(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】構造物の寿命評価方法及び評価システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230816BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506146
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 KR2021009780
(87)【国際公開番号】W WO2022025618
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0095746
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523030555
【氏名又は名称】マックテック コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム スン ス
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA12
2G024CA17
2G024DA01
2G024DA16
2G024FA06
2G024FA15
2G024FA17
(57)【要約】
本発明は、構造物の寿命評価方法及び評価システムに関し、構造物の寿命評価方法は、前記被測定構造物を準備する段階;前記被測定構造物の発熱量又は吸熱量を測定する段階;前記測定された発熱量又は吸熱量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定構造物を準備する段階;
前記被測定構造物の発熱量又は吸熱量を測定する段階;
前記測定された発熱量又は吸熱量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び
前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含む構造物の寿命評価方法。
【請求項2】
前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階では、
前記被測定構造物の寿命末期に対応するエントロピーの減少量、発熱量又は吸熱量と、任意の時点に測定した前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量、発熱量又は吸熱量との間の関係式を用いる、請求項1に記載の構造物の寿命評価方法。
【請求項3】
前記関係式は、下記の数式で定義される、請求項2に記載の構造物の寿命評価方法。
t
L=k(H
L/H
i)[(T
P-T)/T
P]
2exp[+Q
ΔS/R(1/T-1/T
P)]
ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、T
Pは、最大発熱量が表れるピーク温度で、Q
ΔSは、エントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、H
Lは寿命末期の発熱量又は吸熱量で、H
iは任意の時点の発熱量又は吸熱量である。
【請求項4】
前記エントロピー減少のための活性化エネルギー(Q
ΔS)は、前記最大発熱量が表れるピーク温度(T
P)を加熱速度の関数として示すKissinger方法で決定される、請求項3に記載の構造物の寿命評価方法。
【請求項5】
前記被測定構造物の圧縮応力を実際に測定する段階;及び
前記測定された圧縮応力と、前記発熱量に対応する予測された圧縮応力との差から前記予測された残余寿命を補正する段階;をさらに含む、請求項1に記載の構造物の寿命評価方法。
【請求項6】
前記発熱量の測定は、示差走査熱量法(Differential Scanning Calorimetry:DSC)、DTA(Differential Thermal Analysis)、TGA(Thermogravimetric Analysis)、TMA(Thermomechanical Analysis)、DMA(Dynamic Mechanical Analysis)又はこれらの組み合わせによって行われる、請求項1に記載の構造物の寿命評価方法。
【請求項7】
被測定構造物を準備する段階;
前記被測定構造物の圧縮応力又は収縮量を測定する段階;
前記測定された圧縮応力又は収縮量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び
前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含む構造物の寿命評価方法。
【請求項8】
被測定構造物を準備する段階;
前記被測定構造物の圧縮応力又は収縮量を測定する段階;
前記測定された圧縮応力又は収縮量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び
前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含み、
前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階では、
前記被測定構造物の寿命末期に対応するエントロピーの減少量又は圧縮応力と、任意の時点に測定した前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量又は圧縮応力との間の関係式を用いており、
前記関係式は、下記の数式で定義される構造物の寿命評価方法。
t
L=k(σ
L/σ
i)[(T
P-T)/T
P]
2exp[+Q
ΔS/R
*(1/T-1/T
P)]
ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、T
Pは、最大発熱量が表れるピーク温度で、Q
ΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、σ
Lは寿命末期の圧縮応力で、σ
iは任意の時点の圧縮応力である。
【請求項9】
被測定構造物を準備する段階;
前記被測定構造物の格子サイズを測定する段階;
前記測定された格子サイズを用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び
前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含む構造物の寿命評価方法。
【請求項10】
前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階では、
前記被測定構造物の寿命末期に対応するエントロピーの減少量又は格子サイズと、任意の時点に測定した前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量又は格子サイズとの間の関係式を用いており、
前記関係式は、下記の数式で定義される、請求項9に記載の構造物の寿命評価方法。
t
L=k(Δa
L/Δa
i)[(T
P-T)/T
P]
2exp[+Q
ΔS/R
*(1/T-1/T
P)]
ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、T
Pは、最大発熱量が表れるピーク温度で、Q
ΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、Δa
Lは、前記被測定構造物の寿命末期における格子の減少量で、Δa
iは、任意の時点の前記被測定構造物における格子の減少量である。
【請求項11】
被測定構造物を準備する段階;
前記被測定構造物の物性を測定する段階;
前記測定された物性を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び
前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含み、
前記物性は、前記被測定構造物の硬度、起電力、電気抵抗、バルクハウゼンノイズ振幅、せん断係数(shear modulus)、弾性係数(elastic modulus or Young’s modulus)又はこれらの組み合わせを含み、
