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特表2023-536450殺菌作用を有するインドールアルカロイド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-25
(54)【発明の名称】殺菌作用を有するインドールアルカロイド
(51)【国際特許分類】
   C07D 491/048 20060101AFI20230818BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230818BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230818BHJP
   A01N 43/90 20060101ALI20230818BHJP
   C12P 17/18 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
C07D491/048 CSP
A01P3/00
A01P1/00
A01N43/90 102
C12P17/18 C ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505713
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 MX2021050021
(87)【国際公開番号】W WO2022025744
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】MX/A/2020/007930
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MX
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523027854
【氏名又は名称】アスール ナトゥラル エセ. ア. デ セ. ウベ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス・プエンテ,ヘスース・アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ナルバエス・マスタチェ,ホセ・マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】アンドラデ・メルチョル,ローサ・ラウラ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C050
4H011
【Fターム(参考)】
4B064AE58
4B064CA02
4B064CE08
4B064CE10
4B064DA12
4C050AA01
4C050AA07
4C050BB04
4C050CC16
4C050EE01
4C050FF02
4C050GG03
4C050HH01
4H011AA01
4H011BB10
(57)【要約】
本発明は、商業用作物にはびこる植物病原性真菌に対して顕著な殺菌効果を有する式Iの化合物を提供する;同様に、本発明は式Iの化合物を含む殺菌性組成物およびその合成方法を提供するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物であって、
【化1】
RMN-H(500MHz,CDCl-d):δ8.65(s,1H),6.91(dd,J=2.2,0.7Hz,1H),6.85(d,J=8.3Hz,1H),6.65(dd,J=8.2,2.2Hz,1H),6.03(dd,J=4.6,2.6Hz,1H),5.62(d,J=4.6Hz,1H),3.78-3.73(m,1H),3.11(dt,J=7.1,6.1Hz,1H),1.86(dtd,J=13.4,9.2,6.0Hz,1H),1.60(dtd,J=13.4,9.1,6.0Hz,1H),1.44-1.19(m,4H),0.90(t,J=7.0Hz,3H)
のスペクトルを持ち、かつ
RMN-13C(125MHz,CDCl-d):δ 178.81,154.53,139.21,129.25,114.50,112.39,111.68,91.04,48.36,47.08,29.63,28.72,22.80,13.78
のスペクトルを持つ化合物。
【請求項2】
CHCl:MeOHが9.7:0.3である移動相においてRf0.56を有し、メタノールにより黄色い非晶質固体であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
[α] 25:+122.3°(c 0.1,CHOH)であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
UV(CHOH)λmaxのスペクトルが、408(4.47),384(4.14),363(4.31)nmであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
殺菌活性を有することを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
アンドラノンと呼ばれるインドールアルカロイドであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記殺菌活性が、Fusarium spp,Rhizoctonia spp,Moniliophtora spp,Alternaria spp,Colletotrichum lindemunthianum,Colletotrichum glosporoides,Biopolaris spp,Verticillium spp,及びMycosphaerella fijiensisの制御に対して有効であることを特徴とする、請求項5に記載の化合物。
【請求項8】
以下のステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の化合物の化学合成方法。
a)分子状臭素1.5mmolに、10mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した式(1)の2-(5-hydroxy-1H-indol-3-yl) acetic acid 1mmolを、
【化2】
室温かつ水酸化カリウム15mmolの存在下で加え、結果の溶液を1時間一定に攪拌し、化合物(2)を得る。
【化3】
b)得られた前記化合物(2)を、極性を高めたヘキサン/酢酸エチル混合溶媒と、担体としてシリカゲル(300~400メッシュ)とを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製する。
c)あらかじめトルエン10mLに溶解させた1mmolの前記化合物2に、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2mmolと水素化トリブチルスズ5mmolとを加え、還流下で1.5時間加熱して、化合物(3)を得る。
【化4】
d)得られた前記化合物(3)を、極性を高めたヘキサン/酢酸エチル混合溶媒と、担体としてシリカゲル(300~400メッシュ)とを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製する。
e)乾燥DMF5mL中のNaH1.2mmolの懸濁液に、最小量の乾燥DMFに溶解した2mmolの前記化合物(3)を、0℃で滴下漏斗を用いて滴下して加え、30分間撹拌する。
f)ステップe)の混合物に1.20mmolのヨウ化n-ブチルを加え、混合物を室温にし、8時間その状態を保持する。
g)ステップf)の混合物に、0.05Mの酢酸(AcOH)を30mL加え、塩化メチレンで抽出する。
h)ステップg)で得られた有機相を、NaHCO飽和溶液(10mL)で洗浄し、続いて食塩水(10mL)で洗浄する。
i)ステップh)で洗浄した有機相を無水NaSOで乾燥させる。
j)ステップi)の乾燥有機相を、極性を高めたヘキサン/酢酸エチルの混合物と、担体としてシリカゲル(300~400メッシュ)とを用いるカラムクロマトグラフィーによって精製し、式Iの化合物を得る。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物を得るためのバイオテクノロジープロセスであって、以下のステップを含むことを特徴とする、バイオテクノロジープロセス。
a)BT01株の精製細胞を、グリセリンとともにバイアルに入れて-80℃で凍結保存する。
