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特表2023-536132特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド及びそれらを含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド及びそれらを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230816BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230816BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230816BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230816BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C12N15/12
A61P11/00
A61P43/00 105
A61K38/08
C07K7/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506068
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 KR2022008103
(87)【国際公開番号】W WO2023277376
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】10-2021-0083762
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518160702
【氏名又は名称】ネクセル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】ハン、チュンソン
(72)【発明者】
【氏名】ウ、ドンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミンギョン
(72)【発明者】
【氏名】パク、チュンヒョク
(72)【発明者】
【氏名】キム、チュンチョル
(72)【発明者】
【氏名】アン、グノ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA56
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB21
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA15
4H045EA28
(57)【要約】
本発明は、9~10個つながったアミノ酸から合成された特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドであって、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)からなるアミノ酸配列を含む。それにより、本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、特発性肺線維症により線維化が進行した肺組織を根本的に治療して肺機能性を正常なレベルに回復させ、さらに特発性肺線維症の発症を遅らせたり防いだりすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
9~10個つながったアミノ酸から合成された特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドであって、
アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)からなるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、
特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド。
【請求項2】
前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-システイン(C、Cys、Cysteine)のアミノ酸配列からなる第1ポリペプチド、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)のアミノ酸配列からなる第2ポリペプチド、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-アルギニン(R、Arg、Arginine)のアミノ酸配列からなる第3ポリペプチド、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-ロイシン(L、Leu、Leucine)のアミノ酸配列からなる第4ポリペプチド、及びアルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-リジン(K、Lys、Lysine)のアミノ酸配列からなる第5ポリペプチド、のうちの一つであることを特徴とする、請求項1に記載の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド。
【請求項3】
前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、1035~1200Daの分子量を有することを特徴とする、請求項2に記載の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド。
【請求項4】
前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドを構成するアミノ酸配列の末端にあるアミノ酸は、カルボキシル基-COOHが-CONHに変換された形態を有することを特徴とする、請求項3に記載の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド。
【請求項5】
