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特表2023-536375複合金属酸化物材料及びその調製方法、正極シート、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置
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  • 特表-複合金属酸化物材料及びその調製方法、正極シート、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置 図1
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  • 特表-複合金属酸化物材料及びその調製方法、正極シート、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-25
(54)【発明の名称】複合金属酸化物材料及びその調製方法、正極シート、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20230818BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230818BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551621
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(85)【翻訳文提出日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 CN2021111682
(87)【国際公開番号】W WO2023015429
(87)【国際公開日】2023-02-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】王幇潤
(72)【発明者】
【氏名】張振国
(72)【発明者】
【氏名】沈重亨
(72)【発明者】
【氏名】柳娜
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050AA09
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA09
5H050EA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本出願は複合金属酸化物材料及びその調製方法、正極シート、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置を提供する。前記複合金属酸化物材料は中心コア及び中心コアの表面に位置する被覆層を含み、前記中心コア材料の化学式はLiFe1-xであり、xは0.6≦x<1であり、前記被覆層材料の化学式はLiMOであり、Mは+3価を有する金属元素のうちの一種又は複数種であり、かつ+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.02nmである。本出願の複合金属酸化物材料は、二次電池に高い充電容量と高い放電容量と長いサイクル寿命とを両立させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心コアと前記中心コアの表面に位置する被覆層とを含み、
前記中心コアの材料は、化学式がLiFe1-xであり、xは0.6≦x<1であり、
前記被覆層の材料は、化学式がLiMOであり、
Mは+3価を有する一種又は複数種の金属元素であり、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.02nmである、
複合金属酸化物材料。
【請求項2】
+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.01nmであり、選択的に、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.005nmである、請求項1に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項3】
xは、0.8≦x<1であり、選択的に、0.85≦x≦0.95である、請求項1又は2に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項4】
+3価のMのイオン半径は、0.040nm~0.070nmであり、選択的に0.050nm~0.060nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項5】
前記複合金属酸化物材料は、前記中心コアと前記被覆層との間に位置する遷移層をさらに含み、
前記遷移層におけるFe対Mのモル比が前記中心コア材料LiFe1-xにおけるFe対Mのモル比より小さく、
選択的に、前記遷移層におけるFe対Mのモル比は≦2であり、より具体的には、前記遷移層におけるFe対Mのモル比は≦1.5である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項6】
前記遷移層の最も厚い箇所の厚さをHmaxとすると、Hmax≦1μmであり、選択的に、Hmaxは0.1μm~1μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項7】
Mは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Cu、Nb、Ga、Mo、Ru、Rh、Irから選択された一種又は複数種であり、
選択的に、Mは、Al、Ni、Co、Mn、Cu、Mo、Gaから選択された一種又は複数種であり、
より具体的には、Mは、Al、Ni、Co、Cu、Gaから選択された一種又は複数種であり、
より特には、MはAl、Cu、Gaから選択された一種又は複数種である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項8】
前記複合金属酸化物材料の合計質量に基づくと、LiMOの質量パーセント含有量は0.5%~5%であり、選択的に1%~3%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項9】
前記複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50は2μm~8μmであり、選択的に3μm~6μmである、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項10】
Li源、Fe源、M源を供給し混合した後に昇温して一定の期間保温焼結して、複合金属酸化物材料を得るステップを含み、
+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.02nmであり、
前記複合金属酸化物材料は、中心コアと前記中心コアの表面に位置する被覆層とを含み、
前記中心コアの材料は、化学式がLiFe1-xであり、xは0.6≦x<1であり、前記被覆層の材料は、化学式がLiMOである、
複合金属酸化物材料の調製方法。
【請求項11】
供給されたLi源、Fe源、M源はLi、Fe、M元素のモル比a:b:cで混合され、
aは5≦a≦6であり、選択的に5.2≦a≦5.8であり、より具体的には5.4≦a≦5.6であり、
bは0.6≦b<1であり、選択的に0.8≦b<1であり、より具体的には0.85≦b≦0.95であり、
cは0<c≦0.4であり、選択的に0<c≦0.2であり、より具体的には0.05≦c≦0.15である、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
保温焼結プロセスは、原料を混合した後に一次保温焼結の温度に一次昇温して一定の期間焼結し、その後、二次保温焼結の温度に二次昇温して一定の期間焼結する二段階の保温焼結プロセスを採用する、請求項10~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
一次保温焼結の温度は500℃~800℃であり、選択的に520℃~700℃であり、
二次保温焼結の温度は600℃~1000℃であり、選択的に650℃~900℃である、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
一次昇温の速度は2℃/min~10℃/minであり、選択的に4℃/min~8℃/minであり、
二次昇温の速度は2℃/min~10℃/minであり、選択的に4℃/min~8℃/minである、
請求項12~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料、又は請求項10~14のいずれか一項に記載の方法により製造された複合金属酸化物材料を含む、正極シート。
【請求項16】
前記正極シートは正極活物質をさらに含み、
正極活物質の質量に対して、前記複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量は≦20%であり、選択的に1%~20%であり、より具体的には1%~10%である、
請求項15に記載の正極シート。
【請求項17】
請求項15~16のいずれか一項に記載の正極シートを含む、二次電池。
【請求項18】
請求項17に記載の二次電池を含む、電池モジュール。
【請求項19】
請求項17に記載の二次電池、および請求項18に記載の電池モジュールのいずれかを含む、電池パック。
【請求項20】
請求項17に記載の二次電池、請求項18に記載の電池モジュール、および請求項19に記載の電池パックの少なくとも一つを含む、電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、二次電池の技術分野に属し、具体的には複合金属酸化物材料及びその調製方法、正極シート、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池が各種の電子製品及び新エネルギー自動車などの産業に応用及び普及することに伴い、そのエネルギー密度はますます注目されている。しかし、二次電池は初回充電の過程において、負極活物質の表面にSEI(solid electrolyte interface、固体電解質界面)膜が不可避的に形成され、活性イオンの不可逆的な消費を引き起こし、それにより二次電池の不可逆的な容量損失を避けることが難しくなり、二次電池のエネルギー密度の向上にチャレンジをもたらす。
【発明の概要】
【0003】
本出願の目的は複合金属酸化物材料及びその調製方法、正極シート、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置を提供することであり、二次電池が同時に高い充電容量、高い放電容量及び長いサイクル寿命を有することを目的とする。
【0004】
上記発明の目的を達成するために、本出願の第1の態様は、正極にリチウムを補足するために用いられる複合金属酸化物材料であって、
中心コア及び中心コアの表面に位置する被覆層を含み、
中心コア材料の化学式はLiFe1-xであり、xは0.6≦x<1であり、
被覆層材料の化学式はLiMOであり、Mは+3価を有する金属元素のうちの一種又は複数種であり、かつ、
+3価のFeののイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は、≦0.02nmである、複合金属酸化物材料を提供する。
【0005】
