(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】ヘテロ二量体Fc融合タンパク質、並びに関連の組成物、用途及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/715 20060101AFI20230816BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230816BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/545 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/55 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/54 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/535 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/57 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/495 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/525 20060101ALI20230816BHJP
C07K 14/515 20060101ALI20230816BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20230816BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230816BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230816BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230816BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230816BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230816BHJP
C12N 15/19 20060101ALN20230816BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
C07K14/715
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
C07K14/52
C07K14/545
C07K14/55
C07K14/54
C07K14/535
C07K14/57
C07K14/495
C07K14/525
C07K14/515
A61K38/20
A61K39/395 V
A61P37/02
A61P35/00
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/19
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506124
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 KR2021009835
(87)【国際公開番号】W WO2022025643
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0094232
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513243723
【氏名又は名称】メディトックス インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ウンシク
(72)【発明者】
【氏名】パク, ヒョンギュ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084DA12
4C084NA14
4C084ZB07
4C084ZB26
4C085AA33
4C085BB31
4C085CC22
4C085EE03
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA02
4H045DA51
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
精製が迅速簡便であって効率的であるだけではなく、増大されたFcRn結合能や、増大されたFcγR結合能のような治療剤として望ましいとされる特性を示すヘテロ二量体Fc融合タンパク質、及びそれと係わる組成物、用途及び方法が開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)N末端からC末端方向に、第1目的タンパク質、第1リンカ及び免疫グロブリンの第1 Fc部位を含む第1ポリペプチドと、
ii)N末端からC末端方向に、第2目的タンパク質、第2リンカ及び免疫グロブリンの第2 Fc部位を含む第2ポリペプチドと、を含み、
前記第1目的タンパク質と前記第2目的タンパク質は、互いに異なるタンパク質であり、
前記第1リンカ及び前記第2リンカは、それぞれκ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体である、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項2】
λ型軽鎖不変部位(C
Lλ)の変異体は、C末端セリンが欠失されたものである、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項3】
κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)の変異体、λ型軽鎖不変部位(C
Lλ)の変異体、またはそれらそれぞれは、重鎖不変部位CH1とジスルフィド結合を形成するシステインが、セリン、アラニンまたはバリンで置換されたものである、請求項1または2に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項4】
第1ポリペプチドのC末端、または第2ポリペプチドのC末端のうち1以上に、第3目的タンパク質をさらに含むものである、請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項5】
単一特異性または多重特異性を有する、請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項6】
該目的タンパク質は、リガンド、受容体、サイトカイン、酵素またはペプチドである、請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の ヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項7】
該受容体は、サイトカイン受容体である、請求項6に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項8】
該サイトカインは、インターロイキン-1(IL1)、インターロイキン-2(IL2)、インターロイキン-3(IL3)、インターロイキン-4(IL4)、インターロイキン-5(IL5)、インターロイキン-6(IL6)、インターロイキン-11(IL11)、インターロイキン-13(IL13)、インターロイキン-15(IL15)、インターロイキン-18(IL18)、インターロイキン-23(IL23)、インターロイキン-31(IL31)、インターロイキン-33(IL33)、インターロイキン-35(IL35)、インターロイキン-36(IL36)、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、顆粒球大食細胞コロニー刺激因子(GM-CSF)、ガンマ-インターフェロン(IFN-γ)、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)及び腫瘍懐死因子-アルファ(TNF-α)で構成されたグループのうちから選択される1以上である、請求項7に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項9】
該第1目的タンパク質と該第2目的タンパク質のうち一つは、インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)であり、他の一つは、インターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)である、請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項10】
該第1目的タンパク質は、インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)であり、該第1リンカは、κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体であり、該第2目的タンパク質は、インターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)であり、該第2リンカは、λ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体である、請求項9に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項11】
インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)及びインターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)は、それぞれそれらの細胞外領域である、請求項9または10に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項12】
該第3目的タンパク質として、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)またはタイプII形質転換成長因子-ベータ受容体(TGFβRII)を含むものである、請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項13】
該第1ポリペプチドのC末端と、該第2ポリペプチドのC末端のうち一つに、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)を含むものである、請求項12に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項14】
該第2ポリペプチドのC末端に、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)を含むものである、請求項13に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項15】
該第1ポリペプチドのC末端と、該第2ポリペプチドのC末端のいずれにも、タイプII形質転換成長因子-ベータ受容体(TGFβRII)を含むものである、請求項12に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項16】
該第1 Fc部位及び該第2 Fc部位は、ヘテロ二量体の形成が促進されるように、CH3領域が変異されたものである、請求項1ないし15のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項17】
該第1 Fc部位及び該第2 Fc部位のCH3領域は、ノブ・イントゥ・ホール変異を含むものである、請求項16に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項18】
該リンカは、Fc部位内ヒンジのN末端に結合されるものである、請求項1ないし17のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項19】
該ポリペプチドのC末端と、目的タンパク質との間に、第3リンカをさらに含むものである、請求項1ないし18のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項20】
該第3リンカは、GSリンカである、請求項19に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項21】
該免疫グロブリンは、IgGである、請求項1ないし20のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項22】
有効成分として、請求項1ないし21のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質、及び製薬上許容される担体を含む、製薬組成物。
【請求項23】
免疫関連の疾患または障害を予防または治療するためのものである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
免疫関連の疾患または障害は、癌、自家免疫疾患または炎症性疾患である、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
1以上の治療剤をさらに含む、請求項22ないし24のうちいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
該治療剤は、免疫チェックポイント抑制剤である、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
該免疫チェックポイント抑制剤は、PD1阻害剤、PD-L1阻害剤及びCTLA4阻害剤のうち1以上のものである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体を含む、目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用するためのものである、組成物。
【請求項29】
目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用するためのκ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体の用途。
【請求項30】
κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体を、目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用する、方法。
【請求項31】
目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、請求項1ないし21のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質の製造方法。
【請求項32】
ヘテロ二量体Fc融合タンパク質を、κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)の親和度に基づいて精製する段階を含む、請求項1ないし21のうちいずれか1項に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質の精製方法。
