(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-25
(54)【発明の名称】アニオン性及びカチオン性抑制剤を含むCMP組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230818BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20230818BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230818BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230818BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505965
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 US2021043117
(87)【国際公開番号】W WO2022026355
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500397411
【氏名又は名称】シーエムシー マテリアルズ リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】シン-イェン ウー
(72)【発明者】
【氏名】チン-ハオ チャン
(72)【発明者】
【氏名】チョン-ユアン コー
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA04
3C158CB01
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(57)【要約】
タングステン又はモリブデンをポリッシングするための化学機械的ポリッシング組成物が、水性液体キャリアと、液体キャリア中に分散された研磨粒子と、アルギニン、ヒスチジン、システイン、リシン、及びこれらの混合物から成る群から選択されたアミノ酸と、アニオン性ポリマー又はアニオン性界面活性剤と、任意のアミノ酸界面活性剤とを含み、これらから本質的に成り、又はこれらから成る。タングステン層又はモリブデン層を含む基板を化学機械的ポリッシングする方法が、基板を上記ポリッシング組成物と接触させ、ポリッシング組成物を基板に対して動かし、そしてタングステン層又はモリブデン層の一部を基板から除去し、これにより基板をポリッシングするように、基板を研磨することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学機械的ポリッシング組成物であって、
水性液体キャリアと、
前記液体キャリア中に分散された研磨粒子と、
アルギニン、ヒスチジン、システイン、リシン、及びこれらの混合物から成る群から選択されたアミノ酸と、
アニオン性ポリマー又はアニオン性界面活性剤と
を含む、組成物。
【請求項2】
鉄含有促進剤と、
前記鉄含有促進剤に結合された安定剤と
をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
過酸化水素酸化剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記アニオン性ポリマーが、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、及びポリリン酸から成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記アニオン性ポリマーが、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリ(スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)、及びこれらの混合物から成る群から選択されたスルホン酸モノマー単位を含むポリスルホン酸ポリマーである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記アニオン性ポリマーが、ポリビニルスルホン酸(PVSA)又は
ポリスチレンスルホン酸(PSSA)である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジン、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記アニオン性界面活性剤が、アルキル基と、負荷電型の硫酸基又はスルホン酸基とを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記アニオン性界面活性剤が、ジナトリウムヘキサデシルジフェニルオキシドジスルホネート、アンモニウムラウリルポリオキシエチレンエーテルスルフェート、アンモニウムポリオキシエチレンスチレン化アリールスルフェート、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記研磨粒子がアニオン性シリカ又はアニオン性アルミナを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
アミノ酸界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記アミノ酸界面活性剤が、グリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から成る群から選択されたアミノ酸基を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記アミノ酸界面活性剤が、トリエタノールアミンN-ココイル-DL-アラニネート、L-アルギニンココエート、グリシン、N-メチル-N-(1-オキソドデシル)、及びこれらの混合物を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
約100重量ppm~約1000重量ppmのアニオン性界面活性剤と、約30重量ppm~約300重量ppmのアミノ酸界面活性剤とを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記研磨粒子が、アニオン性シリカ又はアニオン性アルミナを含み、
前記アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジン、及びこれらの混合物から成る群から選択され、そして
前記アニオン性ポリマー又は前記アニオン性界面活性剤が、アルキル基と、負荷電型の硫酸基又はスルホン酸基とを含むアニオン性界面活性剤を含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
グリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から成る群から選択されたアミノ酸基を含むアミノ酸界面活性剤をさらに含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
タングステン層又はモリブデン層を有する基板を化学機械的ポリッシングする方法であって、前記方法が、
(a) 前記基板を、
(i) 水性液体キャリアと、
(ii) 前記液体キャリア中に分散された研磨粒子と、
(iii) アルギニン、ヒスチジン、システイン、リシン、及びこれらの混合物から成る群から選択されたアミノ酸と、
(iv) アニオン性ポリマー又はアニオン性界面活性剤と
を含むポリッシング組成物と接触させる工程、
(b) 前記ポリッシング組成物を前記基板に対して動かす工程、並びに
(c) 前記タングステン層又は前記モリブデン層の一部を前記基板から除去し、これにより前記基板をポリッシングするように、前記基板を研磨する工程
を含む、方法。
【請求項18】
鉄含有促進剤と、
前記鉄含有促進剤に結合された安定剤と
をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アニオン性ポリマー又は前記アニオン性界面活性剤が、アルキル基と、負荷電型の硫酸基又はスルホン酸基とを含むアニオン性界面活性剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリッシング組成物が、アミノ酸界面活性剤をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジン、及びこれらの混合物から成る群から選択され、
前記アニオン性ポリマー又は前記アニオン性界面活性剤が、アルキル基と、負荷電型の硫酸基又はスルホン酸基とを含むアニオン性界面活性剤を含み、そして
前記アミノ酸界面活性剤が、グリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から成る群から選択されたアミノ酸基を含む、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月28日付けで出願された「Molybdenum CMP Composition and Method Including Dual Inhibitors(二重抑制剤を含むモリブデンCMP組成物及び方法)」と題する米国仮出願第63/057,639号、及び2020年9月11日付けで出願された「Molybdenum CMP Composition and Method Including Dual Inhibitors(二重抑制剤を含むモリブデンCMP組成物及び方法)」と題する米国仮出願第63/077,036号の優先権を主張する。
【0002】
