(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-24
(54)【発明の名称】向上した熱安定性を有する光学グレード成形組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 220/14 20060101AFI20230817BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20230817BHJP
C08F 2/01 20060101ALI20230817BHJP
C08F 2/06 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C08F220/14
C08L33/12
C08F2/01
C08F2/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022580147
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2021067061
(87)【国際公開番号】W WO2021259965
(87)【国際公開日】2021-12-30
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リューディガー カルロフ
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG061
4J002EC067
4J002EE026
4J002EF057
4J002EG037
4J002EH047
4J002EH076
4J002EH126
4J002EP026
4J002EU076
4J002EU176
4J002EU186
4J002EU236
4J002FD046
4J002FD056
4J002FD167
4J002FD177
4J002GP00
4J002GP01
4J002GQ00
4J011DB13
4J011HB12
4J011NA25
4J011PA34
4J100AK32Q
4J100AL03P
4J100AL03S
4J100AM43Q
4J100AM45Q
4J100AM47Q
4J100AM48Q
4J100AR11R
4J100BA12R
4J100BA16R
4J100BA20R
4J100BA35R
4J100BC02Q
4J100BC03Q
4J100BC04Q
4J100BC44Q
4J100BC49Q
4J100BC55R
4J100BC66R
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
(57)【要約】
本発明は、向上した耐熱性、高い透明性および低いヘイズ値を有するコポリマーに関する。本発明はさらに、このコポリマーを含む成形組成物、およびこのコポリマーの製造方法に関する。本発明の成形組成物は、一次光学系、二次光学系、三次光学系および導光体を含む様々な光学デバイスに使用される光学素子の製造に非常に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
47.0~99.8モル%のメチルメタクリレートに由来する繰り返し単位と、
0.1~20.0モル%の、式(I)
【化1】
[式中、Xは、酸素原子またはN-R
1を表し、置換基R
1は、水素原子または1~12個の炭素原子を有する炭化水素基である]によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.1~18.0モル%の、式(II)
【化2】
[式中、置換基R
2、R
3およびR
4は、独立して、水素原子、1~12個の炭素原子を有する炭化水素基、カルボキシ基、-C(O)-C1~12アルキル、-C(O)-C1~12シクロアルキル、-C(O)-O-C1~12アルキルまたは-C(O)-O-C1~12シクロアルキルを表すことができ、R
3およびR
4は、独立して、ヒドロキシ基を表すか、または一緒になって環状部分を形成してもよい]によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.0~15.0モル%の、メチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または式(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマーに由来する繰り返し単位であって、前記任意選択のコモノマーは、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート、メタクリル酸、(メタ)アクリロニトリルまたは芳香族ビニルモノマーである繰り返し単位と、
を含むコポリマーであって、
GPCによって決定した、コポリマーの重量平均分子量Mwが、40,000~300,000g/モルである、コポリマー。
【請求項2】
式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位p
IIのコポリマー中の含有率(モル%)が、以下の関係:
0.3p
I≦p
II≦0.9p
I
[式中、p
Iは、式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位のコポリマー中の含有率(モル%)である]によって記載される、請求項1記載のコポリマー。
【請求項3】
式(I)によって表される化合物が、無水マレイン酸であり、かつ
式(II)によって表される化合物が、2-ノルボルネンである、請求項1または2記載のコポリマー。
【請求項4】
前記任意選択のコモノマーが、メチルアクリレートまたはエチルアクリレートである、請求項1から3までのいずれか1項記載のコポリマー。
【請求項5】
ISO 306-B50(2014)によるビカット軟化温度が、有利には少なくとも90℃、好ましくは少なくとも100℃、より好ましくは少なくとも110℃である、請求項1から4までのいずれか1項記載のコポリマー。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載のコポリマーの製造方法であって、
(a)MMA、式(I)の化合物、式(II)の化合物、および任意選択的に、任意選択のコモノマーを含むモノマー混合物をラジカル共重合させて、コポリマー溶液、コポリマー分散液またはコポリマー懸濁液を形成する重合工程
を含む、方法。
【請求項7】
共重合工程(a)を、好ましくはトルエン、酢酸ブチル、酢酸エチル、キシレン、ジメチルフラン、メチルエチルケトンまたはそれらの任意の混合物から選択される溶媒の存在下で行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
重合工程(a)における全モノマーフィードが、重合性成分の総量を基準として以下の組成:
28.0~99.7モル%のメチルメタクリレート
0.1~22.0モル%の式(I)によって表される化合物
0.2~35.0モル%の式(II)によって表される化合物;ならびに
0.0~15.0モル%の、メチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマー
を有する、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
重合工程(a)における全モノマーフィード中の式(II)によって表される化合物の含有率m
II(モル%)が、以下の関係:
0.3m
I≦m
II≦2.0m
I
[式中、m
Iは、モノマー混合物中の式(I)によって表される化合物の含有率(モル%)である]によって記載される、請求項6から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
重合工程(a)が、非連続的または連続的に運転される撹拌タンク反応器、連続的に運転される管状反応器、非連続的または連続的に運転されるループ反応器、またはそれらの任意の組み合わせで実施され、複数の反応器が使用される場合、それらは並行して運転されるか、または順次接続される、請求項6から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
重合工程(a)を、管状反応器と順次接続された少なくとも1つの連続的に運転される撹拌タンク反応器内で実施し、その際、前記管状反応器が、前記撹拌タンク反応器の下流に配置される、請求項6から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
重合工程(a)における転化率が、少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%である、請求項6から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
重合工程(a)の後に、
(b)重合工程(a)で得られた前記コポリマー溶液を100℃~300℃の温度に加熱する工程、および
(c)脱ガス装置中の揮発性成分を除去する工程
を実施する、請求項6から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1から5までのいずれか1項記載のコポリマーと、UV吸収剤、UV安定剤、酸化防止剤、着色剤、流動性向上剤、散乱助剤、潤滑剤、脱型助剤またはそれらの任意の組み合わせから選択される少なくとも1種の添加剤とを含む、成形組成物。
【請求項15】
射出成形および押出から選択される方法により請求項14記載の成形組成物から得られる、成形品。
【請求項16】
光学素子、ランプカバーとしての、好ましくは室内照明システムまたは自動車用照明装置、黒色のピラートリム、電子部品のための、請求項15記載の成形品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した耐熱性、高い透明性および低いヘイズ値を有するコポリマーに関する。本発明はさらに、このコポリマーを含む成形組成物、およびこのコポリマーの製造方法に関する。
【0002】
本発明の成形組成物は、一次光学系、二次光学系、三次光学系および導光体を含む様々な光学デバイスに使用される光学素子の製造に非常に適している。
【0003】
従来技術
メチルメタクリレート(以下MMA)に由来する繰り返し単位を含むコポリマー(単純にするためにポリメチルメタクリレート(以下PMMA)と呼ばれることが多い)は、通常、高い耐候性、特に太陽UV放射に対する高い耐性を有する透明な材料である。必要に応じて、PMMAの耐候性は、UV吸収剤、安定剤および阻害剤の添加によってさらに高めることができる。したがって、PMMAは、高い透明性、低いヘイズおよび高い耐候性が必要とされる用途で一般的に使用されている。
【0004】
また、光学用途のために特に高い耐熱性を有するポリマーの需要が増加している。これらの用途には、例えば、高出力LEDを備える屋内および屋外での使用のための光源が含まれ、このようなポリマーは、導光体、光学レンズ等として使用されている。LEDの光収率を高めるために、光学素子は、LEDに近接して配置される。LED表面、特にいわゆる白色高出力LEDの動作温度は、しばしば100℃を超え、時には130℃も超える。したがって、これらの用途の材料が、高い透明性、特に低いヘイズ値および高い熱安定性を有することが重要である。加えて、材料は、高い耐候安定性を有し、かつ太陽放射への長期曝露に際して黄変の兆候を実質的に示すべきではない。
【0005】
欧州特許出願公開第0113105号明細書には、無水マレイン酸(以下MAH)、α-メチルスチレンおよびMMAのコポリマーが記載されている。この材料は、光学特性に優れ、熱安定性も良好であるが、中程度の耐候安定性しかなく、α-メチルスチレン中の芳香族基のために太陽放射に長期間曝されると脆くなる。
【0006】
