(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】造血細胞を分化させるシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0789 20100101AFI20230816BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230816BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20230816BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230816BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230816BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12N1/00 G
C12N5/0775
C12N5/10
C12N5/0783
C12N1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506014
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 CA2021051050
(87)【国際公開番号】W WO2022020947
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518393115
【氏名又は名称】ステムセル テクノロジーズ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】タバタバエイ-ザヴァレー,ヌーシン
(72)【発明者】
【氏名】ル フェーブル,ティム
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BB19
4B065BD39
4B065CA44
(57)【要約】
外因的に添加される特定の成長因子シグナル伝達のアゴニストの任意の組み合わせが除外されている条件下にて、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させるための培地、方法、システム、及びキットが開示される。初期中胚葉細胞の集団は、多能性幹細胞から誘導することができ、開示する条件下で分化される造血始原細胞は多能性である。本明細書で開示する培養条件は、血清を含まないワークフロー及び/または間質及び/またはフィーダー細胞を含まないワークフローを形成することができる。
【選択図】
図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血始原細胞を分化させる方法であって、第1の培地中で初期中胚葉細胞の集団を培養することを含み、前記第1の培地は、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうち1つ以上が補充された基礎培地を含み、かつBMPシグナル伝達のアゴニスト、繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニスト、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストからなる群から選択される外因的に添加されるアゴニストの任意の組み合わせが除外されている、前記方法。
【請求項2】
前記BMPシグナル伝達のアゴニストは、骨形成タンパク質であり、場合により、前記骨形成タンパク質は、BMP4である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記FGFシグナル伝達のアゴニストは、繊維芽細胞成長因子であり、場合により、前記繊維芽細胞成長因子は、FGF2である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記VEGFシグナル伝達のアゴニストは、血管内皮成長因子である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の培地は、血清を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
外因的に添加される間質細胞及び/またはフィーダー細胞の不在下で前記初期中胚葉細胞の集団を培養することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の培地における前記初期中胚葉細胞の集団の培養は、3~15日間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記造血始原細胞は、CD34
+である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記造血始原細胞は、骨髄系、赤血球系、及びリンパ球系潜在能力を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
多能性幹細胞(PSC)の集団から前記初期中胚葉細胞の集団を誘導することをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
誘導培地中で前記PSCの集団を培養することをさらに含み、前記誘導培地は、PSC由来の初期中胚葉細胞の分化した集団を得るために、前記BMPシグナル伝達のアゴニスト、前記FGFシグナル伝達のアゴニスト、及び前記VEGFシグナル伝達のアゴニストのうち1つ以上が補充された第2の基礎培地を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記BMPシグナル伝達のアゴニストは、骨形成タンパク質であり、場合により、前記骨形成タンパク質は、BMP4である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記FGFシグナル伝達のアゴニストは、繊維芽細胞成長因子であり、場合により、前記繊維芽細胞成長因子は、FGF2である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記VEGFシグナル伝達のアゴニストは、血管内皮成長因子である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記誘導培地は、血清を含まない、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
外因的に添加される間質細胞及び/またはフィーダー細胞の不在下で前記PSCを培養することをさらに含む、請求項11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記誘導培地における前記PSCの培養は、1~7日間行われる、請求項11~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記誘導培地における前記PSCの培養の前に、前記PSCを凝集体に形成することをさらに含む、請求項11~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記誘導培地中で前記PSCを凝集体に形成することをさらに含む、請求項11~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記凝集体は、マイクロウェルデバイス中で形成される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
血清を含まない条件下で、及び/または外因的に添加される間質細胞及び/またはフィーダー細胞の不在下で、リンパ球系分化培地で前記分化した造血始原細胞を培養した後に、リンパ球系始原細胞を得ることをさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記リンパ球系始原細胞は、多系統潜在能力を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記リンパ球系始原細胞は、T細胞及びNK細胞潜在能力を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記T細胞及び前記NK細胞は、機能的である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させるための培地であって、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうち1つ以上が補充された基礎培地を含み、かつBMPシグナル伝達のアゴニスト、繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニスト、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストからなるリストから選択される外因的に添加されるアゴニストの任意の組み合わせが除外されている、前記培地。
【請求項26】
前記初期中胚葉細胞の集団は、多能性幹細胞から誘導される、請求項25に記載の培地。
【請求項27】
前記多能性幹細胞は、哺乳動物のものである、請求項26に記載の培地。
【請求項28】
前記培地は、血清を含まない、請求項25~27のいずれか1項に記載の培地。
【請求項29】
前記培地は、間質細胞及び/またはフィーダー細胞ワークフローにおいて効果的である、請求項25~28のいずれか1項に記載の培地。
【請求項30】
前記繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニストは、繊維芽細胞成長因子であり、場合によってFGF2である、請求項25~29のいずれか1項に記載の培地。
【請求項31】
前記BMPシグナル伝達のアゴニストは、骨形成タンパク質であり、場合によってBMP4である、請求項25~30のいずれか1項に記載の培地。
【請求項32】
前記血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストは、VEGFである、請求項25~31のいずれか1項に記載の培地。
【請求項33】
前記造血始原細胞は、リンパ球系、骨髄系、及び赤血球系潜在能力を有する、請求項25~32のいずれか1項に記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年7月27日に出願の米国特許仮出願番号第63/057,037号の利益を請求し、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、細胞培養応用に関し、より詳細には、造血細胞を用いた細胞培養応用に関する。具体的には、本開示は、造血細胞を分化させるための細胞培養応用に関する。
【背景技術】
【0003】
NK細胞、B細胞、及びT細胞は、病原体及び腫瘍に対する防御力を有するリンパ球である。NK細胞は、自然免疫において重要な役割を果たし、炎症誘発性サイトカインを分泌することに加えて、がん細胞またはウイルス感染細胞を殺傷する能力がある。T細胞は、適応免疫系の細胞である。それらは、それらの抗原特異的T細胞受容体(TCR)を介して広範囲の標的を認識し、かつサイトカイン分泌及び細胞傷害性細胞殺傷などのエフェクター機能を発揮する。B細胞は、適応免疫系の細胞である。それらの様々な機能の中で、特定のB細胞は、抗体を産生するか、または抗体を産生するように刺激される場合がある。
【0004】
ヒトNK細胞、B細胞、及びT細胞は、臍帯血(CB)、骨髄(BM)、または末梢血(PB)から精製したCD34+造血幹及び始原細胞(HSPC)を間質細胞及びサイトカインと共に培養することによって生成することができる。しかし、CB、BM、及びPBから誘導される細胞は、異種性のものであることが多く、ドナーごとに質が異なる可能性がある。加えて、CB、BM及びPBから誘導される細胞は、数に限りがある。
【0005】
多能性幹細胞(PSC)は、臨床応用に適した同種のカスタマイズ可能な大規模集団を作成する機会をもたらす。PSCの使用により、疾患モデリングまたは細胞療法応用を促進する遺伝子工学法も可能になる。
【0006】
PSC細胞からNK細胞、B細胞、及びT細胞への分化は、例えば、がん患者における養子免疫療法の開発、ならびに、これらの細胞の基礎生物学の研究にとって有用なツールをもたらすことになる。したがって、PSCから開始する、効率的なNK細胞、B細胞、及びT細胞分化プロトコルが必要である。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、造血細胞を分化させる方法に関する。
【0008】
本開示の一態様において、造血始原細胞を分化させる方法が提供され、該方法は、第1の培地中で初期中胚葉細胞の集団を培養することを含み、ここで、該第1の培地は、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうち1つ以上が補充された基礎培地を含み、かつBMPシグナル伝達のアゴニスト、繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニスト、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストからなるリストから選択される外因的に添加されるアゴニストの任意の組み合わせが除外されている。
【0009】
一実施形態では、BMPシグナル伝達のアゴニストは、骨形成タンパク質である。一実施形態では、骨形成タンパク質は、BMP4である。
【0010】
一実施形態では、FGFシグナル伝達のアゴニストは、繊維芽細胞成長因子である。一実施形態では、繊維芽細胞成長因子は、FGF2である。
【0011】
一実施形態では、VEGFシグナル伝達のアゴニストは、血管内皮成長因子である。
【0012】
一実施形態では、第1の培地は、血清を含まない。
【0013】
一実施形態では、方法は、外因的に添加される間質細胞及び/またはフィーダー細胞の不在下で初期中胚葉細胞の集団を培養することをさらに含む。一実施形態では、第1の培地における初期中胚葉細胞の集団の培養は、3~15日間行われる。
【0014】
