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特表2023-536421多能性幹細胞由来細胞の大規模製造のための閉鎖型製造プロセス
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  • 特表-多能性幹細胞由来細胞の大規模製造のための閉鎖型製造プロセス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-25
(54)【発明の名称】多能性幹細胞由来細胞の大規模製造のための閉鎖型製造プロセス
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230818BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230818BHJP
   A61K 35/44 20150101ALI20230818BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20230818BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230818BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20230818BHJP
   A61K 35/42 20150101ALI20230818BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20230818BHJP
   A61K 35/39 20150101ALI20230818BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230818BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20230818BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALN20230818BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20230818BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALN20230818BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALN20230818BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALN20230818BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61K35/44
A61K35/34
A61K35/28
A61K35/30
A61K35/42
A61K35/407
A61K35/39
A61P43/00 101
C12N5/077
C12N5/0786
C12N5/0783
C12N5/0781
C12N5/0784
C12N5/0793
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504567
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(85)【翻訳文提出日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 NL2021050474
(87)【国際公開番号】W WO2022019768
(87)【国際公開日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】2026121
(32)【優先日】2020-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】515343524
【氏名又は名称】エンカルディア・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ブラーム、ステファン ロベルト
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AC20
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087NA03
4C087ZA31
(57)【要約】
本発明は多能性幹細胞の分野に属する。特に、本発明は、多能性幹細胞の、例えば心筋細胞または内皮細胞などの予め選択された細胞型への分化の(閉鎖系)誘導のための方法に関する。本明細書に開示される方法は、多能性幹細胞に由来する細胞、特に(ヒト)心筋細胞および/または多能性幹細胞に由来する内皮細胞の生産をアップスケールするために特に有用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から分化した予め選択された細胞型を、好ましくは閉鎖培養系においてインビトロ製造するための方法であって、前記方法が、
a)多能性幹細胞および培地を供給するステップと、
b)前記多能性幹細胞および前記培地を培養容器に導入するステップであって、好ましくは、前記培養容器が閉鎖培養系の一部であり、前記培地が、
i)前記多能性幹細胞を増殖させるための培地、または
ii)前記予め選択された細胞型への前記多能性幹細胞の分化を誘導するための培地
である、ステップと、
c)前記培養容器内で前記培地を混合し、それにより、前記細胞が細胞凝集体の形態で成長することを可能にし、前記細胞凝集体の沈降を防止するステップと、
d)前記培養容器内の前記培地の混合を中止し、それにより前記細胞凝集体を沈降させるステップと、
e)前記培養容器内の前記培地の一部を回収するステップと、
f)必要に応じて、ステップb)で前記多能性幹細胞を増殖させるための培地が使用された場合、前記多能性幹細胞を増殖させるためのさらなる培地を前記培養容器に導入し、ステップc)~e)を繰り返すステップと、
g)前記培養容器に後続の培地を導入するステップであって、前記培地が、前記予め選択された細胞型への前記細胞の分化を誘導するための培地である、ステップと、
h)前記培養容器内で前記培地を混合し、それにより、前記細胞が細胞凝集体の形態で成長することを可能にし、前記細胞凝集体の沈降を防止するステップと、
i)前記培養容器内の前記培地の混合を中止し、それにより前記細胞凝集体を沈降させるステップと、
j)前記培養容器内の前記培地の一部を回収して後続の培地のためにステップg)~i)を繰り返すか、または前記培養容器内の前記培地を回収する、前記培養容器内の前記細胞凝集体を回収する、またはその両方を回収するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
ステップg)~i)が、1つまたは複数の後続の培地を使用して、1回または複数回繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)において前記多能性幹細胞が単一細胞懸濁液の形態で導入されるか、またはステップb)において前記多能性幹細胞が細胞凝集体の形態で導入される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)において、前記培地中の前記多能性幹細胞の量が、培地1ml当たり1×10から1×10の多能性幹細胞である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップb)の前記細胞が、細胞凝集体の形態で導入される場合、前記細胞凝集体が、10~150マイクロメートル、好ましくは25~140マイクロメートル、好ましくは、20~80マイクロメートル、30~60マイクロメートル、90~140マイクロメートルおよび100~120マイクロメートルから構成される群から選択されるサイズを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
予め選択された細胞型の製造量が、ステップb)で導入される多能性幹細胞の量、またはステップb)もしくはステップg)で前記予め選択された細胞型に分化するように誘導される幹細胞の量の少なくとも10倍、好ましくは少なくとも15倍、少なくとも20倍、または少なくとも25倍、好ましくは10~100倍、15~80倍、または20~75倍である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップj)で回収される前記細胞凝集体が、1000マイクロメートル未満のサイズを有し、好ましくは10~1000マイクロメートル、20~750マイクロメートルまたは50~500マイクロメートルのサイズを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記培養容器内の前記培地の体積が、少なくとも1リットル、好ましくは少なくとも2リットル、3リットル、4リットル、5リットル、6リットル、7.5リットル、または10リットルであり、好ましくは前記培養容器内の前記培地が、1リットル~100リットル、好ましくは5リットル~50リットルである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1×10細胞/ml培地、好ましくは少なくとも1.5×10細胞/ml、2.0×10細胞/ml、3.0×10細胞/ml、4.0×10細胞/ml、5.0×10細胞/ml、8.0×10細胞/ml、12.0×10細胞/mlまたは200×10細胞/mlが製造される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1×10個の予め選択された細胞、好ましくは少なくとも10×10個、25×10個、100×10個、200×10個、または500×10個の予め選択された細胞が製造される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
任意選択のステップf)が省略される、および/またはステップg)~i)が少なくとも1回、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25回繰り返される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップc)またはh)が、それぞれ独立して、少なくとも12時間、1、2、3、4、5、6、もしくは7日間、好ましくは10日間以下、好ましくは7日間以下であり、および/またはステップh)が少なくとも12時間、1、2、3、4、5、6、もしくは7日間である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、少なくとも5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間、好ましくは7~90日間、10~60日間、15~40日間、または15~30日間にわたって行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記多能性幹細胞を増殖させるための前記異なる培地の組成が同じもしくは異なる、および/または前記細胞を前記予め選択された細胞型に分化させるための前記異なる培地の組成が同じもしくは異なる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップe)および/もしくはj)において、前記培養容器中の前記培地の最大95体積%、90体積%、85体積%、もしくは80体積%が回収される、ならびに/またはステップe)および/もしくはj)において、前記培養容器中の前記培地の少なくとも50体積%、60体積%、もしくは70体積%が回収される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記予め選択された細胞型が、心血管細胞、心筋細胞、内皮細胞、造血系統の細胞、造血前駆細胞、造血前駆細胞から分化した細胞、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、神経細胞、網膜細胞、肺細胞、肝細胞、または膵細胞である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
回収される前記培地の一部または回収される前記培地が単一細胞および/または非凝集細胞を含み、好ましくはこれらの単一細胞または非凝集細胞が、造血系統の細胞、造血前駆細胞、造血前駆細胞から分化した細胞、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞または樹状細胞から構成される群から選択される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ステップb)または任意選択的にステップg)で供給される前記培地が、Rho関連プロテインキナーゼ阻害剤を含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ステップb)および/またはg)、好ましくはステップg)で供給される前記培地が、ポリビニルアルコールを含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記予め選択された細胞型への前記細胞の分化を誘導するための前記培地が、前記予め選択された細胞型への前記細胞の分化を誘導する1または複数の化合物を含み、好ましくは、前記1または複数の化合物が、Wnt経路活性化剤、Wnt経路阻害剤、アクチビン経路活性化剤、TGFβ経路活性化剤、BMP経路活性化剤、アクチビン経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、BMP経路阻害剤、およびVEGF経路活性化剤から構成される群から選択される、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記予め選択された細胞型への前記(多能性幹)細胞の分化を誘導する前記1または複数の化合物が、心血管細胞、心筋細胞、内皮細胞、造血系統の細胞、造血前駆細胞、造血前駆細胞から分化した細胞、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、神経細胞、網膜細胞、肺細胞、肝細胞または膵細胞への前記細胞の分化を誘導する化合物から構成される群から選択される、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記予め選択された細胞型への前記(多能性幹)細胞の分化を誘導するための前記培地が、甲状腺ホルモンおよび/または甲状腺ホルモン類似体を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞、ヒト多能性幹細胞、またはヒト人工多能性幹細胞である、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記予め選択された細胞型細胞が、前記細胞凝集体から、または回収された前記培地の一部から、または回収された前記培地から得られる、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記インビトロで製造された予め選択された細胞型が、細胞療法に使用するためのものである、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
好ましくは請求項1から25のいずれか一項に記載の方法による、多能性幹細胞から分化した予め選択された細胞型の前記インビトロ製造における閉鎖培養系の使用。
【請求項27】
少なくとも1×10個の予め選択された細胞、好ましくは少なくとも10×10個、25×10個、100×10個、200×10個、もしくは500×10個の予め選択された細胞を含む、および/または、少なくとも1×10細胞/ml培地、好ましくは少なくとも1.5×10細胞/ml、2.0×10細胞/ml、3.0×10細胞/ml、もしくは5.0×10細胞/mlを含む少なくとも1リットル、好ましくは少なくとも2リットル、3リットル、4リットル、5リットル、6リットル、7.5リットル、もしくは10リットルの培地、好ましくは1リットル~100リットル、好ましくは5リットル~50リットルの培地を含む、好ましくは閉鎖された培養系。
【請求項28】
細胞療法に使用するための医薬組成物であって、前記細胞療法が、予め選択された細胞型をそれを必要とする対象に提供するステップを含み、前記予め選択された細胞型が請求項1から25のいずれか一項に記載の方法で製造されているか、または前記細胞療法が、予め選択された細胞型を請求項1から25のいずれか一項に記載の方法で製造し、前記予め選択された細胞型をそれを必要とする対象に提供するステップを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞由来細胞の大規模製造のための閉鎖型製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の説明は、本発明を理解するのに有用であり得る情報を含む。本明細書で提供される情報のいずれかが先行技術であるか、または現在特許請求されている発明に関連すること、または具体的もしくは暗黙的に参照される任意の刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0003】
幹細胞の適用に基づく治療は、医療分野全体にわたって有望であると考えられている。特に、増殖および分化の可能性を有する多能性幹細胞(PSC)の利用可能性は、臨床における細胞療法(細胞療法、細胞置換療法または細胞ベースの療法とも呼ばれる)の有望な開発と考えられている。人工多能性幹細胞および胚性多能性幹細胞などの多能性幹細胞は、それらの多能性に起因して、意図される治療的使用のための標的細胞に分化することができる。例えば、細胞療法のために、そのような多能性幹細胞からエクスビボで得られるニューロン細胞、網膜細胞、肺細胞、肝細胞、膵細胞、心血管細胞、または免疫系の細胞の利用可能性が最も歓迎されるであろう。
【0004】
そのような多能性幹細胞由来細胞に対する潜在的な治療的使用の一例は、心筋梗塞を治療するために心筋細胞、内皮、線維芽細胞および/またはこれらの細胞の任意の組み合わせを使用する、不可逆的に損傷した心筋の置換である(例えば、Cell&Gene Therapy Insights 2020;6(1),177-191DOI:10.18609/cgti.2020.023を参照のこと)。
【0005】
そのような多能性幹細胞由来細胞の治療的使用の別の例は、腫瘍に対して標的化された抗原受容体を有する同種免疫細胞または自己免疫細胞を用いた癌の治療であり得る。さらなる例は、養子細胞免疫療法のための(人工)多能性幹細胞由来リンパ球の使用であり得る(例えば、Curr Hematol Malig Rep.2019;14(4):261-268 doi:10.1007/s11899-019-00528-6を参照されたい)。
【0006】
潜在的な治療用途、例えば、本明細書中上記で例示されるものは、多数の多能性幹細胞由来細胞を必要とする。例えば、心筋梗塞では、10億を超える心筋細胞が不可逆的に損傷を受けることがあり得る。利用可能な現在のプロトコルでも、臨床医薬品適正製造基準(cGMP)条件下で十分な量の細胞の製造を可能にするために時間および材料に多大な投資を必要とする。
【0007】
眼の疾患などの他の適応症では、1人の患者を治療するにはより少量の細胞で十分であるが、世界の患者集団に十分な細胞を製造するには、必要な容量に達するために製造プロセスのスケーリングが依然として必要である。
【0008】
大きな欠点は、(誘導された)iPSCを予め選択された所望の細胞型(例えば、肝細胞)に分化させるための当技術分野で公知の方法が、1皿当たり最大数百万個の細胞を生じる小さな皿またはフラスコにおける労働集約的な手順に依存していることであり、それにより、治療のために十分な細胞を製造することが細胞療法の分野における一番の課題となる。
【0009】
したがって、産業的に適用可能なスケーラブルな製造手順の要求を満たすために、本分野がスケーラブルな方法を提供することが必要とされ、かつ臨床適正製造基準(cGMP)と互換性があり得ることが必要とされる。そのような方法の利用可能性のみにより、膨大な量の多能性幹細胞、より重要なことには、膨大な量の(予め選択された)多能性幹細胞由来の分化細胞(上記のものを含む)を生産することが可能になるであろう。したがって、多能性幹細胞由来の分化細胞の安全で、妨害されず、制御可能で、予測可能で、取り扱いが少なく、労働集約的でない生産を可能にする様式で、現在の培養、分化および製造プロセスをアップスケールすることが非常に望ましい。
【0010】