【請求項33】
1)免疫グロブリン親和度クロマトグラフィを遂行する段階と、
2)κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)親和度クロマトグラフィを遂行する段階と、
3)λ型軽鎖不変部位(C
Lλ)親和度クロマトグラフィを遂行する段階と、を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質のFcRn結合能を増大させる方法。
【請求項35】
目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の半減期を増大させる方法。
【請求項36】
目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質のFcγR結合能を増大させる方法。
【請求項37】
目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の抗体依存的細胞媒介細胞毒性(ADCC)を増大させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fc融合技術(Fc fusion technology)に係り、さらに詳細には、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(heterodimeric Fc fusion proteins)、及びそれと係わる組成物、用途及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンFc融合技術
ヒト免疫グロブリン(典型的に、IgG)のFc残基に、目的タンパク質(protein of interest)を結合するFc融合技術は、生物学的活性タンパク質の治療的性質を改善させる有用なツールである。該目的タンパク質にFc領域が結合された融合タンパク質は、FcRn(neonatal Fc receptor)に結合し、エンドソーム分解(endosomal degradation)を低減させることにより、血中半減期を延長させる。また、該Fc領域は、免疫細胞に対するFcγ受容体(receptor)の反応を媒介させ、融合タンパク質の免疫エフェクタ機能(immune effector function)を増大させることができる。
【0003】
自然に発生するIgGのFc領域は、ホモ二量体(homodimer)を形成する傾向がある。従って、Fc融合技術に基づき、治療タンパク質を開発する最も簡単な方法は、生物学的に活性である目的タンパク質(すなわち、リガンド、細胞外領域受容体、サイトカイン(cytokine))をFc領域に結合させ、適切な宿主細胞で発現させ、ホモ二量体Fc融合タンパク質(homodimeric Fc fusion protein)を生産することであり、それは、IgGFcに特異的な親和度試薬(affinity reagent)を利用し、容易に分離し出すことができる。
【0004】
ある状況においては、ヘテロ二量体Fc融合が要求される。サイトカインとその受容体とを含む多くのタンパク質は、自然にヘテロ二量体として存在して機能し、一部タンパク質は、治療目的に選択されるパートナータンパク質とヘテロ二量体として生成されるとき、増大された薬理学的性質を示す。
【0005】
ヒトIgG1形態の非対称形二重抗体(asymmetric bispecific antibody)を構成するためのノブ・イントゥ・ホール(knob-into-hole)突然変異技術は、ノブ・ノブ及びホール・ホールのホモ二量体、並びに単量体のような多くの副産物の発生を伴う。そのような副産物を除去し、ヘテロ二量体を確保するための精製は、複雑な工程を要求する。特に、ヘテロ二量体の物理化学的性質が、ホモ二量体及び単量体と類似している場合、該ヘテロ二量体を、ヒト治療剤として使用するのに適するレベルに分離精製するのに非常に大きな困難が伴う。それを克服するための戦略として、抗体の場合、該ヘテロ二量体の物理化学的性質を、ホモ二量体及び単量体と区別されるようにする抗体可変部位(variable region)エンジニアリング、ヘテロ二量体の軽鎖部位を、それぞれκ軽鎖とλ軽鎖とによって構成することにより、κ軽鎖及びλ軽鎖の特異的樹脂(resin)を活用し、ヘテロ二量体を純粋分離する方法(例:国際公開WO2016-146594号)が知られている。しかしながら、抗体とは異なり、自然相に存在する異なる2個のタンパク質を、非対称的にFcに結合させたヘテロ二量体Fc融合タンパク質の場合、ヘテロ二量体分離のためのタンパク質配列エンジニアリングに多くの制約が存在する。
【0006】
インターロイキン-1(IL-1)
インターロイキン-1(IL-1)は、感染反応及び炎症反応において、単核食細胞を含む、多様な細胞タイプによっても生産される強力な炎症誘発性(pro-inflammatory)サイトカインである。IL-1ファミリーは、IL-1α及びIL-1βを含む7個の作用剤(agonist)、及びIL-1受容体拮抗剤(IL-1Ra)を含む3個の自然発生受容体拮抗剤によって構成される。2個のIL-1受容体(IL-1RタイプI及びIL-1RタイプII)が確認された。この2つの受容体は、3個形態のIL-1ファミリー分子といずれも相互作用することができる。IL-1RIは、IL-1-誘導細胞活性を媒介させるが、IL-1/IL-1RI複合体は、それ自体でもって信号伝達を行うことができず、第2受容体鎖、IL-1R付属タンパク質(IL1RAcP)の関与に依存的である。IL1-信号伝達以外に、IL1RAcPは、ST2/IL1RAP複合体を介するIL33の効果を媒介させ、IL1Rrp2/IL1RAcP複合体を介するIL36の効果を媒介させるのに決定的役割をおこなう。IL-1は、リウマチ関節炎や骨関節炎のような関節、骨及び筋肉の疾患;家族性地中海熱のような遺伝性全身自己炎症疾患;全身の青少年特発性関節炎や、成人型スチル(still)病のような全身自己炎症疾患;痛風及び第2型糖尿病のような一般的な炎症性疾患;心筋梗塞のような急性発病虚血性疾患;及び癌のような多様な疾患に関与すると知られている。IL-1活性を遮断するための多数の治療法が許可されて開発されている。IL-1ターゲッティングは、1993年、アナキンラ(anakinra)(Kineret(アムジェン))の導入で始まった。アナキンラは、天然IL-1受容体拮抗剤(IL-1Ra)の組み換え形態であり、IL-1α及びIL-1βのいずれの活性も遮断する。抗体または可溶性受容体でもってIL-1を中和させることも効果的であると判明され、可溶性誘引受容体リロナセプト(rilonacept)(Arcalyst(Regeneron))と抗IL-1β中和単一クローン抗体カナキヌマブ(canakinumab)(Ilaris(ノバルティス))とが許可された。また、国際公開WO2014/126582号は、ヒトIL-1R1及びヒトIL-1RAcPの細胞外領域を含むものの、IL-1R1領域とIL-1RAcP領域とが、それぞれヒトIgG1のFc部分の他の突然変異体に融合されたヘテロ二量体タンパク質を開示している。
【0007】
インフラマソーム(inflammasome)
インフラマソーム(inflammasome)は、病源菌または細胞損傷に反応し、IL-1βとIL-18との分泌を促進し、炎症性細胞死(pyroptosis)を誘発する細胞内タンパク質複合体である。該インフラマソームによるIL-1βとIL-18との分泌は、主に骨髄性細胞(myeloid cell)から起こり、炎症性細胞死が誘発される場合、ガスダーミンポア(gasdermin pore)を介するアラーミン(alarmin)タンパク質であるIL-1αとHMGB1との分泌も促進される。正常なインフラマソームは、先天免疫に重要な役割を担当するが、インフラマソームの非正常的活性は、炎症疾患、退行性神経疾患、癌のような各種疾患の原因として作用する。インフラマソーム活性と関連する疾病の治療戦略としては、1)Nlrp3のようなインフラマソームセンサ(sensor)タンパク質阻害、2)ガスダーミンポア形成及びサイトカイン分泌を媒介する酵素であるカスパーゼ(caspase)の阻害、3)エフェクタタンパク質の阻害などがある。特に、エフェクタタンパク質阻害は、上位信号経路と無関係に、インフラマソームによる炎症反応を制御することができるために、多様な関連疾患において効能を有すると期待される。
【0008】
形質転換成長因子β(TGF-β)
ヒトの腫瘍には、癌細胞だけではなく、腫瘍成長を抑制する細胞毒性T細胞(cytotoxic T cell)、自然殺害細胞(natural killer cell)のような免疫細胞が観察され、また、腫瘍成長を促進させる免疫抑制細胞である調節T細胞(Treg(regulatory T cell))、MDSC(myeloid-derived suppressor cell)なども共に観察される。MDSCは、慢性炎症(chronic inflammation)による骨髄性細胞(myeloid)の非正常的分化によって生じ、慢性炎症を誘発するIL-1、IL-6のような炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)、及びケモカインが、MDSCの発生及び腫瘍内浸潤に核心的役割を担当する。腫瘍内の免疫細胞及び免疫抑制細胞の分布及び活性は、腫瘍免疫環境あるいはTIME(tumor immune microenvironment)と呼ばれ、PD-1抗体のような免疫抗癌剤の反応に大きく寄与すると知られている。腫瘍内腫瘍免疫抑制細胞であるMDSCとTregは、多様なメカニズムを介し、細胞毒性T細胞と自然殺害細胞との機能を低下させると知られており、特に、それら免疫抑制細胞と、癌細胞から分泌されるサイトカインであるTGF-β(transforming growth factor β)が免疫抑制に核心的役割を担当すると明らかにされた。最近では、マウス及びヒトにおいて、TGF-β阻害が免疫抗癌剤の反応を大きく改善させると報告された。しかしながら、TGF-βは、抗炎症性サイトカイン(anti-inflammatory cytokine)であり、TGF-β1の欠損は、マウスにおいて、深刻な炎症疾患を誘発し、癌細胞において、TGF-β信号伝達経路を阻害する場合、MDSCの腫瘍内浸潤が増大すると報告された。形質転換成長因子ベータ(TGF-β:transforming growth factor beta;)受容体ファミリーは、TGF-βRI、TGF-βRII、TGF-βRIIIによって構成されており、特に、TGF-βRIIは、TGF-β1、TGF-β3に高親和度で結合し、TGF-β2には、相対的に低い結合能で結合すると知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の目的は、精製が迅速簡便であって効率的であるだけではなく、増大されたFcRn結合能や増大されたFcγR結合能のような望ましいとされる治療特性を示すヘテロ二量体Fc融合タンパク質を提供するためのものである。
本開示の他の目的は、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質と係わる組成物を提供するためのものである。
本開示のさらに他の目的は、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質と係わる用途を提供するためのものである。
本開示のさらに他の目的は、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質と係わる方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1態様は、
i)N末端からC末端方向に、第1目的タンパク質、第1リンカ及び免疫グロブリンの第1 Fc部位を含む第1ポリペプチドと、
ii)N末端からC末端方向に、第2目的タンパク質、第2リンカ及び免疫グロブリンの第2 Fc部位を含む第2ポリペプチドと、を含み、
前記第1目的タンパク質と前記第2目的タンパク質は、互いに異なるタンパク質であり、
前記第1リンカ及び前記第2リンカは、それぞれκ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体であるヘテロ二量体Fc融合タンパク質を提供する。
【0011】
本開示の第2態様は、有効成分として、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質、及び製薬上許容される担体を含む製薬組成物を提供する。
【0012】
本開示の第3態様は、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体を含む、目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用するための組成物を提供する。
【0013】
本開示の第4態様は、目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用するためのκ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体の用途を提供する。
【0014】
本開示の第5態様は、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体を、目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用する方法を提供する。
【0015】
本開示の第6態様は、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の製造方法を提供する。
【0016】
本開示の第7態様は、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質を、κ型軽鎖不変部位(CLκ)及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)との親和度に基づいて精製する段階を含む、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の精製方法を提供する。
本開示の第8態様は、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質のFcRn結合能を増大させる方法を提供する。
【0017】
本開示の第9態様は、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の半減期を増大させる方法を提供する。
【0018】
本開示の第10態様は、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質のFcγR結合能を増大させる方法を提供する。
【0019】
本開示の第11態様は、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の抗体依存的細胞媒介細胞毒性(ADCC)を増大させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、精製が迅速簡便であって効率的であるだけではなく、増大されたFcRn結合能及び/または増大されたFcγR結合能のような治療剤として望ましいとされる特性を示す、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質、及びそれと係わる組成物、用途及び方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】異なる2個のタンパク質を結合させたFc融合タンパク質製造方法の模式図である。