b)前記凍結保存したBT01株のバイアルを、100%細胞が損なわれないように、バイアル内の温度を-80℃以上に上昇させずに、クリーンベンチに移し、内容物の表面を滅菌ループでこすり取る。
c)固形LB培地を含むペトリ皿に、ステップb)の掻き取り物を画線することにより播種する。
d)植え付けたBT01株を入れた前記ペトリ皿を、BT01株の増殖が確認されるまで、28℃で24時間以上培養する。
e)前記ペトリ皿からBT01細胞のバイオマス試料を細菌学的ループで取り、あらかじめリン酸二カリウム0.5g、リン酸二水素カリウム1.5g、硫酸マグネシウム0.2g、硝酸カリウム22g、グルコース5g、塩化ナトリウム10g、栄養培地8g、精製水1000mLを加えて、703.07Kg/m(1lb/in)の圧力で15分間滅菌して調製した液体培地に、前記バイオマス試料を播種する。
f)ステップe)で得られた培養液を手で振り、BT01細胞を5~8日間培養する。
g)ステップf)で得られた培養液を、ヘキサンによる第1の抽出を3回行い、NaSOで乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、水相を回収し、クロロホルムによる第2の抽出を3回行い、NaSOで乾燥し、その後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、有機残留物を得る。
h)前記有機残留物を、同量のシリカゲルに吸着させ、シリカゲルを充填したカラム(280g、8×55cm)に載せ、100%CHCl、次いで2%MeOH/CHClで溶出し、複合混合物を得る。
i)シリカゲル(300~400)を用い、CHCl-MeOH(MeOH/CHCl0%~5%)の勾配で溶出するカラムクロマトグラフィー(CCr)により、クリーム色の固体を得るまで、前記複合混合物を分離する。前記固体は、式Iの化合物である。
【請求項10】
前記BT01株が、以下の配列で表される16sサブユニットのゲノム配列を有することを特徴とする、請求項9に記載のバイオテクノロジープロセス。
TGCAGTCGAGCGGACAGATGGGAGCTTGCTCCCTGATGTTAGCGGCGGACGGGTGAGTAACACGTGGGTAACCTGCCTGTAAGACTGGGATAACTCCGGGAAACCGGGGCTAATACCGGATGGTTGTTTGAACCGCATGGTTCAAACATAAAAGGTGGCTTCGGCTACCACTTACAGATGGACCCGCGGCGCATTAGCTAGTTGGTGAGGTAACGGCTCACCAAGGCAACGATGCGTAGCCGACCTGAGAGGGTGATCGGCCACACTGGGACTGAGACACGGCCCAGACTCCTACGGGAGGCAGCAGTAGGGAATCTTCCGCAATGGACGAAAGTCTGACGGAGCAACGCCGCGTGAGTGATGAAGGTTTTCGGATCGTAAAGCTCTGTTGTTAGGGAAGAACAAGTACCGTTCGAATAGGGCGGTACCTTGACGGTACCTAACCAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCAAGCGTTGTCCGGAATTATTGGGCGTAAAGGGCTCGCAGGCGGTTTCTTAAGTCTGATGTGAAAGCCCCCGGCTCAACCGGGGAGGGTCATTGGAAACTGGGGAACTTGAGTGCAGAAGAGGAGAGTGGAATTCCACGTGTAGCGGTGAAATGCGTAGAGATGTGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGACTCTCTGGTCTGTAACTGACGCTGAAGAGCGAAAGCGTGGGGAGCGAACAGGATTAGATACCCTGGTAGTCCACGCCGTAAACGATGAGTGCTAAGTGTTAGGGGGTTTCCGCCCCTTAGTGCTGCAGCTAACGCATTAAGCACTCCGCCTGGGGAGTACGGTCGCAAGACTGAAACTCAAAGGAATTGACGGGGGCCCGCACAAGCGGTGGAGCATGTGGTTTAATTCGAAGCAACGCGAAGAACCTTACCAGGTCTTGACATCCTCTGACAATCCTAGAGATAGGACGTCCCCTTCGGGGGCAGAGTGACAGGTGGTGCATGGTTGTCGTCAGCTCGTGTCGTGAGATGTTGGGTTAAGTCCCGCAACGAGCGCAACCCTTGATCTTAGTTGCCAGCATTCAGTTGGGCACTCTAAGGTGACTGCCGGTGACAAACCGGAGGAAGGTGGGGATGACGTCAAATCATCATGCCCCTTATGACCTGGGCTACACACGTGCTACAATGGACAGAACAAAGGGCAGCGAAACCGCGAGGTTAAGCCAATCCCACAAATCTGTTCTCAGTTCGGATCGCAGTCTGCAACTCGACTGCGTGAAGCTGGAATCGCTAGTAATCGCGGATCAGCATGCCGCGGTGAATACGTTCCCGGGCCTTGTACACACCGCCCGTCACACCACGAGAGTTTGTAACACCCGAAGTCGGTGAGGTAACCTTTAGGAGCCAGCCGCCGAAGG
【請求項11】
請求項1に記載の化合物を、ホスファチジルコリンリポソームにマイクロまたはナノカプセル化して0.1~0.5g/Lで含み、かつ水1リットルに対して十分な量含んでなることを特徴とする、作物の植物病原性真菌の制御および撲滅用殺菌性組成物。
【請求項12】
請求項8に記載の方法または請求項9に記載のバイオテクノロジープロセスによって得られた、請求項1に記載の化合物を、ホスファチジルコリンリポソームにマイクロまたはナノカプセル化して0.1~0.5g/Lで含み;かつ水1リットルに対して十分な量含んでなることを特徴とする、作物の植物病原性真菌の制御および撲滅用殺菌性組成物。
【請求項13】
マイクロエマルジョン又はナノエマルジョンであることを特徴とする、請求項11または12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
耕作地1ヘクタール当たり0.5~1.0Lの割合で使用するように適合調製されていることを特徴とする、請求項11~13に記載の組成物。
【請求項15】
前記植物病原性真菌が、Fusarium spp, Rhizoctonia spp, Moniliophtora spp, Alternaria spp, Colletotrichum lindemunthianum, Colletotrichum glosporoides, Biopolaris spp, Verticillium spp、及びMycosphaerella fijiensisから選ばれることを特徴とする、請求項11~14に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の化合物の、殺菌剤としての使用。
【請求項17】
前記化合物が植物病原性真菌の細胞質膜を破壊するものである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
殺菌性組成物の製造における、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項19】
前記殺菌性組成物が、マイクロまたはナノ乳化組成物である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
