(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-25
(54)【発明の名称】コーティング済み限外ろ過デバイス
(51)【国際特許分類】
B01D 61/18 20060101AFI20230818BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20230818BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20230818BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20230818BHJP
B04B 5/02 20060101ALI20230818BHJP
C07K 1/34 20060101ALI20230818BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
B01D61/18
B01D61/14 500
B01D69/04
B01D71/68
B04B5/02 A
C07K1/34
G01N1/04 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505936
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 US2021043387
(87)【国際公開番号】W WO2022026505
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】パルド,アナ マリア デル ピラール
(72)【発明者】
【氏名】タナー,アリソン ジーン
【テーマコード(参考)】
2G052
4D006
4D057
4H045
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052AD15
2G052AD26
2G052AD55
2G052BA22
2G052EA02
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2G052JA07
4D006GA06
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4H045HA03
4H045HA04
4H045HA05
4H045HA06
4H045HA07
(57)【要約】
コーティング済み限外ろ過デバイスは:上部チャンバ;下部チャンバ;上記上部チャンバと上記下部チャンバとの間に配置されたろ過チャンバ;及び上記ろ過チャンバの周りに略垂直に配置された半透膜を備える。上記半透膜は、上記半透膜の、上記ろ過チャンバに対して露出している部分上に、コーティングを備え、上記コーティングは、動物源由来ではない超低付着性コーティングで構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング済み限外ろ過デバイスであって、
下部に着脱可能に接続された上部、
を備え、
前記上部は更に、上部チャンバ、前記上部チャンバと連通するろ過チャンバ、及び前記ろ過チャンバの周りに略垂直に配置された半透膜であって、前記半透膜は、前記半透膜の、前記ろ過チャンバに対して露出している部分上に、コーティングを備える、半透膜を備え、
前記下部は、前記ろ過チャンバと連通する下部チャンバを備える、コーティング済み限外ろ過デバイス。
【請求項2】
前記コーティングは、非動物由来超低付着性コーティングで構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記限外ろ過デバイスは、円錐形底部を有する円筒管形状を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記ろ過チャンバは、円錐形のろ過チャンバであり、前記円錐形のろ過チャンバは:
閉鎖下端部;
前記下端部の反対側の開放上端部;及び
前記円錐形のろ過チャンバを形成するように前記下端部と上端部との間に配置された、側壁
を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記開放上端部は、前記上部チャンバの下端部に配置され、前記上部チャンバと連通する、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記ろ過チャンバの周りに略垂直に配置された前記半透膜は、前記ろ過チャンバの前記側壁の少なくとも一部分を形成する、請求項4に記載のデバイス。
【請求項7】
