(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】金属イオン電池のための電気活性材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20230816BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507406
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 GB2021052005
(87)【国際公開番号】W WO2022029423
(87)【国際公開日】2022-02-10
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509040226
【氏名又は名称】ネグゼオン・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nexeon Ltd
【住所又は居所原語表記】136 Milton Park,Abingdon,Oxfordshire OX14 3SB,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】メイソン,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】カトック,クセニア
(72)【発明者】
【氏名】フレンド,クリストファー
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA28
5H050FA13
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
本発明は、複数の複合粒子を含む粒子状電気活性材料に関し、複合粒子は:(a)マイクロポア及びメソポアを含む多孔質炭素フレームワークであって、マイクロポア及びメソポアは、0.5から1.5cm3/gの全容積を有する、多孔質炭素フレームワーク;並びに(b)少なくとも多孔質炭素フレームワークのマイクロポア内に位置するシリコン;を含む。多孔質炭素フレームワークは、乾燥重量ベースで少なくとも25wt%のリグニンを含む植物源の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の複合粒子を含む粒子状材料であって、前記複合粒子は、
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む多孔質炭素フレームワークであり、前記マイクロポア及びメソポアは、P
1cm
3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P
1は、0.5から1.5の値を有する数を表す、多孔質炭素フレームワークと、
(b)前記多孔質炭素フレームワークのマイクロポア及び/又はメソポア内に位置する複数の元素ナノスケールのシリコンドメインと
を含み、前記多孔質炭素フレームワークは、乾燥重量ベースで少なくとも25wt%のリグニンを含む植物源の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料である、粒子状材料。
【請求項2】
前記多孔質炭素フレームワークは、水蒸気で活性化される、請求項1に記載の粒子状材料。
【請求項3】
前記植物源は、乾燥重量ベースで少なくとも28wt%、少なくとも30wt%、又は少なくとも35wt%のリグニンを含む、請求項1又は請求項2に記載の粒子状材料。
【請求項4】
前記植物源はリグノセルロース材料である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項5】
前記植物源は、乾燥重量ベースで少なくとも40wt%、少なくとも45wt%、少なくとも50wt%、少なくとも55wt%、又は少なくとも60wt%のセルロース及び/又はヘミセルロースを含む、請求項4に記載の粒子状材料。
【請求項6】
前記リグノセルロース材料は、乾燥重量ベースで少なくとも30wt%のリグニン並びに少なくとも50wt%のセルロース及び/又はヘミセルロースを含む、請求項5に記載の粒子状材料。
【請求項7】
前記植物源は、ココナッツの殻、ナッツの殻、果実の種の殻、針葉樹の樹皮、及び竹から選択されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項8】
前記植物源はココナッツの殻である、請求項7に記載の粒子状材料。
【請求項9】
前記多孔質炭素フレームワークは、少なくとも80wt%の炭素、少なくとも90wt%の炭素、少なくとも95wt%の炭素、又は少なくとも98wt%の炭素を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項10】
P
1は、少なくとも0.55、少なくとも0.6、少なくとも0.65、少なくとも0.7、又は少なくとも0.75の値を有する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項11】
P
1は、1.8以下、1.6以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下、1以下、又は0.95以下の値を有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項12】
前記多孔質炭素フレームワークのマイクロポアの体積分率が0.43から0.85である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項13】
前記多孔質炭素フレームワークは、1200から3000m
2/gのBET表面積を有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項14】
前記多孔質炭素フレームワークは、0.5から30μm、0.5から25μm、1から20μm、1から15μm、1から12μm、1から10μm、又は1から8μmの範囲内のD
50粒径を有する、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項15】
25から65wt%のシリコン、又は30から65wt%のシリコンを含む、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項16】
少なくとも26wt%、少なくとも28wt%、少なくとも30wt%、少なくとも32wt%、少なくとも34wt%、少なくとも36wt%、少なくとも38wt%、少なくとも40wt%、少なくとも42wt%、又は少なくとも44wt%のシリコンを含む、請求項15に記載の粒子状材料。
【請求項17】
60wt%以下、58wt%以下、56wt%以下、54wt%以下、52wt%以下、又は50wt%以下のシリコンを含む、請求項15又は請求項16に記載の粒子状材料。
【請求項18】
前記多孔質炭素フレームワークに対するシリコンの重量比が、少なくとも0.50×P
1、少なくとも0.55×P
1、少なくとも0.6×P
1、少なくとも0.65×P
1、0.7×P
1、少なくとも0.75×P
1、少なくとも0.8×P
1、少なくとも0.85×P
1、少なくとも0.9×P
1、少なくとも0.95×P
1、又は少なくとも1×P
1である、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項19】
前記多孔質炭素フレームワークに対するシリコンの重量比が、1.9×P
1以下、1.85×P
1以下、1.8×P
1以下、1.75×P
1以下、1.7×P
1以下、1.65×P
1以下、1.6×P
1以下、1.55×P
1以下、又は1.5×P
1以下である、請求項1乃至18のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項20】
前記シリコンの少なくとも20wt%、少なくとも22wt%、少なくとも25wt%、少なくとも30wt%、少なくとも35wt%、少なくとも40wt%、又は少なくとも45wt%は、熱重量分析(TGA)によって決定される表面シリコンである、請求項1乃至19のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項21】
前記シリコンの10wt%以下、前記シリコンの8wt%以下、前記シリコンの6wt%以下、前記シリコンの5wt%以下、4wt%以下、3wt%以下、2wt%以下、又は1.5wt%以下は、熱重量分析(TGA)によって決定される粗いバルクシリコンである、請求項1乃至20のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項22】
前記マイクロポア及び/又はメソポアの少なくとも一部が、前記シリコンによって完全に取り囲まれた空隙を含む、請求項1乃至21のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項23】
前記複合粒子は、1から30μmの範囲内のD
50粒径を有する、請求項1乃至22のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項24】
前記複合粒子は、少なくとも0.5μm、少なくとも0.8μm、少なくとも1μm、少なくとも1.5μm、又は少なくとも2μmのD
10粒径を有する、請求項1乃至23のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項25】
前記複合粒子は、50μm以下、40μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、又は15μm以下のD
90粒径を有する、請求項1乃至24のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項26】
前記複合粒子は、100m
2/g以下、80m
2/g以下、60m
2/g以下、50m
2/g以下、40m
2/g以下、30m
2/g以下、25m
2/g以下、20m
2/g以下、15m
2/g以下、又は10m
2/g以下のBET表面積を有する、請求項1乃至25のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項27】
前記複合粒子は、少なくとも0.1m
2/g、少なくとも1m
2/g、少なくとも2m
2/g、又は少なくとも5m
2/gのBET表面積を有する、請求項1乃至26のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項28】
窒素ガス吸着によって測定された、シリコンの存在下での前記複合粒子のマイクロポア及びメソポアの容積は、0.15×P
1以下、0.10×P
1以下、0.05×P
1以下、又は0.02×P
1以下である、請求項1乃至27のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項29】
前記複合粒子は、前記多孔質炭素フレームワークの細孔構造へのシリコン含有前駆体の化学気相含浸(CVI)によって得られる、請求項1乃至28のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項30】
複数の複合粒子を含む粒子状材料であって、前記複合粒子は、
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む多孔質炭素フレームワークであり、前記マイクロポア及びメソポアは、P
1cm
3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P
1は、0.5から1.5の値を有する数を表す、多孔質炭素フレームワークと、
(b)前記多孔質炭素フレームワークのマイクロポア及び/又はメソポア内に位置する複数の元素ナノスケールのシリコンドメインと、
を含み、前記多孔質炭素フレームワークは、ココナッツの殻の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料である、粒子状材料。
【請求項31】
請求項2及び9乃至29に記載の特徴のいずれかをさらに含む、請求項30に記載の粒子状材料。
【請求項32】
請求項1乃至31のいずれか一項に記載の粒子状材料と、少なくとも1つの他の成分を含む組成物。
【請求項33】
少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料を含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
20から70wt%、25から65wt%、又は30から60wt%の前記少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料を含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
当該組成物の全乾燥重量に基づき、15から60wt%、20から50wt%、又は30から50wt%の請求項1乃至31のいずれか一項に記載の粒子状材料を含む、請求項33又は請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料は、グラファイト、ハードカーボン、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、及び鉛から選択されている、請求項33乃至35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
さらなる粒子状電気活性材料を実質的に含まない、請求項32に記載の組成物。
【請求項38】
当該組成物の全乾燥重量に基づき、少なくとも50wt%、少なくとも60wt%、少なくとも70wt%、少なくとも80wt%、又は少なくとも90wt%の請求項1乃至31のいずれか一項に記載の粒子状材料を含む、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
バインダーを含む、請求項32乃至38のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項40】
当該組成物の全乾燥重量に基づき、0.5から20wt%、1から15wt%、2から10wt%、又は5から10wt%の前記バインダーを含む、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
1つ以上の導電性添加物を含む、請求項32乃至40のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項42】
当該組成物の全乾燥重量に基づき、0.5から20wt%、1から15wt%、2から10wt%、又は5から10wt%の前記1つ以上の導電性添加物を含む、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
集電体と電気的に接触している、請求項1乃至31のいずれか一項に記載の粒子状材料を含む電極。
【請求項44】
前記粒子状材料は、請求項32乃至42のいずれか一項に記載の組成物の形態である、請求項43に記載の電極。
【請求項45】
(i)請求項43又は請求項44に記載の電極を含むアノードと、
(ii)金属イオンを放出及び再吸収することができるカソード活物質を含むカソードと、