殺菌作用が、Fusarium spp, Rhizoctonia spp, Moniliophtora spp, Alternaria spp, Colletotrichum lindemunthianum, Colletotrichum glosporoides, Biopolaris spp, Verticillium spp、及びMycosphaerella fijiensisに対して効果を有する、請求項16から19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌作用を有する新規なインドールアルカロイドに関するものであり、より詳細には、分子式Iのインドールアルカロイドであって、本発明においてはアンドラノンと呼ばれ、IUPAC名は((3S,3aR,8aS)-3-butyl-5-hydroxy-3,3a,8a-trimethyl-3,3a,8,8a-tetrahydro-2H-furo[2,3-b]indol-2-one)であり、植物病原菌の成長と発達に対して著しい阻害活性を有するものである。更に、本発明は、前記インドールアルカロイドを得る方法に関するものであり、バイオテクノロジープロセス、及び、化学合成の2つの方法によるものである。同様に、本発明は、バナナ作物(Musa x paradisiaca)の主要な植物病原体である黒シガトカ(Mycosphaerella fijiensis)などの経済的に重要な作物に影響を与える子嚢菌類科菌類の防除に有用な殺菌活性を有する製剤、好ましくは液体製剤の開発における前記インドールアルカロイドの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
商業的に注目されている作物は、ほとんどが単作であり、栽培される植物は遺伝的に互いに非常によく似た生物である。遺伝的に類似した生物の利点は、植物構造の生産が均一で、果実や穀物の生産をよりよく制御でき、同じ品質レベルの作物を得ることができ、各作物サイクルで再現可能であることである。しかしながら、得られる植物は互いに非常によく似ているため、害虫の影響を受けやすくなる。なぜならば、作物に存在する全ての生物が病原体に対して同じように反応するため、ある植物に感染できる病原体があれば、他の植物も同じように攻撃されることになるからである。また、商業用作物では植物が近接しているため、病原菌の拡散が非常に速く、1つの感染植物が数時間で作物全体を汚染するケースもあり得る。したがって、最も一般的な病原菌の蔓延に対処するための非常用対策案を持つことが最も重要である。
【0003】
真菌類は、作物の病原体として扱われる最も一般的なグループの1つであり、増殖速度が速く、胞子が風や昆虫によって容易に拡散するため、作物に非常に速く、かつ強力に広がる感染因子となる。また、これらの感染病原体は、その摂食行動により、作物に大きな被害を与え、その被害を受けた植物は、茎、葉、果実の広い範囲に壊死や瘢痕組織などの目に見える損傷を受けるため、すぐに利用不能になる。
【0004】
植物病原真菌の防除は複雑で、宿主植物の組織にダメージを与えることなく、また栽培環境を共有する自由生物に害を与えることなく、真菌の成長を積極的に攻撃できる特殊な製品を使用する必要がある。現在までに、真菌に対抗するために試験された化合物はいくつかあり、例えば、クロロタロニルとマンコゼブは、従来の農業でより広範囲に使用されている市販の殺菌剤内に存在する有効成分のうちの2つである。
【0005】
クロロタロニル(テトラクロロイソフタロニトリル)は、クロロイソフタル酸を原料とするポリ塩化芳香族化合物で、幅広い殺菌活性を持ち、非全身的で、局所移行性は限定的である。クロロタロニルを有効成分とする製品は、主に葉面散布用で、真菌由来の多くの病害に対して予防、駆除効果を有する。クロロタロニルは、一部のアミノ酸のスルフヒドリル基にクロロタロニル分子が結合し、クレブスサイクルを制御する酵素の働きを阻害して不活性化し、ATP(アデノシン三リン酸)を生成させないという作用機構により、菌類の細胞呼吸、すなわち糖質のエネルギーへの転換を阻害する。細胞呼吸ができなくなることで菌類細胞は死滅する。水酸化イオン、スーパーオキシドラジカルアニオン、過酸化水素などの活性酸素の濃度を高め、高い細胞酸化ストレスを引き起こすことから、クロロタロニルは、マルチサイト阻害剤に属する非特異的殺菌剤として作用すると考えられている。真菌細胞に対する作用の一般的な症状は、菌糸体の成長の遅延と、胞子の発芽の阻害である。クロロタロニルは非特異的であるため、処理対象となる病原菌だけでなく、他の自由生活生物にも被害を与える可能性がある。また、特異性が低いため、処理した生物に抵抗性を発現させる可能性がある。クロロタロニルの半減期は、通気性のある土壌で10~40日、湛水土壌で5~15日である。水系では、この化合物は懸濁物や沈殿物に結合するか、化学的及び生物学的プロセスによって除去され得る。生分解による半減期は海水中で8.1~8.8日、光分解による半減期は地表水中で65日、加水分解による半減期はアルカリ性水(pH9)で38.1日だが、酸性または中性条件では加水分解に対して安定である。水生生物への生物濃縮能は低いものから高いものまで様々であり、難分解性が高いとされている。6~43日である。例えば、McMahon T.A., et al. The fungicide chlorothalonil is nonlinearly associated with corticosterone levels, immunity, and mortality in amphibians. Environmental health perspectives, 2011, vol. 119, no 8, p. 1098-1103の研究において、クロロタロニルは、水生脊椎動物及び無脊椎動物に曝露された場合、中程度から持続的な毒性を有すると記載されている。様々な魚種について,曝露後48~96時間での致死毒性中央値(LC50)は20μg/L未満であった。ミジンコは32μg/Lの濃度に曝露したとき、繁殖の遅れを示した。一方、小魚では、クロロタロニルは6.5μg/Lの濃度で、産卵あたりの卵数、卵の孵化率及び稚魚の生存率を低下させた。
【0006】
マンコゼブは、エチレンビスジチオカルバミン酸の化学群に属し、真菌類におけるマルチサイト作用機構を持っている。ジチオカルバミン酸塩は、真菌細胞内でイソチオシアン酸ラジカルに代謝されると毒性を発揮し、アミノ酸や真菌細胞酵素のスルフヒドリル基を破壊して酵素活性を阻害し、さらに膜透過性に影響を与えて脂質代謝を阻害したり、真菌細胞内の呼吸やATP産生の阻害に影響したりする。したがって、マンコゼブは複数の遺伝子によって制御される複数のプロセスに作用する阻害剤(マルチサイト阻害剤)であるため、耐性個体の発生には複数の変異が必要であると考えられる。この全てが、実際に、処理された病原真菌の抵抗性発現を阻害するため、単独あるいは浸透性殺菌剤との混合製剤の散布計画に不可欠な要素である。しかしながら、Dennis, L.K., et al. Pesticide use and cutaneous melanoma in pesticide applicators in the agricultural heat study. Environmental Health Perspectives, 2010, Vol. 118, no 6, p. 812-817.のようないくつかの研究では、マンコゼブへの曝露が農業従事者の皮膚黒色腫の発症リスクを有意に高めることが明らかにした。一方、Van Wendel de Joode, B., et al. Aerial application of Mancozeb and urinary ethylene thiourea (ETU) concentrations among pregnant women in Costa Rica: the Infants’ Environmental Health Study (ISA). Environmental Health Perspectives, 2014, Vol. 122, no 12, p. 1321-1328の論文には、マンコゼブに曝露された女性は、尿中のエチレンチオ尿素(ETU)濃度が上昇することが記述されている。ETUは甲状腺の働きに影響を与えるため、妊婦の尿中ETU濃度は胎児の発育に変化をもたらす可能性があり、懸念される。
【0007】
以上のことから、従来の殺菌剤は、商業作物における植物病原性真菌症に対する防除剤として有効であるものの、最も一般的に使用されている化合物が自由生物にダメージを与えることが明らかになっており、その使用には大きな限界があることが分かる。また、クロロタロニルやマンコゼブなどの化合物は、水域での残留性が高く、さらにヒトのメラノーマの出現を助長することが証明されている。同様に、マンコゼブを有効成分とする製品の葉面散布は、妊婦のETU値を上昇させることにより、胚の成長に変化を与える可能性がある。
【0008】