【
図2】IL-1受容体Fc融合タンパク質製造方法の模式図である。
【
図3A】ヘテロ二量体IL-1トラップであるIL1TのSDS-PAGE分析結果である。
【
図3B】ヘテロ二量体IL-1トラップであるIL1Tの大きさ排除クロマトグラフィ分析結果である。
【
図4A】κλヘテロ二量体IL-1トラップであるPET101の精製段階別の主要産物及び副産物の模式図である。
【
図4B】PET101精製段階別溶出液のSDS-PAGE分析結果である。
【
図4C】PET101精製段階別溶出液のPET101一次精製溶出液の大きさ排除クロマトグラフィ分析結果(
図4C(A))、及びPET101三次精製溶出液の大きさ排除クロマトグラフィ分析結果(
図4C(B))である。
【
図5】PET101の疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)分析結果である。
【
図6】ELISAを利用したIL1T、PET101、カナキヌマブ、リロナセプトのヒトIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7A】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したPET101のヒトIL-1α、ヒトIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7B】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したPET101のサルIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7C】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したPET101のマウスIL-1α、マウスIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7D】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したリロナセプトのヒトIL-1α、ヒトIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7E】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したリロナセプトのサルIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7F】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したリロナセプトのマウスIL-1α、マウスIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7G】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したカナキヌマブのヒトIL-1α、ヒトIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7H】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したカナキヌマブのサルIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図7I】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用したカナキヌマブのマウスIL-1α、マウスIL-1βに対する結合能分析結果である。
【
図8】IL-1レポータ細胞株における、PET101、リロナセプト、カナキヌマブのIL-1α信号経路抑制能分析結果(A)及びIL-1β信号経路抑制能分析結果(B)である。
【
図9】A549非小細胞性肺癌細胞株における、PET101、リロナセプト、カナキヌマブのIL-1β媒介IL-6分泌抑制能分析結果である。
【
図10】リロナセプトとIL1TとPET101とのタンパク質熱安定性分析結果である。
【
図11A】37℃で4週間、PET101のPBS内における安定性を、SDS-PAGEを利用して分析した結果である。
【
図11B】37℃で4週間、PET101のPBS内における安定性を、大きさ排除クロマトグラフィ(B)を利用して分析した結果である。
【
図12A】ヒトFcRnに対するIL1T、PET101のBLIセンソグラム結果である。
【
図12B】ヒトFcRnに対するリロナセプト、カナキヌマブのBLIセンソグラム結果である。
【
図13A】ヒトFcγRIに対するPET101、リロナセプトのBLIセンソグラム結果である。
【
図13B】ヒトFcγRIIIAに対するPET101、リロナセプトのBLIセンソグラム結果である。
【
図14】PET101、リロナセプトの投与濃度によるヒトIL-1β媒介マウスIL-6分泌抑制能分析結果である。
【
図15】PET101、リロナセプトの投与後時間によるヒトIL-1β媒介マウスIL-6分泌抑制能分析結果である。
【
図16】
図16はサイノモルガス・サルでPET101、リロナセプトの3mg/kg皮下投与条件で時間による試験物質の血漿濃度分析結果である。
【
図17A】IL-1/IL-18二重特異性保有ヘテロ二量体トラップ118T3の模式図(A)、及び還元条件及び非還元条件における、118T3精製産物のSDS-PAGE結果(B)である。
【
図17B】IL-1/IL-18二重特異性保有κλヘテロ二量体トラップ118T3v01の模式図(A)、及び還元条件及び非還元条件における、118T3v01段階別精製産物のSDS-PAGE結果(B)である。
【
図18】ELISAを利用した、ヒトIL-1β(A)及びヒトIL-18(B)に対する118T3、118T3v01の結合分析結果である。
【
図19】表面プラズモン共鳴(SPR)を利用した118T3v01のヒトIL-1β、ヒトIL-18に対する同時結合能分析結果である。
【
図20】118T3v01から、IL18BP1個を除去した118T3Bの模式図(A)、及び還元条件及び非還元条件における、118T3B段階別精製産物のSDS-PAGE結果(B)である。
【
図21A】ヒトIL-1α、ヒトIL-1β、サルIL-1β、マウスIL-1βに対する118T3BのBLIセンソグラム結果である。
【
図21B】サルIL-1β、マウスIL-1βに対する118T3BのBLIセンソグラム結果である。
【
図21C】ヒトIL-18、サルIL-18、マウスIL-18に対する118T3BのBLIセンソグラム結果である。
【
図22】IL-1リポーター細胞株における、118T3v01と118T3BとのヒトIL-1β(A)及びヒトIL-18(B)の信号伝達経路抑制能分析結果である。
【
図23】IL-1/TGF-β二重特異性保有ヘテロ二量体PET301の模式図(A)、及び還元条件及び非還元条件における、PET301の精製段階別産物に対するSDS-PAGE結果(B)である。
【
図24A】ELISAを利用した、ヒトIL-1β(A)及びヒトTGF-β1(B)に対するPET301の結合分析結果である。
【
図24B】ELISAを利用した、ヒトTGF-β3(A)及びヒトTGF-β2(B)に対するPET301の結合分析結果である。
【
図25A】IL-1リポーター細胞株を利用した、PET301のヒトIL-1β抑制能分析結果(A)、及びTGF-βリポーター細胞株を利用した、PET301のヒトTGF-β1抑制能分析結果(B)である。
【
図25B】TGF-βリポーター細胞株を利用した、ヒトTGF-β3抑制能分析結果(A)及びヒトTGF-β2抑制能分析結果(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
取り立てて定義しない限り、本明細書において使用された技術的及び科学な的用語は、本開示が属する分野において一般的に使用されるところと同一の意味を有する。本開示の理解のために、下記定義が適用され、単数形で使用される用語は、複数形を含み、その逆も同様である。
【0023】
本願で使用される、用語である「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、天然タンパク質のアミノ酸配列、または1以上のアミノ酸残基の欠失、置換、付加及び/または挿入のような1以上の突然変異を有するアミノ酸配列を有する長鎖のペプチドを称するために相互交換的に使用されうる。
【0024】
用語「融合タンパク質」は、共に共有結合された2個以上の部分を有するタンパク質を称し、ここで、各部分は、異なるタンパク質から誘導される。
【0025】
用語「Fc」、「Fc部位」及び「Fc領域」は、抗体分子中のヒンジ部、またはその一部、CH2領域、CH3領域によってなる部分を言う。IgGクラスのFc領域は、EUナンバリング(EU INDEXとも呼ばれる)でもって、例えば、226番目のシステインからC末端まで、または230番目のプロリンからC末端までを意味するが、それらに限定されるものではない。該Fc部位は、IgG1,IgG2,IgG3,IgG4単一クローン抗体などを、ペプシンやパパインのようなタンパク質分解酵素で部分消化した後、タンパク質Aカラムまたはタンパク質Gカラムに吸着された分画を再溶出することにより、適切に取得されうる。
【0026】
用語「ヘテロ二量体」とは、アミノ酸配列が異なる2個のポリペプチドによって構成されるポリペプチドを意味する。
【0027】
用語「リンカ」は、1以上の分子、例えば、1以上の成分領域間に挿入されうる核酸、アミノ酸または非ペプチド残基を意味する。例えば、該リンカは、操作を容易にするために、成分間に関心ある望ましい部位を提供するのにも使用される。該リンカは、また、宿主細胞から融合タンパク質の発現を増進させ、成分がその最適の三次構造を取り、かつ/あるいは標的分子と適切に相互作用することができるように、立体障害を低減させるためにも提供される。リンカ配列は、受容体成分に自然に連結された1以上のアミノ酸を含むものでもあるか、あるいは融合タンパク質の発現を増進させるために、関心ある望ましい部位を提供するために、成分領域が最適の三次構造を形成するようにし、かつ/あるいは成分とその標的分子との相互作用を増進させるために使用される添加された配列でもある。望ましくは、該リンカは、融合タンパク質内のそれぞれの機能性成分の構造に干渉せず、融合タンパク質成分の柔軟性を増大させる。
【0028】
ヘテロ二量体Fc融合タンパク質
本開示の一態様は、
i)N末端からC末端方向に、第1目的タンパク質、第1リンカ及び免疫グロブリンの第1 Fc部位を含む第1ポリペプチドと、
ii)N末端からC末端方向に、第2目的タンパク質、第2リンカ及び免疫グロブリンの第2 Fc部位を含む第2ポリペプチドと、を含み、
前記第1目的タンパク質と前記第2目的タンパク質は、互いに異なるタンパク質であり、
前記第1リンカ及び前記第2リンカは、それぞれκ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)または変異体であるヘテロ二量体Fc融合タンパク質を提供する。
【0029】
ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の精製上の問題を克服するために、本発明者らは、異なる2個の目的タンパク質のC末端と、Fc領域のヒンジ領域N末端との間に、それぞれ抗体κ軽鎖不変部位(CLκ)及び抗体λ軽鎖不変部位(CLλ)を導入したκλFc融合タンパク質技術を考案した。本開示によるκλFc融合タンパク質技術は、商業的に生産されるCLκ特異的樹脂及びCLλ特異的樹脂を活用し、迅速であって簡単にヘテロ二量体Fc融合タンパク質を高純度で分離することを可能にさせる。
【0030】
CLκ領域及びCLλ領域は、それぞれ約12.5kDaの分子量を有しており、それらの導入によるFc融合タンパク質の分子量増加は、約25kDaほどのレベルと予想される。本開示によるκλFc融合タンパク質技術は、融合タンパク質の分子量、安定性及び安全性に大きい変化を起こさせずにも、ヘテロ二量体の分離精製の便宜性及び効率を向上させることができる。
【0031】
一態様において、CLλ変異体は、C末端セリン(Ser)が欠失されたものでもある。具体的には、C末端セリン(Ser)は、カバット(Kabat)ナンバリング基準として、215番位置にあるものでもある。
【0032】
一態様において、CLκ変異体及び/またはCLλ変異体は、重鎖不変部位CH1とジスルフィド(disulfide)結合を形成するシステイン(Cys)が、セリン(Ser)、アラニン(Ala)またはバリン(Val)で置換されたものでもある。具体的には、重鎖不変部位CH1とジスルフィド結合を形成するシステイン(Cys)は、カバットナンバリング基準として、214番位置にあるものでもある。
【0033】
図1において、(A)は、異なる2個のタンパク質(タンパク質1,2)を単一鎖で連結したポリペプチドを、ヒト免疫グロブリンG(IgG(immunoglobulin G))のFc領域ヒンジ(hinge)領域N末端に結合させたインラインホモ二量体Fc融合タンパク質(in-line homodimeric Fc fusion protein)を示し、(B)は、IgGFc領域ヒンジ領域N末端に、異なる2個のタンパク質をそれぞれ連結したヘテロ二量体Fc融合タンパク質(heterodimeric Fc fusion protein)を示し、(C)は、IgGFcのC
H3領域に、ヘテロ二量体形成を促進させる突然変異を導入したノブ・イントゥ・ホールヘテロ二量体Fc融合タンパク質(KiH heterodimeric Fc fusion protein)を示し、(D)は、異なる2個のタンパク質を、それぞれヒト免疫グロブリンκ軽鎖(kappa light chain)不変部位(C
Lκ)及びヒト免疫グロブリンλ軽鎖(lambda light chain)不変部位(C
Lλ)に単一鎖で連結した後、Fc領域ヒンジ部位N末端に結合させたκλヘテロ二量体Fc融合タンパク質(κλ-Fc fusion protein)を示し、(E)は、FcのC
H3領域に、ヘテロ二量体形成を促進させる突然変異を導入したノブ・イントゥ・ホールκλヘテロ二量体Fc融合タンパク質(KiH κλ-Fc fusion protein)を示す。
図1において、(A)、(B)及び(C)は、従来技術に該当し、(D)及び(E)、特に、(E)は、本開示の範囲内に属するものである。
【0034】
一態様において、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、第1ポリペプチドのC末端、または第2ポリペプチドのC末端のうち1以上に、第3目的タンパク質を追加して含むものでもある。
【0035】
一態様において、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、単一特異性(mono-specificity)または多重特異性(multi-specificity)を有するものでもある。用語「単一特異性」は、1つの標的(target)に特異的に結合可能であることを意味し、「多重特異性」は、2個以上の区別される標的に特異的に結合可能であることを意味する。例えば、融合タンパク質は、第1標的に特異的に結合可能な領域、及び第2標的に特異的に結合可能な領域を含む二重特異性(bi-specificity)である。