異なる系統の細胞への多能性幹細胞の分化が、特定の(組み合わせの)小分子および他のステアリング(steering)化合物を含む培地を使用して、特定の培養条件またはレジメン(regimen)に多能性幹細胞を曝露することによって誘導および制御され得ることは、当技術分野において十分に確立されている(例えば、Breckwoldt et al.Nat Protoc.2017 Jun;12(6):1177-1197.doi:10.1038/nprot.2017.033またはInduced Pluripotent Stem Cells-Methods and Protocols(Turksen and Nagy);doi:10.1007/978-1-4939-3055-5を参照のこと)。小分子またはステアリング化合物(の組み合わせ)は、例えば、細胞の分化の特定の段階中に分化を操縦する特定の経路をアゴナイズまたはアンタゴナイズするために含まれる。これは、分化中の適切な時間に適切な経路を調節することが当分野で重要であると考えられていることを意味する。同様に、分化の特定の段階の間に望まれる経路にアンタゴナイズまたは対抗する経路は、活性化されないかまたはアンタゴナイズされることが重要であると考えられる。実際、例えば、予め選択された細胞型に分化するために分化の第1段階中にアンタゴナイズされる必要がある経路が、分化の後期段階中に役割を果たさず、もはやアンタゴナイズされるべきではないか、または分化の後期段階中に分化に悪影響を及ぼし得るためにそのような分化の後期段階中にアゴナイズされるべきでさえあることは珍しくない(例えば、欧州特許第3433355号明細書を参照されたい)。
【0011】
小規模での細胞の分化のための方法は、バイオセーフティキャビネット内で細胞を操作し、インキュベーター内で培養することによって行われ、さらなる培地による培地交換(例えば、第1の、例えば作動性のステアリング化合物を含む第1の培地を、同じ経路のための第2の、例えば拮抗性のステアリング化合物を含む第2の培地で置き換えること)は手作業で行われる。しかしながら、この分野では、手作業による取り扱いを最小限に抑える培養システムが求められている。手作業での取り扱いは、すなわちスケーリングが困難であり、非常に高価であり、培養物の汚染および無菌性違反の重大なリスクをもたらす。
【0012】
同時に、製造の再現性および一貫性を改善する必要性が大きい。手作業による培養システムにおけるプロセスパラメータのリアルタイム調整は、労働集約的であり、したがって実施が困難である。したがって、この分野では、監視することができ、適切な場合に調整を行うことができる製造システムが求められている。
【0013】
同時に、多能性幹細胞から得られる分化細胞の製造規模の拡大を目指している。しかしながら、複数のフラスコに基づくスケールアウト戦略は、非常に労働集約的で時間がかかる。多数の細胞を供給するためには、数百のフラスコが必要であり、単一のバッチとして細胞を採取して下流で処理するという大きな課題がある。さらに、フラスコ当たりの細胞の質に有意差が生じるリスクがある(例えば、Assou et al(2018)Stem Cells 36,814-821を参照のこと)。
【0014】
したがって、多能性幹細胞培養のスケールアップを可能にする新しいアプローチを提供するために、この分野における複数の取り組みが開始されている。しかし、そのようなシステムの制限は、例えば、国際公開第2009/072003号パンフレットに記載されているように、細胞の分化の次の段階に進む前に、培養中に、例えば、遠心分離ステップ、濾過ステップおよび/または洗浄ステップをシステムが依然として必要とすることである。
【0015】
当該技術分野において記載される、バイオリアクターにおいて多能性幹細胞を培養するための方法は、主に、培養中の幹細胞集団を維持する/持続させることを対象とする。そのような方法では、培養は連続的な撹拌によって維持され、非常に頻繁に、細胞が培養される培地は手動で交換され、それにより、システムの無菌性が損なわれる危険性がある。多能性幹細胞を培養するための撹拌タンクバイオリアクターが記載されている他の前述の方法は、閉鎖系における培地交換のための灌流システムを利用する。このような灌流システムの欠点は、特に培養中に大量の培地を交換しなければならない場合、フィルタが閉塞するリスクである。
【0016】
重要なことに、多能性幹細胞由来細胞の製造のスケールアップは、典型的には、多能性幹細胞および/または多能性幹細胞由来細胞に一連の異なる培地を供給することを必要とする。分化細胞を得るためのそのようなプロセスにおいて、一連の培地は、細胞を分化誘導に向けて調製および/または誘導する(異なる)化合物の組み合わせを含む。しかしながら、閉鎖系培養を利用する当技術分野で現在知られている方法は、多能性幹細胞を維持または生産することに限定されており、制御可能な様式および閉鎖培養系で膨大な量の多能性幹細胞由来分化細胞の生産を可能にする確実で予測可能、かつ取り扱いが容易な培養方法は、現在利用可能ではなく、細胞療法の適用におけるこの障害は当分野で広く認識されている。
【0017】
このことを考慮すると、(予め選択された)幹細胞由来の分化細胞を大量に培養および生産する新しい方法が非常に望ましい。特に、当技術分野では、信頼性が高く、効率的で再現性のある方法であって、膨大な量の異なる種類の多能性幹細胞由来分化細胞の製造を可能にする方法が明らかに必要とされている。
【0018】
したがって、本発明の根底にある技術的問題は、前述の必要性のいずれかを満たすためのそのような方法を提供することにある。技術的問題は、特許請求の範囲および本明細書の以下で特徴付けられる実施形態によって解決される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】欧州特許第3433355号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/072003号パンフレット
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Cell&Gene Therapy Insights 2020;6(1),177-191 DOI:10.18609/cgti.2020.023
【非特許文献2】Curr Hematol Malig Rep.2019;14(4):261-268 doi:10.1007/S11899-019-00528-6
【非特許文献3】Breckwoldt et al.Nat Protoc.2017Jun;12(6):1177-1197.doi:10.1038/nprot.2017.033
【非特許文献4】Induced Pluripotent Stem Cells-Methods and Protocols(Turksen and Nagy);doi:10.1007/978-1-4939-3055-5
【非特許文献5】Assou et al(2018)Stem Cells 36,814-821
【発明の概要】
【0021】
本発明の実施形態は、添付の図面を参照して以下でさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による概略的な製造構成の例を示す図である。iPSC分化細胞を製造するための閉鎖系は4℃の培地保存バッグ、37℃のブレークタンク、および回収バッグを含む。ポンプは、バイオリアクターの内外に培地を圧送するために配管に接続される。NaHCOは、pH制御のために別々に供給されてもよい。バイオリアクターは、pHのオンライン補正のためのpHプローブを有してもよい(図示せず)。培地バッグは、無菌溶接を使用してシステムに接続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本開示の一部は、著作権保護の対象となる資料を含む(例えば、これらに限られるわけではないが、図表、機器の写真、または著作権保護が任意の管轄区域で利用可能である、もしくは利用可能であり得る本提出物の任意の他の態様など)。著作権所有者は、特許庁の特許ファイルまたは記録に記載されているように、特許文書または特許開示のいずれかによるファクシミリ複製に異議を唱えないが、それ以外はすべての著作権を留保する。
【0024】
本発明の方法、組成物、使用および他の態様に関する様々な用語は、本明細書および特許請求の範囲を通して使用される。そのような用語には、特に明記しない限り、本発明が属する技術分野におけるそれらの通常の意味が与えられるべきである。他の具体的に定義された用語は、本明細書で提供される定義と一致する方法で解釈されるべきである。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の試験の実施に使用することができるが、好ましい材料および方法を本明細書に記載する。
【0025】
本発明の目的のために、以下の用語を以下に定義する。
【0026】
本明細書で使用される場合、単数形の用語「a」、「an」、および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「細胞」への言及は、2つ以上の細胞の組み合わせなどを含む。
【0027】
本明細書で使用される場合、「約(about)」および「およそ(approximately)」という用語は、量、持続時間などの測定可能な値を指す場合、その測定可能な値から±20%、±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0,1%の変動を包含することを意味し、そのように変動は開示された方法を実行するのに適している。
【0028】
本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、記載された事例の1つまたは複数が、単独で、または記載された事例の少なくとも1つから記載された事例のすべてまでと組み合わせて発生し得る状況を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、特定の値の「少なくとも」という用語は、その特定の値以上を意味する。例えば、「少なくとも2つ」は、「2以上」、すなわち、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15などと同じであると理解される。本明細書で使用される場合、特定の値の「最大で」という用語は、その特定の値以下を意味する。例えば、「最大で5」は、「5以下」、すなわち、5、4、3、....-10、-11などと同じであると理解される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」または「含む(to comprise)」は、包括的かつオープンエンドであり、排他的ではないと解釈される。具体的には、この用語およびその変形は、指定された特徴、ステップまたは構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップまたは構成要素の存在を排除すると解釈されるべきではない。それはまた、より限定的な「からなる」ことも包含する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「従来技術」または「当業者に知られている方法」は、本明細書に開示される方法で使用される従来技術を実行する方法が当業者に明らかである状況を指す。分子生物学、生化学、細胞培養、ゲノミクス、配列決定、医学的治療、薬理学、免疫学および関連分野における従来技術の実施は、当業者に周知であり、様々なハンドブックおよび参考文献で論じられている。
【0032】
本明細書で使用される場合、「例示的な」は「例、事例、または例示としての役割を果たす」を意味し、本明細書に開示される他の構成を除外すると解釈されるべきではない。
【0033】
本明細書で使用される場合、細胞に関連して「凝集する」、「凝集」および「凝集した」は、細胞組織化のいくつかの主な種類の1つ、すなわち、細胞と別の細胞または他の複数の細胞との接合またはクラスター化を指す。さらに、これは、一般に「接着」と呼ばれる、細胞と基質との接合を含まない。細胞の凝集は、細胞間相互作用に基づく。そのような相互作用は、細胞表面タンパク質を介して細胞間に形成され得、通常、組織、器官などの多くの生物系に存在する。細胞の凝集は、(多能性幹)細胞を含む培地を撹拌または混合することによってインビトロで誘導または維持することができる。分散した細胞の水性懸濁液の撹拌または混合が中断されると、単一細胞よりも細胞凝集体が培養容器の底に急速に沈む(沈降する)可能性が高い。凝集体は、1つの細胞型からなり得るか、または異なる細胞型を含み得る。凝集体の構成は、一定であってもよいし、変化してもよい。例えば、最初に、凝集体は主に多能性幹細胞から構成され得るが、細胞の培養中、多能性幹細胞(の一部)は、1つまたは複数の予め選択された細胞型、例えば心筋細胞(例えば、心房および/または心室)に分化し得る。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の予め選択された細胞型のインビトロ製造のために培養系に導入された細胞は、凝集体の形態で導入される。いくつかの態様では、1つまたは複数の予め選択された細胞型のインビトロ製造のために培養系に導入された細胞は、凝集体の形態ではなく、および/または好ましくは単一細胞の形態である。本明細書に開示される方法のこの好ましい実施形態では、凝集体は、培養容器内の培地の混合中に形成される。本方法のさらに好ましい実施形態では、本方法において、多能性幹細胞は、単一細胞懸濁液の形態で導入され、多能性幹細胞の増殖のために培地中で培養され(本発明に従って0、1または複数回の培地交換を含む)、それにより、多能性幹細胞が増殖し、培養容器内で凝集体を形成することを可能にし、その後、多能性幹細胞を予め選択された細胞型に分化させるために培地中で培養される(本発明に従って0、1または複数回の培地交換を含む)。特に、本発明の方法のこのような実施形態では、(例えば、導入された細胞対得られた細胞の量、相対量、比などに関して)望ましい結果を得ることができる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「予め選択された細胞型」は、本明細書に開示される方法で得られる細胞型として予め選択された特定の種類の細胞を指す。そのような予め選択された細胞型は、例えば、心血管細胞、心筋細胞、内皮細胞、造血系統の細胞、造血前駆細胞、造血前駆細胞から分化した細胞、単球、(共通の)骨髄前駆細胞、(共通の)リンパ前駆細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、神経細胞、網膜細胞、肺細胞、肝細胞、膵細胞、または造血性内皮細胞に属する細胞であり得る。「予め選択された細胞型」という用語は、任意の「予め選択された細胞型」の系統細胞を含み、特に明記しない限り、「予め選択された細胞型」の個体発生の任意の段階における細胞に適用されると解釈することができる。例えば、「予め選択された細胞型」は、「予め選択された細胞型」の(系統制限された)前駆体または前駆細胞(多能性幹細胞ではない)(すなわち、脱分化または再プログラミングなしに「予め選択された細胞型」を含む子孫を生じさせることができる細胞、例えば、未成熟の「予め選択された細胞型」細胞または胎児の「予め選択された細胞型」細胞)および成熟した「予め選択された細胞型」細胞(成体様の「予め選択された細胞型」細胞)の両方を含み得る。好ましくは、「予め選択された細胞型」細胞は、胎児、未成熟のまたは成熟した(成人様)「予め選択された細胞型」細胞である。「予め選択された細胞型」のそのような細胞は、「予め選択された細胞型」系統に典型的なマーカーを発現し得、当技術分野で周知である。本発明による「予め選択された細胞型」細胞は、分化によって多能性幹細胞からインビトロで得られる。インビトロ分化は、本明細書に開示される方法によって行われる。「予め選択された細胞型」という用語はまた、本明細書に開示される方法で得られる2つ以上の予め選択された細胞型を指し得る。例えば、特定の実施形態では、「予め選択された細胞型」は、T細胞ならびにリンパ前駆細胞を指し得るか、または心房心筋細胞および心室心筋細胞を指し得る。好ましくは、予め選択された細胞型は、ヒトの予め選択された細胞型である。
【0035】
例えば、本明細書で使用される場合、「心筋細胞(cardiomyocyte)」または「心筋細胞(cardiac myocyte)」は、任意の心筋細胞系統細胞を指し、特に明記しない限り、心筋細胞の個体発生の任意の段階の細胞に適用されると解釈することができる。例えば、心筋細胞は、心筋細胞前駆体または前駆細胞(多能性幹細胞ではない)(すなわち、脱分化または再プログラミングなしに、心筋細胞、例えば未成熟心筋細胞または胎児心筋細胞を含む子孫を生じさせることができる細胞)および成熟心筋細胞(成体様心筋細胞)の両方を含み得る。心筋細胞には、心房型心筋細胞、心室型心筋細胞、および結節型心筋細胞が含まれる。好ましくは、心筋細胞は、胎児、未成熟または成熟(成人様)心筋細胞である。心筋細胞前駆細胞は、成熟心筋細胞と同様に、心筋細胞系統に典型的なマーカーを発現し得、マーカーには心筋トロポニンI(cTnI)、心筋トロポニンT(cTnT)、肉腫性ミオシン重鎖(MHC)、GATA-4、Nkx2.5、N-カドヘリン、β1-アドレナリン受容体(β1-AR)、ANF、転写因子のMEF-2ファミリー、クレアチンキナーゼMB(CK-MB)、ミオグロビン、または心房性ナトリウム利尿因子(ANF)が含まれるが、これらに限定されない。本発明による心筋細胞は、多能性幹細胞の分化によってインビトロで得られる。インビトロ分化は、本明細書に開示される方法によって行われる。
【0036】
同様に、「内皮細胞」は、前駆細胞から成熟までの任意の発達段階の内皮細胞を指す。内皮細胞とは、細胞の層が体腔、血管およびリンパ管の内面を裏打ちして内皮を構成する、薄く扁平な細胞を指す。内皮前駆細胞は、成熟内皮細胞と同様に、内皮系統に典型的なマーカーを発現し得、マーカーにはCD31、CD144(VE-CADHERIN)、CD54(I-CAM1)、vWF、VCAM、CD106(V-CAM)、VEGF-R2(例えば、Orlova et al.Arteriosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology.2014;34:177-186を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。本発明による内皮細胞は、インビトロ分化多能性幹細胞から得られる。インビトロ分化は、好ましくは、実施例に開示される方法によって行われる。
【0037】
同様に、造血系細胞は、任意の造血系細胞を指し、特に明記しない限り、前駆細胞を含む造血性個体発生の任意の段階の細胞に適用するように解釈することができる。造血前駆細胞(HPC)は、有糸分裂のままであり、かつより多くの前駆細胞または前駆体細胞を生産することができるか、または最終運命の造血細胞系譜に分化することができる細胞を指す。HPCのためのヒトマーカーには、CD31、CD34、CD43、CD133、CD235a、CD41およびCD45が含まれ、CD41+は、巨核球前駆細胞、CD235a+赤血球前駆細胞、CD34+CD45+初期リンパ系/骨髄系前駆細胞、CD56+NK系前駆細胞、CD3+T細胞およびCD19+CD20+B細胞を示す。
【0038】
同様に、ニューロン系統細胞は、任意のニューロン系統細胞を指し、特に明記しない限り、前駆細胞を含むニューロンの個体発生の任意の段階の細胞に適用するために解釈することができる。神経前駆細胞(NPC)は、有糸分裂のままであり、かつより多くの前駆細胞または前駆体細胞を生産することができるか、または最終運命の神経細胞系譜に分化することができる細胞を指す。NPCのヒトマーカーには、Sox2、Pax6およびネスチンが含まれる。成熟ニューロンは、ニューロン核(NeuN)、チューブリンβ3クラスIII(TUBB3)および微小管関連タンパク質2(MAP2)について陽性である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「閉鎖培養系」は、培養容器および閉鎖/密閉された追加の構成要素を含む培養系を指す。閉鎖系および/または密閉系は、通常、使用前および密閉後に滅菌を受け、したがってその滅菌性を保持する。培養容器の使用中、系の完全性は最小限にしか損なわれず、好ましくは損なわれず、したがって系の無菌性を維持する。系の完全性は、例えば、キャップまたは蓋を持ち上げること、弁または管を開くことなどによって破られる可能性がある。本明細書で使用される場合、「閉鎖系」という用語は、好ましくは、例えば、培養容器に含まれる培地を混合するための手段、および無菌性を損なうことなく培地(の一部)を回収および交換するための手段を含む、培養バイオリアクターまたは培養容器およびその構成要素を含む閉鎖培養系を指す。バイオリアクターは、閉鎖系の無菌性の完全性を損なうことなく、細胞培養物を製造、維持、培養、成長、分化および操作するために使用される。本明細書に開示される方法で使用される閉鎖系は、培地および/または培地中の(単一細胞)の回収および交換を可能にする。培地のサンプルはまた、インプロセス回収および分析のために閉鎖培養系における細胞の培養/製造中に回収され得る。培地を含むバッグは、滅菌コネクタを使用して、または滅菌チューブ溶接(例えば、SCD(登録商標)IIB terumo、biowelder Satoriusなどの溶接機、および/またはkleenpak presto sterile connector(pall)、Millipore製のLynx S2S、Sartorius Stedim Biotech製のOpta SFT-1、GE製のReadyMate DAC、またはSaint-Gobain製のPure-Fit SCなどのコネクタ)を使用してシステムに取り付けることができる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「培養する(culturing)」、「培養する(cultivating)」、「成長する(growing)」またはそれらの変形は、1つまたは複数の細胞を対象とする場合、様々な種類の培地中で細胞の集団を増殖、拡大または維持する方法ステップを指す。従来の方法および技術は、分子生物学、生物学、生化学、ゲノミクス、細胞培養などの分野の当業者に周知である。「培養する」という用語は、一般に、細胞の増殖または分裂を含むと理解されるが、培地中で細胞を分化させる方法も含む。本明細書で使用される場合、この用語はまた、本明細書に開示される方法で多能性幹細胞から分化した予め選択された細胞型のインビトロ製造の目的を含む。
