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特表2023-536205脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム
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  • 特表-脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム 図1A
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  • 特表-脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム 図4
  • 特表-脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム 図5
  • 特表-脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム 図6A
  • 特表-脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム 図6B
  • 特表-脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム 図7
  • 特表-脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】脳磁気共鳴血管造影検査の血管信号強度グラジエントを用いた血流算出法、並びにそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 382
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532099
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(85)【翻訳文提出日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 KR2021009398
(87)【国際公開番号】W WO2022030822
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0097740
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523035826
【氏名又は名称】ジョン スルギ
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【弁理士】
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100199004
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 洋
(72)【発明者】
【氏名】ジョン スルギ
(72)【発明者】
【氏名】イ チャンヒョック
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA10
4C096AB41
4C096AC01
4C096AC03
4C096AD06
4C096AD14
4C096BA37
4C096DC18
4C096DC21
4C096DC22
(57)【要約】
MRA画像から血管部位のSIG-BFの算出方法、及びそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中危険度の分析システムが提供される。本発明の実施例に係る脳血管疾患危険度の分析方法は、MRA画像から血管部位のSIG-BFを算出し、脳血管疾患危険度を予測する。それにより、脳梗塞、脳血管疾患、脳出血などに対する的確な診断及びモニタリングが可能になり、中長期的の予後を判別し、最適な治療剤や治療方法を選ぶことができるようになるため、治療におけるリスクを予測することができるようになる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MRA画像から血管部位のSIG-BF(Signal Intensity Gradient-Blood Flow)を算出するステップと、
算出されたSIG-BFを用いて、脳血管疾患危険度を予測するステップと
を含むことを特徴とする脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項2】
前記算出するステップは、
次の式を用いてSIG-BFを算出し、
SIG-BF=SIGπr
ここで、SIGは、血管部位におけるSIGであり、rは、血管の半径であることを特徴とする請求項1に記載の脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項3】
