAVベクター粒子は、AAVゲノムまたはその断片もしくは誘導体を含んでいてもよい。
【0042】
AAVゲノムはポリヌクレオチド配列であり、該配列はAAV粒子の産生に必要とされる機能をコードしていてもよい。これらの機能としては、AAV粒子への該AAVゲノムのキャプシド形成を含む、宿主細胞におけるAAVの複製およびパッケージング周期において働く機能が挙げられる。天然に存在するAAVは複製欠損性であり、また複製およびパッケージング周期の完了をトランスでのヘルパー機能の供給に依存している。従って、本発明のAAVベクターのAAVゲノムは、典型的には複製欠損性である。
【0043】
前記AAVゲノムはプラスもしくはマイナス鎖のいずれかの一本鎖形態であってもよいし、またはその代わりに二本鎖形態であってもよい。二本鎖形態の使用により、標的細胞でのDNA複製ステップの回避が可能となり、そのため導入遺伝子の発現を加速することができる。
【0044】
天然に存在するAAVは、様々な生物学的系に従って分類しうる。前記AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、分離株またはクレードからのものであってもよい。
【0045】
AAVは、その血清型の観点から言及しうる。血清型はAAVのバリアント亜種に相当し、該バリアント亜種は、そのキャプシド表面抗原の発現のプロフィールのために、他のバリアント亜種と区別するために利用できる特徴的な反応性を有する。典型的には、特定のAAV血清型を有するAAVベクター粒子は、任意の他のAAV血清型に特異的な中和抗体と効率的に交差反応することはない。AAV血清型には、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAV11が含まれる。本発明のAAVベクターは、AAV3B、LK03、AAV9、またはAAV8血清型であってもよい。
【0046】
AAVは、クレードまたはクローンの観点からも言及しうる。これは天然由来のAAVの系統関係、および典型的には、共通の祖先まで遡ることが可能でありかつその全ての子孫を含むAAVの系統群を指す。さらに、AAVは、特定の分離株、すなわち自然界に見出される特定のAAVの遺伝的分離株の観点からも言及しうる。遺伝的分離株という用語は、他の天然に存在するAAVとの限定的な遺伝的混合を経たAAVの集団を表しており、従って遺伝子レベルで認識できるほど異なる集団を定義するものである。
【0047】
典型的には、AAVの天然由来の血清型、分離株またはクレードのAAVゲノムは、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)を含む。ITR配列はcisで作用することにより機能的な複製起点を提供し、かつ細胞のゲノムからのベクターの組込みおよび切除を可能にする。ITRは、治療遺伝子の隣にcisで必要とされる唯一の配列でありうる。適切には、1つ以上のITR配列を、補体タンパク質(例えば補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に隣接させる。
【0048】
前記AAVゲノムは同様に、パッケージング遺伝子、例えばAAV粒子のためのパッケージング機能をコードするrepおよび/またはcap遺伝子を含んでいてもよい。プロモーターが該パッケージング遺伝子の各々に操作しうる形で連結されていてもよい。かかるプロモーターの具体例としては、p5、p19およびp40プロモーターが挙げられる。例えば、該p5およびp19プロモーターは一般に該rep遺伝子を発現させるために使用され、該p40プロモーターは一般に該cap遺伝子を発現させるために使用される。該rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52およびRep40またはそのバリアントのうちの1つ以上をコードする。該cap遺伝子は、1つ以上のキャプシドタンパク質、例えばVP1、VP2およびVP3またはそのバリアントをコードする。これらのタンパク質は、前記AAV血清型を決定する、AAV粒子のキャプシドを構成している。VP1、VP2、およびVP3は選択的mRNAスプライシングにより産生されうる(Trempe, J.P. およびCarter, B.J., 1988. Journal of virology, 62(9), pp.3356-3363)。従って、VP1、VP2およびVP3は同一配列を有する場合があるが、その際VP2はVP1と比較してN末端でトランケートされており、またVP3はVP2と比較してN末端でトランケートされている。
【0049】
前記AAVゲノムは、天然に存在するAAVの全ゲノムであってもよい。例えば、全AAVゲノムを含むベクターを使用することにより、AAVベクターまたはベクター粒子を調製してもよい。
【0050】
好ましくは、前記AAVゲノムは、患者への投与を目的として誘導体化されている。かかる誘導体化は当分野では標準的であり、また本発明は、AAVゲノムの任意の公知誘導体、および当分野で公知の技術を応用することにより作製しうる誘導体の使用を包含する。該AAVゲノムは任意の天然に存在するAAVの誘導体であってもよい。適切には、該AAVゲノムは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11の誘導体である。適切には、該AAVゲノムはAAV2の誘導体である。
【0051】
AAVゲノムの誘導体としては、in vivoで本発明のAAVベクターからの導入遺伝子の発現を可能にする、任意のトランケート型または改変型のAAVゲノムが挙げられる。典型的には、最小ウイルス配列を含むが上記機能は保持するように該AAVゲノムを大幅にトランケートすることが可能である。これは、該ベクターの野生型ウイルスとの組換えのリスクを低減し、さらに標的細胞中のウイルス遺伝子タンパク質の存在による細胞性免疫応答の誘発を回避する、安全上の理由から好ましい。
【0052】
典型的には、誘導体は、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)、好ましくは2つ以上のITR、例えば2つのITRまたはそれ以上を含むこととなるであろう。該ITRのうちの1つ以上が、異なる血清型を有するAAVゲノムに由来していてもよいし、またはキメラもしくは変異ITRであってもよい。好適な変異ITRは、trs(末端分離部位(terminal resolution site))の欠失を有するものである。この欠失により該ゲノムの連続複製を可能にすることで、コード配列および相補配列を共に含有する一本鎖ゲノム、すなわち自己相補的AAVゲノムを作製する。これにより、標的細胞におけるDNA複製の回避が可能となり、そのため導入遺伝子の発現を加速させることができる。
【0053】
前記AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、分離株もしくはクレードからの1つ以上のITR配列またはそのバリアントを含んでいてもよい。該AAVゲノムは、少なくとも1つ、例えば2つの、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、もしくはAAV11のITR、またはそのバリアントを含んでいてもよい。適切には、該AAVゲノムは、少なくとも1つ、例えば2つの、AAV2 ITRを含んでいてもよい。
【0054】
前記の1つ以上のITRは、好ましくは、補体タンパク質(例えば補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に両端で隣接する。1つ以上のITRを含めることは、例えば宿主細胞のDNAポリメラーゼの作用による一本鎖ベクターDNAの二本鎖DNAへの変換後に、宿主細胞の核における前記AAVベクターのコンカテマー形成を補助するために好ましい。かかるエピソームコンカテマーの形成は、該宿主細胞の寿命期間中は該AAVベクターを保護し、それによりin vivoでの導入遺伝子の長期発現を可能にする。
【0055】
適切には、前記AAVゲノムは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に隣接する1つ以上のAAV2 ITR配列を含んでいてもよい。適切には、該AAVゲノムは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列の両側に隣接する2つのAAV2 ITR配列を含んでいてもよい。
【0056】
適切には、ITRエレメントのみが、誘導体において天然AAVゲノムから保持されている配列ということになるであろう。誘導体は、好ましくは、該天然ゲノムのrepおよび/またはcap遺伝子ならびに該天然ゲノムの任意の他の配列を含まないこととなるであろう。これは、上記の理由から、また宿主細胞ゲノム中にベクターが組み込まれる可能性を低下させるためにも、好ましい。さらに、AAVゲノムのサイズを縮小することで、ベクター内に導入遺伝子だけでなく他の配列要素(例えば、調節エレメント)を組み入れる際の柔軟性を高めることができる。
【0057】
従って、本発明の誘導体では次の部分、すなわち、1つの逆方向末端反復(ITR)配列、複製(rep)およびキャプシド(cap)遺伝子を除去しうる。しかしながら、誘導体は、1つ以上のrepおよび/もしくはcap遺伝子またはAAVゲノムの他のウイルス配列をさらに含んでいてもよい。天然に存在するAAVはヒト第19染色体上の特定の部位に高頻度で組み込まれ、無視できる頻度のランダムな組み込みを示し、従ってAAVベクターにおける組み込み能力の保持は治療環境において許容されうる。
【0058】
本発明はさらに、天然のAAVゲノムの配列とは異なる順序および配置でのAAVゲノムの配列の提供を包含する。また本発明は、1つ以上のAAV配列もしくは遺伝子と、別のウイルスからの配列または2つ以上のウイルスからの配列で構成されるキメラ遺伝子との置換も包含する。かかるキメラ遺伝子は、異なるウイルス種の2つ以上の関連ウイルスタンパク質からの配列で構成されていてもよい。
【0059】
AAV血清型およびキャプシドタンパク質
前記AAVベクター粒子は、キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい(キャプシド化されていてもよい)。前記血清型は足細胞の形質導入、例えば足細胞の特異的形質導入を促進しうる。好ましくは、該AAVベクター粒子は、足細胞特異的なベクター粒子である。該AAVベクター粒子は足細胞特異的キャプシドによりキャプシドが形成されていてもよい。該AAVベクター粒子は足細胞特異的キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。
【0060】
適切には、前記AAVベクター粒子は、ある血清型のITRを有するAAVゲノムまたは誘導体が、異なる血清型のキャプシド中にパッケージングされている、トランスキャプシド化(transcapsidated)形態であってもよい。該AAVベクター粒子はまた、2つ以上の異なる血清型からの非改変キャプシドタンパク質の混合物がウイルスキャプシドを構成している、モザイク形態も含む。該AAVベクター粒子はまた、そのキャプシド表面に吸着されたリガンドを持つ化学修飾形態も含む。例えば、かかるリガンドとして、特定の細胞表面受容体を標的化するための抗体を挙げることができる。
【0061】
誘導体がキャプシドタンパク質、すなわちVP1、VP2および/またはVP3を含む場合、該誘導体は、1つ以上の天然に存在するAAVのキメラ、シャッフルまたはキャプシド改変誘導体であってもよい。特に、本発明は、同一ベクター内へのAAVの異なる血清型、クレード、クローン、または分離株からのキャプシドタンパク質配列の提供(すなわち偽型ベクター(シュードタイプベクター))を包含する。該AAVベクターは、偽型AAVベクター粒子(シュードタイプAAVベクター粒子)の形態であってもよい。
【0062】
キメラ、シャッフルまたはキャプシド改変誘導体は、典型的には、前記AAVベクターに1つ以上の所望の機能性を提供するよう選択されるであろう。従って、これらの誘導体は、天然に存在するAAVゲノムを含むAAVベクターと比較して、遺伝子送達の効率の増大、(液性もしくは細胞性の)免疫原性の低下、向性範囲の変化および/または足細胞の標的化の改善を示しうる。遺伝子送達の効率の増大は、細胞表面における受容体または共受容体結合の改善、内在化の改善、細胞内および核内への輸送の改善、ウイルス粒子の脱殻の改善ならびに一本鎖ゲノムの二本鎖形態への変換の改善により達成されうる。効率の増大は同様に、ベクター用量がそれを必要としない組織への投与により希釈されないような、向性範囲の変化または足細胞の標的化に関連しうる。
【0063】
キメラキャプシドタンパク質には、天然に存在するAAV血清型の2つ以上のキャプシドコード配列間の組換えにより作製されるものが含まれる。これは例えば、ある血清型の非感染性キャプシド配列を異なる血清型のキャプシド配列と共にコトランスフェクトし、さらに指向性選択(directed selection)を利用して所望の特性を有するキャプシド配列について選択する、マーカーレスキュー法により実施してもよい。この異なる血清型のキャプシド配列は、新規キメラキャプシドタンパク質を産生させるために、細胞内で相同組換えにより変更することができる。
【0064】
またキメラキャプシドタンパク質には、特定のキャプシドタンパク質ドメイン、表面ループまたは特定のアミノ酸残基を2つ以上のキャプシドタンパク質間、例えば異なる血清型の2つ以上のキャプシドタンパク質間で移行させるためのキャプシドタンパク質配列の操作により作製されるものも含まれる。
【0065】
シャッフルまたはキメラキャプシドタンパク質はまた、DNAシャッフリングにより、またはエラープローンPCRにより作製してもよい。ハイブリッドAAVキャプシド遺伝子は、関連のあるAAV遺伝子、例えば複数の異なる血清型のキャプシドタンパク質をコードするAAV遺伝子の配列をランダムに断片化し、その後続いて、配列相同性を持つ領域間の交差も引き起こしうるセルフプライミングポリメラーゼ反応において断片を再構成させることにより、作製可能である。このように幾つかの血清型のキャプシド遺伝子をシャッフルすることにより作製したハイブリッドAAV遺伝子のライブラリーをスクリーニングすることで、所望の機能性を有するウイルスクローンを同定することができる。同様に、エラープローンPCRを利用してAAVキャプシド遺伝子をランダムに変異させることにより、後に所望の特性について選択しうる、バリアントの多様なライブラリーを作製してもよい。
【0066】
前記キャプシド遺伝子の配列はまた、天然の野生型配列に対して特定の欠失、置換または挿入を導入するために遺伝的に改変してもよい。特に、キャプシド遺伝子は、キャプシドコード配列のオープンリーディングフレーム内、またはキャプシドコード配列のN末端および/もしくはC末端への、非関連タンパク質またはペプチドの配列の挿入により改変してもよい。該非関連タンパク質またはペプチドは、有利なことに、特定の細胞型に対するリガンドとして機能し、それによって標的細胞への改善された結合を与えるかまたは特定の細胞集団へのベクターの標的化の特異性を改善するものであってもよい。該非関連タンパク質はまた、産生プロセスの一環としての前記ウイルス粒子の精製を補助するもの、すなわちエピトープまたはアフィニティータグであってもよい。挿入の部位は、典型的には、該ウイルス粒子の他の機能、例えば該ウイルス粒子の内在化、輸送に干渉しないように選択されるであろう。
【0067】
前記キャプシドタンパク質は、人工または変異キャプシドタンパク質であってもよい。本明細書中で使用する用語「人工キャプシド」は、キャプシド粒子が、天然には存在しないアミノ酸配列を含むか、または天然に存在するキャプシドアミノ酸配列から操作されている(例えば改変されている)アミノ酸配列を含むことを意味する。言い換えると、該人工キャプシドタンパク質は、人工キャプシドアミノ酸配列と親キャプシドアミノ酸配列をアラインメントした場合に、該人工キャプシドアミノ酸配列が由来する該親キャプシドの配列と比較して、アミノ酸配列中に突然変異または変異を含む。
【0068】
前記キャプシドタンパク質は、野生型キャプシドタンパク質と比較して、非改変または野生型ウイルス粒子と比較して足細胞に形質導入する能力を改善する変異または改変を含んでいてもよい。足細胞に形質導入する能力の改善は、例えば、前記AAVベクター粒子により運搬される導入遺伝子、例えばGFPの発現を測定することにより測定してもよく、足細胞における該導入遺伝子の発現は、該AAVベクター粒子が足細胞に形質導入する能力と相関している。
【0069】
前記AAVベクター粒子はAAV3B、LK03、AAV9、またはAAV8ベクター粒子であってもよい。本発明者らは、AAV3B、LK03、AAV9およびAAV8血清型を有するAAVベクター粒子は足細胞に形質導入できることを示した。好ましくは、該AAVベクター粒子はAAV3Bベクター粒子またはLK03ベクター粒子である。より好ましくは、該AAVベクター粒子はAAV3Bベクター粒子である。
【0070】
前記AAVベクター粒子は、AAV3B、LK03、AAV9、またはAAV8キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。好ましくは、該AAVベクター粒子は、AAV3Bキャプシドタンパク質またはLK03キャプシドタンパク質を含む。より好ましくは、該AAVベクター粒子はAAV3Bキャプシドタンパク質を含む。
【0071】
前記AAVベクター粒子は、AAV3B、LK03、AAV9、またはAAV8キャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3を含んでいてもよい。好ましくは、該AAVベクター粒子は、AAV3BまたはLK03キャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3を含む。より好ましくは、該AAVベクター粒子はAAV3Bキャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3を含む。
【0072】
前記AAVベクター粒子は、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)およびAAV3Bキャプシドタンパク質、LK03キャプシドタンパク質、AAV9キャプシドタンパク質、またはAAV8キャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列に隣接している1つ以上のAAV2 ITR配列を含んでいてもよい。好ましくは、該AAVベクター粒子は、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)およびAAV3BまたはLK03キャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列に隣接している1つ以上のAAV2 ITR配列を含む。より好ましくは、該AAVベクター粒子は、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)およびAAV3Bキャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列に隣接している1つ以上のAAV2 ITR配列を含む。
【0073】
前記AAVベクター粒子は、AAV2ゲノムおよびAAV3Bキャプシドタンパク質(AAV2/3B)、AAV2ゲノムおよびLK03キャプシドタンパク質、AAV2ゲノムおよびAAV9キャプシドタンパク質(AAV2/9)、またはAAV2ゲノムおよびAAV8キャプシドタンパク質(AAV2/8)を有していてもよい。好ましくは、該AAVベクター粒子は、AAV2ゲノムおよびAAV3BまたはLK03キャプシドタンパク質を含む。より好ましくは、該AAVベクター粒子はAAV2ゲノムおよびAAV3Bキャプシドタンパク質を含む。
【0074】
AAV3B血清型
前記AAVベクター粒子は、AAV3Bキャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子はAAV3Bキャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0075】
2つの別個のAAV3分離株(AAV3AおよびAAV3B)がクローン化されている。他のAAV血清型をベースとするベクターと比較すると、AAV3ベクターは大抵の細胞型に非効率的に形質導入すると考えられている。しかしながら、AAV3Bは足細胞に効率的に形質導入しうる。AAV3BはRutledge, E.A.,ら、1998. Journal of virology, 72(1), pp.309-319に記載されている。
【0076】
前記AAVベクター粒子は、AAV3B VP1キャプシドタンパク質、AAV3B VP2キャプシドタンパク質、および/またはAAV3B VP3キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV3B VP1キャプシドタンパク質、AAV3B VP2キャプシドタンパク質、および/またはAAV3B VP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV3B VP1、VP2、およびVP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0077】
適切には、前記AAV3B VP1キャプシドタンパク質は、配列番号1、または配列番号1と少なくとも90%同一であるバリアントとして示されるアミノ酸配列を含むかまたは該アミノ酸配列から構成されていてもよい。
【0078】
例示的AAV3B VP1キャプシドタンパク質(配列番号1):
【化1】
【0079】
適切には、前記バリアントは、配列番号1と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0080】