前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、予防または治療対象の肺組織内のコラーゲン(Collagen)及びα-平滑筋アクチン(α-SMA:α-Smooth Muscle Actin)の少なくとも1つの発現を減少させることを特徴とする、請求項1に記載の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド。
【請求項6】
前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、病変内投与、気道内投与または静脈内投与用に製剤化されることを特徴とする、請求項1に記載の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドを有効成分として含む、
医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドをコードする、
遺伝子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド及びそれらを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)は、肺間質組織に原因不明の炎症が繰り返し発生し、永久的な瘢痕化や組織線維化をもたらし、肺組織の構造的変化を誘発することで、肺機能が低下し、死亡につながる致命的な疾患である。
【0003】
このような特発性肺線維症は、原因不明の稀な疾患であり、運動時の呼吸困難が主な症状で、症状が進行するにつれて呼吸困難が悪化し、肺の炎症と線維化が、気道と肺を刺激し、頻繁な空咳につながる。
【0004】
やはり呼吸困難がひどくなると、低酸素症になるだけでなく、指先が丸くなるばち指(クラビング)症状が現れることもある。
【0005】
現在、特発性肺線維症に有効性が証明され、直接治療薬として承認された薬剤はないが、ピルフェニドンやニンテダニブなどの薬剤が使用されており、これらの薬は、疾患の進行を遅らせる効果があることが証明されているものの、完治には至らないという限界がある。
【0006】
この他に、特発性肺線維症の治療用医薬組成物の従来技術に対応する先行文献には、大韓民国登録特許第10-1845862号公報の「特発性肺線維症の治療または予防のための医薬組成物」(以下、「従来技術」という)がある。
【0007】
しかし、従来技術を含む既存の特発性肺線維症の治療のために調製された医薬組成物の場合、部分的な治療効果しか得られなかったり、効果が得られる程度が微々たるもので有意性がなかったりして、肺線維症の発症や進行を遅らせたり治療したりする根本的効果が得られないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、特発性肺線維症により線維化が進行した肺組織を根本的に治療して肺機能性を正常なレベルに回復させ、さらに特発性肺線維症の発症を遅らせたり防いだりできる特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、9~10個つながったアミノ酸から合成された特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドであって、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、 Serine )-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)からなるアミノ酸配列を含む。
【0010】
ここで、前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-システイン(C、Cys、Cysteine)のアミノ酸配列からなる第1ポリペプチド、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)のアミノ酸配列からなる第2ポリペプチド、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-アルギニン(R、Arg、Arginine)のアミノ酸配列からなる第3ポリペプチド、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-ロイシン(L、Leu、Leucine)のアミノ酸配列からなる第4ポリペプチド、及びアルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-リジン(K、Lys、Lysine)のアミノ酸配列からなる第5ポリペプチド、のうちの1つであってもよい。
【0011】
また、前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、1035~1200Daの分子量を有し、前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドを構成するアミノ酸配列の末端にあるアミノ酸は、カルボキシル基-COOHが-CONHに変換された形態を有していてもよい。
【0012】
さらに、前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、予防または治療対象の肺組織内のコラーゲン(Collagen)及びα-平滑筋アクチン(α-SMA:α-Smooth Muscle Actin)の少なくとも1つの発現を減少させ得る。
【0013】
さらにまた、前記特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、病変内投与または気道内投与用に製剤化されてもよい。
【0014】
一方、上記目的を達成するために、本発明に係る特発性肺線維症の予防または治療用医薬組成物は、前述の特徴を有する特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドを有効成分として含有する。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明は、別の態様として、前述の特徴を有する特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドをコードする遺伝子を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、次のような効果がある。