ドープ元素Mは、LiFeO格子構造における一部のFe元素を代替することができ、中心コア材料LiFe1-xに三元金属共存の固溶体を形成させ、中心コア材料LiFe1-xのバルク構造はより安定するため、本出願の複合金属酸化物材料は電池の複数回の充放電による構造破壊をさらに防止することができ、グラム容量の発揮に有利である。本出願の複合金属酸化物材料は、LiMOを被覆層材料とし、中心コア材料と空気中の水分及び二酸化炭素との直接接触を効果的に遮断し、中心コア材料が貯蔵及び輸送過程で変質することを防止することができるだけでなく、中心コア材料が電解液中の水又は他の酸性物質により腐食されて失効することを防止することができる。LiMOは層状構造を有し、中心コア材料中の活性リチウムを自由に脱離させることができる。中心コア材料がリチウムを脱離して不活性化材料になった後、LiMOは依然として活性を有し、活性リチウムの正極活物質及び正極膜層での輸送を阻害しない。したがって、本出願の複合金属酸化物材料は、顕著に改善された充電グラム容量を有することができる。
【0006】
本出願の中心コア材料LiFe1-x及び被覆層材料LiMOに含まれる金属元素Mは同じであり、中心コアと被覆層は化学結合により結合することができ、界面でより高い結合強度を有することができるため、被覆層の中心コアに対する被覆効果がより高い。また、界面での活性リチウムの伝導性能がより高く、活性リチウムが中心コア材料LiFe1-xから効率的に脱離することに有利であり、複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の利点を十分に発揮する。
【0007】
+3価のMのイオン半径と+3価のFeのイオン半径との差の絶対値を適切な範囲内に制御すると、ドーピング程度がより理想的な中心コア材料を得ることができ、さらにより高い充電グラム容量を有する複合金属酸化物材料を得ることができる。
【0008】
選択的に、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は、≦0.01nmである。より具体的には、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は、≦0.005nmである。
【0009】
本出願の任意の実施形態においては、0.8≦x<1である。選択的に、0.85≦x≦0.95である。
【0010】
本出願の任意の実施形態において、+3価のMのイオン半径は0.040nm~0.070nmである。選択的に、+3価のMのイオン半径は0.050nm~0.060nmである。
【0011】
+3価のMのイオン半径が適切な範囲内にあれば、中心コア材料はより理想的なドーピング程度を有することができ、それにより複合金属酸化物材料の充電グラム容量を向上させることができる。
【0012】
本出願の任意の実施形態において、複合金属酸化物材料は中心コアと被覆層との間に位置する遷移層をさらに含み、かつ遷移層におけるFe対Mのモル比が中心コア材料LiFe1-xにおけるFe対Mのモル比より小さい。
【0013】
選択的に、遷移層におけるFe対Mのモル比は≦2である。より具体的には、遷移層におけるFe対Mのモル比は≦1.5である。
【0014】
本出願の任意の実施形態において、遷移層の最も厚い箇所の厚さはHmaxであり、Hmaxが≦1μmである。選択的に、Hmaxは0.1μm~1μmである。
【0015】
本出願の任意の実施形態において、MはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Cu、Nb、Ga、Mo、Ru、Rh、Irの中から選択される一種又は複数種である。選択的に、MはAl、Ni、Co、Mn、Cu、Mo、Gaの中から選択される一種又は複数種である。より具体的には、MはAl、Ni、Co、Cu、Gaの中から選択される一種又は複数種である。
【0016】
本出願の任意の実施形態において、MはAl、Cu、Gaの中から選択される一種又は複数種である。
【0017】
Mが上記元素の中から選択される一種又は複数種である場合、+3価のMのイオン半径が適切な範囲内にあることを確保することができ、それによりドーピング程度がより理想的な中心コア材料を得ることができ、さらにより高い充電グラム容量を有する複合金属酸化物材料を得ることができる。
【0018】
本出願の任意の実施形態において、複合金属酸化物材料の合計質量に基づいて、LiMOの質量パーセント含有量は0.5%~5%である。選択的に、LiMOの質量パーセント含有量は1%~3%である。
【0019】
LiMOの質量パーセント含有量が適切な範囲内にあれば、被覆層は均一で、緻密になりかつ適切な厚さを有することができ、複合金属酸化物材料は高い充電グラム容量及び高い安定性の利点をよりよく兼ね備えることができる。
【0020】
本出願の任意の実施形態において、複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50は2μm~8μmである。選択的に、複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50は3μm~6μmである。
【0021】
複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50が適切な範囲内にある場合、複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の利点を十分に発揮することができる。
【0022】
本出願の第2の態様は、Li源、Fe源、M源を提供し、ここで+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値≦0.02nmであり、上記原料を混合した後に昇温して一定の時間保温焼結して複合金属酸化物材料を得るステップ、を少なくとも含む、複合金属酸化物材料の調製方法を提供する。複合金属酸化物材料は中心コア及び中心コアの表面に位置する被覆層を含み、中心コア材料の化学式がLiFe1-xであり、0.6≦x<1であり、被覆層材料の化学式がLiMOである。
【0023】
本出願の複合金属酸化物材料の調製方法はインサイチュ被覆法であり、一段階合成によりLiFeOへのドーピング及びインサイチュ被覆を直接的に完了し、多段階法合成プロセスが複雑で、界面結合強度が低いという問題を回避する。
【0024】
本出願の複合金属酸化物材料の調製方法は、プロセスが簡単であり、調製効率も高い。
【0025】
本出願の任意の実施形態において、提供されたLi源、Fe源、M源はLi、Fe、M元素のモル比がa:b:cで混合され、5≦a≦6、0.6≦b<1、0<c≦0.4である。
【0026】
選択的に、5.2≦a≦5.8、より具体的には5.4≦a≦5.6である。
【0027】
選択的に、0.8≦b<1、より具体的には0.85≦b≦0.95である。
【0028】
選択的に、0<c≦0.2、より具体的には0.05≦c≦0.15である。
【0029】
本出願の任意の実施形態において、保温焼結プロセスは二段階の保温焼結プロセスを使用し、原料を混合した後に一次保温焼結温度に一次昇温して一定の時間焼結し、その後に二次保温焼結温度に二次昇温して一定の時間焼結する。
【0030】
二段階の保温焼結プロセスにより調製された複合金属酸化物材料は、中心コア材料におけるドープ元素Mの分布がより均一であり、かつ被覆層の中心コアに対する被覆効果もより高く、それにより調製された複合金属酸化物材料がより高い充電グラム容量を有することを確保する。
【0031】
本出願の任意の実施形態において、一次昇温の速度は2℃/min~10℃/minである。選択的に、一次昇温の速度は4℃/min~8℃/minである。
【0032】
本出願の任意の実施形態において、一次保温焼結の温度は500℃~800℃である。選択的に、一次保温焼結の温度は520℃~700℃である。
【0033】
一次保温焼結の温度が適切な範囲内にある場合、均一な固溶体LiFe1-xを形成することができ、かつ複合金属酸化物材料が高い充電グラム容量を有することを確保する。
【0034】
本出願の任意の実施形態において、二次昇温の速度は2℃/min~10℃/minである。選択的に、二次昇温の速度は4℃/min~8℃/minである。
【0035】
本出願の任意の実施形態において、二次保温焼結の温度は600℃~1000℃である。選択的に、二次保温焼結の温度は650℃~900℃である。
【0036】
二次保温焼結の温度が適切な範囲内にある場合、被覆層の中心コアに対する被覆効果がより高く、複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の発揮により有利である。
【0037】
本出願の第3の態様は、本出願の第1の態様の複合金属酸化物材料、および本出願の第2の態様の方法に基づいて製造された複合金属酸化物材料のうちの一種を含む、正極シートを提供する。
【0038】
本出願の任意の実施形態において、正極シートはさらに正極活物質を含み、正極活物質の質量に対して、複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量は≦20%である。選択的に、複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量は1%~20%である。より具体的には、複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量は1%~10%である。
【0039】
本出願の第4の態様は、本出願の第3の態様の正極シートを含む、二次電池を提供する。
【0040】
本出願の第5の態様は、本出願の第4の態様の二次電池を含む電池モジュールを提供する。
【0041】
本出願の第6の態様は、本出願の第4の態様の二次電池、および第5の態様の電池モジュールのうちの一種を含む、電池パックを提供する。
【0042】
本出願の第7の態様は、本出願の第4の態様の二次電池、第5の態様の電池モジュール、および第6の態様の電池パックのうちの少なくとも一種を含む、電力消費装置を提供する。
【0043】
本出願の電池モジュール、電池パック及び電力消費装置は本出願が提供する二次電池を含むため、少なくとも前記二次電池と同じ利点を有する。
【0044】
本出願の複合金属酸化物材料は、顕著に改善された充電グラム容量を有することができ、本出願の二次電池が同時に高い充電容量、高い放電容量及び長いサイクル寿命を有させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本出願の実施例の技術案をより明確に説明するために、以下に本出願の実施例に必要な図面を簡単に紹介する。明らかに、以下に記載の図面は本出願のいくつかの実施形態だけである。当業者であれば、創造的労働をしない前提で、さらに図面に基づいて他の図面を取得することができる。
図1】本出願の二次電池の一つの実施形態の模式図である。
図2】本出願の二次電池の一つの実施形態の分解模式図である。
図3】本出願の電池モジュールの一つの実施形態の模式図である。
図4】本出願の電池パックの一つの実施形態の模式図である。
図5図4の分解図である。
図6】本出願の二次電池が電源として用いられる電力消費装置の一つの実施形態の模式図である。
図7】実施例1の複合金属酸化物材料の中心コアの断面線の元素分布図である。
図8】実施例1の複合金属酸化物材料の断面の走査電子顕微鏡(SEM)図である。
図9】実施例1の複合金属酸化物材料の初回充放電の曲線である。
図10】比較例2の複合金属酸化物材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)図である。
