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特表2023-536261CCKB受容体陽性腫瘍または癌の画像化方法におけるガリウム標識ガストリン類似体および使用
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  • 特表-CCKB受容体陽性腫瘍または癌の画像化方法におけるガリウム標識ガストリン類似体および使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-24
(54)【発明の名称】CCKB受容体陽性腫瘍または癌の画像化方法におけるガリウム標識ガストリン類似体および使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/08 20060101AFI20230817BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230817BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
A61K51/08 200
A61P35/00
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506221
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2021071419
(87)【国際公開番号】W WO2022023539
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】20189037.3
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501494414
【氏名又は名称】パウル・シェラー・インスティトゥート
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ アッティンガー
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック レヴィ
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085JJ02
4C085KA09
4C085KA29
4C085KB07
4C085KB45
4C085KB82
4C085LL18
(57)【要約】
本発明は、68Ga標識ガストリン類似体、およびペプチド受容体放射性核種診断用途におけるその使用に関する。特に、本発明は、小細胞肺癌、肺外小細胞癌および甲状腺髄様癌から選択される1つ以上のコレシストキニンB受容体陽性疾患を画像化する方法において使用するための68Ga標識ミニガストリン類似体に関する。本発明はキットにも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1):
68Ga-Y-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (1)
[式中、Yは、68Gaをキレート化する部分である]によって表される標識ガストリン類似体。
【請求項2】
Yが、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)または1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸-4,7-酢酸(NODAGA)である、請求項1記載の標識ガストリン類似体。
【請求項3】
YがDOTAである、請求項1記載の標識ガストリン類似体。
【請求項4】
(i)コレシストキニンB受容体(CCKBR)陽性癌または腫瘍に罹患しているか否かを診断されるヒト患者に対して、前記標識ガストリン類似体を投与する工程、および(ii)検査対象である身体部位または組織の画像を取得する工程を含む診断方法であって、
前記癌または腫瘍が、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)および甲状腺髄様癌(MTC)から選択される診断方法に使用するための、請求項1から3までのいずれか1項記載の標識ガストリン類似体。
【請求項5】
前記標識ガストリン類似体の投与が、以下の式(2):
177Lu-DOTA-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (2)
[式中、DOTAは、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸である]の化合物による治療が有効となる患者を特定するために使用される、請求項4記載の使用のための標識ガストリン類似体。
【請求項6】
患者、または前記患者の身体部分もしくは組織の画像を取得するための方法であって、請求項1から3までのいずれか1項で規定された標識ガストリン類似体を患者に投与することを含む、方法。
【請求項7】
PET(陽電子放出断層撮影法)である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)および甲状腺髄様癌(MTC)から選択される癌または腫瘍の画像を取得するために使用される、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
(a)以下の式(3):
Y-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (3)
[式中、Yは、68Gaをキレート化することが可能な部分である]によって表されるガストリン類似体、
(b)水などの溶媒、ならびに酢酸ナトリウム緩衝液、マンニトールおよびアスコルビン酸などの1種以上の補助剤物質から選択される賦形剤であって、前記ガストリン類似体を溶解することが可能であり、かつキレート化工程において68Gaで標識することが可能な溶液を供給する賦形剤
を含むキットであって、これらの賦形剤は一緒にまたは別個に供給され得る、キット。
【請求項10】
請求項1から3までのいずれか1項で規定される式(1)によって表される標識ガストリン類似体を生成するための68Gaジェネレータと一緒になった請求項9記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、ガリウム68標識ガストリン類似体、およびペプチド受容体放射性核種診断用途におけるその使用に関する。特に、本発明は、特定の癌または腫瘍組織の改善された画像化を可能にする、CCKB受容体陽性癌または腫瘍の画像化方法に使用されるガリウム68標識ミニガストリン類似体、およびそれを提供するキットに関する。
【0002】
発明の背景
Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、膜タンパク質のスーパーファミリーを構成し、その機能は、細胞膜を横切って化学シグナルを伝達することである。リガンドがGPCRに結合すると、これは、GPCRが関連するGタンパク質を活性化および放出することを可能にするコンフォメーション変化を引き起こし、続いて、シグナル伝達経路が誘導される。
【0003】
