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特表2023-536084分散整合された導波路を用いた蛇行光フェーズドアレイ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】分散整合された導波路を用いた蛇行光フェーズドアレイ
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/295 20060101AFI20230816BHJP
   G02B 6/124 20060101ALI20230816BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
G02F1/295
G02B6/124
G02B6/125
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505703
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 US2021043113
(87)【国際公開番号】W WO2022026352
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】63/058,728
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルクリセ、ドリス・ジェイ・エフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴチュコヴィッチ、エレナ
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AA02
2H147AB11
2H147AB13
2H147BC05
2H147BD02
2H147BG04
2H147CA11
2H147CD01
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147GA10
2K102BA09
2K102BB04
2K102BB08
2K102BD01
2K102BD09
2K102DA04
2K102DB08
2K102DC07
2K102DC08
(57)【要約】
分散する構成の2次元光フェーズドアレイ装置が、互いに平行に配置された、複数の光学的な低速光導波路(202、208、218)と、前記低速光導波路のなかの隣接する導波路の端部同士を光学的に結合し、蛇行した光学的配置を形成する導波路ベンド(206、216)とを備え、前記低速光導波路が、第1の導波路タイプの第1の導波路と、第2の導波路タイプの第2の導波路を含み、前記第1の導波路と前記第2の導波路とが、互いに隣接して交互に配置され、前記低速光導波路が、フェーズドアレイ(214)を形成するフェーズドアレイの領域を含み、前記第1の導波路の第1のフェーズドアレイの領域及び前記第2の導波路の第2のフェーズドアレイの領域が、逆符号で同じ群屈折率の分散の勾配を有し、前記低速光導波路が、隣接する導波路間に遅延を与える低速光ディレイ導波路の領域(210)を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散する構成の2次元光フェーズドアレイ装置であって、
互いに平行に配置された、複数の光学的な低速光導波路と、
前記低速光導波路のなかの隣接する導波路の端部同士を光学的に結合し、蛇行した光学的配置を形成する導波路ベンドとを備え、
前記低速光導波路が、第1の導波路タイプの第1の導波路と、第2の導波路タイプの第2の導波路を含み、
前記第1の導波路と前記第2の導波路とが、互いに隣接して交互に配置され、
前記低速光導波路が、フェーズドアレイの領域を含み、
前記第1の導波路の第1のフェーズドアレイの領域及び前記第2の導波路の第2のフェーズドアレイの領域が、逆符号で同じ群屈折率の分散の勾配を有し、
前記低速光導波路が、隣接する導波路間に遅延を与える低速光ディレイ導波路の領域を含む、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記第1の導波路タイプの前記第1の導波路が、前記低速光ディレイ導波路の領域を含み、
