(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-24
(54)【発明の名称】水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230817BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20230817BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/54
C21D8/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507838
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 KR2021009333
(87)【国際公開番号】W WO2022030818
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0099305
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ヒョン‐ジェ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA09
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA37
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CD05
4K032CF01
4K032CF02
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】従来の鋼に比べて低コストの合金系であるにもかかわらず、水素脆化抵抗性及び衝撃特性を向上させた鋼材、並びにその製造方法を提供する
【解決手段】鋼材は、重量%で、C:0.15~0.40%、Si:0.4%以下(0%を除く)、Mn:0.3~0.7%、S:0.01%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を除く)、Cr:0.6~2.0%、Mo:0.15~0.8%、Ni:1.6~4.0%、Cu:0.30%以下(0%を除く)、Nb:0.12%以下(0%を除く)、N:0.015%以下(0%を除く)、Al:0.06%以下(0%を除く)、B:0.007%以下(0%を除く)、残部Fe及び不可避不純物元素からなり、前記C、Cu、Nb、Ni、Cr及びMoと不純物元素の含量の和(SUM)の関係が下記関係式1を満たすことを特徴とする。
[関係式1] |(C-SUM)・(Cu-SUM)・(Nb-SUM)・(Ni-SUM)・(Cr-SUM)・(Mo-SUM)|×105>3.0
(ここで、SUMは、特定の不純物元素の総含量であって、[W+Nd+Zr+Co]の合計含量(重量%)を意味する。)
【選択図】
図2b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.15~0.40%、シリコン(Si):0.4%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):0.3~0.7%、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、リン(P):0.03%以下(0%を除く)、クロム(Cr):0.6~2.0%、モリブデン(Mo):0.15~0.8%、ニッケル(Ni):1.6~4.0%、銅(Cu):0.30%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.12%以下(0%を除く)、窒素(N):0.015%以下(0%を除く)、アルミニウム(Al):0.06%以下(0%を除く)、ボロン(B):0.007%以下(0%を除く)、残部Fe及び不可避不純物元素からなり、
前記C、Cu、Nb、Ni、Cr及びMoと不純物元素の含量の和(SUM)の関係が下記関係式1を満たすことを特徴とする水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材。
[関係式1]
|(C-SUM)・(Cu-SUM)・(Nb-SUM)・(Ni-SUM)・(Cr-SUM)・(Mo-SUM)|×10
5>3.0
(ここで、SUMは、特定の不純物元素の総含量であって、[W+Nd+Zr+Co]の合計含量(重量%)を意味する。)
【請求項2】
前記鋼材は、微細組織がテンパードマルテンサイトで構成され、有効結晶粒サイズが平均直径5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は、微細組織内に直径20nm以下の析出物が20個/μm
2以上存在することを特徴とする請求項1に記載の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項4】
前記直径20nm以下の析出物は、Nb(C、N)であることを特徴とする請求項3に記載の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項5】