【0036】
一態様において、前記目的タンパク質は、リガンド、受容体、サイトカイン、酵素またはペプチドでもある。具体例において、該受容体は、サイトカイン受容体でもある。具体例において、該サイトカイン及び/または該受容体は、自然にヘテロ二量体において存在して機能するものでもあり、例えば、インターロイキン-1(IL1)、インターロイキン-2(IL2)、インターロイキン-3(IL3)、インターロイキン-4(IL4)、インターロイキン-5(IL5)、インターロイキン-6(IL6)、インターロイキン-11(IL11)、インターロイキン-13(IL13)、インターロイキン-15(IL15)、インターロイキン-18(IL18)、インターロイキン-23(IL23)、インターロイキン-31(IL31)、インターロイキン-33(IL33)、インターロイキン-35(IL35)、インターロイキン-36(IL36)、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、顆粒球大食細胞コロニー刺激因子(GM-CSF)、ガンマ-インターフェロン(IFN-γ)、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)及び腫瘍懐死因子-アルファ(TNF-α)によって構成されたグループのうちから選択される1以上のものでもあるが、それらに制限されるものではない。
【0037】
具体的な例として、本発明者らは、Fcに結合させた2個のポリペプチドを同時に有する融合タンパク質の形成比率が高く、精製が相対的に容易であると予想される3種(インラインホモ二量体(
図1A)、KiHヘテロ二量体(
図1C)、KiHκλヘテロ二量体(
図1E))を利用し、自然上においてヘテロ二量体によってなるIL-1受容体(IL-1R1、IL-1RAcP)の細胞外部位を結合させたFc融合タンパク質を構成した。
図2において、(A)は、IL-1受容体の細胞外部位を、
図1のA構造により、Fcに結合させたIL-1特異的インラインホモ二量体Fc融合タンパク質であり、IL-1特異的インラインホモ二量体Fc融合タンパク質の例示として、リロナセプトと同一配列を有する融合タンパク質(従来技術)を構成したものであり、(B)は、IL-1受容体の細胞外部位を、
図1の(C)構造によってFcに結合させたIL-1特異的ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(IL1T)(従来技術)を構成したものであり、(C)は、IL-1特異的ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の例示であり、IL-1受容体の細胞外部位を
図1のE構造により、C
Lκ及びC
Lλに連結した後、Fcに結合させたIL-1特異的κλヘテロ二量体Fc融合タンパク質(PET101)(本開示の一具体例)を構成したものである。
【0038】
前述の具体例のように、第1目的タンパク質と第2目的タンパク質とのうち一つは、インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)であり、他の一つは、インターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)でもある。例えば、該第1目的タンパク質は、インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)であり、第1リンカは、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体であり、該第2目的タンパク質は、インターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)であり、第2リンカは、λ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体でもある。例えば、該インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)及び該インターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)は、それぞれそれらの細胞外領域(ectodomain)でもある。
【0039】
他の具体的例として、本発明者らは、インフラマソームエフェクタサイトカインIL-1α,IL-1β,IL-18の同時阻害剤を開発するために、IL-1受容体Fc融合タンパク質のC末端部位に、自然上のヒトIL-18阻害タンパク質であるIL18BP(interleukin-18-binding protein)を融合させた形態の二重阻害剤を構成した。IL-1阻害剤のうち、インラインホモ二量体リロナセプトは、約250kDaの分子量を有しており、IL18BPの融合時、さらなる分子量増加による組織透過性低減の問題が生じうる。従って、本発明者らは、相対的に分子量が小さいヘテロ二量体IL-1阻害剤IL1TとPET101とを、IL18BPと融合させた形態のIL-1/IL-18二重阻害剤を作製した。
【0040】
さらに他の具体的例として、本発明者らは、IL-1の阻害が、TGF-β阻害による炎症及びMDSC形成を低減させ、抗癌効能を増大させる可能性があるということに着眼し、PET101を基とするIL-1/TGF-β二重阻害剤を作製した。具体的には、ヒトIL-1とTGF-βとに二重特異性を保有するFc融合タンパク質を製造するために、PET101のFc領域C末端に、TGF-βRIIの細胞外部分(extracellular domain)が結合された形態のPET301構造体をデザインした(
図23(A))。
【0041】
従って、一具体例によれば、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、第3目的タンパク質として、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)またはタイプII形質転換成長因子-ベータ受容体(TGFβRII)を含むものでもある。
【0042】
具体的には、第1ポリペプチドのC末端と、第2ポリペプチドのC末端とのうち一つに、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)を含むものでもある。さらに具体的には、第2ポリペプチドのC末端に、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)を含むものでもある。
【0043】
他の例において、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、第1ポリペプチドのC末端と、第2ポリペプチドのC末端とのいずれ二も、タイプII形質転換成長因子-ベータ受容体(TGFβRII)を含むものでもある。
【0044】
一態様において、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、第1 Fc部位及び第2 Fc部位がヘテロ二量体の形成が促進されるように、CH3領域が変異されたものでもある。該ヘテロ二量体形成を促進させるための変異が当業界に知られており、それら変異は、特別な制限なしにも含まれる。例えば、第1 Fc部位及び第2 Fc部位のCH3領域は、ノブ・イントゥ・ホール変異を含むものでもある。
【0045】
一態様において、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、第1リンカ、第2リンカ、またはそれらのいずれもが、Fc部位ヒンジのN末端に結合されたものでもある。「ヒンジ」は、野生型抗体重鎖において、CH1ドメインとCH2ドメインとを連結(例えば、カバットEU番号体系により、大体において位置216から大体において位置320、または大体において位置226から大体において位置230)する抗体重鎖ポリペプチドの部分を示すものであり、一般的に、25個以下のアミノ酸残基を有して会合される結合部位が独立して動くように可撓性を有する。例えば、該ヒンジは、アミノ酸配列DKTHTCPXCP,HTCPXCPまたはCPXCP(ここで、Xは、SまたはPである)を有するものでもあるが、それらに制限されるものではない。
【0046】
一態様において、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、第1ポリペプチド及び/または第2ポリペプチドのC末端と、第3目的タンパク質との間に、第3リンカを追加して含むものでもある。具体例において、リンカ残基は、2個ないし100個のアミノ酸長を有するペプチドリンカである。例示的なリンカは、Gly-Gly,Gly-Ala-Gly,Gly-Pro-Ala、Gly(G)n及びGly-Ser(GS)リンカのような少なくとも2個のアミノ酸残基を有する線形ペプチドを含む。GSリンカは、(GS)n、(GSGSG)n、(G2S)n、G2S2G、(G2SG)n、(G3S)n、(G4S)n、(GGSGG)nGn及びGSG4SG4SGを含むが、それらに制限されるものでなく、ここで、nは1以上である。特定例において、該リンカは、(G4S)2でもある。
【0047】
一態様において、免疫グロブリンFc領域は、IgG,IgA,IgD,IgE,IgM由来、それらの組み合わせ(combination)、またはそれらの混成(hybrid)によるFc領域でもある。具体的には、IgGFc領域であり、特に、IgG1 Fc領域であるが、それに制限されるものではない。
【0048】
組成物、用途及び方法
ヘテロ二量体Fc融合タンパク質と係わり、以上で記述された内容は、下記の組成物、用途、方法などにも同一に適用される。
【0049】
本開示の他の態様は、有効成分として、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質、及び製薬上許容される担体を含む製薬組成物が提供される。
【0050】
製薬上許容される担体は、組成物を強化させたり安定化させたりするか、あるいは組成物の製造を容易にする。製薬上許容される担体は、生理学上相溶性である溶媒、分散媒質、コーティング剤、抗バクテリア剤及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤などを含む。
【0051】
本開示の製薬組成物は、関連技術分野に公知された多様な方法によっても投与される。投与経路及び/または投与方式は、目的とする結果によって異なる。投与が、静脈内、筋肉内、腹腔内または皮下であるか、あるいは標的部位に隣接するようにも投与される。製薬上許容される担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適さなければならない。該組成物は、滅菌されたものであり、流体でなければならない。該組成物は、凍結乾燥された形態でもある。等張化剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトールまたはソルビトール、及び塩化ナトリウムを組成物内に含めることができる。本発明の製薬組成物は、関連技術分野に広く公知され、一般的に実施される方法によっても製造される。
【0052】
製薬組成物における有効成分の投与量レベルは、患者に毒性ではなく、特定の患者、組成物及び投与方式につき、目的とする治療反応を達成するのに効果的な有効成分の量が得られるように異なりうる。選択された投与量レベルは、多様な薬動学的因子、例えば、使用された本開示の特定組成物、または投与経路、投与時間、排出速度、治療持続期間、組み合わされて使用された他の薬物、化合物及び/または物質、治療する患者の年齢・性別・体重・状態・全般的健康及び以前病歴、並びにその他因子によって異なる。非制限的な例として、該投与量は、約0.0001ないし100mg/kg体重、さらに一般的には、0.1ないし20mg/kg体重の範囲である。例示的な治療療法は、1週ごとに1回、または2週ごとに1回、または毎月1回、あるいは3ヵ月ないし6ヵ月ごとに1回の投与を伴う。
【0053】
一態様において、前記組成物は、免疫関連の疾患または障害を予防または治療するためのものでもある。具体例において、免疫関連の疾患または障害は、癌、自家免疫疾患または炎症性疾患でもある。
【0054】
一態様において、前記組成物は、1以上の治療剤を追加して含むものでもある。具体例において、該治療剤は、免疫チェックポイント抑制剤(immune checkpoint inhibitor)、例えば、PD1阻害剤、PD-L1阻害剤及びCTLA4阻害剤のうち1以上のものでもある。
【0055】
本開示のさらに他の態様は、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体を含む、目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用するための組成物を提供する。
【0056】
本開示のさらに他の態様は、目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用するためのκ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体の用途を提供する。
【0057】
本開示のさらに他の態様は、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体を、目的タンパク質と免疫グロブリンFc部位とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質において、目的タンパク質とFc部位とのリンカに使用する方法を提供する。
【0058】
本開示のさらに他の態様は、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の製造方法を提供する。
【0059】
本開示のさらに他の態様は、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質を、κ型軽鎖不変部位(CLκ)及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)との親和度に基づいて精製する段階を含む、前記ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の精製方法を提供する。具体例において、該精製方法は、
1)免疫グロブリン親和度クロマトグラフィを遂行する段階と、
2)κ型軽鎖不変部位(CLκ)親和度クロマトグラフィを遂行する段階と、
3)λ型軽鎖不変部位(CLλ)親和度クロマトグラフィを遂行する段階と、を含むものでもある。
【0060】
多様なFc変異体は、新生児Fc受容体(FcRn(neonatal Fc receptor)に対する結合を増大させ、血清半減期を増大させるところにも使用される。Fc領域とFcRnとの結合は、抗体あるいはFc融合タンパク質がエンドサイトーシス(endocytosis)されたとき、エンドソーム(endosome)による分解(degradation)を防ぎ、pH依存的解離を介し、血液に再放出されるように誘導することにより、長い薬物半減期、高い血液内露出のような抗体及びFc融合タンパク質の薬動学的特性を媒介させる。しかしながら、多くのFc融合タンパク質は、Fc領域と結合タンパク質との干渉(interference)により、抗体対比で、FcRn結合が低いという特徴を示し、低いFcRn結合強度は、Fc融合タンパク質の短い半減期と相関関係を有する。