【0041】
「培地」という用語はまた、好ましくは、長期間にわたるヒトまたは動物細胞のインビトロ細胞培養に適した培地を含む。そのような培地は、細胞が、例えば少なくとも1日、好ましくは少なくとも2日、3日、4日、5日、6日またはそれ以上のより長い期間にわたって成長、増殖および/または分化することを可能にするのに十分な成分を含む。「規定された培地」は、ヒトまたは動物細胞のインビトロ細胞培養に適した(増殖)培地であって、化学成分のすべてが既知である培地を指す。そのような規定された培地は、栄養素および/または他の規定されていない因子の規定されていない供給源を含まないか、または本質的に含まない。培地は、好ましくは無血清であり得る。本明細書に記載される培地は、増殖および/または分化を操縦するために意図的に含まれる1または複数の化合物、すなわち、培地に含まれ、培養容器内の細胞を培地と接触させることによって、例えば接触期間中、例えば、これらの細胞における特定の(代謝)経路をアゴナイズまたはアンタゴナイズすることによって、例えば、予め選択された1または複数の細胞型に細胞を分化させる特定の段階中の分化を操縦する化合物を含み得る。
【0042】
本明細書で使用される場合、「培養容器」は、バイオリアクター、タンク、フラスコ、または細胞の培養に適した任意の他の装置を指す。本明細書で使用される培養容器の容量は、数mL~数百リットルの範囲の任意の容量であり得、好ましくは、培養容器は容量が2~150リットル、または2~100リットル、または2~50リットルであり、および/またはそのような容量の培地での培養を可能にする。好ましくは、培養容器の容積は、少なくとも2、3、5、8、10、20、50リットルの容積であり、および/または少なくとも2、3、5、8、10、20、50リットルの培地での培養を可能にする容積を有する。本明細書で提供されるように、培養容器は異なる構成を有することができる。換言すれば、容器は、垂直容器、垂直ホイールリアクターもしくはバッグリアクター、または当業者に知られている任意の他のバイオリアクターのいずれかであり得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「分化させること」および「分化」は、系統内の発生経路をさらに下って細胞を進行させることに関する。多能性幹細胞の分化は、培地中に存在する化合物、およびある系統内のそのような幹細胞の直接的な分化によって誘導することができる。上で説明したように、異なる(組み合わせの)化合物(本明細書でステアリング化合物とも呼ばれる)は、細胞の分化の異なる段階で暗示される。分化は、典型的には、通常、細胞表面に埋め込まれたタンパク質を含むシグナル伝達経路によって、細胞遺伝子と細胞の化学的および物理的周囲との相互作用によって制御される。あるいは、分化は、分化を誘導する遺伝子の異所性発現によってさらに操縦され得る。
【0044】
本発明において、分化は、多能性幹細胞が細胞系譜内の最終分化細胞に向かって進行する際に経る生物学的プロセスである。効果的な分化プロセスは、高い分化効率(目的の細胞、すなわち予め選択された細胞型のマーカーを発現する細胞の数)および高い収率(プロセスで得られる細胞の数)を特徴とする。そのような高い収率の予め選択された細胞型を得るために、驚くべきことに、同じプロセスにおいて同時に分化および増殖を有することが有益であることが見出された。また、驚くべきことに、いくつかの実施形態では、多能性幹細胞が単一細胞懸濁液の形態で導入され、多能性幹細胞の増殖のために培地中で培養され(本発明に従って0、1または複数回の培地交換を含む)、それにより、多能性幹細胞が増殖し、培養容器内で凝集体を形成することを可能にし、その後、多能性幹細胞を予め選択された細胞型に分化させるために培地中で培養されること(本発明に従って0、1または複数回の培地交換を含む)が本発明の方法において有益であることが見出された。特に、本発明の方法のこのような実施形態では、(例えば、導入された細胞対得られた細胞の量、相対量、比などに関して)望ましい結果を得ることができる。
【0045】
本発明による方法で、予め選択された細胞型に分化させるプロセスは、好ましくはヒト起源の多能性幹細胞において、分化誘導培地組成物への曝露によって、および本明細書に開示される方法を使用して誘導される。(多能性)幹細胞は、外胚葉、内胚葉および中胚葉の3つの胚葉のいずれかに分化することができ、系統制限された前駆細胞である細胞型にさらに分化することができ、さらに、より特定の種類の細胞に分化することができる。そのような系統制限された前駆細胞は、さらに制限された細胞(例えば、心臓前駆細胞、内皮前駆細胞、神経前駆細胞、肺前駆細胞、膵臓前駆細胞、造血前駆細胞など)に分化することができ、最終分化細胞(例えば、心筋細胞、内皮細胞、ニューロン、星状膠細胞、肝細胞、肺胞細胞、T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、赤血球系細胞など)に分化することができる。一般に、分化は、特異的な分化マーカーの使用によって検出することができる。本発明の文脈内で、(ヒト)多能性幹細胞は、好ましくは、予め選択された分化細胞型に分化し、胎児、好ましくは成熟または成人様の表現型を示す。多能性幹細胞は、好ましくは人工(ヒト)多能性幹細胞または胚性幹細胞、好ましくはヒト多能性幹細胞である。好ましくは、多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。
【0046】
前述の多能性幹細胞に加えて、成体幹細胞もまた、本明細書中に開示されるような方法において使用される場合がある。成体幹細胞には、例えば、造血幹細胞(HSC)、乳房幹細胞、腸幹細胞、間葉系幹細胞、内皮前駆細胞、内皮前駆細胞、神経幹細胞、嗅覚成体幹細胞、神経堤幹細胞および精巣幹細胞(生殖細胞、精原幹細胞)が含まれる。したがって、別の態様によれば、多能性幹細胞に関して本明細書に開示される本発明は、成体幹細胞の使用にも適用される。
【0047】
本明細書で使用される場合、「ES細胞」またはESC(またはヒト起源の場合「hES細胞」または「hESC」)と略される「胚性幹細胞」は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する幹細胞を指す。当業者は、ドナー胚の破壊を引き起こさない技術を使用する、例えばChung(Chung et al(2008)Stem Cell Lines,Vol 2(2):113-117)によって記載されるように胚性幹細胞を得る方法を理解している。様々なESC株が、NIH Human Embryonic Stem Cell Registryに列挙されている。
【0048】
本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」または「iPSC」は、多能性幹細胞ではない細胞(すなわち、多能性幹細胞に対して区別される細胞)に由来する多能性幹細胞を指す。人工多能性幹細胞は、最終分化細胞を含む複数の異なる細胞型に由来し得る。人工多能性幹細胞は、一般に、胚性幹細胞様形態を有し、大きな核細胞質比、規定された境界および顕著な核を有する平坦なコロニーとして成長する。さらに、人工多能性幹細胞は、当業者に公知の1または複数の重要な多能性マーカーを発現し得る。人工多能性幹細胞を作製するために、体細胞に、例えば、多能性幹細胞になるように体細胞を再プログラムするための当該分野で公知の再プログラム因子(例えば、Oct4、SOX2.KLF4、MYC、Nanog、Lin28など)を供給することができる。
【0049】
本明細書中で使用されるとき、「多能性」とは、1つまたは複数の組織または器官を構成するすべての細胞、例えば、3つの胚葉、すなわち内胚葉(例えば、胃の内壁、消化管、肺)、中胚葉(例えば、心臓、筋肉、骨、血液、泌尿生殖路)または外胚葉(例えば、表皮組織および神経系)のいずれかに分化する可能性を有する(幹)細胞の属性のことを指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞」または「PSC」は、生物のすべての細胞型を生産することができ、かつ哺乳動物の胚葉、例えば内胚葉、中胚葉および外胚葉の細胞を生産することができる幹細胞を指し、少なくとも多能性胚性幹細胞および人工多能性幹細胞を包含する。多能性幹細胞は、様々な方法で得ることができる。多能性胚性幹細胞は、例えば、胚の内部細胞塊から得ることができる。人工多能性幹細胞(iPSC)は、体細胞に由来し得る。多能性幹細胞はまた、確立された細胞株の形態であり得る。多能性幹細胞には、細胞を細胞療法により適したものにするために遺伝子操作を行う場合がある。例えば、細胞は、免疫特権者になるようにHLAクラスIおよびII遺伝子座を編集され得る。細胞は、特定の細胞型を標的とするための抗原受容体を保有し得る。細胞は、所望の細胞型への分化を促進するための(誘導性)構築物を有するか、または移植後の安全対策として細胞を死滅させるための誘導性構築物を有し得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「増殖する(proliferating)」および「増殖(proliferation)」は、細胞分裂、すなわち有糸分裂を受ける細胞による、集団中の細胞数の増加(成長)に関する。細胞増殖は、一般に、成長因子および他のマイトジェンを含む、環境に応答した複数のシグナル伝達経路の協調的活性化から生じると理解されている。細胞増殖はまた、細胞内または細胞外シグナルの作用からの放出、および細胞増殖を遮断するかまたは細胞増殖に悪影響を及ぼす機構によって促進され得る。/pct
【0052】
本明細書で使用される場合、「幹細胞」は、単一細胞レベルで自己複製および分化の両方を行って子孫細胞を産生する能力によって定義される未分化細胞の集団を指し、自己複製前駆細胞、非複製前駆細胞、および最終分化細胞が含まれる(Morrison et al.(1997)Cell 88:287-298)。幹細胞は、培養内で無期限に分裂する能力を有する。幹細胞は、インビトロで安定に多重化および培養され得る細胞であり、全能性、多能性、人工多能性、多分化能性、オリゴポテントまたは単能性細胞であり、本明細書に開示される方法では、幹細胞は好ましくは(少なくとも)多能性であるが、本発明の他の態様によれば、本明細書に開示される方法で使用するための幹細胞は、多分化能性、オリゴポテントまたは単能性幹細胞、好ましくは多分化能性幹細胞であることも企図される。幹細胞は、体性(成体)幹細胞または胚性幹細胞として分類される。幹細胞は、特異的マーカー(例えば、タンパク質、RNAなど)の存在および特異的マーカーの非存在の両方を特徴とし得る。幹細胞はまた、インビトロおよびインビボの両方の機能的アッセイ、特に幹細胞が複数の分化した子孫を生じさせる能力に関するアッセイによって特定され得る。
【0053】
本明細書中で使用される場合、「未分化」とは、さらに分化した系統制限された前駆体の特徴をまだ発達させていない幹細胞のことを指す。未分化および分化という用語は、当業者によって理解されるように、互いに相対的に反対である。分化細胞および未分化細胞は、限定されないが、形態学的特徴(例えば、サイズ、形状、体積、細胞質体積に対する核体積の比)、発現特徴(例えば、(遺伝的)マーカーの存在)などの当技術分野で十分に確立された基準によって互いに区別される。
【0054】
本明細書に記載の任意の方法、使用または組成物は、本明細書に記載の任意の他の方法、使用または組成物に関して実施することができると考えられる。本発明の方法、使用および/または組成物の文脈で論じられる実施形態は、本明細書に記載される任意の他の方法、使用または組成物に関して用いられ得る。したがって、1つの方法、使用または組成物に関する実施形態は、本発明の他の方法、使用および組成物にも適用され得る。
【0055】
本明細書に具体化され、広く記載されるように、本発明は、予め選択された細胞型を製造するための新規で驚くべきインビトロ方法に関する。この方法は、そのような予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するため、および/またはそのような予め選択された分化した多能性幹細胞由来細胞(または異なる種類の細胞)を好ましくは閉鎖培養系において製造するためのものである。この方法は、そのような分化細胞を大量に製造することを可能にする。この方法は、細胞比の入力に対して細胞の高出力を可能にする(例えば、細胞の数によって表される)。
【0056】
本発明は、バイオリアクターで増殖させたほとんどの細胞とは異なり、多能性幹細胞(およびほとんどの成体幹細胞)が懸濁培養中に凝集体を形成し得、マイクロキャリアのような支持体を必要としないという事実を利用する。本発明によれば、(分化誘導により)多能性幹細胞から得られる分化細胞を大量に得るための半自動培養方法を提供することができる。特に、多種多様な多能性幹細胞由来の分化細胞の大規模生産を可能にし、信頼性が高く、再現性があり、複雑な培養工程および/または培養装置に依存しない方法を提供できることが見出された。本明細書に開示される方法では、膨大な量の分化細胞を生産することが可能であり、幹細胞からの予め選択された細胞型のこの製造は、比較的短時間で、比較的単純で簡単な方法論を用いて行われ得、多能性幹細胞に由来する(ヒト)分化細胞のインビトロ生産に関する分野における実際の必要性に答える。
【0057】
本発明は、多能性幹細胞から分化した予め選択された細胞型を好ましくは閉鎖培養系においてインビトロ製造するための方法であって、方法は、
a)多能性幹細胞および培地を供給するステップと、
b)多能性幹細胞および培地を培養容器に導入するステップであって、好ましくは、培養容器が閉鎖培養系の一部であり、培地が、
i)多能性幹細胞を増殖させるための培地、または
ii)予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するための培地
である、ステップと、
c)培養容器内で培地を混合し、それにより、細胞が細胞凝集体の形態で成長することを可能にし、細胞凝集体の沈降を防止するステップと、
d)培養容器内の培地の混合を中止し、それにより細胞凝集体を沈降させるステップと、
e)培養容器内の培地の一部を回収するステップと、
f)必要に応じて、ステップb)で多能性幹細胞を増殖させるための培地が使用された場合、多能性幹細胞を増殖させるためのさらなる培地を培養容器に導入し、ステップc)~e)を繰り返すステップと、
g)培養容器に後続の培地を導入するステップであって、培地が、予め選択された細胞型への細胞の分化を誘導するための培地である、ステップと、
h)培養容器内で培地を混合し、それにより、細胞が細胞凝集体の形態で成長することを可能にし、細胞凝集体の沈降を防止するステップと、
i)培養容器内の培地の混合を中止し、それにより細胞凝集体を沈降させるステップと、
j)培養容器内の培地の一部を回収して後続の培地のためにステップg)~i)を繰り返すか、または培養容器内の培地(の一部)を回収する、培養容器内の細胞凝集体を回収する、またはその両方を回収するステップと
を含む。
【0058】
驚くべきことに、培地が除去または回収される方法のステップにおいて、培養容器内の培地の一部のみが、後続の培地を培養容器に導入する前に除去され得ることが見出された。換言すれば、驚くべきことに、細胞に新しい培地を供給する前に実質的にすべての培地を除去する必要はないことが見出された。これまでの当業者の一般的な理解では、分化プロトコルを機能させるために、実質的にすべての培地を、後続の培地を導入する前に交換する必要がある。特に、例えば多能性幹細胞の心臓分化中の標準的なWntシグナル伝達の場合のように、分化経路をオンまたはオフに切り替える化合物を含む異なる培地の使用に依存する分化プロトコルでは、培地のそのような完全な交換が必要であると考えられる。この一般的な理解とは対照的に、実質的にすべての培地が後続の培地を導入する前に交換される必要はなく、後続の培地は、例えば、細胞のさらなる分化を予め選択された細胞型に向ける、より多くのまたはより少ない異なる栄養素を含むことによって、異なる組成を有し得ることがここで見出された。実際、本発明者の観察によれば、先の培地の少なくとも(かなりの)部分を培養容器内に残すことによって、それが細胞の健康に有害であり得るさらなる工程を回避するだけでなく、このようにして得られた分化幹細胞の生存、細胞数および特性の改善も提供する。
【0059】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、本発明の方法で得られる驚くべき効果が、少なくとも部分的には、本明細書に開示される方法では、所望の予め選択された細胞型への細胞の増殖および/または分化が妨害されずに継続し得るという事実に起因すると考えている。本発明者らは、培地を除去するための細胞のスピンダウン(ペレット化)、培地を除去するための細胞の濾過、培地を除去するための細胞の洗浄のような細胞の取り扱いを必要とする、または培地の連続的な除去および交換を含む、従来技術の方法は、細胞の最適な増殖および分化を低下させ得ると考えている。
【0060】
特に、特定の分化細胞への分化は、異なる分化段階で(例えば、経路の特定のアゴニストまたはアンタゴニストを使用することによって)スイッチオンまたはスイッチオフする必要がある異なる(シグナル伝達)経路の繊細でバランスのとれた関与からなり、本発明者らの考えでは、細胞に第2の培地を供給する前に細胞から第1の培地を除去すること(すなわち、細胞および培地を分離すること)によって、または細胞を洗浄することなどによって、これが細胞の進行中の分化の(一時的な)減速、中断、またはさらには妨害を引き起こし得る。本発明者らは、実質的にすべての培地を除去しないことによって、分化の過程が乱されないままであるか、または少なくともより少ない程度まで乱されると考える。加えて、本発明者らは、培地の一部を培養系に残存させることによって、特に分化中に細胞によって産生されるさらなる因子が細胞の継続的な分化に寄与すると考えている。本発明者らは、上記が、本発明の方法で得られる驚くべき多数の細胞を少なくとも部分的に説明し得ると考えている。
【0061】
また、好ましい実施形態において、本発明の方法では、多能性幹細胞を単一細胞懸濁液の形態で培養容器に導入し、培養しながら凝集体を形成させる。好ましい実施形態では、単一細胞の懸濁液の形態で導入された細胞を、人工多能性幹細胞の増殖のために培地中で培養しながら凝集体を形成させる。別の実施形態では、単一細胞の懸濁液の形態で導入された細胞を、人工多能性幹細胞の分化用培地で培養しながら凝集体を形成させる。一実施形態では、単一細胞懸濁液中の細胞は、多能性幹細胞の増殖のために培地中の培養容器に導入される。理論に束縛されるものではないが、多能性幹細胞を未凝集細胞の懸濁液の形態で培養容器に導入し、その後の培養容器内での培養中に凝集体形成を生じさせることによって、細胞凝集体の最適かつ均一な集団が培養容器内で得られ、予め選択された細胞型の改善された製造を提供すると考えられる。
【0062】
したがって、複雑な遠心分離工程を必要とせずに、好ましくは閉鎖培養系を使用して、多能性幹細胞から(予め選択された細胞型の)分化細胞を製造することが可能であり、閉鎖培養系に供給される多能性幹細胞は、大量のそのような分化細胞の生産を可能にする様式で、1つの同じ培養系において予め選択された細胞型に分化、場合により増殖されることが見出される。
【0063】
さらに、本明細書に開示される方法は、多種多様な分化細胞を得るために適用することができるという点で堅牢であることが見出された。驚くべきことに、この方法は、小規模(例えば15mL)での最適化、およびその後の複数リットルの培地を使用した培養へのアップスケーリングを可能にするのに十分に堅牢であることが分かった。驚くべきことに、本明細書に開示される方法では、体積が増加した培養容器内の幹細胞の分化によって、予め選択された細胞型の製造をアップスケールすることが可能になることが見出された。本明細書に開示される方法は、幹細胞からの予め選択された細胞型の非常に効率的な製造を可能にし、供給される初期幹細胞の量に対して、本明細書に開示される方法によって得られる細胞の数に対する投入比を超える高い出力を提供し、高い細胞密度を可能にする。例えば、いくつかの実施形態では、初期幹細胞密度は、培地1ミリリットル当たり約20万細胞であるが、本明細書に開示される方法によって得られる特定の予め選択された細胞型の最終密度は、培地1ミリリットル当たり300万細胞以上(係数または比は、この例では15以上)であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、導入された細胞の数と得られた予め選択された細胞の数との比は、少なくとも1:10、1:12、1:15、1:20、または1:25である。そのような数は非常に望ましいが、予め選択された細胞型に関して先行技術を考慮すると前例のないものである。本明細書に開示される方法では、単純で再現性のある方法ステップを使用して、より多数の予め選択された細胞型を、培地体積当たりより高密度の細胞で、より大量の培地で製造することが可能になっており、このステップは、多能性幹細胞からの広範囲の予め選択された細胞型の製造に適用可能であり、したがって、この分野で長年感じられている必要性を満たすのに十分に堅牢である。