前記鋼材は、引張強度900MPa以上、-20℃で衝撃吸収エネルギー値が100J以上であることを特徴とする請求項1に記載の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項6】
前記鋼材は、ノッチ引張強度比(RNTS、試料に水素が装入される雰囲気でのノッチ引張強度と一般の大気雰囲気でのノッチ引張強度との比率)及び鋼材の引張強度(GPa)の関係が下記関係式2を満たすことを特徴とする請求項1に記載の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材。
[関係式2]
(水素装入雰囲気でのノッチ引張強度(MPa)÷一般の大気雰囲気でのノッチ引張強度(MPa))×鋼材の引張強度(GPa)≧0.7
【請求項7】
重量%で、炭素(C):0.15~0.40%、シリコン(Si):0.4%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):0.3~0.7%、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、リン(P):0.03%以下(0%を除く)、クロム(Cr):0.6~2.0%、モリブデン(Mo):0.15~0.8%、ニッケル(Ni):1.6~4.0%、銅(Cu):0.30%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.12%以下(0%を除く)、窒素(N):0.015%以下(0%を除く)、アルミニウム(Al):0.06%以下(0%を除く)、ボロン(B):0.007%以下(0%を除く)、残部Fe及び不可避不純物元素からなり、前記C、Cu、Nb、Ni、Cr及びMoと不純物元素の含量の和(SUM)の関係が下記関係式1を満たす鋼スラブを準備して1000~1200℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを仕上げ圧延温度Ar3以上に熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を常温まで冷却する段階と、
前記冷却された熱延鋼板を800~900℃の温度範囲に再加熱した後、1時間~2時間の間保持するオーステナイト化段階と、
前記オーステナイト化された熱延鋼板を常温まで0.5~20℃/sの冷却速度で冷却する段階と、
前記冷却後580~680℃の温度範囲で鋼板の厚さ25mm当たり30分以上熱処理する焼戻し段階と、
を含むことを特徴とする水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
[関係式1]
|(C-SUM)・(Cu-SUM)・(Nb-SUM)・(Ni-SUM)・(Cr-SUM)・(Mo-SUM)|×10
5>3.0
(ここで、SUMは、特定の不純物元素の総含量であって、[W+Nd+Zr+Co]の合計含量(重量%)を意味する。)
【請求項8】
前記オーステナイト化された熱延鋼板を冷却する段階は、焼ならし又は焼入れ(quenching)工程で行うことを特徴とする請求項7に記載の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記焼戻し段階の後、常温まで空冷する段階をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素経済とは、日常生活及び産業活動において既存の化石燃料の代わりに水素をエネルギー源として使用する経済システムを称する用語である。
化石燃料の枯渇と環境問題の台頭により、2020年を基点として水素経済の本格的な拡大が予想されており、国内外の水素経済の実現を目指して国別ロードマップを発表するなど、積極的な動きを示している。
各国の政府は、水素経済を実現させるための手段として、水素需要を拡大するために水素電気自動車の普及だけでなく、これを裏付ける水素充填所などの充填インフラの構築を積極的に推進している。
【0003】
水素充填所は、水素を貯蔵して使用者に供給するインフラであって、水素充填所内の蓄圧器は、水素電気自動車に搭載されている水素燃料タンクへの差圧式水素充填のために、車両内の水素燃料タンクの充填圧より高い圧力で水素を加圧しておく設備である。
現在は、水素電気自動車の充填圧が350barから700barに増加し、蓄圧器の圧力も800bar以上が要求されている。
水素充填所内の蓄圧器に適用できる材料としては、水素脆化抵抗性を有するSTS316Lオーステナイト系鋼がある。ところが、約900barの圧力に耐えるためには、405mmの厚さが必要となるなど現実性に欠けており、充填所の建設コストを増加させるという問題がある。
【0004】
一方、高強度低合金鋼の場合、水素ガス雰囲気で延性又はノッチ強度、衝撃靭性が低下するなどの現象が発生する虞がある。それを克服して、高強度低合金鋼の水素脆化抵抗性を向上させた場合、水素充填所の安全性及びコスト削減を同時に満たすことができる効果的な技術になることが予想される。
高強度低合金鋼の水素脆化抵抗性を向上させるために、いくつかの技術が検討されてきた。