前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階では、
前記エントロピーの減少量に基づいた前記被測定構造物の寿命末期での物性変化量と、任意の時点での前記被測定構造物の物性変化量との間の関係式を用いており、
前記関係式は、下記の数式で定義される構造物の寿命評価方法。
t
L=k(ΔΠ
L/ΔΠ
i)[(T
P-T)/T
P]
2exp[+Q
ΔS/R
*(1/T-1/T
P)]
ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、T
Pは、最大発熱量が表れるピーク温度で、Q
ΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、ΔΠ
Lは、寿命末期における物性の変化量で、ΔΠ
iは、任意の時点における物性の変化量である。
【請求項12】
準備された被測定構造物の発熱量又は吸熱量を測定したり、前記構造物の圧縮応力又は収縮量を測定したり、前記被測定構造物の格子サイズを測定したり、前記被測定構造物の物性を測定する測定装置;及び
前記測定装置から提供を受けた、測定された発熱量、吸熱量、圧縮応力、収縮量又は前記物性を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定し、前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する電子装置;を含み、
前記物性は、前記被測定構造物の硬度、起電力、電気抵抗、バルクハウゼンノイズ振幅、せん断係数(shear modulus)、弾性係数(elastic modulus or Young’s modulus)又はこれらの組み合わせを含む構造物の寿命評価システム。
【請求項13】
前記電子装置は、
前記被測定構造物の寿命末期におけるエントロピーの減少量、発熱量、吸熱量、格子サイズ又は圧縮応力と、任意の時点の前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量、発熱量、吸熱量、格子サイズ又は圧縮応力との間の関係式を用いる、請求項12に記載の構造物の寿命評価システム。
【請求項14】
前記関係式は、下記の数式で定義される、請求項13に記載の構造物の寿命評価システム。
t
L=k(H
L/H
i)[(T
P-T)/T
P]
2exp[+Q
ΔS/R(1/T-1/T
P)]、
t
L=k(σ
L/σ
i)[(T
P-T)/T
P]
2exp[+Q
ΔS/R
*(1/T-1/T
P)]、
t
L=k(Δa
L/Δa
i)[(T
P-T)/T
P]
2exp[+Q
ΔS/R
*(1/T-1/T
P)]
又は
t
L=k(ΔΠ
L/ΔΠ
i)[(T
P-T)/T
P]
2exp[+Q
ΔS/R
*(1/T-1/T
P)]
ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、T
Pは、最大発熱量が表れるピーク温度で、Q
ΔSは、エントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、H
Lは寿命末期の発熱量又は吸熱量で、H
iは任意の時点の発熱量又は吸熱量で、σ
Lは寿命末期の圧縮応力で、σ
iは任意の時点の圧縮応力で、Δa
Lは、前記被測定構造物の寿命末期における格子の減少量で、Δa
iは、任意の時点の前記被測定構造物における格子の減少量で、ΔΠ
Lは、寿命末期における物性の変化量で、ΔΠ
iは、任意の時点における物性の変化量である。
【請求項15】
前記エントロピー減少のための活性化エネルギー(Q
ΔS)は、前記最大発熱量が表れるピーク温度(T
P)を加熱速度の関数として示すKissinger方法で決定される、請求項14に記載の構造物の寿命評価システム。
【請求項16】
前記電子装置は、
前記被測定構造物の圧縮応力を実際に測定し、
前記測定された圧縮応力と、前記発熱量又は吸熱量に対応する予測された圧縮応力との差から前記予測された残余寿命を補正する、請求項12に記載の構造物の寿命評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寿命評価技術に関し、より詳細には、構造物の寿命評価方法及び評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球上に存在する基盤施設(infrastructure)を含む全ての構造物は、稼働年数が増加するほど老化しながら、災難的崩壊事故を引き起こす確率が高くなるので、前記構造物の持続可能性(sustainability)評価と共に残余寿命を予測することは、公共の安全性及び経済性の側面で非常に重要である。近年、原子力産業においては、原子力発電の寿命延長を韓国では40年から60年、海外、特に米国では60年から80年に推進しており、このために優先的に解決しなければならない事項は、圧力容器、配管、蒸気発生器、加圧器などの各核心構造物及び電線ケーブルの持続可能性に対する保障である。
【0003】
併せて、火力発電、石油化学施設及び地域暖房のボイラーなどの構造物は高温で稼働するので、高温構造物に対する持続可能性及び寿命評価技術も、これらの産業分野では切実に要求される。
【0004】
上述した各構造物の老化と関連して、現在までは、各外部因子、例えば、外部応力、疲労、クリープ、環境、初期材料因子によって老化程度が決定されている。しかし、構造物の老化現象自体は未だに明確に究明されていない状態であり、これによって、各外部因子をベースとする構造物の持続可能性及び寿命評価は断片的になるおそれがあり、正確な結果が提供されていない。
【0005】
その代案として、前記構造物の寿命評価よりは、構造物内への欠陥の形成有無を非破壊技術で探知し、前記構造物の安全を診断する非破壊安全診断技術がある。しかし、前記非破壊安全診断技術でも、欠陥の形成理由は特定できないので、前記構造物の持続可能性を正確に予測しにくく、特に、寿命に影響を及ぼす0.25mm以下の微細な欠陥は技術的にも測定しにくいという問題がある。
【0006】
また、誤った寿命評価により、多くの構造物の崩壊事故が韓国内外で起こっている現実であり、このような構造物の崩壊事故の趨勢は、老朽構造物の稼働年数が徐々に増加するほどさらに深化される。
【0007】
したがって、構造物の寿命を正確に評価できる寿命評価方法及びシステムが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、構造物の寿命を正確に評価できる構造物の寿命評価方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、構造物の寿命を正確に評価できる構造物の寿命評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施例によると、被測定構造物を準備する段階;前記被測定構造物の発熱量又は吸熱量を測定する段階;前記測定された発熱量又は吸熱量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含む構造物の寿命評価方法が提供され得る。前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階では、前記被測定構造物の寿命末期に対応するエントロピーの減少量、発熱量又は吸熱量と、任意の時点に測定した前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量、発熱量又は吸熱量との間の関係式を用いることができる。前記関係式は、tL=k(HL/Hi)[(TP-T)/TP]2exp[+QΔS/R(1/T-1/TP)]として定義され得る。ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、TPは発熱の最大温度で、QΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、HLは、寿命末期に対応する発熱量又は吸熱量で、Hiは、任意の時点に測定された発熱量又は吸熱量である。前記エントロピー減少のための活性化エネルギー(QΔS)は、加熱速度による最大発熱温度を決定した後、前記最大発熱温度の関数で加熱速度値の変化を示すKissinger方法によって決定され得る。