それらのペプチドリガンドに選択的に結合するGタンパク質共役受容体(GPCR)の過剰発現は、ヒト癌のためのペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)の開発を可能にする(Lappano et al. Nat Rev Drug Discov.2011, 10(1), 47-60)。PRRTの最も重要な目標の1つは、放射性標識リガンドの高い腫瘍取り込みを達成することである。したがって、腫瘍または癌組織への放射性医薬品の取り込みを増加させる一方で、健康な臓器には細胞毒性の副作用を与えない戦略が検討されてきた。
【0004】
アゴニストのリガンドベースの治療薬が標的とするGPCRでは、コンフォメーション変化が起こり、Gタンパク質αサブユニット(Gα)上でGTPに対してGDPの交換が生じる。その後、受容体からのGαおよびGβγサブユニットの解離により、プロテインキナーゼAおよびC(PKA;PKC)ならびにホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)およびマイトゲン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)が関与する種々のキナーゼシグナル伝達経路が活性化される(O’Hayre et al. Curr Opin Cell Biol. 2014, 27, 126-135)。続いて、活性化されたGPCRは、アレスチン媒介の内在化プロセスを介して脱感作を受け、それにより、GPCRは、分解のためにリソソームに、または細胞表面への再循環のためにエンドソームに輸送され得る(Rajagopal et al. Cell Signal. 2018, 41, 9-16)。この内在化プロセスは、リガンド結合放射性核種を、標的細胞、例えば癌細胞に送達することを可能にする。
【0005】
甲状腺髄様癌(MTC)は、カルシトニン産生C細胞に由来する神経内分泌腫瘍である。甲状腺癌全体の3~5%を占めるMTCは、比較的まれな癌実体である(Hadoux et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016, 4(1), 64-71)。残念ながら、従来の化学療法(通常はドキソルビシン単独またはシスプラチンとの併用)に対する反応は一過性に過ぎず、有益性は少数の患者に限られる。さらに、MTC細胞は、ヨウ素を蓄積せず、したがって、放射性ヨウ素治療に反応しない(Verburg et al. Methods. 201, 55(3), 230-237)。現在、MTCは、甲状腺癌に関連する死亡全体の14%を占めており、特に転移した患者でより良い治療が必要であることを示している(Roman et al. Cancer. 2006, 107(9), 2134-2142)。
【0006】
小細胞肺癌(SCLC)は、肺に最も多く発生する悪性度の高い癌である。これは通常、中央に位置する気管気管支の気道から発生し、縦隔に浸潤する、大型で急速に進行する病変を呈する。疾患の限局期にSCLCと診断された患者の3分の1では、化学放射線療法により約25%の治癒率が得られる。一方、進行期SCLCおよび再発SCLCの双方は、しばしば治癒不能と見なされ、利用可能な治療法、例えば、化学療法は、通常、緩和目的で行われている。再発SCLC患者の予後は依然として不良であり、全生存期間の中央値は約6カ月である(Travis et al. J Thorac Oncol. 2015, 10(9), 1243-1260)。
【0007】
肺外小細胞癌(EPSCC)とは、肺の外部に発生する小細胞癌を指す。それらは、消化器系および泌尿生殖器系に発生することが最も多い。EPSCCは、全小細胞癌症例のうち2.5%~5.0%のみを占め、癌全体の0.1%~0.4%を占める、まれな新生物である。EPSCCには、急速な局所進行、早期の広範な転移、および治療後の再発を特徴とする侵攻性の自然経過がある。EPSCCと診断された患者の予後は、化学療法にもかかわらず比較的不良であり、生存期間の中央値は3~27カ月であり、全体の5年生存率は約13%である(Nakazawa et al. Oncol Lett. 2012, 4(4), 617-620)。
【0008】
GPCRファミリーに属するコレシストキニンB受容体(CCKBR、ときにCCK2Rとも呼ばれる)の高発現は、甲状腺髄様癌(MTC)、グリオーマ、ならびに結腸癌および卵巣癌を含むいくつかの特定の形態の癌で確認されている(Reubi et al. Cancer Res 1997, 57(7), 1377-1386)。さらに、小さなペプチドホルモンであるミニガストリンは、CCKBRに高い親和性で結合することが知られている。したがって、従来の研究では、標的ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)にPP-F11Nなどの特定の放射性標識(ミニ)ガストリン由来ペプチドを使用することが提案されている(国際公開第2015/067473号(Paul Scherrer Institut)を参照のこと)。
【0009】
しかしながら、CCKBR陽性の腫瘍または癌、特に小細胞肺癌や肺外小細胞癌などの悪性度の高い形態の画像化方法において有効に使用され得る放射性化学物質が引き続き求められている。
【0010】
上記に鑑み、本発明の課題は、新規な放射性化学物質、および特定のCCKBR陽性腫瘍または癌種の画像化方法におけるその使用を提供することである。
【0011】
本発明の概要
本発明は、新規な放射性標識ミニガストリン類似体、およびCCKBR陽性腫瘍および癌種の画像化方法におけるその使用を提供する。
【0012】
本発明者らは、68Gaで標識された特定のミニガストリン類似体の有効量をヒト患者に投与することで、放射性標識ガストリン類似体が、腫瘍または癌細胞、特に、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)および甲状腺髄様癌(MTC)から選択される腫瘍または癌において十分に取り込まれることを見出した。この知見は、癌/腫瘍細胞または組織の画像化に利用することができ、正常な細胞または組織への非特異的な蓄積を十分に防止することができる。
【0013】
本発明は、とりわけ、以下の実施形態(「項目」)を含む:
(項目1)以下の式(1):
68Ga-Y-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (1)
[式中、Yは、68Gaをキレート化する部分である]によって表される標識ガストリン類似体。
【0014】
(項目2)Yが、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、または1-(1,3-カルボキシプロピル)-4,7-カルボキシメチル-1,4,7-四酢酸(NODAGA)である、項目1記載の標識ガストリン類似体。
【0015】
(項目3)Yが、DOTAである、項目2記載の標識ガストリン類似体。
【0016】
(項目4)(i)コレシストキニンB受容体(CCKBR)陽性癌または腫瘍に罹患しているか否かを診断されるヒト患者に対して、標識ガストリン類似体を投与する工程、および(ii)検査対象である身体部位または組織の画像を取得する工程を含む診断方法であって、