一例として、拡散水素のトラップサイト(trap site)として、(V、Mo)C析出物を活用して水素抵抗性を向上させた鋼が提示されている(特許文献1)。具体的には、(V、Mo)C析出物のサイズによる水素脆化抵抗性を定量化したとき、析出物の平均直径を1~20nmとする必要があり、好ましくは1~10nm、さらに好ましくは1~5nmの範囲とすることが開示されている。
【0005】
さらに、鋼の特性を改善するための目的で、Cu、Ni、Cr、Nb、W、Bなどをさらに含むことが提案されている。しかし、上記Niを最大12%含有した場合、鋼の製造時の製造コストが大きく上昇する可能性があり、実際の環境への適用には現実性に欠けるという問題がある。
なお、Nb、Ca、Mg、及び希土類金属(以下、REMと称す)などをさらに含むことができることが開示されているが、Nb及びREMは超高価な元素であり、価格の変動が非常に大きいため、原料の安定的な供給が確保できない虞がある。
他の特許文献では、引張強度900~1100MPa、降伏比85%以上の高圧水素用鋼材を開示しており、鋼の特性を改善する目的で、W、Co等を含有することを開示している。しかし、これもやはり非常に高価な元素を添加しているため、製造コストが大きく上昇するという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第2018-0038024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、従来の鋼に比べて低コストの合金系であるにもかかわらず、水素脆化抵抗性及び衝撃特性を向上させた鋼材、並びにその製造方法を提供することにある。
本発明の課題は、上記の内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材は、重量%で、炭素(C):0.15~0.40%、シリコン(Si):0.4%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):0.3~0.7%、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、リン(P):0.03%以下(0%を除く)、クロム(Cr):0.6~2.0%、モリブデン(Mo):0.15~0.8%、ニッケル(Ni):1.6~4.0%、銅(Cu):0.30%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.12%以下(0%を除く)、窒素(N):0.015%以下(0%を除く)、アルミニウム(Al):0.06%以下(0%を除く)、ボロン(B):0.007%以下(0%を除く)、残部Fe及び不可避不純物元素からなり、上記C、Cu、Nb、Ni、Cr及びMoと不純物元素の含量の和(SUM)の関係が下記関係式1を満たすことを特徴とする。
[関係式1]
|(C-SUM)・(Cu-SUM)・(Nb-SUM)・(Ni-SUM)・(Cr-SUM)・(Mo-SUM)|×105>3.0
(ここで、SUMは、特定の不純物元素の総含量であって、[W+Nd+Zr+Co]の合計含量(重量%)を意味する。)
【0009】
本発明の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法は、上記の合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを準備して1000~1200℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを仕上げ圧延温度Ar3以上に熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を常温まで冷却する段階と、上記冷却された熱延鋼板を800~900℃の温度範囲に再加熱した後、1時間~2時間の間保持するオーステナイト化段階と、上記オーステナイト化された熱延鋼板を常温まで0.5~20℃/sの冷却速度で冷却する段階と、上記冷却後580~680℃の温度範囲で鋼板の厚さ25mm当たり30分以上熱処理する焼戻し段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、既存の鋼材に比べて低コストの合金系を構築しながらも、水素脆化抵抗性とともに、衝撃靭性に優れた鋼材を提供することができる。
本発明の鋼材は、次第に増加している水素を活用した分野に有利に適用可能な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】水素環境で超低速変形率引張試験を行うことができる装置の写真である。
【
図2a】本発明の一実施例による比較例1~3の電子線後方散乱回析法(EBSD)測定写真を示す。
【
図2b】本発明の一実施例による発明例1、3、5及び7の電子線後方散乱回析法(EBSD)測定写真を示す。
【
図3】本発明の一実施例に係る発明例3の透過型電子顕微鏡(TEM)及びエネルギー分光分析法により析出物の分布を測定した写真を示す。
【
図4】本発明の一実施例による比較例及び発明例の関係式2の結果をグラフ化して示す。
【
図5a】本発明の一実施例において、比較例1のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化をジラトメータで測定した結果を示す。
【