前記第2の導波路タイプの前記第2の導波路は、前記導波路ベンドに直接結合する中間フェーズドアレイ導波路の領域を含む、装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、
前記第2の導波路タイプの前記第2の導波路は、前記低速光ディレイ導波路の領域を含み、
前記第1の導波路タイプの前記第1の導波路は、前記導波路ベンドに直接結合する中間フェーズドアレイ導波路の領域を含む、装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置であって、
前記第1の導波路タイプの前記第1導波路及び前記第2の導波路タイプの前記第2導波路は、前記低速光ディレイ導波路の領域を含む、装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置であって、
前記低速光ディレイ導波路の領域と、前記第1のフェーズドアレイの領域とが等しい分散勾配を有する、装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、
前記低速光ディレイ導波路の領域と、前記第2のフェーズドアレイの領域とが等しい分散勾配を有する、装置。
【請求項7】
請求項1に記載の装置であって、
前記第1の導波路における低速光ディレイ導波路の領域が、前記第1のフェーズドアレイの領域と等しい分散勾配を有する、装置。
【請求項8】
請求項1に記載の装置であって、
前記第2の導波路における低速光ディレイ導波路の領域が、前記第2のフェーズドアレイの領域と等しい分散勾配を有する、装置。
【請求項9】
請求項1に記載の装置であって、
低速光ディレイ導波路の領域が、隣接するフェーズドアレイの領域同士の間に等しい位相遅延を提供する、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、光フェーズドアレイに関するものであり、特に、光フェーズドアレイを用いたソリッドステートビームステアリングに関する。
【背景技術】
【0002】
光ビームステアリングは、光検出と測距(LIDAR)、プロジェクタ、顕微鏡などの光学技術における重要な機能である。従来、これらのシステムでは、ビームをステアリングするために可動ミラーが使用されてきた。しかし、可動部品は一般的にかさばり、振動の影響を受けやすく、高価である。近年、ソリッドステートビームステアリングのソリューションとして、光フェーズドアレイ(OPA)システムに大きな関心が集まっている。OPAは、特定の位相関係で光を放射する光アンテナのグリッドを利用し、アンテナから指向性のあるビームを生成するものである。位相関係を変えることで、ビームの方向を変える、すなわち、ステアリングすることができる。図1Aは、単純な4素子1次元光フェーズドアレイの模式図である。レーザ100は、4つの導波路102、104、106、108に分割される光を生成する。4つの導波路は、隣接する導波路内の光の間にΔφの相対的な位相差を誘発する4つの対応する位相シフト要素すなわちチューナ110、112、114、116を有する。そして、導波路内の光信号は、4つの光エミッタ118、120、122、124から送信され、コヒーレントに結合して、位相差Δφに依存する方向にビーム126を生成する。位相差を制御することで、ビームを様々な角度でステアリングすることができる。
【0003】
OPAを設計する場合、2つの大きな課題が生じる。まず、隣接するアンテナエミッタ130間の分離間隔が放出される光の波長の半分以上である場合、図1Bに示すように、複数のビームローブ132が生成されることになる。複数のローブは、アパーチャが不要なサイドローブを遮断することができるので、必ずしも問題ではない。しかし、そのようなアパーチャによって、主ローブの走査範囲が制限される。この問題は、アンテナ134間の分離間隔が放出波長の半分より小さい場合、OPAは、図1Cに示すように単一のローブ136を放射することになるので、回避することができる。しかし、これは、位相シフト素子のサイズのためにアンテナ間の間隔を小さくすることを困難になるため、第2の問題をもたらす。
【0004】