(iii)前記アノードと前記カソードとの間の電解質と、
を含む充電式金属イオン電池。
【請求項46】
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む複数の多孔質炭素粒子を提供するステップであって、
(i)前記多孔質炭素粒子は、乾燥重量ベースで少なくとも25wt%のリグニンを含む植物源の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料であり、
(ii)前記マイクロポア及びメソポアは、P
1cm
3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P
1は、0.5から1.5の値を有する数を表す、
ステップと、
(b)前記複数の多孔質炭素粒子を、400から700℃の温度で0.5から20vol%のシリコン前駆体ガスを含むガスと接触させて、前記多孔質炭素粒子の細孔内にシリコンを堆積させるステップと、
を含む、請求項1乃至29のいずれか一項に記載の粒子状材料を調製する方法。
【請求項47】
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む複数の多孔質炭素粒子を提供するステップであって、
(i)前記多孔質炭素粒子は、ココナッツの殻の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料であり、
(ii)前記マイクロポア及びメソポアは、P
1cm
3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P
1は、0.5から1.5の値を有する数を表す、
ステップと、
(b)前記複数の多孔質炭素粒子を、400から700℃の温度で0.5から20vol%のシリコン前駆体ガスを含むガスと接触させて、前記多孔質炭素粒子の細孔内にシリコンを堆積させるステップと、
を含む、請求項30又は請求項31に記載の粒子状材料を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、充電式金属イオン電池のための電極における使用に適した電気活性材料に関し、より具体的には、充電式金属イオン電池におけるアノード活物質としての使用に適した高い電気化学容量を有する粒子状材料に関する。
【背景技術】
【0002】
充電式金属イオン電池は、携帯電話及びノートパソコン等の携帯用電子機器において広く使用されており、電気自動車又はハイブリッド自動車への応用が増えている。充電式金属イオン電池は、一般的に、電気活性材料の層を備えた金属集電体の形態のアノードを含み、本明細書においては、電池の充電及び放電中に金属イオンを挿入及び放出することができる材料として定義される。「カソード」及び「アノード」という用語は、本明細書においては、アノードが負極であるように、電池が負荷を越えて配置されるという意味で使用される。金属イオン電池が充電される場合、金属イオンは、金属イオン含有カソード層から電解質を介してアノードまで輸送され、アノード材料に挿入される。「電池」という用語は、本明細書においては、単一のアノード及び単一のカソードを有する装置、並びに、複数のアノード及び/又は複数のカソードを有する装置の両方を指すために使用される。
【0003】
充電式金属イオン電池の重量容量及び/又は体積容量を改善することに関心がある。現在まで、市販のリチウムイオン電池は、アノード活物質としてのグラファイトの使用に主に限定されてきた。グラファイトのアノードが充電されると、リチウムがグラファイト層の間にインターカレートして、経験式LixC6(xは0より大きく且つ1以下)を有する材料を形成する。その結果、グラファイトは、リチウムイオン電池において372mAh/gの最大理論容量を有し、実用容量はやや低い(約340から360mAh/g)。シリコン、スズ、及びゲルマニウム等の他の材料は、グラファイトよりもかなり高い容量でリチウムを挿入することができるが、多くの充放電サイクルにわたって十分な容量を維持することが困難であるため、広く商業的に使用されるには至っていない。
【0004】
特にシリコンは、リチウムに対して非常に高い容量を有するため、高い重量容量及び体積容量を有する、充電式金属イオン電池の製造のためのグラファイトに代わる有望な手段として特定されている(例えば、非特許文献1を参照されたい)。室温で、シリコンは、(Li15Si4に基づく)約3,600mAh/gというリチウムイオン電池における理論的な最大比容量を有する。しかし、バルクシリコンへのリチウムのインターカレーションは、シリコンがその最大容量までリチオ化される(lithiated)と、シリコン材料の体積を元の体積の400%まで大きく増加させる。充放電サイクルが繰り返されると、シリコン材料においてかなりの機械的応力が引き起こされ、結果としてシリコンアノード材料の破砕及び剥離が生じる。脱リチウム(delithiation)時のシリコン粒子の体積収縮によって、アノード材料と集電体との電気的接触が失われる恐れがある。さらに困難なのは、シリコン表面に形成される固体電解質界面(SEI)層が、シリコンの膨張及び収縮に対応するのに十分な機械的耐性を有さないということである。その結果、新たに露出したシリコン表面は、さらなる電解質の分解、SEI層の厚みの増加、及びリチウムの不可逆的消費につながる。これらの故障メカニズムは、集合的に、連続する充放電サイクルにわたって、許容できないほどの電気化学容量の損失をもたらす。
【0005】
多くのアプローチが、シリコン含有アノードを充電するときに観察される体積変化に関連する問題を克服するために提案されている。シリコン膜及びシリコンナノ粒子等、断面積が約150nm以下の微細なシリコン構造は、ミクロンサイズの範囲のシリコン粒子と比較して、充放電時の体積変化に対してより耐性があることが報告されている。しかし、これらのいずれも、その未修正の形態での商業規模の用途には適しておらず;ナノスケールの粒子は、調製及び取り扱いが困難であり、シリコン膜は、十分なバルク容量を提供しない。
【0006】
特許文献1は、改善された容量保持を、高いアスペクト比、すなわち粒子の最大寸法と最小寸法との比を有するシリコン粒子で得ることができるということを開示している。そのような粒子の小さな断面は、充放電時の体積変化による材料に対する構造的応力を低減する。しかし、そのような粒子は、製造が困難でコストがかかることがあり、壊れやすい可能性がある。加えて、表面積が大きいとSEIが過剰に形成され、最初の充放電サイクルで容量が過剰に失われることがある。
【0007】
一般的には、シリコン等の電気活性材料は、活性炭材料等の多孔質キャリア材料の細孔内に堆積され得るということも知られている。これらの複合材料は、ナノ粒子の取り扱いの難しさを回避しながら、ナノスケールのシリコン粒子の有益な充放電特性の一部を提供する。非特許文献2は、シリコン-炭素複合材料を開示しており、このシリコン-炭素複合材料では、多孔質炭素基板が、均一に分布して基板の細孔構造内に堆積されたシリコンナノ粒子を有する導電性フレームワークを提供している。この複合材料は、複数の充電サイクルにわたって容量保持を改善したが、mAh/gでの複合材料の初期容量はシリコンナノ粒子の場合よりもかなり低いことが示されている。
【0008】
特許文献2は、いくつかの大きな孔から分岐した小さな孔を有する炭素ベースの足場を含む活性材料を開示している。電気活性材料(例えばシリコン等)は、大きな孔及び小さな孔の両方の壁、並びに炭素ベースの足場の外面に無差別に位置している。
【0009】
シリコンサブオキサイド材料(例えば、0<x<2のSiOx)が、活性材料として主にグラファイトを含む「ハイブリッド」電極において使用されてきた。しかし、リチオ化におけるSiOxの膨張、及び最初の充電サイクル中の比較的高い不可逆的なリチウム損失のため、SiOxの最大負荷は、典型的には、電極内の全電気活性材料の約10wt%である。従って、シリコン酸化物に匹敵するリチオ化容量を有するが、最初の充電サイクル中の膨張を減少させ且つ容量損失を減少させる高容量の電極材料が必要とされている。
【0010】
電極材料の望ましい膨張特性は、他の重要な特性と共に得られなければならない。特に、商業的に実行可能な代替の電極材料は、多数の充放電サイクルにわたって高い容量保持と共に、高いリチオ化容量の利点を提供する必要がある。加えて、いかなる新しい電気活性材料も、従来の電極作製プロセスにおける既知の材料に対して容易に代用可能であるべきであるということが重要である。これらのプロセスは、典型的には、電極層の密度を高くし且つ電池設計内の空間利用率を改善するために、集電体上での電極材料のカレンダリングに依存している。多孔質材料は、電極作製中の破砕に対して弱く、結果として電気化学的性能が損なわれる。従って、新しい電気化学材料は、増加した電気化学的貯蔵容量及び可逆的な容量保持と共に、十分な構造強度を有するべきであるということが特に求められる。
【0011】
本発明者等は以前、複合構造を有するクラスの電気活性材料の開発を報告しており、この複合構造では、シリコン等のナノスケールの電気活性材料が、例えば多孔質炭素材料等の非常に多孔質の導電性粒子状材料の細孔ネットワーク内に堆積されている。
【0012】
例えば、特許文献3及び4が、これらの材料の改善された電気化学的性能は、電気活性材料が約数ナノメートル以下の寸法を有する小さなドメインの形態で多孔質材料内に置かれる方法に起因し得ると報告している。これらの微細な電気活性構造は、大きな電気活性構造よりも弾性変形に対して低い耐性を有し且つ高い耐破壊性を有し、従って、過剰な構造応力なしにリチオ化及び脱リチウムすることができると考えられている。その結果、電気活性材料は、複数の充放電サイクルにわたって良好な可逆的な容量保持を示す。第二に、細孔容積の一部のみが非荷電状態のシリコンによって占有されるように多孔質炭素フレームワーク内のシリコンの負荷を制御することによって、多孔質炭素フレームワークの占有されていない細孔容積は、内部でのかなりの量のシリコン膨張に適応することができる。さらに、上記のように、ナノスケールのシリコンドメインを小さなメソポア及び/又はマイクロポア内に置くことによって、電解質は小さなシリコン表面の領域のみに到達可能であり、従って、SEI形成は制限される。その後の充放電サイクルにおけるシリコンのさらなる露出は、SEI形成が容量損失につながる重大な故障メカニズムではないように実質的に防がれる。これは、例えば非特許文献2によって開示されている材料を特徴づける過剰なSEI形成とは明らかに対照的である(上記を参照されたい)。
【0013】
ここでは、シリコン及び多孔質炭素を含む複合材料の電気化学的性能の改善を、多孔質炭素材料が特定の植物源に由来する活性炭材料である場合に得ることができるということが決定されている。具体的には、電気化学的性能の改善を、多孔質炭素材料がリグニンを多く含有する植物源の熱分解によって形成される活性炭材料である場合に得ることができるということが特定されている。さらに、これらの複合材料の性能は、多孔質炭素材料が活性化される方法に依存し、水蒸気又はCO2による活性化がさらなる利点をもたらすことが特定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2007/083155
【特許文献2】JP2003-100284
【特許文献3】WO2020/095067
【特許文献4】WO2020/128495
【特許文献5】WO2021/048556
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Insertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries, Winter, M. et al. in Adv. Mater. 1998, 10, No. 10
【非特許文献2】Guo et al., Journal of Materials Chemistry A, 2013, pp.14075-14079
【非特許文献3】P.A. Webb and C. Orr in “Analytical Methods in Fine Particle Technology”, 1997, Micromeritics Instrument Corporation, ISBN 0-9656783-0
【非特許文献4】Bardet et al., Phys. Chem. Chem. Phys. (2016), 18, 18201
【発明の概要】
【0016】
第1の態様において、本発明は、複数の複合粒子を含む粒子状材料を提供し、複合粒子は:
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む多孔質炭素フレームワークであって、マイクロポア及びメソポアは、P1cm3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P1は、0.5から1.5の値を有する数を表す、多孔質炭素フレームワーク;
(b)多孔質炭素フレームワークのマイクロポア及び/又はメソポア内に位置する複数の元素ナノスケールのシリコンドメイン;
を含み、多孔質炭素フレームワークは、乾燥重量ベースで少なくとも25wt%のリグニンを含む植物源の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料である。
【0017】
従って、本発明は、一般的には、シリコンが高多孔質炭素フレームワークの細孔容積を部分的に占有する粒子状材料に関する。本明細書において使用される場合、「ナノスケールのシリコンドメイン」という用語は、多孔質炭素フレームワークのマイクロポア及び/又はメソポア内のシリコンの位置によって決定される最大寸法を有する元素シリコンのナノスケール体を指す。
【0018】
本発明に従って使用される多孔質炭素フレームワークは、活性炭の一形態である。本明細書において使用される場合「活性炭」という用語は、その多孔性及び表面積を増加させるために物理的又は化学的に処理された炭素質材料を指す。化学的活性化又は物理的活性化(すなわち、高温の水蒸気又はCO2)メカニズムは、活性炭の生成に使用される中でも一般的な方法である。
【0019】
本発明は、少なくとも25wt%のリグニン(乾燥重量ベース)を含む植物源の熱分解及び物理的活性化(水蒸気又はCO2)によって生成される活性炭が、他の植物源若しくは非植物源(例えば、高分子材料若しくは樹脂材料の熱分解等)及び/又は化学的(すなわち、水蒸気又はCO2ではない)活性化方法を使用して多孔質炭素材料を調製する場合に由来する多孔質炭素材料と比較した場合に、優れた電気化学的性能を提供するという発見に基づいている。
【0020】
この分野における以前の研究は、類似の材料の電気化学的性能を決定する際の重要な要素として、多孔質炭素フレームワークの細孔容積及び細孔径分布に主に焦点を当ててきた。例えば、一般的には、シリコン等の電気活性材料を、化学気相含浸(CVI)によって多孔質炭素フレームワークの細孔内に堆積させることができるということ、並びに、多孔質炭素フレームワークの細孔容積及び細孔径分布の変動を介して多種多様な複合粒子構造を得ることができるということが知られている。しかし、ナノスケールのシリコンドメインの形態及び構造に重大な影響を与え得る多孔質炭素材料の他の特性もある。これらには、細孔の形状、並びに細孔構造のねじれ及び収縮性等の因子、すなわち、細孔容積が相互接続される方法を特徴づける細孔構造の特徴が含まれる。リグニン含有量の高い植物源の熱分解に由来する多孔質炭素材料では、細孔構造のこれらのさらなる特徴が、複数の充放電サイクルにわたって高い容量保持だけでなく、高い重量容量及び体積容量を有する複合粒子の形成に対して最適化されることがわかっている。
