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特表2023-536289水噴射を有するスプリットサイクル内燃エンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-24
(54)【発明の名称】水噴射を有するスプリットサイクル内燃エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/025 20060101AFI20230817BHJP
   F02B 47/02 20060101ALI20230817BHJP
   F02B 33/22 20060101ALI20230817BHJP
   F02B 75/02 20060101ALI20230817BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
F02M25/025 K
F02B47/02
F02M25/025 A
F02B33/22 Z
F02M25/025 S
F02B75/02
F02D19/12 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506529
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 GB2021051949
(87)【国際公開番号】W WO2022029409
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】2012337.8
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521377568
【氏名又は名称】ドルフィン エヌツー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】オーウェン ニック
(72)【発明者】
【氏名】ピケット リース
(72)【発明者】
【氏名】モーガン ロブ
(72)【発明者】
【氏名】アトキンズ アンドリュー
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA04
3G092AB17
3G092DE15
3G092EC01
3G092FA24
3G092HA04Z
3G092HA05Z
3G092HD01Z
3G092HD05Z
(57)【要約】
【解決手段】
スプリットサイクル内燃エンジンは、燃焼シリンダと、圧縮作動流体を燃焼のために燃焼シリンダに提供するために空気を受け入れて空気を圧縮するように設計された圧縮シリンダと、を備える。圧縮シリンダは、水貯蔵部に連結される。さらに、エンジンは、エンジンおよび/またはエンジンに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取って、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の総水量が、閾値の水濃度レベル未満である圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、圧縮シリンダに供給される水量の供給を制御するように設計されたコントローラを備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容して、圧縮作動流体を燃焼のために前記燃焼シリンダに提供するために空気を受け入れて前記空気を圧縮するように設計されていて、水貯蔵部に連結された圧縮シリンダと、
スプリットサイクル内燃エンジンおよび/または前記スプリットサイクル内燃エンジンに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取り、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、前記圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、前記水の大部分が前記圧縮行程中に前記水の気相に気化して、前記圧縮行程により生じる温度上昇が前記水による熱の前記吸収により制限されるように、少なくとも1つの前記パラメータの前記値に基づいて、前記水貯蔵部から前記圧縮シリンダに供給される水量の供給を制御するように設計されたコントローラと、
を有してなり、
前記コントローラは、前記圧縮行程の終わりの前記圧縮作動流体中の前記水量が、閾値の水濃度レベル未満である前記圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるように、前記水量の前記供給を制御するように構成される、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項2】
少なくとも1つの前記パラメータの前記値は、前記燃焼シリンダおよび/または前記燃焼シリンダに関連する流体に関連する温度の値を含む、
請求項1記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項3】
少なくとも1つの前記パラメータの前記値は、前記燃焼シリンダから放出される排気の温度を含む、
請求項1または2記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項4】
前記圧縮シリンダは、排出口を備えて、
前記燃焼シリンダは、吸入口を備えて、
前記吸入口は、前記排出口から圧縮流体を受け入れるレキュペレータを通じて前記圧縮シリンダの前記排出口に連結されて、
前記レキュペレータは、前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮流体の温度を上げるように設計されて、
少なくとも1つの前記パラメータの前記値は、前記レキュペレータ内の前記圧縮流体の(1)温度と、(2)圧力と、(3)酸素濃度と、のうち少なくとも1つを含む、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項5】
前記コントローラは、前記レキュペレータ内の前記圧縮作動流体の温度を制御するために前記レキュペレータへの水の前記供給を制御するように構成される、
請求項4記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項6】
少なくとも1つの前記パラメータの前記値は、前記スプリットサイクル内燃エンジンの所望の出力を含む、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項7】
少なくとも1つの前記パラメータの前記値は、前記スプリットサイクル内燃エンジンまたは前記スプリットサイクル内燃エンジン内の流体に関連する酸素濃度を含む、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項8】
少なくとも1つの前記パラメータの前記値は、
(1)前記圧縮シリンダに供給されている水の温度と、
(2)前記圧縮シリンダに供給されている前記空気の温度と、
(3)前記圧縮シリンダに供給されている前記空気の湿度と、
(4)周囲の空気圧と、
のうち少なくとも1つを含む、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項9】
前記閾値の水濃度レベルは、前記燃焼シリンダでの燃焼を維持できる前記圧縮作動流体中の水の最大濃度に基づいて決定される、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項10】
前記コントローラは、前記燃焼シリンダにおける前記圧縮作動流体中の前記水量が最大燃焼水濃度レベル未満の水濃度レベルを有するように、水の前記供給を制御するように構成されて、
前記最大燃焼水濃度レベルは、燃焼を維持できる前記圧縮作動流体中の水の最大濃度であり、前記最大濃度を上回ると、燃焼の発生が妨げられる、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項11】
前記コントローラは、前記圧縮シリンダに供給される前記水の前記温度を制御するために加熱手段を動作させるように構成される、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項12】
前記コントローラは、供給される前記水の前記温度が、前記水が供給されている圧力についての前記水の沸点を下回るように、供給される前記水の前記温度を制御するように構成される、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項13】
前記コントローラは、前記水が供給されている前記圧力についての前記水の前記沸点を下回る選択された水閾値温度まで前記水を加熱するために加熱手段を動作させるように構成される、
請求項11に従属する請求項12記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項14】
前記コントローラは、供給される前記水が前記圧縮シリンダ内に供給された時から沸騰するまでにかかる時間を決定するように構成されて、
前記コントローラは、供給される前記水が沸騰するまでにかかる決定された前記時間が、選択された水沸騰時間の範囲内にあるように、供給される前記水の前記温度を制御するように構成される、
請求項11乃至13のいずれ一項かに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項15】
前記コントローラは、(1)決定された供給水量と、(2)前記スプリットサイクル内燃エンジンまたは前記スプリットサイクル内燃エンジン内の前記流体に関連するパラメータの値と、のうち少なくとも1つに基づいて、前記圧縮シリンダに供給される水の圧力を制御するように構成される、
請求項1乃至14のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項16】
前記コントローラは、前記圧縮シリンダに供給される水の液滴サイズの範囲を制御するように構成される、
請求項1乃至15のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項17】
前記コントローラは、(1)決定された前記供給水量と、(2)前記スプリットサイクル内燃エンジンまたは前記スプリットサイクル内燃エンジン内の前記流体に関連する前記パラメータの前記値と、のうち少なくとも1つに基づいて、前記圧縮シリンダへの水供給の継続時間を制御するように構成される、
請求項1乃至16のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項18】
前記コントローラは、少なくとも1つの前記パラメータの前記値に基づいて、圧縮サイクル中の前記圧縮ピストンのクランク角に対する水供給のタイミングを制御するように構成される、
請求項1乃至17のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項19】
前記コントローラは、少なくとも1つの前記パラメータの前記値に基づいて、前記圧縮シリンダ内に供給される前記水量を制御するように構成されて、
少なくとも1つの前記パラメータの前記値が前記パラメータについての目標値未満であるとき、前記コントローラは、水を前記圧縮シリンダ内に供給しないように構成されて、