この問題を解決する一つの方法として、位相シフト素子の代わりに波長ベースのステアリングを使用する方法がある。導波路内の回折格子カプラ(グレーティングカプラ)の自然角分散を利用し、波長の変化を用いてビームを長手方向(導波路の方向)にステアリングすることで、導波路内においてかさばる位相シフト素子の必要をなくすことができる。1次元OPAの場合はこれで解決するが、2次元OPAの場合は、横方向のステアリングを制御するために各導波路に入る光の位相を制御するためのフェーズシフタやディレイラインが依然として必要なため、問題が残る。
【0005】
2次元分散する構成の2次元OPAは、米国特許第2020/0379315号明細書に記載されており、これは引用により本明細書に組み込まれる。複数の1次元導波路が互いに平行に配置され、各導波路140は、図1Dに示すように、長手方向に波長ベースのステアリングを有する1次元フェーズドアレイである。1次元フェーズドアレイのラインは、スプリッタツリーに続いて、各導波路の始点に配置された位相シフト変調器142を用いて供給される。異なる導波路間の位相関係により、角度θで定義される横方向におけるビームのステアリングが生じ、一方、各導波路内のエミッタ間の位相関係により、角度Ψで定義される長手方向のステアリングが生じる。しかし、位相変調器により導波路間の最小間隔が制限されるので、横方向のステアリング能力が制限される。
【0006】
波長ベースの二次元ステアリングを使用する別の2次元OPAアーキテクチャを図1Eに示す。この構成は、それぞれが波長ベースのステアリングを使用する1次元のOPA150の集まりで構成されている。入射光は、スターカプラ152によって分割され、一連の徐々に長くなる導波路152、すなわち、アレイ状にされた導波路回折格子に結合される。1次元OPAに供給される信号間の相対的な位相差は、導波路152の長さの差(すなわち位相遅延)から生じる。しかし、この設計は、導波路154がかなりのスペースを取るという欠点を有する。遅延素子(ディレイ)の全長は、0.5-L-(N-1)でスケーリングされ、ここでNは導波路の数、Lはディレイ長でスケーリングされる。帯域が狭いとLが大きくなり、アンテナ間隔を狭くしようとするとNが大きくなるため、これはさらに悪化する。この結果、実際のアレイ150よりも非常に大きなアレイ導波路格子154となる。
【0007】
図1Fに示す蛇行2次元OPAアーキテクチャは、各1次元OPA166の出力160を、2つの隣接1次元OPの間を通過する導波路164を介して隣接1次元OPAの入力162にルーティングすることによって、アレイ導波路の回折格子の空間の問題を回避している。隣接する導波路間の位相遅延は、光信号が次の1次元OPAに入る前に、1次元OPAと戻り導波路を通過することに起因して生じる。この蛇行2次元OPAコンセプトの鍵は、一方の次元に格子カプラを用い、他方の次元に順次折り返された蛇行遅延ラインを用いて、両次元で波長によるステアリングを行うことである。これにより、1つの波長可変レーザの周波数で、縦方向と横方向の波長ベースのビームステアリングを実現でき、位相シフタは完全に不要となる。このため、遅延フットプリントはかなり小さくなる。しかし、隣接する導波路の間を通過する戻り導波路164のために、1次元OPA間の最小間隔が制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、波長ベースのステアリング2次元OPAアーキテクチャを提供し、縦方向及び横方向の両方での光のステアリングができ、フットプリントの削減、アンテナ密度の向上、及び小さな動作帯域幅を提供する。
【0009】
本発明の2次元OPAの実施形態は、非放射性の戻り導波路を介在させることなく1次元OPAを蛇行配置で組み合わせて、高密度2次元OPAとする。この光フェーズドアレイは、縦方向の遅い波長ベースのステアリングのために低速光導波路を使用し、横方向の速いステアリングのために蛇行アーキテクチャを使用している。この設計では、同じ群屈折率(group index)で分散の傾きが異なる2種類の低速光導波路を使用している。従来の蛇行型OPAでは、非放射性の戻り導波路が存在したが、本構造では整合導波路を用いることで、両方向に伝播する光が放射されるようにしました。反対方向に進む光を放射する2種類の1次元OPAを用いることで、より高いアンテナ密度を実現し、2次元走査コーン(円錐)を大きくすることができる。
