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特表2023-536272黒鉛廃棄物を用いた放熱シートを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-24
(54)【発明の名称】黒鉛廃棄物を用いた放熱シートを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/52 20060101AFI20230817BHJP
   C01B 32/225 20170101ALI20230817BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C04B35/52
C01B32/225
C04B35/622 040
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506253
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 KR2021009847
(87)【国際公開番号】W WO2022025652
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0095136
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516089290
【氏名又は名称】エヌティーエス・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】キム, グァン ス
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB05
4G146AC27B
4G146AD08
4G146AD20
4G146BA02
4G146CB03
4G146CB09
4G146CB11
4G146CB14
4G146CB21
(57)【要約】
本発明によれば、膨張性黒鉛を製造する際に、廃酸や廃棄物の発生を著しく低減し、揮発性物質の含有量が少なく外観が良好な膨張性黒鉛を経済的に製造することができるので、熱伝導性に優れた放熱シートを効率的に製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)黒鉛廃棄物を含む黒鉛材料を粉砕して、黒鉛廃棄物を含む粉末を製造するステップと、
(2)黒鉛廃棄物を含む前記粉末を900℃~1100℃で3~5時間熱処理するステップと、
(3)熱処理後に得られた前記膨張性黒鉛を加圧してシートを製造するステップと
を含む、放熱シートを製造する方法。
【請求項2】
ステップ(1)と(2)の間に、黒鉛廃棄物を含む前記粉末に強酸と酸化剤を添加して撹拌するインターカレーションステップをさらに含む、請求項1に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項3】
黒鉛廃棄物を含む前記黒鉛材料が、黒鉛廃棄物と、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、カーボンナノチューブ、及び炭素繊維のうちのいずれか1種又は複数との90:10~60:40の重量比のブレンドである、請求項1に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項4】
黒鉛廃棄物を含む前記黒鉛材料が、黒鉛廃棄物からなる、請求項1に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項5】
黒鉛廃棄物を含む前記黒鉛材料が、0.5μm~1000μmの粒径を有するように粉砕される、請求項1に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項6】
前記インターカレーションステップの前記強酸が硫酸及び硝酸のうちのいずれか1種又は複数であり、前記酸化剤が過マンガン酸カリウムである、請求項2に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項7】
前記インターカレーションステップの硫酸、硝酸及び過マンガン酸カリウムが、黒鉛廃棄物を含む前記粉末の重量を基準として20%~40%の量で添加される、請求項6に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項8】