少なくとも1つの前記パラメータの前記値が前記パラメータについての前記目標値以上であるとき、前記コントローラは、前記圧縮行程中に前記水が前記顕熱と前記潜熱との両方を通じて、前記圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、前記水が前記圧縮行程中に前記水の気相に気化して、前記圧縮行程により生じる温度上昇が前記水による熱の前記吸収により制限されるように、少なくとも1つの前記パラメータの前記値に基づいて、前記水貯蔵部から前記圧縮シリンダに供給される前記水量の供給を制御するように構成される、
請求項1乃至18のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項20】
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容して、圧縮流体を前記燃焼シリンダに提供するように設計されていて、水貯蔵部に連結された圧縮シリンダと、
前記燃焼シリンダおよび/または前記燃焼シリンダに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取り、前記パラメータの前記値に基づいて、前記圧縮シリンダ内に供給される水量を制御するように設計されたコントローラと、
を有してなり、
前記パラメータの前記値が前記パラメータについての目標値未満であるとき、前記コントローラは、水を前記圧縮シリンダ内に供給しないように構成されて、
前記パラメータの前記値が前記パラメータについての前記目標値以上であるとき、前記コントローラは、圧縮行程中に前記水が顕熱と潜熱との両方を通じて、前記圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、前記水が前記圧縮行程中に前記水の気相に気化して、前記圧縮行程により生じる温度上昇が前記水による熱の前記吸収により制限されるように、少なくとも1つの前記パラメータの前記値に基づいて、前記水貯蔵部から前記圧縮シリンダに供給される前記水量の供給を制御するように構成される、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項21】
少なくとも1つの前記パラメータの前記値は、前記燃焼シリンダおよび/または前記燃焼シリンダに関連する流体に関連する温度の値を含み、
前記パラメータについての前記目標値は、目標温度である、
請求項19または20記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項22】
前記圧縮シリンダは、
空気を前記圧縮シリンダに吸入する入口と、
前記圧縮シリンダから前記圧縮作動流体を排出する出口と、
を備えて、
前記圧縮シリンダは、
水を前記圧縮シリンダ内に供給する、前記入口と前記出口との間に配置されたインジェクタ、
を備える、
請求項1乃至21のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項23】
前記インジェクタは、前記圧縮ピストンの作動面に対向する前記圧縮シリンダの面上に配置される、
請求項22記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項24】
一対のインジェクタを備える、
請求項22または23記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項25】
前記燃焼シリンダは、燃料貯蔵部に連結されて、
前記コントローラは、少なくとも1つの前記パラメータの前記値に基づいて、前記燃焼シリンダへの燃料の供給を制御するように構成される、
請求項1乃至24のいずれか一項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項26】
前記コントローラは、前記圧縮シリンダに供給される前記水量に基づいて、燃料の供給を制御するように構成される、
請求項21記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項27】
前記コントローラは、供給される水に対する供給される燃料の比が、選択された範囲内であるように、燃料と水との供給を制御するように構成される、
請求項25または26記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項28】
スプリットサイクル内燃エンジンを動作させる方法であって、
前記スプリットサイクル内燃エンジンは、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容して、圧縮作動流体を燃焼のために前記燃焼シリンダに提供するために空気を受け入れて前記空気を圧縮するように設計されていて、水貯蔵部に連結された圧縮シリンダと、
を備えて、
前記方法は、
前記スプリットサイクル内燃エンジンおよび/または前記スプリットサイクル内燃エンジンに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取る工程と、
圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、前記圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、前記水の大部分が前記圧縮行程中に前記水の気相に気化して、前記圧縮行程により生じる温度上昇が前記水による熱の前記吸収により制限されるように、少なくとも1つの前記パラメータの前記値に基づいて、前記水貯蔵部から前記圧縮シリンダに供給される水量の供給を制御する工程と、
を含み、
前記水量の前記供給は、前記圧縮行程の終わりの前記圧縮作動流体中の前記水量が、閾値の水濃度レベル未満である前記圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるように制御される、
ことを特徴とする方法。
【請求項29】
スプリットサイクル内燃エンジンを動作させる方法であって、
前記スプリットサイクル内燃エンジンは、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容して、圧縮流体を前記燃焼シリンダに提供するように設計されていて、水貯蔵部に連結された圧縮シリンダと、
を備えて、
前記方法は、
前記燃焼シリンダおよび/または前記燃焼シリンダに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取る工程と、
前記パラメータの前記値に基づいて、前記圧縮シリンダ内に供給される水量を制御する工程と、
を含み、
前記パラメータの前記値が前記パラメータについての目標値未満であるとき、水を前記圧縮シリンダ内に供給せず、
前記パラメータの前記値が前記パラメータについての前記目標値以上であるとき、圧縮行程中に前記水が顕熱と潜熱との両方を通じて、前記圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、前記水が前記圧縮行程中に前記水の気相に気化して、前記圧縮行程により生じる温度上昇が前記水による熱の前記吸収により制限されるように、少なくとも1つの前記パラメータの前記値に基づいて、前記水貯蔵部から前記圧縮シリンダに供給される前記水量の前記供給が制御される、
ことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項28または29記載の方法を実行するようにプロセッサをプログラミングするように構成されたコンピュータプログラム命令を含む、
ことを特徴とする非一時的なコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スプリットサイクル内燃エンジンと、スプリットサイクル内燃エンジンを動作させる方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
スプリットサイクル内燃エンジンでは、空気を含む作動流体は、第1圧縮シリンダで圧縮されて、第2燃焼シリンダに提供される。第2燃焼シリンダでは、燃料が噴射されて、燃料と高圧流体との混合気が、駆動力を生成するために燃焼する。熱力学的利点は、このように圧縮処理と膨張/燃焼処理とを分離することから得られ得る。国際公開第2010/067080号には、スプリットサイクルエンジンと、関連の熱力学的な利点と、が記載されている。
【0003】
ガスタービンまたは内燃エンジンなどの熱力サイクルの第1段階は、作動流体の圧縮を含む。ガスタービンの場合、一般的に、20バールから25バールまでに圧縮されて、ディーゼルサイクル内燃エンジンについては100バール程度までに圧縮される。生じる圧縮仕事は、サイクルに対する有効な寄生負荷であり、有用な正味のサイクル仕事を計算するために、サイクルの膨張段階の間に回収される仕事から引かれる必要がある。圧縮処理は、ほぼ断熱的であり、燃焼処理を通じた熱の添加の前に顕著な給気加熱が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/067080号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の態様は独立請求項に記述されて、任意の特徴は従属請求項に記述されている。本発明の態様は相互に関連して提示されることもあり、ある態様の特徴が他の態様に適用されることもある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、スプリットサイクルエンジンに関する。スプリットサイクルエンジンにより、水などのクーラントは、圧縮行程により生じる温度上昇を制限するために、圧縮行程中、制御された様式で圧縮シリンダ内に供給される。顕熱と潜熱との両方を通じて水が温度上昇を吸収するように、かつ供給される総水量が閾値の濃度レベル未満の水濃度レベルとなるように、圧縮シリンダ内に供給される水の量(任意選択で、温度、継続時間、およびタイミング)が制御される。閾値の濃度レベルは、作動流体が依然として、燃焼シリンダでの燃焼を維持できるように、選択され得る。
【0007】
本開示の多くの実施例全体を通じて、水はクーラントであると記載されているが、水の代わりに、(例えば、冷凍処理を経て、および/または、加圧下で液化された)液化二酸化炭素または液化アンモニアなどの他の流体が用いられてもよいことは理解されよう。水が用いられる場合、水は、通常の水道水でもよく、または、蒸留水および/もしくは脱イオン水でもよいことは理解されよう。
【0008】
本場合、本発明者らは、圧縮中に熱が除去されると、圧縮仕事が著しく低減され得て、所定の作動流体量についてのサイクルの出力を増加させる可能性があることと、圧縮行程中に圧縮シリンダに水を供給することにより、この熱が除去され得ることと、を発見した。さらに、驚くことに、本発明者らは、ほとんどの水が水の気相に気化するように供給される水量を制御することと、顕熱と潜熱との両方を通じて水が熱を吸収できるように水を供給すること(例えば、水が供給されている圧力についての水の沸点に近いが同沸点を下回る温度で水を供給すること)と、により、圧縮仕事が(例えば、顕熱を通じた吸収に依存することのみよりも)著しく低減され得て、さらに、圧縮作動流体からクーラント(水)を事前に除去する必要なく、圧縮作動流体が依然として、燃焼を維持できることを発見した。
【0009】