【0011】
前記被測定構造物の圧縮応力を実際に測定する段階;及び前記測定された圧縮応力と、前記発熱量に対応する予測された圧縮応力との差から前記予測された残余寿命を補正する段階;がさらに含まれ得る。前記発熱量の測定は、示差走査熱量法(Differential Scanning Calorimetry:DSC)、DTA(Differential Thermal Analysis)、TGA(Thermogravimetric Analysis)、TMA(Thermomechanical Analysis)、DMA(Dynamic Mechanical Analysis)又はこれらの組み合わせによって行われ得る。
【0012】
本発明の他の実施例によると、被測定構造物を準備する段階;前記被測定構造物の圧縮応力又は収縮量を測定する段階;前記測定された圧縮応力又は収縮量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含む構造物の寿命評価方法が提供され得る。前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階では、前記被測定構造物の寿命末期に対応するエントロピーの減少量又は圧縮応力と、任意の時点に測定した前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量又は圧縮応力との間の関係式を用いており、前記関係式は、tL=k(σL/σi)[(TP-T)/TP]2exp[+QΔS/R*(1/T-1/TP)]として定義され得る。ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、TPは発熱の最大温度で、QΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、σLは、寿命末期に対応する圧縮応力で、σiは、任意の時点に測定された圧縮応力である。
【0013】
本発明の更に他の実施例によると、被測定構造物を準備する段階;前記被測定構造物の格子サイズを測定する段階;前記測定された格子サイズを用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含む構造物の寿命評価方法が提供され得る。前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階では、前記被測定構造物の寿命末期に対応するエントロピーの減少量又は格子サイズと、任意の時点に測定した前記被測定構造物のエントロピーの減少量又は格子サイズとの間の関係式を用いており、前記関係式は、tL=k(ΔaL/Δai)[(TP-T)/TP]2exp[+QΔS/R*(1/T-1/TP)]として定義され得る。ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、TPは発熱の最大温度で、QΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、ΔaLは、前記被測定構造物の寿命末期での格子の減少量で、Δaiは、任意の時点での前記被測定構造物における格子の減少量である。
【0014】
本発明の更に他の実施例によると、被測定構造物を準備する段階;前記被測定構造物の物性を測定する段階;前記測定された物性を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階;及び前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階;を含む構造物の寿命評価方法が提供され得る。前記物性は、前記被測定構造物の硬度、起電力、電気抵抗、バルクハウゼンノイズ振幅、せん断係数(shear modulus)、弾性係数(elastic modulus or Young’s modulus)又はこれらの組み合わせを含むことができる。
【0015】
本発明の更に他の実施例によると、準備された被測定構造物の発熱量又は吸熱量を測定したり、前記構造物の圧縮応力又は収縮量を測定したり、前記被測定構造物の格子サイズを測定したり、前記被測定構造物の物性を測定する測定装置;及び前記測定装置から提供を受けた、測定された発熱量、吸熱量、圧縮応力、収縮量又は前記物性を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定し、前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する電子装置;を含む構造物の寿命評価システムが提供され得る。前記物性は、前記被測定構造物の硬度、起電力、電気抵抗、バルクハウゼンノイズ振幅、せん断係数(shear modulus)、弾性係数(elastic modulus or Young’s modulus)又はこれらの組み合わせを含むことができる。
【0016】
前記プロセッサは、前記被測定構造物の寿命末期に対応するエントロピーの減少量、発熱量、吸熱量、格子サイズ又は圧縮応力と、任意の時点に測定した前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量、発熱量、吸熱量、格子サイズ又は圧縮応力との間の関係式を用いることができる。前記関係式は、tL=k(HL/Hi)[(TP-T)/TP]2exp[+QΔS/R(1/T-1/TP)]、tL=k(σL/σi)[(TP-T)/TP]2exp[+QΔS/R*(1/T-1/TP)]、又はtL=k(ΔaL/Δai)[(TP-T)/TP]2exp[+QΔS/R*(1/T-1/TP)]として定義され得る。ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、TPは発熱の最大温度で、QΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、HLは、寿命末期に対応する発熱量又は吸熱量で、Hiは、任意の時点に測定された発熱量又は吸熱量で、σLは、寿命末期に対応する圧縮応力で、σiは、任意の時点に測定された圧縮応力で、ΔaLは、前記被測定構造物の寿命末期での格子の減少量で、Δaiは、任意の時点での前記被測定構造物における格子の減少量である。前記エントロピー減少のための活性化エネルギー(QΔS)は、加熱速度による最大発熱温度を決定した後、前記最大発熱温度の関数で加熱速度値の変化を示すKissinger方法によって決定され得る。また、前記プロセッサは、前記被測定構造物の圧縮応力を実際に測定し、前記測定された圧縮応力と、前記発熱量又は吸熱量に対応する予測された圧縮応力との差から前記予測された残余寿命を補正することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施例によると、被測定構造物の発熱量又は吸熱量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定し、前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測することによって、非破壊的でありながらも迅速且つ正確に構造物の寿命を評価できる構造物の寿命評価方法が提供され得る。
【0018】
また、本発明の他の実施例によると、上述した利点を有する構造物の寿命評価システムが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1a】本発明の実施例に係る構造物の寿命評価方法を説明するためのフローチャートである。
【
図1b】本発明の実施例に係る構造物の寿命評価方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】本発明の実施例に係る構造物の寿命評価システムの構成図である。
【
図3】日照り時に生じる土の亀裂(mud cracks)損傷現象を示す図である。
【
図4】水冷及び炉冷Alloy 600の加熱時における発熱挙動を示すグラフである。
【
図5】400℃での時効処理時における水冷及び炉冷Alloy 600の格子の収縮挙動を示すグラフである。
【
図6a】インク素材の性能と発熱の関係を示すグラフである。
【