【0064】
さらに、本明細書に開示される方法では、pH、CO、バイオマス、溶存酸素、および乳酸塩濃度などの培養パラメータを容易に制御することが可能である。次にそのようなパラメータを、使用される分化プロトコルと組み合わせて使用して、予め選択された細胞型を得て、予め選択された細胞型の収率を最大化する目的で培養中の細胞密度を増加または最適化することができる。例えば、培養中の培地中のバイオマス、細胞密度および/または乳酸塩蓄積に基づいて、培地回収および新鮮培地添加の最適な時期を決定することができ、予め選択された細胞型の全体的な生産をさらに最適化することができる。
【0065】
本明細書に開示される方法を提供することによって、および細胞の集団、すなわち細胞凝集体が(各)培地回収工程の間に沈降することを可能にすることによって、培養容器内に存在する培地は、細胞凝集体細胞の集団および培地の一部が影響を受けないままにしながら、例えば培地の上部から下方への吸引を使用することによって、容易に部分的に回収することができる。後続の(好ましくは組成が異なる)培地の添加後、沈降細胞の集団を混合することによって、細胞の分化を誘導する方法を継続する。
【0066】
この手法の1つの特有の利点は、このシステムが、培養系中の凝集体から分泌された単一細胞、ならびにタンパク質および/またはエキソソームの採取も可能にすることである。これを可能にするために、培養容器内の培地の混合を一定期間中断し、細胞の沈降を十分な時間実施して、ほとんどの単一細胞またはタンパク質および/もしくはエキソソームを培地中に懸濁させたままにするが、はるかに大きくて重い凝集体の沈降を可能にする。次に、単一細胞、分泌タンパク質および/またはエキソソームを含む培地を吸引によって採取する。これは、造血性内皮細胞によって形成され、造血前駆細胞(HPC)として細胞凝集体から培地中の単一細胞として分泌される、造血系統の細胞に特に有用である。造血前駆細胞(HPC)は、より多くの前駆細胞または前駆体細胞を生産することができ、あるいはマクロファージ、樹状細胞、T細胞またはB細胞などの最終運命の造血細胞系統細胞に分化することができる。この分化は、同じ培養容器内で行われてもよいし、造血前駆細胞の採取後に、さらなる培養系内で行われてもよい。
【0067】
幹細胞を増殖させるために、凝集体の沈降は、凝集体が底面で一緒に濃縮されるなどのため、望ましくない凝集体の凝集/融合の高いリスクに関連することが見出されたが、そのような欠陥は本発明の方法において発明者らによって観察されず、幹細胞は、予め選択された細胞型に分化するように誘導され、培地は部分的にのみ交換される。実際、本発明の方法を使用することによって、得られた予め選択された細胞型細胞の集団は、優れた細胞特徴および細胞特性、例えば(発現)マーカーまたは生物学的活性を有することが見出された。
【0068】
本発明の方法は、好ましくは連続的に閉鎖された培養系において、多能性幹細胞の細胞凝集体の分化、および任意選択的に方法の第1段階としての増殖を促進することにさらに留意されたい。いかなる(広範な)(手動の)ヒトの介入も必要とせずに、本発明は、交差汚染のリスクを低減した閉鎖培養系において多能性幹細胞の分化を誘導することによって予め選択された細胞型を製造する方法を提供する。
【0069】
閉鎖培養系は、細胞を長期間培養(cultivate)、培養(culture)、成長させることができる、本明細書に開示される方法を可能にする。この閉鎖系において、多能性幹細胞は、細胞凝集体を形成し、予め選択された分化細胞に分化することができる。このシステムは、無菌システムを可能にし、ヒトの介入を低減し、したがって交差汚染のリスクを低減する。
【0070】
本明細書に開示される方法は、a)多能性幹細胞および(第1の)培地を供給するステップと、b)多能性幹細胞および培地を培養容器に、好ましくは閉鎖培養系の一部に、導入するステップとを含む。あるいは、培地および/または幹細胞が既に培養容器内に存在しており、多能性幹細胞または培地のいずれかが培養容器に添加される。
【0071】
培地は、
i)多能性幹細胞の増殖の(好適な)培地、または
ii)予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するための(好適な)培地
であり得る。好ましくは、ステップa)で供給されステップb)で導入される培地は、予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するための培地である。
【0072】
例えば、多能性幹細胞の導入数に応じて、所望の数の多能性幹細胞(凝集体)を得るために、まず多能性幹細胞を一定期間増殖させることを決定してもよい。そのような場合、培地は、多能性幹細胞の増殖のための任意の適切な培地、例えば市販のmTeSR1、StemMACS(商標)iPS-Brew XF、Essential 8、TeSR E8、mTeSR Plusおよび/またはNutristem培地であり得る。多能性幹細胞が単一細胞懸濁液として導入される(好ましい)実施形態では、単一細胞は、幹細胞の増殖のための培地中で培養中に凝集体を形成する(凝集は、典型的には数時間以内、例えば2~3時間後に開始する)。
【0073】
あるいは、例えば、十分な数の多能性幹細胞が培養容器に導入される場合(例えば、1ml当たり50万~150万個以上の細胞)、予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を開始または誘導するのに適した培地を第1の培地として添加することによって、予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を直ちに誘導することができる。多能性幹細胞が単一細胞懸濁液として導入される(好ましい)実施形態では、単一細胞は、分化を誘導するための培地中で培養中に凝集体を形成する。
【0074】
多能性幹細胞を分化させる必要がある予め選択された細胞型に応じて、当業者は、どのような培地が好適に使用され得るかを知っている。その点で、培地は予め選択された細胞型への多能性幹細胞の完全な分化を提供する必要はないが、本明細書中で説明されるように、異なる連続する組成物を有する培地が、予め選択された(分化した)細胞型への細胞の分化を開始、操縦、促進および/または増強するために使用されることもあり得ることに留意されたい。
【0075】
本発明の方法で定義される個々のステップに関して、ステップa)で、当業者に公知の人工多能性幹細胞を含む任意の種類の多能性幹細胞が培養系に供給され得ることに留意されたい。例えば、多能性幹細胞は、多能性幹細胞凝集体の集団として供給され得るが、代替として、多能性幹細胞を単一細胞として供給し(例えば、適切な培地に分散される)、これらの細胞が培養容器に存在すると凝集体を形成することも可能である。供給される多能性幹細胞は、1種類の多能性幹細胞であってもよく、または異なる種類の多能性幹細胞の混合物であってもよい。
【0076】
既に上述したように、細胞凝集体の(さらなる)増殖は、培養容器内の細胞凝集体の分化を促進する培地を供給する前に、閉鎖培養系に供給される増殖培地によって促進され得ることに留意されたい。
【0077】
ステップa)で供給される細胞は、ステップc)で培養が開始される前に培養容器内の多能性幹細胞の初期細胞密度が好ましくは培地1ミリリットル当たり1×10から1×10細胞であるように、単一細胞、凝集体またはその両方を含む接種材料で供給することができる。
【0078】
ステップa)の多能性幹細胞は、好ましくは、方法のステップa)で供給される前に、例えば、培養フラスコまたはバイオリアクター内で前培養される。ステップa)の前に、細胞は、例えば、(ヒト)多能性幹細胞、例えば(ヒト)人工多能性幹細胞(iPSC)または(ヒト)胚性幹細胞(ESC)を培養するのに適した培地中で培養され得る。ステップa)で供給される前に、細胞を洗浄してもよく、その後、互いにおよび/または培養フラスコから解離させてもよい。
【0079】
さらに、ステップa)で供給される培地は、多能性幹細胞の単一の細胞および/または凝集体を既に含有していてもよく、または培地が(好ましくは閉鎖された)培養系に入った後に細胞を培地に添加してもよい。
【0080】
本明細書に開示される方法のステップb)において、培地および多能性幹細胞は、培養容器、好ましくは閉鎖培養系の一部に導入される。本明細書に開示されるステップb)に従って培養容器に導入される細胞は、ステップa)で供給された細胞である。同様に、ステップb)に従って培養容器に導入される培地は、ステップa)で供給された培地である。
【0081】
本明細書に開示される方法に適した多くの種類の閉鎖培養系、培養容器またはバイオリアクターがある。特に、本明細書で提供されるバイオリアクターは、好ましくは、培養中に細胞を含む培地の混合を可能にする撹拌機構または他の手段を含む。適切なシステムの例は、カスタムステンレス鋼/ガラス反応器、または使い捨てシステムであり、例えば、典型的な体積範囲が数ミリリットルから数百リットルまでのAmbrおよびBiostat(Sartorius)、PBS(PBS biotech)、DasboxおよびBioflo(Eppendorf)、Appiflex(Applikon)、WaveおよびXuri(GE/Cytiva)である。
【0082】
さらに、本明細書に開示されるバイオリアクターは、酸素およびCOの制御装置、ならびにバイオマス、細胞密度、培地のpH値、乳酸塩濃度を測定するためのプローブ、および/または培地に含まれる、また培養容器に導入された溶解酸素の量を測定するためのプローブを含み得る。そのようなプローブおよび制御装置は当業者に公知である。
【0083】
適切な培地および多能性幹細胞が培養容器に導入された後、培養は、本明細書に開示される方法のステップc)で開始される。理解されるように、細胞の培養は、培地がi)多能性幹細胞の増殖のための培地であるか、またはii)予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するための培地であるかに応じて、細胞の培養に適した温度および/または増殖もしくは分化に適した温度で、好ましくは適切な緩衝培地中で行われる。
【0084】
細胞培地のpH、温度、溶存酸素濃度およびオスモル濃度などのパラメータは、当業者が理解するように細胞の種類に依存する。当業者は、最適なpH、温度、溶存酸素濃度およびオスモル濃度をもたらす方法を知っている。
【0085】
好ましくは、本明細書に開示される方法では、培養中、pHは6.9から7.5の間で選択され、および/または温度は29から39℃の間で選択され、および/またはオスモル濃度は260から400mOsm/kgの間で選択される。
【0086】
別の実施形態では、オンラインpH測定を使用する重炭酸緩衝基礎培地が使用される。pHを低下させるためにCO、pHを上昇させるために塩基(重炭酸塩またはNaOH)を使用して、pH調整を行うことができる。同様に、酸素は、生理学的に適切な範囲(3~21%)内に留まるように制御されることが好ましい。
【0087】
本明細書で提供される方法のステップc)は、ステップb)で培養容器に導入された細胞を含有する培地を混合することを含む。混合は、典型的には、培養容器/培養系の混合手段によって誘導される。任意の種類の混合手段、例えば、培地を撹拌することによる混合または培養容器を(穏やかに)振盪することによる混合を使用することができる。
【0088】
好ましくは、混合は連続的であるが、細胞を含む培地の混合は、ステップc)(および/またはステップh)の間に短期間、例えば1~5分間中断され得、その後このステップの混合が続けられることも考えられる。
【0089】
培地の混合は、培養容器内の細胞が細胞凝集体の形態で増殖する(増殖を続ける)ことを可能にする(多能性幹細胞が最初に単一細胞として、または細胞懸濁液として導入される場合もあり、この場合、凝集体は培養中に形成される)。培地の混合はまた、(多能性幹)細胞が分化用の適切な培地の存在下で予め選択された細胞型に分化することを可能にすることも見出された。
【0090】
さらに、培地の混合は、細胞凝集体の沈降および/または細胞凝集体同士の接着を防止する。例えば、培地中の細胞の数、使用される培地などに応じて、当業者は、培養/成長中の凝集体の沈降を防止しながら、細胞が細胞凝集体の形態を形成または維持できるように培地を混合する方法を理解している。
【0091】
本明細書に開示される方法のステップc)における培地の混合、結果としての細胞の培養は、本発明の文脈内で所望される長さ、および/または培養容器に供給される培地が細胞の培養を支援する長さであり得る。
【0092】
一実施形態において、混合は、培養容器における培地がもはや培養容器における細胞の増殖を支援しなくなるまで継続される。別の実施形態では、混合を一定時間継続した後、混合を中止し、細胞凝集体を沈降させる(例えば、本発明による方法のステップd)で規定されるように)。例えば、ステップc)の混合は、少なくとも1、2、4、6、8、12、24、36、48、72、96時間、例えば1~72時間、2~60時間または2~48時間継続し得る。
【0093】
培地を所望の時間混合して、培養容器内の細胞の増殖を細胞凝集体の形態で可能にした後、ステップd)において、培養容器内の培地の混合を中止する。培地の混合を中止することにより、培地中の細胞凝集体を、好ましくは重力によって沈降させる。
【0094】
ステップd)で培地の混合を中断するための任意の時間を選択してもよいと考えられるが、反応器の構成に応じて、凝集体を沈降させるのに必要な時間および/または単一細胞、分泌タンパク質およびエキソソームを培地中に浮遊させるのに必要な時間を容易に決定できることが見出された。典型的には、細胞凝集体が沈降する、すなわち培養容器の底に沈むのに必要な時間は、3リットルのバイオリアクター(容器)において5分~240分、好ましくは20分~60分である。
【0095】
ステップe)において、培地の一部が、例えば培地の(慎重な)吸引によって培養容器から回収される。培養容器から培地の一部を回収するために他の培地排出または回収手段を使用してもよいが、吸引が最も好ましい選択肢である。細胞凝集体が沈降した培養容器からの培地の回収は、例えば培地の上層から吸引によって、細胞凝集体が最も乱されずに沈降したままであるように培地が回収されるように行われる。培地の一部の除去は、好ましくは、凝集体が培養容器から除去されないか、または限定された凝集体のみが培養容器から除去されるように行われる。
【0096】
あるいは、吸引によって培地を除去する代わりに、例えば培養容器の底部から離れた所定の高さに配置された排水システムを使用して、培養容器から培地を排水することもできる。そのような高さは、例えば、培養容器内に沈降した細胞凝集体の層の厚さおよび/または除去されるべき培地の量に依存し得る。
【0097】
培養容器から培地を回収する方法にかかわらず、驚くべきことに、好ましくは閉鎖系を使用して、培養容器から培地のすべてを回収して新鮮培地と交換するのではなく、後続の新鮮培地を培養容器内の残りの培地に添加する前に培養容器から培地の一部のみを回収する(したがって、前の培地の一部が後続の培地と混合される)ことによって、高量で十分に分化した細胞を生産する堅牢で再現性のある製造プロセスを設計することが可能であることが見出されたことに留意されたい。
【0098】
例えば、一実施形態では、培養容器内の培地の最大95体積%、90体積%、85体積%、または80体積%が回収されて、培地組成の効率的な切り替えおよび/または細胞によって培地に分泌された(単一の)細胞もしくは材料の採取が可能になる。例えば、この実施形態では、培養容器が10リットルの培地を含む場合、最大で9500、9000、8500または8000ミリリットルの培地が培養容器から回収される。
【0099】
同時に、好ましくは、少なくとも30体積%、40体積%、50体積%、60体積%または70体積%の培地が培養容器から回収されることが分かった。したがって、いくつかの実施形態では、例えば30体積%~95体積%、または40体積%~95体積%、または50~95体積%、または60~90体積%、または60~80体積%、または70~90体積%、または70~80体積%の培地が、ステップe)(および/またはステップj))で培養容器から回収される。当業者によって理解されるように、回収される培地の量または割合は、本発明の方法による回収培地の異なる時点の間で異なり得る。例えば、最初の培地回収中、培養容器内の培地の70体積%が回収および交換され得るが、その後の培地回収中に、それと同じか、それより多いかまたはそれより少ない(例えば、50体積%または75体積%)が回収および交換され得る。
【0100】
同時に、本発明の方法は、例えばステップh)またはi)の後、好ましくはステップj)の前に、追加の培養ステップ(1つまたは複数)を含んでもよく、ステップi)の後に、培養容器内の実質的にすべての培地が回収され(例えば、95体積%超、好ましくは98体積%超)、後続の培地(異なる体積の同じもの)と交換され、続いて後続の培地(またはこのステップが複数回繰り返される場合は複数培地)で細胞を培養し、好ましくは続いて培養容器内に培地を回収するか、培養容器内に細胞凝集体を回収するか、またはその両方を回収することも当業者には理解されよう。
【0101】
例えば、本発明の方法をステップh)またはi)まで少なくとも1回、好ましくは少なくとも2、3回以上実施した後、細胞の培養は、培地交換/リフレッシュまたは培養の他の技術を使用して、例えば培地の灌流などによって継続されてもよく、一定の(小)体積の培地が連続的にまたは数時間(例えば2~5時間)の1時間ごとにリフレッシュされることも当業者には理解されよう。換言すれば、そのような実施形態では、細胞は、最初に本発明による方法を用いて、本明細書に記載されるように得られ、その後、細胞は、一般的または他の培地交換技術または灌流などの培養技術(例えば、当技術分野で知られているように)を用いて、増殖、例えば、さらに分化され続ける。細胞の継続的な培養は、同じ培養容器内で行われてもよく、または細胞もしくは細胞凝集体が最初に回収され、新しい培養装置、システムもしくは容器に導入され、さらにその中で培養されてもよい。例えば、マクロファージの場合、本発明の方法を使用して、多数の高品質の造血性内皮細胞および/または単球を得ることができる。そのような細胞は、本明細書中に開示されるような方法の使用を継続することによって、例えば、同じ培養系/培養容器において、または、一般的なもしくは他の培地交換技術もしくは培養技術および方法(例えば、灌流など)を使用することによって、マクロファージにさらに分化され得る。細胞(または凝集体)を回収し、これらを新しい培養系に移し、移した細胞が、この例ではマクロファージに成長または分化し続けることを可能にすることも決定され得る。
【0102】
回収された培地は、排出されてもよく、または例えば培地中に存在する単一細胞を単離するために、またはそのような培地中に存在し得る他の材料、例えば分泌タンパク質、ホルモン、または好ましい実施形態ではエキソソームもしくは他の種類の細胞外小胞を回収するために使用されてもよい。
【0103】
好ましくは、ステップe)および/またはステップj)で培養容器から除去される培地の量は、培養容器内に残っている培地とステップf)またはステップg)(以下で論じる)で培養容器に添加される新鮮培地との比が1:1から1:15、例えば1:3から1:10、例えば1:4から1:8、例えば1:1.5または1:2.5または1:5であるような量である。培養容器内の培地の一部を回収した後に添加される新たに添加される培地に関して、その体積は回収された培地の体積とは異なり得ることに留意されたい。例えば、4リットルの培地が除去される場合、培養容器に導入される新鮮培地の体積は、4リットルであってもよいが、4リットルを超えるかまたは4リットル未満であってもよい。培養容器に添加される新鮮培地の体積は、例えば、培養容器から回収された培地の体積の10~200%、例えば50~150%であり得る。その結果、新鮮培地が添加された後の培地の体積は、同じであってもよく、以前の培地の体積よりも少なくてもよく、または多くてもよい(例えば、前の培地が10リットルであり、7リットルが除去された後、6リットルの新鮮培地が加えられる場合、新鮮培地が加えられた後の培地の体積は、前の培地の体積よりも1リットル少ない9リットルである)。
【0104】