したがって、本開示の第1態様において、燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、圧縮ピストンを収容して、圧縮作動流体を燃焼のために燃焼シリンダに提供するために空気を受け入れて空気を圧縮するように設計されていて、水貯蔵部に連結された圧縮シリンダと、を備えるスプリットサイクル内燃エンジンが提示される。さらに、スプリットサイクル内燃エンジンは、エンジンおよび/またはエンジンに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取って、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、水の少なくとも一部、実施例により水の大部分(実施例により水のほぼ全て)が圧縮行程中に水の気相に気化して、圧縮行程により生じる温度上昇が水による熱の吸収により制限されるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、貯蔵部から圧縮シリンダに供給される水量の供給を制御するように設計されたコントローラを備える。コントローラは、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の総水量が、閾値の水濃度レベル未満である圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるように、水量の供給を制御するように構成される。
【0010】
圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の総水量は、液体と気体との両方の形態の水を含むことは理解されよう。しかしながら、他の実施例において、コントローラは、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の液体の水量が閾値の(液体)水濃度レベル未満であるように、水量の供給を制御してもよい。閾値の水濃度レベルは、燃焼シリンダでの燃焼を維持できる圧縮作動流体中の水の最大濃度に基づいて決定されてもよい。
【0011】
少なくとも1つのパラメータの値は、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する温度、例えば、燃焼シリンダから放出される排気の温度の値を含んでもよい。
【0012】
圧縮シリンダは排出口を備えてもよく、燃焼シリンダは吸入口を備えて、吸入口は、排出口から圧縮流体を受け入れるレキュペレータを介して圧縮シリンダの排出口に連結される。レキュペレータは、燃焼シリンダに供給される圧縮流体の温度を上げるように設計される。少なくとも1つのパラメータの値は、レキュペレータ内の流体の(1)温度と、(2)圧力と、(3)酸素濃度と、のうち少なくとも1つを含む。レキュペレータは、作動流体の温度を上げて、および/または、(例えば、温度の上昇、および/または、温度の低下の両方を通じて)温度をより能動的に制御するように動作可能でもよい。少なくとも1つのパラメータの値が温度を含む場合、これは、レキュペレータ入口(すなわち、圧縮シリンダから圧縮作動流体を受け入れる入口)の温度でもよい。さらに、コントローラは、レキュペレータ内の圧縮作動流体の温度を制御するために、レキュペレータへの水の供給を制御するように構成されてもよい。これは、(例えば、レキュペレータ内への直接的な供給を通じて)直接的でもよく、および/または、より多くの水がレキュペレータにより受け入れられるように、過剰の水を圧縮シリンダに供給することによるものでもよい。
【0013】
これに加えて、またはこれに代えて、少なくとも1つのパラメータの値は、所望のエンジン出力を含んでもよい。これは、例えば、ガスペダルの踏込および/または燃料需要に基づいて決定されてもよい。例えば、コントローラは、燃焼シリンダ内の圧縮作動流体に供給される燃料の量に基づいて(例えば、同燃料の量に比例して)、供給される水量を制御してもよい。
【0014】
これに加えて、またはこれに代えて、少なくとも1つのパラメータの値は、エンジンまたはエンジン内の流体に関連する酸素濃度を含んでもよい。
【0015】
実施例により、少なくとも1つのパラメータの値は、(1)圧縮シリンダに供給されている水の温度と、(2)圧縮シリンダに供給されている空気の温度と、(3)圧縮シリンダに供給されている空気の湿度と、(4)周囲の空気圧と、のうち少なくとも1つを含む。例えば、周囲の空気圧がより低い場合、空気はより乾燥し得るため、コントローラは、比較的より多くの水が作動流体により吸収され得て、依然として、下流の燃焼シリンダで燃焼が維持され得ることを決定してもよい。例えば、コントローラは、圧縮シリンダに入っている空気の水搬送能力を決定して、水搬送能力に基づいて、供給される水量を決定するように構成されてもよい。実施例により、コントローラは、例えば、空気を能動的に加熱および/または冷却するように加熱手段および/または冷却手段を制御することにより、選択された範囲内に空気の湿度を能動的に制御するように構成されてもよい。例えば、湿度が選択された閾値の湿度(閾値の湿度は、周囲の空気圧に基づいてもよい)を上回る場合、コントローラは、空気を乾燥させるように構成されてもよい。例えば、空気は、選択された閾値の湿度以下に湿度を下げるために冷却されてもよい。この利点は、より冷たい空気はより高濃度であり、作動流体の給気を向上し得ることである。
【0016】
実施例により、コントローラは、燃焼シリンダにおける圧縮作動流体中の水量が最大燃焼水濃度レベル未満の水濃度レベルを有するように、水の供給を制御するように構成されて、最大燃焼水濃度レベルは、燃焼を維持できる圧縮作動流体中の水の最大濃度であり、同最大濃度を上回ると、燃焼の発生が妨げられる。
【0017】
コントローラは、圧縮シリンダに供給される水の温度を制御するように、加熱手段を動作させるように構成されてもよい。例えば、コントローラは、供給される水の温度が、水が供給されている圧力についての水の沸点を下回る(および/または沸点の選択された範囲内である)ように、供給される水の温度を制御するように構成されてもよい。加熱手段は、例えば、熱交換器を備えてもよく、車両のラジエータ/HVAC(暖房、換気、および空調)システムに連結されてもよい。実施例により、加熱手段は2つの加熱手段を備えてもよく、一方は第1選択温度まで水のタンクまたは貯蔵部を加熱して、他方は圧縮シリンダへの供給のために、より高い第2温度まで水を加熱する。
【0018】
実施例により、コントローラは、供給される水が圧縮シリンダ内に供給された時から沸騰するまでにかかる時間を決定するように構成される。このような実施例において、コントローラは、供給される水が沸騰するまでにかかる決定時間が、選択された水沸騰時間の範囲内にあるように、供給される水の温度を制御するように構成されてもよい。コントローラは、例えば、圧力、湿度、および温度などのパラメータ間の既知の関係を列挙し得る、例えば、ルックアップテーブル(LUT:Lookup Table)を参照することにより、供給される水が沸騰するまでにかかる時間を決定してもよい。
【0019】
コントローラは、(1)決定された供給水量と、(2)エンジンまたはエンジン内の流体に関連するパラメータの値と、のうち少なくとも1つに基づいて、圧縮シリンダに供給される水の圧力を制御するように構成されてもよい。圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、供給される水量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、または、圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、異なるパラメータでもよいことは理解されよう。
【0020】
実施例により、コントローラは、圧縮シリンダに供給される水の液滴サイズの範囲を制御するように構成される。液滴サイズの範囲は、例えば、液滴が圧縮シリンダを通って放出される程度を変更して、これにより圧縮シリンダの容積全体を通じた水と空気との混合の向上を達成するように制御されてもよい。液滴サイズの範囲は、供給についての決定された量、圧力、および/または継続時間の関数として制御されてもよい。例えば、液滴サイズの範囲は、供給継続時間の関数と反比例して変わってもよく、その結果、短い供給に対して、液滴は長い供給継続時間に対するものよりも平均して大きく、長い供給継続時間において、液滴は平均して小さくてもよい。
【0021】
コントローラは、(1)決定された供給水量と、(2)エンジンまたはエンジン内の流体に関連するパラメータの値と、のうち少なくとも1つに基づいて、圧縮シリンダへの水供給の継続時間を制御するように構成されてもよい。圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、または、圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、異なるパラメータでもよいことは理解されよう。
【0022】
コントローラは、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、圧縮サイクル中の圧縮ピストンのクランク角に対する水供給のタイミングを制御するように構成されてもよい。例えば、コントローラは、供給されている水の温度および/または空気温度に基づいて水供給のタイミングを制御する(例えば、水および/または入って来る空気が冷たい場合、BDCのより近くで水が噴射されて、水および/または入って来る空気が暖かい場合、TDCのより近くで水が噴射される)ように構成されてもよい。例えば、エンジンが停止後に始動したばかりである場合、加熱手段(存在すれば)は、初期に、選択された温度まで水を加熱する際に有効でない場合があるため、コントローラは、それに応じて水供給のタイミングを変更してもよい。
【0023】
圧縮シリンダは、空気をシリンダに吸入する入口と、圧縮シリンダから圧縮作動流体を排出する出口と、を備えてもよい。圧縮シリンダは、水を圧縮シリンダ内に供給する、入口と出口との間に配置されたインジェクタを備える。インジェクタは、圧縮ピストンの作動面に対向する圧縮シリンダの面上に配置されてもよい。実施例により、圧縮シリンダは、一対のインジェクタを備える。
【0024】
燃焼シリンダは、燃料貯蔵部に連結されてもよく、コントローラは、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、燃焼シリンダへの燃料の供給を制御するように構成されてもよい。コントローラは、圧縮シリンダに供給される水量に基づいて、燃料の供給を制御するように構成されてもよい。実施例により、コントローラは、供給される水に対する供給される燃料の比が、選択された範囲内であるように、燃料と水との供給を制御するように構成される。実施例により、コントローラは、供給される水に対する供給される燃料の比が実質的に一定であるように、燃料と水との供給を制御するように構成される。
【0025】