これらの欠点は、欧州特許第1742997号明細書に記載された、PMMAと、MAH、スチレンおよびMMAのターポリマーとを含む、成形組成物により部分的に克服されている。しかしながら、この成形組成物の熱安定性およびガラス転移温度は、強力な高出力LEDを使用する用途にとって、依然として十分に高くない。さらに、スチレンに由来する繰り返し単位が存在するため、この成形組成物の耐候性は、一般的に使用されているPMMAの耐候性よりも低い。さらに、ビニル芳香族と組み合わせてMAHに由来する繰り返し単位を含む構成単位を有するコポリマーは、PMMAとの相溶性が限定的であることが多い。その結果、著しいヘイズ増加を伴う望ましくない相分離が起こり得る。
【0007】
米国特許出願公開第2014/000801号明細書には、アルキル(メタ)アクリレート系モノマー、ベンジルメタクリレート、および(メタ)アクリル酸モノマーを連続的なバルク重合法を用いて反応させることによって得られるコポリマーが記載されている。当該コポリマーは、高い熱安定性を有することも報告されている。しかしながら、コポリマー中の(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位の含有量が高すぎる場合、コポリマーの吸水率が不必要に高くなる傾向があり、射出成形型との密着性が高く、射出成形による熱可塑性加工が困難になる。さらに、ベンジルメタクリレートに由来する繰り返し単位が存在するため、この材料は、特に高い動作温度では、耐候性が制限される。
【0008】
特開平4-63810号公報には、MMA、MAHおよび2-ノルボルネンの混合物(以下2-NB)の重合によって得られるコポリマーが記載されている。この文献には、これらのコポリマーが、一般的なPMMAよりも高いガラス転移温度を有することが記載されている。特開平4-63810号公報のコポリマーは、アンプル中でバッチ式に調製され、部分的にのみ重合された後、メタノール中での沈殿により当該コポリマーは単離、分析されている。得られたコポリマーが透明であったことが簡単に示されている他は、黄色度指数、ヘイズ、またはメルトボリュームレート(MVR)などのそれらの光学特性に関する情報は提供されていない。特開平4-63810号公報の実施例1~3のコポリマー中の報告されたMAH含有率は、沈殿ポリマー中21モル%以上であった。
【0009】
仏国特許出願公開第2699540号明細書の文献には、スチレン、塩化ビニルまたはメチル(メタ)アクリレートなどのビニルモノマーa)、ノルボルネンモノマーb)、およびマレイミドモノマーc)の透明なコポリマー、ならびにそれから製造された成形品が記載されている。例えば、79モル%のメチルメタクリレート(MMA)、5モル%のノルボルネン(NB)および16モル%のN-シクロヘキシルマレイミド(NCHMI)を含む混合物のフリーラジカル溶液重合によって得られるコポリマーが記載されている。
【0010】
一般的に言えば、2-NBは、フリーラジカル重合によってMMAと共重合することができないことは、従来技術においてよく知られている(例えば、“Palladium(II)-catalysed polymerization of 5-norbornene-2-carboxylic acid esters and norbornene”, B. Heinzによる学術論文, マールブルク 1998年を参照)。さらに、MAHは、低活性のフリーラジカル重合によりMMAと共重合され得ることが知られている(例えば、B.C. Trivedi, B.M. Culbertson Maleic anhydride, Plenum Press, 1982年を参照)。また、2-NBをMAHとラジカル共重合させ得ることも報告されている(例えば、“Fundamental Aspects of Norbornene-Maleic-Anhydride Co and Terpolymers for 193 nm Lithography: Polymerization Chemistry and Polymer Properties”, Hiroshi Itoら, Journal of Photopolymer Science and Technology, 2000年, 559~589頁を参照)。しかしながら、MMA、2-NBおよびMAHを含むコポリマーの調製方法については、これまで詳細な研究および開発がなされていなかった。
【0011】
本発明の課題
上記の欠点を考慮すると、本発明の課題は、高い熱安定性と組み合わせて、優れた光学特性、特に低いヘイズを有するコポリマーを提供することであった。これらの特性により、当該ポリマーを、表面上の動作温度が高い光源、例えば高出力白色LEDに使用することが可能となるであろう。さらに、該ポリマーは、UV光および/または高温にさらされた状態での長期使用に適しており、かつ低い吸水性および優れた耐候性、特に太陽放射に対する高い安定性を有する必要がある。
【0012】
本発明のさらなる目的は、このようなコポリマーを工業的規模で効率的に製造する方法を提供することであった。
【0013】
発明の概要
本発明は、
47.0~99.8モル%のメチルメタクリレートに由来する繰り返し単位と、
0.1~20.0モル%の、式(I)
【化1】
[式中、Xは、酸素原子またはN-R
1によって表され、置換基R
1は、水素原子または1~12個の炭素原子を有する炭化水素基である]によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.1~18.0モル%の、式(II)
【化2】
[式中、置換基R
2、R
3およびR
4は、独立して、水素原子、1~12個の炭素原子を有する炭化水素基、カルボキシ基、-C(O)-C1~12アルキル、-C(O)-C1~12シクロアルキル、-C(O)-O-C1~12アルキルまたは-C(O)-O-C1~12シクロアルキルによって表されてもよく、R
3およびR
4は、独立して、ヒドロキシ基によって表されるか、または一緒になって環状部分を形成してもよい]によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.0~15.0モル%の、メチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または式(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマーに由来する繰り返し単位であって、前記任意選択のコモノマーは、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート、メタクリル酸、(メタ)アクリロニトリルまたは芳香族ビニルモノマーである繰り返し単位と、
を含むコポリマーが、所望の有利な特性の組み合わせを有するという驚くべき知見に基づくものである。このコポリマーは、熱安定剤の不存在下でも、低いヘイズおよび驚くほど高い熱安定性を有し、したがって高温で光学用途に使用され得る。加えて、該コポリマーは、屋外での長期安定性に優れ、長時間の屋外使用後でも、実質的に黄変の兆候を示さない。
【0014】
これらの結果は、2-NBなどの式(II)の化合物に由来する繰り返し単位の極性が、MAHなどの式(I)の化合物に由来する繰り返し単位の極性と大幅に異なるため、驚くべきことである。式(II)の化合物に由来する繰り返し単位は、実質的に非極性であるが、式(I)の化合物に由来する繰り返し単位は、無水物基またはイミド基の存在のために極性である。さらに、式(I)の化合物と式(II)の化合物との共重合の間に、剛性が増加したドメインが形成されることが予想されている。したがって、当業者は、通常、一般的な知識に基づいて、例えばMMA、MAHおよび2-NBのコポリマーが混濁した外観、すなわち高い光学ヘイズを有すると予想するであろう。本明細書で使用される「光学ヘイズ」という用語は、厚さ3.0mmの試験片について規格ASTM D1003-13に従って測定された値を指す。
【0015】
本発明によれば、コポリマーの質量平均分子量Mwは、約40,000~300,000g/モル、より好ましくは50,000~200,000g/モルである。コポリマーの数平均分子量Mnは、好ましくは20,000~150,000g/モル、より好ましくは25,000~100,000g/モルである。MwおよびMnの測定は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、例えば、PMMAを較正標準として使用し、0.2体積%のトリフルオロ酢酸(TFA)が含まれるテトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用することによって行われ得る。較正標準を使用する代わりに、散乱検出器が、100,000g/モルを上回るMwを有するコポリマーに使用されてもよい(H. F. Markら, Encyclopaedia of Polymer Science and Engineering, 第2版, 第10巻, 1頁以下, J. Wiley, 1989年を参照)。適切なGPCカラムは、当業者によって、例えばHPSカラムなど、容易に選択され得る。かかるカラムは、例えば、PSS SDVシリーズのカラムとしてPSS Standards Service GmbH(マインツ、独国)より市販されている。容易に理解されるように、複数のGPCカラムの組み合わせが使用されてもよい。
【0016】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、本発明者らは、本発明のコポリマーが、好ましくは
55.0~98.7モル%、好ましくは59~98.7モル%のメチルメタクリレートに由来する繰り返し単位と、
1.0~18.0モル%の、式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.3~15.0モル%の、式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.0~12.0モル%、好ましくは0.0~8.0モル%の、任意選択のコモノマーに由来する繰り返し単位と、
を含む場合、該コポリマーのヘイズ値がさらに低下し得ることを見出した。
【0017】
さらに、光学特性の観点から、
65.0~93.0モル%、好ましくは67.0~93.0モル%の、メチルメタクリレートに由来する繰り返し単位と、
5.0~16.0モル%の、式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
2.0~12.0モル%の、式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.0~7.0モル%、好ましくは0.0~5.0モル%の、任意選択のコモノマーに由来する繰り返し単位と、
を含むコポリマーを選択することがさらにより有利であることが示された。
【0018】
式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位の含有率と、式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位の含有率との比率を慎重に調整することにより、本発明のコポリマーの光学ヘイズを低減させることもできる。特に、1つの好ましい実施形態では、これらの含有率は、以下の関係に従うように調整される:
0.3pI≦pII≦0.9pI
[式中、pIは、式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位のコポリマー中の含有率(モル%)であり、pIIは、式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位のコポリマー中の含有率(モル%)である。]
【0019】
さらに、pIおよびpIIを、
0.4pI≦pII≦0.85pI
好ましくは
0.5pI≦pII≦0.8pI
となるように調整することによって、特に低いヘイズ値を有するコポリマーを得ることができた。
【0020】