適切には、前記AAV3B VP2およびVP3キャプシドタンパク質は、配列番号1のN末端欠損型(N-terminal truncations)、または配列番号1と少なくとも90%同一、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であるバリアントのN末端欠損型であってもよい。
【0081】
LK03血清型
前記AAVベクター粒子は、LK03キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、LK03キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0082】
前記のAAV-LK03キャプシド(cap)配列は、7つの異なる野生型の血清型(AAV1、2、3B、4、6、8、9)からの断片から構成されており、またLisowski, L.,ら、2014. Nature, 506(7488), pp.382-386に記載されている。本発明者らは、AAV-LK03ベクターが、in vitroでヒト足細胞において100%近くの高い形質導入を達成できることを示した。
【0083】
前記AAVベクター粒子は、LK03 VP1キャプシドタンパク質、LK03 VP2キャプシドタンパク質、および/またはLK03 VP3キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、LK03 VP1キャプシドタンパク質、LK03 VP2キャプシドタンパク質、および/またはLK03 VP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、LK03 VP1、VP2、およびVP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0084】
適切には、前記LK03 VP1キャプシドタンパク質は、配列番号2、または配列番号2と少なくとも90%同一であるバリアントとして示されるアミノ酸配列を含むかまたは該アミノ酸配列から構成されていてもよい。
【0085】
例示的LK03 VP1キャプシドタンパク質(配列番号2):
【化2】
【0086】
適切には、前記バリアントは、配列番号2と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0087】
適切には、前記LK03 VP2およびVP3キャプシドタンパク質は、配列番号2のN末端欠損型、または配列番号2と少なくとも90%同一、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であるバリアントのN末端欠損型であってもよい。
【0088】
AAV9血清型
前記AAVベクター粒子は、AAV9キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV9キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0089】
本発明者らは、AAV9ベクターが、in vitroでヒト足細胞において高い形質導入を達成できることを示した。
【0090】
前記AAVベクター粒子は、AAV9 VP1キャプシドタンパク質、AAV9 VP2キャプシドタンパク質、および/またはAAV9 VP3キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV9 VP1キャプシドタンパク質、AAV9 VP2キャプシドタンパク質、および/またはAAV9 VP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV9 VP1、VP2、およびVP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0091】
適切には、前記AAV9 VP1キャプシドタンパク質は、配列番号3、または配列番号3と少なくとも90%同一であるバリアントとして示されるアミノ酸配列を含むかまたは該アミノ酸配列から構成されていてもよい。
【0092】
例示的AAV9 VP1キャプシドタンパク質(配列番号3):
【化3】
【0093】
適切には、前記バリアントは、配列番号3と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0094】
適切には、前記AAV9 VP2およびVP3キャプシドタンパク質は、配列番号3のN末端欠損型、または配列番号3と少なくとも90%同一、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であるバリアントのN末端欠損型であってもよい。
【0095】
他のウイルスベクター
レトロウイルスおよびレンチウイルスベクター
本発明のベクターは、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターであってもよい。本発明のベクターは、レトロウイルスベクター粒子またはレンチウイルスベクター粒子であってもよい。
【0096】
レトロウイルスベクターは、任意の適切なレトロウイルスから誘導されるものでも、または誘導可能なものであってもよい。多数の異なるレトロウイルスが同定されている。具体例としては、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、マウス乳がんウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤浪肉腫ウイルス(FuSV)、モロニ-マウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニ-マウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、アベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄球腫症ウイルス-29(MC29)およびニワトリ赤芽球症ウイルス(AEV)が挙げられる。
【0097】
レトロウイルスは大きく2つのカテゴリー、「単純型」と「複雑型」に分類されうる。レトロウイルスは7つのグループにさらに分類されうる。これらのグループのうちの5つは、発がん能を有するレトロウイルスである。残り2つのグループはレンチウイルスおよびスプーマウイルスである。
【0098】
レトロウイルスおよびレンチウイルスゲノムの基本構造は、5’LTRおよび3’LTRなどの多くの共通の特徴を共有する。これらの間または内部に、該ゲノムのパッケージングを可能にするためのパッケージングシグナル、プライマー結合部位、宿主細胞ゲノム内への組込みを可能にするための組込み部位、ならびにパッケージング成分(これらはウイルス粒子の構築に必要なポリペプチドである)をコードするgag、polおよびenv遺伝子が位置している。レンチウイルスは追加的な特徴、例えば、HIVではrev遺伝子およびPRE配列を有し、これらは感染標的細胞の核から細胞質への、組込まれたプロウイルスのRNA転写物の効率的な輸送を可能にする。
【0099】
プロウイルスでは、これらの遺伝子は両端に、長い末端反復配列(LTR)と称される領域が隣接している。該LTRはプロウイルスの組込みおよび転写に関与している。またLTRはエンハンサー-プロモーター配列としても働き、ウイルス遺伝子の発現を制御することができる。
【0100】
前記LTRはそれら自体が、3つの要素、すなわちU3、RおよびU5に区分されうる同一の配列である。U3はRNAの3’末端に特有の配列に由来する。RはRNAの両末端において反復する配列に由来する。U5はRNAの5’末端に特有の配列に由来する。この3要素のサイズは、異なるレトロウイルス間ではかなり異なる可能性がある。
【0101】
欠損性レトロウイルスベクターゲノムでは、gag、polおよびenvは存在しないかまたは機能的ではない場合がある。
【0102】
典型的なレトロウイルスベクターでは、複製に必須の1つ以上のタンパク質コード領域のうちの少なくとも一部が該ウイルスから除去されていてもよい。これにより該ウイルスベクターが複製欠損性となる。またウイルスゲノムの一部を、標的宿主細胞に形質導入しかつ/またはそのゲノムを宿主ゲノム内に組み込む能力を有する候補モジュレート部分(candidate modulating moieties)を含むベクターを作製するために、ベクターゲノム内の調節制御領域およびレポーター部分に機能しうる形で連結された候補モジュレート部分をコードするライブラリーで置き換えてもよい。
【0103】
レンチウイルスベクターは、レトロウイルスベクターのより大きな群の一部である。簡潔に説明すると、レンチウイルスは霊長類群と非霊長類群に分類することができる。霊長類レンチウイルスの具体例としては、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因物質であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられるが、これらに限定されない。非霊長類レンチウイルスの具体例としては、原型の「スローウイルス」であるビスナ・マエディウイルス(VMV)、ならびに関連のあるヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、およびより最近になって記載されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が挙げられる。
【0104】
レンチウイルスファミリーは、レンチウイルスが分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染する能力を有するという点で、レトロウイルスとは異なる。対照的に、MLVなどの他のレトロウイルスは、非分裂細胞または分裂が遅い細胞、例えば、筋肉、脳、肺および肝組織を構成する細胞などには感染できない。
【0105】
レンチウイルスベクターは、本明細書中で使用する場合、レンチウイルスから誘導可能な少なくとも1つの成分部分を含むベクターである。好ましくは、その成分部分は、該ベクターが細胞に感染し、遺伝子を発現するかまたは複製されるその生物学的メカニズムに関与する。
【0106】
前記レンチウイルスベクターは、「霊長類」ベクターであってもよい。該レンチウイルスベクターは、「非霊長類」ベクターであってもよい(すなわち、本来は霊長類、特にヒトに感染しないウイルスに由来していてもよい)。非霊長類レンチウイルスの具体例は、霊長類に自然には感染しないレンチウイルス科のファミリーの任意のメンバーであってもよい。
【0107】
レンチウイルスベースのベクターの具体例として、HIV-1およびHIV-2ベースのベクターを以下に記載する。
【0108】
前記HIV-1ベクターは、単純レトロウイルスにも見出されるシス作用エレメントを含有している。gagオープンリーディングフレームに及ぶ配列はHIV-1のパッケージングにとって重要であることが示されている。従って、HIV-1ベクターは、翻訳開始コドンが変異しているgagの関連部分を含有していることが多い。さらに、大抵のHIV-1ベクターは、RREを含むenv遺伝子の一部も含有している。RevはRREに結合し、これにより核から細胞質への全長または1回スプライシングされた(singly spliced)mRNAの輸送が可能となる。Revおよび/またはRREの非存在下では、全長HIV-1 RNAは核に蓄積する。あるいは、メーソン・ファイザー・サルウイルスなどのある特定の単純レトロウイルスから得た構成的輸送エレメントを使用することで、RevおよびRREの必要条件を緩和することができる。HIV-1 LTRプロモーターからの効率的な転写にはウイルスタンパク質Tatが必要である。
【0109】
大抵のHIV-2ベースのベクターは、HIV-1ベクターと構造的に非常に類似している。HIV-1ベースのベクターと同様に、HIV-2ベクターもまた、全長または1回スプライシングされたウイルスRNAの効率的な輸送のためにRREを必要とする。
【0110】
好ましくは、本発明において使用するウイルスベクターは、最小ウイルスゲノムを有する。
【0111】
「最小ウイルスゲノム」とは、前記ウイルスベクターが、標的宿主細胞に関心のあるヌクレオチド配列を感染させる、形質導入する、および送達するための必要な機能性を付与するために、非必須エレメントを除去しかつ必須エレメントを保持するように操作されていることと理解すべきである。この方法の更なる詳細は、WO 1998/017815中に見出すことができる。
【0112】
好ましくは、前記ウイルスゲノムを宿主細胞/パッケージング細胞内で産生させるために使用するプラスミドベクターは、標的細胞に感染する能力を有するが、最終標的細胞内で感染性ウイルス粒子を産生するための非依存的複製の能力は有しないウイルス粒子への、パッケージング成分の存在下でのRNAゲノムのパッケージングを可能にするのに十分なレンチウイルスの遺伝情報を有するであろう。好ましくは、該ベクターは、機能的gag-polおよび/もしくはenv遺伝子ならびに/または複製に必須の他の遺伝子を欠損している。
【0113】
しかしながら、宿主細胞/パッケージング細胞内で前記ウイルスゲノムを産生させるために使用する前記プラスミドベクターは、宿主細胞/パッケージング細胞における該ゲノムの転写を誘導するために、前記レンチウイルスゲノムに機能しうる形で連結された転写調節制御配列も含むであろう。これらの調節配列は、転写されるウイルス配列に関連した天然配列(すなわち、5’U3領域)であってもよいし、またはそれらは異種プロモーター、例えば別のウイルスプロモーター(例えばCMVプロモーター)であってもよい。
【0114】
前記ベクターは、ウイルスのエンハンサーおよびプロモーター配列が欠失した自己不活性化(SIN)ベクターであってもよい。SINベクターを作製し、野生型ベクターの有効性と同様の有効性で、in vivoで非分裂細胞に形質導入することができる。SINプロウイルス中の長い末端反復配列(LTR)の転写不活性化は、複製能を持つウイルスによる動員を阻止するはずである。これは同様に、LTRのあらゆるシス作用性効果を排除することにより内部プロモーターからの遺伝子の調節された発現を可能にするはずである。
【0115】
前記ベクターは組込み欠損性(integration-defective)であってもよい。組込み欠損性レンチウイルスベクター(IDLV)は、例えば、ベクターを触媒不活性型インテグラーゼ(例えば、触媒部位にD64V変異を持つHIVインテグラーゼ)を用いてパッケージングすることにより、またはベクターのLTRから必須att配列を改変するかもしくは欠失させることにより、または前述のものの組み合わせにより、作製することができる。
【0116】
アデノウイルスベクター
本発明のベクターはアデノウイルスベクターであってもよい。本発明のベクターはアデノウイルスベクター粒子であってもよい。
【0117】
アデノウイルスは、RNA中間体を経ない二本鎖の線状DNAウイルスである。遺伝子配列の相同性に基づいて6つの亜群に分類される、50種を超える異なるヒトアデノウイルス血清型が存在する。アデノウイルスの天然の標的は呼吸器および消化器の上皮であり、一般的には軽度の症状のみを引き起こす。血清型2および5(95%の配列相同性を有する)はアデノウイルスベクター系で最もよく使用されており、またこれらは通常、若年層の上気道感染と関連がある。
【0118】
アデノウイルスは遺伝子治療用および異種遺伝子の発現用のベクターとして使用されている。大きい(36 kb)ゲノムは最大8 kbの外来インサートDNAを収容可能であり、相補細胞系において効率的に複製されることで、最大で1012という非常に高い力価を生じうる。従って、アデノウイルスは、初代非複製細胞における遺伝子の発現を研究するための最良の系の1つである。
【0119】
アデノウイルスゲノムからのウイルス遺伝子または外来遺伝子の発現は、複製細胞を必要としない。アデノウイルスベクターは、受容体依存性エンドサイトーシスにより細胞に侵入する。細胞内に入ると、アデノウイルスベクターが宿主染色体内に組込まれることは滅多にない。それよりむしろ、それらは宿主核内で線状ゲノムとしてエピソーム的に(宿主ゲノムから独立して)機能する。従って、組換えアデノウイルスの使用は、宿主ゲノムへのランダムな組込みに伴う問題を軽減する。
【0120】
単純ヘルペスウイルスベクター
本発明のベクターは単純ヘルペスウイルスベクターであってもよい。本発明のベクターは単純ヘルペスウイルスベクター粒子であってもよい。
【0121】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、遺伝子送達ベクターとして有利な特性を有する神経向性DNAウイルスである。HSVは感染力が強く、そのためHSVベクターは細胞への外来性遺伝物質の送達用の効率的なビヒクルである。ウイルスの複製は、in vitroでトランスに補完されうる前初期遺伝子でのヌル変異により容易に阻止され、このことが非病原性ベクターの高力価で純粋な調製物の簡単な産生を可能にする。そのゲノムは大きく(152 Kb)、またウイルス遺伝子の多くはin vitroでの複製に不要であるため、それらの大きいかまたは複数の導入遺伝子との置換が可能になる。野生型ウイルスによる潜伏感染は、宿主の寿命の期間中の感覚ニューロン核におけるエピソームウイルスの存続をもたらす。前記ベクターは非病原性であり、再活性化して長期的に存続することはできない。潜伏中に活性を示す(latency active)プロモーター複合体をベクター設計に活用することで、神経系において長期にわたる安定した導入遺伝子発現を得ることができる。前記ウイルスにより認識される細胞受容体の発現パターンが広いため、HSVベクターは多岐にわたる組織に形質導入する。細胞侵入に関与する過程の理解を深めることで、HSVベクターの指向性(tropism)の標的化が可能となった。
【0122】
ワクシニアウイルスベクター
本発明のベクターはワクシニアウイルスベクターであってもよい。本発明のベクターはワクシニアウイルスベクター粒子であってもよい。
【0123】
ワクシニアウイルスは、およそ190 kbの線状二本鎖DNAゲノムを有する大きなエンベロープウイルスである。ワクシニアウイルスは最大でおよそ25 kbの外来DNAを収容可能であり、またこのことが、該ウイルスを大きい遺伝子の送達に有用なものとしている。
【0124】
遺伝子治療用途に適した数多くの弱毒化ワクシニアウイルス株、例えばMVAおよびNYVAC株が当分野で公知である。
【0125】
調節エレメント
本発明のベクターは、転写前または転写後に作用しうる1つ以上の調節配列を含んでいてもよい。適切には、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列が、1つ以上の調節配列に操作しうる形で連結されていてもよい。この1つ以上の調節配列は、足細胞における該補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)の発現を促進しうる。
【0126】
「調節配列」は、ポリペプチドの発現を促進する、例えば転写産物の発現を増大させるため、またはmRNAの安定性を向上させるために作用する任意の配列である。適切な調節配列としては、例えば、プロモーター、エンハンサーエレメント、転写後調節エレメントおよびポリアデニル化部位が挙げられる。
【0127】
プロモーター
本発明のベクターはプロモーターを含んでいてもよい。適切には、該プロモーターは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。該プロモーターは、足細胞における該補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)の発現を促進しうる。
【0128】
「プロモーター」は、遺伝子の転写の開始をもたらすDNAの領域である。プロモーターは、該DNAの上流(センス鎖の5’領域方向)の、遺伝子の転写開始部位付近に位置している。任意の適切なプロモーターを使用してもよく、その選択は当業者であれば容易に行うことができる。
【0129】
前記プロモーターは、構成的プロモーターまたは組織特異的プロモーターであってもよい。
【0130】
適切な構成的プロモーターは当業者には公知であろう。例えば、ある実施形態では、該プロモーターはCMVプロモーターである。
【0131】
好ましくは、本発明のベクターは、足細胞特異的プロモーターを含む。適切には、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列が該足細胞特異的プロモーターに機能しうる形で連結されている。
【0132】
本明細書中で使用する場合、「足細胞特異的プロモーター」は、足細胞における遺伝子の発現を優先的に促進するプロモーターである。適切には、足細胞特異的プロモーターは、他の細胞型と比較して、足細胞における遺伝子のより高い発現を促進してもよい。足細胞におけるより高い発現は、例えば該プロモーターに機能しうる形で連結された導入遺伝子、例えばGFPの発現を測定することにより測定してもよく、その際、足細胞における該導入遺伝子の発現は、該プロモーターが足細胞における遺伝子の発現を促進するその能力と相関する。例えば、足細胞特異的プロモーターは、遺伝子の発現レベルを、他の細胞型での発現レベルと比較して、足細胞において少なくとも10%高く、少なくとも20%高く、少なくとも30%高く、少なくとも40%高く、少なくとも50%高く、少なくとも100%高く、少なくとも200%高く、少なくとも300%高く、少なくとも400%高く、少なくとも500%高く、または少なくとも1000%高く促進するプロモーターであってもよい。
【0133】
適切な足細胞特異的プロモーターは当業者には周知であろう。
【0134】