図5b】本発明の一実施例において、比較例2のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化をジラトメータで測定した結果を示す。
【
図5c】本発明の一実施例において、比較例3のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化をジラトメータで測定した結果を示す。
【
図5d】本発明の一実施例において、発明例1及び2のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化をジラトメータで測定した結果を示す。
【
図5e】本発明の一実施例において、発明例3及び4のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化をジラトメータで測定した結果を示す。
【
図5f】本発明の一実施例において、発明例5及び6のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化をジラトメータで測定した結果を示す。
【
図5g】本発明の一実施例において、発明例7及び8のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化をジラトメータで測定した結果を示す。
【
図5h】本発明の一実施例において、発明例9のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化をジラトメータで測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発明者は、経済的、環境的要因などにより次第に水素の使用が拡大することを考慮して、水素環境で好適に使用できる鋼材を開発すべく鋭意研究を行った。
その結果、従来の鋼に比べて低コストの合金系において、鋼の製造条件を最適化することで意図する物性の確保に有利な組織構成を導出し、水素脆化抵抗性及び衝撃特性に優れた鋼材を提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
特に、本発明は、鋼材の組織をマルテンサイト基地組織で構成し、且つニオブ(Nb)を活用して有効結晶粒まで微細化することにより、目的の鋼材を提供することに技術的意義がある。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の一態様による水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材は、重量%で、炭素(C):0.15~0.40%、シリコン(Si):0.4%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):0.3~0.7%、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、リン(P):0.03%以下(0%を除く)、クロム(Cr):0.6~2.0%、モリブデン(Mo):0.15~0.8%、ニッケル(Ni):1.6~4.0%、銅(Cu):0.30%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.12%以下(0%を除く)、窒素(N):0.015%以下(0%を除く)、アルミニウム(Al):0.06%以下(0%を除く)、ボロン(B):0.007%以下(0%を除く)を含むことが好ましい。
【0014】
以下では、本発明で提供する鋼材の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
本発明で特に断らない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0015】
炭素(C):0.15~0.40%
炭素(C)はオーステナイト安定化元素であって、その含量に応じてAe3温度とマルテンサイト形成開始温度(Ms)を調節できる元素である。また、侵入型元素であって、マルテンサイト相の格子構造に非対称的な歪みを加えて強い強度を確保するのに非常に効果的である。そして、硬化能を確保してマルテンサイト組織を確保するための必須元素である。
上記の効果を十分に得るためには0.15%以上のCを添加する必要があるが、その含量が0.40%を超えると、炭化物が過度に形成され、衝撃靭性及び溶接性が大きく低下する虞がある。
したがって、上記Cは0.15~0.40%含むことがよい。
【0016】
シリコン(Si):0.4%以下(0%を除く)
シリコン(Si)は固溶強化だけでなく、鋳造時に脱酸剤として添加する元素である。このようなSiは炭・窒化物の形成を抑制する役割を果たすが、本発明では、微細炭・窒化物を形成することにより水素脆化抵抗性及び衝撃特性の向上を図る必要があるため、これを考慮して0.4%以下のSiを含むことがよい。ただし、不可避に混入されるレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0017】
マンガン(Mn):0.3~0.7%
マンガン(Mn)はオーステナイト安定化元素であり、鋼の硬化能を大きく向上させ、マルテンサイトのような硬質相の形成に有利に作用する。また、硫黄(S)と反応してMnSを析出させるが、これは硫黄(S)の偏析による高温割れの防止に有効である。
