IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディアデム ソチエタ ペル アツィオーニの特許一覧

特表2023-536162神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾
<>
  • 特表-神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾 図1
  • 特表-神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾 図2
  • 特表-神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾 図3
  • 特表-神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾 図4
  • 特表-神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾 図5
  • 特表-神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾 図6
  • 特表-神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾 図7
  • 特表-神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】神経変性疾患の診断と予後推定におけるマーカーとしてのp53の翻訳後修飾
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230816BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230816BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230816BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506217
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(85)【翻訳文提出日】2023-03-20
(86)【国際出願番号】 IB2021056792
(87)【国際公開番号】W WO2022023964
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】102020000018544
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523031323
【氏名又は名称】ディアデム ソチエタ ペル アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピチレラ,シモーナ
(72)【発明者】
【氏名】ウベルティ,ダニエラ レティツィア
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041FA13
2G041HA01
2G041JA02
2G041LA07
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB07
2G045DA35
2G045FB06
(57)【要約】
本発明は、p53の配列および翻訳後修飾(PTM)に関し、また生体サンプルにおける神経変性疾患および認知機能低下の診断、および/または、様々なステージのアルツハイマー病の予後推定、および/または、神経変性疾患の予後推定におけるバイオマーカーとしてのそれらの使用に関する。また本発明は、患者のヒト血漿に特異的な前記p53直鎖状タンパク質配列に対するPTM、およびその全配列の可能な切断を評価することにより、1)被験者の軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、前頭側頭型認知症(FTD)、レビー小体(LB)、及び血管性認知症(VD)などの神経変性疾患の高精度質量分析に基づく診断方法;および、2)CUおよびMCI患者におけるADの予後推定を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患の診断または予後推定のためのin vitroまたはex vivoの方法であって、以下の工程を含み:
a)p53タンパク質(U-p53)のアミノ酸1~371の領域における翻訳後修飾(PTM)の存在について生体液サンプルを分析する工程であって、
前記PTMは以下の通りであり:
アミノ酸M1におけるPTM-1;
アミノ酸K164におけるPTM-2;
アミノ酸K370におけるPTM-3;
アミノ酸L101におけるPTM-4;
アミノ酸K120におけるPTM-5;
アミノ酸K132におけるPTM-6;
アミノ酸K139におけるPTM-7;
アミノ酸K291におけるPTM-8;
アミノ酸K357におけるPTM-9;
アミノ酸S6におけるPTM-10;
アミノ酸S33におけるPTM-11;
PTM-2、PTM-7、PTM-8、およびPTM-11から選択される少なくとも2つのPTMの存在が、認知障害のない被験者(CU)の指標となる工程;
b)神経疾患の発生または発症リスクの指標として、以下の存在:
- PTM-1、PTM-3、PTM-4、PTM-5、PTM-6、PTM-9、およびPTM-10から選択される少なくとも2つのPTM;および
- PTM-2、PTM-7、PTM-8、およびPTM-11から選択される少なくとも1つのPTM;
を評価する工程であって、
前記神経変性疾患が、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、前頭側頭型認知症(FTD)、レビー小体(LB)、および血管性認知症(VD)から選択される工程;
c)工程b)で評価されたPTMを、対応する神経変性疾患を同定する指標と関連付ける工程であって、
PTM-1、及びPTM-10の存在は、MCIの指標であり;
PTM-4、PTM-5及びPTM-9から選択される少なくとも2つのPTMの存在は、無症状の被験者のADに至る認知機能の低下の予後の指標であり;
PTM-1、PTM-3、PTM-5、PTM-6、及びPTM-10から選択される少なくとも2つのPTMの存在は、ADに至る認知機能低下の予後を有するMCIの指標であり;
PTM-5、およびPTM-9の存在は、FTDの指標であり;
PTM-5、およびPTM-6の存在は、LBの指標であり;
PTM-4、およびPTM-5の存在は、VDの指標である;
または、
前記in vitroまたはex vivoの方法が、アルツハイマー病を、他の神経変性疾患から識別するための方法であって、
工程b)において、以下の基準の評価がADの指標である方法:
- アミノ酸1~271の領域内の長さに関する配列変動性であって、同一領域内のトランケーションを含む、前記変動性;および
- トランケーションされていない配列の残存量におけるPTM-1、PTM-3、PTM-4、PTM-5、およびPTM-6から選択される少なくとも2つのPTMの存在。
【請求項2】
請求項1に記載のin vitroまたはex vivoの方法であって、
- 翻訳後修飾PTM-1は、p53タンパク質のアミノ酸M1に分岐した基CO-CHを有し;
- 翻訳後修飾PTM-2は、p53タンパク質のアミノ酸K164に分岐した基CO-CHを有し;
- 翻訳後修飾PTM-3は、p53タンパク質のアミノ酸K370に分岐した基CO-CHを有し;
- 翻訳後修飾PTM-4は、p53タンパク質のアミノ酸K101に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;
- 翻訳後修飾PTM-5は、p53タンパク質のアミノ酸K120に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;
- 翻訳後修飾PTM-6は、p53タンパク質のアミノ酸K132に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;
- 翻訳後修飾PTM-7は、p53タンパク質のアミノ酸K139に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;
- 翻訳後修飾PTM-8は、p53タンパク質のアミノ酸K291に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;
- 翻訳後修飾PTM-9は、p53タンパク質のアミノ酸K357に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;
- 翻訳後修飾PTM-10は、p53タンパク質のアミノ酸S6がリン酸化されており;
- 翻訳後修飾PTM-11は、p53タンパク質のアミノ酸S33がリン酸化されている、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のin vitroまたはex vivoの方法であって、
前記in vitroまたはex vivoの方法が、アルツハイマー病を、他の神経変性疾患から識別するための方法であり、
工程b)において、以下の基準の評価がADの指標である方法:
- アミノ酸1~271の領域内の長さに関する配列変動性であって、同一領域内のトランケーションを含む、前記変動性;および
- PTM-1、PTM-3、PTM-4、PTM-5、およびPTM-6の全ての存在。
【請求項4】
PTM-4、PTM-5及びPTM-9の全ての存在が、無症状の被験者のADに至る認知機能の低下の予後の指標である、請求項1または2に記載のin vitroまたはex vivoの方法。
【請求項5】
PTM-1、PTM-3、PTM-5、PTM-6、及びPTM-10の全ての存在が、ADに至る認知機能低下の予後を有するMCIの指標である、請求項1または2に記載のin vitroまたはex vivoの方法。
【請求項6】
前記生体液が、血液、血漿、血清、唾液、尿、神経細胞、好ましくは血液、特に血漿である、請求項1~5のいずれか一項に記載のin vitroまたはex vivoの方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のin vitroまたはex vivoの方法であって、
工程a)において、以下のサブステップを実行することにより、p53タンパク質を生体液サンプル中で捕捉し:
(i)生体液サンプルを提供するステップ;
(ii)p53タンパク質と結合する抗体によるタンパク質免疫沈降を行うステップ;
(iii)トリプシンによるタンパク質の断片化を行うステップ;
工程b)が、HPLC-質量分析、ペプチド質量フィンガープリントおよびデータベース検索によって実施される、方法。
【請求項8】
サブステップ(ii)の免疫沈降が、p53ペプチドに結合するモノクローナル抗体/ポリクローナル抗体を用いて実施され、好ましくは前記モノクローナル抗体が、抗体2D3A8である、請求項7に記載のin vitroまたはex vivoの方法。
【請求項9】
工程a)の生体サンプルが、ステップ(ii)を行う前に、HPLCまたはクロマトグラフィーカラムまたは化学処理によるタンパク質血漿ディプリーション(protein plasma depletion)に供される、請求項7または8に記載のin vitroまたはex vivoの方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のin vitroまたはex vivoの方法を実施するための診断キットの使用であって、
該キットが、抗体、タンパク質の消化(好ましくは、Lys Cを含む/含まないトリプシン)、抗体により捕捉されたタンパク質を沈殿させる溶出緩衝液、および注入緩衝液を含む免疫沈降を行うための試薬セットを含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p53の配列および翻訳後修飾(PTM)に関し、また生体サンプルにおける神経変性疾患およびアルツハイマー病に至る認知機能低下およびアルツハイマー病の診断、および/または、様々なステージのアルツハイマー病の予後推定、および/または、神経変性疾患の予後推定におけるバイオマーカーとしてのそれらの使用に関する。
【0002】
また本発明は、生体液サンプル中の前記p53直鎖状タンパク質配列に対する変化(PTM)を特異的に評価することにより、被験者の軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、前頭側頭型認知症(FTD)、レビー小体(LB)、及び血管性認知症(VD)などの神経変性疾患の高精度質量分析に基づく診断方法を提供する。
【0003】
また本発明は、生体液サンプル中のp53タンパク質の直鎖配列に対する前記PTMの変化を特異的に評価することにより、無症状期および前駆期(MCI)のアルツハイマー病(AD)の予後推定のための高精度質量分析に基づく診断方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
アルツハイマー病(略して「AD」)の早期のリスクファクターとして、構造変化した大量のp53アイソフォームの存在が、さまざまな公表された研究により確認されている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。
【0005】