適切には、前記足細胞特異的プロモーターは、ヒト足細胞における選択的発現を伴う遺伝子に関連するプロモーターであっても、または該プロモーターに由来するものであってもよい。足細胞において選択的に発現される遺伝子は当業者に公知であり、また足細胞における選択的遺伝子発現は、当業者に公知の方法により、例えばマイクロアレイを用いて容易に測定することができる。足細胞において選択的に発現される遺伝子としては、NPHS1、NPHS2、WT1、FOXC2、ABCA9、ACPP、ACTN4、ADM、ANGPTL2、ANXA1、ASB15、ATP8B1、B3GALT2、BB014433、BMP7、C1QTNF1、CAR13、CD2AP、CD55、CD59A、CD59B、CDC14A、CDH3、CDKN1B、CDKN1C、CEP85L、CLIC3、CLIC5、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COLEC12、CRIM1、CST12、DEGS1、DOCK4、DOCK5、EGF、ENPEP、EPHX1、FAM81A、FAT1、FGFBP1、FOXD1、FRYL、GABRB1、GALC、GM10554、H2-D1、H2-Q7、H2BC4、H3C15、HS3ST3A1、HTRA1、IFNGR1、IL18、ILDR2、ITGB5、ITGB8、KIRREL、LAMA1、LAMA5、LAMB1、LAMB2、LMX1B、MAFB、MAGI2、MELA、MERTK、MGAT4A、MYO1D、MYO1E、MYOM2、MYZAP、NEBL、NES、NOD1、NPR3、NR2F2、NUPR1、OPTN、P3H2、PAK1、PARD3B、PDPN、PLAT、PLCE1、PLSCR2、PODXL、PROS1、PTPRO、RAB3B、RDH1、RDH9、SDC4、SEMA3E、SERPINB6B、SH3BGRL2、SLC41A2、SLCO2A1、ST3GAL6、SYNPO、TDRD5、THSD7A、TIMP3、TJP1、TLR7、TM4SF1、TMEM108、TMEM54、TMTC1、TOP1MT、TRAV10、TRAV10N、TRAV5-4、TSHB、UACA、UBA1Y、UPRT、VEGFA、VTCN1、ZBTB20、および5730407I07RIKが挙げられる。
【0135】
遺伝子に関連するプロモーター領域を同定するための方法は、当業者には周知であろう。該プロモーターは、通常は転写開始部位の直近位に位置しているか、または転写開始部位と重複しており、また転写因子(TF)が配列特異的な様式で相互作用する幾つかの配列モチーフを含有している。
【0136】
適切には、前記足細胞特異的プロモーターは、NPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、FOXC2プロモーター、ABCA9プロモーター、ACPPプロモーター、ACTN4プロモーター、ADMプロモーター、ANGPTL2プロモーター、ANXA1プロモーター、ASB15プロモーター、ATP8B1プロモーター、B3GALT2プロモーター、BB014433プロモーター、BMP7プロモーター、C1QTNF1プロモーター、CAR13プロモーター、CD2APプロモーター、CD55プロモーター、CD59Aプロモーター、CD59Bプロモーター、CDC14Aプロモーター、CDH3プロモーター、CDKN1Bプロモーター、CDKN1Cプロモーター、CEP85Lプロモーター、CLIC3プロモーター、CLIC5プロモーター、COL4A1プロモーター、COL4A2プロモーター、COL4A3プロモーター、COL4A4プロモーター、COL4A5プロモーター、COLEC12プロモーター、CRIM1プロモーター、CST12プロモーター、DEGS1プロモーター、DOCK4プロモーター、DOCK5プロモーター、EGFプロモーター、ENPEPプロモーター、EPHX1プロモーター、FAM81Aプロモーター、FAT1プロモーター、FGFBP1プロモーター、FOXD1プロモーター、FRYLプロモーター、GABRB1プロモーター、GALCプロモーター、GM10554プロモーター、H2-D1プロモーター、H2-Q7プロモーター、H2BC4プロモーター、H3C15プロモーター、HS3ST3A1プロモーター、HTRA1プロモーター、IFNGR1プロモーター、IL18プロモーター、ILDR2プロモーター、ITGB5プロモーター、ITGB8プロモーター、KIRRELプロモーター、LAMA1プロモーター、LAMA5プロモーター、LAMB1プロモーター、LAMB2プロモーター、LMX1Bプロモーター、MAFBプロモーター、MAGI2プロモーター、MELAプロモーター、MERTKプロモーター、MGAT4Aプロモーター、MYO1Dプロモーター、MYO1Eプロモーター、MYOM2プロモーター、MYZAPプロモーター、NEBLプロモーター、NESプロモーター、NOD1プロモーター、NPR3プロモーター、NR2F2プロモーター、NUPR1プロモーター、OPTNプロモーター、P3H2プロモーター、PAK1プロモーター、PARD3Bプロモーター、PDPNプロモーター、PLATプロモーター、PLCE1プロモーター、PLSCR2プロモーター、PODXLプロモーター、PROS1プロモーター、PTPROプロモーター、RAB3Bプロモーター、RDH1プロモーター、RDH9プロモーター、SDC4プロモーター、SEMA3Eプロモーター、SERPINB6Bプロモーター、SH3BGRL2プロモーター、SLC41A2プロモーター、SLCO2A1プロモーター、ST3GAL6プロモーター、SYNPOプロモーター、TDRD5プロモーター、THSD7Aプロモーター、TIMP3プロモーター、TJP1プロモーター、TLR7プロモーター、TM4SF1プロモーター、TMEM108プロモーター、TMEM54プロモーター、TMTC1プロモーター、TOP1MTプロモーター、TRAV10プロモーター、TRAV10Nプロモーター、TRAV5-4プロモーター、TSHBプロモーター、UACAプロモーター、UBA1Yプロモーター、UPRTプロモーター、VEGFAプロモーター、VTCN1プロモーター、ZBTB20プロモーター、および5730407I07RIKプロモーター、またはその断片もしくは誘導体から選択される。
【0137】
適切には、前記足細胞特異的プロモーターは、NPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、FOXC2プロモーター、ACTN4プロモーター、BMP7プロモーター、CD2APプロモーター、CDH3プロモーター、CDKN1Bプロモーター、CDKN1Cプロモーター、COL4A1プロモーター、COL4A2プロモーター、COL4A3プロモーター、COL4A4プロモーター、COL4A5プロモーター、CRIM1プロモーター、FAT1プロモーター、FOXD1プロモーター、KIRRELプロモーター、LAMA1プロモーター、LAMA5プロモーター、LAMB1プロモーター、LAMB2プロモーター、LMX1Bプロモーター、MAFBプロモーター、NESプロモーター、NR2F2プロモーター、PODXLプロモーター、PTPROプロモーター、SYNPOプロモーター、TJP1プロモーター、およびVEGFAプロモーター、またはその断片もしくは誘導体から選択される。
【0138】
適切には、前記足細胞特異的プロモーターは、NPHS1プロモーター、NPHS2プロモーター、WT1プロモーター、もしくはFOXC2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である。
【0139】
好ましくは、前記足細胞特異的プロモーターは、NPHS1もしくはNPHS2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である。より好ましくは、該足細胞特異的プロモーターは、NPHS1プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である。
【0140】
前記足細胞特異的プロモーターは最小足細胞特異的プロモーターであってもよい。本明細書中で使用する場合、「最小足細胞特異的プロモーター」とは、足細胞特異的プロモーターとして作用することができる最小配列を意味する。
【0141】
好ましくは、前記足細胞特異的プロモーターは、最小NPHS1もしくは最小NPHS2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である。より好ましくは、該足細胞特異的プロモーターは最小NPHS1プロモーター、またはその断片もしくは誘導体である。
【0142】
好ましくは、前記プロモーターはヒトプロモーター、例えば最小ヒトNPHS1プロモーターである。
【0143】
NPHS1プロモーター
本発明のベクターは、NPHS1プロモーター、またはその断片もしくは誘導体を含んでいてもよい。適切には、該NPHS1プロモーター、またはその断片もしくは誘導体は、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。
【0144】
NPHS1遺伝子は、足細胞において選択的に発現されるネフリンをコードしている。
【0145】
前記NPHS1プロモーターは最小NPHS1プロモーターであってもよい。例えば、該NPHS1プロモーターは1.2 kb以下の長さを有していてもよい。
【0146】
最小ヒトNPHS1プロモーターはMoeller ら 2002 J Am Soc Nephrol, 13(6):1561-7およびWong MA ら 2000 Am J Physiol Renal Physiol, 279(6):F1027-32に記載されている。この最小NPHS1は1.2 kbの断片であり、また足細胞特異的であると思われる。この1.2 kbのプロモーター領域はTATAボックスを欠損しているが、他の転写因子のための認識モチーフ、例えばPAX-2結合要素、EボックスおよびGATAコンセンサス配列を有する。
【0147】
適切には、前記NPHS1プロモーターは、配列番号4、または配列番号4と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0148】
例示的最小NPHS1プロモーター(配列番号4):
【化4】
【0149】
適切には、前記バリアントは、配列番号4と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0150】
幾つかの実施形態では、前記NPHS1プロモーターは、配列番号27、または配列番号27と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0151】
例示的最小NPHS1プロモーター - 265 bp(配列番号27)
【化5】
【0152】
適切には、前記バリアントは、配列番号27と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。前記NPHS1プロモーターは、配列番号28または配列番号29として示される配列番号27のバリアントを含むかまたは該バリアントから構成されていてもよい。
【0153】
例示的最小ネフリンプロモーター - 265 bp(配列番号28)
【化6】
【0154】
例示的最小ネフリンプロモーターバリアント - 265 bp(配列番号29)
【化7】
【0155】
幾つかの実施形態では、前記NPHS1プロモーターは、配列番号28もしくは29、または配列番号28もしくは29と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号28または29と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0156】
NPHS2プロモーター
本発明のベクターは、NPHS2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体を含んでいてもよい。適切には、該NPHS2プロモーター、またはその断片もしくは誘導体は、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。
【0157】
前記NPHS2遺伝子は、足細胞において選択的に発現されるポドシンをコードしている。
【0158】
前記NPHS2プロモーターは最小NPHS2プロモーターであってもよい。例えば、該NPHS1プロモーターは、0.6 kb以下の長さを有していてもよい。
【0159】
最小ヒトNPHS2プロモーターはOleggini R,ら、2006. Gene Expr. 13(1):59-66に記載されている。この最小NPHS2は、in vitroで足細胞における発現を示した630 bpの断片である。
【0160】
適切には、前記NPHS2プロモーターは、配列番号5、または配列番号5と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0161】
例示的最小NPHS2プロモーター(配列番号5):
【化8】
【0162】
適切には、前記バリアントは、配列番号5と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0163】
エンハンサー
本発明のベクターはエンハンサーを含んでいてもよい。適切には、該エンハンサーは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。該エンハンサーは、足細胞における該補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)の発現を促進しうる。
【0164】
「エンハンサー」は、タンパク質(活性化因子)が結合することで特定の遺伝子の転写が生じる可能性を増大させうるDNAの領域である。エンハンサーはcis作用性である。それらは該遺伝子から最大で1 Mbp(1,000,000 bp)離して、その開始部位の上流または下流に配置することができる。任意の適切なエンハンサーを使用してもよく、その選択は当業者であれば容易に行うことができる。
【0165】
本発明のベクターは足細胞特異的エンハンサーを含んでいてもよい。適切には、該エンハンサーは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。
【0166】
本明細書中で使用する場合、「足細胞特異的エンハンサー」は、足細胞における遺伝子の発現を優先的に促進するエンハンサーである。適切には、足細胞特異的エンハンサーは、他の細胞型と比較して、足細胞における遺伝子のより高い発現を促進してもよい。足細胞におけるより高い発現は、例えば該エンハンサーに機能しうる形で連結された導入遺伝子、例えばGFPの発現を測定することにより測定してもよく、その際、足細胞における該導入遺伝子の発現は、該エンハンサーが足細胞における遺伝子の発現を促進するその能力と相関する。例えば、足細胞特異的エンハンサーは、遺伝子の発現レベルを、他の細胞型での発現レベルと比較して、足細胞において少なくとも10%高く、少なくとも20%高く、少なくとも30%高く、少なくとも40%高く、少なくとも50%高く、少なくとも100%高く、少なくとも200%高く、少なくとも300%高く、少なくとも400%高く、少なくとも500%高く、または少なくとも1000%高く促進するエンハンサーであってもよい。
【0167】
適切な足細胞特異的エンハンサーは当業者には周知であろう。
【0168】
適切には、前記足細胞特異的エンハンサーは、ヒト足細胞における選択的発現を伴う遺伝子に関連するエンハンサーであっても、または該エンハンサーに由来するものであってもよい。遺伝子に関連するエンハンサー領域を同定するための方法は、当業者には周知であろう。
【0169】
好ましくは、前記足細胞特異的エンハンサーは、NPHS1もしくはNPHS2エンハンサー、またはその断片もしくは誘導体である。より好ましくは、該足細胞特異的エンハンサーは、NPHS1エンハンサー、またはその断片もしくは誘導体である。
【0170】
好ましくは、前記エンハンサーはヒトエンハンサー、例えばヒトNPHS1エンハンサーである。
【0171】
前記エンハンサーを対応するプロモーターと共に使用してもよく、例えば前記NPHS1エンハンサーを前記NPHS1プロモーターと共に使用してもよい。あるいは、該エンハンサーを異なるプロモーター、例えば足細胞特異的ではないプロモーター、例えばhspプロモーターと共に使用してもよい。
【0172】
本発明のベクターは、プロモーター-エンハンサーを含んでいてもよい。適切には、該プロモーター-エンハンサーは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。該プロモーター-エンハンサーは、足細胞における該補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)の発現を促進しうる。該プロモーター-エンハンサーは足細胞特異的プロモーター-エンハンサーであってもよい。該プロモーター-エンハンサーは、NPHS1プロモーター-エンハンサーもしくはNPHS2プロモーター-エンハンサー、またはその断片もしくは誘導体であってもよい。
【0173】
NPHS1エンハンサー
NPHS1エンハンサーは、Guo, G.,ら、2004. Journal of the American Society of Nephrology, 15(11), pp.2851-2856に記載されている。ヒトNPHS1プロモーターからの186 bpの断片は、トランスジェニックマウスにおいて異種最小プロモーターの前に配置した場合に、β-ガラクトシダーゼ導入遺伝子の足細胞特異的発現を誘導する能力を有していた。
【0174】
適切には、前記NPHS1エンハンサーは、配列番号6、または配列番号6と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0175】
例示的NPHS1エンハンサー(配列番号6):
【化9】
【0176】
適切には、前記バリアントは、配列番号6と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0177】
コザック配列
本発明のベクターはコザック配列を含んでいてもよい。適切には、該コザック配列は、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。コザック配列を該補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)の開始コドンの前に挿入することにより、翻訳の開始を改善してもよい。
【0178】
適切なコザック配列は当業者には周知であろう。
【0179】
適切には、前記コザック配列は、配列番号7、または配列番号7と少なくとも65%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0180】
例示的コザック配列(配列番号7):
【化10】
【0181】
適切には、前記バリアントは、配列番号7と少なくとも75%、少なくとも85%、または少なくとも90%同一であってもよい。
【0182】
転写後調節エレメント
本発明のベクターは転写後調節エレメントを含んでいてもよい。適切には、該転写後調節エレメントは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。該転写後調節エレメントは遺伝子発現を改善しうる。
【0183】
前記ベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含んでいてもよい。適切には、該WPREは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。
【0184】
前記WPRE配列は、X抗原プロモーターおよび/またはX抗原の開始コドン内に変異を有していてもよい。これにより機能的X抗原の産生を阻止してもよい。
【0185】
適切には、前記WPREは、配列番号8、または配列番号8と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0186】
例示的WPRE(配列番号8):
【化11】
【0187】
適切には、前記バリアントは、配列番号8と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0188】
ポリアデニル化シグナル
本発明のベクターはポリアデニル化シグナルを含んでいてもよい。適切には、該ポリアデニル化シグナルは、補体タンパク質(例えば、補体系の阻害因子)をコードするヌクレオチド配列に操作しうる形で連結されていてもよい。該ポリアデニル化シグナルは遺伝子発現を改善しうる。
【0189】
適切なポリアデニル化シグナルとしては、初期SV40ポリアデニル化シグナル(SV40pA)、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(bGH)、または可溶性ニューロピリン-1ポリアデニル化シグナルが挙げられる。好ましくは、該ポリアデニル化シグナルは、bGHポリアデニル化シグナルまたは可溶性ニューロピリン-1ポリアデニル化シグナルである。
【0190】
適切には、前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号9、または配列番号9と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0191】
例示的bGHポリ(A)シグナル配列(配列番号9):
【化12】
【0192】
適切には、前記バリアントは、配列番号9と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0193】
適切には、前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号10、または配列番号10と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0194】