一実施形態では、造血始原細胞は、CD34+である。一実施形態では、造血始原細胞は、骨髄系、赤血球系、及びリンパ球系潜在能力を有する。
【0015】
一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団は、多能性幹細胞(PSC)から誘導される。
【0016】
一実施形態では、方法は、誘導培地中でPSCを培養することをさらに含み、ここで、該誘導培地は、PSC由来の初期中胚葉細胞の分化した集団を得るために、BMPシグナル伝達のアゴニスト、FGFシグナル伝達のアゴニスト、及びVEGFシグナル伝達のアゴニストのうち1つ以上が補充された第2の基礎培地を含む。
【0017】
一実施形態では、誘導培地中のBMPシグナル伝達のアゴニストは、骨形成タンパク質である。一実施形態では、骨形成タンパク質は、BMP4である。
【0018】
一実施形態では、誘導培地中のFGFシグナル伝達のアゴニストは、繊維芽細胞成長因子である。一実施形態では、繊維芽細胞成長因子は、FGF2である。
【0019】
一実施形態では、誘導培地中のVEGFシグナル伝達のアゴニストは、血管内皮成長因子である。
【0020】
一実施形態では、誘導培地は、血清を含まない。
【0021】
一実施形態では、方法は、外因的に添加される間質細胞及び/またはフィーダー細胞の不在下でPSCを培養することをさらに含む。一実施形態では、誘導培地におけるPSCの培養は、1~7日間行われる。
【0022】
一実施形態では、方法は、誘導培地におけるPSCの培養の前に、PSCを凝集体に形成することをさらに含む。一実施形態では、方法は、誘導培地中でPSCを凝集体に形成することをさらに含む。一実施形態では、凝集体は、マイクロウェルデバイス中で形成される。
【0023】
一実施形態では、方法は、血清を含まない条件下で、及び/または外因的に添加される間質細胞及び/またはフィーダー細胞の不在下で、リンパ球系分化培地で分化した造血始原細胞を培養した後に、リンパ球系始原細胞を得ることをさらに含む。
【0024】
一実施形態では、リンパ球系始原細胞は、多系統潜在能力を有する。
【0025】
一実施形態では、リンパ球系始原細胞は、T細胞及びNK細胞潜在能力を有する。
【0026】
一実施形態では、T細胞及びNK細胞は機能的である。
【0027】
本開示の別の態様において、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させるための培地が提供され、該培地は、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうち1つ以上が補充された基礎培地を含み、かつBMPシグナル伝達のアゴニスト、繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニスト、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストからなるリストから選択される外因的に添加されるアゴニストの任意の組み合わせが除外されている。
【0028】
一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団は、多能性幹細胞から誘導される。一実施形態では、多能性幹細胞は、哺乳動物のものである。
【0029】
一実施形態では、培地は、血清を含まない。一実施形態では、培地は、間質細胞及び/またはフィーダー細胞ワークフローにおいて効果的である。
【0030】
一実施形態では、繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニストは、繊維芽細胞成長因子である。一実施形態では、繊維芽細胞成長因子は、FGF2である。
【0031】
一実施形態では、BMPシグナル伝達のアゴニストは、骨形成タンパク質である。一実施形態では、骨形成タンパク質は、BMP4である。
【0032】
一実施形態では、血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストは、VEGFである。
【0033】
一実施形態では、造血始原細胞は、リンパ球系、骨髄系、及び赤血球系潜在能力を有する。一実施形態では、造血始原細胞は、CD34+である。
【0034】
本開示の別の態様では、初期中胚葉細胞の集団を介して多能性幹細胞から造血始原細胞を分化させるための構成要素(本明細書に記載されるような)を含むシステム及び/またはキットが提供される。システム及び/またはキットはまた、(本明細書にて開示する培地及びその他の培養物コーティングまたは培養器具を使用して)段階的に分化された任意の細胞の集団を濃縮するための構成要素を含む場合がある。システム及び/またはキットはまた、造血始原細胞を多能性リンパ球系始原細胞の集団に分化させるための構成要素を含む場合がある。
【0035】
本明細書にて開示する主題のその他の特徴及び利点も、後述の発明を実施するための形態により明らかとなるであろう。しかし、発明を実施するための形態及び特定の実施例は、本開示の主題の好ましい実施形態を示しているが、この発明を実施するための形態により、本発明の趣旨及び範囲内の様々な変更及び修正が、当業者に明らかとなるため、例示のみを目的として示したものであることを理解するべきである。
本明細書に記載の種々の実施形態のより良い理解のため、またこれらの種々の実施形態を効果的に実行し得る方法をより明確に示すために、少なくとも1つの例示的実施形態を示す添付図面を参照として提示し、これより、添付図面について説明する。各図面は、本明細書に記載の技術の範囲を限定することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1A】種々の成長因子の組み合わせの存在下または不在下にて分化させた産出造血始原細胞の棒グラフを示す。本開示の方法に従って、WLS-1C、STiPS-M001、H1、及びH9のPSC株の全てにわたって、(BMP4、FGF、及びVEGFアゴンシムの異なる組み合わせで)分化させた6ウェルAggrewell(商標)プレートのウェル当たりのCD34
+造血始原細胞の存在比率を測定した。データは、PSC細胞株に応じた2~5回の実験の平均を表している。
【
図1B】種々の成長因子の組み合わせの存在下または不在下にて分化させた産出造血始原細胞の棒グラフを示す。本開示の方法に従って、WLS-1C、STiPS-M001、H1、及びH9のPSC株の全てにわたって、(BMP4、FGF、及びVEGFアゴンシムの異なる組み合わせで)分化させた6ウェルAggrewell(商標)プレートのウェル当たりのCD34
+造血始原細胞の収量を測定した。データは、PSC細胞株に応じた2~5回の実験の平均を表している。
【
図1C】本開示の方法に従って、WLS-1C、STiPS-M001、H1、及びH9のPSC株の全てにわたって、VEGFのみが不在の状態で、分化させた6ウェルAggrewell(商標)プレートのウェル当たりのCD34
+造血始原細胞の測定した存在比率及び収量を示す。データは、PSC細胞株に応じた2~5回の実験の平均を表している。
【
図1D】CD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の存在比率及び収量を照会した場合においても、CD34
+細胞分化の増加(VEGFの不在下で分化させた場合)が見られることを示す。データは、PSC細胞株に応じた2~5回の実験の平均を表している。
【
図2】(A)種々の凝集体解離試薬を使用して得られた造血始原細胞の数の棒グラフを示す。(B)種々の凝集体解離試薬を使用して得られた生造血始原細胞の割合の棒グラフを示す。1,000個のPSCの凝集体を、Aggrewell(商標)400の各ウェル中で形成し、全凝集体をプールした後に、等しく6つの画分に分割した。この際、凝集体は、1-Accutase(商標)、2-TrypLE(商標)Express、3-Collagenase II & TrypLE(商標)Express、4-Collagenase IV & TrypLE(商標)Express、5-Gentle Cell Dissociation Reagent(GCDR)または6-Trypsinのいずれかを使用して解離した。データは、個別の点によって示されている2~3回の実験の平均を表している。
【
図3】(A)種々のPSC株から分化させた産出造血始原細胞の棒グラフを示す。本開示の方法に従って、H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001、及びSTiPS-F016のPSC株の全てにわたって、分化させた6ウェルAggrewell(商標)プレートのウェル当たりのCD34
+造血始原細胞の存在比率及び収量を測定した。データは、PSC細胞株に応じた7~22回の実験の平均±SEMを表している。(B)濃縮前の分化したCD34
+造血始原細胞の代表的なフローサイトメトリープロットを示している。(C)濃縮後の分化したCD34
+造血始原細胞の代表的なフローサイトメトリープロットを示している。
【
図4】(A)CD34
+造血始原細胞の多分化能の棒グラフを示す。VEGFの不在下で分化させたCD34+始原細胞をMethoCult(商標)中で培養し、骨髄系及び赤血球系系統に分化するそれらの能力を評価した。また、本開示のCD34+細胞を、様々な細胞数でStemSpan(商標)Lymphoid Expansionシステム中でさらに培養し、限界希釈で始原細胞の存在比率を評価した。各細胞数を、12個のレプリケートウェルにプレーティングし、細胞数ごとの陽性ウェル(リンパ球系始原細胞を含有するウェル)の数を使用して、存在比率を測定した。(B)各条件のデータを表にまとめた。
【
図5】(A)造血始原細胞から分化させた産出リンパ球系始原細胞の棒グラフを示す。本開示の方法に従って、H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001、及びSTiPS-F016のPSC株の全てにわたって、PSC由来の造血始原細胞から分化させたCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量を測定した。データは、PSC細胞株に応じた5~20回の実験の平均±SEMを表している。(B)PSC由来のCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の代表的フローサイトメトリープロットである。
【
図6】(A)及び(B)分化プロトコルの初期段階の期間を変化させた場合の産出造血始原細胞及びリンパ球系始原細胞の棒グラフを示す。(A)本開示の方法に従って、1C、H1、及びH9のPSC株の全てにわたって、10日間または12日間分化させたCD34
+造血始原細胞の6ウェルAggrewell(商標)プレートのウェル当たりの存在比率及び収量を測定した。(B)本開示の方法に従って、1C、H1、及びH9のPSC株の全てにわたって、10日間または12日間分化させたCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量を測定した。(A)及び(B)のデータは、細胞株に応じた3~7回の実験の平均を表している。
【
図7】(A)及び(B)造血始原細胞から分化させた産出CD4
+CD8
+ダブルポジティブT細胞の棒グラフを示す。(A)本開示の方法に従って、H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001、及びSTiPS-F016のPSC株の全てにわたって、PSC由来のリンパ球系始原細胞から分化させたCD4
+CD8
+ダブルポジティブT細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量を測定した。(B)本開示の方法に従って、H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001、及びSTiPS-F016のPSC株の全てにわたって、PSC由来のリンパ球系始原細胞から分化させたCD3
+TCRαβ
+細胞(CD4
+CD8
+ダブルポジティブT細胞に基づいてゲーティングした)の存在比率を測定した。(C)産出CD4
+CD8
+ダブルポジティブT細胞の代表的なフローサイトメトリープロットである。(D)CD4
+CD8
+細胞に基づいてゲーティングしたCD3
+TCRαβ
+細胞の産出の代表的なフローサイトメトリープロットである。(A)及び(B)のデータは、PSC株に応じた3~13回の実験の平均±SEMを表している。
【
図8】(A)及び(B)リンパ球系始原細胞から分化させた産出CD4
+CD8
+ダブルポジティブT細胞の棒グラフを示す。(A)H1、WLS-1C、及びH9のPSC株の全てにわたって、CD4
+CD8
+ダブルポジティブT細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量に基づいて、分化したリンパ球系始原細胞の中で選別した生細胞またはCD7
+細胞の播種の効果を測定した。(B)H1(ドット記号)及びWLS-1C(正方形記号)のPSC株で、CD4
+CD8
+ダブルポジティブT細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量に基づいて、播種するリンパ球系始原細胞の数を変化させることの効果を測定した。(A)及び(B)のデータは、PSC株に応じた1~4回の実験の平均を表している。
【
図9】(A)PSC由来のCD4
+CD8
+ダブルポジティブT細胞から分化させた産出CD8
+シングルポジティブ(SP)T細胞(CD3
+TCRαβ
+CD4
-CD8
+)の棒グラフを示す。本開示の方法に従ってH1、H9及びWLS-1CのPSC株から分化させたCD8
+シングルポジティブT細胞の存在比率を示している。データは、PSC細胞株に応じた3~4回の実験の平均±SEMを表している。(B)~(E)産出CD8
+シングルポジティブT細胞による異なるT細胞マーカーの発現の代表的なフローサイトメトリープロットである。
【
図10】(A)リンパ球系始原細胞から分化させた産出CD56
+NK細胞の棒グラフを示す。本開示の方法に従って、H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001、及びSTiPS-F016のPSC株の全てにわたって、リンパ球系始原細胞に分化させたCD56