次の式を用いて、MRA画像から血管部位のSIG-V(SIG-Velocity、SIG血流速度)を算出するステップを更に含み、
SIG-Velocity=SIG*r
ここで、SIGは、血管部位におけるSIGであり、rは、血管の半径であることを特徴とする請求項1に記載の脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項4】
SIGは、
SIGの最大値、最小値、平均値のうち、何れかであることを特徴とする請求項2又は3に記載の脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項5】
SIG-BFは、
SIG-tCBF(SIG-total Cerebral Blood Flow)を含み、
前記算出するステップは、
次の式を用いて、SIG-tCBFを算出し、
SIG-tCBF=SIGrt ccaπ(rrt cca+SIGlt ccaπ(rlt cca+SIGrt vaπ(rrt va+SIGlt vaπ(rlt va
ここで、SIGrt ccaは、右総頸動脈部位におけるSIG、rrt ccaは、右総頸動脈の半径、SIGlt ccaは、左総頸動脈部位におけるSIG、rlt ccaは、左総頸動脈の半径、SIGrt vaは、右椎骨動脈部位におけるSIG、rrt vaは、右椎骨動脈の半径、SIGlt vaは、左椎骨動脈部位におけるSIG、rlt vaは、左椎骨動脈の半径であることを特徴とする請求項1に記載の脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項6】
SIG-BFは、
SIG-pCBF(SIG-parenchymal Cerebral Blood Flow)を含み、
前記算出するステップは、
次の式を用いて、SIG-pCBFを算出し、
SIG-pCBF=SIGrt icaπ(rrt ica+SIGlt icaπ(rlt ica+SIGrt vaπ(rrt va+SIGlt vaπ(rlt va
ここで、SIGrt icaとrrt icaとは、前脳動脈と中脳動脈の分枝前右内頸動脈の末端部位におけるSIGと半径、SIGlt icaとrlt icaとは、前脳動脈と中脳動脈の分枝前左内頸動脈の末端部位におけるSIGと半径、SIGrt vaとrrt vaとは、後下小脳動脈の分枝前右椎骨動脈部位におけるSIGと半径、SIGlt vaとrlt vaとは、後下小脳動脈の分枝前左椎骨動脈部位におけるSIGと半径であることを特徴とする請求項1に記載の脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項7】
SIG-BFは、
SIG-colBF(SIG-collateral Blood Flow)を含み、
前記算出するステップは、
SIG-colBF=SIG-tCBF - SIG-pCBF
上記式を用いて、SIG-colBFを算出することを特徴とする請求項1に記載の脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項8】
SIG-BFは、
SIG-BF ratioを含み、
前記算出するステップは、次の式を用いて、SIG-BF ratioを算出し、
SIG-BF ratio=(SIG-BF-aneurysm)/(SIG-BF-preaneurysm)
ここで、SIG-BF-aneurysmは、動脈瘤の最大半径のSIG-BFであり、SIG-BF-preaneurysmは、動脈瘤近位部の正常な血管のSIG-BFであることを特徴とする請求項1に記載の脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項9】
次の式を用いて、MRA画像から血管部位のΔSIG ratioを算出するステップを更に含み、
ΔSIG ratio=(ΔSIG-aneurysm)/(ΔSIG-preaneurysm)
ここで、ΔSIG-aneurysmは、動脈瘤の最大SIGと最小SIGとの差であり、ΔSIG-preaneurysmは、動脈瘤近位部の正常な血管の最大SIGと最小SIGとの差であることを特徴とする請求項1に記載の脳血管疾患危険度の分析方法。
【請求項10】
MRA画像から血管部位のSIG-BF(Signal Intensity Gradient-Blood Flow)を算出し、算出されたSIG-BFを用いて、脳血管疾患危険度を予測するプロセッサと、
プロセッサによる算出結果と予測結果とを出力する出力部と、