上記の効果を十分に得るためには、0.3%以上のMnを含むことがよい。ただし、その含量が過度になると、オーステナイトの安定度が過度に増加するという問題があるため、これを考慮して0.7%以下に制限することが好ましい。
したがって、上記Mnは0.3~0.7%含むことがよい。
【0018】
硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)
硫黄(S)は鋼中に不可避に含有される不純物であって、その含量が0.01%を超えると、鋼の延性及び溶接性に劣るという問題がある。したがって、上記Sは0.01%以下に制限することがよく、不可避に混入されるレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0019】
リン(P):0.03%以下(0%を除く)
リン(P)は固溶強化効果を有するが、その含量が0.03%を超えると、鋼の脆性を誘発し、溶接性に劣るという問題がある。したがって、上記Pは0.03%以下に制限することがよく、不可避に混入されるレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0020】
クロム(Cr):0.6~2.0%
クロム(Cr)はフェライト安定化元素であり、硬化能を増加させる元素である。このようなCrの含量に応じて、Ae3温度及びデルタフェライトの形成領域温度が調節される。また、Crは、酸素(O)と反応してCr2O3の緻密かつ安定な保護皮膜を形成し、水素環境における耐腐食性を向上させることができるが、デルタフェライトの形成温度領域を広げることもできる。Crの含量が高いほど、鋼の鋳造過程でデルタフェライトが形成される可能性が増加し、これは、熱処理後にも残留して鋼材の特性に悪影響を及ぼすことになる。
したがって、Crによる硬化能の向上、耐腐食性の向上などの効果を得るためには0.6%以上含む一方、デルタフェライトの形成を抑制するための観点から、その含量を2.0%以下に制限することが好ましい。
したがって、上記Crは0.6~2.0%含むことがよい。
【0021】
モリブデン(Mo):0.15~0.8%
モリブデン(Mo)は鋼の硬化能を増加させ、フェライト安定化元素として知られている。Moは強力な固溶強化によって材料の強度を向上させる。
上記の効果を十分に得るためには、0.15%以上のMoを含むことが好ましい。一方、その含量が過度になると、デルタフェライトを形成する温度領域を広げることがあり、鋼の鋳造過程でデルタフェライトが形成され残留する虞がある。これを考慮して、上記Moは0.8%以下に制限することが好ましい。
したがって、上記Moは0.15~0.8%含むことがよい。
【0022】
ニッケル(Ni):1.6~4.0%
ニッケル(Ni)は、鋼の衝撃靭性特性の向上に有効な元素であり、低温靭性の劣化なしに鋼の強度向上のために添加することができる。また、鋼の内部への水素拡散を抑制して水素脆化抵抗性を向上させることができる。
上記の効果を十分に得るためには、1.6%以上のNiを含むことが好ましいが、上記Niは高価な元素であって、その含量が4.0%を超えると、製造コストが大きく上昇する問題がある。
したがって、上記Niは1.6~4.0%含むことがよい。
【0023】
銅(Cu):0.30%以下(0%を除く)
銅(Cu)は、材料の硬化能を向上させる元素であって、熱処理後の鋼材に均質な組織を有するようにするために添加する。このCuの含量が0.30%を超えると、鋼材に割れを発生させる虞が高くなる。
したがって、上記Cuを0.30%以下含むことがよい。但し、0%は除く。
【0024】
ニオブ(Nb):0.12%以下(0%を除く)
ニオブ(Nb)は、M(C、N)形態(ここで、Mは金属(metal)を意味する)の炭・窒化物を形成する元素の一つであって、微細な炭・窒化物を形成して水素脆化抵抗性を向上させることができる。
具体的には後述するが、本発明は、鋼材の基地組織をマルテンサイトで構成し、上記マルテンサイトと半整合をなすNb系析出物を用いて拡散性水素をトラップ(trap)することにより水素脆化を抑制する方法を提供することに特徴がある。
また、Nbはスラブ再加熱時には固溶しているが、熱間圧延中にオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、その後、析出して鋼の強度を向上させる役割を果たす。
このようなNbの含量が0.12%を超えると、鋼の溶接性が低下する虞があり、結晶粒が必要以上に微細化する可能性がある。
したがって、上記Nbは0.12%以下含むことがよい。但し、0%は除く。
【0025】
窒素(N):0.015%以下(0%を除く)
窒素(N)は、製造上、鋼中から完全に除去することが難しく、オーステナイト安定化効果及び炭・窒化物の形成に有効である。このようなNの含量が0.015%を超えると、鋼内のボロン(B)と結合してBNを形成させるため、鋼の欠陥発生の可能性を高めるという問題がある。
したがって、上記Nは0.015%以下含むことがよい。但し、0%は除く。
【0026】
アルミニウム(Al):0.06%以下(0%を除く)
アルミニウム(Al)はフェライト領域を拡大し、鋳造時に脱酸剤として添加する。