【0017】
第一に、特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドにより、特発性肺線維症に作用する線維化の指標を低下させる効果を示すことにより、特発性肺線維症の改善効果を提供することができる。
【0018】
第二に、特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドにより、特発性肺線維症の治療対象となる肺組織における線維化の指標であるコラーゲン及びα-SMA(α-平滑筋アクチン)の発現を、著しく低下させることができる。
【0019】
第三に、生体適合性に優れ、副作用の少ないだけでなく、大量生産及び品質管理が容易な特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド及びそれらを含む医薬組成物を提供することができる。
【0020】
第四に、特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドにより、肺線維症はもとより、肝線維症や腎臓線維症などの類似疾患を予防または治療するためにも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果を検証するために設計された動物実験モデルの作製過程を示す模式図である。
図2】本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果を検証するために設計された動物実験モデルの肺組織内のアシュクロフトスコア(Ashcroft Score)評価の結果を示す。
図3】本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果を検証するために設計された動物実験モデルの肺組織内のアシュクロフトスコア(Ashcroft Score)評価の結果を示す。
図4】本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果を検証するために設計された動物実験モデルの肺組織内のα-SMAの発現パターンの変化を比較した結果を示す。
図5】本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果を検証するために設計された動物実験モデルの肺組織内のα-SMAの発現パターンの変化を比較した結果を示す。
図6】本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果を検証するために設計された動物実験モデルの肺組織内のα-SMAの発現パターンの変化を比較した結果を示す。
図7】本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果を検証するために設計された動物実験モデルの肺組織内のコラーゲンの発現パターンの変化を比較した結果を示す。
図8】本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果を検証するために設計された動物実験モデルの肺組織内のコラーゲンの発現パターンの変化を比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態についてより具体的に説明するが、説明を簡潔にするために、既に周知の技術的部分については省略または簡略化する。
【0023】
1.特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドについての説明
本発明に係る特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの合成が行われる過程及び合成されたペプチドの構造的特徴について詳細に説明する。
【0024】
本発明に係る特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド(Polypeptide)は、実施形態により、9個つながったアミノ酸から合成されたポリペプチド、または10個つながったアミノ酸から合成されたポリペプチドの形態である。
【0025】
各実施形態によれば、9~10個つながったアミノ酸から合成されたポリペプチド配列構造は、基本的に、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic)acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)からなるアミノ酸配列を含む必要がある。
【0026】
言い換えれば、「RGDVFPSYT」のアミノ酸配列を基にし、RGDモチーフ(motif)を活性部位に持ち、当該配列そのものに加えて、一番末端にあるトレオニン(T、Thr、Threonine)のアミノ酸の後ろにも1つのアミノ酸がさらに付加される形をとることもある。
【0027】
具体的には、第1ポリペプチド形態から第5ポリペプチド形態まで、全5つの実施形態で得られ、各ペプチドを構成するアミノ酸配列の形態には多少の違いはあるものの、それによって得られる特発性肺線維症の予防または治療効果の程度はすべて十分に有意な結果を示している。
【0028】
まず、第1ポリペプチドは、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-システイン(C、Cys、Cysteine)のアミノ酸配列からなる「RGDVFPSYTC」構造のペプチドであり、1143Da~1144Da(最も好ましくは1143.4Da)の分子量を有する形態で得られる。
【0029】
次に、第2ポリペプチドは、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)のアミノ酸配列からなる「RGDVFPSYT」構造のペプチドであり、1139Da~1140Da(最も好ましくは1139.9Da)の分子量を有する形態で得られる。
【0030】
また、第3ポリペプチドは、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-アルギニン(R、Arg、Arginine)のアミノ酸配列からなる「RGDVFPSYTR」構造のペプチドであり、1195Da~1197Da(最も好ましくは1196Da)の分子量を有する形態で得られる。