プロセッサに必要な保存空間を提供する保存部とを含むことを特徴とする脳血管疾患危険度の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRA(Magnetic Resonance Angiography)の応用技術に関し、より詳細には、MRAで血管画像を分析し、血流量及びそれに関連する指標を算出し、それを用いて、脳血管疾患、脳卒中の危険度を分析する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳血管疾患及び脳卒中(虚血性及び出血性)の血管の狭窄、閉塞、破裂或いは退行などのような病理現象によって生じる疾患である。血流の観点から言い表せると、血流の急激な減少(脳梗塞)或いは継続的に低い血流量(脳血管疾患、血管性認知症)及び血管外への血液の流出などのように表現してよい。
脳は、血流量50ml/min/100g以上を維持しなければ、正常な脳活動はできない。もし、血流量20-30ml/min/100g未満に急激に低下すると、虚血性脳梗塞に陥るようになる。なお、脳血流量が30-50ml/min/100g程度で脳血流量の不足が見られる場合、慢性のエネルギー(酸素とブドウ糖)の不足により、退行性脳疾患が見られることがある。小血管疾患(small vessel disease)、認知症及びその他の神経退行性疾患などがそれにあたる。脳出血は、血腫周辺への血流量の変化が肝心な予後因子として知られており、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は、破裂後血流量の様々な変化を招くと知られている。
脳血流量の計測、特に、患者の臨床変化に応じた正確かつ継続的な計測は、初期診断から長期にわたる予後判断のために欠かせないものである。なお、疾患の発生の予測因子として活用されることもあり、その活用度が高い。脳血流量は、超音波(エコー)検査或いはphase contrast MR技法を用いて、定量的に計測する方法が代表的であり、その他に、脳の局所的血流分布は、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)やBOLD(Blood Oxygen-Level Dependent)MRI技法などを活用する。超音波は、左右の総頸動脈と椎骨動脈の4本の血管に対して血流速度及び血管直径を計測してそれぞれの血流量を得て、それを合算して脳総血流量を得ることができる。Phase contrast MRも、4本の血管からMR撮影をそれぞれ行って得られた値を合算して求めることができる。
【0003】
超音波検査は、臨床で最も広く使われているが、検査者の検診経験によって左右されることが多く、特に、椎骨動脈の検査が容易ではないため、血管の変異を正確に把握することが困難である。Phase contrast MRは、血流速度を正確に計測することができる長所がある一方で、血管の構造や直径は正確度が落ち、何よりも当該血管のそれぞれに対して検査を行わなければならないという手間が生じたり、スキャンに長時間がかかるという短所から、臨床での活用度は低い。そこで、臨床の現場で短い時間で一度の検査で、4本以上の血管の血流量計測を同時に可能とする方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、SIGを用いて、MRA画像から血管部位のSIG-BF及びそれに関連する因子であるSIG-V、SIG-tCBF、SIG-pCBF、SIG-colBF、ΔSIG ratio及びSIG-BF ratioを算出する方法、及びそれを用いた脳血管疾患及び脳卒中を診断、予測及びモニタリングする方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の一実施例に係る脳血管疾患危険度の分析方法は、MRA画像から血管部位のSIG-BF(Signal Intensity Gradient-Blood Flow)を算出するステップと、算出されたSIG-BFを用いて、脳血管疾患危険度を予測するステップとを含む。
前記算出するステップは、次の式を用いてSIG-BFを算出し、
SIG-BF=SIG*πr
ここで、SIGは、血管部位におけるSIGであり、rは、血管の半径である。
本発明の実施例に係る脳血管疾患危険度の分析方法は、次の式を用いて、MRA画像から血管部位のSIG-V(SIG-Velocity、SIG血流速度)を算出するステップを更に含み、
SIG-Velocity=SIG*r
ここで、SIGは、血管部位におけるSIGであり、rは、血管の半径である。
SIGは、SIGの最大値、最小値、平均値のうち、何れかであってよい。
SIG-BFは、SIG-tCBF(SIG-total Cerebral Blood Flow)を含み、前記算出するステップは、次の式を用いて、SIG-tCBFを算出し、
SIG-tCBF=SIGrt ccaπ(rrt cca+SIGlt ccaπ(rlt cca+SIGrt vaπ(rrt va+SIGlt vaπ(rlt va