例示的可溶性ニューロピリン-1ポリアデニル化シグナル(配列番号10):
【化13】
【0195】
適切には、前記バリアントは、配列番号10と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0196】
補体タンパク質
本発明のベクターは、補体阻害因子などの補体タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0197】
前記ベクターは、前記ヌクレオチド配列の複数コピー(例えば、2、3など)を含んでいてもよい。該ヌクレオチド配列はコドンが最適化されていてもよい。
【0198】
補体系は、補体カスケードとしても知られており、外来および変性宿主細胞に対する防御の最前線としての役割を果たす先天免疫の中心的部分である。該補体系は、肝臓により主に産生される血漿タンパク質または細胞表面上に発現される膜タンパク質からなる。補体は血漿中、組織中、または細胞内で機能する。補体タンパク質はカスケードとして協同することにより、病原体をオプソニン化して一連の炎症反応を誘発し、免疫細胞が感染と戦って恒常性を維持するのを助ける(Merle, N.S.,ら、2015. Frontiers in immunology, 6, 262)。
【0199】
補体活性化の3つの経路、すなわち古典、第二、およびレクチン経路が存在する。これら3つの補体経路はその標的認識の機構が異なるものの、中心的成分C3の活性化に収束する。この活性化の後に、C5が切断され、膜侵襲複合体(MAC)の組立てが開始される。C3およびC5の酵素的切断はアナフィラトキシンC3aおよびC5aの産生および遊離をもたらす。
【0200】
本明細書中で使用する場合、「補体タンパク質」は前記補体系の一部であるタンパク質である。
【0201】
適切には、前記補体タンパク質は、CFI、CFH、FHL-1、C1INH、C4BP、MASP2、C3、C5aR1、C5、C5a、CD55、CD35、CD46、CD59、ビトロネクチン、およびクラステリン、またはその断片もしくは誘導体からなるリストより選択される。
【0202】
好ましくは、本発明のベクターは、前記補体系の阻害因子をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0203】
本明細書中で使用する場合、「補体系の阻害因子」または「補体阻害因子」は、補体系の活性化を阻止するタンパク質である。補体はこれらの阻害因子により厳密に制御されており、該阻害因子は本来、望ましくない補体活性化から自己細胞および組織を保護している。補体阻害因子は古典、レクチン、および第二経路の種々の段階で補体活性化を調節することができる。補体阻害因子は2つのカテゴリー、すなわち、可溶性阻害因子および膜結合型阻害因子に分類される。好ましくは、補体系の阻害因子は可溶性補体阻害因子である。
【0204】
適切には、前記補体阻害因子は天然に存在する補体阻害因子、またはその断片もしくは誘導体である。
【0205】
可溶性補体阻害因子としては、C1阻害因子(C1INH)、補体I因子(CFI)、補体H因子(CFH)、補体H因子様タンパク質1(FHL-1)、C4結合タンパク質(C4BP)、クラステリンおよびビトロネクチンが挙げられる。
【0206】
膜結合型調節因子としては、CD46、CD55、CD59、CD35ならびにCUBおよびSushi多重ドメイン1(CSMD1)が挙げられる。
【0207】
前記補体系の前記阻害因子は、以下、すなわちCFI、CFH、FHL-1、C1INH、C4BP、CD46、CD55、CD59、CD35、ビトロネクチン、クラステリン、およびCSMD1、またはその断片もしくは誘導体から選択してもよい。
【0208】
好ましくは、前記補体系の前記阻害因子は、以下、すなわちCFI、CFH、およびFHL-1、またはその断片もしくは誘導体から選択される。
【0209】
好ましくは、前記補体系の前記阻害因子は、ヒトにおける補体系の阻害因子である。
【0210】
CFI
本発明のベクターは、CFIをコードするヌクレオチド配列、またはその断片もしくは誘導体を含んでいてもよい。
【0211】
補体I因子(CFI)は、C3bのα鎖中の3つのペプチド結合とC4bのα鎖中の2つの結合を切断し、それによってこれらのタンパク質を不活性化することにより前記補体系を阻害する、トリプシン様セリンプロテアーゼである。
【0212】
CFIは、ジスルフィド結合した重鎖と軽鎖からなる糖タンパク質ヘテロ二量体である。該重鎖は4つのドメイン、すなわちFI膜侵襲複合体(FIMAC)ドメイン、CD5ドメイン、ならびに低密度リポタンパク質受容体1および2(LDLr1およびLDLr2)ドメインを有する。該重鎖は、酵素が基質(C3bまたはC4b)と補助因子タンパク質(H因子、C4b結合タンパク質、補体受容体1、およびメンブレンコファクタープロテイン)により形成される複合体と出会うまで該酵素を不活性に保つ上で阻害的役割を果たす。該酵素が該基質:補助因子複合体に結合すると、重鎖:軽鎖接合部分が破壊され、該酵素がアロステリック効果により活性化される。該軽鎖はセリンプロテアーゼドメインのみを含有する。このドメインは触媒三残基His-362、Asp-411、およびSer-507を含有しており、C3bおよびC4bの特異的切断に関与している。
【0213】
前記CFIまたはその断片もしくは誘導体は、C3bをiC3bに切断する能力を有していてもよいし、かつ/またはiC3bをC3d,gに切断する能力を有していてもよい。
【0214】
前記CFIの断片または誘導体は、天然のCFIのC3b不活性化活性およびiC3b分解活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%を保持していてもよい。該CFIの断片または誘導体および天然のCFIの該C3b不活性化活性およびiC3b分解活性は、当業者に公知の任意の適切な方法を利用して、例えば、タンパク質分解アッセイを利用して測定してもよい。
【0215】
好ましくは、前記CFIはヒトCFIである。ヒトCFIの1例は、UniProtKBアクセス番号P05156を有するCFIである。
【0216】
適切には、前記CFIは、配列番号11、または配列番号11と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0217】
例示的CFIポリペプチド配列(配列番号11):
【化14】
【0218】
適切には、前記バリアントは、配列番号11と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0219】
CFIをコードするヌクレオチド配列の1例はNM_000204.5である。適切には、該CFIをコードするヌクレオチド配列は、配列番号12、または配列番号12と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリヌクレオチド配列を含むかまたは該ポリヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0220】
例示的CFIポリヌクレオチド配列(配列番号12):
【化15】
【0221】
適切には、前記バリアントは、配列番号12と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0222】
CFH
本発明のベクターは、CFHをコードするヌクレオチド配列、またはその断片もしくは誘導体を含んでいてもよい。
【0223】
補体H因子(CFH)は、自己細胞および表面における補体活性化を調節する。CFHは補体B因子(CFB)のC3bへの結合と競合し、CFIが触媒するC3bのタンパク質分解的切断のための補助因子として作用し、さらにC3bBbおよびC3b2Bbのそれらの別個の成分への不可逆的解離を促進する。従って、CFHは転換酵素の形成を阻害するだけでなく、形成される任意の転換酵素複合体の寿命も短縮する。
【0224】
CFHは大きい(155 kDa)可溶性糖タンパク質である。CFHは合計20個のドメインから構成され、その各々はおよそ60個のアミノ酸残基を含有しており、3~8個の残基からなる短いリンカーにより結び付いた補体制御タンパク質モジュール(CCP)またはショートコンセンサスリピートと称される。該CCPモジュールは(該タンパク質のN末端から)1~20の番号が付けられており、CCP 1~4およびCCP 19~20がC3bと関わる一方で、CCP 7およびCCP 19~20はGAGおよびシアル酸と結合する。
【0225】
前記CFHまたはその断片もしくは誘導体は、C3bおよび/もしくはC3dを結合する能力、ならびに/またはCFIが触媒するC3bのタンパク質分解的切断のための補助因子として作用する能力、ならびに/またはC3bBbおよびC3b2Bbのそれらの別個の成分への不可逆的解離を増大させる能力を有していてもよい。CFHの断片または誘導体は、天然のCFHの活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%を保持していてもよい。CFHの断片または誘導体および天然のCFHの該活性は、当業者に公知の任意の適切な方法を利用して測定してもよい。
【0226】
好ましくは、前記CFHはヒトCFHである。ヒトCFHの1例は、UniProtKBアクセス番号P08603を有するCFHである。
【0227】
適切には、前記CFHは、配列番号13、または配列番号13と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0228】
例示的CFHポリペプチド配列(配列番号13):
【化16】
【0229】
適切には、前記バリアントは、配列番号13と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0230】
CFHをコードするヌクレオチド配列の1例はNM_000186.4である。適切には、該CFHをコードするヌクレオチド配列は、配列番号14、または配列番号14と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリヌクレオチド配列を含むかまたは該ポリヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0231】
例示的CFHポリヌクレオチド配列(配列番号14):
【化17】
【0232】
適切には、前記バリアントは、配列番号14と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0233】
前記CFH断片はスプライスバリアントであってもよい。例えば、補体H因子様タンパク質1(FHL-1)はCFH遺伝子スプライスバリアントであり、これはCFHのN末端の7ドメイン(CCP 1~7)とほぼ同一である。
【0234】
FHL-1
本発明のベクターは、FHL-1、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。FHL-1またはその断片もしくは誘導体は、C3bおよび/またはC3dを結合する能力を有していてもよい。FHL-1の断片または誘導体は、天然のFHL-1の活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%を保持していてもよい。FHL-1の断片または誘導体および天然のFHL-1の該活性は、当業者に公知の任意の適切な方法を利用して測定してもよい。
【0235】
好ましくは、前記FHL-1はヒトFHL-1である。ヒトFHL-1の1例は、NCBI Reference Sequence:NP_001014975.1を有するFHL-1である。
【0236】
適切には、前記FHL-1は、配列番号15、または配列番号15と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0237】
例示的FHL-1ポリペプチド配列(配列番号15):
【化18】
【0238】
適切には、前記バリアントは、配列番号15と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0239】
FHL-1をコードするヌクレオチド配列の1例はNM_001014975.2である。適切には、該FHL-1をコードするヌクレオチド配列は、配列番号16、または配列番号16と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリヌクレオチド配列を含むかまたは該ポリヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0240】
例示的FHL-1ポリヌクレオチド配列(配列番号16):
【化19】
【0241】
適切には、前記バリアントは、配列番号16と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0242】
他の補体阻害因子
C1INH
本発明のベクターは、C1INH、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0243】
C1-阻害因子(C1INH)は、補体の古典経路のC1複合体中のC1rおよびC1sプロテアーゼに不可逆的に結合して不活性化する。
【0244】
好ましくは、前記C1INHはヒトC1INHである。ヒトC1INHの1例は、UniProtKBアクセス番号P05155を有するC1INHである。適切には、該C1INHは、配列番号17、または配列番号17と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0245】
例示的C1INHポリペプチド配列(配列番号17):
【化20】
【0246】
適切には、前記バリアントは、配列番号17と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0247】
C4BP
本発明のベクターは、C4BP、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0248】
C4b結合タンパク質(C4BP)は、古典およびレクチン経路、より具体的にはC4の作用を阻害する。C4BPはC3bを結合する能力も有する。C4BPはC3転換酵素の崩壊を加速させるものであり、またC4bおよびC3bを切断するCFIの補助因子である。ヒト血液中でのC4BPの主な形態は、7つの同一のα鎖と1つの特有のβ鎖から構成されている。
【0249】
好ましくは、前記C4BPはヒトC4BPである。
【0250】
ヒトC4BPα鎖の1例は、UniProtKBアクセス番号P04003を有するC4BPα鎖である。適切には、該C4BPは、配列番号18、または配列番号18と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含んでいてもよい。
【0251】
例示的C4BPα鎖ポリペプチド配列(配列番号18):
【化21】
【0252】
適切には、前記バリアントは、配列番号18と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0253】
ヒトC4BPβ鎖の1例は、UniProtKBアクセス番号P20851を有するC4BPα鎖である。適切には、該C4BPは、配列番号19、または配列番号19と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含んでいてもよい。
【0254】
例示的C4BPβ鎖ポリペプチド配列(配列番号19):
【化22】
【0255】
適切には、前記バリアントは、配列番号19と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0256】
CD46
本発明のベクターは、CD46、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0257】
CD46(メンブレンコファクタープロテインとしても知られている)はCFIの補助因子として作用する。
【0258】
好ましくは、前記CD46はヒトCD46である。ヒトCD46の1例は、UniProtKBアクセス番号P15529を有するCD46である。適切には、該CD46は、配列番号20、または配列番号20と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0259】
例示的CD46 ポリペプチド配列(配列番号20):
【化23】
【0260】
適切には、前記バリアントは、配列番号20と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0261】
CD55
本発明のベクターは、CD55、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0262】
CD55(DAFとしても知られている)は、C4b2bおよびC3bBbの形成を阻害する。
【0263】
好ましくは、前記CD55はヒトCD55である。ヒトCD55の1例は、UniProtKBアクセス番号P08174を有するCD55である。適切には、該CD55は、配列番号21、または配列番号21と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0264】
例示的CD55ポリペプチド配列(配列番号21):
【化24】
【0265】
適切には、前記バリアントは、配列番号21と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0266】
CD59
本発明のベクターは、CD59、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0267】
CD59(MAC-IPまたはMIRLとしても知られている)は、C9が重合して補体膜侵襲複合体を形成するのを阻止することができる。CD59は、CD59-CD9複合体のエンドサイトーシスなどの積極的な対策を行うよう細胞に信号を送る場合もある。
【0268】
好ましくは、前記CD59はヒトCD59である。ヒトCD59の1例は、UniProtKBアクセス番号P13987を有するCD59である。適切には、該CD59は、配列番号22、または配列番号22と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0269】
例示的CD59ポリペプチド配列(配列番号22):
【化25】
【0270】
適切には、前記バリアントは、配列番号22と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0271】
CD35
本発明のベクターは、CD35、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0272】
CD35(1型補体受容体(CR1)としても知られている)は、補体によりオプソニン化された免疫複合体の処理および排除のためのメインシステムとして働く。CR1は、補体カスケードの負の調節因子として作用し、免疫粘着および食作用を媒介して古典および第二経路の両方を阻害できることが示されている。
【0273】
好ましくは、前記CD35はヒトCD35である。ヒトCD35の1例は、UniProtKBアクセス番号P17927を有するCD35である。適切には、該CD35は、配列番号23、または配列番号23と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0274】
例示的CD35ポリペプチド配列(配列番号23):
【化26】
【0275】
適切には、前記バリアントは、配列番号23と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0276】
ビトロネクチン
本発明のベクターは、ビトロネクチン、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0277】
ビトロネクチンは、終末細胞溶解性補体経路の膜損傷作用を阻害する。
【0278】
好ましくは、前記ビトロネクチンはヒトビトロネクチンである。ヒトビトロネクチンの1例は、UniProtKBアクセス番号P04004を有するビトロネクチンである。適切には、該ビトロネクチンは、配列番号24、または配列番号24と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0279】
例示的ビトロネクチンポリペプチド配列(配列番号24):
【化27】
【0280】
適切には、前記バリアントは、配列番号24と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0281】
クラステリン
本発明のベクターは、クラステリン、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0282】
クラステリンは、終末細胞溶解性補体経路の膜損傷作用を阻害する。
【0283】
好ましくは、前記クラステリンはヒトクラステリンである。ヒトクラステリンの1例は、UniProtKBアクセス番号P10909を有するクラステリンである。適切には、該クラステリンは、配列番号25、または配列番号25と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0284】
例示的クラステリンポリペプチド配列(配列番号25):
【化28】
【0285】
適切には、前記バリアントは、配列番号25と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0286】
CSMD1
本発明のベクターは、CSMD1、またはその断片もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0287】