いくつかの好ましい実施形態では、本出願に記載のプロセスは、プロセスにおける培地リフレッシュを遅延させるための供給戦略と組み合わせて実行することができる。供給戦略は、細胞によって完全に代謝される栄養素を補償するために、高濃度の栄養混合物を少量でバイオリアクターに添加することに依存する。これらの供給戦略は、重要な栄養素を生理学的に適切なレベルに保つことを可能にし、重要な栄養素の濃度が高すぎるまたは低すぎることによって引き起こされる毒性を回避するのを助けることができる。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、例えばステップc)および/またはステップh)の間に、追加の成分または栄養素を培地に添加するステップを含む。好ましくは、そのような実施形態では、添加は、混合を中断することなく、および/または培養容器内に存在する培地を(部分的に)交換することなく行われる。
【0105】
培地の一部が培養容器から回収された後、新しい新鮮培地が培養容器に導入され、培養容器内に存在する細胞凝集体の混合および成長(増殖および/または分化)の別のサイクルを可能にする。
【0106】
上述のように、特定の実施形態では、分化が誘導される前に、本明細書に開示される方法のステップb)で導入された多能性幹細胞を最初に増殖させること、例えば培養容器内の細胞の総数を増加させることが望ましい場合がある。
【0107】
そのような場合、上記で示されるように、多能性幹細胞の増殖に適した培地が、上述のステップa)~e)で使用される。そのように所望される場合、例えば、培養容器における多能性幹細胞の総数をさらに増大させるために、培養容器内で多能性幹細胞(多能性幹細胞凝集体)を増殖させるためのさらなる培地を培養容器内の細胞凝集体に供給することによって、ステップc)~e)が繰り返されてもよい。そのようなさらなる増殖培地は、第1の増殖培地と同じであってもなくてもよい。
【0108】
しかしながら、多能性幹細胞の増殖のさらなるサイクルが必要とされないかまたは所望されない場合、細胞の増殖のこのさらなるサイクルはスキップされ得る。したがって、ステップb)で多能性幹細胞を増殖させるための培地が使用された場合には、任意選択のステップf)が提供され、多能性幹細胞を増殖させるためのさらなる培地が培養容器に導入され、その後ステップc)~e)が繰り返される、当業者は、原則として、これらの任意選択の増殖ステップが、必要とされる頻度で、また、予め選択された(分化した)細胞型への細胞の分化を誘導する培地中で多能性幹細胞が培養される前に、繰り返され得ることを理解する。しかしながら、実際には、さらなる増殖のためにステップc)~e)を繰り返すことは、多能性幹細胞が3回以下、好ましくは2回のサイクル(ステップc)~e))に限定されるべきであることが見出された。
【0109】
しかしながら、別の実施形態によれば、例えば、好ましい実施形態では、ステップb)において、多能性幹細胞の分化を予め選択された細胞型へと誘導するための培地が使用される場合、またはステップb)において、多能性幹細胞の増殖のための培地が使用され、多能性幹細胞の増殖のための培地を使用したさらなる増殖が必要とされないか所望されない場合、ステップg)において、細胞凝集体および培養容器内の残りの以前の培地に新鮮培地が添加される。
【0110】
ステップg)で細胞(およびステップe)の後に残った培地)に添加される後続の培地は、予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するための培地である。したがって、本明細書に開示される方法のステップb)で使用される培地に応じて、細胞凝集体は、ここで、予め選択された細胞型に分化するように誘導されるか、または予め選択された(分化した)細胞型にさらに向けられる。
【0111】
ステップh)において、細胞は、細胞の分化用の培地の混合下で、予め選択された細胞型に分化することが可能になる。
【0112】
ステップc)について既に説明したように、混合は連続的であることが好ましいが、細胞を含む培地の混合は短期間、例えば1~5分間中断され得、その後このステップの混合が続けられることも考えられる。
【0113】
培地の混合は、培養容器内の細胞が細胞凝集体の形態で成長し続けること、および分化することを可能にする。培地の混合は、実際に、分化用の適切な培地の存在下で細胞が予め選択された細胞型に分化することを可能にすることが見出された。
【0114】
本発明者らが驚いたことに、予め選択された(分化した)細胞型への細胞の分化中に、細胞凝集体は、プロセス終了時に良好かつ改善された細胞合計細胞計数(細胞の数)を示し、これは、予め選択された細胞型への分化を誘導/操縦する条件下での培養中の細胞数(収量)の継続的な増殖を示すことが分かった。同時に、この方法は、凝集体中の細胞の均一な分化を示した(したがって、予め選択された細胞型の均一な細胞集団を提供する)。
【0115】
換言すれば、本明細書中に開示されるような方法では、分化細胞(予め選択された細胞型)の収率ならびに得られた分化細胞の品質の両方を改善することが可能であり、この点で、大部分の細胞が、同じような内容で、予め選択された細胞型に分化し、分化細胞の相対的に均一な集団を提供し、得られた細胞集団(予め選択された細胞型)全体にわたって同等の特徴を示す。
【0116】
いくつかの実施形態では、ステップh)の混合は、少なくとも1、2、4、6、8、12、24、36または48時間、例えば最大1週間または2週間、例えば12~48時間、2~60時間または2~96時間継続し得る。
【0117】
培地を所望の時間混合して培養容器内の細胞の増殖および分化を可能にした後、ステップi)において、培養容器内の培地の混合を中止する。培地の混合を中止することにより、培地中の細胞凝集体を再び、好ましくは重力によって沈降させる。
【0118】
ステップd)について、ステップi)についても同様に、既に上で説明したように、培地の混合を中断する任意の期間を選択することができると考えられる。反応器の構成に応じて、凝集体を沈降させるのに必要な時間および/または単一細胞、分泌タンパク質およびエキソソームの大部分を培地中に浮遊させるのに必要な時間を容易に決定できることが見出された。典型的には、細胞凝集体が沈降する、すなわち培養容器の底に沈むのに必要な時間は、3リットルのバイオリアクター(容器)において5分~240分、好ましくは20分~60分である。沈降をあまりにも長く(例えば、480分を超えて)進行させた場合、これは細胞に損傷を引き起こし得るか、または細胞死の増加を引き起こし得ることが見出された。また、当業者によって理解されるように、そのような長い沈降時間は通常必要とされない。
【0119】
ステップj)において、培地の一部は、ステップe)について既に上で説明したように、培養容器から回収され得る。また、培地を培養容器からどのように除去するかにかかわらず、驚くべきことに、培地のすべてを回収して交換する場合ではなく、後続の新鮮培地を培地に添加する前に培地の一部のみを培養容器から回収する(したがって、前の培地の一部が後続の培地と混合される)場合に、良好に分化した細胞を望ましい量で得ることが可能であることが分かったことに留意されたい。
【0120】
ステップj)の好ましい実施形態では、培養容器内の培地の最大95体積%、90体積%、85体積%、または80体積%が回収されて、培地組成の効率的な切り替えおよび/または細胞によって培地に分泌された(単一の)細胞もしくは材料の採取が可能になる。例えば、培養容器が10リットルの培地を含む場合、最大で9500、9000、8500または8000ミリリットルの培地が培養容器から回収される。同時に、好ましくは、少なくとも30体積%、40体積%、50体積%、60体積%または70体積%の培地が培養容器から回収されることが分かった。したがって、いくつかの実施形態では、例えば30体積%~95体積%、または40体積%~95体積%、または50~95体積%、または60~90体積%、または60~80体積%、または70~90体積%、または70~80体積%の培地が培養容器から回収される。
【0121】
ステップj)の回収された培地は、排出されてもよく、または例えば培地中に存在する単一細胞を単離するために、またはそのような培地中に存在し得る他の材料、例えば分泌タンパク質、ホルモン、または好ましい実施形態ではエキソソームもしくは他の種類の細胞外小胞を回収するために使用されてもよい。
【0122】
好ましくは、ステップj)で培養容器から除去される培地の量は、上記ステップg)~i)が繰り返される場合に培養容器内に残っている培地と培養容器に添加される新鮮培地との比が1:1から1:15、例えば1:3から1:10、例えば1:4から1:8、例えば1:1.5または1:2.5または1:5であるような量である。新たに添加される培地に関して、上記ステップg)~i)が繰り返される場合、培養容器内の培地の一部を回収した後、その体積は回収された培地の体積とは異なり得ることに留意されたい。例えば、4リットルの培地が除去される場合、培養容器に導入される新鮮培地の体積は、4リットルであってもよいが、4リットルを超えるかまたは4リットル未満であってもよい。培養容器に添加される新鮮培地の体積は、例えば、培養容器から回収された培地の体積の10~200%、例えば50~150%であり得る。その結果、新鮮培地が添加された後の培地の体積は、同じであってもよく、以前の培地の体積よりも少なくてもよく、または多くてもよい(例えば、前の培地が10リットルであり、7リットルが除去された後、6リットルの新鮮培地が加えられる場合、新鮮培地が加えられた後の培地の体積は、前の培地の体積よりも1リットル少ない9リットルである)。
【0123】
ステップg)~i)は、例えば、予め選択された細胞型への細胞の分化が分化のためにいくつかの異なるまたは同じ培地の使用を必要とする場合、または例えば、予め選択された細胞または他の材料が回収された培地から得られる場合(例えば、そのような凝集体からではない)、必要または所望される頻度で繰り返されてもよく、ステップg)~i)の繰り返しおよび培地の回収は、培地中に存在するそのような予め選択された(例えば、凝集体から単一細胞として培地に分泌される)細胞の数を増加させることを可能にする。
【0124】
ステップi)の後に、得られた細胞が予め選択された細胞型に、または予め選択された細胞型に、十分に分化した後、培養容器内の細胞凝集体および/または培養容器内の培地は、既に上述したように、さらなる使用のために回収され得る。培地の細胞凝集体の回収およびさらなる取り扱いは、当業者に公知の細胞凝集体および/または培地の目的に適した任意の方法または手順によって行うことができる。
【0125】
本発明の好ましい実施形態では、本方法は、場合によってはステップj)における培地/細胞凝集体からの分化細胞の回収を除いて、ステップb)~j)のいずれかの間に遠心分離工程も濾過工程も含まない。遠心分離工程および/または濾過工程は、ステップb)~j)の間に細胞を培養する(回収しない)方法における手動または複雑な介入を必要とし、したがって、好ましくは、本明細書に開示される方法から除外される。むしろ、本明細書に開示される方法は、(例えば、ステップe)および/またはj))の間に培地の一部のみを回収することと組み合わせて)細胞凝集体の沈降のために重力に依存する。
【0126】
好ましい実施形態では、ステップg)~i)は、1つまたは複数の後続の培地を使用して、1回または複数回繰り返される。例えば、ステップg)~i)は、1、2、3、4、5回以上繰り返されてもよい。驚くべきことに、本発明による方法は、細胞を数サイクル成長させ、開示されるように培地を回収し、細胞のさらなる成長および分化を可能にするために新しい培地を添加することを可能にするのに十分に頑強であり、かつ十分に穏やかであることが見出された。
【0127】
細胞凝集体はほとんど無傷のままであり、細胞凝集体中の分化中の細胞は高度に生存可能なままであり、細胞の分化は比較的均一な様式で開始することが見出された。換言すれば、本明細書に開示される方法は、ステップg)~i)が1回または複数回繰り返される方法を提供することによって細胞のさらなるより良好な分化を可能にする。
【0128】
いくつかの実施形態では、細胞分化のために後続の培地を使用して(この培地は、使用される細胞の分化用の前の培地と同じであってもなくてもよい)ステップg)~i)を繰り返すことによって、多能性幹細胞に由来する細胞のさらなる分化がさらに促進される。
【0129】
このような分化サイクルの繰り返しは、得られる分化細胞の質ならびに本方法のスケーラビリティを高めた。
【0130】
いくつかの実施形態では、ステップb)において多能性幹細胞が単一細胞懸濁液の形態で導入されるか、またはステップb)において多能性幹細胞が細胞凝集体の形態で導入される、本明細書に開示される方法が提供される。実際、好ましくは、多能性幹細胞は、多能性幹細胞凝集体の集団として供給され得るが、代替として、多能性幹細胞を単一細胞として供給し(例えば、適切な培地に分散される)、これらの細胞が培養容器に存在すると凝集体を形成することも可能である。供給される多能性幹細胞は、1種類の多能性幹細胞であってもよく、または異なる種類の多能性幹細胞の混合物であってもよい。
【0131】
いくつかの実施形態では、ステップb)において、培地中の多能性幹細胞(単一細胞としておよび/または凝集体として)の量が、培地1ml当たり1×10から1×10の多能性幹細胞である、本明細書に開示される方法が提供される。換言すれば、そのような実施形態において、ステップc)で培養が開始される前の培養容器内の多能性幹細胞の初期細胞密度は、培地1ミリリットル当たり1×10から1×10細胞であり、好ましくは、細胞密度は培地1ミリリットル当たり5×10から5×10細胞である。
【0132】
予め選択された細胞型の高収率を得るために、多能性幹細胞の細胞密度は、望ましくは、得られる細胞の収率および品質に影響を及ぼすことが見出されたために高すぎないほうがよいことが分かった。例えば、多能性幹細胞が単一細胞の形態で導入される場合、培地中の細胞密度は、最初に形成される凝集体が好ましくは本明細書中下記に開示されるようなサイズを有するようなものでなければならず、これは、細胞密度が高すぎる(または低すぎる)場合には達成可能でない場合がある。
【0133】
本明細書に開示される方法の別の好ましい実施形態では、ステップc)またはステップg)で細胞の分化が誘導される前の多能性幹細胞の細胞密度は、培地1ミリリットル当たり1×10から1×10細胞であり、好ましくは初期細胞密度は培地1ミリリットル当たり5×10から5×10細胞である。換言すれば、本明細書中に開示されるような方法において予め選択された細胞型に分化する多能性幹細胞の細胞密度は、好ましくは培地1ミリリットル当たり1×10から1×10細胞であり、好ましくは培地1ミリリットル当たり5×10から5×10細胞である。
【0134】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、ステップb)の細胞は、細胞凝集体の形態で導入され、好ましくは、細胞凝集体は、10~150マイクロメートル、好ましくは25~140マイクロメートル、好ましくは、20~80マイクロメートル、30~60マイクロメートル、90~140マイクロメートルおよび100~120マイクロメートルから構成される群から選択されるサイズを有する。
【0135】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、ステップb)の細胞は単一細胞懸濁液の形態で導入され、単一細胞は、例えばステップc)の間に凝集体を形成することができ、形成される凝集体のサイズは、好ましくは、単一細胞を含む細胞懸濁液の導入、および/または細胞培養/培地混合の開始の約24~72時間に、10~150マイクロメートル、好ましくは25~140マイクロメートル、好ましくは、20~80マイクロメートル、30~60マイクロメートル、90~140マイクロメートルおよび100~120マイクロメートルから構成される群から選択される。
【0136】
そのために、ステップb)の細胞が単一細胞懸濁液の形態で導入され、細胞が10~150マイクロメートル、好ましくは25~140マイクロメートル、好ましくは、20~80マイクロメートル、30~60マイクロメートル、90~140マイクロメートル、および100~120マイクロメートルから構成される群から選択されるサイズを有する凝集体を形成することができる、本発明による方法も提供される。
【0137】
このサイズの細胞凝集体は、特にステップb)の細胞が単一細胞懸濁液の形態で導入される場合、本明細書に開示される方法で、予め選択された細胞型の最適な収量および品質を可能にすることが分かった。
【0138】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、予め選択された細胞型の製造量は、ステップb)で導入された多能性幹細胞の量の少なくとも10倍、好ましくは少なくとも15倍、少なくとも20倍または少なくとも25倍、好ましくは10~100倍、15~80倍または20~75倍である。上記の実施形態は、特に、ステップj)で回収される細胞凝集体から回収される予め選択された細胞型に関する。したがって、いくつかの実施形態または態様では、好ましくは閉鎖培養系において、使用される量の多能性幹細胞から分化した予め選択された細胞型の使用される多能性幹細胞の少なくとも10倍の量のインビトロ製造のための方法であって、上記および本明細書に開示されるステップを含む方法が提供される。好ましくは、この方法は、細胞凝集体の形態の予め選択された細胞型のためのものである。
【0139】
予め選択された細胞型が培地中で単一細胞として回収され得る実施形態では、例えば造血系統の細胞の場合、製造される予め選択された細胞型の量は、好ましくはステップb)で導入された多能性幹細胞の量の少なくとも10~1000倍、20~1000倍、好ましくは50~1000倍、例えば少なくとも20倍、30倍、50倍、80倍、100倍、250倍またはそれ以上である。したがって、いくつかの実施形態または態様では、好ましくは閉鎖培養系において、使用される量の多能性幹細胞から分化した予め選択された細胞型の使用される多能性幹細胞の少なくとも50倍の量のインビトロ製造のための方法であって、上記および本明細書に開示されるステップを含む方法が提供される。好ましくは、この方法は、単一細胞の形態の予め選択された細胞型のためのものである。
【0140】
いくつかの実施形態では、製造される予め選択された細胞型の量は、ステップb)またはステップg)において予め選択された細胞型に増殖するように誘導される多能性幹細胞の量の少なくとも上述の数倍である。
【0141】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、ステップj)で回収された細胞凝集体は、1000マイクロメートル未満のサイズを有し、好ましくは10~1000マイクロメートル、20~750マイクロメートルまたは50~500マイクロメートルのサイズを有する。この実施形態では、凝集体は、1mm未満の直径、好ましくは10から1000μm、好ましくは50μmから500μmの範囲内の直径を有する。凝集体サイズは、2つの理由で関連すると考えられる。第1に、増殖および/または分化の開始時の凝集体サイズが、分化効率に影響を及ぼし得ることが見出された。第2に、分化プロセス中、細胞の量は、より大きな凝集体に反映されるように増加するはずである。凝集体が過度に大きな栄養素利用可能性になると、律速の工程になり、壊死性コアおよび最適以下のバイオプロセス収率をもたらす。さらに、凝集体が大きすぎると、おそらく凝集体内の局所的影響により、予め選択された細胞型の均質性の低い集団が得られると考えられる。本明細書に開示される方法の一態様では、凝集体形成期間中、例えば単一細胞の接種後最初の24時間の回転速度/撹拌の調節を使用して凝集体サイズを最適化することができる。
【0142】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、培養容器内の培地の体積は、少なくとも1リットル、好ましくは少なくとも2リットル、3リットル、4リットル、5リットル、6リットル、7.5リットル、または10リットルであり、好ましくは培養容器内の培地は、1リットル~100リットル、好ましくは5リットル~50リットルである。
【0143】
本方法は、例えば3、10、40またはさらには100リットルの体積が増加した(それによって高収率を支持する)、好ましくは閉鎖された培養系での予め選択された細胞型の製造を可能にする。これは、本明細書に開示される方法の主な利点である。
【0144】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、少なくとも1×10細胞/ml培地、好ましくは少なくとも1.5×10細胞/ml、2.0×10細胞/ml、3.0×10細胞/ml、または5.0×10細胞/ml、例えば少なくとも1.5×10細胞/ml、2.0×10細胞/ml、3.0×10細胞/ml、4.0×10細胞/ml、5.0×10細胞/ml、8.0×10細胞/ml、12.0×10細胞/mlまたは20.0×10細胞/mlが製造される。
【0145】
本明細書に開示される方法は、少なくとも1×10細胞/ml培地、好ましくは少なくとも1.5×10細胞/ml、2.0×10細胞/ml、3.0×10細胞/ml、または5.0×10細胞/ml、例えば少なくとも1.5×10細胞/ml、2.0×10細胞/ml、3.0×10細胞/ml、4.0×10細胞/ml、5.0×10細胞/ml、8.0×10細胞/ml、12.0×10細胞/mlまたは20.0×10細胞/mlが製造されるまで、方法を継続することができるほど堅牢であることが分かった。