前記半透膜はポリエーテルスルホン膜で構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記半透膜は、前記ろ過チャンバの周りに略垂直に配置された2つの膜部分を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスは、使用前の室温での保管に適したものである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスは、使用前に約4℃の温度で保管される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記デバイスは、前記上部チャンバを封止するためのキャップを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記デバイスは無菌である、請求項1のデバイス。
【請求項13】
前記限外ろ過デバイスは、遠心分離機に受承されるよう成形される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスは:
500μlのろ過チャンバ容積を有する1ml遠心管;
6mlのろ過チャンバ容積を有する15ml遠心管;及び
20mlのろ過チャンバ容積を有する50ml遠心管
のうちの1つを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記半透膜は、5,000MWCO、10,000MWCO、30,000MWCO、50,000MWCO、100,000MWCO、及び300,000MWCOからなる群から選択された分子量カットオフ(MWCO)を有する、請求項1に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下で、2020年7月31日出願の米国仮特許出願第63/059,425号の優先権の利益を主張するものであり、上記仮特許出願の内容は依拠され、その全体が参照により本出願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は一般に、コーティング済み限外ろ過デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
限外ろ過技法は、多くの産業で使用されている。例えば浄水、及び透析のようなヘルスケア用途では、限外ろ過技法が使用される。生体分子産業では、生体分子の濃縮又は分離のために限外ろ過デバイスを使用することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の限外ろ過デバイスは、デバイス内の膜への生体分子の結合に悩まされており、これは、限外ろ過デバイスから回収される生体分子の損失につながる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、水溶液から生体分子を単離するための限外ろ過デバイスを提供する。本開示のデバイスは、限外ろ過デバイスからの生体分子の回収率を、標準的な限外ろ過デバイスの回収率に比べて向上させることができる、コーティングを備える。
【0006】
本発明の一態様では、コーティング済み限外ろ過デバイスが提供される。上記デバイスは:上部チャンバ;下部チャンバ;上記上部チャンバと上記下部チャンバとの間に配置されたろ過チャンバ;及び上記ろ過チャンバの周りに略垂直な配向で配置された半透膜を備え、上記半透膜は、上記半透膜の、上記ろ過チャンバに対して露出している部分上に、コーティングを備える。
【0007】
いくつかの実施形態では、上記コーティングは、非動物由来超低付着性コーティング、即ち動物源由来ではない超低付着性コーティングで構成されていてよい。
【0008】
いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは円筒管形状を有してよい。いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは円錐形底部を備えてよい。
【0009】
いくつかの実施形態では、上記半透膜はポリエーテルスルホン(PES)膜で構成されていてよい。いくつかの実施形態では、上記半透膜は、上記ろ過チャンバの周りに垂直に配置された2つの膜部分を備えてよい。いくつかの実施形態では、上記半透膜は、5,000MWCO、10,000MWCO、30,000MWCO、50,000MWCO、100,000MWCO、及び300,000MWCOからなる群から選択された分子量カットオフ(molecular weight cut‐off:MWCO)を有してよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは、使用前の室温での保管に適したものであってよい。いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは、使用前に約4℃の温度で保管できる。