【0061】
本発明者らは、κλFc融合タンパク質技術が、精製の長所以外にも、CLκ領域及びCLλ領域をヒンジ領域N末端に位置させることにより、Fc領域と結合タンパク質との距離を増大させ、互いによる干渉を減らし、FcRn結合の長所を有することができることに着眼し、それを実験を介して確認した。
【0062】
それより、本開示のさらに他の態様は、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質のFcRn結合能を増大させる方法を提供する。
【0063】
また、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体m、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の半減期を増大させる方法を提供する。
【0064】
抗体のFc領域は、FcRn以外にも、免疫細胞表面のFcガンマ受容体(Fcγ receptor)と結合することにより、抗体の免疫エフェクタ機能を媒介させる。本発明者らは、κλFc融合タンパク質技術がFcRnだけではなく、Fcガンマ受容体結合の長所を有する可能性について試験した結果、増大されたFcγRI及びFcγRIIIaに対する結合能を有することを確認した。
【0065】
抗体依存性細胞媒介細胞毒性(ADCC)は、FcγRを発現する非特異的細胞毒性細胞が、標的細胞上の結合された抗体を認識し、続けて、標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介反応を意味する。該ADCCは、FcγRIIIaに対する結合と相関し、FcγRIIIaに対する増大された結合は、ADCC活性増大を誘導する。
【0066】
それにより、本開示のさらに他の態様は、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質のFcγR結合能を増大させる方法が提供される。
【0067】
また、目的タンパク質とFc部位とのリンカとして、κ型軽鎖不変部位(CLκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(CLλ)、またはその変異体をそれぞれ導入する段階を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の抗体依存的細胞媒介細胞毒性(ADCC)を増大させる方法を提供する。
【0068】
以下、本開示について、具体的な実施例を挙げ、さらに詳細に説明するが、それらは、本開示の理解の一助とするためのものであるのみ、本開示の範囲をいかようにも制限するものではない。
【0069】
比較例1:IL-1特異性保有ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(IL1T)の製造
図2(B)の構成を有するIL-1特異的ヘテロ二量体Fc融合タンパク質を具現するために、ヒト免疫グロブリンG1(IgG1:immunoglobulin G1)のFc領域(配列番号1)に、ノブ・イントゥ・ホール突然変異技術を適用し、ノブ突然変異保有Fc(S354C、T366W(配列番号2))とホール突然変異保有Fc(Y349C、T366S、L368A、Y407V(配列番号3))とのポリペプチドを暗号化する遺伝子配列を確保した。ヒトIL-1R1(GenBank:AAM88423.1)の信号配列(signal peptide)と細胞外部分とを構成するアミノ酸残基1ないし333、またはヒトIL-1RAcP(GenBank:BAA25421.1)の信号配列と細胞外部分とを構成するアミノ酸残基1ないし359のアミノ酸残基を暗号化する遺伝子配列は、化学的に合成され(Integrated DNA Technologies、IA、米国)、それぞれのベクターにクローニングした。IL-1R-hinge region-CH2-CH3(S354C、T366W)(配列番号4)と、IL-1RAcP-hinge region-CH2-CH3(Y349C、T366S、L368A、Y407V)(配列番号5)とに該当するポリペプチドを発現することができるベクターは、それぞれP001、P002と称した。
【0070】
P001ベクターとP002ベクターとの同時形質転換(co-transfection)をチャイニーズハムスター卵巣(Chinese hamster ovary)由来細胞株であるExpiCHO-S
TM(A29127(Gibco))において遂行し、この一時発現(transient expression)を介して発現されたヘテロ二量インターロイキン-1トラップ(heterodimeric IL-1 trap)をIL1Tと称した。一時発現過程に使用される全ての試薬は、製造社(Gibco)のマニュアルによって準備し、マニュアル内の最大力価生産プロトコルによって遂行された。Sartoclear Dynamics
登録商標 LabV(SDLV-1000-40C-E(Sartorius))フィルタシステムを利用し、12日目培養液を濾過し、続けて、HiTrap MabSelect SuRe(11003493(GE Healthcare))精製カラムを利用して精製し、Amicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unit(Merck Millipore)を利用し、サンプル濃縮を行った。最終精製完了産物は、サンプル固有の吸光係数(extinction coefficient)と分子量とを基に濃度を定量した。該精製産物は、ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)とサイズ排除クロマトグラフィ(SEC:size exclusion chromatography)とを利用して分析を行った(
図3A及び
図3B)。SDS-PAGE分析は、非還元(non-reducing)条件と還元(reducing)条件とで行われ、クマシブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)染色を介し、各サイズのバンドを確認した(
図3A)。還元条件においては、約70kDaにおいて、IL-1R-hinge region-CH2-CH3(S354C、T366W)単量体とIL-1RAcP-hinge region-CH2-CH3(Y349C、T366S、L368A、Y407V)単量体との混合物が確認された。非還元条件において、約150kDaにおいて、ヘテロ二量体とホモ二量体との混合物と推定される産物が確認され、約70kDaにおいて、アセンブリされていない単量体が確認された(
図3A)。サイズ排除クロマトグラフィ分析には、Agilent Bio SEC-3 HPLCカラム(5190-2511(Agilent))が装着されたAlliance
登録商標 HPLC-e 2695 Separations Module(Waters、2695)が使用された。分析結果、7.142分の停滞時間において、ヘテロ二量体(IL1T)とホモ二量体との混合物が82.88%存在することが確認され、5.470分と6.344分との停滞時間において、凝集体(aggregates)が検出され、7.893分の停滞時間においては、単量体混合物が検出された(
図3B)。
【0071】
実施例1:IL-1特異性保有κλヘテロ二量体Fc融合タンパク質(PET101)製造
κλFc融合タンパク質技術が適用されたIL-1特異性保有ヘテロ二量体Fc融合タンパク質製造のために、IL-1R細胞外部位とヒンジ領域との間に、抗体軽鎖κ不変部位を導入し(配列番号6)、IL-1RAcP細胞外部位とヒンジ領域との間に、抗体軽鎖λ不変部位を導入した(配列番号7)。該過程において不要なアセンブリを防ぐために、自然上のκとλとの不変部位C末端に存在するシステインは、セリンで置換した。そのような構成に作製されたIL-1R-CLκ-hinge region-CH2-CH3(S354C、T366W)とIL-1RAcP-CLλ-hinge region-CH2-CH3(Y349C、T366S、L368A、Y407V)とのアミノ酸配列(配列番号8、配列番号9)を暗号化する発現ベクターを、それぞれP003及びP004と言い、ExpiCHO-S細胞株において同時形質転換(co-transfection)を進めて生成されるヘテロ二量体をPET101と称した。
【0072】
PET101の精製過程別及び精製段階別に予想される主要産物及び副産物を、
図4Aに表示した。詳細に説明すれば、比較例1と同一方式で、親和度クロマトグラフィ(affinitychromatography)基盤精製を行った。一次精製産物につき、KappaSelect樹脂(17545801(GE Healthcare))と、それに続くLambdaFabSelect樹脂(17548201(GE Healthcare))とを利用した親和度クロマトグラフィを遂行した。一次(MabSelect)、二次(KappaSelect)、三次(LambdaFabSelect)の精製産物の透析、濃縮、定量、SDS-PAGE分析、サイズ排除クロマトグラフィ分析は、比較例1で言及した方式で行った。MabSelect一次精製溶出液の非還元条件SDS-PAGE分析結果において、約70kDaにおいて、アセンブリされていない単量体が確認され、三次精製まで完了した場合、単量体が除去され、約180kDaのPET101と予想されるタンパク質が確認された(
図4Bの「1」)。サイズ排除クロマトグラフィを利用した純度分析において、一次精製産物は、ヘテロ二量体、ホモ二量体、単量体などが存在し、二量体のピークは、停滞時間6.836秒で確認され、該混合物の面積は、87.57%と確認された(
図4Bの「2」)。一次精製産物において、ヘテロ二量体分離のために、二次(KappaSelect)、三次(LambdaFabSelect)の親和度クロマトグラフィ連続精製を行った。最終精製産物であるLambdaFabSelect三次精製産物のSDS-PAGE結果において、単量体は、確認されず、ヘテロ二量体推定産物のピークが確認された(
図4Bの「3」)。サイズ排除クロマトグラフィ分析において、ヘテロ二量体推定産物のピークは、6.838分の停滞時間を有して溶出され、最終精製産物の純度は、99.31%で確認された(
図4Bの「3」)。
【0073】
試験例1:PET101ヘテロ二量体含量分析
実施例1で得られたPET101最終精製産物におけるヘテロ二量体の含量を確認するために、ヘテロ二量体とホモ二量体とを分離することができる疎水性相互作用クロマトグラフィ(hydrophobic interaction chromatography)分析を行った。クロマトグラフィカラムとしては、MAbPac HIC-10カラム(4.6×250mm、5μm(Thermo Fisher Scientific))を使用した。ホモ二量体分析のために、IL-1R-C
Lκ-hinge region-CH2-CH3ホモ二量体(PET101ノブκκ)及びIL-1RAcP-C
Lλ-hinge region-CH2-CH3ホモ二量体(PET101ホールλλ)を、実施例1で言及した方式で発現精製し、PET101最終精製産物と比較した。疎水性相互作用クロマトグラフィにおいて、
図5でのように、PET101ノブββホモ二量体が最も先に溶出されることを確認し、その後、PET101最終精製産物、PET101ホールββホモ二量体の順序で溶出されることを確認した。PET101最終精製産物において、ホモ二量体ではないヘテロ二量体(PET101κλ)の比率は、98.02%と測定され、実施例1で言及された精製過程を介し、高純度のヘテロ二量体分離が可能であるということを立証した。
【0074】
試験例2:酵素結合免疫吸着検査(ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay)を利用したIL-1βに対する結合能分析
IL-1特異性保有Fc融合タンパク質3種(リロナセプト、IL1T、PET101)のヒトIL-1βに対する結合分析を、ELISA法を利用して行った。結合能比較のために、ヒトIL-1β抗体カナキヌマブを対照物質として使用した。96ハーフウェル免疫吸着検査用プレート(3690(Corning))を、30ng/ウェル濃度でもって、ヒトIL-1β(10139-HNAE(Sino Biological))で処理し、4℃で一晩中コーティングを進めた。翌日、Phosphate Buffered Saline with Tween-20(TEKNOVA、P1192(PBST))を利用し、プレート洗浄を行った。本分析の全ての洗浄過程は、AquaMax 2000プレートウォッシャ(0310-5363(Molecular Devices))を利用して行った。IL1T、PET101、リロナセプト、カナキヌマブは、適切な濃度に、1%(w/v)脱脂乳含有PBSTにおいて希釈し、各ウェルに処理し、1時間常温で結合を誘導して、3回プレート洗浄を進めた。その後、ペルオキシダーゼが結合された抗ヒトIgGFc塩素抗体(31413(Invitrogen))を1%(w/v)脱脂乳含有PBSTにおいて希釈(1:10,000)して結合を誘導し、PBST 3回洗浄後、暗室において、TMB基質溶液(34028(Thermo Fisher Scientific))の常温処理を介する発色反応を誘導した。その後、1N硫酸(255(DUKSAN))で処理し、反応を終了させ、SpctraMax i3マルチモードプレートリーダ(10192-220(Molecular Devices))を利用し、450nmで吸光度を測定した。PET101は、IL1T、リロナセプトとヒトIL-1βとにつき、類似したEC
50値を示しながら結合すると確認された(
図6)。同じモール濃度で処理する場合、カナキヌマブが高いOD
450値を示すが、それは、二価抗体であるカナキヌマブのアビディティ(avidity)効果のためであると見られる(
図6)。本試験の結果は、ヒトIL-1受容体とFcヒンジ領域N末端との間に導入されたC
Lκ領域及びC
Lλ領域が、ヒトIL-1受容体とヒトIL-1βとの結合に影響を及ぼさないということを示唆する。
【0075】
試験例3:表面プラズモン共鳴(SPR:surface plasmon resonance)を介する結合定数測定
PET101のIL-1αとIL-1βとに対する結合力をさらに定量的に分析するために、Biacore T200(GE Healthcare)を利用し、表面プラズモン共鳴分析を行った。結合定数測定には、Series S CM5センサチップ(BR100530(GE Healthcare))を使用し、Human Antibody Capture Kit(BR100839(GE Healthcare))に含まれた抗ヒトFc抗体に対し、アミンカップリングキット(BR100050(GE Healthcare))を利用し、製造社マニュアルにより、センサチップに、抗ヒトFc抗体の固定(immobilization)を行った。抗ヒトFc抗体が固定されたCM5センサのフローセル1は、空白セルとして使用し、フローセル2,3,4には、それぞれ100nM PET101(18μg/ml)、100nMリロナセプト(25μg/ml)、100nMカナキヌマブ(15μg/ml)を、10μl/分流速で1分間ローディングした。全てのフローセルの準備完了後、0.25,0.5,1,2,4,8nMのヒトIL-1α(200-LA(R&D Systems))抗原、ヒトIL-1β(201-LB(R&D Systems))抗原、マウスIL-1α(400-ML(R&D Systems))抗原、マウスIL-1β(401-ML(R&D Systems))抗原、サル(Rhesus macaque)IL-1β(1318-RL(R&D Systems))抗原を、30μl/分の流速で投入し、4分間結合反応を行い、続けて、30μl/分の流速で、1X HBS-EP+バッファ(BR100669(GE Healthcare))のみを投入し、10分間解離反応を行った。獲得された各センサグラム(sensorgram)は、空白セルと比較し、正常化(normalization)及び節減(subtraction)を行い、親和度を計算した。該親和度の計算には、BIAevaluationソフトウェア(GE Healthcare)を使用し、1:1ラングミュア結合モデル(langmuir model)分析を介し、結合速度定数と解離速度定数とを計算した。平衡解離定数(K