上記の問題点に鑑み,市販作物における植物病原性真菌の防除において,自由生活生物に影響を与えない代替手段を提供することが必要である。また、他の生物の代謝に影響を与えず、健康被害を軽減するために、利用可能な化合物とは異なる作用機序を示す殺菌活性を有する新規化合物を、散布者及び菌類作物近傍の住民に提供することが必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、植物病原体防除のための生物活性化合物の限界と副作用を克服するために、本発明者によってアンドラノンと名付けられた、顕著な殺真菌活性を有し、胞子および菌糸体の膜に挿入され、細胞溶解を引き起こすことにより最後にその死を引き起こすという、利用できる化合物のメカニズムとは異なる活性を発揮する、インドール環に基づく新規化合物を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、自由生物に対する毒性が低い抗真菌性化合物を提供することである。
【0011】
本発明の更なる目的は、殺菌活性を有する化合物を得るためのバイオテクノロジー及び化学合成プロセスを提供することである。
【0012】
また、本発明の目的は、植物組織に残留毒性を与えず、処理対象作物が位置する生態系の自由生活種に影響を与えることなく、安全に植物病原性真菌を防除するために使用できる、殺菌活性を有する液体組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の、前述ならびに他の目的、及び利点は、以下の詳細な説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一般式Iのインドールアルカロイドの1H-NMRスペクトルを示す。
図2】分析者が2日間に渡って行った、Colletotrichum gloeosporioidesに対するアンドラノンの最小発育阻止濃度(MIC)の測定によって得られた一連のプレートを示す。ここで、B:ネガティブコントロール(PDB:ポテトデキストロースブロス)、C+:コントロール(真菌+PDB)、Ma:真菌+マンコゼブ+PDB、Cl:真菌+クロロタロニル+PDB、An:真菌+アンドラノン+PDB、[Ma]=7.81~250mg/mL、[Cl]=7.81~250mg/mL、[An]=62.5~1000mg/mL、[Vn]=62.5~1000mg/mL とした。
図3】Colletotrichum gloeosporioidesに対する吸光度とアンドラノン濃度の相関を観察したグラフである(1日目、2日目、分析者1)。1~8:低濃度から高濃度、0=0mg/mL、マンコゼブ及びクロロタロニル=0~250mg/mL、アンドラノン。各濃度の値は、6つの技術的反復実験の平均値と、その標準偏差とをプロットしたものである。
図4】Colletotrichum gloeosporioides菌糸体溶液から得られたコロニー形成単位(CFU/mL)を分析者1がカウントしたプレートを示す図である。1日目(左)、2日目(右)。A)接種液(50mL)、B)希釈液10-1(100mL)、C)希釈液10-2(100mL)、D)希釈液10-4(100mL)。
図5】Fusarium oxysporumに対するアンドラノンの最小発育阻止濃度(MIC)を2日間にわたって測定した結果を示すプレートである。B:ネガティブコントロール(PDB:ポテトデキストロースブロス)、ここで、Ctr:コントロール(真菌+PDB)、Man:真菌+マンコゼブ+PDB、Clo:真菌+クロロタロニル+PDB、And:真菌+アンドラノン+PDB。[Man]=15.62~2000mg/mL、[Clo]=15.62~2000mg/mL、[And]=31.25~4000mg/mL、[Val]=11.71~1500mg/mL とした。
図6】吸光度とアンドラノン濃度との相関を示すグラフである。A)1日目、B)2日目。C1~C9:低濃度から高濃度、ここでC1=0mg/mLとする。マンコゼブ及びクロロタロニル=0~2000mg/mL、アンドラノン=0~4000mg/mL~1500mg/mL。
図7】バナナ(Musa sp)栽培における黒シガトカ(Mycosphaerella fijiensis)の発生率に対する、異なる処理剤の散布による総合反応を示すグラフである(N=10)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、式Iのインドールアルカロイドを提供する。
【化1】
【0016】
以下アンドラノンと命名する、本発明の式Iのインドールアルカロイドは、体系名は((3S,3aR,8aS)-3-butyl-5-hydroxy-3,3a,8a-trimethyl-3,3a,8,8a-tetrahydro-2H-furo[2,3-b]indol-2-one)である。
【0017】
アンドラノンは次のような物理的、物理化学的、分光学的、及び分光分析的特性を有する:
【0018】
アンドラノン(I)、メタノールによる黄色い非晶質固体、Rf 0.56(CHCl:MeOH、9.7:0.3)
[α] 25:+122.3°(c 0.1,CHOH)、
UV(CHOH)λmax:408(4.47),384(4.14),363(4.31)nm;
RMN-H(500MHz,CDCl-d):δ8.65(s,1H),6.91(dd,J=2.2,0.7Hz,1H),6.85(d,J=8.3Hz,1H),6.65(dd,J=8.2,2.2Hz,1H),6.03(dd,J=4.6,2.6Hz,1H),5.62(d,J=4.6Hz,1H),3.78-3.73(m,1H),3.11(dt,J=7.1,6.1Hz,1H),1.86(dtd,J=13.4,9.2,6.0Hz,1H),1.60(dtd,J=13.4,9.1,6.0Hz,1H),1.44-1.19(m,4H),0.90(t,J=7.0Hz,3H)
RMN-13C(125MHz,CDCl-d):δ178.81,154.53,139.21,129.25,114.50,112.39,111.68,91.04,48.36,47.08,29.63,28.72,22.80,13.78
【0019】
式Iのインドールアルカロイドまたはアンドラノンは、従来から商業的に関心のある作物に蔓延しているほとんどの植物病原性真菌に対して顕著な殺菌効果を有し、特にFusarium spp、Rhizoctonia spp、Moniliophtora spp、Alternaria spp、Colletotrichum lindemunthianum、Colletotrichum glosporoides、Biopolaris spp、Verticillium spp、及び、Mycosphaerella fijiensisのような植物病原性真菌の成長および発育を強く阻害する活性を有する。
【0020】
アンドラノンは安定な分子であるため、バナナ(Musa x paradisiaca)などの経済的に重要な作物に影響を与える子嚢菌類の防除に有用な殺菌組成物、好ましくは液体の調製に使用することができる。従来の他の殺菌性化合物とは異なり、アンドラノンは持続的な濃度のアンドラノンに曝された真菌の膜破壊を引き起こす作用機序を有する。アンドラノンは細胞膜に存在するステロールと不可逆的に結合し、菌の細胞溶解を誘導する。したがって、クロロタロニルやマンコゼブなどの市販の殺菌剤のように代謝経路を制御する酵素を阻害しないため、アンドラノンは自由生物に対する毒性がほとんどなく、この活性原理を利用した製剤は、他の製品よりも安全に使用することができる。したがって、アンドラノンは、慣行農業と有機農業との両方で使用することができる。また、クロロタロニルやマンコゼブのように菌の生化学的プロセスを変化させるのではなく、物理的な作用に由来する活性を持つため、その作用機構から、アンドラノンの抵抗性発生率は低い。したがって、アンドラノンは作物の植物病原性真菌に対する防除剤として、より効果的な選択肢であることが判明した。
【0021】
一般式Iの化合物は、第一に、バイオテクノロジープロセスを通じて、(BT01)と呼ばれるBacillus tequilensisの細菌株を含む液体培地から得られる。
【0022】
BT01は、以下に示す16Sリボソームサブユニットのゲノム配列を提示することを特徴とする。
【0023】