実施例により、コントローラは、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、圧縮シリンダ内に供給される水量を制御するように構成されて、少なくとも1つのパラメータの値がパラメータについての目標値未満であるとき、コントローラは、水を圧縮シリンダ内に供給しないように構成されて、少なくとも1つのパラメータの値がパラメータについての目標値以上であるとき、コントローラは、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、水が圧縮行程中に水の気相に気化して、圧縮行程により生じる温度上昇が水による熱の吸収により制限されるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、貯蔵部から圧縮シリンダに供給される水量の供給を制御するように構成される。
【0026】
本開示の別の態様において、燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、圧縮ピストンを収容して、圧縮流体を燃焼シリンダに提供するように設計されていて、水貯蔵部に連結された圧縮シリンダと、を備えるスプリットサイクル内燃エンジンが提示される。さらに、スプリットサイクル内燃エンジンは、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取って、パラメータの値に基づいて、圧縮シリンダ内に供給される水量を制御するように設計されたコントローラを備えて、パラメータの値がパラメータについての目標値未満であるとき、コントローラは、水を圧縮シリンダ内に供給しないように構成されて、パラメータの値がパラメータについての目標値以上であるとき、コントローラは、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、水が圧縮行程中に水の気相に気化して、圧縮行程により生じる温度上昇が水による熱の吸収により制限されるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、貯蔵部から圧縮シリンダに供給される水量の供給を制御するように構成される。
【0027】
有利なことに、このような構成は、例えば、エンジンが始動したばかりで冷たいときに作動流体を不必要に冷却して水を無駄にすることはなく、給気密度を向上させるためにクーラントとして機能するように水を用いるに値する十分に暖かい温度でエンジンが動作しているときにのみ水が用いられることを意味し得る。
【0028】
少なくとも1つのパラメータの値は、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する温度の値を含んでもよく、パラメータについての目標値は、目標温度である。
【0029】
圧縮シリンダは、空気をシリンダに吸入する入口と、圧縮シリンダから圧縮作動流体を排出する出口と、を備えてもよい。圧縮シリンダは、水を圧縮シリンダ内に供給する、入口と出口との間に配置されたインジェクタを備える。インジェクタは、圧縮ピストンの作動面に対向する圧縮シリンダの面上に配置されてもよい。実施例により、圧縮シリンダは、一対のインジェクタを備える。
【0030】
燃焼シリンダは、燃料貯蔵部に連結されてもよく、コントローラは、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、燃焼シリンダへの燃料の供給を制御するように構成されてもよい。コントローラは、圧縮シリンダに供給される水量に基づいて、燃料の供給を制御するように構成されてもよい。実施例により、コントローラは、供給される水に対する供給される燃料の比が選択された範囲内であるように、燃料と水との供給を制御するように構成される。実施例により、コントローラは、供給される水に対する供給される燃料の比が実質的に一定であるように、燃料と水との供給を制御するように構成される。
【0031】
本開示の別の態様において、スプリットサイクル内燃エンジンを動作させる方法が提示される。エンジンは、燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、圧縮ピストンを収容して、圧縮作動流体を燃焼のために燃焼シリンダに提供するために空気を受け入れて空気を圧縮するように設計されていて、水貯蔵部に連結された圧縮シリンダと、を備える。本方法は、エンジンおよび/またはエンジンに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取る工程と、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、水の大部分が圧縮行程中に水の気相に気化して、圧縮行程により生じる温度上昇が水による熱の吸収により制限されるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、貯蔵部から圧縮シリンダに供給される水量の供給を制御する工程と、を含む。水量の供給は、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の水量が、閾値の水濃度レベル未満である圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるように制御される。
【0032】
圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の総水量は、液体と気体との両方の形態の水を含むことは理解されよう。しかしながら、他の実施例において、本方法は、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の液体の水量が閾値の(液体)水濃度レベル未満であるように水量の供給を制御する工程を含んでもよい。閾値の水濃度レベルは、燃焼シリンダでの燃焼を維持できる圧縮作動流体中の水の最大濃度に基づいて決定されてもよい。
【0033】
少なくとも1つのパラメータの値は、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する温度、例えば、燃焼シリンダから放出される排気の温度の値を含んでもよい。
【0034】
圧縮シリンダは排出口を備えてもよく、燃焼シリンダは吸入口を備えて、吸入口は、排出口から圧縮流体を受け入れるレキュペレータを介して圧縮シリンダの排出口に連結される。レキュペレータは、燃焼シリンダに供給される圧縮流体の温度を上げるように設計される。少なくとも1つのパラメータの値は、レキュペレータ内の流体の(1)温度と、(2)圧力と、(3)酸素濃度と、のうち少なくとも1つを含む。レキュペレータは、作動流体の温度を上げて、および/または、(例えば、温度の上昇、および/または、温度の低下の両方を通じて)温度をより能動的に制御するように動作可能でもよい。少なくとも1つのパラメータの値が温度を含む場合、これは、レキュペレータ入口(すなわち、圧縮シリンダから圧縮作動流体を受け入れる入口)の温度でもよい。本方法は、レキュペレータ内の圧縮作動流体の温度を制御するために、レキュペレータへの水の供給を制御する工程を含んでもよい。これは、(例えば、レキュペレータ内への直接的な供給を通じて)直接的でもよく、および/または、より多くの水がレキュペレータにより受け入れられるように過剰の水を圧縮シリンダに供給することによるものでもよい。
【0035】
これに加えて、またはこれに代えて、少なくとも1つのパラメータの値は、所望のエンジン出力を含んでもよい。これは、例えば、ガスペダルの踏込および/または燃料需要に基づいて決定されてもよい。例えば、本方法は、燃焼シリンダ内の圧縮作動流体に供給される燃料の量に基づいて(例えば、同燃料の量に比例して)、供給される水量を制御する工程を含んでもよい。
【0036】
これに加えて、またはこれに代えて、少なくとも1つのパラメータの値は、エンジンまたはエンジン内の流体に関連する酸素濃度を含んでもよい。
【0037】
実施例により、少なくとも1つのパラメータの値は、(1)圧縮シリンダに供給されている水の温度と、(2)圧縮シリンダに供給されている空気の温度と、(3)圧縮シリンダに供給されている空気の湿度と、(4)周囲の空気圧と、のうち少なくとも1つを含む。例えば、周囲の空気圧がより低い場合、空気はより乾燥し得るため、比較的より多くの水が作動流体により吸収され得て、依然として、下流の燃焼シリンダで燃焼が維持され得ることが決定されてもよい。例えば、圧縮シリンダに入っている空気の水搬送能力が決定されてもよく、これに応じて、供給される水量が、決定された水搬送能力に基づいて決定されてもよい。
【0038】
実施例により、本方法は、燃焼シリンダにおける圧縮作動流体中の水量が最大燃焼水濃度レベル未満の水濃度レベルを有するように、水の供給を制御する工程を含む。最大燃焼水濃度レベルは、燃焼を維持できる圧縮作動流体中の水の最大濃度であり、同最大濃度を上回ると、燃焼の発生が妨げられる。
【0039】
実施例により、本方法は、圧縮シリンダに供給される水の温度を制御するように、加熱手段を動作させる工程を含んでもよい。例えば、供給される水の温度が、水が供給されている圧力についての水の沸点を下回る(および/または沸点の選択された範囲内である)ように、供給される水の温度が制御されてもよい。加熱手段は、例えば、熱交換器を備えてもよく、車両のラジエータ/HVAC(暖房、換気、および空調)システムに連結されてもよい。実施例により、加熱手段は2つの加熱手段を備えてもよく、一方は第1選択温度まで水のタンクまたは貯蔵部を加熱して、他方は圧縮シリンダへの供給のために、より高い第2温度まで水を加熱する。
【0040】
実施例により、本方法は、供給される水が圧縮シリンダ内に供給された時から沸騰するまでにかかる時間を決定する工程を含む。このような実施例において、本方法は、供給される水が沸騰するまでにかかる決定時間が、選択された水沸騰時間の範囲内にあるように、供給される水の温度を制御する工程を含んでもよい。本方法は、例えば、圧力、湿度、および温度などのパラメータ間の既知の関係を列挙し得る、例えば、ルックアップテーブル(LUT)を参照することにより、供給される水が沸騰するまでにかかる時間を決定する工程を含んでもよい。
【0041】
本方法は、(1)決定された供給水量と、(2)エンジンまたはエンジン内の流体に関連するパラメータの値と、のうち少なくとも1つに基づいて、圧縮シリンダに供給される水の圧力を制御する工程を含んでもよい。圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、供給される水量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、または、圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、異なるパラメータでもよいことは理解されよう。
【0042】
実施例により、本方法は、圧縮シリンダに供給される水の液滴サイズの範囲を制御する工程を含む。液滴サイズの範囲は、例えば、液滴が圧縮シリンダを通って放出される程度を変更するように制御されてもよい。液滴サイズの範囲は、供給についての決定された量、圧力、および/または継続時間の関数として制御されてもよい。例えば、液滴サイズの範囲は、供給継続時間の関数と反比例して変わってもよく、その結果、短い供給に対して、液滴は長い供給継続時間に対するものよりも平均して大きく、長い供給継続時間において、液滴は平均して小さくてもよい。これに加えて、またはこれに代えて、クーラントの表面張力に作用することにより液滴サイズの範囲を変更するために、添加剤がクーラントに添加されてもよく、および/または、クーラントの表面張力に作用することにより液滴サイズの範囲を変更するために、電界がクーラントに印加されてもよい。