図11】比較例3の複合金属酸化物材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を適宜参照しながら本出願の複合金属酸化物材料及びその調製方法、正極シート、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置を具体的に開示する実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明を省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や、実際の同一構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは以下の説明が不必要に冗長になることを回避し、当業者の理解を容易にするためである。また、図面及び以下の説明は当業者が本出願を十分に理解するために提供されるものであり、特許請求の範囲に記載の主題を限定するものではない。
【0047】
本出願に開示された「範囲」は下限及び上限の形式で限定され、所定の範囲は一つの特定の下限及び一つの特定の上限により限定され、特定の下限及び特定の上限は特別な範囲の境界を限定する。このような方式で限定された範囲は端値を含んでもよく又は含まなくでもよく、かつ任意に組み合わせることができ、すなわち任意の下限は任意の上限と組み合わせて一つの範囲を形成することができる。例えば、特定のパラメータに対して60~120及び80~110の範囲を列挙すれば、60~110及び80~120の範囲も予想できる。また、列挙された最小範囲値1及び2、及び列挙された最大範囲値3、4及び5であれば、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4及び2~5の全ての範囲も予想できる。本出願において、他の説明がない限り、数値範囲「a~b」はaとbとの間の任意の実数の組み合わせの略語を表し、ここで、a及びbはいずれも実数である。例えば数値範囲「0~5」は本明細書において「0~5」の間の全ての実数が列挙され、「0~5」はこれらの数値組み合わせの略語である。また、あるパラメータが≧2の整数であると表記すると、当該パラメータが例えば整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12等であることを開示することに相当する。
【0048】
特に説明しない限り、本出願の全ての実施形態及び選択可能な実施形態は互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0049】
特に説明しない限り、本出願の全ての技術的特徴及び選択可能な技術的特徴は互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0050】
特に説明しない限り、本出願の全てのステップを順に行ってもよく、ランダムに行ってもよく、好ましくは順に行う。例えば、前記方法はステップ(a)及び(b)を含むことは、前記方法が順に行われるステップ(a)及び(b)を含むことができることを示し、順に行われるステップ(b)及び(a)を含むこともできる。例えば、前記言及された前記方法はさらにステップ(c)を含むことができ、ステップ(c)を任意の順序で前記方法に加えることができることを示す。例えば、前記方法はステップ(a)、(b)及び(c)を含むことができ、ステップ(a)、(c)及び(b)を含むこともでき、ステップ(c)、(a)及び(b)等を含むこともできる。
【0051】
特に説明しない限り、本出願に言及された「備える」、「有する」及び「含む」は開放式を示し、閉鎖式であってもよい。例えば、前記「備える」、「有する」及び「含む」はさらに列挙されていない他の成分を含むか又は有することを表すことができ、列挙された成分のみを含むか又は有することもできる。
【0052】
特に説明しない限り、本出願において、用語「又は」は「包括的」である。例えば、用語「A又はB」は「A、B、又はA及びBの両方」を表す。より具体的には、以下のいずれかの条件はいずれも条件「A又はB」を満たす。つまり、Aが真(又は存在する)でありかつBが偽(又は存在しない)である。Aが偽(又は存在しない)でありかつBが真(又は存在する)である。又は、A及びBがいずれも真(又は存在する)である。
複合金属酸化物材料
【0053】
二次電池の高エネルギー密度の点での需要を満たすために、リチウム補填技術を採用して活性リチウム含有量を増加させ、二次電池の初回充電の過程での活性リチウム損失を補填することができる。現在主流で、かつ技術的成熟度が高いのは負極のリチウム補填プロセスであり、例えば、リチウム粉末又はリチウム箔により負極シートの表面に一層のリチウム金属層を被覆する。しかしながら、金属リチウムの化学的性質は非常に活性であり、環境及び設備への要求がいずれも高く、リチウム補填過程において高い安全リスクが存在する。負極のリチウム補足プロセスに比べて、正極のリチウム補填プロセスは高い安全性を有し、環境制御に対する要求を低下させる。正極リチウム補填プロセスは正極シートにリチウムリッチ材料(例えば、リチウムリッチ遷移金属酸化物)を添加して追加の活性リチウムを増加させることであってもよい。電池化成又は初回充電の過程において、この部分の活性リチウムはリチウムリッチ材料から脱離することにより、負極活物質がSEI膜を形成することによる活性リチウムの損失を補填する。
【0054】
LiFeOは非常に高い理論充電容量を有し、かつほとんど全ての容量が不可逆であり、電池の初回充電が終了した後に迅速に失活し、後続の充放電反応に関与しない。したがって、LiFeOは正極リチウム補足剤とすることができ、電池の初回充電過程での活性リチウム損失を補足するために用いられる。しかし、LiFeOは、リチウム含有量が高いため、活性が強く、空気中で不安定であり、環境中の水分及び二酸化炭素と反応しやすい。したがって、LiFeOは不活性雰囲気中で保存及び使用する必要があり、生産効率を低下させると同時に生産コストを増加させる。
【0055】
炭素材料又は金属酸化物(例えば、Al、TiO、ZrO等)を用いてLiFeOを被覆すると、外部環境を遮断してLiFeOが空気中の水及び二酸化炭素と直接接触することを回避し、その安定性を向上させることができる。しかし、表面被覆プロセスが複雑であり、製造コストを増加させる。非電気化学的活性の被覆層は、活性リチウムを伝導する機能を有さず、活性リチウムがLiFeOから脱離することに不利であり、LiFeOの充電容量を低下させる。したがって、非電気化学的活性の被覆層は、電池サイクル寿命に対する改善が限られるだけでなく、電池のエネルギー密度も低下させる。
【0056】
LiFeOが正極のリチウム補填剤として空気中で不安定であり、環境中の水分及び二酸化炭素と反応しやすいという問題を解決するために、発明者らは鋭意研究を経て、構造が安定し、顕著に改善された充電グラム容量を有し、かつ調製に適する複合金属酸化物材料を提供する。本出願の複合金属酸化物材料は、正極のリチウム補填剤として正極シート及び二次電池に応用することができ、それにより二次電池が同時に高い充電容量、高い放電容量及び長いサイクル寿命を有させる。
【0057】
具体的には、本出願の複合金属酸化物材料は、中心コア及び中心コアの表面に位置する被覆層を含み、前記中心コア材料の化学式はLiFe1-xであり、0.6≦x<1であり、前記被覆層材料の化学式はLiMOであり、Mは+3価を有する金属元素のうちの一種又は複数種であり、かつ+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.02nmである。
【0058】
本出願の複合金属酸化物材料はMドープのLiFeOを中心コア材料とし、LiMOを被覆層材料とする複合金属酸化物材料であり、顕著に改善された充電グラム容量を有する。第1に、ドープ元素MはLiFeO格子構造における一部のFe元素を代替することができ、中心コア材料LiFe1-xが三元金属共存の固溶体を形成させるため、中心コア材料LiFe1-xのバルク構造がより安定する。したがって、本出願の複合金属酸化物材料は、電池の複数回の充放電による構造破壊をさらに防止することができ、グラム容量の発揮に有利である。第2に、本出願の複合金属酸化物材料はLiMOを被覆層材料とし、中心コア材料と空気中の水分及び二酸化炭素との直接接触を効果的に遮断して中心コア材料が貯蔵及び輸送過程で変質することを防止することができるだけでなく、中心コア材料が電解液中の水又は他の酸性物質により腐食されて失効することを防止することができる。第3に、本出願の複合金属酸化物材料はLiMOを被覆層材料とし、LiMOは層状構造を有し、中心コア材料における活性リチウムを自由に脱離させることができる。中心コア材料がリチウムを脱離して不活性化材料となった後、LiMOは依然として活性を有し、活性リチウムの正極活物質及び正極膜層における伝導を阻害しない。したがって、本出願の複合金属酸化物材料は顕著に改善された充電グラム容量を有することができる。
【0059】
本出願の複合金属酸化物材料において、中心コア材料LiFe1-x及び被覆層材料LiMOにおけるMは同じであり、かつ中心コア材料LiFe1-x及び被覆層材料LiMOにおいて、Mは同じ金属元素を表してもよく、同じ複数の金属元素を表してもよい。中心コア材料LiFe1-xと被覆層材料LiMOに含有された金属元素Mが同じである場合、中心コアと被覆層との界面に八面体型のMOを形成することができる。このように、中心コアと被覆層は化学結合により結合され、界面により高い結合強度を有することができるため、被覆層の中心コアに対する被覆効果がより高い。また、八面体型のMOはさらに中心コアと被覆層との界面における活性リチウムの伝導性能を向上させることができ、活性リチウムが中心コア材料LiFe1-xから効率的に脱離することに有利であり、それにより複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の利点を十分に発揮することができる。
【0060】
発明者らは、MがLiFeOを効果的にドーピングすることができるか否かが+3価のMのイオン半径の大きさに関連することをさらに発見した。+3価のMと+3価Feのイオン半径の差が大きすぎる場合、MはLiFeOの格子構造によく入りかつ一部のFe元素を代替することができず、MとLiFeOも三元金属共存の固溶体LiFe1-xを形成することができず、中心コア材料の充電容量を低下させるだけでなく、活性リチウムが中心コア材料から脱離する難しさを増加させる。+3価のMのイオン半径と+3価のFeのイオン半径との差が大きくない場合、MはLiFeOの格子構造における一部のFe元素を置換しやすく、それによりLiFeOを効果的にドーピングする。発明者らは、+3価のMのイオン半径と+3価のFeのイオン半径との差の絶対値を適切な範囲内に制御することにより、ドーピング程度がより理想的な中心コア材料を得ることができ、さらにより高い充電グラム容量を有する複合金属酸化物材料を得ることができる。
【0061】
発明者らは、複合金属酸化物材料において、xの値が小さすぎる場合、すなわち、中心コア材料におけるFe元素の含有量が低すぎる場合、複合金属酸化物材料の充電グラム容量が明らかに低下し、電池の初回充電の過程における活性リチウム損失を補足する作用を果たすことができないことをさらに発見した。発明者らは、中心コア材料におけるxの値を適切な範囲内に制御すると、複合金属酸化物材料が顕著に改善された充電グラム容量を有することを確保することができる。
【0062】
金属元素の半径は金属原子半径、金属イオン半径を含み、同じ金属元素は異なる電荷の金属イオンを形成する可能性があり、ここで、高原子価金属イオンの半径は低原子価金属イオンの半径より小さい。本出願において、Mはさらに可変原子価金属であってもよく、「+3価のMのイオン半径」はMが3つの外殻電子を失った後のイオン半径を指す。Mは、+3価だけでなく、+4価、+5価、+6価、+7価などを有してもよい。
【0063】
いくつかの実施形態において、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.02nm、≦0.018nm、≦0.015nm、≦0.012nm、≦0.01nm、≦0.008nm、≦0.005nm、≦0.002nm、又は0nm(すなわち、+3価のFeのイオン半径は+3価のMのイオン半径と等しい)であってもよい。