【0146】
したがって、好ましい実施形態では、方法は、少なくともそのような数の細胞が製造されるまで継続されることを含む。そのような数の細胞を生産することによって、本方法は、1つの系において、細胞療法で使用され得る予め選択された細胞型の多数の細胞を生産することができるという長年の必要性を満たす。
【0147】
上記に関連して、本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、少なくとも1×10個の予め選択された細胞が製造され、好ましくは少なくとも10×10、25×10,100×10,200×10、または500×10個の予め選択された細胞が製造される。また、本明細書に開示される方法は非常に堅牢であるため、予め選択された細胞型の細胞のそのような総数(例えば、少なくとも1×10個の予め選択された細胞)が生成されるまで本方法を継続することができることが分かった。したがって、好ましい実施形態では、方法は、少なくともそのような数の細胞が製造されるまで継続されることを含む。そのような数の細胞を生産することによって、本方法はまた、1つの系において、細胞療法で使用され得る予め選択された細胞型の多数の細胞を生産することができるという長年の必要性を満たす。
【0148】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、任意選択のステップf)は省略される、および/またはステップg)~i)は少なくとも1回、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25回繰り返される。
【0149】
好ましくは、ステップf)は、本明細書に開示される方法では省略される。さらにより好ましくは、本明細書中に開示される方法のステップb)において、予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するための培地が使用され、それにより、多能性幹細胞の増殖の任意のステップは省略される。換言すれば、ステップb)において、体積培地当たりの数または密度は、多能性幹細胞の任意の増殖を省略することを可能にし、予め選択された細胞型へ多能性幹細胞を直ちに誘導することを可能にする。
【0150】
好ましくは、ステップg)~i)は、少なくとも1回、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25回繰り返される。当業者が理解するように、ステップg)~i)を繰り返すことは、培地が細胞のさらなる分化を可能にする限り(これはまた、適用全体を通して、細胞が予め選択された細胞型に分化した後、細胞の分化状態を維持する培地を含むと理解されるべきである)、以前に使用された培地と同じまたは異なる培地を使用してこれらのステップを繰り返すことを含む。例えば、後続の培地は、含まれる化合物、細胞の分化または分化状態を操縦、誘導、増強および/または維持する化合物のみが異なり得るか、または他の成分(例えば、グルコース)に関して異なり得るか、またはその両方であり得る。
【0151】
本明細書に開示される方法によって、ステップg)~i)を数回繰り返すことが可能になることが分かった。これは、予め選択された細胞型への細胞の分化が、予め選択された細胞型を得るために異なる工程または異なる培地組成物を必要とする場合に特に有利である。
【0152】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、ステップc)またはh)は、それぞれ独立して、少なくとも12時間、1、2、3、4、5、6、もしくは7日間、好ましくは10日間以下、好ましくは7日間であり、および/またはステップh)は少なくとも12時間、1、2、3、4、5、6、もしくは7日間である。
【0153】
ステップc)およびまたはh)において、細胞は培地の存在下で培養され、その後のステップにおいて、培地は後続の培地に交換される、または後続の培地に交換されてもよい。培地の交換は、上記の間隔で行われ得る(すなわち、ステップc)またはh)の間に培地中で培養する12時間後、1、2、3、4、5、6、または7日後、好ましくは10日間以下、好ましくは7日後)。換言すれば、細胞は、好ましくは、本明細書に開示される方法の後続のステップで部分的に交換される前に、12時間、1、2、3、4、5、6、または7日間、好ましくは10日間以下、好ましくは7日間に少なくとも1回培地と接触する。
【0154】
本明細書に開示される方法の好ましい実施形態では、方法(ステップa)~j))は、少なくとも5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間、好ましくは7~90日間、10~60日間、15~40日間、または15~30日間にわたって行われる。提示された日数にわたって本方法を実施することによって、本方法は、予め選択された細胞型の高い収率を提供する。
【0155】
上記を考慮して、単なる例示として、本明細書に開示される方法の文脈において、予め選択された細胞型の製造は、例えば、以下のように実行され得る。
【0156】
状況A:多能性幹細胞を第1の増殖培地中で2日間増殖させ、第1の増殖培地を回収して第2の増殖培地(同じまたは異なる組成を有する)を供給し、多能性幹細胞の増殖を1日間継続し、第2の増殖培地を回収して第1の分化培地を供給し、細胞を1日間分化させ、第1の分化培地を回収して第2の分化培地(同じまたは異なる組成を有する)を供給し、細胞の分化を1、2、3または4日間継続し、第2の分化培地を回収して後続の分化培地(同じまたは異なる組成を有する)を供給し、細胞の分化を1、2、3または4日間継続し、後続の分化培地を回収して次の分化培地(同じまたは異なる組成を有する)を供給し、事前に選択された細胞型が得られ得るまで、またはそれが得られる限り、分化培地の回収、次の分化培地(同じまたは異なる組成を有する)の供給、および細胞分化の継続を繰り返す。
【0157】
状況B:多能性幹細胞に第1の分化培地を供給し、2日間にわたって細胞を分化させ、第1の分化培地を回収し、第2の分化培地(同じまたは異なる組成を有する)を供給し、例えば1、2、3または4日間にわたって細胞の分化を継続し、第2の分化培地を回収し、後続の分化培地(例えば同じ組成を有する)を供給し、1、2、3または4日間にわたって細胞の分化を継続し、後続の分化培地を回収し、次の分化培地(例えば、また同じ組成であるが、異なるpHを有する)を供給し、予め選択された細胞型が得られるまで、またはそれが得られる限り、分化培地の回収、次の分化培地(同じまたは異なる組成を有する)の供給および細胞分化の継続を繰り返す。
【0158】
本明細書に例示されるように、好ましい実施形態では、多能性幹細胞を増殖させるための異なる培地の組成が同じもしくは異なる、および/または予め選択された細胞型への(多能性幹)細胞の分化を誘導するための異なる培地の組成が同じもしくは異なる、本明細書に開示される方法が提供される。
【0159】
異なる増殖または分化のための培地を供給することによって、複数の分化サイクルを提供すること、または増殖工程とそれに続く1つ以上の分化工程とを同じ培養容器内で組み合わせることが可能である。
【0160】
好ましい実施形態では、ステップb)またはステップg)で供給される培地が、Rho関連タンパク質キナーゼ阻害剤、例えばY-27632二塩酸塩またはファスジルを含む、本明細書に開示される方法が提供される。
【0161】
別の実施形態では、既に上述したように、ステップe)および/またはj)において、培養容器内の培地の最大95体積%、90体積%、85体積%、または80体積%が回収される、本明細書に開示される方法が提供される。
【0162】
同時に、好ましくは、少なくとも50体積%、60体積%または70体積%の培地が培養容器から回収されることが分かった。したがって、いくつかの実施形態では、例えば50~95体積%、または60~90体積%、または70~90体積%の培地が培養容器から回収される。
【0163】
好ましくは、培養容器から除去される培地の量は、新しい新鮮培地が培養系に供給される場合に培養容器内に残っている培地と培養容器に添加される新鮮培地との比が1:1から1:15、例えば1:3から1:10、例えば1:4から1:8であるような量である。
【0164】
別の実施形態では、予め選択された細胞型が、心血管細胞、心筋細胞、内皮細胞、造血系統の細胞、造血前駆細胞、造血前駆細胞から分化した細胞、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、神経細胞、網膜細胞、肺細胞、肝細胞、または膵細胞である、本発明による方法が提供される。
【0165】
本明細書に開示される方法は、特定の(分化した)細胞型への分化に特に限定されないが、この方法は、凝集体の形態の上記の予め選択された細胞型を得る、および/または(例えば、細胞凝集体から分泌される)単一細胞の形態の培地から得るのに特に適していることが分かった。
【0166】
当業者は、多能性幹細胞が分化されることになる特定の細胞型を、本明細書中に開示されるような方法を使用して予め選択することによって、これがまた、本明細書中に開示される方法における使用のために好適である培地の種類(および必要とされる化合物)を決定することを理解する。
【0167】
前述のように、驚くべきことに、本明細書に開示される方法は、本明細書に開示される方法に従って調整されるが、様々な既知の分化プロトコルを利用することによって多種多様な細胞型への分化を可能にすることが見出された。例えば、予め選択された細胞が、心血管細胞、心筋細胞、内皮細胞、造血系統の細胞、造血前駆細胞、造血前駆細胞から分化した細胞、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、神経細胞、網膜細胞、肺細胞、肝細胞、または膵細胞である方法を使用することができる。
【0168】
さらなる実施形態では、回収される培地の一部または回収される培地が単一細胞および/または非凝集細胞を含み、好ましくは非凝集細胞のこれらの単一細胞が、造血系の細胞、造血前駆細胞、造血前駆細胞から分化した細胞、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞または樹状細胞から構成される群から選択される、本明細書に開示される方法が提供される。本明細書中に開示されるような方法はまた、造血分化プロセスにおいて見られるような(取得するように予め選択された細胞型としての)凝集体および単一細胞の両方を含む培養に特に適している。そのような培養では、凝集体は造血細胞を分泌/排出し続け、この細胞は、一定の間隔で培地から単一細胞として採取する必要がある。本方法は、濾過手段なしおよび/または遠心分離手段なしで、方法の異なるステップ中に回収された培地からそのような細胞を回収することを可能にする。
【0169】
さらに好ましい実施形態では、予め選択された細胞型増殖への多能性幹細胞の分化を誘導するための、培養容器に導入される培地が、初期発生に必要な特定のシグナル伝達経路を阻害または活性化することによって、予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導する1または複数の化合物を含む、本明細書に開示される方法が提供される。
【0170】
本発明の方法で使用される培地、特に分化に使用される培地は、例えば、シグナル伝達活性化剤またはシグナル伝達阻害剤を含むことができる。本明細書で使用される「活性化剤」という用語は、標的分子および/またはシグナル伝達経路の活性を増強または達成し、例えば、予め選択された細胞型への細胞の分化を促進する化合物/分子として定義される。「活性化剤」という用語は、特定のシグナル伝達経路に対して直接活性化効果を有する分子/化合物の両方を包含するが、例えばシグナル伝達経路を負に調節する(例えば、抑制する)分子と相互作用することによって、間接的に活性化する分子も包含する。活性化剤は、活性化されるシグナル伝達経路(受容体)のアゴニストであってもよい。
【0171】
活性化剤として使用することができる化合物/分子は、それぞれの経路を活性化することができるか、または活性化される経路の抑制因子を阻害する任意の化合物/分子であり得る。
【0172】
活性化剤は、活性化剤の添加なし(または添加前)の経路の活性と比較して、活性化される経路を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上増強または増加させ得る。
【0173】
本明細書に記載の活性化剤またはシグナル伝達/経路活性化剤とは対照的に、本明細書で使用される「阻害剤」は、標的分子および/またはシグナル伝達経路の活性を低減または遮断する化合物/分子として定義される。「阻害剤」という用語は、特定のシグナル伝達経路に対して直接的な低減/遮断効果を有する分子/化合物だけでなく、例えばシグナル伝達経路を正に調節する(例えば、起動する)分子と相互作用することによって間接的に阻害する分子も包含する。阻害剤はまた、阻害される経路(受容体)のアンタゴニストであり得る。
【0174】
阻害剤として使用することができる化合物/分子は、それぞれの経路を低減もしくは遮断することができるか、または阻害されるシグナル伝達(経路)の活性化剤を阻害する任意の化合物/分子であり得る。例示的な阻害剤には、例えば特定の経路の活性化剤に対する、本明細書に記載の適切な結合タンパク質が含まれ得る。
【0175】
阻害剤は、阻害剤を添加しない経路の活性と比較した場合、阻害される経路を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれを超えて低減または減少させ得る。阻害される経路の遮断は、阻害剤の添加なし(または添加前)の経路の活性と比較して、経路が100%阻害された場合である。
【0176】
本発明の方法で使用される培地は、例えば、アクチビン/TGF-β阻害剤を含むことができる。アクチビン/TGF-βシグナル伝達経路は当技術分野で公知であり、例えば、Heldin,Miyazono and ten Dijke(1997)“TGF-bold beta signaling from cell membrane to nucleus through SMAD proteins." Nature 390,465-471に記載されている。要するに、例えばTGFB1、TGFB2、TGFB3、ACTIVIN A、ACTIVIN B、ACTIVIN ABおよび/またはNODALを含む受容体リガンドは、2つのI型受容体キナーゼ(例えばTGFBR2、ACVR2Aおよび/またはACVR2Bを含む)および2つのII型受容体キナーゼ(例えばTGFBR1(ALK5)、ACVR1 B(ALK4)および/またはACVR1 C(ALK 7)を含む)を含む、ヘテロ四量体受容体複合体に結合する。この結合は、R-smad(例えばSMAD2および/またはSMAD3を含む)およびCo-smad(例えばSMAD4を含む)から構成されるヘテロマー複合体のリン酸化および活性化を引き起こす。したがって、「アクチビン/TGF-βシグナル伝達経路の活性化剤」という用語は、このシグナル伝達経路の一部を形成する上記の分子のいずれか1つの活性化剤を指し、「アクチビン/TGF-βシグナル伝達経路の阻害剤」という用語は、このシグナル伝達経路の一部を形成する上記の分子のいずれか1つの阻害剤を指す。さらに、そのような活性化剤は、ACVR2Aおよび/またはACVR1 B(ALK4)受容体のアゴニスト、またはTGF RII受容体および/またはALK5受容体のアゴニストであり得る。そのような阻害剤は、ACVR2Aおよび/またはACVR1 B(ALK4)受容体のアンタゴニスト、またはTGF RII受容体および/またはALK5受容体のアンタゴニストであり得る。原則として、アクチビン/TGF-βシグナル伝達経路のそのような阻害剤/活性化剤は当業者に公知であり、市販されている。
【0177】
本発明は、アクチビン/TGF-β阻害剤が、TGF-βI型受容体アクチビン受容体様キナーゼの阻害剤であることを意図する。本発明によってさらに想定されるのは、アクチビン/TGF-β阻害剤がALK5、ALK4および/またはALK7を阻害することである。アクチビン/TGF-β阻害剤の例示的であるが非限定的な例は、A-83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド;CAS番号:909910-43-6)、D4476(4-[4-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド;CAS番号:301836-43-1)、GW788388(4-[4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-2-ピリジニル]-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-ベンズアミド;CAS番号:452342-67-5)、LY364947(4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン;CAS番号:396129-53-6)、R268712(4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール;CAS番号:879487-87-3)、SB-431542(4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物;CAS番号:CAS番号301836-41-9)、SB-505124(2-5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩水和物;CAS番号:694433-59-5)、SD208(2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)^-[(4-ピリジル)アミノ]プテリジン;CAS番号:627536-09-8)、SB-525334(6-[2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル]-キノキサリン;CAS番号:356559-20-1)およびALK5阻害剤II(CAS:446859-33-2)である。したがって、アクチビン/TGF-β阻害剤は、SB-431542であり得る。
【0178】
SB-431542などのアクチビン/TGF-β阻害剤は、約0.01μM~約1 M、より好ましくは約5μM~約15μMの濃度で使用することができ、最も好ましい量は約10μMである。例えば、SB-431542は、Ascent Scientificから入手することができる。
【0179】
標準的なWntシグナル伝達経路は当業者に公知であり、例えばLogan and Nusse(Annu.Rev.Cell Dev.Biol.(2004)20:781-810)に記載されている。要するに、WntリガンドはFrizzled受容体に結合し、これが調節APC/Axin/GSK-3p複合体からの多機能キナーゼGSK-3Pの置換を引き起こす。Wntシグナル(オフ状態)の非存在下では、β-カテニンは、CK1およびAPC/Axin/GSK-3p複合体による協調的リン酸化によって標的化され、β-TrCP/SKP経路を介したそのユビキチン化およびプロテアソーム分解をもたらす。Wntリガンド(オン状態)の存在下では、補助受容体LRP5/6は、Wnt結合Frizzledと複合体を形成する。これは、GSK-3PをAPC/Axinから置換するDishevelled(Dvl)の活性化をもたらす。Wntリガンドの転写効果は、β-カテニンのRac1依存性核移行およびその後の転写のための活性化補助因子としてのLEF/TCF DNA結合因子の動員を介して媒介される。例示的なWntリガンドとしては、例えば、Wnt1、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt7a、Wnt7bおよび/またはWnt11が挙げられる。
【0180】