【0043】
本方法は、(1)決定された供給水量と、(2)エンジンまたはエンジン内の流体に関連するパラメータの値と、のうち少なくとも1つに基づいて、圧縮シリンダへの水供給の継続時間を制御する工程を含んでもよい。圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、または、圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、異なるパラメータでもよいことは理解されよう。
【0044】
本方法は、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、圧縮サイクル中の圧縮ピストンのクランク角に対する水供給のタイミングを制御する工程を含んでもよい。例えば、本方法は、供給されている水の温度および/または空気温度に基づいて、水供給のタイミングを制御する(例えば、水および/または入って来る空気が冷たい場合、BDCのより近くで水が噴射されて、水および/または入って来る空気が暖かい場合、TDCのより近くで水が噴射される)工程を含んでもよい。例えば、エンジンが停止後に始動したばかりである場合、加熱手段(存在すれば)は、初期に、選択された温度まで水を加熱する際に有効でない場合があるため、コントローラは、それに応じて水供給のタイミングを変更してもよい。
【0045】
圧縮シリンダは、空気をシリンダに吸入する入口と、圧縮シリンダから圧縮作動流体を排出する出口と、を備えてもよい。圧縮シリンダは、水を圧縮シリンダ内に供給する、入口と出口との間に配置されたインジェクタを備える。インジェクタは、圧縮ピストンの作動面に対向する圧縮シリンダの面上に配置されてもよい。実施例により、圧縮シリンダは、一対のインジェクタを備える。
【0046】
燃焼シリンダは、燃料貯蔵部に連結されてもよく、本方法は、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、燃焼シリンダへの燃料の供給を制御する工程を含んでもよい。本方法は、圧縮シリンダに供給される水量に基づいて、燃料の供給を制御する工程を含んでもよい。実施例により、燃料と水との供給は、供給される水に対する供給される燃料の比が選択された範囲内であるように、制御されてもよい。実施例により、燃料と水との供給は、供給される水に対する供給される燃料の比が実質的に一定であるように、制御されてもよい。
【0047】
本開示の別の態様において、スプリットサイクル内燃エンジンを動作させる方法が提示される。スプリットサイクル内燃エンジンは、燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、圧縮ピストンを収容して、圧縮流体を燃焼シリンダに提供するように設計されていて、水貯蔵部に連結された圧縮シリンダと、を備える。本方法は、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取る工程と、パラメータの値に基づいて、圧縮シリンダ内に供給される水量を制御する工程と、を含み、パラメータの値がパラメータについての目標値未満であるとき、水が圧縮シリンダ内に供給されず、パラメータの値がパラメータについての目標値以上であるとき、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、水が圧縮行程中に水の気相に気化して、圧縮行程により生じる温度上昇が水による熱の吸収により制限されるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、貯蔵部から圧縮シリンダに供給される水量の供給が制御される。
【0048】
有利なことに、このような構成は、例えば、エンジンが始動したばかりで冷たいときに作動流体を不必要に冷却して水を無駄にすることはなく、給気密度を向上させるためにクーラントとして機能するように水を用いるに値する十分に暖かい温度でエンジンが動作しているときにのみ水が用いられることを意味し得る。
【0049】
少なくとも1つのパラメータの値は、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する温度の値を含んでもよく、パラメータについての目標値は、目標温度である。
【0050】
圧縮シリンダは、空気をシリンダに吸入する入口と、圧縮シリンダから圧縮作動流体を排出する出口と、を備えてもよい。圧縮シリンダは、水を圧縮シリンダ内に供給する、入口と出口との間に配置されたインジェクタを備える。インジェクタは、圧縮ピストンの作動面に対向する圧縮シリンダの面上に配置されてもよい。実施例により、圧縮シリンダは、一対のインジェクタを備える。
【0051】
燃焼シリンダは燃料貯蔵部に連結されてもよく、本方法は少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、燃焼シリンダへの燃料の供給を制御する工程を含んでもよい。本方法は、圧縮シリンダに供給される水量に基づいて、燃料の供給を制御する工程を含んでもよい。実施例により、本方法は、供給される水に対する供給される燃料の比が選択された範囲内であるように、燃料と水との供給を制御する工程を含んでもよい。実施例により、本方法は、供給される水に対する供給される燃料の比が実質的に一定であるように、燃料と水との供給を制御する工程を含んでもよい。
【0052】
本開示の別の態様において、前述の態様のいずれかの方法を実行するようにプロセッサをプログラミングするように構成されたコンピュータプログラム命令を含む非一時的なコンピュータ可読媒体が提示される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
以下、本開示の実施形態を、単なる例示として、添付の図を参照して説明する。
図1図1は、スプリットサイクル内燃エンジン装置の一例の模式図を示す。
図2図2は、スプリットサイクル内燃エンジン装置の別の例の模式図を示す。
図3図3は、スプリットサイクル内燃エンジン装置の別の例の模式図を示す。
図4図4は、スプリットサイクル内燃エンジン装置の別の例の模式図を示す。
図5図5は、図1から図4までと図6とのいずれかに示される装置などのスプリットサイクル内燃エンジン装置を動作させる方法のフローチャートを示す。
図6図6は、スプリットサイクル内燃エンジン装置の別の例の一部の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて熱を吸収して、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の水量が、閾値の水濃度レベル未満である圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるように、圧縮シリンダ10に供給される水量を制御するように設計されたスプリットサイクル内燃エンジン100の第1実施例を示す。
【0055】
エンジン100は、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する温度の値などの、パラメータの値をコントローラ60に提供するように設計される。コントローラ60は、この値に基づいて、圧縮シリンダ10に供給される水量を決定する。コントローラ60は、圧縮作動流体中の水の濃度が選択された範囲内であるように、貯蔵部102からの水の供給を制御するフィードバックループに基づいて動作してもよい。これにより、例えば、NOx化合物の生成が妨げられ得るように、燃焼シリンダ20内の燃焼温度が制御可能になり得る。
【0056】
図示のとおり、図1は、圧縮シリンダ10と燃焼シリンダ20とを備えるスプリットサイクル内燃エンジン100の装置を示す。圧縮シリンダ10は、連結ロッド52を介してクランクシャフト70の一部上の各クランクに接続された圧縮ピストン12を収容する。燃焼シリンダ20は、連結ロッド54を介してクランクシャフト70の一部上の各クランクに連結された燃焼ピストン22を収容する。圧縮シリンダ10は、クロスオーバ通路を介して燃焼シリンダ20に連結される。クロスオーバ通路は、示される実施例ではレキュペレータ118であるが、レキュペレータの存在は任意であることは理解されよう。圧縮シリンダ10は、(任意で、圧縮空気供給を受け入れるためにターボチャージャ112を介して)エンジン100の外側から空気を受け入れる吸入口8と、レキュペレータ118に連結された排出口9と、を備える。任意のターボチャージャ112が存在する実施例において、燃焼シリンダ20からの排気を用いてタービンを駆動してターボチャージャ112を駆動するために、ターボチャージャ112が、(より詳細に後述する)排出経路136に連結されてもよいことは理解されよう。排出口9は、圧縮空気が圧縮シリンダ10内に逆流できないように逆止弁を備える。したがって、レキュペレータ118は、圧縮シリンダ10から圧縮作動流体を受け入れる第1(高圧)吸入口118aと、圧縮作動流体を燃焼シリンダ20に供給する第1(高圧)排出口118bと、燃焼シリンダ20から排気を受け入れる第2(低圧)吸入口118cと、排気を周囲に放出する第2(低圧)排出口118dと、を備える。
【0057】
燃焼シリンダ20は、レキュペレータ118の第1(高圧)排出口118bに連結された吸入口18と、排気を燃焼シリンダ20からレキュペレータ118を介して排気装置に送る、レキュペレータ118の第2(低圧)吸入口118cに連結された排出口19と、を備える。これらの連結は、レキュペレータ118を介した、圧縮シリンダ10と燃焼シリンダ20との間の空気についての空気流路を提供する。
【0058】
さらに、エンジン100は、示される実施例において、液体の水を供給するように構成された水クーラントシステムであるクーラントシステムを備える。クーラントシステムは、液体流路を画定するクーラントインジェクタ14(実施例により、一対のクーラントインジェクタなどの複数のクーラントインジェクタ14が存在してもよいことは理解されよう)を介して圧縮シリンダ10に連結された液体クーラント貯蔵部102を備えるものとして図示される。図1に示される実施例において、クーラントインジェクタ14は、水を圧縮シリンダ10内に供給するために入口8と出口9との間に配置される。図1に示される実施例において、クーラントインジェクタ14は、圧縮ピストン12の作動面に対向する圧縮シリンダ10の面上に配置される。圧縮シリンダ10が複数のクーラントインジェクタ14を備える場合、これらもまた、圧縮ピストン12の作動面に対向する圧縮シリンダ10の面上に、入口8と出口9との間に配置されてもよいことは理解されよう。
【0059】
図3に示される実施例の文脈で記載されるとおり、さらに、クーラントシステムは、(図1には示されていないが)クーラントをレキュペレータ118内に噴射するインジェクタを任意で備えてもよい。
【0060】
さらに、エンジン100は、燃料インジェクタ82を介して燃焼シリンダ20に連結された燃料貯蔵部132を備えて、その結果、流体の流路は、燃料貯蔵部132と燃焼シリンダ20との間で画定される。
【0061】