前記熱処理ステップが、黒鉛廃棄物を含む前記粉末を900℃~1100℃で3~5時間熱処理する前に、500℃まで1時間昇温し、前記温度を2時間保持し、次に900℃まで1時間昇温するステップをさらに含む、請求項1に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項9】
前記熱処理ステップで、水が、黒鉛廃棄物を含む前記装填された粉末の下に配置されて、水蒸気を前記粉末間に通過させ、熱処理が行われる、請求項1に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項10】
前記熱処理ステップが、
黒鉛煉瓦と耐火煉瓦とが5:5~8:2の比率で接合剤により接合された容器であって、前記黒鉛煉瓦が前記容器の中央部及び/又は下部に配置され、前記容器の外壁がオーステナイト系ステンレス鋼で囲まれている、容器、
電気又は液化石油ガスによって前記容器を加熱するための気密炉、及び、
前記気密炉の上部に配置され、前記気密炉の内部と連通するガス回収及び集塵設備、
を備える膨張性黒鉛を製造するための設備で行われる、請求項1に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項11】
前記接合剤が、1000℃以上の高温に耐えることができる耐火モルタルに、前記耐火モルタルの重量を基準として20~50%の量で、粒径1μm以下の黒鉛粉末を混合したものである、請求項10に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項12】
前記シートが、5μm~2000μmの厚さを有するように製造される、請求項1に記載の放熱シートを製造する方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法に従って製造される、放熱シート。
【請求項14】
請求項13に記載の放熱シートを備える、電気及び電子製品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、二次電池や燃料電池等から回収された黒鉛廃棄物を用いた放熱シートを製造する方法に関する。
【0002】
[背景技術]
電子製品の高性能化、小型化に伴い、内部に搭載される電子部品は大容量化、高集積化が追求されている。その結果、電子製品では多くの熱が発生し、製品内部で発生した熱を外部に放出するか、又は製品自体を冷却するシステムが必要になっている。
【0003】
電子製品の熱冷却方法として、ヒートパイプや放熱ファンを設置する方法が知られている。ヒートパイプの場合、ヒートパイプが放出できる熱量は、電子製品の発熱体から放出される熱量よりも少なく、効率が悪い。また、放熱ファンを設置する場合、騒音や振動が発生し、薄型化及び軽量化の要求に反する問題がある。
【0004】
そのため、薄型化や軽量化が要求される電子製品には放熱シートを用いるのが一般的であり、放熱シートは天然黒鉛や人造黒鉛の圧縮シート、高分子セラミック複合シート等の形態で製造されている。特に、熱伝導性に優れた黒鉛系放熱シートが広く使用されている。
【0005】
しかし、黒鉛系シートの場合、天然黒鉛系シートは安価であるが、アルミニウム板と銅板の間に位置するため、熱伝導率が比較的高くない。また、放熱板の厚みに合わせるため、比較的厚い(0.7mm~2mm程度)シートを使用する必要があるが、この場合、熱伝導率が著しく低下するという限界がある。
【0006】
人造黒鉛系シートは、原料(ポリイミドフィルム)の性質上、厚いシートにはできず、黒鉛化には多くのエネルギーが必要なため、価格が高く、広い面積に適用することは困難である。
【0007】
したがって、既存の黒鉛系放熱シートの問題点を解決するために、熱伝導性に優れ、経済的に製造可能な放熱シートの開発が関連技術で必要とされている。
【0008】
一方、昨今の自動車や発電機に対するエコ政策に伴い、電気自動車や電動二輪車等が増加しているため、二次電池や燃料電池の利用が拡大している。寿命を迎えた廃二次電池や廃燃料電池は、構成要素ごとに有価金属(Ni、Cr、Fe等)に分別され、リサイクル業者を通じて分解、再資源化される。この過程で、二次電池の負極材や燃料電池のセパレータ等から回収された黒鉛廃棄物のリサイクル方法が種々模索されている。
【0009】