【0021】
理論に縛られることなく、リグニン含有量の高い植物源を熱分解すると、他の炭素含有前駆体材料(例えば、植物又は高分子ベースの材料)から得られるよりも、グラファイトプレートレットの間隔が近い炭化材料が得られると考えられている。これによって、熱分解された材料において高い割合のマイクロポアが形成される。さらに、植物前駆体中のリグニンの密度が高いため、細孔のネットワーク構造はより高い程度のねじれ及び収縮性を有すると考えられている。次に、熱分解された材料の(水蒸気又はCO2を使用した)物理的活性化が、細孔壁内のナノスケールの炭素の領域を除去することによって、細孔容積を増加させることになる。これは、より大きな全細孔容積を達成しながら、接続チャネルが到達可能な中程度のレベルの微小孔サイズの空間が維持されるのを可能にする。
【0022】
さらに、植物前駆体中のより高密度のリグニンと水蒸気又はCO2での活性化との組み合わせは、「インクボトル形状」の細孔の比較的高い割合、より一般的には、メソポアよりも小さい幅を有する1つ又は複数の狭い開口部を介してのみ到達可能な(サブ10nmの)メソポア空間の割合を提供するということが理解されたい。インクボトル形状の細孔は、より大きな寸法の細孔空間がはるかに小さい開口部によってのみ到達可能である場所である。このような細孔構造は、部分的に充填された細孔空間の形成を促進し(例えば、細孔壁は深さ2nm未満の堆積されたSiコーティングを有し)、その後、細孔空間がシリコンで完全に充填されるのを防ぐ開口部のブロック(キャップ)を促進すると考えられている。
【0023】
化学的活性化の方法では、植物源材料に、化学活性化剤(KOH、H3PO4、ZnCl2等)を含浸させる。植物源は、典型的には、熱分解の前に含浸され、熱分解ステップは活性化と同時に行われるが、植物源は化学的含浸の前に炭化されてもよい。多孔質炭素が代わりに化学的活性化プロセスを使用して形成される場合、炭素の除去によって細孔が作られる代わりに、活性化メカニズムは、既存の細孔を広げるか又はグラフェンシートを押し分ける(剥離する)ことによって機能し、これは、狭いチャネル/開口部を介して到達可能な微小孔空間の高い割合を維持するのに貢献しない。これは、化学的に活性化された多孔質炭素材料から調製された複合材料の比較的乏しい電気化学的性能を説明すると考えられている。
【0024】
従って、多孔質炭素フレームワークは、マイクロポア及び/又はメソポアと、任意的に少量のマクロポアとの組み合わせを含む、三次元的に相互接続された開いた細孔のネットワークを含む。IUPACの専門用語に従って、「マイクロポア」という用語は、直径2nm未満の細孔を指すために本明細書において使用され、「メソポア」という用語は、直径2~50nmの細孔を指すために本明細書において使用され、「マクロポア」という用語は、直径50nmを超える細孔を指すために使用される。
【0025】
本明細書において、多孔質炭素フレームワーク内のマイクロポア、メソポア、及び/又はマクロポアの容積への言及、並びに、多孔質炭素フレームワーク内の細孔容積の分布へのいかなる言及も、単独で(すなわち、細孔容積の一部又は全てを占有するいかなるシリコン又は他の材料も非存在下で)得られた多孔質炭素フレームワークの内部細孔容積を指す。
【0026】
多孔質炭素フレームワークは、好ましくは、乾燥重量ベースで少なくとも28wt%のリグニン、少なくとも30wt%のリグニン、又は少なくとも35wt%のリグニンを含む植物源から得られる。上記のように、リグニンの含有量が多いほど、細孔容積のねじれ及び収縮性、並びに「インクボトル形状」の細孔の割合が増加すると考えられている。
【0027】
植物源は、好ましくは、リグノセルロース材料、すなわちセルロース及び/又はヘミセルロースの両方を含む材料である。好ましくは、植物源は、乾燥重量ベースで少なくとも40wt%、少なくとも45wt%、少なくとも50wt%、少なくとも55wt%、少なくとも60wt%、少なくとも65wt%、又は少なくとも70wt%のセルロース及び/又はヘミセルロースを含む。
【0028】
より好ましくは、植物源は、少なくとも25wt%のリグニン並びに少なくとも40wt%のセルロース及び/又はヘミセルロース、少なくとも25wt%のリグニン並びに少なくとも45wt%のセルロース及び/又はヘミセルロース、少なくとも25wt%のリグニン並びに少なくとも50wt%のセルロース及び/又はヘミセルロース、少なくとも25wt%のリグニン並びに少なくとも55wt%のセルロース及び/又はヘミセルロース、少なくとも25wt%のリグニン並びに少なくとも60wt%のセルロース及び/又はヘミセルロース、少なくとも30wt%のリグニン並びに少なくとも50wt%のセルロース及び/又はヘミセルロース、少なくとも30wt%のリグニン並びに少なくとも55wt%のセルロース及び/又はヘミセルロース、或いは、少なくとも30wt%のリグニン並びに少なくとも60wt%のセルロース及び/又はヘミセルロースを含むリグノセルロース材料である。
【0029】
種々の異なる植物ベースの材料が、多孔質炭素フレームワークを調製するために使用されてもよい。使用することができる植物源の例として、種子、ナッツ、及び果実の外皮及び殻(核果、穀粒、壁孔も含む)が挙げられる。これらの植物源の例には、ココナッツ(コイアを含む)、落花生、クルミ、アプリコット、アーモンド、ヤシの種子、桃、オリーブ、及びヘーゼルナッツの外皮及び殻が含まれる。リグニン含有量の高い他の植物源には、竹及び樹皮(例えば、マツ、エゾマツ、カラマツ、及びポプラを含む針葉樹の樹皮、並びにオークを含む広葉樹等)が含まれる。好ましい植物源はココナッツの殻である。
【0030】
植物源は、好ましくは、少なくとも40wt%の炭素、少なくとも3wt%の水素、及び少なくとも30wt%の酸素を含む元素組成を有する。微量の窒素、硫黄、及び塩素も存在し得る。より好ましくは、植物源は、約50wt%の炭素、5wt%の水素、及び40wt%の酸素を含む元素組成を有し、より少量の窒素、硫黄、及び塩素が存在する。
【0031】
多孔質炭素フレームワークは、2つのステップを含むプロセスで植物源から得られる。第一に、炭素質の植物材料が、不活性雰囲気中で植物材料を加熱することによって熱分解される。熱分解は、通常、炭素の脱水及び脱揮発が発生するように、約400から900℃、約500から700℃、又は約550から700℃の温度で行われる。好ましくは、温度は約700℃を超えない。任意的に、炭素質材料は、加熱に先立ち不純物を除去するために前処理される。任意的に、炭素質材料は、加熱に先立ち精製及び/又は洗浄及び乾燥される。任意的に、炭素質材料は、加熱に先立ち均一なサイズの粒子を得るために、ふるいにかけて粉砕又は製粉される。任意的に、炭素質材料は、加熱前にペレット化される。
【0032】
第二に、熱分解された材料は、600℃から1200℃の温度で水蒸気又はCO2の流れの中で加熱することによって活性化される。これは、炭素と水蒸気又はCO2との間の化学反応が炭素の内部表面で発生するのを可能にし、細孔壁から炭素が除去され、それによって細孔容積が増加する。水蒸気又はCO2の活性化プロセスは、細孔のサイズが容易に変更されるのを可能にし、所望の多孔性を有する活性炭が生成される。好ましくは、熱分解された材料は、水蒸気で活性化される。
【0033】
水蒸気又はCO2の活性化は、回転炉、固定床反応器、又は流動床反応器において適切に行うことができる。任意的に、活性化後にさらなる洗い流し、洗浄、又は精製のステップが行われてもよい。任意的に、熱分解及び活性化のステップを組み合わせて、連続的なプロセスとすることもできる。任意的に、活性化材料は、活性化ステップの後に粉末状にされ(例えば製粉され)及び/又はふるいにかけられて、所望のサイズの粒子が得られる。
【0034】
活性化中の熱分解された材料の焼き払いは、好ましくは、少なくとも30%、又は少なくとも40%である。焼き払いは、好ましくは、80%以下、75%以下、又は70%以下である。焼き払いは、物理的活性化が開始される前の物質質量の割合としての、物理的な活性化ステップ中に除去される熱分解された材料の質量分率である。
【0035】
好ましくは、多孔質炭素フレームワークのD50粒径は30μm以下である。任意的に、D50粒径は、25μm以下、20μm以下、18μm以下、16μm以下、14μm以下、12μm以下、10μm以下、又は8μm以下であってもよい。任意的に、D50粒径は、少なくとも0.5μm、少なくとも1μm、少なくとも1.5μm、又は少なくとも2μmであってもよい。
【0036】
例えば、多孔質炭素フレームワークの粒子は、0.5から30μm、0.5から25μm、1から20μm、1から15μm、1から12μm、1から10μm、又は1から8μmの範囲内のD50粒径を有してもよい。
【0037】
多孔質炭素フレームワークの粒子のD10粒径は、好ましくは、少なくとも0.1μm、少なくとも0.3μm、又は少なくとも0.5μmである。多孔質炭素フレームワークの粒子のD90粒径は、好ましくは、50μm以下、40μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、又は15μm以下である。
【0038】
多孔質炭素フレームワークの粒子は、好ましくは、狭い粒度分布スパンを有する。例えば、粒度分布スパン((D90-D10)/D50として定められる)は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、及び最も好ましくは1.5以下である。好ましくは、多孔質炭素フレームワークの粒子の粒度分布は正の歪度(a positive skew)を有する。
【0039】
本明細書において提示される粒度分布を有する多孔質炭素フレームワークの粒子を形成することによって、炭素フレームワークへのシリコンの化学的含浸に先立ち、植物源材料の元の細胞構造から活性化後に残る大きなミクロンサイズの細孔のボイド/チャネルの存在及びマクロサイズの細孔の大部分が除去されると考えられる。正の歪度及び0.50を超える平均真球度を有する狭い粒度分布スパンは、CVI反応器における全粒度範囲にわたるシリコンの均一な堆積も促進することになる。
【0040】
本明細書において使用される場合「粒径」という用語は、球相当径(esd)、すなわち、所与の粒子と同じ体積を有する球の直径を指し、粒子体積は、任意の粒子内細孔の容積を含むと理解される。本明細書において使用される場合「D50」及び「D50粒径」という用語は、体積ベースの中央粒径を指す、すなわち、その直径未満では、粒子集団の50体積%が存在している。本明細書において使用される場合「D10」及び「D10粒径」という用語は、10パーセンタイルの体積ベースの中央粒径を指し、すなわち、その直径未満では、粒子集団の10体積%が存在している。本明細書において使用される場合「D90」及び「D90粒径」という用語は、90パーセンタイルの体積ベースの中央粒径を指し、すなわち、その直径未満では、粒子集団の90体積%が存在している。
【0041】
粒径及び粒度分布は、ISO 13320:2009に従って通常のレーザー回折技術によって決定することができる。特に明記されていない限り、本明細書において特定又は報告されている粒度分布測定値は、Malvern Instrumentsの従来のMalvern Mastersizer(商標)3000粒度分析器によって測定されたものである。Malvern Mastersizer(商標)3000粒度分析器は、水溶液に懸濁された関心のある粒子を含有する透明セルを通してヘリウム-ネオンガスレーザービームを投射することによって動作する。粒子に当たる光線は、粒度に反比例する角度を介して散乱され、光検出器アレイが、いくつかの所定の角度で光の強度を測定し、異なる角度の測定された強度は、標準的な理論原理を使用してコンピュータによって処理されて、粒度分布が決定される。本明細書において報告されているレーザー回折値は、界面活性剤SPAN(商標)-40(ソルビタンモノパルミテート)を5vol%添加した2-プロパノール中の粒子の湿式分散を使用して得られる。粒子の屈折率は、多孔質炭素フレームワークの粒子では2.68、複合粒子では3.50とされ、分散剤指数は1.378とされる。粒度分布は、Mie散乱モデルを使用して計算される。
【0042】
多孔質炭素フレームワークの粒子は、0.2を超える、又は0.3を超える(本明細書において定められる)平均真球度を有してもよい。好ましくは、多孔質炭素フレームワークの粒子は、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.55、少なくとも0.65、又は少なくとも0.7の平均真球度を有する。
【0043】
粒子によって投影される影を記録するためにデジタルカメラが使用される動的画像解析によって又は走査型電子顕微鏡(SEM)によって、ミクロンスケールの粒子の非常に正確な二次元投影を得ることが可能である。本明細書において使用される場合「真球度」という用語は、(そのような画像処理技術から得られる)粒子投影の面積と円の面積の比として理解されるはずであり、ここで、粒子投影及び円は同一の円周を有している。従って、個々の粒子について、真球度Sは:
【0044】
【数1】
として定義することができ、式中、A
mは粒子投影の測定された面積であり、C
mは粒子投影の測定された円周である。本明細書において使用される場合、粒子の集団の平均真球度S
avは:
【0045】
【数2】
として定義され、式中、nは集団における粒子の数を表す。粒子の集団に対する平均真球度は、好ましくは、少なくとも50の粒子の二次元投影から計算される。
【0046】
多孔質炭素フレームワークは、(燃焼生成物の赤外線吸収分析を使用して測定された)少なくとも90wt%の炭素、好ましくは少なくとも95wt%の炭素、より好ましくは少なくとも97wt%の炭素、又は少なくとも98wt%の炭素を含む元素組成を有することが好ましい。多孔質炭素フレームワークは、任意的に、酸素、窒素、硫黄、及び水素等、他の元素を少量含んでもよい。多孔質炭素フレームワークの元素組成は、シリコンの非存在下で行われる、本明細書において記載される従来の元素分析技術によって決定することができる。炭素、水素、及び窒素の含有量は、ISO 29541に従って測定される。好ましくは、多孔質炭素フレームワークは、7wt%以下の酸素、より好ましくは6wt%以下、5wt%以下、又は3wt%以下の酸素を含む。好ましくは、炭素フレームワークは、0.1wt%未満の鉄、より好ましくは0.05wt%未満の鉄を含む。
【0047】
多孔質炭素フレームワークは、10wt%以下、より好ましくは5wt%以下、3wt%以下、1.5wt%以下、1wt%以下、又は0.5wt%以下の灰含有量を有することが好ましい。灰含有量は、ISO 1171に従って計算される、最初の質量の割合としての、多孔質炭素フレームワークの完全燃焼後に残る残留物の質量である。
【0048】