+NK細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量を測定した。データは、PSC細胞株に応じた4~13回の実験の平均±SEMを表している。(B)~(H)STiPS-M001のPSCから誘導させた産出CD56
+NK細胞のNK細胞マーカー共発現の代表的なフローサイトメトリープロットである。
【
図11】(A)~(F)PSC由来のNK細胞が機能的であることを実証する棒グラフ及びフローサイトメトリープロットを示す。(A)複数のPSC株の全てにわたって、分化したCD56
+NK細胞は、2.5:1のエフェクター(NK細胞)対標的(K562細胞)の比率で、末梢血(PB)NK細胞と同等の殺傷能力を示した。データは、PSC細胞株に応じた3~7回の実験の平均±SEMを表している。(B)非活性のH1由来のNK細胞によるCD107a及びIFN-γ発現の代表的なフローサイトメトリープロットである。(C)1:1のNK細胞:K562細胞の比率で、K562細胞との共培養によって活性化されたH1由来のNK細胞によるCD107a及びIFN-γ発現の代表的なフローサイトメトリープロットである。(D)(B)及び(C)との比較におけるK562細胞との共培養によって活性化された末梢血NK細胞の代表的なフローサイトメトリープロットである。(E)PB CD56
+NK細胞と比較した、K562細胞との共培養によって活性化された種々のPSC株から分化したCD56
+NK細胞によるIFN-γの発現を示す。(F)PB CD56
+NK細胞と比較した、K562細胞との共培養によって活性化された種々のPSC株から分化したCD56+NK細胞によるCD107aの発現を示す。データは、PSC細胞株に応じた2~4回の実験の平均±SEMを表している。
【
図12】(A)~(D)出発PSCを異なる培地調合物中に維持した場合の産出造血始原細胞及びリンパ球系始原細胞の棒グラフを示す。(A)H1、H9、STiPS-F016及びWLS-1CのPSC株の全てにわたって、mTeSR1またはTeSR-E8中に維持した6ウェルAggrewell(商標)プレートのウェル当たりのCD34
+造血始原細胞の収量を測定した。(C)H1、H9、STiPS-F016及びWLS-1CのPSC株の全てにわたって、mTeSR1またはmTeSR Plus中に維持した6ウェルAggrewell(商標)プレートのウェル当たりのCD34
+造血始原細胞の収量を測定した。(A)及び(C)のデータは、mTeSR1を使用した4回の実験及びTeSR-E8を使用した2回の実験の平均を表している。(B)H1、H9、STiPS-F016及びWLS-1CのPSC株で、mTeSR1またはTeSR-E8中に維持したCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量を測定した。(D)H1、H9、STiPS-F016及びWLS-1CのPSC株で、mTeSR1またはmTeSR Plus中に維持したCD5+CD7+リンパ球系始原細胞の投入CD34+細胞当たりの存在比率及び収量を測定した。(B)及び(D)のデータは、mTeSR1を使用した7回の実験及びmTeSR Plusを使用した2回の実験の平均を表している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の説明は、多能性幹細胞(PSC)または初期中胚葉細胞から造血系統の細胞を分化させるための培地、方法及びシステム(キット)に関する。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「多能性幹細胞」または「PSC」とは、3つの胚性胚葉のいずれか/全てのうちの任意の細胞型への自己複製及び/または分化が可能な細胞を指す。胚幹細胞などのPSCは、胚盤胞から単離され、維持または分化細胞培養条件に供される場合がある。誘導多能性幹細胞などのPSCは、Oct4、Nanog、Sox2、Klf4などの特定の多能性遺伝子の強制発現によって任意の細胞型から誘導される場合がある。多能性遺伝子の強制発現は、それらのコード領域を安定的にもしくは一過性に宿主細胞へ導入することを介して、または宿主細胞内にこれらの遺伝子の内因性コピーの発現を活性化する因子を導入することによって実現され得る。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「初期中胚葉細胞」または「中胚葉前駆細胞」とは、造血幹及び始原細胞の前駆細胞である。これらは、胚(例えば、大動脈-生殖腺-中腎)などの適切な組織から単離されるか、PSCから分化され得る。加えて、初期中胚葉細胞は、造血内皮として知られている血管内皮の分化した亜集団に相当する場合がある。初期中胚葉細胞の集団が、PSC由来のものであるか、または初期段階の胚から単離されたものであるかに関わらず、それらは、KDR、CD56(NCAM)またはBrachyuryのうち1つ以上を発現する場合があるが、CD326(EpCAM)などのマーカーを発現しない場合がある。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「造血幹及び始原細胞」または「HSPC」とは、造血系統のより分化した細胞への自己複製及び/または分化が可能な造血系統の細胞を指す。HSPCは、骨髄(BM)、臍帯血(CB)、胚から成体の末梢血(PB)、胸腺、末梢リンパ節、胃腸管、扁桃腺、妊娠子宮、肝臓、脾臓、またはHSPCの局部的集団を含む任意の他の組織から得ることができる。HSPCはまた、誘導多能性幹細胞、胚幹細胞、ナイーブ幹細胞、伸長幹細胞などの多能性幹細胞から分化可能である。HSPCの顕著な特徴は、膜貫通リン糖タンパク質CD34を発現することであり、ゆえに、HSPCは、CD34+細胞と呼ばれることもある。ヒトHSPCは、CD45及びCD34の発現によってさらに定義されることがあり、かつ、HSPC亜集団を区別するために使用される場合があるCD38、CD43、CD45RO、CD45RA、CD10、CD49f、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、HLA-DR、CD201、及びインテグリン-α3などのマーカーの組み合わせによってさらに定義される場合がある。HSPCは、グリコフォリンA、CD3、CD4、CD8、CD14、CD15、CD19、CD20及びCD56などのマーカーを発現しないか、またはそれらを少ししか発現しないことがあり、そのようなマーカーは、より成熟した血球の特徴を有する場合がある。用語「造血始原細胞」は、「造血幹及び始原細胞」または「HSPC」と同じ意味で用いられる場合がある。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「リンパ球系始原細胞」とは、HSPCよりもさらに分化され、かつB細胞、T細胞、またはNK細胞などの1つ以上のリンパ球系細胞型にさらに分化することができる細胞型を指す。リンパ球系始原細胞は、HSPCの直系子孫である場合があるか、またはHSPCからさらに取り出される場合がある。さらに、リンパ球系始原細胞は、下流のリンパ球系細胞型に直接分化するか、または分化の1つ以上のさらなる過程を経て、その後リンパ球系細胞型となる場合がある。リンパ球系始原細胞の一例には、表現型マーカーCD7及びCD5に対して陽性な細胞がある。別の例では、リンパ球系始原細胞は、CD7には陽性であるが、CD5には陰性である、またはその逆である場合がある。別の例では、リンパ球系始原細胞は、CD7及びCD5の両方に対して陰性である場合がある。リンパ球系始原細胞で発現することがある他の表現型マーカーとしては、CD10、CD45RA、CD34、CD38、CD161、CD122、CD117、CD127、CD1a及び/またはインテグリンβ7が挙げられる。本明細書において、明言しない限り、リンパ球系始原細胞の集団は、1つ以上のリンパ球系細胞型に分化する能力のある同種の細胞の集団または異種の細胞の集団を指す場合がある。一実施形態では、リンパ球系始原細胞は、リンパ球系細胞の任意型に分化する能力がある場合がある。一実施形態では、リンパ球系始原細胞は、その分化能力がより限定される場合があり、かつリンパ球系細胞の1つ以上のみに分化できるが、全てには分化できない。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「ナチュラルキラー細胞」または「NK細胞」とは、HSPCから誘導される場合がある造血系統のリンパ球の型を指す。より具体的には、NK細胞は、多リンパ球系始原細胞(MLP)またはリンパ球系共通始原細胞(CLP)から誘導され得る。NK細胞は、典型的には、T及びB細胞特異的マーカーの不在、CD16(NK細胞の亜集団で発現する低親和性Fcガンマ受容体3A)を伴うまたは伴わないCD56の発現、及びそれらのエフェクター機能を特徴とする。より具体的には、NK細胞のエフェクター機能としては、細胞毒性作用及び/またはIFNγ及び/またはTNFαなどの炎症性サイトカインの産生が挙げられる。NK細胞は、さらに、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)と呼ばれる活性化及び抑制性受容体の発現を特徴とする場合がある。NK細胞が発現することがあるその他の活性化受容体としては、NKG2D、NKG2CNKG2E及びNKG2Fを含むCD94/NKG2受容体、ならびにNKp30、NKp44及びNKp46を含む天然細胞毒性受容体(NCR)が挙げられる。その他の抑制性受容体としては、NKG2A及びNKG2Bを含むCD94/NKG2受容体が挙げられる。PSCまたはHSPC(例えば、PSC由来のHSPC)からのNK細胞の分化は、通常、PSC由来の中胚葉前駆細胞及び/またはリンパ球系始原細胞(例えば、PSC由来のリンパ球系始原細胞)などの1つ以上の始原細胞集団によって媒介される。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「T細胞」とは、HSPCから誘導される場合がある造血系統のリンパ球の型を指す。より具体的には、T細胞は、多リンパ球系始原細胞(MLP)またはリンパ球系共通始原細胞(CLP)から誘導され得る。T細胞は、典型的には、NK特異的マーカー、B特異的マーカー、及び赤芽球特異的マーカーの不在、CD3、及びTCRαβ(もしくはTCRγσ)、及びCD4もしくはCD8の発現、ならびにそれらのエフェクター機能を特徴とする。T細胞の一部の亜集団が、T細胞及びNK細胞の両方の特性を発現する場合があるが、TCRαβまたはTCRγσを発現する、または発現しない場合があり、かつCD4、CD8、CD56、CD16、及びNK1.1を発現する、または発現しない場合がある。より具体的には、T細胞のエフェクター機能としては、サイトカインの産生、感染もしくは腫瘍標的細胞の殺傷、または他の造血細胞型の刺激が挙げられる。T細胞は、さらに、CD8α、CD8β、CD45RA及びCD27の発現を特徴とする場合がある。PSCまたはHSPC(例えば、PSC由来のHSPC)からのT細胞の分化は、通常、PSC由来の中胚葉前駆細胞及び/またはリンパ球系始原細胞(例えば、PSC由来のリンパ球系始原細胞)などの1つ以上の始原細胞集団によって媒介される。
【0044】
方法
本開示の方法は、PSCまたは初期中胚葉細胞から、造血始原細胞及び他の下流造血細胞型を分化させるステップを含む。本開示の方法はまた、PSCを1つ以上の前駆細胞集団を介してT細胞、NK細胞、及びB細胞に分化させるステップを含み得る。造血始原細胞及び他の下流造血細胞型を分化させるための本明細書で開示する方法は、in vitro及び/またはex vivo方法であることが好ましい。
【0045】
造血始原細胞を分化させる方法は、1つ以上のサイトカイン(複数可)または成長因子(複数可)を補充した第1の基礎培地を含む第1の培地中で初期中胚葉細胞(例えば、造血始原細胞の前駆細胞)の集団を培養することを含む。一実施形態では、1つ以上のサイトカイン(複数可)または成長因子(複数可)は、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)である。一実施形態では、第1の培地は、BMPシグナル伝達のアゴニスト、繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニスト、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストからなるリストから選択される外因的に添加されるアゴニストの任意の組み合わせが除外されている。別の実施形態では、第1の培地は、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうち1つ以上が補充された基礎培地からなる、またはそれから本質的になる。
【0046】
一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団は、造血幹及び始原細胞の前駆細胞であり、かつ、それらは、胚(例えば、大動脈-生殖腺-中腎)などの適切な組織から単離される。一実施形態では、中胚葉前駆細胞は、造血内皮として知られている血管内皮の分化した亜集団に相当する。いくつかの実施形態では、初期中胚葉細胞(例えば、中胚葉前駆細胞)の集団は、PSCから分化される。初期中胚葉細胞の集団が、PSC由来のものであるか、または初期段階の胚から単離されたものであるかに関わらず、それらは、KDR、CD56(NCAM)またはBrachyuryのうち1つ以上を発現する場合があるが、CD326(EpCAM)などのマーカーを発現しない場合がある。
【0047】
本開示の第1の培地は、中胚葉細胞から造血始原細胞(または造血内皮、HE)を分化させるのに使用することができる任意の培地を含む。HE細胞は、胚内の大動脈-生殖腺-中腎(AGM)領域に局在する内皮細胞であり、内皮から造血への(EHT)移行と呼ばれるプロセスを通して造血始原細胞へ分化する能力がある。第1の培地における初期中胚葉細胞の集団の造血始原細胞への分化は、中間体(例えば、造血内皮)の1つ以上の集団を介して進行する場合がある。または、そのような第1の培地により、初期中胚葉細胞の集団を造血始原細胞に直接的または間接的に分化させることができる。