例えば、黒鉛廃棄物を床暖房構造物にリサイクルする方法(韓国特許第1897980号)、半導体製造部品の製造プロセスから黒鉛廃棄物材料を回収して電極材料として使用する方法(韓国特許出願公開第2018-0071740号及び韓国特許出願公開第2019-0073711号)等が試みられている。しかし、黒鉛廃棄物を放熱シートの製造に利用する技術は、未だ知られていない。
【0010】
[発明の詳細な説明]
[技術的課題]
そこで、本発明者らは、黒鉛廃棄物を利用して、環境汚染物質の放出を最小限に抑えつつ、優れた熱伝導性を有する放熱シートを経済的に製造することができる技術を開発し、本発明を完成するに至った。
【0011】
したがって、本発明の目的は、黒鉛廃棄物を含む黒鉛材料を粉砕し、任意選択で黒鉛材料をインターカレーションし、次いで熱処理してシートを製造するステップを含む、放熱シートを製造する方法を提供することである。
【0012】
[課題を解決するための手段]
上記目的を達成するために、本発明の一態様では、黒鉛廃棄物を含む黒鉛材料を粉砕して、黒鉛廃棄物を含む粉末を製造するステップと、任意選択で、黒鉛廃棄物を含む粉末に強酸及び酸化剤を添加して撹拌するインターカレーションステップと、インターカレーションした黒鉛廃棄物を含む粉末を900℃~1100℃で3~5時間熱処理するステップと、熱処理後に得られた膨張性黒鉛を加圧してシートを製造するステップとを含む、放熱シートを製造する方法が提供される。以下、本発明の放熱シートを製造する方法の各ステップについて説明する。
【0013】
1.黒鉛廃棄物を含む粉末を製造するステップ
本発明の放熱シートを製造する方法では、黒鉛廃棄物のみ、又は黒鉛廃棄物と、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、カーボンナノチューブ及び炭素繊維のうちのいずれか1種又は複数とのブレンドからなる黒鉛材料を原料として使用することができる。
【0014】
特に、本発明に用いられる黒鉛廃棄物は、廃リチウム二次電池の構成要素から負極材(人造黒鉛、天然黒鉛、低結晶性炭素成分等を含む)を、及び廃燃料電池のセパレータ材等から有価金属を分離した後に残る黒鉛廃棄物であってもよい。このように、廃二次電池や廃燃料電池から回収される黒鉛廃棄物は、不純物の少ない高純度の黒鉛である。さらに、二次電池や燃料電池の構成要素として製造され、部分的にインターカレーションされているので、黒鉛材料として黒鉛廃棄物のみを使用する場合、インターカレーションステップを経ずに、黒鉛廃棄物粉砕粉末を本発明に従って熱処理し、放熱シートの製造に使用することができる。
【0015】
現在広く用いられているリチウム二次電池は、正極材、負極材、セパレータ膜、及び電解液から構成されており、このうち黒鉛を含む構成部分は負極材である。負極材の負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、低結晶性炭素、金属等からなり、黒鉛は全重量の約11.5%を占めている。
【0016】
二次電池は、リチウム塩(LiPF、LiBF、LiClO)と有機溶媒(EC、PC、DMC、DEC等)からなる電解液中でリチウムイオンが正極と負極を往復して充電及び放電する構造で電気を発生させる。この場合、リチウム塩が黒鉛を含む負極に移動する際にインターカレーションが起こる。
【0017】
また、燃料電池(水素発生装置)のセパレータは、片側に負極のガス流路、反対側に正極のガス流路を有する導電性の板である。近年、黒鉛粉末をバインダでプレス成形し、焼結して得られる複合材料がセパレータとして使用されている。そのため、廃燃料電池のセパレータは、バインダとして用いられるポリフッ化ビニリデン等のポリマー樹脂を含有(インターカレーション)した状態になっている。
【0018】
黒鉛廃棄物を含む粉末を製造する場合、放熱シートを適用する機器によっては、従来の放熱が必要であれば、黒鉛廃棄物のみを用いて大面積の放熱シートを経済的に製造することが可能である。或いは、より高い放熱性能が求められる小面積の放熱シートの場合、黒鉛廃棄物と、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、カーボンナノチューブ、及び炭素繊維のうちのいずれか1種とのブレンドを用いることにより、炭素の純度を上げることができる。好ましくは、黒鉛廃棄物と、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、カーボンナノチューブ、及び炭素繊維のうちのいずれか1種又は複数とを90:10~60:40の重量比でブレンドする。一例として、黒鉛廃棄物とキッシュ黒鉛とをブレンドすると、放熱シートの製造だけでなく、加炭材等の炭素含有量が多い方が良い材料の製造にも使用することができる。