高レベルの酸素又は他の汚染物質を含有する多孔質炭素フレームワークは、シリコン-炭素複合粒子の製造中及び/又はセル電極におけるその使用中の他の元素との相互作用により、複合生成物の性能を低下させると考えられている。灰含有量は、炭素の燃焼後に残るシリカ及びアルミナ等の鉱物酸化物の量の尺度を提供する。
【0049】
マイクロポア及びメソポアの全容積(すなわち、0から50nmの範囲内の直径を有する細孔の全細孔容積)は、本明細書においてP1cm3/gと呼ばれ、P1は0.5から1.5の値を有する無次元数を表す。誤解を避けるために、本明細書において、多孔質炭素フレームワークの細孔容積への言及は、(反対のことが示されていない場合)単独での多孔質炭素フレームワークの細孔容積、すなわち、多孔質炭素フレームワークの細孔を占有する任意の電気活性材料(又は任意の他の材料)の非存在下で測定されたものに関する。
【0050】
P1の値は、好ましくは、少なくとも0.55、少なくとも0.6、少なくとも0.65、少なくとも0.7、又は少なくとも0.75である。より高い多孔性のフレームワークは、電極製造中の圧縮応力又はシリコンのリチオ化による膨張応力下での破砕に対する多孔質炭素フレームワークの耐性を損なうことなく、より多くの量のシリコンが細孔構造内に収容されるのを可能にするため有利である。しかし、P1が高すぎると、以下において論じられる高いレベルの表面シリコンを達成することは可能ではない。従って、P1は、1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下、1以下、又は0.95以下である。
【0051】
例えば、P1は、0.55から1.4、0.6から1.4、0.6から1.3、0.65から1.3、0.65から1.2、0.7から1.2、0.7から1.1、0.7から1、又は0.75から0.95の範囲内にあってもよい。
【0052】
本明細書において使用される場合、マイクロポアの体積分率は、P1によって表される、マイクロポア及びメソポアの全体積の割合として表されるマイクロポアの体積を指す。言い換えると、マイクロポアの体積分率は、50nmまでの直径を有する細孔の全体積に対する、2nm以下の直径を有する細孔の体積分率である。多孔質フレームワークのマイクロポアの体積分率は、好ましくは、複合粒子において高レベルの表面シリコン含有量を得るために、0.43から0.85の範囲内で選択される(下記を参照されたい)。
【0053】
好ましくは、マイクロポアの体積分率は、マイクロポア及びメソポアの全体積に基づき、少なくとも0.45、少なくとも0.48、少なくとも0.5、少なくとも0.51、少なくとも0.52、少なくとも0.54、少なくとも0.56、少なくとも0.58、又は少なくとも0.6である。好ましくは、マイクロポアの体積分率は、マイクロポア及びメソポアの全体積に基づき、0.8以下、0.79以下、0.78以下、0.76以下、0.74以下、0.72以下、又は0.7以下である。
【0054】
マイクロポアの体積分率は、任意的に、マイクロポア及びメソポアの全体積に基づき、0.45から0.85、0.5から0.8、0.45から0.78、0.48から0.8、0.48から0.78、0.48から0.76、0.5から0.8、0.5から0.78、0.5から0.76、0.5から0.74、0.5から0.72、0.5から0.7、0.51から0.76、0.52から0.74、0.53から0.74、0.54から0.72、0.6から0.8未満、0.6から0.79、0.6から0.78、0.6から0.76、0.6から0.74、0.6から0.72、又は0.6から0.7の範囲内にあってもよい。
【0055】
マイクロポア及びメソポアの全体積は、ISO 15901-2及びISO 15901-3に提示されている標準的な方法論に従って、急冷固体密度汎関数理論(QSDFT)を使用して、77Kで10-6の相対圧力p/p0までの窒素ガス吸着を使用して決定される。窒素ガス吸着は、固体の細孔においてガスが凝縮するのを可能にすることによって材料の多孔性を特徴づける技術である。圧力が増加するに従い、ガスは第一に最小の直径の細孔において凝縮し、細孔の全てが液体で満たされる飽和点に達するまで圧力は上げられる。次に、窒素ガス圧力は徐々に下げられて、液体がシステムから蒸発するのを可能にする。吸着等温線及び脱着等温線、並びにそれらの間のヒステリシスを分析することで、細孔容積及び粒度分布が決定されるのが可能になる。窒素ガス吸着による細孔容積及び粒度分布の測定に適した機器には、Micromeritics Instrument Corporation、USAから入手可能なTriStar II及びTriStar II Plus porosity analyzers、並びにQuantachrome Instrumentsから入手可能なAutosorb IQ porosity analyzersが含まれる。
【0056】
利用可能な分析技術の限界を考慮すると、単一の技術を使用してマイクロポア、メソポア、及びマクロポアの全範囲にわたって細孔容積を測定することは可能ではない。多孔質炭素フレームワークがマクロポアを含む場合、50nmより大きく100nmまでの範囲の細孔の容積は、本明細書においてP2cm3/gの値で特定され、水銀ポロシメトリによって測定される。上記のように、P2の値は、単独で、すなわち、多孔質炭素フレームワークの細孔を占有するシリコン又は任意の他の材料の非存在下で測定された場合の、多孔質炭素フレームワークの細孔容積に関する。
【0057】
誤解を避けるために、P2の値は、50nmより大きく100nmまでの及び100nmを含む直径を有する細孔のみを考慮に入れており、すなわち、直径100nmまでのマクロポアの容積のみを含む。50nm以下の粒度で水銀ポロシメトリによって測定されたいかなる細孔容積も、P2の値を決定する目的では無視される(上記のように、窒素吸着はメソポア及びマイクロポアを特徴づけるために使用される)。100nmを超える水銀ポロシメトリによって測定された細孔容積は、本発明のために粒子間の多孔性であると仮定され、P2の値を決定する際にも考慮されない。
【0058】
水銀ポロシメトリは、水銀に浸した材料のサンプルに様々なレベルの圧力を印加することによって、材料の多孔性を特徴づける技術である。サンプルの細孔に水銀を侵入させるために必要な圧力は、細孔のサイズに反比例する。本明細書において報告されている水銀ポロシメトリによって得られる値は、ASTM UOP 578-11に従って得られ、室温の水銀に対して表面張力γは480mN/mとされ、接触角φは140°とされている。水銀の密度は、室温で13.5462g/cm3とされている。Micromeritics Instrument Corporation、USAから入手可能な自動水銀ポロシメータのAutoPore IVシリーズ等、多くの高精度の水銀ポロシメトリ機器が市販されている。水銀ポロシメトリの完全なレビューについては、非特許文献3が参照されてもよい。
【0059】
マクロポアの容積(従って、P2の値)は、好ましくは、マイクロポア及びメソポアの容積(従って、P1の値)と比較して小さい。ほんのわずかなマクロポアが、細孔ネットワークへの電解質の到達を容易にするために有用であり得るけれども、本発明の利点は、マイクロポア及びより小さいメソポアにシリコンを収容することによって実質的に得られる。
【0060】
従って、本発明によると、多孔質炭素フレームワークにおけるマクロポアの全容積は、水銀ポロシメトリによって測定されるP2cm3/gであり、P2は、好ましくは、0.2×P1まで、0.1×P1まで、0.05×P1まで、0.02×P1まで、0.01×P1まで、又は0.005×P1までの値を有する。
【0061】
ガス吸着及び水銀ポロシメトリ等の侵入技術は、多孔質炭素フレームワークの外部から窒素又は水銀が到達可能な細孔の細孔容積を決定するためにのみ効果的であるということが正しく理解されることになる。本明細書において特定されている多孔度(P1及びP2)は、開いた細孔、すなわち、多孔質炭素フレームワークの外部から流体が到達可能な細孔の容積を指すものと理解されるはずである。窒素吸着又は水銀ポロシメトリによって特定することができない完全に囲まれた細孔は、多孔度を特定する際に本明細書においては考慮してはならない。同様に、窒素吸着による検出限界を下回るほど小さい細孔に位置するいかなる細孔容積も、P1の値を決定する際に考慮されない。
【0062】
多孔質炭素フレームワークは、好ましくは、1200から3000m2/gのBET表面積を有する。好ましくは、多孔質炭素フレームワークは、少なくとも1500m2/g、又は少なくとも1700m2/gのBET表面積を有する。好ましくは、多孔質炭素フレームワークは、2500m2/g以下、又は2000m2/g以下のBET表面積を有する。本明細書において使用される場合「BET表面積」という用語は、ISO 9277に従って、Brunauer-Emmett-Teller理論を使用して、固体表面上のガス分子の物理吸着の測定値から計算された単位質量あたりの表面積を指すと理解されるべきである。
【0063】
複合粒子の元素組成は、元素分析によって決定することができる。元素分析は、複合粒子におけるシリコン及び炭素の両方の重量百分率を決定するために使用される。任意的に、水素、窒素、及び酸素の量も元素分析によって決定することができる。好ましくは、元素分析は、多孔質炭素フレームワークのみにおける炭素(及び、任意的に水素、窒素、及び酸素)の重量百分率を決定するためにも使用される。多孔質炭素フレームワークのみにおける炭素の重量百分率を決定するには、多孔質炭素フレームワークがその分子フレームワーク内に少量のヘテロ原子を有する可能性が考慮される。いずれの測定も共に行うことで、多孔質炭素フレームワーク全体に対するシリコンの重量百分率が確実に決定されるのが可能になる。
【0064】
シリコン含有量は、好ましくは、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析)によって決定される。ThermoFisher Scientificから入手可能なICP-OES分析器のiCAP(登録商標)7000シリーズ等、多くのICP-OES機器が市販されている。複合粒子の炭素含有量及び多孔質炭素フレームワークのみの炭素含有量(並びに、必要に応じて水素、窒素、及び酸素の含有量)は、好ましくは、燃焼及び赤外線(IR)吸収技術によって決定される。炭素、水素、窒素、及び酸素の含有量を決定するのに適した機器は、LECO Corporationから入手可能なTruSpec(登録商標)Micro elemental analyzerである。
【0065】
本発明の粒子状材料は、好ましくは、元素分析によって決定される、25から65wt%のシリコン、より好ましくは30から65wt%のシリコンを含有する。好ましくは、本発明の粒子状材料は、少なくとも26wt%、少なくとも28wt%、少なくとも30wt%、少なくとも32wt%、少なくとも34wt%、少なくとも36wt%、少なくとも38wt%、少なくとも40wt%、少なくとも42wt%、又は少なくとも44wt%のシリコンを含有する。好ましくは、本発明の粒子状材料は、60wt%以下、58wt%以下、56wt%以下、54wt%以下、52wt%以下、又は50wt%以下のシリコンを有する。
【0066】
例えば、本発明の粒子状材料は、26から65wt%、28から65wt%、30から65wt%、32から60wt%、34から60wt%、36から60wt%、38から58wt%、40から58wt%、42から56wt%、又は44から54wt%のシリコンを含有してもよい。
【0067】
粒子状材料が商業用に十分な体積容量を有することを確実にするためには、最小量のシリコンが必要とされる。しかし、過剰な量のシリコンは、より大きな細孔及び/又は多孔質炭素フレームワークの表面にシリコンを堆積させ、結果として、表面シリコンの含有量が低下し、電気活性材料としての性能が低下する。
【0068】
本発明の複合粒子におけるシリコンの量は、(マイクロポア及びメソポアに基づく)多孔質炭素フレームワークの内部細孔容積の少なくとも約20%及び最大で約78%が(非荷電状態の)シリコンによって占有されるように選択される。一般に、多孔質炭素フレームワークのマイクロポアの割合が高いほど、表面シリコンの割合を減らすことなく使用することができるシリコンの量が多くなる。
【0069】
好ましくは、シリコンは、多孔質炭素フレームワークの内部細孔容積の約20%から約78%、例えば、多孔質炭素フレームワークの内部細孔容積の約23%から75%、約26%から72%、約28%から70%、約30%から70%、約35%から68%、約40%から65%、又は約45から60%を占有する。これらの好ましい範囲内では、多孔質炭素フレームワークの細孔容積は、充放電中のシリコンの膨張に適応するために効果的であるが、粒子状材料の体積容量に貢献しない過剰な細孔容積を回避する。しかし、シリコンの量も、金属イオンの拡散速度が不十分であるために、又はリチオ化に対する機械的抵抗をもたらす膨張容積が不十分であるために、効果的なリチオ化を妨害するほど多くはない。
【0070】
多孔質炭素フレームワークにおけるシリコンの量は、シリコンと多孔質炭素フレームワークとの重量比が[0.50×P1から1.9×P1]:1の範囲にあるという要件によって、利用可能な細孔容積と相関させることができる。この関係は、シリコンの密度及び多孔質炭素フレームワークの細孔容積を考慮して、細孔容積が約20%から78%占有されていると推定されるシリコンの重量比を定める。好ましくは、シリコンと多孔質炭素フレームワークとの重量比は、[0.7×P1から1.8×P1]:1の範囲にあり、これは、細孔容積が約30%から78%占有されていることを示している。
【0071】
好ましくは、多孔質炭素フレームワークに対するシリコンの重量比は、少なくとも0.50×P1、少なくとも0.55×P1、少なくとも0.6×P1、少なくとも0.65×P1、0.7×P1、少なくとも0.75×P1、少なくとも0.8×P1、少なくとも0.85×P1、少なくとも0.9×P1、少なくとも0.95×P1、又は少なくとも1×P1である。好ましくは、多孔質炭素フレームワークに対するシリコンの重量比は、1.85×P1以下、1.8×P1以下、1.75×P1以下、1.7×P1以下、1.65×P1以下、1.6×P1以下、1.55×P1以下、又は1.5×P1以下である。
【0072】
複合粒子は、好ましくは、元素分析によって決定される、低い全酸素含有量を有する。酸素は、例えば、多孔質炭素フレームワークの一部として、又は任意の露出したシリコン表面上の酸化物層として、複合粒子内に存在してもよい。好ましくは、複合粒子の全酸素含有量は、15wt%未満、より好ましくは12wt%未満、より好ましくは10wt%未満、より好ましくは5wt%未満であり、例えば4wt%未満、3wt%未満、2wt%未満、1wt%未満、又は0.5wt%未満である。好ましくは、シリコン及び炭素は共に、複合粒子の少なくとも90wt%、より好ましくは複合粒子の少なくとも95wt%を構成する。
【0073】
シリコンは、任意的に、少量の1つ以上のドーパントを含んでもよい。適したドーパントには、ホウ素及びリン、他のn型又はp型ドーパント、窒素、又はゲルマニウムが含まれる。好ましくは、ドーパントは、シリコン及び1つ又は複数のドーパントの総量に基づき、2wt%以下の総量で存在する。
【0074】