【0031】
また、第4ポリペプチドは、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-ロイシン(L、Leu、Leucine)のアミノ酸配列からなる「RGDVFPSYTL」構造のペプチドであり、1152Da~1154Da(最も好ましくは1153Da)の分子量を有する形態で得られる。
【0032】
最後に、第5ポリペプチドは、アルギニン(R、Arg、Arginine)-グリシン(G、Gly、Glycine)-アスパラギン酸(D、Asp、Aspartic acid)-バリン(V、Val、Valine)-フェニルアラニン(F、Phe、Phenylalanine)-プロリン(P、Pro、Proline)-セリン(S、Ser、Serine)-チロシン(Y、Tyr、Tyrosine)-トレオニン(T、Thr、Threonine)-リシン(K、Lys、Lysine)アミノ酸配列からなる「RGDVFPSYTK」構造のペプチドであり、1168Da~1169Da(最も好ましくは1168.2Da)の分子量を有する形態で得られる。
【0033】
ここで、第1ポリペプチド~第5ポリペプチドのうちの1つの実施形態で得られる特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、固相ペプチド合成法(Solid Phase Peptide Synthesis)を用いて設定された配列に合わせて合成して90%以上の純度を示すように得られる。
【0034】
このように90%以上の純度を示すように精製された第1ポリペプチド~第5ポリペプチドのうちの1つの実施形態で得られる特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、質量分析法(Mass Spectrometry)による分子量が1035~1200Daであることを確認する。
【0035】
さらに、第1ポリペプチド~第5ポリペプチドのうちの1つの実施形態で得られる特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、吸収率を高めるために、アミノ酸配列の末端にあるアミノ酸のカルボキシル基「-COOH」を「-CONH」に変換した。
【0036】
例えば、第1ポリペプチドは「C」、第2ポリペプチドは「T」、第3ポリペプチドは「R」、第4ポリペプチドは「L」、第5ポリペプチドは「K」に該当するアミノ酸のカルボキシル基「-COOH」を「-CONH」に変換することで吸収率を向上させた。
【0037】
このような本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、特発性肺線維症の予防または治療に用いられる医薬組成物の主な有効成分として使用することができる。
【0038】
また、本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチド及びそれを主な有効成分として含む医薬組成物は、病変内投与、気道内投与、静脈内投与、または特定の組織(肺組織)内への投与のために製剤化されてもよい。
【0039】
2.特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドの効果検証試験結果についての説明
本発明の特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドに関連して、当該ペプチドに起因する特発性肺線維症の予防または治療の効果レベルの検証を試験により確認し、当該試験は、当業界における技術者にとって自明な手段による性質などを定義する目的で下記の実験方法が用いられた。
【0040】
(1)特発性肺線維症動物モデルの作製及び実験設計
まず、10~12週齢のC57BL/6マウスにブレオマイシン(Bleomycin)を気管内に点滴注入して急性特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)誘導動物モデルを作製する。
【0041】
具体的には、10週目のC57BL/6マウスに2%イソフルラン(isoflurane)を用いて機械的人工換気 (Mechanical ventilation)で麻酔させた後、麻酔したマウスの口を開け、視野内の気道を確保するために舌を可能な限り前方に伸ばした後、肺線維症誘導物質であるブレオマイシン(Bleomycin)を、2mg/kgを基準に気道に投与した(Methods Mol Biol.2017;1627:27-42)。
【0042】
その後、図1に示すように、1週間経過した時点で急性特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)誘導動物モデルマウスをランダムに選別してPBS注入群(n=6)及びペプチド注入群(n=6、100μg/kg)に分類し、急性特発性肺線維症の誘発が進行していない10週齢のC57BL/6マウス(n=5)の動物モデルは、正常対照群として溶媒(Vehicle)のみを投与されたNC(Negative control(n=6))に分類された。
【0043】
ここで、PBS注入群(n=6)及びペプチド注入群(n=6、100μg/kg)は、それぞれPBS及びペプチドを100μg/kgの濃度基準でそれぞれ気道投与(Intratracheal)を用いて動物に投与した(Am J Respir Crit Care Med.2001 Jun;163(7):1660-8)。
【0044】
また、注入されたペプチドは、前述の第1ポリペプチド形態から第5ポリペプチド形態まで別々に注入されることで、各実施形態別試験結果を比較することができる。
【0045】
具体的には、ペプチド注入群のうち、第1ポリペプチドを注入した場合を「NPT-0021」、第2ポリペプチドを注入した場合を「NPT-0022」、第3ポリペプチドを注入した場合を「NPT-0023」、第4ポリペプチドを注入した場合を「NPT-0024」、第5ポリペプチドを注入した場合を「NPT-0025」とそれぞれ称する。
【0046】