【0019】
黒鉛廃棄物と、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、カーボンナノチューブ、及び炭素繊維との混合物をブレンドする場合、好ましい重量比は、90:10~70:30であってよい。例えば、本発明の製造方法では、黒鉛廃棄物:人造黒鉛又はキッシュ黒鉛を90:10又は60:40の重量比で混合してもよいし、黒鉛廃棄物:カーボンナノチューブ:炭素繊維を80:10:10の重量比で混合してもよいし、黒鉛廃棄物:人造黒鉛:キッシュ黒鉛:カーボンナノチューブ:炭素繊維を70:10:10:5:5又は60:10:20:5:5の重量比で混合してもよいし、黒鉛廃棄物:人造黒鉛:キッシュ黒鉛を80:10:10の重量比で混合してもよい。
【0020】
さらに、黒鉛廃棄物を含む黒鉛材料は、0.5μm~1000μmの粒径範囲内で平均粒径が約500μmの様々な粒径を有するように粉砕されることが好ましい。黒鉛材料の粉砕には、エアジェットミル等の当技術分野において知られている任意の手段を用いることができる。
【0021】
2.インターカレーションステップ
電解処理や酸化剤の存在下で、黒鉛層間に硫酸や硝酸等の化学物質をインターカレーションして得られるインターカレーション化合物をラメラ化合物と呼ぶ。これを再度熱処理すると、黒鉛分子がC軸方向に数十~数百倍に膨張した膨張性黒鉛を製造することができる。
【0022】
本発明の製造方法によれば、黒鉛廃棄物を含む黒鉛材料を粉砕して得られる黒鉛廃棄物を含む粉末に、強酸及び酸化剤をインターカレーションすることができる。このインターカレーションステップは、黒鉛材料の原料に応じて行ってもよいし、行わなくてもよい。黒鉛廃棄物のみを粉砕して得られた粉末を用いて本発明の製造方法を行う場合、黒鉛廃棄物自体は二次電池や燃料電池等の構成要素として既にインターカレーションされているため、インターカレーションステップを省略することができる。ただし、数十kg以上の大量の粉末を熱処理する場合、黒鉛廃棄物のみを粉砕して得られた粉末を用いても、黒鉛の膨張効率を高めるためにインターカレーションステップを行うことができる。
【0023】
好ましくは、本発明の強酸として、硫酸又は硝酸のうちのいずれか1種又は複数を用いることができ、酸化剤として、重クロム酸ナトリウム(NaCr)、過マンガン酸カリウム(KMnO)、及び過酸化水素(H)、より好ましくは過マンガン酸カリウムを用いることができる。
【0024】
硫酸及び/又は硝酸と過マンガン酸カリウムは、黒鉛廃棄物を含む粉末の重量を基準として、20%~40%、より好ましくは30%の量で添加することができる。この場合、硫酸及び/又は硝酸と過マンガン酸カリウムとの比率は、過マンガン酸カリウムが酸化剤として作用することを考慮して、当業者によって適切に選択されることになる。
【0025】
従来の膨張性黒鉛の製造では、多量の酸や各種酸化剤の添加による廃棄物処理等の問題があった。しかし、本発明では、既にインターカレーションされた黒鉛廃棄物を原料として用いるため、廃酸等の廃棄物の発生を大幅に低減することができ、環境に配慮して放熱シートを製造することができる。
【0026】
具体的には、硫酸及び/又は硝酸と過マンガン酸カリウムとを黒鉛廃棄物を含む粉末と混合し、撹拌機で適宜撹拌してラメラ化合物を生成させる。撹拌は、例えば、高粘度撹拌機を用いて、1000rpm~2000rpmで約1時間~3時間、より好ましくは約2時間行うことができる。
【0027】
3.熱処理ステップ
本発明の製造方法によれば、黒鉛廃棄物を含むインターカレーション粉末、又は黒鉛廃棄物のみを用いる場合、場合によっては、インターカレーションステップを経ない黒鉛廃棄物粉砕粉末を900℃~1100℃で熱処理することにより、膨張性黒鉛を製造することができる。本発明の製造方法によれば、黒鉛廃棄物を含む粉末を900℃~1100℃の熱処理温度で均一に熱処理して、黒鉛粉末の酸化を抑えながら揮発性物質をスムーズに放出できることがわかった。
【0028】
より好ましくは、500℃まで1時間昇温し、その温度を2時間保持し、次に900℃まで1時間昇温してから900℃~1100℃で3~5時間の熱処理を行うステップをさらに含む2段階熱処理を行うことができる。上記のような2段階の熱処理を行うことにより、黒鉛廃棄物を含む複合粉末から揮発性物質を効率的に除去し、最終的に膨張性黒鉛を高収率で得ることができ、経済的な熱処理が可能となる。