最初に、AD、軽度認知障害、パーキンソン病、その他の認知症、及び健常者の中から400名超の被験者を様々な独立した研究に登録し、市販の構造特異的抗p53抗体を用いて、様々な手法(免疫沈降実験、FACS分析、ELISA)により折りたたみ不全p53を検査した(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7)。
【0006】
2006年、Ubertiら(非特許文献8)は、散発性アルツハイマー病(AD)患者の線維芽細胞が、年齢を合致させた非AD患者の線維芽細胞の細胞とは異なる、異常で検出可能なp53のコンフォメーション状態を特異的に発現することを初めて明らかにした。
【0007】
この構造変化した状態では、p53はその標的遺伝子を転写活性化する能力を失い、その結果、生物学的機能を失う(非特許文献9;非特許文献10)。健康な非認知症の被験者、または他の認知症およびPD並びにADに移行したMCIに罹患している患者と比較して、ADの血液中では、折りたたみ不全p53の量が多いことも確認されている。
これらのデータは、折りたたみ不全p53とAD病態の直接的な関連性を示唆する。
【0008】
特許文献1では、2D3A8という名前の新しい構造特異的抗Up53抗体の開発が報告されている。これは、p53がその野生型構造を失って折りたたみ不全表現型となった場合にのみアクセス可能なエピトープ(aa282-297)に結合する。ADで発見された折りたたみ不全p53の最初に使用された市販の抗体(PAb240、aa214-217)と比較すると、2D3A8抗体は、Oviedoコホートの健康な高齢者と比較して、AD患者の識別においてより高い感度と特異性を示した。
【0009】
特に、前記免疫診断法は、ADの指標である生体サンプル中の免疫複合体を同定し、軽度認知障害(MCI)に罹患した被験者のAD発症の素因を決定することができる。
【0010】
特許文献2は、アルツハイマー病に罹患した患者又はAD発症の素因となる症状を有する患者のヒト血漿中の質量分析により検出された「P1」及び「P2」として示される特定のp53ペプチドの同定及びレベルの定量化に基づく方法を開示している。
【0011】
現在、アルツハイマー病の診断および/または予後推定に利用できる新しい特異的な生物学的マーカーを同定し、特に疾患の前臨床および前駆期で、ADと他の認知症(前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症など)の識別解析に使用される、ADの診断や予後推定に利用できる正確で賢明な診断方法を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP3201234B1
【特許文献2】PCT/IB2019/051785
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Stanga,S.et al.,2010.Unfolded p53 in the pathogenesis of Alzheimer’s disease:Is HIPK2 the link? Aging,2(9),pp.545-554
【非特許文献2】Lanni,C.et al.,2007.Unfolded p53:A potential biomarker for Alzheimer’s disease.In Journal of Alzheimer’s Disease.pp.93-99
【非特許文献3】Uberti,D.et al.,2008.Conformationally altered p53:a putative peripheral marker for Alzheimer’s disease.Neuro-degenerative diseases,5(3-4),pp.209-11
【非特許文献4】Lanni,C.et al.,2008.Conformationally altered p53:a novel Alzheimer’s disease marker? Molecular psychiatry,13(6),pp.641-7
【非特許文献5】Lanni,C.,Racchi,M.,et al.,2010.Unfolded p53 in blood as a predictive signature signature of the transition from mild cognitive impairment to Alzheimer’s disease.Journal of Alzheimer’s disease:JAD,20(1),pp.97-104
【非特許文献6】Buizza,L.et al.,2012.Conformational altered p53 as an early marker of oxidative stress in Alzheimer’s disease.PloS one,7(1),p.e29789
【非特許文献7】Arce-Varas N,et al.Comparison of extracellular and intracellular blood compartments highlights redox alterations in Alzheimer’s and Mild Cognitive Impairment patients.Current Alzheimer Research 2017;14(1):112-122
【非特許文献8】Uberti,D.et al.,2006.Identification of a mutant-like conformation of p53 in fibroblasts from sporadic Alzheimer’s disease patients.Neurobiology of aging,27(9),pp.1193-201
【非特許文献9】Lanni,C.,Nardinocchi,L.,et al.,2010.Homeodomain interacting protein kinase 2:a target for Alzheimer’s beta amyloid leading to misfolded p53 and inappropriate cell survival.PloS one,5(4),p.e10171
【非特許文献10】Lanni,C.et al.,2008. Pharmacogenetics and Pharmagenomics,Trends in Normal and Pathological Aging Studies:Focus on p53.Current Pharmaceutical Design,14(26),pp.2665-2671
【非特許文献11】Peptide Mass Fingerprint(PMF;Cristoni S.et al Expert Rev Proteomics.2004 Dec;1(4):469-83)