これに関連して、本発明者は、2-NBなどの式(II)によって表される化合物は、一般に、MAHなどの式(I)によって表される化合物とはラジカル共重合することができるものの、MMAとは共重合できないため、モル比pII/pIが0.9を上回ると、交互になっている式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位および式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位からなる比較的長いセグメントが生じることを見出した。コポリマーの分子量Mwが300,000g/モルを上回るか、または式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位の含有率が20.0モル%を上回る場合、これらの長鎖ドメインは、コポリマーのアクリル成分との混合性が低下すると予想される。この現象は、モル比pII/pIが0.9を上回る際、特に、式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位の含有量が18.0モル%を上回る場合にヘイズ値が上昇する原因と思われる。
【0021】
本発明のさらなる態様は、本発明のコポリマーと、任意選択的に、UV吸収剤、UV安定剤、酸化防止剤、着色剤、流動性向上剤、帯電防止剤、潤滑剤および脱型助剤、散乱粒子、引っ掻き向上助剤等から選択される少なくとも1種の添加剤とを含む、成形組成物に関する。
【0022】
本発明の成形組成物は、透明性に優れ、かつ透明で実質的に白濁しない外観を有する。特に、規格ASTM D1003(2013)に準拠して3.0mmの厚さを有する射出成形された試験片について23℃で測定された成形組成物のヘイズは、通常5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは2%未満、特に好ましくは1%未満である。
【0023】
さらに、色添加剤または着色顔料を含まない成形組成物は、好ましくは、3.0mmの厚さを有する射出成形された試験片について23℃で測定して、85%~93%の範囲、より好ましくは87%~92%の範囲の、DIN 5033-7(2014)に準拠した光透過率TD65を示す。
【0024】
DIN 6167(1980)(光源D65、10°、層厚3.0mm)により測定可能な、色添加剤または着色顔料を含まない成形組成物の黄色度指数は、添加される着色剤または顔料の非存在下で、厚さ3.0mmの射出成形試験片について23℃で測定して、好ましくは7未満、好ましくは5未満であるべきである。
【0025】
ISO 306-B50(2014)に準拠した成形組成物のビカット軟化温度は、有利には少なくとも90℃、好ましくは少なくとも100℃、より好ましくは少なくとも110℃である。
【0026】
ISO 527(2012)に準拠した耐衝撃性改良剤を含まない成形組成物の公称破断伸びは、好ましくは少なくとも2.0%、特に好ましくは3.0%以上であるべきである。
【0027】
耐衝撃性改良剤が存在しない場合、ISO 527(2012)に準拠した成形組成物の弾性率は、有利には3000MPa超、好ましくは3500MPa超である。
【0028】
その有利なレオロジー特性のために、本発明の成形組成物は、射出成形による光学素子の製造に非常に適している。本発明の組成物は、典型的には、ISO 1133(2012)に従って測定される230℃および3.8kgで、0.2cm3/10分を超える、好ましくは0.4cm3/10分を超える、最も好ましくは0.6cm3/10分~15.0cm3/10分の範囲のメルトボリュームフローレートMVRを有する。
【0029】
本発明のコポリマーの繰り返し単位を形成するモノマーは、以下により詳細に記載されることになる。
【0030】
式(I)の化合物
本発明のコポリマーは、0.1~20.0モル%、好ましくは1.0~18.0モル%、より好ましくは5.0~16.0モル%の式(I)
【化3】
によって表される化合物に由来する繰り返し単位を含み、
式(I)中のXは、酸素原子またはN-R
1であってよく、置換基R
1は、水素原子または1~12個の炭素原子を有する炭化水素基である。
【0031】
本出願で使用される「炭化水素基」という用語は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基を包含する。これらの基は、分枝鎖状または非分枝鎖状であってよい。さらに、これらの基は、1個または複数個の置換基を有していてよい。置換基は、例えば、1~6個の炭素原子を有する直鎖状および分枝鎖状のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、2-メチルブチル基またはヘキシル基;シクロアルキル基、例えばシクロペンチル基およびシクロヘキシル基;芳香族基、例えばフェニル基またはナフチル基である。アルキル基またはシクロアルキル基である置換基R1の使用は、得られたコポリマーの耐候安定性の点で特に有利であることが示された。
【0032】
好ましいアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、1-ブチル、2-ブチル、2-メチルプロピル、tert-ブチル、ペンチル、2-メチルブチル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、1,1,3,3-テトラメチルブチル、ノニル、1-デシル、2-デシル、ウンデシルおよびドデシル基が含まれる。好ましいシクロアルキル基には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチル基が含まれ、これらはそれぞれ、任意選択的に1つまたは複数の分枝鎖状または非分枝鎖状のアルキル基で置換されていてよい。本発明に従って好ましい芳香族基は、フェニル、ナフチルおよびビフェニルから誘導されてもよく、これらはそれぞれ、任意選択的に1つまたは複数の分枝鎖状または非分枝鎖状のアルキル基で置換されていてもよい。
【0033】
式(I)の化合物の選択は、特に限定されないが、MAH、マレイミド、メチルマレイミド、N-フェニルマレイミドおよびN-シクロヘキシルマレイミドから選択される化合物は、特に有利な特性を有するコポリマーをもたらす。特に、式(I)の化合物としてMAHおよびN-シクロヘキシルマレイミドを使用することが最も好ましい。
【0034】
式(II)の化合物
本発明のコポリマーは、0.1~18.0モル%、好ましくは0.3~15.0モル%、より好ましくは2.0~12.0モル%の式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位:
【化4】
を含む。
【0035】
置換基R2、R3およびR4は、独立して、水素原子、1~12個の炭素原子を有する炭化水素基、カルボキシ基、-C(O)-C1~12アルキル、-C(O)-C1~12シクロアルキル、-C(O)-O-C1~12アルキルまたは-C(O)-O-C1~12シクロアルキルによって表されてもよい。さらに、R3およびR4は、独立して、ヒドロキシ基によって表されてもよく、または一緒になって環状部分を形成してもよい。
【0036】
「炭化水素基」、「アルキル」および「シクロアルキル」という用語の意味は、置換基R1について先に定義したものと同じである。置換基R3およびR4は、それぞれ、独立して、エキソ配置またはエンド配置であり得る。置換基R3およびR4は、互いにシス配置またはトランス配置であってもよい。
【0037】
式(II)の化合物の選択は、MMAおよび/または式(I)の化合物とラジカル重合を起こし得る限り、特に限定されない。例えば、式(II)の化合物は、メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、2-ノルボルネン(2-NB)、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、(2-ヒドロキシエチル)-5-ノルボルネン-2-カルボキシレート、tert-ブチル-5-ノルボルネン-2-カルボキシレート、2-アセチル-5-ノルボルネン、5-ノルボルネン-2-カルボン酸メチルエステル、エチル-5-ノルボルネン-2-カルボキシレート、N-(2-エチルヘキシル)-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド、5-ノルボルネン-2-オール、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸イミド、5-ノルボルネン-2-カルボキサミド、およびジメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシレートから選択され得る。特に、2-NBの使用は、優れた光学特性および高い熱安定性を有するコポリマーを提供することが示された。
【0038】
任意選択のコモノマー
MMA、式(I)の化合物および式(II)の化合物に由来する繰り返し単位に加えて、本発明のコポリマーは、0.0~15.0モル%、好ましくは0.0~12.0モル%、より好ましくは0.0~7.0モル%の、MMAおよび/または式(I)および/または式(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマーに由来する繰り返し単位を含んでよい。当該任意選択のコモノマーの性質は、特に限定されず、モノマー、例えばアルキル(メタ)アクリレート、メタクリル酸、(メタ)アクリロニトリルまたは芳香族ビニルモノマーが、この目的に最も適していることが示された。
【0039】
本明細書で使用される「アルキル(メタ)アクリレート」という用語は、単一のアルキル(メタ)アクリレートまたは異なるアルキル(メタ)アクリレートの混合物を表し得る。本明細書で使用される「(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリレート、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート等だけでなく、アクリレート、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート等も指し、さらにその混合物も指す。
【0040】
本発明の目的のためには、C1~C18-アルキル(メタ)アクリレート、有利にはC1~C10-アルキル(メタ)アクリレート、特にC1~C4-アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。最も好ましいアルキルメタクリレートには、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、n-ヘプチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-イソオクチルメタクリレート、およびn-エチルヘキシルメタクリレート、n-ノニルメタクリレート、n-デシルメタクリレートが含まれ、また、シクロアルキルメタクリレート、例えばシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートまたはエチルシクロヘキシルメタクリレートも含まれる。好ましいアルキルアクリレートには、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-ヘプチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、n-デシルアクリレート、およびn-エチルヘキシルアクリレートが含まれ、また、シクロアルキルアクリレート、例えばシクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレートまたはエチルシクロヘキシルアクリレートも含まれる。
【0041】