CUBおよびSushi多重ドメイン1(CSMD1)は、CFIにより媒介されるC4b/C3b分解を促進することにより、またMACの組立てを阻害することにより、補体活性化を阻害することができる。
【0288】
好ましくは、前記CSMD1はヒトCSMD1である。ヒトCSMD1の1例は、UniProtKBアクセス番号Q96PZ7を有するCSMD1である。適切には、該CSMD1は、配列番号26、または配列番号26と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。
【0289】
例示的CSMD1ポリペプチド配列(配列番号26):
【化29】
【0290】
適切には、前記バリアントは、配列番号26と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0291】
バリアント、誘導体、類似体、相同体および断片
本明細書中で記述した具体的なタンパク質およびヌクレオチドに加えて、本発明はそのバリアント、誘導体、相同体および断片もまた包含する。
【0292】
本発明との関連において、任意の所与の配列の「バリアント」とは、特定配列の残基(アミノ酸残基か核酸残基かにかかわらず)が、当該ポリペプチドまたはポリヌクレオチドがその内因性機能のうちの少なくとも1つを保持するような様式で改変されている配列である。例えば、補体阻害因子のバリアントは、補体系を阻害する能力を保持していてもよい。バリアント配列は、天然に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド中に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換、改変、交換および/または変異により取得することができる。
【0293】
本発明のタンパク質またはポリペプチドに関して本明細書中で使用する用語「誘導体」は、結果として生じるタンパク質またはポリペプチドがその内因性機能のうちの少なくとも1つを保持する場合に限り、その配列からの、またはその配列に対する1つ(またはそれ以上)のアミノ酸残基の任意の置換、変異、改変、交換、欠失および/または付加を含む。例えば、補体阻害因子の誘導体は、補体系を阻害する能力を保持していてもよい。
【0294】
典型的には、アミノ酸置換は、改変された配列が所要の活性または能力を保持する場合に限り、例えば1、2または3個から10または20個の置換を行ってもよい。アミノ酸置換は、天然に存在しない類似体の使用を含んでいてもよい。
【0295】
本発明において使用するタンパク質もまた、サイレント変化を生じかつ機能的に同等のタンパク質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入または置換を有していてもよい。計画的なアミノ酸置換を、内因性機能が保持される限りは、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性の性質の類似度に基づいて行ってもよい。例えば、負荷電アミノ酸としてアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正荷電アミノ酸としてリジンおよびアルギニンが挙げられ、また同様の親水性値を有する非荷電極性頭部を持つアミノ酸としてアスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニンおよびチロシンが挙げられる。
【0296】
保存的置換は、例えば下記表に従って行ってもよい。2列目の同じ欄、および好ましくは3列目の同じ行に記載のアミノ酸は、互いに置換しうる:
【0297】
【表1】
【0298】
本明細書中で使用する用語「相同体(ホモログ)」は、野生型アミノ酸配列または野生型ヌクレオチド配列との一定の相同性を有するバリアントを意味する。該用語「相同性」は、「同一性」と同一視することができる。
【0299】
この文脈において、相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、65%、75%、85%または90%同一、好ましくは少なくとも95%、96%または97%または98%または99%同一でありうるアミノ酸配列を含むものとみなされる。典型的には、相同体は、対象アミノ酸配列と同じ活性部位などを含む。相同性は類似性(すなわち、類似した化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)の観点から考えることもできるが、本発明との関連においては配列同一性の観点から相同性を表現することが好ましい。
【0300】
この文脈において、相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、65%、75%、85%または90%同一、好ましくは少なくとも95%、96%または97%または98%または99%同一でありうるヌクレオチド配列を含むものとみなされる。相同性は類似性の観点から考えることもできるが、本発明との関連においては配列同一性の観点から相同性を表現することが好ましい。
【0301】
好ましくは、本明細書中に詳述した配列番号のうちの任意の1つに対して同一性パーセントを示す配列に言及する場合は、言及された該配列番号の完全長にわたってその記載された同一性パーセントを示す配列を指す。
【0302】
相同性比較は、目測で、またはより通常には、容易に入手可能な配列比較プログラムを採用して実行することができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列間の相同性または同一性パーセントを算出することができる。
【0303】
相同性パーセントを連続した配列にわたり算出してもよく、すなわち、一方の配列を他方の配列と整列させてから、一方の配列中の各アミノ酸またはヌクレオチドを、他方の配列中の対応するアミノ酸またはヌクレオチドと、一度に1残基ずつ直接比較する。これは「ギャップなし」アラインメントと称される。典型的には、かかるギャップなしアラインメントは、比較的少数の残基に対してのみ実施される。
【0304】
これは非常に簡便でありかつ一貫する方法であるが、該方法は、例えば、その他の点で同一の配列ペアにおいて、アミノ酸またはヌクレオチド配列における1つの挿入または欠失がそれ以降の残基またはコドンをアラインメントから締め出し、ひいては大域的アラインメントを実施した場合に相同性パーセントの大幅な減少をもたらす可能性がありうることを考慮していない。その結果として、大抵の配列比較法は、総合的な相同性スコアに過度にペナルティを課すこと無く可能性のある挿入および欠失を考慮した最適なアラインメントを生成するように設計される。これは、局所的相同性を最大化しようと試みる目的で、配列アラインメント中に「ギャップ」を挿入することにより達成される。
【0305】
しかしながら、これらのより複雑な方法は、同数の同一アミノ酸またはヌクレオチドに関して、2つの比較した配列間のより高い関連性を反映する、できる限り少ないギャップを含む配列アラインメントが、多数のギャップを含むものより高いスコアを獲得するように、アラインメント中に生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当てる。典型的には、ギャップの存在に比較的高いコストを設定しかつ該ギャップ中のその後の各残基により小さいペナルティを設定する「アフィンギャップコスト」を使用する。これは最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティは当然ながら、より少ないギャップを含む最適化されたアラインメントを生じる。大抵のアラインメントプログラムは、ギャップペナルティを変更できる。しかしながら、配列比較のためにかかるソフトウェアを使用する場合には、デフォルト値を使用することが好ましい。例えばGCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列に対するデフォルトのギャップペナルティは、ギャップに対しては-12、各伸長に対しては-4である。
【0306】
最大相同性パーセントの算出は、従って、ギャップペナルティを考慮した最適なアラインメントの作成を最初に必要とする。かかるアラインメントを実行するための適切なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, USA;Devereux ら(1984) Nucleic Acids Research 12: 387)である。配列比較を実施できる他のソフトウェアの具体例としては、限定するものではないが、BLASTパッケージ(Ausubel ら(1999) ibid - Ch. 18を参照されたい)、FASTA(Atschul ら(1990) J. Mol. Biol. 403-410)、EMBOSS Needle(Madeira, F.,ら、2019. Nucleic acids research, 47(W1), pp.W636-W641)およびGENEWORKSスイートの比較ツールが挙げられる。BLASTおよびFASTAは共に、オフラインおよびオンライン検索に利用可能である(Ausubel ら(1999) ibid, pages 7-58 to 7-60を参照されたい)。しかしながら、一部のアプリケーションに関しては、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。別のツールであるBLAST 2 Sequencesもまた、タンパク質およびヌクレオチド配列を比較するために利用可能である(FEMS Microbiol. Lett.(1999) 174(2):247-50;FEMS Microbiol. Lett.(1999) 177(1):187-8)。
【0307】
最終的な相同性パーセントは同一性の観点から測定できるが、そのアラインメントプロセスそれ自体は、典型的には全か無かの(all-or-nothing)ペア比較に基づくものではない。代わりに、化学的類似性または進化距離に基づいて各ペアワイズ比較に対しスコアを割り当てる、スケールを用いる(scaled)類似性スコアマトリックスを通常は使用する。一般的に用いられるかかるマトリックスの1例は、BLOSUM62マトリックス(BLASTスイートのプログラム用のデフォルトマトリックス)である。GCG Wisconsinプログラムは、通常はパブリックデフォルト値または提供されていればカスタムシンボル比較表のいずれかを使用する(さらなる詳細についてはユーザーマニュアルを参照されたい)。一部のアプリケーションに関しては、GCGパッケージ用のパブリックデフォルト値を使用することが好ましく、または他のソフトウェアの場合は、BLOSUM62などのデフォルトマトリックスを使用することが好ましい。
【0308】
前記ソフトウェアにより最適なアラインメントが生成されれば、相同性パーセント、好ましくは配列同一性パーセントを算出することができる。該ソフトウェアは、典型的には配列比較の一環としてこれを行い、数値結果を作成する。配列同一性パーセントは、言及した配列番号中の総残基に占める割合としての、同一残基の数として算出してもよい。
【0309】
「断片」はバリアントでもあり、またこの用語は典型的には、機能的に、または、例えばアッセイにおいて関心のあるポリペプチドまたはポリヌクレオチドの選択された領域を指す。「断片」は従って、全長ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの一部であるアミノ酸または核酸配列を指す。
【0310】
かかるバリアント、誘導体、相同体および断片は、部位特異的突然変異誘発などの標準的な組換えDNA技術を利用して調製してもよい。挿入物を作製する場合、挿入部位の両側の天然に存在する配列に対応する5’および3’隣接領域と共に該挿入物をコードする合成DNAを作製してもよい。該隣接領域は、天然に存在する配列が適当な酵素(複数可)により切断されかつ該合成DNAが切断部に連結されるように、該配列中の部位に対応する好都合な制限部位を含有するであろう。該DNAはその後、コードされるタンパク質を作製するために本発明に従って発現される。これらの方法は、DNA配列の操作のための当分野で公知の数多くの標準技術の例示に過ぎず、他の公知技術を使用することもできる。
【0311】
コドン最適化
本発明で使用するポリヌクレオチドは、コドンが最適化されていてもよい。
【0312】
異なる細胞は、その特定のコドンの使用頻度が異なる。このコドンバイアスは、細胞型における特定のtRNAの相対的存在量の偏りに相当する。配列中のコドンを、それらを対応するtRNAの相対的存在量と一致するよう調整するために変更することで、発現を増大させることが可能である。同じ理由で、対応するtRNAが特定の細胞型では稀であることが知られているコドンを意図的に選択することにより、発現を減少させることが可能である。従って、さらなる翻訳調節が利用可能となる。コドン使用頻度表は、哺乳動物細胞(例えばヒト)に関して、ならびに様々な他の生物に関して当分野で公知である。
【0313】
細胞
ある態様では、本発明は、本発明のベクターを含む細胞を提供する。該細胞は単離された細胞であってもよい。該細胞はヒト細胞、適切には単離されたヒト細胞であってもよい。
【0314】
本発明で使用するポリヌクレオチドを含むベクターは、当分野で公知の様々な技術、例えばトランスフェクション、形質導入および形質転換を利用して細胞に導入してもよい。適切には、本発明のベクターを、トランスフェクションまたは形質導入により細胞に導入する。
【0315】
前記細胞は、先行技術において公知である任意の細胞型でありうる。
【0316】
適切には、前記細胞はプロデューサー細胞であってもよい。用語「プロデューサー細胞」は、ウイルス粒子を産生するのに必要な全ての要素の一過性トランスフェクション、安定したトランスフェクションもしくはベクター形質導入後に該ウイルス粒子を産生する細胞、またはウイルス粒子を産生するのに必要な要素を安定して含むよう操作された任意の細胞を含む。適切なプロデューサー細胞は当業者に周知であろう。適切なプロデューサー細胞系としては、HEK293(例えばHEK293T)、HeLa、およびA549細胞系が挙げられる。
【0317】
適切には、前記細胞はパッケージング細胞であってもよい。用語「パッケージング細胞」は、感染性組換えウイルスをパッケージングするために必要な要素の一部または全てを含有する細胞を含む。該パッケージング細胞は、組換えウイルスベクターゲノムが欠損していてもよい。典型的には、かかるパッケージング細胞は、ウイルスの構造タンパク質を発現する能力を有する1つ以上のベクターを含有する。エンベロープウイルス粒子の産生に必要とされる要素の一部のみを含む細胞は、その後のさらなる所要の要素それぞれの一過性トランスフェクション、形質導入または安定した組み込みのステップを通して、ウイルス粒子プロデューサー細胞系の作製における中間反応物として有用である。これらの中間反応物は、前記用語「パッケージング細胞」に包含される。適切なパッケージング細胞は当業者に周知であろう。
【0318】
適切には、前記細胞は腎臓細胞、例えば足細胞であってもよい。適切には、該細胞は、不死化した腎臓細胞、例えば不死化足細胞であってもよい。適切な足細胞細胞系、例えばCIHP-1は当業者に周知であろう。不死化足細胞を作製するための方法は当業者に周知であろう。適切な方法は、Ni, L.,ら、2012. Nephrology, 17(6), pp.525-531に記載されている。
【0319】
医薬組成物
ある態様では、本発明は、本発明のベクターまたは 本発明の細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0320】
医薬組成物とは、治療上有効な量の薬学的に活性な物質、すなわち前記ベクター含むかまたは該ベクターから構成される組成物である。医薬組成物は好ましくは、製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含む。
【0321】
「製薬上許容される」には、その製剤が無菌かつ発熱物質を含まないことが含まれる。前記担体、希釈剤、および/または賦形剤は、前記ベクターに適合しかつその受容者にとって有害ではないという意味で「許容される」ものでなければならない。典型的には、該担体、希釈剤、および賦形剤は、無菌かつ発熱物質を含まないであろう生理食塩水または注入媒体であろうが、他の許容される担体、希釈剤、および賦形剤を使用してもよい。
【0322】
治療用途のための許容される担体、希釈剤、および賦形剤は、製薬技術分野では周知である。製薬上の担体、賦形剤または希釈剤の選択肢は、意図する投与経路および標準的な薬務に関して選択することができる。前記医薬組成物は、該担体、賦形剤または希釈剤として、またはそれに加えて、任意の適切な結合剤(複数可)、滑沢剤(複数可)、懸濁剤(複数可)、コーティング剤(複数可)または可溶化剤(複数可)を含んでいてもよい。
【0323】
製薬上許容される担体の具体例としては、例えば、水、塩類溶液、アルコール、シリコーン、ワックス、ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖類、ゼラチン、乳糖、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリドおよびジグリセリド、ペトロエトラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチル-セルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0324】
本発明によるベクター、細胞または医薬組成物は、本明細書中に記載した疾患の処置および/または予防に適した様式で投与してもよい。適当な投与量は臨床試験により決定しうるが、投与の量および頻度は対象の健康状態、ならびに対象の疾患の種類および重症度などの因子により決定されるであろう。該医薬組成物は適宜製剤化されていてもよい。
【0325】
本発明によるベクター、細胞または医薬組成物は、非経口的に、例えば、静脈内に、または注入技術により投与してもよい。該ベクター、細胞または医薬組成物は、他の物質、例えば、血液と等張の溶液を作製するのに十分な塩類またはグルコースを含有しうる滅菌水溶液の形で投与してもよい。該水溶液は、適切には、(好ましくはpH 3~9に)緩衝されていてもよい。該医薬組成物は適宜製剤化されていてもよい。無菌条件下での適切な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製薬技術により容易に達成される。
【0326】
本発明によるベクター、細胞または医薬組成物は全身的に、例えば静脈内注射により投与してもよい。
【0327】
本発明によるベクター、細胞または医薬組成物は局所的に、例えば投与を腎臓に標的化することにより、投与してもよい。適切には、該ベクター、細胞または医薬組成物は、腎動脈内への注射により、または尿管注入もしくは被膜下注射により投与してもよい。
【0328】
前記医薬組成物は、注入媒体、例えば無菌等張液中に本発明のベクターまたは細胞を含んでいてもよい。該医薬組成物は、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投与用バイアルに封入されていてもよい。
【0329】
前記ベクター、細胞または医薬組成物は、単回または複数回投与として投与してもよい。特に、該ベクター、細胞または医薬組成物は、単回、1回限りの投与として投与してもよい。該医薬組成物は適宜製剤化されていてもよい。
【0330】
前記ベクター、細胞または医薬組成物は、様々な用量(例えばベクターゲノム(vg)/kgで測定)で投与してもよい。いずれにせよ、医師が任意の個々の対象にとって最も適切であろう実際の投与量を決定するであろうし、該投与量はその特定の対象の年齢、体重、および反応によって異なるであろう。しかしながら、典型的には、本発明のAAVベクターの場合、1010~1014 vg/kg、または1011~1013 vg/kgの用量を投与してもよい。
【0331】
前記医薬組成物は、1つ以上の他の治療薬をさらに含んでいてもよい。
【0332】
本発明は、本発明のベクター、細胞および/または医薬組成物を含むキットの使用をさらに含む。好ましくは、該キットは前記方法で使用するためのものであって、本明細書中に記載した通りに使用され、例えば、本明細書中に記載の治療方法で使用される。好ましくは、該キットは該キットの成分の使用説明書を含む。
【0333】
ある態様では、本発明は、薬剤としての使用のための本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0334】
関連のある態様では、本発明は、薬剤の製造における本発明によるベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0335】
関連のある態様では、本発明は、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する方法を提供する。
【0336】
疾患を処置および/または予防するための方法
本発明によるベクター、細胞または医薬組成物は、対象において補体介在性腎疾患を処置するために使用してもよい。適切には、該対象はヒト対象である。
【0337】
ある態様では、本発明は、補体介在性腎疾患の予防または処置における使用のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0338】
関連のある態様では、本発明は、補体介在性腎疾患を予防または処置するための薬剤の製造のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0339】
関連のある態様では、本発明は、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、補体介在性腎疾患を予防または処置する方法を提供する。
【0340】
補体介在性腎疾患
