IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パウル・シェラー・インスティトゥートの特許一覧

特表2023-536267アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用
<>
  • 特表-アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用 図1
  • 特表-アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用 図2
  • 特表-アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用 図3
  • 特表-アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用 図4
  • 特表-アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用 図5
  • 特表-アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用 図6
  • 特表-アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-24
(54)【発明の名称】アルファ放射標識ガストリンアナログおよびCCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20230817BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20230817BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230817BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
A61K51/08 100
A61K47/64
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506231
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2021071463
(87)【国際公開番号】W WO2022023554
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/071730
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/075956
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】501494414
【氏名又は名称】パウル・シェラー・インスティトゥート
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミハル グルズミル
(72)【発明者】
【氏名】ローガー シブリ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ベーエ
(72)【発明者】
【氏名】アラン ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ユン チン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA12
4C084NA13
4C084ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA71
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA20
4H045FA34
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は、アルファ放射標識ガストリンアナログおよびペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)用途でのその使用に関する。特に、本発明は、健康な組織に対する毒性を防止および/または低減しつつ、優れた生体内分布および治療効果を示すアルファ放射標識ガストリンアナログに関する。本発明はまた、CCKB受容体陽性疾患の処置方法におけるアルファ放射標識ガストリンアナログの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Axx-Asp-Phe-NH (1)
[式中、
Axxは、メチオニンと等価なアミノ酸を表し、
Yは、アルファ放射性核種をキレートする部分を表す]
を有するアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項2】
Axxが、イソロイシン(Ile)、ノルロイシン(Nle)、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモノルロイシン(ホモNIe)、ホモシステイン(ホモCys)、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、テルロメチオニン(Te-Met)、セレノメチオニン(Se-Met)およびフェニルグリシン(Phg)からなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはNleを表す、請求項1記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項3】
Yが、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-1,4,7,10,13,16-六酢酸(HEHA)、2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-1,4,7,10,13,16-六酢酸(HEHA-NCS)、[6,6’-({9-ヒドロキシ-1,5-ビス(メトキシカルボニル)-2,4-ジ(ピリジン-2-イル)-3,7-ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン-3,7-ジイル}ビス(メチレン)ジピコリン酸](HBispa)、N,N’-ビス[(6-カルボキシ-2-ピリジル)メチル]-4,13-ジアザ-18-クラウン-6(Macropa)、6-[[16-[(6-カルボキシピリジン-2-イル)メチル]-1,4,10,13-テトラオキサ-7,16-ジアザシクロオクタデカ-7-イル]メチル]-4-イソチオシアナトピリジン-2-カルボン酸(Macropa-NCS)、ビス(フェニルイミノジアセテート)-ジアザクラウンエーテル(Macropid)またはt-Bu-カリックス[4]アレーンテトラカルボン酸から、好ましくはDOTAまたはHEHAから、より好ましくはDOTAから誘導される部分である、請求項1または2記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項4】
前記アルファ放射性核種が、212Bi、213Bi、225Ac、225Fm、211At、223Ra、149Tb、212Pb、226Thおよび227Th、好ましくは212Bi、213Bi、225Ac、225Fm、149Tb、212Pb、226Thおよび227Thから、より好ましくは213Bi、225Acおよび149Tbから選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項5】
前記アルファ放射性核種が225Acである、請求項1から4までのいずれか1項記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項6】
前記アルファ放射性核種が、以下の(i)および(ii):
(i)20keV/μm~190keV/μm、好ましくは30keV/μm~160keV/μm、より好ましくは50keV/μm~150keV/μm、特に約80keV/μmの線エネルギー付与(LET);ならびに
(ii)20μm~150μm、好ましくは30μm~120μm、より好ましくは40μm~100μmの組織浸透範囲(TPR)
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1から5までのいずれか1項記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項7】
下記式(2):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (2)
[式中、Yは、225AcをキレートするDOTAから誘導される部分を表す]
で表される、請求項1から6までのいずれか1項記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項8】
CCKB受容体陽性疾患と診断されたヒト対象に治療有効線量のアルファ放射標識ガストリンアナログを投与するステップを含む1つ以上のCCKB受容体陽性疾患の処置方法における使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログであって、
前記アルファ放射標識ガストリンアナログが請求項1から7までのいずれか1項に定義されるとおりである、アルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項9】
前記アルファ放射標識ガストリンアナログが、下記式(2):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (2)
[式中、Yは、225AcをキレートするDOTAから誘導される部分を表す]
で表される、請求項8記載の使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項10】
前記CCKB受容体陽性疾患が、胃癌(GC)、膵臓腺癌(PADC)、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)、甲状腺髄様癌(MTC)、グリオーマ、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、結腸癌、卵巣癌、乳癌、および任意のCCKB受容体陽性癌または腫瘍から選択される、請求項8または9記載の使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項11】
前記CCKB受容体陽性疾患が、SCLC、EPSCCおよびMTCから、好ましくはSCLCおよびMTCから選択され、より好ましくはMTCである、請求項8から10までのいずれか1項記載の使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項12】
ヒト対象に投与される治療有効線量が、10~40,000kBq/kg、好ましくは30~1,000kBq/kg、より好ましくは50~200kBq/kgである、請求項8から11までのいずれか1項記載の使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【請求項13】
治療有効線量のアルファ放射標識ガストリンアナログを、アルファ放射標識ガストリンアナログを必要とするヒト対象に投与するステップを含むCCKB受容体陽性疾患の処置方法であって、
前記アルファ放射標識ガストリンアナログが請求項1から7までのいずれか1項に定義されるとおりであり、好ましくは請求項7に定義されるとおりである、CCKB受容体陽性疾患の処置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルファ放射標識ガストリンアナログおよびペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)用途でのその使用に関する。特に、本発明は、健康な組織に対する毒性を防止および/または低減しつつ、優れた生体内分布および治療効果を示すアルファ放射標識ガストリンアナログ、例えば、アクチニウム-255で標識されたガストリンアナログに関する。本発明はまた、CCKB受容体陽性疾患、例えば腫瘍または癌の処置方法におけるアルファ放射標識ガストリンアナログの使用に関する。
【0002】
発明の背景
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、細胞膜を横切って化学シグナルを伝達する機能を担う膜タンパク質のスーパーファミリーを構成している。GPCRにリガンドが結合すると、GPCRの立体構造に変化が起こり、Gタンパク質を活性化および放出できるようになり、その後シグナル伝達経路がトリガーされる。
【0003】
ペプチドリガンドと選択的に結合するGタンパク質共役型受容体(GPCR)の過剰発現により、ヒトの癌に対するペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)の開発が可能になる(Lappano et al. Nat Rev Drug Discov. 2011, 10(1), 47-60)。PRRTの最も重要な目標の一つは、放射標識リガンドを標的細胞(例えば、癌細胞)に多く取り込ませ、そうして放射線に誘発されたDNA損傷および細胞死をもたらすことである。したがって、周囲の健康な組織を副作用から守る一方で、放射性医薬品の標的細胞への取り込みを増加させる戦略が検討されてきた。
【0004】
アゴニストリガンドベースの治療薬の標的となるGPCRは立体構造の変化を受け、Gタンパク質アルファサブユニット(Ga)上でGDPからGTPへの交換をもたらす。その後、GαおよびGβγサブユニットが受容体から解離すると、プロテインキナーゼAおよびC(PKA;PKC)ならびにホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)およびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を含む様々なキナーゼシグナル経路が活性化する(O’Hayre et al. Curr Opin Cell Biol. 2014, 27, 126-135)。その後、活性化されたGPCRは、アレスチン媒介性の内在化プロセスを介して脱感作を受け、それによってGPCRは、分解のためにリソゾームへ、または細胞表面へリサイクルし戻すためにエンドゾームへ輸送され得る(Rajagopal et al. Cell Signal. 2018, 41, 9-16)。この内在化プロセスにより、リガンドコンジュゲート型の放射性核種を標的細胞、例えば癌細胞へ送達することが可能になる。
【0005】
甲状腺髄様癌(MTC)は、カルシトニン産生C細胞に由来する神経内分泌腫瘍である。甲状腺癌全体の3~5%を占めており、MTCは比較的稀な癌である(Hadoux et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016, 4(1), 64-71)。残念ながら、従来の化学療法(通常はドキソルビシン単独またはシスプラチンとの併用)に対する反応は一過性に過ぎず、有用性は少数の患者に限られている。さらに、MTC細胞はヨウ素を集積しないため、放射性ヨウ素処置には反応しない(Verburg et al. Methods. 201, 55(3), 230- 237)。現在、MTCは甲状腺癌関連死亡の14%を占めており、これは、特に転移した患者においてより良好な処置が必要であることを示唆している(Roman et al. Cancer. 2006, 107(9), 2134-2142)。
【0006】
小細胞肺癌(SCLC)は、肺に発生することが最も多い悪性度の高い癌である。通常、その癌は、中心部に位置する気管気管支気道から発生しかつ縦隔に浸潤する大型で急速に進展する病変を呈する。限局病期のSCLCと診断された患者の1/3は、化学放射線療法により約25%の治癒率が得られている。一方、進行期および再発性のSCLCのいずれも、しばしば不治の病とみなされ、利用可能な処置、例えば化学療法は、通常、緩和を目的として施される。再発性のSCLC患者の予後は依然としてひどく、全生存期間の中央値は約6カ月である(Travis et al. J Thorac Oncol. 2015, 10(9), 1243- 1260)。
【0007】
肺外小細胞癌(EPSCC)とは、肺の外に発生する小細胞癌を指す。それらは消化器系および泌尿器系に現れることが最も多い。EPSCCは、小細胞癌全体の2.5%~5.0%、癌全体の0.1%~0.4%を占める稀な新生物である。EPSCCは、急速な局所進行、早期の広範囲転移、および処置後の再発を特徴とする攻撃的な自然史を有している。EPSCCと診断された患者の予後は、化学療法にもかかわらず比較的不良で、生存期間の中央値は3~27カ月で、全5年生存率は約13%である(Nakazawa et al. Oncol Lett. 2012, 4(4), 617-620)。
【0008】
GPCRファミリーに属するコレシストキニンB受容体(CCKBR、時にCCK2Rとも呼ばれる)の高発現が、MTC、グリオーマ、SCLC、結腸癌、卵巣癌等を含む様々な癌で検証されている(Reubi et al. Cancer Res. 1997, 57(7), 1377-1386)。さらに、小さなペプチドホルモン「ミニガストリン」は、CCKBRと高い親和性で結合することが知られている。したがって、これまでの研究では、PRRT、特に「セラノスティクス(theranostics)」(治療と診断)用途のための放射標識ガストリンアナログの使用が提案されている。
【0009】
Behrらは、ベータ放射源(例えば、90Y、153Sm)、オージェ電子放射源(例えば、111In、67Ga)およびアルファ放射源(例えば、213Bi、225Ac)を含む様々な放射性核種に対する安定性に優れたキレート部分(DTPA)を含むミニガストリンアナログの使用を提案している。しかしながら、放射標識ガストリンアナログは、使用される放射性核種に関わらず、CCKBRを内因性に発現する健康な組織、特に胃に集積する傾向があることが分かっている。この集積は、出血性胃炎などの健康な組織における有害な副作用(毒性)をもたらす可能性があり、その結果、処置を必要とする対象に投与され得る放射線の線量を制限する場合がある(J Nucl Med. 2001, 42(5):68P; Semin Nucl Med. 2002, 32(2), 97-109).