エンジン100は、コントローラ60と、コントローラ60に連結された少なくとも1つのセンサ122と、を備える。実施例において、少なくとも1つのセンサ122は、温度センサ、圧力センサ、酸素濃度センサ、またはこれらの任意の組合せでもよい。示される実施例において、さらに、コントローラ60は、クーラントインジェクタ14と、燃料インジェクタ82および/または貯蔵部80と、に連結される。図1に示される実施例において、さらに、コントローラ60は、圧縮シリンダ10および/または燃焼シリンダ20への作動流体の供給と、圧縮シリンダ10および/または燃焼シリンダ20からの作動流体の排気と、を制御するために、圧縮シリンダ10の吸入口8と、圧縮シリンダ10の排出口9(およびインジェクタ14)と、燃焼シリンダ20の吸入口18と、燃焼シリンダ20の排出口19と、に連結される。
【0062】
図示されるセンサ122は、単なる例示であり、異なる数のセンサが存在してもよく、または、同センサは、異なる位置に配置されてもよいことは理解されよう。図1に示される実施例において、センサ122は、レキュペレータ118の高圧吸入口118a上に配置されて、作動流体が圧縮シリンダ出口9からレキュペレータ118内に移動するときの作動流体のパラメータを決定するように構成される。センサ122は、物理的なワイヤを通じてコントローラ60に連結されてもよく、または、無線で接続されてもよい。しかしながら、エンジン100は、付加的なセンサまたは代替的なセンサを備えてもよいことも理解されよう。例えば、レキュペレータ118の他の出入口118b,118c,118dがセンサを有してもよく、および/または、流体がレキュペレータ118を通って流れるときの流体のパラメータをモニタリングするように構成されたセンサが存在してもよい。実施例により、吸入口8は、温度センサを備えてもよく、および/または、圧縮シリンダ10内に圧縮センサ11が存在してもよい。例えば、これに加えて、またはこれに代えて、空気吸入口8の近くもしくはクーラントインジェクタ14の近くに取り付けられたセンサ、および/または、燃焼シリンダ20の排出口19の下流の排出センサが存在してもよい。実施例により、さらに、液体クーラント貯蔵部102は、例えば、貯蔵部102に含まれる液体量などの量および/または同液体の温度を測定するセンサを備えてもよい。
【0063】
エンジン100は、圧縮シリンダ10の吸入口8を通じて圧縮シリンダ10内に空気が吸入されるように設計される。空気は、ターボチャージャを介して圧縮されてもよく、および/または、圧縮シリンダ10に入る前に中間冷却器を介して冷却されてもよい。圧縮ピストン12は、圧縮作動流体を生成するために、この空気を圧縮するように設計されて、圧縮段階の間、水などの液体クーラントが、圧縮シリンダ10内に添加されてもよい。圧縮シリンダ排出口9と燃焼シリンダ吸入口18との間の経路120に沿って、圧縮作動流体は、レキュペレータ118を通る。レキュペレータ118は、第1(高圧)吸入口118aを介してシリンダの排出口9から圧縮作動流体を受け入れて、燃焼シリンダ吸入口18を介して第1(高圧)排出口118bから燃焼シリンダ20内に圧縮作動流体を送るように設計される。レキュペレータ118は、燃焼シリンダ排出口19からの排気ガスが排出経路136に沿って排出出口(不図示)まで通過することにより加熱されるように動作可能であって、したがって、レキュペレータ118は、燃焼シリンダ20に供給される圧縮流体の温度を上げるように設計されてもよい。しかしながら、これに加えて、またはこれに代えて、実施例により、レキュペレータ118は、燃焼シリンダ20に供給される圧縮流体の温度を下げるように設計され得るため、実施例により、レキュペレータ118は、燃焼シリンダ20に供給される圧縮流体の温度を制御するように、例えば、圧縮流体の温度を選択された範囲内に保つように、および/または、圧縮流体の温度を選択された閾値温度よりも低く保つように構成されてもよいことは理解されよう。このことは、燃焼シリンダ20内のNOx生成を減らして、および/または、レキュペレータ118への材料損傷の発生を妨げることに役立ち得る。
【0064】
さらに、エンジン100は、燃料インジェクタ82を介して燃料貯蔵部132から燃焼シリンダ20内の作動流体に燃料を添加して、クランクシャフト70の回転を介して有用な仕事を抽出するために、燃料と作動流体との混合気を(例えば、不図示の点火源の動作を介して)燃焼するように設計される。
【0065】
センサ122は、エンジン100および/またはエンジン100に関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を提供して、少なくとも1つの信号をコントローラ60に送信するように構成される。実施例により、少なくとも1つのパラメータの値は、レキュペレータ118内の流体の(1)温度と、(2)圧力と、(3)酸素濃度と、のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0066】
コントローラ60は、エンジン100および/またはエンジン100に関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取って、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、水の少なくとも一部、一般的に水の大部分(任意で、水のほぼすべて)が圧縮行程中に水の気相に気化して、圧縮行程により生じる温度上昇が水による熱の吸収により制限されるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、貯蔵部102から圧縮シリンダ10に供給される水量の供給を制御するように設計される。さらに、コントローラ60は、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の水量が、閾値の水濃度レベル未満である圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるように、水量の供給を制御するように構成される。閾値の水濃度レベルは、燃焼シリンダ20での燃焼を維持できる圧縮作動流体中の水の最大濃度に基づいて決定されてもよい。
【0067】
顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を水が確実に吸収するために、コントローラ60は、供給される水の温度が、水が供給されている圧力についての水の沸点を下回るように、供給される水の温度を制御するように構成されてもよい。このことは、水が潜熱と沸騰とを通じて熱を吸収し始める前に、(顕熱を通じて)移動する水の温度について「余地」または選択された温度範囲が依然として存在することを意味する。図2を参照してより詳細に後述するとおり、実施例により、さらに、エンジン100は、圧縮シリンダ10への水の供給の前に水を加熱する手段を備えてもよい。
【0068】
図1に示される実施例において、センサ122は、圧縮シリンダおよび/または圧縮シリンダに関連する流体に関連する温度の値を提供するように構成される。図1に示される実施例において、これは、レキュペレータ118の第1(高圧)吸入口118a内に流れる作動流体の温度である。このセンサ122は、圧縮作動流体の温度を検知して、検知された温度データをコントローラ60に戻し伝えるように動作可能である。コントローラ60は、この温度データを受け取って、受け取った温度データに少なくとも部分的に基づいて、クーラントインジェクタ14を介して圧縮シリンダ10に供給される水量の供給を制御するように設計される。
【0069】
燃料貯蔵部132および/または燃料インジェクタ82は、コントローラ60が燃焼シリンダ20内への燃料の供給を制御するように動作可能であるようにコントローラ60に連結される。実施例により、コントローラ60は、噴射される燃料の量を決定するように構成される。これは、圧縮シリンダ10に供給される水量、および/または、エンジン100の少なくとも1つのパラメータの受け取った値に基づくものでもよい。例えば、これは、圧縮シリンダ10に供給される水量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、または、異なるパラメータでもよい。例えば、コントローラ60は、(例えば、排出経路136に連結された)排出センサから受け取られる信号を介して少なくとも1つのパラメータの値を取得するように構成されてもよい。実施例により、パラメータの組合せが用いられてもよい。実施例により、コントローラ60は、例えば、供給される水に対する供給される燃料の比が、選択された範囲(例えば、選択された範囲は、水に対する燃料の比が実質的に一定であるものでもよい)内であるように、圧縮シリンダ10に供給される水量に基づいて、燃料の供給を制御するように構成される。
【0070】
図1に示される実施例において、さらに、コントローラ60は、圧縮シリンダ10の吸入口8と、圧縮シリンダの排出口9(およびインジェクタ14)と、に連結されて、圧縮シリンダ10への空気の吸入と、圧縮シリンダ10への水の供給と、レキュペレータ118への圧縮作動流体の排出と、のタイミングを制御するように動作可能である。コントローラ60は、圧縮シリンダ10、レキュペレータ118、および/もしくは燃焼シリンダ20、ならびに/またはこれらに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、圧縮シリンダ10への空気の吸入と、圧縮シリンダ10への水の供給と、レキュペレータ118への圧縮作動流体の排出と、のタイミングを制御するように動作可能でもよい。少なくとも1つのパラメータのこの値は、圧縮シリンダ10に供給される水量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、および/または、異なるパラメータでもよい。実施例により、パラメータの組合せが用いられてもよい。
【0071】
図1に示される実施例において、さらに、コントローラ60は、燃焼シリンダ20への作動流体の供給と、燃焼シリンダ20からの作動流体の排気と、を制御するために、燃焼シリンダ20の吸入口18と、排出口19と、に連結される。コントローラ60は、圧縮シリンダ10、レキュペレータ118、および/もしくは燃焼シリンダ20、ならびに/またはこれらに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、燃焼シリンダ20への作動流体の吸入と、燃焼シリンダ20への燃料の供給と、作動流体の排気と、のタイミングを制御するように動作可能でもよい。コントローラ60は、圧縮シリンダ10、レキュペレータ118、および/もしくは燃焼シリンダ20、ならびに/またはこれらに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、燃焼シリンダ20への圧縮作動流体の吸入と、燃焼シリンダ20への燃料の供給と、排出経路136への排気の出口と、のタイミングを制御するように動作可能でもよい。少なくとも1つのパラメータのこの値は、圧縮シリンダ10に供給される水量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、および/または、異なるパラメータでもよい。実施例により、パラメータの組合せが用いられてもよい。
【0072】
動作時には、コントローラ60は、エンジン100および/またはエンジン100に関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取る。値は、図1に図示されるセンサ122などの少なくとも1つのセンサから受け取られる信号として受け取られる。
【0073】