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、アミノ酸1~371の領域内のp53タンパク質のアミノ酸配列における11個の主要な翻訳後修飾(PTM)(本明細書中では、PTM-1、PTM-2、PTM-3、PTM-4、PTM-5、PTM-6、PTM-7、PTM-8、PTM-9、PTM-10、PTM-11という)および/または、生体液サンプル中のp53タンパク質のいくつかのトランケーション型を同定することによって達成された。
【0015】
したがって、本発明の一態様は、異なる形態の認知症と認知機能低下の診断、および/または、様々な段階のアルツハイマー病の予後推定に使用するための、前記PTMの同定に基づく診断方法に関する。
【0016】
本発明の特徴および利点は、以下の詳細な説明および例示目的で提供される実施例、ならびに添付の図面から明らかになるであろう:
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ADに罹患した被験者のサンプルで検出されたタンパク質のユビキチン化部位
図2】対照サンプル(CU)で検出されたタンパク質ユビキチン化部位
図3】前頭葉型認知症(FTD)に罹患した被験者のサンプルで検出されたタンパク質のユビキチン化部位
図4】レビー小体型認知症(LB)に罹患した被験者のサンプルで検出されたタンパク質のユビキチン化部位
図5】血管性認知症(VD)に罹患した被験者のサンプルで検出されたタンパク質のユビキチン化部位
図6】軽度認知障害(MCI)に罹患した被験者のサンプルで検出されたタンパク質のユビキチン化部位
図7】少なくとも18ヶ月の間にわたってADを発症した認知機能のある健常者(CU)のサンプルで検出されたタンパク質のユビキチン化部位
図8】ADを発症したMCI群の被験者のサンプルで検出されたタンパク質のユビキチン化部位 図で報告されている配列は、配列番号1の直鎖配列に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[定義]
「U-p53」という用語は、p53タンパク質のアミノ酸1~371の領域を意味し、以下に述べるように、直鎖状タンパク質配列上の翻訳後修飾(PTM)、場合によってはトランケーションも含む。
【0019】
「p53」という用語は、データベース「UniProtKB、タンパク質ID:P04637、アミノ酸:1-393」の野生型タンパク質p53を意味する。
【0020】
「神経変性疾患」という用語は、主にヒトの脳のニューロンに影響を与える一連の状態を示すことを意図し、また軽度認知障害(MCI)、前頭側頭型認知症(FTD)、レビー小体(LB)、血管性認知症(VD)などの認知症、および前記神経変性疾患、認知症に至る認知機能低下、アルツハイマー病(AD)(前臨床期、前駆期を含む)の様々な段階も含む。
【0021】
[発明の詳細な説明]
したがって、本発明は、神経変性疾患の診断のためのin vitroまたはex vivo法におけるバイオマーカーとして使用することができる、高精度質量分析法によって検出されたp53翻訳後修飾の組み合わせに関する。前記方法は、アルツハイマー病に罹患した患者、またはADもしくは異なる型の認知症の発症の素因となり得る症状を有する患者から得られた生体液サンプル中の質量分析によって検出された、その直線配列と比較した特定のp53修飾(略称「PTM」)の同定に基づいている。
【0022】
具体的には、まず、アルツハイマー病の前臨床期、前駆臨床期にある患者、軽度認知障害(MCI)安定患者、認知障害のない被験者(CU)、前頭側頭型認知症(FD)、血管性認知症(VD)、およびレビー小体型認知症(LB)の生体液サンプルにおいて、p53タンパク質を免疫沈降法により捕捉する。次に、捕捉したタンパク質の翻訳後修飾を、高感度選択的質量分析法を用いたタンパク質配列決定により同定する。また、配列決定後、データベース検索により翻訳後修飾を同定し、文献に既に記載されているものを確認する。
【0023】
次に、各サンプルについて得られたデータを、同じ臨床的証拠を有する被験者からの生体液サンプルで検出されたPTMと比較することにより、「PTMと診断」の間の相関が示され、これにより、U-p53 PTMが神経変性疾患の予後推定および診断における信頼性の高いバイオマーカーとして考慮できるという強力な証拠が示される。
【0024】
前記方法は有利には迅速であり、少量の生体液サンプルで、分析される各サンプル中のU-p53 PTMを確実に同定する。
【0025】
さらに、本方法と同定されたバイオマーカーは、無症状者やMCI患者のアルツハイマー病の診断と予後推定にも利用できるため、診断法市場への参入が可能となる。
【0026】
さらに、本方法と同定されたバイオマーカーは、アルツハイマー病を、認知症患者のLB、VD、FTDなどの他の形態の認知症と識別するためにも使用できる。実際、以下に示すように、アルツハイマー病に罹患した患者の生体液サンプル中のU-p53タンパク質配列は、アミノ酸1~271の領域内の長さの点で変動性を示し、前記変動性は、同じ領域内のトランケーションを含む。前記変動性とトランケーションはアルツハイマー病に特有のものであり、他の形態の認知症に罹患している患者の生体液サンプルでは検出されず、ましてや認知障害のない被験者では検出されないことが理解されよう。
【0027】
同時に、生体サンプル中のU-p53残存量は、その配列長を維持しており、そこにアルツハイマー病特有のPTMが検出される。つまり、アルツハイマー病の患者は、U-p53タンパク質配列のトランケーションと、トランケーションされていないU-p53タンパク質の残存量に特異的なPTMの両方を示す限り、明確に特定され、他の認知症患者と区別される。
【0028】
さらに、前記バイオマーカーは、無症状およびMCIの被験者のアルツハイマー病への認知機能低下の予後推定および認知症としての神経変性疾患の診断に用いることができるので、前記方法は、臨床試験においてU-p53 PTMを使用して被験者を選択することで、試験の成功を可能にし、アルツハイマー病患者をLB、VD、FTDなどの他の形態の認知症と区別することを有利に可能にする。
【0029】
したがって、本発明は、神経変性疾患の診断または予後推定のためのin vitroまたはex vivoの方法に関し、該方法は、以下の工程を含む:
【0030】
a)p53タンパク質(U-p53)のアミノ酸1~371の領域における翻訳後修飾(PTM)の存在について生体液サンプルを分析する工程であって、前記PTMは以下の通りであり、PTM-2、PTM-7、PTM-8、およびPTM-11から選択される少なくとも2つのPTMの存在が、認知障害のない被験者(CU)の指標である工程:
アミノ酸M1におけるPTM-1;
アミノ酸K164におけるPTM-2;
アミノ酸K370におけるPTM-3;
アミノ酸L101におけるPTM-4;