【0064】
いくつかの実施形態において、選択的に、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.01nmである。より具体的には、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.005nmである。
【0065】
いくつかの実施形態において、+3価のFeのイオン半径は0.055nmであり、+3価のMのイオン半径は0.035nm~0.075nmであってもよい。選択的に、+3価のMのイオン半径は0.037nm~0.073nm、0.040nm~0.070nm、0.043nm~0.067nm、0.045nm~0.065nm、0.047nm~0.063nm、0.050nm~0.060nm、0.053nm~0.057nmである。
【0066】
+3価のMのイオン半径が適切な範囲内にあれば、中心コア材料はより理想的なドーピング程度を有することができ、MはLiFeOの格子構造によく入りかつ一部のFe元素を代替することができ、MとLiFeOも三元金属が共存する固溶体LiFe1-xを形成することができ、それにより複合金属酸化物材料の充電グラム容量を顕著に改善することができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、MはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Cu、Nb、Ga、Mo、Ru、Rh、Irから選択される一種又は複数種であってもよい。選択的に、MはAl、Ni、Co、Mn、Cu、Mo、Gaのうちの一種又は複数種から選択されることができる。より具体的には、MはAl、Ni、Co、Cu、Gaから選択される一種又は複数種であってもよい。Mが上記元素の中から選択される一種又は複数種である場合、+3価のMのイオン半径が適切な範囲内にあることを確保することができ、それによりドーピング程度がより理想的な中心コア材料を得ることができ、さらにより高い充電グラム容量を有する複合金属酸化物材料を得ることができる。
【0068】
発明者らが予期せず発見したこととして、Mが複数の高原子価(例えば+3価、+4価、+5価、+6価、+7価など)を有することができる可変原子価金属である場合、被覆層材料LiMOは電池の充電過程においても活性リチウムを脱離し、被覆層材料を相転移させ、層状構造からスピネル構造に転移して岩塩相構造に転移する。この時、中心コア材料における活性リチウムは脱離しにくくなる。したがって、より具体的には、Mは最も高価な状態が+3価である金属元素から選択される。この時、被覆層材料が充電時に安定した層状構造を保持させることができ、活性リチウムが中心コア材料から十分に脱離しやすく、複合金属酸化物材料の充電グラム容量を顕著に改善する。いくつかの実施形態において、選択的に、MはAl、Cu、Gaの中から選択される一種又は複数種である。
【0069】
いくつかの実施形態において、選択的に、xは0.8≦x<1である。
【0070】
いくつかの実施形態において、選択的に、xは0.8~0.98、0.82~0.98、0.84~0.98、0.85~0.98、0.88~0.98、0.90~0.98、0.92~0.98、0.95~0.98、0.8~0.96、0.82~0.96、0.84~0.96、0.85~0.96、0.88~0.96、0.90~0.96、0.92~0.96、又は0.85~0.95である。例えば、xは0.8、0.85、0.9、又は0.95であってもよい。
【0071】
xの値が大きい場合、中心コア材料LiFe1-xにおけるMの含有量が小さくなり、MとLiFeOは均一な固溶体を形成することができない可能性があり、複合金属酸化物材料の結晶化度がある程度低下し、充電グラム容量もある程度低下する。xの値を適切な範囲内に制御する場合、複合金属酸化物材料はより高い充電グラム容量を有することができる。
【0072】
いくつかの実施形態において、前記複合金属酸化物材料は前記中心コアと前記被覆層との間に位置する遷移層をさらに含み、かつ前記遷移層におけるFe対Mのモル比が前記中心コア材料LiFe1-xにおけるFe対Mのモル比より小さい。遷移層は、中心コアと被覆層が互いに溶け合うことにより形成される。遷移層において、Fe元素含有量は中心コア位置から被覆層位置へ徐々に減少する。
【0073】
本出願の複合金属酸化物材料は、中心コアと被覆層との間に位置する遷移層を含む場合、遷移層の位置に八面体型のMOを形成することができ、中心コアと被覆層は化学結合により接続することができ、遷移層の位置での結合強度がより高く、被覆層の中心コアに対する被覆効果もより高い。
【0074】
選択的に、前記遷移層におけるFe対Mのモル比は、≦2、≦1.8、≦1.5、≦1.2、又は≦1である。
【0075】
本出願の複合金属酸化物材料において、中心コアと被覆層との間に位置する遷移層は連続的な層状構造であってもよく、不連続的な層状構造であってもよい。本出願の複合金属酸化物材料の局所位置は中心コアと被覆層との間に位置する遷移層を含むことができ、当然のことながら、本出願の複合金属酸化物材料の局所位置は中心コアと被覆層との間に位置する遷移層を含まなくてもよい。中心コアと被覆層との間に位置する遷移層は均一な厚さを有してもよく、不均一な厚さを有してもよい。
【0076】
いくつかの実施形態において、中心コアと被覆層との間に位置する遷移層は連続的な層状構造である。この時、被覆層の中心コアに対する被覆効果がより高く、複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の利点を十分に発揮することに有利である。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記遷移層の最も厚い箇所の厚さはHmaxであり、Hmaxは≦1μmである。選択的に、Hmaxは0.1μm~1μmである。Hmaxの値が適切な範囲内にある場合、複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の利点を十分に発揮することに有利である。
【0078】
いくつかの実施形態において、遷移層材料はLiFe1-x及びLiMOを含むことができる。
【0079】
いくつかの実施形態において、複合金属酸化物材料の合計質量に基づいて、LiMOの質量パーセント含有量は0.5%~5%であってもよい。選択的に、LiMOの質量パーセント含有量は0.5%~4.5%、0.5%~4%、1%~4%、1%~3%、1%~2.5%、1.5%~2.5%、又は1%~2%である。例えば、LiMOの質量パーセント含有量は0.5%、1%、2%、3%、5%であってもよい。「LiMOの質量パーセント含有量」を計算する時、被覆層中のLiMOを含むだけでなく、遷移層中に現れる可能性のある少量のLiMOを含む。
【0080】
発明者らが発見したこととして、LiMOの質量パーセント含有量が低い場合、中心コアの表面に均一で緻密な被覆層を形成することを確保することができず、中心コア材料と空気との十分な遮断を確保することができず、複合金属酸化物材料の安定性が低下する可能性があり、充電グラム容量が低下する可能性もある。LiMOの質量パーセント含有量が高い場合、被覆層が厚くなりすぎやすく、中心コア材料における活性リチウムの脱離に不利であり、複合金属酸化物材料の充電グラム容量も低下する。発明者らは大量の創造的な労力により、本出願のLiMOの質量パーセント含有量を適切な範囲内に制御することにより、被覆層が均一で、緻密になりかつ適切な厚さを有させることができ、複合金属酸化物材料は顕著に改善された充電グラム容量を有することができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、前記複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50は2μm~8μmであってもよい。選択的に、前記複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50は2μm~7μm、3μm~7μm、3μm~6μm、3μm~5μm、又は4μm~5μmであってもよい。例えば、前記複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50は2μm、3μm、4.5μm、6μm、又は8μmであってもよい。
【0082】
発明者らは、複合金属酸化物材料の粒径が増加すると、活性リチウムの拡散距離も増加し、複合金属酸化物材料のイオン伝導性能が悪くなり、電池の動力学的性能も低下すること、且つ、充電過程で活性リチウムが中心コアから脱離する難しさも増加し、複合金属酸化物材料の充電グラム容量の利用率が低下することを発見した。しかし、複合金属酸化物材料の粒径も小さすぎることは好ましくなく、これは複合金属酸化物材料の比表面積が大きすぎることを引き起こし、正極スラリーを製造する時、複合金属酸化物材料が凝集しやすく、複合金属酸化物材料の充電グラム容量を十分に利用することにも不利である。複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50を適切な範囲内に制御すると、複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の利点を十分に発揮することができる。
【0083】
本出願において、複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50は本分野の公知の意味であり、本分野の既知の方法及び装置を用いて測定することができる。本出願において、材料の体積平均粒径Dv50は材料の累積体積分布パーセントが50%に達する時に対応する粒径であり、レーザー回折粒度分析法で測定することができる。例えば、GB/T 19077-2016粒度分布レーザー回折法を参照し、レーザー粒度分析計(例えば、英国マルバーン(malvern)Mastersizer 2000E)を採用して測定することができる。
【0084】
いくつかの実施形態において、前記複合金属酸化物材料の充電グラム容量は≧500mAh/gである。選択的に、前記複合金属酸化物材料の充電グラム容量は≧600mAh/gである。
複合金属酸化物材料の調製方法
【0085】
本出願の第2の態様は、Li源、Fe源、M源を提供し、ここで、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値が≦0.02nmであり、上記原料を混合した後に昇温して一定の時間保温焼結して複合金属酸化物材料を得るステップ、を少なくとも含む、複合金属酸化物材料の調製方法を提供する。ここで、前記複合金属酸化物材料は中心コア及び中心コアの表面に位置する被覆層を含み、前記中心コア材料の化学式はLiFe1-xであり、0.6≦x<1であり、前記被覆層材料の化学式はLiMOである。
【0086】
本出願の調製方法は、複合金属酸化物材料を製造する原料を混合し、保温焼結プロセスを経て、中心コア、被覆層及び選択可能な遷移層を含む複合金属酸化物材料を得る。本出願の調製方法で得られた複合金属酸化物材料によれば、被覆層は均一で緻密であるという特徴を有し、複合金属酸化物材料の貯蔵及び輸送過程における変質を防止することができ、同時に複合金属酸化物材料は顕著に改善された充電グラム容量を有する。
【0087】
本出願の複合金属酸化物材料の調製方法はインサイチュ被覆法であり、一段階合成によりLiFeOへのドーピング及びインサイチュ被覆を直接的に完了し、多段階法合成プロセスが複雑で、界面結合強度が低いという問題を回避する。
【0088】
本出願の複合金属酸化物材料の調製方法はプロセスが簡単であり、調製効率が高い。
【0089】