エンジン100および/またはエンジン100に関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの受け取られたこの値に基づいて、コントローラ60は、圧縮シリンダ10に供給する水量を決定する。コントローラ60は、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の水量が、閾値の水濃度レベル未満である圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるようにこの決定を行う。これは、圧縮シリンダ10から排出される圧縮作動流体が、燃焼シリンダ20に供給されるとき、依然として、燃焼を維持できるようなものでもよい。
【0074】
したがって、コントローラ60は、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、水の大部分が圧縮行程中に水の気相に気化して、圧縮行程により生じる温度上昇が水による熱の吸収により制限されるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、貯蔵部102から圧縮シリンダ10に供給される水量の供給を制御する。水量の供給は、圧縮行程の終わりの圧縮作動流体中の水量が、閾値の水濃度レベル未満である圧縮作動流体中の水濃度レベルとなるようにコントローラ60により制御される。
【0075】
圧縮行程の終わりに、液体の水と水蒸気との混合を含む(しかし、主に水蒸気の)圧縮作動流体が、圧縮シリンダ排出口9を通って、レキュペレータ118の第1(高圧)吸入口118a内に排出される(しかし、実施例により、圧縮作動流体は、水蒸気のみを含んでもよく、実施例により、水を全く含まなくてもよいことは理解されよう)。圧縮作動流体は、(実施例により、圧縮作動流体が、選択された閾値温度よりも暖かい場合などには、圧縮作動流体は冷却されてもよいが)圧縮作動流体の温度が上がるように加熱されて、次いで、レキュペレータ118の第1(高圧)排出口118bを通って排出される。次いで、加熱された圧縮作動流体は、経路120を通って、燃焼シリンダ吸入口18を介して燃焼シリンダ20内に供給される。加熱された圧縮作動流体が燃焼されて、有用な仕事が抽出される。
【0076】
燃焼が燃焼シリンダ20で生じた後、排気ガスは、燃焼シリンダ排出口19を介して燃焼シリンダ20を出て、排出経路136に沿って移動して、圧縮シリンダ排出口9と燃焼シリンダ吸入口18との間の経路120に沿って移動する圧縮流体を加熱するために、レキュペレータ118との熱伝達状態になる。
【0077】
前述のとおり、実施例により、さらに、エンジン100は、圧縮シリンダ10への水の供給の前に水を加熱する手段を備えてもよい。このような実施例において、コントローラ60は、圧縮シリンダ10に供給される水の温度を制御するように、加熱手段を動作させるように構成されてもよいことは理解されよう。
【0078】
図2に示される例示的なエンジン200は、図1に示される例示的なエンジン100と多くの点で同様である。しかしながら、図2に示される実施例は、さらに、任意の貯蔵部ヒータ103と、任意のプレヒータ104と、を示す。図2に示される実施例において、貯蔵部ヒータ103は、クーラント貯蔵部102内の液体(本実施例では、水)を加熱するために、クーラント貯蔵部102に連結される。プレヒータ104は、液体クーラントがクーラントインジェクタ104内に流れるときに液体クーラントを加熱するために、クーラントインジェクタ14に直ぐ隣接して、貯蔵部102とクーラントインジェクタ14との間の液体クーラントの流路に連結される。貯蔵部ヒータ103とプレヒータ104との両方が図2に示されているが、ヒータ130,104のいずれかが存在してもよく、さらには、いずれも存在しなくてもよいことは理解されよう。
【0079】
貯蔵部ヒータ103は、第1選択閾値温度まで水を加熱して、その結果、例えば、その水が暖かい(例えば、摂氏30度を上回る)が、高温ではないように動作可能でもよい。さらに、貯蔵部ヒータ103とプレヒータ104とは、エンジンが長期間用いられていないときに冷たい環境で水が凍るのを妨げることに役立つように機能してもよい。貯蔵部ヒータ103は、例えば、水貯蔵部102に配置された熱交換器でもよく、エンジン200からの廃熱源、例えば、車両の加熱システム、レキュペレータ118、中間冷却器などに連結されてもよい。
【0080】
プレヒータ104は、選択された閾値温度または選択された温度範囲まで水をさらに加熱して、その結果、水が噴射されている圧力での水の沸点に近いが同沸点を下回る温度で、水が圧縮シリンダ10に供給されるように動作可能でもよい。
【0081】
図2に示される実施例において、コントローラ60は、水が供給されている圧力についての水の沸点を下回る選択された水閾値温度まで水を加熱するために、加熱手段103,104の両方を動作させるように構成される。コントローラ60は、水が供給されている圧力についての水の沸点の選択された範囲内に水を加熱することにより、これを行ってもよい。
【0082】
実施例により、コントローラ60は、供給される水が圧縮シリンダ10内に供給された時から沸騰するまでにかかる時間を決定して、供給される水が沸騰するまでにかかる決定時間が、選択された水沸騰時間の範囲内にあるように、供給される水の温度を制御するように構成される。コントローラ60は、エンジンおよび/またはエンジンに関連する流体に関連し得るいくつかのパラメータに基づいて、さらには、液体クーラントの圧力、周囲の温度、周囲の圧力、周囲の湿度などの周囲のパラメータに基づいて、これを行ってもよい。コントローラ60は、例えば、これらのパラメータ間の既知の関係のルックアップテーブル(LUT)を参照することにより、1つまたは複数のパラメータに基づいて、液体クーラントを加熱する適切な温度を決定するように構成されてもよい。
【0083】
さらに、図2に示される実施例は、ターボチャージャ112と圧縮シリンダ10の吸入口8との間に連結された任意の中間冷却器105を示す。中間冷却器105は、ターボチャージャ112から圧縮シリンダ10に供給される圧縮給気空気を冷却するように動作可能でもよい。実施例により、さらに、中間冷却器105は、圧縮シリンダ10に供給されている水を加熱するために、貯蔵部ヒータ103および/またはプレヒータ104に連結されてもよい。
【0084】
実施例により、コントローラ60は、レキュペレータ118内の圧縮作動流体の温度を制御するために、レキュペレータ118への水の供給を制御するように構成される。コントローラ60は、圧縮シリンダ10に過剰の水を添加することにより、または図3の実施例では、レキュペレータクーラントインジェクタ15を介してレキュペレータに水を供給することにより、これを行ってもよい。図3に示される実施例において、レキュペレータ118は、クーラントインジェクタ14と並列にクーラント貯蔵部102に連結されたレキュペレータクーラントインジェクタ15を備える。さらに、クーラントインジェクタ15はコントローラ60に連結されて、その結果、コントローラ60は、レキュペレータクーラントインジェクタ15の動作を制御するように動作可能である。
【0085】
図3に示される実施例において、コントローラ60は、燃焼シリンダ20内の圧縮作動流体が最大燃焼水濃度レベル未満の水濃度レベルを有するように、圧縮シリンダ10とレキュペレータ118との両方への水量の供給を制御するように構成される。最大燃焼水濃度レベルは、燃焼を維持できる圧縮作動流体中の水の最大濃度であり、同最大濃度を上回ると、燃焼の発生が妨げられる。
【0086】
図1から図3までを参照して前述した実施例は、圧縮シリンダ10内に1つのクーラントインジェクタ14を備えるだけであるが、他の実施例では、複数のクーラントインジェクタ14が存在してもよいことは理解されよう。図4に示される実施例では、圧縮シリンダ10は、一対のクーラントインジェクタ、すなわち、第1クーラントインジェクタ14と第2クーラントインジェクタ15とを備える。示される実施例では、一対のクーラントインジェクタ14,15は、クーラント貯蔵部102に並列に連結されて、コントローラ60がクーラントインジェクタ14,15の両方を制御するように動作可能であるように、両方ともコントローラ60に連結される。コントローラ60は、第1クーラントインジェクタ14と第2クーラントインジェクタ15とを互いに独立して制御するように動作可能でもよい。
【0087】
前述のとおり、実施例により、エンジン100は、エンジン100および/またはエンジンに関連する流体の様々なパラメータを検知する複数のセンサを備えてもよい。図4に示される実施例において、エンジン100は、燃焼シリンダ20の排出口19とレキュペレータ118の第2(低圧)吸入口118cとの間の流路136上に、第2センサ、この場合、排出センサ123を備える。図4に示される実施例において、排出センサ123は、レキュペレータ118に流入する排気の温度の値を提供するようにレキュペレータ118の第2(低圧)入口118cに近い。このことは、燃焼シリンダ20内のピーク燃焼温度を決定するために役立ち得る(コントローラ60は、排出センサ123により提供される温度の値からこれを決定するように構成されてもよい)。コントローラ60は、温度を選択された閾値温度よりも低く保つために(圧縮シリンダ10および/またはレキュペレータ118を介して、より多くの水を作動流体に供給することなどにより)、緩和措置を講じてもよい。このことは、NOx生成を減らして、および/または、レキュペレータ118への材料損傷を妨げることに役立ち得る。
【0088】
したがって、図4の実施例において、少なくとも1つのパラメータの値は、燃焼シリンダ20および/または燃焼シリンダ20に関連する流体に関連する温度の値を含んでもよく、本実施例では、燃焼シリンダ20から放出される排気の温度を含む。
【0089】
図1から図4までに不図示)実施例により、これに加えて、またはこれに代えて、燃焼シリンダ20の排出口19は、レキュペレータ118をバイパスするバイパス流路に連結されてもよい。例えば、コントローラ60は、(例えば、レキュペレータ118への材料損傷が生じないようにレキュペレータ118の機能を維持するために、および/または、圧縮シリンダ10から燃焼シリンダ20までレキュペレータ118を介して通過する作動流体の温度を制御することに役立てるために)レキュペレータが選択された閾値温度に達する場合、バイパス流路を介して排気を排出するように構成されてもよい。
【0090】
実施例により、少なくとも1つのパラメータの値は、エンジン100の所望の出力を含む。例えば、所望の出力は、所望のトルク需要に基づいて決定されてもよく、次いで、同トルク需要は、ガス/アクセルペダルの踏込に基づいて決定されてもよい。これに加えて、またはこれに代えて、所望の出力は、燃焼のために燃焼シリンダ20内の圧縮作動流体中に噴射される燃料の量に基づいて決定されてもよい。
【0091】
実施例により、圧縮シリンダ10および/またはレキュペレータ118に供給される水量は、燃焼シリンダ20内の下流の燃焼処理のために用いられる燃料の量に基づく(例えば、比例する)ものでもよい。
【0092】
実施例により、少なくとも1つのパラメータの値は、エンジン100またはエンジン100内の流体に関連する酸素濃度を含む。
【0093】