【0011】
いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは、上記上部チャンバを封止するためのキャップを備える。
【0012】
いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは更に、上部及び下部で構成されていてよい。上記限外ろ過デバイスの上記上部は、上記上部チャンバ、上記ろ過チャンバ、及び上記半透膜で構成されていてよい。上記下部は、上記下部チャンバで構成されていてよい。いくつかの実施形態では、上記上部は上記下部に着脱可能に接続される。
【0013】
いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは無菌限外ろ過デバイスである。
【0014】
いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは、遠心分離機に受承されるよう成形される。いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは、500μlのろ過チャンバ容積を有する1ml遠心管を備える。いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは、6mlのろ過チャンバ容積を有する15ml遠心管を備える。いくつかの実施形態では、上記限外ろ過デバイスは、20mlのろ過チャンバ容積を有する50ml遠心管を備える。
【0015】
いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイスは細胞外小胞の精製のために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】コーティング済み限外ろ過デバイスの一実施形態
【
図2】コーティング済み限外ろ過デバイスの一実施形態
【
図3】コーティング済み限外ろ過デバイスの一実施形態
【
図4】コーティング済み限外ろ過デバイスの一実施形態
【
図5】標準的な限外ろ過デバイス、及びコーティング済み限外ろ過デバイスの一実施形態における、粒子の単離を比較したグラフ
【
図6】標準的な限外ろ過デバイス、及びコーティング済み限外ろ過デバイスの一実施形態からの、収集物中の粒子数を比較したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態では、コーティング済み限外ろ過デバイスが提供され、このコーティング済み限外ろ過デバイスは、上記限外ろ過デバイスの半透膜への生体分子の非特異的結合を減少させる。半透膜への生体分子の結合の減少は、超低付着性試薬を上記膜に塗布することによって達成される。上記超低付着性試薬は、非動物由来超低付着性試薬、即ち動物源に由来しない超低付着性試薬である。非動物由来超低付着性試薬を半透膜に塗布することにより、限外ろ過デバイスの膜への非特異的結合によって失われ得る生体分子の回収率が上昇する。
【0018】
非動物由来超低付着性試薬コーティングの使用により、本発明の実施形態による限外ろ過デバイスは、室温で貯蔵安定性を有し、冷蔵、特別な条件での保管、又は特別な梱包を必要としない。更に、本発明の実施形態によるデバイスは、梱包から取り出してすぐに使用できる、無菌の、プレコーティング済み限外ろ過デバイスを提供する。標準的なデバイスとは異なり、本発明の実施形態によるデバイスは、限外ろ過の準備のための追加のプロセスステップを必要とせず、また上記プロセスステップの完了後約72時間以内といった短い時間枠内に使用する必要もない。
【0019】
本発明の実施形態によるデバイスは、従来の限外ろ過デバイスのユーザ体験よりも改善されたユーザ体験を提供する。ユーザは、生体分子の回収率を改善するためにデバイスをブロッキング又はコーティングする追加の長い多段階プロセスを必要とすることなく、デバイスを梱包から取り出してすぐに使用できる。例えば、従来のブロッキング技法は、以下の追加の処理ステップ:デバイスを水で洗浄し、デバイスを通して液体を急回転させるステップ;ピペットチップによる膜へのダメージを回避しようとしながらピペッティングすることにより残留水を除去するステップ;デバイスにブロッキング溶液(例としては粉乳及びウシ血清アルブミン(bovine serum albumin:BSA)等の動物由来ブロッカー溶液、並びに界面活性剤が挙げられる)充填するステップを、充填されたデバイスを少なくとも2時間又は一晩インキュベートするステップ;ブロッキング溶液を注ぎ出すステップ;デバイスを複数回水ですすぐステップ;並びにデバイスを急回転させるステップを必要とする場合がある。しかしながら、このような従来のブロッキング手順は冷蔵保管を必要とし、ブロッキングされたデバイスは、ブロッキング手順の終了後すぐに、例えばブロッキング後約72時間以内に使用しなければならない。