【0029】
また、本発明の熱処理ステップでは、粉末の下に水を配置して、黒鉛廃棄物を含む粉末の間に水蒸気を通過させ、熱処理を行うことができる。例えば、容器に粉末を装填する前に、容器の底に一定量の水を散布し、黒鉛廃棄物を含む粉末を装填した後に熱処理を行うことができる。この場合、水の量は、複合粉末1トン当たり5L~20L、好ましくは5L~15L、より好ましくは10Lとすることができる。この場合、水蒸気が蒸気になって逃げる際に、装填された粉末の間に空気の通り道を形成し、この通り道を通って揮発性物質がよりスムーズに排出され、適切な大きさと良好な表面状態を有する最終粉末を得ることができる。
【0030】
好ましくは、本発明の熱処理ステップは、後述する本発明の製造方法に適切に構成された膨張性黒鉛の製造設備で実施される。
【0031】
4.シート製造ステップ
本発明の製造方法によれば、熱処理された膨張性黒鉛を適当な温度まで冷却した後、加圧工程を経て板状の放熱シートが製造される。加圧には、ローラー等、当該技術分野で広く用いられている任意の手段を用いることができる。
【0032】
本発明の放熱シートは、使用目的、熱伝導率の目標値等に応じて、種々の厚さを有するように製造することができる。例えば、5μm~2000μm、好ましくは10μm~1000μm、より好ましくは50μm~300μmの厚さを有するように製造することができる。
【0033】
本発明の一態様では、黒鉛廃棄物を含む粉末の熱処理を行うための膨張性黒鉛の製造設備が提供される。
【0034】
本発明による膨張性黒鉛を製造するための設備は、黒鉛煉瓦と耐火煉瓦とが5:5~8:2の比率で接合剤により接合された容器であって、黒鉛煉瓦が容器の中央部及び/又は下部に配置され、容器の外壁がオーステナイト系ステンレス鋼で囲まれている、容器と、電気又は液化石油ガスによって容器を加熱するための気密炉と、気密炉の上部に配置され、気密炉の内部と連通するガス回収及び集塵設備とを備えることができる。
【0035】
まず、本発明の製造方法による膨張性黒鉛の製造プロセスでは、黒鉛廃棄物に含まれる酸成分やインターカレーションステップ等に含まれる酸成分により多量の腐食性ガスが発生するため、本発明者らはこれに耐えることができる特殊な容器を考案した。
【0036】
本発明による特殊容器は、黒鉛煉瓦と耐火煉瓦とを接合剤で接合して容器本体を形成し、容器の外壁をオーステナイト系ステンレス鋼で囲むことにより製造される。
【0037】
この場合、黒鉛煉瓦と耐火煉瓦の比率を5:5~8:2に調整することにより、最高の熱伝達効率を得ることができる。黒鉛煉瓦を容器の中央部又は下部に配置すると、熱が均一に伝わり、装填された粉末間の空気の通り道が良好に形成され、スムーズな熱処理が可能になるという利点がある。黒鉛煉瓦の場合、熱伝導率が高いため、熱エネルギーの損失を最小限に抑え、一定温度まで急速に昇温させる効果があるため、耐火煉瓦と黒鉛煉瓦を併用することで効率を最大化することができる。
【0038】
また、黒鉛煉瓦と耐火煉瓦を強固に接合するために、1000℃以上の高温に耐えられる耐火モルタルに粒径1μm以下の黒鉛粉末を耐火モルタルの重量を基準として20~50%の量で混合して用いることにより、容器寿命を10倍以上延ばすことができる。
【0039】
また、熱処理時の粉末の飛散を防止するため、特殊容器に耐熱/耐酸化材料からなる蓋を設置する場合がある。
【0040】
本発明の設備では、熱処理は、特殊容器に黒鉛廃棄物を含む粉末を装填し、気密炉に投入することにより行うことができる。
【0041】
気密炉としては、電気又は液化石油ガスで加熱する気密炉であればいずれでもよいが、電気炉を好ましく使用することができる。
【0042】
気密炉は、気密炉の内部と連通するように上部に配置されたガス回収及び集塵設備を備えることができる。
【0043】
好ましくは、気密炉内の高温の腐食性ガスの排出に耐えるように、ガス回収及び集塵設備の排気管の内側に耐熱及び耐酸性の塗料を塗布することができる。任意選択で、揮発性物質をスムーズに排出するために、ガス回収及び集塵設備に特殊なファンを設置することができる。排気管及びファンの設置位置及び材質は、当業者の必要に応じて適切に変更することができる。
【0044】