【0010】
国際公開第2015/067473号は、177Lu(以下、「177Lu-PP-F11N」という)で標識された式DOTA-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH(PP-F11N)のガスリンアナログを記載しており、これは腎臓における低い集積と同様に良好な腫瘍取り込み、すなわち良好な「腫瘍対腎臓比」を示す。しかしながら、最近の研究では、この化合物は、それらの内因性CCKBR発現に起因して健康な組織(すなわち胃の中)に集積する可能性があり、それによって放射線量を制限し、かつ/または有害な副作用をもたらすことが分かっている(Sauter et al. J Nucl Med. 2019, 60(3), 393-399; Rottenburger et al. J Nucl Med. 2020, 61(4), 520-526)。さらに、ルテチウム-177は、その長い組織浸透範囲(クロスファイア効果(cross-fire effect))に起因して周囲の健康な細胞に損傷を与え、特に小型の新生物および/または(微小)転移などの進行(転移)期の疾患の処置において、DNA損傷が不十分であることに起因して制限された効果を示す可能性があることが分かっている。
【0011】
上記に鑑みて、本発明の目的は、優れた生体内分布および治療効果を有し、そのうえ、健康な組織に対する毒性が低いPRRT用途の化合物を提供することである。さらに、CCKB受容体陽性疾患、特に進行期のCCKB受容体陽性疾患の処置方法に使用することができる化合物を提供することを目的とする。
【0012】
発明の概要
本発明は、優れた生体内分布および治療効果を有し、そのうえ、健康な組織に対する毒性が低い(または毒性がない)化合物、すなわちアルファ放射標識ガストリンアナログを提供する。特に、本発明者らは、特定のガストリンアナログをアルファ放射性核種で標識することにより、優れた生体内分布および治療効果を達成可能にしつつ、CCKBRを内因的に発現する健康な組織(例えば、胃の中)における放射性化合物の集積および標的細胞周囲の健康な組織の照射に起因する有害な副作用を防止および/または低減できることを見出した。アルファ放射性核種標識ガストリン化合物は、健康な組織、特に胃の中で、その高い内因性CCKBR発現に起因して毒性が増加することと関連しているので、これらの発見は特に驚くべきことである。
【0013】
したがって、本発明は、下記式(1):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Axx-Asp-Phe-NH (1)
[式中、
Axxは、メチオニンと等価なアミノ酸を表し、
Yは、アルファ放射性核種をキレートする部分を表す]
を有するアルファ放射標識ガストリンアナログに関する。
【0014】
本発明の化合物は、PRRT用途で使用することができる。したがって、本発明はまた、CCKBR陽性疾患、特にGC、PADC、SCLC、EPSCC、MTC、グリオーマ、GEP-NET、結腸癌、卵巣癌、乳癌、および任意のCCKB受容体陽性疾患の処置方法における使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログに関する。
【0015】
本発明は、特に、以下の実施形態(以下、「項目」という)を含む:
1.下記式(1):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Axx-Asp-Phe-NH (1)
[式中、
Axxは、メチオニンと等価なアミノ酸を表し、
Yは、アルファ放射性核種をキレートする部分を表す]
を有するアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0016】
2.Axxが、イソロイシン(Ile)、ノルロイシン(Nle)、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモノルロイシン(ホモNIe)、ホモシステイン(ホモCys)、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、テルロメチオニン(Te-Met)、セレノメチオニン(Se-Met)およびフェニルグリシン(Phg)からなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはNleを表す、項目1記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0017】
3.Yが、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-1,4,7,10,13,16-六酢酸(HEHA)、2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-1,4,7,10,13,16-六酢酸(HEHA-NCS)、[6,6’-({9-ヒドロキシ-1,5-ビス(メトキシカルボニル)-2,4-ジ(ピリジン-2-イル)-3,7-ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン-3,7-ジイル}ビス(メチレン)ジピコリン酸](HBispa)、N,N’-ビス[(6-カルボキシ-2-ピリジル)メチル]-4,13-ジアザ-18-クラウン-6(Macropa)、6-[[16-[(6-カルボキシピリジン-2-イル)メチル]-1,4,10,13-テトラオキサ-7,16-ジアザシクロオクタデカ-7-イル]メチル]-4-イソチオシアナトピリジン-2-カルボン酸(Macropa-NCS)、ビス(フェニルイミノジアセテート)-ジアザクラウンエーテル(Macropid)またはt-Bu-カリックス[4]アレーンテトラカルボン酸から、好ましくはDOTAまたはHEHAから、より好ましくはDOTAから誘導される部分である、項目1または2記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0018】
4.アルファ放射性核種が、212Bi、213Bi、225Ac、225Fm、211At、223Ra、149Tb、212Pb、226Thおよび227Th、好ましくは212Bi、213Bi、225Ac、225Fm、149Tb、212Pb、226Thおよび227Thから、より好ましくは213Bi、225Acおよび149Tbから選択される、項目1から3までのいずれか1つ記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0019】
5.アルファ放射性核種が225Acである、項目1から4までのいずれか1つ記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0020】
6.アルファ放射性核種が、以下の(i)および(ii):
(i)20keV/μm~190keV/μm、好ましくは30keV/μm~160keV/μm、より好ましくは50keV/μm~150keV/μm、特に約80keV/μmの線エネルギー付与(LET);ならびに
(ii)20μm~150μm、好ましくは30μm~120μm、より好ましくは40μm~100μmの組織浸透範囲(TPR)
のうちの少なくとも1つを満たす、項目1から5までのいずれか1つ記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0021】
7.下記式(2):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (2)
[式中、Yは、225AcをキレートするDOTAから誘導される部分を表す]
で表される、項目1から6までのいずれか1つ記載のアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0022】
8.CCKB受容体陽性疾患と診断されたヒト対象に治療有効線量のアルファ放射標識ガストリンアナログを投与するステップを含む1つ以上のCCKB受容体陽性疾患の処置方法における使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログであって、
アルファ放射標識ガストリンアナログが項目1から7までのいずれか1つに定義されるとおりである、アルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0023】
9.アルファ放射標識ガストリンアナログが、下記式(2):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (2)
[式中、Yは、225AcをキレートするDOTAから誘導される部分を表す]
で表される、項目8記載の使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0024】
10.CCKB受容体陽性疾患が、胃癌(GC)、膵臓腺癌(PADC)、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)、甲状腺髄様癌(MTC)、グリオーマ、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、結腸癌、卵巣癌、乳癌、および任意のCCKB受容体陽性癌または腫瘍から選択される、項目8または9記載の使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0025】
11.CCKB受容体陽性疾患が、SCLC、EPSCCおよびMTCから、好ましくはSCLCおよびMTCから選択され、より好ましくはMTCである、項目8から10までのいずれか1つ記載の使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0026】
12.ヒト対象に投与される治療有効線量が、10~10,000kBq/kg、好ましくは30~1000kBq/kg、より好ましくは50~200kBq/kgである、項目8から11までのいずれか1つ記載の使用のためのアルファ放射標識ガストリンアナログ。
【0027】
13.治療有効線量のアルファ放射標識ガストリンアナログを、アルファ放射標識ガストリンアナログを必要とするヒト対象に投与するステップを含むCCKB受容体陽性疾患の処置方法であって、