癌または腫瘍が、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)および甲状腺髄様癌(MTC)から選択される診断方法に使用するための、項目1から3までのいずれか1項記載の標識ガストリン類似体。
【0017】
(項目5)標識ガストリン類似体の投与が、以下の式(2):
177Lu-DOTA-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (2)
[式中、DOTAは、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸である]の化合物による治療が有効となる患者を特定するために使用される、項目4記載の使用のための標識ガストリン類似体。
【0018】
(項目6)患者、または上記患者の身体部分もしくは組織の画像を取得するための方法であって、項目1から3までのいずれか1項で規定された標識ガストリン類似体を患者に投与することを含む、方法。
【0019】
(項目7)PET(陽電子放出断層撮影法)である、項目6記載の方法。
【0020】
(項目8)準備した画像が、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)および甲状腺髄様癌(MTC)から選択される癌または腫瘍のものである、項目6または7記載の方法。
【0021】
(項目9)(a)以下の式(3):
Y-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (3)
[式中、Yは、68Gaをキレート化することが可能な部分である]によって表されるガストリン類似体、
(b)水などの溶媒、ならびに酢酸ナトリウム緩衝剤、マンニトールおよびアスコルビン酸などの1種以上の補助剤物質から選択される賦形剤であって、ガストリン類似体を溶解することが可能であり、かつキレート化工程において68Gaで標識することが可能な溶液を供給する賦形剤
を含むキットであって、これらの賦形剤は一緒にまたは別個に供給され得る、キット。
【0022】
(項目10)項目1から3までのいずれか1項で規定される式(1)によって表される標識ガストリン類似体を生成するための68Gaジェネレータと一緒になった項目9のキットの使用。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】[68Ga]Ga-PPF11Nを注射した未実験の成体CD1マウス(免疫能正常)の雌(図1A)および雄(図1B)を用いて行ったex vivo生体分布試験を示す図である。
【0024】
本発明の詳細な説明
本発明は、68Gaで標識された新規なミニガストリン類似体およびそれを用いた画像化方法を提供する。本画像化方法は、特定のCCKBR陽性腫瘍または小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)および甲状腺髄様癌(MTC)を含む癌種の診断に用いられ得る。
【0025】
式(1)の68Ga標識ミニガストリンを用いて行われた生体分布試験は、ミニガストリンがCCK2R受容体に特異的に結合し、実質的に全ての健康な組織および/または臓器における非特異的蓄積が、許容可能な低レベルに留まることを示している。腎臓でのみ比較的高い曝露が認められた。しかしながら、ペプチドブロッキング実験では、腎臓への曝露を低減させることができなかったので、腎臓への曝露は、CCK2R標的とは無関係である。このことは、腎臓への曝露が、排泄および/または腎臓への取り込みによって引き起こされる可能性が最も高いことを実証する。
【0026】
さらに、実験の部で報告されたCCKBR有病率の研究は、68Ga標識ミニガストリンの使用が特定の腫瘍および癌種の診断に有効であることを示す一方で、ヒト患者から単離された他の癌組織は、要求される有病率(すなわち、膵臓腺癌(PDAC)または胃癌(GC))を示さなかったことを示す。
【0027】
1.定義および実施形態
本明細書で使用される「ガストリン類似体」という表現は、CCKBRに結合することができる、内因性ペプチドホルモンガストリンに構造的に関連する化合物(ペプチド)のクラスを指す。ガストリンは、十二指腸のG細胞と胃の幽門洞門で産生された直鎖状ペプチドホルモンである。これは血液中に分泌される。コードされたポリペプチドは、プレプロガストリンであり、これは翻訳後修飾の酵素によって開裂されてプロガストリンが産生され、次いでガストリンが、主にビッグガストリン(G-34)、リトルガストリン(G-17)、およびミニガストリン(Leu-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)を含む、様々な形態で産生される。CCKは、双方の化合物が5つのC末端アミノ酸、すなわちGly-Trp-Met-Asp-Phe-NH(式中、Metは、ノルロイシンなどのMetと等価なアミノ酸で置き換えることができる)を共有するという点で、ガストリンと構造的に関連するペプチドホルモンである。CCKは、例えばCCK8(Asp-Tyr-Met-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)を含む幾つかの形態で天然に存在する。ガストリンおよびそれに関連するペプチドホルモンは、典型的には、C末端アミノ酸モチーフ「Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH」を含み、それらのCCKBRへの結合を可能にする。
【0028】
CCKBRに対する所与のガストリン類似体の薬理学的活性は、Blaekerらによって記載されるガストリン類似体刺激細胞におけるカルシトニン濃度の細胞内増加を測定することによって決定され得る(Regulatory Peptides 2004, 118, 111-117)。
【0029】
本明細書で使用される「癌」という用語は、哺乳類の組織において、細胞が異常増殖して悪性腫瘍を形成し、他の組織または体の一部に浸潤または拡散して転移として知られる「二次」腫瘍を形成する可能性を有し得ることを特徴とする病的状態を意味する。腫瘍は、1つ以上の癌細胞を含む。本明細書で使用する場合、「CCKBR陽性の癌または腫瘍」という表現は、細胞表面上でのCCKBRの過剰発現を特徴とする癌または腫瘍を指す(Reubi et al. Cancer Res. 1997, 57(7), 1377-1386)。CCKBR陽性癌または腫瘍の例としては、MTC、グリオーマ、小細胞肺癌、星細胞腫、結腸癌、卵巣癌および乳癌が挙げられる。好ましい一実施形態では、本明細書で使用される「CCKBR陽性癌または腫瘍」という表現は、小細胞肺癌(SCLC)または肺外小細胞癌(EPSCC)を指す。
【0030】
(放射性医薬品の)「腫瘍摂取率」という表現は、分子(例えば、式(1)のミニガストリン)が腫瘍(癌)細胞によって取り込まれる生物学的プロセスを指す。腫瘍の取り込みには、分子(例えば、放射性標識ガストリン類似体)の腫瘍細胞による取り込みおよび/または腫瘍微小環境におけるその滞留が含まれる。その結果、分子(例えば、放射性標識ガストリン類似体)は、腫瘍(癌)細胞内、細胞膜(例えば、細胞膜上に蓄積される)および/または腫瘍微小環境内に存在し得る。これにより、放出された放射能を利用して、腫瘍を可視化(画像化)することができる。