さらに、本発明の膨張性黒鉛の製造設備は、熱処理粉末を搬送するための搬送設備をさらに備えていてもよい。本発明の搬送設備は、吸入部、搬送管、装填部、及び排出口を備えていてもよい。熱処理終了後、気密炉内の容器を取り出し、適当な温度まで冷却した後、レール等の適当な搬送手段を用いて搬送設備に移動させる。粉末は、搬送設備の吸入部から吸引し、搬送管を通して装填部に装填し、次に排出口から排出し、適当な保管容器(例えば、トンバック)に入れる。熱処理複合粉末は、含水率が低く、微粉末であるため、一般の工具ではスムーズに粉末を搬送することが難しいため、本発明のように、粉末を吸引して専用の装填容器に入れることができる搬送設備を使用することが好ましい。
【0045】
本発明の別の態様では、本発明の製造方法に従って製造された放熱シートが提供される。
【0046】
本発明の製造方法により製造される膨張性黒鉛は、廃二次電池、廃燃料電池等から回収された高純度の黒鉛廃棄物を原料としており、揮発性物質の含有量が極めて少なく、得られた粉末の外観が優れているため、圧縮成形の際に高い圧縮率を示すことができる。したがって、熱伝導性が向上し、放熱シートとして優れた性能を発揮することができる。
【0047】
本発明の別の態様では、本発明による放熱シートを備える電気及び電子製品が提供される。
【0048】
本発明の放熱シートは、電子機器、電子機器ケース、照明装置、電池、電池ケース、又はEMIガスケット等に使用することができる。
【0049】
上記電子機器は、携帯電話、デスクトップPC、ラップトップPC、タブレットPC、仮想現実(VR)デバイス、セットトップボックス、携帯型ゲーム装置、外付けハードディスク、MP3プレーヤー、ビームプロジェクタ、テレビ(LED、OLED等)、モニタ、車載ブラックボックス、車載ナビゲーション、通信装置、電力変換器、電源装置又は医療電子機器であってもよい。
【0050】
さらに、照明装置は、LED照明装置であってもよいし、電球であってもよい。
【0051】
好ましくは、本発明の電気及び電子物品は、電気/電子的作用又は化学的作用により発熱する熱源を有することができ、例えば、電子素子、回路基板、又は光源を含むことができる。
【0052】
本発明の実施形態として、本発明の放熱シートは、熱源の表面に直接貼り付けてもよいし、熱源に密着するヒートシンクの表面に貼り付けてもよいし、熱源に隣接する物品の外装材に貼り付けてもよい。
【0053】
[発明の効果]
本発明によれば、膨張性黒鉛を製造する際に、廃酸や廃棄物の発生を著しく低減し、揮発性物質の含有量が少なく、外観が良好な膨張性黒鉛を経済的に製造することができるので、熱伝導性に優れた放熱シートを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明の膨張性黒鉛を製造する設備の特殊容器の写真である。
図2】本発明の膨張性黒鉛を製造する設備で、特殊容器を入れた電気炉の写真である。
図3図2の電気炉に接続されたガス回収及び集塵設備の写真である。
図4】本発明の膨張性黒鉛を製造する設備に任意選択で追加することができる搬送設備の写真である。
図5】市販の放熱シートの断面の写真である。
図6】本発明の一実施形態により製造された放熱シートの断面の写真である。
【0055】
[本発明を実施するための形態]
本発明の好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲、詳細な説明及び添付図面に記載された本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明に対して様々な修正及び変更を行うことができる。
【0056】
実施例1.黒鉛廃棄物を利用した膨張性黒鉛製造システムの構築
実施例1-1.膨張性黒鉛製造用特殊容器の製造
黒鉛廃棄物に含まれる酸成分や前処理工程に含まれるインターカラント等から発生する多量の腐食性ガスに耐える膨張性黒鉛製造用特殊容器を製作した。経済性を考慮し、1トン程度の粉末を装填できるように容器の大きさを設計した。
【0057】
鋼(第1世代)、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)、耐火煉瓦(第3世代)、及び耐熱処理黒鉛煉瓦(第4世代)を容器の材料として試験したが、いずれも腐食性ガスによる容器の酸化や耐熱性能不足等の問題があり、容器の製造に失敗した。そこで、上記の失敗例を分析し、黒鉛煉瓦、耐火煉瓦、及びオーステナイト系ステンレス鋼(SUS)を組み合わせた特殊容器を製作した。