本発明の場合、Al以外のフェライト安定化に有効な元素を含むため、Alの含量が増加するほど、Ae3温度が過度に上昇する可能性がある。また、Alの含量が0.06%を超えると、酸化物系介在物が多量に形成され、材料の物性を劣化させるという問題がある。
したがって、上記Alは0.06%以下含むことがよく、不可避に混入されるレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0027】
ボロン(B):0.007%以下(0%を除く)
ボロン(B)はフェライト安定化元素であり、極少量でも鋼の硬化能向上に大きく寄与する。また、結晶粒界に容易に偏析し、結晶粒界強化効果に有効である。
このようなBの含量が0.007%を超えると、BNを形成する可能性が高く、この場合、鋼の物性に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
これを考慮して、上記Bは0.007%以下含むことがよい。但し、0%は除くことができる。
【0028】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容を特に言及しない。
ただし、本発明の鋼材は、特定の不純元素について、下記関係式1を満たすことが好ましい。
[関係式1]
|(C-SUM)・(Cu-SUM)・(Nb-SUM)・(Ni-SUM)・(Cr-SUM)・(Mo-SUM)|×105>3.0
(ここで、SUMは、特定の不純物元素の総含量であって、[W+Nd+Zr+Co]の合計含量(重量%)を意味する。)
【0029】
本発明で提供する鋼材は、上記の合金成分系を満たすにあたり、提示した鋼中のC、Cu、Nb、Ni、Cr及びMoの含量を満たしながら、これらの元素の有益な効果を阻害し得る不純元素が、本発明の鋼材内に含有されないように制御する必要がある。
具体的に、タングステン(W)、ネオジム(Nd)、ジルコニウム(Zr)及びコバルト(Co)の含量の和(SUM)と、上記した本発明の主要元素との関係を特定した値(関係式1)が3.0を超える場合に、本発明で説明する上記主要元素の効果が得られる。
【0030】
一方、本発明において、上記「SUM」をなす元素であるW、Nd、Zrは、高価な元素であって、鋼材の製造コストを大きく上昇させる原因となり、実際の使用環境への適用には困難がある。また、Coは硬化能を低下させるため、鋼中に含まれる場合、再加熱によりオーステナイト化された熱延鋼板を特定の条件で焼ならし又は焼入れして常温まで冷却させる工程において意図する組織(好ましくは、マルテンサイト組織)が得られないことがある。したがって、本発明で提供される鋼材内に含まれてはならない合金元素の重量%の和を「SUM」として制限する。
本発明の鋼材は、次のような微細組織及び析出物の構成を有することにより、水素脆化抵抗性及び衝撃特性の両方を良好に確保することができる。これについて、以下で具体的に説明する。
【0031】
本発明の鋼材は、基地組織がテンパードマルテンサイト相で構成されることが好ましく、上記テンパードマルテンサイトの有効結晶粒サイズ(有効結晶粒度)は平均直径5μm以下であることが好ましい。より有利には3μm以下である。
ここで、有効結晶粒度とは、電子線後方散乱回析法(EBSD)を用いてマルテンサイトブロック(block)の幅のサイズを測定し、これを平均値で表したものである。マルテンサイト内のブロック同士は、互いに高傾角粒界を有するため、鋼の機械的物性に影響を与える最小単位と見なすことができる。
【0032】
本発明の鋼材は、上記の基地組織内に直径20nm以下の析出物が20個/μm2以上存在することが好ましい。もし、直径20nm以下の析出物の個数が20個/μm2未満であると、微細な炭・窒化物間の距離がかなり大きくなり、そのため、目標とする水素脆化抵抗性の向上効果が得られない虞がある。
本発明において、上記直径20nm以下の析出物は、Nbで構成される微細炭・窒化物であって、好ましくは、Nb(C、N)を含むことです。
【0033】
上記の合金成分系、関係式1及び組織構成を満たす本発明の鋼材は、高強度と共に衝撃特性に優れ、具体的に引張強度900MPa以上、-20℃での衝撃吸収エネルギー値を100J以上有する。
また、本発明の鋼材は、下記関係式2で表されるノッチ引張強度比(RNTS、試料に水素が装入される雰囲気でのノッチ引張強度(MPa)と、一般の大気雰囲気でのノッチ引張強度(MPa)との比率)及び鋼材の引張強度(GPa)の関係を満たすことにより、水素脆化抵抗性に優れた効果がある。
[関係式2]
(水素装入雰囲気でのノッチ引張強度(MPa)÷一般の大気雰囲気でのノッチ引張強度(MPa))×鋼材の引張強度(GPa)≧0.7
【0034】
以下、本発明の水素脆化抵抗性及び衝撃靭性に優れた鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
簡単に言えば、本発明は、「鋼スラブ加熱-熱間圧延-冷却-再加熱(オーステナイト化)-冷却-焼戻し」の工程を経て目的の鋼を製造することができる。
ただし、これに限定するものではないことは明らかにしておく。
【0035】
各段階別条件について、以下に詳細に説明する。