【0020】
対照的に、本発明の実施形態によるデバイスは、ユーザによるブロッキング又はコーティングを必要とせず、またその後に短い時間内にデバイスを使用する必要もない。本発明の実施形態によるデバイスは、梱包から取り出してすぐに使用できるものであり、また使用準備ができるまで室温(例えば約15℃~約25℃)で保管できる。本発明の実施形態によるデバイスは、冷蔵温度又は低温、例えば約4℃で保管することもできるが、効力を維持するための冷蔵保存を必要としない。
【0021】
本発明の実施形態は、水溶液から生体分子を単離するための限外ろ過デバイスを提供する。本開示のデバイスは、限外ろ過デバイスからの生体分子の回収率を、標準的な限外ろ過デバイスの回収率に比べて向上させることができる、コーティングを備える。本発明の実施形態によるデバイスは、生体液及び水溶液と共に使用され得る。いくつかの実施形態では、上記デバイスは、生体試料の濃縮、生体試料の精製、又はこれらの組み合わせのために使用され得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイスは、細胞外小胞の精製のために使用される。細胞外小胞(Extracellular Vesicle:EV)は、細胞によって分泌される生体分子であり、EVは、細胞間コミュニケーションにおけるその重要性を理由として、関心が高まっている。限外ろ過は、細胞培養培地からEVを濃縮するために使用できる1つの方法である。
【0023】
本発明の実施形態によるデバイスは、使い捨ての単回使用限外ろ過デバイスであってよい。本発明の特定の態様では、限外ろ過デバイスに遠心力を加えて、生体試料を濃縮又は精製する。いくつかの実施形態では、遠心力を印加することにより、溶液の体積を減少させる。いくつかの実施形態では、遠心力を印加することにより、溶液中の溶媒を脱塩等で交換する。いくつかの実施形態では、遠心力を印加することにより、分子量に基づいて、所望の生体分子を所望のものでない生体分子から無差別に分離する。
【0024】
図1~4は、本発明の実施形態によるコーティング済み限外ろ過デバイス100を示す。コーティング済み限外ろ過デバイス100は、デバイスの上端部101に上部チャンバ10を備え、デバイスの上端部101の反対側の下端部103に下部チャンバ20を備える。下部チャンバ20は、上端部21及び下端部23を備える。上部チャンバは、上端部11及び下端部13を備える。ろ過チャンバ30は上部チャンバ10の下端部13に配置され、ろ過チャンバ30は上部チャンバ10と下部チャンバ20との間に配置される。ろ過チャンバ30は、上部チャンバ10の下端部13と連通する開放上端部31、上端部31の反対側の閉鎖下端部33、及び液体の体積を保持するよう構成された円錐形のろ過チャンバを形成するように上端部31と下端部33との間に配置された、側壁37を備える。半透膜40がろ過チャンバ30の周りに略垂直に配置され、半透膜40は、この半透膜40の、ろ過チャンバ30に対して露出している部分又は表面上に、コーティング50を備える。いくつかの実施形態では、コーティングは、ろ過チャンバ30の側壁37の少なくとも一部分を形成する膜40の表面に配置される。ろ過チャンバ30の周りに略垂直に配置された半透膜40は、ろ過チャンバ30の側壁37の少なくとも一部分を形成し得る。
【0025】
限外ろ過デバイス100の本体60は、いずれの好適な形状であってよい。いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイス100の本体60は円筒管形状を有してよい。いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイス100の本体60は更に、円錐形底部70を含んでよい。
図1で示されているように、限外ろ過デバイス100は更に、限外ろ過デバイス本体60のねじ山付き部分105にねじ留めされるねじ山付きキャップといった、キャップ80を備えてよい。いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイス100は更に、上部チャンバ10用の容積目盛り15及びろ過チャンバ30用の容積目盛り35を備えてよい。
【0026】
いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイス100は上部63及び下部67で構成されていてよい。上部63は、上部チャンバ10、ろ過チャンバ30、及び半透膜部分40で構成されていてよい。下部67は下部チャンバ20で構成されていてよい。いくつかの実施形態では、上部63及び下部67は互いから取り外し可能である。このような実施形態では、上部63及び下部67は、いずれの好適な解除可能な接続65、例えばねじ接続、スナップ接続、インターロック接続、又はいずれの他の好適な解除可能な接続によって取り付けられてよい。
【0027】
ろ過チャンバ30は上部チャンバ10の下端部13に配置される。ろ過チャンバ30と上部チャンバ10とは共に、限外ろ過デバイス100の上部63の容積を形成する。上部63の容積に液体又は水溶液等を充填するために、ユーザはキャップ80を取り外して、デバイス100の上端部101の開口又はアパーチャ102を露出させてよい。アパーチャ102を通して液体又は溶液を追加でき、上記液体は、アパーチャ102から、上部63の下端部にあるろ過チャンバ30へと流れ落ちる。ユーザが液体を追加する間、上部63内において液体の体積が増大し、液体の液位は、ろ過チャンバ30の下端部33から上へ向かってデバイス100の上端部101まで上昇し、これによってろ過チャンバ30を満たし、その後上部チャンバ10を満たす。
【0028】
いくつかの実施形態では、半透膜40は低接着ポリエーテルスルホン(PES)膜で構成されていてよい。いくつかの実施形態では、デバイスは、特定の分子量カットオフ(MWCO)を有する半透膜を備える。MWCOは、力が印加されたときに半透膜を通過できる分子のサイズを指定する。いくつかの実施形態では、半透膜40は、ろ過チャンバ30の周りに略垂直な配向に配置された2つの膜部分を含んでよい。例えば半透膜40は、幅狭チャネル状ろ過チャンバ30の対向する側面を形成し得、この幅狭チャネル状ろ過チャンバ30は上部チャンバ10と共に、濃縮(又は脱塩)されることになる溶液を管の上部63で保持する。
【0029】
実施形態では、遠心分離によって力を印加して、MWCO以下の溶媒及び生体分子の半透膜の通過を促進する。力の非限定的な例としては:BUC 5バケット及び368327アダプタを伴うTS‐5.1‐500スイングアウトロータを備えた、Beckman Allegra 25R(Beckman Coulter, Inc.,インディアナ州インディアナポリス);356966アダプタを備えたBeckman TA‐10.250 25°固定角ロータ(Beckman Coulter, Inc.,インディアナ州インディアナポリス);75006441バケット(ThermoFisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)を伴う75006445スイングアウトロータを備えたHeraeus Multifuge 3 S‐R(Heraeus/Sorvall)といった、固定角ロータ遠心分離デバイス及びスイングバケットロータ遠心分離デバイスが挙げられる。
【0030】
図3は、遠心分離前の限外ろ過デバイスの一実施形態を示す。
図4は、遠心分離後の限外ろ過デバイスの一実施形態を示す。液体又は水溶液200を内包する限外ろ過デバイス100に遠心力等の力を加えると、膜のMWCO以下の粒子は管を通って上部チャンバ10からろ過チャンバ30へ、そして膜40を通過して下部チャンバ20の中へと移動し、一方で濃縮物201はろ過チャンバ30内に留まり、典型的にはその体積が大きく減少する。従って、力を印加すると、膜のMWCO以下の粒子を有するろ過チャンバ30の中の溶液は、ろ過チャンバ30から半透膜40を通過して半径方向に移動して、下部チャンバ20でろ液203として収集される。遠心分離後、ろ液203をデバイスの下部67の下部チャンバ20から収集でき、濃縮物201をデバイスの上部63のろ過チャンバ30から収集できる。
【0031】
限外ろ過デバイスの部品は、生体液及び水溶液と共に使用するために好適ないずれの材料で構成してよい。いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイスの本体はポリカーボネートから形成される。いくつかの実施形態では、ろ過チャンバはポリカーボネートから形成される。いくつかの実施形態では、デバイスのためのキャップはポリプロピレンである。いくつかの実施形態では、膜はポリエーテルスルホン膜である。本発明の実施形態によるデバイスは、70%エタノール溶液といったエタノール溶液、又は滅菌用ガス混合物を用いて滅菌できる。
【0032】
いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイスは、Corning(登録商標)Spin‐X(登録商標)限外ろ過(ultrafiltration:UF)濃縮器、例えば20mLの容積を有するSpin‐X UF 20濃縮器、6mLの容積を有するSpin‐X UF 6濃縮器、又は500μLの容積を有するSpin‐X UF 500濃縮器(Corning Incorporated、ニューヨーク州コーニングが製造)である。いくつかの実施形態では、半透膜は、濃縮のための必要条件を満たすための5,000、10,000、30,000、50,000、100,000、又は300,000の分子量カットオフ(MWCO)を有する、低接着ポリエーテルスルホン(PES)膜である。例えば、濃縮されることになるタンパク質より1/2~1/3小さいMWCOを選択する必要がある。いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイス内の膜は、5,000MWCO、10,000MWCO、30,000MWCO、50,000MWCO、100,000MWCO、300,000MWCO、又は他の好適なMWCOを有してよい。
【0033】
コーティング50は、限外ろ過デバイスからの生体分子の回収率を、標準的な限外ろ過デバイスの回収率に比べて向上させることができる。いくつかの実施形態では、コーティング50は、非動物由来超低付着性コーティングで構成されていてよい。コーティングは、いずれの好適なコーティングの方法によって塗布できる。コーティングの方法の非限定的な例としては、液体コーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、化学気相成長、プラズマ強化化学気相成長等が挙げられる。いくつかの実施形態では、非動物由来超低付着性コーティングは、超低付着性粉末、及びMilli‐Q(商標)Reference Ultrapure Water Purification System(MilliporeSigma、マサチューセッツ州バーリントン)のような精製システムから生成された超純水といった精製水を含んでよい。いくつかの実施形態では、ULAコーティングをUV架橋によって表面に共有結合させることができる。いくつかの実施形態では、非動物由来超低付着性コーティングは、アガロース、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、及びポリヒドロキシエチルメタクリレート(PolyHEMA)といったハイドロゲルを含んでよい。いくつかの実施形態では、非動物由来超低付着性コーティングは、低接着表面を形成するのに使用できる脂質様分子である2‐(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン(MPC)を含むことができる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態は、無菌のプレコーティング済み限外ろ過デバイスを対象とする。例えば、デバイスをコーティングした後、デバイスをガンマ線照射等のいずれの好適な方法によって滅菌してよい。従来の限外ろ過デバイスは、ユーザにデバイスの滅菌を要求し、滅菌のための選択肢は、デバイス内の膜へのダメージを回避するために、限定的なものであった。例えばユーザは、デバイスにエタノール溶液を通すことによって従来の限外ろ過デバイスを滅菌するように制限されていた。対照的に、本発明の実施形態は、すぐに使用できる、プレコーティング済み無菌限外ろ過デバイスを提供する。
【0035】
本発明の実施形態によるデバイスは、使用前に特別な梱包又は保管手順を必要としない。例えばデバイスは、使用前には室温(例えば約15℃~約25℃)条件で保管してよい。いくつかの例では、ユーザは、低温に維持しなければならない試料の限外ろ過を必要とする場合があり、このような例では、本発明の実施形態によるデバイスは、使用前は、低温又は冷蔵温度、例えば約4℃で保管してよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、限外ろ過デバイスは、細胞外小胞の精製のために使用される。細胞外小胞(EV)は、細胞によって分泌される生体分子であり、EVは、細胞間コミュニケーションにおけるその重要性を理由として、関心が高まっている。限外ろ過は、細胞培養培地からEVを濃縮するために使用できる1つの方法である。
【0037】
図5は、標準的な限外ろ過デバイスと、本発明の実施形態によるデバイス(ULAコーティング済み限外ろ過デバイス)との比較(n=3)を示す。