ここで、SIGrt ccaは、右総頸動脈部位におけるSIG、rrt ccaは、右総頸動脈の半径、SIGlt ccaは、左総頸動脈部位におけるSIG、rlt ccaは、左総頸動脈の半径、SIGrt vaは、右椎骨動脈部位におけるSIG、rrt vaは、右椎骨動脈の半径、SIGlt vaは、左椎骨動脈部位におけるSIG、rlt vaは、左椎骨動脈の半径である。
SIG-BFは、SIG-pCBF(SIG-parenchymal Cerebral Blood Flow)を含み、前記算出するステップは、次の式を用いて、SIG-pCBFを算出し、
SIG-pCBF=SIGrt icaπ(rrt ica+SIGlt icaπ(rlt ica+SIGrt vaπ(rrt va+SIGlt vaπ(rlt va
ここで、SIGrt icaとrrt icaとは、前脳動脈と中脳動脈の分枝前右内頸動脈の末端部位におけるSIGと半径、SIGlt icaとrlt icaとは、前脳動脈と中脳動脈の分枝前左内頸動脈の末端部位におけるSIGと半径、SIGrt vaとrrt vaとは、後下小脳動脈の分枝前右椎骨動脈部位におけるSIGと半径、SIGlt vaとrlt vaとは、後下小脳動脈の分枝前左椎骨動脈部位におけるSIGと半径である。
SIG-BFは、SIG-colBF(SIG-collateral Blood Flow)を含み、前記算出するステップは、
SIG-colBF=SIG-tCBF - SIG-pCBF
上記式を用いて、SIG-colBFを算出する。
SIG-BFは、SIG-BF ratioを含み、前記算出するステップは、次の式を用いて、SIG-BF ratioを算出し、
SIG-BF ratio=(SIG-BF-aneurysm)/(SIG-BF-preaneurysm)
ここで、SIG-BF-aneurysmは、最大半径が見られる動脈瘤のSIG-BFであり、SIG-BF-preaneurysmは、動脈瘤近位部の正常な血管のSIG-BFである。
【0006】
本発明の実施例に係る脳血管疾患危険度の分析方法は、次の式を用いて、MRA画像から血管部位のΔSIG ratioを算出するステップを更に含み、
ΔSIG ratio=(ΔSIG-aneurysm)/(ΔSIG-preaneurysm)
ここで、ΔSIG-aneurysmは、動脈瘤血管の最大SIGと最小SIGとの差であり、ΔSIG-preaneurysmは、動脈瘤近位部の正常な血管の最大SIGと最小SIGとの差である。
一方、本発明の別の実施例に係る脳血管疾患危険度の分析システムは、MRA画像から血管部位のSIG-BFを算出し、算出されたSIG-BFを用いて、脳血管疾患危険度を予測するプロセッサと、プロセッサによる算出結果と予測結果とを出力する出力部と、プロセッサに必要な保存空間を提供する保存部とを含む。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明の実施例によれば、SIGを用いて、MRA画像から血管部位のSIG-BF及びそれに関連する因子であるSIG-V、SIG-tCBF、SIG-pCBF、SIG-colBF、ΔSIG ratio及びSIG-BF ratioを抽出し、脳血管血行力学と血流量に対する定性/定量分析が可能になる。
更に、本発明の実施例によれば、血管疾患の様々な特性によって、上記因子を用いて、脳梗塞、脳血管疾患、脳出血などに対する的確な診断及びモニタリングが可能になり、中長期的の予後を判別し、最適な治療剤や治療方法を選ぶことができるようになるため、治療におけるリスクを予測することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例に係るMRAを活用したSIG-tCBF測定法を示すための図である。
図2】本発明の実施例に係るSIG-pCBFが見られる一症例を示すための図である。
図3】本発明の実施例に係る動脈瘤計測方法を示すための図である。
図4】本発明の実施例に係る動脈瘤計測方法を示すための図である。
図5】本発明の実施例に係る動脈瘤計測方法を示すための図である。
図6】本発明の実施例に係る無症状の74歳女性と、くも膜下出血の37歳男性の血管画像を示すための図である。
図7】本発明の実施例に係る無症状の動脈瘤が見られる56歳女性患者のTOF MRAを示すための図である。
図8】本発明の一実施例に係る脳血管疾患危険度の分析システムを示すためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、図面を参照し、本発明をより詳細に説明する。
1.SIG-BF/SIG-V