【0010】
一態様において、本発明は、分散する構成の2次元光フェーズドアレイ装置であって、互いに平行に配置された、複数の光学的な低速光導波路と、前記低速光導波路のなかの隣接する導波路の端部同士を光学的に結合し、蛇行した光学的配置を形成する導波路ベンドとを備え、前記低速光導波路が、第1の導波路タイプの第1の導波路と、第2の導波路タイプの第2の導波路を含み、前記第1の導波路と前記第2の導波路とが、互いに隣接して交互に配置され、前記低速光導波路が、フェーズドアレイの領域を含み、前記第1の導波路の第1のフェーズドアレイの領域及び前記第2の導波路の第2のフェーズドアレイの領域が、逆符号で同じ群屈折率の分散の勾配を有し、前記低速光導波路が、隣接する導波路間に遅延を与える低速光ディレイ導波路の領域を含む、装置を提供する。
【0011】
一部の実施形態では、前記第1の導波路タイプの前記第1の導波路が、前記低速光ディレイ導波路の領域を含み、前記第2の導波路タイプの前記第2の導波路は、前記導波路ベンドに直接結合する中間フェーズドアレイ導波路の領域を含む。一部の実施形態では、前記第2の導波路タイプの前記第2の導波路は、前記低速光ディレイ導波路の領域を含み、前記第1の導波路タイプの前記第1の導波路は、前記導波路ベンドに直接結合する中間フェーズドアレイ導波路の領域を含む。一部の実施形態では、前記第1の導波路タイプの前記第1導波路及び前記第2の導波路タイプの前記第2導波路は、前記低速光ディレイ導波路の領域を含む。
【0012】
一部の実施形態では、前記低速光ディレイ導波路の領域と、前記第1のフェーズドアレイの領域とが等しい分散勾配を有する。一部の実施形態では、前記低速光ディレイ導波路の領域と、前記第2のフェーズドアレイの領域とが等しい分散勾配を有する。一部の実施形態では、前記第1の導波路における低速光ディレイ導波路の領域が、前記第1のフェーズドアレイの領域と等しい分散勾配を有する。一部の実施形態では、前記第2の導波路における低速光ディレイ導波路の領域が、前記第2のフェーズドアレイの領域と等しい分散勾配を有する。一部の実施形態では、低速光ディレイ導波路の領域が、隣接するフェーズドアレイの領域同士の間に等しい位相遅延を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは,各列に従来の位相シフト素子を用いた単純な4素子の1次元光フェーズドアレイの概略図である。
図1B図1Bは、図1Cと異なるアンテナ間隔を有する1次元光フェーズドアレイによって生成されるビームローブパターンを示す図である。
図1C図1Cは、図1Bと異なる間隔を有する1次元光フェーズドアレイによって生成されるビームローブパターンを示す図である。
図1D図1Dは、複数の1次元フェーズドアレイと従来の位相シフト変調器とからなる2次元分散する構成のOPAを示す図であり、長手方向には波長ベースのステアリングが使用されている。
図1E図1Eは、波長ベースの2次元ステアリングを使用した2次元OPAアーキテクチャを示す図であり、ここではスターカプラと徐々に長くなる導波路を使用して、アレイの行間において遅延を実現している。
図1F図1Fは、放射導波路の間に非放射導波路を使用してアレイの行間の遅延を実現する蛇行2次元OPAアーキテクチャを示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による、蛇行アーキテクチャと全導波路から放射される導波路を有するOPA装置の概略図である。
図3A図3Aは、本発明の一実施形態による分散する構成の導波路の概略側面図である。
図3B図3Bは、本発明の一実施形態による、周波数と導波路の波長との関係、すなわち分散関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の一実施形態により、第1のタイプの導波路と第2のタイプの導波路の分散関係を示すグラフのクローズアップを示す。
図5図5は、本発明の一実施形態による、縦軸方向に遅く、横軸方向に非常に速くステアリングを行うために使用されるOPAによって生成されるジグザグラスタ走査パターンを示す図である。