【0058】
まず、熱を加えた場合に熱により、容器の構造が崩れない、又はブロック構造が膨張しないように、容器の最外部をSUS板で覆い、容器の内部は耐火煉瓦と黒鉛煉瓦を用いて製造した。
【0059】
この場合、黒鉛煉瓦と耐火煉瓦の混合比を変化させた結果、黒鉛煉瓦:耐火煉瓦の比率が5:5~8:2のときに最も熱伝導が良いことがわかった。また、実験の結果、黒鉛煉瓦と耐火煉瓦の位置が重要であることがわかり、黒鉛煉瓦を容器の中央部又は下部に配置した場合には、熱が均一に伝わり、装填粉末間の空気の通り道が良好に形成されてスムーズに熱処理できることがわかった。
【0060】
一方、一般的な耐火モルタルを使用した場合、3回以上の熱処理を行うと、揮発性物質と熱により煉瓦の崩落現象が発生した。この問題を解決するために、1000℃以上に耐えられる特殊耐火モルタル(朝鮮耐火物、スーパー3000)に粒径1μm以下の精製黒鉛粉末を20~50%程度混合し、これにより、容器の寿命が10倍より長くなり、約30回より多く使用可能な容器を製造することができた。本実施例で製造した特殊容器は、図1に示す通りである。
【0061】
また、容器の蓋は、容器内部からのガスの排出を容易にするために楕円形に製作し、容器の蓋は、最も軽い耐火煉瓦と、高温熱や揮発性物質に耐えられるようにSUSと鋼板とで製作した。
【0062】
実施例1-2.乾留設備の製造
まず、乾留方法としてコンベア法を導入した。コンベアの途中に熱源を配置し、実施例1-1で製造した容器に複合黒鉛粉末を入れ、ゆっくりと移動させて膨張性黒鉛を製造した。しかし、乾留時に発生するガスの処分が容易ではなく、多額の費用がかかるという問題があった。
【0063】
そこで、図2に示すような電気炉法を採用して乾留を行った。この場合、内部空間が密閉され、内部で発生した高温のガスを外部に排出できる換気システムを構築することは容易であった。
【0064】
実施例1-3.換気設備の製造
電気炉の上部に図3に示すようなガス回収及び集塵装置を設け、ガスや水分の排出を容易にするために特殊ファンを設置し、熱やガスによる腐食を防ぐために耐熱/耐酸特殊塗料でコーティングされた排気管を製作した。
【0065】
実施例1-4.搬送設備の製造
熱処理粉末は含水率が低い微粉末であるため、粉末の飛散や周囲への汚染を防ぐために、粉末を吸引して専用の装填容器に入れることができる搬送設備を別途製作した。製作した搬送設備は、図4に示すように、吸入部、搬送管、装填部、排出口を備えており、吸入部から粉末を吸引し、搬送管を通して装填部に装填し、次に排出口から排出してトーンバッグに収容するように設計した。
【0066】
実施例2.膨張性黒鉛の製造
実施例2-1.黒鉛廃棄物を含む黒鉛材料の調製
廃リチウム二次電池及び廃燃料電池の黒鉛廃棄物をリサイクル業者から回収し、黒鉛廃棄物、人造黒鉛及びキッシュ黒鉛を80:10:10の重量比で混合した。
【0067】
ブレンドした複合粉末をエアジェットミル(KMTech、JM-500)で1kgあたり約2分間粉砕し、平均粒径が約0.5mmで粒度分布が広いものとした。
【0068】
実施例2-2.膨張(インターカレーション)前の前処理
実施例2-1で得られた黒鉛廃棄物を含む粉末に、硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウムを粉末の重量の約30%の量で添加し、高粘度撹拌機で1000rpm~2000rpmで約2時間撹拌して、ラメラ化合物を生成させた。
【0069】
実施例2-3.膨張性黒鉛の製造
実施例1で構築した膨張性黒鉛の製造設備を用いて、実施例2-2で得られたラメラ化合物粉末を容器に入れ、その容器を電気炉に入れて加熱した。加熱処理は、下記実験例1で確認した最適な製造条件で行った(すなわち、500℃まで1時間以上かけて昇温し、保持時間を2時間とし、900℃まで1時間以上かけて昇温し、その後、粉末を3時間熱処理する)。
【0070】
実施例2-4.放熱シートの製造
熱処理した膨張性黒鉛を冷却した後、加圧工程を経て、板状の放熱シートを製造した。加圧は、ローラーで1~5回圧延することにより行い、50μm及び300μmの厚さを有するシートを製造した。
【0071】
実験例1.熱処理の温度と時間に依存する製造効率の評価
熱処理の温度と時間を変化させて、揮発性物質(水分を含む)の含有量を測定し、その結果を以下の表1に示す。
【0072】
【表1】