本出願の調製方法により得られた複合金属酸化物材料を正極シート及び電池に適用する場合、電池はより高い充放電容量及びより長いサイクル寿命を有することができ、また、正極シートの製造プロセスの難しさが低下し、正極スラリーにゲルが発生しにくい。
【0090】
いくつかの実施形態において、保温焼結プロセスは二段階の保温焼結プロセスを採用する。例えば、原料を混合した後に一次保温焼結温度に一次昇温して一定の時間焼結し、その後に二次保温焼結温度に二次昇温して一定の時間焼結する。二段階の保温焼結プロセスにおいて、一次保温焼結の温度は二次保温焼結の温度より小さい。一次保温焼結プロセスにおいて、一部のM源、一部のLi源及びFe源はより低い温度で固溶して三元金属共存の固溶体LiFe1-xを形成し、残りのM源と残りのLi源は二次保温焼結プロセスにおいてLiMOを形成しかつ被覆層としてインサイチュで固溶体LiFe1-xの表面に被覆される。二段階の保温焼結プロセスにより製造された複合金属酸化物材料は、中心コア材料におけるドープ元素Mの分布がより均一であり、かつ被覆層の中心コアに対する被覆効果もより高く、それにより調製された複合金属酸化物材料がより高い充電グラム容量を有することを確保する。
【0091】
いくつかの実施形態において、一次昇温速度は2℃/min~10℃/minであってもよい。選択的に、一次昇温速度は3℃/min~10℃/min、4℃/min~8℃/min、又は5℃/min~7℃/minである。
【0092】
いくつかの実施形態において、一次保温焼結の温度は500℃~800℃であってもよい。選択的に、一次保温焼結の温度は520℃~800℃、520℃~750℃、520℃~700℃、550℃~700℃、又は600℃~700℃である。例えば、一次保温焼結の温度は500℃、600℃、650℃、700℃、800℃であってもよい。発明者らは、一次保温焼結の温度が低すぎると、固溶体LiFe1-xを形成できない可能性があり、LiFe1-xの結晶化度も低く、複合金属酸化物材料の充電グラム容量の発揮に不利である。一次保温焼結の温度が高すぎると、Li源中のLi元素の揮発量が増加し、中心コア材料中の活性リチウム含有量が低下し、複合金属酸化物材料の充電グラム容量の発揮にも不利である。一次保温焼結の温度が適切な範囲内にある場合、均一な固溶体LiFe1-xを形成することができ、かつ複合金属酸化物材料が高い充電グラム容量を有することを確保する。
【0093】
いくつかの実施形態において、一次保温焼結の時間は4h~10hであってもよい。選択的に、一次保温焼結の時間は4h~8h、5h~8h、又は5h~7hである。
【0094】
いくつかの実施形態において、二次昇温速度は2℃/min~10℃/min、3℃/min~10℃/min、4℃/min~8℃/min、又は5℃/min~7℃/minであってもよい。
【0095】
いくつかの実施形態において、二次保温焼結の温度は600℃~1000℃であってもよい。選択的に、二次保温焼結の温度は650℃~1000℃、700℃~1000℃、650℃~900℃、700℃~900℃、800℃~950℃、又は800℃~900℃である。例えば、二次保温焼結の温度は700℃、800℃、850℃、900℃、又は1000℃であってもよい。発明者らは、二次保温焼結の温度が低すぎると、均一でかつ結晶化度が高い複合金属酸化物材料を形成することができず、複合金属酸化物材料の充電グラム容量の発揮に不利であり、また、二次保温焼結の温度が高すぎると、Li源におけるLi元素の揮発量が増加し、複合金属酸化物材料における活性リチウム含有量が低下し、かつ中心層の表面に均一でかつ緻密な被覆層を形成することができず、中心コアの安定性に影響を与える可能性があることを発見した。また、二次保温焼結の温度が高すぎると、被覆層の被覆層材料をLiMOからMの酸化物に変化させやすく、Mの酸化物は活性リチウムを伝導する機能を有せず、活性リチウムが中心コア材料から脱離することに不利であるため、複合金属酸化物材料の充電グラム容量を低下させる。二次保温焼結の温度が適切な範囲内にある場合、被覆層の中心コアに対する被覆効果がより高く、複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の発揮により有利である。
【0096】
いくつかの実施形態において、二次保温焼結の時間は2h~6hであってもよい。選択的に、二次保温焼結の時間は3h~6h、4h~6h、又は5h~6hである。
【0097】
いくつかの実施形態において、Li源、Fe源、M源の種類は具体的に限定されず、実際の需要に応じて選択することができる。例として、Li源はLiO、LiCO、Li、CHCOOLi、LiOH・HO、LiOHのうちの一種又は複数種を含むことができる。例として、Fe源はFeの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩のうちの一種又は複数種を含むことができる。例として、M源はMの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、硫化物、窒化物のうちの一種又は複数種を含むことができる。
【0098】
いくつかの実施形態において、前記Li源、Fe源、M源はLi、Fe、M元素のモル比がa:b:cで混合され、ここで、5≦a≦6、0.6≦b<1、0<c≦0.4である。
【0099】
選択的に、aの範囲は5.1≦a≦5.9、5.2≦a≦5.8、5.3≦a≦5.7、又は5.4≦a≦5.6を満たす。
【0100】
選択的に、bの範囲は0.7≦b<1、0.8≦b<1、0.85≦b<1、0.85≦b≦0.95、又は0.85≦b≦0.9を満たす。
【0101】
選択的に、cの範囲は0<c≦0.4、0<c≦0.3、0<c≦0.2、0.05≦c≦0.2、又は0.05≦c≦0.15を満たす。
【0102】
いくつかの実施形態において、複合金属酸化物材料の調製方法は原料を粉砕するステップをさらに含むことができる。原料を一定のサイズに粉砕した後に昇温しかつ保温して焼結処理を行い、粒径がより均一でかつ結晶化度がより高い複合金属酸化物材料を得ることができる。選択的に、粉砕方式はボールミルである。粉砕とは、Li源、Fe源、M源をそれぞれ粉砕してもよく、Li源、Fe源、M源を混合した後に一緒に粉砕してもよい。
【0103】
いくつかの実施形態において、複合金属酸化物材料の調製方法は、調製された複合金属酸化物材料に粉砕及び分級を行い、体積平均粒径Dv50が2μm~8μmの複合金属酸化物材料を選別するステップをさらに含むことができる。選択的に、体積平均粒径Dv50が2μm~7μm、3μm~7μm、3μm~6μm、3μm~5μm、又は4μm~5μmの複合金属酸化物材料を選別し、正極シートに用いる。体積平均粒径Dv50が適切な範囲内にある複合金属酸化物材料を選別し、粉体の粒径が適切な複合金属酸化物材料を得ることができ、その高い充電グラム容量の利点を十分に発揮することに有利である。
【0104】
いくつかの実施形態では、焼結雰囲気は窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスのうちの一種又は複数種を含む。
【0105】
いくつかの実施形態において、複合金属酸化物材料の製造過程における環境湿度を≦45%に制御することができる。選択的に、複合金属酸化物材料の調製過程における環境湿度を≦40%、≦30%、≦20%、≦10%、又は≦5%に制御することができる。複合金属酸化物材料の調製過程において、環境湿度を適切な範囲内に制御し、複合金属酸化物材料の中心コアと空気中の水分及び二酸化炭素との反応を減少させることができ、それにより複合金属酸化物材料の活性リチウムの損失を大幅に減少させることができる。
二次電池
【0106】
二次電池は充電池又は蓄電池とも呼ばれ、電池が放電した後に充電の方式で活物質を活性化させて使用し続けることができる電池を指す。
【0107】
一般的に、二次電池は正極シート、負極シート、セパレータ及び電解質を含む。電池の充放電過程において、活性イオン(例えば、リチウムイオン)は正極シートと負極シートとの間に往復して挿入・脱離する。セパレータは正極シートと負極シートとの間に設置され、主に正負極の短絡を防止する役割を果たし、同時にイオンを通過させることができる。電解質は正極シートと負極シートとの間にあり、主に活性イオンを伝導する作用を果たす。
【正極シート】
【0108】
本出願は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設置されかつ正極活物質を含む正極膜層とを含む正極シートを提供する。例えば、正極集電体は自身の厚さ方向に対向する二つの表面を有し、正極膜層は正極集電体の二つの対向する表面のうちのいずれか一つ又は両方に設置される。
【0109】
本出願の正極シートにおいて、正極集電体は金属箔シート又は複合集電体を採用することができる。金属箔シートの例として、正極集電体はアルミニウム箔を採用することができる。複合集電体は、高分子材料の基層と、高分子材料の基層の少なくとも一方の表面に形成された金属材料層とを有していてもよい。例として、金属材料はアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀、銀合金から選択される一種又は複数種であってもよい。例として、高分子材料基層はポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などから選択することができる。
【0110】
本出願の正極シートにおいて、正極膜層は正極活物質を含み、正極活物質は本分野で公知の二次電池用の正極活物質を採用することができる。例として、正極活物質はリチウム遷移金属酸化物、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩及びそれぞれの改質化合物のうちの一種又は複数種を含むことができる。リチウム遷移金属酸化物は、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物およびそれらの改質化合物のうちの一種又は複数種を含むが、これらに限定されない。オリビン構造のリチウム含有リン酸塩は、例えば、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄リチウムと炭素の複合材料、リン酸マンガンリチウム、リン酸マンガンリチウムと炭素の複合材料、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素の複合材料及びそれぞれの改質化合物のうちの一種又は複数種を含むが、これらに限定されない。本出願はこれらの材料に限定されず、さらに他の二次電池正極活物質として使用可能な従来の公知の材料を使用することができる。これらの正極活物質は一種のみを単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0111】
本出願の正極シートにおいて、上記各正極活物質の改質化合物は正極活物質にドーピング改質、表面被覆改質、又はドーピングと表面被覆改質とを行うことができる。
【0112】
本出願の正極シートにおいて、正極膜層は一般的に正極活物質及び選択可能な接着剤及び選択可能な導電剤を含む。正極膜層は一般的に正極スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスにより形成される。正極スラリーは、通常、正極活物質と、必要に応じて導電剤と、必要に応じて接着剤と、任意にその他の成分とを溶媒に分散させ、均一に攪拌して形成される。溶媒はN-メチルピロリドン(NMP)であってもよいが、これに限定されない。例として、正極膜層に用いられる接着剤はポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ素含有アクリレート樹脂のうちの一種又は複数種を含むことができる。例として、正極膜層に用いられる導電剤は超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバーのうちの一種又は複数種を含むことができる。