実施例により、少なくとも1つのパラメータの値は、(1)圧縮シリンダ10に供給されている水の温度と、(2)圧縮シリンダ10に供給されている空気の温度と、(3)圧縮シリンダ10に供給されている空気の湿度と、(4)周囲の空気圧と、の少なくとも1つを含む。例えば、周囲の空気が低圧である場合、空気の湿度が低く、したがって、同周囲の空気は、より多くの水を受け入れ可能であるということが推測され得る。したがって、コントローラ60は、周囲の空気圧、周囲の空気の湿度、周囲の空気の温度、および/または圧縮シリンダ10に供給されている水の温度の関数として水の供給を制御するように構成されてもよい。
【0094】
当然ながら、多くの実施例において、コントローラ60は、パラメータのいずれか1つまたは組合せの値に基づいて、供給される水量を制御するように構成されてもよいことは理解されよう。
【0095】
実施例により、コントローラ60は、(1)決定された供給水量と、(2)エンジン100またはエンジン100内の流体に関連するパラメータの値と、のうち少なくとも1つに基づいて、圧縮シリンダに供給される水の圧力を制御するように構成される。圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、水量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、または、同値は異なるパラメータでもよいことは理解されよう。
【0096】
実施例により、コントローラ60は、圧縮シリンダ10に供給される水の液滴サイズの範囲を制御するように構成される。コントローラ60は、決定された供給水量、圧力、および/または噴射継続時間の関数として液滴サイズの範囲を制御するように構成されてもよい。
【0097】
実施例により、クーラントの表面張力に作用することにより液滴サイズの範囲を変更するために、添加剤、例えば、(ラウリル硫酸ナトリウムなどの)アニオン、(ドデシルトリメチルアンモニウムクロリドなどの)カチオン、または(ポリエチレングリコールなどの)非イオンの添加剤が、クーラントに添加されてもよい。添加剤は、クーラント貯蔵部102内に添加されてもよく、および/または、別の添加剤貯蔵部が存在してもよく、コントローラは、クーラントインジェクタを介してクーラントと共に添加剤の供給を制御するように構成されてもよい。
【0098】
これに加えて、またはこれに代えて、クーラントの表面張力に作用することにより液滴サイズの範囲を変更するために、電界がクーラントに印加されてもよい。電界は、圧縮シリンダ10へのクーラントの供給箇所に直ぐ隣接してクーラントに印加されてもよく、例えば、電界は、クーラントインジェクタ14に隣接して印加されてもよい。
【0099】
これに加えて、またはこれに代えて、実施例により、エマルジョンを生成するために、少量の燃料がクーラントに添加されてもよい。クーラントに添加される燃料の量は、エマルジョンの表面張力が選択された範囲内であるように制御されてもよい。
【0100】
実施例により、コントローラ60は、(1)決定された供給水量と、(2)エンジン100またはエンジン100内の流体に関連するパラメータの値と、のうち少なくとも1つに基づいて、圧縮シリンダ10への水供給の継続時間を制御するように構成される。圧力を制御するために用いられるパラメータの値は、供給される水量を決定するために用いられるものと同じパラメータでもよく、または、同値は異なるパラメータでもよいことは理解されよう。
【0101】
実施例により、コントローラ60は、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、圧縮サイクル中の圧縮ピストン12のクランク角に対する水供給のタイミングを制御するように構成される。例えば、コントローラ60は、供給される水の温度、レキュペレータ118の温度、および/または周囲の空気温度に基づいて、水供給のタイミング(すなわち、ピストンのクランク角、通常、60度よりも前)を制御するように構成されてもよい。例えば、水、レキュペレータ118、および/または入って来る空気が冷たい(例えば、選択された閾値温度を下回る)場合、水は下死点(BDC)のより近くで噴射されて、水、レキュペレータ118、および/または入って来る空気が暖かい(例えば、選択された閾値温度を上回る)場合、水は上死点(TDC)のより近くで噴射される。
【0102】
前述のセンサまたは複数のセンサは、多数の場所に配置されてもよい。特に、1つ以上のセンサは、図1に示されるような燃焼シリンダ上の吸入口124の近く、レキュペレータ118内、または圧縮シリンダ排出口116の近くに置かれてもよい。
【0103】
図5は、前述の図1から図4までと後述の図6とのいずれかのスプリットサイクル内燃エンジンなどのスプリットサイクル内燃エンジンを制御する例示的な方法のフローチャートを示す。本方法は、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する少なくとも1つのパラメータの値を受け取る工程(501)を含む。決定(503)は、少なくとも1つのパラメータの値がパラメータについての目標値未満であるか否かに関して行われる。パラメータの値がパラメータについての目標値未満であるとき、水を圧縮シリンダ内に供給しない(505)。パラメータの値がパラメータについての目標値以上であるとき、圧縮行程中に水が顕熱と潜熱との両方を通じて、圧縮行程により生じる温度上昇を吸収して、水が圧縮行程中に水の気相に気化して、圧縮行程により生じる温度上昇が水による熱の吸収により制限されるように、少なくとも1つのパラメータの値に基づいて、貯蔵部から圧縮シリンダに供給される水量の供給が制御される(507)。
【0104】
実施例により、上記の方法は、図1から図4までを参照して前述したコントローラ60などの制御ロジックにより実施されてもよいことは理解されよう。
【0105】
少なくとも1つのパラメータの値は、燃焼シリンダおよび/または燃焼シリンダに関連する流体に関連する温度の値を含んでもよく、パラメータについての目標値は、目標温度である。
【0106】
図6は、スプリットサイクル内燃エンジン装置の別の例の一部の断面を示す。図6に示される一部は、図1から図4までに示されるスプリットサイクル内燃エンジンと共通の多くの特徴を共有しており、同様の参照数字は同じまたは同様の特徴または機能を示す。図6に示されるエンジンは、制御されてもよく、図1から図5までを参照して前述したものの機能を有してもよいことも理解されよう。図6に示される一部は、連結ロッド652に連結された圧縮ピストン612を収容する圧縮シリンダ610を示す。圧縮シリンダ610の中心の上部にクーラントインジェクタ614が存在して、この背後に、圧縮ピストン612による圧縮のために空気を圧縮シリンダ610に入れる2つの吸入弁608が存在する。図6に示されていないが、さらに、圧縮シリンダ610から圧縮作動流体を放出する、吸入弁608に酷似した2つの排出弁609が存在することは理解されよう。さらに、圧縮作動流体の圧力が最大閾値圧力を上回る場合に、圧縮シリンダ610から圧力を放出する任意の圧力放出弁670が図6に示される。
【0107】
前述のとおり、実施例により、液滴サイズの分配は、例えば、図1から図4までを参照して前述したコントローラ60により制御されてもよい。例えば、水がチャンバの周囲に確実に達するために、通常の場合よりも大きい液滴が好ましい場合がある。このことは、一般的に、小さい液滴が混合を促進するために好ましい他の噴霧誘起混合現象に対して少し直観に反する。この場合、空気を通じて冷却媒体を伝えることがより重要であるため、例えば、内燃エンジン燃料噴霧において典型的なものよりも大きい液滴を必要とすることが望ましい。とはいえ、液滴が大きすぎると、液の低い表面積対体積比が水とガスとの間の熱伝達を妨げて、速度の増加は、噴射された水がチャンバの周囲に確実に達することにより、再び仕事節減を増大させる。
【0108】
チャンバ全体にわたって冷却水を分配することは、有効な冷却を提供するためにチャンバのすべての部分に水を到らせるために重要である。
【0109】
一般的に、理論に束縛されることではないが、圧縮行程の早期に噴射される大きく高速の液滴は、水を圧縮シリンダ10の上部の中心の噴射箇所から圧縮シリンダ10の外縁まで到らせるのに有効であるという仮説が立てられる。小さい液滴は、粘性抵抗を受けやすく、圧縮シリンダ10の外縁に時間内に達しない。しかしながら、高運動量の液滴の一部はまた、圧縮シリンダ10の壁に衝突する。これが水たまりとなってガスへの熱伝達が有効でなくなるため、このことは望ましくない。したがって、液滴の運動量と噴霧分配と噴射タイミングとの間に複雑な兼ね合いが存在する。
【0110】
全体的に図面を参照して、模式的機能ブロック図は、本明細書記載のシステムと装置との機能を示すために用いられていると理解されよう。しかしながら、この機能は以上述べたとおりに分割される必要はなく、また本明細書記載ならびに後述の請求項記載の構造以外の特定のハードウェア構造を示唆すると解釈されるものではないことも理解されよう。図に示された1つ以上の構成要素の機能は、さらに2次分割可能、および/または本開示の装置全体に広げることが可能である。実施形態により、図に示された1つ以上の構成要素の機能は、1つの機能ユニットに統合されてもよい。
【0111】
実施例により、1つ以上のメモリ構成要素は、本明細書記載の動作を実施するために用いられるデータおよび/またはプログラム命令を記憶してもよい。本開示の実施形態は、本明細書記載および/もしくは請求項記載の方法のいずれか1つ以上を実行するように、ならびに/または、本明細書記載および/もしくは請求項記載のデータ処理装置を提供するように、プロセッサをプログラミングするように動作可能なプログラム命令を含む有形の非一時的な記憶媒体を提供する。
【0112】
本明細書の概略の動作と装置とは、論理ゲートのアセンブリなどの固定ロジック、またはプロセッサにより実行されるソフトウェアおよび/もしくはコンピュータプログラム命令などのプログラマブルロジックを用いて実施されてもよい。他の種類のプログラマブルロジックは、プログラマブルプロセッサ、プログラマブルデジタルロジック(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array)、消去可能なプログラマブル読取専用メモリ(EPROM:Erasable Programmable Read Only Memory)、電気的に消去可能なプログラマブル読取専用メモリ(EEPROM:Electrically Erasable Programmable Read Only Memory))、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)、もしくは任意の他の種類のデジタルロジック、ソフトウェア、コード、電子命令、フラッシュメモリ、光学ディスク、CD-ROM、DVD ROM、磁気もしくは光学カード、電子命令を記憶するために好適な他のタイプの機械可読媒体、またはそれらの任意の好適な組合せを含む。
【0113】
以上の考察から、図に示された実施形態は、例示に過ぎず、本明細書と請求の範囲とに記載したとおりに一般化、除去、または交換され得る特徴を含むものと理解されよう。本明細書記載の装置と方法との他の実施例と変形とは、本開示の文脈から当業者には明らかなものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】