図6b】インク素材の性能と発熱の関係を示すグラフである。
【
図7a】316ステンレス鋼を400℃で時効処理したときに観測される硬度の増加現象を示すグラフである。
【
図7b】475℃での熱処理時におけるAlloy 690の熱伝導度の増加現象を示す図である。
【
図8a】100℃での時効処理時における、130ppm C炭素鋼の起電力を示すグラフである。
【
図8b】100℃での時効処理時における、130ppm C炭素鋼のバルクハウゼンノイズrms信号の最大振幅を示すグラフである。
【
図9】オーステナイト領域で均質化処理した後、水冷した炭素鋼の比熱を示すグラフである。
【
図10a】30%冷間加工された316Lステンレス鋼を400℃で時効処理するときの、時効時間による電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図10b】Fe-Ni-Cの鉄系合金を各温度で3時間にわたって熱処理した後で測定した電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図11】溶体化処理(solution treatment)した後、時効処理されたAl-3.2Mg-0.18Cu合金のDSC熱量(thermogram)を示す図である。
【
図12】86ppmの水素を固溶したZr-2.5Nb試験片の加熱及び冷却時に観測された水素化物を溶解及び析出するときの弾性係数の変化を示す図である。
【
図13】10℃/minの速度で冷却するときの106ppmの水素を有するジルカロイ(Zircaloy)-2の比熱を示す図である。
【
図14】DSCで測定した原子力発電所における電線配管の材料であるXLPE(cross-linked polyethylene)の老化による吸収熱量/発熱量の増加を示すグラフである。
【
図15】炭素の濃度によるAlloy 600のエントロピー減少(又は規則化(ordering))のための活性化エネルギーを示すグラフである。
【
図16】原子力発電所の炉心に使用されるAlloy 600部品の稼働時間による累積損傷数を示すグラフである。
【
図17】本発明の実施例で予測されたAlloy 600の寿命予測値と、原電稼働条件及び実験室条件で応力腐食亀裂(stress corrosion cracking:SCC)試験によって決定した寿命測定値とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
【0021】
本発明の各実施例は、当該技術分野で通常の知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものであって、下記の実施例は、様々な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記の実施例に限定されることはない。むしろ、これらの実施例は、本開示をさらに充実且つ完全にし、当業者に本発明の思想を完全に伝達するために提供されるものである。
【0022】
また、図面において、各層の厚さや大きさは、説明の便宜及び明確性のために誇張する場合があり、図面上での同一の符号は、同一の要素を称する。本明細書で使用された用語である「及び/又は」は、該当の列挙された項目のうちいずれか一つ及び一つ以上の全ての組み合わせを含む。
【0023】
本明細書で使用された用語は、特定の実施例を説明するために使用され、本発明を制限するためのものではない。本明細書で使用された単数の形態は、文脈において異なる場合を明確に指摘するものでない限り、複数の形態を含み得る。また、本明細書で使用される「含む(comprise)」及び/又は「含む(comprising)」は、言及した形状、数字、段階、動作、部材、要素及び/又はこれらのグループの存在を特定するものであって、一つ以上の他の形状、数字、動作、部材、要素及び/又は各グループの存在又は付加を排除するものではない。
【0024】
本明細書において、「第1」、「第2」などの用語が多様な部材、部品、領域、及び/又は部分を説明するために使用されるが、これらの部材、部品、領域、及び/又は部分は、これらの用語によって限定されてはならないことは自明である。これらの用語は、一つの部材、部品、領域又は部分を他の領域又は部分と区別するためにのみ使用される。よって、以下で説明する第1部材、部品、領域又は部分は、本発明の教示から逸脱しない限り、第2部材、部品、領域又は部分を称することができる。
【0025】
以下、本発明の各実施例は、本発明の理想的な各実施例を概略的に示す各図面を参照して説明する。各図面において、例えば、各部材の大きさ及び形状は、説明の便宜及び明確性のために誇張する場合があり、実際に具現するとき、図示した形状の各変形が予想され得る。よって、本発明の実施例は、本明細書に示した領域の特定の形状に制限されたものと解釈してはならない。
【0026】
本発明の各実施例を説明するために、熱力学第二法則が考慮される必要がある。熱力学第二法則によると、系の変化した熱量(ΔH)と温度(T)の比率として、エントロピー(S)の変化量は、下記の[数1]によって定義される。
【0027】
【0028】
ここで、Jは熱量の単位で、Kは絶対温度の単位である。
【0029】
系の熱量が減少すると、系のエントロピーは-ΔH/Tだけ減少する一方で、系の熱量が増加すると、系のエントロピーは+ΔH/Tだけ増加する。例えば、温度が高い物体から低い温度の周囲(cold surrounding)にΔHだけ熱量が移動すると、物体のエントロピーは-ΔH/Thotだけ減少するが、周囲のエントロピーは+ΔH/Tcoldだけ増加し得る。前記物体と周囲のエントロピーとの和は、下記の[数2]によって表現される。
【0030】
【0031】
[数2]において、Thot>Tcoldであるので、[数2]のエントロピーの和(ΔS)は0より大きい。したがって、熱い物体から冷たい周囲に熱が伝達されることは、エントロピーが増加することを示すことができる。
【0032】
これと同様に、熱の移動と共に、構造物のエントロピーが減少又は増加すると、これによる構造物の物理的変化をもたらし得る。具体的には、エントロピーの減少は、前記構造物の内部に圧縮応力を誘発させ、前記構造物の収縮をもたらし得る。その一方で、エントロピーの増加は、構造物の内部に引張応力を誘発させ、前記構造物の膨張をもたらし得る。前記エントロピーの増加によって引張応力がもたらされる代表的な例として、水が水蒸気に変わるときに起こる体積膨張を挙げることができる。その一方で、前記エントロピーの減少によって圧縮応力がもたらされる例として、金属の溶融物が固体状態に凝固されるときに観測される凝固収縮現象を挙げることができる。前記金属の溶融物が固体状態になるためには、熱が放出されて冷却されなければならない。したがって、放出された熱だけ金属の溶融物のエントロピーが減少し、その結果、金属の溶融物内に圧縮応力が誘発され、凝固収縮が発生する。
【0033】
本発明は、上述したように、構造物における熱量の変化とそれによるエントロピーの変化に関する解釈を通じて、有機材料、無機材料又は複合材料を含むいずれかの構造物におけるエントロピーの増加量又は減少量を測定し、前記構造物の寿命を評価する方法及びシステムに関する各実施例を含む。以下、本発明の実施例は、前記構造物におけるエントロピーの減少量を測定し、前記被測定構造物の残余寿命を予測する方法に応用するが、前記構造物におけるエントロピーの増加量を測定し、前記被測定構造物の残余寿命を予測する方法にも応用可能である。
【0034】
図1a及び
図1bは、それぞれ本発明の各実施例に係る構造物の寿命評価方法を説明するためのフローチャートである。
【0035】
図1aを参照すると、構造物の寿命評価方法は、被測定構造物を準備する段階(S1)、前記被測定構造物の発熱量又は吸熱量を測定する段階(S2)、前記測定された発熱量又は吸熱量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階(S3)、及び前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階(S4)を含むことができる。前記被測定構造物のエントロピーは、外部因子ではない内部因子であって、上述したエントロピーSは、前記被測定構造物の変化した熱量(ΔH)と温度(T)の比率として定義され得る。場合によって、前記被測定構造物の発熱量は、前記被測定構造物の温度を上昇させながら出入りする熱量を分析する場合、発熱前に表れる吸熱特性から算出されてもよい。