材料の表面における原子は、材料のバルク中の原子に対する結合相互作用のセットが異なり、この違いは、通常、材料の表面エネルギーの観点から記載される。化学気相含浸(CVI)によって堆積されたシリコンの場合、表面におけるシリコン原子の自由原子価は、一般的に、水素化物基(hydride groups)を保有する。この水素化物末端シリコン表面に空気が到達可能である場合、酸素と反応して自然酸化物の表面が形成される。しかし、空気が到達可能ではない表面は、水素化物末端の形態のままである。この表面シリコンの量は、熱重量分析(TGA)を使用して定量化することができる。シリコンナノ構造の表面におけるシリコン原子は、シリコンナノ構造のバルク中のシリコン原子よりも低い温度で酸化される(参照:非特許文献4)。TGA分析は、空気中及び高温でシリコンが二酸化ケイ素(SiO2)に酸化される際に観察される重量増加に基づき、表面シリコンの相対的な含有量が定量化されるのを可能にする。温度に対して重量増加をプロットすることによって、サンプル中のバルク及び表面のシリコンを区別及び定量化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】高レベルの表面シリコン及び低レベルのバルクの粗いシリコンを含む、本発明による粒子状材料に対するTGAトレースを示した図である。
【
図2】低レベルの表面シリコン及び高レベルのバルクの粗いシリコンを含む、粒子状材料に対するTGAトレースを示した図である。
【
図3】表面シリコンとシリコン含有量との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
未酸化表面シリコンの量の決定は、
図1及び2において示されているように、これらの材料に対する特徴的なTGAトレースから得られる。約300℃までの((a)から(b)への質量減少として
図1及び2において示されている)最初の質量損失に続いて、約400℃で始まり且つ550℃から650℃の間でピークを有する((b)から(c)への質量増加として
図1及び2において示されている)顕著な質量増加が観察される。次に、多孔質炭素フレームワークが酸化されてCO
2ガスになるに従い、質量の減少((c)からの質量減少)が観察され、次に、約800℃を超えると、質量増加が、シリコンからSiO
2への変換の継続に対応して再び観察され、シリコンの酸化が完了に向かうに従い、1000℃を超えて漸近値に向かって増加する((d)から(e)への質量増加)。重量増加が発生する温度はシリコンの構造に関連しており、表面シリコンは低温で酸化され、バルクシリコンは高温で酸化される。従って、シリコンドメインが粗いほど、より多くの酸化が高温で観察される。
【0077】
空気に曝露されたシリコン表面に既に形成されているいかなる自然酸化物も、TGA分析に影響を与えず、それは、既に酸化されているシリコンが、TGA分析において質量増加をもたらさないためである。従って、より多くのシリコン表面が空気と反応して自然酸化物を形成することができるほど、TGAによって観察される表面シリコンは少なくなる。従って、誤解を避けるために、「表面シリコン」の計算では、材料が空気又は本明細書において記載される別の表面不動態化剤によって不動態化された後、TGA分析の開始時に酸化されていないシリコンのみが考慮される(すなわち、粒子状材料は、TGA分析に先立ち、いかなる特別な不活性条件下でも保持されない)。
【0078】
本明細書において定義される場合、「表面シリコン」は、150℃から500℃の間の最小値から550℃から650℃の間の温度範囲で測定された最大質量までのTGAトレースにおける最初の質量増加から計算され、TGAは、10℃/分の温度上昇率で空気中において行われる。この質量増加は、表面シリコンの酸化から生じると仮定され、従って、以下の式:
Y=1.875×[(M
max-M
min)/M
f]×100%
に従って、シリコンの総量の割合としての表面シリコンの百分率が決定されるのを可能にし、式中、Yは、サンプル中の全シリコンの割合としての表面シリコンの百分率であり、M
maxは、550℃から650℃の温度範囲で測定されたサンプルの最大質量(
図1及び2における質量(c))であり、M
minは、150℃を超えて500℃未満のサンプルの最小質量(
図1及び2における質量(b))であり、さらに、M
fは、1400℃での酸化完了時のサンプルの質量(
図1及び2における質量(e))である。完全性のために、1.875はO
2に対するSiO
2のモル質量比(すなわち、酸素の添加による質量増加に対する形成されたSiO
2の質量比)であることが理解されることになる。典型的には、TGA分析は、10mg±2mgのサンプルサイズを使用して行われる。
【0079】
上記のTGA法によって決定された表面シリコンが材料中のシリコンの総量の少なくとも20wt%である場合、複数の充放電サイクルにわたる可逆的な容量保持がかなり改善されることがわかった。好ましくは、シリコンの少なくとも22wt%、少なくとも25wt%、少なくとも30wt%、シリコンの少なくとも35wt%、シリコンの少なくとも40wt%、又はシリコンの少なくとも45wt%が、熱重量分析(TGA)によって決定される表面シリコンである。
【0080】
任意的に、TGAによって決定される表面シリコンの量は、粒子状材料中のシリコンの総量の最大80wt%、最大75wt%、最大70wt%、最大65wt%、最大60wt%、又は最大55wt%である。例えば、TGAによって決定される表面シリコンの量は、粒子状材料中のシリコンの総量の20から80wt%、22から75wt%、25から70wt%、30から65wt%、35から60wt%、又は40から55wt%であってもよい。TGAによって決定される表面シリコンの量はまた、粒子状材料中のシリコンの総量の20から55wt%、22から60wt%、25から65wt%、30から70wt%、35から75wt%、又は40から80wt%の範囲内であってもよい。さらに好ましい範囲は、上述の範囲のいずれかの上限及び下限を組み合わせることによって定めることができる。
【0081】
水素化物末端表面シリコンのかなりの割合が、空気中で不動態化した後でさえも粒子状材料中で測定可能であるという事実は、空気が到達可能ではない内部シリコン表面を複合粒子が有していることを示している。これは、多孔質炭素フレームワークの内部細孔空間に第一にシリコンが付けられてからキャップされて、内部ボイド空間が形成され、水素化物末端シリコン表面が、閉じた内部ボイド空間に向けられていることを示している。これは、次に、シリコンドメインが、細孔自体よりもはるかに小さい特徴的な長さスケールを有するということを示している。
【0082】
電解質は内部ボイドに到達可能ではないため、シリコン表面はSEI形成から保護され、それによって、最初の充電サイクル中の不可逆的なリチウム損失が最小限に抑えられる。その後の充放電サイクルにおける電気活性材料のさらなる露出も実質的に防がれるため、SEI形成は容量損失につながる重大な故障メカニズムではない。同時に、このシリコンは、リチオ化の間に流体静力学的に拘束され、リチオ化により誘導された膨張の間のボイドの利用を可能にする。
【0083】
表面シリコンの含有量に加えて、本発明の粒子状材料は、好ましくは、TGAによって決定される粗いバルクシリコンの低い含有量を有する。粗いバルクシリコンは、本明細書において、TGAによって決定される800℃を超えて酸化を受けるシリコンとして定義され、TGAは、10℃/分の温度上昇率で空気中において行われる。これは、(d)から(e)への質量増加として
図1及び2において示されている。従って、粗いバルクシリコンの含有量は、以下の式:
Z=1.875×[(M
f-M
800)/M
f]×100%
に従って決定され、式中、Zは、800℃における未酸化シリコンの百分率であり、M
800は、800℃におけるサンプルの質量(
図1及び2における質量(d))であり、M
fは、1400℃における酸化完了時の灰の質量(
図1及び2における質量(e))である。この分析のために、800℃を超えたいかなる質量増加も、SiO
2へのシリコンの酸化に対応し、酸化完了時の総質量はSiO
2であると仮定される。
【0084】
好ましくは、シリコンの10wt%以下、シリコンの8wt%以下、シリコンの6wt%以下、シリコンの5wt%以下、4wt%以下、3wt%以下、2wt%以下、又は1.5wt%以下が、TGAによって決定される粗いバルクシリコンである。
【0085】
好ましくは、シリコンの少なくとも30wt%(例えば、シリコンの30から75wt%、30から70wt%、又は30から65wt%等)が表面シリコンであり、シリコンの10wt%以下が粗いバルクシリコンであり、両方ともTGAによって決定される。より好ましくは、シリコンの少なくとも35wt%(例えば、シリコンの35から70wt%、35から65wt%、又は35から60wt%等)が表面シリコンであり、シリコンの8wt%以下が粗いバルクシリコンであり、両方ともTGAによって決定される。より好ましくは、シリコンの少なくとも40wt%(例えば、シリコンの40から65wt%、40から60wt%、又は40から55wt%等)が表面シリコンであり、シリコンの5wt%以下が粗いバルクシリコンであり、両方ともTGAによって決定される。より好ましくは、シリコンの少なくとも45wt%(例えば、45から65wt%、45から60wt%、又は45から55wt%等)が表面シリコンであり、シリコンの2wt%以下が粗いバルクシリコンであり、両方ともTGAによって決定される。
【0086】
好ましくは、窒素ガス吸着によって測定される複合粒子における(すなわち、シリコンの存在下での)マイクロポア及びメソポアの全容積は、0.15×P1まで、0.10×P1まで、0.05×P1まで、又は0.02×P1までである。
【0087】
好ましくは、窒素ガス吸着によって測定される複合粒子におけるマイクロポア及びメソポアの全容積は、0.2cm3/g未満、好ましくは0.15cm3/g未満、0.1cm3/g未満、0.08cm3/g未満、0.06cm3/g未満、0.04cm3/g未満、0.02cm3/g未満、0.015cm3/g未満、0.012cm3/g未満、0.010cm3/g未満、又は0.008cm3/g未満である。
【0088】
複合粒子は、1から30μmの範囲内のD50粒径を有してもよい。任意的に、D50粒径は、少なくとも1μm、少なくとも2μm、少なくとも3μm、少なくとも4μm、又は少なくとも5μmであってもよい。任意的に、D50粒径は、20μm以下、18μm以下、16μm以下、14μm以下、12μm以下、10μm以下、又は8μm以下であってもよい。
【0089】
例えば、複合粒子は、1から20μm、1から18μm、1から16μm、2から16μm、2から14μm、2から12μm、2から10μm、又は2から8μmの範囲内のD50粒径を有してもよい。これらのサイズ範囲内で、本明細書において提示される多孔性及び粒径分布を有する粒子は、スラリー中での分散性、構造的な堅牢性、繰り返しの充放電サイクルにわたる容量保持のため、及び従来の20から50μmの範囲内の均一な厚さの高密度の電極層を形成するのに適しているため、金属イオン電池に対するアノードにおける使用に理想的に適している。
【0090】
複合粒子のD10粒径は、好ましくは、少なくとも0.5μm、少なくとも0.8μm、又は少なくとも1μmである。D10粒径を0.5μm以上に維持することによって、サブミクロンサイズの粒子の望ましくない凝集の可能性が減少し、結果として、粒子状材料の分散性が改善され、容量保持が改善される。
【0091】
複合粒子のD90粒径は、好ましくは、50μm以下、40μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、又は15μm以下である。非常に大きな粒子の存在は、電極活性層における粒子の充填(packing)の不均一な形成をもたらし、従って、高密度の電極層、特に20から50μmの範囲内の厚さを有する電極層の形成を妨害する。従って、D90粒径は40μmまでであることが好ましく、さらに低いことがより好ましい。
【0092】
複合粒子は、好ましくは、狭い粒度分布スパンを有する。例えば、粒度分布スパン((D90-D10)/D50として定義される)は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。狭い粒度分布スパンを維持することによって、高密度の電極層への粒子の効率的な充填をより容易に達成することができる。
【0093】
複合粒子は、例えば、体積ベースの分布が非対称で右側のテールが長いように、体積ベースの分布において正の歪度を有することが好ましい。体積ベースの粒度分布における正の歪度は、全ての粒子が同じサイズである場合よりも自然充填率が高くなるためにより密度の高い電極を提供し、それによってカレンダリング又は他の物理的な高密度化プロセスの必要性を減らすため、有利である。好ましくは、D50複合粒子サイズ直径は、粒子サイズ直径分布の体積ベースの平均よりも小さい(D[4.3])。好ましくは、(Malvern Mastersizer(商標)3000分析器によって測定される)複合粒子サイズ分布の歪度は、5以下又は3以下である。
【0094】
本発明の複合粒子は、好ましくは、200m2/g以下のBET表面積を有する。好ましくは、複合粒子のBET表面積は、150m2/g以下、100m2/g以下、80m2/g以下、60m2/g以下、50m2/g以下、40m2/g以下、30m2/g以下、25m2/g以下、20m2/g以下、15m2/g以下、又は10m2/g以下である。
【0095】
一般に、本発明の粒子状材料を含むアノードの最初の充放電サイクルの間の複合粒子の表面における固体電解質界面(SEI)層の形成を最小限に抑えるために、低いBET表面積が好ましい。しかし、過度に小さいBET表面積は、周囲の電解質中の金属イオンが電気活性材料のバルクに到達可能ではないために、許容できないほど低い充電速度及び容量制限をもたらす。例えば、BET表面積は、好ましくは、少なくとも0.1m2/g、少なくとも1m2/g、少なくとも2m2/g、又は少なくとも5m2/gである。例えば、BET表面積は、1m2/gから25m2/gの範囲であってもよく、より好ましくは2から15m2/gの範囲内であってもよい。
【0096】
本発明の粒子状材料は、典型的には、900から2300mAh/gの第1のリチオ化における比電荷容量を有する。好ましくは、本発明の粒子状材料は、少なくとも1200mAh/g又は少なくとも1400mAh/gの第1のリチオ化における比電荷容量を有する。
【0097】
本発明の粒子状材料は、任意的に、不動態化剤で処理されたシリコン表面を含んでもよい。以下でさらに詳細に論じられるように、不動態化剤は、本明細書において、表面酸化物の形成を抑制するか又は防ぐような方法で電気活性物質の表面を修飾することができる化合物として定義される。
【0098】
本発明の複合粒子は、任意的に、粒子の外部表面を少なくとも部分的又は完全に覆うコーティングを含んでもよい。コーティングは、好ましくは、リチウムイオン透過性コーティングである。本明細書において使用される場合、「リチウムイオン透過性」という用語は、複合粒子の外部からナノスケールの電気活性材料ドメインまでのリチウムイオンの輸送を可能にするイオン伝導性材料を指す。好ましくは、リチウムイオン透過性コーティングは、液体電解質の溶媒等の液体に対して不透過性である。好ましくは、リチウムイオン透過性フィラー材料は、<0.1V vs.Li/Li+で電気化学的に安定である。