TGCAGTCGAGCGGACAGATGGGAGCTTGCTCCCTGATGTTAGCGGCGGACGGGTGAGTAACACGTGGGTAACCTGCCTGTAAGACTGGGATAACTCCGGGAAACCGGGGCTAATACCGGATGGTTGTTTGAACCGCATGGTTCAAACATAAAAGGTGGCTTCGGCTACCACTTACAGATGGACCCGCGGCGCATTAGCTAGTTGGTGAGGTAACGGCTCACCAAGGCAACGATGCGTAGCCGACCTGAGAGGGTGATCGGCCACACTGGGACTGAGACACGGCCCAGACTCCTACGGGAGGCAGCAGTAGGGAATCTTCCGCAATGGACGAAAGTCTGACGGAGCAACGCCGCGTGAGTGATGAAGGTTTTCGGATCGTAAAGCTCTGTTGTTAGGGAAGAACAAGTACCGTTCGAATAGGGCGGTACCTTGACGGTACCTAACCAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCAAGCGTTGTCCGGAATTATTGGGCGTAAAGGGCTCGCAGGCGGTTTCTTAAGTCTGATGTGAAAGCCCCCGGCTCAACCGGGGAGGGTCATTGGAAACTGGGGAACTTGAGTGCAGAAGAGGAGAGTGGAATTCCACGTGTAGCGGTGAAATGCGTAGAGATGTGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGACTCTCTGGTCTGTAACTGACGCTGAAGAGCGAAAGCGTGGGGAGCGAACAGGATTAGATACCCTGGTAGTCCACGCCGTAAACGATGAGTGCTAAGTGTTAGGGGGTTTCCGCCCCTTAGTGCTGCAGCTAACGCATTAAGCACTCCGCCTGGGGAGTACGGTCGCAAGACTGAAACTCAAAGGAATTGACGGGGGCCCGCACAAGCGGTGGAGCATGTGGTTTAATTCGAAGCAACGCGAAGAACCTTACCAGGTCTTGACATCCTCTGACAATCCTAGAGATAGGACGTCCCCTTCGGGGGCAGAGTGACAGGTGGTGCATGGTTGTCGTCAGCTCGTGTCGTGAGATGTTGGGTTAAGTCCCGCAACGAGCGCAACCCTTGATCTTAGTTGCCAGCATTCAGTTGGGCACTCTAAGGTGACTGCCGGTGACAAACCGGAGGAAGGTGGGGATGACGTCAAATCATCATGCCCCTTATGACCTGGGCTACACACGTGCTACAATGGACAGAACAAAGGGCAGCGAAACCGCGAGGTTAAGCCAATCCCACAAATCTGTTCTCAGTTCGGATCGCAGTCTGCAACTCGACTGCGTGAAGCTGGAATCGCTAGTAATCGCGGATCAGCATGCCGCGGTGAATACGTTCCCGGGCCTTGTACACACCGCCCGTCACACCACGAGAGTTTGTAACACCCGAAGTCGGTGAGGTAACCTTTAGGAGCCAGCCGCCGAAGG
【0024】
BT01は、アミノ酸のトリプトファンを脱アミノ化によりインドールプロピオン酸に変換し、その後の環化およびアルキル化によりインドールアルカロイドのアンドラノンを生産することができ、このプロセスは、他の種及び/または亜種のBacillus tequilensisにおいて自然に存在するものでは決してないものである。さらに、アンドラノンの生産を達成するために、BT01は、以下のステップを含むバイオテクノロジープロセスに付される。
【0025】
a)BT01株の精製細胞を凍結保存し、グリセリンを入れたバイアルに入れ、-80℃の温度で保存する。
b)凍結保存したBT01株のバイアルをクリーンベンチに移し、バイアル内の温度を-80℃以上にせず、100%細胞を保持し、内容物の表面を滅菌ループで擦る。
c)固形LB培地を入れたペトリ皿に、画線によって、ステップb)で掻き取った物を播種する。
d)BT01株が植え付けられたシャーレを、28℃の温度で、BT01株の増殖が確認されるまで、少なくとも24時間、培養する。
e)ペトリ皿からBT01細胞のバイオマスサンプルを細菌学的ループで取り、あらかじめ調製した液体培地に播種する。液体培地は、0.5gのリン酸二カリウム、1.5gのリン酸二水素カリウム、0.2gの硫酸マグネシウム、22gの硝酸カリウム、5gのグルコース、10gの塩化ナトリウム、8gの栄養培地、及び、1000mLの精製水を入れ、703.07Kg/m(lb/in)の圧力で15分間滅菌した。
f)ステップe)で得られた培養液を手で振り、BT01細胞を6日間培養する。
g)ステップf)により得られた培養液に対し、ヘキサンによる第1の液-液抽出を3回行い、NaSOで乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、有機相を回収し、クロロホルムによる第2の抽出を3回行い、NaSOで乾燥し、その後にロータリーエバポレーターで濃縮し、これによって有機残留物を得る。
h)有機残留物を同量のシリカゲルに吸収させ、シリカゲルを充填したカラム(280g、8×55cm)に載せ、100% CHClで溶出し、次いで2% MeOH/CHClで溶出し、複合混合物を得る。
i)シリカゲル(300~400)を用いたカラムクロマトグラフィー(CC)により、CHCl-MeOH(MeOH/CHCl 0%~5%)の勾配で溶出し、クリーム色の固体、すなわちアンドラノンと呼ばれる式Iの化合物が得られるまで、複合体混合物を分離する。
【0026】
同様に、本発明は、以下のステップからなる化学合成によって、本発明の式Iの化合物を得るための方法を提供する。
【0027】
a)式(1)の2-(5-hydroxy-1H-indol-3-yl) acetic acid 1mmolを10mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、前記一般式(1)の2-(5-hydroxy-1H-indol-3-yl) acetic acidを得る。
【化2】
その明確な特徴は、以下に示す分光学的特性に基づいて確立された。
【0028】
RMN-H(500MHz,CDCl-d):δ9.55(d,J=7.0Hz,1H),8.43(s,1H),7.25(d,J=7.8Hz,1H),7.17(d,J=7.0Hz,1H),7.10(d,J=2.1Hz,1H),6.80(dd,J=7.7,2.2Hz,1H),3.64(s,2H)
【0029】
RMN-13C(125MHz,CDCl-d):δ 173.88,150.00,131.04,128.82,123.99,114.02,112.32,110.42,105.38,32.25
【0030】
b)室温において15mmolの水酸化カリウムの存在下で、ステップa)により得られた溶液を1.5mmolの分子状臭素に加え、得られた溶液を一定の撹拌下に1時間保ち、以下の反応で示される化合物、3a-bromo-5-hydroxy-3,3a,8,8a-tetrahydro-2H-furo[2,3-b]indol-2-one(2)を得る。
【化3】
【0031】
c)得られた化合物(2)を、極性を高めたヘキサン/酢酸エチルの混合物を用い、シリカゲル(300~400メッシュ)を担体とするカラムクロマトグラフィーによって精製する。中間体2の確実性は、以下に示す分光分析の結果に基づいて立証した。
【0032】
RMN-H(500MHz,CDCl-d):δ7.62(s,2H),7.54(d,J=3.7Hz,2H),6.98(d,J=2.2Hz,2H),6.81(d,J=8.0Hz,2H),6.67(dd,J=8.1,2.2Hz,2H),6.43(d,J=3.7Hz,2H),3.71(s,1H),3.67(s,1H),3.45(s,1H),3.41(s,1H)
【0033】
RMN-13C(125MHz,CDCl-d):δ 212.31,149.31,141.78,133.86,115.39,113.56,112.91,68.11,64.29,51.49,48.28
【0034】
d)予めトルエン10mLに溶解させた化合物(2)1mmolに、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2mmolと水素化トリブチルスズ5mmolとを加え、還流で1.5時間加熱し、下記反応のようにして化合物5-hydroxy-3,3,8,8-tetrahydro-2H-furo[2,3-b]indol-2-one(3)を得る。
【化4】
【0035】