本明細書中で使用する場合、「補体介在性腎疾患」は、前記補体系の調節異常により引き起こされる腎臓の疾患である。該補体系は、多様な異なる疾患において腎臓の損傷を引き起こす可能性がある。適切には、該補体介在性腎疾患は、該補体系の過剰な活性化により引き起こされる。
【0341】
例示的な補体介在性腎疾患としては、IgA腎症、C3腎症、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、stx関連HUS、ループス腎炎、クリオグロブリン血症、抗GBM病、ANCA関連血管炎、細菌性心内膜炎、感染後糸球体腎炎、腎移植の抗体関連型拒絶反応、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎I型、または膜性増殖性糸球体腎炎III型が挙げられる。
【0342】
本発明によるベクター、細胞または医薬組成物は、前記補体介在性腎疾患の拒絶反応を覆すかもしくは進行を遅らせるため、または該補体介在性腎疾患の少なくとも1つの症状を緩和、軽減、もしくは改善するために、該補体介在性腎疾患を患う対象に投与してもよい。
【0343】
IgA腎症
ある態様では、本発明は、IgA腎症の予防または処置における使用のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0344】
関連のある態様では、本発明は、IgA腎症を予防または処置するための薬剤の製造のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0345】
関連のある態様では、本発明は、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、IgA腎症を予防または処置する方法を提供する。
【0346】
ベルジェ病、または咽頭炎併発糸球体腎炎(synpharyngitic glomerulonephritis)としても知られるIgA腎症(IgAN)は、腎臓の疾患(または腎症)および免疫系の疾患であり、特にIgA腎症は糸球体腎炎または腎臓の糸球体の炎症という形をとる。IgA腎症は世界中で最もよく見られる糸球体腎炎である。
【0347】
IgA腎症は、IgA1分子の異常なグリコシル化、およびその変性IgA1に特異的な自己抗体の発生と関連している。IgA1含有免疫複合体はメサンギウム内に沈着し、糸球体傷害の開始を生じる可能性が高い。IgAは、第二経路またはマンノース結合レクチン経路のいずれかを通じて補体系を活性化する。足細胞からの補体阻害因子の分泌は、IgA腎症を患う対象において該補体系を局所的に調節するのに役立ちうる。
【0348】
本発明によるベクター、細胞または医薬組成物は、IgA腎症の拒絶反応を覆すかもしくは進行を遅らせるため、または血尿およびタンパク尿などのIgA腎症の少なくとも1つの症状を緩和、軽減、もしくは改善するために、IgA腎症を患う対象に投与してもよい。該ベクター、細胞または医薬組成物の投与により、糸球体からIgAを除去する可能性があり、かつ/またはさらなるIgAの沈着を予防し得る。
【0349】
C3腎症
ある態様では、本発明は、C3腎症の予防または処置における使用のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0350】
関連のある態様では、本発明は、C3腎症を予防または処置するための薬剤の製造のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0351】
関連のある態様では、本発明は、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、C3腎症を予防または処置する方法を提供する。
【0352】
C3腎症は、2つの重複する病態、すなわちデンスデポジット病およびC3腎炎を含む関連症状群である。C3腎症の主な特徴としては、尿中の高濃度のタンパク質(タンパク尿)、尿中の血液(血尿)、尿量の減少、血液中の低濃度のタンパク質、および身体の多くの部位の腫脹が挙げられる。C3腎症の前記2つの亜型、デンスデポジット病およびC3腎炎を区別するには、電子顕微鏡検査が必要である。
【0353】
C3腎症は、免疫グロブリン、C1q、またはC4dの相対的非存在下での、顕著な糸球体C3の検出によって診断される。C3腎症は、補体制御の遺伝的または後天的欠陥を原因とする、第二補体経路の過剰な活性化により引き起こされる。活性化C3断片(例えば、C3b、iC3b、C3dgおよびC3d)は糸球体基底膜に沈着し、膜機能を破壊して、糸球体の損傷をもたらす炎症反応を引き起こす。
【0354】
本発明によるベクター、細胞または医薬組成物は、C3腎症の拒絶反応を覆すかもしくは進行を遅らせるため、または血尿およびタンパク尿などのC3腎症の少なくとも1つの症状を緩和、軽減、もしくは改善するために、C3腎症を患う対象に投与してもよい。該ベクター、細胞または医薬組成物の投与は、活性化C3断片を糸球体基底膜から除去する可能性があり、かつ/または活性化C3断片のさらなる沈着を予防し得る。
【0355】
デンスデポジット病
ある態様では、本発明は、デンスデポジット病の予防または処置における使用のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0356】
関連のある態様では、本発明は、デンスデポジット病を予防または処置するための薬剤の製造のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0357】
関連のある態様では、本発明は、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、デンスデポジット病を予防または処置する方法を提供する。
【0358】
デンスデポジット病は、膜性増殖性糸球体腎炎2型と歴史的に分類されているC3腎症である。
【0359】
デンスデポジット病では、電子顕微鏡検査により、糸球体基底膜(GBM)の緻密層を肥厚および変形させる、「ソーセージ様」または「書道様(Chinese calligraphy-like)」の外観を呈する高電子密度のオスミウム親和性沈着物が示される。
【0360】
C3腎炎
ある態様では、本発明は、C3腎炎の予防または処置における使用のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0361】
関連のある態様では、本発明は、C3腎炎を予防または処置するための薬剤の製造のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0362】
関連のある態様では、本発明は、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、C3腎炎を予防または処置する方法を提供する。
【0363】
C3腎炎は、非定型膜性増殖性糸球体腎炎1型および3型と歴史的に分類されているC3腎症である。
【0364】
C3腎炎では、沈着物の電子密度は糸球体基質成分の電子密度に近い。これらの沈着物は、メサンギウム内に無定形の雲状陰影(amorphous cloudy appearance)を有することが多く、また境界が不明瞭な、内皮下(膜内および/または上皮下)の内包物として出現しうる。
【0365】
他の補体介在性腎疾患
ある態様では、本発明は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、stx関連HUS、ループス腎炎、クリオグロブリン血症、抗GBM病、ANCA関連血管炎、細菌性心内膜炎、感染後糸球体腎炎、腎移植の抗体関連型拒絶反応、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎I型、または膜性増殖性糸球体腎炎III型の予防または処置における使用のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0366】
関連のある態様では、本発明は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、stx関連HUS、ループス腎炎、クリオグロブリン血症、抗GBM病、ANCA関連血管炎、細菌性心内膜炎、感染後糸球体腎炎、腎移植の抗体関連型拒絶反応、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎I型、または膜性増殖性糸球体腎炎III型を予防または処置するための薬剤の製造のための、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0367】
関連のある態様では、本発明は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、stx関連HUS、ループス腎炎、クリオグロブリン血症、抗GBM病、ANCA関連血管炎、細菌性心内膜炎、感染後糸球体腎炎、腎移植の抗体関連型拒絶反応、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎I型、または膜性増殖性糸球体腎炎III型を予防または処置する方法であって、本発明によるベクター、細胞または医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む該方法を提供する。
【0368】
非典型溶血性尿毒症症候群は、腎臓の小血管内に異常な凝血塊(血栓)を形成させる疾患である。これらの血餅は、それらが血流を制限または遮断すると、深刻な医学的問題を引き起こす可能性がある。非典型溶血性尿毒症症候群は、異常凝固に関連する3つの主な特徴、すなわち溶血性貧血、血小板減少症、および腎不全を特徴とする。aHUSは、通常は補体系の慢性的で無制御な活性化により引き起こされる。
【0369】
stx関連HUSは、典型溶血性尿毒症症候群としても知られている。stx関連HUSは大腸菌(Escherichia coli)に感染した個人、特に小児の5~15%に発症する。大腸菌は、血流に吸収されかつ腎臓に輸送されうるstx毒素を腸管内に放出する。これは急性腎障害、脳、膵臓、および他の臓器への損傷をもたらしうる。stx関連HUSにおいて補体の活性化が果たす役割に関する証拠が増えつつある。
【0370】
ループス腎炎は、自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)により引き起こされる腎臓の炎症である。ループス腎炎では補体活性化が糸球体傷害を媒介する。
【0371】
クリオグロブリン血症は、血液がクリオグロブリンと呼ばれる多量の病的低温感受性抗体を含有している医学的状態である。クリオグロブリンは、血管の上皮に沈着して血液の補体系を活性化することによりC5aなどの炎症誘発性要素を形成し、それによりクリオグロブリン血症性血管炎と称される全身性血管炎症反応を起こしうる。
【0372】
グッドパスチャー病としても知られている抗-糸球体基底膜(GBM)病は、腎臓および肺において小血管の炎症を引き起こす希少な病気である。GPSは抗GBM抗体の異常な形質細胞産生により引き起こされる。該抗GBM抗体は肺胞および糸球体の基底膜を攻撃する。これらの抗体はその反応性エピトープを該基底膜に結合して補体カスケードを活性化し、タグ付けされた細胞の死をもたらす。
【0373】
抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)は、小血管の破壊および炎症を特徴とする疾患群(多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症および顕微鏡的多発血管炎)である。補体系の活性化はAAVの発症に不可欠であり、またその補体活性化産物C5aは中心的役割を有する。
【0374】
細菌性心内膜炎は心臓の内膜または心臓弁の細菌感染症である。細菌性心内膜炎を患う患者は、細菌感染症関連免疫複合体媒介性糸球体腎炎を含む幾つかの形態の腎臓病を発症する可能性がある。
【0375】
感染後糸球体腎炎(PIGN)は、感染の結果として生じうる免疫複合体媒介性糸球体傷害である。免疫グロブリン(Ig)GとC3の共沈着がPIGNで一般に観察される。
【0376】
抗体関連型拒絶反応は、移植臓器の内皮細胞上に発現されたヒト白血球抗原(HLA)への抗体の結合により引き起こされる。該抗体は補体の古典経路を活性化する。
【0377】
膜性腎症(MN)は、糸球体上皮下免疫沈着物を特徴とする組織病理学的な損傷パターンを示す。C3およびC5b-9が免疫沈着物内に一貫して見出されるため、ヒトMNにおける補体の顕著な役割に関する多くの状況証拠がある。
【0378】
膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、肥厚し、補体を活性化しかつ糸球体に損傷を与える、腎糸球体メサンギウムおよび基底膜(GBM)への沈着物により引き起こされる糸球体腎炎の一種である。
【0379】
3種類のMPGNが存在する。群を抜いて最も多くみられるI型は、腎臓に沈着する免疫複合体により引き起こされる。I型は内皮下およびメサンギウムの免疫沈着物を特徴とする。I型は古典的補体経路と関連していると考えられる。
【0380】
MPGN II型は、現在はむしろデンスデポジット病として知られている。
【0381】
III型は極めて稀であり、上皮下および内皮下の免疫および/または補体沈着物の混在を特徴とする。これらの沈着物は免疫応答を誘発し、その近傍の細胞および構造に損傷を与える。
(実施例)
【0382】
本発明をここで実施例を用いてさらに説明するが、これは当業者が本発明を実施するのを手助けするために役立つことを意味しており、決して本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【実施例1】
【0383】
実施例1-AAV血清型9およびLK03の形質導入および足細胞における発現
AAV血清型9の尾静脈注射は腎臓細胞の形質導入および足細胞における発現を示す
8週齢の時点で、マウスに1.5 x 1012 vgのAAV2/9 hNPHS1.mpodもしくはAAV2/9 mNPHS1.mpod、または生理食塩水を尾静脈経由で投与した。6週間後、AAV ITRが、AAVを注射したマウスの腎皮質で検出された(AAV2/9 hNPHS1.mpod=39,067±13,285コピーのssDNA、AAV2/9 mNPHS1mpod=76,533.33±32047コピーのssDNA、n=5~6匹/群)(図1C)。HAタグ付きポドシンは足細胞マーカーであるネフリンおよびポドシンと共局在することが示された(図1D)。
【0384】
野生型ポドシンを発現するAAV2/9はiPod NPHS2fl/flマウスにおいてアルブミン尿を減少させる
ベクター処理群は、尿中のアルブミン:クレアチニン比(ACR)の低下を示した(図2A、2B)。ポドシンを発現するAAV2/9の尾静脈注射が尿中ACRに及ぼす影響は、F(2, 24)=9.61, p<0.001(n=9匹/群)のF比を与えた。ドキシサイクリン後14日目には、尿中ACRは該ベクター処理群のいずれよりも生理食塩水群で高かった(AAV2/9 hNPHS1.mpod=758.1±488.1 mg/mmol、AAV2/9 mNPHS1.mpod=59.8±28.0 mg/mmol、生理食塩水=3,770.1±1337.6 mg/mmol、AAV2/9 hNPHS1.mpod 対 生理食塩水 p=0.40、AAV2/9 mNPHS1.mpod 対 生理食塩水 p=0.25)。該ベクター処理群では28日目(AAV2/9 hNPHS1.mpod=3,083.0±932.8 mg/mmol、AAV2/9 mNPHS1.mpod=2,195.1±778.9 mg/mmol、生理食塩水=10,198±3,189.5 mg/mmol、AAV2/9 hNPHS1.mpod 対 生理食塩水 p=0.008、AAV2/9 mNPHS1.mpod 対 生理食塩水 p=0.002)および42日目(AAV2/9 hNPHS1.mpod=3,266.8±1,212.2 mg/mmol、AAV2/9 mNPHS1.mpod=3,553.3±1,477.87mg/mmol、生理食塩水=13,488.8±3,877.3 mg/mmol、AAV2/9 hNPHS1.mpod 対 生理食塩水 p<0.001、AAV2/9 mNPHS1.mpod 対 生理食塩水 p<0.001)に尿中ACRの有意な低下が認められた。該ベクター処理群では、AAV2/9 hNPHS1.mpod群の9匹中2匹のマウスおよびAAV2/9 mNPHS1.mpod群の9匹中1匹のマウスが、42日目に30 mg/mmol未満の尿中ACRを示した。
【0385】
前記ベクター処理群のマウスは改善を示したが、該群内である程度の変動が認められ、これは全身注射後に腎臓に到達したベクターの量に起因しうると本発明者らは仮定した。腎皮質で検出されたウイルスDNAの量は、42日目にアルブミン尿の程度と逆相関を示した(Spearmanのr=-0.4596、p=0.0477)(図2D)。
【0386】
野生型ポドシンを発現するAAV2/9はiPod NPHS2fl/flマウスにおいて表現型を部分的に救済する
ベクター処理マウスは、クレアチニンの減少(生理食塩水=39.0±8.5μmol/L、AAV2/9 hNPHS1.mpod=27.3±7.9μmol/L、AAV2/9 mNPHS1.mpod=18.6±4.4 mmol/L、p=0.1622)、尿素の減少(生理食塩水=39.4±17.6 mmol/L、AAV2/9 hNPHS1.mpod=12.0±2.0 mmol/L、AAV2/9 mNPHS1.mpod=11.6±1.6 mmol/L、p=0.058)、アルブミンの増加(生理食塩水=10.5±5.4 g/L、AAV2/9 hNPHS1.mpod 17.1=4.8±g/L、AAV2/9 mNPHS1.mpod=17.1±3.6 g/L、p=0.5602)およびコレステロールの有意な減少(生理食塩水=15.76±1.75 mmol/L、AAV2/9 hNPHS1.mpod=2.64±0.60 mmol/L、AAV2/9 mNPHS2.mpod=4.86±0.76 mmol/L、p=0009)を示した(図2E)。
【0387】
生理食塩水処理マウスは、6週までに巣状分節状糸球体硬化症(FSGS)の組織学的特徴を示した。ベクター処理マウスは光学顕微鏡検査でFSGSの組織学的特徴を示さなかったが、完全に正常な糸球体から偽半月体またはメサンギウム細胞増多まで、様々な組織学的所見を示した(図2F)。
【0388】
これらのマウスは生存期間の延長(n=3~4匹/群)も示し、AAV2/9 hNPHS1.mpodで192日(74日以上、206日目にまだ生存している)という生存期間中央値およびAAV2/9 mNPHS1.mpodで192日(131日以上、206日目にまだ生存している)という生存期間中央値と比較して、生理食塩水群では75.5日(38~111日)という生存期間中央値を示した(p=0.049)(図2C)。
【0389】
無処理マウスは、ネフリンの発現パターンのびまん性パターンへの変化と共に、ポドシンの発現の欠如を示した(図2G)。これは、ベクター処理マウスに見られるネフリンおよびポドシンの膜優位の発現パターンとは全く対照的である(図1D)。
【0390】
AAV LK03はヒト足細胞に形質導入する
CMV GFPを含むAAV LK03およびAAV LK03 hNPHS1 GFPを使用して、ヒト足細胞、糸球体内皮細胞および近位尿細管上皮細胞に5x105のMOIで形質導入した。フローサイトメトリー(n=3)により、AAV LK03 CMV GFPが該足細胞の極めて効率的な形質導入(%GFP発現=98.83±0.84)を生じ、AAV LK03 hNPHS1 GFPが優れた形質導入(%GFP発現=71.3±3.39)を生じ、かつ非形質導入細胞が目立たない発現(%GFP発現=0.89±0.36)を生じたことが示された(図3D)。このことは、免疫蛍光検査(図3A、3C、3E)およびウェスタンブロット(図3B)に反映されている。GFP発現に関して陽性を示す細胞の割合はAAV LK03 hNPHS1 GFPを用いて形質導入した足細胞で高いが、該細胞はAAV LK03 CMV GFPを用いて形質導入した足細胞より低い蛍光強度を有していた(図3F)。
【0391】
興味深いことに、AAV LK03 CMV GFPは糸球体内皮細胞ではずっと低い形質導入を示した(%GFP発現=7.35±0.19)。AAV LK03 hNPHS1 GFPは、糸球体内皮細胞において、非形質導入糸球体内皮細胞(%GFP発現=0.23±0.02)と同様のレベルの最小の形質導入(%GFP発現=0.59±0.10)を示した。AAV2/9は齧歯動物の腎臓においてin vivoで腎臓細胞に最も優れた形質導入が見られた血清型であるため、本発明者らはヒト腎臓細胞系でのAAV2/9 CMV GFPの発現について試験した。AAV2/9 CMV GFPは、足細胞(%GFP発現=13.9±1.98)および糸球体内皮細胞(%GFP発現=21.99±4.35)の両方で低い形質導入効率を示した(図3D)。AAV LK03 hNPHS1 HAVDRおよびAAV LK03 hNPHS1 hSmad7を含むAAV LK03を使用してヒト足細胞に形質導入したところ、両タンパク質の良好な発現を示した(図5)。
【0392】
最小ネフリンプロモーター下でヒトポドシンを発現するAAV LK03は変異型ポドシンR138Q足細胞細胞系において機能的救済を示す
R138Qポドシン変異体は、形質膜から小胞体へのポドシンの局在変化をもたらす。該変異型ポドシンR138Q足細胞細胞系は患者の腎臓から取得され、かつ温度感受性SV40 T抗原を使用して条件的不死化されたものである。AAV LK03 hNPHS1 hpodはR138Q足細胞に形質導入してHAタグ付きポドシンを発現した(図4A、4B)。HAタグ付きポドシンは共焦点顕微鏡検査では形質膜に見られ、またTIRF顕微鏡検査で見られるように、脂質ラフトタンパク質であるカベオリン-1と共局在した(図4B、4E)。非形質導入R138Q足細胞は形質膜でのポドシン発現を一切示さなかった(図4B)。HAタグ付きポドシンは小胞体マーカーであるカルネキシンと共局在しなかった(図4D)。