【0031】
本明細書で使用する「有効量」(または「治療量」)という表現は、「画像化量」(すなわち、腫瘍組織のSPECTまたはPET CT画像化などの画像化を実施するために患者に投与される放射能の総量)を意味する。
【0032】
有効量は、線量測定に基づき医師が決定することができる。特定の被験者/患者に対する有効量および投与頻度は、様々であってよく、患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別、食事、投与様式および投与時間、排泄速度、疾患の重症度、および治療を受ける個人を含む様々な要因に依存する。有効量を決定する際には、医師はこれらの要因を考慮する。
【0033】
本明細書が「好ましい」実施形態/特徴に言及する場合、これらの「好ましい」実施形態/特徴の組み合わせもまた、「好ましい」実施形態/特徴のこの組み合わせが、技術的に意味がある限り、開示されたものと見なすものとする。
【0034】
以下、本発明の説明および特許請求の範囲において、「含有する」および「含む」という用語の使用は、言及された要素に加えて言及されていない追加の要素が存在し得るように理解されるべきである。しかしながら、これらの用語はまた、より限定的な実施形態として、「からなる」という用語も同様に開示していると理解されるべきであり、したがって、技術的に意味がある限り、言及されていない追加の要素は存在し得ない。
【0035】
文脈が別段の指示および/または代替的な意味を本明細書において明示的に示さない限り、全ての用語は、IUPAC Gold Book(2017年11月1日のステータス)またはDictionary of Chemistry、Oxford、第6版によって反映されるように、当該技術分野において一般的に受け入れられている意味を有することを意図している。
【0036】
2.ミニガストリン類似体で標識されたガリウム68
本発明の標識ガストリン類似体は、式(1):
68Ga-Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (1)
[式中、Yは、ガリウム68(68Ga)をキレート化する部分である]によって表される。好ましくは、キレーター部分は、1つの官能基、例えばカルボキシル基を介してペプチド鎖のN末端に共有結合している。Yが、選択された1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸(DOTA)である場合、式(1)の化合物は、PP-F11Nとして知られている。
【0037】
特に明記しない限り、または文脈から他の指示がない限り、隣接するアミノ酸基間の接続は全て、ペプチド(アミド)結合によって形成される。本明細書に記載されたペプチドは、左から右に従来のアミノからカルボキシの方向に列挙されたものである。
【0038】
本明細書で使用される「ガリウム68(68Ga)をキレート化する部分」という表現は、ガリウム68(68Ga)に電子を供与して、例えば、それとの少なくとも1つの配位共有結合(双極結合)を形成することによって、それとの配位錯体を形成することができる部分(例えば、DOTA)を意味する。例えば、DOTAは、カルボキシレート基およびアミノ基(ドナー基)を介して68Gaなどの放射性核種を配位することができ、したがって、高い安定性を有する錯体を形成することが当該技術分野において記載されている。
【0039】
ガリウム68(68Ga)をキレート化する部分の例としては、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、デスフェロキサミン(DFO)、1-(1,3-カルボキシプロピル)-4,7-カルボキシメチル-1,4,7-四酢酸(NODAGA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-グルタル酸-4,7,10-三酢酸(DOTAGA)、2,2’-(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-ジイル)ジアセテート(NO2A)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン二酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸(TTHA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(CYCLAM)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン-4,11-二酢酸(CB-TE2A)、2,2’,2’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)トリアセトアミド(DO3AM)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-二酢酸(DO2A)、1,5,9-トリアザシクロドデカン(TACD)、(3a1s,5a1s)-ドデカヒドロ-3a,5a,8a,10a-テトラアザピレン(シス-グリオキサール-シクラム)、1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(サイクレン)、トリ(ヒドロキシピリジノン)(THP)、3-(((4,7-ビス((ヒドロキシ(ヒドロキシメチル)ホスホリル)メチル)-1,4,7-トリアゾナン-1-イル)メチル)(ヒドロキシ)ホスホリル)プロパン酸(NOPO)、3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-三酢酸(PCTA)、2,2’,2’’,2’’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン-1,4,7,10-テトライル)四酢酸(TRITA)、2,2’,2’’,2’’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン-1,4,7,10-テトライル)テトラアセトアミド(TRITAM)、2,2’,2’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン-1,4,7-トリイル)トリアセトアミド(TRITRAM)、トランス-N-ジメチル-シクラム、2,2’,2’’-(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-トリイル)トリアセトアミド(NOTAM)、オキソシクラム、ジオキソシクラム、1,7-ジオキサ-4,10-ジアザシクロドデカン、架橋-シクラム(CB-シクラム)、トリアザシクロノナンホスフィネート(TRAP)、ジピリドキシルジホスフェート(DPDP)、メソ-テトラ-(4-スルファノトフェニル)ポルフィン(TPPS)、エチレンビスヒドロキシフェニルグリシン(EHPG)、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、ジメチルホスフィノメタン(DMPE)、メチレン二リン酸、ジメルカプトコハク酸(DMPA)、およびそれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