開示された実施態様は、金属層の化学機械的ポリッシング、そしてより具体的にはタングステン及び/又はモリブデンをポリッシングするための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
半導体デバイスフロントエンド(FEOL)処理及びバックエンド(BEOL)処理の両方において、数多くの化学機械的ポリッシング(CMP)作業が用いられる。例えば、シャロートレンチアイソレーション(STI)は、インレイド型のテトラエチルオルソシリケート(TEOS)のパターンをシリコンウエハー内に作成するために、トランジスタの形成前に用いられるFEOLプロセスである。タングステンプラグ・相互接続配線プロセス及び銅相互接続配線プロセス及び二重ダマシンプロセスは、デバイス・トランジスタを接続する金属ワイヤのネットワークを作成するために用いられるBEOLプロセスである。これらのプロセスでは、誘電材料(例えばTEOS)内に形成された開口内に、金属層が堆積される。誘電体から余剰の金属を除去し、そしてこれにより導電性プラグ及び/又は相互接続配線をその中に形成するために、CMPが用いられる。
【0004】
トランジスタのサイズが縮小し続けるのに伴って、コンベンショナルな相互接続配線技術の利用はますます困難になってきている。最近では、例えばBEOL相互接続配線構造の下側金属層内(例えばM1、M2、及び/又はM3層内)の銅及び/又はタングステンと置き換えるために、先端的ノード用途の候補金属として、モリブデンが浮上している。プラグ・相互接続配線金属としてモリブデンが潜在的に導入されるのに伴い、モリブデン含有基板を平坦化し得るCMPスラリーの必要性が新たに生じる。
【0005】
化学機械ポリッシング組成物は、ポリッシングされた金属に対して化学的に攻撃的であり得る、過酸化水素のような酸化剤を一般に採用する。先進的ノードデバイスは概ね、金属構造のフィーチャサイズが極度に小さいため、コロージョンの問題を高度に被りやすい。タングステン及びモリブデンは両方とも、過酸化水素によって引き起こされるコロージョンを被りやすい傾向がある。タングステン及び/又はモリブデン膜を除去し、タングステン及び/又はモリブデンを含有する基板を効果的に平坦化し得る一方、相応するコロージョンを招くことのないCMPスラリーが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
タングステン層又はモリブデン層を有する基板をポリッシングするための化学機械的ポリッシング組成物が開示される。ポリッシング組成物は、水性液体キャリアと、液体キャリア中に分散された研磨粒子と、アルギニン、ヒスチジン、システイン、リシン、及びこれらの混合物から成る群から選択されたアミノ酸と、アニオン性ポリマー又はアニオン性界面活性剤とを含み、これらから本質的に成り、又はこれらから成る。タングステン層又はモリブデン層を含む基板を化学機械的ポリッシングする方法が、さらに開示される。方法は、基板を上記ポリッシング組成物と接触させ、ポリッシング組成物を基板に対して動かし、そしてモリブデン層の一部を基板から除去し、これにより基板をポリッシングするように、基板を研磨することを含んでよい。
【発明を実施するための形態】
【0007】
化学機械的ポリッシング組成物が開示される。ポリッシング組成物は、水性液体キャリアと、液体キャリア中に分散された研磨粒子と、アルギニン、ヒスチジン、システイン、リシン、及びこれらの混合物から成る群から選択されたアミノ酸と、アニオン性ポリマー又はアニオン性界面活性剤とを含み、これらから本質的に成り、又はこれらから成る。任意の実施態様はアミノ酸界面活性剤をさらに含んでよい。1つの好ましい実施態様では、前記研磨粒子がアニオン性シリカ又はアニオン性アルミナを含み、前記アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジン、及びこれらの混合物から成る群から選択され、そして前記アニオン性界面活性剤が、アルキル基と、負荷電型の硫酸基又はスルホン酸基とを含み、そして前記組成物が任意には、グリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から成る群から選択されたアミノ酸基を含むアミノ酸界面活性剤をさらに含む。開示された組成物はさらに任意には、鉄含有促進剤と、前記鉄含有促進剤に結合された安定剤とをさらに含み、そして約1.0~約5.0のpHを有してよい。
【0008】
開示された組成物及び方法は、従来技術を凌ぐ種々の技術的な利点及び改善点をもたらすことができる。例えば、開示された組成物は、タングステン及び/又はモリブデンのコロージョン及びエッチングの抑制を改善し、そして好適に高い除去速度を提供することができる。したがって、これらの組成物は改善されたパターン化ウエハーポリッシング性能(例えば改善されたディッシング及びアレイエロージョン)を提供することができ、したがって先進的ノードデバイス内のタングステン及びモリブデンCMP作業を可能にし得る。
【0009】
言うまでもなく、開示されたCMP組成物は、タングステン層又はモリブデン層がポリッシング組成物に晒される金属又は誘電体CMP作業のために有利に利用することができる。開示された組成物は、バルク除去CMP作業及び/又はバフCMP作業(当該技術分野では第1及び第2ステップCMP作業と呼ばれることがある)に特に適することがある。当業者に知られているように、バルク除去作業はより高い除去速度を必要とし得るのに対して、バフ作業はより低い欠陥レベルを必要とし得る。開示されたCMP組成物を単一ステップCMP作業のために有利に利用してもよい。
【0010】
ポリッシング組成物は、液体キャリア中に懸濁された研磨粒子を含有する。ポリッシング(例えば平坦化)されるべき基板の表面に研磨粒子及び任意の化学的添加剤を被着するのを容易にするために、液体キャリアが一般に使用される。液体キャリアは、低級アルコール(例えばメタノール、エタノールなど)、エーテル(例えばジオキサン、テトラヒドロフランなど)、水、及びこれらの混合物を含む任意の適宜のキャリア(例えば溶剤)であってよい。好ましくは、液体キャリアは水、より好ましくは脱イオン水を含み、これから本質的に成り、又はこれから成る。
【0011】
液体キャリア中に懸濁された研磨粒子は、実質的に任意の適宜の研磨材料、例えば金属酸化物粒子、ダイアモンド粒子、及び/又はセラミック粒子を含んでよい。金属酸化物粒子は例えば、コロイド粒子及び/又はヒュームド金属酸化物粒子を含む、シリカ、セリア、及び/又はアルミナ研磨粒子を含んでよい。セラミック粒子は、立方晶窒化ホウ素又は炭化ケイ素のような材料を含んでよい。下で詳述するように、好ましい実施態様はアニオン性コロイドシリカ粒子、アニオン性アルミナ粒子、又はこれらの混合物を含んでよい。
【0012】
ある特定の実施態様(例えば下記実施例の多く)では、研磨粒子はコロイドシリカを含んでよい。本明細書中では、コロイドシリカ粒子という用語は、構造的に異なる粒子を生成する発熱性又は火炎加水分解法ではなく、湿式法を介して調製されるシリカ粒子を意味する。コロイドシリカ粒子は凝集型又は非凝集型であってよい。非凝集型粒子は個々に離散した粒子である。これらの粒子の形状は球状であるか又は球状に近いが、しかし他の形状(例えばほぼ楕円形、正方形、又は長方形の断面)を有していてもよい。凝集型粒子は、複数の離散粒子が概ね不規則な形状を有する凝集体を形成するようにクラスタ化されるか又は互いに結合された粒子である。凝集型コロイドシリカ粒子が、例えば同一譲受人による米国特許第9,309,442号明細書に開示されている。
【0013】
研磨粒子は、実質的に任意の適宜の粒径を有していてよい。液体キャリア中に懸濁された粒子の粒径は、種々の手段を用いて業界において定義することができる。例えば粒径は、粒子を包囲する最小球体の直径と定義することができ、例えばCPS Disc Centrifuge, Model DC24000HR(ルイジアナ州Prairieville 在CPS Instrumentsから入手可能)、又はMalvern Instruments(登録商標)から入手可能なZetasizer(登録商標)を含む、数多くの商業的に入手可能な機器を使用して測定することができる。研磨粒子の平均粒径は約5nm以上(例えば約10nm以上、約20nm以上、約30nm以上、約40nm以上、約50nm以上、又は約60nm以上)であってよい。研磨粒子の平均粒径は300nm以下(例えば約250nm以下、約200nm以下、約180nm以下、又は約150nm以下)であってよい。したがって、研磨粒子は上記エンドポイントのうちのいずれか2つによって仕切られた範囲の平均粒径を有してよい。例えば、研磨粒子の平均粒径は約5nm~約300nm(例えば約10nm~約200nm、約20nm~約200nm、又は約50nm~約150nm)であってよい。
【0014】
ポリッシング組成物は実質的に任意の適宜の量の研磨粒子を含んでよい。ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約0.01重量%以上(例えば約0.02重量%以上、約0.05重量%以上、約0.1重量%以上、約0.2重量%以上、又は約0.5重量%以上)の研磨粒子を含んでよい。ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約20重量%以下(例えば約10重量%以下、約5重量%以下、約3重量%以下、又は約2重量%以下)の研磨粒子を含んでもよい。したがって、ポリッシング組成物中の研磨粒子の濃度は、上記エンドポイントのうちのいずれか2つによって仕切られた範囲にあってよい。例えば、ポリッシング組成物中の研磨粒子の量は、約0.01重量%~約20重量%(例えば約0.02重量%~約10重量%、約0.05重量%~約5重量%、約0.1重量%~約3重量%、又は約0.1重量%~約2重量%)の範囲にあってよい。
【0015】