アミノ酸K120におけるPTM-5;
アミノ酸K132におけるPTM-6;
アミノ酸K139におけるPTM-7;
アミノ酸K291におけるPTM-8;
アミノ酸K357におけるPTM-9;
アミノ酸S6におけるPTM-10;
アミノ酸S33におけるPTM-11。
【0031】
b)神経疾患の発生または発症リスクの指標として、以下の存在を評価する工程であって、前記神経変性疾患が、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、前頭側頭型認知症(FTD)、レビー小体(LB)、および血管性認知症(VD)から選択される工程:
- PTM-1、PTM-3、PTM-4、PTM-5、PTM-6、PTM-9、およびPTM-10から選択される少なくとも2つのPTM、および
- PTM-2、PTM-7、PTM-8、およびPTM-11から選択される少なくとも1つのPTM。
【0032】
c)工程b)で評価されたPTMを、対応する神経変性疾患を同定する指標と関連付ける工程。
本発明によれば、好ましくは、in vitroまたはex vivoの方法において、以下の通りである:
- 翻訳後修飾PTM-1は、p53タンパク質のアミノ酸M1に分岐した基CO-CHを有する;
- 翻訳後修飾PTM-2は、p53タンパク質のアミノ酸K164に分岐した基CO-CHを有する;
- 翻訳後修飾PTM-3は、p53タンパク質のアミノ酸K370に分岐した基CO-CHを有する;
- 翻訳後修飾PTM-4は、p53タンパク質のアミノ酸K101に分岐したユビキチン化部位[GG]を有する;
- 翻訳後修飾PTM-5は、p53タンパク質のアミノ酸K120に分岐したユビキチン化部位[GG]を有する([GG]は「グリシン」の2残基の側鎖を表す。);
- 翻訳後修飾PTM-6は、p53タンパク質のアミノ酸K132に分岐したユビキチン化部位[GG]を有する;
- 翻訳後修飾PTM-7は、p53タンパク質のアミノ酸K139に分岐したユビキチン化部位[GG]を有する;
- 翻訳後修飾PTM-8は、p53タンパク質のアミノ酸K291に分岐したユビキチン化部位[GG]を有する;
- 翻訳後修飾PTM-9は、p53タンパク質のアミノ酸K357に分岐したユビキチン化部位[GG]を有する;
- 翻訳後修飾PTM-10は、p53タンパク質のアミノ酸S6がリン酸化されている;
- 翻訳後修飾PTM-11は、p53タンパク質のアミノ酸S33がリン酸化されている。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明のin vitro又はex vivoの方法は、アルツハイマー病を、認知症患者におけるLB、VD、FTDなどの他の形態の認知症と識別するための方法である。実際、上述したように、以下の基準の評価は、ADの指標である:
【0034】
- アミノ酸1~271の領域内の長さに関する配列変動性であって、同一領域内のトランケーションを含む、前記変動性;および
- トランケーションされていない配列の残存量におけるPTM-1、PTM-3、PTM-4、PTM-5、およびPTM-6から選択される少なくとも2つのPTMの存在、好ましくはPTM-1、PTM-3、PTM-4、PTM-5、およびPTM-6の全ての存在。
【0035】
主に生体反応による前記トランケーションは、前記トランケーションされていない配列の残存量におけるPTMの検出性に影響を及ぼさない。
【0036】
上記のように、他の認知症患者の生体液サンプルでは検出されないことから、前記変動およびトランケーションはアルツハイマー病特有のものであることが理解されるべきである。一方、生体液サンプル中のU-p53の残存量は、その配列長を維持し、アルツハイマー病特有のPTMが検出される。したがって、アルツハイマー病患者は、U-p53タンパク質配列のトランケーションと、トランケーションされていないU-p53タンパク質の残存量における特異的なPTMの両方を示す限り、他の認知症患者とは明確に識別および区別される。
【0037】
好ましくは、本発明のin vitro又はex vivoの方法において、PTM-2、PTM-7、PTM-8、およびPTM-11の全ての存在は、認知障害のない被験者(CU)の指標である。
【0038】
好ましくは、本発明のin vitro又はex vivoの方法において、PTM-1、及びPTM-10の存在は、MCIの指標である。
【0039】
好ましくは、本発明のin vitro又はex vivo方法において、PTM-4、PTM-5及びPTM-9から選択される少なくとも2つのPTMの存在、より好ましくは、PTM-4、PTM-5及びPTM-9の全ての存在は、アルツハイマー型認知症(AD)の認知機能の低下の予後を有する無症状の被験者の指標である。この点で、本発明の方法は、両被験者が形式的には無症状であり、したがって、従来の認知テストによっては互いに区別することができないが、認知障害のない被験者(CU)を識別し、アルツハイマー型認知症の認知機能の低下の予後を有する無症状被験者と区別することができると理解される。
【0040】
好ましくは、本発明のin vitro又はex vivo方法において、PTM-1、PTM-3、PTM-5、PTM-6、及びPTM-10から選ばれる少なくとも2つのPTMの存在、より好ましくはPTM-1、PTM-3、PTM-5、PTM-6、及びPTM-10の全ての存在は、ADの認知機能低下の予後を有するMCIの指標である。
【0041】
好ましくは、本発明のin vitroまたはex vivoの方法では、PTM-5、およびPTM-9の存在は、FTDの指標である。
【0042】
好ましくは、本発明のin vitroまたはex vivoの方法では、PTM-5、およびPTM-6の存在は、LBの指標である。
【0043】
好ましくは、本発明のin vitroまたはex vivoの方法では、PTM-4、およびPTM-5の存在は、VDの指標である。
【0044】
好ましくは、前記生体液は、血液、血漿、血清、唾液、尿、神経細胞、血液細胞または他の細胞である。
【0045】
好ましい実施形態によれば、本発明のin vitro又はex vivoの方法の工程a)において、以下のサブステップを実行することにより、p53タンパク質を生体液サンプル中に捕捉する:
(i)生体液サンプルを提供するステップ;
(ii)p53タンパク質と結合する抗体によるタンパク質免疫沈降を行うステップ;
(iii)トリプシンによるタンパク質の断片化を行うステップ。
そして、工程b)は、HPLC-質量分析、ペプチド質量フィンガープリントおよびデータベース検索によって実施される。
【0046】
好ましい実施形態では、工程a)のp53タンパク質は、ミスフォールドした構造にあるU-p53である。
【0047】