CTやMR、或いは侵襲的血管造影検査から得られた情報は、いずれも黒背景に白の血管を示す、MIP(Maximum Intensity Projection)方式で表現される。それは、血管を解剖学的に(例えば、狭窄)考察できるように力点を置いたものである。TOF-MRAも、臨床の現場では他の血管造影検査と略同様に、MIP画像のみが提供されているのが現状である。
しかし、TOF-MRAからSIG(Signal Intensity Gradient)を誘導することができるため、本発明の実施例においては、それにより、血管にあたる血行の特性を導出し、画像化する方法を提示する。
具体的に、本発明の実施例では、このような血行の特性を用いて血流量を導出し、それを活用し、脳卒中及び脳血管疾患の危険度を定性/定量化し、診断及び疾患の予測度を高め、治療前後のモニタリング及び治療方法の決定に活用することができるようにする方策を提示する。
本発明の実施例で提示するSIG-BF(Signal Intensity Gradient-Blood Flow、SIG血流量)は、次の通りである。まず、Poiseuille equationによれば、せん断応力(τ)は、次の式1にように定義される。
[式1]
τ=4Qη/(πr
ここで、τはせん断応力、Qは血流量、ηは血液粘度、rは血管半径である。
式1において、せん断応力(τ)をSIGに置き換えると、当該血管の血管壁から血流量(Qartery)は、SIG(Signal Intensity Gradient)を応用し、次のような式に変換してよい。
[式2]
Qartery=(τπr)/4η≒SIGπr(Unit、SI・cm
式2において、SIGは、当該血管の血管壁部位におけるSIG(最大、最小、平均値など)を意味し、それによって得た血流量をSIG-BFと称する。
一方、式2において、Qartery=velocity*πrに置き換えると、SIGを用いて、当該血管の血流速度を次のように得ることができる。
[式3]
Qartery=velocity*πr≒SIGπr
そして、式3において、両辺のπrを消去すると、次のようになる。
[式4]
Velocity=SIG*r(Unit、SI)
式4において、SIGは、当該血管部位におけるSIG(最大、最小、平均値など)を用いて、上記式4によって得た血流速度を、SIG-V(SIG-Velocity、SIG血流速度)と称する。
【0010】
Phantomの研究結果、直径2.1cmの2本のチューブに平均流量12.5±2.3、8.5±2.6L/minを維持した状態で、TOF MRAを施して得たSIG平均値は、それぞれ2.2±0.4、0.9±0.3SI/minであった。そして、SIG-BFは、それぞれ、8.0±1.45、3.27±1.09SI・cm2であって、SIG-BFと実際の流量は、相関係数b=0.95、p<0.01であった。血管の内径の半径は1cm未満であり、人体で最も大きな動脈である大動脈の半径の平均は約0.89cmである。
臨床研究において、頸動脈及び椎骨動脈の超音波検査によって得た血管別の血流量と、TOF MRAを施して得たSIG-BF及びSIG-Vの相関関係について説明してきた。健康な成人8名計31本の血管に対する超音波検査を実施した(1名の右椎骨動脈は観察されなかった)。超音波検査を用いて、time averaged mean flow velocity及び直径を求め、それを用いて得た左右総頸動脈、左右椎骨動脈の平均血流量(±標準偏差)は、それぞれ5.42±0.61、6.34±1.34、1.42±0.54、0.88±0.37m/secであった。更にそこに、Carotid TOF MRAを施し、上記式2に基づいてSIG-BFを4本の血管から得た。
【0011】
左右総頸動脈と椎骨動脈の平均SIG-BFは、それぞれ5.77±1.67、5.95±0.48、1.96±1.00、0.89±0.45SI・cmなどの所見が認められた。2つの検査の間の相関指数は、左頸動脈(b=0.69)、右頸動脈(b=0.71)、左椎骨動脈(b=0.73)、右椎骨動脈(b=0.61、all P values<0.01)などで、4本の血管の全てに対するinter-arterial correlationの検査結果の相関指数は、0.93(P<0.001)であった(図1)。
なお、左右総頸動脈と椎骨動脈の平均血流速度は、39.5±16.2、41.1±11.8、29.6±8.4、27.1±10.7cm/secであり、SIG-Vは、それぞれ、16.3±4.0、17.6±2.9、13.1±3.5、10.0±2.5SIであった。これらの血管の2つの検査の間の相関係数は、左頸動脈(b=0.47)、右頸動脈(b=0.68)、左椎骨動脈(b=0.63)、右椎骨動脈(b=0.64、all P values<0.01)などで、4本の血管の全てに対するinterarterial correlationの検査結果の相関指数は、0.67(P<0.001)であった。
【0012】
2.SIG-tCBF