まず、上記合金成分系と関係式1を満たす鋼スラブを準備した後、この鋼スラブを加熱する。このとき、加熱工程は、後続する熱間圧延工程を容易に進行するためのものであって、その温度については特に限定しないが、1000~1200℃の温度範囲で行うことができる。
上記によって加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を得ることができる。このとき、上記熱間圧延は、仕上げ圧延温度がAr3以上となるように行うことが好ましい。このように、オーステナイト単相域となる温度で熱間圧延を行うことで組織の均一性を増加させることができる。
【0036】
上記仕上げ圧延温度の上限は特に限定しないが、その温度が過度に高い場合、オーステナイト結晶粒が粗大になるという問題があるため、これを考慮して1000℃以下に制限することがよい。より有利には、上記仕上げ圧延は900~1000℃で行うことである。
上記のように製造された熱延鋼板を常温に冷却(空冷)した後、高温に再加熱してオーステナイト化する。
このとき、上記再加熱は800~900℃の温度範囲で行い、その温度で少なくとも1時間、最大2時間の間保持することが好ましい。
【0037】
上記再加熱時の温度が800℃未満の場合、熱間圧延後、冷却過程で形成された意図しない炭化物が十分に再溶解されないことがある。一方、その温度が900℃を超えると、結晶粒が粗大化して鋼の物性が劣化する虞がある。
また、上記オーステナイト化する時間が1時間未満であると、やはり熱間圧延後、冷却時に形成された不可避な炭化物の再溶解が十分に行われない虞がある。一方、上記時間が2時間を超えると、結晶粒の粗大化により鋼の特性が劣化する虞がある。
その後、上記によってオーステナイト化された熱延鋼板を常温まで冷却するが、このとき0.5~20℃/sの冷却速度で行うことができる。本冷却工程は、焼ならし(normalizing)又は焼入れ(quenching)工程である。
上記冷却工程により、鋼組織としてマルテンサイト相を形成することができるが、この過程では、基地の強度を大きく減少させるフェライト及びパーライト組織が生成されないように注意する必要がある。
【0038】
本発明の鋼は硬化能の向上に有利な元素、例えば、Cr、Mo、Bなどを含有するため、冷却速度を制御してフェライト及びパーライト等の生成を抑制することが好ましい。具体的に、上記冷却時に0.5℃/s以上の冷却速度で行うことが好ましい。ただし、20℃/sを超えると、鋼板の厚さの中心部と表面部との間の冷却速度の差から起因する熱的勾配により割れが発生する虞がある。
続いて、上記によって焼ならし又は焼入れされた熱延鋼板を焼戻し(tempering)処理することができる。このとき、焼戻し処理は、580~680℃の温度範囲で、鋼板の厚さ25mm当たり30分以上熱処理することにより行うことができる。
上記焼戻しの際、その温度が580℃未満であると、低すぎる温度により、微細な炭・窒化物の析出を熱処理時間内に誘導できない虞がある。一方、その温度が680℃を超えると、材料の軟化を起こしたり、二相(dual phase)領域となって、意図しない組織の形成により強度が低下する虞がある。
【0039】
一方、上記温度範囲における焼戻しの際、その時間が鋼板の厚さ25mmを基準に30分未満であると、鋼の内部まで十分に熱が注入されず、意図する析出物が十分に形成されない虞がある。上記焼戻し時間は、目標とする析出物が十分に生成される時間の間行うことができるため、その上限については特に限定しないが、120分を超えないことが有利である。
一方、本発明で提供する鋼材の好ましい厚さの範囲は25~100mmであり得ることを明らかにしておく。
【0040】
上記焼戻し熱処理を完了した後には、常温まで冷却することができ、このとき、空冷によって行うことができる。
上記した一連の工程を経て、本発明で目標とする鋼材が得られる。好ましくは、鋼組織がテンパードマルテンサイト相で構成され、ここに、特定の炭・窒化物が均一に分布されることにより、水素脆化抵抗性とともに衝撃特性の向上を達成することができる。
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示によってより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
(実施例)
【0042】
下記表1の合金組成を有する鋼スラブを準備した後、これを1000~1200℃で加熱した後、Ar3以上で仕上げ熱間圧延して厚さ30mmの熱延鋼板を製造した。
その後、それぞれの熱延鋼板を800~900℃の範囲内の様々な温度で少なくとも1時間~最大2時間の間再加熱してオーステナイト化した後、焼ならし又は焼入れ処理して常温まで冷却した。このとき、焼ならし又は焼入れによる冷却は、0.5~20℃/sの範囲内の冷却速度で行った。
上記によって冷却されたそれぞれの熱延鋼板を580~680℃の範囲内の様々な温度で鋼板の厚さ25mm当たり少なくとも30分間焼戻し処理した後、常温まで空冷を行い、最終鋼材を製造した。このとき、焼戻し時間は2時間を超えないように行った。
一方、下記表1において、鋼種1~3は既存のASTM A723鋼種であり、その他の鋼種は本発明で提案する合金組成を全て満たす。
【0043】