D)は、解離速度定数(K
d)を結合速度定数(K
a)で除した値であり、PET101は、ヒトIL-1α、ヒトIL-1β、サルIL-1βには、それぞれ6.97pM、3.46pM、1.43pMの高レベルのK
D値を有することを確認し、マウスIL-1α、マウスIL-1βには、19.42pM、304.54pMのK
D値を有することを確認した(
図7A、
図7B及び
図7C、表1)。リロナセプトは、PET101と類似した結合パターンを示しながら測定された結合定数は、表1の通りである(
図7D、
図7E及び
図7F)。ヒトIL-1β特異的抗体カナキヌマブは、ヒトIL-1βにつき、68.39pMのK
D値を有し、ヒトIL-1αには、結合せず、マウス抗原に対する種間交差結合能がないと確認された(
図7G、
図7H及び
図7I、表1)。カナキヌマブのサルIL-1βに対して測定されたK
D値は、2.847μMと、急速に解離されるパターンを示し、非常に低い結合能を有すると分析された(
図7G、
図7H及び
図7I、表1)。
【表1】
【0076】
試験例4:レポータ細胞株を利用したIL-1信号伝達経路抑制能評価
IL-1βレポータHEK293細胞株(hkb-il1b(Invivogen))は、分泌型レポータタンパク質である分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP:secreted embryonic alkaline phosphatase)を、ヒトIL-1α、IL-1βにより、濃度依存的に分泌する(https://www.invivogen.com/hek-blue-il1b)。前記細胞株において、IL-1とIL-1阻害物質とを同時処理し、培養液内SEAPを定量することにより、信号伝達経路の抑制能を測定した。IL-1βレポータHEK293細胞株を、DMEM(11965-092(Gibco))+10% FBS(16140-071(Gibco))の培地内で培養した。細胞を,96ウェルプレート(167008(Thermo Fisher Scientific))において、完全培養培地内に、1×10
4細胞/ウェルにプレーティングし、37℃、5%(v/v) CO
2湿潤培養器で一晩中培養した。無血清DMEM培地に溶解された20ng/mlヒトIL-1α(10128-HNCH(Sino Biological))またはヒトIL-1β(10139-HNAE(Sino Biological))と、無血清DMEM培地に溶解された0.0001024nM、0.000512nM、0.00256nM、0.0128nM、0.064nM、0.3nM2、1.6nM、8nM、40nM、200nMのIL-1阻害物質(PET101、リロナセプトまたはカナキヌマブ)を、1:1の比率で、30分間予備混合した。この場合、最終濃度10ng/mlのヒトIL-1αまたはヒトIL-1βと、0.0000512nM、0.000256nM、0.00128nM、0.0064nM、0.032nM、0.16nM、0.8nM、4nM、20nM、100nM IL-1阻害物質(PET101、リロナセプトまたはカナキヌマブ)が混合された形態で存在し、先に、一晩中の培養を介して準備された細胞培養プレートの培養液を吸引し、予備混合された培地を、ウェル当たり100μlになるように細胞に処理した後、5時間、37℃、5%(v/v) CO
2湿潤培養器で培養した。その上澄み液を分析し、SEAPレポータ遺伝子分析キット(T1017(Invitrogen))を利用し、IL-1阻害物質のIL-1β信号伝達経路の抑制能を決定した。ただし、10ng/mlのヒトIL-1αまたはヒトIL-1βのみ処理して測定された発光値の平均値を、SEAP分泌量100%に換算し、処理される物質と同じ体積のPBS(10010(Gibco))を処理して測定された発光値の平均値を、SEAP分泌量0%に換算し、全ての値を計算した。IL-1βレポータHEK293細胞株におけるIL-1α抑制能分析結果、PET101は、0.293nMのEC
50値を有することを確認し、リロナセプトは、0.308nMのEC
50値を有することを確認した(
図8(A))。その場合、カナキヌマブは、効果的な抑制を誘導することができなかった(
図8(A))。同一細胞におけるヒトIL-1β抑制能分析結果、PET101は、0.275nMのEC
50値を有することを確認し、リロナセプトは、0.243nMのEC
50値を有することを確認した(
図8(B))。4nMのPET101またはリロナセプトが処理される場合、約99.5%のSEAP分泌抑制が、レポータ細胞株において確認されたが、4nMカナキヌマブ処理条件においては、約30%のSEAP分泌抑制だけが確認された(
図8(B))。
【0077】
試験例5:A549非小細胞性肺癌細胞株を利用したIL-1信号伝達経路抑制能評価
A549非小細胞性肺癌細胞株は、IL-1βに反応性を示し、ホスホイノシチド3-リン酸化酵素(PI3K:phosphoinositide3-kinase)とインターロイキン-1関連リン酸化酵素-4(IRAK4:interleukin-1 receptor-associated kinase 4)との活性化を介し、インターロイキン-6(IL-6:interleukin-6)の分泌を誘導する(Hiroyuki Eda et al. Cell Biol Int. 2011)。該メカニズムを利用して人為的に作製された、レポータ細胞株ではないヒト肺癌細胞株において、PET101の効能評価を行った。A549非小細胞性肺癌細胞株(CCL-185(ATCC))は、RPMI-1640(LM001-03(Welgene))+10% FBS(16140-071(Gibco))の培地内で培養した。細胞を、96ウェルプレートにおいて、前述のような完全血清培地内に、2×10
5細胞/ウェルにプレーティングした後、37℃、5%(v/v) CO
2湿潤培養器で7時間培養し、細胞付着を誘導した。次に、培地をウェルから除去し、無血清RPMI-1640培地(LM001-03(Welgene))100μlを投入し、18時間、37℃、5%(v/v) CO
2湿潤培養器で断食させた。無血清RPMI-1640培地内において、30分間、室温で予備混合された最終濃度1ng/ml IL-1β(10139-HNAE(Sino Biological))と、適切な濃度のIL-1阻害物質(PET101、リロナセプトまたはカナキヌマブ)とが、それぞれのウェルに100μl処理された。処理3時間後、マウスIL-6DuoSet ELISAキット(DY406(R&D Systems))を利用し、上澄み液内IL-6の量を、製造社のマニュアルによって定量した。IL-6定量を介するA549細胞株のIL-1β阻害能評価結果、PET101は、44pM EC
50値を有すると確認され、リロナセプトは、それと類似した37pMのEC
50値を有すると確認された。カナキヌマブは、同一条件において、2678pMのEC
50値を有すると確認された(
図9)。
【0078】
試験例6:PET101の熱安定性(thermal stability)分析
PET101の熱安定性(thermalstability)分析は、Protein Thermal Shift
TM Dye Kit(4461146(Applied Biosystems))を利用し、製造社マニュアルによって行われた。測定結果、リロナセプト、IL1T、PET101は、それぞれ56℃、56℃、55℃の類似したT
m値を有することを確認した(
図10)。
【0079】
試験例7:37℃条件におけるPET101の安定性分析
PBS(pH7.4)(10010(Gibco))に溶解されたPET101の安定性分析は、37℃条件で行われた。1mg/ml PET101は、37℃条件でインキュベーションし、0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、7日目、10日目、14日目、21日目、28日目に、サンプルは、-80℃に移し、実施例1で言及された方式でSDS-PAGE分析を行った(
図11A)。還元条件と非還元条件との分析結果において、断片化(fragmentation)現象及び凝集(aggregation)現象は、確認されていない。サイズ排除クロマトグラフィを利用した凝集体の存在有無を分析した結果、停滞時間約6.2分ごろに、凝集体のピークが確認され、37℃、7日目のサンプルまでは非常に低いピークが感知され(
図11B)、Empowerソフトウェア(Waters)を利用した面積分析において、測定されていない(表2)。37℃、10日目のサンプルにおいては、PET101が99.12%存在し、凝集体は、0.88%が確認された(表2)。37℃、28日目のサンプルにおいては、PET101が98.85%存在し、凝集体は、1.15%が確認された(表2)。
【表2】
【0080】
試験例8:PET101のFcRn結合能評価
FcRnに対するPET101とリロナセプトとの結合能評価は、BLI(bio-layer interferometry)分析装備であるOctet Red96e(ForteBio)を利用し、30℃条件で分析された。HIS1K(anti-penta-HIS)バイオセンサ(18-5120(ForteBio))が使用され、分析用バッファは、10x Kinetics Buffer(18-1042(ForteBio))とPBS pH7.4(10010(Gibco))とを1:9で混合し、最終pHを6.0に製造し、ランニングバッファとして使用した。分析プレートの回転速度は、全ての条件において1,000rpmで進めた。Hisタグを含んでいるヒトFcRn(FCM-H82W4(AcroBiosystems))を2μg/ml濃度にランニングバッファに希釈し、バイオセンサにローディングした。31.25~1000nM IL1T、PET101、リロナセプトまたはカナキヌマブは、結合速度定数(K
a)を測定するために、結合時間は、120秒で進め、続けて、該ランニングバッファにおいて、解離時間を120秒で進め、解離速度定数(K
d)を決定した。K
a(0秒~120秒)値とK
d(120秒~125秒)値は、Octet分析用ソフトウェア(ForteBio)において、1:1結合モデルを介して算出され、それを基に、平衡解離定数(K
D)値を決定した(
図12A及び12B)。
【0081】
試験例9:Fcガンマ受容体に対するPET101の結合能評価
Fcガンマ受容体に対するPET101の結合能評価は、BLI(bio-layer interferometry)分析装備であるOctet Red96e(ForteBio)を利用し、30℃条件で分析した。HIS1K(anti-penta-HIS)バイオセンサ(18-5120(ForteBio))を使用し、分析用バッファは、10× Kinetics Buffer(18-1042(ForteBio))を、PBS pH7.4(10010(Gibco))に希釈し、ランニングバッファとして製造して使用し、分析プレートの回転速度は、1,000rpmで進めた。Hisタグを含んでいるヒトFcγRI(1257-FC(R&D Systems))またはヒトFcγRIIIA(4325-FC(R&D Systems))を、2μg/ml濃度にランニングバッファに希釈し、バイオセンサにローディングした。結合速度定数(K
a)を測定するために、80~1,280nM PET101またはリロナセプトに対し、120秒間の結合を進め、続けて、該ランニングバッファにおいて、120秒間の解離を進め、解離速度定数(K
d)を決定した。FcγRIに係わるK
Dは、Octet分析用ソフトウェア(ForteBio)において、1:1結合モデルを介して算出し、該分析において、曲線当て嵌め(curve fitting)を行った区間は、K
a(0秒~120秒)とK
d(120秒~240秒)とである。その場合、PET101とリロナセプトとのFcγRIに係わるK
D値は、それぞれ19.82nM、45.79nMと確認された(
図13A)。FcγRIIIAに係わるK
Dは、Octet分析用ソフトウェア(ForteBio)において、1:1結合モデルを介して算出され、該分析において、曲線当て嵌めを遂行した区間は、K
a(0秒~120秒)とK
d(120秒~125秒)とである。その場合、PET101とリロナセプトとのFcγRIIIAに係わるK
D値は、それぞれ661nM、913nMとで確認された(
図13B)。
【0082】
試験例10:PET101の投与濃度によるインビボ中和能評価
PET101の濃度によるインビボ中和能評価実験(n=5/グループ)のために、個体当たり約20gの6週齢C57BL/6メスを使用した。動物実験進行と係わり、全ての実験手続きは、開始以前、メディトックス動物実験倫理委員会(IACUC:Institutional Animal Care and Use Committee)承認下で進められた。PET101のインビボ中和能評価は、以前の文献で確立された方法を利用して進められ、C57BL/6メスマウスに、ヒトまたはサルのIL-1αまたはIL-1βを投与したとき、マウス血液内IL-6が増加される現象を利用した(Economides et al., Nat Med. 2003 & Lacy et al. mAbs. 2015)。具体的には、マウスに、人為的に外因性ヒトIL-1βを投入した後、IL-6増加を、PET101がどれほど抑制することができるかということをリロナセプトと比較分析した。まず、0.001(0.3倍)、0.003(1倍)、0.01(3倍)、0.03(10倍)、0.1(30倍)、0.3(100倍)、1(300倍)mg/kgのPET101、または0.0014(0.3倍)、0.0047(1倍)、0.14(3倍)、0.465(10倍)、0.140(30倍)、0.465(100倍)、1.40(300倍)mg/kgのリロナセプトが、マウスに皮下(s.c.)投与された(カッコ中の数値=抗IL-1トラップモル数/後で投与される300ng/kgに該当するヒトIL-1βモル数)。皮下投与24時間後、ヒトIL-1β(10139-HNAE(Sino Biological))が、腹腔(i.p.)投与方式で、300ng/kg(5ml/kg)で投与された。投与2時間後、各マウスの血清が確保された。マウス血清のIL-6定量は、マウスIL-6 DuoSet ELISAキット(DY406(R&D Systems))を利用して行われた。抗IL-1トラップの投与なしに、同量のPBSだけ皮下投与を進め、24時間後、同量のPBSを腹腔投与して確保された血清の定量されたIL-6値を0%に計算し、抗IL-1トラップの投与なしに、同量のPBSだけ皮下投与を進め、24時間後、300ng/kg(5ml/kg) IL-1βを腹腔投与して確保された血清の定量されたIL-6値を100%に計算する。それを基に、各グループの定量値は、抑制能(%)に変換された。分析結果、PET101のEC