適切な芳香族ビニルモノマーの例には、スチレン;モノアルキルスチレンまたはポリアルキルスチレン、例えば、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレンおよびp-エチルスチレン;メトキシスチレン、エトキシスチレン、ビニル安息香酸、メチルビニルベンゾエート、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレンおよびジビニルベンゼンなどの官能基を含むスチレン誘導体;3-フェニルプロピレン、4-フェニルブテンおよびα-メチルスチレンが含まれる。これらの中でも、スチレンが最も好ましい。
【0042】
メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ビニルアクリレートおよびアクリル酸から選択されるアルキルアクリレートを任意選択のコモノマーとして使用すると、コポリマーの熱安定性がさらに高まる。さらに、メタクリル酸、イソボルニルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレートおよびα-メチルスチレンを、任意選択のコモノマーとして使用することもできる。光学特性および高い熱安定性の最適なバランスに関して、任意選択のコモノマーは、好ましくは、メチルアクリレートまたはエチルアクリレートなどのモノマーから選択される。
【0043】
本発明のコポリマーの流動性のさらなる改善および/または特に低い吸水量が望まれる場合、スチレンまたはメタクリレート、例えばブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレートまたは脂肪酸エステルの脂肪族メタクリレート、例えばオクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、パルミチン酸メタクリレートおよび他の脂肪族C12~C24メタクリレートを、任意選択のコモノマーとして使用することもできる。
【0044】
コポリマーの調製
本発明のさらなる態様は、上記のコポリマーの製造方法であって、
(a)MMA、式(I)の化合物、式(II)の化合物、および任意選択的に、任意選択のコモノマーを含むモノマー混合物をラジカル共重合させる、重合工程
を含む、製造方法に関する。
【0045】
重合工程
MMAを含むモノマー混合物のラジカル共重合は、従来技術においてそれ自体周知である。重合工程(a)は、上記モノマー混合物、重合開始剤、および任意選択的に連鎖移動剤を含有し、かつ実質的に溶媒を含有しない状態で重合を行う方法(バルク重合法)を用いることができる。代替的に、コポリマーを溶解し得る溶媒が存在してもよく、または重合の間に添加されてもよい(溶液重合法)。重合は、モノマーが水または水性混合物に分散されている分散媒体中で行うこともできる。
【0046】
溶液重合法を用いる場合、工程(a)で使用される溶媒は、前述の重合温度でコポリマーを溶解することができ、かつ僅かな連鎖移動を除いて重合プロセスを妨害しない限り、特に制限されない。芳香族炭化水素、ケトン、エーテル、エステル、アミドおよびアルコールから選択される1種以上の溶媒が使用され得る。使用され得る溶媒の例には、公知の有機溶媒、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシ-2-プロパノールおよびテトラグライムが含まれるが、これらに限定されない。特に、トルエン、酢酸ブチル、酢酸エチル、キシレン、ジメチルフランまたはそれらの混合物から選択される溶媒が好ましい。驚くべきことに、工程(a)における溶媒としてのトルエンまたは酢酸ブチルの使用は、特に高い光透過率および低いヘイズを有するコポリマーを導くことが示された。
【0047】
工程(a)が溶媒中で実施される場合、反応混合物中の溶媒含有率は、通常、反応混合物の総重量を基準として、3.0重量%~60重量%、より好ましくは5.0重量%~45重量%の範囲である。
【0048】
重合工程(a)における反応混合物の溶存分子空気酸素(O2)濃度を70ppm以下に制御することで、得られるコポリマーが特に低いヘイズおよび黄色度指数を有することがさらに好ましい。着色をさらに抑制するために、溶存酸素濃度は、好ましくは10ppm未満である。溶存酸素濃度は、溶存酸素計(例えば、飯島電子工業株式会社(Iijima Denshi Kogyo K.K.)製のガルバニック酸素センサとしてのDOメータB-505)を使用して測定することができる。
【0049】
バッチ式に調製する間、溶存酸素濃度を10ppm未満に維持する方法には、窒素、アルゴンまたはヘリウムなどの不活性ガスを、重合槽で反応器のモノマーおよび溶媒フィードへ通すこと、反応混合物に直接不活性ガスをバブリングすること、重合開始前に重合槽に不活性ガスを圧入し、その後圧力を開放する操作、モノマーフィードを供給する前に密閉した重合槽の内部を脱気し、その後不活性ガスを充填する操作、および重合槽に不活性ガスを通す操作を1回または2回以上行うことが含まれる。連続運転式の反応器では、モノマーならびにフィード中の溶媒の溶存分子酸素濃度は、10ppm未満であるべきである。これは、窒素、アルゴンまたはヘリウムなどの不活性ガスを、反応器のモノマーおよび溶媒フィードに通すことによって達成され得る。重合工程(a)で使用する反応器の選択は、特に制限されない。モノマーは、混合物としてまたは別個のフィードとして反応器に添加され得る。重合工程(a)における全モノマーフィードが、典型的には、重合性成分の総量を基準として、以下の組成:
28.0~99.7モル%のメチルメタクリレート
0.1~22.0モル%の式(I)によって表される化合物
0.2~35.0モル%の式(II)によって表される化合物;ならびに
0.0~15.0モル%の、メチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマー
を有する場合、特に低いヘイズを有するコポリマーを得ることができることが判明した。
【0050】
本明細書で使用される「全モノマーフィード」という用語は、重合工程(a)の間に添加されるモノマーの総量を指す。
【0051】
より好ましくは、重合工程(a)における全モノマーフィードは、以下の組成:
36.0~98.0モル%のメチルメタクリレート
1.0~21.0モル%の式(I)によって表される化合物
1.0~33.0モル%の式(II)によって表される化合物;ならびに
0.0~10.0モル%の、メチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマー
を有し、
ここで、重合工程(a)における以下の全モノマーフィード:
42.0~95.0モル%のメチルメタクリレート
3.0~19.0モル%の式(I)によって表される化合物
2.0~31.0モル%の式(II)によって表される化合物;ならびに
0.0~8.0モル%のメチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマー
の使用が特に有利である。
【0052】
驚くべきことに、重合工程(a)の間に全モノマーフィード中の式(I)によって表される化合物と式(II)によって表される化合物との比率を注意深く調整することによって、本発明のコポリマーの光学ヘイズをさらに減少させることができることがさらに判明した。このような実施形態では、これらの含有率は、以下の関係:
0.3mI≦mII≦2.0mI
[式中、mIは、モノマーフィード中の重合性成分の総量を基準とした、式(I)によって表される化合物の含有率(モル%)であり;
mIIは、モノマーフィード中の重合性成分の総量を基準とした、式(II)によって表される化合物の含有率(モル%)である]に従うように調整される。
【0053】
さらに、モノマーフィード中の式(I)ならびに式(II)によって表される化合物の含有率mIおよびmIIを、
0.5mI≦mII≦1.9mI
好ましくは
0.6mI≦mII≦1.8mI
になるように調整することによって、特に低いヘイズ値を有するコポリマーを得ることができる。
【0054】
一般に、反応混合物中の2-NBなどの式(II)の化合物の含有率が増加すると、式(II)の化合物に由来する繰り返し単位のコポリマーへの導入が増加するため、得られるコポリマーの吸水率が低下する傾向がある。
【0055】
重合工程(a)は、不連続反応器(バッチ式)または半バッチ式反応器型で実施することができ、その際、開始剤、存在する場合は溶媒、モノマーまたはそれらのいずれかの組み合わせが、重合工程(a)の間に任意選択的に供給される。代替的に、重合工程(a)は、撹拌タンク反応器(CSTR)、管状反応器またはそれらの組み合わせ、混練機またはディスク環型反応器などにおいて、連続重合プロセスで実施され得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、第1のCSTRの出口からのポリマー反応混合物は、転化率を高めるために、第2および/または第3の反応装置、例としてさらなるCSTRまたは管状反応器に連続的に供給され得る。本出願で使用する場合の「転化率」という用語は、重合工程(a)で形成されたコポリマーの、全モノマーフィードに対する平均重量比率を指す。
【0057】
不連続反応器(バッチ式)、半バッチ式反応器およびCSTRは、反応器内の反応混合物を均質化するために、任意の種類の混合要素を備えることができる。これらの反応器は、文献では逆混合とも呼ばれる(Octave Levenspiel, Chemical Reaction Engineering 3rd ed Wiley 1998)。さらなる実施形態では、不連続反応器(バッチ式)は、混合要素を含有しない。重合工程は、キャストシートでさらに行われてもよい。重合が水性分散液または懸濁液中で行われる場合、式Iによって表されるモノマーがN-置換マレイミド(maleinimide)である場合、すなわち式IのXがN-R1基である場合が特に有利である。
【0058】
不連続反応器(バッチ式)、半バッチ式反応器およびCSTRの設計は、特に制限されない。その典型的な例は、撹拌機軸が、パドル、ブレード、アンカまたはヘリカル混合要素などの混合要素を支持している、撹拌機が取り付けられた容器である。重合槽は、任意選択的に、重合の間に反応混合物を加熱または冷却するために、熱油、水または水蒸気を循環させる加熱または冷却ジャケットを含む。熱除去のさらなる効果的な方法は、重合温度よりも低い温度を有するモノマーおよび/または溶媒を供給することによって反応混合物を冷却することである。代替的に、重合熱除去は、反応混合物の沸騰冷却によって実施され得る。
【0059】
重合工程(a)は、連続管状反応器中で行うこともできる。連続管状反応器は、モノマーまたはプレポリマー反応混合物のための少なくとも1つの入口ポートおよびポリマー反応混合物のための少なくとも1つの出口ポートを含む。また、管状反応器は、例えば1つ以上の平行に配置された管内で重合が行われる管状バンドル反応器であってもよい。代替的な管状反応器は、プレート式熱交換器であってもよい。CSTRとは対照的に、管状反応器は、十分に混合されたまたは均質化された反応混合物を、反応体積全体に対して含有しない。文献で定義されている典型的な管状反応器(Octave Levenspiel, Chemical Reaction Engineering 3rd ed Wiley 1998)は、入口ポート領域と出口ポート領域との間に大きなスケールの濃度勾配を含む。管状反応器は、反応混合物を半径方向に均質化するために、任意選択的に静的混合要素または撹拌機を含み得る。静的混合要素の例には、SMX型およびSMR型のSulzer管状ミキサー、Kenicsスタティックミキサー、東レ管状ミキサー等が含まれる。代替的に、管状反応器は、いかなる混合要素も含まなくてもよい。管状反応器の重合熱除去は、任意選択的に、水または熱油で満たされたジャケットによって実施され得る。代替的に、重合熱除去は、反応混合物の沸騰冷却によって行うことができる。
【0060】