【0048】
本開示の第1の培地は、血清を含む場合があるか、または血清を含まない場合がある。好ましくは、本開示の第1の培地は、血清を含まない。培地が血清を含まない場合、そのような培地に、BIT 9500 Serum Substitute(STEMCELL Technologies,カタログ番号09500)、または他の市販の血清代替溶液などの血清代替サプリメントを含める必要がある場合がある。あるいは、本開示の任意の細胞を培養または分化するために必要な血清に通常存在する成分、例えば、アルブミン(組換えであるかどうかに関わらず)は、許容可能な濃度で培地に個別に添加されてよい。
【0049】
本開示の第1の培地は、本開示の細胞(例えば、造血始原細胞、またはHSPC、及び場合により下流リンパ球系始原細胞、NK細胞、T細胞、B細胞)を培養/分化させるように適切に調合された第1の基礎培地を含む。したがって、第1の基礎培地は、造血系統の細胞の培養/分化を支援する任意の基礎培地であってよい。非限定的例として、第1の基礎培地は、STEMdiff Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies,カタログ番号100-171)、STEMdiff Hematopoietic Basal Medium(STEMCELL Technologies,カタログ番号05311)、STEMdiff(商標)APEL(商標)2 Medium(STEMCELL Technologies,カタログ番号05270)、または目的にかなった任意の市販の基礎培地であってよい。そのような第1の基礎培地を調合するのに使用される一般的な成分としては、塩、緩衝剤、脂質、アミノ酸、トレース成分、特定のタンパク質などが挙げられる。一実施形態では、第1の基礎培地は、初期中胚葉細胞の集団からの造血始原細胞(または造血内皮、HE)の分化を最適に支援するように調合される。
【0050】
一実施形態では、本開示の第1の培地は、初期段階の造血分化に影響を与えることが知られている1つ以上のサイトカインまたは成長因子を含んでいてもよい。第1の基礎培地に添加されるサプリメント(複数可)は、培養される細胞の特定の型に応じて変更される場合がある。概して、可能性のあるサプリメントの非網羅的なリストには、1つ以上のサイトカイン、1つ以上の成長因子、または他のタンパク質のうち少なくとも1つが含まれる。
【0051】
一実施形態では、1つ以上のサイトカインまたは成長因子は、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2であってよい。一実施形態では、第1の培地には、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のそれぞれが補充される。一実施形態では、第1の培地には、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち1つ以上が補充される。IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち1つ以上を含む第1の培地の実施形態において、かかるサイトカインは、約1~1000ng/mL、または約1~100ng/mL、または約5~50ng/mLの濃度でそれぞれ存在し得る。前述のサイトカインのうち1つ以上の小分子類似体が、第1の培地に含まれる場合の実施形態では、それらは、典型的に低濃度で使用される。
【0052】
いくつかの実施形態では、L-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち任意の1つ以上は含まれていなくてもよいが、培地の効率が損なわれる可能性がある。一実施形態では、第1の培地中にIL-15を含めることは、必ずしも必要ではない。一実施形態では、第1の培地は、SCF、FLT3L、及びTPOのうち1つ以上を含む。
【0053】
一実施形態では、第1の培地は、造血始原細胞を含む造血細胞の培養または分化で一般的に使用される1つ以上の他の成長因子を含んでいてもよい。例えば、第1の培地は、BMPシグナル伝達のアゴニスト、FGFシグナル伝達のアゴニスト、及びVEGFシグナル伝達のアゴニストのうち1つ以上を含んでいてもよい。一実施形態では、第1の培地は、BMPシグナル伝達のアゴニスト、FGFシグナル伝達のアゴニスト、及びVEGFシグナル伝達のアゴニストのうち1つ、一部または全てを含んでいない。別の言い方をすれば、第1の培地は、BMPシグナル伝達のアゴニスト、繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニスト、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストからなるリストから選択される外因的に添加されるアゴニストの任意の組み合わせが除外されている場合がある。
【0054】
一実施形態では、第1の培地は、外因的に添加されるBMPシグナル伝達のアゴニストを含むか、または含んでいない。BMPシグナル伝達のアゴニストは、含まれる場合、BMPシグナル伝達の既知の任意のアゴニストであってよい。BMPシグナル伝達のアゴニストは、産生細胞で内因的に発現して、単離され得るか、またはBMPシグナル伝達のアゴニストは、組換えられて、産生細胞で発現し、かつ単離され得る。あるいは、BMPシグナル伝達のアゴニストは、小分子であってよい。一実施形態では、BMPシグナル伝達のアゴニストは、マウスまたはヒトBMP4などの任意の種の骨形成タンパク質である。
【0055】
第1の培地におけるBMPシグナル伝達のアゴニストの濃度は、約0.05ng/mL~5μg/mL、約0.1ng/mL~1μg/mL、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~100ng/mL、または約5~50ng/mLの範囲であってよい。
【0056】
一実施形態では、第1の培地は、外因的に添加されるFGFシグナル伝達のアゴニストを含むか、または含んでいない。FGFシグナル伝達のアゴニストは、含まれる場合、既知の任意の繊維芽細胞成長因子であってよい。繊維芽細胞成長因子は、産生細胞で内因的に発現して、単離され得るか、または繊維芽細胞成長因子は、組換えられて、産生細胞で発現し、かつ単離され得る。一実施形態では、繊維芽細胞成長因子は、ヒトまたはマウスFGF2(塩基性FGF、bFGFとしても知られている)である。
【0057】
第1の培地における繊維芽細胞成長因子の濃度は、約0.05ng/mL~5μg/mL、約0.1ng/mL~1μg/mL、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~100ng/mL、または約5~50ng/mLの範囲であってよい。
【0058】
一実施形態では、第1の培地は、外因的に添加されるVEGFシグナル伝達のアゴニストを含むか、または含んでいない。VEGFシグナル伝達のアゴニストは、含まれる場合、既知の任意の血管内皮成長因子であってよい。血管内皮成長因子は、産生細胞で内因的に発現して、単離され得るか、または繊維芽細胞成長因子は、組換えられて、産生細胞で発現し、かつ単離され得る。一実施形態では、血管内皮成長因子は、ヒトまたはマウスVEGFである。
【0059】
第1の培地における血管内皮成長因子の濃度は、約0.05ng/mL~5μg/mL、約0.1ng/mL~1μg/mL、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~100ng/mL、または約5~50ng/mLの範囲であってよい。
【0060】
一実施形態では、第1の培地は、1つ以上の外因的に添加されるBMP4、FGF2、及びVEGFが除外されている。
【0061】
いくつかの実施形態では、第1の培地は、アクチビン(例えば、アクチビンA)、CHIR99021などのWntシグナル伝達アゴニスト、及び/またはSB431542などのアクチビン受容体様キナーゼの阻害剤を含んでいない。
【0062】
さらに、本開示の第1の培地は、細胞の培養を支援する追加のサプリメントと相乗作用を示す場合がある。例えば、一方では、間質またはフィーダー細胞が、本開示の細胞培養培地と共に使用されてよい。そのような細胞の非網羅的な例としては、胚性肝臓細胞株EL08.1D2、AFT024細胞、OP9細胞、MS-5またはM2-10B4細胞、胚性大動脈-生殖腺中腎(AGM)由来のマウス胚性繊維芽または間質細胞が挙げられる。他方では、間質及び/またはフィーダーを含まない培養手法が、本開示の細胞培養培地と共に使用されてよい。かかる手法のいくつかの実施形態では、間質/フィーダー細胞の培養物によってコンディショニングした培地が使用されてよく、またはかかるシステムは、間質/フィーダー細胞代替物を利用してもよい。間質/フィーダー細胞代替物は、適切なシグナルまたは結合部位を培養中の細胞に提供する1つ以上の既定の成分を含む場合がある。このような成分は、第1の培地に、または培養容器の内部培養物表面へ、もしくは粒子、ビーズ、マイクロキャリアなどの細胞培養培地中に懸濁した固体表面に塗布されるコーティングに含まれてよい。このような成分の非網羅的な例としては、フィブロネクチンコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、またはStemSpan(商標)Lymphoid Differentiation Coating Supplement(STEMCELL Technologies,カタログ番号09925)またはMatrigel(Corning)などのコーティングが挙げられる。あるいは、間質/フィーダー細胞代替物は、例えば、補給によって、または間質/フィーダー細胞によって事前にコンディショニングされた培地として、細胞培養培地内で可溶性形態のそのような成分を提供することができる。
【0063】
一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させる方法は、間質を含まない条件及び/またはフィーダーを含まない条件下で、初期中胚葉細胞(例えば、中胚葉前駆細胞)を培養することをさらに含む場合がある。一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させる方法は、外因的に添加される間質及び/またはフィーダー細胞を含まない条件下で、中胚葉前駆細胞を培養することをさらに含む場合がある。
【0064】
PSC由来の中胚葉前駆細胞などの初期中胚葉細胞の集団を(前述のような第1の培地などの適切な培地中で)培養することは、それらの生存能力または下流系統へ分化する能力に影響を与えない任意の時間期間で行われる場合がある。一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させる方法は、第1の培地中で約2日間~21日間、または約4日間~14日間細胞を培養することをさらに含む。一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させる方法は、第1の培地中で約6日間~10日間細胞を培養することをさらに含む。
【0065】
驚くべきことに、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させるための第1の培地(本明細書に別途記載)中に、外因的に添加されるBMPシグナル伝達アゴニスト、FGFシグナル伝達アゴニスト及びVEGFシグナル伝達アゴニストのうちの1つ、一部または全てが存在しない場合であっても、分化の効率は著しく低下しないことが、本発明者らによって明らかとなった。場合によっては、前述のアゴニストのいずれか(または任意の組み合わせ)を除外することにより、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させる効率に有益な影響を与えることができる。例えば、外因的に添加されるVEGFシグナル伝達アゴニストが存在しない場合、外因的なVEGFシグナル伝達アゴニストを含む第1の培地と比較して、分化した造血始原細胞の存在比率及び/または収量が増加し得る。さらに、外因的に添加されるVEGFシグナル伝達アゴニストを含んでいない第1の培地における造血始原細胞分化は、接着性が低い場合があり、それにより、外因的に添加されるVEGFシグナル伝達アゴニストを含む第1の培地と比較して、下流リンパ球系始原細胞(及びさらに生じるT細胞、B細胞、及び/またはNK細胞)の存在比率及び収量が増加する。同様に、外因的に添加されるFGFまたはBMPシグナル伝達アゴニストが存在しない場合、外因的に添加されるFGFまたはBMPシグナル伝達アゴニストを含む第1の培地と比較して、分化した造血始原細胞の存在比率及び/または収量が増加し得る。FGFまたはBMPシグナル伝達アゴニストのいずれかを第1の培地から除外すると、造血始原細胞が増加する可能性があるが、そのような細胞は、下流リンパ球系始原細胞へ分化する能力が損なわれている可能性がある。しかし、驚くべきことに、VEGFシグナル伝達のアゴニスト、FGFシグナル伝達のアゴニスト、及びBMPシグナル伝達のアゴニストのそれぞれが除外されている第1の培地で分化した造血始原細胞は、さらにリンパ球系始原細胞に分化する、向上した(または同等の)能力を有する可能性がある(3つのそれぞれを含む条件と比較した場合)。造血始原細胞(及び下流リンパ球系始原細胞)を分化させる最小限の培地条件を特定することによる他の利点は、製造コストが大幅に削減できることと、複雑度を軽減することと、その複雑度の軽減により、規制上のハードルを下げることができることである。
【0066】
したがって、本開示はまた、造血始原細胞を分化させるための培地も包含する。一実施形態では、本開示は、PSC由来の造血始原細胞を分化させるための培地を包含する。一実施形態では、PSCは哺乳動物のものであり、一実施形態では、PSCはヒトのものである。造血始原細胞を分化させるための培地は、第1の培地と呼ばれることもあり、そのような第1の培地は、上記詳述した調合物のいずれかを含む場合がある。一実施形態では、第1の培地は、血清を含まず、かつフィーダー/間質を含まないワークフローで使用される。一実施形態では、第1の培地は、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうち1つ以上が補充された基礎培地を含み、かつBMPシグナル伝達のアゴニスト、繊維芽細胞成長因子(FGF)シグナル伝達のアゴニスト、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストからなるリストから選択される外因的に添加されるアゴニストの任意の組み合わせが除外されている。