50値は、3.32μg/kgであり、リロナセプトのEC
50値は、10.52μg/kgであり、PET101がリロナセプト対比で、約3.17倍すぐれた活性が確認された(
図14)。投与されたIL-1β対比で、PET101またはリロナセプトを3倍(モル数基準)過量投与した場合、PET101は、約80%の抑制能を示す一方、リロナセプトは、約50%の抑制能を示す(
図14)。
【0083】
試験例11:PET101の投与時間によるインビボ中和能評価
PET101の経時的なインビボ中和能評価実験(n=5/グループ(総16グループ))のために、個体当たり約20gの6週齢C57BL/6メスを使用した。動物実験進行と係わり、全ての実験手続きは、開始以前、メディトックス動物実験倫理委員会(IACUC)承認下に進められた。実験は、マウスにPET101を投与した後、多様な時間において、人為的にヒトIL-1βを投入して生成されるIL-6の量を定量する方式で進められ、具体的には、投与後の1日目、2日目、3日目、6日目に残存するPET101が、IL-6をどれほど抑制することができるかということを、リロナセプトと比較分析した。まず、PBS、10mg/kg PET101または10mg/kgリロナセプトを、マウスに皮下(s.c.)投与した。皮下投与、1日後、2日後、3日後、6日後、PBSまたはヒトIL-1β(10139-HNAE(Sino Biological))を腹腔(i.p.)投与方式で、300ng/kg(5ml/kg)で投与した。投与2時間後、各マウスの血清を確保し、マウス血清のIL-6の定量は、マウスIL-6 DuoSet ELISAキット(DY406(R&D Systems))を利用し、試験例5で言及された方式で行われた。定量分析結果、PBS(s.c.)+PBS(i.p.)を投与したグループにおいては、時間にかかわらず、0~6pg/mlのマウスIL-6が定量された(
図15)。それは、正常C57BL/6メスマウスの血液に、IL-6が存在しないか、あるいは微量存在すると解釈される(
図15)。PBS(s.c.)+hIL-1β(i.p.)投与の場合、投与されたヒトIL-1βが、マウスIL-6の発現を誘導し、3,352~3,769pg/mlのIL-6が定量された。PET101が投与された場合、3日目まで、IL-6の誘導を完壁に抑制し、PET101投与6日後、ヒトIL-1βを処理した条件においては、約2,005pg/mlのIL-6が定量された(
図15)。リロナセプト投与群の場合、1日目でのみ、IL-6の誘導が完壁に抑制され、2日目、3日目、6日目に、それぞれ8pg/ml、31pg/ml、2,348pg/mlのIL-6が血液において測定された(
図15)。本分析を介し、PET101は、マウス体内において、ヒトIL-1βを抑制する効能の持続性側面において、リロナセプト対比で、優位にあるということを確認した(
図15)。
【0084】
試験例12:サイノモルガス・サルを利用したPET101の霊長類PK分析
PET101のサイノモルガス・サルを利用したPK分析を行った。対照物質としては、リロナセプトを利用した。PET101、リロナセプトを、皮下(s.c.)投与経路で3mg/kg投与した(n=3/グループ)。0分、30分、1時間、2時間、4時間、8時間、1日、2日、3日、6日、10日、14日、21日、28日に、血液サンプルを確保し、血漿分離を行った。血漿内のPET101、リロナセプトの濃度をELISAによって測定した。簡略に、96ウェルELISA用プレート(3590(Corning))に、1μg/ml高親和度キメリック抗ヒト-IL-1Rマウス抗体を、4℃で一晩中保管することによってコーティングを行い、翌日、PBSTでプレート洗浄を行い、常温で1時間、3% BSA溶液(Sigma)を利用してブロッキングを進め、引き続くPBST洗浄を行った。それぞれの時間において確保された血漿は、適切に希釈し、コーティングされた抗ヒト-IL-1Rウサギ抗体に対する結合反応を誘導した。PBSTを利用した洗浄後、高親和度キメリック抗ヒト-IL-1RAcPウサギ抗体で処理し、1時間、常温で結合反応を誘導した。PBSTを利用して洗浄を進め、ペルオキシダーゼ接合された抗ウサギIgG抗体(7074S(Cell Signaling Technology))で処理し、常温で1時間結合を誘導した。PBSTを利用し、3回プレート洗浄を遂行し、TMB基質溶液(34028(Thermo Fisher Scientific))で処理し、常温である暗室において、20分間、反応を誘導した。1N硫酸溶液(255(DUKSAN))で処理し、反応を終了させ、SpectraMax i3xマルチモードプレートリーダ(i3x(Molecular Devices))を利用し、450nmにおける吸光度を測定した。PET101とリロナセプトとの標準定量試料を作製し、定量に使用し、各濃度を含むナイーブサイノモルガス血清から生成された標準曲線を介し、各時間別に、分析物質の濃度を定量した。3mg/kg皮下投与において、PET101とリロナセプトは、それぞれ約59.3時間、約62.5時間の類似したレベルの半減期(T
1/2)を有することを確認した(表3)。しかしながら、PET101の血中濃度・時間曲線下面積(AUCinf(area under the curve from time 0 to infinity))は、リロナセプト対比で、2.17倍に測定され、サル体内薬物露出において優位にあることが確認された(
図16、表3)。
【表3】
【0085】
比較例2:IL-1とIL-18との二重特異性保有ヘテロ二量体ポリペプチド(118T3)製造
まず、IL1TのFc領域C末端部位に、ヒトIL18BPを融合させたヘテロ二量体を作製した(
図17Aの(A))。ヒトIL18BP(GenBank:BAA76374.1)を構成するアミノ酸残基31~194の遺伝子配列を化学的に合成し(Integrated DNA Technologies、IA、米国)、それぞれの発現のためのベクターにクローニングした。具体的には、IL1R-hinge region-CH2-CH3(S354C、T366W、K447del)-(G4S)2-IL18BP(配列番号10)と、IL1RAcP-hinge region-CH2-CH3(Y349C、T366S、L368A、Y407V、K447del)-IL18BP(配列番号11)とに該当するポリペプチドを発現することができるベクターの同時形質転換(co-transfection)によって発現されるヘテロ二量体を118T3という(
図17Aの(A))。118T3の一時発現は、比較例1と同一方式によって進められ、12日目培養液は、Sartoclear Dynamics
登録商標 LabV(SDLV-1000-40C-E(Sartorius))フィルタシステムを利用して濾過された後、HiTrap MabSelect SuRe(11003493(GE Healthcare))精製カラムを利用して精製された。最終精製産物は、比較例1と同一方式により、ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を利用して分析した(
図17Aの(B))。分析結果、還元条件においては、約110kDaにおいて、単量体混合物が確認され、非還元条件においては、約220kDaにおいて、ヘテロ二量体とホモ二量体との混合物と推定される産物と共に、約110kDaにおいて、アセンブリされていない単量体が確認された(
図17Bの(B))。
【0086】
実施例2:IL-1とIL-18との二重特異性保有κλヘテロ二量体ポリペプチド(118T3v01)製造
PET101のFc領域C末端部位に、ヒトIL18BPを融合させたヘテロ二量体を作製した(
図17Bの(A))。具体的には、IL1R-κ定常領域-hinge region-CH2-CH3(S354C、T366W、K447del)-(G4S)2-IL18BP(配列番号12)と、IL1RAcP-λ定常領域-hinge region-CH2-CH3(Y349C、T366S、L368A、Y407V、K447del)-IL18BP(配列番号13)とに該当するポリペプチドを発現することができるベクターの同時形質転換(co-transfection)によって発現されるヘテロ二量体を118T3v01という(
図17Bの(A))。詳細には、実施例1で言及された方式でもって発現を進めた後12日目に養液を回収し、Sartoclear Dynamics
登録商標 LabV(SDLV-1000-40C-E(Sartorius))フィルタシステムを利用して濾過を行った後、HiTrap MabSelect SuRe(11003493(GE Healthcare))精製カラムを利用し、親和度クロマトグラフィ(affinity chromatography)基盤の精製を進めた。一次精製産物につき、KappaSelect樹脂(17545801(GE Healthcare))と、引続くLambdaFabSelect樹脂(17548201(GE Healthcare))とを利用した親和度クロマトグラフィを遂行した。一次(MabSelect)精製産物、二次(KappaSelect)精製産物、三次(LambdaFabSelect)精製産物の透析、濃縮、定量、SDS-PAGE分析は、実施例1で言及された方式によって遂行された。MabSelect一次精製溶出液の非還元条件SDS-PAGE分析結果において、約130kDaにおいて、アセンブリされていない単量体が確認され、三次精製まで完了した場合、単量体が確認されず、約250kDaにおいて、118T3v01と推定される二量体産物が確認された(
図17Bの(B))。
【0087】
試験例13:酵素結合免疫吸着検査(ELISA)を利用したIL-1/IL-18二重特異性ヘテロ二量体のヒトIL-1β、ヒトIL-18結合能分析
IL-1/IL-18二重特異性ヘテロ二量体である118T3と118T3v01とのヒトIL-1β及びヒトIL-18に対する結合分析を、試験例2と同一方式でもって、ELISA法を利用して行った。分析結果、118T3と118T3v01は、類似したヒトIL-1β結合能を有するということを確認し(
図18(A))、ヒトIL-18結合能も、類似しているということを確認した(
図18(B))。
【0088】
試験例14:表面プラズモン共鳴(SPR)を介する118T3v01の結合特性分析
118T3v01が、ヒトIL-1βとヒトIL-18とに同時に結合するか否かということを確認するために、Biacore T200(GE Healthcare)を利用し、表面プラズモン共鳴分析を行った。以下の分析において使用された全てのサンプルに、希釈のために、かつ移動相として、1x HBS-EP+バッファ(BR100669(GE Healthcare))を使用した。詳細には、Human Antibody Capture Kit(BR100839(GEHealthcare))に含まれた抗ヒトFc抗体を、アミンカップリングキット(BR100050(GEHealthcare))を利用し、製造社マニュアルにより、Series S CM5センサチップ(BR100530(GE Healthcare))に固定した。抗ヒトFcが固定されたセンサに、100nM 118T3v01(25μg/ml)を、10μl/分流速で、1分間ローディングし、2分間、平衡状態を維持し、センサ表面に1766.1RUの118T3v01がローディングされることを確認した(
図19)。その後、続けて、3分間、200nMヒトIL-18(10119-HNCE(Sino Biological))の結合反応を誘導させ、5分間、解離反応を誘導させ、平衡状態であるとき、ヒトIL-18は、134.5RUが結合することを確認した(
図19)。続けて、200nMヒトIL-1β(10139-HNAE(Sino Biological))の結合反応と解離反応とを、それぞれ3分間、5分間進め、ヒトIL-1βは、137.5RU結合することを確認した。表面プラズモン共鳴分析におけるRU値は、センサ表面にローディングされた物質の質量に比例し、1RUは、1pg/mm
2の物質がセンサに固定されたり、相互作用によって結合されたりすることを意味する。118T3v01の分子量は、約250kDaであり、ヒトIL-1βとヒトIL-18は、分子量が約18.4kDaである(
図19)。それを基に、1個の118T3v01タンパク質は、1.03個のヒトIL-18と結合し、同時に1.06個のヒトIL-1βと結合することを確認した(
図19)。118T3v01は、Fc領域C末端に、ヒトIL-18と結合することができるヒトIL18BPタンパク質2個が結合されているが、それらのうち1個のみがIL-18と結合すると確認された(
図19)。それは、結合された2個のIL18BPタンパク質間に、立体障害(sterich indrance)が生じていることを示唆する。
【0089】
実施例3:IL-1とIL-18との二重特異性保有κλヘテロ二量体最適化(118T3B)
試験例14において、118T3v01に存在するヒトIL18BPタンパク質2個のうち1個は、ターゲット結合に参与していないということを確認した。不要に結合された1個のIL18BPを除去し、分子量を減らすために、ノブ部分のIL18BPを除去した118T3Bを作製した(
図20(A))。118T3Bを発現するために、IL1R-κ定常領域-hinge region-CH2-CH3(S354C、T366W)(配列番号8)と、IL1RAcP-λ定常領域-hinge region-CH2-CH3(Y349C、T366S、L368A、Y407V、K447del)-IL18BP(配列番号13)とをコーディングする発現ベクターでもって、比較例1で言及された方式で発現が行われ、実施例1で言及された方式で精製が行われた(
図20(B))。SDS-PAGE分析結果、還元条件において、約90kDaと約130kDaとの単量体が確認され、非還元条件において、三次精製後、単量体が除去され、約220kDaにおいて、118T3Bヘテロ二量体と推定される高純度物質が確保されたことを確認した(
図20(B))。
【0090】
試験例15:IL-1とIL-18とに対する118T3Bの結合能評価
ヒトIL-1α(200-LA(R&D Systems))、ヒトIL-1β(201-LB(R&D Systems))、サルIL-1β(1318-RL(R&D Systems))、マウスIL-1β(401-ML(R&D Systems))、ヒトIL-18(10139-HNAE(Sino Biological))、サルIL-18(2548-RM(R&DSystems))、マウスIL-18(50073-MNCE(Sino Biological))に対する118T3Bの結合能評価は、BLI(bio-layer interferometry)分析装備であるOctet Red96e(ForteBio)を利用し、30℃条件で行われた。抗ヒトIgG Fc Capture(AHC)バイオセンサ(ForteBio、18-5063)が使用され、分析用バッファは、10x Kinetics Buffer(18-1042(ForteBio))を、PBS pH7.4(10010(Gibco))で希釈し、ランニングバッファに製造して使用し、分析プレートの回転速度は、1,000rpmで進めた。118T3Bは、20μg/ml濃度で、ランニングバッファに希釈し、バイオセンサに5分間ローディングした。0.25~8nMのヒトIL-1α、ヒトIL-1β、サルIL-1β、マウスIL-1βは、結合速度定数(K