転化率は、反応器中での反応混合物の平均滞留時間、重合温度、使用される開始剤の反応性、ならびに反応器フィード中の開始剤の量およびモノマー濃度を適合させることにより、当業者によって容易に調節することができる。例えば、CSTRが使用される場合、平均滞留時間は、好ましくは10分~7時間、より好ましくは20分~6時間、例えば30分~4時間の範囲で選択される。平均滞留時間が10分より短い場合、ラジカル重合開始剤の量を増やす必要があるので、重合反応の制御が困難になる。7時間を上回る平均滞留時間は、一般的に、生産性および費用効率の点で不利である。
【0061】
工程(a)でCSTRとして使用される重合槽は、重合工程(a)の間の反応混合物が十分に混合されている限り、特に限定されない。得られるコポリマーのヘイズ形成の原因と思われる、交互になっている式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位と式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位とからなる比較的長いセグメントの形成をさらに最小限に抑えるために、
MMA、式(I)の化合物および式(II)の化合物のフィード比率は、任意の時点で、重合槽内の反応混合物が、MMA、式(I)によって表される化合物、式(II)によって表される化合物および任意選択のコモノマーの総量を基準として、以下の組成:
28.0~99.7モル%のメチルメタクリレート
0.1~22.0モル%の式(I)によって表される化合物
0.2~35.0モル%の式(II)によって表される化合物;ならびに
0.0~15.0モル%の、メチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマー
を有するように調整されることが好ましい。
【0062】
さらに好ましくは、MMA、式(I)の化合物および式(II)の化合物のフィード比率は、任意の時点で、重合槽内の反応混合物が、MMA、式(I)によって表される化合物、式(II)によって表される化合物および任意選択のコモノマーの総量を基準として、以下の関係(モル%):
0.3mI≦mII≦2.0mI
好ましくは
0.5mI≦mII≦1.9mI
より好ましくは
0.6mI≦mII≦1.8mI
を満たすように調整されてもよい。
【0063】
一般的に、工程(a)においては1つの単一重合槽(反応器)を使用するか、または2つ以上の反応器を組み合わせて使用することができる。複数の反応器が使用される場合、それらは並列で運転されてよく、または順次接続されてもよい。
【0064】
重合工程(a)の間の重合温度は、反応器内での反応混合物の過度の粘度上昇を回避するために、有利には60℃~200℃、より好ましくは70℃~180℃、特に好ましくは80℃~160℃の範囲に維持される。
【0065】
さらなる実施形態では、重合工程(a)は、管状反応器中で実施されてよい。バルク重合および溶液重合の双方を、混合要素を有するまたは有しない管状反応器内で連続的に行うことができる。管状反応器の出口での転化率は、反応混合物に添加されるモノマーの総重量を基準として50~98重量%の範囲に維持されることが好ましい。50重量%未満の転化率では、プロセスは、経済的な観点から不利になる。一方で、この転化率は、管状反応器内の平均滞留時間を不必要に増加させるため、98重量%を超えてはならない。さらにより好ましい範囲は、55~96重量%であり、より好ましい範囲は、特に、管状反応器が別の反応器と組み合わせて運転され、重合工程(a)で使用される最終重合反応器である場合には、60~94重量%である。
【0066】
有利には、管状反応器内での反応混合物の平均滞留時間は、0.5~8時間の範囲内に維持される。平均滞留時間が0.5時間より短い場合、転化率は低いままである。一方、管状反応器内での平均滞留時間は、生産性の理由から9時間を超えてはならない。
【0067】
管状反応器内で使用されるラジカル重合開始剤を添加する方法としては、ラジカル重合開始剤を、管状反応器内へのモノマーおよび/または溶媒のフィードと一緒に添加する方法が好ましい。同様に好ましいのは、管状反応器の入口に直列に配置されたスタティックミキサーでラジカル重合開始剤を予め混合し、その混合物を上記管状反応器に通す方法である。さらに、重合工程(a)中の転化率および形成されたコポリマーの組成のさらにより良好な制御を確実にするために、モノマーおよび/または溶媒および/または同じもしくは異なる種類の開始剤の少なくともいくつかを管状反応器に沿って下流に添加することが可能でありかつ有利である。
【0068】
さらに、反応混合物の温度上昇の改善された調節のために、管状反応器の反応混合物入口の直前の位置で、かつ反応器内の1つ以上のさらなる位置で、ラジカル重合開始剤を添加することが好ましい。これにより、重合をより効率的に進行させることができる。
【0069】
管状反応器内の反応混合物中のポリマー含有率は、通常、効率的な重合を保証するために、50~98重量%、より好ましくは60~96重量%、さらにより好ましくは60~94重量%の範囲に維持され得る。
【0070】
さらに別の実施形態では、重合工程(a)は、管状ループ反応器内で行われ得る。反応混合物は、冷却または加熱のためのジャケットによって取り囲まれた管のループ内を循環し、出発材料の流入および生成物の流出が連続的に行われる。管状ループ反応器内の反応混合物中のポリマー含有率は、通常、30~80重量%、より好ましくは40~70重量%の範囲に維持され得る。管状ループ反応器内での反応混合物の平均滞留時間は、一般的に0.15~3時間の範囲内に維持される。管状反応器を使用してさらなる重合を行う場合、管状反応器の反応混合物温度は、60℃~250℃であることが好ましい。
【0071】
さらに別の実施形態では、重合工程(a)は、半バッチ式反応器内で、任意選択的にモノマーおよび/または溶媒および/または開始剤および/または連鎖移動剤フィードを用いて実施され得る。重合時間は制限されず、モノマーの反応性に基づいて選択されなければならない。重合時間の好ましい範囲は、1時間~24時間である。開始剤の半減期の好ましい範囲は、10秒~20時間である。
【0072】
重合温度でバッチ式またはCSTRで0.1~90分の半減期を有するラジカル重合開始剤を使用することが有利である。より好ましい範囲は、1~60分であり、最も好ましい範囲は、2~40分である。半減期が0.1分未満である場合、ラジカル重合開始剤が重合反応器内で均一に分散される前に分解されるため、ラジカル重合開始剤の効率(開始効率)が低下する。ラジカル重合開始剤の量が増加する場合、得られるコポリマーの熱安定性が低下する。一方、半減期がCSTRで90分より長い場合、ポリマー塊(スケーリング)が重合槽内に形成され得るので、安定した重合の運転が困難になる。加えて、CSTR内の開始剤濃度は、半減期が長い場合に蓄積し、重合や重合熱の発生をほとんど抑制することができないので、時には危険な状況につながり得る。このことは、CSTR内の重合温度の暴走につながり得る。
【0073】
重合が管状反応器内で実施される場合の実施形態では、重合温度で半減期が1.0分~10時間であるラジカル重合反応器を使用することが有利である。別の管状反応器またはCSTRから来るモノマーポリマー混合物を管状反応器に供給し、そこで最終重合のみを実施することが有利である。この実施形態では、管状反応器内のモノマー濃度が一般的にCSTR内よりも低いので、開始剤の半減期が長いことは、CSTR内よりも重大ではない。
【0074】
1種のラジカル重合開始剤を使用することも、または2種以上を混合物として使用することもできる。2種以上のラジカル重合開始剤が管状反応器で使用される場合、半減期が10時間となる温度が5℃以上異なるラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。これにより、重合工程(a)をより効率的に進行させることができる。
【0075】
ラジカル重合開始剤は、例えば、有機過酸化物、例えば、tert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシラウレート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、tert-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、tert-ブチルペルオキシアセテート、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、tert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、tert-ヘキシルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシネオデカノエート、tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシベンゾエートおよびジクミルペルオキシド、アゾ化合物、例えば2-(カルバモイルアゾ)-イソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリルおよび2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル等から選択され得る。
【0076】
重合工程(a)におけるラジカル重合開始剤の使用量は、重合温度、重合時間(平均滞留時間)、および目的とする転化率に応じて調整される。この量は、重合工程(a)における反応混合物の総重量を基準として、0.001~2.0重量%であることが好ましい。より好ましい範囲は、0.01~2.0重量%であり、さらにより好ましい範囲は、0.01~1.0重量%である。
【0077】
コポリマーの分子量を制御する目的で、重合工程(a)における反応混合物の総重量を基準として、0.001~2.0重量%、より好ましくは0.005~2.0重量%、さらにより好ましくは0.01~1.0重量%の連鎖移動剤を添加することがしばしば有利である。適切なこのような連鎖移動剤自体は、従来技術においてよく知られており、例えば、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド等から選択されてよい。重合工程(a)で使用されるアルキルメルカプタンの例には、とりわけ、n-オクチルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン等が含まれる。これらの中でも、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタンおよびn-メチルメルカプトプロピオネートが有利に使用され得る。
【0078】
重合が、不連続バッチ式反応器内で、懸濁重合としてまたはキャストシート内で行われる場合、得られたコポリマーは、1.5~6.0の分子量分布(数平均分子量Mnで割った重量平均分子量Mw)の分散性を有し得る。より好ましい実施形態では、得られたコポリマーは、1.5~4.5の範囲の分子量分布を有し得る。重合工程(a)が、開始剤および/または連鎖移動剤および/またはモノマーおよび/または溶媒の添加を伴う不連続半バッチ式反応器内あるいはCSTRおよび/または管状反応器内で行われる場合、得られるコポリマーは、1.5~5.0の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)の分散性を有し得る。より好ましい実施形態では、得られたコポリマーは、1.5~4の範囲の分子量分布を有し得る。流動性が改善されたコポリマーを得るために、得られたコポリマーは、GPCにおいて2つ以上の別個の分子量ピークからなってよく、または融合していてもよい。分子量分布の分散性(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、この場合、2.0~8である。
【0079】
本発明の一実施形態では、重合工程(a)は、連続撹拌タンク反応器(CSTR)内で実施され、反応混合物の組成および温度は、重合槽内に設置された適切な撹拌機により実質的に均一に維持され得る。通常、容器内の溶液を実質的に完全に混合状態に維持することが可能な撹拌ブレードを有する撹拌機を備えたCSTR型反応器が使用されている。