【0113】
本出願の正極シートにおいて、正極膜層は本出願の第1の態様の複合金属酸化物材料、本出願の第2の態様の方法に基づいて調製された複合金属酸化物材料のうちの一種をさらに含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、正極活物質の質量に基づいて、複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量は≦20%であってもよい。選択的に、複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量は1%~20%、1%~18%、1%~15%、1%~12%、1%~10%、又は1%~8%である。複合金属酸化物材料は、電池の初回充電の過程における活性リチウムの損失を補足することができるが、複合金属酸化物材料の中心コアは初回充電が終了した後に不活性化材料となり、複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量が高すぎると、ある程度で電池の質量エネルギー密度を低下させる。
【0115】
説明すべきこととして、本出願が提供する各正極膜層の組成又はパラメータはいずれも正極集電体の単膜層の組成又はパラメータ範囲を指す。正極膜層が正極集電体の対向する二つの表面に設置される場合、そのうちのいずれか一つの表面上の正極膜層の組成又はパラメータは本出願を満たすと、本出願の保護範囲内にあると考えられる。
【負極シート】
【0116】
二次電池は負極シートを含み、負極シートは一般的に負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面に設置されかつ負極活物質を含む負極膜層とを含む。例えば、負極集電体は自身の厚さ方向に対向する二つの表面を有し、負極膜層は負極集電体の対向する二つの表面のうちのいずれか一つ又は両者に積層される。
【0117】
本出願の負極シートにおいて、負極集電体は金属箔シート又は複合集電体を採用することができる。金属箔シートの例として、銅箔を採用することができる。複合集電体は、高分子材料の基層と、高分子材料の基層の少なくとも一方の表面に形成された金属材料層とを有していてもよい。例として、金属材料は銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀、銀合金から選択される一種又は複数種であってもよい。例として、高分子材料基層はポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などから選択することができる。
【0118】
本出願の負極シートにおいて、負極膜層は一般的に負極活物質及び選択可能な接着剤、選択可能な導電剤及び選択可能な他の助剤を含む。負極膜層は一般的に負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスにより形成される。負極スラリーは、通常、負極活物質、必要に応じて導電剤、必要に応じて接着剤、必要に応じて助剤等を溶媒に分散させ、均一に撹拌して形成される。溶媒はN-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよいが、これに限定されない。ここで、導電剤及び接着剤の種類及び含有量は具体的に限定されず、実際の需要に応じて選択することができる。例として、導電剤は超伝導カーボン、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの一種又は複数種を含むことができる。例として、接着剤はスチレンブタジエンゴム(SBR)、水溶性不飽和樹脂(SR-1B)、水性アクリル樹脂(例えば、ポリアクリル酸PAA、ポリメタクリル酸PMAA、ポリアクリル酸ナトリウムPAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)及びカルボキシメチルキトサン(CMCS)のうちの一種又は複数種を含むことができる。任意の他の助剤は増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウムCMC-Na)、PTCサーミスタ材料などを含むことができる。
【0119】
いくつかの実施形態において、負極活物質の種類は具体的に限定されず、本分野で公知の二次電池用の負極活物質を採用することができる。例として、負極活物質は黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、カーボンナノチューブ、シリコン系材料、スズ系材料、チタン酸リチウムのうちの一種又は複数種を含むことができる。ケイ素系材料は単体ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭素複合体、ケイ素窒素複合体、ケイ素合金材料のうちの一種又は複数種を含むことができる。スズ系材料は単体スズ、スズ酸化物、スズ合金材料のうちの一種又は複数種を含むことができる。本出願は、これらの材料に限定されるものではなく、さらに他の二次電池負極活物質として使用可能な従来の公知の材料を使用することができる。これらの負極活物質は一種のみを単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【電解質】
【0120】
電解質は、正極シートと負極シートとの間で活性イオンを伝導する役割を果たす。本出願の二次電池は電解質の種類に対して具体的な制限がなく、需要に応じて選択することができる。例えば、電解質は固体電解質及び液体電解質(即ち電解液)のうちの少なくとも一種から選択することができる。
【0121】
いくつかの実施形態において、電解質は電解液を採用する。電解液は、電解質塩および溶媒を含む。
【0122】
いくつかの実施形態において、電解質塩の種類は具体的に限定されず、実際の需要に応じて選択することができる。例として、電解質塩は六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(LiTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート(LiDFOB)、リチウムビスオキサレートボラート(LiBOB)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、リチウムジフルオロビス(オキサレート)ホスフェート(LiDFOP)及びリチウムテトラフルオロオキサラートホスフェート(LiTFOP)の中から選択される一種又は複数種であってもよい。
【0123】
いくつかの実施形態において、溶媒の種類は具体的に限定されず、実際の需要に応じて選択することができる。例として、溶媒はエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、メチルエチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)の中から選択される一種又は複数種である。
【0124】
いくつかの実施形態において、選択的に、溶媒は非水溶媒である。
【0125】
いくつかの実施形態において、電解液はさらに添加剤を選択的に含むことができる。例えば、添加剤は負極成膜添加剤を含んでもよく、正極成膜添加剤を含んでもよく、さらに電池のいくつかの性能を改善できる添加剤、例えば電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温性能を改善する添加剤、電池の低温性能を改善する添加剤などを含んでもよい。
【セパレータ】
【0126】
電解液を採用する二次電池、及び固体電解質を採用するいくつかの二次電池において、セパレータをさらに含む。セパレータは正極シートと負極シートとの間に設置され、隔離の役割を果たす。本出願はセパレータの種類を特に限定せず、任意の公知の良好な化学的安定性及び機械的安定性を有する多孔質構造のセパレータを選択することができる。いくつかの実施形態では、セパレータの材質はガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンから選択される一種又は複数種であってもよい。セパレータは単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよい。セパレータが多層複合フィルムである場合、各層の材料は同じであってもよく異なってもよい。
【0127】
いくつかの実施形態において、正極シート、負極シート及びセパレータは巻回プロセス又は積層プロセスにより電極組立体を製造することができる。
【0128】
いくつかの実施形態において、二次電池は外装を含むことができる。当該外装は、上記電極組立体及び電解質を封止するために用いられる。
【0129】
いくつかの実施形態において、二次電池の外装は硬質ケースであってもよく、例えば硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、鋼ケース等である。二次電池の外装はソフトパックであってもよく、例えば袋式ソフトパックである。ソフトバッグの材質はプラスチックであってもよく、例えばポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)等のうちの一種又は複数種である。
【0130】
本出願は二次電池の形状を特に限定せず、それは円筒形、方形又は他の任意の形状であってもよい。図1は、一例としての角形構造の二次電池5である。
【0131】
いくつかの実施形態において、図2に示すように、外装はケース51及びカバープレート53を含むことができる。ここで、ケース51は底板及び底板に接続された側板を含むことができ、底板及び側板が囲んで収容チャンバを形成する。ケース51は収容チャンバに連通する開口を有し、カバープレート53は前記開口をカバーすることにより、前記収容チャンバを密封するために用いられる。正極シート、負極シート及びセパレータは巻回プロセス又は積層プロセスにより電極組立体52を形成することができる。電極組立体52は前記収容チャンバに封入される。電解液は、電極組立体52に含浸されている。二次電池5に含まれる電極組立体52の数量は一つ又は複数であってもよく、需要に応じて調整することができる。
【0132】
いくつかの実施形態において、二次電池は電池モジュールに組み立てることができ、電池モジュールに含まれる二次電池の数量は複数であってもよく、具体的な数量は電池モジュールの応用及び容量に応じて調整することができる。
【0133】
図3は、一例としての電池モジュール4である。図3に示すとおり、電池モジュール4において、複数の二次電池5は電池モジュール4の長手方向に沿って順に配列して設置されてもよい。当然のことながら、任意の他の方式で配列することもできる。さらに、この複数の二次電池5を締結具で固定してもよい。
【0134】
選択的に、電池モジュール4はさらに収容空間を有するケースを含むことができ、複数の二次電池5は該収容空間に収容される。
【0135】
いくつかの実施形態において、上記電池モジュールはさらに電池パックに組み立てることができ、電池パックに含まれる電池モジュールの数は電池パックの応用及び容量に応じて調整することができる。
【0136】
図4及び図5は、一例としての電池パック1である。図4及び図5に示すとおり、電池パック1は電池筐及び電池筐内に設置された複数の電池モジュール4を含むことができる。電池筐は上部筐体2及び下部筐体3を含み、上部筐体2は下部筐体3をカバーするために用いられ、かつ電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成する。複数の電池モジュール4は、任意の態様で電池ケース内に配置されてよい。