mは熱処理前の質量、mlは熱処理後の質量である(400℃±20℃で1時間の後に測定)。
【0073】
その結果、電気炉内の温度が500℃~800℃の範囲では、加熱時間に関係なく、かなりの量の揮発性物質が残存することが確認された。黒鉛粉末中の揮発性物質を目標値である0.02%以下にするためには、少なくとも900℃以上の加熱を行う必要があることが確認された。また、電気炉内の温度が1100℃以上になると、黒鉛粉末の酸化が急激に進むため、本発明の製造プロセスにおける膨張性黒鉛の製造に最適な温度は900℃~1100℃であることが確認された。
【0074】
一方、本発明の製造プロセスにおいて、熱処理温度を垂直方向に一気に上昇させると、電気炉表面の粉末が速やかに酸化又は乾燥し、内部の粉末の乾燥が相対的に少なくなり、乾留後の膨張性黒鉛の総含有量や収率に問題が生じることがわかった。
【0075】
そこで、第1の加熱温度を500℃とし、加熱に要する時間、第2の加熱温度等を変化させて、粉末の残量を測定した。結果を以下の表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2の結果から、経済的側面と粉末の収率の両方を考慮すると、1時間以上かけて500℃まで昇温することが最も効率的であることがわかる。
【0078】
さらに、500℃まで1時間以上かけて昇温した後に保持時間を調整した実験の結果、揮発性物質の除去、均一な熱の移動、粉末の収率、経済性等を総合的に考慮すると、保持時間を2時間とし、本発明の製造プロセスにおいて膨張性黒鉛の製造に最適な温度として決定した900℃まで1時間昇温することにより、最良の製造条件が得られることがわかった。;また、900℃での最適な保持時間は3時間であることがわかった。
【0079】
実験例2.水分処理による製造効率の向上の確認
実施例1の製造システムを用いて、実施例2に従って膨張性黒鉛を製造し、粉末1トン当たり10kg(10L)の水を容器下部に散布し、その上に黒鉛廃棄物を含むインターカレーション粉末を充填し、加熱した。下記表3に示すように、注水工程を行わない場合に比べ、揮発性物質の排出が大幅に改善され、得られた粉末の外観が良好であることがわかった。
【0080】
【表3】
【0081】
以上の結果を考慮すると、水分が蒸気として逃げる際に、装填された粉末の間に空気の通り道が形成され、熱がより効率的に伝わり、揮発性物質がよりよく排出されると考えられる。特に、実施例1による容器下部には、熱伝導率の高い黒鉛煉瓦が配置されているため、熱の伝達を速めることにより、低温で良好に空気の通り道が形成されたと考えられる。
【0082】
実験例3.放熱シートの熱伝導率の評価
実施例2~4で製造したシートについて、市販のシートと熱伝導率を比較評価した。市販のシートとして用いたDSN(JIANGXI DASEN TECHNOLOGY CO.,LTD)製品は、従来の放熱シートの製造方法に従って、鉱山で採掘された黒鉛鉱物から黒鉛を抽出し、強酸(HSO等)でインターカレーションすることにより製造した膨張性黒鉛からなる放熱シートである。
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
実験の結果、本発明の製造プロセスにより製造された放熱シートは、対照品と比較して熱伝導率が約37~56%向上を示した。本発明では、二次電池や燃料電池等から得られる黒鉛廃棄物を原料として用いたため、不純物の含有量が非常に少なく、本発明の製造方法によれば、膨張性黒鉛の揮発物質の含有量が大幅に減少し、膨張性黒鉛の凝集度が高まって圧縮率が既存品より高くなり、熱伝導率が大幅に向上する。図5及び図6を比較すると、本発明により製造された放熱シートでは、市販の放熱シートと比較して、シート中の膨張性黒鉛の圧縮率が大幅に向上していることがわかる。
【0086】
以上のように、本発明を好ましい実施形態及び図面を参照して説明したが、当業者であれば、本発明の特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明を多様に変更して実施できることを理解するはずである。
【0087】
したがって、本発明の範囲は、本発明の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された内容によって決定されるべきである。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5
図6
【国際調査報告】