開示されたポリッシング組成物中の研磨粒子は実質的に任意の適宜の表面電荷を含んでよい。分散された粒子、例えばシリカ粒子又はアルミナ粒子上の電荷は、一般に当該技術分野においてゼータ電位(又は運動電位)と呼ばれる。粒子のゼータ電位は、粒子を取り囲むイオンの電荷と、ポリッシング組成物のバルク溶液(例えば液体キャリア及び液体キャリア中に溶解された任意の他の成分)の電荷との電位差を意味する。ゼータ電位は典型的には水性媒体のpHに依存する。所与のポリッシング組成物の場合、粒子の等電点は、ゼータ電位がゼロであるpHと定義される。pHが等電点から増加又は減少するのに伴って、表面電荷(ひいてはゼータ電位)は相応して減少又は増加する(負又は正のゼータ電位値へ)。分散体、例えばポリッシング組成物のゼータ電位は、商業的に入手可能な機器、例えばMalvern(登録商標) Instrumentsから入手可能なZetasizer(登録商標)、Brookhaven Instrumentsから入手可能なZetaPlus Zeta Potential Analyzer、及び/又はDispersion Technologies, Inc.から入手可能な電気音響分光計を使用して得ることができる。
【0016】
ある特定の好ましい実施態様では、開示されたポリッシング組成物は有利には、アニオン性シリカ粒子、アニオン性アルミナ粒子、又はこれらの混合物を含むアニオン性研磨粒子を含んでよい。「アニオン性」とは、研磨粒子がポリッシング組成物のpHにおいて負の表面電荷を有することを意味する。例えば、研磨粒子は約5mV以上 (例えば約10mV以上、約15mV以上、又は約20mV以上)の負電荷(負のゼータ電位)を有してよい。ポリッシング組成物中のコロイドシリカ粒子は、約40mV以下の負電荷を有してよい。例えば、研磨粒子のゼータ電位は、約ネガティブ5~約ネガティブ40mV(例えば約ネガティブ10~約ネガティブ40mV)であってよい。
【0017】
コロイドシリカ粒子は、ポリッシング組成物のpHにおいて粒子の自然状態ではアニオン性であってよい。好ましい実施態様では、コロイドシリカ粒子は、例えば有機酸、イオウ系の酸、リン系の酸、及び/又はアニオン性ポリマーを用いた表面金属ドーピング及び/又は化学的表面処理又は部分表面処理を介して、ポリッシング組成物のpHにおいてアニオン性にされる。このような処理方法は(例えば米国特許第9,382,450号明細書に開示されているように)当業者に知られている。
【0018】
アニオン性アルミナ粒子も、有機酸、イオウ系の酸、リン系の酸、及び/又はアニオン性ポリマーを含む負荷電型化合物で粒子表面の表面の少なくとも一部を処理することにより、同様に調製されてよい。ある特定の実施態様では、アルミナはアルファアルミナを含んでよく、そしてアニオン性ポリマーはポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)又はポリスチレンスルホン酸を含んでよい。
【0019】
ポリッシング組成物は有利には、第1及び第2化合物を含むことにより、ポリッシング組成物中のタングステン又はモリブデンのコロージョン(エッチング)速度を低減又は抑制することができる。このような実施態様では、第1化合物は有利にはカチオン性(正荷電型)であってよく、これに対して第2化合物は有利にはアニオン性(負荷電型)であってよい。このような第1及び第2化合物の使用により、驚くべきことに、そして有利なことに、モリブデンの静的エッチング速度を相乗的に低減することができる。理論に縛られたくはないが、正荷電型第1化合物は、(例えばクーロン相互作用を介して)負荷電型の酸化モリブデン表面と連携するのに対して、負荷電型第2化合物は、正荷電型第1化合物と連携し、これによりモリブデン層の表面上により堅牢な保護膜を形成する(そしてモリブデン及び/又はタングステンのコロージョンをさらに抑制する)と考えられる。ある特定の実施態様では、ポリッシング化合物は、エッチングをさらに抑制するために第3化合物をさらに含んでよい。
【0020】
開示された実施態様では、第1化合物はアミノ酸を含んでよい。例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンを含む、実質的に任意の適宜のアミノ酸が利用されてよい。好ましいアミノ酸はアルギニン、ヒスチジン、リシン、及びシステインを含む。アルギニン及びヒスチジンが最も好ましいアミノ酸である。
【0021】
ポリッシング組成物は実質的に任意の適宜の量のアミノ酸を含んでよい。アミノ酸は約0.0005M~約0.5Mの量(又は濃度)でポリッシング組成物中に存在してよい。例えば、ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約0.001M以上のアミノ酸(例えば約0.002M以上、約0.003M以上、約0.004M、又は約0.005M以上)を含んでよい。ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約0.1M以下のアミノ酸(例えば約0.08M以下、約0.07M以下、約0.06M以下、又は約0.05M以下)を含んでよい。したがって、アミノ酸は、上記エンドポイントのうちのいずれか1つによって仕切られた範囲、例えば約0.001M~約0.1M又は約0.005M~約0.05Mの濃度でポリッシング組成物中に存在してよい。
【0022】
第2化合物は実質的に任意の適宜のアニオン性ポリマーを含んでよい。適宜のアニオン性ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーであってよく、そして例えばカルボン酸基、スルホン酸基、及びホスホン酸基から選択されたモノマー単位を含んでよい。例えば、適宜のアニオン性ポリマーはポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(メタクリル酸)(PMAA)、ポリ(マレイン酸)(PMA)、ポリ(ビニルスルホン酸)(PVSA)、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリ(スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)、及びこれらの組み合わせを含んでよい。好ましいアニオン性ポリマーは、ポリ(ビニルスルホン酸)(PVSA)、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSSA)、及びこれらの組み合わせを含む。
【0023】
ポリッシング組成物は実質的に任意の適宜の量のアニオン性ポリマーを含んでよい。アニオン性ポリマーは、約1重量ppm~約10,000重量ppm(1重量パーセント)の量(又は濃度)でポリッシング組成物中に存在してよい。例えば、ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約10ppm以上(例えば約20ppm以上、約40ppm以上、又は約50ppm以上)のアニオン性ポリマーを含んでよい。ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約2500ppm以下(例えば約2000ppm以下、約1000ppm以下、又は約500ppm以下)のアニオン性ポリマーを含んでよい。したがって、ポリッシング組成物は上記エンドポイントのうちのいずれか1つによって仕切られた範囲、例えば約10重量ppm~約2500重量ppm又は約50重量ppm~約500重量ppmの量のアニオン性ポリマーを含んでよい。
【0024】
本発明の他の実施態様では、第2化合物は実質的に任意の適宜のアニオン性界面活性剤を含んでよい。適宜のアニオン性界面活性剤は、所期pH作業空間(例えばスルホン酸塩及び硫酸塩)内に負電荷を担持する官能基と、アルキル基とを有するアニオン性界面活性剤を含む。好ましいアニオン性界面活性剤は、エーテル及び/又はフェノールを伴う負荷電型官能基を有してよい。負荷電型官能基は好ましくは硫酸基又はスルホン酸基である。適宜のアニオン性界面活性剤の例は、ジナトリウムヘキサデシルジフェニルオキシドジスルホネート、アンモニウムポリオキシエチレンスチレン化アリールスルフェート、及びアンモニウムアルキルポリオキシエチレンエーテルスルフェート(例えばアンモニウムポリオキシエチレンオレイルセチルエーテルスルフェート、及びアンモニウムラウリルポリオキシエチレンエーテルスルフェート)を含む。
【0025】
ポリッシング組成物は実質的に任意の適宜の量のアニオン性界面活性剤を含んでよい。アニオン性界面活性剤は、約1重量ppm~約10,000重量ppm(1重量パーセント)の量(又は濃度)でポリッシング組成物中に存在してよい。例えば、ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約10ppm以上(例えば約30ppm以上、約50ppm以上、又は約100ppm以上)のアニオン性界面活性剤を含んでよい。ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約2500ppm以下(例えば約2000ppm以下、約1500ppm以下、又は約1000ppm以下)のアニオン性界面活性剤を含んでよい。したがって、ポリッシング組成物は上記エンドポイントのうちのいずれか1つによって仕切られた範囲、例えば約50重量ppm~約1500重量ppm又は約100重量ppm~約1000重量ppmの量のアニオン性界面活性剤を含んでよい。
【0026】