図6A図6Aは、図2の実施形態と同じ原理に基づく2つの代替実施形態、すなわち本発明の実施形態によるOPAの導波路のフェーズドアレイ領域間の低速(スロー)光遅延を実現するための代替手段を示す。
図6B図6Bは、図6Aと同様に、図2の実施形態と同じ原理に基づく2つの代替実施形態、すなわち本発明の実施形態によるOPAの導波路のフェーズドアレイ領域間の低速(スロー)光遅延を実現するための代替手段を示す。
図7図7は、本発明の一実施形態による、蛇行2次元OPAの分散する構成の設計を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、位相シフト素子を用いずに波長スイーピング(掃引)により2方向にステアリングを行うOPAアーキテクチャを提供する。このアーキテクチャは、小さな帯域幅で動作することができ、高いアンテナ密度を有し、大きなスイープ角を保証する。本アーキテクチャは、群屈折率が整合した2種類の低速光導波路を用いた蛇行構造である。低速光導波路は、縦方向、すなわち導波路に沿った方向に遅い波長ベースのステアリングを誘導する。導波路に直交する横方向には、蛇行構造を採用して、高速ステアリングを実現している。この設計では、群屈折率でありながら分散勾配が異なる2種類の低速光導波路が用いられている。従来の蛇行型OPAは、放射しない戻り導波路を含んでいたが、本設計は、同じように射する整合導波路を使用している。放射しない戻り導波路をなくすことで、より高いアンテナ密度を実現し、その結果、より大きな2次元走査コーンを実現した。
【0015】
[全体アーキテクチャ]
本発明の一実施形態によるOPA装置の概略図を図2に示す。OPA装置は、分散する構成の低速光導波路の集合として構成され、導波路ベンドによって結合されて蛇行構造を形成している。光200は、第1の長い低速光導波路202の左端に結合することによってOPAに入る。一連の光アンテナ構造204は、導波路202の中間のフェーズドアレイ領域に配置される。低速光導波路は、群速度vgが小さい光モードを有する導波路である。群屈折率は分散関係の傾きdω/dkによって決定される。一般的には光速との比較、c/vgを指標とし、これを群屈折率と呼ぶ。通常のシリコン導波路の群屈折率は3~5である。低速光導波路は、8以上の群屈折率を有する。本発明の実施形態における導波路は、好ましくは、20~25の群屈折率を有する。
【0016】
第1の導波路202の右端は、第1の導波路に平行にかつ隣接して配置された第2の導波路208を右端に結合する導波路ベンド(曲がった部分)206に結合する。第2の導波路208は、第1の導波路202と同じ群屈折率であるが、第1の導波路と反対の分散勾配を有する。第1導波路と第2導波路の右側領域は、導波路ベンド206とともに、第1導波路と第2導波路の中間領域の間に低速光ディレイ10を形成している。第1の導波路と同様に、一連のアンテナ構造212は、第2の導波路208の中間領域に配置される。光アンテナ構造を含むこれらの中間領域は、低速光フェーズドアレイ214の初めの2列を形成する。第2の導波路208の左端では、別の導波路ベンド216が、第2の導波路に平行かつ隣接して配置された第3の導波路218に結合している。第2及び第3の導波路の左側の領域は、導波路ベンド216とともに、低速光フェーズドアレイ214の第2及び第3のアンテナの列の間に低速光ディレイを形成する。第1及び第3の導波路202及び218は、同じタイプ、すなわち、同じ群屈折率及び同じ分散勾配を有している。第2の導波路208は、異なるタイプ、すなわち、第1及び第3の導波路と同じ群屈折率であるが、第1及び第3の導波路と逆の分散勾配を有する。OPA装置は、隣接する導波路が同じ群屈折率でありながら分散勾配が交互に変化するように構成されている。光は隣接する導波路を逆向きに伝搬し、両方向に伝搬することでアンテナ構造体から光が放射される。このため、低速光フェーズドアレイの列は、光を放射しない戻り波路で区切られることなく、互いに隣接して配置することができる。
【0017】
[ステアリング]