好ましくは、サブステップ(ii)の抗体は、p53ペプチドに結合する構造特異的な抗体であり、より好ましくは、モノクローナル/ポリクローナル抗体である。好ましい実施形態において、前記モノクローナル抗体は、抗体2D3A8である。
【0048】
2D3A8抗体のアミノ酸配列は、重鎖(配列番号7)および軽鎖(配列番号8);重鎖可変領域(配列番号9)および軽鎖可変領域(配列番号10);重鎖CDR1、2および3(それぞれ配列番号11、12および13)および軽鎖CDR1、2および3(それぞれ配列番号14、15および16)を含む。
【0049】
好ましくは、工程a)の生体サンプルは、ステップ(ii)を行う前に、HPLCまたはクロマトグラフィーカラムまたは化学処理によるタンパク質血漿ディプリーション(protein plasma depletion)に供される。
【0050】
好ましい実施形態では、本発明の方法の工程c)において、検出されたPTMは、認知症による疾患または認知機能低下の様々な段階の患者において、アルツハイマー病の診断/予後推定と相関する。
【0051】
好ましくは、工程c)において、検出されたPTMは、無症状者及びMCIを患っている被験者のアルツハイマー病の認知機能低下の予後と相関する。
【0052】
さらなる態様において、また本発明は、上記のin vitroまたはex vivoの方法の実施に使用する診断キットに関し、該キットは、抗体、タンパク質の消化(好ましくは、Lys Cを含む/含まないトリプシン)、抗体により捕捉されたタンパク質を沈殿させる溶出緩衝液、および注入緩衝液を含む免疫沈降を行うための試薬セットを含む。
【0053】
さらなる態様において、また本発明は、前記被験者からのサンプル中に存在するp53タンパク質(U-p53)のアミノ酸1~371の領域における翻訳後修飾(PTM)のタイプを識別することによって、被験者における神経変性疾患または神経変性疾患の発症を検出する方法に関する。この方法は、以下の工程を包含する:
【0054】
a.U-p53のアミノ酸282~297によって定義されるアミノ酸配列に結合する抗体を用いた免疫沈降に前記サンプルを供する工程;
b.工程(a)の前記免疫沈降サンプルをプロテアーゼ消化に供する工程;
c.工程(b)の前記消化サンプル中のp53タンパク質(U-p53)のアミノ酸1~371の領域における翻訳後修飾(PTM)の存在を検出し、PTMをPTM-1、PTM-2、PTM-3、PTM-4、PTM-5、PTM-6、PTM-7、PTM-8、PTM-9、PTM-10およびPTM-11として分類する工程。
【0055】
前記PTM-1は前記U-p53のアミノ酸M1にあり、前記PTM-2は前記U-p53のアミノ酸K164にあり、前記PTM-3は前記U-p53のアミノ酸K370にあり、前記PTM-4は前記U-p53のアミノ酸L101にあり、前記PTM-5は前記U-p53のアミノ酸K120にあり、前記PTM-6は前記U-p53のアミノ酸K132にあり、前記PTM-7は前記U-p53のアミノ酸K139にあり、前記PTM-8は前記U-p53のアミノ酸K291にあり、前記PTM-9は前記U-p53のアミノ酸K357にあり、前記PTM-10は前記U-p53のアミノ酸S6にあり、そして前記PTM-11は前記U-p53のアミノ酸S33にある。
【0056】
PTM-1、PTM-3、PTM-4、PTM-5、PTM-6、PTM-9、およびPTM-10から選ばれる少なくとも2つのPTMの存在、ならびにPTM-2、PTM-7、PTM-8、およびPTM-11から選ばれる少なくとも1つのPTMの存在は、神経変性疾患または神経変性疾患の発症の指標である。
【0057】
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、アルツハイマー病(AD)に至る認知機能低下、軽度認知障害(MCI)、ADに至る認知機能低下の予後を有する軽度認知障害(MCI)、前頭側頭型認知症(FTD)及び/又はレビー小体型認知症(LB)、及び血管性認知症(VD)である。
【0058】
本発明によれば、好ましくは、前記方法において、前記PTM-1は、前記p53タンパク質のアミノ酸M1に分岐した基CO-CHを有し;前記PTM-2は、前記p53タンパク質のアミノ酸K164に分岐した基CO-CHを有し;前記PTM-3は、p53タンパク質のアミノ酸K370に分岐した基CO-CHを有し;前記PTM-4は、p53タンパク質のアミノ酸K101に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;前記PTM-5は、p53タンパク質のアミノ酸K120に分岐したユビキチン化部位[GG]10を有し;前記PTM-6は、p53タンパク質のアミノ酸K132に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;前記PTM-7は、p53タンパク質のアミノ酸K139に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;前記PTM-8は、p53タンパク質のアミノ酸K291に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;前記PTM-9は、p53タンパク質のアミノ酸K357に分岐したユビキチン化部位[GG]を有し;前記PTM-10は、p53タンパク質のアミノ酸S6がリン酸化され;および、前記PTM-11は、p53タンパク質のアミノ酸S33がリン酸化されている。
【0059】
好ましくは、前記方法において、工程(c)で検出される前記少なくとも2つのPTMは、PTM-1、PTM-3、PTM-4、PTM-5、及びPTM-6からなる群から選択され、前記検出はアルツハイマー病(AD)またはADの予後推定の指標である。
【0060】
好ましくは、前記方法において、工程(c)で検出される前記少なくとも2つのPTMは、PTM-1及びPTM-10からなる群から選択され、前記検出は、MCIの指標である。
【0061】
好ましくは、前記方法において、前記サンプルは、ADの症状を示さない被験者からのものであり、工程(c)で検出された前記少なくとも2つのPTMは、PTM-4、PTM-5及びPTM-9からなる群より選択され、前記検出は、ADに至る認知機能の低下の予後の指標である。
【0062】
好ましくは、前記方法において、工程(c)で検出される前記少なくとも2つのPTMは、PTM-1、PTM-3、PTM-5、PTM-6、及びPTM-10からなる群から選択され、前記検出は、ADに至る認知機能低下の予後を有するMCIの指標である。
【0063】
好ましくは、前記方法において、工程(c)で検出される前記少なくとも2つのPTMは、PTM-5、及びPTM-9からなる群から選択され、前記検出はFTDの指標である。
【0064】
好ましくは、前記方法において、工程(c)で検出される前記少なくとも2つのPTMは、PTM-5、及びPTM-6からなる群から選択され、前記検出はLBの指標である。