図5は、標準的な限外ろ過デバイスから濃縮されたEV(STD UF‐C)を、ULAコーティング済み限外ろ過デバイスから濃縮されたEV(ULA UF‐C)と比較している。EVの収集のために限外ろ過に供された出発物質は、ウシ胎児血清(FBS)であった。タンパク質は凝集でき、またナノ粒子トラッキング解析(nanoparticle tracking analysis:NTA)を用いて、粒子として計数できる。
図5に示されているように、標準的な限外ろ過デバイスから回収された粒子の数(EV及びタンパク質凝集体)は、ULAコーティング済み限外ろ過デバイスから回収された粒子の数より少ない。正方形のボックスは、粒子の典型的なサイズを表す。
【0038】
標準的な限外ろ過デバイスをULAコーティング済み限外ろ過デバイスと比較する別の方法は、半透膜に非特異的に結合する粒子の量を使用し、ろ液中に出た粒子(EV等)の量と、濃縮物に残存する粒子(EV等)の量とを比較することである。
図6は、コーティングされていない標準的な限外ろ過デバイスとULAコーティング済みろ過デバイスとの間での、このような比較を示す。いずれのデバイスも、同一の開始量の粒子を受け取った。この実験のための出発物質は、免疫グロブリン(IgG)タンパク質と混合された既知量のEVであった。濃い色のバーは、最終的にろ液中にあった粒子の数(UF‐F)を示す。薄い色のバーは、濃縮物(n=3)中の粒子の数(UF‐C)を反映している(n=3)。
図6に示されているように、標準的な(STD)非コーティング済み限外ろ過デバイスのろ液及び濃縮物において収集された粒子の合計数は2.4×10
9であり、ULAコーティング済み限外ろ過デバイスのろ液及び濃縮物において収集された粒子の合計数は1.1×10
10であった。従って、8.6×10
9個の粒子が、標準的な(コーティングされていない)限外ろ過デバイスでは検出されなかった。検出されないこれらの粒子は試験されるデバイスの半透膜に非特異的に結合していると思われる。
【0039】
以下の実験手順を用いて
図5及び
図6に示されているデータを生成した。
【0040】
材料
使用される材料としては、Spin‐X UF20 100K MWCO濃縮器(Corning Incorporated、カタログ番号431491、ニューヨーク州コーニング)、ULA溶液(製造手順は以下の通り)、ウシ胎児血清(FBS、Corning Incorporated カタログ番号35‐010‐CV)、粒子数及び粒径分布のナノトラッキング解析(Nano Tracking Analysis:NTA)のためのNanoSight NS300、 MilliQ(商標)グレード水(0.22μmろ過済み)、凍結エクソソーム(~1×10e10)(SBI、カタログ番号EXOP‐110A‐1)、及び1×PBS(カタログ番号21‐031‐CM)(0.22μmろ過済み)が挙げられる。
【0041】
ULAコーティングの方法
0.1gのPA04(超低付着性粉末、SurModics, Inc.,ミネソタ州エデンプレーリー)を計量して、100mLのmilliQ水(MilliporeSigma、マサチューセッツ州バーリントン製のMilli‐Q Reference Ultrapure Water Purification Systemを用いて生成された超純水)に添加し、磁気撹拌棒及びプレートを用いて混合した。試薬を溶解させた後に、キャップを限外ろ過デバイスから取り外し、6mLのULA溶液を各限外ろ過デバイスに分注した。これは、幅狭チャネル状ろ過チャンバを満たし、チャネルに対して露出している半透膜全体に接触するために、十分な量であった。容器を、4500mJのエネルギを受け取るよう紫外線「D」電球(ピーク波長300~440nm)の下に配置した。架橋後、ULA溶液をデバイスから吸引し、キャップを交換した。Spin‐X UF 20(Corning Incorporated、ニューヨーク州コーニング)デバイスを、使用するまで4℃で保管した。別のコーティング方法は、室温で保管できるようにするために保管前に膜を空気乾燥させるステップを含む。
【0042】
EVの濃縮のための限外ろ過
10mLのFBSを、4つの標準的な(STD)、及び4つのULAコーティング済みの(ULA)、Spin‐X UF 20デバイス(Corning Incorporated、ニューヨーク州コーニング)に加えた。3,000×gに設定された遠心分離機内で、スイングバケットロータを用いて溶液を20分間濃縮した。濃縮物の体積が2mL未満となるまで遠心分離ステップを繰り返した。濃縮物(上チャンバ、UF‐C)及びろ液(下チャンバ、UF‐F)を収集した。粒子の濃度及び粒径分布を、NS300機器及びNTA 3.3ソフトウェアを用いて決定した。解析の前に試料を水で希釈して、1フレームあたり20~80粒子の粒子数範囲を達成した。NS300機器を、NTAのために60秒のビデオを試料ごとに3つ撮影するように設定した。