【0036】
一実施例において、前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階(S4)では、前記被測定構造物の寿命末期に対応するエントロピーの減少量又は圧縮応力と、任意の時点に測定した前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量又は圧縮応力との間の関係式を用いることができる。具体的には、前記測定された発熱量は、単位がJ/mol又はJ/gであるのでエネルギー密度であって、エネルギー密度であるJ/gに構造物の密度を掛けてJ/m3に転換させることができ、J/m3は応力(MPa)として定義され得る。よって、前記測定された熱量(J/g又はJ/mol)は、エネルギー密度でありながら応力であり得る。前記被測定構造物に対する寿命末期で発熱量又は吸熱量を測定すると、前記発熱量に対応する前記被測定構造物の内部に蓄積された圧縮応力(σL)を確認できる。よって、寿命周期内の任意の時点で測定した熱量をHiと仮定するとき、これから計算された構造物の内部に形成された圧縮応力をσiとして定義する。前記任意の時点に構造物の内部応力(σi)がσLに増加するまでの時間は、エントロピーの減少速度又は規則化速度(ordering rate:OR)によって決定され得る。前記構造物におけるエントロピーの減少速度(OR)は、下記の[数3]によって定義され得る。
【0037】
【0038】
ここで、TPは発熱の最大温度で、Rは気体定数で、Tは稼働温度で、QΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、kは定数である。
【0039】
下記の[数4]を参照すると、任意の時点で応力(σi)がσLに増加するまでの時間tとσiとを掛けてσLになると仮定するとき、そのときの時間(t)は、下記の[数5]又は下記の[数6]のように前記被測定構造物の寿命時間(tL)として定義され得る。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、TPは発熱の最大温度で、QΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、HLは寿命末期に対応する発熱量で、σLは寿命末期に対応する圧縮応力で、Hiは任意の時点に測定された発熱量で、σiは任意の時点の圧縮応力である。前記エントロピー減少のための活性化エネルギー(QΔS)は、温度による発熱量曲線での最大発熱温度の変化を昇温速度の関数で表示して決定され得る。
【0044】
前記[数5]及び[数6]を参照すると、前記被測定構造物の残余寿命は、発熱の最大温度(TP)、エントロピー減少のための活性化エネルギー(QΔS)、最大発熱温度と稼働温度との差(TP-T)、寿命末期に該当する発熱量(HL)又は圧縮応力(σL)によって決定され得る。具体的には、寿命末期で測定した発熱量(HL)又は圧縮応力(σL)が大きいほど寿命は長くなり得る一方で、稼働温度(T)が高く、最大発熱温度(TP)が低く、活性化エネルギー値(QΔS)が小さく、寿命末期で測定した発熱量(HL)が小さいほど寿命は短くなり得る。
【0045】
前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量が増加すると圧縮応力が増加し、圧縮応力は、前記被測定構造物の格子サイズを減少させる。したがって、前記被測定構造物の格子をX線回折又は中性子回折を用いて測定することによって前記被測定構造物における格子の減少量を評価することができ、前記評価された被測定構造物の格子サイズから前記被測定構造物の圧縮応力を評価することができる。X線又は中性子回折を用いて測定した格子の減少量をベースにして、前記被測定構造物の寿命時間(tL)は下記の[数7]のように定義することができる。
【0046】
【0047】
ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、TPは発熱の最大温度で、QΔSはエントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、ΔaLは、前記被測定構造物の寿命末期での格子の減少量で、Δaiは、任意の時点での前記被測定構造物における格子の減少量である。
【0048】
前記方法は、前記被測定構造物の圧縮応力を実際に測定する段階、及び前記測定された圧縮応力と、前記発熱量又は吸熱量に対応する予測された圧縮応力との差から前記予測された残余寿命を補正する段階をさらに含むことができる。前記測定された圧縮応力と前記予測された圧縮応力を用いて前記予測された残余寿命を補正することによって、前記被測定構造物の残余寿命をさらに精密に予測することができる。
【0049】
一実施例において、前記発熱量の測定は、示差走査熱量法(Differential Scanning Calorimetry:DSC)、DTA(Differential Thermal Analysis)、TGA(Thermogravimetric Analysis)、TMA(Thermomechanical Analysis)、DMA(Dynamic Mechanical Analysis)又はこれらの組み合わせによって行われ得る。しかし、本発明は、これらの発熱量測定方法に制限されない。好ましくは、前記発熱量の測定は示差走査熱量法(DSC)で行われ得る。
【0050】
上述したように、前記エントロピーの増減は、測定した熱量の変化によって決定できるが、
図1bのように、前記被測定構造物における物性の変化を用いて前記エントロピーの増加量を決定することができる。
【0051】
図1bを参照すると、構造物の寿命評価方法は、被測定構造物を準備する段階(S1)、前記被測定構造物の物性を測定する段階(S2')、前記測定された物性を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定する段階(S3)、及び前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測する段階(S4)を含むことができる。
図1bの段階S1、S3、S4に関する説明は、矛盾しない限り、
図1aの説明を参照することができる。
【0052】
一実施例において、前記物性は、前記被測定構造物の硬度、起電力、電気抵抗、バルクハウゼンノイズ振幅、せん断係数(shear modulus)、弾性係数(elastic modulus or Young’s modulus)又はこれらの組み合わせを含むことができる。しかし、本発明は、これらの物性に制限されない。前記被測定構造物におけるエントロピーの減少量を判断できる物性であれば、いずれも適用可能である。具体的には、エントロピーの変化は、前記被測定構造物の硬度、起電力、電気抵抗、バルクハウゼンノイズ振幅、せん断係数、弾性係数などの物性を変化させるので、物性の変化を追跡することによってエントロピーの変化を測定することができる。例えば、パンは、空気中に長く露出させると硬くなり得る。このようにパンが硬くなる理由は、パンに含有された水が気化されながらエントロピーが気化熱だけ減少し、パンの内部に圧縮応力が誘発されるためである。これは、後述する泥が硬くなる現象と類似する。このようにパンが硬くなるのと同一の現象が全ての構造物で起こり、その結果、前記被測定構造物は、稼働寿命が長くなるにつれて徐々に脆化される。
【0053】
前記物性による前記被測定構造物の寿命時間(tL)は、下記の[数8]のように定義することができる。
【0054】
【0055】
ここで、kは固有定数で、Rは気体定数で、TPは、最大発熱が放出されるピーク温度で、QΔSは、エントロピー減少のための活性化エネルギーで、Tは稼働温度で、ΔΠLは、寿命末期への物性の変化量で、ΔΠiは、任意の時点での物性の変化量である。
【0056】
他の実施例において、前記被測定構造物の発熱量又は吸熱量と前記測定された物性との組み合わせを用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量が測定されてもよい。