脳血管疾患は、血流量と直・間接的に関連してくるため、そのために、総脳血流量(total Cerebral Blood Flow、tCBF)を求めて定量分析を行う。本発明の実施例においては、SIG-BFを用いて、SIG-tCBF(SIG-total Cerebral Blood Flow、SIG総脳血流量)を得る方法を提示する。
SIG-tCBFは、4血管、即ち、2総頸動脈(common carotid artery、cca)と、2椎骨動脈(vertebral artery、va)のSIG-BFを合算した値として、次の式5のように定義する。
[式5]
SIG-tCBF(SI・cm)=SIGrt ccaπ(rrt cca+SIGlt ccaπ(rlt cca+SIGrt vaπ(rrt va+SIGlt vaπ(rlt va
ここで、SIGrt ccaは、右総頸動脈部位におけるSIG、rrt ccaは、右総頸動脈の半径、SIGlt ccaは、左総頸動脈部位におけるSIG、rlt ccaは、左総頸動脈の半径、SIGrt vaは、右椎骨動脈部位におけるSIG、rrt vaは、右椎骨動脈の半径、SIGlt vaは、左椎骨動脈部位におけるSIG、rlt vaは、左椎骨動脈の半径である。
【0013】
臨床研究の結果、SIG-tCBFは総頸動脈及び椎骨動脈の超音波検査を通じて得た総脳血流量と高い関連性が見られた。健康な成人8名から超音波検査の結果time averaged mean flow velocityを活用して得た総脳血流量の平均値は、13.5±1.4cm/secであった。Carotid TOF MRAを施してから得たSIG-総脳血流量の平均値は、14.6±2.8SI・cmであった。血管超音波とSIG-tCBFとは、相関分析の結果、相関指数b=0.66、p<0.01が見られた(図1)。
図1には、MRAを活用したSIG-tCBFの測定方法を示している。図1のAには、2総頸動脈と2椎骨動脈のaxial(xy軸)の断面であるが、1断面から4本の血管の断面積を得ることができる。図1のBには、総頸動脈と椎骨動脈のSIG分布が示されているが、線で示している断面が図1のA(2D画像)である。左右総頸動脈、左右椎骨動脈のSIG(SI/mm、mean±SD)は、それぞれ、4.16±1.11、4.01±0.70、5.33±1.24、5.56±0.91であり、SIG-BF(SI・cm)は、それぞれ、3.63、4.01、0.88、0.92であった。SIG-tCBFは、9.45SI・cmであった。ちなみに、頸動脈エコーを用いて得た左右総頸動脈、左右椎骨動脈の血流量は、それぞれ、4.33、4.67、0.85、0.99cm/secであって、総脳血流量は、10.85cm/secであった。
【0014】
3.SIG-pCBF/SIG-colBF
carotid TOF MRAとは別に、intracranial TOF MRAは、臨床において最も広く使われている血管撮影である。しかし、intracranial TOF MRAは、総頸動脈や椎骨動脈近位部はスキャンされず、その一方で、内頸動脈とその遠位部の血管(中脳動脈、前脳動脈)、そして、椎骨動脈遠位部(V4 portion)と基底動脈が撮影される。carotid TOF MRAのように、総脳血流量を誘導するのには適していないものの、intracranial TOF MRAは、前、中、後脳動脈及び基底動脈を通じた脳実質及び脳幹部位への血流量のみを求めることができる。
方法は、内頸動脈(internal carotid artery)の最終分枝の直前、即ち前脳動脈と、中脳動脈の分枝直前の内頸動脈と、後下小脳動脈の分枝前右椎骨動脈、計4か所のSIG-BFを活用すると、外頸動脈(external carotid artery)と、眼動脈(ophthalmic artery)への血流量を除く脳幹、脳実質への血流量のみを選択的に求めることになる。それを、SIG-pCBF(SIG-parenchymal Cerebral Blood Flow、SIG脳実質血流量)と名付け、次の式6のように定義する。
[式6]
SIG-pCBF(SI・cm)=SIGrt icaπ(rrt ica+SIGlt icaπ(rlt ica+SIGrt vaπ(rrt va+SIGlt vaπ(rlt va
ここで、SIGrt icaとrrt icaとは、前脳動脈と中脳動脈の分枝前右内頸動脈の末端部位におけるSIGと半径、SIGlt icaとrlt icaとは、前脳動脈と中脳動脈の分枝前左内頸動脈の末端部位におけるSIGと半径、SIGrt vaとrrt vaとは、後下小脳動脈の分枝前右椎骨動脈部位におけるSIGと半径、SIGlt vaとrlt vaとは、後下小脳動脈の分枝前左椎骨動脈部位におけるSIGと半径である。
【0015】