したがって、本明細書に記載の「標準的なWNTシグナル伝達活性化剤」という用語は、このシグナル伝達経路の一部を形成する上記の分子のいずれか1つの活性化剤を指す。例示的な標準的WNTシグナル伝達活性化剤としては、Norrin、R-スポンジン2またはWNTタンパク質が挙げられる。しかしながら、標準的なWNTシグナル伝達活性化剤は、AxinまたはAPCを遮断することもできる。これは、例えば、siRNAまたはmiRNA技術を介して達成することができる。標準的なWNTシグナル伝達活性化剤がGSK-3阻害剤であることも本発明に包含される。例示的なGSK-3阻害剤には、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル;CAS番号:252917-06-9)、SB-216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン;CAS番号:280744-09-4)、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(CAS番号:CAS667463-62-9)、チドグルシブ(4-ベンジル-2-(ナフタレン-1-イル)-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)、GSK-3阻害剤1(CAS番号:603272-51-1)、AZD1080(CAS番号:612487-72-6)、TDZD-8(4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン;CAS番号:327036-89-5)、TWS1 19(3-[[6-(3-アミノフェニル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル]オキシ]-フェノール;CAS番号:601514-19-6)、CHIR-99021(CAS番号:252917-06-9)、CHIR-98014(N6-[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(1H-イミダゾール-1-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]-3-ニトロ-2,6-ピリジンジアミン;CAS番号:252935-94-7)、SB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)-アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン;CAS番号:264218-23-7)、LY2090314(3-(9-フルオロ-2-(ピペリジン-1-カルボニル)-1,2,3,4-テトラヒドロ-[1,4]ジアゼピノ[6,7,1-hi]インドール-7-イル)-4-(イミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン;CAS番号:603288-22-8)、AR-A014418(N-(4-メトキシベンジル)-N’-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)尿素;CAS番号:487021-52-3および/またはIM-12(3-(4-フルオロフェニルエチルアミノ)-1-メチル-4-(2-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン;CAS番号:1 129669-05-1)が含まれる。したがって、GSK-3阻害剤はCHIR99021であってもよい。
【0181】
CHIR99021などの標準的なWNTシグナル伝達活性化剤は、約0,01μM~約1 M、より好ましくは約0,1μM~約10μM、または約0,1μM~約5μM、より好ましくは2~8μMの濃度で使用することができ、最も好ましい量は4~6μMである。CHIR99021は、例えばAxon Medchemから入手することができる。
【0182】
したがって、本明細書に記載の「標準的なWNTシグナル伝達阻害剤」という用語は、このシグナル伝達経路の一部を形成する上記の分子のいずれか1つの活性化剤を指す。例示的な標準的なWNTシグナル伝達阻害剤には、IWP-2、IWP-3、IWP-4、IWP-L6、XAV939およびIWR-1-ENDOが含まれる。IWPL-6およびXAVなどの標準的なWNTシグナル伝達阻害剤は、約0,01μM~約1M、より好ましくは約0,1μM~約10μMまたは約0,1μM~5μMの濃度で使用することができ、最も好ましい量は、XAV939について1~10μM、例えば2~8μMまたは3~7μM、およびIWP-L6について0,1μM~1μM、例えば0,15μM~0,50μMまたは0,20μM~0,30μMである。
【0183】
本発明の方法で使用される培地は、追加的または代替的に、BMPシグナル伝達阻害剤を含むことができる。BMPシグナル伝達経路は当業者に公知であり、例えば、Jiwang Zhanga,Linheng Lia(2005)BMP signaling and stem cell regulation Developmental Biology Volume 284,Issue 1,1 August 2005,Pages 1-11に記載されている。
【0184】
要するに、BMPは、受容体媒介性の細胞内シグナル伝達を介して機能し、その後、標的遺伝子転写に影響を及ぼす。このプロセスには、I型およびII型と呼ばれる2種類の受容体が必要である。II型BMP受容体(Bmprll)は1つしか存在しないが、I型受容体にはAlk2、Alk3(Bmprl a)およびAlk6(Bmprl b)の3つが存在する。BMPシグナル伝達は、少なくとも2つのシグナル伝達経路にわたって起こり得る。標準的なBMP経路は、受容体Iが媒介するSmad1、Smad5またはSmad8(R-Smad)のリン酸化によって媒介される。2つのリン酸化R-Smadは、共通のSmad4(co-Smad)と共凝集するヘテロ三量体複合体を形成する。Smadヘテロ三量体複合体は、核内に移行することができ、他の転写因子と協働して標的遺伝子発現を調節することができる。BMPシグナルのための並行経路は、TGFpi活性化チロシンキナーゼ1(MAPKKKであるTAK1)によって、およびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を介して媒介され、これはBMP経路とWnt経路との間のクロストークも含む。BMPシグナル伝達の阻害剤は、標準的なBMP経路を遮断/減少させることしかできない。したがって、BMPシグナル伝達阻害剤は、標準的なBMPシグナル伝達阻害剤であり得る。標準的なBMPシグナル伝達経路に対して選択されるそのような阻害剤の1つは、ドルソモルフィンである。BMPシグナル伝達阻害剤の例示的であるが非限定的な例としては、コルジン、ノギン、DMH1(CAS120671 1-16-1)、K 02288(3-[(6-アミノ-5-(3,4,5トリメトキシフェニル)-3-ピリジニル]フェノール;CAS番号:1431985-92-0)、ドルソモルフィン(6-[4-(2-ピペリジン-1-イルエトキシ)フェニル]-3-ピリジン-4-イルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン;CAS番号:866405-64-3)およびLDN193189(4-[6-[4-(1-ピペラジニル)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-キノリン塩酸塩,CAS番号:1062368-24-4)が挙げられる。BMPシグナル伝達阻害剤はまた、ドルソモルフィンであり得る。
【0185】
本発明の方法で使用される培地は、追加的または代替的に、SHH経路活性化剤を含むことができる。「ヘッジホッグシグナル伝達経路」または「SHH経路」は、当技術分野で周知であり、例えばChoudhry et al.(2014)“Sonic hedgehog signaling pathway:a complex network." Ann Neurosci.21(1):28-31に記載されている。例えば、ソニックヘッジホッグ、インディアンヘッジホッグ、および/またはデザートヘッジホッグを含むヘッジホッグリガンドは、例えば、下流のシグナル伝達カスケードを誘導するPatchedまたはpatched-smoothened受容体複合体を含む受容体に結合する。SHHシグナル伝達の下流標的遺伝子には、GLI1、GLI2および/またはGLI3が含まれる。したがって、「ヘッジホッグシグナル伝達経路の活性化剤」という用語はまた、このシグナル伝達経路の一部を形成する上記の分子のいずれか1つの活性化剤を指す。
【0186】
ヘッジホッグシグナル伝達(SHH)の例示的な活性化剤には、プルモルファミン(PMA;2-(1-ナフトキシ)-6-(4-モルホリノアニリノ)-9-シクロヘキシルプリン9-シクロヘキシル-N-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-2-(1-ナフタレニルオキシ);CAS番号:483367-10-8)、SHH、平滑化アゴニスト(SAG;3-クロロ-N-[trans-4-(メチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[[3-(4-ピリジニル)フェニル]メチル]ベンゾ[b]チオフェン-2-カルボキサミド;CAS番号:912545-86-9)およびHh-Ag 1.5(3-クロロ-4,7-ジフルオロ-N-(4-(メチルアミノ)シクロヘキシル)-N-(3-(ピリジン-4-イル)ベンジル)ベンゾ[b]チオフェン-2-カルボキサミド;CAS番号:612542-14-0)ならびにGli-2が含まれる。SHH経路活性化剤は、プルモルファミン、SHH、SAGアナログおよびGli-2から構成される群から選択することもできる。したがって、SHH経路活性化剤は、プルモルファミンであり得る。SHH経路活性化剤はまた、SHH経路活性化機能(例えば、SHH C24IIなど)を保持するSHHの組換え型または切断型であり得る。
【0187】
プルモルファミンなどのSHHシグナル伝達経路活性化剤は、約0,25μM~約1 M、より好ましくは約0,4μM~約0,5μMの濃度で使用することができ、最も好ましい量は約0,5μMである。SHHなどのSHHシグナル伝達経路活性化剤も、約50~約1000 ng/mlで使用することができる。SHH C24IIなどのSHHシグナル伝達経路活性化剤も、約10および約500ng/mlの濃度で使用することができる。SAGなどのSHHシグナル伝達経路活性化剤は、約1nMおよび約100nMの濃度で使用することができる。Hh-Ag1.5などのSHHシグナル伝達経路活性化剤は、約1nMおよび約50nMの濃度で使用することもできる。
【0188】
本発明の方法で使用される培地は、アドレノメデュリン(AM)、アンジオポエチン(Ang)、細胞運動刺激因子、毛様体神経栄養因子(CNTF)、白血病阻害因子(LIF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、上皮成長因子(EGF)、エフリンA1、エフリンA2、エフリンA3、エフリンA4、エフリンA5、エフリンB1、エフリンB2、エフリンB3、エリスロポエチン(EPO)、線維芽細胞成長因子1(FGF1)、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、線維芽細胞成長因子3(FGF3)、線維芽細胞成長因子4(FGF4)、線維芽細胞成長因子5(FGF5)、線維芽細胞成長因子6(FGF6)、線維芽細胞成長因子7(FGF7)、線維芽細胞成長因子8(FGF8)、線維芽細胞成長因子9(FGF9)、線維芽細胞成長因子10(FGF10)、線維芽細胞成長因子11(FGF11)、線維芽細胞成長因子12(FGF12)、線維芽細胞成長因子13(FGF13)、線維芽細胞成長因子14(FGF14)、線維芽細胞成長因子15(FGF15)、線維芽細胞成長因子16(FGF16)、線維芽細胞成長因子17(FGF17)、線維芽細胞成長因子18(FGF18)、線維芽細胞成長因子19(FGF19)、線維芽細胞成長因子20(FGF20)、線維芽細胞成長因子21(FGF21)、線維芽細胞成長因子22(FGF22)、線維芽細胞成長因子23(FGF 23)、ウシ胎児成長ホルモン(FBS)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、ニューロン、ペルセフィン、アルテミン、成長分化因子9(GDF9)、肝細胞成長因子(HGF)、肝細胞由来成長因子(HDGF)、インスリン、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、インスリン様成長因子-2(IGF-2)、IL-1、IL-2、IL-3、IL4、IL-5、IL6、IL7、ケラチノサイト成長因子(KGF)、移動刺激因子(MSF)、マクロファージ刺激タンパク質(MSP)(肝細胞成長因子様タンパク質(HGFLP)としても知られる)、ミオスタチン(GDF-8)、ニューレグリン1(NRG1)、ニューレグリン2(NRG2)、ニューレグリン3(NRG3)、ニューレグリン4(NRG4)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4(NT-4)、胎盤成長因子(PGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、レナラーゼ(RNLS)、T細胞成長因子(TCGF)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、血管内皮成長因子(VEGF)の群から選択されるタンパク質またはステロイドホルモン成長因子を追加的または代替的に含むことができる。
【0189】
上記のシグナル伝達分子および経路、ならびにその経路の阻害剤および/または活性化剤が様々な細胞型への分化において果たす役割は、当業者に周知である。当業者はまた、特定の予め選択された細胞型に分化するために、上記の活性化剤と阻害剤との組み合わせが、同じ培地または連続培地のいずれかで使用され得ることを知っている。例えば、特定の経路の阻害剤を第1の分化培地で使用し、続いて同じ経路の活性化剤を第2または次の分化培地で使用することができる。
【0190】
本明細書に開示される方法のさらなる実施形態では、ステップb)および/またはg)、好ましくはステップg)で供給される培地は、好ましくは約0,1~10mg/ml培地の範囲のポリビニルアルコールを含む。培地中のPVAの存在が本発明の方法において望ましいことが見出された。
開示される方法のさらなる実施形態では、予め選択された細胞型への細胞の分化を誘導するための培地が、予め選択された細胞型への細胞の分化を誘導する1または複数の化合物を含み、好ましくは、1または複数の化合物が、Wnt経路活性化剤、Wnt経路阻害剤、アクチビン経路活性化剤、TGFβ経路活性化剤、BMP経路活性化剤、アクチビン経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、BMP経路阻害剤、およびVEGF経路活性化剤から構成される群から選択されることが提供される。
【0191】
別の実施形態では、予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導する1または複数の化合物が、心血管細胞、心筋細胞、内皮細胞、造血系統の細胞、造血前駆細胞、造血前駆細胞から分化した細胞、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、神経細胞、網膜細胞、肺細胞、肝細胞または膵細胞への多能性幹細胞の分化を誘導する化合物から構成される群から選択される、本明細書に開示される方法が提供される。
【0192】
別の実施形態では、予め選択された細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するための培地が、甲状腺ホルモンおよび/または甲状腺ホルモン類似体を含む、本明細書に開示される方法が提供される。本明細書で使用される「甲状腺ホルモン」または「甲状腺ホルモン類似体」という用語は、甲状腺ホルモン(トリヨードチロニン(T3)とも呼ばれる)およびT4、ならびに甲状腺ホルモンT3に類似するかまたは甲状腺ホルモンT3の作用を模倣する他の化合物を指す。非限定的な例としては、甲状腺ホルモン受容体アゴニスト化合物、例えばDITPA(3,5-ジヨードチロプロピオン酸またはDITPAとも呼ばれる)、GC-1化合物(Bristol-MyersSquibb製の甲状腺ホルモン受容体サブタイプβ(TRβ)選択的アゴニスト)、RO化合物(Roche Pharmaceuticals製の甲状腺ホルモン受容体サブタイプβ1(TRβ)選択的アゴニスト)、C023化合物(KaroBio製の甲状腺ホルモンサブタイプα1(TRalphal)選択的アゴニスト)およびKB21 15(KaroBio製の甲状腺ホルモン受容体サブタイプβ(THβ)選択的アゴニスト)が挙げられる。
【0193】
別の実施形態では、分化用培地は、グルコースおよび/またはガラクトースを含む。別の実施形態では、分化用培地は、グルコースおよび/またはガラクトースを含まない。いくつかの実施形態では培地は血清を含み、他の実施形態では培地は血清を含まない。
【0194】
別の実施形態では、分化用培地は化学的に定義される。別の実施形態では、すべての構成要素がcGMPに準拠している。
【0195】
別の実施形態では、培地は、例えばせん断応力および発泡を低減するために、バイオリアクターでの使用に特に最適化される。この目的に特に有用な試薬は、ポリビニルアルコールおよびPluronic F68である。
【0196】
別の実施形態では、多能性幹細胞が人工多能性幹細胞、好ましくはヒト多能性幹細胞またはヒト人工多能性幹細胞である、本明細書に開示される方法が提供される。
【0197】
別の実施形態では、予め選択された細胞型に分化した細胞が、細胞凝集体または回収された培地から得られる、本明細書に開示される方法が提供される。
【0198】
別の実施形態では、造血幹細胞、造血前駆細胞、単球、マクロファージ、T細胞、NK細胞、B細胞および/または樹状細胞などの造血系統の細胞は、培地から単一細胞として単離される。
【0199】
別の実施形態では、分泌タンパク質および/または分泌エキソソームが培地から単離される。例えば、心臓分化プロセスで生じるエキソソームは、心疾患の治療に特に有用であると考えられ、肝臓分化プロセス中に生じるエキソソームは、肝疾患などの治療に特に有用であると考えられる。
【0200】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法で得られた予め選択された細胞型は、細胞療法に使用することができる。細胞療法は、臓器機能を回復させるために細胞が移植されるか、または例えば癌を治療するための免疫療法である、再生医療の形態であり得る。
【0201】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法で得られた予め選択された細胞型は、薬学的に許容される量および薬学的に許容される組成物で製剤化することができる。そのような組成物は、いくつかの実施形態では、塩、緩衝剤、保存剤、および場合により他の治療剤を含有し得る。医薬組成物はまた、いくつかの実施形態では、適切な防腐剤を含有し得る。本明細書中に開示される組成物は、例えば器官修復、癌、自己免疫疾患および感染症の治療を含む、多数の治療的有用性を有する。
【0202】
そのため、細胞療法または細胞療法による治療方法に使用するための医薬組成物も提供され、細胞療法は、予め選択された細胞型をそれを必要とする対象に提供するステップを含み、予め選択された細胞型が本明細書に定義および開示される方法で製造されているか、または細胞療法は、本明細書に定義または開示される方法で予め選択された細胞型を製造し、予め選択された細胞型をそれを必要とする対象に提供するステップを含む。
【0203】
多能性幹細胞を予め選択された細胞型に、好ましくは本明細書に開示される方法に従って分化させる際の閉鎖培養系の使用も提供される。
【0204】
最後に、少なくとも1×10個の予め選択された細胞、好ましくは少なくとも10×10個、25×10個、100×10個、200×10個、もしくは500×10個の予め選択された細胞の、および/または、少なくとも1×10細胞/ml培地、好ましくは少なくとも1.5×10細胞/ml、2.0×10細胞/ml、3.0×10細胞/ml、もしくは5.0×10細胞/ml、例えば少なくとも1.5×10細胞/ml、2.0×10細胞/ml、3.0×10細胞/ml、4.0×10細胞/ml、5.0×10細胞/ml、8.0×10細胞/ml、12.0×10細胞/ml、または20.0×10細胞/mlを含む少なくとも1リットル、好ましくは少なくとも2リットル、3リットル、4リットル、5リットル、6リットル、7.5リットル、もしくは10リットルの培地、好ましくは1リットル~100リットル、好ましくは5リットル~50リットルの培地を含む、好ましくは閉鎖された培養系が提供される。
【0205】
本明細書に開示されている実施形態の一態様に関して説明されているすべての詳細、実施形態および選好は、本明細書に開示されている任意の他の態様または実施形態にも同様に適用可能であり、したがって、すべての態様についてすべてのそのような詳細、実施形態および選好を別々に詳述する必要はないことが理解されよう。
【0206】
本発明を一般的に説明してきたが、例示として提供され、本発明を限定することを意図するものではない以下の実施例を参照することによって、本発明はより容易に理解されるであろう。
【実施例
【0207】
実施例1 閉鎖型プロセスにおける大規模iPSC心筋細胞の製造