【0065】
好ましくは、前記方法において、工程(c)で検出される前記少なくとも2つのPTMは、PTM-4、及びPTM-5からなる群から選択され、前記検出はVDの指標である。
【0066】
好ましくは、前記方法において、前記サンプルは、血液、血漿、血清、唾液、尿、神経細胞からなる群から選択される。
【0067】
好ましくは、前記方法において、前記プロテアーゼはトリプシンである。
【0068】
好ましくは、前記方法において、工程(c)の前記検出は、HPLC-質量分析、ペプチド質量フィンガープリント及びデータベース検索のうちの1つ以上によって行われる。
【0069】
好ましくは、前記方法において、前記抗体はモノクローナル抗体であり、より好ましくは2D3A8である。
【0070】
好ましくは、前記方法において、前記サンプルは、工程(a)~(c)を行う前に、HPLCまたはクロマトグラフィーカラムまたは化学処理によるタンパク質血漿ディプリーションに供される。
【0071】
さらなる態様において、また本発明は、被験者における神経変性疾患または神経変性疾患の発症を検出するためのキットであって、該キットは免疫沈降を行う試薬セットを含み、前記試薬セットは、U-p53のアミノ酸282~297によって定義されるアミノ酸配列に結合可能な抗ヒトp53抗体を含み、好ましくは、前記抗ヒトp53抗体はモノクローナル抗体であり、より好ましくは、前記モノクローナル抗体は2D3A8である。
【0072】
また、本発明のペプチドの好ましい態様の全ての組み合わせ、ならびに上記で報告された、調製方法、キットおよびそれを用いる方法の全ての組み合わせは、本明細書によって開示されると見なされるべきであると理解される。
【0073】
上記に開示された本発明のPTM、調製プロセス、キットおよび方法の好ましい態様のすべての組み合わせは、本明細書に記載されていると理解される。
【0074】
以下、説明の目的で提供される本発明の実施例である。
【実施例
【0075】
材料と方法
U-p53タンパク質配列とその翻訳後修飾の単離と同定
この解析は、認知障害のない被験者(CU)、ADや他の認知症(FTD、LB、VD)の患者、および軽度認知機能低下(MCI)を有する個体、ADの認知機能低下の予後を有するMCI患者(ADに至るMCI)、および無症状ADの認知機能低下の予後を有する患者(ADに至るCU)の血漿から抽出したU-p53タンパク質の配列とその翻訳後修飾の同定に関する。
【0076】
サンプル調製
1.緩衝液
- 緩衝液A:Tris 25mM、塩化ナトリウム(NaCl)0.15mM、Tween-20 50mM;調製:Tris(303mg)、塩化ナトリウム(NaCl;885mg)、およびTween-20(5.5g)を得る。最終容量が100mLになるように再蒸留水を加える。注:溶液は、分析セクションごとに新しく調製する必要がある。
【0077】
- 緩衝液B:グリシン0.1M pH2.0。調製:グリシン(750mg)グリシンを再蒸留水で処理する。100mLの溶液が得られた。HCl 0.1Mを添加してpH3とする。注:溶液は、分析セクションごとに新しく調製する必要がある。
【0078】
- 重炭酸アンモニウム(NH4HCO3)0.4gを100mLの再蒸留水に可溶化する。注:分析を進める前に、溶液のpHを確認する必要がある。消化の再現性を得るために、pHを8未満とする必要がある。
【0079】
2.試薬の調製
- 50mM AmBic中のジチオスレイトール(DTT)180mM。手順:DTT 0.3gを再蒸留水0.5mLに可溶化する。50mM炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)10mLを加える。ボルテックスを使用して混合物を可溶化する。注:溶液は、分析セクションごとに新しく調製する必要がある。
【0080】
- 50mM AmBic中のヨードアセトアミド(IAA)400mM。手順:ヨードアセトアミド(IAA)0.7gを、50mM 重炭酸アンモニウム(NH4HCO3)溶液10mLに可溶化する。ボルテックスを使用して混合物を可溶化する。注:溶液は、分析セクションごとに新しく調製する必要がある。
【0081】
- 25ng/μL トリプシン溶液。手順:20μgのトリプシンを800μLの50mM NH4HCO3で可溶化する。ボルテックスを使用して混合物を可溶化する。注:溶液は、分析セクションごとに新しく調製する必要がある。
【0082】
3.ビーズ-抗体結合
タンパク質磁気ビーズL 50μL(0.5mg)をバイアルに集める;
150μLの緩衝液Aを加える。ボルテックスにかける;
磁性体表面を使用し、上清(浮遊する固体の下の液体)を廃棄する。
1mLの緩衝液Aを加える。ボルテックスに1分間かける;
磁性体表面を使用し、上清を廃棄する;
抗体溶液(200μL、10μgに相当する0.05μg/μL)をProteinL磁気ビーズに添加する;
溶液を2時間混合する;
磁性体表面を使用し、上清を廃棄する;
500μLの緩衝液Aを加える;
磁性体表面を使用し、上清を廃棄する;
再度洗って上清を廃棄する。
1mLの緩衝液Aを加える。
溶液を室温で保存する。
【0083】
4.血漿の化学汚染物質の除去(ディプリーション)と免疫沈殿
様々なカテゴリの患者から抽出されたサンプルを、層流キャビネット下で、室温で30分間解凍する。
サンプルを25μLのアリコートにスパイクする。これらは別々に処理される。
残りの材料は、再試験の目的で、-20℃で保存する。
25μLの血漿に5μLのCHCNを添加する。アセトニトリルの添加は、50μLの混合量に達するまで1分ごとに繰り返す。白い沈殿物が観察されるまで、5分間ボルテックスを行う。
サンプルの遠心分離は、13000gで10分間行う。40μLの上清をビーズ-抗体複合体に加える。ボルテックスを弱くかける。
混合物を室温で1時間、次いで4°で一晩インキュベートする。
磁性体表面を使用して上清を除去する。
500μLの緩衝液Aを加え、混合物をボルテックスした。
磁性面を使用して上清を除去する。
45μLの緩衝液Bをペレットに添加する。混合後、室温で10分間インキュベートする。
磁性体表面を使用して、酵素的に消化された溶出液(40μL)を回収する。
【0084】
5.免疫捕捉したp53タンパク質の酵素消化
2.15μlのジチオスレイトール(DTT)180mMを40μLの溶出液に添加する。
混合物を50℃で15分間、室温で30分間インキュベートする;
2.15μlのヨードアセトアミド(IAA)400mMを42.15μLの混合物に加える。
得られた混合物を室温で15分間インキュベートする。
得られた混合物44.30μLに、2.15μLのAmBic 50mMを加える。
得られた混合物46.45μLに、Lys-c(50ng/μL)とAmBic 50mMを含むトリプシン(25ng/μL)1μLを加える。