e)得られた化合物(3)を、極性を高めたヘキサン/酢酸エチルの混合物を用い、シリカゲル(300~400メッシュ)を担体とするカラムクロマトグラフィーによって精製する。化合物(3)の確実性は、以下に示す分光分析の結果に基づいて立証した。
【0036】
RMN-H(500MHz,CDCl-d):δ8.63(s,1H),6.94-6.90(m,1H),6.69(d,J=8.3Hz,1H),6.64(dd,J=8.3,2.1Hz,1H),6.24(t,J=4.1Hz,1H),6.03(d,J=4.2Hz,1H),3.82-3.76(m,1H),3.01(dd,J=16.9,5.1Hz,1H),2.75(dd,J=16.9,4.9Hz,1H)
【0037】
RMN-13C(125MHz,CDCl-d):δ 176.39,154.50,138.08,129.75,114.50,112.50,110.78,90.59,43.72,35.80
【0038】
f)乾燥DMF5mL中のNaH1.2mmolの懸濁液に、窒素雰囲気下で、最小量の乾燥DMFに溶解した2mmolの化合物(3)を、0℃で滴下漏斗を用いて滴下し、反応混合物を30分間撹拌し、次にヨウ化n-ブチルを1.20mmol加え、反応混合物を室温に到達させて8時間その状態を保ち、その後、0.05Mの酢酸(AcOH)を30mL加え、塩化メチレンで抽出すると、次の反応に示したようになる。
【化5】
【0039】
g)得られた有機相を、NaHCO飽和溶液(10mL)、続いて食塩水(10mL)で洗浄する。
【0040】
h)ステップg)で洗浄した有機相を、無水NaSOで乾燥し、極性を高めたヘキサン/酢酸エチルの混合物用い、シリカゲル(300~400メッシュ)を担体とするカラムクロマトグラフィーによって精製し、本発明の式Iのアンドラノン化合物に相当する化合物(I)を得る。
【0041】
上記の化学合成により、本発明の式Iの化合物を、異性体混合物として28%の収率で得ることができる。
【0042】
アンドラノンは、経済的に重要な作物における植物病原性真菌の蔓延の制御に有用な殺菌組成物の製造に使用することができる。
【0043】
好ましくは、アンドラノンは、マイクロまたはナノ乳化組成物、好ましくはホスファチジルコリンのリポソームを含む組成物に配合される。本発明の好ましい実施形態の1つでは、組成物は、エトキシ化アルコールなどの中性界面活性剤と、ホスファチジルコリンを7:3で混合した混合物30gから得られるマイクロカプセル化組成物である。前記混合物(7:3)を、70~90℃の温度において一定速度で1時間撹拌し、室温に達するまで放置する。室温に達した後、混合物に本発明の式Iの化合物5gを添加し、それを1000rpmの自動ミキサーに15分間入れてリポソームを形成し、これに溶媒として水を20mL/分の速度で1リットル完了するまで添加し、マイクロまたはナノエマルジョンを形成する。
【0044】
上記の工程で得られた組成物は、水に0.5%~1%の割合で希釈して、植物病原性真菌が蔓延する作物に葉面散布することができる。このように使用すると、本組成物は、自由生活生物に変化を与えることなく、また作物と接触する作業者や本発明の組成物の散布を担当する人員に毒性作用を呈することなく、作物から植物病原性真菌を制御し根絶することを可能とする。
【0045】
本発明の実施態様を示すために、化合物の合成を、バイオテクノロジールートと合成のルートとの両方で実施した。
【実施例
【0046】
(実施例1)アンドラノンを得るためのバイオテクノロジープロセス
本発明のプロセスを実施するために、数種類のBacillus tequilensis菌株を使用したが、BT01株を除いて、いずれもアンドラノンを生産する能力を有していなかった。式Iの化合物の生産を例示する目的で、本発明のバイオテクノロジープロセスにおいて、Bacillus tequilensisの2つの異なる菌株を使用した。使用した株は、16Sリボソームサブユニットのゲノム配列が先述の通りであるBT01株と、16Sリボソームサブユニットのゲノム配列が以下の通りである、Bacillus tequilensis GYLH001株とであった。
【0047】
CAGAGTTTGATCCTGGCTCAGGACGAACGCTGGCGGCGTGCCTAATACATGCAAGTCGAGCGGACAGATGGGAGCTTGCTCCCTGATGTTAGCGGCGGACGGGTGAGTAACACGTGGGTAACCTGCCTGTAAGACTGGGATAACTCCGGGAAACCGGGGCTAATACCGGATGGTTGTTTGAACCGCATGGTTCAAACATAAAAGGTGGCTTCGGCTACCACTTACAGATGGACCCGCGGCGCATTAGCTAGTTGGTGAGGTAACGGCTCACCAAGGCAACGATGCGTAGCCGACCTGAGAGGGTGATCGGCCACACTGGGACTGAGACACGGCCCAGACTCCTACGGGAGGCAGCAGTAGGGAATCTTCCGCAATGGACGAAAGTCTGACGGAGCAACGCCGCGTGAGTGATGAAGGTTTTCGGATCGTAAAGCTCTGTTGTTAGGGAAGAACAAGTACCGTTCGAATAGGGCGGTACCTTGACGGTACCTAACCAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCAAGCGTTGTCCGGAATTATTGGGCGTAAAGGGCTCGCAGGCGGTTTCTTAAGTCTGATGTGAAAGCCCCCGGCTCAACCGGGGAGGGTCATTGGAAACTGGGGAACTTGAGTGCAGAAGAGGAGAGTGGAATTCCACGTGTAGCGGTGAAATGCGTAGAGATGTGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGACTCTCTGGTCTGTAACTGACGCTGAGGAGCGAAAGCGTGGGGAGCGAACAGGATTAGATACCCTGGTAGTCCACGCCGTAAACGATGAGTGCTAAGTGTTAGGGGGTTTCCGCCCCTTAGTGCTGCAGCTAACGCATTAAGCACTCCGCCTGGGGAGTACGGTCGCAAGACTGAAACTCAAAGGAATTGACGGGGGCCCGCACAAGCGGTGGAGCATGTGGTTTAATTCGAAGCAACGCGAAGAACCTTACCAGGTCTTGACATCCTCTGACAATCCTAGAGATAGGACGTCCCCTTCGGGGGCAGAGTGACAGGTGGTGCATGGTTGTCGTCAGCTCGTGTCGTGAGATGTTGGGTTAAGTCCCGCAACGAGCGCAACCCTTGATCTTAGTTGCCAGCATTCAGTTGGGCACTCTAAGGTGACTGCCGGTGACAAACCGGAGGAAGGTGGGGATGACGTCAAATCATCATGCCCCTTATGACCTGGGCTACACACGTGCTACAATGGACAGAACAAAGGGCAGCGAAACCGCGAGGTTAAGCCAATCCCACAAATCTGTTCTCAGTTCGGATCGCAGTCTGCAACTCGACTGCGTGAAGCTGGAATCGCTAGTAATCGCGGATCAGCATGCCGCGGTGAATACGTTCCCGGGCCTTGTACACACCGCCCGTCACACCACGAGAGTTTGTAACACCCGAAGTCGGTGAGGTAACCTTTTAGGAGCCAGCCGCCGAAGGTGGGACAGATGATTGGGGTGAAGTCGTAACAAGGTAGCCGTATCGGAAGGTGCGGCTGGATCACCTCCT
【0048】
アンドラノンの生産試験を行うために、適量のBT01株とGYLH001株を別々に、-80℃、グリセリン中で凍結保存を行った。その後、各株の1つのバイアルを、細胞の解凍を防ぐためにドライアイスに入れてクリーンベンチに移し、菌体細胞を100%維持した。次に、滅菌ループを用いてサンプルの表面を削り、LB培地を入れた2枚のペトリ皿に、該ループで各菌株を別々に、皿の4領域に菌体を画線することにより播種した。最後に、28℃で24時間、顕著な増殖が確認されるまで培養した。
【0049】
その後、リン酸二カリウム0.5g、リン酸二水素カリウム1.5g、硫酸マグネシウム0.2g、硝酸カリウム22g、グルコース5g、塩化ナトリウム10g、栄養培地8g、精製水1000mLからなる培地を、703.07Kg/m(1lb/in)の圧力で15分間滅菌した。その後、細菌学的ループを用いて、ペトリ皿から各菌株のバイオマス試料を別々に採取し、前記液体培地の入ったフラスコに植え付け、手で振り、6日間培養した。