【0080】
撹拌ブレードの形状は、公知の撹拌ブレードの形状であってよい。例えば、ダブルヘリカルブレード、パドルブレード、タービンブレード、プロペラブレード、ブルーマギンブレード、多段ブレード、アンカーブレード、マックスブレンドブレード、パドルブレード、MIGブレード、Kobelco Eco-Solutions Co., Ltd.によって製造されたフルゾーンブレードおよびLogbornブレード等が、この目的のために使用されてよい。特に、ダブルヘリカルリボンブレードは、その高い撹拌効率のために特に好ましい。さらに、撹拌効果を高めるために、重合槽にバッフルを取り付けることが好ましい。
【0081】
さらに、重合反応や撹拌により熱が発生するため、重合温度は、通常、除熱または加熱により制御されている。温度は、ジャケットを使用するか、熱伝達、熱除去もしくは加熱のために熱媒体を循環させるか、または冷却もしくは加熱されたモノマー混合物を供給する等の方法によって制御されてよい。
【0082】
好ましい一実施形態では、CSTR内で得られたコポリマー溶液が、管状反応器に連続的に供給されて、さらなる重合が実施される。これにより、下流の工程で除去する必要がある揮発性成分の量が減少し、それによってプロセス全体がさらにより費用効率のよい状態になる。加えて、さらにより重要なことに、この2つの反応器の組み合わせにより、得られるコポリマーの光学特性のさらなる改善が可能となり、特に、コポリマーの組成および転化制御がより優れているため、ヘイズおよび黄色度指数のさらなる低下が可能となる。最後に、CSTR内の転化率を比較的低く維持することができるので、CSTR内の重合温度を低く維持することができる。これにより、得られるコポリマーの熱安定温度およびビカット温度はさらに上昇する。
【0083】
CSTR内で得られたコポリマー溶液を、第2の反応器、例えば、第2のCSTR、管状反応器または管状ループ反応器に供給する方法は、特に制限されていない。例えば、第1のCSTRから第2の反応器へと反応混合物を抜き出す操作は、ポンプを使用して実施されてよい。送液ポンプとしては、公知のギアポンプが好適に使用され得る。反応混合物がポンプによって引き出される場合、反応混合物を第2の反応器に安定して供給することができ、任意選択的に連続して設置された静的混合構造部分を有する第2の反応器内の圧力を、反応混合物の蒸気圧よりも高くすることができる。さらなる可能性として、反応混合物は、反応器間の圧力差によってCSTRから第2の反応器に移送されてもよい。
【0084】
管状反応器内の圧力損失は、管状反応器入口圧力から圧力損失を差し引いた値が管状反応器出口での反応混合物の蒸気圧より高くなるように十分に低いことが必要である。
【0085】
さらに、重合の発熱により反応混合物の温度が上昇するにつれて、反応混合物の入口から順次上昇する内壁温度が、管状反応器内の1つ以上の温度領域に設定されることが可能である。これにより、ラジカル重合開始剤の急激な分解を抑えつつ、転化率を効果的に高めることができる。代替的には、反応混合物温度は、管状反応器全体にわたって実質的に一定に維持されてもよい。
【0086】
さらに、管状反応器で重合をさらに実施する場合、管状反応器の反応温度で0.1~8時間の半減期を有する1種以上のラジカル重合開始剤を添加することが好ましい。より好ましい範囲は、1~7時間である。ラジカル重合開始剤の半減期が8時間超であることは好ましくない。なぜなら、未反応の開始剤残留物が存在すると脱揮工程の間に問題となり得るからである。一方で、半減期が短すぎることは好ましくない。なぜなら、ラジカル重合開始剤が急速に分解されることになり、転化率を十分に高めることができないからである。結果として、熱安定性が低いコポリマーが製造されるだろう。したがって、半減期が0.1時間以上であるラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0087】
一実施形態では、混合要素を任意選択的に有する管状反応器が、CSTRの下流に配置されている。CSTRでは、モノマー転化率を、CSTRへの全モノマーフィードを基準として20~70重量%に維持しながら連続重合を行って、コポリマー溶液を連続的に製造し(第1の重合副工程)、続いて得られた反応混合物をポンプで連続的に引き出すか(送液副工程)、代替的に加圧下で管状反応器に供給する。さらに、管状反応器内で続いて、ラジカル重合開始剤、追加のモノマーまたは溶媒を、反応混合物が通過する間に添加して、コポリマー溶液中で本発明のCSTRおよび管状反応器に供給されるすべてのモノマーのコポリマー転化率が、管状反応器の出口で50~98重量%となること(第2の重合副工程)を保証する。この製造方法では、第1の重合副工程で得られる反応混合物のコポリマー転化率を、典型的には20~70重量%、より好ましくは30~65重量%の範囲に制御することが好ましい。
【0088】
重合工程(a)における総転化率は、通常、少なくとも40%、より好ましくは少なくとも45%である。40%より低い転化率は、経済的な理由から不利である。他方で、経済的な理由から、重合時間が長くなりすぎるので、最終転化率が98%より高いことも好ましくない。好ましい範囲は、40~96%であり、より好ましい範囲は、45~94%である。本明細書で使用される「転化率」という用語は、重合工程(a)で形成されたコポリマーの、全モノマーフィードに対する平均重量比率を指す。
【0089】
脱揮工程
本発明によれば、重合工程(a)で得られたコポリマー溶液は、コポリマー溶液を100℃~300℃の温度に加熱する工程(加熱工程(b))に任意選択的に連続的に供給され得る。
【0090】
続いて、その後の脱揮工程において、材料を脱揮装置に供給して、未反応のモノマーまたは未反応のモノマーと、存在する場合には溶媒とからなる混合物を分離して除去することができる(脱揮工程(c))。
【0091】
脱揮工程におけるコポリマー溶液の温度またはコポリマーの溶融温度は、典型的には300℃より低く、より好ましくは150℃~300℃、さらにより好ましくは170℃~280℃である。脱揮工程の最後の脱揮区域における好ましい圧力は、絶対圧力において、典型的には500ミリバール未満、より好ましくは200ミリバール未満である。脱揮工程における絶対圧力の下限は、制限されていないが、技術的な理由から、これは通常、少なくとも10ミリバール以上である。脱揮工程における圧力が500ミリバールより高い場合、脱揮を上記温度範囲で実施しても、非反応性モノマー、または非反応性モノマーと重合溶媒とからなる混合物を効率的に分離または除去することができない。このことは、得られるコポリマーの熱安定性、機械的特性および光学的特性に関して不利である。
【0092】
このような脱揮を行う装置として、一軸スクリューもしくは二軸スクリュー押出機、フラッシュチャンバー、脱ガス混練機、またはこれらの組み合わせを使用することができる。一実施形態では、円筒容器と、回転軸に複数の撹拌要素を取り付けた撹拌機とを有し、かつ円筒部の上部に少なくとも1つ以上の通気孔と、円筒部の一端にコポリマー溶液を供給する供給口と、他端に脱揮完了後にコポリマーを取り出す排出口とを有する装置が使用され得る。回転軸の数は、制限されていないが、通常、1~5、好ましくは1または2であり、2つの回転軸を有する装置がより好ましい。特に、ベント式連続一軸または二軸スクリュー押出機(混練装置およびバッチ式溶融混練装置)が好ましく、ここでは、それぞれ「ユニメルト」タイプのスクリューを有する一軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、二軸スクリュー/一軸スクリュー複合連続混練押出機および三軸押出機、ならびに連続式またはバッチ式混練機等を挙げることができる。とりわけ、特に、複数の凸レンズ型および/または楕円板型パドルを有するベント付き一軸もしくは二軸スクリュー押出機または連続二軸スクリュー反応器が、好ましくは使用され得る。
【0093】
さらに、本発明の製造方法における脱揮工程では、直列に配置された2台以上の脱揮装置を用いて脱揮を行う方法を用いることができ、これは脱揮後に得られるコポリマー中の残存揮発成分をより低減することができるので有利である。
【0094】
成形組成物
本発明のさらなる態様は、上記コポリマーを含む成形組成物に関する。成形組成物は、後に本発明のコポリマーの光学特性に悪影響を与えない限り、少なくとも1種の一般的なポリマー添加剤を含有してよい。様々なポリマー添加剤は、当業者に周知であり、とりわけ、UV吸収剤、UV安定剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、流動性向上剤、難燃剤、潤滑剤および脱型助剤、散乱粒子等が含まれる。得られる成形組成物の熱安定性は、これらの添加剤によって過度に損なわれるべきではない。
【0095】
本発明で使用するためのUV吸収剤およびUV安定剤および光安定剤は、周知であり、例として、Hans Zweifel, Plastics Additives Handbook, Hanser Verlag, 5th Edition, 2001, p. 141 ff.に詳細に記載されている。UV安定剤は、UV安定剤およびフリーラジカルスカベンジャーを含むと理解されている。フリーラジカルスカベンジャーは、例えば、立体障害フェノール、例えば、オクタデシル-3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートであるが、これらに限定されない。UV吸収剤は、例えば、置換ベンゾフェノン、サリチル酸エステル、ケイ皮酸エステル、オキサニリド、ベンゾオキサジノン、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリアジンまたはベンジリデンマロネートの群に由来してもよい。成形組成物中のUV吸収剤の総含有率は、通常、成形組成物の重量を基準として、0.01重量%~1.0重量%、特に0.01重量%~0.5重量%、特に0.02重量%~0.2重量%の範囲である。
【0096】
UV吸収剤は、成形組成物中に低分子量化合物として存在してよい。しかしながら、マトリクスポリマー分子中のUV吸収性基は、また、重合可能なUV吸収性化合物、例えば、ベンゾフェノン誘導体またはベンゾトリアゾール誘導体のアクリル誘導体、メタクリル誘導体またはアリル誘導体との共重合後に共有結合されてもよい。当業者には容易に理解されるように、化学的に異なるUV吸収剤の混合物、例えばベンゾトリアゾールをトリアジンと組み合わせて使用してもよい。
【0097】
最もよく知られている代表的なUV安定剤/フリーラジカルスカベンジャーは、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾールまたは立体障害アミン(ヒンダードアミン光安定剤、HALS)の群により提供される。適切なフリーラジカルスカベンジャー/UV安定剤の例には、とりわけ立体障害フェノールおよび立体障害アミン(HALS(Hindered Amine Light Stabilizer))という名称で知られている)が含まれる。HALS化合物中に存在するテトラメチルピペリジン基は、その安定化効果の要因である。このクラスの化合物は、ピペリジン窒素上で非置換であるか、またはアルキル基もしくはアシル基によって置換されてよい。立体障害アミンは、UV範囲で吸収しない。ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾールの例は、Tinuvin(登録商標)Pまたはドロメトリゾールとして販売されている2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾールである。それらは形成されたフリーラジカルを捕捉するが、これもまたUV吸収剤で行うことは不可能である。フリーラジカルスカベンジャー/UV安定剤は、本発明による組成物中で、成形組成物の重量を基準として、0.01重量%~1.5重量%の量で、特に0.02重量%~1.0重量%の量で、特に0.02重量%~0.5重量%の量で使用される。また、UV安定剤/吸収剤、光安定剤および酸化防止剤の組み合わせも可能である。