従来の蛇行型OPAの設計(一例を図1Fに示す。)では、1種類の放射型導波路しか使用しないため、光が一方向に伝播するときのみ放射されるように、非放射型戻り導波路を有する設計となっている。もし、同じ種類の導波路に異なる方向の光を通すと、交互配置された導波路の光が互いに逆方向にステアリングされるため、波長ベースのステアリングが機能しない。これに対し、本発明のOPAでは、特別に設計された2種類の導波路を用いることで、両方向に進む光を一様にステアリングできることが見いだされた。
【0018】
本発明の実施形態によるOPAの設計における波長ベースの縦方向のステアリングのために、分散する構成の低速光導波路の分散関係を使用して、ビーム角のステアリングが行われる図3Aは、そのような導波路300の概略側面図である。光は、導波路の波数ベクトルβによって示されるように、左から右へと進む。各アンテナ素子302において、導波路からの光の一部が放射され、波面304が生じる。この波面の方向は、波数ベクトルkairで示され、アンテナの波数ベクトルkantとアンテナ間隔da=2π/kantとは、回折格子の関係式
sinθ-kair=β+n-kant (1)
で関係づけられており、ここでnは整数である。図3Bに、周波数と導波路の波数ベクトルの関係、すなわち、分散関係を示す。導波路モードの分散曲線310は非常に平坦であり、低速光モードとして特徴的である。ωの小さな変化は、波数βに大きな変化をもたらす。これにより、角度θは、周波数ωの変化に伴ってシフトすることになる。
【0019】
OPAは、偶数番号の導波路と奇数番号の導波路を交互に配置することで構成され、偶数番号の導波路と奇数番号の導波路の2種類の導波路が交互に配置されている。この2種類の導波路は、光が反対方向に通過しても、同じ波長ベースのステアリング挙動を示すように設計されている。この効果は、2種類の導波路で異なる分散関係を用いることで実現されている。具体的には、両導波路は同じ群屈折率でありながら、分散勾配の符号が逆、つまり一方の分散関係のグラフが他方の分散関係のグラフの鏡像と実質的に等しい低速光導波路である。kairの大きさの変化を考慮すると、偏差が小さいほど鏡像が正確となる。分散に偏差があると、位相誤差が生じる。タイトなビームを持つ大型OPAは、ビームプロファイルの位相誤差に非常に影響を受けやすい。誤差が生じると、ビーム品質が低下する。小型のOPA、例えば短距離での使用を目的としたOPAでは、ビームの閉じ込めが少なく、位相誤差に対する許容度は高くなる。
【0020】
図4は、第1のタイプ400の導波路と第2のタイプ402の導波路の分散関係を示すグラフをクローズアップしたものである。傾斜が互いに逆であるため、前方の導波路と後方の導波路から放射される放射線の方向は同じ速度で移動することになる。しかし、2つの導波路の放射が1つのビームを形成するためには、主放射ローブも並べて配置させる必要がある。これは、導波路のアンテナ周期を慎重に選択することで実現できる。具体的には、2つの導波路の放射ローブの第kベクトルが、次の式を満たすように並べて配置する必要がある。
β1(λ)-n・kant1=-β2(λ)-m・kant2
この式で、β1、β2、kant1、knt2は2つの導波路のそれぞれの波数、アンテナ波数であり、n、mは整数である。
【0021】
[横方向ステアリング]
OPAからのビームの横方向ステアリング(Ψ)は、隣接する導波路の中心位相配列領域の間に位相ディレイ(例えば210、図2)を有するようにOPAを設計することで達成される。この位相ディレイは、低速光ディレイ領域(例えば、210)を長くすることで遅延を増加させることができる。横方向の角度は、ディレイ素子を通過することによって生じる累積位相によって導き出すことができる。

kair・dwg・sinΨ+n・2・π=β1・ld+β2・ld+Δφb (2)

この式で、dwgは導波路の間隔、nは整数、ldは遅延ラインの長さ、Δφbは曲げ要素(導波路ベンド)の加算位相である。式(2)より、ディレイ領域を大きくすることで、周波数の関数としての走査速度を向上させられることがわかる。したがって、ビームを横方向に非常に高速でステアリングできる。例えば、OPAを使用して、縦軸方向に低速で、横軸方向に非常に高速で、図5に示すようなジグザグのラスター(走査線型)スキャンパターンを実現することができる。ここで、横軸は高速横方向のビーム走査角、縦軸は低速縦方向のビーム走査角を示す。