【0050】
各フラスコの培養液を液-液抽出して有機抽出物を得て、該有機抽出物をTLCで分析し、バニリン水溶液で検出した。このために、まず各フラスコの培養液をヘキサンで3回抽出し、NaSOで乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた水相を、第2の抽出工程としてクロロホルムで3回抽出し、NaSOで乾燥し、その後ロータリーエバポレーターで濃縮した。各フラスコからの有機残留物21gをシリカゲル21gで別々に吸着し、シリカゲルを充填したカラム(280g、8×55cm)に載せ、CHCl、次いでCHCl-MeOHの勾配、最後に40%~45%のMeOH/CHClで溶出して、それぞれの抽出物の、200mLずつ174のフラクションを得た。TLC分析により、類似の成分を示すフラクションを合わせて蒸発乾固し、10種類の主要フラクション(F1~F10)を得た。F1[1/24(780mg,CHCl 100%)]、F2[25/66(812mg,CHCl 100%~MeOH/CHCl 2%)]、F3[67/80,1.2g,MeOH/CHCl 2%~5%]、F4[81/99,1.98g,MeOH/CHCl 5%~10%]、F5[100/119,1.1g,MeOH/CHCl 10%~15%]、F6[120/132,1.23g,MeOH/CHCl 15%~20%]、F7[133/142,1.12g,MeOH/CHCl 20%~30%]、F8[143/157,2.02g, MeOH/CHCl 30%~35%]、F9[158/166,1.02g,MeOH/CHCl 35%~40]、F10[167/174,1.73g,MeOH/CHCl 40%45%]とした。BTO1及びGYLH001の抽出物のF1フラクションは、主に脂肪酸を含んでいた。BT01のF2フラクション(812mg)のみTLC分析で複雑な混合物を示し、シリカゲル(300~400)を用い、CHCl-MeOH勾配(MeOH/CHCl 0%~5%)で溶出するカラムクロマトグラフィー(CC)で分離し、そこからクリーム色の固体が得られた。その物理的特性、分光学的特性、および分光分析的特性を分析することにより、基本骨格が本発明の式Iのインドールアルカロイドである分子構造を特徴付けることができた。以上のことから、本発明に記載のアンドラノンを得るためのバイオテクノロジープロセスには、BT01株のみを使用することができることがわかる。
【0051】
(実施例2)アンドラノンの化学合成
本発明の化学合成プロセスにより本発明の化合物を得るために、10mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した式(1)の2-(5-hydroxy-1H-indol-3-yl) acetic acid 1mmolに、室温かつ水酸化カリウム15mmolの存在下で、分子状臭素1.5mmolを添加した。得られた溶液を1時間一定に攪拌した後、極性を高めたヘキサン/酢酸エチル混合溶媒と、担体としてシリカゲル(300~400メッシュ)とを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。精製した化合物を核磁気共鳴分析に付し、以下の共鳴スペクトルを得た。
【0052】
RMN-H(500MHz,CDCl-d):δ7.62(s,2H),7.54(d,J=3.7Hz,2H),6.98(d,J=2.2Hz,2H),6.81(d,J=8.0Hz,2H),6.67(dd,J=8.1,2.2Hz,2H),6.43(d,J=3.7Hz,2H),3.71(s,1H),3.67(s,1H),3.45(s,1H),3.41(s,1H)
【0053】
RMN-13C(125MHz,CDCl-d):δ 212.31,149.31,141.78,133.86,115.39,113.56,112.91,68.11,64.29,51.49,48.28
【0054】
両共鳴スペクトルから、得られた化合物は紛れもなく化合物(2)であることが判明した。
【0055】
次に、得られた化合物(2)1mmolをトルエン10mLにあらかじめ溶解させた溶液に、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2mmolと水素化トリブチルスズ5mmolとを加え、還流下で1.5時間加熱した後、極性を高めたヘキサン/酢酸エチル混合溶液と担体としてシリカゲル(300~400メッシュ)とを用いたカラムクロマトグラフィーによって精製した。精製した化合物を核磁気共鳴分析に付し、以下のスペクトルを得た。
【0056】
RMN-H(500MHz,CDCl-d):δ8.63(s,1H),6.94-6.90(m,1H),6.69(d,J=8.3Hz,1H),6.64(dd,J=8.3,2.1Hz,1H),6.24(t,J=4.1Hz,1H),6.03(d,J=4.2Hz,1H),3.82-3.76(m,1H),3.01(dd,J=16.9,5.1Hz,1H),2.75(dd,J=16.9,4.9Hz,1H)
【0057】
RMN-13C(125MHz,CDCl-d):δ 176.39,154.50,138.08,129.75,114.50,112.50,110.78,90.59,43.72,35.80
【0058】
いずれの共鳴スペクトルも、化合物(3)が得られたことを明確に裏付けるものであった。
【0059】
最後に、乾燥DMF5mL中のNaH1.2mmolの懸濁液に、窒素雰囲気下で、最小量の乾燥DMFに溶解した2mmolの化合物(3)を、0℃で滴下漏斗を用いて滴下して加えた。反応混合物を30分間攪拌した。設定した時間の後、1.20mmolのヨウ化n-ブチルを加え、反応混合物を室温に到達させ、8時間保持した。その後、0.05Mの酢酸(AcOH)を30mL加え、塩化メチレン(CHCl)(3x10mL)で抽出した。有機相を、NaHCO飽和溶液(10mL)及び食塩水(10mL)で化合及び洗浄し、得られた生成物を無水NaSOで乾燥させた。乾燥した生成物を、極性を高めたヘキサン/酢酸エチルの混合物と、担体としてシリカゲル(300~400メッシュ)とを用いるカラムクロマトグラフィーによって精製した。得られた化合物を核磁気共鳴分析に付し、以下の共鳴値を得た。
【0060】
RMN-H(500MHz,CDCl-d):δ8.65(s,1H),6.91(dd,J=2.2,0.7Hz,1H),6.85(d,J=8.3Hz,1H),6.65(dd,J=8.2,2.2Hz,1H),6.03(dd,J=4.6,2.6Hz,1H),5.62(d,J=4.6Hz,1H),3.78-3.73(m,1H),3.11(dt,J=7.1,6.1Hz,1H),1.86(dtd,J=13.4,9.2,6.0Hz,1H),1.60(dtd,J=13.4,9.1,6.0Hz,1H),1.44-1.19(m,4H),0.90(t,J=7.0Hz,3H)
【0061】
RMN-13C(125MHz,CDCl-d):δ 178.81,154.53,139.21,129.25,114.50,112.39,111.68,91.04,48.36,47.08,29.63,28.72,22.80,13.78
【0062】
前記共鳴値から、化合物3-butyl-5-hydroxy-3,3,8-trimethyl-3,3a,8,8a-tetrahydro-2H-furo[2,3-b]indole-2-oneまたはアンドラノンが唯一の反応生成物として存在することが裏付けられた。
【0063】
(実施例3)アンドラノンの活性
アンドラノンの殺菌活性を実証するために、まず、その生理活性を秤量し、様々な植物病原性真菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。まず、Colletotrichum gloeosporioidesのサンプルの増殖に対する効果を評価した。細菌の代謝(酸化還元系)の指標として、トリフェニルテトラゾリウムクロライドを還元することにより、分光光度計モデルで活性の重み付けを立証した。C. gloeosporioidesのサンプルを、アンドラノン、対照薬剤のクロロタロニル及びマンコゼブの量を増加させながら、37℃、24時間培養した。指示された時間後、生成されたホルマザンの量を色度測定によって評価した。これは処理後の生菌細胞の量を示すものである。