【0057】
上述したように、前記被測定構造物の発熱量又は吸熱量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を測定し、前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測することによって、非破壊的でありながらも迅速且つ正確に構造物の寿命を評価することができる。
【0058】
図2は、本発明の実施例に係る構造物の寿命評価システムの構成図である。
【0059】
図2を参照すると、構造物の寿命評価システム10は、プロセッサ100、入力部110、出力部120、保存部130及び測定装置200を含むことができる。プロセッサ100、入力部110、出力部120及び保存部130は、コンピューター、ノートパソコンなどの電子装置を構成することができ、測定装置200は、別途の装備であって、有線又は無線で前記電子装置と連結され得る。又は、測定装置200は、前記電子装置内の一つのハードウェア又はソフトウェアモジュールとして存在し得る。また、
図2に示したプロセッサ100、入力部110、出力部120、保存部130などの多様な機能ブロックは、各ハードウェア要素(回路を含む)、各ソフトウェア要素(コンピューター判読可能な媒体に保存されたコンピューターコードを含む)又はハードウェア及びソフトウェア要素の組み合わせを含むことができる。
【0060】
一実施例において、測定装置200は、DSC、DTA、TGA、TMA、DMA又はこれらの組み合わせから前記被測定構造物の発熱量又は物性を測定することができ、測定された結果をプロセッサ100に提供することができる。又は、測定装置200は、前記被測定構造物の物性を測定することができる。一実施例において、前記物性は、前記被測定構造物の硬度、起電力、電気抵抗、バルクハウゼンノイズ振幅、せん断係数、弾性係数又はこれらの組み合わせを含むことができる。しかし、本発明は、これらの物性に制限されない。前記被測定構造物におけるエントロピーの増加量又は減少量を判断できる物性であれば、いずれも適用可能である。
【0061】
プロセッサ100は、CPUであって、測定装置200から提供を受けた前記被測定構造物の物性又は測定された発熱量又は吸熱量を用いて前記被測定構造物に対するエントロピーの減少量を算出し、前記測定されたエントロピーの減少量から前記被測定構造物の残余寿命を予測することができる。また、プロセッサ100は、前記被測定構造物の圧縮応力を測定することができる。前記圧縮応力は、SCC試験中に起こるエントロピーの変化を測定したり、SCC試験前後に構造物の中性子又はX線回折で構造物における格子の減少量を測定することによて定められ得る。
【0062】
入力部110は、キーボード及びマウスなどの入力装置であって、前記被測定構造物の残留寿命を決定する発熱の最大温度(TP)、エントロピー減少のための活性化エネルギー(QΔS)、最大発熱温度と稼働温度との差(TP-T)、寿命末期に該当する発熱量(HL)又は圧縮応力(σL)などの各パラメーター値をプロセッサ100に提供することができる。一実施例において、入力部110は、測定装置200から測定された発熱量又は吸熱量をプロセッサ100に提供することができる。
【0063】
出力部120は、LCD(liquid crystal display)、プラズマディスプレイ、又はOLED(organic light emitting diode)ディスプレイなどの任意の適切な類型のディスプレイであり得る。また、出力部120は、プロセッサ100から予測された前記被測定構造物の残余寿命に対する情報を受け取り、これをディスプレイすることができる。
【0064】
保存部130は、データ及び/又は命令語の永久保存のための非揮発性保存所をさらに含むことができ、プロセッサ100の制御下で前記被測定構造物の残留寿命を決定する発熱の最大温度(TP)、エントロピー減少のための活性化エネルギー(QΔS)、最大発熱温度と稼働温度との差(TP-T)、寿命末期に該当する発熱量(HL)又は圧縮応力(σL)などの各パラメーター値を保存し、必要時には、プロセッサ100に前記保存された各パラメーター値を提供することができる。
【0065】
図3は、構造物の寿命予測の例として、日照り時に生じる土の亀裂(mud cracks)損傷現象を示す図である。
【0066】
図3を参照すると、日照り時に田づらの土の水が蒸発すると、土のエントロピーが気化熱だけ減少し、これによる圧縮応力が誘発され、土が収縮されながら田づらは硬くなり得る。また、土の収縮量がさらに大きくなると、土で構成された田づらがひび割れ得る。これは、構造物に該当する田づらの土におけるエントロピーの減少によって土に亀裂が発生しながら、田づらが自ら損傷することを示すことができる。これは、外部因子が作用しなくても、自然の構造物が自ら損傷する構造物の老化及び損傷法則を裏付ける例である。
【0067】
本発明では、構造物の損傷は、構造物で発生するエントロピーの減少によって誘発された、構造物の内部の圧縮応力によって起こるものと見なすことができる。具体的には、構造物の稼働中に構造物のエントロピーが減少し、前記エントロピーの減少による圧縮応力又は収縮がもたらされ、前記構造物が損傷し得る。よって、本発明の実施例では、全ての有機、無機又はこれらの複合構造物の寿命予測はエントロピーの減少量によって決定され得る。
【0068】
一実施例において、前記構造物に対するエントロピーの減少量が大きいほど前記構造物の内部に誘発された圧縮応力は大きくなり、早い時間内に構造物を損傷させ、前記構造物の寿命が短縮され得る。併せて、前記エントロピーの減少は、無機材料及び有機材料で起こるので、前記エントロピーの減少量をベースにして構造物の寿命を評価する方法は、金属、セラミック、プラスチック、コンクリートなどの構造物に普遍的に適用され得る。
【0069】
実験1:エントロピーの減少による金属の損傷例
1,025℃で2時間にわたって均質化処理した後、それぞれ炉冷及び水冷を行うことによってAlloy 600伝熱管の素材を製造し、これらの二つの種類の試験片を332℃、水(例えば、加圧軽水炉運転条件をシミュレートした水)に約24,000時間にわたって露出させ、これらのSCC抵抗性を調査した。
【0070】
下記の[表1]は、水冷及び炉冷処理されたAlloy 600のSCC損傷率を比較する表である。
【0071】
【0072】
前記[表1]を参照すると、水冷処理された試験片のみにおいて、全量(100%)がいずれもSCCで損傷しており、炉冷処理された試験片はSCC損傷を示していない。これをエントロピーの減少観点で説明するために、1095℃で30分間均質化処理した後、水冷及び炉冷試験片を対象にして示差熱分析(Differential Scanning Calorimetry:DSC)試験を行った。
【0073】
図4は、水冷及び炉冷Alloy 600試験片の発熱挙動を示す図である。
【0074】
図4を参照すると、水冷試験片(WQ Alloy 600)は、加熱中に発熱挙動を示したが、炉冷試験片(FC Alloy 600)は発熱挙動を示していない。この結果は、高温でのSCC試験時、水冷試験片は発熱挙動を示しながら、高いエントロピーの減少によって高い圧縮応力が誘発され得る。前記高い圧縮応力は大きな格子収縮を引き起こし、結晶粒界にのみ亀裂を生成させることによって、水冷試験片は、炉冷試験片に比べてSCCに非常に脆弱に表れる。その一方で、加熱中に発熱を示していない炉冷試験片はSCC試験中に発熱を示さないので、発熱によるエントロピーの減少がSCC試験中に起こらないか、又は少なく起きり得る。よって、炉冷試験片は、エントロピーの減少による圧縮応力が低くなり得る。これを証明するために、水冷及び炉冷試験片を約400℃で時効処理し、(111)面における格子の減少量を測定した。
【0075】
図5は、400℃で時効処理したときの水冷及び炉冷Alloy 600試験片における格子の収縮挙動を示す図である。
【0076】
図5を参照すると、炉冷試験片(FC Alloy 600)と比較して水冷試験片(WQ Alloy A600)で格子の減少量が遥かに大きく表れた。
図5の結果は、予想した通り、