上記によって製造されたそれぞれの鋼材について、圧延方向に準JIS4号サブサイズの棒状引張試験片(全長120mm、平行部32mm、ゲージ径6.25mm)をそれぞれ作製した。以後、ASTM E23標準を活用して、横10mm×縦55mmの長さを有する試験片の中間にVノッチ(notch)を有する衝撃試験の試験片を同じ圧延方向に作製し、シャルピー(Charpy)衝撃試験機を用いて衝撃特性を評価し、その結果を下記表3に示した。このとき、吸収されたエネルギーが高いほど、靭性に優れることを意味し、3回測定した後、平均値で示した(ただし、鋼種8の場合には2回の測定値である)。
また、各鋼材の強度と水素脆化抵抗性の評価のために、圧延方向にASTM G142に符合する水素脆性実験用のノッチ引張試験片(ノッチ部径3.6mm、ノッチ角度60°)をそれぞれ作製した。
その後、一般の大気中において準JIS4号サブサイズの棒状引張試験片とノッチ引張試験片の最大引張強度(Ultimate Tensile Strength、UTS)を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0044】
一方、水素が注入される環境で造成するために、1N NaOH+3g/L NH
4SCN溶液を収容できるセルに試験片を収容した後、連続的な負極水素チャージによって試験片に水素を注入すると同時に、超低速変形率引張試験(Slow Strain Rate Tensile test(SSRT)、
図1の装置、引張速度1×10
-5m/s)を行うことができる装備を活用して水素脆化抵抗性を評価し、その結果を表3に示した。
材料の強度と水素脆化抵抗性を示す指標は、ノッチ引張強度比(RNTS=水素装入雰囲気でのノッチ引張強度(MPa)÷一般の大気雰囲気でのノッチ引張強度(MPa))と鋼材の引張強度(GPa)との関係であり、本発明では、関係式2の通りである。これは、各試験片に水素が装入されたときに強度に劣る割合を適用したものであり、RNTS値に材料の引張強度(GPa)を乗じることにより、強度及び耐水素脆性を同時に直観的に判断することができる。
【0045】
上記棒状引張試験片と同じ試験片について、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を活用して微細組織の種類を観察し、その結果を表3に示した。
そして、後方散乱電子回折(Electron BackScatter Diffraction、EBSD)を活用して有効結晶粒のサイズを確認し、その結果を
図3に示した。
さらに、観察される微細組織内の析出物の分布については、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)及びエネルギー分光分析法を活用して観察し、その結果を
図4に示した。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
表3に示したとおり、本発明による合金成分系及び製造条件を満たす発明例1~9は、従来鋼に該当する比較例1~3と比べて水素脆化抵抗性に優れるだけでなく、-20℃での衝撃吸収エネルギー値が100J以上(最大195J以上)確保されることで、衝撃靭性にも優れていることが確認できる。
【0050】
図2aは比較例1-3、
図2bは発明例1、3、5及び7のEBSD測定結果であって、有効結晶粒のサイズが確認できる。
図2bによると、発明例の有効結晶粒のサイズは3μm以下であり、これは
図2aの比較例と比べて非常に微細化されたことが確認できる。発明例9については、別途の測定写真を示してはいないが、その結果は上記発明例と同様であった。
【0051】
図3は、発明例3のTEM及びエネルギー分光分析法により析出物の分布を観察した写真である。
図3の(a)において、Nb析出物を白色の矢印で表し、そのサイズが約20nm以下であることが確認できる。
一方、明示してはいないが、比較例1~3の場合、Feを含有するセメンタイトが観察され、本発明に該当する発明例3においてもセメンタイトが一部観察されることはあるが(
図3(b))、このようなセメンタイトに比べてNb析出物のサイズが格段に小さく、微細に分布しているため、区別される(
図3の(c))。
【0052】
図4は、比較例1~3、発明例1~9の関係式2の値をグラフ化して示したものである。
図4に示したとおり、比較例1~3は、関係式2の値が全て0.7未満であるのに対し、発明例は全て0.7以上の値を有することが確認できる。
一方、各鋼種のオーステナイト化後の冷却速度による相変態の変化を確認するために、熱間圧延して得られた熱延鋼板に対してオーステナイト化した後(表2の再加熱温度)、冷却速度を異ならせて冷却(0.25、0.5、1.0、2.5、4.3、10、20(℃/s))した後の相変態をジラトメーター(Dilatometer)で確認した。その結果を
図5a~
図5hに示した。
【0053】
比較例1~3は、本発明で提案する合金組成から外れる例であって、
図5a~
図5cに示すとおり、ベイナイトへの変態挙動が確認される。一方、本発明による発明例(
図5d~
図5h)はいずれも本発明の冷却速度範囲(0.5~20℃/s)でマルテンサイト変態挙動を示し、その温度は約300~400℃である。
【国際調査報告】