a)を測定するために、結合時間は、300秒で進めら、続けて、ランニングバッファでもって、解離時間を1,200秒で進め、解離速度定数(K
d)を決定した(
図21A及び
図21B)。1~64nMのヒトIL-18、サルIL-18、マウスIL-18は、結合速度定数(K
a)を測定するために、結合時間は、300秒で進められ、続けて、ランニングバッファにおいて、解離時間を600秒で進め、解離速度定数(K
d)を決定した(
図21C)。K
a値とK
d値は、Octet分析用ソフトウェア(ForteBio)において、1:1結合モデルを介して測定し、それを基に、平衡解離定数(K
D)値を決定した(
図21A、
図21B及び
図21C)。
【0091】
試験例16:レポータ細胞株を利用した、IL-1/IL-18二重特異性ヘテロ二量体のIL-1、IL-18信号伝達経路抑制能評価
IL-1/IL-18二重特異性ヘテロ二量体である118T3v01と118T3BとのヒトIL-1β信号伝達経路抑制能評価のために、試験例4で言及された、ヒトIL-1βレポータ細胞株(hkb-il1b(Invivogen))及び実験方法を利用した。分析結果、118T3v01と118T3Bは、それぞれ123pM、135pMの類似したEC
50値を有することを確認した(
図22(A))。118T3v01と118T3BとのヒトIL-18に対する抑制能を分析するために、IL-18レポータHEK293細胞株(hkb-hmil18(Invivogen))を利用し、1ng/mlのヒトIL-18(10139-HNAE(Sino Biological))を使用し、試験例4と同一方法で分析を進めた。分析結果、118T3v01と118T3Bは、それぞれ、392pM、305pMの類似したEC
50値を有することを確認した(
図22(B))。
【0092】
実施例4:IL-1とTGF-βとの二重特異性保有κλヘテロ二量体ポリペプチド(PET301)製造
ヒトTGFβRII(GenBank:ACZ58377.1)の細胞外部位を構成するアミノ酸残基24ないし184のアミノ酸残基を暗号化する遺伝子配列を、化学的に合成した(Integrated DNA Technologies、IA、米国)。合成された遺伝子は、XhoI制限部位、XbaI制限部位を介し、それぞれの発現のためのベクターにクローニングして得られた陽性クローンは、DNAシークエンシングを介して検証された。具体的には、IL1R-κ定常領域-hinge region-CH2-CH3(S354C、T366W、K447A)-(G4S)4G-TGFβRII(配列番号14)と、IL1RAcP-λ定常領域-hinge region-CH2-CH3(Y349C、T366S、L368A、Y407V、K447A)-(G4S)4G-TGFβRII(配列番号15)とに該当するポリペプチドを発現するベクターの同時形質転換により、生産細胞株で発現されるヘテロ二量体をPET301と言う(
図23(A))。IL-1/TGF-β二重特異性ヘテロ二量体は、比較例1で言及された方式によって一時発現が行われ、実施例1で言及された方式で精製が行われた。各精製段階別産物は、ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を利用して分析が行われた(
図23(B))。分析結果、還元条件においては、約110kDaにおいて、単量体が確認され、非還元条件においては、三次精製後、単量体が除去され、約220kDaにおいて、PET301ヘテロ二量体と推定される産物が確認された(
図23(B))。
【0093】
試験例17:酵素結合免疫吸着検査(ELISA)を利用したPET301のヒトIL-1β、ヒトTGF-βに対する結合能分析
PET301のヒトIL-1β、ヒトTGF-βに対する結合分析を、ELISA法を利用して行った。96ウェル免疫吸着検査用プレート(3590(Corning))に、60ng/ウェル濃度で、ヒトIL-1β(10139-HNAE(Sino Biological))、ヒトTGF-β1(R&D Systems、7754-BH)またはヒトTGF-β3(8420-B3(R&D Systems))をコーティングした。翌日、Phosphate Buffered Saline with Tween-20(TEKNOVA、P1192(PBST))を利用し、プレート洗浄を行った。1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA:bovine serum albumin)が添加されたPBSTを利用してブロッキングを行い、常温で1時間インキュベーションした後、3回プレート洗浄を進めた。PET301は、適切な濃度に、1%(w/v)BSA含有PBSTに希釈し、各ウェルにおいて処理され、1時間、常温で結合を誘導し、3回プレート洗浄を進めた。ペルオキシダーゼが結合された抗ヒトIgGFc塩素抗体(31413(Invitrogen))を、1%(w/v)BSA含有PBSTに希釈(1:10,000)し、結合を誘導し、PBSTを利用し、3回洗浄を行い、TMB基質溶液(34028(Thermo Fisher Scientific))を反応させた後、450nmにおける吸光度を測定した。測定された吸光度を基に、EC
50値をPrism7ソフトウェア(GraphPad Software)を利用して算出した(
図24Aの(A)、
図24Aの(B)、
図24Bの(A)、表4)。
【0094】
PET301とヒトTGF-β2との結合能の分析は、96ウェル免疫吸着検査用プレート(3590(Corning))に、60ng/ウェル濃度にPET301をコーティングして行った。1%(w/v)BSA含有PBSTにおいて、常温1時間、ブロッキングを進め、適切な濃度のヒトTGF-β2(100-35B(Peprotech))は、1%(w/v)BSA含有PBSTに希釈し、常温で1時間結合反応を誘導し、抗TGF-β2ビオチン標識抗体(biotinylated antibody)(BAF302(R&D Systems))で処理し、常温で1時間、結合反応を誘導した。ストレプトアビジン-HRP(R&D Systems)で処理し、常温で30分間、結合反応を誘導し、その後の過程は、前述のところと同じ方式で遂行した(
図24Bの(B)、表4)。
【0095】
分析結果、PET301は、ヒトIL-1β、ヒトTGF-β1、ヒトTGF-β3につき、それぞれ0.226nM、0.799nM、0.357nMのEC
50値を有し、それら抗原に高親和度を有することを確認した(表4)。PET301は、ヒトTGF-β2に、3.081nMのEC
50値を有し、相対的に低い親和度を有すると確認された(表4)。
【表4】
【0096】
試験例18:レポータ細胞株を利用した、PET301のIL-1とTGF-βとの信号伝達経路抑制能評価
PET301のヒトIL-1β信号伝達経路抑制能評価は、試験例4で言及された方式と同一に、IL-1βレポータHEK293細胞株(hkb-il1b(Invivogen))を使用して進められた。分析結果、IL-1βレポータHEK293細胞株においてPET301は、1.056nMのEC
50値を有することを確認した(
図25Aの(A))。PET301のヒトTGF-β1、ヒトTGF-β2、ヒトTGF-β3に対する抑制能を分析するために、TGF-βレポータHEK293細胞株(hkb-tgfb(Invivogen))を使用し、細胞株の活性化のために、1ng/mlヒトTGF-β1(7754-BH(R&D Systems))、10ng/mlヒトTGF-β2(100-35B(Peprotech))または1ng/mlヒトTGF-β3(8420-B3(R&D Systems))を使用した。PET301のTGF-β抑制能分析には、Quanti-Blue
TMソリューション(rep-qbs(Invivogen))を使用し、SEAPの発現を定量した。分析結果、PET301は、ヒトTGF-β1、ヒトTGF-β3につき、それぞれ30pM、89pMのEC
50値を有し、ヒトTGF-β2は、効率的に抑制することができないことを確認した(
図25Aの(B)、
図25Bの(A)、(B))。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)N末端からC末端方向に、第1目的タンパク質、第1リンカ及び免疫グロブリンの第1 Fc部位を含む第1ポリペプチドと、
ii)N末端からC末端方向に、第2目的タンパク質、第2リンカ及び免疫グロブリンの第2 Fc部位を含む第2ポリペプチドと、を含み、
前記第1目的タンパク質と前記第2目的タンパク質は、互いに異なるタンパク質であり、
前記第1リンカ及び前記第2リンカは、それぞれκ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体、及びλ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体である、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項2】
λ型軽鎖不変部位(C
Lλ)の変異体は、C末端セリンが欠失されたものである、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項3】
κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)の変異体、λ型軽鎖不変部位(C
Lλ)の変異体、またはそれらそれぞれは、重鎖不変部位CH1とジスルフィド結合を形成するシステインが、セリン、アラニンまたはバリンで置換されたものである、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項4】
第1ポリペプチドのC末端、または第2ポリペプチドのC末端のうち1以上に、第3目的タンパク質をさらに含むものである、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項5】
単一特異性または多重特異性を有する、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項6】
該目的タンパク質は、リガンド、受容体、サイトカイン、酵素またはペプチドである、請求項1に記載の ヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項7】
該受容体は、サイトカイン受容体である、請求項6に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項8】
該サイトカインは、インターロイキン-1(IL1)、インターロイキン-2(IL2)、インターロイキン-3(IL3)、インターロイキン-4(IL4)、インターロイキン-5(IL5)、インターロイキン-6(IL6)、インターロイキン-11(IL11)、インターロイキン-13(IL13)、インターロイキン-15(IL15)、インターロイキン-18(IL18)、インターロイキン-23(IL23)、インターロイキン-31(IL31)、インターロイキン-33(IL33)、インターロイキン-35(IL35)、インターロイキン-36(IL36)、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、顆粒球大食細胞コロニー刺激因子(GM-CSF)、ガンマ-インターフェロン(IFN-γ)、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)及び腫瘍懐死因子-アルファ(TNF-α)で構成されたグループのうちから選択される1以上である、請求項7に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項9】
該第1目的タンパク質と該第2目的タンパク質のうち一つは、インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)であり、他の一つは、インターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)である、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項10】
該第1目的タンパク質は、インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)であり、該第1リンカは、κ型軽鎖不変部位(C
Lκ)、またはその変異体であり、該第2目的タンパク質は、インターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)であり、該第2リンカは、λ型軽鎖不変部位(C
Lλ)、またはその変異体である、請求項9に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項11】
インターロイキン-1受容体タイプ1(IL1R1)及びインターロイキン-1受容体付属タンパク質(IL1RAcP)は、それぞれそれらの細胞外領域である、請求項9に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項12】
該第3目的タンパク質として、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)またはタイプII形質転換成長因子-ベータ受容体(TGFβRII)を含むものである、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項13】
該第1ポリペプチドのC末端と、該第2ポリペプチドのC末端のうち一つに、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)を含むものである、請求項12に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項14】
該第2ポリペプチドのC末端に、インターロイキン-18結合タンパク質(IL18BP)を含むものである、請求項13に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項15】
該第1ポリペプチドのC末端と、該第2ポリペプチドのC末端のいずれにも、タイプII形質転換成長因子-ベータ受容体(TGFβRII)を含むものである、請求項12に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項16】
該第1 Fc部位及び該第2 Fc部位は、ヘテロ二量体の形成が促進されるように、CH3領域が変異されたものである、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項17】
該第1 Fc部位及び該第2 Fc部位のCH3領域は、ノブ・イントゥ・ホール変異を含むものである、請求項16に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項18】
該リンカは、Fc部位内ヒンジのN末端に結合されるものである、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項19】
該ポリペプチドのC末端と、目的タンパク質との間に、第3リンカをさらに含むものである、請求項1に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【請求項20】
該第3リンカは、GSリンカである、請求項19に記載のヘテロ二量体Fc融合タンパク質。
【国際調査報告】