アニオン性界面活性剤を含む実施態様では、開示された組成物は任意には、モリブデン又はタングステンのエッチング速度を(ある特定の組成物中で)さらに低減し得る、アミノ酸界面活性剤を含む第3の任意の化合物をさらに含んでよい。第3化合物は実質的に任意の適宜のアミノ酸界面活性剤を含んでよい。本明細書中に使用されるアミノ酸界面活性剤は、例えば天然アミノ酸と脂肪酸(又は脂肪酸誘導体)との縮合によって合成されたアミノ酸基を含む界面活性剤である。アミノ酸界面活性剤の例は、N-置換型アミノ酸及びこれらの塩、例えばN-アシルアミノ酸及びこれらの塩(塩の例はナトリウム、カリウム、アンモニア、及びトリエタノールアミン塩を含む)。アミノ酸界面活性剤は、例えばグリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸を含む、実質的に任意の適宜のアミノ酸基を含んでよい。下で詳述する実施態様は、トリエタノールアミンN-ココイル-DL-アラニネート (Ajinomoto Health & Nutrition North America, Inc.から入手可能なAMILITE(登録商標)ACS-12)、L-アルギニンココエート(Ajinomoto Health & Nutrition North America, Inc. から入手可能なAMINOSOAP AR-12)、及びグリシン、N-メチル-N-(1-オキソドデシル)(Croda Personal Care から入手可能なCrodasinic LP30-LQ-(RB))を含んだ。
【0027】
開示された組成物は実質的に任意の適宜の量のアミノ酸界面活性剤を含んでよい。アミノ酸界面活性剤は約0重量ppm~約10,000重量ppm(1重量パーセント)の量(又は濃度)でポリッシング組成物中に存在してよい。例えば、ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約5ppm以上(例えば約10ppm以上、約20ppm以上、又は約30ppm以上)のアミノ酸界面活性剤を含んでよい。ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約2000ppm以下(例えば約1000ppm以下、約500ppm以下、又は約300ppm以下)のアミノ酸界面活性剤を含んでよい。したがって、ポリッシング組成物は、上記エンドポイントのうちのいずれか1つによって仕切られた範囲、例えば約10重量ppm~約1000重量ppm又は約30重量ppm~約300重量ppmの量のアミノ酸界面活性剤を含んでよい。
【0028】
ポリッシング組成物は、タングステン層又はモリブデン層をポリッシングするのに適した実質的に任意のpHを有してよい。組成物は概ね酸性であり、約7未満のpHを有する。ある特定の実施態様では、組成物のpHは約1以上(例えば約1.5以上、約2以上、約2.5以上、又は約3以上)であってよい。組成物のpHは約6以下(例えば約5以下、約4.5以下、約4以下、又は約3.5以下)であってよい。したがって、組成物は上記値のいずれかによって仕切られた範囲のpHを有してよい。例えば、モリブデンポリッシング組成物は、約1~約6(例えば約1~約5、約2~約4.5、又は約2~約4)のpHを有してよい。
【0029】
言うまでもなく、ポリッシング組成物のpHは、(もちろん所期pHに応じて)任意の適宜の手段によって達成且つ/又は維持することができる。ポリッシング組成物は、実質的に任意の適宜のpH調節剤又は緩衝システムを含んでよい。例えば、適宜のpH調節剤は硝酸、硫酸、リン酸、フタル酸、クエン酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、及びこれに類するものを含んでよく、これに対して、適宜の緩衝剤はリン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、ホウ酸塩、アンモニウム塩、プロピオン酸塩、これらの混合物、及びこれに類するものを含んでよい。
【0030】
ポリッシング組成物は、例えば酸化剤、タングステン又はモリブデンの鉄含有ポリッシング促進剤、及び安定剤を含む他の任意の化合物を含んでよい。本明細書中に使用される鉄含有促進剤は、CMP作業中のタングステン及びモリブデンの除去速度を高める鉄含有化合物である。例えば、鉄含有促進剤は、米国特許第5,958,288号及び同第5,980,775号に開示されているような可溶性鉄含有触媒を含んでよい。このような鉄含有触媒は液体キャリア中に可溶性であってよく、例えば第二鉄(鉄III)又は第一鉄(鉄II)化合物、例えば硝酸鉄、硫酸鉄、フッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物、並びに過塩素酸塩、過臭素酸塩、及び過ヨウ素酸塩を含む鉄ハロゲン化物、及び有機鉄化合物、例えば酢酸鉄、カルボン酸、アセチルアセトネート、クエン酸塩、グルコン酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、フタル酸塩、及びコハク酸塩、及びこれらの混合物を含んでよい。
【0031】
ポリッシング組成物中の鉄含有促進剤の量は、使用される酸化剤及び促進剤の化学形態に応じて変化してよい。酸化剤が過酸化水素(又はその類似体の1つ)であり、可溶性鉄含有促進剤又は触媒(例えば硝酸第二鉄又は硝酸第二鉄の水和物)が使用される場合、促進剤はユースポイントにおいて、組成物の総重量を基準として約1~約5000ppmのFeを提供するのに十分な量で組成物中に存在してよい。ポリッシング組成物は、ユースポイントにおいて約10ppm以上(例えば約20ppm以上、約30ppm以上、又は約50ppm以上)のFeを含んでよい。ポリッシング組成物はユースポイントにおいて、約5000ppm以下(例えば約3000ppm以下、約2000ppm以下、又は約1000ppm以下)のFeを含んでよい。したがって、ポリッシング組成物は上記エンドポイントのうちのいずれか1つによって仕切られた範囲のFeを含んでよい。組成物はユースポイントにおいて、約10~約5000ppm(例えば約20~約2000ppm、又は約50~約1000ppm)のFeを含んでよい。
【0032】
鉄含有促進剤を含むポリッシング組成物の実施態様は安定剤をさらに含んでよい。このような安定剤がないと、鉄含有促進剤と、もし存在するならば酸化剤とは、酸化剤を時間とともに急速に劣化させる形で反応し得る。安定剤の添加は、鉄含有促進剤の効果を低減する傾向があるので、ポリッシング組成物に添加される安定剤のタイプ及び量の選択は、CMP性能に著しい影響を及ぼし得る。安定剤の添加は、安定剤/促進剤複合体を形成させ得る。この複合体は、促進剤が、もし存在するならば酸化剤と反応するのを抑制し、これと同時に、促進剤が急速なモリブデンポリッシング速度を促進するのに十分に活性のままであることを可能にする。
【0033】
有用な安定剤はリン酸、有機酸、リン酸塩化合物、ニトリル、及び金属に結合して過酸化水素分解に向かう反応性を低減する他のリガンド、及びこれらの混合物を含む。酸安定剤はこれらの共役形態で使用することができ、例えばカルボン酸塩をカルボン酸の代わりに使用することができる。有用な安定剤を説明するために本明細書中に使用される「酸」という用語はまた、酸安定剤の共役塩基を意味する。安定剤は単独又は組み合わせで使用することができ、そして酸化剤、例えば過酸化水素が分解する速度を著しく低減することができる。
【0034】
好ましい安定剤は、リン酸、酢酸、フタル酸、クエン酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、アスパラギン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、グルタコン酸、ムコン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、及びこれらの混合物を含む。好ましい安定剤は本発明の組成物に、鉄含有促進剤当たり約1当量~約3.0重量パーセント以上(例えば約3~約10当量)の量で添加することができる。本明細書中に使用される「鉄含有促進剤当たりの当量」という用語は、組成物中の鉄イオン1つ当たり1分子の安定剤を意味する。例えば鉄含有促進剤当たり2当量は、各触媒イオンに対して2分子の安定剤を意味する。
【0035】
ポリッシング組成物は任意には酸化剤をさらに含んでよい。酸化剤は、スラリー製造プロセス中、又はCMP作業直前に(例えば半導体製造設備に配置されたタンク内で)ポリッシング組成物に添加することができる。好ましい酸化剤は無機又は有機ペル化合物を含む。本明細書中に定義されたペル化合物は、少なくとも1つのペルオキシ基(-O--O-)を含有する化合物、又は最高酸化状態の元素を含有する化合物である。少なくとも1つのペルオキシ基を含有する化合物の一例としては、過酸化水素、及びそのアダクト、例えば過酸化水素尿素、過炭酸塩、有機過酸化物、例えば過酸化ベンゾイル、過酢酸、及びジ-t-ブチルペルオキシド、モノペルスルフェート(SO5
=)、ジペルスルフェート(S2O8
=)、及び過酸化ナトリウムが挙げられる。最高酸化状態の元素を含有する化合物の一例としては、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩、過臭素酸、過臭素酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、過ホウ酸、及び過ホウ酸塩、及び過マンガン酸塩が挙げられる。最も好ましい酸化剤は過酸化水素である。
【0036】
酸化剤は、ユースポイントにおいて例えば約0.01~約5重量パーセントの量でポリッシング組成物中に存在してよい。過酸化水素酸化剤、及び可溶性鉄含有促進剤が使用される実施態様では、酸化剤はユースポイントにおいて、約0.05重量%~約2重量%(例えば約0.05重量%~約1重量%、又は約0.1重量%~約1重量%)の量でポリッシング組成物中に存在してよい。
【0037】