【0099】
任意的に、コーティングは、導電性炭素コーティングを含んでもよい。適切には、導電性炭素コーティングは、化学気相成長(CVD)法によって得ることができる。CVDは、当技術分野においてよく知られた方法論であり、粒子状材料の表面上への揮発性炭素含有ガス(例えばエチレン等)の熱分解を含む。或いは、炭素コーティングは、炭素含有化合物の溶液を粒子状材料の表面に堆積させた後、熱分解することによって形成されてもよい。導電性炭素コーティングは、複合粒子の速度性能を低下させないように、過剰な抵抗は無く複合粒子の内部にリチウムが到達するのを可能にするように十分に透過性である。例えば、炭素コーティングの厚さは2から30nmの範囲内であってもよい。任意的に、炭素コーティングは多孔質であってもよく、及び/又は複合粒子の表面を部分的にのみ覆ってもよい。
【0100】
或いは、コーティングは、リチウムイオン透過性の固体電解質を含んでもよい。適したリチウム透過性の固体電解質の例としては:ガーネット型固体電解質(Li7La3Zr2O12及びLi6.5La3Ti0.5Zr1.5O12等の「LLZO」電解質を含む);ペロブスカイト型固体電解質(Li0.33La0.57TiO3等の「LLTO」電解質を含む);LISICON型固体電解質、NaSICON型固体電解質(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3等);リン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)固体電解質;Li3N型固体電解質;リン酸リチウム(Li3PO4)固体電解質、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)固体電解質;タンタル酸リチウム(LiTaO3)固体電解質;硫化物型固体電解質;アルジロダイト型固体電解質;及びアンチペロブスカイト型固体電解質;が挙げられる。これらの電解質型の異型(例えばドーパントを含む)及び組み合わせも含まれる。
【0101】
コーティングは、いかなる表面欠陥も平滑化することによって、及びいかなる残りの表面微小気孔も充填することによって、粒子状材料のBET表面積をさらに減少させ、それによって最初のサイクル損失をさらに減少させるという利点を有する。炭素コーティング等の導電性コーティングの使用は、複合粒子の表面の伝導性を改善し、リチウムイオン電池における電気活性材料として使用される場合の粒子状材料の速度性能を改善し、及び/又は電極組成物における導電性添加剤の必要性を減少させ、また、安定したSEI層の形成のための改善された表面を作り出し、結果としてサイクリング時の容量保持を改善するため、特に有利である。複合粒子がコーティングを含む場合、粒子のシリコン含有量(wt%)は、コーティングを含む粒子の重量に基づき決定される。
【0102】
本発明の複合粒子は、多孔質炭素フレームワークの細孔構造へのシリコン含有前駆体の化学気相含浸(CVI)を介して適切に調製される。本明細書において使用される場合、CVIとは、ガス状のシリコン含有前駆体が表面で熱分解されて、表面において元素状シリコン及びガス状の副生成物が形成されるプロセスを指す。
【0103】
本発明の第2の態様によると、複数の複合粒子を含む粒子状材料が提供され、複合粒子は:
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む多孔質炭素フレームワークであって、マイクロポア及びメソポアは、P1cm3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P1は、0.5から1.5の値を有する数を表す、多孔質炭素フレームワーク;
(b)多孔質炭素フレームワークのマイクロポア及び/又はメソポア内に位置する複数の元素ナノスケールのシリコンドメイン;
を含み、多孔質炭素フレームワークは、ココナッツの殻の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による(好ましくは水蒸気による)活性化によって得られる活性炭材料である。
【0104】
本発明の第2の態様の粒子状材料は、本発明の第1の態様に関して好ましい又は任意的であるとして記載される特徴のいずれも有し得る。
【0105】
本発明の第3の態様において、本発明の第1の態様又は第2の態様による粒子状材料と少なくとも1つの他の成分とを含む組成物が提供される。特に、本発明の第1の態様による粒子状材料と、(i)バインダー;(ii)導電性添加剤;及び(iii)さらなる粒子状電気活性材料;から選択される少なくとも1つの他の成分とを含む組成物が提供される。本発明の第3の態様による組成物は、電極組成物として有用であり、従って、電極の活性層を形成するために使用することができる。
【0106】
本発明の第3の態様の組成物を調製するために使用される粒子状材料は、本発明の第1及び第2の態様に関して好ましい又は任意的であるとして記載される特徴のいずれも有し得る。
【0107】
組成物は、本発明の第1の態様による粒子状材料と、少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料とを含むハイブリッド電極組成物であってもよい。さらなる粒子状電気活性材料の例としては、グラファイト、ハードカーボン、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、及び鉛が挙げられる。少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料は、好ましくは、グラファイト及びハードカーボンから選択され、最も好ましくは、少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料はグラファイトである。
【0108】
ハイブリッド電極組成物の場合、組成物は、好ましくは、組成物の全乾燥重量に基づき、3から60wt%、3から50wt%、5から50wt%、10から50wt%、又は15から50wt%の本発明の第1の態様による粒子状材料を含む。
【0109】
少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料は、20から95wt%、25から90wt%、又は30から750wt%の量の少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料で適切に存在する。
【0110】
少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料は、10から50μm、好ましくは10から40μm、より好ましくは10から30μm、最も好ましくは10から25μm、例えば15から25μmの範囲内のD50粒径を有することが好ましい。
【0111】
少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料のD10粒径は、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも6μm、より好ましくは少なくとも7μm、より好ましくは少なくとも8μm、より好ましくは少なくとも9μm、さらにより好ましくは少なくとも10μmである。
【0112】
少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料のD90粒径は、好ましくは最大100μm、より好ましくは最大80μm、より好ましくは最大60μm、より好ましくは最大50μm、最も好ましくは最大40μmである。
【0113】
少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料は、好ましくは、炭素含有粒子、グラファイト粒子、及び/又はハードカーボン粒子から選択され、グラファイト粒子及びハードカーボン粒子は、10から50μmの範囲内のD50粒径を有する。さらにより好ましくは、少なくとも1つのさらなる粒子状電気活性材料は、グラファイト粒子から選択され、グラファイト粒子は、10から50μmの範囲内のD50粒径を有する。
【0114】
組成物はまた、さらなる粒子状電気活性材料を実質的に含まない非ハイブリッド(又は「高負荷」)の電極組成物であってもよい。これに関連して、「さらなる粒子状電気活性材料を実質的に含まない」という用語は、組成物が、組成物の全乾燥重量に基づき、15wt%未満、好ましくは10wt%未満、好ましくは5wt%未満、好ましくは2wt%未満、より好ましくは1wt%未満、より好ましくは0.5wt%未満の任意のさらなる電気活性材料(すなわち、電池の充放電の間に金属イオンを挿入及び放出することができるさらなる材料)を含むことを意味すると解釈されるべきである。
【0115】
このタイプの「高負荷」電極組成物は、好ましくは、組成物の全乾燥重量に基づき、少なくとも50wt%、少なくとも60wt%、少なくとも70wt%、少なくとも80wt%、又は少なくとも90wt%の本発明の第1の態様による粒子状材料を含む。
【0116】
組成物は、任意的に、バインダーを含んでもよい。バインダーは、組成物を集電体に接着し、組成物の完全性を維持するように機能する。本発明に従って使用することができるバインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)及びそのアルカリ金属塩、変性ポリアクリル酸(mPAA)及びそのアルカリ金属塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)、変性カルボキシメチルセルロース(mCMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、そのアルギン酸塩及びアルカリ金属塩、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、及びポリイミドが挙げられる。組成物は、バインダーの混合物を含んでもよい。好ましくは、バインダーは、ポリアクリル酸(PAA)及びそのアルカリ金属塩、変性ポリアクリル酸(mPAA)及びそのアルカリ金属塩、SBR、及びCMCから選択されるポリマーを含む。
【0117】
バインダーは、組成物の全乾燥重量に基づき、0.5から20wt%、好ましくは1から15wt%、好ましくは2から10wt%、最も好ましくは5から10wt%の量で適切に存在し得る。
【0118】
バインダーは、任意的に、架橋促進剤、カップリング剤、及び/又は接着促進剤等、バインダーの特性を変える1つ以上の添加剤と組み合わせて存在してもよい。
【0119】
組成物は、任意的に、1つ以上の導電性添加剤を含んでもよい。好ましい導電性添加剤は、組成物の電気活性成分間、及び組成物の電気活性成分と集電体との間の電気伝導性を改善するように含まれる非電気活性材料である。導電性添加剤は、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、金属繊維、金属粉末、及び導電性金属酸化物から選択することができる。好ましい導電性添加剤には、カーボンブラック及びカーボンナノチューブが含まれる。
【0120】
1つ以上の導電性添加剤は、組成物の全乾燥重量に基づき、0.5から20wt%、好ましくは1から15wt%、好ましくは2から10wt%、最も好ましくは5から10wt%の総量で適切に存在し得る。
【0121】
第4の態様において、本発明は、集電体と電気的に接触する、本発明の第1又は第2の態様を参照して定義される粒子状材料を含む電極を提供する。本発明の第4の態様の電極を調製するために使用される粒子状材料は、本発明の第1及び第2の態様に関して好ましい又は任意的であるとして記載される特徴のいずれも有し得る。
【0122】
本明細書において使用される場合、集電体という用語は、組成物中の電気活性粒子との間で電流を運ぶことができる任意の導電性基板を指す。集電体として使用することができる材料の例としては、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及び焼結炭素が挙げられる。銅が、好ましい材料である。集電体は、典型的に、3から500μmの厚さを有する箔又はメッシュの形態である。本発明の粒子状材料は、好ましくは10μmから1mm、例えば20から500μm、又は50から200μmの範囲内である厚さまで、集電体の一方又は両方の表面に適用することができる。
【0123】
好ましくは、電極は、集電体と電気的に接触する、本発明の第3の態様を参照して定義される組成物を含む。この組成物は、本発明の第3の態様に関して好ましい又は任意的であるとして記載される特徴のいずれも有し得る。
【0124】
本発明の第4の態様の電極は、(任意的に、本発明の組成物の形態で)本発明の粒子状材料を溶媒及び任意的に1つ以上の粘度修正添加剤と組み合わせてスラリーを形成することによって作製することができる。次に、スラリーは集電体の表面にキャストされ、溶媒が除去され、それによって、集電体の表面に電極層が形成される。任意のバインダーを硬化させるための熱処理及び/又は電極層のカレンダリング等のさらなるステップを、必要に応じて実行することができる。電極層は、20μmから2mm、好ましくは20μmから1mm、好ましくは20μmから500μm、好ましくは20μmから200μm、好ましくは20μmから100μm、好ましくは20μmから50μmの範囲内の厚さを適切に有する。
【0125】
或いは、例えば、適したキャストテンプレート上にスラリーをキャストし、溶媒を除去した後に、キャストテンプレートを除去することによって、スラリーを、本発明の粒子状材料を含む自立型のフィルム又はマットに形成することができる。結果として生じるフィルム又はマットは、凝集性のある自立した塊の形態であり、これは次に、既知の方法によって集電体に結合させることができる。
【0126】
本発明の第4の態様の電極は、金属イオン電池のアノードとして使用することができる。従って、第5の態様において、本発明は、上記の電極を含むアノード、金属イオンを放出及び再吸収することができるカソード活物質を含むカソード、並びに、アノードとカソードとの間に電解質を含む充電式金属イオン電池を提供する。
【0127】
金属イオンは、好ましくはリチウムイオンである。より好ましくは、本発明の充電式金属イオン電池はリチウムイオン電池であり、カソード活物質は、リチウムイオンを放出する及び受け入れることができる。
【0128】
カソード活物質は、好ましくは金属酸化物ベースの複合体である。適したカソード活物質の例としては、LiCoO2、LiCo0.99Al0.01O2、LiNiO2、LiMnO2、LiCo0.5Ni0.5O2、LiCo0.7Ni0.3O2、LiCo0.8Ni0.2O2、LiCo0.82Ni0.18O2、LiCo0.8Ni0.15Al0.05O2、LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2、及びLiNi0.33Co0.33Mn0.34O2が挙げられる。カソードの集電体は、一般的に、3から500μmの厚さのものである。カソードの集電体として使用することができる材料の例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及び焼結炭素が挙げられる。
【0129】