【0098】
成形組成物の射出成形型への付着の可能性を低減または完全に防止することができる潤滑剤および離型剤は、射出成形プロセスにとって重要であり、使用されてもよい。例えば、C20未満、好ましくはC16~C18の炭素原子を有する飽和脂肪酸、エステルもしくは無機塩またはC20未満、好ましくはC16~C18の炭素原子を有する飽和脂肪アルコールからなる群から選択される潤滑剤が、助剤として存在し得る。例えば、ステアリン酸、ステアリルアルコール、パルミチン酸、パルミチン酸アルコール、ラウリン酸、乳酸、グリセロールモノステアレート、ペンタエリスリトール(pentaerythrol)、ならびにステアリン酸およびパルミチン酸の工業用混合物などである。また、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、ならびにn-ヘキサデカノールおよびn-オクタデカノールおよびグリセロールモノステアレートの工業用混合物も適している。特に好ましい潤滑剤または離型剤は、ステアリルアルコールである。潤滑剤は、一般的に、成形組成物の重量を基準として1.0重量%以下、例えば0.05重量%~0.25重量%の量で使用される。
【0099】
本発明の成形組成物は、通常の加工条件下で射出成形や押出などの一般的な方法によって成形品に熱可塑性加工することができる。組成物の射出成形は、公知の方法で220℃~280℃の範囲の温度(溶融温度)および好ましくは60℃~120℃の成形型温度で実施することができる。押出は、好ましくは220℃~280℃の温度で行われる。
【0100】
成形組成物およびそれで作られた成形品は、その高い熱安定性と低いヘイズにより、照明やグレージングなどの光学用途に非常に適している。このような用途には、導光体、レンズおよびグレージング(例えば、自動車ライト用のガラスカバー、すなわち、ヘッドランプまたはリアライト;自動車ライト用カバー;特に破損、熱安定性および優れた加工性に関する高い要求を満たす必要がある建物内部および/または建物外部の照明のためのさらなる様々な照明用途)が含まれる。
【0101】
本発明の成形組成物は、通信機器、特にPDA、携帯電話、好ましくはスマートフォン;タブレットPC;TV機器;台所用品および他の電子機器用のディスプレイにさらに有利に使用することができる。
【0102】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0103】
・分析
・GPC測定条件
溶離液:THF(HPLCグレード)+0.2体積%のTFA
流量:1ml/分
注入体積:100μl
検出:RI HPS
試料溶液濃度:2g/l
標準:PMMA
【0104】
・生成物の特性
厚さ3.0mmの試験片を、250℃での射出成形により調製し、引き続き測定前に23℃および相対湿度50%で72時間保管した。
【0105】
ヘイズを、ASTM D 1003(1997)に準拠したヘイズメーターBYK Gardner Hazegard-plusを用いて測定した。
【0106】
光透過率を、ISO 13468-2(2006)に準拠したVarian Cary 5000分光光度計を用いて測定した。
【0107】
ビカット軟化温度VST ISO 306-B50(2014)を、測定前に105℃で16時間にわたり保管した厚さ3.0mmの試験片を用いて測定した。
【0108】
メルトフローレート(MVR)を、ISO 1133(2011)に準拠して3.8kgの荷重下にて230℃で決定した。
【0109】
・生成物の組成
コポリマーの組成を、Bruker製の400MHz NMR分光計で記録された1H-NMRスペクトルを用いて決定した。コポリマー中の無水マレイン酸(MAH)に由来する繰り返し単位の含有率を、滴定によって決定した。
【0110】
MMAおよび2-ノルボルネンの残留モノマー含有率を、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(GC)によって測定した。MAHの残留モノマー含有率の測定のために、コポリマー顆粒をTHFに溶解し、ポリマーをMeOHで沈殿させ、次いで濾過したTHF溶液を、HPLCを用いて分析した。
【0111】
・出発材料
以下の出発材料を使用した:
メチルメタクリレート(MMA)、純度>99.6%、Roehm GmbH製、ダルムシュタット、独国
メチルアクリレート(MA)、純度>99%、Sigma Aldrich製、セントルイス、米国
無水マレイン酸(MAH)、純度>99%、Sigma Aldrich製、セントルイス、米国
シクロヘキシルマレイミド(CHMI)、日本触媒製、日本
2-ノルボルネン(2-NB)、純度>99.9%、Topas Advanced Polymers GmbH製、フランクフルト、独国
n-ドデシルメルカプタン(DDM)、純度98%、Dr. Spiess Chemische Fabrik GmbH製、クラインカールバッハ、独国
tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(TBPEH)、tert-ブチルペルネオデカノエート(TBPND)およびtert-ブチル-ペル-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(TBPIN)、純度>98%、Pergan Hilfsstoffe fuer industrielle Prozesse GmbH製、ボホルト、独国
トルエン、純度>99.8%、Brenntag AG製、エッセン、独国
【0112】
例1~4(本発明)
例1~4をCSTR内で実施した。CSTRは、2.4リットルの反応容積を有する撹拌ステンレス鋼容器であった。CSTRは、一般的に、ポリマー鎖長の分布が比較的狭い生成物を得ることを可能にする。これにより、ポリマー組成と光学特性との間の関係の調査が容易になる。
【0113】
重合温度を、熱電対を用いて連続的に監視し、循環する油で反応器ジャケットを加熱することにより、重合の間、一定に保った。重合温度は140℃であった。
【0114】
n-ドデシルメルカプタン(DDM)を連鎖移動剤として使用し、かつtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(TBPEH)をラジカル開始剤として使用した。反応器フィードの組成を、第1表に示す。
【表1】
【0115】
第1表におけるモル%は、モノマーの総モル量を基準として示される。
【0116】
定常状態での運転を確実にするために、反応器を、材料試料を採取する前に約6時間運転した。
【0117】
CSTRの連続コポリマー溶液出口を、反応器下流の熱交換器で210℃に加熱し、次いで15mmのスクリュー径を有する一軸スクリュー押出機中で100ミリバールの絶対圧力下で脱揮およびペレット化した。
【0118】
例1~4での運転条件を、第2表にまとめる。
【表2】
【0119】
得られたペレットを、ISO 306に準拠して光学特性およびビカット軟化温度B50(℃)の測定のために、250℃で厚さ3mmのプレートレットに射出成形した。他のすべての試験のために、ペレットを直接使用した。
【0120】
得られたコポリマーの特性および組成を、第3表にまとめる。
【表3】
【0121】
例1~4で得られたコポリマーは、透明な材料であり、光学ヘイズが0.58%~0.83%と低くなっている。しかしながら、第3表から分かるように、MAHに対する2-NBのモル比が増加すると、また、コポリマーの分子量が増加すると、光学ヘイズは増加する傾向がある。
【0122】
例1~4のすべてのコポリマーは、低いヘイズおよび高いビカット温度を有し、したがって、高温で動作し得る光学素子における使用に非常に適している。
【0123】
例5~7(本発明)および例8(比較)
例5~8では、モノマーおよび開始剤フィードを備えたバッチ式反応器で重合を行った。バッチ式反応器は、5リットルの容量を有する撹拌ガラス反応器であった。重合温度を、熱電対を用いて連続的に監視し、循環する油で反応器ジャケットを加熱することにより、重合の間、一定に保った。
【0124】
ドデシルメルカプタン(DDM)を連鎖移動剤として使用し、かつtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(TBPEH)をラジカル開始剤として使用した。
【0125】
反応の開始時に、モノマーおよび溶媒を反応器に入れ、少量の開始剤を添加することによって重合を開始した。転化率の上昇に伴って反応混合物の粘度が高くなりすぎることを防止するために、トルエンを重合中に連続的に投入した。開始剤の半減期は、95℃の反応温度で約40分であるので、さらなるTBPEHを、トルエンフィード中の反応混合物に連続的に供給した。さらに、例5~7では、MMAも、トルエンフィードと共に反応混合物に連続的に供給した。第5表は、反応の開始時およびフィード中で使用した出発材料の包括的なリストを提供し、第4表は、動作条件をまとめている。
【表4】
【0126】
その後、得られたコポリマー溶液を、例1~4に記載されるように、15mmのスクリュー径を有する一軸スクリュー押出機中で100ミリバールの絶対圧力下で脱揮およびペレット化した。
【表5】
【表6】
【0127】
第6表におけるモル%は、モノマーの総モル量を基準として示される。
【0128】
得られたペレットを、光学特性およびビカットの調査のために、250℃で厚さ3mmのプレートレットに射出成形した。他のすべての試験について、ペレットを直接使用した。
【0129】
得られたコポリマーの特性および組成を、第7表にまとめる。
【表7】
【0130】
例5~7で得られたコポリマーは、透明な材料であり、例8(比較)のコポリマーは、高いMAH含有率(20モル%)のために、僅かに混濁した外観を有していた。このような高いヘイズを有する材料は、比較的薄い光学部品にのみ使用することができる。これをレンズなどの厚い部分に使用しようとすると、光散乱により著しい損失が生じるであろう。この望ましくない光散乱は、例えば、高出力LED光を構成要素に照射することによって可視化することができる。
【0131】
例8(比較)のコポリマーとは対照的に、例5~7のコポリマーは、低いヘイズおよび高いビカット温度を有し、したがって、高温で動作し得る光学素子における使用に非常に適している。
【0132】
例9
例9を、管状反応器に順次接続されたCSTR反応器中で実施した。CSTRは、7.3リットルの反応容積を有する撹拌ステンレス鋼容器であった。後続の管状反応器は、反応混合物を冷却および加熱するための外部熱油ジャケットを備えた、内径32.8mm、長さ15mのステンレス鋼管であった。管状反応器に、Sulzer Ltd.(ヴィンタートゥール、スイス)製のSMXL(登録商標)型の静的混合要素を装備した。
【0133】
この反応混合物をCSTRに分注し、部分的には管状反応器の開始時に、CSTRの出口も同様に管状反応器に分注した。
【0134】
管状反応器のコポリマー溶液出口を、後加熱で200℃に加熱し、15mmの二軸スクリュー押出機に供給し、そこでコポリマー溶液を脱揮化し、100ミリバールでペレット化して、未転化モノマーおよびトルエンを除去した。
【0135】
CSTRの反応器温度は115℃であり、管状反応器内のコポリマー溶液温度は120℃であった。
【0136】
得られたポリマーを、上記のように調べた。
【0137】
CSTRのプロセス制御のために、試料をCSTRコポリマー溶液出口から採取し、これを120℃、20ミリバールで16時間十分に乾燥させて純粋なポリマーを得た。CSTR中のモノマー転化率は、CSTR試料への全モノマーのフィードに対するCSTR試料中の乾燥ポリマーの量として定義される63%であった。CSTR試料中のトルエンの重量分率が全CSTRフィードと同じであるように、トルエンは重合に顕著な程度に関与していないと仮定した。管状反応器中でのモノマー転化率は81.4%であった。