【0067】
BMP、FGF、及びVEGFアゴニストのうち1つ、一部または全てが第1の培地に存在しないということは、第1の培地で培養される細胞(及び間質細胞または間質を含まないワークフローにおけるコーティング材料と接触した細胞)が、例えば、間質細胞もしくは間質代替物、または細胞自体が成長因子を導入する場合、それでも低レベルまたは検出未満のレベルのそのようなアゴニストに曝されることを意味する。しかし、PSCまたは間質細胞(存在する場合)のどちらも、そのようなアゴニストを異所的に発現するか、または過剰発現するように操作されていない。したがって、本発明者らの知見の限りでは、これは、血清及び間質を含まない条件下で、BMP、FGF、及びVEGFシグナル伝達アゴニストのうち1つ、一部、または全ての不在下で、PSC由来の中胚葉前駆細胞から造血始原細胞が効率的に分化することを報告する第1の開示である。
【0068】
一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団からPSC由来の造血始原細胞を分化させる方法は、PSC由来の初期中胚葉細胞の分化した集団を得るために、第2の基礎培地、ならびにBMPシグナル伝達のアゴニスト(前述の通り)、FGFシグナル伝達のアゴニスト(前述の通り)、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストのうち1つ以上を含む誘導培地中でPSCを培養することをさらに含む場合がある。
【0069】
本開示の誘導培地は、PSCから初期中胚葉細胞の集団を分化させるのに使用することができる任意の培地を含む。誘導培地中でPSCから初期中胚葉細胞の集団を誘導することは、中間体の1つ以上の集団を介して行われる。または、誘導培地により、PSCの集団を初期中胚葉細胞の集団に直接的または間接的に分化させることができる。
【0070】
本開示の誘導培地は、血清を含む場合があるか、または血清を含まない場合がある。好ましくは、本開示の誘導培地は、血清を含まない。培地が血清を含まない場合、そのような培地に、BIT 9500 Serum Substitute(STEMCELL Technologies,カタログ番号09500)、または他の市販の血清代替溶液などの血清代替サプリメントを含める必要がある場合がある。あるいは、本開示の任意の細胞を培養または分化するために必要な血清に通常存在する成分、例えば、アルブミン(組換えであるかどうかに関わらず)は、許容可能な濃度で培地に個別に添加されてよい。
【0071】
本開示の誘導培地は、本開示の細胞(例えば、PSC、及び場合により、下流造血始原細胞、リンパ球系始原細胞、NK細胞、T細胞、B細胞)を分化させるように適切に調合された第2の基礎培地を含む。第2の基礎培地は、PSC及び/またはその始原細胞(例えば、初期中胚葉細胞)を含む造血系統の細胞の培養を支援する任意の基礎培地であってよい。非限定的例として、第2の基礎培地は、STEMdiff Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies,カタログ番号100-171)、STEMdiff Hematopoietic Basal Medium(STEMCELL Technologies,カタログ番号05311)、STEMdiff(商標)APEL(商標)2 Medium(STEMCELL Technologies,カタログ番号05270)、または目的にかなった任意の市販の基礎培地であってよい。そのような第1の基礎培地を調合するのに使用される一般的な成分としては、塩、緩衝剤、脂質、アミノ酸、トレース成分、特定のタンパク質などが挙げられる。
【0072】
一実施形態では、第2の基礎培地は、第1の基礎培地と同じであるか、本質的に同じである。一実施形態では、第2の基礎培地は、第1の基礎培地とは異なる。
【0073】
一実施形態では、誘導培地は、初期段階の造血分化に影響を与えることが知られている1つ以上の成長因子を含んでいてもよい。例えば、誘導培地は、BMPシグナル伝達のアゴニスト、FGFシグナル伝達のアゴニスト、及びVEGFシグナル伝達のアゴニストのうち1つ以上を含んでいてもよい。
【0074】
誘導培地の一実施形態では、BMPシグナル伝達のアゴニストは、BMPシグナル伝達の既知の任意のアゴニストであってよい。BMPシグナル伝達のアゴニストは、産生細胞で内因的に発現して、単離され得るか、またはBMPシグナル伝達のアゴニストは、組換えられて、産生細胞で発現し、かつ単離され得る。あるいは、BMPシグナル伝達のアゴニストは、小分子であってよい。一実施形態では、BMPシグナル伝達のアゴニストは、骨形成タンパク質である。一実施形態では、BMPシグナル伝達のアゴニストは、BMP4である。一実施形態では、BMPシグナル伝達のアゴニストは、ヒトまたはマウスBMP4である。
【0075】
誘導培地におけるBMPシグナル伝達のアゴニストの濃度は、含まれる場合、約0.05ng/mL~5μg/mL、約0.1ng/mL~1μg/mL、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~100ng/mL、または約5~50ng/mLの範囲であってよい。
【0076】
誘導培地の一実施形態では、FGFシグナル伝達のアゴニストは、既知の任意の繊維芽細胞成長因子であってよい。繊維芽細胞成長因子は、産生細胞で内因的に発現して、単離され得るか、または繊維芽細胞成長因子は、組換えられて、産生細胞で発現し、かつ単離され得る。一実施形態では、繊維芽細胞成長因子は、ヒトまたはマウスFGF2(塩基性FGF、bFGFとしても知られている)である。いくつかの実施形態では、繊維芽細胞成長因子は、単一のアイソフォームバリアントからなる。いくつかの実施形態では、繊維芽細胞成長因子は、2つ以上のアイソフォームバリアントを含む。
【0077】
誘導培地における繊維芽細胞成長因子アゴニストの濃度は、含まれる場合、約0.05ng/mL~5μg/mL、約0.1ng/mL~1μg/mL、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~100ng/mL、または約5~50ng/mLの範囲であってよい。
【0078】
誘導培地の一実施形態では、VEGFシグナル伝達のアゴニストは、既知の任意の血管内皮成長因子または任意のそれらのスプライシングアイソフォームであってよい。血管内皮成長因子またはスプライスバリアント(複数可)は、産生細胞で内因的に発現して、単離され得るか、または血管内皮成長因子またはスプライスバリアント(複数可)は、組換えられて、産生細胞で発現し、かつ単離され得る。一実施形態では、血管内皮成長因子の単一のアイソフォームが、誘導培地に含まれる。一実施形態では、血管内皮成長の複数のアイソフォームが、誘導培地に含まれる。ヒト血管内皮成長因子は、複数の方法でスプライシングされることが知られている。あるいは、例えば、血管内皮成長因子のスプライシングされたアイソフォームは、長さが121、145、165、183、189、及び206アミノ酸のアイソフォームを含む。最も効力があり、豊富なアイソフォームは、121、165、及び189アミノ酸長のバリアントを含む場合がある。
【0079】
誘導培地における血管内皮成長因子アゴニストの濃度は、含まれる場合、約0.05ng/mL~5μg/mL、約0.1ng/mL~1μg/mL、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~100ng/mL、または約5~50ng/mLの範囲であってよい。
【0080】
誘導培地は、初期段階の造血分化に影響を与えることが知られている他のサイトカインまたは成長因子、例えば、アクチビン(例えば、アクチビンA)、Wntシグナル伝達アゴニスト(例えば、CHIR99021)、及び/またはTGFβ経路阻害剤(例えば、SB431542)、及び/またはアクチビンをさらに含んでいてもよい。
【0081】
さらに、本開示の誘導培地は、細胞の培養向けの追加のサプリメントと相乗作用を示す場合がある。例えば、一方では、間質及び/またはフィーダー細胞が、本開示の細胞培養培地と共に使用されてよい。そのような細胞の非網羅的な例としては、胚性肝臓細胞株EL08.1D2、AFT024細胞、OP9細胞、MS-5またはM2-10B4細胞、胚性AGM由来のマウス胚性繊維芽または間質細胞が挙げられる。他方では、間質及び/またはフィーダーを含まない培養手法が、本開示の細胞培養培地と共に使用されてよい。間質及び/またはフィーダーを含まない培養システムは、間質細胞によって事前にコンディショニングした培地を利用してもよく、またはそのようなシステムは間質細胞代替物を利用してもよい。そのようなシステムは、間質/フィーダー細胞細胞によって事前にコンディショニングした培地を利用してもよく、またはそのようなシステムは間質/フィーダー細胞代替物を利用してもよい。間質/フィーダー細胞代替物は、適切なシグナルまたは結合部位を培養中の細胞に提供する1つ以上の既定の成分を含む場合がある。このような成分は、誘導培地に、または培養容器の内部培養物表面へ、もしくは粒子、ビーズ、マイクロキャリアなどの細胞培養培地中に懸濁した固体表面に塗布されるコーティングに含まれてよい。このような成分の非網羅的な例としては、フィブロネクチンコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、固定化されたNotchリガンド、またはStemSpan(商標)Lymphoid Differentiation Coating Supplement(STEMCELL Technologies,カタログ番号09925)またはMatrigel(Corning)などのコーティングが挙げられる。あるいは、間質/フィーダー細胞代替物は、例えば、補給によって、または間質/フィーダー細胞によって事前にコンディショニングされた培地として、細胞培養培地内で可溶性形態のそのような成分を提供することができる。
【0082】
一実施形態では、PSCから初期中胚葉細胞の集団を分化させる方法は、間質を含まない条件及び/またはフィーダーを含まない条件下で、PSCを培養することをさらに含む場合がある。一実施形態では、PSCから初期中胚葉細胞の集団を分化させる方法は、外因的に添加される間質及び/またはフィーダー細胞を含まない条件下で、PSCを培養することをさらに含む場合がある。
【0083】
一実施形態では、PSCから初期中胚葉細胞の集団を分化させる方法は、PSCを凝集塊または単一の細胞に解離させることと、誘導培地中にそのような細胞をプレーティングすることとをさらに含む場合がある。
【0084】
一実施形態では、PSCから初期中胚葉細胞の集団を分化させる方法は、誘導培地中でPSCを培養する前に、PSCを凝集体に形成することをさらに含む場合がある。
【0085】
一実施形態では、PSCから初期中胚葉細胞の集団を分化させる方法は、誘導培地中でPSCを凝集体に形成することをさらに含む場合がある。
【0086】
PSCは、任意の手法を使用して凝集体に形成されてよい。例えば、PSCの凝集体は、細胞培養プレートのチューブまたはウェルの底に所望の数のPSCを堆積させることによって形成され得る。あるいは、凝集体は、確実にPSCの均一なサイズの凝集体を効率的かつ再現可能に形成するために、Aggrewell(商標)マイクロウェルデバイスのウェル中に所望の数のPSCを堆積させることによって形成され得る。
【0087】
一実施形態では、凝集体を形成するために使用されるPSCの数は、約1~100,000である。一実施形態では、凝集体を形成するために使用されるPSCの数は、約10~10,000である。一実施形態では、凝集体を形成するために使用されるPSCの数は、約100~1,000である。
【0088】
そのために、一実施形態では、PSCの凝集体は、マイクロウェルデバイス中で形成され得る。一実施形態では、PSCの凝集体は、約1000個の細胞または約500個の細胞から形成される。
【0089】
PSCを(前述のような誘導培地などの適切な培地中で)培養して中胚葉前駆細胞を生成することは、それらの生存能力または下流系統へ分化する能力に影響を与えない任意の時間期間で行われる場合がある。一実施形態では、初期中胚葉細胞の集団から造血始原細胞を分化させる方法は、PSC由来の中胚葉細胞の分化した集団を得るために、誘導培地中で約1日間~7日間PSCを培養することをさらに含む。一実施形態では、PSCから初期中胚葉細胞の集団を分化させる方法は、誘導培地中で約2日間~5日間PSCを培養することをさらに含む。
【0090】
一実施形態では、PSCは、PSC由来の中胚葉細胞の分化した集団を得るために、第2の基礎培地、ならびにBMPシグナル伝達のアゴニスト、FGFシグナル伝達のアゴニスト、及び血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達のアゴニストのうち1つ以上を含む誘導培地中で初期中胚葉細胞の集団に分化され得る。一実施形態では、誘導培地は、第2の基礎培地ならびにBMP、FGF、及びVEGFシグナル伝達のアゴニストのそれぞれを含む。
【0091】
したがって、上記に基づいて、本開示はまた、本明細書で前述したような誘導培地も包含する。さらに、誘導培地及び第1の培地は、PSCを初期中胚葉細胞の集団を介して造血始原細胞に分化させるためのキットまたはシステムに含まれる場合がある。
【0092】
一実施形態では、PSC由来の中胚葉前駆細胞から造血始原細胞を分化させる方法は、造血始原細胞を解離させた後に、リンパ球系始原細胞を得ることと、解離した造血始原細胞をリンパ球系分化培地中で血清を含まない及び/または間質を含まない条件下で培養することとをさらに含む。
【0093】