図2に、SIG-pCBFが見られる一症例を示している。左右内頸動脈の末端部と左右椎骨動脈(後下小脳動脈起始の前部位)、4か所におけるSIG-BFを合算してSIG-pCBFを得る。図2は、健康な成人から得たTOF MRAで、左右内頸動脈、左右椎骨動脈の平均SIGは、6.86、8.48、9.67、11.2SI/mmであって、SIG-BF(SI・cm)は、それぞれ1.24、1.25、1.30、0.73で、大脳は左右同様で、小脳と脳幹は、右椎骨動脈の血流量がより多い様相を示している。SIG-pCBFは、4.52SI・cmであった。
一方、上述のSIG-tCBFからSIG-pCBFを減算すると、眼動脈と外頸動脈へのSIG-colBF(SIG-collateral blood flow、SIG側部循環血流量)を、次のように得ることができる。
[式7]
SIG-colBF(SI・cm)=SIG-tCBF - SIG-pCBF
【0016】
4.ΔSIG ratio/SIG-BF ratio
脳出血は、大きく、深部脳出血、くも膜下出血、外傷性脳出血など、3つに分かられる。深部脳出血は、特性がラクナ梗塞(lacunar infarction)や小血管疾患(small vessel disease)との関連性が高いと知られており、くも膜下出血は、動脈瘤(aneurysm)の破裂によるものとして知られている。
くも膜下出血の症状は、非常に強い頭痛とともに意識消失を引き起こすことがあり、緊急手術や集中治療が求められる非常に危険な病気である。動脈瘤もなお、今後くも膜下出血を引き起こしかねない潜在的な危険因子として、発見の際にくも膜下出血が発生していないとしても、非常に慎重な臨床決定が求められる。即ち、手術やステントを用いた血管成形術などで動脈瘤を治療するか、それとも、臨床の経過を見ながら観察するかを決めなければならない。
動脈瘤の従来の分類法は、模様や形の測定が主に行われていた。現在まで数多くの分析を通じ、大きさ、形、Aspect ratio(図3及び4)、blebの有無、血流入射角(flow angle、図5)などが、動脈瘤の破裂の主な危険因子として報告されていた。なお、コンピュータシミュレーションを用いた(CFD)研究では、低いせん断応力を有する脳動脈瘤が破裂の危険性が高いと報告されている。しかし、3次元動脈瘤を、長さや入射角のような2次元の概念から正確に計測することは容易ではなく、計測者の間で見解が食い違う可能性が高い。なお、CFDのようなコンピュータシミュレーションも、患者に合ったinlet/outletの調整と、適切な3D表面セッティングなど、現実的に色んな環境を整えたうえで、全ての患者に同じ環境/技法で一定の結果を得ることは困難である。
【0017】
従来のTOF MRAだけでなく、全ての血管撮影は、動脈瘤の存在の有無を把握する診断が主な結果である。動脈瘤の破裂危険度を知らせる血行力学的な方法に対する先行研究は報告されているが、実際の臨床でスクリーニングのために使用することができる方法は、殆どないのが現状である。例えば、図6のAは、74歳の無症状女性から撮影されたものであり、図6のBは、37歳のくも膜下出血の男性から撮影されたものであるが、2つのケースいずれも、左中脳動脈M2分枝から動脈瘤が認められるが、血管の画像だけでは破裂の危険があるかを予測することは困難である。
しかし、本発明の実施例から提示するMRA SIG及びSIG-BFは、従来の方法の色んな制限点を克服し、全ての患者に一貫した結果が得られ、危険度の予測に生かすことができる。
80名の破裂していない脳動脈瘤MRA SIGを分析した結果、それぞれの動脈瘤は、流入する血流を受ける部位と、流入血流を受けない残りの部位とに分けることができた。即ち、動脈瘤は、血流流入部と流入した血流の再循環部とに分けられる現象を確認することができる。図7は、56歳の無症状動脈瘤が認められる女性患者のTOF MRAであるが、図7のAに示すように、左中脳動脈M2起始部に動脈瘤が認められる(arrow)。図7のBとCとは、Aの左中脳動脈の動脈瘤に対するSIGの分析結果である。動脈瘤の一側から高いSIG値が見られる部位(血流流入部、broken arrow)と、反対側の低い値が見られる部位(血流再循環部、curved arrow)とに分けることができる。図7のCは、上方か眺めた画像である。
【0018】
動脈瘤の破裂危険度は、動脈瘤が強い力を受けているか、或いは受けることができるかを把握することが重要である。図7で記した特性に鑑みると、動脈瘤の破裂危険度が高い場合は、血流流入部のSIGは高く(血流の流入に問題なし)、一方で、血流再循環部では非常に低い値が見られるエリア(破裂危険部)が同時に見られることから、動脈瘤の血流量が多いケースといえる。
脳動脈瘤の破裂危険性に対する定量分析のために、本発明の実施例では、ΔSIG ratio(SIGの最大差値の割合)と、SIG-BF ratio(SIG-BFの割合)の概念を提示する。