電力消費装置
【0137】
本出願の実施形態は、本出願の二次電池、電池モジュール、電池パックのうちの少なくとも一種を含む電力消費装置をさらに提供する。前記二次電池、電池モジュール又は電池パックは前記電力消費装置の電源として用いられてもよく、前記電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられてもよい。前記電力消費装置は携帯機器(例えば携帯電話、ノートパソコン等)、電動車両(例えば純粋な電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、バッテリーカー、電動ゴルフカート、電動トラック等)、電気列車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システム等であってもよいが、これらに限定されない。
【0138】
前記電力消費装置はその使用需要に応じて二次電池、電池モジュール又は電池パックを選択することができる。
【0139】
図6は、一例としての電力消費装置である。当該電力消費装置は純粋な電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車等である。当該電力消費装置の高出力及び高エネルギー密度に対する需要を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用することができる。
【0140】
他の例としての電力消費装置は携帯電話、タブレットコンピュータ、ノートパソコン等であってもよい。当該電力消費装置は一般的に薄型化が要求され、二次電池を電源として採用することができる。
実施例
【0141】
下記実施例は本出願に開示された内容をより具体的に説明し、これらの実施例は詳細を説明するためのものに過ぎず、本出願に開示された内容の範囲内で様々な修正及び変更を行うことは当業者にとって明らかである。特に断らない限り、以下の実施例に報告された全ての部、百分率、及び比はいずれも重量に基づいて計算され、かつ実施例に使用された全ての試薬はいずれも市販されるか又は従来の方法に従って合成して取得され、かつさらに処理する必要がなく直接使用することができる。また、実施例に使用された装置はいずれも市販されている。
実施例1
【0142】
Li源LiO、Fe源Fe、M源AlをLi、Fe、M元素のモル量論比が5.01:0.9:0.11であるように混合し、混合後の原料を一次保温焼結の温度650℃まで一次昇温して6h焼結し、その後二次保温焼結の温度850℃まで二次昇温して5h焼結した。降温して材料を回収すれば、複合金属酸化物材料を得る。
実施例2~32
【0143】
複合金属酸化物材料の調製は実施例1と類似し、異なることは、複合金属酸化物材料の調製における関連原料の含有量、保温焼結の温度及び保温焼結の時間を調整することである。複合金属酸化物材料の具体的な製造パラメータは表1に示すとおりである。
比較例1
【0144】
複合金属酸化物材料としてLiFe0.9Al0.1を直接採用した。Li源、Fe源、Al源をLi、Fe、Al元素のモル量論比が5:0.9:0.1であるように混合し、混合後の原料を850℃まで昇温して5h焼結した。降温して材料を回収すれば、複合金属酸化物材料を得る。
比較例2
【0145】
LiFe0.9Al0.1とLiCoOを簡単で機械的に混合して得られた混合物を複合金属酸化物材料として直接採用する。
比較例3
【0146】
Li源LiO、Fe源Fe、Al源Al、Co源CoをLi、Fe、Al、Co元素のモル量論比が5.05:0.9:0.1:0.05であるように混合し、混合後の原料を一次保温焼結の温度650℃まで一次昇温して6h焼結し、その後に二次保温焼結の温度850℃まで二次昇温して5h焼結した。降温して材料を回収すれば、複合金属酸化物材料を得る。
比較例4
【0147】
複合金属酸化物材料の調製は実施例1と類似し、異なることは、複合金属酸化物材料の調製における関連原料の含有量、保温焼結の温度及び保温焼結の時間を調整することである。具体的な製造パラメータの詳細は表1に示すとおりである。
比較例5
【0148】
複合金属酸化物材料の調製は実施例1と類似し、異なることは、複合金属酸化物材料の調製における関連原料の含有量、保温焼結の温度及び保温焼結の時間を調整することである。具体的な製造パラメータの詳細は表1に示すとおりである。
【0149】
【表1】
複合金属酸化物材料の性能測定
(1)複合金属酸化物材料のx値の測定
【0150】
複合金属酸化物材料におけるLiFe1-xの質量パーセント含有量をaと定義し、その相対分子質量をMLFMOと記す。複合金属酸化物材料におけるLiMOの質量パーセント含有量をbと定義し、その相対分子質量をMLMOと記し、かつa+b=1である。LiMOにおけるLi元素の相対原子質量MLi=6.94、LiFe1-xにおけるFe元素の相対原子質量MFe=55.845、M元素の相対原子質量をMと記す。
【0151】
複合金属酸化物材料における全てのLi元素の質量パーセント含有量をlと記し、全てのFe元素の質量パーセント含有量をfと記し、全てのM元素の質量パーセント含有量をmと記す。l、f及びmはICP(誘導結合プラズマ)原子発光分光分析法により測定することができる。測定は誘導結合プラズマ原子放出分光計(例えば、米国Thermo Fisher Scientific社のICAP 7400)で行うことができる。例示的な測定方法としては、2gの複合金属酸化物材料を酸溶液(例えば、王水)に添加して分解し、分解は撹拌(例えば、機械撹拌又はマイクロ波撹拌など)で行うことができ、分解時間は30minであってもよい。分解後の溶液をICAP 7400分光計に添加し、複合金属酸化物材料中の化学構成元素を定量分析する。
【0152】
複合金属酸化物材料において、LiFe1-xにおけるLi元素の質量パーセント含有量をlと記し、LiMOにおけるLi元素の質量パーセント含有量をlと記し、l+l=lである。
【0153】
複合金属酸化物材料において、LiFe1-xにおけるM元素の質量パーセント含有量をmと記し、LiMOにおけるM元素の質量パーセント含有量をmと記し、m+m=mである。
【0154】
LiFe1-xにおいて、Fe元素とM元素のモル数の和とLi元素のモル数は、(f/MFe+m/M):(l/MLi)=1:5を満たす。
【0155】
LiMOにおいて、M元素のモル数とLi元素のモル数は(m/M):(l/MLi)=1:1を満たす。
【0156】
上記関係から、m=5m/4+(5M×f)/4MFe-l×M/4MLiを計算することができる。ここで、m、M、f、MFe、l、MLiはいずれも既知数であるため、x=m/mで計算して複合金属酸化物材料のx値を得ることができる。
(2)複合金属酸化物材料遷移層におけるFeとMのモル比の測定
【0157】
英国オックスフォード・インストゥルメンツ(Oxford Instruments)社のX-Max型であるエネルギー分散型分光計(EDS)を用いてドイツZEISSのSigma-02-33型である走査電子顕微鏡(SEM)と結合して複合金属酸化物材料遷移層におけるFeとMの質量濃度について測定を行い、三つの部位を選択して測定し、その平均値をFeとMの質量濃度とし、かつFe対Mのモル比を計算して得る。
(3)複合金属酸化物材料の充電グラム容量の測定
【0158】
複合金属酸化物材料、導電剤カーボンブラック(Super P)、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を80:10:10の質量比で溶媒N-メチルピロリドン(NMP)に分散させ、十分に撹拌して均一に混合し、正極スラリーを得る。正極スラリーを正極集電体のアルミニウム箔のうちの一つの表面に塗布し、乾燥し、冷間プレスした後、正極シートを得る。エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を30:70の質量比で均一に混合し、有機溶媒を得る。さらにリチウム塩LiPFを上記有機溶媒に溶解させ、均一に混合し、電解液を得て、そのうちLiPFの濃度は1mol/Lである。リチウムシートを対電極として使用し、正極シートとボタン電池に組み立てる。
【0159】
ボタン電池を0.05Cレートで4.5Vまで定電流充電し、5min静置し、この時のボタン電池の充電容量を記録する。
【0160】
ボタン電池の充電容量から複合金属酸化物材料の充電グラム容量を計算する。複合金属酸化物材料の充電グラム容量(mAh/g)=ボタン電池の充電容量/複合金属酸化物材料の質量。
【0161】
表2は実施例1~32及び比較例1~5の性能測定の結果を示す。
【0162】
【表2】
【0163】
表2のデータから分かるように、本出願の複合金属酸化物材料は高い充電グラム容量を有する。図7は実施例1の複合金属酸化物材料の中心コアの断面線における元素分布図であり、図7から分かるように、Fe元素及びM元素は中心コア材料に均一に分布し、中心コア材料の充電グラム容量の発揮により有利である。図8は実施例1の複合金属酸化物材料の走査型電子顕微鏡(SEM)図であり、図8から分かるように、中心コア材料と被覆層材料の金属元素Mが同じである場合、中心コアと被覆層との間に良好な界面を形成することができる。中心コアと被覆層は化学結合により結合され、界面はより高い結合強度を有し、かつ被覆層の中心コアに対する被覆効果がより高い。中心コアと被覆層との間に良好な界面を形成すると、さらに中心コアと被覆層との界面における活性リチウムの伝導性能を向上させることができ、活性リチウムが中心コア材料から効率的に脱離することに有利であり、それにより複合金属酸化物材料の高い充電グラム容量の利点を十分に発揮することができる。図9は実施例1の複合金属酸化物材料の初回充放電の曲線であり、図9から分かるように、本出願の複合金属酸化物材料は顕著に改善された充電グラム容量を有することができる。
【0164】
比較例1はLiFe0.9Al0.1を複合金属酸化物材料(被覆されていないLiMO)として直接採用し、LiFe0.9Al0.1が空気中で安定せず、環境中の水分及び二酸化炭素と反応しやすいため、複合金属酸化物材料の充電グラム容量が低い。
【0165】
比較例2はLiFe0.9Al0.1とLiCoOを簡単な機械で混合して得られた混合物を複合金属酸化物材料として採用する。図10は比較例2の複合金属酸化物材料の走査型電子顕微鏡(SEM)図であり、図10から分かるように、LiFe0.9Al0.1とLiCoOを直接混合すると、遷移層構造を形成せず、LiCoOもLiFe0.9Al0.1の表面によく被覆することができず、LiFe0.9Al0.1が環境中の水分及び二酸化炭素と反応することを効果的に回避することができないため、複合金属酸化物材料の充電グラム容量が低い。
【0166】
比較例3の複合金属酸化物材料において、中心コア材料と被覆層材料は異なる金属元素を含む。図11は比較例3の複合金属酸化物材料の走査型電子顕微鏡(SEM)図であり、図11から分かるように、中心コアと被覆層との間の界面が不完全であり、被覆層も優れた被覆効果を果たすことができず、中心コア材料と環境中の水分及び二酸化炭素との反応を効果的に回避することができず、中心コアと被覆層との間の界面も活性リチウムが中心コア材料から効率的に脱離することを促進することができないため、複合金属酸化物材料の充電グラム容量が低い。
【0167】
比較例4の複合金属酸化物材料において、xの値が小さすぎ、中心コア材料におけるFe元素の含有量が低すぎ、複合金属酸化物材料の充電グラム容量が明らかに低下する。
【0168】
比較例5の複合金属酸化物材料において、+3価のSbと+3価のFeのイオン半径の差が大きすぎ、SbがLiFeOの格子構造にうまく入りかつ一部のFe元素を代替することができず、SbとLiFeOも固溶体を形成することができず、活性リチウムが中心コア材料から脱離する難しさが大きいため、複合金属酸化物材料の充電グラム容量が低い。