アルファ放射標識ガストリンアナログが項目1から7までのいずれか1つに定義されるとおりであり、好ましくは項目7に定義されるとおりである、CCKB受容体陽性疾患の処置方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】A431/CCKBR細胞における177Lu-PP-F11Nおよび225Ac-PP-F11Nの内在化を示す図であり、内在化および細胞結合活性を、177Lu-PP-F11Nまたは225Ac-PP-F11Nと2時間インキュベーションした後に測定し、すべての実験は3連でアッセイし、各棒は平均値±SDを表す。
図2】異種移植ヌードマウスにおける225Ac-PP-F11Nの生体内分布を示す図であり、225Ac-PP-F11N投与から1、4、24、48時間および7日間後の腫瘍、腎臓、胃、肝臓、骨および血液における放射能取り込みを組織1グラム当たりの総注入放射能の割合(%i.A.(注入放射能)/g)として示し、各棒は、平均値±SD、各時点でn=4を表す。
図3】異種移植ヌードマウスにおける225Ac-PP-F11Nおよび177Lu-PP-F11Nの生体内分布を示す図であり、225Ac-PP-F11N(黒棒)および177Lu-PP-F11N(白棒)の注射から4時間後の指定臓器での放射能取り込みの比較分析であり、各棒は、平均値±SD、n=4、P<0.01、**P<0.01、***P<0.001を表す。
図4225Ac-PP-F11N処置したマウスにおける腫瘍成長抑制および寿命延長を示す図であり、腫瘍移植後、PBSまたは30、45、60、90および120kBqの精製225Ac-PP-F11NをA431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウス群に指示どおり投与し(n=9を対照群および60kBq群から除外:n=18)、異なる処置群における腫瘍成長曲線であり、値は平均値±SDで表される。
図5】処置後の腎臓および胃の切片の組織学的分析を示す図であり、対照、60および120kBqの225Ac-PP-F11N処置したA431/CCKBR異種移植ヌードマウスから単離した臓器のHE染色の代表画像である。
図6】45kBqまたは60kBqの225Ac-PP-F11N処置後のSPECT/CT画像を示す図であり、45kBq(左)および60kBq(右)の225Ac-PP-F11N処置後に腫瘍が検出されなかったマウス2匹の111In-PP-F11NによるSPECT-CT画像である。
図7225Ac-PP-F11Nの品質管理を示す図であり、HPLC精製中に回収したフラクションからのサンプルを薄層クロマトグラフィー(TLC)プレート(水/アセトニトリル、40/60、v/v中の0.1Mコハク酸)に溶出し、溶出を停止し、溶出から30分後に蛍光体スクリーン(MultiSensitive;PerkinElmer社から入手可能)をTLCプレートに露光し(露光時間:2分)、次いでCyclone Plus Storage Phosphor System(PerkinElmer社製)を用いて300dpiの解像度でスキャンし、活性分布を測定し、(A)主に未結合の放射性核種(221Fr、213、Bi、209Tl)に起因するガンマ線放出が観測され、(B)蛍光体スクリーン(MultiSensitive;PerkinElmer社製)を溶出から24時間後に同じTLCプレートに露光し(露光時間:2分)、スキャンして活性分布を測定したところ、α崩壊した225Acに由来する娘核種のみを示すようになった。
【0029】
発明の詳細な説明
1.定義
本明細書で使用される「ガストリンアナログ」という表現は、内因性ペプチドホルモン「ガストリン」に構造的に関連し、CCKBRに結合することができる化合物(ペプチド)のクラスを意味する。特に、「ガストリンアナログ」という表現は、C末端ペンタペプチドGly-Trp-Dxx-Asp-Phe-NHを含む化合物を定義し、式中、Dxxは、メチオニンと等価なアミノ酸であり、ガストリン、コレシストキニン(CCK)およびミニガストリンなどのCCKBR結合内因性ペプチドホルモンに見られるC末端アミノ酸配列(Leu-(Glu)-Glu-Glu-Glu-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)と類似している。ガストリンアナログは、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)などの放射性金属用のキレート部分を共有結合できるように化学的に修飾することが可能である。
【0030】
本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、少なくとも1つのアミノ基と少なくとも1つの酸性基、好ましくはカルボキシル基とを含むか、またはそれらから誘導される化合物を指す。アミノ基と酸性基との間の距離は、特に限定されない。α-、β-、およびγ-アミノ酸が適しているが、α-アミノ酸、特にα-アミノカルボン酸が特に好ましい。この用語は、天然に存在するアミノ酸だけでなく、天然には見られない合成アミノ酸も包含する。他に規定がない限り、または文脈によって他に指示されない限り、隣接するアミノ酸基の間のすべての接続は、ペプチド(骨格アミド)結合によって形成される。本明細書に記載されるペプチドは、左から右へ従来のアミノ→カルボキシ方向で列挙される。
【0031】
本明細書で使用される「メチオニンと等価なアミノ酸」(または「メチオニン生物学的等価体」)という表現は、メチオニンと同様の形状および/または電子特性を有する天然もしくは非天然アミノ酸を指す。その結果、メチオニン残基がメチオニンと等価なアミノ酸で置き換えられた化合物は、メチオニンを含む元の化合物と同様の特性、例えば、結合親和性、アゴニスト活性等を示すようになる。ここで、「等価」という用語は、前述のアミノ酸の骨格および/または側鎖が、例えば、立体的、電子的等にメチオニンを模倣するように定義されているという点でメチオニンと本質的に等価である、すべてのアミノ酸を包含することを意味する。メチオニンと等価なアミノ酸の例としては、イソロイシン(Ile)、ノルロイシン(Nle)、ホモシステイン(ホモCys)、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモノルロイシン(ホモNIe)、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、テルロメチオニン(Te-Met)、セレノメチオニン(Se-Met)およびフェニルグリシン(Phg)等が挙げられる。いくつかの態様において、「メチオニンと等価なアミノ酸」という表現は、ミニガストリンのアミノ酸配列においてメチオニンを置き換えた場合、CCKBRに対するミニガストリンの薬理(アゴニスト)活性の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%を保持するガストリンアナログを生成するアミノ酸残基を意味する。薬理活性は、Blaekerら(Regulatory Peptides 2004, 118, 111-117)により記載されているように、ガストリンアナログ刺激細胞におけるカルシトニンレベルの細胞内上昇を測定することにより決定することができる。
【0032】
本明細書で使用される「アルファ放射性核種を構成する部分」(または「アルファ放射性核種をキレートもしくは(共有)結合する部分」)という表現は、(i)アルファ放射性核種に電子を供与してそれと配位錯体を形成することができる、すなわち、少なくとも1つの配位共有結合(双極子結合)をそれと形成することによって、または(ii)211Atおよび223Raなどのアルファ放射性核種を共有結合することができる部分(キレート剤もしくはリガンド)を指す。キレート機構は、キレート剤および/または放射性核種に依存する。例えば、DOTAは、カルボキシレート基およびアミノ基(供与基)を介して放射性核種、例えば225Acを配位させ、それによって高い安定性を有する錯体を形成すると考えられている(Dai et al. Nature Com. 2018, 9, 857)。225Acなどのアルファ放射性核種をキレートすることができる部分の非限定的な例としては、DOTA、1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-1,4,7,10,13,16-六酢酸(HEHA)、2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-1,4,7,10,13,16-六酢酸(HEHA-NCS)、[6,6’-({9-ヒドロキシ-1,5-ビス(メトキシカルボニル)-2,4-ジ(ピリジン-2-イル)-3,7-ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン-3,7-ジイル}ビス(メチレン)ジピコリン酸](HBispa)、N,N’-ビス[(6-カルボキシ-2-ピリジル)メチル]-4,13-ジアザ-18-クラウン-6(Macropa)、6-[[16-[(6-カルボキシピリジン-2-イル)メチル]-1,4,10,13-テトラオキサ-7,16-ジアザシクロオクタデカ-7-イル]メチル]-4-イソチオシアナトピリジン-2-カルボン酸(Macropa-NCS)、ビス(フェニルイミノジアセテート)-ジアザクラウンエーテル(Macropid)、t-Bu-カリックス[4]アレーンテトラカルボン酸が挙げられる。
【0033】
本明細書で使用される「化合物から誘導される部分」という表現は、隣接する部分に結合した部分(Y)を指し、この部分(Y)は、隣接する部分への結合を担う構造要素によってのみ、それが誘導される分子と異なる。これは、既存の官能基によって形成された共有結合、またはこの目的のために新たに導入された共有結合と隣接する官能基とを含むことができる。例えば、「1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)から誘導される部分」という表現は、ペプチド-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Axx-Asp-Phe-NHのN末端にカルボキシル基を介して共有結合し、ペプチド(アミド)結合を形成したDOTA分子を指す(はDOTA部分への共有結合を示す)。
【0034】
この関連における「アルファ放射性核種」(または「アルファ粒子放出核種」、「アルファ放射源」、「アルファ」)という表現は、アルファ粒子を放出することによって放射性崩壊を受ける不安定な元素(放射性核種)を意味する。アルファ放射性核種の非限定的な例としては、212Bi、213Bi、225Ac、225Fm、211At、223Ra、149Tb、212Pb、226Thおよび227Thが挙げられる。