ΔSIG ratioは、次の式8に定義する。
[式8]
ΔSIG ratio=(ΔSIG-aneurysm)/(ΔSIG-preaneurysm)
ここで、ΔSIG-aneurysmは、動脈瘤の最大SIGと最小SIGとの差であり、ΔSIG-preaneurysmは、動脈瘤近位部の正常な血管の最大SIGと最小SIGとの差である。
SIG-BF ratioは、次の式9に定義する。
[式9]
SIG-BF ratio=(SIG-BF-aneurysm)/(SIG-BF-preaneurysm)
ここで、SIG-BF-aneurysmは、動脈瘤内部の最大半径が見られる地点のSIG-BFであり、SIG-BF-preaneurysmは、動脈瘤近位部の正常な血管のSIG-BFである。
【0019】
動脈瘤前の正常部位と動脈瘤のSIG及びSIG-BFの分析結果、無症状群の平均ΔSIG ratioは0.58、SIG-BF ratioは2.47である一方で、破裂のある2名の平均ΔSIG ratioは1.39、SIG-BF ratioは11.64で大きな差が見られた。なお、動脈瘤内の下位20%のtileに該当する低いSIGに該当するエリアは、無症状群では2.81mm、破裂群では9.43mmであって、破裂群の場合、低いSIGを有する血流再循環部のほうがより広い所見が認められた。
【0020】
5.脳血管疾患危険度の分析システム
図8は、本発明の一実施例に係る脳血管疾患危険度の分析システムを示すためのブロック図である。本発明の一実施例に係る脳血管疾患危険度の分析システムは、MRA画像から血管部位のSIGを用いて、SIG-BF及びそれに関連する因子を算出し、脳血管疾患危険度を予測するためのシステムである。
本発明の実施例に係る脳血管疾患危険度の分析システムは、図に示すように、通信部110、出力部120、プロセッサ130、入力部140及び保存部150を含むコンピューティングシステムで実現が可能である。
通信部110は、外部機器と通信を行い、外部ネットワークに接続するための手段として、本発明の実施例では、MRA撮影装置から患者のMRA画像を受信する。
プロセッサ130は、通信部110を介して受信されるMRA画像から血管部位のSIG-BF、SIG-V、SIG-tCBF、SIG-pCBF、SIG-colBF、ΔSIG ratio及びSIG-BF ratioを算出する。
そして、プロセッサ130は、算出された因子を用いて、脳血管疾患危険度を予測する。具体的に、プロセッサ130は、因子と脳血管疾患との間の相関関係を基に、脳血管疾患危険度を予測する。
脳血管疾患危険度を予測するために利用する因子の種類及び数に対する制限はない。疾患に応じて適格な因子が適用される。
出力部120は、プロセッサ130によって算出された因子値及び予測された脳血管疾患危険度が表示されるディスプレイであり、入力部140は、ユーザ命令を入力されるための手段である。
保存部150は、プロセッサ130が因子の算出及び脳血管疾患危険度の予測を行うのに必要な保存空間を提供する。
【0021】
6.変形例
これまで、MRA画像からSIGを用いて血管部位のSIGを算出し、算出された因子から脳血管疾患の危険度を予測する方法及びシステムについて、好適な実施例を例に挙げて詳細に説明してきた。
上記実施例では、MRA画像で血管のSIGから導出する因子として、SIG-BF、SIG-V、SIG-tCBF、SIG-pCBF、SIG-colBF、ΔSIG ratio及びSIG-BF ratioを提示している。
一方、本実施例に係る装置及び方法の機能を行わせるコンピュータプログラムを組み込んだコンピュータで読み取り可能な記録媒体にも、本発明の技術的思想が適用され得る。なお、本発明の多様な実施例に係る技術的思想は、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されたコンピュータで読み取り可能なコード形式で実現されてよい。コンピュータで読み取り可能な記録媒体とは、コンピュータによって読み取ることができ、データを保存することができる如何なるデータ保存装置でも可能である。例えば、コンピュータで読み取り可能な記録媒体とは、ROM、RAM、CD-ROM、磁気テープ、フロッピーディスク、光ディスク、ハードディスクドライブなどであってよい。なお、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に保存されたコンピュータで読み取り可能なコード又はプログラムは、コンピュータ間で接続されたネットワークを介して伝送されてよい。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的趣旨の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
【国際調査報告】