ポリッシング組成物は任意にはさらに殺生物剤を含んでよい。殺生物剤は任意の適宜の殺生物剤、例えばイソチアゾリノン殺生物剤を含んでよい。ポリッシング組成物中の殺生物剤の量は典型的には、ユースポイントにおいて約1ppm~約50ppmであり、そして好ましくは約1ppm~約20ppmである。
【0038】
ポリッシング組成物は、任意の適宜の技術を用いて調製することができる。これらの技術の多くは当業者に知られている。ポリッシング組成物はバッチ法又は連続法で調製することができる。大まかに言えば、ポリッシング組成物はその成分を任意の順番で合体することにより調製することができる。本明細書中に使用される「成分(component)」は個々の成分(ingredients)(例えば研磨粒子、アミノ酸、アニオン性ポリマー、鉄含有促進剤など)を含む。
【0039】
例えば、種々のポリッシング組成物成分(例えばアミノ酸、アニオン性ポリマー、鉄含有促進剤、安定剤、及び/又は殺生物剤)を、アニオン性シリカ及び/又はアニオン性アルミナ研磨剤を含む分散体に直接に添加してよい。成分は、適切な混合を達成するための任意の適宜の技術を用いて互いにブレンドすることができる。このようなブレンド/混合技術は当業者によく知られている。ポリッシング組成物の調製中の任意の時点に任意の酸化剤、例えば過酸化水素剤を添加することができる。例えば、ポリッシング組成物は使用前に調製することができ、1種又は2種以上の成分、例えば酸化剤はCMP作業の直前(例えばCMP作業前の約1分以内、又は約10分以内、又は約1時間以内、又は約1日以内、又は約1週間以内)に添加することができる。ポリッシング組成物は、ポリッシング作業中に(例えばポリッシングパッド上の)基板表面において成分を混合することにより、調製することもできる。
【0040】
ポリッシング組成物は、上記物理特性を有するコロイドシリカと他の任意の成分とを含む1パッケージシステムとして供給されると有利である。酸化剤(例えば過酸化水素)をポリッシング組成物の他の成分とは別個に供給することが望ましく、例えば最終使用者によって、使用直前(例えば使用前1週間以内、使用前1日以内、使用前1時間以内、使用前10分以内、又は使用前1分以内)に、ポリッシング組成物の他の成分と合体させることができる。種々の他の2容器、又は3容器、又は4以上の容器、ポリッシング組成物の成分の組み合わせが、当業者の知識に含まれる。
【0041】
本発明のポリッシング組成物は濃縮物として提供されてもよい。濃縮物は使用前に適量の水で希釈されるように意図されている。このような実施態様では、ポリッシング組成物濃縮物は、濃縮物を適量の水、そしてもしもまだ適量で存在しない場合には任意の酸化剤で希釈すると、ポリッシング組成物の各成分が、各成分に関して上述した適切な範囲内の量でポリッシング組成物中に存在することになるような量で、研磨粒子、アミノ酸、アニオン性ポリマー水、及び他の任意の成分、例えば鉄含有促進剤、安定剤、及び殺生物剤を、酸化剤とともに又は酸化剤を伴わずに含むことができる。例えば、成分のそれぞれは各成分に関して上述したユースポイント濃度の約2倍(例えば約3倍、約4倍、約5倍、又は約10倍)である量でポリッシング組成物中にそれぞれ存在することができるので、濃縮物が等体積の水(例えばそれぞれ2等体積の水、3等体積の水、又は4等体積の水、又は9等体積の水)で、適量の任意の酸化剤と一緒に希釈されると、各成分は各成分に関して上述した範囲内の量でポリッシング組成物中に存在することになる。さらに、当業者には明らかなように、濃縮物は、他の成分が濃縮物中に少なくとも部分的又は完全に溶解されるのを保証するために、最終ポリッシング組成物中に存在する水の適宜の部分を含有してよい。
【0042】
本発明のポリッシング方法は具体的には、化学機械的ポリッシング(CMP)装置と併せて用いるのに特に適している。典型的には、装置は、使用中に運動して、軌道、直線、又は円形運動から生じる速度を有するプラテンと、プラテンと接触して運動時にプラテンと一緒に運動するポリッシングパッドと、ポリッシングパッドの表面に対して接触し運動することによってポリッシングされるべき基板を保持するキャリアとを含む。基板のポリッシングは、基板がポリッシングパッド及び本発明のポリッシング組成物と接触した状態で配置され、次いで基板上のモリブデン層に対してポリッシングパッドが運動することにより行われ、これにより、モリブデン層の少なくとも一部を研磨することによって基板をポリッシングする。
【0043】
ある特定の望ましい実施態様では、開示されたポリッシング組成物は、モリブデン又はタングステンの低いエッチング速度を有する組成物を用いて、モリブデン又はタングステンの高いポリッシング速度を可能にする。例えば、開示された実施態様は、タングステン又はモリブデンの除去速度が1000Å/min超(例えば1200Å/min超又は1500Å/min超)であり、そして組成物の、タングステン又はモリブデンのエッチング速度が150Å/min未満(例えば100Å/min未満、75Å/min未満、50Å/min未満、又は25Å/min未満)である、モリブデン層を化学機械的にポリッシングする方法を含むことができる。望ましい実施態様は、タングステン又はモリブデンの高いポリッシング速度とともに低い動的エッチング速度(例えば動的エッチング速度が200Å未満、100Å未満、75Å未満、又は50Å未満)をさらに可能にし得る。
【0044】
言うまでもなく、CMP作業中の組成物の性能を評価する上で、動的エッチング速度は静的エッチング速度と等しいか又はこれよりも良好な指標となり得る。開示された実施態様はもちろんこれに関して限定されないが、動的エッチング速度を評価するときに存在する動的条件は、CMP作業中に経験するものに近い(CMP作業中、ポリッシング組成物はウエハー表面上を動くか又は流動するようになっていてよい)。
【0045】
基板は、任意の適宜のポリッシングパッド(例えばポリッシング表面)を用いて、化学機械的ポリッシング組成物によって平坦化又はポリッシングすることができる。好適なポリッシングパッドは例えば、織布及び不織布ポリッシングパッドを含む。さらに、好適なポリッシングパッドは多様な密度、硬さ、厚さ、圧縮性、圧縮時の反発能力、及び圧縮係数を有する任意の適宜のポリマーを含むことができる。好適なポリマーは例えばポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ナイロン、フルオロカーボン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリエーテル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリプロピレン、これらの同時形成生成物、及びこれらの混合物を含む。
【0046】
言うまでもなく、開示は数多くの実施態様を含む。これらの実施態様の一例として、下記実施態様が挙げられる。
【0047】
第1実施態様では、組成物が化学機械ポリッシング組成物を含み、これから成り、又はこれから本質的に成ってよく、前記化学機械ポリッシング組成物が、水性液体キャリアと、前記液体キャリア中に分散された研磨粒子と、アルギニン、ヒスチジン、システイン、リシン、及びこれらの混合物から成る群から選択されたアミノ酸と、アニオン性ポリマー又はアニオン性界面活性剤とを含む。
【0048】
第2実施態様は第1実施態様を含んでよく、前記組成物が鉄含有促進剤と、前記鉄含有促進剤に結合された安定剤とをさらに含む。
【0049】
第3実施態様は第1及び第2実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記組成物が過酸化水素酸化剤をさらに含む。
【0050】
第4実施態様は第1~第3実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記アニオン性ポリマーが、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、及びポリリン酸から成る群から選択される。
【0051】
第5実施態様は第1~第4実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記アニオン性ポリマーが、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-l-プロパンスルホン酸)、ポリ(スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)、及びこれらの混合物から成る群から選択されたスルホン酸モノマー単位を含むポリスルホン酸ポリマーである。
【0052】
第6実施態様は第1~第5実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記アニオン性ポリマーが、ポリビニルスルホン酸(PVSA)又はポリスチレンスルホン酸(PSSA)である。
【0053】
第7実施態様は第1~第6実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジン、及びこれらの混合物から成る群から選択される。
【0054】
第8実施態様は第1~第7実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記アニオン性界面活性剤が、アルキル基と、負荷電型の硫酸基又はスルホン酸基とを含む。
【0055】
第9実施態様は第1~第8実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記アニオン性界面活性剤が、ジナトリウムヘキサデシルジフェニルオキシドジスルホネート、アンモニウムラウリルポリオキシエチレンエーテルスルフェート、アンモニウムポリオキシエチレンスチレン化アリールスルフェート、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0056】