【0393】
足細胞は、病的状態では接着の減少または増加を示す。本発明者らの以前の研究から、前記のR138Q変異は足細胞接着の減少を引き起こすことが示されている。AAV形質導入は足細胞接着の減少を引き起こすが、R138Q足細胞は依然として野生型足細胞と比較して低下した接着を示し、またAAV LK03 hNPHS1 hpodによる形質導入はR138Q足細胞の接着機能の救済をもたらした(図4C)。
【0394】
最小ヒトネフリンプロモーターを使用した構築物へのWPREの付加はin vitroでヒト足細胞における遺伝子発現を増大させる
WPREは、ある特定の状況で遺伝子発現を増大させることが以前に示されているが、該WPREが肝細胞がんの病理発生の一因となる可能性があり、そのため遺伝子治療用途のためのその使用を制限する可能性があるかもしれないという懸念もある。本発明者らのWPRE配列はX抗原プロモータ内に変異を有し、かつ該X抗原の開始コドンもまた変異しており、これが機能的X抗原の産生を阻止している。ssAAV LK03 hNPHS1.GFP.WPRE.bGHをssAAV.LK03 hNPHS1.GFP.bGHと比較した。フローサイトメトリーにより%GFP発現の増加が示され、この際WPREを含む構築物は、WPREを含まない構築物における45.93±4.34に対して71.30±3.39の%GFP発現(n=3、p<0.0001)を示した(図4F)。
【0395】
考察
ここで本発明者らは、条件付きマウスノックアウトモデルにおいてマウスポドシンを発現させるために最小ネフリンプロモーターを使用してAAV2/9により足細胞を首尾良く標的化し、表現型の部分的な救済およびアルブミン尿の改善がベクター処理マウスにおいて認められた。最初の原理実証研究として、本発明者らはドキシサイクリン誘導に先立って前記ベクターを注射することを選択し、その結果、ポドシンがノックアウトされている場合に該ベクターによる効果的な救済が行われた。ドキシサイクリン誘導の影響は急速であり、重度のネフローゼ(8~14日)およびFSGSへの進行は比較的早かった(約6週間)。本発明者らはここで、in vitroでは野生型ヒトポドシンをR138Q足細胞に導入することで、形質膜に到達するポドシンの発現が可能となり足細胞接着が救済されることを示した。
【0396】
AAV LK03はin vitroでヒト足細胞において100%近くの高い形質導入を示し、これは前記最小ヒトネフリンプロモーターを使用した場合には72.3%まで低下する。本発明者らは、in vitroで特異的に足細胞に形質導入するためにこの血清型を使用できること、およびR138Q変異足細胞における野生型ポドシンの発現は機能的救済を示すことを示した。AAV LK03の使用は翻訳に影響を与え、従ってヒト足細胞の有効な形質導入はヒトにおける有効量の有意な削減を可能にしうる。近年のUKでの研究により、23%という低い抗AAV LK03中和抗体血清有病率(小児期後期に最も低くなる)が示されており(Perocheau, D. P.ら、2019. Human gene therapy, 30(1), pp.79-87)、このことからこの特定の血清型は翻訳研究のための有望な候補物質とされる。
【0397】
ヒト足細胞においてssAAV LK03 hNPHS1.GFP.bGHに対してssAAV LK03 hNPHS1.GFP.WPRE.bGHを試験すると、GFP発現はWPRE含有構築物を使用した場合に足細胞において改善された。遺伝子発現の改善にWPREが及ぼす影響はプロモーターおよび細胞系に特異的であるため、これをこの特定の状況で試験したことは重要であった。
【0398】
本発明者らは、足細胞特異的プロモーターを用いた足細胞のAAV形質導入はiPod NPHS2fl/flマウスモデルにおいてアルブミン尿を軽減することを示す原理実証研究について説明する。また本発明者らは、合成キャプシドであるAAV LK03がヒト足細胞の極めて効率的な形質導入を示すことも示す。併せて、本研究は、足細胞の単一遺伝子病を標的とするAAV遺伝子治療の橋渡しへの第一歩である。
【0399】
材料および方法
ベクターの作製
本発明者らは、本発明者らの研究室において、ヒトおよびマウスポドシンcDNA(Origene, Herford, Germany)ならびにヒトVDRおよびSmad7 cDNAを使用してCMV eGFP L22Y pUC-AV2構築物からpAV.hNPHS1.mpodHA.WPRE.bGH、pAV.mNPHS1.mpodHA.WPRE.bGHおよびpAV.hNPHS1.hpodHA.WPRE.bGH(図1A)、pAV.mNPHS1.hHAVDR.WPRE.bGHおよびpAV.mNPHS1.hHASmad7.WPRE.bGHを調製した。ヒト胎児腎293T細胞を、ポリエチレンイミンを使用してキャプシドプラスミド(Penn Vector Coreから入手したpAAV9)、アデノウイルス遺伝子を有するヘルパープラスミドおよび導入遺伝子プラスミドでトランスフェクトした。細胞および上清をトランスフェクション後72時間の時点で回収した。細胞を5回の凍結融解サイクルに供し、一方で該上清をPEG沈殿(8%PEG 0.5N NaCl)に供した。これらを合わせて、0.25%デオキシコール酸ナトリウムおよび70単位/mLのベンゾナーゼと共に37℃で30分間インキュベートした。ベクターをイオジキサノール勾配超遠心分離により精製し、その後PBSで濃縮した。ベクターを、次のプライマー、すなわち
【化30】
を使用した標準曲線法を利用してqPCRにより力価測定した。
【0400】
動物
全ての動物実験および手順は動物(科学的処置)法1986に従い英国内務省による承認を受けており、また実験中は実験動物の管理と使用に関する指針に従った。NPHS2flox/floxマウスをNPHS2-rtTA/Tet-On Creマウスと交配することにより、NPHS2-rtTA/Tet-On Cre/NPHS2flox/floxを有する子孫を作製した。これらのマウスは、ドキシサイクリンに曝露するとポドシンの足細胞特異的ノックアウトを呈する。これらを今後iPod NPHS2fl/flと称する。マウスは混合バックグラウンドを持ち、同数の各性別を使用した。マウスに8週齢の時点で尾静脈注射によりAAVを投与した(図1B)。10~14日後、マウスにドキシサイクリン2 mg/mLおよび5%ショ糖を添加した飲料水を3週間与えた。尿を毎週採取した。マウスをドキシサイクリンの開始後6週間の時点で第1スケジュールの方法により間引いた。少数のマウスは、生存期間に及ぼす影響について試験するために6週を過ぎても維持した。全マウスは、死亡時点で採取した組織から遺伝子型を再決定した。
【0401】
細胞培養物
条件的不死化ヒト足細胞(Pod)は、10%ウシ胎仔血清(Sigma Aldrich, Gillingham, UK)と共にL-グルタミンおよびNaHCO3を含むRPMIで培養した。条件的不死化ヒト糸球体内皮細胞(GEnC)は、EGMTM-2内皮細胞増殖用培地-2 BulletKit(商標)(Lonza, Basel, Switzerland)を添加したEBMTM-2内皮細胞増殖用基礎培地-2で培養した。不死化近位尿細管上皮細胞(ATCC, Teddington, UK)(PTEC)は、インスリン、トランスフェリンおよびセレン、ヒドロコルチゾンならびに10%FBSを添加したDMEM/F12で培養した。
【0402】
細胞にAAVを用いて5 x 105のMOIで形質導入した。GFP発現については、異なる細胞系間の比較を可能にするために形質導入後5~7日目の細胞を使用した。ポドシン、VDRおよびSmad7発現については、足細胞が最大に分化する形質導入後10~14日目の細胞を使用した。
【0403】
定量的PCR
DNAは、DNeasy血液および組織用キット(Qiagen, Manchester, UK)を使用してマウス腎皮質から抽出した。AAV DNAはウイルス力価測定のための上記プライマーを使用して検出し、マウスβ-アクチンに対して正規化した。
【0404】
RNAは、RNase-Free DNaseセットと共にRNeasyミニキットを使用して抽出した(Qiagen, Manchester, UK)。
【0405】
免疫蛍光検査
5μmの切片を4%PFAを使用して固定し、さらに3%BSA 0.3%Triton X-100および5%のヤギまたはロバ血清のいずれかを用いてブロッキングした。一次抗体は、ラットIgG1由来の抗HA高親和性(Roche, Basel, Switzerland)、モルモット抗ネフリン(1243-1256)抗体(Origene, Herford, Germany)、およびウサギ抗NPHS2抗体(Proitentech, Manchester, UK)とした。
【0406】
細胞を、4%PFAおよび/または氷冷メタノールのいずれかを用いて固定し、0.03Mグリシンと共に5分間インキュベートし、0.3%Tritonを用いて透過処理した後に3%BSAを用いてブロッキングした。一次抗体は、マウスHA.11エピトープタグ抗体(Biolegend, San Diego, USA)、マウス抗GFP(Roche, Basel, Switzerland)、ウサギ抗カルネキシン(Merck Millipore, Darmstadt, Germany)およびウサギ抗カベオリン1(Cell Signaling, Danvers, USA)とした。
【0407】
二次抗体は、AlexaFluor 488ロバ抗マウス、AlexaFluor 488ロバ抗ウサギ、AlexaFluor 488ヤギ抗モルモット、AlexaFluor 555ヤギ抗ウサギおよびAlexaFluor 633ヤギ抗ラット、ならびにAlexaFluor 633ファロイジン(Invitrogen, Thermo Fisher Scientific, Waltham, USA)とした。切片をDAPIで対比染色してからモヴィオール(Mowiol)を用いて封入した。画像は、ライカDMi8倒立型落射蛍光顕微鏡に取り付けたライカSPEシングルチャンネル共焦点レーザー走査顕微鏡、またはライカDMI 6000倒立型落射蛍光顕微鏡に取り付けたライカSP5-II共焦点レーザー走査顕微鏡、またはライカDMI 6000倒立型落射蛍光顕微鏡に取り付けたライカAM TIRF MC(マルチカラー)システムで、LAS(ライカアプリケーションスイート)Xソフトウェアを使用して撮影した。
【0408】
ウェスタンブロット法
細胞をSDS溶解バッファーで抽出した。試料を12.5%ゲルに流し、PVDF膜に転写した。膜をTBST 0.1%中5%ミルクでブロッキングした。使用した一次抗体は、マウスHA.11エピトープタグ抗体(Biolegend, San Diego, USA)、TBST 0.1%中3%BSA中のマウス抗GFP(Roche, Basel, Switzerland)、またはウサギ抗NPHS2抗体(Proteintech, Manchester, UK)であった。二次抗体は、TBST 0.1%中3%BSA中の抗ウサギまたは抗マウスIgGペルオキシダーゼ(Sigma Aldrich, Gillingham, UK)とした。膜をAmersham Imager 600で画像化した。
【0409】
フローサイトメトリー
生細胞はヨウ化プロピジウムで染色し、また生きた単一細胞のみを分析に含めた。フローサイトメトリーはNovoCyteフローサイトメーターで実施した。
【0410】
接着アッセイ
細胞をトリプシン処理してから105/mLで再懸濁し、さらに96ウェルプレートにPBSで2分の1に希釈した50μLの細胞を蒔く前に10 30分間回復させた。技術的3連(三重反復)を採用した。細胞を接着させるために37℃で約1時間静置した。細胞をPBSで洗浄することにより非接着細胞を洗い流し、次いで4%PFAを用いて20分間固定した。細胞を蒸留水で洗浄した後に2%エタノール中0.1%クリスタルバイオレットを用いて室温で60分間染色した。細胞を洗浄してから、振盪機上で5分間、10%酢酸と共にインキュベートした。吸光度を570 nmで測定し、結果はAAV LK03 CMV GFPを用いて形質導入した野生型細胞系に対して正規化した。
【0411】
尿
アルブミンレベルはマウスアルブミン5 ELISAキット(Bethyl Laboratories Inc, Montgomery, USA)を使用して測定し、またクレアチニンレベルはKonelab Prime 60i分析装置で測定した。
【0412】
血液検査
マウスの血漿を、Konelab Prime 60i分析装置またはRoche Cobasシステムのいずれかを使用し、製造業者により提供される試薬およびプロトコルを用いて処理した。
【0413】
統計解析
全データは、特に明記しない限り平均値±SEMとして提示する。統計解析はGraphPad Prism(Graphpad softward, La Jolla, USA)で実施した。利用した統計的検定には、両側t検定、Tukeyの多重比較事後分析を伴う一元配置ANOVA、Tukeyの多重比較事後分析を伴う二元配置ANOVA、および生存分析のためのLogrank(Mantel-Cox)検定が含まれる。
【実施例2】
【0414】
実施例2-補体タンパク質の足細胞による産生および分泌
ヒト足細胞はin vitroで補体因子C3およびCFHを発現および分泌する
足細胞が補体成分を形成する可能性を評価するために、本発明者らは条件的不死化ヒト足細胞を分析した。従来の逆転写酵素PCRにより、活性化主要成分C3のmRNA(PCR産物は783 bp)および同様にCFHのmRNA(320 bp)を同定した(図6A)。
【0415】
初期活性化補体タンパク質であるC1q、C1r、C1s、C2、C4、C5、第二経路活性化因子であるB因子、D因子、プロペルジンならびに調節因子であるCD55、CD59およびCD46(MCP)のRNAも同様に同定した(図6F~6J)。
【0416】
CFHは第二経路の最も重要な可溶性阻害因子のうちの1つであり、かつC3は初期補体活性化における主要成分であることから、本発明者らはこれら2つのタンパク質に注目した。SFMでの24時間のインキュベーション後、C3およびCFHを、全細胞溶解物のウェスタンブロットおよび細胞培養物-上清におけるウェスタンブロットを用いて検出した。足細胞は、CFH遺伝子の2つの産物、すなわちCFHおよびH因子様タンパク質1(FHL-1)の発現を示した(図6B)。C2、C5ならびに調節成分CFH、CD46、CD55およびCD59に関する補体タンパク質も同様に検出された。C3およびCFHの発現は免疫蛍光検査で判定することも可能であった(図6Cおよび6D)。両タンパク質は非透過処理足細胞の表面上に検出された。
【0417】
足細胞補体成分の産生および分泌は能動的プロセスである
分泌されたCFHは全身を循環し、また細胞のグリコカリックスに結合することにより大抵の細胞に結合することができる。これにより、無制御の補体活性化を細胞表面上で直接調節する。CFHグリコカリックス結合部位は、低用量トリプシンを用いた処理により一時的に分解されうる。足細胞が該表面から除去されたCFHを置き換える能力を有するかどうかを調べるために、本発明者らは、分化足細胞を低用量のトリプシンで処理することにより表面に結合したCFHを除去した。その後、細胞をSFMで回復させた。CFHは24時間後に該足細胞の表面上で再び検出され、このことは、これらの細胞がCFHを産生しかつ置き換えうることを示している(図7A)。
【0418】
IFNgは、様々な細胞系において補体タンパク質の細胞による合成を増大させることが以前に示されている。そこで、ヒト足細胞をIFNgにより種々の時点および濃度で処理した。IFNgによる刺激は、ヒト足細胞によるC3およびCFHのmRNA発現を有意に増強した(図7B)。該刺激は全細胞溶解物における両タンパク質の発現も増大させた。さらに、分泌されるC3およびCFHは、IFNgによる刺激後に時間および用量依存的な様式で増加した(図7C~E)。これは、足細胞が炎症誘発性反応の一環として補体タンパク質を産生する能力を有することを示唆している。
【0419】
補体因子C3およびCFHの発現は培養されたヒト足細胞および糸球体内皮細胞で異なる
糸球体性タンパク尿(proteinuric glomerulopathies)では必ず足細胞が冒されている。にもかかわらず、糸球体内には局所的補体産生に寄与しうる他の細胞型が存在する。糸球体内皮細胞は血清に基づく補体活性化および補体産物と直接接触し、また本発明者らにより、足細胞由来のVEGFが糸球体内皮細胞上での保護的補体調節因子の発現を調節したことが以前に示されている。補体タンパク質の細胞特異的産生を判定するために、本発明者らは、条件的不死化ヒト糸球体内皮細胞(CiGenC)(Satchellら、2006. Kidney Int 69(9), 1633-1640)および足細胞(Saleemら、2002. J Am Soc Nephrol 13(3))におけるCFHおよびC3の発現を比較した。培養した足細胞は、内皮細胞と比較して有意に多くのC3 mRNAを産生したが、CFH mRNAはより少なかった(図8AおよびB)。C3およびCFHのタンパク質レベルに関しては、足細胞でC3のわずかに高い発現が認められた(図8CおよびD)。CFHの発現は、タンパク質定量によると足細胞で有意に低かった(図8CおよびE)。
【0420】
補体活性化はどの糸球体細胞でも生じうる。従って、産生された補体産物の分泌が重要である。mRNA産生の結果から、補体タンパク質C3およびCFHの分泌の比較は、内皮細胞と比較して、足細胞においてC3の有意に高い分泌(図8FおよびG)とCFHのより低い分泌(図8FおよびH)を示した。従って、本発明者らは、補体産生および分泌プロファイルは異なる糸球体内細胞型においては異なる場合があることを示すことができた。
【0421】
足細胞由来のCFHは補体制御に有効である
正常なヒト足細胞およびaHUSと診断された患者から単離した足細胞での補体活性化を比較した。aHUSは希少な補体調節障害であり、腎障害、血小板減少症および貧血をもたらす。調節性補体遺伝子における変異は、この疾患を患う多くの患者に見出される。本発明者らは、既知のArg1182Ser(G3546T)CFH変異(Muhlig, A.K.,ら、2020. Frontiers in Immunology, 11, p.1833に記載)を有する患者から得た足細胞を使用した。この変異は、CFHが細胞表面、および一部C3bに結合するのを妨げる(Kajanderら、2011. PNAS 108(7), 2897-2902)。これが、この患者から得た細胞が表面上で補体活性化を調節できない理由である。補体チャレンジアッセイでは、非罹患足細胞と比較して、該CFH変異を持つ細胞の表面に有意に多くのC5b-9が認められた。これは、分泌された足細胞CFHは正常な足細胞細胞系では補体調節に寄与したが、aHUS細胞系から得た変異CFHは該細胞の補体を調節する能力を低下させたことを示唆している(図9AおよびB)。
【実施例3】
【0422】
実施例3-補体介在性腎疾患における足細胞の役割
Gb3を発現する足細胞を有するマウスモデルの作製
補体系の慢性的で制御不能、かつ過剰な活性化は非典型HUSと関係がある(Noris, M.およびRemuzzi, G., 2009. NEJM, 361(17), pp.1676-1687)。志賀毒素産生大腸菌によるHUS(STEC-HUS)は、腸管出血性大腸菌(EHEC)などの志賀毒素を発現する細菌株の摂取後に発症する。志賀毒素は足細胞Gb3受容体を介して作用することで、局所的なVEGF-Aの分泌を低下させる(Keir, L.S.およびSaleem, M.A., 2014. Pediatric Nephrology, 29(10), pp.1895-1902)。足細胞VEGF-Aの欠損は、補体攻撃に対する糸球体内皮細胞の感受性を増大させて溶血性尿毒症症候群を引き起こす(Eremina, V.,ら、2008. New England Journal of Medicine, 358(11), pp.1129-1136;Keir, L.S.,ら、2017. The Journal of clinical investigation, 127(1), pp.199-214)。
【0423】
ヒト足細胞はGb3を発現するが、マウス足細胞は発現しない。本発明者らは、Gb3合成酵素のテトラサイクリン制御性転写活性化を利用して、Gb3ヌルバックグラウンドでGb3を発現する足細胞を有するマウスモデルを作製した。このマウスモデルを使用することにより、STEC-HUSにおける足細胞の役割を調べることができる。
【0424】
Gb3 KOマウスは志賀毒素を注射した場合にHUS表現型を発症しない
本発明者らは、WTマウスおよびGb3合成酵素KOマウスに10 ng/gの志賀毒素を注射した(各遺伝子型につきN=4)。結果を図10に示す。全WTマウスが志賀毒素の注射から5日目までに死亡した。対照的に、全てのGb3合成酵素KOマウスがモニタリング期間の終了(15日目)まで生存していた(図10A)。WTマウスは、尿細管浮腫および空胞形成を伴う急性尿細管壊死の明白な証拠を示した。対照的に、Gb3合成酵素KOマウスは尿細管または糸球体の形態に変化を示さなかった(図10B)。
【0425】
本発明者らは、Gb3合成酵素KOマウスに10倍の志賀毒素(100 ng/g)を注射した(N=2)。結果を図11に示す。Gb3合成酵素KOマウスはモニタリング期間の終了(9日目)まで生存し、また尿細管または糸球体の形態に変化を示さなかった。
【0426】
Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスは志賀毒素を注射した場合にHUS表現型を発症する