【0138】
ドデシルメルカプタン(DDM)を連鎖移動剤として使用し、tert-ブチルペルネオデカノエート(TBPND)およびtert-ブチル-ペル-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(TBPIN)をラジカル開始剤として用いた。反応器フィードの組成を、第8表に示す。
【表8】
【0139】
第8表におけるモル%は、モノマーの総モル量を基準として示される。
【0140】
得られたペレットを、光学特性およびビカットの調査のために、250℃で厚さ3mmのプレートに射出成形した。他のすべての試験について、ペレットを直接使用した。
【表9】
【0141】
例9のコポリマーは、低いヘイズおよび高いビカット温度を有し、したがって、高温で動作し得る光学素子における使用に非常に適している。
【0142】
例10~13(比較)
特開平4-63810号公報の実施例1~4を、特開平4-63810号公報に記載される手順に従って再現した。
【0143】
例10~13で得られたすべてのポリマー溶液は、混濁および白色であった。コポリマーは既にアンプル中のコポリマー溶液から沈殿しているため、コポリマーの下流処理は必要ではなかった。これらのコポリマーの不溶性は、一般的に大規模生産において問題となる。
【0144】
2-NBは、MMAとラジカル共重合しないので、MAHに対する2-NBの比を増加させると、2-NBに由来する繰り返し単位とMAHに由来する繰り返し単位との交互の配列からなるドメインが長くなる。このことは、例10~13におけるコポリマーの乳白色の外観の理由であると思われる。
【0145】
さらに、PMMAコポリマー中のポリマーの分子量が高いか、無水マレイン酸の割合が高い場合、これらの長鎖剛性ドメインは、PMMAコポリマー中での溶解度が低下することが予想される。これは例13の場合と思われる。コポリマーは、8モル%という低いマレイン酸含有率しか有していないが、その分子量は、729,000g/モルと高い。結果として、混濁コポリマーが、反応混合物から沈殿する。
【0146】
例14(本発明)
無水マレイン酸の代わりにN-シクロヘキシルマレイミド(CHMI)を含む、以下の第10表および第11表に記載されるようなモノマー組成を用い、例5~8と同様にモノマーおよび開始剤フィードを備えたバッチ式反応器において例14を実施した。反応条件は例5(上記の第4表を参照)と同一であり、モノマー転化率は94%である。
【表10】
【表11】
【0147】
第11表におけるモル%は、モノマーの総モル量を基準として示される。
【0148】
得られたコポリマー溶液を、例5~8について記載したように処理し、得られたコポリマーを上記のように分析した。試験結果を、以下の第12表にまとめる。
【表12】
【0149】
例15-LED蓄熱試験
例6によるコポリマーおよび比較用ポリカーボネート材料(PC)を、LED蓄熱試験で試験した。
【0150】
ポリカーボネート材料(PC)は、146℃のビカット軟化温度(B50)を有する、LED用途向けの市販のポリカーボネートであった。
【0151】
ポリマー材料を、8mm×45mmの円形プレートに射出成形した。長さ40mmおよび断面8mm×11mmの棒材を、射出成形された円形プレートから切断した。この棒材を、110℃(例6)または120℃(ポリカーボネート材料)に加熱した金属ブロックにおいて10mm×10mmの小さな円形の開口部で保管した。1つの試料を、LED照明なしで数日間保管する一方で、1つの試料は、一方の端部に白色LED(Osram OSTAR LE UW U1A4 01)を有しており、これは棒材から5mmの距離で0.1W/cm2の断面を照明した。金属ブロック全体は、100mmの厚さを有しており、一方の側から他方の側に通じる円形の開口部を有する。開口部長さの一部を、45mm×8mmの円形プレートから得られた棒材で充填する。様々な時間で、加熱したブロックから試料を採取し、透過率および黄色度指数を測定した。
【0152】
結果を第13表にまとめる。Δ値は、試験手順の終了時(3504時間または4521時間)および開始時(0時間)の各値の差、例えば、ΔT=T(3504時間)-T(0時間)を示す。
【表13】
【0153】
例6による本発明の材料の場合、LED光なしでは3500時間にわたってYIおよび透過率の顕著な増加は認められなかった。ポリメチルメタクリレートポリマーの場合には、(LED光なしで)最初の500時間でYIの僅かな低下が認められ、これは典型的であり、しばしば見られる。LED光ありの本発明の材料の場合には、光退色効果により、YIのより顕著な低下が認められた。
【0154】
ポリカーボネート比較材料のYIは、最初の約300時間で、LED光ありで僅かに低下したが、YIの有意な低下は、約600時間後および試験の終了時の約4500時間後に、LED光ありでもLED光なしでも認められた。透過率は、LED光なしで低下する。
【0155】
ポリカーボネート試料を、材料のビカット温度よりも26K低い120℃で試験した。本発明のポリマー(例6)を110℃という低い温度で試験したが、この試験温度はビカット温度により近く、すなわち、例6によるコポリマーのそれぞれのビカット温度よりも14K低いのみである。結果として、試験温度が異なっていたとしても、本発明のコポリマーは、十分な寸法安定性をもたらす各温度領域に基づいて、ポリカーボネート材料と比較して著しく良好な熱安定性および熱光安定性を示すことが実証される。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
47.0~99.8モル%のメチルメタクリレートに由来する繰り返し単位と、
0.1~20.0モル%の、式(I)
【化1】
[式中、Xは、酸素原子またはN-R
1を表し、置換基R
1は、水素原子または1~12個の炭素原子を有する炭化水素基である]によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.1~18.0モル%の、式(II)
【化2】
[式中、置換基R
2、R
3およびR
4は、独立して、水素原子、1~12個の炭素原子を有する炭化水素基、カルボキシ基、-C(O)-C1~12アルキル、-C(O)-C1~12シクロアルキル、-C(O)-O-C1~12アルキルまたは-C(O)-O-C1~12シクロアルキルを表すことができ、R
3およびR
4は、独立して、ヒドロキシ基を表すか、または一緒になって環状部分を形成してもよい]によって表される化合物に由来する繰り返し単位と、
0.0~15.0モル%の、メチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または式(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマーに由来する繰り返し単位であって、前記任意選択のコモノマーは、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート、メタクリル酸、(メタ)アクリロニトリルまたは芳香族ビニルモノマーである繰り返し単位と、
を含むコポリマーであって、
GPCによって決定した、コポリマーの重量平均分子量Mwが、40,000~300,000g/モルであ
り、
かつ
式(II)によって表される化合物に由来する繰り返し単位p
IIのコポリマー中の含有率(モル%)が、以下の関係:
0.3p
I≦p
II≦0.9p
I
[式中、p
Iは、式(I)によって表される化合物に由来する繰り返し単位のコポリマー中の含有率(モル%)である]によって記載される、コポリマー。
【請求項2】
式(I)によって表される化合物が、無水マレイン酸であり、かつ
式(II)によって表される化合物が、2-ノルボルネンである、請求項
1記載のコポリマー。
【請求項3】
前記任意選択のコモノマーが、メチルアクリレートまたはエチルアクリレートである、請求項1
または2記載のコポリマー。
【請求項4】
ISO 306-B50(2014)によるビカット軟化温度が、有利には少なくとも90℃、好ましくは少なくとも100℃、より好ましくは少なくとも110℃である、請求項1から
3までのいずれか1項記載のコポリマー。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか1項記載のコポリマーの製造方法であって、
(a)MMA、式(I)の化合物、式(II)の化合物、および任意選択的に、任意選択のコモノマーを含むモノマー混合物をラジカル共重合させて、コポリマー溶液、コポリマー分散液またはコポリマー懸濁液を形成する重合工程
を含む、方法。
【請求項6】
共重合工程(a)を、好ましくはトルエン、酢酸ブチル、酢酸エチル、キシレン、ジメチルフラン、メチルエチルケトンまたはそれらの任意の混合物から選択される溶媒の存在下で行う、請求項
5記載の方法。
【請求項7】
重合工程(a)における全モノマーフィードが、重合性成分の総量を基準として以下の組成:
28.0~99.7モル%のメチルメタクリレート
0.1~22.0モル%の式(I)によって表される化合物
0.2~35.0モル%の式(II)によって表される化合物;ならびに
0.0~15.0モル%の、メチルメタクリレートおよび/または式(I)および/または(II)によって表される化合物とラジカル共重合可能な任意選択のコモノマー
を有する、請求項
5または
6記載の方法。
【請求項8】
重合工程(a)における全モノマーフィード中の式(II)によって表される化合物の含有率m
II(モル%)が、以下の関係:
0.3m
I≦m
II≦2.0m
I
[式中、m
Iは、モノマー混合物中の式(I)によって表される化合物の含有率(モル%)である]によって記載される、請求項
5から
7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
重合工程(a)が、非連続的または連続的に運転される撹拌タンク反応器、連続的に運転される管状反応器、非連続的または連続的に運転されるループ反応器、またはそれらの任意の組み合わせで実施され、複数の反応器が使用される場合、それらは並行して運転されるか、または順次接続される、請求項
5から
8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
重合工程(a)を、管状反応器と順次接続された少なくとも1つの連続的に運転される撹拌タンク反応器内で実施し、その際、前記管状反応器が、前記撹拌タンク反応器の下流に配置される、請求項
5から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
重合工程(a)における転化率が、少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%である、請求項
5から
10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
重合工程(a)の後に、
(b)重合工程(a)で得られた前記コポリマー溶液を100℃~300℃の温度に加熱する工程、および
(c)脱ガス装置中の揮発性成分を除去する工程
を実施する、請求項
5から
11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1から
4までのいずれか1項記載のコポリマーと、UV吸収剤、UV安定剤、酸化防止剤、着色剤、流動性向上剤、散乱助剤、潤滑剤、脱型助剤またはそれらの任意の組み合わせから選択される少なくとも1種の添加剤とを含む、成形組成物。
【請求項14】
射出成形および押出から選択される方法により請求項
13記載の成形組成物から得られる、成形品。
【請求項15】
光学素子、ランプカバーとしての、好ましくは室内照明システムまたは自動車用照明装置、黒色のピラートリム、電子部品のための、請求項
14記載の成形品の使用。
【国際調査報告】