PSCの凝集体が初期中胚葉前駆細胞の集団を分化するために使用され、そのようなPSC由来の中胚葉前駆細胞が造血始原細胞を分化するために使用される場合、造血始原細胞は、既知の任意のまたは開発された手段を使用して解離され得る。Accutase(商標)(STEMCELL Technologies)、TrypLE(商標)Express(ThermoFisher Scientific)、Gentle Cell Dissociation Reagent、GCDR(STEMCELL Technologies)またはトリプシンなどの種々の解離試薬が市販されている。異なる解離試薬を組み合わせることが望ましい場合もある。例えば、本明細書に示されるように、Collagenase II & TrypLE(商標)またはCollagenase IV & TrypLE(商標)が、造血始原細胞を解離するために組み合わされてよい。
【0094】
一実施形態では、造血始原細胞の解離後、サンプル内の造血始原細胞を濃縮することが望ましい場合がある。EasySep(商標)Human CD34 Positive Selection Kit II(STEMCELL Technologies)を含む種々の市販の試薬が知られている。あるいは、造血始原細胞(または造血内皮細胞)は、FACS選別によって濃縮され得る。
【0095】
本開示のリンパ球系分化培地は、造血始原細胞または造血内皮細胞をリンパ球系始原細胞に分化させるのに使用することができる任意の培地を含む。そのようなリンパ球系分化培地とは、PSC由来の造血始原細胞のリンパ球系始原細胞への分化を指し、それらの間の中間体の1つ以上の集団の誘導を含む場合がある。あるいは、そのようなリンパ球系分化培地により、PSC由来の造血始原細胞の集団をリンパ球系始原細胞の1つ以上の亜集団に直接的または間接的に分化させることができる。
【0096】
本開示のリンパ球系分化培地は、血清を含む場合があるか、または血清を含まない場合がある。好ましくは、本開示のリンパ球系分化培地は、血清を含まない。培地が血清を含まない場合、そのような培地に、BIT 9500 Serum Substitute(STEMCELL Technologies,カタログ番号09500)、または他の市販の血清代替溶液などの血清代替サプリメントを含める必要がある場合がある。あるいは、本開示の任意の細胞を培養または分化するために必要な血清に通常存在する成分は、許容可能な濃度で培地に個別に添加されてよい。
【0097】
本開示のリンパ球系分化培地は、本開示の細胞を分化させるように(例えば、造血始原細胞をリンパ球系始原細胞に)適切に調合された第3の基礎培地を含む。第3の基礎培地は、造血系統の細胞の培養を支援する任意の基礎培地であってよい。非限定的例として、第3の基礎培地は、StemSpan(商標)SFEM(STEMCELL Technologies,カタログ番号09650)、StemSpan(商標)SFEM II(STEMCELL Technologies,カタログ番号09655)、StemSpan(商標)-ACF(STEMCELL Technologies,カタログ番号09855)、StemSpan(商標)H3000(STEMCELL Technologies,カタログ番号09850)または目的にかなった任意の市販の基礎培地であってよい。そのような第3の基礎培地を調合するのに使用される一般的な成分としては、塩、緩衝剤、脂質、アミノ酸、トレース成分、特定のタンパク質などが挙げられる。
【0098】
一実施形態では、第3の基礎培地は、第2基礎培地もしくは第1の基礎培地、またはその両方と同じであるか、第2基礎培地もしくは第1の基礎培地、またはその両方と本質的に同じである。一実施形態では、第3の基礎培地は、第2の基礎培地もしくは第1の基礎培地、またはその両方とは異なる。
【0099】
一実施形態では、リンパ球系分化培地は、造血始原細胞の分化を支援するためにさらに補充される必要がある場合がある。基礎培地に添加されるサプリメント(複数可)は、培養される細胞の特定の型に応じて変更される場合がある。概して、可能性のあるサプリメントの非網羅的なリストには、1つ以上のサイトカイン、1つ以上の成長因子、または他のタンパク質が含まれる。
【0100】
具体的には、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2が、本開示のリンパ球系分化培地に含まれてよい。一実施形態では、リンパ球系分化培地には、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のそれぞれが補充される。一実施形態では、リンパ球系分化培地には、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち1つ以上が補充される。IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち1つ以上を含むリンパ球系分化培地の実施形態において、かかるサイトカインは、約1~1000ng/mL、または約1~100ng/mL、または約5~50ng/mLの濃度でそれぞれ存在し得る。小分子も含まれる場合、それらは通常低濃度で使用される。例えば、Wntシグナル伝達アゴニストCHIR99021またはTGFβ経路阻害剤SB431542などの小分子は、0.1nM~30uMの低濃度で使用されてよい。
【0101】
いくつかの実施形態では、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち任意の1つ以上はリンパ球系分化培地に含まれていなくてもよいが、リンパ球系分化培地の効率が損なわれる可能性がある。
【0102】
一実施形態では、中胚葉細胞から造血始原細胞を分化させる方法(造血始原細胞のリンパ球系始原細胞への次の分化を含む)は、T細胞成熟培地中でリンパ球系始原細胞を培養した後にT細胞を得ることをさらに含む場合がある。
【0103】
一実施形態では、T細胞成熟培地は、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち任意の1つ以上を含む場合がある。一実施形態では、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち1つ、一部または全てがT細胞成熟培地に含まれていなくてもよいが、そのような培地の効率が損なわれる可能性がある。例えば、IL-15は、T細胞成熟培地の効率に著しい影響を与えることなくT細胞成熟培地から除外されてよい。
【0104】
一実施形態では、T細胞は、CD4+CD8+ダブルポジティブT細胞であり、CD3及びTCRαβを発現する場合がある。一実施形態では、CD4+CD8+ダブルポジティブT細胞は、CD8+シングルポジティブT細胞にさらに成熟する場合がある。
【0105】
一実施形態では、中胚葉細胞から造血始原細胞を分化させる方法(造血始原細胞のリンパ球系始原細胞への次の分化を含む)は、NK細胞生成培地中でリンパ球系始原細胞を培養した後にNK細胞を得ることをさらに含む場合がある。
【0106】
一実施形態では、NK細胞生成培地は、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち任意の1つ以上を含む場合がある。一実施形態では、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、SCF、FLT3L、TPO、EPO及びIGF-1もしくはIGF-2のうち1つ、一部または全てがNK細胞生成培地に含まれていなくてもよいが、そのような培地の効率が損なわれる可能性がある。例えば、IL-15は、いくつかの実施形態においてはNK細胞生成培地の重要な成分である。
【0107】
一実施形態では、NK細胞は、CD56+NK細胞である。一実施形態では、NK細胞は機能的である。一実施形態では、NK細胞はIFN-γを産生する。同一のまたは異なる実施形態では、NK細胞は細胞傷害性である。同一のまたは異なる実施形態では、NK細胞はCD107、より具体的にはCD107aを発現する。
【0108】
開示する、PSCを初期中胚葉細胞(例えば、前駆細胞)の集団に分化させる方法、PSC由来の中胚葉前駆細胞を造血始原細胞に分化させる方法、PSC由来の造血始原細胞をリンパ球系始原細胞に分化させる方法、及びPSC由来のリンパ球系始原細胞を種々のリンパ球系系統に分化させる方法に加えて、本明細書にて開示する種々の培地は、独立型形態に包含され得るか、または血清及び/または間質を含まない条件下であるかどうかに関わらず、PSCのリンパ球系始原細胞への、及びそれを超えた段階的分化のシステムに含まれ得る。
【0109】
いくつかの実施形態では、全システムは、血清及び/または間質を含まない条件下で行われる。いくつかの実施形態では、システムの特定の態様のみが、血清及び/または間質を含まない条件下で行われる。例えば、前述の概説を限定することなく、PSCの初期中胚葉細胞の集団への分化、PSC由来の中胚葉前駆細胞の造血始原細胞への分化、及びPSC由来の造血始原細胞のリンパ球系始原細胞への分化は、血清及び/または間質を含まない条件下で行われるが、さらなる下流段階は、行われる場合もあるし、行わない場合もある。逆に、初期段階のシステムは、血清及び/または間質を含まない条件下で行われる場合もあるし、行われない場合もあるが、次の段階は、血清及び/または間質を含まない条件下で行われる。
【0110】
一実施形態では、このようなシステム(複数可)またはキット(複数可)は、PSCを初期中胚葉細胞の集団に分化させるための第1の培養システム;PSC由来の中胚葉細胞を造血始原細胞に分化させるための第2の培養システム;PSC由来の造血始原細胞をリンパ球系始原細胞の1つ以上の亜集団に分化させるための第3の培養システム;PSC由来のリンパ球系始原細胞をB細胞に分化させるための第4の培養システム;PSC由来のリンパ球系始原細胞をT細胞に分化させるための第5の培養システム;PSC由来のリンパ球系始原細胞をNK細胞に分化させるための第6の培養システム;コーティング基質;初期中胚葉細胞(例えば、前駆細胞)の集団をポジティブにまたはネガティブに濃縮するための第1のキット;造血始原細胞の集団をポジティブにまたはネガティブに濃縮するための第2のキット;リンパ球系始原細胞の集団をポジティブにまたはネガティブに濃縮するための第3のキット;B細胞の集団をポジティブにまたはネガティブに濃縮するための第4のキット;T細胞の集団をポジティブにまたはネガティブに濃縮するための第5のキット;及びNK細胞の集団をポジティブにまたはネガティブに濃縮するための第6のキットのうち1つ、3つ、4つ、または5つの構成要素を含む場合がある。
【0111】
以下の非限定的実施例は、本開示を例示するものである。
【実施例】
【0112】
実施例1:PSCの維持
ヒトPSC(hPSC)を、mTeSR(商標)1(STEMCELL Technologies)、TeSR(商標)-E8(STEMCELL Technologies)、またはmTeSR(商標)Plus(STEMCELL Technologies)培地中で、製造業者の推奨に従って6~8日間、Matrigel(商標)でコーティングしたプレート上に維持した。完全培地交換を毎日実施した。PSCコロニーを、PSC株の維持培養中に、新たにコーティングしたMatrigel(商標)プレート上で凝集塊にして継代した。PSCを下流分化アッセイに使用した場合、単一細胞懸濁液を得るために、ACCUTASE(商標)(STEMCELL Technologies)を使用して、製造業者の推奨プロトコルに従ってコロニーを解離した。
【0113】
実施例2:凝集体の形成
実施例1に従って単一細胞懸濁液を得ることに先立って、24ウェルまたは6ウェルAggrewell(商標)400プレート(STEMCELL Technologies)を、製造業者の推奨に従って準備し、その際、マイクロウェルデバイス(STEMCELL Technologies)への細胞の粘着を低減させるために、抗粘着洗浄液(STEMCELL Technologies)を用いてマイクロウェルデバイスをコーティングした。推奨されるインキュベーションの後に、抗粘着洗浄液を破棄し、各ウェルを、15mMのHEPESを含む等量のDMEM-F12で1回すすいだ。
【0114】
マイクロウェルデバイスを準備した後、実施例1に従って解離したhPSCを、誘導培地(例えば、EB Formation Medium)(STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Supplement A(STEMCELL Technologies)、及び10μMのY-27632(STEMCELL Technologies)を補充したSTEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium)中に、マイクロウェルデバイスの1つ以上のウェルの中へ播種した。6ウェル方式のマイクロウェルデバイスを使用する場合の実施形態では、2.5mLのEB Formation Mediumをマイクロウェルデバイスのウェルに添加した。次に、さらに2.5mLの細胞懸濁液(約1.4×106細胞/mL)含有EB Formation Mediumを、2.5mLのEB Formation Mediumを含有するウェルに添加し、さらにマイクロウェルデバイスを短時間遠心分離し、37℃でインキュベートした。24ウェル方式のマイクロウェルデバイスを使用する場合、その分、ウェル当たりの容量を2mL/ウェルに縮小する必要がある。マイクロウェルデバイスの各ウェルの最終細胞濃度は、24ウェルプレートの約3×105細胞/mlもしくは6×105細胞/ウェル、または6ウェルプレートの7×105細胞/mLもしくは3.5×106細胞/ウェルにする必要がある。
【0115】
実施例3:細胞数及び収量のフローサイトメトリー及び測定
本開示で概説する分化プロトコルの任意の段階で、サンプルを回収して、その表現型をフローサイトメトリーによって評価する場合がある。以下の一般的なプロトコルを、CD34、CD5、CD7、NK系統マーカー、例えばCD56、NKp46、NKp44、NKp30、NKG2D、CD16もしくはKIR、及びT系統マーカー、例えばCD4、CD8、TCRαβもしくはCD3の測定に等しく適用する。
【0116】
簡単に述べると、細胞サンプルを遠心分離によって回収し、適切に洗浄した。続いて、選択した抗原に対抗する蛍光体結合抗体で細胞サンプルを染色した。調製した細胞サンプルをCytoFLEX S(商標)フローサイトメーター(Beckman-Coulter)で分析した。死細胞を、光散乱プロファイル及びDRAQ7染色によって除外した。