第10実施態様は第1~第8実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記研磨粒子がアニオン性シリカ又はアニオン性アルミナを含む。
【0057】
第11実施態様は第1~第10実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、アミノ酸界面活性剤をさらに含む。
【0058】
第12実施態様は第11実施態様を含んでよく、前記アミノ酸界面活性剤が、グリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から成る群から選択されたアミノ酸基を含む。
【0059】
第13実施態様は第11実施態様を含んでよく、前記アミノ酸界面活性剤がトリエタノールアミンN-ココイル-DL-アラニネート、L-アルギニンココエート、グリシン、N-メチル-N-(1-オキソドデシル)、及びこれらの混合物を含む。
【0060】
第14実施態様は第11実施態様を含んでよく、約100重量ppm~約1000重量ppmのアニオン性界面活性剤と、約30重量ppm~約300重量ppmのアミノ酸界面活性剤とを含む。
【0061】
第15実施態様は第1~第14実施態様のうちのいずれか1つを含んでよく、前記研磨粒子がアニオン性シリカ又はアニオン性アルミナを含み、前記アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジン、及びこれらの混合物から成る群から選択され、そして前記アニオン性ポリマー又は前記アニオン性界面活性剤が、アルキル基と、負荷電型の硫酸基又はスルホン酸基とを含むアニオン性界面活性剤を含む。
【0062】
第16実施態様は第15実施態様を含んでよく、グリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から成る群から選択されたアミノ酸基を含むアミノ酸界面活性剤をさらに含む。
【0063】
第17実施態様では、タングステン層又はモリブデン層を有する基板を化学機械的ポリッシングする方法が、(a) 前記基板を、第1~第16ポリッシング組成物実施態様のいずれか1つと接触させ、(b) 前記ポリッシング組成物を前記基板に対して動かし、そして(c) 前記タングステン層又は前記モリブデン層の一部を前記基板から除去し、これにより前記基板をポリッシングするように、前記基板を研磨することを含み、このことから成り、又はこのことから本質的に成ることができる。
【0064】
実施例1
この実施例は、モリブデンの静的エッチング速度を低減する上での本発明の組成物の効果を実証する。27種の組成物を調製した(対照1-1,1-2,及び1-3,及び実施例1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I,1J,1K,1L,1M,1N,1O,1P,1Q,1R,1S,1T,1U,1V,1W,及び1X)。各組成物は、0.01モル(M)のアミノ酸、300重量ppmのアニオン性ポリマー、0.23重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、0.29重量パーセントのマロン酸、及び0.25重量パーセントの過酸化水素をpH2で含んだ。各組成物中に使用された具体的なアミノ酸及びアニオン性ポリマーの化合物を表1に挙げる。
【0065】
上記27種の組成物のそれぞれにおけるモリブデンの静的エッチング速度を評価した。モリブデン層を有する2インチ型ウエハーをそれぞれの組成物中に(モリブデン側を上にして)3分間にわたって25℃で浸漬した。組成物中の浸漬の前及び後に行われた抵抗率測定を介して、モリブデン除去速度を判定した。
【0066】
アミノ酸、アニオン性ポリマー、及びモリブデンのエッチング速度も表1に示す。表1では、PSSAはポリ(スチレンスルホン酸)を意味し、そしてPVSAはポリ(ビニルスルホン酸)を意味する。
【表1】
【0067】
表1に示された結果から明らかなように、モリブデンのエッチング速度は、組成物1I-1L及び1Q-1Tのものが、他の組成物のものよりも低かった。モリブデンのエッチング速度は、アニオン性ポリマーと、アルギニン、ヒスチジン、リシン、及びシステインのうちの少なくとも1つとを含む組成物中で、他のアミノ酸を含む組成物(1M-1P及び1U-1X)及びアニオン性ポリマーを含まない組成物(1A-1H)よりも低いことが明らかである。さらに、組成物1I,1J,1Q,及び1R(アルギニン又はヒスチジンを含む)中のモリブデンのエッチング速度は、PSSA又はPVSAと組み合わせたときに最も低かった。エッチング速度は組成物1Q(アルギニン及びPVSA)中で最も低かった。
【0068】
実施例2
この実施例は、モリブデンをポリッシングするための本発明の組成物の効果を実証する。モリブデンのポリッシング速度を、この実施例では2種のポリッシング組成物に関して評価した。各組成物は、アルギニンアミノ酸、PSSAアニオン性ポリマー、0.5重量パーセントのアニオン性コロイドシリカ(扶桑化学工業社から入手可能なPL-3D)、0.3重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、0.37重量パーセントのマロン酸、及び0.1重量パーセントの過酸化水素をpH2で含んだ。ポリッシング組成物2Aは550重量ppmのアルギニンと70重量ppmのPSSAとを含んだ。ポリッシング組成物2Bは1000重量ppmのアルギニンと200重量ppmのPSSAとを含んだ。アニオン性シリカのゼータ電位は、Malvern Zetasizer(登録商標)を使用して測定して、pH2において-20mVであった。
【0069】
ブランケット・モリブデン・ウエハーをポリッシングすることにより、モリブデンのポリッシング速度を得た。Mirra(登録商標)CMP工具、NexPlanar E6088ポリッシングパッドをダウンフォース2.0psi、プラテン速度93rpm、ヘッド速度87rpmで使用して、ウエハーをポリッシングした。スラリー流量は150ml/minであった。実施例1において上述した手順を用いて、組成物2A及び2B中のモリブデンのエッチング速度も評価した。モリブデンのポリッシング速度及びエッチング速度を表2に示す。
【表2】
【0070】
表2に示された結果から明らかなように、アミノ酸及びアニオン性ポリマーの化合物(この実施例ではアルギニン及びPSSA)を含むポリッシング組成物が、高いモリブデン除去速度を達成することができる。ポリッシング組成物2A(550ppmのアルギニン及び70ppmのPSSAを有する)は、組成物2B(1000ppmのアルギニン及び200ppmのPSSAを有する)よりも高い除去速度を達成した。モリブデンのエッチング速度は両組成物において低かった。
【0071】
実施例3
この実施例は、モリブデンをポリッシングするための本発明の組成物の効果を実証する。モリブデンのポリッシング速度を、この実施例では2種のポリッシング組成物に関して評価した。各組成物は、550重量ppmのアルギニンアミノ酸、70重量ppmのPSSAアニオン性ポリマー、0.5重量パーセントのアニオン性研磨粒子、0.4重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、0.5重量パーセントのマロン酸、及び0.1重量パーセントの過酸化水素をpH2で含んだ。ポリッシング組成物3Aは、0.5重量パーセントのアニオン性アルミナ(ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)で処理されたα-アルミナ)を含んだ。ポリッシング組成物3Bは、0.5重量パーセントのアニオン性コロイドシリカ(扶桑化学工業社から入手可能なPL-3D)を含んだ。
【0072】
ブランケット・モリブデン・ウエハーをポリッシングすることにより、モリブデンのポリッシング速度を得た。Mirra(登録商標)CMP工具、NexPlanar E6088ポリッシングパッドをダウンフォース2.0psi、プラテン速度93rpm、ヘッド速度87rpmで使用して、ウエハーをポリッシングした。スラリー流量は150ml/minであった。モリブデンのポリッシング速度を表3に示す。
【表3】
【0073】
表3に示された結果から明らかなように、アニオン性アルミナ又はアニオン性シリカ研磨剤を使用して、好適なモリブデン除去速度を達成することができる。さらに、低濃度の研磨粒子(0.5重量パーセント)を使用すると高いモリブデン除去速度を達成し得ることが明らかである。
【0074】
実施例4
この実施例は、モリブデンの静的エッチング速度を低減するための本発明の組成物の効果を実証する。30種の組成物を調製した(対照4-1,4-2,4-3,4-4,4-5及び4-6,及び実施例4A,4B,4C,4D,4E,4F,4G,4H,4I,4J,4K,4L,4M,4N,4O,4P,4Q,4R,4S,4T,4U,4V,4W,及び4X)。各組成物は、0.01モル(M)のアミノ酸、500重量ppmのアニオン性界面活性剤、0.31重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、0.43重量パーセントのマロン酸、200重量ppmのIgepal CA630(Feイオンのための安定剤)、及び0.1重量パーセントの過酸化水素をpH2で含んだ。各組成物中に使用された具体的なアミノ酸及びアニオン性ポリマーの化合物を表4に挙げる。
【0075】
表4において、SDSはナトリウムドデシルスルフェートを表し、TSF-20はジナトリウムヘキサデシルジフェニルオキシドジスルホネートを表し、Sinonate1105SFは、アンモニウムラウリルポリオキシエチレンエーテルスルフェートを表し、そしてSinonate S619SFは、アンモニウムポリオキシエチレンスチレン化アリールスルフェートを表す。