【0035】
本明細書で使用される「癌」という用語は、哺乳類の組織において、細胞が異常に成長して悪性腫瘍を形成することを特徴とする病理状態を意味し、この腫瘍は、他の組織または身体の一部に浸潤するかまたは広がり、転移として知られる「二次」腫瘍を形成する可能性がある。腫瘍は1つ以上の癌細胞を含む。
【0036】
本明細書で使用される「内在化」という用語は、分子、例えばアルファ放射標識ガストリンアナログが細胞膜に抱き込まれ、細胞内に引き込まれる生物学的プロセスを指す。その結果、分子、例えばアルファ放射標識ガストリンアナログは、細胞内に存在するようになる。
【0037】
「細胞取り込み」という表現は、分子が細胞膜に内在化および/または結合される生物学的プロセスを指す。その結果、分子は、細胞内だけでなく細胞膜にも存在することができるようになる。類似の方法で、「腫瘍取り込み」(または「腫瘍細胞取り込み」)という表現は、分子、例えば放射標識ガストリンアナログが腫瘍(癌)細胞によって取り込まれる生物学的プロセスを指す。その結果、分子、例えば放射標識ガストリンアナログは、腫瘍(癌)細胞内および/または細胞膜に存在することができるようになる。
【0038】
本明細書で使用される「CCKB受容体陽性疾患」という表現は、細胞表面上のCCKBRの(過剰)発現を特徴とする疾患、例えば腫瘍または癌を指す(Reubi et al. Cancer Res. 1997, 57(7), 1377-1386; Dufresne et al. Physiol Rev 2006, 86, 805-847)。CCKBRの(過剰)発現、特に細胞表面上の発現は、当該技術分野で知られている技術、例えば、以下にさらに記載するような免疫組織化学またはウェスタンブロット分析によって決定することができる。CCKBR陽性疾患の非限定的な例としては、胃(stomach)癌(GC)、膵臓腺癌(PADC)、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)、甲状腺髄質癌(MTC)、グリオーマ、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、結腸癌、卵巣癌、乳癌が挙げられる。本開示の文脈では、「CCKB受容体陽性疾患」という表現は、原発腫瘍が身体の別の部分に転移して広がることによって生じる疾患、すなわち進行期疾患を包含することを意味する。例えば、CCKB受容体(陽性)疾患(癌)が大腸に生じ、身体の別の部分に転移する場合、この身体の別の部分に見出される癌細胞は、(CCKBR陽性)結腸癌細胞である。
【0039】
本明細書で使用される「CCKBR陽性疾患と診断されたヒト対象」という表現は、前述のCCKBR陽性疾患の少なくとも1つに関して陽性診断、例えばMTCまたはSCLCの陽性診断を有するヒト対象を指す。これに関連して、疾患の診断および状態は、例えば米国癌協会(ACS)から入手可能なような確立されたスクリーニングガイドラインに基づいて医師によって決定可能である。例えば、「陽性診断」は、対象が組織学的および/または細胞学的な疾患の状態、ならびに任意選択で以下のうちの1つ以上を有することを意味し得る:
(1)少なくとも1つの全身処置レジメン後の、X線写真で記録された疾患の進行または再発、
(2)最後の抗癌剤治療後に、固形腫瘍の応答評価規準1.1(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors 1.1)(RECIST1.1)に従って記録された、少なくとも1つの非照射頭蓋外測定可能標的病変、
(3)固形腫瘍の陽電子放出断層撮影応答規準1.0(Positron Emission Response Evaluation Criteria in Solid Tumors 1.1)(PERCIST1.0)に従った少なくとも1つの腫瘍病変、および
(4)米国東海岸癌臨床試験グループ(Eastern Cooperative Oncology Group)(ECOG)スコアが0~2であること。
【0040】
本明細書で使用される「有効線量」(または「有効量」)という表現は、疾患の処置を行うために対象(患者)に投与される放射能の総量(ベクレル/キログラム単位)、例えば、癌細胞の増殖を低減もしくは停止するため、および/または増殖する癌細胞の数を低減するために必要な線量を指す。処置の過程中に1つ以上の(投与)サイクルを含む場合、有効線量は、過程全体にわたって、すなわちすべてのサイクルにわたって対象に投与される放射能の総量を指す。この関連における「サイクル」という用語は、化合物を対象に投与し(処置時間)、次いで、別のサイクルに入る前に患者を休息させる(休息時間)期間を指す。処置は、1つ以上のサイクル、例えば最大10サイクルを含むことができる。一連のサイクルは、「過程」と通常呼ばれ、各サイクルの長さに応じて、数ヶ月、例えば3~6ヶ月にわたって継続され得る。有効線量は、線量測定に基づき医師によって決定可能である。任意の特定の対象/患者に対する有効線量および投与頻度は変化し得、患者の年齢、体重、総合的な健康状態、性別、食事、投与の方式および時間、排泄率、疾患の重症度、ならびに治療を受けている個体を含む様々な要因に依存する。これらの要因は、有効線量を決定する際に医師によって考慮される。
【0041】
本明細書で「好ましい」実施形態/特徴に言及する場合、これらの「好ましい」実施形態/特徴の組み合わせも、この「好ましい」実施形態/特徴の組み合わせが技術的に意味を持つ限り、開示されているとみなされるものとする。
【0042】
以下、本発明の説明および特許請求の範囲において、「含む」および「備える」という用語の使用は、言及された要素に加えて、追加の言及されていない要素が存在し得るように理解されるものとする。しかしながら、これらの用語は、より限定された実施形態として、技術的に意味がある限り、追加の言及されていない要素が存在しなくてもよいように、「からなる」という用語も開示するものと理解されたい。
【0043】
文脈が他に指示せず、かつ/または代替的な意味が本明細書に明示的に提供されない限り、すべての用語は、lUPACゴールドブック(2017年11月1日のステータス)、またはThe Dictionary of Chemistry,Oxford,6th Ed.によって反映される、当該技術分野で一般的に受け入れられている意味を有することが意図される。
【0044】
2.概要
本発明は、特定のガストリンアナログ(すなわち式(1)のガストリンアナログ)をアルファ放射性核種、特に225Acで標識することにより、標的細胞、例えば癌細胞への優れた取り込みをもたらし、優れた生体内分布および治療効果が生じながら、健康な組織、すなわちCCKBRを内因的に発現する組織および/または標的細胞周囲の組織に対する毒性(有害な副作用)は防止および/または低減されるという発見に基づいている。アルファ標識化合物の使用は、細胞毒性副作用、例えば放射線性腎症、出血性胃炎等と関連しており、おそらく放出されたアルファ粒子の高エネルギーに起因しているので、これらの結果は特に驚くべきことである。
【0045】
本発明の化合物は、CCKBR陽性疾患、特にGC、PADC、SCLC、EPSCC、MTC、グリオーマ、GEP-NET、結腸癌、卵巣癌、乳癌、および任意のCCKB受容体陽性疾患の処置方法に使用することができる。さらに、本発明の化合物は、例えば、転移性MTCまたは転移性SCLCの進行(転移)期に達したCCKBR陽性疾患の処置に特に適していることが予想される。
【0046】
3.アルファ放射標識ガストリンアナログ
本発明は、アルファ放射性核種、すなわち225Acで標識されたガストリンアナログ(化合物)に関する。本発明の化合物は、CCKBRを発現する標的細胞、例えば癌細胞に対して優れたインビボ生体内分布および治療効果を示す。さらに、本発明の化合物は、CCKBRを内因的に発現する組織および/または標的細胞周囲の組織に対して低い毒性を示す(または毒性を示さない)。
【0047】
いかなる理論にも縛られることなく、式(1)のガストリンアナログを使用することにより、CCKBRを発現する細胞における優れた標的化および取り込み効果を達成可能にして優れた生体内分布が得られる一方で、アルファ放射性核種で標識することにより、放出されるアルファ粒子の高エネルギーに起因する優れた治療効果(すなわち、標的細胞におけるDNA損傷のレベルの高さ)を達成可能にすると考えられている。さらに、本発明者らは、驚くべきことに、アルファ放射標識ガストリンアナログの使用は、CCKBRを内因的に発現する健康な組織(例えば、胃の中)および/または標的細胞周囲において有害な副作用(毒性)をもたらさないことを観察した。これらの結果は、本発明の化合物が健康な組織において低レベルの集積を示し、また、アルファ放射性核種の短い浸透範囲(すなわち、クロスファイア効果の減少)に起因して、周辺組織へのアルファ放射性核種の好ましくない放射も有意に減少すると推測される。これは、177Luなどの他の放射性核種が、その長い浸透範囲(クロスファイア効果)に起因して、周囲の健康な組織に損傷を与える可能性があることと対照的である。
【0048】
本発明のアルファ放射標識ガストリンアナログは、下記式(1):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Axx-Asp-Phe-NH (1)
[式中、
Axxは、メチオニンと等価なアミノ酸を表し、Yは、アルファ放射性核種をキレートする部分を表す]で表される化合物である。
【0049】
一実施形態において、Axxは、イソロイシン(Ile)、ノルロイシン(Nle)、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモノルロイシン(ホモNIe)、ホモシステイン(ホモCys)、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、テルロメチオニン(Te-Met)、セレノメチオニン(Se-Met)およびフェニルグリシン(Phg)からなる群から選択されるメチオニンと等価なアミノ酸を表す。好ましくは、Axxは、Nleである。
【0050】