インキュベーションは37℃で3.5時間、その後57℃で30分間行う。
47.45μLの得られた混合物に、1μLのギ酸(HCOOH)を加えて、酵素消化を停止する。pH値を確認し、1~4の範囲内にする。4より高い場合は、1~4の間のpH値になるように、段階的にギ酸(1μL)を添加する。10μLの得られたサンプルを分析する。
【0085】
6.LC-SACI-MSによるPTMの検出
Phenomenex Kinetex PFP 50×4.1mm 2.6μmを備えたHPLC Ultimate 3000(Thermofisher、米国)を使用して、クロマトグラフィー分析を実行する。バイナリグラジエントを使用する:A相(HO+0.2% ギ酸(HCOOH))およびC相 アセトニトリル(CHCN)。グラジエントは下記表で報告する。10μLのサンプルを注入する。
【0086】
LTQ Orbitrap XLをデータ取得に使用する。SACIイオン化源を採用する。ポテンシャル面は47V、ガスネブライザーの圧力は75Psi、乾燥ガス流量は1.0L/分である。350℃のネブライザー温度と、320℃のドライガス温度を併用した。SACIペプチド付加プロファイルモードがデータ取得に採用されている(Cristoni et al.Rapid Commun Mass Spectrom.2003;17(17):1973-81)。
【0087】
【表1】
【0088】
7.データ抽出とタンパク質の特性評価
タンパク質配列とPTMデータは、ボトムアップ条件で動作するSANIST-protツールを使用して取得する。
【0089】
p53配列ペプチドとAD診断との相関
AD患者7名、認知障害のない被験者(CU)5名、MCI患者2名、前頭葉型認知症(FD)患者6名、血管性認知症(VD)1名、レビー小体型認知症(LB)患者1名、並びに、ADに至るMCI患者6名およびADに至るCU患者6名の血漿サンプルを、上記開示のタンパク質p53を単離するために、タンパク質Lベースの実験プロトコルにより処理した。このタンパク質は、ペプチドを最大限に回収するために、二重酵素消化(Lys-C+トリプシン)を受けた。
【0090】
【表2】

*サンプルIDは、サンプルのラベル付けに使用される単なるコードであり、対応する患者のその後の診断とは相関しない。
【0091】
得られた結果
1.AD被験者から免疫捕捉したU-p53タンパク質
個々のADから抽出されたp53タンパク質は、wt p53タンパク質(配列番号1)に対して、アミノ酸1~248の領域でトランケーションされた結果となる(データベース:UniProtKB,Protein ID:P04637,アミノ酸数:1~393)。酵素消化のさまざまな間違いが報告されている。これは、トランケーションされたタンパク質の残基249~371の間に、被験者間で可変領域が存在することにつながる。
【0092】
表2に、AD患者において同定されたp53直鎖状配列とそれぞれの分子量(MW)を報告する。
【0093】
【表3】
【0094】
2.認知障害のない被験者(CU)とADに至る認知障害のない患者から免疫捕捉されたU-p53
5名の認知障害のない患者と、後にADに至った6名の認知障害のない患者から抽出したp53の直鎖配列は、1~371アミノ酸の全配列(配列番号6)に対応し、分子量は41134Daであった。372~391の領域に対応する残基は確認されていない。表3は、認知障害のない患者と、ADに至る認知障害のない患者から得られた直鎖配列を報告する。
【0095】
【表4】
【0096】
3.前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、軽度認知機能低下(MCI)、ADに至るMCIの被験者から免疫捕捉されたU-p53蛋白質
被験者16名(前頭側頭型認知症6名、血管性認知症1名、レビー小体型認知症1名、MCI被験者2名、及びADを発症したMCI 6名)から得られた結果は、1~371残基の全タンパクの存在を報告した。表4は、被験者のタンパク質直鎖配列を報告する。
【0097】
【表5】
【0098】
4.免疫捕捉されたタンパク質で観察されたPTMの説明
様々な臨床グループから抽出され配列決定されたp53タンパク質は、様々な分子量に従って対応する様々な直鎖配列に加えて、主に特定のアミノ酸残基のユビキチン化、アセチル化、およびリン酸化を特徴とする翻訳後修飾(PTM)を示した。また、同じ臨床グループに属するサンプルは、PTMの均一性が高く、同じタンパク質配列との組み合わせで、属する臨床グループを特徴づける要素を示す。
図1~8に、観察されたユビキチン化部位を報告する。
【0099】
4.1.AD被験者
AD患者では、アミノ酸領域1~248に属する発現量の少ないペプチド配列が検出された。その存在量の少なさから、抗体との相互作用が弱いと考えられているp53タンパク質の全配列に由来する可能性がある。このタンパク質配列は、図1において「*」の表記で示されるいくつかのユビキチン化部位を有する。
【0100】
4.2.認知障害のない(CU)被験者
認知障害のないサンプルで検出されたユビキチン化部位を図2に報告する。
4.3.前頭側頭型認知症(FTD)に罹患した被験者
FTDサンプルで検出されたユビキチン化部位を図3に報告する。
4.4.レビー小体型認知症(LB)に罹患した被験者
LBサンプルで検出されたユビキチン化部位を図4に報告する。
4.5.血管性認知症(VD)に罹患した被験者
VDのサンプルで検出されたユビキチン化部位を図5に報告する。
【0101】
4.6.MCIに罹患した被験者
MCIのサンプルで検出されたユビキチン化部位を図6に報告する。
4.7.ADを発症した認知障害のない被験者(CU)のサンプル
18~72ヶ月間にわたってADを発症した認知機能のある健常者のサンプルで検出されたタンパク質のユビキチン化部位を図7に示す。
4.8.ADを発症したMCI被験者のサンプル
ADを発症したMCI被験者で検出されたユビキチン化部位を図8に報告する。
【0102】
得られたデータから、タンパク質の全配列にわたって累積で11個のPTMがあったことが観察できる。すべてのサンプルで、371残基までのタンパク質にわたるペプチドが検出されたが、AD患者の1~248残基の領域に属するペプチドは、分析プロトコルによる酵素消化の結果ではなく、p-53タンパク質全体の生物学的プロセスによってタンパク質から切断されたようであった。p-53タンパク質の372から末端までの領域のアミノ酸は、様々な臨床グループに属するすべてのサンプルで欠落していた。
【0103】
様々な患者で観察されたPTMを表5に開示する(Y=検出、N=非検出)。
【0104】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023536162000001.app
【国際調査報告】