【0117】
NucleoCounter NC250(Chemometec)を使用して、製造業者の推奨に従って総生細胞数を得た。細胞を必要に応じて希釈した後に、アクリジンオレンジ及びDAPI(AO/DAPI)の混合物によって染色した。本混合物では、AOは、細胞膜を標識し、DAPIは、死/死滅細胞の核酸を標識し、これらを一緒に用いることで、サンプル中の生細胞と死細胞との写真による識別が可能になる。次にNC250ソフトウエアによって、得られた画像を分析し、生細胞濃度を含む細胞数を記録した。投入細胞当たりの特定の細胞の収量を計算するために、総生存可能数に所与の細胞型の存在比率%を乗じた。例えば、投入CD34+細胞当たりのNK細胞の収量を計算するために、まず生細胞数に、フローサイトメトリーによって取得したCD56+の%を乗ずる。次に、この数を、投入細胞の数で除算して(投入CD34+細胞の場合)、最終の値を得る。投入CD34+細胞数を、1つのウェルで培養された総細胞に細胞分離後のCD34+細胞の存在比率を乗ずることによって得た。AggreWell(商標)のウェル当たりのCD34+細胞の収量を計算するために、投入hPSC当たりのCD34+細胞(細胞分離前の)の収量に、AggreWell(商標)の1つのウェルに播種したhPSCの数(6wp AggreWell(商標)400の3.5×106/ウェル)を乗じた。
【0118】
実施例4:凝集体の造血始原細胞への分化
実施例2に従って凝集体を形成した2日後に、凝集体を崩すことなく、マイクロウェルデバイスの各ウェル中の2.5mLの培地を慎重に取り出して、破棄した。2.5mL容量の新鮮な誘導培地(例えば、EB Medium A)(STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Supplement A(STEMCELL Technologies)を補充したSTEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies))を、各ウェルに添加し、かつマイクロウェルデバイスを37℃で再びインキュベートした。
【0119】
中胚葉中間体(例えば、初期中胚葉細胞の集団)を形成した3日後に、凝集体を崩すことなく、マイクロウェルデバイスの各ウェル中の2.5mLの培地を慎重に取り出して、破棄した。2.5mL容量の新鮮な第1の培地(例えば、EB Medium B)(STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Supplement B(STEMCELL Technologies)を補充したSTEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies))を、各ウェルに添加し、かつ37℃でインキュベートして、中胚葉細胞を造血始原細胞に分化させた。
【0120】
5日目に、凝集体をマイクロウェルデバイスの各ウェルから回収し、37μm可逆性フィルタ(STEMCELL Technologies)に通過させて、その表面上で凝集体を単離した。新鮮なチューブの上方でフィルタを反転させることによって新鮮なチューブに凝集体の濾液を堆積させ、メッシュと対向している2.5mL/ウェル(24ウェル方式のマイクロウェルデバイスを使用した場合1mL/ウェル)の新鮮な第1の培地(例えば、EB Medium B)に誘導した。このようにして得た凝集体を緩やかに再懸濁させた後に、総容量を非組織培養処理プレートに添加し、その後、37℃でインキュベートした。7日目に、6ウェルプレートの各ウェルに新鮮なEB Medium Bを2.5mL(または24ウェルプレートの1mL/ウェル)ずつ添加し、次に、37℃でインキュベートした。10日目に、凝集体を崩さないように注意を払いながら新鮮なEB Medium Bで半分培地交換を行い、続いて37℃でさらに2日間インキュベートした。
【0121】
BMP、FGF、及びVEGFシグナル伝達のうち1つ以上のアゴニストが、PSCの初期中胚葉を介した造血始原細胞への分化の際に必要であると一般的に考えられているため(Kennedy et al,2012;Ng et al,2016)、分化プロトコル(例えば、第1の培地)から、これらのアゴニストを単独でまたは組み合わせて除去することが、産出造血始原細胞に悪影響を及ばさないことは驚くべきことであった。実際に、分化のこの段階からBMP、FGF、及び/またはVEGFを除外することにより、産出造血始原細胞を増加させることが可能であり(
図1A、
図1B、
図1C)、同時に、リンパ球系始原細胞の下流分化(
図1D)及びそれを超えた培養中に汚染する接着細胞の数の低減(データは示さず)などの利益がもたらされる。
【0122】
実施例5:造血始原細胞の濃縮
実施例4の凝集体を各ウェルから回収し、個々の15mLチューブへ移した。チューブを300gで5~10分間遠心分離した。上澄液を吸引し、1mLのCollagenase Type II-2500U/mL(STEMCELL Technologies)(カタログ番号07418)を、各チューブに添加し、37℃で20分間インキュベートした。その後、3mLのTryPLE(商標)Expressを、各チューブに添加し、さらに20分間インキュベートした。これらの解離条件により、他の従来の手法と比較して、CD34
+細胞の回収率が増加し、かつCD34
+生細胞の収量が増加した(
図2)。
【0123】
インキュベーション後、各チューブにDMEM/F12を6mLずつ添加し、37μmフィルタに通して濾過した。溶出液を、300g×で5~10分間遠心分離し、上澄液を破棄した。ペレット化した細胞を、EasySep(商標)Human CD34 Positive Selection Kit II(STEMCELL Technologies)を使用して、CD34+濃縮プロトコルに供した。磁気分離の回数を4回から2回に減らした以外は、CD34+濃縮に関する製造業者の推奨に従った。
【0124】
H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001及びSTiPS-F016のPSC株は、CD34
+造血始原細胞に効率的に分化した。全てのPSC株にわたって、実施例3に従って計算したCD34
+造血始原細胞の平均存在比率は、31%~42%の範囲であった(
図3A)。全てのPSC株にわたって、実施例3に従って計算したCD34
+造血始原細胞の6ウェルAggrewell(商標)プレートのウェル当たりの平均収量は、3.3×10
5~7.4×10
5細胞の範囲であった(
図3A)。このようにして得られたCD34
+造血始原細胞の濃縮前(
図3B)及び濃縮後(
図3C)の代表的なフローサイトメトリープロットを示す。
【0125】
実施例6:PSC由来の造血始原細胞の多分化能の測定
3~12日目まで、VEGFを含有または非含有で、STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB試薬を使用して(前述したように)、hPSCを12日間分化させた。産出細胞を回収し、解離し、かつCD34
+細胞を(前述したように)磁気的に濃縮した。濃縮した細胞をウェル当たり1×10
4細胞の密度で播種して、MethoCult(商標)SF H4636(STEMCELL Technologies)中で製造業者の指示に従って培養した。12日後、STEM(商標)視覚機器(STEMCELL Technologies)を使用して、画像及び数を製造業者の指示に従って取得した。
図4Aは、プレーティングした1×10
4細胞当たりの総CFU数を示しており、列挙する集団は、プールしたCFU-GM、CFU-GEMM及びBFU-Eを含む。H1細胞(ES)及びWLS-1C(iPS)に関して、VEGFを用いずに誘導されたCD34
+造血始原細胞から得られたCFUの数は、VEGFを含有しているものと同等であった。
【0126】
さらに、造血始原細胞のリンパ球系潜在能力(本明細書で前述したように分化する)を、限界希釈アッセイにて評価した。簡単に述べると、FACSにより選別したCD34
+細胞(本明細書に記載されるよう分化させ、選別した細胞)を、StemSpan Lymphoid Differentiation Coating Material含有StemSpan Lymphoid Expansion Supplement(どちらも、STEMCELL Technologies)によってコーティングしたプレート上に、ウェル当たり10、30、100、300、1000、3000、及び5000細胞と数を増加させて、播種した。各細胞数で12個のレプリケートウェルを準備し、200個以上のCD7+細胞を含有するウェルを陽性として記録した。Extreme Limiting Dilution Assayツールを使用して、これらの結果を用いて始原細胞存在比率を測定した。VEGFの不在下で誘導したリンパ球系潜在能力を有する造血始原細胞の(造血分化段階中の)存在比率は、VEGFを含む条件と比較して、H1(ES細胞)では、0.4%に対して2.07%、1C(iPS細胞)では、0.04%に対して0.11%と高かった(
図4B)。
【0127】
したがって、VEGFの除去は、多分化能を有するCD34+細胞の生成に悪影響を及ぼすようには見えず、実際にはリンパ球系潜在能力を高める可能性がある。
【0128】
実施例7:分化した造血始原細胞からのリンパ球系始原細胞の誘導
濃縮したCD34+細胞(実施例5に従って得られた)を使用した拡張した実験では、より多くのPSC細胞株で分化した細胞を、下流分化実験でテストした。濃縮したCD34+細胞を、StemSpan(商標)Lymphoid Progenitor Expansion Medium(Lymphoid Progenitor Expansion Supplement(STEMCELL Technologies)を補充したStemSpan(商標)SFEM II)を使用して、リンパ球系始原細胞に分化させた。細胞を播種する2時間前に、製造業者の推奨に従ってPBSで1倍に希釈したStemSpan(商標)Lymphoid Differentiation Coating Material(STEMCELL Technologies)を用いて、非組織培養処理培養器具をコーティングした。室温での2時間のインキュベーション後、コーティング材料を吸引し、PBSでウェルをすすいだ。一晩、2~8℃でプレートをインキュベートすることも可能である。
【0129】
培養プレートの形式に応じて、実施例5の適切な数の濃縮したCD34
+細胞を、適切な容量のStemSpan(商標)Lymphoid Progenitor Expansion Medium(STEMCELL Technologies)中の各ウェルに播種した(下記の表を参照されたい)。
【表1】
【0130】
3~4日の培養後、元の容量のStemSpan(商標)Lymphoid Progenitor Expansion Mediumに等しい追加容量を、各ウェルに添加した。さらに3~4日の培養後(及び必要に応じてその後の3~4日サイクル)、細胞を破壊しないように注意を払いながらStemSpan(商標)Lymphoid Progenitor Expansion Mediumの半量培地交換を行った。
【0131】
StemSpan(商標)Lymphoid Progenitor Expansion Mediumへの濃縮したCD34+細胞の最初の播種から約1週間後、非組織培養処理培養器具を、前述したようにStemSpan(商標)Lymphoid Differentiation Coating Materialでコーティングした。次に細胞を慎重に再懸濁し、プレートの底をこする、またはいずれの接着細胞も剥がすことがないように注意を払いながら新たにコーティングした培養器具に移した。次に、細胞を37℃でさらに1週間インキュベートした。前述したように半分培地交換を3~4日ごとに行った。
【0132】
H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001及びSTiPS-F016のPSC株は、CD34
+造血始原細胞中間体を介して、CD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞に効率的に分化した。全てのPSC株にわたって、実施例3に従って計算したCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の平均存在比率は、37%~57%の範囲であった(
図5A)。全てのPSC株にわたって、実施例3に従って計算した投入CD34
+造血始原細胞当たりのCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の平均収量は、11~22細胞の範囲であった(
図5A)。このようにして得られたCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の代表的なフローサイトメトリープロットを、
図5Bに示す。
【0133】
実施例8:造血始原細胞分化及び下流リンパ球系始原細胞に対する培養期間の変化の影響
実施例4の実験を、10日間の分化期間で行った。これには、初期中胚葉細胞の集団を形成する最初の3日間の期間と、それに続く造血始原細胞を形成する後続の7日間の期間が含まれた。前述の10日間のプロトコルを、後続の7日間を9日間に延長させたより長い12日間のプロトコルと比較して一連の実験を行った。
【0134】
テストした3つのPSC株中2つ(1C及びH1)で、期間が長いほど、CD34
+造血始原細胞の6ウェルAggrewell(商標)400プレートのウェル当たりの存在比率及び収量(
図6A)だけではなく、実施例7に従って生成したCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の存在比率及び収量により測定した際の下流リンパ球系潜在能力(
図6B)も改善した。
【0135】
実施例9:リンパ球系始原細胞からのCD4+CD8+T細胞の誘導
このT細胞分化プロトコルの開始の2時間前に、非組織培養処理培養器具を、実施例7に記載されているように1倍のStemSpan(商標)Lymphoid Differentiation Coating Materialでコーティングした。