電解質は、適切に、例えばリチウム塩等の金属塩を含有する非水電解質であり、非水電解質溶液、固体電解質、及び無機固体電解質を含んでもよいが、これらに限定されない。使用することができる非水電解質溶液の例としては、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の非プロトン性有機溶媒が挙げられる。
【0130】
有機固体電解質の例としては、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリジン、及びイオン解離基を含有するポリマーが挙げられる。
【0131】
無機固体電解質の例としては、Li5NI2、Li3N、LiI、LiSiO4、Li2SiS3、Li4SiO4、LiOH、及びLi3PO4等、リチウム塩の窒化物、ハロゲン化物、及び硫化物が挙げられる。
【0132】
リチウム塩は、選ばれた溶媒又は溶媒の混合物に適切に溶解する。適したリチウム塩の例としては、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiBC4O8、LiPF6、LiCF3SO3、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、及びCF3SO3Liが挙げられる。
【0133】
電解質が非水有機溶液である場合、金属イオン電池には、好ましくは、アノードとカソードとの間に介在するセパレータが提供される。セパレータは、典型的に、イオン透過性が高く且つ機械的強度が高い絶縁材料で形成される。セパレータは、典型的に、0.01から100μmの粒径、及び5から300μmの厚さを有する。適した電極セパレータの例としては、微小細孔のポリエチレンフィルムが挙げられる。
【0134】
セパレータは、ポリマー電解質材料によって置き換えられてもよく、そのような場合、ポリマー電解質材料は、複合アノード層及び複合カソード層の両方に存在する。ポリマー電解質材料は、固体ポリマー電解質又はゲル型ポリマー電解質であってもよい。
【0135】
本発明の第6の態様によると、本発明の第1の態様による粒子状材料を調製するプロセスが提供され、当該プロセスは:
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む複数の多孔質炭素粒子を提供するステップであって、
(i)多孔質炭素粒子は、乾燥重量ベースで少なくとも25wt%のリグニンを含む植物源の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料であり;さらに
(ii)マイクロポア及びメソポアは、P1cm3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P1は、0.5から1.5の値を有する数を表す:
ステップと、
(b)複数の多孔質炭素粒子を、400から700℃の温度で0.5から20vol%のシリコン前駆体ガスを含むガスと接触させて、多孔質炭素粒子の細孔内にシリコンを堆積させるステップと、
を含む。
【0136】
本発明の第7の態様によると、本発明の第1の態様による粒子状材料を調製するプロセスが提供され、当該プロセスは:
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む複数の多孔質炭素粒子を提供するステップであって、
(i)多孔質炭素粒子は、乾燥重量ベースで少なくとも25wt%のリグニンを含む植物源の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料であり;さらに
(ii)マイクロポア及びメソポアは、P1cm3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P1は、0.5から1.5の値を有する数を表す;
ステップと、
(b)複数の多孔質炭素粒子を、400から700℃の温度で0.5から20kPaの分圧を有するシリコン前駆体ガスと接触させて、多孔質炭素粒子の細孔内にシリコンを堆積させるステップと、
を含む。
【0137】
本発明の第6及び第7の態様に従って調製される粒子状材料は、本発明の第1の態様に関して好ましい又は任意的であるとして先に記載した特徴のいずれも有し得る。特に、多孔質炭素粒子は、本発明の第1の態様に関して記載される多孔質炭素フレームワークの特徴のいずれも有し得る。特に、多孔質炭素粒子は、好ましくは、水蒸気により活性化される。
【0138】
本発明の第8の態様によると、本発明の第2の態様による粒子状材料を調製するプロセスが提供され、当該プロセスは:
(a)マイクロポア及び/又はメソポアを含む複数の多孔質炭素粒子を提供するステップであって:
(i)多孔質炭素粒子は、ココナッツの殻の熱分解に続く、水蒸気又は二酸化炭素による活性化によって得られる活性炭材料であり;さらに、
(ii)マイクロポア及びメソポアは、P1cm3/gのガス吸着によって測定された全細孔容積を有し、P1は、0.5から1.5の値を有する数を表す;
ステップと、
(b)複数の多孔質炭素粒子を、400から700℃の温度で0.5から20vol%のシリコン前駆体ガスを含むガスと接触させて、多孔質炭素粒子の細孔内にシリコンを堆積させるステップと、
を含む。
【0139】
本発明の第8の態様に従って調製される粒子状材料は、本発明の第2の態様に関して好ましい又は任意的であるとして先に記載した特徴のいずれも有し得る。多孔質炭素粒子は、本発明の第1の態様に関して記載される多孔質炭素フレームワークの特徴のいずれも有し得る。特に、多孔質炭素粒子は、好ましくは、水蒸気により活性化される。
【0140】
以下の好ましい特徴は、別段の指示がない限り、第6、第7、及び第8の態様の全てに適用される。
【0141】
本発明の第6から第8の態様において使用するのに適したガス状のシリコン含有前駆体には、シラン(SiH4)、シラン誘導体(例えば、ジシラン、トリシラン、及びテトラシラン等)、及びトリクロロシラン(SiHCl3)が含まれる。
【0142】
任意的に、シリコン含有前駆体は塩素を含まない。塩素を含まないとは、シリコン含有前駆体が、1wt%未満、好ましくは0.1wt%未満、好ましくは0.01wt%未満の塩素含有化合物を含有するということを意味する。
【0143】
シリコン含有前駆体は、純粋な形で、又は、より通常は窒素若しくはアルゴン等の不活性キャリアガスとの希釈された混合物として使用されてもよい。
【0144】
ステップ(b)は、全圧が101.3kPa(すなわち1気圧)以下のシリコン前駆体の低い分圧で、残りの分圧は、水素、窒素、又はアルゴン等の不活性パディングガスを使用して適切に実行される。
【0145】
本発明の第6及び第8の態様によると、シリコン含有前駆体は、シリコン含有前駆体及び不活性キャリアガスの全体積に基づき、0.5から20vol%、例えば1から10vol%、又は1から5vol%の範囲内、好ましくは少なくとも3vol%の量で使用される。
【0146】
本発明の第7の態様によると、シリコン含有前駆体の分圧は、0.5から20kPa、1から15kPa、1から10kPa、又は1から5kPaである。本明細書において使用される場合、シリコン前駆体ガスの分圧は、全圧にシリコン前駆体ガスの体積分率を乗じたものとして定義される(すなわち、理想的なガスの挙動が仮定される)。シリコン前駆体ガスがそのまま使用される場合、シリコン前駆体ガスの分圧は全圧に等しい。或いは、全圧は、シリコン前駆体ガスの分圧と、窒素又はアルゴン等の不活性パディングガスとの合計であってもよい。
【0147】
400~700℃、好ましくは425~550℃、又は425~500℃に及ぶ温度がステップ(b)において使用される。任意的に、多孔質炭素粒子は、400℃未満の最初の温度でシリコン前駆体ガスと接触され、次に、反応温度は、400~700℃の範囲に上げられる。
【0148】
ステップ(b)は、任意的に、多孔質炭素粒子の撹拌又は流動化と共に行われることが好ましく、これは、プロセスが大規模に実行される場合に特に好ましい。適した反応器のタイプには、ロータリーキルン、又は(噴流床反応器を含む)流動床反応器が含まれる。
【0149】
表面シリコンの含有量が多い本発明の粒子状材料を得るためには、多孔質炭素フレームワークの細孔構造へのシリコン前駆体ガスの拡散速度に対してシリコンの堆積速度が低いことを確実にするために、CVIプロセスを注意深く制御する必要がある。425~500℃の好ましい温度範囲での動作及び低濃度のシリコン前駆体ガスの使用も、シリコンの堆積速度を制御することができ、シリコンの堆積速度がシリコン前駆体の含浸速度に対して低いことを確実にする。CVI反応器内の条件も可能な限り均一であるべきである。多孔質炭素粒子の撹拌又は流動化は、シリコン前駆体ガスが均一に粒子に含浸することができることを確実にし、反応器内の温度が粒子床全体にわたって均一であることも確実にする。
【0150】
好ましくは、ステップ(b)は、大気圧を下回る圧力で実行される。例えば、ステップ(b)は、100kPa未満、90kPa未満、80kPa未満、70kPa未満、又は60kPa未満の絶対圧で実行することができる。好ましくは、ステップ(b)は、少なくとも5kPa、少なくとも10kPa、少なくとも15kPa、少なくとも20kPa、少なくとも25kPa、又は少なくとも30kPaの絶対圧で実行される。例えば、ステップbは、10から90kPa、20から80kPa、20から70kPa、又は30から60kPaの範囲内の絶対圧で実行されることが好ましい。
【0151】
大気圧を下回る絶対圧でステップ(b)を実行すると、粒子状材料製品の表面シリコン含有量が大幅に改善されることがわかっている。
【0152】
20%を超える表面シリコンを含む粒子状材料製品を形成するステップ(b)における好ましい動作条件には、10から90kPaの絶対圧での、0.5から20vol%のシリコン前駆体ガス(好ましくはシラン)を含むガスの使用が含まれる。より好ましくは、2から15vol%のシリコン前駆体を含むガスが、20から80kPaの絶対圧で使用される。より好ましくは、5から10vol%のシリコン前駆体を含むガスが、30から60kPaの絶対圧で使用される。添えられる例を参照すると、これらの好ましい条件内での動作は、少なくとも30%又は少なくとも40%の非常に高い表面シリコン含有量を粒子状材料に確実に提供する。本明細書において記載される制御されたCVI条件の使用と共に多孔質炭素粒子を注意深く選択することで、非常に高い表面シリコン含有量及び低い粗いバルクシリコン含有量の粒子状材料が得られるのを可能にし、シリコンの高い割合が超微細シリコンナノ構造の形で存在することを示している。そのような材料は、以前に当技術分野において報告されていない。
【0153】
CVIによって堆積された電気活性材料の表面は酸素に反応性であり、大気中の酸素に曝露されると自然酸化物層を形成する。シリコンの場合、シリコン表面が酸素に曝露されるとすぐに非晶質の二酸化ケイ素膜が形成され、特定の状況において、保管中に長時間曝露されて酸化が継続する可能性がある。自然酸化物層の形成は発熱性であり、従って、製造中又は保管中に粒子状材料の過熱又は燃焼さえも防ぐために、注意深いプロセス制御を必要とする。自然酸化物層の存在は、不可逆的な容量損失及びサイクル寿命の短縮と関連しているため、リチウムイオン電池における電気活性材料の性能に有害であり得る。従って、本発明のプロセスは、任意的に、堆積したシリコンの露出面を不動態化剤と接触させるさらなるステップ(c)を含んでもよく、ここで、シリコンは、不動態化剤との接触に先立ち酸素に曝露されることはない。
【0154】
不動態化剤は、本明細書において、表面酸化物の形成を抑制又は防ぐような方法で電気活性材料の表面を修飾することができる化合物として定義される。
【0155】
適した不動態化剤は、アルケン、アルキン、又はカルボニルの官能基、より好ましくは末端アルケン、末端アルキン、又はアルデヒド基を含む化合物を含む。
【0156】
好ましい不動態化剤は、以下の式:
(i)R-CH=CH-R;
(ii)R-C≡C-R;及び
(iii)O=CH-R;
の1つ以上の化合物を含み、式中、Rは、H、又は、1から20の炭素原子、好ましくは2から10の炭素原子を有する無置換若しくは置換の脂肪族若しくは芳香族ヒドロカルビル基を表し、或いは、式(i)中の2つのR基が3から8の炭素原子を含む無置換若しくは置換のヒドロカルビル環構造を形成する。
【0157】
特に好ましい不動態化剤は、以下の式:
(i)CH2=CH-R;及び
(ii)HC≡C-R;
の1つ以上の化合物を含み、式中、Rは、先に定義した通りである。好ましくは、Rは無置換である。
【0158】
適した化合物の例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、ブタジエン、1-ペンテン、1,4-ペンタジエン、1-ヘキセン、1-オクテン、スチレン、ジビニルベンゼン、アセチレン、フェニルアセチレン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、及びビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エンが挙げられる。異なる不動態化剤の混合物を使用することもできる。好ましい不動態化剤はエチレンである。
【0159】
不動態化剤のアルケン、アルキン、又はカルボニル基は、電気活性材料の表面におけるM-H基との挿入反応(Mは電気活性材料の原子を表す)を経て、空気による酸化に耐性である共有結合で不動態化された表面を形成すると考えられている。シリコンが電気活性材料である場合、シリコン表面と不動態化剤との間の不動態化反応は、以下に概略的に示されているように、ヒドロシリル化の一形態として理解することができる。
【0160】
【化1】
他の適した不動態化剤には、酸素、窒素、硫黄、又はリンに結合する活性水素原子を含む化合物が含まれる。例えば、不動態化剤は、アルコール、アミン、チオール、又はホスフィンであってもよい。電気活性材料の表面における水素化物基と-XH基との反応は、H
2の脱離、及びXと電気活性材料表面との間の直接結合の形成をもたらすと理解されている。
【0161】
このカテゴリーにおける適した不動態化剤には、次の式:
(iv)HX-R
の化合物が含まれ、式中、Xは、O、S、NR、又はPRを表し、各Rは、独立して、先に定義した通りである。式(iv)における2つのR基も、3から8の炭素原子を含む無置換又は置換のヒドロカルビル環構造を形成することができる。好ましくは、Xは、O又はNHを表し、Rは、2から10の炭素原子を有す任意的に置換された脂肪族又は芳香族基を表す。ピロリジン、ピロール、イミダゾール、ピペラジン、インドール、又はプリンのように、アミン基を4~10員環の脂肪族又は芳香族環構造に組み込むこともできる。
【0162】
不動態化剤が炭素含有化合物である場合、ステップ(c)における電気活性材料と不動態化剤との接触は、不動態化剤の熱分解温度の上下で実行することができる。電気活性材料が、不動態化剤の熱分解温度を下回る温度で不動態化剤と接触されると、不動態化層のみがシリコン表面に形成される。電気活性材料が、不動態化剤の熱分解温度を超える温度で不動態化剤と接触されると、シリコン表面の不動態化が、熱分解炭素コーティングの形成と共に発生する。
【0163】
ステップ(c)における電気活性材料と不動態化剤との接触は、25から700℃の範囲内の温度及び100kPaから50MPaの範囲内の圧力で実行されてもよい。例えば、ステップ(c)は、本明細書において提示されるステップ(b)に対する好ましい温度及び圧力の範囲内で適切に実行することができる。