【0076】
上記30種の組成物のそれぞれにおけるモリブデンの静的エッチング速度を評価した。それぞれの組成物中のモリブデンエッチング速度を得るために、モリブデン層を有する2インチ型ウエハーをそれぞれの組成物中に(モリブデン側を上にして)2分間にわたって45℃で浸漬した。組成物中の浸漬の前及び後に行われた抵抗率測定を介して、モリブデン除去速度を判定した。
【表4】
【0077】
表4に示された結果から明らかなように、アミノ酸とアニオン性界面活性剤とのある特定の組み合わせを含有する組成物は、他の組成物よりも著しく低いモリブデンエッチング速度を呈した。アニオン性界面活性剤と、アルギニン、ヒスチジン、リシン及びシステインのうちの少なくとも1つとを含む組成物が、他のアミノ酸、例えばグリシンを含む組成物(4Q~4T)、アミノ酸を含まない組成物(4U-4X)、又はアニオン性界面活性剤を含まない組成物(対照4-1から4-6)よりも著しく低いモリブデンエッチング速度を有することが明らかである。さらに、アルギニン又はヒスチジンを含む組成物4A~4Hは、ジナトリウムヘキサデシルジフェニルオキシドジスルホネート、アンモニウムラウリルポリオキシエチレンエーテルスルフェート、及びアンモニウムポリオキシエチレンスチレン化アリールスルフェートと合体させると、著しく低減されたモリブデンエッチング速度を呈する(そして最低エッチング速度を有する)。
【0078】
実施例5
この実施例は、低いモリブデン静的エッチング速度と、高いモリブデン除去速度とが、開示された組成物によって可能であることを実証する。2種のスラリーを調製した。スラリー5Aは、0.35重量パーセントのマロン酸、0.18重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物、500ppmのIgepal CA630、600ppmのアルギニン、700ppmのTSF-20、75ppmのProxel Ultra10(殺生物剤)、及び0.13重量パーセントのアニオン性アルミナとから成った。スラリー5Bは、0.43重量パーセントのマロン酸、0.31重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物、100ppmのIgepal CA630、800ppmのアルギニン、400ppmのSinoate1105SF、75ppmのProxel Ultra10(殺生物剤)、及び0.13重量パーセントのアニオン性シリカから成った。
【0079】
実施例4に記載されたように、モリブデン静的エッチング速度(SER)を測定した。NexPlanar E6088ポリッシングパッドをダウンフォース2.0psi、プラテン速度93rpm、ヘッド速度87rpmで使用して、Mirra(登録商標)CMPポリシング工具上でモリブデンポリッシング速度を測定した。スラリー流量は150ml/minであった。結果は表5に示されている。
【表5】
【0080】
これらの結果は、アルギニンとアニオン性界面活性剤とを含む本発明の組成物が、低いモリブデン静的エッチング速度及び高いモリブデンポリッシング速度の両方を達成することを実証する。
【0081】
実施例6
この実施例は、ある特定のアミノ酸界面活性剤を含有する組成物の溶解度を(濁度測定を介して)評価する。20種の組成物を調製した(対照6-1,6-2,6-3,及び6-4及び実施例6A,6B,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6I,6J,6K,6L,6M,6N,6O,及び6P)。各組成物は、アミノ酸、アニオン性界面活性剤、0.3重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、及び0.33重量パーセントのマロン酸をpH2.3で含んだ。選択された組成物は、100ppmのアミノ酸界面活性剤をさらに含んだ。各組成物中に使用された具体的なアミノ酸、アニオン性界面活性剤、及びアミノ酸界面活性剤の化合物を表6に挙げる。アニオン性界面活性剤は上記実施例4において定義される。Sinonate 1204SFは、別のアンモニウムラウリルポリオキシエチレンエーテルスルフェート界面活性剤を表す。
【0082】
表6において、ACS-12は、L-アラニンと天然脂肪酸とから誘導された界面活性剤であるAMILITE(登録商標)ACS-12(Ajinomoto Health & Nutrition North America, Inc.から入手可能)を表す。AR-12は、L-アルギニンとヤシ脂肪酸とから誘導された界面活性剤であるAMINOSOAP(登録商標)AR-12(Ajinomoto Health & Nutrition North America, Inc.から入手可能)を表す。そしてLP-30は、グリシン含有界面活性剤のカリウム塩であるCrodasinic(登録商標)LP30(Crodaから入手可能)を表す。
【0083】
各組成物の濁度は、Thermo Scientific Eutech TN-100濁度計を使用して室温で測定した。測定された濁度値も表6に挙げる。
【表6】
【0084】
表6に示されているように、アニオン性界面活性剤を含まない選択されたアミノ酸界面活性剤を含む組成物(対照6-2,6-3,及び6-4)は、(おそらくはアミノ酸界面活性剤の低い溶解度に起因して)比較的高い濁度を有する。選択されたアニオン性界面活性剤を添加すると、(例えば組成物6B,6C,6D,6G,6I,及び6O中の)濁度の著しい低減が観察された。この実施例において、Sinonate 1105SFアニオン性界面活性剤は、濁度の低減において最も効果的であった(組成物6B,6C,及び6D)。
【0085】
実施例7
この実施例では、アミノ酸、アニオン性界面活性剤、及びアミノ酸界面活性剤を含む本発明の組成物に関して、モリブデンの静的及び動的エッチング速度を評価した。16種の組成物を評価した(実施例7A,7B,7C,7D,7E,7F,7G,7H,7I,7J,7K,7L,7M,7N,7O,及び7P)。各組成物は1300重量ppmのアルギニン、アニオン性界面活性剤、0.3重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、0.33重量パーセントのマロン酸、及び0.1重量パーセントの過酸化水素をpH2.3で含んだ。選択された組成物は、100ppmの任意のアミノ酸界面活性剤をさらに含んだ。各組成物中に使用された具体的なアミノ界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤の化合物を表7に挙げる。アミノ酸界面活性剤は上記実施例6において定義される。
【0086】
モリブデンの静的(SER)及び動的(DER)エッチング速度を、上記組成物のそれぞれにおいて評価した。(上記実施例4と同様の手順を用いて)モリブデン層を有する2インチ型ウエハーをそれぞれの組成物中に(モリブデン側を上にして)30秒間にわたって45℃で浸漬することにより、静的エッチング速度を判定した。静的エッチング速度は撹拌されない組成物中で判定した。動的エッチング速度は、撹拌された組成物中にウエハーを2分間にわたって45℃で浸漬することにより判定した。磁気撹拌(磁気攪拌棒を用いた撹拌)を用いて、動的(剪断)状況を発生させた。磁気攪拌棒を2分間全体にわたって約1200rpmの速度で回転させた。浸漬の前及び後に行われた抵抗率測定を介して、SER及びDERを判定し、これらを表7で報告する。
【表7】
【0087】
表7に示されているように、アミノ酸とアニオン性界面活性剤とを含む組成物に、選択されたアミノ酸界面活性剤を添加すると、(例えば組成物7B,7C,7D,7G,7J,7K,及び7L中で)モリブデンの静的エッチング速度をさらに低減すること、そして動的エッチング速度を著しく低減することが観察された。AMINOSOAP(登録商標)AR-12を含む組成物は、種々の選択されたアニオン性界面活性剤との組み合わせで最低の静的及び動的エッチング速度を有することが観察された(組成物7B,7F,7J,及び7N)。
【0088】
実施例8
この実施例は、モリブデンの静的及び動的エッチング速度を低減するときの、アミノ酸、アニオン性界面活性剤、及び任意のアミノ酸界面活性剤の組み合わせを含む本発明の組成物の効果をさらに実証する。16種の組成物を評価した(実施例8A,8B,8C,8D,8E,8F,8G,8H,8I,8J,8K,8L,8M,8N,8O,及び8P)。各組成物は800重量ppmのアルギニン、500重量ppmのヒスチジン、0.3重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、0.33重量パーセントのマロン酸、Sinonate 1105SFアニオン性界面活性剤、及び0.1重量パーセントの過酸化水素をpH2.3で含んだ。選択された組成物は100重量ppm、200重量ppm、又は300重量ppmのAMINOSOAP(登録商標)AR-12アミノ酸界面活性剤をさらに含んだ。具体的なSinonate 1105SF及びAE-12の濃度を表8に挙げる。
【0089】
各組成物の濁度を上記実施例6に記載されたように、室温で測定した。上記実施例7にも記載されているように、上述の組成物のそれぞれに関して、静的及び動的なモリブデンのエッチング速度を評価した。各組成物の濁度及びモリブデンの静的及び動的なエッチング速度を表8で報告する。
【表8】
【0090】
表8に示されているように、濁度、静的エッチング速度、及び動的エッチング速度は、アニオン性界面活性剤及びアミノ酸界面活性剤の相対濃度に依存する。少なくとも500ppmのアニオン性界面活性剤と、少なくとも100ppmのアミノ酸界面活性剤とを有する組成物に対して、最低のモリブデンエッチング速度が観察された。濁度はまた、具体的には約300ppmにおいて、アミノ酸界面活性剤の増大とともに増大することが観察された。