Polystyrene CellSTACK(登録商標)-2室(Corning、カタログ番号3269)を設け、mTeSR1(Stem cell technologies)/Matrigel(corning)で3日間増殖させた約70%コンフルエントな遊離iPSC培養液を供給した。細胞を100mLのPBS(Ca2+およびMg2+なし、37℃に加温)で2回洗浄した。細胞を、フラスコ当たり60mLの予め温めたAccutaseで解離させ、37℃で4分以下インキュベートした。フラスコの側面をタップして、細胞を表面から除去した。細胞を、50mLのストリペットで上下にピペッティングすることによって再懸濁した。剥離した細胞を、10μMのY-27632を含む100mlのmTeSR培地を含有する500mL円錐遠心管に移した。フラスコを、10μMのY-27632を含有する100mlのmTeSRで2回すすぎ、遠心管に移した。管を250gで10分間遠心分離し、10μMのY27632を含有する最終的な100mLのStemBrew(Miltenyi)に再懸濁した(合わせたペレット)。血球計算盤を用いて細胞を計数した。接種材料(接種材料の最終体積500mL、バイオリアクター内の最終細胞密度を20万/mLに設定した)を調製し、細胞懸濁液を採取ポートを介してバイオリアクター(BioFlo Eppendorf)(10μMのY27632と2.5LのStembrewを含む)に空気圧によって加えた。閉鎖培養系(3L)を72時間運転した(15% DO(溶存酸素)、130rpm、37C、pH7.15~7.4、培地の酸性化を回避するためにNaHCO3を使用して制御)。
【0208】
「CDM」は、IMDM/F12培地(Gibco)中に0.25%アルブミン、0.125%ポリビニルアルコール(Sigma-Aldrich)、1%の化学的に定義された脂質濃縮物(Gibco)、0.5%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、0.001%のトレースエレメントB(Corning)、0.01%のトレースエレメントC(Corning)、2mMのGlutaMAX(Gibco)、0.05mg/mlのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich)、450μMのα-モノチオグリセロール(Sigma-aldrich)を混合することによって調製した。「CDM-成熟」は、1%のITS-X(Gibco)、クレアチン(5.7mM)、カルニチン(2mM)、タウリン(2.5mM)および甲状腺ホルモン(44.5nM)をCDM培地に添加することによって調製した。
【0209】
72時間後(0日目)、バイオマス(細胞凝集体)を1時間沈降させた。馴化培地(2.2L)を回収ボトル/バッグに圧送し、5μMのChir99021を含有する2.5LのCDMをバイオリアクター/培養容器に圧送してWntシグナル伝達を活性化し、分化を開始させた。新たな培地添加開始直後に撹拌を開始した。24時間後(1日目)、バイオマスを1時間沈降させた。続いて、2.5Lの馴化培地を回収ボトル/バッグに圧送した。次に、5μMのChir99021を補充した2.5LのCDMをバイオリアクターに圧送した。
【0210】
24時間後(2日目)、バイオマスを1時間沈降させた。馴化培地(2.5L)を回収ボトル/バッグに圧送し、Wntシグナル伝達を阻害するために5μMのXav939および0.25μMのIWPL6を含有する2.5LのCDMをバイオリアクターに圧送した。
【0211】
24時間後(3日目)、バイオマスを1時間沈降させた。馴化培地(2.5L)を回収ボトル/バッグに圧送し、Wntシグナル伝達を阻害するために5μMのXav939および0.25μMのIWPL6を含有する2.5LのCDMをバイオリアクターに圧送した。
【0212】
4日目に、使用済み培地を回収ボトル/バッグに圧送した。続いて、0.1%のITS-X(Gibco)を補充した2.5LのCDMをバイオリアクターに圧送した。新たな培地添加開始直後に撹拌を開始した。
【0213】
24時間後(5日目)、バイオマスを1時間沈降させた。使用済み培地(2.5L)を回収ボトル/バッグに圧送し、0.1%のITS-Xを補充した2.5LのCDMをバイオリアクターに圧送した。この工程を6、7、8、9、10、11、12および13日目に繰り返した。場合により、培地を、好ましくは7日目に、CDM成熟培地に交換した。
【0214】
iPSC-CMの採取および凍結保存
バイオリアクター(約3.3Lの培地)を停止させ、典型的なサイズが400~600μm(例えば、14日目)の凝集体を30分間沈降させた。約2.5Lの培地を汲み上げ、残りのバイオマス(約800mL)を回収ポート(ガス圧を使用)を介して2Lのボトルに採取した。凝集懸濁液を2Lのボトルから回収管に回収した。続いて、フローサイトメトリー分析によって細胞の同一性を測定した。細胞を1xまたは10x TrypLE(商標)Select Enzyme(Life Technologies)で解離させ、PBSで洗浄し、Inside Fix(Miltenyi)で固定および透過処理した。サンプルをトロポニンT(TNNT2)抗体またはアイソタイプコントロール(製造者の説明書によるMiltenyi希釈液)と共にインキュベートした。サンプルをNovocyte(商標)フローサイトメーター(ACEA Biosciences)で分析し、適切なアイソタイプコントロール(Miltenyi)と比較した。総細胞数は、1mL当たり約300万~500万細胞であり、マーカートロポニンTについて陽性の細胞は>80%であり、iPSCの心筋細胞への変換は約15を示した。凝集体は、酵素ベースの解離後に単一細胞として、または凍結保護剤を含む適切な培地中で凝集体として凍結保存した。
【0215】
実施例2-内皮凝集体を生成するための閉鎖型プロセス
凝集体形成を促進するために、10μMのY-27632を含有する250mlのStemMACS(商標)iPS-Brew XF(Miltenyi)中、4万/mLの密度で、iPSCをバイオリアクター(Dasbox Eppendorf)に接種し、pHはNaHCO3を使用してpH7.2および7.4の範囲で制御した。撹拌速度は200rpm(DO 15%、37℃)であった。72時間後(0日目)、バイオマス(典型的なサイズが50~70μmの凝集体)を1時間沈降させた。馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送した。
【0216】
「EDM」は、IMDM/F12培地(Gibco)中に0.25%アルブミン、1%の化学的に定義された脂質濃縮物(Gibco)、0.5%のペニシリン/ストレプトマイシン(gibco)、0.001%のトレースエレメントB、0.01%のトレースエレメントC、2mMのGlutaMAX、0.05mg/mlのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich)、450μMのα-モノチオグリセロール(Sigma-aldrich)を混合することによって調製した。
【0217】
10μMのCHIR99021(Axon Medchem)および31.25ng/mLのBMP4(R&D Systems)を含有する200mLのEDMをバイオリアクターに添加することによって分化を誘導した。
【0218】
72時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、62.5ng/mLのVEGFおよび12.5μMのSB431542(Tocris)を含有する200mLのEDMを添加した。
【0219】
120時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、62.5ng/mLのVEGFおよび12.5μMのSB431542(Tocris)を含有する200mLのEDMを添加した。
【0220】
168時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、200~500μmの凝集体サイズを有する残りのバイオマス(約50mL)を採取ポート(ガス圧を使用)を介して凍結保存用の管に採取した。
【0221】
内皮マーカーCD31およびCD144についてフローサイトメトリーによって純度を測定したところ、典型的な純度は内皮細胞約60%であり、iPSCから内皮細胞への変換率(収率)は約15であった。Miltenyi CD31+マイクロビーズキットなどの磁気ビーズを使用して選別することによって、純度をさらに高めることができた。
【0222】
実施例3-単一細胞単球を生成するための閉鎖型プロセス
上記と同様に、mTeSR1培地(stem cell technologies)中の250mLバイオリアクターで50~70μmのHiPSC凝集体を生成した。分化を開始するために、凝集体を1時間静置させた。200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送した。
【0223】
62.5ng/mlのBMP4、62.5ng/mlのVEGFを含有する200mLのmTeSR1を添加することによって分化を誘導し、25ng/mlのSCFをバイオリアクターに添加した。
【0224】
48時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、50ng/mlのBMP4、50ng/mlのVEGF、20ng/mlのSCFを含有する200mLのmTeSR1をバイオリアクターに添加した。
【0225】
96時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグ分化に圧送し、25ng/mlのIL3および100ng/mlのM-CSFを補充したXVIVO15(Lonza)基礎培地を添加することによって、単球系統まで直接分化を継続して、培地中の単球の形成を促進した。この工程を11、18、25、32、39および46日目に繰り返した。浮遊CD11b、CD45およびCD14陽性単球のバッチを32、39および46日目に回収フラスコ/バッグから採取し、当業者に公知の方法を使用して凍結保存した。単球はCD14、CD11bおよびC45について>90%陽性であり、変換率(収率)は幹細胞1から単球約12であった。
【0226】
実施例4-単一細胞HPCおよび単球を生成するための閉鎖型プロセス
上記のように250mLバイオリアクター中でHiPSC凝集体を生成させた。分化を開始するために、凝集体を1時間静置させた。200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送した。
【0227】
HDM培地は、IMDM/F12培地中で0.25%アルブミン、0.1%メチルセルロース(Sigma-Aldrich)、0.1%ポリビニルアルコール(Sigma-Aldrich)、1×GlutaMAX、1×アスコルビン酸-2-リン酸(Sigma-Aldrich)、1%の化学的に定義された脂質濃縮物invitrogen)、1% ITS-X、2-メルカプトエタノール(22nM)および無タンパク質ハイブリドーマミックスII(4%)を混合することによって調製した。ステージI補充物質は、CHIR99021(最終濃度0.5μM;Tocris)、アクチビンA(最終濃度10ng/ml;R&D Systems)、BMP4(最終濃度20~40ng/ml;R&D Systems)、SCF(最終濃度20ng/ml)、VEGF(最終濃度20ng/ml)およびbFGF(最終濃度5~10ng/ml)であった。ステージII補充物質は、CHIR99021(0.5μM)、アクチビンA(10ng/ml)、BMP4(20ng/ml)、SCF(20ng/ml)、VEGF(20ng/ml)およびbFGF(10ng/ml)であった。ステージIII補充物質は、CHIR99021(3μM)、SB-431542(3μM;Cayman Chemical)、BMP4(20ng/ml)、SCF(20ng/ml)、VEGF(20ng/ml)およびbFGF(10ng/ml)であった。ステージIV補充物質は、BMP4(20ng/ml)、VEGF(50ng/ml)、SCF(50ng/ml)、IGFII(20ng/ml)およびbFGF(10ng/ml)であった。
【0228】
200mLのHDM培地とステージI補充物質をバイオリアクターに添加することによって分化を誘導した。24時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、ステージII補充物質を含有する200mLのHDMを添加した。
【0229】
48時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、ステージIII補充物質を含有する200mLのHDMを添加した。
【0230】
72時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、ステージIII補充物質を含有する200mLのHDMを添加した。
【0231】
96時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、ステージIV補充物質を含有する200mLのHDMを添加した。
【0232】
144時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、ステージIV補充物質を含有する200mLのHDMを添加した。
【0233】
192時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグ分化に圧送し、25ng/mlのIL3および100ng/mlのM-CSFを補充したXVIVO15(Lonza)基礎培地を3~7日ごとに補充することによって、単球系統まで直接分化を継続した。21日目以降、>90%のCD14、CD45、CD11bを発現する単一浮遊単球を培地から採取することができ、変換率(収率)は幹細胞1から単球約100までであった。
【0234】
あるいは、CD34、CD45陽性造血前駆細胞(HPC)の形成を促進するために、VEGF(50ng/ml-1)、SCF(100ng/ml-1)、bFGF(10ng/ml-1)、FLT3L(10ng/ml-1)およびIL3(10ng/ml-1)から構成されるカクテル1を補充したHDM、またはTPO(10~25ng/ml)、SCF(10~25ng/ml)、Flt3L(10~25ng/ml)、IL-3(2~10ng/ml)、IL-6(2~10ng/ml)、SRI(0.75mM)、OSM(2~10ng/ml)およびEPO(2U/ml)から構成されるカクテル2を補充したHDMに、196時間で培地を切り替えた。
【0235】
HPCプロセスおよび単球プロセスの両方について、上記の方法を使用して、3~7日ごとに45日目まで培地を交換した。さらなる処理のために単一細胞を回収ボトルから単離し、さらなる培養のために凝集体を沈降させた。
【0236】
実施例5-hiPSCから皮質ニューロンを生成するための閉鎖型プロセス
上記のように、mTeSR1培地(stem cell technologies)中の250mLバイオリアクターでHiPSC凝集体を生成した。分化を開始するために、凝集体を1時間静置させた。200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送した。
【0237】
12.5μMのアクチビン/TGF-b阻害剤SB431542(R&D Systems)および1.25μMのBMP阻害剤LDN193189(Stemgent)を含有する200mLのmTeSR1をバイオリアクターに添加することによって分化を誘導した。
【0238】
NDM培地Iは、15%KSR(Invitrogen)、KO DMEM(Invitrogen)、2mMのL-グルタミン(Gibco)、1%非必須アミノ酸(NEAA)(Gibco)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)および50μMのβ-メルカプトエタノール(Gibco)を混合することによって調製した。
【0239】
NDM培地IIは、DMEM/F12(Invitrogen)、1%N2補充物質(Gibco)、ビタミンAを含まない2%B27補充物質(Life Technologies)、1%Glutamax(Gibco)、1%NEAA(Gibco)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を混合することによって調製した。
【0240】
24時間、48時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、2μMのXAV939、10μMのSB431542(R&D Systems)および1,25μMのBMP阻害剤LDN193189(Stemgent)を含有する200mLのNDM培地Iをバイオリアクターに添加した。
【0241】
72時間の分化の後、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、200mLのNDM培地I、10μMのSB431542(R&D Systems)および1,25μMのBMP阻害剤LDN193189(Stemgent)をバイオリアクターに添加した。
【0242】
分化の5日目に、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、10μMのSB431542(R&D Systems)および1,25μMのBMP阻害剤LDN193189(Stemgent)を含有する200mLのNDM培地I/II(68,75%/31,25%)をバイオリアクターに添加した。
【0243】
分化の6日目に、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、10μMのSB431542(R&D Systems)および1,25μMのBMP阻害剤LDN193189(Stemgent)を含有する200mLのNDM培地I/II(43,75%/56,25%)をバイオリアクターに添加した。
【0244】
分化の8日目に、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、200mLのNDM培地I/II(18,75%/81,25%)をバイオリアクターに添加した。
【0245】
分化の10、13、17日目に、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、200mLのNDM培地IIをバイオリアクターに添加した。
【0246】
分化の20、23、27、30日目に、凝集体を沈降させ、200mLの馴化培地(200mL)を回収ボトル/バッグに圧送し、10ng/mlの脳由来神経栄養因子(BDNF)および10ng/mlのグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)(両方ともR&D systems)を含有する200mLのNDM培地IIをバイオリアクターに添加した。
【0247】
実施例6
iPSC凝集体を、培地の一部(例えば、70体積%、80体積%および/または90体積%)または培地のすべてを2、3、4および6日目に新しくする2つの培地リフレッシュ戦略を用いて、6日間で造血性内皮細胞に分化させた。6日目に細胞数を測定した。異なる日に培地の一部を新しくした戦略では、この実験において総細胞数の117%超(2倍超)の増加が示され、目的の細胞型(CD34+、CD73-)は少なくとも10%増加した。理論に束縛されるものではないが、これらの結果は、ストレスの減少、操作による細胞の損失減少、または細胞によって分泌される有益なサイトカインに起因し得る、培地の一部交換に対する(実質的に)完全な交換を含む戦略で培養がより良好に機能していることを示唆している。
【0248】
本発明を十分に説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、過度の実験をすることなく、広範囲の同等のパラメータ、濃度、および条件内で同じことを実施できることが当業者には理解されよう。
【0249】
本発明をその特定の実施形態に関連して説明してきたが、さらなる変更が可能であることが理解されよう。本出願は、一般に、本発明の原理に従って、また本発明が関係する技術分野内の既知のまたは慣習的な実施の範囲内にあり、添付の特許請求の範囲において以下に記載される本質的な特徴に適用され得るような本開示からの逸脱を含む、本発明の任意の変形、使用、または適合を網羅することを意図している。
【0250】
本明細書に引用されたすべての参考文献(雑誌論文または要約、公開または対応する特許出願、特許、または任意の他の参考文献を含む)は、引用された参考文献に提示されたすべてのデータ、表、図、およびテキストを含め、参照により本明細書に完全に組み込まれる。さらに、本明細書に引用された参考文献内で引用された参考文献の全内容もまた、参考文献によって完全に組み込まれる。
【0251】
既知の方法ステップ、従来の方法ステップ、既知の方法または従来の方法への言及は、本発明の任意の態様、説明または実施形態が関連技術において開示、教示または示唆されることを決して自認するものではない。
【0252】
特定の実施形態の前述の説明は、本発明の一般的な性質を十分に明らかにするので、他の者は、当業者の技術の範囲内の知識(本明細書で引用される参考文献の内容を含む)を適用することによって、本発明の一般的な概念から逸脱することなく、過度の実験なしに、そのような特定の実施形態を様々な用途に容易に修正および/または適合させることができる。したがって、そのような適合および修正は、本明細書に提示された教示およびガイダンスに基づいて、開示された実施形態の均等物の意味および範囲内にあることが意図されている。本明細書の表現または用語は、限定ではなく説明のためのものであり、本明細書の用語または表現は、当業者の知識と組み合わせて、本明細書に提示された教示およびガイダンスに照らして当業者によって解釈されるべきであることを理解されたい。
図1
【国際調査報告】