一実施形態では、Yは、1つ以上のカルボキシル基を有する側鎖(例えば、3または4)が結合したN含有大員環である。大員環は、好ましくは3個または4個のN原子を含み、環原子(NおよびC)の好ましい数は、少なくとも12、好ましくは20以下(例えば、12~16)である。カルボキシル基を有する側鎖の例としては、カルボキシメチル(酢酸)、プロパン酸、カルボキシプロピルまたはグルタル酸が挙げられる。
【0041】
部分Yは、より好ましくは、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)または1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸-4,7-酢酸(NODAGA)であり、最も好ましくは、Yは、DOTAである。
【0042】
ガストリン類似体PP-F11Nは、オンレジンペプチドカップリングおよび収束的戦略を含む、標準的なFmocベースの固相ペプチド合成(SPPS)に依存して合成され得る。本発明のガストリン類似体を製造して放射性標識するために使用され得る一般的な戦略および方法論は、当業者によく知られており、さらに以下の実施例に例示されている。
【0043】
3.疾患の画像化方法における化合物の使用および画像化方法
本発明の化合物は、PET(PET=陽電子放出断層撮影法)などの公知のコンピュータ断層撮影技術などの画像化技術によって癌または腫瘍細胞を可視化する、CCKBR陽性癌または腫瘍(例えば、SCLC、EPSCCまたはMTR)を画像化する方法において適切に使用することができ;この技術およびその適用のレビューについては、例えば、Shankar Vallabhajosula (ed.), Molecular Imaging, Radiopharmaceuticals for PET and SPECT, Springer Verlag or Lucia Martiniova et al., Gallium-68 in Medical Imaging, Current Radiopharmaceuticals, 2016, 9, 187-207を参照されたい。したがって、放射性標識ガストリン類似体を、CCKBR陽性癌または腫瘍の進行および/または状態の診断に使用することができる。
【0044】
本発明はまた、(i)コレシストキニンB受容体(CCKBR)陽性癌または腫瘍に罹患しているか否かについて診断されるべきヒト患者に対して式(1)の標識ガストリン類似体を投与する工程と、(ii)検査されるべき身体部分(例えば、肺(複数)または甲状腺(複数))または組織(例えば、肺または甲状腺組織)の画像を取得する工程とを含む、診断方法であって、癌または腫瘍が、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)および甲状腺髄様癌(MTC)から選択される、診断方法に関する。
【0045】
この方法の一実施形態では、標識ガストリン類似体を使用して、以下の式(2):
177Lu-DOTA-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (2)(=177Lu-DOTA-PPF11N)
[式中、DOTAは1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸である]の化合物による治療が有効となる患者を特定する。
【0046】
本発明者らはまた、68Ga-DOTA-PPF11Nの生体分布が177Lu-DOTA-PPF11Nの生体分布にほぼ類似していることを見出した。したがって、68Ga-PPF11Nによる画像化は、177Lu-PPF11N治療が有効であることが予想される患者を事前選択するのに特に適している可能性がある。これは非常に有益なことである。なぜなら、そうでなければ、治療および診断の目的で、患者の群全体に177Lu-PPF11Nを投与する必要があるからである。しかしながら、低線量の177Lu-PPF11Nでも、放出される放射のエネルギーは非常に強く、望ましくない副作用が容易に生じ得る。したがって、上記の方法による患者の事前選択は、副作用を最小限に抑えつつ、任意の種類の177Lu-PPF11N治療の有効性を顕著に高める。
【0047】
本発明はまた、患者、または上記患者の身体部分(例えば、肺(複数)または甲状腺(複数))または組織(例えば、肺または甲状腺組織)の画像を取得するための方法であって、本明細書に記載の68Ga標識ガストリン類似体を患者に投与することを含む、方法に関する。この方法は、好ましくはPET(陽電子放出断層撮影法)である。好ましい一実施形態では、この方法は、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)および甲状腺髄様癌(MTC)から選択される癌または腫瘍の画像を取得するために使用される。
【0048】
68Ga(「トレーサー」)が放出する放射のエネルギーおよび位置を記録し、次いでこの情報を用いてコンピュータプログラムにより体内のトレーサー濃度の3次元(3D)画像を再構成することで、可視化を実現した。
【0049】
都合のよい68Gaの半減期(T1/2=68分)によって、様々なPET画像化用途に十分な放射能が与えられる。68Gaは、最大エネルギー1.9MeV、平均0.89MeVで、陽電子放出により87.94%崩壊する(図1)。68Ga3+カチオンは、ドナー原子として酸素および窒素を含む多くの配位子と安定な錯体を形成し得る。これにより68Gaは、キレート剤や様々な高分子との錯化に適しており、キット開発が可能である。
【0050】
最新のPETコンピュータ断層撮影スキャナでは、同一の装置内で、トレーサー投与中または投与直後に患者に対して行われたコンピュータ断層撮影スキャンの助けを借りてPET画像が再構成されることが多い。
【0051】
68Gaで得られたPET画像は、非常に高い分解能、典型的にはSPECT(単一光子放射断層撮影)によって達成可能な分解能よりも遙かに高い分解能を示す。68Gaは、式(1)の化合物をトレーサーとして用いる診断方法にも使用され得る。SPECTは、放射性トレーサー物質の使用においてPETと同様である。PETとは対照的に、SPECTで使用されるトレーサーは、直接測定されるガンマ線を放出するのに対して、68GaなどのPETトレーサーは、数ミリまで離れた電子と対消滅する陽電子を放出し、2つのガンマ光子を反対方向に放出させる。PETスキャナは、これらの放出を時間的に「同時」に検出し、これにより、SPECT(約1cmの解像度を有する)よりも多くの放射線事象の位置情報が得られ、したがって、より高い空間解像度の画像が得られる。
【0052】
画像化の目的で、患者に投与されるべき化合物の有効量(画像化量)は、好ましくは0.5~4MBq/Kg/ヒトの範囲、例えば1~3MBq/Kg/ヒト、または1.5~2.5MBq/Kg/ヒト、例えば2MBq/Kg/ヒトであり得る。
【0053】
任意の公知の68Gaジェネレータ、例えば、Eckert社およびZiegler社またはIRE社により販売されている68Gaジェネレータが、68Gaを製造するために使用され得る。次に、生成された68Gaは、PP-F11Nなどの式(3)の化合物(以下の項目4を参照のこと)、および水(無菌金属不含水)と混合され、例えば80~100℃、例えば90~95℃で加熱されて、68Ga-PPF11Nなどの式(1)の化合物を含む溶液を形成し、この生成物は、次いで投与のために患者に送達される前に品質制御されてよい。