一実施形態において、Yは、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-1,4,7,10,13,16-六酢酸(HEHA)、2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-1,4,7,10,13,16-六酢酸(HEHA-NCS)、[6,6’-({9-ヒドロキシ-1,5-ビス(メトキシカルボニル)-2,4-ジ(ピリジン-2-イル)-3,7-ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン-3,7-ジイル}ビス(メチレン)ジピコリン酸](HBispa)、N,N’-ビス[(6-カルボキシ-2-ピリジル)メチル]-4,13-ジアザ-18-クラウン-6(Macropa)、6-[[16-[(6-カルボキシピリジン-2-イル)メチル]-1,4,10,13-テトラオキサ-7,16-ジアザシクロオクタデカ-7-イル]メチル]-4-イソチオシアナトピリジン-2-カルボン酸(Macropa-NCS)、ビス(フェニルイミノジアセテート)-ジアザクラウンエーテル(Macropid)またはt-Bu-カリックス[4]アレーンテトラカルボン酸から誘導される部分を表す。好ましくは、Yは、DOTAまたはHEHAから誘導される部分を表す。より好ましくは、Yは、DOTAである。
【0051】
好ましい実施形態において、AxxはNleであり、YはDOTAである。以下において、この化合物は、「PP-F11N」と表記する。
【0052】
一実施形態において、アルファ放射性核種は、212Bi、213Bi、225Ac、225Fm、211At、223Ra、149Tb、212Pb、226Thおよび227Thから選択される。好ましくは、アルファ放射性核種は、212Bi、213Bi、225Ac、225Fm、149Tb、212Pb、226Thおよび227Thから選択される。より好ましくは、アルファ放射性核種は、213Bi、225Acおよび149Tbから選択され、最も好ましくは、アルファ放射性核種は225Acである。
【0053】
一実施形態において、アルファ放射性核種は、以下の(i)および(ii):
(i)20keV/μm~190keV/μm、好ましくは30keV/μm~160keV/μm、より好ましくは50keV/μm~150keV/μm、特に約80keV/μmの線エネルギー付与(LET);ならびに
(ii)20μm~150μm、好ましくは30μm~120μm、より好ましくは40μm~100μmの組織浸透範囲(TPR)
のうちの少なくとも1つ、好ましくは両方を満たす。
【0054】
より好ましい実施形態において、アルファ放射標識ガストリンアナログは、下記式(2):
Y-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH (2)
[式中、Yは、225AcをキレートするDOTAから誘導される部分を表す]で表される。以下において、この化合物は、「225Ac-PP-F11N」と表記する。
【0055】
アルファ放射標識ガストリンアナログは、ヒトの医学における使用のための医薬組成物の形態で提供することができる。そのような組成物は、典型的には、治療有効線量の本発明のアルファ放射標識ガストリンアナログと、1つ以上の他の成分、例えば担体、希釈剤等とを含む。一態様において、医薬組成物は、mTOR阻害剤、特にラパマイシンおよび/またはラパログ(rapalog)を含むことができる。別の態様において、医薬組成物は、mTOR阻害剤、特にラパマイシンおよび/またはラパログを含まない。この関連における「mTOR阻害剤」という用語は、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)を阻害する化合物を指す。「ラパマイシン」(シロリムス)という用語は、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)を阻害することによって免疫抑制特性を示すことが当該技術分野で知られているマクロライド化合物を指し、一方、「ラパログ」(「ラパマイシン-アナログ」の略)という用語は、FK結合タンパク質12に結合することによって複合体1(mTORC1)の哺乳類ラパマイシン標的タンパク質を阻害することが知られているラパマイシンに構造的に関連する化合物のクラスを指す。ラパログの例としては、エベロリムス(RAD001)、テムシロリムス(CCI-779)およびリダホロリムス(AP-23573、MK-8669)が挙げられる。
【0056】
4.疾患の処置方法における化合物の使用
本発明の化合物は、1つ以上のCCKBR陽性疾患の処置方法に使用することができる。処置は、治療的および/または予防的処置とすることができ、その目的は、腫瘍細胞の標的破壊を介してCCKBR陽性疾患の進行を予防、低減または停止することである。いくつかの態様において、処置は、処置を受けない場合に予想される生存期間と比較して、患者の生存期間を延長することができる。
【0057】
CCKBR陽性疾患の処置方法は、1つ以上のCCKBR陽性疾患と診断されたヒト対象に、治療有効線量のアルファ放射標識ガストリンアナログ(またはそれを含む医薬組成物)を投与するステップを含む。対象に投与されるアルファ放射標識ガストリンアナログは、上述の式(1)で表される化合物である。好ましくは、対象に投与される化合物は、アルファ放射性核種で標識されたPP-F11Nである。
【0058】
好ましい一実施形態において、対象に投与されるアルファ放射標識ガストリンアナログは、225Ac-PP-F11Nである。
【0059】
処置すべきCCKB受容体(陽性)疾患は、標的細胞がCCKBRの発現によって特徴付けられる(CCKBR陽性)ことを条件として、特に限定されない。一実施形態において、処置すべきCCKB受容体陽性疾患は、胃(stomach)癌(GC)、膵臓腺癌(PADC)、小細胞肺癌(SCLC)、肺外小細胞癌(EPSCC)、甲状腺髄質癌(MTC)、グリオーマ(例えば星状細胞腫)、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、結腸癌、卵巣癌、乳癌、および任意のCCKB受容体陽性癌または腫瘍から選択される。
【0060】
一実施形態において、処置すべきCCKB受容体陽性疾患は、SCLC、EPSCCおよびMTCから選択される。好ましくは、処置すべきCCKB受容体陽性疾患は、SCLCおよび/またはMTCである。より好ましくは、CCKB受容体陽性疾患は、MTCである。
【0061】
さらに、本発明の化合物、例えば、225Ac-PP-F11Nは、進行(転移)期に達した前述の疾患のうちの少なくとも1つと診断された対象に投与した場合に、放出されたアルファ粒子が、播種性癌細胞において高レベルのDNA二本鎖切断をもたらすことができるため、優れた治療効果を示すことが予想される。これは、ルテチウム-177などの他の放射性核種が、DNA修復機構の活性化および放射線抵抗性におそらく起因して、播種性疾患処置の効果が不十分であり得るのとは対照的である。したがって、処置すべき疾患は、進行期の任意のCCKB受容体陽性疾患、好ましくは進行期の前述のCCKB受容体陽性疾患、特に転移性MTCまたは転移性SCLCから選択される1つ以上であり得る。
【0062】
観察される治療効果は、癌細胞数の減少、腫瘍サイズの縮小、癌細胞の末梢臓器への浸潤の抑制もしくは遅延、腫瘍増殖の抑制、および/またはCCKBR陽性疾患に関連する症候の1つ以上の緩和であり得る。
【0063】
治療有効線量は、日常的に医師によって決定可能である。任意の特定の対象/患者に対する線量レベルおよび投与頻度は変化し得、使用される化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用時間、患者の年齢、体重、総合的な健康状態、性別、食事、投与の方式および時間、排泄率、薬物の組み合わせ、特定の症状の重症度、ならびに治療を受けている個体を含む様々な要因に依存する。これらの要因は、治療有効線量を決定する際に医師によって考慮される。
【0064】
一実施形態において、患者に投与されるアルファ放射標識ガストリンアナログの治療有効線量は、10~40,000kBq/kgのものである。好ましくは、治療有効線量は、30~1,000kBq/kg、より好ましくは、50~200kBq/kgのものである。アルファ放射標識ガストリンアナログは、1日1回または数回投与することができる。
【0065】
分子は、1回で、または一連の処置にわたって、すなわち1回以上の投与サイクルにわたって患者に投与することができる。特に、本化合物は、2~10週間のサイクルごとに1回または2回、好ましくは4~8週間のサイクルごとに1回、より好ましくは6週間のサイクルごとに1回または8週間のサイクルごとに1回、対象に投与することができる。化合物が1サイクル当たり2回投与される場合、治療有効線量は2つの半線量に分割され、これらがサイクルの経過にわたって別々に投与される。サイクルの数は、1サイクル~最大10サイクル、好ましくは2サイクル~8サイクル、より好ましくは4サイクル~6サイクルとすることができる。
【0066】
一態様において、本化合物は、以下の投与パターンのうちの1つに従って対象に投与される:
(A)少なくとも2回の6週間サイクルについて6週間サイクルごとに1回、好ましくは3回の6週間サイクルについて6週間サイクルごとに1回;または
(B)少なくとも2回の8週間サイクルについて8週間サイクルごとに1回、好ましくは、3回の8週間サイクルについて8週間サイクルごとに1回。
【0067】
一実施形態において、1つ以上のCCKBR陽性疾患と診断された患者は、本化合物の投与前に、以下の(a)~(h)のうちの1つ以上を満たす:
(a)1.5×ULN以下の血清クレアチニンまたは慢性腎臓病疫学共同研究(CKD-EPI)式に基づく50mL/分超の推定糸球体濾過量(eGFR);
(b)1500細胞/μL以上の血中絶対好中球数(ANC);
(c)100,000細胞/μL以上の血小板数;
(d)9g/dL以上の血中ヘモグロビン;
(e)3×ULN以下のASTまたはALT;
(f)20g/L超の血清アルブミン;
(g)2.5mg/dL以下の総ビリルビン;
(h)5×ULN未満のアルカリフォスファターゼ。
【0068】
一実施形態において、本方法は、対象が上記(a)~(h)の1つ以上を満たすかどうかを判定するステップを含むことができる。
【0069】
一実施形態において、化合物は、注射によって、特に静脈内注射によって、対象に投与される。これに関連して、化合物は、水性担体(例えば、水または0.9%塩化ナトリウム)などの薬学的に許容され得る注射用担体中の溶液として提供することができる。有効線量は、1~200mL、好ましくは5~50mL、例えば約10mLの容量で投与することができる。注入速度は、35~60mL/h、例えば約50mL/hとすることができる。
【0070】
一実施形態によれば、本方法は、以下のステップ:
(α)薬学的に許容され得る注射用担体に化合物を溶解して化合物の注射用溶液を得ることによって、化合物の注射用溶液を調製するステップと、
(β)ステップ(α)から得られた化合物の注射用水溶液を、好ましくは、20~60分、例えば30~45分の注入期間にわたって35~60mL/h、例えば50mL/hの注入速度で患者に投与するステップと
を含む。
【0071】
更なる一実施形態によれば、本化合物は、化学療法剤、免疫調節剤、プロトンポンプ阻害剤(PPI)またはヒスタミンH受容体拮抗剤などの1つ以上の他の治療剤もしくは治療と同時に、その前および/または後に投与される。
【0072】
一態様において、化合物(またはそれを含む医薬組成物)は、ラパマイシンおよび/またはラパログと組み合わせて(すなわち、同時に、その前および/または後に)投与される。更なる一態様では、本化合物は、エベロリムスと組み合わせて(すなわち、同時に、その前および/または後に)投与される。さらに別の態様では、本化合物は、ラパマイシンおよび/またはラパログと組み合わせて(すなわち、同時に、その前および/または後に)投与されることはない。
【0073】
一実施形態において、本発明の化合物は、化学療法剤および/または免疫調節剤などの1つ以上の他の治療剤もしくは治療と同時に、その前または後に投与することができる。使用され得る治療剤または治療薬の例としては、アルキル化剤、アルカロイドまたはキナーゼ阻害剤などの抗腫瘍剤、免疫調節剤、およびそれらの薬学的に許容され得る塩および誘導体が挙げられる。
【0074】
5.アルファ放射標識ガストリンアナログの調製
以下では、放射標識ガストリンアナログの調製のための方法を提供する。ガストリンアナログは、オンレジンペプチドカップリングおよび収束戦略を含む、標準的なFmocベースの固相ペプチド合成(SPPS)に依存して合成することができる。本発明のガストリンアナログを調製し、放射標識するために使用することができる一般的な戦略および方法論は、当業者によく知られており、また、以下にさらに記載される。
【0075】
いくつかの態様において、本開示は、225Acなどのアルファ放射性核種で標識された化合物を精製し、その純度を測定するための方法を提供する。アルファ放射標識化合物、例えば225Ac標識化合物の精製および品質管理は、アルファ放射性核種が通常α崩壊を示すが、場合によってはγ放出を示さない短距離放射源であるため、特に困難である可能性がある。したがって、アルファ放射性核種で標識された化合物は、従来の放射線写真撮影システムでは(直接)検出できない可能性がある。さらに、精製溶液中の濃度が低い(典型的には、ピコモル範囲)ため、標準的な検出方法、例えば紫外線吸光法によるアルファ放射標識化合物の検出が不可能な場合もある。
【0076】
したがって、本発明者らは、アルファ放射標識化合物を精製し、その純度を測定する方法を開発した。この方法を、225Acで標識されたDOTA-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH225Ac-PP-F11N)を例示的な化合物として用いて以下に記載する。
【0077】
(1)キレート部分を含む化合物(例えば、PP-F11N)を225Acで標識し(例えば、後述のように溶液中で化合物を225Acと反応させて)、標識液をクロマトグラフィー法(HPLC)により精製し、溶出液のフラクションを回収する。
【0078】
(2)フラクションをサンプリングし、適切な溶媒系(例えば、水/アセトニトリル、40/60、v/v中の0.1Mコハク酸)を用いて、固定相を含む固体支持体上(例えば、TLCプレート上)で個別に展開(溶出)し、その後、標識溶液中に存在する(結合していない)γ線放出核種が減衰し、225Acに由来する娘核種(225Acのα崩壊により生成)のみが存在するまで、所定の期間(例えば、6~24時間の期間)静置させる。
【0079】
(3)プレートの活性分布を測定し、フラクションに含まれる225Ac-標識化合物の純度を測定することができる。
【0080】
TLC上の活性分布は、Cyclone(登録商標)Plus Storage蛍光体システムおよびMultiSensitiveまたはSuper Resolution storage蛍光体スクリーン(PerkinElmer社(スイス国)から入手可能)を使用して測定することができ、これらは適切に較正されていてもよい。測定を行うには、蛍光体スクリーン(白色ライトボックスで予備的消去)をTLCプレートに照射し、Cyclone(登録商標)Plus放射性物質画像撮影システムに設置し、スキャンする。露光時間(蛍光体スクリーン→TLCプレート)は、1~60分、好ましくは2~10分、より好ましくは2分とすることができる。回収したフラクション中の化合物の純度/定量の測定は、OptiQuant(登録商標)ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0081】
上記の方法により、アルファ放射標識化合物を高感度で検出および定量することができる。
【0082】
6.実施例
6.1略語のリスト
DIEA:ジイソプロピルエチルアミン
DMEM:ダルベッコ変法イーグル培地
DMF:ジメチルホルムアミド
DTT:ジチオスレイトール
ESI:エレクトロスプレーイオン化法
FBS:ウシ胎児血清
HATU:1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート
HBTU:3-[ビス(ジメチルアミノ)メチリウミル]-3H-ベンゾトリアゾール-1-オキシドヘキサフルオロホスファート
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
IU:国際単位
MS:質量分析
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
SQD:シングル四重極検出器
SPECT:単光子放射型コンピュータ断層撮影法
SPPS:固相ペプチド合成法
TBST:Tween20入りトリス緩衝生理食塩水
TFA:トリフルオロ酢酸
TIS:トリイソプロピルシラン
TLC:薄層クロマトグラフィー
UPLC:超高速液体クロマトグラフィー
【0083】
6.2 材料および方法
本発明の化合物の調製および評価には、以下の材料および方法を使用することができる。
【0084】
6.2.1 細胞培養、トランスフェクションおよび処理
前述(Aloj et al., J Nucl Med 2004, 45(3), 485-94)のとおり生成されたCCKBRを過剰発現するヒト類表皮癌A431安定細胞株を、10%FBS(Bio Concept社、スイス国)、2mMグルタミンおよび抗生物質(0.1mg/mLストレプトマイシン、100IUペニシリン)を添加したDMEM中、37℃、5%COを含む加湿型インキュベーター内で培養することができる。
【0085】
6.2.2 ガストリンアナログの調製
本明細書に記載されるガストリンアナログは、Activo-P-11自動ペプチド合成装置(Activotec社)およびリンクアミドレジン(投入:0.60mmol/g;Novabiochem社)を用いたオンレジンペプチドカップリングおよび収束戦略を含む標準FmocベースのSPPSによって調製することができる。
【0086】
アミド結合形成のためのカップリング反応は、DIEA(6当量)の存在下、HBTU(2.9当量)で活性化した3当量のFmocアミノ酸を用いて室温で30分かけて行う。Fmoc脱保護は、DMF中の20%ピペリジン溶液で行う。N末端標識部分のカップリングは、DIEA(6当量)の存在下、HATU(2.9当量)で活性化した3当量のDOTAトリス-t-Buエステル(Novabiochem社)を用いて室温で30分かけて行う。
【0087】
TFA/TIS/水(95/2.5/2.5、v/v/v)で60分間処理し、側鎖を同時に脱保護した状態でレジンからペプチドを切断する。切断混合物を濃縮した後、粗ペプチドを冷ジエチルエーテルで沈殿させ、遠心分離を行う。
【0088】
ペプチドは、XSelectペプチドCSH C18 OBD Prepカラム(130Å、5μm、19mm×150mm)を備えたSQD質量分析計に結合したWaters Autopurification HPLCシステムで、溶媒系A(水中0.1%TFA)およびB(アセトニトリル中0.1%TFA)を用いて流速25mL/分で30分にわたってBの20~60%グラジエントで精製することができる。適切なフラクションを関連付け、濃縮し、凍結乾燥する。純度は、CSH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1mm×50mm)を備えたSQD質量分析計に結合したWaters Acquity UPLCシステムで、溶媒系A(水中0.1%TFA)およびB(アセトニトリル中0.1%TFA)を用いて流速0.6mL/分で5分にわたってBの5~85%グラジエントで決定する。
【0089】
MS分析は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェースを用いて、ポジティブモードおよびネガティブモードで行うことができる。
【0090】
6.2.3 ガストリンアナログの放射標識化
(a)アルファ放射性核種、すなわちアクチニウム-225で放射標識したガストリンアナログを調製するために、金属不含水中のN末端DOTAコンジュゲート型のガストリンアナログDOTA-(DGlu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH(PP-F11N;上記セクション6.2.1に記載の方法で調製)のストック溶液を調製し、-20℃で保存する(濃度:0.58mM)。
【0091】
6μLの225Ac溶液(0.1M HCl中6MBq;ITG GmbH社(ドイツ国)から入手可能)、100μLのPP-F11Nストック溶液(0.58mmol)、120μLの酢酸アンモニウム(0.4M、pH5.5)および21μLのアスコルビン酸(酢酸ナトリウム緩衝液で新たに調製した100mg/mL;全pH=5~5.5)を、清潔で滅菌したEppendorf(登録商標)チューブ(1.5mL)中で90℃にて15分間加熱した。次いで、反応混合物中の任意の遊離金属を錯形成させるために、金属不含水中の0.5mM EDTA2μLを加える。
【0092】