【0091】
実施例9
この実施例は、種々異なる過酸化水素濃度を有するアミノ酸、アニオン性界面活性剤、及び任意のアミノ酸界面活性剤を含む組成物中のモリブデンの静的及び動的エッチング速度を評価する。8種の組成物を評価した(実施例9A,9B,9C,9D,9E,9F,9G,及び9H)。各組成物は1300重量ppmのアルギニン、500重量ppmのSinonate 1105SF アニオン性界面活性剤、0.3重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)、及び0.33重量パーセントのマロン酸をpH2.3で含んだ。選択された組成物(9E,9F,9G,及び9H)は、100重量ppmのAMINOSOAP AR-12アミノ酸界面活性剤をさらに含んだ。過酸化水素を表9に挙げる。上記実施例7に記載されたように、モリブデンの静的エッチング速度を判定した。
【表9】
【0092】
表9に示されているように、AMINOSOAP(登録商標)AR-12を添加すると、すべての過酸化水素濃度においてモリブデンの静的エッチング速度が低減される。
【0093】
実施例10
この実施例は、モリブデンをポリッシングするための本発明の組成物の効果を実証する。モリブデンのポリッシング速度を、この実施例では2種のポリッシング組成物に関して評価した。各組成物は、800重量ppmのアルギニン、500重量ppmのヒスチジン、500重量ppmのSinonate 1105SFアニオン性界面活性剤、0.3重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、及び0.33重量パーセントのマロン酸、0.5重量パーセントのアニオン性コロイドシリカ、及び0.1重量パーセント過酸化水素をpH2.3で含んだ。組成物9Bは、100重量ppmのAMINOSOAP(登録商標)AR-12アミノ酸界面活性剤をさらに含んだ。
【0094】
実施例7において上述した手順を用いて、モリブデンのエッチング速度を判定した。ブランケット・モリブデン、TEOS、及びTiN層を含有するウエハーをポリッシングすることにより、モリブデン、TEOS、及びTiNのポリッシング速度を得た。Mirra(登録商標)CMPポリッシング工具、及びNexPlanar E6088ポリッシングパッドをダウンフォース2.0psi、プラテン速度93rpm、及びヘッド速度87rpmで使用して、ウエハーをポリッシングした。スラリー流量は100ml/minであった。結果を表10に示す。
【表10】
【0095】
表10に示されているように、AMINOSOAP(登録商標)AR-12アミノ酸界面活性剤をアニオン性界面活性剤及びアミノ酸を含む組成物に添加すると、ブランケット・モリブデンのポリッシング速度を著しく低減することなしに、モリブデン静的エッチング速度を著しく低減することが観察された。
【0096】
実施例11
この実施例は、タングステンの静的及び動的エッチング速度を低減するときの、本発明の組成物の効果を実証する。4種の組成物を評価した(実施例11A,11B,11C,及び11D)。各組成物は0.3重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、0.33重量パーセントのマロン酸、0.13重量パーセントのアニオン性シリカ、及び2.0重量パーセントの過酸化水素をpH2.3で含んだ。組成物11B,11C,及び11Dは、1300重量ppmのアルギニンをさらに含んだ。組成物11A,11C,及び11Dは、500重量ppmのSinonate 1105SFアニオン性界面活性剤をさらに含んだ。組成物11Dは100重量ppmのAMINOSOAP(登録商標)AR-12アミノ酸界面活性剤をさらに含んだ。アルギニン、Sinonate 1105SF、及びAMINOSOAP(登録商標)AR-12を表11に挙げる。
【0097】
2インチ型ウエハーがタングステン層を含むことを除けば、上記実施例7に記載したように、タングステンのSER及びDERを判定した。静的エッチング速度は45℃及び65℃で判定した。動的エッチング速度は45℃及び55℃で判定した。エッチング速度も表11に挙げる。
【表11】
【0098】
表11に示されているように、アミノ酸(この実施例ではアルギニン)、アニオン性界面活性剤、及び任意のアミノ酸界面活性剤(組成物11C及び11D)を含む組成物が、アミノ酸界面活性剤又はアニオン性界面活性剤を単独で含む組成物と比較して、タングステンの低減された静的速度と、著しく低減された動的エッチング速度とを有することが観察された。
【0099】
実施例12
この実施例は、パターン化タングステンウエハーをポリッシングするときの、本発明の組成物の効果を実証する。2種の本発明の組成物を評価した(実施例12A及び12B)。各組成物は、0.3重量パーセントの硝酸第二鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、0.43重量パーセント(12A)及び0.33重量パーセント(12B)のマロン酸、800重量ppmのアルギニン、500重量パーセントのヒスチジン、500重量ppmのSinonate 1105SF、0.13重量パーセントのアニオン性シリカ、及び0.1重量パーセントの過酸化水素をpH2(12A)及び2.3(12B)で含んだ。組成物12Bは、200重量ppmのAMINOSOAP(登録商標)AR-12アミノ酸界面活性剤をさらに含んだ。種々の組成物の詳細を表12Aに挙げる。
【0100】
Mirra(登録商標)CMPポリッシング工具、及びNexPlanar E6088ポリッシングパッドをダウンフォース2.0psi、プラテン速度93rpm、及びヘッド速度87rpmで使用して、ブランケット・タングステン及びTEOSウエハー、及びパターン化タングステンWウエハーをポリッシングした。スラリー流量は100ml/minであった。パターン化タングステンウエハーは予めエンドポイントまでポリッシングしてあり、同様の到来するトポグラフィを有した。各パターン化タングステン・ウエハーを45秒間にわたってポリッシングした。
【0101】
ブランケット・タングステン及びTEOSのポリッシング速度を表12Aに挙げる。ディッシング及びエロージョンの結果を表12B及び12Cに挙げる。ディッシングの結果を1μm、10μm、50μm、及び100μmのタングステンラインに対して挙げる。エロージョンの結果を0.18 X 0.18μm、1 X 1μm、10 X 10μm、50 X 50μm、及び100 X 100μmのアレイに関して挙げる。
【表12】
【表13】
【表14】
【0102】
図12A~12Cに示されているように、200ppmのAMINOSOAP(登録商標)AR-12アミノ酸界面活性剤を含む組成物が、1psi及び2psiの両ダウンフォースにおいて、広範囲のフィーチャサイズにわたって、パターン化タングステンウエハーにおいて優れたディッシング及び優れたアレイ・エロージョンを達成する。さらに、この著しく改善されたパターンウエハーの性能は、タングステンの除去速度を最小限にしか減少させず(約15%)に達成された。
【0103】
本発明を記述する文脈における(特に下記請求項の文脈における)「a」及び「an」及び「the」という用語、及び同様の指示対象の使用は、別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に矛盾するのではない限り、単数形及び複数形の両方をカバーするものと解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」という用語は、特に断りのない限り、オープンエンド用語(すなわち「含むが、しかしこれに限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書中に値の範囲を記述することは、別段の指示がない限りは、その範囲内に含まれるそれぞれの別個の値に個別に言及することの省略法として役立とうとしているのにすぎない。そして各別個の値は、あたかもそれが個別にここに記述されているかのように本明細書中に援用される。本明細書中に記載されたすべての方法は、本明細書中に特に断りのない限り、又は文脈によって明らかに矛盾するのでない限り、任意の適宜の順番で実施することができる。本明細書中に提供されたありとあらゆる例、又は例を示す言語(例えば、「例えば(such as)」)の使用は、本発明をより良く説明しようとしているのにすぎず、別段の請求がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。明細書中のいかなる言語も、本発明の実施にとって必須のものとして、特許請求されていないエレメントを示唆するものと解釈されるべきではない。
【0104】
本発明の好ましい実施態様が、本発明を実施するために発明者に知られた最善の態様を含めて本明細書中に記載されている。これらの好ましい実施態様の変更は、前記説明を読めば当業者には明らかになり得る。発明者は、当業者がこのような変更形を必要に応じて採用することを予期し、発明者は、本発明が本明細書中に具体的に記載したものとは異なる形で実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用法によって許可される、ここに添付されたクレームに挙げられた主題のあらゆる改変形及び等価形を含む。さらに、あらゆる可能な変更形における上記要素のいかなる組み合わせも、本明細書中に特に断りのない限り、又は文脈によって明らかに矛盾するのでない限り、本発明によって包含される。
【国際調査報告】