実施例33
正極シートの作製
【0169】
正極活物質LiFePO、導電剤カーボンブラック(Super P)、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、実施例1で調製された複合金属酸化物材料を91.6:1.6:2.2:4.6の質量比で溶剤N-メチルピロリドン(NMP)に分散させ、十分に撹拌して均一に混合し、正極スラリーを得る。正極スラリーを正極集電体のアルミニウム箔の対向する二つの表面に塗布し、乾燥し、冷間プレスした後、正極シートを得る。
負極シートの作製
【0170】
負極活物質人造黒鉛、導電剤カーボンブラック(Super P)、接着剤スチレンブタジエンゴム(SBR)及び増粘剤カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を96:1.5:1.5:1.0の質量比で溶媒の脱イオン水に分散させ、均一に撹拌混合した後、負極スラリーを得る。負極スラリーを負極集電体の銅箔の対向する二つの表面に塗布し、乾燥し、冷間プレスした後、負極シートを得る。
電解液の調製
【0171】
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を30:70の質量比で均一に混合し、有機溶媒を得る。さらにリチウム塩LiPFを上記有機溶媒に溶解し、均一に混合し、電解液を得て、そのうちLiPFの濃度は1mol/Lである。
二次電池の作製
【0172】
正極シート、ポリエチレン(PE)の多孔質セパレータ、負極シートを順に積層し、次に巻回して電極組立体を得る。電極組立体を外装に入れ、電解液を注入してパッケージし、二次電池を得る。
実施例34
【0173】
二次電池の製造は実施例33と類似し、異なることは、正極活物質がLiCoOであることである。
実施例35
【0174】
二次電池の製造は実施例33と類似し、異なることは、正極活物質がLiNi0.8Co0.1Mn0.1であることである。
実施例36
【0175】
二次電池の製造は実施例33と類似し、異なることは、正極活物質LiFePO、導電剤カーボンブラック(Super P)、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、実施例1で調製された複合金属酸化物材料の質量比が95.24:1.6:2.2:0.96であることである。
実施例37
【0176】
二次電池の製造は実施例33と類似し、異なることは、正極活物質LiFePO、導電剤カーボンブラック(Super P)、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、実施例1で調製された複合金属酸化物材料の質量比が93.8:1.6:2.2:2.4であることである。
実施例38
【0177】
二次電池の製造は実施例33と類似し、異なることは、正極活物質LiFePO、導電剤カーボンブラック(Super P)、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、実施例1で調製された複合金属酸化物材料の質量比が87.4:1.6:2.2:8.8であることである。
実施例39
【0178】
二次電池の製造は実施例33と類似し、正極活物質LiFePO、導電剤カーボンブラック(Super P)、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、実施例1で調製された複合金属酸化物材料の質量比は80.2:1.6:2.2:16.0である。
実施例40
【0179】
二次電池の製造は実施例33と類似し、正極活物質LiFePO、導電剤カーボンブラック(Super P)、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、実施例1で調製された複合金属酸化物材料の質量比は76.96:1.6:2.2:19.24である。
比較例6
【0180】
二次電池の製造は実施例33と類似し、異なることは、正極シートに複合金属酸化物材料を添加しないことである。
比較例7
【0181】
二次電池の製造は実施例34と類似し、異なることは、正極シートに複合金属酸化物材料を添加しないことである。
比較例8
【0182】
二次電池の製造は実施例35と類似し、異なることは、正極シートに複合金属酸化物材料を添加しないことである。
二次電池の性能測定
(1)二次電池の容量測定
【0183】
25℃で、二次電池を1Cレートで上限カットオフ電圧まで定電流充電し、次に電流が0.05Cになるまで定電圧充電し、この時の充電容量を記録し、即ち第1サイクルの充電容量である。二次電池を1C定電流で下限カットオフ電圧まで放電し、その後に5min静置し、この時の放電容量を記録し、即ち第1サイクルの放電容量である。これは、一つのサイクル充放電過程である。二次電池を上記方法に応じてサイクル充放電測定を行い、二次電池の放電容量が第1サイクルの放電容量の80%に減衰するまで、毎サイクルの放電容量を記録し、この時のサイクル数を二次電池のサイクル寿命とする。
【0184】
二次電池の初回充電のグラム容量(mAh/g)=第1サイクルの充電容量/正極活物質の質量。
【0185】
二次電池の初回放電のグラム容量(mAh/g)=第1サイクルの放電容量/正極活物質の質量。
【0186】
測定において、実施例33、実施例36~40及び比較例6の二次電池の充放電の電圧範囲は2.5V~3.65Vであり、実施例34及び比較例7の二次電池の充放電の電圧範囲は3V~4.2Vであり、実施例35及び比較例8の二次電池の充放電の電圧範囲は3V~4.2Vである。
【0187】
表3は実施例33~40及び比較例6~8の性能測定の結果を示す。
【0188】
【表3】
【0189】
表3のデータから分かるように、複合金属酸化物材料を正極シートに応用すると、二次電池の充放電グラム容量及びサイクル寿命を顕著に向上させることができる。これは主に、複合金属酸化物材料は電池の初回充電の過程における活性リチウムの損失を補足することができるためである。しかし、複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量も高すぎることは好ましくなく、複合金属酸化物材料の中心コアは初回充電が終了した後に不活性化材料となり、含有量が高すぎる場合にある程度で電池の質量エネルギー密度を低下させるためである。
【0190】
上記説明は本出願の具体的な実施形態に過ぎず、本出願の保護範囲はこれに限定されない。当業者は、本出願に開示された技術的範囲内で、様々な同等の修正又は置換を容易に想到することができ、これらの修正又は置換はいずれも本出願の保護範囲内に含まれるべきである。したがって、本出願の保護範囲は請求項の保護範囲を基準とすべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心コアと前記中心コアの表面に位置する被覆層とを含み、
前記中心コアの材料は、化学式がLiFe1-xであり、xは0.6≦x<1であり、
前記被覆層の材料は、化学式がLiMOであり、
Mは+3価を有する一種又は複数種の金属元素であり、+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.02nmである、
複合金属酸化物材料。
【請求項2】
+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.01nmである、請求項1に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項3】
xは、0.8≦x<1である、請求項1又は2に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項4】
+3価のMのイオン半径は、0.040nm~0.070nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項5】
前記複合金属酸化物材料は、前記中心コアと前記被覆層との間に位置する遷移層をさらに含み、
前記遷移層におけるFe対Mのモル比が前記中心コア材料LiFe1-xにおけるFe対Mのモル比より小さい、
請求項1~4のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項6】
前記遷移層の最も厚い箇所の厚さをHmaxとすると、Hmax≦1μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項7】
Mは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Cu、Nb、Ga、Mo、Ru、Rh、Irから選択された一種又は複数種である、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項8】
前記複合金属酸化物材料の合計質量に基づくと、LiMOの質量パーセント含有量は0.5%~5%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項9】
前記複合金属酸化物材料の体積平均粒径Dv50は2μm~8μmである、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料。
【請求項10】
Li源、Fe源、M源を供給し混合した後に昇温して一定の期間保温焼結して、複合金属酸化物材料を得るステップを含み、
+3価のFeのイオン半径と+3価のMのイオン半径との差の絶対値は≦0.02nmであり、
前記複合金属酸化物材料は、中心コアと前記中心コアの表面に位置する被覆層とを含み、
前記中心コアの材料は、化学式がLiFe1-xであり、xは0.6≦x<1であり、前記被覆層の材料は、化学式がLiMOである、
複合金属酸化物材料の調製方法。
【請求項11】
供給されたLi源、Fe源、M源はLi、Fe、M元素のモル比a:b:cで混合され、
aは5≦a≦6であり、
bは0.6≦b<1であり、
cは0<c≦0.4である、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
保温焼結プロセスは、原料を混合した後に一次保温焼結の温度に一次昇温して一定の期間焼結し、その後、二次保温焼結の温度に二次昇温して一定の期間焼結する二段階の保温焼結プロセスを採用する、請求項10~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
一次保温焼結の温度は500℃~800℃であり、
二次保温焼結の温度は600℃~1000℃である、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
一次昇温の速度は2℃/min~10℃/minであり、
二次昇温の速度は2℃/min~10℃/minである、
請求項12~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の複合金属酸化物材料、又は請求項10~14のいずれか一項に記載の方法により製造された複合金属酸化物材料を含む、正極シート。
【請求項16】
前記正極シートは正極活物質をさらに含み、
正極活物質の質量に対して、前記複合金属酸化物材料の質量パーセント含有量は≦20%である、
請求項15に記載の正極シート。
【請求項17】
請求項15~16のいずれか一項に記載の正極シートを含む、二次電池。
【請求項18】
請求項17に記載の二次電池を含む、電池モジュール。
【請求項19】
請求項17に記載の二次電池、および請求項18に記載の電池モジュールのいずれかを含む、電池パック。
【請求項20】
請求項17に記載の二次電池、請求項18に記載の電池モジュール、および請求項19に記載の電池パックの少なくとも一つを含む、電力消費装置。
【国際調査報告】