図4に示したように、加熱中に発熱を示す水冷試験片において、SCC試験中に高い発熱量によってエントロピーの減少量が高いので大きな圧縮応力が誘発され、これによって格子の収縮量が大きくなったことを示す。
【0077】
[表1]、
図4及び
図5の実験結果をまとめると、SCC試験中に高いエントロピーの減少量を示した格子収縮が大きい水冷試験片はSCCに脆弱である。しかし、エントロピーの減少量が微弱な炉冷試験片は、格子収縮が低いので高いSCC抵抗性を示した。以上の内容をまとめると、Alloy 600合金のSCC抵抗性は、試験(又は稼働)中に起こるエントロピーの減少量によって影響を受けることが分かる。
【0078】
実験2:エントロピーの減少によるプラスチック(インク)の損傷例
図6a及び
図6bは、インク素材(プラスチック)に対して40℃の恒温条件でDSC試験を行って得た結果であって、インク素材の性能と発熱の関係を示す図である。
【0079】
図6aを参照すると、発熱を示すインク素材(プラスチック)は、速く老化されながら低品質性能を示した。しかし、
図6bに示したように、発熱を示していないインク素材は、遅く老化されながら高品質性能を示した。具体的には、発熱量が大きい材料においては、高いエントロピーの減少量によって高い圧縮応力がもたらされ、格子の収縮量が大きくなり、速く老化されながら損傷することを示す。このような結果により、構造物の老化は発熱量に比例して増加し、寿命は反比例的に短くなることが分かる。したがって、構造物の寿命は、構造物の発熱量を測定して決定することができる。
【0080】
実験3:エントロピーの減少による構造物における物性の変化例
上述したエントロピーの減少は、DSCで測定した熱量の変化で決定できるが、上述した物性の変化でも測定可能である。エントロピーの減少は、バゲットなどのパンのように構造物を硬くするので、DSCの代わりに硬度の変化を測定すると、エントロピーの減少量を判断することもできる。前記エントロピーの変化は、硬度のみならず、構造物の材料における多くの物性を変化させるので、物性の変化を追跡することによってエントロピーの変化を測定することができる。前記エントロピーの変化による物性の変化の代表的な例は、硬度及び熱伝導度の変化である。316Lステンレス鋼及びAlloy 690伝熱管の素材をそれぞれ400℃及び475℃で長時間にわたって時効処理すると、
図7a及び
図7bに示したように、硬度と熱伝導度がそれぞれ増加する。
【0081】
図7aは、316ステンレス鋼を400℃で時効処理したときに観測される硬度の増加現象を示す図で、
図7bは、475℃での熱処理時におけるAlloy 690の熱伝導度の増加現象を示す図である。
【0082】
図7a及び
図7bを参照すると、400℃での熱処理時における316Lステンレス鋼の硬度は非常に徐々に増加するが、475℃での熱処理時におけるAlloy 690の熱伝導度は、最大100%まで増加することを確認できる。
図7a及び
図7bに示したように、高温での時効処理時に硬度及び熱伝導度が増加する理由は、エントロピーの減少によって圧縮応力が誘発され、誘発された圧縮応力によって原子の配列がより短範囲的に規則化(short-range ordering:SRO)されたためであると見なされる。したがって、エントロピーの減少量が大きいほど大きい圧縮応力が誘発され、これによって形成されたSRO体積も増加し、硬度の増加と共に、熱伝導度の増加などの物性の変化をもたらす。したがって、物性の変化と圧縮応力、又はエントロピーの減少量と圧縮応力との相関関係を考慮すると、物性の変化に基づいてエントロピーの変化量を評価したり、エントロピーの変化量に基づいて圧縮応力を評価することができる。硬度及び熱伝導度以外にも、
図8a及び
図8bに示したように、起電力及びバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)rms信号の最大振幅などの物性値を用いることもできる。
【0083】
図8a及び
図8bは、それぞれ100℃での時効処理時における130ppmの炭素を含有した炭素鋼の起電力とバルクハウゼンノイズrms信号の最大振幅を示す図で、
図9は、オーステナイト領域で均質化処理した後、水冷した炭素鋼の比熱を示す図である。
【0084】
図8a及び
図8bを参照すると、130ppmの炭素を含有した炭素鋼を100℃で時効処理したとき、時効時間によって起電力及びバルクハウゼンノイズrms信号の最大振幅が増加することを確認できる。このように、100℃での時効処理時に炭素鋼の起電力及びバルクハウゼンノイズrms信号の最大振幅が増加する理由は、
図9a及び
図9bに示したように、100℃での時効処理時、発熱によって炭素鋼におけるエントロピーの減少が起こったためであると見なされる。
【0085】
図9は、オーステナイト領域で均質化処理した後、水冷した炭素鋼の比熱を示すグラフである。
【0086】
図9を参照すると、炭素鋼における炭素の濃度が高いほど、100℃での発熱量はさらに大きくなることを観察することができる。したがって、炭素鋼における炭素の濃度が高いほど、高温での時効処理時に高い発熱量によってエントロピーの減少量が大きくなり、
図8a及び
図8bに示した起電力及びバルクハウゼンノイズrms信号の最大振幅の増加量はさらに著しく表れると予想される。これによって、起電力とバルクハウゼンノイズrms信号の振幅の増加から炭素鋼におけるエントロピーの減少量を測定することができ、これに基づいて炭素鋼の寿命を評価することができる。特に、
図8a、
図8b及び
図9の結果は、原子力発電所の圧力容器鋼及び炭素鋼配管の寿命評価時に非常に効果的に活用され得る。
【0087】
一実施例において、材料の電気抵抗もエントロピーの変化によって変化するので、電気抵抗の変化を測定することによってエントロピーの変化を決定することができる。
【0088】
図10aは、40%冷間加工された316Lステンレス鋼を400℃で時効処理したときの、時効時間による電気抵抗の変化を示す図で、
図10bは、Fe-Ni-C鉄系合金を各温度で3時間にわたって時効処理した後、時効温度による電気抵抗の変化をニッケル及び炭素の含量で示す図である。
【0089】
図10aを参照すると、時効時間が長くなるほど電気抵抗が大きくなることが分かる。
図10bを参照すると、ニッケルに比べて炭素の含有量が多くなるほど、電気抵抗の変化が大きくなることが分かる。前記電気抵抗の増加は、エントロピーの減少によって誘発された応力に対応するものと見なすことができる。その理由は、エントロピーの減少が大きいため圧縮応力が大きくなると、粒界に生成される局部引張応力が大きくなり、その分だけ電気抵抗が増加するためである。したがって、材料の電気抵抗の変化に基づいてエントロピーの変化を予測することもできる。
【0090】
図11は、溶体化処理(solution treatment)後に時効処理されたAl-3.2Mg-0.18Cu合金のDSC熱量(thermogram)を示す図である。具体的には、Al-3.2Mg-0.18Cu合金を約550℃で約30分間溶体化処理した後で水冷し、次に、約180℃で0時間、1時間、4時間、8時間、24時間、48時間にわたってそれぞれ時効処理した後、DSC試験を行った結果である。
【0091】
図11を参照すると、180℃で時効処理されていないAl-3.2Mg-0.18Cu合金では約250℃以上の高温で発熱が表れたが、180℃で時効処理されたAl-3.2Mg-0.18Cu合金では発熱ピークが表れず、その代わりに、200℃乃至250℃の範囲で吸熱ピークを示した。このとき、吸熱量は、8時間にわたって時効処理されたAl-3.2Mg-0.18Cu合金で最も多く表れており、これによって、前記Al-3.2Mg-0.18Cu合金のせん断係数(shear modulus)は吸熱量に比例して増加した。このように、Al-3.2Mg-0.18Cu合金の吸熱量が時効処理時間によって増加することは、時効処理時間によってAl-3.2Mg-0.18Cu合金のエントロピーの減少量が大きくなったことを意味すると同時に、Al-3.2Mg-0.18Cu合金のせん断係数がエントロピーの減少量に比例して増加したことを意味する。よって、構造物におけるエントロピーの減少量は、熱量の代わりに、構造物のせん断係数(shear modulus)又は後述する弾性係数(Elastic modulus or Young’s modulus)の測定を通じても確認できる。前記エントロピーの減少は、構造物の内部に圧縮応力を誘導させ、構造物の内部に存在する各原子を硬く結合させるので、前記構造物のせん断係数又は弾性係数は圧縮応力に比例して増加する。これによって、構造物のせん断係数及び弾性係数が吸熱量に比例して増加する。