【0043】
本開示の複数の実施形態が、添付の図面に示されており、また以上の「発明を実施するための形態」で説明されているが、本開示は開示されているこれらの実施形態に限定されず、以下の特許請求の範囲に記載及び定義される本開示から逸脱することなく、多数の再編成、修正及び置換が可能であることを理解されたい。
【0044】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0045】
実施形態1
上部チャンバ;
下部チャンバ;
上記上部チャンバと上記下部チャンバとの間に配置されたろ過チャンバ;及び
上記ろ過チャンバの周りに略垂直に配置された半透膜であって、上記半透膜は、上記半透膜の、上記ろ過チャンバに対して露出している部分上に、コーティングを備える、半透膜
を備える、コーティング済み限外ろ過デバイス。
【0046】
実施形態2
上記コーティングは、非動物由来超低付着性コーティングで構成される、実施形態1に記載のデバイス。
【0047】
実施形態3
上記限外ろ過デバイスは円筒管形状を有する、実施形態1に記載のデバイス。
【0048】
実施形態4
上記限外ろ過デバイスは円錐形底部を備える、実施形態3に記載のデバイス。
【0049】
実施形態5
上記ろ過チャンバは、円錐形のろ過チャンバであり、上記円錐形のろ過チャンバは:
閉鎖下端部、
上記下端部の反対側の開放上端部;及び
上記円錐形のろ過チャンバを形成するように上記下端部と上端部との間に配置された、側壁
を備える、実施形態1に記載のデバイス。
【0050】
実施形態6
上記開放上端部は、上記上部チャンバの下端部に配置され、上記上部チャンバと連通する、実施形態5に記載のデバイス。
【0051】
実施形態7
上記ろ過チャンバの周りに略垂直に配置された上記半透膜は、上記ろ過チャンバの上記側壁の少なくとも一部分を形成する、実施形態5に記載のデバイス。
【0052】
実施形態8
上記半透膜はポリエーテルスルホン膜で構成される、実施形態1に記載のデバイス。
【0053】
実施形態9
上記半透膜は、上記ろ過チャンバの周りに略垂直に配置された2つの膜部分を備える、実施形態1に記載のデバイス。
【0054】
実施形態10
上記デバイスは、使用前の室温での保管に適したものである、実施形態1に記載のデバイス。
【0055】
実施形態11
上記デバイスは、使用前に約4℃の温度で保管される、実施形態1に記載のデバイス。
【0056】
実施形態12
上記デバイスは、上記上部チャンバを封止するためのキャップを備える、実施形態1に記載のデバイス。
【0057】
実施形態13
更に上部及び下部で構成され、
上記デバイスの上記上部は、上記上部チャンバ、上記ろ過チャンバ、及び上記半透膜で構成され;
上記下部は、上記下部チャンバで構成される、実施形態1に記載のデバイス。
【0058】
実施形態14
上記上部は上記下部に着脱可能に接続される、実施形態13に記載のデバイス。
【0059】
実施形態15
上記デバイスは無菌である、実施形態1のデバイス。
【0060】
実施形態16
上記限外ろ過デバイスは、遠心分離機に受承されるよう成形される、実施形態1に記載のデバイス。
【0061】
実施形態17
上記デバイスは、500μlのろ過チャンバ容積を有する1ml遠心管を備える、実施形態1に記載のデバイス。
【0062】
実施形態18
上記デバイスは、6mlのろ過チャンバ容積を有する15ml遠心管を備える、実施形態1に記載のデバイス。
【0063】
実施形態19
上記デバイスは、20mlのろ過チャンバ容積を有する50ml遠心管を備える、実施形態1に記載のデバイス。
【0064】
実施形態20
上記半透膜は、5,000MWCO、10,000MWCO、30,000MWCO、50,000MWCO、100,000MWCO、及び300,000MWCOからなる群から選択された分子量カットオフ(MWCO)を有する、実施形態1に記載のデバイス。
【符号の説明】
【0065】
10 上部チャンバ
11 上部チャンバ10の上端部
13 上部チャンバ10の下端部
15 容積目盛り
20 下部チャンバ
21 下部チャンバ20の上端部
23 下部チャンバ20の下端部
30 ろ過チャンバ
31 ろ過チャンバ30の開放上端部、上端部
33 ろ過チャンバ30の閉鎖下端部、下端部
35 容積目盛り
37 側壁
40 半透膜
50 コーティング
60 本体、限外ろ過デバイス本体
63 上部
65 接続
67 下部
70 円錐形底部
80 キャップ
100 コーティング済み限外ろ過デバイス
101 デバイス100の上端部
102 アパーチャ
103 デバイス100の下端部
105 ねじ山付き部分
200 液体又は水溶液
201 濃縮物
203 ろ液
【国際調査報告】