Gb3合成酵素KOマウスを足細胞Gb3発現マウス(Pod rtTA TetOGb3合成酵素マウス)と交配させることにより、Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウス(Pod rtTA TetOGb3 Gb3nullマウス)を作製した。次に、これらのマウスに志賀毒素(Stx)を注射した(図12)。
【0427】
Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスは、志賀毒素(10 ng/g)をIP投与した場合にHUS表現型を発症する。該マウスは、Stx注射後10日目に測定したところ、対照マウス(Pod rtTA TetOWT Gb3nullマウス)よりも有意に低い血小板数(対応のないT検定、p=0.004)およびヘモグロビンレベル(対応のないT検定p=0.041)(図13Aおよび13B)を示し、かつStx注射後12~16日目にプールした試料では有意に高い血漿尿素濃度(対応のないT検定p=0.0052)(図13C)を示した。血液塗抹標本の分析により、HUS表現型の証拠が示された(図13D)。フィブリノーゲンレベルは前記Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスで有意に高かった(N=3、30個の糸球体/マウス、対応のないT検定p<0.001)(図13E)。
【0428】
HUS表現型の、補体阻害因子での救済
C3bレベルは、前記Gb3ヌルバックグラウンドの足細胞Gb3発現マウスでは2倍を超える高さであった(N=3、30個の糸球体/マウス、対応のないT検定p<0.0001)(図14Aおよび図14B)。C3bは補体系の重要な成分である。C3bはオプソニン化に有効であり、またC3転換酵素およびC5転換酵素を形成する役割を果たす。
【0429】
前記マウスの前記HUS表現型における補体の役割を評価するために、BB5.1(C5阻害因子)をHUS症状の発症後に該マウスに注射した(図12)。
【0430】
Pod rtTA TetOGb3 Gb3nullマウスに、先に記載したように、0日目に志賀毒素を注射した。7日目に、該マウスに生理食塩水、またはBB5.1(C5阻害因子)を注射した。該C5阻害因子を注射したマウスは、該生理食塩水を注射したマウスより有意に高い血小板数を示した(対応のないT検定p<0.0005)(図14C)。該C5阻害因子を注射したマウスは、該生理食塩水を注射したマウスより有意に高いヘモグロビンを示した(対応のないT検定p<0.005)(図14D)。
【0431】
これらの結果は、足細胞が補体介在性腎疾患において重要な役割を果たす場合があることを示している。補体阻害因子による足細胞の標的化は、補体介在性腎疾患の有効な治療法を提供するかもしれない。
【実施例4】
【0432】
実施例4-補体阻害因子をコードする足細胞標的化AAV
ベクターの作製
図15は、足細胞に形質導入しかつ該足細胞からの補体阻害因子の発現および分泌を誘導する能力を有する、例示的AAV構築物を示している。該AAV構築物は、足細胞に効果的に形質導入するためにAAV3B、LK03、またはAAV9血清型を用いてパッケージングしてもよい。
【0433】
AAV構築物pAAV.NPHS1.CFI.WPRE.bGH、pAAV.NPHS1.CFH.WPRE.bGH、pAAV.265.CFH.WPRE.bGHおよびpAAV.NPHS1.FHL-1.WPRE.bGHは、適切なCFI、CFH、およびFHL-1 cDNAを使用して調製し得る。ヒト胎児腎293T細胞は、ポリエチレンイミンを使用しキャプシドプラスミド、アデノウイルス遺伝子を有するヘルパープラスミドおよび導入遺伝子プラスミドを用いてトランスフェクトし得る。細胞および上清はトランスフェクション後72時間の時点で回収し得る。細胞を5回の凍結融解サイクルに供することができ、一方で該上清をPEG沈殿(8%PEG 0.5N NaCl)に供し得る。これらを合わせてから、0.25%デオキシコール酸ナトリウムおよび70単位/mLのベンゾナーゼと共に37℃で30分間インキュベートし得る。該ベクターは、イオジキサノール勾配超遠心分離により精製し、さらにその後PBSで濃縮し得る。ベクターは、適切なプライマーを使用し標準曲線法を利用して、qPCRにより力価測定し得る。
【0434】
細胞培養物
不死化ヒト足細胞に前記のパッケージングされたAAV構築物を形質導入することができ、また前記補体阻害因子の発現および補体活性を測定し得る。
【0435】
条件的不死化ヒト足細胞(Pod)は、10%ウシ胎仔血清(Sigma Aldrich, Gillingham, UK)と共にL-グルタミンおよびNaHCO3を含むRPMIで培養し得る。細胞にAAVを用いて5 x 105のMOIで形質導入し得る。足細胞が最大に分化する形質導入後10~14日目の細胞を使用し得る。
【0436】
マウスモデル
前記のパッケージングされたAAV構築物は、適切なマウスモデル(例えば志賀毒素注射後のPod rtTA TetOGb3 Gb3nullマウス)に尾静脈注射により投与し得る。前記補体阻害因子の発現、補体活性および補体介在性疾患の救済を測定し得る。
【実施例5】
【0437】
実施例5-ベクター作製
265 bp最小ネフリンプロモーターバリアントの制御下で補体H因子(CFH)、補体I因子(CFI)または補体H因子様-1(FHL-1)をコードするプラスミド、すなわちpAAV.MCS.NPHS1(265).CFH.WPRE.bGH、pAAV.MCS.NPHS1(FL).CFI.WPRE.bGHおよびpAAV.MCS.NPHS1(FL).CFHL1.WPRE.bGH(図16A~C)を調製した。
【0438】
補体H因子、補体I因子および補体H因子様-1をOrigeneプラスミドからPCR増幅し、さらに前記pAAV.MCS.NPHS1(FL)/NPHS1(265)バックボーンにクローニングした。PCRベースの分子クローニング法を利用した。使用したプライマーを以下に記載する。
【0439】
【表2】
【0440】
各PCR産物をその後、前記pAAV.MCS.NPHS1(FL)/NPHS1(265)バックボーンに1:3ベクター:挿入物の比率でライゲーションし、大腸菌安定コンピテント細胞(E. coli stable competent cells)に形質転換した。コロニーを増殖させてからSmaIで消化することにより、挿入物/ITRの存在を確認した。各プラスミドを配列決定のために送った。
【0441】
AAVの精製はイオジキサノール勾配超遠心分離を利用して実施した。アルカリゲル電気泳動により、無傷のウイルスが超遠心分離後に同定されたことが示された(図16D)。
【実施例6】
【0442】
実施例6-HEK細胞におけるCFH、CFIおよびCFHL1の発現
材料および方法
10%FBSを添加したDMEMで増殖させた60~80%コンフルエントの293Tヒト胎児腎臓細胞を、pHelper(HGTI1)、2つのpAAV Rep-Cap(LK03または2/9)のうちの1つ、および1)265 bpミニネフリンプロモーター下のCFH(pAAV-265-CFH)、2)1249 bp全長最小ネフリンプロモーター下のCFI(pAAV-FL-CFI)または3)1249bp全長最小ネフリンプロモーター下のCFHL1(pAAV-FL-CFHL1)を含有する3つのITR-発現プラスミドのうちの1つを用いてトリプルトランスフェクトした。全構築物をMYCおよびFLAGでタグ付けした。
【0443】
トランスフェクションは150 mm 培養皿で無血清培地中、ポリエチレンイミン(PEI)の存在下で実施した。培地は、トランスフェクションの翌日にFBSを含むDMEMに変更した。トランスフェクション後4日目に、培地および細胞を回収して別々に処理した。培地は凍結してから-80℃で保存した。細胞は、プロテイナーゼ阻害因子を添加したRIPAバッファーを用いて溶解してから-80℃で保存した。
【0444】
細胞溶解物中のタンパク質濃度はPierce BCAタンパク質アッセイを利用して測定し、各試料から得た10 ugの総タンパク質を4~15%ポリアクリルアミドトリス-グリシンゲルにロードした。各試料から得た合計2.6 uLの培地を該ゲルにロードした。タンパク質をiBlot2ドライ式ブロッティング装置を使用してニトロセルロース膜に転写した。次の一次抗体、すなわち抗H因子(Abcam, cat. ab124769)、抗I因子(Abcam, ab278524)、抗MYCタグ(CST, cat.2276S)、抗FLAGタグ(CST, cat. 14793S)および抗GAPDH(Millipore, cat. MAB374)をタンパク質検出のために使用した。
【0445】
結果
H因子は、前記のCFH発現プラスミドでトランスフェクトした293T HEK細胞から得た細胞溶解物および培地の両方で発現された(図17)。発現はH因子特異的抗体を使用して検出した。H因子は、非トランスフェクト細胞または前記のCFIもしくはCFHL1発現プラスミドでトランスフェクトした細胞の細胞溶解物または培地では検出されなかった。
【0446】
I因子は、前記のCFI発現プラスミドでトランスフェクトした293T HEK細胞から得た細胞溶解物および培地の両方で発現された(図17)。発現は、該細胞溶解物および該培地中のI因子を検出できるI因子特異的抗体を使用して検出した。抗MYCタグ抗体および抗FLAGタグ抗体により該細胞溶解物中の非切断I因子(約88 kDa)は検出されたが、該培地では検出されなかった。該培地におけるMYC-タグおよびFLAG-タグ検出の欠如は、I因子が切断されかつ該細胞から該MYCまたはFLAGタグなしに分泌される翻訳後プロセシングをI因子が受けていることに起因すると考えられる。この裏付けとして、本発明者らは、該培地でI因子特異的抗体を用いて、予想したサイズ(約50kDa)の切断型のI因子を検出した。本発明者らは該切断型を非トランスフェクト細胞またはCFHもしくはCFHL1発現プラスミドでトランスフェクトした細胞の培地では検出できず、このことは特異的染色を示している。
【0447】
H因子様1は前記CFHL1発現プラスミドでトランスフェクトした293T HEK細胞から得た培地で発現されたが、細胞溶解物では検出されなかった(図17)。発現は抗MYC抗体および抗FLAG抗体を使用して検出した。H因子様1は、非トランスフェクト細胞または前記CFIもしくはCFH発現プラスミドでトランスフェクトした細胞の細胞溶解物または細胞培地では検出されなかった。このタンパク質の異なるグリコシル化形態が認識された結果、2つのバンドが検出された。
【0448】
結論として、pHelper(HGTI1)、pAAV Rep-Capプラスミド(LK03または2/9)およびCFH、CFIまたはCFHL1を含有する3つのITR発現プラスミドのうちの1つを用いた293T HEK細胞トランスフェクションは、これらの導入遺伝子の各々の発現をもたらす。
【実施例7】
【0449】
実施例7-AAV2/9 265-CFHまたはCFHをコードするプラスミドによるH因子変異足細胞の形質導入
AAV2/9 265-CFHによるH因子変異足細胞の形質導入
10%FBSおよび1%ITSを添加したRPMIで増殖させた、内因性H因子に変異を有する条件的不死化ヒト足細胞(Muehligら、2020)を、6ウェル培養皿に播種してから、33℃で70~80%コンフルエンシーまで増殖させた。細胞は、前記265 bp最小ネフリンプロモーター(配列番号27)の制御下でCFH導入遺伝子を含有するAAV2/9と共にインキュベートした。このウイルスを使用せずにインキュベートした細胞を非形質導入(NT)対照として使用した。ウイルス形質導入後の同日に、細胞を非許容温度である37℃に移すことにより細胞分化および導入遺伝子発現を可能にした。培地は、形質導入の後日に2回交換した。形質導入後10日目に、細胞培地を回収し、ヒトH因子の濃度を抗H因子抗体(Abcam, cat. ab252359)を使用したELISAにより測定した。
【0450】
H因子に変異を有するヒト足細胞に、前記265 bpプロモーターの制御下でCFH導入遺伝子を含有するAAV2/9ウイルスを用いて形質導入したところ、その培養培地で非形質導入細胞より高い濃度のヒトH因子が示された(図18Aおよび18B)。これは、AAVにより送達されたH因子導入遺伝子がヒト足細胞において発現可能であることを示している。
【0451】
CFHをコードするプラスミドによるH因子変異足細胞の形質導入
10%FBSおよび1%ITSを添加したRPMIで増殖させた、内因性H因子に変異を有する条件的不死化ヒト足細胞(Muehligら、2020)を6ウェル培養皿に播種してから、33℃で70~80%コンフルエンシーまで増殖させた。プラスミドトランスフェクションのために、細胞を、ポリエチレンイミンの存在下で無血清培地中1.5 ugの発現プラスミドと共にインキュベートした。プラスミドを添加しなかった細胞を非トランスフェクト(NT)対照として使用した。該培地を翌日FBSを含有する培地に交換した。トランスフェクション後3日目に、培地を回収してELISA(Abcam, cat. ab252359)により分析した。
【0452】
前記265 bp最小ネフリンプロモーターの制御下で前記CFH導入遺伝子を発現するプラスミドでトランスフェクトした足細胞は、前記非トランスフェクト対照より高い濃度のヒトH因子を示した(図18C)。
【実施例8】
【0453】
実施例8-ヒトCFHによる糸球体内皮細胞上での補体阻害
材料および方法
条件的不死化糸球体内皮細胞を、Lonzaから入手した完全添加EGM-2 MV内皮細胞用培地(Endothelial Media)で33℃にて増殖させた。細胞を96ウェル培養プレートに播種してから、非許容温度である37℃に移して分化させた。培地を3日後に交換した。分化の6日目に、細胞培地を除去し、細胞を、精製H因子含有または不含ゼラチンベロナール緩衝液(GVB)中の予備活性化ザイモサン(189 ug/mL)およびMgEGTA(10 mM)の混合物と共に37℃で20分間インキュベートした。インキュベーション後、ヒトH因子枯渇血清を各ウェルに10倍の最終希釈となるまで添加した。陰性対照については該血清の代わりにGVBを使用した。細胞を37℃で30分間さらにインキュベートした後に固定した。固定細胞を含むアッセイプレートを、(以前に記載された通りに;Jeonら 2014)細胞膜中のMAC複合体を検出するためのウサギ抗C5b-9一次抗体および抗ウサギHRP二次抗体を使用する細胞ELISA法のために使用した。読出し情報として、光学密度を、450 nmフィルタを備えたPromega Glomax Discover Microplate Readerを使用して測定した。
【0454】
結果
補体活性化のin vitroモデルを漸増濃度のヒトH因子で処理すると、ヒト糸球体内皮細胞上のC5b9を測定することで判定される、補体活性化の阻害の増加をもたらす(図19)。
【0455】
H因子はC3bBb転換酵素を阻害し、またI因子に対する補助因子として、さらにC3bをその不活性型へと切断する。H因子の存在はC5b-9に対して上流側の第二経路を阻害し、内皮細胞の表面上に形成されるMAC複合体の量を減少させる。ELISAによる該細胞表面上の該MAC複合体の定量を、本明細書中ではH因子の活性を測定するための間接法として利用する。
【実施例9】
【0456】
実施例9-293T HEK細胞における補体の阻害
実施例8で概説したものと同じ方法を本実施例で利用した。ただし、次の追加ステップ、すなわち、Amicon Ultra-4 100K Centrifugal Filtersを使用したNTおよびトランスフェクトHEK細胞から得た培地のタンパク質濃度、を実施した。GenC細胞を先ず、精製H因子含有もしくは不含293T HEK培養培地またはトランスフェクトもしくは非トランスフェクトHEK細胞から得た濃縮培地と共に、37℃で1時間プレインキュベートした。該インキュベーションステップの後、該培地を除去し、通常の(plain)RPMI中150 ug/mLのザイモサンおよび10 mMのMgEGTAの混合物を添加した。第二経路を活性化するために、ヒトH因子枯渇血清を最終的な1:10希釈のために添加した。通常のRPMIを陰性対照として添加した。細胞を37℃で45分間インキュベートし、続いて細胞ELISA法を実施した。
【0457】
CMV-CFHプラスミドでトランスフェクトした細胞から得た培地は、前記非トランスフェクト細胞から得た培地と比較してH因子の発現を示した(図20A)。この発現されたH因子は精製H因子と同程度まで補体活性化アッセイを阻害することが可能であったが、一方でH因子を発現しなかった非トランスフェクト細胞は補体活性化アッセイを全く阻害できず、また陽性対照と同レベルの補体活性化を示した(図20B)。
【実施例10】
【0458】
実施例10-WTマウスの腎臓におけるCFHの発現
材料および方法
100μLのAAV2/9遺伝子治療用産物(pAAV.NPHS1(265).hCFH.WPRE.bGH)または生理食塩水を、野生型C57BL6マウスにIV尾静脈注射により投与した。AAVは、足細胞特異的プロモーター下でタグ付き野生型ヒトCFH導入遺伝子を発現させた。AAVを3日後に回収して超遠心分離により精製し、PBS中で力価測定した(約1.5x10e13/mL)。全ての動物について21日目の研究を完了し、殺処分した。腎臓を液体窒素で瞬間凍結してから、RNeasy Micro Kit(Qiagenカタログ番号/ID:74004)によるRNA抽出のために製造業者のプロトコル通りに使用した。RNAを次に、qPCR解析に先立ってHigh-Capacity RNA-to-cDNA(商標)Kit(4387406)を使用してcDNAに変換した。以下のプライマー、すなわち、
【表3】
を使用した。
【0459】
定量的qPCRを、pAAV_CFH注射マウスの腎臓から得たDNA試料に対して実施した。SYBR緑色試薬を用いる標準曲線qPCRおよび受動的(passive)ROX法を利用することにより、該腎臓DNA試料中のITRの存在を検出した。DNA 1 pg当たりのウイルスゲノムは、既知量のITRアンプリコンの標準曲線を利用して算出した。最後に、2倍体マウス細胞は6 pgのDNAを有するという仮定に基づいて、ウイルスゲノム/細胞を算出した。
【0460】
免疫蛍光染色は、抗ネフリン抗体(PROGEN)および抗CFH抗体(ab124767)を使用し、厚さ5ミクロンの凍結腎臓切片に対して実施した。
【0461】
組織をOCTコンパウンド(VWR, カタログ番号361603E)に包埋し、液体窒素で瞬間凍結した。10 uM切片をクリオスタット(Thermo, Cryostar NX270)を使用して切断した。組織切片を4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で20分間固定し、0.3%トリトン-Xを用いて室温で15分間透過処理してから、5%BSAを用いて室温で30分間ブロッキングした。
【0462】
一次抗体(H因子に対するウサギモノクローナル[EPR6226]、Abcamカタログ番号ab124769およびネフリン(NPHS1)(1243-1256)モルモットポリクローナル抗体、Origeneカタログ番号BP5030)を5%BSAで希釈した。(抗H因子については1:100とし、また抗ネフリンについては1:300とした)。インキュベーションは室温で1時間行った。
【0463】
二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG(H+L)二次抗体、Alexa Fluor Plus 488, Invitrogen, カタログ番号A32731およびヤギ抗モルモットIgG(H+L)Alexa Fluor 568, Invitrogen, カタログ番号A-11075)をPBSで1:500に希釈してから、インキュベーションを室温で30分間行った。
【0464】
スライドを、スライド封入剤であるFluoromount-G(Southern Biotech, カタログ番号0100-01)で固定し、ライカDM750蛍光顕微鏡で倍率20Xにて画像化した。
【0465】
結果
足細胞特異的プロモーター下でヒトCFHを含有するAAVを用いた野生型マウスの注射は、生理食塩水対照を注射した野生型マウスと比較して、該AAVによる腎臓の感染ならびに該腎臓におけるこのウイルスおよびヒトCFHの発現をもたらす(図21A~C)。
【0466】
免疫蛍光染色は、マウス糸球体におけるネフリンおよびCFHの共局在化を示している(図21D)。
【0467】
上記明細書中で言及した全ての刊行物は、参照により本明細書中に組み込まれるものとする。開示した本発明の方法、細胞、組成物および使用の様々な改変および変更は、本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく当業者には明らかであろう。本発明を具体的で好適な実施形態と関連付けて開示してきたが、特許請求の範囲に記載されている本発明をかかる特定の実施形態に過度に限定すべきではないことを理解されたい。実際には、本発明を実施するための開示された様式の様々な改変は、当業者には明白であり、添付の特許請求の範囲内にあるものと見なされる。
図1A-B】
図1C
図1D
図2A-B】
図2C-D】
図2E
図2F-G】
図3A-B】
図3C-D】
図3E
図3F
図4A-B】
図4C-E】
図4F
図5
図6A-B】
図6C-E】
図6F-G】
図6H-J】
図7A-B】
図7C-E】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9
図10
図11
図12
図13A-C】
図13D
図13E
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17
図18A-B】
図18C
図19
図20
図21A-C】
図21D
【配列表】
2023536008000001.app
【国際調査報告】