【0064】
図2は、前記化合物の最小発育阻止濃度(MIC)を測定するために、アンドラノン及びコントロール(マンコゼブ及びクロロタロニル)の存在下でのColletrotrichum gloeosporioidesの増殖について、2つの異なる日における生物学的レプリカのプレートを示したものである。一般に、アンドラノン処理では結果に若干の違いが見られ、さらに、2日目には菌の増殖が大きくなったことがわかる。
【0065】
予想通り、ポジティブコントロール(真菌+PDB)では、両日の分析で顕著な菌の増殖が観察された。マンコゼブによる処理では、7.81~250mg/mLの範囲で評価したいずれの濃度においても、菌の増殖は認められなかった。クロロタロニルによる処理では、分析2日間において、この殺菌剤の評価濃度のいずれにおいても菌の発育は認められなかった。アンドラノン存在下での処理では,1日目では500mg/mL以上の濃度で菌が増殖せず、2日目では937.5mg/mL以上の濃度で菌が増殖しなかったことから、2日間の分析に差があり、日間での再現性はなかったが、評価2日の技術的複製物間には再現性があった。
【0066】
図3は、分析者1によって実施された、異なる処理の分析濃度に対する吸光度の相関を示し、ここで、濃度0は0mg/mLに等しく、1~8はそれぞれ最低濃度から最高濃度とする。ネガティブコントロールの吸光度は実験中常にゼロであったことがわかる。コントロールでは、2日間の分析で吸光度は一定である(黒線)。マンコゼブ処理では、評価した全ての濃度で、分析の両日において、吸光度はコントロールの吸光度に比べて低くなっている。
【0067】
クロロタロニルはマンコゼブと同様の反応を示し(8つの濃度でコントロールより低い吸光度)、マンコゼブ処理とクロロタロニル処理はコントロールと比較して最も低い吸光度を示す処理であった。アンドラノン処理では、1日目において濃度1~3(62.5~250mg/mL)の吸光度がコントロールと非常によく似ており、濃度5~6では吸光度が減少、つまりアンドラノン濃度が高くなるにつれて吸光度が減少し、それぞれ500、937.5、1000mg/mLに相当する濃度6、7、8でゼロとなり、これは高濃度のアンドラノンで菌の増殖及び/または代謝活性がゼロとなることを示している。2日目においては、濃度1~6(62.5~500mg/mL)の吸光度はコントロールと非常によく似ており、濃度7及び8(それぞれ937.5及び1000mg/mL)は吸光度がゼロまで減少する(図4及び表1)。
【0068】
【表1】
【0069】
図5は、前記化合物の最小発育阻止濃度(MIC)を測定するために、アンドラノンとコントロール(マンコゼブ及びクロロタロニル)の存在下でFusarium oxysporumの増殖を、同じ分析者により実施した2つの異なる日の生物学的レプリカのプレートである。一般に、1日目と2日目の結果には、主にクロロタロニルとアンドラノンの処理においていくつかの違いが観察され、さらに、2日目の方が菌の増殖が大きいことも観察された。
【0070】
ポジティブコントロール(真菌+PDB)では、分析の両日とも顕著な菌の増殖が観察された。マンコゼブ処理では、菌の還元反応による塩の色の変化は認められなかったものの、主に250~2000mg/mLの濃度において菌の増殖がわずかに認められた。クロロタロニル処理では、1日目には、この殺菌剤の最高濃度では菌の増殖が認められず、500~15.62mg/mLで増殖し、その還元反応による塩の色の変化が認められたので、2日間の分析で差異が観察された。一方、2日目には、菌の還元反応による塩の色の変化は認められなかったものの、主に125~2000mg/mLの濃度で、菌の増殖がわずかに観察された。
【0071】
アンドラノン存在下での処理については、1日目では最高濃度の2000と4000で菌が増殖せず、2日目では1000、2000、4000mg/mLの濃度から菌が増殖することができなかった。
【0072】
図6は、濃度1を0mg/mLとした場合の、異なる処理で分析した異なる濃度に対する吸光度の相関を示したものである。ネガティブコントロールでは吸光度は0であり、ポジティブコントロールでは、2日間の分析で吸光度が一定であることが確認された(黒線)。マンコゼブ処理では、両日ともこの化合物の濃度が増加するにつれて、吸光度が増加した。クロロタロニルはマンコゼブと同様の傾向を示したが、本処理では1日目と2日目の間で変動が観察された。
【0073】
アンドラノンによる処理では、この化合物の濃度が高くなるにつれて吸光度が低下し、アンドラノンの最高濃度では菌の増殖はほとんど認められず(4000、2000、1000mg/mL)、250~31.25mg/mLの範囲ではポジティブコントロールよりも高い吸光度が得られることが示された。
【0074】
表2は、アンドラノン、マンコゼブ、及びクロロタロニルのMICを測定するために得られた結果をまとめたもので、異なる2日間に独立して行われた生物学的レプリカの平均値に相当するものである。
【0075】
【表2】
【0076】
前記表2は、MICが測定された各化合物の阻害タイプを示す欄を含み、MIC=0.5mg/mLを呈するサンプルでは強い阻害が考えられ、MICが0.6~1mg/mLの化合物で中程度の阻害が起こり、最後にMICが1.6mg/mLより大きな化合物で弱い阻害が考えられることが打ち立てられている。表2は、コントロールと処理物の2日間の吸光度の平均を記載した欄を含む。処理物の吸光度は、各化合物のMICが測定された濃度に相当する。
【0077】
一方、アンドラノンのフィールドテストも実施された。これらの試験を実施するために、本発明の式Iの化合物を用いてマイクロカプセル化組成物を調製した。まず、エトキシ化アルコールとホスファチジルコリンの7:3混合物30gを調製した。前記混合物(7:3)を一定の速度で、70℃~90℃の温度で1時間撹拌した。その後、前記混合物を室温に達するまで放置した。室温に達した後、本発明の式Iの化合物5gを添加し、混合物を1000rpmの自動ミキサーに15分間入れてリポソームを形成し、溶媒として水を20mL/分の速度で1リットル完了するまで加え、マイクロエマルジョンを形成させた。
【0078】
バナナ(Musa sp)のMycosphaerella fijiensis(黒シガトカ)による被害の発生率と重症度について、アンドラノンのマイクロ乳化組成物の殺菌活性を量る評価を実施した。なお、Mycosphaerella fijiensisの病原作用の結果として、罹患した植物の葉に、点々としたものから壊死した斑点まで、様々な段階を経て一連の症状が現れることに留意する必要がある。評価にあたって、表3に示すように、チアパス州マサトランのバナナ栽培地1haにおいて、3回の反復により完全ランダムなブロックデザインが設定された。
【0079】
【表3】
【0080】
試験監視間隔は、4日及び5日ごとに設定した。測定変数は、マークした株あたりの総葉数と、病原体の発生を示す葉として定量化した、感染した最も若い葉youngest leaf infected(YLI)を決定した(表4)。同様に、収量は、各処理区で収穫された茎にできたものの重量として求めた。評価は2016年4月6日に開始し、2017年1月30日に終了した。塗布面は、カラーテープで囲われた、処理pあたり10株分とした。散布量は、1回の処理あたり29Lの水に相当する200L/haに設定した。
【0081】
図7及び表4から、化学処理の散布では、病原菌の発生率(YLI)に大きなばらつきが見られ、病害防除効果が低いことがわかる。
【0082】
【表4】
【0083】
異なる濃度の本発明の組成物の散布は、図7に見られるように、試験期間を通して変動がより少ないので、病害の最良の制御を示した。最後に、表5は、各処理についての生産収量を示し、表に見られるように、2Lの用量での本発明の組成物による処理が、全ての処理に対して最良であった。
【0084】
【表5】
【0085】
最後に、哺乳類、魚類、水生無脊椎動物、及び陸生無脊椎動物におけるアンドラノンの毒性を調べるための試験を実施した。その結果の概要を表6に示す。
【0086】
【表6】
【0087】
以上の結果より、アンドラノンの自由生物に対する毒性は無いことが示された。
【0088】
本発明は、好ましい実施形態に従って説明されたが、その精神と範囲から逸脱することなく、本発明に変更を加えることができることは、当業者にとって明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】