反応バッチは、オートサンプラー、放射線モニター(RM-19、EBERLINE Instrument Corporation社、ニューメキシコ州サンタフェ)、UV検出器(Pharmacia LKB-UV-M II)、Dr. Maisch社製の逆相C-18 Stability BS-C23カラム(150×4.6mm)(5μm、150×4.6mm、XterraTM、MS、Waters社、米国)を接続した515 HPLCポンプおよびL-7100ポンプを備え付けたMerck Hitachi社製LaChrom 2D HPLCシステムを用いて浄化することができる。移動相は、金属不含水(A)およびアセトニトリル(VWR Chemicals社、米国;HPLC-グレード)(B)中で0.1%TFA(Sigma-Aldrich社、米国)からなる。サンプルの注射後、溶媒B中の溶媒A(68%)を流速3mL/分で5分間かけて適用して、すべてのサンプルをカラム上に投入する。次いで、溶媒B中の溶媒A(50~10%)のグラジエントを流速1mL/分で25分間かけて適用し、225Ac-PP-F11Nと非標識PP-F11Nとを分離する。225Ac標識PP-F11Nの溶出時間は、非標識PP-F11NのUVピークの後、非標識PP-F11Nよりも長くなっている。清潔で滅菌したEppendorf(登録商標)チューブに250μL 100mg/mLの新鮮な酢酸ナトリウム緩衝液を入れて225Ac-PP-F11Nフラクションを回収することができる。
【0093】
得られた225Ac-PP-F11Nフラクションの純度は、そのサンプルを、水/アセトニトリル40/60(v/v)中の0.1Mコハク酸を溶離液として用いてTLCプレート(RP-18修飾シリカゲル60でコートしたTLCプレート、5×10cm;Merck社)上で展開することにより測定することができる。TLCプレートを24時間静置させ、その後、MultiSensitive Storage蛍光体スクリーン(PerkinElmer社から入手可能)を含むカセットに設置する。2分後、蛍光体スクリーンをCyclone(登録商標)Plus Storage蛍光体システムに入れ、活性分布が測定される。
【0094】
以下の実験で使用した回収フラクション中の225Ac-PP-F11N化合物の純度は97%であることが確認された(図7)。
【0095】
(b)インジウム-111で放射標識したガストリンアナログ(225Ac-PP-F11N処理後のSPECTイメージングに使用)を調製するために、23.4nmolのPP-F11Nと120MBqの111In(69.5pmol、ITG GmbH社(ドイツ国)から入手可能)を0.4M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)92μL中で調製し、0.5Mアスコルビン酸66μLを添加して95℃で20分標識化を行った。次いで、反応混合物中の任意の遊離金属を錯形成させるために、金属不含水中の0.5mM EDTA2μLを添加する。
【0096】
インジウム取り込みは、C18カラムを用いた標準的なHPLCで分析することができ、95%を上回る効率に達した。標識化後に直接、ガンマカウンターを用いて、標的放射線実験用の放射標識ガストリンアナログの適切な希釈物を調製する。
【0097】
(c)ルテチウム-177で放射標識したガストリンアナログ(比較実験に使用)を調製するために、核種/ペプチド比1:30のPP-F11Nと177Lu(ITG GmbH社(ドイツ国)から入手可能)との溶液を0.4M 酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)中に調製し、90℃で15分間標識化を行った。
【0098】
ルテチウム取り込みは、C18カラムを用いた標準的なHPLCで分析することができ、95%を上回る効率に達した。標識化後に直接、ガンマカウンターを用いて、標的放射線実験用の放射標識ガストリンアナログの適切な希釈物を調製する。
【0099】
6.2.4 インビトロ放射標識ペプチド内在化アッセイ
内在化アッセイでは、1×10個の細胞/ウェルを6ウェルプレートで一晩培養する。翌日、PBSで洗浄した細胞を160Bqの精製225Ac-PP-F11N(または100.000cpmの177Lu-PP-F11N)と共に、0.1%BSA入りDMEMで標準組織培養条件下で2時間インキュベートした。ブロッキング実験には4μM LEEEEEAYGWMDFペプチドを使用した。
【0100】
インキュベーション後、上清を(2×PBS洗浄液と一緒に)回収する。次いで、細胞を0.05M氷冷グリシン緩衝液(pH=2)で5分間、2回インキュベートし、その後、1M NaOHで37℃にて15分間溶解する。回収した3つのフラクション(上清/PBS;グリシン溶液;溶解した細胞)はすべて、Packard Cobra II Auto-Gamma counter(PerkinElmer社、スイス国)で測定することができる。225Ac-PP-F11Nの内在化フラクションと膜結合フラクションとは、総活性に対する割合で示す。ブロッキングペプチドを用いた実験からの非特異的な膜結合(グリシンフラクション)または内在化(NaOH溶解細胞)は、得られた結果から差し引いたものである。
【0101】
6.2.5 増殖アッセイ
細胞増殖アッセイでは、4×10個の細胞/ウェルを96ウェルプレートに播種した。翌日、異なる放射能レベルの225Ac-PP-F11N(0.01~316.23kBq/mL)をA431/CCKBR細胞に加えた。2時間のインキュベーションの後、結合していない225Ac-PP-F11Nを含む培地を除去し、細胞を新鮮な培地でさらに24時間インキュベートする。
【0102】
細胞増殖は、CellTiter 96 AQueous非放射性細胞増殖キット(Promega AG社、スイス国)を用いて、製造者の指示に従って分析することができる。ホルマザン生成物の吸光度は、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer社、スイス国)を用いて、650nmを基準として570nmで測定される。対照(未処理)細胞の吸光度を100%の細胞生存率とする。細胞生存率50%をもたらす225Ac-PP-F11Nの活性レベルを計算し、細胞殺傷における半最大有効活性レベル(EA50)として表示した。アッセイは3回に分けて行った。
【0103】
6.2.6WB解析
CCKBRの発現レベルは、以下のようにウェスタンブロット解析により決定することができる:
【0104】
CCKBRに対する抗体(ab77077)はAbcam社(英国)から入手可能である。細胞を溶解緩衝液(50mMトリス-HCl pH7.5、150mM NaCl、1%Triton X、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、1mM NaFおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)を添加したSDS0.1%)中でホモジナイズする。50μgのタンパク質抽出物のアリコートをSDS-PAGEで分離し、エレクトロブロッティングによりPVDF膜(Millipore社)に転写する。膜はTBST(0.1%Tween 20)中の5%スキムミルクで1時間ブロックし、TBST中の2%BSAで一晩一次抗体をインキュベートし、その後HRPコンジュゲート型の二次抗体で2時間インキュベートする。タンパク質特異的なシグナルは化学発光試薬(ECL)によって検出でき、シグナルはImageQuant RT ECL Imager(GE Healthcare社)を用いて取得できる。
【0105】
CCKBR検出の前に、タンパク質ライセートを脱グリコシル化に供する。簡単に言うと、18μLの全細胞ライセート(約50μg)を2μLの10×変性緩衝液(5%SDS、0.4M DTT)と混合し、室温で10分間インキュベートする。次に、4μLの10×Glycobuffer(0.5M リン酸ナトリウム、pH7.5)、4μLの10% Tween-20、10μLの水を加えた。最後に2μLのPNGase F(Sigma社)を加え、混合し、遠心分離で回収する。反応は37℃で一晩行い、WB解析を行う。
【0106】
6.2.7 動物実験
本研究では、ヒトA431/CCKBR異種移植マウスモデルを使用する。重要なのは、A431-CCK2R異種移植片を持つ免疫不全マウスが、甲状腺髄様癌(MTC)患者における第1相臨床試験の規制承認に必要な放射標識ミニガストリンアナログの薬物動態、生体内分布、線量測定または毒性の前臨床評価に以前に使用されていることである(Maina et al., Eur J Pharm Sci. 2016;91:236-42)。
【0107】
生体内分布研究のために、0.1mLの滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の2×10個のA431/CCKBR細胞を、麻酔したヌードマウス(免疫不全CD-1雌ヌードマウス;Charles Rivers社、ドイツ国)の左右脇腹(動物1匹あたり2個の腫瘍)に皮下注射(s.c.)する。移植から12~14日後、約0.1~0.2cmのA431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスに、38kBqのHPLC精製225Ac-PP-F11N(0.08pmol)または150kBqのHPLC精製177Lu-PP-F11N(0.21pmol)を静脈内投与する。放射標識したペプチドの投与から1、4、24、48時間および7日後にマウスを犠牲にし、死後解剖した腫瘍および臓器の重量を測定し、それらの活性をガンマカウンター(Packard Cobra II Auto Gamma、PerkinElmer社、スイス国)で測定する。
【0108】
治療研究では、ヌードマウスに5×10個のA431/CCKBR細胞を左肩に皮下注射する。腫瘍移植の5~7日後、約0.1~0.2cmのA431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスをランダムにグループ分けし、PBS100μL中のHPLC精製225Ac-PP-F11Nを30、45、60、90、120kBq静脈内投与する。対照群にはPBS100μLを注射する。腫瘍の直径とマウスの体重は、作業日の間、毎日記録する。腫瘍体積は、式V=(W×L)/2を用いて計算する(Faustino-Rocha et al. Lab Anim. 2013, 42(6), 217-224)。ヌードマウスは、腫瘍体積が1.5cmを超えた時点で犠牲にする。データは、対照群、30、45、60kBq群および対照群、60、90、120kBq処置群を含む2セットの実験から得られる。
【0109】
すべての実験はスイスの動物保護法に従って行われる。
【0110】
6.2.8 SPECT/CT