【0092】
図12は、86ppmの水素を固溶したZr-2.5Nb試験片の加熱及び冷却時に観測された水素化物の溶解及び析出時における弾性係数の変化を示す図である。
【0093】
図12を参照すると、水素化物の析出時には弾性係数が急激に増加する一方で、水素化物の溶解時には弾性係数が急激に減少する。このように、弾性係数の急激な変化を考慮して、水素化物の析出温度と溶解温度を決定する。ここで、析出物が析出されると弾性係数が急激に増加する一方で、水素化物が溶解されると急激に弾性係数の減少が誘導されることが重要である。
【0094】
図13は、10℃/minの速度で冷却したときの、106ppmの水素を有するジルカロイ-2の比熱を示す図である。
【0095】
図13を参照すると、水素化物の析出は発熱を伴うので、前記水素化物の析出は、エントロピーの減少を意味し、よって、エントロピーの減少が起こり、水素化物が析出されたことを意味する。エントロピーの減少量が増加するほど、ジルコニウム基地上に発生した圧縮応力は増加するので、ジルコニウムの弾性係数の増加幅も大きくなる。したがって、構造物の弾性係数値の変化を追跡することによって、前記構造物のエントロピーの減少量を測定することができる。構造物の弾性係数は、APUCOT(Automatic Piezoelectric Ultrasonic Composite Oscillator Technique)装備で測定したり、超音波共鳴分光法、音響共振法、超音波及びナノインデンテーションなどの多様な方法で測定することができる。
【0096】
上述したように、本発明において、被測定構造物の寿命は、外部因子ではなく、内部因子であるエントロピーの減少で誘発された圧縮応力によって決定され得る。これにより、エントロピーの減少によって誘発された圧縮応力が一定値以上であると、構造物に亀裂が生成されながら破断され得ることを予測することができる。したがって、構造物の寿命は、構造物に亀裂が開始された時点として定義することもでき、又は、開始された亀裂が破断亀裂に成長する時点として定義することもできる。一実施例において、亀裂開始時点を構造物の寿命として見なす。
【0097】
前記[数5]及び前記[数6]において、稼働時間が長くなるほど発熱量が増加し、構造物の内部に蓄積された圧縮応力が増加する例は、原子力発電所における電線配管の材料であるXLPE(cross-linked polyethylene)試験片の熱量を比較した
図14で確認することができる。
【0098】
図14は、DSCで測定した原子力発電所における電線配管の材料であるXLPE(cross-linked polyethylene)の老化による吸収熱量と発熱量を比較して示す図である。
図14は、供給者から受けた初期試験片、初期試験片を153℃で30分間熱処理した後で水冷した試験片(以下、水冷試験片と称する)、90℃で長時間にわたって時効処理することによって老化された老化試験片及び損傷試験片に対して吸収熱量及び発熱量を示差走査熱量法(DSC)で測定した結果である。
【0099】
図14を参照すると、老化試験片及び損傷試験片は、時効処理されていない初期試験片や水冷試験片に比べて高い熱量を示した。また、熱量の変化はエントロピーの変化を意味するので、時間によって熱量が増加することはエントロピーの変化が大きいことを意味し、これは、XLPE試験片内に蓄積された応力が増加したことを意味する。
【0100】
したがって、構造物の寿命は、稼働前後の任意の時点で測定した熱量を測定することによってk定数を決定し、構造物の寿命末期での熱量値を測定し、稼働前の試験片を用いて最大発熱温度及びエントロピー減少のための活性化エネルギー値(QΔS)を確認したときに決定することができる。したがって、構造物の寿命は、上記で言及したパラメーター測定値のみを決定する場合、セラミック、金属、プラスチック、コンクリートなどの構造物の種類と関係なく決定することができる。
【0101】
実験4:
本発明の構造物の寿命評価方法を検証するために、Alloy 600を対象にして原電稼働条件及び実験室条件で測定した寿命測定値と、前記[数5]又は前記[数6]に基づいて予測した寿命予測値とを互いに比較した。前記原電稼働条件は、原子力発電所の1次水冷却系統(300℃乃至340℃、15MPaの圧力、pH=7に近い純水であるが、ボロンとリチウムが添加された水)に露出した条件を称し、前記実験室条件は、前記原電稼働条件をシミュレートした水に露出した条件を称する。
【0102】
このとき、Alloy 600の寿命末期の熱量と初期熱量との比、H
L/H
iは、全てのAlloy 600材料では同一であると仮定する。Alloy 600のエントロピー減少のための活性化エネルギーは、
図15に示したように、炭素の濃度によって190kJ/molから204kJ/molに変化したので、これらの値を使用した。最小寿命時間は、Q
ΔS=190kJ/molに該当し、最大寿命時間は、Q
ΔS=204kJ/molに該当する。T
P値としては、上記の
図4に示したように、発熱挙動が表れる793K(又は520℃)の定数値を前記[数6]に代入した。Tは、原子炉稼働温度又はSCC試験温度であって、これを前記[数6]に代入した。定数k値は、原子炉稼働条件の寿命測定値が、
図16に示したように、6年~11.4年と報告されているので、これを予測できるように46に調整した。前記[数6]で決定したAlloy 600寿命予測値は、下記の[表2]に示したように、最小5.6年、最大11.4年である。このように決定されたk値が実験室条件でも有効であるという仮定下で、同一のk値(=46)を使用して決定された寿命予測値と、多様な実験室条件で行われたSCC試験で決定された寿命時間とを比較した。下記の[表2]に示したように、本発明で予測した寿命予測値は、実験室条件で測定したSCC損傷開始時間を非常に正確に予測した。ただし、332℃で測定された寿命測定値は、損傷開始時間ではなく、100%損傷を受ける時間として定義した。下記の[表2]の資料に基づいてAlloy 600の寿命予測値と測定値とを比較した結果を
図17に示した。本発明で決定されたAlloy 600合金の寿命予測値は、原電稼働条件で測定したAlloy 600の寿命のみならず、実験室条件でSCC試験によって測定したAlloy 600の寿命測定値とほぼ完璧な程度に一致した。特に、原子炉稼働条件で使用されたAlloy 600溶接部品と、実験室条件でSCC試験時に使用されたAlloy 600は、前記[数5]及び前記[数6]を決定したAlloy 600と比較したとき、炭素の濃度、均質化処理温度及び水冷時の冷却速度などの多くの変数があるにもかかわらず、本発明で予測したこれらの寿命予測値が測定値と非常に近接するように一致した。結論的に、前記[数5]及び前記[数6]で定義される本発明の構造物の寿命評価方法は、対象構造物におけるエントロピー減少のための活性化エネルギー(Q
ΔS)、最大発熱を示す温度(T
P)、稼働温度(T)及び構造物と関連した定数(k)の情報が与えられると、構造物の種類と関係なく、対象構造物の寿命を高い信頼性で評価することができる。
【0103】
下記の[表2]は、本発明の実施例に係るAlloy 600の寿命予測値と、原子炉稼働条件及び実験室で行われたSCC試験によって決定した損傷開始時間とを比較した表である。
【0104】
【0105】
以上で説明した本発明が上述した実施例及び添付の図面に限定されず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々に置換、変形及び変更可能であることは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって明白であろう。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、多様な構造物の寿命評価方法及びシステムに適用され得る。
【国際調査報告】