【0136】
実施例7のCD5+CD7+リンパ球系始原細胞を、0.5~1×106細胞/mLで、StemSpan(商標)T Cell Progenitor Maturation Medium(StemSpan(商標)T Cell Progenitor Maturation Supplement(STEMCELL Technologies)を補充したStemSpan(商標)SFEM II)中の新たにコーティングした培養器具に播種し、37℃で2週間培養した。最初の3~4日の期間後に、元の容量のStemSpan(商標) T Cell Progenitor Maturation Mediumに等しい追加容量を各ウェルに添加した。その後3~4日ごとに、細胞を破壊しないように注意を払いながら半量培地交換を行った。
【0137】
2週間の培養期間後、CD4
+CD8
+T細胞を回収し、基本的に、実施例3に記載したようにフローサイトメトリーによって分析した。
図7Aは、実施例2~5、実施例7及び本実施例9に従って、H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001及びSTiPS-F016のPSC株から誘導させたCD4
+CD8
+T細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量を示している。テストした全てのPSC株にわたって、CD4
+CD8
+T細胞の平均存在比率は、24%~58%の範囲であった。テストした全てのPSC株にわたって、投入CD34
+細胞当たりのCD4
+CD8
+T細胞の平均収量は、7~120の範囲であった。
図7Bは、各PSC株から誘導させたCD4
+CD8
+T細胞の中で比較したCD3
+TCRαβ
+細胞の存在比率を示している。全てのPSC株にわたって、CD4
+CD8
+細胞の中で比較したCD3
+TCRαβ
+細胞の平均存在比率は、9%~38%の範囲であった。H1由来のCD4
+CD8
+T細胞(
図7C)、及びCD4
+CD8
+T細胞に基づいてゲーティングしたH1由来のCD3
+TCRαβ
+細胞(
図7D)の、CD4及びCD8の発現を示す代表的なフローサイトメトリープロットを示す。
【0138】
FACSが利用可能な場合、FSCとSSCとの組み合わせ、及びDRAQ7または7-AADなどの生死判定用色素を使用した生細胞の選別後に、CD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞を播種することにより、CD4
+CD8
+T細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量が増加した。
図8Aは、実施例2~5、実施例7、及び本実施例9に従って、H1、WLS-1C及びH9のPSC株から誘導させたCD4
+CD8
+T細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量に基づく選別した生細胞またはCD7
+細胞の分化の効果を示している。実施例7の未選別の細胞の播種と比較して、CD4
+CD8
+T細胞の投入CD34
+細胞当たりのより高い存在比率及び収量が、播種した生細胞及びCD7
+細胞を使用したH1及びWLS-1Cで観察された。
【0139】
新たにコーティングした培養器具に播種するCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の数を変えることで、CD4
+CD8
+T細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量が増加した。
図8Bは、実施例2~5、及び実施例7に従って、H1、WLS-1C及びH9のPSC株から誘導させたCD4
+CD8
+T細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量に基づいて、播種するCD5
+CD7
+細胞の数を増加させた場合の効果を示している。CD4
+CD8
+T細胞の投入CD34
+細胞当たりのより高い存在比率及び収量が、播種するCD5
+CD7
+細胞の数を増やしたH1及びWLS-1Cで観察された。
【0140】
実施例10:ダブルポジティブT細胞からのCD4-CD8+CD3+TCRαβ+シングルポジティブT細胞の誘導
このT細胞分化プロトコルの開始の2時間前に、非組織培養処理培養器具を、実施例7に記載されているように1倍のStemSpan(商標)Lymphoid Differentiation Coating Materialでコーティングした。
【0141】
実施例9のCD4+CD8+T細胞を、1×106細胞/mLで、推奨される濃度の0.5倍(すなわち、12.5ug/mL)のImmunoCult(商標)Human CD3/CD28/CD2 T Cell Activator(STEMCELL Technologies)またはImmunoCult(商標)Human CD3/CD28 T Cell Activator(STEMCELL Technologies)を含む、CD8 SP T Cell Maturation Medium(StemSpan(商標)T Cell Progenitor Maturation Supplement(STEMCELL Technologies)及び約10ng/mLのHuman Recombinant IL-15(STEMCELL Technologies)を補充したStemSpan(商標)SFEM II)中の新たにコーティングした培養器具に播種した。細胞を、37℃及び5%CO2で3~4日間培養した。3~4日後、ウェルに新鮮なCD8 SP T Cell Maturation Mediumを添加したが、ImmunoCult(商標)T細胞活性化剤は含めず、37℃及び5%CO2でさらに3~4日間再度インキュベートした。
【0142】
さらなる3~4日間のインキュベーション後、シングルポジティブCD8
+T細胞を回収し、基本的に、実施例3に記載したようにフローサイトメトリーによって分析した。
図9Aは、CD3
+TCRαβ
+CD4
-CD8
+シングルポジティブT細胞が、H1由来、H9由来、及びWLS-1C由来のCD4
+CD8
+T細胞(実施例9に従って生成される)から生成され得ることを示している。テストした全てのPSC株にわたって、CD3
+TCRαβ
+CD4
-CD8
+シングルポジティブT細胞の平均存在比率は、4%~7%の範囲であった。
図9B~Eは、さらに、CD3
+TCRαβ
+CD4
-CD8
+シングルポジティブT細胞が、より未熟な細胞を示すCD8ααではなくCD8αβヘテロ二量体、ならびに成熟ナイーブ表現型を示す場合があるCD45RA及びCD27マーカーを発現することを示している。
【0143】
実施例11:リンパ球系始原細胞からのNK細胞の誘導
実施例7のCD5+CD7+リンパ球系始原細胞を、1×105細胞/mLで、StemSpan(商標)NK Cell Differentiation Medium(StemSpan(商標)NK Cell Differentiation Supplement(STEMCELL Technologies)を補充したStemSpan(商標)SFEM II)中のコーティングしていない培養器具に播種し、37℃で2週間培養した。最初の3~4日の期間後に、元の容量のStemSpan(商標)NK Cell Differentiation Mediumに等しい追加容量を各ウェルに添加した。その後3~4日ごとに、細胞を破壊しないように注意を払いながら半量培地交換を行った。
【0144】
2週間の培養期間後、CD56
+NK細胞を回収し、基本的に、実施例3に記載したようにフローサイトメトリーによって分析した。
図10Aは、実施例2~5、実施例7及び本実施例11に従って、H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001及びSTiPS-F016のPSC株から誘導させたCD56
+NK細胞の投入CD34
+細胞当たりの存在比率及び収量を示している。テストした全てのPSC株にわたって、CD56
+NK細胞の平均存在比率は、81%~95%の範囲であった。テストした全てのPSC株にわたって、投入CD34
+細胞当たりのCD56
+NK細胞の平均収量は、112~332の範囲であった。STiPS-M001のPSCについて、種々のNK細胞マーカーの発現を示す代表的なフローサイトメトリープロットを示す(
図10B~H)。
【0145】
PSC由来のNK細胞が機能的に活性であるかどうかを判断するために、それらを、Calcein-AM(CAM)標識K562細胞に対する細胞毒性作用アッセイでテストした。EasySep(商標)Human NK Cell Isolation Kit(STEMCELL Technologies)を使用して単離した末梢血(PB)NK細胞、及びEasySep(商標)Human Monocyte Isolation Kit(STEMCELL Technologies)を使用して単離した単核細胞を、それぞれ、陽性対照及び陰性対照として使用した。テスト及び対照細胞を、Calcein-AM(CAM)標識K562細胞と共に、2.5:1のエフェクター(NK)対標的細胞(K562)の比率で4時間共培養した。共培養後、上澄溶液のサンプルを収集し、溶解した細胞から放出した蛍光を、Spectramax(商標)マイクロプレートリーダーを使用して測定した。特異的溶解の%を、次式:(テスト放出-自然放出)/(最大放出-自然放出)*100%を使用して計算した。
図11Aは、実施例2~5、実施例7、及び本実施例11に記載するような種々のPSC株から誘導させたNK細胞が、PB NK細胞に匹敵するK562細胞殺傷能力を有することを示す。
【0146】
図11Aに示すようなCalcein-AM細胞毒性作用アッセイの結果を確認するために、1:1のエフェクター:非標識K562標的細胞の標的の比率で、CD107a脱顆粒アッセイを実施して、刺激(前述したような)により脱顆粒するNK細胞の能力を実証した。CD107aは、リソソーム関連膜タンパク質であり、NK細胞が刺激されて脱顆粒すると、細胞表面に露出する。陰性対照として、非活性のH1由来のNK細胞を、モネンシン、ブレフェルディンA(BFA)、及び抗CD107a蛍光性抗体に4時間曝した。ただし、K562細胞との共培養は行わなかった(
図11B)。モネンシン、ブレフェルディンA(BFA)、及び抗CD107a蛍光性抗体の存在下で、1:1のエフェクター(NK細胞)対標的(K562)細胞の比率で、K562細胞と4時間共培養することによって、H1細胞から誘導させたNK細胞、及びPB NK細胞を活性させた(それぞれ、
図11C及び11D)。4時間のインキュベーション後、細胞を単離し、固定し、浸透させ、生存能力、CD56、CD107a、及びIFN-γについて染色した。これらのマーカーの発現を、基本的に、実施例3に記載したようにフローサイトメトリーを使用して評価した。非活性のH1由来のCD56
+NK細胞とは対照的に、活性したH1由来のCD56
+NK細胞は、活性したPB CD56
+NK細胞と同等の脱顆粒及び細胞溶解活性が可能である。これらの結果を、STiPS-M001及びSTiPS-F016のPSC株に対して拡張した(
図11E及び11F)。
【0147】
実施例12:下流分化に悪影響を与えることなく種々の培養培地でPSCを維持することができる
種々のPSC株を、実施例1に記載したような種々のPSC維持培地に維持した。実施例2~5、及び実施例7で概説したように、PSCを分化させて、分析した。
図12は、mTeSR(商標)1、TeSR-E8及びmTeSR Plusのそれぞれが、下流分化に適合性があることを示している。
【0148】
図12Aは、誘導培地それに続く第1の培地でH1及びSTiPS-F016のPSC株から誘導させたCD34
+造血始原細胞の6ウェルAggrewell(商標)マイクロウェルデバイスのウェル当たりの収量を示している。TeSR-E8またはmTeSR1で維持したPSCを使用した場合、H1由来及びSTiPS-F016由来のCD34
+造血始原細胞の平均収量は同等であった。
図12Bは、H1のPSC株から誘導させたCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の投入CD34
+造血始原細胞当たりの存在比率及び収量を示している。TeSR-E8維持及びmTeSR1維持のPSCの両方は、CD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の同等の存在比率及び収量をもたらした。
【0149】
図12Cは、誘導培地それに続く第1の培地でWLS-1C及びH9のPSC株から誘導させたCD34
+造血始原細胞の6ウェルAggrewell(商標)マイクロウェルデバイスのウェル当たりの収量を示している。mTeSR PlusまたはmTeSR1で維持したPSCを使用した場合、WLS-1C由来及びH9由来のCD34
+造血始原細胞の平均収量は同等であった。
図12Dは、WLS-1C及びH9のPSC株から誘導させたCD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の投入CD34
+造血始原細胞当たりの存在比率及び収量を示している。mTeSR Plus維持及びmTeSR1維持のPSCの両方は、CD5
+CD7
+リンパ球系始原細胞の同等の存在比率及び収量をもたらした。
【0150】
本開示は、現在好ましい例であると考えられるものを参照して説明してきたが、本開示は開示する例に限定されないことを理解すべきである。それとは反対に、本開示は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれる種々の変更及び同等の構成を包括することを目的としている。
【0151】
全ての出版物、特許、及び特許出願は、各個別出版物、特許、または特許出願が、その全体で参照することにより組み込まれるように明確にかつ個別に示された場合と同一の程度に、それらの全体で参照することにより本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】