【0054】
次に、68Ga-PPF11Nなどの式(1)の化合物の投与量は、68Ga-PPF11Nなどの式(1)の化合物の有効量と等しくなるように医師によって計算され得る。この量または投与量は、例えば68Gaの生成からの時間およびその半減期を考慮して組成物中にあると計算される68Ga-PPF11Nなどの式(1)の化合物の濃度に依存することになる。
【0055】
投与は、好ましくは、非金属製の注射器を使用して静脈内で行う。
【0056】
4.パーツのキット
本発明はまた、患者への投与直前に調製するのに便利に使用され得るキットに関する。このキットは、
(a)以下の式(3):
Y-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (3)
[式中、Yは、68Gaをキレート化することが可能な部分である]によって表されるガストリン類似体、および
(b)溶媒、例えば水および1種以上の補助物質から選択される賦形剤であって、ガストリン類似体を溶解することが可能であり、かつキレート化工程において68Gaで標識することが可能な溶液を供給する賦形剤
を含み、これらの賦形剤は一緒にまたは別個に供給され得る。
【0057】
溶媒として、好ましくは金属不含水(例えば、「traceselect」水)が使用される。補助物質は、薬学的に許容される緩衝化合物、糖、安定剤および/またはアスコルビン酸またはゲンチジン酸などの酸化防止剤を含むが、これらに限定されない一般的な賦形剤から選択され得る。
【0058】
一実施形態では、式(3)の化合物、例えば、PP-F11Nは、マンニトールなどの糖、およびアスコルビン酸などの酸化防止剤と一緒に、乾燥形態でキットの一部に供給される。
【0059】
この実施形態では、酢酸ナトリウム緩衝剤などの緩衝物質は、キットの異なる部分、例えば第2の部分に、好ましくは乾燥形態で供給され、医薬品グレードの水、特に金属不含水に溶解する。
【0060】
無菌金属不含水は、キットの第3の部分に供給され得る。
【0061】
次に、得られた緩衝水溶液が使用されて、式(3)の化合物、例えばPP-F11Nを、キットの第1の部分に供給される他の補助物質と一緒に溶解させる。
【0062】
ガリウム-68ジェネレータによって供給された68Gaが、緩衝液に添加されて、任意選択的に上述のように加熱下で68Gaをキレート化する。加熱は、例えば5分~1時間、例えば10分~30分、例えば20分の時間にわたって実行され得る。
【0063】
このようにして、本発明のキットを、市販の68Gaジェネレータと一緒に使用して、以下の式(1)によって表される標識ガストリン類似体を製造することができる。
【0064】
通常、キットはまた、68Gaをガストリン類似体にキレート化して本発明の標識ガストリン類似体を形成する方法を詳述した説明書、および/または特許請求された診断方法または患者の画像を得る方法においてかかる標識ガストリン類似体を使用する方法に関する説明書も含むことになる。
【0065】
5.実施例
略語の一覧
BSA:ウシ血清アルブミン
DIEA:ジイソプロピルエチルアミン
DMF:ジメチルホルムアミド
EGTA:エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸
ESI:電子スプレーイオン化
HATU:1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート
HBTU:3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-3H-ベンゾトリアゾール-1-オキシドヘキサフルオロホスフェート
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
SQD:単一四重極検出
SPECT:単一光子放射断層撮影
SPPS:固相ペプチド合成
TFA:トリフルオロ酢酸
TIS:トリイソプロピルシラン
トリス:トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン
UPLC:超高速液体クロマトグラフィー
【0066】
以下の材料および方法を使用して、本発明の化合物を評価した。
【0067】
組織採取および調製
20人のSCLC、4人のMTC、20人のGCおよび20人のPDAC患者から単離された組織(新鮮凍結ブロック)を、組織バイオバンク供給者から入手した。組織を、Leica 3050のクライオトーム(cryotome)チャンバー内で少なくとも1時間平衡させた後、-18℃(チャンバー温度)で、20μmの厚さで切片を作成した。
【0068】
オートラジオグラフィー
以下の緩衝液を、各アッセイの前に新たに調製した。
【表1】
【0069】
オートラジオグラフィーのプロトコル:
最初に、スライドへの組織の吸着力を高めるために、冷風ファンを使用してサンプル(腫瘍切片)を少なくとも5分間乾燥させた。CCKBRの潜在的な占有を減らすためにPre-IBでインキュベートした後、さらに10分間の乾燥工程を行った。その後、サンプルを、IB中で111In-PPF11Nでインキュベートした。非特異的結合を評価するために、隣接する切片を、200nMの非標識ヒトガストリンI(スイスのBachem社から入手可能)と混合されたトレーサー溶液中でインキュベートした。処置後、スライドを、予備冷却したWB1中で6回×15分、WB2中で2回×5秒洗浄してから、冷風ファンを使用して少なくとも15分間切片を乾燥させた。切片を、X線カセット内のBiomax MRフィルムに並置し、自動現像機でフィルムを現像した。
【0070】
シグナルの定量化:
シグナルの定量化のために、実験ごとに別々の標準曲線を記録した。MCIDソフトウェア(InterFocus)を使用して、オートラジオグラムを定量的に分析した。関心領域(ROI)を、2回測定し、1回は全トレーサー結合の組織で、もう1回は非特異的結合のサンプルで測定した。放射性リガンド結合は、全結合シグナルが非特異的シグナルの少なくとも2倍の高さであった場合、特異的と見なされた(Reubi et al. Cancer Res.1997, 57(7), 1377-1386)。異なる腫瘍サンプル切片は、腫瘍組織および正常な隣接組織で構成されているため、スライド中の腫瘍組織に対する放射線信号の共局在を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色によって確認した。
【0071】
ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色:
オートラジオグラフィーで使用される切片に隣接する切片のH&E染色により、オートラジオグラフィー信号の局在化が可能になる。H&E染色のために、凍結した組織切片を、1:1のアセトン-エタノール溶液(トリクロロ酢酸1mol/l)中で10秒間固定した。その後、それらをアルコール系(100;96;70;50%のEtOH)で水和し、続いてHOで短時間すすいだ。マイヤーヘマトキシリン溶液中で10分間インキュベートすると、細胞の核が染色された。HOおよびdd HOで洗浄した後、スライドを、塩酸アルコールに短時間浸した。その後、温水で10分間インキュベートすると、赤色から青色への変色が生じた。エオシン溶液で対比染色すると、好酸性構造のコントラスト(ピンク色)が生じる。スライドを洗浄し、昇順のアルコール系(70~100%)で脱水した。サンプルをキシレンに2回入れ、続いてEukittおよびガラスカバースリップを使用して埋め込んだ。
【0072】
参照例1:PP-FF11Nの調製
本明細書に記載され、使用されるガストリン類似体(PP-F11N)を、標準的なFmocベースのSPPSによって調製し、これには、オンレジンペプチドカップリングならびにActivo-P-11自動ペプチド合成装置(Activotec社)およびリンクアミドレジン(負荷量:0.60mmol/g;Novabiochem)を使用する収束戦略が含まれる。
【0073】
アミド結合形成のためのカップリング反応を、DIEA(6当量)の存在下で、HBTU(2.9当量)で活性化した3当量のFmoc-アミノ酸を使用して、室温で30分にわたり実施した。Fmoc脱保護を、DMF中の20%ピペリジンの溶液で行った。N末端の標識部分のカップリングは、DIEA(6当量)の存在下で、HATU(2.9当量)で活性化された3当量のDOTAトリス-t-Buエステル(Novabiochem)を使用して室温で30分にわたり実施することができる。
【0074】
60分間、TFA/TIS/水(95/2.5/2.5、v/v/v)で処理することにより、同時の側鎖脱保護下で樹脂からペプチドを切断した。開裂混合物の濃縮後、粗ペプチドを、冷ジエチルエーテルで沈殿させ、遠心分離した。
【0075】
このペプチドを、XSelect Peptide CSH C18 OBD Prepカラム(130Å、5μm、19mm×150mm)を備えたSQD質量分析計に接続されたWaters Autopurification HPLCシステムで、溶媒系(水中で0.1%のTFA)およびB(アセトニトリル中で0.1%のTFA)を使用して、25mL/分の流量およびBの20~60%の勾配で30分間かけて精製した。適切な画分を集め、濃縮し、凍結乾燥させた。純度を、CSH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1mm×50mm)を備えたSQD質量分析計に接続されたWaters Acquity UPLCシステムで、溶媒系A(水中で0.1%のTFA)および(アセトニトリル中で0.1%のTFA)を使用して、0.6mL/分の流量およびBの5~85%の勾配で5分間に亘って測定した。
【0076】
MS分析を、ポジティブモードおよびネガティブモードでエレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェースを使用して行った。
【0077】
参照例2:PP-FF11Nのインジウム放射性標識
以下の実施例1で使用されるインジウム標識ガストリン類似体(111In-PP-F11N)を調製するために、PP-F11Nの溶液を、放射性核種溶液(20mMのHCl中の111InCl、Curium社から入手可能)に添加した。標識用緩衝液(酢酸ナトリウムpH5.3)を、最終濃度0.1Mの緩衝液になるように添加した。80℃で25分間加熱した後、反応混合物を5分間冷却してから、50μl当たり1μlの10mMのDTPAおよび1μlの5%のTWEEN-20を添加した。品質管理のために、反応混合物を、HPLCサンプル希釈剤(0.1Mの酢酸ナトリウム中、0.1%のTWEEN-20、pH5.3)中で1:10に希釈した。
【0078】
標識効率および放射化学的純度を、Agilent Poroshell HPH C18カラムを用いたHPLCによって測定した(勾配:15分以内に水中で0.1%のTFA中、5%のアセトニトリル(ACN)から70%のACNまで;流量:0.5ml/分)。111In-PPF11Nの標識効率および放射化学的純度は、94%を上回っていた。
【0079】
参照例3:SCLC、PDAC、GC、およびMTCの腫瘍組織における放射性標識ガストリン類似体( 111 In-PP-FF11N)のin vitroオートラジオグラフィー放射性リガンド結合アッセイ
SCLC、膵臓腺癌(PDAC)、甲状腺髄様癌(MTC)または胃癌(GC)と診断された患者から採取した新鮮な腫瘍切片において111In-PP-FF11N(上記のように調製)のCCKBR結合能を、オートラジオグラフィーにより(上記の通り)評価した。
【0080】
SCLCと診断された20人の異なる患者の腫瘍から採取した組織切片を111In-PP-FF11Nでインキュベートし、測定した。分析した20個のSCLC組織切片の中で、4つが111In-PP-F11Nで陽性であることが判明し、20%のCCKBR有病率に相当した。
【0081】
これらの結果は、CCKBRがSCLC腫瘍組織で発現すること、および本発明の化合物(例えば、68Ga-PP-F11N)が、この疾患と診断されたヒト患者におけるSCLCの画像化に使用され得ることを実証する。さらに、これらの結果は、この疾患の臨床的特徴および治療がSCLCのものと類似しているため、本発明の化合物を、EPSCCの治療および/または画像化に使用できることも実証する。
【0082】
MTCと診断された20人の異なる患者の腫瘍から採取した組織切片を111In-PP-FF11Nでインキュベートし、測定した。分析した4個のMTC組織切片の中で、3個が111In-PP-F11Nで陽性であることが判明し、75%のCCKBR有病率に相当した。
【0083】
これらの結果は、CCKBRがMTC腫瘍組織で発現すること、および本発明の化合物(例えば、68Ga-PP-F11N)が、この疾患と診断されたヒト患者におけるMTCの画像化に使用され得ることを実証する。
【0084】
PDACと診断された20人の異なる患者の腫瘍から採取した組織切片を111In-PP-FF11Nでインキュベートし、オートラジオグラフィーによって分析した。しかしながら、分析した20個のPDAC組織切片の中で、CCKBR陽性であることが判明したものはなかった(111In-PP-F11N結合なし)。したがってPDAC腫瘍組織におけるCCKBR有病率は0%であると判断された。
【0085】
GCと診断された20人の異なる患者の腫瘍から採取した組織切片を111In-PP-FF11Nでインキュベートし、オートラジオグラフィーによって分析した。しかしながら、20個のGC組織の中で、そのどれにおいても放射線信号と腫瘍組織との間の厳密な共局在化が認められたものはなかった。したがって、GC腫瘍組織におけるCCKBR有病率は0%であると判断された。
【0086】
測定されたCCKBR有病率を、各腫瘍種に関して以下の表に示す:
【表2】
【0087】
上記の結果は、本発明の化合物(例えば、68Ga-PP-F11N)を、SCLCおよび/またはEPSCCなどの特定のCCKBR陽性腫瘍および癌種を画像化するために適切に使用できることを示しており、これは、これらの腫瘍種におけるCCKBR有病率が十分に高いことに起因している。一方で、他の腫瘍組織、すなわちPDACおよびGCにおけるCCKBR有病率は、この化合物によるこれらの組織の治療および/または画像化を可能にするほど高くなかったことが判明した(特異的結合の欠如に起因する)。PDAC/GC組織は通常、CCKBR陽性組織として文献に報告されているので、後者の知見は特に驚くべきことである。