次に、物質注入時点から3日目に、図1に示すように肺組織を摘出し、下記の組織化学的分析を行い、後述する評価及び試験方法による結果は、平均±標準誤差(means±SEM)で表した。統計学的有意性のためには一元配置分散分析(one-way ANOVA)を使用し、事後検定としてはシェッフェ(Scheffe)の方法を採用した。
【0047】
(2)特発性肺線維症動物モデルのアシュクロフトスコア(Ashcroft Score)評価
前述のように3つの試験群に分けて評価を行い、ペプチド注入群は、第1ポリペプチド形態から第5ポリペプチド形態までの全ての形態を分類して個別に評価結果を導き出した。
【0048】
各試験群の動物モデルを麻酔させた後、肺組織を摘出し、全5個葉の肺組織のうち、左葉1個を摘出後すぐにタンパク質抽出のために液体窒素中に保存し、残りの4個葉は4%のパラホルムアルデヒド(PFA:paraformaldehyde)溶液で1日間冷蔵保存した。その後、パラフィンブロックを作製し、切片機(Leica社製)を用いて厚さ20μmに切り出し、スライド(シランコートスライド:silane coated slide)に貼り付けた。
【0049】
このようにして得られた各試験群の肺組織切片をキシレン(Xylene)で脱パラフィン化(deparaffinization)した後、脱水(hydration)後、H&E染色を行った。これに用いた染色試薬は、H&E染色キット(ヘマトキシリンおよびエオシン:Hematoxylin and Eosin)(ab245880)である。
【0050】
その後、マウンティング溶液を用いてカバースリップで封入した。染色された組織スライドは、顕微鏡下で図2のような結果画像(image)を得、肺組織における炎症反応と肺胞細胞の形態学的特徴及び構造的様相を評価するために、免疫組織化学分析を行うためのアシュクロフトスコア(Ashcroft Score)を測定して図3のような結果を導き出した。
【0051】
まず、図2を参照する。特発性肺線維症誘導後、PBSを気道投与した群(IPF対照群)とペプチド注入群(NPT-0021~NPT-0025)を気道注入し、線維化の程度を比較した。
【0052】
結果として、図2から、特発性肺線維症誘導後の全てのペプチド注入群(NPT-0021~NPT-0025)は、統計学的に有意な程度まで線維化の程度が改善されたことが確認できた。
【0053】
これを数値的に裏付けるために実施したアシュクロフトスコア(Ashcroft Score)評価の結果である図3を見ると、やはりPBS注入群(n=6)とは異なり、すべてのペプチド注入群(NPT-0021~NPT-0025)のアシュクロフトスコア(Ashcroft Score)が相対的に低く、肺線維化の程度が改善していることが確認できた(***P<0.0005、*P<0.05)
【0054】
(3)特発性肺線維症動物モデルのコラーゲン及びα-SMA発現検査
次に、各試験群の動物モデルを麻酔させた後、肺組織を摘出し、全5個葉の肺組織のうちタンパク質抽出のために液体窒素中に保存された1つの左葉を切り取り、溶解(lysis)してウェスタンブロット(Western blot)を行った。その結果は図4図6に示す通りである。
【0055】
具体的には、特発性肺線維症誘導後、PBSを気道投与した群(IPF対照群)とペプチド注入群(NPT-0021~NPT-0025)を気道注入した各個体における肺の左葉から、組織溶解緩衝液(tissue lysis buffer)を用いてタンパク質を抽出することにより、線維症誘導中に増加する代表マーカーであるα-平滑筋アクチン(αSMA)のレベル(程度)を確認する実験を行った。
【0056】
実際には、図4図6に示すように、PBSを気道投与した群(IPF対照群)では、αSMAの発現量が陰性対照群(NC(n=6))よりも多く、全てのペプチド注入群(NPT-0021~NPT-0025)では、αSMAの発現量が相対的に減少していることが確認できた。
【0057】
また、各試験群の動物モデルを麻酔させた後、肺組織を摘出し、全5個葉の肺組織のうち、タンパク質抽出のために液体窒素中に保存した左葉1個を除く残りの4個葉は、4%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液で1日間冷蔵保存した。その後、パラフィンブロックを作製し、切片機(Leica社製)を用いて厚さ20μmに切り出し、スライド(シランコートスライド)に貼り付け、脱水(dehydration)過程後、抗原賦活化(Antigen retrieval)過程により免疫蛍光染色(Immunofluorescence staining)を行い、コラーゲンの発現量を確認した。その結果は、図7に示すとおりである。
【0058】
さらに、各試験群の動物モデル肺の4つの葉をスライドさせて、コラーゲン抗体を付着させることによって線維症誘導時に増加する代表的なマーカーの一つであるコラーゲンのレベル(程度)を確認できるように数値化した。その結果のグラフは、図8に示す通りである。
【0059】
結果として、図7及び図8に示すように、PBS気道投与群(IPF対照群)では、コラーゲンの発現が陰性対照群(NC(n=6))よりも多く、全てのペプチド注入群(NPT-0021~NPT-0025)では、むしろコラーゲンの発現が減少していることが確認できた。
【0060】
本発明に係る特発性肺線維症の予防または治療用ポリペプチドは、第1ポリペプチド~第5ポリペプチドのうちの1つの実施形態で得られるので、特発性肺線維症に作用する線維化の指標としてアッシュクロフトスコア(Ashcroft Score))の減少と肺組織の線維化の指標であるコラーゲン及びα-SMA(α-平滑筋アクチン)の発現を著しく低下させることができ、特発性肺線維症により線維化が進行した肺組織を根本的に治療して肺機能性を正常なレベルに回復させ、さらに特発性肺線維症の発症を遅らせたり防いだりすることができる。
【0061】
本発明に開示された実施形態は、本発明の技術思想を限定するためのものではなく、単に説明するためのものであり、このような実施形態によって本発明の技術思想の範囲が限定されるわけではない。本発明の保護範囲は、下記の請求範囲によって解釈されるべきであり、それと同等な範囲内にあるあらゆる技術思想は、本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】