SPECT/CT実験では、HPLCで精製した放射標識111In-PP-F11NをSpeedVacで濃縮し、PBS100μL当たり13MBqに希釈してヌードマウスに静脈内投与した(マウス当たり13MBq/100μL)。30、45および60kBqの225Ac-DOTA-PP-F11Nで処置した後のA431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスにおける111In-PP-F11Nの画像化は、X線コンピュータ断層撮影法と組み合わせた単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)によって行う(multipinhole small-animal Nano SPECT/CTカメラ、Mediso Medical Imaging Systems社)。すべてのマウスは注射の2時間後に犠牲にし、7.5分のCTに続いて45分のSPECTスキャンに直接使用する。画像再構成および処理は、VivoQuant 3.0 Patch 1ソフトウェアを使用することにより行う。
【0111】
6.2.9 免疫化学
ホルマリン固定したA431/CCKBR腫瘍のパラフィン切片を脱パラフィン化に供した。再水和したスライドは、10mMクエン酸緩衝液、pH6.0、98℃で60分間前処理した後、PBS中4%無脂肪乳で90分間インキュベートした。アビジン/ビオチンブロッカー(Invitrogen社)処理および検出には、製造元の指示に従いABC法を用いた。Ki67に対するモノクローナル抗体(Thermo Scientific社、SP6)については、ユーザーマニュアルに従い、自動機器試薬システム(Discovery XT、Ventana Medical System Inc.社)を使用してシグナルを記録した。ヘマトキシリンでカウンター染色した切片の画像を撮影し(ニコン社、YTHM)、ImageAccess Enterprise7およびImageJソフトウェアを用いて解析した(Schneider et al. Nat Methods 2012, 9(7), 671-675)。
【0112】
6.2.10 バイオインフォマティクス解析および統計解析
すべての統計解析にGraphPad Prism 7.00 for Windowsを使用した。生物学的分布研究では2つの群に対して両側不均一分散でのStudentのt検定を行い、一方、治療研究では対照群とすべての225Ac-PP-F11N処置群とを比較するためにダネットの多重比較検定と組み合わせた一元配置分散分析を用いた。Log-rank(Mantel-Cox)検定とGehan-Breslow-Wilcoxon検定とは、処置群と対照群との異なる生存曲線を比較するために行った。エンドポイントは、生存曲線における死亡と定義した。P<0.05の値は、統計的に有意であるとみなされる。結果は、少なくとも3つの独立した複製の平均値±標準偏差として報告される。
【0113】
実施例1:225Ac-PP-F11Nのインビトロでの内在化および細胞毒性効果
本発明のアルファ放射標識ガストリンアナログのCCKBRに対する親和性および特異性を評価するために、精製225Ac-PP-F11N(上記のように調製)を用いて、上記のインビトロ内在化アッセイを実施した。225Ac-PP-F11Nの内在化率は45%に達し、膜結合活性は全活性に対して1%であった。その結果を図1に示す。ブロッキングペプチド(LEEEEEAYGWMDF)が存在すると、内在化率は1.4%に抑制され、225Ac-PP-F11NがCCKBR特異的に細胞内に取り込まれることが示された。177Lu-PP-F11N(上記のように調製)を用いて実験を繰り返した。その結果、225Ac-PP-F11Nと177Lu-PP-F11Nとの両化合物は、インビトロで同程度の内在化率を示すことが判明した。
【0114】
細胞毒性効果を分析するために、上述の細胞増殖アッセイを実施した。EA50値を計算し、225Ac-PP-F11N処置後24時間で6.2±1.1kBq/mLに達した(データは示さず)。最大細胞毒性効果(細胞生存率0%)は、100kBq/mLで達した。
【0115】
これらの結果は、本発明の化合物がCCKBR特異的な細胞取り込み(内在化率45%)と強力な細胞毒性効果とを示すことを実証している。
【0116】
実施例2:225Ac-PP-F11Nのインビボ生体内分布
本発明の化合物のインビボ生体内分布は、225Ac-PP-F11Nを用いて上述の生体内分布研究を行うことにより評価した。
【0117】
放射性医薬品適用から1、4、24、48時間後および7日後の生体内分布研究は、A431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスで実施した。225Ac-PP-F11Nの高い腫瘍取り込みが注射後1時間および4時間で観察され、それぞれ注射した活性の13%および11.2%/g(%i.A.(注入放射能)/g)に達した(図2)。24時間後、48時間後および7日後、腫瘍取り込みは予想通り減少し、それぞれ7.2%、5.7%および4.5%i.A./gであった。健康な臓器の分析では、CCKBRの内因性発現により、注射1時間後(p.i.)に胃で1.5%i.A./gを示した。胃の活性は24時間以内ではほぼ同じであったが(4時間と24時間で1.3%と1.2%i.A./g)、注射後48時間と7日後では0.8%と0.3%i.A./gに減少した。腎臓では最初の4時間で放射標識ガストリンの集積が8.1%から4.2%i.A./gに50%低下していることが確認された。さらに、注射後48時間および1週間で、活性レベルは3.8%から1.2%に減少した。分析したその他の臓器では、注射後1時間で最大0.38%から0.02%i.A./gに達し、1週間で0.15%から0.01%に減少した。
【0118】
さらに、225Ac-PP-F11Nは、ルテチウム-177標識ミニガストリンアナログ(177Lu-PP-F11N)と注射後4時間で同様の生体内分布プロファイルを示した(図3)。腫瘍への取り込みはほぼ同じであったが、225Ac-PP-F11Nは177Lu-PP-F11Nに比べて肝臓と骨で中程度の高い非特異的取り込みを示し、すべての分析時点において2%i.A./g未満に達した。
【0119】
本発明の化合物は、優れた生体内分布特性、すなわち解析された時点における優れた腫瘍-腎臓および腫瘍-胃の比率を示し、腫瘍組織における225Ac-PP-F11Nの特異的集積およびCCKBRを内因的に発現する器官における225Ac-PP-F11Nの低い集積を示すことが判明した。さらに、身体または臓器の重量、総合的な健康状態または解剖学的構造における有意な差は観察されなかった。
【0120】
実施例3:225Ac-PP-F11Nのインビボ治療効果
本発明の化合物の治療効果を評価するために、225Ac-PP-F11Nを用いて上述の治療試験を行った。精製225Ac-PP-F11Nの5種類の用量を投与した後、免疫不全のA431/CCKBR腫瘍を有するヌードマウスの腫瘍成長および平均生存時間の評価を行った。
【0121】
図4に示すように、225Ac-PP-F11Nでの処置は、用量依存的に腫瘍の成長を有意に阻害した。全群ですべてのマウスがまだ存在する11日目に、対照群の平均腫瘍体積は0.78cmに達したが、30、45、60、90および120kBq225Ac-PP-F11N処置マウスの平均腫瘍サイズはそれぞれ0.54(P=0.0142)、0.31(P<0.001)、0.12(P<0.001)、0.11(P<0.001)および0.07cm(P<0.001)まで縮小された。対照群では、PBS注射後11日目に腫瘍体積1.5cm(エンドポイント)を超えたため、最初のマウスを安楽死させたが、30、45、60、90、120kBq225Ac-PP-F11N処置群では、最初の腫瘍がそれぞれ12、13、21、33および44日目に1.5cmを超えた。投与中、体重減少やその他の細胞毒性症候はなく、全群で体重の増加が観察された。対照群では体重の中等度の増加が観察されたが、これは腫瘍の成長が速かったことに起因すると推定される。
【0122】
さらに、225Ac-PP-F11Nで処置すると、用量依存的に寿命が延びることが確認された。対照群の平均生存期間は17日であったが、30、45、60、90および120kBq225Ac-PP-F11N-処置マウスの平均生存期間は、それぞれ22、27、34、44および58日に延長された。その結果を以下の表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
)P値は、Log-rank(Mantel-Cox)検定により、処置群と対照群との生存曲線の違いを比較することで取得した。
【0125】
以上の結果より、本発明の化合物は、優れた治療効果を示すと共に、健康な組織への化合物の集積による有害な副作用を防止できることが明らかとなった。
【0126】
実施例4:病理組織学的解析およびPET/SPECTイメージング
健康な臓器に対する225Ac-PP-F11Nの副作用(毒性)をさらに分析するために、実施例3の対照および225Ac-PP-F11N処置マウスから分離した腎臓および胃を、治療後期にヘマトキシリン・エオジン(HE)で染色した。対照群由来の臓器はPBS注射後11~26日目に分離されたが、60kBqおよび120kBq225Ac-PP-F11N処置群からは34~49日の間に分離された。HE染色では、対照群と225Ac-PP-F11N処置群とに差がなく(図5)、胃および腎臓におけるアルファ線治療中の急性放射線毒性の徴候がないことが示された。
【0127】
図6に示すように、45kBq(左の写真)および60kBq(右の写真)225Ac-PP-F11N処置群の腫瘍のないマウスにおける111In-PP-F11NのSPECT/CT画像は、検出できる腫瘍がないことを示している。腎臓や膀胱などの排泄器官にのみ放射性シグナルが検出された。
【0128】
これらの結果は、本発明の化合物によって達成される優れた治療効果だけでなく、健康な組織、特に胃に対する低毒性も実証するものである。アルファ放射標識ガストリン化合物の使用は、以前は出血性胃炎などの細胞毒性副作用と関連していたので、胃に対する毒性がないことは驚くべきことである(Semin Nucl Med. 2002, 32(2), 97-109)。したがって、本発明の化合物は、CCKBR陽性疾患、特にMTCのようなCCKBR陽性癌の治療方法に有効に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2023536267000001.app
【国際調査報告】