【0022】
図6A図6Bは、図2の実施形態に示される同じ原理に基づく2つの代替的な実施形態を示す。これらの実施形態の共通の特徴は、中間の低速光フェーズドアレイ領域の導波路が互いに逆の分散勾配を有することであり、フェーズドアレイ領域の右及び左の位相ディレイ領域は必ずしもこの特徴を共有する必要はない。位相遅れを与えるだけで十分であり、これら左右の領域の分散勾配が逆であることは必要ない。図6Aは、図2と類似の実施形態であるが、一部異なる。具体的には、第2の導波路タイプ600(すなわち、偶数番号の導波路)は、中間位相アレイ導波路領域のみを有し、この導波路領域は、中間位相アレイ導波路領域の右または左への遅い光ディレイ領域なしで導波路ベンド602、604に直接結合する点である。第1の導波路タイプ606(すなわち、奇数番号の導波路)は、図2のものと同一であり、低速光フェーズドアレイの行間に遅延を与えるために、フェーズドアレイ領域の右及び左に低速光ディレイ領域が設けられている。別の代替的な実施形態では、第2の導波路型の中間の低速光フェーズドアレイ領域の右側に低速光ディレイ領域を設け、左側には設けないか、またはその逆とするか、部分的な低速光ディレイ領域を右側または左側、あるいはその両方に設ける。さらに別の実施形態は、図6Aのものと類似であるが、第1の導波路タイプが、第2の導波路タイプの代わりに、その低速光ディレイ領域の一部または全部を導波路ベンドに置き換えられる点で異なる。あるいは、両方の導波路タイプで、その低速光ディレイ領域の一部または全部を導波路ベンドに置き換えることができます。ただし、隣接するフェーズドアレイ領域の間に少なくともいくつかの導波路ディレイ領域があり、OPAのすべてのフェーズドアレイ領域の間で遅延が同じであることが条件となる。
【0023】
図6Bに示すように、第1タイプ及び第2タイプの導波路における低速光ディレイ導波路領域610は、同じ分散勾配を有し得る。第1及び第2のタイプの導波路は、低速光フェーズドアレイ領域において反対の分散勾配を有することで十分である。より一般的には、低速光ディレイ領域の分散勾配は、反対の分散勾配を有する必要はない。要約すると、OPAの隣接するフェーズドアレイ領域間に低速光ディレイ領域を有することで十分であり、OPAの任意の2つの隣接するフェーズドアレイ導波路間の遅延は同じである。
【0024】
図7は、6つのフェーズドアレイ領域700、702、704、706、708、710を含む6つの導波路を有する蛇行2次元OPAの分散する構成の設計を示したものである。フェーズドアレイ領域は、両端が一組の導波路ディレイ712、714に結合されている。フェーズドアレイ領域及び2つのディレイを含む各導波路は、一組の導波路ベンド716及び718によって接続されている。この小型のOPAは、説明のために例示したものである。実際の用途では、OPAはより大きく、すなわち、より長い導波路と、より多くの導波路とを有するのが一般的である。第1及び第2の導波路タイプは、その逆の分散勾配を実現するために、異なる分散構造を有している。このような正負の勾配を有する分散する導波路の設計には、逆設計の技術を使用することができる。
【0025】
この構造は、SOIウェハから作ることができる。この構造は、リソグラフィによってパターン化される。すなわち、実験室環境では電子ビームリソグラフィ、工業環境では光リソグラフィである。シリコンをエッチングした後、ボックスエッチでアンダーカットを形成したり、酸化膜で覆ったりして、構造の周囲に均質な光学環境を作ることができる。本実施形態では、アンダーカットを有する構造を想定している。
【0026】
この装置は、レーザの波長を変えるだけで、光ビームを2次元的にスキャンするLIDAR用途に使用できます。別の用途として、自由空間での通信での利用が挙げられる。この場合、波長を変えることで、ビームをスキャンし、受信機をターゲットにすることができる。受信機にビームを向ける波長を知っていれば、レーザを変調してデータを送信することができる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7
【国際調査報告】