【0088】
実施例1-[68Ga]Ga-PPF11Nの調製
ガリウム標識ガストリン類似体(68Ga-PPF11N)を調製するために、PPF11N 80μg、マンニトール6mg、アスコルビン酸1mgおよび酢酸ナトリウム(100Mg)の溶液(pH3.9)に、ガリウムジェネレータの溶出液を添加した。95℃で20分間加熱した後、反応混合物を10分間冷却した。放射化学的純度について、シリカゲルプレート上の5μLのサンプルでTLC(薄層クロマトグラフィー)により分析した。移動相77g/Lの酢酸アンモニウム水溶液、メタノール50:50V/V。放射能分布を求めるのに適した検出器による検出。3%以下の遊離ガリウム-68
【0089】
実施例2-[68Ga]Ga-PPF11Nを用いたex vivo生体分布試験
図1の凡例:
ex vivo生体分布試験。雌(図1A)および雄(図1B)の未実験の成体CD1マウス(免疫能正常)に、[68Ga]Ga-PPF11N((0.19±0.04)MBq、0.04μg、1.3μg/kg)を注射した。注射後5分、15分、30分、60分、120分および240分でマウスを屠殺した(各N=4)。各性別のマウスの対照群に、ブロッキング量のPPF11Nペプチド(40μg、1.3mg/kg)を同時注射し、注射後60分で屠殺した。臓器(血液、骨、脳、結腸、生殖腺、腎臓、肝臓、肺、筋肉、膵臓、胃)を秤量し、経時的な放射能濃度を評価した。切除した全ての組織におけるex vivo生体分布を、組織1グラム当たりの注入量のパーセンテージ(%ID/g)として計算した。
【0090】
材料および方法:
免疫能正常のCD1マウス(試験中の雄N=28および雌N=28、予備の雄N=3および雌N=3;出産時の雄9週齢、雌5週齢)を7日間馴化し、毎日検査し、注射日に体重を量った。性別ごとに、マウスを無作為に7群に分け(1群当たりN=4マウス)、各群に[68Ga]Ga-PPF11Nペプチド(0.15mL中(0.19±0.04)MBq;非ブロック群で(0.039±0.02)μgペプチド)を注入した(外側尾静脈へのボーラス静注ルート)。放射性標識に続いて、各生成物のバッチを、iTLCおよびHPLCによって評価し、材料が確実に目標基準を満たすようにした。ブロック群では、38±1μgのペプチドを注入した。注射後5分、15分、30分、1時間、2時間、4時間のマウス(性別ごとに各時点でn=4)を頸椎脱臼により屠殺し、組織(血液、骨、脳、結腸、生殖腺、腎臓、肝臓、肺、筋肉、膵臓、胃)を切除し、秤量し、放射能を較正基準(3倍希釈系)と共にガンマカウンターで計数した。試験の計画を以下の表に示す。
【0091】
注射のための全ての用量を注射当日に準備し、第2相では4回の放射性合成が必要であった。第2相の終了時に、全ての予備動物を殺処分し、死骸を廃棄した。
【表3】
【0092】
採取された各組織の放射能を、カウント/分(CPM)の単位で測定した。放射能単位(%ID/g)への変換係数を計算するために、放射性トレーサーの系列希釈の3つのアリコートもガンマカウンターでアッセイした。測定した値を減衰補正し、バックグラウンド放射線を考慮して調整した。
【0093】
結果および結論:
ex vivo生体分布の結果は、腎臓および胃を除く全ての臓器から速やかにクリアランスされた状態で雄と雌の間で高い類似性を示す。
【0094】
血中濃度は、注射後60分でプラトーに達した(雌群では0.40±0.12%ID/g、雄群では0.46±0.35%ID/g)。他のほとんどの組織も同様のPKパターンを示した。
【0095】
68Ga-PPF11Nの滞留率は、注射後60分で、腎臓では雌で2.98±0.53%ID/g、雄で3.38±0.67%ID/g認められ、胃では雌で1.71±0.56%ID/g、雄で1.93±0.18%ID/g認められた。両方の臓器で認められた滞留率は、注射後60分で、雌で0.16±0.09%ID/g、雄で0.10±0.03%ID/gで、筋肉と比較して少なくとも1桁高かった。筋肉は、バックグラウンドの放射能濃度を反映する参照組織として機能し得る。
【0096】
ペプチドブロッキング量(マウス1匹当たり40μg、1.3mg/kg)により、胃内の68Ga-PPF11Nの濃度は、雌で0.19±0.02%ID/g、雄で0.32±0.07%ID/gに減少した。
【0097】
68Ga-PPF11N排泄経路は、腎臓系を経由すると考えられているため、腎臓での高い曝露が予想される。さらに、ペプチドブロッキング量は、腎臓曝露を減少させることができず、このことは、腎臓曝露がCCK2R標的非依存性であり、かつ排泄および/または腎臓への取り込みによって引き起こされる可能性が最も高いことを実証する。
【0098】
CCK2Rは、胃内で発現し、その結果、68Ga-PPF11Nの経時的な蓄積が認められる。遅い時点(>60分)では、胃が最も高い滞留率を有する臓器であり、雌で1.71±0.56%ID/g、雄で1.93±0.18%ID/gである(排泄臓器である腎臓を除く)。さらに、ペプチドブロッキング量は、雄および雌における胃曝露を大幅に減らすことができ、胃で認められた滞留がCCK2R発現に依存することを実証した。
【0099】
68Ga-PPF11Nの生体分布は、(Andreas Ritter et at., Elucidating the structure-activity relationship of the pentaglutamic acid sequence of minigastrin with the cholecystokinin receptor subtype 2, Bioconjugate Chem. 2019, 30, 3, 657-666; Alexander W. Sauter et al., Targeting of the Cholecystokinin-2 Receptor with the Minigastrin Analog 177Lu-DOTA-PP-F11N, J Nucl Med 2019; 60:393-399)に公開される注入後4時間の177Lu-PPF11Nのものとほぼ類似している。さらに、上記のブロッキング実験は、68Ga-PPF11NのCCK2R受容体への結合が特異的であったことを実証する。このブロッキング実験はまた、ガリウム68放射性標識が、約0.04μgのPPF11N(1.3μg/kg)の非ブロッキングペプチド質量用量を有するマウスにおけるex vivo生体分布試験に対して、約10MBq/nmolの十分に高い比放射能を達成したことも示した。
【0100】
この前臨床in vivo試験は、68Ga-PPF11Nおよび177Lu-PPF11NのCCK2Rへの結合能が同等であり、その結果、マウスに注射すると、両方の分子の生体分布プロファイルが非常に似ていることを実証する。本発明者らは、この試験から、68Ga-PPF11Nが特異的CCKBR陽性癌および腫瘍に適した診断ツールであると結論づけた。68Ga-PPF11Nによる画像は、177Lu-PPF11Nによる治療が有効となる患者を事前に選択するのに特に適している可能性がある。
図1
【国際調査報告】