【0164】
さらに適した不動態化剤はアンモニアである。従って、ステップ(c)は、200~700℃、好ましくは400~700℃の範囲内の温度で、堆積した電気活性材料の表面とアンモニアとを接触させることを含んでもよい。例えば、不動態化剤がアンモニアである場合、ステップ(b)において電気活性材料を堆積させるために使用されるのと同じ温度でステップ(c)を実行することができる。次に、温度は、必要に応じて500から1,000℃の範囲内に上げられて、結晶窒化物表面(例えば、x≦4/3である式SiNxの窒化ケイ素表面等)が形成される。従って、アンモニアによる不動態化は、電気活性材料の酸化を制限する代替手段を提供する。準化学量論的な窒化ケイ素は導電性であるため、このステップは、電気活性材料のより速い充放電を可能にする導電性ネットワークの形成ももたらす。
【0165】
ステップ(c)における不動態化は、任意的に、ステップ(b)と同じ反応器で、例えば、反応器へのシリコン前駆体ガスの流れを停止して、反応器への不動態化剤ガスの流れを開始することによって、実行することができる。任意的に、ステップ(c)に先立ち、反応器を不活性ガスで流すことができる。
【0166】
本発明のプロセスは、任意的に、ステップ(b)から、又は不動態化ステップが実行される場合はステップ(c)から、複合粒子の表面に導電性炭素コーティングを形成するさらなるステップ(d)を含んでもよい。ステップ(d)は、適切に、熱分解炭素前駆体の熱分解温度を超える温度で、電気活性材料を熱分解炭素前駆体と接触させることを含む。
【0167】
ステップ(d)に対する適した条件は、特許文献5において詳細に論じられている。
【0168】
固定床反応器法(実験規模)の一例として、1.8gの粒子状多孔質炭素フレームワークを、長さに沿って1mmの一定の厚さでステンレス鋼プレートの上に置いた。次に、レトルト炉のホットゾーンに位置するガスの入口及び出口のラインを有する外径60mmのステンレス鋼チューブの内側にプレートを置いた。炉管を室温において30分間窒素ガスでパージし、次に、サンプル温度を450℃~500℃まで上昇させた。窒素ガスの流量は、炉管内の少なくとも90秒のガス滞留時間を確実にするように調整され、30分間その流量に維持される。次に、ガス供給は、窒素から1.25vol.%濃度の窒素中モノシラン混合物に切り替えられる。モノシランの投与は、反応器圧力を101.3kPa(1atm)に維持しながら5時間かけて行われる。投与が終了した後で、ガス流量は一定に保たれ、その間にシランは、窒素を使用して炉からパージされる。炉は、窒素下で30分間パージされる。任意的に、表面不動態化ステップが、次に、不動態化ガスと材料を接触させることによって実行される。次に、炉は、数時間かけて室温まで冷却される。次に、ガスの流れを窒素から圧縮空気供給源からの空気に切り替えることによって、2時間かけて徐々に大気は空気に切り替えられる。
【0169】
流動床反応器法(生産規模)の一例として、0.95cm(3/8インチ)のステンレス鋼ガス導入口、長さ520mmの外径(O.D.)60mmの管状セクション、及びO.D.100mmのステンレス鋼拡張ヘッドを備えて作製された流動床反応器に、50gの粒子状多孔質炭素フレームワークを置いた。反応器をフレームから吊り下げ、ホットゾーンが円錐セクションから円筒セクションの長さ(約380mmの長さ)の4分の3まで続くように、垂直方向の管炉を配置した。不活性ガスとして窒素を使用して、ガス流量を1から2.5L/minの間に傾斜させるコールドフロー圧力降下試験を用いて、最小流動化速度を決定した。最小流動化速度が決定されると、不活性ガス流量を、最小流動化速度以上で一定に保った。炉を、一定の不活性ガス流量下で所望の反応温度まで傾斜させた。435~500℃の間の目標温度で安定させた後、流動化ガスを純粋な窒素から1.25vol%の窒素中のモノシランに切り替えた。反応の進行を、圧力降下及び炉の上下の温度差を測定することによってモニターした。ガス流量を、継続的な流動化と一致する圧力降下を維持するために走行を通じて調整し、40℃未満の床の上下の最小温度差を維持した。12時間後、流動化ガスを、次に、流動化を維持しながら純粋な窒素に切り替え、このパージは30分間続いた。任意的に、表面不動態化ステップが、次に、不動態化ガスと材料を接触させることによって実行される。次に、炉を、数時間かけて周囲温度まで傾斜させた。周囲温度に達すると、炉の雰囲気を数時間かけて徐々に空気に切り替えた。
【0170】
減圧流動床反応器法(生産規模)の一例として、長さ1100mmの外径(O.D.)89mmの管状反応器セクションへのジェット速度0.5~2m/sの水平ガス噴射用に設計された複数のノズルと、O.D.457mmのステンレス鋼拡張ヘッドを備えて作製された流動床反応器に、250gの粒子状多孔質炭素フレームワークが置かれる。反応器はフレームから吊り下げられ、ホットゾーンが円錐セクションから円筒セクションの完全長(約380mmの長さ)にわたって続くように、垂直方向の管炉が配置される。反応容器は、5~140Hzの周波数で振動させられる。多孔質炭素粒子は、不活性ガスとして10sL/分(標準的なリットル/分)の窒素を使用して、38kPaの(絶対)圧力で流動化される。炉は、一定の不活性ガス流量下で450℃の温度に傾斜させられる。次に、ガスの流れは、2sL/分のモノシラン(SiH4)及び9sL/分の窒素の混合物にゆっくりと切り替えられる。シリコンの堆積速度は、経時的に排ガス中の水素vol%を測定することによってモニターされる。約200gのシリコン(約45wt%Si)が堆積されると、ガスの流れは、約250gのシリコン(約49.5から51.5wt%Si)が堆積されるまで、0.5sL/minのモノシラン(SiH4)と9sL/minの窒素との混合物に切り替えられる。次に、流動化ガスは、反応器をパージするために、約30分間流動化を維持しながら純粋な窒素に切り替えられる。任意的に、表面不動態化ステップが、次に、不動態化ガスと材料を接触させることによって実行される。次に、炉は、数時間かけて周囲温度まで傾斜させられる。周囲温度に達すると、炉の雰囲気は、数時間かけて徐々に空気まで切り替えられる。
【0171】
例
以下の実施例において使用される多孔質炭素フレームワークC1からC7は、表1において提示される特徴を有する。
【0172】
【実施例1】
【0173】
固定床反応器における粒子状材料の調製
長さに沿って1mmの一定の厚さでステンレス鋼プレート上に、表1において列挙されている特性を有する粒子状多孔質フレームワーク1.8gを置くことによって、シリコン-炭素複合粒子を調製した。次に、レトルト炉のホットゾーンに位置するガスの入口及び出口のラインを有する外径60mmのステンレス鋼チューブの内側にプレートを置いた。炉管を室温において30分間窒素ガスでパージし、次に、サンプル温度を450℃~475℃まで上昇させた。窒素ガスの流量は、炉管内の少なくとも90秒のガス滞留時間を確実にするように調整され、30分間その流量に維持される。次に、ガス供給は、窒素から1.25vol.%濃度の窒素中モノシラン混合物に切り替えられる。モノシランの投与は、反応器圧力を101.3kPa(1atm)に維持しながら最大5時間かけて行われる。投与が終了した後で、ガス流量は一定に保たれ、その間にシランは、窒素を使用して炉からパージされる。炉は、数時間かけて室温まで冷却される前に、窒素下で30分間パージされる。次に、ガスの流れを窒素から圧縮空気供給源からの空気に切り替えることによって、2時間かけて徐々に大気は空気に切り替えられる。
【実施例2】
【0174】
表面シリコン含有量の決定
様々な(20から60wt%の間で変化する)量の堆積シリコンを有する複合粒子の一連のサンプルを、表1における炭素の各々を使用して実施例1の方法を使用して作製した。表面シリコンを、各サンプルに対するTGA曲線から計算した。表2は、各炭素で作られたサンプルのグループに対する表面シリコンの平均値、最大値、及び最小値を提供している。炭素C1、C2、及びC7を使用して、非常に少量又は一貫性のない量の表面シリコンを達成することができる一方で、炭素C3、C5、及びC6を用いたサンプル全てにわたって、良好なレベルの表面シリコンを一貫して達成することができるということがわかる。
【0175】
これらの実験からのデータが、
図3において示されている。
【0176】
【実施例3】
【0177】
流動床反応器における粒子状材料の調製
大気圧で動作する内径83mmのステンレス鋼円筒容器を含む垂直気泡流動床反応器においてシリコン-炭素複合粒子を調製した。250gの量の、表1において列挙されている特性を有する炭素フレームワーク粒子の粉末が反応器内に置かれる。低流量で不活性ガス(窒素)が反応器内に注入されて、いかなる酸素も除去される。次に、反応器は、430から500℃の反応温度まで加熱され、窒素において希釈した4%v/vのモノシランガスが、炭素フレームワーク粒子を流動化するのに十分な流量で、目標質量のシリコンを堆積させるのに十分な時間、反応器の底部に供給される。反応器は、窒素下で30分間パージされた後、数時間かけて室温まで冷却される。次に、ガスの流れを窒素から圧縮空気供給源からの空気に切り替えることによって、2時間かけて徐々に大気は空気に切り替えられる。
【実施例4】
【0178】
低圧での流動床反応器における粒子状材料の調製
内径83mmのステンレス鋼円筒容器を含む垂直気泡流動床反応器においてシリコン-炭素複合粒子を調製した。250gの量の、表1において列挙されている特性を有する炭素フレームワーク粒子の粉末が反応器内に置かれる。多孔質炭素粒子は、不活性ガスとして10sL/分(標準的なリットル/分)の窒素を使用して、38kPaの(絶対)圧力で流動化される。炉は、一定の不活性ガス流量下で450℃の温度に傾斜させられる。次に、ガスの流れは、2sL/分のモノシラン(SiH4)及び9sL/分の窒素の混合物にゆっくりと切り替えられる。シリコンの堆積速度は、経時的に排ガス中の水素vol%を測定することによってモニターされる。約200gのシリコン(約45wt%Si)が堆積されると、ガスの流れは、約250gのシリコン(約49.5から51.5wt%Si)が堆積されるまで、0.5sL/minのモノシラン(SiH4)と9sL/minの窒素との混合物に切り替えられる。次に、流動化ガスは、反応器をパージするために、約30分間流動化を維持しながら10sL/分の純粋な窒素に切り替えられる。次に、流動化ガスは、シリコン表面を不動態化するために、2sL/分のエチレン(C2H4)と9sL/分の窒素との混合物に切り替えられる。次に、流動化ガスは、4sL/分の純粋な窒素に切り替えられる。次に、炉は、数時間かけて周囲温度まで冷却される。周囲温度に達すると、炉の雰囲気は、数時間かけて徐々に空気まで切り替えられる。
【実施例5】
【0179】
カーボンコーティング:
実施例3の方法を使用して作製した複合粒子の塊を、回転炉管に積み込まれるステンレス鋼チューブ内に置き、密封した。反応器空間を30分間0.2L/分の窒素でパージした。窒素流下で炉の温度を675℃まで上昇させた。測定した量のスチレンをDreschelボトル内に置き、水浴中で75℃まで加熱した。10分間炉の温度を安定させた後、Dreschelボトル内に2L/分の窒素を泡立たせることによって、スチレンが90分間反応管に流れるのを可能にした。次に、反応器は窒素でパージされ、窒素下で周囲温度まで冷却され、結果として炭素被覆材料が得られる。
【実施例6】
【0180】
表面シリコン及び粗いバルクシリコンの計算:
例の複合材料に対する表面シリコン及び粗いバルクシリコンを計算するために使用された手順は、以下の通りであった。10mg(±2mg)の調査中のサンプルを70μLのるつぼに入れた。このサンプルを、Mettler Toledo TGA/DSC3+装置にArパージガス、N
2パディングガス、及び空気反応ガスと共に100mL/minで入れた。TGA炉室を、10℃/minの速度で25から1400℃まで傾斜させた。1s間隔でデータを収集した。
図1及び2を参照して、550℃から650℃の温度範囲で測定された最大質量(mg)(cのラベル)、最終的な灰質量(eのラベル)、揮発性損失後の500℃未満の最小点(bのラベル)、及び800℃での質量(dのラベル)を求めることによって、粗いバルクシリコン及び表面シリコンに対する値を抽出した。上記の式を使用して、表面シリコン(Y)及び粗いバルクシリコン(Z)の値が計算される。
【0181】
【実施例7】
【0182】
試験セルの調製
負極コーティング(アノード)を、表3のSi-C複合材料を使用して調製し、フルコインセルで試験した。電極を作るために、CMCバインダーにおけるカーボンブラックの分散系をThinky(商標)ミキサーにおいて混合した。この混合物にSi-C複合材料を添加して、Thinky(商標)ミキサーにおいて30分間混合した。次に、SBRバインダーを添加して、CMC:SBR比を1:1とし、Si-C複合材料:CMC/SBR:カーボンブラックの重量比が70%:16%:14%のスラリーを得た。このスラリーをThinky(商標)ミキサーにおいてさらに30分間混合し、次に、厚さ10μmの銅基板(集電体)上に被覆し、50℃で10分間乾燥した後、さらに110℃で12時間乾燥させ、それによって、被覆密度0.7±0.5g/cm3の負極を形成した。
【0183】
多孔質ポリエチレンセパレータで負極から切り取った半径0.8cmの円形負極及びニッケルマンガンコバルト(NMC532)正極を使用して、フルコインセルを作製した。正極及び負極は、負極に対する正極の容量比が0.9になるようにバランスのとれた対を形成するように設計した。次に、3wt%の炭酸ビニレンを含有する炭酸フルオロエチレン、炭酸エチレン、炭酸エチルメチルの溶液中に1MのLiPF6を含む電解質を、セルに添加した後で密封した。
【0184】
コインセルを次のようにサイクルさせた:C/25の割合で一定の電流を印加して、アノードをリチオ化し、カットオフ電圧は4.3Vであった。カットオフ電圧に達したとき、4.3Vの一定電圧がC/100のカットオフ電流に達するまで印加される。次に、セルを、リチオ化された状態で10分間置いた。次に、アノードは、2.75Vのカットオフ電圧でC/25の一定電流で脱リチウムされる。次に、セルを10分間置いた。この最初のサイクルの後、C/2の一定電流を印加して4.3Vのカットオフ電圧でアノードをリチオ化し、続いてC/40のカットオフ電流で4.3Vの一定電圧を印加し、5分間置いた。次に、アノードを、2.75VのカットオフでC/2の一定電流で脱リチウムした。次に、これを所望のサイクル数だけ繰り返した。100サイクル(CR100)及び500サイクル(CR500)での容量保持を計算し、第1のリチオ化容量、第1の脱リチウム容量、及び第1のサイクル損失(FCL)と共に表4において示されている。
【0185】
サイクル毎の充電(リチオ化)及び放電(脱リチウム)容量が、シリコン-炭素複合材料の単位質量あたり計算され、容量保持値が、第2のサイクルの放電容量に対する割合として各放電容量に対して計算される。第1のサイクル損失(FCL)は、(1-(第1の脱リチウム容量/第1のリチオ化容量))×100%である。表4における値は、各材料について3つのコインセルにわたって平均されている。
【0186】
【国際調査報告】